王馬「大変だ!オレが行方不明になっちゃった!」

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1 : ◆DGwFOSdNIfdy [saga]:2020/04/01(水) 22:51:31.07 ID:0hKVEWNQ0
王馬「で、なんの話をしてたんだっけ?」

最原「…言われてみれば、なんだったろう」

王馬「しっかりしてよ」

最原「そこはお互い様でしょ」

モノクマ「もう!ふたりとも勝手に入り込んで何してんの!」ヒョコッ

最原「…やっぱり見付ける前に見付かっちゃったね」

王馬「だねー」

モノクマ「いや、ボクの質問に答えてくれない?」

王馬「逆に訊きたいんだけど、エグイサルが5体とも使用中の今、この場所で何が出来るって言うの?」

モノクマ「だったら尚更ここにいる意味なんて無いでしょ。全く、油売ってる暇があるなら事件のひとつやふたつ起こしてほしいもんだね!」プンスコ

王馬「はあ…分かった、出て行くよ。まだ探してない場所は幾らでもあるからいいもんね」

最原「寧ろなんで真っ先にこんな所へ来たんだんだよ…」

モノクマ「ほら、とっとと出てった出てった!」ガオー!

王馬「うわぁクマが怒ったぞ!食べられる前に逃げろー!」タッタッタッ…

最原「あ、ちょっと待ってよ王馬くん!」タッタッタッ…

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1585749090
2 : ◆DGwFOSdNIfdy [saga]:2020/04/01(水) 22:54:47.61 ID:0hKVEWNQ0
※ニューダンガンロンパV3の二次創作SSです
※キャラ(の人格)崩壊注意
※原作の致命的なネタバレがあります
※ついでに暴力描写も含みます
※ドントシンクだ!フィールだ!
3 : ◆DGwFOSdNIfdy [saga]:2020/04/01(水) 22:58:19.99 ID:0hKVEWNQ0
undefined
4 : ◆DGwFOSdNIfdy [saga]:2020/04/01(水) 23:11:25.91 ID:0hKVEWNQ0
僕含む16人の超高校級がこの才囚学園とかいうらしい施設に閉じ込められてから、もう数週間は経つはずだ。

外に出るための交換条件として殺人を強いられているものの、未だにそれを実行する人は現れない。

僕たちは殺し以外の脱出する術を模索しながら、結果としては軟禁生活に甘んじていた。


最原「流れでここまで来ちゃったけど、なんで僕がキミを手伝う破目になってるんだよ」

王馬「今更だねー。そこはほら、最原ちゃんが持ち腐らせてる才能をオレが上手いこと使ってあげるよっていう、ね?」

最原「『ね?』じゃないだろ」

王馬「どうせ暇でしょ」

最原「探偵なんて暇な方がいいと思うけど」

王馬「否定しないっていう事は、つまりそういう事だよね」

最原「まあ、うん」

王馬「ならちょっとくらいオレの暇潰しに付き合ってくれたっていいじゃないか」

最原「可怪しいな、キミは『緊急事態だ!』って喚いて僕を寄宿舎から引っ張り出したのに」

王馬「嘘だって判ってるのになんだかんだで相手してくれる、最原ちゃんのそういう所は嫌いじゃないよ」

最原「帰っていいかな」

王馬「駄目。そこまで緊急性は無いにせよ、一大事が発生してるのは本当だし」

最原「一大事、ねぇ」

王馬「そ、最原ちゃんには行方不明になったオレを見付けてもらわないと困るんだよ」
5 : ◆DGwFOSdNIfdy [saga]:2020/04/01(水) 23:15:11.22 ID:0hKVEWNQ0
最原「……嘘じゃなかったんだ、それ」

