【シャニマス】P「よし、楽しく……」- Straylight編- 【安価】

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487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/05(月) 03:36:14.53 ID:NfrDCRHmO
とりあえずここまで。

予想以上に忙しくなってしまい、予定よりも進行が遅れています。すみません。

ここでのお話自体は着実に完結へと向かっているので、読み続けてくださるという方はこれからもよろしくです。
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/05(月) 04:48:34.34 ID:e2FicstDO
乙です

やはり冬優子はいい女だ
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/05(月) 06:04:50.03 ID:xW93G43zo
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/06(火) 00:39:45.25 ID:ZP2CzGiEO
>>1です。まずは訂正から。

>> 訂正:

冬優子「しゅ、趣味的なやつよ! 聞き流しなせっての」
→冬優子「しゅ、趣味的なやつよ! 聞き流せっての」

失礼しました。
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/06(火) 01:06:49.21 ID:ZP2CzGiEO
同日。

〜透の所属する事務所 Pの部屋〜

円香「領収書は……確か」

円香 ガチャガチャ

円香 ガラララ

円香「そう、ここ……」

円香 ガサゴソ

円香「……これで全部」

コンコン

円香「? はい」

「失礼します〜」

円香(この声って……)

「あは〜、円香先輩だ〜〜」

円香「……雛菜」

雛菜「うん〜、雛菜だよ〜〜」

円香「……」

円香(思い出すのは、ステージの上の血の色――)

円香「――っ」

円香(平常心……平常心……)

雛菜「あれ〜? 透先輩いないの〜〜?」

円香「あの子ならいない。今日は仕事でプロデューサーとテレビ局に行ってるから」

雛菜「そうなんだ〜。ざんね〜〜ん……」

円香「日を改めれば?」

雛菜「まあ、そうなんだけど……」

雛菜「……雛菜、円香先輩ともお話したいな〜って」

円香「……」

雛菜「だめ〜?」

円香「仕事の邪魔……しないなら、別にいいけど」

雛菜「わかった〜。気をつけるね〜〜」

円香(聞き出すには絶好のチャンス……でも)

円香(突然のことで、どうしていいのかわからない)

円香(ここは適当に相手をして、次に備えてからまた話せばいいかも)

円香 カチャカチャ

雛菜「円香先輩は、アイドル続けないの〜?」

円香「たぶん、続ける」

円香「でも、いまは他にやりたいこと……ううん、やらないといけないこと、あるから」

雛菜「そっか〜」

円香「あんたこそ――雛菜こそ、レッスンとか仕事とかないわけ?」

雛菜「あ〜、それ聞く〜〜?」

円香「?」

雛菜「雛菜、活動休止中だから――」

雛菜「――いまは透先輩の付き人だよ〜」

円香「そう……ていうか、付き人ならこんなとこにいないで、テレビ局にいなきゃ駄目でしょ」
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/06(火) 01:29:52.72 ID:ZP2CzGiEO
雛菜「うん! だからいまはサボりだよ」

円香「呆れた」

雛菜「いまはあのお兄さんがいるし、雛菜がいる必要なんてないんだけどな〜」

円香「どういうこと?」

雛菜「前のプロデューサーも、マネージャーも、透先輩の面倒なんてちゃんと見てなかったから〜」

雛菜「それに比べて、お兄さんなら、ちゃんと、いつでも面倒を見てくれるでしょ〜? 幼馴染だしね〜〜」

円香「……それで、雛菜は働かずにお金をもらう金食い虫をやってるってこと」

雛菜「ひど〜い。まあ、そうだけどね〜〜」

円香(やっぱり、おかしい)

円香(あまりにも出来すぎてる)

円香(あの人がこのプロダクションに来て浅倉透のプロデューサーになれば、雛菜は晴れて本当の意味で自由の身……)

円香(……雛菜に人事を動かせるとは思えないけど、偶然ではない何かがあるような気がしてならない)

円香「なんで活動休止中になったわけ?」

雛菜「言われちゃって〜……お前は態度がなってないから、アイドル休んでしばら透先輩の付き人でもやってろ〜〜だって」

雛菜「しかもアイドルに復帰しても絶対に透先輩と同じユニットにはしてやらない〜とか言われて……こんなのしあわせ〜じゃない〜〜」

円香「……」

円香(それも、どこまでが本当なんだか)

円香「自由になれたなら、好きなとこにいけばいいでしょ。ここに居ても楽しくないと思うけど」

雛菜「別にそんなことないよ〜?」

雛菜「円香先輩と一緒でも、楽しい〜ってなれると思う〜〜」スタスタ

円香「そう? 私たち、そんなに仲良かったっけ」

雛菜「仲良くなればいいと思う〜」スタスタ

円香「え……」

円香(書類の整理をしながらで、雛菜の方をあまり気にしてなかった)

円香(気づけば、雛菜は私の目の前にいて――)

雛菜「円香せんぱ〜い♡」ズイッ

円香(――私は肩に手を置かれて、雛菜の顔が耳元へ近づくのをただ感じていることしかできなかった)

雛菜 スゥ・・・

円香(雛菜が、私の耳元で何かを呟こうとしている気がした)

雛菜「……」

円香「……」

雛菜「……やは」

雛菜「やっぱ、いまはいいや〜」パッ

円香「?」

雛菜「そのうち、また……」ボソッ

円香「雛菜……?」

雛菜「ううん、なんでもない〜」

雛菜「雛菜、そろそろ行くね?」ガチャ

円香「……」

ギィィ

ギィ・・・ピタッ

雛菜「……ごめんね」

ガチャン
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/06(火) 01:34:35.23 ID:ZP2CzGiEO
>>490 訂正:

>> 訂正:
>>484 訂正:


>>491 訂正:

同日。
→同日。数時間前。
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/06(火) 02:04:35.33 ID:ZP2CzGiEO
翌日。

〜透の所属する事務所 Pの部屋〜

P「それで、昨日言ってた「他にも伝えること」っていうのは、何なんだ?」

円香「大した情報かどうかはわかりませんが、それでも、話したほうがいいと思ったので」

円香「雛菜に関することです」

P「! ……そうか」

円香「あの子、いまは活動休止中らしいんです」

P「え!? そうなのか?」

P「俺もあの子について少し社内のデータを調べたことがあるんだが……そんなことは書いてなかったと思うぞ」

円香「雛菜が言うには、上司みたいな……誰かから口頭で通達を出されたみたいで」

円香「どこまで本当かは知りませんが」

円香「それで、いまは浅倉透の付き人ということになっているようですよ」

P「でも、雛菜ちゃんは透の仕事についてきたことなんてないぞ? 俺がいつも透といるんだから、これは間違いない」

円香「それはあなたがここに来てからの話でしょ」

P「あ……」

円香「雛菜は付いてきてないんじゃない。付いていく必要がなくなっただけ」

円香「あなたという、浅倉透の……プロデューサーであり幼馴染である面倒見の良い存在があるおかげで」

円香「あの子はいま、正真正銘、自由の身なんです」

P「……」

円香「まあ、仕事って言われても本人的に楽しくなければやらないって自白してましたし、あなたがこの事務所に入る前もサボっていたかもしれませんが」

円香「とにかく、あの子の行動範囲の広さについては、これで説明がつきました」

円香「私たちが認識した段階では既に……市川雛菜は事実上アイドルではなかった」

P「まさに自由奔放……か」

円香「……」

P「あとは、雛菜ちゃんが事故発生時に現場――もとい舞台装置周辺にいたことを説明できれば……」

円香「少なくとも、雛菜が予選会場にいたことははっきりしています――」

『よいしょ……っと!』ピッ

ガコン ウィーン・・・

円香『……え』

円香《なんで、私たちでも通れないあのゲートを、あいつはゲスト用のIDで開けられるの……?》

円香「――私がこの目で見ているので」

円香「裏方の人のルートで入ったことも」

P「あのルートでもアイドルたちがいる方面へはいけるはず……だから、単なる面会だと言われたらそれまでだ」

P「せめて、舞台に向かったということがはっきりすればなぁ」

P「出場していないアイドル――というか雛菜ちゃんが舞台に行くのはあり得ないことだし」

P「舞台付近にいた関係者に聞き込みをするのは……駄目、だな」

円香「もしそういう人たちが雛菜を見ていれば、すぐに気づいてその場から追い出すはずなので」

円香「そうなっていないということは、たぶん聞き込みは徒労に終わるかと」

P「……これは、参ったな」

P「とはいえ、だいぶ状況と情報は整理されてきただろう」

P「今はとりあえず、着実に前へと進んでいることを喜ぼう」

P(今できることを確実にやって前を向く――俺はやるよ、冬優子)
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/06(火) 02:34:27.27 ID:ZP2CzGiEO
同日。夜。

〜透の所属する事務所 Pの部屋〜

P「……ふぅ」カタカタカタッ

P(今日は残業、か)

P(樋口さんが帰ってから早数時間……この前の透の仕事に関して、仕上げの業務がなかなか終わらないでいた)

P(別に透がやらかしたとかではない。むしろ、普通によくやってくれていた)

P(仕事の量を計れなかった俺のミスだ)

P「まあ、それもあと少しで……」カタカタ


P「……っし、終了!」タンッ

P「ん゛んっ、はぁ」

P(伸びをしてから、一呼吸)

P「あ、そういえば」

P(今日はさっきまでやってた仕事に夢中で、メールの受信ボックスを確認しないで放置してたな)

P「どれどれ……」

P(多くは形式的な連絡や見る必要のないお知らせだが――)

P「……これ」

P(――1つ、しばらく目を離せそうにないものが届いていた)

P「283プロ和泉愛依との共演……見た目とのギャップが視聴者の……」

P「メールの差出人は……はづきさんだ」

P「“283プロの和泉愛依”……か」

P(あれだけ距離の近かったアイドルなのに、その文字列を見ただけで、埋めようのない溝のようなものを感じてしまった)

冬優子『裏切ったとか思ってるの、たぶん愛依とあんただけよ』

冬優子『愛依のことも……できる限りなんとかしてみるから』

冬優子『繰り返しだけど、裏切ったとか思わなくていいから』

P「冬優子……」

P(今できることをやって、前を向く――それはあくまでもスタート地点に立つというだけのことだ)

P(そこから、自らの意志で前に進まなければならない)

P(そうして、はじめて時計の針を自分で進めたことになる……きっと、そういうことなんだろう)

P「……よし、やりますか」

P カタカタ

P(はづきさんへの返信メールの下書きを書く――愛依との仕事を請けるのだ)

P(俺は考えなきゃいけない。冬優子が言ったことの内容を、はづきさんがこの仕事を提案してくれたことの意味を――)

P(――そして、愛依の気持ちを)

P(樋口さんと目指すべき真実がある)

P(でも、忘れちゃいけない)

愛依『それでもさ、……あ〜、こんなこと、下の子たちくらいにしか言わないから言いたくないんだけど――』

愛依『――やっていいことと悪いことってあるんじゃないの?』

P(俺は、まだ愛依に答えられていないし――)

P『め、愛依……!!』

愛依 クルッ

愛依『……っ!』キッ

P(――応えられてもいないんだから)
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/06(火) 02:37:43.12 ID:ZP2CzGiEO
とりあえずここまで。
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/13(火) 11:58:25.03 ID:OmrtrW1uo

ノクチル勢は謎が謎を呼ぶな
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/13(火) 12:33:01.68 ID:PeQPyGEcO
おつおつ
復活よかった……!
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/18(日) 02:48:15.47 ID:dJ31jM6UO
翌日。

〜透の所属する事務所 Pの部屋〜

ガチャ

P「お、来たな」

透「うん。来たよ」

P「メールで送ったやつ……もう確認してくれたか?」

透「……した」

P「そうか」

透「Pの元カノ」

P「っ!?」

透「やっぱ、そうなんだ」

P「いや、俺は――そんなんじゃないんだ」

P(本当に、そんなんじゃないんだ)

P(冗談でもそんなこと……言う資格なんてない)

P「違うからな」

透「まあ、いいけどさ」

透「Pは僕を選んだんだし」

P「……ああ」

P「これも仕事……経験だ」

P「うまくやってくれ」

透「えー、なにそれ」

透「ふふっ……なんか、適当だね」

P「わざわざ煽るとかはしないでくれよ」

透「しないよ。Pが嫌がることは」

P「……」

透「レッスン、行ってくるから」

P「ああ、頑張ってな」

透「うん……」ガチャ

「きゃっ」

透「わっ」

透「あ……秘書の」

円香「……」

透「これからレッスン行くところだから」

円香「そう……」

透 スタスタ

円香「……」

ガチャ

P「……」

円香「……」

P「……ん゛んっ」

円香「何か?」

P「さっきの小さい悲鳴みたいな……」

円香「それ以上聞いたら、ストライキする」
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/18(日) 03:17:46.71 ID:dJ31jM6UO
円香「そういえば、新しい仕事の件ですけど……あれ、請けるんですね」

P「仕事を請けることなんてしょっちゅうだろ?」

円香「そうじゃなくて……283プロの」

P「あ、そういうことか」

P「……うん。自分の過去と向き合わないといけないって思ったんだ」

円香「そうですか。まあ、私とは関係がないようなので、別にいいですが」

P「それが、そうでもないみたいだぞ」

円香「?」

P「透と愛依が共演する仕事なんだが……既に転送したメールにあるように、トークとライブバトルがメインだ」

P「最後には、当日まで非公開だが1日限りでのユニットで歌も披露することになってる」

P「何が言いたいのかというと、この仕事は、ライブができるステージのある舞台でやるんだ」

P「そして、ただの舞台じゃない……使用するのは例の事件があった会場だ」

円香「っ!? ……そんな」

P「実はな、これは本当に限られたごく一部の関係者しか知らなくて、俺も半ば盗み聞きのような形で手に入れた情報なんだが――」

P「――福丸小糸さんの容態が良くなっているらしい。回復の方向だそうだ」

円香「こ、小糸が……!」

P「良かったな、樋口さん。とりあえず、その点については安心して良さそうだ」

円香「小糸に……小糸に会わせてください……!」

P「そうしてあげたいのは山々だけど、この件については一応、部外者ってことになってるんだよ……俺は」

円香「それでも、どうにかできるんじゃないんですか」

P「できるならやっているさ」

円香「優秀なプロデューサーなんでしょ? 秘書としての私の働きぶりに不満があるなら言ってください。何でも。すぐに直すので」

P「樋口さん! ……少し落ち着こう。福丸さんは大丈夫なんだ、とりあえずは。今、何を見るべきで何をすべきか、それを思い出してくれ」

P「事件の原因を明らかにするんだろ? 俺たちはそれを目標に動いていたはずだ」

円香「はぁっ……はぁっ……」

P「大丈夫……大丈夫だ」

円香「……」

P「……」

円香「……本当、あなたの言う通り」

円香「取り乱してすみません。もう、大丈夫です」

P「いいんだ。樋口さんの気持ちは……わかるよ」

P(事件の直前まで、愛依はそのステージにいたんだから)

円香「……話を戻しますね」

円香「では、例の仕事は、あのステージで行われるんですね」

P「ああ。これは確定事項だ」

P「表立ってはそう言われていないが……恐らく被害者である福丸さんの容態が良くなったことが関係しているだろう」

P「また、アイドルの立つ舞台として……あそこが使われるんだ」

円香「不思議……本当に怖いのは、あの会場そのものじゃないのに」

P「……そうだな。まあ、とりあえず俺たちが注目している事件の舞台であることは間違いないんだ」

P「下見と称して堂々と現地調査を行うこともできる」

P「これは、チャンスなんだと思う」

円香「私もそう思います」

円香「まさに、“与えられたチャンス”なのかも……」ボソッ
501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/18(日) 03:42:19.54 ID:dJ31jM6UO
数時間後。

〜レッスンルームの更衣室〜

透「ふぃ〜……」ドサッ

透「……」

透 キョロキョロ

透「誰もいない、か」

透「ふふっ、こんな時間だし、そうかも」

透「こんな時間……Pに迎えに来てもらおうかな」

透「スマホスマホ……」ガサゴソ

透「……と、あった」

ヴーッヴーッ

透「電話……? Pからじゃ、ない」

ピッ

透「……、あー、もしもし?」

「やは〜、透先輩〜〜」

透「なんだ、雛菜か」

雛菜「なんだ、って、ひどくな〜い?」

透「ごめんごめん。そういうんじゃないから」

雛菜「知ってる〜、いいよ〜〜」

透「どうしたの? 急に、電話とか」

雛菜「透先輩の声が聞きたいな〜って思ったから〜〜」

透「ふふっ……なにそれ」

雛菜「ほんとだよ〜?」

透「うん、知ってる。ありがと」

雛菜「ねえ、透先輩……」

透「? なに」

雛菜「“トオル先輩が最後にお兄さんと会ったのはどこだっけ?”」

透「Pと? 事務所の部屋――」


------------------------------------

トオル「ほら、ぼーっとしてないでさ」

トオル「手、出しなよ」

トオル「そういう企画だから」

P「え? ああ……」

P「はい」


トオル「ごめんね、なんか」

P「謝らなくてもいいけど……」

トオル「ばいばい。またね」

P「ああ。また、な」
------------------------------------


透「――っつ」バチッ

透「……握手会」

雛菜「あは〜」
502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/18(日) 04:09:26.63 ID:dJ31jM6UO
透「そっか……そういうこと」

