勇者「ダウトだ」

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25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/14(木) 18:00:38.53 ID:QxcER/NO0
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王「待たせたな。勇者よ」

勇者「……いえ、滅相もありません」

王「まずは餞別じゃ。武器は自前のがあるから良かろう」

勇者「……はい、ありがとうございます」

王「それと仲間の件じゃが……良いぞ、入って参れ」

ギィ

剣士「うーす。突然呼び出してなんの用ですか、王様」

勇者「……さっきの門番の」

兵士1「おぉ、勇者様じゃねえか! 朝振り! でも俺が呼ばれたのと何の関係が……って、もしかして朝の件で怒られんのか!?」

王「なんじゃ知り合いなのか。なら話が早い」

兵士1「ん?」

王「それと朝の件とはなんじゃ」

兵士1「え? いや、何でもないっすよ、あはは……」
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/14(木) 18:02:45.85 ID:QxcER/NO0
王「ふむ、まぁ良い。何があったかは知らんが不問としよう」

兵士1「……ふぅ、助かった」

王「勇者よ、この剣士と共に魔王討伐に行くが良い」

勇者「……かしこまりました」

剣士(兵士1)「……ん? 何? どゆこと?」

王「剣士よ」

剣士「はぁ」

王「そなたに魔王討伐を命じる。勇者と共に魔王を討ち取って参れ」

剣士「はぁ……。って、本当か!?」

王「お主にも餞別金を授けよう。武器は支給の物を持っていくがいい」

剣士「ありがとうございます!」

王「……さて、この国の平和はお主らにかかっておる。必ずや魔王を倒してくれることを期待しておるぞ。さて、用件は以上じゃ。下がって良いぞ 」

剣士「うぃっす! 失礼します! 」

勇者「……失礼します」
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/14(木) 18:04:05.97 ID:QxcER/NO0
バタン

剣士「……おいおいおい、マジかよ! 俺が魔王退治に任命されるなんてよ!」

勇者「……」

剣士「しっかし、王様も人が悪いな。今日の今日まで黙ってるなんてよ」

勇者「……」

剣士「いやー、それにしても鼻が高いねー。軍に入ってまだ間もないってのに、こんな大抜擢。相当、俺の実力が買われてんのかね」

勇者「……」

剣士「今日から出発するんだろ? だったら急いで準備しなくちゃな」

勇者「…… 」

剣士「ところで、王様はいくらくれたんだ……って、500Gかよ、しけてんな。まっ、貰えないよりはマシか」

勇者「……」

剣士「……なんだよ、勇者様、だんまり決め込んじゃって。俺一人で喋ってばっかで馬鹿みてえじゃねか。何か言ってくれよ」

勇者「……だ」

剣士「え? なんだって?」
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/14(木) 18:06:04.70 ID:QxcER/NO0

勇者「ダウトだ 」

29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/14(木) 18:08:02.60 ID:QxcER/NO0
剣士「……は? いきなりなんだ?」

勇者「王様の発言のことですよ。何もかも嘘まみれです」

剣士「あ? 一体どういうことだ?」

勇者「この国の平和がかかってる、期待しているなんてのは真っ赤な嘘ですよ」

剣士「はぁ? 何でだよ。王が国の平和を願ってないっていうのか?」

勇者「そもそも願う必要がないんですよ」

剣士「え?」

勇者「それこそ朝、剣士さんが言ってたじゃないですか」

剣士「は? 俺が何を……って、ああ、そういうことか」

勇者「そう、何十年も魔物が襲ってきて無いんですよ。それなのにわざわざ勇者なんか送り出す必要がないんですよ」

剣士「…なるほどな、一理ある。だがよ、未来の安全を見据えて送り出したってことはねえか?」

勇者「だとしたら尚更おかしいですよ。魔王を倒すのに500Gで何の準備が出来るっていうんですか」

剣士「……確かにな」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/14(木) 18:10:06.44 ID:QxcER/NO0
勇者「そ、それに送り出す人材が、僕と剣士さんの2人っていうのもおかしいんですよ」

剣士「……何でだよ。それは俺らの実力が認められたからかもしんねえだろ?」

勇者「ま、万が一、仮に剣士さんはそうだったとしても……僕は前勇者の子供ってだけです。軍にも所属している訳じゃないのに実力なんて分かるわけないんです。それなら兵長さんとかを勇者に選ぶのが普通だと思うんですよ」

剣士「まぁ、確かに……」

勇者「兵長さんも暇そうにしてましたからね。それに剣士さんを魔王討伐のメンバーに決めたのもついさっきみたいですし」

剣士「……なんだって?」

勇者「魔王討伐の出発当日に任命するなんてありえないですよ、普通。王様に仲間を紹介してくれないんですかって聞いたら、今用意するって言ってましたからね」

剣士「……」

勇者「……ま、そもそも勇者っていう制度自体おかしいですけどね。本気で魔王を倒したいのなら、それこそ他の国の軍とか総動員して向かわせるべきですよ。2人程度で倒せっていうのが無茶な注文ですよ」

剣士「……違いねえな」

勇者「そう。だから期待してるだなんて真っ赤な嘘。王様は魔王を倒せるなんて微塵も思ってないんですよ」

剣士「……だったら俺らは何の為に魔王城に向かうんだよ 」

勇者「そうですね……、さしずめ…… 」
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/14(木) 18:12:02.32 ID:QxcER/NO0

勇者「人柱って言ったとこですかね」

32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/14(木) 18:14:02.76 ID:QxcER/NO0
剣士「……」

勇者「まぁ、そこまでして送り出す理由はわからないですけどね。政治の絡みとか、他の国からの評判みたいなのがあるのかもしれませんが」

剣士「……」

勇者「……どうします、剣士さん? 今ならまだ断れるかもしれませんよ。王様も元々、1人しか送り出すつもりがなかったでしょうし」

剣士「……おもしれぇじゃねえか」

勇者「え?」

剣士「王の野郎舐めやがって……、良いぜ、上等だ」

勇者「剣士さん……?」

剣士「やってやろうじゃねぇか、魔王退治! 絶対ぶっ倒してやる!」

勇者「え、いや、でも、本当にいいんですか?」

剣士「あぁ、俺は嘘が大嫌いだからな!」

勇者「…… 」

剣士「だから真実にしてやる」

勇者「え?」
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/14(木) 18:16:04.17 ID:QxcER/NO0
剣士「だから、本当に魔王を倒して王に、魔王を倒せると信じていたぞって言わせてやる!」

勇者「……」

剣士「そしたら俺らは人柱なんかじゃなく、本当に勇者一行だ!」

勇者「……ふふっ」

剣士「……なんだよ、何が面白いんだよ?」

勇者「いえ、面白い考え方だなって思って」

剣士「あ? なんだ、馬鹿にしてんのか?」

勇者「いえいえ、そんなことないですよ。嘘を真実に変える……面白い考え方ですね」

剣士「嘘から出た実っていうだろ?」

勇者「……嘘も方便っていうのもありますけどね」

剣士「ひねくれてんな」

勇者「……剣士さんが真っ直ぐすぎるんですよ」
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/14(木) 18:16:04.87 ID:1p2f/47dO
これ勇者は推察でダウトっていってるだけ?
勇者の能力的なもの?
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/14(木) 18:18:05.41 ID:QxcER/NO0
剣士「まぁ良い。善は急げだ。とりあえず俺は悪を倒す準備をしてくるわ」

勇者「そ、そうですね、僕もやる事があるので後で合流しましょうか」

剣士「そうだな。じゃあ色々と終わったら国の入口のとこで落ち合おうぜ」

勇者「そうしましょう」

剣士「了解。じゃあまた後でな」

勇者「ええ、それでは」

スタスタスタスタ

勇者(……さて、こっちもやる事やらないと)

勇者(と言っても、手紙を出すくらいだけどね)
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/14(木) 18:20:24.35 ID:QxcER/NO0
−−−−−−
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-王国-

カタン

勇者(……手紙も無事投函し終わったし)

勇者(あとは伝書鳩が無事届けてくれることを祈るばかりだね)

勇者(旅立ちの準備は既に出来てるし入口の所で待ってよう)

スタスタスタスタ

勇者(……)

勇者(嘘を真実に変える)

勇者(絶対に魔王を倒してやる)

勇者(本当の勇者一行になる……か)

勇者(……あれだけはっきり言えるのは凄いね)

勇者(勇敢なのか、はたまた無謀なのか)

勇者(……何にせよ)
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/14(木) 18:22:08.49 ID:QxcER/NO0
剣士「悪ぃ、遅くなったな」

