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小林「あなたは……誰ですか?」トール「……えっ?」【小林さんちのメイドラゴンSS】
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244 :
◆bhlju8wMK6
[sage]:2024/03/04(月) 22:01:15.54 ID:r52j5KEa0
>>243
そうだったんですか…?(無知)書き始める前に調べたガイドラインにずっと沿って保守してました…。
教えて頂きありがとうございます。まあ、そもそも2か月以上も空けるなという話ではあるのですが。
それはそうと、少しですが更新しようと思います。
245 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/03/04(月) 22:03:02.52 ID:r52j5KEa0
…………………………
【早朝・滝谷宅】
チュンチュン チチチ……
トール「――――んっんっ……。よし、これで準備OKです!」ギュッ
トール「小林さん! 滝谷さ〜ん! そちらは支度、済みました〜?」
小林「ん、大丈夫。出来てるよ〜。頼まれてた生ゴミももう出したし」ヒョコ
滝谷「は〜いお待たせ、僕の方も完了したよ〜」テクテク
トール「良かった、ありがとうございます。では、外の公園に向かいましょう! 他の皆さんがお待ちのはずです!」
小林・滝谷「「了解〜」」
246 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/03/04(月) 22:03:55.62 ID:r52j5KEa0
【滝谷宅・玄関】
チュンチュン チチチ サンサン……
ガチャ バタン
テクテク テクテク……
トール「――ん〜〜〜〜! 快晴、良い朝です!」ノビー テクテク
小林「いやあ、気持ちの良い朝だね、トールちゃん」テクテク
トール「はい! 並み居る敵軍をブレスの一吐きで薙ぎ払った時の如く!」バーン
小林「物騒な清々しさだなあ……。ところで、その抱えてる籠って、もしかしてお弁当?」
トール「はい! 今日の調査は時間が掛かるかもですし。おにぎりやお茶とか、簡単なものですけど……」
小林「いや、充分助かるよ、ありがとう。ごめんね? 結局昨日の夕食や今日の朝食の支度や片付けに、更にお弁当まで任せっぱなしで……」
トール「いえいえ、私が好きでやってる事ですので! それよりお二人は、しっかり休めましたか?」
小林「うん、お陰様で。久しぶりにぐっすり眠れたよ」ニコッ
滝谷「ああ、僕も――ふぁ〜〜ああ……――ゆっくり休めたよ」アフゥ
トール「……にしては説得力のない大あくびですね……」ジッ
小林「滝谷君、夕食後も仕事してたでしょ〜、大丈夫〜?」ジッ
滝谷「いやいや、仕事してたのはちょっとだけだよ?
大丈夫、きちんと休めたのはホントだから! 早起きがちょっと慣れてないだけだって!」ナハハ……
小林「ホント〜? ならいいけど……」テクテク
247 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/03/04(月) 22:05:04.93 ID:r52j5KEa0
トール「あ、夕食と言えば……。昨日の夕食、どうでした?」ボソリ
小林「え?」
トール「その、お口に、合っていたかなって……」モジモジ
小林「そりゃもちろん、美味しかったよ〜!」
トール「…………!」パアッ
小林「味良し、量良し、栄養バランス良しで大満足の料理だった。ここ数年で一番ってくらい!」
滝谷「高級料理店もかくやという程美味しかったね。毎日食べたいと思ったよ」
小林「カンナちゃんやエルマさんも美味しそうに頬張ってたよね。
あのファフニールさんも、料理漫画の解説役みたいな長台詞喋りながら食べ続けてたし」
トール「……ありがとうございます!」エヘヘ
トール(――ほら、大丈夫! 尻尾肉さえ入れなければ、普通に美味しく食べてもらえる!)
トール(……私の世界の小林さんにも私の料理、今度こそ食べて、喜んで頂きたいな……)
トール(……いや、食べてもらうんだ! 必ず帰って!)ムン
248 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/03/04(月) 22:06:01.54 ID:r52j5KEa0
テクテク テクテク……
【滝谷宅近くの公園】
トール「――皆さ〜ん! お待たせしました!」
カンナ「あ。トール様きたー」パタパタ
エルマ「ああ、来たかトール」
ファフニール「……フン」
トール「あれ、ルコアさんとお父さんはまだですか?」
エルマ「ああ。とは言え予定時刻までまだ間はある。じき来られるだろう」
カンナ「トール様ー、昨日はごちそうさま。美味しかったー」ピョンピョン
トール「は〜い、ありがとうございます、カンナ」ナデナデ
エルマ「ああ、馳走になった。毎日食べたいくらい、美味だった」
トール「おや、あなたも随分気の利いた世辞を言う様に……」
エルマ「本気だぞ?」ズイッ ジュルリ
トール「そ、そうですか…… まあ、あなたならそうですよね……。今日もお弁当作ってきたんで、後であなたも食べて良いですよ」
エルマ「本当か!? 約束だぞ!!」グウウゥゥ
トール「今から腹を鳴らさないで下さい!」
ファフニール「確かに美味だった。お前の事を多少侮っていた様だ」スッ
トール「ファフニールさん?」
ファフニール「だが調子に乗るなよ。俺はまだお前を認めた訳ではない!
素材や調理法から拘り直し、至高の一品を仕上げてから、再び挑んでくるが良い!」ゴゴゴ
トール「どういう立ち位置からの発言なんですか……」
249 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/03/04(月) 22:06:53.69 ID:r52j5KEa0
ブウン
トール「! っと、二人もご到着ですか」
ルコア「皆、お待たせ〜」スタッ
終焉帝「…………………………」ザッ
小林「おお、虚空に現れた魔法陣から二人が……」ホヘー
滝谷「空間転移か……。やっぱ便利だねえ〜魔法、楽ちんそうでいいなあ」ホウ
トール「いえ、確かに転移魔法は便利ですが、そう楽ばかりでもないですよ」
小林「そうなの?」
トール「空間に影響を与える都合上、結構外界からの干渉を受けやすくて、
他の魔法以上に繊細な操作が必要でして。単純に習得難度も高いですし……」
カンナ「わたしもテンイはできない。あとエルマ様も」
エルマ「あ、こら! 余計な事を!」ワタッ
小林「じゃあ二人は今回、他のドラゴンの方に連れてきてもらって?」
カンナ「うん、ルコア様に連れてきてもらったー」
トール「幼いカンナはともかく、エルマはもうちょっと頑張った方が……」
エルマ「う、うるさい! 向き不向きがあるんだ、空間の繋がりを乱す転移魔法は調和勢の者として感覚的にちょっと苦手で……」ゴニョゴニョ
トール「ふ〜ん、どーだか」ジトー
エルマ「む、むう〜〜〜……!」プルプル
ルコア「あはは、まあまあ――」
ギャイギャイ――
250 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/03/04(月) 22:09:28.86 ID:r52j5KEa0
――――――――
ルコア「――さて、楽しいおしゃべりもそこそこにして……、本題に入ろうか」パンッ
トール「はい」
エルマ「う、うむ。お願いする」
ルコア「よし。では、出発の前に一度、改めて状況を確認しておこうか」
ルコア「昨日の話し合いによって導かれた現状に対する仮説は、この世界は今ここにいるトール君にとっての並行世界であり、
トール君は“この世界のトール君”と引き合った事でやって来たという事」
ルコア「その仮説を検証する手がかりを得る為に、“この世界のトール君”が最期を迎えただろう場所、
即ち1年前トール君が落ち延び、小林さんと出会ったという山に向かう……、というのが今回の目的だ」
トール「はい、承知してます!」フンスッ
ルコア「うん、良い意気だね。道中、トラブルが無いとも限らない。皆、気を引き締めていこうか」ニコッ
トール「はいっ!」グッ
エルマ「うむっ!」ムン
カンナ「おー!」ピョン
終焉帝「……………………」コクリ
ファフニール「フッ、誰にモノを言っている」フンッ
ルコア(……一番心配しているのは君の事なんだけどな〜……)ボソッ
ファフニール「? 何か言ったか?」ジロッ
ルコア「いや、何も♪」ニコ〜
トール「――特に小林さんと滝谷さんは脆弱……もといか弱い人間なのですから、無茶はせず、私達から離れない様にして下さいねっ!」ズイッ
小林「ぜ、脆弱……」アハハ……
滝谷「まあ、ドラゴンと比べたら人間が弱いのは事実だから……」フフ……
トール「あ、いえっその、そういう嘲りとか茶化しとかの意味ではなく、そのっ――!」ワタタ
小林「?」
トール「――二人共、事ある毎に無茶しがちな方達なので、心配で、その――」オズッ
小林・滝谷「「――!」」
小林「――ありがとう、トールちゃん」ギュッ(手を握る)
トール「!」
小林「約束するよ。無茶はしない。ちゃんとトールちゃん達の事、頼りにするから」ニコッ
トール「……! はいっ、頼って下さい!」ギュッ
滝谷「ああ、いざという時は脇目も振らずに全力で背後に隠れさせてもらうから、よろしくね!」グッ!
トール「そ、それはそれで絵面がどうなんですか……」
251 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/03/04(月) 22:10:13.95 ID:r52j5KEa0
ルコア「じゃあ早速だけど、トール君と小林さんが出会ったという山まで移動しようか」
トール「はい、小林さん達の為にも、できれば日帰りで終わらせたい所ですし!」
滝谷「ハハハ、まあその為に無茶をして欲しくはないけれど」ハハハ
小林「そうなって頂けると仕事的にぶっちゃけ助かるね」アハハ
トール「ええ! では、時間も勿体ないし転移魔法でサクッと行きましょうか。私が準備しますね!」
ルコア「よろしく頼もうかな」
トール「行きますよ〜……!」
ブオンッ!(魔法陣を展開)
トール(行き先をイメージ! 魔法陣の大きさ等の諸条件を設定……!)
ブオン ブオン チキチキ……
トール(後は術式の定着、空間への固定――ッ!?)
ルコア「っ!」
ブオン ブオ ……バチンッ!
トール「わっ!?」
小林「魔法陣が壊れた!?」
滝谷「これは一体……」
252 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/03/04(月) 22:11:07.46 ID:r52j5KEa0
トール「な、何かミスっちゃいましたかね……。もう一回!」ブオンッ
ブオンブオン――パキンッ!
トール「駄目だあ……。何でえ……?」
ルコア「待ってね、僕も一応やってみよう」ブオンッ
ブオンブオンブオン――バチンッ!
トール「ルコアさんでも失敗……?」
ルコア「うーん、これは……」
ファフニール「悩むまでも無いだろう。妨害されている」
トール「妨害!?」
ルコア「――うん、魔法陣の不備という訳でもないのに、術式が特定処理中に突然壊れるこの感じ……」
ルコア「対抗魔法による妨害……。それもこの感じだと、転移先からの妨害を受けている様だね」
トール「転移先? って事はつまり、これから向かおうとしてる山から……?」
滝谷「それって、まさか……」
小林「“この世界のトールちゃん”が……?」
253 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/03/04(月) 22:11:38.15 ID:r52j5KEa0
ルコア「う〜ん、これだけだと誰が、というのはまだ分からないけど……。ただ、何者かが干渉しているのは間違いないかな」ポリポリ
ルコア「前に捜索の為この辺りに来た時は、こんな事はなかったはずなんだけど……」ムムム
ファフニール「状況が変わったのだろう、このトールがこの世界にやってきた事で」
トール「状況……。何者であれ、並行世界から来た私に山へ来ないで欲しい存在がいる、という事ですね?」
滝谷「ん? それって、逆を言えば……」
小林「うん、“私達にとって重要な手がかりが山にはある”って示してる様なものかもね」
エルマ「っ! 成程……」
トール「……これは尚更、山に行かなくてはなりませんね」グッ
254 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/03/04(月) 22:12:20.48 ID:r52j5KEa0
ルコア「転移魔法が使えないなら仕方ない。予定変更して、空を飛んで直接現地に向かってみよう」
トール「はい、繊細な転移魔法は妨害できても、ドラゴンの直接突破を止められるモノはそうそうありませんから!」ビシッ!
滝谷(なんて力こそパワーな物言い……!)
小林(流石ドラゴンって感じだね)
ルコア「さて、そうなるとちょっと、組分けが必要かな?」
トール「あ、確かに。人間のお二人は、誰かの背に乗って頂かないと……」
小林「あ、じゃあトールちゃんに頼んでもいい?」
トール「はい、それでお願いします」
ルコア「ああ、それとカンナも」
カンナ「わたしも?」キョトン
ルコア「うん、カンナはまだ皆の飛行速度に付いていけないだろうから、今回は僕の背中に乗って。いいかな?」
カンナ「は〜い、りょーかい」
トール「――ふむ。そうなるとエルマ、あなたは大丈夫なんですか?」
エルマ「何?」ピク
トール「いや、水竜のあなたじゃ泳ぐのは得意でも空飛ぶのは比較的苦手でしょう?」
エルマ「な、何をぅ!? 侮るなよ! 大陸間移動ならともかく、数都市程度の距離の飛行、何の問題もない!」フンスッ
トール「そ、そうですか……(侮るとかではなかったけども)。じゃあ、心配無用ですね」
エルマ「おおともっ!」フンッ
255 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/03/04(月) 22:13:06.70 ID:r52j5KEa0
ファフニール「フン、俺は無論一人で飛んでいく」
終焉帝「うむ、私も自力で――、ゴホッ、ゴホッ――」ゲホゲホ
ルコア「ああ、終焉帝もまだご無理せず! どうぞ僕の背に――」
トール「あ……」チラッ
終焉帝「むう……」
トール「……………………」モジモジ
滝谷「(むっ? トール君の様子が……) ……はっ――!」ピキーン
滝谷(むふふ、成程……。ならばっ!)スッ カチャ……
滝谷(眼鏡ON)「――いや〜折角なので、オイラはファフニール殿の背中に乗せてもらうでヤンス!」
トール「え?」
小林「滝谷君?」
ファフニール「は? なぜ俺が下等な人間を背に乗せなければならん」ブスッ
滝谷「いやあ、さすがにドラゴンとは言え、女の子のトール君の背中に乗るのは気が引けるというか……」ハハハ
ファフニール「俺なら良いとでも?」ズオッ
滝谷「そうカッカせず〜。いいじゃないでヤンスか〜、昨夜男同士で肌を重ねて親睦を深めた仲でしょ〜?」クネクネ
ファフニール「気色悪い言動をするなッ!」イラッ
トール「え、お二人共、そんな事を昨夜……?」ヒキッ
ファフニール「待て。誤解をするな、肌を重ねてと言うのは爪を突き立て――」
滝谷「…………!」チラッチラッ(ルコアへの目配せ)
ルコア「……? っ――!」ピコーン
ルコア「え〜? 爪を突き立て衣をはぎ取り、一糸纏わぬ裸体で交わり……!? わ〜ファフニール君ってばダイタン♡」ウフフ
ファフニール「ケツァルコアトル、貴様は解って言っているだろう! 巫山戯るのも――」グルル
256 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/03/04(月) 22:14:21.81 ID:r52j5KEa0
ルコア「滝谷君が移るというなら、終焉帝はトール君の背に乗られては? 折角の機会ですし」ズイッ
トール「!」
ファフニール「おい、無視す――」
終焉帝「……構わん。好きに配するが良い」
ルコア「ええ! それではトール君、頼めるかい?」
トール「は、はい。こちらこそ、よろしくお願いします……」ドキドキ
ルコア「よし。じゃあ、組分けも決まった事だし、早速出発しようか!」
カンナ「はーい。ルコア様、よろしくー」テトテト
ルコア「うん、よろしくね〜♡」ギュッ
ルコア「じゃ、皆も付いて来てね! あ、認識阻害も忘れずに!」ズズズ……
ファフニール「おい聞――!」
ブアッ! バシュンッ!
小林「うおっ!(一瞬で空にかっ飛んでった!)」ゴオッ
ファフニール「ッツ……! 舐めた真似をッ!」ガシッ!
滝谷「ヤンス?」(ファフニールに掴まれる)
ファフニール「癪だが仕方ない、乗せて行ってやろう……。とにかく早急に奴を追うぞ!」ズズズ……
滝谷「おお、ありがたい! それでは小林殿、トール殿、我らはお先に――」
ファフニール「フンッツ!!」バシュンッツ!
滝谷「ヤンスーーーーー!?」キーン……(フェードアウトする悲鳴)
トール「滝谷さん……」
小林「良い奴だったよ……」
257 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/03/04(月) 22:14:58.84 ID:r52j5KEa0
エルマ「――よし、では私も出立する。現地でまた会おう!」ズズ……
バシュン!
トール「えっと……。じゃあ、私達も行きましょうか。あ、小林さん、移動の間、籠を持ってて頂いても良いですか?」スッ
小林「あ、了解」ヨイショ
トール「よろしくお願いします。それでは……」ズズズ……
トール(竜形態)「――さあ、二人共、乗って下さい」ズズン
終焉帝「……うむ」ザッザッ
小林「うん……、よろしく」ウンショ
トール「……よし、乗りましたね? じゃあ行きますよ――」グググ
トール「――えいっ!」バシュンッ!
………………
258 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/03/04(月) 22:16:14.97 ID:r52j5KEa0
【市街上空・ファフニール組】
ゴオオオオ……
滝谷「――きゃー、サラマンダーよりずっとはやーい!」キャッキャッ
ファフニール(竜形態)「――ム、待て。サラマンダーとは誰だ、ドラゴンの名か?」ピクッ
滝谷「へ?」
ファフニール「お前、以前にもドラゴンに乗った事があるとでもいうのか?」
滝谷「あ、いや今のは有名なゲームに出てくるセリフであって……」
ファフニール「遊戯《ゲーム》だと? 要は飯事(ままごと)の台詞か?
