ハリー・ポッター「僕の言うことを聞け」ドラ子・マルフォイ「……はい」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/07(土) 21:13:04.37 ID:kNKMPaOnO
「いよいよ明日だな、ドラ子よ」
「はい、お父様!」

マルフォイ家の一人娘、ドラ子・マルフォイはホグワーツ入学を明日に控え、不安と期待が入り混じった複雑な心境で父から訓示を頂いた。

「今更言うまでもないが、マルフォイ家の名に恥じぬよう、勉学に励むように」
「はい! しかと心得ました!」
「魔法薬学を担当しているセブルス・スネイプと私は旧知の仲だ。何か困ったら頼るように」
「はい! わかりました!」

ホグワーツへの入学が決まってから今日に至るまで、ドラ子の父、ルシウス・マルフォイは一言一句全く同じ訓示を何度も繰り返していた。
隣で聞いていたドラ子の母、ナルシッサ・マルフォイはそんな夫に苦笑しつつ口を挟んだ。

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2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/07(土) 21:15:59.63 ID:kNKMPaOnO
「あなた、ドラ子なら大丈夫ですよ」
「ええい! お前は黙っておれ!」
「そんなに我が子が信用出来ませんか?」
「お前は自分の娘が心配ではないのか!?」
「私達の娘ならきっと上手くやれますよ」
「し、しかし、もし虐められでもしたら……」

これまで何度も繰り返されたマルフォイ夫妻のこのやり取りからもわかる通り、目に入れても痛くないほどに可愛い愛娘を溺愛しているルシウスはかなりの子煩悩であり、娘が学校で上手くやっていけるのか、心配で堪らなかった。
無論、ナルシッサとて心配していないわけではないが、男親と違い女親は肝が座っていた。

「とにかく、私からあなたに言いたいことは、明日のお見送りは駅までということだけです」
「そ、そんなことはわかっておるわ……」
「では、どうして朝から馬車の手配を?」
「え、駅まで娘を送る為に決まっておろう!」
「それなら構いませんが、あなた、よもや学校まで乗り込むつもりではありませんよね?」
「な、何をわけのわからないことを……」
「初めてホグワーツに向かう新入生達の輪に入り、汽車の旅の中で出会う友人は娘の一生を左右する大切なものとなる筈です。あなただって、そのくらいはわかっているでしょうに」
「わ、わかっておるわ! そのくらい!」
「ならば、話はこれでおしまいです。ドラ子、良き友人と巡り会えるよう、母は祈ってます」
「はい、お母様! 汽車の旅を楽しみます!」
「待て待て! 勝手に話を終わらせるでない! 最後に私から、もっとも重要な話があるのだ」

妻に痛いところ突かれ、企みを看破され、上手いこと話を締めくくられて、すっかり蚊帳の外に追いやられたルシウスは慌てて母子の間に割って入り、これまで触れてこなかったとある懸案事項について、娘に伝えておくことにした。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/07(土) 21:17:51.79 ID:kNKMPaOnO
「もっとも重要な話とは何ですか、お父様?」

キョトンと首を傾げるドラ子の肩から、父親譲りの美しいプラチナブロンドの髪が、まるで銀糸のような輝きを放ってサラサラと流れた。
母親譲りの青白く尖った顎が特徴的な顔立ちは一見すると冷たい印象を見るものに与えるが、好奇心に輝く瞳は年相応な愛くるしさを放っており、そんな魔法界随一の美少女である愛娘に対して忠告めいたことを口にするのは父としては大変心苦しかったが、何よりも娘の為にこれだけは言っておかなければならなかった。

ルシウスは貴族然とした高貴な威厳を放ち、情けない父親の素顔を隠して、重苦しく告げた。

「かつて、魔法界には闇の帝王が君臨しておったことは、まだ若いお前とて知っておろう」
「はい……存じております」
「あなた、そのお話は……」
「黙っておれ」

先程とは違い、真剣な声音で口を挟んだ妻を黙らせると、表情を強張らせた娘に尋ねた。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/07(土) 21:19:27.61 ID:kNKMPaOnO
「では、その闇の帝王の手から逃れた、生き残った男の子についてはどこまで知っておる?」
「たしか私と同い歳であったと記憶してます」
「そうだ。そして私が集めた情報によると、その子供も明日、ホグワーツに入学するらしい」
「そ、それは真ですか、お父様!」

