小林「あなたは……誰ですか?」トール「……えっ?」【小林さんちのメイドラゴンSS】

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209 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/07/27(木) 23:19:55.45 ID:f2Y7up7W0
こんばんは。
熱のこもったお言葉を頂きましたね……進捗が遅すぎる自覚はあるので耳が痛い。
今回も遅くなりましたが、この言葉に応えるにはしっかり完結までやるしかないと思っていますので、今後とも気張っていく所存です。

では、少しですが更新していきます。
210 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/07/27(木) 23:21:01.63 ID:f2Y7up7W0

……………………………………

【滝谷宅・キッチン】

グツグツグツ トントントン コトコトコト……



トール「…………………」

エルマ「…………………」

トール「…………………」チラッ

エルマ「…………………」ジー(凝視)



トール(……き、気まずい……!)グヌウ

トール(ど、どうしてこんな事に……)ムムム

211 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/07/27(木) 23:22:17.49 ID:f2Y7up7W0

トール(あの後―― 長い話し合いの末、“この世界の私”を探しに行こうとなった後)

トール(もう夜も遅くなったので、今日は一度休んで、明朝に出発しようという事になった)

トール(夜が明けるまでの間、カンナにエルマ、ファフニールさんはこの家で過ごすという話になったが、ルコアさんと、そしてお父さんは――)



ルコア『終焉帝には、一度魔法界の棲み処に戻って、ゆっくりお休み頂くよ。戦いの傷も癒えていないし、今日は話し合いで気疲れもされただろうしね』

ルコア『僕も、終焉帝に付き添って一度魔法界に戻る。
    実の所、今回の訪問も終焉帝としてはお忍びで来ているからね。混沌勢で下手な噂が起きない様、目を光らせておきたい』

小林『そんな、お疲れならうちのベッドを貸しますよ! ここで休んでいってもらっても……』

ルコア『いやいや、お気遣いなく! 魔法界の方が大気のマナがこちらより濃いから、休むには良いんです。
    それに明日はきっとハードな日程になる、人間であるお二人こそしっかり休んで下さい』

小林『そ、そうですか……。分かりました』

ルコア『あ、それとトール君。終焉帝の事、心配だろうけど魔法界に見舞いに来ちゃ駄目だよ』

トール『え、そんな!? どうして……』

ルコア『君は死んだ事になってると言ったろう? もし終焉帝の娘である君が生きている姿を見たら、混沌勢も調和勢も当然騒ぎになっちゃうからね』

トール『う……。確かに……』グウ

ルコア『明日の朝の出発までにはちゃんと戻ってくるから。心配せずに君達はこちらで休んで。それじゃ、おやすみなさい』

終焉帝『…………………失礼する』

トール『あ、はい……。おやすみなさい、お気をつけて……』



トール(――そうした経緯もあって、お二人は魔法界に戻っていった)

212 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/07/27(木) 23:24:04.02 ID:f2Y7up7W0

トール(小林さんと滝谷さん、残った私達ドラゴンはどうするかという話になったけど、夕食もまだだったので、まずは夕食を作る事になった)

トール(その際、是非に!と頼み込んで、私に料理させてもらう事にした)



トール『――とりあえず、この家にあった有り合わせの食材を使わせて頂こうと思うのですが、良いですか?』

小林『うん、良いよ。うちにこんな食材あったんだ』オオ……

トール『食器棚の奥にあったお皿やコップとか、出して使っちゃいますね』

小林『うん、分かった。うちにこんな食器あったんだ』ホエ〜

トール『あと、冷蔵庫の中の消費期限過ぎて食べられなさそうなものとかは袋にまとめて縛っときました。明日ちゃんとゴミに出しましょう』

滝谷『いやー、うちに冷蔵庫ってあったんでヤンスね』

小林『いやその発言はおかしい』アハハ

滝谷『えーそうでヤンスか?』ウフフ

トール『………………』



トール(……やはりというか、悪い予感が的中というか)ウムム

トール(小林さんと滝谷さんだけの生活だと、あまり食事に気を遣ってなさそうだったので、
    明日の為にもお二人にしっかり栄養を取ってもらおうという考えだ)

トール(料理は私に任せてもらい、お二人には出来上がるまで休憩していてもらう事にした)

トール(その間、残ったドラゴンの方達には各々自由にしていてもらう事になった訳だけど……)チラッ



エルマ「…………………」ジイー

トール(……それで、こいつは何ですさっきから! キッチンの後ろで黙って立ったまま、私の事を凝視し続けて……!)グヌヌ

213 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/07/27(木) 23:26:35.62 ID:f2Y7up7W0

トール「――何か用ですかエルマ? 言いたい事あるなら言ったらどうですか」クルッ

エルマ「っ!」ピクッ

エルマ「…………………いや、いい」ムスッ……

トール「……そうですか」トントン



エルマ「…………………」ジイー

トール「…………………(#^ω^)」ピクピク



トール「……ああもう、気が散る! 用がないと言いながら、さっきからジロジロジロジロ!
    見てるだけなら料理の手伝いしてくれませんかねえ!?」ハ〜ン?

エルマ「っ………………」

エルマ「…………………料理」ポツリ

トール「は?」

エルマ「……それだよ。料理とか、どうしたんだ、お前」

トール「はあ? 言ってる意味が――」

エルマ「昔、一緒に旅をしていた時、料理はいつも私がしていたのに」

トール「!」

エルマ「私の知ってるトールは、人間の繊細な味付けとか、手間のかかる料理とか、馬鹿にしていたのに……。いつの間に、そんなに上手くなったんだ」

トール「いつの間にって……、そりゃ、私もこっちに来てからしばらく勉強して……。って、わざわざそれを言いに……?」

エルマ「…………………それだけじゃない」フルフル

エルマ「私の知ってるトールは、そんなヒラヒラフワフワした可愛らしい服を着ないし……」

トール「け、貶してるんですか、褒めてるんですかそれ……? それに、着ないと言われても現にこうして――」

エルマ「――そもそもそんな丁寧口調でも喋らない……」

トール「ぐむっ…… まあ確かに以前は意識して尊大な口調で通してましたが……。いや、そうじゃなく!」

トール「何なんですか歯切れの悪い……。伝えたい事はもっとはっきり言ってくれませんか?」ハア

エルマ「っ私は……!」

トール「はい?」

エルマ「っ………………………!」グッ

エルマ「……いや、何でも……」プイッ

トール「ええ…………………?」

214 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/07/27(木) 23:28:06.51 ID:f2Y7up7W0

トール(何ですか、ほんとに歯切れの悪い。調子の狂う……)

トール(変な奴ですね。いつものエルマなら――)ホワンホワン



……………………………………

エルマ『トール!! ドラゴンはこの世界の秩序を乱す! 私と一緒に戻るんだ!』バーン

……………………………………

エルマ『トール、今日こそ成敗―― え、クリームパンくれる? 10個!? ……仕方がない、今日の所は許してやろう』ノーン

……………………………………

エルマ『ふん! トール、私はお前を連れ帰るのを、諦めた訳じゃないからな! ……本当だからな!』ツーン

エルマ『あ、こら! 笑うな!? 全く……』

エルマ『……全く』ふふっ

……………………………………



トール(――ああ、そうか)

トール(私は、この1年の間で、こいつと――いや、“私の世界のエルマ”と再会して、喧嘩して、また話す様になって……。
    仲良しこよしではなくとも、互いの生活の一部になるくらいには近くで過ごしていたけれど)

トール(こいつ…… この世界のエルマにとっては、私とは何十年も前に喧嘩別れして、それっきりで……)



エルマ「…………………………」ジッ



トール(……睨まないで下さいよ。そんな泣きそうな目で)

トール(――仲直りの言葉も、恨み言の一つも言えないまま死んだと思っていた相手に、
    会えたと思ったらそれは実は別人で、そいつはそいつで見慣れぬ服装で飄々としてたら――そんな目にもなりますか)

トール(…………………)ハア

トール(……本当に、私の知る世界とは、違う世界なんですね……)

215 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/07/27(木) 23:29:55.50 ID:f2Y7up7W0

トール「……はぁ〜〜〜〜あ」

エルマ「……何だ、そのでかい溜め息は」

トール「い〜え? 何でも〜? とにかく、邪魔しないなら別にいいですよ〜」トントン

エルマ「…………………そうか」



トール「…………………」トントン カチャカチャ

エルマ「…………………」



トール「……あ〜、そう言えば」

エルマ「?」

トール「さっきまでの話し合いで、並行世界同士でのこの1年間の差異は分かりましたけど……
    それ以前の出来事にも差異はあるんですかねえ?」ショリショリ

エルマ「? どういう意味だ?」キョトン

トール「だからあ。二つの並行世界の違いは、1年前に私と小林さんが出会ったか否かって話だったでしょう?
    けど、もしかしたらそれよりもっと過去の出来事にも、何か違いがあるかもしれないじゃないですか」カチャカチャ

トール「――例えば、昔、私達が一緒に旅をしていた時の事とか」

エルマ「!」

トール「あ〜困ったな〜、急に気になってきたな〜。これじゃあ料理が手に付かないな〜」ユラユラ

トール「昔の記憶を確認し合うために、料理中の暇潰しも兼ねて思い出話に付き合ってくれる旧知のドラゴンはいないかなあ〜?」チラッ

エルマ「…………………っ!」

トール「――あ〜あ、まあそんな都合の良い奴なんていないか〜――」

エルマ「――お、オホンオホン!」コホッコホッ

トール「ん〜?」ピクッ

エルマ「……しょ、しょうがないな! 調和勢たる者、敵であっても困窮している相手を助けるのはやぶさかでもない!」ソワソワ

エルマ「条件に合うのは、ど、どうやら今は私だけの様だし? 仕方ないから思い出話に付き合ってやろう、し・か・た・な・く!」フンス!

