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【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 Part.2

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381 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/02(水) 23:54:02.15 ID:aUuuDLZd0
◆◇◆◇◆◇◆◇

一通りの報告が終わった。
目立った進展は今回もナシ、そうなるとまたあの沈黙が訪れてしまう。
不安ばかりが幅を利かせる、胸騒ぎばかりがやかましい静寂だ。


夏葉「ここでじっとしても仕方ないわ、ひとまず今日は解散にしましょう」

冬優子「……そうね、お互いこうしてても疲れるだけだし」


別に敵対をしているわけではないが、どこか角が立ったような表現。
ユニットの仲間を庇っている立場上、どうしても小金持ちの警戒心には敏感になるらしい。


ルカ「……そうするか、昨日の疲れもまだ抜けてねーみたいだしな」


私も小金持ちの提案に賛同した。疲れとは言ったが、その指すところが肉体的なものでないことは誰の目にも明らかだった。


智代子「明日はどうしよっか……朝食会は、やるんだよね……?」

夏葉「……ええ、もちろんよ」


質問する側も解答する側もどこか弱弱しい。
こんな状況だ、毎日の習慣まで崩してしまえばずるずると別の所にも影響が及ぶことは容易に想像できる。


ルカ「……じゃあ、明日も朝のチャイムの後にレストラン集合で」


誰からもその返事が返ってくることはなく、私たちは無言のままに解散をした。

382 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/02(水) 23:55:38.34 ID:aUuuDLZd0
-------------------------------------------------

【ルカの部屋】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『ただいま、午後十時になりました』

『波の音を聞きながら、ゆったりと穏やかにおやすみくださいね』

『ではでは、いい夢を。グッナイ…』


自分の部屋に戻って、ドッと疲れが溢れてきた。
私自身が不安を抱いていなくても、他の連中があんな調子だと、かかわっていても気を遣うし、妙なところに力が入る。


「……どうすんのが正解なんだよ」


千雪の命令、初日の遂行状況は最悪。
他の連中との仲を取り持つようなことは一切できず、腫れ物に触るような立ち回りしかできなかった。
しかも一部では私のせいで余計に悪化させた節さえある。
美琴とのコンビを解消してから、ずっと孤独の道をひた走っていた。
手を差し伸べようとする連中には嫌疑の視線を送り、その手を振りほどくことに躍起だった。
救いなんて、全部が全部まがい物。
そう思い込んでいた私に、何ができるというのだろう。


「……わっかんねえっての……」


そう呟いて、ベッドにぶっ倒れた。
383 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/02(水) 23:57:17.89 ID:aUuuDLZd0



___丁度そのタイミングだった。



ピンポーン


来客だ。
こんな時間に、しかも私の部屋に来るなんて輩は美琴しかいないだろう。
そう思って後頭部を搔きながら、煩わしそうな表情をわざと浮かべながら扉を開けてやった。


ガチャ



冬優子「……もしかして、なんか邪魔した?」



384 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/02(水) 23:59:01.38 ID:aUuuDLZd0

そこに立っていたのは黛冬優子だった。
到底客を向かい入れる態度ではない私を見ると、彼女は少しばかり申し訳なさそうに肩をすくめる。


ルカ「お、お前かよ……なんだよ、急に」

冬優子「ちょっと話、入ってもいい?」


こいつが訪問してくるのは予想外だった。
訪問の理由をたずねてはみたものの、この場で述べようとしない。
概ねあの中学生にまつわる話だろうと察しはついた。
前回の裁判で衆目の中私が糾弾したことにより、今こいつらの立ち位置は非常によろしくない。
その文句でもつけに来たと見るのが妥当なところだろう。
こいつの立場から考えれば、私に言いたいことがあるのも理解はできる。
それに、私にもその責任がある。私はこいつの話を正面から受け止めることに決めた。


ルカ「あー、クソ。ちょっと待て、片付ける」

冬優子「ん、早いとこ頼むわよ」


だが、生憎私の部屋にはずっと来客もなかったため、今は人を到底入れるような環境ではない。
急ぎ足で机の上の缶を袋にぶち込み、ごみは強引にクローゼットへと押し込めた。
385 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 00:00:43.22 ID:cC0CFlEJ0

冬優子「お邪魔しまーす……」


部屋を見定めるようにしながら入室した黛冬優子は近くにあったクッションの上に腰かけた。
別にこいつと卓を囲むつもりはない、私はベッドの上にどっしりと座り込む。


ルカ「で、何の話だ」


分かり切っていることをあえて尋ねる。


冬優子「……この前の裁判の話よ」


ああ、やっぱりなと覚悟を決めた。
どんな罵詈雑言が来ても反論せず受け入れよう、そう思って身構えた。



冬優子「……三峰結華、あの子の抱え込んでるものをどうにかしてやりたいのよね」



だが、そこに続く言葉は意外なものだった。
386 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 00:02:55.84 ID:cC0CFlEJ0

冬優子「……何よ、馬鹿みたいに口ぽっかり開けちゃって」

ルカ「な、バカってな……てっきりこっちは中学生のことで文句でも言いに来たのかと……」

冬優子「あんたバカ? あさひのことで今更文句言ったってどうなんのよ、物証が揃えられてる以上は感情論で反論しても無意味」

冬優子「こっちもこっちできっちり反証するから、それまで首を洗って待ってなさい」


随分と余裕たっぷりに事も無げな様子で切り返されてしまった。
どうやらこちらの見立てが甘かったらしい。こいつらの間にある信頼というのは並大抵のものではないようだ。
たとえその展望がなくても、確信を持った返答ができてしまうほどの信頼、もはや妄信と呼び変えてもいいかもしれない。


冬優子「で、本題。三峰結華、あの子今、かなり危ういでしょう?」


黛冬優子の危惧通り、今のあいつの状況は生存者の中でも最も危ういだろうと思う。
前回の裁判で、田中摩美々がクロと確定した時に一度あいつは確かな覚悟を決めた。
田中摩美々の心中を受け止めて、それに事件が起きる前に向き合ってやれなかった自分の未熟さを認めた。

でも、そのうえでモノクマはあいつらを引っ搔き回した。
田中摩美々の知識欲とそれと紙一重の恐怖を引きずり出し、やつの死に際を惨たらしく飾り付けた。
更には他のメンバーがこのコロシアイ以前に犯したかもしれない裏切り行為を白日の下に晒した。
あいつはその時思ったはずだ、『私は全然ユニットの仲間のことを分かっていない』、と。

あのゲームの中の幽谷霧子の様子、あれは外部の人間から見ても異常だった。
ユニットの仲間の張本人、そしてその年長者ともなると受ける精神的なショックは私たちの想像を超えるだろう。
そして実際、あいつは私からの干渉を拒絶し、とうとう自分の殻に閉じこもってしまった。

387 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 00:04:06.36 ID:cC0CFlEJ0

ルカ「……私のせいだ、私が何も考えないで、あいつに踏み込んだから」

冬優子「別にあんたを責めに来たんじゃないんだけど、あんた何かしたの?」

ルカ「下手に生前の田中摩美々を思い出させちまった」

冬優子「……はぁ、緋田美琴とあんたがコンビ解消した理由がよくわかるわ」

ルカ「は、はぁ?! お前、適当なこと言ってんじゃねえぞ!」

冬優子「手順をすっ飛ばしすぎなのよ、はじめっから本題で入っていいわけないでしょ。特に三峰結華みたいな面倒なタイプはね」

ルカ「おいおい、面倒なタイプって随分な物言いだな」

冬優子「あら、違った?」


本人がいないからってずけずけと物を言う。
本当、猫をかぶっていた時と比べるとまるで別人だ。


冬優子「あの子は田中摩美々にも言ってたけど、自分の心を打ち明けるのが苦手なタイプなのよ。それこそ自分でも上手く言語化できないんじゃないかしら」

(……どっかで聞いたような話だな)


視線をそらし、静かに心中で自嘲した。

388 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 00:06:06.08 ID:cC0CFlEJ0

冬優子「自分の今感じてる不安を、恐怖を、仲間に打ち明けられたらいい。そんなことは自分でも分かり切ってる……でも、それには大きな大きな壁がある」

冬優子「ああいう女は、そういうタイプよ」

(……ああ、そういうことか)


こいつは、何も同情で口にしているんじゃない。
出会ってから、この島に来るまでずっと本当の自分を隠し、偽ってきたこいつだからこそ理解できる領域における、【同調】で言葉を口にしている。
私の部屋を訪ねてきた理由もそれで合点がいった。
意地や沽券なんてくだらないもので本音を隠し続けてきた私が、今や美琴と再び肩を並べている。
黛冬優子の論点でいえば、私を協力者に据えることは確かに道理にかなっている。


冬優子「三峰結華が超えるべき壁、あんたなら分かんでしょ」


その壁は、千雪が超えさせてくれた壁。
私たちが大人ではなく、子どもであるということを教えてくれたからこそ超えられた壁。
それと同じことを、あいつにしてやれと黛冬優子は言う。

389 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 00:07:14.92 ID:cC0CFlEJ0

ルカ「……簡単に言ってくれんな」

冬優子「大丈夫、ふゆが保証する。あんたはできるって」

ルカ「ハッ、無責任なこった」

冬優子「あら、ふゆが今こうやってふゆとして話してる責任の一端、あんたも担ってるはずでしょ? あんたが裁判でふゆの嘘を糾弾したからふゆは素を曝け出さざるを得なかったの忘れた?」

ルカ「……最終的に問い詰めてたのは能天気女だ」

冬優子「まあ、それはそうだけど……ふゆはあんたに協力してほしいの、それじゃ不満?」


随分と横柄なやつを目覚めさせてしまったものだ。
どうしてこうも283の連中は強引なやつばっかりなのか。
こんなところに入って平気な顔をしている美琴のことがわからなくなりそうだ。
……でも、この島の暮らしという異常事態においては、これくらいがちょうどいいのかもしれないけどな。



ルカ「……最終的には私が生き残るためだからな」

冬優子「上等。利用させてもらうわよ」



失意の夜に交わされた密約、何とも奇妙な関係が始まった。

390 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 00:09:02.59 ID:cC0CFlEJ0

というわけで今回はここまで。
色々とフラグが立った感じがありますね。
次回更新は本日3/3(木)、また10時前後で考えています。
次からは自由行動に入ります。
それではお疲れさまでした、また暫くよろしくお願いいたします。
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/03(木) 00:09:48.28 ID:sTW8kTND0
お疲れ様でした
次回も楽しみです
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/03/03(木) 00:17:30.80 ID:ysy8bXIg0
>>1乙!
今危なそうなのは夏葉と三峰って感じかな
夏葉は被害者で三峰はどっちかっていうとクロになりそう・・・
393 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 22:04:14.35 ID:cC0CFlEJ0
____
______
________

=========
≪island life:day 12≫
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【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう〜!』


昨日の夜は予想外な来客があったせいか、なんだか眠りが浅かった。
異物感が一日経ってもぬぐえていないんだろう、
妙に気が立ち、起床までに何度か目を覚ました。
その度に無理やりに寝付こうとしたのだが、いずれも長く続かない。
睡眠不足に寝起き早々あくびを打った。

さて、今日からはメガネ女の再起のために黛冬優子との協力が始まる。
千雪の命令を守るため、向き合わねばならない難題中の難題だったがゆえに、協力関係をこぎつけたことはこちらとしても幾分か助かる。
やつらの間に立ち込める漠然とした不安感を切り開く糸口になってくれそうだ。
ただ、あいつの物言いは少しばかりこっちの癇に障るけどな。

別段状況が好転したわけでもないが、私はそんなのんきなことを考えながらレストランへと向かった。
394 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 22:05:55.38 ID:cC0CFlEJ0
-------------------------------------------------
【ホテル レストラン】