生き残った男の子。
闇の帝王が放った死の呪文を跳ね除けた際に、額に稲妻の傷を負ったと言われている。
魔法界においては伝説のような存在だった。

そんな男の子と同じ学校に入学して共に机を並べられることにドラ子は興奮を隠し切れない。

「これドラ子、浮き足立つではない」
「あぅ……も、申し訳ありません」

急にそわそわし始めた娘に嘆息して窘めつつ、ルシウスはその子供の危険性に言及した。

「長い魔法史において死の呪文を跳ね除けた者はその小僧しかおらん。極めて危険な存在だ」
「そうでしょうか……?」
「用心するに越したことはない。とはいえ、悪戯に刺激するのは悪手だ。さあ、どうする?」

マルフォイ家の一人娘であるドラ子は貴族としてのやり方を教え込まれており、父からの問いかけに対して、すぐに答えを導き出した。

「味方に引き込むのが上策、でしょうか?」
「そうだ。もし敵対するようなら排除しろ」
「はい、お父様。マルフォイ家の名にかけて」

味方となれば良し。でなければ、即刻排除。
それが貴族のやり方でありそれしか知らない。
恭しく父に一礼してドラ子は気を引き締めた。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/07(土) 21:21:29.73 ID:kNKMPaOnO
あくる日、ホグワーツに向かう汽車の中にて。

「お前がハリー・ポッターか?」

号泣して暫しの別れを惜しむ父と、そんな情けない夫の背を撫でつつ車窓から身を乗り出して手を振る娘に手を振り返す母との別れを終えて、ドラ子は列車を隈なく見て回った。

そして赤毛の男の子と癖っ毛の女の子と座席を共にする黒い髪の男の子を見つけ、父より伺っていた外見的特徴に一致していたので尋ねた。

ドラ子としては普通に声をかけたつもりだったが、教え込まれた貴族としての尊大な振る舞いと冷たい印象を与える雰囲気から、ハリー・ポッターと思しき少年は警戒したらしく。

「だったら、なんだよ」

そんな好戦的な返事をされてドラ子は焦った。
最初から印象が最悪だ。敵対は避けたいのに。
しかしあまりにも無礼な態度ではなかろうか。
互いに子供とはいえ、女から声をかけたのに。

いやいや、ここはひとまず冷静に。
そう、まずは相手の油断を誘おう。
親切心を装い、懐に入るのが貴族。

「ポッター、友達は選んだ方がいい」
「どういう意味だい?」
「いいから、私のコンパートメントに来い」

これならそう簡単には断れない筈だ。
何せ女から誘われたのだ。受けるのが当然。
しかし当然ながら貴族の常識は通じなかった。

「悪いけど、友達は自分で選べるから」

ポッターが返したのは、冷たい一言だった。
ドラ子は耳を疑った。そして言葉を失った。
女の自分から勇気を出して声をかけたのに。
そしてあまつさえ、個室にお誘いしたのに。

なにがなんだかわからなくて、ただ悲しくて。

「ど、どうして、そんなに冷たくするの……?」

わけもわからずに、ドラ子は泣いてしまった。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/07(土) 21:23:41.08 ID:kNKMPaOnO
「ハリー! 君ね、いくらいけ好かない奴だからって、女の子を泣かせるのはよくないよ!」
「そうよ! 謝りなさい!」
「ええっ!? ご、ごめん! ほんとごめん!」

それまでの高飛車な雰囲気は消え失せて年相応な少女のように泣きじゃくるドラ子を見て、ロナルド・ウィーズリーとハーマイオニー・グレンジャー双方から非難の声があがり、ハリーは慌ててドラ子に謝罪するも一向に泣き止まず。

「ほら、蛙チョコあげるから泣かないで」
「ふぇええええんっ!」
「ハリー、君ってやつは罪な男だね」
「とにかく、その子のコンパートメントに行ってみたら? あなたに用があるみたいだし」

車内販売で購入した蛙チョコで機嫌を伺うも効果は見られず、途方に暮れたハリーにロンは呆れ、ハーマイオニーが解決策を提示した。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/07(土) 21:25:24.00 ID:kNKMPaOnO
「でも、僕は君たちと一緒に……」
「なぁに、すぐにまた学校で会えるさ」
「そうよ。だからその子の話を聞いてあげて」

