【百合モバマス】南条光・小関麗奈「罪色カタルシス」【ヒーローヴァーサス】

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10 : ◆K1k1KYRick [saga]:2020/04/01(水) 21:38:40.76 ID:cPpLvxGd0
「うぅ……ッ! アタシのファーストキスをどうしてくれんのよ……このバカ!」

麗奈は頭からアタシに罵倒を投げている。

アタシだって恥ずかしいから気持ちは分かる。

けど、そんなにきつく嫌わなくても、とアタシは悔しくなって思考の定まらないまま言い返した。

「……! だって! 本当にキスしたかったんだ!
 麗奈はいつもよりずっと綺麗で、かっこよかったし……!
 そう考えていると、女の子の役とアタシの境目がなくなって……っ!
 麗奈に対する気持ちが……我慢できなくなって……!」

「なっ……! なっ……! なっ……!」

もう自分でも何を言っているのか分からない。

麗奈だけじゃない、アタシだってファーストキスだったんだ。

麗奈が好きって気持ちに嘘はない。

衝動的とはいえ、いい加減な気持ちでキスなんて出来る事じゃない!

「それでも本番にやるなんてどうかしてるわよ!?
 アンタにアタシの気持ち分かるの!?
 他の奴らに見られる中で……『好きな相手』にキスされたこの気持ちが!」

竦み上がっていたアタシは、一瞬、彼女の言葉に耳を疑った。
11 : ◆K1k1KYRick [saga]:2020/04/01(水) 21:39:08.27 ID:cPpLvxGd0
「好きな相手……って……」

「全っ然気づいてなかったでしょ! 鈍いにもほどがない!?
 ……ずっと馬鹿みたいに真っ直ぐで
 馬鹿みたいに格好良かったアンタを見て
 アタシがどう思っていたかなんて……っ!」

顔を上げると、麗奈は目頭を熱くしたまま手で口を抑えていた。

「アンタは知らないけど、アタシなんか八年間よ!
 構って欲しくて、ずっとアンタと張り合ってきたのに……!」

「麗奈……」

いつも素直じゃない麗奈の、真っ直ぐな想いを向けられ

アタシは嬉しい反面どう返答していいのか困り、間を開けてしまった。
12 : ◆K1k1KYRick [saga]:2020/04/01(水) 21:39:44.81 ID:cPpLvxGd0
「あー、チョイ、チョイ」

そんなアタシたちの間に割って入ったのは、禿げ頭で小太りの中年男性。

なりこそ小汚ないが彼は名の通った特撮監督で、デビュー辺りから

アタシと麗奈に懇意にしてくれている共通の恩師でもある。

「盛り上がっている所悪いが、仕事中だぞお嬢ちゃんたち」

アタシと麗奈はすぐ切り替え、頭を深々と下げて詫びた。

「まあいい、さっきの二人ともスゴく良かったぜ。お陰でエモい絵が撮れた、撮れた」

「か……監督!? まさかさっきのシーンを使う気じゃ……!?」

「別に良いじゃないか、尊みがあってよぉ。
 脚本見た時なんか足りねぇなぁって思ってたんだが、そうだ、キスだ。
 こんだけ格好良く助けられたら男も女も関係ねぇ。
 キュンときた心を抑えきれる方が不自然ってもんだ」

「ダメダメダメダメダメッッ!」

アタシと麗奈は千切れんばかりに首を左右に振った。 

「こんなキス元々台本にないし!」

「固い事言うなよ、アドリブって事で良いぜ俺は」

「とにかくダメったらダメっ! カットして!」

「あーはいはい、分かった、分かった。
 大胆に告白かました恋人のために、このシーンはカットして本編では使わないよ。
 あーあ、もったいないねぇ……」

ようやく監督が折れたので、麗奈はまた気持ちを入れ替えて撮影に挑む。

しかし、まさか麗奈もアタシを好きだなんて思ってもみなかった。

アタシの出番はあれで終わりなので、監督の隣に座ってずっと麗奈を見ていた。

彼女の視線とかどうしても意識して一人でに熱い汗が滲み出てくる。
13 : ◆K1k1KYRick [saga]:2020/04/01(水) 21:40:31.77 ID:cPpLvxGd0
   #  #  #