トール「……あーあー、全く素直じゃないおこちゃまドラゴンでちゅねーもー」ハアー

エルマ「な、何をぅ! 下手な小芝居うって、素直じゃないのはそっちもだろ!」ギャー!

トール「はいはい。――それで? どっから話しますか?」

エルマ「そ…… そうだな。じゃあ、最初、私達が出会った時からにしよう。
    あれはそう、私が巫女として人間の街を巡遊していた時、お前が突っかかって来て――」

216 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/07/27(木) 23:30:41.23 ID:f2Y7up7W0

……………………………………



グツグツグツ コトコトコト――



トール「そうそう、その時は――」

エルマ「あの時のお前と来たら――」



トントントン ジュウジュウジュウ――



トール「傑作でしたね、あれは――」アハハ

エルマ「何を言う! 誰のおかげで切り抜けられたと――」



カチャカチャ パラパラ トントントン――



エルマ「……いい匂いだな」

トール「ええ」ジュウジュウ

エルマ「あの祭りの日に屋台で食べた料理を思い出す」ジュル

トール「ほんと、ほっとくとあなたはメシの話ばかりしますね……」ハア

エルマ「し、失敬な! あ、あの料理はその……」

エルマ「……お前と一緒に食べたから、よく覚えているだけで」ボソッ

トール「――ああ。はい、私もよく覚えています」カチャカチャ

217 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/07/27(木) 23:32:14.73 ID:f2Y7up7W0

………………………………

トール「――驚きと言うべきか、やはりと言うべきか。ほんと、思い出に全く差がありませんでしたね。
    やっぱり、二つの並行世界の違いは、私と小林さんが出会ったか否かだけ、という事でしょうか」ザクザク

エルマ「……ああ。本当に、細かい所まで一致していて、恐ろしい程だ」ハハッ

エルマ「…………でも、だからこそ」

トール「?」

エルマ「こうして穏やかに、慣れた手つきで、人間の為に料理をするお前を見て、実感するよ。ああ、お前は私の知るトールとは違うのだな、と……」

トール「……エルマ」

エルマ「全く同じ過去を持ちながら、ほんの少しの辿った道の違いで、こうも変わるものなのかな」

トール「………………」

エルマ「……なあ。もし私が、こちらのお前ともっと早く再会して、仲直り出来てたら―― こんな風に、思い出話で笑い合ったりできてたのかな」グスッ

トール「…………ええ」

トール「きっと、いいえ絶対に」トントン

エルマ「そうか」ズビッ

エルマ「――ふふ、ありがとう」



……………………………………

218 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2023/07/27(木) 23:35:14.73 ID:f2Y7up7W0
今回はここまで。それではまた。
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2023/07/28(金) 03:27:50.44 ID:ZDxpK60o0
宮原由智に対して東日本大震災の遺族やご家族‥心転げない過度の表現である侮辱な不適切である動画を上げて載せていることは誠に憤りの非常に怒りを感じます。この若者に対しても絶対に許しません
東北三県の被災地『岩手・宮城仙台・福島』の皆様に深くお詫びと謝罪を強く求めます
220 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/06(日) 23:00:25.20 ID:QO5syWbY0
こんばんは。また少し更新していきます。
221 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/06(日) 23:01:22.48 ID:QO5syWbY0

……………………………………

【滝谷宅・リビング】



小林(――ありがたい事にトールちゃんが夕食を作ってくれるという事なので、お言葉に甘えてリビングで待たせてもらっている訳だが……)

小林「……………………………………」

カンナ「……………………………………」チョコン

小林「………………………………あの」

カンナ「!!」ビクッ

カンナ「…………」ササッ(遠ざかる)

小林「あ、あはは……(…警戒されている……)」

222 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/06(日) 23:02:19.01 ID:QO5syWbY0

トール(回想)『すいません小林さん、夕食の準備の間だけカンナの事、見ていてあげて下さいませんか? あの子寂しがり屋なので……』



小林(と、頼まれたので軽い気持ちでOKしちゃったけど、安請け合いだったか……?)

小林(いや簡単に諦めちゃダメだ、もっと積極的にコミュニケーションを図ってみよう)

小林(そういうの得意な方じゃないけど……!)ヌググ



小林「ダ、大丈夫ダヨカンナチャン、ワタシ、コワクナイヨー……」スッ(近寄る)

カンナ「…………」ススッ(テーブルの反対側に回る)

小林「…………」ススッ(近寄る)

カンナ「…………」スススッ(遠ざかる)

小林「…………」

カンナ「…………」



ジリッ…… ジリッ……

グルグルグルグルグルグルグルグル(テーブルを挟んで回り合う)



小林「…………っ」ハアハア

カンナ「…………っ」フウフウ

小林「…………ぶふっ!あはははは!」アハハハ

カンナ「!?」ビクッ

小林「何で私達、息切らしてグルグル回ってんの? おっかしーの……!」フフフ

カンナ「……………………………………」ムー

223 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/06(日) 23:04:11.97 ID:QO5syWbY0

小林「あはは、ふう、いやーちょっと汗かいちゃった……」アハハ

カンナ「…………………おまえ、なにもの」ポツリ

小林「ん?」

カンナ「おまえ、いったいなにものって聞いてる」ススッ

小林「(お、近づいて来てくれた)……何者って言われても、そりゃただの人間だけど?」

カンナ「とぼけないで。トール様が親しげだった。トール様のお父様もほめてた。タダモノなわけない」ムー

小林「あー……(そういう警戒か……)」ポリポリ

小林「いやその〜、トールちゃんのお父さん……終焉帝に褒められた事の方は、まあ私も良く分かんないんだけど……」

小林「ただ、トールちゃんの方に関しては、この私と言うより、並行世界の私が…… そして多分トールちゃん自身が凄いんだと思うよ」

カンナ「? どういう意味?」

小林「んー、この私はまだ会って一日も経ってない訳だけど、それでもトールちゃんがめちゃくちゃ良い子だって事は分かるんだ」

カンナ「ふん?」

小林「ドラゴンで、私達人間なんかよりずっと力があって、長い時を生きてきて……。
   様々のものを知っていて、でもその分汚いものも沢山見てきたはずだと思うんだ」

小林「でも、トールちゃんはとっても純真で、優しくて……。神と戦争したっていうのも、
   手段は荒々しいものだったかもしれないけど、その理由は勢力争いを終結させるためっていう仲間想いなものだったみたいだし」

カンナ「…………………」

小林「そうやって、辛くても腐らずに、他者と繋がりを築こうとトールちゃんが心を砕いてくれたから――
   あと、そんなトールちゃんと並行世界にいる私が1年間向き合い続けていたからこそ、ああして今この私に親しげにしてくれてるんだと思うよ」ニコッ

カンナ「…………………おまえ」

小林「だ、ダカラホラ、私コワクナイヨ。安全ダヨー」カクカク

カンナ「…………………ぷっ」

小林「!(笑ってくれた)」

カンナ「……おまえ、中々わかってるヤツ」

カンナ「そう、トール様すごいドラゴン。だからそんなすごいトール様と話せてるおまえの事、わたしもちょっと認めてやってもいい」フンス

小林「あ、ありがとう……?(ちょっとは警戒、解いてくれたのかな?)」

カンナ「そこ、すわって」

小林「? はい……」ペタン

カンナ「ん」チョコン

小林「!(私の膝上に、カンナちゃんも座ってきた!)」

カンナ「今日は、つかれた。すわってゆっくり待つ」ユラユラ

小林「う、うん。ゆったりしてようか(座ってユラユラしてて、可愛い……)」ノホホン

224 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/06(日) 23:06:35.66 ID:QO5syWbY0

……………………………………

……ジュウジュウ…… ……トントン……



カンナ「いい匂い」クンクン

小林「そうだねー。美味しそうな匂いしてる。夕食楽しみだね」

カンナ「ん」コクリ

小林「――そう言えば、さっきの話し合いで気になったものの、聞けなかった事があるんだけど」

カンナ「ん?」

小林「さっきの話では、こっちの世界のトールちゃんは、その…… 恐らく亡くなっている、って事だったじゃない?」

カンナ「……うん」ショボ

小林「あ、ごめんね……。で!でもっ、それとは別に、今ここにいるトールちゃんをこの世界に呼んだのは、
   こっちの世界のトールちゃんではないかって話でもあったじゃない?」ワタワタ

カンナ「……うん、それが?」

小林「ドラゴンの方達はみんな特に疑問に思ってなかったみたいだけど、それってつまり、
   こっちの世界のトールちゃんは既に亡くなってるはずにも関わらず、何らかの意志を持ってる、って事になると思うんだけど……」

カンナ「? それってニンゲンにとってはヘンな事?」キョトン

小林「えっ!? う、うーん、そーだね、割と……(逆に聞かれるとは……)」

225 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/06(日) 23:08:35.75 ID:QO5syWbY0

カンナ「ふーん。でもわたし達にとっては、生き物は体が死んでも、まだちょっと残ってるのがふつー」ユラユラ

小林「ちょっと残る……。それはその〜、いわゆる魂ってヤツ? その生物の、想いや記憶みたいなものというか……」

カンナ「そう、それ。タマシイ」

カンナ「生き物は死ぬと体からタマシイが出て、近くで浮かぶ。
    ふつーの動物やニンゲンのタマシイは、よわいから大して残らないし、少しすれば薄れてあの世に流れてく」