王馬「うん、マジ。大マジ」

最原「心当たりは?」

王馬「まずエグイサル格納庫でしょ、オレの部屋でしょ、研究教室でしょ…ぱっと思い付く場所は大体調べたね」

最原「そう言えばなんで格納庫の暗証番号を知ってたの?」

王馬「昨日、数字がびっしり書かれた紙切れを偶々拾ってさ。確証は無かったけどもしかしたらと思って試したらビンゴだったって訳」

最原「モノクマーズの誰かがメモを落としたのかな…」

王馬「それより、どこに行けば俺が見付かると思う?」

最原「さっきキミが挙げた場所にいなかったならもう見付からないんじゃない」

王馬「もー、諦めるのが早過ぎだよ!仮にも探偵がそれでいいの?」

最原「分かってるって。取り敢えず聞き込みしながら虱潰しに捜査するしかないよね」

王馬「捜査かぁ、なんかそれっぽいね」

最原「1度言ってみたかったんだよ。フィクションの探偵にはずっと憧れてたし」
6 : ◆DGwFOSdNIfdy [saga]:2020/04/02(木) 22:27:14.06 ID:Mcfn36170
─食堂─


ガタガタ… ガタンッ

王馬「ねぇ、真面目に探してる?」

最原「うん」

王馬「椅子やテーブルをいちいち引っ繰り返すのは効率悪いんじゃないの」

最原「ほら、見付けた」

王馬「どれどれ…って、モノクマメダルじゃん」

最原「こんな物でも手懸かりになるかも知れないし。いや、これが王馬くんそのものだって可能性すらある」

王馬「……」

最原「やあ、オレは王馬小吉だよ!」ウラゴエ

王馬「わーコインが喋ったー」

最原「なんてね、嘘だよ!オレは本当はただのコインなんだ」ウラゴエ

王馬「知ってる知ってる」

最原「じゃあ他の場所に行こうか。ここは大体調べたし、ふざけるのも飽きたし」

王馬「今度はちゃんとしてよね」

ギイッ

最原「あ」

王馬「どうしたの?」

最原「あそこに誰かいるね」

王馬「ホントだ。折角だから話し掛けてみようか。…おーい!」

キーボ「ああ…こんにちは。珍しい組み合わせですね」

最原「あれ?キーボくん、何か足りなくない?」

キーボ「実は頭部のパーツを紛失してしまったんです」

王馬「あー、あのアンテナみたいな奴っていうかアンテナね」

キーボ「もし見掛けたら教えてくれませんか。内なる声が聞こえないと不安で仕方無いんです」

王馬「はいはい、分かったよ。…ついでに訊きたいんだけどさ、キー坊はどこかでオレを見なかった?」

キーボ「王馬くんですか?」

最原「なんか、王馬くんが王馬くんを探してるみたいで」

キーボ「でしたら、それっぽい人が体育館の近くでうろうろしてましたよ」

王馬「へえ…キー坊が人様の役に立つなんて思ってもみなかったけど、訊いてみるもんだね」

最原「それじゃあ早速行ってみようか」
7 : ◆DGwFOSdNIfdy [saga]:2020/04/03(金) 22:21:43.43 ID:Wln5niu10
─体育館─


