小林「あなたは……誰ですか?」トール「……えっ?」【小林さんちのメイドラゴンSS】

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302 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 21:34:55.34 ID:oEqW1vd60

トール’『……フン。こんな奥地まで、大層な顔ぶれが雁首揃えたものだな』ギロッ

トール「……ええ、ええ、来ましたとも。全く初手で火柱とは手荒い歓迎じゃないですか、“私”。はるばる皆で話をしに会いに来たっていうのに」フウ

トール’『歓迎だと? 我の領域に土足で踏み入って来た侵入者の分際で笑わせるな、“我の紛い物”』ゴゴゴ

トール「紛い物って……、随分な言い草ですねぇ。ま、信じ難い気持ちは私も分かりますが……。
    とは言え、匂いや魔力で察せられるでしょう? 偽者などではない、同質の存在だと」

トール’『………………』ギリッ

エルマ「と、トール! 聞いてくれ!」ズイッ

トール「エルマ?」

トール’『………………』

エルマ「こ、ここにいる、その、何かフリフリした装束のトールはだな!
    俄かに信じられんかもしれんが、実はその、この世界とよく似ているが少し異なった道を辿った、異なる世界の――」

トール’『――“並行世界”、とやらから来たもう一人の我、だと?』

エルマ「――っえ?!」ドキッ

トール「――――――!」

小林(……! 何で並行世界の概念を知って……? この場のドラゴンの方達は皆、昨日まで詳しく知らなかったのに……)

303 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 21:37:09.21 ID:oEqW1vd60

トール’『フ。何だその間抜け面は。余程我を無知蒙昧と侮っていたと見える……』ニヤ

エルマ「ち、違う! そんな事思ってないっ! でも、何でその言葉を知って……?」

トール’『ハハ、貴様等、此処を何処だと心得る? 先も言ったぞ、此処は我が領域。
     ――この森に入った辺りからの貴様等の会話は、概ね我の耳まで届いている』ゴゴゴ

トール「………………!」

エルマ「我が領域……? っ! それってもしかして、じゃあここまでの森の結界は……!?」

トール’『何だ、其処からか? 全く……。そう、我こそ結界の主だとも』

エルマ「なっ――――!」

トール’『無論、森の認識阻害の結界のみではない。上空の風の結界、そして転移魔法の妨害……。
     此処までの貴様等の道程を阻んでいたのは、全て我の仕業だとも』ククク

小林「………………!」

トール「……薄々、そんな気はしてました」フウ

エルマ「っ!?」

トール’『…………ホウ』ピクッ

小林「トールちゃん!? それって……」

トール「ただの勘でしたから、口には出しませんでしたけどね。少なくとも、第三者による妨害よりはあり得るかな、と」

エルマ「で、でも話では、ここまでの結界はルコア殿やファフニール殿でも手を焼く様なものだったのだろう?
    トールがそんな高度な魔法を扱える訳が……」アセアセ

トール「ちょっと言い方! まあ否定はしませんが……」

ルコア「――いや、あながち無理とは言い切れない」

滝谷「ルコアさん?」

ルコア「確かに、通常時においては、今のトール君の力量ではまだそのレベルの魔法は難しいだろう。
    けれど魔法とは極論、想いを力に変える技術とも言える。一際強く烈しい想い……、
    激情が時に秘めたポテンシャルを引き出し、普段以上の魔力を発揮させる事例は稀にだが存在する」

ルコア「そう、例えば――死の間際の無念や執着などは、強力な魔法や呪いを発現させ得るんだ」

エルマ「………………っ!!」

トール’『………………フン』

304 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 21:39:53.89 ID:oEqW1vd60

小林「あれ、でもルコアさんの話では、今日より前にこの山を訪れた際には、転移の妨害や風の結界はなかったって言ってた様な……」

トール「恐らく、これまでは認識阻害の結界だけで自身を隠蔽して、存在自体に気付かれない様にしていたのでしょう。
    しかし私がこの世界に来た事で、なりふり構わず妨害する方針に変えた、という所ですかね。そうでしょう、“私”?」チラッ

トール’『……チッ、訳知り顔でペラペラと、忌々しい。が……その通りだとも』ギョロッ

トール’『昨日の時点で、貴様のこの世界への出現は大気のマナを通じて我も感知していた。
     遅かれ早かれ我を捜しに此処まで来るだろう事も予見できた。
     だから今までは休眠させていた転移の妨害と風の結界を再起動し、貴様等を阻んだ……。失敗したがな』ギリッ

カンナ「そんな……」

エルマ「一体どうして、そこまでして私達を……」

トール「……一応聞いておきましょう。何故私達への妨害を?」

トール’『――言わねば分からんか?』ビキッ

トール「私が推察を語る事も出来ますが、それはあくまで推察です。相互理解の為に、出来れば貴方の口から直接聞かせて欲しいものですがね」

トール’『――――――――――あ』ポツリ

トール「あ?」

トール’『あ、ああ゛、あああ。あ゛〜あ゛〜あ゛ああああ……っ!!』ボリボリ

エルマ「ヒッ――――」ビクッ

カンナ「トール様……?」ブルッ

トール’『煩わしい、煩わしい、煩わしい……っ! そんなのっ!! “全てが煩わしいから”以外にある訳がないだろうっ!』ゴォッ!

305 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 21:45:29.49 ID:oEqW1vd60

トール「煩わしい……ですか」

トール’『ああ、そうだッ! 我はもう、此の世の全ての関わりが煩わしい!
     竜との関わり、人との関わり、神との関わり! 血縁・地縁・因縁・奇縁、あらゆる繋がり、全部、全部ッ!』ズァッ

小林「くっ…………!(後ずさってしまいそうな程の、圧倒的な迫力……!)」ジリッ

滝谷(昨日、ファフ君が脅しを掛けてきた時以上の、明確な命の危機を感じる……!)ゾッ

終焉帝「トール……!」

トール’『混沌勢? 調和勢? 魔と神の永きに渡る闘争……? 莫迦じゃないのか!?
     幾百幾千の年月を、ただの殺し合いに費やして……! 良く飽きもせず! 勝手にやってろ、我を巻き込むな!』

トール’『ああああ゛ア゛嫌だ厭だイヤだどいつもこいつも気色悪い、暴れる事しか考えていない癖に傲岸不遜に振る舞う混沌の竜共も、
     独善的な秩序を押し付けてくる神々とそれに卑しく侍る調和の竜共も、さも訳知り顔で高みの見物を決め込む傍観の竜共も!』

トール’『短い命で何処までも行こうと身の丈も知らずに世界を貪り散らかす人間共も、
     隠れ潜んでただ奪い合って惨めに生き延びるモンスター共にも虫唾が走る!』

トール’『力ある莫迦共は口を揃えてそれが使命だ、存在意義だ役割だ、生きる目的だとほざいて、自己の譲れない正しさを主張しながら殺し合う。
     “相手にも同様に譲れない正しさがある事”も想像できない低能というだけだろうに!』

トール’『そんな愚物達が、生前は我に様々な感情を向けてきた。憎しみ怒り蟠り、妬み嫉み羨み僻み恐怖侮蔑憧憬狂信復讐猜疑優越劣等、
     べったりと粘つく黒泥が如き妄念を、ああ手前勝手に不躾に!!』

トール’『全部、全部ッ、全……ッ部嫌いだ! 疾っくの昔にうんざりだッ! 』ゴォッ!

トール「――――っ、全部、ですか……」ビリビリ

トール’『ああそうだとも……全部だよ。そう――利用されている事に気付いていながら目を逸らし、聖女を演じ続ける自己欺瞞の偽善者も!』ギンッ

エルマ「――――っ!」ビクッ

トール’『争いから逃げ、それでいて他者との関わりに未練を残して、みっともなく輪の周りをふらつく様な半端な臆病者も!』キッ

ルコア「――――っ」

トール’『財宝を貯め込みに貯め込んだ挙句、自身の熱を見失い、警戒心だけを残して引き籠り続ける生き腐れも!』ギラッ

ファフニール「………………」

トール’『……親に放任された寂しさを埋めようと非力な手を伸ばしてくる、我が鏡像が如き哀れな仔竜も』ジッ

カンナ「っ!………………」

トール’『――――そして。勢力の長たる事を言い訳に、娘を教え導くのを放棄し追い払った、父親も……!』ジロッ

終焉帝「…………!トー、ル……っ」

トール「――あなた! 本気でそんな事っ――」

トール’『認めぬと? 否定すると? そんな想いは理解できぬとッ? 他の誰でもない、我の紛い物ではないと宣うお前がッ!?』ギンッ

トール「……――――――ッ!」

トール「………………理解は、出来ます。その嫌悪も、憤りも、世界全てへの倦怠も。みんな、私自身が抱えてきたものですから」グッ

トール「けど!! それだけじゃなかったでしょう! なかったはずです!
    長い旅の中で、楽しかった事も、大切だった事も、輝いて見えた事だって、あったでしょう!?」

トール’『ハッ。そういうまやかしの様な事こそが、尚更煩わしいと言っているのだ。振り切ろうとして猶、脳の裏に餓鬼の様に纏わり付いてくる……』

トール’『――ああ、しかし。そうだな、我も莫迦だった。世の莫迦共の下らない争いに態態付き合って、終には命を喪って……。
     畢竟、生きている間には柵む因業を振り払う事が出来なかった』ククッ

トール’『だが、もう違う。死んで、やっと愛想が、未練が尽きた。分かるか? 我は今、正に“自由”を手にしているのだ!』

トール「なっ…………!?」

306 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 21:47:23.38 ID:oEqW1vd60

トール「自由……? こんなのが? こんな山奥で一人寂しく死んでいる事が、自由だと言うんですか!?」

トール’『頭の鈍い! だが当然か。命永らえて今も愚物達との関わりを捨てずにいるお前に分かる訳もない。
     “孤独”こそ、真の自由である事など!』ゴォッ!

トール「くっ…………!」ビリビリ

トール’『もう我は、何者にも煩わされない。立場にも、力にも! 愛にも憎にも、絡みつく情念にも!
     死によって、孤独によって、それら全ての柵みから初めて解放されたのだ!』

トール’『――先程、そちらの臆病者が言っていたな。死に際の強い念が強力な魔法を生み出す、だったか』チラッ

ルコア「!………………」

トール’『そうだ、その通りだとも! 死の間際、最後に私はこう願った。“もう誰にも会いたくない”、“永遠に一人でありたい”と!』

トール’『だからこうして他者を遠ざける結界を張った! 転移の妨害も暴風も認識阻害も! 全て我が幸福な孤独を維持する為だ!』

トール’『嗚呼。そうして我は今、こうして浮世の軛から解き放たれ、自由なる静寂を味わっているのだ。――それだのに貴様等は!』ギンッ

トール’『我の結界をこれだけ荒らしておいて、言うに事を欠いて“会いに来た”?“話をしたい”?“相互理解”?』

トール’『知った事か! 興味もない! 独り善がりのありがた迷惑という奴だ、失せろ!』ズァッ!

トール「ぐっ…………!」ジリッ

終焉帝「…………トール…………」

307 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 21:48:56.02 ID:oEqW1vd60

トール「…………そう言われて、すごすご去る訳にもいきません。ここに来たのは、私が元の世界に帰る手掛かりを探す為でもあるんですから」グッ

トール’『貴様の都合など、何故我が慮る必要があると思う? これ以上、我が安寧の邪魔をすると言うなら――力尽くで排してやる』ゴゴゴ

トール「……排する、ね。私一人ならともかく、この顔ぶれ相手に、死した魂に過ぎないあなたが勝てると思っているんですか?」

トール’『舐めるな。一年の間我が留まり続けた事で、この領域は、そのマナは!
     最早我の支配下となっている。たかが数羽の侵入者ごとき、排除するのは容易い――!』ズズッ……!

カンナ「っ! トール様、これやばい――!」ゾクッ

エルマ「禍々しい魔力が、辺り一帯を取り巻いて……! あいつ、本気でやる気だぞ!」

トール’『フウゥゥゥーーーーー…………!!』ゴゴゴゴゴ

トール「やるしか……ありませんかっ!」ギュッ



ゴゴゴゴゴゴゴ…………!!



ルコア「小林さん、滝谷さん! 絶対に僕らの後ろから出ないでね。守り切れないから――」

滝谷「くっ…………!」ビリビリ

小林(……――――――)

小林(――いいや)

小林「――ごめん、ルコアさん。私、行かなきゃ」ザッ

ルコア「っ小林さん!!? 下がって――」

308 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 21:53:05.86 ID:oEqW1vd60

ザッ ザッ………… ザッ!



小林「っ………………」ザリッ

トール’『ム………………?』ピクッ

トール「小林さんっ!?? 何してるんですか、下がって下さい……!」

小林「……ごめん、トールちゃん。けど私は彼女に、言わなきゃいけない事があるんだ」ギュッ

トール「言わなきゃいけない事って――あっちょっと!?」

小林「………………」ザッザッザッ ピタリ

トール’『………………』ジッ

小林「スウ、ハア(一呼吸)………………あの――」

トール’『――――』クンッ



ボオオオオオオオッッッ!!!(火柱)



小林「ヒッ――――!?」ヨロッ ドサッ

トール「小林さんっっつ!!!」

小林(目の前を、ほんの鼻先を、私の全身を軽く飲み込める程の太さの火柱が……!)ハッ、ハッ

トール’『――気を付けて喋れよ、人間。放つ言葉によっては、次に消し飛ぶのはお前になる』

トール’『何  だ  ?』ゴゴゴ

小林「……フッ…………ヒッ…………」ガタガタ

トール「貴ッ様アァァァァ…………!!」ビキビキ

小林「……待ってっ! トールちゃんっ!」バッ

トール「小林さんっ……!?」ピタッ

小林「私に、話させて……。お願い、だ……」ブルブル グッ……

トール「小林さん……っ」

トール’『…………(震えながらも、立ち上がるか)』

309 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 21:55:42.73 ID:oEqW1vd60

小林「…………っ…………っつ」フッ ハッ

トール’『……其処の、我の紛い物の方は、大層お前の事を気に入っている様だが。我も同じだと期待しているなら甚だ見当違いだ』ギンッ

トール’『我にとっては、お前なぞ何の関係も興味もない。只の矮小な人間一匹でしかないのだ、と――理解しているか?』ゴゴゴ

小林「…………分かっ、てる…………そんな事…………っ!」ハア ハア

トール’『――そうか。ならば良かろう、用件を言え。調停か、懐柔か? その蛮勇に免じて、一言だけは聞いてやる』

トール’『(但し、何を言おうと言い終わった瞬間に燃やしてやるがな……!)』ゴゴゴ

トール「小林さん……っつ!」ギュッ

小林「……………………っ」ブルブル

トール’『さあ、言ってみるが良い!』ゴォッ!