カンナ「けど、つよいドラゴンのタマシイは体が死んでも、はっきりしてるし、何年も残るらしい。まだ何か考えたり、魔法を使ったりもできるって聞いた」

小林「はは〜、なるほど……。じゃあこっちの世界のトールちゃんは、体は死んでるかもだけど、
   魂はまだ山で存在しているかもしれないから、会いに行こうって話な訳か」フムフム

カンナ「そ」コク

小林「……もし本当にトールちゃんの魂がまだいるのならさ。明日、カンナちゃんも会って話ができるといいね」

カンナ「……ん」コクリ



小林「……………………………………」

カンナ「……………………………………」



カンナ「……ん」ポス(頭を小林の胸に預ける)

小林「ん? ど、どしたの?」

カンナ「ん」コスコス(頭をこすりつける)

小林「え〜と……(もしかして、頭を撫でろ、って事……?)」ウーム

小林「……………………………………」ナデリ

カンナ「!」ピクッ

小林「…………」ナデナデ

カンナ「…………〜〜♪」

小林(良かった、合ってたみたい)ナデナデ

小林(この子もドラゴンって事だけど、何か…… 子猫みたいで可愛いな)ナデナデ

カンナ「♪」



……………………………………

226 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2023/08/06(日) 23:10:09.79 ID:QO5syWbY0
今回はここまで。それではまた。
227 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:24:18.17 ID:Q1GPiNtR0
こんばんは。また少し更新していきます。
228 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:26:00.30 ID:Q1GPiNtR0

……………………………………

【滝谷宅・滝谷の部屋】

カタカタ、カタカタカタ、カチカチ、カタカタ……



滝谷「―――――――――」カタカタ

ファフニール「――何をしている」ユラリ

滝谷「うおっ!? びっくりしたあ!」ビクッ! クルッ

滝谷「……え〜と、あなたは確か…… ファフニールさんでしたっけ? いやあ、音もなく部屋に入って背後に立たないで下さいよ、驚くでしょ……」フウー

ファフニール「黙れ。人間共の礼儀など俺は知らん。勝手に驚け」ツーン

滝谷「あ、あはは……(唯我独尊系男子か……)、えっとそれで、僕に何か御用ですか?」

ファフニール「先程も聞いた、二度も言わせるな。部屋に一人で何をしている」ジロッ

滝谷「ああ…… これ(PC)ですか?」クルッ

滝谷「いやあ、明日は遠出になるみたいですしね、今日明日の分の仕事をまとめてお片付けしておこうかと思って……」カタカタ

ファフニール「仕事? その光る板と、手元で叩いている文字盤とでか」

滝谷「おっ、良い反応ですね。現代社会に転移したファンタジー世界の住人の、まさしくお手本みたいで」カタカタ

ファフニール「……良く分からんが、今俺の事を愚弄しなかったか?」ギロッ

滝谷「い、いえいえ滅相もない! あくまで新鮮な反応で興味深いな〜と思っただけで、あはは……」カタカタ

ファフニール「……ふん、まあいい。
       その機械を用いて文章を――それも魔法陣の様な、何かを実行する為の命令文を書いているというのは一しきり見て分かった」

滝谷「っ! は、はいそんな感じです……(凄いな、一目見ただけでプログラミングの概略を推察できたって事? 流石ドラゴン……)」ゾクッ

ファフニール「差し詰め、お前はこの世界における魔術師という所か」フン

滝谷「いやまあ、それは大袈裟というか……」アハハ……

229 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:27:10.32 ID:Q1GPiNtR0

ファフニール「――あの小林とかいう人間はどうした。居間で休んでいる様だが、お前を手伝いはしないのか?」

滝谷「あ〜それですか? 小林さんはどうもカンナちゃんの相手をトール君にお願いされてたみたいだし……」カタカタ

滝谷「それに僕も小林さんも、仕事は複数掛け持ちしてますからね。その内いくつかは共同で取り組んでますが、個別に持ってる案件もあって」カチカチ

ファフニール「む?」

滝谷「それで、今日はたまたま小林さんは外で打ち合わせ、僕は自宅で作業という日で。
   そして小林さんがトール君と出会ったのが丁度打ち合わせ後だった――てのもあって、僕だけ今日分の仕事が残ってるって訳でして」カタカタ

滝谷「なのでこうして、遅れを取り戻そうと気張ってるんです。だからすみません、作業しながら話しちゃってて……」アハハ カタカタ

ファフニール「クク、成程な。あのトールが訪ねてきたせいで迷惑を被っているという事か」ニヤリ

滝谷「いやいや、そんな意地の悪い事は言ってないでしょう!? 人聞き悪いなあもお……」クルッ

ファフニール「フッ、人間共の風聞など知った事か。俺は竜、人外の魔物だぞ。そら、手を止めていていいのか?」ククク

滝谷「ぐぬぬ……(嗜虐癖のある人、いやドラゴンだな……)」クルッ カタカタ

230 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:28:16.87 ID:Q1GPiNtR0

ファフニール「ところで、先程掛けていた眼鏡はどうした?」

滝谷「ああ……。あの眼鏡はあくまでオタクモードのON/OFFの為のアイテムなんで、仕事の時は一人でも基本外してますね」カタカタ

ファフニール「フン、成程な……」

ファフニール「――やはり油断ならんな」ボソリ

滝谷「え?――」カタ――



パチン! フッ……



滝谷「ッ!? (部屋の電気が、突然消え――)」バッ



ヒュッ――



滝谷「ひっ――(喉に、何か冷たくて鋭い物が当たってる感触が――)」ビクッ

ファフニール「大声を出すな。物音も立てるな」ゴゴゴ

ファフニール「俺は今お前の頸に爪を立てている。もし逆らう意思を少しでも見せれば――分かるな?」フシュウー……

滝谷「……っ! いきなりっ、何を……?」ブルブル

ファフニール「ああ、ちなみに一か八かトールやあの調和勢に助けを求めてもいいが……。その場合はお前だけでなくあの小林とかいう人間も殺す」ズッ

滝谷「ッツ!!」ビクッ

ファフニール「それが嫌なら、まずは息を整え、話を聞く姿勢になれ」ゴゴゴ

滝谷「……っ……、……。……」ドッドッド

滝谷「……スゥ―――……ハァ―――……」

滝谷「――分かり、ました。それで、話、って?」スッ……

ファフニール「…………フン」

231 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:30:03.76 ID:Q1GPiNtR0

ファフニール「やはり気に入らんな、その態度」

滝谷「……?」フウフウ

ファフニール「明確な脅威を前にして、確かに恐怖を感じつつも、狂乱せずに理性を保つ胆力。
       自身の置かれた状況を即座に把握する理解力。およそ只のヒトの物ではない」

滝谷「……それ、は……、どうも……?」ハアハア

ファフニール「それらの素質を持つ人間は、俺らの世界では一般に英雄、もしくは――」

ファフニール「――魔術師と呼ばれる者達だ」

滝谷「……!」

ファフニール「お前の仕事とやらの内容も、意識的に表面上の人格の切換えを行っている所もそうだが……。
       お前の器用さ、賢しさはどうも、俺が今まで見てきた魔術師連中によく似たものを感じる」

ファフニール「――それはつまり、本心を表に出さない狡猾さや、裏で何を企んでいるか分からない気色悪さも含めて…… という事だが」ググッ

滝谷「い゛っ――痛ぅっ……(爪が、食い込む……)!」

ファフニール「今日会ったばかりの、それも得体の知れないドラゴンの娘を助ける……? 
       魔法やら並行世界やら、人生で初めて触れる様な事象を目の当たりにしてすぐに信じる……?
       そんな都合の良いお気楽な“お人好し”は、御伽噺にしか存在しない」

ファフニール「もしいたとしてもそれは、相手の願望を読むのに長けていて、利己の為にそれをなぞり演じるのを躊躇わない詐欺師に過ぎないだろう」メリッ

滝谷「ぎ、ぅッ―――!」

ファフニール「――お前の本心を吐いてみるがいい。あの純真で莫迦な竜の娘を利用して、何をしようとしている?」

ファフニール「もしここで白状するなら、お前だけは命を助けてやろう。まあその場合、竜を謀った報いとしてあの小林という女は殺すが」ゴゴゴゴゴ

滝谷「ッ………………………!」

232 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:31:26.97 ID:Q1GPiNtR0

ファフニール「無論、何も言わなければお前を殺す。どうだ、分かりやすいだろう?」

滝谷「……ッツ………………………」フウーフウー

ファフニール「さあどうした。俺はそれ程気の長い方ではないぞ、今も指に力を入れるのを必死に堪えている位だ。何か言ってみろ」

滝谷「…………ッ………っ…………」ハアハア

滝谷「………………………、本当に」ポツリ

ファフニール「む?」ピクッ

滝谷「本当に、僕が何か企んでいて……ゲホ! それを洗いざらい、喋ったら……」

滝谷「僕だけは、助けてくれるのか……?」ハアハア

ファフニール「! フッ…… ああ約束しよう。お前だけは生かしてやるさ」

滝谷「……ふふっ……」ニヤッ

ファフニール「さあ教えてみろ、お前の内に秘められた企みを――!」ゴゴゴ

滝谷「………………………」



滝谷「だが断る」



ファフニール「…………!? …………貴様…………」

滝谷「――いやあ〜、まさかリアルで言ってみたかった台詞を、本当に言う機会があるとはね。現実は漫画よりも奇妙なり、ってね」ヘヘッ……

ファフニール「……何を言っているか、分かっているのか……?」ズオッ!

