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【ミリシタ】I have a Dream. 〜Melty Fantasia IF STORY 〜
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/24(日) 09:40:28.41 ID:FWFOK6Xu0
こちらは
『アイドルマスターミリオンライブ!シアターデイズ』内のイベント及び劇中劇である『Melty Fantasia』をモチーフにしたお話です。ドラマCD未視聴で書いたため、良く知らない人でも読める……はずです。きっと。
なお、そのため幾分か(結果的にですが)オリジナル設定となっております。ご注意下さい。
それでは、お楽しみいただければ幸いです。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1574556028
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/24(日) 12:12:54.37 ID:FWFOK6Xu0
──ここはトーキョー・スプロール。荒れ果てた大地にぽつりと佇む楽園都市である。
この楽園では、かつて世界を滅ぼしかけた愚かなヒトに代わり『マザーRITSUKO9』と呼ばれるAIとその移し身たるアンドロイド達による統治……いや、管理が行われていた。その機械仕掛けの管理の下で、ヒトは勤労・治安維持・食料管理──ほぼ全ての活動をアンドロイド達に任せ、自由きままに穏やかな生を謳歌する。
だがその裏で、ヒトは蜘蛛に捕らわれた哀れな蛾のようにゆっくりと衰退していた……出産・育児・教育の権利すら機械に売り渡してしまった代償として。
そんな歪な楽園で、新たに造られた三体のアンドロイド『シホ・ツムギ・ミズキ』の、とある一つの物語が今、静かに終わろうとしていた……。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/24(日) 13:36:28.43 ID:FWFOK6Xu0
【──どうやら私は夢を見ているようです】〜Chapter1:アンドロイド・ミズキ〜
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/24(日) 14:37:23.73 ID:FWFOK6Xu0
先ほどまでの荒野とは打って変わった緑に包まれて、古めかしい木の椅子に“ワタシ”は座っていました。
木漏れ日の中に、ポツンと置かれた古い木のテーブル。
それにツムギが洗った真っ白なテーブルクロスを敷いて、シホの焼いたスコーンと私の淹れた紅茶を置いて。
これは私達のいつもの日課──午後三時のお茶会の場面でした。
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/24(日) 14:39:15.39 ID:FWFOK6Xu0
「さぁ貴女達、宿題は考えてきたかしら?」
午後の麗らかに思える日射しの中で、チハヤが言いました。
ゆったりと腰掛けた椅子がギィと音を立てて。
青々と茂った木々がさらさらと風で音を立てて。
その風に撫でられたチハヤの艶やかな髪に日光が反射して、きらきらと輝いていました。
こうした情景の中でヒトは安らぎを覚えるのだと、私にインプットされた知識が教えてくれていました。
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/24(日) 14:40:30.14 ID:FWFOK6Xu0
──ですが、それらが全て作り物であっても、ヒトは安らぎを感じる事が出来るのでしょうか。“ワタシ”の中に答えはありません。
結局、チハヤに聞く事もできませんでした。
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/24(日) 14:42:48.36 ID:FWFOK6Xu0
「はい」「えぇ!」「もちろんです」
映像の中の私達は、三者三様に応えていました……しかし、かねてから不思議だったのですが、同じ型の基盤を使っているというのに、どうして私達姉妹はこうもバラバラだったのでしょう。とても不思議です。
「うん、よろしい。じゃあ始めましょうか」
チハヤがぱちんと手を合わせれば、それがお茶会開始の合図です。これも、まったくいつもと同じでした。
──“ワタシ”は映像を観ている訳でもなく、かといって各種センサーも機能していない、なんとも言えない不思議な状態です。そんな“ワタシ”をおいて映像は止まる事なく進んでいきます。
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/24(日) 15:06:04.64 ID:FWFOK6Xu0
「今日はそうね、年の若い順にいきましょうか──ということは、シホからね。はい、どうぞ」
「お言葉ですが、私達は同一型番のアンドロイドです。三人ともほぼ同時期に製造されました。確かに覚醒時の時間差によって便宜上姉妹とされていますが、それも誤差と言えるほどの些細なもの……つまり、年の差などほとんどあってないようなものです。なので──」
「シホ?自分が答えたくないからって、屁理屈はいけないわ」
「あの、そうじゃなくて昨日も私からだったんですけど」
意見をバッサリと切り捨てられて、シホは困ったように眉を寄せました。シホは一見冷静ですが、考えていることがすぐに顔に出るんです、特に不満や苛立ちが。
表情に乏しい私とも意外と豊かなツムギとも違う……『隠し事のできないタイプだ』とチハヤは言っていました。
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/24(日) 15:12:52.58 ID:FWFOK6Xu0
「あら、そうだったかしら?」
「そうでした。なので今日は私以外にしてください」
「そんなこと言っても、もう決めちゃったし……」
「だいたい、なんでいつも私が最初なんですか!」
