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【咲安価】京太郎「清澄の探索者」【ADV】

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500 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/09/13(日) 15:05:41.04 ID:WRGaJxMo0
「...」カチッカチッ

「......こっちか」カチッ

「......あ、ツモった」ツモ!リーヅモドラドラ!

合同合宿。参加できなかった俺は、一人部室でネト麻に耽っていた。
今頃みんなは消灯してガールズトークにでも勤しんでいる頃だろうか――
スクリーンの右下に映る" 23:41 "の表示を一瞥し、思わず溜息が漏れる。
なぜこんな時間に部室に居るのかって?そりゃあ......

「......言えねえよ、こんなこと.........」

俺は今朝、両親に「今日は合宿だから泊まりだ」と宣言して家を出た。実際そのための荷物もカバンに入れてきている。
一人仲間外れなのが悔しいから?言い辛いから?「男子一人だから宿泊はできない」で十分誤魔化せる話だ。
なら何故なのか。その問いに対して、俺は合理的な答えを持たないままだった。

「うげっ、親倍...」

オーラス、一着を維持していた所に親倍放銃。言うまでもなくラス転落だ。
今日の戦績はラス3割半の三着4割強、二着1割半にトップ1割弱。少し前に比べれば連対率は相当上がった。
しかし、下位卓でこの有様では練習に連れていけないのも当然であると理解している。

「...辛いな」

辛い。確かに周りの仲間に置いていかれるのは辛い。
しかしそれ以上に、努力が報われていないのではないかという気持ちが一番俺自身を苦しめていた。
今まで十数年の人生で、飛び抜けてできるものは無いにしても人並み程度にはこなしてきた。
努力すれば相応の結果は残せる――そう思っていた。
記憶を掘り返せば、確かにいつも誰かは居た。算数のドリルが出来ない奴、三段の跳び箱が跳べない奴、他人と上手く話せない奴。
彼らは必ずしも努力を怠っていたわけでなく、むしろ「普通」のそれより努力していることのほうが多かった。
ならなんでできないんだろう?あの頃はただ、純粋にそう思っていたんだ。
501 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/09/13(日) 15:06:59.12 ID:WRGaJxMo0
「......帰ろう。電源消さなきゃ」

本校舎へ行く。駐輪場に行く。自転車の鍵を外す。漕いで家へ帰る。往路と同じ、逆再生のような復路。
違うのは空の色くらいだ。ライトさえつければ何も難しいことじゃない。
慣れた手つきで――本当は本物の牌にも慣れたいところだが――パソコンの電源を落とす。ショートカットキーも覚えたくらいだ。
荷物をまとめる。食事と筆記具くらいしか入っていないリュックと、対照的に衣類でパンパンのボストンバック。開けた頻度は反比例している。
本当は、少なくとも今日は帰らないつもりだった。ああ見栄を切ってしまった手前、帰っては余計両親の目を訝しめることになる。
しかしこうして独り顔も知れない相手と麻雀をしているうちに哀愁に浸ってしまい、そもそもこの部屋に居るだけでその気持ちは一層増していくのだ。
せめて、実際の卓を囲んで麻雀ができればと思った。たとえ弱くても、不甲斐なさこそあれど寂しさを覚えることはない。
珍しく俺がいくらでも使える状況だと言うのに、皮肉にも麻雀は四人でする遊びなのだ。


カバンを持とうとして、はたと思い立ち壁の時計を見る。今にも短針と長針は一致しようとしていた。
それを何をするでもなくただボーッと眺める。3,2,1....

瞬間、時計が消え去った。


「...! ブレーカーでも落ちたか?」

消えたのは時計だけではない。この部室も、自分の体さえも一瞬にして消失した。
すなわち天井に煌々と輝いていた蛍光灯、その明かりが一瞬にしてなくなったのである。
俺は特に何もしていない。外はいい天気だし落雷停電でもないだろう。
この学校――本校舎ならいざ知らず旧校舎――にも、電源の一元管理などという情報社会じみたものはない。
自然と俺の他に誰かが居て、余程電気を使ったか漏電させたか、そのどちらかだろうと思い至った。しかし誰が?
つい一時間前にトイレに立った時のことを思い出す。他に人が居るような気配はこの建物にはなかった上に、
外を見ればいつも一番遅くまで残業をする先生が坂を下りていた。となればこの学校全体でも俺以外に人の居る可能性は低い。
どちらにしても、俺はこれから帰ろうとしていたところだ。電気がつかなくたって別に何か困るわけではないが...
ただ明日の朝来た人が困るだろうし、ブレーカーを上げるだけ上げてから帰路へ就いても悪くはないだろう。

そういえば、今日は快晴だから月明かりくらいは入っても良さそうなものだが、やけに暗いな。
足元もおぼつかない。ライトをつけようと携帯電話のロックを開けると......

