【シャニマス】P「よし、楽しく……」- Straylight編- 【安価】

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78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/17(木) 23:54:38.99 ID:MY8bT3n0o
おつおつ
ええ子や……
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/24(木) 19:37:26.78 ID:fhkxREW7o
待ってる
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/25(金) 03:21:31.52 ID:b3DzZl5pO
>>1です。

>>79 ありがとうございます。

前作(noctchill編)でも時々ありましたが、忙しさゆえに時間が取れず、更新が滞ることがあります。お話自体は出来上がっているので、今後も読んだいただける方は待ってくださると嬉しいです。
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/25(金) 07:32:27.52 ID:Zodp5AGEo
りょーかい
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/26(土) 00:45:10.94 ID:ajgReNLiO
数日後。

〜事務所〜

P カタカタ

冬優子 ポチポチ

あさひ ポチポチ

冬優子 ポチポチ

あさひ「!」

あさひ「冬優子ちゃん!」

冬優子「うわっ、びっくりした……」

冬優子「あんたね……いきなり驚かさないでくれる?」

あさひ「ちょうどわたしもスマホ持ってるんすよ!」

冬優子「だから?」

あさひ「最近始めた対戦ゲームがあって、それを一緒にやって欲しいっす!」

冬優子「めんど……」ボソッ

冬優子「あのねえ、ふゆはふゆでスマホ使ってやってることがあんのよ」

冬優子「今は付き合ってられないの」

あさひ「そうっすか……」

愛依「まぁまぁ、あさひちゃん、それならそのゲーム、うちとやらない?」

あさひ「いいんすか!?」

愛依「ちょうど暇だったし、いいよー」

あさひ「やったっすー!」

P(今日は午前中にレッスンで午後は休みだというのに、どこかに遊びに行く様子もなく事務所でリラックス、か)

P(まあ、あいつらにとってここが居心地の良い場所になってるなら、いいのかな)

はづき「あ、プロデューサーさん」

P「はづきさん――どうしました?」

はづき「ちょっと今いいですかー?」

P「あ、はい。大丈夫です」
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/26(土) 00:57:59.48 ID:ajgReNLiO
はづき「こういうプロジェクトがありまして……」ガサゴソ

はづき「はい、これが資料ですー」

P「ありがとうございます……」

はづき「……」

P「……」ペラッ


P「アイドルユニットのメンバーが1人でどれだけ輝けるのか――ですか」

はづき「そうなんです」

はづき「この大会は、言うなればW.I.N.G.のソロバージョンって感じでしょうか」

はづき「ただし、出場の条件として、普段は主にユニットで活動しているアイドルが1人で出ること――があります」

P「あえてそうすることで、ユニットとしての活動は個々のウィークポイントを隠すための手段ではないことを示せ――と言われているような気分ですね」

P「直接そう書かれているわけでも言われたわけでもないですが」

はづき「はい……」

はづき「この283プロダクションにも声がかかってまして、それでプロデューサーさんにお伝えした次第です」

P「……」

P「出ない、という選択肢はあるんでしょうか」

はづき「その選択肢は存在しているけども与えられていない、と言えば良いのか……」

はづき「最終的な判断はプロデューサーさんが下すことになります」

はづき「私から何か言うつもりはありません」

はづき「……プロデューサーさんの決めたことを、全力でサポートしますよー」

P「……」

P「わかりました」

P「あいつらと話してきます」
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/26(土) 01:16:46.75 ID:ajgReNLiO
P「3人とも、少し、いいか?」

冬優子・あさひ・愛依「?」

P「実は――」


P「――というわけなんだ」

P「だから……」

P「……」

愛依「?」

冬優子「何よ、らしくないじゃない」

冬優子「要するに、その大会にふゆたち3人の中の誰か1人が出るってことなんでしょ」

冬優子「……っ」

愛依「あの、さ……2人ともなんでそんな深刻そうなん?」

愛依「W.I.N.G.の1人ヴァージョンってこと――だよね?」

冬優子「それだけじゃないわ……!」

冬優子「この大会に出れば、1人でユニットの何もかもを背負うのよ」

冬優子「プロデューサーも言ってたでしょ、普段ユニットで活動してるアイドルが1人で出るんだ、って」

冬優子「勝てば天国負ければ地獄とはこのことよ」

愛依「そ、そっか……そだよねー……」

愛依「なんか……ごめん」

愛依「でも、それならあさひちゃんが出れば――」

冬優子「――わかってんのよ!」

愛依「っ!?」ビクッ

冬優子「わかって……るのよ」プルプル

冬優子「そうだけど……そんなの悔しいじゃない……!」

冬優子「これはふゆにとってチャンスでもあるのよ」ボソッ

冬優子「……ごめん。愛依にあたってもなんにもならないのにね」

冬優子「ごめん……」

愛依「いや、うちもあんま考えなしにしゃべってたし……」

P「まずは落ち着いてくれ」

P「俺は、誰が出ても構わないと思っている」

P「誰が出ようと、俺が勝たせてやるまでだ……」

P(愛依は冬優子に事の深刻さを知らされて若干ビビッちまってるな)

P(でも、愛依だって勝てる可能性は十分にあるんだ)

P(才能という意味では、確かにあさひは最強だろう)

P(それでも、あさひは完璧じゃない――完璧であろうとしていたのだとしても)

P(冬優子は――これを自分がのし上がるチャンスだと思っている)

P(だが、それは同時に、高いリスクを孕んでいる。それを冬優子はよくわかっているんだ)

P(だから、冬優子は「出たい」とは口に出せていない……)

P(あさひは特に意見なし、か……)

P「あさひ。お前はどう思う? 出たいか?」

あさひ「どっちでもいいっすかね。面白ければ出たいかもしれないっす」

冬優子「っ……!」グッ

愛依 アワアワ
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/26(土) 01:21:08.13 ID:vTb+QeTIO
うわあ重そうな話だ…
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/26(土) 01:29:19.04 ID:ajgReNLiO
P(3人の話し合いで決めさせるのは無理かもしれないな……)


P『誰が出ようと、俺が勝たせてやるまでだ……』


P(ははっ、随分と強く出たもんだな、俺)

P(でも、その気持ちがあるのは本当だ)

P(俺は、ストレイライトのプロデューサーとして、あいつらを必ず輝かせなければならない……!)

P(……)

P(一応、聞いてみるか)

P「どうだ? 誰が出るとか、決まりそうか?」

冬優子「……」

あさひ スンッ

愛依「……」

P「俺が、決めてもいいのか?」

冬優子「ふゆはあんたの決定に背かないわよ」

愛依「うちも……選ばれたら……その、ちょー頑張る」

愛依「あはは……なんかうまく言えなかったけど、でも――

愛依「――そのときは絶対勝つから」

P「あさひはどうだ?」

あさひ「プロデューサーさんにまかせるっすよ」

P「わかった」

P「俺は……」


1.愛依を選ぶ。
2.冬優子を選ぶ。
3.――この選択肢はロックされています―― 

選択肢↓2(いま選べるのは1.か2.です)
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/26(土) 01:31:06.45 ID:UFX7QFbx0
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/26(土) 01:31:30.92 ID:vTb+QeTIO
2
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/26(土) 01:55:44.85 ID:Q0S0sXW9o
やはり、あさひ…か?
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/26(土) 02:04:25.02 ID:UFX7QFbx0
愛依だけは無害だろうなあと信じられる
冬優子は、割と微妙
あさひは真っ黒
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/26(土) 02:06:50.72 ID:IEeppdbDO
久々にロック情報を見たよ

さぁ、運命スタート
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/26(土) 02:34:28.62 ID:8+gcnYsAO
P「……冬優子」

冬優子「!」

P「出てみないか」

冬優子「そう……ふゆを選ぶのね」

P「強制はしないよ」

冬優子「別に出るのが嫌ってわけじゃないのよ」

冬優子「むしろ……ありがとう、というか……」ボソッ

冬優子「とにかく、あんたのこと、信じてるから」

冬優子「信じさせて……」

冬優子「ふゆも――死力を尽くすわ」

P「ああ、一緒に頑張っていこう」

愛依「うち、全力で応援するから……だから!」

愛依「……って、なんからしくないよね、こんなの」

冬優子「アイドルとしての愛依なら、別にらしいって言ってもいいんじゃない?」

愛依「ううん。いまのうちは、本当のうちとしても冬優子ちゃんのことと向き合いたいから」

愛依「だから、……うん。さくっと勝ってきてー!」

冬優子「はいはい。ご期待に添えるよう頑張るわ」

あさひ「……」

P(あさひは無言か……まあ、あさひのことだから、本当に気に留めていないのかもしれない)

P「いままで通りにユニットとしての活動も普通にあるからな」

P「冬優子は大会に向けてユニットとは別のスケジュールも組むことになるが……」

P「……ストレイライトは何も変わらないさ」

P「いつだって、お前らが一番だよ」

冬優子「もうっ、かっこつけちゃって……」
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/26(土) 02:53:04.68 ID:8+gcnYsAO
数十分後。

P(あれから、自然に3人は、今日は解散、という流れになった)

P(冬優子だけが事務所に残った――まあ、残ってくれたほうがこちらとしては都合が良いけども)

P「冬優子、ちょっといいか」

冬優子「……奇遇ね」

冬優子「ふゆも、ちょうどあんたに話があったのよ」

P「そうか。それなら良かった」

P(社長は――今日は不在だ。はづきさんは仕事をしている)

P「よし、場所を変えよう」


P「って言っても、倉庫だけどな」

冬優子「きゃー♪ ふゆったら、プロデューサーと密室で2人きりでドキドキしちゃってます……!」

冬優子「……っていうのはまあいいとして」

P(いいのか……)

冬優子「あんたからでいいわよ」

P「ああ……」

P「決して易しい道ではない――いや、はっきりいって厳しい道だ」

P「それは、お前があさひじゃないからではない」

P「あさひだって、簡単にクリアできるものではないんだ、今回のは」

P「それでも、俺は冬優子と勝ちたい」

P「勝って……ストレイライトは単なるアイドルユニットを超える価値があるってこと、証明したいんだ」

P「俺のエゴがないわけじゃない……それでも」

P「冬優子と証明したい」

冬優子「……」

冬優子「……はぁ」

冬優子「あんた、なに当たり前のこと言ってんの」

冬優子「当然でしょ、そんなの」

冬優子「それに、あんたのエゴじゃないわよ」

冬優子「……じゃ、ふゆの番ね」

冬優子「これは、ふゆにとってのチャンスなの」

冬優子「負けは許されない……それでも、勝てばふゆはもっとアイドルとして輝くことができる……!」

冬優子「あいつにだって、負けない……!」

冬優子「だから、お願い」

冬優子「ふゆを勝たせて」

冬優子「あんたのしたいこと、ふゆに叶えさせて」

冬優子「それが、言いたかったことよ」
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/26(土) 02:57:43.61 ID:8+gcnYsAO
P「ストレイライトの全部を背負うことになるって、冬優子は言ったよな」

P「確かにその通りだ。だけど……」

P「冬優子にはそれができる」

P「いや、冬優子だからできるのかもしれない」

P「俺は、ストレイライトのために、愛依でもあさひでもなく、冬優子を選んだんだ」

冬優子「……そ」

冬優子「ま、これくらい乗り超えてみせるわよ」

冬優子「ううん。乗り超えられるの」

冬優子「あんたがいてくれるから、ね」ニコッ
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/26(土) 02:58:09.51 ID:8+gcnYsAO
とりあえずここまで。
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/26(土) 03:06:25.37 ID:UFX7QFbx0
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/26(土) 03:11:09.79 ID:Q0S0sXW9o
おつー
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/29(火) 00:40:19.14 ID:MhITpKdNO
1ヵ月後。

〜大会 予選会場〜

P(最初の予選の日がやってきた)

P(参加登録しているアイドルは実におよそ1500名だという)

P(この大会は3回の予選と1回の決勝で構成されている)

P(まず、1回目の予選で参加登録したアイドルたちがランダムに4つのグループに振り分けられる)

P(各グループにおける上位20%が2回目の予選に進むことができる)

P(2回目の予選では、残ったアイドルたちが再びランダムに4つのグループに振る分けられ、やはり各グループの上位20%が次に進むことになる)

P(3回目も同様だ)

P(最後の決勝では、それまでの審査員に加えて大御所をゲストに迎えたメンバーによって優勝と準優勝が決定される)

P「……」

P(最初の予選に向けて、冬優子はこれまで以上にレッスンや自主練・自主トレに励むようになった)

P(無理をしないか心配だったが……いまのところは大丈夫そうだな)

P(愛依は冬優子を応援したり精神的なケアをしたりしてくれた)

P(冬優子もそれにかなり救われていたようだ)

P(あさひは……まあ、相変わらずだが、やはりその天才としての努力やパフォーマンスは本物で――)

P(――冬優子は、それを今まで以上によく見ていると思う。才能への嫉妬や力量の差による悔しさだけではなく、自分が成長するための参考にしようと懸命になっているんだ)

P(ストレイライトは、確実にユニットとしての成長を見せている)

P(あとは……この大会で結果を残して、ユニットがごまかしのための在り方でないことを証明すれば……)

P(俺も、胸を張っていかないとな)

P(あいつらが一番頑張ってるんだから)

P「……お」

P(1回目の予選のグループ分けの番号が発表になった)

P「グループ3だってさ、冬優子」

冬優子「そ……まあ、どうだっていいわ」

冬優子「勝ち残って、結果を残すだけなんだし」

P「ははっ……そうだな」

冬優子「そろそろ控え室に行くわ」

P「まだ、スタンバイまでは時間あるぞ?」

冬優子「……ううん。いいの」

冬優子「ふゆにかかれば、1回目の予選なんて余裕よ」

冬優子「そのための努力をしてきたんじゃない……」ボソッ

冬優子「だから、あんたはただ、ふゆが出てくるのを待って、ふゆが歌って踊るのを見て、ふゆが勝ち残るのを見届ければいいのよ」

冬優子「それとも、自分のアイドルが信じられないの?」

P「……そんなわけ、ない」

P「わかった」

P「帰りの車で土産話が聞けるのを楽しみにしておくよ」

P「それでさ、勝ち残ってテンション上がったまま話すんだ」

P「だから……行ってこい、冬優子」

冬優子「ふふっ……ええ!」
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/29(火) 00:52:40.51 ID:MhITpKdNO
〜グループ3 控え室(大部屋1)〜

冬優子(まだ、あんまり人がいないわね)

冬優子(かえって好都合かも……今のうちにリラックスしておこうかしら)

冬優子「ふぅ……」

冬優子(勝ち残るのを見届ければいい……か)

冬優子(自分のアイドルが信じられないのか、とも言ったわね)

冬優子(あいつが、そう言われたらそれ以上何も言ってこれないのわかってて……)

冬優子「……」

冬優子(ふゆだって不安よ)

冬優子(これまでにないくらい練習もトレーニングもした。それなのに――)

冬優子(――あいつには、まだまだ、全く及ばない……!)