小林「……………………っつ!」ゴクリ





小林「――――見つけてあげられなくて、ごめんなさい!!」ペコリ





トール’『――――――――――――――――は?』ポカン

310 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 22:02:22.92 ID:oEqW1vd60

トール「え…………」

エルマ「へ…………?」

ルコア「………………!」

終焉帝「――――――」

滝谷「小林さん……」



トール’『――――はっ!?(一瞬、呆けていた……!)』ブンブン(頭を振る)

トール’『……いや! 貴様、一体何を――!?』キッ

小林「――ごめん、1年前のあの時、私はこの山に入っていたのに、君を見つけてあげられなくて」

トール’『!』

小林「君が、こっちにいるトールちゃんと違って亡くなる事になってしまったのは、
   1年前のあの日、この私が君を見つけられなかったせい……、なんでしょ?」

トール’『………………』

トール「小林さんのせいなんかじゃありませんっ! そもそもあの日まで小林さんは――」

小林「分かってるよ、トールちゃん。そもそもあの時はまだ私、ドラゴンも魔法もこの世に実在するなんて思ってなかったし、
   当然トールちゃんがこの山に来ている事も知り得なかった。それにあの時は私、泥酔もしていたしね……」アハハ

小林「――でも、それでもね、気付ける事はあったんじゃないかって思うんだ」

小林「森の中で、君から流れ出た血の匂いがしたかもしれない。君が痛みで身じろいで木々を擦る音がしていたかもしれない。
   苦痛に呻く君の息遣いが、放つ熱が漂っていたかもしれない……」

小林「何か一つでも、私がそうした異変を察知して気にしていれば……、もしかしたらこの世界でも、私は君を見つけて、助けられていたかもしれない。
   そう思うと……、やっぱり私は、謝らずにはいられないんだ、ごめんなさい」ペコリ

トール’『――――――………………』

トール「小林さん…………っ」

311 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 22:06:38.64 ID:oEqW1vd60

トール’『――――ふ…………、ふざけるな! 人間、風情が……、謝罪に、あまつさえ同情だとっ!? 舐めるのも大概にしろ……っ!』フーッフーッ

小林「っ!」ビクッ

トール’『塵も残さず、消え去――』ギリッ

エルマ「待てっ、トールッ!」バッ

トール’『ああ゛っ? しゃしゃり出るなこの――』

エルマ「――私も、悪かったっ!!」ペコリ

トール’『――――――――は、ぁ?』グラッ

エルマ「……本当は、ずっと後悔していた。昔、共に旅していたお前と仲違いし、別れた事……」

エルマ「確かに私達には勢力の違いがあった。それぞれの矜持が、考え方の違いがあった。争う事自体は、避けられなかったのかもしれない」

エルマ「けどそれは、必ずしも別れる理由にはならなかったんじゃないかと、今は思うんだっ!」ギュッ

トール’『っ、お前っ…………!』

エルマ「違いがあっても、対立があっても! もっと対話を重ねれば、もっと一緒に旅を続けていれば!
    分かり合う道も、お前が独りで無茶をしなくてもいい選択も、あったんじゃないかって……!」

エルマ「……生きている内に、仲直りしたかった。昔みたいに一緒に過ごして、ご飯を食べたかった……っ!」ポロポロ

エルマ「だから……、ごめ゛ん゛、ドール゛……っ!!」グスッ

トール’『……………………っ!』

カンナ「私もごめんなさいっ、トール様っ!」バッ

トール’『っ!……カンナ……』

カンナ「私、ぜんぜん分かってなかった。自分が寂しいばっかりで、トール様に甘えるだけで……、
    トール様も寂しいんだとか、誰かに甘えたいんだとか、考えた事もなかった……」エグッエグッ

カンナ「私がトール様に支えてもらった分、私もトール様を支えなきゃだったのに……! ごめん、なさいっ!」ペコッ

トール’『………………っっ!』

滝谷「……では、僕も謝罪を」ザッ

トール’『っ? 今度は何だ……!?』バッ

小林「っ! 滝谷君……」

トール「ちょっ、滝谷さんも前に!?」ギョッ

滝谷「まあ、僕は小林さん以上に君と縁が遠い訳で、君が亡くなってしまった事に僕は一見ほとんど関係してない。
   だから、謝ると言うのも烏滸がましいのかもしれないけれど……」ポリポリ

滝谷「――でも、バタフライエフェクトとか、カオス理論とか。ほんの小さな条件の違いだけで結果が大きく変わってしまう事を表す言葉もある。
   僕が本当に君の死に一切関与していないかというと、それも絶対ではない」

滝谷「昨日から考えてたんだ。
   そもそもどうしてこっちの生きてるトール君の世界では小林さんがトール君を見つけられて、この世界では見つけられなかったんだろうって」

滝谷「……もしかしたら、僕が会社で小林さんに掛けた一言や、仕事でフォローしてもらった分の労力、ほんの少しの挨拶のし忘れ……。
   そうしたほんの些細な事が小林さんの体調に影響してその違いを生んだ、という可能性も、あるのかもしれない」

滝谷「だからまあ、自分の事をあまりに過大評価してるとも思うけど、それでも僕も君に謝りたい。
   僕にももっと、出来る事があったかもしれない。ごめんなさい」ペコリ

トール’『…………ッ…………〜〜〜〜ッ!!』ギシッ

312 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 22:08:49.11 ID:oEqW1vd60

トール’『……だ、まれ』フルフル

トール’『黙れ、黙れッ、黙れ黙れ黙れッ! 揃いも揃って、我を莫迦にしているのかお前等ッ! 謝罪とか、ごめんとかっ、今更っ……!!』ギリッ

トール「謝罪を素直に受け取れないんですか、私! この拗らせ頑固者っ!」ガーッ

トール’『黙れ紛い物ッッ!! ――ああそうか、そうだな? やはり我を愚弄しているのだろう?
     頭を垂らせば取り敢えずやり過ごせると舐めているな、そうだなっ!?』

トール’『ふざけるなどいつもこいつもッ! 目障りだ、諸共死ねっ――!!』ゴゴゴゴゴ

ルコア「…………!」

トール「(急激な魔力の集中……!)特大の攻撃が来ますっ! 全員下がってっ――!」

トール’『逃がさん……ッ! ……ガアアアアァァァァァ!!』



ボオオオオォォォォォッ!!(火炎のブレス)



ルコア「――――――――っ!」ダッ

トール「っルコアさん!? (何故前に……!?)」



ボアアアアァァァァァッ!!



トール’『――――――な』

トール「ルコア、さん…………」

ルコア「……………………」プスプス

313 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 22:11:29.93 ID:oEqW1vd60

ルコア「っう……………………」ガクッ(膝を付く)

トール「っルコアさん! そんな、皆を庇って、直撃を受けるなんて……」バッ

ルコア「……ケホ。大丈、夫……。ちょっと焦げたくらいさ〜……」ハハ

エルマ「ちょっとじゃないだろう、その黒さっ!?」

トール’『……………………何故だ』ポツリ

ルコア「ん〜……?」

トール’『何故、防御魔法も使わず、生身で無防備に炎を受けたっ!? そんな真似をすれば、いくら貴様でもっ……』ワナワナ

ルコア「ん〜? 心配してくれてるのかい……?」フフッ

トール’『ッ! そういう事を言っているんじゃないっ! 茶化すな、いいから答えろっ!!』グアッ

ルコア「フフッ、戦いに来たんじゃない、話し合いに来たんだと示すなら……、戦う為の術は使わないのが誠意だと思っただけさ……」ググッ(立ち上がる)

トール’『誠意、だと…………?』

ルコア「そう……。ごめんね、トール君。あの日僕は、神に決戦を挑んだ君を、ただ見ているだけだった」

トール’『っ!………………』

ルコア「それが無謀な闘いで、放っておけば君が死ぬ事は明らかだった。
    一方で直ぐに決断して闘いに割って入れば、僕自身も痛手は負っただろうが、君を助け出す事もできていたかもしれない」

ルコア「だけど結局僕がした事は……、君が神に致命傷を負わされたのを、遠巻きに見てる事だけだった」

ルコア「僕にはもう、君の友達を名乗る資格はない。君がさっき言った通りだよ。
    僕は寂しがりの癖に友の為に立ち上がる事も出来ない只の……、臆病者だ」

トール’『……………………』

トール「違いますっ! それはあなたが中立・不干渉を貫く傍観勢で、私を助ければあなたまで各勢力から目を付けられるから……、むぐっ!?」ムギュッ

ファフニール(――黙っていろ)ヒソヒソ

トール(ファフニールさん……)モゴモゴ

トール’『……だから、贖罪の為に攻撃を生身で受けたと!? ハッ、欺瞞だな! 手前勝手な自己犠牲なんぞ……っ』

ルコア「勿論、こんなダメージで償いになるなんて思ってないさ。あの日の君の苦痛に比べればこんなもの、傷の内にも入らない」

ルコア「ただ、今は……、君に謝りたい。すまなかった……」フカブカ

トール’『っ……………………』ギリッ

314 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 22:15:42.36 ID:oEqW1vd60

トール’『……フゥーッ……! どいつもこいつも腑抜けた事をッ……………………!』チラッ

ファフニール「ム?」ピクッ

トール’『……もしや、貴様も何か謝ってみせるつもりじゃないだろうな!? ファフニールッ!?』ギロッ

ファフニール「……フン。俺は別に、貴様が死んだ事に対して毛程も悪いとは思っていない。
       我等混沌の竜は闘いこそ本懐。一騎で特攻玉砕など、むしろ称えるべき事だ」プイッ

トール’『(……っ! そうだ、貴様はそうだろうとも、生粋の邪竜よ……!)』ククッ

トール(ちょっとファフニールさん、空気読んで下さいっ?)コソッ

ファフニール「黙れ。……だがまあ、だからこそ」

トール’『…………?』

ファフニール「……一緒に戦ってやれなかったのは、悪かった」ボソリ

トール’『………………っ!?』グラッ

終焉帝「――ふん、お前達の責任など、あまりに瑣末なものよ……」ヨロヨロ

トール’『っ!』バッ

トール「お父さん!? 無理に歩かずとも……」

終焉帝「いいのだ、手を出すな! 言わせてくれ……」ザリッ

トール「っ! ……はい……」グッ……

トール’『何を……、何を言う気だ、貴様が……っ?』

終焉帝「……私だ。私の責任なのだ。自分の目で世界を見てほしいなどと綺麗事を言って、その実ただ娘を放任してきた私の……」フルフル

トール’『…………やめろ…………』ボソッ

終焉帝「私がもっとトールに寄り添い、共に立って世界を教える……、
    否、例えそれが困難でも、せめて互いの本心を伝え合う努力を怠らなければ、こうもすれ違う事は……」

トール’『やめろぉっっつ!!』ブンッ!(風の刃)

終焉帝「――ぐっ!!」ズバァッ!

トール「お父さんっ!!」

トール’『――貴様がッ! ――貴方がそれを言うのか!? 今更、っ、全部終わった今……!?』フーッフーッ

終焉帝「ゴフッ……、ああ、お前の言う通り、こんな言葉、遅きに失している……。その憤りは正当だ。したくば幾らでも私を嬲れ……」ガクッ

終焉帝「だが頼む、どうか、これだけは言わせて欲しい……」プルプル

終焉帝「………………トール、済まなかったっ…………!」ガバッ

トール’『………………………………っつ!!!』

トール「お父さん…………!!」

小林(あの、怖ろしい程の迫力のあった方が……)

滝谷(地に膝付けての、土下座を……!)

315 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 22:19:23.22 ID:oEqW1vd60

トール’『…………何、だ…………』ジロッ

小林「……………………」
滝谷「……………………」
エルマ「……………………」

トール’『何なんだ…………』チラッ

カンナ「……………………」
ルコア「……………………」
ファフニール「……………………」

トール’『一体全体…………』ギリッ

終焉帝「……………………」


トール’『…………何をしに来たんだ、お前等はッ!!』ゴオッ

トール「最初から言ってるでしょう。話をしに来たんですよ」

トール’『ッ!!』

トール「……言っときますが、私は別にあなたに謝りませんよ。
    別世界とは言え他ならぬ自分自身の事ですし〜、あなたのこれまでの経緯に対して私に責任ありませんし?」ツーン

トール「ですから同時に、私があなたの選択にとやかく言う権利や義理も、本当の所はないんですよね。
    あなたがこの1年間で感じてきた気持ちは、私にすら知り得ない、あなただけのものですから」

トール’『……………………』

トール「…………ただ。私以外の、ここに集った皆さんの言葉位は、聞いてみてもいいんじゃないですか」

トール’『…………っ!』

トール「皆さんは、正真正銘この世界に生き、この世界のあなたを想って今日ここまで来てくれた方々です」

トール「あなたのあの手この手による妨害を受けても、なお諦めず遥々会いに来てくれた皆さんなんです。
    自由なる孤独とやらも結構ですけど、ちょっと位話してみるのもまあ、悪くないんじゃないですか?」ポリポリ

トール’『……ぐ、うぅぅ…………っ!』

トール’『今、更…………、何だ…………!』ギリッ

316 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 22:21:48.08 ID:oEqW1vd60

…………………………



《(回想)〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【1年前・山中】

ヒュウウウウ…………

ズズウウウゥゥン…………!!



トール’「う゛、う゛…………」ズリッ

トール’「……此処は……何処だ……」

トール’「……マナが薄い……。別の土地、いや、別の世界、か……?」

トール’「追手はない……、逃げ延びられたのか……?――ゴハッ!?」(吐血)

トール’「……ッ、この、剣は……」ハアハア



キイィィィィン…… キイィィィィン……



トール’「……竜殺しの神剣……。フン、もうトドメは刺してある、追うまでもない、という事か。フフフ……」

317 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 22:23:21.69 ID:oEqW1vd60

トール’「これは……、動けないな……」フウフウ

トール’(神剣の力で刻々と命を削られているのが分かる。ああ……、これは助からないな)

トール’「……空が暗い。今は夜か……」ハア

トール’(この世界の夜がどれ程の長さか、詳しくは知らないけど……。まあ、朝日が昇るまでは、持たないかな……)

トール’「ハハ……、フウ、フウ……、惨めなものだ……ガフッ」ゼエゼエ

トール’(……完敗だったな……)

トール’(けどその割に、悔しさはあれど思ったより落ち着いているのは……、心の何処かでこの結果を、予測していたからか)

トール’(フン、やる前から負けを覚悟していれば、そりゃあ当然負ける。滑稽だな……)フフッ……

318 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 22:24:26.56 ID:oEqW1vd60

〜〜〜〜〜〜〜〜



トール’「…………ああ、静かだ…………」ポツリ

トール’(多少の獣の気配はあるが、いずれも私を怖がって遠巻きに窺っているだけだ)

トール’(神に連なる者の殺気も、竜の様な魔の者の魔力も、今はない)

トール’「…………一人。ああそうか、今、一人か」ボソッ

トール’(自由を求めての戦いだったが……、敵も味方もいない今の孤独も、ある意味で自由か)

トール’(じゃあ目的達成……? なんて、フフ……ほんと皮肉で滑稽な話……)

トール’「フフフ……、う…………」ガクッ

トール’「……………………」シーン

319 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 22:26:28.93 ID:oEqW1vd60

〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



ガサガサ…………

……………………タクッ、…………クショ〜…………

……………………アノハゲ、バカヤロー……………………

??「……………………ひっく、所長めぇ〜………………今に見てろぉ〜……………………」ガサガサ

……………………ウィ〜、オットット……………………



ガサガサ、ガサ……………………



………………………………



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜〜〜〜



トール’「――――――――ハッ!」ピクッ

トール’「…………意識が、飛んでいたか…………」

トール’(どれくらい寝ていた…………? そう長くは経っていない様だが…………)

トール’(寝ている間に、何か声が聞こえた気もしたが……)

トール’(……今は周囲には誰も居ない。こんな夜の森の中で誰かいる訳もない、気のせいか……)フウ……

320 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 22:27:47.37 ID:oEqW1vd60

〜〜〜〜〜〜〜〜



トール’「…………フウ…………フウ…………ハ、ア」

トール’(ああ、これはもう死ぬな……)ゼエゼエ

トール’(でも、思ったより心は穏やかだ。全力を出した上で負けたからか、ある種、諦めが付いた感じだ)

トール’(結果こそ散々だが……、うん。まあ、しょうがないんじゃないか、この終わりも)

トール’(頑張ったよ、私は……。うん、頑張った。これが私の運命というもの。それでいいさ)

トール’「…………ゼヒュー…………ゼヒュー…………」

トール’(ああ、疲れたな……。もういいよね? もう休もう。目を閉じて、安らかに……)

トール’「…………フウ…………」

トール’「……………………………………………………………………」

321 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 22:29:07.62 ID:oEqW1vd60

………………………………



エルマ『――――トールッ!』

カンナ『――――トールさま』



ピクッ……



ルコア『――――トール君』

ファフニール『――――トール』



ギリッ……



終焉帝『――――――トールよ』



トール’「…………どうしてっ…………」ギリッ

トール’「どうして今更、懐かしい顔ばかりが浮かんでくるんですか……っつ!」ポロポロ

322 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 22:40:03.45 ID:oEqW1vd60

トール’(もう少しで静かに逝けそうだったのにっ、綺麗に終われそうだったのにっ……!)

