カルネアデス・プリズム(名探偵コナン×竜とそばかすの姫)

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178 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/24(木) 02:14:32.69 ID:de+UqY4w0

山頂の絶景、堪能しました。

それでは今回の投下、入ります。

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>>177

ーーーーーーーー

「姉キ、上がったよ」

「ええ」

夜、風呂上りにダイニングで水分を補給していた園子は、
通りかかった姉の綾子に声を掛けた。

「お休み」

「お休みなさい」

綾子と挨拶を交わし、自分の部屋に戻った園子は、
そのまま後ろ向きにベッドに倒れ込んだ。

「あー、しんど」

スポーツの応援に出かけて
事件に巻き込まれて帰って来た疲労感を改めて反芻した園子は、
手を伸ばしたスマホの表示に気付いてタップする。
程なく、スマホに電話が着信した。

「もしもし、世良ちゃん?」

「園子君。遅くに悪いんだけど今ちょっといい?」

「いいよ」

「今日の事件、多分新一君もコナン君を介して噛んで来ると思うんだ」

「だろうねぇ」
179 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/24(木) 02:16:19.29 ID:de+UqY4w0

「それで、先に聞いておきたいんだけど、
新一君とミチル君って知り合いかい?」

「うん、知らない仲じゃないわよ」

「じゃあ、さっさと聞くけど、
二人の間に男女としての感情はあるのかな?」

「無いね。今日もそうだったけどミチル君は蘭をからかう方だし、
新一君もミチル君の事は苦手っぽいし」

「苦手?」

「なんて言うのかな?嫌いって訳じゃないよ、
異性の友達にしては仲がいい方だと思う。
ミチル君、自分で空手道場育ちって言ってるくらいだから
変な意味じゃなくて男慣れしてるし、
その辺はサッカー小僧だった新一君とも馬が合うんだけど」

「体育会系が問題無いなら、後は高度な頭脳戦かな?」

「そゆ事。元々、ミチル君と仲良くなったの蘭が先だからね」

「それは空手の?」

「うん。道場は別だったんだけど、
小学校の、まだ全然小さい頃に一緒になる機会があって、
その時にミチル君が蘭の空手の型を褒めてくれたって。
それから時々話す様になって、
組手や試合で意識する事も増えたったって」

「ふうん、それで蘭君から新一君にかな?」

「うん。あいつ、一応自制はしてるけど、
自分の好きな事を喋り出したら止まらなくなる悪癖があってね。
まあホームズの事なんだけど。
小学校何年生の時か、空手の大会の帰りにスイッチ入っちゃって、
蘭がいい加減うんざりしてた時に
横からするっと話を引き取ってくれたのがミチル君だったって」
180 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/24(木) 02:18:46.01 ID:de+UqY4w0

「じゃあ、彼女もシャーロキアンなんだ?」

「本人はクリスティー派って言ってるみたいだけどね。
知識も洞察もそこらの自称シャーロキアンが裸足で逃げ出すって。
新一君がそう言うんだから相当なものよ」

「それは大変だ。成程ねぇ、確かにちょっと想像はつくよ」

「でしょ。今日ガキんちょ見てても思ったんだけど、
新一君も頭が切れる分ちょっと小生意気な所あるじゃない。
だから逆にミチル君にはちょっと気後れしてたって言うか」

「新一君もなまじ頭が切れるだけに、
同じ年頃で賢いと認める女の子が相手だと勝手が解らなかったのかな。
お子様だと特にね」

「それかもね。
新一君が高校生探偵とか言って抜群に頭が切れるのは私も見てきたけど、
実際ミチル君も頭が良くて、新一君と一緒でもその点負けてなかったから。
流石に本物の事件に巻き込まれたってのは、
ミチル君に関しては今回が初めてかも知れないけど」

「とは言え、見てる限り本物の事件でも随分と腹が据わってるよ彼女。
頭の回転も速いし精神年齢も高めなのかな」

「あれで苦労人だからねぇミチル君。よく気が付いて優しくて、
私も蘭もそれ見て来たからね。
人懐っこくって何処か捕まえ所が無くて、
それで世良ちゃんと張るくらいのイケメン女子だから
そこも魅力って言えば魅力なんだけど
新一君なんかから見るとその辺ちょっとかもね」

「謎を謎のままにしておくのは居心地が悪いホームズ・フリークか」

「まあ、それでも新一君とも仲はいいんだけどさ」
181 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/24(木) 02:21:41.27 ID:de+UqY4w0

「そっか。まあ、覚えておくよ。
当面、今日の事件で動くのは毛利探偵じゃなければコナン君だろうけどね」

「ガキんちょかぁー、今回何気に結構ヤバイ犯人でしょ。
危ない事になんなきゃいいんだけど」

「ああ、それはボクも気を付けて見てるよ」

「お願いね。世良ちゃんと蘭が側にいたら百人力だから、
あんな女の敵、もし遭遇したらぎったんぎったんにしてやってよ」

「まあ、危ない事にならない内に解決する事を祈るよ。お休み」

「お休み」

ーーーーーーーー

降谷零警部は、セーフハウスに入るとパソコンを起ち上げ、
ネット回線に繋がっていない事を改めて確認してから記憶媒体を接続する。

「聴き取りの大半は弁護士自身が行ったもの」

呟きながら、降谷はイヤホンを装着して音声ファイルの一つにアクセスする。

「では、先生には私がインタビューをします」

「お願い。他人から聞かれて思い出す事もあるから」

降谷は、少しの間録音された二人の会話を聞き取る。

「回顧録作成を兼ねたclosed case file」

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今回はここまでです>>178-1000

続きは折を見て。
182 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/27(日) 00:47:35.25 ID:03uZibKc0
訂正です
>>179
===========(誤)↓================
「なんて言うのかな?嫌いって訳じゃないよ、
異性の友達にしては仲がいい方だと思う。
ミチル君、自分で空手道場育ちって言ってるくらいだから
変な意味じゃなくて男慣れしてるし、
その辺はサッカー小僧だった新一君とも馬が合うんだけど」

「体育会系が問題無いなら、後は高度な頭脳戦かな?」
============(正)↓================
「なんて言うのかな?嫌いって訳じゃないよ、
異性の友達にしては仲がいい方だと思う。
ミチル君、自分で空手道場育ちって言ってるくらいだから
変な意味じゃなくて男慣れしてるし、
その辺はサッカー小僧だった新一君とも馬が合うんだけど」

「体育会系が問題無いなら、後は高度な頭脳戦かな?」
==============================

訂正は以上です。

それでは今回の投下、入ります。
183 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/27(日) 00:48:58.08 ID:03uZibKc0

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>>181

 ×     ×

西多摩市北部住民センター傷害事件の翌日早朝。
如何にも観光客然としたグラサン三人組が高知駅バスターミナルに降り立った。
三人組は、其の儘近くのレンタカー事務所に直行、
事前に話を通しておいた事務所で借り入れた車に乗って近くの警察署に向かう。
警察署の駐車場でスーツ姿の二人組と合流し、計五名で署内の会議室に赴いた。

