【シャニマス】P「よし、楽しく……」- Straylight編- 【安価】

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123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/11(日) 00:36:05.96 ID:UbGTNLKm0
1ヵ月後。

〜大会 予選会場〜

P(予選も3回目に突入した)

P(これが、最後の予選となる)

P(前回の予選を終えてから、冬優子はさらに成長したように見える)

P(アイドルとしての“ふゆ”と1人の人間としての“冬優子”のバランスが良くなった……と言えば良いんだろうか)

P(冬優子のアイドルとしての振る舞いに、疑いようのない「本物」を感じる)

P(……良い。これは良いことだ)

P(手ごわい審査員を相手にしても、今の冬優子なら完璧に魅了することができるんじゃないだろうか)

P(勝てる……勝てるぞ……!)

P(冬優子の成長を、俺は、自分のように嬉しく思っていた)

P「もう、俺の出る幕なんてないんじゃないか? ――ははっ、なんてな……」ボソッ

P(実際、予選を勝ち進むに連れて、俺がアドバイスすることはほとんどなくなっていた)

P(冬優子もレッスンや自主トレに熱心に取り組んでいる。余計な口出しになるくらいならしたくなかった)

P(最近、冬優子との会話自体があまりないよな……)

「――あ」

P(業務連絡のほうが多くなってきてるよな……)

「ねえ」

P(よし、本番前に冬優子の様子を見に行ってみるか)

P(邪魔になりそうならすぐ退散すればいいだけだし)

「……聞いてる?」

P「え? わ、私でしょうか……?」

「ふふっ。なにそれ」

P「っと、君は――」


冬優子(3回戦ともなると、とても静かね……)

冬優子(それもそっか……もう、勝ち残ってるアイドルは、100人を余裕で下回ってるんだし)

冬優子(……今回も、例によって出番までちょっと暇なのよね)

冬優子「あ、そうだ」

冬優子(あいつにグループ分けの番号聞きに行かなきゃ)

冬優子「……」

冬優子(そういえば、最近、そもそもあんまり話してないような……)

冬優子(って、なになに!? ふゆってば、あいつと話せなくて物足りなさを感じてる!?)

冬優子(そんな少女漫画的思考……)

冬優子「……」

冬優子(こ、これは番号を聞きに行くだけ……そう、それだけよ)

冬優子(それだけ……なんだから)

冬優子 スタスタ
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/11(日) 00:59:52.12 ID:UbGTNLKm0
冬優子(あ、いたいた――)

冬優子(――って、誰かと話してるじゃない)ササッ


P「久しぶりだな」

「お互い様、だね」

P「まさか、こんなシチュエーションでまた会えるとは思ってなかったよ」

「わたs……僕もだよ」


冬優子(と、とっさに隠れちゃったけど……)

冬優子(誰……? アイドルの子かしら)

冬優子(まあ、ふゆがあの子を知らないように、あの子だってふゆのことは知らない、か……)

冬優子(それにしても――)


P「ははっ、今でも自分のこと僕って言ってるのか?」

「ううん。そうでもない」

P「そうでもない……?」

「うん。普段は、私。アイドルのときも、私。でも、今は、そのどっちでもないから」

P「? そ、そうか……」


冬優子(――綺麗な人)

冬優子(あいつにとって、あの子はどういう存在なのかしら)

冬優子(って、気にしてもしょうがないわよね)

冬優子(さっさと番号聞いて控え室に行けばいいのよ)


冬優子「プロデューサーさんっ」

P「お、冬優子か。……そうだ、ちょうど、さっきは様子を見に行こうとしていたんだった」

冬優子「そうなんですね! ありがとうございますっ」

冬優子「ふゆ、グループの番号を知りたいなって」

P「そうだよな。ちょっと待っててくれ」

P「あ、そうだ。紹介するよ。こいつはトオルっていって……」

「とっても仲良しな俺の幼馴染」

P「そうそう――って、仲良しなら、しばらく疎遠にはなってなかっただろ」

P「今のお前は、アイドルのトオルだしな」

トオル「ごめんね? なんていうか、言ってみたかっただけ」

P「ははっ、なんだそりゃ」

P「トオル、こっちは、俺がプロデュースしてるアイドルの黛冬優子だ」

冬優子「283プロの黛冬優子ですっ。よろしくお願いします、トオルさん!」

トオル「よろしく……」

冬優子「プロデューサーさんの幼馴染だなんて、すごいですね〜」

トオル「ふふっ、いいでしょ。……なんて」ボソッ

冬優子(は?)イラッ

冬優子(なんか今、さりげなく自慢されたわよね。ふゆの地獄耳が聞き取ったわよ)

冬優子(なんなのこの子……)

冬優子(って、今はアイドル! アイドルのふゆなんだから……落ち着け落ち着け……)

冬優子「そ、それで! プロデューサーさん、番号はいくつですか?」
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/11(日) 01:22:14.63 ID:UbGTNLKm0
〜グループ2 控え室〜

冬優子「……」

トオル「……」

冬優子「…………」

トオル「…………」

冬優子「………………」

トオル「………………」

冬優子(なんで同じグループなのよ!!)

冬優子(しかも、1グループに15人くらい上に今回から大部屋じゃなくなったから距離が近いじゃない……)

冬優子(それならできるだけ離れたところに座ればいい――というわけにもいかなかったのよね)

冬優子「……」


冬優子『……お、おんなじグループ、なんですねっ』

P『冬優子、顔が引きつってるぞ』ミミウチ

冬優子『う、うっさい……!』ボソッ

冬優子『そ、それじゃあふゆは、控え室に行こうかなー……』

トオル『ぼk……私もそろそろ行かなきゃ』

トオル『あ、そうだ』

トオル『ねえ』

P『なんだ?』

トオル『私のプロデューサーになってよ』

冬優子『は、はあっ?! ……ってヤバっ』

P『えっと、何を言ってるんだ? トオル』

トオル『うちのプロダクションの……えっと、あのおじさん……いや、とにかく偉い人がね』

トオル『あのプロデューサーは是非うちに欲しい……とか言ってて』

トオル『だから、そういうこと』

冬優子『プロデューサーさん? ちょっといいですか?』グイッ

P『お、おい、引っ張るなって……』

冬優子『今の話、どういうことなのよ……!』ヒソヒソ

P『知らないって。突然言われて俺も混乱してるんだ』ヒソヒソ

冬優子『ふ、ふーん。どうだか』ヒソヒソ

P『本当なんだって』ヒソヒソ

冬優子『幼馴染との久々の再会と思わぬヘッドハンティングでニヤニヤしてんじゃないわよ』ヒソヒソ

P『そんなことないって……。何を怒ってるんだ……』ヒソヒソ

冬優子『怒ってないっての……! バカ』ヒソヒソ

トオル『えっと、あの……』

P『あ、ああ……すまんな、なんか』

トオル『ううん。こっちこそ、突然言い出してごめん』

トオル『でも、私は――』

トオル『――この話を受けてくれたら嬉しい、かな』

トオル『まあ、そういうことだから』スタスタ

P『あ、おい、トオル……って、冬優子もいつの間にかいなくなってるし……。はぁ……』


冬優子(ぐだぐだやってたおかげで控え室の場所がほとんど埋まって隣同士になるしかない――なんて)
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/11(日) 02:02:36.16 ID:UbGTNLKm0
冬優子・トオル「あの……」

冬優子「あ……」

トオル「あっ」

冬優子「えっと、どうかしましたか?」

トオル「名前……」

冬優子「?」

トオル「黛――千尋さん」

冬優子「洛山高校3年の“新型の幻の6人目(シックスマン)”……ってアイドルとしては斬新過ぎるし違うかなぁ……」

冬優子(「つーか 誰だお前」って言ってこの場を去りたくなってきたわ)

トオル「えと、黛……真知子さん?」

冬優子「ふゆは古美門法律事務所の弁護士ではないかなー……」

冬優子(朝ドラのヒロインなら、仕事としては魅力的だけど)

冬優子(まあ、あれは馬鹿にされて言われてるだけだったわね)

冬優子「もうっ、黛冬優子だから……!」

トオル「ふふっ、ごめんごめん」

トオル「あ、はじめましてだから、敬語のほうがいいんだっけ」

冬優子「ふゆに聞かれても……」

冬優子(調子狂うわね……)

冬優子「じゃあ、お互い敬語は無しってことにしよ?」

トオル「……うん。わかった」

冬優子「……」

トオル「……」

冬優子(どっちかが出番来るまでこれって……嘘よね……?)
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/11(日) 02:21:27.50 ID:UbGTNLKm0
冬優子「幼馴染って言ってたよね」

トオル「あ、うん」

冬優子「よく一緒に遊んでたの?」

トオル「まあ……そう、かな。もう、だいぶ前になっちゃったけど」

トオル「あの人は、まだ中高生だった」

トオル「公園で一緒に……ジャングルジムで遊んでた」

冬優子(中高生男子が小学生以下の女子とジャングルジムで遊ぶってどうなのよ)

冬優子(この子が、昔は活発な女の子だったとか?)

冬優子(まあ、どうでもいいけど)

トオル「それから、しばらく疎遠になって、いろいろあって私はアイドルになって……」

トオル「……それで、偶然、仕事の現場にあの人がいるのを見つけた」

トオル「他のところで、プロデューサーやってた」

冬優子「……」

トオル「なんかね、評判良いみたい」

トオル「私のいるプロダクションにも噂が届くくらいに」

冬優子「そう、なんだ……」

冬優子(あいつ、仕事できるもの……そんなの、むしろふゆが誇ってもいいことなのに……)

冬優子(そこから続く話題が、それを妨げる)

トオル「それで、私のとこの偉い人が引き抜きたいって言ってたから」

トオル「もしそうなったら、私のプロデューサーになって欲しいなって」

トオル「そう思った」

冬優子「……っ」

冬優子(なによ。なんなのよ、これ……)

冬優子(焦り? 不安? 怒り?)

冬優子(得体の知れない居心地の悪さと息苦しさ……)

冬優子(本番前だってのに……! こんなとこでストレス抱えてられないのに……!)

トオル「別に、プロデューサーを取っちゃおうってわけじゃなくて」

トオル「プロデューサーから来てくれたら、嬉しいなって」

トオル「だから、気にしないで、いいと思う……」

冬優子「っ!」ダッ

トオル「あ……」
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/11(日) 02:43:43.94 ID:UbGTNLKm0
〜グループ2 控え室付近廊下〜

冬優子「……っ」ズカズカ


トオル『プロデューサーから来てくれたら、嬉しいなって』

トオル『だから、気にしないで、いいと思う……』


冬優子(ふざけんじゃないわよ……!)

冬優子(幼馴染だかなんだか知らないけど、勝手なこと言って……!)

冬優子(自分から来てくれたら嬉しい? そんな言い方、余計にたちが悪いっての!)

冬優子「……」ハァハァ

冬優子(……なんでこんなにむかついてるのかしら。ふゆにとって、あいつは……プロデューサーは……)


P『嘘をつくことと、嘘であることは、違うと思う』

P『俺は、嘘をついてでも嘘であろうとはしない冬優子を――全力で“推してる”』

P『冬優子には、冬優子を否定して欲しくない』

P『自分が好きだと思ってる対象が自分を否定してたら、悲しいだろ?』


冬優子(ああ言われて、ふゆは……)


冬優子『ふゆはあんたに推されるくらいじゃ足りないから!』

冬優子『ガチ恋させてやるんだから――ちゃんとふゆのこと、見てなさいよね!』


冬優子(……そう言った)

冬優子(アイドルとプロデューサー? ……笑わせるわね)

冬優子(ふゆにとっては、最早、あいつはただのプロデューサーじゃない)

冬優子「……そっか」

冬優子(そういうことか)

冬優子(ふゆは、気づいてないふりをしていただけ……)

冬優子「あ、時計……って嘘!? 思ったより出番まで時間ないじゃない!?」

冬優子「戻らなきゃ――」


「冬優子!」バッ


冬優子「――……」ピタッ

P「はあっ……はあっ……」ゼエゼエ

冬優子「……あんた、こんなとこで何してんのよ」

P「もともと……冬優子の様子を見に行こうと思ってたんだ」

P「ほら、その……最近あまり関われてなかっただろ? 話す機会だってあんまりなくてさ」

P「今の冬優子なら、もう俺なんか必要ないんじゃないかって思ったこともあった」

P「この大会で勝ち残っていく中で、冬優子は、格段に、確実に、成長してたから」

P「でも……それでも、俺は」

P「俺は、黛冬優子のプロデューサーだ。これまでも、これからも」

P「冬優子が要らないって言っても、俺は、ずっとお前のプロデューサーでいつづけたい。冬優子を支えたいんだ」

P「それを、伝えたくて……」

冬優子(あーあ……余計にあんたが必要になっちゃった。ただでさえ、ふゆはあんたにいて欲しいのに)

冬優子「ばーか」ニコッ

冬優子「そんなの、当たり前じゃない!!」
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/11(日) 03:01:30.74 ID:UbGTNLKm0
冬優子『ばーか』ニコッ

冬優子『そんなの、当たり前じゃない!!』


P(そう言って、冬優子は走っていった)

P(去り際、その顔は確かに笑っていた。笑って……くれた)

P(その時――俺は、“冬優子に応えられた”気がした)


P(予選3回戦――黛冬優子のパフォーマンスは、他のアイドルのそれを凌駕していた)

P(俺がプロデュースしてたのはこんなにも魅力的なアイドルだったのかと、実感させられた)

P(それは、俺が冬優子のプロデューサーだからとか、俺が既に冬優子に魅了されていたからとか、そういうことだけではないはずだ)

P(冬優子は自分のために輝こうとするアイドルだ)

P(冬優子は誰かのために輝けるアイドルだ)

P(そして、最早、何者も恐れない、何者とも比べられない)

P(俺に言わせれば、真に唯一無二で最強のアイドルだ)

P(そんなものを見せられたら、誰だって圧倒されるに決まってるのだから)



――――第3回予選 グループ2 通過者一覧――――

………………… 283プロ黛冬優子 …………………
___プロ トオル 
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/11(日) 03:01:59.38 ID:UbGTNLKm0
とりあえずここまで。
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/10/11(日) 04:20:17.48 ID:rB29iPhDO
たんおつー



noctchillのみんなも通っているわけか……
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/18(日) 23:42:56.75 ID:6fesmXWL0
数日後。

〜事務所〜

P(最後の予選が終わった)

P(冬優子は、決勝に向けて最後の追い込みをかけている)

P(俺の心配することなんて何もない)

P(俺は、冬優子のプロデューサーとして在ればいい)

P(あとは、冬優子を信じて、自分のやりたいようにやらせるだけだと思った)

P「……っと、そろそろだな」

タッ、タッ、タッ

P「おかえり」

冬優子「……ただいま」

P「……」

冬優子「……」

P「……」

冬優子「……聞かないの?」

P「何をだ?」

冬優子「レッスンはどうだったのかって」

P「聞かなくても、見ればわかるからな」

P「俺は冬優子のプロデューサーなんだから、言わなくても通じることってあるよ」

P「話すことが少なくなっても、それは距離ができたからじゃなくて、話すまでもなく通じるようになったからなんじゃないかと思ってさ」

冬優子「ばか」ボソッ

冬優子「……」

冬優子「ふふっ……あっそ」

P「ああ」

冬優子「……ソファー、座るわね」

冬優子「っしょっと」

冬優子「……」

P「……隣、なんだが」

冬優子「うん」

P「近くないか?」

冬優子「嫌なの?」

P「そういうわけじゃないけど……」

冬優子「じゃあいいじゃない」

冬優子「……来るところまで来ちゃったわね」

P「来るべきところに来たんだよ」

P「それに、まだ終わりじゃないぞ?」

冬優子「わかってるわよ。決勝でしょ」

冬優子「なんかね、緊張とかプレッシャーとか……そういうの、ないのよね」

冬優子「本番でどうなるかは知らないけど」

冬優子「なんか、変に怖いもの知らずになった気がするわ」

冬優子「ふゆに似合わず、ね」ボソッ

冬優子「あーあ、ふゆがこうなったのも、あんたのせい――」

冬優子「――ううん、あんたのおかげね」
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/19(月) 00:00:25.31 ID:GDqHuMqM0
P「予選の間に俺が何かしてやれたことなんてあったか?」

冬優子「……はぁ」

P「?」

冬優子「っ、いいの! 別にあんたは知らなくても」

P「あ、ああ……よくわからんが」

冬優子「あーもう! だーかーらー……」

冬優子「あんたはそうやって、ふゆのプロデューサーをしているだけでいいって言ってんの」

冬優子「ふゆにはそれだけで……」

ヴーッヴーッ

P「……っと、すまない。電話だ」

P「ちょっと席を外すよ」

冬優子「あ……」


冬優子(あいつにとって、ふゆは何なのかしら)