冬優子(あいつを今まで以上に観察して、その才能の一部でもふゆのものにしちゃえって思ったのにね)

冬優子(見れば見るほど天才というものを思い知らされるだけじゃないの)

冬優子(あんなやつが他にいたとしたら、ふゆは勝ち残っていけるの……?)

冬優子(そうやって思わないわけ……ないじゃない)

冬優子(怖い……)

冬優子(ふゆを支えてくれた愛依にあわせる顔がないような結果になることが怖い)

冬優子(あさひの才能が頭をよぎって恐れるあまりに身体が動かなくなることが怖い)

冬優子(なにより――)

冬優子(――プロデューサーを、裏切るようなアイドルになってしまうんじゃないかって……それが一番怖い)

冬優子「?」

ヒグッ、グスッ、ウウッ

冬優子「……」

冬優子(そうよね。泣く子、いるわよね)

冬優子(泣きたい子だってたくさんいるはず)

冬優子(ふゆは……どうなんだろう)

冬優子「泣けたら……楽なのかしら」ボソッ
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/29(火) 01:10:27.28 ID:MhITpKdNO
数十分後。

冬優子(しばらく楽にしてたけど、なんか時間が経つと逆に落ち着かなくなってくる……)

冬優子(何気なく控え室を出てうろうろしてるけど、特に目的があるわけじゃないのよね)

モウヒカエシツイッタホウガイインジャナイカ?

ウッサイ……ベツニマダジカンアルデショ

冬優子(なんか、プロデューサーと揉めてるアイドルがいるわね)

ア、オイ!

ハァ……ナニカ?

オマエナラカテル! ソレガイイタカッタ

ソウデスカ、デハ

冬優子(あの子、こっちに向かってきたわ)

冬優子(この方向って……ふゆが来た道――グループ3の控え室の方向だわ)

冬優子(同じグループなのかしら)

冬優子(……まあ、別に気にすることないじゃない)

冬優子(いまは自分のことを考えるのよ、ふゆ……)

冬優子「あ、自販機……」

冬優子(何買おうかしら)
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/29(火) 01:36:34.93 ID:MhITpKdNO
〜グループ3 控え室(大部屋1)入り口付近〜

冬優子(結局、水を1本買って戻ってきたわ)

ウーン

冬優子(あれ? さっきの子……)

冬優子(どの部屋に入ればいいのか、わからないのかしら)

冬優子(同じグループでもいくつか部屋が分かれてるし)

冬優子「あのー……大丈夫、ですか?」

「あ……」

冬優子「結構分かりづらいですよね〜同じグループでも、さらに部屋がわかれてますし」

「はい……。すみません、私、これなんですけど」

冬優子「……これは、ふゆと同じ部屋ですねっ」

「あ、そうなんだ」

冬優子「それなら話がはやくてよかった〜。じゃあ、ふゆについてきて下さいね」

「ありがとうございます」


〜グループ3 控え室(大部屋1)〜

冬優子「はいっ、ついた〜っと」

冬優子「あ、自己紹介がまだでしたよね」

冬優子「283プロの黛冬優子です! よろしくね、……えーと」

「……マドカ」

冬優子「マドカちゃんっていうのね」

マドカ「別に覚えなくていいですよ」

冬優子「どうして?」

マドカ「どうせ私は負けるし、今後会うこともないかもしれないので」

冬優子「そ、そんなこと言わないでよ〜」

マドカ「……」

冬優子「アイドル、楽しくないんですか?」

マドカ「別に」

冬優子「別にって……」

マドカ「プロデューサーが勝手に盛り上がってるだけ」

マドカ「だから、私は別に……」

冬優子「そ、そっか……なんかごめんね? ふゆ、余計なこと聞いちゃったかも」

マドカ「気にしないでください」

マドカ「では、私は向こうのほうで適当に過ごしてるので」

マドカ「部屋、教えてくれてありがとうございました」

マドカ「さよなら」

冬優子「うん……ばいばい」
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/29(火) 01:51:30.84 ID:MhITpKdNO
冬優子(なんだったのかしら、あの子)

冬優子(無理やりアイドルにされたとか、そういうことなの……?)

冬優子(負けることしか頭にないみたいだったわね)

冬優子(ふゆは、勝つことしか頭にないっていうのに)

冬優子「……」

冬優子 パンッ

冬優子(他人のことなんて気にしてる場合じゃない、か)

冬優子(イメトレでもしようかしら)


冬優子(なかなか出番にならないわね……イライラしてきたわ)

冬優子(緊張とかどうでもよくなってきたかも……)

冬優子(人がたくさんいる大部屋だと息苦しい……外に出て気分転換でもしよ……)
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/29(火) 02:05:55.24 ID:MhITpKdNO
〜グループ3 控え室付近廊下〜

冬優子(外の空気で深呼吸したらだいぶ楽になったわ)

冬優子(あの部屋に居続けても良くなさそうね)

冬優子(出番までは……あと1時間か)

冬優子(どっか軽く振り付けの練習でもできるスペースはないのかしら)

ンダトコラァッ

冬優子「!?」

冬優子(ど、怒号……よね、今の)

冬優子 ソローッ

「あんたさっきから何? 舐めてんの?」

マドカ「そんなんじゃ、ありませんが」

マドカ「離してくれませんか。私なんかに構ってたら時間がもったいないんじゃないですか?」

「っ……!」

「あんたさ、さっきの、もういっぺん言ってみなよ」

マドカ「あぁ……あれ」

マドカ「笑っておけば何とかなる――アイドルって楽な商売」

マドカ「たしか、そう言いました」

「このっ!」

マドカ「っ」

冬優子(まずいわね、あれ殴られるわ)

冬優子(どうする……? 助けにいくの?)

冬優子(今日初めて会ったようなアイドルを? それも――)


マドカ『笑っておけば何とかなる――アイドルって楽な商売』


冬優子「っ!」グッ

冬優子(――あんなこと、言う子……)


冬優子『ふゆ、みんなを笑顔にしたいです! ――とか言っておけば、好感度上がるでしょ?』


冬優子(……助けないといけないじゃない)

冬優子「あの〜」

「……誰」

冬優子「さすがにそうやって揉めてると問題になっちゃうんじゃないかな〜って、ふゆ、思うんですけど……」

「チッ……、なにあんた、チクろうっての?」

冬優子「そんなこと言ってないじゃないですか〜」

冬優子「でも、今日は大事な大会ですし、それ以外でエネルギー使うのは……それこそ後になってむかーっなりますよ」

冬優子「だから、どんな気持ちも自分の出番で爆発させちゃいましょうっ、ね?」

「ハァ……、こんなの助けても何にもならないわよ」

「まあ、私のためにもならないか」

「ほら、うせろよ。もう顔見せんな」バッ

マドカ「ぐっ」ドサッ

「……」スタスタ
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/29(火) 02:21:33.33 ID:MhITpKdNO
冬優子「マドカちゃん! ……大丈夫?」

マドカ「あの人の言う通り」

冬優子「え?」

マドカ「私を助けたって、何にもなりませんよ」

マドカ「自分の出番に出れても出れなくても負けるようなアイドルなんて、倍率を下げる効果を持ちませんし」

冬優子「……そんなんじゃ、ないよ」

マドカ「あなたも聞いたんでしょう。私の言ったこと」

マドカ「アイドル舐めてるんですよ、私は」

マドカ「あなただって、私に怒りを覚えてもいいはずなのに」

冬優子「ふゆね、マドカちゃんの思ってること、なんとなくわかっちゃうかもしれないんだ」

冬優子「ううん。ふゆが勝手にそう思ってるだけなのかも」

冬優子「アイドル舐めてたって意味じゃ、ふゆも人のこと、言えないから……」

マドカ「……」

冬優子「でも、ふゆは負けないよ」

冬優子「ふゆは勝ちに来たの。ふゆがふゆとしてアイドルやっていけてるって証明したいから」

冬優子「そう思わせてくれる人がいたんだ」

冬優子「ふゆのプロデューサーなんだけどね……あ、これは秘密だよ」

マドカ「プロデューサー、か……」

マドカ「いい人に巡り会えたんですね」

マドカ「……」

マドカ「私も、そんな風に思えたら……」

冬優子「それならマドカちゃんだって勝てるよ! さっきつっかかってきた人なんて相手にならないんじゃないかな」

冬優子「マドカちゃん可愛いし、ほら、もっと笑おう? ね?」

マドカ「なにそれ……わけわかんない」

冬優子「え〜、そんなことないよ〜」

マドカ「さっきの人の去り際くらい意味不明」

冬優子「?」

マドカ「だって、さっき私に怒ってた人、うせろって言ったのに自分から去って行ったから」

冬優子「ぶっ!」

マドカ「わっ」

冬優子「ご、ごめんね……あははははは!」

冬優子「あー、おかしい。はは……」

冬優子「マドカちゃんって面白いね」

マドカ「そんな風に言われたこと、ない」

冬優子「可愛くて面白いなんて反則だな〜、これはふゆのライバル……」

マドカ「もう、本当に何言って……」

マドカ「……あ、出番、あと少しだ」

冬優子「ああは言っても、出るんだよね?」

マドカ「出ないとプロデューサーも事務所もうるさいでしょうし、出たほうが身のため、くらいには」

冬優子「そっか。いってらっしゃい、マドカちゃん」

マドカ「……」スタスタ

冬優子「勝ったら……!」

冬優子「2人とも勝ったら、またお話しようね〜!」
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/29(火) 02:44:10.65 ID:MhITpKdNO
〜グループ3 控え室(大部屋1)〜

冬優子(なにやってんだろ)

冬優子(またお話しようね、か……)

冬優子(2人とも勝ったら……)

冬優子「よしっ」

冬優子(今度こそ集中集中。ふゆの出番まであと20分……確実に勝ち残るために、もう1回通しで振り返りよ)

冬優子 フリフリ

冬優子 キュッキュッ

冬優子 スタッ


予選終了後。

P「冬優子、お疲れ様」

冬優子「プロデューサー、ふゆの出番、ちゃんと見てた?」

P「当たり前だろ」

P「あれを見せられたら、心配なんて吹き飛んださ」

冬優子「なによ、やっぱり信じてなかったんじゃない」

P「信じてたよ。それでも、もしものことを全く考えないほど楽な思考してないんだ」

冬優子「……冗談よ。それでも信じてたって言わせたかっただけなんだから」

P「ははっ、そうか」

冬優子「結果発表までどのくらいあるの?」

P「予選はその日のうちに結果が出るからな……とはいえ、あと2時間くらいはある」

P「現地で結果を知ることもできるし、専用ページにログインして見ることもできる」

P「疲れてるんならもう車出すけど、どうする?」

冬優子「いいわ。ここで、自分の目で結果を見るから」

P「わかった。こんな場所だからテイクアウトになってすまんが、ほれ、夕飯だ」

冬優子「……ありがと」

P「とりあえず休もう。今は勝ち負けとか、これからのこととか、考えなくてもいいんだ」

P「飯食いながらどうでもいい話でもしてようぜ」

冬優子「それもそうね……あ、あそことか、テーブルと椅子があってちょうどいいんじゃない?」

P「だな」

冬優子「……」


P(2時間後、1回目の予選の結果が発表された)

P(冬優子は、無事通過できた)

P(結果を知ったときの冬優子は、声を震わせながら――)


冬優子『当然の結果よ』


P(――と言った)

P(とりあえず、最初の関門はクリアした)

P(この調子で勝ち進んで行こう)



――――第1回予選 グループ3 通過者一覧――――
………………… ………………… …………………
………………… 283プロ黛冬優子 …………………
………………… ---プロ マドカ …………………
………………… ………………… …………………
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/29(火) 02:44:50.30 ID:MhITpKdNO
とりあえずここまで。
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/29(火) 02:58:55.69 ID:cTSFepA30


円香出てくるとかワクワクしてきた
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/29(火) 07:18:43.24 ID:O23T+iVko
おつおつ
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/29(火) 11:59:33.75 ID:73UPMUXDO


意味不明でにこにーの嫁を思い出したがな
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/29(火) 17:04:17.24 ID:MhITpKdNO
1ヵ月後。

〜大会 予選会場〜

P(2回目の予選の日がやってきた)

P(1回目の予選を通過してから、冬優子のメンタルは安定しているようだ)

P(淡々と練習を重ね、今に至る――良い状態・状況なんだろう)

P(特に俺が口を挟むこともなかった)

P「……」

P(どこか……寂しさを感じているのだろうか、俺は)

P(冬優子が1人でもやっていけそうなくらいに立派になってしまうと、俺の出る幕はなくなるような気がして――)

P(――それは、喜ぶべきことのはずなのにな)

P「それにしても……」

P(……減った)

P(上位20%しか残らないというのは形式的な手続きとして知っていたが、ここまで人が減るものなのか)

P(第1回予選のときとは違い、会場は静けさすら感じ取れるほどだった)

P(第3回はもっと人が減るんだろうな)

P「……お」

P(2回目のグループ分けの番号が発表になった)

P「グループ4だって」

冬優子 キョロキョロ

P「どうしたんだ?」

冬優子「えっ? あ、いや……なんでもないわよ」

P「?」

P(何か――あるいは誰か――探してるのか?)