ザワザワ ガヤガヤ

王馬「うわあ、人が沢山いるねー」

最原「制服姿の人が殆どみたいだけど、みんな僕たちと同じ高校生なのかな?」

王馬「ねぇキミ、ちょっといい?」

モブ「なんだよ」

王馬「凄い人集りだけど、ここで何かあるの?」

モブ「お前らもオーディションを受けに来たんじゃないのか」

最原「オーディション?」

モブ「マジで知らねーの?だったらなんでこんな所に…」

キイィィィイン

最原「うわぁ?!」

王馬「うるさっ」

アナウンス『これより、第53回─』

キイィィィイン

アナウンス『─オーディション2次審査を開始します』

王馬「あ、確かに今オーディションって言ったね」

最原「でもなんのオーディションなんだろう?ハウリングに掻き消されて聞こえなかったけど」

モブ「見てりゃ判るさ」


ステージ手前には会議机と事務椅子が設置されていて、審査員と思わしき男女数人が着座している。

そして向かい合う形でずらりと並べられたパイプ椅子には、制服姿の少年少女たち。僕と王馬くんが座っているのは入り口の直ぐ近く──審査員席から最も離れた位置だ。

審査員「では、1番の方」

???「はーい」

番号を呼ばれて、ひとりの少年が立ち上がった。

市松模様のスカーフと上下真っ白な服は遠目にも目立つ。ブレザーでも学ランでもない、そのコスプレじみた奇妙な服装は明らかに浮いていた。

最原「あの人って…」コソッ

王馬「静かにしてて」ボソッ


審査員「貴方はどうしてこのオーディションに応募したんですか」

???「ダンガンロンパを知ったのは、友達から薦められてゲームを借りたのが切っ掛けです」

???「これが思った以上に面白くって、4徹して学校サボって完クリしました」

???「ダンガンロンパはオレにとっての青春なんです。それが現実になって、自分も出られるかも知れないって聞いて─」

???「クソ食らえだなって思いました」

???「あ、今話した事は嘘だから。ダンガンロンパとか知らないし、オレ」

???「それで…志望動機を言わなきゃいけないんだっけ?じゃあオレが採用されたらコロシアイとかいうふざけたゲームはぶっ潰してやるよ」


最原「どう思う?」

王馬「何をさ」

最原「1番の人、外見はキミにそっくりじゃないか。キーボくんが言っていたのも彼のことだろうね」

王馬「外見はね。でも、あんなのはとてもじゃないけどオレとは思えない。なんか発言が痛々しいし」

最原「そっか、無駄足だったみたいだね」

王馬「どうせ片っ端から探すんだしそんなに変わらないって。気を取り直してまだ見てない場所に行こう」
8 : ◆DGwFOSdNIfdy [saga sage]:2020/04/03(金) 22:25:12.55 ID:Wln5niu10
途中から実写になったんなら53回もオーディションやってないだろとかそういう狛けぇこたぁいいんだよ!
9 : ◆DGwFOSdNIfdy [saga]:2020/04/04(土) 22:23:05.47 ID:6soySUtb0
─2階廊下─