P『俺は、黛冬優子のプロデューサーだ。これまでも、これからも』

P『冬優子が要らないって言っても、俺は、ずっとお前のプロデューサーでいつづけたい。冬優子を支えたいんだ』

P『それを、伝えたくて……』

冬優子(“プロデューサー”――ね)

冬優子(それ以上を臨むのは、それこそふゆのエゴ……)

冬優子(でも、もしもそのエゴにあいつが付き合ってくれるなら、ふゆは……)

P「電話、終わったよ」

冬優子「ひゃっ」

冬優子(やば、変な声でちゃったじゃない……)

P「? それで……なんだったっけか」

冬優子「べ、別になんでもないわよ」

冬優子「何の電話だったの? シリアスな感じに見えたけど、スマホにかかってくるなんて、急じゃない?」

P「それなんだけど、突然決勝を棄権することになった子がいるって連絡が入ったんだ」

冬優子「決勝ってことは、最後の予選も勝ち抜いたってことよね」

冬優子「人数も少なかったし、名前を聞けばわかるかも」

冬優子「なんて子なの?」

P「ああ、それは――」
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/19(月) 00:06:39.17 ID:GDqHuMqM0
〜病院〜

カツッ、カンッ

「……っ、く……」

カンッ

「っと……」

スルッ

「あ――」

ドタッ

「――くっ」

「こんなの……」

「……? って――」

冬優子「ほら、手、貸すよ?」

「――はぁ」

「どうも……」

冬優子「よかったら、ふゆと少しお話しない?」

冬優子「すごく疲れてるように見えるもん――」


冬優子「――マドカちゃん」
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/19(月) 00:29:58.05 ID:GDqHuMqM0
〜病院 ラウンジ〜

マドカ「……誰から聞いたんです?」

冬優子「プロデューサーさんだよ。棄権する子が出たって急に連絡が来たから」

マドカ「そう、ですか……」

冬優子「マドカちゃん、その怪我って……」

マドカ「……」

マドカ「まあ、隠しても仕方ないですし」

マドカ「……さすがに私も愚痴りたい」ボソッ

冬優子「?」

マドカ「いえ、なんでも」

マドカ「コイト、決勝戦に進めなかったんです」

冬優子「そう、なんだ……」

マドカ「コイトと私は同じグループで、コイトは負けて、私が勝ち残った……」

マドカ「……と、結果はそういう形になりました」

マドカ「……」

マドカ「私は、アイドルとしての自分について否定的でした」

マドカ「アイドルという仕事そのものに対しても、半ば見下したような思いを抱いていて……」

マドカ「でも、決勝に進めるというところまで来て、考えを改めました」

マドカ「ここまで来た理由――最初は、ただ怖かっただけだったんです。周囲の期待を裏切るのが」

マドカ「それが、勝ち進むうちに嬉しいと感じている自分に気づいて――」

マドカ「――最後には、周囲の期待に応えようと思えた」

マドカ「コイトが負けて私が勝ったということの意味を、私はきちんと成そうと思えたんです」

マドカ「そう思った矢先に――」


コイト『ま、マドカちゃんのダンス、今までと全然違って見えたよ!』

マドカ『コイトもうまくなってる』

マドカ『……』

マドカ『……ねえ、いつも私と一緒にレッスン受けてるけど』

マドカ『なにも、オーディションが受けられる日にまでそうしなくたって』

コイト『わ、わたしね……』

コイト『すっごく……く、悔しかったんだよ』

コイト『でもね、マドカちゃんが勝ったのは、それよりもずっと嬉しかったから……』

マドカ『コイト……』

コイト『そ、それに……! 決勝に進出したアイドルの技を盗むチャンスでもあるし!』

コイト『な、なんて……えへへ』

マドカ『……そっか』

マドカ『ありがと』ボソッ

コイト『あ、マドカちゃん、ヘアピン……』

マドカ『あれ、ない……レッスンの部屋に置いてきたのかも』

マドカ『取ってくる。先に帰っててもいいから』

コイト『ううん。こ、ここで待ってる』

マドカ『……そう』
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/19(月) 00:34:58.74 ID:GDqHuMqM0
数分後。

マドカ『(すぐに見つかってよかった)』

マドカ『(ここを曲がって……)』

マドカ『(この階段を下りれば、コイトがいる)』

コイト『あっ、マドカちゃん……!』ピョコッ

マドカ『やっぱり……ふふっ』

マドカ『おまたせ……』

コイト『っ!? ま、マドカちゃn……』

マドカ『……?』

ドンッ

ガンッ――ダダダ・・・


マドカ「――誰かに、階段の一番上から突き飛ばされたんです」
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/19(月) 00:35:27.54 ID:GDqHuMqM0
とりあえずここまで。
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/10/19(月) 00:58:14.29 ID:IHdMgmivo
おつ
こわ…どっちや……
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/10/19(月) 02:18:34.43 ID:UwZnfRuDO
ヒナナかトオルの……?
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/30(金) 01:23:42.69 ID:Ib1RV2SoO
冬優子「ひどい……誰がそんな……」

冬優子「これから頑張ろうってなったばかりなのに……」

マドカ「……」

マドカ「位置的にコイトには私を突き飛ばした犯人が見えているはずなんです」

マドカ「……聞いても、コイトは言おうとしませんが」

冬優子「言いたくない理由があるってことなのかな?」

マドカ「さあ……どうなんでしょうね。言いたくないのに無理に言わせようとは思いませんので」

マドカ「……」

マドカ「ふぅ……」

冬優子「ま、マドカちゃん?」

マドカ「……この話には、続きがあるんです」

マドカ「私が外れた枠には、コイトが入ることになりました」

冬優子「え? そ、それって」

マドカ「聞いた話では、コイトはあと一歩の――ギリギリのところで届かなかったそうなんです」

マドカ「私がいなくなって、コイトは繰り上がって決勝に進むことになった……」

冬優子「そんな話あったかな……?」

マドカ「今朝決まったそうです。そのうちあなたのところにも連絡が行くんじゃないですか」

マドカ「まあ、なので、……悪いことばかりというわけではないかと」

マドカ「コイトは頑張ってるから。このくらい、報われたっていい」

マドカ「あれだけ練習して、前向きで……私よりもいろんなことができると思いますし」

マドカ「いま私にできるのは、怪我から回復することくらいですから」

冬優子「マドカちゃん……」

マドカ「っ、しょ、っと……」カツッ

マドカ「そろそろ戻ります」

マドカ「わざわざ来てくださってありがとうございました」

マドカ「さようなら」

冬優子「……」

マドカ「……」

カツッ、カンッ

カンッ

カツッ

冬優子「っ、……マドカちゃん!」

マドカ ピタッ

冬優子「ふゆ、マドカちゃんのこと、まだまだ全然知らない……」

冬優子「だから、ふゆがどうこう言っていいかなんてわからない――けど」

冬優子「無理しちゃ、だめだよ」

冬優子「泣きたいときは、泣いたっていいんじゃないかな……」

マドカ「……」

マドカ「そう……かな」

冬優子「うんっ、そうだよ」

マドカ クルッ

マドカ「ふふっ……でも、やっぱり大丈夫です」

マドカ「私……泣きませんので」
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/30(金) 01:24:38.56 ID:Ib1RV2SoO
短いですが、忙しいのでとりあえずここまで。
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/31(土) 01:22:45.68 ID:OnqgvQh/O
同日、同時刻。

〜事務所〜

P カタカタ

P カタッ

P「……今頃どうしてるかな」

P(冬優子はお見舞いに行くって言ってたが、そう思えるアイドルの友だちがいるってこと……なんだろうな)

P(これも成長……か?)

P「……」

P(そういえば、さっき、棄権で空いた決勝の枠には、最後の予選で選ばれなかったあと一歩の子が繰り上がりで入ることになったって連絡が来たな)

P(冬優子にはまだ言えてないけど、もう伝えるべきか)

P(あるいは、お見舞いに行った子から聞かされているかもな)

P(たしか、その子と繰り上がった子は同じ事務所だったはずだ)

P「同じ事務所、ね……」

P(冬優子にとってのあさひや愛依の存在に、何か変化はあるのだろうか)

P(ストレイライトとしての活動は、最近あまりないよな)

ピンポーン

P「あ、はーい……」

P(この時間に来客……? 誰だろう)

ピッ

P「はい。何かご用でしょうか」

「……用、か。どうだろう」

P「?」

「特にないかも」

P「あのー……どちら様でしょうか?」

「あ、そうだ。言ってなかった」

トオル「私……トオルだよ」

P「トオルか。いきなりどうしたんだ?」

トオル「なんていうか、まあ……会いに来た」

P「会いに来たってお前……ここうちのプロダクションの事務所なんだけど」

トオル「だめなら帰るよ。どうかな」

P「……まあ、せっかく来たんだ。今は俺一人だし、他の事務所からの客人ってことにしておくよ」

トオル「やった」

トオル「ヒナナ、いいってさ」

「やは〜。やった〜」

P「友だちも連れてきてるなんて聞いてないぞ……」

トオル「他の事務所からのお客さんってことなら、むしろ普通なんじゃない? こういうのも」

P「わかったよ……今開けてやるから」
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/31(土) 01:41:06.00 ID:OnqgvQh/O
数十分後。

〜事務所〜

冬優子「ただいま戻りました〜♪」

冬優子(索敵索敵……キャラのためにもまだ油断できないわ)

P「おう。おかえり、冬優子」

冬優子「あれ、あんた一人?」ヒソヒソ

P「……いや、お客がな」ヒソヒソ

冬優子(あっぶな……)

冬優子(誰が来てるのかし――)

トオル「このお菓子、おいしいね。めっちゃ美味い味する」

「ごろ〜ん♡ ヒナナこのソファーすき〜〜」

冬優子(――らっ!?)

冬優子(あそこに座ってるのはあの時の……しかもなんか増えてるじゃない!?)

トオル「……あ。この前の」

トオル「お邪魔してます」

「してま〜す」

冬優子「え〜っと、そちらは……」

「やは〜……――」

ヒナナ「――ヒナナ、高校1年生です〜〜〜」

ヒナナ「トオル先輩とおんなじ事務所なんだ〜」

トオル「でもユニットは別」

ヒナナ「ヒナナそれやだ〜〜……。トオル先輩と一緒のユニットがいいのに〜」

トオル「仲が良すぎるからって言われたね」

ヒナナ「それが理由〜?」

トオル「たぶんね」

冬優子「え、えっと……今日はどんな用件で?」ピキッ

冬優子(やば……完全に顔が引きつってるわ……)

トオル「そこにいる人に会いに来た」

ヒナナ「ヒナナは付き添いだよ〜〜」

冬優子「会いに来たって……」

ヒナナ「でも、ヒナナここに来て良かったかも〜! トオル先輩の会いたい人がこんなステキなお兄さんだなんてね〜〜」

P「て、照れるな……」

冬優子 ゲシッ

P「いっ!?」

ヒナナ「やは〜……ヒナナ、お兄さんのこと結構好きかも〜〜」

冬優子 ゲシゲシ

P「いっ、ちょっ、執拗に向こう脛を蹴るのはやめろ……!」

ヒナナ「むこうずね〜?」

トオル「弁慶の泣き所、だね」
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/31(土) 02:11:47.06 ID:OnqgvQh/O
トオル「あ、ねえ、移籍の話だけど、どう? 考えてくれた?」

トオル「うちの事務所の偉い人、いまでも戦力にしたいってさ。それに――」

トオル「――ぼk……私は、また一緒に、過ごせたらなって……」

P「ああ、それなんだが……」

冬優子「移籍ならしないよ、このプロデューサーさんは」

トオル「……ふーん」

冬優子「あなたとプロデューサーさんの間のことは、ふゆは知らないけど……」

冬優子「ふゆは、この人とトップアイドルになるって決めてるんだ」

冬優子「そのためにふゆは全力を出すし、プロデューサーさんも応えてくれてる」

冬優子「だから、あなたのところに……あなたにプロデューサーさんはあげられないよ」

P「冬優子……」

冬優子「それに、これまでもこれからもふゆのプロデューサーさんでいるって、宣言されちゃったから♪」

P「そ、それを言うなよ……他に人がいるのに」

冬優子「ふゆが要らないって言ってもふゆのプロデューサーでいつづけたいって言ってたじゃないですか〜」

冬優子「ふゆを支えるとかなんとか」

P「くっ……恥ずかしさでどうにかなりそうだ……」

トオル「そうなの?」

P「え? あ、ああ……そうだよ」

P「俺は、トオルのいる事務所には行かない。すまん」

トオル「別に……謝らなくても」

トオル「……」

ヒナナ「トオル先輩〜?」

トオル「……帰る」

ヒナナ「え〜〜!? ここすっごく居心地いいのに〜〜」

トオル「いても……邪魔になるんじゃないかな」

P「と、トオル……」

冬優子「……」

ヒナナ「……わかった〜。トオル先輩がそう言うなら、ヒナナもそうしよ〜〜」

ヒナナ「そうだ! トオル先輩、帰りに雑貨屋さん寄っていってもいい〜?」

ヒナナ「気に入ってたアクセサリーがね〜……この前から見つからないんだ〜」

ヒナナ「だから、ね? トオル先輩が一緒にお買い物してくれたら、ヒナナ、しあわせ〜になれる〜〜〜」

ヒナナ「トオル先輩もそれで元気出そう?」

トオル「うん……行こう。……ありがと」

トオル「あ……お邪魔しました」スタスタ

ヒナナ「さようなら〜〜」テテテ

ガチャッ

P「……」

P「トオr――」

ダキッ

P「ふ、冬優子……?」

冬優子「行かないで。呼び止めないで」

冬優子「あんたは、誰にも渡さないから」

バタン
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/31(土) 02:12:34.97 ID:OnqgvQh/O
とりあえずここまで。
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/10/31(土) 09:20:54.01 ID:Tmnyo4Jjo
おつおつ
これ繋がってるのか……?
という事はヒナナ……
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/02(月) 01:10:12.23 ID:tuFvHMjcO
数日後。

〜某センター街〜

冬優子(欲しい円盤探してたらここに在庫があるなんて……)

冬優子(いつも行ってる街と空気が全然違うじゃない……慣れないわ)

冬優子「……疲れた」

冬優子(まあ、目当てのものは買えたし、さっさと帰るとしますか)

〜♪

冬優子「……?」

冬優子(あれ、たぶんミニライブよね)

冬優子(それに、歌ってるのは――)

冬優子「……」

冬優子(――ついでに見に行ってみようかしら、今日はオフだしね)

冬優子 スタスタ


コイト「そ、それじゃあ……お先に失礼します!」

オツカレサマデース

コイト「……」

バタン・・・

コイト「……」

コイト「はぁ……」

冬優子「お疲れさまっ、コイトちゃん」

コイト「ぴゃっ!? な、なな……って、あなたは……」

冬優子「さっきのミニライブ、すっごく良かったよ! ふゆは途中からだったけど、引きこまれちゃったな〜」

コイト「あ、ありがとう……ございます。えへへ」

コイト「また別のところでもライブがあるので、よ、よかったらそれも見に来てください!」

冬優子「わぁ〜ほんと? 絶対に見に行くね!」

冬優子「ふゆ、コイトちゃん推s……ん゛っ、コイトちゃんのファンだから」

コイト「わ、わたしも、冬優子さんのファンに……な、なります!」

冬優子「ありがと〜っ♪ コイトちゃんだいすき!」ダキッ

コイト「わ、わわっ、もうっ……」

冬優子「コイトちゃんは、これから帰るところなの?」

コイト「あ、はい。今日はもう予定ないですし、明日はオフですから」

冬優子「ふゆもいまオフなんだ〜。よかったら、どっかでお茶しながらお話とかどうかな?」

コイト「い、いいんですか?」

冬優子「ふふっ、ふゆが誘ってるのに。いいに決まってるよっ」

コイト「えへへ……じゃ、じゃあ、行きます」

冬優子「決まりだね♪」
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/02(月) 01:33:13.21 ID:tuFvHMjcO
〜近くのカフェ〜

冬優子(勢いで誘っちゃったけど……冷静に考えて、推してるアイドルとカフェでお茶するってすごいことよね……)

コイト「ほ、本当にありがとうございます……誘ってくれただけじゃなくて、奢ってもらうなんて……」

冬優子(しかも奢っちゃったし。まあ、それはいいけど)

冬優子「ふゆがしたいだけだもん。気にしないでね」

コイト「は、はい」

冬優子「そうだ、さっきのライブでね――……」


数十分後。

コイト「……――えへへ、そ、そうなんですね」

冬優子「うんっ。おかしいよね」

冬優子(思ったよりも話が弾んだわね。いろんな話ができたし)

冬優子(コイトちゃんも楽しそうで何よりだわ)

コイト「……」

冬優子「……コイトちゃん?」

コイト「わ、わたし……」

コイト「こんな、普通に笑って話すなんて、よ、よく考えたら久しぶりかもしれません」

コイト「最近は、いろんなことがありましたから……」

冬優子「決勝のことと……それから……」

コイト「はい、マドカちゃんのことです」

コイト「……っ。い、いろんな気持ちがあって……え、えへへ、ちょっと大変かもしれないです」

コイト「決勝に進みたくて、最後の予選まで頑張ってました。結果は、だめでしたけど」

コイト「悔しくて……でも、マドカちゃんが決勝に進めたのも嬉しくて……」

コイト「そうしたら、あんなことがあって……」


コイト『あっ、マドカちゃん……!』ピョコッ

マドカ『やっぱり……ふふっ』

マドカ『おまたせ……』

コイト『っ!? ま、マドカちゃn……』

マドカ『……?』

ドンッ

ガンッ――ダダダ・・・


コイト「あんなことになって、代わりにわたしが出れるようになって」

コイト「……」

コイト「いまは、練習とお仕事に集中して、余計なことは考えないようにってしてます……」

冬優子「コイトちゃん……」

コイト「あっ、ご、ごご、ごめんなさい……! せっかく楽しくお話してたのに、こんな……」

冬優子「ううん。いいよ。楽しい話だって、辛い話だって、人に話して楽になることってあると思うな」

冬優子(……どの口が言ってんのかしらね。まったく)

コイト「マドカちゃん……」

冬優子(? そういえば――)
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/02(月) 01:59:03.60 ID:tuFvHMjcO


マドカ『位置的にコイトには私を突き飛ばした犯人が見えているはずなんです』

マドカ『……聞いても、コイトは言おうとしませんが』

冬優子『言いたくない理由があるってことなのかな?』

マドカ『さあ……どうなんでしょうね。言いたくないのに無理に言わせようとは思いませんので』


冬優子(――ということは、コイトちゃんはマドカちゃんを突き飛ばした犯人を知っていて、それでも悩んでる……?)