つまり俺の飛行は児戯と比べる程度のものだと、そう言うつもりか貴様?」ゴゴゴ
滝谷「も〜、何でもネガティブに捉え過ぎでヤンスよ〜?
これは幼き日に夢想した憧れと今を重ねて感動しているのだ、と思って欲しい所ですな〜」ナハハ
ファフニール「チッ、口だけは回る道化だ……。今も、先程もな」
滝谷「? と言うと?」キョトン
ファフニール「とぼけるな。出発前のお前とケツァルコアトルの三文芝居の事だ」
滝谷「――ほう?」
ファフニール「あまりに強引に話を進める故に仕方なく乗ってやったが、何のつもりだあれは」
滝谷「はっは、お見通しでヤンスか。流石ファフニール殿、荒い言動に対して気配り上手」ハッハッハ
ファフニール「はぐらかすな!」ゴオッ
滝谷「はっは――いや何、トール殿が御父上――終焉帝殿と、何やら話をしたそうに見えたものでしてな」
ファフニール「む…………」
滝谷「今日の調査の具合によっては、ゆっくり話をする時間などもうないかもしれない。
なら、少ないチャンスを無駄にせず、悔いのない様に言いたい事を吐き出してほしいと愚考した次第で」ナハハ
ファフニール「フン、物好きなものだ」
滝谷「いやいや、ファフニール殿には負けるでヤンス」
ファフニール「減らず口を……」
259 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/03/04(月) 22:17:18.00 ID:r52j5KEa0
滝谷「……しかしあれですな、話してみると、ファフニール殿は中々面白いでヤンスな?」ニヘッ
ファフニール「……何だと?」ピキッ
滝谷「小林さんの、呆れながらも返してくれる温もりある対応とはまた別の、
打てばその分返ってくる様な、やや天然が入りつつもキレのあるツッコミ……」
滝谷「同性だからですかな? 変に気兼ねなく喋れるのも心地好い……」
滝谷「ですので、親愛を込めて“ファフ君”と呼んでいいでヤンスか?」ニカッ
ファフニール「――――は?」プッツーン
滝谷「ねえ〜、良いでヤンショ〜、ファフ君〜?」スリスリ
ファフニール「…………フ、フフフフフ…………、いいだろう」
滝谷「おお、マジデ!? 言ってみるもんで――」
ファフニール「――この俺に向かって選りにも選って親愛とはな。真意は兎も角、俺を舐めている事は良く分かった……」フルフル
滝谷「へ?」
ファフニール「怒りが一周回って興が乗った。ほんの少しだけ、本気を見せてやる――死にたくなければ死ぬ気でしがみ付いていろ」ゴゴゴ
滝谷「え、ちょ……」
ファフニール「……フンッ!!!」(スピードアップ)ゴォッ!
滝谷「ヤンスーーー!?」ガシィー
キーーーン……
260 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/03/04(月) 22:18:05.87 ID:r52j5KEa0
………………
【市街上空・トール組】
ゴオオオオ……
トール「………………」
小林「………………」
終焉帝「………………」
ゴオオオオ……
トール「……あ、小林さん」
小林「……へっ!? う、うん何?」
トール「あ、いえ、椅子の座り心地は大丈夫ですか?」
小林「あ、ああ、この背中に出してもらった、鱗を変形させているっていう椅子? うん大丈夫、丁度腰にフィットして快適だよ」
トール「そうですか。何か気になればすぐ言って下さいね」
小林「うん、お気遣いありがとう」
トール「はい。……あ、その……」
小林「?」
トール「お父さん、の方は……、大丈夫ですか?」オズオズ
終焉帝「む…………」ピク
終焉帝「…………ああ、大事ない、このままで構わん」
トール「そ、そうですか……。良かったです」
終焉帝「うむ…………」
トール「………………」
小林「………………」
終焉帝「………………」
小林(いや空気、おっも!)ズーン
261 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/03/04(月) 22:19:23.06 ID:r52j5KEa0
小林(出発時、滝谷君が急に組分けを変えてもらってた意図は、やっぱりこの親子二人のギクシャクしてる仲に関してだろう……)
小林(というか去り際にチラッと私に向けて『後は頼んだでヤンス♪』みたいな視線向けてきてたし)ムー
小林(とは言え……)チラッ
終焉帝「…………」ゴゴゴ
小林(う〜、黙ってても凄味あるなあこの方。私にできるか〜……?)
小林(――いや、トールちゃんの為だ。やるだけやってみようか!)ギュッ
小林(要はこの二人の間をいい感じに取り持てればいいって事でしょ?
昨日の会話から察するにこの二人、表現の仕方がすれ違ってるだけで、ちゃんとお互いの事を想い合ってると思うんだよな……)
小林(なら、何かちょっとでも話し始めるきっかけさえあれば、後は流れで行けるはず!)
小林(となると、そのきっかけをどうするかだけど……)ウーン
小林「何……か……何かないかな……何か……」ゴソゴソ ポンポン
トール「小林さん? どうしました急に体中をまさぐって。痒いなら私が搔きましょうか?」
小林「あ、いや! そういうんじゃなくて……、えーっと……」ゴソゴソ ピクッ
小林「! (これは……! これなら行けるか……? いや、当たって砕けよう!) よし――」スッ
小林「――あ、あの! すみません、よろしいですか!?」ズイッ
終焉帝「む…………?」
トール「こ、小林さん!? 何を――」
小林「ちゃんとしたご挨拶が遅くなり申し訳ありません! 私こういう者でございます!」スッ
トール「! その小紙片は……」
終焉帝「名刺……、か」パシッ
小林「(! 知ってるんだ?)は、はい! フリーのSE……システムエンジニアをしております!」
トール「こ、小林さんどうして急に自己紹介を……!?」
終焉帝「……ふむ」ジィッ
小林「あっ、えっとシステムエンジニアというのはプログラミングなどのコンピューター関連の仕事を、あ〜とプログラミングとは……
(しまった、用語どこまで説明すればいいか分からん!)」ワタワタ
トール(小林さん……!)ハラハラ
262 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/03/04(月) 22:21:21.57 ID:r52j5KEa0
終焉帝「……一つ、良いか?」
小林「っ! は、はい! なんでしょう?」
終焉帝「昨日の話で、貴殿が1年前に退職したという会社だが……、何という名だ?」
小林「へ? えっと、『地獄巡商事』ですけど……」
トール(改めて聞いても、名前だけは個人的に好みなんですよねえ、あの会社)
終焉帝「ふむ、やはりか……」
小林「?」
終焉帝「その会社の上役――専務とやらの役職に、“マガツチ”という男がおっただろう?」
小林「へっ!? あ、はい、います――いらっしゃいますけど…… 何故それを……」
トール(専務…… ああ、翔太君のお父さんである魔術師ですね)
終焉帝「あの男とは古くからの知り合いでな」
小林「へ!?」
トール「ふぇぇっ!?」
終焉帝「む?」
トール「あ、いえ……」
終焉帝「そう言えば1年程前、あの男と話した際、勤めている会社で社員が辞めた影響で、
大分ごたついて大変だとぼやいていた覚えがあるが……。そうか、それが貴殿達の事だったか」
小林「そ、そんな事ってあるぅ……? 世間せっまい……」
小林「――って、はっ! そ、それよりすみません! ドラゴンの方のお知り合いにご苦労掛けてるとは露知らず!
知らなかったとはいえ、ご容赦――」
終焉帝「フッ、止せ、構わん。むしろ良い薬だ」
小林「え?」キョトン
トール(! お父さんの、笑った顔……)
終焉帝「奴には私も世話にはなっているが、同時にあの腹黒狸親父ぶりには若干いけ好かない点もある。貴殿も覚えがあろう?」
小林「え……、まあ、はい……」タハハ……
終焉帝「あの男が焦っている所など、中々見れんのでな。良いものを見せてもらい、むしろ感謝しよう」フフフ
小林「あ、そうですか? それならまあ、良かったです……」ホッ
終焉帝「名刺についてだが、此方は生憎、今日は持ち合わせがない。機会があれば後日お渡ししよう」
小林「あ、いえお構いなく――、て言うか名刺持ってるんです!?」
終焉帝「あるが?」
小林「あるんだ!?」
トール(あるんだ!?)
終焉帝「しかしSEか……、情報機器には強いと見える。
折角なのでメールアドレスを伝えておこう。PC関連で時に相談に乗って頂けると助かる」カキカキ
小林「メールアドレスあるの!? PCも!? (え、すごい意外。めっちゃ興味出てきた!)あ、謹んでアドレス承ります……」ペコ
263 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/03/04(月) 22:23:25.11 ID:r52j5KEa0
小林「――いや〜、プレッシャー凄いから内心、腰が引いちゃってたけど……。
話してみるととっても気さくで面白――興味深いお父様だね、トールちゃん?」チラッ
トール「………………ムウ」プク
小林「ってあれ、トールちゃん? なんかご機嫌斜め?」タジッ
トール「だって……、小林さんズルいんですもん。そんなフランクにお父さんと会話してみせちゃったりして……」プク―
小林「え? 特段無理もせず、普通に話してるだけなんだけど……」ポリポリ
トール「それが普通じゃないんですっ! 普通の人間は、いやドラゴンでさえお父さんの前では呼吸すらままならなくなるものなんです!
かく言う私ですら、お父さんの前では緊張で総毛ならぬ総鱗が立つ位なんですから!」
小林「そんなに〜? いや雰囲気がおっかないのは分かるけど……」
トール「おっかないで済ますのは流石に呑気が過ぎますよ小林さん!」
終焉帝「………………」
小林「う〜ん、じゃあ逆に聞いちゃうけど、トールちゃんのお父さん――終焉帝ってどんなドラゴンさんなの?」
トール「え?」
小林「いや、混沌勢というドラゴンの一派の代表格であり、神様とも闘り合えちゃう位凄い方ってのは昨日聞いたけども……。
まだいまいち理解が及ばなくてね。トールちゃんが教えてくれる?」ニコッ
トール「え、え〜? しょうがないですね〜……」
トール「そりゃもうお父さん――終焉帝と言えば、
神による支配に対する叛逆者たる混沌勢の筆頭であり、創世神話の時代を知る生ける伝説でして……」ペラペラ
小林「お、おう……(急に饒舌だ……)」
トール「その爪の一撃は新たな河を作り、その吐く炎は山を熔かすと言われ、圧倒的で無敵の肉体を誇る一方、
知識に貪欲であらゆる事柄について知ろうとし、読み積み上げた書物は塔の如し!」
トール「その静かに、然れど凄烈に相手を睨みつける眼光は、敵だけでなく味方すらも震え上がらせる原初の恐怖……」
トール「その完全無欠の在り方故に、時に『死の炎』・『神聖の否認者』・『竜の絶対性の証明』、
『滅びを告げるモノ』・『頂点種を総べる頂点』、そして『終焉そのもの』と数多の異名で称される、最強の竜の一角なのです――!」ゴゴゴ
小林「ひえ、何かもうラスボスみたいな人じゃん」
トール「――えっと。私の知る小林さんは、そのラスボスみたいなお父さんに啖呵切って、
連れ帰られそうだった私を引き留めてくれたんですよ?」モジッ
小林「うわあ、ほんとに? 並行世界の私すごいな……、すごい命知らずって意味で」ハハハ
トール「だから、今も充分命知らずなんですって!」
小林「――ちなみに」
トール「?」
小林「途中からお忘れかもしれないけれど、ここまでの発言をお父さんもお聞きだからね?」チョイチョイ
トール「……はっ!!?」
終焉帝「………………」
小林「いや〜羨ましい限りですねえ、めちゃくちゃ慕ってくれる娘さんがいらっしゃって」チラリ
終焉帝「………………フン、まあな」
トール「! は、はうぅぅ……」カアァ
小林(狙い通り……!)ニヤリ
264 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/03/04(月) 22:24:31.04 ID:r52j5KEa0
小林(場の雰囲気が程良く和んできた今なら……!)
小林「――恥ずかしがる事はないよトールちゃん! むしろもっと素を出してっていいと思うよ?
折角の機会だし、今まで話せなかった事があれば話してみるのはどうかな?」ズイッ
トール「え? えっと……」ピクッ
終焉帝「………………」
トール「うんと…… その……」タドタド
トール「………………」シーン
小林「………………」シーン
終焉帝「………………」シーン
小林(……あ、やべ。詰めがちょっと性急すぎたかも……?)
トール「………………」オズオズ
小林「あ、その、強引でごめ――」
終焉帝「――一つ、良いかトール」
小林「!?(こっちからのアプローチが来た!)」
トール「お、お父さん!? は、はい、なんでしょう……」ゴクリ
終焉帝「――此度の調査が首尾良く進み、元の世界に戻れるようになったとして、お前はどうするトール」
トール「……え?」
小林(一体何を聞いて……?)
終焉帝「……お前は、元の世界に戻るつもりか」
トール「も、もちろんですっ。その為の調査ですし――」
終焉帝「だが、戻る事が本当に、お前にとって最良の選択なのか?」ジッ
トール「!? 何を言って……?」
終焉帝「戻ってどうする。お前は元の世界――並行世界のこの人間・小林とやらと口論になり、仲違いの末この世界に来たのだろう」
トール「っ! そう、です……」
終焉帝「ならば、例え戻れた所で、必ずしも元の世界の此奴ともう一度暮らせるという保証はなかろう」
トール「…………っ! それは、そうですが……」
終焉帝「昨日も言ったが、並行世界とは本来交じり合う事のないもの。この異変が解消された後、再び世界間を移動できるとは限らん」
終焉帝「――幸い、此方の世界のこの人間は、お前の事を好意的に思ってくれている様だ」チラッ
小林「!」ピクッ
終焉帝「ならば、戻っても上手く行くとは限らない元の世界より、
此方の世界で新しく関係を築き直す方が、お前にとって幸福なのではないか――?」
トール「……そんな、事は……っ!」グッ
265 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/03/04(月) 22:25:56.06 ID:r52j5KEa0
トール(……でも、本当に、そうなのかな……)
小林「――いや、そんな事はないと思うよ」
トール「!」
終焉帝「何…………?」ゴゴゴ
小林「私って、昔からそんなに人付き合いが得意って訳じゃないからさ。
仕事先ならともかく、家の中でまで気の合わない相手と過ごそうとしても、多分数日も保たないと思うんだよ」
小林「けど、トールちゃんはそんな私……、厳密には違ってもほぼ同じなそっちの世界の私と、一年も一緒に生活してきたんでしょ?
ならその事実だけできっと大丈夫。喧嘩したってまた、仲直りできるさ」ニコッ
終焉帝「………………!」
トール「小林さん……!」
小林「それにもし、トールちゃんが謝って、それでもそっちの私が許さなかったなら、
こっちの私が『何様のつもりだ小林!』って怒ってたって伝えていいからさ」グッ!(拳を握って挙げる)
小林「――ってヤバ、結局私が口挟んじゃった!? 折角二人が腹を割って話してたのに……」ワタワタ
トール「! (そうか、小林さん、私達親子を慮って……)フフ、ありがとうございます」
トール「――お父さん」
終焉帝「む…………」
トール「確かに、元の世界に戻った所で、必ず仲直りできるかは分かりません。余計に関係が悪化して、悲しい思いをする可能性もあるかもしれない」
トール「――でも、それでも良いんです」
終焉帝「何だと……?」ピクッ
266 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/03/04(月) 22:28:21.88 ID:r52j5KEa0
トール「私は別に傷付きたくないから、争いたくないから小林さんと暮らしてきた訳ではありません」
トール「時に衝突しても、すれ違って辛い思いをしても……。
それらも含めてこの人と同じ時を過ごしたいと、共に歩んで乗り越えていきたいと、そう思ったから一緒に居るんです!」
終焉帝「………………!」
小林「………………!」
トール「勿論、こちらの世界の小林さんと離れてしまうのも、寂しいですけれど……」
トール「それでも、私は戻れるなら元の世界に戻ります。辛くても苦しくても、あの人と共に在れるならどんな時間も私にとって宝物なんです!」ギュッ
終焉帝「………………そうか」
トール「だから、その……。ご心配、有り難うございます。お父さん」
終焉帝「フン、何の事だ。私は疑問を只尋ねただけだ」
終焉帝「お前が覚悟出来ておると言うのなら、これ以上は聞くまい。困難も苦労も、好きに味わって来ればよい」プイッ
トール「………………」
終焉帝「……戻れると良いな、元の世界に」ボソッ
トール「……っ! はいっ!!」ニコッ
小林「――いや、良いもの聞かせてもらったよ」パチパチ
トール「! こ、小林さん……!?」
小林「誇張や茶化しでは無く、ね。それだけ真っ直ぐに誰かに想われてるなんて……、
違う世界の自分自身の事とは言え、ちょっと妬いちゃうな」パチパチ
トール「え、えへへ……、いえ、そう言われると自分でも勢いでちょっと、
こっ恥ずかしい事を言っちゃった気がして照れて来ますね……」エヘヘ カアァ……
小林「うんうん、それもまた青春だね」ニコニコ パチパチ
トール「だ、誰目線なんですかっ……?」アハハ
終焉帝「………………」
終焉帝(――そうか。そういう道も、そういう可能性も、有ったのだな……)フウ……
267 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/03/04(月) 22:29:50.75 ID:r52j5KEa0
トール「――あ、そうだ! 小林さん、持って頂いている籠の中の、一番上の保温容器を出して頂けますか?」
小林「ん? いいけど……(ゴソゴソ)……これ?」
トール「はい、それをお父さんに――」
小林「了解。えっと、では、どうぞ」スッ
終焉帝「む、これは…………?」パカッ
トール「――昨日のお夕飯の残りです。折角だから、お父さんにも召し上がって頂きたくて……」
終焉帝「……これは、お前が作ったのか?」
トール「はい、その、どうでしょう……?」オズオズ
終焉帝「……ああ、頂こう」
トール「! 良かった、ええ、どうぞ――!」
小林「………………」ニコニコ パチパチパチ
トール「だっ、だから、誰目線の何の拍手なんですか、小林さんっ……!」
バサッ バサッ ゴオオオオ………………
268 :
◆bhlju8wMK6
[sage]:2024/03/04(月) 22:32:17.00 ID:r52j5KEa0
今回はここまで。それではまた。
269 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 21:56:34.04 ID:PDbAYs0+0
こんばんは。
半年以上も空いてしまいましたが、また少し更新していきます。
270 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 21:57:45.92 ID:PDbAYs0+0
【上空・トール組】
バサッ バサッ ゴオオオオ………………
トール(竜形態)「――そろそろ、目的の山が見えてきましたよ。お二人共!」バサッバサッ
終焉帝「む、もうか……」
小林「おっ、ホントだ。1時間くらいかかったけど、話してたらあっという間だったね」
トール「はい。同感です……」
トール(最初は転移魔法の妨害があってどうなる事かと思ったけど……)
トール「……案外、このまま何事もなく到着でき――」
終焉帝「――おい」ズオッ
トール「ひゃいっ!?」ビクッ
小林「ひっ――(何かオーラが出て……)」
終焉帝「そうして気が緩んだ時が最も危うい。既に我々を妨害する何者かがいるのは分かっておるのだ。上首尾な時ほど気を抜くな」ゴゴゴ
トール「は、はいいぃ、肝に銘じます……っ!」ドキドキ シャキッ
小林「――はっ! い、いやいやまあまあ、終焉帝さんもそんなにお怒りにならず……」ワタワタ
終焉帝「……む? いや、特に怒っては――」
――キィーーーーーン!!――
終焉帝「っ!これは……」
小林「え、何々、何の音です!?」
トール「魔法による緊急通信――、ルコアさんからです!」
271 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 21:58:38.72 ID:PDbAYs0+0
ザザッ…… ザッ……!
