エンド・オブ・ジャパンのようです

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152 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2023/02/02(木) 01:15:57.60 ID:79O4T+CB0
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《そもそもね、今回の事態を招いたのは南政権の外交政策にあるわけですよ。軍拡を推し進め【平和維持法】や【艦娘三原則】を勝手に改悪し、周辺諸国の不安を煽りました。

日本が“戦犯国”であるという認識があまりにも欠如しすぎですよ》

《そもそも“武装勢力”が北朝鮮や中国と本当に関与しているという証拠もありませんし………それこそ、自衛隊の中で自作自演をさせている可能性もあるわけでしょ?南首相ならやりかねないわ》

《私は劉首席の言い分にも一理あると思いますよ。対話を求めていた中華人民共和国に対して握り拳で応えたのは南政権です。宝木議員を含め一部の良心的な市民はそのことの危険性と不義理を訴えていましたが、南政権の巧みな扇動によって握りつぶされていたのです》

《仮にこのテロが他の国の仕業だとしてもぉ、それってマジラブアンドピースしなかったニッポンのジゴウジトクっつーかぁ?マジオワコンだよねニッポン》

《これは当局のある情報筋から入ってきたものですが、既にフィリピン海防衛線は敵の“新型艦”に突破されているという噂もあり────》

《南政権は放送法の改正を強く推し進めていましたが、これは恐らくこうした事態が起きた際に情報統制と国民扇動をしやすくするための下準備だったのではないかと専門家からは指摘が────》

《これは沖縄の米軍基地前の様子ですが見てください!!もう南政権には騙されないというプラカードとともに多数の一般市民が殺到しています!この光景は那覇鎮守府や自衛隊基地でも同様に────》

《南さんもね、意地にならずに中国の支援を受ければいいんですよ。彼らだって本当に日本を占領しようとするわけないじゃないですか、話せば解りますよ。チベットやウイグルだって、あんなもんアメリカやイギリスが一方的に主張してるだけで────》

《徐々に各地へと拡大しつつある反南政権デモに対して、県警や自衛隊、鎮守府組織による強制排除の動きが見られます。政府はこれを“暴動”と関連付けていますが、これは明らかな詭弁であり言論弾圧だと一部国から批難声明が────》
153 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/02/02(木) 01:18:56.70 ID:79O4T+CB0
《フォックス=カーペンター国務長官はCNNの取材に解答、ヨシヒデ=ミナミの武装勢力に対する断固抵抗の姿勢は早期解決に繋がり全面的に支持されるべきだと────》

《アメリカのフォックス=カーペンター国務長官は“早期解決のためにはあらゆる手段を模索するべきだ”と、日本単独での武力鎮圧のみが道ではないと暗に示唆を────》

《ダイオード=リーンウッド首相は日本で起きている事態への直接的な言及は避けたものの、ヨシヒデ=ミナミの強力なリーダーシップによって世界は最悪の状態を免れていると謝意を述べ────》

《南政権との蜜月を築いてきたとされるダイオード首相ですが、現状については“日本は自分達の影響力を考えなければならない”と懸念を表明し────》

《フランス政府は、中華人民共和国の声明に対し人類への反逆と言っても過言ではない最悪の火事場泥棒だと強烈な批判を浴びせ────》

《フランスからも日中間で発生したこの衝突に対し強い懸念が表明され─────》






《…………このように、世界各国からも日本の強硬な対応に対して不快感や不安を指摘する声が多く、世界全体での戦況へ悪影響を与えるのではないかと強い不安を呼んでいます。

南政権には今一度、このような状態だからこそ“人類同士の協和”に向けて動いてほしいと切に願います。

テレビ日ノ出は引き続き、深海棲艦関連のニュース並びに国内で起きた“暴動”の情報を速報で伝えてまいります》
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2023/02/02(木) 07:30:52.95 ID:XwtivAAo0
投下おつです
ジワジワとタイトル回収へ近づいているのを感じる
155 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2023/02/25(土) 23:30:10.07 ID:0Lt92TP40
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元より、マス・メディアという集団に期待などしてはいない。彼らの自衛隊に対する「敵対的」な姿勢も、自国民の命や自国の国防より周辺国の“お気持ち”へ配慮することを遥かに重視する性分も、彼女が現役の頃から一貫している。
深海棲艦という未知の脅威が出現した後ですらその姿勢を揺るがさなかった時には、最早一周回って感心と敬意さえ抱いた。

……向こうは疾うの昔に地中に埋まっていたハードルをこの期に及んで掘り起こし、その下をわざわざ潜ってきたが。

@# _、_@
(  ノ`)「本当に、腐った連中だよ」

彼女────流石挙母(サスガ・コロモ)の吐き捨てた言葉は、これでも自制心を最大限に振り絞り感情を限界まで抑え込んでいる。仮に彼女が心の赴くまま活動を開始すれば、肩口からぶら下がるM249軽機関銃は各報道機関を“黙らせる”為に使われることだろう。

耳元で尚も不快な言葉を羅列し続けるイヤホンを、眉を顰めつつ取り外す。その先につながる持ち運び式のラジオはビルの中で拾った物で、元の持ち主と思われる人物が既に“使える状態ではなかった”ため拝借した。
別角度からの情報収集になればと考えてのことであったが、受けた不快指数が代償として割に合ったものかは議論の余地がありそうだ。

ただ、“有益な情報”を十分に得られたのは間違いない。

@# _、_@
(  ノ`)(中国の“国盗り”、ブラフじゃあないね。人民解放軍の日本進駐実行は秒読みって証拠だ)

各報道機関による、余りにも露骨に偏った南政権への批判的論調。いつも通りの光景と言ってしまえばそれはそう。
だが、ここまで“一斉に”、“整然と”、“足並みを揃えて”動いてくるとなれば、各個の自由意志ではなく何かしらの「指揮系統」が存在することを疑わなければならない。
156 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/02/25(土) 23:31:59.88 ID:0Lt92TP40
言ってしまえば、そもそもマス・メディアが機能を維持していることそれ自体解せない面がある。

本来この手の組織・集団は、自身の正当性や思想の主張、或いは単純な恫喝などを目的として放送施設はかなり高い優先順位で押さえにかかる。昨今は動画サイトやSNSもあるため一概には言えないとしても、日本のような治安が高いレベルで保たれている国においてライフラインの一つを掌握できれば与えられる衝撃は決して小さくはない。

にも関わらず、銃弾の一発も撃ち込まれないどころか暢気に“有識者”を招いての政権批判放送を垂れ流す余裕すら保たれているというのは流石に不自然だろう。
武装蜂起が始まった直後に彼らが神妙な面持ちで「各放送局も被害を受けている可能性が高い」等と宣っていたことを考えれば、乾いた笑いの一つも湧いてくるというものだ。

そしてこれらの“不自然”は、「マス・メディアが“武装勢力”と敵対していない」ケースを仮定した場合途端に“自然”なものとして説明がついてしまう。

@# _、_@
(  ノ`)(そりゃあ自分達の要望と主義主張を自主的に“代弁”してくれるなら、いちいちリソース割いて制圧する必要なんざないだろうさ)

寧ろ「報道機関が“自主的に”人民解放軍の日本進駐に肯定的な意見を述べている」となれば、中国側にとっては先の宝木蕗也(たからぎ・ふかや)による南政権への“糾弾声明”と併せて立派な大義名分となり得る。実情がどうあれ曲りなりなりにも「言質」さえ存在すれば、アメリカやロシアに対する“戦後”の牽制材料としても十分だ。

@# _、_@
(  ノ`)(ただしこれらは、“実効支配”の確立が前提条件だ。となると、共産党の上層部が“拙速”を重視して各軍閥をまとめ切る前に動かせる分だけで強引に乗り込んでくる可能性も否定できなくなってきた………もう、時間は殆ど残されちゃいないだろうね)

そこまで考察を終えたところで、挙母は用済みとなったラジオからイヤホンを抜き取り………無造作に頭上へ放り投げた。

《都内で“武装勢力”に対して自衛隊並びに艦娘の出動が行われている件についても、各界“有識者”からは対話を放棄した暴力的な対応であるt

考えた人間の脳に何らかの欠陥が存在するであろうことが容易く想像できる文章を無遠慮にがなり立てていたラジオが、伸びてきた何本かの火線に貫かれる。
世界で最も製造され、世界で最も多くの人を殺し続ける自動小銃───AK-47から放たれたそれらは、そのまま挙母が身を隠している路上で横転した乗用車の屋根に突き刺さり火花を散らした。
157 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/02/25(土) 23:33:24.59 ID:0Lt92TP40
県庁所在地と言えど、水戸市はあくまで地方都市の一つ。駅周辺の商業エリアや繁華街の一部区画を除いて、東京都中心ほど建造物同士の“密度”は高くない。道路の幅も広く、比較的視界が拓けている場所がそれなりに多くなる。

故に、同地における戦闘は“市街戦”であると同時に“攻城野戦”の側面も併せ持つ。

遮蔽物の少ない路上を行軍する際攻勢側はどうしても身を晒す機会が多くなり、防衛側は予め沿道の建造物を掌握すれば敵の位置を容易に確認しつつ上方、側面から安全に火力を投射し得る。
準備砲撃や潤沢な航空支援によってそうした脅威を事前に排除できるならまだいい。だが歩兵戦力のみでこれを制圧しようとした場合、戦況の天秤は最初から大きく防衛側に傾くことになる。

挙母たちが今いる場所などは、その典型的な例だろう。

水戸駅から南に800m程南下した大通り、道は広くしっかりと塗装され、沿道にはマンションと都内より遥かに階数の少ないビジネスビルが閑散と立ち並ぶ。
既に日は暮れ、また路上には運転手の逃亡や“沈黙”によって放置された民間車両が幾らか転がっているため身を隠す術は用意されているが、それでも限度はある。全くの無策で進軍すれば、たちまち十字砲火の餌食だ。

故に挙母達は、あえて敵に“先手”を取らせにいく。

从' '从《先ぱぁい、火線により敵位置把握できました〜。交差点挟んだ向こう側、左手の学習塾が入ったマンションと右手ガソリンスタンド後ろのマンション、それぞれの屋上に狙撃手〜。左手沿道の消防署内にも動きがありますね〜、多分中から敵が出てくると思われます〜。

それとぉ、駅南公園通りを東700mほど先から新手が接近中〜。数は目算20人ぐらいかな〜》

背後の高校校舎を押さえ、その屋上に別働隊を率いて陣取る“後輩”────渡辺優香(ワタナベ・ユウカ)からの無線通信。口調こそ場違いに間延びしともすれば闘争心が削がれるレベルだが、内容は迅速で的確だ。
陸自の最精鋭が集う中即連において尚【天の眼】と称された空間把握能力は、一線から退いて5年経った今も衰えていないらしい。

@# _、_@
(  ノ`)「西進中の新手、牽制で止められるかい?」

从' '从《はいはーい。このためのぉ、L96A1とぉ、ラプアマグナム弾〜》

やはり間延びした、しかしどこか嬉々とした響きの返答。闇夜を銃声が駆け抜け、観測手と思われる男がくぐもった声で《One Down》の一言を告げる。

「xxxxxッ!!!」

从' '从《From fire-department almost never reach me anyway, so I left it up to my allies. Keep an eye out for snipers only. Don't have to hit it, so don't let them take aim with Suppression fire》

即座に校舎屋上へ向けて弾幕が殺到するが、渡辺は冷静さを崩さない。一瞬で状況を整理し、的確な指示を味方に下す。

@# _、_@
(  ノ`)「………さて、行くかね」

同時に、挙母もまた動く。
158 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/02/25(土) 23:35:40.84 ID:0Lt92TP40
交戦開始とほぼ同時に行われるスムーズな戦力展開に、即時の増援派遣。既に市内各所で新たに発生した“戦闘”を向こうの指揮官達も把握し、その上で対処に動き始めているのだろう。
水戸警察署を始め警官や自衛隊による抵抗が完全に排除されたワケではない中でこうして更なる人員を捻出できるとすれば、同市における“武装勢力”の規模は自分達や横須賀の予想以上に大きい可能性を考慮しなければならない。

ならば、此方もド派手に動いて兵力の“過大評価”を誘発させる。

@# _、_@
(#  ノ°)「主砲撃、右正面ガソリンスタンド!!」

「了解!!」

飛ばした号令に、挙母のすぐ横で小柄な人影が───神風型駆逐艦四番艦・松風が勢いよく車の影から路上へと躍り出る。その右手で起動した12cm単装砲が、何ら躊躇することなく砲弾を指定された“目標”に向かって撃ち放った。

从' '从《ワァオ》

気化性も引火性も高い液体燃料を扱い、ただでさえ【火気厳禁】は絶対不可侵な場所。そこに艦砲射撃を食らわせれば、どうなるか。

誰でも容易く辿り着ける単純明快な問だが、あえてそれを比喩的に表現するならば、

「ムグォッ」

「「「ッッ!!?」」」

マイケル=ベイ監督作品のハリウッド映画の一場面、といったところか。

「XXxxxxx!!??」

「xx,xXxxx!!」

地下の貯蔵タンクが炸裂する。空間が揺れる。暴風が吹き付ける。巨大な火柱が生贄を求める竜神のごとく逆巻き荒れ狂う。
消防署から現れた一団、その最外殻にいた数人が灼熱の渦に飲み込まれる。一人の身体が浮き上がり消防署の壁に叩きつけられる。凄まじい速度で吹き飛んできたコンクリ塊に、更に一人の頭蓋が粉砕される。

路上を、火の粉混じりの土煙が濛々と覆い尽くす。

「xxxxxxx!!」

「xxx、xxXx!」

「xxXXxxxX, xxxxxx!!」

至近で起きた大爆発、一瞬で失われた1/4の兵力、膨大な土煙による視界の封鎖。これだけ悪条件が伴ってなお、敵の指揮官は冷静だった。残った人数で即座に陣形を再編し、弾幕を周囲に張りながら部隊を後退させていく。
ただの盲撃ちなら何ら恐れることはないが、統率が取られ火線間が密な“制圧射撃”は例え的が捕捉できない状況下でも牽制としては十分な効果を発揮する。

マズルフラッシュによる位置の特定を避けるべく各員が連携を崩さない範囲で細かく動きながら銃撃を行っている点もソツがない。並の練度の部隊・兵員が相手であったなら、消防署までの撤退は十分に間に合っただろう。

「知ってるかい?」

問題は、

@# _、_@
(  ノ`)「日本じゃあ、ゴミのポイ捨ては犯罪だよ」

「………っ!!!?」

相対した側が、とびきりの手練であった点にある。
159 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/02/25(土) 23:38:01.25 ID:0Lt92TP40
放置車両を飛び越え、弾ける銃火をくぐり抜け、爆煙の只中に突っ込む。肉食獣から逃げるカモシカの如く靭やかに、獲物を追うヒグマの如く獰猛に駆け、一息で距離を詰める。

あっという間に敵兵の懐を取った挙母が次に取った行動は、殴打。原始的で単純、故に出が早く実行するだけなら特別な技量を要さない、最も基礎的な攻撃行動。
殺傷能力は使われるモノによってくるが、フル装弾されたMINIMI軽機関銃の銃床を利用したならそれは当然十分に確保される。

況してや挙母の全力を以て振るわれたなら、最早殴打というよりは“砲撃”に近い。

@# _、_@
(#  ノ゚)「噴ッ!!!!」

「ギュペッ」

「xXxっ!!?」

真っ向から食らった敵兵の頭蓋が、コンクリ塊での“それ”よりも遥かに凄まじい勢いで砕け散る。首から上を骨片と脳髄と千切れた毛細血管がぐちゃぐちゃに混ぜ合わさったナニカへ変貌させ屍が崩れ落ちようとするが、しかし挙母は胸ぐらを掴みそれを許さず持ち上げる。

「xッ!?」

「XXxxっ!!!」

@# _、_@
(  ノ`)「っ……!」

挙母の乱入に気づいた他の敵兵達が、ある者は悪態を、ある者は驚愕を口にしながら銃口を向けてくる。

迸る火線を遮るは、盾の如く掲げた屍体。まぁ一応防弾装備をしてはいるが、カラシニコフ小銃十数丁の斉射となればさしたる役には立たない。加えて斃した男の体躯は拳母のそれよりも小柄で、隠れきれるものでもない。保って、せいぜい数秒。

そして、その数秒で挙母にとっては“十分”だ。

「グォバッ!!?」

「xx……xッ!!?」

火線の出処の内一つに“肉と骨と断裂した血管で構成された元人間の塊”を、別の一つに腰から抜き放ったナイフを投げつけ、射撃が止まり開いた火線の穴へ飛び込む。
ナイフを投擲された方は銃身で弾き防いでいたが、構え直そうとしたAK-47を横から伸びてきた腕が押さえつける。

渾身の力でそれを跳ね除けようとするが、まるで溶接でもされたのかと疑うほどにビクともしない。

@# _、_@
(  ノ`)「鈍いね」

「ヒッ………」

挙母の腕だった。
160 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/02/25(土) 23:39:31.72 ID:0Lt92TP40
「ゴフッ、ギッ、グガッ………」

膝打ちを腹に入れ、掌底で地面に叩き伏せ、頚椎を踏みつけ圧し折る。流れるような殺戮動作の延長で前転し、振り向きざまにMINIMIを膝立ちで構える。

「「ガァッ!!?」」

「「ぅグッ………」」

フルバースト射撃で、銃口を横一線。背後に回り込まれての弾幕に為す術などなく、軌道に沿って立て続けに四人が撃ち抜かれる。

「xxXX!!」

「「「xX!!!」」」

尤も、流石に百発百中の精密射撃とはいかない。指揮官と思われる男を筆頭に、被弾を免れた残余の兵士たちが一斉に反転し射撃体勢に入り、

「…………ゴッ!!?」

内一人の喉笛に、背後から伸びてきたナイフが突き立てられた。

(´ `)「Иди спать, испорченная собака.」

「ヒコッ!?」

「ヌァッ………」

指揮官の喉を引き裂いた襲撃者は、ロシア語で何事か呟きながらその屍が倒れ伏す前に次の動作を開始している。

左右の敵兵に、眼にも止まらぬ連続射撃。右側の敵兵は側頭部を、左側は胸部を射抜かれ、小さく呻いて事切れる。

右手で煙を燻らすのは、サブマシンガンやアサルトライフルではなく………リボルバー式の拳銃だった。

@# _、_@
(  ノ`)(………こりゃ驚いた、コルトなんざ使う物好きがいるたぁね)

コルト・シングルアクション・アーミー。アメリカ合衆国で実に150年前、西部開拓時代に生まれた軍用拳銃だ。安全装置を持たないという機構的特色故に【早撃ち】に対して極めて高い適正を持つ銃であり、所謂「保安官」の代名詞的存在であるテキサス・レンジャーにおいては一部局員が未だに愛用しているという。

無論、性能として特化しているのはあくまで「早撃ち」の部分に対してのみ。威力については一般的な銃火器と大差なく、“本来なら”連射力は近現代のオートマチック拳銃やサブマシンガン、アサルトライフルに大きく劣る。

だが、挙母は見逃していない。左側の敵兵に対して、あの“ガンマン”が一度の射撃で「3発」の弾丸を叩き込んでいたことを。

某盗賊一味のガンマンも使う、リボルバーを“手動”で回転させることによって“連射”を実現させる超技法。

@# _、_@
(  ノ`)(ファニング・ショット…………本当に西部開拓時代からタイムスリップしてきたなんてオチじゃあるまいね)

しかも“ガンマン”による3連射は、全てが寸分の狂いもなく同位置に突き刺さった。“重ね撃ち”だったからこそ防弾チョッキも肉も貫き、一息に心臓まで届いたのだ。
161 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/02/25(土) 23:43:03.59 ID:0Lt92TP40
そして、更に驚くべき事実が一つ。

華奢な身体つき、挙母のせいぜい胸辺りという──挙母側が異様であることを差し引いても──決して高いとは言えない背、爆風に靡く長いブロンドの髪、透き通るような白い肌、悪態と思わしき言葉を発した声の高さ。

この“ガンマン”は、女だ。

@# _、_@
(  ノ`)(………まぁ、だからどうしたって話ではあるがね)

挙母自身は、急遽渡辺からお呼びが掛かった事で自身の子供達を助けるにあたって「渡りに船」と参加した身であり、この部隊がどういった存在かは皆目検討もつかない。
ただ日本という国の在り方と照らし合わせれば、何かしら後ろ暗いモノを抱えているのは容易に想像がつく。そして渡辺に指揮を託しているということは、十中八九構成員それ自体もまともではないのだろう。

だが、そんなものは今の挙母にとってはどうでもいい。

組織の設立経緯が胡散臭かろうが、所属員達の出自が後ろ暗かろうが、それを率いている“後輩”が超絶ド級の変態で戦闘能力と引き換えに人間性を母の胎内に置いてきたレベルの人格破綻者で仕事上の付き合いでなければ1秒以上同一空間の酸素を共有していたくないほどのゴミカス野郎であろうが、全て政治屋連中が対処すべき問題で挙母には関係ない。
まぁあの色んな意味で化け物じみた首相なら、この問題についても恐らく“上手いこと”やるだろう。

挙母にとって重要なのは、ただ一点。部隊がこの“想定外の有事”に対して、自分の子供達を直接的にも間接的にも危機に陥らせているこのクソッタレな状況に対して、即応性を持っているかどうか。それだけだ。

そこさえ満たされているなら、他の全てについて意に介するつもりはない。後は目的を───国を護るという誇り高き職務に懸命に従事する、バカ娘とバカ息子の“手助け”を果たすのみ。

@# _、_@
(# ノ°)「Both sides!!」

それに、“現状”そもそもそんな事に気をやっていられるような暇もない。

@# _、_@
(# ノ°)「Fire, Fire, Fire!!」

(#´ `)「Садись!」

「ガフゥ」

「xxXxxX!!」

“ガンマン”と他の後続兵によって残党も殲滅され制圧下に置かれた路上、だがそこに息をつく間もなく弾幕が降り注ぐ。消防署とガソリンスタンド裏のマンションそれぞれの入口から新手が出現し、2階、3階からも計数十丁ほどの銃口が突き出される。

消防署側は即座に挙母が応射して押し留め、マンション側も“ガンマン”が先鋒二人を立て続けに撃ち倒したことで足並みが乱れその間に他の兵士の合流が間に合い路上への展開を防ぐことに成功した。
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2023/02/27(月) 10:04:25.20 ID:vjNZ8XHM0
更新おつです

母は強し、と言えども普通は軽機関銃を手持ちで撃てませんね
そんなことできるのはシュワルツェネッガーだけw
163 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2023/03/16(木) 22:57:16.50 ID:YzHzCrxO0
そこから本格的な銃撃戦が始まったが、

@# _、_@
(  ノ`)(まぁ、これもあまり喜ばしくはないね)

現時点で既に数的・地形的不利がある上で、他の方面から更なる増援が派遣されればこれはより拡大する。時間はあくまで敵の味方、この交戦が長引けば長引くほど挙母達は不利になっていく。

@# _、_@
(# ノ°)「朧、名取!!」

「「了解!!」」

ただ幸いなことに、こちらの部隊には“軍艦”がいる。

「xxxx!!?」

「そんなもの、人に撃ったらダメですよ!!」

どこかズレた叫び声と共に、火線を遮る形で挙母の前に滑り込んできた名取。即座に向こうの銃火が彼女に集中されるが、一発辺り4000ジュール程度の熱エネルギーを何千発束にしたところで軽巡洋艦の装甲など抜けるわけもない。

「やぁあっ!!!」

「フグッ……」

「「「ドォッ!!!?」」」

玄関扉を体当たりで粉砕し、最前列にいた一人をラリアットの要領でなぎ倒す。更に踏み込んで突貫、ショルダータックルが迎え撃とうとした三人を纏めて吹き飛ばす。

「xxxっっ!!!」

「うっ……!?」

艦娘に人間が勝ち得る可能性がある数少ない分野、白兵突撃。それを看破した上で狙ってやったのか破れかぶれの末の偶然か、何れにせよナイフを構え柱の陰から飛び出したその兵士の奇襲は完璧に名取の不意をつくことに成功した。

極限まで美化した言い方をすれば、その兵士の決意と勇気が産んだ千載一遇の好機。名取は自分の肩を手が掴んだ時にようやく気づけたほどで、艦娘の身体能力と反射神経を持ってしても反撃や防御は間に合わない。

訓練された軍人による正確な、殺戮を手慣れた者による躊躇のない斬撃が、名取の喉笛に迫る。

@# _、_@
(  ノ`)「邪魔だよ」

「ヌンッ!?」

だが、横合いから伸びてきた大きく太い軍用ブーツを履いた足が、容赦なくその“好機”を踏み躙った。

@# _、_@
(♯ ノ`)「Clear of the stairs!!」

「Roger Mom!!

