【コンマ】ウマ娘とトレーナーがラーメンを食べに行くだけのスレ

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/19(日) 19:38:49.50 ID:OC8luprgO
はじめに

ウマ娘とトレーナーがラーメンを食べに行くスレです。全て地の文で進行します。
実在の店にウマ娘とトレーナーが行き食レポします。店ごとに食べるウマ娘は変わります。
ウマ娘の口調などはうろ覚えなので、その点ご容赦下さい。

なお、レギュラーの専属ウマ娘を最初に設定します。
下1〜5でコンマが最も大きいものとします。よろしくお願いいたします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1639910329
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/19(日) 19:41:53.52 ID:coRSnfui0
サクラバクシンオー
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/19(日) 19:43:20.12 ID:83HBnB5Uo
ファインモーション
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/19(日) 20:01:46.22 ID:IoaNE9Z5o
ファインモーション
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/19(日) 20:07:25.24 ID:c6m6yTm70
エイシンフラッシュ
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/19(日) 20:10:51.22 ID:xVquxxpno
ダイワスカーレット
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/19(日) 21:27:01.46 ID:OC8luprgO
ではサクラバクシンオーとします。

続いてトレーナーを設定します。
下1〜3でコンマの最も大きいものを採用します。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/12/19(日) 21:27:28.29 ID:OC8luprgO
上げ忘れました。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/19(日) 21:30:52.73 ID:IoaNE9Z5o
メッチャ鍛えてて生身でウマ娘と渡り合える系
チートデイ(どか食いしていい日)はラーメン一択のラーメン狂でもある
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/19(日) 21:47:33.25 ID:TYP145p50
大人しく無口だが、聞き上手で色んなタイプの人と仲良くできるタイプ
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/19(日) 22:14:17.70 ID:B29ip7ato
ノリのいい[ピザ]
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/12/19(日) 22:23:42.01 ID:OC8luprgO
では>>9で決定します。

初回まで少々お待ちください。
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/19(日) 22:24:34.77 ID:IoaNE9Z5o
おつ
きたい
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/12/19(日) 22:44:34.05 ID:OC8luprgO



トレセン学園の朝は早い。



ウマ娘にとって、トレーニングは早朝に行うものだ。朝露が落ちる前から彼女たちはダートを、ウッドチップを、そして坂路を駆ける。
午前6時ともなれば、薄闇の中に彼女たちの靴音……もとい、蹄鉄の音が響き渡る。
そして大抵のウマ娘は、静かに、そして精一杯走るものだ。そう、大抵の場合は。


バクシンバクシン……


バクシンバクシンバクシンバクシン………


坂の下から、その声は段々と近く、大きくなる。そして。


「バックシーン!!」


得意気な、満面の笑顔とともに、彼女は私の前を通り過ぎていった。タイムは……52秒2。良い。


「どうでしたか!トレーナーさんっ!!」

ピコピコと尻尾を揺らしながら、彼女は小走りで駆け寄ってきた。

「素晴らしいぞ。恐らくは今日1のタイムだ」

「ワッハッハ!!そうでしょう、そうでしょう!!なぜなら、私は学級委員長ですからっ!!」

彼女……サクラバクシンオーは両手を腰に当て、胸をそらして笑う。いつも通り、元気で結構。

「うむ。君の毎日の鍛練の成果だ。もっとも、無理は禁物だぞ。オーバートレーニングほど、良くないものはない。
坂路練習の後は丁寧なストレッチとクールダウンだ。水分補給をした上で、食堂に来たまえ。朝食を用意してある」

「はいっ!!トレーナーさんの朝ごはん、楽しみですっ!!」

バクシンオーはそう言うと、またハッハッハと元気に笑い始めた。

手元のメモに視線を落とす。……次のレースまで、あと3週間か。
彼女は元気そうだが、少々無理をさせている自覚はある。体重も、ベストより少し落ちている。



これは……そろそろだな。



15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/12/19(日) 22:57:54.83 ID:OC8luprgO
*


彼女が食事に出ている間は、私のトレーニングの時間だ。


「1、2、3……」


レッグプレス、ベンチプレス、スクワットマシーン……決められた負荷で、決められた回数を忠実にこなす。
そして、決められた時間を休み、決められた分量の水分とプロテインを採る。
これが私の、日々のルーティーンだ。


彼女にレースがあるように、私にもコンテストがある。これは、そのために筋肉を育てる重要なプロセスだ。
1日たりとも休んではならない。盆栽が日々の手入れを必要とするように、筋肉もまた日々丁寧に手入れをしなければならない。
それは、日々走ることを求められている、ウマ娘と同じだ。私の生業は、彼女たちのそれと、とても、とても良く似ている。


だから、私はトレーナーになったのだ。



私は天王寺定光。



世界で最もストイックで、最も苦しく、最も美しいスポーツ……ボディービルディングに生涯を捧げた男だ。


16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/12/19(日) 23:22:41.57 ID:OC8luprgO


ピピピピ…………


タイマーの音が鳴った。そろそろ、バクシンオーが戻ってくる頃だろう。
私はシャワーを手早く済ませ、汗を流し落とす。そして制汗剤を吹き掛け、軽く香水を付ける。
バクシンオーは大雑把な性格だが、それでも年頃の娘だ。漢の汗の臭いで、不快にさせてはいけない。


