【ミリマス】まつりのスタンドお披露目タイムなのです!【ジョジョパロ】

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2 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:40:12.34 ID:ArvRQigk0
物語の始まりはいつもこうだ。

『むかしむかしあるところに、ひとりのしょうじょがいました』

これは、一歩を踏み出せなかった、今を生きる一人の少女の物語である。



まつりの奇妙な冒険 

PART:Charlotte・Charlotte ――九条まつりはお姫様に憧れる――
3 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:40:42.78 ID:ArvRQigk0
●九条まつり!大和撫子に会う その@●

「イルミルミルミルミルミルミルミルミルミネーショーン♪」

「鏡よ鏡よ鏡さん」

「世界で一番きゅーと! な女の子はだあれ?」

「そ・れ・は」

「この『九条(くじょう)まつり』なのです!」
4 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:41:21.39 ID:ArvRQigk0
まつり「ヒラヒラのスカートにフワフワのお姫様ヘアー。もちろんリボンも忘れてはいけないのです、キュッと」

まつり「これで今日もまつりはびゅーりほー! なお姫様なのです!」
5 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:42:04.88 ID:ArvRQigk0
フリフリのロリータファッションに身を包んだ少女の名は『九条まつり』。
 
近代精神が産声を上げた19世紀より続く伝統ある名家にしてGHQによる財閥解体を逃れた日本有数の企業グループ『九条』の娘である。
 
彼女の物語は、部屋に備え付けられた大きな姿見鏡の前から始まる!
6 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:42:54.56 ID:ArvRQigk0
「あ、お嬢様」

「どこかへおでかけですか」
 
 まつりが部屋から出ると、二人のメイドが彼女を出迎える。
 
 メイドたちは鏡合わせのように瓜二つな双子の姉妹だった。
7 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:43:26.52 ID:ArvRQigk0
まつり「ごきげんよう、亜樹(あき)、真樹(まき)。まつりはちょっとお散歩に出かけてくるのです」

亜樹「はあ、お散歩、ですか」

真樹「今日はお天気もよろしゅうございますからね。お気をつけて」

まつり「はいなのです。お留守番、よろしくお願いするのですよ」
8 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:44:02.53 ID:ArvRQigk0
真樹「お、お嬢様!」

まつり「ほ?」

真樹「そ、その、体のお加減はいかがでございますか」

まつり「……」

まつり「はいほー! ふぁいんさんきゅー! なのです!」

まつり「それではいってくるのです」
9 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:44:35.11 ID:ArvRQigk0
亜樹・真樹「……」

亜樹「おいたわしやまつりお嬢様。『あの日』以来すっかりお人が変わってしまって。九条の後継者は気が狂ったなんて噂も流れる始末」

真樹「ちょっと亜樹! お嬢様に向かってなんてことを!」

亜樹「亜樹が言ったんじゃないよ! でもそうじゃなくても今のお嬢様は……。奥様は奥様で『今はそっとしておきなさい』なんて仰ってるし……」

真樹「きっと何かお考えがあってのことなんだろうけど……。真樹は心配だよ……」
10 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:45:18.41 ID:ArvRQigk0
まつり「アラモ♪アラモ♪」
 
 街の雑踏の中を、まつりは鼻歌混じりで歩く。

 ロリータファッションで鼻歌を歌いながら歩く姿は嫌でも人目を引くが、まつりに気にした様子はない。
11 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:45:44.85 ID:ArvRQigk0
まつり「お日様サンサンでポカポカの陽気なのです」

まつり「これで大きな湖やお花畑があればきっとわんだほーに素敵な景色なのです」

 まつりがスクランブル交差点で足を止めると、ウザいくらいに元気な声が空から降ってきた。
12 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:46:13.38 ID:ArvRQigk0
『1億2千万の乃之ちゃんファンのみんな〜〜〜〜〜っ! 赤根崎乃之(あかねざきのの)ちゃんだよォォォーーーーーーーーーー!』

『今日はみんなにビッグニュースッ! なんと! 乃之ちゃんの新しいアルバムが発売だああァァァーーーーーーーーーーーーーーーー!』

 街頭のビジョンには今をときめく人気アイドルの弾けた笑顔が大写しになっている。

 まつりはそれを見上げて一瞬だけ眩しそうに目を細めたが、

まつり「乃之ちゃんも今や立派なお姫様、なのです」

 すぐに笑顔に戻って、また鼻歌混じりに歩き始めた。
13 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:46:51.13 ID:ArvRQigk0
まつり「ほ?」