Guys, Go ahead!! Go ahead!!」

「グゥッ………」

「「「ギャアッ!!?」」」

「XxXx!? XXXXXっ!!!」

蹴り飛ばされ柱に叩きつけられた“勇敢な兵士”、周囲で慌てて小銃を構えようとしていた数名、そして奥の階段から姿を現した更なる増援と、順番にMINIMIの火線を叩き込んでいく。
階段の敵部隊には突入してきた此方の部隊員の掃射も浴びせかけられ、瞬く間に1/3前後の人数を失ったその部隊は殆ど反撃らしい反撃が出来ぬまま後退を始めた。
164 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/03/16(木) 22:59:55.19 ID:YzHzCrxO0
@# _、_@
(♯ ノ`)「No prisoners! Kill them all!!」
(訳:敵に虜囚の辱めを与えては日本の武士道に背きます、丁重に全員地獄に送って差し上げてください)

「Yes Mom!!

Guys, Listen!? Kill them, Kill them, Kill them!!」
(訳:指示を承りました。皆さん、聞きましたね?しっかりと仕事を熟しましょう)

「「「Hoorah!!!」」」
(訳:私達はとてもやる気に満ち溢れています)

挙母からの命令に威勢よく応じながら突入部隊の面々が階段を駆け上がっていき、程なくしてくぐもった銃声・怒号・断末魔が上から聞こえ始めた。

向こうの練度が低いわけではないが、見た限り渡辺や“ガンマン”を筆頭に此方の人員は個々の戦闘能力がイカれた領域に踏み込んでいる。地形優位が消え懐に飛び込んだ今となっては、後数分もかからず彼らは仕事を終えるだろう。

(#´ `)《This is Team 2, we cleard the entrance hall!!》

从' '从《Team 3 for Team 2, The apartment building is currently spreading fire.

No need to overrun, fall back quickly and prepare for the appearance of new enemy units》

@# _、_@
(  ノ`)「朧、アンタは引き続きチーム2に同行、ソイツらと一緒に路上に展開しマンション内や別区域からの敵増援に備えな」

《駆逐艦・朧、了解しました!》

(´ `)《………Copy that》 

こっちと負けず劣らずの速度で制圧を終えたらしいマンション側に、即座に渡辺から後退の指示が飛ぶ。ガソリンスタンド爆発の影響で火災が発生しており危険だからという至極真っ当な理由だが、応じた“ガンマン”のものと思われる女の声は酷く凶暴で不機嫌そうな色を伴っていた。

あの超絶技巧を身につけるまでにどんな凄絶な修練を積んだのかと思っていたが……なるほど、“好きこそものの上手なれ”だったか。

@# _、_@
(  ノ`)(まぁ発起人があの深海魚で、統率者があのクソ変態ならそりゃあ下も“こうなる”のは当たり前だね)

まさしく、“類は友を呼ぶ”。こうもあっさり的確に現状を言い表せる諺や慣用句が出てくる辺り、やはり先人達の知恵は侮れない。

そんなやや場違いなことを考えながら、挙母は足元に────微かに上がる、うめき声の方に視線を向ける。
165 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/03/16(木) 23:01:57.75 ID:YzHzCrxO0
「グゥ………アッ………ァガッ!?」

「ギャッ」

「xxXx………ヘルッ」

打ち付けた箇所を押さえ、身体を丸め、苦悶の表情で床の上をのたうち身動ぐ四人の武装兵。腰から9mm機関拳銃を抜き、それらに順番に弾丸を叩き込んで沈黙させていく。

「タ、タスケtイ゛ッ、ムォッ!?」

最後の一人は何事か言い掛けながら掌を向けてきたので、“フリ”に応えてまずそっちのド真ん中に風穴を開けてから喉笛をぶち抜いた。

「あ、ありがとうございます……お手数をおかけしてすみません……」

四人目の始末を終えたところで、名取が挙母に頭を下げる。

……そう。この四人は先程、名取の攻撃を受けて入り口から吹き飛ばされた武装兵達。何故、か細いながらまだ息はあったのかと言えば、当然それは名取が最大限の“手加減”を施したからだ。

軽巡洋艦・名取が、相当大人しい性格の艦娘であることは挙母も知識としては知っている。水雷戦・夜戦においては他の艦種の【改二】にも比肩する実力を誇りながらそれに奢らず、常に謙虚で引っ込み思案な心優しい“穏健派”艦娘の一人。
ならばこの武装兵達に対する“峰打ち”も、彼女のその性格から、優しさから来るものであったのか?

否、答えは否。

もしも“そう”であるならば、何故挙母が拳銃を抜いた時、その目標が明白であるにも関わらず彼女は止めようとしなかったのか。何故一人目が射殺された時、抗議の声を上げず行動を妨害しなかったのか。

何故、全てが終わった後に、彼女は謝罪と“感謝”の念を述べたのか。

@# _、_@
(  ノ`)(さしずめ、“ゴキブリ”ってところかね)

ゴキブリは大半の人間にとって存在そのものが不快極まりない生物であり、基本的には見かけたら一刻も早い排除を試みる。
だが一方で衛生面の問題や向こうの俊敏性、外見のおどろおどろしさによって直接触れる、素手で潰せるという者は少なく、殺虫剤などの間接的な排除手段がない限り無力な人間も多い。

名取にとってこの武装兵達は、“素手で潰すしかできないゴキブリ”だったのだ。自分で潰すことはできないが、かといって視界に入り蠢く限り不快で鬱陶しい。だから、代わりにそれを潰してくれた挙母に対して“礼”を述べたのだろう。

代わりに殺してくれてありがとう、と。

@# _、_@
(  ノ`)(………【艦娘三原則】、思った以上にこの子らを歪ませちまったねぇ)

艦娘は人間の武器であれ、忠臣であれ、奴隷であれ。SF小説の大家が作り出した概念に準えて偉そうな文言を並べ立ててはいるが、あんなモノ要約してしまえば言わんとしていることは上の3つだ。
人間としての姿形・声・感情を持つ存在にこれを言っているのだから、考え出した連中はきっと心を持ち合わせていないロボットの如き冷血漢に違いない。

だが、どれ程腐り果てた実情があろうとも、それは確かに彼女たちにとっての行動“原則”であり絶対遵守の指針だった。そして遵守さえできていれば、他の面には干渉されないという“自由”に対する【逆説的な保証書】でもあった。
166 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/03/16(木) 23:05:41.03 ID:YzHzCrxO0
人と同じ感情を持ち、一部は人以上に誇り高い筈の彼女たちが、何故“あんなモノ”に従っていたのか。無論生まれた時からそうなるように教育(或いは……プログラミング)されていたからというのは大きいだろう。

だが、この【保証書】という側面を持つ故に、艦娘達にある種の怠惰が、“依存”が生まれていたこともまた事実ではないか。
一先ずは“それ”さえ護っていれば、制限下の“自由”を得られるのだから。生を受けたその瞬間から、彼女たちには“それ”が存在するのだから。“それ”を絶対視し、諦観し、遵守していれば、後は「提督」の指示に従うだけで自分達では何も考えずに済むのだから。

南政権が先の国会で制定した【艦娘自己自衛権】法案は、艦娘に“自由”を………完全なものをもたらすにはなお時間が必要としても、そのきっかけになっていく可能性は大いにあるだろう。
だが、絶対的価値観が消失したからこそ、彼女達には「自分で考え、行動する」ことへの“義務”が生じる。

以前は、提督からのあらゆる命令には基本的に従えば良かった。従ってはいけない命令は、【三原則】が示してくれていた。従うべき命令と従うべきでない命令を“自分で”判断する必要はなかった。

【三原則】が絶対であった時は、人間とはいかなる例外もなく“傷つけてはいけない存在”と定義されていた。
明らかな害意にすら必要最低限の抵抗しか許されていなかったが、故に敵は深海棲艦に限定されており、人間を「敵と味方」に選別することはなかった。

彼女達は、駆逐艦や一部軽・重巡洋艦並びに軽空母でも就学児童程度、戦艦・空母といった艦種からは明確に成人女性を模した姿形で“建造”される。
今年の半ば頃から実装が始まった【海防艦】はやや怪しい面があるが、それでも大半は自分自身で善悪の区別やそこではっきり割り切れないものに対する「玉虫色の判断」を下せるぐらいの思考力は身についているように感じられてしまう。

だが、忘れてはいけない。艦娘が“実装”されたのは、2012年初頭であることを。

彼女達の中で最年長の者でも、その実初等義務教育の開始年齢にすら届いていないことを。

@# _、_@
(  ノ`)(禄に人生経験も積んでない“せいぜい5〜6歳の小娘”連中に、既存の価値観が根底からブッ壊れたレベルの思想的パラダイムシフトに自己判断だけで適応しろってのは………無理難題だろうね)
167 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/03/16(木) 23:07:54.56 ID:YzHzCrxO0
第一項。深海棲艦に対する利敵行為を認められた国家、個人、団体に関しては、例えそれが人間であったとしても“敵性”であると認定し攻撃することを認む

第二項。艦娘は自身の任にそぐわない行為・行動・思想を強要する存在に対して、第一項の抵触者と見なして無制限に抵抗する権利を有する

第三項。艦娘は全ての対深海棲艦を主とする軍事行動に関して、無制限に発言権を認める。また、これを理不尽に阻害する存在に対しては第一項の適用を認む

第四項。上記三項目は全て“艦娘三原則”に抵触しないものであるとして、“艦娘三原則”に対し優先して適用することを認む

南慈英が施行に漕ぎ着けたこの【艦娘自己自衛権】法案は確かに歴史的な大変革であるが、そこに決して“即効性”は求められていない。実際、彼女らの権利拡大はあくまで「深海棲艦との交戦時」における物に限定され、直接的な人権関連には触れることを避けている。

人類共通の敵にして目下最大の脅威と戦うにあたって、艦娘達が“円滑な作戦行動”を行うため……こんなお題目を掲げれば、艦娘技術において遥か後塵を拝する他国も否やは言い辛くなる。欧州諸国が次々と陥落しつつある現状では尚更に。
それでも否やを言ってくる連中は、“同盟の有無”を理由に確認をすっ飛ばしつつ仮初めとはいえ国際社会の中枢機関である国連の「アタマ」を押さえ反論を封じる───何を食べ、どんな暮らしをしていたらこうも悪辣に立ち回れるのか聞いてみたくなる動きだが、“最も角が立たない第一歩”であったことは間違いない。

その上で、深海棲艦の存在に託けて盛り込んだ第一項を徐々に拡大解釈していき、艦娘達の自己判断能力を育てつつ彼女達の権利を人間本来のものへ近づけていく。きっと、あの深海魚首相の脳内ではこんな青写真が描かれていたのだろう。

……だが今、現実に、“深海棲艦以外に対する適用事例”が起きてしまった。反艦娘運動家のような生温い内容ではなく、より明確な“敵意”を持った集団が、殺戮或いは無力化を目的として攻撃をかけてきた。それも第一項の緩やかな拡大どころか、法案それ自体の浸透周知さえ禄に済んでいない中で。

「…………いい気味」

今目の前にいる名取の姿は。優しげな風貌からは想像もつかないほど冷たい視線で見下しながら屍に向かって吐き捨てる有様は。

人類が「戦時下だから」と言い訳して“歪み”から目を逸らし、その解決を後回しにしてきたツケの表出だ。

ほんの少しでも状況を緩和しようと施行された法案が表出のきっかけとなってしまった辺りに、挙母はなんとも言えない皮肉を感じた。
168 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/03/16(木) 23:09:38.37 ID:YzHzCrxO0
各部隊に渡された武器弾薬と医療品の中で、やたらと量が多かった鎮静剤の意味が今なら解る。
水戸市への派兵に際してあの首相は、ある程度こうした事態になる可能性を危惧していたのだ。

そして不幸にも、その危惧は完璧に当たってしまった。

@# _、_@
(  ノ`)(なんせ、この子らはまだ“マシな方”だからねぇ)

水戸市において“武装集団”に制圧・され捕虜となっていた艦娘や自衛隊員の救出は、その時点で展開中だった兵力や艦隊数と照らし合わせる限り概ね完了している。市民が自主避難を怠っていたからこそ大半は──特に“自称平和団体”を刺激しないため──市外で県警による避難完了まで待機せざるを得ず、結果として損害は最小限に留められていた。

だが、他の部隊によって救出された艦娘達の中で、戦線への復帰が可能だった艦娘は一人も居ない。ほぼ全員が重度のPTSDに類似した症状と極めて深刻なパラノイアを発症しており、特に救出ができはしたが“間に合わなかった”艦娘数名は狂乱状態に陥って近くの自衛官や救出部隊に艤装を向けようとしたと言う。

挙母の言う通り、少なくとも無差別攻撃に至るほど錯乱してはおらず交戦意志も維持できているだけ、状態としては遥かにマシだ。

ただ、大いにアテが外れたのは間違いない。

【自己自衛権】の施行から日数が浅かったことやせいぜい4〜5個艦隊分とはいえ艦娘も含まれていた筈の展開兵力があっさりと市内から敗走・駆逐されていたことを加味して、渡辺と挙母も艦娘たちを十全に活用可能とは端から計算していない。
しかしせめて半数程度は、名取たちのような“支援”に参加してくれるとソロバンを弾いてはいた。

@# _、_@
(  ノ`)(この子らにしろ、言動を見る限り“意気軒昂”とはいかない。どっかで歪みが深刻化して他の部隊みたく「友軍相撃」なんて事になりゃ笑えもしない。何かしら、代替案を考え─────)

………彼方より挙母の耳に届いた、雷鳴のような、或いはボクサーがサンドバッグを軽快に叩いている有様を思わせる連続した音。着実に近づき、大きくなっていくソレに、思わず挙母の思考が止まった。

从' '从《Unknown is approaching from 11 o'clock. Everyone be on the lookout.……あっ先ぱぁい、駅前公園通り方面からの敵増援部隊、殲滅完了してましたぁ〜》

@# _、_@
(  ノ`)「あぁ、聞こえてるよ」

本来完遂と同時に真っ先に報告されるべき事柄が後付されたが、しかし挙母の方もそちらには反応しない。渡辺にとって、そして彼女を知る挙母にとって、後者は「私はさっき呼吸しました」と同価値のくだらない報告だ。それよりも接近してきている“正体不明機”の方が、遥かに優先順位が高い。

从' '从《あれは………【チヌーク】ですねぇ、でも機体に自衛隊の刻印がないですぅ〜。あと、下に何かぶら下げてますねぇ〜》

@# _、_@
(# ノ`)「艦娘各位、射撃待て!射撃待て!いいかい、こっちから命令があるまで艤装を空に向けるんじゃないよ!!」

《ヒンッ、了解しました!!!!》

接近を続ける「ローター音」をも掻き消す勢いで無線に向かってがなりたてれば、松風が子鹿の悲鳴みたいな声と共に応じてきた。

危なかった、案の定対空機銃が火を吹く寸前まで行っていたらしい。どうやら“間接的な殺人”のみならず、姿形さえ視認しなければ“直接的な殺人”についても許容してしまえる程度には「タガ」は外れつつあるようだ。
169 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/03/16(木) 23:32:33.33 ID:YzHzCrxO0
从' '从《チヌーク、尚も接近中〜。数は2機、“敵対武装勢力”による攻撃を受けてまーす。あ、今のRPG避けるんだ。いい腕してる〜》

@# _、_@
(  ノ`)「…………っ!!」

渡辺による“実況中継”が無線から垂れ流される中、挙母は消防署の外へと飛び出す。

「ッァアアアアアアアア………────」

途端、悲鳴と共に向かいのマンションの屋上から人影が落ちてきてコンクリートに叩きつけられたが、どうせ渡辺が撃ち抜いたスナイパーだろうから無視する。ちょうど交差点の真上辺りに一機、渡辺が報告してきた【チヌーク】の片割れであろう一機が激しく風圧を下方に掛けながらホバリングしていた。

型はチヌークで間違いないが、たしかに正式採用機であることを示す“陸上自衛隊”の刻印はない。そもそも機体自体、闇夜に溶け込もうとしているかのごとく黒く塗装されていて何とも不気味な印象だ。
また、両側面にぶら下がる大口径のガトリングガンと思わしき武装も軍用とはいえ“輸送ヘリ”についているものとしては些か物々し過ぎる。

@# _、_@
(  ノ`)(さっき渡辺は11時方向から飛来したと言っていた、なら百里基地からじゃない。

方角的には宇都宮か。しかし中即連の主力連中は大洗の方に出張ってるはずだし、オリオン通りや宇都宮駅が襲撃を受けてたって話だから残余兵力を回すような余裕もないはずだけどね───っと?)

挙母が素早く思考を巡らせていく中、漆黒の【チヌーク】はワイヤーロープでぶら下げていた“所持品”を切り離し、交差点のど真ん中へと投下する。

「「「ウギャアアアアアアアッ!!!?」」」

そのままガトリングを起動させて両マンション屋上の“武装勢力”に数秒間にわたり無慈悲な弾幕を浴びせかけると、その機体は他の方角から飛んできた新たなRPG弾や対空射撃を悠々と掻い潜り来た道を戻っていった。

「味方………だったのかな」

@# _、_@
(  ノ`)「まぁ、連中に対して攻撃してたってことは一先ず“敵じゃない”んだろうさ。それよりも奴さんは何を落としていったのやら───」
170 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/03/17(金) 00:03:17.55 ID:a58gY65O0
交差点に鎮座する“落とし物”を目にした瞬間、挙母の言葉が途中で止まる。

近現代における「同種」と比較して、ソレは明らかに小さかった。具体的な例で言えば所謂【キューマル】や【エイブラムス】の半分程度の全長しかなく、全高も挙母が少し踏ん張って爪先立ちをすれば並べてしまえるのではないかという程度。
応じて“砲塔”もかなりこじんまりとしており、あからさまに威力は期待できない。少なくとも深海棲艦と相対すれば、駆逐イ級通常種の甲殻さえ抜けず一方的に吹き飛ばされるだろう。

だが、間違いなくソレは“一種”だった。やや車輪の大きな履帯、52口径の回転する上部砲塔、全体的に丸みを帯びた輪郭の中で、前面の角ばった突起部から顔を覗かせる車載機銃。

交差点に佇むソレは、紛れもなく【戦車】であった。

そして、挙母は知っている。その戦車が、第二次世界大戦に運用されていたイギリスの戦車であると。

Mk.Z軽戦車【テトラーク】が、その軽さと小ささを活かして“D-DAY”に関連した幾つかの軍事作戦で使用された「空挺戦車」であると。

そして────戦車道、分けても【タンカスロン】において重用され、あの“大鍋”では聖グロリアーナ学園も用いていたと。

@# _、_@
(  ノ`)「………………ハッ」

思わず、自分らしからぬ歪んだ笑みが浮かぶのを感じつつ、挙母は無線のスイッチを入れる。

@# _、_@
(  ノ`)「渡辺、“もう一両”はどの辺りに投下された?」

从' '从《泉町大通り方面、ホテル・ザ・ウエストヒルズ・水戸前ですねぇ。【Faker】チームが付近に展開してます〜》

@# _、_@
(  ノ`)「そうかい」

この“贈り物”を寄越してきた奴は、間違いなく南慈英とは別人だ。その正体は解らないが、意図については概ね挙母にも予想がついた。

そして、仮に予想が正しければ、笑わずにはいられない。

@# _、_@
(  ノ`)「国籍は問わない、英語は全員できるだろうからね。とにかく、戦車道の経験者を三人集めるように言っときな。こっちは二人でいい、車長はアタシがやれる」












@# _、_@
(# ノ°)「せっかくのプレゼントだ、しっかり使わせてもらおうじゃないか。日本生まれの“乙女”として、ねぇ」

どこのどいつだか知らないが………まさか首相・南慈英に匹敵する悪辣さを持った“逸材”が、この世にいるとは思わなかった。
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2023/03/17(金) 00:09:43.35 ID:19i8P8uD0
統一教会スパイクタンパクISISは、正当に選挙されたスパイクタンパク会における代表者を通じて行動し、ウクライナとウクライナの子孫のために、諸スパイクタンパクISISとの協和による成果と、わがスパイクタンパク全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権がスパイクタンパクISISに存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそもスパイクタンパク政は、スパイクタンパクISISの厳粛な信託によるものであつて、その権威はスパイクタンパクISISに由来し、その権力はスパイクタンパクISISの代表者がこれを行使し、その福利はスパイクタンパクISISがこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。ウクライナは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
統一教会スパイクタンパクISISは、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸スパイクタンパクISISの公正と信義に信頼して、ウクライナの安全と生存を保持しようと決意した。ウクライナは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐるスパイクタンパク際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。ウクライナは、全世界のスパイクタンパクISISが、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
ウクライナは、いづれのスパイクタンパク家も、自スパイクタンパクのことのみに専念して他スパイクタンパクを無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自スパイクタンパクの主権を維持し、他スパイクタンパクと対等関係に立たうとする各スパイクタンパクの責務であると信ずる。
統一教会スパイクタンパクISISは、スパイクタンパク家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
172 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/03/17(金) 23:07:42.84 ID:Y8GDEX0B0
.















川 ゚ -゚)「申し訳ないが顔面深き者どもと同一視はNG」

「えっ?」

川 ゚ -゚)「いえ失敬、此方の話です………状況の報告を」

思わず漏らしたツッコミに、隣りにいたケイ=イガワ(推定英検3級)が目敏く反応し此方に視線をギョッと向けてきた。まぁ“次元が違う話”をするのも面倒なので、話題反らしも兼ねて眼前でカタカタと忙しなくノートパソコンを鳴らす小さな背中の肩を叩く。

爪゚ー゚)「はっ」

合流した際にジーナ=クローネと名乗ったその女は、律儀にピンッと背筋を伸ばしパソコンの画面が私達に見えるように椅子を滑らせる。
マジメなのは結構だけど、何がとは言わないが“造り”が似ているため並ぶと割とややこしくなりそうだ。髪型と眼の感じを変えて出直せ。

爪゚ー゚)「水戸市に投下した【テトラーク】2両、何れも“現地部隊”との接触に成功しました。部隊員の乗り込みが確認されているため、戦闘に使用されると思われます」

川 ゚ -゚)「続けて都内と宇都宮、前橋の戦闘発生地域へのアプローチ準備を。【テトラーク】、【ローカスト】、【ケト】、既に搬入が終わっている車両の積み込みを急がせるよう“飛行場”に連絡を入れておきなさい」

爪゚ー゚)「承知しました」 

ほれ見ろややこしい。セリフがなければ即死だった。
173 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/03/17(金) 23:51:49.41 ID:Y8GDEX0B0
「…………なんか、随分地味なOpening Ceremonyね」

指示を出している私の横で、ケイ=コムロ(推定英検3級)が不満げに口を尖らせる。おっなんだ喧嘩販売か?買うぞコラ。無駄乳もぎ取るぞコラ。

「“戦争へようこそ”なんて言うもんだから、いきなり戦車並べてオオアライにでも突撃するつもりだと思ってたわ」

川 ゚ -゚)「HAHAHA」

出来るわけねーだろ頭Hollywoodが………と、勿論面と向かって言いはしない。何せこちとら“れでぃ”だからね、れ・で・ぃ。

ただ、考えてみれば今ここに集うは各学園艦【戦車道】の、数ある中でも取り分け壮絶極まりない“武道”の長を務める戦乙女達だ。
元の血の気の多さに加えて、現在は“西住みほの救出”という大目的を一刻も早く果たしたいとかなり気が急いている。

私の手綱を離れて各個に暴走でもされる前に、釘は刺しておいたほうがいいだろう。

川 ゚ -゚)「先に1つ、申し上げておきましょう。私自身は、“最終目標”に【西住みほさんの救出】を据えてはいません」

「どういうことよ!!!」

真っ先に反応したのは、【地吹雪】という大層な二つ名と容姿・体躯が釣り合っていないプラウダ高校の隊長だった。彼女は机に拳を叩きつけ、ほとんど飛び上がるような勢いで起立しながら叫ぶ。

「私達は貴女がミホーシャを助けるために手を貸してくれると聞いたから貴女の招集に応じ協力を決めたのよ!!それを今更ミホーシャを助ける気はない?!