雛菜「うん〜……でも、あんまり時間ないかも〜〜」

透「いるんだ、どうにかしようって人」

雛菜「そうかもね〜。そこまでは雛菜にもよくわからないけど」

透「僕が……」

雛菜「透先輩〜?」

透「ううん。なんでもない」

透「いいんだ。わがまま、聞いてもらったし」

雛菜「……」

透「やろう。今度は、僕の……私の番だけど」

透「で、どうするの」

雛菜「決勝会場で予約されてたとこ、あれってこの前の会場を新しく作っただけの建物だから、ほとんど同じで大丈夫〜」

雛菜「細かい違いとかは後で送るね〜」

透「わかった」

透「……」

透「……また」

雛菜「?」

透「また、……ううん、今度こそ、最初から……がいいなって」

透「それから、Pと2人で……」

雛菜「透先輩、何か言った〜?」

透「別に、ただの独り言」

透「そろそろ切る。Pに連絡しないとだから」

雛菜「わかった〜。またね〜〜」

透「うん。じゃ、また」

ピッ

透「……」

透「てっぺん、いつになったら……」

透「でも、そのうちたどり着けるよね」

透「待ってるよ、P」


同時刻。

〜ステージ(予選) 閉鎖中の舞台付近〜

雛菜「切れちゃった〜」

雛菜「1人でいると〜、……広いな〜〜」

雛菜「んっ」タンッ

雛菜「広〜い舞台を、雛菜が独り占め〜〜」タタッ

雛菜「……なんてね〜」ピタッ

雛菜「独り占めできた舞台でも、見る人がいないとな〜」

雛菜「雛菜、こういうのはやっぱ向いてないかも〜」

雛菜「なんでこうなっちゃったのかな〜」テテテテテ

雛菜「あーあ……」ダンッ

雛菜 シュタッ

雛菜「アイドルに……なりたいな」
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/18(日) 04:12:15.28 ID:dJ31jM6UO
>>1です。復旧したようなので再開しました。引き続きよろしくお願いします。

とりあえずここまで。
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/18(日) 04:14:51.77 ID:6TYjAhtmo

ここの雛菜が初めて素顔を見せた気がする
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/18(日) 04:39:46.23 ID:T4/8W+vDO
双方の思惑はどうクロスするやら……恐いけど楽しみ
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/19(月) 01:18:55.67 ID:nHJ6EIxsO
収録の数日前。

〜ステージ付近(in 元予選会場)〜

P「……」

P(なぜだろう。この前の事件は、結局のところ俺に被害はないのに……)

P「このステージを……いや」

P「この状況を、か」

P(今、自分が置かれている状況――それが俺を落ち着かなくさせている)

P(理由はわからない)

P(前にも、こんなことがあっただろうか?)

P(同じようなセッティングで、周りが危険に晒されるような、そんなことが……)

P「ははっ。パラレルワールドか何かだろ、そんなものは」

P(妄想も甚だしい――)

P「――……」

P(妄想だと、そうやって簡単に脳内から捨て去れれば楽なんだろうと思う)

P(だって――)

P「――デジャヴュにしか感じられないんだよなぁ」

P ドサッ

P「……ふぅ」

P(こうして、ただ観客席から眺めるだけの立場になったら……どうなるんだろうか)

P(久しぶりの目線だ、これは)

P「……」

「プロデューサーさん」

P「!?」バッ

「あ……いまは、Pさん――と呼んだ方がいいのかもしれませんね〜」

P「は、はづきさん……」

はづき「はい、そうですよ〜」

はづき「いまは、私もプロデューサーですから」

P「は、はは……」

はづき「今回のお仕事、よろしくお願いしますね〜」

P「……はづきさん」

はづき「? なんでしょうか」

P「ありがとうございます」

はづき「ふふ、お礼なんて」

P「俺は、283プロを……ストレイライトを……愛依を……裏切った過去と向き合えないでいました」

P「背中に感じつつも、結局は目を向けずに放置していたんです」

P「今ある仕事をやるんだと、無意識下でも自分に言い聞かせながら……」

P「だから、はづきさんがこの仕事を提案してくれたときに、決心できたんです」

P「清算するんだ――と」

はづき「もう、誰かから聞いてるかもしれませんが……」

はづき「Pさんが――いいえ、プロデューサーさんが283プロを裏切っただなんて、誰も思っていませんよ」

はづき「愛依さんだって、きっとそうだと私は思います」

P「ははっ……冬優子に言われました」

P「愛依については……やはり一度、ちゃんと話し合いたいんです」
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/19(月) 01:53:22.49 ID:nHJ6EIxsO
はづき「やっぱり……プロデューサーさんは、優しい方です」

はづき「アイドルのことを一番に考えてる」

P「それは……」

はづき「私、思うんですよね〜」

P「……?」

はづき「プロデューサーさんは、アイドルを守るために私たちのところからいなくなったんじゃないか……と」

はづき「裏切ったことにして、自分が悪者になれば……」

P「……」

はづき「……いいえ、なんでもありません」

はづき「ふふ、そうだ」

はづき「そろそろ愛依さんがここに来ると思いますから〜……その時に、ちゃんと話をしてあげてください」

はづき スタスタ

P「……」

はづき スタスタ

P「……はづきさん!」

はづき ピタ

P「……」

はづき クルッ

P「俺、変わってません!」

P「変わるはずがないんです!!」

P「大切にしたいものは、いつだって……!」

はづき ニコッ

P「……っ!」

はづき ガチャ

P「あの……!」

ギィィ

バタン

P「……」

「あー、やだやだ。大人が叫ぶところって案外ゾッとするもんね」

P「!」

「はづきさんに訴えかけてどうすんの」

P「ふ、冬優子……」

冬優子「はづきさんも出て行ったし、この話し方でいくから」

P「なんで冬優子がここにいるんだ……? この仕事は愛依と透の……」

冬優子「手が焼ける“2人”のためよ」

冬優子「ほーら、いつまで隠れてんの」

「っ……」

冬優子「てか、あんたの図体じゃふゆの後ろに隠れてもバレバレだし」

冬優子「1センチ背が高いだけじゃ壁にはなれないわよ」

「……」

冬優子「このままじゃ、嫌なんでしょ――」

冬優子「――愛依」

愛依「……」ヒョコ
508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/19(月) 02:12:33.51 ID:nHJ6EIxsO
P「愛依……」

愛依「……」

冬優子「はあぁぁぁ……らしくない」

冬優子「ここまで来たんだから、もっとアイツの顔を見なさい……ほら」

愛依「……」

P「……」

愛依「……プロデューサー」

P「あ、ああ……」

愛依「ぅ……うち、その……」

冬優子「あー、もう! 遠いのよ!!」

冬優子「もっと前に行きなさい……!」グググ

愛依「ちょっ! ふ、冬優子ちゃん、強く押しすぎっしょ!!」

冬優子「いいから、無意識にでも目を逸らさないようにするの!」グググ

愛依「わ、わかったって! あんまり押すと……って」グラッ

愛依「わわっ……!?」ヨロッ

P「あ、危ない……!」バッ

愛依「……っと」ピタッ

P「ふぅ……転ぶところだったぞ」

愛依「う、うん……」

P「あ――」

P(――無意識によろけた愛依を支えにいったけど……なんだかすごく近くに……)

冬優子「これでよし、と」

冬優子「じゃ、ふゆは向こうに行ってるから」

冬優子 スタスタ

P「……」

愛依「……」

P「話をしよう、愛依」

愛依「うん」

P「俺が何故283プロを離れたのか――まずはそれから、な」

P「途中、何言ってるんだって思うところがあっても……とりあえず聞いてくれ」

P(それから、俺は透に選択を迫られた日から今日に至るまでの過程をすべて説明した)

P(荒唐無稽に聞こえるような話まで、全部)

P(愛依は……何も言わずに最後まで説明を聞いてくれた)

P「……と、これがすべてだ」

P「長くなったけど、話すべきことは全部言えたと思う」

愛依「そっか……」

P「事実として俺が283プロを裏切った形になったのは間違いない。それでも、俺は――」

愛依「――いい」

P「っ……。そうか……」

P「今更すべてを話せばどうにかなるなんて、甘いよな……」

愛依「え? いや……」

愛依「……良かったって意味だから」

愛依「プロデューサーの“本当”を聞けたの、はじめてかな〜ってさ」
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/19(月) 02:34:56.16 ID:nHJ6EIxsO
愛依「ごめんね、プロデューサー」

愛依「うち、勘違いしてたみたいだわー……。あれから時間も経って、ちょっとは落ち着いて考えられるようになったから」

P「そ、そんな……謝るのはむしろ俺の方だよ」

愛依「そんなことないって」

愛依「うちさー……こんなん自分で言うのちょーハズいけど」

愛依「プロデューサーを取られたって思ってめっちゃむしゃくしゃしてて」

愛依「すぐに目移りするんだって勝手に失望して」

愛依「一緒に過ごした時間がプロデューサーに否定されたみたいで悔しくて」

愛依「気持ちは完全に捨てられた側で……完全に被害者ヅラってのになってた」

愛依「……」

愛依「あの透ちゃんって子に言われてたんだよねー、プロデューサーはうちじゃなくてあの子を選ぶんだって」

愛依「ごめん、もっと早くプロデューサーに相談すればよかった」

愛依「なんか、あの時は、それをプロデューサーに言いたくなくて……それだけ黙ってた」

P「そうだったのか……」


愛依『初対面でいきなりプロデューサーの引き抜きの話してくるとか、ちょっとヤバすぎでしょ』

愛依『プロデューサーから行くなんてあり得ないから諦めてって言っちゃった』

P『ははっ、アイドルのときのキャラの愛依にそれ言われたら、あいつもびびってるかもな』

愛依『え〜? そうかな〜〜』

愛依『――……』

P『愛依?』

愛依『あ、ううん! なんでもない!』


愛依「うん。ごめん」

愛依「たぶん、うちもプロデューサーも……ちょっと自分で抱え込みすぎたんだと思うわ」

愛依「黙ってるのは思いやりにならないんだって……そう思う」

P「ああ。同感だ」

愛依「でも……あははっ」

P「め、愛依?」

愛依「嬉しかった」

愛依「さっき、全部話してくれたっしょ? なんか、よくわかんない話もいっぱいあったけど」

愛依「これだけは、間違いなくわかったんだよね」

愛依「プロデューサーは、うちを守ろうとしてくれたんだって」

愛依「ううん。いまでも、プロデューサーはうちのために……うち以外にも、たぶんいろんな人のために……戦ってるんだなって」

P「そう思って……くれるのか」

愛依「プロデューサーが一生懸命伝えようとしてくれたこと、ちゃんとうちは受け取れてるかな?」

P「ああ……ああ!」

P(俺の選択が間違えていたのかどうかはわからない)

P(そもそも、あの時の選択に正しさも間違いもないんだと思う)

P(ただ……“愛依が俺の選択を受け入れてくれたことは間違いない”んだ)

愛依「ちょっと〜、プロデューサー……泣きそうじゃん?」

P「グスッ……い、いいじゃないか、こういうときくらい」

愛依「あははっ、なにそれ。開き直ってるし」

愛依「……懐かしいわ。こういうの」
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/19(月) 03:03:39.54 ID:nHJ6EIxsO
愛依「“プロデューサーがプロデューサーだったとき”と同じっつーの?」

P「ははっ、まだ、あの時と同じじゃないぞ」

愛依「?」

P「喧嘩したら仲直り……だ」

P「これは下の子たちに言わないのか?」

愛依「も〜……それ、うちがプロデューサーに言ったやつに対する嫌味っしょ〜〜」

愛依「でも、まあ……そうだね」

愛依「小さい子たちにできて、うちらができないんじゃ、シメシがつかないってもんだわ」

P「ああ。それじゃ――」

P「――せーの、でいくか?」

愛依「うん。そうする」

P・愛依「せーの……」

……ごめんなさい。

愛依「これで元通り――じゃ、ないか」

P「そうだな。もう変わったこともある」

愛依「そっか……」

P「……そして、変わらないことが確かにある」

P「俺はプロデューサーだ。アイドルの、プロデューサー……変わらないことだ」

P「かつてストレイライトを担当し、現在は浅倉透を担当している……これは変わったこと」

P「そして、俺は一度担当したアイドルのことはいつだって気にかけている……変わるわけがない」

P「愛依も、冬優子も、あさひも……そして透も、代わりのない大切な存在なんだ」

P「変わらないし、代わりはない」

愛依「うちも、プロデューサーがそういう人だって……いまは知ってる」

愛依「いまは、それでいいって思う」

愛依「そうあって欲しいとも思うかも」

P「ははっ……そうか」

P「それはそれとして、プロデュース業にだってもちろん本気で取り組むからな」

P「油断してると、283プロのストレイライトに追いつけないほどのところにまで行ってるかもしれないぞ?」

愛依「言うね〜負けてらんないわ!」

P「透のオーラ、知らないわけじゃないだろうからな。競う際には十分対策を練るように」

愛依「あっはは! プロデューサー、どっちの味方なん〜?」

P「ははっ――」

P(「――俺は、両方の味方だよ」)

P(そのことは、口に出して言わなかった)

P(わざわざ言うのが野暮だと思えるくらい、いまの俺と愛依はお互いを信用しているから)

P(笑い合いながらも、愛依の笑顔に安心する俺がいる)

P(同時に、今日は多くのものを、そして大きなものを、取り返せたんだと確信する)

P(アイドルの笑顔で取り戻した安寧の存在を確かなものにするのは、あるいはプロデューサーらしいのかもしれなかった)


冬優子「……仲直り、できたみたいね」クルッ

冬優子「まさに、雨降って地固まる――か」ボソッ

冬優子「でもね、あんたには……まだまだ忘れてることがあるんだから」

冬優子 スタスタ
511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/19(月) 03:05:44.24 ID:nHJ6EIxsO
とりあえずここまで。
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/19(月) 04:10:05.49 ID:NhKIaefNo

あさひはどうしてるんだろうね
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/19(月) 11:47:38.87 ID:MO2YG0pjo
まったくフォーカスされんから怖いわ>あさひ
ちょちょでも追い掛けてるだけだと願う

おつ
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/20(火) 21:30:43.16 ID:MenvA/ZQO
P(それからしばらくして、レッスン後に直接タクシーでやってきた透が到着し、キャストが揃ったところでオフィシャルではないが打ち合わせを兼ねた練習をすることになった)

P(主に現場のスタッフの人が対応してくれているから、実際に俺が携わること、やらなければならないことはあまりない)

P(だから……自由に“現場”を動き回れる今がチャンスだ)


〜ステージ(予選) 舞台装置周辺〜

円香「……」

P「はぁっ、はぁ……っ。す、すまん、待たせたな」

円香「息、上がりすぎ」

P「普段人が行き来する通路とかじゃないから、お、思ったよりもここに来るのが大変で……はぁっ」

円香「まあ、いいですけど」

円香「……」

P「どうしたんだ?」

円香「どの装置も新品同様……」

P「あんなことがあった後だからな。現場検証とか色々あった後に、全部取り替えたんだろう」

P「……ここで雛菜ちゃんが――と思うか?」

円香「あの子ならできるんだと思います。やろうと思えば要領良くできる――昔からそういう子だから」

P「そうなのか……」

P「しかし目的が見えてこないな。なんで雛菜ちゃんがそんなことを」

円香「そんなの、知る由も無いでしょう」

円香「言ったはずです。私が知りたいのは理由ではなく原因だと」

円香「手を下した人間がわかれば……それで」

P「……この辺、監視カメラもないよなぁ」

円香「比較的古い場所だからというのと、それから、決勝会場がここのリメイクのような存在でこっちは放置されていたというのが考えられます」

P「証拠……証拠が見つからないものか……」

円香「……」

P「……」

円香「……1つ」

円香「1つ、考えていることがあります」

円香「次の仕事――浅倉透と和泉愛依がここで行う収録の日に、ここにいようと思うんです」

円香「次も何かある……確信はないですが」

P「雛菜ちゃんか……あるいは別の鍵となる誰かがここに来るってことか?」

円香「試してみる価値はあると思うので」

円香「というか、いまの私たちには迷う理由がない」

円香「ただでさえ不条理な状況にあるのに……できることをすべてやっていないままなのは、絶望するには早い気がします」

P「ここ、関係者以外立ち入り禁止になるぞ? いくら樋口さんが俺の秘書だからって」

円香「は?」

P「な、なんだよ」

円香「忍び込むしかないでしょう」

P「簡単に言ってくれるな……」

円香「できることは全部やる――何度も言わせないでください」

P「……わかったよ。止める理由はない」

P「俺もできる限りのことはしよう」

P(結局、当日になってみないとわからない……か)
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/20(火) 22:24:53.77 ID:MenvA/ZQO
数時間後。

