小林「あなたは……誰ですか?」トール「……えっ?」【小林さんちのメイドラゴンSS】

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351 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:26:02.01 ID:F5wXTSaO0

小林「……ごめんね、トールちゃん。
   最初は、『帰れる様になって良かったね』とか『楽しかったよ、ありがとう』とか『あっちの私によろしくね、元気でね』とか……。
   綺麗な祝福の言葉だけで、爽やかに送り出したかったんだ」

トール「はい」

小林「…………でもね、昨日と今日の出来事を思い返してたらね…………」

小林「…………本当に、楽しい事ばかりで……っ」グスッ

トール「はい……っ」

小林「トールちゃんも他のドラゴンの皆も、一緒にいてとっても楽しくて……。こんなに仲良く話せるの、今までは滝谷君くらいしかいなくて……」

小林「そう思ったら……、『寂しい、行かないで』とか『これっきりなんて嫌だ』とか『これからも一緒にいて』とか……っ。
   君を困らせてしまいそうな言葉ばかり浮かんできちゃったんだ」

小林「幻滅でしょ? 私は本当は優しくなんてなくて、ただ甘ったれて寂しがりなだけの人間で――」ジワッ

トール「――いいえっ!」ギューッ

小林「っ!」

トール「――そんな事、ありません。そんな訳、ないんです……っ!」

トール「――だって、私も寂しいですもん……っ」ズビッ

小林「……っ、トールちゃん…………!」ポロッ

トール「……ありがとう、小林さん。そんなにも私の事を想ってくれて。思い出を大切にしてくれて」グスグス

トール「私、あなたの事を忘れません。私の世界の小林さんと同じくらい、あなたの事もずっとずっと、大好きです…………っ!」ベソベソ

小林「トールちゃん……っ。私も、ありがとう゛っ! 元気でね、元気でね゛……っ!」ポロポロ ギュッ

352 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:28:57.71 ID:F5wXTSaO0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



トール「……………………」ヒック

小林「……………………」グスッ

トール「………………では」ニコッ スッ

小林「………………うん」ニコッ スッ

トール「――――――――それじゃ、皆さん!」クルッ(皆の顔を見る)

小林「……………………」
滝谷「……………………」
エルマ「……………………」
カンナ「……………………」
ルコア「……………………」
ファフニール「……………………」
終焉帝「……………………」

トール「……改めて! お世話になりました!」ペコリ

トール「――それでは!」クルッ バサッ!



バサッ バサッ!(ゲートに向かって飛んでいく)



小林「――――トールちゃんっ!!」

トール「っ!」

小林「――――またね〜〜っ!!」

トール「――っ、はいっ! またいつかっ!!」ニコッ



バサッ バサッ ――ブオンッ!

シュン……(ゲートが消失する)



小林「……ああ。行っちゃった……」

滝谷「うん。行っちゃったね……」

353 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:30:09.53 ID:F5wXTSaO0

【ゲート内・並行世界の狭間】

ゴオオオオオオオ…… ゴオオオオオオオ……!



トール「……! 来る時は無我夢中で気付きませんでしたが……。これが、並行世界同士を繋ぐ狭間の領域……!」

トール「(次元そのものが歪んで千切れた様な、異様な空間だ……!)……っぐ!?」ブオッ



ゴオオオオオオオ…… ゴオオオオオオオ……!



トール(膨大な力の奔流が渦巻いていて、ともすれば飲み込まれて、何処かに吹き飛ばされそうだ……!)ギリッ

トール「…………でもっ!!」バサッ!



バサッ バサッ バサッ!



トール「あれだけ皆さんに見送ってもらって、想いを受け取っておいて……っ! 失敗しましたなんて、言える訳ないでしょうがっ!」

トール「私は、必ず……っ! 私の世界の小林さんに、もう一度会うんだあああああっ!!」ギンッ!

トール「オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」ゴオッ!



バサッ バサッ バサッ…………!

キィィィィィィィィィィン!!

354 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:31:33.41 ID:F5wXTSaO0

【元の世界・夕方】

【小林宅のある街・上空】

キイィィィィン!!

――バカアッ!!



トール「――――出れたっ!! っ、ここは……」キョロキョロ

トール「私達の……、小林さんちがある街の上空、ですね。元の世界に無事帰って来れたのでしょうか……」ハアハア

トール「確かめるには……、そうだ、魔力感知!」ブオンッ



ブオンッ ブオンッ ブオンッ…… ピコン!



トール「っ、ヒット! この魔力のマーキング反応は、私が小林さんに付けていたもの! じゃあ……!」

トール(本当に、帰って来れたんだ、元の世界に……!)

トール「……む。この反応、小林さん、街の中を走り回っている……? っ! よく感じれば、滝谷さんや地域の皆さんも……?
    もしかして、私を探してる……!?」

トール「空は……、もう夕暮れ時ですか」チラッ

トール(並行世界を出る時も、大体それくらいの時刻でしたね……。仮に、並行世界同士で時間のズレはないのだとすると……)

トール「もしやこの元の世界では、私が昨日の明朝から2日間行方不明になってる、って事です……!?」ハッ

トール「っ急ぎましょう! 一秒でも早く、小林さんの元へ……っ!!」バサッ



バサッ バサッ ゴオオオオオオオ……!

355 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:32:58.78 ID:F5wXTSaO0

【街の中、とある路地】

バサッ バサッ バサッ……



トール「っ! 見つけた、小林さん――っ!」バサッ!



小林「――――おーい、トール〜〜!! どこだ〜〜!? 出てきて〜〜っ!!」ハアハア



トール(待ってて、すぐ行きますから、小林さん――ッ!)バサバサ!



バサッ バサッ ゴオオオオオオオ……!