「警視庁捜査一課強行犯捜査三係主任佐藤美和子警部補です」

そこで、佐藤がサングラスとウイッグを外しながら自己紹介を行う。

「同じく三係高木渉巡査部長です」

「同じく三係千葉和伸巡査部長です」

美和子に同行した警視庁捜査一課の面々が自己紹介を行い、
続いて、会議室に待機していた面々がおよその自己紹介を行う。
ここで待機していたのは、高知県警の本部、所轄から
強行犯担当、少年担当にサイバー担当を加えた十人余りの捜査班だった。

「ご協力感謝します。
早速ですが、マル害渡辺瑠果の鑑取りを行ったのは?」

「私です」

佐藤の問いに挙手したのは県警捜査一課の巡査部長だった。

「こちらに届いた報告を読む限り、特段のトラブルは把握されていない、
そういう事ですか?」

「はい、渡辺瑠果に関しては率直に言って平和そのもの。
事件に発展する様な個人的トラブルは発見されませんでした」

張り詰めた空気の中、デカ長が報告を行う。
捜査報告に於ける「特にありません」。
それは、刑事にとって、上司に詰められ或いは結果に裏切られ、
自分の底の浅さを思い知らされるその恐れと背中合わせの言葉。
184 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/27(日) 00:51:34.99 ID:03uZibKc0

「渡辺瑠果の鑑取りはこちらでも行いました」

佐藤が続ける。

「渡辺瑠果、千頭慎次郎、東京に来ている吹奏楽部の部員及び引率。
それらの事情聴取を見る限り、
こちらとしても事件に繋がる様な特段の事情は把握出来ませんでした」

それは、東京、高知、双方事情を知る者なら納得出来ると言う、
その様な雰囲気だった。

「渡辺瑠果に対する評価は、明るく社交的で
学校のクラスでも吹奏楽部でも人望の厚い人気者。
部活の中心メンバーで相当数の友人もいる。
加えて、学内では評判の美人で、
女性としての人気も学校内ではトップクラス。
渡辺瑠果自身の人間性も至って健全で、
社交的で外面がいい一方で気持ちの優しい裏表のない性格、
家族関係にも今の所問題は見当たらない。
我々が聞き込んだ範囲でも大凡この様な評価となりましたが、
これはあなたの調べと概ね一致すると考えていいのですね?」

「はい、こちらの聞き込みも大凡同じ結果です」

佐藤の問いに県警で鑑取りを行ったデカ長が答える。

「周辺の男子生徒から見た渡辺瑠果。
正確に言うと、吹奏楽部の女子部員から見た
渡辺瑠果と男子生徒一般との関わりですが、
クラスや吹奏楽部等、一定の理由がある所では男子生徒の友人もいて、
そういう相手には友人として至ってフランクに接している。
一方で、そうした明るい性格に加えて吹奏楽部のエースでもあり、
華やかな美人として学内一般に知られる立場であった為、
男女の関わりとしては高嶺の花と見られる事が多く、
実際に振られた男子生徒も過去に複数存在していた模様」

そこまで言って、佐藤は資料の頁を捲る。
185 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/27(日) 00:55:08.80 ID:03uZibKc0

「そして、渡辺瑠果自身は自分自身の恋愛に対してむしろ奥手で純情。
それでも恋人である千頭慎次郎との関係は至って円満であり、
彼女の普段の明るくフランクで社交的な周囲との関りとは打って変わって
男女ともに初々しいとしか言い様が無いこの恋人同士の交際を、
本人達も周囲も好意的に受け止めている。
以上がこちらで把握している渡辺瑠果の敷鑑概要ですが、
そちらの調べとも大凡一致する様ですね」

「その通りです」

「学校内では評判の美人で部活のスターでもある人気者。
本人に問題が無いとしても、
一方的な嫉妬やストーカーと言ったトラブルに巻き込まれた様な形跡は?」

「確認しましたが、警察への被害相談は勿論、渡辺瑠果の家族や友人、
周囲の人間関係からその様な形跡は現時点では発見されていません。
強いて言うなら、千頭慎次郎と交際する前、
学内でも有名なモテ男である久武忍との関係が噂された事もあった様ですが、
本人達が只の友人関係と言う以上の関心を示さなかった事もあって、
周辺含めてトラブルと言う程の話にはならなかった様です」

「その話はこちらでも把握していますが、
やはりトラブルの芽と言ったものすら見出せませんでした」

佐藤と県警の鑑取り担当が確認のやり取りを交わす。

「不審者情報も確認されたんですね?」

「ええ。改めて人を出して記録と地取りで確認しましたが、
渡辺瑠果のテリトリーで不審者と言うべき情報は確認されませんでした」

答えたのは、階級としては佐藤よりも上の警部である
この警察署の刑事課長だった。

「仮にこちらに美少女狙いの変質者がいたとしても、
東京で犯行を行うのは流石に不自然ね」

佐藤が独り言の様に言う。
186 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/27(日) 01:02:14.99 ID:03uZibKc0

「では、渡辺瑠果の友人である内藤鈴。内藤鈴は渡辺瑠果の同級生であり、
インターネット空間『U』で『ベル』の名前で活動している人気シンガー。
高知県警からも資料を送っていただきましたが、
現状、こちらもベルに関する決定的なトラブルは把握していない。
大小幾つかのトラブルはあっても大凡の所は少年係を中心に対処済みであって
比較的悪質なものに就いても
今回の事件に関しては当事者のアリバイが成立している。
この様にまとめてもいいんですね?」

「こちらで直接手を出そうと言う類の事例に就いてはそう言う事になります」

佐藤の問いに返答したのは、
県警本部に属する少年担当の女性警部補だった。

「ベルの実質的なマネージャ―として
警察との交渉を含むトラブル対応を行っている別役弘香への事情聴取。
主に別役弘香との交渉窓口になっている所轄の少年係、
地域警察から刑事警察の所轄、本部の記録から
担当者への聞き取りに至る迄引っ繰り返して調べましたがね。
まあ、あれだけの有名人なので
それなりにいざこざやトラブル、嫌がらせもあって、
中には送検まで行ったものもあるにはありましたが、
報告の通り、そこから今回の事件に繋がるのかとなると、
まず物理的に東京での犯行が難しいケースばかりでして」

発言したのは、県警本部捜査一課の警部補だった。
『U』の歌姫ベル、その世界的有名人への地元対応が突如降って湧いた、
と言うのが高知県警の状況だった。

先ず、所轄警察署に関しても、
ベルこと内藤鈴が通う高校を管轄するこの警察署と
内藤鈴の現住所を管轄する高知県中西部の警察署。
ベルに関しては、この二つの警察署が直接的に関わっている。

今回は被害者である渡辺瑠果の自宅がこちらの警察署の管内であると言う筋論と、
実際に事件に至った以上、県警の中でも比較的都市部で
荒事に慣れていると言う事でこちらの警察署が主として扱う事になっていた。
187 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/27(日) 01:05:25.22 ID:03uZibKc0

「只、ファンが多い分アンチも多いですから、
行き過ぎ、嫌がらせのネット投稿やメールまで広げると
現実問題として際限がありません。
いや、もちろん悪質性危険性の高いものをなるべく選り分けて
一つ一つ鋭意確認している所ですが」