〜元予選会場 ロビー〜

樋口円香<消化できていない学校の課題が多いので帰ります。

P「ははっ……そうだよな。樋口さんだって高校生だ」

P(あれから、樋口さんは1人で見て回りたいというので、舞台装置の辺りで別れて、俺はここ――ロビーで1人仕事をしていた)

P(そしてついさっき、樋口さんから帰宅する旨のメッセージが届いたというわけだ)

P「そういえば、もう終わる頃だよな……」

P(……愛依もここを通って買えるのだろうか)

P(なんとなく、次に愛依と会ったときに何を話せば良いのかを考えてしまい、けれどもそれは結局のところよくわからない――というような思考回路で袋小路になっている自分がいる)

P「仲直りの直後って……変な気まずさがあるよなぁ」

P(早く透と合流して帰ってしまいたい……そう思うのは俺の弱さだな)

P(人は、逃げようとする自分から逃げることはできないのかもしれない)

P「……あ」

P「透」

透「終わったよ。思ったより時間かかったけど」

透「待たせちゃった?」

P「気にするな。まあ、俺もここで仕事しながらだったしさ」

透「そっか」

透「そうだ……283プロのギャルっぽい人から伝言、あるから」

P「伝言?」

透「いまは目の前にいるアイドルのことを見てあげて、って」

P「……そうか」

P「うん。わかったよ」

透「これって、僕のことかな」

P「ははっ、そうだな」

透「Pの……アイドル。……ねえ、プロデューサー」

P「おう、なんだ?」

透「やっぱり、慣れないや――」

透「――プロデューサー、って呼ぶの」

P「幼馴染だとしても、透と俺が……アイドルとプロデューサーとして過ごしてからはまだ日も浅いしな」

透「あー……そういうのとは、ちょっと違うけど」

P「?」

透「ううん。なんでもない」

透「帰ろう、P――プロデューサー」

透「283プロの人たちは、もう帰っちゃったしさ」

P「そうだったのか。それなら、俺たちも帰るとするか」

P「荷物をまとめるから、ちょっと待っててくれ」

P ガサゴソ

透「プロデューサーは……」

透「僕のことも、守ってくれるの?」

P「? ……当たり前だろ。自分のアイドルを守らないわけがない。幼馴染なら尚更そうだ」

透「……それならいい。聞けただけで満足だから」

透「ありがと」
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/20(火) 22:56:57.14 ID:MenvA/ZQO
収録当日。

〜元予選会場 浅倉透の楽屋〜

透「あれ、2人ともどっか行くの?」

P「あ、ああ……別の仕事でな。少しだけ席を外すよ」

円香「私は……まあ、秘書だから」

透「ふうん」

P ダラダラ

P(後ろめたい時特有の嫌な汗が出るな……まあ、樋口さんを舞台装置の方に忍び込ませる手伝いをするわけだし、それはそう、なんだが)

P「一応、ここには後で戻ってくるつもりだぞ」

透「それ、ぼk……私が行くまでに間に合わないじゃん、たぶん」

透「仕事の前だしさ、2人で話したかったんだけど」

P「そういう柄だったか?」

透 ムスッ

P「……わ、わかったって」

P チラ

円香「はぁ……」

円香「先に行っておくので。ここから、って決めた場所――そこで合流」

円香「それでいいですよね」

P「ああ……そうしよう」

円香 ガチャ

ギィィ

バタン

P「……」

透「……」

P「……その、話したいことって?」

透「あー、あれ。嘘だから」

P「嘘って……」

透「いいじゃん。アイドルのわがままだと思ってよ」

P「わがままって、どうしたいんだよ」

透「Pと一緒に過ごしたい、かな」

P「……そうか」

P「しかし急だな。仕事が終わった後にだっていくらでも――」

透「あるじゃん。そういうときって」

P「――ははっ、透も緊張してるってことか」

透「まあ、そんなとこ」

透「……」

透「なんかさ、スポーツだとコーチの言葉とかあるじゃん、こういう時」

P(……ああ……)

P「応援してる。それだけだ」

透「……ふふっ。それ、ファンの人みたいだね」

P(よかった……笑顔になった)

透「なんか言って。言ってほしい、プロデューサー」

P「(……透──)」
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/21(水) 00:28:16.04 ID:zORcpPkSO
P「ひとりじゃないぞ。俺も一緒だ」

透「……ふふっ。やばい、刺さる、それ」

P(よかった。安心してくれたかな)

透「……」

P「……」

透「……――」

透「『――あたしの言うことなんて関係ないってわけね』」

P(これは――)

P「『関係は大いにあるさ。君がいなきゃ、そもそもこんな面倒に巻き込まれてない』」

P「前に、透が見てた映画……だったか?」

P(――セリフは驚くほどすらすら出てきた。その映画を透が見ていたのがいつなのかなんて、そっちは思い出せないのに)

透「そ」

透「『君が止めなければ行かない理由はない』」

P「ははっ、掛け合いじゃなかったのかよ」

透「両方言っちゃった。まあ、いいじゃん」

透「この辺のセリフが、今はいいかなって」

P「?」

透「大丈夫。きっと、いつかは……さ」

透「行けると思うから……てっぺん。プロデューサーと一緒に、ね」

P「お、おう? そのつもりだぞ」

透「何度でも頑張るから」

透「……あ」

透「そろそろ時間だわ」

透「行くね、プロデューサー」

透「ううん……P」

P「いってらっしゃい。大丈夫だ、透なら」

透「うん、わかった」

透 ガチャ

透「ばいばい、プロデューサー」

ギィィ

バタン

P「……」

P(何故か、透とのやり取りに違和感を覚えている……気のせいだろうか)

P(いつもとは違う……何か)

ヴーッ

P「……あ」

樋口円香<遅すぎ。

P「そうだった。……って、言うようになったなぁ、樋口さんも」

P「よし、……行かないと」

P(同じことが繰り返されてしまうかもしれない)

P(もし、この前と同様の事件が起きれば……きっと被害者は透か愛依だろう)

P(2人とも、俺のアイドルだ)

P(なんとしても……)
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/21(水) 00:48:24.16 ID:zORcpPkSO
〜舞台裏付近〜

P「……」

ゴロゴロ

P「……ふぅ」

ゴロゴロ

「お疲れ様ですー」

P「あ、はい。お疲れ様です」

ゴロゴロ

P(ここを曲がるんだっけか……)

ガコンッ

P「やばい……!」

P(段差が引っかかってしまった)

ドンッ

P「す、すまん……」


数分前。

〜関係者専用通路〜

円香「ベタですね」

P「これしか思いつかなかったんだ……!」

円香「キャスター付きケースに入れて運ぶだなんて」

P「……すまない」

円香「別にいいですけど。これだけのサイズであれば、私でもなんとか入れそうですし」

円香「じゃあ、お願いしますね」


数分後(戻った)。

〜舞台裏付近〜

P(よし、ここまで来れば……)

P カチャカチャ

P「着いたぞ」

円香「っ……はぁ。……いままでの人生の中でもっとも乗り心地の悪いドライブでした」

P「も、申し訳ない……」

円香「で、ここから……」

P「ああ。あとは渡した経路を進んでいけばいい。今はこの前と違って暗いからな。気をつけてくれ」

円香「はい。わかっていますので」

円香「いってきます」

P「ああ、いってらっしゃい」

円香「……いいんですか。もっと強く送り出さなくて」

円香「ここから先は、何が起こるかわからない。本当に、不条理……。これで最後になるかもしれない」

P「……」

P「……ま、これで最後じゃないからさ。気楽に行けばいいよ、ここまで来たら」

円香「――何それ」

円香「最低」

P(樋口さんは笑顔でそう言って、進んでいった)

P「……ははっ。なんだか、今日は見送ってばかりだな」
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/21(水) 01:26:16.13 ID:zORcpPkSO
〜舞台袖〜

P(あとは、ここから見守るのが俺の仕事だな)

トントン

P「え――」クルッ

プニ

P「――あ。……やられた」

P(よくあるやつだ)

P「はづきさん……」

はづき「ふふっ。すみません〜」

はづき「283プロでプロデューサーをされていたとき以来ですから……Pさんのこういう姿を見るのは」

はづき「つい、ちょっかいを出したくなってしまいました〜」

P「ははっ、出したくなったって、出してるじゃないですか」

P「……落ち着かないんです」

P「もしかしたら、今までで一番かもしれない」

P「自分がプロデュースしていたアイドル」

P「自分がプロデュースしているアイドル」

P「両方を舞台袖から見守る自分……」

P「……まあ、他にも色々あるんですが」

はづき「P――プロデューサーさん」

はづき「誇ってください。胸を張って、先を見据えていてください」

はづき「あの子たちは、プロデューサーさんのおかげで輝けているんです」

はづき「きっと、彼女たちはプロデューサーさんのことを尊敬しています」

はづき「それは……プロデューサーさんが望む未来に必要なことですよ〜」

はづき「もちろん、アイドルたちが目指すこれからにも」

P「……ははっ、すみません。励まして……くれているんですよね」

はづき「〜?」

P「あ、いえ……」

はづき「謝らなくていいので〜、……では、まあ感謝でもしてもらえれば〜なんて」

P「そうですね。感謝よりも謝罪が先に出てしまう――こういうのは悪い癖、ですね」

P「ありがとうございます、はづきさん」

はづき「いえいえ〜」

はづき「たぶん……正しいか間違ってるかじゃないんです」

はづき「大切なのは、プロデューサーさんが選んだ道であるということ」

はづき「道は、未来に続いていきますからね〜」

P「深い話、ですね」

はづき「捉え方に依りますよ〜」

はづき「……あ。すみません〜、別件があるので、私はこれで」

P「お疲れ様です。では、また」

はづき「はい、お疲れ様です〜」

はづき フリフリ

スタスタ

P「道、未来……」

P(……選択)
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/21(水) 02:06:55.04 ID:zORcpPkSO
本番開始直前。

〜舞台装置周辺〜

円香「……」

円香「ふぅ……」

円香(驚くほど、静か)

円香「……でも、全然落ち着かない」

円香(そわそわする感じ……)

円香「……嵐の前の、なんとやら」

円香「……」

円香(特に理由もなく、装置を撫でる)

円香「あれ」

パラッ

円香(紙切れ……?)

円香「何か書いてある? ……暗くて見えない」

円香 ポチポチ

円香(スマホのライトで照らせば……)

パッ

円香「……!」





  う
 し
   ろ
  に
 い
   る
     よ





円香 クルッ

雛 「あ 〜」
 菜  は

円香「っ!?」ビクゥッ

円香 バッ

円香(瞬間、交代――もとい、後ずさり)

円香(振り返って、すぐ目の前に雛菜の顔――)

円香「――いつの間に」

雛菜「さあ、いつでしょ〜」

円香「やっぱり……」

円香「……来ると思ってた」

雛菜「そっか〜。まあ、そうだよね〜〜」

円香「でも、安心」

雛菜「?」

円香「これで、あんたに躊躇する必要なくなるから」

雛菜「円香先輩〜……なんか怖いよ〜〜?」

円香「そう? 気のせいじゃない?」
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/21(水) 02:27:03.03 ID:zORcpPkSO
雛菜「ねえ、円香先輩」

円香「なに?」

雛菜「帰ってくれると〜、嬉しいかも〜〜」

円香「はぁ……」

円香「もう、雛菜の好きにはさせない」

円香「これ以上は、絶対に」

雛菜「やは〜、それは困るかも〜〜」

雛菜「でも……そっか〜」

雛菜「こういうの、はじめてかも」ボソッ

円香「?」

雛菜「ううん。なんでもない〜」

円香「それで、雛菜はここでどうするつもり?」

雛菜「それは〜……この前と同じ、かな」

円香「そう」

雛菜「うん!」

円香「じゃ、いい――」

円香(こんなのは、終わりにする)

円香「――もう話すこと、ないから」


同時刻。

〜病院 病室(個室)〜

ピッ・・・ピッ・・・

小糸「スゥ……スゥ……」

ピッ・・・ピッ・・・

小糸「スゥ……んんっ」

ピッ・・・ピッ・・・

小糸 パチリ

小糸「……」

小糸 ムクリ

小糸「……」

小糸 キョロキョロ

小糸「生きてる……」

小糸「……」

小糸 バサッ

小糸「……誰もいない」

小糸「何してるんだろ、わたし……」


同時刻。

〜元予選会場 舞台袖〜

P「本番まであと数分、か」

P(これまでもやってきたような仕事の1つなのに、初めて臨むような感覚があるのは……何故だろう)

P(いや、これは……正確には未知との遭遇といった方が良いのかもしれない)

P(何かが起きる。起きてしまう)

P(そんな気がしてならないから)
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/21(水) 02:44:40.44 ID:zORcpPkSO
〜舞台装置周辺〜

円香「ぐっ……」

円香 バタン

円香「……痛」

雛菜「やは〜円香先輩らしくない〜〜。雛菜、こういうのはやなんだけど〜」

雛菜「叩かれるほうもそうだけど……叩くほうだって痛いんだもん」

円香「雛菜が痛い……?」

円香「はっ……ふふっ」

雛菜「〜?」

円香「小糸が食らったのは、この何倍も、何十倍も、……何百倍も――」

円香 グイッ

雛菜「わっ!?」ヨロッ

円香(――油断した隙に、足を引っ掛けて――)

雛菜 ドテッ

雛菜「……いたた」

円香 バッ

円香「――っ!!!」ギュゥゥゥゥゥ

雛菜「〜〜〜〜〜!?!?!?」

円香(――馬乗りで首を絞める)

雛菜 ジタバタ

円香「ねえ、雛菜は何を知ってるの」

円香「雛菜の、小糸の、浅倉透の……そして――」

円香「――私の周りで、あり得ないことが起きてるのは、なんで」パッ

雛菜「ぷはぁっ……! はぁっ、はぁっ……それは」

雛菜「……あは。雛菜の首から手離してくれたら、教えてあげるよ〜」

円香「そう……じゃあ」

円香 ギュゥ

雛菜「!?」

円香「たぶん、あんたに聞いても全部はわからない」ギュゥゥゥ

円香「だからいいの。これ、私の独り言だと思って」ギュゥゥゥ

円香(ああ……私も大概――狂ってる)

雛菜 ジタバタ

円香(なんでこんなことしてるのかも、もうわかってない)

円香(それでも……そんな中でもわかる――)

円香「――この世界は、おかしい」ギュゥゥゥ

円香(もう、知らない)

円香(何もかも)


小糸『えへへっ、……円香(マドカ)ちゃん!』ニコッ


円香(小糸との記憶だけが……いまの私が動く理由)

雛菜 ガクッ

円香 パッ

円香「はぁっ……はぁっ……」ダラン
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/21(水) 03:13:27.68 ID:zORcpPkSO
本番開始から数分後。

〜舞台袖〜

P「……」

P(とりあえず、順調だな)

P(樋口さん……どうしてるかな)

P ポチポチ

P(あれから、特に連絡はないが)

P「もし、雛菜ちゃんが来てたなら……」

P(……樋口さんはどうするつもりなんだろう)


同時刻。

〜舞台装置周辺〜

円香「……」

円香(終わった。本当に、何もかも)

円香「……」クルッ・・・ササッ

円香(倒れて動かない雛菜に背を向けて、スマホをいじる)

円香「連絡……」

円香 ポチポチ

----------------------------------------------------------------------------------------
OS Version 2.8.3.2018424
[AUTOMATIC OPERATION]

>This prototype of a player is out of action.
>…………
>…………
>…………
>Recovering now.
>…………
>…………
>…………
>AUTOMATIC CONTROL: OFF->ON.
>Now Loading...
----------------------------------------------------------------------------------------

雛菜 ビクッ

円香「あの人に伝えないと……」ポチポチ

ヴーッ

円香(……通知?)

雛菜 ムクッ

円香「こ、小糸!?」

円香(小糸からメッセージが来るなんて。もしかして、目が覚めた……?)