冬優子「コイトちゃん……」

冬優子(聞くべきじゃないのかもしれないけど)

冬優子「この前、マドカちゃんのお見舞いに行ったときにね……」

冬優子(正義感か、好奇心か、……あるいは両方かしら)

冬優子「コイトちゃんには、マドカちゃんの背中を押した人が見えてたんじゃないかって聞いたんだ……」

コイト「っ!」

冬優子「実際にどうだったかは、それこそふゆはその場にいたわけじゃないし、知らないよ」

冬優子「マドカちゃんから聞いた話しか、知らない」

冬優子「でも、コイトちゃんが犯人を知ってて、それでも悩んでるなら……」

冬優子「ふゆでよければ、話してみてくれないかな……?」

コイト「……」

冬優子「な、なんてね……さすがに出すぎた真似だよね。……ごめんなさい」

コイト「い、いいえ……! 別にそんなこと、ないです……」

コイト「……」

コイト「……ま、マドカちゃんの言ってることは、ほ、ほほ、本当、です」

冬優子「!」

コイト「たしかに、わたしはマドカちゃんが突き飛ばされたところを見ていて、誰がそうしたのかも……」

コイト「そ、それでも、わたしは――」
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/02(月) 02:26:09.95 ID:tuFvHMjcO
数時間後。

〜冬優子の自宅〜

冬優子「……」


コイト『そ、それでも、わたしは――』

冬優子『……』ゴクリ

コイト『――っ、い、言えません。言いたく、ありません……』

コイト『ごめんなさい……』

冬優子『コイトちゃんが謝ることじゃないよ! ふゆこそごめんね……問いただすようなことしちゃって……』

コイト『あ、謝らないでください……』

コイト『大変な事件だってことはわかってるんです。わ、わたしが黙っていても、いいことなんてないってことだって……』

コイト『誰を見たのか言わないのは、ゆ、許されないのかもしれないけど』

コイト『誰を見たのか言うと、わ、わたしがわたしを許せなくなっちゃうから……』


冬優子「はぁー……」ボフッ

冬優子「……」

冬優子 クルッ

冬優子「ふぅ」

冬優子「……別にふゆは探偵でもなんでもないんだから」

冬優子「ましてや、ライバルのことを気にかけるなんてこと……ふゆらしくない」

冬優子「……」

冬優子「ふゆらしく、か……」

冬優子(ふゆらしさってなんなのかしらね)

冬優子(決勝が終われば、その答えもハッキリするのかしら)

冬優子「……」

〜♪

冬優子「お風呂沸いたわね。入ろっと……」

冬優子 スタスタ

冬優子 シュル・・・

バタン

キュッ

シャァァァァァッ

冬優子「っ」

冬優子「……」

冬優子 ポスポス

冬優子「?」

冬優子「……あ」

冬優子(シャンプー切らしてたんだったわ。忘れてた)

冬優子(とりあえず体だけでも……)ポスポス

冬優子「って、ボディーソープもないじゃない!」

冬優子「はぁ……」

冬優子「……っ」

シャァァァァァッ

冬優子「ふゆったら、なにしてんのかしらね」
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/02(月) 02:32:29.65 ID:tuFvHMjcO
とりあえずここまで。
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/02(月) 03:02:10.07 ID:VNyusziDO


本人が……?
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/02(月) 10:12:38.51 ID:PMPAT+KTO
おつおつ
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/03(火) 01:26:38.64 ID:wUHOGYQ/O
決勝当日。

〜大会 決勝会場〜

P(いよいよ決勝だ。ついに、ここまで来た)

P(俺にできるのは、ただ見守ることだけ――)

P「……」

P(――それは、俺の役目が終わったから……ではない)

P(単に、冬優子の個人としての能力が高くなって、俺が自ら手を差し伸べる必要がなくなっただけだ)

P(冬優子は、必要であれば自分から俺の手を取りに来るだろう)

P(その域にまで達したということだ)

P(助けなしに何でもこなせるわけじゃないが、助けが必要かどうかの判断は自分でできる……それは立派に成長した証と言える)

P(だから、俺は見守る……冬優子が歩を進めていく様を)

冬優子「当たり前だけど、空気がまるで違うわね」

P「決勝だからというのもあるだろうし、ここまで来れたアイドルは12人しかいないから、そもそもこの場にいる人数が少ないんだ」

P「……12人というと、参戦した全アイドルのおよそ0.8%だな」

冬優子「恐ろしい話ね。もっと恐ろしいのは、自分がその0.8%の1人だってことだけど」

冬優子「思えば遠くへ来たものだわ」

P「ははっ。誇ればいいじゃないか。俺は誇らしいぞ」

P「プロデューサーとしてもそうだし、もちろん1人のファンとしてもな」

冬優子「あんたね……もうっ」

冬優子「でも、そうね。ふゆはここまで来て、ようやくアイドルとして自分を誇れるようになったのかもしれないわ」

冬優子「あとは、やれることをやるだけ……」

冬優子「……」

冬優子「……W.I.N.G.の決勝の前、ふゆがあんたに言ったこと、覚えてる?」

P「ああ、もちろん――」

P「――“何があっても笑ってて”……だろ?」

冬優子「ふふっ、ちゃんと覚えてたんだ」ボソッ

P「?」

冬優子「なんでもないわよ」

冬優子「……ありがと」ボソッ

冬優子「……」

冬優子「やっぱりね、ここでもふゆはあんたに言いたいの――」

冬優子「――何があっても……あんたは笑ってて、って」

冬優子「あの時と違うのは、不安も強がりもないってこと!」

冬優子「どんな結果でも、あんたと一緒に手に入れたものであることには変わりないんだから」

冬優子「あんたが笑っててくれれば、それだけでふゆは報われると思う」

冬優子「だから、全部終わったら一緒に笑って帰るわよ、プロデューサー!」ニコッ
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/03(火) 02:06:54.78 ID:wUHOGYQ/O
〜控え室外 廊下〜

冬優子(1人1部屋……これまでとはえらい違いね)

冬優子(ふゆの部屋は……)

冬優子「……あ」

コイト「あ」

コイト「こ、こんにちは……!」

冬優子「コイトちゃんだ♪ こんにちは」

冬優子「いよいよ決勝だねっ。ふゆ、緊張してきちゃった〜」

冬優子(まあ、嘘だけどね)

コイト「はいっ、そ、その……出たいと思ってた決勝でも、本番が近づいてくると……」

コイト「うぅ……」

コイト「ま、マドカちゃんならこういうときどうするのかなって、そんなこと、考えちゃって……」

コイト「えへへ……だめだめですね、わたし」グスッ

コイト「わたしなんかがこんなステージに来ちゃだめだったのかも」ボソッ

冬優子「……コイトちゃんは、マドカちゃんの代わりにアイドルをやってるの?」

コイト「ぴゃっ? い、いえ、そんなことは、ないです」

冬優子「確かにマドカちゃんの代わりに決勝に進む形だったかもしれないけど」

冬優子「ここでコイトちゃんが残す結果は、他の誰でもないコイトちゃん自身のものなんだよっ」

冬優子「だから、他の人がどうとかじゃなくて、自分にできる精一杯のことをやればいいってふゆは思うな」

冬優子「最後には笑っていられるように、ね?」

コイト「冬優子さん……」

コイト「グスッ……は、はい! わたし、頑張ってみます!」

コイト「それこそ、マドカちゃんのぶんまで!」

コイト「ま、マドカちゃんが残すはずだったのよりもずっと大きな結果、残しちゃいますよ……!」

冬優子「その意気だよ♪」

冬優子「よ〜し、これはふゆも負けてられないな〜」

コイト「ま、負けませんよ! 勝負ですから!」

冬優子「ふふっ、お互い頑張ろうね、コイトちゃん!」

コイト「は、はいっ!」

コイト「じゃ、じゃあ……わたしの部屋はあっちなので、そ、そろそろ失礼します」

冬優子「うんっ。またあとでね」

コイト テテテテテ・・・

冬優子「……」

冬優子(あの子も、成長してるのね)

冬優子「……あ」

冬優子(床に何か落ちてる?)

冬優子「? これって……」

冬優子(誰かの落し物……よね)

冬優子(何かの飾り? 年季が入ってるように見えるけど、大切にされてたのかしら)

冬優子(さっきまではなかった気がするし、もしかしたらコイトちゃんのものなのかも)

冬優子(まあ、とりあえず拾っておいて、あとで聞いてみればいいわ)
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/03(火) 02:52:37.31 ID:wUHOGYQ/O
〜283プロ 黛冬優子用控え室〜

冬優子(イメトレも軽い練習も一通りやり終えた)

冬優子(あとは、本番で全力を出すだけ……)

冬優子「……」

冬優子(これ以上何かしても、たぶん無駄な足掻きよね)

冬優子(適当に過ごしてリラックスしたほうが良い、か……)

冬優子「スマホスマホ……っと、あった」

冬優子「あ、通知来てる」

冬優子「愛依から……ふふっ」

冬優子「ありがと、愛依」

冬優子「他には……あ」

冬優子「これ……あさひから、よね」

冬優子「……」

冬優子「……ったくもう、あいつは」

冬優子(でも、たぶん……いや、きっと、応援してくれてるのよね)

冬優子「そっか、ふゆは1人じゃないんだった」

冬優子(この大会では、ずっと1人で……ううん、プロデューサーと2人で戦ってきたと思ってたけど)

冬優子(愛依やあさひだっているじゃない)

冬優子「さてと……あの子たちにも、笑ってただいまを言ってやんないとね」

冬優子(そして、また、3人でステージに立つんだから)

冬優子「……」

冬優子「そうだ、忘れないうちにシャンプーとボディーソープを余分に買い足しておかないと」

冬優子「この前切れたときは、急いでて必要な分しか買わなかったし」

冬優子「リマインダーにセットして……これでよし。当分切れることはないわね」

冬優子「……思い出せてよかったわ」

冬優子「あ、いま何時かしら」ポチポチ

冬優子「って、もうそろそろ出番じゃない!」

冬優子「……」


冬優子『やっぱりね、ここでもふゆはあんたに言いたいの――』

冬優子『――何があっても……あんたは笑ってて、って』

冬優子『あの時と違うのは、不安も強がりもないってこと!』

冬優子『どんな結果でも、あんたと一緒に手に入れたものであることには変わりないんだから』

冬優子『あんたが笑っててくれれば、それだけでふゆは報われると思う』

冬優子『だから、全部終わったら一緒に笑って帰るわよ、プロデューサー!』ニコッ


冬優子(あいつにあんなこと言ったんだから、まずはふゆが笑わないとね)

冬優子(みんなを笑顔にできるようなキラキラしたアイドルなら、まず自分が笑顔になれないといけないもの)

冬優子「ふゆは今度こそ、本気で、みんなを笑顔にするアイドルになってみせるわ」
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/03(火) 02:53:09.70 ID:wUHOGYQ/O
とりあえずここまで。
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/03(火) 10:30:37.22 ID:Mn1hHYico
おつおつ
続き気になりすぎる
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/04(水) 01:38:15.29 ID:yg6hjMG7O
〜ステージ(決勝)〜

冬優子「ふぅ……」

カンッ、カンッ

冬優子(っ、まぶし……)

冬優子「……」

冬優子「………」

冬優子「…………」

冬優子(これまでよりも豪華な舞台とセット)

冬優子(目の前には、顔を覚え始めた審査員の人たちに加えて、アイドルになる前から知ってるような超有名人が何人も)

冬優子(観客だって段違いに多いわ)

冬優子「……」

冬優子(不思議ね)

冬優子(緊張でパニックになってもおかしくないような状況なのに、こんなに落ち着いてる)

冬優子(緊張してないわけじゃない……でも、いまはその緊張をコントロールできてる)

冬優子(ここまで来たのね、ふゆ)

冬優子「283プロの黛冬優子です――」

冬優子(あとは、楽しむだけよ)

冬優子「――今日は皆さんを笑顔にしちゃいますね!」


P「頑張れ、冬優子」ボソッ

P(こうして舞台袖で見守ってるからな)

P(大丈夫、冬優子ならきっとみんなを笑顔にできるさ)

冬優子 〜♪

P「……」

ギギギ・・・

P「?」

P(何の音だ? 天井のほうから聞こえた気がするけど……)

タンタンタンッ

P(……嫌な予感がする)

P(見に行ってみよう)
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/04(水) 02:08:03.64 ID:yg6hjMG7O
〜ステージ(決勝) 舞台装置周辺〜

P「はぁっ……はぁっ……」

P(け、結構きついな……登るの)

P(まあ、関係者しか来ないわけだし、こんなんでもおかしくないけど)

P(さて……)

P キョロキョロ

P「……」

P(気のせい……か?)

P(でも、確かに尋常ならざる音が聞こえたんだが……)

ガサッ

P「!」

P(……なにか――あるいは誰かが――いる。暗くて姿はよく見えないけど)

キィィ・・・

P(人……だな)

P(何をしているんだ?)

P(というか、“こいつ”がいじってるのって……)

P(……――っ! ま、まさか)

P「っ」ゴクリ

P(徐々に“そいつ”との距離をつめていく)

P(絶対に“それ”をさせてはいけない……)

P(とはいえ、今は冬優子のステージの真っ最中だ)

P(あまり大きな音は立てられない……ならば――)

ポンッ

「っ!?」

P(――単純な話、気配を消して、肩を叩けばいい)

「んっ……」バッ

テテテテテ

P「……」

P(さすがに驚いたのか、どっか行ったみたいだな)

P(それにしても……)

P「ふぅ〜〜……」

P(これ、ステージ上の装置を吊るしてるワイヤー群の1つじゃないか)

P(しかもこの状態を見る限り、あと少しいじればワイヤーが……いや、考えるのはやめよう)

P(とりあえず、本当に止めに来て良かった……)

P「……はぁ」ドサリ

P(一通りステージが終わるまでここにいよう……)
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/04(水) 02:34:34.37 ID:yg6hjMG7O
〜ステージ(決勝)〜

冬優子(やった……やったわ)

冬優子(いままでのどんなふゆよりも、キラキラできた)

冬優子(これ以上のパフォーマンス、いまのふゆにはできないわ)

冬優子(……そっか、ふゆ、やりきったのね)

冬優子「……」

冬優子(審査員の人たちや大御所も立ち上がって拍手してくれてる――)

冬優子(――見えているだけで、拍手の音は聞こえないけど。だって……)

ワァァァァァァァァァァッ!!!!!