《(回想)〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【1時間ほど前、並行世界にてルコアとの別れの会話】



トール『……で、どうしたんですか、皆さんには話しづらい事でも?』

ルコア『うん……、まあ、話してどうこうなるものでもないんだけど、一応ね……』

トール『?』

ルコア『あのね――――』



ルコア『――多分、君の方が“イフ”……“もしも”のトール君なんだ』

356 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:34:24.85 ID:F5wXTSaO0

トール『?? どういう意味です?』キョトン

ルコア『……うん。昨日、並行世界は“もしもの可能性の世界”だと説明したろう?』

トール『はい。“もしもあの時、別の選択をしていたらどうなっていたか?” という可能性が、
    次元を越えて実際に存在している世界が並行世界であるという話でしたよね』

ルコア『そう。ただ、そうだとするとこう疑問が湧いてこないかい? “一体どちらがどちらにとっての、もしもなのだろう?”と』

トール『どちらが、どちらにとっての……? それはつまり、どちらの世界がメインであるかという事ですか?』

ルコア『ああ。トール君にとっては、元居た世界の方が当然メインであり、この世界が“もしも”だと認識していると思うんだけど……』

トール『それはまあ、そうですね。……、あ、でもそっか……』

ルコア『うん、反対の事が僕達にも言えて、僕達はこの世界をこそメインであり、トール君が元居た世界の方が“もしも”だと感じている』

ルコア『もちろん、並行世界とは独立に存在しているものであって、本来主も従もないものなんだろうけど……。
    しかしやはり、どちらの“もしも”が有り得やすいか・有り得にくいか、という発生確率の違いというものはあるんじゃないかと思う』

トール『なるほど。言わば木の様に枝分かれしていく世界において、どちらが幹に当たり、どちらが枝葉に当たるか、という話ですね』

ルコア『その通り。そしてどちらが有り得やすいか・有り得にくいかという観点においては……、
    僕は断然、トール君が元居た世界の方が有り得にくいと思っている』

トール『!』

357 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:37:10.61 ID:F5wXTSaO0

ルコア『一年前に君と小林さんが出会う為には……、
    まず一年前に君がたまたまこの山に逃げ延びた上で、小林さんがたまたまそれと同じ日に泥酔して、
    たまたま見知らぬ駅で電車を降りて、たまたま彷徨った森で、たまたまそこにいたトール君と出会う……という事が必要だ』

ルコア『一つ一つならともかく……、そうした偶然に偶然が全部重なる可能性がどれだけ低い確率になるかは、想像がつくだろう?』

トール『それは……、その通りかもしれませんね。だから、私の方が“イフ”だと……』

ルコア『うん。今回僕達は二つの並行世界の接触を経験した訳だけど……。
    もしもっと多くの、無数の並行世界について知る事が出来たとしたらきっと、トール君が亡くなっている世界の方が多いんじゃないかと僕は考える』

トール『……………………』

ルコア『……まあ、だから何だという話ではあるんだけど。実際そうだとして、それで何が変わるという訳でもないんだ。
    メインだろうがイフだろうが、それぞれの並行世界はこれからも別個に存続していくだろうし』

ルコア『それに、今話した発生確率の話もただの仮説に過ぎない。世界の法則はまだまだ未知だらけだ。
    今日、結果的にこの世界のトール君と小林さんも知り合う事になった様に、運命論的に、基本二人は必ず出会う因果になっている、
    なんて考える事もできる。でもっ――』

トール『――大丈夫ですよ、ルコアさん』

ルコア『っ……!』

トール『その先は、言わなくて大丈夫。ちゃんと伝わりましたから、悪意や中傷ではない、心からの忠告だって事は』ニコッ

ルコア『トール君……』

トール『要は、当たり前だと思わず大切にしてねって事ですよね? だって私達の世界、私と小林さんが出会った世界は――』



トール『――奇跡みたいな確率で生まれた、かけがいのない世界だって事だから!』パアッ



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜》



トール「――こ、ば、や、し、さぁ〜〜〜〜〜〜んっ!!!」ゴオオオオ!

358 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:38:26.12 ID:F5wXTSaO0

【現在・元の世界のとある路地】



小林「っ! その声、トール…………」クルッ



ゴオオオオオオオッ!



トール「――小林さんっ!!」ドカッ! ギュッ!

小林「うわっぷっ!?」



ズザザアアァァ!!



小林「……うぇ、ぺっぺっ……。危ないなもう、飛んでくるなり抱き着くとか!」ケホッ

トール「んふふ、小林さん、小林さん、小林さ〜ん♡」スリスリ ギュッ

小林「猫みたいにじゃれつかない! 全く、何してたんだよトール、2日も連絡もしないで心配かけて! 皆どれだけ心配したとっ……」ピクッ

トール「……………………」ヒシッ

小林「……トール?」

トール「……………………っ」ギュウーッ フルフル

小林「(震えてる……)……どしたの、トール? 何かあった?」ポン

トール「…………はい」

トール「色々……、本当に色々、あったんです。この2日……」ギュッ

小林「……………………はあ。そっか」フウ

トール「そうなのです」

小林「そうなのですか。……じゃあ、猫になっちゃうのもしょうがないね」ナデナデ

トール「はい、しょうがないのです。えへへ」スリスリ ギュウ

小林「はいはい、全く手のかかる最強種ですこと……」フッ ナデナデ



……………………

359 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:40:53.03 ID:F5wXTSaO0

……………………



小林「――はい、そろそろ終わり! ほら立ってトール!」ベリッ スック

トール「ああんっ! もう少しだけ〜……っ!」ヘロヘロ

小林「はいはい、帰って落ち着いたらね。さあ行くよ!」スタスタ

トール「は〜い……」スクッ テクテク



テクテク……



小林「――何があったかは後で詳しく聞くとして……。こっちもこの2日大変だったんだからね? トールが何の連絡もなくいなくなるから……」

トール「はい、ご心配おかけしてすみませんでした……」シュン

小林「最初はすぐ帰ってくるかなと思って、丁度休日だったしカンナちゃんと家で1日待ってたけど、一向に帰って来なくて……。
   心配になって滝谷君やエルマ、ルコアさんやご近所さん、商店街の皆さんにも聞いて回ってみても全然手がかりなくて」

小林「しかもルコアさん曰く、魔力の痕跡も追えなくなってたらしくて。
   これはちょっと家出どころじゃないかもと思ったから、今日は朝から街中トールを探し回ってたんだよ」