まつり「なんだか駅前広場の方が妙に騒がしいのです」

 人だかりの後ろから背伸びしてみると、外国人らしき少女とガラの悪い男たちが対面で話している。

 少女の怯えた表情は、どう好意的に見ても『仲良しこよしでお話』という雰囲気ではなかった。
14 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:47:20.44 ID:ArvRQigk0
バンドマン「だからよォォ〜〜〜ここは俺たちのバンドのショバなんだよなァァ〜〜〜」

異国の少女「あの……私……」

バンドマン「おっと泣くんじゃあないぜ。いいかい? 悪いのはお嬢ちゃんの方なんだぜ〜〜。義理を通さないのは人間の信頼関係を壊すよなァ〜〜?」

異国の少女「で、でも、ちゃんと許可は……」

バンドマン「ポリ公にかああ〜〜〜ッ!」

異国の少女「……ッ!」
15 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:48:00.96 ID:ArvRQigk0
バンドマン「ンなこたぁオレたちにゃあ関係ねえんだよオオォォォーーーーーッ!」

異国の少女「キャッ!」

 バンドマンに突き飛ばされ、少女が倒される。

『おいさすがにヤバいんじゃないか?』『サイテーっ』

 野次馬の声がひそひとと飛び交うも、いかにも『ヤバいチンピラ』然とした男たちに立ち向かっていくものはいない。

バンドマン「ん? なんだぁ〜こいつは」
16 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:48:33.33 ID:ArvRQigk0
 少女が倒れた拍子に、何かが彼女のバッグから飛び出した。

 バンドマンが目ざとくそれを拾い上げる。

バンドマン「けっ、ただの『手鏡』じゃねーかっ。オイッ! こんなくだらねーものよりちゃんとショバ代を」

異国の少女「か、返して……」

バンドマン「あ?」

異国の少女「返してください! それは私の大切な――!」

バンドマン「……!(ピキピキ」
17 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:49:06.12 ID:ArvRQigk0
バンドマン「クソガキが口答えしてるんじゃねーーーーーっ!」

 男はまるでタバコでもポイ捨てするかのように、手鏡を無造作に放り投げた。

 カシャンと音を立てて、手鏡は再び地面に転がった。

異国の少女「ああ!?」

異国の少女「ひ、酷い……!」

バンドマン「酷いのはお嬢ちゃんの方なんだぜ……。イイコにしてりゃあショバ代だけでちゃあああんと信頼関係が築けたのによォォ〜〜〜〜」

バンドマン「ガキの分際でオレを見下しやがってーーーーっ!」
18 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:49:33.59 ID:ArvRQigk0
 男をただのガラの悪いバンドマンだとみなせるのはここまでだった!

 なんとバンドマンは、懐から本物の『ナイフ』を取り出したのである!

『キャアアア!』『け、警察だ警察!』『お、お前助けに行けよ!』『ムチャ言うな! ありゃヤバい目してるぜ……逆上したら絶対やるって目だな』
19 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:50:05.47 ID:ArvRQigk0
バンドマンの仲間「お、おい! さすがにそれはやりすぎだぜっ」

バンドマン「うるせえッ! テメーらは下がってろ!」

バンドマンの仲間「うっ……!」

 バンドマンはナイフを片手に舌なめずりする。

 いかにも小悪党のやりそうな下劣な行為だったが、まだ年端も行かぬ少女に恐怖を喚起させるにはそれでも十分だった!
20 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:50:33.55 ID:ArvRQigk0
異国の少女「ひっ……!」

バンドマン「ケケッ」

バンドマン「オレを見下すやつはゆるさねーっ。悪いことをしたツケは払わなきゃなあ」

異国の少女「だ……」

異国の少女「誰か……」

バンドマン「世の中の『ルール』を教えてやるぜェーーーーーッ!クソガキがァーーーーーッ!」

異国の少女「きゃあーーーーーッ!」
21 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:51:10.23 ID:ArvRQigk0
異国の少女「ひっ……!」

バンドマン「ケケッ」

バンドマン「オレを見下すやつはゆるさねーっ。悪いことをしたツケは払わなきゃなあ」

異国の少女「だ……」

異国の少女「誰か……」

バンドマン「世の中の『ルール』を教えてやるぜェーーーーーッ!クソガキがァーーーーーッ!」

異国の少女「きゃあーーーーーッ!」
22 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:51:38.22 ID:ArvRQigk0
「はいほー!」
23 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:52:09.21 ID:ArvRQigk0
バンドマン「……あ?」

