【シャニマス】P「よし、楽しく……」-L'Antica編-【分岐有】

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1 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/08(木) 20:46:03.07 ID:9u9ZjoYwO
・シャニマスのSSです。二次創作や解釈違いを敬遠される方はブラウザバックを推奨します。

・途中提示される選択肢からPの行動を安価で決定してお話を進めていく形式です。

・エンディングにたどり着いたら、共通ルートの後からスタートします。

・選択肢による行動のとり方次第では、同じキャラクター相手でも異なったエンディングがあり得ます。

・このSSは
【シャニマス】P「よし、楽しく……」-noctchill編- 【安価】: https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1594223305/
【シャニマス】P「よし、楽しく……」-Straylight編- 【安価】: https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1599288272/
のシリーズのうちの1つです。これらを読まなくても大丈夫だと思いますが、1つでも読んでいると本当の意味がわかるような場面、というのもあるはずです。
また、上記の作品のうち1つ以上を読まれた方々におかれましては、このスレでのネタバレになるようなレスはご遠慮願います。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1625744763
2 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/08(木) 21:07:40.97 ID:9u9ZjoYwO
----------------------------------------------------------------------------------------
OS Version 2.8.3.2019313

>……
>……
>……
----------------------------------------------------------------------------------------
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/07/08(木) 21:16:15.48 ID:f0b8ciFNo
たておつー
4 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/08(木) 21:18:09.75 ID:9u9ZjoYwO
キーンコーンカーンコーン

「すぅ……」zzzZZZ

ユサユサ

「んんっ……すぅ……」zzzZZZ

「ありゃ、これはかなりの熟睡度……いつも以上に手ごわいかも」

「……」zzzZZZ

「Pた〜ん、もう起きる時間だよ〜〜?」ユサユサ

P「……っ」

「このままだと、ホームルームで先生に見つかって、名指しで注意されちゃって、Pたんは恥ずかしい思いをすることに〜……」

P「わかった……わかったって……っしょっと」ムクリ

「ようやくお目覚め〜? ほんと、いつも起こしてあげてる三峰には、もっと感謝してくれなきゃな〜〜」

P「ん゛んーっ……ふぅ。ああ、いつもありがとうな、結華」

結華「! ……わ、わかってくれればいいのだよ、わかってくれればさー」

P「……」

結華「Pたん? どしたの?」

P「いや……なんでもない」

ガララ

「は〜い、それじゃあ、ホームルームはじめますね〜」

ガヤガヤ

結華「おっ、はづきち先生の登場だ!」

P「……」

結華「今日も美しいな〜。Pたんもそう思わない?」

P「ああ、美しいな……」ボーッ

結華「はぁ……まだまだおねむなPたんであった」

P(学校……いつも通りの朝)

P(俺の日常……)

P(……だよな?)

P「学校……学校か」

結華「? どしたの?」

P「いや、なんでも……」

P「……ちょっと寝ぼけていただけだ」

P(そう)

P(いつも通りに、登校して、ホームルームまで机で寝ていただけ)

P(ここからは、授業受けて、飯食って、授業受けて、帰る――)

P(――それだけだ)

P(どこにでもいる普通の高校生だと思う)

P(何の面白みもない)

結華「授業受ける前に顔でも洗ってきたほうがいいんじゃない?」

P「え?」

結華「今のPたんの顔を見てるとさー、なんていうか……」

結華「……言葉選ばずに言ってもいい?」

P「ああ」

結華「おっけー。まあ、今のPたんの顔を見てると、三峰はため息つきたくなるかなーって、ね」
5 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/08(木) 21:43:28.50 ID:uWQVtsYL0
P(言葉選ばずに、って……それは選んでるって言える気がするが)

P「気が向いたらそうする」

結華「……っはは、そーですかそーですか」

結華「まあ? いつも通りといえば、そうだけど」

P「そのほうが酷いだろ」

P(それこそ、言葉を選んだ意味、だ)

はづき「あのー、そこのお2人さん……?」

結華「……!! す、すみません!」

P「……」

はづき「仲が良いのは素晴らしいですけど、今はホームルーム中ですからね〜」

P(先生に注意されたことで、少なくない人数のクラスメイトがこちらに注目し、変な空気になる)

結華「はい……」

結華「……」

P(こういうの、結華は嫌いだろうな)

P「……」

P(結華の方を見て睨まれるのも嫌だし、前を向いていよう)

P(まあ、たぶん見ても睨まれはしないけど)

P(もっと面倒なことになりそうだ)

はづき「今日1日に関する連絡は以上です……が〜? まだ、これから先についてのお話があります」

P(……?)

はづき「今日からこのクラスには、新しい仲間が加わります」

ガヤガヤ

P(転校生、か)

P(クラスの騒がしい奴の1人が、男か女か、と聞いた)

はづき「女の子ですよ〜」

ザワザワ

P(さらに盛り上がるクラスメイトたち)

P(下世話な話もちらほら耳に届く)

はづき「はいはい、お静かに〜……それでは」

はづき「転校生を紹介しますね〜。どうぞ……」

P(転校生は教室の黒板側から入ってくるようだった)

P(そちらを見る)

ガララ

「……」

P「……!」

P(人目を引く可愛さ――というのだろう)

P(別に期待していたわけじゃない。そもそも、どんな人が来るかなんてわからなかった)

P(しかし、これは……)

はづき「では、黒板に名前を書いて、自己紹介をお願いします〜」

「は、はいっ……! ……わわっ!?」

P(転っ――危な……)

「っとと、……セ〜フ」

P(……よ、よかった)
6 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/08(木) 22:10:28.80 ID:uWQVtsYL0
P(転校生が黒板に名前を書いていく)

カッカッ・・・

P(チョークが滑る音が聞こえて、同時に文字が生成されていく)

P(名前は……月岡恋鐘――つきおかこがね――と言うんだな)

「……」

P(書き終わったみたいだ)

「月岡恋鐘ばい! あっ……です!」

恋鐘「よろしくお願いします!」

ワァァァァ

P(名乗ってよろしくと言っただけなのに、拍手と歓声――アイドルのライブみたいだ)

P(まあ、転校生が美少女で、その上……)

P(……あのスタイルならな)

はづき「月岡恋鐘さんは長崎の佐世保出身だそうです〜」

はづき「ここから遠い所にいたみたいなので、お互いにいろんなお話をしてあげてくださいね〜」

はづき「あ、そうだ。席は……今空いてるのが2つあって――」

P(1つは窓際の最後部、もう1つは――俺の真後ろだ……)

はづき「――どっちでも大丈夫なんですけど、どうします?」

恋鐘「じゃあ、こっちで!」

P「……え」

P(俺の後ろに来るのか)

P(まあ、窓際の最後部よりはマシってだけだろう、たぶん)

ザワザワ

P(後ろから椅子を引いたり荷物を出し入れする音がする)

P(今まで誰もいなかった分、変な感じがするな)

はづき「はい、それでは、ホームルームは以上になります」

はづき「1時間目の準備をしてくださいね〜」

はづき スタスタ

ガララ

バタン

ガヤガヤ

P(早速、転校生にクラスメイトたちが群がる)

P(自分の席のすぐ近くだから、なんだか居心地が悪いな)

P(しばらくの辛抱、か)

P「結華は行かなくていいのか」

結華「?」

P「いや、なんていうか……初対面の人でも気にせず話せるんだろうなと」

結華「ああ……でもさ、大勢に質問攻めされるのも大変だろうし、次の授業まで時間ないし、話すならあとでいくらでも時間あるからさー……」

結華「それに、三峰今はそういう気分じゃないんだよね」ボソッ

P「そ、そうか?」

結華「さってと……移動しますかねー」

結華「Pたん、三峰と同じクラスでしょ? 今日は実験室だから移動しないと遅刻だよーん」

P「! そうだったそうだった……」ガサゴソ

P(転校生が来ても、日常は日常……だ)
7 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/08(木) 22:42:17.32 ID:uWQVtsYL0
〜学校 化学実験室〜

ザワザワ

P(今日の実験は2人1組で行うことになっている)

P(今回のペアは――結華だった)

P(正直、ホームルームで2人揃って注意されてからというものの、どことなく気まずい空気があって、妙なタイミングだなと思った)

P「……」

結華「……」

P(結華も俺も黙々と作業をしていて、本当にどうしたら良いのかわからない)

P(地雷を踏み抜いた記憶はないんだが……)

結華「あ、Pたん、電源装置のコードちょうだい」

P「ああ……これだよな、はい」

結華「サンキュー」

P「……」

P(何か話そう。何か……)

P「……結華がペアだと助かるよ」

結華「えー? どうして」

P「結華は優秀だからな」

結華「……」ピタッ

P(え、今のまずかったか?)

P(いやいや、流石に……)

結華「……」

P「……」ダラダラ

結華「ビリビリーーーッ!!!」

P「うわあぁぁっ!?!?」ビクッ

P(結華は、俺が手渡した電源装置のコードの先をこっちに向けている)

結華「変に無理してるPたんには、このコンセントででんこうせっかをお見舞いしちゃおうかな〜?」

P「び、びっくりした……」

結華「まあ、でも、ごめんね? 気を遣わせちゃってるなら、申し訳ないなって」

P「それは別にいいけど……」

結華「Pたんが気にするようなことは何もないから安心してって、三峰は思うのでした」

結華「はぁ……でも、さすがにわかりやすすぎるなー……」ボソッ

P「え?」

結華「はいそこ! 女子の独り言を聞き返さない!」

P「す、すみません……!」

結華「あははっ、わかればいいのですよ」

結華「さて、三峰はこの流れを打破すべく、強引に話題を変えてみようと思います」

P「はい」

結華「今ってさ、そろそろW.I.N.G.出場を意識する子が出てきてもおかしくない時期だよね」

P「W.I.N.G.……」

結華「この学園のイベントの中でも最大級……しかも学園のアイドルの祭典とあっては、もうドルオタ的に無視できないよ!」

P「結華はそういうの好きだよな」

結華「うっわ、思い切り他人事扱いしてるよこの人」

P「すまん……こういうのは疎いってだけなんだ」
8 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/08(木) 23:23:41.63 ID:9u9ZjoYwO
結華「学園の美少女たちが集うんだよ? アツくない?」