ルコア『――みんな、聞こえる!? 今すぐ、減速し……ぐっ!』ザザッ
トール「ルコアさん!? 一体何が――」
終焉帝「トール!!」キッ
トール「っ! はい、とにかく、減速します! しっかり掴まってっ……!」グググッ
小林「うおっと、っとぉ!?」ガシッ
終焉帝「ぬぅ……!」ググッ
グググッ……
――ブオオオオオォッツ!!
トール「っ、前方から突風っ!?」グラッ
ゴオオオオオオォッツ!!
トール「っ……!姿勢が、維持できなっ……!」グラグラッ
小林「うわわわわわっ! 落ち落ち落ち、るぅわあああ!!?」ズルッ
トール「小林さんっ!!?」
終焉帝「――フンッ!」キュインッ!
小林「あああああ――お?」フワリ
終焉帝「彼女は魔法で最低限保護した! ――ゴフッ!?」ゲホッ
トール「お父さん!? お身体が……!」
終焉帝「ハア……! 長くは保たんぞっ、行け、トールッ!」
トール「――はいっ! お二人共、しがみ付いて! この空域を離脱します!」バサッ!
バサッ バサッ! ゴオオオオ……
272 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 21:59:44.52 ID:PDbAYs0+0
【山の麓の草原】
バサッ バサッ…… ズズン……
トール「ハア、ハア……。何とか、着陸、成功です……」ヘタッ
小林「ふう、びっくりしたあ……」フイー
終焉帝「ゴホッゴホッ……。やれやれ、危うい所だった……」フウ
トール「お父さん、お身体の方は……」
終焉帝「案ずるな……。多少むせただけだ、支障ない」
トール「そうですか、良かった……。申し訳ありません二人共、危ない目に遭わせてしまって……」
終焉帝「いや、緊急通信を受けてからの対応は、判断及びその速度共に、概ね最善だったと言えよう。気に病むな」
小林「うん、ありがとうトールちゃん。それに終焉帝さんも、魔法で守って下さってありがとうございます」ペコリ
終焉帝「うむ、貴女も無事で何よりだ」
トール「……私からも、改めてありがとうございますお父さん」
終焉帝「む?」
トール「もし直前で気を引き締め直せてなかったら、対応が遅れてもっとマズい状況になってたかも……。油断大敵です」シュン
終焉帝「フッ……、それが理解できただけ上々だ。反省は、今後に活かせ」
トール「はいっ」コクリ
273 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 22:01:36.09 ID:PDbAYs0+0
ガサガサッ ザッザッ
ルコア(竜人形態)「――ああ、いた! 無事だったかい、トール君達!」ザッザッ
カンナ(竜人形態)「トールさま〜!」ピョンピョン
ファフニール(竜人形態)「無傷か。まあ当然か」ザッ
トール「! ルコアさん、カンナ、ファフニールさん!」
――――――――――――
トール(竜人形態)「なるほど、そちらも山に近付いた所で急に強風が吹いて……」
ルコア「うん、急いで後続の君達に通信魔法で注意を促して、僕達もとりあえず降りてきたって所さ」
ファフニール「フン、あの程度の風、貴様が止めなければ俺は突っ切って行けたがな」プイッ
ルコア「駄目だよ〜? 君自身はともかく、君には滝谷さんが乗ってたでしょ〜?」プクー
小林「あれ、そう言えば滝谷君は今どこに……」
ファフニール「あっちだ」クイッ
小林「あっちって――」チラッ
滝谷「」プルプルプルプルプル
小林さん「う、生まれたての子鹿みたいに四つん這いでプルプルしてる……」
トール「足腰立たなくなってますね。どうしてこんな笑え、もとい哀れな姿に……」
ルコア「ファフニール君〜? 君、大分ハチャメチャなスピードで僕に追い付いて来てたでしょ〜。
人を乗せてる時はもっと加減してあげて〜?」プンプン
ファフニール「咎められる謂われはない。俺を挑発した者の、当然の報いだ」フンッ
ルコア「も〜……」
小林「大丈夫、滝谷君? この先、自力で歩ける?」サスサス
滝谷「の、ノープロブレム、でヤンス……。しばし休憩を頂ければ……!」プルプル
小林「そう……(大丈夫かな……)」サスサス
274 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 22:02:45.25 ID:PDbAYs0+0
トール「あれ、滝谷さんだけでなく、エルマもいませんが……」キョロキョロ
ルコア「彼女はどうもまだ来ていな――、おっと、噂をすればかな?」チラッ
トール「むっ、町の方角から飛んできているあの影は……」
キイィーーーーーン!
エルマ(竜形態)「――――うおおおおおーーーー!…………」ゴオオオオ!
小林「エルマさんだね。おーい、こっちですよ〜!」ブンブン
ルコア「……? 待って、彼女、あの速度……」
トール「止まらず山に突っ込もうとしてません!?」
エルマ「うおおおおおーーーー!」ゴオオオ!
――ビュゴオオオオオ!!(暴風)
エルマ「うおっ!? と……、う、うわああああああ!?」ヒュウウウウ
小林「ちょっと、風に巻かれてエルマさん墜ちてきてるけど!?」ガーン
トール「あの馬鹿、あの巨体で墜落なんてしたら辺り一帯が……! ルコアさん!」キッ
ルコア「うん、空中でキャッチしよう!」コクリ
ダンッ!ダンッ!(跳躍)
エルマ「わあああああ!!」ヒュウウウウ
ガシッ、ガシッ!
エルマ「わああ……、お?」
ルコア「ふう〜」フヨフヨ
トール「全く、世話の焼ける……」ハア
275 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 22:03:51.15 ID:PDbAYs0+0
――――――――――――
トール「――で? なんで思いっ切り山に突っ込んでるんですか?」ツーン
エルマ(竜人形態)「むぐ……、す、すまなかった……」(正座中)
トール「あなたもルコアさんからの“減速して”って通信、聞いてたんでしょ? 何で全速力出してるんですか?」
エルマ「う、うう……。た、確かに通信は聞いたが、だからこそ先行した方々に何かトラブルがあったなら助けに向かわねばと思い、急いで……」ムググ
トール「その心意気は、まあ殊勝ですが……。なら尚更、まずは通信し返して安否を確認したり、状況の把握をするべきでしょう?」
エルマ「う……、その通り、だが……」ヌググ
トール「? 何ですか言い淀んで……」
エルマ「……………………」
トール「……もしかして通信魔法、苦手なんですか……?」
エルマ「っ! ぬ、ぬぐぐ……っ!」プルプル
トール「そう言えばそもそもあなた、私より先に出発したのに後から来たのも、やっぱり空を飛ぶの苦手だったんじゃ……」
エルマ「う、う……っ」プルプル
トール「………………」(何とも言えないものを見る目)
エルマ「そ、そんな憐れみと慈しみに満ちた目で見るなあ!」ガアアッ!
エルマ「別にどっちも苦手じゃないからな! 到着が遅れたのも、途中で喉が渇いてしまったからちょっと川に寄り道して給水してきたからだし!
通信魔法もわざわざ使うより直接飛んできた方が早いと思ったからそうしただけで、使えない訳じゃないし!」ギャーギャー
トール「……いいんですよ、エルマ」ポン(肩に手を添える)
エルマ「ぬ、むっ?」
トール「誰だって、苦手な事はあるものですから……」ニコッ……
エルマ「うっすら涙を浮かべながら微笑むなあっ!」ガーッ!
276 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 22:05:03.15 ID:PDbAYs0+0
……………………
ルコア「……え〜、何はともあれ、全員怪我もなく無事に集合できた訳だけれど」
エルマ「は、はい……、お騒がせしました……」シュン
ルコア「い〜え〜♡ で、ここから先の移動だけど……。僕は、上空を飛んでいくのはもうやめた方が良いと思う」
トール「え、それは何故です? 確かに凄い突風でしたが、止むのを待ってから向かうのでもいいのでは……」
ルコア「いや。僕達を阻んだ突風……。見た感じあれは、自然の風じゃあない」
トール「!」
ルコア「恐らくあれは、山に近付く者を排除する為に敷かれた、風の結界だ」
トール「風の……」
エルマ「結界……!」
ルコア「――いや、より正確には山に近付く者の内、強い魔力を持つ者を排除する、かな」
トール「?」
ルコア「上空を見てごらん。ついさっきはあんなに強く風が吹いていたのに、今は静かなもんだ」フイッ
トール「確かに……。風も、その音も感じられませんね」
ルコア「ああ、そしてあの辺り、目を凝らしてごらん」スッ
トール「? あの辺りって……、あ!」
チュンチュン パタパタ……
カンナ「トリだー」
トール「鳥が、普通に飛んでいる……。風に巻かれる事もなく……」
ルコア「ああ。あの様に山に近付く鳥や……、恐らく上空を通る飛行機なども風の影響は受けていない様だね」
滝谷「まあ確かに、あんな突風を飛行機が受けてたら、たちまち墜落して大騒ぎになってるでしょうでヤンスからね」
ルコア「うん。この事から、僕達ドラゴンの様な力ある存在が山に近付いた時のみ、突風が生じるのだと考えられる」
トール「で、でも! 突風が吹いても、私達が本気で突っ込めば風に負けずに飛んでいけるのでは?」
エルマ「……その場合、小林殿や滝谷殿、カンナや終焉帝殿はどうするつもりなのだ?」
トール「え? え〜……。く、口の中に隠れててもらうとか!」ボーン
小林「え、ええ……」
滝谷「涎まみれはちょっと勘弁でヤンスよ……?」
ルコア「いや、そもそも僕達でも突破は難しいかもしれないよ」
トール「え? 何故……」
277 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 22:06:47.56 ID:PDbAYs0+0
ルコア「先程の、エルマが突っ込んでいった時の事なんだけど……」
エルマ「うっ……」
ルコア「周囲の様子を観察していた限り、まずエルマが一定以上山に近付いた所で風が吹き出し、そこからエルマも多少は風に負けずに進めていたけれど……
その後進めば進む程に、風も比例して強くなっていったのが確認できた」
トール「そうだったんですか?」
エルマ「う、うむ。確かに私も、体感として風がどんどん強くなっていっていたと思う」
ルコア「エルマはトール君とほぼ互角の力を持つドラゴンであり、更に言えば単純な筋力ならトール君以上だ。
そのエルマが途中で力負けして墜落する程の風となると……」
ファフニール「フン、まあお前らでは突破は厳しいだろうし、俺でも流石に面倒だ」
滝谷(「俺にも出来ない」とは決して言わない辺り、ブレない俺様系でヤンスな〜……)
トール「でも、上位のドラゴンすら退ける強度の結界を張るなんて、並大抵の技量では……」
ルコア「うん、単純な強度で僕らを弾ける結界を張れるとしたら、それこそ神霊や最上位の竜クラス。
とは言え今回はそこまでヤバい気配はないから……、結界の方式が特殊なんじゃないかな」
トール「方式?」
ルコア「ああ、例えば結界内に侵入してきた者の力を吸収・利用して逆風を発生させる、とかね」
トール「吸収・利用……」
小林「ああ成程、確かにそれならエルマさんを押し返す風が、進む程に強くなったのも説明できますね」
ルコア「そう、この場合進む力が強い程に風も強まるし、風を発生させる力を結界側で負担しないから魔力切れもしない」
滝谷「侵入者自身の力で侵入者を止める……。スマートで理に適っているという訳でヤンスね〜」
トール「――近付く力が強くなる程、際限なく風も強くなる……。理論上越えられない結界……!?」
ルコア「まあ勿論、力の吸収限界だとか何らかの弱点はあるかもだけど……。さっきも言ったがエルマが押し負ける程の風だ。
仮に無理に突破できたとして、誰かしらの怪我に繋がりかねない」
トール「確かに、それだと空から行くのは危険そうですね……」
278 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 22:08:16.32 ID:PDbAYs0+0
エルマ「しかし、それではどうすれば――」
ファフニール「先程試しに歩いて山に近付いてみたが、特段突風などの妨害はなかった。地上からの徒歩なら行けるんじゃないか?」サラッ
トール「はっ?」
エルマ「へっ?」
ルコア「――ファフニールく〜ん?」ゴゴゴ
ファフニール「? 何だ?」
ルコア「君という奴は、何があるか分からない場所での団体行動中なのに無断で単独行動して〜……」
ファフニール「俺は団体行動などしているつもりは元よりない。貴様等の今回の探索という団体行動に、俺が自由意志で帯同しているに過ぎん」ドーン
小林(なっ…………)
滝谷(何という屁理屈……ッ!)
ルコア「……………………は〜あ、そうだね、君はそういう奴だよね……」フウ
ルコア(――それで一人置いてかれたりするときっちり拗ねたりする癖に)ボソッ
ファフニール「何か言ったか?」
ルコア「い〜や? まあ、そういう事なら話は早い。とりあえず地上から目的地に向かってみようか」
トール「賛成です!」
エルマ「了解だ!」
カンナ「さんせー」
終焉帝「了承した」
小林「じゃあここからは山登りか……。そこまで急傾斜な山じゃないとはいえ、運動不足の私達に付いてけるかなあ」ハハッ……
滝谷「多少動ける服装はしてきたでヤンスが、本格的な登山装備ではないでヤンスしねえ」
トール「大丈夫です! 適宜、私がサポートしますから!」
ルコア「うん。疲労軽減の魔法とか虫除けの魔法とか、役立つ魔法も沢山あるから安心してね♡」
小林「わあ、ありがとうございます……!」
滝谷「感謝感激センキューベリベリマジックテープ!」
ルコア「ふふふ、何かの呪文かな?」スルー
トール「フ、フフフ……!(山中では私達の助けがないと弱々で何もできない(誇張)小林さん……、これはこれで萌え……!)」グフフ
小林「(なんか変な事考えてそうだけどまあいいか……)よろしくお願いしまーす!」
279 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 22:10:09.19 ID:PDbAYs0+0
―――――――――――
ザッザッ……
【山中の森】
トール「――では、ここから先の道案内は私にお任せを!
小林さんと出会った場所は私にとって運命の聖地! 道順は完っ璧に記憶しています!」フンスッ!
滝谷「お〜、凄い自信でヤンスね。トール殿」
トール「はいっ!もはや目をつぶってでも辿り着けますね!」ドヤァ!
小林「そこまで言うなら安心だね。じゃあよろしく、トールちゃん」
トール「はいっ、任されました! 付いて来て下さい!」ハツラツ
ルコア「うん、よろしく〜。終焉帝のご介助は僕に任せてくれればいいから、心配せず先導してね」
終焉帝「うむ、かたじけない……」コクリ
トール「よろしくお願いします! ご安心ください、すぐ着いちゃいますから! さあ行っきますよ〜!」ザッザッ
ザッザッ……
【30分後】
ザッザッ……
トール「あっれ〜〜〜……?」ノーン
エルマ「トール〜? まだか〜?」
ルコア「かれこれ大分歩いてるけど、大丈夫、トール君?」
トール「え〜と……」キョロキョロ
小林「トールちゃん……。もしかしてだけど、これ道に迷って……」
トール「い、いや、道は絶対合ってるはずなんです!」バッ!
トール「ほら見て下さい、あの木はケヤキ263番であっちがクリ421番!
