【ミリマス】育「お姫様と夏の魔法」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/01(火) 01:48:29.38 ID:0zwN1Z/j0
夏休みの初めのある日、765プロライブ劇場のアイドルたちは映画撮影のため静岡の田舎町にやってきた。

映画の内容は、現代に生きる化け狸の一族の姫が、仲間の妖怪たちと協力しながら悪い人間を懲らしめるという和風ファンタジー。

主演はまつり。そしてまつり演じる姫の妹役として、育が抜擢されることとなったのだが――。


――ホテル、食堂


プロデューサー(以下、P)「では予定通り今晩からこのホテルに泊まって明日の朝から撮影だ。みんな今夜はゆっくりしてしっかり睡眠をとってくれ」

環「はーい!」

P「たださっき監督さんから連絡があって、撮影は天候の都合で二時間ほど遅れてスタートするそうだ。極力乾いた状態の地面で撮影したいらしい」

桃子「そういえば、駅についたときかなり地面が濡れててびっくりしたね」

朋花「きっと夕立があったのでしょう。予報によれば明日のこの辺りの天気は快晴のようです〜」

P「ああ。というわけで午前の撮影の準備が整うまでは自由時間になるが、みんなくれぐれも熱中症には注意してくれ。メンバーの多くが和装に着替えての撮影になるし、無理はしないようにな」

全員「はーい」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1569862109
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/01(火) 01:50:46.56 ID:0zwN1Z/j0
環「自由時間かー。めずらしい虫いっぱいいるかな? 楽しみだぞ〜」

桃子「わかってると思うけど、桃子たちはあくまでお仕事で来たんだから。あんまりはしゃぎすぎちゃダメだよ」

……

まつり「育ちゃん、なんだか元気がないようなのです。どうかしたのです?」

育「まつりさん……ううん、へいきだよ。せりふはしっかり覚えたし、演技だってたくさん練習したから自信だってあるし」

まつり「もし相談事があるのならなんでも言って欲しいのです。姫が力になるのですよ」

育「うん……それじゃあ少しだけね」

まつり「はいなのです。ではロビーに移ってのんびりお話しましょうか。お姫様のお茶会なのです」

育「まつりさんとお茶会か……なんだかおとなっぽくてすてきな感じがするね」
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/01(火) 01:52:11.23 ID:0zwN1Z/j0
――ロビー


育「ミルクティーおいしいね」

まつり「ええ。とってもまろやかな味わいなのです。これでマシュマロがあれば、もっとふわふわであまあまな気持ちになれたと思うので、ちょっぴり残念なのです」

育「……」

まつり「育ちゃんは、映画のことで何か気になることがあるのです?」

育「うん。えっと……わたしが演じる妹姫は、いつもお姉さんに助けられてばかりなのをもどかしく思ってて、自分だって一人前なんだって証明したいんだよね」

まつり「そうなのです。負けず嫌いで実直なところは、育ちゃんと似ているかもしれないのです」

育「だけど……この子はお話の後半で、お姉さんに相談せず一人で敵と戦おうとして、わなにかかってつかまっちゃうんだよね」

育「それでその後は、お姉さんが敵をやっつけて事件を解決して、妹姫はお姉さんに謝って仲直りしてハッピーエンド…」

まつり「ええ。育ちゃんと仲の良い姉妹を演じられて、まつりはとってもはっぴー!なのです」

育「うん。二人が仲の良い姉妹なのはわかるし、わたしもまつりさんとの姉妹役って聞いて、とってもうれしかったよ」

育「でも……結局妹姫はがんばったけどうまくいかなくて、失敗してお姉さんに迷惑をかけて……それだけでぜんぜん成長してないって思うんだ」

まつり「ほ……」
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/01(火) 01:52:56.33 ID:0zwN1Z/j0
まつり「育ちゃんは、この役を演じるのが気乗りしないのです?」

育「ううん。このお仕事がイヤってわけじゃないの。ただ、今のわたしは、ぜんぜんわたしのなりたいわたしじゃないんだなって思ったら、ちょっとさみしい気持ちになっちゃっただけ」