まつり「今日はポカポカいい天気なのです」

まつり「こんなわんだほー!な日に怖い顔は似合わないのです」

まつり「さあ、まつりと一緒に皆がニコニコになれる魔法の言葉を唱えるのです。大きな声で、さん、はい、」

まつり「はいほーーー!」

バンドマン「なんだてめーーはーーーッ! イカれてんのかーーーーーッ!」
24 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:52:45.48 ID:ArvRQigk0
バンドマン「いい気になってでしゃばりやがってーーーっ! これはこのガキとオレたちの問題だぜ、すっこんでな! さもねえと」

まつり「さっきあなたは『ポリ公に』と言いましたが」

バンドマン「あ?」

まつり「このような駅前広場で路上ライブをする際は基本的に『土地の所有者』に許可を得るのです。もちろんここも。『ポリ公』ではないのです」
25 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:53:11.21 ID:ArvRQigk0
バンドマン「そ、それがどうしたァーーーーーッ」

まつり「ここで路上パフォーマンスをしたことがある人なら誰もが知ってることなのです」

まつり「『義理』や『ルール』を大事にするお兄さんがまさか『許可』を得たことがないなんてことはないのです……ね?」

バンドマン「ぐ…ぐぐ……」

バンドマン「ウダウダ言ってんじゃねーーーーーーっ! このヴォケがッ!!」

まつり「ほ?」
26 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:53:39.43 ID:ArvRQigk0
バンドマン「とことん見下してくれたなイカれ女がァーーーーーーーーッ! まずはてめーからぶち殺すことに決めたぜーーーーーっ!」

異国の少女「や、辞めて!」

異国の少女「私のことはいいから逃げて! 逃げてください!」
27 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:54:07.57 ID:ArvRQigk0
まつり「うーん」

まつり「いい人も悪い人もみんなニコニコ、なんてそんな奇跡のような魔法」

まつり「やっぱり、なかなか『本物のお姫様』のようにはいかないのです」
28 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:54:34.81 ID:ArvRQigk0
バンドマン「そのトンチキな面にナイフぶち立ててやらァァーーーーーーーっ!」

異国の少女「ダメぇぇーーーーーーーっ!」

まつり「だからここは一つ」

 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
29 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:55:02.44 ID:ArvRQigk0
まつり「この九条まつり流の『魔法』の」

 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

まつり「すーぱーお披露目タイムなのです!」

 ドギャン!!
30 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:55:32.96 ID:ArvRQigk0
バンドマン「くたばりやが――」

 ドグシャア!!

31 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:56:03.96 ID:ArvRQigk0
バンドマン「へ」

異国の少女「え」

まつり「……」
32 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:56:39.95 ID:ArvRQigk0
バンドマン「ぎ、」

バンドマン「ぎゃあああァァァァーーーーーーーーーーーーーー!?」

異国の少女「……!? ???」
33 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:57:16.91 ID:ArvRQigk0
 まつりを貫こうとしていたナイフは、まるであらかじめ爆弾でもセットしてあったかのように突如として砕けた。

 それを握った男の右手ごと!

 バンドマンの男、異国の少女、そして野次馬……誰一人としてこの不可解な光景を理解するものはいない。
34 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:57:47.23 ID:ArvRQigk0
 しかし!

 我々はこの『魔法』を知っている!

 いや! この『破壊力』とまつりの『そば』から現れたこの『拳の幻影』を知っている!
35 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:58:25.17 ID:ArvRQigk0
バンドマン「いでえェエエーーーーーーーーーーーっ! あ、ががっ、ががーーーっ! て、テメー! お、俺に何をしやがったーーー!?」

まつり「ほ? さっきから何を慌てているのです?」

バンドマン「と、とぼけてんじゃねーーーーーーっ! 俺の右手がぁあああーーーーーー!」

まつり「右手? 右手がどうかしたのです?」

バンドマン「バキバキに砕けてッ! 砕け…………へ?」

まつり「お兄さんは怪我なんてしてないのです。…………ね?」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
36 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:58:59.92 ID:ArvRQigk0
バンドマン「なっ、なんでェーーー!? 俺は確かに……! お、お前らも見てただろ!?」

まつり「そ・れ・と」

まつり「ブスリ!」

バンドマン「ひ!? う、うわああああああーーーーーー!」
37 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:59:26.18 ID:ArvRQigk0
バンドマンの仲間「なあああ!? こ、こいつ! マジに刺しやがったーーっ!?」