レストランには既に大方の人間が集まっていたが、やはりあいつの姿だけは見えていなかった。


恋鐘「結華は今日もちょっと調子が悪かやけん、この会には参加できんらしいたい……食事は後でうちが運んでいくから、そいは気にせんとって!」

智代子「やっぱり結華ちゃん、相当堪えてるみたいだね……」


長崎女の報告を聞いて、黛冬優子はしきりにこちらに視線を送ってきた。
わかってるっての。こっちも頷いて合図を送る。


愛依「ノクチルの二人はずっと来てくれてないし、一人でも減っちゃうとやっぱ寂しいね……」

果穂「はい……結華さんにも早く元気になってほしいです……!」

あさひ「それならみんなで応援しに行くっすよ! わたし、この前スーパーで面白いもの___」

冬優子「はーいはい、後で愛依が見てくれるってー」


中学生が口を開いた瞬間に小金持ちが警戒を露わにした。
流石の黛冬優子、下手に刺激をしないように、そこのフォローは手早い。
395 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 22:07:16.53 ID:cC0CFlEJ0

智代子「でも、実際どうしよっか。結華ちゃんナシはやっぱり寂しいよ」

夏葉「ずっとこのままというわけにいかないのも確かだけど……下手に干渉すべきじゃないのは確かよね」

(うっ……)


まるで自分のことを名指しされているかのように感じて、少しばかり胸が痛い。


美琴「彼女のことは彼女のこと、自分自身で克服するしかないんじゃない?」

ルカ「……まあ、それはそうだけどな」

果穂「はい! それならお手紙を書くのがいいと思います!」

夏葉「手紙……? 果穂、詳しく聞いてもいいかしら」

果穂「えっと、前に国語の時間のお話で読んだんですけど、カエルの友だち二人がけんかをしちゃうお話で……おたがいになか直りしたいのに、なかなかすなおに言えないから、お手紙をかいたんです」

果穂「お手紙だったら、直せつ顔を合わせなくても思いが伝えられるので、話す側も聞く側も、気持ちがちょっと楽になるかなって思いました!」

智代子「それ、すごくいいアイデアだよ果穂! 直接お邪魔しちゃうと負担になっちゃうかもしれないけど、手紙だったら喜んでくれるかも!」

(手紙、か……)


存外いい案が出たな、と感嘆していたが黛冬優子の反応はそうではなかった。
胸の辺りを抑えて、口元には緊張すら漂っていた。
私はそれとなく近づいて、その真意を問う。
396 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 22:08:58.70 ID:cC0CFlEJ0
ルカ「……おい、どうした。何かまずいのかよ」

冬優子「……別にダメってわけじゃないけど……自分がへこんでるからって、あんな小さい子にまで気を遣った手紙を書かせちゃって、受け取った側はどう思うかしら?」

ルカ「……別に、素直に受け取ればいいんじゃねーのか?」

冬優子「……はぁ、分かんない? 『自分が迷惑かけてるんだ―』からはじまる自己嫌悪。ただでさえふさぎ込んでるんだから、ドツボにハマるときついわよ」

ルカ「おいおい、それじゃどうしろってんだよ。手紙をやめさせろってか」

冬優子「そんなことできるわけないじゃない、逆にあの子を悲しませることになるわ」

ルカ「……詰んでんじゃねーか」

冬優子「早いとこ荒療治が必要ね」


それは私に向けた返事というより、自分自身で確かめるための言葉だった。
自分の口から出た言葉を、その場で読み返すようにして、その手を顎先にあてた。
私に対する口ぶりこそ荒々しいが、こいつの思い悩んでいる様子は真剣そのものだ。
メガネ女を再起させることに対する熱意は本物らしい。
397 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 22:10:33.47 ID:cC0CFlEJ0
だが、それを見ていると少しばかりの疑問もわいてくるというもの。


ルカ「……なんでユニットのメンバーでもないお前がそうまでして気にかけんだよ」


同じプロダクションの仲間だ、という理由だけではないように思った。
ユニットでもない相手のことに普通首をうんうん捻ってまで時間を当てるだろうか。
こいつには、それだけでない他の理由があるはずだ。
私が確信の下たずねると、なんだか返答に詰まりつつ、あいまいな答えを返した。


冬優子「それは……その……同族だからよ」

ルカ「ど、同族……?」


同族、という言葉の意味は測りかねたが、それ以上の追及は断るという様子で黛冬優子は離れて行ってしまった。
その反応はどこか照れくささを滲ませているようにも思え、ますますあいつのことがわからなくなった。


ルカ「……はぁ」


本当にあいつと協力して、なんとかなるのだろうか。
398 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 22:12:18.82 ID:cC0CFlEJ0
-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

メガネ女を引きずり出す、そうは決めたもののどうもやりづらい。
千雪が私にしたような強行策はかえって逆効果、小学生の手紙のような歩み寄りも追い詰めてしまう可能性がある。
一筋縄ではいかないその歯がゆさに思わずため息が出る。

「……そう考えると、私はまだ単純な方なのかもな」

部屋の水槽を忙しなく動くヤドカリを指でつついて、言葉を零した。

【自由行動開始】

-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…107枚】
【現在の希望のカケラ…24個】

1.交流する【人物指定安価】※透、雛菜を除く
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/03(木) 22:12:56.81 ID:sTW8kTND0
夏葉
400 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 22:20:52.80 ID:cC0CFlEJ0
1 夏葉選択

【第1の島 ホテル 夏葉の部屋】


時間をつぶしに島をぶらつくかと部屋を出たところで、箱を大事そうに抱えて歩く小金持ちの姿が目に入る。
何やらガチャガチャと機械同士がぶつかりあうような音、近づいてみるとその箱の中には例のドローンが詰め込まれていた。


ルカ「お前、これ……」

夏葉「ええ、昨日の探索で見つかった危険因子よ。……念には念を、私の目の届くところで管理しておきたいの」

ルカ「んなこと、そういえば言ってたな。……重たくねーか?」

夏葉「ふふっ、ご心配には及ばないわ。それなりに自分の体の鍛え方には自信があるのよ?」


部屋にドローンを持ち込むところにたまたま出くわし、別に手伝うでもないがそのまま流れで時間つぶしに一緒に過ごすことになった。
……そういや、こいつと過ごしたことってそんなにないな。カロリーを使いそうな相手だが、大丈夫か……?

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ココナッツジュース】
【ジャバの天然塩】
【ひまわりの種】
【エプロンドレス】
【新品のサラシ】
【オスシリンダー】
【メスシリンダー】
【トイカメラ】
【ドライビングニトロ】
【蒔絵竹刀】
【絶対音叉】
【七支刀】
【バール】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/03(木) 22:22:08.67 ID:sTW8kTND0
ドライビングニトロ
402 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 22:33:21.10 ID:cC0CFlEJ0
【ドライビングニトロを渡した……】


夏葉「こ、これは何!? ルカ!?」

ルカ「うおっ……急にでけー声出すなよ……なんか、数十年前にはやったガキのおもちゃらしいぞ。車のシュミレータみたいなことができる……まあ、ごっこマシーンだな」

夏葉「ルカ、あなた素晴らしいわ! 私が車好きと知っていたうえでのプレゼントの選択……センスが光っているわね!」

ルカ「いや、知らねーけど……」

夏葉「ふふっ、有栖川の名に懸けてこの車も乗りこなして見せるわよ!」

(妙に気に入られてしまった……)


【PERFECT COMMUNICATION】

【親愛度がいつもより多めに上昇します!】

-------------------------------------------------


ルカ「はぁ……29……はぁ……30……」

(お、おかしい……なんで……なんで私はこいつの部屋で、腕立てさせられてんだ……?!)


こいつと過ごすことにしてから、ものの数分と経っていないはずだ。
それなのに私は苦悶の表情で床とにらめっこしながら腕をプルプルと振るわせながら息を荒げていた。
そのすぐ横で、ストップウォッチ片手に私を見つめる小金持ち。
カウントが一区切りしたところで、私にタオル片手に寄り添った。


夏葉「お疲れさま、流石ルカ……私の見込んだ通り、よく鍛えられているのね!」

ルカ「あ? お、おう……」

夏葉「痩身ではあるものの、芯がしっかりとしていてぶれていない。それでいてパフォーマンスの迫力と勢いは一級品。やはりインナーマッスルが育っていたのね。普段からトレーニングは欠かさないのかしら?」

ルカ「いや……別になんもしてねーよ」


本当に私は何も特別なことはしていない。
日々の『斑鳩ルカ』としてのパフォーマンスの練習、それと……あいつの隣に立つための特訓だけだ。
あいつの水準が余りにも高いので、その特訓の副産物で体が育っていたのだろうと自分では納得した。
ただ、それを別のやつに語るほど私はおしゃべりな人間でもない。それ以上は口を噤んだ。


ルカ「お前、そんなに人の身体に興味あるのか?」

夏葉「ええ、もちろんよ。人間の身体はその個人個人によって違う。もちろん生まれ育ったものもあるけれど、後天的に培われた筋肉や脂肪などはその人の人生を形作る重要な要素でもある。それがよく磨き上げられているということは、それだけその人の歩んできた人生がひたむきなものだったことの証左」

夏葉「ルカ、隠したところで私にはわかるわ。あなたがどれだけストイックな人生を過ごしてきたかということはね」

(……こいつ)


1.お前って美琴と相性よさそうだよな
2.その言葉はそっくりそのままお前に返す
3.自由安価

↓1
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/03/03(木) 22:36:11.36 ID:ysy8bXIg0
1
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/03(木) 22:39:47.51 ID:sTW8kTND0
夏葉、美琴、千雪のお姉さん組が一緒にレッスンするコミュ見たい
405 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 22:47:08.43 ID:cC0CFlEJ0
1 選択

ルカ「お前って、美琴と相性よさそうだよな」

夏葉「あら、あなたの目にはそう映ったのね」

ルカ「なんつーか、お前の話を聞いてるとあいつが被んだよ」


美琴とコンビを組んでいた頃、あいつは私の生活にも口出しをしてくることがあった。
突き詰めれば結局『私の隣に立つ人間がそんなだらしのない真似をすんな』の文脈ではあったものの、あいつのストイックさが滲み出ているような気がして、
そのアドバイスが妙にこそばゆかったのを覚えている。
今のこいつから感じているのはそれに近しい感覚だ。


ルカ「ストイックなところっつーか、時にこっちを見透かしたようなことを言ってくるとこっつーか……まあお前は美琴より数倍暑苦しいけどな」

夏葉「そうね……美琴とは通じるところを私自身感じる部分もあるわ。最近ではレッスンで一緒になることも多いからよく私から美琴に指導を乞うているのよ」

ルカ「あーそうですか……」

(なるほどな……美琴のやつが前よりも妙に人間くさいのはこいつを筆頭とした周囲の連中の影響があってか……)

夏葉「美琴は私よりもアイドルとしての歴も長い……体の洗練され具合も事務所の中では別格ね」

ルカ「へぇ……そうなのか」

夏葉「一切無駄がないんだもの。もはや芸術品としての領域……私の目指すところでもあるわ」

ルカ「ハッ、お前まで美琴と同じになったら事務所なのか美術館なのかわかんなくなっちまうな」

夏葉「ふふっ、ルカも冗談を言うのね」


美琴の283での在り方……少しだけ垣間見えたような気がする。
それに、なんだか事務所の他のやつに評価をされているってのは私としても鼻が高い。

また、話くらい聞いてやってもいいかもな。

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【有栖川夏葉の親愛度レベル…2.0】

【希望のカケラを入手しました!】

【現在の希望のカケラの数…25個】
406 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 22:50:51.80 ID:cC0CFlEJ0
-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】


