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タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ part7

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189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/31(火) 00:32:12.87 ID:UxSSfY4l0
>>80「寂れた街」

一番小高いところに続く、コンクリートの階段を駆け上がって振り返る。蔦の這った壁が消えて、のろのろと漁船がやってくる細い湾港と、仄かに揺らぐ更紗のような雲が水平線の彼方までを覆っているのが、初夏の植物の青臭さと潮の香りが混じった風と共に届いた。

「ほら見てみい、ヤッちゃんとこのおじちゃんがかえってきとるが!」真っ白いランニングに白いラインの入った短パンを身に着けた褐色の少年が声を上げた。安物のサンダルは酷使されて足裏が擦れて溝はほとんどなくなっている。

「ちょっと待ってぇな、登るの早いんよ、カッツンは」一つ下の踊り場をようやく越した辺りから、大柄な少年が息を切らせて褐色の少年を見上げていた。白い靴下に青いスニーカー。アイボリーのポロシャツに鉄紺の半ズボン。「そない走られたら、おれはどうやったって追いつけんよ」

 カッツンと呼ばれた少年は縁に設置された手すりに肘を乗せ、口をとがらせて彼を見ていた。まるで対戦カードゲームのカードの交換を断られた時みたいに。「そんなでっかい体しといて、すぐ疲れたとか情けないことやで! ぐちゃぐちゃ言わんと、早よきい!」



 彼らは町に二人だけの中学三年生で、来年には島を出て高校に通う公算である。過疎が進んで高校がなくなって十年以上が経ち、それを当然のこととして受け入れていた。彼らの下の学年はおらず、島を出ていくと同時に中学校には一人だけが入学する。その下の三学年にそれぞれ一人、二人、一人。限界集落として国の資料には記載されていたりもする、そんな町で彼らは育ってきた。

「けーちゃんはええな、勉強ができて! 大学にも行かせてくれるんやろ? そないなったらずっと自慢でけるわ、けーちゃんのこと」
 けーちゃんと呼ばれた大柄な少年は、肩をすぼめてうつむいて少し恥ずかしそうに手を揉んだ。声が大きく活発なカッツンとは反対に気が弱く物静かだったため、二人が並んでいると身長差が縮まったか、あるいはないような感じがする。
「そうでもないで、おれくらいのやつはそこら中におるし、むしろおれは追っかける側やと思う。全然知らんことが山ほどあってな、不安で不安でしょうがないんや。いつここが帰られへん場所になってまうかもわからんしな」
「そない考える必要がどこにあってん、けーちゃん! 悪いことばっか考えとってもあかんで、楽しないやろ! ええこと考え、ええこと!」
「いや、それはおれもわかってん。でも見てみ、おれらが知っとんのはこの島ん中だけやろ? 外にはな、もっとぎょうさん人がおんのや! 望月さんとかな、そんな人がいてん、おれには理解が追いつかんのやよ、どうやったらあないな人がいることができるんかっちゅうことが!」

 カッツンは黙って聞いていた。何か思うところがあったのかもしれないし、あるいは言っていることを理解できる頭がなかったのかもしれない。だがいずれにせよ、無理に説得する姿勢はその場では見せなかった。これまでに身に着けた人付き合いについての学習から、ここは余計な励ましをするべきではないと、意識的にせよ無意識にせよ判断したことは確かだった。

「それにな、見てみい、カッツン。こっから見下ろしたら結構な数の家が見えるやろ? 高台からの景色で言ったら栄えているように見えるやんな? でもな、この家の中で人が住んどる家がどれほどあるっちゅう話や!」                                     一旦中絶
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