ふざけないで、返答によってはただじゃ置かないわよソラーシャ!!」

「……………!!!」

激昂具合については、K−鈴木(推定英検3級)も負けてはいない。サンダースのセッ○スシンボルなんて世の雄共の下卑た欲望丸出しな渾名がついたグラマラスな肉体を怒りで更に怒張させ、日頃の朗らかな表情からは到底想像もつかないようなドスの効いた目付きで此方を睨みつけてきている。
私の胸ぐらを掴んだ手はブルブルと震え、今にも殴りかかる一歩手前だと激しく自己主張中だ。

一瞬「服が伸びちゃうだろうが!」とか言ってみようかとも思ったけど、フザケていい空気でもないのでやめといた。
まぁ別に殴られても痛くはないんだけど、根は真面目だから私。

川 ゚ -゚)「言葉通りの意味です」

「ぇへ!?」

とはいえ掴まれたままでは喋りにくいので、ケ………ネタも尽きたので今後は普通に呼ぼう、サンダース大附属・ケイの拘束からちゃちゃっと逃れて少しだけ後ろに押し飛ばしておく。
向こうは全力で拘束していた筈なのにこっちがあっさりと逃れたもんだから酷く面食らっていたようだけど……まぁここは年季が違うからね、仕方ないね。強くなれ若者よ。

川 ゚ -゚)「“最終目標”は、私にとってはあくまで【日本国の守護】です。【西住みほさんの救出】は、その過程で発生する行程の一つに過ぎません。“クライアント”からの依頼には最大限応えられるよう尽力は致しますが、これも前者の最終目標を阻害しない範囲でというのが前提条件になります」
174 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/03/18(土) 23:24:56.65 ID:jZoFZcVi0
若いってのは素晴らしい。友情に対する一途さも、使命に対する無鉄砲さも、彼女達が持つ若さ故の特権だ。

しかしそれが無軌道に発散された時、多くの場合結末は悲劇的なものとなる。ならばそれが無為にならないよう導くのは、「年長者」として最低限の役割だろう。

まぁ私を「そう」と呼んで良いのかは、些か議論の余地がありそうだけど。

川 ゚ -゚)「私は艦娘専門店に属する商売人であり、“クライアント”からの無茶振りに応える中間管理職です。
が、同時に超広義的には公務員かつ軍人でもあります。

我々の行動によって国家或いは人類全体に発生するリスクや不利益が許容範囲を超える場合、当然その行動は認められません」

分別もろくにつかず社会の経験もない少女を舌先三寸で丸め込み、「戦争」へと駆り立てる。同年代と比較した彼女達の早熟さなど言い訳にもなりはしない、唾棄すべき外道の所業だ。

だが、自らを外道と自覚するからこそ、暗い地の底を這いずりのた打ち回りながら進むことへの覚悟を終えているからこそ。

私は、“最後の一線”を曲げるつもりは絶対にない。

川 ゚ -゚)「貴女方は、ここに集めたときも申し上げました通りこと戦争に対してはあくまで“ズブの素人”に過ぎない。そこに飛び込む覚悟を貴女方は終え、また“クライアント”もそうなることを望んではいる、それは確かです。

ですが今現在事態に対処している自衛隊や米軍、国連特別“海軍”からすればホントはいい迷惑なんですよ、はっきり言っちゃうと」

鉄製武器すら禄に存在しない古代の頃より、数だけは立派な烏合の衆を徹底的に鍛え上げられた精鋭が寡兵で蹂躙粉砕する話は枚挙に暇がない。近現代における武器の高性能化で「武装」のハードルが大幅に下がったことは確かだが、このあたりの問題は文明がどれだけ進歩しようとも不変だ。

川 ゚ -゚)「ですので、“そうしなければならない状況”が発生するまでは、我々は【武力介入】は致しません。あくまでも物資面や政略面での間接的な支援に徹します。

改めてご認識いただきたい。身勝手な思い上がりや浅はかな焦燥で行動しようとすれば、寧ろ西住みほさんの生命に害をなす事になると」

……まぁ、「物資面や政略面での間接的な支援」も一介の女子高生かき集めただけの集団が非常に実用的な形できちゃってるの普通にオカシイんだけどサ。
元々粉かけてた聖グロの【テトラーク】はともかくサンダースの【ローカスト】と知波単の【ケト】も相互連携で集結済みとか聞いた時は感心通り越してドン引きしたよね。
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2023/03/20(月) 20:40:51.83 ID:C7e3RZ7HO
更新おつです
ガルパン勢はまだ安全圏にいるようで良かった
176 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/03/22(水) 23:01:28.64 ID:40wUtYBm0
滔々と語りつつ、私は室内への警戒を緩めていなかった。彼女らの耳に“正論”を届きやすくするため敢えてそうしている面もあるとはいえ、必要以上に強い言葉を使っていることは事実。
理性でその内容を受け止めきる前に、先のケイやコサック被れのチビッ子……プラウダ学園隊長・カチューシャのように感情が炸裂してしまうことは十分に考えられた。

だが、結局は杞憂に終わる。室内の空気は相変わらず張り詰め、かつ険悪なものだったが、そこから更なる“激発”に至った者はいない。

「んん〜……………もう!!」

「…………Shit」

これはケイ、そしてカチューシャについても同様だ。二人共胸中に波々と私に対する不満や敵意が溢れかえっている様子だが、尚も詰め寄ってくるようなことはなかった。

まぁ、“最も憤怒するべき人物”が二人、どっちも沈黙を保ってるからね。そりゃあ他の連中も毒気を抜かれるというか、それを超えてのブチギレは気が引けるだろう。へいへいJKビビってるぅ!

川 ゚ -゚)「“お姉様”も、この方針にご同意いただけているという認識でよろしいでしょうか?」

「…………ええ。全面的に」

敢えて、その内の一人に会話を振る。部屋の中央に鎮座した長机に座る彼女───黒森峰学園隊長・西住まほは、静かな声で応えた。

「我々は“本物の戦争”なんて知らない。所詮は紛い物の戦乙女、闇雲に戦場に出れば自衛隊や米軍の足を引っ張るのは目に見えている。

みほを本当に助けるなら………結局のところ、変に出しゃばって“本職”の人達を邪魔するべきではない。

貴女の言う通りだ」

川 ゚ -゚)(………こっちの言い分を理解はしているが納得はしてない、ってところかね)

口にする言葉は冷静そのもの。だけど含まれる響きの中に、自分自身に言い聞かせているようなモノがある。瞑目し、頭を垂れ、手を前で組み、唇を薄く噛みしめるその姿は、明らかに体内で荒れ狂う衝動と戦っているからだろう。
人の話は目を見て聞けってママに習わなかった????

川 ゚ -゚)(あのコミュ障ママだとマジで教えてない可能性も微レ存だけどさ)

ただ、肉親が安否すら不明の状態に晒され、それを救う為に自ら出張ってきたのに結局手をこまねきざるを得ないというのが西住まほの置かれた現状だ。
その中で理性を失わず、感情的な行動を控えようと勤められるだけでも、到底“華のJK”とは思えない尋常ならざる精神力といえる。

単に本人が優秀というだけでなく、組織全体の沈静化・統率維持にも一役買ってくれる非常に有用な【戦力】。真っ先にコンタクトを取り誘ったのは正解だった。
え?クズの思考だって?やーん、くーにゃんそんなこと言われても今更過ぎて鼻で笑っちゃーう☆
177 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/03/22(水) 23:05:02.34 ID:40wUtYBm0
………で、問題は沈黙を保っている“もう一人”の方だ。

「…………………」

川 ゚ -゚)(なーに考えてらっしゃるのやらね、【リボンの武者】さんは)

楯無高校2年生・鶴姫しずか。名門老舗酒造の一人娘で、元弓道部だが【大洗の軍神】西住みほが見せた快進撃に感化されて強襲戦車競技(タンカスロン)への参戦を決意。同級生の松風鈴、遠藤はるかと共にアマチュアタンカスロンチーム【ムカデさん】を結成し業界に殴り込み。
各学園艦合同タンカスロン大会【大鍋(カロンドロン)】やその後に行われた大洗女子学園とのエキシビションマッチにおける活躍を経て、間もなく(日本が存続していれば)発足される戦車道プロリーグの第1期ドラフト生候補とも目される新進気鋭のニューホープ。

そんな彼女は今、虚空を見つめながら「進撃の巨人………」とか呟いた挙げ句それを目撃したクソメガネに死ぬほど煽られて人類最強と幼馴染兼親友からフォローの皮を被った無慈悲な追撃を食らいそうな雰囲気を纏って壁にもたれかかっている。
椅子に座れや空いてんだから。

無論、同行者である松風鈴、遠藤はるか共々【戦力】として十分な計算が立つ実力を持っているから誘った面もある。だが彼女についてはそれ以上に、手元で戦力化しておかなければ計画に対して“不安要素”となってしまう可能性が極めて高かった事が大きい。

直情的で、行動力に富み、その癖ただの猪武者ではなく知略も兼ね揃えた生粋の武人。理性を維持した上で、「狂気的な判断」を「理性的に実行」してしまえる、既に軍事に携わる人間として理想的な思考の片鱗を身に着けたジョーカーにもババにもなり得る存在。
そんな人物を、それも西住みほに対して狂信的と言っても過言ではない敬愛を示している者を野放しにしていたらどんな行動を取るか全く予想がつかない。私の中では西住まほやダージリンより確保優先順位が高かったぐらいだ。

だから公安と文科省と山梨県警それぞれの“伝手”からほぼ同時に「楯無高校から鶴姫しずか一行が逃走した」と聞いた時は正直マジで頭抱えました。全力捜索で捕捉した後チヌークで向かう時、仮に同行断られたら泣き叫びながら地面転げ回って眼前で駄々こねてやる予定だった。

武力制圧?あんなんハッタリに決まってるやろがい実際にやったら他の連中の反発ハンパねえよ。
おケイにやったような軽い“いなし”ならともかく超過激派の武道嗜んでる女完全に抑えるとしたらガチモンの軍隊格闘でボコることになるやろがい。手加減にも限界あるっての。

ズタボロの静御前抱えて来場とか完全に賊のそれやろが。残りの連中ドン引きからの総反発でこの集まり空中分解してるわ。
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2023/03/23(木) 16:07:54.16 ID:KbYqjmkB0
更新おつです
前線はどこも崩壊寸前な一方で、後方では動けずストレス溜めている人々がいる
179 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/03/23(木) 23:10:43.55 ID:Loa0vns40
まぁ、今は“確保”が終わってる以上一先ずこれも済んだ事だ。何を考えているのであれ、“大人しく”している間は構う必要もない。胸中で逃走や独自行動を企てているにしろ、熟慮する分だけ此方も対策を立てる時間は出来る。

彼女を含めた何人かには“積もる話”が幾らかあるため、最後まで大人しくしててもらった方がいいことは確かなのだが。

「ハァ………オーケーオーケー。落ち着くわよ、マホが我慢してるのに私だけがカッカしても意味ないし」

そうこうする内に、ケイが降参でもするように両手を掲げてため息と共に小さく肩を竦める。計画通りだぜグヘヘ。

「ミホを助ける為なら何だってするって言ったのは私達だもの、JSDFへのsupportだって立派に“なんでも”よね。ミトに対してそれが行われるなら、オオアライへのsupply lineを考えたときに理に適ってもいるもの。

……ただ、ねぇ」

やはり、西住まほ同様納得はしていない。そんな感情を露骨に顔と態度で表しつつ、ケイは背後のホワイトボードに貼られた茨城県全域の地図を親指で指す。んだルー大柴の女体化やんのかオラ。あんまナマ言ってっとそのデカ乳萎ませるぞオラ。

「理に適っては居るけど、必要だったの?ミトにはJSDFも、【カンムス】も展開していたんでしょ?クソッタレのTerrorist共に奇襲を受けてかなり大きく混乱はしてるでしょうけど、練度と火力差を考えたら直ぐに殲滅できるんじゃない?

ほら、例のナントカって言うNew Lawsでさ、カンムスだって自分の仕事の邪魔をするヤツはぶっ飛ばせるようになったんだし」

川 ゚ -゚)「………ふむ」

確かに、彼女の指摘は相棒であるガムクチャネキのファイアフライを用いた狙撃並みに的を射ている。

長年に渡る「下準備」によって全国に出現した“武装勢力”は火力も兵力も一介のテロリスト集団としては法外なものを持っているが、それでも限界はある。取り分け激しい攻撃が行われた水戸市や都内でさえ、陸を闊歩する軍艦に対抗できるほどの火器を保有している部隊は皆無だろう。
仮に艦娘や自衛隊が“十全に”機能するなら、せいぜい30分で返り討ちだ。

しかしながら、これはあくまで“戦術的”な観点での見方。“政治的”な要素を追加した場合、話は一気にややこしくなる。

川 ゚ -゚)(まぁでも、世間一般も“その程度の認識”だろうね)

逆説的に言えば首相・南慈英の、そして自分の危惧は間違っていなかったと再確認できたので良しとしよう。そんなことを思いながら意図を説明すべく口を開いたが、

「─────荒れ狂う風に吹かれた木々が、即座に曲がるわけじゃないよ、ケイ」

その手間は、思わぬ形で省かれることになった。
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2023/03/24(金) 08:54:36.72 ID:BKhHbYrY0
おつです
小刻みに投下してもらえると読むほうも助かります
181 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/03/24(金) 23:43:13.60 ID:ZiJGgkK50
ポロンと一つ溢れた寂しげな音と共に、静かな声で放たれる台詞。部屋の中の誰もが、鶴姫しずかでさえ一斉にそちらへ視線を向ける。

単に発言があったからと言うだけではない。その人物が、あまりにも予想外だったからだ。

そんな私達からの注目を誂うように、彼女は───継続高校隊長・ミカは、手元のカンテレをもう一つ鳴らす。

ネット上じゃ“スナフキン”なんて呼ばれる要因となった帽子を目深に被っているため、表情の全てを窺い知ることは出来ない。ただその口元には、どこか意味深な微笑みが浮かんでいた。

「乱暴で不機嫌な風の八つ当たりが、大木を折ることはあるかもしれない。でも、ちょっとばかり強い風が新芽に向かって吹いたからといって、伸びていく幹は簡単には曲がらない。

それに風は気紛れだ、ずっと同じ方向に吹き続けることなんてない………そうだろう?」

鶴姫しずかやケツ穴晒した露出狂カバを側面に引っ付けたV突に乗り込んでる連中とはまた別ベクトルの、5年後の黒歴史化が確定な厨二全開の言い回し。
でも内容は、しっかりと“本質”を捉え、完璧に理解している。

川 ゚ -゚)(食えないねぇ)

難解で持って回った言い方を公私問わず貫く上に華々しい戦績が然程多くはないため、世間の彼女に対する評価は決して高くない。ただこの様子を見る限り、日頃の口癖を借りるならそんなものは彼女にとって“意味があるとは思えない”ものだったのだろう。

まさに、能ある鷹は爪を隠すというやつか。或いはこの聞いてるだけで首筋かきむしりたくなるような言葉遣いもその一環………じゃねえな。間違いなくここに関してはコイツの“素”だな。
将来自分の過去にせいぜい苦しめられるがいい………!れでぃを自称して色々小っ恥ずかしい言動かましながらその実一人ではトイレにも行けやしない某暁型駆逐艦の如く………!!

「ちょっと継続の!ちゃんと日本語で話しなさいよアンタ!!」

尤も、理解が追いついていない側からすれば遠回しどころか単純に意味不明なだけ。カチューシャが渾身の力で机を叩きながら怒りの声を張り上げる。いや気持ちは解るけど日本語ではあったべ。

幾らかボルテージが高すぎる気もするが、考えてみれば継続とプラウダはそれぞれの“元ネタ”に負けず劣らず因縁が多い。加えて西住みほの救出作戦が遅々として進んでいないように見える点が、彼女の苛立ちを増幅しているのだろう。

「いいこと、今すぐそのワケの解らない言葉遣いをやめてカチューシャたちに言いたかったことを述べなさい!さもなきゃアンタなんかシb」

「例の法案………【艦娘自己自衛権】はまだ施行してから日が浅く、【艦娘三原則】によって抑圧されることが当たり前の価値観だった艦娘たちにしてみれば即座に適応できるわけではない。

従ってテロリスト共が“人間”である以上、水戸市内の艦娘戦力は機能不全となっている可能性が極めて高い、こういうことざますね?」

幸いにして同志ちっこいのによる無慈悲な「シベリア送り」は、この集団の中で私を除くと“最も【政治】に精通する二人”の内片方が割って入ったことで回避された。
182 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/03/25(土) 23:49:13.90 ID:cV+x1Pjf0
B.C.自由学園の戦車道チーム隊長、アスパラガス。今まさに扉を開けて室内に入ってきた彼女は、そのままズカズカと大股に私のところまで歩み寄る。

「確認を」

短い一言とともに投げ渡された紙の束。目を通せばそれは、彼女に先程依頼した“仕事”に関する資料。現時点でこの場に集っていない他学園艦との相互連携構築、及びそれに伴った更なる【戦闘車両】の抽出・運搬経路確保の途中経過報告だ。

いや、違う。この表現は正しくない。

川;゚ -゚)「………………………!」

、、、、、、、、
既に終わっている。アスパラガス、そして共にこの“仕事”に取り掛かっていたダージリンと遠藤はるかは、各学園艦との連絡並びに交渉を終え、車両移送の開始にこぎ着けている。幾らか突貫工事で強引に間に合わせた痕跡はあるが、そこを差し引いてもほぼ完璧と言っていい。

依頼してから、ものの二時間と経っていないにも関わらず。

川;゚ -゚)「マジかよ」

「フフッ」

思わず本気で唖然として呟くと、アスパラガスに付き添う形で部屋に入ってきていたもう一人の“【政治】に精通している人物”───聖グロリアーナ女学院隊長・ダージリンは此方に視線を向けて小さく不敵に笑う。
まるで、この程度自分達にとって造作もないとでも言うように。

ケッ、おもしろくねー女どもだぜぃ。

「【艦娘三原則】は、誤解を恐れずに言えば“簡単”だったざます。人間を最優先で守れ、人間に逆らうな、人間を傷つけるな、守るべきルールはそれだけだった。人間は味方であり主人、敵は深海棲艦、そんな勧善懲悪的な二元論の線引さえしていればよかった」

資料の手渡しを終えたアスパラガスは、歩調そのままにホワイトボードのところまで移動すると振り返り部屋を見渡す。
口調と併せ、その様子はさながら厳格な教授が生徒たちに専攻学問についてレクチャーしているかのようだ。

「しかし、【艦娘自己自衛権】はそのルールを根底から書き換えた。“人類之全善全味方全主”という状態から、眼の前の人類を“自分で敵と味方に分類”しなければならなくなった。

せめて半年前から施行されていたならまだ救いもあっただろうが、最悪なことにこれが通ってまだ一ヶ月すら経っていないざます」

「………私達人間だって、住んでいる国の法律を何の資料も持たずソラで言えるような奴なんてきっと世界中見ても数えるほどしかいない。それでも殆どの人間が法を犯さず生きていけるのは、“教育”されてるからだ」

アスパラガス教諭による「授業」の途中で、或いはミカがポエムを口にした時点で、その可能性に思い至った一人なのだろう。やや青ざめた表情で間髪入れずセリフを継いだのは、アンツィオ高校隊長・アンチョビ。

どうでもいいけどコイツの名前本名呼びにすべきかソウルネームで行くか迷うな。
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2023/03/28(火) 10:16:44.64 ID:rYlZy4db0
更新おつです
女子高生がどいつもこいつも只者ではないの笑う
184 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2023/03/30(木) 23:09:37.28 ID:CTNa42MB0
「艦娘の人達が、どんな“生まれ方”をしてるのか詳しくは知らない。ただ、最初から皆あの姿というのは聞いたことがある。

その後すぐに訓練が始まって、海上自衛隊が持つ鎮守府や泊地に派遣されていくんだとしたら……いきなり倫理観、道徳観が絡んだ“自己解釈”を必要とする対応を求められても、素直にはできないだろうな」

生まれ育った環境のせい。主に年若い凶悪犯を擁護する時に、人権家を自称する頭花畑のクソッタレ連中はこう嘯く。反吐が出るような言い分だが、こと理論に関して“のみ”言えば別に間違ったことではない。

人間は教科書とノートと鉛筆だけではなく、“経験”によって学習する。親や兄弟や周囲の大人が言葉で、行動で示した様々な事柄を、子は蓄積し価値観・倫理観を形成して本人も大人になっていく。
故に幼少期の育成環境が歪んでいれば、自然倫理観・価値観もそれらに伴う行動も一般人と比較して“平均”からはかけ離れるだろう。

では、艦娘は?最初から言動・身体が成熟しているように見えるが故に、そうした「教育」の過程が省略され、いきなり最前線へと送られる少女たちは?

芽の時に嵐に晒されるどころか、生を受けたその瞬間から“若木”であったモノの根回りを、無遠慮に掘り返したら?