冬優子「グループ分けの発表のページ、ふゆにも見せてもらえる?」

P「あ、ああ……これだ」

冬優子 ジーッ

冬優子「……あ」

冬優子「今回は違うんだ」ボソッ

P「何が違うって?」

冬優子「ううん。なんでもない」

冬優子「もう行くわ。早めに入っておいて損はないし」

P「ははっ、前回もそうだったな」

冬優子「……前回とは、違うわよ」

冬優子「ふゆね、不思議と落ち着いてるの」

冬優子「この前は、強がってた部分もあったけど……」

冬優子「あんたは、今度こそそこで、待っていればいいの」

冬優子「じゃ、行くわ」

P「ああ。行ってこい」
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/29(火) 17:46:22.05 ID:MhITpKdNO
〜グループ4 控え室〜

冬優子(前回は1つのグループでいくつもの大部屋を使ってたというのに――)

ガラーン

冬優子(――もう、2回目にして1つのグループで大部屋1つとはね)

冬優子(前回は同じくらい早く来てももう少しくらはにぎやかだったと思うけど……)

冬優子(……まあ、勝ち残るっていうのは、そういうのを目の当たりにするってことでもあるのよね)

冬優子「……」

冬優子(あの子はどのグループにいるのかしら)

冬優子(別のグループみたいだけど……)

冬優子(気にしてもしかたない、か……)

ヒグッ、グスッ、ウウッ

冬優子「……あ」

冬優子(あれ、前回もふゆと同じ部屋で泣いてた子……よね)

冬優子(勝ち残ったんだ)

ネエ、アレミテヨ

ナンカナイテナーイ?

ナキタイコナンテイッパイイルノニ、カッテダヨネー

ピャウッ!?

冬優子「チッ……雰囲気も胸糞も悪いわね」ボソッ

冬優子(これ以上場の空気を悪化させるんじゃないわよ、ったく――)

「ねぇ、あんたさぁ」

「ぴゃ!? ななな、なんですか……?」

「泣きたい子なら他にもいるのよ。なのに、そうやって目立つように泣いちゃって……」

「ご、ごご、ごめんなさい……っ」

「申し訳ないと思うなら一人で目立たないところで泣いてろよ、ほら、出てけって」

「そ、そんな……」

冬優子(――世話の焼ける)

冬優子 スタスタ

冬優子「あっ、ここにいたんだねっ」ダキッ

「ぴゃ? だ、だr……ってむぎゅ」

冬優子「探したよ〜、ほら、ここだと他の人に迷惑だし、ふゆとお外でお話してよ? ね?」

「は、はい……」
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/29(火) 18:04:25.82 ID:MhITpKdNO
〜予選会場 ロビー〜

冬優子(とりあえずここまで来れば……)

冬優子(って、ふゆったらまた何してんの!? もう……)

冬優子(また人助け……ううん、これはあの場の空気を悪くしたくなかったふゆのわがまま)

冬優子(そう……よね)

「うう……わ、わたしになにか用ですか?」

冬優子「ごめんね。ふゆは別にあなたを怒ろうとか、そういうんじゃないの」

冬優子「あそこにいたら……ね? あんまりいい気持ちしなかったじゃない?」

「ありがとうございます……」

冬優子「283プロの黛冬優子ですっ。あなたは?」

「は、はいっ、わたしは――」

コイト「――コイト、です」

冬優子「コイトちゃんっていうんだ。よろしくね!」

冬優子(それにしてもこの子……)ジーッ

コイト「な、なな……なんでしょうか……」

冬優子(か、可愛い……)

冬優子「……推せるっ!」

コイト「わぁっ!? び、びっくりしました……」

冬優子(やばっ……!)

冬優子「あっ、ご、ごめんね。コイトちゃん可愛いから、つい……」

コイト「か、可愛いだなんて……そんな……えへへ」

コイト「お世辞でも……う、嬉しいです。ありがとうございます」

冬優子「ううん。お世辞なんかじゃないよ。本当に可愛い」

冬優子(伊達に勝ち残ったわけじゃない、か)

冬優子「コイトちゃんはどう? 大会は順調?」

コイト「え、ええ……まあまあです、たぶん……」

冬優子「そっか」

コイト「わたし、だめだめなんです」

コイト「プロデューサーさんも友だちもいない……こんな一人ぼっちで放り出されても……」

コイト「泣いてることしか、できませんから……」

冬優子「それでも、最初の予選には勝てたから、ここにいるんでしょ?」

コイト「そ、それは……まあ、いっぱい練習しましたから……」

コイト「でも、わたし一人にできることなんて……」

冬優子「……」

冬優子「もうっ、暗いのやめやめ! もっと楽しくなきゃ、ね?」

コイト「楽しく……」

冬優子「そうだよっ。コイトちゃん、もっと笑わなきゃ!」

コイト「あ、あはは……はい」

冬優子「コイトちゃんが笑顔になるときってどんなときなの〜?」

コイト「わたしが……」

コイト「……あ、飴っ」

冬優子「?」

コイト「飴、好きで……食べると思わず……な、なんて……えへへ」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/29(火) 18:11:16.38 ID:MhITpKdNO
冬優子「いま持ってないの?」

コイト「も、もちろん持ってます! これ……」

冬優子「わぁ〜っ、いっぱい持ってるんだね」

コイト「はい。あむっ」

コイト「……」

コイト ニパァッ

冬優子 キュン

コイト「あ、飴あげちゃいます……! どうぞ」

冬優子「いいの?」

コイト「さっき、た、助けてくれた……お礼です」

コイト「迷惑だったらごめんなさい」

冬優子「ううん。ありがとうっ。じゃあ、これもらっちゃうね」

コイト「はいっ」

冬優子(飴……か。久しく食べてないわね)

コイト ニコニコ

冬優子(……さっきまで泣いてたのに、この子、こんな顔もできるんだ)

冬優子(でも、それは作り物じゃない、きっと本物の……)

冬優子「……」

冬優子 パクッ

冬優子「……」

冬優子「……おいし」

冬優子(今度からのど飴以外も買ってみようかしら)
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/29(火) 18:26:54.19 ID:MhITpKdNO
「……あ」

冬優子「あ」

コイト「あっ――」

コイト「――マドカちゃん」

マドカ「コイト、こんなところにいたんだ」

マドカ「それに……」

冬優子「マドカちゃん久しぶり!」

マドカ「あなたも……」

マドカ「コイト。控え室にいなかったから探したんだけど」

コイト「ご、ごめんね……」

マドカ ジーッ

マドカ「……涙の痕……泣いたの?」

マドカ「まさか、泣かしたやつらが……」

コイト「も、もう大丈夫……! だから」

コイト「助けてもらったんだよ」

冬優子「えへへ……」

マドカ「はぁ……」

マドカ「まあ、無事ならいいけど」

マドカ「そろそろ出番だから、私は行くけど、コイトは大丈夫なの?」

コイト「う、うん……頑張るから……」

マドカ「……そう」

マドカ スタスタ

冬優子「マドカちゃん……」

コイト「し、知り合いだったんですね」

冬優子「この前の予選でちょっとね」

冬優子「コイトちゃんは……」

コイト「あ、わ、わたしは、お、幼馴染……だから」

冬優子「そうなんだ〜!」

コイト「事務所も一緒なんです。というか、ユニットも」

冬優子「仲良しなんだねっ」

冬優子「マドカちゃん、コイトちゃんのことすごく心配してくれてたみたいだし」

コイト「は、はい。昔からずっとこんな感じで……」

コイト「マドカちゃんには、心配かけてばかり……」

コイト「ほんとうは、マドカちゃんとか、プロデューサーさんにも、わたしがいないとだめだめだねって言えるくらい……強くなりたいんです」

コイト「でも、そんなの無理で……わたしは泣き虫だし、ちっちゃいし、臆病だし……」

コイト「だめだめなのはわたしで、アイドルをやっていくうちに治ると思ったんですけど……」

コイト「もっとだめだめになっちゃったかもしれないです」グスッ

冬優子「コイトちゃん……」
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/29(火) 18:55:02.04 ID:MhITpKdNO
冬優子「ふゆはね、コイトちゃんは強いと思うよ」

コイト「ぴゃ? な、なんでですか……?」

冬優子「自分の弱さを知ってることって、ふゆは強いと思うもん」

冬優子(自分が情けないところなんて、目を背けたくもなるわ)

冬優子(でも、この子はきっとそうじゃない……)

冬優子「そういう強さがあるから、最初の予選に勝って、こうしてふゆと出会えたんじゃないかな」

冬優子「コイトちゃんと知り合えたのも、コイトちゃんの強さのおかげだねっ」

コイト「え、えへへ……そうですかね」

コイト「……」

コイト「わたし、焦っちゃってるんです」

コイト「アイドルをやっている人たちには、いろんな才能を持った人たちがいて」

コイト「努力だって人の何倍も何十倍もしてる人たちがいて」

コイト「みんな……すごいなって」

コイト「わたしなんて、頑張らないと、きっと置いていかれちゃう……」

コイト「事務所の方針で……マドカちゃんと同じユニットのわたしも、そ、その、特例……で出てますけど……」

コイト「……わたしが出たって、き、きっと迷惑をかけるだけなんじゃないかって、そう思っちゃうんです」

冬優子「……」

冬優子(その言葉を聞いて、ふと、脳裏にはあいつの顔が思い浮かぶ)

冬優子(天才、努力家、すごいアイドル……全部あてはまるバケモンが)

冬優子(もし、283プロも裏技とかを使ってストレイライトからあいつとふゆを出していたら……)

冬優子(……そんなことはあり得ないとしても、考えるだけでゾッとする)

冬優子「ふゆもそうだよ」

コイト「えっ?」

冬優子「同じユニットにすごい人がいて、いつも置いていかれないように頑張るの」

冬優子「って言っても、いつも置いていかれっぱなしなんだけどね〜。あはは……」

冬優子「今もね。その子のことを考えると、自信をなくしそうになっちゃうときがあるの」

冬優子「でも……ふふっ。コイトちゃんを見てたら、ふゆも頑張れるって、そう思ったんだ」

冬優子「だって、コイトちゃん、今まですっごく頑張ってきたんでしょ?」

コイト「……」

冬優子「そんなコイトちゃんを見たら、ふゆだって頑張りたくもなるよ」

コイト「わ、わたし……頑張れてますか……ね」

冬優子「うんっ! 予選に勝てたのだって、ここまでアイドルをやってこれてるのだって、コイトちゃんの力だよ」

冬優子「この大会は、ユニットは関係ないんだもん」

コイト「だめだめ、なんかじゃなくて……わたし……ちゃんと……グスッ」

冬優子「大丈夫……きっと大丈夫だよ」ナデナデ

コイト「わっ、わたし……っ!」ポロポロ

コイト「ふ、不安でした……怖かったです……。みんなすごくて、頑張ってても置いていかれて、居場所なんかなくなっちゃうんじゃないかって……」ポロポロ

コイト「それでも、アイドルだって、お、お勉強だって、いっぱいいっぱい……頑張ってきたんです……!」ポロポロ

コイト「それを……わかってくれる人なんて……いなくて……」ポロポロ

冬優子「ふゆが知ってる――わかってるよ。コイトちゃんが頑張ってること」

冬優子「それに、マドカちゃんだってきっとわかってくれるって……ふゆは思うな」

コイト「え、えへへ……そう、ですよね」ポロポロ

冬優子「あ、ふふっ、また笑ってくれたね。そうだよ。そういう顔してなくっちゃ……ね?」
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/29(火) 19:06:30.01 ID:MhITpKdNO
冬優子「落ち着いた?」

コイト「は、はいっ。お化粧まで直してくれて、ありがとうございます……」

コイト「今日会ったばかりなのに……なんか、えへへ」

冬優子「ふふっ、変なの……って?」

コイト「べ、別に変とは……言ってません、よ」

冬優子「気にしなくていいのに」

冬優子(本当に変……ふゆ、大会でライバルになるような子に、こんな……)

冬優子(敵に塩を送るようなことして、なにがしたいんだろ……)

冬優子(でも、不思議ね)

冬優子(時間の無駄とか、後悔とか、そういうのは全然思わないんだから)

冬優子「……ほんと、なんなんだろうね」アハハ

冬優子「そろそろ控え室戻ろっか」


〜グループ4 控え室〜

冬優子(コイトちゃんをいびってたやつらはもう行ったみたいで良かったわ)

冬優子「さて、と……」

冬優子(出番まであと少し……最後の追い込みよ、ふゆ)


冬優子「……」

冬優子(まあ、こんなものね)

冬優子「じゃあ、行きますか」

コイト テテテテ

コイト「あ、あのっ」

冬優子「あっ、コイトちゃん。どうしたの?」

コイト「さ、ささ……」

冬優子「?」

コイト「……3回戦で会いましょう!」

コイト「そ、それを、言いに来ました……」

冬優子「コイトちゃん……」

コイト「えへへ……2人とも勝てるって、思ったから……」

冬優子「ありがと。うんっ、頑張ってくるね」

コイト「はいっ! い、いってらっしゃい!」

冬優子「ふふっ、いってきます」ニコッ

冬優子(……あ)

冬優子(いまの笑顔は、ふゆの本物だったかも)





――――第2回予選 グループ4 通過者一覧――――
………………… ………………… …………………
………………… 283プロ黛冬優子 …………………
………………… ………………… ---プロ コイト
………………… ………………… …………………
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/29(火) 19:07:50.10 ID:MhITpKdNO
とりあえずここまで。
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/29(火) 19:16:18.65 ID:Dx0meAr+o
おつおつ
……ヒナくるか
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/29(火) 22:30:09.18 ID:73UPMUXDO
次がトオルでラストがヒナナじゃなかと?
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/30(水) 01:26:05.53 ID:fdpjqGKU0
ハーレム系主人公ふゆこ
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/07(水) 20:02:47.79 ID:Ht8p8gLoO
>>1です。10月中旬ごろの再開を予定しています。
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/10/07(水) 20:22:24.37 ID:cfvfYZuwo
はいな
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/11(日) 00:36:05.96 ID:UbGTNLKm0
1ヵ月後。

〜大会 予選会場〜

P(予選も3回目に突入した)

P(これが、最後の予選となる)

P(前回の予選を終えてから、冬優子はさらに成長したように見える)

P(アイドルとしての“ふゆ”と1人の人間としての“冬優子”のバランスが良くなった……と言えば良いんだろうか)

P(冬優子のアイドルとしての振る舞いに、疑いようのない「本物」を感じる)

P(……良い。これは良いことだ)

P(手ごわい審査員を相手にしても、今の冬優子なら完璧に魅了することができるんじゃないだろうか)

P(勝てる……勝てるぞ……!)

