右京「鬼滅の刃?:

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/08/31(火) 23:54:27.49 ID:V1tbc3iN0
相棒×鬼滅の刃のクロスssです。
よろしければどうぞご覧下さい。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1630421667
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/08/31(火) 23:55:57.42 ID:V1tbc3iN0


とある薄暗い場所。
不気味な雰囲気を漂わせながらもその中央には場違いにも洋風のテーブルと幾つかの椅子が置かれていた。
テーブルにはこの時代としてはまだ珍しい英国風のポットにそれとティーカップがあった。
 ポットから注がれたお茶はこの不気味な雰囲気に似合わず香ばしさを漂わせていた。


「う…あ…ぅ…」


 カップに注がれた紅茶を一人の青年が必死に飲み込もとしていた。
 黒装束に背中には『滅』の文字を記した服装の青年。彼は手を震わせながらカップを持っているが明らかに動揺している。
 それもそのはず、この場で動揺するなというのは無理というものだ。
 この奇妙な光景…何故こんなことになったのか…?
 それには少しばかり時を遡ることになる。

3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/08/31(火) 23:56:35.10 ID:V1tbc3iN0


 ………また増えてる。」
 

 時は令和。ここは警視庁組織対策5課の片隅にある特命係の部署。
 この特命係に所属する冠城亘は相棒の杉下右京のデスクを見て呆れ果てていた。
 それもそのはず、杉下右京のデスクはある作品の書籍やグッズで埋め尽くされていた。

 
 「よ、暇か。ところで冠城、呆れた顔をしてどうした?」


「そりゃ呆れますよ。見てくださいよこの鬼滅の刃の山を…」


冠城は隣の部署からひょっこり姿を見せた角田課長にこの有様を説明した。
ちなみに鬼滅の刃とは現在コミックス1億部を突破した大人気漫画のことである。
 既に連載は2020年で終了したがその人気は今も衰えることもなくその後10月に公開された映画も興行収入が日本映画記録を更新して更なる活躍を見せていた。


 「まあしょうがないだろ。あの鬼滅だぞ。警部殿がここまで激ハマりするのも無理ないな。」


 「だからっていい歳したおじさんがこんな入れ込むなんて異常でしょ。どうなっているんですか。」


 「そうか?うちのカミさんも鬼滅にハマってるぞ。DX日輪刀持って水の呼吸!壱の型!てさ…」


 鬼滅の絶大なる人気は主婦にまで伝わっていることを知らされて冠城は改めてその人気の絶大さを思い知らされた。
 だがそんなことはどうだっていい。それよりもいい加減この鬼殺グッズの山をどうにかしてほしいところだが…

4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/08/31(火) 23:57:40.20 ID:V1tbc3iN0


 「おやおや、どうかしましたか。」


 すると鬼滅グッズの山からひょっこりと姿を現したのはこの部屋の主でもある特命係の杉下右京だ。


 「右京さん今日こそは言わせてもらいますけど…」


 「またその話ですか。キミもいい加減しつこいですねぇ。」


 「いやいや!右京さんこそ…職場をなんだと思ってんですか!」


 毎日冠城からの注意を受けても今や悪びれる様子も見せずに開き直るばかり。
 隣で課長もコーヒーを頂きながら眺めているが今やこれが日常化している有様だ。
 そんな折、時計の針が業務終了の定時を差した。


 「これで特命係本日の業務は終了ですね。」


 定時終了と同時に右京はすぐに帰り支度を始めた。
 警察官であれば本来は定時を過ぎようとも残業なり夜勤なりが発生するものだが特命係は窓際部署であるため残業など滅多に発生しない。
 ちなみに去年の10月から右京は勤務時間を終えるとすぐに帰宅する傾向があった。その理由は…


 「右京さんまた映画観に行くつもりですね。これで何度目ですか。」


 冠城がまたもや呆れ気味な様子を見せるが右京が早々に帰宅する理由は鬼滅の刃の映画にある。
 2020年10月から公開している鬼滅の刃・無限列車編は今や国内No.1の記録を打ち立てた。
 興行収入も前人未到の興行収益400億に達した。実写でもないアニメ映画が日本記録を打ち立てた。これはまさに快挙といえるだろう。


 「まったくよく飽きもせず何度も観ますね。同じ映画を延々と観て面白いんですか?」


 「ええ、面白いですよ。ちなみに映画はもう終わりました。今日は予約しておいた鬼滅の映画のDVDを買いに行くつもりです。」


 右京は冠城からの皮肉など体よく交わしながらそう自信たっぷりに言ってのけた。
 ちなみに右京だがもう十回以上は映画を観に行っている。
 それだけの回数を行っているのにまだ観に行こうとしていた。
 傍から見ていた課長も「暇な部署は定時で帰れていいねぇ」と嫌味を言い残してさっさとデスクへと戻るなどその行動にみんなから呆れる様だ。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/08/31(火) 23:59:28.81 ID:V1tbc3iN0