「その点に就いては、警視庁に於いても捜査中です。
二度手間を避けると言う意味でも、
連携を密に協力しての対処を宜しくお願いします」

この手のネット脅迫捜査の経験者として
県警捜査一課から派遣された巡査部長の言葉に、佐藤が頭を下げた。

高知県警のベル対応に当たって、
生安と刑事の連携は、主にキャリア組の幹部から厳命されていた。

大体に於いてベルに関わるトラブルの予防や相談、対応は
生活安全警察の範疇になるのだが、
もし『U』の歌姫ベルに何か取り返しのつかない事が起きてしまったとして、
それ以前に県警が細かな刑法犯罪への対応を怠っていた、
等と言う事が捲れた日には、社会的に首が飛ぶどころか
県警の物理的殲滅等と言う言葉すら視野に入る。

その事は、主に県警内のキャリア組を通じて
警察庁の意向としても例えでは済まないと厳しく釘を刺されている事であり、
若手を中心に県警内でも決して大袈裟な事ではないと言う事は理解されていた。

「事件が東京と言う事で、気懸りは竜の事ですが」

先程の少年担当の警部補が発言した。

「それは、こちらでも把握しています。
しかし、こちらもそのラインの人間による犯行と言うのは
物理的に難しいと言うのが現時点で浮上している関係者に就いての結論です」

佐藤に視線を送られた高木が返答する。
188 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/27(日) 01:08:38.66 ID:03uZibKc0

「では、依頼しておいた三名の行動確認に就いては?」

「内藤鈴に就いては、護衛と相談と言う名目で
PS(警察署)で顔見知りの少年係の女警が
彼女の自宅に泊まり込みで張り付いています」

佐藤の質問に本部少年担当の警部補が言う。

「その女警が連れて来るんですか?」

「今日の任意出頭には機捜からも人を出します。
こちらも過去のトラブルで面識がある相手です」

続けての質問に本部捜査一課の警部補から回答があった。

「そうですか。内藤鈴は必ずここに連れて来て下さい。
万一の場合は転んでも構いません」

佐藤の言葉に、会議室が静まり返る。

「佐藤主任、カタギの高校生、それもベルに別件でワッパを打てと?」

刑事課長が引きつり気味に尋ねる。

「飽く迄万一の時です。その時は私が、警視庁が責任を負います」

刑事課長も、地方とは言え本部の一課も経験して管理職を務めている。
この部屋の他の面々も、
佐藤の言葉が警視庁捜査一課の本気である事を早々に理解した。

「久武忍は?」

「念のため自宅に人を張り付かせていますが、
帰宅後外出した形跡はありません。
こちらも予定時刻に出頭する事になっています」

佐藤の問いに刑事課長が答える。
189 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/27(日) 01:11:42.19 ID:03uZibKc0

「別役弘香は?」

「正規の出頭要請の他、
銀行にあま………再就職した我が社のOBを通じて
彼女の父親に必ず出頭させる様に釘を刺してあります。
これまで別役弘香は我々と協力関係にあり、
事件以降は自宅周辺の重点警邏も指示済みですから
予定通りに出頭すると言う事で」

「そうですか」

刑事課長の声が硬くなっていたが、佐藤はあっさりと了承する。
別役弘香が警視庁の捜査にも積極的に協力して来た事は確かだ。
別役弘香の父親は地元地銀のトップであり、
県警と銀行、互いに無碍には出来ない関係である事も想像に難くない。

「ベル・プロジェクトのキーパーソンは別役弘香ね」

佐藤が念を押す様に言う。

「別役弘香は内藤鈴の友人であり、
ベルの実質的なマネージャ―、プロデューサー。
その様に聞いています」

佐藤に視線を向けられ、千葉が発言した。

「別役弘香はこれまでもベルに関わって何度か警察と関わっていますが
結構な切れ者ですよ。今回の件で事情聴取した時もそうです」

発言したのは所轄刑事課の主任巡査部長だった。

「高校生にしては、でしょう。
ナメてかかる心算は全く無いけど、そういうの慣れてるから。
油断しない様に心しておくわ、有難う」

佐藤が応じる。
190 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/04/27(日) 01:15:36.77 ID:03uZibKc0

「別役弘香は確かに頭のいい、如才ないタイプの娘ですが、
ベルの事、内藤鈴の事を心から大切にしている事も確かです」

発言したのは所轄署少年係の女性警察官だった。

「ベル・プロジェクトのメンバーは実質五人。
その内二名には東京で事情聴取しました。
予定通り出頭し次第、私が内藤鈴を、高木部長が別役弘香、
千葉部長が久武忍を事情聴取しますのでご協力願います」

「分かりました」

佐藤の言葉に一同が応じる。

「それでは、時間まで少し用事を済ませて来ます。
何かあれば千葉部長を通じて連絡をお願いします。
高木巡査部長、荷物持ちに同行しなさい」

「はっ。高木巡査部長、これより同行致します」

佐藤と高木が会議室を出た後、千葉和伸巡査部長は速やかに県警勢に包囲され、
先程目の前で展開された猿芝居に就いての説明を求められた。

==============================

今回はここまでです>>182-1000

続きは折を見て。
191 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/05/02(金) 01:57:10.15 ID:oMGGld7v0

それでは今回の投下、入ります。

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>>190

ーーーーーーーー

「バカップルの猿芝居と思われてるでしょうね」

「ええ………」

観光施設の駐車場でレンタカーの後部座席に乗った佐藤の言葉に、
運転席の高木が向こうに残った千葉への追及を思い浮かべて乾いた答えを返す。

「計画通りね。だけどそんなに時間は無い。
問題は、渡辺瑠果が何故東京で襲われたのかと言う事よ」

高木は振り返り、思案する佐藤の顔を見る。

「手口から言って流しの犯行とは考え難い。
だとすると、狙われたのは渡辺瑠果、或いはビーズが示すベル。
だとすると犯人は?
東京に来ていた吹奏楽部に竜の関係者。この辺りはまずアリバイで一蹴された。
ジャスティンも主要な面子はそうね」

「ええ、あれも人数が結構多い上に『U』の運営の口が堅くて
末端のメンバー全員の行動までは把握されていませんが、
逆に、スポンサードされた主要メンバーはとにかく、
未だに把握されていない程度のメンバーに
リアルで関係者を、それもあれだけ周到に傷付ける程の動機は薄い。
と、千葉の受け売りですけどね」

「もちろん、そちらのルートも
東京で全員の把握を目指して捜査を継続している訳だけど。
ベルはその人気が絶大なだけに好意も憎悪も行き過ぎる者は幾らでもいる。
警察や別役弘香が把握していた中でも危険度の高いものを
警視庁と高知県警が合同で一つ一つ潰してるけど、
今の所は過去のトラブルの関係者含めて大体がアリバイの問題でリストを外れる」
192 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/05/02(金) 01:59:55.97 ID:oMGGld7v0