トール「う、ううっ! それは大変、申し訳ないです……」シュシュン

小林「そーだよ〜? 私はともかく、話を聞いた滝谷君や商店街の皆さん、才川さん姉妹や翔太君、
   それにルコアさんやエルマやあのファフニールさんも途中から手伝ってくれたんだから。後で皆にお礼言っておきなね?」

トール「はい、それはもう……、えっ、ファフニールさんもですかっ?」

小林「そうそう。滝谷君に誘われて、最初は『何故俺が……』とか口ではぶつくさ言いまくってたけど、何だかんだ動いてくれてさ。
   その時言った理由がね――」

トール「……“暇潰し”、ですか?」クスッ

小林「ぷっ! そうそう、ほんとコテコテのツンデレだよねあの人、いやあのドラゴンさんは……」アハハ

360 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:44:37.40 ID:F5wXTSaO0

トール「……本当に、ご迷惑おかけしました。そしてありがとうございます、そんなに一生懸命になって探してくれて」テクテク

小林「ん、まあ良いって事さ。もう1年の付き合いなんだし、そんなに遠慮しなくていいよ」テクテク

トール「……………………」テクテク

小林「……………………」テクテク

トール「…………小林さん」

小林「…………ん?」

トール「ごめんなさい……。一昨日の夕食の件、全品私の尻尾肉のメニューにしてしまった事」

小林「……………………」

トール「小林さんの気持ちを無視した強制になっていたと、今更ながら気付きました。反省しています……」

トール「……もう、私の尻尾肉を料理に出すのは、止めにしますね。今まで本当に、すみませ――」

小林「――いや。時々一品、食卓に混ぜて出すぐらいは続けていいよ」ボソッ

トール「…………え!?」バッ

小林「確かに、今はまだ私も、友人の身体を食べる覚悟なんて決まってないから、出されても結局今まで通り、食べずに弾いちゃうかもしれないけど……」

小林「でも、私もトールの“大切な人に食べて欲しい”って気持ちを軽んじてたと思ったから……。
   だからいつか、私の覚悟が出来たら、食べるのチャレンジしてみるからさ」

小林「なのでそれまでは……、出し続けてくれると、嬉しい」ポリポリ

トール「小林さん…………っ!」ブワッ

トール「――はいっ、そうさせて頂きますねっ!」ニコッ

小林「ん、よろしく。……私も、怒鳴っちゃってごめんね」チラッ

トール「い〜え〜♡ っそうだ小林さん! ついでに我が儘聞いてもらえます? 私の事、“トールちゃん”って呼んでみて欲しいんですが……」フフフ

小林「は、はぁっ? いきなり何突拍子もない事言い出すの……」

トール「えへへ、それはですね〜―――――」



ワイワイ ガヤガヤ テクテク……






おわり
361 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:45:38.50 ID:F5wXTSaO0

《epilogue.1 カンナ、襲来》

【並行世界・滝谷(&小林)宅】

………………………………

カタカタ カタカタ カタカタ……



小林「………………………………」カタカタ

小林(――早いもので、あの衝撃の出会いからもう1週間が経った)

小林(元の世界に帰った並行世界のトールちゃんを見送ってから、ルコアさん達の転移魔法で滝谷君のアパートまで送ってもらった後、
   ドラゴンの皆さんとは幾ばくかの挨拶を交わしてお別れした)

小林(体力的にも気力的にも疲れが溜まっていた様で、帰ってきてから二日は滝谷君と一緒に家でゆっくり休んでいた。
   こういう時は、自分で予定を決められるフリーランスで良かったって思うね)

小林(それも過ぎたら、また以前通りの仕事の日々に戻った。まるで何事も無かったかの様に……)

小林(やっぱりあの2日間は夢だったんじゃ……、なんて感じる瞬間もあれど。もうそうは思わないようにした)

小林(だって今も覚えてる。神剣を抜いた時の手の痛み。トールちゃんとの別れの時の涙。そして……、トールちゃんの鼓動の音)

小林(これから先、二度と出会う事のない非日常だとしても……、それでもずっと忘れない。大切な思い出の感触だ――)カタカタ

小林「……よし。これでこのプログラムもひと段落……!」カタカタ タン!

滝谷「――小林さん、お疲れ様〜。そろそろお昼にしない?」ヒョコ

小林「うん、そうだね。こっちも丁度一区切り付いたし、ご飯にしよう!」ガタッ

362 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:46:53.03 ID:F5wXTSaO0

……………………



小林・滝谷「――いただきま〜す!」パンッ



カチャカチャ パクパク……



滝谷「……う〜ん、今日も今日とてレトルト三昧。もちろん十分美味しいけど……」

小林「分かる。トールちゃんの手料理が早くも恋しいね」

滝谷「栄養バランス的にもね……。うーむ、一念発起して料理のスキルツリーを伸ばすべきか――」



ピンポーン!



滝谷「む? 玄関チャイム……?」

小林「誰だろう? はーい、今行きまーす!」トタトタ……

363 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:47:58.85 ID:F5wXTSaO0

【滝谷宅・玄関】

ピンポーン、ピンポーン!