 
 「そういえば最近青木くんを見かけませんねぇ。いつもならこのくらいの時間になると突っかかってくるのに…」


 「青木は右京さんとは反対に鬼滅を嫌っていましたからね。まあ右京さんを目の敵にしているあいつらしいですけどね。」
  

 帰り際にふと青木のことを思い出す右京。
 ちなみに青木は鬼滅の刃を嫌っている傾向があった。その理由は二つある。
それは目の敵にしている右京が鬼滅推しという理由も含まれているがもうひとつは…


「あいつあの漫画をまだ推しているんですよね。確かタイトルはナントカカントカって漫画だっけかな?
もううろ覚えで忘れちゃいましたけどね。」


「鬼滅の刃の原作が最終回と同時に連載開始された漫画ですね。最初の頃は鬼滅の後継者など言われていました。まったく…失礼極まりない話ですよ。」


先程まで上機嫌に鬼滅の刃について語っていた右京。
だがこの話になると右京は決まって不快な表情を見せた。その理由は…


「けどあの漫画三ヶ月足らずで打ち切り。確か偶然だけど去年の8月31日の今日がある意味命日でしたね。」


「そうでしたねぇ。わざわざ鬼滅の刃の最終回という誰もが注目している中での新連載という破格の待遇を受けながらあの体たらく。
そもそもあの漫画を少年誌で掲載すること自体が間違いだったのです。
ダメ出しされてばかりな漫画家志望の主人公が電子レンジから未来のジャンプが送られてきてそれを盗作する。
盗作されたヒロインの女子高生は何も知らず主人公のアシスタントを務めるなど…
そんな不届きな行いを作品内では誰もが疑いもせず肯定してこんな不快な要素しかない漫画がどうやって読者の人気を得るというのですか。」


 「確か主人公も最後までろくに報いを受けないままで終わったんですよね。」


 「一応番外編で盗作したヒロインの女子高生にお金を返して危うく命を失いかけそうになったらしいですが
それでも最後までヒロインに真相も打ち明けずおまけに謝罪もしなかったそうです。
あのような漫画が鬼滅の最終回に少年ジャンプの表紙に掲載されたこと自体が僕は許せませんよ。」


 まるで深い恨みでもあるかのように愚痴る右京。
 理由は鬼滅の原作最終回の表紙をその漫画が飾ったせいだ。
 ジャンプ本誌で鬼滅の最終回を読む際にはどうしてもあの漫画の主人公を直視しなければならない。それだけがどうにも不快で我慢ならなかった。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/09/01(水) 00:01:25.10 ID:YBvoRkek0


 「…それで青木からこんなモンを貰ったんですよ。例の漫画の単行本です。なんか布教してるらしいですよ。
あいつ捜査一課の伊丹さんたちにも渡してるとか…」


 「懲りませんねぇ。しかしこうなるといらないものを押し付けている嫌がらせではありませんか。」


 右京は嫌々ながらも冠城からその本を受け取ると二人は職場である警視庁を出た。
 冠城は途中で右京と別れて小出茉梨が営む小料理店こてまりへと向かう。
 DVDを買い終えたら右京も向かうと約束してお店に向かおうとする道中のことだった。
 路地裏から風が吹いた。その風に乗って何かが散らばるように舞っていた。
 何が待っているのかと手で掴んでみると…
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/09/01(水) 00:02:10.57 ID:YBvoRkek0


 「おや…これは珍しい…藤の花ですね…」


 そう、都内では珍しく藤の花の花びらが撒き散らしていた。
 まさかこんな街中に藤の花があるとは…


 「細かいことが気になるのが僕の悪い癖…」


 興味を持った右京はそう呟きながら人気のない路地裏へと入った。
 興味を持つとトコトン夢中になるのが右京の悪い癖だ。
 既に時刻は夕方の7時を過ぎて夕日は沈み辺りは真っ暗な夜となった。
 右京は薄暗い電灯を頼りに路地裏を歩き続けるがどういうことか藤の花が咲いている場所にたどり着けずにいた。
 それだけではない。時計の針はまだ7時過ぎの時刻を指しているがまるでもう数時間…いや…数日…もしかしたら数年をこの場所で過ごしているような奇妙な感覚に襲われていた。
 これは一体どういうことなのか?得体の知れない違和感を持った右京は元来た道へと戻ろうかとしたその時だ。


 「 「ガァァァァァッ!!」 」


 この路地裏にまるで獣のような凄まじい叫び声が響いた。
 今度は何が起きたのか?すぐに右京は叫び声のした場所へと向かった。
 いまだに奇妙な感覚のする路地裏を駆け抜け出口らしき場所へとたどり着いた。

8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/09/01(水) 00:04:36.09 ID:YBvoRkek0


 「うわぁぁぁぁ!?」


 たどり着いたと同時にとある青年が壁に吹っ飛ばされて倒れていた。
 すぐに駆け寄るが青年は傷を負っているものの命に別状はない。
 とりあえずひと安心するが倒れている青年は奇妙な格好をしていた。
 まるで喪服のような黒装束を身に纏いさらに青年は刀を握っていた。
 この刀だが剣先はかなり鋭利になっていて人を傷つけるに十分な凶器となり得る危険な代物だ。
 しかし先ほどの衝撃により刀は真っ二つに折られてしまっていた。
 このような刀を真っ二つにするほどの力の持ち主とは何者なのかと相手を確かめようとした。
 