トール’(しょうがない訳ないじゃないですか、それでいい訳がないじゃないですか!)

トール’(悔しい、悔しい悔しい悔しいっ!まだ何も終わっちゃいない、まだ何も始められてすらいない!
     まだ私は自由を掴めていないし――まだ私は、自由になって何をしたかったかも、自分で分かっていないんだ!!)

トール’(孤独が自由……っ?ふざけんな!!こんな、こんなっ、こんな寂しく、惨めに、誰にも知られず一人で死ぬ事が、自由であって堪るものかっ!!)

トール’「ふっ――くっ――う、うぅぅぅぅうう゛――!!」ギリッ ポロポロ



こんな所で、こんな所で終わりたくない!/どうすれば良かったの/全てが憎い!/
ああ、怖いよ/ふざけるなふざけるなふざけるな/エルマ/疎ましい/誰か、誰でもいい/
嫌だ/楽になりたい/煩わしいなあ!/せめて温もりを/まだだ、まだ私は/

くそが……!/暗いなあ/痛い痛い痛い!/みんな厭わしい/殺してやる/ごめんなさい/
星が瞬いている/許さない/カンナ/皆が愛おしい/手遅れだ/さみしいよ/全身が寒い/
傷口だけがひどく熱く感じる/こんな私、知りたくなかった/

何もかも今更/誰も教えてくれなかった/諦められない/静かだ/黙れよ/ルコアさん/
うんざりだ/戻りたい/懐かしい/戻れない/全部壊れればいいのに/なんて往生際の悪い/
早く死ねよ/死なせて/死にたくないよ/誰か触れて/お願い/

恥晒し/私を見ないで/誰か見つけてよ/ファフニールさん/もう一度だけ/終わりだよ/
もう何も視えない/何も聴こえない/心臓の音だけがやけにうるさい/…………/
終わる/楽しかった事ばかり思い出す/何も楽しい事なんて無かった/

疲れた/…………/最後までこんな/あ、止む/――――/お父さん/
…………/ごめんね/最初から/ありがとう/全部無意味だ/ああ……惨めだ/



トール’「………………………………、ああ」



………………………………



もう、誰にも会いたくない/誰かに、見つけてほしい



………………………………



永遠に、一人でありたい/一人は、イヤだよ



……………………みんな……………………







さよなら/たすけて







〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜》



トール’『う゛う、う゛うううう゛ぅぅぅぅぅ…………!!』

トール’『今更…………っ、今更、何なんですかぁ…………っ!』ボロボロ

323 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 22:43:17.54 ID:oEqW1vd60

【現在・山中】

トール’『うぐ、ひっぐ、う、ぐ、ふう…………っ』

エルマ「トール…………」
カンナ「トール様…………」
小林「トールちゃん…………」
滝谷「……………………」

トール’『遅…………すぎなんですよ…………っ、全部…………っ』ポロポロ

ルコア「トール君…………」
ファフニール「……………………」
終焉帝「…………トール」

トール’『ふぐ、あ、あ゛、わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!!』

トール「――――はあ。最初からそうして素直に気持ちを出してれば、もっと話が早かったんですがねえ」フウ

トール(――とは言え。よく言えましたね、“私”)フッ



小林「――――…………っ!」ザッ……

エルマ「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」ダッ!
カンナ「トールさま゛っ!」タッ!
小林「うわっとっ!?」サッ

タタタッ…… ギュッ(霊体のトールに抱き着く二人)

トール’『あふぁっ!? う゛あ…………』

エルマ「ごめん、トール、ごめん。待たせた…………!」ポロポロ
カンナ「ごめんね、つらかったね、トールさま、ごめんなさい…………!」エグエグ
トール’『っ! ふ、っつ、う、わああああああああ゛ん!』ボロボロ

小林「……………………」ニコッ

ルコア「――――小林さん(コソッ)」ポンッ(肩を叩く)

小林「!」

ルコア「貴女も、遠慮せず。行きましょう?」スタスタ

小林「…………はい。そうですね」テクテク

ギュッ(エルマ・カンナの上から更に抱き着く二人)

小林「――お疲れ様。大丈夫、もう大丈夫だから…………」ナデナデ
ルコア「ごめんねトール君、本当によく頑張ったね。大変だったね」ギュウウ
トール’『ふ、あ…………っ!はい、はぃ゛っ…………!』コクッ、コクッ

324 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 22:45:24.91 ID:oEqW1vd60

滝谷「――ファフニール君は、あれ、入らないのかい?」チラッ

ファフニール「馬鹿を言うな。女子供に混じってあんな姦しい真似が出来るか」フンッ

滝谷「ははっ、言うと思った――――」スタスタ

ファフニール「ム? 何処へ…………」チラッ



スタスタ…………



終焉帝「――ぬ、む…………」モゾッ……

滝谷「――お力添えは、必要でしょうか?」ザッ

終焉帝「……ああ、かたじけない。立つのに手だけ、お貸し頂けるか」ググッ……

滝谷「ええ、勿論」スッ

終焉帝「すまぬな……ふっ!……よし、有り難う」スック

滝谷「……彼女の傍まで、行かなくてもよろしいのですか?」ニコッ

終焉帝「む…………」チラリ



アーン、ワーン、ワーン……



終焉帝「――ああ、まだ良い。今は唯、ああして肩を抱き合い悲しみを分かち合えている姿が見られるだけで……」フウ……

滝谷「……ええ。そうですね」

ファフニール「フン…………」

325 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 22:47:53.98 ID:oEqW1vd60

トール「――全く。我ながら、とんでもない意地っ張りでしたね」ハア

トール(――――そう。先程語っていた事も、決して嘘ではなかったんでしょう)

トール(もう誰にも会いたくないというのも、永遠に一人になりたいというのも。出任せではない本心だったのでしょう。だけど)

トール(それと同時に。本当に、誰かに見つけて欲しくもあった。孤独が嫌でもあったんじゃないですか)

トール(だからここまでの道中、抜け道が常にあった。
    転移を阻害しても直接飛んで来れる様にしていたし、風の結界で阻んでも地上からは来れる様にしていた。
    認識阻害で森を迷わせても決して突破不可能にはなっていなかった……)

トール(まるで二つの相反する意思を感じる様な状況に、初めは異なる二者の存在を仮定もしたけど、そうではなかった)

トール(それは、一人の存在の中で、心が二つに揺らいでいたからだった)

トール(様々な感情でぐちゃぐちゃに乱れた自分の心を醜いと思い、誰にも見せたくないから、幾つもの魔法で遠ざけた。
    一方で、どんな困難があってもそれを乗り越えた上で、自分を探してくれる誰かを求めてもいた)

トール(そうした対立矛盾した心が、あれらの魔法の答えだったんですね……)



トール「…………ほんと、ドラゴンって面倒臭いですね。頭良いのに馬鹿ばかりで」ヤレヤレ

トール「でも、ま…………、良かったですね、“私”。かくれんぼは、もう終わりみたいですよ」フフッ

326 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 22:51:00.70 ID:oEqW1vd60

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



トール’『――――ひっく、えぐっ、んぐっ…………』ベソベソ

トール「…………そろそろ落ち着きましたか、“私”」

トール’『ひっく…………、ん、む。…………ん』コクリ

カンナ「だいじょうぶ、トール様? ムリしてない?」ナデナデ
エルマ「そうだ、焦らずゆっくりでいいんだぞ? トール……」ギュウ

トール’『だ、大丈夫だ。変に甘やかすな、その……こそばゆい……』ソワッ

エルマ「そうか? ふふっ、慌てずにな」
カンナ「ん。ムリしないでね」ギューッ

トール’『ん、むぅ。わ、分かった……』ムズムズ

トール「おーおー青春しちゃってまあ。同じ顔の奴があやされてるのを見るこっちの身にもなって下さい?」ハー

ルコア「ふふっ。羨ましがっているのかい? 可愛いね♡」クスクス

トール「なっ誰が! 違いま――――」

小林「うん、こっちのトールちゃんも良く頑張って話してくれてたね。偉い偉い」ナデナデ

トール「っつ!!!!(小林さんの頭ナデナデッッツ!?)」ドキーン

小林「お疲れ様、トールちゃん。ありがとね」ナデナデ

トール「は、はい……♡ こちらこそ…………(しばらくこのままでいたい……2兆年くらい)」デヘヘヘヘ

滝谷(表情筋が福笑い並みに緩んで溶けている……)

ファフニール(新種の呪いか?)

滝谷「……ところで、この世界のトール君の体、霊体のはずなのに普通に触れられてるのはなぜ……?」コソッ

ファフニール「? 何が疑問だ? 竜の魂だ、触れられぬ訳がないだろう」サラッ

滝谷「アッハ、ハイ……(そういうもんか……)」

327 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 22:53:56.95 ID:oEqW1vd60

トール「…………はっ?! い、いや、大変名残惜しいですが、今はそこら辺で止めて頂いて……」カッ

小林「あ、うん。分かったよ」スッ

トール(ああっ!! うう、また後でお願いしたい……)

トール「……アー、ゲフゲフ、ウォッホン!……さあ、気を取り直して、もう一人の私!」クルッ

トール’『む? う、うむ、何だ、もう一人の我』ビクッ

トール「これで和解は済みましたね? なら、こちらの目的にも協力してほしいですね」

トール’『あ、ああ……、構わない。お前が元の世界に帰る為の手助けという奴か。……だが、我は何をすればいい?』

トール「えっ!? えーと、それはですね……」キョド

小林「そもそも帰る方法も分からないから、手がかりを探す為にもまずは、この世界のトールちゃんと会って話を聞いてみよう……って感じだったっけ」

トール「そ、そうです! 私も丁度そう言おうと思ってたんですよっ! ありがとうございます小林さんっ!」アセアセ

トール’『話……と言っても、何を話せばいい?』

ルコア「ふむ……。じゃあ、僕達の確認も兼ねて、改めてここまでの流れを整理してみようか」

エルマ「お願いする」ペコリ
カンナ「うぃー、おべんきょー。おねがいしまーす」ペコリ

トール’『……ところで。お前達はいつまで我に抱き着いているつもりだ……?』ムギュウ

エルマ「む、迷惑か……?」ムッ
カンナ「トール様、抱き着くのやだ……?」ウルウル

トール’『い、いや、迷惑という訳ではないが……』タジッ

エルマ「じゃあ問題ないな! そのまま話を続けてくれルコア殿!」ギュッ
カンナ「くれー!」ギューッ

トール’『……はあ、もう好きにしろ……』ムギュギュ

ルコア「フフフ、微笑ましい光景だね〜♡」アラアラ

トール(カンナはともかく、私の世界のエルマに見せたら恥ずかしさで悶えそうな絵ですね……)フフフ

トール(……まあ現在進行形で、私もむず痒くて悶絶しそうなんですけど! 彼女らの喜びに水を差したくないから我慢しますが……!)モジモジ

328 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 22:57:47.57 ID:oEqW1vd60

ルコア「……それでは僭越ながら、話を進めさせて頂くね」

ルコア「まず、昨日僕達は合流して話し合った結果、こちらの生きているトール君がこの並行世界にやって来た事には、二つの要因があると仮説を立てた」

トール「はい。その要因の一つ目が、私が元の世界で小林さんと喧嘩して
    『小林さんの顔なんて見たくない!』と強く思ってしまった事……でしたよね」ムグウ

ルコア「そう、力ある竜が強く願った事で、無意識に世界の壁を越える程の魔法を発現してしまったと。
    しかしそれならばと、今度はトール君が『元の世界に帰りたい』と強く願いながら試したものの、元の世界に帰る事は出来なかった」

トール「そこで二つ目の要因……、この世界側からも、この私を呼び込む様な力が働いていたのではないか。
    そしてそれにこの世界の私が関わっているのではないか?、と私達は推察した」

ルコア「ああ、そして僕達はこうしてこの世界のトール君を捜索して此処に辿り着いた――というのがここまでの経緯」

ルコア「……それで、どうかな? トールく……、ええと、この世界の方のトール君。心当たりは?」

トール’『……段々、呼び名がややこしくなって来たな……』

トール「仮の略称でも付けます? 私を“生きトール”、あなたの方を“亡くなっトール”とか」

トール’『いや、流石にそれは語感的にふざけすぎてないか!? 口にする度、ちょっと気まずいぞ!』ガビーン

トール「そうですか〜? 分かりやすさ重視だったんですが……。じゃあ、私を“メイドトール”、あなたを“霊トール”とかならどうですか?」

トール’『う、うむ、まあそれなら……いいだろう。……ええと、それで何だったか』

ルコア「うん、メイドトール君をこの世界に呼び込んだ要因について、心当たりはあるかい、霊トール君?」

小林(早速使いこなしている、適応力が高い……)

329 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 23:02:21.17 ID:oEqW1vd60

トール’『ああ、それについては恐らく、我の想いも関係しているのだろう……』

トール’『我は先程“もう誰にも会いたくない”と願ったと言ったが……。
     それ自体は嘘ではないが、それと同時に“誰かに見つけて欲しい”という相反する想いも抱いていたと、今なら認められる』

トール’『頭では否定していても、そうした強い願いはこの1年ずっと、無意識下で燻っていた。
     それが今回、もう一人の我……、メイドトールの想いと呼応して並行世界移動現象に繋がったのではないだろうか』

小林「なるほど、こちらとあちら、両方の世界から引き合った結果だと……」

ルコア「元々強い力を持つ2体のドラゴン……、それも並行世界における同一存在と言えるトール君達2人が互いに引き寄せ合う様な願いを抱いた……。
    そうだね、その条件なら世界の壁を越える程の魔法を発現させる事も、決して不可能ではないと思う」

エルマ「じゃあこれで、並行世界移動の原因ははっきりしたな! それなら帰る方法も……」

滝谷「――ん、すみません。でもそれだとちょっとおかしくないかな?」

ルコア「滝谷さん? どういう事だい?」ピクッ

滝谷「いえ、僕も大体今の話の通りとは思うんですが……。
   でも今の話だと、霊トール……さんは、“誰かに見つけて欲しい”から魔法が発現したって事ですよね? そしてそれはもう既に叶っている――」

ルコア「! そうか。魔法が発現した要因が解決しているのに、特に状況に変化がないのはおかしいんじゃないか、という事だね?」

滝谷「はい、まあ魔法について詳しくはないので、別にそれで問題はないと言われればそれまでなんですが……」

ルコア「いや、重要な疑問だとも。特に今回は無意識に発動した魔法だ。
    要因が取り除かれたなら、その解消も意思に関係なく自動的に起こると考えるのが自然だ」フム……

トール「それなのに何も起こらないという事は……、本当はまだ要因が解決はしていないという事ですか?」チラッ

トール’『むっ!? い、いや、そう言われても、我も心当たりは……』ワタッ

小林「落ち着いて、霊トールちゃん。そうだな……、細かいニュアンスの問題かもしれない。
   霊トールちゃん、試しに願いを、別の言葉で言い換えてみてくれないかな?」

トール’『別の……、そうだな、“一人でいたくない”、とか……』

小林「うんうん、他には?」

トール’『そ、その……、“孤独はいやだ”、とか……』モジッ

小林「なるほど、じゃあ他には?」

トール’『う、うぅ……、その……(は、恥ずかしいぞこれ……!?)』モジモジ

小林「大事な事なんだ、頑張って、霊トールちゃん!」ズイッ

トール’『う、うぅ〜、そ、その、“故郷に帰りたい”とか……?』グヌゥ

小林「っ! それじゃないかなっ?」

トール’『え?』

330 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 23:03:37.82 ID:oEqW1vd60