時間経過による樹木の生長や枯損、風雨による地形の変化を考慮しても、ルート上は間違いないんですよ!」
小林「えっ、急に何その番号は……?」
トール「何って、私がこの山の木1本1本に付けている番号ですが?」シレッ
小林「ヒエッ……(引)」
トール「先程も言いましたが、ここは私と小林さんの聖地《サンクチュアリ⦆。
この地を保全する為にその構成要素を余す所なく把握するのは当然の務めでは?」ドドド
滝谷(曇りない瞳で凄まじい事をさらりと……!)ドドド
280 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 22:11:03.30 ID:PDbAYs0+0
小林「で、でもまあ、そこまで把握してるとなると、単に道の覚え違いというのも変だね」
トール「は、はい、そう……のはず、なんですが……」タドタド
カンナ「……でも何か、この辺り、見覚えあるかも?」
トール「ぐっ!?」ドキッ
カンナ「トール様、ホントは、同じ所グルグル回ってたりしない?」ズバッ
トール「ぬぐぅっ!?」ドキドキッ
エルマ「何だ〜、その死霊の呻きみたいな声は〜? 図星か〜?」ケラケラ
トール「ええい、うるさいですね! そうですよっ! ここ通るのもう三回目ですぅっ!」ガーッ!
滝谷「おおうトール殿、Be cool……! どうどう、どうどう、威風堂々……」
トール「ひゅっ――」ゾクッ……
エルマ「ひっ――」ゾッ……
滝谷「(頭は)冷えたでヤンスか?」
トール「……はい、(唐突な寒いダジャレで全身が)冷えました、どうも……」ペコリ
281 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 22:12:16.21 ID:PDbAYs0+0
トール「……変と言えばもう一つ、気になる点が」
小林「ん?」
トール「この山にはそれなりの数の鳥や獣が生息しているはずですが……。ここまでの道中、周囲にまるで気配を感じないんです」
小林「確かに、言われてみると……」キョロキョロ
シーーーン……
滝谷「鳥の声すら全然聞こえないでヤンスね……」
トール「はい、流石に偶然だとかでは片付けられない異常を感じます」
ファフニール「――おい、ケツァルコアトル。この感じは……」
ルコア「うん、僕も丁度思ってた所」コクリ
トール「? 何か気付いたんですか、お二人共?」
ルコア「うん、というかその〜……、恐らく“また”なんだけど」
トール「?」
エルマ「また?」
ファフニール「結界が張ってある」
トール「結界ぃ!?」
エルマ「またぁ!?」
282 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 22:13:34.51 ID:PDbAYs0+0
ルコア「うん……、けど先程の風の結界とはまた別系統かな」
トール「と言うとっ?」ズイッ
ルコア「恐らく認識阻害の一種だね。山に入った者の方向感覚を無意識の内に狂わせ、同じ所をグルグル回らせて、奥に立ち入らせない様にするまじない……。
いわゆる“迷いの森”というやつだ」
トール「認識阻害……? え、でも私は全然違和感とかは……」
ルコア「ああ、それは仕方がない。僕やファフニール君でも、しばらく山中にいてやっと僅かに違和感に気付けたくらいの、強力な干渉力だ」
ファフニール「よもや俺が呪に関して後れを取るとはな……。癪だが認めざるを得ない、驚異的な結界だ」ギリッ
トール「そんな、お二人でも手こずる程の高度な結界、どう突破すれば……」
ファフニール「フン、突破方法は単純だ」
小林「……と言うと?」
ファフニール「この山一帯、丸ごと吹き飛ばす」ドーン
小林「THE・力技!?」
ルコア「また乱暴を言うね君ぃ!?」
滝谷「爆発オチなんてサイテー!」
ファフニール「五月蠅い、何が不服だ? 土地に紐づけられた結界など、土地ごと除いてしまうのが最も手っ取り早いだろう」ツーン
エルマ「いや、山一つ吹き飛ぶと流石に人間達の間でも騒ぎになりますし、動植物への被害も見過ごせませんし……」
ルコア「そもそも僕達はこの山の何処かにいる“この世界のトール君”を探しに来てるんだから、それだと彼女ごと吹き飛ばしちゃうでしょ……」
ファフニール「…………ム」ピク
ルコア「……………………」
ファフニール「…………終焉帝の娘ならまあ、耐えられるだろう、多分」フイッ
ルコア「取って付けた様な答えだねぇ!?」
終焉帝「――ファフニールよ、秘宝抱く邪竜よ……」スッ
ファフニール「ム、終焉帝…………」
終焉帝「状況に応じ即座に破壊を選択できるその姿勢、まさしく混沌勢と呼ぶに相応しい好戦性ではある――」
ファフニール「! おお、やはり王種は良く分かって――」
終焉帝「とは言え、やりすぎ。それは“無し”だわ」ボーン
ファフニール「ッ…………!」ガーン
トール「はい、この話題終了! 他の手考えますよ〜!」パンパン!
283 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 22:14:57.54 ID:PDbAYs0+0
ルコア「とは言え、ここまで結界が高度だと魔術的に解呪するのを目指すよりは、破壊を狙った方が早いのはそうなんだよね」
トール「ちょ、ルコアさんまで!?」
ルコア「いやいや、勿論山は吹き飛ばさないよ。この手の結界は大抵、魔力の流れの基点となっているポイントがあるものだ。
それを探し出して破壊できれば、結界は解除できるはずだ」
トール「な、なるほど…………」
ルコア「ただ問題は、その魔力の流れも認識阻害によって隠蔽され、極めて追いづらくなっている事でね……」
小林「魔力の基点とやらを壊そうにも、どこにあるか分からない、という事ですか……。厄介ですね」
トール「! そうだ、お父さん程のドラゴンなら、何とか分かりませんか?」クルッ
終焉帝「……悪いが、期待には応えられそうにない」
トール「!」
ルコア「無理を言っちゃいけないよトール君。ここまで隠蔽されている魔力を追うには終焉帝でも強い集中が必要だろう。
本調子が出せるならともかく、今の傷付いた体では……」
トール「す、すみません! 無配慮な事を言ってしまい……」ペコ
終焉帝「いや、謝らずとも良い、私こそすまんな」
ルコア「しかし困ったね。僕やファフニール君でも、ここまで薄く隠された魔力を追うのは一苦労だ。
出来ないとは言わないが、専用の術式を組んだりする必要があるから、ちょっと時間が……」ムムム
エルマ「? 話がややこしかったので黙って聞いていたが……。要はその結界の基点とやらは、魔力の中心にあるのか?」
ルコア「え? うん、そうだけど……」
エルマ「なら、あっちに向かえばいいじゃないか」ピッ
ルコア「え?」
トール「へ?」
エルマ「ん?」キョトン
284 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 22:16:09.96 ID:PDbAYs0+0
トール「エルマ……、あなた、結界の基点の位置が分かるのですか!?」ズイッ
エルマ「おっ!? お、おお……多分。薄っすらとだが、漂う魔力が臭っているからな」クンクン
小林「臭い……? 魔力って臭うものなの?」
エルマ「あっ、あくまで例えの様なものだっ! 五感で言うなら嗅覚による感覚に近いというだけで……」ゴニョゴニョ
トール「すごいじゃないですかエルマ! ルコアさん達でも感じるのが難しいものが分かるなんて!」
エルマ「そ、そうか……?」テレッ
トール「ええ、お世辞ではなく!」
エルマ「そうか……、ふ、ふふーん! まあ私は調和勢だからな!
空間や魔力の歪み・淀みの様な“悪”の発見力には一日の長があるという事だ!」エッヘン!
ルコア(種族差による感覚の鋭さの違い……、いや、長年人間の国の巫女として土地を統治してきた経験……? 何にせよ、これは……)フム
カンナ「エルマ様、エルマ様ー。エルマ様が感じる魔力って、あっちの方って言った?」ピッ
エルマ「むっ? おお、そうだぞ。そっちの方角だ」
カンナ「ほんと? なら私も何となく分かるかもー」ピョンピョン
エルマ「なんと!?」
カンナ「私も手伝うー、役立ちたいー!」ピョンコピョンコ
トール「そういえばカンナも、魔術的な感知能力は元々高かったですからね……」ホホウ
小林「そうなんだ。(飛び跳ねてるカンナちゃん、可愛いなあ)」ニコッ
滝谷「これなら行けるのでは?(あぁ^〜カンナちゃんがぴょんぴょんするんでヤンス^〜)」
ルコア「うん……、ここは、二人に任せてみようか!」
トール「では二人共、ここからは先導お願いします!」
エルマ「うむ、合点承知!」グッ!
カンナ「しょうちー!」グッ!
285 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 22:17:36.96 ID:PDbAYs0+0
ザッザッ……
カンナ「ん〜〜〜〜〜〜〜〜…………………………」ググーッ
小林(カンナちゃん、目を瞑って眉間に皺を寄せて唸ってる……。集中してるんだな)
小林(一方のエルマさんの方は……)チラッ
エルマ「(クンクン)(スンスン)(クンカクンカ)」
小林(四つん這いで一心不乱に魔力の臭いを追ってる……。ちょっと犬みたいだ……、いや頑張ってもらってるのに失礼だけど!)
滝谷(エルワン……)
トール「いや〜カンナはともかく、エルマの格好は犬というよりトリュフを探す豚ですね」ズバッ
小林(言った! しかも更にひどい例えで!)ガビーン!
トール「見ていて下さい、その内こいつキノコ見つけてかじり出しますよ」
小林「と、トールちゃん、流石にそれは――」
エルマ「失礼な! 私だって真面目にやるべき時くらい、食欲を我慢して責務を果たせるとも!」フンス
小林「あ、怒る所そこなんだ!?」ガガビーン!
滝谷(それはつまり、平時なら本当にキノコにかじりつくと……!?)
トール「なら良いですが……。昔みたいに、毒キノコの食べ過ぎで動けなくなるのはやめて下さいね」フウ
小林「あ、過去実際にあった事なんだ!? あと“毒キノコの食べ過ぎ”ってワード何!?」
エルマ「い、いやあ、あの時のあれは、あのキノコが美味すぎるのがいけなくて……。ドラゴンの免疫力で毒は効かなかったし……」モジモジ
滝谷「確かに、毒のある生き物は美味いなんて話は時折聞きますが……っ!」
…………………………
286 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 22:18:39.28 ID:PDbAYs0+0
【30分後……】
ザッザッ……
エルマ「――っふう! 疲れた!」フヘー!
カンナ「集中しすぎてヘトヘトー……」フイー
エルマ「私も嗅ぎ過ぎでいいかげん鼻が変な感じだ……!」ピスピス
小林「お二人共、お疲れ様です……」
ルコア「ふむ……。トール君、景色の方はどうだい?」
トール「はい、先導を二人に代わってもらってからは、景色のループは起こっていません。結界に惑わされずに進めているかと」
ルコア「そうか……。じゃあ、ちょっと休憩しようか?」
トール「ええ、良いと思います。丁度そろそろお昼ですし、お弁当を出して昼食にしましょうか」
カンナ「おべんとう!」ピクッ
エルマ「ご飯の時間か!? お腹ペコペコだったんだ、やったー!」ピョン
トール「そう言いながら、跳ねるくらい元気じゃないですか! 全くもう、ほらシート敷くの手伝って下さい!――」
―――――――
287 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 22:20:58.84 ID:PDbAYs0+0
ワイワイ―― ガヤガヤ―― パクパク――
エルマ「――ん〜! 美味しいな、このおにぎり!」モグモグ
小林「こっちのサンドウィッチも美味しいよ。種類も色々あってほら、タマゴにハムチーズ、サラダ……」
エルマ「モグモあ、そのホイップもグモグモ美味しそう、取ってくれグモグ!!」モグモグ
トール「こ〜ら! せめて今食べてるもの飲み込んでからにしなさい!」
滝谷「ああ〜……、お茶が体に沁みるでヤンス……」ホウー
カンナ「しみるー……」プハー
ルコア「あっはは! 二人共若いのに何だか老人臭いねえ。お茶が美味しいのは同意だけど」ズズー
カンナ「むっ。誰よりもおばあちゃまのルコア様に言われるのはちょっと心外」
ルコア「え〜ひど〜い! それに誰よりもって事はないだろ〜、この場では終焉帝の方が僕より年上……、
あれ? どうでしたっけ? そうですよね終焉帝?」チラッ
終焉帝「いや知らんが……。永く生きていると、流石に細かい年齢を数えるのは辞めてしまったからな」
ルコア「え〜そんな〜困ります〜、これじゃあおばあちゃまを否定できないじゃないですか〜!」
終焉帝「……一応尋ねるが、貴殿、飲酒してはおるまいな?」
ルコア「飲んでませ〜ん、神話時代から絶賛禁酒中で〜す!」ユラユラ
終焉帝「……そうか(場酔い、という奴か……?)」
ルコア「――ただ、大勢で騒がしく食事、というのが久し振りで。ちょっと浮かれてるのはあるかもしれません、すみません」フフッ
終焉帝「――そうか。まあ構わんさ、私も似た様なものだ」フッ
滝谷「あー小バアさん……、そっちのポット取ってくれんかね」ヨボヨボ
小林「誰が小バアさんだ! はいどうぞお爺さん!」ダンッ!
滝谷「おお、かたじけKnights of the Round Table……」フガフガ
小林「老人ムーブの癖に、挟むボケが流暢な英語で小憎らしい……!」
トール「フッ円卓の騎士ですか。ジョークとしては悪くないチョイスですね」フフフ
エルマ「ん? 珍しくないか、お前が人間の英雄達の話題で悪態を吐かないの」モグモグ
トール「逃れられぬ滅びに抗う愚かな人間達でしたが、気骨はある奴らでしたからね……。
それに自分達を“赤き竜”と呼称していたのも、不遜ですがガッツは感じて嫌いじゃありません」クックッ
小林「ドラゴンサイドからの評価そんな感じなんだ、アーサー王伝説……」アハハ……
288 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 22:22:28.47 ID:PDbAYs0+0
小林「そう言えば、落ち着いて考えるとちょっと変な気がしない? ここまでの道のり」モグモグ
トール「変……と言いますと?」トポトポ
小林「いや、さ。最初の転移魔法の妨害から上空での風の結界、そしてこの迷いの森……。
確かに一見すると、私達を近付かせない為にいくつもの妨害を仕掛けているみたいだけど」
トール「はい、いずれも極めて高度な術式によるもので、私達ドラゴンでも苦慮するものばかりです」ハイオチャドーゾ
小林「うん。……けど逆を言えば、いずれも結果だけ見れば進行不可能にはなっていない、常に抜け道の様にルートが残っている」ドーモ
エルマ「む……、それは確かに。転移魔法の妨害はあっても、直接飛んでくる事は出来たし、風の結界も地上を歩き進む事を妨げはしなかった」バクバク
トール「この迷いの森も、魔力の流れを辿る事で現状先には進めている……」チャントカミナサイ
滝谷「ふむう……、確かに言われてみれば奇妙でヤンスね。まるで“わざと”進む道を残している様な……」ボリボリ
小林「でしょ? 本当に誰も近付かせたくないなら、そうする事も可能なはずなのに。例えばそれこそ風の結界を地上にまで張っておいたりとかね」ズズー
トール「私達の進行を妨害しているのにも拘わらず、何故か常に穴は残している……。矛盾していますね」フムウ
滝谷「まるで二つの異なる意思――、我々に来て欲しくない者と来て欲しい者の二者がいるみたいな感じでヤンスね」ゴックン
小林「来て欲しい者……。それなら昨日、そもそも今目の前にいるトール君を呼んだのは“この世界のトール君”じゃないかって話をしたじゃない?
彼女が私達に来て欲しい方かな」プハー
エルマ「その場合、“この世界のトール”以外に、私達に来て欲しくない未知の相手がいる事になるか? それはちょっと……、まずくないか」ウヘエ
小林「上位のドラゴンだっていう皆さんをも翻弄する魔法の使い手って事になるもんね……」
トール「…………………………」
289 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 22:24:25.49 ID:PDbAYs0+0
トール(未知の強大な第三者の存在……、確かにそういったものも想定しようとすれば想定する事はできる)
トール(けど、昨日の話でも似た話があった。“それ”を想定してしまうなら、それこそ何でもありになる)
トール(私達より強大な何者かが私達を妨害しようとしているなら、直接私達を攻撃するなりした方がもっと手っ取り早いはずだ。
わざわざ結界なんて迂遠な方法を取る必要もない……)
トール(それに私がこの妨害から感じるのは、どちらかと言えば二者の思惑というよりは――)
ルコア「――はい、そこまでそこまで!」パンパン
トール「!」ピク
ルコア「確かに用心に越した事はないけれど、あくまで推測は推測。ネガティブに考えすぎて不安に陥るのも良くないよ」
トール「ルコアさん……」
ルコア「この山が現状一番の手掛かりである以上、進まない訳にも行くまいさ。警戒は怠らず! されど心は気楽に行こう、ね?」ニコッ
小林「……そうですよね。第三者の存在もあくまで仮定に過ぎない。
考えすぎて止まっちゃうよりは、行って確かめてやるって気持ちじゃないとですよね!」グッ
ルコア「うん、その意気その意気♡ 大丈夫、案外ここから簡単に事が運んでくれる可能性も、あるかもしれない、ぜ?」パチンッ(ウィンク)
トール「――そうですね。そう願いたいです」
―――――――――
一同「――ごちそうさまでした!」パンッ
トール「お粗末様でした」ペコッ
小林「ありがとねトールちゃん。お弁当、とっても美味しかったよ」ニコッ
トール「ふふーん! どういたしまして!」フッフーン!