 「ガァァァァッ!」


 するとそこには恐ろしい形相をした大男がいた。
 身の丈が二メートルを超えた大男が不気味な唸り声を上げながらこちらを睨み続けた。
 それにしても一番恐ろしいのがその形相だ。
 血の色の如き真っ赤な目とそれに口元にある鋭利な牙。さらに頭上に尖った角とこの姿はまさに…
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/09/01(水) 00:06:32.11 ID:YBvoRkek0


 「鬼…ですね。」


 右京が思わずそう呟いたが連想した姿はまさに鬼そのものだ。
 とてもではないがこの大男は人間とはかけ離れた容姿。
 そう、鬼だ。まるで鬼滅の刃に出てくる恐ろしい鬼の化物だった。


 「逃げろ…殺されるぞ…」


 そんな右京に倒れていた青年がすぐに逃げるよう警告を促した。
 確かに青年の言う通りだ。こんな怪物をまともに相手に出来るものではない。
 完全武装した警官隊でもいなければ太刀打ちなど出来やしない。


 「ですが僕は警察官です。ここであなたを置いて逃げるわけにはいきませんよ。」


 そう言うと右京はこの化物の前に立ちはだかった。
 青年は何度も危ないから逃げろと注意を促してくれるが傷ついた彼を置いて逃げるわけにはいかない。
 だが右京だけではこの得体の知れない怪物を取り押さえることは出来やしない。
 それではどうすればいいのか…そう思った時だ。


 「おや…これは…」


 ふと右京は自分が手に握っているものを確かめた。
 もしもこの怪物が自分の予想通りなら…こうなれば駄目元だ。
 それに現状で他に思いつく策もないとイチかバチかで右京は手に握っていたあるものを怪物に投げつけた。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/09/01(水) 00:09:50.11 ID:YBvoRkek0


 「ギャァァァァッ!?」


 するとどうだろうか。怪物は急に苦しみだした。
 それだけではない。怪物の皮膚がまるで硫酸でも被られたかのように醜く溶け出した。


 「アンタ…一体何をしたんだ…?」


 「これですよ。藤の花、まさか効果があるとは思いませんでしたがね。」


 そう、右京が投げつけたのはこの路地裏に入るきっかけとなった藤の花だ。
 何故こんなものを投げつけたのか?それは鬼滅の刃に出てくる鬼たちの弱点だからだ。


「藤の花は鬼滅の刃に出てくる鬼たちには毒とされています。まあ半信半疑でしたがここまで効果があるとは思いませんでした。
…ですがこの程度の花びらでは鬼を怯ませるだけでしょうねぇ…」


 右京が言うようにいくら藤の花でも花びら程度の少量では鬼を完全に倒すことはできない。
 この怪物が本当に鬼滅の刃に出てくる鬼ならば倒す方法は二つある。
 それは日輪刀と呼ばれる特殊な刀で鬼の首を撥ねること。
 だがこれは無理だ。今この場に日輪刀はない。それに呼吸の剣士でもなければ日輪刀などまともに扱える代物ではない。
 そうなると残された方法は唯一つ、それは…
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/09/01(水) 00:10:26.81 ID:YBvoRkek0


 「ア…ガ…アァァァ!?」


 そんな時だった。怪物が突如として苦しみだした。
 それも先ほどの藤の花の毒よりも酷い叫び声だ。
 怪物の全身が焼き焦げ断末魔の叫びを上げながら最期には塵一つ残さずに消えた。
 まるで最初からこの場に怪物などいなかったかのような痕跡ひとつ残さず…
 もしやこれはと思った右京はすぐに頭上を見上げた。


 「なるほど、日の出の時刻だったわけですか。」


 まさか自分が路地裏に入り込んでからそこまで時間が経過していたとは思わなかった。
 だがこれで確信が持てた。
 鬼滅の刃の鬼を日輪刀以外で倒す唯一の方法。それは太陽の光だ。
 鬼たちは闇の世界の住人だ。彼らは夜の闇に紛れて人を喰らう。
 だがそれは夜の世界だけの話だ。鬼たちは決して太陽の光に抗うことはできない。
 それがこの鬼滅の刃の世界における摂理だった。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/09/01(水) 00:12:50.16 ID:YBvoRkek0


 「ありがとうございます。おかげで助かりました。」


 「いえいえ、礼にはお呼びません。当然のことです。ところであなたは…」

  
 鬼を倒して一段落したところで右京はもう一度この青年に注目した。
 先ほどは倒れていて背中まで見えなかったがこの青年の服には『滅』の文字が刻まれていた。
 

 「あなた…ひょっとして…鬼殺隊の方ですか…?」


 「え?何で鬼殺隊を知ってんだよ!アンタ何者なんだ!?」


 まさか本当に鬼殺隊とは…
 それではこの青年は主人公の竈門炭治郎なのかといえばそうではないようだ。
 見たところ容姿はちっとも似ていない。それに彼の額にある特徴的な痣もない。
 しかし何処かで見覚えるのある地味な顔だ。そしてこの妙に手入れのされたサラサラッとした髪型だが…
 待てよ。そういえば…と右京はある人物を思い出した。
 鬼滅の刃に出てくる鬼殺隊の隊士でさらに地味なのに髪の毛がサラサラに手入れをした人物といえば…