「24:01...こんな設定だったかな」

画面の中央には確かに、そうでかでかと書いてあった。深夜のテレビくらいでしか見ない表現だ。
設定をいじった覚えは全く無い。しかし何かの不注意か別の要因――アップデートとか――でそうなったのかもしれないし、あまり気にしなかった。
それ以上に俺の気を引いたのは、右上に小さく表示された「3%」の文字だ。頼むから学校を出るまで耐えてくれ――
502 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/09/13(日) 15:08:31.38 ID:WRGaJxMo0


――その時、背後の暗闇から身体を貫くような視線を感じた。


「!!」

咄嗟にライトをつけ後ろを振り返る。当然そこには誰もおらず、ただ虚空とその後ろの壁があるだけだった。
壁にかけられた点数表の文字が浮かぶ。親の倍満24000点......何という追い打ちだろうか。
大きく溜息を吐いて、リュックをひょいと背負う。どうせ明日も来るのだからと、ボストンバッグは置いていくことにした。

観音開きの大きな扉を開けて廊下へ出た。窓があるはずなのだが、やはりそこも暗闇に包まれている。
携帯のあまり強いとは言えないライトを頼りに歩きながら、ブレーカーの位置を思い出す......
一階、旧校舎入り口の近くだったか。分電盤と書いてある、中を見た試しがないあの小扉だろう。

目的地に向かって歩みを進める度、床が軋む音だけが響く。これが怖くて堪らなかった。
小学生の頃、同級生たちの間ではホラー小説が流行っていたがくだらないと思っていたし、
今年もそろそろ怪談番組が放送され始め、友達の中ではその話をしきりにするやつもいるが、それにも大して興味はない。
要はおばけとか心霊現象とかそういう類のものを信じていないのだ。和のように非科学的なものを全て否定するわけではないが。
それでも暗闇や静寂、あるいは逆に物音。不気味な存在には人並みの恐怖を抱かずにはいられない。部室で感じたアレもそれを増長させる。
理性は視線など気のせいだと理解しているにもかかわらず、それ以外の何かがそれは飲めぬと否定し続けていた。


カツ....カツ......


ああ、俺の精神は相当参っているらしい。あたかも、誰かが歩いてくるかのような音が聞こえる。
しかも音源は近づいてくるみたいだ。階段を小走りで下り、両足を一階の床に付けた所で......

「誰だッ!!」

ライトを後ろ――階段の上に向けるが、果たして白い壁のみが照らされていた。

「...とっととブレーカー上げて、帰ろう」
503 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/09/13(日) 15:10:12.64 ID:WRGaJxMo0
旧校舎の入り口。その少し逸れた所に、金属製の小さな扉と「分電盤 B-1」と書かれたプレートがあった。
取っ手を掴み中を開けると、電力計や配線の束の他に殆どのスペースを占めるブレーカーを認める。

「......あれ」

漏電遮断器、過電流遮断器......物騒な名前のものがいくらか並んでいるが、それらに異常はない。
ただ「主幹電源」と書かれた大きなスイッチが切られていた。

「誰かが切ったのか?なんで......いたずらか」

きっと、俺が気付かなかっただけで旧校舎にはまだ誰かがいたんだ。それで、
俺の存在に気づいていたどうかは知らないが、ちょっとしたいたずらのつもりでこの電源を切って帰ったんだ。
俺の思考回路はそう結論づけた。これは否定のしようがない真実である。

「まったく、困ったやつもいたもんだ...む?」

その瞬間、ずっと手元を照らしていたライトが消えた。携帯の電源がついに尽きたということだ。
仕方ないので手探りで主幹電源に手を掛け、カチッという音を立ててスイッチが上げる。
同時に点滅しながら徐々に廊下の照明がついていく。やっと帰れると思って、俺はあることに気づいた。

「あ、そういえば部室の電気がついたままなのか。消しに行かないとな」

やれやれと立ち上がると、壁には背中から蛍光灯で照らされた俺の影が投射されている。


――その後ろの、背の高い影も。


カンッ
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