「はぁ……美琴といい、小金持ちといい付き合わされる人間の身にもなってみろってんだ」


すっかり汗だくになってしまってシャツも体にべったりとくっついていて、帰るなり速攻でシャワーを浴びた。
朝飯を食って間もないってのに、どこからあの種族の人間は動くだけの活力が湧いてくるんだ?
いや、朝食をとってすぐだから……か。
随分と稼働効率がいい身体をしているもんだなと息をつく。

既に体は若干疲れているが、流石に寝るにはまだ早い。
それに、今夜はかなり神経を使うであろう例の『説得』も待っている。


「寝てる場合じゃねーよな……」


【自由行動開始】


-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…107枚】
【現在の希望のカケラ…25個】

1.交流する【人物指定安価】※透、雛菜を除く
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/03(木) 22:56:36.97 ID:sTW8kTND0
ふゆ
408 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 23:03:22.21 ID:cC0CFlEJ0
1 冬優子選択

【第1の島 砂浜】


冬優子「……何よ、このガラクタ……こんなのダメに決まってんじゃない……」ブツブツ

ルカ「……何やってんだ、お前」

冬優子「ひゃうん!? ……何よ、あんたか……びっくりさせないでよ」

ルカ「いや、知らねーけど……何をこんなところでぶつくさやってんだよ」

冬優子「別に、あんたに関係ないでしょ」

ルカ「いや今夜お前と一緒にカチコミかけんだろーが……」


とはいえ大体こいつが何をしようとしてたかは察しが付く。
とっさに隠したせいで不格好になっているプレゼントの山。
出来るだけ触れられないようにしているこいつの態度……

これは多分、メガネ女に渡す物でも見繕ってたんだろう。


ルカ「……はぁ、まあいいや。今晩の作戦会議でもするか?」

冬優子「え……え、ええ……そうね、そうしましょうか」


……それに触れるほど、野暮でもない。

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ココナッツジュース】
【ジャバの天然塩】
【ひまわりの種】
【エプロンドレス】
【新品のサラシ】
【オスシリンダー】
【メスシリンダー】
【トイカメラ】
【蒔絵竹刀】
【絶対音叉】
【七支刀】
【バール】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/03(木) 23:09:04.21 ID:bIuzdG8eO
ココナッツジュース
410 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 23:18:09.15 ID:cC0CFlEJ0
【ココナッツジュースを渡した……】

冬優子「へぇ……あんた案外気が利くのね、いいチョイスよ」

ルカ「あ? ただこっちはあまりもん渡しただけなんだけどな」

冬優子「じゃあ、いいこと教えたげるわ。いい? ココナッツはカリウムが豊富に含まれてるの。このカリウムはデトックスにも効果的で、むくみの解消にも役立つわけ」

冬優子「あんたが意図せず渡したこの『あまりもん』は美容グルメとしては高得点。いいプレゼントだったわよ」

ルカ「なんでそんな偉そうなんだよ……」

冬優子「せいぜい今後の役に立てなさい、そんなんじゃ乙女心はつかめないわよ」

ルカ「私も女だろが……!!」

【PERFECT COMMUNICATION】

【親愛度がいつもより多めに上昇します!】

-------------------------------------------------


ルカ「さて、この後メガネ女を引きずり出す例の計画についてなんだが……」

冬優子「……」

ルカ「実際、どうなんだ。なにをすればあいつに届くんだ?」


これは私自身の義務にも関係する話。千雪が生前下した命令、それの遂行のためには必要不可欠なタスク。
だが、私は一度完全に下手を打っている。見よう見まねで千雪をまねたところで、私にはその資格がなかった。
踏み越えてしまった一線は、いわゆるタブーだったらしく、強い拒絶の前に私は言葉を失って、何一つとしてしてやれなかった。
そんな私を仲間に抱き込んで、黛冬優子は。


冬優子「さあね……どうしたもんかしら、ったく」

ルカ「の、ノープランなのか!?」

冬優子「当たり前でしょ……ふゆも流石に仲間と死別した相手を励ますなんて経験したことないんだから。その場その場でどうにかするしかないでしょ」

ルカ「よくお前そんなで私を誘ったな……」

冬優子「ノープランなのはあくまで説得の段階に移っての話。あんたを仲間にしたのは明確な意図があっての事よ」

冬優子「……前も言ったけど、あんたは本音を口に出す辛さをこの島で一番よく知ってる人間。ふゆと、三峰結華とおんなじでね」


そういえば今朝がたこいつはメガネ女を指して同族と言っていたか。
その真意はいまだ測りかねているが、その一端は言葉の節に見て取れた。


冬優子「ま、あいつが本音を出せるように……ふゆたちも本音をぶつけてやりましょ、それが一番でしょ」

ルカ「適当だな……」

冬優子「ちょうどよく合うほうの、『適当』ね」


1.どっからそんな自信がわいてくんだ
2.本当にできんのか……?
3.自由安価

↓1
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/03(木) 23:24:21.50 ID:bIuzdG8eO
1
412 :一旦離席します ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 23:34:59.49 ID:cC0CFlEJ0
1 選択


ルカ「……ったく、どこからそんな自信がわいてくんだよ。説得の文言の一つも用意しないでよ」

冬優子「さあね、ふゆも不思議なもんだわ。まあ、アドリブには職業柄慣れっこだからかしらね」

ルカ「アドリブ?」

冬優子「ええ、どっかの誰かさんがステージ上でよく無茶をするから。自然とアドリブもうまくなるわ」

(……あいつのことか)

冬優子「……それにね、飾り立てた言葉なんかよりももっと届く言葉があるってことふゆはよく知ってんのよ」

冬優子「等身大の心からの言葉……なんて言ったら綺麗ごとかもしれないけど、ふゆは何度もそれに救われてきた。お節介な直情野郎の言葉でね」

ルカ「……?」

冬優子「……コホン。まあ、いい。ノープランだとは言ったけど、あんたがあの子に伝えたい言葉……想い。それぐらいはなんとなく考えておいて」

冬優子「今のあの子はそう簡単には響かない……その覚悟もしておいてちょうだいね」

ルカ「……おう」


……どこまでも不器用なもんだ。
これだけ私相手に余裕ぶった態度をとっているが、その震えは隠せていない。
メガネ女の感情に正面からぶつかっていくという、どうなるかの予測もつかない、前例すらない挑戦。
それを前にして不安を隠しきることはできなかった。

でも、その虚勢を咎める気も毛頭ない。
こいつの気持ちは痛いほどよくわかる。美琴の前に立つときにも、ずっと同じ衝動を感じていたのが私だ。

……今夜は、長い夜になりそうだな。

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【親愛度が上昇しました!】

【黛冬優子の親愛度レベル…2.5】

【希望のカケラを入手しました!】

【現在の希望のカケラの数…26個】
413 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 23:43:19.47 ID:cC0CFlEJ0
-------------------------------------------------

【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『ただいま、午後十時になりました』

『波の音を聞きながら、ゆったりと穏やかにおやすみくださいね』

『ではでは、いい夢を。グッナイ…』


夜も深まり、一息ついて床につこうかという時間帯。
だが、私は寝るつもりなど毛頭ない。今夜は黛冬優子とメガネ女の元で事を起こす予定なのだ。
スーパーから箱で持ってきたエナドリを飲んで眠気をぶっ飛ばして、ベッドの上で膝を貧乏ゆすりさせながらその時を待っていた。

ピンポーン

こちらはなんだかずっと落ち着かず、アナウンスの前から待機していた。待ちかねた来訪といったところですぐに扉を開放した。

ガチャ


ルカ「……よう」

冬優子「あら、早いわね。そんなにふゆが来るのが待ち遠しかった?」

ルカ「バカ言ってんじゃねえよ、こっちは結構前からスタンバってたんだよ。てめェもさっさと来い」

冬優子「あんたも結構短気なタチなのね。短気結構、事をなすにはせっかちぐらいでちょうどいいわ」

ルカ「……ハッ」


特に黛冬優子は悪びれる様子もなく、私の前で手をひらひらと振ってついてくるように促した。
数日前までの猫をかぶっていた頃を思うと、本当にこの面の皮の厚さは信じ難いものがある。
414 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 23:45:08.64 ID:cC0CFlEJ0
-------------------------------------------------

【ホテル 結華のコテージ前】


ルカ「……一体何分そうしてるつもりなんだよ」


黛冬優子に連れられてメガネ女のコテージ前まで来て、幾数分。未だに私たちはメガネ女の顔を拝むことができずにいた。


冬優子「う、うっさいわね! ちょっと待ちなさいよ、こっちにも準備ってもんがあんでしょうが!」


……こいつがインターホンを押すのを妙に躊躇うせいで。


ルカ「私の部屋のインターホン押す時にも毎回そんな時間かけてたのか?」

冬優子「そんなわけないじゃない……誰があんたなんかに緊張すんのよ」

ルカ「あんたなんか、っつー物言いはこの際目をつぶるとして。お前緊張してんのか?」

冬優子「は、はぁ?! 誰が緊張なんか……」

ルカ「いや、今自分で言ったんだろ……」

415 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 23:45:46.69 ID:cC0CFlEJ0

確かに言われてみれば口元は変に吊り上がっているし、肩も妙に強張って力が入っている様子だ。
ずっと強い口調で話す女だが、心臓は人並みらしい。

こいつが感じている緊張というのも私には理解できた。
今からこいつがやろうとしているのは、自分の殻に閉じこもってしまったやつを無理やり引き摺り出すための交渉。
そいつが自分でも無自覚のうちに仕舞い込んでしまった感情をほじくり返すために私たちはここにいる。
ずっと本音を隠してきた二人が、他の人間の本音を聞き出そうと言うのだ。
そりゃ緊張もするし不安にもなる。

だから、私は黛冬優子を責め立てはしなかった。
ボタンの前で指を止めてしまうのも、ため息を何度も繰り返しては顔を上げて数秒後にまた下げるのも、その逡巡には理解ができたから。


ルカ「……」






ピンポーン

冬優子「えっ、ちょっ、あんた?!」


まあ、それとは別にインターホンは押すが。
416 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 23:47:51.70 ID:cC0CFlEJ0

ルカ「いつまでもうだうだ言ってても仕方ねーだろ、ほらさっさと腹括れ」

冬優子「にしても方法ってもんが……」


「「……」」


冬優子「……反応ないわね」

ルカ「まあ、これも想定の内だろ。他の連中との交流を拒んで自分の部屋に閉じてるやつが一発で部屋に入れてくれるんだったら苦労しねー」


ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン


冬優子「あ、あんた……こういうとこは見た目通りね」

ルカ「荒療治っつったのはそっちだろ」


ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン


冬優子「……出ないわね」

ルカ「心配すんな、出す」


ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピ
417 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 23:48:48.06 ID:cC0CFlEJ0




ガチャ



結華「もうっ何!? 誰……!?」


ルカ「おっ、出た出た」

結華「ル、ルカルカ……? それに、ふゆゆ……!?」

冬優子「……こんばんは、元気そうね」


私のインターホン鬼の連打にとうとう痺れを切らしたのかメガネ女が半ばキレ気味に姿を現した。
だが、私と黛冬優子の姿を見てすぐにその表情は曇った。
招かれざる客、ということらしい。
418 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 23:49:50.18 ID:cC0CFlEJ0

冬優子「……ポストの、見た?」

結華「ポスト……?」


どうやら小学生たちの書いた手紙は読むどころか存在にも気づいていなかったようだ。
ポストがパンパンになっているのを見て驚いているあたり、どうやら本当にこのコテージから出ずに閉じこもっているらしい。