「バックシーン!!トレーナーさんっ、ただいま戻りました!!」

「うむ。食事は全部食べられたかな」

「花丸、ですっ!!」

満足そうに笑う彼女を見てホッとする。万事トラブルなし、良いことだ。

「そうか、なら良かった。時に、今晩は予定があるかな?」

「予定、ですか?」

「そうだ。君の体重は、少々落ちている。私も、そろそろ動かねばなら……」

「ハワワワワ!!デートのお誘いですか!?いかにトレーナーさんでも、不純異性交遊はいかがなものかと……」

顔を真っ赤にしながら慌てるバクシンオーに、私は苦笑した。

「話は最後まで聞きたまえ。君も私とはそれなりに長い付き合いだろう。月に1度の、あれだよ」

「アレ、ですか?」

バクシンオーの頭上に、?が幾つも浮かんでいるのが見えるようだ。

「そうだ。『チートデイ』だよ」

「ちーとでい?」

私は軽く溜め息をついた。彼女は走ることにおいては非常に優秀で、文句のない優等生なのだが、残念なことに物覚えはあまり良くはない。

「そうだ。いい加減覚えてほしいものだが……。
トレーニングをしていると、身体がそれに慣れてしまう。そして的確な栄養素を採っていても、身体がそれを当然のものと感じてしまうようになる。
だから、定期的に好きなものを、思い切り食べて、身体を『自分は不健康だ』と騙すのだよ。そうすることで、トレーニングの効果は高まるのだ。
その、何でも食べていい日こそ『チートデイ』だ。私と君の場合、それは月1回だな」

「はわー。良く分かりませんが、とてもいい日なのですね!!でも、普段からトレーナーさんは考えて美味しい食事を準備してますよね?」

「健康にいいだけで不味い食事ほど害悪はないからな。ストレスを感じさせないよう、そこは考えて作っている。
だが、どんなに美味くしようとしても、栄養素に配慮している以上限界はある。美味いものは健康に悪い。それは悲しいが真実だ。
故に、チートデイでは極力健康に悪いものを食う必要がある。炭水化物、塩分、脂分……多量のそれを摂取できる、最も効率が良く、かつ美味く、しかも安価な食事……それを食べに行こう」

「ハイッ!!で、何を食べるのですか?」

私はニヤリと笑う。……そう、誰より私自身、この日を待ち望んでいたのだ。



「決まっているだろう、ラーメンだよ」



17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/12/19(日) 23:24:55.01 ID:OC8luprgO
以上、プロローグ終わりです。
ゲストキャラを1人決定します。下1〜3で、最もコンマが大きいものとします。

決定後、ラーメンのジャンルを決めて本日は終了です。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/19(日) 23:28:25.48 ID:83HBnB5Uo
オグリキャップ
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/19(日) 23:30:13.95 ID:TYP145p50
ライスシャワー
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/19(日) 23:30:43.05 ID:Io0fTeMDO
ハルウララ
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/12/20(月) 00:00:37.37 ID:ASFNLDnCO
ゲストキャラはライスシャワーです。

ラーメンのジャンルを決めます。
下1〜3で最もコンマの大きいものとします。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/20(月) 00:10:40.21 ID:rKom41EUo
二郎系
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/20(月) 00:13:21.87 ID:IwJvJv9Zo
アッサリ目のやつ
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/20(月) 00:17:07.34 ID:5WAAH2rl0
富山ブラック
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/12/20(月) 00:23:43.22 ID:ASFNLDnCO
ではあっさり淡麗系とします。
初回ということもあり、まずはメジャーな店とします。ヒントはミシュランです。
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/20(月) 00:26:08.31 ID:IwJvJv9Zo
おつ
きたい
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/12/23(木) 22:01:11.75 ID:5sgTx3NQO
*


「お待たせしました!!」


いつものデニムの上に薄手のコートを羽織い、バクシンオーが小走りに駆けてきた。年の瀬で夜はかなり冷えるのだが、それでも短パンは崩さないのが彼女らしい。

「うむ。では行くか……!?」

学園を出ようとすると、門の前に女性2人がいるのが見えた。
1人は身長165cmほどで、困惑した表情を浮かべている。そして、あの小柄なウマ娘は……しかも、しくしくと泣いている。……これはどうしたことか。