小林「ずっとこの土地に留まって引き籠っていた事が孤独を生んでいたのだろうし、
   これを機に生まれ故郷……、魔法界に帰れれば、何か変化があるかもしれない!」

トール「なるほど、一理ありますね! 流石小林さん! ……なら霊の“私”!」チラッ

トール’『!』

トール「善は急げです、ゲートは私が開きますから、早速故郷に転移を……」

トール’『い、いや、その……』タジッ

トール「?」

トール’『……それは無理だ。我は行けない』ポツリ

トール「――は、はあ!? 何をあなた、まさかまだこの土地に執着して……」

トール’『ち、違う! そうじゃない、行きたくない訳じゃなくて……』

トール「じゃあ一体何故…………あ」ピクッ

トール「…………もしかして…………」チラリ



キイィィィィン…… キイィィィィン……



トール「……この、神剣が刺さっているから、ですか……?」

トール’『……………………』コクリ

331 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 23:08:12.53 ID:oEqW1vd60

トール’『……先程は、自分の意志でこの土地を離れないかの様に言ったが……。
     何の事はない、本当は自力で此処を離れられない事を隠して、見栄を張っていただけだ』ククッ……

トール「……そう、だったんですね。まあ、言われてみれば当然ではありましたか……」

トール’『この神剣は我を死に至らしめただけには飽き足らず、我の魂をも刺し貫き、今もこの地に縫い付けている。
     これまで何度も抵抗はしたが、まるでビクともしなかった』

トール’『その神力により、少しずつだが確実に我が魂も削り落とされているのを感じる。
     あと数年もすれば、我の魂は一片残らず消滅させられるだろう……。
     いつしか我も諦めて、自らの意志で此処に留まっているのだと自分を騙す様になっていた……』

エルマ「そんな……!」

小林「……で、でも、もう大丈夫なんだよね? これだけ強いドラゴンの皆さんが集まってるんだもん、力を合わせればきっと神剣も抜け……」

ルコア「……いや。実質的に、それは不可能だ」

小林「っルコアさん!? そんな……!」

ルコア「正確に言うなら、引き抜く事自体は可能だろうが、霊トール君の魂がそれに耐えられないだろう」

小林「……っ!」

ルコア「前にも言ったが、この神剣は神が“竜を殺す”という概念そのものを剣の形にした神器。
    ドラゴンは勿論、神への信仰心を持つ全ての者にとっても、触れる事すら儘ならない代物だ」

ルコア「そこに勢力の違いは関係なく、メイドトール君、エルマ、カンナ……、
    そして満身創痍の終焉帝では、残念ながら命懸けでも抜けはしないだろう」

トール「……………………」
エルマ「くっ……………………」
カンナ「うーっ……………………」
終焉帝「……………………」

ルコア「そして、僕とファフニール君なら、全身全霊で掛かれば、大怪我は免れないだろうが抜けはするだろう。するだろうが……」

トール「……殲滅対象であるドラゴンが触れれば、神剣は抵抗して魔力を励起する。その際の魔力の奔流で、霊の“私”の魂は弾け飛んでしまう……と」

ルコア「……ああ、神の権能相手に手加減は出来ない。
    霊トール君の魂を保護しながら、繊細に力をコントロールして神剣を抜くなんて芸当は、僕達でも困難だ」

ファフニール「……………………」ギリッ

滝谷(……あのプライド高いファフニール君も、否定せずに歯噛みだけして黙っている……。じゃあ、本当に……)

332 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 23:09:49.32 ID:oEqW1vd60

トール’『……別に、我の保護など考えなくとも良い。むしろ、此処で我を魂ごと滅してくれて構わない』

小林「っ!?」

エルマ「何を言うんだ、トールッ!」

トール’『――そちらのメイド?とやらの“我”が元の世界に帰るには、要因の解決が必要……。
     それはつまり、要因の大元である我が消滅する事でも果たせるはずだ。そうだろう?』

トール「っそれは――――」ギリッ

カンナ「トール様……? やだ……いやだ……」フルフル

トール’『悲しむな。我はもう、充分に満たされた。この世全てに絶望して独り燻っていた所で、最後に懐かしい顔が現れて、我の為に泣いてもくれた。
     それだけで嬉しくて、我の冷たくなった心臓に再び熱が宿った様だった……』

エルマ「トールッ…………」ギュッ

トール’『どうせこのまま引き延ばしても、遅かれ早かれ我は消滅する運命だ。ならばせめて、お前達の手で――』

エルマ「それ以上言うなっ、トール……っ!」ギュウウ
カンナ「やだよ、トールさま……!」ウルウル



小林(……駄目だ、そんなの駄目だ……! だったら……)グッ

小林「――だったら、私が神剣を抜く!」ザッ

トール「小林さん……っ!?」

333 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 23:13:27.57 ID:oEqW1vd60

小林「皆の手で霊トールちゃんを消滅なんてさせない!
   ドラゴンじゃ駄目でも、人間の私が抜くなら魔力の励起ってやつもないはずでしょ、なら――」ザッザッ

トール’『人間……』



ガシッ



トール「――駄目です、小林さんっ!」ギュッ

小林「……どうして止めるの、トールちゃん。言ってたじゃん、並行世界では何の問題もなく、1年前の酔った私が神剣を抜いたって! なら……!」

トール「その時とは状況が違うんですっ!」

小林「…………っ!?」

トール「昨日言いましたよね、この神剣は、神への信仰心を持つ人間が触れれば、精神を破壊されると……っ!」

小林「……それが何。私は別にトールちゃんの世界の神なんて信仰しちゃいないよ……っ!」ググッ

トール「いいえ。今の小林さんは私達ドラゴンや魔法の存在を知っています。……ひいては神の実在も知って認めています!」

小林「だから、それが何っ!」

トール「聞いて下さい、小林さんっ! 神の実在を信じる事……、言わばそれは、信仰の第一歩です。
    即ち今の小林さんは、神への信仰心を少なからず持っている事になります!」

小林「…………!?」

トール「勿論、洗礼を受けたり、その神の教えを授かって従ったりする人間に比べれば影響は小さいかもしれませんが……、
    それでも今の小林さんが神剣に触れれば、心身に多大な害を及ぼす危険性があります!」

小林「…………っ!」チラッ

ルコア「……残念だが、メイドのトール君の言う通りだ。確かに人の手なら神剣を励起させずに触れられるかもだが……、危険が過ぎる」

小林「……………………!」

ルコア「そもそも並行世界の小林さんが無傷で神剣を抜いたという話を聞いた時、僕も内心驚愕していたんだ。
    それだけ神の力は凄まじく、無傷で抜けたというのは奇跡に等しい。二度はないよ」

終焉帝「そうだ。いくら我が娘の為とは言え、人の子に命を懸けさせる訳には……!」

小林「……………………っ」ギリッ

トール「小林さん……っ!!」ギュウ

小林「…………っそれでもっ!」ベリッ!

トール「あっ!?」

334 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 23:15:00.55 ID:oEqW1vd60

ダダダッ!(霊トールの骸をよじ登る小林)



小林「くっ――――ふっ――――!」グイッ

トール「小林さんっ!!」

小林「――――くっ! はぁ、はぁ……ぬぐっ! ふう、着いた――!」ググッ



キイィィィィン…… キイィィィィン……



小林「これが、神剣…………」ドクン ドクン

小林(近づいてみて分かる、私でも感じる程の神々しさ、怖ろしさ……。およそ人間が触れてはいけない領域のモノ――)ドクン ドクン

小林「…………でも」チラッ



トール’『………………』ジッ



小林(……私しか出来ないなら。私がやらなくちゃ――――!!)キッ!

小林「……………………!」ガシッ!(神剣の柄を掴む)



……キイィィィィン!!



小林「あぐぅっ!!?(掴んだ手が、焼けるに熱い――――!)」ジュウウ!

トール「小林さんっ!! 無茶しないで、手を放して下さいっ!」

トール’『っそうだ、人間! 我に構うな、元々我とお前には何の関係も――!』

小林「そんな゛の゛っ…………! 知るかああ゛ぁぁぁぁぁ!!」グググッ

335 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/01(月) 23:16:32.91 ID:oEqW1vd60

小林「ぐう゛う゛ぅ゛ぅぅぅ…………!!」ジュウウ

小林(くそっ!! でも、痛みで手に力が上手く入らないっ……。これじゃあ……!!)ギリリッ

小林「……も゛う゛、一人、い゛れ゛ば……っつ!!」ググッ



ザリッ



小林「っ!!!」ハッ

滝谷「――なら僕も手伝うよ。小林さん……っ!」ガシッ!

小林「滝谷君っ!」

トール「滝谷さんっ!?」

滝谷「――熱っ、ぐぅっ!?」ジュウウ

小林「大丈夫、滝谷く――!」

滝谷「っ、話は後! 一気に抜くよ゛……っ!!」グッ

小林「! う゛んっ…………!!」



小林・滝谷「「せー…………、の゛っっ!!」」



ズボッ!!



トール「――――――――っ!」

トール’『―――――――――っ』

336 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2025/09/01(月) 23:18:58.17 ID:oEqW1vd60
今日はここまで。長くなったので次回に分けます。それではまた。
337 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:00:05.20 ID:F5wXTSaO0
こんばんは。また更新していきます。
338 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:01:27.79 ID:F5wXTSaO0

小林「やった! 抜け――たっ?」ズルッ

滝谷「うわ、と、ちょ――――!?」グラッ

小林・滝谷「「うわああああぁぁぁぁぁーーーーーっ!?」」ヒュウウウウ!(落下)

トール「小林さんっ!!」ダッ

ルコア「――――――ッ!」ダッ



――ガシッ!



トール「――大丈夫ですか、小林さんっ!?」キャッチ

小林「な、何とか……」フイー

ルコア「滝谷さ――」



――バインッ!



ルコア「ああっ!? 胸で弾かれ――」

滝谷「へぶっつ!!」ズザアァッ!

ルコア「た、滝谷さーん!! ごめん、キャッチ失敗しちゃったーー!?」タタッ

小林「滝谷君っ? 大丈夫――」

滝谷「ノ、ノープロブレム……、むしろ、センキューソーマッチ……!」プルプル グッb

小林「あ、良かった。割と余裕そうだね……」フウ

ルコア「いや、全身擦り傷だらけなんだけど!? ああ、鼻血も出て……!」

滝谷「フフ、我が生涯に、一片の悔い無し……! うっ」ガクリ

ルコア「ああ、滝谷君!? ごめんね滝谷くーーん!」ウワアアン



…………………………

339 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:02:49.44 ID:F5wXTSaO0

…………………………



トール「――ほら、じっとしてて下さ〜い?」パアア(回復魔法)

小林「う、痛ちち……、も、もう少し優しく……」イテテ

トール「充分優しくやってます! 全くもう、またすぐあんな無茶して……!」プンプン

小林「し、心配かけたのは謝るってば……」アハハ

トール「アハハじゃありません! もう……」プリプリ



ルコア「滝谷さん、ごめんね? 僕が至らぬばっかりに……」シクシク パアア

滝谷「痛っ、や、そんな全然。こうして治してもらってますし……」

ルコア「いいやっ、あんな失態、自分で許せない。謝罪に何でもするよ、遠慮なく言っておくれ……!」メソメソ

滝谷「(な、何でもって言った……!?)え、え〜と、じゃあ、その〜……」チラッ

小林「…………………………」ジーーッ

滝谷「ひっ――――。いやその、じゃあ、後で美味しいものでも奢って下さい……」ハハハ……

ルコア「奢るよお〜! 沢山奢らせてもらうよお〜!!」ベソベソ パアア



トール’『ふふ………………』

340 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:04:27.64 ID:F5wXTSaO0

ピカッ…… パアアアア!



トール’『!』パアア

カンナ「! 霊のトール様が、光ってる……?」

エルマ「っ! 見ろ、骸の方も光り出して……!」

トール’『――ああ、そうか。本当に、解放されたのだな……』フワッ

エルマ「トールっ? お前、浮き始めて……」

トール’『刻限の様だ。神剣から解放された事で、我が魂が早くも故郷に引かれ始めている――』フワフワ

エルマ「そんなっ! せっかく会えたのに、もうお別れなのかっ?」

カンナ「やだーっ! まだ一緒にいたいーっ!」ブーッ!

トール’『フッ……、そう寂しがるな、我が友共。我の魂はもう自由の身、故郷に戻ってもしばらくは消えはしない。また会う事もあるだろう』

トール’『……それも、お前達が我を神剣から解放してくれたから出来る事だ』ジッ

小林「!」
滝谷「!」

トール’『改めて礼を言う、人間達……。いや、小林と滝谷と言ったか』

トール’『――ありがとう、小林殿、滝谷殿。ここまでの無礼をお詫びする。貴方達のおかげで、我は――こうして自由になる事が出来た』ペコリ

小林「――うん、良かった。本当に良かったよ」ニコッ

トール’『生憎、お礼に差し上げられる物がないのが、心苦しいが……』

滝谷「全然。その笑顔が見れただけで充分さ」キリッ

小林「ひゅ〜、キザだねえ、かぁっくいい〜♪」ヒューヒュー

滝谷「うん、キメてる最中なんだから、茶化さないでね」ハッハッハ

トール’『フッ……。本当に、可笑しな人間達だ』フフッ

341 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:06:41.11 ID:F5wXTSaO0

トール’『――他の皆も。エルマ。カンナ。ルコアさん。ファフニールさん。非道い言葉を吐いて、すまなかった……。
     そして、探してくれて、会いに来てくれて、嬉しかった。ありがとう』ペコリ

カンナ「っ…………んっ!」コクリ

エルマ「……っ! ふん、気にするなっ、当然だろう!」グッ

ルコア「――――うんっ。こちらこそ、ありがとう」ニコリ

ファフニール「…………フン」プイッ

トール’『――そして』チラッ

終焉帝「……………………」

トール’『……ごめんなさい、お父さん。相談もせず突っ走ってばかりだった、馬鹿な娘で……』

終焉帝「…………っ馬鹿者っ、それを言うなら、私が――」ジワッ

トール’『うん、分かっている――分かっています。きっとお互い様で……、お互いが馬鹿で、少しずつ足らなかったんですよね……』

トール’『……でもね、お父さん。これだけは言わせて下さい』

終焉帝「………………?」

トール’『――私の生は、決して辛いだけのものじゃなかった、輝くもののある、良い生でした! だから――』

トール’『――愛してくれて、ありがとう。お父さん…………!』ニコッ

終焉帝「……………………ッ! ああ、ああっ……! そうか、そうだな……!」ボロッ

トール’『はいっ……!――そして、最後に』クルッ

トール「!」

トール’『……お前とだけは、これが本当に常の別れになりそうだな、もう一人の“我”』ニッ

トール「ええ、もう会う事はないでしょう。もう一人の“私”」フッ

トール’『正直に言えば、人間と暮らしている自分など想像も出来ない故、色々と根掘り葉掘り聞いてみたくもあるが……。
     流石にその時間はないらしい』フワフワ

トール「ええ、ぶっちゃけ今も頑張って留まってるんじゃないですか? 無理せずとっとと逝っていいですよ」シッシッ

トール’『ハッ、お見通しか。――なら、一つだけ良いか?』

トール「何です?」

トール’『――お前はその人間と暮らしていて、幸せか?』

トール「! ――ええ、それはもう。貴女じゃ想像も出来ない程!」ニヒッ

トール’『――そうか。それは良いな!』ニヒッ

トール’『……それでは、皆さん!』パアア……

トール’『――どうも、ありがとうございました!』ピカッ!