P(冬優子の成長を、俺は、自分のように嬉しく思っていた)

P「もう、俺の出る幕なんてないんじゃないか? ――ははっ、なんてな……」ボソッ

P(実際、予選を勝ち進むに連れて、俺がアドバイスすることはほとんどなくなっていた)

P(冬優子もレッスンや自主トレに熱心に取り組んでいる。余計な口出しになるくらいならしたくなかった)

P(最近、冬優子との会話自体があまりないよな……)

「――あ」

P(業務連絡のほうが多くなってきてるよな……)

「ねえ」

P(よし、本番前に冬優子の様子を見に行ってみるか)

P(邪魔になりそうならすぐ退散すればいいだけだし)

「……聞いてる?」

P「え? わ、私でしょうか……?」

「ふふっ。なにそれ」

P「っと、君は――」


冬優子(3回戦ともなると、とても静かね……)

冬優子(それもそっか……もう、勝ち残ってるアイドルは、100人を余裕で下回ってるんだし)

冬優子(……今回も、例によって出番までちょっと暇なのよね)

冬優子「あ、そうだ」

冬優子(あいつにグループ分けの番号聞きに行かなきゃ)

冬優子「……」

冬優子(そういえば、最近、そもそもあんまり話してないような……)

冬優子(って、なになに!? ふゆってば、あいつと話せなくて物足りなさを感じてる!?)

冬優子(そんな少女漫画的思考……)

冬優子「……」

冬優子(こ、これは番号を聞きに行くだけ……そう、それだけよ)

冬優子(それだけ……なんだから)

冬優子 スタスタ
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/11(日) 00:59:52.12 ID:UbGTNLKm0
冬優子(あ、いたいた――)

冬優子(――って、誰かと話してるじゃない)ササッ


P「久しぶりだな」

「お互い様、だね」

P「まさか、こんなシチュエーションでまた会えるとは思ってなかったよ」

「わたs……僕もだよ」


冬優子(と、とっさに隠れちゃったけど……)

冬優子(誰……? アイドルの子かしら)

冬優子(まあ、ふゆがあの子を知らないように、あの子だってふゆのことは知らない、か……)

冬優子(それにしても――)


P「ははっ、今でも自分のこと僕って言ってるのか?」

「ううん。そうでもない」

P「そうでもない……?」

「うん。普段は、私。アイドルのときも、私。でも、今は、そのどっちでもないから」

P「? そ、そうか……」


冬優子(――綺麗な人)

冬優子(あいつにとって、あの子はどういう存在なのかしら)

冬優子(って、気にしてもしょうがないわよね)

冬優子(さっさと番号聞いて控え室に行けばいいのよ)


冬優子「プロデューサーさんっ」

P「お、冬優子か。……そうだ、ちょうど、さっきは様子を見に行こうとしていたんだった」

冬優子「そうなんですね! ありがとうございますっ」

冬優子「ふゆ、グループの番号を知りたいなって」

P「そうだよな。ちょっと待っててくれ」

P「あ、そうだ。紹介するよ。こいつはトオルっていって……」

「とっても仲良しな俺の幼馴染」

P「そうそう――って、仲良しなら、しばらく疎遠にはなってなかっただろ」

P「今のお前は、アイドルのトオルだしな」

トオル「ごめんね? なんていうか、言ってみたかっただけ」

P「ははっ、なんだそりゃ」

P「トオル、こっちは、俺がプロデュースしてるアイドルの黛冬優子だ」

冬優子「283プロの黛冬優子ですっ。よろしくお願いします、トオルさん!」

トオル「よろしく……」

冬優子「プロデューサーさんの幼馴染だなんて、すごいですね〜」

トオル「ふふっ、いいでしょ。……なんて」ボソッ

冬優子(は?)イラッ

冬優子(なんか今、さりげなく自慢されたわよね。ふゆの地獄耳が聞き取ったわよ)

冬優子(なんなのこの子……)

冬優子(って、今はアイドル! アイドルのふゆなんだから……落ち着け落ち着け……)

冬優子「そ、それで! プロデューサーさん、番号はいくつですか?」
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/11(日) 01:22:14.63 ID:UbGTNLKm0
〜グループ2 控え室〜

冬優子「……」

トオル「……」

冬優子「…………」

トオル「…………」

冬優子「………………」

トオル「………………」

冬優子(なんで同じグループなのよ!!)

冬優子(しかも、1グループに15人くらい上に今回から大部屋じゃなくなったから距離が近いじゃない……)

冬優子(それならできるだけ離れたところに座ればいい――というわけにもいかなかったのよね)

冬優子「……」


冬優子『……お、おんなじグループ、なんですねっ』

P『冬優子、顔が引きつってるぞ』ミミウチ

冬優子『う、うっさい……!』ボソッ

冬優子『そ、それじゃあふゆは、控え室に行こうかなー……』

トオル『ぼk……私もそろそろ行かなきゃ』

トオル『あ、そうだ』

トオル『ねえ』

P『なんだ?』

トオル『私のプロデューサーになってよ』

冬優子『は、はあっ?! ……ってヤバっ』

P『えっと、何を言ってるんだ? トオル』

トオル『うちのプロダクションの……えっと、あのおじさん……いや、とにかく偉い人がね』

トオル『あのプロデューサーは是非うちに欲しい……とか言ってて』

トオル『だから、そういうこと』

冬優子『プロデューサーさん? ちょっといいですか?』グイッ

P『お、おい、引っ張るなって……』

冬優子『今の話、どういうことなのよ……!』ヒソヒソ

P『知らないって。突然言われて俺も混乱してるんだ』ヒソヒソ

冬優子『ふ、ふーん。どうだか』ヒソヒソ

P『本当なんだって』ヒソヒソ

冬優子『幼馴染との久々の再会と思わぬヘッドハンティングでニヤニヤしてんじゃないわよ』ヒソヒソ

P『そんなことないって……。何を怒ってるんだ……』ヒソヒソ

冬優子『怒ってないっての……! バカ』ヒソヒソ

トオル『えっと、あの……』

P『あ、ああ……すまんな、なんか』

トオル『ううん。こっちこそ、突然言い出してごめん』

トオル『でも、私は――』

トオル『――この話を受けてくれたら嬉しい、かな』

トオル『まあ、そういうことだから』スタスタ

P『あ、おい、トオル……って、冬優子もいつの間にかいなくなってるし……。はぁ……』


冬優子(ぐだぐだやってたおかげで控え室の場所がほとんど埋まって隣同士になるしかない――なんて)
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/11(日) 02:02:36.16 ID:UbGTNLKm0
冬優子・トオル「あの……」

冬優子「あ……」

トオル「あっ」

冬優子「えっと、どうかしましたか?」

トオル「名前……」

冬優子「?」

トオル「黛――千尋さん」

冬優子「洛山高校3年の“新型の幻の6人目(シックスマン)”……ってアイドルとしては斬新過ぎるし違うかなぁ……」

冬優子(「つーか 誰だお前」って言ってこの場を去りたくなってきたわ)

トオル「えと、黛……真知子さん?」

冬優子「ふゆは古美門法律事務所の弁護士ではないかなー……」

冬優子(朝ドラのヒロインなら、仕事としては魅力的だけど)

冬優子(まあ、あれは馬鹿にされて言われてるだけだったわね)

冬優子「もうっ、黛冬優子だから……!」

トオル「ふふっ、ごめんごめん」

トオル「あ、はじめましてだから、敬語のほうがいいんだっけ」

冬優子「ふゆに聞かれても……」

冬優子(調子狂うわね……)

冬優子「じゃあ、お互い敬語は無しってことにしよ?」

トオル「……うん。わかった」

冬優子「……」

トオル「……」

冬優子(どっちかが出番来るまでこれって……嘘よね……?)
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/11(日) 02:21:27.50 ID:UbGTNLKm0
冬優子「幼馴染って言ってたよね」

トオル「あ、うん」

冬優子「よく一緒に遊んでたの?」

トオル「まあ……そう、かな。もう、だいぶ前になっちゃったけど」

トオル「あの人は、まだ中高生だった」

トオル「公園で一緒に……ジャングルジムで遊んでた」

冬優子(中高生男子が小学生以下の女子とジャングルジムで遊ぶってどうなのよ)

冬優子(この子が、昔は活発な女の子だったとか?)

冬優子(まあ、どうでもいいけど)

トオル「それから、しばらく疎遠になって、いろいろあって私はアイドルになって……」

トオル「……それで、偶然、仕事の現場にあの人がいるのを見つけた」

トオル「他のところで、プロデューサーやってた」

冬優子「……」

トオル「なんかね、評判良いみたい」

トオル「私のいるプロダクションにも噂が届くくらいに」

冬優子「そう、なんだ……」

冬優子(あいつ、仕事できるもの……そんなの、むしろふゆが誇ってもいいことなのに……)

冬優子(そこから続く話題が、それを妨げる)

トオル「それで、私のとこの偉い人が引き抜きたいって言ってたから」

トオル「もしそうなったら、私のプロデューサーになって欲しいなって」

トオル「そう思った」

冬優子「……っ」

冬優子(なによ。なんなのよ、これ……)

冬優子(焦り? 不安? 怒り?)

冬優子(得体の知れない居心地の悪さと息苦しさ……)

冬優子(本番前だってのに……! こんなとこでストレス抱えてられないのに……!)

トオル「別に、プロデューサーを取っちゃおうってわけじゃなくて」

トオル「プロデューサーから来てくれたら、嬉しいなって」

トオル「だから、気にしないで、いいと思う……」

冬優子「っ!」ダッ

トオル「あ……」
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/11(日) 02:43:43.94 ID:UbGTNLKm0
〜グループ2 控え室付近廊下〜

冬優子「……っ」ズカズカ


トオル『プロデューサーから来てくれたら、嬉しいなって』

トオル『だから、気にしないで、いいと思う……』


冬優子(ふざけんじゃないわよ……!)

冬優子(幼馴染だかなんだか知らないけど、勝手なこと言って……!)

冬優子(自分から来てくれたら嬉しい? そんな言い方、余計にたちが悪いっての!)

冬優子「……」ハァハァ

冬優子(……なんでこんなにむかついてるのかしら。ふゆにとって、あいつは……プロデューサーは……)


P『嘘をつくことと、嘘であることは、違うと思う』

P『俺は、嘘をついてでも嘘であろうとはしない冬優子を――全力で“推してる”』

P『冬優子には、冬優子を否定して欲しくない』

P『自分が好きだと思ってる対象が自分を否定してたら、悲しいだろ?』


冬優子(ああ言われて、ふゆは……)


冬優子『ふゆはあんたに推されるくらいじゃ足りないから!』

冬優子『ガチ恋させてやるんだから――ちゃんとふゆのこと、見てなさいよね!』


冬優子(……そう言った)

冬優子(アイドルとプロデューサー? ……笑わせるわね)

冬優子(ふゆにとっては、最早、あいつはただのプロデューサーじゃない)

冬優子「……そっか」

冬優子(そういうことか)

冬優子(ふゆは、気づいてないふりをしていただけ……)

冬優子「あ、時計……って嘘!? 思ったより出番まで時間ないじゃない!?」

冬優子「戻らなきゃ――」


「冬優子!」バッ


冬優子「――……」ピタッ

P「はあっ……はあっ……」ゼエゼエ

冬優子「……あんた、こんなとこで何してんのよ」

P「もともと……冬優子の様子を見に行こうと思ってたんだ」

P「ほら、その……最近あまり関われてなかっただろ? 話す機会だってあんまりなくてさ」

P「今の冬優子なら、もう俺なんか必要ないんじゃないかって思ったこともあった」

P「この大会で勝ち残っていく中で、冬優子は、格段に、確実に、成長してたから」

P「でも……それでも、俺は」

P「俺は、黛冬優子のプロデューサーだ。これまでも、これからも」

P「冬優子が要らないって言っても、俺は、ずっとお前のプロデューサーでいつづけたい。冬優子を支えたいんだ」

P「それを、伝えたくて……」

冬優子(あーあ……余計にあんたが必要になっちゃった。ただでさえ、ふゆはあんたにいて欲しいのに)

冬優子「ばーか」ニコッ

冬優子「そんなの、当たり前じゃない!!」
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/11(日) 03:01:30.74 ID:UbGTNLKm0
冬優子『ばーか』ニコッ

冬優子『そんなの、当たり前じゃない!!』


P(そう言って、冬優子は走っていった)

P(去り際、その顔は確かに笑っていた。笑って……くれた)

P(その時――俺は、“冬優子に応えられた”気がした)


P(予選3回戦――黛冬優子のパフォーマンスは、他のアイドルのそれを凌駕していた)

P(俺がプロデュースしてたのはこんなにも魅力的なアイドルだったのかと、実感させられた)

P(それは、俺が冬優子のプロデューサーだからとか、俺が既に冬優子に魅了されていたからとか、そういうことだけではないはずだ)

P(冬優子は自分のために輝こうとするアイドルだ)

P(冬優子は誰かのために輝けるアイドルだ)

P(そして、最早、何者も恐れない、何者とも比べられない)

P(俺に言わせれば、真に唯一無二で最強のアイドルだ)

P(そんなものを見せられたら、誰だって圧倒されるに決まってるのだから)



――――第3回予選 グループ2 通過者一覧――――

………………… 283プロ黛冬優子 …………………
___プロ トオル 
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/11(日) 03:01:59.38 ID:UbGTNLKm0
とりあえずここまで。
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/10/11(日) 04:20:17.48 ID:rB29iPhDO
たんおつー



noctchillのみんなも通っているわけか……
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/18(日) 23:42:56.75 ID:6fesmXWL0
数日後。

〜事務所〜

P(最後の予選が終わった)

P(冬優子は、決勝に向けて最後の追い込みをかけている)

P(俺の心配することなんて何もない)

P(俺は、冬優子のプロデューサーとして在ればいい)

P(あとは、冬優子を信じて、自分のやりたいようにやらせるだけだと思った)