P「いや、俺も1人の男子として興味がないわけじゃないんだ」

P「ただ、なんというか……こういうイベントにどう向き合うのが自分にとって一番か、わからないっていうかさ」

結華「推しを決めて応援するとかじゃ駄目なの?」

P「推し、か」

P「今年は誰が出場するんだ?」

結華「うーん、新入生の子たちもいるし、まだ、これから5月って時期だからなー」

結華「今からだいたい32週間後くらいに本番で、それまでに体育祭とか文化祭でのアピールもあるだろうから、まだわからないってのが本音」

結華「高3は受験が控えてるから例年だと出る人めったにいないし、三峰たち高2からってのは今のところ情報ナシ」

結華「……ところが。ところが、ですよPたん」

P「おう」

結華「三峰のアンテナには……届いたのです」

結華「高1の新入生に、スポーツ万能学業優秀容姿端麗なモデル系美人がいるという情報が……!」

P「漫画みたいだ……」

結華「三峰も気になって、1年生のエリアに行ってこっそり見てきたんだけど――」

結華「――うん、あれはヤバい」

P「めちゃくちゃ可愛かったと」

結華「いや、結論を急ぐなかれ、だよ」

結華「あれはね、Pたん。王子様だよ」

P「王子?」

結華「立ち居振る舞いがカッコよくて、もう女子にモテモテって感じだった」

結華「まあ、外からちょっと見ただけだから、どんな子なのかはわからないんだけどさー」

結華「噂では、親衛隊が結成されたそうな」

P「早いな……まだ、今年度始まって3週間とかだぞ?」

結華「それだけ影響力があるってことでしょ」

結華「そういうわけで、その美人さんは出場するんじゃないかな」

P「なるほどな」

結華「もしPたんが気になるって言うなら、情報が入り次第三峰が共有してあげるけど?」

P「そうだな……この学園最大のイベントだっていうのに、卒業まで無縁なのもどうかと思うし」

P「それに、アイドル……」

P(……アイドル)

P「うん。それじゃあ、お願いするよ」

結華「おっけー、任せなさい!」ニコッ

結華「三峰をドルオタ仲間にしたこと、後悔はさせませんよ〜?」

P「ははっ、頼もしいな」

P(ドルオタかどうかはわからないけど)

P(結華が楽しそうで良かった)

結華「そういえば、過去には中等部の子が出たって話もあるんだよね」

P「中等部か……あっちは少人数体制だし、出場したら目立ちそうだよな」

結華「まあねー。でも、1人、出てもおかしくない子がいるからなー」

P「そうなのか?」

結華「その子の性格的に出場するかはわかんないけど、ビジュアル的には全然アリだと思う!」

P「結華がそこまで言うなら、お目にかかってみたいものだな」
9 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/08(木) 23:52:04.31 ID:9u9ZjoYwO
結華「三峰から一方的に与えるだけではPたんも成長しないと思うので、ヒントをあげましょう」

結華「その子に会いたかったら、保健室に行くといいかもしれないよ?」

P「保健室か……用も無く行く所じゃないけどな」

P(ほとんど行ったことはないと思うし、見かけたことがないのは当然か)

結華「まあ、そこは気になるなら頑張ってみてよ」

P「そうだな」

P「色々教えてくれてありがとう、勉強になったよ」

結華「いえいえ、どういたしまして」

結華「まあ? 勉強っていうなら、今は授業中だから実験結果見てノート書かなきゃだけどね?」

P「ははっ……それは結華も同じ――」

P「――じゃ、ないな」

結華「三峰はPたんと話しながらちゃーんと手を動かしてましたよ。実験しながら書くってやれば時短になるし。……ほら」

P(一緒に実験をしながらの会話だったが、いつの間にノートまで……)

結華「そんなに三峰に集中しちゃってたなんて、Pたん三峰のこと好きすぎかな?」

P「面目ない……実験の様子も正直よく覚えてないよ」

結華「しょうがないなぁ……はい、どうぞ」

P(結華が自分のノートを閉じた状態で俺に渡してくる)

結華「今日提出とかじゃないし、あとで適当なタイミングで写しといてよ。今から書いても授業終わっちゃうだろうし」

結華「提出期限の日までには返してね」

P「ありがとう……! 感謝の気持ちでいっぱいだ」

結華 ニコ



休み時間。

〜教室〜

P(結華のノートを写すか、寝るか、どちらにするべきか)

P「……」

P(ふと、周りを見る)

ガヤガヤ

P(結華は他の友だちと盛り上がってるみたいだし、ノートを写すのを急かしてはこないだろう)

P(というわけで、寝る)

P(おやすm……)

恋鐘「ねえ」ツンツン

P「うわっ!?」ビクッ

恋鐘「ご、ごめんね! 別に、驚かせようとしたわけじゃなか……ないよ?」

P「あ、月岡さん……」

P「俺に何か用……か?」

恋鐘「さっきん授業、アイドルの話b……してたよね?」

P「ああ……W.I.N.G.のことだな」

恋鐘「それ、詳しく聞かせて欲しか!」ズイッ

P(ち、近い、近すぎる)

恋鐘「……あ、聞かせて、欲しいな」スッ

P(いや、気にすべきところはそこじゃないぞ、月岡さん)

P「別にいいけど、俺よりも結華――あそこにいる三峰結華ってやつの方が詳しいぞ?」
10 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/09(金) 01:19:55.66 ID:enf9/bEJO
P(結華は、今も友だちと話をしている)

P「まあ、今は無理かもしれないけど、後でなら……」

恋鐘「で、でも……」

P「そういうわけだから、うん」

恋鐘「……寝ようとしとったってことはどうせ暇なんやろ」ボソッ

P「なんて?」

恋鐘「だーかーらー! 暇なら知っとる限りんことば教えんね言うたと!!」

P「お、おう……」

恋鐘「なして転校生相手にここまで無関心になるんやろうか、まったく」プンスコ

恋鐘「あ……また訛りが出よった! う〜〜〜」

P「無理に標準語で話そうとしなくてもいいんじゃないか?」

恋鐘「えっ?」

P「俺はその方がいいと思う」

恋鐘「そ、そうなんやろうか……」

P「月岡さんがどういう人なのか、その方が伝わると思うし」

恋鐘「……えへへ、ありがと」

恋鐘「やっぱ標準語は変に緊張して実力を出し切れんもん」

恋鐘「あ、そうだ、まだ名前ば聞いとらんやったばい」

P「俺は――」

(――名乗る)

恋鐘「P、観念してうちに教えるたい!」

P「ははっ、わかったよ。そこまで言われちゃあ、な」

P(俺は、もとから知っていたわずかな知識に、結華から教わったことを加えて、月岡さんにW.I.N.G.に関する説明をした)

P「……と、いう感じなんだ」

恋鐘「……」

P「月岡さん?」

恋鐘「うち、決めたばい」

恋鐘「W.I.N.G.に出る!」

恋鐘「で、Pがよそ見できんくらい釘付けにしちゃるばい!」

恋鐘「よーく見とってね!」

P「ああ、うん――」

P「――応援するよ」

P(それは、本心だったのか、それとも社交辞令だったのか)

P(少なくとも、躊躇いなく出た言葉ではあった)

恋鐘「ほんと!?」ズイッ

P(近い近い……というか)

P(その、大きい)

P(これは視線がそちらにいっても不可抗力というものだろう)

恋鐘「嬉しか〜、ファン1号ゲットばい」

P「ははっ……」

キーンコーンカーンコーン

P「予鈴だ」

恋鐘「もう休み時間終わったと!? 早すぎるばい……」
11 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/09(金) 01:44:29.16 ID:enf9/bEJO
P「次の授業の準備をしないとな」

恋鐘「うん……」

P ガサゴソ

恋鐘「……P」

P「?」

恋鐘「うち、上京してきたばっかやけん、こっちのことはようわからんけん」

恋鐘「だから、いろいろ教えてね?」

P「まあ、月岡さんに教えるのが俺なんかで良ければ」

恋鐘「約束ばい」

P「ああ、わかった」

恋鐘「えっへへー……あ、あと!」

恋鐘「うちのことは恋鐘でよかけん」

P「そうか、じゃあ、改めてよろしく――」

P「――恋鐘」



昼休み。

〜教室〜

P(転校生は人気者だ。さっきの休み時間で俺が話せたのなんて奇跡みたいなものだったんだろう)

P(月岡さん――恋鐘は、昼休みになるやいなや、複数のクラスメイトたちと食堂に行ったようだった)

P(まあ、行った、というよりは、連れて行かれた、というのが正確な説明かもしれないが)

結華「Pたんは食堂に行かなくて良かったの?」

P「どうしてだ?」

結華「はぁ……わからないかなー」

P「???」

結華「ううん、なんでもない」

結華「さてと、三峰もお昼を食べますかねー」

P「結華はここで食うのか」

結華「まあ、お弁当あるし」

P「自炊派って言ってたもんな。すごいよ」

結華「自分のためだけに自分で作る食事なんて、大したことないない」

結華「Pたんはどうなのさ」

P「朝の争奪戦で勝ち得たこの弁当を食うよ」

P(食堂では、毎朝数量限定で弁当を格安で販売している)

P(これはその戦利品だ)

結華「あーあ、負けちゃえば今頃食堂だったのに、Pたんついてないなー」

P「さっきからどうしたんだ? 俺に食堂に行って欲しいみたいな……」

結華「……おっと、三峰としたことが」ボソッ

結華「こほん。あのねPたん、三峰は別に、食堂に行って欲しいなんて言ってないと思う」

P「そ、そうか」

P(おかしい。化学の時間で気まずい空気は霧散したと思っていたのに。どうしたんだろう)

結華「……ノート、早く返してね」

P「あ、ああ……うん」

P(それから、各々黙々と昼食をとった)
12 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/09(金) 02:20:37.98 ID:enf9/bEJO
5時間目。

〜中庭〜

P(5時間目は担当教員の都合で自習となった)

P(代わりに来た監督の先生は生徒たちを監督する気がないようだった。自分の仕事をしていたからだ)

P(教室は騒がしい。せっかくの時間を教室で過ごす必要はない)

P(そういうわけで、中庭の目立たなそうな所に来ている。ここで静かに過ごそう……)

P「……あ」

P(缶コーヒーの1つでもあれば……うん、“良い”な)

P「確か自販機がこっちに……」スタスタ

P「……あった」

P(缶コーヒーといっても色々あるな……)

P(……と、その中でも一際目立つデザインの缶があった)

P「これにするか……」スッ

「おや、アナタもそれが気になるのかい?」

P「え」

「おっと、驚かせてしまったかな」

P(確かに驚いてはいる――色々と)

