【艦これ】神風「最初の一人」

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1 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/27(日) 03:38:15.76 ID:LAC9GZ1m0
まだ朝の冷ややかさが残るとある鎮守府。

その敷地内の端に位置する建物の廊下に俺達は立っていた。

男「中々立派な部屋ですね」

扉の前で俺はそう言った。

勿論言葉通りの意味ではない。

他の部屋とは明らかに材質の違う頑丈な壁。

ちゃちなドアノブがあまりにも不釣り合いな堅牢な扉。

間違いなく中からではなく外から監視するためにある覗き穴。

これを牢獄だと言って否定する者はいないだろう。

普段から使われていないのか一切の気配を感じられないこの建物の中でさえ異質と言えた。

提督「でしょう?上から口酸っぱく言われましてね。可能な限り"いい"部屋になってますよ」

そう言って隣の男は肩を竦める。

俺と殆ど変わらない身長で、軍人とは思えないほどの細身を白い軍服で包み、いかにも知将といったふうな黒縁の眼鏡と、それとは対称的に柔和な顔立ちをしている。

どうやら俺の言葉がいくばか皮肉を含んでる事は理解しているようだ。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1572115095
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/27(日) 03:41:39.86 ID:LAC9GZ1m0
男「最後に、もう一度その時の状況を聞かせてもらっていいですか?」

提督「もう一度?報告書に事細かにまとめたはずですが」

男「こういうのは本人に直接聞いた方がいいんですよ」

提督「ほほう。なんだがプロっぽくていいですね」

自分をプロ、と言っていいのかは分からないが理由はそんなんじゃない。

上を通して届けられる文字の羅列なんて一切信用が出来ないというだけだ。

提督「そうですね、報告書と違って長々と書く必要もないので要点だけ話しましょう」

男「お願いします」

言葉の端から伝わってくるくだらないしきたりへの反骨精神に思わず頬が緩んだ。

早朝この鎮守府に到着してからこの部屋に来るまでの僅かな時間だけだが、基本的にこの男の印象は悪くない。
3 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/27(日) 03:42:31.34 ID:LAC9GZ1m0
提督「この鎮守府もそこそこ大きくなってきましてね、戦力の拡大をと既存の建造方法で、狙いとしては駆逐艦か軽巡ですね」

自分の艦隊の成長が嬉しくて仕方ないと言うような顔で話すこの男が、少し羨ましく思えた。

提督「材料の方は割愛しますが、ともかく建造方法は特に異常はありませんでした。ですから彼女の姿を見た時は正直かなり混乱しましたよ」

「彼女」という単語を素早くインプットする。

良かった。

少なくともこの男は艦娘を人として扱っているようだ。

少しだけ肩の力が抜ける。
4 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/27(日) 03:44:01.73 ID:LAC9GZ1m0
提督「身体の大きさから見て駆逐艦なのは間違いないと思いますが、服装や装備がこれまで目にしたものとはまるで違うんですよ。ウチの艦娘達も心当たりはないと言いますし、お手上げです」

少なくとも同型艦はいない、か。

まあそういった新型の艦娘だからこそ俺が呼ばれているわけだが。

提督「本人も記憶は一切無し。とりあえずは、保護、して。上に連絡を取って今に至る。とまあこんな感じですかね」

"保護"という柔らかい表現ですら躊躇する辺よほど彼女が心配なのだろう。随分と優しい男のようだ。

男「彼女の様子は?」

提督「会話は出来ます。身体も特に問題はありません。艤装は使い方が分からないので展開出来ないようですが」

男「それを聞いて安心しましたよ」

提督「…やはりそうでない場合も?」

男「無言で撃たれたパターンはまだ2回しかありませんよ」

提督「…」

察してくれたようだ。
5 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/27(日) 03:44:51.85 ID:LAC9GZ1m0
提督「これがこの扉の鍵です。窓は格子が付いてますし、一応は唯一の出入口です」

男「確かに」

受けとった鍵に付いている兎のキーホルダーについては後で聞いてみるか。

提督「破壊による強行突破の際はこちらが責任をもってあたりますが、扉からの逃走はそちらの問題になりますのでよろしくお願いしますよ」

男「ええ。お互い責任がありますから」

提督「お昼前までに執務室まで来てください。昼食の後にここを案内しますので」

男「分かりました」
6 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/27(日) 03:45:26.84 ID:LAC9GZ1m0
提督「それでは私はこれで」

そう言うと今しがた来た廊下を戻っていく。

男「…」

なんとなくその後ろ姿をじっと見てみる。

あ、振り返った。

一瞬目が合ったかと思うと物凄い速さで向き直し早歩きで曲がり角へ消えていった。

そこまで恥ずかしがらずとも…

よほど心配なようだ。
7 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/27(日) 03:45:53.84 ID:LAC9GZ1m0
男「さてと」

解れた緊張を繋ぎ直す。

覗き穴から扉付近に彼女が居ない事を確認してドアを開ける。

音を立てないようにドアを閉め靴を脱ぐ。

さて報告通りならば…

部屋は扉を開けてすぐの部屋のみ。彼女を探すのは難しくない。

奥の方に置かれているベットに目をやる。
8 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/27(日) 03:46:22.74 ID:LAC9GZ1m0
男「…」

「ン~」

寝ている。せっかくの集中力が一気に霧散する。

男「緋色…」

彼女の姿を見て思わず呟いてしまった。

色というのも艦の大切な判断材料になるのだが、しかし緋色なんて色の艦あったか?

「ムニャムニャ…」

…むにゃむにゃなんて本当に言う奴がいるとは。

男「さてどうするかな」

寝ている以上無理に起こしてもしょうがない。

「ンッ…スー」

反応、のようなものがあった。聞こえてはいるらしい。

男「さっさと執務室に行っちまうか」
9 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/27(日) 03:47:09.86 ID:LAC9GZ1m0
くるりと向きを変え扉に向かおうとしたその時だった。

「行かないで」グィッ
男「おぉ!?」

ズボンの裾を引っ張られた。

振り返ると彼女は目を擦りながら俺を見つめていた。

「ん、え〜っと?貴方は?」

男「俺は、男ってんだ。よろしく」

あまりに急な事に頭がフリーズした。まるで機械のようなギクシャクした挨拶をしてしまう。

「よ、よろしく。私は、私…は……ふにゃ」パタン

1度起こした体が再び布団に倒れる。

男「…oh」

桜模様があしらわれた緋色のパジャマから臍と右の肩が顕になっている。

まるでメデューサのようになっているボサボサな紅色のロングストレートが彼女の寝相の悪さを如実に物語っていた。

報告1:自身の記憶を呼び起こそうとすると気を失う。

なるほどそのようだ。
10 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/27(日) 03:49:46.21 ID:LAC9GZ1m0
また長くなりそうな話を…

タイトル通り嘘偽りなく神風の話です本当です。
基本的に神風えっちいなと思いながら書いているので秋刀魚や鰯を獲るついでにでも読んでいただければ幸いです。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/27(日) 09:29:39.71 ID:pAL8RsDGo
きたい
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/27(日) 10:15:16.34 ID:z5frhazvO
神風ちゃん好きだから嬉しい
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/28(月) 13:10:22.85 ID:1N/+sYbto
期待
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/28(月) 15:35:53.43 ID:KYTItMAYO
続きはよ
15 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:46:00.87 ID:rqljmlHD0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

提督「大体寝てるんですよ。原因は、まあ記憶の欠落なんでしょうね。心理学とか脳科学とかそういう分野の話なんでしょうか」

男「でしょうね。彼女が人間だったら、ですが」

場所、執務室。

結局気絶した彼女はその後目を覚ます様子がなかったため早々に切り上げる事となった。

テーブルを挟んで置かれた二つのソファにお互い向かい合うように座る。

叢雲「はいコーヒー。熱いわよ」

男「ありがとう」

俺と提督の間の机にコーヒーが2つおかれる。

叢雲「何かいるかしら?」

男「いやこのままで結構だよ」

ここの秘書艦は叢雲だという。

腰まである薄らと雲のかかった空の様な色のロングヘア。姉妹艦の中で唯一ワンピースの様になっている白の制服。鋭い目付きとそこから覗くオレンジ色の大きな瞳。

駆逐艦らしい矮躯には不釣り合いな言動に不思議と違和感を抱かせない独特の雰囲気があった。
16 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:46:48.95 ID:rqljmlHD0
叢雲「あらブラック?ウチの司令官と違って大人ね」チラ

提督「一言多いよ」

チラと提督の手元を見ると既にミルクが2つ空けられていた。

叢雲「ねえアナタ歳は?」

提督「叢雲、あまり馴れ馴れしくするもんじゃ」
叢雲「いいじゃない。これから暫くはここにいるんでしょう?」

男「構いませんよ」

叢雲「で、幾つなのよ。四十手前?」

男「…三十一歩手前だ」

叢雲「あら、えーっと。深みのある顔ね!」

男「一言多いわ」

思わず素が出てしまった。

提督「君ねぇ…」

叢雲「てへっ」

チロと舌を出しておどける。

悪びれる様子はない。
17 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:47:34.82 ID:rqljmlHD0
叢雲「というかアナタ達殆ど同年代じゃない。よそよそしく敬語なんて使ってないでもっと馴れ馴れしくしなさいよ」

提督「君はもう少し馴れ馴れしさを抑えた方がいい」

男「お互い立場もあるんだよ」

叢雲「はぁぁめんっどくっさいわねえ」

これだから人間は、と呟きながら隣の部屋に消えていく。

コーヒーを持ってきたし簡易的な台所があるのだろうか?

提督「悪いね。まあ彼女いつもあんな調子なんでよろしくお願いします」

男「ああ、よく分かりましたよ。よそよそしいよりはいい」

提督「そう言ってくれると助かりますよ」

お互いに少し口調が砕ける。
18 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:48:26.07 ID:rqljmlHD0
男「で、彼女の事だが」

提督「ええ、見てもらったのなら大体わかったと思いますが」

男「初対面の時もあんな感じで?」

提督「とりあえず自己紹介をと名乗ったらその後にパタン、と。その後も何回も会話はしたけれど、長く話していると段々意識が薄くなっていくようで」

男「意識に絶対量でもあるのか。だとしたら確かに記憶の欠落が原因なんでしょう」

提督「というと?」

男「記憶も知識も積み重ねです。こうした会話ですら例外ではない。言葉やイメージ、相手の表情。色々な情報を無意識のうちに俺達は処理してる。

そしてその処理は生まれた時から今日までの全てに支えられているものです」

叢雲が運んできたコースターを手に取る。
19 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:49:12.32 ID:rqljmlHD0
男「勉強でもよく言われる土台が大切というのは生きる上で殆どの事に当てはまる」

コースターを机に置き、その上に残り半分となったコーヒーのカップを乗せる。

提督「土台があるから乗せられる、と」

男「ええ。でもこの積み重ね以上の物は乗せられない。鎮守府の作戦書なんかを俺が読んでも、気絶とまではいかなくてもきっと知恵熱がでるでしょうよ」

提督「買い被りすぎだよ。書類は所詮書類です」

照れと苦悩が入り交じったようなその顔は、彼がここの提督である事を改めて実感させた。

男「ところが彼女はその土台がない。タチが悪いのはまるっきり無いのではない事だ。会話や最低限生活に支障がない程度にはある。その中途半端さが原因でしょう」
20 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:50:14.72 ID:rqljmlHD0
叢雲「土台がまるでないなら赤子のように何でも吸収できる。なまじ変に土台が残っているせいで受け止め損ねて、中身のコーヒーをぶちまけてショートする、ってことかしら」

男「正解。かどうかは分からいけどな。少なくとも俺はそう思った」

隣の部屋から戻ってきた叢雲は自分用らしいカップを手にしていた。自分のコーヒーを作っていたのだろう。

ウサギの顔が描かれたカップだ。

提督「なるほど。その継ぎ接ぎだらけの記憶を戻していかないといけないわけか」

男「おそらくは」

提督「大変な仕事だね」

男「他人事じゃあないですよ。下手すりゃ1年ここにいる事になるかもしれないんだ」

提叢「「1年も!?」」

男「最高記録は358日。後は大体2ヶ月以内で長かったのはそれっきりですが」
21 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:51:27.46 ID:rqljmlHD0
提督「そんなに大変なのかい!?"最初の一人"というのは」

男「聞いたことはないので?」

提督「そういう事がある、というのは…もちろん色々な根も葉もない噂も。でもこうして実際に目の当たりにするとは思いもよりませんでしたよ」

叢雲「…」

叢雲はコーヒーを飲みながらじっとこちらを見つめている。こちらも必要以上にこの件を知ってはいないようだ。

そして何故か提督の横に座ったりせず彼の座るソファーの背もたれの部分に後から前のめりで寄り掛かる形で落ち着いている。

男「知らないのは当然ですよ。むしろ知っていたらまずいくらいだ」

提督「迂闊に喋ると消されたり?」

男「正直笑い事じゃないですよ。トップシークレットと言っても過言じゃない」

提督「マジですか」

冗談半分だった表情が凍る。

男「マジです」
22 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:52:10.43 ID:rqljmlHD0
男「艦娘は、こういう言い方はあまり好きではないが基本的にはコピー、クローンというべき存在です。少なくとも鎮守府の数だけ同じ艦娘がいるようなものだ」

叢雲「そうね。私も何度か、何人かの私と顔を合わせたことがあるわ」

男「でもコピーやクローンだとして、ならば当然元となるオリジナルがいるはずだ」

提督「かつての駆逐艦叢雲こそがそれに当たるんじゃないんですか?」

男「そういう見方もあります。それが正しいのかどうか結局のところ誰も分かっていないのが実情ですが」

叢雲「アナタはそう見てはないみたいね」

男「建造できる艦娘の種類は年々増えている。しかしそれはなぜだと思います?」

提督「そりゃあレシピというか、新しい建造方法が見つかっているからじゃないですか」

男「それは建造しやすい方法というだけです。建造可能な艦娘が増えているのは新たにオリジナルが発見されているからです」

叢雲「オリジナルねえ」
23 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:52:46.33 ID:rqljmlHD0
男「本当に突然、なんの前触れもなくそれまで建造では確認されていなかった艦娘が生まれる事があるんですよ」

叢雲「今回みたいに?」

男「まさしく」

提督「肝心な部分は妖精さんまかせだからなあ。何をどうやっているのやら」

男「それがわかれば苦労しないんですが…ともかくそうやってある日急にオリジナル、最初の一人が生まれる。そうするとこれまた不思議な事にその艦娘が各鎮守府で建造可能になるんです」

叢雲「なにそれ」

提督「ゲームとかのアンロック機能みたいな感じだね」

叢雲「あー確かに」

どうやら2人とも思い当たるものがあるようだ。

男「…」

ゲームなんてやらないから全然わからんな。
24 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:53:18.01 ID:rqljmlHD0
男「ただ少し条件があるんです」

提督「条件?アンロックの?」

男「そう。多分そう」

叢雲「あ、それが記憶ってわけね」

叢雲が手に持ったコップを俺の方に掲げる。

その体制だと零れたら確実にソファーが、最悪提督の肩もアウトになりそうで怖い。

男「そういうことだ。記憶が元からあるなら問題ないが今回の様に記憶に欠損がある場合それを取り戻さないと行けないんですよ」

提督「…でも記憶と言っても何を忘れているかなんて外からじゃ分からないでしょう?完全に記憶を取り戻したかどうかは何処で判断するんですか」

鋭い質問だな。流石は提督と言うべきか。
25 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:53:52.21 ID:rqljmlHD0
男「言い方が少し悪かった。正確には記憶というより、名前なんですよ。恐らく」

叢雲「名前って、叢雲とか?」

男「そう。自分が誰なのか、どういった船だったのか。経験則ですがそれがトリガーになっていると思います」

提督「なるほどね。真名か。なんだかカッコイイね」

叢雲「またそうやって変な想像して」

提督「変じゃないでしょ変じゃ」

男「期間にバラツキがあるのもこれが原因でしてね。外見の特徴や他の記憶から艦名を特定できれば直ぐに記憶は戻るんですが」

叢雲「今回みたいにヒントゼロ記憶なしだとどうなるかってわけね」

男「ああ」
26 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:54:26.95 ID:rqljmlHD0
男「言い方が少し悪かった。正確には記憶というより、名前なんですよ。恐らく」

叢雲「名前って、叢雲とか?」

男「そう。自分が誰なのか、どういった船だったのか。経験則ですがそれがトリガーになっていると思います」

提督「なるほどね。真名か。なんだかカッコイイね」

叢雲「またそうやって変な想像して」

提督「変じゃないでしょ変じゃ」

男「期間にバラツキがあるのもこれが原因でしてね。外見の特徴や他の記憶から艦名を特定できれば直ぐに記憶は戻るんですが」

叢雲「今回みたいにヒントゼロ記憶なしだとどうなるかってわけね」

男「ああ」
27 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:55:17.82 ID:rqljmlHD0
提督「ちなみに最長記録の一年以上ってのはどういう感じで?」

男「記憶自体はそこまで欠落していなかったんですが、その艦娘ってのが海外の船でね」

叢雲「そういえば海外艦って建造可能よね。あまり気にしたことはなかったけど」

男「大変でしたよ。海外艦なんて予想外なところの資料なんてなかったから全部一からで。海外から資料取り寄せるだけで一苦労ですから」

提督「それで1年ですか」

男「殆ど事務作業みたいなものでしたがね。お役所ってのはどうもこういうのに弱い」
28 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:55:51.47 ID:rqljmlHD0
提督「それで」

提督が少し姿勢を正す。これが本題といった感じだ。

提督「答えられる問じゃないとは思うけれど、今回はどう思います」

男「…初めて、ですよ」

提督「初めて?」

男「あそこまで記憶がない事が、です。実際今日見てみるまで半信半疑な所があった…」

提督「…」

叢雲がコーヒーを啜る音だけが部屋に響「熱ッ!」

……

叢雲「な、何よ…」タジッ
29 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 04:56:26.56 ID:rqljmlHD0
男「まあ暴れるような心配もないですし、気楽に気長にいきますよ。焦る必要も無い」

提督「ですね。丁度お昼ですし、昼食に行きましょう。食堂とか色々案内するんで」

男「頼みます」

提督「いやいや、長い付き合いになりそうだからね」ハハハ

男「そのようだ」ハハハ

叢雲「ちょっと!何あからさまに無かった事にしてんのよ!ホットミルクぶっかけるわよ!」

提督「君が勝手にやった事だろ!なんで切れてるんだよ!」
叢雲「五月蝿い!」
提督「だー待て落ち着いて!デザート分け、いやあげるから待って!」

男「…」

コーヒーではなくミルクだったか…

この情報は、頭に入れておくとしよう。
30 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/10/29(火) 05:01:15.92 ID:rqljmlHD0
量を減らして確実に更新していったほうがいいのではというのが前回から得た教訓

例えば「はじめまして!吹雪です!」と名乗られなければ私達は彼女を吹雪と認識できない、というような話です。
初期艦贔屓で叢雲頼もしいなあと思いながら書いていきます。
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/29(火) 07:42:34.26 ID:+az76G90O

期待
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/29(火) 19:07:18.61 ID:vDtVVzxjo
相変わらずいい雰囲気
期待
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/30(水) 12:40:48.17 ID:nfS4jwjlo
おつね
34 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:41:23.83 ID:bR8MUREO0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【食堂】

提督「流石に慣れてますね」

男「慣れてる?」

叢雲「男女比率が1:100の環境に、よ」

辺りを見渡す。

食堂には俺たちの他に50人ほどの艦娘がそれぞれ昼食をとっている。

昼は出撃や遠征などでまばらなので夜はさらに増えるだろう。

男「改めて言われると確かにすごい環境だ」

叢雲「それはこの戦争にも言えることだわ」

提督「まったくだね」

昼食は私が魚定食。向かい側の叢雲が唐揚げ丼、提督がカレーだ。
35 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:42:39.95 ID:bR8MUREO0
この鎮守府には本来提督以外の人間はいない。

人口の多い都市部などを守る主要な鎮守府以外は基本的にそんなものだ。

今ここには俺の提督以外は全員女性という事になる。

もっとも言葉で聞くほどいい環境ではない。

仮にも軍の施設だ。確かに比較的規模は小さいがそれでも国防の要の一つである。そんな鎮守府に何故人がいないのか。

政府や上層部も馬鹿だけで構成されているわけじゃない。

当然理由がある。

こうならざるを得ないだけの理由が。

"人"と"艦娘"を隔てる理由が…
36 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:43:20.11 ID:bR8MUREO0
叢雲「それにしてもいきなり魚とはね」

男「ん、何がだ」

叢雲「アナタの昼餉よ」

男「不思議か?」

提督「外部の人間はたいていカレーや麺類を選ぶね」

男「なるほど」

確かにそこら辺を選んでおけばまず不味いということはあまりないだろう。

叢雲「何かこだわりでもあるの?」

男「長居する事になりそうだからな。定食の味を知っておく事が大切なんだ」

提督「へえ。やはり鎮守府毎に味が違ったり?」

男「そうだな。地元で何が捕れるか作られているかにもよる。10を超える鎮守府を回ったが、そのうちグルメ本でも出せそうだ」
37 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:43:48.09 ID:bR8MUREO0
叢雲「他所の鎮守府か〜。興味深いわね」

男「オススメできない所ならいくつか教えてやろうか?」

叢雲「…ご忠告どうも」

提督「我が家が一番ってことだよ」

叢雲「住めば都かもしれないわよ」

男「生まれ故郷が一番だよ。艦娘には」

提督「そういうものなのかい?」

男「経験則では」

提督「そうなのかい?」

叢雲「さあね」
38 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:44:35.23 ID:bR8MUREO0
飛龍「」ツンツン

提督「ん?どうした飛龍」

何故かこっそりと提督に近づき肩をつついたのは正規空母、飛龍。

橙色の着物と緑色のミニスカートのような袴。明るい茶髪のショートヘアと柔らかい表情は見た目よりもいくばか幼さを感じさせる。

彼女が来た方を見ると複数の艦娘が何やら興味深そうにこちらを見ている。

話しかけづらい転校生に誰が声をかけるかといった結果飛龍が挙げられた、という感じか。

飛龍『この人が前に言ってた派遣のリーマン?』

提督「認識は間違ってなくもないけど、そんな言い方はしてないよ」

飛龍『あはは冗談冗談。えーっと』「私は飛龍、よろしくね」

言葉を聞いて理解した。

あぁ、なるほど。

これが彼女が挙げられた理由か。
39 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:45:19.33 ID:bR8MUREO0
男「調査官の男という者だ。大本営直属、と言えば聞こえはいいが提督という身分と大して違いはない。私も君達に頼る事があるだろうし気軽にしてくれ」

飛龍「な〜んだそっかそっか。てっきり提督がなんか悪い事してバレたのかと」

提督「君達もう少し提督を信用してくれてもいいんだよ?」

叢雲「アンタももう少し信頼されるような働きを見せてくれてもいいのよ?」

提督「働いてない?僕結構頑張ってない?」

飛龍『でも実際前線に出てるのは私達だしね〜。もう少し労わって欲し〜な〜』

提督「人の酒勝手に持ち出すような奴がよくもぬけぬけと…」

飛龍『げっ!』

提督「げっじゃないよバレてるに決まってるだろう」
40 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:46:23.83 ID:bR8MUREO0
飛龍『いーじゃん!どうせ提督たいしてお酒なんてわからないくせに!』

提督「この口か!この口が言うか!」

ギャーギャーワーワーと、喧しくて、騒がしくて、賑やかだ。

それが少し羨ましい。

男「それともうひとつ」

飛龍『イタタタタほっぺ伸びる伸びる!ん?』


男『私と話す時、君を通す必要は無いよ』


飛龍『…へぇ』

叢雲「…」

提督「…ん?」

飛龍『ひょーかい、みんはにふはいほふね』

叢雲「手ぇ離しなさいよ」

提督「あ、スマン」パッ
飛龍「ブヘッ」

艦娘の頬も人間とそう変わらないらしい。
41 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:48:33.35 ID:bR8MUREO0
飛龍が元のグループ、どうやら空母の集まりらしき所へ戻っていく。

彼女達の楽しそうに話すのを受けてか食堂全体の空気が少し緩んだように思えた。

提督「すまないね、お見苦しいところを」

叢雲「全くよ。冷める前にさっさと食べなさいな」

男「いや。随分と仲がいいようで安心しましたよ」

提督「安心?」

男「そうでないところもあるという事で。まああまり気にしないでください」

提督「なるほど、ね」
42 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:49:01.47 ID:bR8MUREO0
ふいに食を並べているテーブルの下から軽快な音楽が鳴り出した。

この声は確か那珂という軽巡の歌だ。

提督「おっと、ごめんごめん」

叢雲「連絡?」

提督「やっば遠征帰ってきてるって」

叢雲「そういえば予定がずれ込んでたわね」

提督「ごめん叢雲。行ってくる」ガタ

叢雲「カレーどうすんのよ」

提督「お好きに、食べてもいいよ」

叢雲「はいはい」
43 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:49:45.95 ID:bR8MUREO0
提督「急でごめん。案内の方は叢雲に任せるからゆっくり食べててください」

男「了解」

叢雲「ほらさっさと行ってあげなさい」

提督「ああ」ダッ

特に怒るでもなくヒラヒラと手を振る叢雲。

よくあることなのだろう。

男「彼は何を?」

叢雲「出撃や遠征の帰りは必ず迎えにいくようにしてるのよ。報告やらもそこでね。過保護なのよ」

男「いい人じゃないか」

叢雲「甘いのよ。皆にも、自分にも」

そう事も無げに言うとお茶を豪快に飲み干す。

男「甘い、か」

叢雲「子供扱いして」ボソッ

男「ん?」

叢雲「なんでもないわ」

当然聞こえていた。

が、彼女が初めて口にした不満にあまり触れるべきではないと思った。
44 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:50:48.26 ID:bR8MUREO0
叢雲「それにしても、驚いたわよさっきは」

唐揚げ丼をペロリと平らげ提督の残したカレーに手をつけ始める叢雲。

艦娘は基本的によく食べるものだと知ってはいるが目の前でこれだけの量を当然のように食す様はやはり壮観である。

提督「さっきとは?」

叢雲「飛龍の事よ」

提督「ああ」

締めの味噌汁を啜る。

うむ、好みの濃さだ。グルメ本を書くなら星三つだろう。

提督「喋れる事、か」

叢雲「そ。確かに調査員なんだしそれくらい当たり前なのかもしれないけれど、提督でもないのに実際に喋れる人間を見たのは初めてよ」
45 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:51:34.92 ID:bR8MUREO0
男「逆だよ。調査員だから喋れるんじゃない。喋れるから調査員になれたんだ。いやそもそも調査員なんてものが出来たのも俺がいたからだしな」

叢雲「へえ、何か事情があるってとこかしら」

男「そんなところだ」

叢雲「アナタも苦労してるのね」

男「君もか」

叢雲「皆苦労してるのよ」

男「世知辛い世の中だな」

叢雲「甘いのはカレーくらいなものよ」

男「カレーといえば」

叢雲「なによ?」

男「普通に食べるんだな」

叢雲「普通?どういう意味よ」

男「そのスプーン提督が使ってたものだろ?」
46 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:52:04.50 ID:bR8MUREO0
叢雲「ええ、そうだけど」

何言ってんだこいつという目で見られた。あまりそういう事を気にする質じゃなかったようだ。

叢雲「そう、だけど…」

まあ間接キスなんて今どき流行らないか。まして見た目は子供とはいえ軍人として日々働く身。そんなことをいちいち

叢雲「…」

男「あれ?」

叢雲「…」プルプル

俯かれた。しかも何か震えている。

頭の、耳?は警告色になっているし。

男「む、叢雲さん?」

叢雲「…辛いのよ」

男「さっき甘いって」
叢雲「五月蝿い!」
男「はい!」

真っ赤な顔でそう喚かれた。
47 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/02(土) 04:57:37.02 ID:bR8MUREO0
神風を書きたいのに神風が出てこない!

人間と艦娘の違いとかが好きなんです。
楽しそうに笑う飛龍を見守り隊の者として今後も飛龍の話は書いていきます。
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/02(土) 06:51:23.03 ID:QuCGoejZO
乙!
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/02(土) 09:24:14.81 ID:p3prB7beO
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/03(日) 01:40:11.83 ID:zM/Qwy++o
おつ
ムラムラ可愛い
51 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:09:13.33 ID:ilPFB3QM0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【鎮守府:廊下】

叢雲「ここが男子トイレよ」

男「はい」

叢雲「…なんでさっきから敬語なのよ」

男「いや、なんか、すみません」

叢雲「あーもう!さっきのは忘れなさい!私も忘れるから!いいわね!」

男「えぇ忘れろっても「い い わ ね ?」アッハイ」

おっかねえ。

叢雲「さて、アナタが使いそうな施設はこんなところね。後どこか案内してほしいところはある?」

男「そうだな。ドックとか工廠なんかは必要になったら案内してもらうかな」

叢雲「さいで。あーそうだわ、部屋を忘れてた」

男「おう」

叢雲「一応要望通りあの子の部屋の隣と司令官の部屋の隣、2つを用意したわ。どっちにする?」
52 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:09:44.61 ID:ilPFB3QM0
男「前者で頼むよ」

叢雲「りょーかい。で、理由は?」

男「2つ用意させた理由か?」

叢雲「ええ。前者を選んだ理由も」

男「一概には言えないが、概ね危険度の違いだな。安全なら側に居た方が都合がいい」

叢雲「なぁんだそれだけなの」

男「一体何を期待したんだよ」

叢雲「もっと私なんかが考えもつかない特殊な理由があるもんだと思ってたわ」

男「提督もそうだが、俺の事を特別視し過ぎだよ。精々カウンセラーもどきみたいなもんだぞ」

叢雲「珍しい仕事だもの、仕方ないでしょ」

男「それはまあわかるけどな」
53 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:10:37.50 ID:ilPFB3QM0
叢雲「それと、敬語。使わないのね」

男「?どういう事だ」

叢雲「敬語よ。司令官には頑なに使い続けるくせに私達には使わないじゃない。初対面なのに」

男「あー悪い。気に触ったか?」

叢雲「別にそれはいいわよ。私としてはその方が楽だし。でも部外者は皆よそよそしく敬語を使ってくるか、下心丸出しで馴れ馴れしくしてくるかだから気になったのよ」

男「何故と言われるとなぁ。まあ実際の年齢はともかく艦娘って基本的に皆見た目は年下だし、なんとなく子供扱いしてしまうところはあるかもしれん」

叢雲「…へぇ」

男「あ、いや、別に見下してるとかそういう事じゃなくてだな」

叢雲「分かってるわよ。ただ、やっぱりアナタも変わってるわねって」

男「?」

何か妙に納得したという顔をされた。

その賢しら顔がなんだか癪に障るので問いただしてやろうと思ったがどうやら目的地に着いてしまったようだ。
54 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:11:23.60 ID:ilPFB3QM0
叢雲「ここね」

一階。

鎮守府の端の方にある例の部屋の隣。

まだ彼女は寝ているのだろうか。

叢雲「でこれがこの部屋の鍵」チャリ

男「たしかに」

叢雲「…」

男「?」

差し出された鍵を受け取ろうと手を出したが叢雲は中々鍵を手放さない。

叢雲「ねえ、多分アナタは十二分に分かっていると思うけれど一応言わせて頂戴」

男「なんだよ改まって」

叢雲「他の艦娘と気軽に接触しない事」

男「…」

叢雲「たまにいるのよ、外からのお客様に。まあカワイー女のコばっかりだし?軽率に声をかけたくなるのは分からなくもないけれど」

男「ここも昔何かあったりしたのか?」

叢雲「無いわよ。幸いにも今のところは」

それは、よかった。
55 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:11:55.20 ID:ilPFB3QM0
叢雲「鎮守府にとって司令官以外の人間は異物よ。それに過剰に反応してしまう娘がいないわけじゃない」

男「分かってるよ。よく」

叢雲「でしょうね。だからまあ、一応よ」

そう言うとようやく鍵を渡してくれた。

男「それじゃ、ご開帳」

隣の部屋と違い1つしかない鍵を開け部屋に足を入れる。

男「おーこりゃいい」

叢雲「急拵えだから簡素なものだけど、気に入ってもらえたなら幸いね」

男「十分だよ。所詮は仕事部屋だ」
56 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:12:40.11 ID:ilPFB3QM0
部屋は一人暮らしには十分すぎる大きさだ。

大きな窓から午後の日差しがこれでもかと差し込んでいる。

家具はベットと仕事机にタンスのみ。

他はがらんと空いて何も無い。

叢雲「こっちがお風呂。と言ってもシャワーだけなんだけど。トイレは悪いけど向こうの共同の使ってちょうだい」

男「風呂まであるのか」

叢雲「元々人間用に作られてるのよ、ここ。使わなかったからこうして放置されてただけ」

なるほどね。人間用…作業員等を入れる予定があったのだろうか。しかしこの部屋…

男「…」

叢雲「隣とは大違いよね」

男「顔に出てたか?」

叢雲「司令官と同じ顔だったわよ」

男「そうかい」

叢雲「こっちは壁や窓を丈夫にする必要はなかったから広々と出来たわ。キッチンやトイレなんかが欲しいなら言ってちょうだい」

男「そこまでしてもらう気は無いよ」

叢雲「あ、勿論予算はそっち持ちよ?」

男「尚更いらん」
57 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:13:15.21 ID:ilPFB3QM0
男「さて、後は荷物運びか」

叢雲「そう言えば外に止まってたのってワンボックスカーよね?そんなに荷物あるの?」

男「俺自身の荷物は少ないさ。男だしな。問題は仕事関係の方だ」

叢雲「手伝いはいる?」

男「んー正直欲しい」

叢雲「なら丁度いいわ。紹介しておきたい娘もいるしね」

男「紹介?」

叢雲「えぇ」

そう言うと恐らく仕事用であろう端末を取り出して連絡を取り始めた。
58 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:14:02.75 ID:ilPFB3QM0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

江風『いよっす!江風ってンだ、よろしくな』

飛龍『飛龍でーっす。さっきぶりだね、よろしくぅ』

透き通るような赤紅色の長髪を揺らしながら右手を大きく挙げて挨拶する駆逐江風。この制服は確か改二か。白いマフラーが髪と共に揺れる。

近頃はすっかり見なくなった気がするブイサインでまるで十年来の友人かのようにノリノリで挨拶してきた元気娘飛龍。先程の食堂の件からしてもそうだが初対面だろうと人に対して遠慮がない。

以上二名。

叢雲『ご感想は?』

男『馴れ馴れしすぎやしないか』

叢雲『礼節に関して2人にこれ以上を求めるのは無意味よ』

男『いや俺は構わないが、お偉いさんとか来たらどうするつもりなんだ』

叢雲『絶対に合わせない』

飛龍『ねぇねぇ、呼び出されたと思ったらなんか悪口言われてない私達?』ヒソヒソ

江風『もっと個性的な挨拶とかの方がウケがいいンスかねぇ』ヒソヒソ

叢雲『そうじゃないわよ』
59 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:14:48.73 ID:ilPFB3QM0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

男『というわけで2人に荷物運びを頼みたいんだ』

車へ向かいながら経緯を説明する。

江風『なるほどね。うンうン、任せとけって』

飛龍『でも私達をわざわざ呼ぶ程大層な荷物なの?』

叢雲『それは私も知りたいわね』

男『見りゃわかるよ。衣服とかは大した量じゃないからいいが、一個だけどうしても俺じゃ、いや人間じゃ厳しいものがあってな』

飛龍『なんだろー、人だと近づくのも危ういような薬とか?』

江風『核兵器とか?』

男『お前ら俺をなんだと思ってんだよ…』

叢雲『ほらさっさと行くわよ』
60 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:16:06.69 ID:ilPFB3QM0
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【廊下】

江風「」ジーッ

男「…」

駐車場はそう遠くない。廊下を渡り建物を出れば直ぐだ。しかし、

なんかすっげぇ見てくる。睨んでる訳じゃないが視線が凄い。

飛龍『えいっ』ペシッ
江風『あいてっ』

飛龍『あんまり見ない』

江風『えーだってさあ』

男『やっぱ気になるか?』

江風『そりゃもうモチのロン』

飛龍『まあ提督以外の人間ってあんまり見る機会ないしねぇ』

江風『そうそう。普段お偉いさンとかが来る時はウチらはたいてい出撃とか遠征だしさ』

男『ほお』

叢雲『たまたまよ、たまたま』

会わせない、とはそういうことか。
61 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:17:01.78 ID:ilPFB3QM0
江風『でもやっぱこうして見ても提督とさほど変わらないように見えるな』

ん?どういう意味だ?