勇者「あ、剣士さん。もう準備終わったのですね」

剣士「いや、結構時間かかったと思うぞ?」

勇者「え?」

勇者(……あ、本当だ。結構陽の位置がかわってる)

勇者(思ったより考え混んでいたみたいだ)

剣士「勇者? どうした?」

勇者「あ、いえ、ちょっと考え事をしていただけです。ぼ、僕も今さっきここに着いたところですよ」

剣士「おう、そうか。ところで何か悩んでんのか?」

勇者「え?」

剣士「いや、随分と難しい顔してたからよ」

勇者「あぁ……いえ、何でもないですよ」

剣士「そうか? しかし、お堅いな、勇者様はよ」

勇者「え? 何がですか?」
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/14(木) 18:24:07.13 ID:QxcER/NO0
剣士「いやな、どんな縁であれ折角一緒に旅するのに、敬語だと距離を感じるだろ?」

勇者「……」

剣士「まぁ会ったばかりだし、気ぃ使うのもわかるが対して歳も変わんなさそうだしよ。もっとフランクに行こうぜ!」

勇者「……」

剣士「今日から俺らは仲間なんだからよ。もっと腹割って会話しようぜ!」

勇者「……そう……だね」

剣士「おう! その感じで仲良くやろうぜ、勇者よ!」

勇者「……うん、よろしくね、剣士」

剣士「あぁ! 絶対に魔王を倒して英雄になってやろうぜ!」

勇者「……」

勇者(勇敢で、仲間思いで、真っ直ぐで)

勇者(周りの人を勇気付けるような存在)

勇者(それはまさに……)

勇者「……君は勇者より勇者だね」

剣士「……は? なんだ、急に?」
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/14(木) 18:26:05.51 ID:QxcER/NO0
勇者「言葉の通りだよ。もしかしたら君が本当の勇者なのかもね」

剣士「はぁ、何言ってんだ? 勇者はお前だろ?」

勇者「……形式上は…ね」

剣士「……悪ぃ、全っ然意味がわかんねえ 」

勇者「あはは、わかんなくてもしょうがないよ」

剣士「……それは俺が馬鹿だっていいてえのか?」

勇者「ち、違う違う。もし、僕が勇者に選ばれ無かったら、君が勇者だったのかもねっていう話だよ」

剣士「……余計によくわからん」

勇者「わかんないままでいてくれた方が嬉しいかな」

剣士「……謎かけか?」

勇者「知らないままの方が幸せなことだってあるんだよ」

剣士「は? 何でも知ってた方が良いに決まってるだろ?」

勇者「…知ってしまって、悲しくなって、自分にはどうしようもないことだとしも?」

剣士「だったらどうにかする方法を知ればいいだろ」

勇者「……うん、やっぱり君は勇者だよ」
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/14(木) 18:28:02.29 ID:QxcER/NO0
剣士「は?」

勇者「ううん、なんでもないよ。真の勇者様」

剣士「なんだそれ。だったらお前は偽の勇者かよ」

勇者「……あはは、そうだね! 言い得て妙だよ」

剣士「俺からすればお前が妙な奴だよ 」

勇者「ふふっ、そうかもね」

剣士「変なやつ……。まっ、とりあえず元気になったみたいだし良かったよ」

勇者「……ありがとう、剣士」

剣士「おう、これからよろしくな。勇者」

勇者「うん、こちらこそよろしく。剣士」

剣士「……じゃあ行こうぜ。魔王討伐の旅によ!」

勇者「うん!」
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/14(木) 18:30:02.72 ID:QxcER/NO0
勇者(こうして2人で街を出発した)

勇者(期待されてもいないだろう、魔王討伐の旅へ)

勇者(これから数多の困難が待ち受けているだろう)

勇者(幾度も挫けそうになるだろう)

勇者(だけど、なんとなくだけど……)

勇者(本当に、なんとなくだけど)

勇者(剣士がいればどうにかなる)

勇者(本当に魔王を倒せる)

勇者(……そんな気がした)

勇者(こうして2人は街を出発した)

勇者(嘘の勇者と実の勇者の旅が)

勇者(…嘘の勇者と実の勇者の物語が始まった)
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/14(木) 18:30:52.47 ID:QxcER/NO0
今日はここまでにします!
また書き溜め出来たら更新します!
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/14(木) 18:32:08.30 ID:QxcER/NO0
>>6
ありがとうございます! 頑張ります!
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/14(木) 18:32:48.32 ID:QxcER/NO0
>>24
能力じゃなくて推察です!
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/14(木) 18:35:31.03 ID:QxcER/NO0
>>34
すみません、安価ミスです
能力じゃなくて推察です
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/14(木) 18:39:13.49 ID:1p2f/47dO
なるほど
ならダウトしてもホントの可能性とか実はもっと深刻なのを隠してるとかもあり得るのか
続き待ってますね
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/14(木) 18:40:35.73 ID:6ElvJ0u3O
とりあえず俺様が代わりに勇者母と村人を蹂躙してやろう!

アンチクショォォ
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/14(木) 21:07:22.21 ID:KtrKQHnyo
これは久々に面白いスレを見つけた
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/16(土) 22:17:46.16 ID:Exx5Co8i0
>>46-48
コメントありがとうございます!
再開します!
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 22:20:02.15 ID:Exx5Co8i0
−−−−
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-森-

ガァガァ

剣士「……なあ」

勇者「……」

剣士「……おい、勇者」

勇者「……はい」

剣士「一つ聞いていいか」

勇者「……はい」

剣士「俺たち隣の街に向かってたよな」

勇者「……うん、そうだね」

剣士「かれこれ、十数時間は歩いたよな」

勇者「……そうだね 」

剣士「迷ってないか、これ 」

勇者「気づいてたんならもっと早く言ってよ!!」
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 22:22:02.48 ID:Exx5Co8i0
剣士「いや、だってお前がずんずん進んでいくから」

勇者「隣の街に行くだけなのに迷うなんて思わないじゃん! それに剣士も何も言わないから合ってるのかと思って……」

剣士「同じようなところグルグルし始めた辺りで流石に変だと思ったよ」

勇者「……とりあえず喰種が出なくて良かったよ」

剣士「腹はグルグル鳴ってるけどな」

勇者「空も真っ暗になってるしね……」

剣士「このままだと空腹で死ねるな」

勇者「……もう、いっそのことここで寝る?」

剣士「……そうだな。これ以上道に迷うのは御免だしな」

勇者「……ごめんなさい」

剣士「止めなかった俺も悪いしな。大丈夫だ」

勇者「……ありがとう。とりあえずここに泊まろうか」

剣士「だな。ただ明日からは俺が先頭な」

勇者「……はい」
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 22:24:02.59 ID:Exx5Co8i0
パチパチ

剣士「しかし、初日から野営になるとは思わなかったぜ」

勇者「うっ……」

剣士「お前、相当方向音痴なのな」

勇者「ち、違うし! ちょ、ちょっと遠回りしてレベル上げしようとしただけだし!」

剣士「道中1匹も見なかっただろ」

勇者「……い、いや、ほら一応調査を……ね?」

剣士「無理があるだろ」

勇者「……ですよねー」

剣士「しっかし、この付近は本当に魔物いねえのな」

勇者「……そうだね。それこそ年に1回喰種が出るか出ないかだもんね」

剣士「それな。正直、魔物の被害も殆どねえのに魔王討伐って言われてもあんま実感湧かねえよなぁ」

勇者「ねー。そもそも、魔物が現れ出したのも割と最近だしね」

剣士「俺がまだ餓鬼の頃にはいなかったしな。10年ちょっと前とかだろ」

勇者「……そうだね。15年前だね」
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 22:26:02.61 ID:Exx5Co8i0
剣士「しかし、なんでまた急に現れ出したのかね」

勇者「本当にね。ずっと昔に魔物は滅んだって本でも読んだのに」

剣士「あれか? 魔王が復活したとかそんなんか?」

勇者「復活?」

剣士「過去の勇者が命と引替えに魔王を封印したが、何年もの時を経てその封印が解けた……とかじゃね!?」

勇者「……うーん、どうなんだろう。もしそうだとしたら書物とかで残ってそうだけどね」

剣士「……現実的だなぁ。ただの想像だけど男の浪漫! って感じで良くなかったか?」

勇者「えっ? ……あ、あはは、そうかもね。そうだとしたら格好良いね」

剣士「だろ? そういうのちょっと憧れるよな…… 」

勇者「そ、そうだね…… 」

剣士「……なんかあんまピンと来てない感じだな」

勇者「そ、そんなことないよ。……でもまぁ、もしそうだとしたら魔王城から遠いこの辺が魔物少ないのも納得かもね」

剣士「……やっぱ現実的だな、勇者はよ」

勇者「あ、あはは……僕は命懸けで封印はしたくないからかな」

剣士「そりゃ俺も実際やるのは嫌だけどよ」
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 22:28:05.34 ID:Exx5Co8i0
勇者「……まぁ考えてもわかるものじゃないしね」