滝谷「勿論。僕が死ぬ。けれどそれで小林さんは生きる。そういう事でしょ、なら、特に迷いはしないさ」ニヤッ

ファフニール「………………………」チラッ

滝谷「――――」ガクガク ブルブル

ファフニール(――手足は震え、冷や汗を流し、声も若干揺れている。強気な態度が虚勢なのは明らか)

ファフニール(だがこいつはその上で、虚勢で命を懸けている――)

233 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:33:09.59 ID:Q1GPiNtR0

滝谷「――本当の所を言うと」ポツリ

ファフニール「む……?」

滝谷「隠してた本心……、というか下心みたいなものは、あったんだ」

滝谷「ご明察の通り、僕は利己的で、小賢しくて……。人に良く見られる為に善人を装う事はしょっちゅうで……」

滝谷「実の所、トール君の事については、気の毒で大変そうだとは思うけど、正直面倒事に巻き込まないでくれという気持ちも大分ある」

滝谷「魔法だとか並行世界だとかも、筋は通ってるし、魔法もこの目で見たから、とりあえずは信じた振りをしてるけど……。
   まだ感覚的には全然腑に落ちていないさ」

ファフニール「…………なら、なぜ…………」

滝谷「でも」グッ

ファフニール「!(俺の爪に、手を……!)」

滝谷「今日の昼―― 小林さんが、トール君の『力になりたい』と言ったんだ。『滝谷君、手伝ってほしい』と頼んで来たんだ」

滝谷「僕と違って、小林さんは本当に“お人好し”なんだ。
   表面上はドライで冷めた振りをしてるけど、実際は困ってる隣人を放っとけなくて、助ける為ならすぐ自分は無茶をする様な……」

滝谷「そのせいで責任を全部背負って会社も辞めさせられる羽目になったってのに、全然懲りずにまたこうして誰かを助けようとしてる、そんなお人好し」

滝谷「馬鹿だと思うかい? 僕は思う。いつまた危ない目に遭うか分かったもんじゃない……。だから」ググ……

滝谷「――だから!」ギリッ!

ファフニール「!」

滝谷「傍でその馬鹿なお人好しを支える、大馬鹿が居なきゃいけないんだ!」ギンッ!

ファフニール「――――――――」

234 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:34:45.31 ID:Q1GPiNtR0

滝谷「さあ殺すなら殺してみなよ。けれども僕は生来の痛がりでね、予防接種の注射でも毎回泣き喚きそうになるのを必死に堪えるぐらいさ!」ハハッ

滝谷「死ぬ様な大怪我すればきっとアパート全部屋に響き渡るくらいの大絶叫をかますだろう。
   そうすれば小林さんは勿論、トール君やルコアさん? にも聞こえてしまうね、それはまずいんじゃない?」フウフウ

ファフニール「………………………」

滝谷「さあっ、それでも――」

ファフニール「…………フッ」

滝谷「へ?」

ファフニール「――フッフ、クックック、クハハハハハハ!」

滝谷「( ゚д゚)」ポカン

ファフニール「クク、道化の仮面の下の素顔がどんなものかと試してみれば、仮面の下も大真面目に莫迦を語る道化の顔とはな。
       流石にそれは慮外で、だからこそ愉快だ」ククク

滝谷「え、試すって……」

滝谷「………………まさか」ダラダラ

ファフニール「ああ、殺すというのは嘘だ」サラリ

滝谷「( ) ゚д゚」(言葉にならない)

235 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:36:27.71 ID:Q1GPiNtR0

ファフニール「貴様が自分で言ったろう、殺せばトールやあの調和勢が五月蠅いに決まっている。誰がやるか」フン

滝谷「……あ、あ、あなたねえ゛………………」ヒクヒク

ファフニール「フン――――――」パチン



チカッ チカッ ブーン……



滝谷(あ、電気点いた……)

ファフニール「――勿論、本当に何か企んで竜を謀っていたのなら、忘れられない恐怖を与えるくらいはしたがな」ブンッ!(首から手を外す)

滝谷「うわっ!? 乱暴だなあ〜、もう、嘘で傷付けられちゃあ溜まったもんじゃ―― あれ?」ピクッ

滝谷「……喉に傷がない。痛みもない……。確かに爪が食い込んだと思ったんだけど」サスサス

ファフニール「幻肢痛、というものがあるだろう」

滝谷「幻肢痛? ってあの、手足を失った人が、その失ったはずの手足の痛みを感じるとかいう……」

ファフニール「そう。要は実際に怪我を負った部位が無くとも、頭の錯覚で生物は痛みを感じ得るという訳だが――。
       俺は、その痛みの錯覚を引き起こす呪いを使える」ズズ……

滝谷「ええ!? (なんて物騒な……)」

ファフニール「俺はあらゆる呪いについて精通していてな。この程度は児戯に等しい」フッ

滝谷「呪いに精通って一体、なぜ……?」

ファフニール「趣味だ」バーン

滝谷「趣味……。そ、そっすか……」

236 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:38:08.98 ID:Q1GPiNtR0

ファフニール「安心しろ。お前の応答は馬鹿馬鹿しかったが、良い退屈しのぎになった。一先ず呪いはしないさ」ククク

滝谷「さいですか………………」ハア

ファフニール「クックック………………」フフフフ

滝谷「………………(退屈しのぎ、ねえ)」



滝谷『本当は、トール君の事を慮って、僕と小林さんが彼女に害為す存在じゃないか確かめときたかったんじゃないですか?』



滝谷(――とか言ってみたいけど、言ったら今度こそ本当に殺されそうな気がするので黙っておく滝谷真なのであった、まる)

滝谷「………………」ジー

ファフニール「クク…… む、何だ睨みつけて。人間の苦情なぞ聞かんぞ」

滝谷「いえ、何でも」プイ

ファフニール「そうか。フフフ……」

滝谷(ま、何はともあれ何事もなく済んで良かった良かっt――――)

滝谷「ってあああAAAAAAAアアア〜〜〜〜!?!?」アアア

237 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:39:28.42 ID:Q1GPiNtR0

ファフニール「!? ……な、何だ突然奇声を上げて」ビクッ

滝谷「ピ、PC!PC! 忘れてた! 電灯が消えてたって事はPCも消えてた!? まだ仕事中で、データ保存してなかった!」ワタワタ

滝谷「い、今どうなってる? 今日の分の進捗吹っ飛ぶだけならまだしも、作業データ丸ごと消えてたり――」カチカチ

滝谷「――――あれ? 消えてない。そもそも電源も落ちてない……」キョトン

ファフニール「ああ、その光る板か。変化がないのは当然だ。何しろ実際に消えていた訳ではないからな」

滝谷「へ?」

ファフニール「先程、痛みの錯覚の呪いについて話したろう。
       それと類似した呪いで、光源そのものを消すのでなく、相手がその光を認識できない様にする事で、暗闇になったと錯覚させるものがある」

ファフニール「それを用いて、貴様が天井の灯りやその板の光を認識できなくしていただけだ。故に、呪いを解けば元通り、だ」

滝谷「そ、そう………………。良かったあ〜〜〜………………」ハアア〜〜〜……

滝谷(正直、さっき彼に爪で脅された時より焦ったかも…………)ヘナヘナ



トール「――滝谷さ〜ん?」コンコン ガチャ

ファフニール「む……」

滝谷「おろ、トール君?」

トール「おや、ファフニールさんも居ましたか。二人共、夕食出来ましたんで来て下さい。小林さんにカンナ、エルマもお待ちかねです」

滝谷「了〜解、今向かうね―― っと、その前に忘れず保存保存……」カチカチ

ファフニール「フン、面白い。この俺自らが料理の品評をしてやろう。ただし辛口になるのは覚悟しておけ」スタスタ

トール「うわ、何か妙にテンション高くないです? 何か嬉しい事でもありました?……」

ガヤガヤ スタスタ

パタン…………

238 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:40:32.65 ID:Q1GPiNtR0

………………

【魔法界・終焉帝のねぐら】



………………

ブウン スタッ

ルコア「――さあ、着きましたよ終焉帝」

終焉帝「うむ……」ヨロッ

ルコア「お疲れ様でした。さあ、もう横になってお休み下さい」スッ

終焉帝「ああ、かたじけない……」ズルズル トスッ……

終焉帝「…………フウ…………」ハァー……

ルコア(……トール君達の前では、出来るだけ気丈に振る舞っておられた様だけど……)

ルコア(本当は、外に出るのもまだお辛い程の重傷のはず。本人の意向だから出るなとも言えないけれど、せめて少しでも休んで頂かないと……)