 「失礼しました。僕は杉下といいます。ところであなたは…村田さんですか…」


 「えぇ―――――ッ!どうして俺の名前まで知ってんの!?」
 

 右京が自分の名前を言い当てたことで村田という青年はまたもや驚き声を上げた。
 どうやらここは本当に鬼滅の刃の世界のようだ。
 確かに右京も鬼滅の刃のファンではある。
 だがまさかその世界にこうして訪れることになろうとは誰が予想しただろうか。

13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/09/01(水) 00:27:22.32 ID:YBvoRkek0
とりあえずここまで続きは追々
 
令和コショコショ話

Q:このssの右京さんは何で鬼滅ファンなんですか?

A:鬼滅が大好きだからです。ちなみにアニメ化前から鬼滅ファンでした。

14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/01(水) 21:19:46.04 ID:FgCx/5jm0
会話も描写も小気味良くて好き 期待
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/09/01(水) 22:53:47.44 ID:YBvoRkek0


 ここは人里離れた木々の生い茂った森の中にある広々とした大きな屋敷。
 まるで江戸時代における武家屋敷を思わせるような古風な建物。
 内部も常日頃から手入れをされているようで清潔感ある佇まいだ。


「見事な庭園ですねぇ。ここまで立派な庭園は滅多に拝めませんよ。」


「あの…杉下さん…どうしてここまでついてくるんですか…?」


「当然でしょう。こうして鬼殺隊の隊士として知り合えたのですからその本部となれば興味も湧きますよ。」


そう、この屋敷こそが鬼殺隊の本部だ。
あの後で村田は隠の者たちにより本部へと招集された。
それに乗じて右京も後を付いてきたようで鬼殺隊の本部に潜り込んでしまった。
この本部は鬼殺隊でも極一部の者にしか所在を知らされてはいない。
鬼たちにこの場所を襲撃されないための用心だ。そんな場所に部外者を連れ込んだなどとなればどのような処罰を下されるのかわかったものではない。


「勘弁してくださいよ…ここに部外者を連れ込んだなんて知られたら怒られるのは俺なんですからね!」


「まあまあ、落ち着いてください。僕も無関係というわけではないのですから。」


「いやアンタ思いっきり無関係でしょ!って…うわ…」


村田が勝手な行動を取る右京に注意していた時だった。
この庭園にある数人の男女が姿を現した。
村田と同じく『滅』の文字が刻まれた隊服を着込み、それぞれ異なる羽織を身に纏った異様な集団。
筋骨隆々な大男に全身に無数の傷を負った青年、それに首に蛇を巻きつけ口元に包帯を巻いた青年や桃色の髪をした少女。
十代前半ほどの年若い少年や蝶の羽織を着込んだ少女に寡黙な青年。
もしや彼らは…
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/09/01(水) 22:56:04.15 ID:YBvoRkek0


「オイ、これはどういうことだぁ。」


すると傷だらけの青年が村田の胸ぐらを乱暴に掴んだ。
青年は今にも人を殺しそうな目つきで村田を睨みながらこう言い放った。


「お前ッ!ここが何処かわかっているのか!鬼殺隊の本部だぞ!何故部外者を連れ込んだ!?」


「申し訳ありません!ですが…これは…」


「それだけじゃねえ!鎹鴉から聞いたぞ。この部外者に命を救われたらしいな!
鬼殺隊は市井の連中を守るのが役目だ!それが逆に助けられるなど隊士としての自覚があるのかコラ!!」


そう叱責されて村田は弁解することも出来ず俯いてしまった。
鬼殺隊の隊士であれば命を投げ捨て鬼と戦うことが使命。それが逆に守られるなど叱責されるのも当然だ。
そんな村田に追い打ちを掛けるかのように青年は殴りつけようとした。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/09/01(水) 22:57:06.93 ID:YBvoRkek0


「落ち着いてください。確かにお叱りはご尤もです。ですがみなさんがこの場にお集まりになったのは彼を叱責するだけではないはずですよ。
そうですね。風柱の不死川実弥さん。」


右京がこの傷だらけの青年の名を不死川だと言い当てた瞬間、この場に集った者たちが一斉に右京を睨みつけた。


「それでそちらの数珠を下げた大柄な御仁が岩柱の悲鳴嶼行冥さん。忍び姿の方が音柱の宇髄天元さん。
年少の子が霞柱の時透無一郎くん、蛇柱の伊黒小芭内さん、それに女性陣の蟲柱の胡蝶しのぶさんと恋柱の甘露寺蜜璃さん。そして水柱の冨岡義勇さん。あなた方が鬼殺隊の最強といわれる柱ですね。」


「あ゛ぁ!アンタ一体何者だ!?」


 部外者かと思われていた右京が柱の存在を知っていたことに驚きを隠せない面々。
 まさかこの男は鬼の内通者ではないかと蛇柱の伊黒や音柱の宇髄が疑り出した。
そして柱たちが腰元にある刀を抜き出す寸前になるなどこの場に緊張感が走った。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/09/01(水) 22:59:06.52 ID:YBvoRkek0


