【ミリマス】育「おもちゃのチャチャチャ」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:38:45.15 ID:uct5lrwh0
年末。クリスマスイベントを終えた765プロライブ劇場のアイドルたちは、その翌日大掃除に励んでいた。


真「よし。倉庫の大きいゴミもこれでほぼまとめ終わったかな」

のり子「そうだね。台車が届く前に、燃えるゴミだけこっちに分けておこうか。多分先にそっちを出してもらうことになるだろうから」

歩「粗大ゴミもこの量となると台車に載せるだけでも大変そうだ。……おっ、噂をすればジャストタイミング。おーい、律子ー!」

律子「みんなお疲れ様。台車持ってきたわよ」

真「お疲れ様、律子。育と環も手伝ってくれたんだね。ありがとう」

育「えへへ。これくらい当然だよ」

環「けど、粗大ゴミいっぱいあるんだね。台車5台で足りるのかな?」

律子「そこは私も計算済みよ。まずは比較的軽い燃えるゴミをこっちの小さめの台車に全部載せて運び出しましょう」

のり子「そう来ると思って準備は万端だよ。早速載せていくね」

律子「力仕事は引き続き三人にお願いするとして……育、環、燃えるゴミの台車をバックヤードのゴミ捨て場まで運んでもらえるかしら」

育・環「はーい!」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1578746324
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:40:06.61 ID:uct5lrwh0
育・環「いってきまーす!」

律子「いってらっしゃい。ケガしないようにね」

歩「まああの二人なら心配ないよね」

のり子「けど育も環も今年は大活躍だったよね。ハロウィンイベントも楽しかったなぁ」

真「52人みんなでマイディアヴァンパイアを着られて、ボクも嬉しかったよ」

歩「そういえば、あの時期に育はCDも発売したんだったよね?」

律子「ええ。ハロウィンイベントの後すぐ、同時期に新曲を発売した桃子と一緒にリリイベも開催したわ。こちらも大好評だったわよ」

真「やっぱり年少のみんなが頑張ってるとボクらも身が引き締まるよね」

律子「そうね。――というわけでそろそろ作業を再開しましょうか。私も持ち場に戻るわ。こうしている間にもサボり魔が現れている予感が……」

のり子「あはは……」

真「律子もいくらPが不在だからってあまり根を詰めすぎないようにね」

歩「そっか。今日はP、星梨花たちの映画の舞台挨拶に付き添ってるんだったっけ」

律子「そうよ。あの映画もおかげさまでロングラン上映が続いてるから――」

真「って律子、後ろ見て。廊下の向こう――」

律子「ん? あーっ! 亜美、真美、待ちなさーい!」
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:40:43.77 ID:uct5lrwh0
ガラガラ…

育「だけど冬休み前からずっといそがしいね。クリスマスが終わったら、今度はすぐ新春ライブだし」

環「うん。みんなで大そうじできる日も今日しかないからしっかり終わらせるんだってりつこも張り切ってたからね」

育「大そうじが終わったら、明日からすぐ新春ライブに向けたレッスンが始まるもんね。……Pさんは、今日はずっと来られないんだね」

環「舞台挨拶の後は、せりかとももこの映画雑誌のインタビューに付きそうんだって今朝おやぶん言ってた。そのときもすぐ電話が鳴って忙しそうだったぞ」

育「年末はおとなはみんないそがしいんだね」

環「たまきたちもいそがしいから、なんかおとなみたいで面白いぞ」

育「あはは、そうだね。そういえば環ちゃんが前に出た映画のDVDがもうすぐ出るんだったね」

環「そうなんだ。ジュリアやももこたちといっしょに発売記念イベントもやるんだぞ」

育「桃子ちゃん、すごいなぁ。新しい映画のイベントの後は、前に出た映画のイベントにも出るんだもん」

環「ももこならきっとこう言うぞ。『当然でしょ。桃子はプロなんだから』って」

育「あっ、ちょっと似てるかも」
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:41:21.47 ID:uct5lrwh0
――バックヤード、ゴミ捨て場