「ごめんなさい……!!ライスのせいで、折角のお祝いが……」

「いや、ライスのせいじゃないわよ。今日は運が悪かっ」

「違うの!ライスが、またお姉さまに不幸を……」

あれはライスシャワーと、担当トレーナーの三田村嬢か。少し話を聞k

「どうしたのですか!?ライスさん!」

私が話しかけようとする前に、バクシンオーがいつもの調子で彼女たちに訊いた。相変わらず、判断が速い。

「あ……バクシンオーさん……」

「困ったことがあったらなんでも言ってください!学級委員長ですからっ!!」

しょぼんとうつむくライスに代わり、三田村嬢が答える。

「あ……今日は私の誕生日だったの。それで、ライスと2人でちょっと贅沢しようと思ってたのだけど……予約してたお店が、急にお休みになっちゃって……」

「ライスがお店を選んだからこうなっちゃったんだ……本当に、ごめんなさい……!」

「はわわ、これは困りましたね!あ、トレーナーさんっ!」

私が近付くと、ライスシャワーが「ひゃいっ!?」と後退りしてしまった。どうにもこの身長190cmの図体は、威圧感を与えていけない。
三田村嬢が、私を見上げる。

「天王寺トレーナー!?」

「失敬。少しお話は聞かせていただきました。ディナーが中止になってしまった、ということですか」

「え、ええ。今日はしょうがないので、日を改めようかと」

「いやいや、それはいけない。折角の記念日だ。ちょうど我々も食事に出ようかと思ってましてな。よろしかったら、ご一緒にどうですか?」

「……え、いいんですか?」

私は白い歯を見せる。

「無論。今日はチートデイの日でしてな。記念日に相応しい店にご案内しましょう」

「ち、ちーとでい?」

説明しようとした私に、バクシンオーが割り込んできた。

「はいっ!美味しいものを、幾らでも食べていい日だそうです!!今日はラーメンを食べに行きます!!」

「ら、ラーメン……?」

三田村嬢とライスシャワーが、困惑気味の表情になる。これはガッカリさせてしまったか。


だが、この天王寺定光が、チートデイにただのラーメン屋に行こうはずもない。


「心配無用ですよ。行き先は銀座。ミシュラン一ツ星、紛うことなき日本のラーメンの極みです」

28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/12/23(木) 22:01:55.00 ID:5sgTx3NQO




第1R 銀座「ハ五」



29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/12/23(木) 22:02:21.76 ID:5sgTx3NQO
本編は週末に。
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/23(木) 22:12:33.15 ID:Pmz6c/5go
おつおつ
トレーナーも付いてくるのかこれはお得()
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/12/24(金) 00:12:12.79 ID:uQAwlPV40
ライスはラーメン好きだったような希ガス
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/12/24(金) 00:58:42.61 ID:/zfJkOwkO
>>31
お祝いの席の代わりにラーメン?ということと解釈してください。
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/12/26(日) 20:42:52.77 ID:I6xYV6WtO
今日更新できるかちょっと微妙です。
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/12/29(水) 22:17:02.75 ID:PfUYSjUvO
*

「運転手さん、ここで結構」

タクシーを歌舞伎座の前で停めてもらう。暮れの銀座の夜は、忘年会に向かうサラリーマンで賑わっていた。
私たちは灯りで彩られた表通りから離れ、静かな小道を歩く。

「銀座、来るのははじめてです!ラーメン屋さんもあるのですね!」

目をキラキラさせながら、バクシンオーがスキップするように私の後ろをついてくる。三田村嬢とライスシャワーはというと、まだ少し戸惑い気味だ。

「ミシュラン一ツ星って……割烹、ですか?」

「いやいや、値段は少し高めのラーメン屋ですよ。ミシュランはラーメンも美食として評価しておりましてな。東京では確か、一ツ星ラーメン店は3店あるそうです」

三田村嬢の後ろに、ピタッとライスシャワーがくっついている。彼女も銀座は初めてなのだろうか、どこか所在なさげだ。

「ライス、ラーメン好きだよ。どんなラーメン、なの?」

「そうだな……ジャンルを言うのは難しいな。塩でも醤油でも、豚骨でも味噌でもない。つけ麺でもない。『食えば分かる』としか、言いようがないな。
ただ、洋食党の君には、きっと気に入ってもらえるはずだ。……と、見えてきたぞ」

行列はざっと20人弱、といったところだろうか。夜ならば多少は並びが少ないと思っていたが、それでもかなりの人数だ。

「ややっ?どこにお店があるのですか?」

「そこの角だよ。まあ、見た目は小料理屋にしか見えないだろうな。
三田村トレーナーとライス君には少々悪いが、しばし待とう。待つことに伴うストレスも、チートデイには有効なのだ」

バクシンオーの頭にまた?が浮かんでいる。

「はて?どういうことですか??」

「チートデイとは、苦痛からの解放のためにある。それによって身体を騙すのだよ。
簡単に言えば、我慢して精一杯やったトレーニングの後の水は美味いだろう?それと同じだよ」

「むむ……分かったような、分からないような……でもとにかく美味しいラーメンなのは分かりました!!」

行列はゆっくりと進む。ある程度進むと、店内の券売機で食券を買うよう促された。
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/29(水) 22:25:29.86 ID:NKasLOiho
来たぁ!
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/12/29(水) 22:37:25.16 ID:PfUYSjUvO

店内は薄明かりで照らされ、サラ・ブライトマンの曲が流れている。
ここをラーメン屋だと知らず入った人は、ここが高級小料理屋だとしか思わないだろう。

「天王寺トレーナー、何を頼めば……って、メニューは中華そばだけですか?」

「そうです。それだけです。トッピングで味玉を入れるか、チャーシューを増量するかだけですな」

「あ……じゃあ特製で」

「ライスも……」

せっかくのお祝いだ、私たちも特製中華そばを注文することにした。
食券を店員に渡してさらに外で待つこと10分弱。ようやく、私たちはカウンター席についた。

「いらっしゃいませ……天王寺さん!?久し振りですね」

頭の禿げ上がった初老の男が、カウンター越しに呼び掛ける。

「半年振りですね。今日は私の教え子たちも一緒ですが、宜しいですか?」

「ああそれはもう。しかしウマ娘さんたちだと、少々量が少ないかもしれませんね……大盛りができればよかったのですが、今は休止中で」

「構いませんよ。チートデイで重要なのは量より質。その観点からは、こちら以上の店はそうはない」

「いえいえ……それは恐縮です。ともあれ、精一杯作らせて頂きます」

一礼して、店主が寸胴に向かった。三田村嬢が、驚いたように私を見る。

「お知り合いなんですか?」

「いやまあ、古い付き合いですよ。彼は昔、某大ホテルチェーンを取りまとめていた総料理長でしてな。引退後にラーメン職人に転じ、開いたのがここというわけです」

奥から芳しいスープの香りが漂ってくる。胃が、そして筋肉が、待ちきれんとばかりに蠢くのが分かった。


そして、程なくして、4つの丼が私たちの前に供された。


「お待たせしました、特製中華そばです」


37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/12/29(水) 23:38:03.96 ID:PfUYSjUvO