 「…騒がしいようだけど、私の可愛い子供たち。皆よく集まってくれた。」

 
 そこへ屋敷から見目麗しい女性と五人の幼子を連れ立った一人の青年が現れた。
 袴姿で端正な顔立ちではあるが顔は痛々しいまでに皮膚が変質してしまっている。
 それにこの場にいる隊士たちを『子供たち』と呼ぶこの青年は…


 「 「ハッ!お館さま!ご健在でなによりでございます!」 」


 先ほどまで殺気立っていた柱の面々がその場に膝をつき頭を下げながらお館さまと呼ばれる青年に挨拶を交わしていた。
 この様子を見て右京はこの青年の正体に気づいた。


 「なるほど、貴方が鬼殺隊を束ねる産屋敷家が当主の産屋敷輝哉氏ですね。」


 まさかお館さまの正体まで言い当てるとは…
 
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/09/01(水) 23:00:28.42 ID:YBvoRkek0


「貴様一体何者だ。事と次第によっては…」


岩柱の悲鳴嶼は念仏を唱えながらも右京に対してより一層警戒心を抱き…


「アンタみたいな地味なおっさんが俺たち柱だけじゃなくお館さまの正体まで嗅ぎつけるとは…元忍びの俺としちゃ放っておけねえな…」


音柱の宇髄は胸元からクナイを取り出して右京目掛けて今にも投げつけようと構えた。


 「ひょっとしてこの人…鬼…?」


 「いいえ時透くん。鬼ならば太陽の光には抗うことは出来ません。彼は間違いなく人です。」


 「だからってお館さまの素性まで知っているとなりゃ只者じゃねえことは確かだろ!」


 「不死川の言う通りだ。鬼でないにしても連中の回し者かもしれん。」


 時透、しのぶ、それに不死川に伊黒もまた鬼が人間を使ってこの産屋敷に潜り込ませたのではないかと疑っていた。

 
 「え?どうなっているの…これどうしたらいいのかしら…?」


 そんな中で蜜璃は一人だけアタフタと動揺しており…


 「…」


 水柱の冨岡義勇は何を語ることもなく沈黙を貫いていた。
 柱たちが右京を相手に殺気立ち今にも襲いかかろうとした時だ。
 彼らの長である産屋敷輝哉は口を開いて素性の怪しい右京に対してこう告げた。
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/09/01(水) 23:01:53.75 ID:YBvoRkek0


 「ありがとう。私の子供を救って頂き感謝する。」


 そう感謝の言葉を述べた。それもこの緊張感の張り詰めた重苦しい空気の中でとても穏やかでいて優しい声で…
その瞬間にこれまで柱の面々の緊張感が一気に解れた。
 同時に今の言葉でまずすべきことがあることを思い出した。それは右京に感謝すべきことだ。
 どういう形であれ右京はあの凶暴な鬼から村田を救った。それだけは事実だ。
 

 「みんな、疑う前にまずは感謝しよう。
疑うことはあとでも出来る。けれど彼は私たちの身内を救ってくれた。その礼を欠いてはならないよ。」


 そう優しく促すと柱の面々は全員で右京に対してペコリと会釈した。
 お館さまの前ということもあるがどのような場合においても礼儀を欠かしてはならない。
 当然のこととはいえ柱として不甲斐ないと誰もが反省した。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/09/01(水) 23:05:01.02 ID:YBvoRkek0

 
 「いえ、人を助けるのは当然のことです。それに僕も礼儀を欠かしていました。
改めて自己紹介させてください。警視庁特命係の杉下右京です。以後お見知りおきを。」


 右京が警察の人間だと知った瞬間、不死川はまたもや村田を睨みつけた。
 村田もまたやばいと思ったのか再度目を逸らしてしまった。


 「馬鹿野郎ッ!お前なんて面倒な真似を仕出かしてくれたんだ!!」


 「ひぃ〜!すいませ〜ん!?」


 村田はまたもや不死川から怒鳴られてしまう。
 ちなみに何故怒られているのかだがそれは鬼殺隊が政府非公認の組織だからだ。
 それに主な原因は彼ら隊士が扱う日輪刀。
 明治時代より廃刀令が施行されたことで刀を差して街を出歩けばそれだけで警察官に追い回される。
 これは柱も例外ではない。事実鬼殺隊の隊士たちはこれが理由で苦労することが多い。
 …だというのにあろうことかこの本部に警察官を招いたとあっては不死川が怒鳴るのも無理もない話だ。


 「まあ落ち着いてください。別にあなた方を取り締まるために訪ねたわけではありません。」


 「あん?だったらアンタ何しに来たんだ。まさか興味本位で付いてきたわけじゃねえだろ。」


 不死川からそう問われたが実はその通りで興味本位なのだと言えるわけもない。
 ところで右京はあることに気づいた。柱の人数だ。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/09/01(水) 23:08:22.40 ID:YBvoRkek0


 「…八人ですか。」


 「何だよ?それがどうかしたか。」


 「『柱』の画数は九、それにちなんで鬼殺隊の柱は九人いなければならない。
つまり隊士の中から選ばれた最強の九人の剣士が文字通り鬼殺隊を支える柱とされている。
ですがこの場にいる柱は八人、つまり空席があるということですね。」