小林「――はいはい、今開けますねー!」



ガチャ



小林「……あ、君は……!?」

カンナ「……こんにちは」チョコン

小林「カンナちゃん! ……ん? それと後ろの方は……」チラッ

ファフニール「……………………」ゴゴゴ

小林「ふぁ、ファフニールさん……!?」

滝谷「え、なになに、カンナちゃんとファフ君じゃない!? 久しぶり〜!」ヒョコッ

ファフニール「黙れ、ファフ君言うな馴れ馴れしいぞ。それにまだ一週間しか経っていないだろう」ギロッ

滝谷「え〜、人間的には一週間で充分久しぶりだよ〜。今日はどうしたの?」ニコニコ

小林「え、もしかして何か新たな問題でも……!?」アセッ

カンナ「んーん、そういうのじゃない。今日はアイサツしにきた」

小林「挨拶……? 何の?」



カンナ「あのね、私今日から隣の部屋に住むから」ボーン

364 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:49:12.78 ID:F5wXTSaO0

小林「え……!? 隣に……」

滝谷「住むうぅぅぅ!?」

カンナ「フツツカモノですが、よろしくおねがいします」ペコリ

小林「いや違う、それは別の時の挨拶っ!」ビシッ

カンナ「そーなの?」キョトン

小林「……じゃなくて! え、そりゃまた何で急に……」

ファフニール「……正確には、俺とコイツの二体で住む事になった。あくまで俺はついでだがな」ブスッ

小林「さ、さいですか……?」

カンナ「――私ね、知りたくなったの。向こうの世界のトール様が見てきたものが何なのか」

小林「!」

カンナ「トール様は元々優しかったけど、向こうの世界のトール様はそれに加えて、とっても明るくて素直で柔らかくなってた。すっごくびっくりした」

カンナ「向こうの世界のトール様は、それは向こうの世界のあなた……、コバヤシに出会ったからだって言ってた」

カンナ「私、誓ったの、2人のトール様に。“心配かけない位、立派なドラゴンになる”って。
    だからまず、向こうの世界のトール様と同じ様に、コバヤシを近くで見て学びたいって、思ったの」

小林「カンナちゃん……」

カンナ「だめ、かな……?」ウルッ

小林「……………………っ!」ギュッ(抱き締める)

カンナ「っ!」

小林「……駄目な訳、ないよ……。こちらこそ、よろしく……!」ギュウ

カンナ「……ん。ありがとう」ギュッ

365 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:51:56.04 ID:F5wXTSaO0

滝谷「歓迎するよ、カンナちゃん。僕も合わせてよろしくね〜♪」ニコッ

カンナ「……ん、よろしくおねがいします」スーッ

滝谷「あれー、何で遠ざかるのかなー?」ニコー

カンナ「……なんかやだ。嫌いじゃないけど、うさんくさい」ジッ

滝谷「え、ええ〜!?(普通にショック……!)」ガーン

小林「で、ええと、カンナちゃんは分かったとして、ファフニールさんは何故一緒に……?」

ファフニール「フン……、要はコイツの保護者だ。
       子供一匹で人間界で暮らすのは些か大変だろうから面倒を見てやってくれと、ケツァルコアトルに頼まれてな」チッ

小林「ルコアさんに……? そう言えばルコアさんはどうしたの? 元々彼女がカンナちゃんを保護していたって話だったけど……」

カンナ「ルコア様も今、人間界に来てる。けど別のヤボヨーがあってしばらく忙しいって言ってた。エルマ様も一緒なんだってー」

小林「野暮用? ルコアさんと、エルマさんもか……、一体なんだろう?」

カンナ「んー、よく知らないけど、大事な事なんだって」

滝谷「そっかー、それでファフ君がご指名を受けたって事なんだね」

ファフニール「フン、全く面倒な事だが……。まあ、これも暇潰しでな……」

カンナ「うそ。ほんとは人間界の観光がしたくてずっとわくわくしてた」ズバッ

小林「え、そーなの?」ホヘー

ファフニール「なっ! 貴様、出鱈目を言うな――!」

カンナ「この前来た時に見た人間界が珍しかったのか、人間界の色んなザッシ?とかを取り寄せて読んでたって、ルコア様が言ってた」ズババッ

ファフニール「クッ、あの女……!」ギリッ

カンナ「そのくせ、人間界で暮らす為に必要なコセキ?とかジューミンヒョー?とかの書類作りやチンタイケイヤク?とかをするのが苦手で、
    めっちゃ手間取ってた。ルコア様に手引きも作ってもらってたのに」ズバババッ

ファフニール「貴様……ッ!!」

小林「え、何それ可愛い……」ホッコリ

滝谷「ギャップ萌えだねえ……」ニンマリ

カンナ「そのせいでほんとはもっと早くこっちに来れるはずだったのに、一週間もかかっちゃった。待ちくたびれたー」プンプン

ファフニール「巫山戯るな! 俺はお前の代わりに雑務をこなしてやっているのだ! 感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いは――ッ!」

カンナ「ん、それはそう。ありがとう、ファフニール様」ペコリ

ファフニール「ぬ…………っ」グッ

滝谷(無垢な子供に調子を崩されてるねえ)フフッ

366 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:53:36.63 ID:F5wXTSaO0

小林「えーっと、ともかく二人共、隣人になるという事ですし、これからよろしくお願いします。良ければ上がっていきますか?」

カンナ「わーい。ルコア様に、挨拶に行くならお詫びも兼ねてこれを持ってきなさいって、
    魔法界の果物沢山もらってるから、一緒に食べよー」テクテク…………

小林「わ、ホント? 美味しそう、楽しみー!……」スタスタ……

滝谷「お詫び? ああ、ルコアさんあのお願い、覚えてくれてたんだ……! それでファフ君はどうする? 寄ってくかい?」チラッ

ファフニール「ファフ君言うなと言うに。……フン、まあそこまで言うなら招待を受けてやろう。丁重にもてなす事を許す」

滝谷「あっはっは、じゃ上がってよ。あ、そうだ……、ならゲームでもするでヤンスか?(眼鏡ON)」スチャ

ファフニール「遊戯《ゲーム》? この前も言っていたが、それは一体何だ?」スタスタ

滝谷「おっ興味あるでヤンスか〜? 百聞は一見に如かず! じゃあまずは定番所を一緒にプレイ――」スタスタ



ガチャ バタン……

367 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 21:57:30.39 ID:F5wXTSaO0

