【コンマ】ウマ娘とトレーナーがラーメンを食べに行くだけのスレ

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275 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/12(土) 17:51:40.88 ID:4Zu590cgO

「とにかく、さっさと行こうぜ!天王寺ちゃんおすすめの中華そば、どんなんだろうなー」

「お兄ちゃん質問。中華そばってそもそも何なの?」

カレンが手を挙げた。

「説明するには少々手間だな。寒い中喋るのもアレだ、車の中で話そう」

アウディA4に乗り込み、車を東京方面に向かわせた。大柄なゴルシがいるせいか、後部座席はかなり窮屈になってしまっている。

「さっきのカレン君の話だが。私もそこは気になっていた。色々中華そばはあるが、『昔ながらの』というのはどう違うのかね」

助手席の塩田トレーナーが訊いてくる。

「その定義は難しいですね。一般的には、いわゆる『東京ラーメン』がそれに該当すると思います。
醤油ベースの透明度のやや高いスープに縮れ麺、チャーシューにナルトにメンマ。スープは鶏ガラ中心の動物系で、スッキリとした癖のない味ってとこでしょうか」

「そういう店はどこにでもあるんじゃないか?」

「差別化が難しいんで、そういう店は少ないんですよ。化調をたっぷり入れたヤツなら、大手チェーンとかがやってますけどね。
個性があって、かつハイレベルな店は絶滅危惧種です。ゴルシ、満足行く店は今まであまりなかったんじゃないか?」

「あ?ルービックキューブやってたから聞いてなかったぜ」

相変わらずフリーダムな奴だ。代わりにカレンが答える。

「言われてみれば、今までお兄ちゃんと一緒に行った店でそういうのはあまりなかったかも。『支那そばや』とかはまた違うよね」

「あれは『淡麗系』という別のジャンルだな。素材からこだわり抜いて、魚介系なども含めたより複雑な味を志向している。
昔ながらの中華そばは、もう少しシンプルなスープの組み立てなんだ。だからこそ作るのが難しい。何より、安くないといけない」

「確かに……最近は一杯1000円以上のもザラだな」

塩田トレーナーに私は頷いた。車は東関東自動車道へと入って行く。

「それが悪いとは思いません。ラーメンは進化し続ける料理ですから。ただ、原点は『昔ながらの中華そば』なんです。
だからこそ、原点回帰の動きもあります。煮干し系や淡麗系とのハイブリッドとも言える『ネオクラシカル』がそれです」

「なんかよく分からなくなってきたな。ネオクラシカル?」

「まあ、中華そばの亜種と考えてもらえてば。前に三田村トレーナーとライスシャワーと言った『八五』の系列、『勝本』はその代表格ですね。
ただ、今日行くのは正真正銘、本物の『中華そば屋』です。『メルシー』でもよかったんですけどね」

「『メルシー』……早稲田生御用達のか。聞いたことはあるが」

「あそこは夜は早仕舞いするので。まあ、着いてのお楽しみという奴です」

後部座席からゴルシが身を乗り出してきた。

「まあ御託はいいからさっさと行こうぜ!美味けりゃそれでよし!情報を食べてるんじゃねえんだからさ」

※70以上でイベント
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/12(土) 17:55:00.65 ID:0b2e4jgDO
はい
277 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/12(土) 18:12:20.05 ID:4Zu590cgO
※特になし

……情報を食べている?どこかで聞いたような言葉だが。まあ、よくある台詞かもしれない。

車は首都高に入りつつある。飯田橋まではもう少しだ。



「ここが今日の目的地だ」

「ほー……渋いねえ。いいぜいいぜ、こういうのだよ」

ゴルシが満足そうに言う。古ぼけた小料理屋のような佇まい。ここに来るのはかなり久し振りだが、何一つ外観は変わっていない。まさに時が止まったかのようだ。

「『びぜん亭』か。年季が入った店だな」

「創業から45年ですからね。店主が同じでここより長くやってる店は殆どないはずです」

「45年!?驚いたな……」

塩田トレーナーが呟く。待ちきれなかったのか、バクシンオーが「バックシーン!!」と店内に入っていった。

「あ、バクちゃん!?」

「アタシたちも入ろうぜ。いやー、これはテンション上がってきたぜ」

カレンとゴルシも中に入る。私たちも続くと、老齢の主人が「いらっしゃい」と出迎えた。

「お久しぶりです」

「ああ、天王寺さん。3年ぶりですか」

「すみません、仕事が忙しくて」

「ウマ娘のトレーナーさん、でしたね。教え子さんといったとこですか」

「まあそんなところです」

振り向くとメニューが見えた。支那そば650円、チャーシュー麺850円。これでも値上げしているのだろうが、昨今のラーメンからすればかなり安い。しかも場所は飯田橋だ。
飯田橋はラーメン激戦区だが、最低でも800円以上は取られる。どれほどの経営努力をしているのだろう。

「お、外国からも客が来るんだなー。有名なのか?」

ゴルシが入口のポスターを指差した。確かに外国人と店主の植田氏が写っている。

「ああ、最近ドキュメンタリー映画になりまして。お恥ずかしい限りです」

こんな映画があったとは知らなかった。やはり、中華そばのノスタルジーに惹かれるのは万国共通なのかもしれない。
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/12(土) 19:02:16.94 ID:tquuAKR6O
00含めイベントほとんど引けんな……
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/02/12(土) 19:09:03.63 ID:wxZOA/QG0
コンビニや自販機などのお持ち帰りのラーメンも美味しいのがありますから、たまにはそれを選ぶのもありですか?
(それを作るのは担当のウマ娘)
280 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/12(土) 19:20:14.72 ID:4DBzYjR4O