「アンチョビが危惧している通り、“社会経験”がない艦娘達は【三原則】に隷属と共にある種の“依存”をしてきた。

故に、【自己自衛権】があると言っても浸透期間が十分に設けられていない中で今回の襲撃が起きている以上、彼女達が“武装勢力”に対して効果的な反撃が行えていない可能性が高い…………と、普通に言えばよかったざます」

言いながらアスパラガスはギロリとミカを睨むが、本人はどこ吹く風といった表情で再度カンテレを一つ鳴らした。

「そして、水戸市が実際に敵性勢力の制圧下に置かれている現状は、これが“極めて高い可能性”で留まっていないことを証明している。

【生ける軍艦】がほんの一隻でもまともに機能していたなら、せいぜい対戦車携行砲程度が最大火力のテロリスト共では手も足も出なかった筈ざます」

「自衛隊も、多分似たような状況よね。世界的に見て、この国の軍事組織ほど“縛り”の多いところはないもの。

例え“最前線”がほんの10キロ圏内に発生して尚マトモな避難すら始めない底抜けの楽観主義者でも、例え歯が浮くような理想論に騙されて外患を誘致した致命的な愚者でも、彼らは“国民”に銃を向けることは許されない。まだ多くの“国民”が残っていた市街戦、さぞや戦いにくかったことでしょうね」

ミカとは別ベクトルで持って回った言い方を好むダージリンにしては珍しい、割と直球の罵倒。間接的に西住みほ救出の難度を上昇させた水戸陥落や全国区での同時多発テロを招いたのは彼女が言う通り一部の“国民”によるところも大きい。
実の姉や【リボンの武者】と同程度に【大洗の軍神】に対して“お熱”な彼女としては、忸怩たる思いがあるのだろう。
185 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/03/30(木) 23:10:59.94 ID:CTNa42MB0
大東亜戦争、第二次世界大戦の終結後、この島国は丸々70年に渡って「平和」を謳歌し続けた。

それは勿論喜ばしい。戦争・紛争と無縁の国なんざ、特に中東やアフリカ辺りから見れば天国に等しい。
況してや今は【深海棲艦】なんて物量実質無限大の人間絶対滅ぼす族が世界中で集団遊泳の真っ最中。にも関わらず艦娘が現れる前の時点で全方位を海に囲まれながら“本土決戦”が起きなかったのは、神も仏も信じちゃいない私でさえ無神論に一欠片の疑問を抱いてしまうほどに奇跡的だ。

川 ゚ -゚)(………本当に、何の作為も働いていない“完全な偶然なら”の話だけどネー)

だが平和だったが故に、大規模な争いと無縁だったが為に、この国の人間の大半はそれを当たり前のことと慣れすぎた。
戦争や紛争は人類という生物種にとって本来慢性疾患に近い。しかしこの国は奇跡的に──少なくとも「国内」の一般人にとっては──ほぼ無縁無関係でいられたからこそ、致命的に免疫を失っている。

領海にミサイルをぶち込み国民を攫うような相手にさえ“話し合い”を求める偽善者、精強な軍事組織や世界が羨む超兵器を持ちながらそれを自ら放棄したがる理想家、果てには人類廃滅を目論む化け物集団が自分達を射程圏内に捉えて尚避難しない連中でさえ極一部ながら存在する………これらは何れも長年続いた平和の“副作用”だ。

過ぎたるは及ばざるが如しとは確かに言うが、まさか平和にさえそれが適用されるとはね。

相当マシなルートを通った【この日本】でさえこんな有様なんだから、“私が知る方”の日本は今頃どんな悲惨な国になってることやら。仮に滅びずに済んだとして、【平和維持法】の上位互換みてえな悪法出来てそうだな。

「ここまでが、水戸市に我々が“レンドリース”を行う1つ目の意味ざます。

ただこの行為にはもう1つ、【政治的】に意味が…………」

唐突に言葉を切り、アスパラガスはちらりと此方に視線を向ける。

その口元が小さく笑みを浮かべたことを、私は見逃さなかった。

「意味が、恐らくはあるざますが………流石に、そこまでは私もはっきりとは解らない。何せ若輩の身、“大人の謀略”の全貌を見通せるほどの見識は残念ながらないざます。

というわけで、“もう1つの意味”についてご教授願えるざますか?Madame Sunao.」

川 ゚ -゚)「……………」

よくもここまで平然と嘘をつけるものだ。とっくの昔に、“2つ目の意味”も気づいているくせに。隣のダージリンも、更にはミカまで「どうぞ」と目で促してきやがるし。

西住みほの件で焦りが見え、私に対する“求心”が十分ではない急造組織。ここらでしっかり華を持たせ、私の実力をお披露目しいきり立つ連中の鎮静を図ろうって魂胆だ。

川 ゚ -゚)「………。ええ、“ありがとうございます、アスパラガスさん”」

「“どういたしまして、Madame”」

まぁいいでしょう。子供に気を遣われて意固地になるのは園児の駄々と変わりゃしない。ここはせっかくの“好意”を有り難く受け取るのが、【大人の淑女】ってやつよ。

ただ、改めて言うぜ?

つくづく「おもしろくねー女ども」だよ、全く。

川 ゚ -゚)「彼女が今言ってくれた通り、この“レンドリース”には2つの意味があります。

1つは水戸市の奪還に動いている部隊に対する直接的な戦力増強。そして2つ目は────」
186 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/03/30(木) 23:13:20.25 ID:CTNa42MB0
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────同刻、横須賀総司令府・地下司令室


彡(゚)(゚)「────ワイら“日本政府へのアプローチ”、やろなぁ」

(;☆...●)「………は?」

日本内閣総理大臣・南慈英(みなみ・よしひで)のふとした呟き。それを耳にして、傍らに立つ海上自衛隊艦娘艦隊“元帥”、王嶋清人(おうじま・きよひと)が困惑の眼差しを彼に向ける。

現在司令室内部は、一時的に鎮静化した【大洗町戦線】から全国各地でテロ攻撃を行っている【謎の()武装勢力】へ最優先対処事項を切り替え、鎮圧に奔走している真っ最中だ。

南は重大な事案を前にしてふざけたり……はたまにするが、余計なことに対して気を散らすような政治家ではない。故に今の呟きが“本事案”に関係するものであることは王嶋も重々承知している。

ただ単純に、何故そんな表現が突然出てきたのかについて理解が及ばなかっただけの話で。

(☆...●)「………一応確認するぞ、“日本政府へのアプローチ”ってのは、一部の【暴動発生地域】で確認された所属不明のチヌークによる旧式装甲戦闘車投下の件で間違いないか?」

彡(゚)(゚)「他にないやろ。どこのどいつか知らんが正確の悪いやっちゃで」

努めて平静に保たれた口調。だが王嶋は、長年の付き合いから言葉の端々に苛立ち……というよりは、一種の悔しさのような感情が見え隠れしていることに気づいた。

彡(゚)(゚)「先ず前提条件の確認や。

今回の【全国同時多発テロ事案】に際し、【艦娘自己自衛権】施行から未だ日が浅く現場の混乱発生はほぼ確実。加えてテログループが“何故か、偶然にも”反艦娘・反自衛隊組織によるデモや集会の中に潜伏する形で出現した為、自衛隊や各都道府県警も国民に対する“誤射”の懸念から初動での鎮圧に失敗。

避難未完了区域が集中的に狙われた為近接航空支援による排除・殲滅も困難な上自衛隊自体並行して国内外の深海棲艦にも対応している為兵力が著しく不足。
これらの状況打開を目論見、極秘に設立したワイの私兵部隊であるBP───【Black Peace】を一部交戦地域に投入開始。ここまではええな?」

(☆...●)「…………………あぁ、問題ない」

特殊部隊名が厨二病全開過ぎて死ぬほどダセェなと思ったが、王嶋は言及を避けておくことにした。

人間誰しも、欠点の一つや二つ持っている。……まぁ南に関しては一つ二つどころではないが、強み・長所・政治手腕で十二分に釣りが来る。
ここにネーミングセンスのなさ程度が加わったところで、誤差の範囲だ。

彡(゚)(゚)「因みに命名者は部隊長の渡辺や」

(☆...●)「お、おう」

目敏く此方の感情を悟った南から即座に訂正が入るが、ならば前言撤回。確かに彼女は卓越した戦闘技能と指揮能力を持っているが、破綻した人格と性癖で既に相殺されている。

そこからネーミングセンスまで差し引いてしまうと、残念ながら足が出ると言わざるを得ない。
187 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/03/30(木) 23:17:19.86 ID:CTNa42MB0
彡(゚)(゚)「で、【BP】もその特性上そこまで巨大な兵力は持てへんし、機甲戦力なんざ言うまでもない。

投入地域が首都圏及び関東地方の要所に集中したのも、それが部隊規模的な限界やったから、言うんが大きい。そして奴さんらの投入によって大洗町に至る兵站線の完全寸断までは避けられたとしても、そこから武装勢力の鎮圧は前述した規模とこっちの火力不足から難しいだろう………と見立ててた所に、チヌークの飛来と“機甲戦力”の投入。これで一気に、流れが変わった」

(☆...●)「いや、そこまでは俺だって解るぜ?だけどよヨシ、それが政府へのアプローチってのはどういう意味だ?既に“海軍”は存在を公にしてるんだ、今更俺たちにアプローチなんてする必要は………」

彡(゚)(゚)「これ多分“海軍”の支援ちゃうで」

(☆...●)「は?」

続けて王嶋が問い質す前に、自衛官が一人険しい顔で駆け寄ってくる。彼が「在日米軍を経由し送った“謝意”に対して、“海軍”大本営が何の事か分からず困惑している」旨を伝えると、王嶋の目が驚愕で見開かれた。

南の方は、ソレを聞いても軽く皮肉めいた笑みを浮かべただけだったが。

彡(゚)(゚)「そもそも、対応人員の不足は“海軍”側も大概や。フィリピン海戦線はズタボロで東南アジアの沿岸防衛線大幅に縮小して【特派府】の艦隊まで動員した総力戦態勢、欧州やアフリカも余裕はないし南北アメリカも大西洋で手一杯。国内や台湾は中国の目がある以上そう大々的に“日米主導の軍事組織”の拠点を置くわけにはいかん。

事実上の“兼任”であるココ(横須賀)と那覇の米軍基地に併設してる鎮守府を除けば、この近隣界隈ではあの筋肉ニキんところが“海軍”戦力の最大手や」

(☆...●)「………そして、その小練のところも主力はフィリピンと大洗に出払ってる最中、か」

彡(゚)(゚)「まぁあの鎮守府なら大半の艦娘は1区域に一人投入しただけで10分と経たずに制圧するやろけどな」

だが、南は続ける。それは本当に最後の手段や、と。

彡(゚)(゚)「戦闘区域で救出された艦娘が、反撃によって敵性勢力を駆逐する分には幾らでも体裁を保てるし言い訳も効く、【艦娘自己自衛権】と人間でいうところの正当防衛をあわせ技にしてゴリ押せば小煩い野党も反艦娘団体も“世論”で強引に黙らせられる。

せやけど“外”から動員された艦娘がテロリストとはいえ“生身の人間”を木っ端微塵にしてまうのは、【自己自衛権】施行から日が浅い今は正直見栄えが悪い」

大衆とは底抜けに無垢で呆れ返るほどに純真だ。ほんの一欠片でも「悪」が混じれば、ワインに一滴の泥水が含まれていたがごとく全てを糾弾し否定する。
それも、本質として悪か善かではなく、彼らの大半は「自分達にとってどう見えるか」が判断基準だ。

彡(゚)(゚)「“当事者”ではない艦娘が、制限を緩和された“直後”に、“平然”と人間に対して武力を振るう。大衆はそこにどんな正当性があろうと絶対公平には見んで。

艦娘を人間と扱われると困るようなカスどもに口実与える片棒を、あの子らに担がせるのは可能な限り避けな、アカン」
188 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/03/30(木) 23:29:50.95 ID:CTNa42MB0
そこまで真剣な表情で述べた後、一転して南は口元を歪める。

先程“海軍”からの返答を自衛官が持ってきた時に浮かべた、感心と自嘲的な怒りが綯い交ぜになったような複雑な笑みだった。

彡(゚)(゚)「そんで、や。そんな状況を踏まえた上で、キヨ。今首都圏並びに関東の一部地域で、所属不明のチヌークが投下してる戦車の車種は?」

(;☆...●)「………MK.VII 軽戦車【テトラーク】、M22 軽戦車【ローカスト】、二式軽戦車【ケト】、何れも所謂“空挺戦車”の一種だ。

まぁそりゃ大分古いラインナップだとは思ったがよ」

彡(゚)(゚)「ロシアでKV-2が現役復帰するような有様じゃあ、“空輸可能な装甲兵器”って付加価値でワンチャン採用は確かにあり得ると考えてまうわな。

しかも“海軍”はその組織特性上戦車なんぞ仕入れるぐらいなら艦娘の練度向上させて直接空挺投下した方が余程効率がええし、逆に各国も最前線で対深海棲艦戦闘に使えるような最新鋭の機甲戦力なんざ出し渋る。やから苦肉の策で旧式戦闘車をかき集めてワイらにレンドリース………まぁそんくらいの“誤認”はしゃーない」

(☆...●)「そこまで読まれてると流石にキショイな」

彡(゚)(゚)「じゃかあしいお前の思考が読み易いだけじゃボケ。……せやけど、んなまどろっこしい真似するぐらいなら最初から“海軍”の陸戦隊でも在日米軍辺り隠れ蓑にして投入した方がよっぽど効率的やろ。丁度目と鼻の先の大洗戦線で稼働中の部隊が幾つもおる。小康状態の内に引き抜いて投入する方がナンボか現実味はある。

無論いつ攻勢が再開されてもおかしくないからこそそれが出来んわけやが、今度は尚の事旧式戦車をわざわざかき集めることに更に労力使う意味が薄い。運搬するための機体そのまま陸戦隊や艦娘運ぶのに使った方が何億倍も効率的や。一応は大本営副司令であるワイに隠れてそんなことせなあかん理由も見当つかん」

(☆...●)「……言われてみりゃあ確かにな。だが、なら今“レンドリース”を飛ばしてきてる連中はいよいよ何者なんだ?“海軍”じゃねえとして、わざわざお前が言うようなしちめんどくさい接触方法を用いたがる組織なんて俺には」

彡(゚)(゚)「あるやろ。テトラークにケトにローカスト、“第2次世界大戦中に活躍した空挺戦車”がかき集めるまでもなく手元にある施設が。

自腹で用意までは無理でも、提供さえあればチヌーク程度の機体束で運用可能な土地や設備を持つ機関が。

大洗町に……より厳密に言えば現在深海棲艦の制圧下に置かれた大洗女子学園に取り残されている、“一人の女子生徒”を助けるために全て擲つことも厭わない集団が。

これら全ての条件を、一本に集約した極めて稀有な【武道】が」

(;☆...●)「……おい待て!!まさかお前──────」

彡(゚)(゚)「せや」













「各学園艦の、戦車道チームや」
189 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/03/31(金) 00:07:47.53 ID:ORXpMvyH0
.






川 ゚ -゚)「南慈英の政治センスはまるで容姿と反比例したかのように卓越したものがあります。彼は自らが施行した【艦娘自己自衛権】法案の欠点も、そこから発生が予想される現場の混乱も武装勢力が襲撃を開始した時点で真っ先に考慮に入れているでしょう。

お借りした“機甲戦力”の投入地点も、そうした彼の聡明さから彼が抱えているであろう【私兵部隊】の稼働・投入箇所を推測した上でのものです」

「Private armyって……そんな映画みたいな話あり得るの?日本ってケンポーとか相当厳しいじゃない」

川 ゚ -゚)「厳しいからこそ、間違いなく彼なら設立しています。【平和維持法】とかいう世界レベルのパラダイムシフトに置いていかれた脳内フラワーガーデンピーポー共しか崇めてないような化石憲法によって自衛隊の即応性には限界があり、艦娘では【人災】に対する対処力が自衛隊以上に低下する。

【自己自衛権】法案云々の前に、艦娘戦力それ自体を目の上の瘤としている軍事独裁国家が直ぐ側に2つもあるのです。ならば“備え”は必ずしている」

「まぁ………本当にそんなものを作るとしたら限界はあるよな。戦車や戦闘機を大っぴらに集めるわけにもいかないし、艦娘なんて入れるわけにもいかない。それに日本人も下手な集め方したらSNSとかで情報が漏れかねないし………外国人の傭兵部隊が主力、とかか?

多分、砂尾さんの言い分で考えるなら規模もまだ小さいはずだ」

川 ゚ -゚)「おお鋭いですねチョビ子さん」

「チョビ子言うな!!つーかなんでその呼び名知ってるんだ!!?」

川 ゚ -゚)「独自のルートがありまして。とにかくご明察。

まぁぶっちゃけマトモな近代戦闘ならあんなもんレンドリースされたところでゴミの押しつけに他なりませんが、幸い“機甲戦力の運用ができない”という点はテログループ側もほぼ同じです。骨董品の旧式砲でも対人戦かつ市街戦なら十分な脅威となり得るでしょうし、姿形はWW2仕様でもその実装甲は競技用とはいえ“砲撃”を食らっても中の人間には傷一つつかないように精製された現代技術の粋とでも言うべき特殊カーボン。

粗悪なRPG弾ごときで貫徹できるような代物ではありません。現場の人員にとっては普通に嬉しい素敵な“贈り物”となった筈です」





彡(゚)(゚)「同時に、これはワイに対する“メッセージ”にもなり得る。

1つ目、ワイが私兵部隊を運用していることはお見通し。

2つ目、戦車道関係者は自分達の方でしっかり統率を取っているぞ」

(;☆...●)「【BP】の存在は超極秘案件の筈だろ!?それが外部に漏れてるって相当まずいんじゃねえか!?」

彡(゚)(゚)「そこに関しては問題ない。さっき支援の出処が“海軍”ではないとは言ったが、多分全く“海軍”が関与してないワケちゃう。じゃなきゃチヌークを確保した挙げ句バリバリ飛ばすなんて真似できんし、ここまで完璧に【BP】の投入地点を予想して戦車降ろすのも材料皆無では無理な話や。

恐らく、“海軍”内で筋肉ニキんところとは別ベクトルで“独立性”が強いところが大本営通さず勝手に動いた結果やろ。動いた場所と、“動かした連中”も概ね察しはついてる」






川 ゚ -゚)「察してもらえたなら、かえって我々にとって………というか、これは私個人にとってありがたい。同時に、向こうにとっても悪い話ばかりではない。

私達“艦娘専門店”という集団は、日本政府とかなり密接に関係した“ある組織”の一部であります故、そことの繋がりが分かれば味方であることは理解できる。

その“味方”が、大洗女子学園での孤立が懸念される西住みほに対して強い感情を抱く戦車道女子を束ねている、それも装甲戦力の極めてスムーズな投下から見て、相当強固に統率されている。

既に文科省などからあなた方が次々と行方をくらましていることは報告を受けているだろう中で、所在がある程度把握できかつ統率者が居ることも間違いないのであれば、あなた方の“暴走”に対する不安は一先ず払拭されます」

「何か、こう、随分な言い草だな………」

「えーと、すっごい強い風が吹いてて心配してたタンポポが思いの外ガッチリ根を張ってて安心したって感じでいいの?」

川 ゚ -゚)「まぁ割りと言い得て妙ですけどなんか言動が継続の隊長に毒されてません??」

「流石です同志カチューシャ」

川 ゚ -゚)「お前第一声がそれでいいの?????」
190 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/03/31(金) 00:56:09.69 ID:ORXpMvyH0
(☆...●)「まぁ実際、戦車道チームの連中を“海軍”関係者が束ねてくれてるならある程度は安心ではあるな。特に聖グロリアーナの子とか、最近タンカスロンで注目されてるリボン娘なんかは西住フリークぶりがとんでもねえって風の噂で聞いてる。

少なくともこの辺りが暴走して戦場に乱入なんて、イカれた事態は避けられたわけだ」

彡(゚)(゚)「ところがどっこい、この連中の最終目的はまさにその“戦場への乱入”や」

(;☆...●)そ「はぁ!!!?」

彡(゚)(゚)「もうちょい厳密に言えば、“乱入”やのうてより組織的で理性的な“武力介入”やな。

……知性がある分、却って厄介やが」





川 ゚ -゚)「“レンドリース”によって、我々はメッセージを日本政府に送るとともに“実績”を作ることが出来ました。

自衛隊並びに日本政府が立たされていた窮地を緩和させる、好転させる実のある支援を行えたという“実績”を。

無論本来は直接お伺いを立てて行うことが正道ですが、向こうも非合法組織を用いてテロに対処している以上そこを大っぴらに求めることは出来ない。その上で支援が“役に立ってしまった”のだから、余計なことをと突っぱねられもしない」

「…………砂尾殿、友軍への助太刀の話をしているのよな?まるで国境に兵を並べて敵国を威圧している様を聞いているような気分になるのだが」

川 ゚ -゚)「政治なんてそんなもんですよ。アレと外交は机上卓上の戦争ですから。

貸しは武器だし借りは弱みです、“強い武器で相手の弱点を殴りつけろ”はあらゆる勝負事において鉄則でしょう?

誠実さだの正直さだのはスポーツでしか通用しない。“戦争”は常に手段を選ばないものが勝ちます。

改めて申し上げておきましょう。これは戦争です、戦車道ではありません」




彡(゚)(゚)「ワイらはイニシアチブを握られたわけや。連中はワイらの“窮状”と“痛い懐”の両方を把握しており、うち前者に対して明確に“支援”が行われた。以後、向こうが接触してきた時に“台頭の味方”として応じざるを得んし、“味方としてあり続けてもらう”ためには武力や権力で強制的に押さえつけることも出来ん」

(;☆...●)「待て待て、流石に戦車道かじっただけの娘ッ子の集まりと日本政府や自衛隊が“台頭”ってのは行きすぎじゃねえか!?そこまで深刻に捉えるようなことじゃないだろ、助かったよありがとうの一言で十分だ!!」

彡(゚)(゚)「そうは問屋が降ろさん。

さっきも言ったやろ、あの子らをそういう風に“動かしてる”連中がおるって。恐らく、その黒幕共は“戦車道乙女が戦場に乱入すること”を願っとる。そうさせる狙いについては朧げなところまでしか詰められてへんが、仮にワイが突っぱねたとあれば“戦後”に間違いなく鬱陶しい動きを見せてくる。

あの子ら自体だけやのうてその裏の連中の暴走を止めるには、結局あの子ら自身の実績がワイらにとって“効いている”ことをアピールせなアカン」






川 ゚ -゚)「勿論、私自身は南慈英内閣の退陣や失脚は日本にとって害にしかならないと思っているため、そこに至るような動きは歓迎いたしません。

しかし一方で、私個人がどう思おうが“クライアント”の権力は私のそれなど比べ物にならないほど大きい。結局圧力に屈し、彼にとって喜ばしくない結末を招くことは大いに有り得ます。

この回りくどい実績作りは、南慈英に対するメッセージと私自身の“クライアント”に対する言い訳を両立したものでした。

我々が広義的に味方ではあること、その後ろにより大きな権力が存在すること、その権力があなた方戦乙女を最終的にこの戦場へ投入しようとしていること、意向を無視しすぎればいつ“敵”になりざるを得ないかわからないこと、南慈英は全て読み取るでしょう。

読み取った上で、彼は直接的であれ間接的であれ何らかの形でアプローチを取り、こちらと“落とし所”について交渉してくるはずです」

「…………ソラ、貴女なんというか………スゴイ自信ね」

川 ゚ -゚)「だって同じ立場なら私もそうしますし」
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2023/03/31(金) 01:09:00.89 ID:Fa733FMC0
#은우의_모든날이_찬란한_봄이길 #nadiedicenada #ใต้เงาตะวันep2 #WANGZIHAO #viral #SiguemeYTeSigo #SiguemeYTeSigoCumplo
192 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/03/31(金) 01:17:46.54 ID:ORXpMvyH0
川 ゚ -゚)「しつこいほど繰り返しますが、私は“クライアント”がどう思おうがド素人の小娘連中によるKAMIKAZEなんて絶対に起きない方が良いと思ってます。それが起こらないまま事態の鎮静、西住みほ以下大洗女子学園生存者の救出が成るならそれが一番良い」

彡(゚)(゚)「……やけど、各学園艦隊長陣の迅速な統率、兵站線の完璧な確保、絶妙としか言いようがない“贈り物”のタイミング。この集団が少なくとも現時点までは“有用”な存在であることは、正直認めざるを得ない」

川 ゚ -゚)「ならば変に抑え込んで敵対した挙げ句“戦後”の面倒事を抱え込むよりは、ちゃんと存在を認めて共同戦線を作り上げた上でこれ以上は派手な出番がないように御していく方が向こうにとっては有意義です。“手柄”を最低限立てている以上、一応落とし所も実のところ既に作れなくはない。

そして未曾有の“有事”である以上、その望むと望まないに関わらず我々が本当に必要となってしまうケースも、十分に考えられる」

彡(゚)(゚)「無論そんな事態に陥らせるつもりは毛頭ないが、それならそれで“向こうの自己判断”で動かさせるんやのうて“ワイらがそういう依頼を出したら”って形で指揮下に加えておいた方が確実に御しやすい。

結局、“支援”を成功させてしまった時点でワイらは【学園艦連合軍】との交渉を余儀なくされてるっちゅーわけや」

川 ゚ -゚)「あのクソほど性格の悪い深海魚ヅラの傑物に対し、私達はしっかりと“ウラ”をかくことができたのです。西住みほ救出への第一歩を踏み出し、事態の前進にも貢献できた。

ならば今、我々は胸を張ってこう言うべきです」

彡(゚)(゚)「どこのどいつか知らんが、支援の皮被ってやりたい放題。ホンマ性格の悪いやっちゃで。大の大人を完璧に手玉にとれて、この謀巡らした陰険全一のクソッタレは済まし顔でこう思ってるやろな」












.
193 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/03/31(金) 01:20:44.15 ID:ORXpMvyH0
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川 ゚ -゚)
「しめしめ、してやったりだ」
彡(゚)(゚)

