王馬「その部屋が気になるの?」

最原「いや…」

王馬「それとも気になるのは中にいる人の方かな」

最原「別にそんなんじゃないって」

王馬「ふーん、そっかそっか」ニヤッ

最原「帰る」

王馬「悪かったって。ほら、入るよ」ガチャ


─超高校級のピアニストの研究教室─


ポーン… ポーン…

王馬「お邪魔するよ。ピアノの練習中にごめんね」

赤松「別に練習してた訳ではないからいいよ」

最原「もしかして、黒板に書かれてるアレ?」

赤松「よく分かったね」

最原「黒板を見ながら鍵盤弾いてたら探偵じゃなくても分かるよ」

赤松「何かの曲って感じでもないし、アレってなんなんだろう」

最原「やっぱり暗号じゃない?」

王馬「なるほどねー、じゃあなんて意味なの」

最原「そこまでは…解らないけど」

王馬「探偵なのに?」

最原「音楽系は苦手なんだよ」ムッ

赤松「…何しに来たの?」

王馬「そうだ、すっかり忘れるとこだった。赤松ちゃん、オレがどこにいるか知らないかな」

赤松「ここにいると思うよ」

王馬「え?いないでしょ」キョロキョロ

赤松「宇宙は薔薇に似ているって、聞いた事無い?」

最原「いきなり話が飛んだね」

赤松「最後まで聞いてってば。…それって言い換えれば宇宙の中に宇宙と同じ形をした物が存在するって事だよね。そして、鯛の中には鯛の形に似た骨がある」

王馬「それなら知ってるよ。鯛中鯛だっけ」

赤松「こういった例を見るに…王馬くんは王馬くんの中にいるんじゃないの?」

最原「理屈は解ったけど、どうやって確かめればいいんだろう」

王馬「中を見てみるしか無さそうだね」

最原「その方法を思い付けないから言ってるんだよ」

王馬「あはは、中を見るなんて簡単じゃないか」ガシッ

最原「痛っ…王馬くん?なんで僕の頭を掴─」

次の瞬間、視界が大きくブレた。間も無く脳に衝撃が走って、目の前が真っ白になった。最初は何がなんだか判らなかったけど、痛みが引くにつれて徐々に理解する。

最原「……な、んで」

王馬「人間も宇宙や鯛と同じかどうか、最原ちゃんの中身を見て判断しようかなって」

王馬「オレは、オレを見付けるためだったらなんでもする覚悟ではあるよ?でも確証も無いのに痛い思いをするのは嫌だからさ」

王馬「ちょっとだけ我慢してね」
10 : ◆DGwFOSdNIfdy [saga sage]:2020/04/05(日) 22:26:32.89 ID:WE0jVB9X0
言い忘れてましたが微妙に2のネタバレあります
11 : ◆DGwFOSdNIfdy [saga]:2020/04/05(日) 22:34:28.66 ID:WE0jVB9X0
僕は何度も頭を壁に叩き付けられた。何度も何度も何度も何度も何度も。当たり前だけどとにかく痛かった。それと、生温かくてぬるりとしたものが顔を舐めるように伝っていく感触が気持ち悪かった。

僕自身が僕の形をちゃんと留めているのかいよいよ心配になってきた頃、王馬くんは不意に手を止めた。

王馬「ちょっと思ったんだけど」

赤松「うん」

王馬「薔薇が宇宙に似ていたたとしても、それは宇宙そのものとは言えないよね」

王馬「鯛中鯛だって単なる骨の一部じゃん。しかもそこまで鯛っぽくもないし」

赤松「そう?」

どうやら物証を得るより先に、人間の中に人間はいないという結論に達したらしい。どうせならこんな馬鹿な事をする前に気付いて欲しかった。それとも態となのか。

王馬「最原ちゃーん、生きてるー?」

最原「……」

王馬「ただのしかばねのようだねー」ポイッ

最原「」ドサ

王馬くんは空になったペットボトルを捨てるような何気無さで僕の身体を放った。

頭痛が酷くてしばらく自力で立ち上がれそうにもなかったので、狸寝入りを決め込んで休む事にした。


赤松「うーん…私は私を探そうだなんて思った事無いからなあ。王馬くんの力にはなれないかも」

王馬「赤松ちゃんは自分を見失ったりしないんだね。だったらキミの事を教えてよ」

王馬「本当のキミの事を」

赤松「……面白い話じゃないけど」

王馬「構わないよ。つまらなくない方がいいのは確かだけどね」

赤松「期待はしないでよ」

王馬「はいはい」

赤松「…お母さんが音楽教室の先生をやってたからかな、物心付いた頃にはもうピアノに触ってたと思う。他のものにはあんまり関心を持てなかったけど─持てなかったから?ピアノを弾いてる時だけは本当に楽しかった」

赤松「でも続けていく内に色んな事があって、苦しさも味わうようになってさ。それまでずっと楽しいって気持ちだけで続けてきたから、途端に嫌気が差したの」

赤松「そうなって初めて他の事してみたいと思ったんだ。ピアノを弾かなくなって時間が出来たのと、何より退屈だったから」

王馬「そこでダンガンロンパにハマったの?」

赤松「うん。最初は映画だったな。クラスのみんなが見てたから私も見ようかな、ぐらいの軽い気持ちで。初めての映画だっていうのもあって凄く衝撃的だった」

王馬「それまで映画すら見た事無かったんだ」

赤松「関心を持てなかったからね。今思えば単なる食わず嫌いだったなあ」

王馬「なるほど。結局、ピアノは他のものと違って食わず嫌いする余地が無かっただけだったと」
12 : ◆DGwFOSdNIfdy [saga]:2020/04/06(月) 22:06:42.95 ID:0cDFbGMk0
赤松「……と、思うよ?」

