【シャニマス】P「よし、楽しく……」- Straylight編- 【安価】

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386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/25(月) 01:47:01.52 ID:ulRd3VHqO
愛依「っっっ」ガバァッ

愛依「はぁっ、はぁっ……」

愛依 キョロキョロ

愛依「ゆ、夢……」

愛依「……」


『その程度の想いってこと?』


愛依「っ……」


『あ、もしかして〜』

『お兄さんに好き〜って言われたことないんだ〜〜!』


愛依「……やだ」

愛依 フルフル

愛依「……」

愛依(確かに、うちは――)


愛依『すぅ――』

――だいすき。愛してる。だから、ずっと一緒にいて。


愛依(――プロデューサーに告って……)

愛依「……」

愛依(返事はもらってないけど)

愛依(プロデューサーがアイドルに手出せないのなんて当たり前だし)

愛依(うちも返事聞くの怖くて……話題にできてないし……)

愛依「ほんと、どうしたらいいわけ……?」


雛菜『――家族ごっこって楽しいですか〜?』


愛依「っ……グスッ」

愛依(そんなこと言わなくてもよくね? ……って思う、けど)

愛依(一番悔しいのは、何も言い返せないコト)

愛依(何も、間違ってないから……)

愛依「プロデューサー……」

愛依(ここにプロデューサーがいたら、うちがこうして泣いてるの見たら――)

愛依(――プロデューサーは、慰めてくれるのかな)

愛依(抱きしめて欲しい。ずっと、うちだけを見て欲しい)

愛依(うちのこと、家族だって思って欲しい)

愛依「あはは……アイドルやってて、大会にも出てんのに、うちってばアイドル失格かな……?」

愛依「うっ……ううっ……」ポロポロ

愛依(独りも1人もやだよ、プロデューサー……)
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/25(月) 02:19:44.21 ID:ulRd3VHqO
1週間後。

〜大会 予選会場〜

P(2回目の予選の日がやってきた)

P(技術的な面に関して心配な点はなかった。レッスンも自主練も、無理のない範囲で着実にやっていた)

P(鍵となるのはメンタル面だろうが……)

P「……」

P(正直に言えば、不安が残る。あの子を会わせてからはだいぶ良くなっているのだが、大会1週間前は時々心ここにあらずという様子が目についた)

P(俺が話しかけてもどこかそっけないような感じがした。大会の直前に良くない刺激を与えてもいけないと思って、こちらからはあまり追及しなかったけど……)

P(事務所でも仮眠を取ることが増えていたし。まるで、寝ていれば人とかかわらなくて済むと言うかのように)

P(考えすぎだろうか……)

P(深く掘り下げないという俺の判断は正しかったのだろうか)

P「……」

P(って、俺が悩んでどうする)

P(愛依のほうがしんどいに決まってる。俺は、今できることをやるしかないだろう)

P(愛依が安心してステージに立てるように、見送ってやらないとな)

P「そういえば……」

P(……減った)

P(上位20%しか残らないというのは形式的な手続きとして知っていたが、ここまで人が減るものなのか)

P(第1回予選のときとは違い、会場は静けさすら感じ取れるほどだった)

P(第3回はもっと人が減るんだろうな)

P「……お」

P(2回目のグループ分けの番号が発表になった)

P「グループ1だって」

愛依「……」

P「愛依?」

愛依「わあっ!?」

P「っと、悪い。驚かせるつもりはなかったんだが」

愛依「あ、ううん! うちこそごめんね。ぼーっとしてたわ」

P(愛依……)

P「今日のグループの番号は1だそうだ」

愛依「1か。おっけー、まかせて!」

P「そうだ、まだ本番まで時間あるし、その、なんだ。ほら、最近あんまり話せてなかっただろ? だから、愛依と話でm……」

愛依「あ! うち自主練しないとだわ!」

P「……え」

愛依「早く場の空気? ってやつに慣れないとだしさー」

愛依「うちもなんだかかんだ言ってもうプロのアイドルだし、気合入れないとね〜」

P「そ、そうか……」

愛依「ステージ終わったらいっぱい話そ?」

P「……わかった」

愛依「っ」

P(愛依、その表情は……)

P「俺はいつだって愛依の味方だし、プロデューサーだよ。愛依が俺のことを想う以上に、俺は愛依のことを想っていると……そう思っていてくれ」

愛依「……そっか。ありがとね。……行ってくる!!」ダッ
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/25(月) 02:39:01.00 ID:ulRd3VHqO
〜グループ1 控え室〜

愛依(前は1つのグループでいっぱい大部屋使ってたのに……)

愛依「……」

愛依(……2回目で大部屋1つになっちゃうんだ)

愛依(あ、そういえば……)

愛依 キョロキョロ

愛依「……ふぅ」

愛依(透ちゃんはいない、か)

愛依(なに安心してんだろ、うち)

ヒグッ、グスッ、ウウッ

愛依「……!」

愛依(あれ、この前泣いてた子じゃん)

愛依(勝ち残れたんだ)

ネエ、アレミテヨ

ナンカナイテナーイ?

ナキタイコナンテイッパイイルノニ、カッテダヨネー

ピャウッ!?

愛依(うーわ、感じ悪……)

「ねぇ、あんたさぁ」

「ぴゃ!? ななな、なんですか……?」

「泣きたい子なら他にもいるのよ。なのに、そうやって目立つように泣いちゃって……」

「ご、ごご、ごめんなさい……っ」

「申し訳ないと思うなら一人で目立たないところで泣いてろよ、ほら、出てけって」

「そ、そんな……」

愛依「ちょっと」

「あ?」

愛依「あたしの友だちなんだけど、なにしてんの?」ギロォッ

「っ!?」ビクッ

愛依「いじめようとしてんなら、絶対に許さないから」キッ

「……ちっ。行くよ」

「え、ええ……」

愛依「……」

愛依「……はぁ」

愛依「大丈夫?」

「ぴゃっ!? ゆ、ゆゆ、許してください……!」ビクビク

愛依「え、いや、あたしはそういうんじゃないから」

愛依「とりあえず、もうちょっとここ離れよ? ね?」

愛依「1人でいるより、うちといたほうが安全っしょ」ヒソヒソ

「……はい」

愛依 ニコッ
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/25(月) 02:57:16.42 ID:ulRd3VHqO
「さ、さっきは助けてくれてありがとうございます……!」

愛依「いいっていいって。あいつらマジちょー感じ悪かったし」

愛依「弱いものいじめとかくだらないことやってるヒマなくね? って思うわ、ホント」

「よ、弱いもの……」

愛依「あ、ごめん! そういうつもりじゃ……って、あはは。それはうそか」

「いいんです。実際弱いですし」

愛依「えー、なにそれ」

愛依「そういえば、名前なんて言うん?」

「あ、はい。わたしは――」

小糸「――福丸小糸、です」

愛依「小糸ちゃんね。うちは和泉愛依、よろしく〜」

小糸 ボーッ

愛依「ど、どしたん?」

小糸「い、いえ……知ってるキャラと全然違うから……」

愛依「あ、そだね。あははっ」

愛依「アイドルのときは、こう……」

愛依「よろしく……」

愛依「ってカンジ?」

小糸「は、はいっ。そんな感じです」

愛依「小糸ちゃんのコト、なーんか放っておけなくてさー」

愛依「うちのこと怖がってたみたいだから、安心させようと思ったんだけど……つい素のキャラが出ちゃったわ!」

愛依「いや〜、まいったまいった。うちってば疲れてんのかな?」

小糸「だ、誰にも言いませんよ……!」

愛依「あはは、サンキュね」

小糸「えへへ」

愛依「!」

愛依「いま気づいた……小糸ちゃんめっちゃカワイイんですけど!?」

小糸「か、可愛いだなんて……そんな……えへへ」

小糸「お世辞でも……う、嬉しいです。ありがとうございます」

愛依「お世辞じゃないってば〜。本当に可愛いって!」

愛依(やっぱ、大会勝ち残ってるだけあるってことなのかな〜)

愛依「……小糸ちゃんはどう? 大会は順調なカンジ?」

小糸「え、ええ……まあまあです、たぶん……」

冬優子「そっか」

小糸「わたし、だめだめなんです」

小糸「こんな一人ぼっちで放り出されても、泣いてることしか、できませんから……」

コイト「いっぱい練習して、なんとかここまで来れたけど……わたし一人にできることなんて……」

愛依「はいっ、暗いのやめ! もっと楽しくやろ?」

小糸「楽しく……」

愛依「良いコト考えようよ。嬉しかったこととかさ」

小糸「……」

小糸「そういえば、今回はわたしの幼馴染が応援してるって言ってくれました!」

小糸「雛菜ちゃん、わたしのこと見ててくれてるかなぁ……」
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/25(月) 03:01:18.90 ID:ulRd3VHqO
とりあえずここまで。
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/25(月) 05:38:41.87 ID:L7rpX/ODO
一瞬、コイト表記だったけど何かあるのかな?

わくわくする
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/25(月) 10:56:03.37 ID:ulRd3VHqO
>>391

>>1です。ご指摘ありがとうございます。カタカナになっているのはミスです。訂正します。すみません。


>>389 訂正:

コイト「いっぱい練習して、なんとかここまで来れたけど……わたし一人にできることなんて……」
→小糸「いっぱい練習して、なんとかここまで来れたけど……わたし一人にできることなんて……」
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/26(火) 00:46:39.65 ID:pHJp8MS8O
愛依(ヒナナ……? どっかで聞いた気がするんだけど、うちの気のせい?)

小糸「中学は別々だったから……本当に久しぶりで」

小糸「ず、ずっと疎遠だったんですけど、わたしが昔プレゼントしたアクセサリーは大事に持っててくれたんです!」

小糸「それが話のきっかけで……わたしとまた仲良くしてくれるって……」

小糸「わ、わたしのこと、応援するって……」

愛依「ふーん、いい友達? ……じゃん!」

小糸「え、えへへ……」

小糸「昔からつかみどころがなくて不思議な子なんですけど、と、友だちでよかったなぁって、そう思っちゃいました」

小糸「小糸ちゃんは決勝まで進んで、できれば優勝して、しあわせ〜になってって、そう言ってくれたんです」

愛依「うんうん。応援してくれる友だちがいるって大事なことだな〜って思うわ」

愛依「うちはさ、プロデューサーとユニットのみんなのためにも、頑張りたい」

愛依「応援してくれてると思うし、うちにできることって言ったら、もう勝つことしかないじゃん? 的な」

小糸「ユニットの友だち……」

愛依「?」

小糸「あ、いえ! なんでもないです」

小糸「……」

愛依「……」

愛依「うちら、一緒に次に進めたらいいね」

小糸「! ……は、はいっ」

愛依「この大会始まってからさ、他のアイドルの子たちとの接点ってあんましなくて」

愛依「なんかー、うちに足りてなかったのって、そういうのもあんのかな……って」

小糸「わ、わたしも……あんまり誰かと話すとかは……ないです」

小糸「その……ちょ、ちょっと怖くて……」

愛依「あっはは、うちのことも怖がってたもんね」

小糸「ぴゃ……ごめんなさい」

愛依「別に謝んなくていーから! 実際、うち、こんなだしさー」

小糸「で、でも、格好いいって、……そう思います」

愛依「ありがと。そう言ってもらえると、なんていうか、やってきた! ってカンジするし」

愛依「うちもいつか、本当の自分でアイドルやりたいな……」

小糸「え?」

愛依「あー、いーの! 気にしないで!」

愛依「まあ、ともかくさ」

愛依「お互いがんばってこ? 小糸ちゃん」

小糸「は、はいっ! わたしも頑張ります!」

小糸「だから、その……頑張ってくださいね……!」

愛依「うんっ!」
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/26(火) 01:03:43.20 ID:pHJp8MS8O
〜予選会場 ロビー〜

P(透のやつ……いきなり呼び出してどうしたんだ)

P(断ってもしつこく連絡来るからとうとう来てしまったが……)

P「……」

タッタッタッ

P(……来たか)

透「はぁっ、はぁっ……ごめん。急に呼び出して」

P「ああ。お前は自分のことに集中しなきゃだめだろ」

P「俺なんかと話してる時間なんてないんじゃないのか?」

透「……」

透「冷たいね、P」

P「冷たくもするさ。他所の事務所のアイドルの邪魔なんてできないだろ。大会の真っ最中なんだし」

P「いくら幼馴染とは言っても、俺はもう大人だし、お互い仕事をしてるんだ」

透「でも、来てくれた」

P「……」

P「……はぁ」

P「何度も連絡をよこすからだよ」

透「そうすれば来てくれるかなって」

P「お前な……」

透「……」

P「話は聞いてやる。何の用なんだ?」

透「移籍の話だけど……」

P「それか……」

透「どう? 考えてくれた?」

P「ああ」

透「ふふっ、そっか」

P「移籍はしない」

透「っ……」

P「俺は、今プロデュースしてるアイドルをてっぺんまで連れて行ってやりたいんだ」

透「! てっぺん……」

透 ギリッ

P「?」

P(露骨に不愉快そうな顔をするなんて……透らしくないな)

P(何か気に障ることでも言ったか?)

透「それが、プロデューサーの考えなんだ」

P「そうだ。何度も言わないからな」

P「透。俺はお前のこと、幼馴染としてこれからも仲良くしたいと思ってるよ」

P「けどな、仕事の……アイドルのこととなれば話は別だ」

P「こういう言い方はしたくないんだが……その……」

透「邪魔しないで、って?」

P「……」

透「優しいね、Pは」

透「うん。いいんだ。そう思われても」
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/26(火) 01:18:48.86 ID:pHJp8MS8O
透「ぼk……私からも、言っていいかな」

P「……なんだ?」

透「今日言いたいのは、お願いじゃないってこと」

P「?」

透「選択、してもらうから」


〜舞台裏付近〜

雛菜「〜〜♪」

「えと、ここからの順番の確認なんだが……」

「あ、はい。次が和泉愛依さん。その次が福丸小糸さんです」

「ありがとう、あと2人でとりあえず一区切りだからな」

「やっと休憩ですね。まあ、頑張りましょう」

「ああ」

雛菜 タッタッタッ

「?」

「どうした?」

「今……女の子がいませんでしたか?」

「え、冗談だろ? 今のシフトに女子はいないけど」

「見間違えですかね」

「お前今日あれじゃん。3時間睡眠」

「あー、確かに。ロングスリーパーなんですよね、自分」

「ちゃんと寝とけって。幻覚なんか見ちまってよー」

「はいすみません」


〜予選会場 ロビー〜

P「選択? 何のことだよ」

透「そのまんまの意味」

P「いや、だからそれをだな……」

透「Pは、あの人……和泉愛依って人と、決勝に行きたい?」

P「何言ってるんだよ。そんなの、当たり前じゃないか」

透「そっか……」

P「な、なんだよ」

透「もし、私のいる事務所に来てくれればあの人は勝ち進める……って言ったら?」

P「は?」

透「それでも、Pの答えは変わらない?」

P「おいおい、俺がお前の事務所に移ることと愛依が決勝に進むことの間にどんな関係があるっていうんだよ」

透「質問しないで」

P「え……」

透「私が聞いてるでしょ」

P「透」

透「Pは選ぶだけ」

透「それだけだから」
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/26(火) 01:31:42.05 ID:pHJp8MS8O
〜舞台裏付近〜

雛菜「〜〜♪」

「なあ、審査員の評価はぶっちゃけどうなんだ?」

「お、審査員に親友がいる俺にそれ聞いちゃう?」

「気になるからなー。教えてくれないか?」

「まあ、お前とも付き合い長いしな……」

「頼むよー」

「まず、グループ1はレベルが高い」

「……それは思った」

「性格悪そうなやつも多いけどな……!」

「……まあ」

「んで、もう先に進めるやつはだいたい決まってて、残るのは1枠だとか」

「へぇー」

「ちょうど、この次に続いてる……そうそう、愛依ちゃんって子と、小糸ちゃんって子」

「この2人が?」

「その1枠の候補だって話だぜ」

「どっちかなのか……」

「ああ、このグループに振り分けられたのは運がなかったな」

「進めそうなのは?」

「今の審査員の予想だと、恐らく同点って」

「こわいな。もうそういうの考えて決めてるのか」

「じゃねーの、知らんけど。まあ、実際に見て決まらなきゃ審議だろ、この2人に関しては」

雛菜 テテテテテ

「……あれ?」

「どうしたんだよ」

「今、女の子がいたような……」

「お前、それはあれだよ」

「?」

「球場に魔物、ステージに妖精ってことだろ」

「えー」

「ほら、そろそろ仕事に戻ろうぜ」

「へーへー」


〜予選会場 ロビー〜

P「選ぶだけって……」

透「個人的なおすすめは、私の事務所に来ること、かな」

P「……」

ヴーッ

透「あ、ごめん。LINE来たわ」

透「もうちょっと待ってて……っと」

透「送信」
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/26(火) 01:50:38.61 ID:pHJp8MS8O
〜ステージ(予選) 舞台装置周辺〜

雛菜「っしょ、……っと!」タンッ

雛菜「とうちゃ〜く」

雛菜「透先輩にLINEしよ〜っと。……まだ〜ってね〜〜」

ポチッ

雛菜「……」

ピロンッ

雛菜「! もう返信来た〜」

雛菜「もうちょっと待ってて……かぁ〜」

雛菜「お兄さん、まだ選んでないんだね〜」

雛菜「雛菜的には……ま、どっちでもいいか〜」

雛菜「小糸ちゃんが進んだら幼馴染としてしあわせ〜になれるし〜〜」

雛菜「お兄さんのアイドルの人が進めば、透先輩がしあわせ〜になって――」

雛菜「――透先輩だいすきな雛菜もしあわせ〜ってなるもん!」

雛菜「早く返信来ないかな〜」

シーン

雛菜「……準備して待と〜っと」


〜予選会場 ロビー〜

透「タイムリミットだよ」

P「透、お前、何をしようとしてるんだ」

透「っ」ガシッ

P「ちょ、おま……」

P(いきなり胸倉を掴まれた!?)