終焉帝「……………うう……………」ハアハア

ルコア「――さあ、終焉帝。明日は早いですし、目を閉じてお休み下さい。朝は私がお起こし致しますから……」

終焉帝「…………………………」ハアハア

ルコア「………………終焉帝?」

終焉帝「…………………………(苦悶しながらも目を閉じない)」ハアハア

ルコア「………………眠れませんか、終焉帝?」

終焉帝「………………しい………………」ボソリ

ルコア「? 今、何と………………」

終焉帝「………………恐ろしい………………」

ルコア「………………!」

終焉帝「眠りに落ちるのが……恐ろしい……」ハアハア

ルコア「終焉帝………………」

239 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:42:38.70 ID:Q1GPiNtR0

終焉帝「もう二度と……“アレ”が生きている姿など見れぬと……思っていた……」

終焉帝「……笑う顔など、見れぬと、思っていた……」フウフウ

ルコア「…………………………」

終焉帝「……例え“アレ”が、本当は並行世界の存在で……よく似た別物であったとしても……」

終焉帝「それでも今日、“アレ”と出会えたのはまるで、奇跡の様で……っ、ゴホッ、ゴホッ!」

ルコア「終焉帝ッ! ご無理なさらず――」

終焉帝「ハア、ハア……恐ろ、しい……。ここ、で、目を閉じ、眠りに落ちたら……」

終焉帝「目を覚ました時……今日の出来事全てが、夢となってしまいそうで……」フウウ

ルコア「終焉帝………………」

ルコア「…………大丈夫ですよ」ソッ

終焉帝「む………………?」フウフウ

ルコア「まず、今日の事は夢ではありませんし……。それにもし仮に、この世界が貴方の見る夢だったとしても――」

ルコア「貴方が眠っている間は、僕がこの夢を代わりに見ます。代わりに維持します。
    ご存知でしょう? 僕が、夢の存在であったとしてもそのくらいの事は出来るドラゴンだって事」フフッ

終焉帝「…………………………」

ルコア「ですから、大丈夫です。安心してお眠り下さい、終焉帝」ギュッ(手を握る)

終焉帝「………………ああ、そうだな……。任せた、“翼ある蛇”よ……」フウ(目を閉じる)

ルコア「ええ。お休みなさい」

終焉帝「…………………………」スウスウ

ルコア(――――どうか、明日は皆にとって好い日であります様――――)

240 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2023/08/23(水) 23:43:48.35 ID:Q1GPiNtR0
今回はここまで。それではまた。
241 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2023/10/21(土) 09:55:27.67 ID:9sevB68D0
スレ保持用投稿。
242 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2023/12/16(土) 04:39:27.24 ID:JpCv0Z+R0
スレ保持用投稿。
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/17(日) 11:58:42.99 ID:LuPyZ6Y10
5年は放置されてるスレが普通にそのまま生きてる管理放棄板だぞ
いちいち保守なんてせんでええわ
244 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2024/03/04(月) 22:01:15.54 ID:r52j5KEa0
>>243
そうだったんですか…?(無知)書き始める前に調べたガイドラインにずっと沿って保守してました…。
教えて頂きありがとうございます。まあ、そもそも2か月以上も空けるなという話ではあるのですが。

それはそうと、少しですが更新しようと思います。
245 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:03:02.52 ID:r52j5KEa0

…………………………

【早朝・滝谷宅】

チュンチュン チチチ……



トール「――――んっんっ……。よし、これで準備OKです!」ギュッ

トール「小林さん! 滝谷さ〜ん! そちらは支度、済みました〜?」

小林「ん、大丈夫。出来てるよ〜。頼まれてた生ゴミももう出したし」ヒョコ

滝谷「は〜いお待たせ、僕の方も完了したよ〜」テクテク

トール「良かった、ありがとうございます。では、外の公園に向かいましょう! 他の皆さんがお待ちのはずです!」

小林・滝谷「「了解〜」」

246 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:03:55.62 ID:r52j5KEa0

【滝谷宅・玄関】

チュンチュン チチチ サンサン……

ガチャ バタン

テクテク テクテク……



トール「――ん〜〜〜〜! 快晴、良い朝です!」ノビー テクテク

小林「いやあ、気持ちの良い朝だね、トールちゃん」テクテク

トール「はい! 並み居る敵軍をブレスの一吐きで薙ぎ払った時の如く!」バーン

小林「物騒な清々しさだなあ……。ところで、その抱えてる籠って、もしかしてお弁当?」

トール「はい! 今日の調査は時間が掛かるかもですし。おにぎりやお茶とか、簡単なものですけど……」

小林「いや、充分助かるよ、ありがとう。ごめんね? 結局昨日の夕食や今日の朝食の支度や片付けに、更にお弁当まで任せっぱなしで……」

トール「いえいえ、私が好きでやってる事ですので! それよりお二人は、しっかり休めましたか?」

小林「うん、お陰様で。久しぶりにぐっすり眠れたよ」ニコッ

滝谷「ああ、僕も――ふぁ〜〜ああ……――ゆっくり休めたよ」アフゥ

トール「……にしては説得力のない大あくびですね……」ジッ

小林「滝谷君、夕食後も仕事してたでしょ〜、大丈夫〜?」ジッ

滝谷「いやいや、仕事してたのはちょっとだけだよ?
   大丈夫、きちんと休めたのはホントだから! 早起きがちょっと慣れてないだけだって!」ナハハ……

小林「ホント〜? ならいいけど……」テクテク

247 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:05:04.93 ID:r52j5KEa0

トール「あ、夕食と言えば……。昨日の夕食、どうでした?」ボソリ

小林「え?」

トール「その、お口に、合っていたかなって……」モジモジ

小林「そりゃもちろん、美味しかったよ〜!」

トール「…………!」パアッ

小林「味良し、量良し、栄養バランス良しで大満足の料理だった。ここ数年で一番ってくらい!」

滝谷「高級料理店もかくやという程美味しかったね。毎日食べたいと思ったよ」

小林「カンナちゃんやエルマさんも美味しそうに頬張ってたよね。
   あのファフニールさんも、料理漫画の解説役みたいな長台詞喋りながら食べ続けてたし」

トール「……ありがとうございます!」エヘヘ

トール(――ほら、大丈夫! 尻尾肉さえ入れなければ、普通に美味しく食べてもらえる!)

トール(……私の世界の小林さんにも私の料理、今度こそ食べて、喜んで頂きたいな……)

トール(……いや、食べてもらうんだ! 必ず帰って!)ムン

248 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:06:01.54 ID:r52j5KEa0

テクテク テクテク……

【滝谷宅近くの公園】



トール「――皆さ〜ん! お待たせしました!」

カンナ「あ。トール様きたー」パタパタ

エルマ「ああ、来たかトール」

ファフニール「……フン」

トール「あれ、ルコアさんとお父さんはまだですか?」

エルマ「ああ。とは言え予定時刻までまだ間はある。じき来られるだろう」

カンナ「トール様ー、昨日はごちそうさま。美味しかったー」ピョンピョン

トール「は〜い、ありがとうございます、カンナ」ナデナデ

エルマ「ああ、馳走になった。毎日食べたいくらい、美味だった」

トール「おや、あなたも随分気の利いた世辞を言う様に……」

エルマ「本気だぞ?」ズイッ ジュルリ

トール「そ、そうですか…… まあ、あなたならそうですよね……。今日もお弁当作ってきたんで、後であなたも食べて良いですよ」

エルマ「本当か!? 約束だぞ!!」グウウゥゥ

トール「今から腹を鳴らさないで下さい!」

ファフニール「確かに美味だった。お前の事を多少侮っていた様だ」スッ

トール「ファフニールさん?」

ファフニール「だが調子に乗るなよ。俺はまだお前を認めた訳ではない!
       素材や調理法から拘り直し、至高の一品を仕上げてから、再び挑んでくるが良い!」ゴゴゴ

トール「どういう立ち位置からの発言なんですか……」

249 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:06:53.69 ID:r52j5KEa0

ブウン



トール「! っと、二人もご到着ですか」

ルコア「皆、お待たせ〜」スタッ

終焉帝「…………………………」ザッ

小林「おお、虚空に現れた魔法陣から二人が……」ホヘー

滝谷「空間転移か……。やっぱ便利だねえ〜魔法、楽ちんそうでいいなあ」ホウ

トール「いえ、確かに転移魔法は便利ですが、そう楽ばかりでもないですよ」

小林「そうなの?」

トール「空間に影響を与える都合上、結構外界からの干渉を受けやすくて、
    他の魔法以上に繊細な操作が必要でして。単純に習得難度も高いですし……」

カンナ「わたしもテンイはできない。あとエルマ様も」

エルマ「あ、こら! 余計な事を!」ワタッ

小林「じゃあ二人は今回、他のドラゴンの方に連れてきてもらって?」

カンナ「うん、ルコア様に連れてきてもらったー」

トール「幼いカンナはともかく、エルマはもうちょっと頑張った方が……」

エルマ「う、うるさい! 向き不向きがあるんだ、空間の繋がりを乱す転移魔法は調和勢の者として感覚的にちょっと苦手で……」ゴニョゴニョ

トール「ふ〜ん、どーだか」ジトー

エルマ「む、むう〜〜〜……!」プルプル

ルコア「あはは、まあまあ――」



ギャイギャイ――

250 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:09:28.86 ID:r52j5KEa0

――――――――



ルコア「――さて、楽しいおしゃべりもそこそこにして……、本題に入ろうか」パンッ

トール「はい」

エルマ「う、うむ。お願いする」

ルコア「よし。では、出発の前に一度、改めて状況を確認しておこうか」

ルコア「昨日の話し合いによって導かれた現状に対する仮説は、この世界は今ここにいるトール君にとっての並行世界であり、
    トール君は“この世界のトール君”と引き合った事でやって来たという事」

ルコア「その仮説を検証する手がかりを得る為に、“この世界のトール君”が最期を迎えただろう場所、
    即ち1年前トール君が落ち延び、小林さんと出会ったという山に向かう……、というのが今回の目的だ」