円香(あの人への連絡を送り終えたら、メッセージを見よう)ポチポチ

雛菜 キョロキョロ

円香「内容は……これで――」

「やは〜」

円香「――……」クルッ

円香(ああ……)

円香(まだ、あの人への連絡も……)

グチャ

円香(……小糸のメッセージの内容を見るのも、できてないのに)

円香「何してるんだか、もう……」バタッ
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/21(水) 03:40:58.35 ID:zORcpPkSO
〜舞台袖〜

P「……」

ヴーッ

P(通知……樋口さんか?)ポチ

P「……いや、違うな。これは」


『FROM:---------------------------------------------
件名 :ごめんなさい。
本文 :もう、何事もなく終えることはできなくなった 』


P「どういうことだ……?」

P(そもそもこのメールは誰から送られてきているんだろう)

ヴーッ


『FROM :-----------------------------
 件名 :予選と同じ。
 本文 :(本文はありません)    』


P「!!!」



〜舞台装置付近〜

雛菜 カチャカチャ

雛菜 ギイッ

雛菜「グスッ……」ポチポチ

雛菜「……またこんなことしてる〜」カタカタ

雛菜「雛菜、もう知ってるよ〜……これは雛菜のしあわせ〜じゃない……」ガチャッ

雛菜「本当は〜、もっと〜〜……」スッ

雛菜「……でも、やはー……身体が勝手に動いちゃうからー」ギッッ

雛菜「……」

雛菜「……」ポロポロ

雛菜「オートマティックコントロールが始まって……わかった〜。たぶん、システムの方の情報が一緒に流れてきたから〜〜」ポロポロ

雛菜「……ふうん。そういうこと、だったのか〜」ポロポロ

雛菜「……」

雛菜「あは〜、円香先輩の言う通りだ〜〜」グスッ

雛菜「おかしいね、この世界」

雛菜 スタスタ

雛菜「雛菜、またこれ押そうとしてる……」

雛菜 グググ・・・

雛菜「……やだ」グッ

雛菜「だめ。お願いだから〜、動かないで、雛菜の身体」グググ・・・

雛菜「これ押しちゃうと、また……」グググ・・・

雛菜 グググ・・・

雛菜「だめ……」グググ・・・


「――プロデューサー」ニコッ


雛菜「……あ」スンッ

ポチッ
525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/21(水) 04:02:35.18 ID:zORcpPkSO
〜収録現場〜

ダァンッ

愛依「え!? なになに!?!?」

ザワザワ

透「……」

愛依「ねえ、透ちゃん。なんかヤバい音しなかった?」

透「……」

愛依「……透ちゃん?」

透「今度は……僕が」

透「ごめんね、プロデューサー」

シュルルル

透「……何度でも、やり直せるなら」

透「そのときには、Pと2人でてっぺn……」

P「どけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」ダダダダダ

透「……え?」

愛依「ぷ、プロd……」

P「あ゛あっ!」ドンッ

透「わっ」ヨロッ

愛依「うわぁっ!?」ドタッ

P「……ああ」

P(頭を上げて前を見ると、巨大な何かが横に来ているのがわかった)

P「これで……」

ガンッ

ドサッ

ゴロロロ・・・

P「――……」

ザワザワ

透「……嘘」

愛依「き――」


愛依「――キャアアアァァアアァァァアァアァアァァアァァ!!!!!」


「おい、何してる! 救急車を呼ぶんだ!!」

「また……同じことが。どうして……」

ザワザワ

透「P……」ソッ

------------------------------------------------------------------------------------------------------------
OS Version 2.8.3.2018424
[AUTOMATIC OPERATION]

>There is no need for the idol of the prototype player anymore. It's completely played a role in the system.
>…………
>…………
>…………
>It is automatically shut down.
>Now Loading...
------------------------------------------------------------------------------------------------------------

透「あ……」スンッ

透 バタッ
526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/21(水) 04:22:24.61 ID:zORcpPkSO
〜収録現場付近〜

愛依「グスッ……ヒグッ……」ガクガク

はづき「ちゃんと息を吸って吐きましょー……」

愛依「はぁっ……うっ……」

はづき「……」

愛依「……?」ムクッ

はづき「? 急に前を見て……どうしたんですか〜?」

愛依「誰かが歩いてる……」

はづき「え、ええ。まあ、ここには人がたくさんいますから」

愛依「そういうことじゃなくて、あそこ……ひっ!」

愛依「ち、血まみれ……!」

円香「……っ」ズルッズルッ


P「」

透「」

ズル・・・ズル・・・

円香「っ……はぁ」

円香 ドサリ

円香「……あなたは、ここに来たんですね」

円香「浅倉透は無傷……あなたが助けたんでしょうね、きっと」

円香「……」

円香「雛菜、来ましたよ」

円香「おかげで私はこの有様です。ひどいでしょう」

円香「このままじゃ、きっともうアイドルなんてできない」

円香「でも、たぶん……」

円香「……私たちの見ている世界は、ここまで」

円香「結局、私には何もわかりませんでしたが――そんな気がするんです」

円香「踊らされただけ……本当、惨め」

円香「だから、そう。もう、いい」

円香「あとは、終わりを待つだけで」

円香「これ以上は、何も」

P「」

円香「それにしても、あなたという人は」

円香「引くほど、アイドルのために動く」

円香「本当、ドン引き」

円香「……」

円香「それが、良いと思える……そんな日が私にも来るんでしょうか」

円香「私のことだから、たぶん最初はあなたのやり方にイヤイヤ付き合ってて」

円香「それでも最後は……最後には笑いかけているのかも」

円香「長い間ではなかったけど、それでも一緒に過ごす中で、私はあなたという人のことが……」

円香「ねえ、聞いてます? ……聞こえてなくても、聞いて」

円香「いつか、鬱陶しいくらいの情熱を私にも向けて……」

円香「……ミスター・ヒーロー」ガクッ
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/21(水) 04:41:43.58 ID:zORcpPkSO
〜病院 病室(個室)〜

ピッ・・・ピッ・・・

小糸「スゥ……スゥ……」

ピッ・・・ピッ・・・

小糸「スゥ……んんっ」

ピッ・・・ピッ・・・

小糸 パチリ

小糸「あれ、わたし……また寝ちゃってた……」

ナデナデ

小糸「……?」

「やは〜、小糸ちゃん……目、覚めたね〜〜」ナデナデ

小糸「誰?」

「いいの〜、気にしないで欲しいな〜〜」

小糸「気にしないでって……気にするよ」

小糸「そんなにボロボロなんだもん」

雛ナ「も〜〜、見ないでってば〜〜〜」

ヒなナ「オートを外すのにこんなになっちゃったんだから〜」

小糸「で、でも……」

ヒナ菜「いいから〜……小糸ちゃんは、もうちょっと寝てて〜〜」

小糸「そ……それでいいのかな……」

ひナな「うん。いま起きてても、なんにもしあわせ〜じゃないからね〜〜」

小糸「……わかった」

小糸「おやすみなさい。誰だか知らない人……」

髮幄除「……」

髮幄除「あは〜、誰だか知らない人か〜〜……」

髮幄除「雛菜は、そうかもね――」

髮幄除「――最初から、最後まで」

バチッ

■■「次は……やっぱり、アイドルに〜……」

プツンッ

■■「……」ガクッ


-------------------------------------------------------------------------------------------------------

透「やっぱさ」

透「いろいろ変だよね」

透「私と一緒のユニットになりたい、とか」

透「それに、いつも一緒にいてくれるけど、割とそれだけだし」

透「付き人って言われるわ、そりゃ」

透「……ね、プロデューサー」

雛菜「え〜、雛菜……そんなに変〜〜?」

透「うん。だいぶ変。プロデューサーなのにめっちゃ若いし」

雛菜「やは〜。それ、たぶんこっちの都合だと思う〜〜」

雛菜「雛菜の役割は、そうだから〜」
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/21(水) 05:11:19.87 ID:zORcpPkSO
雛菜「本当の“プロデューサー”は別にいるけど……」

雛菜「……雛菜たちは主役じゃなくてその人を試すための脇役だから〜」

雛菜「それ以外だと、何してていいはずなんだけどね〜」

雛菜「プロデューサーだとできることも多いけど〜、プロデューサーじゃなくなったらもっと雛菜の自由時間が増えるのにな〜〜……」ボソッ

透「?」

雛菜「ううん、なんでもない〜」

雛菜「しあわせ〜って何だろうって話〜〜」

透「ウケる。よくわかんなかったけど、それは全然違う気がする」

雛菜「〜♪」

雛菜「あ、そうだ。雛菜のことは、友だちだと思って“雛菜”って呼んでいいよ〜〜」

透「……雛菜」

透「プロデューサー、って呼ぶのも割りと慣れてきたけど」

透「雛菜こそ、透“先輩”……だなんて」

雛菜「透先輩は透先輩だもん!」

透「ふふっ、なにそれ」

透「まあ、高校じゃ先輩かもだけどさ。あと、雛菜は書類上はアイドルってことらしいし、それでも」

雛菜「そんなとこ〜。アイドルの方は勝手に休んだことにしてるけどね〜〜」

透「……」

雛菜「……」

雛菜「……ねえ、透先輩」

透「?」

雛菜「しあわせ〜って、なんだと思う〜〜?」

透「えー……」

透「わからん」

雛菜「つまんない〜」

透「わかっちゃうほうがつまんないかもよ」

雛菜「?」

透「だからさ、しあわせが」

雛菜「……」


トオル『わかっちゃうほうがつまんないかも、しあわせって』


雛菜「やっぱりそっか〜……」

雛菜「しあわせって、探したほうがいいのかも〜〜」

雛菜「……透先輩。例えば、ね」


雛菜「自分のアイドルがしあわせ〜ってなったら、それはプロデューサーにとってもしあわせ〜なことだよね〜〜?」


透「それは、うん。そうでしょ」

雛菜「あは〜、そうだよね〜〜」

雛菜「じゃあ、とりあえずそんな感じで――」

雛菜「――雛菜は雛菜のしあわせのために頑張ってみる〜」

-------------------------------------------------------------------------------------------------------


END of √W.
529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/21(水) 05:13:44.58 ID:zORcpPkSO
とりあえずここまで。
530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/21(水) 06:12:07.18 ID:/klViLQDO
乙うわぁ……でも一歩進めたってことかな
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/21(水) 07:34:26.71 ID:NYxBTlX0o
おつおつ
スン……あー、あー?
取り敢えず雛菜にはごめんなさいしないと…
532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/21(水) 14:24:32.95 ID:cc1ZwoO6O
和泉愛依のエンディングにたどり着きました。
豬??蛾?上?譛帙?繧ィ繝ウ繝?ぅ繝ウ繧ー縺ッ謌仙ーア縺励∪縺帙s縺ァ縺励◆縲

>AUTOMATIC OPERATIONからのレポートを読み込み中。
>……。
>読み込み完了。
>バグへの対処。正常に機能。
>問題ありません。

冒頭に戻ります。
533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/21(水) 14:26:40.66 ID:cc1ZwoO6O
P(人の才能を見抜く――だなんて、簡単なことじゃない)

P(世の中に天才は一定数いるけど、それでも圧倒的な天才だらけじゃないから)

P(天才にもいろいろいる。天才なのに知名度が低いなんてまったくもって珍しいことじゃないんだ)

P(才能に貴賎はないが、才能ごとの中では貴賎はある)

P(アイドルで言えば、そう……歌、ダンス、演技、見た目――なんでもいい。放っておいても人をひきつける圧倒的な天才……)

P(そんなものをお目にかかれる機会なんて巡ってくるのだろうか……俺は、そう思っていた)

P(けど、思ったよりも早く――)


「よっ……ほっ……っと」


P(それは、偶然か、必然か)


「――ここは……こう?――」


P「!」

「――っと……うん、決まった!」

P「君、ちょっといいかな?」

「? わたしっすか?」

P「ああ、さっきのダンスって――」


P(――一瞬で“それ”だと確信できる存在に、俺は出会ったんだ)
534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/21(水) 14:35:37.05 ID:cc1ZwoO6O
〜事務所〜

P「おはようございます」

あさひ「あ。……プロデューサーさん」

P「お、あさひか。どうした?」

あさひ「これ、見てくださいっす」

P「これって……石、だよな」

あさひ「ただの石じゃないっすよ」

P「どんな石なんだ……?」

あさひ「それは……」

愛依「おっ、あさひちゃんじゃ〜ん。なになに? また何か持ってきたの?」

あさひ「これっす」

愛依「石……? しかもわりとでかめの」

あさひ「……」

あさひ「これ、冬優子ちゃんにそっくりなんすよ」

愛依「ぶふっ!」

あさひ「……愛依ちゃんきたないっすよ。いきなり噴き出してどうしたんすか?」

愛依「い、いや……だって……」プルプル

あさひ「プロデューサーさんはどうっすかね。この石、冬優子ちゃんに似てるっすか?」

P「ど、どうなんだろうな……」

あさひ「あはは……みんなわかんないんすかねー」

あさひ「この辺の輪郭とか、そっくりだと思うっす!」

P「ただのゴツい岩の一部にしか……」

愛依「あっはっはっはっは!! ひーっ、ちょーウケる……」ククク...

あさひ「……」

P「……なあ、あさひ。一つ聞きたいんだが」

あさひ「?」

P「それ、冬優子には言ってないよな?」

あさひ「もちろん――」

P ホッ

あさひ「――また、最初に伝えたっすよ」

あさひ「……」

P「……」

あさひ「今朝早起きして走ってたら河川敷の近くで見つけたんす。だから、ゲットしてすぐ報告したっす」

愛依「あー……。ねえ、プロデューサー?」

P「なんだ?」

愛依「今日のうちらの予定って、どうなってたっけ?」

P「午後からレッスン。現地集合も可」

愛依「あはは…………やば」

あさひ「……」

P「ま、まあ……今日も頑張ろう」

あさひ「……そうっすね」

P「?」

P(元気ないのか? あさひ……)
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/21(水) 14:46:19.57 ID:cc1ZwoO6O
夕方。

P カタカタ

P「ふぅ……」

P(そろそろ、あいつらが戻ってくる頃か)

P(というか、冬優子怒ってるだろうな……)

P(ちゃんと仲直りしててくれよ)

あさひ「ただいまっす」

愛依「たっだいま〜」

冬優子「あー、ほんっとに疲れたわ……」

P「おかえり、3人とも」

あさひ「……」

P(あさひ……何かあったのか? 冬優子に怒られたんだろうか)

あさひ「……あ、プロデューサーさん」

あさひ「クワガタのこと、話したっすけど……冬優子ちゃんには怒られてないっすよ」

冬優子「何言ってんのとは思ったけどね。あんた、なんか元気ないじゃない。そんなやつ怒ったって、悪い気がするだけよ」

愛依「とか言って〜、最初から怒るつもりもなかったんじゃないの〜?」

愛依「冬優子ちゃん優しいし」

冬優子「そんなんじゃないわよ」

冬優子「……思い出したらイライラしてきたわね」

P「ま、まあ、あさひも悪気があったわけじゃないんだろうし、な?」

冬優子「それが余計にタチわるいっての」

冬優子「まあいいわ。ちょっと休ませて」ボフッ

あさひ「冬優子ちゃん、となりに座るっすよ」

あさひ ボフッ

冬優子「ちょっ……! 暑いからあっちいきなさいよ、ほら、しっしっ」

あさひ「……っ」ショボン

冬優子「……」

冬優子「……嘘よ。ちょっとくらいなら、いいわ」

あさひ「冬優子ちゃんの隣、ゲットっす」ダキ

冬優子「抱きつくことまでは許可してないわよ! ちょっとって言ったじゃない! ……もう」

あさひ「……」ニコ

愛依「いいねいいね〜、見てて微笑ましいわ」

P「なんだかんだで仲良いんだよな」

愛依「ね。うち、あの子たちとアイドルできてよかった」

愛依「さーってと、うちも混ぜてもらお〜」

冬優子「ちょっ! あんたまでなに抱きついてんのよ!」

P(3人とも笑顔だ。このユニットにしてよかった)

P(あさひは天才で、冬優子と愛依は決してそうではない。けど、それは2人があさひの引き立て役という意味なんかじゃなくて……)

P(裏表のないあさひと、2面性のある冬優子と愛依――)

P(――強い光と濃い影が、綺麗なグラデーションを成して魅力的なものになっているんだ)

冬優子「……ったく、暑いわねもうっ!」

冬優子「プロデューサー! もっとクーラー効かせて!」

P「ははっ、はいよ」ピッ
536 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/21(水) 15:23:15.86 ID:cc1ZwoO6O
P カタカタ

あさひ「……」ジーッ

冬優子「……」

あさひ「……」ジーッ

冬優子「……なによ」

あさひ「わたしのほう、見てほしいっす」

冬優子「もう……なに――って顔近っ!」

あさひ「……」ジーッ

冬優子「な、なんなのよ……」

冬優子「綺麗な顔してんだから見つめられたらやばいっての……」ボソッ

あさひ「冬優子ちゃんの髪の毛のここを――こうすると」

あさひ「あはは……やっぱり」

あさひ「ほら、やっぱりクワガタみたいっすよ」

冬優子「……」

P(……)

あさひ「アゴの長さ的にはメスのクワガタっす」

あさひ「……あ、冬優子ちゃんがしゃくれてるって意味じゃないっすよ?」

冬優子「はぁ、今度は何を言い出すのかと思えば」

冬優子「わかってるわよ……」

愛依「なになに? なんか面白いこと思いついちゃった系? あさひちゃん」

あさひ「そうなんすよ」

あさひ「ほら、冬優子ちゃんクワガタっす」

冬優子「もうどうでもよくなってきた……」

愛依「じゃあうちは……」

P(愛依が後ろ髪を前に……?)