ダッダダダ・・・

ダンッ

P「がっ……」

P(くそ、力任せに押されて暗がりに追いやられた……)

P(高校生の女の子に不意打ちとはいえ力で押し負けたことに情けないなと思いつつ)

P(この腕力は日々のレッスンの賜物か、だなんて。そんなことを思ってしまう自分に呆れる)

P「透、何するんだ、やめ――」

透 チュ

P「ん〜〜!!」

P「ぷはぁっ。……お前」

透「私も、二度は言わないつもりなんだ」ジイッ

P(目が据わってる……)

透「もう一度聞くから」

透「Pは、私のところに来てくれる?」

透「それとも、来てくれない?」

透「どっち……かな」

1. 透の誘いを断る。
2. 透の誘いに乗る。

選択肢↓2

(とりあえずここまで)
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/26(火) 02:23:45.25 ID:QKFfDjSDO
1 断る
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/26(火) 03:10:39.51 ID:sz+jsWFLo
断る
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/26(火) 09:43:34.27 ID:PErzPpyzO
ひななの黒幕適正が高過ぎて困る
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/26(火) 13:11:35.83 ID:QKFfDjSDO
ヤンデレモードフルドライブのまゆや琴葉でも負けそう……

闇落ちこずえなら勝つだろうけど、闇落ち由愛がいるからなぁ
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/26(火) 19:36:57.98 ID:Tt2gx2JZO
アイドル曇らせすこすこ部はここですか
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/31(日) 00:45:02.21 ID:+d6Xp6ptO
〜予選会場 ロビー〜

P「……断る」

P「俺は愛依と、……ストレイライトと、283プロでトップを目指すんだ」

P「だから、透のところには行けない」

透「……」

P「俺も、二度は言わないからな」

透「……そっか」

P「ああ」

透 クルッ

透 スタスタ

P「お、おい……どこに……」

透「……どこって、ステージだけど」

透「本番、これからだからさ」

P(透は、再びこちらを向くことなく、俺を背にしながら言った)

P「そ、そうか」

透「じゃあね」

P「……」

P(これで、良かったんだ……よな)

P(なぜ、胸のざわめきがなくならないんだ?)

透『もし、私のいる事務所に来てくれればあの人は勝ち進める……って言ったら?』

P(あれは――)

透『それでも、Pの答えは変わらない?』

P(――どういう意味だったんだろう)


〜ステージ(予選) 舞台装置周辺〜

ピロンッ

雛菜「あっ、透先輩からだ〜」

雛菜「ふむ〜〜……」

雛菜「……」

雛菜「そっか〜、透先輩……」

雛菜「フラれちゃったんだ〜、かわいそ〜〜」

雛菜「てことは〜……お兄さんのアイドルが……」

雛菜「……ま、仕方ないよね〜」

雛菜「うんうん! こればかりはしょうがない〜」

雛菜「雛菜が気にすることでもないよね〜?」

ワァァァ

雛菜「あ、そろそろだ〜」タタタ

雛菜 カチャカチャ

雛菜 ギイッ

雛菜「……やは」

雛菜「よかったね、小糸ちゃん」
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/31(日) 01:01:21.90 ID:+d6Xp6ptO
〜ステージ(予選)〜

ワァァァ

愛依「はぁ……はぁ……」

愛依(や、やり切った……!)

愛依(2回目も、うち、ちゃんとできた!)

愛依(会場の盛り上がりも、うちが見たことないくらいすっごい……)

愛依(うち、勝てたかな……)

愛依(プロデューサー、■■■、見てる?)

愛依(うち、輝いてるかな?)

ダァンッ

愛依「?」

愛依(あれ、なんだろ、いまの音)

ザワザワ

愛依(え? さ、さっきまであんなに盛り上がってたのに、なんで……)

愛依(なんで、うちのほうを見て、みんなそんな顔……)

愛依(何か言ってる? ちょっと遠くて聞こえない系なんですけど)

愛依(なんかあったのかな。みんなちょっとヤバそうなカンジだし)

愛依(とりあえず出番終わったしステージから降りなくちゃ……)スタスタ・・・

シュルルル

愛依「え――」

ガンッ

ドサッ

ゴロロロ・・・

愛依「――……」


〜予選会場 ロビー〜

P(もうとっくに愛依のステージは終わってるよな)

P(ちょっと遅いが……気にしすぎか?)

P(透とのやり取りが終わってから、どうにも不安に駆られている自分がいる)

P(様子を見に行ってみるか……)スタスタ・・・


〜ステージ前席付近入り口〜

P(くそ……外に出ようとする人に押されてなかなか入れない……)

P(なんだってこいつらは出ようとしてるんだよ。まだ予選のステージは終わってないだろ?)

P(終わったのは愛依の出番だけのはずだ)

P「す、すみません! 通してください……!」グイグイ

P(観客たちを押しのけて先へ進み、ようやく中に入ることができた)

P「はぁっ……はぁっ……」

P(あれ? 次の子の出番じゃないのか……)

P(いや、一般人が外に出ようとしてるんだから、何かあったと考えるべきだよな……)ダッ

透『もし、私のいる事務所に来てくれればあの人は勝ち進める……って言ったら?』

P「……あ。そんな――」ピタ

P(ステージの上がよく見える位置まで移動すると、視線の先には、自分のアイドルが血の海に伏せている光景があって……)

P「――愛依ッッッ!!!!!」
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/31(日) 01:17:32.78 ID:+d6Xp6ptO
〜???〜

愛依「……ん」パチッ

P「あ、愛依……」

P「目、覚めたか?」

愛依「あ……うん」

愛依「ここって……海?」

P「まあそうだが……今更どうしたんだ」

P「また3人でここに来ようって話だったじゃないか」

P「忘れたのか?」

愛依「……ううん。忘れてない」

愛依「そっか。ここ、あのときの海か……」

愛依(あれ、うち、確か大会の予選でステージの上にいて、それから……)

愛依(……それから?)

愛依(すぐ海に行くなんて話、あったっけ)

愛依「あ、そだ。あの子は?」

P「ほら、あそこ」

P「浜辺の砂で遊んでるよ」

愛依「ホントだ。かっわいー」

P「一緒にやってあげたらどうだ」

愛依「そだね。じゃあ――」

愛依「――プロデューサーも一緒にやってよ」


P「ふぅ……」

「……」ニコ

愛依「いや〜、ずいぶん立派なお城になったってカンジ?」

P「だな……。一度波に流されたことは涙なしには語れまい……」

愛依「あっはは、なにそれ〜」

愛依「ま、ここなら波も来なそーだし、大丈夫っしょ!」

「……」コクッ

P「っと、気づけばもう日が沈む寸前か」

P「……帰ろうか」

P「ほら、手繋ごう。愛依、■■■」

「……ん」

P スタスタ

「……」テテテ

愛依「……え。ちょっ……! そっち海じゃん!! 帰り道はあっちっしょ!!!」

P「ほら、愛依も早く来いよ」

「……」フリフリ

愛依「……」ザッ

P「早く早く……」

愛依 ザッ・・・ザッ・・・

――愛依ッッッ!!!!!

愛依「!」
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/31(日) 01:24:22.05 ID:+d6Xp6ptO
――戻って来てくれ、愛依!!!

愛依「……プロデューサー」

P「どうした? 早く行こうぜ」

「……」

愛依「違う」

P「?」

愛依「うちが行きたいのは……行かなきゃいけないのは、そっちじゃない」

――くっ、くぅぅっ……愛依……。

愛依「もう……プロデューサー……」

P「こっちには、来てくれないのか」

愛依「うん。うちにはさ、待ってくれてる人、いるから」

P「そうか……」

愛依「じゃね! お城作り、チョー楽しかった!」

愛依 クルッ

愛依 タッタッタッ

愛依(帰らなきゃ……)

愛依 タタタタタ

愛依(戻らなきゃ……!)

愛依「プロデューサー!!」

愛依(あそこにある駅で電車乗って行けば……)

愛依「はぁっ、はぁっ……」

愛依「あと、少し……」グラッ

愛依(あ、あれ……?)

愛依(なんか、カラダが思うように動かないっぽいんだけど……)

愛依(やば、もう……)フラッ

ドサッ
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/31(日) 01:34:37.09 ID:+d6Xp6ptO
〜???〜

チリン

愛依「……ん」パチッ

愛依「っと、……うち寝てたんだ」

P「起きたか、愛依」

愛依「プロデューサー……」

チリン

愛依「あ、風鈴」

P「あの時に3人で買ったやつだよ。あの子が事務所に持ってきてくれたんだ」

愛依「ここは……事務所なんだ」

P「ははっ。どうしたんだよ」

P「愛依が今いるのは283プロの事務所のソファーじゃないか」

P「まだ寝起きみたいだ。コーヒーでも飲むか?」

愛依「いや、大丈夫……もう目覚めたし」

P「そうか」

愛依「んーっ!」ノビー

愛依「っはぁ……」

愛依(うちは……帰ってこれたカンジ?)

愛依「あれ、あの子は?」

P「……」

愛依「プロデューサー?」

P「ははっ。さあ、どこだろうな」

愛依「?」

サッ

愛依「わっ!?」

愛依(急に目の前が真っ暗になったんですけど!)

「……」

愛依「く、暗い……何がおこってるん?」

「……だれだー」

愛依「……」

「……」

愛依「……ぷっ」

愛依「あっははは。そーゆーコトね」

愛依「いいの? うち当てちゃうよ?」

「……ん」

愛依「■■■でしょ」

「……」パッ

愛依「わ、まぶし……」クルッ

愛依「……あったり〜。うち、せいか〜い」

愛依「も〜、いつからそんないたずらする子になったん?」

「……」

愛依「そんな悪い子にはくすぐりの刑〜〜!」コチョコチョ

「……!」ケラケラ
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/31(日) 01:49:11.28 ID:+d6Xp6ptO
愛依「って、もうこんな時間じゃん!」

愛依「プロデューサー……そろそろこの子帰らせないとまずくね?」

P「ん? なんでだ?」

愛依「……え?」

P「だって、俺たちは3人でここに住んでるじゃないか」

P「帰るも何もないだろう」

愛依「……」

P「俺たち“家族”3人、事務所のビルの中で仲良く暮らしてるんだ」

P「愛依も、それで問題ないだろ?」

愛依「……」

P「“家族”は……嫌か?」

愛依「ううん。そんなわけない」

P「じゃあ、帰らなくてもいいだろ」

P「愛依が望んでるんじゃないのか?」

P「家庭を持って仲良く暮らすということを」

愛依「それは……」

――起きてくれ、頼む……!

愛依「!!」

――愛依……お前が目を覚まさないと、俺は……。

愛依「……」

P「どうかしたのか?」

「……」

愛依「ごめんね。うち、やっぱ帰んなきゃだわ」

P「え、どうして……」

愛依「うちさ、プロデューサーのことが好き。ううん……大好き」

愛依「3人で過ごした時間は……うちにとって宝物みたいなもんだよ」

P「じゃ、じゃあ……ここにいればいいじゃないか……!」

愛依「ま、それも悪くないかもなんだけどさ」

P「ここでなら、愛依の理想は……望めばいくらでも叶うんだぞ?」

P「それでも、行くって言うのか?」

愛依「うん! 行かないと」

愛依「思い通りに行かないことも全部、乗り越えないといけないから」

愛依「うちを呼んでる人、待ってる人、一緒に戦ってくれる人がいるんだよね」

愛依「うちがいるべきなのは、そこなんだと思う」スタスタ

P「愛依……」

愛依「大丈夫。うちを信じてよ」

愛依「あんたも、プロデューサーなんでしょ?」

愛依「ならさ……応援しててくれるほうが、うちは嬉しいかな」

P「……わかった」

愛依「あれ、割とすんなり受け入れた系?」

P「言ったって聞かないんだろ。なら、俺は“プロデューサーとして”、自分の足で歩む愛依を見送るよ」

愛依「あっはは……サンキュね」ガチャ

愛依「いってきます」ダッ
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/31(日) 02:06:22.29 ID:+d6Xp6ptO
〜病院 病室(2人部屋)〜

ピッ・・・ピッ・・・

P「愛依……」

ガラララ

冬優子「ほら、売店で水買ってきてやったわよ」

P「……」

冬優子「……あんた、やっぱ一昨日から寝てないでしょ」

冬優子「お仕事ですぐに駆けつけられなかったけど、それくらいわかるわよ」

P「……」

冬優子「ふゆだって、心の中はぐっちゃぐちゃだし泣きたい気持ちもあるけど」

冬優子「それはふゆの問題。愛依にそんなふゆを見せたくないの」

冬優子「だから……あんたもよ」

冬優子「目を覚ました瞬間にやつれたあんたの顔を拝まされる愛依の気持ちも考えなさい」

P「……すまん」

冬優子「ふん、謝罪ではなく感謝を要求してやるわ」

P「……そうだな。ありがとう」

P「あさひはもう帰ったのか?」

冬優子「はづきさんが送ってくれたみたい」

P「そうか……良かった……。もう、遅いからな……」

P「……」

冬優子「隣、座るわね」

P「……ああ」

冬優子「っしょ、っと」

P「……」ボソッ

P「……」ブツブツ

冬優子「……はぁ」

冬優子「もしかしてあんた、自分を責めてるの?」

P「っ!?」ビクッ

冬優子「わっ……急にビクってしないでよね。こっちまで驚いたじゃない……」

冬優子「一体、何があったの……?」

P「……何があったのかは、俺にもわからない」

P「けど、……けど!」

P「俺は選んでしまった……!」

透『もし、私のいる事務所に来てくれればあの人は勝ち進める……って言ったら?』

P「あの時、事務所を移るって言っていれば……あるいは……」

冬優子「……話してみなさい」

P「え?」

冬優子「ふゆがあんたの話聞いてあげるって言ってんの」

P「……言ったって、俺のことを頭のおかしいやつだと思うだけだよ」

冬優子「安心していいわ。もう頭のおかしいやつだって思ってるから」

P「……」

冬優子「じょ、冗談に決まってるでしょ……! ったく……」

冬優子「ふゆはちゃんと聞くわよ。いいから、話してみて」
410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/31(日) 02:27:09.95 ID:+d6Xp6ptO
P「……と、いうわけなんだ」