バンドマン「ああああああ……あ、あれ……?」

バンドマン「な……」

バンドマン「なんともないッ!?」
38 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:00:04.81 ID:ArvRQigk0
まつり「なんちゃって、なのです」

まつり「はい、お返ししておくのです」

バンドマン「……!?」

バンドマンの仲間「お、おい……お前のそれ……なんか……おかしくないか……?」
39 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:00:30.93 ID:ArvRQigk0
バンドマン「え……ハッ!?」

バンドマンの仲間「お前のナイフ、まるで『アイスの棒』か『医者がベロを抑えるときに使うアレ』みてーになってるぜーーーっ!?」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
40 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:01:42.98 ID:ArvRQigk0
バンドマン「――ッ???」

まつり「ところでお兄さん」

バンドマン「ひ!?」

まつり「まつりは昨日も今日も明日もとーってもお暇なのですが」

まつり「まだ一緒にお喋りしてくれるのです?」

バンドマン「ヒィィィーーーーー!?」
41 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:02:10.77 ID:ArvRQigk0
バンドマンの仲間A「や、やべえよこの女! なんかわからんがとことんやべえ臭いがプンプンしやがるぜーーッ」

バンドマンの仲間B「おそろしいーーッバケモノーーっ」

まつり「ほ? 行ってしまったのです」

まつり「それとまつりはバケモノではなく姫なのです。失礼しちゃうのです」
42 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:02:42.55 ID:ArvRQigk0
 まつりが首を傾げて、バンドマンたちの背中を見送っていると、通報を受けた警官たちが慌ただしく駆け寄ってきた。

警官A「こらーっ! 何をやっとるかーーっ!」

警官A「女の子が絡まれてると聞いて来てみたらあんな男どもを相手に無茶して! 何かあったらどーする!?」

まつり「ほ? おまわりさん、まつりたちはちょっとお話をしていただけなのです。ね?」
43 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:03:09.38 ID:ArvRQigk0
警官A「お話って君ねえ!」

まつり「おまわりさん、もう何もかも済んだことなのです……ね?」

警官B「あー、オホンオホン!」

警官B「どうやらそのようだな。ワシらもパトロールに戻らんと」
44 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:03:38.37 ID:ArvRQigk0
警官A「(はあ? いいんですかい?)」

警官B「(バーカ! ありゃ『九条』の跡取りだ! そんなことも知らんのかお前は!)」

警官A「(ゲェ!? それって頭がおかしくなったって噂の……)」

警官B「(わかったらゴチャゴチャ言わんと話合わせとけ! 行くぞ!)」

 警官たちはまつりに愛想笑いを向けながら、そそくさと去っていった。

 野次馬たちも徐々に散らばっていき、駅前広場は健全な騒々しさを取り戻していた。

45 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:04:13.86 ID:ArvRQigk0
異国の少女「あ、あの!」

異国の少女「助けていただいて本当にありがとうございます」

異国の少女「私のためにあんな危険な目に合わせてしまって……なんとお詫びしたらよいものか……」
46 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:04:48.88 ID:ArvRQigk0
異国の少女「でも……」

まつり「あなたの方こそ大丈夫なのです?」

異国の少女「え? あ、はい、おかげさまで……」

まつり「それは何よりなのです……あ、そうそう」

まつり「あなたも落とし物なのです」
47 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:05:14.36 ID:ArvRQigk0
異国の少女「ありがと……ああ!?」

異国の少女「そ、そんな……」

まつり「ほ? ……あ」

 手鏡にはヒビが入っていた。

 バンドマンの乱暴な扱いからいって無理からぬことだったが、異国の少女は自分が襲われていたことよりも鏡が割れたことのほうが一大事と言わんばかりに取り乱していた。
48 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:05:41.75 ID:ArvRQigk0
まつり「大切なものだったのです?」

異国の少女「これは曾祖母から祖母、祖母から母、そして私へと代々受け継がれてきた、いわば『血統と絆』の証だったんです……」

異国の少女「それを、私が……」

 少女は体を震わせ、その瞳からは涙が滲み出ていた。
49 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:06:08.37 ID:ArvRQigk0
まつり「あなたのせいじゃないのです」

異国の少女「いいえ! 私がもっと注意していれば、私が、もっと、大事に持っていれば……」

まつり「(暴漢に絡まれた時でさえ泣かなかったのに)」

まつり「……」
50 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:06:35.38 ID:ArvRQigk0
まつり「お嬢さん、あなたはとってもらっきー! なのです」

