翼の生えた少女「私を天使と呼ばないで」

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107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/12(土) 17:36:00.81 ID:lR1LsSQM0
いよいよ核心へ!
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/14(月) 13:58:06.64 ID:SzajDXTSo
こう言うのだいすき
109 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:12:22.95 ID:4ZD4psty0





私は元々、あなたと同じ人間だった。




110 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:13:07.54 ID:4ZD4psty0
=======



ーーー養護施設ーーー

男子児童「これ、おまえの昼だってさ」

(ごちゃ混ぜになった昼食)

少女「……」

男子児童「のこさず食えよ」ニヤニヤ

少女「…こんなことして楽しいの?」

男子児童「あぁ?えさをやろうってのに生意気だな」

男子児童「おら」バシャッ

少女「っ…」

クスクス

児童A「いいにおいじゃん。床もきれいになめとけよ。きゃははっ!」
111 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:13:39.91 ID:4ZD4psty0

保育士「お風呂に入りたいって…また汚しちゃったの?」

少女「やられたんです」

保育士「前もそう言ってたけど、みんなに訊いても知らないって言ってたわよ」

保育士「お風呂の時間は決まってるんだから、汚れないように気を付けるのよ」

少女「……」
112 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:14:06.91 ID:4ZD4psty0

少女「」フキフキ

少女「……!」

少女(服がない…)

少女「……」ギリ

友「少女ちゃん!よかったまだ居た」

友「はいお洋服。また隠されてたから」

少女「友ちゃん…」

友「あとね、お着替えできたら付いてきてほしいの。わたしのお昼こっそりとっといたんだ。いっしょに食べよ?」

少女「……うん、ありがと」ニコ
113 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:14:41.46 ID:4ZD4psty0

養護職員「またあの子?」

保育士「相変わらずイタズラが続いてるみたいでね」

保育士「面倒だわ。余計な仕事ばかり増えてくのよ」

養護職員「親御さん、手続きもしないで置いていったんでしょ?里親も見つからないし困ったものね」

保育士「それに、なんだかあの子気味が悪くて」

養護職員「同感。何考えてるのか全く分からないわよね…」



少女「………」




114 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:15:08.82 ID:4ZD4psty0
ーーーーーーー

友「できたっ」

友「少女ちゃん少女ちゃん」

少女「?」

友「じゃん!問題です、この人はだれでしょう?」

少女「人なのー?それ。木とかじゃなくって?」クスッ

友「ひどーい。少女ちゃんだよー、せっかくかいてみたのになぁ」

少女「これが私…」

少女「…友ちゃんもかいてあげよっか」

友「ほんと?かいてかいて!」

少女「私なりにかいてあげるからね。ふふ」

友「?どーいうこと?」

男子児童「よう、楽しそうじゃん」

友「あ…」

少女「……」

男子児童「もっとおもしろいこと教えてやるよ」

少女「いい。どっかいって」

男子児童「へっ」グイッ

友「きゃっ」

少女「ちょっと!」

取り巻き「おっと静かになー」ガシッ

少女「!離して…!」
115 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:15:35.38 ID:4ZD4psty0

男子児童「見てみぃこいつ。ゴキブリホイホイ!」

男子児童「中にほら」

ゴキブリ「」ウネ...

取り巻き「おえー、まだ生きてんだ」

男子児童「お前さ、これのグルメリポーターやれよ。食べて感想言うやつ。いつもゴキブリみたいなやつと遊んでんだからよゆうっしょ?」

友「ひっ…いや……」

少女「ふざけないで!」

男子児童「ふざけてないよめっちゃおもしろそうだろ?」

男子児童「んじゃ、友さんはりきってどうぞ〜」スッ

少女「お前…!」

男子児童「口開けろって」グッ

友「…っ!」フルフル

少女「」ブン

取り巻き「うお!?」

少女「ああぁ!!」ダッ

男子児童「なっ、てめ…!」

ドタッ!

「少女があばれてる!」

「先生呼ぼう!」



.........




116 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:16:04.16 ID:4ZD4psty0

保育士「暴力はいけないよって教えたよね?どうしてそれが守れないの?」

少女「……」

友「先生ちがうの!あいつらが虫を食べさせようとしてきて…」

保育士「……どんなことされても叩いたり蹴ったりしちゃダメ。男子児童くんお怪我しちゃったのよ。二人とも後で謝ってきなさいね」

友「そんな、先生!」

スタスタスタ...

友「……ひぐ……グス……」

少女「…ごめんね」





毎日、何のために生きてるんだろうって思ってた。




117 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:16:49.02 ID:4ZD4psty0
ーーーーーーー

少女「……」アム

友「……」パク、パク

男子児童「なーこんなかに箸も使えないやつがいるってマジー?」

クスクス...

保育士「……」

少女(……)

少女「…ごちそうさま」

保育士「もういいの?」

少女「お腹いっぱいなんです」

ガチャ

施設長「こんにちは。みんないい子にしてたかしら?」

施設長「少女ちゃんと友ちゃん、こっちにいらっしゃい」
118 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:18:10.73 ID:4ZD4psty0

施設長「この人が、あなたたちの新しい親御さん」

所長「やあ初めまして。君が少女さんで、友さんだね?」

所長「ふぅむ…」ジロジロ

友「」ピク

少女「……」

所長「うん。元気そうで何よりだ」

所長「これから君達のお父さんになる。気軽にパパとでも呼んでくれると嬉しいな」ニッ



.........




119 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:19:02.27 ID:4ZD4psty0

(車内)

所長「それではね。素晴らしい子供たちをありがとう」

施設長「どうか大切に、愛してあげてくださいね」

所長「無論、大事にすると約束しよう」

保育士「二人とも元気でね!ちゃんと言うこと聞くのよ」

養護職員「寂しくなるわ…」

少女(…嘘ばっかり)



バタン ブロロロ...



養護職員「…良かったわね」

保育士「えぇ。あの子にとっても私達にとっても」

保育士「それにしても里親の申請なんていつあったのかしら」

養護職員「そうねぇ。あの人も家庭訪問や面接なんかも受けてるはずだけど、そんな話全く聞いてないわ」

養護職員「施設長、あの男性はどのような人なのです?」

施設長「あの人は特別なんですよ」

二人「?」

施設長「あなた達は少女ちゃんと友ちゃんが健やかに育つようにお祈りしてるだけでいいんです」ニコ
120 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:19:45.62 ID:4ZD4psty0

所長「ここから3時間ほど車で移動するからね。トイレに行きたくなったりお腹が空いたりしたらすぐに言ってくれ」

少女「……」

友「……し、少女ちゃん……」ヒソヒソ

少女「どうしたの?」ヒソヒソ

友「わたし、ちょっとこわい…」ヒソヒソ

少女「…大丈夫。もし何かしてきても私が守ってあげる」ヒソヒソ

友「……」ギュ

所長「はは、まだ慣れないかな?当然だね、知り合って1日も経っていないからね」

所長「今から行くのは君達のために用意した新居だ」

所長「ちょっとずつでいいさ。ゆっくりとお互いのことを知っていこうじゃないか」

少女「………」





その時はもう、どこだっていいやって、あの無味な場所から離れられるならなんでもよかったの。
なにより私だけじゃなくて、友ちゃんも居たから。





=======
121 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:20:13.80 ID:4ZD4psty0
ーーーーーーー

秘書「……」カチ、カチ

モニター『対象No. 91 氏名:XXX XXX 合成オブジェクト:マクジャク 状態:衰弱』

秘書「……」カチ

モニター『対象No. 91 氏名:XXX XXX 合成オブジェクト:マクジャク 状態:死亡』

秘書「…第三負荷実験には耐えませんでしたか…」

秘書「……」ス、スッ...