環「よーし。ゴミ出し完了だぞー」

育「おつかれさま、環ちゃん。わたしたちだけでもちゃんとできたね」

環「うん! あとはりつこのところにもどって報告だね」

育「……あれ?」

環「?」

育(こんなところにドレスを着た女の子が一人で……どうしたんだろう)

環「育、どうしたの? もしかしておもしろい生き物でも見つけたの?」

育「え? ちがうよ。ほら、あそこに女の子が――あれ?」

環「女の子? だれもいないぞ?」

育(おかしいな……さっきまでいたはずなのに)

育(それにしても、きれいな子だったな。エミリーさんや星梨花ちゃんにも負けてなかった)

育(どこかの事務所のアイドルの子なのかな? でもそれならどうしてバックヤードのゴミ捨て場に……?)
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:42:19.87 ID:uct5lrwh0
環「りつこー、ゴミ出ししてきたぞー!」

律子「あら、二人ともお疲れ様。ちょうど良かったわ。今、キッチンの掃除を終えた春香やひなたたちがお菓子を作り始めたところなの」

育「あっ、もしかしてアップルパイ?」

律子「ええ。完成までまだ時間かかるし、二人ともしばらく休憩していていいわよ」

育「それじゃあわたし、春香さんたちのお手伝いがしたいな」

環「じゃあたまき、まことたちにアップルパイのこと知らせに行ってくるぞ〜」タタタ

律子「あら、もう行っちゃったのね……。じゃあ育、エプロン用意しておくから手を洗ってらっしゃい」

育「はーい!」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:43:24.34 ID:uct5lrwh0
――エントランス


育(えへへ。お菓子作り楽しみだな♪)

???「あなた、中谷育ちゃん……よね」

育「あれ? あっ、あなたはさっきの」

???「こんにちは」ニコッ

育(本当にきれいな子だなぁ……見つめてると、なんだかすいこまれそう)

育「そうだ。えっと、ごめんなさい。今日は劇場は開館してなくて……関係者以外立ち入り禁止なんだよ」

???「そうみたいね。ウェルカムボードにもCLOSEって書いてあったし、お客さん用の入口も鍵が閉まってたから」

育「閉まってたからって……じゃあ、あなたはどうやってここに入ったの?」
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:43:52.94 ID:uct5lrwh0
???「簡単なことよ。わたしはゴミ捨て場のある場所なら、どこにだって行けるの」

育「……どういうこと?」

???「……自己紹介がまだだったわね」

人形「わたしは人形。あなたが生まれる何十年も前に、粗大ゴミとして捨てられたおもちゃの人形なの」

育「ええっ、待って。何を言ってるのかわかんないよ」

人形「この手に触ってみればわかるわ」

育「ひゃっ、冷たい……それに肌が固くてつるつるして……」

人形「そうね。人形から変化したお化けって言えばわかりやすいかしら」

育「そんなお化けが、どうして劇場に……?」

人形「育ちゃん、わたしはあなたに会いに来たの。どうやらあなたは、わたしに似ているようだから」
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:44:42.74 ID:uct5lrwh0
ガヤガヤ…

人形「あら? 今日はお客さんは来ないはずだったんじゃ」

育「まつりさんたちが舞台挨拶から帰ってきたんだ。ねぇ、隠れて!」

人形「平気よ。あなた以外にわたしの姿は見えていないもの。ほら、さっきあなたと一緒にゴミを捨てに来た子もそうだったでしょ」

育(そういえばそうだ。環ちゃん、すぐ近くにこの子がいたのにぜんぜん気づいてなかった…)