結華「……あはは、ホント心配かけちゃってるよね。何やってんだか」

冬優子「……そう思うなら顔の一つくらい見せなさいよ」

結華「……ごめんね、ふゆゆ」

冬優子「ふゆに謝られても困る」

結華「……えっと」


どこか緊迫した空気が張り詰めて、思わず唾を一つ呑んだ。
荒療治、とは言ったが別に𠮟責しに来たわけではないはずだ。
だが、実際顔を突き合わせてみると黛冬優子はメガネ女の様子に多少の苛立ちを感じずにはいられないらしい。
明らかに語気の強い言い方に、思わず仲裁に入る。


ルカ「待て待て、もうちょっと順序ってのがあるだろ。メガネ女がビビってんじゃねーか」

冬優子「……! そ、そうね」
419 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 23:50:57.96 ID:cC0CFlEJ0

結華「……」

ルカ「……その、せっかくだ。一応菓子ぐらいは持ってきたから中で食わせてくれよ」

結華「……」


メガネ女は答えは返さず、後方の自分の部屋を覗いた。
部屋を全く出ない生活を送っていたんだ、その内部の惨状はなんとなく察しが付く。
……私も、美琴と解散した当初はそうだった。


ルカ「別に散らかってても気にしねーから」

結華「……わかった、ちょっとだけ片付けるから待ってて」

ルカ「……扉は開けたまんまな」

結華「う、うん……」


片付けの様子は覗かないと約束して、扉を手で開けたままにした。


結華「……入って」


メガネ女が私たちを部屋に入れたのは、その数分後だった。
420 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 23:53:00.72 ID:cC0CFlEJ0
-------------------------------------------------

【結華のコテージ】

ルカ「……このポテトチップス、味付けはくどいけど案外いけんだぜ」


部屋には炭火焼ステーキ味のポテトチップスの香ばしいにおいが充満する。
酒なんかが欲しくなる味付けだが、一応二人はまだ未成年だ、今回はお預け。
つくづく面倒くさい。酒を使うことができたなら、もっと話も円滑に進んでいただろうにと思う。
酒の力でうっかり口を滑らせてしまう効用は私が実証済み、アルコールが進めばメガネ女の深く閉ざした心を開け放つその心ばかりの助けにもなっただろう。


冬優子「……ほんとね、いかにも体に悪いもの食べてますって感じの味だけど」

ルカ「そのジャンキーさがいいんだろ! ……美琴だったら一生食わないだろうけど」

結華「……」


メガネ女がまったく口を開かないので、私と黛冬優子がポテトチップスをつつくだけの無為な時間が過ぎていく。
さっきも言った通り、このポテトチップスの味付けは過ぎるほどにくどい。私と黛冬優子も、じきにその袋に伸ばす手は止まりつつあった。
お菓子がなくなると、この部屋に居座る名分もなくなってしまう。



……そろそろ、踏み込まないといけないんだろう。

421 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 23:55:18.43 ID:cC0CFlEJ0

ルカ「……なあ、メガネ女。この前は悪かったな」

結華「……この前?」

ルカ「……ライブハウスで、お前の傷も癒えてないってのに田中摩美々のことをほじくり返すような真似して」

結華「……うん、気にしないで」

(『気にしないで』ってなぁ……)


人が変わったようなしおらしさに私も二の口が継げない。
謝りはしたのだが、メガネ女自身が田中摩美々の死を直視し、受け入れなければきっとこの状態は進展することはない。
さて、どうしたものか。千雪が私にやったように小学生と中学生に会わせてみる?
いや、黛冬優子が手紙を案じたように、きっとこれも逆効果なんだろう。
そもそも他人からの働きかけを受けること自体が、こいつにとっては負担になる。


結華「あ、あのさ……二人が来てくれたのは嬉しい、けど……これは自分で向き合わなきゃいけない問題だから」

ルカ「それはそうかもしれねーけど……お前は一人で向き合えんのか?」

結華「……」

ルカ「私には、お前がそんなに強いようには____」


そこで、黛冬優子が私の前に左手を出して制した。
どうやら私はまた危険な一歩を踏み出しかけていたらしい。
三峰結華の地雷原においてはこいつの方がよく見えているようだ。
私は出かけた言葉を慌てて戻して、一歩引くことにした。

422 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 23:57:23.00 ID:cC0CFlEJ0

冬優子「……あんたね、いつまでそうやってるつもりなのよ」


先陣に立った黛冬優子はため息交じりにそう言い放った。
組んだ左腕を掴む右手、服には皺が寄った。


冬優子「自分の殻に閉じこもってれば傷つくことがないとでも思ってんのかもしんないけどね、あんたのその刺々しい殻のせいで傷ついてる人間だっていんのよ」

冬優子「月岡恋鐘はあんたが顔を見せなくなってからも隣にあんたが座る日を待ち続けて、料理だってあんたの大好物ばっかり作ってる。今あんたがやってるのは、その大事なお仲間に対する裏切りよ」


あえて黛冬優子は『裏切り』という言葉を使った。
それはメガネ女自身が今直面している信じがたい現実を象徴するような言葉だ。その言葉にはぴくりと眉を動かして、明確な反応を示した。


結華「裏切りって……ふゆゆはアンティーカがどんなユニットだったのかも分かってないでしょ、外部の人間が勝手に推し量って非難なんかしてこないでよ……!」

冬優子「そうね、一個もわかんないわ」



冬優子「____あの幽谷霧子がどうして人質をとったり、大崎甘奈を殺害したりしたのかなんかもふゆにはサッパリ」



423 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 23:58:22.70 ID:cC0CFlEJ0

更に黛冬優子は詰めていく手を止めなかった。
ここまでくると私ももう言葉を挟み込むことは諦めていた、邪魔をしてはいけないと思った。
黛冬優子はこいつの地雷を見えたうえで、それに踏み込む覚悟を決めた。
そうしないと、言葉が届かない。捨て身の覚悟で踏み込んで、双方が共倒れになろうとも言葉を届けないといけない、そう判断したらしい。


結華「……ちょっと、それは流石にないでしょ」


メガネ女も黛冬優子の言葉には流石に不快感をあらわにした。
だが、その反応は織り込み済みだ。



冬優子「でも、三峰結華。あんたならそれが分かってあげられるんじゃないの? 今わかんないからって何なの、あんたは幽谷霧子の何を見てきたわけ?」



424 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 23:59:35.84 ID:cC0CFlEJ0

結華「は、はぁ……!?」

冬優子「そりゃ人なんだもの、知らない一面、理解できない一面だってあるでしょうよ。でも、そこから向き合うのを逃げてちゃ、一生あんたは一人なのよ」

結華「……!」

冬優子「あんたがいっつも周りのために自分を押し殺したり、場を回すために苦心したりしてんのはふゆも知ってる。てか、見りゃわかんのよそんなこと」

冬優子「でも、それってあんたが他の人の気持ちや考えに人一倍敏感なことの証拠でしょ? あんたは他の人のことを理解して、歩もうとすることができる、それだけの強さを持った人間だってことなのよ」


それは黛冬優子でなければ言えない、言ったところで意味のない言葉だった。
メガネ女が常日頃から背負い込んでいる役目とその苦労、それは近くにいる者が気取ってはならぬものであり、他の人間から指摘するのも望ましくないもの。同じ苦労を背負うものでなければ、その言葉に裏打ちはない。
他の人間のために自分の考えや感情をベールに包みこんできた黛冬優子は、あの裁判ですべてを白日の下に晒した。
そして、三峰結華もそのありのままを自分の目で見た。

黛冬優子の言っていた『同族』、その言葉の意味を私はここでようやくつかんだのだ。

425 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/04(金) 00:01:11.15 ID:6V+DEOK70




____そして、黛冬優子はもう一歩踏み出した。




426 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/04(金) 00:02:26.16 ID:6V+DEOK70

冬優子「だから、あんたも信じなさい。あんたがそうしてるように、他の連中だってあんたの気持ちを分かろうとしてる、あんたに歩み寄ろうとしてんだから」


その一歩は軽やかで、まるで羽が落ちてきたように、ふんわりとした着地。


冬優子「……そのことに自信が持てないってんなら、ふゆが第一号になるから」


きっとこの一歩も彼女の地雷の上にあったはずだ、それでも……爆発は起きなかった。


冬優子「事なかれ主義の果てに『ふゆ』を演じ続けることになったふゆなら、あんたの理解者第一号にもうってつけなんじゃない?」


すっかり彼女の地雷は湿気てしまったようだ。

427 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/04(金) 00:03:37.45 ID:6V+DEOK70

結華「……ぷっ、あはは!」

冬優子「ちょっと、何笑ってんのよ」

結華「だって、三峰の理解者第一号なんて……Pたんみたいなこと言うから」

冬優子「……はぁ? あいつ、こんなくっさいこと言ってたわけ?」

結華「まあでも、理解者第一号は流石にもううちの家族が取ってるからちょっとふゆゆは遅いけどね!」

冬優子「あら、それじゃあ……第何号になるのかしら?」

結華「六……か七ぐらい?」

冬優子「微妙な数字ね」


指を折って数えると、あいつの言う『家族』がなんなのかはなんとなく察しがついた。
向き合うのが辛いだのなんだの言っていた割に、随分と自信満々じゃねえか。
……いやきっと、答えはずっと決まってはいたんだろうな。
ただ、それを解答として決めてしまうことが怖かった。そういうことなんだ。
428 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/04(金) 00:04:57.73 ID:6V+DEOK70

結華「はぁ、天下のアイドル黛冬優子にここまで譲歩されたんだったら、三峰もそろそろ動かなきゃだなー」

冬優子「そうよ、ふゆがここまで譲歩するなんてそうそうないんだから」

冬優子「ほら、明日から一緒に頑張ろう? ゆいにゃん♡」

結華「はわわ……こんなレス貰っちゃって、ファンとしては嬉しくも畏れ多い……」

冬優子「普通だったらCD何枚積んでもやったげないんだから、家宝にでもしなさい」

結華「じゃあ家宝用に一枚、撮ってもいい? ほら、ルカルカ撮って撮って!」

ルカ「あ? おう……まあ、いいけど……」

ルカ「……はい、チーズ」


笑顔がいけ好かねえ女だと思ってた。
軽妙なトークとその表情の裏には、何か算段が透けて見えるようで、距離を詰めているようでこちら側からは踏み込ませないような圧を感じていた。
それは決して間違ってはいなかったわけだが、いつまでもその色眼鏡のもとにこいつを見るのはどうやら不適切らしい。


カシャ


デジタルカメラのモニターに映ったその笑顔は、裏に何の考えもなく友情を見せびらかすみたいなバカ丸出しの表情だ。

429 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/04(金) 00:06:31.03 ID:6V+DEOK70
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【ホテル 結華のコテージ前】


冬優子「サンキュ、あんたのおかげでなんとかなったわ」

ルカ「私は何もしてねー、ただポテチ持ってっただけだ」

冬優子「そうね、あのポテチもひどいもんだったわ。今でも口に味が残ってる」

ルカ「うっせ、だったら食った分返せ」


三峰結華の説得を無事成功せしめた私たちはコテージ前で労いをかけあっていた。
つくづく283プロの連中は強引すぎるしお節介すぎると思う。千雪にしかり、こいつにしかり、人との距離の取り方ってものをまるで知らない。
ちょっとの間も一人にしてくれないんだから、まるで気が休まらない。


冬優子「……ありがとね、ふゆ一人じゃこうはならなかった。それは本当」

ルカ「あ?」

冬優子「ふゆはあのインターホンを鳴らす勇気もなかったし、ヒートアップしたところを諫めてくれるやつがいなきゃ余計なことを口走ってたと思う」

(余計なことは割と言ってたと思うけど……)
430 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/04(金) 00:07:22.74 ID:6V+DEOK70