とぼけるチハヤにあくまで譲らないシホ。そんな二人のせめぎ合いに割って入った子がいました。
「いいえ、シホ。チハヤの言う通りですよ」
私のもう一人の妹、ツムギでした。
「例え僅かな差であれ、そこにはれっきとした姉妹の序列が存在するのです。ミズキが長女で、私が次女、そしてあなたが三女という歴然たる序列が──」
「ツムギはちょっと黙っていてください」
「んもぅ、それが姉に対する口ん聞き方なん!?だいたいシホは、ウチのことだけ呼び捨てにして──!」
「ふふ♪ツムギ、また言葉がおかしくなってるわよ?」
「──ッッ!?」
そうなのです。ツムギはツムギで、興奮するなど特定の状況下にあると言語機能が少しだけおかしくなるのです。これも、他の姉妹には見られないツムギだけの特徴でした。
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/24(日) 15:15:41.43 ID:FWFOK6Xu0
「ん、ンン゛ッ!……シホ?それが、姉に対する口の聞き方なのですか?」
「今さら言い繕っても遅いですよ、ツムギ“お姉様”」
「うぅ〜〜〜……」
そして、その度にチハヤやシホにからかわれて、顔を真っ赤にしていましたね。見る度に表情がコロコロと変わるツムギは、本当にかわいらしい妹でした。
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/24(日) 15:17:22.80 ID:FWFOK6Xu0
「うふふ、ダメよシホ。そんなにツムギをからかっては」
「すみません、つい」
「つい……って、もぉ〜なんなん!?」
チハヤは、クスクスと笑っていました。
シホは、チハヤと一緒に微笑んでいました。
ツムギは、顔を真っ赤に膨らませていました。
──“ワタシ”は……どんな表情だったのでしょう。メモリの所在が曖昧で、どんな表情をしていたのか全く思い出せません。
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/24(日) 15:28:59.47 ID:FWFOK6Xu0
──けれど本当に不思議です。“ワタシ”は、“ワタシ”達はどうしてこんなにも違うのでしょう。同じ素体、同じ基盤、目覚めた時間も殆ど同じなのにどうして……。
何度自問しても、答えはまだ見つかりません。
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/24(日) 15:36:30.96 ID:FWFOK6Xu0
「さ、シホ。そろそろ答えて?あなたの思う人間らしさって何?」
「……わかりました」
結局、いつもシホが一番です。はぁ……と息を一つ吐いて答え始めました。
「それはやはり身体構造の違いです。生物であるヒトと人工物である私達とを比べれば、違いは一目瞭然だと思いますけど」
「なるほどね。シホは、人間らしい身体の造りをしている事、生物らしい構成要素を持っている事が人間らしさの証明だと言うのね」
「はい。それが一番端的かつ分かりやすい判別方法だと思います」
なるほど、確かに……私達アンドロイドの中には、見た目からして『まさに機械』という個体も多く存在しています。一つの役割に特化するとそういう傾向が高くなるのも、また事実です。
……けれど。
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/24(日) 15:42:49.91 ID:FWFOK6Xu0
「では聞くけど。義手は?義足は?義眼は?生体部品まで使って限りなく人体に寄せてはいるけど、アレは所詮作り物よ。人間が生まれもった身体構造とは違うわ」
「え?」
「それに、今の御時世じゃあ全身機械に置き換えるっていう『オール義体化』も珍しくないらしいわね。私は世俗には疎いものだから、よく知らないけれど──彼らは人間じゃないってこと?」
「それは……」
そうです。技術の進歩は、身体の欠損を補うことも可能にしました。腕や脚、内臓に至るまで、ヒトは壊れた部分を取り換えられるようになったのです……まるで機械のように。
「う〜ん、そうなると身体の七割以上が機械である私も人間じゃない、ということにはならない?残りの生身だってマザーの庇護無しでは二日と保てない私は、果たしてヒトと呼んでもいいのかしら」
「うっ……」
言葉に詰まるシホへ、チハヤはひらひらと左手を振っていました……それは残った生身でなく、義手の方でした。
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/24(日) 15:45:04.91 ID:FWFOK6Xu0
「それに確か、あなた達の型番にも有機質の部品が多く使われているわね……『ヒトの世話をする際に親近感を抱かせるため』という建前で」
「建前ではありません。『ヒトの役に立つべく働くこと』、それが私達の果たすべき最優先事項であり、この身体はそのために不可欠な機能です」
「そう、だったわね……なら尚のこと、あなた達の方が私よりも人間に近い、という事にならない?あとはそうね、他には──」
「はぁ……わかりました、私の負けです」
これ以上言い負かされる前に、シホが降参しました。はぁ〜……と、もう一つ大きく息を吐いて。これが「ため息」──なのでしょう。データベースもその語彙が適切であると告げてくれています。
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/24(日) 15:51:32.49 ID:FWFOK6Xu0
「ふふ、そう?じゃあ、この辺りで勘弁してあげましょうか」
「やっぱり構成要素の違いだけじゃ駄目なんですね」
「えぇ。それだけじゃ全然ダメね、落第点よ。次はもう少し答えを練ってきた方がいいわ」
「はい。次は言い負かされないように、しっかり考えてきますよ」
「うふふ、期待してるわ」
やり込められたのが余程堪えたのでしょう、シホの瞳はメラメラと燃えているようでした──いや、実際に何か燃えている訳ではないのですが、今なんとなくそう感じたのです。当時の私は、何故これに気づかなかったのでしょう?