叢雲『そりゃそうでしょ』

飛龍『でもちょっーと提督のがヒョロいかなあ。でも提督の方が筋肉はあるわね』

男『見ただけで分かるのか』

飛龍『歩き方とかで』

男『マジかよ』

江風『なあなあ。アンタからはウチらはどう見える?』

男『見える?見えるって、そのまんま見えてるが』

江風『そのまんまってどんなさ』

男『そのまんまは、鏡に映る自分と同じって事だろ』

なんだ?何が言いたい?

江風『いや、だって鏡はただ反射してるだけじゃンか。そーじゃなくてアンタの瞳には何が見えてるかって話さ』

そう言って手で丸を作りメガネのように自分の目にかける。
62 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:17:55.70 ID:ilPFB3QM0
男『瞳…』

言ってる意味が全然分からない。瞳だって鏡と同じ光の反射だ。

今俺の瞳に反射している姿は彼女達のそのまんまの姿。そうじゃないのか?

叢雲『無駄話はおしまい。ほら、見えてきたわよ』

飛龍『おーあれで来たの?』

男『まあな』

江風『お、じゃあ運転出来ンのか!いいなぁ私も運転してみたいんだよなあ』

叢雲『運転免許は厳しいらしいわね』

飛龍『そもそも私達外に出るのも一苦労だしね』

江風『あー地上も思いっきり走ってみてーなー』

飛龍『免許と言えば夕張とかはなんか持ってたよね』

叢雲『電気、なんとかみたなやつね。あれは私達でも簡単に取れるらしいわよ』
63 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:19:11.71 ID:ilPFB3QM0
男『取ってどうするんだ?』

江風『なンかカッコ良さげじゃんか』

飛龍『あーなんかでっかいの見える』

男『ああそうだ。これが運んで欲しいブツだ』ガタン

白のワンボックスカー。その後部を開ける。

江風『うわ、なンじゃこりゃ』

飛龍『GANTZの四角バージョンみたいな』
江風『ドミネーターとかはいってそう』
叢雲『羊羹みたいね』

三者三様の反応。

江風『羊羹?』

飛龍『羊羹かぁ』

叢雲『悪かったわねばば臭くて!!』

誰もそんな事言ってない、とは勿論言わない。
64 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:19:53.93 ID:ilPFB3QM0
中にあるのは車の白とは対称的に真っ黒な四角い箱。

縦横50cmほどの箱。端的に言ってデカい。

叢雲『これ重さはどれくらいなの?』

男『持ち上げてみりゃわかる』

江風『きひひ、まあ見てなって。ふんっ!ン!ん!?』

飛龍『うわービクともしない』

叢雲『重さ幾つよこれ』

提督『ギリギリ床が抜けないくらいらしい。200は確実に超えてるな』

江風『そりゃ持ち上がらないわけだ』

飛龍『それじゃ、改めて運ぶとしますかね』

江風『おう』
65 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:20:26.54 ID:ilPFB3QM0
飛龍が車の中に入り反対側をもつ。

飛龍『せーの』

スッ、と先程までビクともしなかった箱が持ち上がる。

男『流石に艦娘パワーだな』

叢雲『なんなら車ごといけるわよ?』

男『それは勘弁だ。あ、一応割れ物注意だからな、落とすなよ』

飛龍『だいじょぶだぁって。ほらほら』ヒラヒラ

男『おい!手を振るな手を!』

江風『ちょ!飛龍さんバランスバランス!』ガクン

飛龍『え?わたっ、とと!』ガシッ


江飛『『セーフ…』』


男『人選ミスだろこれ』

叢雲『悪気はないのよ2人とも…』
66 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:20:55.91 ID:ilPFB3QM0
江風『これ全部衣服なのか?』

男『違うよ。生活用品はこれと、これだ』

叢雲『カバン2つだけ?逆にこっちは少なすぎないかしら』

男『野郎の荷物なんて大したもんじゃないさ。必要なら適当に補充するしな』

飛龍『私としてはそっちの荷物も気になるところだな〜』

男『よく分からんが期待には答えられないと思うぞ』

飛龍『え〜見てみないとわかんないわよ』

男『ろくなことにならんのは分かる』
67 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:21:24.94 ID:ilPFB3QM0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【鎮守府:廊下】

飛龍『your best ! my best !生きてるんだから』♪
江風『失敗なんて、メじゃない』♪

叢雲『少しは反省しなさいよ』

男『歌うのはいいが気を緩めるなよ』

飛龍『2人は!』
飛江『『プリキュア〜』』

男『…』

飛龍『うわやっば。目がマジだこれ』

江風『私は見えないから知りませーン』

飛龍『あズルい!箱に隠れるな!』

江風『ほら、私らちっさいから』

飛龍『いっつも大きくなりたーいって言ってるくせにぃ』

江風『それはそれという事で』
68 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:22:10.18 ID:ilPFB3QM0
男「… 」

わざとやってんのかってくらい騒がしい。

叢雲「いえ、違うのよ…?一応意味のある人選なのよ…」

男「人馴れしてる、だろ?」

叢雲「分かってるなら話が早いわね」

男「でも慣れすぎじゃないかこれは」

叢雲「性分なのよ。飛龍は空母の、江風は駆逐艦の。2人とも中心的な立ち位置だから見知っておくといいわ」

男「コイツらがリーダーなのか?」

叢雲「リーダーってわけじゃないわよ。ただ、そうねえ、何か動く時必ず先頭で突っ走ってく、そんな感じよ」

男「なるほどね」

江風『あれ?なに話してンだ?』

飛龍『あー内緒話してるー。逢引だ逢引、提督に言いつけてやろ』

叢雲『んなわけないでしょ。ほら前見て』
69 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:23:19.04 ID:ilPFB3QM0
江風『ところでよぉ、ひとつ質問なンだけどさ』

男『なんだ?』

江風『この箱ってあの紅ちゃんの隣の部屋に運ぶンだよな?』

男『そうだが、紅ちゃん?』

飛龍『あの娘の呼び名よ。名前がわからないのは仕方ないとして、呼び名くらいないと不便でしょ?』

江風『で、臨時で紅ちゃんってわけさ。発案は誰だっけかな』

男『なるほど』

飛龍『他にも眠り姫、赤ずきん、撫子、さくらとか色んな呼び方があるわよ。あ、さくらは真宮寺さくらのさくらね』

男『統一してないのか…』

真宮寺さくらって誰だ。

叢雲『それで、質問って何よ』

江風『ン、あ〜それな。この箱だけどさ、入口から入るのかなって。変形とかする?』

男『あ』
70 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:26:06.78 ID:ilPFB3QM0
叢雲『え、ノープランなのそこ』

男『ま、窓から行けるか?』

飛龍『ベランダなら網戸とか外せばいけるんじゃない?』

男『じゃあそれで頼む』

飛龍『はーい、って逆方向じゃん!』

男『すまん、失念してた』

江風『こりゃ高くつくぜぇ調査官殿』

男『本当に済まない』

叢雲『ほらさっさと戻るわよ』

男『…なあ、一ついいか』

飛龍『ん?』
江風『んぁ?』
叢雲『何よ』

男『あの娘の名前、実際に呼んだりしてるのか?』

叢雲『呼ぶも何も、まともに会話だって出来てないわよ?』

男『そうか…そりゃそうだ』

ならいい。なら、いいんだ。
71 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:27:10.16 ID:ilPFB3QM0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【部屋】

江風『ふぃーなンとか入ったな』

飛龍『大丈夫なのこれ?ほんとに床抜けない?』

叢雲『一階だしこれくらいなら、多分』

男『今んとこ抜けたことはないから大丈夫だとは思うんだがなあ』

江風『しっかしこの殺風景な部屋にこれだけドカンとあるとなンつーか威圧感が凄いよなあ』

飛龍『ますますGANTZね』

江風『いやいや、よく見ると確かに羊羹にも見えるかも』

叢雲『アンタ明日からトイレ掃除ね』

江風『あー!乱用だ!職権乱用だ!!』
72 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:27:39.37 ID:ilPFB3QM0
飛龍『ねえねぇ!これ何に使うものなの?やってみてよー』

男『ダメだ。企業秘密だからな。そのためにこんな頑丈にしてあるんだから』

江風『じゃあさ、運搬のお礼にって事でちょっち見せてくれよ。先っちょ!先っちょだけでいいから!」

叢雲『なぁに言ってるのよ。あんだけふざけて運んだんだからチャラよチャラ。ほら行くわよ』

江風『ちぇー』

男『悪いな。礼はまた今度に』

飛龍『絶対だからね!』

江風『じゃねー』

バタン。

3人が部屋から出ていく。
73 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:28:09.98 ID:ilPFB3QM0
男「…」

さてと、

忍び足で今しがた3人が出ていった扉までいく。

扉に耳を当てると廊下から声が聞こえる。

江風『飛龍さんはなンだと思います?』

飛龍『んー自白剤とか?」

江風『その発想はなかったっス…」

飛龍『現実的なとこだと思うんだけどなあ』

江風『そりゃあそうかもしれない、なくもないかもですけど。でも…』

飛龍の中で俺はどんなイメージなのだろうか…

だいぶ離れたのか2人の声が聞こえなくなる。

2人。

つまり叢雲は一緒ではない。
74 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:29:13.99 ID:ilPFB3QM0
外から足音がする。

忍び足のようだが部屋の中と違い廊下では木製の床の軋む音を抑えることは出来ないようだ。

足音が、扉の前で止まった。

少し迷ったが、俺はドアノブに手をかけ

男「せいっ!」ガチャッ
叢雲「うきゃあ゛!」ドサッ

思い切り引いた。

どうやら扉に前のめりで寄りかかっていたらしい叢雲がこちらに倒れてきたので片腕で受け止める。

やはり駆逐艦は軽い。

叢雲「あー、えっとー」

男「新聞ならいらねえぞ」

叢雲「あははー失礼しましたー」

男「待てい」ガシッ
叢雲「グエッ」
75 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:29:46.48 ID:ilPFB3QM0
叢雲「はぁ…しっかり対策済とはね」

男「信用されない立場だからな。盗み見盗み聞きには気をつけてるんだよ」

叢雲「前例があったわけね」

男「まあな。とはいえこうして俺を警戒する気持ちもわかるから強くは言えないんだがな」

叢雲「監視カメラ等がないのも知ってるってわけ?」

男「ああ。途中で設置されてもすぐ分かるぞ」

叢雲「…そのための箱、という事かしら?」

男「いい発想だ。不正解だけどな」
76 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:30:14.11 ID:ilPFB3QM0
叢雲「ハイハイ私の負けよ。今日は大人しく引いておくわ」

男「少しくらいは様子を見てくれよ。俺を信用するかどうかはそれから決めてくれ」

叢雲「随分謙虚ね」

男「言ったろ、そっちの気持ちも分かるって」

叢雲「わかったわよ。それじゃ」

男「おいおい、扉くらい閉めてけよ」

叢雲「それじゃあなたが不安でしょ?なんなら執務室まで送って貰ってもいいのよ」

男「こんにゃろ」

叢雲「お返しよ」

チロと舌を出して得意げな表情で部屋を出ていく。
77 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:31:25.48 ID:ilPFB3QM0
男「…こりゃ手強いな」

扉の下の隙間に滑り込ませるように置いてあったボタンのような物を拾い戸を閉める。

さっきの倒れかけた時に咄嗟に投げたか?

盗聴器かな。本当にバレるかどうかのテストといったところだろうか。

勿体ないからタオルでくるんでバックの中に入れる。

しかしこんなものを既に用意しているとは、思った以上に用心してるんだなここは。

男「それじゃ本格的に始めるとするか」

黒い箱から伸ばしたコードをコンセントに刺し電源を入れる。

聞きなれたモーター音とともに箱が変形しだす。

キーボード、モニター、パネル、アンテナ。色々なものがまるで裁縫箱のように展開される。

相も変わらず作者の趣味前回の無駄な細工だが。

起動に問題はなし。故障もなし。電波もちゃんと来てる。

キーボードを操作していつもの画面を出す。
78 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:32:07.10 ID:ilPFB3QM0
ポン、という間の抜けた音とともに画面が切り替わる。どうやら起きていたようだ。

男「こっちは無事セッティング終えたぞ。仕事だ仕事」

「あ゛ーーー、仕事ねぇ…仕事…まだ早いんじゃない?」

寝起きなのかいつもの特徴的な声がさらに独特なものになっている。

そういえば以前に鼻声だと言ったら怒られたな。

画面には事務所が映っているが、肝心の話し相手の姿が見えない。

男「早い方がいいに決まってんだろ」

「締切終わったばっかで寝不足なのぉ〜休ませて」

画面の下で何かがもぞもぞと動いている。そこで寝てたのかこいつ…

男「お前の行動に口を出さないのは仕事をちゃんとやる場合だけだって言ったの忘れたかおい」

「ぶぇ〜ケチんぼ」

男「口を出すなって言うなら金ももう出さんぞ」

「ぐっ…分かった分かった分かりましたよぉー。で何するのさ」
79 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:32:40.92 ID:ilPFB3QM0
男「今回の艦娘の特徴を全部送る。それで全軍艦のデータと照らし合わせてくれ」

「ちょっ!?全部!?全部って言ったあ!?」

男「海外艦の線は今のところなしだ。事前情報通り駆逐艦というのが有力だが如何せん記憶なしだ。一応他も頼む」

「うわぁマジかぁやべーやこりゃ」

男「外見的な特徴は機械じゃ判断できないからな。人がやるしかない。お前の得意分野だろ?」

「描くのはね…」

男「なにかわかり次第追加で送る。頼んだぞ」

「ラジャりましたぁ」

男「あーでもその前に」

「まだ何か」

男「風呂入って目え覚ましてこい」

「…やんエッチぃ」

声はすっかりいつものお調子者のそれに戻っていた。
80 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/14(木) 05:42:00.57 ID:ilPFB3QM0
秋刀魚が中々出なくてね…

江風は"ウチら"と"私ら"と"私達"のどれがらしいのかで凄く悩みました。
一応ですが基本的に人と艦娘はお互い別言語扱いなので言葉が通じないという前提の世界です。
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/14(木) 15:19:51.34 ID:oVFRrJn3o
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/14(木) 16:42:09.00 ID:MyNhWqiEO
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/15(金) 19:43:38.96 ID:2a4wj+Tso
おつおつ
「」と『』からそうかなとは思ってた
提督の資質に関しての新しい解釈いいね
84 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/22(金) 04:33:21.95 ID:q5DK4WWN0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

自分の部屋を片付けて隣の部屋に行ってみると彼女はまだ寝ているようだった。

さてこうなるとやる事がないな。

という事で少し早いが夕飯にしようと食堂に来たのはいいのだが、

男「忘れてた」

まだそれほど混んではいないがそれでもこの大所帯。それなりの数の艦娘が食堂にいる。

その彼女達の視線が全て食堂に入ってきた俺に向けられる。

決して好意的ではない視線が。

直前に妙に人馴れした飛龍達に会っていたせいかすっかり忘れていたが人間への反応なんてこんなものである。
85 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/22(金) 04:34:52.04 ID:q5DK4WWN0
男「…」

さてどうするか。

ここで引き返すのはかえって印象が悪い。

とはいえこの状況でゆっくり飯が食えるほど俺の精神は強くない。

仕方ない。すぐ食べられる物を選んで速攻で出るしか

飛龍『チャオー!えーっと、男さん?男君?様にしとく?』

男『うお!ビックリした。飛龍、と蒼龍だったな』

蒼龍『は、はい。蒼龍です』

ぎこちない反応。しかしこれが普通だ。飛龍の方が異常と言える。

姉妹艦だったか。どうやら飛龍に着いてきたようだ。

止めるわけでもなくかといって離れるわけでもなく、ついつい一緒に来てしまったと言った感じか。

男『男でいいと言ったろ』

飛龍『いやぁ呼び捨てはちょっとねぇ。あだ名とか付けたげよっか?』

男『断る』

艦娘との距離を縮めるにはいい手かもしれないが、単純に俺が嫌だ。
86 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/22(金) 04:35:28.05 ID:q5DK4WWN0
飛龍『他の鎮守府ではどんな呼ばれ方してたの?』

男『他の鎮守府か』

艦娘達との関係はお世辞にもいいとは言えないものばかりだったからなぁ。

男『あ、部下からは課長と言われてるな』

飛龍『課長なの?』

男『一応な』

飛龍『へー…ねぇ蒼龍、課長ってどれぐらい偉いの?』

蒼龍『ランクで言ったらフラタとかフラヲくらい?』

飛龍『あーんーなんか微妙なとこね。でも適度にムカつく』

よく分からんが馬鹿にされてる感がある。
87 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/22(金) 04:37:58.68 ID:q5DK4WWN0
飛龍『じゃ課長で』

男『まあその方が馴染みがある』

飛龍『蒼龍もそれでいいっしょ?』

蒼龍『うん。よく考えたら提督だって提督だもんね』

飛龍『確かに。あーっとそれより早く注文しようよ。課長は何にする?私のオススメはねぇ生姜焼き定食。蒼龍はメガ盛り焼肉定食ね』

蒼龍『ちょっと!たまによ!いや好きだけど、出撃とかで疲れてる時だけだから!』

飛龍『さらに食後にこのでかい方のパフェをねえ』
蒼龍『ひーりゅーうー』パタパタ

男『あーまあ艦娘は消費カロリーが大きいからな。よく食べるのはいい事だろう』

蒼龍『違う!違わないけど!違うから!』

うん、この騒がしさは確かに姉妹だな。

けして喧しくはなく、まるで軽快なリズムで鳴り続ける太鼓のような印象を受ける。
88 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/22(金) 04:38:35.84 ID:q5DK4WWN0
結局流れで3人とも焼肉定食となった。勿論メガ盛りではない。

飛龍『課長は嫌いなものある?』

男『キムチだけは今後一生食わないと決めている』

蒼龍『なんで?』

男『トラウマがな…』

飛龍『何やったらキムチなんぞにトラウマできるのよ』

男『内緒だ。こいつだけは墓まで持っていく』

飛龍『ちなみに提督は唐揚げが嫌いよ。何故か』

男『何故か』

飛龍『うん。何故か』

蒼龍『叢雲ちゃんも知らないんだって』

食堂の端の空いていたスペースに三人で座る。

俺と対面する形で飛龍蒼龍の並び。
89 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/22(金) 04:39:12.38 ID:q5DK4WWN0
案の定艦娘である2人は食べるペースが早い。あっという間に平らげてしまった。

俺も別に遅い訳では無いのだが。

男『2人はあの娘に会ったことはあるか?』

飛龍『あーさくらちゃんの事?』
蒼龍『撫子ちゃん?』

男『やっぱ呼び名はバラバラなのな』

飛龍『私は会ってないんだぁ。写真だけ。すっごく可愛かった』

蒼龍『私は寝顔だけチラッと。こう、ギュッとしたくなる感じの娘だった』

飛龍『分かるー。一緒に寝たい。お風呂とか入りたい』

蒼龍『ね!ね!絶対抱き心地いい!』

飛龍『絶対メイド服とか似合う!』

蒼龍『私は水着とか試したい!』

飛龍『髪なんかもいじりがいかありそうで!』

蒼龍『ウェーブかけたい!』

男『待て待て落ち着け』

女子トークになった途端ヒートアップする。
90 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/22(金) 04:39:44.31 ID:q5DK4WWN0
蒼龍『課長は抱きたくならなかった?』

男『なるか。そんな事したら殆ど犯罪者だろ』

蒼龍『え〜そうかな』グゥ

飛龍『あ』

男『…』

蒼龍『』カァ

真っ赤になった。蒼龍なのに。

飛龍『よし行こう!デザート食べに行こう!』

男『俺の事は気にするな』

蒼龍『もうダメ…お嫁に行けない…』

飛龍『はーい行きますよ〜ほれほれ〜』
91 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/22(金) 04:40:28.83 ID:q5DK4WWN0
青とオレンジの背中を見送る。

しかし飛龍はすごいな。コミュ力の塊みたいなやつだ。それに気遣いもできている。

蒼龍の方と一度話出せば飛龍と変わらない印象だが、それは彼女がいるからこそのように思える。

さっき話しかけてきたのもパッと見て俺の置かれた状況を察したからだろう。

おかげでこうしてスムーズに料理を頼めたし違和感なく食堂に紛れられている。

とはいえそれに甘えるというのもどうかと思う。二人が戻る前に茶碗をからにする。

飛龍『ただまー』

蒼龍『あ、課長もう食べ終わってる』

男『やっと食べ終わった、だろ?』

蒼龍『そろそろ怒りますよ』

男『冗談だよ。悪いが俺は先に戻るよ』

飛龍『えーパフェ食べないのー?今ならあーんしてあげるよ、蒼龍が』

蒼龍『なんで!』
92 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/22(金) 04:41:27.19 ID:q5DK4WWN0
男『俺にも仕事があるからな。それと飛龍』

飛龍『はいはい』

男『ありがとな』

飛龍『ん?何が』

男『いや、なんでもない』

飛龍『大丈夫?パフェ奢る?』

男『奢るほうかよ』

飛龍『感謝は気持ちじゃなくて態度で示してよね』

男『遠慮ねえなおい』

蒼龍『飛龍は色々と根に持つタイプだもんね』

飛龍『ふふん』ドヤァ

何故ドヤ顔。

だがまあ、この借りはしっかり覚えておこう。
93 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/11/22(金) 04:43:39.53 ID:q5DK4WWN0
コミュ力お化け筆頭艦娘飛龍

神風はまだ出てこない
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/22(金) 09:48:24.76 ID:ohuOlnUqo
おつおつ
わかる
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/22(金) 19:18:32.34 ID:6kseAc72O
神風と一緒にお風呂に入りたい人生だった…
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/30(土) 10:53:16.38 ID:chrHFR8Mo
おつかーレです
97 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/02(月) 04:28:06.03 ID:4Jx7eI/a0
腹ごしらえも済んだし一旦部屋に、

男「とその前に」

自室の隣の扉を開け中を確認する。

いつ目を覚ますかわからない以上こうしてちょくちょく確認するしかない。

カメラで監視という手もあるがそれはちょっとどうかと思うしなあ。

沈みかけた太陽の光は部屋にはもはや入ってはおらず室内はぼんやりと薄暗くなっていた。

神風「」

男「あー…」

落ちていた。ベッドから。

うつ伏せで床に這い蹲る彼女はその長い髪で身体を覆われているせいかますます貞子っぽく見える。

ピンクの貞子か…逆に不気味だな。
98 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/02(月) 04:28:41.42 ID:4Jx7eI/a0
男「…運ぶか」

別にこのまま床に寝ていても問題は無いのだが、見てしまった以上放っておくのもなんだし。

しかしどうしようか。体格は小学生程度とはいえ意識のない人間を持ち上げて運ぶのはそれなりに苦労する。

まあ起こしてしまったらその時はその時だ。

うつ伏せのからだを転がし仰向けにさせる。

顔にかかった髪を退けると彼女の穏やかな寝顔が現れた。

一向に浮かび上がってこないその不安定な意識は今どこで何を見ているのだろうか。
99 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/02(月) 04:30:12.93 ID:4Jx7eI/a0
肩の辺りと膝の下に手を入れお姫様抱っこの形で持ち上げる。

決して重くはないが意識の無い身体はまるで砂袋でも持っているかのようでとても持ちにくい。

腰に来るなこれ…すっかり鈍った身体については今後対策を講じるべきかもしれない。

男「ふぅ」ドサ

おっと、もう少し丁寧にベットに寝かせるべきだったか。

布団は、別に寒くもないしいいか。

さて戻ろう。

男「ん?」グィ

何かに服の裾を引っ張られた。

何か。

いやここに何かは一人しかいない。

まったく、今朝と同じくだな。
100 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/02(月) 04:30:49.66 ID:4Jx7eI/a0
男『あー、起こしてしまったかな?』

『起こす…私、寝てたの?』

男『ああ。ぐっすりとな。気分はどうだ』

『なんだかふわふわするわ。この前もそう』

男『この前、とは?』

『えっとね、叢雲と、司令官とお話した時よ』

男『ほほう。二人はなんて?』

『"妖精達が見えるか"って言ってたの。私、妖精なんて見た事ないから分からないと答えたわ』

男『それで』

『初めて見たわ。妖精っていうのを。とても小さくて可愛かった』

男『なるほど』

過去の船の記憶がない。そしてそれらを思い出そうとすると意識を失う。

しかしこうして艦娘として生まれてからの記憶はしっかりと残っているようだし、それを思い出そうとして意識も失わない、か。

当然妖精は知らない。

基本的な知識はやはりゼロか。
101 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/02(月) 04:31:44.78 ID:4Jx7eI/a0
部屋の明かりをつけ彼女と並んでベットに座る。

『えと、男さん、よね?』

男『課長と呼んでくれ。そちらの方が馴染み深い』

『課長なの?』

男『課長だよ。課長ってのは分かるか?』

『そこそこ偉い人』

男『…大体合ってる』

『課長さんはどうしてここに?貴方も鎮守府の艦娘なの?』

男『いや、俺は…人間だよ。司令官と同じね』

『貴方も、私とは違うのね』

男『そうとも言えるな。君は鎮守府についてどれぐらい知っている?』

『えっと、司令官が一番偉くて、その補佐を叢雲がしてて、他にも艦娘っていう人達がいっぱいいるって。それくらいしか聞いてないわ』

男『なるほど、ありがとう』

どうやら最低限の情報だけで留まっているようだ。これならば多少はやりやすい。
102 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/02(月) 04:32:19.65 ID:4Jx7eI/a0
男『俺は鎮守府の人間じゃない。この鎮守府は海軍に属するものだが、俺はその軍とは、まあ少し別の組織から来た者だ』

『…派遣の人?』

なんでそんな知識はあるんだよおい、とは言わない。そんな事で意識を失われては困る。

男『そんなところだよ、多分』

『何をしに?』

男『今回は、そうだな。教師としてだな』

『先生なの?』

男『そういう事もやっているんだ。例えば歴史なんかを教えたりな』

『歴史の先生なのね』

男『主に近代史だがな。でも好きなのは戦国時代だ。君は歴史と聞いてなにか連想するものはあるかい?』

『んーそうね。平安時代とかかしら』

男『大正時代なんかはどうだ?』

『大正時代?』

そう。彼女の唯一の特徴。

現時点で唯一の手掛かり。服装はどういうわけか大正時代のものに通じるものがある。何か覚えていればいいのだが。
103 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/02(月) 04:33:05.37 ID:4Jx7eI/a0
『あまりぱっと思いつくものはないわね』

男『…それもそうか』

なるほどな。大正時代という存在は知っているわけか。

もう少し踏み入ってみるか。

男『昭和時代なんかはどうだ?』

『昭和…えっと、大正の次で、それで…』コテン

男『ダメか…』

意識を失った彼女は俺の体によりかかってきた。

やはり大戦時の記憶が欠損していて、そこを中心に関連する記憶も抜けているようだ。

第二次世界大戦を中心にそれに近い記憶程抜けていて離れる程影響は少ないといったように思えるが、ここら辺はまだ検証次第だな。
104 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/02(月) 04:33:39.53 ID:4Jx7eI/a0
再び彼女をベットに寝かせ布団をかける。

そういえばこの分だと着替えもしていないようだが大丈夫なのだろうか。

パジャマとはいえずっとこのままというわけにもいくまい。風呂も、まあ寝たきりならそんなに要らないか?

いや、俺が心配してもしょうがないか。

明かりを消し牢屋に鍵をかける。

そう、牢屋だ。そう意識すべきだろう。

彼女をここから出すには、やはり相当な時間がかかりそうだ。

普段使われていないせいか明かりも少なくすっかり暗くなった廊下を執務室に向かって歩く。
105 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/02(月) 04:38:47.70 ID:4Jx7eI/a0
しーちゃんペンライトゲットだぜ

色々と忙しい時期ですが大規模作戦が始まってしまいました。
戦力層の薄い鎮守府なのでしっかり様子見です。

今後神風にはしっかりお風呂に入ってもらうし漏らしてもらう予定なのでそこまでは頑張ります。
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/02(月) 05:08:22.60 ID:QdK25AIvO

これはお漏らしに期待せざるを得ない
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/02(月) 13:20:54.03 ID:rP+SrCKEO
神風ちゃんと言ったらお漏らしだからね仕方ないね
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/03(火) 12:32:40.38 ID:BXrInFt/0
おつ
次も楽しみに待ってる
109 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:29:37.44 ID:PrUZMYEX0
男「失礼します」

執務室を扉をノックし声をかける。

提督「ああ、どうぞ」
『げっ!』

男「…ん?」

入室の許可に混じって何やら不穏な声がした。

ここで考えもなく扉を開けた自分を詰りたくなる。

瑞鶴『…』ムスッ
金剛『…』

提督「あー、お疲れさま」

男『邪魔でしたかな』

提督「いや構わないですよ。少し座って待っててください」

男『ええ』
110 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:30:37.75 ID:PrUZMYEX0
ソファに座り提督の方を見る。

彼のいる立派な机の前にこちらに背を向け二人の艦娘が並んで立っていた。何かの報告の最中だろうか。

僅かに緑がかったツインテールと迷彩柄の巫女装束のような服という特徴的な姿をしているのは空母の瑞鶴だ。迷彩ということは改装はしているらしい。

チラと振り向き突然やってきた邪魔者に対して隠すこと無く敵意を向けてくる。高めの身長に反して幼さの残る顔はまるで膨れっ面をする子供のような印象を受ける。

もう一人はブラウンのロングヘアに白ベースに赤のラインというまさに巫女服といった容姿。世間での知名度も高い戦艦金剛だ。

しかし金剛は瑞鶴と違った。こちらを横目で一瞥したときのあの冷ややかな視線は思わず鳥肌が立つ程だった。

彼女がどういった意図を持っていたにせよ一般人でしかない俺にとってそれは殺意と何ら変わらない威圧感だった。
111 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:31:34.33 ID:PrUZMYEX0
会話はどうやら船団護衛の編成についてのようだ。流石にこういった話は素人の俺には分からない。

しかしこれ長くなるだろうか…明らかに部屋の空気が重い。俺のせいで話し合いに支障が出てなければいいが…

提督「よし、じゃあ続きは明日の演習で試しながらにしよう。二人ともお疲れ様」

瑞鶴『はーい。提督さんもお疲れ〜』

金剛『お疲れ様デース提督ぅ!明日もよろしくネー』

二人が部屋の入口へ向かう。

機嫌の悪さを隠そうともしない瑞鶴とは対照的に普段と変わらない金剛。二人の性格がよく現れて

金剛『"課長さん"も、お疲れ様ネ』

男『…あぁ、お疲れ様』

そういう事か。怖い怖い。抑揚のない冷めた労いの台詞で察する。

課長呼びということは飛龍からの情報は鎮守府にちゃんと広がっているようだ。

わざわざ言ってきたという事は牽制、線引きという訳だ。流石は戦艦金剛と言ったところか。
112 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:32:47.63 ID:PrUZMYEX0
提督「いやぁタイミングが悪かったみたいで申し訳ない」

男「構いませんよ。遅かれ早かれ彼女達とは接触しなければならないんだ」

提督「今叢雲を呼んだのでそのまま待っててください」

男「OK」

提督「僕も失礼して」ドサッ

机から離れソファに深々と腰を預ける。

男「どうですか、そこの椅子の座り心地は?」

来客に備えてか随分と立派に作られている机を見ながら問いかける。あの椅子では長時間の作業は負担だろう。

提督「それはどっちの意味で?」

男「え?あぁ、いや、ハハッ。貴方の思う方でいい」

思いがけない反応に、しかしつい笑いが零れた。

提督「堅苦しくてしょうがない。でもどうにも居心地がいい」

間違いなく本音だろう。そう確信させる目をしていた。"どちらの意味の回答でも"、それが本心だろう。
113 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:33:26.77 ID:PrUZMYEX0
男「羨ましい」

提督「本気で?」

男「それなりに」

提督「座り心地はもう少し良くなって欲しいのですけれどね」

男「それは無理でしょうね。何せ作っているのがアレだ」

提督「あれ、いいんですかねそんな事言って」

男「椅子職人の話でしょう?」

提督「おっとそうでしたそうでした」

叢雲「あら、いつの間にか随分と打ち解けてるじゃない。それでいいのよ、それで」

提督「おー叢雲」

男「いつの間に…というか早いな」

叢雲「勿論。司令官の要望には即座に答えられるようにしているわ」ドヤァ

提督「もはやストーカーレベルだよね」ハハハ

叢雲「は?」ピキ

男「…」

褒めたつもりなんだろうなーこの男は。朴念仁なのか?
114 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:34:34.19 ID:PrUZMYEX0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

叢雲「それで、どうだった?一日あの娘(こ)といて」

男「一日と言っても会話ができたのは二回だけだ」

提督「二回?午前中以外にも目を覚ましていたんですか?」

男「ついさっき。それなりに会話はできましたよ。何かを思い出させなければ会話自体はそれほど問題ない」

叢雲「問題は私達の目的がその思い出させる事って点ね」

男「とりあえず先の会話で今後の大まかな方針は決まった」

提督「ほう、それは」

男「まず彼女は鎮守府という組織を一切知らない。ここの事もここにいる3人と他に大勢の艦娘という人がいる、という認識しかない。それを逆に利用しようと思う」

叢雲「利用?」

男「俺が教師として彼女につく。艦娘とはこうやって生まれた時は何も知らないから勉強が必要なんだと言ってな」

提督「あー、あぁ!なるほど。それは良さそうだ」

叢雲「確かに…彼女の負担は少なそうね」
115 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:35:55.00 ID:PrUZMYEX0
男「と言っても現時点での、あくまで大まかな方針です。様子を見つつ彼女の反応を見てその都度調整は必要になるでしょう」

提督「ならこれから暫くはこの時間にこうして集まって報告を聞き話し合うとしましょう。専門家じゃないけれど僕らも手伝いはできるはずです」

男「それはありがたい。ひとまずはそれで行こう」

叢雲「それで、細かい方針は何かあるの?」

男「方針というか、今とりあえず知りたいのは食事が必要かどうかかな」

提督「うん。何せあの調子だから今の今まで何も摂取できていないんだよね。艦娘である以上"栄養摂取"は不必要だけど"食事"は必要だ」

叢雲「とは言えいきなり食堂というわけにもいかないものね。何か簡単に持ち運べる軽い物でも用意させとく?」

提督「そうしてくれると助かる。俺としてもな」
116 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:36:29.13 ID:PrUZMYEX0
叢雲「そういえば夕餉はどうしたの?完全にスルーしてたけど」

提督「あっ」

男「食堂で食べたよ」

叢雲「あら、やるわね」

提督「なんか来客感全然なかったから忘れてたね」

男「飛龍のおかげでな、助かったよ。明日からは気をつける」

叢雲「へぇ飛龍が。ふぅん」

提督「いつもは来客には別室で少し豪華なものを出したりしてるんですけどね。いやほんと申し訳ない」

男「馴染んでると言ってくれるならそれが一番ですよ」

叢雲「明日はどうするの?」

男「別室とまではしてもらわなくても、でも出来れば二人のどちらかとは一緒が望ましいな」
117 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:37:07.08 ID:PrUZMYEX0
提督「ならそうしましょう。食堂に馴染めるように」

叢雲「…明日って報告書あったわよね」

提督「あ゛」

男「報告書?」

叢雲「近海の調査報告書よ。深海棲艦(ヤツら)の動向を週一くらいで報告しなきゃなのよ。どんな小さな動きも見逃さないようにね」

男「ほぉ。それは知らなかったな」

提督「」

叢雲「終わるの?」

提督「」

叢雲「…」

提督「」

男「これは?」

叢雲「日頃からコツコツやらない怠惰な男の哀れな末路よ」

提督「ホント申し訳ない」
118 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:38:02.68 ID:PrUZMYEX0
叢雲「てことでアンタはそこで仕事。私が食堂行くわ」

提督「無慈悲な…」

叢雲「安心なさい。後で私がご飯持ってきてあげるから」

提督「えーじゃあ誰かに夕飯作ってもらおうかなあ」

叢雲「」ピクッ

男「作ってもらう?」

提督「秘書艦は日毎に他の艦に変わってもらったりしてるんですよ。そこでいつからかその日の秘書艦とご飯を食べるのが流れになってて、僕が作ったり向こうが作ったりと色々とね」

男「ほお」

艦隊内でのコミュニケーションのためか。中々いいアイデアだ。

しかし料理までできるのかこの男。

提督「日中はどうしても艦隊の運用に時間を取られるのでご飯を作ってくれたりすると空いた時間を他に回せましてね」
119 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:40:01.36 ID:PrUZMYEX0
叢雲「な、なら一緒に食堂行けばいいじゃない」

提督「報告書書かなきゃだから行けないって話だろ?」

叢雲「」

男「…」

あ、これはあれか。察した。

提督「それに秘書艦の制度も君の負担軽減のためにやってる所もあるんだしそこまではしなくても大丈夫だよ」

叢雲「…そう」

男「よ、よろしく頼むよ」

叢雲「ッ…」キッ

うわ睨まれた。どう考えてもとばっちりだろ俺は。
120 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:40:33.15 ID:PrUZMYEX0
提督「では明日からはそういう事で」

男「あ、ああ…」

いいのかなぁそういう事で。口出すことじゃないんだが。

叢雲「司令官っ!」バンッ

提督「うおっ!」
男「えっ?」

叢雲「徹夜よ」

提督「は?」
男「ん?」

叢雲「徹夜で終わらせるわよ」

提督「…へ?」
男「あー…」

目がマジだ。
121 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:41:01.36 ID:PrUZMYEX0
提督「べ、別にそこまで急を要するものじゃなくないかい?」

叢雲「四の五の言わずにやるわよ。明日の仕事はいくつか私がやっておくからやるわよ」

提督「えぇ…」

男「…徹夜ってのはやったりするので?」

提督「たまに…」

叢雲「昔はしょっちゅうやってたものだけれど」

提督「若さは力だよ」

叢雲「まだ若造じゃない」

提督「二十後半辺りからくるんだよ、急に。呪いみたいなのが全身に」

叢雲「何よそれ」

男「…」

それは分かる。
122 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:41:35.38 ID:PrUZMYEX0
提督「君達は寝なくても平気だけど僕らは寝ないと二三日は引きずられるんだよ…」

叢雲「いつもたっぷり寝てるんだからたまには頑張りなさいよ」

提督「えぇ…」

叢雲「ほら、やるからにはさっさとやるわよ!終われば寝れるんだから」

提督「やるとは言ってなくない?」

叢雲「 や る わ よ 」

提督「ハイ」

男「あーうん。頑張って」

叢雲「じゃまた明日」

提督「こっちの事はお気になさらず…」

男「気にはなるが、まあどうこういうものじゃない」

提督「それもそうだ。では、おやすみ」
123 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/09(月) 02:44:41.62 ID:PrUZMYEX0
E2までしか終わってない!