 この空席について劇場版鬼滅の刃無限列車編を観賞した右京はある心当たりがあった。
 岩、音、風、蟲、霞、恋、蛇、水、これだけ多くの流派のある柱の中でこの場にて唯一つ不在の炎だ。


 「煉獄杏寿郎さん。上弦の参との戦いで無限列車の乗客二百名と後輩の隊士たちを自らの命を懸けて守りきった炎柱。
この場にて彼のご冥福を祈ります。」


 煉獄の死に目を閉じて静かに黙祷する右京。
 その礼節を重んじた姿に不死川は何も言わず元いた場所に座り込んだ。他の隊士たちも皆同じだ。
 煉獄に対してここまで敬意を示してくれる右京にこれ以上疑う者はいなかった。
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/09/01(水) 23:10:42.27 ID:YBvoRkek0


 「いい加減にしてくれ。こっちは時間が惜しいんだ。
こんな地味なおっさんはこの際後回しにしてさっさと話を始めようぜ。」


 そんな沈黙の中で音柱の宇髄がようやく話を始めようと切り出した。
 煉獄の不在、それに柱の招集。さらには村田まで…
 ここで右京はこの招集の意図を理解した。


 「なるほど、全ては那田蜘蛛山から始まっていたわけですか。」


 那田蜘蛛山と言われて村田は思わず苦い顔を浮かべた。
 何故なら村田にとって那田蜘蛛山での事件は苦い思い出だからだ。


 「下弦の伍の累により鬼殺隊に大勢の死傷者が出た。
これまでなら死亡した隊員たちの穴埋めを柱のみなさんが補うことで人々を守れた。
ところが無限列車にて上弦の参が出現したことで煉獄さんは亡くなられた。
炎柱である煉獄さんが失われた。空席となった彼の埋め合わせとなると容易ではない。
さらに上弦の鬼が動いたことでそれに呼応するかのように鬼たちの動きも活発化している。
今回柱の皆さんが集められた理由はそのことについて改めて配置決めを行うといったところでしょうか。」

 
 まるで最初から事態をすべて把握しているような右京の発言に柱たち一同は呆然となりながらも自分たちが集められた理由がそうであると改めて認識した。
 確かにこれまでなら他の隊士の埋め合わせなら柱たちが補ってきた。
 しかし柱の欠員となるとそれも容易ではない。


 「それに新たな柱に任命出来るだけの隊士も今はまだいないようですねぇ。もし居ればこのような話し合いなど行うはずがありません。」

 
 右京から更なる指摘を受けて柱たちは何も言えずにいた。
 そう、もうひとつの問題は新たに柱になれる技量を持った隊士がいないことだ。
 
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/09/01(水) 23:11:48.53 ID:YBvoRkek0


 「チッ…部外者の言う通りだ…情けねえ話だがやはり隊士の質が落ちてやがる…」


 「致し方あるまい。鬼殺隊は鬼への激しい恨みや憎しみを持つ者たちの集まりだがそれが力に比例するわけでもない。
個人の技量に関してはそう簡単に解決は出来ん。」


 「それにここ最近は鬼たちが地味に動いているから俺たち柱もろくに継子を育てられない。
そういや継子といえば胡蝶が育てている継子がいたがそいつは次の柱になれそうか?」


 「カナヲのことですか?無茶を言わないでください。確かに素質はありますがあの子にはまだ柱になるだけの技量は…」


 次代を担う継子の育成がままならない現状。事態は急を要するというのに煉獄の後釜を担う後継の不在。
 この現状を見て右京はそもそも煉獄の後釜を担うこと自体が重荷なのだろうと察した。
 煉獄は柱の中でも一、ニを競う実力者だ。そんな彼の後釜を他の隊士で担えるほど甘くはない。
 
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/09/01(水) 23:16:40.09 ID:YBvoRkek0

 
 「だったらあいつはどうだ。この前の柱裁判で息巻いていた若手がいたよな。確か名前は竈門炭治郎だったか。」


 そういえばと宇髄が思い出したかのように炭治郎の名を挙げた。
 その名を耳にした右京はすぐに注目した。竈門炭治郎といえばこの鬼滅の刃の主人公である。
 右京としても炭治郎に会えるのは喜ばしいことではあるのだが…


 「…無理です。炭治郎くんは先日の無限列車で深手を負っています。そんな彼に煉獄さんの後釜など…」


 炭治郎のことで深刻そうな表情で語るしのぶ。右京もあることを思い出した。
 無限列車編で炭治郎は操られた車掌に腹部を刺された。あの傷は内蔵に達するほど相当な深手だったはずだ。