「皆、差し入れ買ってきたわよー」

お弁当惣菜の詰まった袋を抱えて麗奈が帰ってきた。

年少組のアイドルたちが礼を言ってそれぞれ好きなものをチョイスしていく。

「フフ、全部今日が賞味期限だからせいぜい焦って食べなさい」

「麗奈ちゃん、遠いスーパーまで足運んで半額品買ってくれるよね。やりくり上手」

半額おにぎりを食べつつ、千佳が口を出す。

そう、デビューした時からコンビニおにぎりとか賞味期限ギリギリの食べ物ばかりを

差し入れしてたため、みんないつの間にか買い出しを麗奈に任せるようになったのだ。

「ちっ、違うわよ! いいからさっさと食べなさい千佳!」

その時、麗奈と目が合った。

何か言おうと思うが、意識してしまうと簡単な言葉が出ない。

麗奈は視線を逸らした後、アタシに差し入れを突き出した。

「……えっと、その……ほら、光にもあるから……」

「うん……ありがとう……」

やっとそれだけ言うと、麗奈の隣で食べ始める。

チラチラと彼女の横顔を盗み見る。

端正な、それでいて愛らしさの残る顔立ちが

艶のあるストレートヘアと調和していて、魅力的だ。
14 : ◆K1k1KYRick [saga]:2020/04/01(水) 21:41:10.46 ID:cPpLvxGd0
「何かさー、光ちゃんたちも素直になりなよ」

アタシたちの頭の間から、千佳が顔を出す。

「……何がよ千佳」

「告白済みなんでしょ? 堂々と付き合っちゃえば?」

「こ、告白って……! そんなんじゃ……」

「そうよ、千佳! 変な事言ってたら差し入れ返し……」

「ふーん、これでも?」

するといきなり千佳は後ろから腕を回して抱きついてきた。

女の子特有の甘く柔らかな香りと共に、千佳の可愛い顔が間近になってドキッとした。

十七歳なので魔法少女アイドルとしての旬は過ぎたものの

菜々さんと一緒に魔法少女アニメの声優として活躍していたり

女子アニメグッズのCMタレントとしていたりと引っ張りだこだ。

今でもデビュー衣装でステージに上がればファンは感涙するとか。
15 : ◆K1k1KYRick [saga]:2020/04/01(水) 21:42:22.32 ID:cPpLvxGd0
「……ッ! 何してるのよ!」

「ほーら、ヤキモチ焼いてるー。光ちゃん知らないでしょ?
 あたしと光ちゃんが屋上で遊んでた時、麗奈ちゃん陰でずっと怖い顔して見てたんだから。
 ずっと遊びたそうにしててさ」

「本当? 麗奈、が……?」

「……っ! 嘘よ嘘っ! そんな訳ないでしょっ!
 千佳、いい加減ホラばかり吹いていると……っ!」

「じゃあ二人は付き合ってないの?
 ……それならあたしが光ちゃん貰っちゃおうかなぁー」

さっきから千佳の甘い女の子の匂いを意識してしまってアタシは全く落着けなかった。

「光ちゃんてば格好いいし、可愛いし、憧れてる女の子結構多いんだよ?
 告白しただけでカノジョ気取りしてたら、恋愛慣れしてない光ちゃんだから
 あたしが手を出さなくても誰かにフラフラ靡くかも……」

「そ、そんな事……やぁっ!? ち、ちょっと、千佳ぁ!?」

千佳はセーターの上からアタシの胸をほぐすように揉み始めた。

それも麗奈に見せびらかすように。

麗奈の顔からみるみる余裕がなくなっていく。

こういうと怒られるかもしれないが

彼女の嫉妬している顔を見ていると、何か無性に嬉しくなった。
16 : ◆K1k1KYRick [saga]:2020/04/01(水) 21:42:48.61 ID:cPpLvxGd0
「ダメに決まってるでしょ、そんなの!」