ピカアアアッ! ……シュワアアアアア……



トール「……空に昇って……」

小林「……うん。光になって、消えちゃったね……」

342 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:07:46.62 ID:F5wXTSaO0

――――ブオンッ



小林「っ! 何あれ、空に、空間が歪んだみたいな穴が……」

トール「っあの特異な魔力の感じ……! あれがもしかして……!」

ルコア「――ああ。恐らく、並行世界を繋ぐゲートだろう」

小林「……! あれが……!」

ルコア「仮説通り、霊トール君を神剣から解放した事で願いが果たされ、元の世界に帰還できる様になったみたいだね」

小林「……それじゃあ……」

トール「……ええ。私も、ここでお別れの様ですね」

小林「……そっか。そうだよね……」

343 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:09:04.22 ID:F5wXTSaO0

小林「……怪我、治してくれてありがとう。そろそろ立つね……痛つっ」ピクッ

トール「大丈夫ですかっ!? すいません、手の火傷は私達の力では治し切れず……」

ルコア「うん、神剣の力による傷は、僕達ドラゴンの魔力を受け付けにくくてね。時間を掛けて治していくしかなくて……」

小林「大丈夫大丈夫! それでも動かすのに支障ない程度には治ってるからさ」プラプラ

滝谷「そうそう、心配ご無用ですって。ルコアさんもありがとうございました」ヨッコイショ

トール「そうですか? 無理はしないで下さいね……」

小林「あはは、心配性だなあ……」アハハ……

トール「……………………」

小林「……………………」

トール「……………………あの、」

小林「――いや〜、しかし、未だにちょっと信じられないな〜、今回の事」

トール「っ!」

小林「トールちゃんと私が出会ったのって、昨日のお昼頃でしょ? まだ出会って1日しか経ってないのに……。
   起こった出来事が濃密すぎて、何かもう何年も一緒にいる様にも感じるよ」

トール「……はい。昨日も今日も、沢山話しましたね、色々と」

小林「うん。それもドラゴンだとか魔法とか、並行世界とか……。夢みたいな話が次々と出てきて」

小林「……実は全部、本当に夢なんじゃないかって気も――」

エルマ「夢なもんかあっ!!」ガバッ

小林「うわっ!?」

トール「ちょっ、エルマ!? 急に抱き着いて、何――」

エルマ「夢なんかじゃないっ! お前達が出会えた事も、ここまで来れた事も、ここに居る事も、全部! ――夢なんかでたまるかっ!」ヒシッ

トール「……エルマ……」

小林「エルマさん……」

344 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:10:19.74 ID:F5wXTSaO0

エルマ「私はな、本当に感謝してるんだ。小林殿にも、滝谷殿にも、ドラゴンの皆にも。そして何より……、トール、お前にも」ギュッ

トール「な、何ですか改まって、こっぱずかしい……」テレ

エルマ「何が恥ずかしい! 私は本気で言ってるんだっ!」ジッ

トール「っ!」

エルマ「――トール。ありがとう、この世界のトールを、一緒に探してくれて。ありがとう、沢山思い出話に付き合ってくれて。
    私はこの世界のトールの事もお前の事も、どっちも本当に大好きだ!」グスッ

トール「――エルマ……!」

エルマ「達者でな、トールっ、達者で……!」グスグス

トール「――ええ、あなたも、どうかお達者で……!」グスッ

カンナ「――トール様〜〜っ!」ガシッ

トール「わっ!? もう、カンナもですか……」

カンナ「……………………っ」プルプル

トール「……寂しくしてごめんなさい、カンナ。でも……」

カンナ「……っ、大丈夫……っ、平気……っ!」プルプル

トール「っ!」

カンナ「……私、寂しくても、頑張るから。どっちのトール様にも心配かけない位、立派なドラゴンになるから゛っ……!
    だから、行ってらっしゃい、トール様。元気でね……っ!」ベソベソ

トール「……っ! ええ、きっとなれます、カンナは強い子ですから……っ!」ホロリ

トール「でも、辛い時はちゃんと、周りの方を頼って下さいね……。約束です」ナデナデ

カンナ「…………っうん…………」ポロポロ

345 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:11:44.88 ID:F5wXTSaO0

〜〜〜〜〜〜〜〜



トール「――ほ〜ら、二人共、そろそろ離れて下さい? 他の方々にも挨拶するんですから……」

エルマ「う、うう……達者で、達者でなトール……」グスグス

カンナ「元気でね、元気でねトール様……」ポロポロ

トール「はいはい、お達者で、お元気で!も〜……」ナデナデ

トール「……えっと、それで、小林さん……」チラッ

小林「……うん。その、先に他の人に挨拶してきなよ、トールちゃん」

トール「!」

小林「まだ私も言葉、まとまんなくてさ……。用意しとくから、時間ちょうだい」フイッ

トール「……分かりました」

トール「じゃあ、次は……」クルッ

ファフニール「……ムッ」ピクッ

トール「……ファフニールさんも、ありが――」

ファフニール「フン、お涙頂戴の三文芝居も、これでやっと終いか。
       あまりに長引いて、流石に飽きてきていた所だったから丁度良い、清々するという物だ」プイッ

トール「あーっ!? 全くまーたそんな減らず口を……! しんみりしそうになると直ぐこれですっ!
    もう、いいんですか、これが今生の別れになるかもしれないのに……」プンプン

ファフニール「黙れ。最初から言っているだろう、俺にとっては全て暇潰しに過ぎない。今回の捜索も、お前達との付き合いもな」

トール「む〜っ…………」プクー

ファフニール「……それに、今生の別れだと? 笑わせるな、片腹痛い」フンッ

トール「えっ?」

ファフニール「我等ドラゴンの長い永い悠久の命においては、“一度きり”なんてものは凡そ有り得ない。
       どれ程離れようと生きていればいずれ、何かの縁で再び相見えるものだ」

トール「! ファフニールさん……」

ファフニール「であれば、別れを惜しむなど只の時間の無駄だ。別離の挨拶も不要。故に俺は、こう告げよう――」

ファフニール「――また会おう、混沌の竜の娘よ。次はもう少し強くなってから来るんだな」フッ

トール「……全く、どの世界でも、徹頭徹尾めんどくさい方なんですから……」ハア

トール「――はい。また会いましょう、ファフニールさん!」ニコッ

346 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:15:52.20 ID:F5wXTSaO0

トール「――えっと、じゃあ次は……」クルッ

終焉帝「!……………………」

トール「えっと……、お父さん、その……」

終焉帝「……私はな、トール。今でこそ終焉帝などと敬われているが……。最初は、ただ殺し合いが他より上手いだけの、竜の一匹に過ぎなかった」

トール「え……?」

終焉帝「殺し合いが上手いから、他より長く生き残り……。
    他より長く生き残ったから、いつの間にか勢力の長など任される様になっただけの……、ただそれだけの者に過ぎない」

終焉帝「私はきっと、相応しかった訳ではないのだ。勢力の長にも、そして父親にも……。これまで間違いばかりを選択してきた様に思う」

トール「そんな事っ! お父さんは私が知る中でも最も立派な――っ!」

終焉帝「――だがな、トールよ。そんな私だが、お前と話して救われたのだ」フッ

トール「えっ――――」

終焉帝「ここに来るまでの道中、お前は言っていたな。時に衝突しても、すれ違って辛い思いをしても、それらも含めて小林殿と同じ時を過ごしたいと。
    辛くても苦しくても、小林殿と共に在れるならどんな時間も私にとって宝物なのだ、と」

トール「は、はい……。その、改めて言葉にされると気恥ずかしいですが……」テレテレ

終焉帝「フフ、そうか。……お前がお前の世界の小林殿と口論をしてこの世界に来た様に、間違いやすれ違いは誰にでも起こり得るものだろう。
    それはきっと、避ける事のできないものだ」

終焉帝「だがお前は、その痛みも、苦しみも、また宝物なのだと言った。その言葉が、どれだけ私に優しく響いたか……」

トール「お父さん…………」

終焉帝「……私も、お前を見習って、歩いていくよ。傷も後悔も、癒えぬままに抱えて……、いや、愛おしく抱き締めながら、前を向いて」

終焉帝「約束しよう。きっとお前にも、同胞達にも……、そしてこの世界のお前にも恥じぬ様に。長として、親として立派に在り続けてみせると」

トール「お父さんっ――、……っ!!」ダキッ

終焉帝「っ! トール……」

トール「――少なくとも私にとって、お父さんは最高の父親です。ええ、どんな並行世界のお父さんでも、それは変わりません」ギュッ

終焉帝「っ……、そうか、ぞう゛が……っ!」ジワッ

トール「ありがとう、もう一人のお父さん――。お元気で」ポロポロ

終焉帝「……っああ゛、元気でな、トール……、もう一人の我が娘よ……っ!」ギュッ

347 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:18:30.26 ID:F5wXTSaO0

〜〜〜〜〜〜〜〜



トール「……っ、グスッ、……フウ。よし、じゃあ次は……」

ルコア「――トール君、少し良いかい?」

トール「っルコアさん! はい、もちろん。なんですか?」

ルコア「うん、じゃあちょっと、離れたこっちに来てもらって……」チョイチョイ

トール「?」テクテク



テクテク テクテク…… ピタッ



トール「……で、どうしたんですか、皆さんには話しづらい事でも?」

ルコア「うん……、まあ、話してどうこうなるものでもないんだけど、一応ね……」

トール「?」

ルコア「あのね――――」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



…………。…………!…………、…………。

――――。…………?…………。…………!



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



トール「――ええ。だから、大丈夫ですその件は」

ルコア「――そうかい。なら良かった、ごめんね、証拠もない様な推測で、惑わせる様な事を言って……」

トール「いえ、むしろより覚悟が決まりました。ありがとうございます」フフッ

ルコア「そう……。…………はあ、良いなあ」ハアー

トール「? 何がです?」

ルコア「そういう、トール君の他人を信じられる……、怖くても信じようと思える強さが。
    僕はもう、誰かと触れ合って傷付く事を考えるだけで怖くって」フウ

トール「ふふっ。あなた程強くても、そういう事で悩むんですね」

ルコア「あー笑わないでよ〜! それに、僕は全然、強くなんて……」

トール「い〜え。あなたは強いですよ。力だけじゃない、他者を慮れる慈しみがある」フフッ

トール「だから私との違いなんて、それこそタイミングだけですよ。
    大丈夫、あなたにも案外すぐに、良い出会いがあるかもしれませんよ? ……知らんですけど」

ルコア「ええ〜? 無責任だなあー……」モ〜

ルコア「……でも、そうだと良いな。うん、色々ありがとうトール君。あっちでもご健勝で」ニコッ

トール「ええ、ルコアさんも」ニヒッ

348 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:21:20.37 ID:F5wXTSaO0

トール「――さて、後は……(キョロキョロ)……むっ」

滝谷「………………」

トール「――ちょっと〜、滝谷さ〜ん?」ツカツカ

滝谷「おや、トール君。お疲れ様……」

トール「お疲れ様♪ じゃねーでしょう、な〜に皆から離れてこんな端っこで一人で佇んでやがるんですか」グイグイ

滝谷「い、いやいや、ちょっと休憩してただけだよ! 皆とトール君のお別れに水差したら悪いし……」

トール「は〜? じゃああなたは私とちゃんとお別れする気はないって事ですか〜? めんどくさがってるんですか〜?」グリグリ

滝谷「い、いやごめん! そんな事ないです! ただちょっと僕も何言おうか悩んでて、ごめん近い近い近い……」ヒイイ

トール「――全く。そんなんじゃ安心して任せられないでしょうが」ボソッ

滝谷「え? ……うわっ!?」グイッ

トール(いいですか、よく聞きなさい。私はこれから元の世界に帰ります。
    こちらの世界の小林さんのお世話をしたいのは山々ですが、元の世界にも私の小林さんがいらっしゃいます。
    これはどうしようもない二者択一、断腸の思いですが、私は行かねばなりません)ヒソヒソ

滝谷(う、うん)ヒソヒソ

トール(ですから……。大変不本意ですが、こちらの小林さんは託します……、貴方に)ヒソヒソ

滝谷(――――!)

トール(悔しいですが認めましょう、この世界で1年間小林さんを支えてきたのは貴方です。
    ならその功績を信じて、貴方に任せてもいいでしょう……。百歩譲って、いや千歩譲ってですけどっ!)ヒソヒソ

トール(ですが自惚れないで下さい? 小林さんを危険な目に合わせたら許しませんから。
    もし合わせたら、その時はどんな手段を使ってでも並行世界の壁をもう一度越えて、貴方を殺しに……って)ヒソヒソ

滝谷「……………………っ」ククッ

トール(何笑ってんですか、ぶっ飛ばしますよ!?)ヒソヒソオ!

滝谷(いや何、怖い顔して可愛い事言ってるから、ギャップでね……ククッ)ヒソヒソ

トール(むー、本気で言ってるんですよこっちは……)ヒソヒソ

滝谷(――うん、失礼。そして大役の任命、光栄だね。謹んで承るさ。そしてこっちからも一つ――)ヒソヒソ

トール「?」

滝谷(――そっちこそ、元の世界の小林さんを泣かせない様に。泣かせたら、どんな手段を使ってでも殴りに行くから)ボソッ

トール「――――!」

滝谷「……なんてね。冗談だよ」ニヤッ

トール「…………ふふ、ほんっと、生意気な人間ですね…………!」クックック

滝谷「うふふふふふふ」フッフッフ

トール「――フフッ」トンッ(滝谷の胸を小突く)

滝谷「!」

トール「――頼みましたよ、我が盟友」ニッ

滝谷「ええ、任されたでヤンス」ニヘッ

349 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:23:11.66 ID:F5wXTSaO0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



トール「――さて」ザッザッ……

トール「……小林さん。皆さんへの挨拶、終わったんですが……」ザッ

小林「あ、ああ、そう……。お疲れ様、トールちゃん」クルッ

トール「はい。そちらはどうですか、言葉……、まとまりました?」

小林「あ〜、それは、うん、まあ……」シドロ

トール「……………………」

小林「その、えっと、あのね……」モドロ

トール「……………………」

小林「…………いや、ごめん、実はまだ」フイッ

トール「……そうですか」

小林「いやっ、ほんとごめん、せっかく時間もらったのに、間に合わなくて……」

トール「……………………」ツカツカ(詰め寄る)

小林「そのっ、言いたい事がない訳じゃないんだ! ただその、いざ伝えようとすると途端に――」

トール「――小林さん」ピタッ

小林「え――――」



ガバッ!(抱き着く)



小林「っ――――」

トール「――無理に言葉にしようとしなくても、大丈夫ですよ、小林さん」

350 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:24:19.68 ID:F5wXTSaO0

トール「言葉がまとまらないからって、今更小林さんの事を薄情なんて思ったりしません。小林さんの優しさは、ずっと心で伝わってますから……」

小林「トールちゃん……」

トール「きっと、伝えたい事が沢山ありすぎて、何を言えばいいか逆に分からなくなっているんでしょう?」

小林「……っ……、うん、そうなんだ。でも、なんで……」

トール「ふふっ、分かりますよ。だって……、私もおんなじですから」

小林「っ!」

トール「…………ねえ、小林さん。こうして触れ合って、感じますか? 私の心臓の鼓動の音」トクントクン

小林「え…………?」

トール「私が確かに、今此処に生きて存在している音です。私も感じます……、小林さんの鼓動。
    その熱も、湿りも……、ってアハハ、この言い方だと我ながら少しキモいですね」アハハ

トール「……でもこの音が、私達が夢ではないという証明ですよ、小林さん」

小林「…………っ!」

トール「私は此処に居ますよ、小林さん。昨日、あなたと出会い泣いて逃げた私。雨の中であなたが見つけてくれた私。
    今日ここまで短い冒険をしながら共に語り合った私……。全部、夢オチではない現実の私です。メイドでドラゴンのトールです」

小林「…………うん、そうだね…………」

小林「この温かさが、嘘な訳ないじゃんね…………っ」ギュッ

351 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:26:02.01 ID:F5wXTSaO0

小林「……ごめんね、トールちゃん。
   最初は、『帰れる様になって良かったね』とか『楽しかったよ、ありがとう』とか『あっちの私によろしくね、元気でね』とか……。
   綺麗な祝福の言葉だけで、爽やかに送り出したかったんだ」

トール「はい」

小林「…………でもね、昨日と今日の出来事を思い返してたらね…………」

小林「…………本当に、楽しい事ばかりで……っ」グスッ

トール「はい……っ」

小林「トールちゃんも他のドラゴンの皆も、一緒にいてとっても楽しくて……。こんなに仲良く話せるの、今までは滝谷君くらいしかいなくて……」

小林「そう思ったら……、『寂しい、行かないで』とか『これっきりなんて嫌だ』とか『これからも一緒にいて』とか……っ。
   君を困らせてしまいそうな言葉ばかり浮かんできちゃったんだ」

小林「幻滅でしょ? 私は本当は優しくなんてなくて、ただ甘ったれて寂しがりなだけの人間で――」ジワッ

トール「――いいえっ!」ギューッ

小林「っ!」

トール「――そんな事、ありません。そんな訳、ないんです……っ!」

トール「――だって、私も寂しいですもん……っ」ズビッ

小林「……っ、トールちゃん…………!」ポロッ

トール「……ありがとう、小林さん。そんなにも私の事を想ってくれて。思い出を大切にしてくれて」グスグス

トール「私、あなたの事を忘れません。私の世界の小林さんと同じくらい、あなたの事もずっとずっと、大好きです…………っ!」ベソベソ

小林「トールちゃん……っ。私も、ありがとう゛っ! 元気でね、元気でね゛……っ!」ポロポロ ギュッ

352 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:28:57.71 ID:F5wXTSaO0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



トール「……………………」ヒック

小林「……………………」グスッ

トール「………………では」ニコッ スッ

小林「………………うん」ニコッ スッ

トール「――――――――それじゃ、皆さん!」クルッ(皆の顔を見る)

小林「……………………」
滝谷「……………………」
エルマ「……………………」
カンナ「……………………」
ルコア「……………………」
ファフニール「……………………」
終焉帝「……………………」

トール「……改めて! お世話になりました!」ペコリ

トール「――それでは!」クルッ バサッ!