王馬「似てないなぁ」

赤松「似せる気無いし」

王馬「ゲームやったの?」

赤松「原作に手を付けたのは最近だよ。初見は舞台」

王馬「先にゲームしないと駄目でしょ」

赤松「うん、やった後に痛感した。でもゲームはどうしても苦手で…」

王馬「初期ロンパはゲームが至高だよ。元がゲーム作品なんだから」

赤松「キミは2が好きなの?」

王馬「2っていうか2のチャプター5だね。個人的にアレは300以上の殺人の中でも屈指の事件だと思ってるよ。まだ完全に二次元だった頃の初期ロンパならではのギミックだよね。だからこそシリーズファンの好き嫌いも分かれ易い」

王馬「死体のエグさも初期にしては結構頑張った方で、当時のプレイヤーには衝撃的だったらしいよ。直前のロボで物足りなさを感じさせてからのアレだからね。まぁ今見たら大してグロくもないんだけど」

分かってない。全然分かってない。初期、特にゲーム作品のダンガンロンパはグロと悲惨な人間ドラマを、悪趣味さで茶化す事に依ってオブラートで包んでいるんだ。その薄皮1枚が要だっていうのに。初期ファンの癖にそんな事も理解できないのか。

赤松「で、なんの話をしてたか憶えてる?」

王馬「ああ、オレばっかり話してごめん」

赤松「いいよ。もう話せるようなエピソードも無いし。つくづく私の人生って薄っぺらかったね」

王馬「いやいや、参考になったよ。話しにくかったろうにどうもありがとう」

赤松「王馬くん、見付かるといいね」

王馬「そう簡単に上手くいけば苦労しないよ」

赤松「それにしても…最原くんは大丈夫なの?」

王馬「さあね」

誰かが近付く気配を感じた直後、脇腹に固いものが触れて思わず身体を強張らせてしまった。

王馬「ね、やっぱ気絶してないでしょ最原ちゃん。死んだフリ止めなよ」

バレてしまったなら仕方が無い。目を開けると王馬くんがローファーの爪先で僕を小突いてるのが見えた。なんとか重い頭をもたげてへらりと言ってみせる。

最原「もう起きた」

王馬「さっさと次行くよ」

最原「何もこんなになるまで打ち付けなくていいじゃないか。怪我しても帽子で隠せるからまだよかったようなものの」

努めて戯けたけど僕は内心ではびくびくしながらブレザーの袖で顔を拭った。血が滲みて、中のYシャツに真っ赤な染みが出来た。それは決して蛍光ピンクなんかじゃなかった。
13 : ◆DGwFOSdNIfdy [saga]:2020/04/07(火) 20:59:07.86 ID:6Ca7qkS20

─2階廊下─


最原「まだ探すの?」

王馬「探すよ。見付かってないもん」

最原「さっきので結論出たなって思ったんだけど」

王馬「アレは赤松ちゃんの持論じゃん。自分の事は結局自分で決めるしかないんだから、他人の意見なんて大して役に立たないって」

最原「だったらなんで態々聞き出したのさ」

王馬「飽くまで参考程度だよ」

最原「そうなると僕はキミの気が済むまで連れ回されるのか…」

王馬「当たり前田のクラッカー、だっけ」

最原「何それ?」

王馬「知らない」

最原「…………」

王馬「…………」


……いつまでもむっつりと黙り合うのもどうかと思うし適当な話題を振ろう。

最原「最近読んだ小説で、ずっと気になってる事があるんだよね」

王馬「ふーん」

最原「語り手の男が旅行がてら昔住んでた家に立ち寄って、今の居住者に会うんだよ。話を聞けばその人は精神科医で、自宅療養してる統合失調症の奥さんに掛かり切りだっていう。結局世間話だけして直ぐ帰ったんだけど、忘れた頃に精神科医から男宛ての手紙が届く」