トール「はい、承知してます!」フンスッ

ルコア「うん、良い意気だね。道中、トラブルが無いとも限らない。皆、気を引き締めていこうか」ニコッ

トール「はいっ!」グッ
エルマ「うむっ!」ムン
カンナ「おー!」ピョン

終焉帝「……………………」コクリ

ファフニール「フッ、誰にモノを言っている」フンッ

ルコア(……一番心配しているのは君の事なんだけどな〜……)ボソッ

ファフニール「? 何か言ったか?」ジロッ

ルコア「いや、何も♪」ニコ〜



トール「――特に小林さんと滝谷さんは脆弱……もといか弱い人間なのですから、無茶はせず、私達から離れない様にして下さいねっ!」ズイッ

小林「ぜ、脆弱……」アハハ……

滝谷「まあ、ドラゴンと比べたら人間が弱いのは事実だから……」フフ……

トール「あ、いえっその、そういう嘲りとか茶化しとかの意味ではなく、そのっ――!」ワタタ

小林「?」

トール「――二人共、事ある毎に無茶しがちな方達なので、心配で、その――」オズッ

小林・滝谷「「――!」」

小林「――ありがとう、トールちゃん」ギュッ(手を握る)

トール「!」

小林「約束するよ。無茶はしない。ちゃんとトールちゃん達の事、頼りにするから」ニコッ

トール「……! はいっ、頼って下さい!」ギュッ

滝谷「ああ、いざという時は脇目も振らずに全力で背後に隠れさせてもらうから、よろしくね!」グッ!

トール「そ、それはそれで絵面がどうなんですか……」

251 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:10:13.95 ID:r52j5KEa0

ルコア「じゃあ早速だけど、トール君と小林さんが出会ったという山まで移動しようか」

トール「はい、小林さん達の為にも、できれば日帰りで終わらせたい所ですし!」

滝谷「ハハハ、まあその為に無茶をして欲しくはないけれど」ハハハ

小林「そうなって頂けると仕事的にぶっちゃけ助かるね」アハハ

トール「ええ! では、時間も勿体ないし転移魔法でサクッと行きましょうか。私が準備しますね!」

ルコア「よろしく頼もうかな」

トール「行きますよ〜……!」



ブオンッ!(魔法陣を展開)



トール(行き先をイメージ! 魔法陣の大きさ等の諸条件を設定……!)



ブオン ブオン チキチキ……



トール(後は術式の定着、空間への固定――ッ!?)

ルコア「っ!」



ブオン ブオ ……バチンッ!



トール「わっ!?」

小林「魔法陣が壊れた!?」

滝谷「これは一体……」

252 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:11:07.46 ID:r52j5KEa0

トール「な、何かミスっちゃいましたかね……。もう一回!」ブオンッ



ブオンブオン――パキンッ!



トール「駄目だあ……。何でえ……?」

ルコア「待ってね、僕も一応やってみよう」ブオンッ



ブオンブオンブオン――バチンッ!



トール「ルコアさんでも失敗……?」

ルコア「うーん、これは……」

ファフニール「悩むまでも無いだろう。妨害されている」

トール「妨害!?」

ルコア「――うん、魔法陣の不備という訳でもないのに、術式が特定処理中に突然壊れるこの感じ……」

ルコア「対抗魔法による妨害……。それもこの感じだと、転移先からの妨害を受けている様だね」

トール「転移先? って事はつまり、これから向かおうとしてる山から……?」

滝谷「それって、まさか……」

小林「“この世界のトールちゃん”が……?」

253 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:11:38.15 ID:r52j5KEa0

ルコア「う〜ん、これだけだと誰が、というのはまだ分からないけど……。ただ、何者かが干渉しているのは間違いないかな」ポリポリ

ルコア「前に捜索の為この辺りに来た時は、こんな事はなかったはずなんだけど……」ムムム

ファフニール「状況が変わったのだろう、このトールがこの世界にやってきた事で」

トール「状況……。何者であれ、並行世界から来た私に山へ来ないで欲しい存在がいる、という事ですね?」

滝谷「ん? それって、逆を言えば……」

小林「うん、“私達にとって重要な手がかりが山にはある”って示してる様なものかもね」

エルマ「っ! 成程……」

トール「……これは尚更、山に行かなくてはなりませんね」グッ

254 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:12:20.48 ID:r52j5KEa0

ルコア「転移魔法が使えないなら仕方ない。予定変更して、空を飛んで直接現地に向かってみよう」

トール「はい、繊細な転移魔法は妨害できても、ドラゴンの直接突破を止められるモノはそうそうありませんから!」ビシッ!

滝谷(なんて力こそパワーな物言い……!)
小林(流石ドラゴンって感じだね)

ルコア「さて、そうなるとちょっと、組分けが必要かな?」

トール「あ、確かに。人間のお二人は、誰かの背に乗って頂かないと……」

小林「あ、じゃあトールちゃんに頼んでもいい?」

トール「はい、それでお願いします」

ルコア「ああ、それとカンナも」

カンナ「わたしも?」キョトン

ルコア「うん、カンナはまだ皆の飛行速度に付いていけないだろうから、今回は僕の背中に乗って。いいかな?」

カンナ「は〜い、りょーかい」

トール「――ふむ。そうなるとエルマ、あなたは大丈夫なんですか?」

エルマ「何?」ピク

トール「いや、水竜のあなたじゃ泳ぐのは得意でも空飛ぶのは比較的苦手でしょう?」

エルマ「な、何をぅ!? 侮るなよ! 大陸間移動ならともかく、数都市程度の距離の飛行、何の問題もない!」フンスッ

トール「そ、そうですか……(侮るとかではなかったけども)。じゃあ、心配無用ですね」

エルマ「おおともっ!」フンッ

255 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:13:06.70 ID:r52j5KEa0

ファフニール「フン、俺は無論一人で飛んでいく」

終焉帝「うむ、私も自力で――、ゴホッ、ゴホッ――」ゲホゲホ

ルコア「ああ、終焉帝もまだご無理せず! どうぞ僕の背に――」

トール「あ……」チラッ

終焉帝「むう……」

トール「……………………」モジモジ

滝谷「(むっ? トール君の様子が……) ……はっ――!」ピキーン

滝谷(むふふ、成程……。ならばっ!)スッ カチャ……

滝谷(眼鏡ON)「――いや〜折角なので、オイラはファフニール殿の背中に乗せてもらうでヤンス!」

トール「え?」
小林「滝谷君?」

ファフニール「は? なぜ俺が下等な人間を背に乗せなければならん」ブスッ

滝谷「いやあ、さすがにドラゴンとは言え、女の子のトール君の背中に乗るのは気が引けるというか……」ハハハ

ファフニール「俺なら良いとでも?」ズオッ

滝谷「そうカッカせず〜。いいじゃないでヤンスか〜、昨夜男同士で肌を重ねて親睦を深めた仲でしょ〜?」クネクネ

ファフニール「気色悪い言動をするなッ!」イラッ

トール「え、お二人共、そんな事を昨夜……?」ヒキッ

ファフニール「待て。誤解をするな、肌を重ねてと言うのは爪を突き立て――」

滝谷「…………!」チラッチラッ(ルコアへの目配せ)

ルコア「……? っ――!」ピコーン

ルコア「え〜? 爪を突き立て衣をはぎ取り、一糸纏わぬ裸体で交わり……!? わ〜ファフニール君ってばダイタン♡」ウフフ

ファフニール「ケツァルコアトル、貴様は解って言っているだろう! 巫山戯るのも――」グルル

256 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:14:21.81 ID:r52j5KEa0

ルコア「滝谷君が移るというなら、終焉帝はトール君の背に乗られては? 折角の機会ですし」ズイッ

トール「!」

ファフニール「おい、無視す――」

終焉帝「……構わん。好きに配するが良い」

ルコア「ええ! それではトール君、頼めるかい?」

トール「は、はい。こちらこそ、よろしくお願いします……」ドキドキ

ルコア「よし。じゃあ、組分けも決まった事だし、早速出発しようか!」

カンナ「はーい。ルコア様、よろしくー」テトテト

ルコア「うん、よろしくね〜♡」ギュッ

ルコア「じゃ、皆も付いて来てね! あ、認識阻害も忘れずに!」ズズズ……

ファフニール「おい聞――!」



ブアッ! バシュンッ!



小林「うおっ!(一瞬で空にかっ飛んでった!)」ゴオッ

ファフニール「ッツ……! 舐めた真似をッ!」ガシッ!

滝谷「ヤンス?」(ファフニールに掴まれる)

ファフニール「癪だが仕方ない、乗せて行ってやろう……。とにかく早急に奴を追うぞ!」ズズズ……

滝谷「おお、ありがたい! それでは小林殿、トール殿、我らはお先に――」

ファフニール「フンッツ!!」バシュンッツ!

滝谷「ヤンスーーーーー!?」キーン……(フェードアウトする悲鳴)

トール「滝谷さん……」

小林「良い奴だったよ……」

257 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:14:58.84 ID:r52j5KEa0

エルマ「――よし、では私も出立する。現地でまた会おう!」ズズ……

バシュン!



トール「えっと……。じゃあ、私達も行きましょうか。あ、小林さん、移動の間、籠を持ってて頂いても良いですか?」スッ

小林「あ、了解」ヨイショ

トール「よろしくお願いします。それでは……」ズズズ……

トール(竜形態)「――さあ、二人共、乗って下さい」ズズン

終焉帝「……うむ」ザッザッ

小林「うん……、よろしく」ウンショ

トール「……よし、乗りましたね? じゃあ行きますよ――」グググ

トール「――えいっ!」バシュンッ!



