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タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ part7

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26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/11/30(土) 18:36:33.55 ID:/MFukC3o0
>>981「悪魔のささやき」

「はずむから、ね?」と、ちょび髭を生やしたモーニングの男が僕の袖を引っ張って言った。

あからさまな怪しさが人の形をとったような男だ。ペタンと張りついたいやに滑らかで細い癖っ毛、ヒマワリの種のような面長な顔、いずれも奇妙な装いを補強してやまない。足元の真っ黒なビジネスバッグは膨れていて、ファスナーがミシミシと軋んでいそうだった。

「ただこれを運んでくれればいいんだ。それさえ承諾してくれればいくらでも払う。もちろん僕が出せる範囲で、だけども」
「帰ります」そんな怪しい稼業に手を出してたまるか。僕には僕の事情がある。
「ちょっと待ってよ、こんなおいしい話はないよ。どこかにこれを運んで渡してくれってわけでもないんだしさ」
「じゃあどっかに置いておけってことですか? それでも嫌ですよ、リスクがある」

男はイトミミズのように薄い唇を曲げ、
「そんなもんじゃ、ないんだけどなあ」と幼げにつぶやいた。見た目との乖離が、おぞましさを増幅させる。

「誰に渡すのでも、どこに持っていくとかでもないんだよ。ただ持って行ってくれさえすればいいんだ」
「それというのは、つまり?」僕は彼に尋ねた。
「なーんもひねりはないんだ、ただこれをもってどこかに行ってくれればいい。飽きたらその辺にほっぽっといてもらって構わないよ」
「捨てちゃって構わないんですか? その中身は大事なものなのでは」
「いや、大丈夫だよ。中見るかい?」

返事を聞く前に彼は足元の茶色い革のスーツケースを引っ張り出し、錠を開けて僕に示した。
「ほらね、カラッポでしょう。君の手でも確かめてごらん」探ると、確かに空である。上げ底の仕掛けもない。

「いくらです?」
「おっ、やってくれるか。ありがたいねえ。これだけ弾んでやる! 大奮発だ」彼はひと月生活できるほどの金を僕に渡した。



裏通りを抜けて一時間ほど歩くとそこには谷があり、大きな鉄筋の橋が架かっている。街は比較的田舎だったのだ。
その上から下をのぞき込むと川が一本流れていて、そこには枝葉が左右からしなりつつ覆いかぶさっていて、川原はほとんど見えなくなっている。
もうここらでいいかな、と思ってスーツケースを放り投げようとした時、後ろから「おじさん何してるの」という幼げな声がした。
振り向くと五、六歳の赤いスカートの幼女が立っていて、その胸にはクマのぬいぐるみが抱かれている。

「おじさん何してるの」ともう一度幼女は言った。
「何してると思う?」
「それ捨てようとしてる」
「そうだね、それの何が悪いのかな。君にそれを咎める力があるのかな」
「あるよ」
「へえ、大層な子だね。でもこっちは……」
そこで幼女は遮って、

「子どもだと思って舐めちゃだめだよ」

すると彼女はクマをしっかり、より強くぎゅっと抱き、一瞬のうちに僕の視界は真っ暗くなった。

どうしたと思ってもがこうとするが、壁のようなものに阻まれてもがくにもがけない。しかもそれは柔らかく、押すと変形するものの破れる気配はない。まったく徒労感を抱かせる様式の壁だった。

「バイバイ」

最後にそう聞こえた気がした。



>>985「光なき世界」

背後で高く鋭い音がしたのでそちらを見ると、涼しげな白いワンピースを着た、長い黒髪の女が立っていた。

「由美子?」由美子というのは半年前に死んだ妻である。そこに立つ女は彼女にそっくりだ。

「ええ、やっと会えた」と女は言った。その足元には写真立てが落ちていて、ガラスの破片が飛び散っている。

「久しぶりだなあ、ずいぶん痩せちゃって」懐かしさにつられて立ち上がり、スリッパを擦りながら手を上げた。彼女はガラスに気を付けるように、と忠告してくれたので、ありがとうと僕は言った。

「私、寂しかったの。友達もいなくて、たった一人で……」両目の尻に光るものが流れて落ち、床に着く前に気化していった。月の光が青く窓に差して、どこか遠い北欧の世界に誘おうとしているようでもあった。

「寂しかったな、辛かったろうに」僕は彼女を抱きしめた。少し冷たかったが、確かに彼女の感覚が僕の元に帰ってきたのだと、閉じた目の奥に涙が落ちた。

「もう離さない」

「ありがとう」と妻は言った。
妻の眦を舐める。かつて折り重なって寝るとき、しばしばこうすることがあったのだ。

「ありがとう」改めて妻は言い、
「これからはずっと一緒ね」

「もちろんだ」僕は返事をした。

身を焦がすような冷たさが僕らの間を駆け巡り、不愛想に座り込む土に囲まれて僕らは眠った。

>>25 ありがとうございます。感想か論評か何かを投じていただけると作者は喜びます。
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