剣士「そうだけどよ……ふああぁぁ」

勇者「……眠そうだね。そろそろ寝ようか」

剣士「ん、そうだな。明日もあるしな」

勇者「明日も大分歩くだろうしね」

剣士「だな……ふあぁぁ。じゃあ俺は寝るぞ」

勇者「うん。おやすみ、剣士」

剣士「……お前はまだ寝ないのか?」

勇者「もう少ししたら寝るよ」

剣士「了解。んじゃ、おやすみ、勇者」

勇者「うん、また明日」

勇者「……」

勇者「……軽く体を拭いたりしたら寝よう」
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 22:30:13.13 ID:Exx5Co8i0
-翌朝-

勇者「……うぅん」ムクリ

勇者「……あれ、ここは」

勇者「……」

勇者「……あぁ、そっか。魔王討伐の旅に出たんだっけ」

勇者「……」

勇者(……剣士はまだ起きてこなさそうだね)

勇者「……とりあえず剣士が起きる前に身支度をしよう」

勇者(そういえば朝弱そうだったもんね)

勇者(これならゆっくり準備してても大丈夫そうだね)

勇者「……起こすのも悪いし、剣士が起きたら出発しよう」
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 22:32:03.06 ID:Exx5Co8i0
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勇者(準備が終わって大分経ったけど……)

勇者「……」

勇者(びっくりするくらい起きてこない)

勇者「……もうお昼になりそうなのに」

勇者「……」

勇者「……流石に起こそうかな 」

勇者「……このままじゃまた野宿することになるもんね」
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 22:34:02.59 ID:Exx5Co8i0
勇者(剣士の寝てるテントに入ったは良いけど)

剣士「……ぐおおぉ」

勇者(物凄く気持ちよさそうに寝ている)

勇者(なんか起こすのが忍びない気持ちになるけど……)

勇者(このままじゃ永遠に起きて来なさそうだもんね)

勇者「……剣士、もう昼だよ。そろそろ起きて」ユサユサ

剣士「……うーん。あと5時間……」

勇者「そんなに待ってたら日が暮れるよ」ユサユサ

剣士「……ぐぅ」

勇者「剣士ー、起きてー」ユサユサ

剣士「……うぅん? ……どうした、勇者?」

勇者「どうしたじゃないよ。もう昼だよ。起きて」ユサユサ

剣士「……なんか彼女に起こされてるような感覚でいいな、これ」

勇者「……馬鹿言ってないで早く起きろっ」ポカッ

剣士「痛てっ! ……急に兵士さんに起こされてる感じになったわ」
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 22:36:15.38 ID:Exx5Co8i0
勇者「全く……。やっと起きた」

剣士「……ふああぁぁ。おはよう、勇者」

勇者「おそよう、剣士」

剣士「……今何時だ?」

勇者「もう昼だよ」

剣士「あー、マジか」

勇者「大マジだよ。剣士、朝弱すぎだよ」

剣士「それな。昔からダメなんだよな」

勇者「……よくそれで兵士出来たね」

剣士「いつも兵士さんに叩き起されてたよ」

勇者「さっきのがデフォルトなんだね……」

剣士「むしろいつもより大分優しいな」

勇者「……今度からは本気で叩くことにするよ。とりあえず準備して。もう行かないとまた野宿だよ」

剣士「そうだな。すぐ準備するよ」

勇者「……2度寝しないでよ」
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 22:38:03.31 ID:Exx5Co8i0
剣士「お待たせ」

勇者「いや、全然待ってないよ。身支度は随分早いね」

剣士「そうか?」

勇者「だってまだ10分くらいしか経ってないし」

剣士「皆こんなもんじゃね?」

勇者「……まぁ兵士やってたらそうなのかもね。じゃあ早速行こうか」

剣士「そうだな。……って、待て」

勇者「……ん?」

剣士「何ナチュラルに先歩こうとしてるんだよ」

勇者「……いや、明るいし迷いようないかなって」

剣士「お前に任せたらお先真っ暗だよ。大人しく後ろ着いてこい」

勇者「……はーい」

剣士「拗ねるな。子供か」
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 22:40:02.48 ID:Exx5Co8i0
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-街-

剣士「……はぁ、やっと着いた」

勇者「結局夜になっちゃったね」

剣士「……誰のせいだと思ってる、誰の」

勇者「……起きるのが遅かった剣士?」

剣士「ちげえよ! ちょっと目を離したら全然違う方向行きやがって!」

勇者「だって綺麗な花が……」

剣士「話を聞け! お前を探すのに時間がかかったんだよ!」

勇者「……まぁまぁ。生きてて良かったじゃない」

剣士「隣の街に行くだけで死んでたまるか!」

勇者「……申し訳ないです」

剣士「全く……。とりあえず腹も減ったし、飯でも食って今日はさっさと寝ようぜ」

勇者「……そうだね。どっか酒場でも見つけてご飯にしようか」
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 22:42:02.52 ID:Exx5Co8i0
-酒場-

カランカラーン

マスター「へい、いらっしゃっい!」

ガヤガヤ

剣士「おー、結構混んでるな」

勇者「本当だね。ボックス席は全部埋まってるね」

剣士「どっか空いてるとこは……お、あそこなら2席空いてるな。カウンターでもいいだろ?」

勇者「うん、大丈夫だよ。そっちの方が街の話とかも聞けそうだしね」

剣士「それもそうだな。じゃあ、あそこ座ろうぜ」

勇者「うん。わかったよ」

スタスタ ギシッ

剣士「……ふぅ。座ったらどっと疲れが来たな」

勇者「あー、わかる。歩いてる時はそうでもないけど座ると急に来るよね」

剣士「それな。とりあえず喉も乾いたしなんか飲もうぜ」
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 22:44:05.60 ID:Exx5Co8i0
勇者「そうだね。何にしようかな…… 」

剣士「俺はとりあえずビール。てか勇者って酒飲めんのか?」

勇者「失礼な。飲めるよ、大人だもん」

剣士「いや、法律的なことじゃなくて。なんか飲めなさそうなイメージでさ。意外と子供っぽいし」

勇者「なっ! どこがさ!」

剣士「そういうとこだよ。最初は頭の良い落ち着いてるやつかと思ったけど」

勇者「……何。まるで今はそう思ってないような言い方」

剣士「だってすぐ迷子になるし、変なとこで意地張るし、童顔だし、声高いし」

勇者「し、身体的特徴は関係ないじゃん!」

剣士「そういうとこだって。良いから早く飲むもん決めろよ」

勇者「剣士のせいじゃん……。えーっと……あ、じゃあいちごミルクで」

剣士「……やっぱ子供じゃん」

勇者「ちゃんとアルコール入ってるし! いいじゃん、好きなの飲ませてよ!」

剣士「別に悪いとは言ってないだろ」
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 22:46:03.00 ID:Exx5Co8i0
マスター「はいよ、ビールといちごミルクお待ち!」

剣士「あざっす!」

勇者「ありがとうございます」

剣士「そんじゃ、乾杯!」チンッ

勇者「カンパーイ」チンッ

剣士「ごくごくっ……、ぷはー! 疲れた体に染みるねー!」

勇者「甘くて美味しいー。良くそんな苦いの飲めるね」

剣士「逆によくそんな甘いの飲めるな。これから飯も頼むのにそれで食えんのか?」

勇者「全然大丈夫だよ」

剣士「うへー。まぁいいや。とりあえず飯頼もうぜ」

勇者「そうだね。すみませーん」

マスター「あいよー!」
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 22:48:37.40 ID:Exx5Co8i0
−−−−
−−

マスター「はいよー! お待ち!」

勇者「ありがとうございます」

剣士「おぉ! こりゃ美味そうだな!」

マスター「はっは! そりゃありがとうよ! ところで見ない顔だね? どっから来たんだい?」

勇者「隣の街からですね」

マスター「おお、そうかい! とすると王の所か! しっかし王も長いね。もう20年くらいになるか」

剣士「王のこと知ってるのか?」

マスター「知ってるも何も、昔は凄く強い兵士で有名だったんだぜ」

剣士「へぇ、そうなのか。それは知らなかったぜ」

マスター「何でも転移魔法を駆使して戦うとかで有名だったよ」

勇者「でも、昔は魔物も居なかったのにどうしてそんな有名に?」

マスター「昔は人間同士の戦争があったからな。今は魔王が現れてそれどころじゃないけどよ」

剣士「なるほどな。しっかしそんなに強えなら今の王が魔王退治に行きゃいいのにな」

マスター「魔王が現れたのが王に就任して何年かしてからだからな。行きたくても行けなかったんだろうさ」
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 22:50:02.69 ID:Exx5Co8i0
剣士「なるほどな。しかし、やけに俺らの国に詳しいな」

マスター「あぁ、昔、君らの国から来た勇者の人が教えてくれたんだよ」

勇者「……っ!」

剣士「へぇ、そうなのか!」

マスター「もう大分前になるけどな。あれ? そういえば…… 」

ガシャーン!