冬優子「……そこにいるだけで救われる人もいるってことよ」

ルカ「『救われる』、なんて……話してる相手が私だって分かって口にしてるんだとすれば相当に性格悪いな」

冬優子「あら、ふゆの性格はこの島でもピカイチにいいわよ?」

ルカ「ハッ……いい性格してんな」


勿論私の言う『いい性格』は皮肉だ。
それはこいつもわかってのこと、分かったうえでむしろ機嫌よくしたように高笑いしてみせた。


冬優子「あんた、結構話せんじゃない。見直したわ」

ルカ「ケッ、そんならケッコー」


こうして私と黛冬優子の共同戦線は幕を下ろすこととなった。
戦友たちは背を向けてそれぞれのコテージへと戻っていく。
もうこれで、私たちの関係も終わり。明日からは____
431 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/04(金) 00:08:21.18 ID:6V+DEOK70





冬優子「じゃ、また明日。朝、朝食会で会いましょ……【ルカ】」





432 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/04(金) 00:09:03.25 ID:6V+DEOK70

≪千雪「じゃあルカちゃんには、お友達を作ってもらおうかな」

ルカ「は、はぁ……?」

千雪「283プロのみんなともっと仲良くしましょう!」≫



(……ったく、しゃあねえな)




ルカ「おう、じゃあな……【冬優子】」




____友達同士、ってことらしい。



433 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/04(金) 00:09:47.34 ID:6V+DEOK70

という訳で本日はここまで。
次回更新は3/5(土)の22時ごろからを予定しています。
それではお疲れさまでした、またよろしくお願いします。
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/04(金) 00:18:01.64 ID:jJhX87iTO
乙です!!冬優子可愛かった
435 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 21:58:04.03 ID:/22W6gE+0
____
______
________

=========
≪island life:day 13≫
=========

【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう〜!』


ずっと私たちの前に立ち込めていた不安の薄靄は、少しだけだが晴れて行っているような気がする。
私たち以前に行われていたかもしれない、283プロ連中のコロシアイ、その真偽はいまだわかってはいないし、何の手掛かりもない。
だとしても、それにいつまでも囚われて足踏みするだけの時間は終わりつつある。

昨晩の冬優子との三峰結華の説得もうまくいった。
今日からはあいつも朝食会にまた顔を出すはずだ。
いなくなっていた人間が戻ってくる、それだけで沈んだ気分を取り戻す効用としては大きいものが見込める。
特に、あの長崎女。あいつの煩いまでの声量もきっと戻ってくるだろう。

さ、支度をしたらさっさとレストランに行くか。

436 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 21:59:45.98 ID:/22W6gE+0
-------------------------------------------------

【ホテル レストラン】

レストランにつくと、待っていたのはここ二日顔を見せていなかった三峰結華だった。
あいつは前までと同じように、朝から気軽いしゃべり口で私を出迎え……



……はしなかった。




結華「ル、ルカルカ! ど、どうしよう……大変、大変なんだよ!」

ルカ「は、はぁ……? なんだよ、久々に参加してすぐに……なんか悪いもんでも食べたか?」

結華「う、うん……実はそうなんだよね」

ルカ「マジか……胃腸薬は呑んだのか?」

結華「ってそうじゃなくて! とにかくこっち、来て!」


説明しようにもできないといった感じで三峰結華はもどかしそうにしながら、最終的には私の手を引いてレストランの中に連れ込んだ。
別にレストランの中におかしなところはない。いつも通り、卓と椅子が並んで、その上には朝食も用意されている。
出席しているメンバーの頭数も、三峰結華が参加していることを除けば何も変化はない。



……ただ、何人かの様子は明らかにおかしかった。
437 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:01:09.69 ID:/22W6gE+0

恋鐘「ルカさん、おはようございます!」

私の姿を見るなり、方言の影も形もない標準語で挨拶を私にぶつけてくる長崎女。



夏葉「……なんかもう、食事をするのも面倒ね。誰か口に運んでちょうだい」

まるで溶けるかのように机に突っ伏してやたら怠惰な様子の小金持ち。



愛依「ルカさん、私と一緒に香草茶はいかがでしょうか。朝の爽やかな目覚めにうってつけですの」

頭の悪そうな言い回しから一転、上品が過ぎる言い回しで小指を立てながらティーカップを啜るギャル女。




ルカ「……は?」


理解が、追いつかなかった。
438 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:02:12.45 ID:/22W6gE+0

結華「こがたんとなっちゃんとめいめいが朝から様子がおかしいんだよ〜!」

恋鐘「結華さん、どうしたんですか? そんなに取り乱して……もしかして、お腹が空いていらっしゃるんですか?」

恋鐘「でしたら私が腕によりをかけて中華そばをおつくり致します! こう見えて、結構自信あるんですよ!」

結華「ちゃ、ちゃんぽんじゃない……だと……?!」


夏葉「ふぁあああ……まだ朝早いし寝ててもいいかしら、人間14時間は睡眠をとった方が健康でいられるのよ」

果穂「だ、ダメです夏葉さん! ちゃんと寝るときは自分のコテージで寝てください!」

智代子「そ、それ以前に寝すぎだよ夏葉ちゃん!?」


あさひ「愛依ちゃん、今日のご飯も美味しいっすよ! 食べないっすか?」モッソモッソ

愛依「ふふ、あさひさん口元にソースが着いてますよ。今私のハンカチーフで拭いて差し上げますわね」

冬優子「ハンカチーフって今時おっさんでも言わないわよ……」


まるで地獄のような光景に、思わず頭を抱えた。


美琴「ルカ……これって」

ルカ「わけがわかんねー……な、何が起きてんだよ……!?」
439 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:03:37.73 ID:/22W6gE+0

バンッ!!

変わり果てた連中の様子に戸惑っているのもつかの間。
今度はレストランの扉が乱暴に開かれた。


透「……はぁ……はぁ……」

結華「あ、とおるん!? ど、どったの……そんな焦って!」

ルカ「お、おい……まさか……」

透「ひ、雛菜が……なんか、めっちゃ変」


適当女が抱きかかえるようにしているのはあの能天気女。
だが、こいつの様子の異常さも遠巻きに見てすぐに分かった。
にへらとした表情はどんよりと曇り、どこでもない遠くを見つめてため息を吐く。
けだるげな体にはまるで力がこもっていない。


雛菜「……どうせみんな死ぬんだし、もうどうでもよくないですか〜」


こいつの様子は、いつもと違うとかそういう次元じゃなかった。


結華「た、大変だ! ひななんが一番重症だよ!」

透「いつもは朝から部屋に来るんだけど、今日来なかったから。見に行ったらこれだった」

冬優子「……ったく、何がどうなってんのよ!? この愛依、めっちゃくちゃに気色悪いんだけど!?」


まさに阿鼻叫喚の一言に尽きた。
言動がまるで別物になってしまった仲間に振り回されててんやわんや。
もうこれでは朝食会どころではない。
私と美琴は二人並んで呆然と立ち尽くし、その状況を見つめることしかできなかった。
440 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:04:48.48 ID:/22W6gE+0

と、その時。放課後クライマックスガールズの連中が異様な騒ぎ方をしていた。
どうやら小金持ちが本格的にごね始めたらしく、無理やり二人係で机からひっぺがそうとしはじめたようだ。


夏葉「はぁ……なんだか体がだるいわ、なんか足も痛いし今日はもう帰ってもいい?」

智代子「あ、足が痛いって……小学生がサボる時の常とう句だよ……」

夏葉「果穂、歩けないから私を部屋まで運んでちょうだい」

果穂「こんなにぐでっとした夏葉さん見るのはじめてで……す……!?」

智代子「ど、どうしたの果穂!?」





果穂「夏葉さんの身体、すっごくあついです……!」




441 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:06:18.66 ID:/22W6gE+0

智代子「えっ!? ……ほんとだ、おでこがすごく熱い……熱があるよ!」

ルカ「……!? お、おい、てめェら!」


慌てて他の連中の方を見やった。
放クラから上がった報告を受ける否や、それぞれのユニットですぐに触診による検温が始まった。
額に手を当て、じっと待つ。そしてそのいずれも結果は。


結華「こがたんも発熱してる……しかもとんでもないの!」

冬優子「愛依もダメね……こりゃ相当きてるわ」

透「雛菜もやばいぐらい出てる」


同時多発的に極度の高熱、そして性格がまるで変わり果ててしまう現象が起きた。
これは明らかに……何かが起きている。


ルカ「おい、モノクマ……! てめェが何かやったんだろ……出てこい!」


私が声を上げると、やつは待っていましたと言わんばかりにすぐその姿を現した。
442 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:07:44.98 ID:/22W6gE+0

バビューン!!


モノクマ「はいはい、お呼びですかー!?」

結華「お呼びどころじゃないよ……これ、何が起きてるの?! みんな様子がおかしくなって、熱まで出てるんだよ!?」

モノクマ「おやおや、これはこれは……皆さん大変お辛そうですね」

恋鐘「はい! すごい熱が出ているので、正直立っているのもしんどいです!」

結華「なら座ろっかこがたん!?」

ルカ「おい、このツッコミが追い付かない状況はどういうことなのか説明してもらうぞ」

モノクマ「説明も何もオマエラの予想通りだよ。これはとある病気に集団感染しているからこうなってるんですよ」

美琴「病気に集団感染……でも、これまで誰も病気らしい病気なんか罹患してなかったと思うけど」

モノクマ「そりゃそうですわ、この病気が生まれたのはつい昨晩のこと! とある研究施設からウイルスが流出しちゃいましてね、それがこの島に入り込んじゃったみたいなんです」

愛依「まあ、ウイルスだなんて……私、怖いです……」

冬優子「……あんたはもう感染してんのよ」

443 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:08:52.70 ID:/22W6gE+0





モノクマ「そして、そのウイルスこそが今回の動機……【絶望病】なのです!」





444 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:09:47.41 ID:/22W6gE+0

ルカ「ぜつぼう、びょう……?」

モノクマ「そっ! この島に生息している蚊が媒介する病気でね、感染した人は極度の高熱になって、更には性格も全くの別人になっちゃうって言う病気なんだ!」

あさひ「じゃあみんなはその蚊に刺されちゃったからこうなってるってことっすか?」

モノクマ「そうだね、差し詰め月岡さんは【標準語病】、有栖川さんは【ぐうたら病】、和泉さんは【お嬢様病】そして市川さんは【ネガティブ病】って言ったところかな」

美琴「高熱が出た時に普段よりしおらしくなる人とかいるけど、そういうことなのかな」

ルカ「いや、そんなレベルの変化じゃねーだろ……これは症状の一つだ」

モノクマ「今回はこのパンデミックの状況下でオマエラが耐えられるかどうかを見物しようかなって思って!」

智代子「ね、ねえこの病気って治るんだよね?! それに……感染症ってことは……まだまだ広がる可能性もあるんでしょ? ワクチンとか、特効薬とか……ドラッグストアにあるの?」

モノクマ「え? 言わなかったっけ? この病気はつい昨日生まれたばっかの新病なんだよ?」

445 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:10:52.41 ID:/22W6gE+0



モノクマ「治るわけないじゃん! ワクチンなんかもあるわけないよ〜!」



ルカ「……は?」


それは最悪の宣告だった。
治療法も、対策法も不明な感染症……これまでの遠回しな圧をかけてくる動機とは全くの別物。
モノクマは私の命を材料に、直接的な圧をかけてきた。
コロシアイをせずとも、このままではいずれ絶望病に感染してしまう。
高熱の中で、自我を崩壊させながら衰弱し、息絶える。
そんな末路は想像しただけで身の毛がよだつ。
医療設備もまともにない環境で、得体のしれない病にかかってしまう恐怖。