まつり「育ちゃんのなりたい育ちゃんになれていない……」

育「そう。わたしに来る役は、いつまでたってもこんな風に力のない弱い子どもの役ばっかりだから……」

まつり「でも育ちゃんは魔法少女の役を立派に演じきったのです。それは普通の子にはできない、とってもすごいことなのですよ」

育「トゥインクルプリンセスはがんばる女の子の役だったし、わたしも大好きだよ。みんなのために戦う役ができて、とってもうれしかった。だけど、わたしがチャレンジしたいことはそれだけじゃないから」

育「本当はわたしもまつりさんみたいな、かっこよくてみんなから頼りにされるすてきな女の人の役を演じられたらいいんだけど……」

まつり「でも育ちゃんは、どんなお仕事が来てもしっかりこなせているのです。それはとてもすばらしいことだと思うのですよ」

まつり「そうやって頑張り続けられることは、育ちゃんのすごいところなのです。だから今できているように、お仕事を一つ一つ真剣に取り組んでいれば、いつか必ず――」

育「それっていつ? わたしがこうやって相談すると、みんなそう言ってくれるけど、その『いつか』ってもっともっと先のことなんでしょ」

育「それまでわたしは、ずっと弱い子どものままでいなきゃいけないの? 桃子ちゃんは、今でも大人っぽい役をいっぱい演じて、認めてもらえてるのに……」

まつり「……」

育「お仕事はちゃんとするよ。でもわたし、やっぱりこの妹姫みたいにはなりたくないって思う」

育「だけどスタッフさんたちはわたしのことを、桃子ちゃんよりもこの子の役に似合う女優さんだと思ってくれたんだよね。それってやっぱり、わたしのことがそういう風に見えるからなのかな……」
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/01(火) 01:53:31.33 ID:0zwN1Z/j0
まつり「育ちゃん、この妹姫と育ちゃんにはひとつ違うところがあるのです。それは、こうしてまつりに自分の気持ちを相談してくれたことなのです」

育「うん。だって映画はみんなで作るものだもん。ひとりじゃできないことは、ちゃんと相談するのがおとななんだよね?」

まつり「その通りなのです。それがわかっている育ちゃんは、とってもぶらぼー!なのですよ」

育「……」

まつり「まだ納得してもらえないのです?」

育「……まつりさんは、本当にわたしの力がこの映画に必要だって思ってる?」

まつり「もちろんなのです。育ちゃんの頑張る姿には、姫もみんなも勇気づけられて――」

育「そうじゃなくて。今のわたしは女優さんとして、ちゃんとこの映画の力になってるって思う?」

育「わたしが演じるのはとっても大事な役だから、しっかりがんばりたいよ。でも……もし別のだれかが演じたほうが良い映画に仕上がるんだとしたら、すごくくやしいし悲しい」

まつり「……育ちゃんは、どうしてそんな風に考えたのです?」

育「わたしが演じる妹姫だってきっと、お姉さんみたいなすてきなお姫様になりたいはずなんだよ。だけど、ならなくてもいいんだよ」

育「この子が素敵なお姫様にならなくても、だれもこまらない。だってその役目はぜんぶ、お姉さんがやってくれるんだもん」

まつり「……」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/01(火) 01:54:01.33 ID:0zwN1Z/j0
育「妖怪たちを束ねるお姫様は一人でいい。妖怪のみんながたよりにしているのはお姉さんだけだもん」

育「ねぇまつりさん、わたしはすてきな大人になりたいけど、もしなれなかったとしてもだれもこまらないのかな」

育「劇場にはまつりさんみたいなすてきなお姫様がいるし、桃子ちゃんみたいになんでも演じられる子もいるでしょ」

育「わたしが、がんばる以外にできることって、他に何があるのかな」

まつり「でも育ちゃんの代わりは、誰にもできないのですよ」

育「ほんと? じゃあわたし、どんなことを心がけたらいいのかな。もっとくわしく聞かせて」

まつり「それはですね……」

育「……?」
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/01(火) 01:54:30.09 ID:0zwN1Z/j0
まつり「……今の、なりたいものになろうと頑張れる育ちゃんのままでいてくれれば何の問題もないのです。まつりが保証するのです」

育「そうなの? それならうれしいけど……まつりさんは、どうしてそう言い切れるの?」

まつり「どうしてって――ふふふ。姫は魔法が使えるのです。だから姫にはおみとおしなのですよ」

育「……教えてくれないんだね」

まつり「えっ――」

育「わたしはまつりさんみたいに魔法は使えないから、わかんないよ。……今日は相談にのってくれてありがとう。明日からのさつえい、がんばろうね」ニコッ

まつり「育ちゃん……はいなのです。わんだほー!な映画が撮れるよう一緒にがんばりましょう」

育「うん。おやすみなさい」タタタッ

まつり「……」

まつり(育ちゃんのミルクティー、まだ残ってる……)