冬優子(こんなにも大きな歓声に包まれているんだもの)

冬優子「……」

冬優子(プロデューサー、見てくれてる?)

冬優子(あとはあんたが笑ってくれればいいの)

冬優子(それから、愛依、あさひ……)

冬優子(……あんたたちの仲間はここまで来たのよ)

ワァァァァァァァァァァッ!!!!!

冬優子 ニコッ

冬優子(ふふっ、よかった)

冬優子(今日は、間違いなく、心の底から笑って帰れるわ)


〜ステージ(決勝) 舞台装置周辺〜

P「……すごい歓声だな」

P(パフォーマンスは、直接見ることができたのは半分くらいだが――)

冬優子「……っ。ふふっ、ありがと〜〜っ!!!」

P(――それでも俺には、確かに冬優子が“見えてたよ”)

P(実際に見えていないというのは、きっと、誤差の範囲でしかなかったのだろう)

P(冬優子のパフォーマンスは五感すべてにうったえかけてきていた)

P「ははっ。どうだ……! 俺のアイドルはすごいんだぞ」

P「って、自慢するまでもないか。いまとなっては、皆が認めてくれているんだから」

P「……冬優子、お前は本当にすごいよ」

P「俺、自分から笑う必要なかった」

P(冬優子の声が、想いが、届いた最初の瞬間から俺は自然に笑顔になっていたから)

P(そう……まさに、冬優子が言ったように)

P(それは、高揚、感動、安堵、懐古……さまざまな想いによるもので)

P「ありがとう、冬優子」

P(とりあえず、この後で直接会うときにも笑顔でいられるように、冬優子の歌声でも思い出しながら会いに行こうかな)

P「あ」

P(舞台装置のほうを見に行ってたことは隠しておこう……)

P(もちろん、冬優子に怒られるのが怖いというのもあるが)

P「……」

P(どうやら、不穏な動きがあるみたいだし)

P(変なストレスを与えないようにしないとな)
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/04(水) 02:58:06.25 ID:yg6hjMG7O
――――大会 最終結果――――

    優勝 黛冬優子
   準優勝 トオル

大会終了後。

〜283プロ 黛冬優子用控え室〜

ガチャ

冬優子「……」

バタン

冬優子「……ふぅ」

冬優子(たしか、この控え室は中の音が外にはあまり聞こえないようになってたわね)

冬優子(よし……)

冬優子「スゥーッ」

冬優子「……っっっっっしゃあああああああああああああああッッッッッ!!!!!」

冬優子「〜〜〜っっっ!!! ゃっばい! これ……これやばい!!」

冬優子「勝っちゃった……ふゆ、ほんとに優勝しちゃったのよね!?」

冬優子「……ふふ」

冬優子「ふふふ」

冬優子「あーっはっはっはっはっは!!!!!!!」

冬優子「もう……! もうもう!!」

冬優子「あさひにスタ爆してやろっと!! あははは!!」ポチポチポチ・・・

冬優子「そうだ、愛依にもしてあげないとね!」ポチポチポチ・・・

冬優子「はぁっ、……」

冬優子「ほんと、テンションおかしい……ふふっ」ポロッ

冬優子「な、涙出てきた……はは」ポロポロ

冬優子「あれ、やば……涙止まんない……」ポロポロ

冬優子 ポロポロ

冬優子「うっ……ぐすっ……」ポロポロ

冬優子(勝てて、よかった……)


愛依『W.I.N.G.の1人ヴァージョンってこと――だよね?』

冬優子『それだけじゃないわ……!』

冬優子『この大会に出れば、1人でユニットの何もかもを背負うのよ』

冬優子『プロデューサーも言ってたでしょ、普段ユニットで活動してるアイドルが1人で出るんだ、って』

冬優子『勝てば天国負ければ地獄とはこのことよ』


愛依『でも、それならあさひちゃんが出れば――』

冬優子『――わかってんのよ!』

愛依『っ!?』ビクッ

冬優子『わかって……るのよ』プルプル

冬優子『そうだけど……そんなの悔しいじゃない……!』


冬優子「愛依……あさひ……」ポロポロ


P『俺は、ストレイライトのために、愛依でもあさひでもなく、冬優子を選んだんだ』


冬優子「プロデューサー……」ポロポロ
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/04(水) 03:19:14.50 ID:yg6hjMG7O
〜控え室外 廊下〜

P「はあっ、はあっ」タッタッタッ

P(遅くなっちまった……待たせすぎって冬優子に言われるかも)

P(ははっ……それじゃあ結局怒られてるじゃねーかってな)

P(「283プロ 黛冬優子様」……ここだ)

コンコンコン

「……はい」

P「冬優子、俺だ。入ってもいいか?」

「プロデューサー?」

P「そうだ。遅くなってすまない」

「いいわよ。入って」

ガチャッ


〜283プロ 黛冬優子用控え室〜

P「冬優子、よくやっt――」

冬優子「プロデューサーっ!!」ダキッ

P「――たな……」

冬優子「っ……グスッ」

P「優勝おめでとう、冬優子」ポンッ

P「すごかったよ、本番でのパフォーマンス」

P「今までに見てきたどの“ふゆ”よりもキラキラしてたぞ」

P「自然に笑顔になれたんだ。プロデューサーとしてもそうだし、1人のファンとしても」

P「ありがとう。冬優子のプロデューサーであることが本当に嬉しい。誇りに想うよ」

P「正真正銘のトップアイドルだ」

冬優子「そっか……。そうよね……!」ニコッ

冬優子「ふゆね……早くあんたに会いたかった」

冬優子「いろんな思いがあるけど、たぶん、一番は――」

冬優子「――その言葉をあんたから聞きたかったんだと思う」

冬優子「ふゆにも言わせて。ありがと、プロデューサー」ギュウッ

冬優子「あんたがいてくれたから、ふゆはここまで来れた」

冬優子「みんなを笑顔にできるようなキラキラしたアイドルになれたのよ、あんたのおかげでね」

冬優子「感謝してもしきれないわ」ギュウウウッ

P「そう言ってくれるのは……嬉しいな。けど――」

P「――他の誰でもない、冬優子の努力と想いもこの優勝には欠かせなかった」

P「まあ、俺がわざわざ言ってやるまでもないか」

P「……というか、さっきからどんどん抱きしめる力が強くなってるんだが」

冬優子「なによ。……いやなわけ?」

P「いや、そうじゃないけど……」

冬優子「なら、もう少しだけこうさせて」

冬優子「プロデューサーとしてのあんた、ファンとしてのあんた……その両方はふゆに魅了されたみたいだけど」

冬優子「ひ、1人の男としてのあんたも、ふゆは狙ってんの……!」

冬優子「だから、今日は、その……ふゆの抱き心地でも覚えていってから帰りなさいよね」

冬優子「………………ふふっ、だいすき」ボソッ
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/04(水) 03:20:00.76 ID:yg6hjMG7O
とりあえずここまで。
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/04(水) 06:29:15.21 ID:ZLhpK96DO
おめでとう、ふゆゆ!
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/04(水) 08:20:00.72 ID:dHo3QjPto
やったぜ!
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/06(金) 01:29:50.79 ID:agQP1f+8O
P「帰る前にちょっと挨拶しておきたい人がいるから、また後で落ち合おう」

冬優子「おっけー。ふゆも適当に時間つぶしておくわ」

P「すまない。それじゃあ、30分後にロビー集合でいいか?」

冬優子「了解。ほら、早く用を済ませてきなさいよ」

P「ああ。じゃあ、また後で」

ガチャ

バタン

冬優子「……さて、と。帰り支度しますか」


数分後。

冬優子「忘れ物は……よし。ないわね」

冬優子「あとは……」

冬優子(コイトちゃんと別れたときに拾った落し物――何かの飾りみたいなやつ――をどうにかしないとね)

冬優子(とりあえずコイトちゃんに聞いてみようかしら)

ガチャ

バタン


〜控え室外 廊下〜

冬優子「この辺にはいない、か」

冬優子(コイトちゃん……もう帰っちゃったのかしら)

冬優子(それにしても――)

冬優子 つ落し物

冬優子(――これをコイトちゃんが、ね……)

冬優子(年季の入ったものみたいだし、大切にされてたのかな)

冬優子「まあ、ロビーに行けば落し物として預かってもらえるかもしれないし、そっち向かえばいっか」

冬優子(あいつとの集合場所でもあるしね)
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/06(金) 01:56:33.82 ID:agQP1f+8O
〜エレベーターホール〜

冬優子「……」

フォンッ

ウィーン

ヒナナ「あ」

冬優子「あ」

冬優子(この子――)


トオル『このお菓子、おいしいね。めっちゃ美味い味する』

ヒナナ『ごろ〜ん♡ ヒナナこのソファーすき〜〜』


冬優子(――プロデューサーの幼馴染とかいう子の友だち……だっけ)

ヒナナ「やは〜お疲れ様です〜〜」

冬優子「お疲れ様ですっ」

ヒナナ「あ、優勝おめでとうございます〜」

冬優子「ありがとうございますっ。これもみんな――」

冬優子「――プロデューサーさんにユニットの仲間、ファンの人たちのおかげだよ♪」

ヒナナ「あは〜……そうなんですね〜」

冬優子「う、うん……」

ヒナナ「トオル先輩……なんでだめだったのかな〜?」

冬優子「だめって……ふゆが言っていいのかわからないけど、準優勝だよ?」

冬優子「準優勝はだめなの?」

ヒナナ「う〜ん。どうですかね〜〜」

ヒナナ「やっぱ優勝のほうがしあわせ〜ってなるのかな、って思ったから〜〜」

冬優子「しあわせ?」

ヒナナ「はい! ヒナナはトオル先輩が好きだから」

ヒナナ「トオル先輩が優勝してしあわせ〜ってなってくれたら、ヒナナもしあわせ〜になれるかな〜……って」

ヒナナ「ヒナナはね、ヒナナがしあわせ〜って思えることだけでいいの」

ヒナナ「ヒナナがしあわせなのがいちばんさいこ〜♡ ってことで」

ヒナナ「もちろん、ヒナナが優勝できればしあわせだけど――」

ヒナナ「――トオル先輩が優勝するんでも、まあいいかな〜って思ってました」

冬優子「……」

ヒナナ「準優勝ってどれくらいしあわせ〜ってなるんだろ〜?」

冬優子(なんなのこの子……)

冬優子(ふゆの中で何がひっかかるのかはわからないけど、何よりもわからないのはこの子自身……)

冬優子(どんな価値観なのよ。人を何だと思ってるの?)

冬優子(もしかしたら、この子なりの筋道だった説明のつく理屈があるのかもしれないけど)

冬優子(ふゆはこの子のこと……)

ヒナナ「どうかしましたか〜?」

冬優子「え? あ、う、ううん! なんでもないよっ」

ヒナナ「それじゃあ、ヒナナは向こうに用事があるのd……」

冬優子「?」

ヒナナ「……」

ヒナナ「……やは〜」
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/06(金) 02:16:49.43 ID:agQP1f+8O
ヒナナ「それ……」

ヒナナ「その手に持ってるのって〜……」

冬優子「あ、これはね、さっき本番前に控え室のところの廊下で拾ったんだよ」

冬優子「落し物だと思ったから、これからロビーに届けようかなって」

ヒナナ「落し物……。控え室のところの廊下……?」

冬優子「……どうしたのかな?」

ヒナナ「それヒナナの〜!!」

冬優子「!?」ビクッ

ヒナナ「よかった〜〜。もう見つからないと思ってたのに〜〜〜〜」

ヒナナ「そのアクセサリー、ヒナナのお気に入りで〜」

冬優子「そ、そうだったんだ」

冬優子(そっか。アクセサリーか)

冬優子(そういえば――)


ヒナナ『そうだ! トオル先輩、帰りに雑貨屋さん寄っていってもいい〜?』

ヒナナ『気に入ってたアクセサリーがね〜……この前から見つからないんだ〜』


冬優子(――あの時に言ってたアクセサリーってこれのことだったのね)

冬優子(拾ったのがコイトちゃんと別れたときだったから、コイトちゃんのものかと思ってたけど)

冬優子(持ち主が見つかったのなら、それに越したことはないわ)

冬優子「はい、どうぞっ」

ヒナナ「やは〜! やった〜〜!」

ヒナナ「見つかってよかった〜。今日はしあわせ〜になれたかも〜〜」

冬優子「ふふっ、大切にしてたんだね♪」

ヒナナ「はい〜。小さい頃からの友だちとの……しあわせ〜なアイテムなんです〜」

冬優子「そうなんだ! じゃあ、これからはなくさないようにしないとだねっ」

ヒナナ「見つけてくれてありがとうございました〜。それじゃ、失礼しま〜す」

冬優子「うん。ばいばい」

ヒナナ テテテテテ

冬優子「……」

冬優子「………」

冬優子「…………ふぅ〜〜〜」

冬優子(つ、疲れた……)

冬優子(アイドルとしてのふゆを演じるのはなれっこだけど、あの子の相手するのでこんなに疲れるとはね……)

冬優子(まあ、とりあえずもう済んだことなんだし、落し物の持ち主も見つかったし、別にいいじゃない)

冬優子(早くロビー行こ……)
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/06(金) 02:17:16.15 ID:8JYxDGiDO
逃げてふゆゆ、すぐ逃げて
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/06(金) 02:34:32.61 ID:agQP1f+8O
〜決勝会場 ロビー〜

冬優子(あいつ、おっそいわね……!)

冬優子(ふゆを待たせるなんていい度胸してんじゃない)

冬優子(なんて言ったって、優勝アイドルなのよ? 今日のふゆは偉いんだから)

冬優子「……」

冬優子「………」

冬優子(暇ね)

冬優子(話相手でもいればいいのに――って、あそこにいるのは……)

コイト キョロキョロ

コイト ウロウロ

コイト「ウゥ・・・」

冬優子(コイトちゃんよね。ちょうどいいわ)

冬優子(ふゆの話し相手に……)

コイト「ぴぇ……ど、どうしよう……」

冬優子(なんだか、それどころじゃない……みたい?)

冬優子「コイトちゃんっ」

コイト「ぴゃっ!?!?」

コイト「あ、ふ、冬優子さんですか……」

冬優子「ごめんね? 驚かせちゃったかな」

コイト「い、いえ……大丈夫です」

冬優子「ひょっとして、何か困ってる?」

コイト「なっ、なな、なんでわかるんですか……?」

冬優子「見ればわかるよ〜。いまのコイトちゃん、すごく焦ってるって感じするもん」

コイト「そうだったんですね……」

コイト「……うぅ」

冬優子「何か困りごとなら、ふゆでよければ力になるよ?」

コイト「……そ、そのっ、お、落し物……探してて……」

冬優子「……え?」

冬優子(落し物……ですって?)