モニター『対象No. 104 氏名:少女 合成オブジェクト:――』



秘書「………」




122 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:20:47.92 ID:4ZD4psty0
=======

所長「さ、着いたよ」

少女「これが、新しい家…?」

友「わー…おっきい」

所長「こんな山の中ですまないがね。うるさいよりはいいだろう?」

所長「私はここに住んでいない。君達には女性の世話係をつけておくから用がある時は彼女に言いつけなさい」

所長「しかし私も父親だ、時々はここへ様子を見にくる。そしたら団欒でもしてくれると嬉しいね」

友「……」(少女の影に隠れる)

少女「…分かりました」




123 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:21:41.23 ID:4ZD4psty0
ーーー数週間後ーーー

世話係「今日は所長様がおいでになる日ですから、出迎えてあげてくださいね」

友「はーい!」タッタッタッ

少女「あ、友ちゃん!まだ来る時間じゃないよ!」タッタッタッ

世話係「ふふ、仲良くなったわねぇ」



.........





少女「はいストップ!」

友「つかまっちゃったー」

少女「もう、いつの間にか追いかけっこになってるし。所長さんが来るの、お昼過ぎてからだよ?」

友「待ちきれなくって」エヘヘ

少女「…友ちゃん変わったね。初めはあんなに怖がってたのに」

友「うん!だって面白いし良い人だもん。わたしパパのこと好き!」

友「でももちろん少女ちゃんの方が好きだよ」ニコッ

少女「!…私も」

友「少女ちゃんはパパきらい?」

少女「嫌いじゃないけど…」

友「じゃあ今日は一緒に遊んでもらえるかきいてみよ!」

少女「…ん。そうだね」



ーーーーー

保育士「それに、なんだかあの子気味が悪くて」

養護職員「同感。何考えてるのか全く分からないわよね…」

ーーーーー



少女(少なくともあの人たちよりはずっと良い人…だよね)

少女(…私ももっと、所長さんに近付いてみようかな)
124 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:22:07.49 ID:4ZD4psty0

友「え?お引っ越し?」

所長「そう。実は君達に内緒で準備していたのだよ。ここだとどうにも不便だろう?」

友「うーん、わたしはこのお家も好きだけどなぁ」

所長「向こうなら私が毎日顔を出せる」

友「じゃあ行く!」

少女「と、友ちゃん」

所長「不満かね?」

少女「え、と…」

所長「君と同じくらいの子も何人か居るが、皆良い子達だよ」

所長「それとも、まだ私のことが信じられないかな?」

少女「……」

少女「行きます。…お、お父さんがそう言うなら」

所長「はははっ、ありがとう」




125 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:22:52.28 ID:4ZD4psty0
ーーーーーーー

友「ここ?」

所長「そうだよ」



『国立医療生体研究所』



友「くに、たつ、い……せいたい…?」

少女「病院なんですか?」

所長「入ってみれば分かるさ」

少女(…なんだろう、なんか、やだな…)

「「……」」ザッザッ

少女(さっきから後ろを付いてくるこの人たちも、お父さんは私たちを守るためって言ってたけど…)

友「少女ちゃん!何してるのー?」

少女「!…うん」タッタッ



.........




126 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:23:21.52 ID:4ZD4psty0

友「ねぇパパ、この中のどれかがわたしと少女ちゃんのお部屋なんでしょ!」テクテク

所長「利口だね。そうさ、君達だけの特別な部屋がこの先に待っている」カツカツ

友「どんなところ?またお手伝いさんがいるの?」

所長「もっともっと過ごしやすい所だよ。面倒なことは何一つしなくていい」

所長「炊事も掃除も、洗濯、買い物、果ては他人のご機嫌取り。煩わしいことなど一切考える必要のない生活を、君達には送って欲しいのだ」

友「?」

所長「お姫様のような生活だよ」

友「わぁー…!」キラキラ

少女(お姫様……こんなところにあるのかな…)

少女(変な感じがさっきよりも…)

友「おひめ様だって!かわいいお洋服着られるかな?この前読んだ本みたいに!」

友「少女ちゃんはおひめ様になったら何する?」

少女「私は……やっぱり、今までの家がいい」

友「ふぇ?なんで…?」

少女「ここはなんか、広過ぎるかなって」

少女「あの、私、友ちゃんと静かに暮らせるならそれで…」

所長「――到着だ」



『合成室1』  『合成室2』


127 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:24:35.92 ID:4ZD4psty0

少女「…?」

友「どっちのお部屋ー?」

所長「両方だよ」

所長「おい」

「「はっ」」

ガシッ

少女・友「「!?」」

グイ、グイッ!

友「やっ…!?」

所長「衣服は捨て置け、もう不要だ」

少女「っ…!」

友「やだやだ!パパ、やめてよぉ!」

所長「傷は付けるなよ。失敗因子を増やしたくないのでね」



所長「さて、実験の開始だ」





それは生きてるのか死んでるのか分からない苦しさだった。
苦しいって気付いたのもしばらく後で、1秒か、もしかしたら1分だったのかもしれないその時間は、自分が粉々に砕かれてすり潰されて混ぜられるような気持ちの悪さでね。
…今も覚えてるの…。




128 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:25:03.82 ID:4ZD4psty0

少女「……ゔ……」

少女(あれ…私、生きて…)

少女「…!?」

少女(なにこれ!?)

バサ..バサ..

少女(羽?翼…!?私の背中にくっ付いてる…?)

所長「美しさで言えば、こちらの方が上だね」

少女「!」

所長「どう思う、秘書君」

少女「…何、したの?」

秘書「おっしゃる通りですが、種々のデータが取れるまで優劣は付けられません」

少女「ねぇ…」

所長「はは、それはそうだ。早速明日からフェーズ1に入れてくれたまえ」

少女「ねぇ!こっから出して!これ取ってよ!!」

所長「まあ落ち着きなさい。慌てなくてもいい」

所長「君は人類の救世主となるのだよ」ニィ





その目は私を映してなんかいなかった。
そして次の日から、地獄が始まった。




129 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:26:15.26 ID:4ZD4psty0

ボキンッ

少女「あ゙がっ…」

――痛いこと。





ゴポ..ゴポ..

少女「……、っ……」

――苦しいこと。





少女「いやっ…!触りたくない…!」

――汚いこと。





少女「ひ…!あ……」

――気持ち悪いこと。





もう何も考えたくなかった。
私に向けられる狂った視線も、見ず知らずの他人を信じた自分の馬鹿さも、生まれた意味も何もかも。
ただ唯一気がかりだったのは友ちゃんのこと。連れて来られた日以来会ってなかったから。もしかしたらあいつらの隙を見て友ちゃんと逃げ出せるかもしれない。
そんなことを思ってた。
あの時までは。




130 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:27:17.89 ID:4ZD4psty0
ーーーーーーー

所長「やぁ元気かね」

少女「……」

所長「顔色は悪くないね。最近食事を残し気味と聞いていたから不安だったのだよ。君には健康体でいてもらわないと」

少女「……」

所長「今日は君にいい知らせを届けにきたんだ」

所長「君のお友達を連れてきた」

少女「!」



..ベタ..ベタ



少女(友ちゃん…!)

少女「――え」

友「……」

少女(顔は、確かに私の知ってる友ちゃんだ…けど…)

少女(体が毛むくじゃら……腕も、足もあんなに太くなかった……)
131 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:27:48.12 ID:4ZD4psty0

所長「あの子は哀れな失敗作のお猿さんだ」

所長「あれを殺すんだ、少女」

少女「…!?」

所長「でないと君が死んでしまうぞ?」

少女「…しない。絶対、そんなこと――」

バキッ

少女「ぎゃっ…」

ドサ

少女(今のは何…?)