「ベルのファンは日本中どころかワールドワイド。
それで、危なそうなのも大体が所謂ネット弁慶の類ですからねぇ」

「だとすると」

佐藤は言葉を切り、指を組んだ両手を顔の前に掲げる。

「狙われたのが渡辺瑠果なら、
その本来のテリトリーは高知県側にほぼ限定される。
渡辺瑠果は自分が関わるネットやメールの情報開示、
スマホを初めとした関連機器の任意提出に素直に応じた。
時間的余裕や事件を恐れる態度からそこに隠し事は無いと思っていい。
その解析結果から見て、『U』こそ利用しているものの、
地元のコミュニティーを離れて
ネット上に特別な人間関係があったと言う形跡は無い」

「ネットの人間関係じゃない、
渡辺瑠果のテリトリーである高知の人間関係は先ずアリバイの面で除外される。
だとすると、やっぱり狙いはベルで渡辺瑠果は巻き込まれた。
そこに戻りますか」

「流しではない、識だとすると、それが出来るのは一体誰?」

「ですから、高知の知り合いは大体みんな高知に留まってるのでなければ
東京で集団行動とってましたよね。それを初士路留も目撃してる」

「久武忍」

佐藤が、ぽつりと一つの名前を口に出す。

「ベルに関わるグループの一人ですよね。
確か幼馴染のグループで、別役弘香の最初のメールにも名前があった」

「学校ではバスケットボール部のエースで
女子生徒達から絶大な人気を得ているモテ男。
一時は似た様な立場の渡辺瑠果との関係が噂になった事もあった」

「でも、それは間違いだった」
193 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/05/02(金) 02:01:42.39 ID:oMGGld7v0

「少なくとも当人達はそう思っている。
久武忍に直接確認した訳じゃないけど、
渡辺瑠果本人も情報提供に協力した別役弘香もそうとらえている。
二人の間に友人以上の関係はあり得ないと。
一方で、二人は学校内でもトップクラスの美男美女で知られていて、
しかも狭い地元コミュニティーの中で早くから知らない仲じゃない。
付き合ったらこれ以上無いお似合いの間柄と目されていた。
でも、今の渡辺瑠果は恋人である千頭慎次郎を一途に想っていて
千頭慎次郎もその想いに誠実に応えている為、
久武忍が友人以上に関わる余地は全く無くなった」

「只の見た目からの噂だったって感じですね」

「そして、渡辺瑠果の供述だと、
実際に想い合っているのは久武忍と内藤鈴詰まりベル。
この二人は幼い頃からの友人で、
互いに想い合っているもののその想いを伝えるには至っていない」

「両片思いですか」

「そう。他の生徒の供述等から見て、
この場合の問題は内藤鈴の性格と所謂スクールカースト。
周囲の話を聞く限り、内藤鈴は一見して内気で引っ込み思案。
学校では大概別役弘香と一緒で、他の人との関わりは少ない。
部活動にも入部していない。
渡辺瑠果も比較的早い時期からの内藤鈴の友人で、
渡辺瑠果自身は内藤鈴に親しみを持っていて
二人で話す分には親しい関係である一方で、
内藤鈴は渡辺瑠果自身はいいとしても、
彼女が属するグループに巻き込まれる事を敬遠しているのが実際」

「スクールカーストですか。
なんと言うか、表立って輝いている男女と付き合うのは
自分では釣り合いがとれないと考えていると」

「少なくとも内藤鈴はそう考えているみたいね。
渡辺瑠果が言う通りなら、内藤鈴と久武忍はお互いに想い合っていながら
互いに親しい幼馴染と言う関係から一歩踏み出す事が出来ない。
特に内藤鈴はベルとなった今に至っても、彼女自身の自己評価が低い性格の為に
女子生徒一般から絶大な人気を得ている久武忍との深い関わりを躊躇している」
194 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/05/02(金) 02:03:27.27 ID:oMGGld7v0

「ベルはそれこそ世界的歌姫ですけど、
内藤鈴自身はそれを表に出すつもりは無かった。
学校の中では今に至る迄そういう態度みたいですね」

「そう。学校では基本的には今まで通り大人しく過ごしている。
彼女の学校生活を知る者は大体そう供述してる。
内藤鈴がベルである事が周囲に発覚する前に、
内藤鈴が幼馴染である久武忍に近づき過ぎているとの噂が立って
内藤鈴がいじめを受ける寸前のトラブルも起きていたみたいね。
内気で、ぱっと見て美人と言うタイプでもない。
そんな自分が久武忍に釣り合うとも思っていないし、
久武忍にこれ以上近付くと、クラスの女子全員から密室に連行されて
翌日から辛い学校生活を送る事にもなりかねない。
少なくとも内藤鈴は本気でそう考えているらしい。
男の人、と言うか男子には少し難しい世界観だったかしら?」

「いえ、大丈夫です。十分理解出来ます」

「そう。渡辺瑠果と久武忍は一時期その関係が噂になった。
渡辺瑠果は、今は恋人一筋であるとは言え、
元々久武忍とも知らない間柄ではなく、
一時期は似合いの美男美女と学校内で持て囃された。
その様な状況下で、内藤鈴は、幼馴染だからと言って
久武忍に近づき過ぎると文字通りの意味で身が危ないと考えている。
この関係性の中に、本当に事件に繋がるトラブルは無かったのかしら?」

「あの、佐藤さん?ひょっとして内藤鈴、ベルを疑っているんですか?」

「或いはその守護者」

「いや、佐藤さん。仮に動機があったとしても、
その二人に関しては物理的な問題で絶対に無理、ですよね」

「リモートコントロールだとしたら?」

「リモート、コントロール?」

「ベルには一千万からのソルジャーがいる」

高木が、一度瞬きして佐藤を見る。
195 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/05/02(金) 02:07:24.87 ID:oMGGld7v0

「ファンとしてのコア層だけでも万単位になるわね。
その内どれぐらいが日本の東京にいるのかしら?」

「まさか佐藤さん、ベルがファンを使って犯行を行ったと?」

「或いは、ベル以外でベルの公式情報を動かす事が出来る唯一の人物」

「別役弘香」

「言っておくけど、別に是が有力な線だとは思っていない。
只、可能性は捨て切れない。
渡辺瑠果が東京で襲われた。それも流しの犯行とは考え難い。
ここから始めると消去法の残りが限られて来る」

「流しの可能性は低い。
直接動機がある、動機と迄はいかなくても渡辺瑠果、
或いはベルに直接的な接点がある者の大半は抑犯行時刻に東京、
少なくとも西多摩市にはいないか西多摩市にいても集団行動をとっていた。
それ等を除外するなら主犯は西多摩の外にいる傷害教唆事件で、
マル害の周囲にそれが出来るだけの人脈があるのは………
理屈は解らないでもないですけど、それこそ動機は何です?
把握されてる限り内藤鈴も別役弘香も、
友達だと言う事を置いてもわざわざそんな事をする動機が見当たりません。
可能性を潰すと言う意味で調べる価値はあるとは思いますが、
把握されている利害ともキャラクターとも結び付かない」

「確かに、推測としても、
把握されている限りの情報でも三角関係説は厳しいわね」

「ええ、今の所そういう情報しか集まっていません」

「だとすると、内気で人付き合いの苦手な内藤鈴は、
実の所、光り輝きながら自分に付き纏う渡辺瑠果を疎ましく思っていた、
と言う可能性もある」

「可能性は、ですね。
少なくとも渡辺瑠果はそうしたものを感じてはいないみたいでしたし、
周囲の聞き込みでも、ベルの面が割れてからは、
むしろ二人は表立って仲が良くなったと言う供述の方が多い様ですが」
196 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/05/02(金) 02:09:40.96 ID:oMGGld7v0