ファフニール「女将を呼べッ! 副菜の煮つけの味付けについて問い質し――!」クワッ
ルコア「さあ出発しよー!」スタスタ
一同「おー!」スタスタ
ファフニール「あっ待ておい――」
ファフニール「………………」ポツン
滝谷「――残念でヤンスね、折角のボケをスルーされてしまい……」ヌッ
ファフニール「ッ! 貴様……」ギロッ
滝谷「Don’t mindでヤンスよファフ君。オイラだってそんなのはしょっちゅうでヤンス。
めげない・しょげない・諦めない! で再トライしていきましょうぞ!」キャッキャッ
ファフニール「――フッ、成程……滝谷真」ニヤッ
滝谷「はいっ!」ニコニコ
ファフニール「いずれ殺してやる」ザッザッ
滝谷「え、えええぇえぇ〜〜!? どうして今の流れで!? ちょっと待ってでヤンス〜!」ザッザッ
ザッザッ……
290 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 22:25:47.39 ID:PDbAYs0+0
【30分後】
ザッザッ……
カンナ「(ピコピコ)」ザッザッ
エルマ「(クンカクンカ)」ザッザッ
ザッザッ……
ピタッ
カンナ「……ここ?」
エルマ「ああ、私も同意見だ。恐らくここだろう」コクリ
ルコア「うん、僕もここまで近付けば確かに認識できる。ここが結界の基点に相違ないだろう」
小林「おお、遂に……!」
エルマ「どうだ!私はすごいんだぞ!」フンス
トール「まあ、あなたにしては結構お手柄ですね」
エルマ「何だその言い草は! もっとちゃんと褒めろ! 労われ!」
トール「はいはい、飴ちゃんあげますから」ゴソゴソ
エルマ「そんな飴玉一つなんかで私が――」
トール「はい」グイッ
エルマ「むぐっ」パクッ
エルマ「…………」
エルマ「ウマ〜♡」コロコロ
トール「本当に、お疲れ様でしたね」ニコッ
カンナ「私も私もー!」
トール「はい、カンナもお疲れ様でした。どーぞ♡」ヒョイッ
カンナ「(パクッ)……〜〜♡」コロコロ
291 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 22:28:52.49 ID:PDbAYs0+0
小林「じゃあ後は、結界の基点を破壊する……、でしたっけ」
滝谷「具体的には、どうするんでヤンスか?」
ルコア「うん、ここからは単純明快な力技。魔力の流れを生み出している結界の基点を、より大きな魔力を放出して吹き飛ばすのさ」
トール「フッフッフ……。任せて下さい、大得意です」ニヤッ
ファフニール「フンッ、下がっていろ青二才。俺一人で充分だ」ザッ
ルコア「いや、出来るだけ高い出力が欲しいし、ここは万全を期して協力してやろう、ね?」
ファフニール「……チッ、好きにしろ」ツーン
ルコア「流石に終焉帝にはご静養して頂くとして……。エルマ、カンナも協力してくれるかい?」
エルマ「む? よし、任せろ!」ムンッ
カンナ「がってんー!」ピョイン
終焉帝「すまぬ、頼んだ皆の者……」
ルコア「じゃあ皆、結界の基点を中心にして、取り囲む様に立って――」
「はい!――」「よし――」「フン――」「りょーかいー!――」ザッザッ……
小林「おお、なんか物々しい……。見てるだけの私達もちょっと緊張するね?」コソッ
滝谷「禿同(死語)……。変身だとか転移だとかの魔法は既に見ているでヤンスが、ガチの破壊を伴う魔法はこれが初めて。一体どんな――ハッ!?」ピコーン!
小林「ど、どうしたの滝谷君?」ビクッ
滝谷「ま、まさかこれは、生で本物の攻撃魔法の詠唱が聞けるチャンスでヤンス――!?」ゴゴゴ
小林「気になる所そこっ!?」
滝谷「勿論でヤンスっ! だって、オトコノコだもん……っ!」キラーン
小林「そ、そう……」
ルコア「――よし、配置に付いたね? 皆、準備はいいかい?」
「はいっ!」「うむっ!」「愚問」「おーけー!」ゴゴゴ
ルコア「よし、じゃあ行くよ〜――――」ゴゴゴ
滝谷「…………………………っ!」ドキドキ
トール「はあああああああああああ!!」
ルコア「たあああああああああああ!!」
エルマ「りゃああああああああああ!!」
カンナ「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
ファフニール「フンッ――――――!!」
滝谷「え?」
チュドーーーーン!!!
292 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 22:32:32.99 ID:PDbAYs0+0
ゴゴゴゴゴ……
エルマ「――ふう! どうだ!?」
ルコア「――うん、成功だ! 周りを見てごらん!」
トール「! 景色が、急に開けた様な感覚……! 確かに結界が消えています! 今なら道がはっきり分かる……!」
カンナ「やったー!」ピョイン
ルコア「よし、皆ありがとう! じゃあトール君、ここからは改めて道案内を頼めるかい?」
トール「了解です! 大丈夫、見た限り目的地はもうすぐそこです! 行きましょう――!」ザッザッ
「「「おー!」」」ザッザッ……
小林「いやー無事に進めそうで良かった良かった……ん、滝谷君? どうしたの、うなだれて?」キョトン
滝谷「……いや、何でもないんでヤンス。オイラが勝手に期待して勝手に落ち込んでるだけでヤンスから……」○T乙 ズーン
小林「な、何か凄いショック受けてる……。何、魔法の詠唱が無かったのがそんなに不満?」
滝谷「はは、不満だなんてそんな……」
滝谷「でも『結合せよ 反発せよ 地に満ち 己の無力を知れ!』とか……、
『黄昏よりも昏きもの、血の流れより紅きもの』とかみたいな……。もっとこう、ロマン溢れるものを聞きたかったと言うか……」ブツブツ
小林「ふ、不満タラタラだ……!」
293 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 22:37:32.64 ID:PDbAYs0+0
滝谷「勿論、実際に起きている事象は高度で凄い事なんでヤンショが……、
やっぱりこう、一目・一聞きで只事じゃないと分かる呪文なり動きなりがないと素人には凄さが分からないと言うか……」タラタラ
小林「あーもう、本場の魔法相手にダメ出しまで始めて……」
ファフニール「――フン、下らん」ザッ
小林「あっ、ファフニールさん……」
ファフニール「何の呪詛を吐いているのかと思えば、魔法の凄さの分かりやすさ、だと? 存外低俗な事に拘る奴だ」チッ
滝谷「ファフ君……、そんな無体な……」オヨヨ
ファフニール「黙れ、ファフ君言うな。……そもそも魔法を使うのに大仰な詠唱や魔法陣を使うなど、力量の足りない人間の術士がやる事だ」
滝谷「へ……?」
ファフニール「真の強者たるドラゴンなら、目的に応じた必要最低限の術式をその場で構築し、最小の手間・最短の工程で行使するなど容易い」
ファフニール「特に今回は繊細な力加減など要らず、ただ基点を吹き飛ばすのみが目的……。
ならばわざわざ技術で補助をするなど、むしろ竜にとっての恥と知れ」スタスタ
滝谷「………………!」
小林「あ、行っちゃった……。ほら滝谷君も、そろそろ起きないと、みんな行っちゃうよ?」
滝谷「……成程、そういう見方も……?」ブツブツ
小林「……滝谷くーん?」
滝谷「オイラとした事が、少々視野が狭まっていたか……?
確かに創作においては読み手に凄さを伝える為の特徴的で外連味のある口上や動き、
いわゆる“大見得を切る”事は分かりやすさという点で極めて重要……」ペラペラ
滝谷「けど! 敢えてそれらを排しコンパクトな動作で粛々と実行するというのも、
言わば花〇薫が技を磨いたりトレーニングしたりする事を女々しいと言うのに似た、
ドラゴンという生来の絶対強者が持つ余裕・実力・誇りの表れと考えればそれはそれでいぶし銀で格好良――!」ドドド
小林「……置いてくねー」スタスタ
滝谷「ああっ、ごめんなさい! 待ってほしいでヤンス〜!」ガバッ テケテケ
―――――
294 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2024/11/30(土) 22:39:32.68 ID:PDbAYs0+0
―――――
ザッザッザッ……
ルコア「――どうだい、トール君?」ザッザッ
トール「はい、もう少しです! この林を抜ければ――っ!」ザッザッ
ザアッ……!
小林「! ここが……!」
【山中・トールと小林の出会いの場所】
ルコア「空間が開けたね……」
エルマ「ここだけ木々がまばらな、広場みたいな場所だな」キョロキョロ
カンナ「ここがモクテキチ?」
小林(……? 奥の方に何か巨大な塊みたいなものが――って!?)
小林「トールちゃん! アレって……!?」バッ
トール「………………ええ、行きましょう」スタスタ
小林「あっ、その……うんっ」テクテク
ザッザッザッザッ……
ピタ
トール「――ハハッ……。なんて格好、してんですか……」
物言わぬドラゴンの骸「…………………………………………」
トール「やっと会えましたね……、“この世界の私”」
295 :
◆bhlju8wMK6
[sage]:2024/11/30(土) 22:42:17.70 ID:PDbAYs0+0
今回はここまで。それではまた。
296 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2024/12/06(金) 21:04:07.89 ID:1bHunX4b0
>>294
この世界の私・・・? まさか・・・?!
297 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 21:26:19.23 ID:oEqW1vd60
こんばんは。
大分ご無沙汰になってしまいましたが、更新していこうと思います。
298 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 21:27:42.71 ID:oEqW1vd60
ヒュオオオオオ…… ザワザワ……
トール「……………………」
物言わぬドラゴンの骸「……………………」
ザッザッザッ
滝谷(眼鏡OFF)「………………これは」ザッ
ファフニール「………………フン」
エルマ「くっ………………!」ギリッ
カンナ「トール様…………」ジワッ
終焉帝「……おおっ……トールよっ……!」フラッ
ルコア「っ終焉帝! お気を確かに……!」ガシッ
小林「……このドラゴンが……“この世界のトールちゃん”……」ゴクリ
小林(……全く動かない。ミイラみたいに、乾いて萎びて、固まってる)
小林(! 巨大な剣で体を貫かれて、地面に串刺しになってる……。あれが、話にあった神剣ってやつ?)
小林(……確かに、昨日の話でも言われていた……。もう彼女は亡くなっているかもしれないと)
小林(私も、きっと皆も、覚悟はしていた。でも……)
小林「……でも、それでも、こんなのって………………!」ギュウウ
トール「………………」スタスタ ペタッ
小林「! ……トールちゃん?(骸の方の彼女に触れた……?)」
トール「………………ふんッ!」ドゴオッ!
小林(!!? 殴っ……!?)ビクゥッ
小林「って、ちょ、ちょっと、トールちゃん?! 何し――!?」
トール「――何やってるんですか……、“私”」ポツリ
小林「!」
299 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 21:29:26.58 ID:oEqW1vd60
物言わぬドラゴンの骸「……………………」
トール「……予想はしてましたよ。もし本当に私が小林さんと出会えなかった事で世界が分岐したのなら……、
“こっちの私”は亡くなっているのだろう、なんて事……」
トール「他の方々からすれば悲劇なのかもしれませんが……。私からすれば、これはただの怠慢の結果ですよ」ハッ
トール「どうせあなたの事です。死んでいく時には、助けを求める声一つ上げずに、黙ってひっそりと死んでいったんでしょう」
トール「分かりますよ、他ならぬ“私”の事です。あの時の私なら、きっとそうしましたから……」
トール「勢力の意向も無視して、独断専行で神に挑んだ末に、惨めに敗走したんです。
その上で混沌勢に――お父さんに――救援を求める無様は晒したくなかった」
トール「他の勢力……傍観勢や調和勢に頼るのは論外でしたし、それに、この異境の生命体に助けを求めるのも、プライドが許しませんでした」
トール「……プライド。フフッ、アハハッ! ……笑えますね、ほんと、馬鹿で」フフッ
トール「自分の中から生まれたものでもない、内心自分でも大したものだと思っていない――、
他者の猿真似に過ぎないプライドや体裁に最後まで縛られて死んでいくなんて、滑稽です」
トール「……そんなか細い繋がりを後生大事に抱えたまま逝く位なら、初めから意地を張らずに、腹を割って話をすれば良かったのに」
終焉帝「……トールよ……」
トール「……ほんと、ほんっと馬鹿ですっ……臆病者です……!」ドンッ
トール「要は怖かったんです。誰かを頼る事が、自分の弱さを他者に見せる事が……」
トール「……それでも、一度で良かった。ほんの一度、勇気を出して助けを求める声を上げていれば!
この世界でも同じ様に、小林さんに見つけてもらえていたかもしれないのにっ……!」ギリッ
小林「トールちゃん……」
300 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 21:31:04.39 ID:oEqW1vd60
トール「ほんと、何してんですかね――」ギュウウ
???『――好き勝手言ってくれる――』ズズッ……
トール「っ声? どこから――」
ルコア「――危ないっ、トール君!!」
トール「っ!?」ダンッ!
――ボオォォォ!
トール「うぁ――熱っづっ!?」ジュウッ
エルマ「っ! トールが立っていた地面から火柱が!?」
トール「ぐあっ!!」ゴロゴロッ
小林「大丈夫、トールちゃん!?」
トール「は、はい……、ルコアさんの声のおかげで跳び退けたので、脚が少し焦げただけです……! けど、今の炎は……」
???『チッ……すばしっこいな、煩わしい』ズズ……
トール「!(骸から声が……)この声、まさか……!」
小林「骸から、何かが滲み出して……!」
ズズッ…… ズッ…… ズッ!
トール?『――勝手に此方の想いを推察して、代弁する様な真似は止めてもらおうか。見当違いで、不愉快な事甚だしい』ズルリ
小林「あれは……」
トール「ええ……、“私”です」
ルコア「ああ。彼女こそ“この世界のトール君”……、その魂だ」
301 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 21:32:41.71 ID:oEqW1vd60
この世界のトール(以下、トール’と表記)『………………』ズズ
小林(人型の姿……服装はまるで違う……。こっちのトールちゃんがメイド服なのに対して、あちらはローブを纏ってる。けど、容姿は瓜二つだ……!)
滝谷「半透明に透けてる……。実体のない魂、霊体ってやつかな?」
ルコア「そう。人間のお二人は気を付けて、僕達より前には決して出ないでね」ザッ
小林「は、はい……」
滝谷「了解です」ジリッ
小林(……昨日の夕食前、カンナちゃんに聞いた通りだった――)
――――――――
カンナ『――わたし達にとっては、生き物は体が死んでも、まだちょっと残ってるのがふつー』
小林『ちょっと残る……。それはその〜、いわゆる魂ってヤツ? その生物の、想いや記憶みたいなものというか……』
カンナ『そう、それ。タマシイ』
カンナ『生き物は死ぬと体からタマシイが出て、近くで浮かぶ。
ふつーの動物やニンゲンのタマシイは、よわいから大して残らないし、少しすれば薄れてあの世に流れてく』
カンナ『けど、つよいドラゴンのタマシイは体が死んでも、はっきりしてるし、何年も残るらしい。
まだ何か考えたり、魔法を使ったりもできるって聞いた――』
――――――――
小林(あれが、彼女が。死してなお遺るという竜の魂……!)
302 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 21:34:55.34 ID:oEqW1vd60
トール’『……フン。こんな奥地まで、大層な顔ぶれが雁首揃えたものだな』ギロッ
トール「……ええ、ええ、来ましたとも。全く初手で火柱とは手荒い歓迎じゃないですか、“私”。はるばる皆で話をしに会いに来たっていうのに」フウ
トール’『歓迎だと? 我の領域に土足で踏み入って来た侵入者の分際で笑わせるな、“我の紛い物”』ゴゴゴ
トール「紛い物って……、随分な言い草ですねぇ。ま、信じ難い気持ちは私も分かりますが……。
とは言え、匂いや魔力で察せられるでしょう? 偽者などではない、同質の存在だと」
トール’『………………』ギリッ
エルマ「と、トール! 聞いてくれ!」ズイッ
トール「エルマ?」
トール’『………………』
エルマ「こ、ここにいる、その、何かフリフリした装束のトールはだな!
俄かに信じられんかもしれんが、実はその、この世界とよく似ているが少し異なった道を辿った、異なる世界の――」
トール’『――“並行世界”、とやらから来たもう一人の我、だと?』
エルマ「――っえ?!」ドキッ
トール「――――――!」
小林(……! 何で並行世界の概念を知って……? この場のドラゴンの方達は皆、昨日まで詳しく知らなかったのに……)
303 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 21:37:09.21 ID:oEqW1vd60
トール’『フ。何だその間抜け面は。余程我を無知蒙昧と侮っていたと見える……』ニヤ
エルマ「ち、違う! そんな事思ってないっ! でも、何でその言葉を知って……?」
トール’『ハハ、貴様等、此処を何処だと心得る? 先も言ったぞ、此処は我が領域。
――この森に入った辺りからの貴様等の会話は、概ね我の耳まで届いている』ゴゴゴ
トール「………………!」
エルマ「我が領域……? っ! それってもしかして、じゃあここまでの森の結界は……!?」
トール’『何だ、其処からか? 全く……。そう、我こそ結界の主だとも』
エルマ「なっ――――!」
トール’『無論、森の認識阻害の結界のみではない。上空の風の結界、そして転移魔法の妨害……。
此処までの貴様等の道程を阻んでいたのは、全て我の仕業だとも』ククク
小林「………………!」
トール「……薄々、そんな気はしてました」フウ
エルマ「っ!?」
トール’『…………ホウ』ピクッ
小林「トールちゃん!? それって……」
トール「ただの勘でしたから、口には出しませんでしたけどね。少なくとも、第三者による妨害よりはあり得るかな、と」
エルマ「で、でも話では、ここまでの結界はルコア殿やファフニール殿でも手を焼く様なものだったのだろう?