少女(まさか…)

少女「友、ちゃん…?」

友「えへへ、痛かったよね、ごめんね?」

友「でもね、約束してくれたんだぁ」

友「少女ちゃんを殺したら、元に戻してくれるって。えへっ、元の暮らしに帰してくれるんだって…!」

友「少女ちゃん…わたし、少女ちゃんが泣きそうな時とかいじめられてる時も一緒にいてあげたよね…?だからね?」





友「わたしのために、死んで?」





頭の中が一瞬で真っ白になった。
もうどこにも望みなんかないんだって。



友「」スッ...



そうして私は



=======
132 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:28:17.48 ID:4ZD4psty0
ーーーーーーー

少女「私、は……」

男「無理に話さなくていい」

男「何があったのかは、おおよそ分かったから」ギュ

少女「……っ」ギュー

少女「…ごめんなさい…」

少女「けど、男には…最後まで知ってほしい…」

男「……」




133 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:29:00.04 ID:4ZD4psty0
ーーーーーーー

モニター『対象No. 104 氏名:少女 合成オブジェクト:可変質有機体 状態:逃亡』

モニター『対象No. 105 氏名:友 合成オブジェクト:ニシローランドゴリラ 状態:死亡』

秘書「………」

秘書(所長が、キメラに興味を示したのは10年以上も前)

秘書(人間とそれ以外の動物を組み合わせた生物。1個体が複数の異なる遺伝情報を有する状態…これを人工的に作り出す研究)

秘書(当然、許されるわけがない)

秘書(けれど…)



ーーーーー

所長「君も感じるだろう。醜く濁った人間の多いこと。程度の低い争いを、飽きもせず日夜繰り返している」

所長「分かるかね?人は進化しなければならないのだよ。その為には倫理などという足枷は邪魔だ」

所長「その下らない価値観が、我々人類の発展を妨害しているのだ」

ーーーーー



秘書「……」

秘書(そしてここまで来てしまった)

秘書(…私は貴方に見て欲しかっただけなのに)



ーーーーー

少女「」フッ

ーーーーー



秘書(あの笑みがいつまでも脳裏にまとわりついてくる)

秘書(これまで見たどんな表情よりも自然な笑顔で)

秘書(今の私を嘲笑うかのように…)

秘書「…所長…」




134 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:32:42.97 ID:4ZD4psty0
=======

所長「ほう、これは予想以上だね…!」



友「」



少女「……」

所長「これほど適合した例は初めてだ!」

所長「そうか君だったのだな!嗚呼、進化というのはかく美しくあるべきだ」

少女(……)

所長「共に次代を築き上げようじゃないか」

所長「私の天使殿」

少女「………」





それからの記憶は、あんまりはっきりしてないの。
何をされても何も感じなくなってた。
思い出せることといえば、こんなことくらい。




135 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:33:18.81 ID:4ZD4psty0
ーーーーーーー

カチッ プシュー...

「出なさい」

少女「……」

「何をしている、早くするんだ」

少女「……」スク...

ペタ、ペタ

「どうかしたのか?」

「あぁいえ、これの動きが遅いもので」

「具合が悪いんじゃないのか?」

「今朝は異常はなかったのですが…」

少女「………」バサッ

ビシュッ

――ビチャビチャ、ゴトッ...

「……は?」

少女「……」



バサッ



.........




136 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:33:44.82 ID:4ZD4psty0



ビー! ビー!



少女「……」ペタ..ペタ..



ビー! ビー!



少女「……」ペタ..ペタ..



ゴトン、ゴトン



少女「……」

所長『大人しくしていなさい。その空間は完全に隔離された』

所長『いけない子だね。父親の言うことが守れないのかい?』

少女「………」

所長『心苦しいが、悪い子にはお仕置きが必要だ。君には外部との直接接触を断ってもらう』

所長『安心したまえ、良い子にしてたらまた出してあげるさ』

=======
137 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:34:26.81 ID:4ZD4psty0
ーーーーーーー

少女「…あとは、あなたが来るまでずっと…あの場所に居た」

少女「暗くて冷たい……」

男「………」

男(つまり、あそこは医療関係施設を装ったイカれた人体実験場だったってわけか)

男(少女がどんなことをされてきたかなんて、所詮想像しかできねーけど…)

男(…なるほどな、猿にされた親友か)

少女「……」ギュ...

少女「今の暮らしはね、とっても温かくて安心する。でも私が居たらいつか必ず壊れてしまう…」

少女「私にはもう普通の人生を送るなんて出来ないの。だって…"人"ですらないんだもん…!」

男「んなことはない」

男「一寸の虫にも五分の魂、って知ってるか?」

少女「……」フルフル

男「平たく言うと、どんな生き物にもそれ相応の気持ちだとか考えがあるってことだ」

少女「……」

男「いやすまんすまん、少女が虫だって言ってるんじゃなくてな?」

男「人だろうが何だろうが、幸せに生きてく権利はあるんじゃねーかな。猫なら猫生、犬なら犬生……少女なら少女生ってか」

男「俺なんか下らねー遊びで借金作りまくって親にも勘当されて、挙句臓器を売られそうになったりもしたけどよ、そいつは結局、俺が好きに生きてきたっつー証なんだよ」

男「こんなクズの話じゃ参考になんねーか」ハハッ
138 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:34:54.82 ID:4ZD4psty0



バサ...



男「…羽、くすぐったいな」

少女「」ギューッ

少女「私とあなたは違う……どうしようもなく、違う……」

少女「それでも、あなたの言葉の一つ一つが嬉しくて……私の中に満ちてきて…」

少女「男は私の光なの…!」

少女「お願い…私の前から居なくならないでっ…!」

男「……」ナデナデ

男(……)

男(この子は)

男(どうすれば幸せになれる?)

少女「男……男ぉ……」

男「ここに居るよ」ナデナデ

男(俺がこの子を背負うのか…?ガキの一人抱き上げたこともない俺が?)

男(…そんなこと…)




139 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:37:46.49 ID:4ZD4psty0
ーーーーーーー



ザザ



隊長「俺だ。最後の島に着いた」

隊長「あぁ、散開の手筈はさっき伝えた通りだ。見つけ次第即座に連絡を送ろう」

隊長「くどいな。殺すな、だろ?重々承知だ」

ザッ

隊長(この国で合法的に引き金を引けるチャンスなんだ。お上と言えど水を差して欲しくはないな)

隊長「行くぞお前ら。相手は既に何十人と殺しているモンスターだ。気ぃ抜くんじゃねぇぞ」

隊員たち「「「はっ」」」




140 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/15(火) 01:38:46.53 ID:4ZD4psty0
今回はここまでです。
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/15(火) 10:41:27.96 ID:OOIZj9Mio
おつ
142 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2020/09/17(木) 00:56:00.12 ID:pOkIQYvC0
とても今更ですが>>63の最初、

男「おっ!?」

となってますが、正しくは

フワッ!

男「おっ!?」

の2行です。
これがないと>>62からの繋がりが謎ですね。失礼しました。
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/17(木) 08:40:43.90 ID:L8g3q1O80
ここの施設の所長って卿がつく二つ名で呼ばれてたり白い笛を持ってたり口癖が「おやおやおや………」だったりする?
144 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2020/09/17(木) 09:12:17.59 ID:59uqpFRo0
>>143 黎明卿のことでしょうか?
調べて初めて知りましたが、確かに似ていますね。
あそこまででないとは思いますが、どうでしょう…
145 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/20(日) 05:46:30.10 ID:+W2tfUyt0
ーーー翌日ーーー

老人「まだかのう」ソワソワ

男「あの、何がっすか?」

老人「じきに分かる」

男(あんな独白があった夜でも寝れば明ける。朝起きると突然ばあさんが部屋に入ってきて少女を連れ出し、俺とじいさんはなぜか居間で待たされていた)

男(あいつ、目白黒させながら運ばれてったな)



ーーーーー

少女「男は私の光なの…!」

ーーーーー



男(……)

老婆「はいお待たせ」

老婆「出来たから、二人とも入っていいわよ」ニコニコ

老人「おぉでは早速……と言いたいところじゃが、先鋒は男くんに譲ろう」

男「え、はぁどうも」

男(何しようってんだ。別に少女が料理を始めたとかいうわけでもないだろうに)

スー

男「……!」

少女「……」モジ...