基本的に艦娘の好意的な態度しか見ないのでそうでない艦娘を書きたいなって。
人選は個人的睨まれてみたい艦娘トップ2からです。
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/09(月) 06:04:51.43 ID:yaI3S5dFO
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/09(月) 20:31:11.66 ID:KS3efmdLo
おつ
126 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/31(火) 23:34:29.98 ID:2t2tJjtO0
男「…」

扉を乱暴に叩く音で目が覚めた。

ベットに寝たまま手探りでスマホを手繰り寄せ時刻を確認する。

朝の6:18。

一体何の用だ?そもそも誰が扉を叩いているのか。

寝起きの機嫌の悪さを自覚しながらそれでも少し急ぎめで入口まで移動し扉を開ける。

男『はいはい、何の用ですか』ガチャ

叢雲「私よ、おはよ」

妙なアンテナが喋った。いや違う。

目線を少し下げるとそこには叢雲がいた。

男「叢雲?おはよう、どうしたんだ?こんな時間に」

叢雲「マルロクマルマル。艦隊総員起こしの時間よ。だからあなたも一応、ね」

ニヤリと笑う。うーんこの顔、さては嫌がらせの類だなこれ。

男「なるほどね。そりゃご親切にどーも」
127 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/31(火) 23:35:11.03 ID:2t2tJjtO0
鎮守府の朝はどこも早い。

なんなら平日は灯りの消えない鎮守府だってある。

男「ここはいつもこの時間なのか?」

叢雲「そうね。6時に声掛けて、暫く猶予を与えた後布団にしがみついてる奴らを叩き起していくのよ」

男「ならこれからその叩き起しってわけかい」

叢雲「これからじゃないわ。今まさによ」

男「あぁなるほど。布団にしがみついてるとさっき叩かれていた扉みたくなってたわけだ」

叢雲「気をつけなさいよ。アナタは私達や扉と違ってそれほど頑丈じゃあないもの」

男「肝に免じておこう」

眠気はすっかり覚めていた。
128 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/31(火) 23:36:17.26 ID:2t2tJjtO0
男「君の今後の予定を聞いてもいいか?」

叢雲「全員の起床を確認。今日の各自の予定を改めて通達、各自目を通したか確認。早番の娘達の航路や日程を確認送り出し。夜番の娘達の帰投確認、で報告受けてとりあえずは朝餉ね。司令官は、まあ起きないでしょうけど」

サラッと簡素に答えたがこれだけでもどれほど忙しいかわかる。

今は端末等で事足りるとは言え百を超える部下をまとめあげるのは並の苦労じゃない。

早番というのは恐らく早朝からの遠征や船の護衛だろう。夜番はそれを夜通しやっている艦隊か。

男「改めて聞くとえらい忙しさだ」

叢雲「この身体じゃなきゃ三日持たないわよ。それでも司令官は睡眠を取れって言うけれどね」

男「そうなのか?」

叢雲「ええ。わざわざ秘書艦を交代制にしてまでね。いい夢を見ろって事らしいわ」

男「いい指揮官じゃないか」

叢雲「そう?押し付けがましいと思わないでもないわよ。夢なんか見なくたって、私はあの人の隣いにいる限りは人であり続けられると思うのだけれど」
129 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/31(火) 23:36:48.60 ID:2t2tJjtO0
男「あって欲しいという思いだよ。きっと」

叢雲「…ま、だから私から何か言ったりはしないのだけれどね」

提督と叢雲。二人の間にある信頼は少し変わったもののようだ。

最もその印象もお互いが人間だったら、という前提あってのものだが。

叢雲「それで、アナタの方はどうなのよ。今後の予定は」

男「あの娘の様子を見ているよ。起きるようなら一緒に朝食を摂りたいところだが」

叢雲「彼女次第ってわけね。はいコレ」

ポケットから何かを取り出す。ポケットあったのかその服。

男「これは?」

叢雲「アナタ用の連絡用端末」
130 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/31(火) 23:37:32.86 ID:2t2tJjtO0
渡されたのは昨日叢雲も使っていたスマホだった。

叢雲「基本的に連絡機能だけが入ってるわ。それも鎮守府内だけの。そこら辺はアナタなら分かってるでしょ?」

男「そりゃな」

情報漏洩には意外な事に国が徹底して対策をとっている。流石にアイツらでも艦娘という存在が如何に重要かは理解しているらしい。

その為基本的に鎮守府と外部の連絡手段はかなり限られている。当然俺の普段使っているようなスマホはここじゃ電波が入らない。

叢雲「その端末の機能レベルは一番最低限のものになってるわ。外部との連絡は私か司令官のみ。後は執務室のコンソールね。観覧用のパソコンの置いてある部屋もあるけど、履歴とか全部外に送られてるからバレるわよ」

男「観覧用ってのはつまり娯楽としてって事か?」

スマホを操作して確認する。うん。今まで使ったことのあるものと同じだ。

叢雲「調べ物のため、って名目だけど実際はアナタの言う通りよ。今時娯楽がテレビだけってのはつまらないでしょ?」
131 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/31(火) 23:38:36.20 ID:2t2tJjtO0
男「そりゃそうだろうな。よし確認した。何かあれば連絡する」

叢雲「連絡先は今のところ私と司令官だけ登録しといたわ。緊急なら電話。そうでないならメッセージでお願い」

男「…他の艦娘とも連絡先を交換したりできるのか?」

叢雲「可能よ。機能的にはね。でもその方がアナタはやりやすいかもね」

男「だから買い被りすぎだよ。分かった、ありがとう」

叢雲「それじゃ頑張ってちょうだい」

男「君もな」

右手をヒラヒラと振りながら去ってゆく小さな背中を見送る。

彼女を見て、はたしてその背中がかつて計り知れないほど沢山のものを乗せて海を渡っていたと分かる者がどれだけいるのだろうか。

少なくとも俺には分からなかった。
132 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/31(火) 23:39:25.60 ID:2t2tJjtO0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

さて仕事だ。切り替えよう。

顔を洗い歯を磨く。その後ギリギリ社会人らしく見えるラインのラフなシャツとズボンに着替える。

流石にまだ半袖を着る季節ではないが、長居する事を考えると先に仕入れておくべきかもしれないな。

そんな益体も無い事を考えながらお隣さん家の扉を開ける。

男「…変わらずか」

寝ていた。昨日と違い桃色貞子にはなっておらず寝かせたままの姿勢、つまり仰向けのままベットにいた。

寝相とは脳が深く寝ているから起こると聞いた事がある。それでいえば昨日はちゃんと眠れていたという事なのだろうか。

そもそも艦娘の睡眠ってどういう状態なんだ?
133 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/31(火) 23:40:35.31 ID:2t2tJjtO0
男『おはようございま〜す』ヒソヒソ

なんとなく小声で呼びかけてみる。別に寝起きドッキリというわけじゃないんだが。

『ん…〜』モゾモゾ

お?意外にも反応があった。つまり気を失っているのではなくあくまで睡眠状態にあるという事か。

男『ヒトナナマルマル。総員起こしから一時間たってるぞ』ユサユサ

身体を優しく揺すりながら普通に起こしてみる。

『んー…ん?』

男『よ、おはよ』

『おは、よう?』

普通に起きた。最初の頃より意識が安定してきているのだろうか?

『えっと、その、私また寝てたの?』

男『ああ、ぐっすりとな。今は朝の七時だ』

『朝…うーいつの間に寝てたのかしら』
134 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/31(火) 23:41:12.84 ID:2t2tJjtO0
男『そこら辺は気にしなくても大丈夫だよ。起きられるか?』

『えぇ。問題ないわ』

そう言って上半身を起こし大きく伸びをする。

『久々に朝に起きた気がするわね』

男『ならきっとそうなんだろうな』

『よッ痛っ!』

男『!?どうした!』

『あ!ち、違うの!ちょっと髪を引っ張っちゃって…』

男『髪?あぁそういう事か』

長座体前屈の姿勢からベットに手を付き立ち上がろうとして、その長い髪を手で押えてしまいピンと張ってしまったようだ。

『…』サラサラ

不思議そうに自分の髪を触る。記憶が無いと自身の身体すらままならないか。
135 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/31(火) 23:41:51.34 ID:2t2tJjtO0
男『身体に異常はないか?』

『異常?うーん、ないと思うけど、多分』

男『よし。なら朝食にしよう。一日三食が健康の基本だ』

『そういえば私何も食べて無いわね』

男『ちょっと待っててくれ』

スマホを取りだし叢雲にメッセージを送る。

男:彼女が起きた。とりあえず朝食を食べようと思う。

よし、これでしばらくすれば

叢雲:早いわね。了解。そっちに送るわ。

男『返信早いな…』

『ん?何何?』

男『叢雲からの返事がすげえ早くてな。よっぽど忙しいんだろうよ』

色々連絡取りまくってんだろうなあ。わざわざ朝食を持ってきてもらうなんて少し気が引けるな。
136 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/31(火) 23:42:24.49 ID:2t2tJjtO0
『そうじゃなくて!そのちっこい板よ。なんなのそれ?』

男『ん?あー、そうか。そうなるわけか』

船の記憶のみならず現代の記憶も欠けているのか。

男『スマホって言ってな。最新の通信機器だ』

『おぉー』

凄いキラキラした目で見てくる。確かに知らなければ随分と不思議なアイテムだろう。

男『ま、それはあとだ。とりあえずは朝食を食べる準備だな』

部屋を見渡す。

家具は下が二段のタンスになっているこのベットのみ。食べるとしたらこの木の床になるのか…まあ掃除はされているようだし別にいいか?
137 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/31(火) 23:42:52.83 ID:2t2tJjtO0
男『ん?』
『あら?』

廊下の方から何やら音がする。

男『なんだ?』
『足音かしら?』

随分と慌てた様子の足音がこちらにすごいスピードで近づいて、そして

飛龍『どーーっも宅急便でーーす!!』バァン!!

そいつは勢いよく扉を開けて入ってきた。

男『飛龍…』

相変わらず元気120%の様だ。

というか普通に彼女を他の艦娘に会わせてしまったが大丈夫かこれ!?

『…』ドンビキ

…すっげぇ引いてる。ドン引きしてる。無理もないか。提督、叢雲、俺ときて次がコレだもんな。

飛龍『…あのー、なんか反応が欲しかったり?』

男『廊下を走るな』

飛龍『えぇーそこぉ?よりによってそこぉ?』
138 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/31(火) 23:44:53.81 ID:2t2tJjtO0
男『というか何でお前なんだ。叢雲は朝食を、を?』

"送るわ"、とそう言った。なるほどな、送るってそういう意味か。

飛龍『だからその叢雲に朝食持ってってって言われたのよ』

男『OK理解した。ありがとう』

飛龍『どいたま〜』

叢雲はそう判断したわけか。確かに他の艦娘達に慣れさせるなら飛龍はかなり向いていそうだが、それにしたっていきなりすぎるだろ。

飛龍『というわけで私!航空母艦飛龍です!よろしくぅ〜』イェイ

『よ、よろしくオネガイシマス』

声が小さくなっていく。完全にビビって縮こまる小動物状態なんだが。
139 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/31(火) 23:45:41.72 ID:2t2tJjtO0
飛龍『ムフッ』

男『あ?』

なんだ?凄い気持ち悪い笑みを浮かべてなんか変な声を出しやがった。

一体何g
飛龍『会いたかったにょぉぉぉおおおお!!!』ガバァッ
『キャァァァアアア!!』ビクッ

それは艦娘の身体能力を遺憾無く発揮した動きだった。

僅かに体を斜めにし重心を前に倒しつつ膝を瞬時にバネにし彼女に飛びかかった。

それは淀みないスムーズさで気づいた時には彼女は飛龍によって再びベットに寝かせられていた。

もっとも今の布団は飛龍だが。すげぇな見事にルパンダイブしたのに衝撃を自分の腕だけで殺してやがる。流石艦娘。
140 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/31(火) 23:46:49.40 ID:2t2tJjtO0
飛龍『ムフッ』

男『あ?』

なんだ?凄い気持ち悪い笑みを浮かべてなんか変な声を出しやがった。

一体何g
飛龍『会いたかったにょぉぉぉおおおお!!!』ガバァッ
『キャァァァアアア!!』ビクッ

それは艦娘の身体能力を遺憾無く発揮した動きだった。

僅かに体を斜めにし重心を前に倒しつつ膝を瞬時にバネにし彼女に飛びかかった。

それは淀みないスムーズさで気づいた時には彼女は飛龍によって再びベットに寝かせられていた。

もっとも今の布団は飛龍だが。すげぇな見事にルパンダイブしたのに衝撃を自分の腕だけで殺してやがる。流石艦娘。
141 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/31(火) 23:47:44.84 ID:2t2tJjtO0
飛龍『あ゛あ゛あ゛ちっちゃーい!ちんこいちんちくりんー!!うわほっそ腕細!髪スベスベーウリウリ〜』

クリスマスプレゼントに欲しいぬいぐるみを買ってもらった子供でもここまで全力で堪能はしないだろってくらい抱きついて堪能してる…

『んーー!!んんん!!??』バタバタ

よしこれは流石に助けた方がいいなうん。

飛龍『ん?』ピタッ

男『お?』

止まった?

飛龍『…A、じゃないBか!Bはあるな!』
『んん!!??』

男『変態かお前は!』ベシッ

大した効果は見込めないが反射的に頭を叩いてしまった。
142 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/31(火) 23:48:39.44 ID:2t2tJjtO0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

飛龍『あはは』

男『あははじゃねえよ変質者』
『』

飛龍『あははー…ごめんつい』

彼女は俺の後ろに隠れて飛龍に対して警戒態勢全開だった。当たり前だ。

飛龍『だって仕方なくなくなくない?』

男『仕方なくねえよ』

どうせろくな理由じゃねえ。まっくこいつは頼りになるんだかならないんだか…

飛龍『いやぁでもようやくちゃんと会えたわね、さk『あ゛あ゛あ゛ストォォプ!!飛龍ストップ!!』…え?』

『?』

男『あ、いや、その…』

やっべ思わず声を荒らげてしまった。

飛龍『えと、何が?ん?』

男『あー悪い。少し急用を思い出したすぐ戻る』

『え、ええ、分かったわ』
143 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/31(火) 23:49:24.66 ID:2t2tJjtO0
飛龍『じゃあここで待ってるねー』

違ぇよお前も来るんだよ。今更不審がられることを気にしてもしょうがない気もするが、一応彼女に気づかれないように飛龍にアイコンタクトを送る。

気づけ!お前もちょっと外に来い!

飛龍『…?』

そうだこっちを見ろ!汲み取れ!

飛龍『……!』

お!

飛龍『!』パチンッ

すっごいいい笑顔でウィンクされた。

男『少し飛龍借りるぞ』グイッ
飛龍『えちょっ!』
『ええ!?』
144 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/31(火) 23:49:58.81 ID:2t2tJjtO0
飛龍と共に廊下に出て戸を閉める。

飛龍『どうしたのよ急に。ウィンク変だった?』

男『んなわけあるか…』

飛龍『じゃ何よ』

男『…名前だ』

飛龍『名前?』

男『これは、まあ俺が言ってなかったのが悪いっちゃ悪いんだがな。飛龍、さっき彼女の事"さくら"って言いかけたろ』

飛龍『あーうんうん。言いそびれたけど』

男『"彼女を名前で呼んではいけない"』

飛龍『…はい?え、なんで?』

男『あ、いやほら。本当の名前が見つかる前に渾名があるのも変だろ、な?』

飛龍『はぁ、まあそれもそうか。でも呼び名がないのは不便じゃん』

男『そこら辺は、今提督と相談中だ』

飛龍『ふーん、ならしゃーないか』

とっさの事だったから凄い雑な誤魔化し方になったが、まあ納得したようなのでいいか。
145 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/31(火) 23:50:42.94 ID:2t2tJjtO0
男『ともかく、彼女には不用意に接触するな』

飛龍『そんなに徹底するものなの?記憶がないってだけで』

男『あぁ、だってお前らは…』

飛龍『お前らは?』

男『悪いなn『何でもないってのはなしね』…』

飛龍『なら、昨日の貸し、ここで返してもらおっかな〜』

男『…お前ら艦娘は危ういからだよ』

飛龍『…それって人にとってって事?』

男『存在が危ういって事だ。彼女は特にな』

沈黙が廊下を埋める。飛龍の真剣な顔はなんというか、叢雲とは別の凄みがあった。
146 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/31(火) 23:51:25.00 ID:2t2tJjtO0
飛龍『そっか。じゃ私は退散した方がいいかな。朝食は届けたし』

男『悪いな』

飛龍『悪いかどうかは、私が決めるから』

男『そりゃそうか』

飛龍『それじゃ!』

いつもの調子で変なポーズをとりつつ、部屋の前から立ち去ーらなかった。

男『飛龍?』

飛龍『ねえ、一個だけあの子に質問させてくれない?』

質問してもいいか、という問ではなかった。

質問をさせて欲しいという願いを口にした。

先程の真剣な顔に戻って。

男『…内容による』
147 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/31(火) 23:52:00.45 ID:2t2tJjtO0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

飛龍『たっだいまー、朝ごはん食べよー』

『は、はい!』

男『あんまり怖がらせんなよ』

飛龍『怖がらせてない!怖がらせてないから!』

男『あれ、そういや肝心の朝食は?』

飛龍『これこれ』

『それは、お弁当?』

飛龍『そうそう。ホントは遠征とか遠出する娘用に用意されてるんだけどぉ、その予備のやつを丁度いいから食べちゃおって。余ったら勿体ないしさ』

男『そりゃありがたい。見ての通り食べる場所なくてな。弁当なら食べやすい』

飛龍『あー確かになんもないわねここ』

とりあえずは机を用意した方がいいかなこれは。後で考えておこう。
148 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/31(火) 23:52:28.43 ID:2t2tJjtO0
『えっと、じゃあどこで食べようかしら』

男『弁当だからな。ベットに腰かけてか、床でピクニックか』

飛龍『床は止めといた方がいいと思うけどね。それじゃ配達員はここでばいなら!』

『ば、ばいなら〜』

古い…

飛龍『あそうだ!配達代代わりに一つ質問してもいい?』

『え、私に?』

飛龍『そう!』

なるほどそう来たか。恩着せがましい気もするが質問の仕方としては悪くない。

『いいけれど、あまり答えられる自信はないわよ?』
149 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/31(火) 23:53:55.68 ID:2t2tJjtO0
飛龍『そう大したことじゃないって〜』

ベットに腰かけ緊張からか体を少し強ばらせる彼女の目の前に目線を合わせる形で屈む飛龍。

じっと、真剣に、でもやさしく彼女の薄らと桜色が透ける瞳を見つめる。

飛龍『貴方、何処か行きたいところはない?』

『行きたい、所?』

飛龍『そう。自分はそこに向かいたい。辿り着かなくてもいいから目指したい。そんな場所』

『うーん、えっと…ごめんなさい。ちょっとよく分からなくて』

飛龍『…そっか!ごめんごめんなんか変に重苦しくしちゃって。性格診断テストみたいなもんだからあんま気にしないで?それじゃバイビー!』ピューッ

『行っちゃった…』

男『なんだったんだ?』

『さあ?』

男『とりあえず朝食にするか』
150 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2019/12/31(火) 23:58:55.29 ID:2t2tJjtO0
どうして年末の方が忙しいんです

週一くらいで更新したい。
でも次はE6を無事突破出来たらですかね…
とりあえず晴れ着艦娘達を拝みます。
151 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/01/01(水) 00:04:24.85 ID:xm7/y7fL0
明けましておめでとうございます。

今年も少しばかりお付き合いしていただければ幸いです。
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/01(水) 01:46:43.63 ID:txX2po6Po
今年もよろしくお願いします!
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/01(水) 02:07:49.12 ID:LwjDEaAeo

ずっと違う名前で呼ばれ続けるとその名前が定着しちゃうみたいな感じかな
神風という艦娘じゃなくてさくらという艦娘になっちゃう的な
もう自分の名前わかんなくてもいっかって感じにもなりかねんし
154 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/01/19(日) 05:24:17.59 ID:zTAKenQX0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

叢雲『どぉ?そっちは』

男『順調だ。トラブルがないって意味ならな』

叢雲『それは重畳』

端末の向こうからは叢雲の声以外に様々な艦娘の声が聞こえる。何処かで作業中のようだ。

叢雲『なら昼餉も必要って事でいいわね?』

男『ああ頼む。いや待て飛龍はもうなしだぞ』

叢雲『それについては悪かったわね』

男『とても悪気のある声とは思えないが』

叢雲『だから感謝をするわ』

男『感謝?』

叢雲『ええ。ありがと、飛龍を追い返さなくて』

男『…どの道いつかは頼っていただろうからな』
155 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/01/19(日) 05:24:57.77 ID:zTAKenQX0
叢雲『じゃ昼餉が出来たら持っていくから楽しみにしてなさい。そうね、小半時くらいかしら』

男『お、おう。分かった、ありがとう』

通信が切れる。

『叢雲?』

男『あぁ。昼飯を持ってくるとさ』

『もうお昼なのね。時間が過ぎるのって早いわ』

男『だな。それまで休憩しとくか?』

『ううん。キリが悪いからこのまま解いちゃうわ』

男『分かった』

しかし小半時ときたか。一時が二時間で半時が一時間だから、三十分か。

…ババむさいというのもさもありなん。
156 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/01/19(日) 05:25:59.45 ID:zTAKenQX0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

男『お、来たかな』

『ん?何が?』

男『足音だよ』

『足音、あー本当だ』

叢雲『もしもーし。持ってきたわよー』

廊下から声がする。ノックもなしという事は両手が塞がってるのか。

男『はいよー。お?鍋か』ガチャ

叢雲『入れ物はね』

男『うお、カレーの匂いが』

叢雲『ご明察』

男『誰でも分かるだろ』

叢雲『ご飯はこっち』

男『もうよそってあるのか。お代わりは?』

叢雲『ない』

男『マジか』

叢雲『そんなに食べる?』

男『いや別に』

叢雲『なら聞かないで』
157 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/01/19(日) 05:26:28.55 ID:zTAKenQX0
叢雲『あ、しまったこの部屋食べるとこないわね』

男『それなら大丈夫だ。ほら』

叢雲『あら、この机って』

男『俺の部屋から持ってきたんだ。食べるのにはちょうどいいだろう』

部屋には高さ五十センチ程の四角い机が置いてある。小さめだが一応四人用くらいの大きさなので鍋を囲むには最適だ。

叢雲『それじゃお邪魔するわよ』

男『あ、紙どかさないと』

『はいはーい』

彼女が机の上のプリントを退かしていく。

叢雲『紙?』

男『あーその話はまた後で』

叢雲『ふん、まあいいわ。とりあえずカレーよカレー』
158 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/01/19(日) 05:41:10.75 ID:zTAKenQX0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

男『いただきます』
『いただきます』

叢雲『…』ジー

男『…なんだよ』

叢雲『お味は?』

男『味?んー…ん、ん?』

普通に美味しいカレーだったが叢雲のいつも通りなツンとした態度になんとなく微妙な表情で返してみた。のだが


叢雲『え』


零れ落ちるような一声と共にもう戻ってこない飼い主を待ち続ける忠犬のような悲愴な表情で固まってしまった。

男『美味い!美味いぞ普通に!』

あまりに予想外の反応にこっちもテンパってしまう。

叢雲『 あ でしょ!!』

まるで時が止まったかのようなしばらくの間の後、身を大きく乗り出しいつもの得意げな顔に戻る。
159 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/01/19(日) 05:42:02.82 ID:zTAKenQX0
『ん〜美味しいわ!私甘口の方が好きだもの。具も柔らかくて食べやすいし』

叢雲『そうよ〜。しっかり火を通しているもの』

男『お、おう』

ビビった。軽くあしらわれるか文句あるのかみたいな事言われると思ってたがまさかあんな反応をされるとは。

このカレー、叢雲が作ったんだろうな。誰かさんのために。

ったく振る舞われる野郎は幸せだな。

男『なんでそんなに喜ぶんだ?ひょっとして叢雲が作ったのか?』

我ながら大人気ないと思いつつもついからかってしまう。

叢雲『なッ!ち、違うわよ!これはぁその、白雪が作った…のよ』

男『ほほぉう』
叢雲『何よ!』

『お代わり!』

男『え』
叢雲『あら』

『…え?』

おかわりないんだよな。
160 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/01/19(日) 05:43:07.87 ID:zTAKenQX0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

男『ご馳走様』
『ご馳走様』

男『さて、片付けに行くとするか』

叢雲『あら、いいわよ私一人で』

だろうな。カレーの鍋、ご飯の入った皿3つを乗せたトレイ。これらを一人でまるで軽いお届け物持ってきたくらいの感覚で運んで来ているんだからな。

鍋に至っては素手だ素手。そりゃ戦闘時の火器などによる熱に比べりゃ可愛いものだろうが。

だがしかし、

男『態々持ってきてくれたんだ。少しはお礼もしたい』チラッ

叢雲と話せるいい機会だ。自然と彼女をここに残していけるし。

さて今回はアイコンタクトできるだろうか。

叢雲『…あー、そうね。ならお願いしようかしら』

通じた。流石秘書艦。

『えっと、私はどうしたらいいかしら』

男『食べたばかりだし休憩してていいぞ』

『ならさっきの本の続きが見たいわ!』

男『それでもいいさ。留守番頼むよ』

『はーい』
161 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/01/19(日) 05:44:30.12 ID:zTAKenQX0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

部屋を出て廊下を歩く。

叢雲が空になった鍋を、俺がトレイと重ねた皿を持つ。

叢雲『留守番とはまたうまいこと言うわね』

男『物は言いようだな』

叢雲『それで、何やっていたの?』

男『さっきのプリント。あれは問題集だ』

叢雲『問題集?』

男『大学入試の過去問やらをな。教科は数学と物理』

叢雲『そんなのやらしてどうするのよ?』

男『例えば、叢雲、この問題解けるか?』

端末を操作して保存してある問題の一部を見せる。

叢雲『んー解こうと思えばいけるわね』
162 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/01/19(日) 05:45:31.25 ID:zTAKenQX0
男『その"解こうと思えば"ってのは具体的にどういう意味だ?』

叢雲『どういうって、そりゃあ…あー、なるほどね。そういうこと』

男『流石に理解が早いな』

叢雲『どうも』

船とはただ舵を握っていれば動かせるものではない。

大きなものになればなるほどただ海を進むだけでも様々な計算が必要になってくる。

まして砲撃、雷撃なんかを行うにはさらに複雑な計算を要する。

そして本来それらは船に乗る何人ものエリート達によって行われるものだ。

だが、艦娘はその身一つで一隻の船であり、一隻の船にもかかわらず一人でしかない。本来大勢の人間で行われる様々なものを一人で体現している。
163 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/01/19(日) 05:46:31.11 ID:zTAKenQX0
男『こうして普通に過ごしている時と違って、戦闘中の艦娘の脳は凡そ人間離れした作業をしている』

叢雲『ええ。さっきの"解こうと思えば"ってのも戦闘態勢で脳をフル回転させればって意味だもの』

男『単純計算すれば艦娘の脳は優秀な軍人の脳の十や二十以上が並列化されているようなもんだ。スパコンと比べるには余りにも人間の範疇だが、普通の人間と比較すれば余りに人間離れしている』

叢雲『だからこそのテスト?』

男『計算ってのをきっかけに思い出すものがあるかなってな。結果はこの通り』

叢雲『これは?』

男『さっきのテストの点数』

叢雲『…見てもよくわからないわ』

男『偏差値は70以上。秀才だ。だが人の範囲だな』

叢雲『偏差値って何の統計よ』

男『あぁ、全国の受験生達と比べてって事だよ』

叢雲『受験…あーそういう。そっか、学生って奴か。そっか、そういう世界があるのね』

そう言って叢雲は廊下の窓から外を見る。彼女の持つ薄い空色のカーテンのせいで見えなかったが、その表情は想像に難くなかった。
164 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/01/19(日) 05:49:15.72 ID:zTAKenQX0
男『俺も昔受験生だったな。もう二度とゴメンだし、出来れば忘れたいくらい嫌な思い出だがな』

つい、ついくだらない事を口走ってしまう。ただ誤魔化す為に。

叢雲『アナタの事は聞いてないわ。いいから話を進めてちょうだい』

ヒラヒラと片手でこちらをあしらう叢雲の呆れた表情に安堵しつつ会話を戻す。

男『あー、それでだな。さっきのテスト。普通艦娘にガチで解かせたら軒並み満点か凡ミスが少し出る程度の結果になる』

叢雲『まあそうね。引っ掛け問題なんかは慣れていないから間違えそうだけど、ええ、他は大抵暗算でいけるわ』

端末に映る問題を凝視しながらそう答える。きっと今俺との会話と並行して問題を解いているのだろう。こういう作業は艦娘だからできる事だ。

男『頭の中で計算ってどんな感じなんだ?』

叢雲『んー殆ど感覚的なものなのよねぇ。問題だけ見てあとは他の人に頼んでる感覚。人というか他の脳みそ?何せメタグロス状態だもの』

男『めた?』

叢雲『あ、気にしなくていいわよ』

男『そうか』

メタグロス。なんだろう。専門用語か?それなら俺でも知ってそうだが。
165 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/01/19(日) 05:50:26.19 ID:zTAKenQX0
叢雲『それにしても記憶なくても解けるものなのね。あ、たまたま覚えてただけ?』

男『いや、どうも記憶と言うよりは知識の方らしい』

叢雲『それって違うの?』

男『例えば俺が記憶喪失になったとしよう。俺は誰、ここは何処ってなる』

叢雲『それで?』

男『そんな状態でも俺は二本の足で歩いて日本語での意思疎通ができる。記憶喪失ならそれはおかしくないか?』

叢雲『…確かに。言われてみれば記憶喪失って
なんだがんだ記憶あるわよね』

男『つまり経験の方の記憶は失われて知識の方はあるって事だ。彼女も経験の方はさっぱりだが知識は恐らくある』

叢雲『数学や物理は分かるってわけね』

男『他にもカレーに対する知識もな。甘口が好きってことは辛口の知識はあるみたいだ』

叢雲『となると記憶喪失ってそれほど厳しい状況でもないのかしら』

男『そこはなんとも言えないな。脳をタンスと仮定すれば彼女は恐らくどこに何をしまったか分からなくなってるんだ

そしてどういうわけか特定の引き出しは開けると爆発する』

叢雲『だからどれが爆弾の大元を探るために引き出しを一個ずつ開けていくしかないと』

男『そういう事だ』
166 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/01/19(日) 05:51:08.80 ID:zTAKenQX0
叢雲『手当り次第試すってそういう事だったのね』