冬優子「……」

P「冬優子?」

冬優子「あ、え? ご、ごめん……」

P「なんで冬優子が謝るんだよ」

冬優子「う、ううん。なんでもない」

冬優子「そう……選択を迫られたのね」

P「俺が透の事務所に行くって言っていれば、こんなことはならずに済んだんだ……!」

P「愛依は、俺のせいで……」

冬優子「……それは違うわ」

P「……え?」

冬優子「あんたは何も悪くない」

冬優子「ふゆが保証するわ」

冬優子「だいたい、事務所を移ればいいってどういうことよ。それこそ、ふざけんなって話じゃない」

冬優子「あんたは自分の選択に自信を持っていい……ううん、持たないといけないの」

冬優子「ずっとふゆたちの……愛依のプロデューサーで在り続けるって決めたんでしょ?」

冬優子「あんたがそれを諦めちゃったら、ふゆたちは……愛依はどんな顔すると思う?」

P「それは……」

冬優子「だいたい、幼馴染だかなんだか知らないけど、その透とかいうやつに踊らされるなっての!」

冬優子「自分のそばにいるのは誰なのか……それをちゃんと考えてよね」

P「……そうだな」

P「ありがとう、冬優子」

冬優子「お礼を言われる筋合いなんてないわよ。当たり前のことをわかってないやつに、当たり前のことを突きつけてやっただけなんだから」

P「ははっ……」

冬優子「もう……」

冬優子「ま、あんたはそういう顔してたほうがいい」

冬優子「聞いた話だけど、愛依がステージから出ようとした瞬間の事故で、うまく急所を避けて致命傷にはなってないみたいだし」

冬優子「ふゆたちは、……あんたは」

冬優子「愛依が目を覚ましたときのことを考えてりゃいいのよ。たぶんね」

P「俺たちが暗いムードじゃ、愛依も気が滅入るってもんだよな」

冬優子「……駄洒落?」

P「……違う」

冬優子「そ……」

P「……」ウトウト

冬優子「いまにも寝そうじゃない」

P「いつ愛依が目を覚ますかわからないんだ……俺は起きていたい……」

冬優子「ばっかじゃないの? 寝ない限りそのやつれた顔は治んないわよ」

冬優子「……もう1人のベッドはいま空いてて部外者はいない、か」

冬優子「ほら、特大サービスでふゆの膝を貸してあげる」

冬優子「いまはそれで妥協して。ま、愛依が目を覚ませば、いくらでもやってもらえるんだろうけど」

P「でも……愛依の前でそれは……」

冬優子「ふゆはここまでの移動中に結構寝てるから、夜明けくらいまでは大丈夫。そのときか愛依が目を覚ますまでは、ふゆが起きて膝貸してあげるから、しっかり寝て回復すること」

冬優子「ちゃんと、愛依が起きる頃には――愛依の大好きなあんたでいてあげなさい」
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/31(日) 02:28:09.61 ID:+d6Xp6ptO
とりあえずここまで。
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/31(日) 03:07:44.33 ID:n1revpZfo
おつおつ
うう…冬優子……
413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/01(月) 01:32:53.44 ID:J3Dhi4ZsO
〜病院 病室(2人部屋)〜

P「zzzZZZ……」

愛依「プロデューサー、もういい時間だし起きたほうがよくね?」

P「……ん」

P「ふわぁぁ……いま何時だ?」パチッ

愛依「もう昼の12時だよ」

P「そんなに寝てたのか……」

P「……」

P「……って、め、愛依!?」

愛依「わっ、びっくりした」

P「お前……目が覚めたのか?」

愛依「あっはは、起きてる相手にそれ聞くのってなんか変じゃね?」

P「い、いや、それはそうなんだけど……!」

P「そうか……良かった、良かった……!」

愛依「ごめんねー、プロデューサー。心配かけちゃって」

愛依「……寝てるときにさ、聞こえたんだよね」

愛依「プロデューサーが戻って来てくれって言うのが」

愛依「だからさ、うち、プロデューサーに応えたよ」

P「ああ……、ああ……!」

愛依「もー、そんな顔しないー!」

愛依「どうせなら喜んでよ。ね?」

愛依「嬉しいときは笑うもんっしょ?」

P「ははっ……そうだな。そう、だよな」

愛依「そーそー、そんな感じがいいって」

P「怪我は……」

愛依「あー、それ聞いちゃう?」

P「す、すまん。でも、本人からどんな感じなのかは聞きたくてな」

愛依「怪我はねー……うん、ハッキリ言ってちょーヤバい」

愛依「身体は動かそうとすれば動くんだけど、もう骨とかヤバい折れてるから痛くてムリだし」

愛依「頭は……中身は大丈夫なんだけど外は傷だらけってゆーか」

愛依「ま、生きてるからオッケーって思ってるとこ」

愛依「医者の先生もチメイショー? はいろいろと避けられてるって言ってたし」

愛依「いまはこんなんだけどさ、ちゃんと元気な状態になって帰りたいなって思ってる」

P「愛依……」

愛依「はい、その顔禁止! プロデューサーが悪いわけじゃないんだし、落ち込まれるとうちまで悲しくなっちゃう」

P「っ……」

P(俺は悪くない、か……)

P(結局のところ、それについて自分で納得できていないのは確かだった)

P(冬優子はああやって言ってくれたのにな……)

愛依「せめて腕が動けばな〜。プロデューサーのことぎゅーってしてあげられんのに」

P「ははっ、それはなんとも……その、恥ずかしいな」

愛依「あっ、……だ、だって、この部屋いま2人きりだし!」

愛依「うちプロデューサーのこと好きだし、別にいいんじゃん……?」ボソボソ
414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/01(月) 01:57:11.42 ID:J3Dhi4ZsO
P「あの……前からそう言ってくれてるけど、その「好き」って……」

愛依「ま、まあ……ブだけど」

P「?」

愛依「だからー! ラブのほうだって!」

愛依「最初の予選のときだって、あ、愛してるってちゃんと言ったし!」

P「いや、疑ってるとかじゃないんだ! ただ、なんというか、ギャルが急にそうやって言い切るっていうのは、どこか“ノリ”のようなものを感じてしまってな……」

愛依「マジか! うちギャルやめようかな……」

P「まあ、俺の偏見もあるんだ。すまない」

P「ギャルはやめなくてもいいぞ」

愛依「ちなみに……さ、プロデューサーは、その……どうなん?」

愛依「一応? うちは告ったわけだし、返事とか」

愛依「あ、アイドルのプロデューサーだから〜とかはナシ! うちのこと、ただの女の子だと思ってさ、プロデューサーもプロデューサーじゃないって思って答えてほしいなって」

愛依「〜〜〜っ! なんか言っててちょーハズかしくなってきたんですけど! 怪我で顔隠せないしヤバすぎ……」

P「……」

P「言い訳にしかならないが、これまでは良くも悪くも忙しい日々を過ごしてきたと思う」

P「ストレイライトとして、1人のアイドル「和泉愛依」として愛依は頑張ってきて……」

P「……俺はプロデューサーとして支えてきたつもりだ」

P「プライベートで一緒に過ごしてきた時間はまだ短い。最近まではほとんどなかったと言ってもいい」

P「けど……そうだな。あの子がそれを変えてくれたかもしれない」

P「あの子が……愛依という1人の女の子と過ごすことの意味を教えてくれたような気がする」

P「愛依との家族……それを実感の湧く形で想像できた。それで気づいたんだ。俺は最早仕事という範疇を超えて愛依のことを想っていると」

P「だから……うん」

P「これから約10秒ほど、俺は期間限定でプロデューサーを辞めて喋ろうと思う」

P「……」

P「俺も愛依が好きだ。愛している」

愛依「P……」

P「ずっと一緒にいたいと、そう思っているよ」

P「っと、たった今プロデューサーに戻ったところだ」

愛依「あはは……なんだ、めっちゃ嬉しいんですけど……」グスッ

P「ど、どうして泣くんだよ」

愛依「え〜? 嬉しいから?」

P「嬉しい時は笑うんじゃないのか?」

愛依「だから笑ってるじゃん。泣いちゃだめとは言ってないからセーフ」

P「なるほど……」

愛依「……ねえ、プロデューサー」

愛依「もう1回だけプロデューサー辞められない?」

P「そこだけ切り取るとすごい発言だな……。なんでだ?」

愛依「その……さ。……ス、してよ」

P「?」

愛依「もー、……キス! うち怪我してて全然動けないから、して欲しいの!」

P「おまっ……突然何言って……」

愛依「早くしてよ……。もうハズくて辛いんだから」

P「あ、ああ……。じゃあ、いくぞ……」ソーッ
415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/01(月) 02:24:18.40 ID:J3Dhi4ZsO
あさひ「プロデューサーさん! 目は覚めたっすか!?」ガラララ

P「……」

愛依「……」

あさひ「あれっ。なんで2人ともそっぽ向き合ってるんすかね」

冬優子「きっとお邪魔だったのよ、ふゆたちがね」

あさひ「???」

冬優子「あんたにはまだ難しいってこと」

あさひ「えー、それじゃあわかんないっす!」

冬優子「新しいタイプのあっちむいてホイよ」

あさひ「ホントっすか!? わたしにも教えて欲しいっす!」

冬優子「はいはい、それはまた今度。ここは病院なんだから」

あさひ「うー、つまんないっす」トボトボ

冬優子「はぁ……」

冬優子「2人とも、そろそろ普通にしたら?」

P「……なんでもないぞ」

冬優子「嘘乙」

愛依「……うちが負けたんだよね」

冬優子「新しいあっちむいてホイの設定続けなくていいから。あんたは首痛めてるんだから変に動かすんじゃないわよ」

あさひ「あれっ」

P「どうした、あさひ。俺の顔なんか覗き込んで」

あさひ「愛依ちゃんはなんとなく元気そうなんすけど……プロデューサーさんはそうじゃないみたいっすね」

P「そうか……? 別にそんなことは……」

冬優子「……あるわよ。まだ寝足りないんでしょ。ったく」

P「ははっ……これは参ったな」

冬優子「他人の心配もいいけど、自分の心配を忘れてるのよ、あんたは」

冬優子「愛依はちゃんと目を覚ましてて、怪我は回復を待つだけなんだから」

あさひ「愛依ちゃんと早く遊びたいっす〜」

愛依「ごめんね〜あさひちゃん。しばらくムリっぽいわ」

愛依「怪我治ったら絶対あそぼ! ね?」

あさひ「はいっす! 約束っすよ、愛依ちゃん!」

P「……はは、なんだか懐かしいな」

あさひ「?」

P「いや、なんでもないよ。ただ、当たり前がこんなに嬉しいなんて……って、そう思っただけだ」

P「俺はずっと狭い視野で戦っていたのかもな……」

愛依「ま、それは大会のやり方的にしょーがないっしょ」

愛依「大会はもうダメだけどさ、とりあえずまたアイドルやりたいし、それまでは全力で治すから」

愛依「絶対に、3人で――ストレイライトで、プロデューサーとトップ目指したい」

愛依「うちはそう思ってる」

冬優子「当然。ふゆもそのつもり」

冬優子「あんたはどうなの、あさひ」

あさひ「あ、ベッドの下に何か隠してるとかはないんすね」モゾモゾ

冬優子「……」

P「ま、まあ。あさひだってきっと同じ気持ちのはずだ」
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/01(月) 02:25:09.17 ID:J3Dhi4ZsO
眠すぎるので一旦ここまで。
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/02/01(月) 10:49:49.72 ID:xy2OhVEgO
おつおつ
膝枕してくれて愛依が起きるまでには退散ってふゆいい女すぎひん……?
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/03(水) 01:03:10.16 ID:79rSCjCkO
冬優子「っと、そろそろね。……あさひ!」

冬優子「行くわよ」

あさひ「?」ヒョコ

冬優子「レッスン。今日はトレーナーの都合で遅い時間だから」

あさひ「あ、そうだったっすね」

あさひ「じゃ、愛依ちゃん、プロデューサーさん、また後で!」

冬優子「今度こそふゆたちは帰るから、2人とも好きにしていいわよ」ニッ

愛依「も〜! 冬優子ちゃん……」

P「か、からかうなって……」

冬優子「はいはい」

冬優子 ガラララ

冬優子「……あ」

冬優子「プロデューサー」

P「俺か?」

冬優子「連絡。はづきさんからあると思うから。見といて」

P「お、おう。わかった」

フユコチャーン ハヤクイクッスヨー

冬優子「そういうことだから」

P「……冬優子!」

冬優子「……何?」

P「ありがとう」

P「……それが言いたかった」

冬優子「ふふっ、あっそ」

ガラララ

ピシャッ

P「……」

愛依「……」

P「……」

愛依「また、2人きり〜みたいな?」

P「そ、そうだな」

愛依「……っ」

P「ははっ……こんな時、どんなことを言えばいいのか……なんだかよくわからなくてな」

愛依「あはは、なにそれ」

愛依「別にいいって、そういうんはさ」

愛依「うちは……プロデューサーには一緒にいてもらえたら満足だし」

P「愛依……」

愛依「……あのね、プロデューs――」

イヤァァァァァッ

愛依「――っ!?」

P「な、なんだ……!? 叫び声が聞こえた気がするが……」

愛依「病院ってこういうことあるん?」

P「さあな……静かなイメージがあったけど」

P(悲鳴の声が聞き覚えのあるものだったような……気のせいか?)
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/03(水) 01:29:24.00 ID:79rSCjCkO
コンコンコン

P(ノック……?)

ガラララ

「失礼しますねー」

P(車椅子に乗った老人が、挨拶をしながら入ってきた看護師に押されて部屋にやってきた)

P(そういえば……ここは2人部屋だったな)

P(愛依が入院することになり、俺は当然個室を希望したのだが、どうしても空きがなく、一時的にこの部屋に入ることになった――というのが経緯だ)

P(もっとも、今来た老人がこの部屋にいることは珍しく、数日くらいなら貸し切り状態だと言われていたんだが……)

P(既に愛依は芸能人だし、部外者がいる状態でのやり取りには気をつけないとな……)

P(まあ、老人の状態を見るに、気にしなくても大丈夫なように思えてしまうが、それでも俺たちはプロだから注意しなければならない)

「あ、個室の件なんですけど」

P「えっ、あ……はい」

「無事退院された方がいまして、明日には個室の方を案内できますので、今日だけ相部屋になってしまいますが、ご容赦いただければ……」

P「わかりました。ただ、準備が整い次第、個室に案内するようにしてください」

「承知いたしました」

P「よろしくお願いします」

愛依「あ、うち部屋移動するん?」

P「愛依も立派なゲーノー人……いや、アイドルだからな」

愛依「そっか……そうだね」

愛依「でも、そっか〜……。プロデューサーに立派なアイドルとか改めて言われると照れるわ〜!」

P「ちょっ、声がでかい……!」

愛依「ヤバっ、ごめん……」

P「……はぁ。……ははっ、なんだか、愛依は元気だな」

愛依「え〜? なんで笑うし」

P「いや、だって今そんな状態じゃん」

愛依「確かにミイラみたいになってるけどさー……あ、いまの自撮りして投稿したらウケるかも!」

P「腕は動かせないから自重しような……」

愛依「う〜、つまんないっす〜」

P「なんだよそれ。あさひの真似か?」

愛依「そんなとこ。なんとなくやってみたくなった」

P「ストレイライトが恋しいか?」

愛依「そりゃー……ね。最近あんまし揃ってなかったしさ」

P「また、事務所で“いつも通り”ができたらいいな」

愛依「うん」

P「……あ。そうだ。冬優子にはづきさんからの連絡を見るよう言われてたんだ」ポチポチ

P「っと……先週から来週までの冬優子とあさひの仕事のまとめか」

P(愛依の予定の振り替えも書いてあるが、今は読むだけで会話では触れないでおこう)

P「……ここまで、か。……いや、違うか、これは……」

P(メールの末尾を見ると、俺が1週間休職することが確定したと書いてあった。はづきさんなりの配慮なのかもしれない)

「あのー、すみません」

P「えっと……はい。なんでしょうか」

「いまお連れした患者さんなんですが、ああ見えてアイドルの番組を観てるときが一番落ち着くみたいなんです。ベテランの看護師の先輩が教えてくれまして」

「何かおすすめの番組とかあれば……。私はアイドルのことをあまり知らないので」
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/03(水) 01:55:30.99 ID:79rSCjCkO
P「そうですね……。宣伝するようで恐縮ですが、もう少しするとうちの黛の出ているバラエティ番組が始まります」

P(ちょうど今はづきさんからの連絡で見たことだからすぐ出てきたな)

P(放送局を伝えると、看護師はテレビのリモコンを操作して件の番組を観る準備をしてくれた)

P(何かあればナースコールを、と老人に言って、看護師は部屋を出て行った)

P(しかし……、この老人がアイドルの番組を……)

P(人を見た目で判断するのもどうかと思うが、全く想像のつかない趣味を持つものだと思ってしまった)

P(どのような顔の老人だったか……そう思って改めて顔を見る)

P「……!」

P(一瞬、目が合って、睨まれたような気がした)

P(いや、気のせい……だろうか)

P(老人は、俺から視線を外すと、俺と愛依のいる方をじぃっと眺めてから、はじまった番組のあるテレビの方に視線を戻した)

P(俺も、愛依のほうに視線を戻す)

P「愛依――」

愛依 ウトウト

愛依「……っ、プロデューサー。ごめん、うち寝ちゃってたみたい」

P「――いや、いいんだ。むしろ、怪我人なんだからちゃんと休まなきゃだめだぞ」

愛依「わかった……じゃあ、ちょっと寝るわ」

愛依「おやすみ、プロデューサー……」

P「ああ。おやすみ、愛依」

愛依「……プロデューサー」

P「なんだ?」

愛依「うちの手……握ってて。手は、別に怪我とかないし」

P「わかった。……こうか?」ギュッ

愛依「うん。ありがと」キュッ

P(そう言って、愛依は弱く握り返してきた)

