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タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ part7

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90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/01/19(日) 19:37:04.25 ID:xHGYNUFH0
>>40「私の中の悪魔」

 息子が積み木をうず高く重ねて、褒めて欲しそうな目で私を見た。くろぐろとした丸い瞳がガラスのように光っている。
「あら、こんなに高くできるなんて、すごいね」
 息子は小さな歯を見せて笑った。目の下に小さな皺ができ、床に散らばった積み木で新しい建造物を組み立てようと背を向けた。四つん這いになった背中にシャツがずり上がり、パンツがチラとのぞいている。カラフルな縞模様。その上には、まだ瑞々しい肌が露出している。私はそれに羨望の眼差しを向けずにはいられなかった。私も昔はあんな肌をしていたのに……。息子はそうとも知らず、土台になる大き目な直方体の積み木を探している。

 六年前に結婚してから、平穏の中に私はいた。三年前に生まれた息子は丸っこく、撫でまわしたくなるくらい可愛かった。激務に追われていた夫も長めに育休を取って精力的に手伝ってくれたし、今も土日には家事を手伝ってくれる。金を稼いできているのをいいことに、偉そうな評論家気取りで文句をつける腑抜けた男どもに比べたら、倍数で表すのもバカらしいくらいいい夫だ。家事が下手でないのもいい。三年たっても相変わらず仕事は忙しくて目も回りそうだったから、体をどうにかしてしまわないか、ちょっと心配だったりする。

 うず高く積まれた積み木の塔は、よく見るとかなり安定したつくりだ。一番下の土台が一番大きくなっていて、弱い衝撃では崩れない。それをうっかり蹴飛ばさないような場所で、息子は新しく家を作っている。積み木は二階建てで、屋根は赤い三角だった。居住スペースの、四個の直方体の各辺は几帳面にそろえられている。三歳児が積み木をそろえられる器用さを持っているとは思っていなかったから、これにはちょっと驚かされた。

 ふと、あれが我が家か、と思った。きれいにそろった、安定した空間。絵本に出てくるような赤い屋根。確かに読み聞かせている絵本に出てくる家の屋根はどれも赤かった。塔の屋根も赤い。きっと息子の頭には屋根=赤というイメージが作られているのだろう。それにしても、自由に組み立てられるのにもかかわらず赤い積み木を使ってくれたのは、母親ながら嬉しかった。きっとあの中では私と夫、そして息子自身が睦まじく過ごしているに違いない。夫は働きに出ているが、息子の積み木遊びを見守っているこの瞬間が、私の描く息子との時間の理想に相違なかった。

 積み木を集めるたびに息子の小さな尻が揺れる。可愛らしい桃尻である。つねって、叩いてやりたい気持ちがうずうずと沸き立つ。
 
 ダメ、そんなこと……バレたらこの理想の時間が壊れてしまう……息子は泣くか、あるいは信じられないといった目で私を見上げるはず……。
 
 それは私には耐えられない。ならあの人に対してならどうだろう。誘えば同じ布団で抱き合ってくれる。が、きっとはたかせてはくれない。むしろ私は責められる方なのだ。数度叩いて私が嬌声を立てると、そのまま手を滑らせて下腹の方へ……そして彼のなすがままだ。受けるのは私、責めるのは彼。私が責めて、彼が受けるのではない。
 
 箪笥の上を見ると、スーパーボールがたくさん入ったプラスチックの瓶がある。独身の頃、私はそれでひとり壁当てをして遊んでいた。仕事の愚痴を言ったり、夫(当時はまだ彼氏だった)について惚気たり、推しの尊さを語ったり。学生の頃は息抜きによく泳ぎにっていたものだが、社会人になると時間と体力の関係でめっきり行く機会が減っていたから、それが水泳の代わりになった。

 そして私は一人で酒を飲むと、いつも棚の上の写真立てに向かってしゃべっていた。机の上の写真立てではない、壁を背にした写真立てに向かってだ。写真は黙って私の話を聞いてくれる。頷きもしない代わりに否定もしない。それは実に貞淑に、私を受け止めていた。うっかり熱が入るといつの間にか潰れて、朝になっていたりする。そういう時は頭痛がつきもので、シャワーを浴びると布団に横になって昼過ぎまで眠った。

 それに比べると、息子が言葉を話すようになってからはずいぶん大人しくて暖かい日々だ。イヤイヤ期で骨は折れるけれど、だいぶ物分かりがよくなってきた。保育園にも行かせてみたが、息子は楽しそうにゴムボールを追いかけたり、絵本を先生のところに持って行って差し出したりしていた。
 
 プールに行こうかしら。息子が本格的に保育園に行き出したら、日中に暇な時間もできるだろう。おしゃれなカフェに行くことだってできるかもしれない。誰かと会うこともできる気がする。そうしよう。

 息子が保育園に、平日毎日行くようになったら、おめかしをして、プールに行こう。それでお迎えの時間まで、思う存分沈むのだ。


 

 どうでもいいですが『プールサイド小景』なかなかいいですよね。『静物』もしかり。
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