老人「よく似合っておるぞ」

男(真っ白なワンピース……に、頭のは昨日のヘアピンか)
146 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/20(日) 05:47:44.39 ID:+W2tfUyt0

老婆「少女ちゃんね、ちゃんとしたお洋服持ってなかったでしょう?」

老婆「ばあちゃんからのプレゼント。どうかしら男ちゃん、見違えたと思わない?」ニコニコ

老人「本当はの、その髪留めとセットで渡すつもりだったんじゃ。しかしばあさんがはやるもんで、髪留めだけ先に渡してしもうた」

老婆「いいじゃないですか。こうして両方お披露目出来たのですから」

少女「…変、かな」

男「いや…」

男(これはどっからどう見ても)

男「天使……」

男「!あぁ悪い、今のはあれだ、見惚れてたっつーかつい」

少女「…!」

老婆「ほらここも」

(翼用に空けられたスリット)

老婆「大きな翼だったからねぇ。ちょっと大変だったけど、綺麗に出来てるでしょう」ニコニコ

男(すげぇ、ぱっと見じゃ境目が分からんな。俺が破いたシャツとは雲泥の差だ)

老婆「少女ちゃん、万歳してみてくれる?」

少女「」スッ

老婆「そうそうここの幅!最初大きく取りすぎちゃってね――」

男「はは…」
147 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/20(日) 05:48:53.70 ID:+W2tfUyt0

老人「年甲斐もなくはしゃぎおってからに」

老人「すまんの、ばあさんはお前さん方が来てくれて嬉しくしょうがないんじゃ。わしらの間には子供が出来なんだ。それで男くんを息子、少女ちゃんを孫娘とでも見ておるんじゃろう」

老人「わしも人のことは言えぬがのう」ホッホ

男「…俺も、もし本当にじいさんの子供だったらもっと真っ当な人間になってたかもしんないっす」

老人「そうなのかい?」

男「……」

老人「滅多なことを言うもんでもないがの」

老人「君はまだ若い。やり直しなんぞいくらでも効く。今はとにかくなりふり構わぬことじゃよ」

老人「ちょびーっと長生きな、爺の戯言じゃ」

男「なりふり…」

男(……)

男「…そうっすね」



ーーーーー

男「人だろうが何だろうが、幸せに生きてく権利はあるんじゃねーかな」

ーーーーー



男(そう言ったのは他でもない俺だ)

男(また、口だけか?)
148 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/20(日) 05:49:21.86 ID:+W2tfUyt0

老婆「そうだわ。ねえ少女ちゃんはお化粧したことあるかしら?」

少女「う、ううん」

老婆「今日はお出かけよね?帰ってきたら教えてあげる。おめかししたら、きっともっと可愛くなるわよ」ニコニコ

男(……)

男「よかったな、少女」

少女「!うん」

少女「今日、この服で行く」

男「いいけど汚さねーようになー」

少女(♪)




149 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/20(日) 05:49:48.66 ID:+W2tfUyt0
ーーーーーーー

男「……」テクテク

少女「……」テクテク

男(この辺に人は居ないってことらしいが、人どころか他の民家も見かけない。どんだけ辺境の地に住んでんだよ)

男(…今の俺たちにしちゃ好都合か)

少女「今歩いてるのが西」

男「え?」

少女「違った?」

男「あ、あぁ太陽の位置な」

男「でもあんだけ高く昇ってちゃ向こうが真東とは限らんぞ?基本斜め上に上がってくしな」

少女「この前はそんなこと言ってなかった」

男「んな細かいこと……教えて欲しかったか?」

少女「」コク

男「じゃ、次からは気を付けるよ」ポンポン

少女「…♪」

男「…少女、行きたいとこあるか?ここじゃあどこに歩いても大して変わらんだろうが…」

少女「男と一緒ならどこでもいい」

男「………」

男「ん、あそこ、行ってみっか」



.........




150 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/20(日) 05:50:31.12 ID:+W2tfUyt0

(小さな川)

男「川だ。さすがに見たことあるだろ?」

少女「きれい」

男「…だな」

少女「……」チャプ

少女「冷たい…!」

男「マジだ。山ん中の川ってこんな冷えてるのな」

男「都会のドブ川とはえらい違いだ。あっちは濁ってるし臭いし、こうはいかない」

男(そうか…こいつはもう都会を歩くなんてことは出来ねーのか)

少女「……」ジー

男「何してんだ?」

少女「これ」

アメンボ「」スイー

少女「アメンボ」

男「知ってるんだな」

少女「昔見たことがあったの。雨上がりの水たまりで、友ちゃんと…」

男「……」
151 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/20(日) 05:52:26.50 ID:+W2tfUyt0

少女「一寸の虫に……えと…」

男「五分の魂か?」

少女「そう、それ」

少女「この子にもこの子の気持ちがあるのかな。自分は幸せだって思って生きてるのかしら」

少女「水に浮いてるだけにしか見えないのに」

男「…水に浮くことがそいつの幸せなのかもしれない」

少女「どうして?私は空が飛べても全然楽しくも嬉しくもないわ」

男「少女が空飛ぶのと、そいつが浮いてることとはイコールじゃないだろ」

男「結局んところ何が幸せかなんてそれぞれ違ぇのさ。俺はビールにつまみ、あとはパチ。そいつは水面走り」

男「お前の場合、それが――」

男(……それが……)

男(俺と居ること……?)

少女「………」

男「………」

男「あの、さ」

男「いっそのこと、じいさんたちの子になっちゃわないか?」

少女「……」

男「ここはいい。人もいねーし静かで安全だ」

男「もう何日もこうやって過ごせてるんだ。じいさんもばあさんもとっくにお前を受け入れてる。というよりそうじゃなけりゃそもそも助けたりなんかしないさ」

少女「……でも」

男「心配すんな、俺も居るから」

少女「…いいのかな…私みたいな…」

男「いいんだよ、四人家族で」

男「つってもずっとここで暮らしてくのは危なっかしくて嫌だからな。少ししたら引っ越してーとこだが…二人で頼めば聞いてくれるだろ」ヘヘッ

少女「……」ハサ..ハサ..