愛依「ヘラクレスオオカブトじゃー!」グワァーッ

あさひ「あははっ……やっぱすごいっす」

あさひ「これでバトルできるっすよ、冬優子ちゃん」

冬優子「あー、はいはい。よかったわねー」

愛依「ねね、うちにしては結構グッドアイデアだったくない?」

あさひ「うーん……」

あさひ「色合い的には、サタンオオカブトのほうが近いっすね」スンッ

愛依「サタ……?」

愛依「そ、そうなんだ……あさひちゃんものしり〜」

冬優子「愛依……あんたもよく付き合ってられるわね」

愛依「下の子たちの面倒見てるからさー、うちも楽しいし」

冬優子「ふーん、そういうもんかしら」

あさひ「……」
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/21(水) 15:40:34.85 ID:cc1ZwoO6O
P「ははっ、お前ら仲良しだな」

あさひ「……そうっすかね」

P「え……?」

あさひ「いや、なんでもないっす」

あさひ「プロデューサーさんも見るっすか? 冬優子ちゃんクワガタ」

P「ここからでも見えてたよ。立派なアゴだよな」

冬優子「あんたまでノッってんじゃないわよ!」

あさひ「冬優子ちゃんとクワガタ……」

P「どうしたんだ? あさひ」

あさひ「……」

冬優子「最高に嫌な予感しかしないわね」

あさひ「幼虫」ボソッ

冬優子「……」

愛依「なになに? どしたん?」

あさひ「この前、愛依ちゃんと冬優子ちゃんに見せた幼虫っす」

愛依「あー……」

冬優子「はぁ……」

あさひ「あはは……」

あさひ「もう成長したと思うんで、今度持ってくるっす」

冬優子「持ってこなくていいわよ!」

あさひ「えー……なんでっすかー?」

冬優子「なんでって、あんたね……」

冬優子「……こっちがなんでって言いたいわよ」

あさひ「冬優子ちゃんと冬優子ちゃんのバトルが見られると思ったんすけどねー……」

冬優子「あんた、「この幼虫、冬優子ちゃんみたいっす」とか言ってたけど、ふゆとおんなじ名前つけてんじゃないでしょうね……」

あさひ「いいじゃないっすか。……可愛いんすよ?」

冬優子「はぁ……」

冬優子「そういう問題じゃないっての」

愛依「五十歩? 譲っても、もう成長したなら幼虫じゃないっしょ〜」

冬優子「愛依、もう五十歩とおつむが足りてないわよ。出直してきなさい」

愛依「あちゃ〜、二千五百歩譲るんだったっけ!」

冬優子「なんでかけちゃったのよ……てか計算速いし」

あさひ「冬優子ちゃん、おむつの話なんかしてどうしたんすか? あ……っ!」

冬優子「あさひちゃんっ、ま・さ・か、のあとには何を言うつもりなのかな〜?」

あさひ「冬優子ちゃんはおもらs――むぐっ」

P「おむつじゃなくておつむだぞ、あさひ」

あさひ「むーっ……プロデューサーさんにほっぺをむぎゅっとされたっす」

P「ほら、もう暗くなってくるから、3人とも帰ったほうがいいぞ」

あさひ「プロデューサーさんは帰らないんすか?」

P「まだ仕事が残ってるからな」

愛依「プロデューサーも大変だよねー……マジで感謝しかないわ」

P「いいのいいの、プロデューサーってのはそういう仕事なんだよ」

P「よし、今日のストレイライトは解散だっ」
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/21(水) 15:43:10.90 ID:cc1ZwoO6O
一旦ここまで。
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/21(水) 17:42:33.01 ID:/klViLQDO


ついにスタートしたか……あさひ編


ただ、まだこれだけでは終わらないだろうな
540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/21(水) 19:10:50.93 ID:Uj3O3Rwwo

一体何にとらわれているのか
541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/21(水) 19:47:55.03 ID:NYxBTlX0o
"�??��?��?望�?エン�?��ングは成就しませんでした�"

愛依ちゃんグランド√期待してもええんですね……!
おつおつ
542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/27(火) 22:19:39.73 ID:paJogb6UO
>>1です。どうやら復旧したようですね。

ひとまず、このお話はここで完結させられるならそうしたいと思います。そこから先の予定はまだ決めていませんが。

忙しいので、次の投下まではもう少しかかると思いますが、よろしくお願いします。
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/27(火) 22:22:58.48 ID:paJogb6UO
>>1です。

一応、移行することも考えてはいます。いまは忙しさもあって様子を見ているところです。
544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/27(火) 22:32:04.01 ID:ceYSOEDUo
おかえりなさい!
まってますー!
545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/27(火) 22:44:34.21 ID:sKWcZvm8o
ウーッス
546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/30(金) 01:03:01.67 ID:Wo0FQcS2O
〜仕事帰り 車内〜

P「今日のラジオ、あさひらしく場を盛り上げられたじゃないか。よかったぞ」

あさひ「あ、そうなんすか? そういうのはよくわかんないっす」

あさひ「わたしは、ただわたしが思ったことを答えたり話したりしただけっすよ」

P「……そうか」

P「まあ、それがあさひだよな」

P(信号待ちになり、バックミラー越しにあさひを見る)

あさひ「……」

P(やはり……いつもより元気がない気がする。それも、今日だけではなく、ここ最近はずっと)

P(何かあったのだろうか)

P(こういう時、“あさひに対しては”どう対応するのが良いんだ?)

P(まだまだ、俺はあさひのことを知らない)

P(向き合えば向き合うほど、そう思えるのだ)

あさひ「プロデューサーさん」

P「なんだ?」

あさひ「長期休暇って、どうやったら取れるんすかね」

P「……え?」

あさひ「信号、青になってるっす」

P「あ、ああ……」

ブロロロ・・・

P(長期休暇――確かに、そう言ったよな)

P(何故……)

P「……どうして、そんなことが気になるんだ?」

あさひ「え? 決まってるっす」

あさひ「長期休暇を取りたいからっすよ」

P「あ、そういうことではなくてだな」

あさひ「?」

P「聞き方を変えるぞ。なんで長期休暇を取りたいんだ?」

P「ようは、休みたいってことだよな」

P「体調でも悪いのか? 仕事やレッスンで嫌なことでもあったとか」

あさひ「そういうんじゃないんすよね」

P「学校か? それとも、ご家族の中で――」

あさひ「学校も家族も関係ないっす!!」

P「――っ!?!?」

あさひ「あ……ごめんなさいっす」

P「いや、こっちこそすまない……根掘り葉掘り聞くのは良くないよな……」

P「ただ、俺もあさひのプロデューサーだからさ。あさひの力になれるなら、事情は知りたいんだよ」

あさひ「プロデューサーさん……」

P(そう……まだまだ、俺はあさひのことを知らない)

あさひ「プロデューサーさんの気持ちは嬉しいっす。けど、だめなんすよ」

あさひ「事情は言えないっす」

P「そうか……」

P(俺にできることは……何だろう)
547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/30(金) 01:35:22.49 ID:Wo0FQcS2O
P「とりあえず、事務所に帰ったら社長とはづきさんに相談してみるよ」

P「その時には、あさひも一緒にいてくれ。話せる限りの説明はしないと却下されるだけだろうしさ」

P「必ず希望が通る保証はないってことだけ覚えておいてくれ。あさひは……ストレイライトは283プロに欠かせない存在だからさ」

P「事務所も、ファンも……みんな、あさひたちが必要なんだ」

あさひ「プロデューサーさんも、わたしが必要っすか?」ズイッ

P「あ、あさひ……運転中だから……車内とはいえ身を乗り出したら危ないって」

あさひ「どうなんすか?」

P「もちろん必要だよ。必要に決まってる」

あさひ「なんでなんすか?」

P「なんでって……あさひは俺がプロデュースする大切なアイドルだから……」

あさひ「プロデュース……アイドル……」

P「あさひ?」

あさひ「……仕事」

P「ど、どうしたんだ?」

あさひ スンッ

P「しかし、仕事か……あさひが休んでる間、冬優子と愛依にどんな仕事を持ってくるかなぁ」

あさひ「なに言ってるんすか?」

P「?」

あさひ「プロデューサーさんも休むんすよ」

P「お、おい……?」

あさひ「だーかーらー、プロデューサーさんと2人で休むっす」

P「さっきはそんなこと言ってなかったじゃないか」

あさひ「そうっす。いま初めて言ったっす」

あさひ「さっき、なんで休みたいんだって聞いたっすよね」

P「あ、ああ……」

あさひ「事情は言えないっす……けど――」

あさひ「――あ、休みたい理由なら言えるっす」

P「理由?」

あさひ「わたし、プロデューサーさんと修行がしたいっす!」

P「しゅ、修行って……」

P「それなら、ストレイライトの3人でやるのが筋ってもんじゃないのか?」

あさひ「そうなんすか?」

あさひ ズイッ

P「わっ……あさひ、近いって」

P(身を乗り出しすぎて、運転している俺の頭の近くにあさひの顔がある)

P(あさひの吐息が俺の耳に触れる――そのくらいの距離だ)

あさひ「プロデューサーさんの言う筋って、なんなんすかね?」

P「え――」

P(――俺は、無意識に自分の“当たり前”をあさひに押し付けていることに気づく)

あさひ「プロデューサーさん……?」

P「わ、わかったから……! 耳元で囁くのはやめてくれ」

あさひ「はいっす」スッ

P「……はぁ。……シートベルト、ちゃんと締めるんだぞ」
548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/30(金) 02:03:24.74 ID:Wo0FQcS2O
1時間後。

〜事務所〜

P「……嘘だろ」ハァ

P(まさか、1ヶ月限定とは言え休暇の申請が通るなんて)

P(しかも、あさひだけでなく、俺も……)

P(俺がいない間のプロデュース業ははづきさんが代行してくれるらしいが……)

P(こんなこと、あり得るのか?)

あさひ「〜♪」

P(あさひは――上機嫌だな)

あさひ「プロデューサーさん?」ズイッ

P「うわっ!? お、驚かさないでくれ……」

あさひ「!? ご、ごめんなさい……」シュン

P「あ、いや……別に怒ったわけじゃないんだ。これからどうしようかって、考えてたんだよ」

P「なあ、あさひ。修行って、具体的には何をするんだ?」

P(そう、休暇って名目だから、何をするのかはまだ誰も聞かされていない――直接関係あるのは俺だけだが)

あさひ「そうっすね……」

あさひ「まずは花火っす!」

P「は、花火?」

あさひ「いま、花火大会がやってるはずなんすよ」

P「どれどれ……」カタカタ

P「……本当だ。てか、ここってさっき帰りに車で通ったところだな」

P(ちょうど、あさひが長期休暇について聞いてきた頃だろうか)

P(花火大会があれば浴衣姿の人たちとかが見えて気づきそうなもんだが……たぶん、あさひの話に気を取られていたから……)

あさひ「手で持つ花火もやりたいっす」

あさひ「他にも面白い花火があれば見つけたいんすよ」

あさひ「不思議があるかも……」

P(それは遊んでるだけだろ――とは言わないし言えない)

P(あさひの考えを俺の価値観で曲げるのは良くないんだ)

P(決め付けが一番悪影響を与えそうだからな、あさひの場合には)

P「じゃあ、とりあえず明日はその花火大会に行ってみようか」

P「手持ち花火も、すぐ買えるから手に入れよう」

P「変な花火は……調べてみるか」

あさひ「ネットで見つかるっすかね?」

P「ああ、便利な時代だからな」

P「危ないやつじゃなきゃ、買ってあげるよ」

P「花火以外にやってみたいことは?」

あさひ「星を見たいっす!」

P「屋上で今すぐにでも見れそうだが……」

あさひ「それもいいんすけど……天文台とか!」

あさひ「昼でも星は見れるらしいんすよ」

P「あー、なんか聞いたことあるな、そういう話……」

P(なんだか、こんな楽しそうなあさひは久しぶりに見た気がした)

P(そう、本当に久々のような……。そんなはずはないのに)
549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/30(金) 02:05:16.60 ID:Wo0FQcS2O
とりあえずここまで。
550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/30(金) 02:15:43.22 ID:LtBRDoyBo
おつおつ
何周目かな?
551 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/30(金) 09:47:23.64 ID:yafmILHWo

あさかわ
552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/02(日) 00:56:29.66 ID:rmkjkOgvO
翌日、夕方。

〜花火大会開催地〜

P「……ちょっと早く着き過ぎたな」

P(つい仕事モードの時間感覚で動いてしまったが……プライベートとなると若干やり過ぎになるのかもしれない)

P「あさひは……どのくらいに着くかな」

P(道草食って大遅刻とか……あるいはそもそも来ないとか)

P(いや、楽しみしてた――はずだ――し、来ないってことはないか?)

P「……」

P(あさひからの連絡はない。もっとも、まだ待ち合わせの時刻にはなっていないのだから、当然といえば当然だ)

P「俺は、何をそわそわしてるんだろうな」

P(成人男性と中学生の女の子が花火大会――良く捉えて俺は保護者、といったところか……)

P(でも、一方で、あさひが来るのを心待ちにしている俺がいる)

P(俺だって楽しみじゃなきゃ、そわそわなんてしないんだから)

P「ははっ、なんだよそれは……」

P(一人で色々考えて、勝手に気恥ずかしくなる)

P「……」

P(道が、混んできた)

P(あさひは、俺を見つけることができるだろうか)

「あ!」

P(やはり駅の出口まで迎えに行ったほうが……いやしかしすれ違ってしまうかも……)

「プロ――ューサ――ん!」

P(ふと、前を見れば――)

「あははっ」

P(――銀髪碧眼の、よく知る少女が1人。服装は……浴衣だ)

P「あ、あさひ……!」

あさひ「いまそっちにいくっすよー!」タタタ

P「人が多いから、走ったら危ない……ぞ」

P(ところが、あさひは……まるではじめから道が見えていたかのように止まることなく人波を掻い潜ってやってきた)

P(よく見れば下駄を履いているというのに、それでも)

あさひ「到着、っす!」

P「人ごみの中を難なく通って来たな……」

あさひ「人の流れがあったっすよ。よく見たら、それが変わらなかったんで、そこからうまく進んでいけば避けられるって思ったっす」

あさひ「なんていうか、こう……道が見えたっす」

P「はは……そうなのか。こりゃすごいな」

P(昔読んだアメフトの漫画を思い出すな)

あさひ「こういうの、はじめてじゃないっすから」

P「? そうか」

あさひ「あ、なんでもないっす!」

P「それにしても、あさひ……その浴衣……」

あさひ「あ、これっすか? 冬優子ちゃんに手伝ってもらったんすよ」

P「そう、だったのか」

P(冬優子が……)
553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/02(日) 01:30:00.88 ID:rmkjkOgvO
あさひ「どうっすかね?」

P「よく似合ってるよ」

あさひ「うーん……」

P「……あさひ?」

あさひ「プロデューサーさん」

P「なんだ?」

あさひ「カワイイっすかね」

あさひ「わたし、この浴衣着てて」

あさひ「それが気になって、どうっすかって聞いたんすけど」

P「ああ……もちろん、可愛いよ」

あさひ「……そうっすか」

あさひ「あははっ、それならいいっす!」ニコッ

P(最初からもう少し気の利いたことを言ってやればよかったのかもな……)

あさひ「冬優子ちゃんに言われたんすよ」

あさひ「カワイイって言ってもらえるって」

あさひ「だから気になったっす」

P「あ、……ははっ、そういうことだったのか」

P「すまんな、はじめからそう言ってやれなくて。でも、見蕩れていたんだよ」

P「可愛いのはもちろん、綺麗とさえ思った」

P「言葉を失ってたんだ、たぶん」

P「そうだよな……ちゃんと言葉に出せば、伝わるよな」

P(もしかして、冬優子はこうなるってわかってて……?)