《epilogue.2 カンナ、学校へ行くanother》

【カンナが人間界に来て数日後】

【並行世界・小学校、とある教室】



カンナ「――転校生の大山カンナ、です。よろしくおねがいします」ペコリ

教師「はい、ありがとう大山さん! みんな、仲良くしてあげてね〜!」

生徒たち「「「は〜い!!」」」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



ワイワイ ガヤガヤ

生徒A「――大山さん、かわい〜♪ よろしくね!」

生徒B「髪も肌も白〜い! きれ〜!」

カンナ「ん、ありがと」コクリ

生徒C「外国から来たんだって? すげー!」

生徒D「運動はできんのか? 昼休みドッヂボールしよーぜ!」

カンナ「うん、いいよ」コクリ



ワイワイ ガヤガヤ……



才川「…………フン」ジーッ



カンナ「? ……ねえ。離れてこっちを見てるあの子はだれ?」ピクッ

生徒A「え? ……あー、才川さんの事?」チラッ

カンナ「うん。私、あの子とも仲良くなりたい」コクッ

生徒B「あー、そうなの? でも、う〜ん……」

カンナ「?」

生徒C「やめとけ!やめとけ! あいつは付き合いが悪いんだ!」

カンナ「お、おう?」ビクッ

生徒D「『一緒に遊ぼうぜ』って誘っても、興味がないんだか意地張ってるんだか……」

生徒C「『才川リコ』、小学4年生、孤立ぎみ。学業は真面目でそつなくこなすが、今ひとつ協調性のない女……」

生徒D「昔から偉そうで見栄っ張りで女王様気取りの振舞いをしていたため少し敬遠されていたが、
    ここ1年位はそれが更に悪化して周りとギクシャクして、クラスでも浮いちまってるんだぜ」

生徒C「根が悪い奴じゃあないんだが、かと言って素直になるには少々凝り固まりすぎちまった……、愛想のない女さ」

カンナ「……ふーん」ジッ

生徒D「そうそう、気難しい奴だから、下手に近付かない方が……」

カンナ「ん、ありがと。じゃあ行ってくる」テクテク

生徒C「ってあれぇ!? 話聞いてた!?」ガビーン

368 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:01:19.75 ID:F5wXTSaO0

テクテク…… ピタッ



カンナ「……はじめまして。私、大山カンナ」ペコリ

才川「……………………」ギロッ

カンナ「才川さん、だよね? 私、あなたとも仲良くしたい。これからよろしく――」スッ(手を差し出す)

才川「――――――っ!」バシッ(手を払い除ける)

カンナ「っ!」

才川「よろしく? しないわよっ、気安く話しかけないでもらえる?」イライラ



生徒A(あわわ……、今日の才川さん、いつも以上に機嫌が悪い……!)ワタワタ

生徒B(きっと転校初日で人気者になってる大山さんを見てやっかんでるんだ……!)ハラハラ



才川「なあに? もしかして同情のつもり? 私が一人でいるからって、可愛そうに思って手を差し伸べてあげようって?
   あ〜ら転校生さんは随分お優しいんですのねえ?」

才川「でもお生憎様、私は好きで一人でいるの。他のクラスメイトはみ〜んなガキっぽくて嫌になっちゃってね」フッ

才川「――分かる? あんたがやってるのは、見当違いのありがた迷惑だって言ってるの。分かったらさっさとどっかに行って下さる?」ギッ

カンナ「……………………」

才川「何よ。黙ってないで何とか言ったらどうなの!?」ゴオッ!

カンナ「……………………」

カンナ(……おんなじだ。あの日の、死んじゃったトール様と)



《(回想)〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



トール’『――だが、もう違う。死んで、やっと愛想が、未練が尽きた。分かるか? 我は今、正に“自由”を手にしているのだ!』



――――――――――



トール’『そうだ、その通りだとも! 死の間際、最後に私はこう願った。“もう誰にも会いたくない”、“永遠に一人でありたい”と!』



――――――――――



トール’『我の結界をこれだけ荒らしておいて、言うに事を欠いて“会いに来た”?“話をしたい”?“相互理解”?』

トール’『知った事か! 興味もない! 独り善がりのありがた迷惑という奴だ、失せろ!』



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜》



カンナ「――――才川さん」

才川「? 何…………」

カンナ「……………………」ギュッ(才川の手を取り握る)

才川「っっっ!!?」ボッ

369 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:03:34.58 ID:F5wXTSaO0

才川「なっ、ななななななな何を……!?」アセアセ

カンナ「――わかる。本当は一人で寂しいんだよね、あなたも」

才川「っな……!?」ドキッ

カンナ「でも、寂しい自分を認めちゃったら余計にみじめになる気がして、怖くて、それで周りには寂しくないって強がっちゃうんだよね」

才川「…………っ! あ、会ったばかりのあんたに何が分かるって言うの――!」

カンナ「わかる。……ううん、知ってる。だって私の大切な人も、そうだったから」

才川「…………っ!?」

カンナ「ねえ、才川さん……、ううん、才川。ともだちになろう」ギュッ

才川「!!」

カンナ「私、誰かを信じるのは怖い事だって知ってる。想いを素直に話す事は、すごく勇気がいる事も知ってる」

カンナ「――そして何より、その怖さの大きさは、そのまま仲良くしたいって願いの大きさなんだって事も」

才川「……、………っ………!!」

カンナ「そんなあなただからこそ、私、仲良くしたい。一人で頑張っているあなたを、ほんとに一人ぼっちにはしたくないの」

カンナ「だから…………、ともだち、どう?」ウルッ

才川「〜〜〜〜〜〜……………………っ!」ジワッ

才川「…………ふ、ふんっ。し、仕方ないわねぇ…………!」グシッ



生徒A(っ…………! あ、あの才川さんが折れた……! ていうか落とした……!)ザワッ

生徒C(さすが大山さん! 俺達に出来ない事を平然とやってのけるッ)ゴゴゴ

生徒D(そこにシビれる! あこがれるゥ!)ドドド

生徒B(……ところで、あんた達のそのノリは何なのよ……)



カンナ「ほんとっ? ともだちっ?」キラキラ

才川「ま、まあ私もっ? ほんの少しだけど頑なになってた所もあるかもだし?
   それであなたに意地悪言ってしまったのは、ごめんなさいというか……っ」アセアセ

才川「だ、だからそこまで言うなら、私も仲良くするのは駄目じゃないというか、嬉しい、っていうか……」ゴニョゴニョ

カンナ「わーい! よろしくね、才川っ!」ダキシメッ!