男(俯いちゃいるけど羽が忙しなく揺れてる)

男(多分、喜んでる)
152 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/20(日) 05:54:18.72 ID:+W2tfUyt0

少女「…頭、なでて。昨日みたいに」

男「おう」

ナデナデ

少女「あったかい…」

男「そうか?俺の心があったかいからじゃねーかなー」

少女「んっ」ニコッ

男(冗談だったんだが、そういい笑顔で頷かれちゃあなぁ…)

男「……」チョン、チョン

少女「?」

男「おしゃれだな、このヘアピン」

少女「……//」
153 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/20(日) 05:54:44.05 ID:+W2tfUyt0

男「そうと決まれば遊んでいくか!」

少女「遊び?しりとり?」

男「いーや。せっかく川に来たんだ、川でしか出来ないような遊びをしようぜ」

少女「!なあに?」

男「それはずばり!」

少女「」ワクワク

男「……」

少女「…?」

男(やべ、俺生まれてこの方川で遊んだことなんかなかったわ)

男「…えー…」

パシャッ

少女「きゃっ」

男「はっはっは、水かけ合戦!…なんつって」

少女「……」

ザバァ...(翼で水を掬い上げる)

男「え」

少女「それなら勝てそう」

男「たんまたんま。少女さん?その量はちょっとまずいんじゃない?全身びっしゃびしゃだよ」

少女「そういう遊びじゃないの?」

男「…いやぁ実は」



バシャー




154 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/20(日) 05:55:57.32 ID:+W2tfUyt0
ーーーーーーー

老婆「無いわねぇ」ガサガサ

老婆「この中だったかしら」

老人「落ち着きがないのうさっきから。何が無いんじゃ?」

老婆「お化粧に使ってた道具。ここにしまってたと思うのよ……おじいさん知りませんか?」

老人「何故わしが。大方掃除した時にでも捨ててしまったんじゃろう」

老婆「困ったわ…少女ちゃんもうすぐ帰ってくるのに。今から買いに行っても戻ってこれるのは明日よねぇ…」

老人「いんたーねっとというものなら出掛けずとも購入可能と聞いたことがある」

老婆「まあ!」

老人「じゃが、ぱそこんがなければいけないらしい」

老婆「まあ…」

老人「一喜一憂が幼児みたいになっとるぞ。明日買いに行けばよかろう、車はわしが出すわい」



プルルルル プルルルル



老婆「あらお電話。珍しい、あのヘルスセンターの人かしら?」

老人「おったのう、仕事熱心じゃった」
155 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/20(日) 05:56:41.59 ID:+W2tfUyt0

ガチャ

老婆「はいもしもし、私とおじいさんは元気ですよ」

所長『それは何よりだ。ボケが進行されるとこちらとしても困るからね』

老婆「ボケなんてきませんよ」ホホホ

老婆「どちら様かしらねぇ?」

所長『しかし貴方達は驚くべき場所に住んでいる。その区域に人が居ることを初めて知ったよ』

老婆「のどかで良い所ですよ」

所長『そうかね。ではボケていない貴女にお尋ねする』



所長『翼の生えた女の子を見かけなかったかな?』



老婆「……」

老婆「翼?」

所長『真っ白な、お伽話で描かれるような翼だ」

老婆「素敵ねぇ。けれどごめんなさい、知らないわ」

所長『本当に見たことがないか?』

老婆「えぇ」

所長『…残念だよ』

プツッ

ツー、ツー...

老婆「間違い電話のようですね」

老人「こんな僻地にかけてくるとは器用な間違え方をするわい」



バタン!



隊長「邪魔をする」




156 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/20(日) 05:57:54.35 ID:+W2tfUyt0
ーーーーーーー

男「ぶぇっくしょい!」

男「っあー、風邪引いたらどうすんだよ」テクテク

少女「空、飛び回れば早く乾くかも」テクテク

男「余計悪化するわ」

男「…あれはあれで面白れーから、そのうちまた頼もうかね」

少女「いつでもいいよ」

男「そういや帰ったらばあさんが化粧してくれるとか言ってたな」

少女「…可愛くなれるの?」

男「女は化粧で化けるって言うぜー」

男「子供にはまだ早ぇと思うけど」

少女「……」ムッ

男「でもナチュラルメイクなんてのはいいって聞くな。少女肌真っ白だしそんくらいが丁度いいんじゃねーか?」

少女「なら…それにする」

男「言ってみ言ってみぃ」

男「あ」



(湧水所)


157 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/20(日) 05:58:34.01 ID:+W2tfUyt0

男「そうだ…出かけついでに水汲んでくるよう言われてたんだった」

男「容器もなんも持ってきてねー…」

少女「私が運んでいこっか?」

男「お前が?っていやいや、羽に水貯めてくのは新し過ぎる。量的にも足りないしな」

男「しゃあない。少女、家ん中に空のポリタンクがあったはずだから取ってきてくれ。四つくらい」

男「俺はここで待ってるから」

少女「男も行こ」

男「一人で行った方が早く戻ってこれるだろ?ちょっと飛んでスイスイっと」

少女「………」

男(に、睨んでる)

男(ぶっちゃけさっきの川遊びでへろへろなんだよな…少しくらい横になりてー)

男「分かった!行ってきてくれたら好きなこと一つだけしてやろう」

少女「!ほんと?」

男「おう何でもいいぞ」

少女「……じ、じゃあ」

少女「抱きしめてほしい…寝る時、ぎゅって」

男(そんだけでいいのか)

男「お安いごようだ」

少女「…ふふっ」

少女「行ってくる!」バサッ




158 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/20(日) 05:59:07.39 ID:+W2tfUyt0
ーーーーーーー

バサ、バサ

少女「……」



ーーーーー

男「人だろうが何だろうが、幸せに生きてく権利はあるんじゃねーかな」

ーーーーー



少女(そんなことを言ってくれたのはあなたが初めてだった)

少女「……」バサッ



ーーーーー

男「いいんだよ、四人家族で」

ーーーーー



少女「……私の、家族……」

少女(男と私が…)



ーーーーー

男「今のはあれだ、見惚れてたっつーかつい」

ーーーーー



少女「……♪」
159 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/20(日) 05:59:41.97 ID:+W2tfUyt0

ストッ

少女(ポリタンクは家の中)

少女(…今お化粧して戻ったら、男驚いてくれるかな)

ガラ

少女「おばあちゃん…!朝話してたこ…と……」



隊長「よう、待ってたぞ」



隊員「「「」」」チャキッ

少女「………?」

隊長「写真で見た通りの翼だな。だが服と、その頭の…一丁前に人間に擬態したつもりか?」

隊長「聞いていたのは可変質などという異形の力だけだったが、よもや人を洗脳する能力まで有しているとはな」



老人「」

老婆「」



少女「!!」

隊長「いくら問い質してもお前の居場所を吐かずしらばっくれるばかりだった。既に救いようのない程お前に汚染されていたからな」

隊長「始末させてもらった」ニッ...

少女「………」
160 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/20(日) 06:00:27.16 ID:+W2tfUyt0



カシャ



隊長「遺伝子銃と言うらしいな」

隊長「これで撃たれた者は細胞が崩れ落ち、苦しみ悶えながら息絶える」

隊長「いくら銃弾を防ごうが、擦り傷が出来ただけで内側から腐っていくそうだ」

隊長「そこの死体のように」

少女「………」

隊長「さあどうする化け物。大人しくついてくるか、俺達とやり合うか」

少女「……………」



...バサ



隊長「ふっ、そうだろうな」

隊長「もっとも、張り合いが無くてはつまらん」

隊長「退屈なお守り仕事ばかり――」

少女「おい」





少女「黙って死ね」




161 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/20(日) 06:01:03.76 ID:+W2tfUyt0
ーーーーーーー

男「……」ダイノジ

男「……」

男「気持ちー…このまま寝れちゃいそうだ」



ーーーーー

少女「…ふふっ」

ーーーーー



男「…あんな風に笑えるんだな」

男「嬉しそうに飛んでっちゃって」

男「もっとでけーわがままでも、俺は構わなかったんだけどな」



...パァン...



男「ん?」ムク

男(今の音……銃声……?)

男(いやまさか…)

男「………」

男(…胸騒ぎがする)



タッタッタッ




162 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/20(日) 06:03:04.66 ID:+W2tfUyt0
ーーー老夫婦宅ーーー

男「やっと着いた…」ゼェ..ゼェ..

男(田舎ってのはどうしてこういちいち遠いんだ)

男「……」

男(さっきの音、あのあと一回も聞こえてこなかったが…)

男(少女も一向に戻ってくる気配がない)

男「…もしかして帰る途中で…?」



...ガラ



少女「……」

男「お…なんだ、居るんじゃねーか」

男「どっかで迷子にでもなってんじゃないかと心配したぜ」

少女「」スッ...

グイッ!