男『実際計算能力から記憶が戻った例があってな。だから試してる』

叢雲『あら、実例有りなの』

男『歴史と計算。とりあえずはここら辺が実例有り。さっき彼女が読んでいたのが歴史の教科書だ』

叢雲『それで、試して見たアナタの所感は?』

男『なんとも。一万まである数字の中からランダムで当たりが出るまで引き続けるみたいな作業だ。地道にやってくさ』

叢雲『ま、精々頑張って頂戴。応援してるわ』スッ

男『…なんだその手は』

叢雲『ここまででいいわよ。お皿。ここからは艦娘も多いし』

鎮守府の外れのあの建物はともかく食堂は鎮守府の中心に近い。当然艦娘も集まる場所だ。

男『ならお言葉に甘えよう』

叢雲『あともう一つ』

男『まだ何か』

叢雲『カレーの事言ったらコロス』

あ、からかってたのバレてたのね。

想像以上に怖かった彼女の目を前にして俺は黙って首を縦に振ることしか出来なかった。
167 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/01/19(日) 05:53:10.95 ID:zTAKenQX0
イベント海域逆RTA完遂

艦娘はきっと頭がいい、というより処理能力が高いんだという世界です。
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/19(日) 07:19:49.32 ID:sJHeB0agO
叢雲ちゃんかわいい
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/19(日) 22:01:13.12 ID:RBSr/U4mO
おつ
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/19(日) 22:56:59.10 ID:C1XCRMRfo
メタグロスはどっから……いつくか経路が
おつ
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/20(月) 09:46:02.53 ID:nVOx+n2Oo
おつおつ
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/21(火) 15:27:33.96 ID:OoD8MqGA0
小半時なんて初めて聞いたわ
有名なのは四半時(四半刻)だけどこっちは調べたら江戸時代だった
173 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/02/05(水) 03:43:28.05 ID:qK3o3GJF0
"夕餉"のように古臭い言い回しをしそうだなというのが私の中の叢雲概念です。つまりババむs
174 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/02/05(水) 03:45:00.42 ID:qK3o3GJF0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

一週間、という感覚。間隔。

この一見世間から隔離された鎮守府という空間。

しかし意外な程に世間と同じ一週間という感覚を共有して動いている。

一週間の天気は入念にチェックするし、当番や護衛艦隊の編成なんかも曜日で交代させている。

休日は人を乗せた船が多く通るし、輸送の船の種類や数は季節や時期にそって大きく変わる。

僕や彼女達にとって一週間という周期はそれなりの意味を持っている。

提督「なんというかまあ、意外と長いですよね。一週間」

叢雲「あっという間よ」

男「あっという間だな」

そう。彼が、そしてあの娘が来てから約一週間になる。
175 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/02/05(水) 03:45:55.59 ID:qK3o3GJF0
夕飯を済ませ鎮守府が少しづつ静かになってゆくこの時間。いつもの会議も七回目になる。

提督「半ば様式美になってきたけど一応これから始めましょうか。どうです、彼女は」

男「残念ながらさっぱりですよ」

そう言って目の前の男は首振る。

いつも通りソファに座り部屋のテーブルを囲んで叢雲のコーヒーを啜るこの会議。気付けば彼が僕の向かいのソファの右側。そして僕の左に叢雲というのが定位置になっていた。

提督「流石にそろそろ違うアプローチを始めるべきなんじゃないですかね」

素人考えだが未知の相手であるのは彼も同じだ。的外れということもないだろう。

叢雲「そうね。流石にそろそろ名前も欲しいわ。"彼女"とか"あの娘"とか言うの面倒だもの」

そう言い放って叢雲が"コーヒーを啜る"。

ふむ。どうにも御立腹のようだ。
176 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/02/05(水) 03:46:38.90 ID:qK3o3GJF0
男「"仮名"か。まあ、そうだな。そうする他にないでしょう」

"名前"。この話について彼はいつも言い淀む。

「本当の名前を探すのが目的なのだからその前に名前をつけるとややこしい問題が起こる」と言いあの娘を名前で呼ぶなとそう続けた。

それはきっと本当だろうし本音なんだと思うけれど、それ以外に何か、それ以上に何かを隠しているように思えて仕方がない。

提督「今あの娘の渾名って何があったっけ」

叢雲「ええっと、眠り姫、赤頭巾、座敷童子、さくら、撫子、赤子、後なんだったかしら」

提督「この中だったら何がいいですかね?専門家としては」

軽いジョークのつもりで聞いてみる。しかし

男「それはあなたの役割ですよ。俺じゃない」

酷く真剣な顔で返される。

こちらに対して何か隠し事があるのはまあ上層部に関わる人間である以上当たり前だろうと思えるけれど、それにしたってもう少し心を開いて欲しいものだ。

叢雲も叢雲で彼には警戒しろと再三言ってくるし。

再び叢雲を見る。

コーヒーがもう殆どない。
177 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/02/05(水) 03:48:08.68 ID:qK3o3GJF0
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叢雲「名前だけじゃないわ。一週間、何の成果もなかったんだもの。何か大きく方法を変えないと埒が明かないわよ」

自分の口から出た言葉に自分で驚いてしまった。

私、思ったよりイライラしてる。

まったく!これじゃ本当に子供じゃない!何をそんなに苛立ってるのよ私。

どうにか気を紛らわせようとコーヒーを…あら、もうない。

男「そうだな。他の艦娘との接触。後は海や艤装に触れさせる事だな」
叢雲「そういう事なら今すぐでもできるじゃない。仮の名だってそうよ」

つい食い気味に言ってしまった。何よ、何を焦ってるのよ。

男「いや、だからそれは、彼女に負担をかけてしまう事になるから慎重に」

この眼。なにかに怯える眼。何度見てきただろう。

あ、やばいな私。
178 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/02/05(水) 03:48:46.34 ID:qK3o3GJF0
叢雲「だからッ!!なんでいつもあの娘を腫れ物扱いするのよ!!一体何に怯えてそんなに縮こまってるのよ"アナタ達"は!!」バンッ

あー、やっちゃった。

机を叩いた痛みが少しずつ掌から伝わってくる。

でもそれと同じように、どうしてこんなにイライラしていたのかがようやく分かってきた。

別に今回に限った話じゃない。人間(コイツら)のこういう態度に、ずっとイライラしてたんだ。私は。

艦娘(私達)に近づいてくるくせに、艦娘(私達)に怯える人間(コイツら)に。

男「」

うわードン引きしてる。当たり前だ。まだ私睨んだままだし。

落ち着けー落ち着け私。深呼吸深呼吸。

提督「はいそこまで」ポン
叢雲「ヒャッ」ビクッ
179 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/02/05(水) 03:49:17.81 ID:qK3o3GJF0
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叢雲「ちょっと!急に頭叩かないでちょうだい!!」

提督「えぇー、手を置いただけじゃん」

二人がまたいつもの痴話喧嘩を始めた。

しかしありがたい。おかげで一旦落ち着ける。

しかし、怯えるときたか。

確かにそうかもしれない。自分じゃ大丈夫だと思っていたが結局俺はまだトラウマを引きずってるようだ。

提督「ま、焦る気持ちは分かるんですけどね。僕らは一週間も彼女をあそこに閉じ込めているわけですから」

叢雲「そーね」プイッ

僕ら、か。

そうだ。彼女の事を案じているのは俺だけじゃない。立場は違えどそこは同じなんだ。

男「もう一度状況を整理しましょう」

一度冷静になるべきだ。
180 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/02/05(水) 03:49:56.82 ID:qK3o3GJF0
男「記憶とは言ってしまえば五感から得た刺激が形作るものの総称です。故に記憶喪失の際はその五感に働きかけるのが効果的だ」

叢雲「御託はいいから結論だけ言ってちょうだい」ムスッ

バツが悪そうにそっぽを向きながら叢雲が一蹴してくる。

後でどう言い訳をしようか…

男「この一週間試せたのは三つ。

計算。これは彼女に知識がある事は分かったが記憶には繋がらなかった。

歴史。文献や写真。やはり第二次世界大戦の部分が抜け落ちていた。これらは新しい知識として教えれば問題はなかったが覚えてないかと尋ねると意識が保てなくなる。

艦名。艦名である事を伏せて名前や関連するキーワードを見せたり聞かせたりした。帝国時代に存在した日本の艦艇。改名されたものを含めれば400以上。その全てのワードで反応がなかった」
181 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/02/05(水) 03:50:53.97 ID:qK3o3GJF0
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400以上か。ウチもそれなりに大所帯になっては来たけど、400っていうのはやはりかなりの数字だ。

提督「ここまで記憶が戻らないのはやはり異例ですか?」

男「計算に関しては前回たまたまそこから記憶の糸口が掴めただけで有効かどうかはなんとも。

ただ歴史や、特に名前。これらは彼女達の根幹とも言える部分。何も反応がない、というのは初めてです」

提督「ならやはり、彼女をあの部屋から出す、という方針でいいですかね」

提督「ええ、そうする他なさそうです」

叢雲「で!あの娘を外に出す場合どんな不都合が起こるわけ」

まだ怒ってはいるけど思考自体は冷静らしい。叢雲は感情が激しいからなあ。
182 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/02/05(水) 03:52:52.92 ID:qK3o3GJF0
男「一つは力の暴走。艦娘の力は凄まじい。彼女がもし艤装を使えたとしても制御できるかは分からない。最悪それを止められるように見張りが必要です」

撃たれた事があると彼は言っていた。何が起こるかは確かに分からない。

男「もう一つ、やはり他の艦娘との接触は可能な限り抑えたい。一度に合わせるのは恐らく相当な負担になる」

これも同意だ。言葉だけでも気を失ったりするんだ。他の娘との接触は良くも悪くも影響が大き過ぎるだろう。

叢雲「…他の娘との接触だけならあの部屋で一人ずつ会ってもらうって事も出来るけど」

男「それはダメだ。やはり部屋を出てこの鎮守府に触れて欲しいと思う。彼女がなんであれ、ここに所属する艦娘であるのは確かなんだ。それを彼女に認識して欲しい」

ん?まあ言わんとする事は分かるけれど、それは別にそこまでこだわる事ではないようにも思える。

ましてこれまで消極的なアプローチしか取らなかった彼が。何か意図があるのだろうか?

叢雲「…」チラッ

叢雲と目が合う。叢雲も疑問を抱いたようだ。

叢雲「そう。なら艤装や海に触れさせる方を優先しましょうか。そうね、見張りに私ともう一人の他の娘を付けるのはどう?それくらいなら負担なく会わせられるんじゃない?」

男「そうだな。よし、そうしよう」
183 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/02/05(水) 03:54:38.62 ID:qK3o3GJF0
提督「決まりだね。なら早速見張りと艤装運用の方法を考えよう」

叢雲「となるとまずは明石や夕張辺りに合わせることになるかしら」

男「いや、その前に一つやらなくてはいけないことがある」

叢雲「まだ何か?」

男「あぁ」

そう言って彼は端末を取り出して何か操作する。

ん?僕の端末が震えた。メール?

提督「これは」
叢雲「なになに?」ヒョコ

見覚えがある書類が添付されていた。

うわあ仕事が増えるなこれは。

男「協力者をこの鎮守府に、呼びたいんだ」

つまりその許可等の手続きをしろというわけだ。
184 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/02/05(水) 03:56:12.65 ID:qK3o3GJF0
Atlantaが可愛くてつい…

次は意外な協力者に来てもらいます。
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/05(水) 06:06:09.58 ID:lyMvRRcGO
おつおつ
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/05(水) 15:37:57.65 ID:Z9W0euEMo
187 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/02/18(火) 02:17:29.64 ID:I2evzXDx0
鎮守府の正面入口。そこにある門の前で待機する。

男「お、来た来た」

鎮守府は大抵人の大勢いる港か人の寄り付かない沿岸の二種類の場所にある。

ここは後者だ。山に囲まれ外界と通じているのは海路か山の中を走るこの一本道だけだ。

海は勿論だが陸の監視も厳しい。一本道は最初と最後にゲートがあり許可なく入れない。山の方も色々と防犯設備が張り巡らされてるとか。

そんな一本道を鎮守府に向かってやってくる大型トラックが見えてきた。

思えばこうして直接会うのは久々な気がする。
188 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/02/18(火) 02:18:30.32 ID:I2evzXDx0
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男「よ、久しいな」

門の前で停車したトラックの運転席に声を掛ける。

「こちらこそお久しぶりです。かれこれ一年半ぶりですかね」

大きな車体に似つかわしくない小さな顔がひょっこりと顔を出す。以前と変わらない丸っこい顔だ。

男「え、そんなにだったか」

「いつもはメールか電話ですからね。お互い忙しい身ですし」

男「お前に忙しいと言われる程じゃないさ」

日向「取り込み中すまない」

戦艦日向。いや航空戦艦だったか。彼女が今日の門の当番のようだ。

日向「ここにサインと、いや、説明は不要か?」

「ええ、慣れてますから」
189 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/02/18(火) 02:19:50.56 ID:I2evzXDx0
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日向「よし、照合完了だ。通ってくれ。ゆっくりとな」

日向が端末を操作し門を開ける。

「はい」

門には色々とセンサーやら何やらがついてるらしく危険物や事前の申請以外の人間がいるかを見つけられるそうだ。

技術的な部分はよくわからんが、やろうと思えば抜けれるのではないかと思わなくもない。

「あ、トラックってどこに停めます?いつものグラウンドでしょうか?」

男「あー、鎮守府の端にある別棟というか、入って右にある建物の後ろに頼む」

「別棟…あぁ分かりました、はい。思い出したので。そこで準備しちゃっていいですか?」

男「頼む。終わったら執務室に、でいいか?」

「大丈夫です」

男「じゃ」

トラックが三台。静かに動き出した。
190 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/02/18(火) 02:20:47.12 ID:I2evzXDx0
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叢雲「なんだか不思議な感覚ね。夏に桜でも見ているようだわ」

執務室の窓からトラックを眺める。

提督「そんなに違和感があるのかい?」

叢雲「アンタはどうか知らないけど、私達にとってアレは生まれた時からある季節のイベントだもの」

提督「なるほど。言われてみればそうか。で、イベントとしてはどうだい?」

叢雲「…ま、別に悪い気はしないわね。人間相手じゃないからってのもあるけど」

男「それを聞いたら彼女達は喜ぶよ。そのために頑張っているからな」

いつの間にか課長が戻って来ていた。

提督「おかえり。問題なかったですかね」

男「ええ。後は準備して診察するだけです」

提督「こちらも朝礼であそこには近づくなと皆に伝えてあるので恐らく、大丈夫だと思います」

叢雲「大丈夫よ。その位は弁えてるわ」

一部駆逐艦辺りで少し不安なのがいるけど。
191 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/02/18(火) 02:21:47.85 ID:I2evzXDx0
叢雲「しかしまさか健康診断とはね」

健康診断。司令官が年に一度遠くにある軍の施設で受けるものとは違う、艦娘の為の健康診断。

ウチでは毎年秋にああやってトラックで機器が運ばれてきて艦隊全員が例外なく受診する。

男「本来書類上必要な事でもあるんだ。鎮守府の外、つまり海で艦娘を活動させるのに診断を受ける必要がある」

叢雲「ならあの娘の場合は?」

男「今言った事もそうだが、何より本当に俺達の知る艦娘なのかちゃんと調べておきたいからな」

私達の知る艦娘、ね。

逆に

提督「僕達の知らない艦娘、というのはどういった場合を指すんですか?」

男「分かりませんよ。何せ知らないんですから」

叢雲「そりゃそうね」

あの娘がそうでないという保証は、確かにないわね。
192 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/02/18(火) 02:22:32.95 ID:I2evzXDx0
男「ところで叢雲。健康診断の時のスタッフ。君はどう思う?」

叢雲「どうって、また随分あやふやな聞き方ね」

男「別に深い意味は無いんだ。艦娘にとってどういう印象なのかを参考までに聞きたかっただけだ」

叢雲「ふーん。ならそうね、好印象よ。驚く程ね」

男「そりゃよかった」

叢雲「…なんだか妙にこだわるわね、そこら辺。アナタも関わりがあるの?」

男「うむ、まあそうだな。あると言えばある。お」

「失礼します」コンコン

控えめなノックとともに扉の向こうから声がする。

大人しく、落ち着いた、しかしそれでいて中にいる私達にしっかり届く、女性の声だ。

提督「どうぞ」
193 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/02/18(火) 02:23:31.05 ID:I2evzXDx0
叢雲「…」

艦娘だ。

予感なんてものじゃない。確信がある。

私達艦娘は大抵そういうものだ。

人間が私達艦娘を見てなんとなく直感的に"人じゃない"という感覚を覚えるのと似ているけれど、私達の方はもっと確信的だ。

例え初対面でも艦娘は艦娘に会えば自分と同じだとわかる。

声や雰囲気、オーラというか、ともかく何かがそう確信させる。


扉が開きその女性が入ってくる。

茶色っぽい髪は首の後ろで結えられている。長さは肩に触れる程度か。

身長は私よりも少し高いくらい。軽巡クラスといったところかしら。

白い襟の深緑のセーラー服に生成りのパーカーを羽織っている。見たことの無い服装だけれど何型だろうか。海外、ではなさそうなのだけれど。

黒いふちのメガネに黄緑色の瞳。人懐っこそうな、猫のような印象を受ける。

ふむ、
194 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/02/18(火) 02:24:30.76 ID:I2evzXDx0
叢雲「…え、誰?」

提督「え?」

叢雲「いや待って、アレ?」

提督「誰って、初対面で名乗ってもないのに開口一番それはどうなんだい」

叢雲「違、違うのよ…確かにそうなんだけど、んん?」

艦娘だ。間違いなくそう感じる。なのに、それなのに。

誰だ?見た事ない。知らない。

現在世界で確認されている艦娘のデータは全部一通り見ている。でもその中に彼女はいなかった。

それに司令官が申請した書類にあった今回のスタッフの数は三人。その内艦娘は二人で私も知っている顔ぶれだった。

どういう事?だって目の前の彼女は"間違いなく人じゃない"

男「えっと、とりあえず紹介してもいいかな」

提督「あーうん、お願いします」

課長が彼女の横に立ち私達の方を向き直る。そして
195 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/02/18(火) 02:25:10.48 ID:I2evzXDx0
男「こちら、海軍情報部三課課長の」

「しーちゃんです。どうぞよろしくお願いします」ペコリ





叢雲「…」
提督「…」


叢雲「は?」
提督「え?」

男「しーちゃんです」

叢雲「え、なに、馬鹿にしてんの?」

男「気持ちは分かるがそうではない」

提督「しかも情報部三課で、課長?」

しーちゃん「はい。課長を務めております」

叢雲「それでえっと、その、」

しーちゃん「しーちゃんです」

叢雲「」
提督「」

あ、ダメだ。処理能力が追いつかない。
196 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/02/18(火) 02:27:13.91 ID:I2evzXDx0
男「これがあるから面倒なんだよ…」ハァ

しーちゃん「なら過去の自分を恨んでくださいね」ニコニコ

男「お前絶対楽しんでるだろ」

しーちゃん「滅多に無い機会ですから楽しまない手はありません」フンス

男「他人事だと思って」

しーちゃん「何せ人の事ですから」

男「でぇ、えー何から説明するか」

しーちゃん「あーでももうすぐ機器の用意が終わるので手短にお願いします」

男「出来るかっ」

叢雲「一つ!」

しーちゃん「はい?」

叢雲「一つ確認するわよ。そのしーちゃんってのはあだ名よね」

しーちゃん「いいえ」

男「…」

しーちゃん「れっきとした私の名前です」

それまでの穏やかな表情を崩してハッキリと彼女は断言した。
197 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/02/18(火) 02:28:50.56 ID:I2evzXDx0
サンリオには行けなかった…

しーちゃん可愛い。結わえているのも解いているのもいい
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/18(火) 14:54:09.57 ID:sTJ2K/3ho
C2機関娘かぁ……そら艦娘じゃ分からんわ
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/18(火) 23:18:21.35 ID:2u6ftI4VO

前にあだ名で読んじゃいけないみたいな事があったけどこれが失敗例なのかね
あだ名が名前で定着しちゃった感じ?
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/19(水) 22:17:04.83 ID:X9V9wLHtO
乙です
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/11(水) 01:57:35.37 ID:oOMMh9mg0
おっつおっつ
次も楽しみだ

202 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/03/11(水) 04:22:42.26 ID:w9F8Uh920
叢雲「…はいどうぞ」コト

しーちゃん「ありがとうございます?」

全員にお茶を出して私も席に着く。

私の隣に司令官、向かい側に課長と…しーちゃんが座る。

課長の横に座っているためか彼女の小柄という印象に拍車がかかる。

提督「それでえっと、情報部三課のしーちゃん、さんですよね」

しーちゃん「しーちゃんでいいですよ。あ、でもしーさんはやめていただけると幸いです。なんかこそばゆいので」

柔らかく微笑む。見る者に無害であると思わせるその表情が返って私の警戒心を煽る。

提督「では、しーちゃん。その情報部三課というのがそもそも聞き慣れない組織なのですが」

そう、そうよ。海軍にも色々な組織がある。

けどこうして鎮守府に直接関わるような組織はそう多くない。まして私達が聞いた事ない、なんて事はないはずだ。

しーちゃん「それはまあ情報部ですからね。あまり目立つ事はしません。でも例えばこれ」スッ

ポケットから取り出したのは、端末?私のとは少し違うようだけど。

しーちゃん「こういった端末や鎮守府のシステムなんかは情報部一課が深く係わってたりします。二課は、ちょっと詳しくは言えませんね。でもあそこは基本鎮守府には係わってません」
203 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/03/11(水) 04:23:22.26 ID:w9F8Uh920
提督「確かにシステム面は特に気にせず使っていたけれど、そりゃ誰か作った人がいるわけですよね」

しーちゃん「そして私の所属する三課。ここは比較的最近できたものですね」

叢雲「組織の目的は?」

しーちゃん「んー、情報の発信。あるいは誘導、って所でしょうか」

つまり教える気はないということね。

しーちゃん「あ、名刺ならありますよ。名刺の役割を果たしてはいませんけれど」

そう言ってパーカーの下から首に下げた名札ケースを出す。その中にあった名刺を一枚司令官に渡した。

提督「…連絡先と所属、ID。以上」

叢雲「名刺なのに名前が無い…」

しーちゃん「顔写真はあるので一応私のと分かるはずです」

男「名前は諸事情によってなしだそうだ。しーちゃんと書くよりは不明の方が信用されそうだもんな」

しーちゃん「そうなんですよねぇ」

困り顔で微笑まれたが困惑してるのはこっちの方だ。

結局何一つ分からなかった。なんなのよこいつ。
204 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/03/11(水) 04:24:36.12 ID:w9F8Uh920
叢雲「…」

どうしよう。怪しいのが増えた。

むしろ課長よりもこの女の方が私としては怪しい。司令官にはきっと分からない。この"艦娘なのに艦娘ではない"という感覚。

提督「二三質問してもいいですか?」

しーちゃん「質問は構いませんがお答えできるかは分かりません」

提督「簡単な質問です。YESNO程度で簡単に答えてる形で構いません」

しーちゃん「分かりました」

提督「年に一度の艦娘達の健康診断。あれは貴女の組織が関わっているのですか?」

しーちゃん「YES、というより私達が主導で始めたものです」

提督「最近できた組織と言いましたが、貴方が設立を?」

しーちゃん「NO。私は何も出来ませんでしたから」

提督「では最後に、貴方は"提督"ですか?」

しーちゃん「…それは提督というものの定義によりますね。ですが私の基準で言えばNOです」

提督「…分かりました。とりあえずは彼女の診察の方をお願いします」

しーちゃん「はい。お任せ下さい」
205 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/03/11(水) 04:25:23.50 ID:w9F8Uh920
しーちゃん「それで診察の事なんですが、接触する人数は少ない方がいいとの事でしたね」

男「あぁ。負担は出来るだけ減らしたい」

しーちゃん「では私と男さんの二人でよろしいでしょうか?」

提督「それに関してはお二人にお任せします」

しーちゃん「分かりました。それで、今準備をしているウチのスタッフ二人なのですが、この部屋で待機してもらっても構いませんか?」

提督「それは大丈夫ですが、何故ここで?」

しーちゃん「色々と話したい事があるのではないかと思いまして、ね」

そう言って女が私を見て口元を歪ませる。

なんかイラッとくる。微笑む、という表現で間違いはないのだろうけれど、この女の猫のような瞳とそれをキュッと細めた表情はなんだか見透かされているようで落ち着かない。

叢雲「…いいんじゃないかしら。私は構わないわよ」

提督「そうかい?ではそういう事で」

しーちゃん「はい」
206 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/03/11(水) 04:26:21.78 ID:w9F8Uh920
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

執務室がいつも通り私と司令官だけになる。

叢雲「…」

提督「…」

叢雲「…」

提督「…なあ叢雲。さっきからどうしたんだい?」

叢雲「不機嫌なのよ」

提督「それは見ればわかるけど…別に警戒するような相手では無いと思うよ?」

叢雲「…そうね」

その判断に間違いはない。

組織としては彼女の情報部三課とやらにウチの鎮守府は敵対する意味は無い。というか基本あっちが優位だし揉め事は勘弁だ。

例の健康診断を見る限りも、彼女の組織はとても友好的だ。私達にとってそれはとても大切な事だ。

でも

叢雲「あの見た目で、しかも女で課長よ?古き悪しきの塊みたいな軍でそれは警戒するには十分過ぎると思わない?」

彼女が艦娘だと感じたという話は黙っておこう。これは私の問題だ。

提督「なら今回の事でそれを判断すればいいさ」

叢雲「少しは疑う事を覚えなさいよ」

提督「もう少し信用する事を覚えてもいいんじゃないかい」
207 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/03/11(水) 04:28:39.09 ID:w9F8Uh920
叢雲「…」

提督「…」

ここで揉めても仕方ないか。こうやって今までも私達はバランスを取ってきたんだし。

「失礼します」コンコン

提督「どうぞ」

この声には聞き覚えがある。事前の書類で見た残りの二人。

時雨「初めまして。情報部三課、時雨です」ペコリ

北上「北上でーす」イェイ

叢雲「あら」

見知った顔だが二人共服が制服ではなかった。

それに何より"人間の言葉を話している"。

提督「宜しく、二人とも」

北上(佐世保mode)「ほほぉ、中々いい部屋ですなあ」

軽巡洋艦、北上。制服とは真逆なロングスカートにシンプルな服。え、これでトラック運転してきたの?嘘でしょ?

時雨(佐世保mode)「こら北上、あんまりうろちょろしないで」

駆逐艦、時雨。こっちは制服をアレンジした感じでオシャレ。オシャレすぎる。オシャレとかよく分からないけれど。しかもメガネだ。

提督「構わないよ。診察には時間がかかると言っていたし、ゆっくりしてていい」

北上「だってさ」

時雨「もぉ…」
208 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/03/11(水) 04:29:36.51 ID:w9F8Uh920
ここはひとつ試しに、

叢雲『はいコーヒー』コト

時雨『どうも。でも"それ"は要らないよ』

叢雲「…みたいね。二人共ミルクと砂糖は?」

北上「なんか甘いのないの?」

時雨「砂糖多めで」

叢雲「牛乳ならあるわよ」

北上「牛乳…牛乳って甘いと言えるかな?」

時雨「知らないよ…」

叢雲「後こっちも、自由に食べていいわよ」

時雨「お構いなく」

北上「おー饅頭あるよ饅頭。こうなると牛乳は合わないかなぁ」

叢雲「次は熱いお茶が一杯怖い、って?」

北上「ん?あぁ、はは、そうだね。ちなみに一番怖いのは羊羹かな」

時雨「怖い?」

北上「気にしなーい気にしなーい」
209 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/03/11(水) 04:32:00.34 ID:w9F8Uh920
提督「二人はいつも健康診断の時にいた北上と時雨、でいいのかい?」

北上「ふぉれえあっえうお」モグモグ

時雨「食べるか喋るかどっちかにしなよ」

北上「」モグモグ

時雨「…うん、基本的に診断の際のスタッフはいつも同じなんだ。僕らの他に金剛、響、瑞鳳、明石が主要メンバー。後はその時々で一人二人つく感じだね」

提督「なるほど。ならお久しぶり、と言うべきなのかな」

北上「まーそうは言ってもウチら直接会った事はないしね。そういうのは金剛さんか瑞鳳さんに任せてたから。ここの時は大体金剛さんじゃない?」

提督「そう言えばそうだね」

叢雲「…」

へぇ。意外と考え無しってこともないのね。

今の時雨と北上の話した内容は間違いなく当事者だからこそ言える内容だ。

カマかけ、という程じゃないけれどしっかりと警戒はしていたようね。

叢雲「それで、さっきしーちゃんと話していたのだけれど途中で終わっちゃったのよ。一つ聞きたいのだけれど」

北上「なになに?年収とかの話?」

時雨「なんでそうなるのさ」

なら私も踏み込んでみようかしら。
210 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/03/11(水) 04:33:04.32 ID:w9F8Uh920
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叢雲「情報部三課の活動と目的」

時雨「ん?」

提督「!?」

叢雲?おいおいまさか…

叢雲「艦娘の為、という話は聞いたけれど詳しくはアナタ達から聞いてと言われたの」

北上「うへーめんどくさい事押し付けていきやがったぞあのチェシャ猫」

思いっきり騙しにかかった!悪びれもせず!躊躇なく!

でもそれが知りたいのも事実だ。どうする、このまま上手くいくかな?

時雨「ふーん、そこまで話してたんだ」

北上「随分話が早いもんだ」

時雨「なら、もうしーちゃんの本名は聞いたんだ」

本名!?流石に"しーちゃん"っていう名前は本名じゃないのか。しかしこれはどうする?詰んでないかな?

叢雲「…聞いたわ」

半ば諦め気味に叢雲が答える。

時雨「へぇそうかい。なるほどなるほど」

ニヤリと笑う時雨。

あらら、完全にしてやられたな。というより思ったより用心深かった。
211 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/03/11(水) 04:34:39.48 ID:w9F8Uh920
時雨「あはは、残念。しーちゃんは本当にしーちゃんなんだ。本名なんてないよ」

叢雲「嘘でしょ!それはそれでビックリなんだけど…」

提督「はぁ」

やれやれ。最初に仕掛けたのは僕だけど、まさか叢雲があそこまでグイグイ行くとは思わなかった。

北上「んー?ん、あーそういう事か。わおウチらめっちゃ警戒されてんじゃん」

叢雲「なんていうかその、ごめんなさい…」

提督「僕からも謝罪しよう。叢雲を止めなかったのは僕の意思だ」

時雨「いや、いいよ。むしろそれが普通だしね」

北上「なんせ初対面でいきなりしーちゃんだもんね。これが名前ですって。怪しまない方がおかしいってあんなの」

随分とバッサリ躊躇なく意見を言うな北上。北上らしいと言えばそうだけど。

改めて考えるとバランスの取れた二人と言える。
212 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/03/11(水) 04:36:19.40 ID:w9F8Uh920
時雨「でもね、しーちゃんが名前を名乗るって事はそれだけ相手を信用してるって事なんだ。元々二人には僕らの事を話すつもりだったんだよ」

北上「でもその前にお菓子追加で、後牛乳。罰ゲームね」

時雨「北上」

北上「いやいや、これはちゃんと意味があるんだって。立場あるもの同士が揉め事をチャラにしたいって時は謝罪とそれに対する罰が一番なんだって」

時雨「それは、まあ確かに」

それに二人とも随分と人間に慣れている。色々な面で。

叢雲「りょーかい。牛乳とお菓子ね。何かリクエストは?」

北上「和菓子ー」

叢雲「はいはい」

叢雲が席を立つ。和菓子か、他にあったっけな。
213 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/03/11(水) 04:37:15.43 ID:w9F8Uh920
時雨「さて、話すとは言ったけれど何から話したものかな」

北上「全部説明すんの?めんどくない?」

時雨「勿論話せる範囲でだけど、事細かに説明してもしょうがないし掻い摘んでだね」

提督「さっきしーちゃんは情報の発信、誘導と言っていたよ」

時雨「それは概ね正解だね」

北上「情報部としての仕事は基本それだよね。まーそんな仰々しいもんじゃなくて実際は単なるプロパガンダ。てゆーかパンダだよパンダ。白黒ハッキリしないとこなんかそっくりだね」

時雨「パンダ?」

提督「客は誰だい」

北上「国民」

時雨「あぁそういう意味か」

提督「国民ね。軍人らしい言い回しだ」

北上「そりゃどーも」
214 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/03/11(水) 04:37:55.31 ID:w9F8Uh920
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『よ、よろしくお願いしらす!』

自分を閉じ込めている小さな部屋でさらに縮こまるような形でお辞儀をする。

しーちゃん『そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ。軽い健康診断ですし』

しらす…うん相当緊張してるな。

しーちゃん『予め聞いてはいると思いますけど改めて、本日貴方の診察を担当しますしーちゃんです』スッ

『あ、どうも』

しーちゃん『あら暖かい手。それにまだ白い』

『そ、そうかしら』

しーちゃん『えぇ。さ、行きましょう。車はすぐそこに停めてあるから』

『はい!』

触れて、笑顔で話す。彼女の緊張は幾ばか解れたようだ。
215 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/03/11(水) 04:39:10.20 ID:w9F8Uh920
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『わぁー…』

しーちゃん『どうです?これ全部私のなんですよ』エッヘン

『凄い!なんかこう、カッコイイわね!』

しーちゃん『んーカッコイイかはともかく凄いのは確かですよ。三台とも世界に一つしかない特注品なの』

男『いやお前のではないだろ』

何故か建物横に停められた三台のトラックに目を輝かせている。何故…

カモフラージュの為まるで運送トラックの様にしーちゃんの趣味全開なデコレーション?がされているのだ。カッコイイ…のだろうかこれは。

しーちゃん『では早速行きましょう。あー靴は脱がなくていいですよ。そのまま階段でトラックの中に』

『はーい』
216 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/03/11(水) 04:40:16.29 ID:w9F8Uh920
男『じゃあ俺はここで待ってるよ』

『え?』

男『ん?いや、俺は外で待ってるから安心してくれ』

『そう、なの』

しーちゃん『…何言ってるんですか。付き添いが付き添わなくてどうするんです』

男『は?』

しーちゃん『大丈夫ですよーこの人言う事やる事コロコロ変わる人ですから。ほら男さんも早く』

『あら、中は結構広いのね』

男「おい!なんで俺まで中に!」ヒソヒソ

しーちゃん「不安がってる女の子残して外で待つとかありえないでしょ」ヒソヒソ

いつものイタズラ猫の様な顔でそんな事言われてもなあ!