才川「っっっつ!! ……………………………………ボヘッ」ボムッ

カンナ「ぼへ?」

才川「い、いや、何でもないわ! よよよよろしくね、カンナさんッ!」ワタワタ



…………………………

370 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:04:49.36 ID:F5wXTSaO0

《epilogue.3 正反対のデジャヴ》

【並行世界・人間界、夜のとある街】

……………………ブオンッ!(転移魔法)



ルコア「――ふう、やっと街に降りられた。結局、夜までかかっちゃったなあ……」ノビー

ルコア「手伝ってもらってすまないね。大変助かったよ、エルマ」ニコッ

エルマ「いえいえ、こちらこそだルコア殿。私も必要な事だと思っていたしな」ニッ

ルコア「そう? ……でも、改めて聞くが、本当に良かったのかい? 調和勢の君が――」

ルコア「――トール君の、亡骸の浄化作業を手伝うなんて」

エルマ「……まあ、この事がバレれば、勢力の一部には苦言を呈する輩もいるだろうが。
    とは言え文句を言われる筋合いはない、外界の秩序を保つのも調和勢の責務だからな! それに……」

エルマ「……親友の、せめてもの弔いだ。どうか私にも手伝わせて欲しい」ニコッ

ルコア「……うん、ありがとう。では引き続き、よろしく頼むよ」ニコッ

371 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:08:47.65 ID:F5wXTSaO0

エルマ「ああっ! ……ところで、今後はどういった感じに作業を進めるご予定で?」

ルコア「うん。トール君の魂は解放され魔法界に還っていったが……、その肉体は今もあの山に遺っている」

ルコア「始める時にも説明したが、ドラゴンはその屍から漏れ出る瘴気ですら周囲の環境に影響を及ぼす。
    彼女の亡骸が1年もの間留まっていた事で、あの一帯の土地はかなり高濃度の魔力汚染がされてしまっていて、
    このままでは周囲の生態系に異常をきたしかねない」

ルコア「その浄化の為に、今日はまず汚染範囲を結界で囲み、それ以上汚染が拡がらない様にすると共に、外部の者が立ち入れない様にした」

エルマ「ああ。一般人や野生動物が入っては危ないし……。それに、その瘴気に目を付けて悪用しようとする不逞の輩がいないとも限らないしな」

ルコア「うん。とは言えここからは地道で大変な作業になるだろう。まずはトール君の亡骸を火葬……、骨まで燃やし切って瘴気の源を断つ」

エルマ「ああ。魔法界に持って帰ろうにもあの巨体のままでは大変だし、
    ドラゴンの骸は魔術の材料として狙われかねないので、妥当な判断だと私も思う」コクリ

ルコア「かなりの火力が必要になるだろう。その際はエルマにも水の力で、周囲への延焼を防いでもらいたいかな」

エルマ「了解した!」

ルコア「その後はひたすら、土地の魔力汚染を僕達の魔力で中和していく。かなり長丁場で根気のいる作業になると思うが……、頼めるかい?」

エルマ「もちろん! な〜に、土地の浄化は調和勢として何度も携わってきた慣れた仕事! 立派に務めてみせるとも!」フンス

ルコア「そうかい。じゃあ、頼りにしているね」フフッ

エルマ「ああ、どんと来いってもので――」グ〜〜〜〜〜ッ(腹の音)

エルマ「あ…………っ」カアーッ

ルコア「……ふふふっ、お疲れ様だね。遅くなったが、何処かで夕食にしようか」

エルマ「は、はいぃ……」テレテレ

372 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:10:38.66 ID:F5wXTSaO0

ルコア(……しかし長期間の作業となると、いちいち魔法界に帰るのも大変だ。この人間界で何処かに拠点を設けられれば便利なんだが……)



――――……て〜……――――



ルコア「…………んっ?」ピクリ



――――助けて〜〜!……――――



エルマ「? 何か、声が聞こえる様な……?」

ルコア「君も感じたかい、エルマ」

エルマ「ああっ、それも子供が、助けを求めている様な声が……!」

ルコア「この魔力の感じ、どうも召喚魔法の類……、それも恐らく悪魔を喚ぶ為のものだ。
    多分、悪魔を召喚したものの制御できずに、襲われているんじゃないかな」

エルマ「なっ、大変じゃないか! 助けねば……!」

ルコア「ああ。召喚魔法の術式に逆干渉して、直接現場に転移する門を開く。君は後から付いて来て!」チキチキ……ブワッ!

エルマ「わ、分かった!」

ルコア「ふっ――――!」ブオンッ!

373 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:14:10.00 ID:F5wXTSaO0

【真ヶ土家・翔太の部屋】

――ブオンッ!



ルコア「――ほっ! さあ大丈夫かい、人間の子――――おっ?」



翔太「た、助けて〜〜、誰か〜〜!」ギャアギャア

悪魔A「ぐへへへ、まさか召喚された先で、こんな上玉な男の娘に巡り会えるなんてねぇ妹よ……!」ハァハァ

悪魔B「ええお姉様、こんな理想的なショタは滅多にお目にかかれませんわ……!」フゥフゥ

翔太「や、やめろ〜〜! 僕は男だ〜〜! 男に女子の衣装を着せて何が楽しいんだ〜〜!?」ワアワア

悪魔A・B「「楽しいですともっ!!」」ズズイッ!

翔太「ひぃっ!?」ビクッ

悪魔A「男でも女でも、美しいものは美しいんですの。いや、時にはむしろ男の子だからこそ際立つ事もある!」

悪魔B「幼気で可憐な外見と、勇ましく強くありたいと志す少年の心。
    そのアンバランスな精神性に異性の服装を身に纏う事の羞恥がブレンドされる事によるアンビバレンスに揺れ動く心のマリアージュが、
    嗚呼、堪りませんわっ!!」ズアッ

翔太「へ、変態ぃ〜〜……!!」ブルブル

悪魔A「変態じゃありません! 仮に変態だとしても、変態という名の淑女です!」ドンッ!

悪魔B「さあ、今度はこのゴスロリ猫耳和メイド衣装を――」



ルコア「……あの〜、そろそろいいかい?」



悪魔A「っ!?」バッ
悪魔B「何奴っ!?」バッ
翔太「だ、誰……?」

ルコア「あー、その。まあ、暴力沙汰とかではなかったのは、うん、良かったんだけど……」ポリポリ

ルコア「――とは言えだ。嫌がる子を無理矢理着せ替え人形にするっていうのも、やっぱり褒められたものじゃないよね。
    そこまでにしておきなさい」ジロッ

悪魔A「いきなり現れてなんですの貴女。私達の邪魔をしようって言うなら――ッツ!?」ゾクッ

悪魔B「お、お姉様、こいつの魔力の量・質……、まさか……!!」ブルッ

悪魔A・B((ど、ドラゴン……!? なぜ最強種がこんな所に……!?))