「とにかくお腹がすきました!注文しましょう!」

「バクシンオーの言う通りだな。ではチャーシュー麺大盛りで」

ゴルシが不思議そうにこちらを見る。

「ん?支那そばじゃねーの?」

「まあ、食えば分かる」

「そう言うなら乗ってやっか。アタシもそれで」

結局5人とも同じ注文になった。待つこと数分、丼がカウンター越しに置かれる。

「お待ちどうさま」

具はメンマにネギ、そしてほうれん草。極めてベーシックなものだ。一見何のひねりもないが……

「お兄ちゃん!このチャーシュー……」

「カレン、それだ」

ラーメンに浮かぶチャーシューはトロトロに柔らかく、脂が蕩けている。そう、このチャーシューこそ肝なのだ。

「え、このままでいいの?」

「いいから食べよ「バックシーン!!」」

バクシンオーが凄まじい勢いでラーメンを啜っている。

「何ですかこの味は!スープが、なんか、こう……」

「……!!おお、確かに……あまり飲んだことのないスープだ」

塩田トレーナーも目を見開いた。私も箸でやや柔らかめの麺をリフトアップし、一気に啜る。


バッシーンッッッ!!!


ボタンが弾け、大胸筋が喜ぶのを感じた。


ここのスープは、ただの醤油スープではない。鶏ガラと豚骨の動物系が強く押し出されるスープに、チャーシューから溶けた脂が深みを加えている。
そして、この脂には香ばしさがある。しっかり下味を付けた上で焦げ目が付くほどに焼かれたチャーシューは、ただの具ではない。スープに欠かせないパーツなのだ。

ゴルシを見ると、目をウルウルと潤ませている。

「……うめえな……懐しいけど、新しい……アタシが求めてたのは、これだよ……。
あいつが作ったラーメンも、こんな飽きのこない味だった」

「それは、ここのラーメンがオリジナルだからだろうな。個性は色褪せない。たとえそのスタイルが古くからあろうとも、常に新鮮さを与え続けるものだ。
だから『ネオクラシカル系』を志すラーメン職人は、ここに教えを乞いに来る。温故知新ってやつだな」

「よくわかんねーけど、うめえものはうめえ。それでいいじゃねえか。親父!お代わりあるか!?」

ゴルシはあっという間に平らげていたらしい。まあ、一杯くらいなら大丈夫だろう。

※70以上で店主が……
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/12(土) 19:23:28.01 ID:tquuAKR6O
はい
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/02/12(土) 19:30:37.17 ID:wxZOA/QG0
隣の客にラーメンを提供する
その隣の客がツインターボ
283 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/12(土) 19:36:28.56 ID:4DBzYjR4O
※何もなし



「いやー!食った食った!!」

腰に手を当て、満足そうにゴルシが言う。結局彼女は3杯おかわりをした。まあ、オグリやスペシャルウィークならこんなものではないから良かったと思うべきか……

「天王寺君、すまない。パーマーに続いて、うちのゴルシが……」

「まあいいってことです。私も久々のチートデイで、かなりコンディション上がりそうですし」

その通りだ。筋肉が脈動しているのを感じる。やはりチートデイは、私には欠かせないルーティーンであるようだ。

「私も絶好調です!!学級委員長として、週明けからもがんばりますとも!!」

「カレンもいい感じだよ♪でも次はいつできるかなあ……」

それもその通りだ。オミクロン型はピークアウトしつつあるが、外出制限は簡単には解除されまい。
何とかして外に出たいところだが……

そう思っていると、ゴルシがニヤリと笑った。

「しょぼくれた顔してんなあ。例の槍の『認識改変』なら、多分しばらく続くぜ?」

「……は?」

「いや、なんとなーくわかんだよ。ま、旨いラーメン食わせてくれたお礼ってことだな!」

そう言うと、上機嫌な様子で彼女はコインパーキングに停めてあるアウディへと向かうのであった。



ゴルシが槍で色々なウマ娘の認識を滅茶苦茶にしていたと知るのは、その翌日のことだった。
そして、我々トレーナー陣はその後始末に追われるのだが、それはまた別の話だ。


第6話 完

284 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/12(土) 19:39:05.38 ID:4DBzYjR4O
今回はここまでです。多分12か13話くらいで一度締めますが、ぼちぼちそこに向けて走りたいところです。
(イベント判定はそこに絡むものです)

さて、次回のウマ娘を決めます。
安価下1〜5で、コンマが最も大きいものとします。

また、決定されたウマ娘次第で、追加判定があるやもしれません。
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/12(土) 19:39:27.12 ID:e44zXBNso
ナリタブライアン
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/02/12(土) 19:39:40.70 ID:wxZOA/QG0
イクノディクタス
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/12(土) 19:39:43.07 ID:yDmBWYyZ0
サトノダイヤモンド
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/12(土) 19:40:07.72 ID:tquuAKR6O
メジロアルダン
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/12(土) 19:40:25.53 ID:bneTMgQMO
サイレンススズカ
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/02/12(土) 19:41:36.56 ID:wxZOA/QG0
イクノディクタス
あまりアニメで活躍しないウマ娘も活躍させて!
291 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/12(土) 19:46:02.30 ID:4DBzYjR4O
メジロアルダンとします。

コンマ下が70以上で1人追加です。90以上だと……
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/12(土) 19:46:16.93 ID:e44zXBNso
ほい
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/02/12(土) 19:48:28.65 ID:wxZOA/QG0
未実装のウマ娘も活躍して欲しい
294 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/12(土) 19:54:07.98 ID:4DBzYjR4O
90以上のため、ある重要人物に関連するウマ娘になります。