王馬「なんで住所知ってんの?怖っ」

最原「内容としては、奥さんが亡くなったから例の家を引き払うっていう報告から入って、死んだ時の状況説明だったり結婚前の思い出話だったりとか」

王馬「一度会っただけの人にそんな重い話されても困るんだけど」

最原「手紙を読み終えた男は胸騒ぎがして急いで例の家に向かう。で、その近辺の茂みに猟銃を持った精神科医を遠目に見付ける。それを見た男は怒って」

ゴン太「あ」

最原「あ?…ああ」

王馬「よっ、ゴン太」

ゴン太「お互い残念だったね、王馬くん」

王馬「残念って?」

ゴン太「ほら、ふたりとも脱落しちゃったから」

王馬「オレは脱落っていうか…まあいっか、そんな事は」
14 : ◆DGwFOSdNIfdy [saga sage]:2020/04/07(火) 21:04:40.68 ID:6Ca7qkS20
書き溜めが底を突きました
15 : ◆DGwFOSdNIfdy [sage saga]:2021/05/14(金) 01:14:58.66 ID:tmHZdomU0
undefined
16 : ◆DGwFOSdNIfdy [sage saga]:2021/05/14(金) 01:15:42.17 ID:tmHZdomU0
ゴン太「ああ、王馬君を探してるんでしょ?さっきキーボ君から聞いたよ」

王馬「いやー話が早くて助かるね」

ゴン太「先に言っておくけど、僕はなんの役にも立てないと思うよ」

王馬「もしかして遠回しに『面倒だから関わりたくない』って言ってる?」

ゴン太「ううん、文字通りの意味で言ったつもり」

王馬「じゃあ協力してくれるよね」

ゴン太「僕に出来る範囲でよければ。…で、どうすればいいのかな」

王馬「そうだなぁ…じゃ、ゴン太から見たオレってどんな感じだったか教えて」

ゴン太「もっと質問を明確にしてくれないと答えにくいよ」

王馬「あんまり四角四面に考えてほしくないんだ。フィーリングに寄った素直な意見を求めてるから」

ゴン太「つまり、いい加減に答えるくらいで丁度いいって事?却って難しい気がするけど」

王馬「とにかく適当によろしく」

ゴン太「王馬君は…端的に言えば掴み所の無い人だよね」

王馬「うんうん、よく言われる」

ゴン太「敢えて本心を悟られないように振る舞う打算的な側面は確かにあったと思う。でも、それを踏まえた上でも王馬君の言動は支離滅裂過ぎる」

王馬「理屈だけで動く人間の方が珍しいと思うけど?オレは自分の気持ちに正直なだけだよ」

ゴン太「それは嘘…というより実情に即していないよね。なんてったって王馬君は筋金入りの天邪鬼なんだから」

ゴン太「人の頭も心もそれ自体がブラックボックスみたいなものだけど、王馬君の思考と感情は本当に理解に苦しむ。まぁその混沌こそが王馬君らしさと言われたら確かにそうなのかも知れない」

ゴン太「だとしたら、キミは何を以ってキミという存在の連続性ひいては斉一性を証明するのかな」

王馬「ねぇゴン太、怒ってる?」

ゴン太「会話において質問に質問で返すのは少しずるいけど、王馬君がどうしてそう思うのか答えてくれるかな」

王馬「…オレがキミの言葉で多少なりとも動揺したから、敢えて傷つけるような言い方をしたのかと思って」

ゴン太「心外だよ。いや、そう思われても仕方無いんだろうけど…僕としては極力感情論を排して分析だけ述べたつもりだよ」

ゴン太「とは言え、どちらにせよ僕の一意見である事に変わりはないんだよね。耳に痛い言葉っていうのは尤もらしく聞こえがちなものではあるけど、必ずしも的を射ているとは限らない。結論は、自分の気が済むまで惟てから出せばいいよ」