愛依「……あったかい」

愛依「あんしん、する……」

愛依「……」

愛依「……zzzZZZ」

P(今まで、どれほどのものを愛依は抱え込んできたんだろう。愛依は、明るい性格だし大雑把で楽天的なところもあるが――)

P(――だとしても、アイドルとしてはキャラを作っているわけで、大会で1人で戦う中でかなり消耗したのではないかと思う)

P(皮肉にも、今回は愛依をきちんと休ませることができてしまっているのかもな……)

P(俺にできることは……少なくとも今は一緒にいて寄り添うことだろうか)

愛依『うちは……プロデューサーには一緒にいてもらえたら満足だし』

P「大丈夫だ。俺はどこにも行かない」

P(そう。あの時だって――)

P『俺は愛依と、……ストレイライトと、283プロでトップを目指すんだ』

P『だから、透のところには行けない』

P(――そう胸を張って言ったんだ)

ヴーッ

P「……通知?」

冬優子<あさひがまた消えて捜索中な件。

冬優子<あ、見つけたわ。というわけで心配しなくて大丈夫だから。
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/03(水) 02:00:25.82 ID:79rSCjCkO
とりあえずここまで。
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/02/03(水) 02:21:49.56 ID:mUq4GL2DO
悲鳴に老人……まだまだ波乱は続く
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/13(土) 00:16:11.19 ID:bbZhcn2eO
3週間後。

〜病院 病室(個室)〜

P(あれから、愛依はすぐに個室へと移動することになった)

P(結局、俺の臨時休暇が終わってからは、仕事の都合で一度も見舞いに来てやることができなかった)

P(今日はようやく時間がとれて1週間ぶりくらいに病院に来た形だ――が……)

P「……愛依がいない」

P(いきなり来てしまったというのはあるけど、まさかいないなんてな)

P「……」

ガララ

「あ、和泉さんの」

P「え、あぁ……いつも愛依がお世話になっております」

「プロデューサーさん、でしたよね」

P「はい、そうです」

「和泉さんでしたら、今はリハビリ中ですよ」

「様子を見るとかであれば、こちらに……」

P(看護師に案内され、俺はリハビリをしているという愛依のもとへと向かった)


〜リハビリテーション室〜

カツッ、カンッ

愛依「……っ、く……」

カンッ

愛依「っし……!」

スルッ

愛依「あ――」

ドタッ

愛依「――っ」

愛依「……」


「あちらです」

P「あ、はい……」

P(愛依、頑張ってるな……)

P(でも、遠くから見てもわかる。わかって、しまう――)

P(――愛依が、辛い思いをしながらあそこにいるということを)

「では、私はこれで」

P「……」


カツッ、カンッ

カンッ

カツッ

愛依「……った」

愛依「はぁっ……はぁっ……」
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/13(土) 00:36:39.81 ID:bbZhcn2eO
愛依「……」ペタリ

「大丈夫ですか? 急に座り込んで……」

「体調が優れないようでしたら、今日はこの辺で止めても……」

愛依「っ、いいから!」

「!」ビクッ

愛依「うちなら、平気だから。まだ、大丈夫」

「そう、ですか……。念のため、私はここにいますからね。無理は禁物ですよ」

愛依「……」

スタスタ

P「……愛依」

愛依「っ!?」

愛依「ぷ、プロデューサー!?」

愛依「え、やだ……。うそ……」

P「あ、ああ……すまない、あれからしばらく来てやれてなくて」

愛依「そ、それは仕事があるだろうし、別に……」

愛依「っつーか、その……うちのこと、見ないで」

P「……」

P(よく見ると、愛依は汗をたくさんかいていて、患者衣が透けて――)

P「――っ!? す、すまん……」

愛依「? あ、ちょっ……、ど、どこ見てるん!?」バッ

愛依「……」

P「……」

愛依「そ、そういう風に見られんのもハズいけど、……そうじゃなくて」

P「?」

愛依「こんなうちの姿、見られたくない……」ギュッ

P「っ!」

愛依「包帯はまだ残ってるし、目立たないけど身体は傷だらけで、まともに歩くことだってまだちゃんとはできてない……!」

愛依「プロデューサーがいままで見てきたのって、そういううちじゃないっしょ?」

愛依「谷間とかも見せるちょいダイタンな服とか着ちゃって、仕事じゃ衣装着て歌ったりダンス踊ったり……」

愛依「……それが、プロデューサーが一緒に過ごしてきたうち、じゃん」

愛依「……」

愛依「意識が戻ってしばらくはさ、プロデューサーが一緒にいてくれたし、あんまし気にすることもなかったよ」

愛依「けど、あれからプロデューサーも来れなくなって、1人になって、リハビリが始まって――」グスッ

愛依「――うちが、もうアイドルの和泉愛依じゃない誰かなんだって! ……そうとしか思えなくってさ」

愛依「そんなんだから、いまのうちのこと、プロデューサーには見られたくなかったっていうか、ね」

P「確かに、今の愛依には、前みたいに力強く歌ったり激しく踊ったりすることはできない」

愛依「だったら!! だったら……、さ」

愛依「こんなうちを見ないで! こんな……こんな……」

愛依「なんもできない、うちなんて……」

P「だからなんだ!」

愛依「!」

P「アイドル和泉愛依じゃない……だからなんだって言うんだ。俺が接してきたのはいつだって、和泉愛依という1人の女の子だよ……」

P「歌えなくても踊れなくてもいい。アイドルだからお前と一緒にいるわけじゃ……一緒にいたいわけじゃないんだよ、もう……」
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/13(土) 01:29:20.67 ID:bbZhcn2eO
愛依「っ……」ポロポロ

P「何もできないなんて言わないでくれ」

P「生きてくれているだけで、一緒にいてくれるだけで、……こうして、面と向かって話してくれるだけで」

P「それでも、いいんだ」

愛依「プロ、デューサー……っ!」ポロポロ

P「ゆっくりでいい。一歩ずつ進んでいこう」

愛依「うん……、うん!」

P「……そうだ、こうしよう」

P「俺は、次からはプロデューサーとしてじゃなく、1人の人間として愛依に会いに来るよ」

P「283プロのアイドル和泉愛依の様子を見に来たプロデューサーではなく、和泉愛依という1人の女の子を好きな1人の男として」

P「そうしないか?」

愛依「あっはは、プロデュー……Pはほんとに……」

愛依「……うん。そーしよ」

愛依「てことは、さ」

愛依「Pはうちの……れしで」ゴニョゴニョ

P「?」

愛依「だーかーらー……Pはうちのカレシってことで、い、いいんでしょ?」

P「あ、ああ。そうだな」

愛依「で、うちはPのカノジョ……」

P「……」

愛依「っ!!」ボッ

愛依「やっぱうちのこと見ないで!! とりあえずいまは!!!」

P「さっきも同じようなことを言ってたが……」

愛依「さ、さっきのとは違うってゆーか……。いまのうち、めっちゃ顔赤くてヤバいから!」

P「そういうことか」

愛依「〜〜〜!」

P「まだしばらくは落ち着かなそうか?」

愛依「……いや、もう大丈夫」

P「そ、そうか……」

愛依「うちがカノジョで、Pがカレシ……っふふ」ニコ

P(とりあえず楽しそうだ――なんてな)

P(愛依には、そういう表情がよく似合うんだ)

P(アイドルではなく、1人の女の子としての……その振る舞いが)

P(そういうことは俺だけなのだと思うと、いい年なのに気分が高揚してしまう)

愛依「なにぼーっとしてんのー?」

P「いや……なんでもない」

ヴーッヴーッ

P ピッ

P「……はい。わかりました。今から向かいます」

P「すまん。仕事で戻らないといけなくなった……」

愛依「いいっていいって! 大事な仕事なんでしょ? しかも今日、平日だし」

愛依「今度は休日にでも来てよ。カレシとして、さ……。待ってるから」

愛依「うち、カノジョだし!」
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/13(土) 01:35:51.59 ID:bbZhcn2eO
とりあえずここまで。
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/02/13(土) 01:56:21.47 ID:pk/OQM70o
おつおつー
愛依√はアイドルリタイア…?
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/16(火) 00:17:18.41 ID:3FdlP2VvO
2週間後。

〜病院 リハビリテーション室〜

愛依「っ……っしょっと……」カツッ

P「よし、あと少しだ……頑張れ」

愛依「う、うん……」カンッ

愛依「……っ!?」ヨロッ

P「!? 愛依――」

愛依「っとと!」ピタッ

P「――……ふう」

愛依「あはは……ギリギリだったけど、まあ、セーフ?」

P「だな……」

愛依「もうちょっとでPんとこに着くから……待ってて」


P「お疲れ様。ほら、スポーツドリンクだ」

愛依「うん、サンキュー」

愛依 ゴク・・・ゴク・・・

愛依「……っぷはぁ」

P「だいぶ良くなってきたんじゃないか」

愛依「まあねー……まだ前みたいにはいかないけどさー」

愛依「……なんかさ、こんなこと言っていいのかわかんないんだけど、これってレッスンみたいだね」

P「! ……ああ、そうかもな」

P(さすがは俺の自慢のアイドルだ――というセリフは、言わずに飲み込んだ)

P「やっぱり、愛依はすごいよ。担当医の人も驚異的な回復力だって言ってたぞ」

愛依「まあ……それほどでも〜〜? ……あったりして!」

P「ははっ……」

P「早くちゃんと歩けるようになって、まずはあの子に元気なところを見せてやらないとな」

P「きっと、心配してるはずだから」

愛依「……」

P「……愛依?」

愛依「あのー……さ、前から気になってたんだけど、なんとなく聞きづらくて」

愛依「Pの言う“あの子”って、誰なん???」

P「え……」

愛依「いや、うちの友だちの誰かのことかな〜とか、まさか元カノ自慢じゃないよね〜〜とか、そう思ってたんだけど」

愛依「この際だし聞いちゃおうかなって思ったってゆーかさ」

P「何言ってるんだよ、あの子だよ――」

P(――■■■だよ、わかるだろ? ……と)

P(そう言っても、愛依は思い当たる節はない、という様子だった)

P「あ……」

P(事故後の愛依との会話を思い出す)

P(愛依のことで手一杯で、そもそもあの子が話題になることはほとんどなかったけど……)

P(愛依があの子の話をしたことは、事故の後には一度もなかった)

愛依「ど、どしたん? Pってば、泣きそうな顔してる?」

P(その時、俺はどんな顔をしていたんだろう。あれだけ愛依が大切にしていた3人の関係を、愛依自身が忘れているなんて知らされた時の顔なんて……)
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/16(火) 01:14:39.00 ID:3FdlP2VvO
数十分後。

〜病院 病室(個室)〜

愛依「あ、冬優子ちゃんからなんか来てるわ〜」ポチポチ

P「……」

P(あの後、ちょうど愛依の担当医がいたので、知っているはずの人を知らないということが起こった、と説明した)

P(内部に損傷はなかったものの、頭を打っているのは間違いなく、強打による健忘症や記憶喪失などが疑われたが――)

P(――原因は断定されなかった。もっとも、あの子のことを忘れていたというだけで、それ以外は何の問題も浮上していないのだ)

P(俺が騒いでも、極論「だからどうした」になってしまう)

P(……俺の周りであの子のことを知っているのは、愛依以外にははづきさんくらいだ)

P(しかし、はづきさんに「愛依があの子を忘れてしまった」と訴えてどうする?)

P(どうにかなる気もしなかった。それに、何よりあの子に「愛依が君を忘れている」だなんて伝えたくなかった)

P(俺だけが違うことを言っているような気さえしてきて、謎の孤独感に苛まれそうだ)

愛依「……P?」

P「わぁっ!?」ガタッ

愛依「ご、ごめん……びっくりさせちゃったカンジ?」

P「あ、いや、……すまない」

愛依「さっきの“あの子”のこと?」

P「それは……」

愛依「うーん……ごめんね。やっぱ思い出せなくて」

P「愛依が謝ることじゃ……ないぞ」

P(そう、誰が悪いとか、そういう話じゃないんだ)

P(だからこそ、辛いものがある)

愛依「Pの話聞いてると思い出せそうな気もするってか……こう、胸がきゅーってなるっていうか」

愛依「うちにとって大事なソンザイだったんだなってカンジはするんだけど、どうしても思い出せないんだよねー……」

P「そうか……」

P「まあ、そのうち思い出すかもしれないんだ。焦る必要はないだろう」

P(焦る必要はない――そう言い聞かせたい相手は他でもない、自分だった)

P(待っていればいつか愛依の記憶が戻ると、そう信じたいじゃないか)

愛依『そーそー。その……さ』

P『?』

愛依『うちらって、周りから見たら家族――に見えんのかなって』ゴニョゴニョ

愛依『うちがこの子のママで、プロデューサーがパパで……』ゴニョゴニョ

P「っ……」

愛依『う、うちは別に嫌じゃないよ!?』

愛依『……うん。全然いやじゃない。むしろ、嬉しい、かも』

P『……そうだな。家族に見えるかもな』

愛依『!』

『……』

P『お前もそう思うか?』

『……』コクッ

P『ははっ。じゃあ、俺たちは家族……ってことでもいいのかも――なんてな』

P「はっ……、く……、うぅ……っ」ポロポロ

P(思い出すと、涙が止まらなかった)
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/16(火) 01:48:38.67 ID:3FdlP2VvO
3週間後。

〜病院 病室(個室)〜

P「いよいよ明日で退院……だな」

愛依「うんっ。ま、だいぶ時間かかっちゃったかもだけどさー……」

愛依「仕事にもかなり穴開けちゃったし、こりゃ厳しいかな〜なんてね」

P「……ユニットとしての活動はしばらくなかったけど、冬優子とあさひは2人ともよくやってくれてるよ」

愛依「だね。うちさ、できるだけ冬優子ちゃんとあさひちゃんが出てる番組は観るようにしてたけど――」

愛依「――なんか、2人とも……うーん、うまく言葉にできないんだけど、ホントすごかったんだよね」

P「この約2ヶ月ほど……俺は、愛依がどちらを選んでも大丈夫なように準備をしてきたつもりだ」

P「アイドルを続けるか、そうでないか……」

P「俺は、愛依が何を選択しようと、意見するつもりはない」

P「どちらでも、……受け入れるつもりだ」

愛依「P……ううん、いまはプロデューサーって呼ばせて」

P「……ああ」

愛依「うちもね、ちゃんと考えたよ。アイドル続けるかどうかって」

愛依「それこそ、プロデューサーに初めて会ったときまで振り返ってさ」

P「……」

愛依「あの時……街でスカウトしてくれて、ホントに感謝してる。あれがなかったら、うち……」

愛依「そんでさ、ストレイライトっていうチョーカッコいい3人組にしてもらって、歌ったり踊ったりして……」

P「愛依がいなかったら、冬優子とあさひがいるユニットは間違いなく成り立っていなかったよ」

愛依「あっはは! そうかもねー、……なんつって」

愛依「でも、ありがと。そう言ってくれて、マジでうれしいわ」

愛依「最近の2人を見てるとさ、「あれ、もううちいなくても大丈夫じゃね?」……なーんて! そう思えるってゆーか」

愛依「ある意味で親目線的な? もうお前らは一人前なんだーってカンジで。いや、うち何様!? ……って話かもしんないけど」

P「そんなことはないぞ。愛依はストレイライトの中で、誰に対してもバランスよく接していたんだから」

P「一番良くメンバーのことが見えていたと言われても疑わないさ」

愛依「そっかな。だと、いいなって思うわ」

愛依「……あれ、何の話だっけ。……あ、アイドルをやるかやらないか、だよね」

P「……」

愛依「うちね、アイドルを――」

P「きょ、今日じゃなくても! ……いいんじゃないか?」

愛依「――プロデューサー……」

P「そ、そうだ。時間はまだある。言い忘れてたけど、どの道、愛依は事務所をあと1週間は休めるようにしてあるんだ」

P(俺は、何を……)

P「ゆ、ゆゆ、ゆっくり考えればいいさ! そうだよ、まだまだ先は長いんだ」

P(この期に及んで、何を口走っているんだ?)