異国の少女「え?」

まつり「何を隠そうこの九条まつりは『魔法使い』なのです」

異国の少女「??」
51 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:07:09.58 ID:ArvRQigk0
まつり「嘘ではないのですよ。ちょっと借りるのです」

まつり「こうして鏡に手をかざして、魔法の呪文を唱えるのです。『イルミイルミルルミネーション☆』」

異国の少女「る、るみるみ?」
52 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:07:37.13 ID:ArvRQigk0
まつり「さあ、あとはお立ち会い」

まつり「月の光の不思議な力が鏡に伝わって……ほら!」

 まつりが手鏡から手を放すと……、
53 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:08:08.35 ID:ArvRQigk0
異国の少女「Wow!」

異国の少女「し、信じられません!」

異国の少女「鏡が『直って』ます! あんなに大きなヒビが入っていたのにキズひとつない!」

異国の少女「それどころか、まるで磨いた後のようにピカピカです!」
54 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:08:37.58 ID:ArvRQigk0
まつり「ね? 本当だったでしょう?」

異国の少女「すごいです! 先ほどのことも私の目の錯覚かと思いましたが……」

異国の少女「まるで『シャーロット・イン・ザ・ミラー』に出てくる魔法みたいです!」

まつり「……ほ?」
55 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:09:13.12 ID:ArvRQigk0
まつり「鏡の中のシャーロット(シャーロット・イン・ザ・ミラー)』を知っているのです?」

異国の少女「もちろん! 私の祖国の子どもは誰もが夢中になるとっても素敵な絵本で……はっ!?」

異国の少女「す、すみません。あまりに驚いたからついはしゃいじゃって……はしたないです」

異国の少女「申し遅れました、私は『エミリー・ランカスター』といいます。改めて、助けていただいてありがとうございました」
56 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:09:54.09 ID:ArvRQigk0
まつり「エミリー……」

エミリー「? どうかなさいましたか?」

まつり「いいえ、可愛いあなたにピッタリの素敵なお名前なのです」
57 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:10:24.23 ID:ArvRQigk0
まつり「まつりは九条まつりなのです。見ての通りお姫様なのですよ」

エミリー「日本のお姫様! まあ! ということはまつりさんは皇族関係のやんごとなきお方なのですね! お会いできて光栄です!」

まつり「ほ、ほ? これは予想外の反応なのです。そこはやんわりと否定しておくのですよ」

エミリー「あれ? でもさっき魔法使いと」

まつり「それはそれ、これはこれ、なのです」
58 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:10:53.27 ID:ArvRQigk0
まつり「エミリーちゃんはここで路上ライブをしていたのです?」

エミリー「そうなんです。実は私、立派な『大和撫子』を目指して修行中の身でして」

まつり「ほ? 大和、撫子?」

エミリー「あの、まつりさん。お会いしたばかりの上に助けていただいた後に差し出がましいとは思いますが」

エミリー「ぜひ、私の舞台を見ていってくださいませんか?」
59 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:11:30.63 ID:ArvRQigk0
 意外にも、異国の少女が披露したのは『和』の色を前面に出した全編日本語のバラード曲だった。

 歌も、踊りも、まつりの目から見ればまだまだ拙く、未熟。

 しかし、そんなこととは無関係に、まつりはエミリーのステージから目を離せなかった。

60 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:12:02.61 ID:ArvRQigk0
 彼女の振舞いには人を惹き付ける『華』があった。

 彼女の歌には聞く者の心を癒やす『優しさ』があった。

 何よりも、舞台とも言えぬ場所で精一杯パフォーマンスを披露する彼女の瞳には『光』があった。暗闇の旅路で夜空の星を見上げるような『夢』と『希望』があった。

 素通りされて然るべき無名の少女の路上ライブに、しかし行き交う人々は知らず、一人、また一人と足を止め、魅入る。

 舞台上で花咲く笑顔に惹かれるように、ギャラリーの間にも次々と笑顔が広がっていく。
61 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:12:30.38 ID:ArvRQigk0
エミリー「ご清聴、誠にありがとうございました! エミリー・ランカスターでした!」

 パフォーマンスを終えて多くの喝采を浴びるエミリーの笑顔に、

まつり「――――――――」

 まつりは拍手も忘れて、『在りし日の面影』を見出さずにはいられなかったのだった。
62 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:13:03.86 ID:ArvRQigk0
 時を同じくして――。

「…………」

 遠くからエミリーのライブを見つめる濁った視線があった。

バンドマン「…………チッ」

バンドマン「ちくしょーー……」
63 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:13:34.09 ID:ArvRQigk0
バンドマン「面白くねーぜ、クソッ、クソッ!」