『しーちゃん…さん?私どうしたらいいのかしら』

しーちゃん『そこの椅子に座っててください。すぐ行きますから』

だが彼女が俺に着いてきて欲しいと思ってるのは事実だろう。あまり気は進まないが…

しーちゃん「どうします?」

男「行くよ…」

しーちゃん「そうですね、貴方はそうするべきです」ニヤ

こいつ…
217 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/03/11(水) 04:41:55.80 ID:w9F8Uh920
しーちゃん『ではまず服を脱いでください』

男『おい』

『はーい』

男『おいぃ!?』

しーちゃん『『え?』』

男『二人してそんな不思議そうな顔をするな』

しーちゃん『でも脱がないと測定とか出来ませんし。あ、下着はそのままで。というか下着はちゃんと現代の物なのね』

『こう言ってるわよ?ちなみに下着は叢雲から借りてるわ』

男『それは出来れば知りたくなかった…』

『?どうして?』

男『見ていて複雑な気持ちになる』

この白いブラと下着が叢雲の…いやらしさは無いがなんかこう、複雑だ。

しーちゃん『この娘の下着ならいいって言うんですか』

男『そうは言ってない』

しーちゃん『へー、この着物細かいパーツはないんですね。楽でよかった』

『パーツって?』

しーちゃん『着物って中に着たり巻いたりする物が多かったりするの。貴方のはその点とても簡素で良さそうと思ったんです』

『そういうのもあるのね。一度着てみたいわ』

なんだろう。目を背けておきたいがこういう時それをやると逆に恥ずかしい気もする。どうすればいいの俺。
218 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/03/11(水) 04:43:35.62 ID:w9F8Uh920
しーちゃん『さて、では簡単な測定から行きましょう。寒くはない?』

『ええ。とても暖かいわ』

男『…』

ここまで来て俺ここにいる必要あるか?とは言えない。もういい、割り切ろう。仕事だこれは。

しーちゃん『まず身長体重と、これらの器具は知ってますよね?』

『ええ、知ってるわよ』

しーちゃん『では最初はここに』

目の前の少女を改めて観察する。

撫子、赤子、眠り姫、赤ちゃん、紅、緋色…なんとかさくら。

様々な呼び方があるがその多くが彼女の最も特徴的な部分、つまり紅色のロングストレートを指している。

今の所その最も特徴的な部分は一切彼女の名前に結びついていないが。まあそれ自体はよくある事だ。叢雲だってあの髪色は船と関係はない。

身体的特徴が当てにならないのは既に知っている。
219 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/03/11(水) 04:44:37.93 ID:w9F8Uh920
身長は駆逐艦としては並だ。体重も、見た目より少しずっしりとくるがけして重いわけではない。

しーちゃん『手を上げて、こうバンザーイって』

『これは?』

しーちゃん『バストウエストヒップの計測です』

『…それも必要なの?』

しーちゃん『勿論!』

胸は、人間で言えば発育が進んでいる方だろうが艦娘で言えばこちらも並だろう。これに関しては一部駆逐艦がおかしいのだが。

腰はクビレというより痩せているといった感じだ。なんだか少し心配になる。もっと食え。

下半身は逆に少し肉付きがいい。太っているというのではなく子供特有の柔らかさと言うべきか。

しーちゃん『…』

『?』

男『…ん?どうした』

しーちゃん『何ジロジロ見てるんですか』

男『変な目ではない。お前とやってる事は同じだ。というか他にどうしろと』

しーちゃん『冗談です。後は長座体前屈と握力と』
220 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/03/11(水) 04:45:08.27 ID:w9F8Uh920
男『そんなに色々あったか?』

しーちゃん『ええありましたよ。ありましたと』

つまり、今回の特別仕様か。どういう意図かは後で聞くとしよう。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

しーちゃん『はい。これでここでの測定は終了です。一旦この服を着て隣のトラックに行きましょう。向こうでもすぐ脱ぐので』

取り出したのは病院などで見る患者服だ。

『わーこれも可愛いわね』

しーちゃん『緋色という特徴を男さんから聞いていたのでそれに近い色を持ってきました。帯をつけたらこれも案外着物っぽく見えそうですね』

患者か…嫌な言葉だ。勝手な思い込みだが、そう感じてしまう。

しーちゃん『行きますよ?』

男『あぁ』
221 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/03/11(水) 04:47:36.68 ID:w9F8Uh920
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

時雨「僕達の仕事は大きくわけて二つ。さっきも言った通り軍の広告塔。活動比率としてはこっちが大きいね」

北上「組織の建前だからね。表の顔はしっかり務めなきゃ」

叢雲「つまり、裏があるって?」

時雨「裏という表現は少し語弊があるけどね。でも確かに表じゃない活動はある。僕達の組織の根幹的な部分だ」

北上「言っちゃえばしーちゃんの志ってやつかな。願いというか、目指す場所。ウチらはそれに集ってるんだ」

提督「随分と勿体ぶった言い回しだね」

時雨「言うは易し行うは難し。今や多くの人や艦娘が捨ててしまった夢だからね」

提督「それは?」

時雨「艦娘と人とが手を取り合う世界。それを目指してるんだ」
222 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/03/11(水) 04:50:47.99 ID:w9F8Uh920
大体例の感染症のせい

慌ただしくて中々更新出来ませんでしたが生きてます。
しーちゃん達佐世保組の可愛さを糧に生きてます、
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/11(水) 09:56:35.55 ID:W5AMmh/0o
おつおつ
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/03/13(金) 13:13:52.16 ID:sAFlshsMO
225 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/04/08(水) 02:39:35.94 ID:reSULU23O
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しーちゃん『手をここに当てて、こう抱え込む感じで。そうそう。そしたら大きく息を吸ってー、はいそのままで!』

『こ、これすっごくお腹が冷たいのだけれど』

しーちゃん『三秒我慢してください。3.2.1、はいオッケーです』

二台目のトラックの中も一台目と同じで人間に使うものと同じ機器が置かれていた。

『これは何をしているの?』

しーちゃん『レントゲンですよ。お腹の中を写真に撮るんです』

『お腹の、中を…』

しーちゃん『心音とかも聞いときます?男さんもほら』

男『なんで俺に聴診器を渡そうとするんだ。やらないから、やらないからお腹をこっちに向けなくていい』

『あら』

あらじゃないだろ。

しーちゃん『冗談はともかくここでの検査は終わりです。三台目に移動するのでまたこれを着て行ってください』

『はーい』

握力、体温、口内検査など普通艦娘には行わない検査も多かったが、どういう理由だろうか。

いや、視力検査は普通にしてるんだっけな。
226 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/04/08(水) 02:40:28.52 ID:reSULU23O
『よいしょ』

下着の上に一枚羽織るだけで見る方はこうも安心できるのだから不思議なものだ。

しーちゃん「あそうだ。男さんこれいります?」

男「…は?なんだこりゃ」

しーちゃん「耳鼻科なんかで口内を見る時に使うヘラみたいなやつですよ。彼女の使用済みです」

男「いるわけねえだろ俺をなんだと思ってるんだ」

しーちゃん「残念。捨てるくらいなら売ってしまおうと思ったんですけど」

男「しかも金取るのか」

しーちゃん「ちなみにこれは舌圧子と言います」

男「それは知らなかった。しかもそれ金属だろ?消毒して再利用とかしないのか」

しーちゃん「しますよ?ちなみにステンレス製です」シレッ

男「なら売るなおい」
227 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/04/08(水) 02:41:26.95 ID:reSULU23O
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

しーちゃん『ここが最後の検査になります』

『この子だけ他のトラックより大きいわね』

しーちゃん『これはトレーラーベースですからね。北上さんの愛車です』

男『愛車…』

『あら?入口がないわ』

しーちゃん『これだけ後ろ側が入口前が出口という形式じゃないんですよ。運転席のすぐ後ろのここが出口兼入口です』

『入っていいかしら?』

しーちゃん『どうぞどうぞ』

こいつに関しては俺も知らない。こんな大きな車体に何を積んでるんだ?
228 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/04/08(水) 02:42:11.05 ID:reSULU23O
『わあ!なんだかこう、宇宙船の中みたい!』

しーちゃん『分かる。キャトルミューティレーション味がありますよね』

『きゃとり?』

牛の切断って意味だと分かって言ってるんだろうかこいつは。後で意味聞かれたらどうしよう。

それよりも

男『MRI…か、これは』

しーちゃん『概ねその認識で間違いありません。形はそれを元にしてますから』

患者を寝かす診察台とその先にある筒状の機械。俺も健康診断で何度か見た事がある。

車内という閉鎖空間だとより宇宙船っぽさが出る。

しーちゃん『最後はそこの台で横になってもらうだけです。服はそのままで大丈夫ですよ』

『横になるだけでいいの?』ヨイショ

しーちゃん『はい。こっちを頭にして、そうそう。そのまま目を閉じてみて』

『なんだかドキドキするわね』

しーちゃん『そしたらそのまま三十分じっとしていてください』

男『三十分!?』

しーちゃん『その間姿勢をそのままで、目も開けてはいけません。声も何か異常がない限りは出さないで。あ、寝るのは構いませんよ?そのままでしたら』
229 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/04/08(水) 02:42:57.08 ID:reSULU23O
『んー簡単そうで難しいわね』

しーちゃん『少し機械の音はしますけれど何かされることはないので大丈夫です。いけそうですか?』

『分からないわ。でも多分大丈夫』

しーちゃん『了解です。私達は始まったら運転席の方に行きますけど声や姿は確認できるので何かあったら伝えてください』

『う、うん』

ベットに横になる彼女の目はぎゅっと瞑られている。隠しているつもりなのかはわからないが緊張と恐怖が見て取れる。

しーちゃん『…ホラッ』ツンツン

男『え、あぁ…手でも握っていた方がいいか?』

しーちゃんに脇腹をつつかれ慌てて言葉を繋ぐ。

『こ、子供じゃないのよ!これくらい平気よ』

男『なら良かった。寝ててもいいらしいし、ゆっくり待っていれば大丈夫さ』ポンッ

そっと頭に手を当てる。これで少しでも励ます事が出来てるならいいんだが…

しーちゃん『では始めましょうか』
230 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/04/08(水) 02:43:41.52 ID:reSULU23O
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

しーちゃん「よっと」バタン
男「…」バタン

お互いにトレーラーの運転席に座る。当然しーちゃんが運転席。俺が助手席だ。

しーちゃん「心配ですか?」

男「そりゃな。もっと上手いやり方はあるんだろうが、俺にはどうもああいうのは苦手だ」

しーちゃん「ちゃんと効果はあったと思いますけどね。特にほら、頭ポンはポイント高いですよあれ」

男「そうなのか?」

しーちゃん「まあそれはいいです」ガチャ

しーちゃんが座席をめいっぱい後ろに下げる。

元々随分と前になっていたようだ。ハンドルもかなり下がっている。考えてみればここにあの北上が座っていたんだよな…

しーちゃん「画面を見ててください。あ、そちらもゆっくりしていいですよ。座席下げると結構広いですからここ」

男「ならそうしよう」ガチャ

画面。カーナビと言うには随分と大きな液晶が真ん中に着いている。他にも何やら様々なスイッチやツマミがある。コックピットかここは。

しーちゃんが何やら操作をすると妙な画面が出てきた。認証?

しーちゃん「これですよこれ」ピッ

首から下げていた名札ケースを画面にかざす。するとロックが解除され画面が変わった。

男「そういう機能もあるのかそれ」

しーちゃん「と言うよりこっちがメインですね。昔はカードキーだけで何枚も種類がありましたけど、今じゃこれ一枚で何でもですよ」

男「時代だな」
231 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/04/08(水) 02:44:12.83 ID:reSULU23O
画面に次々と映像が映る、
そこには様々な角度から撮られたトレーラーの内部、つまりあの機械と彼女が映っていた。

しーちゃん「ではスタートです」

ボタンを押すと映像の中の機械が動き出す。動作もMRIと同じ感じだな。

男「音も拾えてるのか?」

しーちゃん「勿論」

男「ならそろそろ説明してもらおうか。色々とな」

しーちゃん「せっかちですねえ。話が早いのは好きですけど、折角の機会なのでゆっくりと会話がしたいんですよ私」

そう妙な事を言いながら後ろで結わえていた髪を解きメガネを取る。

肩にかかる位の茶色いショートヘア。ハッキリとわかる黄緑色の瞳。

あの時と変わらないしーちゃんが隣にいる。
232 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/04/08(水) 02:44:48.30 ID:reSULU23O
男「まだ仕事中だろ?」

しーちゃん「三十分は暇ですから。オフって事で」

男「真面目なんだか適当なんだか」

しーちゃん「メリハリですよ」

男「眼鏡変えたんだな」

しーちゃん「え、気づいてたんですか?あの男さんが?」

男「今の流れで馬鹿にされるとは思わなかった」

しーちゃん「そんなつもりは無いですよ。眼鏡は不幸な事故でお亡くなりになりまして…具体的に言うと寝起きでフラフラ〜グシャッ、と…」

男「うわぁ」

しーちゃん「流石にショックでしたあれは」

男「ちゃんと寝てるんだろうな」

しーちゃん「寝てますよ、ちゃんと。いい夢は、まだ見た事がないけれど」

男「働き過ぎだって部下からも言われてるんだろ?」

しーちゃん「それは、はい…でもそれこそ夢のためですからね」
233 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/04/08(水) 02:45:20.66 ID:reSULU23O
しーちゃん「でも最近は随分と人手も増えてきましたし、昔より遥かに楽になりました」

男「それは何よりだ。お前は人に仕事を押し付けられるタイプだからな。長には向いてる」

しーちゃん「褒め言葉と受け取っておきますからね。でもそれなら男さんこそ人手不足の極みじゃないですか」

男「それは、そうなんだがな」

しーちゃん「求められる人材が特殊なのは分かりますけれど、もう少し何とかした方がいいんじゃないですか?

専門家と言えば聞こえはいいですけれど結局の所調査係って"貴方一人だけ"じゃないですか」

男「それはそうだが、でもアイツも手伝ってくれてるし」

しーちゃん「それでも彼女一人じゃ限界があります。そのために他の誰も寄せ付けられないのなら本末転倒です」

男「…その話題は後回しだ。今はこの検査の事を教えてくれ」

しーちゃん「もぉ。絶対後でまた話しますからね」
234 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/04/08(水) 02:46:52.68 ID:reSULU23O
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

時雨「艦娘と人間の関係。その現状を一言で言い表すと?」
叢雲「最悪」

間髪を入れずに叢雲が言い放つ。

提督「…悪化の一途を辿っていた、かな」

北上「へいとくはんがせーかい。客観的にはね」ゴクン

時雨「だから食べながら喋らない」

まるで保護者みたいだな。

時雨「元々僕らは異質なんだ。戦況が安定してきて脅威と恐怖が薄れだした途端人々は僕らを拒絶しだした」

提督「叢雲。しばらくステイ」

今にも腹の中に溜まっていた感情を吐き出そうと口を開きかけた叢雲を先に牽制する。ここで感情論を出す意味は無い。

叢雲「…分かったわよ」

叢雲も自覚はあるのだろう。ばつが悪そうに口を閉ざしてくれた。
235 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/04/08(水) 02:47:33.90 ID:reSULU23O
北上「…秘書艦さん随分と荒ぶってるね」

提督「いつも人間相手に色々と我慢してもらってるからね。つい溜まってた物がでちゃうんだよ」

叢雲「一言余計よ」

時雨「気持ちは分かるけど何処かで毒ぬきしないと体に悪いんじゃないかい?」

叢雲「貴方達もそうなの?」

北上「ま色々とね」

時雨「これでも人間とはかなり関わりのある仕事をしててね」

叢雲「…私はね、人間が嫌いだけど、それをあまり口にしたくはないのよ」

提督「え、そうなのかい?」

北上「なんでなんで?」

叢雲「なんでって、それはぁ…」ジー

提督「ん?僕?」

叢雲「な、なんでもないわよ!」

提督「えぇそんな顔真っ赤にして怒る事なの?」

叢雲「うるさい!!」
236 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/04/08(水) 02:48:36.41 ID:reSULU23O
北上「うわ、なんだろ。今すぐこの部屋飛び出して海ん中入って海水飲みたい」

時雨「甘い物好きなんだろ?」

北上「毛穴から砂糖ぶっ込まれた気分だよ」

時雨「さいで。さて話を戻そう」

叢雲「話って?」ハァハァ
提督「落ち着きなよ…」

北上「人間と艦娘の関係は確かに悪い。そしてこの状況を良しとしない者が二種類いた」

提督「良しとしない者?」

艦娘が人々に受け入れられない状況。それを良しとしない者というと、つまり

叢雲「…軍と艦娘」

時雨「そう。緊急事態とは言え人々の理解なしにこんな得体の知れないモノに予算を回せる程今の世の中は単純じゃない。生きるにも死ぬにも金と権利が関わるご時世だ」

北上「軍としてはウチらがなんであれ国民の理解は得なきゃいけないからね。そして当然私達にとってもこの状況はあまり良くない」

叢雲「人間を守る為に戦ってやってるってのに、その人間に嫌われるなんて笑えないわね」

北上「そ。そこでウチらの組織さ」
237 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/04/08(水) 02:49:26.09 ID:reSULU23O
時雨「僕らの仕事の大部分は宣伝なんだ」

叢雲「宣伝?」

提督「広報活動…って事はあのテレビで見るのはもしかして」

時雨「そう。軍の国民に対する"艦娘とは安全安心な国民を守る兵器である"という宣伝を僕らがしてるんだ」

北上「ウチらがそれやるから組織と金を寄越せって、そうやって三課が出来た」

提督「それじゃあやっぱり彼女、しーちゃんが三課を立ち上げたのかい?」

北上「んーというよりしーちゃんを神輿に担ぎあげた人達がいるって感じ。このままじゃ軍としても、なにより艦娘にとって良くないと考える変わり者な人達が軍の中にもいたのさ」

なるほど。先の質問で彼女が自分は何も出来なかったと言ったのはそういうわけか。
238 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/04/08(水) 02:51:14.60 ID:reSULU23O
北上「そっからは色々やったねえ。演習披露したりなんかお店とかとコラボしたり歌って踊って変な祭りやって」

時雨「パレードとかもやったなあ。基本的に陸でお偉いさんの横とかにいるのは僕らのメンバーだよ」

提督「サーカス、とかも?」

北上「アレは凄かったね…面白かったけどさ」

時雨「しーちゃんがノリノリでね…」

叢雲「あのドラムも貴方が?」

北上「私結構才能あるって言われたよ」

叢雲「アレって全部貴方達がやってたの…」

時雨「だって普通嫌でしょ?人間相手にああいう事するの」

叢雲「…そうね」

提督「…」

嫌か。まあそうだよね。

叢雲だけじゃない。皆だって人が全員そうでは無いと知ってはいるだろう。

でも、戦場で命懸けで戦う彼女達には、百のお礼の言葉よりも、たった一度の、化け物を見るかのような瞳の方が、心に刺さる場合が多い。

提督「でも、なら君達は嫌じゃないのかい?」

時雨「…どうなの?」

北上「えーここで私に振るの?」

時雨「こういう問に対する答えは君の方が適任だからね」

北上「あーはいはい分かったよ。ん〜そうだなあ。別にどうでもいい、かな私は」

時雨「ふーん。僕は、いや僕もどうでもいいか。嫌じゃないよ」
239 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/04/08(水) 02:52:38.39 ID:reSULU23O
叢雲「それじゃあ、貴方達の目的って軍の使いっ走りって事になるけど」

時雨「ま、そうなるね」

北上「表向きはね」

提督「表向きねえ」

時雨「そもそも三課が設立された辺りの戦況はまだ余裕がなくてね。広報とかそんな事に貴重な戦力である艦娘を割けなかった。だから無理のある計画だったんだ」

北上「でもその無理を通したから無事三課が生まれた」

叢雲「そんな事が出来たの?」

北上「頭の回る人がいたんだよ。神輿を作った狸がね」

時雨「あの東京の英雄、若き元帥の後押しもあったしね」

提督「あぁ。彼か」

彼なら確かに、人と艦娘が手を取り合う世界。そんな世界を目指す者を助けてくれるだろう。

北上「まーそうは言っても、結局はしーちゃんの夢が中心なわけだけどさ」

叢雲「人と艦娘が手を取り合うってやつね」
240 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/04/08(水) 02:53:16.01 ID:reSULU23O
時雨「後は単に僕らのような艦娘を助けたかったんだろうね、しーちゃんは」

提督「?」

叢雲「含みのある言い方ね」

北上「…言うのそれ?」

時雨「いいんじゃない?しーちゃんもそういうつもりだったと思うけど」

北上「えーやたら信頼されてんじゃん君」

提督「そう、なのかな?」

物凄く不満そうな目を向けられた。そんな目で見られても対応に困るんだけどなあ。

時雨「というよりあの男が、だろうね」

北上「なんかそれはムカつくな〜。後で嫌味言ってやろ」ニヤ

そう言って実に楽しそうにニヤリと笑う。

叢雲「待って待って話がズレてるわ」

時雨「あーゴメンゴメン」

北上「別に聞いてて面白い話でもないよ」

提督「そういうつもりで聞いてはいないさ」

時雨「分かってるよ。簡単に言うとさ、僕ら戦えないんだ」

叢雲「え?」
241 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/04/08(水) 02:57:06.05 ID:reSULU23O
甲は諦めて乙にした提督

貴重な戦力である艦娘が怪しい音頭を踊ったり奇妙な生物とショーをやるわけないだろという話です。
三越に来てる深海棲艦は、見なかった事にしましょう…
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/08(水) 09:21:04.50 ID:vX/OWHD4O
あれはコスプレ(迫真)
おつおつ
待っててよかった
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/08(水) 12:56:54.45 ID:EnCEF1APO
おつ

きっと子供向けヒーローショー的なことやってて深海役の艦娘がそのまま買い物に行ったんだよ(こじつけ)
244 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 01:59:14.46 ID:zJyYpUOOO
しーちゃん「あの機械。MRIを模した形だと言いましたけど、そもそもMRIってどんなものか知ってます?」

男「お前みたいなちゃんと知識のあるやつに聞かれると知らんとしか言えないんだが」

しーちゃん「適当でいいですよ適当で。イメージで」

男「んーまあようはデカいレントゲンだろ。X線とか使う」

しーちゃん「ブブーハズレ。MRIのMはマグネティック。つまり磁力です」

男「へー。RIは?」

しーちゃん「えっと、まあそれはいいじゃないですか」

男「目ぇ逸らすなや」
245 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 01:59:59.87 ID:zJyYpUOOO
しーちゃん「CTスキャン。MRI。どちらも簡単に言えば何かをぶつけてその減衰具合で透過させたように写す、なんです」

男「そこは何となくわかる」

しーちゃん「それらが艦娘に効かないのも知ってますよね」

男「そりゃな」

人智を超えた艦娘の不思議な部分。恐れと敬意と、あとあまりにも訳分からないからムカつくという理由で妖精パワーなんてこの界隈の奴は呼んでるが。

ともかく今までの人類の様々な技術が艦娘には効かないのだ。

男「待て、その言い方だとまるで」

しーちゃん「ええそうです。そんな理解不能な艦娘の体を解析できるのがこの機械なんです」エッヘン

男「それとんでもない発明じゃないのか!?」

しーちゃん「ええまあ」

男「いや、だとしたらそんな話聞いたことねえぞ。火種としては十分な話題だろ…」

艦娘を制するものが世界を制すと言っても過言じゃないのが今の世界情勢だ。そんな技術があると知れた日にゃ。
246 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:00:29.73 ID:zJyYpUOOO
しーちゃん「対艦娘用観測装置は以前から研究が続けられていました。国内外問わず」

男「それは知ってる」

しーちゃん「でもそれは難航、というより皆つんでました」

男「それも知ってる」

しーちゃん「なのに去年急に装置が完成しました」

男「!おいまさか」

しーちゃん「はい。妖精の気まぐれです」

男「うっわ…」

しーちゃん「匙投げて辞める研究者も出たとか」

男「そりゃ折れるわ」
247 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:01:02.95 ID:zJyYpUOOO
妖精の気まぐれ。

御伽噺のような単語だがこれを国家機密に関わるような大の大人が本気で口にするから面白い。

最も実際は何一つ笑えない話なのだが。

要するに人間の理解を吹っ飛ばして妖精がそのよく分からん力で解決してしまう事を指す。

そもそも妖精は大抵の人間には認識する事も出来ず、例え見えても会話は成立せず、勿論こちらの言うことなんか聞くわけもない。

そんな存在が時折本当に気まぐれに何かをするのだ。

しーちゃん「知り合いの博士曰く"自分の全てをかけて取り組んでいた難問の答えが無関係な人の転がしたサイコロの目で出てしまった位辛い"だとか」

男「心中察するに余りある…」
248 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:01:34.24 ID:zJyYpUOOO
しーちゃん「とにかく出来てしまった以上はしっかり有効活用しなくてはいけません」

男「この機械はこれ一台なのか?」

しーちゃん「今のところ国内に二台。後は国外に、ってこれは話さない方がいいですね」

男「そんな貴重なのよく借りれたな。こんな雑な警備で」

しーちゃん「いえ、知り合いのツテでこっそり借りました」

男「はぁあ!?」

しーちゃん「研究所的にももっとデータが欲しいから是非と」

男「相変わらずそういう事サラッとやるよなお前」

しーちゃん「あ、結果が出ましたよ」

男「!」
249 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:02:22.24 ID:zJyYpUOOO
画面には、なんかよく分からない数字やグラフが並んでいる。

男「レントゲンじゃないのか?」

しーちゃん「それは見た目だけです。これは、そうですねぇ。艦娘のよく分からない部分を数値化する機械ってとこですね」

男「んー…」

分からん。

しーちゃん「詳しい事は長いので割愛します。ともかく結果を見るに、彼女の中身は普通の艦娘と何ら変わらない、一切異常の無い状態です」

男「…そうか」

少しほっとした。何せ艦娘の変化は外からじゃ分からない。

"また取り返しのつかない事になっているかもという不安が拭いきれていなかったから"

しーちゃん「今大丈夫だからって安心しちゃダメですけどね」

男「少しくらい安心してもいいじゃねえか」

油断が禁物なのは分かるがこっちだって色々と、

男「ん?検査結果ってもう出たのか?」

しーちゃん「ええ」

男「じゃあさっきの三十分じっとしてろってなんなんだ?」
250 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:02:58.62 ID:zJyYpUOOO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

艦娘は兵器だ。

この場合兵器というのは戦う力という意味。

つまり

叢雲「戦えないって、どういう事よ」

その力がないというのは艦娘の根底を覆す事になる。

時雨「僕は砲撃音がダメでね。近くで聞くと思考が飛ぶんだ。PTSDに近いらしいよ」
北上「わっ!!!」
提叢「「!?」」ビクッ




時雨「いや別にこれくらいでどうこうなったりはしないよ?」

北上「だってさ」

提督「え、あ、そうかい」

叢雲「ビックリした…」

むしろこの状況で隣からいきなり大声出されてピクリともしないのって逆に凄いんじゃないかしら。
251 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:03:34.26 ID:zJyYpUOOO
北上「私は死ぬのが怖い。戦いたくない。それだけ」

叢雲「沈むのが?」

北上「いんや。死ぬのが。沈むのは、別に」

叢雲「?」

それって同じ事じゃないの?

時雨「ここら辺は僕達と君達じゃ認識にだいぶ齟齬があるからね。かくいう僕も北上の言う事を十全に理解してるわけじゃないんだ」

北上「私そーとー変わり者だかんねぇ。今でこそこんなだけど、昔は自分が変わり者とすら思ってなかったし」

そう言って最後のお菓子を口に放り込む。

うわ、もう全部食べてるし。変わり者というかなんというか。

提督「戦えないから、三課に入ったって事かい?」

時雨「いや、それは少し違くて「戦えない艦娘は破棄される」…北上」

北上「およ?自分で言いたかった?」

時雨「いいや。君に任せるよ」

北上「そうそう。善意は素直に受け取らなくちゃあ」

ため息をつく時雨とニヤと不思議な笑みを浮かべる北上。この二人仲がいいのか悪いのかイマイチ分からないわ。
252 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:04:12.32 ID:zJyYpUOOO
提督「艦娘の所有権は国にある。そしてその管理、運用等のあらゆる権利はこの戦争中、鎮守府という特殊な場所においてその司令官に一時的に譲渡される」

北上「そう。その処分もね。そしてそれはあくまで上が何も言わなければでしかない」

叢雲「それってどういう意味よ」

北上「弾の出ない銃を置く場所はないって事だよ」

北上がロングスカートを思い切り蹴りあげて足を組む。その挑発的なにやけ顔は私を向いていた。

叢雲「…私達はそんな存在じゃないわ」

北上「かもね。でも人間の認識は違う。彼等にとって私達は正しく兵器でなくっちゃあいけない」

叢雲「それは、間違ってはいないでしょうけど」

北上「そう間違ってない。不良品を箱に詰めた時の奴らの目を見れヴェア!?」
時雨「はいストーップ」グイッ

おさげを思いっきり引っ張られている。アレは痛い。
253 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:04:56.97 ID:zJyYpUOOO
提督「なるほどね。君達のような艦娘を助けるために作った、というのはそういう事か」

時雨「そ。初めて僕らは戦う以外の事をしたんだ。それに戦力以外に艦娘をさく余裕がない戦況で三課が出来たのもこれが理由。何せ戦力外の艦娘で構成されたんだから」

提督「それがしーちゃんの目的か。若いのに凄い人がいるもんだなぁ」

時雨「凄い人ねぇ。まあそうかもね」

コイツら、一々思わせぶりな事ばかり言うわね。しかも十中八九楽しんでる。

提督「全ては艦娘の為を思ってというわけだ」

時雨「宣伝活動も人間に僕達の事正しく知ってもらうため。そして僕達が人間の事を知るためでもある。どこまでいっても僕達のためさ、ねえ北上」

北上「…」

北上は、さっき後ろから髪を引っ張られた時の姿勢のまま顔を天井に向けながらソファにどっかりと座っていた。

時雨「…」

北上「…」

時雨「うん、冷静になってさっきの自分の発言を思い返して反省と恥ずかしさで不貞腐れてるみたいだね」
北上「ちょっと!」

時雨「違うのかい?」

北上「あーはいはいなんでもございませんって」

提督「ははは、仲良いねえ」

時北「「何処が」」

提督「ははは」
254 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:05:56.49 ID:zJyYpUOOO
叢雲「はぁ、結局何がしたいのよ貴方達」

時雨「今説明したじゃないか」

叢雲「それは組織の、しーちゃんの目的でしょ?貴方達はどうなのって聞いてるの」

時雨「あぁそういう事かい」

北上「私はしーちゃんの助けになりたい、かな。特に自分の目的とかないし」

時雨「ドラマーはいいの?」

北上「路頭に迷ったらそっち方面もいいかもねえ」

時雨「僕もしーちゃんを手伝いたいっていうのはあるけど、僕自身人と触れ合いたいというのが目的と言えるかな」

北上「艦娘だからね、人と付き合うには色々と壁があるわけよ。あ、時雨眼鏡貸して」

時雨「いいけど。え、なんで?」ハイ

北上「ふむ、これで髪をほどくと。どお?知的に見える?」

叢雲「文学少女って感じね」

提督「図書館とかにいそうな」

叢雲「そうなの?」

提督「あくまでイメージだけどね」
255 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:06:24.85 ID:zJyYpUOOO
北上「そ、イメージ。イメージだよ。偏見、固定観念とも言えるね」

時雨「北上?」

北上「艦娘はどうやっても人に紛れ込めない、なんて言うけど、こうしてちょっと工夫すれば案外溶け込めたりするんだ」

叢雲「…」

提督「変装って事かい?」

北上「違うよ。艦娘と人との間に壁を作ってるのは人だけじゃない。艦娘もそうだって事。朱に交わろうとしてないのさ」

時雨「それは、確かにそうかもね。しーちゃんもそうだ。あの人が変えようとしてるのは人間の意識だけじゃない。僕らの意識もだ」

提督「流石、説得力というか、経験が違うね」

時雨「戦う場所が違うだけだよ。大変なのはお互い様さ」

叢雲「意識、壁か…」

それはきっとその通りなんだろう。
256 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:09:11.42 ID:zJyYpUOOO
しーちゃん「失礼しまーす」ガチャ

北上「あ、終わった?」

しーちゃん「あら可愛い」

北上「でしょ」ドヤサ

時雨「気をつけなよ。アレはイベントで使えるとか考えてる顔だから」

提督「検査の方は?」

しーちゃん「ばっちしです」

提督「お疲れ様です。どうでした?」

男「問題なしです。詳しい報告はまた」

しーちゃん「というわけでさっさと撤収しましょう。この時間なら帰りに温泉とか寄ってお土産買っていけます」

北上「えマジ?よっしゃサクッと撤収だ」ダッ

時雨「ちょ北上!…いいの?」

しーちゃん「こんな機会中々ないですし、後はバレなきゃ」

時雨「はぁ、りょーかい。温泉は入りたいしね」

北上「しぐ〜その前に髪結んで」

時雨「自分でやれ」

北上「えぇ!?」

しーちゃん「というわけでサッと片付けて帰りますので、詳しい話はお、課長さんからどうぞ」

提督「了解。お疲れ様です」

しーちゃん「あ、今のは聞かなかったことでお願いします」

提督「今の?はてさてなんの事やら」

しーちゃん「いえいえちょっとした独り言です」
257 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:09:45.42 ID:zJyYpUOOO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

叢雲「で、どうたったのよ」

男「どうも何も無いよ。普通の艦娘だった。少なくとも外から観測する分にはこれまでの例と変わらない」

提督「ならいよいよかな」

男「ええ。外に出てもらう事になります」

叢雲「そこについてはまた話し合わなくちゃね」

提督「だね。それに名前もだ」

男「えぇ、そうですね」

叢雲「あー、その前にしーちゃんを見送ってくるわ、一応」

提督「一応って。貴方もお見送りに行きます?」

男「いや、それはいいですよ」

叢雲「そ、なら行ってくるわ」

男「俺は彼女のとこに戻るよ。そろそろ夕飯ですし」

提督「なら話し合いはその後で」
258 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:10:17.95 ID:zJyYpUOOO
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鎮守府の門で待機する三台のトラック。その先頭に話しかける。

しーちゃん「あれ?男さんは?」

叢雲「誘ったけど別にいいって言ってたわ」

しーちゃん「むー、薄情な人ですねぇ」

叢雲「貴方達、どういう関係なの」

しーちゃん「…どういう関係に見えます?」

叢雲「別に」

ダメだ。この人にはなんか勝てる気がしないわ。

しーちゃん「何か、聞きたいことがあるんじゃないですか?」

叢雲「貴方、結局どっちなの」
259 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:10:52.68 ID:zJyYpUOOO
しーちゃん「どっちだと思います?」

叢雲「聞いてるのはこっちよ」

しーちゃん「答えるとは言ってませんからね」

例の爽やか無害スマイルでサラッと言われた。相手が運転席の中でなければ頬を抓ってやるところだ。

叢雲「…人、には思えないわ」

最初は艦娘だと思った。そう確信していた。

でもそれは違った。確信したのは"人ではない"という部分だ。

こうして改めて聞かれて思った。"人でない"という事と"艦娘である"という事は、多分イコールじゃない。

しーちゃん「…八十点」

叢雲「え」

しーちゃん「というわけでご褒美です。誰にも内緒ですよ?」

そう言って運転席から少し体を乗り出す。

私も体を出来るだけ伸ばして顔を近づける。

しーちゃん「私も、昔は艦娘になりたいと思っていたんですよ」

叢雲「え、それってどういう」
しーちゃん「それではまたお会いしましょう」
叢雲「あちょっと!」
260 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:11:25.18 ID:zJyYpUOOO
日向「ふむ、行ってしまったな」