「すまない。どれを選ぼうか考えているアナタのことを、つい、見てしまってね」

「しかも、私が気になったものと同じ缶を選ぼうとしたものだから」

P「あ、ああ……これか」

P「目立つよな」

「そうだね。とても目立つ。目立つものだから、当然、人目にはつくんだろう。気にかけてくれる人も多いはずだ」

「けれど、その中身にもちゃんと向き合ってくれる人は……果たしているのかな」

P「なるほど、そういう見方もあるのか」

P(缶コーヒーに対してそこまで考えたことはなかったな)

P「そうだな……君に言われて思ったのは、それなら俺が向き合ってやればいい、といったところかな」

P「理解者は多くなくていい。たぶん、少なくてもいいし、1人でもいいから、ちゃんとわかってくれる人がいれば良いんだと思う」

P「だから、その1人に俺はなろうかな」

「……!」

P「って、缶コーヒーで何言ってるんだって感じだよな」

「……いいや、そんなことはないよ。なんだか、今すぐにでもアナタにお礼をいいたいような気分だ」

P「ははっ、なんだそりゃ」

P「って、君はここにいてもいいのか? 教室から抜け出してきた俺が言うのもなんだが」

「実はね、いま、私のクラスは体育なんだ。でも、ちょっと、1人になりたくてね」

「それで、仮病を使って抜け出してきたというわけさ」

P「不良だな」

「そうだとも。アナタと同じ……ね。私たちは互いに同じ罪を犯している」

「それでも、悪い気はしないよ。こんなに良い出会いがあったのだからね」

P「そう言ってもらえるなら、サボりがいがあるってものだな」

P「あ、そうだ。俺は、2年……高2の――」

P(――名乗る)

「おっと、私としたことが、自己紹介もせずに随分と話し込んでしまっていたね」

咲耶「私は咲耶――白瀬咲耶だ。よろしく、P」
13 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/09(金) 02:25:55.60 ID:enf9/bEJO
キリが良いのでとりあえずここまで。

共通ルートの途中になります。なお、選択肢による分岐は共通ルートの後にあります。

Straylight編(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1599288272/)の685-687に載せているL'Antica編の予告もあわせて見ていただければと思います。

では。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/07/09(金) 02:43:09.07 ID:Ixu4BxwFo
おつー
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/07/09(金) 05:31:30.57 ID:elCoxzgDO
JCきりりん……


ゴクリ
16 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/11(日) 00:23:09.44 ID:S2x3nOyB0
6時間目、授業中。

〜教室〜

P(教員が数式を黒板に書いている――今は数学の授業中だ)

P(頑張って板書をノートに取らなくても、中身を理解していれば許される科目……)

P「……」ボーッ

P(俺は、先ほど出会った白瀬咲耶という少女のことを思い出していた)


P『白瀬、咲耶……』

咲耶『アナタより1つ下の学年――1年生だよ』

P『1年生……あ』

P《そういえば、結華が言ってたな》

P《高1の新入生に、スポーツ万能学業優秀容姿端麗なモデル系美人がいる……》

P《立ち居振る舞いが格好良い、女子にモテモテな王子様……》

P『その、噂……というか、君なんじゃないかっていう人物の話を聞いていたから』

咲耶『はは……上級生の間でも有名なんだね』

P『それだけ、君が魅力的だってことだろ』

咲耶『……』

咲耶『……アナタにとっては、どう――かな?」

P『?』

咲耶『今、アナタは私を“魅力的”だと言った。でも、それは、噂話を踏まえた上で他人事を呟くような意見に過ぎないだろう?』

咲耶『アナタの目には、私はどう写っているのか……それが知りたいかな』

P『どうって……』

P『凛として格好良いと思う……確かに惹かれるものがあるんだ――けど』

P『俺は、まだ君のことを知らないから』

P『その質問に答えるには、もっと君のことを知ってからじゃないと……』

咲耶『……! そうか』

咲耶『フフ、なんだか妙なことを聞いてしまったね』

P『質問にちゃんと答えられたのかはよくわからないけど……』

咲耶『いいや、むしろ私の期待以上の答えだったと言っていい』

咲耶『……』

P『?』

咲耶『アナタは私の今までにはない返答をしてくれた』

咲耶『アナタに興味を引かれたよ』ズイ

P《なんだか、距離が近すぎるような……》

咲耶『どうかしたのかい?』

P『い、いや、なんでもない』

キーンコーンカーンコーン

咲耶『……。もっと続いて欲しいと感じる時間ほど、唐突に終わってしまうんだね』ボソッ

P『教室に戻らないと、だな』

咲耶『ああ。……また、こうして話せるかな?』

P『え? あ、ああ……君さえ良ければ』

咲耶『クス。私から提案しているというのに、おかしなことを言うね。じゃあ、また会おう』

咲耶『……それと、私のことは咲耶でいいよ』
17 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/11(日) 00:26:35.51 ID:S2x3nOyB0
>>16 誤植訂正:

咲耶『……アナタにとっては、どう――かな?」
→咲耶『……アナタにとっては、どう――かな?』
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/07/11(日) 01:12:50.36 ID:onMVsvCDO
何が訂正されたかわからん

機種のあれか?
19 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/11(日) 01:59:04.47 ID:S2x3nOyB0
P「……」

P(白瀬咲耶――――彼女なら、W.I.N.G.に出てもおかしくない)

P(この学園自体、高等部がマンモス校だからライバルも少なくないだろうが……)

P(……それにしても抜きん出た存在であるように感じられた)

P(格好良い王子様として少なくない数のファンが既にいるようだが、果たして彼女の――咲耶の魅力はそれだけだろうか?)

P(そう、例えば可愛――……)

結華「……――たん。……Pたんってば!」

P「え」

結華「問題、前で解けって先生に言われてるよ?」

P「あ……そうか。すまん、ボーっとしてた」

結華「もー、しょうがないなー」

P「すみません、今やります」スタスタ

P(何を考えているんだ、俺は)

P(魅力の引き出し方……なんて)

P(これじゃあ、まるでアイドルのプロデュースじゃないか)



帰りのホームルーム。

〜教室〜

はづき「はい、席についてくださいね〜」

はづき「では、まずは明日の授業に関する連絡から――……」


はづき「……――授業については以上になります。委員会や部活動の情報共有はありますか〜?」

シーン

はづき「大丈夫みたいですね〜」

はづき「最後に、私から1つお話があります」

はづき「先日、たまたま用事があって夜にセンター街を通ることがあったのですが」

はづき「どう見ても高校生……という子たちが攻めた格好でうろついているのを見ました」

はづき「中には、かなりパンキッシュな格好で、しかも1人でいる女の子も……その時は急いでいて、私から注意をするということはなかったんですけど」

はづき「皆さんも高校生で、怖いものもまだまだ知らないでしょうから、危ないことにならないようくれぐれも気をつけてくださいね〜」

はづき「この学園は特に校則も無く自由な環境……だからこそ、善悪の判断をきちんとできるようにしてください」

はづき「私からは以上です〜」


キリツ、キヲツケ、レイ

サヨウナラー

P「結華はこれからどうするんだ?」

結華「お、Pたん、三峰と一緒に帰りたい感じかな?」

P「え、それは……」

結華「できるなら……Pたんの愛に応えてあげたい……! けど、今日はちょっとね」

結華「まあ? 三峰、もともと今日の放課後は図書館で勉強していこうって思ってたからさ」

結華「心苦しいですが、今回は三峰のことが大好きなPたんのお誘いを断らなければならないのです……!」

P「いいんだ。気にしないでくれ」

結華「……気にしないでくれ、って何さ」ボソッ

P「こっちこそ予定があったのにすまなかったな。じゃあ、また明日」

結華「うん……じゃあね、Pたん」
20 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/11(日) 02:01:23.20 ID:S2x3nOyB0
>>18

括弧について、
』(2重カギ括弧)
とすべきところを
」(カギ括弧)
としてしまっていたので直しました。
21 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/11(日) 02:15:53.61 ID:S2x3nOyB0
〜校内掲示板前〜

P「……」

P(1人ぼっちで暇だと、こういうのを特に意味もなく眺めてしまうな)

P「……あ」

P(中等部の実力テストの順位が掲載されているな)

P(まあ、中等部の知り合いなんていないけど)

結華『そういえば、過去には中等部の子が出たって話もあるんだよね』

P(まだ名前を知らないな……)

P(まあ、きっと、この順位表のどこかにいるんだろう)

P「……」

P(例によって、特に意味もなく順位表の名前を眺める)

P(上位から順に)

P「……」

P「……ゆう、こく?」

P(珍しい名字の生徒がいて、目に留まる)

P(幽谷霧子――ゆうこくきりこ、と読むんだろうか)

P(かなり上位にいるな……トップクラスじゃないか)

P(中等部は少人数とはいえ、そもそもうちの学園の中学入試の難易度が非常に高い)

P(高等部とは違うのだ)

P(だから、その中でこれなら、結構すごいんだろう)

P「って、どこの誰かもわからない生徒のことだけど」

P(帰るか……)

P スタスタ



〜校門前〜

P「……」スタスタ

P「……ん?」

P(前方に女子の集団――)

P(――それは、恋鐘を囲んでいた)

P(転校生に興味を示した女子生徒たちが群がっているんだろう)

P(恋鐘も、たぶん楽しそうに話している)

P「……」スタスタ

P(ふと)

恋鐘「……!」

P(目が合う)

恋鐘 オロオロ

P(こんなとき、どうしていいのか、わからない)

P「……」

P(すぐに女子集団に流され、恋鐘の視線もこちらを向かなくなった)

P「……なんなんだろうな、これ」

P(今日は疲れる1日だ)

ポツ・・・ポツ・・・

P「雨、か……」
22 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/11(日) 02:47:50.31 ID:S2x3nOyB0
翌日。

2時間目。

〜渡り廊下〜

P「……痛」

P(体育のソフトボール中にスライディングしたら結構擦りむいてしまった……)

P(そのまま気にせず続行するにしては派手な傷口だということで、今は保健室に向かっている)

P「保健室……」

結華『その子に会いたかったら、保健室に行くといいかもしれないよ?』

P(結華曰く、W.I.N.G.に出てもおかしくないレベルの子にエンカウントできるかもしれないのだとか)


〜保健室前〜

P(ここ……だよな)

P(よく考えたら、今までほとんど来たことがなかったな)

P(まあ、その方が良いのかもしれないが)

P(扉を開けようとすると――)

「ん……と」

「……できました……! ……ふふ、包帯、いつもより上手く巻けたかも……♪」

P(――先客がいるようだった)

P(保健室の養護教諭……にしては雰囲気がそぐわないような)

P ガララ


〜保健室〜

P「失礼します」

「……あっ……」

P(保健室の中には、女子生徒が1人いるだけだった)

P(そして、目が合う)

P「……」

「……」

P(……あ、いかん。つい見惚れてしまった……)

P「いや、急にすまない。軽く怪我を――傷ができたもので、処置したいんだが」

「……っ! 血が出ちゃってます……!」

「早くなんとかしないと……わたし、消毒とか応急処置とかできるので、そこに座ってください」

P「あ、ありがとう……」

P(そういうのは養護教諭の仕事じゃないのか……? 保健室にいる女子生徒ということは、保健委員とかなんだろうか)

P(でも、今は授業中だしな……)

「これで……、とん……とん……」

P「っ……」

P(消毒液がしみる)

「ご、ごめんなさい。必要なことだから……」

P「いいんだ。気にしないでくれ」

「あとは……包帯、です」

P(ん? 絆創膏とかじゃないのか?)