麗奈はたまらないって感じでアタシの腕を掴んで抱き寄せた。

思ってた以上に力強くてドキドキする。

千佳の言う通り、アタシは本当にこういうのに耐性がないのかもしれない。

頭を上げると麗奈の朱に染まった顔が見える。

目が合うと、アタシたちはますます頬を火照らせた。

唇にあの時のキスの感触まで蘇ってくる。

「あっ、見てみて! これ光ちゃんたちの特撮じゃない?」

千佳の後ろから舞がテレビを指差して言った。

とにかく話題を逸らそうとアタシは渡りに舟とそれに食いつく。

すると、近くにいたアイドルたちが番組を見ようと寄ってきた。

舞は千佳の隣でジュースを飲みながらあまり縁の無い特撮シーンを興味津々に見ていた。
17 : ◆K1k1KYRick [saga]:2020/04/01(水) 21:43:19.62 ID:cPpLvxGd0
「麗奈ちゃんってバイク乗れたんだー」

「スタント頼りのアクションは趣味じゃないからね。
 どお、アタシにかかればちょっと練習しただけでこのクオリティよ?」

「麗奈ちゃんは、拓海さんと夏樹さんの猛特訓で
 半べそになりながらバイク頑張ってたんですよ〜」

「ちょっと、七海! ばらすんじゃないわよ!
 内緒にしろって言ったでしょ!? 光、コイツ悪よ!」

「ハハハ、麗奈は努力家だか、ら……」

「んっ、どうし……って!? ェエエエエエエ!?」

アタシたちはガラスが震える程の悲鳴を上げた。

   #  #  #
18 : ◆K1k1KYRick [saga]:2020/04/01(水) 21:44:02.74 ID:cPpLvxGd0
「プロデューサー! どうなってんのよッッ!」

その後で麗奈はトイレから帰って来たプロデューサーを早速問い詰めた。

「何だよ」

「アレの件についてよッ!」

麗奈はテレビを指差した。

そう、お蔵入りにしたはずのあの告白が今、液晶に大きく映っていた。

オーディエンスの響声が止まない中で番組のゲストたちは

それをネタに面白おかしく盛り上げていく。

アタシは爪先から頭の先まで赤くなったまま固まっている。

シャベルがあればその場に穴を掘ってでも埋まりたかった。

「キスシーンよ、キスシーン!
 あれはカットされたってアンタ言ってたわよね!?
 なのに何でっ! この特番で流れてるのよッ!?」

「何でって……NGシーンやお宝映像系の特番なんだから当然だろ?」

「話が違うって言ってんのよ!」

麗奈が捲し立てている間にもそのシーンは流れている。
19 : ◆K1k1KYRick [saga]:2020/04/01(水) 21:45:48.44 ID:cPpLvxGd0
「嘘は言ってないぞ、『本編には』使ってなかったろ?
 いやぁしかし思ったよりガッツリいってたんだな……ちゃんと舌入れたか、光?」

アタシはうつむいて両手で隠したまま顔を横に振るので精一杯だった。

「トンチ小僧してるんじゃないわよ! 早く苦情を……」

「まあまあ……見てみろよこれを。
 80%だぞ?こんな視聴率見たことない。
 Twitterでトレンド入りも時間の問題だな」

呑気にプロデューサーは笑っているが、あのシーンが流れてから

事務所の電話が一斉に鳴り出している。

ちひろさんはかかってくる電話を他の事務員さんたち同様に片っ端から対応していた。

「プロデューサーさん、トレンドの前に
 光ちゃんたちのキスに関する問い合わせの電話が……!」

「落ち着きなってちひろさん。無闇に電話で何でも応えちゃいけない。
 しばらく相手を飢えさせておいて情報の単価を釣り上げるんだ。
 とりあえず主だった営業先には今のうちにヒーローヴァーサスをセットで売り込んでおこうか。
 ただそうなるとライブを含めた今後のスケジュール調整を見直す必要が……」