バサッ バサッ!(ゲートに向かって飛んでいく)



小林「――――トールちゃんっ!!」

トール「っ!」

小林「――――またね〜〜っ!!」

トール「――っ、はいっ! またいつかっ!!」ニコッ



バサッ バサッ ――ブオンッ!

シュン……(ゲートが消失する)



小林「……ああ。行っちゃった……」

滝谷「うん。行っちゃったね……」

353 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:30:09.53 ID:F5wXTSaO0

【ゲート内・並行世界の狭間】

ゴオオオオオオオ…… ゴオオオオオオオ……!



トール「……! 来る時は無我夢中で気付きませんでしたが……。これが、並行世界同士を繋ぐ狭間の領域……!」

トール「(次元そのものが歪んで千切れた様な、異様な空間だ……!)……っぐ!?」ブオッ



ゴオオオオオオオ…… ゴオオオオオオオ……!



トール(膨大な力の奔流が渦巻いていて、ともすれば飲み込まれて、何処かに吹き飛ばされそうだ……!)ギリッ

トール「…………でもっ!!」バサッ!



バサッ バサッ バサッ!



トール「あれだけ皆さんに見送ってもらって、想いを受け取っておいて……っ! 失敗しましたなんて、言える訳ないでしょうがっ!」

トール「私は、必ず……っ! 私の世界の小林さんに、もう一度会うんだあああああっ!!」ギンッ!

トール「オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」ゴオッ!



バサッ バサッ バサッ…………!

キィィィィィィィィィィン!!

354 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:31:33.41 ID:F5wXTSaO0

【元の世界・夕方】

【小林宅のある街・上空】

キイィィィィン!!

――バカアッ!!



トール「――――出れたっ!! っ、ここは……」キョロキョロ

トール「私達の……、小林さんちがある街の上空、ですね。元の世界に無事帰って来れたのでしょうか……」ハアハア

トール「確かめるには……、そうだ、魔力感知!」ブオンッ



ブオンッ ブオンッ ブオンッ…… ピコン!



トール「っ、ヒット! この魔力のマーキング反応は、私が小林さんに付けていたもの! じゃあ……!」

トール(本当に、帰って来れたんだ、元の世界に……!)

トール「……む。この反応、小林さん、街の中を走り回っている……? っ! よく感じれば、滝谷さんや地域の皆さんも……?
    もしかして、私を探してる……!?」

トール「空は……、もう夕暮れ時ですか」チラッ

トール(並行世界を出る時も、大体それくらいの時刻でしたね……。仮に、並行世界同士で時間のズレはないのだとすると……)

トール「もしやこの元の世界では、私が昨日の明朝から2日間行方不明になってる、って事です……!?」ハッ

トール「っ急ぎましょう! 一秒でも早く、小林さんの元へ……っ!!」バサッ



バサッ バサッ ゴオオオオオオオ……!

355 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:32:58.78 ID:F5wXTSaO0

【街の中、とある路地】

バサッ バサッ バサッ……



トール「っ! 見つけた、小林さん――っ!」バサッ!



小林「――――おーい、トール〜〜!! どこだ〜〜!? 出てきて〜〜っ!!」ハアハア



トール(待ってて、すぐ行きますから、小林さん――ッ!)バサバサ!



バサッ バサッ ゴオオオオオオオ……!



《(回想)〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【1時間ほど前、並行世界にてルコアとの別れの会話】



トール『……で、どうしたんですか、皆さんには話しづらい事でも?』

ルコア『うん……、まあ、話してどうこうなるものでもないんだけど、一応ね……』

トール『?』

ルコア『あのね――――』



ルコア『――多分、君の方が“イフ”……“もしも”のトール君なんだ』

356 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:34:24.85 ID:F5wXTSaO0

トール『?? どういう意味です?』キョトン

ルコア『……うん。昨日、並行世界は“もしもの可能性の世界”だと説明したろう?』

トール『はい。“もしもあの時、別の選択をしていたらどうなっていたか?” という可能性が、
    次元を越えて実際に存在している世界が並行世界であるという話でしたよね』

ルコア『そう。ただ、そうだとするとこう疑問が湧いてこないかい? “一体どちらがどちらにとっての、もしもなのだろう?”と』

トール『どちらが、どちらにとっての……? それはつまり、どちらの世界がメインであるかという事ですか?』

ルコア『ああ。トール君にとっては、元居た世界の方が当然メインであり、この世界が“もしも”だと認識していると思うんだけど……』

トール『それはまあ、そうですね。……、あ、でもそっか……』

ルコア『うん、反対の事が僕達にも言えて、僕達はこの世界をこそメインであり、トール君が元居た世界の方が“もしも”だと感じている』

ルコア『もちろん、並行世界とは独立に存在しているものであって、本来主も従もないものなんだろうけど……。
    しかしやはり、どちらの“もしも”が有り得やすいか・有り得にくいか、という発生確率の違いというものはあるんじゃないかと思う』

トール『なるほど。言わば木の様に枝分かれしていく世界において、どちらが幹に当たり、どちらが枝葉に当たるか、という話ですね』

ルコア『その通り。そしてどちらが有り得やすいか・有り得にくいかという観点においては……、
    僕は断然、トール君が元居た世界の方が有り得にくいと思っている』

トール『!』

357 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:37:10.61 ID:F5wXTSaO0

ルコア『一年前に君と小林さんが出会う為には……、
    まず一年前に君がたまたまこの山に逃げ延びた上で、小林さんがたまたまそれと同じ日に泥酔して、
    たまたま見知らぬ駅で電車を降りて、たまたま彷徨った森で、たまたまそこにいたトール君と出会う……という事が必要だ』

ルコア『一つ一つならともかく……、そうした偶然に偶然が全部重なる可能性がどれだけ低い確率になるかは、想像がつくだろう?』

トール『それは……、その通りかもしれませんね。だから、私の方が“イフ”だと……』

ルコア『うん。今回僕達は二つの並行世界の接触を経験した訳だけど……。
    もしもっと多くの、無数の並行世界について知る事が出来たとしたらきっと、トール君が亡くなっている世界の方が多いんじゃないかと僕は考える』

トール『……………………』

ルコア『……まあ、だから何だという話ではあるんだけど。実際そうだとして、それで何が変わるという訳でもないんだ。
    メインだろうがイフだろうが、それぞれの並行世界はこれからも別個に存続していくだろうし』

ルコア『それに、今話した発生確率の話もただの仮説に過ぎない。世界の法則はまだまだ未知だらけだ。
    今日、結果的にこの世界のトール君と小林さんも知り合う事になった様に、運命論的に、基本二人は必ず出会う因果になっている、
    なんて考える事もできる。でもっ――』

トール『――大丈夫ですよ、ルコアさん』

ルコア『っ……!』

トール『その先は、言わなくて大丈夫。ちゃんと伝わりましたから、悪意や中傷ではない、心からの忠告だって事は』ニコッ

ルコア『トール君……』

トール『要は、当たり前だと思わず大切にしてねって事ですよね? だって私達の世界、私と小林さんが出会った世界は――』



トール『――奇跡みたいな確率で生まれた、かけがいのない世界だって事だから!』パアッ



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜》



トール「――こ、ば、や、し、さぁ〜〜〜〜〜〜んっ!!!」ゴオオオオ!

358 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:38:26.12 ID:F5wXTSaO0

【現在・元の世界のとある路地】



小林「っ! その声、トール…………」クルッ



ゴオオオオオオオッ!



トール「――小林さんっ!!」ドカッ! ギュッ!

小林「うわっぷっ!?」



ズザザアアァァ!!



小林「……うぇ、ぺっぺっ……。危ないなもう、飛んでくるなり抱き着くとか!」ケホッ

トール「んふふ、小林さん、小林さん、小林さ〜ん♡」スリスリ ギュッ

小林「猫みたいにじゃれつかない! 全く、何してたんだよトール、2日も連絡もしないで心配かけて! 皆どれだけ心配したとっ……」ピクッ

トール「……………………」ヒシッ

小林「……トール?」

トール「……………………っ」ギュウーッ フルフル

小林「(震えてる……)……どしたの、トール? 何かあった?」ポン

トール「…………はい」

トール「色々……、本当に色々、あったんです。この2日……」ギュッ

小林「……………………はあ。そっか」フウ

トール「そうなのです」

小林「そうなのですか。……じゃあ、猫になっちゃうのもしょうがないね」ナデナデ

トール「はい、しょうがないのです。えへへ」スリスリ ギュウ

小林「はいはい、全く手のかかる最強種ですこと……」フッ ナデナデ



……………………

359 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:40:53.03 ID:F5wXTSaO0

……………………



小林「――はい、そろそろ終わり! ほら立ってトール!」ベリッ スック

トール「ああんっ! もう少しだけ〜……っ!」ヘロヘロ

小林「はいはい、帰って落ち着いたらね。さあ行くよ!」スタスタ

トール「は〜い……」スクッ テクテク



テクテク……



小林「――何があったかは後で詳しく聞くとして……。こっちもこの2日大変だったんだからね? トールが何の連絡もなくいなくなるから……」

トール「はい、ご心配おかけしてすみませんでした……」シュン

小林「最初はすぐ帰ってくるかなと思って、丁度休日だったしカンナちゃんと家で1日待ってたけど、一向に帰って来なくて……。
   心配になって滝谷君やエルマ、ルコアさんやご近所さん、商店街の皆さんにも聞いて回ってみても全然手がかりなくて」

小林「しかもルコアさん曰く、魔力の痕跡も追えなくなってたらしくて。
   これはちょっと家出どころじゃないかもと思ったから、今日は朝から街中トールを探し回ってたんだよ」

トール「う、ううっ! それは大変、申し訳ないです……」シュシュン

小林「そーだよ〜? 私はともかく、話を聞いた滝谷君や商店街の皆さん、才川さん姉妹や翔太君、
   それにルコアさんやエルマやあのファフニールさんも途中から手伝ってくれたんだから。後で皆にお礼言っておきなね?」

トール「はい、それはもう……、えっ、ファフニールさんもですかっ?」

小林「そうそう。滝谷君に誘われて、最初は『何故俺が……』とか口ではぶつくさ言いまくってたけど、何だかんだ動いてくれてさ。
   その時言った理由がね――」

トール「……“暇潰し”、ですか?」クスッ

小林「ぷっ! そうそう、ほんとコテコテのツンデレだよねあの人、いやあのドラゴンさんは……」アハハ

360 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:44:37.40 ID:F5wXTSaO0

トール「……本当に、ご迷惑おかけしました。そしてありがとうございます、そんなに一生懸命になって探してくれて」テクテク

小林「ん、まあ良いって事さ。もう1年の付き合いなんだし、そんなに遠慮しなくていいよ」テクテク

トール「……………………」テクテク

小林「……………………」テクテク

トール「…………小林さん」

小林「…………ん?」

トール「ごめんなさい……。一昨日の夕食の件、全品私の尻尾肉のメニューにしてしまった事」

小林「……………………」

トール「小林さんの気持ちを無視した強制になっていたと、今更ながら気付きました。反省しています……」

トール「……もう、私の尻尾肉を料理に出すのは、止めにしますね。今まで本当に、すみませ――」

小林「――いや。時々一品、食卓に混ぜて出すぐらいは続けていいよ」ボソッ

トール「…………え!?」バッ

小林「確かに、今はまだ私も、友人の身体を食べる覚悟なんて決まってないから、出されても結局今まで通り、食べずに弾いちゃうかもしれないけど……」

小林「でも、私もトールの“大切な人に食べて欲しい”って気持ちを軽んじてたと思ったから……。
   だからいつか、私の覚悟が出来たら、食べるのチャレンジしてみるからさ」

小林「なのでそれまでは……、出し続けてくれると、嬉しい」ポリポリ

トール「小林さん…………っ!」ブワッ

トール「――はいっ、そうさせて頂きますねっ!」ニコッ

小林「ん、よろしく。……私も、怒鳴っちゃってごめんね」チラッ

トール「い〜え〜♡ っそうだ小林さん! ついでに我が儘聞いてもらえます? 私の事、“トールちゃん”って呼んでみて欲しいんですが……」フフフ

小林「は、はぁっ? いきなり何突拍子もない事言い出すの……」

トール「えへへ、それはですね〜―――――」



ワイワイ ガヤガヤ テクテク……






おわり
361 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:45:38.50 ID:F5wXTSaO0

《epilogue.1 カンナ、襲来》

【並行世界・滝谷(&小林)宅】

………………………………

カタカタ カタカタ カタカタ……



小林「………………………………」カタカタ

小林(――早いもので、あの衝撃の出会いからもう1週間が経った)

小林(元の世界に帰った並行世界のトールちゃんを見送ってから、ルコアさん達の転移魔法で滝谷君のアパートまで送ってもらった後、
   ドラゴンの皆さんとは幾ばくかの挨拶を交わしてお別れした)

小林(体力的にも気力的にも疲れが溜まっていた様で、帰ってきてから二日は滝谷君と一緒に家でゆっくり休んでいた。
   こういう時は、自分で予定を決められるフリーランスで良かったって思うね)

小林(それも過ぎたら、また以前通りの仕事の日々に戻った。まるで何事も無かったかの様に……)

小林(やっぱりあの2日間は夢だったんじゃ……、なんて感じる瞬間もあれど。もうそうは思わないようにした)

小林(だって今も覚えてる。神剣を抜いた時の手の痛み。トールちゃんとの別れの時の涙。そして……、トールちゃんの鼓動の音)

小林(これから先、二度と出会う事のない非日常だとしても……、それでもずっと忘れない。大切な思い出の感触だ――)カタカタ

小林「……よし。これでこのプログラムもひと段落……!」カタカタ タン!