トールがそんな高度な魔法を扱える訳が……」アセアセ
トール「ちょっと言い方! まあ否定はしませんが……」
ルコア「――いや、あながち無理とは言い切れない」
滝谷「ルコアさん?」
ルコア「確かに、通常時においては、今のトール君の力量ではまだそのレベルの魔法は難しいだろう。
けれど魔法とは極論、想いを力に変える技術とも言える。一際強く烈しい想い……、
激情が時に秘めたポテンシャルを引き出し、普段以上の魔力を発揮させる事例は稀にだが存在する」
ルコア「そう、例えば――死の間際の無念や執着などは、強力な魔法や呪いを発現させ得るんだ」
エルマ「………………っ!!」
トール’『………………フン』
304 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 21:39:53.89 ID:oEqW1vd60
小林「あれ、でもルコアさんの話では、今日より前にこの山を訪れた際には、転移の妨害や風の結界はなかったって言ってた様な……」
トール「恐らく、これまでは認識阻害の結界だけで自身を隠蔽して、存在自体に気付かれない様にしていたのでしょう。
しかし私がこの世界に来た事で、なりふり構わず妨害する方針に変えた、という所ですかね。そうでしょう、“私”?」チラッ
トール’『……チッ、訳知り顔でペラペラと、忌々しい。が……その通りだとも』ギョロッ
トール’『昨日の時点で、貴様のこの世界への出現は大気のマナを通じて我も感知していた。
遅かれ早かれ我を捜しに此処まで来るだろう事も予見できた。
だから今までは休眠させていた転移の妨害と風の結界を再起動し、貴様等を阻んだ……。失敗したがな』ギリッ
カンナ「そんな……」
エルマ「一体どうして、そこまでして私達を……」
トール「……一応聞いておきましょう。何故私達への妨害を?」
トール’『――言わねば分からんか?』ビキッ
トール「私が推察を語る事も出来ますが、それはあくまで推察です。相互理解の為に、出来れば貴方の口から直接聞かせて欲しいものですがね」
トール’『――――――――――あ』ポツリ
トール「あ?」
トール’『あ、ああ゛、あああ。あ゛〜あ゛〜あ゛ああああ……っ!!』ボリボリ
エルマ「ヒッ――――」ビクッ
カンナ「トール様……?」ブルッ
トール’『煩わしい、煩わしい、煩わしい……っ! そんなのっ!! “全てが煩わしいから”以外にある訳がないだろうっ!』ゴォッ!
305 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 21:45:29.49 ID:oEqW1vd60
トール「煩わしい……ですか」
トール’『ああ、そうだッ! 我はもう、此の世の全ての関わりが煩わしい!
竜との関わり、人との関わり、神との関わり! 血縁・地縁・因縁・奇縁、あらゆる繋がり、全部、全部ッ!』ズァッ
小林「くっ…………!(後ずさってしまいそうな程の、圧倒的な迫力……!)」ジリッ
滝谷(昨日、ファフ君が脅しを掛けてきた時以上の、明確な命の危機を感じる……!)ゾッ
終焉帝「トール……!」
トール’『混沌勢? 調和勢? 魔と神の永きに渡る闘争……? 莫迦じゃないのか!?
幾百幾千の年月を、ただの殺し合いに費やして……! 良く飽きもせず! 勝手にやってろ、我を巻き込むな!』
トール’『ああああ゛ア゛嫌だ厭だイヤだどいつもこいつも気色悪い、暴れる事しか考えていない癖に傲岸不遜に振る舞う混沌の竜共も、
独善的な秩序を押し付けてくる神々とそれに卑しく侍る調和の竜共も、さも訳知り顔で高みの見物を決め込む傍観の竜共も!』
トール’『短い命で何処までも行こうと身の丈も知らずに世界を貪り散らかす人間共も、
隠れ潜んでただ奪い合って惨めに生き延びるモンスター共にも虫唾が走る!』
トール’『力ある莫迦共は口を揃えてそれが使命だ、存在意義だ役割だ、生きる目的だとほざいて、自己の譲れない正しさを主張しながら殺し合う。
“相手にも同様に譲れない正しさがある事”も想像できない低能というだけだろうに!』
トール’『そんな愚物達が、生前は我に様々な感情を向けてきた。憎しみ怒り蟠り、妬み嫉み羨み僻み恐怖侮蔑憧憬狂信復讐猜疑優越劣等、
べったりと粘つく黒泥が如き妄念を、ああ手前勝手に不躾に!!』
トール’『全部、全部ッ、全……ッ部嫌いだ! 疾っくの昔にうんざりだッ! 』ゴォッ!
トール「――――っ、全部、ですか……」ビリビリ
トール’『ああそうだとも……全部だよ。そう――利用されている事に気付いていながら目を逸らし、聖女を演じ続ける自己欺瞞の偽善者も!』ギンッ
エルマ「――――っ!」ビクッ
トール’『争いから逃げ、それでいて他者との関わりに未練を残して、みっともなく輪の周りをふらつく様な半端な臆病者も!』キッ
ルコア「――――っ」
トール’『財宝を貯め込みに貯め込んだ挙句、自身の熱を見失い、警戒心だけを残して引き籠り続ける生き腐れも!』ギラッ
ファフニール「………………」
トール’『……親に放任された寂しさを埋めようと非力な手を伸ばしてくる、我が鏡像が如き哀れな仔竜も』ジッ
カンナ「っ!………………」
トール’『――――そして。勢力の長たる事を言い訳に、娘を教え導くのを放棄し追い払った、父親も……!』ジロッ
終焉帝「…………!トー、ル……っ」
トール「――あなた! 本気でそんな事っ――」
トール’『認めぬと? 否定すると? そんな想いは理解できぬとッ? 他の誰でもない、我の紛い物ではないと宣うお前がッ!?』ギンッ
トール「……――――――ッ!」
トール「………………理解は、出来ます。その嫌悪も、憤りも、世界全てへの倦怠も。みんな、私自身が抱えてきたものですから」グッ
トール「けど!! それだけじゃなかったでしょう! なかったはずです!
長い旅の中で、楽しかった事も、大切だった事も、輝いて見えた事だって、あったでしょう!?」
トール’『ハッ。そういうまやかしの様な事こそが、尚更煩わしいと言っているのだ。振り切ろうとして猶、脳の裏に餓鬼の様に纏わり付いてくる……』
トール’『――ああ、しかし。そうだな、我も莫迦だった。世の莫迦共の下らない争いに態態付き合って、終には命を喪って……。
畢竟、生きている間には柵む因業を振り払う事が出来なかった』ククッ
トール’『だが、もう違う。死んで、やっと愛想が、未練が尽きた。分かるか? 我は今、正に“自由”を手にしているのだ!』
トール「なっ…………!?」
306 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 21:47:23.38 ID:oEqW1vd60
トール「自由……? こんなのが? こんな山奥で一人寂しく死んでいる事が、自由だと言うんですか!?」
トール’『頭の鈍い! だが当然か。命永らえて今も愚物達との関わりを捨てずにいるお前に分かる訳もない。
“孤独”こそ、真の自由である事など!』ゴォッ!
トール「くっ…………!」ビリビリ
トール’『もう我は、何者にも煩わされない。立場にも、力にも! 愛にも憎にも、絡みつく情念にも!
死によって、孤独によって、それら全ての柵みから初めて解放されたのだ!』
トール’『――先程、そちらの臆病者が言っていたな。死に際の強い念が強力な魔法を生み出す、だったか』チラッ
ルコア「!………………」
トール’『そうだ、その通りだとも! 死の間際、最後に私はこう願った。“もう誰にも会いたくない”、“永遠に一人でありたい”と!』
トール’『だからこうして他者を遠ざける結界を張った! 転移の妨害も暴風も認識阻害も! 全て我が幸福な孤独を維持する為だ!』
トール’『嗚呼。そうして我は今、こうして浮世の軛から解き放たれ、自由なる静寂を味わっているのだ。――それだのに貴様等は!』ギンッ
トール’『我の結界をこれだけ荒らしておいて、言うに事を欠いて“会いに来た”?“話をしたい”?“相互理解”?』
トール’『知った事か! 興味もない! 独り善がりのありがた迷惑という奴だ、失せろ!』ズァッ!
トール「ぐっ…………!」ジリッ
終焉帝「…………トール…………」
307 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 21:48:56.02 ID:oEqW1vd60
トール「…………そう言われて、すごすご去る訳にもいきません。ここに来たのは、私が元の世界に帰る手掛かりを探す為でもあるんですから」グッ
トール’『貴様の都合など、何故我が慮る必要があると思う? これ以上、我が安寧の邪魔をすると言うなら――力尽くで排してやる』ゴゴゴ
トール「……排する、ね。私一人ならともかく、この顔ぶれ相手に、死した魂に過ぎないあなたが勝てると思っているんですか?」
トール’『舐めるな。一年の間我が留まり続けた事で、この領域は、そのマナは!
最早我の支配下となっている。たかが数羽の侵入者ごとき、排除するのは容易い――!』ズズッ……!
カンナ「っ! トール様、これやばい――!」ゾクッ
エルマ「禍々しい魔力が、辺り一帯を取り巻いて……! あいつ、本気でやる気だぞ!」
トール’『フウゥゥゥーーーーー…………!!』ゴゴゴゴゴ
トール「やるしか……ありませんかっ!」ギュッ
ゴゴゴゴゴゴゴ…………!!
ルコア「小林さん、滝谷さん! 絶対に僕らの後ろから出ないでね。守り切れないから――」
滝谷「くっ…………!」ビリビリ
小林(……――――――)
小林(――いいや)
小林「――ごめん、ルコアさん。私、行かなきゃ」ザッ
ルコア「っ小林さん!!? 下がって――」
308 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 21:53:05.86 ID:oEqW1vd60
ザッ ザッ………… ザッ!
小林「っ………………」ザリッ
トール’『ム………………?』ピクッ
トール「小林さんっ!?? 何してるんですか、下がって下さい……!」
小林「……ごめん、トールちゃん。けど私は彼女に、言わなきゃいけない事があるんだ」ギュッ
トール「言わなきゃいけない事って――あっちょっと!?」
小林「………………」ザッザッザッ ピタリ
トール’『………………』ジッ
小林「スウ、ハア(一呼吸)………………あの――」
トール’『――――』クンッ
ボオオオオオオオッッッ!!!(火柱)
小林「ヒッ――――!?」ヨロッ ドサッ
トール「小林さんっっつ!!!」
小林(目の前を、ほんの鼻先を、私の全身を軽く飲み込める程の太さの火柱が……!)ハッ、ハッ
トール’『――気を付けて喋れよ、人間。放つ言葉によっては、次に消し飛ぶのはお前になる』
トール’『何 だ ?』ゴゴゴ
小林「……フッ…………ヒッ…………」ガタガタ
トール「貴ッ様アァァァァ…………!!」ビキビキ
小林「……待ってっ! トールちゃんっ!」バッ
トール「小林さんっ……!?」ピタッ
小林「私に、話させて……。お願い、だ……」ブルブル グッ……
トール「小林さん……っ」
トール’『…………(震えながらも、立ち上がるか)』
309 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 21:55:42.73 ID:oEqW1vd60
小林「…………っ…………っつ」フッ ハッ
トール’『……其処の、我の紛い物の方は、大層お前の事を気に入っている様だが。我も同じだと期待しているなら甚だ見当違いだ』ギンッ
トール’『我にとっては、お前なぞ何の関係も興味もない。只の矮小な人間一匹でしかないのだ、と――理解しているか?』ゴゴゴ
小林「…………分かっ、てる…………そんな事…………っ!」ハア ハア
トール’『――そうか。ならば良かろう、用件を言え。調停か、懐柔か? その蛮勇に免じて、一言だけは聞いてやる』
トール’『(但し、何を言おうと言い終わった瞬間に燃やしてやるがな……!)』ゴゴゴ
トール「小林さん……っつ!」ギュッ
小林「……………………っ」ブルブル
トール’『さあ、言ってみるが良い!』ゴォッ!
小林「……………………っつ!」ゴクリ
小林「――――見つけてあげられなくて、ごめんなさい!!」ペコリ
トール’『――――――――――――――――は?』ポカン
310 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 22:02:22.92 ID:oEqW1vd60
トール「え…………」
エルマ「へ…………?」
ルコア「………………!」
終焉帝「――――――」
滝谷「小林さん……」
トール’『――――はっ!?(一瞬、呆けていた……!)』ブンブン(頭を振る)
トール’『……いや! 貴様、一体何を――!?』キッ
小林「――ごめん、1年前のあの時、私はこの山に入っていたのに、君を見つけてあげられなくて」
トール’『!』
小林「君が、こっちにいるトールちゃんと違って亡くなる事になってしまったのは、
1年前のあの日、この私が君を見つけられなかったせい……、なんでしょ?」
トール’『………………』
トール「小林さんのせいなんかじゃありませんっ! そもそもあの日まで小林さんは――」
小林「分かってるよ、トールちゃん。そもそもあの時はまだ私、ドラゴンも魔法もこの世に実在するなんて思ってなかったし、
当然トールちゃんがこの山に来ている事も知り得なかった。それにあの時は私、泥酔もしていたしね……」アハハ
小林「――でも、それでもね、気付ける事はあったんじゃないかって思うんだ」
小林「森の中で、君から流れ出た血の匂いがしたかもしれない。君が痛みで身じろいで木々を擦る音がしていたかもしれない。
苦痛に呻く君の息遣いが、放つ熱が漂っていたかもしれない……」
小林「何か一つでも、私がそうした異変を察知して気にしていれば……、もしかしたらこの世界でも、私は君を見つけて、助けられていたかもしれない。
そう思うと……、やっぱり私は、謝らずにはいられないんだ、ごめんなさい」ペコリ
トール’『――――――………………』
トール「小林さん…………っ」
311 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 22:06:38.64 ID:oEqW1vd60
トール’『――――ふ…………、ふざけるな! 人間、風情が……、謝罪に、あまつさえ同情だとっ!? 舐めるのも大概にしろ……っ!』フーッフーッ
小林「っ!」ビクッ
トール’『塵も残さず、消え去――』ギリッ
エルマ「待てっ、トールッ!」バッ
トール’『ああ゛っ? しゃしゃり出るなこの――』
エルマ「――私も、悪かったっ!!」ペコリ
トール’『――――――――は、ぁ?』グラッ
エルマ「……本当は、ずっと後悔していた。昔、共に旅していたお前と仲違いし、別れた事……」
エルマ「確かに私達には勢力の違いがあった。それぞれの矜持が、考え方の違いがあった。争う事自体は、避けられなかったのかもしれない」
エルマ「けどそれは、必ずしも別れる理由にはならなかったんじゃないかと、今は思うんだっ!」ギュッ
トール’『っ、お前っ…………!』
エルマ「違いがあっても、対立があっても! もっと対話を重ねれば、もっと一緒に旅を続けていれば!
分かり合う道も、お前が独りで無茶をしなくてもいい選択も、あったんじゃないかって……!」
エルマ「……生きている内に、仲直りしたかった。昔みたいに一緒に過ごして、ご飯を食べたかった……っ!」ポロポロ
エルマ「だから……、ごめ゛ん゛、ドール゛……っ!!」グスッ
トール’『……………………っ!』
カンナ「私もごめんなさいっ、トール様っ!」バッ
トール’『っ!……カンナ……』
カンナ「私、ぜんぜん分かってなかった。自分が寂しいばっかりで、トール様に甘えるだけで……、
トール様も寂しいんだとか、誰かに甘えたいんだとか、考えた事もなかった……」エグッエグッ
カンナ「私がトール様に支えてもらった分、私もトール様を支えなきゃだったのに……! ごめん、なさいっ!」ペコッ
トール’『………………っっ!』
滝谷「……では、僕も謝罪を」ザッ
トール’『っ? 今度は何だ……!?』バッ
小林「っ! 滝谷君……」
トール「ちょっ、滝谷さんも前に!?」ギョッ
滝谷「まあ、僕は小林さん以上に君と縁が遠い訳で、君が亡くなってしまった事に僕は一見ほとんど関係してない。
だから、謝ると言うのも烏滸がましいのかもしれないけれど……」ポリポリ
滝谷「――でも、バタフライエフェクトとか、カオス理論とか。ほんの小さな条件の違いだけで結果が大きく変わってしまう事を表す言葉もある。
僕が本当に君の死に一切関与していないかというと、それも絶対ではない」
滝谷「昨日から考えてたんだ。
そもそもどうしてこっちの生きてるトール君の世界では小林さんがトール君を見つけられて、この世界では見つけられなかったんだろうって」
滝谷「……もしかしたら、僕が会社で小林さんに掛けた一言や、仕事でフォローしてもらった分の労力、ほんの少しの挨拶のし忘れ……。
そうしたほんの些細な事が小林さんの体調に影響してその違いを生んだ、という可能性も、あるのかもしれない」
滝谷「だからまあ、自分の事をあまりに過大評価してるとも思うけど、それでも僕も君に謝りたい。
僕にももっと、出来る事があったかもしれない。ごめんなさい」ペコリ
トール’『…………ッ…………〜〜〜〜ッ!!』ギシッ
312 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 22:08:49.11 ID:oEqW1vd60
トール’『……だ、まれ』フルフル
トール’『黙れ、黙れッ、黙れ黙れ黙れッ! 揃いも揃って、我を莫迦にしているのかお前等ッ! 謝罪とか、ごめんとかっ、今更っ……!!』ギリッ
トール「謝罪を素直に受け取れないんですか、私! この拗らせ頑固者っ!」ガーッ
トール’『黙れ紛い物ッッ!! ――ああそうか、そうだな? やはり我を愚弄しているのだろう?
頭を垂らせば取り敢えずやり過ごせると舐めているな、そうだなっ!?』
トール’『ふざけるなどいつもこいつもッ! 目障りだ、諸共死ねっ――!!』ゴゴゴゴゴ
ルコア「…………!」
トール「(急激な魔力の集中……!)特大の攻撃が来ますっ! 全員下がってっ――!」
トール’『逃がさん……ッ! ……ガアアアアァァァァァ!!』
ボオオオオォォォォォッ!!(火炎のブレス)
ルコア「――――――――っ!」ダッ
トール「っルコアさん!? (何故前に……!?)」
ボアアアアァァァァァッ!!
