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タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ part7

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36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/05(木) 18:57:57.04 ID:Rjnyhw4Z0
>>32 「太陽の国」

 未明の国土は明かりも消えてしんとしている。厳冬の盆地にあるこの国では、夜間屋外に生命の名残というのはさっぱり見当たらない。東端の山脈を吹き下ろす風が時々細々と寒さに耐えている枝を揺らす音、それがたった一つの息づいたざわめきである。

 昼間までこんこんと降り続いた雪はやみ、半年前には青々としたイネ科の植物が栽培されていた田は真っ白い絨毯をかぶり、急な傾斜の家々の屋根には掌の全長と同じくらいの厚さの真っ新な冠を戴き、それらが青い暗闇に沈んで光っていた。冬の奥地というのは、往々にして静かに黙っているものである。

 山の麓には古風な集落があり、クラシカルな佇まいである。

雨が多く林業も盛んなこの国では多くの伝統的な家屋は木で作られていて、蒸し暑い夏には湿気を吸い、凍える冬には熱の伝導を邪魔していくらか寒さを和らげた。都市部の建物はコンクリートや石造りのものも増えたが、それでもなお一般家屋の多くは木造なことから、この地では木が建材として適していると世間で広く知られているのだ。

 その雪をかぶった村落の家同士の間には広く空いたスペースがあった。
そこは田畑と農道や公道があって、それらがゆとりある空間設計を実現している。開けていて昼間には清々しい晴天が頭上一面に横たわり、小石を空に投げ込んで同心円状の波紋が見れるんじゃないかと錯覚するほどだ。その二つの漠洋とした風景の連携が、この村をいっそう際立って象徴的な姿にしていた。

都市部の家とは異なり、立派な敷地とそれを取り囲む塀がいささかの格調を与えている。どっしりとした軒、威圧的な面構えの門、そして塀の奥にそびえる新木のような大木。どの家も、同じように立派な風格を湛えていた。

 都市部では急激な人口増加により、すし詰めの生活を余儀なくされていた。ますます道は狭く、一棟が占める土地面積も小さくなり、それまで横に大きくなっていた建物は上に伸びた。道幅も制限されていったせいか、路側帯も引かれなくなっていたのだ。

 都市の中心部は針山のように立ち並ぶ高層ビルがその発展具合を誇示していた。それらはガラス張りで、その内側をビジネスマンが慌ただしく駆け回るのはまるで透明な棚に陳列されたミニカーを眺めるのにも似て慈愛心を掻き立てた。しかし活気あふれるオフィスも、深夜になり抜け殻となって凍えている。
ビルの鏡面には蒼く澄んだ月がぽっかりと浮かぶ。


 日の出が近づくと、東の山脈の背後にクリーム色の雲がたなびく。それが見え始めるころに、全土の主婦たちが起き出して一日の始まりを、子どもや夫の弁当の準備で実感するのだ。

 ああ、また今日が始まってしまった、寒い寒い、冬真っ盛りの手先足先が疲れる一日が――
あかぎれた手を撫でて温めながら、彼女らはそう考えながらも家族のために作るのである。

 あとでハンドクリームをたっぷり塗ってやろう。

なくなればあの甲斐性なしに買わせればいい。
それぐらい許されなければならないだろう。

これだけ日々働いているのだから。



 山脈から太陽の頭がのぞくと、その光は瞬く間に国中を駆け巡る。

外れの農村から、地方の小都市から、中枢の大都市まで、一挙に薄黄色の朝日が伸び、氷のような夜から蜂蜜のような朝への大転換を遂げるのだ。

その時、白い雪を撫でる最初の朝風が、東の空を一緒に吹いてまだ闇に沈んでいる雪の影をさらっていく。

木陰も蝶の鱗粉のような爽やかな光にあてられて目を覚ますと、いよいよ子供も夫も瞬く目をこすって起き上がる。
その頃には雪は冷徹さを失って柔らかい表情に変わっている。太陽は山脈を脱し、全身を青空に晒して煌々と輝いている。
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