滝谷「――小林さん、お疲れ様〜。そろそろお昼にしない?」ヒョコ

小林「うん、そうだね。こっちも丁度一区切り付いたし、ご飯にしよう!」ガタッ

362 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:46:53.03 ID:F5wXTSaO0

……………………



小林・滝谷「――いただきま〜す!」パンッ



カチャカチャ パクパク……



滝谷「……う〜ん、今日も今日とてレトルト三昧。もちろん十分美味しいけど……」

小林「分かる。トールちゃんの手料理が早くも恋しいね」

滝谷「栄養バランス的にもね……。うーむ、一念発起して料理のスキルツリーを伸ばすべきか――」



ピンポーン!



滝谷「む? 玄関チャイム……?」

小林「誰だろう? はーい、今行きまーす!」トタトタ……

363 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:47:58.85 ID:F5wXTSaO0

【滝谷宅・玄関】

ピンポーン、ピンポーン!



小林「――はいはい、今開けますねー!」



ガチャ



小林「……あ、君は……!?」

カンナ「……こんにちは」チョコン

小林「カンナちゃん! ……ん? それと後ろの方は……」チラッ

ファフニール「……………………」ゴゴゴ

小林「ふぁ、ファフニールさん……!?」

滝谷「え、なになに、カンナちゃんとファフ君じゃない!? 久しぶり〜!」ヒョコッ

ファフニール「黙れ、ファフ君言うな馴れ馴れしいぞ。それにまだ一週間しか経っていないだろう」ギロッ

滝谷「え〜、人間的には一週間で充分久しぶりだよ〜。今日はどうしたの?」ニコニコ

小林「え、もしかして何か新たな問題でも……!?」アセッ

カンナ「んーん、そういうのじゃない。今日はアイサツしにきた」

小林「挨拶……? 何の?」



カンナ「あのね、私今日から隣の部屋に住むから」ボーン

364 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:49:12.78 ID:F5wXTSaO0

小林「え……!? 隣に……」

滝谷「住むうぅぅぅ!?」

カンナ「フツツカモノですが、よろしくおねがいします」ペコリ

小林「いや違う、それは別の時の挨拶っ!」ビシッ

カンナ「そーなの?」キョトン

小林「……じゃなくて! え、そりゃまた何で急に……」

ファフニール「……正確には、俺とコイツの二体で住む事になった。あくまで俺はついでだがな」ブスッ

小林「さ、さいですか……?」

カンナ「――私ね、知りたくなったの。向こうの世界のトール様が見てきたものが何なのか」

小林「!」

カンナ「トール様は元々優しかったけど、向こうの世界のトール様はそれに加えて、とっても明るくて素直で柔らかくなってた。すっごくびっくりした」

カンナ「向こうの世界のトール様は、それは向こうの世界のあなた……、コバヤシに出会ったからだって言ってた」

カンナ「私、誓ったの、2人のトール様に。“心配かけない位、立派なドラゴンになる”って。
    だからまず、向こうの世界のトール様と同じ様に、コバヤシを近くで見て学びたいって、思ったの」

小林「カンナちゃん……」

カンナ「だめ、かな……?」ウルッ

小林「……………………っ!」ギュッ(抱き締める)

カンナ「っ!」

小林「……駄目な訳、ないよ……。こちらこそ、よろしく……!」ギュウ

カンナ「……ん。ありがとう」ギュッ

365 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:51:56.04 ID:F5wXTSaO0

滝谷「歓迎するよ、カンナちゃん。僕も合わせてよろしくね〜♪」ニコッ

カンナ「……ん、よろしくおねがいします」スーッ

滝谷「あれー、何で遠ざかるのかなー?」ニコー

カンナ「……なんかやだ。嫌いじゃないけど、うさんくさい」ジッ

滝谷「え、ええ〜!?(普通にショック……!)」ガーン

小林「で、ええと、カンナちゃんは分かったとして、ファフニールさんは何故一緒に……?」

ファフニール「フン……、要はコイツの保護者だ。
       子供一匹で人間界で暮らすのは些か大変だろうから面倒を見てやってくれと、ケツァルコアトルに頼まれてな」チッ

小林「ルコアさんに……? そう言えばルコアさんはどうしたの? 元々彼女がカンナちゃんを保護していたって話だったけど……」

カンナ「ルコア様も今、人間界に来てる。けど別のヤボヨーがあってしばらく忙しいって言ってた。エルマ様も一緒なんだってー」

小林「野暮用? ルコアさんと、エルマさんもか……、一体なんだろう?」

カンナ「んー、よく知らないけど、大事な事なんだって」

滝谷「そっかー、それでファフ君がご指名を受けたって事なんだね」

ファフニール「フン、全く面倒な事だが……。まあ、これも暇潰しでな……」

カンナ「うそ。ほんとは人間界の観光がしたくてずっとわくわくしてた」ズバッ

小林「え、そーなの?」ホヘー

ファフニール「なっ! 貴様、出鱈目を言うな――!」

カンナ「この前来た時に見た人間界が珍しかったのか、人間界の色んなザッシ?とかを取り寄せて読んでたって、ルコア様が言ってた」ズババッ

ファフニール「クッ、あの女……!」ギリッ

カンナ「そのくせ、人間界で暮らす為に必要なコセキ?とかジューミンヒョー?とかの書類作りやチンタイケイヤク?とかをするのが苦手で、
    めっちゃ手間取ってた。ルコア様に手引きも作ってもらってたのに」ズバババッ

ファフニール「貴様……ッ!!」

小林「え、何それ可愛い……」ホッコリ

滝谷「ギャップ萌えだねえ……」ニンマリ

カンナ「そのせいでほんとはもっと早くこっちに来れるはずだったのに、一週間もかかっちゃった。待ちくたびれたー」プンプン

ファフニール「巫山戯るな! 俺はお前の代わりに雑務をこなしてやっているのだ! 感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いは――ッ!」

カンナ「ん、それはそう。ありがとう、ファフニール様」ペコリ

ファフニール「ぬ…………っ」グッ

滝谷(無垢な子供に調子を崩されてるねえ)フフッ

366 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:53:36.63 ID:F5wXTSaO0

小林「えーっと、ともかく二人共、隣人になるという事ですし、これからよろしくお願いします。良ければ上がっていきますか?」

カンナ「わーい。ルコア様に、挨拶に行くならお詫びも兼ねてこれを持ってきなさいって、
    魔法界の果物沢山もらってるから、一緒に食べよー」テクテク…………

小林「わ、ホント? 美味しそう、楽しみー!……」スタスタ……

滝谷「お詫び? ああ、ルコアさんあのお願い、覚えてくれてたんだ……! それでファフ君はどうする? 寄ってくかい?」チラッ

ファフニール「ファフ君言うなと言うに。……フン、まあそこまで言うなら招待を受けてやろう。丁重にもてなす事を許す」

滝谷「あっはっは、じゃ上がってよ。あ、そうだ……、ならゲームでもするでヤンスか?(眼鏡ON)」スチャ

ファフニール「遊戯《ゲーム》? この前も言っていたが、それは一体何だ?」スタスタ

滝谷「おっ興味あるでヤンスか〜? 百聞は一見に如かず! じゃあまずは定番所を一緒にプレイ――」スタスタ



ガチャ バタン……

367 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:57:30.39 ID:F5wXTSaO0

《epilogue.2 カンナ、学校へ行くanother》

【カンナが人間界に来て数日後】

【並行世界・小学校、とある教室】



カンナ「――転校生の大山カンナ、です。よろしくおねがいします」ペコリ

教師「はい、ありがとう大山さん! みんな、仲良くしてあげてね〜!」

生徒たち「「「は〜い!!」」」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



ワイワイ ガヤガヤ

生徒A「――大山さん、かわい〜♪ よろしくね!」

生徒B「髪も肌も白〜い! きれ〜!」

カンナ「ん、ありがと」コクリ

生徒C「外国から来たんだって? すげー!」

生徒D「運動はできんのか? 昼休みドッヂボールしよーぜ!」

カンナ「うん、いいよ」コクリ



ワイワイ ガヤガヤ……



才川「…………フン」ジーッ



カンナ「? ……ねえ。離れてこっちを見てるあの子はだれ?」ピクッ

生徒A「え? ……あー、才川さんの事?」チラッ

カンナ「うん。私、あの子とも仲良くなりたい」コクッ

生徒B「あー、そうなの? でも、う〜ん……」

カンナ「?」

生徒C「やめとけ!やめとけ! あいつは付き合いが悪いんだ!」

カンナ「お、おう?」ビクッ

生徒D「『一緒に遊ぼうぜ』って誘っても、興味がないんだか意地張ってるんだか……」

生徒C「『才川リコ』、小学4年生、孤立ぎみ。学業は真面目でそつなくこなすが、今ひとつ協調性のない女……」

生徒D「昔から偉そうで見栄っ張りで女王様気取りの振舞いをしていたため少し敬遠されていたが、
    ここ1年位はそれが更に悪化して周りとギクシャクして、クラスでも浮いちまってるんだぜ」

生徒C「根が悪い奴じゃあないんだが、かと言って素直になるには少々凝り固まりすぎちまった……、愛想のない女さ」

カンナ「……ふーん」ジッ

生徒D「そうそう、気難しい奴だから、下手に近付かない方が……」

カンナ「ん、ありがと。じゃあ行ってくる」テクテク

生徒C「ってあれぇ!? 話聞いてた!?」ガビーン

368 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:01:19.75 ID:F5wXTSaO0

テクテク…… ピタッ



カンナ「……はじめまして。私、大山カンナ」ペコリ

才川「……………………」ギロッ

カンナ「才川さん、だよね? 私、あなたとも仲良くしたい。これからよろしく――」スッ(手を差し出す)

才川「――――――っ!」バシッ(手を払い除ける)

カンナ「っ!」

才川「よろしく? しないわよっ、気安く話しかけないでもらえる?」イライラ



生徒A(あわわ……、今日の才川さん、いつも以上に機嫌が悪い……!)ワタワタ

生徒B(きっと転校初日で人気者になってる大山さんを見てやっかんでるんだ……!)ハラハラ



才川「なあに? もしかして同情のつもり? 私が一人でいるからって、可愛そうに思って手を差し伸べてあげようって?
   あ〜ら転校生さんは随分お優しいんですのねえ?」

才川「でもお生憎様、私は好きで一人でいるの。他のクラスメイトはみ〜んなガキっぽくて嫌になっちゃってね」フッ

才川「――分かる? あんたがやってるのは、見当違いのありがた迷惑だって言ってるの。分かったらさっさとどっかに行って下さる?」ギッ

カンナ「……………………」

才川「何よ。黙ってないで何とか言ったらどうなの!?」ゴオッ!

カンナ「……………………」

カンナ(……おんなじだ。あの日の、死んじゃったトール様と)



《(回想)〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



トール’『――だが、もう違う。死んで、やっと愛想が、未練が尽きた。分かるか? 我は今、正に“自由”を手にしているのだ!』



――――――――――



トール’『そうだ、その通りだとも! 死の間際、最後に私はこう願った。“もう誰にも会いたくない”、“永遠に一人でありたい”と!』



――――――――――



トール’『我の結界をこれだけ荒らしておいて、言うに事を欠いて“会いに来た”?“話をしたい”?“相互理解”?』

トール’『知った事か! 興味もない! 独り善がりのありがた迷惑という奴だ、失せろ!』



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜》



カンナ「――――才川さん」

才川「? 何…………」

カンナ「……………………」ギュッ(才川の手を取り握る)

才川「っっっ!!?」ボッ

369 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:03:34.58 ID:F5wXTSaO0

才川「なっ、ななななななな何を……!?」アセアセ

カンナ「――わかる。本当は一人で寂しいんだよね、あなたも」

才川「っな……!?」ドキッ

カンナ「でも、寂しい自分を認めちゃったら余計にみじめになる気がして、怖くて、それで周りには寂しくないって強がっちゃうんだよね」

才川「…………っ! あ、会ったばかりのあんたに何が分かるって言うの――!」

カンナ「わかる。……ううん、知ってる。だって私の大切な人も、そうだったから」

才川「…………っ!?」

カンナ「ねえ、才川さん……、ううん、才川。ともだちになろう」ギュッ

才川「!!」

カンナ「私、誰かを信じるのは怖い事だって知ってる。想いを素直に話す事は、すごく勇気がいる事も知ってる」

カンナ「――そして何より、その怖さの大きさは、そのまま仲良くしたいって願いの大きさなんだって事も」

才川「……、………っ………!!」

カンナ「そんなあなただからこそ、私、仲良くしたい。一人で頑張っているあなたを、ほんとに一人ぼっちにはしたくないの」

カンナ「だから…………、ともだち、どう?」ウルッ

才川「〜〜〜〜〜〜……………………っ!」ジワッ

才川「…………ふ、ふんっ。し、仕方ないわねぇ…………!」グシッ



生徒A(っ…………! あ、あの才川さんが折れた……! ていうか落とした……!)ザワッ

生徒C(さすが大山さん! 俺達に出来ない事を平然とやってのけるッ)ゴゴゴ

生徒D(そこにシビれる! あこがれるゥ!)ドドド

生徒B(……ところで、あんた達のそのノリは何なのよ……)



カンナ「ほんとっ? ともだちっ?」キラキラ

才川「ま、まあ私もっ? ほんの少しだけど頑なになってた所もあるかもだし?
   それであなたに意地悪言ってしまったのは、ごめんなさいというか……っ」アセアセ

才川「だ、だからそこまで言うなら、私も仲良くするのは駄目じゃないというか、嬉しい、っていうか……」ゴニョゴニョ

カンナ「わーい! よろしくね、才川っ!」ダキシメッ!

才川「っっっつ!! ……………………………………ボヘッ」ボムッ

カンナ「ぼへ?」

才川「い、いや、何でもないわ! よよよよろしくね、カンナさんッ!」ワタワタ



…………………………

370 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:04:49.36 ID:F5wXTSaO0

《epilogue.3 正反対のデジャヴ》

【並行世界・人間界、夜のとある街】

……………………ブオンッ!(転移魔法)



ルコア「――ふう、やっと街に降りられた。結局、夜までかかっちゃったなあ……」ノビー

ルコア「手伝ってもらってすまないね。大変助かったよ、エルマ」ニコッ

エルマ「いえいえ、こちらこそだルコア殿。私も必要な事だと思っていたしな」ニッ

ルコア「そう? ……でも、改めて聞くが、本当に良かったのかい? 調和勢の君が――」

ルコア「――トール君の、亡骸の浄化作業を手伝うなんて」

エルマ「……まあ、この事がバレれば、勢力の一部には苦言を呈する輩もいるだろうが。
    とは言え文句を言われる筋合いはない、外界の秩序を保つのも調和勢の責務だからな! それに……」

エルマ「……親友の、せめてもの弔いだ。どうか私にも手伝わせて欲しい」ニコッ

ルコア「……うん、ありがとう。では引き続き、よろしく頼むよ」ニコッ

371 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:08:47.65 ID:F5wXTSaO0

エルマ「ああっ! ……ところで、今後はどういった感じに作業を進めるご予定で?」

ルコア「うん。トール君の魂は解放され魔法界に還っていったが……、その肉体は今もあの山に遺っている」

ルコア「始める時にも説明したが、ドラゴンはその屍から漏れ出る瘴気ですら周囲の環境に影響を及ぼす。
    彼女の亡骸が1年もの間留まっていた事で、あの一帯の土地はかなり高濃度の魔力汚染がされてしまっていて、
    このままでは周囲の生態系に異常をきたしかねない」

ルコア「その浄化の為に、今日はまず汚染範囲を結界で囲み、それ以上汚染が拡がらない様にすると共に、外部の者が立ち入れない様にした」

エルマ「ああ。一般人や野生動物が入っては危ないし……。それに、その瘴気に目を付けて悪用しようとする不逞の輩がいないとも限らないしな」

ルコア「うん。とは言えここからは地道で大変な作業になるだろう。まずはトール君の亡骸を火葬……、骨まで燃やし切って瘴気の源を断つ」

エルマ「ああ。魔法界に持って帰ろうにもあの巨体のままでは大変だし、
    ドラゴンの骸は魔術の材料として狙われかねないので、妥当な判断だと私も思う」コクリ

ルコア「かなりの火力が必要になるだろう。その際はエルマにも水の力で、周囲への延焼を防いでもらいたいかな」

エルマ「了解した!」

ルコア「その後はひたすら、土地の魔力汚染を僕達の魔力で中和していく。かなり長丁場で根気のいる作業になると思うが……、頼めるかい?」

エルマ「もちろん! な〜に、土地の浄化は調和勢として何度も携わってきた慣れた仕事! 立派に務めてみせるとも!」フンス

ルコア「そうかい。じゃあ、頼りにしているね」フフッ

エルマ「ああ、どんと来いってもので――」グ〜〜〜〜〜ッ(腹の音)

エルマ「あ…………っ」カアーッ

ルコア「……ふふふっ、お疲れ様だね。遅くなったが、何処かで夕食にしようか」

エルマ「は、はいぃ……」テレテレ

372 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:10:38.66 ID:F5wXTSaO0

ルコア(……しかし長期間の作業となると、いちいち魔法界に帰るのも大変だ。この人間界で何処かに拠点を設けられれば便利なんだが……)



――――……て〜……――――



ルコア「…………んっ?」ピクリ



――――助けて〜〜!……――――



エルマ「? 何か、声が聞こえる様な……?」

ルコア「君も感じたかい、エルマ」

エルマ「ああっ、それも子供が、助けを求めている様な声が……!」

ルコア「この魔力の感じ、どうも召喚魔法の類……、それも恐らく悪魔を喚ぶ為のものだ。
    多分、悪魔を召喚したものの制御できずに、襲われているんじゃないかな」

エルマ「なっ、大変じゃないか! 助けねば……!」

ルコア「ああ。召喚魔法の術式に逆干渉して、直接現場に転移する門を開く。君は後から付いて来て!」チキチキ……ブワッ!