男「!?どうした?」

少女「今すぐここから離れないと」

男「い、いや水汲みくらいそんなに急がなくても」

男(…っ!)

男(肩に赤いシミ…見覚えがある、これは…)

男「何が、あった?」
163 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/20(日) 06:03:36.88 ID:+W2tfUyt0

少女「………」

少女「おばあちゃんが…おじいちゃんが」

少女「殺された」

男「――っ」



(家の中に横たわる複数の死体)



男(あの武装集団は少女の追手か…!)

少女「私のせいで死んじゃった」

少女「…だめ、なんだ」

少女「やっぱり、おばあちゃんたちを壊しちゃった」

男「少女…」

少女「いやだ……いやだよ……ねぇ…!」ポロ..ポロ..

少女「私が望もうとしたからあいつらが来たの?私が関わったものを全部消して、それでまた笑ってるんだ!」ポロポロ

少女「ああぁ……ああ……もうやめて…」

少女「私はあんなところに戻りたくない……これ以上殺したくない…!」

少女「失くしたくないよぉ…!」ポロポロ

男「…っ」

男(くそ…!俺は……)

男(俺は…!)
164 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/20(日) 06:05:13.06 ID:+W2tfUyt0



ギュ



男「逃げよう、二人でどこまでも」

男「ずっと俺がついて行く、守ってやる」

男「生活のために色んな勉強して、お前と暮らしていけるよう全力を尽くしてやる!」

男「だから泣くな。俺は居なくならないから」

少女「う……あぁ……」ポロポロ

男(俺は馬鹿だ。いやそんなん元々分かってたが救いようのない大馬鹿だ)

男(あんな狂った連中が少女のことを簡単に諦めるわけがない。なのに俺は根拠もねー気休めな言葉をこいつにかけて…)

男(じいさんとばあさんが死んだのは、現実を見ずだらだらここで過ごしてた俺のせいだ)

男(…ごめんな…)

少女「男…!」ギュゥゥ

男「とりあえずはさ、ここよりずっと遠くの絶対に誰も来ないような場所に住もう」

男「ここと同じで静かなところの方がいいよな」

男「あぁでも、最初は勉強のために人の居住区の近場か…?」

男(俺はこいつを守る)

男(俺と居ることがこの子の幸せだっていうなら、いつまでも一緒に居てやる)

男(…はは、人生どうなるか分からんな)

男(俺みたいなクズ野朗にも守りたいと思えるものが出来ちまうんだからよ)
165 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/20(日) 06:06:02.99 ID:+W2tfUyt0

少女「うぅ……」

男「落ち着いたか?なら急いで行かないとな」

男「あんな格好つけといてあれだけど、俺を持って空飛んでくれるか?その方が走るより速いんだ」

男「無理にとは言わない」

少女「うん……できる」

男「よし。一旦は向こうの山経由で行こう」

少女「男」

男「ん?」

少女「好き」

男「……おう」

男「俺も好」





――タァン!





...ドサ





男「」





少女「…………ぇ」
166 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/20(日) 06:06:35.28 ID:+W2tfUyt0
今回はここまでです。

次回の投稿で完結する予定です。
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/20(日) 08:30:10.73 ID:Sn68WI+6O
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/20(日) 12:31:28.78 ID:QHIDZnzS0
えええええええええええ男ぉおおおおおおお乙。
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/20(日) 12:32:03.50 ID:QHIDZnzS0
sage忘れたすまん。
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/21(月) 03:02:22.47 ID:jYZdqmb6o
エルフェンと違って見た目が隠しづらいし、生きていきづらいよな…
171 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 01:46:23.33 ID:Q8aaU0Ei0

男「」

少女「男……?」

男「」

少女「まだ…夜じゃない……よ?」

男「」

少女「だから寝なくていいんだよ……?」

男「」

少女「…ぁ…」

少女(何度見てきただろう)

ドク..ドク..

少女(流れてるのは)



血。



ーーーーー

友「」

ーーーーー


172 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 01:48:12.84 ID:11dYscRtO

所長「これで、最終フェーズへの準備は整ったかな」

少女「………」

所長「見つけ出すのにえらく時間をかけてしまったが、おかげで君の感情は熟成されたようだね」

私兵「「「……」」」ザッ

所長「人間に欠かせない要素として真っ先に挙げられるのは、その形状でも知能でもない」

所長「高度な感情だ」

所長「君も出会って間もない頃は様々な表情を見せてくれたのだがね、いつしか空虚な反応さえ返してくれなくなった。君を見守る者として非常に心配したものだよ」

所長「しかし…それは杞憂だったようだ。こうして君の心を揺さぶり起こす存在を当てがうことが出来たのだから」

所長「君自らが共に連れ立とうとする人物。それが失われたとなればどれほどの感情がうねり、溢れてくるのか…!」

部隊長「所長、あまり近付かれては危険です」

所長「黙れ。口を挟むな」

所長「我々は今、人類史の岐路に立っているのだ」

所長「私の研究が正しければ、アレは心技体全てにおいて我々ホモ・サピエンスを凌駕する存在へと昇格する」

所長「さあ見せてくれ。その神性、輝き…」

所長「新人類のイヴよ!」

173 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 01:49:58.62 ID:11dYscRtO

少女「………」

少女(………)

少女(………)



ーーーーー

男「きみと話が出来るだけで十分だ」

ーーーーー



あなたまで居なくなっちゃった。



ーーーーー

男「ぶかぶかだけど…かえって良かったかもな」

ーーーーー



望んじゃいけなかったんだ。
求めちゃいけない。考えちゃいけない。
私みたいな■■には。



ーーーーー

男「心配すんな、俺も居るから」

ーーーーー



もう、いい。





ゴワァ!!





部隊長「なんだ…!?」

所長「おぉ…!」
174 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 01:51:44.55 ID:11dYscRtO

(後方の装甲車内)

運転員「なんだよあれ…」

運転員(実験体の捕獲任務だって聞かされた)

運転員(相手は躊躇なく人を殺す化け物だがしかし近付き過ぎなければその危険は無い)

運転員(1対の大きな翼、半径2メートルが奴の射程圏内)

運転員(そう聞かされていたのに…)

「なあ…ありゃ話と違くないか…?」

運転員(ここから見えるだけでも4対!長さなんか軽く10メートルは超えてるだろう…!)
175 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 01:53:33.58 ID:11dYscRtO

「な……」

「っ…」

少女「………」ユラ

少女「…キえてよ」



ビュンッ

ゴシャッ!



ボトッ、ビチャ



「っ!!」

「ぅ…おおぉ!?」ガガガガガ!

ズダダッ ズダダダ!

部隊長「よせっ!勝手に撃つんじゃない!」

グシャッ

「寄るな化け物…!」ズダダダ

部隊長(駄目だ、皆この事態に混乱している)

部隊長(想定を超えた異常など…!)

部隊長「所長、アレの殺害許可を下さい。最早捕獲は困難かと思われます!」

所長「なんと素晴らしい……あれが人のあるべき……」

部隊長「所長…?」

バサッ

部隊長「!」

少女「」ビュッ

部隊長「所長!!」

所長「嗚呼…」

部隊長「くっ…車にお連れしますからね!」

部隊長「全員作戦変更だ!地点Aまで撤退する!各自榴弾を撒きながら車まで戻れ!狙撃手は撤退の援護をしろ!」



ズダダダッ パァンッ!

タタァン!

タッタッタッ


176 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 01:57:45.46 ID:11dYscRtO

部隊長「手荒な扱いお許し下さい」

所長「」ボスン

バタン

部隊長「出せっ!地点Aだ急げ!」

運転員「は、はいっ!」

ブロロロ...

部隊長(なんてことだここまでの不測が起きようとは…!)