王馬「言われなくてもそうしてた。幸か不幸か時間だけなら無限にあるからね」

ゴン太「他に僕の口から聞きたい事があるならどうぞ」

王馬「そうだなー、じゃあ後ひとつだけ」

王馬「ゴン太はオレの事恨んでる?」

ゴン太「望んでダンガンロンパに参加した時点で恨みっこは無しでしょ」

王馬「やけに引っかかる物言いするじゃん」

ゴン太「白状すると根に持ってはいるよ。…キミがこれから先もたまにあの事件を思い出して、少しでも苦しめばいいって願うくらいには」

王馬「……」

ゴン太「ああそうだ、さっき入間さんが3階で彷徨いているところを見たよ。今ならまだその周辺付近にいるだろうから、捜しているなら直ぐ行った方がいいんじゃないかな」

最原「ありがとうゴン太くん、助かるよ」

王馬「最原ちゃんいたんだ。ずっと喋らないから、オレがゴン太と話し込んでる隙に逃げちゃったのかと」

最原「途中で放り出したら後が面倒だからね。口を挟める雰囲気じゃなかったからずっと黙ってただけだよ」

ゴン太「最原君も色々と大変だね」
17 : ◆DGwFOSdNIfdy :2021/05/14(金) 01:20:41.53 ID:tmHZdomU0
更新久々過ぎてsageてしまった
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/14(金) 11:27:46.91 ID:GZGRRuvOO
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/14(金) 21:05:06.42 ID:0VdJL4YA0
20 : ◆DGwFOSdNIfdy [sage saga]:2021/07/10(土) 22:26:40.46 ID:joCTZYjz0
ひとり善がりで衒学的で特に実の無い退屈な会話を切り上げて、僕たちは次の目的地へ向かった。


王馬「話の途中じゃなかったっけ。ほら、小説がどうのって」

最原「そうだね、どこまで話したんだったかな」

王馬「なんか手紙が来て…また昔住んでた家に行ってみたら精神科医が銃を持ってたって」

最原「ああ、なんだ。もうおしまいじゃないか」

王馬「え?そんなところで終わるの?」

最原「正確には、それを見た語り手が唐突に怒って精神科医と一言も交わさないままさっさと帰る。で、おしまい」

王馬「銃を突き付けられたから怒ったの?」

最原「違うよ。最後の場面は、男が精神科医を一方的に見付けただけで直接対面した訳じゃないからね」

王馬「だったら─」

最原「結局、どうして男が怒ったかは作中で示されてないんだ」

王馬「あーわからない事があるってそういう…」

最原「うん。よく憶えてるね」

王馬「バカにしないでよ。ていうか、それをオレに聞かせてどうしたかったのさ」

最原「特にどうするつもりも…。話の種にしようとしただけだから」

王馬「もっとマシな話題無かったの?別にいいけど」

最原「ごめん…」

王馬「いやいいよ、こっちこそなんかごめん。それはそうと、最原ちゃんはわからない事をわからないまま丸っと全部ほっといたりしないよね?」

最原「すっきりしない読了感で気持ちの据わりが悪かったから、取り敢えずパブサして他の人の感想や考察を見てみはしたんだよ。マイナーな作品だからか、はたまた僕の探し方が悪かったのかあんまりヒットしなかったけどね」

最原「精神科医は男を殺すつもりだったとか、男にジビエを振る舞おうとしていたとか…正直どれもしっくりこなくて余計にもやもやしただけだった」

王馬「最原ちゃんの解釈はどうなの?」

最原「うん、その話をしたいんだ。一応僕なりに考えを整理してみたから」

最原「手紙によると、精神科医とその奥さんは恋愛結婚で、言葉を選ばずに言うなら当初バカップルだった。でも奥さんが発症して人が変わったようになったせいで、精神科医は永久不変だと堅く信じていたお互いの愛情に自信を持てなくなった事が判るんだ」

王馬「病気さえ無ければバカップルのままだったかも知れないのに、ちょっと可哀想だね」

最原「きっとそれが普通の考えだよね。ただ、精神科医はそういう風には思っていなかった。奥さんの本格的な発症はせいぜい切っ掛けに過ぎなかったんだよ」

最原「人の心理がどれだけ複雑怪奇で不可解かなんて、精神科医なら嫌というほど知っているはずだけどさ。それでも蜜月時代は、奥さんだけは例外だと誤信していたんじゃないかな」