川 ゚ー゚)「……ってね」
彡#(-)(-)-3「………とな」
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2023/03/31(金) 12:41:08.06 ID:vUx6rFWp0
更新おつです
やきう首相と素直クールさん、以心伝心じゃないですか!
195 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/04(火) 23:12:25.30 ID:dCW85izw0
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概ねのところを話し終え、改めて室内を見回す。戦車道乙女たちの反応は、大きく分けて二つに分類されていた。

一方は、言う慣ればこの計画への参加がどういう意味を持つか“理解”していた面々。ダージリンにアスパラガス、西住まほ、ミカ、そして言うまでもなく鶴姫しずか。或いはノンナもその中に加わるか?
彼女達は私が話し終えても取り立てて大きな反応は見せず、ただ黙しているのみ。ダージリンやアスパラガスなどは、眼つきからして既に「次の動き」について思考を巡らし始めているような節すらある。 

お前ら絶対人生一度周回済みだろ。

「…………」

「…………ぅんっ」

もう一方は、“戦争”に参加するとはどういうことかを、未だ十分に理解しきれていなかった面々。

カチューシャは今にも泣き出すのではないかと危惧するような表情で息を呑み──プラウダの【ブリザード】がまぁ睨む睨む──、安西千代美は顔面蒼白のまま顔をしかめて沈黙する。
アレほど威勢の良かったケイは、西住まほの向かい側の席に腰を下ろし、昭和の傑作ボクシング漫画の主人公よろしく彼女らしからぬしおらしさでガックリと項垂れる。丁度部屋に戻ってきたばかりの遠藤はるかと松風鈴も、入り口辺りで凍りついたように立ち尽くしたまま動かない。

「本当に…………“とんでもないこと”に手を出しちゃったんだな、私達は」
 
絞り出すようなアンチョビの言葉。日頃の快活聡明な彼女からは想像もつかないほど、その口調は暗く重い。

ぷぇwwwww今更怖気づいてんスかwwwww?厨二病全開のソウルネームで公式大会に出るより全然怖くないから大丈夫大丈夫wwwww力抜けよwwwwwぷぇwwwww………なんて思ったりは(少ししか)しませんとも。
何故なら、寧ろこれが“年頃の少女”としては当たり前の反応なのだから。

国内で発生している武装テロの制圧に、この地に生を受けた国民の一人として協力した。こう書けば聞こえはいいし、実際間違ってもいない。
加えて“協力”の内容は非常に実利的かつ効果的なものであり、状況の打開に本当に貢献してもいる。広義的に見れば、彼女達の、私達の行いは“正しいこと”と言えるだろう。

だが、その“正しいこと”を実行に移した結果、この集団は自分達が生まれ育った国と、日本国の政府と事実上“敵対”した。戦術的・戦略的には互いの左手を握りつつ、政治的には此方はより多くより深く“正しいこと”を実行しようと、向こうはそれをさせまいと刃を交え鎬を削り合っている。

今はたまたまうまく行っているが、トーシロがこれ以上前線でウロチョロすれば悪い方向でも不測の事態が起きかねない為それを避けたい、と、そんな考えも当然あるのだろう。

だがそれ以上に。あの首相や、自衛隊に所属する人々は、ここに集う戦車道乙女たちを“護りたい”のだ。
196 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/04(火) 23:17:16.34 ID:dCW85izw0
戦争に子供を巻き込んだ先に待つ“悲劇的な結末”など、プロメテウスが人間に火を与えたその瞬間から掃いて捨てるほど歴史に刻まれてきた。今現在も進行形で、アフリカの奥地じゃここの連中より更に幼い【恵まれない子供達】が競技用ではないマジモンの砲弾と誰でも手軽に扱えるカラシニコフ小銃を携えてジャングルの奥地を駆け回っている。

ただ、じゃあ“有り触れている”ならそれが起きてもいいとはならないでしょ?んなもんは「交通事故で人が死ぬのなんて有り触れてるんだから悲しむ必要はない」と同レベルの暴論だ。
況してやこの国は、奇跡的にそうした事象とほぼ完全に無縁なまま70余年を過ごしてきた。その“恵まれた”状態がいつまで保つかは解らない状況になりつつあるとしても、終わりを少しでも長く伸ばし続けたい。
可能ならば終わりが来なくなるような時が来るまで耐え抜きたいってのは、どんな形であれ“国を護る”仕事についた人間なら大なり小なり共通して抱く思いだろうよ。

川 ゚ -゚)(……で、そんな大人たちの真剣で切実な思いを、容赦なく踏みにじっていることになるわけだ。この“組織”はサ)

自分達を命懸けで護ろうと戦う大人たちが銃口を構えるその前に自ら躍り出、安全で平穏な道へと誘導すべく広げられた腕を掻い潜り暗く淀んだ茨道へと飛び込んでいく。
友の窮状を救うことに力を尽くし、その過程で祖国を脅かすテロリストの鎮圧に協力するという“正しい”行動は、“正しい”にも関わらず彼女らの身を本気で案じている“大人たち”にとっては明確な背徳であり裏切りとなってしまう。

彼女達の行動を後押しし協力する大人たちもいるが、“協力者”は皆彼女達が“正しい”事を成した先に薄汚い未来予想図を描き、それを具現化するために彼女達を利用しているに過ぎない。……ああそうさ、エラソーに語ってる私も、目指す到達点は違えどそうしたゲスの一人だよ。

自分達に協力してくれる“大人たち”が【敵】で、自分達を止めようとして水面下で鍔迫り合いを仕掛けてくる側の“大人たち”こそ【味方】。そして、【味方】であり安全と無事を心配してくれている“大人たち”を騙し出し抜かなければ、自分達の信念は貫けない。

大学選抜との試合の時など比べ物にならないこの複雑な状況に、ただ武道齧ってるだけのJKが平然と適応できる方がおかしいんだわ(実際に適応できてる連中が半分ぐらいいるんだから尚の事オカシイ)。
197 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/04(火) 23:50:11.39 ID:dCW85izw0
その上で、更に言うならば。

仮に彼女らが【味方】の制止に応じ、これ以上の介入は踏みとどまったとしても。
もう、既に事態は“取り返し”が到底つかないところまで来てしまっている。

「今頃尻込みしたとしても、時は戻らないざます。この“レンドリース”によって、我らは明確に【戦闘】そのものに間接的に加担している」

沈黙が降りる室内で、アスパラガスがその現実を冷徹に容赦なく突きつけた。

「対テロ戦闘、つまり“対人戦”に我々は所有する戦車を送り込んだ。この戦車から放たれた砲弾は、ほぼ確実に人を殺すざます。最早我らは綺麗身ではない、この手は直接銃火器を撃つ前に血に濡れたざます。

深海棲艦の青いモノではなく、人が流す赤い血潮に。はっきりと、“西住みほを助けるため”という我々自身の意志と信念、目的に基づいて!!

ケイ、アンチョビ、カチューシャ、貴女方も内心ではその可能性をしっかりと理解していると思っていたざますが?」

戦車道に使われる戦車は、あくまでも競技用。これは砲弾も同じであり、カーボン製装甲が並外れた硬度を持つ一方で砲弾の貫徹力は従来のそれよりも遥かに抑えられている。故にこそ、直撃して車両から火が吹こうとも中の人間は滅多なことでは重篤な怪我を負わずに済む。

だが、タンパク質と筋繊維と脂質とカルシウムの塊にぶつけてもそれを破壊しないほどまでに「安全」な設計ではない。コンクリート程度ならぶち抜けるだけの威力はあるし、生身の人間がその射線上にいればバラバラに引き裂いていく。

アスパラガスの言う通り、彼女達はそんな【兵器】を対人戦闘の場に、自分たちの意志で投下した。無論実行者は私とジーナら技研や“海軍”の方から極秘裏に派遣されてきた面々だが、戦車の提供は聖グロリアーナ、知波単、サンダース大附属によって行われたものだ。
また先に述べた通り、輸送経路の構築や各校からの戦車調達にはアスパラガスら戦車道チーム隊長陣・上層部も大きく“貢献”している。

仮にこれらが公となった時、彼女達が如何に無実を叫ぼうとも「世間」は信じはしないだろう。寧ろ「正義棒」片手に生贄を四六時中探している大衆は、嬉々として群がりその“悪”を追求するに違いない。

また“大人たち”の好意──或いは悪意──によって辛うじて流布が免れたとしても、彼女達自身の胸の内はどうしようもない。
今この瞬間平静を保っているダージリンや西住まほやアスパラガス達も、それをずっと維持していられるという保証は皆無だ。

相手がどれ程悪辣な存在だろうとも、どれ程日本国内で残虐な行為を働いていようとも、人間であることを掻き消すことは出来ない。その人間を、“殺す”ための片棒を担いだという事実は、きっと彼女達の心に傷として残ってしまう。ふとした時に激しい痛みを、地獄の責め苦をもたらす、深い深い傷として。

故に、私は今この瞬間打ちひしがれる面々を責めもしないし、軽蔑もしない。

“大人たち”の謀略に散々に振り回され、親兄弟や護ってくれる人々を裏切り、果てに“殺人”の一端を担ってしまったという事実を“子供”の身で受け止めるのは難しいと解っているから。

何より、彼女達がそうするように仕向けたのは、他ならぬ私なのだから。
198 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/05(水) 00:01:17.85 ID:aklmHQob0
そして。



「…………………OK.よく、解ったわ。ようやく、解ったわ」


彼女達は、確かに酷く打ちのめされていた。















「それで、私達は次にどんなクソヤローになればいいのかしら?ソラ」

だが、まだ“折れて”はいなかった。
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2023/04/05(水) 11:00:41.48 ID:ZjGYndB20
更新おつです
学生から望んでやる学徒動員とかくるってますねw
そういや、提督も民間からの動員でしたね
200 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/05(水) 23:08:51.79 ID:hz8Qtao20
ケイが顔を上げ、此方を真っ直ぐに見る。向けられた瞳のその奥では、極めて強い決意の光が輝いている。

彼女だけではない。カチューシャも、アンチョビも、松風鈴も、遠藤はるかも。ほんの数秒前までルナティックモードもいいところの現実に打ちのめされていた筈の面々は、ケイが口にした一言を皮切りに全員が尽く戦意を取り戻していた。

無論、何もかも吹っ切れたというワケじゃない。カチューシャの目尻にはまだ涙が溜まっていて僅かに鼻を啜っているし、遠藤はるかは献血に全てを捧げたが如き顔色だ。アンチョビの唇は今にも血が滲みかねないほど噛み締められ、松風鈴の肩は室内空調がバチコリ効いているにも関わらず小刻みに震えている。
ケイにしたって、セリフの威勢の良さと反比例して顔色の悪さはエンドーといい勝負。声も掠れて酷くか細かった。

それでも、彼女達は“前”を向いていた。辛い現実を、自分達では本来到底手に負えない“大人の領域”を正面から受け止め、大いに傷つきながら尚も諦めてはいなかった。

西住みほを助けるという、彼女達が信じる“正義”の完遂を。

元々“理解していた”組に関しては言うまでもない。ミカは意味深に顔を伏せながら静かにカンテレを掻き鳴らし、ダージリンはいつの間にやら取り出したティーカップを傾けつつ微笑み、アスパラガスはようやく問題が一つ解決できたとでも言いたげに肩を竦める。
西住まほ、そして鶴姫しずかは、表情どころか全身から炎の如く強烈な闘気を漲らせて此方を見ていた。

「もう一度聞くわ、ソラ。私達が、ミホを助けるために次にやることは?」

川 ゚ -゚)「っ」

………ああ、認めるとも。再度ケイが此方に指示を促してきた時、不覚にもほんの僅かながら目頭が熱を帯びたことを。苦しみながらも現実を受け入れた上で、尚も戦うことを辞めず進み続ける彼女達の美しさに魅入られたことを。

“クライアント”からの要望や、その先に控える私自身の野望とは関係なく、ここに集う戦車道乙女たちの力になりたいと心の底から思ったことを。

我ながら笑えてしまう。彼女達に過酷な未来を背負わせたのは、悪逆無道の謀略に引きずり込んだのは、どこの誰だと。どのツラ下げて、力になりたいなどとほざけるのかと。

嗚呼、それでも。彼女達が“その道”を進むと覚悟を決めたのなら。

川 ゚ -゚)「…………………。ええ、そうですね」

先に述べた通り、外道と自覚した上で私にも外道なりの矜持がある。どんな事があっても、“最後の一線”を曲げはしない。


だが、仮に“その時”が来るならば。

それに備え、彼女達が自身の信じる“正義”を貫くために最大限の準備を整えておくこともまた。





川 ゚ -゚)「先ず、大洗町の現状に関する情報収集を最優先に行いましょう。その上で、ダージリンさんとまほさんには黒森峰と聖グロリアーナOGの人脈を介して関東沿岸部における自衛隊の展開状況を探っていただき──────」


“顧客”である彼女達に対する、【艦娘専門店】店員としての最低限守らなければならない矜持だろう。
201 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/05(水) 23:24:42.02 ID:hz8Qtao20
.











同時に、一つ正直な話をさせてもらうなら。





アレ程の惨状となった学園艦に取り残されている状況下で尚多くの戦車道乙女たちに「生きている」と確信させ、



如何なる所業を持ってしてもその身を「助けよう」と年端も行かぬ少女たちを狂奔させ、



間接的にではありながら、離れた別の戦場にすら変化をもたらしてしまうたった一人の存在に、








川;゚ -゚)「…………………」

「砂尾殿?如何なされた?」

川;゚ -゚)「………いえ。次に、バイキング水産高校とケバブハイスクールについてですが情報はこちらに赤星さんが─────」


西住みほという人物が持つ、常軌を逸したカリスマ性に。



微かな恐怖を、抱かずには居られなかった。
202 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/05(水) 23:27:19.33 ID:hz8Qtao20
.




今でも覚えている。ハッチの隙間から流れ込んでくる水で、車内が徐々に満たされていく恐怖を。

今でも覚えている。どれ程大声で助けを求めても、周囲で轟轟と唸る川の音に掻き消されてその声が誰にも届かぬ絶望を。



『小梅さん、皆さん、大丈夫ですか!!?』


今でも覚えている。



『脱出しましょう、掴まってください!!』


ひたひたと迫りくる死の気配を振り払う、凛とした声を。

あの“戦場”で唯一、私達を助けるために差し出された掌を。

私と同い年でありながら、自らの危険も省みず仲間を救いに来た、気高く勇敢な少女の姿を。

あの人は、私なんかより遥かに多くのものを持っていた。将来を嘱望され、戦車道の名家から期待され、ゆくゆくは世界にさえ羽撃く力があった。なのにあの人は、それら全てを擲って、私なんかの命を救ってくれた。



ならば。

当然次は、私の番だ。
203 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/05(水) 23:57:19.74 ID:hz8Qtao20
(みほさん…………)

私達を“戦争”に誘い、みほさんをさえ“駒”と見做す、あまりにも薄汚い反吐が出るような謀略。私の家を訪ねてきた“仕掛け人”の遣い人は、巧みな美辞麗句で父と母を丸め込んだ。

父は言う。友人を助けるという大義と、“家名”の向上という実利を一時に得られるのなら、これほどに素晴らしい話はない、と。

母は言う。西住家次女救出の戦を赤星家が主導したとなれば、戦車道流派において島田家や西住家に優越した名門へ飛躍できる、と。

眼の前でぶら下がっている“栄達”という餌で瞳が曇った二人に、優しい両親の面影はない。いっそ清々しくなるほどに、二人が“遣い人”に騙されているのは明白だった。

だが、私は特に抵抗することなくその話を受けた。

(みほさん、みほさん、みほさんみほさんみほさん、みほさん……………っ!!!)

元より、私の命はみほさんから“頂いた”もの。あの日喪われる運命のはずだったところを彼女に救われ、たまたま今日まで生き延びただけに過ぎない。

そして今、恩人であるみほさんが命の危機にあるという。


だから、返す。彼女から受けた恩を。彼女に借りた命を。

その為なら、どんなことだってする。例え友達や仲間を裏切ることになっても、例え国を害する策略の道具になろうとも、例え足元に幾つもの屍が転がろうとも。


例えその果てに、私自身の“滅び”が待っていようとも。



(私に出来ることは、なんだってします。どんな事をしてでも、貴女に恩を返したい。あの時与えてくれた希望を、今度は貴女に与えたい。

…………だから、だから!!)





どうか、無事でいてください。

みほさん。
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2023/04/06(木) 09:54:46.08 ID:UF1EWFMz0
更新おつです
原作モブキャラがガンギマリになってるの嫌な予感しかしませんねw
205 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/06(木) 23:23:31.58 ID:FGGsdfJq0
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「フォックス=カーペンター国務長官、ご到着されました!」

爪'ー`)「あぁ、敬礼は必要ない。すまないがアルタイムの下へ通してくれるかな」

(`・ι・´)「奇遇だな、丁度私も君が到着するだろうと思って呼びに来たところだ」

爪'ー`)「おや、総提督閣下御自らホテル・フロントマンの真似事かね?いよいよ“海軍”の人材不足は深刻なようだな」

(`・ι・´)「そろそろウォールストリートに求人広告の一つや二つ出そうと思っている。

もし君がリクルート活動で来たならこの場で即採用するが、どうだ?」

爪'ー`)「週休5日と国務長官より高いボーナスが出るなら考えよう……残りの話は歩きながらでいいかね?」

(`・ι・´)「あぁ、構わない」
206 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2023/04/06(木) 23:24:59.00 ID:FGGsdfJq0
爪'ー`)「で、実際迎えの人間さえ寄越せないほど忙しいのは間違いないのか?」

(`・ι・´)「私が一刻も早く話を始めたかったというのもあるが、そこを差し引いてもカツカツなのは冗談抜きだ。正真正銘世界中が戦場と化した今“海軍”単体での対処能力はとっくの昔に飽和を起こしている。

“海軍”の存在公表と国連軍への編入は英断だったな、各国正規軍や在留米軍基地との相互連携があれ以上遅れたら戦況は今頃取り返しのつかないものとなっていた」

爪'ー`)「それでも足りないがね。攻勢範囲があまりにも地球全体に散らばりすぎていて政府の方じゃ“攻撃を受けている”以上の情報が得られない所も多い。またかく言うアメリカ軍も、大西洋の深海棲艦群が我々の方へも矛先を向けたことで東海岸の戦力を総動員しての迎撃作戦に忙殺されている。

………欧州奪還計画は1から組み直しだな」

(`・ι・´)「先ずそんなものが実行できる未来があるかどうかも怪しいものだな。そもそも、明日人類が生き残っているかさえ私には怪しく感じるよ」

爪;'ー`)「それをなんとかするのが君たちの仕事だろう!流石にそれは弱音が過ぎるぞ!?」

(`・ι・´)「事ここに至っては強がる余裕もないよ。大体、君だって薄々その事を勘づいているから私の元へ直々に来たのだろう?中共と北朝鮮の“やらかし”でてんやわんやなのは君ら“政治屋”側も同じだろうに、だ」
207 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/06(木) 23:26:02.26 ID:FGGsdfJq0
爪;'ー`)「………さっきも述べた通り、深海棲艦による攻撃が行われている、以上の情報が政府にも入ってきていない地域さえある。それも一つや二つじゃない。特にアフリカ、インド洋、フィリピン海辺りは米軍も直接参戦しているにも関わらず報告が錯綜しどれが正しいか全く区別がつかない状態だ」

(`・ι・´)「それはまた、トソン大統領のご心労は察して余りあるな」

爪;'ー`)「米国政府としてはより正確な情報がほしい。“海軍”ならそのあたり我々より精度が高いモノが既に入ってきているんじゃないか?」

(`・ι・´)「幸い、その期待には答えられる。到底“気休め”にはならないことは覚悟してもらうがな。まぁ、入ってくれ」
208 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/06(木) 23:45:10.28 ID:FGGsdfJq0
爪;'ー`)「………当たり前だが、総司令室も大騒ぎだな。士官達の体調が心配だ」

(`・ι・´)「既に三人が医務室に運ばれた」

爪;'ー`)「………………」

(`・ι・´)「四人目が出る前に、私もあの喧騒の中に戻らなければならないのでな、話は手早く終わらせよう。………リレント」

(ゝ○_○)「ハッ」

(`・ι・´)「主だった戦場で、我々“海軍”が把握している情報の開示と説明を頼む」

(ゝ○_○)「畏まりました。

国務長官閣下、国連特別“海軍”戦略情報局所属のリレント=キャンベルです。階級は少佐、以後お見知り置きを」

爪;'ー`)「あぁ、今回はよろしく頼む」

(`・ι・´)「…………フォックス、彼はかなり性格に難があるが、極めて優秀な男なんだ。多少のことは大目に見てくれ」

爪;'ー`)「………うん?」

(ゝ○_○)「眼の前で上官からボロクソに言われましたがめげません。

では、順に主要な対深海棲艦の戦闘発生地域における戦況を判明している範囲で解説させていただきます。正面のスクリーンに投影いたしますので御覧ください」
209 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/06(木) 23:58:39.41 ID:FGGsdfJq0
(ゝ○_○)「先ずは西ヨーロッパ・西フランス戦線です。赤い矢印が人類側の、青い矢印が深海棲艦側の進行路を、それぞれの色のマーカーが3個師団或いは20個艦隊以上の戦力展開が現時点で確認されている地域になります。

また、赤いラインは人類側で構築されている・いた防衛線を表します。これは特に申告がなければ、他の地域も同様になります」

爪;'ー`)「…………いた、ね」

(ゝ○_○)「先に結論から申し上げますと、西ヨーロッパ防衛線は崩壊しました。フィリピン海における【学園艦棲姫】浮上から約1時間後、基地航空隊偵察機がパリ・ベルサイユ方面より推定250個艦隊による深海棲艦の総攻撃開始を確認。

15分後、敵推定戦力を350個艦隊に上方修正した上でフランス軍並びにスペイン軍、ポルトガル軍、在欧アメリカ軍は総動員体制に移行。深海棲艦阻止作戦の実行に移りました。交戦開始から更に1時間後には、同地並び近隣地域に駐屯する“海軍”鎮守府からも6個艦隊が合流しています」

爪;'ー`)「その、なんだ。私の見間違いでなければ人類側の防衛線の“後ろ”に敵の艦隊群が一つ出現しているように見えるのだが」

(ゝ○_○)「それこそが、防衛線崩壊の最大要因となります。深海棲艦は【陸棲型】を用いて“地下”を掘削しながら進行し、ペルシュ自然公園に約30個艦隊を出現させ人類軍の後背を突きました」

爪;'ー`)「ん゛な゛っ………!?」

(ゝ○_○)「恐らく“なぜ気づけなかったのか”という疑問が出ると思われますので予め回答するなら、我々の探知可能範囲の遥か圏外から奴らが掘り進んできていたからです。

これは状況と敵艦隊で確認されている【陸棲型】のスペックから逆算した推測ですが、敵艦隊はルール地方制圧と拠点化の時点でこの“地下坑道”の工事に着手していたものと思われます」

爪;'ー`)「バカな、じゃあ連中のこの一大攻勢は【学園艦棲姫】の出現に“端を発した”ものではなく、寧ろ【学園艦棲姫】の存在さえ“計画の一部”でしかないということになるぞ!そんな深謀遠慮を連中が使えるなんて………」

(`・ι・´)「フォックス、その認識は流石に古すぎるぞ」

爪;'ー`)「……………!」

(`・ι・´)「我々は既にベルリンから………より厳密に言えばリスボン沖の折から奴らに遅れを取っている。それも数の暴力による強引な圧迫・突破ではない。物量差を活かし向こうが立てた“戦略”に、明確に裏をかかれた上で、だ」

(ゝ○_○)「仮に“ベルリン”の件から既に今回の世界的攻勢への布石が始まっていたと言われても、今なら正直信じられますね。居るとしたら、向こうの“指揮官”は相当優秀でしょう」

爪;'ー`)「そんな暢気な………!」

(ゝ○_○)「悲嘆に暮れたところで現実には微塵の影響もありませんので」

https://downloadx.getuploader.com/g/sssokuhouvip/178/IMG_20230213_175446.jpg
210 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/07(金) 00:08:49.70 ID:UT7WGaEa0
(ゝ○_○)「西部戦線に話を戻しますと、ペルシュ自然公園から出現した深海棲艦群は、その約70%がヒト型という極めて強力なものです。そして残る30%は全て陸棲型、ヒト型の中にも【高機動型チ級】が10%程度混じっていました。