今回は多数決で決定します。3票先取です。

1 アグネスタキオン
2 マルゼンスキー
3 エルコンドルパサー
4 シンボリルドルフ
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/12(土) 19:54:12.22 ID:lWx7ebqSo
ナイスゥ
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/12(土) 19:54:40.17 ID:bneTMgQMO
4
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/12(土) 19:54:54.29 ID:lWx7ebqSo
1
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/12(土) 19:56:22.61 ID:O4Ov4EQ70
1
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/12(土) 19:56:42.63 ID:XozgX5igo
1
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/12(土) 19:57:05.03 ID:0b2e4jgDO
1
301 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/12(土) 19:58:05.52 ID:4DBzYjR4O
アグネスタキオンで決定します。

続いてテーマを決めます。
安価下1〜5でコンマが最も大きいものとします。
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/12(土) 19:58:40.52 ID:bneTMgQMO
煮干系
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/02/12(土) 19:58:58.72 ID:wxZOA/QG0
錦糸町駅にある牡蠣ラーメン、ラーメン佐市
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/12(土) 19:59:27.97 ID:yDmBWYyZ0
町田付近でおすすめの店
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/02/12(土) 20:00:14.57 ID:wxZOA/QG0
名前間違え

ラーメン佐市→麺や佐市
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/12(土) 20:02:17.36 ID:e44zXBNso
二郎系
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/12(土) 20:04:24.90 ID:XozgX5igo
福岡の>>1オススメ店
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/02/12(土) 20:07:14.94 ID:wxZOA/QG0
錦糸町駅のラーメン屋
309 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/12(土) 20:08:34.46 ID:4DBzYjR4O
>>304
町田付近……行くことがほとんどないのですよね……

エアでよければ書けなくもないですが、代替案があればよろしくお願いします。

2030まで何もなければ、>>307で繰り上がりとします。福岡もここ数年行けていませんが。
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/12(土) 20:08:48.22 ID:zi2q1MtJO
>>308
ageんなハゲ
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/12(土) 20:10:56.01 ID:yDmBWYyZ0
代わりの案出していいの?
じゃあジャンル指定で、油そばとかどう?
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/12(土) 20:12:40.94 ID:wxZOA/QG0
錦糸町の牡蠣ラーメン、麺や佐市
313 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/12(土) 20:12:41.78 ID:4DBzYjR4O
>>311
OKです。実食まで少々お待たせするかもしれませんが。
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/12(土) 20:13:39.51 ID:yDmBWYyZ0
了解ー
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/12(土) 20:15:00.51 ID:e44zXBNso
おつおつ
アルダン✕タキオンってレア
316 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/12(土) 20:28:24.60 ID:4DBzYjR4O
とりあえず店は決めました。若干遠いので来週に間に合うかはやや微妙ですが。
開店当初から通っていた某店です。

アルダンとタキオンの絡ませ方は思いついたので問題ないかと思います。
317 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/18(金) 18:55:27.36 ID:X9tqqwHHO
さっき食べたので少し更新します。
318 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/18(金) 19:09:48.92 ID:X9tqqwHHO


ウマ娘はアスリートである。


トレセン学園の正式名称がそれを物語る。「国立ウマ娘トレーニングセンター学園」。一応建前としては中高一貫の普通学校だが、実態は体育専門学校のそれに近い。
ここの主眼は、あくまでアスリートとしてのウマ娘の育成(トレーニング)。
無論、現役引退後のキャリア形成も睨んだ基礎教育も行われているが、「より速いウマ娘を育てること」が第一なのだ。

それ故、激しい競争に耐えきれず、退校を余儀なくされる生徒も多い。
入学も狭き門だが、卒業もまた困難だ。
無論、卒業できれば圧倒的な名誉と人気、そして何より莫大な金が手に入る。
ただ、そこに辿り着けるのはごく一握り。この上なく残酷な競争社会の縮図が、ここにはある。


だからこそ、ウマ娘は夢を諦めない。どんな怪我を負ったとしても、再起に僅かな望みを賭ける。自らの夢と、可能性を信じて。
その儚さと尊さこそ、我々トレーナーが惹かれるものの一つなのだ。


そして、目の前にいる彼女もその一人だ。


高等部3年、メジロアルダン。
硝子の脚を持ちながらも、優秀な同期に立ち向かわんとする、メジロ家の少女だ。


319 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/18(金) 19:37:11.03 ID:X9tqqwHHO

「怪我をしないようにするコツ、か」

授業の後、「相談があるのですが」と職員室を訪れた彼女は、伏し目がちに頷いた。

「はい。天王寺先生なら何か答えを知っているのでは、と」

「専属の橋本トレーナーではいけないのか?」

「……色々手を尽くしたのですけど、上手く行かなくて。トレーニング理論なら、天王寺先生に聞いた方がいい、と」

橋本トレーナーは真面目な青年だ。ただ、キャリアはまだ3年と浅い。彼なりにベストを尽くした結果、私を頼るようにということなのだろう。

私は腕を組んだ。

「君の脚は、確か先天的に……」

「ええ。骨密度が、通常より密でないとは聞いています。過剰な負荷には耐えられないと……
免疫力も劣っているとは知っています。ただ、学園生活はあと1年と少し。できるだけのことはしたいんです」

静かだが、強い想いを噛み締めるように、アルダンは言った。

私は少し目を閉じた。筋トレを徹底することで、骨を支える筋肉を作り、より故障しにくくする身体にすることはできなくはない。
ただ、私の手法は速筋を鍛えるものだ。スプリンターやマイラーを育成するにはいいが、アルダンのような王道路線のウマ娘を育てるには向いていない。

とすれば……免疫力、ひいては基礎体力の向上を優先すべきか。
ただでさえヒトより弱い免疫力の彼女たちである。今後、社会に出ることを考えると、そちらをこそ優先的に強化すべきかもしれない。

そのためには……


「ここにいたかね、アルダン君!」


ノックの音もなく、相談室のドアがバンと開けられた。
そこにいたのは、白衣に身を包んだウマ娘。「三大問題児」とはベクトルの異なる問題児、アグネスタキオンである。

320 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/18(金) 20:03:44.92 ID:X9tqqwHHO