「てめぇ!! ふざけんじゃねえ!!」

剣士「……あ? なんだ?」

マスター「……はぁ。またか」

勇者「……また?」

勇者(後ろのボックス席を見ると如何にもお金持ちそうな太った男が女の子を怒鳴りつけている)

マスター「あぁ、いつも酒飲んでは暴れるんだよ、あの親父」

剣士「……」
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 22:52:02.56 ID:Exx5Co8i0
勇者「……そんな人なら出禁にしちゃえば良いのでは?」

「てめぇは俺を誰だと思ってやがる!! 」

マスター「……そうもいかないんだよ。あれでもここでは地位のあるやつでな。追い出したらそれこそ何されるかわかったもんじゃない」

勇者「……そんな」

客1「ま、マスター。じゃあこれ会計な」

客2「お、俺も……。ごっそさん」

ゾロゾロ

マスター「……あぁ。毎度」

ガラーン

勇者「……皆帰っちゃいましたね」

マスター「そうだな。……俺はただ、皆が楽しく過ごせる場所を作りたかっただけなんだがな」

剣士「……」スクッ

勇者「……剣士?」
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 22:54:03.46 ID:Exx5Co8i0
スタスタ

金持ち「だいたいてめぇは誰のおかげで生きていけてると……!! 」

少女「……すみません」

金持ち「 てめぇはいっつもいっつも……!! 」

剣士「……おい。うるせえぞ、おっさん」

金持ち「……あぁ!?」

勇者「剣士!! 」

剣士「お前のせいで楽しく飯も食えねえ。とっとと出ていきな」

金持ち「てめぇ……!! 誰に向かって口を効いてる……!!」

剣士「てめぇだよ、てめぇ。ちゃんと話聞いてんのか?」

金持ち「てめぇ……!!」ギリギリ

少女「……」

勇者(……あれ、この娘)
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 22:56:07.31 ID:Exx5Co8i0
金持ち「大体てめぇらなんなんだよ!! 俺を誰だと思ってやがる!!」

剣士「ガタガタうるせえデブ親父かな」

金持ち「何だと……てめぇ……!!」

剣士「やんのか? あん?」

勇者「はいはい、必要以上に煽らないの……。ところで、金持ちさん」

金持ち「あ? 」

勇者「……この娘のこと、虐待してますよね? 」

少女「……」

剣士「何だと……。このクズが……!! 」

金持ち「……何を根拠に言ってやがる?」

勇者「明らかにやせ細った体、全身の痣。どう見たってそうじゃないですか。立派な児童虐待ですよ」

勇者「加えて器物損壊。出る所に出れば勝負は目に見えてますが?」

金持ち「……証拠はどこにある?」

勇者「何?」
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 22:58:02.58 ID:Exx5Co8i0
金持ち「食器やグラスを割ったのは手が滑ったからだよ。悪かったな、マスター」

マスター「……」

勇者「……そんなのさっきまで居たお客さんに聞けば故意かどうかわかることですよ」

金持ち「聞いてみればいいさ。ただ、やつらは何て答えるだろうな? 俺のこと売ったのがバレたらどうなると思ってるんだろうな?」

勇者「……」

剣士「……クズが」

金持ち「それに虐待だって俺がやったっていう証拠は無いだろ?」

剣士「んなもん、どう見たって」

金持ち「……そうだな、本人に聞くのが早いな。おい、少女」

少女「……はい」

金持ち「俺はお前のことを虐待なんかしてないよな? あん?」

少女「……はい 」

勇者(……ダウトだ)

勇者(……だけど、言える訳ないよね)

勇者(過激化を防止するための、自分の身を守るための嘘だもんね)
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 23:00:19.43 ID:Exx5Co8i0
金持ち「……と、いうわけだ。残念だったな」

勇者「……くっ」

金持ち「むしろ名誉毀損だが良いのか? あ?」

剣士「……おい、少女。お前はそれでいいのかよ?」

少女「……」

剣士「俺は嘘が大嫌いだ」

勇者「……」

剣士「もし報復が怖くて嘘ついてるっていうならそんなくだらない事やめろ」

少女「……っ」

勇者「剣士! そんな言い方!」

剣士「……そん時は俺が守ってやる」

少女「……っ!」

剣士「もし、また虐待されるっていうんならそん時は俺が全力で守ってやるよ。だからくだらねえ嘘なんかつくんじゃねえ!」

少女「……っ」

勇者「……剣士」
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 23:02:32.45 ID:Exx5Co8i0
金持ち「何くっせえこと言ってやがる。もう結論は出たじゃねえか」

剣士「……少女、俺を信じろ。お前の口から真実を聞かせてくれ」

勇者「……そうだ。ダウトだよ、少女ちゃん。本当の事を教えてよ」

少女「……っ」

金持ち「お、おいっ!! てめぇ!!」

少女「……私は」

勇者「少女ちゃん!」

少女「……私はっ」

剣士「少女!」

少女「……虐待されてます! 助けて下さい!」

金持ち「なっ!?」

勇者「……よく言ってくれたね、少女ちゃん」

少女「私……ずっと……怖くて……」グスッ

剣士「……よく勇気だしたな」ポンッ

マスター「……」

金持ち「てめぇら……!! 」
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 23:04:03.77 ID:Exx5Co8i0
勇者「……さぁ、形勢逆転だね」

金持ち「……ふんっ!! 誰がてめぇらのような余所者の言うことを信じるかな」

剣士「本人も居るんだ。これ以上ない証拠人じゃねえか」

金持ち「お前らにボコられて、脅されて、無理矢理言わされてるって言ったらどうだろうな」

剣士「……てめぇ!! どこまでも……!! 」

少女「……」

金持ち「……ふんっ、残念だったな。おい、マスター!! 酒持ってこい!! 」

マスター「……やらねえよ」

金持ち「……あ? 」

マスター「お前みたいなやつに出す酒はねえって言ってんだよ」

金持ち「何だとてめぇ……!!」ギリギリッ

マスター「さっさと出ていきな!!」

勇者「マスター……」
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 23:06:02.75 ID:Exx5Co8i0
金持ち「マスター……てめぇ、俺がここに幾ら使ってると思ってやがる!!」

マスター「関係ないね。ここでは俺が神様だ。お前みたいな客はいらないね」

金持ち「てめぇ……!! 覚えておけよ!! ここで商売できないようにしてやるからな!!」

バタンッ

マスター「……はぁ」

勇者「……ありがとうございます、マスター」

剣士「やるじゃねえか、マスター!」

マスター「……あんたらみたいな若いやつらが頑張ってるのに、俺が黙ってみてる訳には行かねえだろ」

勇者「……」

勇者(剣士の行動が少女ちゃんを救った)

勇者(剣士の行動がマスターを動かした)

剣士「へへっ! ざまーみやがれ、悪党がよ!」

勇者(……口は悪いけど)

勇者(やっぱり……剣士は真の勇者だね)
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 23:08:18.26 ID:Exx5Co8i0
勇者「……でも大丈夫なんですか? あの人、商売できないようにしてやるって言ってましたけど」

マスター「……そこなんだよな。どうしたもんかね、全く」

剣士「でも、少女の証拠もあるし捕まるだろ? だったら問題ないじゃねえか?」

少女「……」

マスター「いや、あいつは相当な権力者だし何より金を持ってる。金を払ってさっさと戻ってくるだろうよ」

勇者「……そうですね」

剣士「はぁ!? 何だそりゃ!?」

マスター「決まりでそうなってるからな……」

剣士「なんだよそれ……。金さえあればなんでもありなのかよ……」

マスター「……まぁ、戻ってきた時のことは追々考えるよ。それよりお前ら、腹減ってねえか?」

勇者「え? まぁ……結局、全然食べれてないので空いてますけど……」

マスター「だったら俺の奢りだ。好きなだけ飲み食いしな」

剣士「おお! マジかよ!」

勇者「えっ、でもいいんですか?」

マスター「ああ、構わねえよ。迷惑かけたお侘びだ 」
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 23:10:15.25 ID:Exx5Co8i0
勇者「ですが……」