P「……っと、そろそろだな」

タッ、タッ、タッ

P「おかえり」

冬優子「……ただいま」

P「……」

冬優子「……」

P「……」

冬優子「……聞かないの?」

P「何をだ?」

冬優子「レッスンはどうだったのかって」

P「聞かなくても、見ればわかるからな」

P「俺は冬優子のプロデューサーなんだから、言わなくても通じることってあるよ」

P「話すことが少なくなっても、それは距離ができたからじゃなくて、話すまでもなく通じるようになったからなんじゃないかと思ってさ」

冬優子「ばか」ボソッ

冬優子「……」

冬優子「ふふっ……あっそ」

P「ああ」

冬優子「……ソファー、座るわね」

冬優子「っしょっと」

冬優子「……」

P「……隣、なんだが」

冬優子「うん」

P「近くないか?」

冬優子「嫌なの?」

P「そういうわけじゃないけど……」

冬優子「じゃあいいじゃない」

冬優子「……来るところまで来ちゃったわね」

P「来るべきところに来たんだよ」

P「それに、まだ終わりじゃないぞ?」

冬優子「わかってるわよ。決勝でしょ」

冬優子「なんかね、緊張とかプレッシャーとか……そういうの、ないのよね」

冬優子「本番でどうなるかは知らないけど」

冬優子「なんか、変に怖いもの知らずになった気がするわ」

冬優子「ふゆに似合わず、ね」ボソッ

冬優子「あーあ、ふゆがこうなったのも、あんたのせい――」

冬優子「――ううん、あんたのおかげね」
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/19(月) 00:00:25.31 ID:GDqHuMqM0
P「予選の間に俺が何かしてやれたことなんてあったか?」

冬優子「……はぁ」

P「?」

冬優子「っ、いいの! 別にあんたは知らなくても」

P「あ、ああ……よくわからんが」

冬優子「あーもう! だーかーらー……」

冬優子「あんたはそうやって、ふゆのプロデューサーをしているだけでいいって言ってんの」

冬優子「ふゆにはそれだけで……」

ヴーッヴーッ

P「……っと、すまない。電話だ」

P「ちょっと席を外すよ」

冬優子「あ……」


冬優子(あいつにとって、ふゆは何なのかしら)

P『俺は、黛冬優子のプロデューサーだ。これまでも、これからも』

P『冬優子が要らないって言っても、俺は、ずっとお前のプロデューサーでいつづけたい。冬優子を支えたいんだ』

P『それを、伝えたくて……』

冬優子(“プロデューサー”――ね)

冬優子(それ以上を臨むのは、それこそふゆのエゴ……)

冬優子(でも、もしもそのエゴにあいつが付き合ってくれるなら、ふゆは……)

P「電話、終わったよ」

冬優子「ひゃっ」

冬優子(やば、変な声でちゃったじゃない……)

P「? それで……なんだったっけか」

冬優子「べ、別になんでもないわよ」

冬優子「何の電話だったの? シリアスな感じに見えたけど、スマホにかかってくるなんて、急じゃない?」

P「それなんだけど、突然決勝を棄権することになった子がいるって連絡が入ったんだ」

冬優子「決勝ってことは、最後の予選も勝ち抜いたってことよね」

冬優子「人数も少なかったし、名前を聞けばわかるかも」

冬優子「なんて子なの?」

P「ああ、それは――」
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/19(月) 00:06:39.17 ID:GDqHuMqM0
〜病院〜

カツッ、カンッ

「……っ、く……」

カンッ

「っと……」

スルッ

「あ――」

ドタッ

「――くっ」

「こんなの……」

「……? って――」

冬優子「ほら、手、貸すよ?」

「――はぁ」

「どうも……」

冬優子「よかったら、ふゆと少しお話しない?」

冬優子「すごく疲れてるように見えるもん――」


冬優子「――マドカちゃん」
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/19(月) 00:29:58.05 ID:GDqHuMqM0
〜病院 ラウンジ〜

マドカ「……誰から聞いたんです?」

冬優子「プロデューサーさんだよ。棄権する子が出たって急に連絡が来たから」

マドカ「そう、ですか……」

冬優子「マドカちゃん、その怪我って……」

マドカ「……」

マドカ「まあ、隠しても仕方ないですし」

マドカ「……さすがに私も愚痴りたい」ボソッ

冬優子「?」

マドカ「いえ、なんでも」

マドカ「コイト、決勝戦に進めなかったんです」

冬優子「そう、なんだ……」

マドカ「コイトと私は同じグループで、コイトは負けて、私が勝ち残った……」

マドカ「……と、結果はそういう形になりました」

マドカ「……」

マドカ「私は、アイドルとしての自分について否定的でした」

マドカ「アイドルという仕事そのものに対しても、半ば見下したような思いを抱いていて……」

マドカ「でも、決勝に進めるというところまで来て、考えを改めました」

マドカ「ここまで来た理由――最初は、ただ怖かっただけだったんです。周囲の期待を裏切るのが」

マドカ「それが、勝ち進むうちに嬉しいと感じている自分に気づいて――」

マドカ「――最後には、周囲の期待に応えようと思えた」

マドカ「コイトが負けて私が勝ったということの意味を、私はきちんと成そうと思えたんです」

マドカ「そう思った矢先に――」


コイト『ま、マドカちゃんのダンス、今までと全然違って見えたよ!』

マドカ『コイトもうまくなってる』

マドカ『……』

マドカ『……ねえ、いつも私と一緒にレッスン受けてるけど』

マドカ『なにも、オーディションが受けられる日にまでそうしなくたって』

コイト『わ、わたしね……』

コイト『すっごく……く、悔しかったんだよ』

コイト『でもね、マドカちゃんが勝ったのは、それよりもずっと嬉しかったから……』

マドカ『コイト……』

コイト『そ、それに……! 決勝に進出したアイドルの技を盗むチャンスでもあるし!』

コイト『な、なんて……えへへ』

マドカ『……そっか』

マドカ『ありがと』ボソッ

コイト『あ、マドカちゃん、ヘアピン……』

マドカ『あれ、ない……レッスンの部屋に置いてきたのかも』

マドカ『取ってくる。先に帰っててもいいから』

コイト『ううん。こ、ここで待ってる』

マドカ『……そう』
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/19(月) 00:34:58.74 ID:GDqHuMqM0
数分後。

マドカ『(すぐに見つかってよかった)』

マドカ『(ここを曲がって……)』

マドカ『(この階段を下りれば、コイトがいる)』

コイト『あっ、マドカちゃん……!』ピョコッ

マドカ『やっぱり……ふふっ』

マドカ『おまたせ……』

コイト『っ!? ま、マドカちゃn……』

マドカ『……?』

ドンッ

ガンッ――ダダダ・・・


マドカ「――誰かに、階段の一番上から突き飛ばされたんです」
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/19(月) 00:35:27.54 ID:GDqHuMqM0
とりあえずここまで。
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/10/19(月) 00:58:14.29 ID:IHdMgmivo
おつ
こわ…どっちや……
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/10/19(月) 02:18:34.43 ID:UwZnfRuDO
ヒナナかトオルの……?
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/30(金) 01:23:42.69 ID:Ib1RV2SoO
冬優子「ひどい……誰がそんな……」

冬優子「これから頑張ろうってなったばかりなのに……」

マドカ「……」

マドカ「位置的にコイトには私を突き飛ばした犯人が見えているはずなんです」

マドカ「……聞いても、コイトは言おうとしませんが」

冬優子「言いたくない理由があるってことなのかな?」

マドカ「さあ……どうなんでしょうね。言いたくないのに無理に言わせようとは思いませんので」

マドカ「……」

マドカ「ふぅ……」

冬優子「ま、マドカちゃん?」

マドカ「……この話には、続きがあるんです」

マドカ「私が外れた枠には、コイトが入ることになりました」

冬優子「え? そ、それって」

マドカ「聞いた話では、コイトはあと一歩の――ギリギリのところで届かなかったそうなんです」

マドカ「私がいなくなって、コイトは繰り上がって決勝に進むことになった……」

冬優子「そんな話あったかな……?」

マドカ「今朝決まったそうです。そのうちあなたのところにも連絡が行くんじゃないですか」

マドカ「まあ、なので、……悪いことばかりというわけではないかと」

マドカ「コイトは頑張ってるから。このくらい、報われたっていい」

マドカ「あれだけ練習して、前向きで……私よりもいろんなことができると思いますし」

マドカ「いま私にできるのは、怪我から回復することくらいですから」

冬優子「マドカちゃん……」

マドカ「っ、しょ、っと……」カツッ

マドカ「そろそろ戻ります」

マドカ「わざわざ来てくださってありがとうございました」

マドカ「さようなら」

冬優子「……」

マドカ「……」

カツッ、カンッ

カンッ

カツッ

冬優子「っ、……マドカちゃん!」

マドカ ピタッ

冬優子「ふゆ、マドカちゃんのこと、まだまだ全然知らない……」

冬優子「だから、ふゆがどうこう言っていいかなんてわからない――けど」

冬優子「無理しちゃ、だめだよ」

冬優子「泣きたいときは、泣いたっていいんじゃないかな……」

マドカ「……」

マドカ「そう……かな」

冬優子「うんっ、そうだよ」

マドカ クルッ

マドカ「ふふっ……でも、やっぱり大丈夫です」

マドカ「私……泣きませんので」
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/30(金) 01:24:38.56 ID:Ib1RV2SoO
短いですが、忙しいのでとりあえずここまで。
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/31(土) 01:22:45.68 ID:OnqgvQh/O
同日、同時刻。

〜事務所〜

P カタカタ

P カタッ

P「……今頃どうしてるかな」

P(冬優子はお見舞いに行くって言ってたが、そう思えるアイドルの友だちがいるってこと……なんだろうな)

P(これも成長……か?)

P「……」

P(そういえば、さっき、棄権で空いた決勝の枠には、最後の予選で選ばれなかったあと一歩の子が繰り上がりで入ることになったって連絡が来たな)

P(冬優子にはまだ言えてないけど、もう伝えるべきか)

P(あるいは、お見舞いに行った子から聞かされているかもな)

P(たしか、その子と繰り上がった子は同じ事務所だったはずだ)

P「同じ事務所、ね……」

P(冬優子にとってのあさひや愛依の存在に、何か変化はあるのだろうか)

P(ストレイライトとしての活動は、最近あまりないよな)

ピンポーン

P「あ、はーい……」

P(この時間に来客……? 誰だろう)

ピッ

P「はい。何かご用でしょうか」

「……用、か。どうだろう」

P「?」

「特にないかも」

P「あのー……どちら様でしょうか?」

「あ、そうだ。言ってなかった」

トオル「私……トオルだよ」

P「トオルか。いきなりどうしたんだ?」

トオル「なんていうか、まあ……会いに来た」

P「会いに来たってお前……ここうちのプロダクションの事務所なんだけど」

トオル「だめなら帰るよ。どうかな」

P「……まあ、せっかく来たんだ。今は俺一人だし、他の事務所からの客人ってことにしておくよ」

トオル「やった」

トオル「ヒナナ、いいってさ」

「やは〜。やった〜」

P「友だちも連れてきてるなんて聞いてないぞ……」

トオル「他の事務所からのお客さんってことなら、むしろ普通なんじゃない? こういうのも」

P「わかったよ……今開けてやるから」
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/31(土) 01:41:06.00 ID:OnqgvQh/O
数十分後。

〜事務所〜

冬優子「ただいま戻りました〜♪」

冬優子(索敵索敵……キャラのためにもまだ油断できないわ)

P「おう。おかえり、冬優子」

冬優子「あれ、あんた一人?」ヒソヒソ

P「……いや、お客がな」ヒソヒソ

冬優子(あっぶな……)

冬優子(誰が来てるのかし――)

トオル「このお菓子、おいしいね。めっちゃ美味い味する」

「ごろ〜ん♡ ヒナナこのソファーすき〜〜」

冬優子(――らっ!?)

冬優子(あそこに座ってるのはあの時の……しかもなんか増えてるじゃない!?)

トオル「……あ。この前の」

トオル「お邪魔してます」

「してま〜す」

冬優子「え〜っと、そちらは……」

「やは〜……――」

ヒナナ「――ヒナナ、高校1年生です〜〜〜」

ヒナナ「トオル先輩とおんなじ事務所なんだ〜」

トオル「でもユニットは別」

ヒナナ「ヒナナそれやだ〜〜……。トオル先輩と一緒のユニットがいいのに〜」

トオル「仲が良すぎるからって言われたね」

ヒナナ「それが理由〜?」

トオル「たぶんね」

冬優子「え、えっと……今日はどんな用件で?」ピキッ

冬優子(やば……完全に顔が引きつってるわ……)

トオル「そこにいる人に会いに来た」

ヒナナ「ヒナナは付き添いだよ〜〜」

冬優子「会いに来たって……」

ヒナナ「でも、ヒナナここに来て良かったかも〜! トオル先輩の会いたい人がこんなステキなお兄さんだなんてね〜〜」

P「て、照れるな……」

冬優子 ゲシッ

P「いっ!?」

ヒナナ「やは〜……ヒナナ、お兄さんのこと結構好きかも〜〜」

冬優子 ゲシゲシ

P「いっ、ちょっ、執拗に向こう脛を蹴るのはやめろ……!」

ヒナナ「むこうずね〜?」

トオル「弁慶の泣き所、だね」
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/31(土) 02:11:47.06 ID:OnqgvQh/O
トオル「あ、ねえ、移籍の話だけど、どう? 考えてくれた?」

トオル「うちの事務所の偉い人、いまでも戦力にしたいってさ。それに――」

トオル「――ぼk……私は、また一緒に、過ごせたらなって……」

P「ああ、それなんだが……」

冬優子「移籍ならしないよ、このプロデューサーさんは」

トオル「……ふーん」

冬優子「あなたとプロデューサーさんの間のことは、ふゆは知らないけど……」

冬優子「ふゆは、この人とトップアイドルになるって決めてるんだ」

冬優子「そのためにふゆは全力を出すし、プロデューサーさんも応えてくれてる」

冬優子「だから、あなたのところに……あなたにプロデューサーさんはあげられないよ」

P「冬優子……」

冬優子「それに、これまでもこれからもふゆのプロデューサーさんでいるって、宣言されちゃったから♪」

P「そ、それを言うなよ……他に人がいるのに」

冬優子「ふゆが要らないって言ってもふゆのプロデューサーでいつづけたいって言ってたじゃないですか〜」

冬優子「ふゆを支えるとかなんとか」

P「くっ……恥ずかしさでどうにかなりそうだ……」

トオル「そうなの?」

P「え? あ、ああ……そうだよ」

P「俺は、トオルのいる事務所には行かない。すまん」

トオル「別に……謝らなくても」

トオル「……」

ヒナナ「トオル先輩〜?」

トオル「……帰る」

ヒナナ「え〜〜!? ここすっごく居心地いいのに〜〜」

トオル「いても……邪魔になるんじゃないかな」

P「と、トオル……」

冬優子「……」

ヒナナ「……わかった〜。トオル先輩がそう言うなら、ヒナナもそうしよ〜〜」

ヒナナ「そうだ! トオル先輩、帰りに雑貨屋さん寄っていってもいい〜?」

ヒナナ「気に入ってたアクセサリーがね〜……この前から見つからないんだ〜」

ヒナナ「だから、ね? トオル先輩が一緒にお買い物してくれたら、ヒナナ、しあわせ〜になれる〜〜〜」

ヒナナ「トオル先輩もそれで元気出そう?」

トオル「うん……行こう。……ありがと」

トオル「あ……お邪魔しました」スタスタ

ヒナナ「さようなら〜〜」テテテ

ガチャッ

P「……」

P「トオr――」

ダキッ

P「ふ、冬優子……?」

冬優子「行かないで。呼び止めないで」

冬優子「あんたは、誰にも渡さないから」

バタン
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/31(土) 02:12:34.97 ID:OnqgvQh/O
とりあえずここまで。
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/10/31(土) 09:20:54.01 ID:Tmnyo4Jjo
おつおつ
これ繋がってるのか……?
という事はヒナナ……
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/02(月) 01:10:12.23 ID:tuFvHMjcO
数日後。