「そうね、それは私も把握してる。
太陽は二つ要らない、毛利さんが昨日言っていた。
そう考えたのが渡辺瑠果ではなく内藤鈴、
或いはそのプロデューサーだとしたら?」

「現在のスクールカーストのトップである渡辺瑠果を排除して、
ベルと言う圧倒的なステータスを得た内藤鈴がそこに立とうとした。
自分のアリバイが確保出来る東京で、ですか」

高木が言う。度の過ぎた少年事件を扱う事もある捜査一課の刑事として
多少の知識、感覚はある心算だった。

「或いは」

「佐藤さん?」

「渡辺瑠果は言っていた、内藤鈴はベルになって、
特にベルである事が発覚して以降は少しは自信がついたかも知れない。
アンベイル事件を乗り越えて、
或種の苦手意識のあった渡辺瑠果や久武忍との距離も少しは縮まった様だと、
こうした情報は周囲からも聞こえて来てる。
言い換えるなら、元々内気で引っ込み思案、
人間関係に怯えていた内藤鈴はベルになって少しばかり明るくなった」

「ええ、と、それはいい方向に向かってますよね?」

「ええ。集まった話を聞く限り、一人の少女としては健康的な成長に見える。
今回のマル害、渡辺瑠果自身も華奢な美少女に見えて相当にタフな娘よ」

「ええ」

「自分が一番辛い状況で長時間の事情聴取にも応じてくれたし、
その原動力として、
事件に巻き込まれているかも知れない内藤鈴の事を心から心配していた」

「そうですね。懸命に協力してくれて、本当に感謝しています」

「渡辺瑠果と内藤鈴、本当にいい友達なんでしょうね。
だけど、もしベルが、内藤鈴が、
死神の残像しか歌えない歌手なのだとしたら?」
197 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/05/02(金) 02:15:12.15 ID:oMGGld7v0

「死神、ですか」

「私達は、ベルこと内藤鈴に就いても鑑取りを行った。
ここまでの経緯から事件のキーパーソンである可能性を考えてね。
東京で直接聞ける相手は限られていたけど、
高知県警の調べも含めて内藤鈴の人間性、交友関係、成育歴、
ここまで知り得る限りを叩き込んだ。
私は、ベルを聴いた」

「はい」

「もしベルが闇の中でしか歌えない歌手なのだとしたら?
ベルの歌は、内藤鈴にとって今まで表に出し難かった自己表現の手段、
或いは言葉そのものにも見えるし、
そのベルの歌は、今やとてつもない巨大コンテンツになってる」

「ちょっと待って下さい。詰まりそれは、
闇の中でしか歌えないベルが、歌い続ける為に人為的に闇を作る。
その為に、そういう事ですか?」

「その為に、ベルが光の中では歌えないのなら、
光を排除する、ベルの周辺に人為的に闇を作る。
その事に気付いた自己評価の低い少女が、
ようやく自分が認められた唯一最大の武器を喪う事を恐れて、
と言う可能性もあるし、
ベルの周囲でベルの歌に最も価値を見出していて、
そして、コンテンツとしてのベルをコントロール可能な人物が
ベルの歌を喪う事を許さなかった、と言う可能性もある」

「別役弘香、ですか。佐藤さん」

「何?」

「別役弘香、ここまでの色々な情報を見ても相当な切れ者ですよ」

「怖気づいた?」
198 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/05/02(金) 02:17:07.10 ID:oMGGld7v0

「そうじゃないですけど、
相手はベルの誕生以来、あれだけの巨大コンテンツになるまで
ベルをマネジメントしプロデュースして来た育ての親。
言わばベルを最もよく知る人物であり、
高校生ではあってもそれだけの辣腕を奮って来た人物です。
ベルに関する知識であれば、自分よりも千葉の方が………」

「そうね。別役弘香は高校生ながら、
ここまで世界的な影響力を持った巨大コンテンツと
その中核である繊細な少女を守り抜いて来た
切れ者の辣腕プロデューサーであり情の厚い親友であり賢い女の子。
小手先の小細工、手練手管は簡単に見透かされる。
誠を敵の腹中におく」

「それって、確か取り調べの極意か何か」

「かつて特捜検事が先達から教わった言葉よ。
あらゆる角度から真実を調べ尽くして、
相手が腹の底で理解するまで真実に対する誠意を尽くし、それを伝える。
その真実への誠意を相手の腹の底で理解させる。それに尽きると」

「結局の所近道なんて無い。当然ですね」

「そう。ナメられないだけの知識は当然の前提。
その上で、必要なのはデキる女を落とせるだけのハート、
相手の心に落とし込むだけの真実に対する誠実さ。
行き着く所は調べの緻密さと人間性よ。
今回の事件、未だ表立った騒ぎにはなっていない」

「今の所、色々口実を付けて、
大きく騒がない事が望ましい未成年者の傷害被害事件として
マスコミへの根回しもされているみたいですね」
199 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/05/02(金) 02:18:20.50 ID:oMGGld7v0

「だけど、これがベルに関わる案件だと漏れたらどんな騒ぎになるか解らない。
それも、巨大インターネット空間である『U』が中心になるから
手が付けられない事態になるのは、竜によるベルへの介入から
ベルのアンベイルに至る迄の騒ぎを見ても理解出来る。
だから、事件に大きいも小さいも無い、と、言いたい所だけど、
実際にこうして警視庁本部の捜査一課が
軽傷の部類に入る一件の傷害事件の為に出張旅費を掛けて隠密裏に動いてる」

「ベルの事件として表沙汰になる前に解決しないと、
捜査を進める事も格段に難しくなる。それは千葉からも聞きました」

「せめて、ベルの事件への関与の有無だけでも
それまでに確定させたい所だけど、
直接被害者になって捜査に全面協力している渡辺瑠果と違って、
現時点ではマル害の友人に過ぎない内藤鈴、そして別役弘香に
電子記録の全面提出を求める事は難しい。
生活、交友関係全般に関わるツール、まして巨大なビジネスにも関わっている。
例え疚しい事が無くても見せたくない事だって当然あるでしょう」

「流石に、この二人に就いて令状取る理由も無いでしょうしね」

「実際、内藤鈴を疑う訳ではなくても、
ベル関係のトラブルである事を考えたガサ入れ案と言うのは
今回の事件に関わる警視庁と高知県警の間の協議でも浮上したみたいだけど、
まず高知県警がそれを敬遠して、
警視庁としても材料が無さ過ぎて危険と判断したみたい」

「ベル相手に容疑をこじつけてのガサ入れ、
なんて、外れたら警察がネットの中でも外でも火達磨になりますし、
それを押してでもやる、と言う材料も今の所は無いですからね」
200 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/05/02(金) 02:21:04.87 ID:oMGGld7v0

「高知県警を信用してない訳じゃない、ここまでよく調べてくれたとも思う。
だけど、高知県警は是迄ベルを守る側で、
現実問題としてその巨大な利害の渦中にある。
今回私達は東京で起きた事件の捜査の為にここに来ていて、
その時間も予算も限られてる」