マスター「……それにもうこの店だって出来ねえかもしれねえしな。最後くらい大盤振る舞いさせてくれ」

剣士「……すまねえな、ありがとうよ 」

マスター「良いってことよ。それと少女ちゃん」

少女「……?」

マスター「お前さんも、たんと食いな。腹減ってんだろ」

少女「……ありがとう、ございます」

マスター「それに泊まるとこねえならここにでも泊まってけ」

少女「……すみません。ありがとうございます」

剣士「……あんた本当にいい人だな」

マスター「……そんなことねえよ。それに、今まで見て見ぬふりしてたしな」

勇者「……」

マスター「まっ、辛気臭い話は終わりだ! 好きにじゃんじゃん頼んでくれ!」

剣士「……ありがとな! じゃあ、あれとこれと…… 」

勇者「……本当に遠慮ないね、剣士は」
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 23:12:11.89 ID:Exx5Co8i0
剣士「うめえ……うめえよ…… 」バクバク

少女「……!!」パクパク

勇者「……2人とも良く食べるね」

マスター「はっはっは! そこまで美味そうに食ってくれると作った甲斐があるよ!」

剣士「おかわり! あと酒も!」

マスター「あいよっ!」

勇者「……全く。少女ちゃんも美味しい?」

少女「……!!」コクコクッ

勇者「それは良かった。……ってあれ?」

勇者(右手には……魔封じの腕輪……呪いの装備か)

勇者「少女ちゃんって魔法使えるの?」

少女「……」コクッ

勇者「へえ! 凄いね!何が使えるの?」

少女「……色々」
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 23:14:02.66 ID:Exx5Co8i0
剣士「色々って。具体的には何使えんだよ?」

少女「……火術、雷術、水術、移動魔法」

勇者「……」

剣士「へえ、小さいのに凄いな」

少女「……小さくない」

剣士「は? いや、10歳くらいだろ?」

少女「16」

勇者「……」

剣士「……嘘だろ、全然見えねえ」

少女「立派な大人」フンスッ

剣士「いや、大人ではないだろ」

少女「……」プクッ

剣士「頬を膨らませるな、リスか」

少女「人間」

剣士「知ってるわ。そうじゃねえ」
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 23:16:05.48 ID:Exx5Co8i0
マスター「ふっ。剣士と仲良さそうで安心だな」

勇者「……そうですね」

マスター「……しかし16歳であんなにやせ細って。よっぽど昔から虐待されてたんだな」

勇者「……酷い親ですね。本当に」

マスター「あぁ。しかもわざわざ養子で貰ってる癖にな」

勇者「え? あの人、本当の親じゃないんですか?」

マスター「もともと孤児だったんだよ、あの娘」

勇者「……そうだったんですね。実の親も義理の親も酷すぎる」

マスター「本当にな。責任も取れねえなら簡単に産んだり育てようとするなって話だ。親も親で大変なんだろうけどよ」

勇者「……」

勇者(やっぱり1人で育てるのって大変だったのかな……)

マスター「お? グラス空いてるけどもう1杯いるか?」

勇者「……ありがとうございます。お願いします」

マスター「おう。何にする?」

勇者「……そうですね。じゃあビールで」
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 23:18:11.00 ID:Exx5Co8i0
−−−−−−
−−−−
−−

剣士「ふぅ〜、食った〜、飲んだ〜」

勇者「……ベロベロじゃないか、剣士」

少女「……満腹」

マスター「はっはっは! 満足してくれた様で良かったよ!」

勇者「すみません……、こんなに沢山頂いて……」

マスター「良いってことよ。それよりもそいつは大丈夫なのか?」

剣士「あ〜、へ〜き、へ〜き」

勇者「……なんとか運んで行きます」

マスター「あぁ、そうしてくれ。ここで吐かれちゃ敵わん」

剣士「うっ……おろろろろろろろ」ダバー

勇者「……叶いませんでしたね」

マスター「……はぁ、悲しいな、こりゃ」
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 23:20:12.81 ID:Exx5Co8i0
勇者「……本当にすみません、ご馳走までして貰ったのに。片付けくらいはやります」

マスター「あぁいいよいいよ。悲しいけど慣れてるからよ。それに割れた食器とかの片付けもあるしよ」

少女「……手伝う?」

マスター「大丈夫だよ。手切ったりしたら危ないだろ」

少女「……でも 」

マスター「……任せておけ。2人とも疲れてるだろ。ゆっくり休みな」

勇者「……すみません、ありがとうございます」

少女「……ありがとう、ございます」

マスター「おう。少女も奥でもう寝てな。布団とかもあるから好きに使ってくれ」

少女「……」コクッ

テクテクテク

マスター「悪いがあんたはあいつだけは連れてってくれ。……流石にあれだけはどうもできん」

勇者「……そうですね。出禁にされないだけありがたいです」

マスター「ははっ! もしまだ店がやってればこの街寄った時にでも来てくれよ!」

勇者「……また是非来ます。ありがとうございました。ほらっ! 行くよ! 剣士!」

剣士「……うぅ」
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 23:22:07.94 ID:Exx5Co8i0
カランカラーン

マスター「……さて、掃除するか」

ゴシゴシ

マスター「……ったく、派手に汚しやがって」

ゴシゴシ

マスター「……ふぅ、こっちはこんなもんか」

カチャカチャ

マスター「……しかしどうするかな、この先」

カチャカチャ

マスター「……きっとあいつがいる限りもう店開けねえんだろうな」

カチャカチャ

マスター「……はぁ、参ったな」



少女「………………」
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 23:24:05.13 ID:Exx5Co8i0
-街・広場-

勇者「おっもーーーい!!」

ズルズル

勇者「ちょっと剣士! ちょっとは自分で歩けないの?」

剣士「……うーん……もう食べられない」

勇者「……えー、この状況で寝る?」

ズルズル

勇者「……もう運べない! ちょっと休憩!」

勇者「……丁度噴水あるしそこで休もう」

ズルズル ドサッ

勇者(……はぁ、疲れた)

勇者(……何で酔っ払い引きずって歩いてるんだろ)
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 23:26:02.31 ID:Exx5Co8i0
勇者(……それにしてもマスター大丈夫なのかな)

勇者(少女ちゃんが証言して捕らえられたとしてもすぐ出てくるだろう)

勇者(……そしたらあの金持ちはマスターの店を潰そうとするよね)

勇者(きっとこの街では店を持てないくらい邪魔をするはずだ)

勇者(それに少女ちゃんの虐待もまた……)

勇者(……)

勇者(……どうするのが正しかったのかな)

勇者(……さっきのも、いくら少女ちゃんを助けるためとはいえ、本当に正しい行動だったのかな)

勇者(……嘘を暴かなければマスターは変わらず店を出せていたのかな)

勇者(……)

勇者「……ねぇ、何が正しい選択だったのかな」

剣士「……うっ! おろろろろろ」ビチャビチャ

勇者「……あーあ、噴水の水が茶色くなってく」

勇者(……今は何聞いても無駄か。それに)

勇者「……剣士の服も洗濯しなきゃね」
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 23:28:02.16 ID:Exx5Co8i0
−−−−−−
−−−−
−−

ズルズル

勇者「……さて」

勇者「……ここどこだろう」

85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 23:30:02.71 ID:Exx5Co8i0
ズルズル

勇者(……おかしいな、街に着いた時はこの辺に宿屋があると思ったんだけどな)

ズルズル

勇者(気づいたら1時間くらい歩いてるし……)

ズルズル

勇者(……はぁ、何時になったら着くんだろ)

ズルズル

勇者(……って、ん? あれは……)

金持ち「…………」スタスタ

勇者(金持ち? こんな時間にどこに……?)