丼には黄金色のスープ。その中を細ストレート麺が、行儀よく漂っている。
さらにその上にはチャーシュー。チャーシューに乗せられた茶色の粒々からは、えもしれぬ刺激的な香りが広がっている。

「やや、美味しそうですね!しかしこれは……何ラーメンなのですか?」

ライスシャワーが、蓮華でスープを掬い、一口飲む。その刹那、ハッしたように目を見開いた。

「これ……コンソメ!?でも、何か違う……複雑で、でもとても深い……」

三田村嬢も、「美味しい!」と言ったまま少し固まった。

「……なんでしょう、これ。天王寺トレーナーの言う通り、塩でも醤油でもない。もちろん味噌でも豚骨でもない……」

店主が微笑みながら彼女に語りかけた。

「うち、『かえし』を使ってないんですよ」

「『かえし』?」

私は頷く。

「ラーメンの味、ひいてはジャンルを決定づけるタレのことですな。塩タレなら塩ラーメン、醤油ベースなら醤油ラーメンになる。それをここでは使っていない」

「えっ、何でですか?」

「それはこのスープにある。極めて複雑かつ深い旨味。このスープの力を生かすには、かえしはむしろ邪魔。……そういうことですな?」

店主が微笑み、私に同意した。

「そこまで理解して頂けると光栄です」

私は寸胴の方を見た。表面は香味野菜で覆われている。

「彼が昔、某大ホテルチェーンの総料理長だったのは説明しましたな。そして彼の専門はフレンチ。スープを取るのにも、その技法は使われている。
ライス君の言った通り、コンソメに近い味わいなのはそこから来ているわけですな。
味の決め手は、スープの出汁を取るのに使われているプロシュート」

「ぷろしゅーと?」

「高級生ハムのことだよ、バクシンオー君。スープをハムで取るのは、高級中華ではよくあることだ。
ただ、そこで使われる金華ハムはあまりに高い。ラーメンで金華ハムを使っているのは、『家元』がスペシャルでやるくらいしか聞いたことがない。
そこでここ『八五』は、プロシュートを使った。それがフレンチに通じる独特のスープを作り上げたわけだよ」

「むむむ……よく分かりませんがとにかくすごいのですね!麺が伸びてしまいますから早く食べましょう!」

「ははは、つい熱が入ってしまったな。バクシンオー君の言う通りだ、頂くとしようか」

私は箸を取り、勢いよく麺を啜る。パツパツとした細麺にスープが絡む。


上品、かつ個性的。どこにもありそうで、しかしどこにもない。
ただ、旨味のみが、喉を通り抜けていく。旨味は筋肉の隅々まで広がり、「飢え」を満たしていく。


……うむ、満足。


「バックシーン!!!」


バクシンオーが大声で叫ぶと同時に、私のワイシャツのボタンが全て弾け飛んだ。


38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/12/30(木) 00:03:25.18 ID:7W+mlsx/O


「ひいっ!!?」


ライスシャワーが驚いた声をあげる。バクシンオーも目を丸くした。


「ちょわっ!?これはどうしたことですかっ!?」

「ハッハッハ、すまないね。美味さで筋肉が満足すると、こうなるのだよ」

カウンターの奥の店主も苦笑する。

「天王寺さんのそれ、久々に見ました」

「お恥ずかしい。チートデイで美味いものを食うと、どうしてもこうなってしまうのですよ。
ともあれ皆、私のことは気にせず食べたまえ」

バクシンオーは一心不乱に麺を啜り始めた。

「美味しいっ!美味しいでふトレーナーさんっ!!こんな美味しいラーメンは初めてです!!」

「ライスも同じだよ?本当に、今まで食べたことのないラーメン……
それに、この粒々。胡椒みたいだけど、とても複雑な味がする」

三田村嬢が首を縦に振る。

「それ、気になってたの。何なのですか?」

「マダガスカル産の最高級胡椒『ペッパーキャビア』ですよ。これもフレンチならではの薬味ですな」

端麗系のラーメンは、往々にして味が単調になりがちだ。そしてえてして、上品なだけの味になり、印象がぼやけやすい。
それをペッパーキャビアが封じている。しかも、食べ進めるごとにそれはスープに溶け出し、スープ自体の味を変えていく。故に、飽きない。

「チャーシューも、柔らかくて美味しいです!」

バクシンオーはほとんどスープも飲み干そうとしている。脚だけでなく、食べるのも速い。
ライスシャワーはというと、味わうようにゆっくりと食べている。これもスプリンターとステイヤーの違いというものか。