「タキオンさんっ!?」

「骨密度の増強に必要な飲み薬が完成したのさ!これで君も私も……っと天王寺トレーナー君じゃないか」

私は溜め息をついた。

「……また未認可の薬を飲ませようとしたのか。ドーピング検査に引っ掛かったら破滅だぞ」

「いやいや、それは大丈夫。私のモルモット君が身を以て証明してくれたからね!」

萌え袖をヒラヒラさせ、得意気にタキオンが胸を張る。そういう問題じゃない。

「また滝川トレーナーが被害に遭ったのか……」

「被害とはなんだい、失礼な。研究成果の名誉ある第一号になったのだよ。多少身体が光っても……」

「その時点でアウトだ」

滝川トレーナーもよく彼女の人体実験に付き合っているものだ。ある意味、私以上に頑健ではなかろうか。

「なんだよ〜つまらないな〜。成果は確かなのに」

「脚を治したい気持ちは分かるが、せめて認可が降りるまで我慢しろ」

……そう。タキオンも脚は弱い。昨年に大怪我をし、今は復帰に向けて動いていると聞く。
同じ悩みを抱える者同士、気が合うのだろうか。確かにタキオンがたまに学年が上のアルダンと話している姿は見ていた。

「……でも、私には時間がないんです」

アルダンが、絞り出すように言う。私はハッとなった。


トレセン学園は、建前は中高一貫の普通学校だ。だが、6年で卒業できる生徒は、実はほぼいない。
毎年ある進級試験。それに合格しないと、卒業できない仕組みになっている。そして、不合格者は、1年に限って留年を許される。


アルダンは既に、進級試験を落ちていた。
厳密には、受けることすらできなかったのだ……脚の怪我で。
翌年までに、脚を完全に治さないと、彼女の未来は……ない。




321 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/18(金) 20:36:15.38 ID:X9tqqwHHO

部屋が重い空気に包まれた。タキオンは1年だから、まだ猶予はある。しかし、3年の彼女は……次に落ちたら退校処分だ。

「そうだな……」

助けになりたいのは山々だ。だが、即効性のある特効薬はない。私にできるのは、あくまで地道な基礎体力強化を勧めることしかない。
だが、それを告げたところで何の意味があるだろう?彼女をさらなる絶望に落とすだけではないか?


参った。……こういう時に、「あの人」なら何と言うだろう。


「そういえば天王寺トレーナー君。私の叔父が君に会いたがっていたよ」

唐突に、タキオンが口を開いた。

「君の叔父?こんな時に何の関連が」

「おおありだよ。今度、中国から凱旋帰国するそうだ。何か話が聞けるかもしれないねえ」

「……凱旋帰国?」

「そう。中国ウマ娘界でナンバーワントレーナーになったらしいんだよ。事業も成功したらしい」

「中国……ウマ娘では後進国と聞いていたが」

フフフ、とタキオンが笑う。

「年末の香港ヴァーズと香港マイルは、叔父さんが担当したウマ娘が勝ったんだよ。
というか天王寺トレーナー君、叔父さんを知らないのかい?」


胸騒ぎがする。私の知り合い?誰だそれは?


「ああ、こっちの方が有名かもしれないね。中国を代表する、日本人ラーメンプロデューサー」


……ゾクンッ


まさか。「あの人」なのか?
しかし、いつの間に中国に渡っていたとは……しかもトレーナーもやっている?頭が混乱する。


だが、私の頭に浮かぶ名前は……一つしかない。



「……芹沢達也」



322 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/18(金) 20:37:26.46 ID:X9tqqwHHO
今日はここまで。独自設定がある点、お詫びします。
学年設定は現状での推測によるものです。
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/18(金) 20:42:03.20 ID:7Z+jEl38o
おつおつ!
ラーメン○ゲさん!!?!
324 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/19(土) 19:47:46.33 ID:JzQJV121O

ククッ、とタキオンが笑った。

「なんだ、やっぱり知り合いじゃないか。訳ありみたいだけど」

「……私の恩人だよ。トレーナーをやっているのも、半分は彼の影響だ」

「恩人、ね。あの偏屈な叔父さんが、皮肉交じりとはいえ人を褒めるなんて珍しいとは思ってたけど」


そう。芹沢達也は私の「師」だ。トレーナーとしても、そしてラーメンについても。


『俺は俺の道を行かせてもらう。また会うことがあるかもしれんな』


10年前、トレセン学園を去った彼の言葉が蘇る。
あの人は間違いなく有能なトレーナーだった。「あの事件」がなければ、今頃は日本を代表するトレーナーになっていたかもしれない。
ウマ娘界から追放され、行方知らずであるとは聞いていた。ラーメン職人としても一流だった彼のことだ、どこかでひっそりと店を出しているかと思ったが、その情報はなかった。


まさか、中国に渡っていたとは。それも、向こうでラーメンプロデューサーもやっていたとは。
二足のわらじを履き、両方で頂点へと駆け上がろうとしているのは……どういう意図なのか?