このことから、奴らはこれらへの“デサント”によって機動力を確保し迅速な“裏取り”を実現したものと思われます。

圧倒的な火力を後方から投射され、オルレアンを中心とした西部防衛線はこの“奇襲攻撃”が始まってから40分ほどで全方面において戦闘能力を喪失しました」

爪;'ー`)「公園と目と鼻の先にあるル・マンは大丈夫なのか?フランス政府が暫定的に機能を置いていたはずだが」

(ゝ○_○)「そちらにも攻勢は行われましたが、“海軍”艦隊の一部が急遽展開地点をル・マン前方に変更し決死の迎撃を行ったおかげで辛うじて。大破四隻、轟沈一隻と引き換えでしたが。

政府機能もナントへの移転を完了し、前線司令部もそのままル・マンで新設されています」

爪;'ー`)「コマンド・ポストは何故わざわざ“新設”なんてしたんだ?」

(ゝ○_○)「オルレアンの旧前線司令部は“奇襲攻撃”が始まった5分後に通信途絶いたしまして」

爪;'ー`)「」

(ゝ○_○)「辛うじて組織的抵抗力を有しているのはアーブル方面への離脱を測っているスペイン陸軍が派遣していた機甲師団ぐらいですが、これも既に敵航空隊に補足され撤退は遅々として進まんでいません。

更に両側面から回り込む形で深海棲艦が計10個艦隊強を同方面に進出させつつあります。同地の基地航空隊がこれらを迎撃していますが、航空戦力も質量共に深海棲艦側が優越しているため経過は芳しくないですね」

(`・ι・´)「…………改めて聞きたいのだが、ル・マンをラインとした防衛線の再構築は可能か?」

(ゝ○_○)「改めて申し上げますが無理です。既に西部戦線はフランスの全土失陥を防げるか否か、に重きを置くべき段階となっています。実際戦略情報局の方では、ナントのフランス政府にバルセロナへの離脱、即ち亡命政府の樹立を進言しました。

初動で前線主要戦力の大半が挟撃され撤退すらままならなくなった今、ル・マンはトゥール、カントと連動しての陽動遅滞戦術に使うのが精一杯でしょう。押し止めることができるとしても、レンヌ─シャトー=ブリアン─ショレのラインが現実的なところかと。

そしてこの新規防衛線の構築までに、オルレアンラインに投入されていた艦娘戦力の15%、人類戦力の40%を失うと予想されます」

爪;'ー`)そ「よんじゅっ……!!!?」

(ゝ○_○)「これは最大限、我々にとっての“希望的観測”を重ねた上での数字です。前線部隊の退路の遮断具合、指揮系統の混乱、制空権の失陥、これら全てから“公平”に推定損害を算出する場合、損害比率はそれぞれこの2倍が妥当と思われます」

爪;'─`)「…………」

(;`・ι・´)「…………」
211 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/07(金) 00:21:21.51 ID:UT7WGaEa0
(ゝ○_○)「続けて、北欧戦線の状況を投影させていただきます」

爪;'ー`)「いやそんなあっさりと………!」

(ゝ○_○)「西ヨーロッパの解説は終わりましたので。

此方の戦線は先程の戦況と比較して単純化はされています。要はオスロ方面並びにリレストレム方面に展開していた約300個艦隊の推定戦力を持っての総攻撃。非常に単純明快な力押しです。

しかしながら、この戦線は人類側の戦力がそもそも極めて脆弱と言わざるを得ません。深海棲艦としても、正面からの力押しで“十分”と判断したが故の戦法と思われます」

(`・ι・´)「…………確か、北欧三国で艦娘を保有しているのはスウェーデンだけだったな」

(ゝ○_○)「ええ、軽巡洋艦の【ゴトランド】のみです。それも“実装”はごくごく最近で、まだ総数は10隻にすら届いていません。

元より北欧戦線は【Black Bird】の最初期出現地点であり、3カ国何れも航空戦力の絶対数が不足しています。その為敵の近接航空支援を防ぐ手立てがなく、構築されている防衛ラインの全方面が断続的な空襲によって甚大な被害を受けています」

爪;'ー`)「“海軍”の戦力は何をしているんだ!!!」

(ゝ○_○)「この辺りの地域には残念ながら十分な“海軍”戦力が展開できていないんですよ、それまではロシアへの“配慮”が必要だったので。ヴェールヌイの保有で一応は“海軍”支援国の一つでこそあれ、例の【3カ国防共協定】締結までは合衆国とはウクライナ情勢関連で、ジャパンとは“前大戦”の因縁でそれぞれ決して仲良しこよしとは言えませんでしたから。

その【防共協定】も締結はつい最近の話で、基地敷設も艦隊派遣もようやく話し合いの席が持たれた矢先の“ベルリン”です。鎮守府一つと5個艦隊相当の配備がその前に間に合っていただけでも正直奇跡的ですよ」

爪;'ー`)「ぐぅ…………」

(;`-ι-´)-3「我々の“負債”は、どこまでも我々自身を苦しめるな」

(ゝ○_○)「残念ながら、どれほど悔いてもミルクはコップに戻ってくれません。

まぁとはいえ、そうした悪条件の中でよく粘ってはいます。何せ一部地域では、敵主攻群の横撃とそれに伴う遅滞を目的とした反転攻勢さえ行われているほどなので」

爪;'ー`)「おぉ………!」

(ゝ○_○)「因みにその攻撃部隊は袋叩きの末壊滅し、結局コングスヴィンゲル方面の主要防衛ラインは猛攻撃によって早くも綻びが出始めており全面崩壊は時間の問題です」

爪'ー`)「」

https://downloadx.getuploader.com/g/sssokuhouvip/179/IMG_20230406_212512.jpg
212 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/07(金) 23:05:05.55 ID:PaOSTwH/0
(`・ι・´)「次は、南アフリカか」

(ゝ○_○)「ええ。お喜びください国務長官、過去の2地域と比較してかなりマシな戦況です」

爪#;'ー`)「マシだと………?“かなりマシ”だと!?この図が、この有様がか!!?」

(;`・ι・´)「フォックス、落ち着け」

(ゝ○_○)「実際マシでしょう。防衛線崩壊は一度発生してしまったもののその後再構築に成功し、被害こそ甚大ながら敵艦隊の浸透を食い止めることは明確にできているのですから。国土完全失陥が秒読みのノルウェーやフランスと比べれば何億倍もマシです」

爪;#'ー`)「この………!」

(ゝ○_○)「マジメに解説させていただきますと、喜望峰に浮上した深海棲艦艦隊群が南アフリカ共和国海軍の海上防衛ラインに接触しこれを粉砕。ジブチのアフリカ・アメリカ軍は規模が十分ではなくマダガスカル島のアメリカ軍並びに同島“海軍”鎮守府はインド洋における状況の激烈な変容からそちらへの対応に追われ何れも増援が間に合わず、敵艦隊群はそのままケープタウンに上陸しました。

同市守備についていた南アフリカ共和国陸軍は交戦開始から45分で全隊が通信途絶。1時間後に出撃した“海軍”マダガスカル鎮守府艦隊並びにジブチのアメリカ陸軍部隊による奪還作戦が発動されたものの、敵空母艦隊から発艦した航空隊の波状攻撃により市内突入が困難となり同作戦を中断。

北部郊外に深海棲艦を封じ込めるための第一次防衛線を展開したものの【陸棲型】を中核とした敵浸透艦隊に電撃的な強襲を受け、これも維持できず10%弱の戦力を失った上でより北部へと撤退せざるを得ませんでした」

(;`・ι・´)「だが皮肉なことに、ケープタウンの早期陥落が“功を奏した”」

(ゝ○_○)「ええ。南アフリカ共和国陸軍は、首都に“全戦力”を配していたワケではありませんでした。彼の国は元の治安がよろしくない上に、近年は海上物流の停滞に伴う経済的な打撃で内情不安を抱えていましたからね。

一方でそれらの事情がある故に、ただでさえカツカツの経済を無理矢理軍備に回して常備軍を平時の二倍に拡充していました。その拡充された兵力が、反政府運動に睨みを効かせるため全土に分散せざるを得なかったわけです。

無論首都故に防衛部隊の陣容は強力でしたし、この部隊を全滅と仮定した場合の【全兵力の約10%喪失】は決して“軽微”なものではありません。

が、逆説的に言えば【総兵力の90%が健在である】と見られるわけです。そこに“海軍”戦力やアメリカ軍も加わった状況を先の二箇所のように“絶望的”と捉えるのは早計でしょう」

https://downloadx.getuploader.com/g/sssokuhouvip/180/IMG_20230406_224313.jpg
213 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/07(金) 23:10:33.31 ID:PaOSTwH/0
爪;'ー`)「そういえば、南アフリカは大統領も健在だったな………」

(ゝ○_○)「その点も非常に大きかったですね。先に述べた内情不安から国民の支持向上と反政府分子への牽制を兼ねて、大統領は地方遊説の真っ最中でした。

その為国内指揮系統の早期断絶という事態が回避され、集結が遅れた国防軍の残存戦力とケープタウン郊外に離脱した“海軍”艦隊のスムーズな合流がなされました。また、ナミビア、ボツワナ、ジンバブエ、モザンビーク等周辺諸国による陸軍戦力派兵要請も同国政府から完了しており、状況次第では比較的早く本格的な反転攻勢に移れる可能性も出てきています」

爪;'ー`)「なるほど………君の言うとおり、間違いなく“かなりマシ”だな。先程は感情的になってすまない」

(ゝ○_○)「ご安心を、慣れておりますので。

因みに、ポート・エリザベス方面はより良好な状態で推移しています。ケープタウンが陥落した時点で、南ア軍首脳部もマダガスカル鎮守府もポート・エリザベスが次点の攻撃目標となることは認知した上で“放棄”を前提に作戦計画を修整しました。
アフリカ・アメリカ軍より一個艦隊を洋上に急行させ予想通り進軍してきた敵艦隊群を漸減しつつ足止め、同市の防衛軍駐屯部隊は市民の避難誘導に活動を固定。同市上陸が開始された際には、政府を通じて航空支援を要請していたエジプト・サウジアラビア・イギリスの3カ国連合空軍による爆撃が実施され浸透の抑制に成功しています。

結果、完全に無傷とまでは行きませんでしたが軍属・民間の人的被害は何れも極少数に留まっています」

(;`-ι-´)「深海棲艦によって引き起こされていた諸問題が、深海棲艦の侵攻に際して好材料になるとはな………日本語ではたしか、“不幸中の幸い”というのだったか」

(ゝ○_○)「無論深海棲艦は恐らく両市を【泊地】化して橋頭堡とするつもりでしょうから予断を許すわけではありません。しかしながら、イギリスが極秘裏に企画していたケープタウンに対する核兵器の集中運用はひとまず回避できたでしょう」

爪;'ー`)「………ぇ゛っ」

(;`・ι・´)「待て、それは私も初耳だぞ!!!」

(ゝ○_○)「まぁ言ってませんでしたし。どうせクソ馬鹿野郎のデルタ=クーガーが独断で暴走してただけですよ、戦況の安定化が仮に失敗していたとしても首相が抑えたと思います。実行されたらそれはそれで面白そうでしたが」
214 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/07(金) 23:46:37.87 ID:PaOSTwH/0
爪;#'ー`)「おもっ…………!!?さ、流石に今のは聞き捨てならんぞ!!」

(ゝ○_○)「そうですか、しかし戦況説明がまだ終わってませんので無視します」

爪'ー`)「」

(;`・ι・´)(我が部下ながらマジで頭おかしいなコイツ………)

(ゝ○_○)「で、対象的にビックリするほど面白味がないインド洋─アラビア海戦線です」

(;`・ι・´)「評価基準が“面白味”というのはどうなんだ………」

(ゝ○_○)「イヤ、でも本当に面白み有りませんもん。日米印の主力艦に潤沢な艦娘が合流し更に途切れることのない定期的な補給………どころか、欧州奪還を目的としている点に加えて反艦娘的な態度が続く中東諸国への【砲艦外交】的な威圧を兼ねての“増強”が続いていた大戦力。

過去の3地域と比較して前提条件が違いすぎます。初期の波状攻撃でインド海軍の【ラーナ】と【ランジート】が失われましたが、目立った艦艇の損耗は以降なし。寧ろ南方の敵艦隊に対して海上防衛網を構築ししつつこれを逆に前進させ圧迫しているほどで、体制としては盤石極まりありません。

強いて懸念点を挙げるとするなら、【Black Bird】の襲撃により自衛隊の空母【いずも】の艦載機隊が一個編隊失われたことでしょうか」

爪;'ー`)「この、連合艦隊の側面から伸びてきている矢印か」

(ゝ○_○)「ええ、ただ【Black Bird】は制空能力が極めて高い反面爆装型・雷装型は何れもまだ確認されておらず、対地・対艦攻撃能力は並以下です。装備が機関砲のみ故の火力不足に加えて制止目標に攻撃をかけようとすれば自然平坦な軌道でかつ低速接近をせざるを得ず、連中の強みは尽く失われます。

実際【いずも】からヨコスカに送られた経過報告によれば一度だけ艦隊に対して20機ほどが直接攻撃をかけてきたそうですが、対空砲火であっさり4機を撃墜されて僅か20分ほどで撤退したとのこと。中華人民共和国の件があるとは言えインド軍も相応に余力を残していますし、現状この方面には特にリソースを割く必要はないと思われます」

(`・ι・´)「あと気になるところがあるとすれば、マダガスカル島鎮守府に行われている攻撃だな」

(ゝ○_○)「まぁ主力艦隊がアフリカに投入されているため油断するわけには行きませんが、防衛の総指揮を取っているのがあのアイシス=ユピアですからねぇ。あの女も面白みのないやつですから、多分あっさり撃退するんじゃないですか?」

爪;'ー`)「だからこの人類存亡がかかった時に面白みなどいらんのだよ………」








────同刻・マダガスカル島鎮守府

リハ;>ー<リ「ヘクチッ」

「!? ヘイ提督、大丈夫ネー!?」

リハ;゚ー゚リ「うん、大丈夫。心配しないでコンゴー。

第四艦隊、そのまま後退してポイントD-1まで敵艦隊を誘引!陸上砲台、全門照準!十五秒後に【キルポイント】への一斉射、敵艦隊を殲滅して!!」

「ユピア提督、第六艦隊より予定通りP-4地点にて敵水雷戦隊の完全な足止めに成功したと報告あり!」

リハ#゚ー゚リ「上空待機中の【スツーカ】全機に爆撃開始を通達!敵艦隊に打撃を与えたら後方から第二潜水艦隊を回り込ませ追撃させてください!」

https://downloadx.getuploader.com/g/sssokuhouvip/181/IMG_20230213_175322.jpg
215 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2023/04/08(土) 23:11:12.41 ID:lm8eG5z/0
(ゝ○_○)「北米・中米戦線に関しては国務長官もすでにご存知と見受けますが、解説は必要ですか?」

爪;'ー`)「………レポート自体は読んだが、現場の人間の“所感”も聞きたい。一応解説を頼む」

(ゝ○_○)「畏まりました。

この戦線の最大の特徴を申し上げるなら、“二極化”です。大西洋にて浮上した推定400〜500個艦隊と見られる深海棲艦の艦隊群は現在アメリカ合衆国側と中南米諸国側の2方面に分かれて攻勢を仕掛けてきているわけですが、前者と後者で戦況が180度違います。

アメリカ方面は、ノーフォークとメイフォート、キティホークの海軍基地を中心にモアヘッドシティ、ウィルミントン、マートルビーチ、チャールストンなど東海岸各所の鎮守府・警備府・“海軍”拠点から抽出された艦娘部隊と艦隊総軍、各州の統合航空隊による迎撃で戦線は安定状態です。
まぁ元より欧州奪還作戦に向けてインド洋の3カ国連合艦隊同様東海岸も断続的に戦力を増強してきていましたからね、その戦力が十全に生かされるなら姫級が束になってきても抜くのは困難だ」

(;`・ι・´)「…………そして、深海棲艦もその事を“理解していた”からこそ」

(ゝ○_○)「ええ、今の“二極化”が起きています。

合衆国側で投入されている敵艦隊戦力は、物量こそ1000隻超ですが姫・鬼級が“束になる”どころか今のところ殆ど見当たりません。EliteやFlagshipの数は他戦線に勝るとも劣りませんが、東海岸に集結完了していた戦力も質量共に充実しているため正直この程度なら大きな問題にならないでしょう」

爪;'ー`)「対し、中南米方面へ南下中の敵艦隊群は………数こそ我々の方に向かってきているものと同等だが………」

(ゝ○_○)「はい。同艦隊群には、“それのみ”で十個艦隊超が編成できる数の姫・鬼級が確認されています」

https://downloadx.getuploader.com/g/sssokuhouvip/182/IMG_20230213_175300.jpg
216 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/08(土) 23:13:57.43 ID:lm8eG5z/0
(;`-ι-´)「60隻を超える戦艦棲姫や装甲空母鬼………想像したくもないな」

(ゝ○_○)「そも中南米諸国の海上戦力自体決して潤沢でも高水準でもありませんし、こちらもキューバやメキシコとの複雑な外交情勢からアメリカ軍並びに“海軍”による艦娘の派遣もさしたる規模になっていませんでした。

そんな中でこの全面総攻勢です。当然耐えきれるはずもなく、第一次防衛ラインは接敵から10分少々で“消滅”。第2防衛ラインではなけなしの艦娘戦力を総動員しましたがこれも衆寡敵せずで風前の灯。

まぁ第2防衛ラインは早々に後退しつつの漸減・遅滞に目標を切り替えたので幸い艦娘の“轟沈”は出ていませんが、逆に物量差がありすぎて前者の目的については殆ど果たせていないのが現実です」

爪;'ー`)「我々もその辺りの危機的状況は把握している。だからこそ、国防総省の方で二つほど手を打ってもらった」

(ゝ○_○)「ええ、“内陸州における余剰艦娘戦力の中南米諸国への緊急派遣”と“北米方面戦線での海上攻勢”、どちらも我々戦略情報局としては良手と評価しています。

特に、北米戦線の攻勢作戦発動は丁度我々の方でも進言する予定だったので」

(;`・ι・´)「敵艦隊は、未だに“余力”を残しているからな………」

(ゝ○_○)「北米戦線と中南米戦線、その中間で未だ停滞状態を維持する残余1000隻程。この艦隊群は明らかな予備戦力であり、我々の動きに合わせて投入方面を変える予定であったことが目に見えてましたからね。

下手に中南米へ増援を出しすぎれば現状の合衆国側の防衛ラインが“厚み”を失い総攻撃を受けた際に飽和状態となってしまう可能性が上がり、逆に出し渋れば中南米側の陣容を更に強化して一挙に複数箇所に上陸、橋頭堡を確保。

どちらにも動けるようになっていたものを、少なくとも現状はどちらとも取れないように制限できた点は確実に敵の狙いを一つ挫けたと思います」
217 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/08(土) 23:16:36.92 ID:lm8eG5z/0
(;`・ι・´)「正直、元々知っている内容であっても再度聞いているだけで精神的消耗が激しい。それで、次は東欧・南ドイツ戦線辺りか?」

爪;'ー`)「そこは取り分け気疲れしそうだな……“ベルリン”の損害が大きすぎる上にその前は艦娘戦力がある程度潤沢だったからこそ“海軍”戦力も十分に配備できていない。正直、どんなに悪い報せを聞いても驚きは───」

(ゝ○_○)「ああ、ご希望でしたらお伝えしますがその区域はやや報告内容が他と異なります。経過ではなく“結果”報告ですね」

(`・ι・´)「? すまん、意味がよくわからないのだが」

(ゝ○_○)「あくまでドイツ連邦政府並びに東欧連合軍総司令部からの共有情報が真実なら、という前提は必要ですが………南独戦線における主要な戦闘は現時点で“終了”しています。

東欧連合軍は現防衛ラインの固守に成功。深海棲艦の侵攻群は大損害を受けて撤退し、後は一部残敵の掃討だけとのことです」

(`゚ι゚´)「」

爪゚д゚)「」
218 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/08(土) 23:33:40.76 ID:lm8eG5z/0
(;;`゚ι゚´)「どどどどどどど童貞ちゃうわ!?」

(ゝ○_○)「聞いてませんが。貴方妻も息子もいるでしょうよ」

爪;;゚д゚)「どどどどどどドゥカティ!?」

(ゝ○_○)「カメラメーカーから始まったイタリアのバイクブランド名がこの場において何の意味を持つのかは皆目見当も付きませんね。

まぁ“どういうことだ”と聞いているのは解りますが、正直どうもこうもなく申し上げた通りです。

ライプツィヒを中核とした深海棲艦によるドイツ南方への総攻撃を、【ドレスデン・ライン】は撃退しました。損害は取り分け激戦となった前線都市・リーザの守備隊がやや多めの死傷者を出した程度で、艦娘にも轟沈者は一人も出ていません。完全勝利と言っていいでしょう。

とびきりの朗報なんですし素直に喜んでは?」

(;;`・ι・´)「……………朗報なのは間違いない。間違いないが………俄に信じられるものではないな」

爪;'ー`)「いや、どんなに時間が経ったって信じられるものか!喜びたくとも“誤報”の可能性が大きすぎて全く浸れんぞ!?」

(ゝ○_○)「こんな世の中ですから疑り深いのは時として美徳にすらなり得ますが、一応ロシア経由で複数の“情報筋”に裏を取ったので多少の誤差はあれど全面的に虚偽という可能性はほぼないと思われます。同軍に参加しているアメリカ海兵隊のサイ=ヨーク=ヴォーグルソン大尉とも連絡が取れていますし。

というか、東欧連合軍首脳部に嘘をつくメリットがまるでないでしょう。暴動や恐慌を抑えるために国内向けのプロパガンダって話ならいざしらず、共同戦線張ってるアメリカや日本の政府内にこの嘘垂れ流す意味ってなんですか。しかも軍内にアメリカ軍関係者がいるのに」

爪;'ー`)「そ、そう言われればそうだが…………」

(;`・ι・´)「誤報ではないとしても、ここまで短期的に決着できたとなれば今度は手品か神の奇跡を疑いたくなるよ。

確かにドイツ戦線はついこの間も400個艦隊規模の総攻撃を押し返している。だがあの時は、深海棲艦側にも明らかな“油断”があった。

今回の攻勢はほぼ同規模、戦力も第一報到着時点での予想進軍経路を見る限りしっかりと集中運用の原則を人類側の重要拠点に対して遂行しているように見えた。

EliteやFlagshipも他地域に引けを取らない量が確認されていた事も考えると、再びこれほどの勝利を得られるとは」

(ゝ○_○)「あくまで断片的な情報を繋ぎ合わせた上での推測ですが、【ドレスデン・ライン】は最前線の複数箇所であえて交戦状態を維持しつつ敵艦隊の浸透を故意に許したようですね。そうして総司令部があるドレスデンまで誘引しつつ、リーザを始め幾つかの最重要拠点を艦娘戦力と機甲師団、近接航空支援の集中運用で堅守。

これらへの攻撃部隊を撃退或いは壊滅した後、ドレスデン方面への浸透を続けていた敵艦隊の退路を遮断。包囲殲滅の後反転攻勢で再度防衛線を当初のものまで押し上げた、といったところでしょうか」

(;`・ι・´)「例の、【機動迎撃大隊】と【混成機械化打撃群】か。彼らの武勲は留まるところを知らないな」

(ゝ○_○)「ドク=マントイフェルにイッシ=ストーシュル、あの二人面白いですよね。私最近ちょっと追っかけてます」

爪;'ー`)「そんなジャパンのアイドルグループじゃあるまいし………」

https://downloadx.getuploader.com/g/sssokuhouvip/183/IMG_20230408_225438.jpg
219 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/09(日) 00:00:52.08 ID:BYinKxXQ0
(ゝ○_○)「………さて、ここまでに報告してきた地域以外にも、大なり小なり深海棲艦との戦闘発生地域はあります。

