相川千夏「青い麦」

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33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/19(土) 23:33:21.27 ID:HME+3Lfz0



 もしかしたら、私が眼鏡を渡した時から、この不安はわだかまっていたのかもしれない。

 あの時に私が感じたことと近いものを、唯ちゃんも感じていたのかもしれない。


 どうして渡してしまったのか。どうして渡してくれたのか。

 お互いに浮かんだ小さな違和感。




 全ては、私の想像の域を出ない。

 ただ、確かなことは一つ。



 私たちは、どんなに違っていても、傍に居たいと思っている。



 一緒にいることに、それ以上の理由なんか必要だろうか?





「……それか、本屋かもね」

「あ、あれっしょ? 手がぶつかってって奴?」

「その時はなんの本を取ろうとしてるのかしら」

「やっぱあれ、名著だよ名著。フランスの作家さんのさ」

「それかきっとギャル向けの雑誌ね」

「ちなったんが?」

「唯ちゃんこそ。フランスの作家知ってるの?」


「それはー」誤魔化すように視線を逸らしていた唯ちゃんだけど、ニッと笑って。


「ちなったんのおすすめ、教えて? ゆいも一押しギャルファッション、教えちゃうからさ」

「ええ、いいわよ」



 私も笑顔を返した。




34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/19(土) 23:35:22.25 ID:HME+3Lfz0


 水族館を出ると、雨は上がり、雲の合間に覗く太陽が黄金色に風景を飾っていた。

 空気は冷たくなっていた。



「ちなったん」



 空を見上げていた私に、唯ちゃんは手を差し出してきた。


 私はその手を握り返す。



 雨上がりの喧騒を、私と唯ちゃんは手を繋いで、駅の改札へ歩いて行った。





35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/19(土) 23:38:02.77 ID:HME+3Lfz0



   その夜、私は夢を見た。


   一頭のサメとカメの夢を。



   華やかなサンゴの森で出会ったサメとカメが、大海原を超えて空を、そして眩い未来まで泳いで行く夢だった。






   美しい世界をどこまでも、どこまでも寄り添って。









――― 相川千夏「青い麦」≪終≫ ―――
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/20(日) 08:54:31.09 ID:RQnE4/iIo
めっちゃ文学してるやん
また書いて!
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/21(月) 08:55:15.17 ID:/jgc+W/D0
上質なゆいちなありがとう
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