あさひ「綺麗……っすか」

あさひ「……」

P「あ、あさひ……?」

P(今度は急に俯いて……俺、また何か……?)

P「大丈夫か?」

P(あさひの表情が気になって、姿勢を低くして顔を覗こうとした――)

あさひ プイッ

P(――が、顔を背けられてしまう)

あさひ「だめっす」

P「駄目……なのか?」

あさひ「はいっす。だめ、っすよ」

P「何が駄目なんだ? すまないが教えてくれ……」

あさひ「わたしの顔を見るのっす」

あさひ「その……綺麗とか言われるのは、想定外、っすから」

あさひ「いまのわたしの顔、たぶん、変な顔で、変な色してるっす」

あさひ「だから、プロデューサーさんに見られたくないんすよ」

あさひ「……」

P(と、言いながらも、あさひは上目遣いでこちらの表情を逆に伺ってくる)

あさひ「その……」

あさひ「……」

あさひ「……恥ずかしいんすよ」
554 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/02(日) 01:44:20.06 ID:rmkjkOgvO
1時間後。

P「すごい人だな……良いスポットはどこも」

あさひ「……」

P「少し妥協したほうがいいのかもしれないな」

あさひ「プロデューサーさん。花火ってどこから打ちあがるっすかね?」

P「え?」

あさひ「それがわかれば……」

P「おいおい――」

P(――いや、ここはあさひのやりたいように――)

P「――そうだな、調べてみるよ」

P「ちょっと待っててくれ」


P「わかった。ここらしいぞ」

P「ほら、これ……その画面にある地図でピンが刺さってるところがそうだ」

あさひ「……」

P(これは、あさひの修行なんだ)

P(あさひのやりたいようにやらせてみよう)

あさひ「わかったっす」

あさひ「こっちっす〜。行くっすよ、プロデューサーさん」

P「ははっ、置いて行かれないように気をつけるよ」

P「案内よろしくな」


あさひ「ここなら綺麗に見えるはずっす!」

P「そうなのか……」

P(俺とあさひしかいないが)

P「……お、もう花火が上がる頃だな」

あさひ「楽しみ〜」

P「……」

あさひ「……」

ドォーン

あさひ「おおっ!?」

ドォーン

バチバチバチバチ

ヒュールルル

ドォォォン

P「こりゃ……驚いたな」

あさひ「いろんな形に、いろんな色……すごいっすね! プロデューサーさん!」

P「ああ、すごいよ――」

P(――雑誌やネットで見るどのスポットよりも綺麗に見えるじゃないか、ここ)

P「綺麗だよな、花火」

あさひ「わたし、なんであんな色になるのかが気になってたっす」

P「え? ああ、それは――」

あさひ「――炎色反応」

あさひ「前に気になって人に聞いたことがあったっす。だから、もう知ってるっすよ」
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/02(日) 01:49:57.56 ID:cTt+k9cUo
少なくとも3周以上しているあさひか
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/02(日) 02:00:43.25 ID:rmkjkOgvO
P「はは、そうか。あさひは勉強熱心だな」

あさひ「別にそういうわけじゃ……ないっすけど」

あさひ「……でも、そうっすね」

あさひ「そういうのって、ちゃんと本を読んだほうがいいって言われたんすよ。聞いたときに」

P「それは……間違いないな」

あさひ「だから、今度一緒に図書館とか本屋さんに行って欲しいっす」

P「俺がか?」

あさひ「他に誰がいるんすか?」

P「……いや、うん。そうだな」

P「行こうか、一緒にさ」

あさひ「約束っすよ?」

P「あさひがいい子にしてたらな」

あさひ「いい子にしてるだけでいいんすか?」

P「なんだって?」

あさひ「いい子にしてても、プロデューサーさんが忘れてたら意味ないっす」

あさひ「それに、よく考えると……いい子ってなんなんすかね?」

P「わ、わかった。わかったよ」

P「この1ヶ月の間に行こう」

あさひ「絶対、っすね?」

P「ああ、絶対、だ」

あさひ「……」

あさひ「……あははっ、やったっすー!」

P ホッ

P(あさひがここまで約束にこだわるなんてな……)

P(人との約束で嫌なことでもあったんだろうか)

ヒューゥゥゥ

ドドォンッ

あさひ「……」

P「……」

ヒュルルルル

ドドドォッ パラパラパラ...

あさひ「花火って、寂しいっす」

あさひ「打ち上げられる瞬間とか、自分がどんなに綺麗な花火だって知ってても、飛ばされたら最後……っすから」

あさひ「……」

あさひ「でも、それも悪くないんすよ」

P「そうなのか」

あさひ「……そうっす」

あさひ「そうやって、教えてくれた人がいたから」

あさひ「わたしが、花火が綺麗だった瞬間を覚えてるから……それでいいっす!」

あさひ「どんなに短い時間の出来事でも、覚えてくれてる人がいれば、それで」

P「そうか……今日のことが、あさひにとっていい思い出になると良いな」

あさひ「もちろん、いい思い出っす!」

あさひ「これなら、上書きしてもいいって思えるっすよ、プロデューサーさん」ボソッ
557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/02(日) 02:12:04.21 ID:rmkjkOgvO
翌日の夕方。

〜いつもの河川敷〜

あさひ「あははっ、2日連続の花火っす〜」

P「昨日はオーディエンス、今日はパフォーマー……なんてな」

P(もう暗い時間帯だし、花火をするには良い状況だろう)

あさひ「プロデューサーさん、早くやるっすよ〜!」

P「ああ。ちょっと待ってな。いまチャッカマン出すから」

あさひ「これ、わたしの選んだ花火っす」

P「ほら、もうちょっと花火出してくれ」

あさひ「はいっす」

P「よっ……」

ボッ ジジジ・・・

あさひ「うーん、なかなか始まんn――」

ボシュゥゥゥ

あさひ「――おおっ!!」

あさひ「あはははっ、やっぱびっくりしたっす……!」

P「こういうので油断すると驚かされるときってあるよな」

あさひ「はいっ、プロデューサーさんも一緒にやるっすよ」

P「え? 俺もか?」

あさひ「やらないんすか?」

P(はしゃいで、楽しそうにしているあさひを見るだけで満足してた……とは言いづらい)

P「……やる」

あさひ「わたしの花火の火、使っていいっすよ。はいっ」

P「ありがとう、あさひ」

ジジジ・・・

P「……」

ボッ! シュゥゥゥ

P(手持ち花火なんて、いつぶりだろう)

P(学生のときだろうか。少なくとも、社会人になってからは、やっていないと思う)

P(でも、それは単なる歴史的事実というか……)

P(……最近やったような気がするのは何故だろう)

P(まあ、気のせいだと思うが)

P(夢でも見たんだろう、きっと)

あさひ「わあっ! プロデューサーさんもおんなじ花火っす〜〜」

P「ああ、色と形が同じでお揃いだな」

あさひ「あははっ」

シュゥ

あさひ「……あ、終わっちゃった」

P「まだまだたくさんあるぞ。やるか?」

あさひ「はいっす! プロデューサーさんが買ってくれた花火の色と形……全部知りたいっすから」

P「わかった。じゃあ、一緒に見ていこうな」

あさひ「ワクワクっす〜。楽しみ〜」

P「じゃあ、次はこの違うデザインのやつを……」
558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/02(日) 02:18:30.53 ID:rmkjkOgvO
シュゥッ

あさひ「あ……」

あさひ「……」シュン

P「ど、どうしたんだ? あさひ」

あさひ「……終わっちゃった、っす」

あさひ「……」

P「あさひ……」

あさひ「プロデューサーさんと、もっと色んな花火を見てみたいんすけどね」

P「花火、好きなのか?」

あさひ「どうなんすかね。それはよくわかんないっす」

あさひ「花火が好きかはわかんないっすけど……」

あさひ「プロデューサーさんと見る花火は、楽しくて、もっとやりたいんすよ」

あさひ「けど、それも最後だったっすかね……」

P「この王道の綺麗な花火セットは、な……。でも、ほら、これ」

あさひ「?」

P「線香花火ってやつだ」

P「さっきまでのやつみたいな派手な花火じゃないが、風情があって、なかなかどうして良いものだと思うぞ」

あさひ「プロデューサーさん……」

あさひ「あははっ、そうだったっす」

あさひ「プロデューサーさんはそういうことするっす!」

P「……?」

P「よくわからんが……これも俺と一緒にやろう」

P「はい、まずは1本どうぞ」

あさひ「ありがとっす!」

P「じゃ、火をつけるからな」

あさひ「これ……見守るんすよね」

P「ああ、そうだ。線香花火だからな」

ジュジュジュジュジュ・・・

あさひ「わっ、なんかバチバチなってきた……!」

P「そう。でも、おとなしいんだ、こいつは」

あさひ「やっぱり、さっきやった花火とはまるで別物っす」

パチッ・・・パチパチッ

あさひ「あ、はじけた……」

P「たぶん、しばらくは何回かそうなるよ」

バチバチバチバチバチ

あさひ「あははっ、元気っすね!」

P「この、徐々に……控えめだけどしっかりはじけていって、ほど良い力強さで形をなすのが好きなんだ」

P「派手な見た目ではないけど、でも、人の心を動かす何かを持ってるんじゃないかって思えて……」

あさひ「プロデューサーさん」

P「どうした?」

あさひ「この花火、温かいっすね」

あさひ「優しい花火っす」

P「そうだな……癒してくれる花火だよ」
559 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/02(日) 02:33:13.81 ID:rmkjkOgvO
あさひ「わからないっす」

P「……え?」

あさひ「癒されるって、どんな感じなのか、全然言葉にならないんすよ。だから、わからないっす」

あさひ「でも……わからなくていいのかもしれないっすね」

あさひ「いま、わたしは確かに癒されてるんだなって思えるっすから」

あさひ「癒されてるって、温かい、っすよね……?」

あさひ「プロデューサーさんは、線香花火を見て温かくなるっすか?」

P「ああ。俺も、たぶん、あさひと同じことを感じてる」

P「現象としての熱じゃない、心に響く温かみを」

あさひ「……」

P「……」

あさひ「……」ニコ

あさひ「プロデューサーさんっ!」

P「どうした? あさひ」

あさひ「これ、実際に手で触ったら、きっと温かいっすよね」

P「台無しだよ。そりゃ激熱だろうよ。絶対にやるなよ」

あさひ「あははっ、冗談っす!」

P(あのあさひが冗談を言った……だと……!?)

ジジジ・・・ポトッ

あさひ「あ、終わっちゃった」

あさひ「まだ、あるっすか? 線香花火」

P「ああ。あと3、4本はあるぞ」

あさひ「! やりたいっす!」

P「ははっ、そうか。……そうだな。よし、俺もやるよ」


あさひ「……これで全部おわり、っす」

P「なんだかんだ買った花火を全部使っちゃったんだな……」

P「まあ、でも……」

P(仕事しないで、あさひと2人……こうして河川敷で花火に興じる時間は……)

P「ははっ、なんだよ、めちゃくちゃ楽しいじゃねぇか」

あさひ「わたしも、今日は楽しかったっす」

あさひ「ありがとうっす、プロデューサーさん」

P「俺の方こそ、お礼を言わせて欲しい」

P「ありがとう、あさひ」ナデナデ

P(あさひが長期休暇がどうとか言い出したから、俺は今こうしてここにいるわけだし)

あさひ「わわっ、プロデューサーさん、頭……」

P「あっ、すまん、つい……」

P(女の子の頭なのに……撫でて嫌がられるだろうか?)

あさひ「むー」

あさひ「これも想定外っすよー」プイッ

P「あさひー……?」

あさひ「だめ、っす。いまのわたしの顔を見ちゃ、だめ、っすよ」

あさひ「でも……悪くはないっす」ボソッ
560 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/02(日) 02:34:26.35 ID:rmkjkOgvO
とりあえずここまで。
561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/02(日) 02:37:13.06 ID:WFQ3kfUoo
おつおつ
あさひの全挙手投足が不穏の塊に見える見える
イッチウマイナァ
562 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/02(日) 02:49:14.75 ID:cTt+k9cUo
おつっす
563 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/02(日) 02:57:32.49 ID:hXIpAPgDO
上書きって……
564 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/02(日) 03:04:16.54 ID:cTt+k9cUo
このスレ上書きで検索するといいっすよ
565 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/08(土) 02:16:53.75 ID:ALUr9uJBO
翌日。

〜某天文台〜

P「昼でも星は見れる……か」

P(太陽があるうちは、地上から星を見ることはない。ならば――)

P(――昼間に星は存在しないのではないか、という話)

P(観測しているものがすべてならそういうことも言えてしまう……という論理は、まあ、わからんでもない)

P(見えているものが、果たしてすべてなんだろうか)

P「まあ、時に素朴な疑問というものは……とことんまで追究すべきだな」

あさひ「プロデューサーさん、やってるっすよ!」

P「……あ。え? すまん、ぼーっとしてた」

P「どうしたんだ?」

あさひ「あれっすよー」

あさひ タタタッ

あさひ「『昼の星 観察会』……!」

P「ああ、そうか。うん、そのために来たもんな」

P「さ、昼に星はどうなってるか――」

P「――自分の目で、確かめてみよう」

P(そう言って、一旦空を仰いでみる)

P(天気が良くて本当によかった、と思った)


あさひ「……」

P(あさひ……すごい集中力で覗いているな)

P「ははっ、まあ、あさひだから……な」

あさひ「……」

あさひ「よしっ――」

あさひ「――見えた」

P「どうだ? 何か見えたか?」

あさひ「はいっす! 金星が見えたっす!」

あさひ「プロデューサーさんも見て欲しいっす〜」

P「そうだな。どれどれ……」

P「……あ、見えた」

P「よいしょっと……他にもいろんな星が見れるらしいぞ。ほら、もう少し頑張ってみな」

あさひ「そうっすね! ……もっと探すっす!」

あさひ「んーっ……」

P「あ、隣が空いたな……」

P(この場に冬優子と愛依がいれば、せっかく来たんだしそっちで見たらどうだ、って言ったかもな)

あさひ「おおっ!? 木星っす!」

P「おお、よく見つけられたな」

P「こっちの方を見ると太陽系内惑星以外のほかにもいろんな恒星が見れるぞ」

あさひ「むむむ……」

あさひ「!」

あさひ ニコニコ

P(とりあえず楽しそうだ)
566 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/08(土) 02:46:33.96 ID:ALUr9uJBO
あさひ「ふぅ……いろんな星見つけたっす〜」

P「どうだ? 昼に星を見た感想は」

あさひ「昼間に星……やっぱりあったっすね」

P「ははっ、まあ、そうなるな」

P「けど、星は夜にだけ現れているっていう考え方もできてさ……俺は嫌いじゃないんだ」

P「なあ、あさひ。あそこには……何がある?」

あさひ「何って……あ、まぶしっ。……太陽っす」

P「そうだな」

P「じゃあ、普通にこっちの方を見てくれ」

あさひ「はいっす」

P「いま、真っ直ぐ立って前を向いてる状態で、あさひの目には太陽が見えてるか?」

あさひ「いや……見えてないっす」

P「そうだよな。まあ、窓とか何かに反射してるとかじゃなけりゃ、そうだ」

P「ってことは、いま、太陽はないんじゃないか?」

あさひ「……」

P「太陽は見えてない……だから、太陽はいま存在しない」

P「どうだ?」

あさひ「まあ、そういう考え方も……ありなんすかね」スンッ

P(あ、あれ……この話をしたのは失敗だったか?)