部隊長(アレが元のままであれば捕獲の算段はいくらでも立てていた。シミュレートも抜かりは無い)

部隊長(出だしから破綻…!どうなっている…!?)

所長「ふはは……はは…!」

部隊長(既に心はここにないか)

部隊長(地点A――緊急例外処理地点)

部隊長(捕獲ではなく確実に死に至るが、所長からの指示も得られない以上、仕方あるまい)



ドガァン!

ギィィ、ガシャンッ!



部隊長「!何の音だ?」

――ガツン!

部隊長「ぐお!?」

――ガァン!

部隊長(車体が…!?)



ドシンッ!


177 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 02:00:40.80 ID:11dYscRtO

部隊長「……ぐ……」

部隊長(倒れた?)

部隊長「…!」



(ひしゃげ、転がり伏す後続の装甲車)



部隊長(…いや、倒されたのか)

部隊長「しっかりしろ、おい」

運転員「」

部隊長「所長、ご無事ですか!」

所長「……」

部隊長(意識はあるが、まずい…この状況は非常にまずい!)

部隊長(ここもいつアレに潰されてもおかしくない!所長を連れて早く脱さねば!)

部隊長「くそ…開け…!」ググ

ドカッ

部隊長(よしっ、早急に遠ざか――)



少女「………」



部隊長「!……」

少女「………」

部隊長(……死ぬ、か)

少女「………」ツー

部隊長「…?」

少女「……」ポロ..ポロ..

部隊長(なんだ…?涙…?)

少女「……ぅ……あ……」ポロ..ポロ..(頭を抱え後ずさる)

部隊長(何が起きているんだ…)
178 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 02:01:51.37 ID:11dYscRtO

部隊長(!呆けている場合ではない。この間に…)

グイッ

...ザッザッ

トスッ

所長「……」

部隊長(一時車の影に置いておく。どうせ徒歩でアレから逃げ切るのは不可能だ)

部隊長(車も無くなり残った人員も定かではない今、地点Aまでは到底辿り着けまい)

部隊長(ならば優先すべきは緊急例外処理地点をここへ移してもらうこと…!)



ザザ..ザ..



部隊長(頼む、繋がってくれ…)

ザザ

秘書『はい』

部隊長「秘書殿か!?緊急事態だアレが暴走した!コードEの発令を願う!」

秘書『所長からそのような報告は受けていませんが』

部隊長「これは私の独断だ。所長は今会話が可能な状態にない」

秘書『ですが…』

部隊長「部隊は壊滅!一刻を争う事態なんだ!」

秘書『……承知しました』

部隊長「本通信の発信元を座標として欲しい。以上だ」

ザ...
179 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 02:06:52.73 ID:Q8aaU0Ei0

部隊長(これで一先ずはいい。あとは所長と共にここを…)

部隊長(居ない!)

少女「うぅぅぅ……!」

所長「もっと見せてくれ、高次へと至った君を…」ザッ..ザッ..

部隊長「何をしているんです!?早くこちらへ――」





少女「あああぁああぁぁああああああああ!!!!!!」





バサバサバサッ!

ゴウッ! ズダンッ!



部隊長(なんという光景だ)

部隊長(木々を折り、地面を割く)

部隊長(およそこの世のものとは思えぬ異形、咆哮)

部隊長(これは紛うことなき)

部隊長「…魔物…」




180 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 02:07:36.65 ID:Q8aaU0Ei0

体が熱い。

苦しい。



ーーーーー

なんで産んじゃったのかしら――

なんだかあの子気味が悪くて――

君は人類の救世主となるのだよ――

今度のは飛び抜けた化け物の管理らしい――

わたしのために、死んで?

ーーーーー




分かったよ…!もう分かったから!!

いらない、こんな世界。

こんな私も。

苦しいだけの■生なら、

全部消えて…消えて……

消えて――!



少女「ぐゔゔぅぅあ゙ぁ゙ぁ…!!」ポロポロ



ズドンッ!

ドスッ ズシャンッ!



ハラ...




181 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 02:08:04.06 ID:Q8aaU0Ei0
ーーーーーーー

男「」

男「」

男「」ピク

男(………)

男(……少、女……)

男(泣いてる……)

男(……俺が……ついててやらねー…と……)

男「……ゲフ」ゴポ



ズル..ズル..




182 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 02:08:35.91 ID:Q8aaU0Ei0
ーーーーーーー

少女「い゙……あ゙ぁ゙…!」

所長「瓦解が始まっているのか?」

所長「だが、止めてはならぬ……神聖なる進化の過程なのだ…」ウットリ

部隊長「所長!こちらへいらして下さい!」

部隊長(何故近付いていくんだ!死ぬぞ!?)

部隊長(これが狂気に取り憑かれた人間の行動なのか…?)

部隊長(…それはそうだ。この研究であれ、常人ならば開始地点に立とうとすら思わない)

部隊長(このままでは私まで…!)

部隊長「…っ」

部隊長(やむを得ない。私だけで離脱しよう)

部隊長(この呪われた空間から)



ハラリ...



部隊長「…?」

部隊長(羽?奴の体から…)

バサッ!

部隊長「!しまっ」



ドシャッ




183 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 02:09:09.72 ID:Q8aaU0Ei0
ーーーーーーー



少女(……)



本当は幸せになりた



少女(……)



みんなと同じよう



少女(……)



誰かに認



少女(……)







少女(……)



少女(ううん)

少女(もう何も見ない)

少女(聞かない)

早く失くなって。

ずっとずっと深い、誰にも見つからない場所へ……
184 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 02:09:46.14 ID:Q8aaU0Ei0





男「少女……」





少女「!!」

男「はぁ…はぁ…」

少女「男…!」タッタッタッ

男「はぁ……ケホッ」

男「追いついた……みてーだな……」

少女「男!男っ…!」

ハラ

男「んな呼ばなくても…聞こえてるぞ……」

男「?…なんだお前……顔にまで羽付いてんじゃん……」ハハ...

少女「ねぇ…ごめんなさい」

少女「ごめん…なさい…!」ポロ..ポロ..

男「……泣くなよ……」

男「言ったろ……辛くなっても…俺が居てやる……」

男「また……頭、撫でてやるから……」

少女「うん…!」ポロ..ポロ..

ハラ、ハラ
185 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 02:11:29.48 ID:Q8aaU0Ei0

男「顔、くしゃくしゃだ……いや…ふさふさか……?はは…」

少女「男……好きなの…好き…!」ポロ..ポロ..

男「おう……俺もだ…」ニッ

男「カフッ…」

少女「……」ポロポロ

男「…まぁでも…」

男「そうやって……泣いたり……笑ったりしてる顔……」

男「……俺は……何よりも……人らしいと……」

男「………思う………ぞ………」

少女(――)

男「」

少女(…そうだ…)

少女(なかったことになんて出来ないよ)

ハラ、ハラハラ...
186 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 02:14:15.17 ID:Q8aaU0Ei0



本当に幸せだったの。



みんなと同じように、ただただ何気ない話をしてくれるあなたが好きだった。



居ていいんだって、あなたに認めてもらえて嬉しかった。



私はあなたに会えて、



少女「……」ニコ



ハラハラハラ――



フサァ...