「芹沢さんが帰国するのは、いつだ」

「詳しくは聞いてないよ。何せ身内の私すら、久々に連絡をもらったくらいだし。多分、春には戻ってくるんじゃないか?」

「そうか……」

訊きたいことはたくさんある。何より、「あの事件」の真相。芹沢さんが、あんなことをしでかしたとは、今でも信じられない。

「まあ、私も会うのは楽しみだよ。脚の治療についても何か考えがあるらしいからね」

「そうなのか?」

呆れたようにタキオンが私を見る。

「知らないのかい?叔父さんの別名を」

「別名?」

「そうさ。『魔法使い』……どんな虚弱なウマ娘でも、たちどころに強靭な身体となり、レースを勝ちまくる。
この前負けたけど、ゴールデンシックスティー、だったかな?あの娘もそうやって強くなった」

ゾワッと、嫌な予感が広がった。……10年前と同じだ。


芹沢達也は、担当ウマ娘へのドーピング疑惑をかけられ……日本を追放されたのだった。


325 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/19(土) 20:11:50.15 ID:JzQJV121O

「その、タキオンさんの叔父様なら……私の脚も」

「断言はできないけど、治るかもしれないねえ。私もできれば自分で治したいけど」

アルダンの目に光が戻った。おそらく、アルダンは芹沢さんのことを知らない。

「タキオン。君は、10年前のことは」

彼女の目が鋭くなった。

「子供の頃のことだよ?真相なんて知ってるわけがないじゃないか。
でも、叔父さんは素晴らしい人だ。トレーナーとしても、人間としても……いや、面倒な人だけど。汚れたことをしているわけがない」

その通りだ。私もそう信じたい。だが、日本では彼は「黒」となっている。真実は藪の中だ。

「……そうだな」

ざわつく想いを押し殺し、私はそう呟いた。タキオンがやれやれと首を振る。

「叔父さんの話をしたから、お腹が空いたじゃないか。それもラーメンが食べたくなったよ。
モルモット君……はラーメンは作れないな。天王寺トレーナー君、君は作れるかな?」

「すぐに言われて作れるわけがないだろう」

「なんだよ〜。私はラーメンが食べたいんだよ〜」

タキオンが頬を膨らませる。橋本トレーナーの日々の苦労がよく分かった。
アルダンがおずおずと手を挙げる。

「あの、ラーメンって……最近、天王寺トレーナーはよく他のウマ娘さんを連れて行ってるって聞きました。マックイーンさんやパーマーさんも行ったって」

「あ、ああ」

「私たちも、ご一緒できませんか?無理に、とは言いませんが」

チートデイは近い。まあ、申し出を断る理由はないか。
それに、今度行くつもりの店は……ある意味アルダンに向いた店かもしれない。脚だけでなく、基礎体力に不安を抱える彼女には、エネルギー変換効率の高い食事が必要だからだ。

「明日ならいいだろう。タキオンもそれでいいな?」

「今日じゃないのかよ〜。仕方ないな〜」

頬を膨らませてタキオンが言う。店が狭いのが少し気になるが、まあ何とかなるか。

326 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/19(土) 20:12:16.64 ID:JzQJV121O


第7R 「破顔」


327 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/19(土) 20:13:34.74 ID:JzQJV121O
実食編は多分明日です。
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/19(土) 20:32:03.29 ID:OjpBPp8Lo
おつおつ
芹沢さんとタキオン、言われてみれば似てる所あるな……北海道TVから成り上がった紅白司会も血統に入ってない?
329 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/20(日) 14:58:30.24 ID:MNaDcSqVO


「油そば?」

ちゃっかり助手席に座ったカレンが訊く。

「そうだ。今日は油そばを食べに行く」

薄曇りの中を、アウディA4は西に走る。「むー」と不機嫌そうに後部座席のタキオンが唸った。

「油そばぁ!?油まみれの麺なんて健康に悪いじゃないか!何より、スープもないなんて味が薄っぺらいに決まってる」

「芹沢さんには、ろくにラーメンのことを教わってなかったらしいな」

「何を言うんだね!?私が間違っているとでも……」

「私の栄養学の授業そっちのけで内職ばかりしてるから、気付いてないらしいな。よく考えろ、ラーメンでもっとも多く含まれるのは何だ?」

「ハッ、そんなの決まっているだろう?馬鹿にしないでくれ、炭水化物に決まってるじゃあないか」

「そうだ。で、最もエネルギー変換効率の高い炭水化物の摂り方は?」

パン、とアルダンが手を叩く。

「確か、麺だけを食べること……ですよね?」

「その通り。ボクサーが減量明けに食べるもので、最も多いのはうどんだ。それも、余計な水分のない、ぶっかけうどんが望ましい。
弱った胃でも消化がしやすく、かつすぐにエネルギーに変換されるからだ。
ラーメンの麺はぶっかけうどんほど消化は良くない。それでも、カロリーを抑えながら最大限の炭水化物を摂りたいなら、油そばは選択肢に入る。
大体2割、油そばはラーメンよりカロリーが低いのだそうだ」

「フン」とタキオンが鼻を鳴らす。

「そ、そのぐらい知っていたよ。それに、油そばの味は単調じゃないのかい?」

「タレの使い方で千差万別だ。ダシがないから複雑な味わいにはなりにくいが、それでも美味い店は美味い」

「まあ美味しければ万事よし!です!」

バックミラーに妙に得意げなバクシンオーが見えた。まあ、御託はここまでにしておこう。


……芹沢さんに笑われるな。「お前は知識を食いに来ているのか」、と。


330 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/20(日) 15:11:50.25 ID:MNaDcSqVO


「さて、着いたぞ」

「駅前、ですね。……向こうに行列がありますけど、あそこですか?」

アルダンが長蛇の列を指差す。私は苦笑した。

「ああ、あれは違う店だ。『桜台二郎』…… 二郎系列では上位の店だが、今日の目的地はあそこじゃない」

※二郎の行列には……

01〜70 誰もいない
71〜95 ウマ娘がいる
96〜99 二郎が閉店させられている
00 ん?あのハゲは
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/20(日) 15:46:29.88 ID:18lILhl+o
ヌッ
332 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/20(日) 15:58:17.14 ID:MNaDcSqVO
※並んでいるウマ娘がいる