「本当に、美味しい……!天王寺トレーナーさん、ありがとうございます」

「いやいや、礼には及ばないよ。お祝いの穴埋めにはなったかな?」

「うんっ……!」

嬉しそうなライスシャワーを見て、私も思わず笑顔になる。そうしていると、私たちの前にグラスが出された。

「これは……?」

「ほうじ茶です。よろしければ」

「……!!」

三田村嬢が絶句した。バクシンオーも「ややっ!!」と声をあげる。

「これは濃い、美味しいお茶ですね!」

「スープの味を、クリアに流していく……まるで完成された、フルコースの最後のデザートみたい」

三田村嬢に私は頷いた。

「その通り。それこそが、この店のコンセプトですからな」

「コンセプト……あっ!!確か、フレンチ出身って……」

「そういうことです。元々、フレンチレストランに行くおつもりだったのでしょう?
ここを選んだのには、然るべき理由があったわけですよ」

「そういうことでしたか……!心遣い、本当にありがとうございます!」

「いやいや、たまたまチートデイにラーメンをと思っただけですよ。そして狙い通り、筋肉も満足した。
あまり長居すると、待っているお客さんに悪いですな。そろそろ出ましょうか」
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/12/30(木) 00:15:48.67 ID:7W+mlsx/O
*

「本当に今日は、ありがとうございます……!ご馳走にまでなってしまって」

「いやいや、困った時はお互い様ですからな。当然のことをしたまでです」

三田村嬢に続いて、ライスシャワーも一礼した。

「トレーナーさん、ありがとう……!とってもいいお祝いになったよ……!」

「そう言ってもらえるとありがたい。……ところで、どうして急に店が休みになったのかな?」

「ライスも分からな「ちょわーっ!!」」

横でバクシンオーが奇声を挙げた。何やらスマホを見ているが……

「どうかしたのかな?」

「トレーナーさんっ!!これを見て下さいっ!!」

私は彼女の桜色のスマホを覗き込む。ニュースサイトのようだが……

「何々……?」


『オグリキャップ、とんだ優勝祝い 店の食材を食べ尽くす』


まさか、これは……

スマホを見せると三田村嬢とライスシャワーの顔色が青ざめ、引きつった笑いが浮かんだ。

「「あ、ああ、そういう……」」

「やはり、行く予定のお店でしたか……」


私は、あの時門の前にいたのがオグリキャップではなく、彼女たちだったことに深く感謝するのであった。


第一話 完

40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/12/30(木) 00:17:56.48 ID:7W+mlsx/O
以上です。このために今日1時間半並んで食べてきました。
久々なので記憶をリフレッシュするためでしたが、やはりハ五は美味いですね。

早速次回のお題です。まず、ゲストのウマ娘を決めます。
安価下1〜5で、最もコンマが大きいものとします。
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/30(木) 00:30:15.42 ID:lIMH2DI6o
セイウンスカイ
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/12/30(木) 00:39:04.27 ID:SaqYcGMpO
ファインモォォーーションッッッ!
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/30(木) 00:41:34.83 ID:Tn5CMADBo
おつおつ

ファインモーション
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/30(木) 00:56:22.13 ID:PJyCGCD7o
オグリキャップ
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/30(木) 00:57:12.38 ID:7KG988H5o
ミホノブルボン
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/12/30(木) 01:12:07.98 ID:7W+mlsx/O
それではファインモーションとします。

続いてラーメンのジャンルを決めます。同じく安価下1〜5で最も大きいものとします。
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/30(木) 01:45:51.48 ID:7KG988H5o
二郎系
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/30(木) 02:23:27.32 ID:hhnTll5S0
一風堂みたいな博多系とんこつラーメン
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/30(木) 02:25:16.63 ID:7KG988H5o
えん寺

固有店名はあれならつけ麺系
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/30(木) 02:26:04.09 ID:7KG988H5o
書き込めてたすまん
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/30(木) 03:22:45.79 ID:uXmy1Lkjo
ファインといえば札幌記念
北海道ラーメン系
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/30(木) 05:21:23.70 ID:Tn5CMADBo
>>51
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/12/30(木) 07:36:44.53 ID:08Rqc2IZO
北海道ラーメン系で決定しました。
多分少し変化球で行きます。
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/30(木) 19:08:50.11 ID:Tn5CMADBo
おつおつ
良いお年を
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/01/08(土) 14:38:59.49 ID:+AqJxiVOO
明けましておめでとうございます。
更新は明日までに行う予定です。

なお、オリジナルウマ娘(?)が出ますのでご注意下さい。
(一応ゲーム本編には出てますが)
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/01/08(土) 14:44:07.58 ID:wRRx+65vo
了解

あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/01/08(土) 16:52:37.14 ID:+AqJxiVOO

「6、7、8……」

丁寧に焦らず、大胸筋と上腕三頭筋に力を込める。頭上のバーベルはわずかな震えもなく、静かに上下動を繰り返した。
15回を数えた所で私はバーベルを起き、タオルで汗を拭いた。ベンチプレスの負荷は、もう少し高めてもよいかもしれない。

時計を見ると昼手前だ。そろそろ昼食の時間か。
バクシンオーには弁当を持たせてある。スプリンターである彼女には、エネルギーの変換効率が高い食事が望ましい。
学園の食堂でも充分なのだが、私が自ら作った方がより効果的だ。トレーナーには、私のように担当ウマ娘の食事まで作る者が少なくない。