王馬「それが結末の解釈にどう関係するの?」

最原「『どう足掻いても他人の気持ちなんて理解出来ない』っていうのがこの話のテーマだと思うんだよね。だから読者には、精神科医の行動の意味も語り手が怒った理由もわかりっこない。そういう事なんじゃないかなって」

王馬「えー…」

最原「納得いかない?」

王馬「そりゃまあ、それだとなんでもアリになっちゃうし、投げっぱなしも同然じゃん」

最原「うーん、反論の余地は無いね。こんな話に長々付き合わせて悪かったよ」

王馬「いや─」

最原「あっ」

王馬「え、何?」

最原「あそこの部屋から女の子の声が聞こえてきたから、入間さんじゃないかって」

王馬「ああ…あんな所に行く人なんて限られてるしそうなんじゃない。入ってみようか」
21 : ◆DGwFOSdNIfdy [saga]:2021/07/10(土) 22:31:47.03 ID:joCTZYjz0
誕生日に更新したかったけど無理でした。当日はゲーム起動してプレゼント大量に渡して祝った気になりました。
22 : ◆DGwFOSdNIfdy [saga]:2021/08/07(土) 23:57:16.01 ID:Zke3DHp/0
─コンピュータールーム─


カタカタカタカタ

入間「これを回避しても結局あのふたりが鉢合わせたら意味が無い……接触を避けるためには……」ブツブツ


王馬「集中してるみたいだね」

最原「うん」

王馬「なんか、話掛け辛いな」

最原「作業が終わるまで待つ?それがいつになるか検討も付かないのに?」

王馬「えっと、じゃあ先に他の場所を…」

最原「それだと2度手間になるでしょ。少しは僕の都合も考えてよ」

王馬「…ご、ごめん」

イライラする。思えば僕は、王馬くんのこういう煮え切らないうじうじした態度にいつもムカつかされてきたんだ。

衝動に任せて足払いをすると、王馬くんは不意を食ったのかいとも簡単に転けてしまった。ずっと下ばかり向いている癖に、全く反応出来ない鈍臭さが笑える。

起き上がれないよう透かさずお腹を足で強く抑え付けた。王馬くんは掠れた呻きを漏らした。強いて文字で表現するなら「あ」と「え」の混ざった「æ」、踏み潰された蛙の断末魔みたいな声。

僕がそのまま更に体重を掛けると王馬くんは咳き上げながら嘔吐いた。死なれたら僕のせいになって面倒なので、王馬くんの身体を蹴ってうつ伏せにしてやる。これで吐瀉物が喉に詰まる心配は要らない。

入間「おい最原。いい加減にしてやれよ」

最原「ああ入間さん、丁度よかった。王馬くんがキミに用があって来たんだよ」

入間「その当の本人、エラい事になってんじゃねーか」

入間さんが何か言いたげに僕を睨むので、向こうが切り出すまで僕は待った。しかし、間も無くして彼女は溜息を吐き王馬くんの方に向き直った。

入間「王馬、立てるか?」

王馬「う、うん。大丈夫…」

ふらつきながら立ち上がった王馬くんに、入間さんはハンカチを差し出した。

王馬「使ったら汚しちゃうけど?」

入間「んなもんくれてやるから洗って自分用にするかそのまま捨てとけ。ちなみに替えは倉庫に幾らでもあるぞ」

王馬「あ、そうなんだ…ありがとう」

王馬くんは受け取ったハンカチで口許と首辺りを拭った。

入間「つーか用があってここに来たんだろ?なんでアタシ放っぽって……ふたりでじゃれてんだよ」

最原「入間さんが忙しそうで話し掛けられないって王馬くんが言うから」

入間「それだけであそこまでしたのか?」

最原「うん」

入間「……」

最原「入間さんって、頭使わないで言いたい事は全部言うタイプなのかと思ってたよ」

入間「切っ掛けはともかく、認識を改められたようならよかったぜ」
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