難色を示すと常日頃から能天気なロンは気さくに再会を約束して、世話焼き気質のハーマイオニーに再び促されたので、仕方なくハリーは座席を立ち、泣きじゃくる少女に声をかけた。

「えっと、君のコンパートメントはどこ?」
「……こっち」
「わかった。僕も行くよ。ちなみに名前は?」
「ドラ子……ドラ子・マルフォイ」
「ドラ子か。これからよろしくね」
「……うん」

そんな一悶着がありつつもなんとかハリー・ポッターと接触することに成功したドラ子は、ひゃっくりをしつつ鼻をぐずらせながら、彼のローブの端を摘み、自らのコンパートメントに連れ込んだ。ちなみに残された2人はというと。

「おいおい、嘘だろ。今のがマルフォイ家のお姫様なんて! 信じられない! パパの嘘つき!」
「あらあなた、あの子と知り合いだったの?」
「マルフォイの父親はパパの職場の同僚なんだよ。とんでもないブスだって聞いてたのに!」
「それがあんな美少女だと知った途端に目の色を変えるなんて……男の子って、ほんと単純ね」

ドラ子のあまりの可愛らしさに打ちひしがれたロンを見てハーマイオニーは深々と嘆息した。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/07(土) 21:26:37.07 ID:kNKMPaOnO
「ひっく……えっく……」
「あのさそろそろ泣き止んでくれないかな?」

場面は変わりドラ子のコンパートメントにて。
未だひゃっくりを繰り返すドラ子にどう接していいのかわからず、ハリーは困っていた。
非魔法使い族であるマグルの叔父と叔母に育てられたハリーはその身に宿る魔法使いとしての潜在能力を気味悪がられ、世間体を気にした措置として家の外にあまり出して貰えず、それが理由でこれまで友人を作れずにいた。

もちろん同い年の女の子と接するのもほとんど初めての経験であり、当然泣かせた経験もなく、どうすればいいか見当もつかなかった。

そして奇しくも、そんな彼の心境はドラ子にも当て嵌まっており、箱入り娘として大事に育てられたマルフォイ家の姫君も同い年の友人がおらず、父の友人の子供であるクラッブとゴイルが家にやってきた際にも媚びを売る彼らを冷たくあしらい出禁にした経緯があった。クラッブとゴイルはドラ子のタイプではなかったのだ。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/07(土) 21:28:09.69 ID:kNKMPaOnO
とはいえ、ハリー・ポッターは別だ。
彼はクラッブやゴイルとは全然違った。
少し痩せすぎだけど、可愛い顔をしている。
そして何より、どことなく物憂げで儚い。
そんな表情に、自分と通ずるものを感じて。
ドラ子はこの子なら友達になりたいと思った。

そう、そのためにコンパートメント呼んだ。
そしてその企みは、今のところ順調である。
ドラ子はだんだん、自信を取り戻してきた。

そうだ。自分は成功したのだ。自信を持て。
自分はハリー・ポッターの身柄を押さえた。
思わず流した涙も、立派な手段だったのだ。
むしろ、わざと泣いたと言っても良かった。

ハリー・ポッターの気を引く為に嘘泣きしたのだと思い込むことにしてドラ子は自らの先程の醜態をなかったことにした。女の特権である。

鼻をかんで、涙を拭い、ドラ子は口を開いた。

「ハリー・ポッター」
「ハリーでいいよ」
「そ、そう? では、ハリー」

やや気恥ずかしいが、ドラ子は尊大な口調で。

「あなたをこの私の家来にしてあげるわ」
「遠慮しとく」
「ええっ!?」

調子に乗ると冷たくされるとドラ子は学んだ。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/07(土) 21:29:43.51 ID:kNKMPaOnO
「ど、どうして家来になってくれないの?」
「僕には君に従う理由がないからね」

面食らって尋ねると、さらりと回答された。

「わ、私の家来になれば色々とお得よ?」
「たとえば?」
「実家がお金持ちだから色々融通が利くわ!」
「へーそりゃすごい。でも僕、お金には困ってないんだ。なんか両親が貯めててくれてさ」