「まき……まき……♪ ……ふふ」

P「包帯を巻くの、上手なんだな」
23 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/11(日) 03:13:35.63 ID:sAzrDOGpO
「はい……!」

P「絆創膏じゃなくて、包帯なのか」

「この包帯は……特別なんです」

P「お、おう……」

P(医療関係の最新の商品とかなのかな)

「……っしょっと。これで大丈夫です」

P「ありがとう。助かる」

「いえ……そんな」

P(目の前の女子生徒のことを見ていると、あることに気づく。名札をつけていたのだ。すると、そこに書かれた文字が顔を覗かせた――漢字とふりがなのセットで)

P「ゆうこく、きりこ……?」

「あっ……はい。わたしの名前……あ、もしかして、これ……ですか?」

P「ああ、その名札を見てた」

霧子「こうすれば、迷わずわたしの名前が読めるかな……って」

P「確かに、珍しい名字だもんな」

P(珍しいという感想は、今に始まったことではなくて、昨日に掲示板で名前を見かけたときからのものだが)

P「……それじゃあ、授業中だし、戻るとするよ」

霧子「そ、そうですか……。……お大事に」

P「ありがとう」

ガララ

バタン


〜渡り廊下〜

P スタスタ

P(ミステリアスな雰囲気を醸し出している子だったな。つい、魅了されてしまった。結華が言ってた子は、あの子なんだろうか)

P(なんとなく、照れというか、気恥ずかしさというか、そういう感情でさっさと保健室を後にしてしまったが)

P「……」

P(人生で初めて、保健室のリピーターになりたいと思った……なんて)

P「あ」

P(結局、あの子が授業中なのにあそこにいた理由はわからなかったな)

P「まあ、いいか」

P(とりあえず、自習時間という名の自由時間に行きたいと思う場所が増えた)



放課後。

〜教室〜

結華「Pたん〜、三峰のお願い……聞いて欲しいなっ」

P(今日はテンション高いな)

P「どうしたんだ?」

結華「今日、センター街の方で並びたいグッズの列があるんだけど、それと同時にもう1件行かねばならない戦地があってだね」

結華「ご存知の通り、三峰は分身の能力は有しておりません! なので――」

結華「――Pたんには、お使いをお願いしたいと思います……! もちろん、これは三峰の借りだから! とりあえず、どうかな?」

P「まあ、別に大丈夫だ。承ろう」

結華「やったやったー! ありがとうPたん!!」

P(センター街……か。昨日のはづき先生の話を思い出すな)
24 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/11(日) 03:17:56.10 ID:sAzrDOGpO
とりあえずここまで。依然として共通ルートの途中です。

Pがキャラクターたちと出会うところからなので、もうしばらくは1本道です。いきなり舞台が学園になっているのは……まあ、そのうち……。
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/07/11(日) 03:22:04.92 ID:TjUYDvySo
おつおつー
26 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/11(日) 23:05:43.72 ID:S2x3nOyB0
〜センター街〜

P(すごい数の人だな……)

P「っと、どれどれ……」

P(結華のお使いの行き先をスマホで確認する)

P「……あ、そろそろだな」


1時間後。

P「はぁ」

P(長蛇の列に並んで、ようやく結華が欲しいと言っていたものが手に入った)

P(疲れたし、早く帰ろう……)

P「……」

P(行きと違って、疲れはあるものの心には余裕がある)

P(辺りを見回すと、はづき先生の言っていたこともわかるような気がする)

はづき『どう見ても高校生……という子たちが攻めた格好でうろついているのを見ました』

はづき『中には、かなりパンキッシュな格好で、しかも1人でいる女の子も……その時は急いでいて、私から注意をするということはなかったんですけど』

はづき『皆さんも高校生で、怖いものもまだまだ知らないでしょうから、危ないことにならないようくれぐれも気をつけてくださいね〜』

P(まさに、そういう感じの子たちが多くいた)

P(中には明らかに不健全な感じを漂わせている人物もちらほら……)

P「……帰るか」

P(俺に何かできることがあるわけでもないだろう)

P(無関心を装うのが一番楽だし安全だ)

コロコロ・・・

P「ん?」

P(ふと、何かが転がる音)

P クルッ

P(何気なく音のした方を見ると、そこには――)

P「!」

P(――結華から頼まれていたグッズの1つが転がっていた)

P(紙袋いっぱいに詰めていたから、小さいキーホルダーが落ちてしまったみたいだ)

P「っと、待て待て……!」

P(丸みを帯びているものだから、どんどん転がっていってしまう)

カラン・・・

P「……」

「?」

P(人の足に当たって、キーホルダーは動きを止めた)

「何これ……」

「キーホルダー……?」

P「あ、それは俺が落とした物なんだ」

P「ありがとう、拾ってくれて」

P(返してもらおうと、手を広げて差し出した)

「……」

P(差し出して……いるのだが)

「……ふふー」ニッ
27 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/11(日) 23:34:56.91 ID:S2x3nOyB0
P「あの……返してくれないか?」

「えー……どうしようかなー」サッ

P(キーホルダーを持ったまま後ろ手を組まれてしまう)

P「おいおい……勘弁してくれよ」

「お兄さんはー、これを返して欲しいって言ってるんですかぁ?」グッ

P(何かを握ったような手をこちらに差し出してきた)

P「ああ、そうだ」

「ふふー……わかりましたぁ。どうぞー」パッ

P「ちょっ、そのまま話したら落ち――……」バッ

P(……――何とかキャッチ――)パシッ

P(――とはならなかった)

P「え」

P(そこには、“何もなかった”)

P(そもそも、“何も落ちてなどいなかった”)

P(俺が掴んだのは――無だ)

「そうですかー、お兄さんは私の握った空気が欲しかったんだぁ」

「変わってますねー」

P「なっ……!」

P(……なんてやつだ)

P(差し出された方とは逆の手が出され、その中にキーホルダーがあるのがわかった)

「ふふー」

P「……」

P「……大切なものなんだ」

「あらら……そうでしたかぁ」

P「ああ。俺にとって、じゃないけどな」

「?」

P「俺はそれを託されただけだ」

P「それを待ってる人がいるから、ちゃんと届けないといけない」

「……」

P「信頼と期待で、任されているから」

P「それに応えたいんだ」

P「たとえ小さいことであっても、な」

「……期待」ボソッ

P「……」

「……わかりましたぁ。しょうがないんで、返しますー」ポイッ

P「わっ……! とと……っよし」パシッ

P(今度こそキャッチすることができた)

P「俺はいいけど、もうこういうイタズラはするんじゃないぞ? タチの悪い奴が相手だったらどうするんだ」

「別にー……、悪い子だし普通ですケドー」

P「悪い子だからって、危ない目に遭っていいわけじゃないんだ」

P(なぜだろう、いつになくお節介だ。まるで、俺じゃないみたいに)

「話は終わりでいいですかぁ? 私、もう行きますねー」

P「あっ、ちょっと待って!」
28 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/12(月) 01:07:48.95 ID:RKrSMy7s0
「……まだ、何か用があるんですかぁ?」

P「もういい時間だし、こんなところに1人で居続けちゃ危ないんだ」

「それ、さっきも似たようなこと言ってましたよねー」

P「ああ。危なくて放っておけないよ」

「……」

「……お兄さん、変わってますねー」

P「普通は心配するよ」

P(これが俺の普通なのだろうか)

「……初めて会った相手に、こんなしつこく叱る人、フツーとは言いませんよー?」

「……」

P「……」

「まぁ、そんなに言うなら、お兄さんに免じて今日は帰ってあげますねー」

P「そ、そうか。それは良かった」

「それではぁ、さよーならぁ」スタスタ

P「……」

P(……駅の方に向かって行ったな。ちゃんと帰宅してくれるといいんだが……)

P「あ、俺も帰らないと」

P(彼女が行った方向に、俺も歩いていく)

P(他人とこれだけ話したのは、いつぶりだろうか)

P(不思議と、彼女とのやり取りで疲れを感じることはなかった)

P(むしろ、それまでの疲れが取れたとすら……)

P「……ははっ」

P(俺は――楽しかった、のか?)



翌日。

〜学校 教室〜

P「結華。頼まれていたやつだ」

結華「ありがとうPたん〜! これで三峰は一片の悔いもありませんよ〜〜」

P「ははっ……そんな大げさな」

結華「それに……ちょっとオシャレな紙袋だね?」

結華「まるで中身の想像がつかないくらいには、ね」ミミウチ

P「あ、ああ……まあな」

P「そのほうがいいだろ?」

結華「……! うん、そう……だね」

結華「ありがとう、Pたん」

P「どういたしまして」

結華「このお礼は必ずするから……! 三峰、恩を忘れるような人間ではありませんし」

P「わかってるって。まあ、見返りを求めてやったわけじゃないけどさ」

結華「またまた〜? お礼されたらPたんだって嬉しいでしょ?」

P「それは……まあ」

P「でも、さ。なんていうか」

P「結華のためにやったってだけなんだ」

P「結華が喜んでくれたし、俺はそれだけでいい」
29 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/12(月) 01:40:41.01 ID:RKrSMy7s0
結華「……!」

結華「Pたん……今のはさぁ……ちょっとさぁ……」

P「えっ、なんだ?」

P(何かまずいこと言ったか……?)