翔太「…………?」ポカン

374 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:15:29.74 ID:F5wXTSaO0

ルコア「…………今ならまだ許してあげる。その少年には二度とちょっかいをかけないと誓って、即刻ここから立ち去りなさい、悪魔達」ジッ

ルコア「さもなければ…………」ゴゴゴゴゴ

悪魔A「は、はいぃぃぃ!!」ピーン

悪魔B「誓いますっ! 二度と彼には近づきませんんん!」ピーン

悪魔A・B「「申し訳ございませんでしたあぁぁぁ!!」」スタコラサッサ



シュウウン……



翔太「……あ、わ…………」ポカン

ルコア「……ふう。これで一先ず解決、かな? 大丈夫だったかい、少年?」クルッ

翔太「……あっ! は、はいっ! ありがとう、ございます……」

ルコア「良かった。でも君もいけないんだよ、さっきの悪魔は君が召喚したんだろう?
    自分の手に負えないモノを喚べば酷い目に遭うのは自明の理だ、反省しなさい!」メッ

翔太「は、はい……。すみませんでした……」モジッ

ルコア「よろしい。これに懲りたら、今後は自分の力量をしっかり見極めてから儀式をするように――」

翔太「あ、あのっ! 貴女は、その……!」オズッ

ルコア「ん? ああ、僕は通りすがりのド……」

翔太「て、天使様ですか……?」パアアァ

ルコア「…………へ?」キョトン

375 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:17:46.15 ID:F5wXTSaO0

翔太「自業自得で悪魔に弄ばれていた僕を助けてくれたのみならず、優しく叱ってもくれて……。貴女はきっと天使様ではありませんか!?」グイッ

ルコア「い、いや、僕はそんな大層な者じゃなくて、ただのドラ……」

翔太「加えて謙遜もなさるなんて、その清廉さ、やっぱり天使様で間違いないっ! ありがとうございます天使様っ!!」キラキラ

ルコア「あ、あれぇ〜……?(何か知らないはずなのにデジャヴというか、それにしては何かが違うような……)」アハハ……

翔太「ぜひお礼をさせて下さい! 最大級のおもてなしをしますからっ、さあ……!」ズイッ

ルコア「え、いやそのー……」



ブオンッ!



エルマ「――ん、よいしょお!」パッ

翔太「わっ!?」ビクッ

ルコア「あ、エルマ――――」

エルマ「ふう、遅れてすまないルコア殿! やはりまだ転移には慣れてなくてな、ちょっと門に引っかかってしまって……」タハハ

エルマ「む? 何だ、もう子供の救出は済んだのか、良かった良かった! では早く夕食と、それから拠点探しに戻ろう、私もうお腹ペコペコで……」

ルコア「う、うんそうだね、それじゃ――」

翔太「天使様のお仲間の方……。じゃあ、貴女も天使様ですかっ!?」ズイッ

ルコア「ちょっと、君!?」アセッ

エルマ「む、天使? ……ふふ、そう呼ばれていた事もあったな、懐かしい」フッ

エルマ(主に混沌勢の連中から、『“天”の神達の“使”いっぱしり』という揶揄を込めての悪口でだがな!)ボーン

翔太「わ、わあ、やっぱりだっ! すごい、一度に二人も天使様を拝めるなんて……」ハワワ

ルコア「あ〜もう、更にややこしい事に……」ハアー

エルマ「?」キョトン

376 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:20:34.63 ID:F5wXTSaO0

翔太「――あ、あのっ! もしかして天使様達は、食事や住居をご所望ですか……?」

エルマ「ん? そうだぞ少年っ! 私達はしばらくこの人間界でするべき仕事があってな! その間の食事や拠点を丁度探している最中だ!」

ルコア「ちょっと、無関係の人に無闇に事情を打ち明けるものじゃ――」

翔太「じゃ、じゃあっ! 良ければ、この家なんてどうでしょうかっ!?」バッ

エルマ「む?」

ルコア「えっ!?」

翔太「ぜひ恩返しをさせて下さい! ご飯も寝床も、満足してもらえる様、精一杯ご奉仕させて頂きます!
   それに僕の家は魔術師の家系ですし、異界の事情にもそれなりに理解があります。きっとお役に立てるかと!」グッ!

エルマ「おおそうか、それは有難い申し出! どうだルコア殿、此処を拠点に決めては?」チラッ

ルコア「いや、あのねえそんな急に、それも弱みに付け込む様な決め方は……」ウーン

翔太「ダメ、ですか……?」ウルウル

ルコア「……………………〜〜〜〜〜っ!」キュン

ルコア「……………………はあ」ハー

ルコア「分かったよ。好意を無下にするのも悪いし……。用事が済むまでの間、ご厄介にならせてもらおうかな」

翔太「やった〜〜!」パアア

エルマ「うむ、良かったな少年! 私の名はエルマ、そっちはルコア殿だ! これからよろしくな!」ニッ

翔太「はいっ、エルマ様に、ルコア様! 僕は真ヶ土翔太と言います、よろしくお願いしますっ!」

ルコア「う、うん……、よろしくね……」アハハ……



トール(回想)『――大丈夫、あなたにも案外すぐに、良い出会いがあるかもしれませんよ? ……知らんですけど』



ルコア(――なんて、別れ際に向こうのトール君は言っていたけど。これがそう、なのかな……?)

エルマ「――では早速だが真ヶ土少年、夕飯を準備してもらえるかっ! 私はもう我慢の限界だっ!」グーッ!