____私たちの不安に更なる根源的な恐怖を上乗せしてきたのだ。

446 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:12:27.81 ID:/22W6gE+0

雛菜「どうせ無理だって〜……全員ここで死んじゃうって〜……」

モノクマ「こんな変な病気で死にたくなかったら、さっさと誰かを殺して歌姫計画の成功者になるのが一番! 舟だってすぐにチャーターしてあげるからね!」

ルカ「てめェ……舐めた真似しやがって……!」

結華「ルカルカ! 今はそれどころじゃないよ……とにかく、みんなを休ませてあげないと……」

ルカ「……クソッ!」

モノクマ「まあ病院の入院に足る重病だとは思うからさ、病院までは運んであげる! そこから先のことはオマエラにマルっとおまかせしまーす」


モノクマの言葉通り、絶望病にかかった四人はすぐに病院へと搬送されていった。
まだ感染していない残りの連中も、対処法が見当たらぬ中狼狽するばかり。ひとまずは病院に行って方針を立てることにした。
447 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:14:58.77 ID:/22W6gE+0
-------------------------------------------------

【第3の島 病院】

美琴「……とりあえず、今は四人とも眠っているみたい。かなりの高熱が今も出ているようだから、まだ当分は安心できないね」

ルカ「そうか……きついな」

果穂「みなさん……だいじょうぶでしょうか……」

冬優子「ふゆたちは医学の専門知識も全くない……祈ることしかできないわね」

結華「……それこそ、きりりんでもいれば話は違ったんだけどね」


病院に到着した私たちは、四人の容態を確認。
未だ熱の引かぬ様子は予断を許さない状況、とはいえ私たちは素人で出来ることも限られている。
ロビーの対策会議は、ピンと張りつめた空気だった。
そして、懸念材料はこの四人だけでなく、私たち自身にも及ぶ。


あさひ「でも、わたしたちこそどうするっすか? モノクマも言ってたっすけど、これって感染症なんっすよね?」

智代子「そうだね……わたしたちみんなが罹っちゃったらそれこそどうしようもないし……」

美琴「とにかく、隔離が必要かな。果穂ちゃんとあさひちゃんは年齢も低いし、感染リスクが大きいし……居住空間を分けておくだけでも感染する可能性はぐっと減らせると思う」

ルカ「……だな、この病院は入院患者と同数まで付き添いの人間が宿泊可能らしいから。ちょうど四対四で分けるのがいいか」

冬優子「病院に泊まる人間と、近くのモーテルに泊まる人間に分けるべきね。情報はいつでも共有できるようにしておきましょ」

あさひ「モーテルに泊まるっすか!? やった! ずっと泊まってみたかったっす!」


冬優子の言う通り、活動の拠点そのものを当分はこの第2の島に移すべきだろう。
いつ緊急事態になっても駆けつけられるように、病院に留まらない人間も近くに置いておくことには全員の合意が取れた。
後はその割り振りだ。面倒を見る人間には感染のリスクが伴う。慎重な判断の元決定せねばならない。

448 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:16:37.15 ID:/22W6gE+0

結華「果穂ちゃんとあさたんはモーテル組で確定として……後はどうする?」

ルカ「ガキ連中の面倒見るんだったら冬優子、お前はモーテルに行っとけ」

冬優子「……そうね、果穂ちゃんはともかくあさひの面倒はふゆじゃないと見れないだろうし」

あさひ「あはは、冬優子ちゃんとまた一緒っすね」

冬優子「……」

智代子「それじゃあわたしは病院に残ろうかな、夏葉ちゃんのことが心配だし……」

透「それなら、私も残りたい……かも。雛菜のこと、心配だし」

(……こいつが泊まるんだったら、監視役がいるか)

ルカ「……じゃ、私も病院だ。美琴、お前はどうする?」

美琴「……それじゃ、ルカの手伝いをしようかな」

ルカ「決まりだな」

結華「えっ、ちょっと待ってよ……三峰もこがたんの看病したいんだけど……」

冬優子「結華、あんたはこっちに来なさい」

結華「え、ふゆゆ?! なんで……」

449 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:17:49.03 ID:/22W6gE+0

冬優子「ふゆはこの子たちの面倒見るので手いっぱいなの。情報共有するにしても、ふゆの分も担ってくれるしっかり者が一人必要になると思うのよね」

冬優子「それに……病院の側は心配しなくとも、ルカがいるわ。あいつもなんだかんだ言って面倒見良いんだから大丈夫よ、それはあんたも知ってのことでしょ」

ルカ「……ケッ」

結華「……」

結華「わかった、ルカルカ。こがたんをよろしくね」

ルカ「おう」


緊急の事態ではあったが、とりあえずの対策の方針は定まった。
患者四人と同数の四人、私、美琴、適当女、甘党女の四人が病院にとどまり看病を行う。
小学生、中学生、冬優子、三峰結華の四人がモーテルで待機しておく。
後でどうにか両者間で連絡を取る手段も用意するらしい。

先行きの見えぬ混迷のパンデミック、誰しもその表情は薄暗かった。

そして、すぐに私たちは割り振り通りに分かれて行動を開始した。
私たち看病班はこれからずっと病院に泊まって交代交代に患者の様子を見ることになる。
かなりの長期戦になりそうだな。
450 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:18:50.26 ID:/22W6gE+0
◆◇◆◇◆◇◆◇

結華『よっと……ちゃんと映ってるかな?』

ルカ「おう、見えてるぞ。こっちの音声も問題なしか?」

結華『うん、バッチリ。こういうのは初めて使うんだけど、設定とかもこれでよさそうだね』

美琴「それにしてもいいアイデアだね。こうやってリモートで情報共有ができるようにしておけば直接会わなくても済むから、感染の可能性を少しでも減らせる」

結華『それこそインターネット環境があれば話は早かったんだけど、そういうわけにもいかないから電波の送受信どまりだけどね』


あれから数時間、私たちはそれぞれの支度をした。
病院に長期で残ることを見越し、食料をスーパーから大量に運搬。
病院には看病人用の休憩室があったものの、人数分全員のベッドはないし、隙間時間での仮眠も必要となるだろうからブランケットも併せて用意した。
そしてモーテル組が用意したのがこの【テレビ通話】だ。
インターネット環境がないこの島でも、同一規格の機械を使えば電波の届く範囲内で映像付きで通話が可能になる。
元々は高齢者介護の場などで使われるものらしいが、今回はちょうどよかった。
451 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:20:23.35 ID:/22W6gE+0

冬優子『看病は完全に任せっきりになる。やっぱりこっちとしても容体は気になるところだから随時知らせてちょうだい』

果穂『何か必要なものがあればあたしたちで調たつしてきます!』

透「おー、通販じゃん。超便利」

智代子「もしや、食べたいものをオーダーすれば作ってくれたりなんかは……?」

冬優子『……そんな引っ切り無しに呼び出されたら隔離の意味がないと思うんだけど?』

智代子「うぅ……面目ないです」

冬優子『まあ、たまには作ったげるわよ。どうせこいつらの分も用意しなきゃなんだしね』

あさひ『冬優子ちゃん、今日はオムライスがいいっす!』

美琴「ホテルのレストランにはいかないの?」

結華『流石に食事のたびに島を渡るのは負担だからねー。各部屋にキッチンはあるからこっちで済ませようかと思ってるよ』

452 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:21:15.52 ID:/22W6gE+0

ルカ「……あれ、そういえばお前ら今どこから通話してんだ? モーテルの内装とはちょっと違うよな?」

あさひ『今はライブハウスっすよ。モーテルだと遠すぎて電波が届かなかったっす』

透「まあ古いやつだし、しょうがないか」

智代子「今はこうやって通話ができるだけでも感謝だもんね!」

冬優子『それじゃとりあえずはこれでやりとりをすることに決定でいいわね? 連絡を取るのは【朝と晩の8時】の一日二回』

ルカ「ん、了解」


一日二回の定期連絡。私たちは病院に籠りっぱなしになるわけだし、顔を突き合わせる機会もなくなる分このテレビ通話は貴重だな。


ルカ「さて、そろそろ連中の様子を見に行くか。目を覚ます頃合いだろ」

美琴「そうだね……私たちも万全の注意を払って看病するようにしよう」

智代子「マスクと消毒液もばっちりあるから、適宜使っていこうね!」

透「うがい手洗い、バッチグー」
453 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:23:16.39 ID:/22W6gE+0
◆◇◆◇◆◇◆◇

【恋鐘の病室】


恋鐘「おや、みなさん……ここは一体?」

智代子「ああ、恋鐘ちゃん待って。ベッドに座ったままでいいから、ゆっくり落ち着いて!」

美琴「熱は……まだ下がってないみたいだね」

恋鐘「部屋の雰囲気から察してみるに、私が意識を失っている間に病室に運び込まれたようですね。私は入院中、ということでしょうか」

ルカ「……いつになく冷静で気持ち悪いな」

透「モノクマの動機でウイルスにやられてるみたいなんで。しばらくは入院」

恋鐘「そうですか……申し訳ないです、私がもっと衛生に気を配っていればこんなことには……」

智代子「ううん、しょうがないよ! 悪いのはモノクマなんだもん!」

恋鐘「いえ、そういうわけにはいきません! 私も誠意をお見せしないと……何か手伝えることはございますか? 料理に掃除、なんでも致します!」

ルカ「それなら感染を広げねーためにまずはベッドで横になってくれ」

智代子「こんなに元気そうなのにウイルスに体は侵されてるんだよね……」

美琴「これはちゃんと様子を見ておかないとだめだね……」
454 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:24:11.18 ID:/22W6gE+0
◆◇◆◇◆◇◆◇

【夏葉の病室】


夏葉「入院ってすごいのよ……ずっと寝たまんまでいいし、料理も勝手に出てくるし……」

ルカ「その料理を作って運ぶ人間がいるんだけどな」

智代子「何度見ても別人ってレベルじゃないよ……こんなだらしない夏葉ちゃん……面白すぎるよ」

ルカ「おい!」

夏葉「智代子、あなたチョコレートを持っていないかしら? 体が糖分を欲しているの、なんでもいいから甘いものが食べたいわ」

透「こらー、寝たまんまで甘いもの食べたら太るぞー」

夏葉「いいのよ、それならそれで。欲望を満たし、私腹を肥やしてぶくぶくと膨れ上がって最終的にはじけ飛ぶ……そんな風船みたいな人生を私は送りたいわ」

美琴「高熱でうなされてるときに見る夢みたいな話だね」

ルカ「……なんか知能指数まで下がってねーか」

夏葉「ふぁああ……それじゃ、私はまた寝るから……後はよろしく……」

透「うわ、三秒で寝た」

智代子「ちょっとぐらいリハビリさせないと治った後が心配だね……」
455 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:25:14.37 ID:/22W6gE+0
◆◇◆◇◆◇◆◇

【愛依の病室】


智代子「なんだか入った瞬間ハーブのいい匂いがしてるんだけど!?」

愛依「あら、丁度紅茶が入りましたの。皆さんご一緒にアフターヌーンティでもいただきませんか?」

ルカ「おいどこからこんなティーセット用意したんだこいつ!」

美琴「すごいね……おいしそうなケーキ」

愛依「ふふっ、野イチゴをあしらった卵黄ケーキですのよ。うちのパティシエールが皆様のために用意してくださいましたわ」

ルカ「おいもうツッコミが追い付かねーぞこいつ」

透「おー、すご。スポンジフワフワ」

智代子「えっ、本当に?! それじゃあわたしも失礼して……」

愛依「小鳥の囀りも聞こえてきました……今日は本当に暖かで心休まる晴天でございますね……」

ルカ「おい病人! 窓際に行くな! 戻ってこい!」

美琴「へぇ……カモミールティなんだ」

愛依「カモミールにはリラックス効果がありますの。美琴さんはダンスのレッスン終わりにいただくとよいかもしれませんね」

ルカ「看病人も正気に戻れ!!」
456 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:26:19.35 ID:/22W6gE+0
◆◇◆◇◆◇◆◇