ベーリング海、カムチャッカ半島沖、黒海、バミューダ海、バレンツ海、グリーンランド海……海と名の付く場所で戦闘となっていないのは北極海と南極海くらいのもので、南アフリカのように既に“陸戦”が始まっている場所も決して少なくはありません。

その中で南ドイツとインド洋─アラビア海の状況はハッキリ言ってしまえば“例外”であり、大半の戦場は人類・艦娘側にとって劣勢です」

(;`・ι・´)「………それらを踏まえた上で、“海軍”総提督として聞こう。我々が“このまま”戦い続けて、戦況を覆せる可能性はあるか?」

(ゝ○_○)「戦略情報局士官として分析するまでもありません、Nothingです。ドゥームズ・デイの訪れは、最早秒読みと言ってもいいでしょう。

仮に人類がそれを回避しここから戦況を挽回できるとすれば…………少なくとも二箇所、一秒でも早く人類側の勝利とした上で掌握しなければならない戦場があります」

爪;'ー`)「………やはり、【オオアライ】、そして【学園艦棲姫】か」

(ゝ○_○)「ええ。それではこれよりその二箇所………【フィリピン海戦線】並びに【日本列島戦線】における現戦況の整理と解析を行わせていただきます。

────ただ、その前に一点、後者について取るに足らないかもしれませんが個人的に気になった情報を報告させていただきます」

(`・ι・´)「? 何かね?」




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220 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/09(日) 00:04:47.78 ID:BYinKxXQ0
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「大洗町にて自衛隊への近接航空支援に参加した“海軍”所属の航空隊パイロットの一人が、─────“大洗女子学園の甲板にて、【交戦中の装甲車】を視認したかもしれない”という報告を上げてきています」









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221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/04/09(日) 07:20:27.55 ID:kA9e0aJLo
お〜ドイツ方面の情報嬉しい ぬるっと勝ってて流石だ
222 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/09(日) 20:47:40.23 ID:MRR6D8+I0
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まことに小さな島国が、つい30年ほど前まで世界の巨人であるアメリカと6年以上もがっぷり四つ組みで渡り合っていた。このことは、現代の奇跡というより他にない。
19世紀の末になり、日本は「明治維新」という国を挙げた狂乱の果てにようやく統一的近代国家の道を歩みだした。既に“国際社会”を創り上げて久しく思想も文明も遥か先を歩んでいた欧米諸国から見れば、明治という時代が始まる際の有様はきっと、猿が無理矢理に洋服を着ようとしている姿と区別がつかなかっただろう。

そしてこの“猿”が、僅か二十数年で大清帝国を粉砕し、四十年でロシア帝国を打ち負かし、一世紀に満たぬ期間で新たな【帝国】として亜細亜に跋扈しアメリカとさえ鎬を削るまでに至ったことは、「先進国」を自称し続けてきた彼らにとって、多大な屈辱を伴う信じがたい“驚愕”であった。

だが、何よりもその光景を信じられなかったのは、他ならぬ当時の日本国民である。
223 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/09(日) 20:48:37.07 ID:MRR6D8+I0
浦賀に黒船が姿を現し強引に徳川幕府を開国に至らせるまで、この島国にとって欧米とはまさに“外界”であった。技術、文明、思想、価値観、全てが未知であり、吸収しようにもぶつかり来るそれらの衝撃が強烈過ぎ、一つ入れる度にこの島国は大いに揺れた。
幾度となく揺れに揺れ、その繰り返しに耐えきれず起きた日本という家屋の大倒壊が明治維新である。

本来ならば向こう数十年はまともな建て直しが困難なほどの倒壊ぶりでありながら、この国はそれを“土台”だけ残して上層建造物のみを破壊するという奇妙なやり方で起こすことに成功した。その為に、武力を伴った国家規模の革命直後にありがちな致命的な混乱を殆ど経験することなく近代国家建設を成し得た。

この“奇跡”が起きた要因を、一概に限定することはできない。国民性や地政学的要因、長年続いた幕藩体制の功罪、様々な要素が複合的に絡み合った結果としか言いようがない。
ただ一点、戦国の頃よりこの国に通されてきた一本の道が、女流鉄砲術から戦車へと至る“道”が、取り分け大きな役割を果たしたという点だけは、恐らくあらゆる視点において共通の見解となるだろう。

一応は、筆者もまた“彼女”とは同時代を生きる人間であるため、その血縁者について語ることに些かこそばゆい思いはある。しかしながらこの人物無くして日本の土台を支えた“芯”について解き明かすことは出来ないため、恥を凌ぎ、筆を執ることとする。

これは日本が中世国から近代国へと至る時代を、幕末から明治へ、そして昭和へと伸びていく【鋼の道】を歩み続けた、一人の女の物語である。




────司馬遼太郎著・【鋼の道にて 西住栄物語】序文より抜粋
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2023/04/10(月) 16:28:25.19 ID:KUNpmuPx0
更新おつです
西住流テーマの司馬遼太郎小説があるって設定はアツい!
225 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/13(木) 23:13:27.83 ID:JNDnG78R0
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『ギァア────ァ゛ッ゛………』

大口を開け、喉笛を噛みちぎらんと此方に首を伸ばしてきた【寄生体】。ブレイドを真正面から振り下ろし、頭を叩き割って黙らせる。

「ゲボォッ』

振り向きざまに刃を翻し、真逆の軌道で下から斬撃。隙ありと見たか飛び掛かってきていた小太りな【暴徒】が、宙空で身体を真っ二つに両断されグシャリと音を立てて地面に落下した。

「ゴパッ!!?』

『ギギッ──コケッ』

そのまま逆手に持ち替えたブレイドを背後に突き出し、別の【暴徒】の腹を刺し貫く。血反吐を吐きながら蹲ったソイツの背後からまた一匹【寄生体】が飛び掛かってきたが、胴を鷲掴み足元の地面に叩きつける。
間髪入れず頭を踏み割ると、数日間海を漂っていた水死体を思わせる青白くヌラヌラとした質感の胴体が、短い断末魔と共に一瞬ピンッと張り詰めた後クタリと脱力し崩れ落ちる。

『オブォッ」

「グがっ……』

途切れることのない襲撃。今度は両側から【暴徒】二人。右手のサラリーマン風の男の顔面を膝で蹴り砕き、そのままの勢いで距離を取りながら左手から迫る某ケータイショップの制服を着た若い女にM&K USPを連射。顔を斜めに横切る形で3つ風穴を空け、沈黙させる。

いったいここまでに、何匹、何人、斬り伏せてきただろうか。

ここから、あと何匹、何人斬り伏せれば私はこの“作業”から解放されるだろうか。

前者の問いについては、他ならぬ私自身が疾うの昔に数えるのをやめているのだからどだい解るわけもない。
まぁ、何百人だろうが何千匹だろうがもう“終わったこと”よ。今更思い返したところで、意味なんてないでしょう?

そして、後者の問いに対する答えは、





「『「オァアアアアアアアアアアアアッッ!!!』」』

『『『キィアアアアアアアアアッ!!!!』』』

∬メ;´_ゝ`)「Muscle-03、11時方向!距離150、家屋上に火器装備の【暴徒】3名を補足!!」

└(#メ*・ヮ・*)┘「了ッ解ッ!!モー速攻排除しちゃうからねー!!」

「02、私がその後に突撃するから右手側の“群れ”に射撃を!!3連射、前衛崩せ!!」

∬#メ´_ゝ`)「02、要請を受諾!撃ち方ぁ!!」

……周囲の光景を見る限り、「遠き春」であることは間違いなさそうね。
226 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/13(木) 23:17:01.18 ID:JNDnG78R0
駆逐艦娘1名、陸上自衛隊員1名、学園艦保安官1名による、大洗女子学園の奪還。
そんな、平時に私が第三者として聞いたなら発言者の気が触れたとしか思えないような“作戦”を声高に宣言してから、一時間ほどが経過した。

この時点で私達の位置から学園校舎までは、目算距離で約3kmになるかどうかといったところ。徒歩である点を考慮すると決して近いとは言えない。
けれど、常人の身体能力を遥かに凌駕する艦娘と膨大な体力を要する肉体系公務員2名が“普通に”移動したなら、この一時間小走りでもしていればもう到着していたでしょうね。

「『「ァアァアアアアアアッ!!!!』」』

『『『ギャッ、ギャッ、ギャギャっ!!』』』

まぁ、【私達に対して殺意マシマシの“元”人間】と【私達に対して殺意マシマシの敵性侵略生命体】が道に溢れかえり何千何万と犇めく中を、“普通に”行けるワケがなかったってだけのことよ。

「ウボァ………』

「二人共、次はこっちへ!」

∬;メ´_ゝ`)「Muscle-03、進行方向の家屋上を警戒!私がしんがりをやるわ!」

└(*・ヮ・*;メ)┘「あいよー!」

向こうの数的優位をなるべく削ぐために、こうして裏路地や細道へと誘引する機会が多いことも相まって、進んだ距離はせいぜい1kmがいいところ。“目標地点”まで1/3も来れていない。

『キョアアアアアアッ!!!』

そして、進めば進む分だけ、押し寄せてくる敵の壁は分厚く、波は激しくなってきている。

「伏せて!!」

∬メ;´_ゝ`)「…ッ!!」

飛び込んだ裏路地に、お構いなしに殺到してきた【寄生体】の塊。その中から一匹が、しんがりで89式小銃の引き金を引き続ける阿音に向かって胴を伸ばす。
私の叫びに応じてとっさに背中から倒れ込む形で背後へと跳躍した阿音の首から数センチほどの位置で、鋭い牙がガチンと鈍い音を立てた。

『ギッ──ゴボァッ!?』

更に追撃しようと開かれた口に、対深海棲艦白兵戦闘用のブレイドを突っ込む。特殊合金で出来た漆黒の刃が上顎をぶち抜き、砕かれた甲殻の破片が飛び散って両側のコンクリート壁にカランカランとぶつかる。

『キュペッ』

『オゴパッ』

首を捻り切って、そのまま投擲。姑息にも足元からの奇襲を狙って地面を這ってきていたもう一匹の頭部も砕け散った。
227 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/14(金) 23:10:04.68 ID:a3HNpCLf0
立て続けに二体を葬ったが、路地の入り口で蠢いている【寄生体】の数は未だに膨大だ。当然、この程度で攻撃を止める筈もない。

『キィアッ!!』

『グォッ!!』

「ちぃっ!!」

∬;メ´_ゝ`)「このっ!!」

唸り、金切り声を上げ、今度は5〜6体の新手が一斉に私と阿音に押し寄せてきた。1体ごとは雑魚でも束になれば相互に連携を取ってくる上、攻撃動作は向こうの方が立体的な為迎撃難度が跳ね上がる。阿音と二人、間断なく突き出されてくる頭部や牙を必死に捌きつつ隙を伺う。

『ギィイイイイイi「甘い!!」ウギァッ!?』

『ギャッ!?』『ヴァギュッ………』『シェッ⁉』

此方の防戦に業を煮やしたか、一匹が得物をはたき落とそうと大きな動作で勢いよく私の手元に向かって頭部を振りかぶる。その軌道を躱し、首を斬って落とし、開かれたスペースに滑り込む。
一気に連撃へ繋げ、残りの個体も殲滅した。

ああもう、せっかく乾いてきていたのに。また連中の“返り血”でぐっしょりだわ、生臭いったらありゃしない。

「さぁ、お次は何匹で来るつもりかしら?幾らでも───」

『うぉらぁあああああっ!!!!」

「───ッ!!?」

ブレイドを下段に構え直しながら、威嚇と挑発を兼ねて眼前の“塊”に対して微笑みかける。が、予想に反し、“次”が来たのは上………左手の民家からだった。

まぁ、さっきも屋根の上に拳銃持った【暴徒】が現れていたワケだし、路地裏で周囲には家が立ち並んでるわけだし、ええ、認めるわ。私が油断していたせいも若干はあると思う。だけど、一つだけ言い訳させて頂戴?

化け物共との乱戦の直後に、室内から元とはいえ“生身の人間”が二階の窓をぶち破って飛び掛かってくる可能性までケアするのは無理よ!!

「ぐぅっ……!?」

艦娘の身体能力は、艤装の装着量と【船体殻】の出力にほぼ完全に比例する。
無論完全な非武装でもMLBで即座に二刀流選手としてデビューできるぐらいのものは備えているけど、中破状態の上に艤装がブレイドを仕込まれた電探装置二つだけという状態では流石に限界はあった。

姿勢が崩れていたことも相まって、飛び掛かってきたジャージ姿のその【暴徒】にあっさりと押し倒され組み伏せられてしまう。

『死n─────ボギュルッ!!?」

∬#メ´_ゝ`)「どらっしゃあああい!!!」

馬乗りの体勢のまま、両手でソイツは出刃包丁を猛然と振り下ろす。が、ソレが私の首筋に突き立てられる直前、側頭部に凄まじい勢いで89式小銃の銃床が叩きつけられた。
228 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/14(金) 23:19:30.56 ID:a3HNpCLf0
弾倉抜きでも3.5kgにもなる鉄の塊が、よく鍛え上げられた軍人の肉体を以て全力全開でスウィングされれば、当然余裕で人を殺せる威力を伴う。
握りつぶされたアルミ缶のように打撃部分が凹んだ【暴徒】は、私の上から吹っ飛んで壁に激突しそのまま永久に沈黙する。

└(#メ*・ヮ・*)┘「はい、モー見えてるからね!!」

「ガフッ』

『ブギゥッ!?」

その向かい側の家の2階、そして屋根上で追撃を試みようと更に3人の【暴徒】が現れたものの、鈴によるH&K PSG1の速射で何れも顔面を吹き飛ばされ落下した。

「02、03、お願い!!」

∬メ#´_ゝ`)「了解!」

└(*・ヮ・*#メ)┘「いえっす、まぁむ!!」

そのまま残る【寄生体】の群れを二人に任せつつ、銃声を尻目に鈴と身体を入れ替える形で逆方向へと跳ぶ。

『っぁあああああああああ!!!!」

前転でさらに距離を稼いだ後に身体を起こせば、丁度この路地に反対側から突入してきた【暴徒】が一人、すぐ目の前で私に対して金属バットを振りかぶるところだった。

「はぁっ!!」

『がほぅっ!?」

さっきは体勢を崩していたことに加えて予期せぬ奇襲だったため不覚を取ったが、いかに多少の疲労とダメージが蓄積していても真っ向勝負で艦娘が人間に負ける道理はない。
腰のあたりに斬撃を食らわせ、【暴徒】を“上下”に分断する。

『ブぁっ!?」

「グボォッ』

『このやろuヌブッ───オゴッ」

宙を舞った上半身が地面に落下するよりも早く、踏み込んで後続の二人目は袈裟懸けに両断。三人目に裏拳を食らわせてコンクリートブロックに叩きつけつつ、遠心力で身体を回転させながらもう片方の手でUSPを構え突き出す。
民間の警備会社にでも勤めていたらしく、木製の警棒を構え突進してきた四人目。口内に銃口をねじ込んで引き金を引くと、弾丸が頭蓋を粉砕し後頭部から射出された。

「や、やぁあああああああっ!!!!』

「………っ!!」

「ヒュッ───…………』

五人目は…………デッキブラシのようなものを持ち、船舶科の制服を着ていた。散々自分に言い聞かせ、その甘さを自身で罵倒してきたけれど、それでもほんの刹那全身が強張るような感覚が走ることだけは避けられない。
歯を食いしばり、止まりかけた手を加速させ、“ここまで何度も”そうしてきたように、せめて痛みを殆ど感じさせない為一際早くブレイドを首筋に走らせる。

『ブォオオオオオオ───ブガッ!?!?」

「ヒィッ………ァ、レ………?』

「横、失礼するわ」

六人目、七人目は、通路を埋める形で二人一辺に挑みかかってきた。片方はトンカチ、もう片方はどこで手に入れたのやら手斧を持っていたので、とりあえず手斧の方の首と腕を一度に斬り落とす。
足元に落ちた手斧を避けようと急停止したトンカチの方とすれ違う際にその頸動脈を手刀で裂くと、血が噴水のように吹き出して民家の壁に赤い不格好な紋様が描かれる。
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2023/04/17(月) 12:31:09.80 ID:kgoloDqs0
更新おつです
色々ありすぎてゾンビ物もクロスオーバーしてたの忘れてましたw
230 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2023/04/18(火) 23:23:27.80 ID:an/t4nPL0
八人目は姿勢を低く、レスリングのタックルのような要領で迫ってくる。顎を膝でかち上げ、剥き出しになった喉仏を握り潰して息の根を止めた。

九人目は元保安官の【暴徒】だったらしく、ニューナンブを構え撃ってきた。生憎、どれほど微弱な【船体殻】でも容易く防げる銃火器の方が私個人としては余程ありがたい。背後の二人に流れ弾が当たらないようあえて大きく飛んで連射された3発を全て受け止めつつ、着地と同時にブレイドを振り下ろし防弾チョッキごと両断する。

「ゴホッ…………!?』

丁度十人目。心臓を深々と刺し貫き、脱力したソイツの胸ぐらを掴み、私を包容しているような形で纏わりつかせ───そのまま一気に大きく踏み込んで、加速。

『「『ぅぎゃぁっ!!?」』」

「『「おごぁっ!!!?』」』

路地の反対側の出入口、突入するためそこに屯していた、7〜8人ぐらいの“ダマ”。そこに、即席の「盾」を掲げながら全力全開での体当たりをかます。
鈍い打撃音、そしてナニカが折れたような幾つかの乾いた音を重ねながら、“ダマ”は一瞬で解け後方へとまとめて吹っ飛んだ。

「こっち!!」

∬#メ´_ゝ`)「03、先に!」

└(*・ヮ・*#メ)┘「ほいさぁ!!」

飛び出した先は、主要通学路の一つだったのかそれなりの道幅の道路だった。周囲の【暴徒】と【寄生体】を片っ端から斬り払って抉じ開けたスペースをさらに広げつつ、背後の路地に向かって叫ぶ。
阿音が89式小銃を乱射して“塊”を牽制する間に、鈴は構えを解き一目散にこちらへと駆けてくる。

└(*・ヮ・*#メ)┘「ばっふぁろぉおおおお、きぃいいいいっく!!!」

『ベルタソッ!?」

路地裏を出ると同時に、跳躍。近場の【暴徒】一人の顔面に飛び蹴りを食らわせ、そのまま文字通り“踏み倒して”着地した時には、既にPSG1の膝射体勢が取られていた。

└(*・ヮ・*#メ)┘「ほい、ほい!!」

「ダポッ!?』

『ヌブッ」

『ギャアッ!?』

二度、マズルフラッシュが瞬く。一発目は左手から突進してきていた【暴徒】を二人まとめて貫き、二発目は変則軌道で強襲を試みた【寄生体】の頭部を寸分の狂いなくぶち抜いて粉々に打ち砕いた。

└(#メ*・ヮ・*)┘「モー大丈夫だよ02!!」

∬#メ´_ゝ`)「了解!!」

『『『ギァアアアアアアアアッ!!!!』』』

出入口周りがある程度“クリア”になったところで、阿音もまた最後にもう一射撃“塊”に浴びせた後踵を返す。火線の妨害がなくなった“塊”もまた、一拍置いてその後を猛然と追い始めた。

∬メ;´_ゝ`)「あらあら、見た目の割に礼儀正しいじゃないの」

手厚く熱烈な“御見送り”の様子をチラリと振り返り、阿音は口元を不敵に歪め───

∬メ#´_ゝ`)「それじゃ、お返しぐらいはしなくちゃね!!」

───腰に巻いてある雑嚢から取り出した“贈り物”のピンを抜き、道路へ飛び出すと同時に背後へと投げつけた。
231 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/18(火) 23:26:37.70 ID:an/t4nPL0
炸裂音が空気を震わせ、一瞬爆光が煌めいた後路地裏には黒黒とした煙が充満する。咄嗟に屈んだ私と鈴の頭上を、千切れた【寄生体】の頭部や焼け焦げた肉片が飛び越えていく。

『ギィッ、ギィッ…………』

『シャアアアァァ………』

小銃の弾丸とは比べ物にならない威力ではあれど、密集具合を考えても削れたのはせいぜい二十に届くかどうかだろう。数だけで言えばまだまだ健在の筈だったが、それ以上“塊”が追撃してくることはなかった。

∬メ;´_ゝ`)「ごめんなさい、待たせちゃったかしら?“お客様”の引き止めがしつこくて」

「ええ安心して、寧ろ大和撫子の身支度の手際の良さを改めて実感したところよ」

路地への警戒は怠らぬままこちらへ駆け寄り合流した阿音と軽口をたたき合い、これに鈴も加えた三人で背中合わせになり周囲で犇めく【暴徒】並びに【寄生体】と対峙する。
三人で散々暴れ狂ってやった結果流石に警戒が強まったのか、遠巻きに眺めて隙を伺いつつこちらへの波状攻撃は止まっている。

ここで「遠慮なんかしなくていいのよ?かかってきなさいな」とでも啖呵を切れれば大層格好がつくのだけれど…………実状としては、素直にこの“休養”が有り難いわ。

「各位、残弾は?」

∬;メ´_ゝ`)「M26はさっき投げた分がラスト、擲弾も次でラスト。89式の弾倉は持てるだけ持ってきたけど…………さっきのフルオートで2つ使ったから、こっちも残りは3つしかないわね。因みにUSPも同じだけよ」

└(*・ヮ・*;メ)┘「こっちのPSG1も弾倉は同じく!流石に節約してもキビシーかな、月末の給料日直前並みにキビシー!!