結華「は〜……自覚ナシとか……これだから……」

P「す、すまん……?」

結華「そこで謝っちゃうとことかも、ぜーんぜんわかってない……」

結華「Pたんってば、存外タチ悪いよね〜」

結華「……これは苦労しそうだなぁ」



2時間目終わり頃。

〜廊下〜

P スタスタ

P(今日の体育は思ったよりも早く終わったな……どこか適当な場所で休むとしよう)

P スタスタ

「あ、フフ……P」

P「……っとと」

P(誰かに呼び止められた)

「おや、こんなところで、どうしたんだい?」

P「え? いや、その……」

「おっと、いきなりで驚かせてしまったかな。私は――」

咲耶「――白瀬咲耶だ」

P「いや、それはわかる」

P(間違えようがない)

咲耶「覚えてくれていたようで嬉しいよ。なにしろ、まだ一度しか話していなかったからね」

P(むしろ、一度でも話せば忘れなさそうだが)

P「ははっ……そっちこそ、俺なんかのことをよく覚えてたな」

咲耶「俺なんか――などと卑下するものではないよ。アナタはもっと胸を張っていいんだ」

咲耶「それに、“そっち”……ではないだろう? ちゃんと、名前で呼んで欲しい」

P「す、すまん。……咲耶」

咲耶「フフ……なんだい?」

P「あ、その……呼んだだけだ」

咲耶「構わないよ。口実が無くても一緒にいられる関係というのは、心地よいものだからね」

咲耶「あるいは……、一緒にいるために口実を作りたい――そう思える関係性もいい」

P「ああ……」

咲耶「……と、私としたことが配慮に欠けていた」

咲耶「もし先を急いでいたというなら、遠慮なく行くといい。アナタに迷惑をかけて印象を悪くしたくないからね」

P「別に気にしてないよ。単に、体育が早く終わったから、どこで休もうか考えていたところなんだ」

咲耶「良かった。それなら――……」

「おーい!!!」タタタタタ

P「ん? ……って、おいおい……!」

P(ぶつかる……避けられn……)

恋鐘「いぇ〜い!」ドンッ
30 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/12(月) 02:12:22.27 ID:RKrSMy7s0
P「うわぁっ!?」ヨロッ

P「……っとと」

P(なんとかバランスを取ることができた)

P「ど、どうしたんだ……恋鐘」

恋鐘「どがんしたっていうか、Pの背中が見えたけん! 挨拶しようと思っただけばい!」

恋鐘「あ、お取り込み中やった? うち、邪魔してしもうたかな?」

咲耶「……いや、気にすることはないさ」

P「悪いな咲耶。いきなり知らないやつが飛び出てきて、驚くのも無理ないよ」

恋鐘「ちょっと〜、うちをゲテモノ扱いせんといて! ただ挨拶しただけやろ?」

P「あれは挨拶じゃない。突撃と言うんだ」

恋鐘「Pが相手なら遠慮はいらんばい!」

恋鐘「うちにはわかる! Pははらかいとらん――怒ってないもん!」

P「そりゃ怒ってはいないけど……」

恋鐘「えっへへー、それならよか!」

咲耶「P、2人の世界に浸っているところ悪いが……こちらは?」

P「あ、そうだな。紹介するよ。俺と同じ学年・クラスの月岡恋鐘だ。この前、九州からここに引っ越してきたんだと」

P「恋鐘、1年生の白瀬咲耶だ。もしかしたらもう知っt――」

恋鐘「――ばりかっこよか……」

恋鐘「実際に見ると圧倒されるばい……やっぱり、噂どおりやった」

P「転校生でも知ってるとは……さすがだな、咲耶」

咲耶「フフ、それほどでもないさ」

P(いや、それほどでもあるよ)

恋鐘「W.I.N.G.に出られたら絶対に手ごわかライバルになるって踏んでたんよ」

P(そ、そういうことか……)

咲耶「私は、別にまだエントリーすると決めたわけじゃ……」

恋鐘「あ、うと? それなら安心やね」

恋鐘「Pに無事優勝するうちん姿ば見せられるばい」

咲耶「……今、Pに、と言ったかな?」

恋鐘「そうよ? Pはうちの大事なファン1号やし、Pのために頑張る言うても過言やなかばい!」

恋鐘「それに……頑張るうちば見て、きっと……」

恋鐘「……えへへ」

咲耶「……。……P」

P「どうした?」

咲耶「W.I.N.G.優勝……目指そうと思う」

恋鐘「えぇぇ〜〜!?」

P「突然だな……なんでまた」

咲耶「それをアナタが聞くのかい? いや、私がW.I.N.G.優勝を志す意味を気づかせてこそ、か……」

咲耶「挨拶が遅れたね。Pとは固い絆で結ばれている、白瀬咲耶だ。よろしく」

P(初めて聞いたぞ。というか、どんな自己紹介だよ)

恋鐘「何を〜〜!? Pが惚れ込んだアイドル、月岡恋鐘ばい!」

P(なんか、勝手にかなり入れ込んでることにさせられてるんだが)

P(この2人ってこんな感じになるのか……。なんだか、もっと仲良くできる気がするんだけどなぁ)

P(……いや、なんでそんなことわかるんだって話、か)
31 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/12(月) 02:13:38.87 ID:RKrSMy7s0
とりあえずここまで。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/07/12(月) 07:14:39.86 ID:ifzbj8Bjo
おつー
33 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/18(日) 01:05:20.27 ID:57JGyBZa0
>>30 誤植訂正:


恋鐘「あ、うと? それなら安心やね」
→恋鐘「あ、そうと? それなら安心やね」
34 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/18(日) 01:37:17.90 ID:57JGyBZa0
昼休み。

〜教室〜

P(昼食後、タイミングを見計らって、結華にノートを返すことにした)

P「結華。これ、借りてたノートだ。ありがとう、助かったよ」

結華「いえいえ、どういたしまして〜」

P「ああ」

P(結華にノートを返して、自分の席に座る)

結華「……」

P「……」

結華「…………」

P「…………」

結華「……っはは」

P「ど、どうしたんだ?」

結華「いや、別にー?」

結華「何もすることないならさ、なんかお話しようよ、Pたん」

P「何か……か。そうだな……」

P「W.I.N.G.についてもう少し教えてくれ」

結華「おっ! Pたんもついに“こっち側”かな?」

P「ははっ……そうなれるように頑張るよ」

P「W.I.N.G.のことを知るために、まずは出場する側の視点に立ってみようと思ったんだ」

P「過程を知っているほうがより応援できるんじゃないかって」

結華「いいねいいねー、そうこなくっちゃ」

結華「正確にはね、W.I.N.G.っていうのは最終決戦場みたいなものなんだよ」

P「まずはそこにたどり着く必要があるってことか」

結華「そういうこと」

結華「だから、出場資格を手に入れないといけないのです」

結華「エントリーしてから開催までに4回審査があって、学校生活の中でどれだけアピールできるかが重要なんだけど」

結華「審査までに一定のランクに達してないと……」

P ゴクリ

結華「……なんと! 出場資格を失っちゃう!」

P「厳しい戦いだな……」

P「エントリーした子が1人で乗り越えるのはかなり大変なんじゃないのか?」

結華「そうそう。自分の周りに協力してくれる人がいないとねー」

結華「W.I.N.G.を目指す子だって自分だけじゃ自分をどうアピールしたらいいかなんてわからないかもしれないし」

結華「信頼できる人たちと一緒にゴールを目指すのが王道ってわけ。まさに、プロデュース、プロダクション、ってやつ?」

P「なるほど」

P(恋鐘は転校してきたばかりだけど、その辺は大丈夫なんだろうか)

P(転校生だから周りに人はたくさんいるかもしれないが……)

P(結華の言う通り、信頼できるかどうかは重要だろう)

P(まだここに来て日の浅い恋鐘にそういう人はいるのか……?)

P「……」

P(咲耶は既に人気を確実なものにしているし、おそらく自分の魅せ方もわかっている……W.I.N.G.を目指すのは難しくないのかもしれない)

P(ただ、咲耶のことを応援するだけでなく、見守ることのできる人の存在が必要な気がするな。あの感じだと)
35 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/18(日) 02:05:59.93 ID:57JGyBZa0
結華「三峰はそんな“アイドル”たちに踏み込んだ所までは行けないけど、推しがいれば精一杯応援しちゃうよ……!」

P(結華はお客さん目線って感じだな)

P「結華のアイドルに対するエネルギーはすごいからな」

P(ふと、結華に出会ったときのことを思い出す)


P《予備校から出たタイミングで降ってくるとは……ツイてないな》

P《どこか雨宿りできそうなところは……あ。あった》

P《よし、ここなら濡れないか……ずいぶん大降りになってきたな》

パシャパシャ

『ひゃーっ、雨とか聞いてないってー!』

『グッズ濡れてないよね? 大丈夫だよね? えっと……』

P《あの子も雨宿りか……》

P《……ん? おおっ、すごいなあのカバン。何かのグッズがぎっしりと詰まっている……アイドルのイベント、だろうか?》

『こっちは平気だし、これも……!』

『……ん、全部おっけー! 良かったぁ』

P『……』

『あ、すみません騒がしくしちゃって! うるさかったです……よね?』

P『え? ああ、いえ。大丈夫ですよ』

『それなら良かったです……』

P『……』

『……』

『……あの。その制服って』

P『これですか? 予備校の帰りで、制服で行ってたので』

『なるほどです! っていうか、あの』

『同じクラス……だよね?』

P『え?』

『……三峰、結華です。聞いたことない?』

P『ああ……』

P《聞いたことはあった。まだ入学してそんなに経ってないっていうのに、もう同じクラスの奴を把握してるのか》

P『俺のこと、知ってたんだな』

結華『そりゃあ、まあ? クラスメイトですし? なんなら席も近いし』

P『そうだったか……』

結華『そうなのですよ』

P『三峰さんはアイドルが好きなのか?』

結華『……! うん! あ、気になりますかー?』

P『すごく大切にしてるみたいだったし、アイドルの印刷が見えたから』

結華『そうそう! 無事手に入れることのできたかけがえのないグッズたちなんだよねー』ガサゴソ

カラン

P『……あ。缶バッジ、落としたぞ』

結華『えっ? あ、ほんとだ! ありがとう……!』

結華『これ限定のやつなんだよね、おかげで助かりました!』

P『ははっ、どういたしまして』

P《――……いい笑顔だなぁ……》
36 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/18(日) 02:40:38.29 ID:57JGyBZa0
P(今、W.I.N.G.を目指す子たちの話をしている結華もまた、そのときと同じ笑顔だった)