「せめて、ベルの事件への関与の有無だけでも
ここで確定させたい、ですね」

「ええ。でも、取り調べの邪念は子どもにだって見抜かれるわよ」

「はい」

「だから高木君、別役弘香はあなたに任せる。
私はベル、内藤鈴に当たる」

「はい」

「内藤鈴は叩けば落ちる。その必要があれば、だけど」

==============================

今回はここまでです>>191-1000

参照
「特捜検事ノート」108頁 河井信太郎著 中央公論新社

続きは折を見て。
201 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/05/11(日) 02:19:50.11 ID:uHTIRPEk0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>200

ーーーーーーーー

「ノーコメント」

西多摩市北部住民センター傷害事件の翌日早朝、
江戸川コナンは野山をウォーキングで散策しながら
隣を歩く美女からの返答を聞いていた。

「何かあの界隈で事件があって、
警察がごそごそ動いてるって事は私の所にも届いてる。
その程度の事は言ってあげるけど」

「警察、来たの?」

「どうかしらね。君の事だから遊びじゃないのは解る。
だけど、こっちも遊びじゃないの。勿論私も、それにベルも」

「ベルの事、知ってるの?」

「知っていたとしても言わない。ベルは『U』の歌姫。
アンベイルされたとしても、彼女がその心算でいる以上、
私としては何か知ってても言える事は無いわね。
だって、『U』と言う仮面舞踏会が彼女の真剣勝負のステージなんだもの」

「そう。じゃあ質問を変えるね。又、ベルとハモりたい?」

「ノーコメント」

「じゃあ、ベルとハモりたい?」

「勿論」
202 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/05/11(日) 02:21:39.62 ID:uHTIRPEk0

ーーーーーーーー

高知県警の所轄警察署に出頭した別役弘香は、
取調室で型通りの人定質問を受けていた。

身元を確認する質問に一つ一つ返答しながら、
目の前で質問する刑事に就いて思考を巡らせる。

弘香から見たら中年おじさんの範疇に入るが、
警視庁捜査一課の刑事である事を考えると若手の部類に入るのだろう。
弘香は最初に辛うじて警察手帳の提示を求め、
相手の高木巡査部長も快くそれに応じていた。

高木は弘香から見ても強面と言うタイプではない、
こちらが無理を言わなければ大体言う事を聞いてくれそうな、
穏やかで優しい先生と言った雰囲気すらある。
それが高木の強味なのだろう、と、弘香は値踏みをする。

警視庁本部の捜査一課と言えば一課の中の一課。
弘香が読み齧った範囲でも、
日本全国の範囲で現場刑事ヒエラルキーの頂点と言うべき部署であり、
並みの警察官が配属される部署ではない。

弘香に丁寧に対応する高木は、
流石に取り調べに入るときちんとした大人であるが、
一見すると子どもにすら侮られかねないお人好しな雰囲気が漂っている。

自分が被疑者であれば、そうやって油断させて心を開かせた所で
がぶりと噛みに来る、なら未だいい。
知らず知らずに調子に乗った自分の言葉に外堀を埋められて、
落とされている事すら知らずに落とされる事になりかねない。

その様に、心の針鼠を尖らせながら、
弘香は高木の質問に言葉を選んで返答する。
203 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/05/11(日) 02:23:46.92 ID:uHTIRPEk0

「昨日の事件の際には、東京の捜査一課に連絡を頂いて、
色々と情報を提供してくれましたね」

「はい、ルカちゃん、
渡辺さんから事件に巻き込まれたと言う連絡を受けまして。
差し出た事ではないかとも考えましたが、
丁重に話を聞いて下さって有難うございます」

「いや、こちらこそ、ご協力感謝します。
では、早速ですが、その事で詳しく確認させて下さい」

「はい」

相手は狸か自分は狐が務まっているのだろうか。
そんな事を考えながら、弘香は、
自分の重大な準備不足の結果が着々と進行している事を理解する。
弘香は、下を向いて小さく挙手する。

ーーーーーーーー

「警視庁捜査一課の佐藤です。内藤鈴さんですね?」

「はい」

「本日はご協力感謝します」

内藤鈴が出頭した警察署の取調室で、
佐藤美和子は調べ官として内藤鈴と対峙する。
先ずは身元を確認する人定質問を行い、
蚊の鳴くような声で応じる鈴に幾度が聞き返す。

「それでは、今回の事件で被害に遭った渡辺瑠果さんに就いて伺います。
内藤さんと渡辺さんは………」

佐藤は、先程鈴が自己紹介を行った学校のクラスを確認する。

「同じクラスの同級生と言う事ですね?」

「はい」

それは、今迄の質疑の中では比較的しっかりした返答に聞こえた。
204 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/05/11(日) 02:25:20.19 ID:uHTIRPEk0

「所属は解りました。では、あなたから見た
あなたと渡辺瑠果さんとの関係を教えて下さい」

「はい。ルカちゃん、渡辺さんは、私の友達です」

「親しい間柄なのですか?」

「はい。昔からの付き合いで、親しい関係………」

「すいません、もう一度お願いします」

「親しい、はい、
昔からの付き合いで親しい関係。そうだと思います」

「成程、親しい関係なのですね?」

「だと、思います」

「昔からの付き合いで親しい関係ですか。
内藤さん、あなたにとって渡辺瑠果さんは身近な存在なのですか?」

「身近。ええ、最近は一緒に、ルカちゃんが私の身近………だから………」

「内藤さん?ごめんなさい、よく聞こえないんですけど」

「ルカちゃんが、私の身近、親しい間柄、だから………」

「内藤さん?」

「ルカちゃん、私が、だから………」

佐藤は、するりと中腰で後退して前を見る。
次の瞬間、ばっ、と、机の前方に回り込んだ。
205 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/05/11(日) 02:30:51.19 ID:uHTIRPEk0

「警察医と救急要請、それから掃除機持って来て」

取調室のモニタリングに聞こえる様に告げた佐藤は、
一度俯いた後、喉を掴む様にして立ち上がった鈴の背後に回り、
左腕を鈴の胸に回す様にしながら右の掌底を鈴の背中に叩き付ける。

「何を飲み込んだのっ?」

「まさか、毒物っ?」

佐藤の詰問を聞き、同室していた刑事課の巡査部長が息を飲む。

「違う。出せるもの全部出して、まず、咳しましょう、
咳して全部出すの」

佐藤は、押し込む様に言いながら、
体勢を変えて自分の両手の甲側で鈴の鳩尾を突き上げた。

ーーーーーーーー

「あんた、鈴に何したのよっ!?」

警察署の廊下で佐藤が視線を向けると、
お手洗いから取調室に戻る途中だった別役弘香が、
少年係の女性係員に羽交い絞めにされている所だった。
弘香は、つかつかと歩み寄る佐藤を見上げる。

「落ち着いて下さい」

佐藤は、弘香の目を見て静かに言った。

「内藤鈴さんは、事情聴取中に嘔吐を起こして一時呼吸困難になりました。
呼吸は回復した様ですが、念のために病院で検査を行います」

佐藤の言葉を聞き、弘香は肩で息をして下を向く。
206 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/05/11(日) 02:33:43.79 ID:uHTIRPEk0