P(愛依の選択を受け入れるなんて、口からでまかせもいいところじゃないか)

P(アイドルを続けるという決断を聞くのが怖いんだ――愛依の身体が以前のように動かせるような状況にはまだなっていなくて、元に戻る保証もなかったから)

P(アイドルを辞めるという決断を聞くのが怖いんだ――アイドルも、“あの子”のいる家族もない、そんな愛依を目の当たりにするのが嫌だから)

愛依「……家族」

P「え……?」

愛依「夢かもしれないし、プロデューサーの言う“うちから消えちゃった記憶”なのかもしれないし、よくわかんないけど……」

愛依「家族ってのが、すっごく懐かしくて、チョー大切で、そういう気持ちが……なんとなくあって」
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/16(火) 02:15:18.52 ID:3FdlP2VvO
愛依「プロデューサーの言う“あの子”のことは思い出せないけど、誰かに言われてる気がするんだよね」

愛依「プロデューサー――Pがパパで、うち――愛依がママで、2人の子どもが一緒にいて」

愛依「子どもはパパとママにそれぞれ片手を持ってもらってて、ぶらんこ遊びをするんだって」

愛依「その子はきっとそれだけでも……一緒にいるだけでも幸せで」

愛依「そういう家族の幸せを大切にしてって、そう誰かに言われる“夢”を見る……」

愛依 ツー

愛依「あ、あれ……」

P「愛依……」

愛依「やっぱ、こうなるかー……あっはは……」

P「?」

愛依「その家族ってゆーのがさ、アタマに浮かぶたびに、涙が……止まらなくなる的な……?」ポロポロ

愛依「な、なんだろーね! これ……、変だよね」

愛依「……」

愛依「プロデューサー、もっと近くに来て」

P「お、おう……」

愛依「……こうしてると、ここに、もう1人いる気がする」

P「!! そ、それは――」

愛依「きっと、うちにとって……ううん、うちとプロデューサーにとって、大事な子、なんだよね」

P「――……ああ!」

愛依「うちね、そんな家族が欲しい」

愛依「プロデューサーと……Pと幸せになりたい」

愛依「Pと幸せになってって……大好きな子どもと楽しく笑っていてって……」

愛依「そうやって言ってくれた声が聞こえて……」

愛依「うちもそう思うって、強く感じたから」

愛依「だから、うちは、アイドルを……」

P(もう、俺は愛依の決断を聞くのを怖がらなかった)

P(自分のことばかりで、愛依と共に人生を歩んでいくということを――最も大切なことを、見失っていたけど)

P(きちんと、取り戻すことができたから)

愛依「……これが、うちの決めたコトだよ、プロデューサー」

愛依「うちは……私、和泉愛依は」

愛依「Pと、ずーーっと! 幸せになりたい!!」

愛依「幸せな家庭を持ちたい! 家族でいろんなところに出かけたい! 海とか買い物とかね」

愛依「よくわかんないただ一緒に過ごす時間も、大切だって思いながら生きてたい」

P(まるで、あの子との“家族”の思い出をなぞるかのように)

P(愛依は自分の望む「幸せ」をこれでもかというくらいに伝えてくれた)

愛依「……はぁっ、言い切った! いや、まだまだこれからたくさん出てくるけど!!」

P「ははっ、こっちまで幸せになりそうな話しっぷりだったぞ」

愛依「もー、何言ってんのー? 幸せになりそう、じゃなくて、幸せになるんだってば。一緒にね!」

P「ああ、そうだな」

愛依「もちろん、ずっと一緒に、幸せを探して、何回でも幸せになって――くれるっしょ?」

P「当然だ。愛依と生きていくって決めてるんだから」

愛依「そっか……そっかそっか! うん!」ニコ

愛依「あっはは! もう、うちってば、いまからチョー幸せだわ!!」
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/16(火) 02:31:43.31 ID:3FdlP2VvO
約十年後。

〜某海辺 砂浜〜

P「よし、じゃああれやるか!」

愛依「あはは、うん!」

「……?」キョトン

P「いくぞ……」

P/愛依「いっせーの……」

P/愛依「……せーっ!」グイッ

「わー……」

「……」ポスッ

P「いい感じにブランコできたと思うんだけど、どうだ?」

「……ん」ニコ

P「喜んでくれたみたいだな」

愛依「ほんとカワイイんだから〜もうヤバすぎ!」ナデナデ

P「……あ。おおっ」

愛依「どしたん?」

P「いや、ほら」

P「夕日、やっぱり綺麗だな……って」

愛依「うん。すっごく……ね」

愛依「……あれ、なんか前にもおんなじことあったっけ」

P「……」

P「……あれじゃないか? デジャヴュっていう」

愛依「デジャ……なんて?」

P「いや、なんでもないよ」

愛依「あっはは、なにそれ」

P「ははっ……」

愛依「うち、……いま、しあわせだよ」

愛依「きょうだいとか友だちと遊びに行ったり、昔みたいにアイドルでレッスンとかお仕事したり……そういうのとは違って」

愛依「あ〜〜、なんかさ、うまくは言えないんだけど」

愛依「いまみたいな時間がもっと続いたらいいのにな〜って」

愛依「マジでそう思う」

P「そうか」

愛依「夕日がさ、もう……沈んじゃうじゃん?」

P(夕日が沈んだら、幸せも終わってしまうような気がする――そういった君が、どこかにいた)

愛依「でも、沈むから、明日からはまた違う夕日が見れんのかなって、そう思えるんだよね」

愛依「なんて……変かな?」

P「そんなことないと思うぞ。良いんじゃないか? 俺は好きだよ、そういうの」

愛依「そっか! あー……次来たときはもっと良い景色が見れるといいなー」

愛依「っし! もう暗いし、今日は帰ろ!」

P「ああ、そうだな」

P(そして、2人で愛する子どもの名前を呼び、また手を繋いで帰路につく)

P(確かにそこには、俺たちの幸せがあった。いつか望んだ、誰かが願った……その思いが成就された形で)

END of √M.
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/16(火) 02:45:41.35 ID:3FdlP2VvO
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OS Version 2.8.3.2018424
[AUTOMATIC OPERATION]

>ファイルをスキャンしています。
>…………
>…………
>…………
>“Mei_Izumi -Memory-”......partly damaged!
>破損したデータがあります。
>…………
>原因不明。
>…………
>破損したデータは自動的に最新のバックアップデータに置換されます。
>お待ちください……。
>…………
>…………
>…………
>処理が完了しました。
>プログラムにより、関連付けられた分岐点を自動的に開きます。
>Now Loading...
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434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/16(火) 02:47:22.64 ID:3FdlP2VvO
〜ステージ(予選) 舞台装置周辺〜

雛菜「っしょ、……っと!」タンッ

雛菜「とうちゃ〜く」

雛菜「透先輩にLINEしよ〜っと。……まだ〜ってね〜〜」

ポチッ

雛菜「……」

ピロンッ

雛菜「! もう返信来た〜」

雛菜「もうちょっと待ってて……かぁ〜」

雛菜「お兄さん、まだ選んでないんだね〜」

雛菜「雛菜的には……ま、どっちでもいいか〜」

雛菜「小糸ちゃんが進んだら幼馴染としてしあわせ〜になれるし〜〜」

雛菜「お兄さんのアイドルの人が進めば、透先輩がしあわせ〜になって――」

雛菜「――透先輩だいすきな雛菜もしあわせ〜ってなるもん!」

雛菜「早く返信来ないかな〜」

シーン

雛菜「……準備して待と〜っと」


〜予選会場 ロビー〜

透「タイムリミットだよ」

P「透、お前、何をしようとしてるんだ」

透「っ」ガシッ

P「ちょ、おま……」

P(いきなり胸倉を掴まれた!?)

ダッダダダ・・・

ダンッ

P「がっ……」

P(くそ、力任せに押されて暗がりに追いやられた……)

P(高校生の女の子に不意打ちとはいえ力で押し負けたことに情けないなと思いつつ)

P(この腕力は日々のレッスンの賜物か、だなんて。そんなことを思ってしまう自分に呆れる)

P「透、何するんだ、やめ――」

透 チュ

P「ん〜〜!!」

P「ぷはぁっ。……お前」

透「私も、二度は言わないつもりなんだ」ジイッ

P(目が据わってる……)

透「もう一度聞くから」

透「Pは、私のところに来てくれる?」

透「それとも、来てくれない?」

透「どっち……かな」

1. 透の誘いを断る。(既読)
2. 透の誘いに乗る。

※既読のスタンプにより、自動的に2. が選ばれます。

(とりあえずここまで)
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/02/16(火) 07:42:36.69 ID:2EcUPYJko
おつおつ
これはいい機能
愛依ちゃん……これはNORMAL COMMUNICATIONかな…?
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/02/27(土) 03:08:42.54 ID:Jgdt0UeWo
437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/02/27(土) 23:12:38.03 ID:ycDuHxnvO
おつ
前ルートもそうだけど、普通に殺人未遂の二人に何の報いもないからモヤモヤするな
悲鳴がそれなのかもしれんが
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/01(月) 01:49:33.40 ID:m6an9M5VO
〜予選会場 ロビー〜

P「……わかった」

P(さっきの透が言ったことが、どうしても気になってしまっていた)

透『もし、私のいる事務所に来てくれればあの人は勝ち進める……って言ったら?』

P(まるで、透の誘いを断ったら愛依が決勝に進めない――そんな風に聞こえて)

P(不思議と、断ったら取り返しのつかないことになる気がして、理由のない悪寒に襲われた。だから――)

P(――俺は、透の誘いに乗った)

P「透のところに行けば、愛依は……」

透「……」

P「……透?」

透「あ……うん」

透「ちょっと、ね」

P「?」

透「うん。嬉しい」

透「ありがとう、P」

透「あー……プロデューサー、って呼んだ方がいいかな。ふふっ」

P「は、はあ……」

P(これで……良かった……のか?)

P(冷静になると、俺は愛依を――ストレイライトの3人を裏切ったことになるんじゃないだろうか)

P(いや、これがその場しのぎの嘘じゃなくなれば……正真正銘の裏切りだ。やっぱり嘘でした――とか言えるんだろうか)

透 ポチポチ

透「送信、っと……」

透「それじゃ、行ってくる」

P「行くって、どこに?」

透「本番、これからだからさ」

P「そ、そうか」

透 スタスタ

透「……そうだ」ピタッ

透「たぶん、Pの事務所に連絡が行くと思う。明日とか、明後日とか」

透「そのうち、人も来る。あと……わたs――僕も」

透「またね」フリフリ


〜ステージ(予選) 舞台装置周辺〜

ピロンッ

雛菜「あっ、透先輩からだ〜」

雛菜「……うんうん! そっか〜、透先輩、良かったね〜〜」

雛菜「てことは〜……小糸ちゃんが……」

ワァァァ

雛菜「あ、そろそろだ〜」タタタ

雛菜 カチャカチャ

雛菜 ギイッ

雛菜「やは……」

雛菜「ごめんね、小糸ちゃん」
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/01(月) 02:09:41.65 ID:m6an9M5VO
〜ステージ(予選)〜

ワァァァ

愛依「はぁ……はぁ……」

愛依(や、やり切った……!)

愛依(2回目も、うち、ちゃんとできた!)

愛依(会場の盛り上がりも、うちが見たことないくらいすっごい……)

愛依(うち、勝てたかな……)

愛依(プロデューサー、■■■、見てる?)

愛依(うち、輝いてるかな?)

愛依(これが、アイドル……和泉愛依!)

愛依(〜〜〜〜〜っ!!! 今なら負ける気がしないんですけど!!!!!)

愛依(キャラ的に表に出せないけど……変なテンションになるくらい、サイコーのステージになったかも!)


オツカレサマデシター

愛依「控え室ってどっちだっけな〜……」

愛依(あ、そういや、次って小糸ちゃんだっけ)

愛依『うちら、一緒に次に進めたらいいね』

小糸『! ……は、はいっ』

愛依(なんか、こういうのって、イイ……なんてね)

愛依(そうだ、今から戻って見に行ってあげよっかな)

愛依(決勝に進むって意味ではライバルでも、やっぱさ)

愛依(こう……応援してあげたい気持ちはあるってゆーか……)

キャァァァァァッ

愛依「?」クルッ

愛依(歓声……? でも、まだ始まったばっかなんじゃ……)

ザワザワ

愛依「え、え……?」

愛依(な、何が起こってるん???)

愛依(廊下が出てくる人でいっぱいになってきたし……これじゃまるで逃げてるか、それか――)

愛依(――追い出されたみたいな)

愛依「ちょ……あ、あの」

「はぁっ……はぁっ……」

「え、な、なんですか……?」

愛依「中で、何かあったんですか」

愛依(あっぶね。アイドルモードにならないとね)

「いや、それは……うわっ」ヨロッ

「ほら、出て出て! ……君も控え室に戻って!」

愛依「だから、その……何が」

「っ、いいから!」ドンッ

愛依「った……はい」

愛依(もう……なんなん? 舞台でトラブルでもあったのかなー)

愛依(とりあえず戻るしかない系?)

愛依(何が起きてるんだろ……)
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/01(月) 02:42:07.25 ID:m6an9M5VO
〜グループ1 控え室〜

愛依「……」

ザワザワ

愛依(ヤな空気感……)

愛依(何かとんでもないことが起きちゃってるのに、うちらは何が起きてるのかわからない……ってカンジ)

「――機材のトラブルで事故が……」

「――大怪我した人がいるって……」

愛依(いろんな話が聞こえてくる)

「――ステージの真っ最中だったよね……」

「――ってことは、もしかしてそこにいた子……」

愛依 フルフル

愛依(ここにずっといたら、なんだかおかしくなりそうだわ)

愛依(飲み物でも買いにいこ……)スタスタ


〜グループ1 控え室付近廊下〜

愛依「……」

愛依(とりあえず水買ってきたけど)

愛依(あの場所――控え室の居心地があんましよくなかったってのもあって)

愛依(飲み物を買うとかは、正直どーでもよかったんだよね)

愛依(あそこを抜け出せれば、それだけでよかった的な?)

愛依(喉もそんなに渇いてないし)

愛依(うーん、戻るしかない系? でも、うち的には気が向かないんだよねー……)

愛依「……そうだ」

愛依(プロデューサーに会いに行けばいいじゃん!)

愛依(そうじゃん、そうしよ!)


〜予選会場 関係者専用通路〜

愛依(こーゆーの、ヒニク? ……って言うのかもだけど)

愛依(さっきの控え室の噂話で、ここ通るとすぐに外に出れるって聞こえたんだよね……まあ、そのコはタバコ吸うんで外に出てたみたいだけど)

愛依(道の向き的にロビー方面だし、ここからプロデューサーんとこに行けるはず――)

愛依(――うちってば、ひょっとして天才? ……なんちゃって)

愛依「……あ」

愛依(あれ、かな。たぶん。ロビーの近くの地図も見えるし)

カラカラカラカラカラ

愛依「?」

愛依(なんか、来る……?)

ミチアケテクダサーイ

「通ります! どいてください!!」

愛依(そんな声が聞こえて、車輪付担架を運ぶ何人もの大人の人がこっちに向かってきた)

愛依(最初はなんか来るなーくらいだったけど、すぐに嫌な予感がした)

愛依(気づけば、担架はすぐそこまで来てて――)

愛依(――血まみれの小さい身体が目の前を通り過ぎた)

愛依(たぶん気のせいだし、よく見えなかったけど)

愛依(担架は、うちの目の前だけを、やたらとスローモーションで通ったように見えた)
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/01(月) 02:50:20.39 ID:m6an9M5VO
とりあえずここまで。
442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/01(月) 03:56:06.92 ID:2pZFVVUQo
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/01(月) 04:40:54.08 ID:WVg33TODO
小早川紗枝と同じ身長で、的場梨沙と同じサイズのバストの「ぴゃっ」が口癖の娘が……
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/01(月) 07:39:46.41 ID:iwKf5P/Ao

おいおい
おいおいおい…
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/03(水) 21:19:25.54 ID:BbdFsMITO
〜予選会場 ロビー〜

ザワザワ

P「なんだか騒がしいな」

P「……何かあったのか?」

P(嫌な予感しかしない)

P(なぜそんな気がするのかもわからなかったけど、理由のない不安が俺を襲うのは、きっと――)

透『今日言いたいのは、お願いじゃないってこと』

P『?』

透『選択、してもらうから』

P「……」

透『もし、私のいる事務所に来てくれればあの人は勝ち進める……って言ったら?』

P(――っ!!)

P(お、俺は間違えていないだろうか?)