お金で忠誠を買おうとするもハリーはポケットに無造作に突っ込んだガリオン金貨を出してみせて、その黄金の山に取りつく島もなかった。

「あなたの両親って、その……」
「うん。どっちも死んじゃってるから、だからこれは遺産ってことになるのかな。僕もつい最近知らされてあんまり実感がないんだけどね」

金貨を再びジャラジャラとローブのポケットに突っ込みつつ、またあの儚げな表情を浮かべるハリーを見て、ドラ子はなんだか胸を締め付けられるような、切ない奇妙な感覚を抱いた。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/07(土) 21:31:32.65 ID:kNKMPaOnO
「あの噂って、本当なの?」
「噂? ああ、闇の帝王がどうのってやつ?」
「偉大な闇の帝王を本当に打ち負かしたの?」
「ヴォルデモートは偉大なんかじゃない」

貴族の仮面が剥がれ落ち、持ち前の好奇心が顔を覗かせたドラ子はついつい興味本位で噂の真偽を追求したのだが、唐突にその名を口にされてぎょっとして、大いに慌てふためいた。

「そ、その名前を口にしてはいけないわ!」
「なんで?」

なんでと尋ねられても困る。そういうものだ。

「とにかくあの人の名前は言っちゃダメ!」
「だから、なんで?」
「なんでもよ!」
「皆、その例のあの人に怯えているんだろ?」

それは当然だ。ドラ子だって怖い。
ドラ子の父や母ですら怯えている。
魔法界に住む者は亜人ですら恐れる存在だ。

「でも、僕は怖くない」

きっぱりと、微塵も揺らがずに彼は言った。
名前を恐れないと。不敬であり不遜そのもの。
けれど、何故だろう。不思議と胸が高鳴った。
この男の子ならば、あの人を破った彼ならば。
名前を言ってはいけないあの人を越えられるのではないかと、そんな馬鹿なことを思った。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/07(土) 21:33:16.55 ID:kNKMPaOnO
「あなたは傲慢なのね」
「君ほどじゃないさ」

率直に所感を述べると、即座に言い返された。

「私は身の程をわきまえているわ」

当たり前だが、貴族には明確な序列がある。
マルフォイ家はその中でも上位ではある。
けれどあのお方には、逆らうことは出来ない。
どう足掻いても不可。絶対且つ圧倒的な支配。
ドラ子はそんな世界の端に存在していた。

「上位者には逆らえないの」
「上位者って、たとえば?」
「そうね、わかりやすく例えるなら学校の先生とでも言えば、あなたにもわかるかしら?」

すると、ハリーは納得しつつも、不満げに。

「でも、先生にも良い人と悪い人がいるよ」
「だとしても、逆らうことは許されないわ」

きっぱり反論を切り捨てるも、彼は納得せず。

「だけど僕らには自分の意思がある」
「だから、意思ではどうにもならないのよ」
「誰に従うかくらいは自分で決められる」

それはまるで子供の駄々。けれど至言だった。

「もちろん学校の先生に対して面と向かって反抗することはよくない。けれど、どの先生に本当の忠誠を誓うのかくらいは自分で選びたい」
「本当の、忠誠……?」
「それは僕らの自由だ」

思わず聞き入ってしまった。
政治にも携わっている父に聞かせたいくらい。
同い年の男の子の演説はドラ子の胸を打った。

「……あなたはやっぱり傲慢ね」
「君は思ったよりも素直みたいだね」

素直というか、単純というか。それでも。
はいそうですなんて、認められないけれど。
ドラ子が影響を受けやすいことは確かだった。
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/07(土) 21:34:48.37 ID:kNKMPaOnO
「ねえ、さっきの人たちだけど……」
「ロンとハーマイオニーのことかい?」
「あまり、親しくなるのはお勧めしないわ」

ドラ子は不思議だった。完全に無意識である。
自分の口が勝手に動いているみたいだった。
とにかく、彼を自分の傍に置きたかった。
その為には彼らが邪魔だった。故に排除する。
それが貴族のやり方でそれしか知らなかった。

「ドラ子、さっきも言っただろう? 僕は自分の友達は自分で選ぶって。忘れたのかい?」
「でも、片方は穢れた血だし……」

俄かにハリーの機嫌が悪くなったことに焦り、つい侮辱的な言葉を口にすると追求された。

「穢れた血? それって誰のことだい?」
「ハーマイオニー・グレンジャーのことよ」

ハリー・ポッターを含め同級生についてはルシウスが調べあげており、ドラ子に伝えていた。
その中でもマグルの両親の間に生まれたハーマイオニー・グレンジャーは特異であった。
穢れた血の癖に純血を凌駕する才覚を持ち合わせているらしく、ドラ子は気に入らなかった。