響「ただいまー!」

昴「おっす育。大掃除手伝えなくてゴメンな」

育「響さん、昴さん、まつりさん、おかえりなさい」

まつり「はいほー! ただいまなのです。おや、育ちゃん――」

昴「もしかして育、エントランスで一人でオレたちのこと待っててくれたのか?」

育「えっと……うん、そうなんだ。見て。お掃除も環ちゃんたちといっしょにしっかりすませたよ。すごいでしょ?」

響「ほんとだ! 床もぴかぴかだね」
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:45:10.69 ID:uct5lrwh0
まつり「ほ……ではファンのみんなにこのきれいな劇場で新春ライブを楽しんでもらうためにも、レッスンをぱわほー!に頑張るのですよ」

昴「そうだな。――って、今日はこの後レッスンの予定だったか?」

響「予定はないけど、自分今日はまだまだ動けるぞ。少しなら自主練しても大丈夫だよね?」

育「そうだ。今、春香さんたちがアップルパイ作ってるんだよ。練習の前に、みんなで食べようよ」

昴「マジで!? そういうことならオレもちょっとキッチン覗いてこようかな」

響「自分も手伝うぞ。それじゃあ育、また後でね」

育「うん!」

育「……」

人形「あなた、わたしの素性もわからないのに、どうして隠れてなんて言ったの?」

育「だってあなたは、わたしに会いに来たんでしょ。わたし以外の人には会いたくないんじゃないかと思って、それで――」

人形「お化けだとわかっても、まるで怖がらないのね」

育「それは、なんとなく……かな」
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:45:38.46 ID:uct5lrwh0
育「わたしに会いに来たってことにも、何か理由があるんだよね。ねぇ、もしかしてあなたはわたしが捨てたおもちゃのお化けなの?」

人形「違うわ。わたしを捨てたのはあなたじゃない」

育「それじゃあ、あなたはどうしてわたしを知ってるの?」

人形「それは、このCDを見たからよ」スッ

育「これって、わたしが今年の秋に出したCD……」

人形「前にいたゴミ置き場にそれが捨てられていたの。あなたのことを知ったのは、それがきっかけよ」

育「ねぇ、わたしがあなたに似てるって……どういうこと?」

人形「そうね。それじゃあわたしのことを話すわ。わたしがどんな風に捨てられたのか。そしてどうしてお化けになったのかをね」
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:46:06.47 ID:uct5lrwh0
わたしは長い間ある家の物置部屋にいた。

元々わたしの持ち主はその家の娘だったのだが、大人になって他の家に嫁いでしまい、以来わたしは箱に入れられ物置にしまわれていたのだ。

あるときわたしはそこから運び出され、何十年ぶりに箱から取り出された。

わたしを抱えたのは、10歳くらいの女の子だった。

彼女はこの家の夫人の遠縁の子で、元々は母親と二人暮らしをしていたそうだが、

この母親というのが何やら問題のある人物だったらしく、それが原因で一時的にこの家に預けられることになったそうだ。

裕福な家主夫妻は、憐れな少女を大いなる慈しみで迎え入れた。しかしそのどれよりも彼女はわたしとの時間を大事にした。

内気な子だから、いくら優しいお金持ちとはいえ知らない夫婦に優しくされても不安なだけだったのだろう。

知らない土地で、知らない人たちに囲まれ、心を許せる相手もいない生活。

わたしは彼女に名前を与えられ、彼女のたった一人の遊び相手になった。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:46:41.48 ID:uct5lrwh0
彼女は長い時間を部屋で一人で過ごしながら、頻繁にわたしを呼び、微笑んだ。