P(選択――透はそう言った。その後に、正しい選択をしなければ愛依に何かしらが起こるというようなことも仄めかして)

P(嫌な汗が止まらない……愛依は本当に無事なのだろうか)

P(周囲のざわつきは酷くなってきている。明らかに、“何かがあった”んだ)

P(それだけで愛依の身に何か起こったと考えるのには、判断材料が少ないが、それでも……)

P「愛依……愛依……!」

P(俺はいてもたってもいられなくなって、関係者専用の通路で近道をして愛依に会いに行くことにした)

P(会えるだろうか……いや、会うんだ)

P(会わなければ……!)ダッ

P(焦りすぎて、変な走り方になってしまう)

P(なぜだろう、謎に足がもつれて疾走できない感じだ)

P「はぁっ……はぁっ……」タッタッタッ

P「……よ、よし。これを開ければ――」

P(――関係者専用通路だ)

P ガチャ


〜予選会場 関係者専用通路〜

愛依(さっきのって……)

愛依「うっ……」

愛依(思い出したらちょっとキモチ悪くなってきちゃった……)

愛依(だって、あんなたくさんの血なんて、うち……)

愛依(担架が速すぎて見えなかったけど、あれ人だったっしょ。どう考えても)

愛依「……」スタスタ

愛依(あ、このドアだ)

愛依(これを開ければプロデューサーに――)ソーッ

ガチャ

愛依「――うわぁぁっ!?!?!?」

P「おわぁあぁっ!?」ビクッ

P「な、なんだ……!?」

愛依「……って、プロデューサーじゃん!」

P「め、愛依……!」
446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/03(水) 21:36:56.10 ID:BbdFsMITO
P「よかった……!」ギュッ

愛依「ちょ! ……プロデューサー」

愛依「ここじゃヤバいっしょ。人来ちゃうし」ヒソヒソ

P「あ、すまん……」パッ

愛依「もー……。ま、まあ? そういうんはイヤじゃないけど?」

愛依「時と場所的な?」

P「そ、そうだよな。というか、取り乱して申し訳ない」

愛依「何かあったん?」

愛依「もしかして、いま騒がしいのと何か関係ある系?」

P「いや、その……」

P「愛依に何かあったんじゃないかと思って」

愛依「へ? うち??」

愛依「うちにはなんもないけど……」

愛依「確かになんかザワザワしてるな〜って思ったけど、なんでそれでうちに何かあったって思うの〜〜?」

P「あ……」

P(俺と透の直接のやり取りを知ってるわけじゃないんだもんな)

P「忘れてくれ……それよりも、愛依は何か知ってるのか?」

P「今、何が起きているのか、について」

愛依「いや、うちもよくわかんないんだよね」

愛依「控え室にいるとさー……ホントかどうかもわかんない噂話とかいろいろ聞こえてきちゃってヤバげだったし」

愛依「なんとなく抜けてきちゃって、せっかくステージ終わったし、そうだプロデューサーんとこ行こ! って思って」

P「そ、それでここにいたのか」

P「そうだな、つい色々と気持ちが先走って言い忘れてたよ」

P「ステージお疲れ様」

愛依「うん、ありがと!」

愛依「うち、やれたよ。結果は……まあ、知らないけど!!」

P「ははっ……そうか」

P(そうだ。愛依は戦っていたんだ)

P(俺はそんなことも忘れて何をしていたんだ……我ながら情けなさ過ぎるな、これは)

P(まずは愛依の無事を喜ぼう)

P(特に、無事ステージを終えられたことを)

P(今何が起きているのかは、その後でもいいはず……だ)


〜ステージ(予選)〜

オイ、チャントカンケイシャイガイオイダシタノカ

トリアエズハ・・・ハイ

「はぁっ……はぁっ……」タッタッタッ

「……!」ピタッ

ナンデコンナコトニ・・・

サイシュウチェックデハナニモナカッタンダゾ!

「そんな……」

「間に合わなかった、なんて……」ペタリ
447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/03(水) 21:41:50.82 ID:RmxyVDljo
つーか中止にならんかこれ
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/03(水) 21:52:33.64 ID:BbdFsMITO
「想定外の事態ね……って、あれ。そこのあなた!」

「! ヤバい……」

「なんでここにいるの! 早く外に出なさい! ……って、あなたは――」

「……」

「――グループ2の……、ええと、樋口円香さんだったかしら?」

円香「……そうですけど」

「でも、あなたは……ううん、それはいいわ」

「とにかく、ここにいちゃいけないの。さぁ、早く控え室に戻りなさい」

円香「っ」グッ

円香「……わかりました」

「ほら、行きなさい。……誰よ、追い出すの終わったって言ったのは」

円香 トボトボ


〜ステージ(予選)外 通路〜

円香 スタスタ

ガチャ

バタン・・・

円香「……」フラフラ

円香 ペタン

円香 ポロポロ

円香「小糸っ……!」グッ

円香「ごめんね、ごめんね……」ポロポロ


〜予選会場 ロビー〜

P「俺は一応状況を把握してから事務所に戻るつもりだけど……愛依はどうする? 俺といると遅くなるかもだし、先に戻るか?」

愛依「……プロデューサー?」

P「な、なんだよ」

愛依「うちを最後まで送ってく選択肢はないの〜?」

愛依「頑張ったアイドルに冷たくしちゃダメっしょ〜〜」

P「……遅くなるかもしれないんだぞ?」

愛依「いいっていいって! うちは、その……」

愛依「プロデューサーと一緒にいれたほうがいいし、さ……」

P「……わかった」

P「じゃあ、一緒に帰ろう。送ってくよ」

P「とりあえず、俺は少し知り合いとかと話してくる」

愛依「え〜……結局放置されるん〜?」

P「そ、それは……」

愛依「ジョーダン! さすがにジョーダンだから! プロデューサーの仕事だもんね」

愛依「まあ……うん。うち、待ってるから」

P「ああ、すまないな」

P「できるだけ早く戻れるようにするから」

愛依「ありがと」

P「じゃあ、ちょっと行ってくるな」

愛依「いってらっしゃーい」
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/03(水) 22:27:40.61 ID:BbdFsMITO
〜予選会場 関係者専用通路〜

P「……」スタスタ

P(事態は想像以上に深刻だった)

P(その場にスタッフの誰もが想定していなかった事故が起きたのだという)

P(これは本当に現実なのか、なんて言う声も聞こえてきたくらいだ)

P(念入りにチェックした舞台装置の故障が原因なのではないか、という話が出ているらしい)

P(しかし、そんなことが起こるとしたら、それは――)

P(――誰もいないはずのところに、誰かがいて、何かをした)

P(少なくともそう考えるほかないとのことだ)

P(そして、何よりの悲劇は、その事故がアイドルのステージの最中に起こったということ)

P(事故の被害にあったアイドルの子は大怪我をして、救急搬送されたという)

P(復活は絶望的なんじゃないかなんて言い出す人までいた)

P(愛依の次にステージに出た子、か……)

透『選択、してもらうから』

透『もし、私のいる事務所に来てくれればあの人は勝ち進める……って言ったら?』

P ブルッ

P(ま、まさかな……?)

P(さすがにそんなこと……あり得ないだろ)

P(それこそ、これが夢や幻じゃない限りは……)

P「そういえば、この大会は……」

P「……中止になるのかな、こんなことがあれば」

P(愛依を厳しい戦いから解放してやれるという気持ちと、愛依の活躍の場が減ってしまうという気持ちが、混在している)

P(愛依自身は、どう思っているんだろうな)


〜予選会場 ロビー〜

P「おまたせ、愛依」

愛依「お、プロデューサー。思ったより早かったじゃん」

愛依「それでー……やっぱ結構ヤバいカンジのことがあった系?」

P「まあ……そうだな」

P「少なくとも、笑い事じゃないよ」

愛依「そっか……」

P「端的に言うと、ステージの最中で舞台装置が壊れて、事故が起きたんだ」

P「それで、そこにいたアイドルの子が大怪我をした。すぐに搬送されて、今は病院にいるらしい」

愛依「大怪我……」

愛依「……その、怪我したのって、……な、なんて子?」

P「名前は……」

P「そうだ、愛依のすぐ次に出番があった子だぞ」

愛依「……え?」

P「うーん……あ、そうだ。思い出したぞ」

P「少し珍しい感じの名前で……」

愛依「ちょ、ちょっと待っt――」

P「福丸小糸さんって名前だったはずだ」

愛依「――ぁ……」
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/03(水) 23:14:57.99 ID:BbdFsMITO
深夜。

〜事務所〜

P(愛依を家に送り届けてから、いくつかの書類の確認で事務所に戻ったけど……)

シーン

P(誰もいない事務所……別に珍しいことじゃないんだが……)

P(あんなことがあった後だと、この空気感が全く違うものに感じられるな)

P(既に非日常、ってことなのだろうか)

P「っしょ、っと……」ギィッ

P(時間はあるし、とりあえずPCに来たメールでも整理するか)

P カタカタ

P「……あ」

P(もう来てるな……透の事務所から)

P(今日1日でいろんなことがありすぎたな……)

P「ふぅ……」

P(俺は、事務所を移ると透に言った)

P(まあ、なんとなくわかってはいたが、ただの口約束というわけではないらしい)

P(透のあの言い方と、その直後に起こったあの出来事……)

P「……」

P(今俺が想像していることは、おそらく客観的には荒唐無稽な作り話に感じられるものなはずだ)

P(それでも、俺は、あの透との約束を反故にしてはいけない気がしてならなかった)

P(約束を破ったら取り返しのつかないことになる……そんな根拠のない恐怖がぬぐえない)

P(俺が事務所を移ったら、ストレイライトはどうすれば……)

P(……我ながら呆れるほど即決だったと思う。あり得ない決断をした)

P(しかし、なぜか悪い選択をしたという気分にはならなかった)

P(それも、今日という情報量の多い1日を過ごしたからだろう)

P(……ストレイライトごと移籍することを交渉するか? いや、そんなことをしたら283プロに合わせる顔がなくなる)

P(愛依だけでも……って、それじゃストレイライトが“ストレイライトじゃなくなってしまう”)

P(はづきさんならプロデュースをやることも能力的には不可能じゃないはずだ……けど)

P(そういうことではないだろう。あの3人――あいつらの気持ちを考えなければ)

P「……」

P(去ると言ってしまったやつが、何を今更って話だよな)

P「……ははっ」

P(ここまで乾いた笑いが出たのは初めてかもしれない)

P(笑い声はいつもの自分と同じなのに、まるで別人が俺の口を使って笑ったかのような錯覚に陥った)

P「はぁ……」

P(つくづく自分に呆れてしまう)

P(俺は一体、何をやっているんだろうか)

P「俺は……」
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/03(水) 23:16:11.58 ID:BbdFsMITO
とりあえずここまで。
452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/03(水) 23:23:53.60 ID:RmxyVDljo
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/03(水) 23:26:17.18 ID:eotV4TwXo
おつー
ノクチルにいったいなにが……
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/04(木) 02:20:57.17 ID:iQQVYecDO
円香はわかっていた

実行犯は雛菜

被害者は小糸

……と
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/14(日) 01:37:40.96 ID:e3lLtyMfO
数日後。

〜事務所〜

P「……はい。ええ、はい……」

P「……わかりました」

P ガチャリ

P「……」

P(例の大会は、結局中止になるとのことだった)

P(事故にあった子の容態が思ったよりも悪いらしい。そもそも小柄で、事故からの回復がすぐには望めないのだという)

透『もし、私のいる事務所に来てくれればあの人は勝ち進める……って言ったら?』

P ゾッ

P(俺が透の誘いを断っていたら……)

P(もしも、……仮に、だ)

P(愛依が今回の事故の被害者だったとして、体格は悪くないほうだから……怪我からの回復は……)

P(……いや、考えるのはよそう)

愛依「あ、プロデューサー……」

P「愛依……」

愛依「いまの電話って」

P「あ、ああ。大会についてだよ」

P「中止だそうだ。事故にあった子が、数日たってもまだ回復の兆しが見られないみたいでな」

愛依「え? あ、……そっか」

P「せっかく頑張ってきたのに、と思う気持ちもあるだろうけど、こればかりは仕方ない」

P「現実を受け入れて、また1つ1つ仕事をこなせばいいさ」

P「また、ストレイライトの3人で、な」

P「大丈夫。大会の間に愛依はすごく成長したと思うよ」

P「それこそ、……いや、なんでもない」

P「さ、愛依はあと少しでユニット全体でのレッスンだったよな」

P「冬優子とあさひは別々にレッスン場に直接向かうみたいだから、俺もやることあるし、悪いが1人で行ってくれ。っしょ、と……」ガタッ

P「さて、と。コーヒーでも入れてこようかな……」スタスタ

ギュ

P「ぐ」

P(席を離れようとしたとき、突然後ろから袖を掴まれた)

愛依「……プロデューサー」

P「な、なんだ? 早めに行かないとレッスンに遅れ――」

愛依「うちに黙ってること、あるっしょ?」

P「――……」

愛依「らしくないじゃん。そんなの」

愛依「てか、バレバレっつーか……いくらうちがあんまり頭良くないっていっても、そんくらいわかるよ……」

P「……」

愛依「大会のことは、なんていうかさ……残念だったと思うよ。小糸ちゃんが怪我しちゃったことだってすっごく悲しい」

愛依「けど、さ。いまうちがプロデューサーと話したいのは、そういうことじゃないんだよね」

P「愛依。気持ちはわかるけど、ちゃんと時間のあるときに……」

愛依「っ!」

パンッ・・・
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/14(日) 02:03:47.34 ID:e3lLtyMfO
P「ぶっ……!」グラッ

P(想像以上に重たい一撃が頬に与えられた)

P(いまある怒りを遠慮なくぶつけたような、そんな平手による意思表示に思える)

P「く……」

愛依「なんで……なんで……!」

愛依「何も言わずに違うところ行っちゃうなんて、どうしてなん!?」

愛依「うちと、うちらと……プロデューサーって、その程度ってこと!?」

愛依「もちろん、さ……プロデューサーがいなくなっちゃうこと自体もヤだよ?

愛依「けど、それはプロデューサーが決めたことだし、うちみたいなガキが何言ってもしょうがないって、わかってるつもり」

愛依「理由だって、そりゃ気になるけど……うちからは聞かない。聞きたくないし、たぶん聞いちゃいけないのかなって」

愛依「プロデューサーは大人だし」

愛依「うちは、うちらは子どもだから」

愛依「でも……いままであんなに一緒に頑張ってきて、一緒に過ごしてきて……」

愛依「その終わりがこんな形なんて、うちは納得できないから!!」

P「俺が別の事務所に行ったとしても、つながりが切れるわけじゃ……」

愛依「切れるよ! だって、うちらとプロデューサーのつながりって、“アイドルとプロデューサー”だけじゃん!」

愛依「うちが告っても返事くれないし! ……さ」

愛依「ごめん、最後のは単にうちのわがまま。“プロデューサー”に言うことじゃないよね。忘れて」

P「愛依……」

愛依「あ、……そっか。あはは……」

P「な、なんだよ」

愛依「結局、プロデューサーにとってのうちらって、その程度だったってこと、……っしょ?」

愛依「事務所が変わって担当じゃなくなっても気にならない。283プロで自分が仕事をするための道具……」

P「そ、そんなことは……!」

愛依「なに? ちがうん? 別に違っててもいいよ」

愛依「少なくともうちには、そう見えたってだけだから」

愛依「気にしないで」

P「他所に行くのを黙ってたのは謝るよ。本当にすまなかった」

P「っ……止むに止まれぬ事情……、なんだ」

P「ただ、これだけは信じて欲しいんだ」

P「これまでに283プロでみんなとやってきた仕事に嘘はない。プライベートだってそうだ」

P「道具だなんてとんでもない。俺はちゃんとストレイライトの3人を……愛依を……あの子を思って過ごしてきた」

P「それだけは、間違いないんだ」

愛依「うちさ、プロデューサーに聞きたいことがあんだけど、いい?」

P「……なんだ?」

愛依「さっき、なんで誤魔化そうとしたのかなって」

愛依「うちさ、下の子の世話とかもするし、お兄とお姉見てても思うんだけど……歳とかカンケーなしで、後ろめたいことがあると誤魔化して逃げようとするよね」

愛依「プロデューサーもそうなんじゃないかって、うちには見えるっていうか」

P「そ、そんなこと……」

愛依「じゃあさ、なんで明日からこの事務所に来る予定がないわけ?」

愛依「これはただのお話だけど、さ」

愛依「もしプロデューサーがここでうちを見送れば、プロデューサーが会いに来ない限りは、もううちらと会うことってないよね」

愛依「そういうスケジュールじゃん、これ」
457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/14(日) 02:36:43.28 ID:e3lLtyMfO
愛依「……冬優子ちゃんとあさひちゃんにも言ってないんでしょ?」

P「……」

愛依「冬優子ちゃんなんか絶対怒るだろうし。チョーこわそうだもんね。それにさ、あさひちゃんだって……プロデューサーが違うとこ行っちゃうって聞いたらそりゃ悲しむに決まってんじゃん」