トール’『――――――な』
トール「ルコア、さん…………」
ルコア「……………………」プスプス
313 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 22:11:29.93 ID:oEqW1vd60
ルコア「っう……………………」ガクッ(膝を付く)
トール「っルコアさん! そんな、皆を庇って、直撃を受けるなんて……」バッ
ルコア「……ケホ。大丈、夫……。ちょっと焦げたくらいさ〜……」ハハ
エルマ「ちょっとじゃないだろう、その黒さっ!?」
トール’『……………………何故だ』ポツリ
ルコア「ん〜……?」
トール’『何故、防御魔法も使わず、生身で無防備に炎を受けたっ!? そんな真似をすれば、いくら貴様でもっ……』ワナワナ
ルコア「ん〜? 心配してくれてるのかい……?」フフッ
トール’『ッ! そういう事を言っているんじゃないっ! 茶化すな、いいから答えろっ!!』グアッ
ルコア「フフッ、戦いに来たんじゃない、話し合いに来たんだと示すなら……、戦う為の術は使わないのが誠意だと思っただけさ……」ググッ(立ち上がる)
トール’『誠意、だと…………?』
ルコア「そう……。ごめんね、トール君。あの日僕は、神に決戦を挑んだ君を、ただ見ているだけだった」
トール’『っ!………………』
ルコア「それが無謀な闘いで、放っておけば君が死ぬ事は明らかだった。
一方で直ぐに決断して闘いに割って入れば、僕自身も痛手は負っただろうが、君を助け出す事もできていたかもしれない」
ルコア「だけど結局僕がした事は……、君が神に致命傷を負わされたのを、遠巻きに見てる事だけだった」
ルコア「僕にはもう、君の友達を名乗る資格はない。君がさっき言った通りだよ。
僕は寂しがりの癖に友の為に立ち上がる事も出来ない只の……、臆病者だ」
トール’『……………………』
トール「違いますっ! それはあなたが中立・不干渉を貫く傍観勢で、私を助ければあなたまで各勢力から目を付けられるから……、むぐっ!?」ムギュッ
ファフニール(――黙っていろ)ヒソヒソ
トール(ファフニールさん……)モゴモゴ
トール’『……だから、贖罪の為に攻撃を生身で受けたと!? ハッ、欺瞞だな! 手前勝手な自己犠牲なんぞ……っ』
ルコア「勿論、こんなダメージで償いになるなんて思ってないさ。あの日の君の苦痛に比べればこんなもの、傷の内にも入らない」
ルコア「ただ、今は……、君に謝りたい。すまなかった……」フカブカ
トール’『っ……………………』ギリッ
314 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 22:15:42.36 ID:oEqW1vd60
トール’『……フゥーッ……! どいつもこいつも腑抜けた事をッ……………………!』チラッ
ファフニール「ム?」ピクッ
トール’『……もしや、貴様も何か謝ってみせるつもりじゃないだろうな!? ファフニールッ!?』ギロッ
ファフニール「……フン。俺は別に、貴様が死んだ事に対して毛程も悪いとは思っていない。
我等混沌の竜は闘いこそ本懐。一騎で特攻玉砕など、むしろ称えるべき事だ」プイッ
トール’『(……っ! そうだ、貴様はそうだろうとも、生粋の邪竜よ……!)』ククッ
トール(ちょっとファフニールさん、空気読んで下さいっ?)コソッ
ファフニール「黙れ。……だがまあ、だからこそ」
トール’『…………?』
ファフニール「……一緒に戦ってやれなかったのは、悪かった」ボソリ
トール’『………………っ!?』グラッ
終焉帝「――ふん、お前達の責任など、あまりに瑣末なものよ……」ヨロヨロ
トール’『っ!』バッ
トール「お父さん!? 無理に歩かずとも……」
終焉帝「いいのだ、手を出すな! 言わせてくれ……」ザリッ
トール「っ! ……はい……」グッ……
トール’『何を……、何を言う気だ、貴様が……っ?』
終焉帝「……私だ。私の責任なのだ。自分の目で世界を見てほしいなどと綺麗事を言って、その実ただ娘を放任してきた私の……」フルフル
トール’『…………やめろ…………』ボソッ
終焉帝「私がもっとトールに寄り添い、共に立って世界を教える……、
否、例えそれが困難でも、せめて互いの本心を伝え合う努力を怠らなければ、こうもすれ違う事は……」
トール’『やめろぉっっつ!!』ブンッ!(風の刃)
終焉帝「――ぐっ!!」ズバァッ!
トール「お父さんっ!!」
トール’『――貴様がッ! ――貴方がそれを言うのか!? 今更、っ、全部終わった今……!?』フーッフーッ
終焉帝「ゴフッ……、ああ、お前の言う通り、こんな言葉、遅きに失している……。その憤りは正当だ。したくば幾らでも私を嬲れ……」ガクッ
終焉帝「だが頼む、どうか、これだけは言わせて欲しい……」プルプル
終焉帝「………………トール、済まなかったっ…………!」ガバッ
トール’『………………………………っつ!!!』
トール「お父さん…………!!」
小林(あの、怖ろしい程の迫力のあった方が……)
滝谷(地に膝付けての、土下座を……!)
315 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 22:19:23.22 ID:oEqW1vd60
トール’『…………何、だ…………』ジロッ
小林「……………………」
滝谷「……………………」
エルマ「……………………」
トール’『何なんだ…………』チラッ
カンナ「……………………」
ルコア「……………………」
ファフニール「……………………」
トール’『一体全体…………』ギリッ
終焉帝「……………………」
トール’『…………何をしに来たんだ、お前等はッ!!』ゴオッ
トール「最初から言ってるでしょう。話をしに来たんですよ」
トール’『ッ!!』
トール「……言っときますが、私は別にあなたに謝りませんよ。
別世界とは言え他ならぬ自分自身の事ですし〜、あなたのこれまでの経緯に対して私に責任ありませんし?」ツーン
トール「ですから同時に、私があなたの選択にとやかく言う権利や義理も、本当の所はないんですよね。
あなたがこの1年間で感じてきた気持ちは、私にすら知り得ない、あなただけのものですから」
トール’『……………………』
トール「…………ただ。私以外の、ここに集った皆さんの言葉位は、聞いてみてもいいんじゃないですか」
トール’『…………っ!』
トール「皆さんは、正真正銘この世界に生き、この世界のあなたを想って今日ここまで来てくれた方々です」
トール「あなたのあの手この手による妨害を受けても、なお諦めず遥々会いに来てくれた皆さんなんです。
自由なる孤独とやらも結構ですけど、ちょっと位話してみるのもまあ、悪くないんじゃないですか?」ポリポリ
トール’『……ぐ、うぅぅ…………っ!』
トール’『今、更…………、何だ…………!』ギリッ
316 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 22:21:48.08 ID:oEqW1vd60
…………………………
《(回想)〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【1年前・山中】
ヒュウウウウ…………
ズズウウウゥゥン…………!!
トール’「う゛、う゛…………」ズリッ
トール’「……此処は……何処だ……」
トール’「……マナが薄い……。別の土地、いや、別の世界、か……?」
トール’「追手はない……、逃げ延びられたのか……?――ゴハッ!?」(吐血)
トール’「……ッ、この、剣は……」ハアハア
キイィィィィン…… キイィィィィン……
トール’「……竜殺しの神剣……。フン、もうトドメは刺してある、追うまでもない、という事か。フフフ……」
317 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 22:23:21.69 ID:oEqW1vd60
トール’「これは……、動けないな……」フウフウ
トール’(神剣の力で刻々と命を削られているのが分かる。ああ……、これは助からないな)
トール’「……空が暗い。今は夜か……」ハア
トール’(この世界の夜がどれ程の長さか、詳しくは知らないけど……。まあ、朝日が昇るまでは、持たないかな……)
トール’「ハハ……、フウ、フウ……、惨めなものだ……ガフッ」ゼエゼエ
トール’(……完敗だったな……)
トール’(けどその割に、悔しさはあれど思ったより落ち着いているのは……、心の何処かでこの結果を、予測していたからか)
トール’(フン、やる前から負けを覚悟していれば、そりゃあ当然負ける。滑稽だな……)フフッ……
318 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 22:24:26.56 ID:oEqW1vd60
〜〜〜〜〜〜〜〜
トール’「…………ああ、静かだ…………」ポツリ
トール’(多少の獣の気配はあるが、いずれも私を怖がって遠巻きに窺っているだけだ)
トール’(神に連なる者の殺気も、竜の様な魔の者の魔力も、今はない)
トール’「…………一人。ああそうか、今、一人か」ボソッ
トール’(自由を求めての戦いだったが……、敵も味方もいない今の孤独も、ある意味で自由か)
トール’(じゃあ目的達成……? なんて、フフ……ほんと皮肉で滑稽な話……)
トール’「フフフ……、う…………」ガクッ
トール’「……………………」シーン
319 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 22:26:28.93 ID:oEqW1vd60
〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ガサガサ…………
……………………タクッ、…………クショ〜…………
……………………アノハゲ、バカヤロー……………………
??「……………………ひっく、所長めぇ〜………………今に見てろぉ〜……………………」ガサガサ
……………………ウィ〜、オットット……………………
ガサガサ、ガサ……………………
………………………………
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜
トール’「――――――――ハッ!」ピクッ
トール’「…………意識が、飛んでいたか…………」
トール’(どれくらい寝ていた…………? そう長くは経っていない様だが…………)
トール’(寝ている間に、何か声が聞こえた気もしたが……)
トール’(……今は周囲には誰も居ない。こんな夜の森の中で誰かいる訳もない、気のせいか……)フウ……
320 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 22:27:47.37 ID:oEqW1vd60
〜〜〜〜〜〜〜〜
トール’「…………フウ…………フウ…………ハ、ア」
トール’(ああ、これはもう死ぬな……)ゼエゼエ
トール’(でも、思ったより心は穏やかだ。全力を出した上で負けたからか、ある種、諦めが付いた感じだ)
トール’(結果こそ散々だが……、うん。まあ、しょうがないんじゃないか、この終わりも)
トール’(頑張ったよ、私は……。うん、頑張った。これが私の運命というもの。それでいいさ)
トール’「…………ゼヒュー…………ゼヒュー…………」
トール’(ああ、疲れたな……。もういいよね? もう休もう。目を閉じて、安らかに……)
トール’「…………フウ…………」
トール’「……………………………………………………………………」
321 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 22:29:07.62 ID:oEqW1vd60
………………………………
エルマ『――――トールッ!』
カンナ『――――トールさま』
ピクッ……
ルコア『――――トール君』
ファフニール『――――トール』
ギリッ……
終焉帝『――――――トールよ』
トール’「…………どうしてっ…………」ギリッ
トール’「どうして今更、懐かしい顔ばかりが浮かんでくるんですか……っつ!」ポロポロ
322 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 22:40:03.45 ID:oEqW1vd60
トール’(もう少しで静かに逝けそうだったのにっ、綺麗に終われそうだったのにっ……!)
トール’(しょうがない訳ないじゃないですか、それでいい訳がないじゃないですか!)
トール’(悔しい、悔しい悔しい悔しいっ!まだ何も終わっちゃいない、まだ何も始められてすらいない!
まだ私は自由を掴めていないし――まだ私は、自由になって何をしたかったかも、自分で分かっていないんだ!!)
トール’(孤独が自由……っ?ふざけんな!!こんな、こんなっ、こんな寂しく、惨めに、誰にも知られず一人で死ぬ事が、自由であって堪るものかっ!!)
トール’「ふっ――くっ――う、うぅぅぅぅうう゛――!!」ギリッ ポロポロ
こんな所で、こんな所で終わりたくない!/どうすれば良かったの/全てが憎い!/
ああ、怖いよ/ふざけるなふざけるなふざけるな/エルマ/疎ましい/誰か、誰でもいい/
嫌だ/楽になりたい/煩わしいなあ!/せめて温もりを/まだだ、まだ私は/
くそが……!/暗いなあ/痛い痛い痛い!/みんな厭わしい/殺してやる/ごめんなさい/
星が瞬いている/許さない/カンナ/皆が愛おしい/手遅れだ/さみしいよ/全身が寒い/
傷口だけがひどく熱く感じる/こんな私、知りたくなかった/
何もかも今更/誰も教えてくれなかった/諦められない/静かだ/黙れよ/ルコアさん/
うんざりだ/戻りたい/懐かしい/戻れない/全部壊れればいいのに/なんて往生際の悪い/
早く死ねよ/死なせて/死にたくないよ/誰か触れて/お願い/
恥晒し/私を見ないで/誰か見つけてよ/ファフニールさん/もう一度だけ/終わりだよ/
もう何も視えない/何も聴こえない/心臓の音だけがやけにうるさい/…………/
終わる/楽しかった事ばかり思い出す/何も楽しい事なんて無かった/
疲れた/…………/最後までこんな/あ、止む/――――/お父さん/
…………/ごめんね/最初から/ありがとう/全部無意味だ/ああ……惨めだ/
トール’「………………………………、ああ」
………………………………
もう、誰にも会いたくない/誰かに、見つけてほしい
………………………………
永遠に、一人でありたい/一人は、イヤだよ
……………………みんな……………………
さよなら/たすけて
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜》
トール’『う゛う、う゛うううう゛ぅぅぅぅぅ…………!!』
トール’『今更…………っ、今更、何なんですかぁ…………っ!』ボロボロ
323 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 22:43:17.54 ID:oEqW1vd60
【現在・山中】
トール’『うぐ、ひっぐ、う、ぐ、ふう…………っ』
エルマ「トール…………」
カンナ「トール様…………」
小林「トールちゃん…………」
滝谷「……………………」
トール’『遅…………すぎなんですよ…………っ、全部…………っ』ポロポロ
ルコア「トール君…………」
ファフニール「……………………」
終焉帝「…………トール」
トール’『ふぐ、あ、あ゛、わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!!』
トール「――――はあ。最初からそうして素直に気持ちを出してれば、もっと話が早かったんですがねえ」フウ
トール(――とは言え。よく言えましたね、“私”)フッ
小林「――――…………っ!」ザッ……
エルマ「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」ダッ!
カンナ「トールさま゛っ!」タッ!
小林「うわっとっ!?」サッ
タタタッ…… ギュッ(霊体のトールに抱き着く二人)
トール’『あふぁっ!? う゛あ…………』
エルマ「ごめん、トール、ごめん。待たせた…………!」ポロポロ
カンナ「ごめんね、つらかったね、トールさま、ごめんなさい…………!」エグエグ
トール’『っ! ふ、っつ、う、わああああああああ゛ん!』ボロボロ
小林「……………………」ニコッ
ルコア「――――小林さん(コソッ)」ポンッ(肩を叩く)
小林「!」
ルコア「貴女も、遠慮せず。行きましょう?」スタスタ
小林「…………はい。そうですね」テクテク
ギュッ(エルマ・カンナの上から更に抱き着く二人)
小林「――お疲れ様。大丈夫、もう大丈夫だから…………」ナデナデ
ルコア「ごめんねトール君、本当によく頑張ったね。大変だったね」ギュウウ
トール’『ふ、あ…………っ!はい、はぃ゛っ…………!』コクッ、コクッ
324 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 22:45:24.91 ID:oEqW1vd60
滝谷「――ファフニール君は、あれ、入らないのかい?」チラッ
ファフニール「馬鹿を言うな。女子供に混じってあんな姦しい真似が出来るか」フンッ
滝谷「ははっ、言うと思った――――」スタスタ
ファフニール「ム? 何処へ…………」チラッ
スタスタ…………
終焉帝「――ぬ、む…………」モゾッ……
滝谷「――お力添えは、必要でしょうか?」ザッ
終焉帝「……ああ、かたじけない。立つのに手だけ、お貸し頂けるか」ググッ……
滝谷「ええ、勿論」スッ
終焉帝「すまぬな……ふっ!……よし、有り難う」スック
滝谷「……彼女の傍まで、行かなくてもよろしいのですか?」ニコッ
終焉帝「む…………」チラリ
アーン、ワーン、ワーン……
終焉帝「――ああ、まだ良い。今は唯、ああして肩を抱き合い悲しみを分かち合えている姿が見られるだけで……」フウ……
滝谷「……ええ。そうですね」
ファフニール「フン…………」
325 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 22:47:53.98 ID:oEqW1vd60
トール「――全く。我ながら、とんでもない意地っ張りでしたね」ハア
トール(――――そう。先程語っていた事も、決して嘘ではなかったんでしょう)
トール(もう誰にも会いたくないというのも、永遠に一人になりたいというのも。出任せではない本心だったのでしょう。だけど)
トール(それと同時に。本当に、誰かに見つけて欲しくもあった。孤独が嫌でもあったんじゃないですか)
トール(だからここまでの道中、抜け道が常にあった。
転移を阻害しても直接飛んで来れる様にしていたし、風の結界で阻んでも地上からは来れる様にしていた。
認識阻害で森を迷わせても決して突破不可能にはなっていなかった……)
トール(まるで二つの相反する意思を感じる様な状況に、初めは異なる二者の存在を仮定もしたけど、そうではなかった)
トール(それは、一人の存在の中で、心が二つに揺らいでいたからだった)
トール(様々な感情でぐちゃぐちゃに乱れた自分の心を醜いと思い、誰にも見せたくないから、幾つもの魔法で遠ざけた。
一方で、どんな困難があってもそれを乗り越えた上で、自分を探してくれる誰かを求めてもいた)
トール(そうした対立矛盾した心が、あれらの魔法の答えだったんですね……)
トール「…………ほんと、ドラゴンって面倒臭いですね。頭良いのに馬鹿ばかりで」ヤレヤレ
トール「でも、ま…………、良かったですね、“私”。かくれんぼは、もう終わりみたいですよ」フフッ
326 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 22:51:00.70 ID:oEqW1vd60
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
トール’『――――ひっく、えぐっ、んぐっ…………』ベソベソ
トール「…………そろそろ落ち着きましたか、“私”」
トール’『ひっく…………、ん、む。…………ん』コクリ
カンナ「だいじょうぶ、トール様? ムリしてない?」ナデナデ
エルマ「そうだ、焦らずゆっくりでいいんだぞ? トール……」ギュウ
トール’『だ、大丈夫だ。変に甘やかすな、その……こそばゆい……』ソワッ
エルマ「そうか? ふふっ、慌てずにな」
カンナ「ん。ムリしないでね」ギューッ
トール’『ん、むぅ。わ、分かった……』ムズムズ
トール「おーおー青春しちゃってまあ。同じ顔の奴があやされてるのを見るこっちの身にもなって下さい?」ハー
ルコア「ふふっ。羨ましがっているのかい? 可愛いね♡」クスクス
トール「なっ誰が! 違いま――――」
小林「うん、こっちのトールちゃんも良く頑張って話してくれてたね。偉い偉い」ナデナデ
トール「っつ!!!!(小林さんの頭ナデナデッッツ!?)」ドキーン
小林「お疲れ様、トールちゃん。ありがとね」ナデナデ
トール「は、はい……♡ こちらこそ…………(しばらくこのままでいたい……2兆年くらい)」デヘヘヘヘ
滝谷(表情筋が福笑い並みに緩んで溶けている……)
ファフニール(新種の呪いか?)