………………

258 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:16:14.97 ID:r52j5KEa0

【市街上空・ファフニール組】

ゴオオオオ……



滝谷「――きゃー、サラマンダーよりずっとはやーい!」キャッキャッ

ファフニール(竜形態)「――ム、待て。サラマンダーとは誰だ、ドラゴンの名か?」ピクッ

滝谷「へ?」

ファフニール「お前、以前にもドラゴンに乗った事があるとでもいうのか?」

滝谷「あ、いや今のは有名なゲームに出てくるセリフであって……」

ファフニール「遊戯《ゲーム》だと? 要は飯事(ままごと)の台詞か?
       つまり俺の飛行は児戯と比べる程度のものだと、そう言うつもりか貴様?」ゴゴゴ

滝谷「も〜、何でもネガティブに捉え過ぎでヤンスよ〜?
   これは幼き日に夢想した憧れと今を重ねて感動しているのだ、と思って欲しい所ですな〜」ナハハ

ファフニール「チッ、口だけは回る道化だ……。今も、先程もな」

滝谷「? と言うと?」キョトン

ファフニール「とぼけるな。出発前のお前とケツァルコアトルの三文芝居の事だ」

滝谷「――ほう?」

ファフニール「あまりに強引に話を進める故に仕方なく乗ってやったが、何のつもりだあれは」

滝谷「はっは、お見通しでヤンスか。流石ファフニール殿、荒い言動に対して気配り上手」ハッハッハ

ファフニール「はぐらかすな!」ゴオッ

滝谷「はっは――いや何、トール殿が御父上――終焉帝殿と、何やら話をしたそうに見えたものでしてな」

ファフニール「む…………」

滝谷「今日の調査の具合によっては、ゆっくり話をする時間などもうないかもしれない。
   なら、少ないチャンスを無駄にせず、悔いのない様に言いたい事を吐き出してほしいと愚考した次第で」ナハハ

ファフニール「フン、物好きなものだ」

滝谷「いやいや、ファフニール殿には負けるでヤンス」

ファフニール「減らず口を……」

259 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:17:18.00 ID:r52j5KEa0

滝谷「……しかしあれですな、話してみると、ファフニール殿は中々面白いでヤンスな?」ニヘッ

ファフニール「……何だと?」ピキッ

滝谷「小林さんの、呆れながらも返してくれる温もりある対応とはまた別の、
   打てばその分返ってくる様な、やや天然が入りつつもキレのあるツッコミ……」

滝谷「同性だからですかな? 変に気兼ねなく喋れるのも心地好い……」

滝谷「ですので、親愛を込めて“ファフ君”と呼んでいいでヤンスか?」ニカッ

ファフニール「――――は?」プッツーン

滝谷「ねえ〜、良いでヤンショ〜、ファフ君〜?」スリスリ

ファフニール「…………フ、フフフフフ…………、いいだろう」

滝谷「おお、マジデ!? 言ってみるもんで――」

ファフニール「――この俺に向かって選りにも選って親愛とはな。真意は兎も角、俺を舐めている事は良く分かった……」フルフル

滝谷「へ?」

ファフニール「怒りが一周回って興が乗った。ほんの少しだけ、本気を見せてやる――死にたくなければ死ぬ気でしがみ付いていろ」ゴゴゴ

滝谷「え、ちょ……」

ファフニール「……フンッ!!!」(スピードアップ)ゴォッ!

滝谷「ヤンスーーー!?」ガシィー



キーーーン……

260 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:18:05.87 ID:r52j5KEa0

………………



【市街上空・トール組】

ゴオオオオ……



トール「………………」

小林「………………」

終焉帝「………………」



ゴオオオオ……



トール「……あ、小林さん」

小林「……へっ!? う、うん何?」

トール「あ、いえ、椅子の座り心地は大丈夫ですか?」

小林「あ、ああ、この背中に出してもらった、鱗を変形させているっていう椅子? うん大丈夫、丁度腰にフィットして快適だよ」

トール「そうですか。何か気になればすぐ言って下さいね」

小林「うん、お気遣いありがとう」

トール「はい。……あ、その……」

小林「?」

トール「お父さん、の方は……、大丈夫ですか?」オズオズ

終焉帝「む…………」ピク

終焉帝「…………ああ、大事ない、このままで構わん」

トール「そ、そうですか……。良かったです」

終焉帝「うむ…………」



トール「………………」

小林「………………」

終焉帝「………………」



小林(いや空気、おっも!)ズーン

261 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:19:23.06 ID:r52j5KEa0

小林(出発時、滝谷君が急に組分けを変えてもらってた意図は、やっぱりこの親子二人のギクシャクしてる仲に関してだろう……)

小林(というか去り際にチラッと私に向けて『後は頼んだでヤンス♪』みたいな視線向けてきてたし)ムー

小林(とは言え……)チラッ

終焉帝「…………」ゴゴゴ

小林(う〜、黙ってても凄味あるなあこの方。私にできるか〜……?)

小林(――いや、トールちゃんの為だ。やるだけやってみようか!)ギュッ

小林(要はこの二人の間をいい感じに取り持てればいいって事でしょ?
   昨日の会話から察するにこの二人、表現の仕方がすれ違ってるだけで、ちゃんとお互いの事を想い合ってると思うんだよな……)

小林(なら、何かちょっとでも話し始めるきっかけさえあれば、後は流れで行けるはず!)

小林(となると、そのきっかけをどうするかだけど……)ウーン

小林「何……か……何かないかな……何か……」ゴソゴソ ポンポン

トール「小林さん? どうしました急に体中をまさぐって。痒いなら私が搔きましょうか?」

小林「あ、いや! そういうんじゃなくて……、えーっと……」ゴソゴソ ピクッ

小林「! (これは……! これなら行けるか……? いや、当たって砕けよう!) よし――」スッ

小林「――あ、あの! すみません、よろしいですか!?」ズイッ

終焉帝「む…………?」

トール「こ、小林さん!? 何を――」

小林「ちゃんとしたご挨拶が遅くなり申し訳ありません! 私こういう者でございます!」スッ

トール「! その小紙片は……」

終焉帝「名刺……、か」パシッ

小林「(! 知ってるんだ?)は、はい! フリーのSE……システムエンジニアをしております!」

トール「こ、小林さんどうして急に自己紹介を……!?」

終焉帝「……ふむ」ジィッ

小林「あっ、えっとシステムエンジニアというのはプログラミングなどのコンピューター関連の仕事を、あ〜とプログラミングとは……
  (しまった、用語どこまで説明すればいいか分からん!)」ワタワタ

トール(小林さん……!)ハラハラ

262 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:21:21.57 ID:r52j5KEa0

終焉帝「……一つ、良いか?」

小林「っ! は、はい! なんでしょう?」

終焉帝「昨日の話で、貴殿が1年前に退職したという会社だが……、何という名だ?」

小林「へ? えっと、『地獄巡商事』ですけど……」

トール(改めて聞いても、名前だけは個人的に好みなんですよねえ、あの会社)

終焉帝「ふむ、やはりか……」

小林「?」

終焉帝「その会社の上役――専務とやらの役職に、“マガツチ”という男がおっただろう?」

小林「へっ!? あ、はい、います――いらっしゃいますけど…… 何故それを……」

トール(専務…… ああ、翔太君のお父さんである魔術師ですね)

終焉帝「あの男とは古くからの知り合いでな」

小林「へ!?」
トール「ふぇぇっ!?」

終焉帝「む?」

トール「あ、いえ……」

終焉帝「そう言えば1年程前、あの男と話した際、勤めている会社で社員が辞めた影響で、
    大分ごたついて大変だとぼやいていた覚えがあるが……。そうか、それが貴殿達の事だったか」

小林「そ、そんな事ってあるぅ……? 世間せっまい……」

小林「――って、はっ! そ、それよりすみません! ドラゴンの方のお知り合いにご苦労掛けてるとは露知らず!
   知らなかったとはいえ、ご容赦――」

終焉帝「フッ、止せ、構わん。むしろ良い薬だ」

小林「え?」キョトン

トール(! お父さんの、笑った顔……)

終焉帝「奴には私も世話にはなっているが、同時にあの腹黒狸親父ぶりには若干いけ好かない点もある。貴殿も覚えがあろう?」

小林「え……、まあ、はい……」タハハ……

終焉帝「あの男が焦っている所など、中々見れんのでな。良いものを見せてもらい、むしろ感謝しよう」フフフ

小林「あ、そうですか? それならまあ、良かったです……」ホッ

終焉帝「名刺についてだが、此方は生憎、今日は持ち合わせがない。機会があれば後日お渡ししよう」

小林「あ、いえお構いなく――、て言うか名刺持ってるんです!?」

終焉帝「あるが?」

小林「あるんだ!?」
トール(あるんだ!?)