冬優子(さっきあの子に返したのも落し物で……コイトちゃんと別れたときに拾ったもので……)

冬優子(でも、その持ち主はあの子で……)

コイト「あれが見つからないと……ぴゃぅ」

冬優子(ここは正直に話したほうがよさそうね)

冬優子「実はね、本番前にコイトちゃんとばいばいして、そのすぐ後に廊下でアクセサリーを拾ったんだ」

冬優子「年季が入ってて、特徴は――」

冬優子(できるだけ詳しく、拾ったアクセサリーのことを説明した)

冬優子「――って感じなんだけど……もしかしてそれのことかな?」

コイト「そ、そそ、それです……! 良かった、冬優子さんが拾ってくれてたんですね……」

冬優子「え、え〜っと、それが……」


コイト「え……」サーッ

冬優子「ごめんねっ! 持ち主だって言ってて、大切にしてたみたいだったから、渡しちゃった……」

コイト「その拾ったアクセサリーを……ひ、“ヒナナちゃんに返しちゃった”んですか……」
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/06(金) 02:35:08.59 ID:agQP1f+8O
とりあえずここまで。
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/06(金) 02:45:39.34 ID:8JYxDGiDO
さぁどうなる
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/07(土) 02:40:22.26 ID:0PIvbGduO
30数分前。

〜___プロ トオル用控え室〜

コンコンコン

P「283プロの黛のプロデューサーをしているPです」

トオル「あ、はい」

トオル「どうぞ」

P「失礼します」

ガチャ

バタン

P「……」

トオル「……」

P「よ、よう」

トオル「よっ」

P「……その、なんだ。優勝アイドルのプロデューサーが言うとただの嫌味になるが」

P「1人の幼馴染として言わせてくれ」

P「おめでとう、トオル」

トオル「……ありがと」

P「お前のステージも見てたよ。アイドルとしてのトオルの真骨頂、しかと見届けさせてもらった」

P「俺の知らない間に、トオルは遠くで……頂にたどり着こうとしていたんだな」

P「でも、それはそれで感慨深いよ。お前のファンになろうかと本気で考えてるんだぜ?」

トオル「……」

P「トオル?」

トオル「……なんで、そういうこと言うかな」

トオル「Pと遠いところなんて、わたs……僕は望んでないのに」

トオル「遠くに行っちゃったのは、Pも同じでしょ」

トオル「それなのに、その上、僕のファンに……?」

トオル「Pは、僕と他人になりたいの?」

P「ま、まて、トオル。俺はそんなつもりで言ったんじゃ……」

トオル「じゃあ、どんなつもり?」

P「お、俺はただ、トオルの幼馴染として準優勝したことを祝福して褒めようとしただけだよ」

トオル「準優勝、か」

トオル「ねえ、覚えてる? ジャングルジムのこと」

P「ジャングルジム……? ああ、トオルが小さい頃によく一緒に遊んだよな」

トオル「うん」

トオル「僕ね、てっぺんを目指したかったんだ」

トオル「あの頃はジャングルジムで、いまは……」

P「てっぺん……もしかして、この大会での優勝?」

トオル「ジャングルジムのときは、Pは一緒にてっぺんにのぼってくれた」

トオル「でも、いまはPが一緒じゃない」

トオル「優勝は、できなかった」

トオル「まあ、なんていうか、さ。アイドルとしててっぺんを目指す方法はたくさんあるから」

トオル「いまからでも、Pが一緒に目指してくれたら」

トオル「てっぺんにのぼれる気がするんだ」
175 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2020/11/07(土) 02:40:40.51 ID:jvzh+C5g0
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/07(土) 03:25:42.96 ID:0PIvbGduO
トオル「Pのほうから来てくれればいいって思ってた」

トオル「でもね、わかったんだ」

トオル「待ってるだけじゃ、あなたは来てくれないってこと」

P「……」

トオル「あれから――この前283プロの事務所に会いに行ったときから――いろいろ考えた」

トオル「Pの横には別の……優勝したあの子がいて、このままだと僕とPは二度と元には戻れない」

トオル「それは、嫌だ」

トオル「しばらく離れてたからこそ、僕にはPが必要なんだって思えた」

トオル「だからさ、お願い」

トオル「僕のプロデューサーになってください」

トオル「僕とまた……一緒にてっぺんを目指してください」

P「……っ」

トオル「返事、聞かせて欲しい」

P「……俺は」

P「俺は、トオルのプロデューサーにはなれない」

トオル「っ」

P「俺とトオルは幼馴染で、決して他人なんかじゃない。その辺のアイドルとはわけが違う……お前は特別だよ」

P「1人の女の子としても俺にとってはそうだし、1人のアイドルとしてもだ」

P「トオルの持つトップアイドルになれる素質は、この大会を通じて確信したよ」

P「確かに、一緒にトップアイドルを目指せば、実現させることが十分可能だろう。それでも……」

P「俺は、283プロのプロデューサーで、黛冬優子の……ストレイライトのプロデューサーなんだよ」

P「それは覆らないし、覆したくない」

P「あいつらと築いてきたものがある。あいつらと共に歩んだ道がある」

P「そうだな……それについて語ればキリがないくらいには、な」

P「そして、それらは何物にも代えがたくて、今一番大切なものだ」

P「だから、俺がてっぺんを目指したいと思うアイドルは、トオル……お前じゃないんだ」

P「ごめんな」

トオル「グスッ……頼んでも、駄目だった、か」

トオル「優勝したあの子は……あの子のいるユニットは……」

トオル「僕が入り込めないくらい、Pとの絆で結ばれてるんだ」

P「っ……ああ。そうだ」

P「それが、プロデューサーとして俺が得たものだから」

P「そう簡単に手放せないし、手放したくない」

トオル「ほんと……あの子が羨ましい」ポロポロ

トオル「っ……あはは、だめだ、僕」ポロポロ

トオル「フラれたのに、グスッ……いますぐPに抱きついて思い切り泣きたいなんて思ってる」ポロポロ

P「その……なんだ。幼馴染の我儘に付き合うくらいなら、別に構わないさ」

P「今ここにいるのは、283プロのプロデューサーじゃなくて、1人の……トオルの幼馴染ってことにすれば」

トオル「!」

トオル ダキッ

P(それから、トオルは思い切り泣いた。こんなトオルは何年ぶりだろう。あるいは、初めてかもしれなかった)

P(ここまでの想いを抱えてトオルが泣くところは、おそらく……)
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/07(土) 03:47:42.13 ID:0PIvbGduO
トオル「……ごめん。もう、大丈夫だから」パッ

トオル「ありがとう」

トオル「なんか、こうしてちょっと離れるのも、いまは悲しい感じがする」

P「これが今生の別れというわけじゃないんだし、また明日からは幼馴染として仲良くやっていこう」

トオル「しばらく会えてなかったぶんも、ね」

P「ああ」

P「何か相談ごととかあれば、遠慮なく言っていいんだからな」

トオル「わかってる。そのときは、頼る」

トオル「幼馴染としてね」

P「おう」

ヴーッ

P「俺のスマホ……じゃないな」

トオル「僕のかな」

トオル「あ、ヒナナだ」

トオル「いま向かう、か」

トオル「『わかった。控え室にいるから』――っと」ポチポチピッ

P「ヒナナって、この前うちの事務所に一緒に遊びに来た子か?」

トオル「うん」

P「仲良いんだな」

トオル「まあね」

トオル「この大会の間のこととか、あとPのこととかも、時々話聞いてもらってた」

P「仲間は大切にしろよ? 1人で生きていくなんてできないんだから」

トオル「ふふっ、大げさ」

P「大げさなもんか。特にこの業界、1人だけの無力さを痛感する場面が多いからな……」

トオル「大人の事情だね」

P「トオルもこれから大人になっていくんだろ?」

トオル「うーん。どうかな」

P「なるんだよ。まあ、いずれわかるさ」

P「……あ」

P「い、いま何時だ!? ……ってやばい!」

P「30分後に落ち合おうって俺が言ったのに、もう過ぎてる……!」

トオル「だめだよ、約束は守らないと」

P「本当だよな。大人の俺がこんなんでどうするって話だ」

P「それじゃ、その……またな。トオル」

トオル「またね、P」

ガチャ

トオル「今度、一緒に遊んでね」

P「ああ、何するか考えておけよ」

バタン
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/07(土) 04:00:32.31 ID:0PIvbGduO
〜控え室外 廊下〜

P タッタッタッ

P(冬優子、怒ってるだろうな……)

P(走って向かっても遅刻は確定だが、それでもできるだけ早く着いてやらんとな)

P「はあっ、はあっ……」タッタッタッ

P(この先で、左に曲がる――っ!)

P「わっ!?!?!?」

ヒナナ「わ〜〜???」

P「ぐ、……っととととと、あ、あぶない……」

P(全力で踏ん張ることで、とりあえず思い切り衝突するのは防げたぞ)

ヒナナ「だいじょうぶですか〜?」

P「あ、ああ。急いでたもので、申し訳ありませn……って、君は」

ヒナナ「あは〜。この前のお兄さんだ〜〜」

P「トオルの友だちだったっけ。俺はトオルとは幼馴染なんだ」

ヒナナ「知ってますよ〜〜。トオル先輩から聞いてました〜〜〜」

P「そ、そうか」


トオル『この大会の間のこととか、あとPのこととかも、時々話聞いてもらってた』


P(そんなことも言ってたな)

P「しばらくあいつと会ってなかった俺が言うのもなんだが、トオルが世話になってるな」

P「仲良くしてやってくれ」

ヒナナ「は〜い。ヒナナ、トオル先輩のこと好きですから〜」

P「ありがとう。よろしく頼んだ」

P「うおっ、やべ……さらに遅刻だ……!」

P「じゃ、じゃあな」

ヒナナ「ばいば〜い」フリフリ

P タッタッタッ
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/07(土) 04:01:07.46 ID:0PIvbGduO
とりあえずここまで。
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/07(土) 10:50:08.77 ID:nn2vyEugo
おつ
前作と地続きの考えると……透……
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/07(土) 11:03:28.42 ID:ocH0HPsDO
この先、ふゆゆ辛勝、愛依敗北、あさひ絶対的勝利ってとこかな?



早くあさひルートが見たい……で、雛菜がどう爆破なるかも
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/08(日) 02:50:10.85 ID:vsctKL7KO
>>127

訂正


トオル「別に、プロデューサーを取っちゃおうってわけじゃなくて」

トオル「プロデューサーから来てくれたら、嬉しいなって」





トオル「別に、Pを取っちゃおうってわけじゃなくて」

トオル「Pから来てくれたら、嬉しいなって」
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/08(日) 02:51:21.20 ID:vsctKL7KO
>>128

訂正


トオル『プロデューサーから来てくれたら、嬉しいなって』





トオル『Pから来てくれたら、嬉しいなって』
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/08(日) 02:52:53.32 ID:vsctKL7KO
〜決勝会場 ロビー(再び ―― >>171)〜

コイト「え……」サーッ

冬優子「ごめんねっ! 持ち主だって言ってて、大切にしてたみたいだったから、渡しちゃった……」

コイト「その拾ったアクセサリーを……ひ、“ヒナナちゃんに返しちゃった”んですか……」

冬優子「う、うん」

冬優子(……まずったかしら)

冬優子(というか、いま、コイトちゃん――)


コイト『その拾ったアクセサリーを……ひ、“ヒナナちゃんに返しちゃった”んですか……』


冬優子(――って言ったわよね)

冬優子「あの……さ、コイトちゃんって、あのヒナナちゃんって子と知り合いだったの?」

コイト「ぴぇ!? な、なな、なんでそう思うんですか」

冬優子「言い方がそんな感じかなって」

コイト「うぅ……」

冬優子「もしかして、知られたらよくないことなのかな?」

コイト「……」

コイト「……っ」

コイト「〜〜〜〜!」

コイト「……わ、わかりました。冬優子さんには、ちゃんと話します」

コイト「っ……」

コイト「わたしがあのアクセサリーを拾ったのは、マドカちゃんが怪我をしたのと同じ日です」

コイト「マドカちゃんが、つ、つつ、突き飛ばされたすぐ後に……床に落ちてたのを、わたしが」

冬優子「そんな……それって――」

冬優子(――いや、結論を急いじゃだめ、ふゆ)

コイト「わ、わたしとヒナナちゃんは幼馴染なんです」

コイト「あれは、小さい頃に、わたしがヒナナちゃんにプレゼントしたアクセサリー……」

コイト「ヒナナちゃんとは中学から疎遠になっちゃったけど、あのアクセサリーはずっと大事にしてくれてたみたいです」

コイト「でも……! それを知ったのも、マドカちゃんが怪我をした日……」

コイト「あの日、マドカちゃんが階段から降りてこようとしたその時――」

コイト「――わ、わたしは……、マドカちゃんのすぐ後ろにヒナナちゃんがいて――」

コイト「――ヒナナちゃんがマドカちゃんの背中を、おお、押すのを……!」

コイト「グスッ……み、見ました」

冬優子「……」

冬優子(ふゆの結論は、残念ながら正解だったみたいね)

冬優子「ひどい……なんでそんなこと……」

コイト「わっ、わたしにもわからないんです! い、いろいろ考えちゃいましたけど、でもヒナナちゃんってつかみどころのないところがあるから……」

コイト「こんなの、わたしは……い、嫌です」

コイト「アイドルになって、ヒナナちゃんもアイドルやってるって知って」

コイト「いつかまた仲良くできたらいいなって、……思ってたのに」

コイト「久しぶりだねって……そのアクセサリーいまでも使ってくれてたんだねって……そ、そうやって再会したかったのに……」

コイト「アイドルになって、なかなか話しかけられないでいたら、こ、こんなことになるなんて……」

コイト「……そ、それでも、わたしはヒナナちゃんを友だちだって思いたかったから」

コイト「見たことを言わないで、拾ったものを隠して、ヒナナちゃんを守ろうって、……そうしたんです」
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/08(日) 03:16:08.02 ID:hkPvCwVDO
あー

やはりか
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/08(日) 03:33:03.26 ID:vsctKL7KO
冬優子「コイトちゃんが拾ったまま持っていれば、ヒナナちゃんはそのアクセサリーをなくしただけになる……」

コイト「わたしたち3人以外はあの場にいなかったから……人気は全然なかったし、そ、それは確かなんです」

コイト「でも……わ、わたしがそれを落としちゃうなんて……」

冬優子(それをふゆが拾って“持ち主”に返しちゃった――と)

コイト「ヒナナちゃんがあの日にアクセサリーを落としたって気づいてたら、きっとわたしが持ってきたって思うはずです」

コイト「だって、マドカちゃんはここに来れなかったから……」

コイト「あ、あの場にいて、この決勝に持ってこれるのは、ヒナナちゃん以外にはわたししかいませんから……」

コイト「それを冬優子さんが拾って返したってことは、も、もう……!」

冬優子「お、落ち着いてコイトちゃんっ」

冬優子「コイトちゃんが黙ってて欲しいって言うなら、ふゆは誰にも言わないよ」

冬優子「たぶん、本当はこのことを他の人に言うべきなんだと思う……それでも――」

冬優子「――これは、コイトちゃんとヒナナちゃん……それからマドカちゃんの3人の問題だもん」

冬優子「ふゆがどうこうしていい話じゃないよ」

冬優子「ごめんね……なんか無責任なこと言ってるよね、ふゆ」

コイト「あ、謝らないでください! わたしが巻き込んだだけです……」

コイト「…………ふ、冬優子さん!」

コイト「っ……お願いします、このことは、誰にも言わないでください」

冬優子「わかった。それならふゆは何も言わないよ」

冬優子「コイトちゃんは、ヒナナちゃんのことが大好きなんだねっ」

コイト「は、はい……ですから」

コイト「これは、わ、わたしが! 決着をつけます!」

コイト「ちゃんと、ヒナナちゃんと話して、向き合わないと……」

コイト「だ、だから、冬優子さんは何も言わないでください」

冬優子「ふふっ、そっか」

冬優子「頑張ってね、コイトちゃん!」

コイト「は、はい!」

コイト「わたし、いまからヒナナちゃんに会いに行ってきます」

コイト「久しぶりの会話がこれなのは悲しいけど……それでも!」

コイト「このまま何もしないのは、たぶん駄目ですから」

コイト タタタタタ

冬優子「……」

冬優子(どうなるのかしら、あの子たち)

冬優子(結局、ふゆにとっては関係のない話……なのよね)

冬優子「……って、やっと来た」

冬優子「もう! おっそい!」

P「はあ゛っ、くっ、……わ、悪い、遅れちまって」ゼェゼェ

冬優子「まったく、優勝アイドルであるふゆを待たせるなんて、いい度胸ね」

P「返す言葉もない……」ゼェゼェ

冬優子「冗談よ。もういいわ、あんたが遅れて来たことなんて」

冬優子(プロデューサーが遅れてる間に、そんなのが気にならないくらいの話があったんだから)

P「さ、じゃあ帰ろうか」

冬優子「そうね、でも足りないわ」

冬優子「一緒に笑って帰るって言ったでしょ。もっと楽しそうに……嬉しそうにしててよね!」
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/08(日) 03:49:59.04 ID:vsctKL7KO
〜エレベーターホール〜

トオル「あ、エレベーター来たわ」

ヒナナ「も〜〜全然来ないから待ちくたびれちゃった〜〜〜」

フォンッ

ウィーン

コイト「……」

ヒナナ「! ……あは〜」

トオル「?」

コイト「ひ、ヒナナちゃん! ……久しぶり、だね」

ヒナナ「うん! そうだよね〜〜」

トオル「ヒナナの、友だち?」

ヒナナ「幼馴染かな〜?」

トオル「ふふっ、そっか」

トオル「邪魔しちゃ悪いし、先にロビー行ってるね」

トオル「久しぶりの会話、楽しんで」

トオル「じゃ」

ウィーン

バタン

コイト「……」

コイト「中学で別の学校になっちゃったから、それ以来だよね」

ヒナナ「そうだったね〜。元気だった〜?」

コイト「う、うん。ヒナナちゃんは?」

ヒナナ「ヒナナもそんなとこ〜」

コイト「そ、それなら良かった……」

コイト「……」

コイト「ヒナナちゃん、覚えてる? 小さい頃に、わたしがヒナナちゃんにあげたアクセサリー」

ヒナナ「もちろん覚えてるよ〜。えーっと……」ガサゴソ

ヒナナ「……あった! これでしょ〜?」

コイト「そう……! それ……」

ヒナナ「“コイトちゃんが拾ってくれた”んでしょ〜?」

コイト「!! ……やっぱり、気づいてたんだね、ヒナナちゃん」

ヒナナ「うん! さっきトオル先輩の好きなお兄さんのアイドルの人から返してもらったけど――」

ヒナナ「――ヒナナがこれをなくしたのは、あの日だもんね〜」

ヒナナ「あそこにはヒナナたち3人以外いなかったし〜〜……、あの子じゃないならコイトちゃんかな〜って」

コイト「ヒナナちゃん……久しぶりに話せたのは嬉しいけど、で、でも、聞かせて……!」

コイト「マドカちゃん――あの子を階段から落としたのは、……っ、な、なんで!?」

ヒナナ「やは〜〜、それはね――」
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/08(日) 03:50:57.13 ID:vsctKL7KO
眠すぎるので、一旦ここまで。
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/08(日) 05:58:57.71 ID:P64WO/eAo
なんてところで…切りやがる…おつー
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/08(日) 09:14:17.24 ID:hkPvCwVDO
小糸ちゃん……生きて!
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/10(火) 01:23:42.84 ID:W+GZMLB+O
〜車内(移動中)〜

冬優子「すぅ……すぅ……」zzzZZZ

P(……本当にお疲れ様、冬優子)

P(車を出してしばらくは興奮気味にステージでのことを話してくれてたが)

P(一気に開放感がやってきたのか、しばらく黙ったかと思ったら寝ちまったな)

P(あれだけ頑張ってきたんだ。今は好きなだけ休めばいい)

P(後部座席にいる女の子は――たった今の冬優子は――ただの女の子なんだから)

冬優子「んんっ……」

冬優子「あんたは――」

P「?」

冬優子「――ここでふゆと死ぬのよ……」

P ビクッ

冬優子「……って……何言わせんのよあさひー」

冬優子「こんなセリフ台本にないわよ……んぅ」zzzZZZ

冬優子「すぅ……すぅ……」zzzZZZ

P(ね、寝言かよ……! なんて物騒な夢を見てるんだ……)

P(でも、冬優子が言いそうなセリフだな。どんな状況だよという突っ込みは置いておいて)

P「……ははっ、まあ、冬優子はしぶとそうだよな」

冬優子「……」zzzZZZ

P(……寝てるんだよな? 聞かれてないよな?)