P「ま、まあ、太陽だと周りを照らしてるからって反論ができるし、本来なら夜に月を題材にして話すべきなのかもしれないな」

P「うーん、見えてるものがすべてっていうと、極端な話、こういうことにだってなるんだよな……」

あさひ「アイドルは……」

P「?」

あさひ「アイドルは、ファンの人たちに見えてる部分が全部じゃ……ないっす」

P「! そうだな」

P「アイドルだって人間だ。ファンに見せない部分だって当然ある」

P「でも、そういう部分も、確かにアイドルを形成する要素なんだと思うよ」

P「アイドルって、五感では語れないものがたくさんあるはずなんだ。それは、例えば人間としての存在が与える影響というか……」

あさひ「うーん、よくわかんないっす」

P「はは……すまん、なんか独り言だったよな」

P「なんというかさ、俺は、あさひが、アイドルとは何かを想像する中で何を見つけてくれるのかを、心から楽しみにしているんだよ」

あさひ「……あははっ」

あさひ「やっぱり、よくわかんないっす!」

P「そ、そうか……」

あさひ「だけど、プロデューサーさんがわたしのことをいっぱい考えてくれてるってことはわかるんすよ」

あさひ「まだまだ、プロデューサーさんと修行……したいっす」

あさひ「わたし、ずっとひとりぼっちで……」

P「何を言い出すんだよ。俺も、冬優子も愛依もいるじゃないか」

あさひ「そうっすね。いまは、プロデューサーさんがいつも側にいるっす」

P「安心してくれ。俺はいつまでもあさひと一緒にいるからな」

あさひ「! プロデューサーさん……」

P(あさひの寂しそうな顔を見るのは、これがはじめてじゃない。けれど、ここまで寂しそうな顔は初めて見た気がする)

P(それに……俺以外に冬優子と愛依がいるというのも伝えたつもりだったんだが、あさひが俺のことしか言っていないのが気になった。まあ、気のせいだろう)
567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/08(土) 03:21:14.97 ID:ALUr9uJBO
翌日、夜。

〜事務所 屋上〜

P「……」

P(空気も澄んでいるし、天体観測には申し分ない天候だ……)

P(仕事しないで何やってるんだろうとかは、きっと考えてはいけない)

P(今、下の事務所にははづきさんしかいない。それ以外には、俺とあさひだけだ)

P(なんだか、不思議な感じだな。事務所のある建物で遊ぼうとしているっていうのは)

あさひ「プロデューサーさん、早く望遠鏡をセットするっすよ!」

P「あ、ああ……そうだな」

P(随分立派な望遠鏡なんだよな……これ)

P(あさひが倉庫から出してきたやつだけど、こんなの倉庫にあったか?)

あさひ ジーッ

P「どうしたんだ、あさひ。そんなに望遠鏡を見つめて……」

P「……分解したり壊したりはするなよ。それ、絶対高いやつだから」

P(そもそも誰のものなのかもハッキリしていないしな。まあ、事務所にあるくらいだから、所有者も事務所の人間だと考えるのは自然だが……)

あさひ「わかってるっす。何度も注意されたし、さすがにやらないっすよ」

P「そうか。まあ、それならいいんだが」

P(……? 俺、“何度も”注意したか? さっきのが初めてだと思うけど)

あさひ「とぉーう!」バッ

P「……」

あさひ「?」

P「……」

あさひ「プロデューサーさん、どうしたんすか? ぼーっとして」

P「え? あ、いや……なんでもないよ」

P「あさひは……なんだか楽しそうじゃないか」

あさひ「もちろん楽しいっす」

あさひ「プロデューサーさんと一緒っすから」

P「ははっ、ありがとうな」

P「さ、まだまだこれからだぞ?」

P「望遠鏡のセッティング、一緒にやらないか?」

あさひ「やるっす!」

P「よし! そうこなくっちゃな」

P「あとは俺がやるよ」

P「あさひ、壊すのは禁止だけど、ちゃんとした使い方で触る分には観察し放題だからな」

あさひ「あははっ、ワクワクっす〜!」

P(あさひの笑顔を見るたびに安心する俺がいる)

P(一方で、一抹の不安が頭をよぎる)

P(あさひの笑顔は、そんなに珍しいものだっただろうか?)

P(最近あさひの元気がないことが多いとはいえ、なんだか、普段の様子を見ているといつも表情に影が差している気がしてならない)

P(俺の知っている芹沢あさひは、日々、新たな発見との出会いで胸躍らせているような子じゃなかったか?)

P(それなのに、最近のあさひには、そういうものが感じられない)

P(そう、例えるなら――)

P(――本を初めて読むときと既に読んだ本を読み返すときの気分の違い、だろうか)
568 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/08(土) 03:31:24.01 ID:ALUr9uJBO
あさひ「……」

P(やはり……というか、集中力がすごいのは相変わらずだな)

P(セッティングが終わって望遠鏡を覗かせたら、そこでずっとはり付いてるんだもんなぁ)

あさひ「……」

あさひ「あ――」

あさひ「――見えた」

P「どうだ? 何か見えたか?」

あさひ「アメンボっす!」

P「アメンボ……?」

あさひ「プロデューサーさんも見るっすよ。ほら、真ん中らへんにある……」

P「どれどれ……」

あさひ「見えたっすか?」

P「ああ」

P「これは、オリオン座だな」

あさひ「オリオン座……」

P「ああ。よいしょ……っと」

P「星座だよ。1等星や2等星が多いからここでもよく見えるんだ」

P「ギリシア神話のオリオンの姿に見立ててオリオン座って呼ぶんだよ」

あさひ「そうなんすか」

あさひ「……」

P「ははっ、まあ、でも、そうだな。何に見えるかっていう意味での正解はないと思うぞ」

P「日本では鼓に見えるからってことで鼓星なんて言うしな」

P「あさひにとってアメンボなら、アメンボでもいいんじゃないか?」

あさひ「!」

あさひ「じゃあ、あれをアメンボ座と名づけるっす!」ニコッ

P「あさひが名付けた星座だな。いいじゃないか。実際にありそうな風格さえ感じるよ」

あさひ「ありそう、じゃなくて、あるんすよー」

P「ああ、そうだな。すまん」

あさひ「プロデューサーさんって、星座に詳しいっすね」

P「ああ、まあな……どれ……」

P「オリオン座の周りにいろいろあってな。あれがぎょしゃざで、反時計回りにふたご座、こいぬ座……」

P「……って、悪い。俺が覗き込んでたらあさひが見れないよな」

あさひ「大丈夫っす! さすがに覚えたっす」

P「さ、流石だな」

P「まあ、俺がずっと覗いてちゃ悪いし、あさひが見てていいよ――」

あさひ「わかったっす! 星座星座〜」ズイッ

P「――っ!?」

P(望遠鏡から顔を離したその瞬間――)

あさひ「あ……」

P(――2つの青い目と、目が合った)

P(日本人離れした綺麗な顔立ちに目が離せなくなる)

P「す、すまん! 今、離れるから……!」

P(このままだとあさひに釘付けになって身動きが取れなくなる……そんな気さえするほどに魅力的に感じられた)
569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/08(土) 03:48:45.14 ID:ALUr9uJBO
あさひ「……っ」モジモジ

P「……」

P(あんなに顔が近づいたことなんて、今までなかったが……)

P(文字通り目と鼻の先で見たあさひの顔が脳裏に焼きついてまったく消えようとしない)

P「そ、そうだ。星座のこと、もっと教えるy――」

ギュッ

P「――!?」

P(背後から抱きつかれた)

あさひ「……」ギュゥ

P「あ、あさひ……?」

あさひ「星座は、いまは別にいいっす」

P「そうか? さっきあれだけ楽しそうにしてたじゃないか」

P「それに、こうして抱きつかれるのは、その……」

P「せ、せっかく天体観測してるんだし、星を見なきゃもったいないぞ?」

あさひ「自分でも、わかんないんすよ」

あさひ「どうして、プロデューサーさんに抱きつきたくなったのか」

あさひ「天体観測してる最中なのはわたしにもわかるっす。星を見ないともったいないのも」

あさひ「けど、こうしたくなったんすよ……」

P「あさひ……」

あさひ「星のことよりも、宇宙のことよりも――」

あさひ「――プロデューサーさんとこうしたくなった理由のほうが、ずっとずっと不思議っす」

あさひ「それに……」

あさひ「……ドキドキ、でも、落ちつくっすね」

あさひ「もう少し、こうしていたいっす」ギュ

P「……わかった。しばらく、こうしてようか」

あさひ「……」

あさひ「わがまま言ってもいいっすか?」

P「ああ、いいぞ」

あさひ「背中より、正面がいいっす」

P「本格的に抱き合う形になるけど……いいのか?」

あさひ「そのほうが、わたしはいいっす」

P「わかったよ」

あさひ パッ

P クルッ

P「ほら」バッ

あさひ「!」ダッ

あさひ ドンッ

P「うおっ……!? ……ははっ、良い勢いだ」

あさひ ギュゥゥッ

あさひ「えへへ、あったかいっすね」

P(俺に飛び込んできたあさひの笑顔を見て、自然と俺も抱きしめていた)ギュ

あさひ「そっか……そうだったんだ」

あさひ「あははっ、もっと早く気づけばよかったっす」ボソッ
570 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/08(土) 03:50:06.63 ID:ALUr9uJBO
とりあえずここまで。
571 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/08(土) 06:33:26.45 ID:Y4+TpR/DO
女子中学生に抱き付かれている成人男性か……



ループの中でやったのは初めてかな
572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/08(土) 11:41:56.78 ID:Mf+Fyn2Qo

今までのループで一番物悲しさが出てるな
573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/11(火) 22:31:40.53 ID:W1OuxU+GO
翌日。

〜某公立図書館〜

P「……」

P『はは、そうか。あさひは勉強熱心だな」

あさひ『別にそういうわけじゃ……ないっすけど』

あさひ『……でも、そうっすね』

あさひ『そういうのって、ちゃんと本を読んだほうがいいって言われたんすよ。聞いたときに』

P『それは……間違いないな』

あさひ『だから、今度一緒に図書館とか本屋さんに行って欲しいっす』

P(そういうわけで、今日の“修行の場”は図書館にしてみたわけだが……)

あさひ「……」

P(あさひが楽しみにしているときの態度じゃないよな……これは)

P「ほら、せっかく来たんだ。入ろう」

あさひ「はいっす」

P(何か……間違えたかな?)


P「化学のコーナーは……あ、一応、物理学のコーナーの場所も把握しておこうかな」

P(そういう話からだったもんな、図書館とか本屋のくだりって……)

P(……ああ。一緒に花火を見たときだ)

P「あさひも、何か興味のあるコーナーがあったら言ってくれよ」

P「そっちにも行くからさ」

あさひ「大丈夫っす。プロデューサーさんが探してるところで」

P「そ、そうか……?」

あさひ「花火のときの話っすよね? なら、それでいいっす」

P「……わかった」

P「……」

P(いや、わからないよ――あさひのやりたいことが)

P(でも、どうしたらいいんだ)

P(それもわからない……)


P「とりあえず、これとこれ……それからあっちの……」

P「よし、この辺の本があれば、あとは俺が説明してやるだけで……」

P「……ちょっとした授業くらいには、なるはず」

P「しかし、うーん」

あさひ『前に気になって人に聞いたことがあったっす。だから、もう知ってるっすよ』

P(ハードルが高いな)

P(面白いと思ってもらえるだろうか……“その人”の話よりも魅力的な話題にしないと、だよな……)

P(ふと、あさひがいる方を見る)

あさひ「……」ボーッ

P(あさひは、吹き抜けで繋がった上の階から来る光を浴びるかのように、ただ上を見上げている)

P(そこには、あの好奇心も、あの集中も、何も……)

P(……“俺の知るあさひ”を感じられるものがない)

P「やるか……授業」

P(あさひが来たいと行ったところに来ているんだ。今はそれで大丈夫だと思うしかない)
574 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/11(火) 22:54:57.20 ID:W1OuxU+GO
P「本を持ってきたぞ、あさひ」

あさひ「……あ、プロデューサーさん」

P「話しても良いところに移動しよう。せっかくだし、一緒に見ようと思ってさ」

あさひ「そうっすね。わたしもそうしたいっす」

P「はは……面白い話ができればいいんだけどな」

あさひ「あははっ、大丈夫じゃないっすかね」

あさひ「プロデューサーさんなら」


P「ここなら大丈夫だな」

P「よいしょ、っと……」

P「あさひも適当な所に座ってくれ。本が見える範囲でな」

あさひ「じゃあ……ここっす」

P「え……」

あさひ「だめっすか?」

P「だ、駄目じゃ……ないが」

P(真横――隣に座ってくるとは思ってなかった)

P(向かい合う形でも良いように、サイズの大きい本を選んだんだが)

P(ははっ、これじゃあこの本は大きすぎかもな)

あさひ「プロデューサーさん?」

P「あ、いや、すまん。そこに座ってもいいよ」

あさひ「っす」

P「じゃあ、さっそく読むか。光と色の話から……」


P「……っと、つい夢中になって話してしまったな」

P(何やってるんだ俺は……あさひのためにやろうとしているのに)

あさひ「? 別に大丈夫っすよ。前に聞いたときよりも説明が丁寧でわかりやすかったっす」

P「はは……まあ、本を見ながらだからな」

P(とりあえず、あさひが前に聞いた相手よりはうまくやれたようだ……)

あさひ「そっちの本には何が書いてあるんすかね?」

P「これは……熱の広がりの話だな」

あさひ「次はそっちがいいっす!」

P「わかった。じゃあ、線香花火の熱がどこまで伝わるかって話なんだけど……」


P「……という感じだな」

あさひ「……」

P「あさひ?」

P(返事がないから、あさひの顔に目線をうつす……と)

あさひ「っ!?」

P「!」

P(あさひは、俺の方を見ていた。目が合って、とっさに視線を逸らすまでは)

あさひ「……」

P(例によって夢中になっていた俺は気づかなかったんだろう。たぶん、俺が熱の話をしている間、あさひはずっと俺のことを見ていた)

P(思い返せば、やたらと吐息が当たっていた気もする。俺みたいな大人がそんなことを――しかも女子中学生相手に――気にするなんて、と無意識に思っていたから気づかなかった――あるいは“ふり”をした――んだと思う)

P(あさひは珍しく赤面している。それを無言でただ見ているだけの自分にドン引きしつつ、俺はどうすれば良いのかを考え始めた)
575 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/11(火) 23:28:41.52 ID:W1OuxU+GO
P「そ、そうだ。カフェテリアに行こう。気分転換になるぞ」

あさひ「わたしは別にいいっす」

P「……」

P「……何があるかだけでも、見てくるよ」

P(逃げるように立ち去ろうとした。いろいろなものからの“逃げ”だ)

P(けれど――)

グイッ

P(――袖を掴まれて、逃げることができなかった)

P「あ、あさひ……」

あさひ「……」

P「……ごめんな。なんか、うまくやれてないよな、俺」

P「あさひの修行……せっかくだし良いものにしたいんだ。あさひがやりたいこと、あさひが望むままに、やらせてあげたいって思ってる」

P「でも、俺がしているのは――俺の中のあさひ像を土俵にした一人相撲だよな……」

P「あさひのこと、もっと知りたいと思ってる。ただ、どうすれば知ることができるのか、それがまだわかっていないんだ」

P「本人を前にこんなこと言うの、自分でもおかしいってわかってるんだ。それでも……」

P「……っ」

あさひ「今日……ここに来るの、すっごく楽しみだったっす」

あさひ「こういう所は、初めてで」

あさひ「でも、そうっすね……わかったんすよ」

あさひ「わたし、図書館に行きたかったわけじゃないんだって」

P「え……?」

あさひ「本屋だって、だぶんそうっす。まだ行ってないっすけど」

あさひ「花火も、天体観測も、全部……」

P「そ、そんな……」

あさひ「あ、別に嫌だったとか、意味ないとか、そういうつもりで言ってるんじゃないっす!」

あさひ「そうじゃ……なくて」

P「?」

あさひ「わたしは……」

あさひ「……」

あさひ「ただ、プロデューサーさんと……」

P(袖を掴んでいただけのあさひが、顔を上げて俺を見た)


あさひ「プロデューサーさんと、一緒にいたいだけっす!」


あさひ「本当に、それだけだったんすよ」

あさひ「だから、場所とか、そういうのは関係なくて」

あさひ「面白いことを探したいからプロデューサーさんと一緒にいるんじゃなくて――」

あさひ「――プロデューサーさんと一緒にいたいから面白いことを探し続けてるんだって」

あさひ「いつの間にか、そうなってたっす」

P「あさひ……」

あさひ「わたしは、プロデューサーさんを……」

あさひ「……っ! ああ、そういうことだったんすね。あの時の声は」ボソッ

P「えっと、何の話なんだ? それは」

あさひ「……あははっ、なんでもないっす!」
576 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/12(水) 00:20:41.88 ID:JPslrwTn0
あさひ「プロデューサーさんの話は面白かったっす。でも、図書館はもういいっす」

あさひ「場所は関係ないってこと、わかったっすよ」

あさひ「……」

あさひ「ただ一緒にいたいだけ……って、こういうことっすかね?」ダキッ

P「ちょっ、あさひ?! いきなり何して……」

P(いや、目の前のことだ。あさひが何をしているのかはわかっている)

P(それでも、いきなり腕に手を回されたら……)

P「……一緒にいたいって、まさか、そういうことなのか?」

あさひ「? そういうこと、って何すか?」

P(恋人とか……と、言おうとしてやめた)

P(あさひにとって恋人とは何か? それはあさひしか知らない。俺が説明したって、それは俺にとっての概念でしかないんだ)

P(きっと、あさひにとっては、どんなものも自分で発見することに意味があるんじゃないかって思えたから)

P(それに、今は明確な答えが一つある)

P(俺は、ただ一緒にいればいい)