「穢れた血って、どういう意味だい?」
「両親がマグル生まれの魔法使いのことよ」
「どうして穢れた血と呼ばれるんだい?」
「純血の血を薄汚いマグルの血で汚すから」

今や、血統書付きの純血の魔法使いは少ない。
それは全て、グレンジャーのような穢れた血が魔法界で大手を振って歩いているからだ。
まだ隅で隠れるように生きているならばいい。
しかし、ハリー・ポッターと同席は許せない。

「だから穢れた血なんかと親しくしないで」

けれどハリーは全く興味なさそうな顔と声で。

「僕は血統なんかで友達を選んだりしない」

純血至上主義者ドラ子の価値観を、否定した。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/07(土) 21:36:31.61 ID:kNKMPaOnO
「なんで血統の重要性を理解してくれないの」
「純血だったら魔法を上手く扱えるのかい?」
「そりゃあ、もちろん……」
「でもハーマイオニーは僕の眼鏡を直したよ」

どうやらグレンジャーはハリーに対して貸しを作っていたらしい。ドラ子の苛立ちが募る。

「私だって、そのくらい直せるわよ!」
「でも、僕には直せない」
「だってあなたはまだ教わってないから……」
「この先、僕がハーマイオニーよりも魔法が上手くなれるかはわからないけれど、現時点では彼女が僕よりも遥かに優秀なのは間違いない」

ハリーの言うことは、紛れもなく事実だった。
ドラ子は必死に反論を探したが見つからない。
グレンジャーへの憎しみが増すばかりだった。

「だから、僕にはハーマイオニーが必要だ」
「……っ!」

もう限界だった。杖を手に取り、立ち上がる。

「どこに行くんだ?」
「……グレンジャーに決闘を申し込む」

目障りだった。この上なく。だから排除する。

「私が勝ったら、あなたを私のものにする」
「君が負けたら?」
「私は負けないわ」

自分は純血だ。その上貴族だ。名家の生まれ。
貴族の中でも上位のマルフォイ家の末裔だ。
穢れた血なんかに負ける理由などない。

「君は負けるよ」
「負けない」
「君は弱い」
「私は強い」

諭すハリーと睨み合うと、彼は静かな口調で。

「やめろ、ドラ子」

まるで、父のような威厳に満ちた声で命じた。

「僕の言うことを聞け」
「……はい」

私は弱かった。弱くて情けなくてまた泣いた。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/07(土) 21:38:44.98 ID:kNKMPaOnO
「なんでまた泣くかな……そんなに怖かった?」

先程の迫力が嘘のようになりを潜めたハリーは困った顔をして、ドラ子の背中を撫でている。

彼は別に顔が怖いわけではなくむしろ可愛い。
それでも、有無を言わさぬ何かを持っていた。
それは恐らくカリスマ性のようなものだろう。

ドラ子は、そんなものを持ち合わせていない。
もし自分にそれがあれば彼を所有物に出来た。
けれどドラ子にはそれがなく、だから泣いた。

とても悔しいけれど彼の支配は心地良かった。

「あ、ほら見て、ドラ子」
「ふぇっ……?」
「お城が見えてきたよ。あれが学校かい?」
「はい……あれがホグワーツ魔法魔術学校です」

汽車の車窓から差し込む夕陽に目を細め。
涙で潤む視界に目を凝らして、城を眺めた。
これから自分達は7年間、あそこで学ぶ。

「ドラ子」
「はい、なんですか?」
「なんで敬語なのさ?」

何故と聞かれても困る。支配の継続を望んだ。

「とにかく、改めて、これからよろしくね」
「はい、よろしくお願いします」

ドラ子は頭を下げた。主君に対して、深々と。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/07(土) 21:41:00.35 ID:kNKMPaOnO
『うーむ。これは難しい……どうしたものか』

ホグワーツに着いて早々、儀式が始まった。
帽子が決定する、恒例の組み分けの時間だ。
ホグワーツのクラスは各学年ごとに4クラス。
新入生達は毎年、学校の創設者の名前を取って、グリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフ、スリザリンにそれぞれ分けられる。