安価下1〜3で最もコンマが大きいものとします。
333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/02/20(日) 16:13:26.24 ID:UUW6Djnu0
イクノディクタス
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/20(日) 16:35:44.84 ID:JaG6RDGH0
メイショウドトウ
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/20(日) 16:36:36.07 ID:E67lXcTDO
ゼンノロブロイ
336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/20(日) 16:55:30.06 ID:UUW6Djnu0
ツインターボ
337 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/20(日) 17:28:03.52 ID:nu2KD84yO

その時だ。

「ややっ!?あそこにいるのは!?」

そう言うなり、バクシンオーは向こうの行列へと走っていった。……行列に、見た顔がいる。あれは……

「メイショウドトウさんではありませんか!こんにちは!」

「あわわっ!?ば、バクシンオーさんっ!?」

混乱した様子でメイショウドトウが言う。オグリならともかく、彼女が二郎に並ぶというのはかなり意外だ。

「あ、ドトウちゃんだ!どうしたの?こんな所で」

「あう……カレンちゃんまで……違うんです、これは間違えちゃったんですぅ……」

「間違えた?」

「行きたいお店があって、でも駅を間違えちゃって……でもお腹が空いたから何か食べようと思ってたら、いつの間にか行列に巻き込まれちゃって……」

「人の流れに押された、ということか」

目を潤ませながら、ドトウがウンウンと頷いた。

「そもそも、これ何のお店なんですか?ラーメン屋さんみたいだけど、殺伐としてますしぃ……」

「まあ二郎だからな。このまま食べるのか?」

01〜20 せっかくだから、食べますぅ……
21〜75 助けてくださいぃ……
76〜00 お店を教えてくださいぃ……
338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/20(日) 17:45:15.07 ID:znFuPqX00
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/02/20(日) 18:46:21.48 ID:hLnE3OUG0
01
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/20(日) 19:03:26.19 ID:6reWywWYO
sageは付けないわ安価二度取ろうとするわで好き放題やってる末尾0は何なんだ
341 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/20(日) 19:18:30.83 ID:znS1evlKO

「せっかくだから、このまま食べますぅ……。並んだ時間がもったいないですしぃ……」

「まあ、そう言うなら仕方ないな。私たちは近くで食べているから、帰りは送っていこう」

「分かりましたぁ……」

しょんぼりと耳を垂れながらドトウが言った。大丈夫だろうか。

「トレーナーさんっ!二郎ってなんですか!?」

「二郎もラーメンの一種だが、色々特殊でな。ウマ娘にも量が多いから、ドトウが食べられるかどうか」

カレンが渋い顔をしている。

「カレンはあんま好きじゃない。カワイくないし、ウマスタ映えしないし。何よりニンニク臭くなるのがヤ」

「まあ、好き嫌いは分かれるな。ドトウは妙に頑固だから、あのまま食べることにしたんだろうが……」

「それよりお兄ちゃん、油そばのお店は?」

「それならすぐそこだ」

二郎ほどではないが、やはり長蛇の列が見えた。ここが目的地「破顔」だ。

「並んでますね……食券から先に買うのでしょうか」

「そうなってるな。店はかなり狭いから、注意してくれ」

引き戸を開けると、炭の匂いがした。私の体格だと、ギリギリ歩けるかどうかといったところか。

「『ラーメン』って軒先にあるのに、全部『汁なし』じゃないか。油そばとどう違うんだ?」

外からガラス越しにタキオンが訊く。

「基本は大して変わらない。油そばとは違ったタイプの『汁なし』を出す店もあるが、ここはほぼ油そばだな。タレがオイリーなら油そばと呼んで差し支えない。
一応醤油と塩と煮干しがあるが、私が決めていいか?」

「構わないよ」

私は塩の大盛りを5枚購入する。大盛りでも800円は、この物価高騰の折では割と安い。これも、スープに原価を必要としない油そばの強みだ。
342 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/20(日) 19:47:00.59 ID:znS1evlKO


待つこと20分。私たちが入ると、それだけでほぼカウンターが埋まった。
厨房からの香ばしい匂いが強まる。

「これは……炭火焼、ですか?」

「その通り。客に出す前に炙るんだ」

アルダンが興味津々といった様子で厨房を見る。メジロのお嬢様にとっては、ラーメン屋自体が新鮮なのかもしれない。

タキオンが、カウンターの上のポットを指差した。

「なんだいこれは」

「スープだ。麺をほぼ食い終えた頃に入れる。油そばで追い飯はよくあるが、スープ割りはまあまあ珍しいな」

そうしているうちに、私たちの丼が準備される。向こうから黒煙が上がると、肉の焦げた匂いが強まった。

「塩大盛りです」

麺には、たっぷりの魚粉とネギ。それに海苔と味玉、炭火焼のサイコロチャーシューが添えられている。

「よくかき混ぜ……「バックシーン!」」

また説明する前にバクシンオーが食べ始めていた。

「これはおいしいです!なんというか、力が湧く味です!!」

「……とにかく、ちゃんとかき混ぜて食べよう」

軽く上下に麺を混ぜ、一気に啜り込む。


その瞬間、口の中に魚粉とネギ、そして炭と唐辛子の香りが一気に拡がった。


パシーンッ!!!