彼女はわたしに何かを話しかけると、その度にわたしを片手で持って"わたし"に扮して喋り、まるでわたしと会話しているかのように振る舞った。

彼女が演じる"わたし"は、彼女の何をも否定しなかった。

彼女が演じる"わたし"は、彼女のことを「大好きなお友達」だと言った。

彼女が桃色のワンピースを着るときは、"わたし"も桃色のワンピースを着た。花柄のときは花柄を。水玉模様のときは水玉模様を。

そしてエプロンドレスを着るときは、エプロンドレスを着た。

その度に"わたし"は「お揃いの服が着られて嬉しいな」と言った。

彼女と"わたし"がカードゲームやボードゲームに興じると、いつも決まって彼女が勝った。

その度に"わたし"は「すごいね!」と目を輝かせた。
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:47:17.20 ID:uct5lrwh0
それから半年ほどで、彼女はあっさりと母親の元へ戻ることになった。わたしも彼女と共にそこに連れて行かれた。

以前よりは"わたし"と遊ぶ機会の減った彼女だったが、それでも日に何度かは必ず"わたし"に話しかけ、"わたし"もそれに応えていた。

数年後、中学生になった彼女は"わたし"に全く話しかけなくなった。

どうやら新たな友人ができ、そして恋もしたらしい。"わたし"と話す時間もなければ、必要もなくなったというわけだ。

そしてその年の暮れ、彼女と母親はある相談をした。わたしを質屋に入れようというのだ。

結果、質屋がわたしに値を付けることはなく、わたしの入っていた上等な桐の箱だけが買い取られることとなった。

母親に連れられ家に舞い戻ったわたしに、彼女はため息をついた。

「金にならないなら、もう捨てるしかないよね。箱がないなら邪魔になるだけだし」
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:47:43.86 ID:uct5lrwh0
気がつけばわたしは捨てられ、ガラクタの山の中にいた。

かつて人の営みの中で何かの役目を与えられていたであろうモノたちが、見る影もなく雑多に折り重なって造られた山だ。

わたしは認識した。ここが終わりの地。わたしにとっての墓場なのだと。

ふと、"わたし"として話す彼女の声が蘇った。

「わたしはあなたが大好き。ずっとずっと一緒にいようね」

わたしはおもちゃの人形。人の姿をした無力なからくり。人に好きなように操られることで初めて役目を得る。

"わたし"として孤独な少女の傍にいること。それがわたしの役目だった。

その役目を果たし終えたのだから、あとは消滅を待つだけだった。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:48:14.82 ID:uct5lrwh0
しかしわたしは消えなかった。魂を宿し付喪神となり、この世に留まり続けた。

わたしをこの世に留めたものは何なのか。

怨みなど抱いた憶えはない。そもそも怨めるほど彼女に肩入れした憶えなどないのだ。なにせ彼女はわたしの当初の持ち主ではなかったのだから。

この世に未練があるはずなのに、わたしの内側には果てのない虚無が広がるばかり。

その虚無こそが、おもちゃの人形として生まれたわたしに定められた末路であったのだろう。

未練を残し魂を宿したゴミたちは、人や人の営みを怨み、呪う。それが付喪神の一種たるものの性質という。

しかしわたしには怨念などない。あるとすれば諦念だ。おもちゃの人形として生まれたのだから、こうなることは避けられなかったという諦め。

だからわたしは、誰も恨むことも呪うこともなく、ふらふらと何十年も様々な町のゴミ捨て場をさまよい続けた。

目的などなかったはずだ。標的なんていなかったはずだ。

しるべのない旅の中で、わたしは彼女の存在を知った。

この世に生を受けた自由な人の身でありながら、わたしの諦念が共鳴を憶えた少女、中谷育。

別に取り憑きたくなったわけではない。ただふと、会ってみたい。そう思ったのだ。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:49:04.83 ID:uct5lrwh0
人形「――不要になったおもちゃは捨てられる運命。だけどあなたは人間。わたしのようになってはいけない」