バンドマン「俺はただスカッとしたかっただけなのによぉぉーーーー」

バンドマン「あんな女どもにまで見下されるなんて、スカッとするどころか余計イラつくじゃねーかヴォケがッ!」

 ガン! ガラガラガラ!
64 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:14:01.73 ID:ArvRQigk0
『ねえ、何アレヤバくない?』『シッ! 目ぇ合わせるな』

 バンドマンが蹴飛ばしたゴミ箱が虚しい音を立てて転がる。

 散らばったゴミは、彼の心の内そのものであるかのようだった。

バンドマン「…………」

バンドマン「どいつもこいつも俺を見下しやがって……!」
65 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:14:36.58 ID:ArvRQigk0
バンドマン「俺の才能にはもっと称賛の目が向けられるべきなんだ、あんなゴミを見るような目じゃねーーっ」

バンドマン「そうだ! 世の中のボケどもから万雷の拍手が送られるべきはあんなガキのパフォーマンスじゃねーーっ、俺のサウンドの方なんだッ!」

66 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:15:03.77 ID:ArvRQigk0
「才能に自信があるのか?」

バンドマン「……へ」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
67 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:15:31.59 ID:ArvRQigk0
 『男』は、まるでずっとそこにいたかのように現れた。

 仕立ての良い『黒のスーツ』を無理なく着こなし、背筋の通った洗練された立ち姿は、ゴミがぶちまけられた路地裏の暗さにそぐわないようでいて、その実一体化するように違和感なく溶け込んでいた。

 『影』のような男は、まるで業務連絡でも読み上げるように、淡々と言葉を続ける。
68 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:16:10.45 ID:ArvRQigk0
「『自分』を『信じる』……言葉にするのは簡単なことだが」

「無闇に己を卑下せず、それでいて決して驕り高ぶらず、『過不足』なく自分を肯定し、貫けるとしたら……」

「それだけで十分、『才』。見込みある人間と言えよう」

「君はどうなんだ?」
69 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:16:38.03 ID:ArvRQigk0
バンドマン「い、いきなり何言ってんだテメーはぁーーー!」

バンドマン「テメーも俺を見下すのか?」

バンドマン「ゆるさねーっ、俺を見下すやつは誰だろーと許さ――」

 ドボォ!!

バンドマン「ぐげっ――!」
70 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:17:05.07 ID:ArvRQigk0
 『スーツ姿の男』から現れた『幻の手』がバンドマンの額をえぐり、『宝石』のようなものを頭に埋め込んでいく!

「君を『プロデュース』してやろう」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
71 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:17:37.20 ID:ArvRQigk0
「この世の法則は『等価交換』。もし君の才能が私のプロデュースに過不足無く見合うものなら」

「君の才能が君自身信じるだけの大きなものなら」

「私が与えた『ピース』は君を新たなる段階へと引き上げる」
72 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:18:15.34 ID:ArvRQigk0
 男の声が聞こえているのかいないのか、バンドマンは虚ろな目で何事かをつぶやき、やがて薄汚れた路地裏に倒れ込んだ。

「……」

 早くもバンドマンに興味を無くしたかのように、スーツ姿の男は首を背ける。

「『Lesson1』だ。――――まつり君」

 その視線の先には遠く、異国の少女と連れ立って歩くお姫様のような少女の姿があった。
73 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:18:43.84 ID:ArvRQigk0
●九条まつり!大和撫子に会う そのA●

 まつりはエミリーを連れて近くのファミレスを訪れていた。

エミリー「やっぱり申し訳ないです……。たくさん助けていただいたのにその上甘味を御馳走だなんて……」

まつり「大丈夫なのですよ。まつりは暇とお金だけはたくさん持て余してるのです」
74 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:19:10.94 ID:ArvRQigk0
エミリー「そ、そうなのですか? でも……」

まつり「無理やり連れてきたのはまつりなんだから、エミリーちゃんは遠慮なんてしなくていいのです。それに」

まつり「まつりはエミリーちゃんともっと仲良くなりたいのです。ね?」

エミリー「……! はい!」

エミリー「私ももっとまつりさんとお話がしたいです!」
75 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:19:37.70 ID:ArvRQigk0
まつり「大和撫子というのは『アイドル』のことだったのですね」