私は冷蔵庫を開け、ホエイプロテインの袋と牛乳を取り出す。シェイカーでそれらを混ぜ、喉に流し込む。
そして、サラダチキンとバナナ、ビタミングミにエネルギーバー。これで昼食は終了だ。
味気ない食事ではあるが、私にとってはこれで充分だ。何より、チートデイは近い。不満に耐えた先のカタルシスこそ、チートデイでは重要なのだ。

「さて……」

午後は高等部で栄養学の授業がある。教員も兼ねている以上、準備は怠れない。シャワーを浴び、教科書を確認せねば……


コンコン


ノックの音だ。すぐに飛び込んでこない所からして、バクシンオーではない。
なら誰だろうか。またライアン君が、筋トレの指導をお願いしに来たか。10分程度なら、余裕はある。


「入りたまえ」


「失礼します」


ペコリと頭を下げたその顔が誰か認識するのに、わずかに時間がかかった。
見慣れないのと、彼女がここに来る理由が分からなかったからだ。


両耳の耳飾り……昨夏に編入してきた、彼女か。


「どうかしたかな?ファインモーション君」


58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/01/08(土) 17:13:26.17 ID:+AqJxiVOO

パアッと彼女の顔が明るくなった。

「あ、私の顔を覚えて下さったんですね。感激だなあ」

「授業以外で1対1で会うのは初めてだがね。バクシンオーと同じクラスだったな」

「はい!バクちゃんにはいつもお世話になってます」

ニコニコとファインモーションは弾んだ様子で話す。アイルランドの王族ということだが、とてもフランクな子だ。尻尾は上機嫌そうにパタパタ揺れている。
彼女は上流階級が多い学園でも最高レベルのVIPと聞いているが、その気さくさはバクシンオーからも聞いていた。

「バクシンオーなら食堂だが?」

「ええ。実は天王寺トレーナーに用事があって」

「私に?授業内容の質問かな」

フルフルと彼女が首を振る。

「違うの。年末、バクちゃんとライスちゃんとで、一緒にラーメン屋さんに行ったって話を聞いて」

「まあ、そうだが」

「うん。せっかくだから、私にもラーメン屋さん、教えてほしいんだ」

「……は?」

予想だにしない質問に、頭が一瞬真っ白になる。ラーメン?

「だからラーメン屋さんだよー。美味しいラーメン屋さん、色々探してるんだ。天王寺トレーナーなら、美味しいお店を知ってるんじゃないかって思って」

「意外だな。ラーメンがそこまで好きか」

「うんっ!!」

ファインモーションの尻尾の揺れが、さらに激しくなった。

「ラーメンはね、一杯の中に宇宙があるんだ。言ってみれば、それだけで完結したフルコース、みたいな?
色々美味しいものを食べてきたけど、ラーメンより美味しいものなんてないよー。日本にいるうちに、美味しいお店は行けるだけ行っておきたくて」

そうか、彼女は王族だ。日本に骨を埋めるわけにはいかない。
さりとて、アイルランドにマトモなラーメン屋があるとは思えない。なぜラーメンがそこまで好きなのかという疑問はあれ、気持ちは理解する。

「なるほど。ジャンルに希望はあるか?」

「希望……そうだ!北海道ラーメン!」

パン、と手を叩いてファインモーションが言う。


……これは、なかなか難しいミッションだぞ。


59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/01/08(土) 17:42:56.22 ID:0x9fhWilO
夜に再開します。
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/01/08(土) 18:23:54.05 ID:wRRx+65vo
たんおつ
王族に食わせに行く店……難易度高い
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/01/08(土) 21:56:25.25 ID:0x9fhWilO

北海道ラーメンと一口に言っても、種類は多種多様だ。

有名なのが味噌ベースの札幌ラーメン。ラードでスープに蓋をする技法を採る店が多く、北海道ラーメンといえばまず味噌が思い浮かぶ。
しかし、醤油ベースの旭川ラーメンはそれとは全く異なる。濃厚で塩分強めのダブルスープが特徴で、札幌に住む人はむしろこちらを好む、らしい。
函館の塩ラーメンも有名だ。清湯のあっさりした味が特徴で、昆布を使ったスープが多い。
この他にも、鰹節の風味が強い釧路ラーメン、利尻昆布の旨味を前面に出した稚内ラーメンなど、広大な北海道に相応しく味もまた多種多様だ。

ファインモーションがこのうちのどれを望んでいるかで、連れていくべき店は大きく変わってしまう。
もう少し細かく訊きたいが、日本に来てまだ半年の彼女にそこまでの知識があるのかどうか。
事前に日本語を猛特訓したというだけあり言葉は驚くほど流暢だが、正直確信は持てない。


「……そもそも、なぜ北海道ラーメンなんだ?」


んー、と人差し指を口に当て、ファインモーションが考える素振りをした。

「日本に来て、デビューが札幌だったの。そこで浦安トレーナーに連れていってもらった、路地裏の店にあるラーメンが美味しくて!
世の中には、こんなに美味しいものがあるんだって知ったんだ。
それで、色々ラーメンを食べ歩くようになったの。最近は自分でも作ろうと思ってるけど、まだまだかな」