P(本人はファンとして陰ながら応援するつもりなんだろうけど……)

P(……綺麗だ、と――その笑顔を見て思った俺がいる)

結華「どしたの? Pたん」

P「……え、い、いや。なんでもない」

P(ここで「結華も出てみたらどうだ?」と言う勇気や器量は、さすがになかった)



放課後。

P「保健室は……確か、こっち……」

P(同じクラスの保健委員が欠席しているらしく、偶然はづき先生の近くにいた俺は、保健室に運ぶ提出書類の山を運んでいた)

P「……」

P(つい先日に保健室に行ったときの記憶を呼び起こしながら、歩を進める)


〜保健室〜

P「失礼します……」ガララ

P「……あれ」

P(養護教諭の姿はなかった。代わりにいたのは――)

霧子「……きゅっきゅ♪」

P(――幽谷霧子だった)

霧子「……ごし、ごし♪」

P「……」

霧子「……ふき、ふき――あ」

P「あ」

P(目が合う)

P「……」

P(つい見惚れてしまった……)

P「……えっと、幽谷霧子さん、だよな」

霧子「……! わたしの名前、覚えていてくれたんですね……」

P「ま、まあ……な」

P(運んできた書類を養護教諭のデスクに置いて、一息つく)

P「掃除、してるのか?」

霧子「は、はい……」

霧子「ここに来る人がみんな気持ちよく使えたら、いいなって……」

P「そうだったのか……霧子は優しいな」

P(場所が保健室……なのは気にしないでおこう。清潔なのは良いことだし)

P「あ、すまん。つい、下の名前で呼んでしまった」

霧子「いえ……大丈夫、です」

P「そ、そうか」

霧子「は、はいっ……!」

P(そういえば、さっきから腕を押さえているな)

P「その傷……痛むのか?」

霧子「これは……ケガをしてるわけじゃ……ないんです……」

P「そうなのか……?」
37 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/18(日) 03:06:08.88 ID:57JGyBZa0
霧子「お、お守りみたいなものなんです……」

霧子「こうしていると、落ち着く……ので……」

P「そ、そうか……」

霧子「はい……自分の良くないところが……隠れるような気がして……」

P「なるほどな……」

P(不思議……というか、自分の世界がある子なのかもしれないな)

P(まだ知り合って間もないし、霧子のことをよく理解しているわけじゃないけど、なんというか、この子を気にかけたい、と感じるな)

P「俺、さ……保健室なんて、ほとんど来たことがなかったんだ。来る理由もなかったし、行きたいと思ったことなんてなかった」

P「でも、霧子がいる保健室なら、なんだか行きたいとすら思えるよ」

霧子「わあ……! 本当、ですか……?」

P「ああ。……って、何言ってるんだろうな、俺は」

P「まあ、霧子にとって迷惑じゃなければ、だけど」

霧子「迷惑だなんて、そんな……。お話できる人がいるのは……わたしも、嬉しい……です♪」

P(それから、下校時刻になるまで霧子と話した。他愛もない会話が繰り広げられただけだったが、保健室という馴染みのない場所にしては悪くない時間を過ごせたと思う)



土日明け。

〜通学路 学校前〜

P(いつも通りに通学路を歩いて学校に向かう。ただ、今日は少し足取りが重かった)

P「再発行……手続きしないとなぁ」

P(生徒証を無くしたのだ。たまたま使う機会がなかったから、土日になるまで気がつかなかった)

P(どこで落としたのか……それが思い出せない。今日学校で探してなかったら、諦めて再発行手続きをしないといけないな)

P「はぁ……」

バッ

P(突然――)

「ふふー」

P(――暗転。目の前が真っ暗になる)

「私は誰でしょー」

P「誰って……」

P(どこか聞き覚えのある声な気はするが……わからない。結華か恋鐘ならやってきそうだが、明らかに声が違う)

「えー……私のこと、忘れちゃったんですかぁ?」

P(いや、この話し方と声は――)

P「――この前のセンター街の……」

「あたりですー」パッ

P(視界が元に戻る)

P「なんでここに……?」

「なんでって……あの学校に通うために決まってるじゃないですかぁ」

P「いや、制服がうちのじゃ――うちのだな……」

「ふふー。いきなり転校生ですー」

P「な、なんだって……!」

「これのおかげでお兄さんの通う学校がわかりましたぁ。ついでにお兄さんのプライバシーもゲットー……」つ学生証

P「あ! 俺の学生証……! センター街で落としてたのか……」

「そういえばー、まだ名前を言ってませんでしたぁ」

摩美々「私、田中摩美々っていいますー。悪い子なんでー、たくさん迷惑かけてあげますねー」
38 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/18(日) 03:07:33.63 ID:57JGyBZa0
とりあえずここまで。
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/07/18(日) 08:31:52.41 ID:sqo9qWwHo
おつー
40 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/21(水) 23:28:05.58 ID:1O0FzyvHO
P「はぁ……返してくれないか?」

摩美々「えー……どうしようかなー」サッ

P「おいおい……勘弁してk――って、このやり取り、前にもしたな」

摩美々「ふふー、そうかもしれませんねー」

P「学生証は手のひらに握って隠せるようなものじゃない……この前のトリックは通用しないからな!」

P(この前みたいにイタズラをするつもりだろうが、そうはいかないからな)

摩美々「トリックっていうかー……別に、返さないとは言ってないじゃないですかぁ」

摩美々「はい、どうぞー」ポイッ

P「わっ……! とと……っよし」パシッ

P(また投げたな……)

摩美々「お兄さんの困った顔が見れたのでー、もういいですよー」

P「そんなこと言って……前にも言ったが、妙な奴に絡まれてからじゃ遅いだろ?」

P(我ながら――)

P「危ない目に遭ってからじゃ遅いんだって。わからないかなぁ……」

P(――おせっかい、だ)

P(俺はこういう人間だっただろうか……?)

P(少なくとも、この子を前にすると……注意せずにはいられない)

摩美々「私が危ない目に遭ったら、お兄さんは困るんですかぁ?」

摩美々「迷惑かけるわけじゃないと思いますケドー」

P「それは……」

摩美々「お兄さんは、摩美々の親でも兄弟でもないですしー……ふふー、どうしてそこまで気にしてくれるんですかぁ?」

P「どうして……なんだろうな」

P(本当、どうしてだろう)

P「と、とにかく……! 倫理的にアウトだよ。他人にイタズラするのもそうだし、不健全な場所や時間にふらふらするのもな」

摩美々「倫理ですかー?」

摩美々「お兄さんじゃなくてー?」

摩美々「お兄さんが怒ってくれてるわけじゃないなら、別にどうでもいいっていうかぁ」

P「……」

P(わかった――)

P「――俺が怒ってるよ」

P「摩美々、こういうことはやめなさい」

摩美々「!」

P(やけに大人ぶった口調で言ってしまった……引かれただろうか)

P(いや、ここまでくればヤケだ)

P「いいな。約束は守ってもらうぞ」

摩美々「……」

摩美々「……ふふー」

摩美々「どうですかねー。お兄さん次第かもしれませんねー?」

P(そういえば、転校生って言ってたな)

P「じゃあ、俺が先輩としてしっかりしないとな」

P「よろしく」

摩美々「お兄さんに摩美々がコントロールできますかねー?」

摩美々「まあ、頑張ってくださいー」
41 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/22(木) 00:50:29.77 ID:Zx9QJdlfO
P「……ん、いや待て」

P(そういえば、自分の学生証のことに気を取られて忘れていたけど……)

P「転校、と言ったか?」

摩美々「はいー。そうですよー」

摩美々「お兄さんが学生証を落としてくれたのでー、学校を探さずに済みましたぁ」

P「いや、だからってそんな簡単に転校なんて……」

摩美々「それが、まみみにはできるんですよー」

P「なんでだ?」

摩美々「ふふー、知りたいですかぁ?」

P「……いいや」

摩美々「えー、つまんないのー」

P「今は聞かなくていいかなって思ったから」

摩美々「……」

P「……って、話してるうちに下駄箱にまで着いちゃったな」

摩美々「そうですねー……じゃあ、私はこっちなんでー」

P「おう」

摩美々「……あ、そうだ」

摩美々「名前、教えてくださいー」

P(名乗る)

摩美々「ふーん、……P」

P「おいおい先輩に対して呼び捨てかよ、良くないんじゃないのか?」

摩美々「そうやって怒ってもらえるんでいいんですよー」

P「? そ、そうか?」

P(よくわからないやつだ)

摩美々「じゃあ、今度こそ、私行くんでー」

P「ああ、じゃあな」

P「……」

P(まだ授業どころかホームルームの前だっていうのに、えらく長い時間を過ごした感じがするな……)

P(でも、やはり――)

P(――不思議と疲れてはいなかった)

P(どうも、あの後輩――転校生――不良――摩美々を相手にしていると、いつになく気にかけてしまう)

P「はぁ……」

P(教室行くか)



2時間目終わり。

〜校舎裏付近〜

P(今日はいつもと違う場所での移動教室だったな……)

P(皆が行き来する道をすると教室まで割とかかってしまうが――)

P(――ここから行くと近いんだ)

P タッタッタッ

P(この角を曲がって……――)

霧子「〜♪」

P「――っと!?」キキィッ
42 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/22(木) 01:25:41.84 ID:Zx9QJdlfO
P(危ない……! 何とか止まれたけど……)

P(……人がいたんだな)

P「って、霧子じゃないか」

霧子「あ、はい……わたしです……」

P「何してるんだ?」

霧子「ナスタチウムさんにお水をあげてるんです……♪」

P「ナスタチウムさん……あ、そこにある花のことか」

P(見覚えがあるような、ないような、そんな黄色とオレンジの花だ)

霧子「暑いところが好きじゃないから……ここはちょうど良くて……」

P「ははっ、花のことをよく考えてあげてるんだな」

霧子「は、はい……!」

霧子「こんど、そこにも別にお花さんを置こうと思ってるんです……」

P(霧子の指差す先を見る)

P「あ……ここ、保健室の目の前だったのか」

P(そういえば、外から保健室を見たことはなかったな)

P(そもそも、普段来るような場所ではなかったし)