冬優子「すぅ……すぅ……」zzzZZZ

P「ふぅ……」

P(しかし――)


P《あまり大きな音は立てられない……ならば――》

ポンッ

『っ!?』

P《――単純な話、気配を消して、肩を叩けばいい》

『んっ……』バッ

テテテテテ


P(――あの時……舞台装置のあたりにいたのは誰だったんだろうか)

P(もしあそこで肩を叩いてなかったら……冗談じゃなく冬優子は……)

P(冬優子がうらまれる理由でもあるのか? 冬優子だからこそ、敵を作るようなことはそうしない気もするが)

P(あるいは、一方的なものだろうか)

P(大会が終わってからは撤収作業で慌しくなって、舞台の裏方でない俺にできることは何もなかった)

P(結局、あの未遂に終わった工作は謎のままだ)

P(プロデューサーとしては、今は様子を伺うのが良いのかもしれない)

P(ただ、冬優子の近くの人間には注意をしておこう)

冬優子「プロデューサー……」

P「! ……どうした、冬優子」

冬優子「……呼んでみただけよ。……すぅ」zzzZZZ

P(なんだ、また寝言か。……まあ、こうして冬優子が安心して寝ていられるように、俺も頑張らないとな)
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/10(火) 02:17:19.20 ID:W+GZMLB+O
〜決勝会場 エレベーターホール(再び ―― >>187)〜

コイト「マドカちゃん――あの子を階段から落としたのは、……っ、な、なんで!?」

ヒナナ「やは〜〜、それはね――」

コイト「……っ」ゴクリ

ヒナナ「――コイトちゃんとまた仲良くしたいな〜って思ったから〜〜」

コイト「へ……?」ポカン

ヒナナ「? どうかしたの〜?」

コイト「ちょ、ちょっと待ってヒナナちゃん! それと、その……マドカちゃんを怪我させることってどんな関係があるの……!?」

ヒナナ「だって〜、コイトちゃん決勝に来れなくなっちゃったから〜〜……」

コイト「そ、それはっ……そうだけど」

ヒナナ「ヒナナもね、コイトちゃんがアイドルやってるって嬉しかったよ〜」

ヒナナ「また仲良くできたらいいな〜って思った〜〜」

ヒナナ「この大会の決勝って人も少ないでしょ〜? だからコイトちゃんと話せるかな〜って思ったけど……そうじゃなかったから」

ヒナナ「……それは、しあわせ〜じゃないよね〜〜」

ヒナナ「あと〜、コイトちゃんが決勝に行けたら、コイトちゃんもしあわせ〜ってなるでしょ〜〜?」

ヒナナ「コイトちゃんがしあわせなら、ヒナナもしあわせになれるかなって」

ヒナナ「それに〜、うーんと、あの子……マドカ……先輩?」

コイト「! そっ、そうだよ! マドカちゃんだよ! 1つ先輩の!」

コイト「お、覚えてたんだね、ヒナナちゃん」

ヒナナ「でも〜、あんまり覚えてないよ?」

コイト「小学校のときの先輩だよ……たしか、中学はヒナナちゃんと一緒のところだったんじゃ……」

ヒナナ「ん〜、そう、かも? あ〜、というか……」

コイト「というか……?」

ヒナナ「やは〜、別に〜〜? なんでもないよ〜……」

ヒナナ「あ、そういえば〜」

ヒナナ「……たしか〜、コイトちゃんってマドカ先輩に可愛がられてたよね〜〜」

コイト「え、えへへ……そうだった、かな?」

ヒナナ「ヒナナと一緒に帰れないときとか〜遊べないときって〜……マドカ先輩と一緒だったときだったよね〜〜」

コイト「え゛っ、そ、そう……? ごめんね……あんまり覚えてないかも」

ヒナナ「まっ、いいけどね〜」

ヒナナ「あれ〜? なんの話だったっけ〜〜?」

コイト「あ……そ、その……!」

コイト「じゃあ、ヒナナちゃんがあんなことをしたのって……」

コイト「わたしが決勝に進めば、ヒナナちゃんと会えるから……ってこと……だよね」

ヒナナ「うん!」

コイト「わ、わたしが決勝に進めれば、ヒナナちゃんも嬉しいから……」

ヒナナ「そうかなって思った〜」

コイト「……そ、そう……なんだね」ガクッ

コイト「ヒナナちゃんは、マドカちゃんのこと……」

ヒナナ「?」

コイト「う、ううん。なんでもない」

ヒナナ「あ〜……久しぶりに話せたのに〜〜。なんかあんまりしあわせ〜な話じゃないね〜〜」
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/10(火) 02:49:48.28 ID:W+GZMLB+O
コイト「っ!!」

コイト「ふ、ふふ……!」

コイト「ふざけないでよっ!!」

ヒナナ「?」

コイト「グスッ……友だちがあんなことになって、そのおかげで決勝に行けたって……う、嬉しくなんかないよ!!」

コイト「そ、それが……ヒナナちゃんとまた仲良くなるためだなんて……嬉しいわけがないよ……」

コイト「たっ、たしかに、わたしだって一生懸命頑張ったよ! でも、その上で駄目だったんだよ……!」

コイト「……それなら、諦めるよ」

コイト「もう、子どもじゃないから」

ヒナナ「そっか〜……コイトちゃんはそう思うんだね〜〜」

コイト「久しぶりだからとかじゃない……わたしは、ヒナナちゃんがわからないよ」

ヒナナ「ヒナナはヒナナがしあわせ〜って思えることだけでいいの」

コイト「っ……ヒナナちゃんにとって、し、しあわせって何……?」

ヒナナ「それはヒナナにもわからな〜い」

ヒナナ「わからないから、こうしたっていうのが、答えかな〜」

ヒナナ「ヒナナもね、子どもじゃないの。だから考えてみようと思って〜」

ヒナナ「だから、ほかの人のしあわせ〜って、なんなんだろ〜って」

ヒナナ「友だちの――コイトちゃんのしあわせってなんなんだろ〜って」

ヒナナ「で、ヒナナなりに考えたけど……うん、だめだったみたい!」

ヒナナ「なんか、ごめんね〜?」

コイト「ひ、ヒナナちゃん……」

ヴーッヴーッ

ヒナナ「あ、電話……トオル先輩からだ〜♪」

ピッ

ヒナナ「は〜い、もしもし〜〜?」

ヒナナ「時間かかりすぎ〜? あ〜! ほんとだ〜〜!」

ヒナナ「うん。……うん! 久しぶりに話せたから、嬉しくてつい、ね〜」

ヒナナ「わかった〜。じゃあ、いまからそっち行くね〜」

ピッ

ヒナナ「なんか呼ばれちゃった〜」

コイト「ぴぇっ? あ、うん」

ヒナナ「もっとお話したかったけど……」

ポンッ

コイト「ぴゃ!?」

ヒナナ「“また今度”ね〜、コイトちゃん」

コイト ゾッ

ヒナナ「〜♪」

フォンッ

ヒナナ「やは〜♡ 今度はエレベーターすぐに来た〜」

ウィーン

バタン

コイト「……」ヘナヘナ

コイト「ヒナナちゃん……」
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/10(火) 03:07:50.58 ID:W+GZMLB+O
〜決勝会場 ロビー〜

トオル「……ん」

トオル「これは、足音と鼻歌……」

ヒナナ「〜♪」

トオル「あ、やっとヒナナ来たわ」

ヒナナ「おまたせ〜〜」

ヒナナ「待った〜?」

トオル「うん。ふふっ……めっちゃ待った」

ヒナナ「あ〜! そういうこと言うの〜〜? もう」プクー

トオル「そういうこと言っちゃう。待ったし」

トオル「あ、そうだ」

トオル「あの子とは、楽しく話せた?」

ヒナナ「ん〜、どうだろ〜〜」

ヒナナ「まあまあかな〜?」

トオル「そっか」

ヒナナ「なんかね〜、今日はしあわせじゃない〜ってことがいろいろあったかも」

ヒナナ「うまくいかないな〜って」

トオル「まあ、そういう日もある」

トオル「私も、今日はそうだし」

トオル「優勝はできなかったし」

トオル「あと、フラれちゃったから」

ヒナナ「そっか〜」

ヒナナ「お互い苦労しますね〜」

トオル「だね〜」

トオル「なかなか思うようには……ね」

トオル「ほら、思わない?」

トオル「人生って、長いなーって」

ヒナナ「あは〜……そうかもね〜〜」

トオル「よっ、……んーっ」ノビーッ

ヒナナ「どうしたの〜? ここ天井高いから手届かないよ〜」

トオル「うん。届かない」

トオル「届かない……てっぺんに」
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/10(火) 03:08:31.55 ID:W+GZMLB+O
とりあえずここまで。
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/10(火) 05:48:48.77 ID:JUK4AyIDO


小糸ちゃん……
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/10(火) 08:55:39.03 ID:b8VdbYiWO
あこ冬死じゃないか!
…………この物語だと実際に言いそうで怖い
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/11(水) 02:44:53.78 ID:bXMJ5aRCO
1ヵ月半後。

〜事務所〜

冬優子「あ゛〜〜っ……ソファーソファー……」

冬優子 ボフッ

冬優子「……疲れた」ハァ

愛依「ほんと、冬優子ちゃんのおかげで仕事たくさん入ってるよね〜」フゥ

冬優子「そうよー……。ふゆに感謝しなさい……」

愛依「めっちゃ感謝してるって! うちもプロデューサーも、……あと、たぶんあさひちゃんも!」

あさひ「まだまだいけるっすよ冬優子ちゃん! さあ起きるっす!!」

冬優子「もう……あんたは、もう少し疲れるってことを知ってよね」

愛依「冬優子ちゃん?」

冬優子「あ」

愛依「やば……ひょっとして冬優子ちゃん、疲れすぎて見えたり聞こえたりしちゃイケないのが……」

冬優子「うっさい……。あさひならこういうとき、まだまだいけるって言うんじゃないかって思っただけよ」

愛依「……」

愛依「あはっ、そかそか」

冬優子 モゾモゾ

冬優子「……」

愛依「そだね。あさひちゃんがいまの冬優子ちゃん見たら、そう言うっしょ」

ガチャ

愛依「あ、プロデューサー来たカンジ?」

冬優子「仕事人間……」ボソッ

愛依「まあまあ……うちらのために頑張ってくれてるワケだしさ」

P「2人ともお疲れ様。明日から3日間オフにしてあるから、ゆっくり休んでくれ」

冬優子「そうさせてもらうわ……」

愛依「いやぁうちもさすがに休みなしはなかなかハードだったってゆうか〜」

P「嬉しい悲鳴だと思ってくれ。誰かさんのおかげで、仕事が次々に舞い込んでくるんだからな」

愛依「ね〜。誰かさんのおかげでね〜」

冬優子「……はいはい。どうも」

愛依「照れてる照れてる。カワイイな〜冬優子ちゃん」

愛依「プロデューサーもそう思うっしょ?」ニヒヒ

P「えっ!? あ、ああ……そうだな」

冬優子「……」

冬優子「……もう、ばか」
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/11(水) 03:05:33.41 ID:bXMJ5aRCO
愛依「ん〜〜っ……でも、お休みかぁ」

愛依「フツーに学校ある日は行こうかな〜。いきなり何もしない日が来ても暇すぎてヤバいし」

冬優子「どんだけ体力あるのよあんたは」

愛依「まっ、高校生だかんね」

冬優子「ふゆと1つしか違わないでしょ」

P「ははっ。まあ、高校卒業してからは俺も老化を感じてたなぁ」

冬優子「ちょっと、ふゆは別にそこまで言ってないわよ。あんたと一緒にしないで」

あさひ「えっ? 冬優子ちゃんっておばさんだったんすか!?」

P「こらこら……冬優子を怒らせるようなこと言うなよ、あさひ」

愛依「あはは……」

P「? あ……」

冬優子「プロデューサー……あんたも疲れてるのよ。もうあがったら?」

P「はは……これは、まいったな」

愛依「……」

冬優子「……」

P「……」

P「静か、だな」

愛依「うん……」

冬優子「あさひがいないと、この事務所もおとなしいもんね」

愛依「うちら、あさひちゃんのこと大好きだよね……」

P「……そうだな。なんか、すぐそこにいる感じがするよ」

冬優子「やめやめ。こんな空気、あさひは別に喜ばないわよ」

愛依「冬優子ちゃん優しいね〜」

冬優子「そんなんじゃないわよ……」

P「さ、今日はもう解散にしよう。特にいますぐ連絡することはないし」

P「各々、まあ休息とか……残業とか、自分のことをしよう」

冬優子「ふゆはもう少しここでこうしてるわ」

愛依「……あっ、うちは今日下の子たちのゴハン作ってやらなきゃだから、もう帰んなきゃ」

愛依「じゃ、冬優子ちゃん、プロデューサー、お疲れ様〜」

P「おう、お疲れ。またな」

冬優子「気をつけて帰んなさい」

愛依 タタタ・・・

ガチャッ

バタン

P「……」

冬優子「……」

200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/11(水) 03:21:48.98 ID:bXMJ5aRCO
P「残った仕事片付けるか……」