〜某センター街〜

冬優子(欲しい円盤探してたらここに在庫があるなんて……)

冬優子(いつも行ってる街と空気が全然違うじゃない……慣れないわ)

冬優子「……疲れた」

冬優子(まあ、目当てのものは買えたし、さっさと帰るとしますか)

〜♪

冬優子「……?」

冬優子(あれ、たぶんミニライブよね)

冬優子(それに、歌ってるのは――)

冬優子「……」

冬優子(――ついでに見に行ってみようかしら、今日はオフだしね)

冬優子 スタスタ


コイト「そ、それじゃあ……お先に失礼します!」

オツカレサマデース

コイト「……」

バタン・・・

コイト「……」

コイト「はぁ……」

冬優子「お疲れさまっ、コイトちゃん」

コイト「ぴゃっ!? な、なな……って、あなたは……」

冬優子「さっきのミニライブ、すっごく良かったよ! ふゆは途中からだったけど、引きこまれちゃったな〜」

コイト「あ、ありがとう……ございます。えへへ」

コイト「また別のところでもライブがあるので、よ、よかったらそれも見に来てください!」

冬優子「わぁ〜ほんと? 絶対に見に行くね!」

冬優子「ふゆ、コイトちゃん推s……ん゛っ、コイトちゃんのファンだから」

コイト「わ、わたしも、冬優子さんのファンに……な、なります!」

冬優子「ありがと〜っ♪ コイトちゃんだいすき!」ダキッ

コイト「わ、わわっ、もうっ……」

冬優子「コイトちゃんは、これから帰るところなの?」

コイト「あ、はい。今日はもう予定ないですし、明日はオフですから」

冬優子「ふゆもいまオフなんだ〜。よかったら、どっかでお茶しながらお話とかどうかな?」

コイト「い、いいんですか?」

冬優子「ふふっ、ふゆが誘ってるのに。いいに決まってるよっ」

コイト「えへへ……じゃ、じゃあ、行きます」

冬優子「決まりだね♪」
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/02(月) 01:33:13.21 ID:tuFvHMjcO
〜近くのカフェ〜

冬優子(勢いで誘っちゃったけど……冷静に考えて、推してるアイドルとカフェでお茶するってすごいことよね……)

コイト「ほ、本当にありがとうございます……誘ってくれただけじゃなくて、奢ってもらうなんて……」

冬優子(しかも奢っちゃったし。まあ、それはいいけど)

冬優子「ふゆがしたいだけだもん。気にしないでね」

コイト「は、はい」

冬優子「そうだ、さっきのライブでね――……」


数十分後。

コイト「……――えへへ、そ、そうなんですね」

冬優子「うんっ。おかしいよね」

冬優子(思ったよりも話が弾んだわね。いろんな話ができたし)

冬優子(コイトちゃんも楽しそうで何よりだわ)

コイト「……」

冬優子「……コイトちゃん?」

コイト「わ、わたし……」

コイト「こんな、普通に笑って話すなんて、よ、よく考えたら久しぶりかもしれません」

コイト「最近は、いろんなことがありましたから……」

冬優子「決勝のことと……それから……」

コイト「はい、マドカちゃんのことです」

コイト「……っ。い、いろんな気持ちがあって……え、えへへ、ちょっと大変かもしれないです」

コイト「決勝に進みたくて、最後の予選まで頑張ってました。結果は、だめでしたけど」

コイト「悔しくて……でも、マドカちゃんが決勝に進めたのも嬉しくて……」

コイト「そうしたら、あんなことがあって……」


コイト『あっ、マドカちゃん……!』ピョコッ

マドカ『やっぱり……ふふっ』

マドカ『おまたせ……』

コイト『っ!? ま、マドカちゃn……』

マドカ『……?』

ドンッ

ガンッ――ダダダ・・・


コイト「あんなことになって、代わりにわたしが出れるようになって」

コイト「……」

コイト「いまは、練習とお仕事に集中して、余計なことは考えないようにってしてます……」

冬優子「コイトちゃん……」

コイト「あっ、ご、ごご、ごめんなさい……! せっかく楽しくお話してたのに、こんな……」

冬優子「ううん。いいよ。楽しい話だって、辛い話だって、人に話して楽になることってあると思うな」

冬優子(……どの口が言ってんのかしらね。まったく)

コイト「マドカちゃん……」

冬優子(? そういえば――)
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/02(月) 01:59:03.60 ID:tuFvHMjcO


マドカ『位置的にコイトには私を突き飛ばした犯人が見えているはずなんです』

マドカ『……聞いても、コイトは言おうとしませんが』

冬優子『言いたくない理由があるってことなのかな?』

マドカ『さあ……どうなんでしょうね。言いたくないのに無理に言わせようとは思いませんので』


冬優子(――ということは、コイトちゃんはマドカちゃんを突き飛ばした犯人を知っていて、それでも悩んでる……?)

冬優子「コイトちゃん……」

冬優子(聞くべきじゃないのかもしれないけど)

冬優子「この前、マドカちゃんのお見舞いに行ったときにね……」

冬優子(正義感か、好奇心か、……あるいは両方かしら)

冬優子「コイトちゃんには、マドカちゃんの背中を押した人が見えてたんじゃないかって聞いたんだ……」

コイト「っ!」

冬優子「実際にどうだったかは、それこそふゆはその場にいたわけじゃないし、知らないよ」

冬優子「マドカちゃんから聞いた話しか、知らない」

冬優子「でも、コイトちゃんが犯人を知ってて、それでも悩んでるなら……」

冬優子「ふゆでよければ、話してみてくれないかな……?」

コイト「……」

冬優子「な、なんてね……さすがに出すぎた真似だよね。……ごめんなさい」

コイト「い、いいえ……! 別にそんなこと、ないです……」

コイト「……」

コイト「……ま、マドカちゃんの言ってることは、ほ、ほほ、本当、です」

冬優子「!」

コイト「たしかに、わたしはマドカちゃんが突き飛ばされたところを見ていて、誰がそうしたのかも……」

コイト「そ、それでも、わたしは――」
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/02(月) 02:26:09.95 ID:tuFvHMjcO
数時間後。

〜冬優子の自宅〜

冬優子「……」


コイト『そ、それでも、わたしは――』

冬優子『……』ゴクリ

コイト『――っ、い、言えません。言いたく、ありません……』

コイト『ごめんなさい……』

冬優子『コイトちゃんが謝ることじゃないよ! ふゆこそごめんね……問いただすようなことしちゃって……』

コイト『あ、謝らないでください……』

コイト『大変な事件だってことはわかってるんです。わ、わたしが黙っていても、いいことなんてないってことだって……』

コイト『誰を見たのか言わないのは、ゆ、許されないのかもしれないけど』

コイト『誰を見たのか言うと、わ、わたしがわたしを許せなくなっちゃうから……』


冬優子「はぁー……」ボフッ

冬優子「……」

冬優子 クルッ

冬優子「ふぅ」

冬優子「……別にふゆは探偵でもなんでもないんだから」

冬優子「ましてや、ライバルのことを気にかけるなんてこと……ふゆらしくない」

冬優子「……」

冬優子「ふゆらしく、か……」

冬優子(ふゆらしさってなんなのかしらね)

冬優子(決勝が終われば、その答えもハッキリするのかしら)

冬優子「……」

〜♪

冬優子「お風呂沸いたわね。入ろっと……」

冬優子 スタスタ

冬優子 シュル・・・

バタン

キュッ

シャァァァァァッ

冬優子「っ」

冬優子「……」

冬優子 ポスポス

冬優子「?」

冬優子「……あ」

冬優子(シャンプー切らしてたんだったわ。忘れてた)

冬優子(とりあえず体だけでも……)ポスポス

冬優子「って、ボディーソープもないじゃない!」

冬優子「はぁ……」

冬優子「……っ」

シャァァァァァッ

冬優子「ふゆったら、なにしてんのかしらね」
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/02(月) 02:32:29.65 ID:tuFvHMjcO
とりあえずここまで。
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/02(月) 03:02:10.07 ID:VNyusziDO


本人が……?
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/02(月) 10:12:38.51 ID:PMPAT+KTO
おつおつ
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/03(火) 01:26:38.64 ID:wUHOGYQ/O
決勝当日。

〜大会 決勝会場〜

P(いよいよ決勝だ。ついに、ここまで来た)

P(俺にできるのは、ただ見守ることだけ――)

P「……」

P(――それは、俺の役目が終わったから……ではない)

P(単に、冬優子の個人としての能力が高くなって、俺が自ら手を差し伸べる必要がなくなっただけだ)

P(冬優子は、必要であれば自分から俺の手を取りに来るだろう)

P(その域にまで達したということだ)

P(助けなしに何でもこなせるわけじゃないが、助けが必要かどうかの判断は自分でできる……それは立派に成長した証と言える)

P(だから、俺は見守る……冬優子が歩を進めていく様を)

冬優子「当たり前だけど、空気がまるで違うわね」

P「決勝だからというのもあるだろうし、ここまで来れたアイドルは12人しかいないから、そもそもこの場にいる人数が少ないんだ」

P「……12人というと、参戦した全アイドルのおよそ0.8%だな」

冬優子「恐ろしい話ね。もっと恐ろしいのは、自分がその0.8%の1人だってことだけど」

冬優子「思えば遠くへ来たものだわ」

P「ははっ。誇ればいいじゃないか。俺は誇らしいぞ」

P「プロデューサーとしてもそうだし、もちろん1人のファンとしてもな」

冬優子「あんたね……もうっ」

冬優子「でも、そうね。ふゆはここまで来て、ようやくアイドルとして自分を誇れるようになったのかもしれないわ」

冬優子「あとは、やれることをやるだけ……」

冬優子「……」

冬優子「……W.I.N.G.の決勝の前、ふゆがあんたに言ったこと、覚えてる?」

P「ああ、もちろん――」

P「――“何があっても笑ってて”……だろ?」

冬優子「ふふっ、ちゃんと覚えてたんだ」ボソッ

P「?」

冬優子「なんでもないわよ」

冬優子「……ありがと」ボソッ

冬優子「……」

冬優子「やっぱりね、ここでもふゆはあんたに言いたいの――」

冬優子「――何があっても……あんたは笑ってて、って」

冬優子「あの時と違うのは、不安も強がりもないってこと!」

冬優子「どんな結果でも、あんたと一緒に手に入れたものであることには変わりないんだから」

冬優子「あんたが笑っててくれれば、それだけでふゆは報われると思う」

冬優子「だから、全部終わったら一緒に笑って帰るわよ、プロデューサー!」ニコッ
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/03(火) 02:06:54.78 ID:wUHOGYQ/O
〜控え室外 廊下〜

冬優子(1人1部屋……これまでとはえらい違いね)

冬優子(ふゆの部屋は……)

冬優子「……あ」

コイト「あ」

コイト「こ、こんにちは……!」

冬優子「コイトちゃんだ♪ こんにちは」

冬優子「いよいよ決勝だねっ。ふゆ、緊張してきちゃった〜」

冬優子(まあ、嘘だけどね)

コイト「はいっ、そ、その……出たいと思ってた決勝でも、本番が近づいてくると……」

コイト「うぅ……」

コイト「ま、マドカちゃんならこういうときどうするのかなって、そんなこと、考えちゃって……」

コイト「えへへ……だめだめですね、わたし」グスッ

コイト「わたしなんかがこんなステージに来ちゃだめだったのかも」ボソッ

冬優子「……コイトちゃんは、マドカちゃんの代わりにアイドルをやってるの?」

コイト「ぴゃっ? い、いえ、そんなことは、ないです」

冬優子「確かにマドカちゃんの代わりに決勝に進む形だったかもしれないけど」

冬優子「ここでコイトちゃんが残す結果は、他の誰でもないコイトちゃん自身のものなんだよっ」

冬優子「だから、他の人がどうとかじゃなくて、自分にできる精一杯のことをやればいいってふゆは思うな」

冬優子「最後には笑っていられるように、ね?」

コイト「冬優子さん……」

コイト「グスッ……は、はい! わたし、頑張ってみます!」

コイト「それこそ、マドカちゃんのぶんまで!」

コイト「ま、マドカちゃんが残すはずだったのよりもずっと大きな結果、残しちゃいますよ……!」

冬優子「その意気だよ♪」

冬優子「よ〜し、これはふゆも負けてられないな〜」

コイト「ま、負けませんよ! 勝負ですから!」

冬優子「ふふっ、お互い頑張ろうね、コイトちゃん!」

コイト「は、はいっ!」

コイト「じゃ、じゃあ……わたしの部屋はあっちなので、そ、そろそろ失礼します」

冬優子「うんっ。またあとでね」

コイト テテテテテ・・・

冬優子「……」

冬優子(あの子も、成長してるのね)

冬優子「……あ」

冬優子(床に何か落ちてる?)