翔太「は、はい! ただいま〜!」トテトテ

エルマ「ほら、ルコア殿も行こうっ!」タタタ

ルコア「あっ、うん! もう、そんな焦らないで……」タタッ

ルコア(……そうだったら、いいな――――)



タタタッ……

パタン



……………………

377 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:24:33.52 ID:F5wXTSaO0

《epilogue.4 そして世界は廻っていく》

【並行世界・魔法界、トールの生まれ故郷】

サアアアア……



トール’『……………………ん』

トール’『柔らかな、風の音……。ここは』キョロキョロ

トール’『混沌勢の領地……、我の、生まれ故郷か。いつの間にか、流れ着いていた様だな……』

トール’『……ふふっ。まさか消滅する前にもう一度、この地に訪れる事が出来ようとはな』ククッ

トール’『……これも、あいつ等のお陰だな』



ガサッ



???「――懐かしい気配を辿って来てみれば。そこの魂だけの奴、お前……、トールか!?」

トール’『む……?』チラッ



イルル「噂には聞いてたが……、お前、本当に死んだのか、トール!?」ザッ

トール’『お前は……、イルルか……!』

378 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:26:27.70 ID:F5wXTSaO0

トール’『そうか……。久しいな、お前とも……』フッ

イルル「……なんだお前、その様は……ッ」ギリッ

トール’『フッ……、知っての通り、神に単身挑んだものの、見事に惨敗してな。こうして死霊としてやっと故郷に還ってきた――』

イルル「違うッ! 死んでいる事じゃない! その腑抜けた面は何だと聞いているんだッ!」ゴオッ

トール’『っ!』

イルル「どうして、そんな……っ、そんな、穏やかな顔をしていられる! 死んだんだろう、殺されたんだろう!
    神が憎くはないのか、悔しくはないのかっ!?」

トール’『イルル……』

イルル「答えろッ! それとも本当に、怒りも忘れる程に三下に成り下がったとでも言うのかっ!!?」ギッ

トール’『――当然、そりゃ悔しいとも。言うまでもない』

イルル「ッ!」

トール’『今もあの闘いを思い出すだけで、もう存在しない筈の臓腑が煮えくり返りそうな程に熱く怒りが込み上げてくる。
     怨みも、憎しみも、今もまるで褪せる事なくこの胸にある』グッ

イルル「っだったら、何故……っ!!」フウーッ

トール’『それは…………』

379 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:30:23.76 ID:F5wXTSaO0

トール’『…………出会えたから、かな。美しい、善いと思える光景に』

イルル「…………?」

トール’『怨みも憎しみも胸に在るままに、その上でそれらを脇に置いて美しいと、壊したくないと思える光景を、最後に我は見れた』

トール’『不思議なものだ。その光景の事を思うと、復讐とか破壊とか、何だか途端にどうでもよく感じてしまった。
     前はあんなに固執していたのにな……』フフッ

イルル「……っ! そんな、馬鹿な……っ!」グラッ

トール’『……イルル。お前も同胞を、人間達によって殺されていたな』

イルル「ッ! そうだ、だから私はあいつ等を全て根絶やしにする為に……!」ギッ

トール’『その憎しみは当然のものだ。大切な者を奪われた悲しみと怒りを消し去る必要はないし、また消し去ってはいけないのだろう。
     それは、その者達との大切な思い出を忘れないという誓いでもあるからだ』

イルル「……!? お、おう……?」

トール’『だが同時に、悲しみや怒り以外の想いもあるはずだ、お前の中にも』

イルル「…………っ!」

トール’『楽しかった事、嬉しかった事。誰かへの思い遣り、慈しみ、愛情……。“他者と手を取り合いたい”と願う気持ち。
     そうした輝かしき景色は時に憎しみによって容易く塗り潰されてしまいがちだが――それもまた、決して忘れるべきではないだろう』

イルル「それは…………っ。だがっ…………!」フルフル

トール’『――大丈夫。きっといつか、お前も出会える』

イルル「っ!」

トール’『痛みも憎しみも消さぬままに抱えて……。その上で、この者の隣で歩んでいきたいと思える様な、そんな相手と』

イルル「……お前は、出会えたのか? そんな奴と……」

トール’『ああ、生憎こんなナリになってしまった故、実際に共にある事は出来なかったが』ククッ

トール’『――お前もいつか会ってみると良い。我が父、我が朋友たるドラゴン達。そして……、“小林”と言う人間に。じゃあな――』スウ……

イルル「あ、待てっ――!」



サアアアア……



イルル「…………………………」

イルル「……コバヤシ、か」ポツリ







小林「あなたは……誰ですか?」トール「……えっ?」【小林さんちのメイドラゴンSS】

おわり

380 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2025/09/05(金) 22:38:57.64 ID:F5wXTSaO0

あとがき



お疲れ様でした。初投稿から早4年と数か月、最初の想定より遥かに時間が掛かってしまいましたが、何とか完結できました。



最後に、上手く作中で消化できなかった2点の補足。

・序盤、並行世界の探索時に学校で才川が朗読していた詩について。
あれは、往年の名作RPG「クロノ・クロス」の、OPムービー中における詩の引用となっています。
並行世界をテーマとして扱っている当ゲーム中の詩を用いる事で、本SSも並行世界を扱うものであると序盤から暗示出来たらな、と思い引用しました。

・原作漫画5巻45話ではルコアが「じゃあ時間を巻き戻して無かったことにする?それくらいなら僕はできるよ」という発言をしています。
これをそのまま採用すると、本SS中で並行世界のルコアはどうしてトールの死を無かった事にしなかったの?という矛盾が生じてしまいます。
ただ上記台詞は人間と仲良くする事を躊躇うイルルを諭そうとする場面での発言の為、この発言は方便の為のハッタリ、
もしくは実際には時間遡行は大きな制約が付くので限定的にしかできない事、と今回は解釈して、本SS中では言及しませんでした。



以上となります。

HTML化依頼スレッドが上手く開けないので、もし完結に伴うHTML化依頼が出来る方がいましたら、よろしければお手数ですがお願いしたいです。
(HTML化依頼が機能しているのかも分からないのですが)



それでは、長らくダラダラと続けてしまい申し訳ありませんでしたが、もし最後まで読んでくれた方がいるなら、大変嬉しい限りです。
どうもありがとうございました!
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