 「炭治郎くんの容態はそんなに悪いのですか。」


 「ええ、医者として少なくともあと一〜ニ週間は安静にしなければなりません。
それなのにあの子ときたら運ばれてきたその日のうちに煉獄さんの生家を訪ねて無茶をして…」


 しのぶの話によると炭治郎は煉獄家を訪ねた直後、しのぶによって再び蝶屋敷に入院させられたそうだ。
 その後は傷が治るまで絶対安静と固く言いつけられた。


「とにかく今の炭治郎くんは絶対安静。戦いに行かせるなど以ての外です。」

 
 最後にしのぶは駄目押しで炭治郎の絶対安静を告げた。
 医者として目の前で患者を死なせるわけにはいかない。その確固たる意思を顕にした。
 こうなると問題はまたもや振り出しに戻る。結局次代の柱を担う若手の隊士はいない。
 こんな現状で上弦の鬼たちの動きが活発化すれば現存する柱たちで防ぐのは至難。
 最悪の場合は鬼殺隊の壊滅すら有り得る話だ。だが誰からも提案はなされていない。
 柱たちは勿論だが彼らを束ねる産屋敷輝哉も同様だ。誰も意見することもなく沈黙したままだ。
 
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/09/01(水) 23:19:20.88 ID:YBvoRkek0
 

 「無いもの強請りは出来ない。ならばいま出来ることは上弦の鬼と戦うことを過程して勝算を上げることです。
大した案ではありませんがここはひとまず柱のみなさんで二人ひと組を作ってみては如何でしょうか。」


 そんな沈黙を破るかのように右京の上弦の鬼に対して複数で挑めばどうかという案。それは悪くはないものだった。


「上弦の鬼を相手に柱が一人で戦うよりも二人で戦えば勝率が上がる。確かに理に適ってはいる。」


 「地味だが…まあ無難な案ではあるな。」

 
 悲鳴嶼と宇髄は右京の案に肯定的だ。


 「そうですね。これ以上柱を欠かしてはなりません。私は賛成します。」


 「は〜い!私も賛成します!一人よりも二人の方が心強いもの!」


 女性陣のしのぶ、蜜璃の両名も納得。


 「そうだな。俺たちは別に剣術の試合やってるわけじゃない。多勢で挑んでも何ら問題ねえ。」


 「我らは鬼を倒せればそれでいい。」


 「うん。僕たちは鬼狩りだからね。正々堂々と正面から向き合う必要もない。」


 不死川、伊黒、時透の三名もこの案に納得した様子。
 お館さまも穏やかな顔で納得したようでとりあえず右京の提示した案で結論付けようとするが…

27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/09/01(水) 23:27:19.21 ID:YBvoRkek0


 「…俺は反対する。」


 一人だけ右京の案に反対する者がいた。水柱の冨岡義勇だ。


 「二人ひと組では各担当区域の人員を割けない。」


 義勇の言うように右京の案はあくまで柱の勝率を上げるものだ。
 柱が複数で行動すれば上弦の鬼を相手にしても勝算は上がるかもしれない。
 だがこの場合だとこれまでの担当区域をさらに限定しなければならない。
 そうなれば一般人への被害は広がる一方だ。義勇の言いたいことはそういうことだった。


 「チッ!ようやく喋ったかと思えば文句とは…水柱さまは人の話に水を差すのが日課かオイ!」


 「そこまでいうなら冨岡よ。貴様は何か代換案でもあるのか?文句を言うだけなら誰でも出来る。幼児にも出来る。
幼児でないなら代換案を言えるはずだ。言え。言ってみせろ。どうした?早くしないか。
それとも嫌われ者の自分が省かれるのが嫌で反論しただけか。フン、幼児以下だな貴様。」
 

 不死川、伊黒の両名からネチネチと嫌味を言われる義勇。
 しかし義勇は一言だけ反論しただけで再び口を閉ざし沈黙した。
 ようやく話がまとまりかけたのにこれでは他の柱たちも呆れる始末。
 

 「冨岡さんもう少し何か話してはどうですか。これでは不死川さんや伊黒さんが怒るのも当然ですよ。」


 見かねたしのぶが助言するがそれでも義勇は沈黙を貫いたままだ。
 義勇がこれでは話がまとまらない。
 こうなればと思った右京はあることを語りだした。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/09/01(水) 23:38:06.80 ID:YBvoRkek0


 「これはどうやらまず冨岡さんをどうにかしなければ話が進まないようですね。
そういえば以前の柱裁判でも冨岡さんにはかなりの問題があり、それはまだ解決されていません。」


 「杉下さん失礼ですがその問題とは…?」


 「あの裁判において争点は二点。
竈門炭治郎くんの妹の禰豆子さんが鬼であり彼は鬼殺隊の隊士でありながらそんな妹を連れていること。
これは禰豆子さんが血を拒んだことで人を襲わないと証明してみせた。
もうひとつはそんな二人のことを二年間も黙っていた冨岡さんです。前者は一応の解決となりましたが後者はまだ解決されてはいません。」


 かつて竈門炭治郎が鬼と化した妹の禰豆子を無断で連れていた裁判。
 既にお館さまの許しは得られたがそれでも柱の面々で納得した者は少ない。
 だが柱の面々が不満に思うのは炭治郎兄妹についてだけではない。冨岡の口足らずな面についてもだ。
 