【雛菜の病室】


智代子「こ、今度は部屋一帯がなんだかじめじめしてるよ……」

雛菜「あ、誰か来た……きっと雛菜をみんなしてバカにするためだよね〜……」

ルカ「おいコラ、カーテンぐらい開けろって」

シャアアア…

雛菜「眩しい……こんな昼間から太陽の光なんて浴びたら雛菜灰になっちゃう〜……」

ルカ「お前はドラキュアか」

透「雛菜、大丈夫? ほら、熱さまシート持ってきたよ」

雛菜「透先輩……優しい……」

雛菜「でもきっと雛菜以外にも同じことしてる……雛菜だけ特別だって勘違いしちゃダメだよね……」

ルカ「看病なんだから当たり前だろーが」

雛菜「はぁ……どうせ病気も治んないし、雛菜死んじゃうんだろうな〜……」

雛菜「もっといろいろしたかったな……自分の足で走り回ったり、誰かとピクニックしたり……幸せな人生を送りたかった……」

透「病気になる前に全部やってるじゃん」

ルカ「……はぁ、こっちが胃もたれしそうだ」
457 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:27:14.59 ID:/22W6gE+0
◆◇◆◇◆◇◆◇

ルカ「とりあえず全員の様子をみたが、こりゃしんどそうだな」

智代子「うん……見た目上は元気でも、熱は全然下がってない。いつ急変するかもわからないよ」

美琴「とにかくいつでも動けるようにはしておいた方がよさそうだね」

ルカ「おう、深夜の時間帯以外はかわるがわる面倒を見るぞ、ロビーと休憩室でお前らも無理せず休め」

透「うぃー」


そこからはつきっきりの看病だ。
私たちに医療知識はまるでないので、無茶をしないように行動の監視や食事などの補助が主となるがそれだけでも結構な重労働。
それが四人ともなると流石に堪えるところだ。
458 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:29:05.69 ID:/22W6gE+0
-------------------------------------------------
【病院 ロビー】


「ふぅ……」


つかの間の休憩、疲労がため息となってどっとあふれ出す。
昨晩はこんなことになるとは夢にも思わなかった。
メガネ女を引きずり出すことに成功して……とりあえずは一歩前進と思っていた矢先にこれだ。

だけどウダウダ言っていたところで始まらない。
私が足踏みをしているその瞬間にも着実に病魔に蝕まれていく連中がいる。
これからはとにかく看病に集中しないといけないな。


「さて、どうするか……」


【自由行動開始】

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
☆看病期間中の自由行動について
病院に滞在中でもこれまで通り自由行動は一定の回数で可能になっています。
ただし、その仕様が通常時と少しだけ異なります。
病院にいるメンバーとはこれまで通り交流+プレゼントの進呈が可能ですが、
モーテル組とはテレビ通話での交流となるため、プレゼントを渡すことはできません。
親愛度の上昇に補正がかかることもないので、ご注意ください。

加えて、このパンデミック期間中は浅倉様と市川様との交流も解放されています。興味があればぜひお試し下さい。
また、モノモノヤシーンや自動販売機も病院内に用意しておりますのでご自由にご利用くださいませ。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

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【現在のモノクマメダル枚数…107枚】
【現在の希望のカケラ…25個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/05(土) 22:32:46.34 ID:5+1aEVnm0
雛菜
460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/05(土) 22:35:25.37 ID:C1ESk1VB0
1 浅倉
461 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:39:28.21 ID:/22W6gE+0
1 雛菜選択

【雛菜の病室】

コンコン

ルカ「うーす、入るぞー……うお……」


つい先ほどあけたばかりのカーテンは閉め切られ、上からガムテープまで貼られている。
どこまで日の明かりが嫌なんだ、こいつは……
あんなにお気楽で日向ぼっこが大好きですって面をしていた平常時からはとても考えられないありさまだ。
なにやらぶつくさ文句を並べるこいつを他所に、もう一度無理やりにカーテンを開けてやる。


雛菜「あぁ〜……雛菜の肌が黒焦げになっちゃう〜……オーブンに入れすぎた食パンみたいになっちゃうよ〜……」

ルカ「どんだけ虚弱な肌してんだよ……」


だが、平常時からの変化として、こうして私を抵抗なく受け入れているという点もある。
もはや抵抗するほどの余力もない、ということなのだろうが……
これはチャンスかもしれない。今ここで踏み込むことができれば、あるいは……


-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】
【ひまわりの種】
【エプロンドレス】
【新品のサラシ】
【オスシリンダー】
【メスシリンダー】
【トイカメラ】
【蒔絵竹刀】
【絶対音叉】
【七支刀】
【バール】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1
462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/03/05(土) 22:46:09.42 ID:TrlXK+3m0
1 【ひまわりの種】
463 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:53:39.26 ID:/22W6gE+0
【ひまわりの種を渡した……】

雛菜「え……」

雛菜「そっか……今の雛菜は人間以下……家畜と一緒だもんね〜……」

雛菜「これくらいの食事でちょうどいいってことなんだ〜……」

雛菜「あは〜……こんな雛菜のために、わざわざ用意してくれてありがとうございます……」

雛菜「嬉しくてうれしくて、ガッツいてのどに詰まらせて死んじゃったらごめんなさい〜……」

ルカ「ま、待て待て! 他にもちゃんと病院食は用意してるから! 早まんじゃねえ!」

(な、なんだこいつ……)

(……これは、渡すのに成功……は、してねえか)

-------------------------------------------------

身体に噴出している汗をタオルで拭うのも、能天気女はされるがまま。
口では嫌だの死んじゃうだの何かとうるさく申し立ててはいるが、体に力がこもっていないのだからお構いなし。
そのままちゃっちゃと看病を終えて、体をベッドの上に横たえた。


雛菜「あは〜……雛菜、もうダメなのかな〜」

ルカ「まだ発症して数時間と経たねえだろうが、黙って寝てろ」

雛菜「……」

ルカ「……」

ルカ「……なあ。こんな弱ってる状態の時に訊くべきなのかはわからねえが……お前は、実際どう思ってるんだ」

雛菜「……って言うと〜?」


私の問いかけの所在を求めて、虚ろな目を私に寝台の上から向ける能天気女。
その回答はずばり、前回の学級裁判。その終わりに、ゲームの内容について仔細を知っているかどうかをたずねられ、なおも口を閉ざした浅倉透への感情だ。
あのときのこいつの瞳は、決して信頼だけではなかった。
七草にちかの糾弾に反発こそすれ、こいつ自身も信頼を寄せるべき相手に、ずっと解答をはぐらかされづけている。
大好きな幼馴染に向けるべき感情はどうなのか。それをこいつ自身はどう考えているのか、それを知りたかった。


ルカ「浅倉透、あいつは信用できるのか?」

雛菜「……」

雛菜「ワラジムシって知ってる〜?」

ルカ「……あ?」

雛菜「ダンゴムシみたいな見た目なんだけどね〜……自分の力じゃ丸くなることもできない、自分の身体を守ることもできない、弱っちい虫の事なんだけど〜……」

雛菜「今の雛菜は、そのワラジムシよりもずっと弱い……虫よりもへなちょこなんだけど……」

雛菜「それでも、透先輩はずっと雛菜のそばにいてくれるし、守ってくれてる……だから、透先輩のことは……信じたい……」

雛菜「もしかしたら雛菜は透先輩からすればたくさんいる中の一人かもしれないけどね〜……」

(……こいつ)


病気のせいでネガティブな接頭語、接尾語がついてはいたものの、その真意は分かりやすい。

……「信じたいと思っている」

今現在も浅倉透への信頼を失ったわけではない。ただ、その感情には少しずつ揺らぎが生じている。
私の見立て通りの反応だった。

(……今なら、もっと探りを入れられるかもな)


1.お前から見て浅倉透に怪しいところはないか?
2.本当にお前は浅倉透を信じているのか?
3.自由安価

↓1
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/05(土) 22:57:39.45 ID:5+1aEVnm0
1
465 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 23:07:00.93 ID:/22W6gE+0
1 選択


能天気女がやっと一瞬のぞかせた本音。
思わず私はそれに飛びついた。

ルカ「……なあ、お前から見てあいつには、浅倉透には怪しいところはないか?」

雛菜「え……」

ルカ「お前だってそうなんだろ……? あいつは、なんか変だって……そう思ってんだろ?」

雛菜「……」


だが、その反応は鈍い。
熱で頭が回っていないこともあるだろう、私の質問を何度も咀嚼するようなそぶりを見せて、口ごもる。


雛菜「わかんない、わかんないよ……雛菜は何にも……」

(……ダメか)


思わず諦めかけた、その瞬間。


雛菜「……でも、透先輩は……雛菜と一緒にいるときでも、いっつも何か焦ってる」

ルカ「……え?」

雛菜「なにか、大事なものをなくしたって……そう言ってたような……」

ルカ「お、おい……それって____」

雛菜「……あ」

バタン!!

ルカ「お、おい!?」


能天気女はそれだけ口走るとバタンと音を立てて寝台の上に倒れ込んでしまった。
慌てて容体を見たが……どうやら病気の影響もあって意識がもうろうとしていたらしい。
私の問いかけに脳がショートしてしまったようで、一時的に気絶してしまったようだ。

……くそっ、焦っちまったか。
だけど、ノクチルの二人の結束は必ずしもカンペキじゃないことの確認が取れたのはそれなりの収穫かもしれない。
あいつ自身自分のことは敵ではないと主張してはいるものの……場合によっては、この能天気女をこちら側に引き込むことも考えるべきかもしれないな。

それもこれも、とにかくはこのパンデミックが収まってからの事にはなるんだが。

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【親愛度が上昇しました!】

【市川雛菜の親愛度レベル…1.5】
466 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 23:12:00.30 ID:/22W6gE+0
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【病院ロビー】


「なにか、なくしている……か」


看病としては失敗、捜査としては成功……だろうか。
病気で沸騰しているところに頭を使わせるような真似をしてしまい気絶までさせてしまった能天気女本人には悪いが、浅倉透に対する嫌疑の足掛かりとなるような証言は得られたような気がする。
別にあいつを問いただすわけではないが、この有効な証言は頭に入れておいた方がいいものだろうな。

パンデミックだからと言って手をこまねいているつもりは毛頭ない。
この病院の中で出来ることはすべてやりつくす。

私自身が生き残るのが、最優先だからな。


【自由行動開始】


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【現在のモノクマメダル枚数…107枚】
【現在の希望のカケラ…25個】

1.交流する【人物指定安価】※気絶してしまった雛菜を除く
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/05(土) 23:16:06.03 ID:5+1aEVnm0
468 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 23:21:05.97 ID:/22W6gE+0
1 透選択

【病院 仮眠室】


ルカ「……ん、休憩中悪いな」

透「あ、うん。そっちも休憩?」

ルカ「……まあな」


浅倉透が一人で休憩に入る瞬間を見つけ、看病の合間に抜け出してきた。
これまでは中々接触ができなかった絶好の好機。
……逃すわけにはいかねえよな。


透「あ、これ……いる?」

ルカ「あ? んだこれ……」

透「エナジーゼリー。結構あるから、腹ごなしにちょうどいいよ」


……なんか、気が抜けるな。

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‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】
【エプロンドレス】
【新品のサラシ】
【オスシリンダー】
【メスシリンダー】
【トイカメラ】
【蒔絵竹刀】
【絶対音叉】
【七支刀】
【バール】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/05(土) 23:25:58.52 ID:VLI9zLx+O
メスシリンダー
470 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 23:33:16.56 ID:/22W6gE+0
【メスシリンダーを渡した……】