P「お、俺は……!」

愛依「会うのが怖いだけっしょ? 自分勝手にやって、責められるのが嫌なんでしょ?」

愛依「だから、うまく切り抜けて、時間にカイケツしてもらおうとか思ってたんしょ?」

愛依「違うならちゃんと説明してよ。うちは何時間でも聞くから」

愛依「そのためなら、レッスンさぼってトレーナーさんとか冬優子ちゃんたちにガチギレされたっていい。怖いだろうけど、嫌じゃない」

愛依「そのぶんの責任ならとれるから」

愛依「いまのプロデューサーはさ、……なんてゆーか、無責任だよ」

愛依「きっとアタマだってうちよりずっといいはずで、いままでうちらのことを支えてきてくれて。うちとあの子に付き合ってくれて……良い人なんだと思う」

愛依「それでもさ、……あ〜、こんなこと、下の子たちくらいにしか言わないから言いたくないんだけど――」

愛依「――やっていいことと悪いことってあるんじゃないの?」

P「……」

P(何故か……何も言い返す気にはなれなかった。まくしたてて反論することだって、それっぽく言って自分を正当化することだって、きっとできたはずだ)

P(あるいは図星だったのかもしれない。……少なくとも、俺が悪いことに変わりはないのだから)

愛依「プロデューサー……いい加減――」

ヴーッヴーッ

愛依「――……? 電話?」

P(突然、俺のスマホに電話がかかってきた。デスクの上から聞こえる振動音だ)

愛依「仕事のかもしれないし、……って。切れちゃっt――」

P(たぶん、俺にスマホを渡してくれようとしたんだと思う。しかし、愛依は画面を一瞥すると、何かに気づいたように、スマホを俺に渡さず改めて凝視した)

愛依「……」

透『ふふっ……でも、言うわ。Pは――』

愛依「……!」

P「えっと、仕事の連絡かもしれないんだよな? それ」

愛依「……もういい」ボソッ

P「え?」

P(そう言った愛依の声は、ドスが聞いていてとても重たい一撃を食らったかのような衝撃があった)

愛依「あ゛あっ!!」ブンッ

P(そして、ソファーにスマホを投げつけて――)

愛依 ズカズカ

P(――荒々しく立ち去ろうとした)

P「め、愛依……!!」

愛依 クルッ

P「……」

愛依「……っ!」キッ

愛依 スタスタ

P(俺を思い切り睨みつけた愛依は、今度こそ振り返ることなく出て行った)

P「……」

P(ソファーに転がるスマホを拾う。電話はとっくに切れてしまったみたいだが、それに応じてショートメッセージが何通か送られてきていた)

浅倉透<一緒にてっぺん目指してくれること、すごく嬉しいから。

浅倉透<ありがとね。Pは僕を選んでくれるって、信じてた。
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/14(日) 03:06:49.04 ID:e3lLtyMfO
数時間後。

〜事務所前〜

P「……」

P(最後の仕事を終えて、これから帰路につくところだが)

P(事務所から出て、歩道に立った今……呆然と立ち尽くしている)

P(きっと、俺は間違っている)

P(間違ってしまったんだ)

愛依『会うのが怖いだけっしょ? 自分勝手にやって、責められるのが嫌なんでしょ?』

愛依『だから、うまく切り抜けて、時間にカイケツしてもらおうとか思ってたんしょ?』

P「……」

愛依『……もういい』ボソッ

愛依『……っ!』キッ

P(正直、どうしていいのかわからなかった)

P(自分のどうしようもなさに呆れるのはもちろんだが、呆れたところで次への一手が打てるわけじゃない)

P(頭が良ければすぐに解決するような話でもないと思う)

P(無力感を抱きすぎて、何もする気が起きない――そんな状態になっていた)

P「……とりあえず帰るか」

P(とはいえ、ずっとここに立ち続けるわけにもいかない)

P(俺に引き返すという選択肢はないのだ。物理的にも、精神的にも)

P トボトボ

「――あの、すみません」

「283プロダクションの方でしょうか?」

P「ええ、そうでs……いえ、違いました」

「急にすみません。私――」

P「……関係ありませんので。では、私はこれで……」

「――ストレイライトのプロデューサーを辞める人に興味があるんです」

P「……!?」クルッ

「よかったらお話を伺えないでしょうか?」

P(まっすぐで、綺麗な瞳だった)

P「……ご用件は」

「近くの喫茶店では……いかがでしょう?」


〜喫茶店〜

P「えっと……それでは改めて自己紹介を……」

P「そうだ、名刺……あ」ガサガサッ

P(現時点で有効な名刺は持っていないんだった……)

「それは結構です。必要ありませんので」

P「そ、そうでしょうか……?」

P「失礼ですが、ええと、名前は……」

「……樋口円香です。よろしくお願いします」

P「樋口円香さん、ですね。私は、ご存知とのことですが……Pと申します」

円香「浅倉透の新しいプロデューサーは……うん、確かに一致してる」ポチポチ

円香「あなたにお話したいことがあるんです。私に手を貸していただけませんか」
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/14(日) 03:09:24.63 ID:e3lLtyMfO
とりあえずここまで。
460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/14(日) 05:04:59.99 ID:8EYyghxDO
綺麗な円香クルー!?
461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/14(日) 08:07:54.16 ID:wfotSSr2o
小糸ちゃんがぐちゃぐちゃに!
462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/14(日) 13:22:51.48 ID:j3ban7g2o
このシリーズは円香の可能性を広げまくっている乙!
463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/15(月) 02:30:11.89 ID:fZRYS71uo
不憫
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/23(火) 23:50:56.20 ID:EJYM3XPKO
〜透の所属する事務所 Pの部屋〜

P カタカタ

P「……」

シーン

P「な、慣れないな……」

P(透のいる事務所での待遇は、正直に言えばかなり良いものだった)

P(専用の部屋があり、給料も高い)

P(ただ、アイドルたちがはしゃぐにぎやかさはなく、自分のキーボードを叩く音が部屋に響くのを、不自然に感じている俺がいる)

P「なんか、本当にそれ目当てで移ったって283プロの人たちに思われそうだな……」

P(もっとも、それ以上にクズだと思われていても文句は言えないんだと思う)

P(俺がしたことは、たぶんそういうことだ)

コンコン

P「あ……はい! どうぞ」

ガチャ

透「やっほー」

P「透か……どうしたんだ?」

透「え? 別にどうもしないよ」

P「そ、そうか……」

透「あー……。邪魔、だった?」

P「そういうわけじゃないよ」

P「いつも通りに仕事をしていても、こんなに静かで広い部屋にいるのは、なんだか落ち着かなくてな」

P「知ってる人にいてもらったほうがかえって居心地が良いよ」

P「そこにある椅子、座っていいぞ。適当にくつろいでくれ」

透「ありがと。そうする……っしょっと」

P カタカタ

透 ジーッ

P カタカタ

透 ジーッ

P「……」

透「?」

P「あの……くつろいでいいんだからな?」

透「うん。だから、そうしてるよ」

P「いや、さっきから俺のことをずっと見てるだけだと思うんだが……」

透「Pを見ながらくつろいでる」

P「お、おう」

透「仕事、まだかかりそうなの?」

P「今やってる分はもう少しで終わると思う」

透「そっか」

P カタカタ

透 ジーッ

P「……透」

透 ニコッ

P「はぁ……」
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/24(水) 00:36:05.58 ID:dgrNlHaQO
P カタカタ

P「ふぅ……よし、っと……」

透「終わったの?」

P「ひと通りな」

透「Pの椅子、大きいね」

P「? あ、あぁ……俺にはもったいないくらい良い椅子だよ」

P(実際、頑張れば2人でも座れるくらいに大きく、座り心地も良い椅子を使わせてもらっている)

透「じゃあ、一緒に座ろ」スタスタ

P「え、いや、ちょっと待て何言って……」

透「よっと」ボフッ

P「っとと……」ギギギィッ・・・

P「……」

P(俺の上に――前に?――透が座ってきた)

P「あの……」

透「仕事、ひと通り終わったんでしょ」

P「まあ、そうだが」

透「じゃあ休憩、必要かなって。一緒に休もうよ」

P「いや、透はどうだか知らないけど俺はむしろ落ち着かないというか何というか……」

透「?」

P「誰かが来たらどうするんだ……誤解されるかもしれないぞ」

透「えー、なにそれ。誤解?」

P「そうだよ」

透「大丈夫。誤解じゃないから。僕にとっては」

P「……」

P(良い匂いがするし、なんだか柔らかいし、いろいろと困る。休まる気がしない)

透「Pは、さ……」

透「僕のために、働いてくれてるんだよね」

P「俺は透のプロデューサーだし、そうなるな」

透「僕をてっぺんに連れて行ってくれる……」

透「そうでしょ?」

P「ああ」

透「ふふっ、そっか」モゾモゾ

P「……最早近づきすぎて密着状態になっているんだが、透」

透「いいじゃん、別に」

P「良くないだろ」

透「嫌?」

P「……嫌ってわけじゃないけどさ、プロデューサーとアイドルがこうしてるのはまずいだろ」

P「傍から見ればただイチャついてるだけ――」

ガチャ

円香「何度もノックはしたので入りまs……」

P「――……」

P「樋口さん。これは、誤解だ」

円香「最低」
466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/24(水) 01:53:58.29 ID:dgrNlHaQO
透「新しいアイドルの人?」

P「そうだけどそうじゃないというか……なんというか」

P「アイドルは辞めてないけど、今は俺の秘書をしてくれてる……って感じかな」

透「へぇ……」

P「な、なんだよ」

透「別に。なんでもない」

円香「……そろそろイチャつくのをやめたらどうですか」

P「ほら……! だから言っただろ」

透「はいはい、ごめんね」スッ

透「雛菜のとこ行ってるから」

ガチャ

透「またね、P」

バタン

円香「……」

P「お、幼馴染なんだよ、あいつは」

円香「そうですか。私には、それ以上に見えましたけど」

P「だから、誤解なんだって」

円香「まあいいです。“それについては”興味ないので」

P「そ、そうか……」


二週間前。

〜喫茶店〜

円香「あなたにお話したいことがあるんです。私に手を貸していただけませんか」

P「私が……ですか?」

円香「はい」

円香「この前中止になった大会、覚えていますよね」

P「ええ。……ついさっきまでプロデュースしていたアイドルが出ていましたから」

円香「私は、中止になった原因を知りたいんです」

P「そうですか……。ちなみに、樋口さんはあの大会には出ていたんですか?」

円香「出ていましたよ。あなたのアイドルと一緒のグループになったことはありませんが」

P「それなら、原因については知っているはずだ。少なくとも、樋口さんのプロデューサーやマネージャーなら知っていることですよ」

P「ステージでの事故。そして巻き込まれたアイドルの子の大怪我。原因はそのように伝えられています」

円香「その怪我をした子は……っ、私の幼馴染です」

P「! ……そうだったのか」

円香「それに、あなたが今言ったことは理由であって原因じゃない」

円香「私が知りたいのは、“誰が”あの事故を起こしたのかということだから」

P「ま、待ってくれ! あの事故が人為的なものだって言うのか……!?」

透『今日言いたいのは、お願いじゃないってこと』

透『選択、してもらうから』

透『もし、私のいる事務所に来てくれればあの人は勝ち進める……って言ったら?』

P「……」

P(そんな、ばかげている)

P(それでも、なぜか、あり得ないと言い切れない自分がいた。本当に、なんでだろう)
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/24(水) 02:59:18.46 ID:dgrNlHaQO
円香「大会攻略の一環として自分でいろいろと調べる中で、偶然わかったことがあるんです」

円香「あの大会に来ていたアイドルのリストには、1つだけ、大会に参加していないアイドルのIDがあった」

円香「もちろん、あの日だってそう」

P「でも、それならとっくにその子が容疑者になってるんじゃないのか? 君が調べられることなら、大人にわからないはずがない」

円香「その通り。だから、おかしい」

円香「誰も疑ってない。誰も……理由ばかりを見て、原因が見えてない」

円香「普通なら、そんなはずないのに」

円香「最初は、自分がおかしいんじゃないかと疑うこともありました。正しいのは周りで、間違っているのは私だと」

円香「でも、どんなに考えても……疑うべき点はそれしかなかった……!」

円香「っ、……なのに、小糸があんなことになったいきさつを説明してくれそうな人なんて、誰もいなかったんです」

円香「なんでかはいまでもわかりません」

P「……」

円香「最初にそのアイドルの存在を知ったときは、変だと感じてもそれほど気にしていませんでした」

円香「ただ出入りしているだけならそういうこともあるか、と」

円香「IDも、ゲスト用だったのか、名前がわかるようなものにはなっていなかったので」

円香「そう……誰なのかがわかっていれば……!」

P「というと、名前が重要なのか……?」

円香「名前そのもの、というわけではないですが――」


大会(予選第2回目)当日。

〜予選会場 ロビー〜

円香『……落し物?』ヒョイ

円香『これ、入講に必要なIDカード……』

円香《何気なく、IDを見てしまう》

円香『って、例のゲスト用ID……!』

円香《なんて偶然》

円香《まあ、だからどうしたって感じ。落し物だし、カウンターに預けるだけ》

円香『落し物です。そこで拾いました』

『ありがとうございます。お預かりしますね』

円香『はい。お願いします』

円香《不思議なこともある……》スタスタ

『すみませ〜ん……』

『はい、どうなさいましたか?』

『この辺に〜、入るためのカードって落ちてませんか〜〜?』

『ああ、それならつい先ほど届きましたよ。……こちらでしょうか?』

『やは〜! これです〜〜!」

円香《あれ、この声、この話し方……》

円香《……雛菜?》

『ありがとうございました〜』テテテテテ

『よいしょ……っと!』ピッ

ガコン ウィーン・・・

円香『……え』

円香《なんで、私たちでも通れないあのゲートを、あいつはゲスト用のIDで開けられるの……?》
468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/24(水) 03:14:55.91 ID:dgrNlHaQO
円香のステージが終わった後。

〜グループ2 控え室〜

円香『……』

円香《何かが引っかかる……雛菜を見かけてから、嫌な緊張感がなくなってくれない……》

ピロン

円香『メール? 一体誰から……』

『FROM :-----------------------------
 件名 :階段
 本文 :(本文はありません)    』

円香『って、スパム……』

ズキン

円香『う゛っ!?』クラッ

------------------------------------------
マドカ《ここを曲がって……》

マドカ《この階段を下りれば、コイトがいる》

コイト『あっ、マドカちゃん……!』ピョコッ

マドカ『やっぱり……ふふっ』

マドカ『おまたせ……』

コイト『っ!? ま、マドカちゃn……』

マドカ『……?』

ドンッ

ガンッ――ダダダ・・・
------------------------------------------

円香《な、なにこれ……。私の記憶なの?》

------------------------------------------
ヒナナ『もっとお話したかったけど……』

ポンッ

コイト『ぴゃ!?』

ヒナナ『“また今度”ね〜、コイトちゃん』
------------------------------------------

円香《これは私の記憶じゃない。雛菜と小糸だけの記憶。でも……》

円香《ま、まさか……!》

円香《いま私が思ったことは、呆れるほどにばかばかしくて――》

円香《――恐ろしいほどに現実味を帯びていた》

円香 ダッ


〜ステージ前〜

円香『はぁっ……はぁっ……』タッタッタッ

円香『……!』ピタッ

円香『そんな……』

円香『間に合わなかった、なんて……』ペタリ
469 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2021/03/24(水) 03:19:48.09 ID:O20Feq+a0
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470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/24(水) 03:36:38.65 ID:dgrNlHaQO
円香「こんなこと、人に話したって信じてもらえるわけがない……」

円香「それでも、私は、雛菜がこの件に深くかかわっていると確信しています」

P「……俺に、あ、私に行き着いたのは何故でしょうか?」

円香「敬語なら大丈夫です。あなたに声をかけたのは――」


〜ステージ(予選)外 通路〜

円香 スタスタ

ガチャ

バタン・・・

円香『……』フラフラ

円香 ペタン

円香 ポロポロ

円香『小糸っ……!』グッ

円香『ごめんね、ごめんね……』ポロポロ

ピロン

円香『今度は何……!?』

『FROM :----------------------------------------
 件名 :283プロを離れる和泉愛依のプロデューサー
 本文 :近づけば、知りたいことがわかるかも    』