勇者(……怪しい。追いかけた方がいいのかな)

勇者(……でも)

剣士「…………ぐぅ」

勇者(……これを放置していくのは無理だよね)

勇者「……諦めて宿屋探そうか」
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 23:32:02.04 ID:Exx5Co8i0
−−−−−−
−−−−
−−

勇者「や、やっと着いた……」ハァハァ

勇者(……もう日付変わりそうだよ)

勇者(しかし……)

剣士「…………ぐぅ」

勇者(……よくずっと寝てられるね)

勇者(引き摺ってきたから服もボロボロなのに)

勇者(……洗濯は諦めて新しい服買おう)

87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 23:34:02.65 ID:Exx5Co8i0
-宿屋-

宿屋「いらっしゃいませ……って」

勇者「……すみません、こんな酔っ払い連れて来て」

宿屋「い、いえ、大丈夫ですよ。何かお召し物をご用意しましょうか?」

勇者「……はい。買い取るのでお願いします」

宿屋「かしこまりました。2人部屋でよろしいですか?」

剣士「……うっぷ」

勇者「……いえ、別々でお願いします 」

宿屋「かしこまりました。ではご案内します 」

勇者「……お願いします」

ズルズル
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 23:36:02.92 ID:Exx5Co8i0
宿屋「ではこちらがお連れ様の部屋で、あちらがお客様のお部屋になります」

勇者「ありがとうございます」

宿屋「お召し物の方、すぐお持ちしますね」

勇者「……すみません、お願いします」

宿屋「それではごゆっくり」

ガチャ

ズルズル

勇者「……」

剣士「……ぐぅ……ぐぅ……」

勇者「……はぁ。人の気も知らないで呑気に寝て」

勇者「……とりあえず服脱がさなきゃね」

ガサガサ

勇者(……)

勇者(……凄くいい筋肉してるな)
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/16(土) 23:38:23.85 ID:Exx5Co8i0
コンコンッ

勇者「はい!」ビクッ

ガチャ

宿屋「失礼致します。お召し物でございます」

勇者「……ありがとうございます。お幾らですか?」

宿屋「10Gでございます」

勇者「わかりました。じゃあ、これで」ジャラ

宿屋「ありがとうございます。それではごゆっくり」

バタンッ

勇者「……さっさと着せて寝よう」

ガサガサ

勇者「……ぐちゃぐちゃだけど、まぁ、良いでしょう」

勇者「……おやすみ、剣士」

パタンッ

剣士「……ぐぅ……ぐぅ……」
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/16(土) 23:38:52.96 ID:Exx5Co8i0
今日はここまでで!
また書き溜め出来たら更新します!
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/17(日) 09:14:49.93 ID:LxcaiMwbO

時間単位あるのと法治国家かしら
ドラクエイメージだったけど近代的な
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/19(火) 14:07:24.86 ID:TLk8NaBL0
>>91
そうですね、ただ法事国家といっても貴族とかの偉い人の意見はまかり通ってしまう状態。
といったイメージです。
街並みはドラクエっぽい雰囲気のイメージです。
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 14:10:59.45 ID:TLk8NaBL0
――――――
――――
――

-翌朝-

勇者「……んー」ノビー

勇者「……全身が痛い」

勇者「……まあ、剣士引き摺ってあれだけあるいたらそうなるよね」

勇者「…どうせ剣士もまだ起きてこないだろうし、ゆっくり準備してから剣士を起こしに行こう」

ザワザワ

勇者「…ん? 外が騒がしいな」

勇者「一体どうしたんだろう?」

勇者「…準備が終わったらちょっと見に行ってみようかな」
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 14:12:08.20 ID:TLk8NaBL0
――――――
――――
――

勇者「…あの、宿屋さん、外が何だか騒がしいようですけど…何かあったんですか?」

宿屋「そ、それが……」

バンッ!

???「ここに勇者と剣士はいるか!」

勇者「警察の方? 一体何の用ですか?」

警察「聞きたいことがある。ついてきてもらおう」

勇者「…よくわかりませんがわかりました」

警察「…ところで剣士はどこだ?」

勇者「あー」

ガチャ

剣士「……ぐぅ」

勇者「…寝てますね」

警察「……さっさと起こせ」
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 14:14:07.84 ID:TLk8NaBL0
――――――
――――
――

剣士「ふああ…なんだよこんな朝早くによ」

勇者「さぁ…。ぼ、僕もよくわかってないんだよね」

剣士「そうなのか」

勇者「うん。あと決して朝早くはないけどね」

剣士「しかも服も変わってるしよ」

勇者「それは自業自得だけどね…」

剣士「ところでどこに向かってるんだ」

警察「街の広場だ。心当たりはあるか?」

剣士「は? 全くねえよ。なぁ?」

勇者「…………」
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 14:16:09.29 ID:TLk8NaBL0
剣士「…勇者?」

警察「勇者の方は心当たりがあるようだな」

勇者「……掃除、ですかね」

警察「…あれを掃除というならそうなんだろうな」

勇者「そんなに汚してました?」

警察「相当な。あれを汚してないといえるなら美的感覚がやばいな」

勇者「…まぁ、でしょうね」

剣士「なんだ? 何の話だ?」

勇者「全部剣士が悪いんだからね!」

剣士「俺が?」

警察「…あれは全部剣士の仕業なのか?」

勇者「そうです! 止める暇すらありませんでした!」

警察「…そうなのか。剣士、間違いないのか」

剣士「飲みすぎて何一つ覚えていないが…勇者がそういうならそうなんだろうな」

警察「…そうか」
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 14:18:06.44 ID:TLk8NaBL0
ザワザワザワ

警察「……さて、着いたぞ」

勇者「…………え?」

剣士「……なん……だと」

警察「さて、再度問おう。剣士。これは本当に貴様がやったのか?」

勇者(そこには昨日の夜見た時と全く違う光景が映っていた)

勇者(茶色く濁っているいたはずの噴水は、既に違う色に塗り替えられている)

剣士「……勇者。これ」

勇者(赤黒く濁った水)

勇者(そこにだらりと力なく頭をつっぷしている人物がいる)

勇者「……あぁ、間違いない」

剣士「…じゃあやっぱり」

勇者(値段の張りそうな服、その服が張り裂けそうな体躯)


勇者(金持ちだ)

98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 14:20:07.94 ID:TLk8NaBL0
勇者(…しかし、一体誰がこんなことを?)

剣士「…そうか、俺がやっちまったのか」

勇者「………は?」

警察「それじゃ行くぞ。剣士」

剣士「……はい」

勇者「…………」

勇者「いやいやいやいや! ちょっと待って! なんで剣士が連れていかれるのさ!」

剣士「いやだって全部俺がやったって…。間違いないって…」

勇者「…ごめん、ちょっと勘違いがあって」

警察「ではこれは剣士の仕業ではないと?」

勇者「…はい、そうです。誤解を招き申し訳ありませんでした」

剣士「良かった…。記憶がないから不安だったぜ…」

警察「そうか。しかし、完全に容疑が晴れたわけではないぞ」

勇者「…まあそうですよね。ち、ちなみに容疑者候補は僕らだけなんですか?」

警察「いや、他にも…」

99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 14:22:05.04 ID:TLk8NaBL0
マスター「…おう、お前ら」

少女「………」

勇者「マスター。それに少女ちゃん」

剣士「あんたらもこいつに呼ばれたのか?」

マスター「…ああ。所謂容疑者候補なんだとよ」

少女「……」コクッ

警察「そういうことだ。聞き込みの結果怪しいのは貴様ら4人と判断した」

勇者「…昨日の状況を見るとそう思われますよね」

マスター「まぁそうだろうな」

勇者「でも、昨日は少女ちゃんもマスターの酒場に泊まっているわけですし、アリバイを聞けば疑いが晴れるのでは?」

警察「共犯の可能性もあるから断定はできない。それに剣士は飲みすぎて何も覚えていないのだろう?」

剣士「おう」

勇者「…そうですね」

警察「一応、参考に全員の話は聞かせてもらおう」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 14:24:06.42 ID:TLk8NaBL0
――――――
――――
――

警察「全員、協力感謝する。要約すると」

警察「少女は昨日、勇者と剣士が帰った後、すぐ寝たと」

少女「……そう」コクッ

警察「マスターは店の片付けをした後、鍵をかけて寝た。間違いないな」

マスター「ああ」

警察「勇者と剣士は、店を出た後、日付が変わる直前に宿屋に着いたのだな」

勇者「うん。宿屋さんに確認してもらって構わないよ」

警察「そして、その道中、どこかに向かう金持ちを見かけた」

勇者「…怪しいとは思ったけど、剣士を引き摺りながらだから諦めたけどね」

警察「なるほど。では、被害者は23時から今日の朝、掃除屋が発見するまでの間に殺害されたということだな」

勇者「…全員の話を信じるならそうなりますね」


101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 14:26:09.39 ID:TLk8NaBL0
マスター「でもおかしくねえか? 勇者の話?」

警察「そうだな。私もおかしいとは感じた」

勇者(…まあ言われるとは思っていたよ)

マスター「だってよ、俺も店から宿屋までなんて20分もあれば着くだろ。いくら剣士を引き摺っていたとしてもよ」

剣士「確かに宿屋出てからここに着くまでそんなもんだったな」

警察「どうなんだ、勇者」

勇者「…まあ絶対に信じてもらえないだろうけど、迷ったんだよ。宿屋への道で」

マスター「はあ? んなわけないだろ。ほぼ一本道だぞ」

警察「そうだな」

剣士「……いや、こいつならやりかねない。相当方向音痴だからな」

勇者「ほ、方向音痴ではないし!」

剣士「俺的にはそっちの方が信じられねえよ」

勇者「…兎に角、アリバイだけじゃ埒が明かないから証拠を探そうよ」

警察「そうだな。まずこの広場から調べることとしよう」
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 14:28:05.24 ID:TLk8NaBL0
ザバッ

剣士「うっ…」

少女「………」

マスター「…これは酷いな」

勇者「………」

警察「死体の状況は、首に刃物のような切り傷のみだな」

勇者(右側の首筋に切り傷、周りに血が飛び散った後は無し…か)

勇者(とすると殺害現場はここじゃないのかな?)