ボタンが弾け飛ぶ。洗練という言葉からは程遠い。むしろ、ジャンクフードとすら思える暴力的な荒々しい味だ。
だが、それがいい。スープの雑味がないからこそ、こういう味の組み立てができるわけだ。


「むむっ!!?」

「これは……」

アルダンとタキオンも唸った。

「何というか……シンプルなようで、いくつもの香りがあるのですね……」

「なるほど、塩にした意味はこれだね?辛味が入ってるから、味がぼやけない」

「味覚は芹沢さん譲りか。何で料理がダメなんだ」

「だって料理なんて面倒じゃないか。モルモット君が作ってくれるし」

ウマスタ用の写真を撮り終わったカレンも「おいしー♪」と満足げだ。

「この炭火焼が美味しいね♪柔らかいし、味もしっかりしてる。さすがお兄ちゃん♪」

「味付け卵もおいしいです!さらにバクシンできますっ!」

バクシンオーの丼はもうほとんど空だ。相変わらず速い。

「麺が減ったらスープを少しずつ入れてくれ。また違った味になる」

私もスープ割りに動く。焦がしネギが浮いたスープは、ちょうど町中華のスープを思わせるような柔らかい味わいだ。
出汁の少なさを、香りと工夫で補う。こういう油そばもあっていい。

343 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/20(日) 20:00:17.33 ID:znS1evlKO


「んー、食べた食べた。たまにはこういうのもいいものだねえ」

タキオンが伸びをする。アルダンはというと、私に深々とお辞儀をした。

「天王寺トレーナー、ごちそうさまでした。とても美味しかったです。それに、何か元気が湧いてきたような」

「そう言ってもらえたら何よりだ」

ふと、ドトウのことを思い出した。そういえば、桜台駅前で待ち合わせていたが……

01〜50 もう無理ですぅ
51〜80 とても美味しかったですぅ
81〜99 美味しかったけど、やっぱり……
00 ん?あのハゲは
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/20(日) 20:03:23.60 ID:0HPPe4FS0
ほい
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/20(日) 20:05:55.70 ID:+Am0hvuao
やっぱりウマ娘、量は平気なんですねぇ
346 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/20(日) 20:12:39.21 ID:znS1evlKO

そう思っていると、ポンポンとタヌキのようにお腹を膨らませたドトウが上機嫌な様子でやってきた。

「あ、ドトウちゃん!大丈夫だった?」

「とても美味しかったですぅ。きしめんみたいな麺にゴロゴロとしたお肉……ああいうラーメンもあるのですねぇ」

どうやらちゃんと食べきったらしい。やはり、ウマ娘の胃袋は常人とは異なるのだろうか。

「ま、まあ満足なら何よ……ちょっと待った、その腹で車に乗れるのか?」

「は、はうう……食べすぎてしまいましたぁ……」

まあ、ギリギリなんとか詰め込めば乗れるか。送ると言った手前、仕方あるまい。


結局帰りの車がニンニク臭くなり、カレンはその後数日口を聞いてくれなくなってしまった。
どうにも一番のドジは私であったらしい。


第7話 完


※テーマが二郎系か○○系の場合、ドトウが登場するようになりました
347 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/20(日) 20:14:09.86 ID:znS1evlKO
以上です。桜台二郎はかなり量があった記憶がありますが、今でもそうなのでしょうか。
とりあえず記憶準拠で書いています。

次回登場のウマ娘を決定します。
安価下1〜5で、コンマが最も大きいものとします。
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/20(日) 20:15:43.48 ID:E67lXcTDO
ゼンノロブロイ
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/20(日) 20:15:43.59 ID:+Am0hvuao
ダイタクヘリオス
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/20(日) 20:16:16.86 ID:cUUcCcR8o
アグネスデジタル
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/20(日) 20:16:18.75 ID:0HPPe4FS0
サトイモ
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/20(日) 20:16:45.81 ID:6reWywWYO
キタサンブラック
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/20(日) 20:17:17.86 ID:F3/f5u1/0
ダイワスカーレット
354 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/20(日) 20:18:21.80 ID:znS1evlKO
アグネスデジタルとします。

続いてテーマを決めます。安価下1〜5で最もコンマが大きいものとします。
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/20(日) 20:20:23.56 ID:hLnE3OUG0
東陽町のラーメン麺徳

99
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/20(日) 20:23:43.91 ID:1OzxiLnKO
煮干系
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/20(日) 20:24:50.04 ID:0HPPe4FS0
池袋付近で美味しいところ
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/20(日) 20:28:10.23 ID:5PLxH6hRO
とみ田
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/20(日) 20:29:20.55 ID:18lILhl+o
二郎系
360 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/20(日) 20:38:19.95 ID:znS1evlKO
煮干し系で決定しました。幾つか候補があるので悩ましいですね……
更新は来週末です。
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/20(日) 20:42:00.53 ID:+Am0hvuao
おつ
芹沢さん登場いつかなー
362 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/20(日) 20:46:15.80 ID:znS1evlKO
少し多数決を取ります。

1 ザ・煮干しラーメン
2 煮干し+手打ちラーメン
3 最先端煮干しラーメン

3票先取です。(1の場合、時間が必要になる可能性があります)
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/20(日) 20:48:09.41 ID:5PLxH6hRO
1
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/20(日) 20:52:39.20 ID:+Am0hvuao
1
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/20(日) 20:56:00.00 ID:JaG6RDGH0
1
366 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/20(日) 21:01:55.58 ID:znS1evlKO
了解です。少し更新が遅れる可能性がある旨ご了承下さい。
367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/20(日) 21:25:00.63 ID:+Am0hvuao
了解
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/21(月) 07:19:01.99 ID:SHUxHxf6o
SS速報避難所
https://jbbs.shitaraba.net/internet/20196/
369 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/23(水) 20:47:42.52 ID:3/VFmMLlO
週末が忙しくなりそうなので、早めに更新します。
370 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/23(水) 20:56:52.83 ID:oAAi4/WTO
*独自設定がある旨、ご了承下さい。
1時間以内をメドに更新します。
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/23(水) 21:10:45.30 ID:UncfGc7go
おっありがてぇ
372 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/23(水) 21:23:35.10 ID:tRnoMhkXO

2月末のトレセン学園は、どこか緊張から解き放たれた空気で包まれる。
卒業・進級試験の結果が判明するだけではない。入試の結果発表が行われた直後だからだ。

学園の入試倍率は高い。今年は確か、20倍はあっただろうか。出るのも困難だが、入るのも難しい。宝塚音楽学校並みの超難関と言える。
無論最優先されるのは実技だ。学力試験もあるが、実技が抜きん出ていれば全く問題にはならない。