まつり「エミリーちゃんはどうしてアイドルに?」

エミリー「両親、特に父が日本贔屓で、幼い頃からこの国の素晴らしさを聞かされてきました」

エミリー「そして以前、神社で舞を奉じるアイドルの凛とした美しさを見て、私の心にさわやかな風が吹くのを感じました。その時から不肖エミリー・ランカスターは」

エミリー「『大和撫子』に憧れるようになったのです!」
76 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:20:07.04 ID:ArvRQigk0
エミリー「……まだ公式初舞台も踏んでいない新参者ですが」

まつり「つまり、デビュー前の新人さんなのです? でもさっきのステージはそうとは思えないほど堂々としててとってもわんだほー! だったのです」

エミリー「い、いえ、私なんてまだまだ未熟者です! うう……お恥ずかしいところをお見せしてしまいました」

まつり「そんなことはないのです。エミリーちゃんは将来立派なお姫様になれるのですよ。この九条まつりが保証するのです」
77 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:20:35.79 ID:ArvRQigk0
エミリー「お姫様、ですか? でも私は大和撫子に」

まつり「『お姫様』と『大和撫子』は同じ場所を目指しているのです。少しばかりアプローチの仕方が違うだけなのですよ、きっと」

エミリー「はあ……。まつりさんのお話はちょっと難しいです」
78 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:21:30.29 ID:ArvRQigk0
まつり「ところでずっと気になっていたのですが……エミリーちゃんには『プロデューサー』はついていないのです?」

エミリー「プロデューサー……ですか?」

まつり「さっきの現場はエミリーちゃん一人だったのです。もしちゃんとエミリーちゃんの面倒を見てくれる人がいたなら、危ない目にも合わなかったかもしれないのです」

エミリー「そうですね……。一応予定を管理してくださる方はいますが、何分私の所属事務所はごく小規模なものですから。私のような新人に付きっきりというわけにはいかないのだと思います」
79 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:22:07.07 ID:ArvRQigk0
まつり「そうなのですか。むむむ、それはわんだほーに由々しき事態なのです」

エミリー「まつりさん、プロデューサーとはそんなに大事なものなのでしょうか」

まつり「もちろんなのです!」
80 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:22:36.42 ID:ArvRQigk0
まつり「アイドルにとってプロデューサーは例えるならお姫様を守るナイト! 諏訪彩花ソロ曲の作詞作曲を手掛ける松井洋平! 井口達也の原作に対する歳脇将幸の『チキン』! 女の子が輝き、立派なお姫様になるためのお手伝いをしてくれる一蓮托生のパートナーなのです!」

エミリー「そ、それほどまでに……! 今まであまり困ったことはなかったのですが……。なんだかちょっと不安になってきました」
81 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:23:04.15 ID:ArvRQigk0
まつり「大丈夫なのですよ。きっとすぐにでもエミリーちゃんを見初めた素敵なナイト様が迎えに来てくれるのです。ね?」

エミリー「だといいのですが……いえ! つまりはどなたかの目に留まるように精進あるのみ、ということですよね!」

まつり「ぐっど! その意気なのです!」
82 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:23:34.38 ID:ArvRQigk0
エミリー「それにしてもまつりさんはアイドルにとてもお詳しいのですね……ハッ!?」

エミリー「まつりさんは『お姫様』なんですよね」

まつり「ほ?」

エミリー「ひょっとして同業のお方、それもご先輩だったりするのでしょうか!?」

まつり「…………」
83 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:24:01.17 ID:ArvRQigk0
まつり「まつりはお姫様で魔法使いですが、アイドルではないのです」

まつり「ただ、まつりの身内がアイドルだったから、ちょっと知る機会があっただけなのです」

エミリー「まあ、ご家族が! 素敵です! 今もご活躍されているのですか?」
84 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:24:31.26 ID:ArvRQigk0
まつり「……いえ」

まつり「『姉』はもう、アイドルは、辞めちゃったのです」

エミリー「……そう、なんですか」

まつり「………………」
85 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:25:22.89 ID:ArvRQigk0
店員「お待たせいたしました。『花咲夜の贈り物〜和甘味三種盛り合わせ〜』と『娼婦風スパゲティ』でございます」

エミリー「あ、ありがとうございます」
86 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:25:58.12 ID:ArvRQigk0
まつり「さあさあエミリーちゃん、立派なお姫様になるなら甘くてフワフワしたものをたくさん食べないといけないのです」