ヴーッヴーッ

P「電話か……誰からだ?」

P「……!」

P「お、おい! 冬優子!」

冬優子「なによ……うっさいわね……」

冬優子「ひと眠りいこうと思ってたとこなの……ほっといt……」

P「電話だ! 連絡が来たんだよ!」

冬優子「……だーかーらー、誰からよ」

P「ああ――」

P「――あさひから、だ」

冬優子 ガバッ

P「ほら、出てやれよ。お前と話したいんだろうよ」

冬優子「そ、そんなわけ……だいたい、あんたのスマホにかけてきてるんだから、ようはそういうことでしょ」

P「あさひ、こっちにスマホ忘れて、向こうで別に格安スマホ買ったんだと」

P「だから、もともとの連絡帳にあった人にはかけられないんだよ」

P「俺の電話番号はあいつに持たせた書類にあったから知ってるけどさ」

ヴーッヴーッ

P「はい、このボタン押せば出れるから」

冬優子「……」

ピッ

冬優子「もしもし……」

あさひ「あれ、その声はプロデューサーさんじゃない……?」

あさひ「いつの間に女の子になっちゃったんすか!? わたし何も聞いてないっす!!」

冬優子「落ち着きなさい。出たのはふゆよ。283プロの黛冬優子」

あさひ「あっ、確かに言われてみれば冬優子ちゃんの声っすね」

あさひ「冬優子ちゃんの声を使って喋ってる別の人とかじゃないっすよね?」

冬優子「違うわよ。本人だっての」

冬優子「ふざけてるならもう切るけど?」

あさひ「別にふざけてないっす!」

あさひ「久しぶりっすね〜冬優子ちゃん。元気だったっすか?」

冬優子「はいはい。そうよ」

あさひ「あれから、やっぱお仕事たくさん来てるんすかね?」

冬優子「はいはい。おかげさまでね」

あさひ「毎日快便っすか?」

冬優子「はいはい。そうよ……って! 何言わせんのよ!!」

あさひ「あはははっ! やっぱ本物の冬優子ちゃんっすね〜!」

冬優子「もう切r――」

あさひ「冬優子ちゃんと話せて、わたし、ほんっとうに嬉しいっす!」

冬優子「――……」

冬優子「……あっそ」
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/11(水) 03:45:31.98 ID:bXMJ5aRCO
冬優子「そっちは……どうなの」

冬優子「海外の大御所の弟子ってのは」

あさひ「ん〜……まあまあ? っすかね」

あさひ「いろいろ自由にやらせてくれてるのには感謝っす!」

あさひ「あのおばさんいい人っすよ!」

冬優子「……それ、他の人には言わないようにしなさいよ」

あさひ「あはははっ、言っても言葉が通じないっす!」

冬優子「心配しなくても、あんたはそうやって平気な顔して生きていけそうね」

あさひ「心配……」

あさひ「冬優子ちゃん、わたしのこと心配してくれたんすか?」

冬優子「っ!」

冬優子「わ、悪い!? ふゆがあんたの心配したら問題でも?」

あさひ「い、いや……そういうわけじゃないっすけど……」

あさひ「……えへへっ」

冬優子「あさひはストレイライトの稼ぎ頭なの、に……」

冬優子「リーダーであるふゆに何も言わないで飛び出して行くなんて……」

あさひ「……」

冬優子「本来なら破門だけど! でも、帰ってきたらデコピンくらいにしておいてあげる」

冬優子「愛依もプロデューサーも……」

冬優子「……あと、ふ、ふゆも」ゴニョゴニョ

冬優子「あさひがいないと、……その」

冬優子「さ、寂しがるわ! だから――」

冬優子「――早く帰ってきなさいよね」ボソッ

あさひ「冬優子ちゃん……」

あさひ「わたし、是非ともこの子を私の手で育ててみたいからしばらく自分のところに置かせてほしい、って言われて行っただけっすよ?」

あさひ「それに、ずっとこっちにいるわけじゃないから、そのうち会えるじゃないっすか」

冬優子「あーもー! あんたってやつは!」

冬優子「そうですかそうでしたねじゃあねせいぜい頑張んなさい切るわよ!」

あさひ「あ――」

冬優子「……なに」

あさひ「――ありがとうっす! 冬優子ちゃんだいすき!」

冬優子「っ」

あさひ「そろそろレッスンの時間なんで切るっすよ! ばいばいっす!」

ブツン

プーップーッ

冬優子「……」

202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/11(水) 03:55:24.08 ID:bXMJ5aRCO
P「……電話、出てよかっただろ?」

冬優子「さ、さあ? どうだか」

P「冬優子……」

冬優子「なに? 泣いてなんかないわよ」

P「いや、何も言ってないんだが」

冬優子「っ!」

冬優子「あ、あんたはさっさと仕事しなさい!」ボフッ

冬優子 モゾモゾ

P「スマホ返してくれ」

冬優子 ポイッ

P「あっ、俺のスマホが……!」

P パシッ

P「っとと、ふぅ……我ながらナイスキャッチ」

冬優子「……」

P「……仕事すっか」


〜3時間後〜

P「ん゛〜〜〜っ! ……やっと、あと1つだ」

冬優子 ムクッ

冬優子「っ!? じ、時間……!」

冬優子「……はぁ」

冬優子「こんなに寝ちゃうなんてね」

P「おはよう、冬優子」

冬優子「挨拶から芸能人扱いどうも」

冬優子「もうほとんど深夜……これじゃ絶対夜寝れない……」

P「積んだアニメでも消化すればいいじゃないか。せっかくのオフなんだから」

冬優子「……それもそうね」

冬優子「……」

冬優子「あんたってさ」

P「?」

冬優子「あんたも、オフなの?」

P「俺か? 俺は……明日は出勤だけど、明後日と3日後は休みにしてもらったよ」

P「さすがにこれ以上――」


冬優子『あんたがプロデュースしてるアイドルは……そんなに頼りない?』

冬優子『そんなに――情けない?』

冬優子『あんたの思うストレイライトって、そんなものなの?』

愛依『冬優子ちゃん……』

冬優子『それに、自分の面倒も見れないような人間がふゆたちをプロデュースするなんて……笑えるわね』


P「――過労は避けたいからな」

冬優子「……そ」

冬優子「それなら……」

冬優子「3日後、ふゆと一緒に過ごして」
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/11(水) 07:39:49.37 ID:egei39Fuo
!?あさひ!?
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/11(水) 08:19:43.71 ID:wBrzesVDO
森キノコの薄い本みたいにはするない?
205 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2020/11/11(水) 14:15:45.70 ID:56XvyhM60
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206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/12(木) 00:17:28.40 ID:cvrqtvL+O
>>202

訂正


P「さすがにこれ以上――」


冬優子『あんたがプロデュースしてるアイドルは……そんなに頼りない?』

冬優子『そんなに――情けない?』

冬優子『あんたの思うストレイライトって、そんなものなの?』

愛依『冬優子ちゃん……』

冬優子『それに、自分の面倒も見れないような人間がふゆたちをプロデュースするなんて……笑えるわね』


P「――過労は避けたいからな」



P「さすがに――」


冬優子『あんたがプロデュースしてるアイドルは……そんなに頼りない?』

冬優子『そんなに――情けない?』

冬優子『あんたの思うストレイライトって、そんなものなの?』

愛依『冬優子ちゃん……』

冬優子『それに、自分の面倒も見れないような人間がふゆたちをプロデュースするなんて……笑えるわね』


P「――これ以上の過労は避けたいからな」
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/12(木) 00:40:15.75 ID:cvrqtvL+O
2日後。

〜病院〜

カツッ、カンッ

マドカ「……く」

カンッ

マドカ「っと……」

マドカ「はぁっ……ふぅ」

マドカ「……少し休憩」

カツッ、カンッ

カッ・・・

マドカ「……」

マドカ「また来たんですか」

冬優子「そんな顔しないでよ〜」

冬優子「……マドカちゃん、あれから元気になれたかなって、思ったから」

マドカ「まあ、おかげさまで回復には向かってます」

マドカ「リハビリは続きそうだけど」

マドカ「ここでの暮らしにも……慣れていってる自分がいる……」

冬優子「マドカちゃん……」

マドカ「あ、そうだ」

マドカ「優勝おめでとうございます」

マドカ「テレビで見てました。……本当にすごかった」

マドカ「私があのまま決勝に行ってても、たぶんあなたには勝てなかった」

マドカ「そう……思いました」

冬優子「ありがとう、見ててくれて」

冬優子「……あっち行こ? 立ちながらじゃなくて、ゆっくりお話したいな」

マドカ「……それもそうですね」
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/12(木) 01:03:23.28 ID:cvrqtvL+O
〜病院 ラウンジ〜

マドカ「コイトは……」

冬優子「っ」

冬優子(こんな怪我をするはめになった原因……コイトちゃんは言ってた――)


コイト『…………ふ、冬優子さん!』

コイト『っ……お願いします、このことは、誰にも言わないでください』


冬優子(――誰にも言わないで、ってね)

冬優子(だから、ふゆは知ってるけど言えない)

冬優子(もっとも――)


マドカ『……聞いても、コイトは言おうとしませんが』

冬優子『言いたくない理由があるってことなのかな?』

マドカ『さあ……どうなんでしょうね。言いたくないのに無理に言わせようとは思いませんので』


冬優子(――そもそも言う必要ないわね)

マドカ「あの……?」

冬優子「あ、え? ……ご、ごめんね! ふゆ、ぼ〜っとしちゃってたみたい!」

マドカ「はぁ……で、コイトのことなんですが」

マドカ「あの子は、楽しくやれたんでしょうか」

マドカ「私の代わりに決勝に出るってこと……たぶんコイトはいろんなことを考えるはず……」

マドカ「ただ、コイトが楽しくやれてたなら、私は別にいいんです」

冬優子「コイトちゃんが、楽しく……」

冬優子(決勝が始まる前は、最初は――)


コイト『ま、マドカちゃんならこういうときどうするのかなって、そんなこと、考えちゃって……』

コイト『えへへ……だめだめですね、わたし』グスッ

コイト『わたしなんかがこんなステージに来ちゃだめだったのかも』ボソッ


冬優子(――なんて言ってたわね。でも――)


コイト『グスッ……は、はい! わたし、頑張ってみます!』

コイト『それこそ、マドカちゃんのぶんまで!』

コイト『ま、マドカちゃんが残すはずだったのよりもずっと大きな結果、残しちゃいますよ……!』


コイト『ま、負けませんよ! 勝負ですから!』


冬優子「――きっと、ステージでは悔いなくできたんじゃないかって、ふゆは思うな」

冬優子「大丈夫! マドカちゃんが心配してるほど、コイトちゃんは弱くないもん」

冬優子「まあ、確かにあの子は……ふゆも放っておけないな〜って思っちゃうけど」

冬優子「コイトちゃんはどんどん強くなってるよ。決勝まで一緒にいたふゆが保証します♪」

マドカ「そう、ですか」

マドカ「実は、まだ見れてないんです」

マドカ「コイトのステージはテレビでは流れなかった。テレビで放送されたのは、優勝したあなたと、準優勝のトオルとかいう子だけ」

マドカ「だから、私は心配性になっていたのかも……たぶんそれは、私がコイトのことを信じ切れていない証拠ですね……」

マドカ「でも、あなたの話を聞いてると、大丈夫なのかもしれないって思えました。私がいなくても、あの子には、あなたという味方が確かにいたから」
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/12(木) 01:29:37.91 ID:cvrqtvL+O
グゥ・・・

マドカ「!!」

冬優子「あ……」

マドカ「っ……」

冬優子「マドカちゃん、顔真っ赤だよ?」

マドカ「べ、別に……ただの生理現象」

冬優子「お腹空いてるんだねっ。そうだ、ふゆが売店で何か買ってきてあげる!」

マドカ「そんなパシらせるような真似……」

カツッ

マドカ「私も行きます」

冬優子「だ〜め。あれだけリハビリ頑張ってるんだから、いまは休憩しないとだよ」

マドカ「……」

冬優子「いいから、マドカちゃんはそこで座ってて」

冬優子「お金も気にしないでいいよ。ふゆ、一応、お姉さんなんだから」

マドカ「さすがに奢られるのは私が気にします。ちょっと待ってて……」

冬優子「ほんとにいいのに〜……」

マドカ ガサゴソ

マドカ「……」

冬優子「マドカちゃん? どうかしたの?」

マドカ「いえ……はぁ」

マドカ「5千円札が、2枚……だけ……」

マドカ「小銭が全然ない……」

冬優子「プッ……あははっ、マドカちゃん、お金持ちだねっ」

マドカ「冷やかさないで……もう」

冬優子「まあ、さすがにそこまでの金額は必要ないよね、たぶん」

冬優子「それで? その大金をふゆに渡してくれるのかな? “樋口”さん?」

マドカ「はぁ……。もういいです。奢られます。奢ってください」

冬優子「よ・ろ・し・い♪ じゃあ、売店着いたらLINEで何があるか教えるねっ」

マドカ「私、あなたという人がわかってきたかもしれません」

マドカ「本当のあなたは……」

冬優子 ニコニコ

マドカ「……いえ、なんでも」
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/12(木) 01:54:34.02 ID:cvrqtvL+O
10分後。

冬優子「マドカちゃん〜! おまたせっ」フリフリ

マドカ「ちょっ……そんなに大声出さないで。周りが見てる」

冬優子「はいっ、どうぞ」

マドカ「……ありがとうございます」

冬優子「やっぱり病院の売店って空いてるね」

冬優子「学校のとは大違い」

マドカ「まあ、それはそうですね」

マドカ「それにしても、随分とスムーズに買い物できたんですね」

マドカ「この病院……造りがいろいろと複雑で、売店はラウンジからだとわかりにくいところにあるし……そもそも少し遠いのに」

冬優子「マドカちゃんが入院する前にね、ふゆ、ここに来たことがあったの」

冬優子「……」

冬優子「ふゆのプロデューサーさんが、過労で倒れちゃったときに……ね」

冬優子「それでね、ちょっとだけ知ってるんだ。この病院のこと」

マドカ「……そうだったんですか」

冬優子「プロデューサーさんは、他の何よりもふゆたちとふゆたちのお仕事のことを考えてた」

冬優子「だから、自分のことなんか、全然考えてなくて……」

冬優子「ふゆは、そんなプロデューサーさんが許せなかった」


冬優子『こんなになって、さんざん心配させておいて……それでも仕事が大事なの?』

P『それは……お前たちがちゃんとアイドルやっていくために……』

冬優子『ばかにしないで……!』

冬優子『ふゆは……ふゆたちは……あんたにおんぶにだっこじゃないとどこにも行けないアイドルなんかじゃない!』

冬優子『あんたがプロデュースしてるアイドルは……そんなに頼りない?』

冬優子『そんなに――情けない?』

冬優子『あんたの思うストレイライトって、そんなものなの?』


冬優子「まだまだ、ふゆには……ふゆたちには、プロデューサーさんが必要なのにね」

冬優子「……っ」

冬優子「今日だって、ふゆたちにとっては久しぶりのオフなんだ〜……」

冬優子「それに、プロデューサーさんにとっても」

冬優子「でも、こうしてる間にも、プロデューサーさんはお仕事しちゃうんじゃないかって……心配で」

マドカ「冬優子さんは、プロデューサーのことが好きなんですね」

冬優子「ふぇっ!? ま、マドカちゃん……」

マドカ「その人を放っておけないって感じ……出てるから」

冬優子「す、好きだなんて、そんな……」

マドカ「違うんですか?」

冬優子「……」

マドカ「今度はそっちが顔を赤くしてますよ」

マドカ「別にいいんじゃないですか。そういうのも」

マドカ「他の人に言ったりなんてしませんし」

マドカ「……冬優子さんは、優しい人なんでしょうね」

マドカ「プロデューサーとの関係はともかく、優しくて、面倒見が良くて……」

マドカ「きっと、そんなあなただからこそ、コイトも……」ボソッ
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/12(木) 02:11:39.18 ID:cvrqtvL+O
1時間後。

〜病院 玄関口〜

冬優子「わざわざごめんね……ここまで来てもらっちゃって」

マドカ「いいんです。これもリハビリになりますし」

マドカ「別に……無理は、してないので」

マドカ「私が見送りたいからそうしただけ……」

冬優子「……そっか。ありがとね! マドカちゃん」

冬優子「ふゆ、またマドカちゃんに会いに来るから!」

冬優子「怪我が早く治るように応援しちゃうからね!」

マドカ「……」

マドカ「ど、どうも……」

マドカ「基本、暇だし……また来てくれれば……」ゴニョゴニョ

冬優子「マドカちゃん? ごめん、いまなんて言ったか、ふゆ聞こえなくて……」

マドカ「……なんでも」

冬優子「そう?」

マドカ「あ、バス……」

冬優子「……来たね」

プシューッ

ウィーン

冬優子「それじゃあね! また、……ね」

マドカ「はい、また……」

冬優子 カンッカンッ

マドカ「……」

冬優子「……」

マドカ「……冬優子さん!」

冬優子「マドカちゃん……?」

マドカ「コイトのこと! よろしくお願いします!」

マドカ「私が見てあげられないとき……いや、それ以外のときも……あの子は楽しく笑っていられるように……!」

マドカ「お願い……コイトを、守ってあげて……」

冬優子「!」

マドカ ニコッ

ウィーン

ガララララ

ピシャッ

マドカ「……」

ゴゴゴゴ

ヴーン

マドカ「……」

マドカ「……頼みましたよ。ミス・ヒロイン」
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/12(木) 02:12:09.08 ID:cvrqtvL+O
とりあえずここまで。
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/12(木) 06:37:43.21 ID:dVI8npXDO