「バックシン、バックシン……」

向こうでダンベルを持ちながらスクワットを行っている彼女……サクラバクシンオーもそのタイプだ。
学力試験は確か最下位。だが、それを補って余りに余りあるスプリント力で、彼女はここに入学した。
以来、1400mまでのレースで彼女に勝った者はいない。カレンも半バ身まで詰め寄るのが精一杯だった。

「少しオーバーワーク気味だな。高松宮が近いから、気合が入っているのは分かるが」

「ハイッ!!もちろん今年も勝ってみせますとも!何より今年は、親戚が入学するのですから!学級委員長として、そしてお姉ちゃんとして手本を見せねば!!」

「親戚?」

確か、バクシンオーの本籍の名字と同じ合格者はいなかったはずだ。私は首を捻る。
バクシンオーがスクワットをやめ、タオルで汗を拭いた。

「ハイッ!キタサンブラックといいます!!」

「ああ、あの子か」

中距離から長距離にかけての試験で軒並みトップレベルの成績を叩き出した注目株だ。
父親は演歌の超大御所。話題性だけでなく、実力も兼ね備えているスター候補生といえる。

彼女に限らず、今年は話題になりそうな新入生が多い。
里見財閥の御令嬢、サトノダイヤモンド。その親戚で香港のジュニアレースで名を馳せたサトノクラウン。
そして、元メジャーリーガーの父を持つシュヴァルグラン……今年も、いや例年以上に期待できる学年になりそうだ。

「にしても、気が早くないか?……ああ、新入生オリエンテーションでの模擬レースに向けて、か」

「ハイッ!キタちゃんには、是非このチーム『ゼニス』に入ってもらいたいですからっ!」

「うちはマイルまで専用のチームなんだが……」

その時、ドタバタと誰かが駆けてくる音がした。

※コンマ下
01〜80 アグネスデジタル
81〜95 アグネスタキオン
96〜00 たづなさん
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/02/23(水) 21:49:55.90 ID:UncfGc7go
やばい人
374 : ◆/4adlfiarI [saga]:2022/02/23(水) 22:25:33.86 ID:tRnoMhkXO

バン、とドアが開かれた。アグネスタキオンだ。

「天王寺トレーナー君!大ニュースだ、来年度から叔父さんがトレセン学園に戻るらしい!!」

「……本当か!?」

タキオンにしては珍しく、緊張した様子で頷く。

「中国での実績が評価されて、特例で追放処分が解かれるそうだ。過去のウマ娘に対するドーピング疑惑も、解けたらしい」

筋肉を流れる血が加速し、身体が紅潮するのが分かった。思わず顔が綻ぶ。

「本当かっ!!」

「叔父さんから連絡があったから間違いないよ。……ただ、気になることを」

「気になること?」

コクン、とタキオンが頷く。

「『俺をハメた連中には、報いを受けさせないとな』、だそうだ」

タキオンの顔が強張っていた理由が分かった。芹沢さんは、善人ではない。目的のためには手段を選ばないこともある。
私は昔のドーピング疑惑の真相は知らない。そしてそれが急に解かれたのも、かなりキナ臭い。……胸騒ぎがする。

「……そうか」

「何か企んでいるかもしれない。もちろんトレーナーとしては一流だが……気を付けた方がいいかもね」

「了解した」

その時、また向こうからドタバタとやってくる小柄な人影が見えた。……あれは。

「タキオンさんタキオンさん聞きました!!?今年の新入生、超推せるのばっかなんですけど!?入学前から尊死しそう……しゅきぃ……」

「デジタル君、そこで倒れそうにならないでくれたまえよ。入試結果発表後で、興奮するのは分かるが」

「今年の1年はどんなカップリングでしゅかねえ!?ウオダスを超える組み合せがあるかもしれないですねえ!?やっぱここはキタサト……っと、天王寺トレーナーじゃありませんか!こんにちは、今日はカレンちゃんは?」

「脚の定期検査だ。一応あんなことがあっただけに、念には念を入れてな」

アグネスデジタルが分かりやすく肩を落とした。

「そうですか……バクカレ、ありだと思うんですけどねえ……」

「バクカレとはなんですかっ!?」

バクシンオーがいつもの調子でやってきた。デジタルは「はわわっ」とタキオンの後ろに隠れる。

「そんな、現役最強スプリンターの御前で私などミジンコのようなもの……無礼な物言いをしてしゅみません、消えて詫びます……」

「どうして君はそう卑屈なんだか……君自身も優秀なオールラウンダーじゃないか」

ブンブンとデジタルが首を振る。

「私はそっと影から推しのあれやこれやを見るだけで十分なんですよお……ああ、後光で目が潰れてしまう……」

「何を言ってるのかよく分からないが。実際に話した方が、より距離が詰まるんじゃないか?
カレンと君は、確かクラスメートだろう。友達になりたいなら、場をセッティングするが」

「ひゃあっ!!?」

私の言葉に、デジタルが飛び退いた。

「そ、そんな恐れ多い……!!」

「いい機会じゃないか、行きたまえよ。そうだ、チートデイが今週末だったね。この前は私とアルダンさんがご相伴に預かったが、今度は君がどうだい」

「ひゃっ!?わ、私がですか!?」

私は微笑みながら首を縦に振る。

「私は構わないよ。ラーメンを食べるつもりだが、何かリクエストはあるかな?」

デジタルが少し考える素振りをした。

「……煮干し。そう!!煮干しです!!アイドルユニット『UMA48』の『ソダにゃん』が、煮干しラーメンが大好物と聞きまして!私もどんなものか食べたいんです!!」

「煮干し、か」
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