警察「凶器は…この周辺には見つからなかったな。貴様らの剣をちょっと見せてもらっていいか」

勇者「ええ、構いませんよ」スッ

剣士「おう」スッ

警察「…うむ、問題ないな。他に凶器になりそうなものは…マスターの店に刃物はあるか」

マスター「そりゃ料理もするし包丁くらいはあるな」

警察「そうか。ではマスターの店に行くぞ」

103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 14:30:07.64 ID:TLk8NaBL0
――――――
――――
――

カランカラーン

勇者(…ここにも特に血痕とかはなさそうだね)

警察「では包丁を調べさせてもらうぞ」

マスター「ああ」スッ

警察「…ふむ。特に問題ないな」

剣士「なあ、やっぱり俺らの中に犯人なんていないんじゃないか?」

勇者「え?」

剣士「いや、俺はさ、この中の誰かが人を殺すような奴じゃないって思うんだよ」

マスター「確かにな。会って一日だが、俺もそう思う。それこそ魔物の仕業とかなんじゃねえか?」

少女「…………」

警察「…ふむ」

勇者(………本当にそうなのだろうか)

勇者(あの感じだと金持ちは他の人にも恨まれていそうだが…)
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 14:32:04.77 ID:TLk8NaBL0
剣士「だってそうだろう? 剣も包丁も問題なねえんだ。他に切れそうなものなんてないしよ」

勇者(………もしかして)

勇者「マスター。ごみってもう捨てちゃいました?」

マスター「ん? あぁ、そうだな」

勇者「…そうですか」

剣士「どうしたんだ、勇者?」

勇者「…いや、もしかしたら」

少女「……勇者?」

勇者「警察さん」

警察「どうした」

勇者「もう一度広場を調べませんか?」

警察「…何があるっていうんだ?」

勇者「ちょっと気になることがあって……」

警察「まぁ…ここにも特に気になるものもなかったし構わないが…」
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 14:34:09.72 ID:TLk8NaBL0
――――――
――――
――

-広場-

警察「しかし、一体何を調べるというんだ」

勇者「…噴水の水の中、調べられますか?」

警察「水の中か…、しかし濁っていて何も見えないが…」

勇者「多分ある筈です、凶器となったものが」

マスター「一体何があるってんだよ」

警察「全然見えないが本当になんかあるのか……って痛っ。何だこれは」

剣士「これは…」

少女「…………」

警察「皿の破片か?」

勇者「……やっぱりね」
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 14:36:08.98 ID:TLk8NaBL0
警察「……確かにこれなら切れそうだな」

勇者「うん。刃物がなくてもこれなら十分な殺傷力だと思うよ」

警察「となるとこの破片が凶器ということか」

勇者「…そうだと思いますよ」

警察「なるほど。しかし、凶器はわかったが犯人の手掛かりには…」

勇者「……いや、それは違うよ」

警察「何?」

勇者「…多分、マスターの店の食器のですよ。その破片」

警察「…なんだと?」

勇者「昨日、金持ちさんが割った食器ですよ、それ」

少女「…………」

マスター「そ、そんなのわかんねえだろ! 同じような食器使ってるところなんて山ほどあるだろ!」

警察「…なるほど。今すぐ、今日回収されたごみ袋を検査するよう依頼してくる」

勇者「それが良いと思います。もし、マスターの店のであれば欠けた部分と一致するはずです」

剣士「………」
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 14:38:07.34 ID:TLk8NaBL0
勇者「…昨日、割れた食器の掃除は僕らが帰った後マスターがやったんだ。それに夜は鍵を閉めていたんだよね?」

マスター「…そうだな」

勇者「そ、そうなると僕と剣士には難しいよ。金持ちさんと話している間も、食器を拾う様子もなかったでしょ?」

マスター「…そう…だな」

少女「……」コクッ

警察「…なるほど。では、勇者、剣士には不可能。そういう訳だな」

勇者「ええ。他のお客さんもすぐに帰りましたしね。つまり犯人は少女かマスターのどっちかしかありえないんだよ」

マスター「………」

少女「………」

剣士「……ちょっと待てよ」

勇者「剣士?」

警察「なんだ、一体」

剣士「何かの間違いなんじゃねえか? 俺にはこの2人がそんなことするやつには見えねえ!」

警察「何を言っている。証拠と状況がすべてを物語っている」

勇者「…うん。警察さんのいう通りだよ。信じたくないのはわかるけど、この2人以外無理なんだよ」
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 14:40:07.67 ID:TLk8NaBL0
剣士「けどよ!」

勇者「剣士…、気持ちはわかるけど……」

少女「剣士……もういい」

剣士「…え?」

少女「………私がやった」

勇者「……」

剣士「……少女? 何言ってんだお前?」

少女「……私が…金持ちを…殺した」

マスター「少女……お前……」

警察「…それは自首と判断して良いんだな」

少女「……構わない」コクッ

剣士「おい!! 嘘だよな、少女!!」

少女「……嘘じゃ…ない」

マスター「少女……。お前、何で……」
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 14:42:05.40 ID:TLk8NaBL0
少女「……昨日の夜…店に…金持ちが連れ戻しに来た」

少女「……もし、金持ちが捕まっても…すぐ…戻ってくる」

少女「……そしたら……私は……また…いじめられる」

少女「………そう思ったら……怖くなった」

少女「……だから…………殺した」

勇者「…………」

マスター「少女……」

警察「…そうか。詳しくは檻の中で聞くとしよう」

少女「………わかった」コクッ

剣士「……何でだよ…少女…」

少女「……剣士?」

剣士「何でこんなことしちまったんだよ!!」

少女「………さっき言った通り」

剣士「俺が全力で守ってやるって言っただろうが!!」

少女「………っ」
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 14:44:08.03 ID:TLk8NaBL0
剣士「それなのに…お前は……」

少女「………」

警察「少女。お前を殺害の容疑で連行する」

少女「………」コクッ

剣士「おい!! 少女!! どうして!!」

少女「……剣士には……無理…だったから」

剣士「っ!!」

マスター「………」

警察「さあ、早く馬車に乗り込め」

少女「………剣士」

剣士「……何だ?」

少女「………ありがとう」

剣士「………少女?」

勇者「…………」
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 14:46:05.87 ID:TLk8NaBL0
勇者「……ねえ、剣士」

剣士「……なんだよ」

勇者「君は少女ちゃんを助けたい?」

剣士「……どういう意味だ?」

勇者「質問は後。どうなの?」

剣士「……ああ。当たり前だろうが」

勇者「…それが少女ちゃんの意思に背くものだとしても?」

剣士「……ああ。俺は全力で守るって言ったんだ。そこに嘘偽りはねえ」

勇者「…その選択が誰かを不幸にするものだったとしても?」

剣士「……俺にはその選択が正しいのか間違ってるかなんてわかんねえ」

剣士「けど、俺には少女があんなことするなんて思えねえ!」

剣士「…だから、俺は俺の選択を信じる! 俺は少女を助けたい!」

勇者「……わかったよ。それが君の選択なんだね」

勇者「……警察さん」

警察「なんだ、勇者? 話はもう終わっただろ?」
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 14:48:04.62 ID:TLk8NaBL0

勇者「ダウトだ」


113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 14:50:05.81 ID:TLk8NaBL0
警察「……何?」

マスター「勇者? 一体、どうしたんだ?」

勇者「警察さん。少女ちゃんは犯人なんかじゃないんですよ」

警察「…何だと?」

剣士「勇者! 本当か?」

勇者「…あぁ。少女ちゃんは嘘をついている」

マスター「何だって?」

少女「…っ! 嘘なんて…言ってない…」

勇者「ダウトだよ、少女ちゃん。少女ちゃんに金持ちさんを殺せるわけがないんだよ」

警察「……どういうことだ?」

勇者「ねえ、警察さん。金持ちさんはどうやって殺されたと思います?」

警察「どうって。皿の破片で首筋を切られてだろ?」

勇者「そうですね。では、金持ちさんはどこで殺されたと思いますか?」

警察「それはこの広場でだろ?」

勇者「…半分正解です」
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 14:52:05.62 ID:TLk8NaBL0
警察「半分?」