冬優子「? これって……」

冬優子(誰かの落し物……よね)

冬優子(何かの飾り? 年季が入ってるように見えるけど、大切にされてたのかしら)

冬優子(さっきまではなかった気がするし、もしかしたらコイトちゃんのものなのかも)

冬優子(まあ、とりあえず拾っておいて、あとで聞いてみればいいわ)
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/03(火) 02:52:37.31 ID:wUHOGYQ/O
〜283プロ 黛冬優子用控え室〜

冬優子(イメトレも軽い練習も一通りやり終えた)

冬優子(あとは、本番で全力を出すだけ……)

冬優子「……」

冬優子(これ以上何かしても、たぶん無駄な足掻きよね)

冬優子(適当に過ごしてリラックスしたほうが良い、か……)

冬優子「スマホスマホ……っと、あった」

冬優子「あ、通知来てる」

冬優子「愛依から……ふふっ」

冬優子「ありがと、愛依」

冬優子「他には……あ」

冬優子「これ……あさひから、よね」

冬優子「……」

冬優子「……ったくもう、あいつは」

冬優子(でも、たぶん……いや、きっと、応援してくれてるのよね)

冬優子「そっか、ふゆは1人じゃないんだった」

冬優子(この大会では、ずっと1人で……ううん、プロデューサーと2人で戦ってきたと思ってたけど)

冬優子(愛依やあさひだっているじゃない)

冬優子「さてと……あの子たちにも、笑ってただいまを言ってやんないとね」

冬優子(そして、また、3人でステージに立つんだから)

冬優子「……」

冬優子「そうだ、忘れないうちにシャンプーとボディーソープを余分に買い足しておかないと」

冬優子「この前切れたときは、急いでて必要な分しか買わなかったし」

冬優子「リマインダーにセットして……これでよし。当分切れることはないわね」

冬優子「……思い出せてよかったわ」

冬優子「あ、いま何時かしら」ポチポチ

冬優子「って、もうそろそろ出番じゃない!」

冬優子「……」


冬優子『やっぱりね、ここでもふゆはあんたに言いたいの――』

冬優子『――何があっても……あんたは笑ってて、って』

冬優子『あの時と違うのは、不安も強がりもないってこと!』

冬優子『どんな結果でも、あんたと一緒に手に入れたものであることには変わりないんだから』

冬優子『あんたが笑っててくれれば、それだけでふゆは報われると思う』

冬優子『だから、全部終わったら一緒に笑って帰るわよ、プロデューサー!』ニコッ


冬優子(あいつにあんなこと言ったんだから、まずはふゆが笑わないとね)

冬優子(みんなを笑顔にできるようなキラキラしたアイドルなら、まず自分が笑顔になれないといけないもの)

冬優子「ふゆは今度こそ、本気で、みんなを笑顔にするアイドルになってみせるわ」
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/03(火) 02:53:09.70 ID:wUHOGYQ/O
とりあえずここまで。
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/03(火) 10:30:37.22 ID:Mn1hHYico
おつおつ
続き気になりすぎる
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/04(水) 01:38:15.29 ID:yg6hjMG7O
〜ステージ(決勝)〜

冬優子「ふぅ……」

カンッ、カンッ

冬優子(っ、まぶし……)

冬優子「……」

冬優子「………」

冬優子「…………」

冬優子(これまでよりも豪華な舞台とセット)

冬優子(目の前には、顔を覚え始めた審査員の人たちに加えて、アイドルになる前から知ってるような超有名人が何人も)

冬優子(観客だって段違いに多いわ)

冬優子「……」

冬優子(不思議ね)

冬優子(緊張でパニックになってもおかしくないような状況なのに、こんなに落ち着いてる)

冬優子(緊張してないわけじゃない……でも、いまはその緊張をコントロールできてる)

冬優子(ここまで来たのね、ふゆ)

冬優子「283プロの黛冬優子です――」

冬優子(あとは、楽しむだけよ)

冬優子「――今日は皆さんを笑顔にしちゃいますね!」


P「頑張れ、冬優子」ボソッ

P(こうして舞台袖で見守ってるからな)

P(大丈夫、冬優子ならきっとみんなを笑顔にできるさ)

冬優子 〜♪

P「……」

ギギギ・・・

P「?」

P(何の音だ? 天井のほうから聞こえた気がするけど……)

タンタンタンッ

P(……嫌な予感がする)

P(見に行ってみよう)
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/04(水) 02:08:03.64 ID:yg6hjMG7O
〜ステージ(決勝) 舞台装置周辺〜

P「はぁっ……はぁっ……」

P(け、結構きついな……登るの)

P(まあ、関係者しか来ないわけだし、こんなんでもおかしくないけど)

P(さて……)

P キョロキョロ

P「……」

P(気のせい……か?)

P(でも、確かに尋常ならざる音が聞こえたんだが……)

ガサッ

P「!」

P(……なにか――あるいは誰かが――いる。暗くて姿はよく見えないけど)

キィィ・・・

P(人……だな)

P(何をしているんだ?)

P(というか、“こいつ”がいじってるのって……)

P(……――っ! ま、まさか)

P「っ」ゴクリ

P(徐々に“そいつ”との距離をつめていく)

P(絶対に“それ”をさせてはいけない……)

P(とはいえ、今は冬優子のステージの真っ最中だ)

P(あまり大きな音は立てられない……ならば――)

ポンッ

「っ!?」

P(――単純な話、気配を消して、肩を叩けばいい)

「んっ……」バッ

テテテテテ

P「……」

P(さすがに驚いたのか、どっか行ったみたいだな)

P(それにしても……)

P「ふぅ〜〜……」

P(これ、ステージ上の装置を吊るしてるワイヤー群の1つじゃないか)

P(しかもこの状態を見る限り、あと少しいじればワイヤーが……いや、考えるのはやめよう)

P(とりあえず、本当に止めに来て良かった……)

P「……はぁ」ドサリ

P(一通りステージが終わるまでここにいよう……)
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/04(水) 02:34:34.37 ID:yg6hjMG7O
〜ステージ(決勝)〜

冬優子(やった……やったわ)

冬優子(いままでのどんなふゆよりも、キラキラできた)

冬優子(これ以上のパフォーマンス、いまのふゆにはできないわ)

冬優子(……そっか、ふゆ、やりきったのね)

冬優子「……」

冬優子(審査員の人たちや大御所も立ち上がって拍手してくれてる――)

冬優子(――見えているだけで、拍手の音は聞こえないけど。だって……)

ワァァァァァァァァァァッ!!!!!

冬優子(こんなにも大きな歓声に包まれているんだもの)

冬優子「……」

冬優子(プロデューサー、見てくれてる?)

冬優子(あとはあんたが笑ってくれればいいの)

冬優子(それから、愛依、あさひ……)

冬優子(……あんたたちの仲間はここまで来たのよ)

ワァァァァァァァァァァッ!!!!!

冬優子 ニコッ

冬優子(ふふっ、よかった)

冬優子(今日は、間違いなく、心の底から笑って帰れるわ)


〜ステージ(決勝) 舞台装置周辺〜

P「……すごい歓声だな」

P(パフォーマンスは、直接見ることができたのは半分くらいだが――)

冬優子「……っ。ふふっ、ありがと〜〜っ!!!」

P(――それでも俺には、確かに冬優子が“見えてたよ”)

P(実際に見えていないというのは、きっと、誤差の範囲でしかなかったのだろう)

P(冬優子のパフォーマンスは五感すべてにうったえかけてきていた)

P「ははっ。どうだ……! 俺のアイドルはすごいんだぞ」

P「って、自慢するまでもないか。いまとなっては、皆が認めてくれているんだから」

P「……冬優子、お前は本当にすごいよ」

P「俺、自分から笑う必要なかった」

P(冬優子の声が、想いが、届いた最初の瞬間から俺は自然に笑顔になっていたから)

P(そう……まさに、冬優子が言ったように)

P(それは、高揚、感動、安堵、懐古……さまざまな想いによるもので)

P「ありがとう、冬優子」

P(とりあえず、この後で直接会うときにも笑顔でいられるように、冬優子の歌声でも思い出しながら会いに行こうかな)

P「あ」

P(舞台装置のほうを見に行ってたことは隠しておこう……)

P(もちろん、冬優子に怒られるのが怖いというのもあるが)

P「……」

P(どうやら、不穏な動きがあるみたいだし)

P(変なストレスを与えないようにしないとな)
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/04(水) 02:58:06.25 ID:yg6hjMG7O
――――大会 最終結果――――

    優勝 黛冬優子
   準優勝 トオル

大会終了後。

〜283プロ 黛冬優子用控え室〜

ガチャ

冬優子「……」

バタン

冬優子「……ふぅ」

冬優子(たしか、この控え室は中の音が外にはあまり聞こえないようになってたわね)

冬優子(よし……)

冬優子「スゥーッ」

冬優子「……っっっっっしゃあああああああああああああああッッッッッ!!!!!」

冬優子「〜〜〜っっっ!!! ゃっばい! これ……これやばい!!」

冬優子「勝っちゃった……ふゆ、ほんとに優勝しちゃったのよね!?」

冬優子「……ふふ」

冬優子「ふふふ」

冬優子「あーっはっはっはっはっは!!!!!!!」

冬優子「もう……! もうもう!!」

冬優子「あさひにスタ爆してやろっと!! あははは!!」ポチポチポチ・・・

冬優子「そうだ、愛依にもしてあげないとね!」ポチポチポチ・・・

冬優子「はぁっ、……」

冬優子「ほんと、テンションおかしい……ふふっ」ポロッ

冬優子「な、涙出てきた……はは」ポロポロ

冬優子「あれ、やば……涙止まんない……」ポロポロ

冬優子 ポロポロ

冬優子「うっ……ぐすっ……」ポロポロ

冬優子(勝てて、よかった……)


愛依『W.I.N.G.の1人ヴァージョンってこと――だよね?』

冬優子『それだけじゃないわ……!』

冬優子『この大会に出れば、1人でユニットの何もかもを背負うのよ』

冬優子『プロデューサーも言ってたでしょ、普段ユニットで活動してるアイドルが1人で出るんだ、って』

冬優子『勝てば天国負ければ地獄とはこのことよ』


愛依『でも、それならあさひちゃんが出れば――』

冬優子『――わかってんのよ!』

愛依『っ!?』ビクッ

冬優子『わかって……るのよ』プルプル

冬優子『そうだけど……そんなの悔しいじゃない……!』


冬優子「愛依……あさひ……」ポロポロ


P『俺は、ストレイライトのために、愛依でもあさひでもなく、冬優子を選んだんだ』


冬優子「プロデューサー……」ポロポロ
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/04(水) 03:19:14.50 ID:yg6hjMG7O
〜控え室外 廊下〜

P「はあっ、はあっ」タッタッタッ

P(遅くなっちまった……待たせすぎって冬優子に言われるかも)

P(ははっ……それじゃあ結局怒られてるじゃねーかってな)

P(「283プロ 黛冬優子様」……ここだ)

コンコンコン

「……はい」

P「冬優子、俺だ。入ってもいいか?」

「プロデューサー?」

P「そうだ。遅くなってすまない」

「いいわよ。入って」

ガチャッ


〜283プロ 黛冬優子用控え室〜

P「冬優子、よくやっt――」

冬優子「プロデューサーっ!!」ダキッ

P「――たな……」

冬優子「っ……グスッ」

P「優勝おめでとう、冬優子」ポンッ

P「すごかったよ、本番でのパフォーマンス」

P「今までに見てきたどの“ふゆ”よりもキラキラしてたぞ」

P「自然に笑顔になれたんだ。プロデューサーとしてもそうだし、1人のファンとしても」

P「ありがとう。冬優子のプロデューサーであることが本当に嬉しい。誇りに想うよ」

P「正真正銘のトップアイドルだ」

冬優子「そっか……。そうよね……!」ニコッ

冬優子「ふゆね……早くあんたに会いたかった」

冬優子「いろんな思いがあるけど、たぶん、一番は――」

冬優子「――その言葉をあんたから聞きたかったんだと思う」

冬優子「ふゆにも言わせて。ありがと、プロデューサー」ギュウッ

冬優子「あんたがいてくれたから、ふゆはここまで来れた」

冬優子「みんなを笑顔にできるようなキラキラしたアイドルになれたのよ、あんたのおかげでね」

冬優子「感謝してもしきれないわ」ギュウウウッ

P「そう言ってくれるのは……嬉しいな。けど――」

P「――他の誰でもない、冬優子の努力と想いもこの優勝には欠かせなかった」

P「まあ、俺がわざわざ言ってやるまでもないか」

P「……というか、さっきからどんどん抱きしめる力が強くなってるんだが」

冬優子「なによ。……いやなわけ?」

P「いや、そうじゃないけど……」

冬優子「なら、もう少しだけこうさせて」

冬優子「プロデューサーとしてのあんた、ファンとしてのあんた……その両方はふゆに魅了されたみたいだけど」

冬優子「ひ、1人の男としてのあんたも、ふゆは狙ってんの……!」

冬優子「だから、今日は、その……ふゆの抱き心地でも覚えていってから帰りなさいよね」

冬優子「………………ふふっ、だいすき」ボソッ
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/04(水) 03:20:00.76 ID:yg6hjMG7O
とりあえずここまで。
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/04(水) 06:29:15.21 ID:ZLhpK96DO
おめでとう、ふゆゆ!
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/04(水) 08:20:00.72 ID:dHo3QjPto
やったぜ!
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/06(金) 01:29:50.79 ID:agQP1f+8O
P「帰る前にちょっと挨拶しておきたい人がいるから、また後で落ち合おう」

冬優子「おっけー。ふゆも適当に時間つぶしておくわ」

P「すまない。それじゃあ、30分後にロビー集合でいいか?」

冬優子「了解。ほら、早く用を済ませてきなさいよ」

P「ああ。じゃあ、また後で」

ガチャ

バタン

冬優子「……さて、と。帰り支度しますか」


数分後。

冬優子「忘れ物は……よし。ないわね」

冬優子「あとは……」

冬優子(コイトちゃんと別れたときに拾った落し物――何かの飾りみたいなやつ――をどうにかしないとね)

冬優子(とりあえずコイトちゃんに聞いてみようかしら)

ガチャ

バタン


〜控え室外 廊下〜

冬優子「この辺にはいない、か」

冬優子(コイトちゃん……もう帰っちゃったのかしら)

冬優子(それにしても――)

冬優子 つ落し物

冬優子(――これをコイトちゃんが、ね……)

冬優子(年季の入ったものみたいだし、大切にされてたのかな)

冬優子「まあ、ロビーに行けば落し物として預かってもらえるかもしれないし、そっち向かえばいっか」

冬優子(あいつとの集合場所でもあるしね)
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/06(金) 01:56:33.82 ID:agQP1f+8O
〜エレベーターホール〜

冬優子「……」

フォンッ

ウィーン

ヒナナ「あ」

冬優子「あ」

冬優子(この子――)


トオル『このお菓子、おいしいね。めっちゃ美味い味する』

ヒナナ『ごろ〜ん♡ ヒナナこのソファーすき〜〜』


冬優子(――プロデューサーの幼馴染とかいう子の友だち……だっけ)

ヒナナ「やは〜お疲れ様です〜〜」

冬優子「お疲れ様ですっ」

ヒナナ「あ、優勝おめでとうございます〜」

冬優子「ありがとうございますっ。これもみんな――」

冬優子「――プロデューサーさんにユニットの仲間、ファンの人たちのおかげだよ♪」

ヒナナ「あは〜……そうなんですね〜」

冬優子「う、うん……」

ヒナナ「トオル先輩……なんでだめだったのかな〜?」

冬優子「だめって……ふゆが言っていいのかわからないけど、準優勝だよ?」

冬優子「準優勝はだめなの?」

ヒナナ「う〜ん。どうですかね〜〜」

ヒナナ「やっぱ優勝のほうがしあわせ〜ってなるのかな、って思ったから〜〜」

冬優子「しあわせ?」

ヒナナ「はい! ヒナナはトオル先輩が好きだから」

ヒナナ「トオル先輩が優勝してしあわせ〜ってなってくれたら、ヒナナもしあわせ〜になれるかな〜……って」

ヒナナ「ヒナナはね、ヒナナがしあわせ〜って思えることだけでいいの」

ヒナナ「ヒナナがしあわせなのがいちばんさいこ〜♡ ってことで」

ヒナナ「もちろん、ヒナナが優勝できればしあわせだけど――」

ヒナナ「――トオル先輩が優勝するんでも、まあいいかな〜って思ってました」

冬優子「……」

ヒナナ「準優勝ってどれくらいしあわせ〜ってなるんだろ〜?」

冬優子(なんなのこの子……)

冬優子(ふゆの中で何がひっかかるのかはわからないけど、何よりもわからないのはこの子自身……)

冬優子(どんな価値観なのよ。人を何だと思ってるの?)