叢雲「門閉めたままで話せば良かったわ」

日向「それは次回に生かすといい。で、何を話していたんだ」

叢雲「…ねぇ、艦娘になりたいってどんな気持ちなのかしら」

日向「そう言っていたのか?」

叢雲「あっ、い、言ってない!言ってないから!例えよ例え」

日向「まあ何にせよ、艦娘である以上私には答えられない問だな。"海を走りたい"や"深海棲艦と戦いたい"等であれば分からなくもないが」

叢雲「そういうものなの?」

日向「"鳥になりたい"と"空を飛びたい"は別だろう?そういうことだよ」

叢雲「そういうものなのね」

日向「恐らくな。さて、そろそろ夕食だ。戻ろう」クルッ

私は、私はどうだろう。

私は

叢雲「昔は、人になりたいなんて思わなかったのに…」
261 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:12:07.16 ID:zJyYpUOOO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

『見て見て!』

男『…なんだそりゃ』

『診察カードだって!今日の記録が書いてあるの』

男『いつの間にそんなものを。ってそれよりその服は』

『しーちゃんから貰ったの。今日使ってた診察用の服』

男『まあ服が増えるのはいい事か』

『次が楽しみだわ』

男『気に入ったようで何よりだよ』

『でも、ちょっと疲れたわ』

男『もうすぐ夕飯だが、その前に少し横になってもいいんじゃないか』

『そうする』

ベットに飛び込むような形で寝転ぶ。

白いベッドに緋色の髪が綺麗に広がっていく。

男『眠くはないのか?』

『ううん、全然。まだ夜って程じゃないわよ?』

男『…だな。夕飯持ってくるから待っててくれ』

『はーい』
262 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:13:15.80 ID:zJyYpUOOO
廊下を歩きこの建物から食堂のある本館へ向かう。

男「睡眠か。深く考えたことはなかったな」

艦娘は夢を見ない。

脳の構造が人間とは違うのだ。いやそもそも脳があるのかもよく分からない。

故に夢を見るというシステムがないのだ。

ならば艦娘にとってそもそも眠るとはどういう事なのか。

建物を出ると丁度夕日が海に沈むところだった。

先程のしーちゃんの言葉を思い出す。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

しーちゃん「艦娘が夢を見ないのは知ってますよね?」

男「そりゃ勿論」

しーちゃん「なら艦娘が眠るってどういう事か分かります?」

男「どういう事って言われると、睡眠は睡眠だろ。極論無くても身体に影響はないだけで、彼女達の生活の上ではやはり必要というか」

しーちゃん「そうじゃなくて、艦娘の睡眠というのがどういう状態なのかって事ですよ」

男「状態?」

しーちゃん「そうですねえ。就寝時間を設定している鎮守府とそうでない鎮守府がありますが、それ以外に等しく艦娘が長時間じっとしていなければいけない時があります。さあなんでしょう」

男「…じっと、入渠か」

しーちゃん「え、正直正解すると思いませんでした。その通り。バケツは無限ではありません。駆逐艦でも長ければ五時間は超えますし、戦艦ともなれば丸一日かかります」

男「確かに睡眠以上だなその時間は」
263 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:14:46.66 ID:zJyYpUOOO
しーちゃん「その間、艦娘って何してると思います?」

男「…暇潰し、ってレベルの時間じゃない時があるな」

しーちゃん「寝てるんですよ」

男「寝る?」

しーちゃん「見えますか?あの建物。ここは四つですね。入渠ドック」

男「あぁ。工廠横の三角屋根だろ」

しーちゃん「あの中に一人で半日ってどうです?誰かと話したり何かしたりとか出来なくは無いですけど、それでも半日とかになればどうしようも無いです」

男「なら寝るしかない、のか」

しーちゃん「そう。寝るんです。でもそれは体を休めるために機能を落とすという生物的な物じゃないんです」

男「夢を見ないって話か?」

しーちゃん「いえ、暇と感じるその意識を落とすんです」

男「…ん?」

しーちゃん「想像しにくいとは思います。でも艦娘はそういう事が出来る。そういう事をするんです。必要でない時、人という部分を落とせる。まるで誰も乗っていない船みたいに」

男「誰も、乗っていない…」

しーちゃん「今回の三十分放置はそのテストです。これまでの経験から体を静止させ目を瞑った状態からなら概ね三十分以内に艦娘は意識を落とします」

男「今は、今はどうなんだ?」

しーちゃん「今は目を瞑っているだけですね。そこら辺はこの機械でバッチリ分かります」

男「…」

しーちゃん「知らなかったでしょ。まあ私も最初は知りませんでしたけど。よくよく知れば、艦娘はあまりに人間と違うんです」

男「お前は、出来るのか?」

しーちゃん「…私には多分もう、出来ないでしょうね」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
264 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:15:26.33 ID:zJyYpUOOO
叢雲「何ボォーっとしてんのよ」

男「ん?あぁ、叢雲か」

いつの間にか夕日を眺めたまま立ち尽くしていた。

叢雲「もうすぐ夕餉でしょ。今日はどうするの?」

男「今考えていたとこだよ」

叢雲「何も無いならこっちで決めてもいいかしら」

男「もちろん構わないが」

叢雲「今日吹雪と、あーウチの姉妹が何人か当番なのよ。だからあの娘に何か作ってもらおうと思って」

男「助かるよ」

叢雲「ならそう伝えとくわ」

男「なあ叢雲」

叢雲「何よ」

男「最後に寝たの何時だ?」

叢雲「はあ?昨日よ昨日。ちゃんと司令官の言う通り寝てるのよ」

男「…寝てる時って、どんな感覚だ?」

叢雲「寝てる時って言われても、寝てるのよ?そんなの分かりっこないじゃない。そこにいないんだもの」

男「あぁ、そうか。そうだな」

叢雲「?ほら、行くわよ」
265 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/19(火) 02:25:21.74 ID:zJyYpUOOO
少し遅めのゴールデンウィーク

生きてました。まだまだ色々と大変な時期ですが頑張って提督やっていきたいです。

入渠ドックの外見はゲーム内に鎮守府のイラストがあるという話を何処かで見てそれを思い出したのですが実際どのイラストなのかは忘れました。記憶違いなのか…?
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/19(火) 02:26:14.51 ID:/MxgXHWUo
おつです
しーちゃんはなんじゃろな
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/19(火) 02:48:05.53 ID:2ASycq3qo
otu
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/27(水) 12:36:42.09 ID:LJFIjVj60
おつ
ゆっくりでもいいから完結頼むぜ
楽しみにしてるんだ
269 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 02:58:22.36 ID:UO9Mmx190
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

男『おはよう』

『おはよっ、課長さん』

扉を開けると既に起きて本を読んでいた彼女がこちらを向いて挨拶をする。

何事も無ければこうして規則正しい生活は出来るようになってきた。

『あら、今日は司令官も?』

提督「おはよう」

『今日は何の用かしら』

提督「大切な話があるんだ。君に関わる大事な事がね」

『私?』

提督「そう。君に自身の名前を決めて欲しいんだ」
270 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:00:52.64 ID:UO9Mmx190
それは昨日の夜決めた事だった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

提督「名前を、まあ僕が付けるってのはいいんですけど。いざ付けるとなると迷いますね」

男「極端な話記号でも良いんですよ。いえ良くはないんですけど、肝心なのは提督である貴方が仮のあだ名を付けるって点なので」

叢雲「無難に今あるあの娘のあだ名から選べばいいんじゃない?」

提督「えっと、赤子・紅・赤ずきん・緋色・さくら・撫子…」

叢雲「座敷童子・姫ちゃん・官女・お雛様。後はピーちゃんとかワラビーとか訳わかんないのも聞いたことあるわ」

男「だからなんで皆統一しようとしないんだ…」

提督「うーん責任重大だなあ。あそうだ。今の中からあの娘に選んでもらうというのはダメですかね」

男「選ばせる、か。確かにそれは悪くない」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

『…ワラビーって?』

男『気にしなくていいよ。よく分からないから…』

『この中だったら、そうね。緋色!緋色がいいわ!』

提督「了解。なら少しの間かもしれないけれど、よろしく。緋色」

緋色『ええ、こちらこそ』

そうしてお互いに握手をする。

そう。これが大事なんだ。
271 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:01:51.81 ID:UO9Mmx190
男『さて。仮とはいえ名前も決まったし、昨日の検査で問題なしとなった。今日からは外に出て色々と学んでもらう』

緋色『本当!?やった!』

男『あぁ、だがそ』
叢雲『その前に!』バタン

緋色の部屋の扉を勢いよく開けて叢雲が入ってくる。

緋色『?』

叢雲『掃除するわよ!』

提督「…と言って聞かなくてね」

叢雲『必要な事よ!』

そこには箒を持った叢雲がいた。

エプロンをして三角巾を被りマスク代わりの布を首から下げるその姿は、うん、正直おばさんくさい。言わないけど。
272 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:03:10.08 ID:UO9Mmx190
叢雲『この建物。こうして他の建物と離れた所にあるのを見て分かるかもしれないけど後から追加で建てられたものなのよ』

緋色『確かに、あっちの大きいのとは全然材質が違うものね』

叢雲『で、色々あって貴方…えっと、』

提督「こちら、緋色嬢でございます」

緋色『ひ、緋色です。よろしくお願いします』ペコリ

叢雲『緋色が来るまで放置されてたのよ』

男『見ての通り何も無いしな』

叢雲『一応サッと掃除はしたのだけれどね。それじゃあ不十分。物もない。それに掃除する係もいないからほら』サッ

廊下の床を指でなぞって見せる。

叢雲『こんなにホコリが溜まってる!』

小姑みたいだな。

提督「小姑みたいだね」

叢雲『』ガンッ

箒の柄を床に叩きつけて黙らせる。これはオカンだな。
273 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:03:55.33 ID:UO9Mmx190
叢雲『掃除も皆持ち回りでやっている鎮守府の大切な仕事よ。まずはそこから学んでもらうわ』

緋色『は、はい!えっと、先生?』

叢雲『先生…そうね、ええ。先生よ!』ドヤサ

なんだか嬉しそうだ。

提督「そんなに嬉しいかい?」

叢雲『』ガンッ

何でいちいち口に出すんだコイツ。

叢雲『とはいえこの人数じゃ無理があるものね。なので今回は助っ人を連れてきたわ』

江風『いよっス』ヒョコ

男『江風か』

今日はジャージのようだ。掃除するのだから当たり前か。

江風『へへ〜ンおっひさぁ。それに初めましてだな、緋色。江風ってンだ。よろしくな』

緋色『よ、よろしく』
274 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:04:38.75 ID:UO9Mmx190
江風『いやぁ飛龍さンの言ってた通りだな!めっちゃ可愛いじゃンか!』

緋色『ひ、飛龍さん!?』ビクッ

江風『…なンかすげぇ怪訝そうな面持ちなンだけど』

男『ちょっとな。別に仲が悪いわけじゃないんだが、第一印象がこう、合わなくてな』

江風『あぁ、なンか想像ついたわ』

叢雲『さて。とりあえず廊下の掃除からよ。道具もそこに置いといたから』

緋色『はい!』
江風『ほ〜い』

男『…俺もか?』

叢雲『当たり前でしょう』

ですよねぇ。

提督「じゃあ叢雲、あとは頼んだよ」

叢雲『ん』
275 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:05:28.82 ID:UO9Mmx190
叢雲『掃除の基本は?』

江風『え』

叢雲『基本よ。前に言ったじゃない』

江風『めっちゃ頑張って磨く』

叢雲『アンタはそれやると力加減間違えそうだから止めて』

緋色『上からやる!』ビシッ

叢雲『正解』

緋色『よし!』

江風『なるほど、まずは制空権を取るのか』

叢雲『それっぽい事言ってもアンタが今新人より下の立場になった事に変わりはないわ』

江風『チャンスを!もう一回チャンスを!!』

叢雲『二人はまず廊下の窓を掃除。そうね、江風は外から、緋色は中からにしましょう』

江風『この長屋って課長と緋色ンとこ以外にも部屋がいくつかあるけど、そこの窓はいいのか?』

叢雲『長屋とか呼ばれてるのねここ。そっちの部屋はどうせ使わないからまだいいわ』

江風『ほーい』
276 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:06:09.70 ID:UO9Mmx190
叢雲『道具はこのバケツに入れたから好きに使ってちょうだい』

緋色『はい』

江風『よっしゃ江風一番乗りだぜい!』ダッ

叢雲『廊下は走らない』ガッ

江風『ハイッ』

男『…俺はどうする?』

叢雲『これで高いとこのホコリを叩いといて』

男『なるほど。となるとマスクか何か欲しいんだが』

叢雲『あー、確かにそうね…』

緋色『あ、私いいもの持ってるわ!』

男『いいもの?』

緋色『ちょっとまってて』パタパタ

嬉しそうに自分の部屋に戻っていく。

男『子犬みたいだな』

叢雲『可愛いじゃない。素直で』

先生呼びされてから緋色に凄い甘い気がする。別に悪い事ではないが。
277 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:06:38.07 ID:UO9Mmx190
緋色『これなんかどうかしら!』

男『…緋色さん』

緋色『何?』

男『その、これは?』

叢雲『』プルプル

緋色『下着だけど?』

男『いやダメだろ!』

緋色『ダメなの!?』ガビーン

男『なんでそんな微妙な倫理観が抜け落ちてるんだよ!?』ガビーン

緋色『先生から頂いた物なのに!』

叢雲『そこわざわざ言わなくても良かったじゃない!?』


江風『…何やってンスか』
278 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:07:21.60 ID:UO9Mmx190
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

結局江風のマフラーを借りた。

大切な物だからとジャージの下に巻いていたらしいがそんな物をマスク代わりに貸してもいいのだろうか。

借りる側だしそれ以上追求はしなかったが。

男「潮の香りだな」

あれ、もしかしてこれ傍から見ると少女から借りたマフラーを嗅ぐ変態なのではなかろうか。

廊下の奥の方を見る。

江風と緋色が何か話しながら窓を拭いている。

なんだかんだすっかり仲良くなっていた。

叢雲『手ぇ止まってるわよ』

男『いや、サボってる訳じゃなくてな』

叢雲『冗談よ。しっかし凄い埃ね。想像以上』

男『俺が来る前に軽く掃除したんじゃなかったのか?』

叢雲『そんな所までやる余裕はなかったもの。だからそうね、年末の大掃除が最後かしら』

男『五ヶ月以上放置か。納得の量だ』

叢雲『こういうのってやろうやろうと思っていても中々出来ないのよねえ』

男『分かる』
279 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:07:58.05 ID:UO9Mmx190
しかし長屋、長屋か。その呼び方はきっと実に正しい。

鎮守府にある建物は生活の為の部屋と業務の為の部屋に分かれる。

それで言えばここは前者だ。

だが、他の建物から隔離されてるとも言える立地。共同の風呂が一つ。女性用ではなく男性用のトイレ。誰も使っていない長屋。つまりここはなんなのか。

男『ここに実際に"人員"を入れた事は?』

叢雲『あるわ。最初は人手が欲しくてね。でも合わなかった。私もそうだけど』

男『そうか』

鎮守府に提督以外の人員を配属するか否か。これは未だに正解の見えない問題でもある。

人と艦娘が上手くやっている所もあれば、艦娘だけの所もある。

ここのように一度人と触れ、そしてやはりダメだった場合も。
280 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:08:58.56 ID:UO9Mmx190
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

叢雲『後は廊下を拭いて終わりね』

男『水道とか風呂はどうするんだ?』

叢雲『水道は私がやったわ。お風呂とトイレは使った人が掃除する事』

つまり俺か。

江風『よっしゃ雑巾がけタイムだ!』

叢雲『なんでそんなに張り切ってるのよ』

江風『聞いたぜ叢雲。お前吹雪型の中で二番目に速いんだろ?』

叢雲『誰から聞いたのよそんなの…』

江風『勝負だ!』

男『何の話だ?』

叢雲『雑巾がけのスピードよ』

子供か!

…子供か。

いや子供か?

叢雲『残念だけどこれからお風呂掃除とかのレクチャーがあるの。それに面倒だからどの道パスよ』

江風『ちぇー』
281 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:09:47.52 ID:UO9Mmx190
叢雲『…そうね。でも貴方の実力次第では考えてあげなくもないわ。試しに緋色とやってみたら?』

江風『ほンとか!?よっしゃやろうぜ緋色!』

緋色『えぇ!私も?』

江風『なあなあいーじゃンか!貸しって事でもいいぜ』

緋色『まあ、別に嫌ではないけれど』

江風『決まりっ!スタートラインあっちな』

緋色『待って、具体的にはどうやるの?』

江風『そりゃ簡単よ。こう両手で雑巾を床に押し当ててそのままダッシュ。手が浮いたらアウト』

緋色『よし、分かったわ』

江風『初めてだし試しに一回やってみっか』

緋色『えぇ』
282 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:10:30.56 ID:UO9Mmx190
これまで緋色と過ごして来て分かった事がある。

彼女は意外と活発的だ。

最初はオドオドした所が目立ったが、それは記憶の無さから来る恐れや不安に起因するものだったのだろう。

それが飛龍や江風との接触を経て少しずつ素の緋色が出てくる様になったと思う。

未知に期待を寄せ、友人と楽しげに会話し、こうした勝負事では以外にも負けず嫌い。

そんな緋色が

叢雲『…同じ目ね』

男『ん?あぁすまん。ぼーっとしてたか』

叢雲『司令官と同じ様な目をしていたわ』

男『俺が?』

一体どんな目だ?そう問いかけて見ようとした時だった。

『フギャッ!?』バチン

叢雲『!』
男『!?』

江風『あ』

緋色『』

廊下で顔面からズッコケた緋色がいた。
283 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:11:09.69 ID:UO9Mmx190
男『緋色!大丈夫か!!』

緋色『イタタ…思いっきり躓いちゃった』

江風『おー鼻真っ赤』

叢雲『まったく』ヤレヤレ

男『え?』

いやいや待て待て顔面から行ったんだぞ?落ち着き過ぎじゃ

叢雲『お願いだから入渠沙汰になるような事はしないでよね』

江風『それくらいは弁えてるって』

緋色『顔、変じゃないかしら?』

叢雲『ええ平気よ』

あぁ、そうか。そうだった。

男『鼻血とか、大丈夫か?』

江風『おいおいおい、この程度でウチらが血ぃ流すわけないじゃンか』ハッハッハッ

男『…だな』

少し痒そうに鼻を擦る緋色を見て思い出す。

艦娘は人とは違うんだ。
284 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:11:57.66 ID:UO9Mmx190
緋色『…』

叢雲『どうしたの?』

緋色『外に出て、いいえ。部屋にいる時も少し思うことはあったのだけれどね』

江風『何が?』

緋色『この袴動きにくい!』

男『そりゃまあ、袴だしな』

勿論実際履いた事なんかないから偉そうな事は言えないが、叢雲の短いワンピースとタイツ、江風のジャージに比べれば動きの制限はかなりのものだろう。

江風『ンあ〜確かにこりゃなあ。すっげぇ長いもンなこれ』

叢雲『今度余ってるジャージ持ってくるわ』

男『過去類を見ないタイプの服装だしな』

それ故に名前の特定に難航しているのだが。船だけに。

江風『…よし。江風さンのを貸してやろう』

緋色『いいの?』

江風『勝負挑ンだのはこっちだしさ。だから』ヌギ

男『え』

江風『ほい』スッ

男『脱ぐの?』

緋色『ありがとう!』スルッ

男『そっちも!?』
285 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:12:49.56 ID:UO9Mmx190
男『なんか俺が変に気にしてるだけみたいで辛い』

叢雲『ここら辺はまあ、慣れてとしか言えないわね…』

江風『どうした課長さン』

男『清々しい、清々しいぞこの縞パン』

江風『ン?あっ、ぶるまってやつの方が良かったか?』

叢雲『どこで聞いたのよそんなの』

緋色『わ〜すっごい!ジャージ凄いわ!動きやすい』

男『ところで今緋色が履いてる下着ってむr『掃除、するわよ』ハイ』

江風『よっし仕切り直してもっかいだ。スタートラインまでゴー』

緋色『ゴー』

ジャージにパンツと着物にジャージ。いっそ恐怖すら感じる奇妙な絵面だ。
286 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:13:23.94 ID:UO9Mmx190
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

叢雲「排水溝の髪の毛はちゃんと捨てておいてよね」

男「う、そうするよ」

長屋の風呂は俺しか使っていない。よって自分の後始末は自分でしなくてはならない。

しかしこうしてあれこれ注意してくる様は小姑よりも母親を思い出す。

叢雲「アイツも何度も注意してるのに掃除しないのよねえ」

男「はは」

母親というか奥様だった。

男「提督は何処の風呂を使っているんだ?」

叢雲「執務室の横に私室があるのよ。そこのをね」

男「ほぉ」

叢雲「流石に私達の使ってる浴場を使わせる訳にはいかないでしょう」

廊下からドタバタと激しい足音が聞こえてくる。

レースは白熱しているようだ。

叢雲「アレちゃんと掃除できてるんでしょうねぇ」

男「廊下走っていいのか?」

叢雲「掃除してるならセーフ」

男「適当な」
287 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:14:45.63 ID:UO9Mmx190
男「そういえば、艦娘ってやはり気にならないものなのか?その、下着とかって…」

叢雲「しないわよ。そもそも見られて困るって考えはそういう価値観を知らず知らず教えこまれるから芽生えるものでしょ?原人が裸を恥じるかしら」

男「なるほど。最もな意見だ」

叢雲「気にするとしたら露出ではなくそうなる程被弾した事実でしょうね。ま、たまに人間からの下卑た視線に辟易する事はあるけれど」

男「ホントすまん」

叢雲「鼻の下を伸ばすんでなければ別にいいわよ。アレは、私達を船でも人でもないもっと下劣な物と捉える目付だから気に食わないだけ」

男「お世辞じゃなく艦娘はみな見た目が綺麗だからな。下心が、そりゃ全くないわけじゃなかろうが皆が皆そんな目で見ているわけじゃないだろう」

あまりに人間を敵視する叢雲につい擁護の声を上げてしまう。

実際艦娘は人々にとって救世主であり英雄であり救いの女神だ。加えてその容姿からある種の信仰とも言える支持を集めているのも事実だ。

叢雲「あら、慰めてくれるの。それとも人類が貶されるのは我慢ならない?」

これまでの経験から分かってはいたが、この手の話になると叢雲はすぐカッとなる。

こういう時叢雲のスラリとした矮躯は、その鋭い目付きからたまに弾丸のような印象を受ける。

男「俺は皆の味方だよ」

叢雲「都合のいい言い方ね」

男「オブラートに包んだと言ってくれ」
288 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:20:35.05 ID:UO9Mmx190
叢雲「そぉ、ね」

男「?」

つかつかと叢雲が俺に歩み寄ってくる。というよりもこれはもう、

迫り来ると言うべきだ。

男「叢雲!?」

思わず一歩右足引いたところ残った左足を払われた。

体制を崩し後ろに倒れる瞬間胸ぐらを捕まれ、結果として壁に寄りかかる形でゆっくりと座らされた。

流石艦娘。技術も力も凄い。

男「で、なんの真似だッ!?」グイッ

そのまま胸ぐらをぐいと引き寄せられ叢雲に顔を付き合わせられた。

いくら小柄な駆逐艦とはいえこうして座らされてしまうと上から見下ろされる形になってしまう。

先程"艦娘は皆見た目が綺麗"等と宣ったがこれに関しては完全に主観だ。客観的に見ても恐らくそうだが先の言葉は間違いなく自分の抱いていた感想から来るものだ。

事実、目の前の小さな顔の大きなオレンジの瞳に見惚れている。

叢雲の薄い雲のかかった青空のような色の髪が、まるで雫のようにこちらの頬に撓垂れ落ちてくる。

叢雲「なぁに顔赤くしてんのよ」

男「え、うわっ」

パッと手を離され開放される。

クソ、少しドキドキしてる自分が情けない。年下の少女にからかわれ、年下?年下でいいのかな。
289 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:21:46.13 ID:UO9Mmx190
叢雲「司令官だってそんな顔はしなかったわよ」ニヤニヤ

それ暗に同じような事したと言ってるようなものなんじゃ。

男「で、何がしたかったんだ。まさか掃除サボって大の大人をからかう為じゃあるまいな」

叢雲「いえ、ただ貴方、どうして提督にならないの?」

男「え」

叢雲「だってそうでしょ?貴方、私達に自然に接してくるし、なにより"話せる"し"聞ける"じゃない」

提督になる為の素質はいくつかある。その中でも分かりやすく、かつ大きい要素が一つ。

それが艦娘の声を聞き、意思疎通が可能かどうかだ。

艦娘は日本語、あるいは外国語までもを理解し読み書き出来る。もちろん筆談も出来る。だがどういうわけか普通の人間と"会話"が出来なかった。

声が、人の声が艦娘には届かず、また彼女達の声も人には届かなかった。
290 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:23:59.58 ID:UO9Mmx190
言語は理解しているのに言葉が届かない。そこには不思議な壁があった。

それは単純に先頭の指揮や業務に影響が出るだけではなかった。彼女達との繋がりを築けないという事でもあった。

故に会話の可能な人材は誰であろうと集められた。ある程度戦局の落ち着いた今でさえ一年か二年程の教育で鎮守府に配属されるという。昔なら即日だったとか。

でも

男「なれなかったんだよ」

叢雲「なれない?」

男「俺は聞こえるだけで、伝わる事も伝える事も出来なかったんだ。提督にはなれなかったよ」

嫌な思い出だ。

いたたまれなくなって風呂場を出てそのまま廊下への扉を開ける。

江風『ヒャッホーいいぞいいぞ!』
緋色『それーー!』




男「」

思考が目の前の光景を理解する前に停止した。
291 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/05/30(土) 03:30:24.32 ID:UO9Mmx190
全く関係ないけどづほの七周年ボイス可愛い

激しい運動をするのでなければ袴はこの時期非常に快適なのでオススメです。
しかし改めて露出度的な意味でも神風型の服って艦娘の中でもかなり異色ですよね。
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/30(土) 03:41:25.33 ID:qJnR1XI+o
おつおつ
露出的にも普段着で通用するやね
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/30(土) 05:58:25.71 ID:85mjA0YL0
おつ
カギカッコが「」と『』で混じってるのは意味があるんかな
294 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:19:21.88 ID:clR9XJvv0
「」と『』はそれぞれ人の言葉と艦娘の言葉で分けてます。
人間と艦娘で意思疎通出来るとは限らないのでは、というのがこれを書くきっかけになったのでおいおい説明していくつもりです。
295 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:20:25.87 ID:clR9XJvv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

提督なれなかった、という意味を私は十全に理解できなかった。

でも逃げる様に風呂場を出て行くその背中にそれ以上の質問を投げかけるのは流石に憚られる。

それでも何か声をかけようと私も風呂場を出て、出た所で

男「」

叢雲「…ん?」

固まってる。

両手で顔を覆い廊下へ出る直前の所で固まってる。泣いてる、とかじゃないわね。

え、何?ちょっとわかんない。

入口で立ち尽くす課長の横から江風と緋色の声が響く廊下に顔を出す。

江風『あ、終わったか?』
緋色『お疲れ様〜』

そこにはジャージにパンツの江風と、完全に下着姿の緋色がいた。

下着?

なるほど、これは固まるのも納得だわ。

叢雲「…ふむ」

少し迷って私は、廊下に立てかけておいた箒は古い物だし振り回して折れても問題ないだろうと言う結論を出した。

どうせ江風のせいでしょう。
296 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:21:10.45 ID:clR9XJvv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

叢雲『それじゃあ道具はトイレ横のロッカーに入れて置いて。使う時はそこからね』

男『あぁ、ありがとう』

江風『秘書艦殿この折れた箒は如何致しましょう』

叢雲『捨てといて』

緋色『うぅ、ごめんなさい』

男『緋色のせいじゃない、と思うぞ多分』

江風『それよか!早くやろうぜ課長さン』

叢雲『江風、アンタこの後の護衛任務忘れてないでしょうね』

江風『覚えてるって。信用ねぇなぁ私』

叢雲『動きやすくするなんて理由で下着姿にさせる奴を信用する程私は冷静さを失ってないのよ』

江風『悪かったって…』

叢雲『緋色も、なんか変なことされたらすぐに言いなさいよ』

緋色『はーい』
297 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:22:09.58 ID:clR9XJvv0
建物を離れ執務室に向かう。

どうやら今度は三人で雑巾がけ大会をするらしい。

叢雲『何やってんだか』

しかし掃除というのは上手くいった。

何も今回のは本当に掃除がしたかったからという訳じゃない。

鎮守府内では基本的に身の回りの事も全て自分たちでやらなければならない。その為炊事洗濯掃除に至るまで全てがシフト制になっている。

ウチはまだ117しか艦娘がいないが、それでも出撃遠征船団護衛等々がどれだけ重なっても半数弱は鎮守府にいる事になるのだ。何だかんだで生活は回っている。

そのシフトにあそこの、長屋の掃除を加えて少しずつ緋色と皆を会わせていこうという魂胆だ。

叢雲『となるとシフトを少し変えなきゃね』

頭のどこかでシフトを組み替えつつ執務室の扉を開ける。

提督「おかえり」
吹雪『あ、おかえり〜』

叢雲『あら、てっきりまだ工廠の方かと思っていたわ。それに吹雪も、どうしてここに?』

提督「有難いことに存外早く終わってね」

そう言って机の上のPCと睨めっこを再開する。

吹雪『私はちょっと報告にね。もしかしてお邪魔だったかなあ』ニヤニヤ

叢雲『…』イラッ

吹雪『叢雲はさ、機嫌悪い時の自分の顔を一度鏡で見た方がいいと思うんですお姉ちゃんは』

叢雲『アンタも一度私をおちょくってる時のニヤケ顔を確認してみた方がいいわよ』

提督「仕事中に戯れないで。そっちはどうだった?」
298 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:22:52.19 ID:clR9XJvv0
叢雲『まあ上手くいったと思うわよ。それで昨日話してた掃除のシフトの件なんだけれど、以前B班とD班でメンバーを変えようって話が出てたじゃない?それも含めて』

提督「あー待って待って、今こっちを片付けたいから。そうだね、案があるならまとめといてくれないかな。終わったらそれを見て決めるよ。と言っても僕が口を挟む余地はない気もするけど」

叢雲『りょーかい』

そうだった。司令官は私達みたいに"自分のどこかに思考を任せる"事は出来ない。一つの事に集中するので手一杯だ。

基本的に生物としての能力は艦娘の方が遥かに上になる。

シフト表のB案をまとめつつ司令官の座る机に向かいながらそんな事を考える。

肉体的にはもちろん脳の処理能力も単純に人の数十倍はあるだろう。それでも司令官というか存在が必要なのは、私達に無いものがあるからだ。
299 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:23:33.45 ID:clR9XJvv0
叢雲『それは?』

提督「ここよりもう少し南の、ほら前に演習をした鎮守府があったろ?あそこからの報告で深海棲艦に少し妙な動きがあるらしくてね。以前タンカー襲撃があったのもここだ」

叢雲『…ウチの船団護衛のルートにも近いわね』

提督「それで吹雪に来てもらったんだ」

吹雪『はい。私の艦隊も今日そこを通ったの』

叢雲『どうだった』

吹雪『航路自体には何も。でも司令官から聞いて一応偵察機を広く出してたんだけど、そしたら敵の艦載機みたいなのを何度か確認したみたいで』

叢雲『へぇ…そう。どう思う?』

提督「憶測だけじゃまだ何も言えないね。ただもう少し監視と護衛を強化するべきかもしれない」

叢雲『そうね。それには賛成だわ』

提督「次は、また吹雪の艦隊になるね。頼んだよ、吹雪」
300 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:24:01.95 ID:clR9XJvv0
吹雪『はいっ!お任せ下さい』ビシッ

嬉しそうに、とても嬉しそうに。跳ね上がらんばかりにビシリと敬礼をしてみせる吹雪。

そう。

私達にはこれが必要なのよ。

前に進めという指針が。

背中を押す声が。

駆逐艦叢雲の歩んだ歴史は、経験は、私のこの足で歩んできたものじゃない。私達は皆結局のところ生まれて間も無い赤子に過ぎない。

司令官はそんなまだ空っぽな船の中を満たしてくれる、そういう存在。

なんて。別に難しい話じゃないわ。

海がしょっぱいのと同じ様に、船には船長が必要なのよ。ただそれだけの単純な話。
301 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:24:50.56 ID:clR9XJvv0
提督「よし終わり。工廠の方も片付いたし後は、は…あれ?」

吹雪『どうしました?』
叢雲『どうしたの?』

提督「…明石から貰ったデータの奴って吹雪持ってる?」

吹雪『え?あのメモリーって司令官が受け取ってたじゃないですか』

提督「うわぁ、忘れてきた…」

叢雲『なぁにしてんのよ』

提督「ゴメン」

吹雪『あ!じゃあ私ちょっと取ってきますね』

提督「ごめん、頼むよふb…え?」
叢雲『ちょ、え?』

吹雪『よいしょ』ガラッ

おもむろに吹雪が窓を開ける。三階に位置する執務室は海に近い事もあって非常に風通しがよく夏は重宝するがこの時期はまだ開けるには寒い。

ましてその窓に足をかけたりはしない。

提督「…何してんの?」
吹雪『とう!』バッ
叢雲『とうじゃないでしょお!?』
302 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:25:30.30 ID:clR9XJvv0
提督「…」

叢雲『…』

提督「だ、大丈夫だった?」

叢雲『着地はちゃんと出来てたわ。失敗しててもたいした事はないと思うけど』

提督「吹雪ってなんか凄いズレてる所あるよね」

叢雲『悪気はないんだけれどね…いやだからこそ余計悪いというか』

提督「なんか学生の頃思い出した」

叢雲『どうして?』

提督「お昼の購買に行く時窓から飛び降りたら近道なのになあとか考えてたんだよ」

叢雲『こうばい?』

提督「アイテム屋だよ。昼食が売ってるんだ」

叢雲『ふぅん』

とりあえず窓は閉めた。

提督「吹雪には後で言っておいてね」

叢雲『嫌よアンタが言えばいいじゃない』

提督「姉妹だろ?」

叢雲『あれ程タチの悪い姉はいないわ』
303 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:26:15.29 ID:clR9XJvv0
提督「誰か真似するといけないしなぁ。ここは提督としてビシッと言わなきゃか」

叢雲『そうよ。アンタが私達の』

"なれなかったんだよ"

叢雲『…私の』

"提督になれない"

提督「叢雲?」

司令官の両肩を掴みぐいと顔を引き寄せる。

椅子に座っているとはいえそれでも司令官の背は私より少しばかり大きい。

提督「えっと、どうしたの?」

お互いに目を合わせる。

司令官は特に動じることも無く不思議そうに私を見つめている。

眼鏡のレンズに映った私が見える。

司令官の見ている私は、はたしてそこに映っている私なのだろうか。

それとも司令官の瞳には、何か別のモノが写っているのだろうか。

レンズに映る私の瞳が水平線に沈む夕陽のように不安定に揺れている。それが堪らなく情けなくて

叢雲『あっ』ギュッ

不意に抱き寄せられた。司令官の左肩に顎を載せる形で体を重ねる。

私よりも太くて長いその弱々しい手が私の腰周りを包んでいる。

司令官の心臓の鼓動が波のように私の中に反響して、
304 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:26:49.55 ID:clR9XJvv0
吹雪『取ってきましたあ!』バタンッ
叢雲『!?』バッ

提督「あら、おかえり。あった?」

吹雪『はい!明石さんは何か色々と言いたそうでしたけど』

提督「うん、後で謝っておくよ」

吹雪『…叢雲?』

提督「あー、そうだ吹雪。さっきの話、瑞鳳達にも伝えておいてくれるかい。明日もまた同じ艦隊だろ?」

吹雪『了解です。えと、それでは失礼しまーす』




提督「あぁ、注意するの忘れてたな」

提督「まさか他にもあんな事してる娘いないよね」

提督「叢雲さーん?」

叢雲『今夜』

提督「へ?」

叢雲『今夜、空いてるわよね』
305 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:27:21.82 ID:clR9XJvv0
提督「…君が仕事をしろと言わないのなら空いてるよ」

叢雲『仕事はしなさい。無理のない範囲で』

提督「そういえば、緋色が来てからもう二週間は経つね。ここ暫くはご無沙汰だったか」

叢雲『…そうね』

提督「んー?なんだいなんだい、寂しかったのかい」

叢雲『さて、C案まで出来たわ。今から書き出すから吟味しなさい。仕事よ し ご と』

提督「艦娘ってホント便利だね」

叢雲『まあね』

提督「でもそうやってずっと頭使ってると疲れるだろう。少し他の娘と同じに普通に過ごしててもいいんだよ」

叢雲『問題ないわ。それに秘書艦だもの。お陰様で休息はとれているし』

提督「なら、僕も応えないとね」
306 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:28:38.43 ID:clR9XJvv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

朝から始めた掃除を終え江風と共に昼食を食べ、そのまま江風にここでの生活や業務を緋色に説明してもらった。

意外にもちゃんと説明出来ていて驚いたが、叢雲曰く体を動かさない限りはマトモな娘だそうだ。

夕食も江風と共に摂るつもりだったが緋色の意識が落ちてしまったので今日はお開きとなった。

そしていつもの報告会。

男「流石にお風呂に入れても大丈夫でしょう」

提督「掃除の後ですしね。緋色は今も?」

男「ぐっすりですよ。明日の朝には起きると思いますけど」

叢雲「ようやくね」

男「助かったよ今まで」

叢雲「まさかアナタにやらせる訳にはいかないものね」

艦娘は基本的に動かなければ何も消費しない。黙って座っていれば何時まででも変わらずそこに居られるという。

睡眠は生物的な必要性はなく、食事も動く分だけ必要とする。船として動くには燃料を。人として動くには食事をという違いでどちらも燃料と言っていいだろう。

身体は改装による変化、もしくは進化のでしか変わらず成長は一切ない。身体の維持も生物ではなく船を基準としており老廃物等は食べたものしか出ないそうだ。

それ故部屋に篭っているだけの緋色はこれまで叢雲に身体や髪を拭いてもらう程度で生活していた。汗や匂いを気にしなくていいのは少し羨ましい。
307 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:29:12.42 ID:clR9XJvv0
提督「でも夕方頃に寝たのなら一昨日みたいに今頃起きるんじゃないですかね」

男「そこはなんとも。それならそれで今日お風呂に入れられますし」

叢雲「お風呂って長屋の、アナタが使ってるやつよね」

男「あぁ」

お風呂は共同の少し大きめのものだ。如何にも男性用と言った感じだが。

叢雲「あの娘一人で大丈夫なの?」

提督「流石にお風呂くらいは、大丈夫ですよね?」

男「大丈夫かと聞かれたら不安要素はあるとしか言えないじゃないですか…」

お互いに顔を見合わせる。

脱走、なんて事は無さそうだが未だいつ意識を失うか分からない緋色を一人お風呂に入れるのは確かに怖い。艦娘だから溺れたり頭をぶつけたりなんていうのは驚異ではないが。

叢雲「はぁ、仕方ないわねえ」

また叢雲を頼る事になるが致し方ない。

叢雲「…ん」

男「ん、どうした?」

自分がやる、といった素振りを見せていた叢雲が不意に固まる。

叢雲「いえ、別にアナタが見張ればいいじゃない」

男「俺が!?」
308 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:29:46.04 ID:clR9XJvv0
叢雲「中に入らなくったって脱衣場で待ってれば事足りるわよ」

男「いやいやそれが不味いだろって話じゃないのか!?」

叢雲「直接見るわけじゃないし扉越しに声でも掛けてればいいわよ。あの娘も気にしないと思うわよ」

男「向こうはそうかもしれんが…なんでまた急に。今日明日なにかあるのか?」

叢雲「ッ」ビクッ

え?何だこの反応?