187 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 02:16:22.81 ID:Q8aaU0Ei0

所長「………」

所長「素晴らしい!」

所長「実に力強く、優雅ではないか!」

所長「私の研究に間違いは無かったのだ。これこそまさしく世を統べるに相応しい優等人種。長くこの星に巣食ってきた旧人類共を淘汰せしもの」

所長「アレを失くしてしまったのは惜しいが、引き換えに貴重な実証サンプルをこの目に焼き付けることが出来た」

所長「鮮明な内にすぐにでも研究所へ戻らねば」

所長「手始めに耐久性の追究…寿命への考慮も必要か。可変質有機の配合比パターンを、アレへの寄与量を基準に作ろう」

所長「思考が止まらぬ…」

所長「感じるぞ…神の意思を…。より完璧な進化をもたらせと語りかけてきている…!」

所長「応えてやろう、私の全てを以て!ははははっ!」



「動くな!」



ザザザッ

「「「……」」」チャキ

「手を上げて大人しくするんだ」

所長「…なんだね君達は?」

「聞こえなかったか!手を上げろ!」

所長「おい、私を誰だと思っている?」

秘書「…所長」

所長「秘書君いいところに来てくれた。こやつらに説明してやってくれないか、私が誰であるかを。そしてそこを退くようにな」

所長「私は急ぎ戻らなければならない。足は用意してあるか?」
188 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 02:16:51.62 ID:Q8aaU0Ei0

秘書「もう終わりにしましょう」

所長「なに?」

秘書「この方々は私が呼んだのです。今頃は研究所の"資料"もあらかた押収が済んでいるでしょう」

秘書「所長もご同行下さい」

所長「は……?」

所長「なんと言った?」

秘書「……」

所長「押収だと…?」

所長「ふざけるなよ貴様!」

所長「誰の許可を得てそのような愚行に及んだっ!」

所長「進化への妨害、冒涜だぞ!」

所長「許されない……許されるはずがない」

秘書「……」

所長「貴様ぁあ!」ダッ

「確保しろ!」

ダダダッ

ガシッ、ググ...

所長「ぐ…」

所長「お前達は、絶対的飛躍の機会を損ねた……文句無く地獄行きだ…!」

「秘書さん」

秘書「はい」

秘書「…行きましょう」



男「」



秘書「……」




189 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 02:17:37.64 ID:Q8aaU0Ei0





.........




190 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 02:19:03.28 ID:Q8aaU0Ei0
ーーーーーーー



バババババッ



搭乗員「OK、周囲に異常なし。もっと寄せてくれ」

パイロット「了解」



(ズタズタの陸地)



搭乗員「……凄まじいな」

パイロット「えぇ」

搭乗員「何を考えてここまでの惨状を生み出したのだろうな」

搭乗員「テロリストの思考回路などなぞるだけ無駄か」

パイロット「本人らも自死したとのことですからね」

搭乗員「どの肉塊も原形を留めていない。回収したところで無駄かもしれないな」

パイロット「!いえ、見て下さいあそこの!」

搭乗員「男性の遺体か?」

パイロット「あれだけは五体満足に見えますね」

搭乗員「あぁ…しかし」

搭乗員「周りの、白い地肌はなんだ?」

搭乗員(いや、地面ではないな。風に吹かれているように見える)

搭乗員(軽く、小さな…)



搭乗員「……羽?」




191 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 02:19:57.60 ID:Q8aaU0Ei0
ーーーーーーー

(学校)

「ねぇ見た見た?今朝のニュース!」

「見た!めっちゃびびった!」

「なぁに?ニュースって」

「これよこれ」スッ

スマホ『日本で初、大規模テロ。無差別破壊が目的か』

「テロ!?」

「近くじゃなくてよかったよね」

「犯人はどんなやつなの!?」

「それがさ――」




192 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 02:20:30.53 ID:Q8aaU0Ei0

(会社)

「うわ…」

「仕事中に何をしとるんだ」

「あ、課長。見てくださいよこれ。例の現場写真らしいですよ」

「…滅茶苦茶だな」

「竜巻が通った跡に似てるって書いてあります」

「凶器未だ分からず…」

「色んな考察が飛び交ってますよ、見ていきます?」

「仕事をしろ」




193 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 02:20:57.81 ID:Q8aaU0Ei0

(居間)

テレビ『次に、紛争やテロといった問題に詳しい、専門家のーー教授に来て頂きました』

テレビ『早速ですが今回のテロ事件、犯人の動機としては何が考えられるのでしょう?』

テレビ『そうですね。テロというのは思想の強い発露なわけでしてね、今回のように目的を果たすためなら死んでも構わないというテロリストは多いのですよ』

テレビ『それも踏まえましてね、発生現場が極端に人の少ない地域でありますから――』




194 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 02:21:45.25 ID:Q8aaU0Ei0
ーーーーーーー

秘書「………」

秘書「………」

秘書「………」

秘書(…あの子が残した大きな爪痕は、世間では無差別テロ事件として報じられることになりました)

秘書(これだけの行いが明るみに出れば、この国そのものが国際社会からの厳しい糾弾を免れないからだそう)

秘書「………」

秘書(私達が)

秘書(地獄行きであることなんて、当然です)

秘書(ですがあのまま、生きながらにして悪魔と化すよりは遥かに良いでしょう)

秘書(貴方もいつかそのことに気付いてくれますよう…)

「出なさい。審問の時間だ」

秘書「…はい」

秘書(…これで、少しは人に戻れたのでしょうか…?)




195 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 02:22:10.62 ID:Q8aaU0Ei0





.........




196 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 02:24:01.78 ID:Q8aaU0Ei0
ーーーーーーー

へー、あの世ってこんなんなってんのな。意外性がないな。

あ…先行かないでっ。

そんな進んでな…うお、結構離れてる。やっぱ不思議空間なのか。

うー。

わざとじゃないんだ。置いてったりしねーからさ。

しっかしお前のそれ、ここまで来ても残ってるとはねぇ…いっそ本物の天使になれそうだな。

手繋ぐか?天界を案内してくれよ、ははっ。

手はつなぐ。

でも…違うよ。私も男と同じだもん。

だからね、





私を天使と呼ばないで。





ー終わりー
197 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/09/25(金) 02:30:04.39 ID:Q8aaU0Ei0
これにて完結となります。

元々「天使と呼ばれた子」というフレーズが浮かんできたのがきっかけで考え始めた話でしたが、大きな参考元は途中でも指摘して頂いた通り「エルフェンリート」です。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/25(金) 02:35:24.83 ID:yjrAzXNKo
おつ

少女さん、なんで無関係な隊員は殺したのに所長は殺さなかったのwって
ツッコミは野暮なんだろうな。おもしろかったよ
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/25(金) 02:42:10.21 ID:iTCyVKaDO
おつです
生きて幸せにはなれなかったか…
生まれ変わったら兄妹になってたりして
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/25(金) 02:59:28.50 ID:Tf0OuQ6C0

生まれ変わったら、か………無限に幸せな妄想しか捗らない。
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/25(金) 05:17:11.20 ID:gavqjCI2o
おつおつ
楽しませていただいた
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/25(金) 14:16:07.05 ID:XJBZ6rDzo
う〜ん、小難しいこと言って煙に巻く感じ、それこそオマージュ元のエルフェンリートや極黒のブリュンヒルデそのものだ。そんなとこまで似せなくていいのに残念だ。

結局所長は何がしたかったのか?とか、何故秘書は唐突に改心したの?とか描かれずじまいか…
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/25(金) 21:12:36.13 ID:giT1OfQQo
おつ
幸せになって欲しかったな…
でも何度読んでも好きだわ
ありがとう
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/09/27(日) 11:49:36.10 ID:qRIvGqWCO
男の設定意味ある?主がパチンカスだからギャンブル中毒の男が登場人物になったのか?
借金踏み倒して少女の世話してイキッてるチー牛過ぎる。反省するなら多額の借金してまでギャンブルするの辞めろや
それこそ身近な子供引き取って世話させろやって話。
爺婆が突っ込みを入れずに迎え入れるのも都合良すぎて草。
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/09/27(日) 11:54:04.16 ID:qRIvGqWCO
少女は幸せになって欲しいとは思うが男は論外。
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/27(日) 12:20:01.16 ID:JU1zurMPo
どうでもいいからsageろ
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