 「冨岡さんは今から二年前に竈門兄妹を鬼殺隊に招いた。そこまではよろしい。
ですがその後あなたは二年間彼らについて他の隊士には一切事情を打ち明けなかった。
鬼との戦いにおいてどんな些細な情報でも大事です。それが戦いの決め手に繋がる状況もある。
だというのに冨岡さんは自らの意思で二年間も打ち明けずにいた。そのせいで炭治郎くんは危うく処刑されそうになり、さらにはこの一件が柱同士による諍いも生じていた。
これでは冨岡さんが仲間内から嫌われてしまうのは当然ですよ。」


 改めて右京は義勇の問題点を取り上げた。
 この説明を受けて他の柱たちも改めて義勇に問題があるのはわかった。
 確かに義勇が人見知りな性格なのは何も今に始まったことではない。
 それに個人の性格に関してはどうにもならない点も否めない。それでも本来ならもっと早く打ち明けなければならない事案を黙っていたのは事実だ。
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/09/01(水) 23:40:38.79 ID:YBvoRkek0


「あの…それは…お館さまのご指示では…」


 そんな中で唯一人義勇を擁護するかのように蜜璃が意見をした。
 確かにお館さまは以前から炭治郎の事情を把握していた。
 それに柱裁判で義勇と炭治郎の育手である鱗滝が宛てたという書状もあった。
 つまり上役への最低限な報告を済ませていればとりあえずは問題ないのではないかと蜜璃は意見するが…


「ですがそれについても疑問の余地があります。
お館さまは鱗滝さんからの書状で炭治郎くん兄妹の事情を知り得たわけですが…
問題はそのことを冨岡さんはお館さまに直接話されたのでしょうか?」


 この疑問について柱の誰もがまさか…といった疑いを持って義勇を睨みつけた。
 

「オイ冨岡…お前さすがにお館さまには自分の口で伝えたはずだよな…」


 不死川がそう問いかけたが義勇は沈黙したままだ。
 他の柱たちも思わず呆れながらも義勇の口足らずがここまで深刻なものだと今更ながら気づかされた。
 まさかこの男…右京の指摘通りお館さまに直接伝えていなかったのでは…

30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/09/01(水) 23:44:49.84 ID:YBvoRkek0


 「冨岡ぁっ!俺が介錯してやるからこの場にて腹を切れっ!?」


 刀を取り出して本気で義勇を介錯しようとする不死川を悲鳴嶼やしのぶがどうにか宥めた。
問題事を上役に直接伝えるのと人伝に伝えるのでは大きな差がある。
ましてやお館さまは鬼殺隊の隊士たちから尊敬される御方。勿論不死川もそのうちの一人だ。
そんなお館さまにそのような無礼を平然と行う義勇を不死川が許せるはずがなかった。


「まあ落ち着いてください。ですがみなさんのお怒りはご尤もです。
いいですか冨岡さん。いくら炭治郎くんたちに特殊な事情があったとはいえ二年間もその経緯を語らなかったことについてはさすがに不義理だと思われても仕方ありません。
それに炭治郎くんが鬼殺隊に所属している以上は今後も柱の方々の協力は不可欠です。
なのに二年間もその事情を打ち明けずにいたとなれば彼が裁判に掛けられるのも当然ですよ。
どんな事情があるにせよあなたは二年前の時点でこの場にいる全員に竈門兄妹の件を打ち明けるべきでした。」


部外者である右京にここまでハッキリと問題点を挙げられてしまった。
正直なところ悲鳴嶼や宇髄は義勇の重度な人見知りに呆れ果てしのぶもまたこれ以上は面倒を見きれないと見限り不死川と伊黒は本当に介錯してやろうかと刀を抜き出そうとする始末だ。
そんな殺気立つ柱を宥めるかのように右京は更なる言及をした。

31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/09/01(水) 23:49:58.63 ID:YBvoRkek0


「つまり鬼舞辻無惨を倒すにはまず冨岡さんの人見知りを改善しなければならない。
そうでなければ戦いにおいて連携を取れない。これは今後の戦いにおいて明らかに致命的です。」


「けど…冨岡さんの人見知りをどうやって克服するんですか…?」


「そうですねぇ。てっとり早く話し相手になってあげればよろしいかと思います。甘露寺さんはなってもらえますか。」


右京が蜜璃に義勇の話し相手になってくれないかと相談するが隣にいた伊黒が物凄い剣幕でそれを遮った。


「冗談ではない。甘露寺にそのような酷い真似をさせられるものかっ!」


「ならば伊黒さんはどうでしょうか。冨岡さんの話し相手になってくれますか。」


「巫山戯るな!そもそも冨岡に話そうとする気が微塵もないのだから俺たちが何をしたところで無駄ではないか!」


伊黒はそう言い切った。首に巻かれている鏑丸など右京をシャーッ!と威嚇する始末。
他の柱たちも敢えて言わないが正直なところ皆同じ意見だった。
以前から年長の悲鳴嶼をはじめ何人かが義勇に話しかけてはいた。その中には勿論煉獄もいたがそれでも義勇は誰とも話し合おうともしなかった。
その後もちっとも改善しない義勇の態度に呆れ果て今では事務程度の話し合いで終わらすばかり。
だが柱裁判の一件はさすがに座視することは出来ない。ここまで深刻な義勇に敢えて話し相手になろうなどと思う者などいるはずもなく…
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