「彼女と話をしますか?」

佐藤のアイコンタクトで拘束を解かれ、
弘香が、やはり視線を向けていたストレッチャーの鈴に近づく。

「鈴、あんた………」

「刑事さん、悪くないから。
私、ちょっと緊張し過ぎただけで。もう大丈夫」

「うん」

「病院に付き添いますか?」

「………はい………」

「あなたも同行して下さい」
「解りました」

佐藤の指示を受け、弘香と少年係の係員が救急隊に同行する。

「高木君」

弘香が去った後で、佐藤は高木に声を掛ける。

「病院に向かって。医者の許可が出次第高木君が内藤鈴の聴取を」

「僕がですか?」

「種は蒔いた。内藤鈴が黒ならそれで落ちる」

「大丈夫………あ、いえ、失礼しました」

内藤鈴の出頭に彼女の自宅から付き添って来た女性警察官が、
思わず口を突いて出た自分の言葉の後に頭を下げる。
207 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/05/11(日) 02:36:15.17 ID:uHTIRPEk0

「いいわ、心配するのも当然よ。
内藤鈴。非常に繊細で脆い所があるのも確か。
それも事前に把握されていた事でもあるけど、
それでもやらないといけない。
高木君なら大丈夫、責任は私が取ります」

佐藤が言い、呟きを漏らした女性警察官がもう一度頭を下げる。

「私は別役弘香に当たる。私が出ないと収まり付きそうにないから。
問題は、これで別役家が動くかだけど」

「別役の弁護士が来るなら、まずはこちらで対応しましょう」

言ったのは刑事課長だった。

「あちらの弁護士とは、ベルのトラブルでもそれ以前の仕事絡みでも、
こちらが告訴を受理した事も含めて色々関わりがありますきに。
こちらで出来る限り聴取の妨げにならない様に対処しましょう」

「お願いします。あなたは内藤鈴の父親に連絡して下さい」

佐藤が、先程の女性警察官に要請する。

「流石に病院送りになった事を親権者に隠す訳にはいかないから。
そんな事をして事情聴取を続けたらデュー・プロセスの問題になる。
敢えてこちらの都合を言うなら、父親と連絡を取って、
出来ればこちらから車で迎えに行く事を持ちかける形で、
言い訳が通る範囲で父親がこちらに来るまでの時間を引き延ばして欲しい」

「分かりました」

「小細工をしても余り時間が無いわ。元々が未成年者相手の任意の取り調べ、
親権者が聴取の継続を強く拒否したら、法的には応じざるを得ない。
最低でも取り調べへの保護者立ち会いは規定上避けられない」

「無知に付け込む訳ではありませんが、
こちらが内藤鈴の父親を丸め込もうとして向こうが別役家に相談したら、
事情聴取が完全に詰みになりかねませんからね」

佐藤の言葉に高木が言った。
208 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/05/11(日) 02:37:42.51 ID:uHTIRPEk0

「現に事件が起きた以上、白でも黒でも、真実からしか先に進めない。
それが一課の仕事だから。
では、それぞれお願いします」

佐藤が頭を下げ、返答と共に各自が動き出す。

「高木君、行くわよ」

「はい」

高木が車の支度の為に駆け出す。

「………あなたは何を飲み込んだ?
あなたが飲み込んだ言葉は何?」

==============================

今回はここまでです>>201-1000

続きは折を見て。
209 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2025/05/27(火) 01:39:14.19 ID:RWz9ZJlW0
調整的生存報告です
210 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/06/03(火) 22:29:48.57 ID:a51+AsHv0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>208

ーーーーーーーー

喫茶店「ポアロ」の店員安室透は、
店内で一人、客待ちの支度を進めていた。

「いらっしゃい」

そして、ドアを開けて入って来た、
現在同店と同じビルに住まう江戸川コナンの来訪を愛想よく迎える。

「安室さん、昨日は有難う」

テーブル席の一つに着席したコナンが、
注文のアイスコーヒーを差し出す安室に言った。

「こちらこそ、毛利先生には上手く執り成してくれたんだね」

「うん」

愛想よく笑う安室に、コナンはにっこり笑って答えた。

「事件の事をすごーく早く知ってたのはいいとしても、
あっちの高校の内情、随分詳しかったね。
ボクからの依頼で、たまたま手が空いてた安室さんが
大急ぎであの学校関連のネット情報を検索した、って事になってるけど、
あそこまで詳しいとちょっと厳しいかなその言い訳」

「手厳しいなぁ、ギリギリ言い訳出来る範囲にしておいたんだけどね」

「うん。前から調べてたとしても、特定の高校の生徒の世論や人間関係。
実際にあそこまで詳しく調べるってなると、
少なくとも生徒同士で使ってるグループSNSを
横から把握する為の協力者が必要になるかな。
それだけじゃ足りないよね。
やっぱりベルの事かな?お得意の」
211 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/06/03(火) 22:33:10.21 ID:a51+AsHv0

「コナン君は、ベルの影響力を知ってるかい?」

「『U』で活動してる人気歌手だよね」

安室の問いにコナンが答える。

「CMにも出てたし、すごーく人気があるのは知ってるけど」

「三千万」

コナンの答えに安室が続けた。

「『U』の中で、ベルの誕生と歌唱、歌はほぼ同時に始まっている。
当初は文字通り鳴かず飛ばずだったけど、
ある日突然賛否真っ二つの有名歌手の仲間入りを果たした。
その時跳ね上がったフォロワー数が一日で三千万を超えて四捨五入で四千万」

「凄い、ね」

淡々と述べる安室の言葉に、コナンが言葉少なに言った。

「初の大型ライブの視聴者は二億を超えたと言われる」

「大型ライブって、もしかして竜に潰されたって言う」

「正解だよコナン君。やはりよく調べてる」

「えへへー」

コナンの発言の正否を告げた時、
安室はカウンターでサンドイッチナイフを掲げている所だった。

「いただきまーす」

そうして、テーブルに置かれたハムサンドの試作品をコナンが口にした。
212 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/06/03(火) 22:36:55.43 ID:a51+AsHv0

「『U』のアカウント数は五十億。ベルは事実上三千万四千万のスタートで
数カ月で二億からの視聴者を呼び寄せた。その数字は今でも微増を続けている。
世界規模の『U』では貨幣価値が全く違う国もあるけど、
例えば、一億が一人頭百円を出したとしても百億円に到達する」

「百億の女、か」

言いながら、コナンはポケットからスマホを取り出した。

「ちょっとごめん。もしもし灰原どうした?ああ、それ、和葉ちゃんのだ。
ほら、こないだ由衣刑事から電話があってこっちで合流した時の。
帰りに探してたから、ちょっと預かっててくれ。すぐこっちで預かるから」