提督を見てみる。

提督「あはは」

少し困った様な、でも叢雲の反応を楽しんでいる笑い方だ。

男「はぁ。まあ緋色が嫌がらないのであれば別にいいか」

いいのかなぁ。
309 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:31:24.00 ID:clR9XJvv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

男「聞こえてるか?」

「聞こえてるよー。でも音がなんかちっちゃい。んん?この接続端末って、もしかしてワイヤレスイヤホン繋いでる?」

男「あぁ」

「なんでまた、今部屋にいないの?」

男「風呂の脱衣所にいる」

「は?」

男「緋色が、あぁあの娘の仮の名前な。緋色になった」

「へぇ緋色、緋色かぁ。いい名前じゃん」

男「そう、だな」

「はいはいそこ暗くならなーい。で何?緋色ちゃんのパンツでも漁りに来てるの?」

男「割と笑えないからやめてくれ」

「え」

男「緋色が今風呂入ってんだよ」

「え」

男「見張ってんだよ脱衣場で」

「もしもしポリスメーン」

男「違うんだよやめてマジやめて」
310 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:32:19.21 ID:clR9XJvv0
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「へぇそれで見張りねえ。いやそうはならんやろ」

男「なったんだよ何故か」

「いやまあそこまでは百歩譲って良しとしよう。なんで私呼んだのさ」

男「いたたまれないんだよ…」

「は?どゆこと」

男「今すぐそこの風呂場で少なくとも見た目で言えば小学生くらいの女児が素っ裸で居るんだぞ…それを一人黙って脱衣場で見張るとか辛すぎる…」

「ご褒美じゃん」

男「そう感じるのはお前の描いてる二次元の世界を好む者だけだろ」

「悲しい事に割とそうでも無いけど今は別にいいや」

男「何よりもしこれで性的興奮とかしてしまったらと考えるとこの場で自害したくなるから少しでも気を紛らわしたくてな…」

「それで脱衣場でイヤホンしてボソボソ喋る中年が生まれたわけね」

男「やめてくれ…」
311 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:33:12.05 ID:clR9XJvv0
「でも性的興奮自体は別に普通なんじゃない?女性の肉体の全盛期って中高生辺りっていうじゃん。

駆逐艦って背丈こそ小さいけど肉体はお前のような駆逐艦がいるかってくらい発達してるからさ。発達度合いは振れ幅がでかいけど」

男「だからなんだよ」

「緋色ちゃんも背丈こそ小さいけど胸は確実にあるし肉付なんかも結構成熟してるわけでね。つまり女性の肉体としては非常に魅力的と言える状態でそれに興奮するのは男なら仕方ない」

男「仕方ないじゃねぇよ仮にそうだとしても俺のプライドが許さん」

「変なプライドもってるなぁ」

男「人としての矜恃だろ」

「はいはいそーですか」

男「…シャワーか」

「あ、ホントだこっちまで音聞こえてきた。ふぅん今緋色ちゃん身体洗ってるわけかぁ。あの小さくてスラリとした子供のような体型。それでいて二の腕や腰、お尻や太腿なんかは子供特有のもっちりとしたものではなくクビレが見て取れる程で、まだ慎ましやかな胸は手にすっぽりと」
男「切るぞ」

「えーいい所だったのにぃ。薄い本かよ!?って展開なんだよ今まさに」

男「変な想像させんなマジで」

「ホントに余裕ないのね…」
312 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:34:04.34 ID:clR9XJvv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

男「とまあ今日の活動はこんな感じだ」

「ふむふむ。オーケーオーケーまとめとくよ」

活動記録は大切な物だ。いつもは寝る前に報告しているが今日はここで済ます。

男「流石に今日は疲れた」

「お疲れちゃん。課長ももう中年だもんねぇ。肉体はすぐに置いてかれるって言うよ」

男「馬鹿言えまだ三十路一歩手前だ」

「28超えたらおっさんよ」

男「嘘だろ…」

「まあ肉体の全盛期と本来60程度の寿命とを考えればあながち間違いじゃないわよねぇ」

男「それは確かに」

「歳は取りたくないものねえ」

男「全くだよ。今でこれだとあと数年したらどうなるか…」
313 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:34:57.97 ID:clR9XJvv0
「でもさぁたかが雑巾がけでしょ?」

男「あの体勢で走るのめちゃくちゃ辛いんだぞ」

「筋肉痛?」

男「ん、いやそんな感じはしないな。寝て起きたらなってるかもしれないが」

「課長昔はスポーツマンだったんでしょ?肉体のステータスは高いと思うよ。問題は体力だね。アレはすぐ落ちる」

男「お前に身体の事を賢しら顔で語られても説得力がなあ」

「ネットで見た」

男「ますます説得力ねぇよ」

「でも実際落ちてるでしょ?」

男「まあな。ストレッチでもするかな」

「ランニングとかいいんじゃない?道具も要らないし」

男「でも鎮守府はおいそれとは出れないし、敷地内で俺が走ってたら色々とトラブルが起きそうだろ」

「エッチなハプニング?」

男「俺をよく思ってない娘に絡まれるとかそういう奴だよ!」

「んじゃ朝は?起床前とか朝食の時間帯ならセーフなんじゃん?」

男「あぁ。それはありかもしれんな…」

「だしょ」
314 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:36:46.65 ID:clR9XJvv0
男「そろそろ切るよ」

「もういいの?」

男「シャワーの音が止んでしばらくたったし、そろそろ上がるだろう」

「なるほど。着替え覗いちゃ ダ メ よ 」

男「はいはい。さてもう11時か。髪の毛乾くのに時間かかるだろうし、こりゃ夜更かしかもな」

「課長ぉ女の子の髪の乾かし方とか分かるのぉ?」

男「うるせぇ。そういやお前は今日は寝るのか?」

「寝る寝る。最近ゲームばっかで寝てなくてさー。これからぐっすり寝るわけです」

男「原稿は」

「ゲームはね、インスピレーションが刺激されるのよ」

男「あぁ、そうか…」

「そういう反応がいっちゃん心にくる…」

男「ま、仕事してくれりゃ文句はねえよ」

「キャー素敵。それじゃおやすみ」

男「おやすみ、"秋雲"」

通信が切れる。

耳のワイヤレスイヤホンを外しポケットに戻す。
315 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:38:08.78 ID:clR9XJvv0
緋色「上がったよー」ガラッ

男「おう、分かっtなんでもう出てきてんだよ!?」

素っ裸。素っ裸の緋色が出てきた。なるほど先程の秋雲の描写は実に的確だなって何考えてる俺。

緋色「え!?だって上がったから…」

男「ま、いやちょ、待て待て今出る!出るから!」

緋色「いいわよ別に、ここ広いし。あ、そこの棚に入れてある下着取ってくれない?」

男「」

緋色「課長?」

次があるなら絶対叢雲に頼もう。
316 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:40:05.78 ID:clR9XJvv0
緋色『上がったよー』ガラッ

男『おう、分かっtなんでもう出てきてんだよ!?』

素っ裸。素っ裸の緋色が出てきた。なるほど先程の秋雲の描写は実に的確だなって何考えてる俺。

緋色『え!?だって上がったから…』

男『ま、いやちょ、待て待て今出る!出るから!』

緋色『いいわよ別に、ここ広いし。あ、そこの棚に入れてある下着取ってくれない?』

男『』

緋色『課長?』

次があるなら絶対叢雲に頼もう。
317 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/06/15(月) 02:43:38.74 ID:clR9XJvv0
叢叢してきた

言った傍から間違えました。「」と『』は自分で書いてて紛らわしいと思ったりしますが、文字だとこれが一番なのかなと。
艦娘117人というのは自分の鎮守府準拠ですが、多いところだと今は200とか300になるんでしょうか。
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/15(月) 03:22:42.88 ID:A37L3JUDO
おつです
この間提督と叢雲は…昨夜はお楽しみでしたねしないと
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/15(月) 05:53:43.64 ID:Y3j8LMWfo
おつおつ
艦娘の入浴とか余裕で興奮するからね、仕方ないね
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/15(月) 08:23:08.29 ID:y4KTgFcJ0
海外艦の予備で3人とか鈴熊全種もちとか
まるゆ貯金?とかしてるからうちの鎮守府は350やな
枠だけでいえば390まで開けてるけど、次イベでまたあけるの間違いないわ
321 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 03:51:06.30 ID:N7J8Cfyv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

男「よし」

準備運動が終わった。

久々なのでラジオ体操なんかをやってみたのだが思いの外動きを身体が覚えていて驚いた。

時刻は朝の五時半。総員起こしの六時までまだ時間はある。鎮守府は眠ったままだ。

昨夜緋色も風呂に入った後何事もなく寝てくれた。

寝巻きのつもりで持ってきていたジャージはこの時期の朝には少し寒かったが動けば問題ないだろう。

鎮守府の港側は昼夜を問わず一定の艦娘がいるのでそこを避けて回るか。

小さいと言っても一つの鎮守府だ。それでもジョギングに十分な広さはある。

自分の体力を確かめるため少し軽いペースで走り始めた。
322 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 03:51:35.15 ID:N7J8Cfyv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

男「あ」

大鳳『え』

目が合った。

走り始めて一分も経たずに。

多くの艦娘が寝泊まりし執務室などもある鎮守府で一番大きい建物。その裏にまわろうとした所だった。

茶色の入った黒髪。もみあげの長さが特徴的なショートボブ。服装は、詳しくはわからないが陸上選手などがしている露出度の高いピッチリしたものだ。ブルマではないのは分かる。

腕を振り準備運動をしている姿からこれからジョギングをしますというのが察せられる。

大鳳『』

男「」

大鳳『あー、えっと。ご一緒します?』

少し恥ずかしそうにそう提案する彼女から敵意は感じなかった。
323 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 03:52:14.51 ID:N7J8Cfyv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

男『何時もこうやってジョギングを?』

大鳳『はい。課長さんもですか?』

男『最近運動不足を痛感してね。鍛える、という程でなくとも健康体ではいたいからジョギングをしようと思いたって』

大鳳『なるほど』

装甲空母大鳳。比較的小さいと知ってはいたがこうして並んで走ると想像以上だ。叢雲より少し上くらいの身長だろうか。

男『しかし、その、意外だな。ジョギングをしている、艦娘がいるとは』

大鳳『よく言われます。なんでそんな事してるのかって。実際運動としての意味は無いですしね』

そう言って少し困ったように笑う。

艦娘に肉体的な能力の向上はない。

あまり前と言えば当たり前だ。鍛えたら船の馬力や砲の火力が上がった、なんて事はありえないのだから。

彼女達の訓練は砲撃の精度や波風を読んだ速力の出し方、回避運動の方法等の動作の練度を上げるものであり、それこそが彼女達のステータスと言える。

着任したての大鳳と歴戦の大鳳でもそのスペック自体はなんら変わらないのだ。問題はそれを使って何ができるか、だ。
324 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 03:53:02.52 ID:N7J8Cfyv0
大鳳『私、走るのが好きなんです』

男『ほう、ジョギングが、趣味か』

大鳳『ジョギングというより運動が、ですかね。この身体で海で戦う以外の動きができるのが、なんだか楽しくって』

男『それは確かに、珍しい』

楽しい、と言ってから大鳳のペースが少し上がった。一応合わせてペースを上げたが、もう既にきつい。かなりきつい。久々に運動するやつのペースじゃない。

大鳳『課長さんはジョギング好きですか?』

男『き、嫌いでは無いはずだ』

畜生流石艦娘。こうして走ってるのにまるで座って話してるかのように普通に喋ってきやがる。

大鳳『あ!』キキッー

大鳳が突然ブレーキをかけた。

大鳳『すみません!その、少し休憩しますか?』

優しい気遣いだ。だが、

男『それは、有難いが、少し歩こう』ゼェゼェ

大鳳『休まなくても大丈夫でした?』

男『えっと、だな。人間は激しい運動の、後にな、急に止まると、心臓に悪い』

大鳳『へぇ。それはいい事を聞きました』

いい事?何がだ?

そう聞こうかと思ったが心臓と肺がそれを許してくれなかった。
325 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 03:54:06.38 ID:N7J8Cfyv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

港とは逆の森に面する方にあったベンチに座る。もっとも森は壁に阻まれてあまり見えないが。

朝の湿気でじんわりと湿ったベンチがなんとも言えない不快感を与えてくる。

男『』チーン

が、それよりも疲れた。

大鳳『お水持ってきましょうか?』

項垂れる俺をに鳳は心配そうに話しかけてくる。こうして座ってようやく目が合うくらいだな。

…緋色の方が胸あるな。待てそうじゃない。

男『いや大丈夫だ。久々の運動で少し身体が驚いてるだけだ』

大鳳『あ〜機関部とかも放っておくとダメになりますものね』

男『お、おう』

機関部…人間の俺には全く共感できない。

男『こりゃ帰ったら朝風呂かな』

既に背中にじんわりと汗を感じる。もう少し薄着でも良かったか。
326 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 03:54:56.61 ID:N7J8Cfyv0
大鳳『…』ジーッ

男『どうした?』

依然情けなく項垂れている俺を大鳳がしゃがみこんで覗き込んでくる。

大鳳『いえ!大した事じゃないです!すごい汗だなぁと』バッ

かと思うと急に思いっきり後退りして距離をとる。

男『何もそんなに離れなくても。く、臭かったか?』

大鳳『そういうわけではなくて…なんというか、距離感と言いますか、間合い?がよく分からなくて』

そう言って一歩だけ、恐る恐る踏み出す。

それは初めて猫や犬を目の前にしてどうしていいかと慌てる子供のようだった。

無理もない。慣れていない艦娘にとって人間とはそういうものなのだろう。

男『フフッ』

大鳳『えっ!なんで笑うんですか!?』ガーン

男『いや悪い。昔の事を思い出してな』

かつて初めて艦娘に触れた時、あいつから見た俺もきっとこんな感じだったのだろう。

そう思うとおっかなびっくり近づいてくる大鳳が妙に可笑しかった。
327 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 03:55:58.34 ID:N7J8Cfyv0
ようやく隣に座った大鳳が流れる汗をじっと見つめてくる。

男『汗って珍しいか?』

大鳳『確かに私達は汗とかかきませんしね。でもそれよりも、同じなんだなって思ったんです』

男『同じ?何がだ』

大鳳『提督と』

そりゃ同じく人間だしな。どう意味だ?

あまり突っ込む話題でもないと思って話をそらす。

男『いつも一人でジョギングを?』

大鳳は動きたくてうずうずしているのか座ったまま足をブラブラとさせながら話す。

大鳳『毎日走っているのは私だけですね。決まった曜日に長良ちゃんとか朝霧ちゃん達。たまに川内さん達や駆逐艦が数人』

男『意外といるんだな』

大鳳『動く事で体を起こす、というのに丁度いいんだそうです。川内さんみたいに有り余る衝動を発散させに来る方もいますが』

男『何処の川内も同じか。島風なんかはどうだ?』

大鳳『あの子はどうして皆が全力疾走しないのか本気で納得いってないみたいで』

男『島風もブレないなぁ』
328 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 03:56:35.78 ID:N7J8Cfyv0
大鳳『一時期提督もジョギングをしていた事があって、その時は結構いたんですけれど』

男『あぁそれで俺と同じだと。しかし彼もジョギングを』

大鳳『本当に一時的でしたけれどね。仮にも提督だと言うのにあんまりにも貧弱だから、と叢雲が無理やり色々と鍛えようとした事があって』

男『うわぁ。さぞスパルタだったろう』

大鳳『それはもう。内容自体は提督の体力レベルに合わせてましたけど、ともかく引き摺ってでもやらせていましたから』

男『想像に難くないな』

大鳳『結果一週間と経たずに提督が音を上げて。その分仕事を頑張りだしたので叢雲も諦めたんです』

男『諦めたのか。てっきり無理矢理でもやらせるものと』

大鳳『それくらい提督の拒否反応が凄かったんですよ。大好きだった唐揚げが喉を通らなくなったそうですし』

なんかそれ前にも聞いたな。唐揚げ嫌いにそんな理由があったとは。
329 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 03:57:19.75 ID:N7J8Cfyv0
大鳳『一年前の事なのにもう随分昔の事のように感じます。あの時もこうやって』

男『お、おい?』ドキッ

大鳳が俺の身体に顔を近づけ匂いを嗅ぐ。小柄な女性に匂いを嗅がれるというなんだ、なんだこの状況。

ただでさえ今の大鳳の服装は非常に露出が多い。失礼な感想かもしれないが陸上選手はよくこの格好で人前に出れるものだ。

大鳳『私達からはしない匂いです。でもどこか知っている匂い』

男『海の男達か』

大鳳『血なまぐさいよりはいいでしょう』

男『…さてもう一走りするか』

大鳳『もういいんですか?』

男『あぁ』

走ってもいないのに鼓動が早くなる心臓をとりあえず抑えたかった。

大鳳『でしたらその前に一ついいでしょうか』

男『なんだ?』

大鳳『その、汗を!舐めてみてもよろしい、でしょうか』ズイッ



男『はい?』
330 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 03:57:59.27 ID:N7J8Cfyv0
大鳳『ですから、課長さんの汗をですね』
男『いやいやなんでだ!なんで汗を舐める!?』

大鳳『大した意味は無いんです。興味本位というか』

大した意味があろうがなかろうが汗を舐めるってどういう事だ。

男『いや流石にそれは…』

大鳳『すみません。やっぱり失礼だったでしょうか』シュン

男『んー失礼かと聞かれると、あまりにも予想外すぎて最早そういう次元じゃないというか…なんでまた?』

大鳳『以前飛龍さんが言ってたんです。提督の汗は海みたいにしょっぱかったって。それが気になっていて…』

男『…なら提督に提案してみたらどうだ』

大鳳『そ、それは!恥ずかしいデスシ…』カァァ

あ、そういう恥じらいはあるんだ。

ビビって離れたかと思えば至近距離で匂いを嗅いだり、確かに距離感の取り方がめちゃくちゃだ。価値観がよくわからん。

このままだと本当に舐められかねないのでとりあえず走ろう。
331 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 03:58:38.71 ID:N7J8Cfyv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

大鳳『もうすぐ六時ですね』

男『あぁ、そろそろ戻ろうか』ハァハァ

大鳳『明日も走りますか?』

男『身体が持てばそうしたいな』

想像以上に鈍っていた身体が今日一日でこの疲労を回復できるかはちょっと怪しい。

大鳳『こうして誰かと走っていると、あぁちゃんと地に足が着いてるんだなあって実感できるので、出来ればまたご一緒させて下さい』

男『大事なのか?誰かと一緒というのが』

大鳳『海だとこんなに近くに並んで航行は出来ませんから。この身体で陸を歩けるからこそなんです』

そう言って大きく伸びをする。

脇…じゃない。

腕や足、腰や腹。どこを見てもとても軍人とは思えないほど華奢だ。引き締まってはいる。だがやはりこれでは陸上選手とすら言えないだろう。

そんな身体で、海を渡り戦場を駆け抜けている。

男『なるほど。善処するよ』

その助けになるなら、ジョギングくらい軽いものだ。

男『なら、約束ついでにひとつ聞いてもいいか?』

大鳳『いいですよ?私で答えられることなら』
332 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 03:59:29.06 ID:N7J8Cfyv0
男『こんなことを聞くのは失礼だとは思うんだが、その、どうして"人間"と走ろうと?』

大鳳『あ〜、そこですか…そうですよね』

少し寂しそうな表情が返ってくる。だから聞きたくなかったのだが、しかしここはハッキリさせておきたい所でもある。

大鳳『私ここに着任してまだ日が浅いんです。と言っても一年半程前ですが。その、人間は確かにあまり好きとは言えません。でも他の皆さんや、加賀さんみたいに蛇蝎の如く人間を嫌う程の理由はまだないんです』

確かに新米であればそれだけ人との関わりは少ないだろう。あの距離感の取れなさもそれか。

それより今加賀を殊更強調して言ったな。正規空母加賀。要注意かも知れないな…

大鳳『それに、私達空母には飛龍さんがいるじゃないですか』

男『あぁ。なんとなく分かったよ』

大鳳『ふふ、凄いですよねあの人』

男『それには同意だな』

大鳳『飛龍さんだって嫌な思いはしているはずなんです。でもあの人はいつだって人間の事を信じてる。確かに私だって人間が皆私達を忌み嫌っているとは思いません。

でもわざわざ人間の肩を持とうとも思いませんでした。何処にいるかも分からない優しい人間を信じる理由がないですからね』

それはきっと正しい。

人間が艦娘に抱く恐怖にも似た感情は迫害だとか差別と言った類のものではない。

生物的な本能。"これは違う"という拒否反応。

それがない者が、まともな感性が壊れているものこそが提督と呼ばれるある種の才能を持った人間なのだから。

大鳳の言う"優しい人間"なんてのは本質的には存在しないのかもしれない。
333 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:00:26.75 ID:N7J8Cfyv0
大鳳『人間の事を話す時の飛龍さんはいつもキラキラとした目で、まるで水平線の向こうを見るかのように私には見えないどこか遠くを見ているんです。それが、私の憧れなんです』

男『確かに。あいつの価値観は変わっている。あんな艦娘に出会ったのは初めてだ』

大鳳『だから応援してますよ。貴方の事も』

男『俺も?』

大鳳『提督とは違うけれど、貴方もまた変わった人間です。だから飛龍さんや緋色ちゃん、そして私達にとってこの出会いがいいものでありますように』スッ
男『え』

一瞬何が起きたか分からないほどスムーズにこちらに近づいてきた大鳳がそのまま背伸びをし、疲れて立ち尽くしていた俺の首筋に流れる汗をペロリと舐めた。

男『お!おま!?』

大鳳『あ、本当にしょっぱいんですね。でも海ほど濃くは無い』

男『』

大鳳『不思議ですね。私達からはそんなもの生まれないのに。それでは課長さん、また明日』

男『…オウ』

大鳳が駆けて行く。




男「風呂入ろ」
334 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:01:23.95 ID:N7J8Cfyv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

秋雲「え、で、何?朝から上司に競技用ユニフォームという中々フェチ度の高い服装の小柄な少女に汗を舐められた事を相談された私はどう反応を返したらいいわけ」

男「やめろ反復するな」

画面の中の秋雲が凄い冷たい視線を送ってくる。

朝風呂に入り自室に戻った俺はとりあえず秋雲と話す事にした。

秋雲「課長はホントさあ…動揺してるのは分かるけどとりあえず頭乾かしたら?」

男「そのうち乾くだろ」

秋雲「まだ少し涼しい時期だし湯冷めするよぉ。あ、緋色ちゃんはまだ寝てるの?」

男「あぁ。起床時間は過ぎてるけど、昨晩風呂に入ったせいで寝るのが遅かったしもう少し寝かせておこうと思う」

秋雲「別に艦娘なら寝たっていう事実があれば睡眠時間なんて気にしなくていいと思うけどね」

男「…緋色はまだ"艦娘かどうか"すら定かじゃないよ。名前が見つかるまで油断はできな」

秋雲「言うと思った。で、要件は?まさか舐められて興奮したとか脇フェチでしたとかいう告白が目的じゃないでしょうねえ」

男「違うわ」

先の出来事が頭から離れないからとりあえず誰かに話してしまいたい、というのは確かだが。
335 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:03:09.43 ID:N7J8Cfyv0
男「艦娘にとって匂いというのがどういう意味を持つのか気になってな」

秋雲「あぁ、そこか。確かに匂いって今までになかった観点よねえ」

男「ちなみにお前はどうなんだ?匂いとか」

秋雲「"今の私"にわかると思う?」

男「…だな。何か匂いに関連する物を少し調べたりして欲しい」

秋雲「はいは〜い。それじゃ課長、ハーレム目指して頑張ろぉ!」

男「誰が目指すか」

秋雲「あーそうだ忘れてた!昨日のお風呂イベントは何か面白いことあった!?」

画面から飛出てくるんじゃないかという程顔を近づけて興奮気味に聞いてくる部下。

男「大変だったよ…全裸で、いや全裸なのは当たり前なんだが、脱衣場に俺がいるにも関わらず普通に出てくるしな」

秋雲「どうだった?ロリっ子の全裸」

男「思い出させるな…まあ自分がロリコンの変態じゃないと分かったのは安心したが」

秋雲「え…課長ロリコンじゃないの…?」

男「なんでそこで驚くんだよ!?」

秋雲「いやぁてっきりロリコンだからこの秋雲さんを手篭めにしたのかと」

男「何が手篭めだ勝手に話を盛るな。でもやっぱ裸を見たという事実はこう凄い罪悪感がな…」

秋雲「真面目ねぇ…でも同じロリ体型なのに大鳳にはときめいたんだ」

男「ときめいてねえって」
336 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:03:44.94 ID:N7J8Cfyv0
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叢雲『アナタ、朝大鳳とジョギングしたそうね』

男『情報早いなおい』

緋色の部屋に朝食を持ってきてくれた叢雲が早速話題を振ってきた。

叢雲『空母と駆逐の情報伝達の速度は凄いわよ。砲弾並みね』

男『それは恐ろしい…』

緋色『課長さんジョギングしてたの?』

男『あぁ。身体が鈍ってたからな』

緋色『へ〜いいなぁ』

叢雲『ジョギングか、ありかもね』

緋色『本当!?』

叢雲『考えとくわ。運動は大事だものね』

そう言いながら机に朝食を並べていく。

飛龍なんかは運ぶの楽だからと丼物や麺類ばかりだが叢雲は毎回和食を持ってくる。こだわりなのだろうか。
337 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:04:36.07 ID:N7J8Cfyv0
男『いい匂いだ』

今日の魚は鯵か。

叢雲『護衛の代金に貰ったりしてるのよ。今日のは釣れたて』

緋色『本当にいい匂い!ん?』

男『どうした?』

緋色『…ん?ん〜』クンクン

目を瞑り子犬のように鼻で匂いを辿っている。

男『?』

叢雲『一体何が…え』

少し辺りを嗅ぎ回り、最終的に叢雲の目の前でピタリと止まった。

叢雲『?』チラリ
男『?』チラリ

思わずお互いに目を合わせる。一体どうしたんだ?

緋色『なんだかいつもと違う匂いがする』

叢雲『え?』

男『違うってどんな?』

緋色『う〜ん…上手い言葉が見つからないのだけれど、そうね。いつもは海の匂いなのよ。飛龍さんや江風もそう。それに焦げ臭い感じの匂いや、鼻につく変な匂い。でも今日は嗅いだことない匂いなの』
338 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:05:07.71 ID:N7J8Cfyv0
叢雲『匂いって言われてもねぇ』クンクン

男『今朝は何食べたんだ?』

叢雲『まだこれからよ。それまでだって特にいつもと変わった事はー…ぁー…』

男『叢雲?』

緋色『?』

フリーズした。叢雲がフリーズした。それに心無しか顔が青ざめているような。

叢雲『用事思い出したわ』スッ

男『え、おい』

叢雲『それじゃ召し上がれ』バタン

追求したらコロスとでも言わんばかりの勢いでドアを閉め出ていってしまった。

緋色『…えーっと、いただきます?』

男『あぁ、うん。食べようか』

なんだったんだ?
339 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:05:46.35 ID:N7J8Cfyv0
しかし匂い、また匂いか。

男『なあ緋色、俺ってどんな匂いがする?』

緋色『匂い?んー…男の人の匂い、かしら』

男『…臭い?』

緋色『臭くはないわよ。でも皆と違って、変わった匂いだわ』

加齢臭?加齢臭か!?いやまさか、俺はまだおじさんて歳じゃねえ。断じてねえ!!

緋色『そうだ!私は?私はどんな匂いがする?』

男『緋色の、匂い?いやそれはちょっと』

緋色『なんでよ、気になるじゃない』

男『う…』

だって匂い嗅いだらこう、犯罪臭がするし…緋色からじゃなく俺から。

緋色『ほら』

食事の並べられた机の前に行儀よく正座した緋色が目で早くと訴えかけてくる。

腹を括るか…考えてみりゃ別に理由があってやるわけだし、何かいかがわしいと考えるからそう思えるんだ。

緋色の、文字通り緋色の髪に顔を近づける。

男『…』クンクン
緋色『どう?』

男『シャンプーの匂いがする』

緋色『あー』
340 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:06:19.95 ID:N7J8Cfyv0
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男『そろそろお昼だな』

緋色『疲れたぁ…』

艦娘になる為、という名目の勉強会はある意味順調だ。緋色が意識を失う事はほとんど無く、抜け落ちていた知識などを補えている。

最も肝心な記憶の方はサッパリだが。

男『昼食までまだ時間があるな。休憩にしよう』

緋色『ふわぁい』

ぐったりと
机につっぷす
ピンク色

男『歴史嫌いか?』

緋色『嫌いではない、と思う。でもどこの国でも戦争は嫌よ』

日本史から遠ざけ世界史に触れさせてみたが、戦争というだけで精神的に負担になっているのだろうか。

男『これが終わったら緋色の興味ある歴史にするか』

緋色『私古墳とかはにわがいいわ!』

男『中々微妙なところ突いてくるな』
341 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:07:05.37 ID:N7J8Cfyv0
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緋色に教材代わりのタブレットを渡し部屋を出る。意外にも読書好きなのか電子書籍を暇さえあれば漁っている。

男『さぁて』

今の時間なら昼食には間に合うだろう。端末を取りだし電話をかける。

叢雲『もしもし…何かあった?』

俺からの唐突な電話に真剣な声になる叢雲。

男『大丈夫だ。緋色の事じゃない。その、少し電話を借りたくてな』

叢雲『電話を?』

鎮守府で外と連絡を取る手段は制限されている。この端末も連絡ができるのは鎮守府内だけだ。その為外に電話をするには借りる必要がある。

叢雲『そうねぇ。ビーチ、って言っても分からないか。前に見せたPCとかゲーム機が色々置いてあった場所があるじゃない?みんなのたまり場でビーチって呼ばれてるのだけれど、そこに電話があるわ』

男『何故ビーチ…いやしかし、そのだな』

叢雲『ま、そんなたまり場にアナタ一人が行くってのはちょっと問題よね』

男『あぁ。また瑞鶴辺りに睨みつけられたらたまらん』

叢雲『それとも、そういう回線じゃかけたくない相手、なのかしら?』

男『んー微妙なところだな』

叢雲『微妙って何よ微妙って』
342 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:07:39.20 ID:N7J8Cfyv0
鎮守府の数少ない外と繋がる回線は当然監視されている。機密が漏れたりしたら事だし当然ではある。

だからまあ内緒話には向いてない。

叢雲『執務室に行ってちょうだい。司令官の部屋に電話があるわ。最もこっちだって監視はあるけれど』

男『それで十分だよ。ありがとう』

電話を切り執務室に向かう。お昼前という事もあって建物の中に艦娘の姿は殆どなかった。
343 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:08:11.22 ID:N7J8Cfyv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

提督「おはようございます、と言うべきですかね」

男「どちらでも構いませんよ。しかし…」

提督はデスクで作業をしていた。していたのだが、

男「何やってるんです」

提督「ほら、もうそろそろ梅雨じゃないですか」

男「えぇ。確かにもう何時梅雨入りが発表されてもおかしくは無いですね」

提督「そうなると駆逐艦なんかがよくこれを持ってくるんですよ。ですからお礼にコチラもこれをあげようと思いましてね」

男「…てるてる坊主を」

提督「はい。とりあえず20個くらい作ろうかなと」

男「てるてる坊主を」

提督「ちゃんと作ろうとすると意外と難しいんですよねぇ」

これは流石にサボりじゃなかろうか。俺がとやかく言うことではないが。
344 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:08:45.88 ID:N7J8Cfyv0
男「えっと、今回は電話を借りたくて来たのですが」

提督「叢雲から聞きましたよ。そこの扉から私の部屋に入って向かって右の所にあります。ご自由にどうぞ」

男「え、部屋入ってしまっていいんですか」

提督「構いませんよ?見られて困るような部屋でもないですし。あーでもベッドの下はNGで」ハハハ

男「はぁ」

ベッドの下?掃除してないのだろうか。だとしてもそんなとこ覗く奴いるのか?