透「あ、これ理科の実験で使ったやつ」

ルカ「おう、なんか水の量を測ったり……微生物を観察したりだったか?」

透「……ミジンコ、これの中に入れたら浮くのかな」

ルカ「あ? んなもん、知らねーけど……」

透「これ、貰っていいですか。なんか、ちょっと、試したい」

ルカ「お、おう……」

(……随分と妙なもんを気に入るな)


【PERFECT COMMUNICATION】

【親愛度がいつもより多めに上昇します!】

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透「とりあえず、なんとか四人で看病回せば何とかなる感じですよね」

ルカ「……まあ、今のところはな。病気の実態も何もわかんねーから、滅多なことは言えねーけどよ」

透「……だよね」


仮眠室には不思議な緊張感が漂っていた。
私とこいつは何もない仲ではない。過去二回の学級裁判のいずれにおいても衝突を行っている。
それをお互い意識しないはずもなく、肌がピりつくような空気を感じずにはいられない。


ルカ「……お前も、分かってんだろ?」

透「え……」

ルカ「私が、わざわざお前のもとにやってきた。その意味が分からないとは言わせねーからな」

透「……」

ルカ「話す気はない。でも、敵じゃない。いつまでその一本で行く気なんだよ」

透「……」

ルカ「……都合が悪くなるとすぐにだんまりか、そんな真似されるとこっちもどうしようもねーんだよな」

ルカ「……さっき、お前の幼馴染の病室に行ってきた」

透「雛菜の、病室……」

ルカ「あいつは言ってたぞ、お前は何か大事なものをなくしたって」

ルカ「更にはこうも言ってた、お前への信頼は少し揺らぎかけてるって」


正確にはそんな証言が取れたわけではない。
ただ、意訳すればそれと大差はない。
なんにせよ、やっと手に入った武器を振り回すのを我慢できるほど私も大人ではない。
咽喉元にそのナイフを突き立てたくて突き立てたくて、ずっとウズウズしていたのだ。


透「……えっと」


さあ、ここまで来たらあと一歩。
……攻め手を、間違えるな。


1.お前は幼馴染も騙し続けるのか?
2.そのままだと、お前はもっと大事なものをなくすんじゃねーのか?

↓1

471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/05(土) 23:39:46.85 ID:C1ESk1VB0
2
472 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 23:49:34.23 ID:/22W6gE+0
2 選択

ルカ「……お前がずっと口を閉ざすのは、別に自由だ」

ルカ「でも、それをすればするほど……お前はもっと大事なものをなくすんじゃねーのか?」

透「……!!」

ルカ「……市川雛菜、お前にとっても大切な幼馴染なんだろ」


……真実をひた隠しにすることで、何か大事なものを失ってしまう。
そんな経験は嫌と言うほどよく知っている。
こいつと私の経験とでは内容も、状況もまるで違うし、私にも到底はかり切れない。
でも、もし、千雪なら……


ルカ「失ってから後悔するんじゃ、遅い。そう思うぞ」


真実を追求する、その前段階としてこの一言は確実に言っていただろうと思う。


透「……あー」

透「そっか……そこまで言われちゃうか」

ルカ「駆け引きだとかそういうんじゃなくてな、ただ単純に、私の視点から観測したすべてを口にしただけだ」

ルカ「だから、そこから判断するのはお前。話すも話さないも、お前の自由だよ」

透「……ちょっと、時間をくれないかな」

ルカ「おい、また____」

透「この病院にいる限り、逃げ道もないでしょ」

ルカ「お前……!」


明らかに、これまでとは違っていた。
ただ真実をはぐらかすだけではない、何かもっと別の覚悟を決めた……そんな瞳。
空気が一瞬にして書き換えられたのを肌で感じた。

やっぱり……こいつは、ただ敵だとか味方だとか、そういうラベリングをする対象じゃないんだと思う。


透「……ん」

透「じゃ、いったん看病で抜けるから」

ルカ「……おう」


あいつの中で、何かが動いたのなら。

……多分、私の選択は間違えてなかった。

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【親愛度が上昇しました!】

【浅倉透の親愛度レベル…2.0】

【希望のカケラを入手しました!】

【現在の希望のカケラの数…27個】
473 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 23:50:52.34 ID:/22W6gE+0
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冬優子『夜8時の定期連絡始めるわよー……って、既に結構しんどそうね。大丈夫?』

ルカ「……なんとか、いっぱいいっぱいだよ」

智代子「うん……恋鐘ちゃんは放っておくとすぐに無茶して手伝いをしようとするから見とかなくちゃいけないし、夏葉ちゃんは食事すらも面倒くさがるし……」

智代子「愛依ちゃんは急にティータイムを始めちゃうし、雛菜ちゃんは気が付いたら部屋の隅っこでいじけちゃうし……」

智代子「なかなか気が休まりません……がくっ」

冬優子『……そういえばあんたんとこのパートナーと、浅倉透が見えないけど休憩中?』

ルカ「おう、交代交代で休憩をとるようにしたからな。いまは私たちの番だ」

智代子「ふゆちゃんたちの方は大丈夫?」

冬優子『ええ、今は結華があさひと果穂ちゃんの相手をしてくれてるし、特に困ったこともないわ』

智代子「それならよかったよ、お互い頑張ろうね!」

冬優子『うん、チョコちゃんもファイトだよ♡』

ルカ「ハッ、それじゃ切るぞ。そろそろあいつらの様子をまた見に行かねーとだからな」

冬優子『了解、あんたも頑張んなさいよ、ルカ』

ルカ「すげー落差だなおい……」


プツッ
474 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 23:51:42.75 ID:/22W6gE+0

智代子「よし、それじゃあまた気合入れて頑張らないとだね!」

ルカ「ん、晩飯片付けて、寝るように促すとこだな」

智代子「……」

ルカ「……どうした?」

智代子「いや、前から思ってたけど……ルカちゃんなんだかふゆちゃんと仲いいよね?」

ルカ「え……あー、それは……その……」

智代子「いいなー、ずるいよ! わたしもルカちゃんと仲よくなりたい!」

ルカ「はぁ? 別に、冬優子とはそんなんじゃねーよ、ただちょっと顔なじみっつーかなんつーか……」

智代子「乙女の秘密ってやつですか……?」

ルカ「乙女なんてガラじゃねーだろ……少なくとも私は」

智代子「でも、本当になんだかルカちゃん丸くなったよね」

ルカ「お前もだろ、お菓子食いすぎなんだよ」

智代子「そ、そっちの話ではなくてですね!? ……ほら、この島に来た初めはわたしたちとお話もほとんどしてくれなかったじゃないですか」

ルカ「それは……確かにな」

智代子「でも、今はこうやってわたしの冗談にも付き合ってくれるし……やっぱり、変化があったのかな」

ルカ「まあ……そうだな、千雪が私の面倒を無理やりにでも見て来たから、気が付けばお前らと話すことにも慣れちまったって感じだよ」

智代子「千雪さんが……そっか、そうだったんだね」

ルカ「……悪いな、なんか思い出させるような真似しちまって」

智代子「ううん、ルカちゃんの大切な思い出だもん、聞かせてもらえてむしろ嬉しいよ」

ルカ「……ケッ」

ルカ「ほら、無駄話してる時間はねーぞ。さっさとあいつらの様子見ねーと何しでかすかわかんねーって」

智代子「はーい!」
475 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 23:52:46.77 ID:/22W6gE+0
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______
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【病院 ロビー】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『ただいま、午後十時になりました』

『波の音を聞きながら、ゆったりと穏やかにおやすみくださいね』

『ではでは、いい夢を。グッナイ…』


連中の食事を片付け、寝るまでの世話をしてやって、ようやく一日目の看病は終了。
私たちにもやっと休息の時間が回ってくる。


ルカ「……ふぅ、とりあえずは終わりだな」

美琴「みんなお疲れ様、四人とも寝たみたいだからひとまずは睡眠をとっておいて」

智代子「うん、そうさせてもらおうかな……右に左に行ったり来たりだったからなんだか想像以上に疲れてるかも……」

透「でも、深夜は看病大丈夫? 急変とか、ないかな」

ルカ「あー……確かにそれはそうだけどよ」
476 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 23:53:47.32 ID:/22W6gE+0

透「じゃ、私起きとくよ。まだあんま眠くないし」

智代子「えっ、だ、大丈夫? 透ちゃんも、結構頑張ってくれてたよね?!」

透「まあ、まだ若いし。エネルギッシュなティーンだから」

美琴「……だったら、私も起きてる」

ルカ「美琴……お前」

美琴「大丈夫、何もしない。彼女が何かしないか見てるだけだから」

ルカ「……信用していいのか?」

美琴「うん」

ルカ「……わーったよ、私はロビーで寝てっから何かあったら言えよ」

智代子「えっ、ルカちゃん……悪いよ、仮眠室譲るよ?」

ルカ「いい、いい。私はもともと固い寝床の方がよく寝れんだ、ベッドはお前が使え」

智代子「そ、そう……?」

透「じゃ、夜番は私らで頑張るから。いい夢見てよ」

美琴「私たちも合間合間では仮眠をとると思うから、気兼ねしなくて大丈夫だからね」

ルカ「おう……悪いな」


私は初日の夜番を二人にゆだね、ロビーでそのまま眠りについた。
問診の時に座るスツールを並べた即席のベッドのようなものだが、疲労もあってか私はすぐにその意識を手放した。
貴重な休息、少しでも疲労を和らげるための睡眠。
夢なんて全く見ない熟睡だった。
477 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 23:57:58.33 ID:/22W6gE+0

という訳で本日はここまで。
自由行動パートはいつも手癖でその場で書いているのですが、今回透の部分で少し踏み込みすぎてしまいました。
次回更新分と少し齟齬が生じてしまっていますが、変更しない方がストーリーとしては通りそうなのでどうかご容赦ください。
自由行動の回数を考えずに動機提示まで行ってしまったので……ノープランで書くとここら辺にボロが出ますね。申し訳ない。

次回更新分で事件発生まで行きたいと考えています。少し長めになるかもしれませんが、開始時刻の前倒しは特には致しません。
3/6(日)の22時ごろから再開予定です。
それではお疲れさまでした、またよろしくお願いします。
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/03/06(日) 00:04:42.41 ID:carM39qF0
お疲れさまでした
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/06(日) 00:08:35.09 ID:PcuD0/db0
>>1乙!
ていうか次回でもう事件発生か
マジで誰が退場するのか予想つかない・・・
480 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 22:01:49.40 ID:6WraeaE50
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≪island life:day 14≫
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【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう〜!』


アナウンスとともに目を覚ました。
眠り自体はそう不快でもなかったが、体はやはり少し負担だったか。体を起こすとバキバキと音が鳴った。
だが弱音も吐いていられない。ここからは私の出番だ、託されてる分はしっかり働いておかねーとな。


美琴「おはよう、ルカ」

ルカ「おう……美琴、いたのか」

美琴「うん、明け方まで様子は見てたけど四人とも特に異常はなかったよ。もちろん、彼女もね」

ルカ「そうか……ならよかったよ、私も起きたんだ、お前もしっかり休めよ」

美琴「うん、大丈夫。途中で仮眠は少し取らせてもらったから」

ルカ「他の連中は?」

美琴「智代子ちゃんが早めに起きて来たから今は彼女が。後は仮眠室」

(……【後】と来たか)


どうやら朝までずっと寝てたのは私だけだったらしい。
なんとなしに気恥ずかしさを覚えたが……その分働いて返さないといけないな。
まずは朝の様子を一通り観察するとこから始めるか。
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