「ふふん、やっぱりシホじゃあこんなもんやね♪」
そこへ再び、ツムギが割って入りました。胸をすんと張り、表情もかなり得意げに見えました。余程答えに自信があるのでしょう……ツムギは何と答えたんでしたっけ。
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/24(日) 15:54:43.09 ID:FWFOK6Xu0
「──こほん。しかし、構成要素の違いがそのまま人間らしさに繋がるだなんて、シホも案外単純なんですね。いえ、別に悪いという訳ではありません。実に妹らしくて良いと思いますよ」
「えぇ、そうですね。それでいいですよ、もう……」
「もぅ、シホったら。そうふてくされないで──さてと。ではツムギお姉様は、どのようにお考えなのかしら?」
「わかりました、ウチの答えが一番だってこと証明してあげます!」
「前置きはいいから早くしてくださいよ、ツムギ“お姉様”」
「もぉ、シホはちょっと黙っといて!……コホンッ!私の考える人間らしさとは──それはもちろん『心』です、『感情』です!」
「──ッ!?」
ああ、そうでした。この時は『まさかツムギに先を越されてしまうなんて……』と、得意げに胸を張るツムギをよそに、私が内心とても動揺していたのを思い出しました。
それに『今日はツムギが褒められるのですね……私ではなく』とも。
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/24(日) 16:18:55.51 ID:FWFOK6Xu0
「……そう、心ね」
ですが、チハヤは一言そう呟いたきり、むっつりと黙りこんでしまいました。
「……あの、チハヤ?どうかしたん?」
「じゃあ心とは何?どこに在るの?説明して」
「えぇッ!?ど、どこに?」
「そうよ。それくらい考えてきたでしょう?説明してちょうだい、ツムギ」
「え、えっと、それは……きっとこの辺の、どっかに……」
かと思えば、予想外の強い語調で、矢継ぎ早に答えを迫ってきました。そう、シホの時には見せなかった厳しさです。
ツムギはツムギで、あたふたしながらも、胸に搭載されている動力部を指しました。私も、聞かれたらきっと同じ場所を示したはずです。事実、そう思って成り行きを見守っていました。
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/24(日) 16:21:07.49 ID:FWFOK6Xu0
「じゃあ今すぐ取り出してみせる事が出来る?それに、心ってどんな形をしているのかしら?」
「そ、そんなんできんよ! 形……も、知らんし……」
「あら、心がどこに在るかも、どんな形かもわからないのね?アンドロイドのあなたが、そんな曖昧なものを在ると言ってもいいの?」
「そ、それは……」
「はぁ、これしきの質問にも答えられないのに、自分が一番だなんて良く言えたものね」
「あぅうぅ〜……」
結局、イジワルな追い詰め方にツムギはすっかり縮こまってしまいました。これ以上はさすがにやり過ぎになるでしょう。
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/11/24(日) 16:27:56.58 ID:FWFOK6Xu0
「チハヤ、もうそれくらいにしてあげてください」
「……そうね。ミズキの言う通り、このくらいで勘弁してあげましょうか」
「あんやとミズキ、ウチ……」
「気にしないで、ツムギ。姉として当然のことをしただけです」
「ミ、ミズキ〜」
あぁ、妹よ。どうかそんな目で見ないでください。追いつめられたのが自分じゃなくて良かったと安堵したこの姉を──そこには、ツムギの視線をまっすぐに受け止められない私が、映っていました。
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/11/24(日) 16:30:45.92 ID:FWFOK6Xu0
「ふふ、ごめんねツムギ。それなりに長く生きてると、ありきたりな答えじゃ満足できなくて」
「あ、ありきたり、なん……?」
「ですが、それだけが理由ではないでしょう?……あんまりツムギをいじめないでください」
「やっぱりミズキにはわかっちゃったかしら。ツムギをからかうと楽しくて、つい♪」
「あっー!チハヤ、やっぱりウチの事からかって!」
「でも『ただからかった』というだけじゃないわよ。あんな子供にも思いつきそうな単純な答えじゃあ、攻められて当然よ。ましてや、あの程度のイジワルな質問にも答えられないようじゃ、本当に落第だわ」
「ら、落第……あぅ」
「でも、次は期待してる。大丈夫、ツムギなら出来るわ」
「チハヤ……!」
怒ったりしょんぼりしたり、かと思えば顔を輝かせたり。ツムギは本当に表情豊かです。本当に……かわいい妹でした。
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