P「いや、なんでもないよ」

あさひ「こうすれば何かわかるって思ったんすけどねー……」パッ

あさひ「ただ動きにくいだけだったっす!」

P「ははっ、そうか」

P(なんだかあさひらしいな――とは思っても言うまい)

P(ただ、思うのは自由という話であれば――)

P(――あさひはやっぱりあさひだ、ということだろうか)

P(傲慢にも、そう思う)

あさひ「んーっ」ノビー

あさひ「ふぅ……」

あさひ「……でも」

あさひ「なんか、ずっとわからなかったことがわかって、すっきりしたっす」

あさひ「あははっ、自分でも不思議なくらい、いまは気持ちがいいっすよ!」

P「……!」

P(うまく言い表せないが……)

P(……それは、“久々に見た笑顔”だった)

あさひ「うーん、図書館にずっといると息苦しい感じがするっす〜」

P「ははっ、俺もそろそろ外の空気が吸いたいかな」

P「出ようか」

あさひ「はいっす!」


P「……まあ、出てきたからって何をすると決まっていたわけじゃないんだけどな」

あさひ「この辺って来たことないっす。何か面白いものないっすかね〜」

P「そうだなぁ」

あさひ キョロキョロ

あさひ「……何にもないとこっすね、ここ」

P「何にもないは言いすぎだと思うけどな……」

P(あさひにとって意味のあるものは最早何もないってことなのかもしれない)

P「あ、そうだ。近くに公園があるんだ。この辺のことを知らないなら、次はそこに行ってみよう」
577 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/12(水) 00:39:50.27 ID:JPslrwTn0
〜隣接する公園〜

あさひ「あっ、水の中に何かいる!」

P(あさひは、池のような川のような、そんなところではしゃいでいる)

P(“いつものあさひ”だ)

P「落ちないように気をつけてなー」

あさひ「魚……取れるかも……!」

あさひ「んーっ、んんー」

あさひ「ちょっと遠い……プロデューサーさん、網とか持ってないっすか?」

P「え?! いや、いきなりそんなこと言われても……っていうか、取っちゃ駄目だぞ、たぶん」

あさひ「えー、つまんないっすー」

P「公園のものなんだ。だから、取ったら怒られるぞ」

あさひ「公園は生きてないっすよ?」

あさひ「なのに、公園が自分のものだーって言うんすか?」

P「そうじゃなくてだな……ははっ」

あさひ「?」

P「いや、すまんすまん。なんだか懐かしくてな」

あさひ「よくわかんないっすけど……」

P「取っても返せば良いのか……? でも、捕まえたらダメージがあるだろうしなぁ」

あさひ「プロデューサーさん、早くするっす! いなくなっちゃうっすよ!」

あさひ「網がないなら釣竿でも良いっす!」

P「もっとあり得ないぞそれは……」

あさひ「あっ! 行っちゃった……」

あさひ「む〜〜! プロデューサーさん……!」

P「おっと、そんな顔したって駄目だからな」

P「というかな……やっぱり、捕まえちゃいけないよ」

あさひ「公園だからって言うのは聞かないっすよ?」ムスッ

P「そうじゃないんだ」

P「あの魚さ、俺の前世なんだ」

P(何言ってるんだろうな、俺)

あさひ「……その嘘、つまんないっす」ムーッ

P「嘘だってどうしてわかるんだ? 確かめたこと、あるのか?」

あさひ「それは……ないっすけど」

P「たまたま覚えてるってことだってあるかもしれないじゃないか」

P(なんか、言い出したことに対して後に引けなくなって次から次へと言葉が出てくるな……)

P「ああ、思い出したぞ……魚として公園に住んでたころ、一人の女の子に捕まえられそうになったっけ……」

あさひ「……」

P「でも、そうそう、さっき見たとおりで、何とか逃げられたんだ」

P「逃げたから、女の子に捕まっちゃうよりも長く生きて徳を積んで……人間に生まれ変われた」

P「それが俺なんだよ」

P「あさひに捕まえられてたら、たぶん、俺はあさひと一緒にはいられなかったぞ?」

あさひ「そんなこと……」

あさひ「……」

あさひ「……しょうがないっす。魚を捕まえるのはやめるっすよ」
578 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/12(水) 00:52:08.11 ID:at09kqjdo
なにいってんだww
579 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/12(水) 01:07:34.41 ID:JPslrwTn0
P(それから、しばらく公園の中を動き回った)

P(まあ、俺はあさひについて行っただけだが)

P(しかし、あさひと俺では体力が違いすぎた)

P「あ、あさひ……! 待ってくれ……!」ゼェゼェ

あさひ「鳴き声的にはあっちの方にセミがいるはずなんすよ! 早く行かないと飛んで行っちゃうっす!」

P「俺のことは……はぁっ、いいから……」

P「捕まえないって約束できるなら、一人で行ってきてもいいぞ……」

あさひ「それは嫌っす!」

P(即答だ……)

P(いや、あさひは――)

あさひ『面白いことを探したいからプロデューサーさんと一緒にいるんじゃなくて――』

あさひ『――プロデューサーさんと一緒にいたいから面白いことを探し続けてるんだって』

あさひ『いつの間にか、そうなってたっす』

P(――って、言ってたな)

P(それなのに「一人で行ってきてもいい」っていうのは違うな)

P「すまん、忘れてくれ。ちゃんと、俺も一緒に行くよ」

P「ただ、あさひの体力がすごすぎて、俺ではついて行けない時があるんだ」

P「一緒にいるためには、少しでいいから合わせてくれると助かる」

あさひ「うー……でも、そうしてる間にどっか行っちゃうっすよー」

P「その気持ちはわかるんだ」

あさひ「だったら……」

P「あさひはさ、一人じゃないだろ?」

あさひ「!」

P「俺と一緒にいたいって言ってくれたじゃないか」

P「それ以外にもさ、ストレイライトだってそうだと思うよ」

P「一人じゃないっていうのは、自分のじゃないスタイルにも合わせるってことなんだ」

P「もちろん、いつもそうじゃなきゃいけない……ってわけでもない」

P「だけど、いつも自分の思うままに動いてたら、うまくいかないことだってあるんじゃないか?」

あさひ「……」

P「俺だって、ただ合わせてくれっていうつもりはないんだぞ?」

P「ほら、あそこを見てみてくれ」

あさひ「どこっすか?」

P「あの木の……幹が分かれているうちの真ん中のやつ」

P「分かれ目から少し進んだところに……うん、いるな」

あさひ「?」

P「よし、肩車だ!」

P「ほら、早く! 乗った乗った」ズイッ

あさひ「はいっす……?」

P「静かにな……。ほら……」

あさひ「……あっ」

あさひ「セミがいるっす」

P「メスは鳴かないって話を聞いたことがあってさ。鳴き声が聞こえるならオスじゃないセミだっていると思ったんだ」

P「一緒だと、こういう発見もできるんだぞ?」
580 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/12(水) 02:21:22.48 ID:01SFhZ8DO
おまわりさんこいつです
581 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/12(水) 02:24:04.73 ID:JPslrwTn0
数時間後。

P「っと、やばいな。いつのまにか暗くなってるぞ」

P(時間を忘れて公園で遊ぶなんて……何年、いや、十何年ぶりだろう)

P(でも、今でも覚えているのは――)

P(――こういうふうに感じるのは、本当に楽しかったから、ということだ)

あさひ「暗いとさすがに見つけづらいっすね」

P「ああ。公園での探索は終わりにしたほうが良いな」

P「また明日、どっかに行こう」

P「ちゃんと考えておいてくれよ? あさひの修行なんだからさ」

あさひ「そうっすねー……」

あさひ「プロデューサーさんと一緒だから……」

P(次は本格的に山の中とか言い出すんだろうか)

P(装備……買わないとないかもな)

P(海とかなら、まだ必要なものも少なくて済みそうだが……いや、しかし、どうだろうな)

P(ちゃんと調べたほうが良さそうだ)

あさひ「……決めたっす!」

P「お、どうするんだ?」

あさひ「海外に行くっすよ!」

P「そっか、海外か……」

P「……」

あさひ ニコニコ

P「……え」

あさひ「海外っす!」

P「ええっ?!」

あさひ「っ……だめ、っすか?」

P「……」

P(一緒にいたいって言った後でその顔は卑怯だぞ……)

P「親御さんの許可が取れるなら、行けるかもな」

P(流石に許可が下りないだろ……これは)

あさひ「わかったっす。聞いてみるっす」

P「そ、そうか……。よろしくな」

あさひ「はいっす!」

あさひ「プロデューサーさん、明日はお休みにするっすよ」

P「あ、そうなのか」

あさひ「準備が必要じゃないっすか。荷物とか、……切符とか!」

P「こらこら……親御さんが良いって言ってないのに準備なんてできないぞ?」

あさひ「うーん、でも……」

あさひ「外国に行く準備をすれば、だめだったとしても日本国内ならどこでも行けるんじゃないっすかね?」

P「うっ、一理あるな」

P(いや、まあ、実際はそんな単純な話じゃないが)

P(特別にアクティビティをやろうとしない限りは……通る話だよなぁ)

P「と、とにかく! 家に帰ったらちゃんと相談してくれよ」

P「話がまとまったら連絡すること」
582 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/12(水) 02:43:23.51 ID:JPslrwTn0
翌日。

〜Pの自宅〜

芹沢あさひ<おっけーって言われたっす!!!

P「なんでだよ!」

P(スマホのロック画面に浮かんだメッセージに全力でツッコんでしまった)

P「……はぁ」

P「マジか……」

ヴーッ

P「今度は何だ……?」

芹沢あさひ<あ、おはよっす。プロデューサーさん。

P「……ははっ」

P(挨拶を忘れるくらい嬉しかったんだろうな)

P(たぶんこのテンポだと、昨日の夜には親御さんからの承諾を得られたんだろうな)

P(ちゃんと朝になってから連絡してきた、か……)

P「……」

ヴーッ

芹沢あさひ<いま準備してるところっす! プロデューサーさんも、ちゃんと準備するっすよ。

P「……」

P スタスタ

P ガサゴソ

P「……パスポート、久々に見たな」

P パラ・・・

P「……」

パラッ

P「ははっ、なんて顔してんだ、俺」

P(あさひに見せたら、どんなリアクションをとるんだろう)

P(今よりも若い俺……あさひには不思議扱いされちまうかもな)

P「なあ、想像できるか?」

P「アイドルのプロデューサーになって、ユニットの一人の修行とやらに付き合うようになって……」

P「……とうとう海外だぞ? こんなところでパスポートの出番というわけだ」

P「……」

P(これを撮った時の俺だったら、海外で旅をすることになったら、どうしただろうな)

P(わかりやすくはしゃぐのは恥ずかしいと思っても、内心ワクワクが止まらなくなっているかも)

P(行った先には何があるだろう、何ができるだろう、って)

P「……」

P(そういえば、今更だが――)

P「――そうだよな……あさひと海外を旅するんだよな」

P「……」

P「………………」ドキドキ

P「ははっ、撮ってからだいぶ経つけど、変わっちゃいないんだろうな」

P「なんだよ、めちゃくちゃ楽しみにしてるじゃないか」

ヴーッ

芹沢あさひ<ちゃんと準備してるっすか? 海外、楽しみっす!
583 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/12(水) 02:47:31.09 ID:JPslrwTn0
とりあえずここまで。
584 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/12(水) 03:15:38.77 ID:at09kqjdo
585 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/15(土) 01:35:58.49 ID:hsaiMq9Q0
P(それから、あさひと俺は日本を発った)

P(海外とは言っても、中学生でもありアイドルでもあるあさひに、無茶をさせるわけにはいかない)

P(結果、社長とあさひのご両親の両方の許可が下りた地域から行き先を選んで旅をすることになった)

P(1ヶ月あるあさひの“修行期間”を使った海外旅行――いや、正確には、旅と旅行は違うのかもしれないが)

P(あさひが飽きるか、あるいは“修行期間”が終わるか、そのどちらかで帰国する判断を下す……そういうことになっている)


あさひ「プロデューサーさん! 細い電車が走ってるっす!」

P「路面電車な。確かに、日本で見かけるものよりも細身だ」

P「市内だと交通費も安上がりだし、乗っていくか?」

あさひ「うーん……」

あさひ「あ! あっちに……」タタタッ

P「お、おい! ちょっと待ってくれ……」ダッ


あさひ「丸い屋根の建物があるっす!」

P「そうだなぁ。日本じゃ、なかなか見られないよな」

P「ははっ、あさひの修行についてくるつもりが、俺はただ観光しているだけ……だな」

あさひ「プロデューサーさんは、ここに来たことないんすか?」

P「ああ。初めて来たよ」

P「あさひは?」

あさひ「わたしも初めてっす」

P「そうか」

P「これまでにさ、俺があさひに何かを教えたり伝えたりってことはあったけど、それは、俺があさひよりも知っていることが多かったから」

P「でも、今はそうじゃない」

P「俺も、あさひと同じスタートラインからで……」

P「だからさ、本当に、一緒なんだ」

P「見るものも、感じるものも」

P「なんだろうな……ははっ、本当の意味で2人の思い出なのかもな、こういうのって」

あさひ「プロデューサーさん……」

あさひ「それなら、プロデューサーさんには――」

あさひ「――忘れられない思い出、になるっすかね?」

P「……ああ。もちろん」

P「忘れられないさ。忘れないに決まってる」

P「何よりも……忘れたくない」

あさひ「……!」


あさひ「気球がいっぱい飛んでる……!」

P「地形――っていうのが正しいのかわからないけど、そういうのも相俟って壮観だな」

あさひ「プロデューサーさん、プロデューサーさん! どこまで飛んでいくんすかね?!」

P「どこまでなんだろうなぁ……」

あさひ「! もしかして、地の果て、っすか……?」

P「さあ……わからないよ」

あさひ「えー……」

P「言っただろ? 俺だって知らない世界を一緒に見ているんだ」

P「だからさ、一緒に確かめてみないか? どこまで飛んでいくのか。早起きすれば、乗せてもらえるらしいぞ?」

P(次の日には、あさひと一緒に気球に乗った)
586 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/15(土) 02:18:30.37 ID:hsaiMq9Q0
数日後。

P(そして、北西に進んだ)

P(道中、滞在すれば例によってあさひに振り回されたわけだが……)

P(俺としても、あさひに言ったように初めて体験することばかりだったから、むしろ、あさひは、ついて行くだけでいろんな場所に導いてくれる存在のようにすら感じられた)

P(最早“修行”とは何か、という話だが、その答えはあさひにしかわからない)

P(もしかしたら、あさひ自身もわかっていないのかもしれない)

P(それでも良かった。あさひと過ごす時間は、俺にとっても充実したものとなっていたから)


あさひ「めちゃくちゃ広いっす!!」

P「ははっ、最初の感想がそれか。まあ、確かになぁ……」

P「世界遺産なんだぞ? 庭園も、宮殿も」

あさひ「宮殿って、あそこに建ってるのがそうっすか?」

P「ああ……そのはずだ」

あさひ「宮殿…………あ、焼肉のタレ作ってるところっすかね」

P「違うぞ。いや、違わない例もあるが、ここはそうじゃない」

あさひ「あ、そうなんすね。……もっと近くで見てみたいっす! 行くっすよ、プロデューサーさん!」タタタッ


あさひ「……プロデューサーさん」

P「どうした?」

あさひ「わたしたち、いま、絵本の中にいるんすかね?」

P「はは……確かに、そう思っても不思議じゃないよな」

P「湖畔に可愛らしい建物があって……その後ろには山々が連なる……だもんなぁ」

あさひ「……」スンッ

P(風景に集中しているな……時々歩き回りながらではあるが)

P(しかし、こうして見ると、日本人離れしたあさひのビジュアルはこの景色でよく映える……)

P「あさひ」

あさひ「わっ! あ、プロデューサーさん」

P「すまん、集中しているところを邪魔しちまったかな」

あさひ「別に大丈夫っす。景色見てただけっすよ」

P「そうか? いや、なんだかあさひは映えるなぁと思ってさ。良い写真になりそうなんだが……一枚どうだ?」

P(なんなら、事務所で使える1枚にすらなりそうだ)

あさひ「いいっすけど……」

P カシャカシャ

あさひ「……」

P「背景はもちろん、なんと言ってもモデルが良いからな」カシャ

あさひ「……」

P「……す、すまん。なんだかこっちの都合で撮らせてもらって……退屈だった、よな」

あさひ「まあ、そうっすね」

P「すまない……」

あさひ「だから、こうするっす!」ダダダッ

P「ちょっ……?! いきなりこっちに走ってきたら危な――」

P(――あさひは俺の目の前まで来て、俺の腕を使ってカメラを自分たちの方に向くようにしながら、その手でシャッターを切った)

カシャ

あさひ「一緒に写れば、退屈にならないっす!」
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