冬優子(もしかしたら、この子なりの筋道だった説明のつく理屈があるのかもしれないけど)

冬優子(ふゆはこの子のこと……)

ヒナナ「どうかしましたか〜?」

冬優子「え? あ、う、ううん! なんでもないよっ」

ヒナナ「それじゃあ、ヒナナは向こうに用事があるのd……」

冬優子「?」

ヒナナ「……」

ヒナナ「……やは〜」
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/06(金) 02:16:49.43 ID:agQP1f+8O
ヒナナ「それ……」

ヒナナ「その手に持ってるのって〜……」

冬優子「あ、これはね、さっき本番前に控え室のところの廊下で拾ったんだよ」

冬優子「落し物だと思ったから、これからロビーに届けようかなって」

ヒナナ「落し物……。控え室のところの廊下……?」

冬優子「……どうしたのかな?」

ヒナナ「それヒナナの〜!!」

冬優子「!?」ビクッ

ヒナナ「よかった〜〜。もう見つからないと思ってたのに〜〜〜〜」

ヒナナ「そのアクセサリー、ヒナナのお気に入りで〜」

冬優子「そ、そうだったんだ」

冬優子(そっか。アクセサリーか)

冬優子(そういえば――)


ヒナナ『そうだ! トオル先輩、帰りに雑貨屋さん寄っていってもいい〜?』

ヒナナ『気に入ってたアクセサリーがね〜……この前から見つからないんだ〜』


冬優子(――あの時に言ってたアクセサリーってこれのことだったのね)

冬優子(拾ったのがコイトちゃんと別れたときだったから、コイトちゃんのものかと思ってたけど)

冬優子(持ち主が見つかったのなら、それに越したことはないわ)

冬優子「はい、どうぞっ」

ヒナナ「やは〜! やった〜〜!」

ヒナナ「見つかってよかった〜。今日はしあわせ〜になれたかも〜〜」

冬優子「ふふっ、大切にしてたんだね♪」

ヒナナ「はい〜。小さい頃からの友だちとの……しあわせ〜なアイテムなんです〜」

冬優子「そうなんだ! じゃあ、これからはなくさないようにしないとだねっ」

ヒナナ「見つけてくれてありがとうございました〜。それじゃ、失礼しま〜す」

冬優子「うん。ばいばい」

ヒナナ テテテテテ

冬優子「……」

冬優子「………」

冬優子「…………ふぅ〜〜〜」

冬優子(つ、疲れた……)

冬優子(アイドルとしてのふゆを演じるのはなれっこだけど、あの子の相手するのでこんなに疲れるとはね……)

冬優子(まあ、とりあえずもう済んだことなんだし、落し物の持ち主も見つかったし、別にいいじゃない)

冬優子(早くロビー行こ……)
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/06(金) 02:17:16.15 ID:8JYxDGiDO
逃げてふゆゆ、すぐ逃げて
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/06(金) 02:34:32.61 ID:agQP1f+8O
〜決勝会場 ロビー〜

冬優子(あいつ、おっそいわね……!)

冬優子(ふゆを待たせるなんていい度胸してんじゃない)

冬優子(なんて言ったって、優勝アイドルなのよ? 今日のふゆは偉いんだから)

冬優子「……」

冬優子「………」

冬優子(暇ね)

冬優子(話相手でもいればいいのに――って、あそこにいるのは……)

コイト キョロキョロ

コイト ウロウロ

コイト「ウゥ・・・」

冬優子(コイトちゃんよね。ちょうどいいわ)

冬優子(ふゆの話し相手に……)

コイト「ぴぇ……ど、どうしよう……」

冬優子(なんだか、それどころじゃない……みたい?)

冬優子「コイトちゃんっ」

コイト「ぴゃっ!?!?」

コイト「あ、ふ、冬優子さんですか……」

冬優子「ごめんね? 驚かせちゃったかな」

コイト「い、いえ……大丈夫です」

冬優子「ひょっとして、何か困ってる?」

コイト「なっ、なな、なんでわかるんですか……?」

冬優子「見ればわかるよ〜。いまのコイトちゃん、すごく焦ってるって感じするもん」

コイト「そうだったんですね……」

コイト「……うぅ」

冬優子「何か困りごとなら、ふゆでよければ力になるよ?」

コイト「……そ、そのっ、お、落し物……探してて……」

冬優子「……え?」

冬優子(落し物……ですって?)

冬優子(さっきあの子に返したのも落し物で……コイトちゃんと別れたときに拾ったもので……)

冬優子(でも、その持ち主はあの子で……)

コイト「あれが見つからないと……ぴゃぅ」

冬優子(ここは正直に話したほうがよさそうね)

冬優子「実はね、本番前にコイトちゃんとばいばいして、そのすぐ後に廊下でアクセサリーを拾ったんだ」

冬優子「年季が入ってて、特徴は――」

冬優子(できるだけ詳しく、拾ったアクセサリーのことを説明した)

冬優子「――って感じなんだけど……もしかしてそれのことかな?」

コイト「そ、そそ、それです……! 良かった、冬優子さんが拾ってくれてたんですね……」

冬優子「え、え〜っと、それが……」


コイト「え……」サーッ

冬優子「ごめんねっ! 持ち主だって言ってて、大切にしてたみたいだったから、渡しちゃった……」

コイト「その拾ったアクセサリーを……ひ、“ヒナナちゃんに返しちゃった”んですか……」
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/06(金) 02:35:08.59 ID:agQP1f+8O
とりあえずここまで。
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/06(金) 02:45:39.34 ID:8JYxDGiDO
さぁどうなる
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/07(土) 02:40:22.26 ID:0PIvbGduO
30数分前。

〜___プロ トオル用控え室〜

コンコンコン

P「283プロの黛のプロデューサーをしているPです」

トオル「あ、はい」

トオル「どうぞ」

P「失礼します」

ガチャ

バタン

P「……」

トオル「……」

P「よ、よう」

トオル「よっ」

P「……その、なんだ。優勝アイドルのプロデューサーが言うとただの嫌味になるが」

P「1人の幼馴染として言わせてくれ」

P「おめでとう、トオル」

トオル「……ありがと」

P「お前のステージも見てたよ。アイドルとしてのトオルの真骨頂、しかと見届けさせてもらった」

P「俺の知らない間に、トオルは遠くで……頂にたどり着こうとしていたんだな」

P「でも、それはそれで感慨深いよ。お前のファンになろうかと本気で考えてるんだぜ?」

トオル「……」

P「トオル?」

トオル「……なんで、そういうこと言うかな」

トオル「Pと遠いところなんて、わたs……僕は望んでないのに」

トオル「遠くに行っちゃったのは、Pも同じでしょ」

トオル「それなのに、その上、僕のファンに……?」

トオル「Pは、僕と他人になりたいの?」

P「ま、まて、トオル。俺はそんなつもりで言ったんじゃ……」

トオル「じゃあ、どんなつもり?」

P「お、俺はただ、トオルの幼馴染として準優勝したことを祝福して褒めようとしただけだよ」

トオル「準優勝、か」

トオル「ねえ、覚えてる? ジャングルジムのこと」

P「ジャングルジム……? ああ、トオルが小さい頃によく一緒に遊んだよな」

トオル「うん」

トオル「僕ね、てっぺんを目指したかったんだ」

トオル「あの頃はジャングルジムで、いまは……」

P「てっぺん……もしかして、この大会での優勝?」

トオル「ジャングルジムのときは、Pは一緒にてっぺんにのぼってくれた」

トオル「でも、いまはPが一緒じゃない」

トオル「優勝は、できなかった」

トオル「まあ、なんていうか、さ。アイドルとしててっぺんを目指す方法はたくさんあるから」

トオル「いまからでも、Pが一緒に目指してくれたら」

トオル「てっぺんにのぼれる気がするんだ」
175 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2020/11/07(土) 02:40:40.51 ID:jvzh+C5g0
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176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/07(土) 03:25:42.96 ID:0PIvbGduO
トオル「Pのほうから来てくれればいいって思ってた」

トオル「でもね、わかったんだ」

トオル「待ってるだけじゃ、あなたは来てくれないってこと」

P「……」

トオル「あれから――この前283プロの事務所に会いに行ったときから――いろいろ考えた」

トオル「Pの横には別の……優勝したあの子がいて、このままだと僕とPは二度と元には戻れない」

トオル「それは、嫌だ」

トオル「しばらく離れてたからこそ、僕にはPが必要なんだって思えた」

トオル「だからさ、お願い」

トオル「僕のプロデューサーになってください」

トオル「僕とまた……一緒にてっぺんを目指してください」

P「……っ」

トオル「返事、聞かせて欲しい」

P「……俺は」

P「俺は、トオルのプロデューサーにはなれない」

トオル「っ」

P「俺とトオルは幼馴染で、決して他人なんかじゃない。その辺のアイドルとはわけが違う……お前は特別だよ」

P「1人の女の子としても俺にとってはそうだし、1人のアイドルとしてもだ」

P「トオルの持つトップアイドルになれる素質は、この大会を通じて確信したよ」

P「確かに、一緒にトップアイドルを目指せば、実現させることが十分可能だろう。それでも……」

P「俺は、283プロのプロデューサーで、黛冬優子の……ストレイライトのプロデューサーなんだよ」

P「それは覆らないし、覆したくない」

P「あいつらと築いてきたものがある。あいつらと共に歩んだ道がある」

P「そうだな……それについて語ればキリがないくらいには、な」

P「そして、それらは何物にも代えがたくて、今一番大切なものだ」

P「だから、俺がてっぺんを目指したいと思うアイドルは、トオル……お前じゃないんだ」

P「ごめんな」

トオル「グスッ……頼んでも、駄目だった、か」

トオル「優勝したあの子は……あの子のいるユニットは……」

トオル「僕が入り込めないくらい、Pとの絆で結ばれてるんだ」

P「っ……ああ。そうだ」

P「それが、プロデューサーとして俺が得たものだから」

P「そう簡単に手放せないし、手放したくない」

トオル「ほんと……あの子が羨ましい」ポロポロ

トオル「っ……あはは、だめだ、僕」ポロポロ

トオル「フラれたのに、グスッ……いますぐPに抱きついて思い切り泣きたいなんて思ってる」ポロポロ

P「その……なんだ。幼馴染の我儘に付き合うくらいなら、別に構わないさ」

P「今ここにいるのは、283プロのプロデューサーじゃなくて、1人の……トオルの幼馴染ってことにすれば」

トオル「!」

トオル ダキッ

P(それから、トオルは思い切り泣いた。こんなトオルは何年ぶりだろう。あるいは、初めてかもしれなかった)

P(ここまでの想いを抱えてトオルが泣くところは、おそらく……)
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/11/07(土) 03:47:42.13 ID:0PIvbGduO
トオル「……ごめん。もう、大丈夫だから」パッ

トオル「ありがとう」

トオル「なんか、こうしてちょっと離れるのも、いまは悲しい感じがする」

P「これが今生の別れというわけじゃないんだし、また明日からは幼馴染として仲良くやっていこう」

トオル「しばらく会えてなかったぶんも、ね」

P「ああ」

P「何か相談ごととかあれば、遠慮なく言っていいんだからな」

トオル「わかってる。そのときは、頼る」

トオル「幼馴染としてね」

P「おう」

ヴーッ

P「俺のスマホ……じゃないな」

トオル「僕のかな」

トオル「あ、ヒナナだ」

トオル「いま向かう、か」

トオル「『わかった。控え室にいるから』――っと」ポチポチピッ

P「ヒナナって、この前うちの事務所に一緒に遊びに来た子か?」

トオル「うん」

P「仲良いんだな」

トオル「まあね」

トオル「この大会の間のこととか、あとPのこととかも、時々話聞いてもらってた」

P「仲間は大切にしろよ? 1人で生きていくなんてできないんだから」

トオル「ふふっ、大げさ」

P「大げさなもんか。特にこの業界、1人だけの無力さを痛感する場面が多いからな……」

トオル「大人の事情だね」

P「トオルもこれから大人になっていくんだろ?」

トオル「うーん。どうかな」

P「なるんだよ。まあ、いずれわかるさ」

P「……あ」

P「い、いま何時だ!? ……ってやばい!」

P「30分後に落ち合おうって俺が言ったのに、もう過ぎてる……!」

トオル「だめだよ、約束は守らないと」

P「本当だよな。大人の俺がこんなんでどうするって話だ」

P「それじゃ、その……またな。トオル」

トオル「またね、P」

ガチャ

トオル「今度、一緒に遊んでね」

P「ああ、何するか考えておけよ」

バタン
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