一旦席を立ち、すすすとガラス壁近くに移動していたコナンが、
通話を終えて電話を切る。

「お願い出来るかな?」

安室が言い、コナンがその視線を追ってガラス壁の向こうを見る。
そのままコナンは表に出て、
ドアに掛かっていた準備中の札を引っ繰り返した。

「いらっしゃい」

「あっつー、残暑が厳しいざんしょー。アイスコーヒーちょうだい」

「私も同じものを」

ドアを開けて店内に現れたのは、
店内にいた二人も顔見知りのミニパト交通取締担当女性警察官
宮本由美警部補と三池苗子巡査部長だった。

「コナン君、昨日も西多摩で事件だったって?
それで千葉君が出張出ちゃってるから、
三池がもう夜になると寂しいとか
あっちでハチキン美女と浮気してるんじゃないかとか、もー大変なの」

「もーっ、やですよ先輩。たった一日の出張くらいでそんな、
丸で私が束縛強めのストーカーとかヤンデレとか愛が重過ぎるとか
危ない人みたいにあらぬ誤解を招くじゃないですかオホホホホ」

由美の言葉に、苗子はにこにこ応じてストローを吸う。
213 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/06/03(火) 22:41:12.43 ID:a51+AsHv0

「ああそうそう、美和子が高木君から押収したってんだけどこれ、
厄介ファンに絡まれてる所にたまたま千葉君と通りかかって追っ払ったとかで、
テレビドラマのロケに来てた
ハチキンヒロイン以下三姉妹役の女優さんとファンサ写真撮らせてもらったって」

「………」ミシッ

「苗子さん、千葉刑事ってベルのファンなの?
詳しかったみたいだけど」

由美から渡されたスマホを手にしたスー○ーサ○ヤナエコの鎮静化を待って、
安室共々笑顔を張り付かせていたコナンが尋ねる。

「凄く熱心、って感じじゃないけど好きなシンガーだと思う」

「ベルと言うのは、『U』のシンガーですね」

答える苗子に安室が口を挟む。

「そ。だから、昨日の事件の後で三池が千葉君に聞いたら、
『U』の歌は世界を変えるかも知れない、って真顔で言われたって。
いや、アニメじゃないんだからさ。
いい歌だしそんだけの数字持ってるってのは解るけど」

アハハハと笑って言う由美の前で、苗子も苦笑いする。

「由美さんも『U』を使ってるの?」

「まあー、使ってはいるけどね。
『U』ってサブアカとか作れないでしょ?変な事する気は無いけど、
私達仕事柄プライバシー的な拒否権がゼロに等しいから、
必要最低限以上の事には使い難いわぁね」

由美が苦笑気味に言った。

「確か警察官は色々と届出や同意書があるんでしたっけ?
警察が所属する警察官に対して何時でも内部調査が出来る様に」

「ま、そんなトコ」

安室の言葉に由美が応じる。
214 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/06/03(火) 22:43:03.01 ID:a51+AsHv0

「それで、『U』のアカウントは生体認証で一人一つだけ。
ちょっと躊躇しちゃうよね」

「しかも、どういう仕組みなのか、
あの機械は外見だけじゃない要素まで読み取ってAsを生成してるって言うから、
怪盗キッドとか整形そっくりさんとかが探偵に化けて事件現場に現れたり
歌手に化けてステージして勝手にイメチェンしたり、
なんて事はリアルでは出来ても『U』だと却って難しくなるって千葉君が」

由美に続けて苗子が言う。

「だから、アニメじゃないんだからさ、
そんな簡単に探偵やら歌手やらに化けられるかっつーの。
コナン君だって、事件が関わった歌手のコンサートで
声がそっくりだからってちょっと代役やろうとして
非難囂々だったとか聞いてるわよ」

「は、ははは」

由美の言葉に、探偵に化けた怪盗キッドとか整形そっくりさんには
心当たりのある小さな名探偵が乾いた笑いで応じる。

「只、ベルはそんだけの影響力はあるし、
竜の時やアンベイルの時もネットで相当騒ぎになってたからね。
捜査一課もかなりナーバスになってるみたい」

「今の所、マスコミでも大きく取り上げられてはいないよね」

由美の言葉にコナンが言う、

「そう。特にベル関係の事件って事は表になってないから
その辺結構きつく保秘かかってるわね。
だから、私から話振っといてなんだけど、
コナン君も安室さんもその辺の事は気を付けて」

「ええ、分かっています」

「はーい」

段々と真面目な口調になった由美に安室とコナンが答えた。
215 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/06/03(火) 22:46:49.39 ID:a51+AsHv0

「『U』の歌は世界を変えるかも知れない」

女性警察官二人が休憩を済ませて出て行った後、コナンが呟く。

「前々から、お得意のやり方を使ってでもマークしてた理由はそれだね。
ベルはそれまでの業界の外から出て来た謎の歌姫、
それも、蓋を開けて見たら一介の女子高校生だった。
アジテーション、プロパガンダ、何に利用されるか解らないし、
それだけの影響力があって間違った誘導をしたら大変だよね。
それが脅威になるだけの数字も持ってる」

「コナン君」

推測を述べたコナンに、安室が呼びかける。

「ベルを、聞いた事はあるかい?」

「あるよ。当たり前に掛かってるし、今回の事件の後も聞いてみたけど」

「どうだった?」

「いいと思う。人気が出るのも解るし」

「脅威になるたけの数字を持ってる。
確かにね。人数、金額、記録されている数字を見ても」

そう言った安室とコナンの目が合った。
216 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/06/03(火) 22:49:50.54 ID:a51+AsHv0

「戻りましたー」

玄関ドアから、ウエイトレスの榎本梓が紙袋を抱えて入って来た。

「お帰りなさい、梓さん」

「コナン君、例の試食?」

「うん」

「さっき、由美さん達のパトカーとすれ違ったけど」

「ええ、さっきまでここで休憩してましたよ」

「ごめんなさい、買い物の追加、ちょっと遅くなっちゃって」
217 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [saga]:2025/06/03(火) 22:55:46.47 ID:a51+AsHv0

「いえいえ。ところでコナン君」

「何?安室さん」

「昨日は蘭さん達とカヌー大会を見に行って、
蘭さん達のお友達とも待ち合わせて一緒だったとか」

「うん、ミチル姉ちゃんと」

「その人もカヌーを?それとも応援?」

「応援。ミチル姉ちゃん港南高校の空手部で蘭姉ちゃんの友達なんだけど、
黒い学生服着て応援団もやってるから」

「へえー、空手部で学ランの応援団の女の子?
なんかカッコ良さそう」

安室とコナンのやり取りに梓も食いついて来た。

「うん、凄く格好いいよミチル姉ちゃん。園子姉ちゃんもそう言ってる」

「港南高校の応援団って、確か野球部が今年甲子園も行ってたね」

「うん。ミチル姉ちゃんも格好良かったけど、
港南高校の野球部、甲子園の決勝戦で
四番サードが九回裏ツーアウトからの同点ホームランとか、
もう漫画みたいに凄い試合だったから」

「あーそれ、お店でも盛り上がってたなぁ」

後の映像の記憶も交えて安室に答えるコナンの言葉に、
梓も明るく思い出し笑いする。

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2025年令和7年6月3日 投下了

今回はここまでです>>210-1000

続きは折を見て。
218 :探竜唱 ◆2k5pFFm6nI [sage]:2025/06/25(水) 02:46:58.31 ID:nEs+LRRQ0
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