ドラ子はもう既にスリザリンに選ばれていた。
マルフォイ家は代々スリザリンの家系であり、そのクラスに選ばれるということは血統の証明とも呼べる、大変名誉なことだった。

ちなみにロンとハーマイオニーはグリフィンドールであり、そして現在はハリーの番だった。

『ああ、困った。困ったのう……実に悩ましい』
「あの、どこでもいいので早くしてください」

ハリーは衆目を集めるのが好きではなかった。
ただでさえ自分はなんだか有名人らしいのに。
組分け帽子が悩むことはとても珍しいらしく。
生徒や教師達は、興味深そうに見入っていた。

『ほう! どこでもいいとな! それは真かな?』
「僕に向いているならばどこでもいいです」

たしかに早く儀式を終わらせる為に、頭の上で悩み続けている組分け帽子に対してどこでもいいとは口にしたが、適当に選ばれては困るので一応、適正のあるクラスと念を押しておく。

『なんじゃ、不安なのかね?』
「それはまあ、少しは」
『案ずるな。君はどこででも成功するだろう』

果たしてそれは、気休めだろうか。
もし本当ならば、早く決めて貰いたい。
でも、両親を奪ったヴォルデモートは学生時代にスリザリンだったらしいと聞いていて、それはなんだかちょっと嫌だとハリーは思った。

『スリザリンは嫌かね?』

率直に言って、嫌だった。
出来れば避けたいのだけど。
ふと、広間で祈る銀色の女の子が目に留まる。
まるで神に祈るように、手を組み瞳を閉じて。
もしあの子が願うならば、構わないと思った。

『スリザリン!』

会場がどよめく。大方の予想を覆した。
闇の帝王を打ち負かした子供の行く末。
次代の王への恐れと期待が入り混じる。

そんな周囲の感情など気にも止めず、ハリーは呆然とした表情を浮かべてこちらを見つめる銀色の女の子の元へと、真っ直ぐに向かった。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/07(土) 21:43:43.24 ID:kNKMPaOnO
「もし良ければ、隣に座ってもいいかな?」
「ふぇっ……は、はい。どうぞお掛けください」

ドラ子は目の前の光景が信じられない。
ハリーは両親をあのお方に奪われた。
それなのに今、彼は自分の目の前にいる。

「そんなに意外だった?」
「は、はい……何かの間違いかと」
「間違えて組分けされたらたまらないよ」

ハリーは冗談めかしてクスクス笑った。
ドラ子はそんな彼の笑顔に目を奪われた。
別段、ハンサムなわけではないけど惹かれる。
一番近くでもっとその笑顔が見たいと思った。

「さて、諸君! 宴を始めよう! 乾杯!」

その後のアルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア校長の祝辞は全く耳に入らず、気づくと校長は語り終えていて、口調こそ朗らかではありつつも、話の最中
、終始全てを見透かすかのようなブルーの瞳が半月の眼鏡ごしに隣に座っているハリーを見つめ続けていたことだけはわかった。

そんな警戒しているのか観察しているのか判断がつかない視線を向けられていた当の本人であるハリーも校長に負けず劣らず、気づいていないのか、はたまた気づきながらも知らんぷりしているのか判断出来ない、とぼけた口調で。

「わあ! すごく美味しそうなご馳走だね!」

目の前に現れた豪勢な晩餐を見て喜んでいた。

「僕、こんなに満腹なの初めてだよ」

ハリーは少々テーブルマナーに疎いらしく。
ほとんど手づかみでガツガツ料理を頬張った。
注意するか迷ったけれど、出来なかった。
こんなにも嬉しそうな彼の機嫌を損ねたくはなくて、それでも頬についたソースが気になり。

「あの、もし良かったらナプキン使います?」
「ん? もしかしてほっぺについてる?」
「はい、これで拭いてください」
「ありがとう! これでキレイになったかな?」

ソースのついた方とは逆のほっぺを拭くハリーを見て、ドラ子はもどかしい気持ちとなり。

「こっちです」
「なんだそっちか。拭いてくれてありがとう」

思わず手を出して彼の頬を拭いてあげると、屈託のない笑顔で感謝を告げられて、ドラ子はもう別な意味で満腹になってしまった。嬉しい。
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