「路地裏、か……」

おそらくはラーメン横丁だろう。あそこは観光客向けの店が多く、味はピンキリだ。当たりの店の方が少ない。
王族である彼女の舌を満足させる店となると……


私はニィと笑った。東京にその流れを汲む店がある。恐らくは、あそこだ。


「分かった。君にピッタリの店が六本木にある」

「六本木?あ、明日近くまで行く用事があるよ!ミッドタウンで、◯◯国の大臣とお会いするの。夜は予定ないから、ついでに行ってみようかな。
天王寺トレーナー、案内してくださる?」

明日か、チートデイには丁度いいだろう。バクシンオーも連れて、行くとしようか。

「無論、構わないよ」
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/01/08(土) 21:57:36.12 ID:0x9fhWilO



第2R 六本木「天鳳」



63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/01/08(土) 22:20:47.53 ID:0x9fhWilO

*

「ややっ!ここが六本木ですか!!」

バクシンオーがキョロキョロと辺りを見渡す。待ち合わせはミッドタウンの1階。時間より少し早めに着いてしまったようだ。
ファインモーションは、リッツ・カールトンにいるらしい。私にはあまり縁の無さそうなホテルではある。

エントランスから、2人の女性の姿が見えた。1人は正装のファインモーション。もう一人は背の高い、黒いスーツに身を包んでいる。……ウマ娘か?

「お待たせしました!」

「おおっ!ファインモーションさんっ!こんばんはっ!!」

スーツのウマ娘は、険しい目で私を見つめている。何か、気に障ることでもしただろうか?

「お疲れ様。彼女は?」

「あっ、彼女はSPのハリィ。外出する時は、いつも一緒なのよ」

「…………」

まだ私を睨んでいる。これはやりにくい。

「私はトレセン学園のトレーナー、天王寺定光です。よろしく」

握手しようと手を差し出したが、「フン」ととりつく島もない。

ファインモーションが「むう」と頬を膨らませた。

「いい加減にしてよ、ハリィ。男の人が苦手なのは分かるけれど」

「……お言葉ですが殿下。男の勧める店、それもラーメン店などロクなものではございません。行って後悔してからでは、遅いかと」

「天王寺トレーナーはいい人よ?ボディビルの世界では、世界的にも有名な方なのに」

「そんなことなど、私は知りません。とにかく、この男が何か妙な真似をしたら、腕の1本や2本、へし折ってご覧にいれます」

はあ、とファインモーションが溜め息をつく。

「ごめんなさいね。彼女、男性が苦手なの。とても有能なSPだし、ウマ娘としても大きなレースを幾つも勝っていたのだけど……」

「過去の話です。何より、殿下の姉上には、一度も勝てず仕舞いだった」

「でも最後まで諦めず食らいついた。だからお姉さまはハリィが大のお気に入りなんだけど……。
あ、ごめんなさい!ラーメンだったね。ここから近いのかな?」

私は頷く。

「ここから3分も掛からないよ。じゃあ、行こうか」

ハリィの険しい視線を背中に受け、私は歩き出した。すぐに、店の目印になるドラム缶が見えてくる。

「……ドラム缶ラーメン?」

「実際にドラム缶では作ってないから、安心してくれ。では、入ろう」

64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/01/08(土) 22:22:09.12 ID:0x9fhWilO
少し休憩。

ハリィには一応元ネタがあります。
元ネタの馬はファインモーションより年下ですが。
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/01/08(土) 23:14:52.07 ID:wRRx+65vo
おつー
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/01/09(日) 22:12:47.35 ID:/CyxYZTNO

店の前には数人ほどの列ができていた。振り向くとハリィが険しい顔をしている。

「あれで作っているのでなければ、何のためにあの缶はあるのだ」

「昔の名残だよ。遥か昔、数十年前にこの店のルーツができた時には、実際にドラム缶を寸胴代わりにしていたらしいな。
元々、この店は旭川にあった。そして初代の親父の息子たちが、札幌と六本木に店を出したってわけだ」

パン、とファインモーションが手を叩いた。

「だからお店の名前が同じなんだね!ドラム缶を見て、思い出したよ」

「そういうことだ。ただ、味は少し違うらしいが」

横のバクシンオーがソワソワと落ち着かない様子で店内を見ている。

「トレーナーさん!私、お腹が空きました!お勧めは何ですか?」

「えっと、醤油も味噌もあるねー。確か、札幌で食べた時は味噌だったかな」

そう言うファインモーションに、私は微笑みながら首を横に振る。

「六本木の天鳳では、ほとんどの客が『135』を注文するな」

「……135?」

「うむ、135というのは……っと、席が空いたようだ」

テーブル席に通されると、周囲の目線が一斉にこちらに向いた。見目麗しいウマ娘3人に、屈強なスキンヘッドの大男とくれば嫌でも目立つ。
そこにハリィが鋭い眼光で客を睨むと、視線が逸れて行くのが分かった。なるほど、令嬢の護衛には確かに向いた人物らしい。

向こうから東南アジア系と思われる店員がやってきた。

「ゴ注文は」

「135大盛り、それにライスを。君たちは?」

「トレーナーさんと同じのにします!」

「私もそうするよー」

ハリィは暫し黙った後、「殿下と同じもので」と不機嫌そうに言った。

「それで、135って何なの?」

「メニューにも書いてあるが、醤油ラーメンの『麺硬め』『油多め』『しょっぱめ』を指す。
これよりさらに味が濃く、油っぽく、しょっぱい『めんばり』もあるが、こちらの方が万人向けだ」