まつり(……私、これでよかったのかな…)
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/01(火) 01:55:09.31 ID:0zwN1Z/j0
――宿泊フロア


環(くふふ♪ 探検してたら、ベルボーイさんたちがともかのこぶんになっちゃってるのを見つけておもしろかったぞ)

環(けどこのホテル、どこもおんなじ景色ばっかりでなんかつまんない……そろそろ部屋にもどろうかな)

環「ん? あっ、いくー!」

育「……」シュン

環「いく? どうしたの?」

育「あ、環ちゃん……ううん、なんでもないよ」

環「なんでもなくなさそうだぞ。だって、泣いてるみたいだし……放っておくなんてできないぞ」

育「ありがとう。でもわたし、へいきだよ。このくらいで泣いたりしないもん……うぅ…」

環「いく、こういうときはがまんしちゃダメなんだぞ。泣きたいときにはちゃんと泣かなきゃ、笑いたいときに笑えなくなっちゃうんだって、ばあちゃんが言ってたんだ。だから――」

育「ぐすっ……環ちゃん……わたし、どうしたらいいか……わかんないよ……」

環「うん。それでいいんだぞ。けど、どうしよう……とにかく、たまきの部屋に来て。みやとエレナもいっしょにいるはずだから」
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/01(火) 01:55:40.21 ID:0zwN1Z/j0
――まつりと朋花の部屋


ブルル ブルル

まつり(美也ちゃんからメッセージ……)

まつり「!!」

〈環ちゃんが、泣いている育ちゃんを連れ帰ってきました。もう落ち着いて、エレナさんと一緒に部屋に戻って眠っています。安心してください〉

〈どうやら直前までまつりさんとお話していたそうですが、何かご存じですか?〉

まつり「なんてこと……」ピッピッ

〈原因はまつりにあるのです。明日ちゃんと仲直りをしたいので、今はゆっくり寝かせてあげてほしいのです〉

〈撮影の前夜にトラブルになってしまって申し訳ないのです。みんながはっぴー!にお仕事ができるように、きちんと解決してから臨むのです〉

〈美也ちゃんやエレナちゃん、環ちゃんにも心配をかけてしまって申し訳ないのです。今夜はゆっくり休むのですよ。おやすみなさいなのです〉

まつり「……私のバカ」
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/01(火) 01:56:16.04 ID:0zwN1Z/j0
〜〜回想〜〜

育「まつりさんは、どうしてそう言い切れるの?」

〜〜〜〜〜〜

まつり(「妹姫の存在は姉姫の励みになっているのです。完璧なお姫様なんていないのです。姉姫だって弱気になる日もあるはずなのです」)

まつり(「だけど姉姫は、頑張り屋の妹のことが大好きだから、そんな妹姫の期待に応えられる立派なお姫様であろうと頑張れるのですよ」)

まつり(「それはまつりだって同じなのです。一生懸命な育ちゃんを見ていると、まつりももっと頑張ろうと思える。そんな育ちゃんだからこそ、この映画に必要なのですよ」)

まつり(……らしくなかったな。こんな風に伝えれば済む話だったのに、どうして言えなかったんだろう)

まつり(きっとあの子の前で本音をさらけ出すのが怖かったんだ。ここまで言ってしまったらもう「育ちゃんの憧れのまつり姫」ではいられなくなる気がして……)

まつり(育ちゃんはいつも、きらきらな目で私を見てくれる。私が小さい頃憧れた、夢の世界のお姫様を見るような目で――それが嬉しくて、つい舞い上がって、あの子にがっかりされたくなくて…)

まつり(そっか。私はそれを、こんなにも怖がってたんだ。……不思議だな。あの子の前だと私、いつも以上に強い自分でいようとする)

まつり(だけど悪いのは私だ。自分を守って育ちゃんを傷つけて……お姫様に憧れる女の子を傷つけるお姫様が、どこにいるっていうの?)

まつり「……」ピッピッ

まつり「……Pさん、今少しお話しても大丈夫なのです? はいなのです。映画の脚本のことで、少し相談したいことがあるのです。時間がないので、手短に――」
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