「すっ……! 好き勝手な事を……ッ!」

アタシに続いて気丈な麗奈まで声が泣きそうになっている。

「麗奈ちゃん、早速Youtubeに例のキスシーン流れてるけどどうする?」

「決まってるわよ千佳! そんな違法動画、著作権侵害で削除してやるわッッ!」

「おいおい消すなよ。折角さっき投下した公式宣材を」

「プロデューサー! アンタどっちの味方なのよッッ!」
20 : ◆K1k1KYRick [saga]:2020/04/01(水) 21:46:19.73 ID:cPpLvxGd0
   #  #  #

それからレイナは逃げるように事務所を出ていった。

プライドの高い彼女の事だから皆にからかわれるのは堪えられなかったんだろう。

アタシも居心地が悪くなり、レイナを探しに屋上に行った。

彼女は膝を抱えて座っていた。

「……何よ、光」

追ってきたのはいいもののどう言葉をかけたら良いのか分からない。

アタシはただ彼女の傍に腰を下ろした。

春が来たとはいえ、外の空気はまだまだ寒い。

「そもそもアンタのせいだからね……」

「うん……ごめん」

「ごめんで済む訳ないでしょ。……どんな顔して歩けばいいのよ、これから」

「……麗奈」

アタシは彼女の手に自分の手をそっと重ね合わせた。

顔を合わせるのは流石に恥ずかしかった。
21 : ◆K1k1KYRick [saga]:2020/04/01(水) 21:46:46.49 ID:cPpLvxGd0
「アタシ、男の人とすら付き合った事ないけど……その……麗奈が良ければ」

この気持ちを言うのは二度目なのに、どうも歯切れが悪い。

あの時は半分勢いがあったけど、告白する女の子って

本当は皆、こんな気持ちになるんだろうか……。

「これからも、ずっと仲良くしていきたいんだ……麗奈が、好きだから……」

「……。響かないわよ、そんな言葉」

えっ、とアタシは顔を上げた。

すると麗奈は両手をアタシの頬に添えて無理やり自分に見つめ合わせた。

互いの熱い視線が交差し、顔と顔の間でぶつかり合う。

ため息つくほど綺麗な麗奈の顔は、凄く凛々しかった。

「そう言うのはね、ちゃんと目を見て言いなさいよ。
 昔、アンタがいつもイイ子ちゃんなセリフぶってた時みたいに!」

「あ、うん……」
22 : ◆K1k1KYRick [saga]:2020/04/01(水) 21:47:22.37 ID:cPpLvxGd0
逸らしていた眼をもう一度麗奈に向ける。

勇気を奮ったアタシを、彼女は真剣に見つめ返していた。

「麗奈が好きだ、つ、付き合ってほしい!」

「……言えたじゃない」

途端に麗奈は、さっきとは打って変わって愛らしい笑顔になった。

「……んっ……!?」

口端が釣られて上がるよりも早く、麗奈の顔がぐっと寄ってきた。

アタシは冷たい床に背中を預けたまま押し倒され、唇同士が重なり合うのを感じていた。

「……やられっぱなしは性に合わないからね!
 遅くなったけど、あの時のキス、倍にして返してやるんだから……!」

レイナはそう言い捨てると再び唇を押し付ける。

焼けるくらい甘くて切なくなる彼女のキス。

無意識に指と指が次々と交差し合い、互いに握り握られを繰り返していく。

麗奈の長く真っ直ぐな髪が垂れ、アタシたちのキスをカーテンのように隠した。

ああレイナ、アタシ、我慢出来ないよ……。

どんどんレイナが欲しくて堪らなくなる。

やっぱり、レイナは特別なんだ。こんなに恋しくなるんだから。

ファンの皆、ごめん……今だけはアタシ、ちょっと悪い子になるね……。
23 : ◆K1k1KYRick [saga]:2020/04/01(水) 21:49:08.95 ID:cPpLvxGd0
うおっしゃああああああああああああああああああ!!!
レイナサマに声ついたああああああああああああ!!!
かわえええええええええええ!!!



以上です
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/01(水) 22:48:46.69 ID:5iJOFxvDO


舞ちゃんの出番がまるでなく、由愛ちゃんの出番がまったくないのには感心できませんが、エモいです
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