P(最近は――霧子と出会ってからは、そうでもないが)

P「花、置くんだな」

P「じゃあ、見に行こうかな」

霧子「ふふ……待って……ますね……」

霧子「……Pさん」



昼休み、昼食後。

〜教室〜

P(最近、後輩と話してばかりいるな)

P(まあ、だからなんだという話だが)

P(今日は……結華はどこかに出ているみたいだ)

P(恋鐘も……今はここにいない)

P「……」

P(コーヒーでも買いに行くか……)


〜旧校舎付近〜

P「はぁ……やっと着いた」

P(いつも使ってる自販機の前にはわいわいやってる面倒な連中がいたので、遠いがこっちにある自販機に来た次第だ)

P「今日のこのタイミングに限ってなんでいるかなぁ……」

P「……まあ、気にしても仕方ないけど」

「あれぇー? また会いましたねー」

P「?」クルッ

P「……摩美々か」

摩美々「そうですよー」

P「なんでこんなところにいるんだ……」

摩美々「転校初日だしー、気になるじゃないですかぁ?」

P「ま、まあ……そうなのかな?」
43 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/22(木) 02:19:29.20 ID:Zx9QJdlfO
摩美々「Pは何しにこんな遠くに来てるんですかぁ?」

P「ああ……自販機でコーヒーを買いたくてな」

摩美々「? 自販機ならもっと近い中庭のがあった気がしますケドー」

P「ま、まあ、な。気分転換ってやつだよ」

摩美々「ふーん……」

P「摩美々はまだこの辺を探検するのか?」

摩美々「どうですかねー、何でもいいですー」

P「俺はもう戻ろうと思う」

摩美々「じゃあ、まみみもついていきますー……」

摩美々「……あれ?」

P「どうしたんだ? 行かないのか?」

摩美々「いや……あそこに、なんか立ってませんかぁ?」

P(摩美々が指す方向を見て目を凝らす)

P「ああ、なんだろうな」

P(人――に見えるが、あれは……)

P「……像、じゃないか?」

摩美々「私、ちょっと見に行ってきますー」タタタ

P「え、あ……ちょっと待てって」


P(摩美々が足を止めたところまでついてきたが……)

P「……旧校舎のエリアの中なんて歩いたことすらなかったな」

摩美々「これ、女の人みたいですね」

P「ああ……さっき言ってたやつか」

P(やはり、というか……銅像だった)

P(長い髪で上部は左右をリボンでくくっている背の高い女性の姿――その姿勢は、どこか苦しそうにも見える)

摩美々「誰なんですかねー……有名な人?」

P「こういうのは銅像の足元にプレートとかがあるんじゃないのか? どれどれ……」

P(実際、プレートはあった。アルファベットで名前らしきものが刻印されている)

P「……M、A、Y、U、Z、U、M、I?」

P(黛?)

P「人の名前……いや、名字か?」

P(と、考えていたそのとき)

ゴチン

P(俺の頭頂部に鈍い痛みが走る)

摩美々「あ……」

P「……っっってぇ!!」

摩美々「リボンのところいじってたら、とれちゃいましたぁ」

P「取れちゃいましたって……」

P(落下したものを見てみると、どうやら銅像の女性の髪形で左右に出ている房のような部分――その片方だった)

P「というか、こんなところ先生に見られたらヤb――」

「あーっ! 何してるんですか〜」

P「――……」

P(ヤバい)
44 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/22(木) 02:22:43.18 ID:Zx9QJdlfO
とりあえずここまで。
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/07/22(木) 02:35:53.84 ID:NF1KA9eao
おつおつ
うぅ…冬優子…
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/07/22(木) 05:11:14.19 ID:s71fn6wDO
ヒッポリト星人に遭遇したのか……(まってちがう)
47 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/28(水) 02:03:49.64 ID:1A0P4jYT0
はづき「これは……壊れちゃってますね〜……」

P「……」

P(壊したのは摩美々だ。でも、一緒にいた俺も共犯にならざるを得ない、か……)

P(俺だけがやっていない証拠があれば別だけど、この旧校舎エリアじゃ監視カメラもろくに設置されていないだろうし)

はづき「1人でこんなところで何やってるんですか〜もう……」

P「……え」

P(今、「1人で」と言ったか?)

P「いや、別に1人で来たわけじゃ……」クルッ

P「……」

P(振り返ると、そこにいるべき人影がなかった)

P「……逃げられた」ハァ

P(深いため息をついた)

P(銅像の一部によって叩かれた頭をさすりながら、ただただ自分の不運っぷりに呆れるばかりだ)

P「あの、この像って……」

はづき「うーんと……これは、校長面談ですね〜」

P「こ、校長面談!?」

P(そんなに重要な銅像だったのか……)

P(まあ、学校のものを破壊したってだけでも問題だし、それが銅像という値段の計り知れないものであれば尚更、か)

摩美々『私、田中摩美々っていいますー。悪い子なんでー、たくさん迷惑かけてあげますねー』

P(ま、摩美々……! そんなこと有言実行しなくていいんだぞ……!)

はづき「この落ちてるのがそうですか」ヒョイ

P(はづき先生は、銅像から落下した一部分を拾い上げた。持ち帰るようだ)

P「先生、俺はこれからどうすれば……」

はづき「後で改めて呼び出しますから」

P「……はい」

P(今日から問題児、か……)



帰りのホームルーム。

〜教室〜

結華「PたんPたん」

P「なんだ……?」

結華「わお、一目見てわかるほどの落ち込み様。なんかあった?」

P「ああ……ありまくりだ」

結華「まさかPたんが先生に呼び出されるなんてねー。三峰、Pたんはそういうのとは無縁だと思ってたんだけどなー」

P「まったくだ。俺もそう思っていたよ」

結華「ちなみに、なんだけど……結構まずい感じなの?」

P「いや、それもわからないんだ。でも、たぶんまずいんだと思う」

結華「退学……なんてことには――」

P「――ならない、と言いたいんだけどなぁ」

P(あの銅像が学園にとってどれだけ大切なものなのかわからないし)

P(それに、退学か……考えたこともないな)

結華「私、今日はPのこと待ってるよ。一緒に帰ろう?」

P「いいのか? いつ帰れるのかもわからないんだぞ」
48 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/28(水) 02:26:17.41 ID:1A0P4jYT0
結華「うん、いい。待ってるから」

P「そうか……悪いな」

結華「いえいえ、落ち込んでるPたんを励ますくらいのことはできると思うので!」

P「結華……」

結華「なんて……どう? ときめいた?」

P「ああ、そうだな。ありがとう」

結華「ってちょっとちょっと! そこはボケるなりツッコむなり否定するなりしてくれないと!」

結華「ましてや感謝されちゃうなんてさ!」

P「? そうなのか?」

結華「そうですとも」

P「結華が待っててくれて、一緒に帰れる。それなら、これから呼び出されるとしても億劫さは軽減される気がするけどな」

結華「……ずるいなぁ、もう」ボソッ



放課後。

〜廊下〜

はづき カツッカツッ

P スタスタ

はづき カツッカツッ

P スタスタ

P(校長室なんて入学して初めてだ……そもそも、近くに向かったことすらない)

P スタスタ

P(廊下の窓から外を見る。咲耶が複数人のファンらしき女子生徒たちを相手に談笑していた)

P(こちらには、気づいていない。気づかれたいとは思わないな……)

P スタスタ

P(さらに、歩を進める)

P(廊下の窓から見える景色の中に恋鐘の姿を見た。目立たない体育館の裏の日陰にいる)

P(ダンス……だろうか。踊りの練習をしているように見えた)

P スタスタ


〜校長室前〜

はづき「着きましたよ〜」

P「……はい」

P(ついに、この時が来てしまった)

P(何を言われるんだろうか……)

はづき コンコンコン

「……入りたまえ」

はづき「失礼します」

はづき ガチャ

はづき「では、どうぞ〜……」

P(校長室へと進んでいく)

P(足取りは……重い)

P(怒られるかもしれないから……というのとは少し違う)

P(うまく表現できないような――それよりももっと大きな、そういうものが待っているような感じがしていた)
49 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/28(水) 02:52:34.06 ID:1A0P4jYT0
〜校長室〜

P「失礼します」

P(お決まりの文句を口にして校長室に入った)

P「……」

「お前を待っていたぞ」

はづき「校長室で2人きりだと流石に可哀想なので、私もいますよ〜」

P「そ、そうですか……」

P(はづき先生が同席してくれるのは、まあ、ありがたいことだな……)

P「……」

P(校長の方を見る)

校長「……」

P(この学園を束ねる校長……あいかわらずダンディな雰囲気だ)

校長「よく来たな。早速だが、本題に入るとしよう」

P「はい」

校長「旧校舎エリアにある銅像を破壊したとの報告が来ているが、それは本当か?」

P「本当、です……」

校長「……」

P(校長のオーラ――もとい圧で押しつぶされそうだ)

校長「他に関与している者はいるか?」

P「それは……」

P(摩美々のことを言えば多少は俺の罪も軽くなるかもしれない)

P(そのことを自分のためにも言うべきなんだろうけど、何故かその気になれない)

P(摩美々を守ろうという本能のようなものを自分の中に感じる――これはなんだ?)

P(すべてを俺が背負う必要なんてないんだ。そもそも、俺はあの場にいただけで、咎められるようなことは何もしていない)

P(弁明すべき……なのに、どうしてか身体が言うことを聞かないみたいだ)

P(なんだ、これは)

校長「……まあいい。この件で犯人探しなど、どうでもいいことだ」

P「?」

P(犯人はどうでもいい……だって?)