勇者「はい。確かに殺害現場ここでしょう。しかし、普通にここで殺されたらどうなりますか?」

警察「どうなるってそれは……! なるほど、そういうことか」

勇者「そうです。返り血で一面真っ赤になりますよね」

剣士「確かに…」

少女「……っ!」

マスター「じゃ、じゃあ一体どうやって殺したっていうんだ?」

勇者「簡単ですよ。噴水の水に沈めながら切ったんですよ」

警察「…なるほど。確かにそれなら返り血が飛散することはないな」

勇者「ええ。でもそうなると少女ちゃんじゃ殺すことができないんですよ」

剣士「なんでだ?」

勇者「単純な話だよ。体格差がありすぎるんだよ」

警察「…そうだな。被害者を片手で押さえながら首筋を切れる力があるとは思えない」

勇者「ええ。ですから少女ちゃんが金持ちさんを殺すことなんて物理的に不可能なんです」

少女「…………」
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 14:54:03.84 ID:TLk8NaBL0
剣士「なるほど! だったら少女は犯人じゃねえな!」

マスター「でもちょっと待て。そいつは魔法を使えるんだろ」

警察「何? そうなのか?」

少女「………そう」コクッ

マスター「ああ。水術も使えるって言ってたし、それで窒息させることだって出来たはずだ。切り傷をカモフラージュとしてな」

警察「確かにそれなら辻褄が合う」

剣士「…くっ」

勇者「残念ながらそれも不可能ですよ」

警察「何故だ、勇者?」

勇者「彼女の右腕をよく見てください」

剣士「右腕?」

警察「これは……魔封じの腕輪か…?」

マスター「何っ!」

勇者「その通りです。今の彼女に魔法なんて使えないんですよ」

少女「…………」
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 14:56:06.84 ID:TLk8NaBL0
勇者「魔封じの腕輪は呪いの装備。教会に行って呪いを解除して貰わなければ外すこともできませんからね」

勇者「それに右腕に腕輪を着けているということは彼女は左利き。金持ちさんが切られていたのは右の首筋でしたよね?」

勇者「頭を押さえつけ、水に溺れさせながら首筋を切るのに、わざわざ利き腕と逆の方で犯行に及びますかね?」

警察「…なるほど。考えにくいな」

剣士「それじゃあ!」

勇者「……ええ。以上のことを踏まえると彼女に犯行なんて不可能なんですよ」

警察「…そうだな。少女に犯行は不可能だ」

少女「…………」

剣士「おい。じゃあ真犯人は…」

勇者「…うん。皿の破片を持ち出せて、金持ちさんを押さえつけられる力がある人物」

勇者「それは……あなたしかいないんですよ」

勇者「マスター」

マスター「…………」
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 14:58:07.94 ID:TLk8NaBL0
剣士「……マスター。本当なのかよ?」

マスター「…………」

警察「無言は肯定と捉えるがよろしいか?」

マスター「……あぁ。俺がやったよ」

少女「……マスター」

マスター「…悪いな、少女。庇って貰っちまってよ」

少女「…………」

剣士「マスター…。何で…」

マスター「……昨日の夜に金持ちの野郎がうちの店に来てよ。少女を返せってうるせえんだよ」

少女「…………」

マスター「…でも俺はあんな奴に少女を返す気にはならなかった」

マスター「少女も寝てるし、少し落ち着いて話をしようって広場で話すことにしたんだよ」

マスター「……そしたらあいつ急に襲い掛かってきてな。ついカッとなっちまって…」

マスター「……気づいたらあんな状況になっちまってたよ」

勇者「…………」
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 15:00:06.21 ID:TLk8NaBL0
警察「…そうか。しかし、どんな理由があろうと貴様のやった行為は許されることではない」

マスター「…ああ。わかってるよ」

警察「では署まで同行して貰おうか。早く馬車に乗るんだな」

マスター「……ああ」

少女「……マスター」

マスター「……少女、もう金持ちはいない。好きに生きてくれ」

少女「………マスター」グスッ

マスター「……剣士。迷惑かけて…信じてくれたのに悪かったな」

剣士「……マスター」

マスター「迷惑ついでに…少女のこと…頼むぞ」

剣士「………ああ、わかったよ」

マスター「……勇者。世界を頼んだぞ」

勇者「……マスター」
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 15:02:06.19 ID:TLk8NaBL0

勇者(ダウトだ)
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 15:04:06.67 ID:TLk8NaBL0
勇者(マスターはついカッとなってやったと言っていた)

勇者(だが、それはあり得ない)

勇者(だったら何故、店から移動して広場まで来たのに皿の破片を持って行ったのか)

勇者(答えは明白だ…)

勇者(最初から殺す気でいたんだ)

勇者(だから少女の為だなんて真っ赤な嘘だ)

勇者(マスターは自分の店が開けなくなることを恐れて金持ちを殺すつもりだったんだ)

勇者(…そして少女ちゃんに罪を着せようとしていた)

勇者(少女ちゃんが魔法を使えるのを知っていたから、少女ちゃんが出来そうな手口を選んだんだ)

勇者(少女ちゃんの為を思うなら、少女ちゃんが捕まりそうになった時に黙っている筈がないんだ)

勇者(…だからさっきの言葉なんて)

勇者(全部嘘だ)
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 15:06:12.44 ID:TLk8NaBL0
勇者(……なんて)

マスター「……じゃあな、お前ら。達者でな」

剣士「…マスター」

少女「………マスター」グスッ

勇者(…いい雰囲気を壊すから言わないけどね)

警察「ほら、行くぞ。国まで頼む」

勇者「……国まで?」

警察「ああ。この街には牢獄がないからな。犯罪者は国に送ってるんだよ」

勇者「そうなんですか…」

警察「しかし、助かった、勇者。貴様のおかげで本当の犯罪者を捕まえることができた」

勇者「……いえ、そんなことないですよ。自分の為ですよ」

警察「そうだとしても感謝している。魔王討伐も期待しているよ。ではな」

ヒヒーン パカラッパカラッ

勇者「……期待…ね」

勇者「…容疑者扱いだったくせによく言うよ」
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 15:08:11.92 ID:TLk8NaBL0
剣士「………」

勇者「…どうしたの、剣士?」

剣士「…いや、俺がしたことって本当に正しかったのかなって思ってよ」

勇者「……」

剣士「酒場でよ、俺が金持ちに話しかけなければマスターは殺しなんかしなかったんじゃないかって」

勇者「……そうかもね」

剣士「でもよ、そうすると少女はずっとあのままだったろ」

勇者「……そうかもね」

剣士「…だったら、俺はどうするのが正しかったのかな…って思ってさ」

勇者「…そんなの誰にだってわかんないよ」

剣士「…そうだよな」

少女「………でも…私は」

剣士「……少女?」

少女「………私は…剣士に…感謝してる」

剣士「……そっか。ありがとうよ、少女」
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 15:10:04.13 ID:TLk8NaBL0
剣士「…そうだな。これが俺の選んだ結果だもんな」

勇者「…そうだね。もう変えようがないからね」

剣士「…ああ。ところで少女はこれからどうするんだ?」

勇者「そういえばそうだね。どうするつもりなの?」

少女「………着いてく」

勇者「え?」

剣士「…おいおい、遊びに行くんじゃねえんだぞ。魔王を倒しに行かなきゃいけないんだぞ?」」

勇者「そうだよ、少女ちゃん。すごく危険な旅になるんだよ?」

少女「……わかってる。……でも、これが私の…選択」

剣士「……そうかい。だったら止めやしねえよ」

少女「……ありがとう。……責任…取ってね?」

剣士「……ん? あぁ、守るって言ったことのだよな?」

少女「…………」

剣士「おい! なんか言えよ!」

勇者(…あー、これはこれは)
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 15:12:15.88 ID:TLk8NaBL0
勇者「…とりあえずよろしくね、少女ちゃん」

剣士「よろしくな、少女」

少女「………」コクッ

勇者「それじゃあ行こうか」

剣士「…といってもどこに行くよ?」

勇者「そうだね…、まずは少女ちゃんの腕輪を外せるよう教会を目指そうか」

少女「……同意」コクッ

剣士「そうだな。じゃあ教会を目指すか」

勇者「うん。じゃあ行こうか」
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