終焉帝「しかしSEか……、情報機器には強いと見える。
    折角なのでメールアドレスを伝えておこう。PC関連で時に相談に乗って頂けると助かる」カキカキ

小林「メールアドレスあるの!? PCも!? (え、すごい意外。めっちゃ興味出てきた!)あ、謹んでアドレス承ります……」ペコ

263 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:23:25.11 ID:r52j5KEa0

小林「――いや〜、プレッシャー凄いから内心、腰が引いちゃってたけど……。
   話してみるととっても気さくで面白――興味深いお父様だね、トールちゃん?」チラッ

トール「………………ムウ」プク

小林「ってあれ、トールちゃん? なんかご機嫌斜め?」タジッ

トール「だって……、小林さんズルいんですもん。そんなフランクにお父さんと会話してみせちゃったりして……」プク―

小林「え? 特段無理もせず、普通に話してるだけなんだけど……」ポリポリ

トール「それが普通じゃないんですっ! 普通の人間は、いやドラゴンでさえお父さんの前では呼吸すらままならなくなるものなんです!
    かく言う私ですら、お父さんの前では緊張で総毛ならぬ総鱗が立つ位なんですから!」

小林「そんなに〜? いや雰囲気がおっかないのは分かるけど……」

トール「おっかないで済ますのは流石に呑気が過ぎますよ小林さん!」

終焉帝「………………」

小林「う〜ん、じゃあ逆に聞いちゃうけど、トールちゃんのお父さん――終焉帝ってどんなドラゴンさんなの?」

トール「え?」

小林「いや、混沌勢というドラゴンの一派の代表格であり、神様とも闘り合えちゃう位凄い方ってのは昨日聞いたけども……。
   まだいまいち理解が及ばなくてね。トールちゃんが教えてくれる?」ニコッ

トール「え、え〜? しょうがないですね〜……」

トール「そりゃもうお父さん――終焉帝と言えば、
    神による支配に対する叛逆者たる混沌勢の筆頭であり、創世神話の時代を知る生ける伝説でして……」ペラペラ

小林「お、おう……(急に饒舌だ……)」

トール「その爪の一撃は新たな河を作り、その吐く炎は山を熔かすと言われ、圧倒的で無敵の肉体を誇る一方、
    知識に貪欲であらゆる事柄について知ろうとし、読み積み上げた書物は塔の如し!」

トール「その静かに、然れど凄烈に相手を睨みつける眼光は、敵だけでなく味方すらも震え上がらせる原初の恐怖……」

トール「その完全無欠の在り方故に、時に『死の炎』・『神聖の否認者』・『竜の絶対性の証明』、
   『滅びを告げるモノ』・『頂点種を総べる頂点』、そして『終焉そのもの』と数多の異名で称される、最強の竜の一角なのです――!」ゴゴゴ

小林「ひえ、何かもうラスボスみたいな人じゃん」

トール「――えっと。私の知る小林さんは、そのラスボスみたいなお父さんに啖呵切って、
    連れ帰られそうだった私を引き留めてくれたんですよ?」モジッ

小林「うわあ、ほんとに? 並行世界の私すごいな……、すごい命知らずって意味で」ハハハ

トール「だから、今も充分命知らずなんですって!」

小林「――ちなみに」

トール「?」

小林「途中からお忘れかもしれないけれど、ここまでの発言をお父さんもお聞きだからね?」チョイチョイ

トール「……はっ!!?」

終焉帝「………………」

小林「いや〜羨ましい限りですねえ、めちゃくちゃ慕ってくれる娘さんがいらっしゃって」チラリ

終焉帝「………………フン、まあな」

トール「! は、はうぅぅ……」カアァ

小林(狙い通り……!)ニヤリ

264 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:24:31.04 ID:r52j5KEa0

小林(場の雰囲気が程良く和んできた今なら……!)

小林「――恥ずかしがる事はないよトールちゃん! むしろもっと素を出してっていいと思うよ?
   折角の機会だし、今まで話せなかった事があれば話してみるのはどうかな?」ズイッ

トール「え? えっと……」ピクッ

終焉帝「………………」

トール「うんと…… その……」タドタド



トール「………………」シーン

小林「………………」シーン

終焉帝「………………」シーン



小林(……あ、やべ。詰めがちょっと性急すぎたかも……?)

トール「………………」オズオズ

小林「あ、その、強引でごめ――」

終焉帝「――一つ、良いかトール」

小林「!?(こっちからのアプローチが来た!)」

トール「お、お父さん!? は、はい、なんでしょう……」ゴクリ

終焉帝「――此度の調査が首尾良く進み、元の世界に戻れるようになったとして、お前はどうするトール」

トール「……え?」

小林(一体何を聞いて……?)

終焉帝「……お前は、元の世界に戻るつもりか」

トール「も、もちろんですっ。その為の調査ですし――」

終焉帝「だが、戻る事が本当に、お前にとって最良の選択なのか?」ジッ

トール「!? 何を言って……?」

終焉帝「戻ってどうする。お前は元の世界――並行世界のこの人間・小林とやらと口論になり、仲違いの末この世界に来たのだろう」

トール「っ! そう、です……」

終焉帝「ならば、例え戻れた所で、必ずしも元の世界の此奴ともう一度暮らせるという保証はなかろう」

トール「…………っ! それは、そうですが……」

終焉帝「昨日も言ったが、並行世界とは本来交じり合う事のないもの。この異変が解消された後、再び世界間を移動できるとは限らん」

終焉帝「――幸い、此方の世界のこの人間は、お前の事を好意的に思ってくれている様だ」チラッ

小林「!」ピクッ

終焉帝「ならば、戻っても上手く行くとは限らない元の世界より、
    此方の世界で新しく関係を築き直す方が、お前にとって幸福なのではないか――?」

トール「……そんな、事は……っ!」グッ

265 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:25:56.06 ID:r52j5KEa0

トール(……でも、本当に、そうなのかな……)

小林「――いや、そんな事はないと思うよ」

トール「!」

終焉帝「何…………?」ゴゴゴ

小林「私って、昔からそんなに人付き合いが得意って訳じゃないからさ。
   仕事先ならともかく、家の中でまで気の合わない相手と過ごそうとしても、多分数日も保たないと思うんだよ」

小林「けど、トールちゃんはそんな私……、厳密には違ってもほぼ同じなそっちの世界の私と、一年も一緒に生活してきたんでしょ?
   ならその事実だけできっと大丈夫。喧嘩したってまた、仲直りできるさ」ニコッ

終焉帝「………………!」

トール「小林さん……!」

小林「それにもし、トールちゃんが謝って、それでもそっちの私が許さなかったなら、
   こっちの私が『何様のつもりだ小林!』って怒ってたって伝えていいからさ」グッ!(拳を握って挙げる)

小林「――ってヤバ、結局私が口挟んじゃった!? 折角二人が腹を割って話してたのに……」ワタワタ

トール「! (そうか、小林さん、私達親子を慮って……)フフ、ありがとうございます」

トール「――お父さん」

終焉帝「む…………」

トール「確かに、元の世界に戻った所で、必ず仲直りできるかは分かりません。余計に関係が悪化して、悲しい思いをする可能性もあるかもしれない」

トール「――でも、それでも良いんです」

終焉帝「何だと……?」ピクッ

266 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:28:21.88 ID:r52j5KEa0

トール「私は別に傷付きたくないから、争いたくないから小林さんと暮らしてきた訳ではありません」

トール「時に衝突しても、すれ違って辛い思いをしても……。
    それらも含めてこの人と同じ時を過ごしたいと、共に歩んで乗り越えていきたいと、そう思ったから一緒に居るんです!」

終焉帝「………………!」
小林「………………!」

トール「勿論、こちらの世界の小林さんと離れてしまうのも、寂しいですけれど……」

トール「それでも、私は戻れるなら元の世界に戻ります。辛くても苦しくても、あの人と共に在れるならどんな時間も私にとって宝物なんです!」ギュッ

終焉帝「………………そうか」

トール「だから、その……。ご心配、有り難うございます。お父さん」

終焉帝「フン、何の事だ。私は疑問を只尋ねただけだ」

終焉帝「お前が覚悟出来ておると言うのなら、これ以上は聞くまい。困難も苦労も、好きに味わって来ればよい」プイッ

トール「………………」

終焉帝「……戻れると良いな、元の世界に」ボソッ

トール「……っ! はいっ!!」ニコッ

小林「――いや、良いもの聞かせてもらったよ」パチパチ

トール「! こ、小林さん……!?」

小林「誇張や茶化しでは無く、ね。それだけ真っ直ぐに誰かに想われてるなんて……、
   違う世界の自分自身の事とは言え、ちょっと妬いちゃうな」パチパチ

トール「え、えへへ……、いえ、そう言われると自分でも勢いでちょっと、
    こっ恥ずかしい事を言っちゃった気がして照れて来ますね……」エヘヘ カアァ……

小林「うんうん、それもまた青春だね」ニコニコ パチパチ

トール「だ、誰目線なんですかっ……?」アハハ

終焉帝「………………」



終焉帝(――そうか。そういう道も、そういう可能性も、有ったのだな……)フウ……



267 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:29:50.75 ID:r52j5KEa0

トール「――あ、そうだ! 小林さん、持って頂いている籠の中の、一番上の保温容器を出して頂けますか?」

小林「ん? いいけど……(ゴソゴソ)……これ?」

トール「はい、それをお父さんに――」

小林「了解。えっと、では、どうぞ」スッ

終焉帝「む、これは…………?」パカッ

トール「――昨日のお夕飯の残りです。折角だから、お父さんにも召し上がって頂きたくて……」

終焉帝「……これは、お前が作ったのか?」

トール「はい、その、どうでしょう……?」オズオズ

終焉帝「……ああ、頂こう」

トール「! 良かった、ええ、どうぞ――!」

小林「………………」ニコニコ パチパチパチ

トール「だっ、だから、誰目線の何の拍手なんですか、小林さんっ……!」



バサッ バサッ ゴオオオオ………………

268 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2024/03/04(月) 22:32:17.00 ID:r52j5KEa0
今回はここまで。それではまた。
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