エルマ「わ、分かった!」

ルコア「ふっ――――!」ブオンッ!

373 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:14:10.00 ID:F5wXTSaO0

【真ヶ土家・翔太の部屋】

――ブオンッ!



ルコア「――ほっ! さあ大丈夫かい、人間の子――――おっ?」



翔太「た、助けて〜〜、誰か〜〜!」ギャアギャア

悪魔A「ぐへへへ、まさか召喚された先で、こんな上玉な男の娘に巡り会えるなんてねぇ妹よ……!」ハァハァ

悪魔B「ええお姉様、こんな理想的なショタは滅多にお目にかかれませんわ……!」フゥフゥ

翔太「や、やめろ〜〜! 僕は男だ〜〜! 男に女子の衣装を着せて何が楽しいんだ〜〜!?」ワアワア

悪魔A・B「「楽しいですともっ!!」」ズズイッ!

翔太「ひぃっ!?」ビクッ

悪魔A「男でも女でも、美しいものは美しいんですの。いや、時にはむしろ男の子だからこそ際立つ事もある!」

悪魔B「幼気で可憐な外見と、勇ましく強くありたいと志す少年の心。
    そのアンバランスな精神性に異性の服装を身に纏う事の羞恥がブレンドされる事によるアンビバレンスに揺れ動く心のマリアージュが、
    嗚呼、堪りませんわっ!!」ズアッ

翔太「へ、変態ぃ〜〜……!!」ブルブル

悪魔A「変態じゃありません! 仮に変態だとしても、変態という名の淑女です!」ドンッ!

悪魔B「さあ、今度はこのゴスロリ猫耳和メイド衣装を――」



ルコア「……あの〜、そろそろいいかい?」



悪魔A「っ!?」バッ
悪魔B「何奴っ!?」バッ
翔太「だ、誰……?」

ルコア「あー、その。まあ、暴力沙汰とかではなかったのは、うん、良かったんだけど……」ポリポリ

ルコア「――とは言えだ。嫌がる子を無理矢理着せ替え人形にするっていうのも、やっぱり褒められたものじゃないよね。
    そこまでにしておきなさい」ジロッ

悪魔A「いきなり現れてなんですの貴女。私達の邪魔をしようって言うなら――ッツ!?」ゾクッ

悪魔B「お、お姉様、こいつの魔力の量・質……、まさか……!!」ブルッ

悪魔A・B((ど、ドラゴン……!? なぜ最強種がこんな所に……!?))

翔太「…………?」ポカン

374 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:15:29.74 ID:F5wXTSaO0

ルコア「…………今ならまだ許してあげる。その少年には二度とちょっかいをかけないと誓って、即刻ここから立ち去りなさい、悪魔達」ジッ

ルコア「さもなければ…………」ゴゴゴゴゴ

悪魔A「は、はいぃぃぃ!!」ピーン

悪魔B「誓いますっ! 二度と彼には近づきませんんん!」ピーン

悪魔A・B「「申し訳ございませんでしたあぁぁぁ!!」」スタコラサッサ



シュウウン……



翔太「……あ、わ…………」ポカン

ルコア「……ふう。これで一先ず解決、かな? 大丈夫だったかい、少年?」クルッ

翔太「……あっ! は、はいっ! ありがとう、ございます……」

ルコア「良かった。でも君もいけないんだよ、さっきの悪魔は君が召喚したんだろう?
    自分の手に負えないモノを喚べば酷い目に遭うのは自明の理だ、反省しなさい!」メッ

翔太「は、はい……。すみませんでした……」モジッ

ルコア「よろしい。これに懲りたら、今後は自分の力量をしっかり見極めてから儀式をするように――」

翔太「あ、あのっ! 貴女は、その……!」オズッ

ルコア「ん? ああ、僕は通りすがりのド……」

翔太「て、天使様ですか……?」パアアァ

ルコア「…………へ?」キョトン

375 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:17:46.15 ID:F5wXTSaO0

翔太「自業自得で悪魔に弄ばれていた僕を助けてくれたのみならず、優しく叱ってもくれて……。貴女はきっと天使様ではありませんか!?」グイッ

ルコア「い、いや、僕はそんな大層な者じゃなくて、ただのドラ……」

翔太「加えて謙遜もなさるなんて、その清廉さ、やっぱり天使様で間違いないっ! ありがとうございます天使様っ!!」キラキラ

ルコア「あ、あれぇ〜……?(何か知らないはずなのにデジャヴというか、それにしては何かが違うような……)」アハハ……

翔太「ぜひお礼をさせて下さい! 最大級のおもてなしをしますからっ、さあ……!」ズイッ

ルコア「え、いやそのー……」



ブオンッ!



エルマ「――ん、よいしょお!」パッ

翔太「わっ!?」ビクッ

ルコア「あ、エルマ――――」

エルマ「ふう、遅れてすまないルコア殿! やはりまだ転移には慣れてなくてな、ちょっと門に引っかかってしまって……」タハハ

エルマ「む? 何だ、もう子供の救出は済んだのか、良かった良かった! では早く夕食と、それから拠点探しに戻ろう、私もうお腹ペコペコで……」

ルコア「う、うんそうだね、それじゃ――」

翔太「天使様のお仲間の方……。じゃあ、貴女も天使様ですかっ!?」ズイッ

ルコア「ちょっと、君!?」アセッ

エルマ「む、天使? ……ふふ、そう呼ばれていた事もあったな、懐かしい」フッ

エルマ(主に混沌勢の連中から、『“天”の神達の“使”いっぱしり』という揶揄を込めての悪口でだがな!)ボーン

翔太「わ、わあ、やっぱりだっ! すごい、一度に二人も天使様を拝めるなんて……」ハワワ

ルコア「あ〜もう、更にややこしい事に……」ハアー

エルマ「?」キョトン

376 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:20:34.63 ID:F5wXTSaO0

翔太「――あ、あのっ! もしかして天使様達は、食事や住居をご所望ですか……?」

エルマ「ん? そうだぞ少年っ! 私達はしばらくこの人間界でするべき仕事があってな! その間の食事や拠点を丁度探している最中だ!」

ルコア「ちょっと、無関係の人に無闇に事情を打ち明けるものじゃ――」

翔太「じゃ、じゃあっ! 良ければ、この家なんてどうでしょうかっ!?」バッ

エルマ「む?」

ルコア「えっ!?」

翔太「ぜひ恩返しをさせて下さい! ご飯も寝床も、満足してもらえる様、精一杯ご奉仕させて頂きます!
   それに僕の家は魔術師の家系ですし、異界の事情にもそれなりに理解があります。きっとお役に立てるかと!」グッ!

エルマ「おおそうか、それは有難い申し出! どうだルコア殿、此処を拠点に決めては?」チラッ

ルコア「いや、あのねえそんな急に、それも弱みに付け込む様な決め方は……」ウーン

翔太「ダメ、ですか……?」ウルウル

ルコア「……………………〜〜〜〜〜っ!」キュン

ルコア「……………………はあ」ハー

ルコア「分かったよ。好意を無下にするのも悪いし……。用事が済むまでの間、ご厄介にならせてもらおうかな」

翔太「やった〜〜!」パアア

エルマ「うむ、良かったな少年! 私の名はエルマ、そっちはルコア殿だ! これからよろしくな!」ニッ

翔太「はいっ、エルマ様に、ルコア様! 僕は真ヶ土翔太と言います、よろしくお願いしますっ!」

ルコア「う、うん……、よろしくね……」アハハ……



トール(回想)『――大丈夫、あなたにも案外すぐに、良い出会いがあるかもしれませんよ? ……知らんですけど』



ルコア(――なんて、別れ際に向こうのトール君は言っていたけど。これがそう、なのかな……?)

エルマ「――では早速だが真ヶ土少年、夕飯を準備してもらえるかっ! 私はもう我慢の限界だっ!」グーッ!

翔太「は、はい! ただいま〜!」トテトテ

エルマ「ほら、ルコア殿も行こうっ!」タタタ

ルコア「あっ、うん! もう、そんな焦らないで……」タタッ

ルコア(……そうだったら、いいな――――)



タタタッ……

パタン



……………………

377 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:24:33.52 ID:F5wXTSaO0

《epilogue.4 そして世界は廻っていく》

【並行世界・魔法界、トールの生まれ故郷】

サアアアア……



トール’『……………………ん』

トール’『柔らかな、風の音……。ここは』キョロキョロ

トール’『混沌勢の領地……、我の、生まれ故郷か。いつの間にか、流れ着いていた様だな……』

トール’『……ふふっ。まさか消滅する前にもう一度、この地に訪れる事が出来ようとはな』ククッ

トール’『……これも、あいつ等のお陰だな』



ガサッ



???「――懐かしい気配を辿って来てみれば。そこの魂だけの奴、お前……、トールか!?」

トール’『む……?』チラッ



イルル「噂には聞いてたが……、お前、本当に死んだのか、トール!?」ザッ

トール’『お前は……、イルルか……!』

378 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:26:27.70 ID:F5wXTSaO0

トール’『そうか……。久しいな、お前とも……』フッ

イルル「……なんだお前、その様は……ッ」ギリッ

トール’『フッ……、知っての通り、神に単身挑んだものの、見事に惨敗してな。こうして死霊としてやっと故郷に還ってきた――』

イルル「違うッ! 死んでいる事じゃない! その腑抜けた面は何だと聞いているんだッ!」ゴオッ

トール’『っ!』

イルル「どうして、そんな……っ、そんな、穏やかな顔をしていられる! 死んだんだろう、殺されたんだろう!
    神が憎くはないのか、悔しくはないのかっ!?」

トール’『イルル……』

イルル「答えろッ! それとも本当に、怒りも忘れる程に三下に成り下がったとでも言うのかっ!!?」ギッ

トール’『――当然、そりゃ悔しいとも。言うまでもない』

イルル「ッ!」

トール’『今もあの闘いを思い出すだけで、もう存在しない筈の臓腑が煮えくり返りそうな程に熱く怒りが込み上げてくる。
     怨みも、憎しみも、今もまるで褪せる事なくこの胸にある』グッ

イルル「っだったら、何故……っ!!」フウーッ

トール’『それは…………』

379 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:30:23.76 ID:F5wXTSaO0

トール’『…………出会えたから、かな。美しい、善いと思える光景に』

イルル「…………?」

トール’『怨みも憎しみも胸に在るままに、その上でそれらを脇に置いて美しいと、壊したくないと思える光景を、最後に我は見れた』

トール’『不思議なものだ。その光景の事を思うと、復讐とか破壊とか、何だか途端にどうでもよく感じてしまった。
     前はあんなに固執していたのにな……』フフッ

イルル「……っ! そんな、馬鹿な……っ!」グラッ

トール’『……イルル。お前も同胞を、人間達によって殺されていたな』

イルル「ッ! そうだ、だから私はあいつ等を全て根絶やしにする為に……!」ギッ

トール’『その憎しみは当然のものだ。大切な者を奪われた悲しみと怒りを消し去る必要はないし、また消し去ってはいけないのだろう。
     それは、その者達との大切な思い出を忘れないという誓いでもあるからだ』

イルル「……!? お、おう……?」

トール’『だが同時に、悲しみや怒り以外の想いもあるはずだ、お前の中にも』

イルル「…………っ!」

トール’『楽しかった事、嬉しかった事。誰かへの思い遣り、慈しみ、愛情……。“他者と手を取り合いたい”と願う気持ち。
     そうした輝かしき景色は時に憎しみによって容易く塗り潰されてしまいがちだが――それもまた、決して忘れるべきではないだろう』

イルル「それは…………っ。だがっ…………!」フルフル

トール’『――大丈夫。きっといつか、お前も出会える』

イルル「っ!」

トール’『痛みも憎しみも消さぬままに抱えて……。その上で、この者の隣で歩んでいきたいと思える様な、そんな相手と』

イルル「……お前は、出会えたのか? そんな奴と……」

トール’『ああ、生憎こんなナリになってしまった故、実際に共にある事は出来なかったが』ククッ

トール’『――お前もいつか会ってみると良い。我が父、我が朋友たるドラゴン達。そして……、“小林”と言う人間に。じゃあな――』スウ……

イルル「あ、待てっ――!」



サアアアア……



イルル「…………………………」

イルル「……コバヤシ、か」ポツリ







小林「あなたは……誰ですか?」トール「……えっ?」【小林さんちのメイドラゴンSS】

おわり

380 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:38:57.64 ID:F5wXTSaO0

あとがき



お疲れ様でした。初投稿から早4年と数か月、最初の想定より遥かに時間が掛かってしまいましたが、何とか完結できました。



最後に、上手く作中で消化できなかった2点の補足。

・序盤、並行世界の探索時に学校で才川が朗読していた詩について。
あれは、往年の名作RPG「クロノ・クロス」の、OPムービー中における詩の引用となっています。
並行世界をテーマとして扱っている当ゲーム中の詩を用いる事で、本SSも並行世界を扱うものであると序盤から暗示出来たらな、と思い引用しました。

・原作漫画5巻45話ではルコアが「じゃあ時間を巻き戻して無かったことにする?それくらいなら僕はできるよ」という発言をしています。
これをそのまま採用すると、本SS中で並行世界のルコアはどうしてトールの死を無かった事にしなかったの?という矛盾が生じてしまいます。
ただ上記台詞は人間と仲良くする事を躊躇うイルルを諭そうとする場面での発言の為、この発言は方便の為のハッタリ、
もしくは実際には時間遡行は大きな制約が付くので限定的にしかできない事、と今回は解釈して、本SS中では言及しませんでした。



以上となります。

HTML化依頼スレッドが上手く開けないので、もし完結に伴うHTML化依頼が出来る方がいましたら、よろしければお手数ですがお願いしたいです。
(HTML化依頼が機能しているのかも分からないのですが)



それでは、長らくダラダラと続けてしまい申し訳ありませんでしたが、もし最後まで読んでくれた方がいるなら、大変嬉しい限りです。
どうもありがとうございました!
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