エミリー「そうなんですか? あれ? でもまつりさんの方は」

まつり「まつりは生まれたときからお姫様だからいいのです」

エミリー「なるほど、まつりさんはもう遥か高みにおられるのですね、尊敬します! それでは、いただきます」

エミリー「ん〜♪ 苺の甘みと絡み合った抹茶の苦味が芳醇な香りとなって鼻から抜けて……はう〜……幸せでしゅ……♪」

まつり「すぐにでもお仕事が来そうなわんだほーな食レポなのです」
87 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:26:32.51 ID:ArvRQigk0
エミリー「さっきのまつりさんの『魔法』、あのような力は初めて見ました。あれはどういった仕組みなのでしょう?」

まつり「魔法……、ああ、あれは……そうですね、むむむ」

エミリー「ああいえ! お答えしにくいことでしたら別に構わないんです、ちょっと興味が湧いただけで……。私ったらまたはしたないことを……」
88 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:27:00.67 ID:ArvRQigk0
まつり「…………エミリーちゃん」

 スゥゥゥ…
 ドン!!

まつり「『これ』、見えるのです?」
89 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:27:27.66 ID:ArvRQigk0
エミリー「……え? 何がですか?」

まつり「……いえ、なんでもないのです」

 スゥゥゥ……

エミリー「??? まつりさん?」

まつり「実はまつりにもよくわからないのです」

エミリー「え?」
90 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:27:57.05 ID:ArvRQigk0
まつり「ある日、突然さっき見せたようなことが出来るようになったのです」

まつり「わかるのは、まつりの魔法は『破壊されたものを治せる』ということだけ」

エミリー「『治す』……」
91 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:28:30.16 ID:ArvRQigk0
まつり「今までに同じような力を使える人には会ったことがないのです」

まつり「(『これ』が見える人も)」

まつり「だから、これが本当に魔法なんて呼べるようなものなのかも――」

エミリー「すごいです! とっても素敵な力だと思います!」


92 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:28:58.51 ID:ArvRQigk0
まつり「……ほ? ……素敵?」

まつり「気味が悪い、とは思わないのです?」

まつり「お話の中の魔法使いは悪い人もたくさんいるのです」
93 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:30:51.69 ID:ArvRQigk0
エミリー「とんでもない!」

エミリー「まつりさんがいなければ私はどうなっていたかわかりません」

エミリー「運良くこの身は無事だったとしても、割れてしまった大切な手鏡を前にただ途方に暮れるしかなかったでしょう」

エミリー「赤の他人であるはずの私を助けてくださったまつりさんの魔法は、私にとってこの世のどんなものよりも強くて優しい力です」

まつり「……優しい、力……」
94 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:31:19.62 ID:ArvRQigk0
エミリー「何度でも言わせてください。本当にありがとうございました。まつりさんは私の恩人です」

まつり「……………」

まつり「エミリーちゃん」

まつり「まつりは、『あの日』からずっと、この力の意味を考えてきたのです」
95 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:31:55.25 ID:ArvRQigk0
エミリー「え?」

まつり「『優しい力』。そんな風には考えたこともなかったのです」

まつり「私の『魔法』は、本当にそうやって誰かを……、」

まつり「………………?」
96 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:32:23.51 ID:ArvRQigk0
エミリー「まつりさん?」

まつり「エミリーちゃん、頭に糸くずが……」
97 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:32:50.39 ID:ArvRQigk0
 まつりには、エミリーの金髪に紛れる『糸』の煌めきが見えたような気がした。

エミリー「え? 糸くず? どこですか?」

まつり「ほら、そこ、に…………!?」
98 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:33:20.61 ID:ArvRQigk0
 僅かな違和感はゾッと肌が粟立つようなおぞましさに!

 今までけっこう呑気してたまつりに、一気に緊張が走る!

まつり「(違う!!)」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
99 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:33:48.11 ID:ArvRQigk0
まつり「(こ……、これは…………!)

まつり「(糸くずなんてものじゃあないッ!)」

まつり「(エミリーちゃんに『糸』が絡みついている! どうして気付かなかった!?)」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
100 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:34:14.85 ID:ArvRQigk0
まつり「(いいえ、エミリーちゃんだけじゃない)」

まつり「(私にも、奥のテーブルにも、天井から床まで……!)」

まつり「(『糸』は……)」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

まつり「(この店内の至るところに張り巡らされているッ!)」
101 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:35:12.99 ID:ArvRQigk0
エミリー「ま、まつりさん? どうしたのですか? いきなり怖い顔をされて」

まつり「……!?」

まつり「エミリーちゃん……この糸が…見えていないのです……?」

エミリー「糸……?」

まつり「(見えていない!)」

まつり「(エミリーちゃんだけじゃなく、店の中の誰にもッ!)」
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