育「うん……あなたがどうしてお化けになったのはわかったけど、どうしてわたしがあなたに似てるって思うの?」

人形「あなた……本当に心当たりがないの?」

育「そんなこと言われても、ちゃんと説明してくれなきゃ何が言いたいのかぜんぜんわかんないよ」

人形「育ちゃん……あなたは本当に純粋で優しい心の持ち主なのね。さっきだってわたしを他の子の前から隠そうとしたり……」

人形「だけど少し自覚したほうがいいかもしれない。さもなければ、あなたのその優しさがいずれあなた自身を滅ぼすことになる」

育「ほろぼすって……どうして?」

人形「……もしあなたを人形のように捨てようとする者が現れたなら、わたしはお化けとして初めて人を呪うことになるかもしれないわね」
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:49:56.99 ID:uct5lrwh0
まつり「はいほー! 育ちゃん、お菓子作りのお手伝いをするんじゃなかったのです? 律子ちゃんたちが呼んでいたのですよ」

育「あっ、ごめんまつりさん。今行くね」

人形「長話に付き合わせてしまってごめんなさい。今日はもう十分よ。また明日来るわ」

育(うん……)コクリ

タタタ…


まつり「……」

まつり「……どういうつもりなのです?」

人形「!……あなた、わたしが見えるというの……?」

まつり「ええ。最初にエントランスに入ってきたときからずっと見えていたのです。さっきのお話も、途中から全部聞いていたのですよ」

人形「それなら、わたしが何者かも理解しているということね」

まつり「もちろん。あなたが捨てられたお人形のお化けさんで、何か目的があって育ちゃんに会いに来たことも……」
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:50:37.40 ID:uct5lrwh0
人形「目的……そうね。目的もないのに、こんなに遠くまで来たりしないですものね」

まつり「もしも育ちゃんを危ない目に遭わせるつもりなら、容赦はしないのですよ」

人形「別にあの子に危害を加えるつもりはないわ。しいていうなら、忠告をしに来たというところね」

まつり「捨てられた人形が化けた姿、つまり付喪神の一種……ならあなたにはそうなるだけの怨みや未練があるはずなのです」

人形「……さっき本人にも言ったとおりよ。わたしはあの子に、わたしのようになってほしくない」

まつり「あなたはまつりや育ちゃんが生まれるよりもずっと前からお化けだったはず。育ちゃんのことは、どうやって知ったのです?」

人形「そうね……ここ二十年ほど、わたしは国中の様々な粗大ゴミ置き場を転々と見てきた。あの子を知ったのはそんな中でよ」
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:51:19.19 ID:uct5lrwh0
人形「二ヶ月ほど前、あの子の写真がジャケットに入った同じCDをまとめて捨てに来る人が何人も現れた。中には何十枚って程の束で捨てる人もいたわ」

まつり「封入特典目当て……けれどそんなことアイドルなら誰でも――まさかそのCD、桃子ちゃんとの合同リリースイベントの抽選シリアルが入っていた……」

人形「再生紙ゴミの山にあった色んな雑誌を読んで知ったわ。育ちゃんと桃子ちゃんのCDが同時期に発売され、合同イベントの開催が告知されていたこと」

人形「そしてこれまでの芸能界での桃子ちゃんの境遇についてもね」

まつり「……」

人形「桃子ちゃんは育ちゃんよりも芸歴が長く、何本も映画に出演している。二人が一緒に舞台に立つ限り、こういうことは今後何度でも起きるんでしょうね」

人形「アイドルとしての育ちゃんも、あの子の持つ優しい心も……桃子ちゃんやそのファンのためだけに存在しているわけじゃないはずよ」

人形「もし今後も育ちゃんがアイドルとしてではなく、周防桃子ちゃんを様々な意味で引き立てる人形として扱われるのなら、それがわたしが付喪神として人を呪える理由になるわ」

まつり「あなたの言いたいことはよくわかったのです。けれど、あまり育ちゃんを見くびらないほうがいいのですよ」

まつり「あなたの目的が桃子ちゃんやCDを捨てた桃子ちゃんのファンを呪うことではなく、育ちゃんに会いに来ることにあったなら……きっとじきにわかるのです」

人形「……どういうこと?」

まつり「それはきっと、育ちゃん本人が教えてくれるのですよ」
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