円香「同じアドレスから、そんなメールが来たんです」

円香「その後、何度も私からメールを送ったのですが、返信は来ませんでした」

円香「それでも、あのメールは私の味方だと思った。あんなことがあったから……信じてみようと思ったんです」

円香「他に味方なんて、いなかったから」

P「そういうことだったのか……」

円香「ちなみに、あなたは283プロを離れた後、どうするんですか」

P「もう正式に決まってることだし言っても問題ないか……これからは、浅倉透をプロデュースすることになる」

円香「……本当、うんざりするほどドンピシャ」

P「?」

円香「雛菜は、その浅倉透と同じ事務所なので」

円香「メールの通りにあなたに近づいて正解でした」

P「おう……でも、だからって俺にどうしろと言うんだ?」

P「君が――樋口さんが幼馴染の福丸さんのために真実を知りたいというのはわかった。でも、内部の情報をリークするわけにはいかない」

P「協力できるかと言われると、正直厳しいと思う」

円香「はい。それはわかっています」

P「え? そ、そうか?」

円香「だったら、なってしまえばいいでしょ。私も、内部の人間に」

P「どういうことなんだ……?」

円香「私を秘書として雇ってください。それくらいのお願いはしてもいいでしょ。きちんと、あなたの仕事をサポートしますから」

P「待て待て、君を秘書として雇えたとしても、樋口さんが今いるプロダクションとの所属アイドルとしての契約はどうなるんだ?」

円香「事務所なら辞めてきました。格好良く言えば、フリーランスです」

P「……」

円香「それくらい、本気なので」

P「手伝ってくれる人がいるのは助かるし、樋口さんがそれでいいなら……わかった、協力するよ。俺も、そこまで事情を聞いてしまっては、無関心を装えないからな」

円香「ありがとうございます。これから、よろしくお願いしますね」
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/24(水) 03:40:18.17 ID:dgrNlHaQO
とりあえずここまで。
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/24(水) 05:45:43.53 ID:tQyfb/KDO
なんかややこしくなってきた

つか、たしかにカナ表記だったなぁ
473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/24(水) 07:00:23.57 ID:iKv9Uv6jo

再びノクチルルートへ
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/24(水) 10:27:20.10 ID:/qrWip9oO
おつおつ
トオルは何を…?
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/29(月) 02:45:26.54 ID:De3ugYjcO
二週間後に戻る。

〜透の所属する事務所 Pの部屋〜

円香「さっき、あの子……「雛菜のとこ行ってるから」って言っていましたね」

P「ああ。2人とも、仲が良いみたいだ」

P「仲が良すぎて同じユニットにしてもらえなかったとかいう話もあるくらいだからな」

円香「そう……」

P「やっぱり、雛菜ちゃんのこと……」

円香「……証拠は何もありませんが、それでも、不思議な体験と自分の直観が、そう言ってるんです」

円香「自分でも、呆れるほど筋道立ってない」

P「いや、ロジカルじゃないとしても、俺にもわかるんだ」

P(透と雛菜ちゃん……あの2人には間違いなく“何か”がある)

P(看過できない“何か”が)

P(それをきちんと説明できない、あるいはしたくないという思いがあって、なかなか解決できないというのが現状だろう)

P(原因として思い浮かぶものが、常識的な見方をすれば荒唐無稽でしかないんだから)

円香「あの2人に関する資料をいただけますか」

P「……一応、プライバシーだけどな」

円香「はぁ……私が何のためにあなたに近づいたと思ってるんです?」

円香「それに、秘書が資料を整理するなんて、別におかしなことではないでしょ」

P(ここまで来たら、俺も腹をくくるか……)

P「まあ、それもそうだな」

P「まとめて渡せるようにしておくよ。明日まで待ってくれないか」

円香「わかりました。お待ちしています」

P「任せてくれ」

グゥ・・・

P「?」

円香「っ!?」

P「……」

円香「……っ」

円香「……」

P「……あー」

P「そういえば、もう昼だったな」

P「俺は結構腹が減ってるんだが、その、なんだ……」

P「樋口さんも一緒にどうかな。ランチとか」

円香「……私のために格好つけないでください」

P「腹が減ったのは俺も同じだったし、気にしないでくれ」

P「で、どうかな?」

円香「……はぁ」

円香「そうさせてもらいます」

476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/29(月) 03:09:22.21 ID:De3ugYjcO
〜レストラン(洋食)〜

P「好きなだけ食っていいからな」

円香「……」

P「ま、まだ女子高生なんだ。食べ盛りだろう、きっと」

円香「……はぁ」

P「! こういう店じゃないほうがよかったか?」

円香「いえ、そういうわけではないです」

円香「奢ってもらう身で、わがままなんて言うつもりないので」

P「そ、そうか……」

円香「さっきから、ずっと無理してる」

P「む、無理?」

円香「あなたにとって扱いにくい女なんですね、私は」

P「何を言うんだ……。まあ、確かに俺が今まで接してきた子たちは――」

P(冬優子、あさひ、……愛依)

P「――っ」

円香「すみません。変なことを言いました。謝ります」

P「いいんだ……気にしないでくれ」

P「ほら、とりあえず何を頼むか決めよう」

円香「はい」


P「その……福丸小糸さんとは、幼馴染だって言ってたよな」

円香「……はい」

P「雛菜ちゃんとも」

円香「まあ、そうなります」

P「そして、透は俺の幼馴染、か……」

円香「不思議」

P「?」

円香「偶然にしては出来過ぎてるような、そんな感じ」

P「……確かにな」

円香「今更、私たちは引き返せないってわかってる。それでも――」

円香「――自分たちが本当に立ち向かうべきは何なのか、それがわからないんです」

P「……」

円香「雛菜を問い詰めれば解決するのか、あるいは浅倉透を……」

P「樋口さんが言ってたあのメール……あれが何だったのか、誰が送ったものなのか、そういったことがわかれば、解決に近づくかもしれないな」

P「話を聞いてる限り、メールの送り主が本質的な何かを知っているのは明らかだと思うんだ」

円香「あのメールを受け取ったときに見た“自分の知らない記憶”……あれは、一体」

P「そうだ。それもあった」

P「わからないことは山積みだな……」

P「……はぁ。嘆いても仕方ない、か!」

P「1つ1つ、できることからやっていこう」

円香「ふふっ」

P「え?」

円香「いえ、独り言の多い人だと思っただけです」
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/29(月) 03:30:03.41 ID:De3ugYjcO
数日後。

〜テレビ局〜

透「じゃ、行ってくる」

P「ああ。やらかすんじゃないぞ」

透「えー? ふふっ、何それ」

P「お前を見てると、なんだかそれだけは言わないといけない気がしてな」

透「もしかして、僕のこと信用してない?」

P「信用はしても、心配はするよ」

P「自分のアイドルのことを気にするのは、プロデューサーとして当然のことだからさ」

透「……そっか」

透「わかった。ありがと」

透「今度こそ、行ってくるから」

P「行ってらっしゃい。頑張れ、透」


P「特番の収録で、終わるまで数時間はある、か……」

プシュ

P(その辺の自販機で買った缶コーヒーを開け、飲みながら数日前のことを考える)

P『わからないことは山積みだな……』

P『……はぁ。嘆いても仕方ない、か!』

P『1つ1つ、できることからやっていこう』

円香『ふふっ』

P『え?』

円香『いえ、独り言の多い人だと思っただけです』

P(あの子、ちゃんと笑うんだな……)

P「……」

P(樋口円香の第一印象は、まっすぐで綺麗な瞳を持つ女の子、だった)

P(でも、接していくうちに、彼女の弱さのようなものが時々垣間見える気がして――)

円香『誰も疑ってない。誰も……理由ばかりを見て、原因が見えてない』

円香『普通なら、そんなはずないのに』

円香『最初は、自分がおかしいんじゃないかと疑うこともありました。正しいのは周りで、間違っているのは私だと』

円香『でも、どんなに考えても……疑うべき点はそれしかなかった……!』

円香『っ、……なのに、小糸があんなことになったいきさつを説明してくれそうな人なんて、誰もいなかったんです』

P(――きっと――)

円香『今更、私たちは引き返せないってわかってる。それでも――』

円香『――自分たちが本当に立ち向かうべきは何なのか、それがわからないんです』

P(――独りでは戦えないんだ。だから、俺を頼ってくれている)

円香『あなたにお話したいことがあるんです。私に手を貸していただけませんか』

P(俺が、一緒に戦ってやらないといけないんだ)

P(これも、根拠もロジックもない、荒唐無稽な考えだが――)

P(――彼女の力になれるのは自分しかいない、そう思えた)

P「……っし! 頑張んないとな、俺も」

P(そういえば、近くに共用のテレワーク用スペースがあったな)

P(時間はあるし、外でできる仕事はそこで片付けるか……)
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/29(月) 04:02:33.00 ID:De3ugYjcO
〜テレワーク用スペース(共用)〜

P カタカタ

P(うん、悪くないな。こういうのも)

P(それに、共用スペースっていうのが、なんだか……もう少し賑やかになれば――)

あさひ『わーい! 冬優子ちゃんの隣ゲットっす!』ダキッ

冬優子『だ、抱きつくことまでは許可してないわよ! ちょっとって言ったじゃない! ……もう』

愛依『いいねいいね〜、見てて微笑ましいわ』

P『なんだかんだで仲良いんだよな』

P(――“みんながいるあの場所”みたいに、なるんじゃないかって)

はづき『プロデューサーさんは、優しい方です』

P(そう、思えて……)

P ポロ・・・

P「っ!?」

P(な、何泣いてるんだ、俺は……)

P(俺には、そんな風に涙を流す資格なんて、ないのに)

P「くっ……くそ……」ポロポロ

P(なんで、止まらないんだ……!)

「すみませ〜ん。隣のここ、使ってもいいですか〜?」

P「え? あ、はい……」グスッ

P「どうぞ」

「ありがとうございます〜」

P(……仕事しないとな)


P カタカタ

ピトッ

P「うわっつぁ!?」

P(き、急に熱い何かが顔に!?)

P「……って、コーヒー?」

P(一体誰が――)

「ったく、なんでずっと隣にいんのに気づかないのよ」

P(――お前は)

「久しぶり……よね。うん」

「……」

「あー……、もう! なんで何も言わないのよ! 久々の再会なんだから、もっと喜んだらどうなの?」

P「いや、その……なんだ」

P(ちょうど、色々と思い出していたんだ、なんて……)

「って、あんまりおっきな声出すと注目浴びるわよね。声抑えないと……」

「まあ? 変装はもちろん完璧、だけどね」

P「ははっ、そうだな。それに、その口調ならバレないだろう」

「〜〜〜っ! ほんっと、むかつくわね!」

P(こんなやり取りをしたのは、本当、いつぶりなんだろうか。その“完璧な変装”越しでも俺には相手が誰なのかわかっていたから、それが成立したんだろう)

P「テレワーク用のスペースで会えるなんて思ってなかったよ。久しぶりだな――」

P「――冬優子」
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/29(月) 04:05:50.41 ID:De3ugYjcO
とりあえずここまで。
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/29(月) 07:21:07.23 ID:qgoqdkSDO
わぁ……何が起きる?

期待乙
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/29(月) 10:28:26.95 ID:0EEWdSPCo

ついにきた
482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/03(土) 12:51:17.27 ID:LCiEfIRm0
勝ったな
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/03(土) 21:26:28.24 ID:kDydBCHT0

まさか公式のエイプリル企画で似たシステムが来るとは思わなんだ
484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/05(月) 02:24:44.82 ID:NfrDCRHmO
冬優子「突然いなくなったからどうしてるんだって思ったけど……無駄な心配だったわね。あーあ、損した!」

P「……心配してくれてありがとう」

冬優子「っ、心配って言ったってちょっとだから……! ほんとに、……ちょっとなんだから」

冬優子「い、忙しくてあんたのことなんて考えてない時間の方が長かったわよ!」

P「ははっ、……はいはい。わかってるよ――」

P(――冬優子が俺のことを本気で心配してくれていたんだってこと)

P「冬優子は……その、怒ってはいるのか?」

P「俺はお前たちを、はづきさんを、社長を、裏切ったんだぞ」

冬優子「ふゆがあんたを怒って、それで何か解決するわけ?」

P「それは……」

冬優子「……いいのよ」

P「!」

冬優子「いいの。あんたが選択したことだしね」

冬優子「いまはこうして、見ててあげるわよ」

P「なんで――」

冬優子「?」

P「――なんで、そんなに優しいんだ?」

冬優子「だーかーらー、……そんなんじゃないわよ、もう」

冬優子「ほんとに、そんなんじゃないの」ボソッ

冬優子「ま、あんたにはわからないだろうけどね」

P「そ、そうか……」

P(そういえば……)

P「冬優子はなんでこんなところにいるんだ? ここはアイドルが来るような場所じゃないと思うんだが」

冬優子「ふゆはまだ学生ってこと、忘れたの?」

P「あ」

冬優子「課題をするのにちょうどいいのよ、ここ。テレビ局と近いし、収録がある時はよく来てるってわけ」

冬優子「それに……まあ、最近はパソコンを使うことが多いから……」

P「?」

冬優子「しゅ、趣味的なやつよ! 聞き流しなせっての」

冬優子「……と、とにかく! そういうわけでここに来る理由ならあるのよ、わかった?」

P「ああ。アイドル以外のこともちゃんとやってるんだな」

冬優子「当然でしょ。ふゆのプロデューサーだったのに、そんなことも知らないの?」

P「いいや、知ってるよ。再確認できて嬉しかっただけだ」

冬優子「そ、そう……?」

冬優子「あんたって、……ふふっ」

P「俺はさ……正直、冬優子に会うのが怖かったんだ」

愛依『……冬優子ちゃんとあさひちゃんにも言ってないんでしょ?』

愛依『冬優子ちゃんなんか絶対怒るだろうし。チョーこわそうだもんね。それにさ、あさひちゃんだって……プロデューサーが違うとこ行っちゃうって聞いたらそりゃ悲しむに決まってんじゃん』

愛依『会うのが怖いだけっしょ? 自分勝手にやって、責められるのが嫌なんでしょ?』

愛依『だから、うまく切り抜けて、時間にカイケツしてもらおうとか思ってたんしょ?』

P「っ」

P「こうしてまた、普通に話せているのがまだ少し信じられないくらいには」
485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/05(月) 02:56:34.40 ID:NfrDCRHmO
冬優子「ふーん、あんたにとってのふゆはそういう感じなんだ」

P「い、いや、怖いだけだなんて思ってないからな!?」

冬優子「そうは言ってないじゃない!」

冬優子「……さっきも言ったでしょ。いい、って。あんたの選択だ、って」

冬優子「裏切ったとか思ってるの、たぶん愛依とあんただけよ」

P「そうなのか……? あ、あさひは?」

冬優子「さあね。“あいつはいつでもあいつ”よ」

冬優子「アレが考えてることなんてわからないわ」

P「……」

冬優子「はぁ……過ぎたことを考えたって仕方がないでしょ」

冬優子「いまできることをやればいいんだから」

冬優子「あんた、ふゆより大人なんだから、もっとしっかりしなさいよね」

P「確かにな……ははっ、大人である俺が学生に言われるのは情けない限りだが、その通りだ」

P「少し気持ちが楽になったよ」

冬優子「らしくないのよ、いまのあんたは」

P「そうかもな。自分を見失っていた」

P「それから、前を向くことも忘れていたんだと思う」

P「ありがとう、冬優子」ニコッ

冬優子「!」

冬優子「れ、礼を言われるほどのことは……してない……わよ」

P「そんなことはない。こうして冬優子に会えていなかったら、俺は虚像に怯えながら前を向くことだってできなかったはずだ」

P「だから、礼を言いたくもなるんだよ」

冬優子「……調子狂うわね。話題を変えさせてもらうんだから」

冬優子「あんた、いまは浅倉透のプロデューサーしてるんだってね」

P「ああ、よく知ってたな。まだ移って日も浅いのに、行った先の事務所だけじゃなくて、担当アイドルまで知ってるなんて」

冬優子「まあね。それに、さっき、あんたとその子がテレビ局で一緒にいるの見えたし」

冬優子「ここに来る前は収録だったの。その帰りにたまたま見たってだけよ」

冬優子「話を戻すけど、その……調子は、どうなのよ」

P「どうって言われても……まあ、普通だぞ?」

冬優子「283プロじゃないところに行って何も変化がないってことはないんじゃないの」

P「変化……あ」

P「秘書がいるよ、今は」

冬優子「ひ、秘書!?」

P「お、おう……」

冬優子「あんた秘書なんて雇ってナニさせてんのよ!」

P「何って……そりゃあ、手伝ってもらってるだけだぞ」

冬優子「手伝いって……! あんなことやこんなことさせてるとか、さ、最ッ低……!」

冬優子「どうせ自分用の部屋とかもらって立派な机と椅子も用意されてるんでしょ!?」

P「よ、よくわかったな……」

冬優子「それで机の中に秘書を潜らせてるとか……」

P「待て待て、冬優子はきっと思い違いをしている。たぶん読んでいる本の内容が偏っているせいだ」

P「仕事の手伝いをしてもらってるんだよ。当たり前だろう」

P「自分から俺の秘書になりたいと言ってきてくれたんだ。ちょうど俺が283プロを去った直後に、な」
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