ハリィが私を不満そうに見ている。

「そんな健康に悪そうなものを、よく殿下に食わせようとしているな」

「これは『チートデイ』だ。健康に悪い、大いに結構。ただ旨ければいい。
ファインモーション君も、うちのバクシンオーも私も、日々激しいトレーニングを行っている。旨いものを好きなだけ食うことが、何よりのストレス解消になるのだよ。
そして、旨いものは健康には必ずしも良くはない」

私は静かにハリィに微笑んだ。

「そして、トレーニングを熱心に行っているのは、君もじゃないかね?その鍛え上げられた肉体を見れば分かる。
君にとっても、この店はチートデイにはもってこいだと思うが」

「……不味かったら承知せんぞ」

そう言う彼女の前に、丼が置かれた。

「135とライスデス」
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/01/09(日) 22:34:11.43 ID:/CyxYZTNO

スープはやや少なく、麺が一部顔を覗かせている。そしてメンマとネギに、硬めのチャーシュー。
スープの色は茶色に濁っており、透明度はほとんどない。

「これ、味噌じゃないの?」

「れっきとした醤油ラーメンだ。さあ、頂こ「バックシーン!!!」」

着丼と共に、バクシンオーが凄まじい勢いでラーメンを食べ始めている。

「美味しいですトレーナーさん!!しょっぱくて、美味しくて、箸が止まりません!!」

「……改めて、頂こうか」

リフトアップされたのは、西山製麺の縮れ麺。これに油を纏った濃厚なスープがガッツリと絡んでいる。
それを勢いよく啜ると、動物系の旨味と塩分の暴力が、味蕾に突き刺さる!


……これだ。これを身体は待っていたのだ。


パシーンッッ!!!


ワイシャツからボタンが弾け飛んだ。そう、チートデイはこうでなくてはならぬ。


「美味しいっ!!しょっぱいんだけど、それが不快な塩気じゃなく……まろやかですらある。
スープが少ないのは、これだけで充分だからね!?量が多かったら、きっとしつこくなってしまう」

ファインモーションも熱心に丼にかじりついた。ハリィはというと、まだ訝しげに丼を見ている。

「どうした?食べないのか」

「……なぜライスも頼んだ」

「食えば分かる。スープを飲んだ後、ライスを食べてみてくれ。抵抗がないなら、スープをライスにかけるのもお勧めだ」

渋々ラーメンを啜ると、ハリィの目の色が変わった。

「…………!?」

そして、スープを蓮華で飲んだ後、ライスを口にした瞬間。終始不機嫌そうな仏頂面だった彼女の表情が変わった。

「……So, delicious!!!何だこれはっ!?ライスが、甘いぞ!!?」

私はニヤリと笑う。

「135にはライスが必要なのだよ。過剰な塩分は、ライスの甘みを際立たせる。
そしてそれがさらに箸を進ませる。よく考えられた一杯だ」

「……う、うむ。確かに、旨い……」

ハリィもラーメンに夢中になったようだ。135の中毒性に勝るラーメンは、都内でもそうはあるまい。


……同じ北海道ラーメンを祖とする、あの店以外は……


68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/01/09(日) 22:42:12.74 ID:/CyxYZTNO
*

「大・満・足、ですっ!!」

店から出ると、ハッハッハと腰に手を当ててバクシンオーが笑う。ファインモーションも上機嫌な様子で、ハンカチで口を拭った。

「本当に美味しかったよー。札幌のお店もいいけど、ここも美味しかったね。
六本木は大使館とかあるからよく来るけど、行きつけになるかも」

ハリィが私に頭を下げた。

「ミスター天王寺……無礼をお許し下さい。確かに、美味でした。殿下を充分に満足せしめるとは……」

「いや、私は単に旨いラーメンを紹介したまでだよ。そんな大層なことはしていない」

「だが、この埋め合わせは何かしらの形でしなければなりません。何をすべきでしょうか……」

ファインモーションが「むう」と頬を膨らませる。

「もう、ハリィは大袈裟なんだよー。天王寺トレーナーも気にしてないみたいだし、いいじゃない」

「ですがっ!!私の気が収まりません。ここは一つ……」

※コンマ下が60以上で追加の店舗紹介
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/01/09(日) 22:42:29.52 ID:zAsIrhFv0
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/01/09(日) 22:47:37.06 ID:/CyxYZTNO

ファインモーションが溜め息をつく。

「もう、ハリィったら……じゃあ、今度機会があったら、私のお勧めのお店に天王寺トレーナーとバクちゃんを連れていってあげるね。ハリィはそれでいい?」

「はっ、分かりました」

ハリィが恐縮したように頭を下げる。


さて、どんな店を彼女は紹介してくれるのだろう。その時が今から楽しみになってきた。


第二話 完


71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/01/09(日) 22:50:49.67 ID:/CyxYZTNO
以上です。新年早々天鳳に行こうとしたら臨時休業でした……。

追加の店舗紹介としたのは、その際に代わりに行ったお店です。こちらもかなりのインパクトがあるお店だったので、いつか登場させたいですね。

さて、次回のお題です。まず、ゲストのウマ娘を決めます(今回はファインモーション以外で)。
安価下1〜5で、最もコンマの大きいものとします。
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/01/09(日) 22:51:38.48 ID:+VUuXkqxo
おつおつ
本当に食べたくなる

ゲストはエアシャカール
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/01/09(日) 22:51:46.00 ID:YFtBc2//O
カレンチャン
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