執務室の奥にある扉を開け部屋に入る。

簡素な部屋だ。ビジネスホテルの一室といったイメージになる。

ベッドに小さなデスク、本棚とクローゼット。あくまで寝るだけの場所、ということか。

脇にあった電話を手に取り番号を押す。

今回は別に盗聴なんかを気にする必要は無いだろう。
345 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:09:18.50 ID:N7J8Cfyv0
繋がった。

「」

男「もしもし?」

「ふぁい、もひもひ」

男「おい今何食ってる」

「モグモグ」

男「…」

「ゴックン お饅頭です」

男「今お昼だぞ…」

「ほら、ウチの子達結構な頻度で各地に飛んでて、その都度お土産買ってくるのでタイミングが合うとお菓子が沢山溜まるんですよ」

男「だからって今食う事はないだろ。身体に悪いぞ多分」

「大丈夫ですよ。一応そこそこ丈夫ですし、あれから身体が成長する様子もないので気にしてません」

男「さいで…で、一つ聞きたい事が出来たんだが今いいか?しーちゃん」

しーちゃん「大丈夫です。食べながらでよければ」

男「いや食べるのは一旦やめろ」
346 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:09:56.53 ID:N7J8Cfyv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

しーちゃん「ふむ、"匂い"ですか」

男「あぁ。これまで気にした事は無かったんだが、しーちゃんは何か心当たりとかないか?」

しーちゃん「秋雲さんには聞いたんですか?」

男「アイツは、ほら、分からねえって…」

しーちゃん「なるほど。そうですねえ、匂い…心当たりはありますね」

男「本当か!」

しーちゃん「はい」ビリビリ

男「…次はなんだ」

しーちゃん「シューアイスです。ちょうど良い感じに溶けてますねぇ。一応私達グッズとかも出してるので出来れば食べ物なんかとコラボしたいと考えたりはしてるんですけど、これが中々上手くいかないんですよ」

男「なんでだ?」

しーちゃん「食べ物っていうのは人の生活にモロに関わる部分ですからね。そういう所に艦娘が関わるのを良しとする人は少ないんです。あとは利権絡みですねぇ」

男「なるほどね、って今はそれはいいんだよ」

しーちゃん「冷たっ!まだ溶けきってなかった…」
347 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:10:34.30 ID:N7J8Cfyv0
男「で!心当たりって!」

しーちゃん「私達三課は当然というか人と関わることが多いです。そうやって人と仕事をして帰ると、たまにあるんですよ」

男「何が」

しーちゃん「この前そちらに伺った北上さんなんかもそうですね。他の娘が人と接触して帰ってきた時言うんです。"人と合ってたの?"って」

男「!」

しーちゃん「そういう娘達に色々聞いたこともあります。でも皆あやふやな感じで、そういう気がした、そんな匂い、気配がしたとか言うんです」

男「匂いに限らないのか」

しーちゃん「私の見解としては、匂いではなくそれに準ずる何か。彼女達艦娘しか感じ取れない感覚的な物じゃないかと」

男「それは人と会った時だけなのか?」

しーちゃん「今のところ、私が知る限りはですが」

男「ふむ」

人と会う、か。この鎮守府で人と言うと俺か提督しかいない。

しかし提督だとしたら秘書艦の叢雲は常にそういう匂いがするんじゃないだろうか。

俺、はないだろう。接触する機会はどう考えても提督より少ない。その密度も。
348 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:11:08.29 ID:N7J8Cfyv0
男「北上なんかが何か感じ取った時の"人と会う"ってのは具体的にどんなレベルの接触なんだ?」

しーちゃん「そうですね…」ウーン

しーちゃんが何やら考え込む。

考え込んでるのか?聞こえないようにお菓子食ってんじゃねえだろうな。

しーちゃん「この前そっちの鎮守府に行って貴方に会った時なんかも言われましたよ」

男「俺?」

あの程度の接触で匂いがするなら叢雲はやはり常にそういう匂いがするはずだ。そもそもあの時は緋色もいたし。

男「ぁぁああ分からん。艦娘ってのは本当に分からん」

しーちゃん「頑張ってくださいね。調査員さん」

男「声援より応援が欲しいな。誰か空いてる人員いないのか?」

しーちゃん「ウチもカツカツなので」

男「あれ、というか緋色の名前知ってるのか」

しーちゃん「報告者には目を通してますから」

男「相変わらず情報の早い事で」

しーちゃん「それではまた、息災で」

男「あぁ、ありがとう」
349 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:11:49.63 ID:N7J8Cfyv0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

緋色の部屋に戻りながらしーちゃんの話を頭で反復する。

男「匂いかそれに近い何か、か。少なくともそういった感覚があるのなら緋色はある程度艦娘としての力や感覚はあるわけだ」

そこは少し安心出来る。

緋色の部屋の前まで来て中から飛龍の声がした。どうやら今日の昼食の当番は飛龍らしい。

男「…」

そっとドアに近寄り耳を澄ます。些か罪悪感を覚える行為ではあるが緋色がどういった反応をしているのか気になるのは確かだ。

緋色『じゃあ飛龍さんも釣るの?』

飛龍『私は釣りはからっきしなのよねぇ。蒼龍によく飛龍は大雑把過ぎるって言われる』

緋色『あー』

飛龍『しちゃう?やっぱ納得しちゃう?』

緋色『はい…』

飛龍『ま、これも私の持ち味って事よ。大胆さなら負けないわ』

大雑把から大胆に変化した。こういうのは捉え方にもよるから間違いではないが。

しかし二人きりでも思ったより緋色は飛龍と仲良くしているようで安心した。
350 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:12:32.01 ID:N7J8Cfyv0
緋色『うーん、飛龍さん今日は潮と、焦げ臭い?』

飛龍『え゛嘘!?取れてない!?今日午後は出撃ないからちゃんとお風呂入ったんだけどなあ…どれくらい臭う?』

緋色『えっと、鼻に来る感じじゃないんです。私もちょっとなんて言ったらいいか分からなくて』

飛龍『…あ〜そういう奴か。そっかそっかぁ緋色ちゃんそういうタイプか』

緋色『タイプ?』

飛龍『大丈夫大丈夫。それ匂いじゃないから、多分ね。でもこの手の話は私イマイチわかんないよのね』

緋色『今朝、叢雲の匂いも少し変だったの』

飛龍『叢雲も?ん、しかも今朝?』

緋色『うん。初めてする匂いだった。叢雲にそれを話したら、なんだか慌てて出て言っちゃって』

飛龍『ブッ』

緋色『飛龍さん!?』

飛龍『待って…ククク、一分待って…フフッ』

そこから本当に一分近く擽りの拷問にでも耐えるかのような声が続いた。
351 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:13:21.81 ID:N7J8Cfyv0
飛龍『まずね、匂いに関してはあまり言及しない方がいいわね』

緋色『いけない事だったかしら…』

飛龍『んーこれに関しては叢雲が気にするかどうかの問題だから緋色ちゃんは悪くないわよ』

緋色『ならどうして?』

飛龍『叢雲はねぇ、十中八九昨晩提督と寝たのよ』フフフ

緋色『ねた?』

提督とねた。ねた?

寝た!?

衝撃で思わず身体が強ばる。つい身体を揺らして扉がガタと音を立てるくらいには。

男「ヤベ」
飛龍『てーーい!!』バン

反射的に扉から離れた瞬間勢いよく開いた。

男『…』

飛龍『…』

男『…』

飛龍『キイテタ?』

男『キイテタ』

飛龍『oh…』

緋色『あ、課長さんおかえり〜』
352 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:14:10.92 ID:N7J8Cfyv0
飛龍「課長さん」

飛龍が顔をずいと寄せて、わざわざ人間の言葉で俺に話しかけてくる。

飛龍「今の話絶対叢雲にしない事。いい!?」

男「お、おう、分かってるって」

飛龍「頼むからねぇ。これバレたら私死んじゃうから多分」

男「そんなにか」

飛龍「ぶっちゃけ叢雲の事に関しては皆結構察してるのよ。今朝だってまた変な寝癖残ってたり服もシワシワだったりとかでさ」

男「…」

全然わからなかった。一目見てそれが分かるのもどうかと思うが、そういう所はやはり艦娘ど同士、女同士だからこそなのだろう。

飛龍「特にその、課長さんにバレるってのは叢雲的に結構大ダメージっていうかね、うん」

男「まあそうだろうな。分かった気をつける」

緋色『二人ともお昼ご飯食べないのー?』

飛龍『食べるー!』
353 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:14:48.72 ID:N7J8Cfyv0
男「待ってくれ、一つだけ」

飛龍「何?」

男「結局匂いって何なんだ?」

飛龍「私もね、そういうのがわかるって訳じゃないから聞いた話なんだけど、なんでも"情景"って表現が一番近いそうよ」

男「情景…」

提督と叢雲の、情景?

…深く考えるのはよそうかな。
354 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/07/12(日) 04:20:52.61 ID:N7J8Cfyv0
しーちゃんはお菓子好き

艦娘は何処まで人間の機能を有して何処から人間では無くなるのか。
今回は艦娘に食べたり出したりという生物的なサイクルは無いという話。
それはそうとなんでも今回の大規模作戦非常に札が多いそうですね。
ウチはどの道足りないのでいいのですが。
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/07/13(月) 20:48:45.72 ID:vts/MIQxo
おつです
艦娘と人間の種族としての違いに丁寧にフォーカスした続きの気になる話

むらむら叢雲
356 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/08/03(月) 03:20:22.50 ID:Lcr1vf/j0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

叢雲『ただいま』

提督「おかえりー」

叢雲『…何してるの』

提督「てるてる坊主をね。お、これはいい感じ」

よしこいつには後で然るべき処置を行おう。

でもその前に

叢雲『課長、電話借りに来たわよね』

提督「あぁ来たよ。五分くらいの短い会話だったけどね」

てるてる坊主作りに夢中な奴の時間感覚は宛に出来ないわね。

叢雲『どんな様子だった?』

提督「様子?別にいつも通り、あーでも終わった後なんだか釈然としないって顔してたかな」

叢雲『へぇ、そう』

提督「そうだ。叢雲も作るかい?てるてる坊主」

叢雲『パス。アンタが仕事に取り掛からない限り雨は降らなさそうだもの』

提督「え、どういう意味」
357 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/08/03(月) 03:21:03.65 ID:Lcr1vf/j0
叢雲『なんでもないわ、それじゃ』

提督「えー」

叢雲『…もうひとついい?』

提督「まだ何か?」

叢雲『私って、臭う?』

提督「におう?え、匂い?匂い…考えた事もなかったな」

叢雲『って事は特にないって事よね!』

提督「まあそうなる、かな。仮に今何か匂いがするなら僕と同じ匂いなんじゃない?それだと僕には分からないかも」

叢雲『確かにそうね…』

提督「後はほら、僕の布団の匂いとか。でもアレ昨日干してくれてたしなぁ。太陽の匂いかもね」

叢雲『そうであると祈っておくわ…』

もし私達には分からない匂いが付いていたらどうしよう…最悪実は皆にバレてました〜なんて事に…

一旦この事は置いておこう。
358 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/08/03(月) 03:21:55.08 ID:Lcr1vf/j0
執務室を後にする。

あの男は確かに司令官の部屋から電話をかけた。時間も決して長くはなかったでしょう。

端末を取り出して連絡先を選ぶ。

叢雲『もしもし、夕張。今空いてる、わよね?』

夕張『はいって言わないと怒られる圧を感じた』

叢雲『当たり前でしょう。この時間仕事は入れてないはずよ』

夕張『プライベート中ですぅ』

叢雲『なら丁度いいわ。仕事よ』

夕張『プライベートって答えたのに間髪を入れず仕事しろと言われた』

叢雲『必要な時に必要な事をするのが私達の仕事でしょ。司令官の部屋の電話、ログを私の端末に送っておいてちょうだい』

夕張『急ぎで?』

叢雲『どれくらいかかるの?』

夕張『ログだけならすぐにでも。中身はちょっとかかるかも』

叢雲『なら取り急ぎログだけでもお願い』

夕張『例の映像とこっちと、どっちが優先?』

叢雲『支障がないならこっちで。頼んだわよ』ピッ

あの男のかけた連絡先。それだけで非常に価値がある。

そういえば司令官はなんか釈然としない顔とか言ってたわね。

一度様子を見に行こうかしら。
359 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/08/03(月) 03:22:48.65 ID:Lcr1vf/j0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

叢雲『あら、また電話かしら?』

男『違うよ。御手洗に行くだけだ』

丁度緋色の部屋から出てきたところに出会した。

叢雲『いまあの娘は?』

男『海について勉強中。準備が出来たら海に出れるんだろ?そのために』

叢雲『なるほどね。準備の方は順調よ。明後日、くらいかしらね』

男『それは重畳。緋色に用か?』

叢雲『ちょっと様子見に』

男『なら、はい』カチャ

叢雲『ん』

私に鍵を渡してそのままスタスタとトイレに向かう。

鍵か。あの娘に随分と甘いように見えるけどこうして今でもしっかり鍵をかけていく。私なんかは別に鍵がなくてももう大丈夫なんじゃないかと思ってるのに。

彼だからこそ分かる危険性があるのか、それとも他の理由か。

叢雲『悩んでも分かるわけないか』ガチャ
360 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/08/03(月) 03:23:32.57 ID:Lcr1vf/j0
緋色『ん、あら?課長さん?』

叢雲『勉強は順調そうね』

緋色『あっ叢雲!丁度良かったわ』

叢雲『丁度良かった?何かあるの?』

緋色『うん。大した事じゃないんだけど。叢雲は何か用?』

叢雲『貴方の様子を見に来ただけよ。それと海に出るって話、明後日位にはいけそうよ』

緋色『ホント!?やった!』

叢雲『その為にもしっかり勉強しなくちゃね』

緋色『はぁい』

叢雲『でも勉強って何やってるの?』

緋色『今は法律よ』

叢雲『あぁ、そうね。それがあったか』

車両に道路交通法があるように船にも海上交通安全法がある。

海なんて広いのだから大丈夫だろうと考える人は多いらしいが海は一つ一つのスケールが陸とは大違いになる。大型船が沈もうものならどれだけの被害になるか。

加えて深海棲艦への対応や艦娘の海上での扱い、船との違いや規則。それらはここ数年で漸く法律でキッチリと定められた。
361 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/08/03(月) 03:24:17.41 ID:Lcr1vf/j0
緋色『覚える事が結構多いわよね』

叢雲『船だけの時は少なかったのだけれどね。今は細かい所まで法律で決められているから』

緋色『これなんか随分最近に出来たものみたいだけれど、これからも増えるのかしら』

叢雲『でしょうね。特に私達の扱いなんかは今もあちこちで揉めてるし、選挙で大きく取り上げられる題材でもあるもの』

緋色『…なんだか大変ね』

叢雲『まあそうね。別にどうでもいい、と言いたいところだけれど、こっちが必死に戦ってる後ろでギャーギャーと言い争ってるのは正直気分悪いわね』

緋色『叢雲?』

叢雲『!ごめん、忘れて』

緋色の心配そうな表情で我に返る。またこれだ。すぐカッとなるのは悪い癖よ叢雲。

叢雲『ところで緋色の用って何?』
362 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/08/03(月) 03:24:51.67 ID:Lcr1vf/j0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

緋色を海に出すとして先導は誰が良いだろうか。

そんなことを考えながらトイレを出て廊下を歩く。

叢雲が理想ではあるがアイツも秘書艦だ。そこまで時間を割くのは難しいだろう。となるとやはり江風か。

んーあまり江風の人となりを知らないからなんとも言えない所はあるが、あまり適任とは思えないんだよなぁ。

他にも協力的な艦娘がいればいいが。

増えていくばかりの課題に頭を悩ませながら緋色の部屋の扉に手をかける。

しかし僅かに開きかけた扉から聞こえて来た声に思わず手を止めてしまった。


緋色『提督と寝たってどういう意味なの?』


男「」
363 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/08/03(月) 03:25:30.37 ID:Lcr1vf/j0
緋色ぉぉぉぉ!!??

なんで聞いた!?直で!何で!?飛龍に叢雲には言うなって言われて…言われ…

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

飛龍「今の話絶対叢雲にしない事。いい!?」

男「お、おう、分かってるって」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

言われてねえ!!!あの時俺が盗み聞きしたせいで緋色に忠告してないんだ!!

ど、どうする…

僅かに開けた扉の隙間から中の様子を見てみる。

叢雲『』

固まってる。

こちらに背を向けて座っているから顔は見えないが十中八九固まってる。

緋色もそんな叢雲を不思議そうに見つめている。

そっと扉を閉め今来た廊下を戻る事にした。

絶対に、絶対に今聞いてしまったと悟られるわけにはいかない。
364 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/08/03(月) 03:26:12.92 ID:Lcr1vf/j0
トイレの前まで戻ってきたがどうしようかこれ。正直混乱していて考えがまとまらない。

すると緋色の部屋の扉が物凄い勢いで開いて叢雲が飛び出してきた。

男「やっべ」

どうしよう。どうすんのこれ!?

廊下にいる俺を見つけるやいなや叢雲が全力ダッシュで詰め寄ってくる。

男「うわっ!?」

ぶつかるかと思った衝撃を直前で綺麗に殺してそのまま俺の胸ぐらを掴んできた。

圧倒的身長差にも関わらず俺を僅かに屈ませたその小さな手の力はとてもさからえる物じゃないと本能が訴えていた。

叢雲『どういうことよ!!』

男『な、何が!?』

叢雲『とぼけないで!アンタが漏らしたんでしょ!』

男『ちげえ!俺じゃねえ!!』

ここままこの真っ赤な青鬼に絞め殺されるんじゃないかと割と本気で思った。

もはやいい訳ではなく命乞いの気分だ。
365 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/08/03(月) 03:28:43.68 ID:Lcr1vf/j0
が、

叢雲『…へぇ、漏らしたってなんの事か分かってるわけ』

男『は?………あ』

やっべぇ…テンパって口走ってしまった。というか叢雲が恐ろしいほど冷静だった。

叢雲『つまり知っているのはアナタと緋色…いや、そもそもなんで…飛龍!?』

男『』

今なお顔は真っ赤なのに推理がどんどん進んでいる。この文字通り脳ミソが複数あるかのような思考は流石艦娘だ。

よく見れば頭のあのアンテナみたいなやつが紅く光っていて僅かに煙まで出ている。フル回転してるようだ…そして

叢雲『…ねぇ』

もう殆ど泣いてると言ってもいいような顔で最後の推測を確かめてくる。

叢雲『誰が何処まで知ってるの』ウルウル

男『お、俺は飛龍から聞いただけだからなんたも…』

もうこれは話すしかないな。
366 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/08/03(月) 03:29:24.50 ID:Lcr1vf/j0
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叢雲『緋色の言ってた匂いの事を飛龍に話したわけか』

男『そしたらピンと来たみたいでな。その提督と、って話を』

叢雲『…そう』

いちいち目を逸らされるのはこっちも精神的にきつい。

男『あー!でも飛龍は口外するなって必死に言ってきたから多分広めてるわけじゃないと思うぞ!』

叢雲『ホント!?』

男『あぁ。緋色には言い忘れてたようだが…』

叢雲『そうよね、あの子も別に軽薄って訳じゃないのだし』

そうかなぁ。

それ以前に飛龍以外にも普通に気づいている娘は多いって話もしてたが、言わないのは嘘じゃないからセーフだ。
367 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/08/03(月) 03:30:04.91 ID:Lcr1vf/j0
叢雲『でも結局匂いってなんなのかしら』

男『飛龍は何か知ってるみたいだったぞ』

叢雲『飛龍が?』

男『緋色の事をそういうタイプかって言ってたし、匂いの事も情景だとかなんとか。聞いた話らしいが』

叢雲『なんだか余計分からない言い方ね』

男『だよな。緋色は俺からは男の人の匂いがするとか言ってたよ。緋色からはシャンプーの匂いがした』

叢雲『昨晩入ったばかりだものね』

男『となると叢雲のも案外シャンプーとかの匂いだったりするのかもな』

叢雲『シャンプー?なんでよ』

男『そりゃあ、そのほら、風呂入るだろ?』

叢雲『入るけど、昨日の夕方よ?流石に匂いは残らないでしょ』

男『え、入ってないの?』

叢雲『え?私朝風呂の習慣はないわよ』

男『え゛』

叢雲『な、何よ?どういう反応なのそれ』

マジか?もしかしてそのまんまなのか?いやしかしそれは流石に臭うだろ…
368 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/08/03(月) 03:30:42.41 ID:Lcr1vf/j0
男『だってほら、提督とー、寝たんだろ?』

叢雲『…ウン』

男『だからほら、臭いとかがこう、な?』

叢雲『何よ!ただ寝ただけでそんなに匂いがつくはずないじゃない!なんなら今ここで嗅いでみなさいよ!別に変な、変な匂いしないわよね…?』ヤケクソ

男『…あれ?』

叢雲『ハッ!そういえば緋色もなんか匂いがどうとか言ってて、まさか本当に匂う…?』

男『???』

叢雲『え?』

男『提督と寝たんだよな?』

叢雲『だからそうだって言ってるじゃない!』

男『ぐ、具体的には?』

叢雲『はあ!?寝る以外に何があるのよ!!』

男『』

叢雲『』ゼェゼェ

男『ごめんちょっと待って』
369 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/08/03(月) 03:31:21.56 ID:Lcr1vf/j0
飛龍はなんて言ってたっけ。

提督と寝た。それだけだったはず。

つまりそれはそのままの意味だと。

寝るに寝る以外なんの意味があるというんだ常識的に考えろははは

男『ごめん。多分これは俺が悪い…あまり認めたくはないが』

叢雲『なんなのよもう…』

お互いにようやく落ち着きを取り戻してきた。

叢雲『緋色になんて説明しようかしら…』

男『そのまま一緒に寝ましたって言えばいいんじゃないか?』

叢雲『嫌よそんな恥ずかしい事!アナタに知られてるのも正直そこそこ恥ずかしいのよ…』

そりゃ見た目は子供とはいえ大の大人と同じ布団でってのは恥ずかしのか。

しかし待てよ?さっきの反応からして叢雲は男女の営みについて全く知らなそうだ。なら

男『そんなに恥ずかしがることか?』

叢雲『アナタには分からないでしょうね。だからまあそこそこなのよ。恥ずかしさは』
370 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/08/03(月) 03:31:56.39 ID:Lcr1vf/j0
男『それについて詳しく聞きたいんだが』

叢雲『聞いてなかったの!?恥 ず か
し い の !これ以上話す理由はないわ』プイッ

男『緋色の為だ』

叢雲『なんでそこであの娘が出てくるのよ』

男『緋色もよく寝てる。というか意識を失ってるわけだが、艦娘にとって睡眠はそれと同じことだろ?だから叢雲が睡眠において何か意味を持っているなら参考までに聞かせて欲しいんだ』

叢雲『…』

叢雲がじっと見つめてくる。

賢い目だ。俺の言うことは十全に理解しているだろう。

それから暫く迷うように目を動かし、やがて下を向きながらポツリと漏らした。

叢雲『アンタのせいよ』

男『俺の?』
371 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/08/03(月) 03:32:40.88 ID:Lcr1vf/j0
叢雲『私達にとっての睡眠は確かに人間のそれとは違うわ。人間はほら、脳を休めるとかなんとかって』

男『まあそんなところだ。脳ミソは容量が消して多くはないらしいからな。日毎にメンテして記憶を整理しないとすぐダメになる。夢もその影響で見るらしい』

叢雲『でも私達は違う。少なくとも数日間寝なくても万全に動けるわ。考えてみれば当たり前の話よ。海上に出た船が夜だから寝ますなんてことは無いでしょ?船員は互いに休息を取り合うけど船は常に動き続けてる』

右脳だけ寝かせて左脳で動く、なんてどこかで聞いたような話を艦娘は本当にできる。それも左右なんてレベルでなく。

叢雲『私達は船だもの。ならその船が眠る時って何時だと思う?』

船が眠る時。

海の底で、記憶の中で、なんて。

男『修理する時、とか?』

叢雲『60点。ま、及第点ね』

男『模範解答は』

叢雲『人が乗っていない時』

誰も乗っていない空っぽな船か。
372 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/08/03(月) 03:33:32.74 ID:Lcr1vf/j0
叢雲『船が船として活動するのは人が乗っている時だけよ。今でこそ様々な役割があるけれど根本的に船は人を乗せ運ぶものなのよ』

男『つまり寝てる艦娘は人のいない船…』

空っぽの船。空洞で伽藍堂で、何も無い。

叢雲『意識を失うってそういう事よ。私達は寝ている時人としての部分が限りなくゼロになる。おかしな話よね。船としては寝ているのに逆説的に殆ど船になるのよ。何も言わない、何も思わない、何も感じない空っぽに』

男『それは意図的に出来るのか?』

叢雲『慣れれば。個人差はあるけれどね。未だに"寝付き"の悪い娘はいるもの』

男『なるほどね。それが艦娘の"寝る"という事か』

ならば海の底で眠るという表現は正しくその通りなのだろう。もはや目覚めることがないという点を除けば艦娘にとって眠るというのは陸だろうと海底だろうと大差はない、のかもしれない。

男『だがそうなるとますます分からないな。それが眠るという事なら提督と寝る理由はなんだ?』

叢雲『それは…』

再び顔を赤くして俯く。しかし直ぐに顔を上げ意を決したように俺を見据えて言った。

叢雲『それは、本当に眠ってしまうのが怖いと、嫌だと、思ってしまったからよ』
373 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/08/03(月) 03:34:11.24 ID:Lcr1vf/j0
叢雲『眠る事に違和感を覚えたことは無かったわ。そういうものだと理解していたから。司令官に言われて人間のように日毎に寝るようにしたところでそれは同じ。毎日メンテナンスをしている、くらいの感覚よ』

男『毎日眠るようにってのは最初から?』

叢雲『殆どそうね。一応マニュアルでは一週間毎にメンテナンスとなっているのだけれど、司令官がそんな私達を見て毎日寝ようって』

男『マニュアルか。一応そういうのは書いてあるんだな』

と言っても確かあれは目安。守らなくてはいけないルールではなかったはず。だからそうでない鎮守府も多いのだ。

叢雲『ちなみに一週間って数字は何か根拠があるのか知ってる?』

男『状況によって、つまりストレスの大小で変わるらしいがただ普通に暮らしているだけなら二週間が不眠の限界値らしくてな。出撃等のストレスを考慮して一週間を基準にしたんだろう』

叢雲『ふぅん…そ』

恐らくあえてつっこまなかったのだろう。

なんで二週間が限界だと分かるのか。限界を超えるとどうなるか。

最もこれに関しては俺も知らない、知りたくもない。
374 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/08/03(月) 03:35:12.12 ID:Lcr1vf/j0
叢雲『これでも初期艦だもの。そうやって毎日毎日寝てると意識を落とすのに随分慣れてね。ある日たまたま司令官が執務室のソファで昼寝をしている時、まああれよ。魔が差したの』

叢雲の視線がブレる。

俺ではなくどこか遠くを見ている。いつかの記憶を見つめている。

叢雲『気持ちよさそうに寝ていた。人は夢を見るというのは教わっていたから気になったのよ。司令官の隣に寄り掛かるように座って、私も意識を落とした』

きっとその時はまだ恥や照れはなかったのだろう。

叢雲『空っぽになるはずだった。でもそうじゃなかった。司令官の鼓動が私の中に響いたの。それは波や機関部や砲撃や砲弾や魚雷や雨や風や、海で出会った何よりも響いたの

まるで司令官を乗せているような感覚だった』

男『乗せる、か。俺らには分からない感覚なんだろうなあ』

叢雲『ええそうね。人間には分からないわよ絶対』

そう断言する叢雲はどこか誇らしげだった。

男『それでその心地良さが気に入ったから提督と?』

叢雲『そうね。でも本音はもう少し後ろ付きよ』
375 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/08/03(月) 03:36:51.60 ID:Lcr1vf/j0
叢雲『あの暖かさを失うのが怖くなったのよ』

さっきも言っていたな。

本当に眠るのが怖い、と。

叢雲『薄らだけど覚えてる。いつかの私もきっとその温もりを抱いて海に出ていたのよ。でも今は違う。今の私達の中にあるのは全て過去だから。司令官のような、あの鼓動のような今がないの』

少し悲しげにそう言うと俺の右手をそっと掴んで自分の胸に押し当てた。

男『お、おい!?』

慎ましやかではあるがそこに確かに存在する柔らかなそれはそれでいてしっかりと弾力があり手の中にすっぽりと
叢雲『まだ響いてるでしょ?鼓動が』

男『うぇ!?お、おう。響いてる、な』

まだ?まだってなんだ?

叢雲『これは私のじゃないわ。私達のは記録を再生しているだけの乾いたものだもの。司令官のは違う。アナタもそうだけど、今を少しづつ刻んでる音だから。止まるまでは、暖かく響き続けてる』

男『…あぁ、そういえば艦娘は寝ている時心音がしないんだったな』

寝ている時は停止している時だから。機関部や動力部と同じで、停止する。

叢雲『今私の中に反響してる暖かいのは司令官のなのよ。まだ過去じゃない鼓動なの』

叢雲の胸から手を離す。心音は、聞こえなくなった。

叢雲『勿論これもずっとじゃないわ。私のよりずっと鮮明だけれど所詮は反響。段々弱くなっていくの。だから、その、定期的に司令官と、司令官を、抱かせてもらってるの…』

この抱くも文字通りの意味なんだろうな。あるいは人間には想像もつかない何かの比喩か。
376 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/08/03(月) 03:38:05.86 ID:Lcr1vf/j0
男『ならやっぱり別に恥ずかしがらなくてもいいんじゃないか?』

叢雲『恥ずかしいわよ。だって私、自分の中にある過去よりも今の温もりを選んでしまっているんだもの』

男『難しいな、艦娘の考えは』

叢雲『だから言ったでしょ。人間には理解し難い価値観よこれは』

男『そのようだ』

叢雲『まあこれは私が恥ずかしいというだけで、というより秘書艦として示しがつかないって感じよ。多分皆にバレたとしても何か言われたりって事はない、と思うわ』

男『結局自分の問題か。真面目だな叢雲は』

事実皆にバレているようだが何も無いということはそういう事なんだろう。
377 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/08/03(月) 03:38:41.84 ID:Lcr1vf/j0
叢雲『以上よ。質問はもう受け付けないわ』

男『ありがとう。恥を忍んで教えてくれて』

叢雲『わざわざ言わなくていいわよ。人間であるアナタ相手ならそこまでじゃないわ』

男『もう何年も関わってると言うのに、艦娘ってのは分からないことだらけだ』

叢雲『というか私達の睡眠についてあまり知らなかったのね』

男『俺が本来見るはずなのは艦娘の過去だからな。名前を探し当てるってのはそういう事だ』

叢雲『ならこれは個人的な趣味ってことかしら』

男『否定は出来ないな…さて後は緋色にどう説明するかだな』

叢雲『そこはまかせるわ』

男『おい当事者』

叢雲『話してあげたんだからそれくらいは頑張ってちょうだい』

男『分かったよ』

叢雲『それじゃ』

ヒラヒラと気だるげに右手を振りながら去っていく叢雲の背中は、しかし不思議と何か憑き物でも落ちたかのような感じがした。

男「そういや最初俺のせいとか言ってたけどどういう意味だったんだ」

あの分じゃ聞いても答えてくれなさそうだし、今は緋色の事に集中するか。
378 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/08/03(月) 03:40:03.64 ID:Lcr1vf/j0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

叢雲『はぁ…』

話してしまった。

緋色の為とは言うけれどそれでもやっぱりアレは話したくはなかった。

でも、話した事で少し気が楽になったという事実もまたどうしようもなく存在していた。

あんな話他の娘には言えないし、司令官にだって言えない。

それが外部の人間になら話せたというだから変な話ね。最も彼も私達に関わっているだけあってただの人間と言うには少し変わっているけれど。

そう。変わってる。何かは分からないけれど。

ともあれこれで今まで溜め込んでいた物が少し吐き出せたのかもしれない。

叢雲『あら?』

端末を見てみると夕張から報告が来ていた。流石に速いわね。

そこには司令官の電話のログがあった。今日使用された一件の電話番号。

私はその番号に見覚えがあった。
379 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/08/03(月) 03:42:46.13 ID:Lcr1vf/j0
私は彼を信用している。そう言ってしまってもいいだろう。

でもそれとこれとは話が別。

私は秘書艦としてこの鎮守府を、司令官を守る義務がある。

進路を変更しながら夕張に連絡を取る。

叢雲『もしもし、例の映像だけど。あぁそう、流石ね。今から行くわ』

真っ直ぐと工廠へ向かう。
380 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/08/03(月) 03:46:58.85 ID:Lcr1vf/j0
e6がキツすぎるので友軍待ち

艦娘にはえ、そこ?みたいな所に物凄く意味を見いだして欲しいという話です。
船って結構音が響きますからね。
私が一番一緒に寝たいのは瑞鳳です。
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/08/03(月) 05:41:51.77 ID:Y+H2J/KDO
おつ
ホントに人間じゃないんだなあと
仮に性行為の概念を教えても理解出来ないんじゃなかろうか
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/08/03(月) 12:37:59.09 ID:oF9u5tTxO
おつ
意味まではわかっても意義は理解できなさそう

僕は那珂ちゃんさん!
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