校長「だが、だからと言って無罪放免……というわけにもいかなくてな。あの像自体は重要なものなのでね」

校長「それに、この件はある種の口実でもある」

P「口実……ですか?」

校長「そうだ。言っただろう、お前を待っていたぞ、と」

校長「私はもとよりとある目的のためにお前を呼び出したかったのだ」

校長「銅像の件はそのきっかけとなった。おかげで事がうまく運ぶというものだ」

P(校長の言っていることが、いまいちわからないでいる)

校長「W.I.N.G.については知っているかね」

P「……W.I.N.G.、ですか」

校長「そうだ」

はづき「この学園で最も大きな祭典……」

P「は、はい! 一応、は」

P(俺がW.I.N.G.について知っているすべてのことを話した)

校長「よろしい。知識に不足はないようだな。確認できて良かった」
50 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/28(水) 03:21:07.10 ID:1A0P4jYT0
校長「そこで、だ。まあ、名目としては銅像を破壊したことに対する贖罪ということになるが……」

校長「……まあいい、既に言ったように、それは単なる口実だ。それはさておき」

校長「お前には、そのW.I.N.G.で結果を残してもらう」

はづき「出場する女子生徒たちは、各々自分のサポートをしてくれる味方と一緒に、スケジュールや作戦を立ててるみたいですね〜」

校長「有り体に言えば、そう――」

校長「――プロデュースだ」

校長「今はづきが言ったように、W.I.N.G.を目指す女子生徒には味方が必要になる。特に、パートナーとして支える存在が重要になるだろう」

校長「お前の目標はこの学園から1人の女子生徒を選んで、W.I.N.G.優勝に導くことだ」

P「ま、待ってください……! 話が唐突で追いつけていません!」

校長「何か難しいことがあるかね? 銅像の件はこれで目をつむろうと言っているんだが」

P「それがプロデュース……。はい、そのことは理解できているのですが……」

P(もちろん、理屈――原理はわかる。でも、なんでプロデュースなのかがわからない)

校長「まあ、結果次第では内申や進路についても考慮してやろう」

校長「とにかく、輝ける“アイドル”たる存在を見出し、W.I.N.G.を目指すんだ」

P「……」

はづき「精一杯頑張っていきましょ〜! 大丈夫です、私もたくさんサポートさせていただきますよ〜」

P「……わかりました」

校長「素晴らしい結果を期待させてもらう」

校長「お前とお前の選ぶ“アイドル”がこの学園に名を刻むことになるかもしれない。そんな結果を、な」

校長「まあ、まずは思うようにやってみるといい」



十分後。

〜下駄箱付近〜

P スタスタ

P(プロデュース……か。俺にそんなことができるんだろうか)

P(それに、そんなことをするからには、校長が言っていたように、俺が女子生徒を1人選ばないといけない)

P「俺が……担当を――」

P「――選ぶ」


〜下駄箱エリア〜

P ガチャガチャ

P(一体どうすれば……)

結華「あ、Pたんやっと来た〜!」タタタ

P「結華……」

結華「もう、待ちくたびれたんだぞ〜? ほら、早く帰ろうよ」

P「ああ、待っててくれてありがとうな。すぐに準備するから」

P(結華……か。俺にとっては、今のところ、この学園の中でもっとも距離の近い存在……ということになるけど)

P(正直、結華はW.I.N.G.を目指せると思う。美人だし、ノリも良いし、歌だって上手い。まあ、本人がその気になってくれるかは別問題だけど)

P(結華以外で俺とかかわりがあるのは……――)

P(――恋鐘、咲耶、霧子、そして摩美々)

P(これまでに彼女らと過ごしてきた時間を振り返ってみても……うん、アイドルとしては申し分ない人たちばかりだな……)

P(結華も入れれば5人。この中から、プロデュースする相手を選ぶ……か)

P(俺は……)
51 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/28(水) 03:24:11.89 ID:1A0P4jYT0
1. 恋鐘を選ぶ。
2. 摩美々を選ぶ。
3. 結華を選ぶ。
4. 咲耶を選ぶ。
5. 霧子を選ぶ。
6. ――この選択肢はロックされています――



(とりあえずここまで)
52 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/28(水) 03:28:48.51 ID:1A0P4jYT0
安価指定し忘れてました。

↓1で
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/07/28(水) 06:48:40.05 ID:Y40nmY+DO
上から順にいくか



月岡恋鐘
54 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/31(土) 23:24:20.57 ID:lzMQS9iN0
P(恋鐘にしよう)

P(元気で、自信満々で……まさにアイドルという感じだ)

恋鐘『うち、決めたばい』

恋鐘『W.I.N.G.に出る!』

P(本人もW.I.N.G.を目指すと言っていたし、その反面転校してきたばかりで頼れる相手も多くはないかもしれない)

P(俺にも、何かできるのなら――)

P「……よし」

P(――やってみよう、プロデュースとやらを)

P(もとより、やらないという選択肢はないんだ)

P(だったら、やれることはやらないとな)

結華「? どしたの? Pたん」

P「いや、何でもないよ」

結華「えー? なんでもなくない気がするけどなー?」

P「な、何でもないんだって……!」

結華「ふーん、まあ、いいけどさー」

結華「……」ジーッ

P「……なんだよ」

結華「今日のPたん、なんだかいつもと違うね」

P「そうか?」

結華「うん。こう、いつもより活き活きとしてるっていうか……」

結華「あ、別に悪く言おうってんじゃないからね? 三峰は良いと思いますよ、ええ」

P「何目線なんだ……」

P(まあ、でも、そうなのか)

P(活き活きとしてるのか、俺)

P「さ、帰ろう。もう遅いからな」

結華「そだね。レッツ帰宅!」

P(さて、明日からどうするかな……)
55 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/07/31(土) 23:49:29.08 ID:lzMQS9iN0
翌日、2時間目と3時間目の間。

〜教室〜

P「恋鐘」

恋鐘「わっ! って、Pか〜。急やったけん、びっくりしたばい」

P「はは……驚かせてすまない」

P「W.I.N.G.に向けて……その、なんだ」

P「順調か?」

恋鐘「うーん、どうやろ……」

恋鐘「あれからいろいろと噂話ば聞いとるんやけど、1人だけじゃやっぱり厳しゅうて」

恋鐘「友だちん力ば借りて臨むもんなんやって」

P「それで今、力を借りられる相手は……?」

恋鐘「そうやねー……転校して気にかけてくれる人はよういると」

恋鐘「ばってん、W.I.N.G.のことで相談できるのは……」

P「……そうか」

恋鐘「でもね、うち、絶対にアイドルになりたかとよ」

恋鐘「うちはアイドルになるために生まれてきたけん!」

恋鐘「そんためにも、まずはこん大会で自分がアイドルにふさわしかこと……証明したいんよ!」

P「ははっ、そうか。俺も恋鐘はアイドルになれると思うよ」

P(俺はそう信じたい――)

P「この学園の“アイドル”ってだけじゃなくて、皆を笑顔にできるような、そんなアイドルに」

P(――信じてみたいと思ったから)

恋鐘「えへへ……ありがとうね」

恋鐘「地元でうちん夢ば応援してくれとった人はいたばってん、こっちではPがはじめてばい!」

恋鐘「あ、もしかして、PはうちがW.I.N.G.に出とらんでん、もううちに釘付けになっとーと?」

P「え――」

恋鐘『で、Pがよそ見できんくらい釘付けにしちゃるばい!』

恋鐘『よーく見とってね!』

P「――ははっ」
56 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/08/01(日) 00:02:57.34 ID:HoZAWXb80
P「そうだ……と言いたいところだが、まだだ」

恋鐘「えぇ!? Pはうちにまだ魅力ば感じとらん!?」

P「いや、そうじゃないんだ」

P「俺は、恋鐘にはまだまだ先を――上を目指して欲しい」

P「この学園のW.I.N.G.だってそうだし、本当にアイドルとしてデビューすることも」

P「そして、いつかはトップに……」

P(トップ)

P(トップって……何だ)

P「だから、俺はまだ満足してないよ」

恋鐘「P……」

恋鐘「そこまで言ってくれるとは思っとらんかった……ばってん――」

恋鐘「――嬉しかばい」

恋鐘「さすがはうちのファン1号!」

P「ははっ、光栄だよ」

P(ファン、か)

P(もちろん、そうだけど――)

P「……恋鐘、よかったら俺に――」

P(――俺は、もっと君を応援したい――)


P「――プロデュースを、させてくれ!」

P(――まるで、俺の知らない俺が心からそう望んでいるような気がしたんだ)


恋鐘「ぷ、ぷろでゅー……す?」

P「あ、いや、その……W.I.N.G.のことで相談できる相手がいないってことだったから」

P「俺なんかでよければ、力になりたいって思ったんだけど」

P「どう……かな?」

恋鐘「……!!!」

P「……」

恋鐘「うん、うん……!」

恋鐘「うち、ばりばり頑張るけん!」

恋鐘「よろしゅう頼むばい! P!」
57 : ◆bXCm/le03U [saga]:2021/08/01(日) 00:23:22.85 ID:HoZAWXb80
3時間目、授業中。

〜教室〜

P(プロデュース、か……)

P(あの後、休み時間が終わるまで、恋鐘と話をしていた)


恋鐘『いや〜助かったばい!』

恋鐘『Pがいればうちも安心よ!』

P『自分で言うのもなんだけど、恋鐘は俺を信用しすぎじゃないか?』

P《まだ知り合って間もないのに》

恋鐘『? それ、どがんこと〜?』

P『俺のおかげで恋鐘をW.I.N.G.優勝にたどり着けるわけじゃないのにさ』

恋鐘『そがんこと気にせんでよか! うち、見る目はあるんよ!』

恋鐘『Pは信用に値するプロデューサーばい!』

恋鐘『うちん本能がそう言いよーったい。安心してよ』

P『そ、そうか……』

P《これは、俺も頑張んないとな……》

P《ここまで期待されているんだし》

P《期待、あるいは信用、か》

恋鐘『それに……ね』

恋鐘『うちが個人的に……Pにお願いしたかって気持ちもあるんよ』ボソッ

P『え?』

恋鐘『な、なんでもなかばい! 気にせんでおいて!』

P『お、おう……』


P(恋鐘があそこまで頼ってくれているんだ。俺も頑張らないとな)

P「……」

P(正直、心躍る気持ちがどこかにある。この感情は、なんだろう)

P(俺の知らない、俺の気持ち……とでも言えば良いのだろうか)

P(何はともあれ、恋鐘をプロデュースすることに変わりはない)

P(それに、校長との一件もある。頑張らない理由なんてないんだ)

P「はぁ……」

P(ただ、現実問題、俺には知識も経験もない)

P(アイドルについては……圧倒的に結華が詳しいだろうな。俺なんかでは到底敵わない)

P(もちろん、俺が自分で勉強するという手もあるが……)

P「あ……」

はづき『精一杯頑張っていきましょ〜! 大丈夫です、私もたくさんサポートさせていただきますよ〜』

P(そういえば、そんなこと言ってたな)

P(どうするか)


1. 結華に協力を仰ぐ。
2. はづきのサポートを活用する。
3. 自分でどうにかする。

選択肢↓2
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/01(日) 00:29:55.60 ID:TYvH662ao
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