滝谷「……ところで、この世界のトール君の体、霊体のはずなのに普通に触れられてるのはなぜ……?」コソッ
ファフニール「? 何が疑問だ? 竜の魂だ、触れられぬ訳がないだろう」サラッ
滝谷「アッハ、ハイ……(そういうもんか……)」
327 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 22:53:56.95 ID:oEqW1vd60
トール「…………はっ?! い、いや、大変名残惜しいですが、今はそこら辺で止めて頂いて……」カッ
小林「あ、うん。分かったよ」スッ
トール(ああっ!! うう、また後でお願いしたい……)
トール「……アー、ゲフゲフ、ウォッホン!……さあ、気を取り直して、もう一人の私!」クルッ
トール’『む? う、うむ、何だ、もう一人の我』ビクッ
トール「これで和解は済みましたね? なら、こちらの目的にも協力してほしいですね」
トール’『あ、ああ……、構わない。お前が元の世界に帰る為の手助けという奴か。……だが、我は何をすればいい?』
トール「えっ!? えーと、それはですね……」キョド
小林「そもそも帰る方法も分からないから、手がかりを探す為にもまずは、この世界のトールちゃんと会って話を聞いてみよう……って感じだったっけ」
トール「そ、そうです! 私も丁度そう言おうと思ってたんですよっ! ありがとうございます小林さんっ!」アセアセ
トール’『話……と言っても、何を話せばいい?』
ルコア「ふむ……。じゃあ、僕達の確認も兼ねて、改めてここまでの流れを整理してみようか」
エルマ「お願いする」ペコリ
カンナ「うぃー、おべんきょー。おねがいしまーす」ペコリ
トール’『……ところで。お前達はいつまで我に抱き着いているつもりだ……?』ムギュウ
エルマ「む、迷惑か……?」ムッ
カンナ「トール様、抱き着くのやだ……?」ウルウル
トール’『い、いや、迷惑という訳ではないが……』タジッ
エルマ「じゃあ問題ないな! そのまま話を続けてくれルコア殿!」ギュッ
カンナ「くれー!」ギューッ
トール’『……はあ、もう好きにしろ……』ムギュギュ
ルコア「フフフ、微笑ましい光景だね〜♡」アラアラ
トール(カンナはともかく、私の世界のエルマに見せたら恥ずかしさで悶えそうな絵ですね……)フフフ
トール(……まあ現在進行形で、私もむず痒くて悶絶しそうなんですけど! 彼女らの喜びに水を差したくないから我慢しますが……!)モジモジ
328 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 22:57:47.57 ID:oEqW1vd60
ルコア「……それでは僭越ながら、話を進めさせて頂くね」
ルコア「まず、昨日僕達は合流して話し合った結果、こちらの生きているトール君がこの並行世界にやって来た事には、二つの要因があると仮説を立てた」
トール「はい。その要因の一つ目が、私が元の世界で小林さんと喧嘩して
『小林さんの顔なんて見たくない!』と強く思ってしまった事……でしたよね」ムグウ
ルコア「そう、力ある竜が強く願った事で、無意識に世界の壁を越える程の魔法を発現してしまったと。
しかしそれならばと、今度はトール君が『元の世界に帰りたい』と強く願いながら試したものの、元の世界に帰る事は出来なかった」
トール「そこで二つ目の要因……、この世界側からも、この私を呼び込む様な力が働いていたのではないか。
そしてそれにこの世界の私が関わっているのではないか?、と私達は推察した」
ルコア「ああ、そして僕達はこうしてこの世界のトール君を捜索して此処に辿り着いた――というのがここまでの経緯」
ルコア「……それで、どうかな? トールく……、ええと、この世界の方のトール君。心当たりは?」
トール’『……段々、呼び名がややこしくなって来たな……』
トール「仮の略称でも付けます? 私を“生きトール”、あなたの方を“亡くなっトール”とか」
トール’『いや、流石にそれは語感的にふざけすぎてないか!? 口にする度、ちょっと気まずいぞ!』ガビーン
トール「そうですか〜? 分かりやすさ重視だったんですが……。じゃあ、私を“メイドトール”、あなたを“霊トール”とかならどうですか?」
トール’『う、うむ、まあそれなら……いいだろう。……ええと、それで何だったか』
ルコア「うん、メイドトール君をこの世界に呼び込んだ要因について、心当たりはあるかい、霊トール君?」
小林(早速使いこなしている、適応力が高い……)
329 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 23:02:21.17 ID:oEqW1vd60
トール’『ああ、それについては恐らく、我の想いも関係しているのだろう……』
トール’『我は先程“もう誰にも会いたくない”と願ったと言ったが……。
それ自体は嘘ではないが、それと同時に“誰かに見つけて欲しい”という相反する想いも抱いていたと、今なら認められる』
トール’『頭では否定していても、そうした強い願いはこの1年ずっと、無意識下で燻っていた。
それが今回、もう一人の我……、メイドトールの想いと呼応して並行世界移動現象に繋がったのではないだろうか』
小林「なるほど、こちらとあちら、両方の世界から引き合った結果だと……」
ルコア「元々強い力を持つ2体のドラゴン……、それも並行世界における同一存在と言えるトール君達2人が互いに引き寄せ合う様な願いを抱いた……。
そうだね、その条件なら世界の壁を越える程の魔法を発現させる事も、決して不可能ではないと思う」
エルマ「じゃあこれで、並行世界移動の原因ははっきりしたな! それなら帰る方法も……」
滝谷「――ん、すみません。でもそれだとちょっとおかしくないかな?」
ルコア「滝谷さん? どういう事だい?」ピクッ
滝谷「いえ、僕も大体今の話の通りとは思うんですが……。
でも今の話だと、霊トール……さんは、“誰かに見つけて欲しい”から魔法が発現したって事ですよね? そしてそれはもう既に叶っている――」
ルコア「! そうか。魔法が発現した要因が解決しているのに、特に状況に変化がないのはおかしいんじゃないか、という事だね?」
滝谷「はい、まあ魔法について詳しくはないので、別にそれで問題はないと言われればそれまでなんですが……」
ルコア「いや、重要な疑問だとも。特に今回は無意識に発動した魔法だ。
要因が取り除かれたなら、その解消も意思に関係なく自動的に起こると考えるのが自然だ」フム……
トール「それなのに何も起こらないという事は……、本当はまだ要因が解決はしていないという事ですか?」チラッ
トール’『むっ!? い、いや、そう言われても、我も心当たりは……』ワタッ
小林「落ち着いて、霊トールちゃん。そうだな……、細かいニュアンスの問題かもしれない。
霊トールちゃん、試しに願いを、別の言葉で言い換えてみてくれないかな?」
トール’『別の……、そうだな、“一人でいたくない”、とか……』
小林「うんうん、他には?」
トール’『そ、その……、“孤独はいやだ”、とか……』モジッ
小林「なるほど、じゃあ他には?」
トール’『う、うぅ……、その……(は、恥ずかしいぞこれ……!?)』モジモジ
小林「大事な事なんだ、頑張って、霊トールちゃん!」ズイッ
トール’『う、うぅ〜、そ、その、“故郷に帰りたい”とか……?』グヌゥ
小林「っ! それじゃないかなっ?」
トール’『え?』
330 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 23:03:37.82 ID:oEqW1vd60
小林「ずっとこの土地に留まって引き籠っていた事が孤独を生んでいたのだろうし、
これを機に生まれ故郷……、魔法界に帰れれば、何か変化があるかもしれない!」
トール「なるほど、一理ありますね! 流石小林さん! ……なら霊の“私”!」チラッ
トール’『!』
トール「善は急げです、ゲートは私が開きますから、早速故郷に転移を……」
トール’『い、いや、その……』タジッ
トール「?」
トール’『……それは無理だ。我は行けない』ポツリ
トール「――は、はあ!? 何をあなた、まさかまだこの土地に執着して……」
トール’『ち、違う! そうじゃない、行きたくない訳じゃなくて……』
トール「じゃあ一体何故…………あ」ピクッ
トール「…………もしかして…………」チラリ
キイィィィィン…… キイィィィィン……
トール「……この、神剣が刺さっているから、ですか……?」
トール’『……………………』コクリ
331 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 23:08:12.53 ID:oEqW1vd60
トール’『……先程は、自分の意志でこの土地を離れないかの様に言ったが……。
何の事はない、本当は自力で此処を離れられない事を隠して、見栄を張っていただけだ』ククッ……
トール「……そう、だったんですね。まあ、言われてみれば当然ではありましたか……」
トール’『この神剣は我を死に至らしめただけには飽き足らず、我の魂をも刺し貫き、今もこの地に縫い付けている。
これまで何度も抵抗はしたが、まるでビクともしなかった』
トール’『その神力により、少しずつだが確実に我が魂も削り落とされているのを感じる。
あと数年もすれば、我の魂は一片残らず消滅させられるだろう……。
いつしか我も諦めて、自らの意志で此処に留まっているのだと自分を騙す様になっていた……』
エルマ「そんな……!」
小林「……で、でも、もう大丈夫なんだよね? これだけ強いドラゴンの皆さんが集まってるんだもん、力を合わせればきっと神剣も抜け……」
ルコア「……いや。実質的に、それは不可能だ」
小林「っルコアさん!? そんな……!」
ルコア「正確に言うなら、引き抜く事自体は可能だろうが、霊トール君の魂がそれに耐えられないだろう」
小林「……っ!」
ルコア「前にも言ったが、この神剣は神が“竜を殺す”という概念そのものを剣の形にした神器。
ドラゴンは勿論、神への信仰心を持つ全ての者にとっても、触れる事すら儘ならない代物だ」
ルコア「そこに勢力の違いは関係なく、メイドトール君、エルマ、カンナ……、
そして満身創痍の終焉帝では、残念ながら命懸けでも抜けはしないだろう」
トール「……………………」
エルマ「くっ……………………」
カンナ「うーっ……………………」
終焉帝「……………………」
ルコア「そして、僕とファフニール君なら、全身全霊で掛かれば、大怪我は免れないだろうが抜けはするだろう。するだろうが……」
トール「……殲滅対象であるドラゴンが触れれば、神剣は抵抗して魔力を励起する。その際の魔力の奔流で、霊の“私”の魂は弾け飛んでしまう……と」
ルコア「……ああ、神の権能相手に手加減は出来ない。
霊トール君の魂を保護しながら、繊細に力をコントロールして神剣を抜くなんて芸当は、僕達でも困難だ」
ファフニール「……………………」ギリッ
滝谷(……あのプライド高いファフニール君も、否定せずに歯噛みだけして黙っている……。じゃあ、本当に……)
332 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 23:09:49.32 ID:oEqW1vd60
トール’『……別に、我の保護など考えなくとも良い。むしろ、此処で我を魂ごと滅してくれて構わない』
小林「っ!?」
エルマ「何を言うんだ、トールッ!」
トール’『――そちらのメイド?とやらの“我”が元の世界に帰るには、要因の解決が必要……。
それはつまり、要因の大元である我が消滅する事でも果たせるはずだ。そうだろう?』
トール「っそれは――――」ギリッ
カンナ「トール様……? やだ……いやだ……」フルフル
トール’『悲しむな。我はもう、充分に満たされた。この世全てに絶望して独り燻っていた所で、最後に懐かしい顔が現れて、我の為に泣いてもくれた。
それだけで嬉しくて、我の冷たくなった心臓に再び熱が宿った様だった……』
エルマ「トールッ…………」ギュッ
トール’『どうせこのまま引き延ばしても、遅かれ早かれ我は消滅する運命だ。ならばせめて、お前達の手で――』
エルマ「それ以上言うなっ、トール……っ!」ギュウウ
カンナ「やだよ、トールさま……!」ウルウル
小林(……駄目だ、そんなの駄目だ……! だったら……)グッ
小林「――だったら、私が神剣を抜く!」ザッ
トール「小林さん……っ!?」
333 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 23:13:27.57 ID:oEqW1vd60
小林「皆の手で霊トールちゃんを消滅なんてさせない!
ドラゴンじゃ駄目でも、人間の私が抜くなら魔力の励起ってやつもないはずでしょ、なら――」ザッザッ
トール’『人間……』
ガシッ
トール「――駄目です、小林さんっ!」ギュッ
小林「……どうして止めるの、トールちゃん。言ってたじゃん、並行世界では何の問題もなく、1年前の酔った私が神剣を抜いたって! なら……!」
トール「その時とは状況が違うんですっ!」
小林「…………っ!?」
トール「昨日言いましたよね、この神剣は、神への信仰心を持つ人間が触れれば、精神を破壊されると……っ!」
小林「……それが何。私は別にトールちゃんの世界の神なんて信仰しちゃいないよ……っ!」ググッ
トール「いいえ。今の小林さんは私達ドラゴンや魔法の存在を知っています。……ひいては神の実在も知って認めています!」
小林「だから、それが何っ!」
トール「聞いて下さい、小林さんっ! 神の実在を信じる事……、言わばそれは、信仰の第一歩です。
即ち今の小林さんは、神への信仰心を少なからず持っている事になります!」
小林「…………!?」
トール「勿論、洗礼を受けたり、その神の教えを授かって従ったりする人間に比べれば影響は小さいかもしれませんが……、
それでも今の小林さんが神剣に触れれば、心身に多大な害を及ぼす危険性があります!」
小林「…………っ!」チラッ
ルコア「……残念だが、メイドのトール君の言う通りだ。確かに人の手なら神剣を励起させずに触れられるかもだが……、危険が過ぎる」
小林「……………………!」
ルコア「そもそも並行世界の小林さんが無傷で神剣を抜いたという話を聞いた時、僕も内心驚愕していたんだ。
それだけ神の力は凄まじく、無傷で抜けたというのは奇跡に等しい。二度はないよ」
終焉帝「そうだ。いくら我が娘の為とは言え、人の子に命を懸けさせる訳には……!」
小林「……………………っ」ギリッ
トール「小林さん……っ!!」ギュウ
小林「…………っそれでもっ!」ベリッ!
トール「あっ!?」
334 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 23:15:00.55 ID:oEqW1vd60
ダダダッ!(霊トールの骸をよじ登る小林)
小林「くっ――――ふっ――――!」グイッ
トール「小林さんっ!!」
小林「――――くっ! はぁ、はぁ……ぬぐっ! ふう、着いた――!」ググッ
キイィィィィン…… キイィィィィン……
小林「これが、神剣…………」ドクン ドクン
小林(近づいてみて分かる、私でも感じる程の神々しさ、怖ろしさ……。およそ人間が触れてはいけない領域のモノ――)ドクン ドクン
小林「…………でも」チラッ
トール’『………………』ジッ
小林(……私しか出来ないなら。私がやらなくちゃ――――!!)キッ!
小林「……………………!」ガシッ!(神剣の柄を掴む)
……キイィィィィン!!
小林「あぐぅっ!!?(掴んだ手が、焼けるに熱い――――!)」ジュウウ!
トール「小林さんっ!! 無茶しないで、手を放して下さいっ!」
トール’『っそうだ、人間! 我に構うな、元々我とお前には何の関係も――!』
小林「そんな゛の゛っ…………! 知るかああ゛ぁぁぁぁぁ!!」グググッ
335 :
◆bhlju8wMK6
[saga]:2025/09/01(月) 23:16:32.91 ID:oEqW1vd60
小林「ぐう゛う゛ぅ゛ぅぅぅ…………!!」ジュウウ
小林(くそっ!! でも、痛みで手に力が上手く入らないっ……。これじゃあ……!!)ギリリッ
小林「……も゛う゛、一人、い゛れ゛ば……っつ!!」ググッ
ザリッ
小林「っ!!!」ハッ
滝谷「――なら僕も手伝うよ。小林さん……っ!」ガシッ!
小林「滝谷君っ!」
トール「滝谷さんっ!?」
滝谷「――熱っ、ぐぅっ!?」ジュウウ
小林「大丈夫、滝谷く――!」
滝谷「っ、話は後! 一気に抜くよ゛……っ!!」グッ
小林「! う゛んっ…………!!」
小林・滝谷「「せー…………、の゛っっ!!」」
ズボッ!!
トール「――――――――っ!」
トール’『―――――――――っ』
336 :
◆bhlju8wMK6
[sage]:2025/09/01(月) 23:18:58.17 ID:oEqW1vd60
今日はここまで。長くなったので次回に分けます。それではまた。
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