なんか、最後のカッコいい……リスペクトしないと
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/13(金) 02:49:52.59 ID:NmH718+nO
翌日。

〜某オタクの聖地〜

P「ここで……良かったのか?」

冬優子「いいのよ。あんたがいやだってんなら、場所変えるけど?」

P「そうは言ってない」

P「すまない、余計なことを聞いた。冬優子がここで良いって言うんだから、それ以上の場所はないよな」

冬優子「わかればいいの、わかれば」

冬優子「……ここに来るのも久しぶりね」

冬優子「ねえ、覚えてる?」

冬優子「前に一緒に来たときのこと」

P「……ああ」

冬優子「あんたが『魔女っ娘アイドルミラクル♡ミラージュ』のイベント出演の仕事を取ってきて」

冬優子「ふゆは……アイドルとしてのふゆと本当のふゆのことで葛藤してた」

冬優子「そんなふゆを、あんたはここに連れ出してくれた」

P「そうだったな」

冬優子「救われてたのよ。ふゆは、あんたにね」


冬優子『ゲームが好きなのね』

P『うーん、ちょっと違うかな』

冬優子『?』

P『ゲームそのものというより、作品が好きなんだよ』

P『世の中いろんな作品があるけど、中には自分と重ねるようなものもあって――』

P『――いや、なんなら、この作品は、あるいはこのキャラは、俺自身なんじゃないか、なんてな』

P『自分の在り方に影響を与える不可分な存在がアニメとかゲームって、何も不自然じゃないよ』

冬優子『!』


冬優子「ふゆが自分みたいに大切にしてる作品のこと……他の奴にどう思われるのか……」

冬優子「ううん、思われるだけじゃなくて、何か言われて……それこそ、否定なんてされたら……って」

冬優子「そう何度も思ったわ」

冬優子「なのに、自分の作ったキャラのせいで、それにさえ嘘をつかないといけないかもしれないって」

冬優子「どうしていいのか、わからなかったのよ」

冬優子「……っ、ふふ、でも」

冬優子「あんたは、最初からわかってた。ふゆのこと、何もかも」

P「何もかもかはわからないけど、でも、できる限りわかってやろうという努力はしてるよ」

P「俺がそうしたくてそうしてるんだ」

冬優子「……そういうところ、やっぱり変わんないわね」


P『……冬優子が自分を嘘だと思ったとしても、好きなものを好きだと言うのが怖いのだとしても』

P『冬優子が黛冬優子としてではなくふゆとしてアイドルをしてることとか、冬優子が好きだと思うことは、その姿勢自体は嘘じゃないだろう』

P『嘘をつくことと、嘘であることは、違うと思う』

P『俺は、嘘をついてでも嘘であろうとはしない冬優子を――全力で“推してる”』

P『冬優子には、冬優子を否定して欲しくない』

P『自分が好きだと思ってる対象が自分を否定してたら、悲しいだろ?』


冬優子「そんなあんたが――プロデューサーが――いてくれたから、ふゆはここまで来れた」
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/13(金) 03:05:17.77 ID:NmH718+nO
冬優子「……行くわよ。来て」

P「あ、ちょっと待てって」

冬優子「待たないわよ」

冬優子「ふふっ、……だって――」

冬優子「――あんたは必ず追いかけてくれるって、ふゆは知ってるから」


P「新刊……出てたのか」

冬優子「チェックが甘いのよ」

P「言い訳にしかならないかもしれないが、こう、次が出るまでもどかしい気持ちになるくらいならいっそ忘れてしまって、その後で「あ、これ新しいの出てたんだ!」ってなりたいんだよ」

冬優子「気持ちはわかるけど、刊行予定時期は単行本の後ろのほうにあるじゃない」

P「そうなんだよな……」

P「だから、俺はいつも自分自身にその時期を忘れたフリを決め込むよう努めてる」

P「そして、実際、本当に忘れる」

冬優子「賢いんだかアホなんだかわからないわね」

冬優子「まあいいわ」

冬優子「っと、……はい、これ」

P「?」

冬優子「なによ。買わないっての?」

P「あ、ああ……そういうことか。買う。買うよ」

P「冬優子のぶんも買うから2冊必要だな。もちろん俺が払うよ」

冬優子「ふゆはとっくに自分のぶんを買ってるわよ。当たり前じゃない」

冬優子「格好つかなくて残念だったわね。ほら、いいから買ってきてってば」

P「わ、わかった。じゃあ、ちょっと待っててくれ」

冬優子「はいはい。ふゆはここで適当に他の本とかも見ながら暇つぶしてるから」
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/13(金) 03:33:08.47 ID:NmH718+nO
P「買ってきたぞ。中身は……帰ってからのお楽しみとしようかな」

P「冬優子は他に買いたい本ないのか?」

冬優子「ふゆは別に大丈夫」

冬優子「そもそも、ここに来たのは本を買うためじゃないのよ」ボソッ

P「?」

冬優子「それ、貸して」

P「それって、この本か? 買ったばかりの」

冬優子「そうよ。いいから、早く」

P「ああ……はいよ」

冬優子「ありがと。ちょっと待ってて」

冬優子「確か……ここにしまってたのが……」

冬優子「……よし、あったあった」

P(冬優子が漫画片手に取り出したのは、普通のサインペンだった)

P(そして、そのサインペンで――)

冬優子 キュッキュ

冬優子 サラサラ

P(――漫画の表紙裏に、アイドル・黛冬優子のサインを描いた)

冬優子「あ、最後に書きたいことあるんだったわ」

冬優子 サラサラ

冬優子「……はい、完成」

冬優子「どうぞ」

P「お、おう……」

P(返された漫画の――冬優子がサインが描いたところを見てみる)

P「冬優子……」

P(俺でもよく知ってる――あるいは、俺だからこそよく知ってる――冬優子のサインの上には――)

――いつも私を応援してくれてありがとうございます♡ 

     いつまでも応援していてくださいね!    ――

P(――というメッセージが書かれていた)

P(「ふゆ」ではなく「私」という一人称がそこにはある)

冬優子「あんたもふゆのファンなんでしょ」

冬優子「それはファン1号特典! ふゆと……ふゆが自分とおんなじくらい大切にしてる作品を、応援してくれたことに対する、お礼」

冬優子「アイドルとしてのふゆも、本当のふゆも、『魔女っ娘アイドルミラクル♡ミラージュ』も……」

冬優子「……サインとメッセージを書いたのは、そういうの全部あわせた「ふゆ」よ」

冬優子「それは、その……心からの感謝で……あんたにしか見せない、あんただから贈りたい想いがあったから」

冬優子「あえて、一人称は……そう書いてみたわ」

P「冬優子……」

冬優子「な、なによ。言っとくけど……て、転売なんてしたら許さないわよ!」

P「いやいや、そんなことしないって」

冬優子「そ、そそ、そうよね。はあ……ふゆ、何言ってんだろ」

P「顔真っ赤だが……」

冬優子「うっさい! 別にいいでしょ」

冬優子「その……ゆ、勇気出して書いて、説明しだしたら止まらなくって、めっちゃ恥ずかしくて……わけわかんなくって……」ゴニョゴニョ

P「ありがとう、冬優子。大切にするよ。ここに書いてくれたこと、書くときに想いを込めてくれたこと……忘れないよ」
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/13(金) 03:35:27.34 ID:NmH718+nO
眠すぎるので一旦ここまで。
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/13(金) 06:13:53.11 ID:sEK175VDO




あの二人が関連してなきゃ、冬優子エンド間違いなしなんだけどなぁ
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/14(土) 01:57:52.57 ID:9M/IlCWfO
〜大通り〜

冬優子「……あ!」

P「どうかしたのか?」

冬優子「え? いや、その……」

冬優子「……」

冬優子「悪いけど、ちょっと別行動させて」

P「別に構わないが……」

冬優子「ふゆだって、せっかく、……あ、あんたと一緒に過ごせる日なんだから、こんなことしたくない」

冬優子「でも、思い出したの」

P「な、何をだ……?」ゴクリ

冬優子「買おうと思ってた本とグッズがね、日にち限定で販売されるのよ」

冬優子「今日がその最後の日……。ほら、最近忙しかったじゃない? この日なら買えるなって思ってたの」

冬優子「ふゆとしたことがこんなミス――ダブルブッキングなんてね……うっかりしてたわ」

冬優子「いっそ買うのを諦める……? ずっと欲しかったやつだけど……」ボソボソ

P「ははっ、ほら、行ってきなって」

冬優子「……あんたはそれでいいの?」

P「いいよ。冬優子が欲しいってずっと思ってたんだろ?」

冬優子「こんなに忙しいのに、次のオフがいつになるかなんて……」

冬優子「最後になったら……どうするのよ」

冬優子「ふゆと、一緒に過ごす日が……」

P「大丈夫だろ」

冬優子「だからなんで……!?」

P「……最後じゃ、ないからな」

冬優子「!」

P「最後じゃないさ。ずっと一緒にいれば」

P「違うか?」

冬優子「……違わない」

P「冬優子は好きなものにまっすぐでいいんだよ」

P「俺は、そんな冬優子が――」

冬優子「ストップ! それ以上言ったらふゆはここで死ぬわよ……」

冬優子「……恥ずかしさで」ボソッ

P「――……それなら、今は黙っておくよ」

冬優子「そうしなさい」

冬優子「……はあ。わかった。買いに行ってくる」

冬優子「ラジ館の前で待ち合わせね。時刻は目途が立ったら送るから」

P「了解。それまで適当にブラついとくよ」

冬優子「悪いわね。できるだけ早く終わるようにするから」

P「それも気にしなくていいのに」

冬優子「ふゆが気にするの!」

冬優子「いいから、じゃあね! また後で!」

冬優子 タッタッタッ

P「よし、楽しく話せたな――」

P(――っとと、声に出したら変なやつじゃないか、俺……)
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/14(土) 02:18:02.06 ID:9M/IlCWfO
P(とりあえず暇になったから適当に歩いてみてるけど、冬優子に言われて一緒に過ごすことになった以外にここに来る理由がなかったから、あてもなく彷徨ってる感じだな……)

ザワザワ

P「……?」

P(何やらあそこのイベント会場に人だかりが……)

P(……行ってみよう)


P(えっと、何のイベントなんだ? 調べてみるか)ポチポチ

P(ってこれ、トオルのユニットのイベントなのか!)

P(冬優子と一緒に出かけてて、一時的に別行動とはいえトオルのイベントに参加するのは……少し気が引けるな)

P(でも、幼馴染が主役のイベントだし、同業者の仕事も気になるんだよな……)

P(どうしよう)

「あのー……、ちゃんと列に並んでくれます?」

P「え? あ、いや――」

P(どうする? 関係ないからって言って抜けるか? でも、気になるのは確かだし……)

「いま列動いてるんで、進んでくださいよ」

P「――はい、すみません」

P(出れなくなった……)

P(これは不可抗力だ。そう思うことにしておこう)


トオル「ふふっ、ありがと」

トオル「つぎー……」

P「よ、よう」

トオル「なにそれ、ウケるわ」

P(握手会の列だった……)

トオル「ほら、ぼーっとしてないでさ」

トオル「手、出しなよ」

トオル「そういう企画だから」

P「え? ああ……」

P「はい」

トオル「うん」

トオル ニギニギ

P「……」

トオル スリスリ

P ダラダラ

トオル「……」

P「あ、握手ってこんなんだったか?」

トオル「さあ? どうだろ」

トオル「なんか、変な汁出てるね。Pの手」

P「汁っていうなよ、汗だよ。手汗な。棒が1本ないだけでえらい違いだよ」

トオル「緊張してる?」

P「……まあな」

トオル「そっか」
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/14(土) 02:36:57.34 ID:9M/IlCWfO
トオル「ふふっ……握手っていいね」

トオル「こんなんだったんだ。Pの手って」

P「あ、ああ……」

P「ほら、あんまり俺ばっかりだと後ろの人に悪いからさ……」

トオル「そういうこと言うんだ」

P「言うよ。今は仕事してるんだろ?」

トオル「はいはい」

トオル「ごめんね、なんか」

P「謝らなくてもいいけど……」

トオル「ばいばい。またね」

P「ああ。また、な」

P(トオルとの距離が離れていく)

P(俺が自意識過剰じゃなければ、トオルの表情は名残惜しげで――)

P(――……俺もそんな顔をしているんだろうか?)


P(まだ冬優子からの連絡はないな……)

バッ

P「!?」

P(急に視界が真っ暗に……!?)

「だーれだっ」

P(そしてお決まりのやつ!)

P(いや、しかしこの声……冬優子じゃないぞ)

P(というか、うちの事務所の子じゃない……?)

「あは〜。わからない〜〜?」

P(あ、もうわかった)

P(この話し方は――)

P「――ヒナナちゃん……であってたよな」

ヒナナ「やは〜♡ せいか〜い」パッ

ヒナナ「よくわかったね〜〜?」

P「ま、まあな」

P(めっちゃいい匂いした……)

P「……」

ヒナナ「まだそんなに会ったことないのに〜……やっぱ、ヒナナがお兄さんのこと好きだからかな〜〜?」

ヒナナ「相思相愛〜?」

P「いや、そのりくつはおかしい」

ヒナナ「あは〜、そうだね〜〜」

ヒナナ「でも〜……さっきみたいに触れるのは初めてだから〜〜、ヒナナ、ドキドキしてたりして〜〜〜〜」

P「それもおかしい」

ヒナナ「え〜〜! そこまで言わなくてもいいのに〜〜〜〜……」

ヒナナ「ヒナナがお兄さんのこといいな〜って思うのは本当だよ?」

P「そうじゃなくて――」

P「――肩、叩いたことあるからさ、俺」
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/14(土) 03:08:52.84 ID:9M/IlCWfO
ヒナナ「……やは〜」

P「だから、触れるのは初めてじゃないぞ」

P「まあ、どっちからって話なら別だけどな」

ヒナナ「お兄さんはなんでそう思うの〜?」

P「同じだったからな」

P「舞台装置のところで誰かの肩を叩いた時も……さっきと同じ匂いがした」

P「それで確信したよ」

ヒナナ「え〜、ヒナナ匂うかな〜〜?」スンスン

P「良い匂いだった」

ヒナナ「あは〜、なんかそれエッチだね〜〜。セクハラ〜」

P「それを言われると痛い……」

P「というか、隠す気ないのか」

ヒナナ「?」

ヒナナ「なんで〜?」

P「……いや、なんでもない」

P「もちろん、匂いだけじゃないんだ。それはあくまでも確信するに至ったというだけで」

P「そもそも、あの時に――ステージ本番の時に――「あの場所」に誰かいるなんておかしいんだよ。たとえ裏方でもな」

P「事前に決められた手はずでは、「あの場所」には本番で動かさないやつしか配備されてなかったから」

P「緊急事態とかなら裏方のスタッフがいるかもしれないけど、決勝ステージはすべて順調にいってた」

P「わざわざ「あの場所」に行こうとした人間しか、あそこにはいないというわけさ」

ヒナナ「ふ〜ん」

P「「あの時」、「あの場所」で自由に動けた人間の中に……ヒナナちゃん、君はいる」

P「だって――“君はあの大会に参加してない”んだから」

P「大会に出ていない関係者だから、「あの時」に「あの場所」にいることができたんだ」

P「俺は君を予選会場で見たことがない。その場でも、名簿でも」

P「予選に出ていなければ、当然、あの大会に参加していないことになる」

P「トオルと一緒にいてユニットがどうとか言ってたから、君もアイドルを続けてるもんなんだと思ってた」

P「舞台装置での件があってから、個人的に調べてみたんだよ」

P「ヒナナちゃん……君、活動休止中らしいじゃないか」

ヒナナ「そんなことまで知ってるんだ〜……」

P「ああ。まあな」


冬優子『え、えっと……今日はどんな用件で?』ピキッ

トオル『そこにいる人に会いに来た』

ヒナナ『ヒナナは付き添いだよ〜〜』


P「初めてうちの事務所にトオルと来たときに言ってたことが、まさか文字通りの意味だったなんてな」

ヒナナ「ひどくないですか〜? お前は態度がなってないから、アイドル休んでしばらくトオル先輩の付き人でもやってろ〜〜だって!」

ヒナナ「しかもアイドルに復帰しても絶対にトオル先輩と同じユニットにはしてやらない〜とか言われて……こんなのしあわせ〜じゃない〜〜」

P「そっか……そこまでの事情は知らなかったよ」

P「オフィシャルには、あの大会にはユニットが同じだと出れないが……まあ、どの道、君はあの大会に出られる立場になかったんだ」

P「……それも、大会が終わってから調べていくうちに知った」
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