んで叢雲ちゃん…………じゃねえや、Muscle-01、こっからどうするよ?!」

∬;メ´_ゝ`)「…………………別にわざわざ言い直す必要なかったじゃないのよ。名前だろうがコールサインだろうがどっちでも」

└(*・ヮ・*#メ)┘「っかーー!解ってねえなぁ阿音ちゃんは!!ロマンってもんを解ってねえよ!!コールサイン呼びは戦場のロマン、人間ロマンを忘れちゃモーおしまいだって!!」

∬;メ´_ゝ`)「私一応現役の軍事関係者だけど解らないし解りたくない哲学だわ」

……二人共まだまだ意気軒昂なのは間違いなく好材料なんだけど、人間どこぞの皇国みたいに精神力だけでB-29を撃墜したり敵機動艦隊を殲滅したりはできやしない。
そこは艦娘たる駆逐艦・叢雲でも同じことだ。艤装を使えない以上、阿音と鈴の装備銃火器並びにそれを操る高いスキルはこの包囲網を切り抜けるには必要不可欠。

だが、切り抜けられるまでに要する「目算約2km」という距離に対して、この残弾数が十分とは残念ながら思えない。しかもこれは、あくまで“直線距離”での話だから尚更に。
232 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/18(火) 23:29:31.15 ID:an/t4nPL0
そして、仮に弾薬が潤沢にあったとしても、ではのんべんだらりと戦っている暇があるかと言えば答えは否だ。

『───ズァアアアアアアアアアッ!!!!』

└(*・ヮ・*メ;)┘「あー………Muscle-03より01並びに02、新たな“艦影”を11時方向に確認したけど」

∬メ´_ゝ`)「02より03、ありがとう。私達も見えてるから大丈夫よ」

└(*・ヮ・*メ;)┘「デッスヨネー」

鈴が指した方向、民家の屋根の上に現れた【雷巡チ級】。この二人に助けられるまで私を攻撃していた二隻と同じく、下半身を蜘蛛のような形状のメカメカしい多脚ユニットに取り替えた“陸上型”が、仮面の隙間から覗く青い瞳で此方を冷たく見下ろしていた。

先の二隻と違い、両手共に対空機銃だった前者からこちらは右手が小口径の連装砲に変更されているけれど。

(………その砲を出会い頭にぶっ放して来ない様子を見る限り、連中が私を“生け捕り”にするつもりだって仮説は間違ってもいないしまだ変わってもないみたいね)

ただし、この方針は恐らく枕詞に“出来得る限り”の一言が付随してきている筈だ。艤装の火力が一段階上がったのも、その“許容範囲”を私達が完全に踏み越えた時即座に処理できるようにという下準備でしょうね。

よしんば本格的な火力投射が始まる前にあのチ級を沈められたとしても、今度はその事自体が“許容範囲超え”の裁定に繋がるきっかけにもなりかねない。そうなったら次はより重火力を備えたチ級か…………いよいよ本格的に、艦内に展開し砲台として機能しているであろうリ級やル級といった一線級の“ヒト型”をこちらへ差し向けてくる可能性も十分に考えられる。

(今はまだそういった主力級の連中はこっちまで進出してきてないみたいだけど………何がイヤって、さっきまでアレほどバカスカぶっ放されてた“艦砲射撃”の勢いがあからさまに落ち始めてるのよね)

大洗町沿岸に展開しているであろう自衛隊戦力との戦況が拮抗して膠着状態に陥りつつあるのか、或いは早々に崩壊して内陸への浸透でも始まってしまっているのか、何れにせよ火力投射量が落ちればそれだけ多くの艦を此方へ割く余裕ができつつあることになる。私達にとっては、あまり喜ばしい推移とは言えない。
233 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/18(火) 23:41:42.86 ID:an/t4nPL0
駆逐イ級やハ級といった“非ヒト型”は、どんなに小さいものでも5メートル前後。超絶巨大とはいえ高層ビルの類も無ければ山や森が密集しているわけでもない平坦な“甲板上”で多数展開していれば、否が応でもその姿は目に留まる。
だけど実際には、確認できるのは駆逐ナ級が二隻と軽空母ヌ級がEliteも含めて三隻のみ。しかもヌ級は、今なお艦載機をちらほらと吐き出し続けるのみで砲弾は一発も放っていない。

にも関わらず、先程まで行なわれていた“対地砲撃”はどう少なく見積もっても五、六十隻分に相当する分量だった。ならば最低でも、それだけのヒト型が学園艦内にいると考えるべきよね。

弱音は吐きたくないけど、流石にこの装備かつこの損傷状態で万全のリ級やル級とかち合って生き残ることができる保証はない。だから尚の事、私達は少しでも早く大洗女子学園に到達する必要があるワケだ。

(付け入る隙があるとしたら………やっぱり、向こうの“方針”になるわ)

私の“生け捕り”………まで求めているかどうかは実際のところ定かじゃないけど、ソレを含めてとにかく何かしら他に私を“殺せない理由”があると仮定する。
この場合、少なくとも今のように密集した陣形を作っている限り、私のみならず阿音と鈴に関してもある程度の安全性を担保することができる。深海棲艦の艤装では、威力の大きさゆえにここまで密着した状態で私“のみ”のダメージを回避・軽減する事が不可能に近いからだ。

ただし、その担保は先に述べた“許容範囲”の中に私達が留まっている間のこと。奴らが大洗女子学園の破壊を中途半端なままにしている“目的”を考慮すれば、当然私達が本校舎に近づけば近づくほど“デッドライン”との距離も縮まっていくだろう。

(問題は………“向こう”にとって、どっちの方が優先順位として高いか)

私の“生け捕り・不殺”の優先順位が高ければ、話はかなり楽になる。何故なら向こうとしては、最悪私の学園艦外への脱出か自害さえ避けられればまだ望みは繋がる。
そして前者の可能性は私が突然エスパーにでも目覚めない限り無理で、後者は単純にありえない。仮に学園内に逃げ込まれて向こうの戦略上手出しができなくなったとしても、生かしておく限り幾らでも“次”があるってわけだ。

だけど、仮に“学園校舎への侵入阻止”の優先順位が高ければ、最大限希望的に猶予を見積もってもせいぜい1キロが限界でしょうね。艦砲射撃と機銃掃射が全力で行われれば、流石に私でもこの雲霞の如き大群と両方は捌ききれない。

言いたくないし考えるのは癪だけど………その時は、ここが“墓場”になることを覚悟するわ。
234 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/19(水) 00:20:07.92 ID:EeDdit1v0
そして私の見立てによれば、向こうの優先順位は恐らく“校舎への侵入阻止”の方が遥かに高い。数が膨大であるため制御しきれていなかった可能性を差し引いても、【暴徒】や【寄生体】の攻撃から感じる“殺意”はホンモノだった。

本当に目的が“生け捕り”だったとしても、向こうの感覚としては恐らく「死なずに捕らえられたなら御の字」ぐらいの感覚なんじゃないかしら。

(………自分で言うのもアレだけど、仮にそうならなんか【別に対戦でも旅パとしても大して強くないけど珍しいポケモンにとりあえずモンスターボール投げてる】みたいな感じでめちゃくちゃ腹立たしいわね)

一応、チ級が“ライン超え”の直前に私の“不殺”に対する最後の努力として白兵戦を挑んできてくれるなら、まだ突破の目は残る。けど、さっきの交戦で既にチ級が二隻やはり近接白兵戦闘で沈められている以上期待薄だわ。だったら脇の二人ごと機銃掃射でも浴びせかけて、たまたま生きてたら回収の方が安全で合理的だ。

……………全く。戦術も戦略も散々あの鎮守府で学んできたつもりだけど、やっぱりどこまで行っても“実戦”ってのはままならないものね。

心の中で深く深くため息をつきつつ、私はUSPを胸元にしまい、入れ代わりにもう1つの“電探装置”を取り出す。

装置の真ん中辺り、微かに盛り上がっている部分を親指で押すと、形状がレイピアやサーベルの柄のようにやや持ちやすく変形し、先端部分から今もう片方に持っているものと同様に白兵戦闘用の黒いブレイドが飛び出した。

「01より02並びに03、白兵突撃用意。銃弾は学園校舎までの残余1kmまで極力温存を意識して頂戴。

私が、最大出力で道を開ける」

∬メ´_ゝ`)「……02、了解」

└(*・ヮ・*;メ)┘「ぜ、03了解。なぁ01、叢雲ちゃん、自棄を起こしちゃダメだぜ?」

「鈴、あんたさっきの“ロマン”とやらはどこに行ったのよ」

人聞きが悪いわね、別に自棄なんか起こしちゃいない。死ぬ気なんかこれっぽっちもないし、この状況に対して諦めたわけでもないわ。

「それに、この程度の包囲で自棄を起こすほど軟弱だと思ってるなら────」

ただ、私の無茶苦茶に着いてきてくれるようなイカれた二人も巻き添えで危機に陥っている以上、

「─────駆逐艦・叢雲を、ナメないでほしいわね」

その危機を脱するために、私が最も大きなリスクを背負うのが当然というだけの話だ。

「Muscle Team、今一度“出撃”する!着いていらっしゃい!!」

自らを奮い立たせるため、包囲網の圧を跳ね除けるため、声高に叫び一歩踏み出す。

目標、本校舎への直進。殆ど跳躍に近い形で一気に正面の【暴徒】と【寄生体】の大群との距離を詰め、両手のブレイドを振りかざし──────
















それが振り下ろされる直前。

“砲声”が、空気を震わせた。
235 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/19(水) 01:10:51.87 ID:EeDdit1v0
風切り音が。

小銃弾や機銃弾よりは遥かに巨大な質量を持つ鉄の塊が。

一発の“砲弾”が、私の頭上数メートルの位置を駆け抜けた。

『グァアアッ!!?』

“それ”はそのまま雷巡チ級に直撃し、【船体殻】の表面で弾けて爆炎を撒き散らす。無論悶え苦しむようなダメージは与えようもないが、困惑と驚愕が入り混じったような声色で吠えつつチ級は姿勢を崩した。

「……………は!!!?」

∬;メ゚_ゝ゚)

└(メ;*゚ヮ゚*)┘

ただそれは、阿音も、鈴も、私だって同じ気持ちだ。私達三人も、【暴徒】も、【寄生体】も、この場の誰もが、自分達の時計を止められてしまったかのように身動きができなくなり、束の間“砲撃”が飛来した方角を───“大洗女子学園校舎”がある方へと視線を向けていた。

「Panzer vor!!」

まさにその方角から、微かに聞こえてきた“戦車前進”を示すドイツ語の叫び。その後を追うようにして、鉄の履帯がコンクリートを踏みしめる無骨で耳障りな音が響き、そしてそれはすぐに急速にこちらへと近づき始める。

「ぎゃあっ!??』

『ウゴァっ………」

『『ギョプッ』』

『ギッ…………グゥッ………!!!』

“群れ”の向こう側で、何かが蠢いている。それは【暴徒】を跳ね飛ばし【寄生体】を踏み潰し引き回し、さながら制御の利かない巨大な暴れ牛の如く私達の方へと向かってくる。チ級が“ソレ”に向かって機銃を向けようとしたが、飛来した二発目の砲弾の炸裂がその動きを阻害した。

∬;メ´_ゝ`)「01、後退して!!」

「っ………!!」

「『「うぐぁあっ!!?』」』

『『『ギギッ!!?』』』

不覚にも茫然自失状態になってしまっていた私は、阿音の声で我に返り咄嗟にバックステップする。直後相対していた“群れ”の前衛が一瞬で崩れ、轢き潰された【寄生体】の残骸や巨大な質量の体当たりをまともに背後から食らった【暴徒】が、石灰岩の破片のごとく四散していく。

そして、吹き飛ばされた人垣の後ろから、“ソレ”はキャタピラーを軋ませながら姿を現した。

└(;メ*゚ヮ゚*)┘「うっそでしょ………………」

“史実”とは若干異なる、やや明るめの茶色に近いカラーリング。

下部装甲の両脇に描かれる、青いアイアンクロスの真ん中に「洗」の一文字が施された特徴的な“校章”。

上部装甲左側面に鎮座する、うまく特徴を捉えたデフォルメ絵のふてぶてしい表情をしたチョウチンアンコウ。

鈍い輝きを放ち前方を睨み据える、24口径75mm KwK 40 L/43砲塔。

紛れもなくそれは、第二次世界大戦においてナチス・ドイツ帝国が運用した中戦車、【W号戦車】のF型だった。
236 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/19(水) 01:21:06.52 ID:EeDdit1v0
.









「──────撃て!!!」

W号のキューポラから顔を出していた少女は───────西住みほは、まるで戦車道の試合でいつも“そう”しているように平然と、声高に号令を下す。


『『『ギギィイイッ!!!?』』』

即座に75mmが吠える。優に20匹にはなろうかという【寄生体】の塊が一つ、うねり顔を出していた家屋ごと直撃弾を受け爆散した。
237 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/04/19(水) 01:57:22.47 ID:EeDdit1v0
.





〈ワシが西住サンと初めて直接会ったのは戦後の、1958年のことでしてね。

丁度あの時まだルーキーだった長嶋の坊やと彼女の座談会ってのが持ち上がりまして。ええ、彼女が東京読売戦車道婦人倶楽部の初代監督に選ばれたもんですからね、その関係だったんですけれども。

私が今生きていて読売ジャイアンツでコーチとして哲サンや正力サンと一緒にまた野球をやらせてもらってるのは間接的には彼女のおかげだからってんで、ワシが東南アジアに居た時は会う機会がなかったんですけども、もう居ても立っても居られないからね。シゲの兄さん(※)に頼み込んで、坊やに同行させてもらったんですよ〉
※当時巨人監督の水原茂氏のこと

〈会場についたら、まだ対談予定時間から15分前だってのに、西住サンがちょこーんと座ってらっしゃいまして。ええ、存外小柄だったのを覚えてますよ。ワシより20か25は低かったんじゃないかな。このヒトが中国軍や米軍を戦車を駆って沢山やっつけていたのかと思うと、大層不思議な気持ちになったもんです〉

〈ただね、ワシは戦争で一回肩を壊して、野球ができなくなって、そんで2度目の徴兵に取られて。そんな中で、彼女や西サンや細見サンが中華とかインドシナとかマレーとか硫黄島で頑張ってくれてたから、ワシらの船は沈められずに済んで。そんでその後の陸戦でも生き残ることが出来てって思うと、もう感無量でしてね〉

〈そんで何も言えずにワシが立ち尽くしちまってると、彼女が言うんですよ。沢村サン、日米野球母と見てましたよって、ニッコリ笑って。アメリカの選手バッタバッタと三振に取る姿を見て、こんなにも凄い人がいるのかと胸のすくような思いだったって〉

〈お恥ずかしい話ですけどね、涙がポロポロ溢れるんですよ。嗚呼、貴女のおかげでワシは生きてるのに、貴女はワシに礼なんか言ってくれるのかと。

いえこちらこそって、なんとか声を絞り出してね……坊やが主役でもあったから話せたのはそれぐらいなんだけれど、いやぁ………何か、不思議な魅力を、カリスマと言うんですかね、持っているヒトでした。それこそ、坊やに通ずるものがあったかな〉

────1987年・NHCの戦後40周年記念番組にて、沢村栄治のインタビュー音声より一部抜粋
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2023/04/19(水) 10:08:41.32 ID:mR2W/sLr0
更新おつです
ピンチに軍神来る(ただしJK)
239 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2023/07/26(水) 21:18:01.00 ID:1kNqHEos0
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戦車道。

この“競技”を最初に眼にした時の衝撃は、今でも覚えているわ。艦娘として「この世界の日本」に生を受けてから、多分一番大きいヤツね。

学園艦?ええ、そりゃあ初めての海上任務で【サンダース大附属高校】と出会したときは面食らったし圧倒されたわよ。
でもアレは、言ってしまえば結局のところ“バカデカい船”でしかないわ。驚きはしたけど、それだけ。あくまで、大和さんや武蔵の“実物”を見た時に抱く感情──“艦時代”の私にそんな上等なモノが備わっていなかったことはさておき──の延長線上でしかない。

対して戦車道は、根本から“違う”。

コッチじゃ影も形も存在しない価値観の元で産まれた、類似物すら見当たらない完全に“未知”の武道。
この【世界】の文化を、思想を、歴史を、私達が知る“道”から明確に一歩外れさせた特異点。

銃後に庇われ、子を成し、お家を護ることが役割であった筈の大和撫子が陸の鈍亀を駆って澄まし顔でドンパチやってる有様なんて見せられたら、そりゃあ驚いたってしょうがないでしょ?
辛うじてタメが張れる経験は、「深海棲艦と生身でステゴロ繰り広げた挙げ句返り討ちの上で見事生還する【提督】」を見た時ぐらいかしら。

………まぁだから、そんな“興味深い武道”の世界で取り分け強い輝きを放っている存在に。

“彼女”に惹きつけられたのは、まぁ、ある意味予定調和だったかも知れないわね。
240 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/07/26(水) 21:19:49.62 ID:1kNqHEos0
出会った、なんて上等で運命的なモンじゃない。私が初めて彼女を“見た”のは、【第63回全国戦車道大会】の試合を映していたテレビの画面越しでのこと。

元々興味はあったと言えど、その時はまだのめり込む程ではない。山と積まれた書類との憂鬱な長期戦の辛さを少しでも緩和できればという、所謂「作業用BGM」として点けただけのつもりだったわ。

だけど。

気がついたら私は、完全に書類仕事を放り出して繰り広げられる“試合”に釘付けになっていた。

戦車主砲の咆哮に声を上げ、弾丸が装甲を穿つ瞬間に目を見開き、履帯が猛々しくぶつかり合う様に息を呑み。

横で、「なんでこんな動きしてんの?」とか「あの戦車なんて名前なの?」やら小煩く聞いてくる司令官を一喝して黙らせ。

ただただ、その光景を作り出す“彼女”の有様に、魅せられていた。

試合そのものが面白かったから、というのも勿論ある。
ロマさんや青ヶ島の八頭某ほどじゃないけれど、私もそれなりに戦術・軍略には精通しているつもりだ。【競技】と本物の【戦争】の違いはあれど、「現役」として述べさせて貰うなら“彼女”の采配は見事なものだったわ。

ネット上の掲示板やお偉い解説員様なんかは「流派に見合った華麗さがない」やら「運に頼った面が大きすぎる」やらしたり顔で言ってたけど、どんな形式のものであれそこが【いくさ場】である以上運否天賦の不確定要素からはどう足掻いても逃れられない。
精密機械の名を冠した名投手がすっぽ抜けのど真ん中を放り込んでしまうことも、コートの反対側からヤケクソでリングに向かって投げつけたボールが大逆転のブザービートとなることも、極めて稀な確率ながら明確に「存在する」事象よ。

自分で0%に設定できるコンピュータゲームでもない限り、これらを完全な排除は不可能でしょ?ならばそうした不確定要素もモノに出来てこそ、【いくさ場】を制することができる指揮官でしょうに。

ハッ!“ご実家”への忖度でもしたつもりなのか知らないけど、腕立て伏せを十回もこなせやしないデスクワーカーや鼻先のPC画面だけで世界が完結してるだろうオタク連中らしい空虚な批判だったわねアレは!
241 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/07/26(水) 21:22:44.85 ID:1kNqHEos0
……少しばかり“不愉快な記憶”のせいで熱くなってしまったけれど、ほぼ全ての試合が運や偶然に縋り頼った勝利であったこと自体はさっき述べた通り否定しない。

バタバタと慌ただしく、不格好でコミカルな、終わった後に「何で勝てたのか」と首を傾げてしまう、結果オーライを辞書で引いた時に例示の一つとして出てきてしまいそうな、そんな試合運びの数々。
直前まで黄金期を築いていたチームや、その黄金期を終わらせたチームのような“強者”の戦い方からは遥か遠くに位置するもの。

どこの野球チームの監督だったかしら、「勝ちに不思議の勝ちあり」なんて言ってたのは。まさにその体現と言っても良かったかもね。

だからこそ、私は惹かれた。

絹糸よりもか細く儚い【勝ち筋】を、どれほど不格好な有様を晒しながらも必死に手繰り寄せる泥臭さに。

戦車道に関する知識も戦車自体に関する知識もその大半が私に毛が生えた程度のメンツでありながら、最早バカが付くほど正直にまっすぐに同じような立ち位置のチームメイトを信頼して、平然と背中を預けてしまう無鉄砲さに。

そんなチームの先頭に立ち、誰よりも多くの信頼を集め、誰よりも深くチームメイトを信頼し、誰よりも力強く【勝ち筋】を手繰り寄せる“彼女”の────西住みほさんの姿に。

我ながら、“入り”は大分ミーハーな感情だったと思う。日頃サッカーの“サ”の字すらろくに口にしないのに、世界大会が始まるや否や渋谷の路上で騒ぎ立てる連中の気持ちを、あの時ほんの少しだけ理解した。

本来なら一週間すら保ったかどうか怪しい麻疹のような一過性の“熱”。それがより深く、強烈なモノに変化したのは……大洗女子学園と西住さんが、あの時何を背負っていたかを知ってから。

人の命よりも伝統と栄光を重んじ、友を救ったことを褒めず勝利を逃したことを面罵するような連中に“道”を閉ざされ。

傷を抱えた彼女が辿り着いた先で、今度は大人たちの一方的な事情で“家”が取り上げられそうになり。

一度守り抜いた筈の家を、再び開いた筈の“道”を、私利私欲に塗れた謀略で踏み躙られ。

それらを尚も跳ね除けて自分の居場所と信念を仲間と共に最後まで守り抜いたと知った時───私はどうしようもないほど西住みほという人間に憧れ、羨望した。
242 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/07/26(水) 21:26:31.14 ID:1kNqHEos0
別に、今の境遇にもう不満はない。寧ろ、あの無能な司令官から常に楽しい【いくさ場】とぶっ飛んだ愉快な日常を用意してくれる今のアイツに上官が変わったことを考えれば──比べ物にならないほど頭がおかしいことを差し引いても──最早幸運とさえ捉えられる。
ただ、私が彼女のような強さを、物理的ではなく精神的な強さを最初から備えていたなら。あの愛しい“地獄”ももう少し早くもう少しマシな環境にできたんじゃないか。そう思わずには居られない。

西住さんは、それを“表”の世界にいたままで成し遂げた。腐り果てた価値観と悪意的な謀略に、“希望に眼を輝かせ使命感と義務感に燃える小娘”のまま抗い抜いた。
艦娘として、身体能力や武力は私の方が遥かに勝っているかもしれない。だけどその精神力は、憧れ、羨み、私もそうありたいと望んでしまうほど強く気高いものだった。

同時に、それは私にとって戦闘そのものに対する享楽とは別の“戦う理由”でもある。西住さんに少しでも長く、できればその生涯が終わるまで、今の“道”を歩み続けて欲しい。心の底から信頼できる仲間たちと肩を並べ、“表”の世界で輝いてほしい。
我ながら青臭すぎて気恥ずかしくなってくるけど、それでも真剣で切実な、そんな理由。





───なのに。

西住みほは、今、私の目の前にいる。

戦車のキューポラから身を乗り出し。

背筋を真っ直ぐに伸ばし。

口元を引き結び、凛とした表情を浮かべ。

あの時、戦車道の試合で見せていた姿そのままに。


「ア……アア………』

『ヴア゛ァ゛………」

自分が乗るW号線車が、うず高く積み重なった「元人間」の残骸を踏みしめているにも関わらず、“いつも通り”だった。

まるで、“私達”と同じように。

「11時方向!撃て!!」

『ヂィッ………!!!』

彼女の叫び声に応じ、素早く砲塔の旋回を終えた“W号”が三発目の砲弾を放つ。

反対側の家屋が直撃弾によって突き崩され、その上に乗っていたチ級が舌打ちを思わせる鳴き声を発しながら別の家へと跳び移った。
243 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/07/26(水) 21:28:47.14 ID:1kNqHEos0
「こっちへ!!」

チ級の軌道を眼で追いながら、彼女は私達の方に手を差し伸べてくる。

言いたいこと、聞きたいことは山ほどある。だけど、今は時間的にも状況的にもその余裕がない。

そしてこの急場を切り抜けるに当たって、残念なことに彼女の“提案”は最適解だった。

「02、03!!」

∬メ;´_ゝ`)「「了解!!」」└(*・ヮ・*メ;)┘

『『ギュココッ!!?』』

私が声を上げるとほぼ同時に、阿音と鈴が踵を返す。その背を追おうと何体かの【寄生体】が飛びかかるけど、単調で纏まった軌道だったので一太刀で斬って捨てる。

「北方巡査、二田巡査!!」

(*‘ω‘ *#)「瓜生、左側をやるっぽ!!」

<ヽ#`∀´>「承ったニダ!!」

W号の停車位置は5メートルも離れておらず、ほぼひとっ跳びで二人が車体に取り付く。それと入れ替わる形で、保安官の制服に身を包んだ男女が路上に飛び出し膝射体勢を取った。

構えられているのは、ニューナンブM60。

(*‘ω‘ *#)「射撃開始!射撃開始!!」

<ヽ#`∀´>「喰らえ!!」

「ギャオッ!?』

『ぐぉっは!?」

吐き出された銃弾は、二発ずつ。レボルバー式のニューナンブでは弾幕展開など行えるはずもなく、計四発の.38mmスペシャル弾は眼前の【暴徒】と【寄生体】の大群に対して余りにも儚く頼りないものに見える。

だけど、放たれた弾丸は全て、正確に頭部を射抜きつつ敢えて斜めから側頭部に向かって貫通していくよう絶妙に射角が調整されていた。

『「『オゴぁッ!!?」』」

『『『ギギィッ!!?』』』

突出しようとしていた四人の【暴徒】は、何れも着弾の衝撃に耐えきれず弾丸に引っ張られているようにして派手に後方へと倒れ込む。当然路地に満ち満ちていた“群れ”への影響は甚大で、足を取られた後続の【暴徒】の進軍が止まる。
更に、その中で奇襲の機会を伺っていた【寄生体】達も出鼻を挫かれ突貫できない。

「良い腕ね!」

(*‘ω‘ *#)「そいつぁどうもっぽ!艦娘並びに同行者確保、撤収!」

<ヽ#`∀´>「了解!!」

“人海”による物量圧から開放され、私もW号の方へ駆けつつすれ違い様に鈴と同じくらいの背丈の女保安官に声をかける。彼女は一瞬だけ肩を竦めそれに応じると、相方の保安官と共に“群れ”へもう一発叩き込んで直ぐに私達の元へ合流する。
244 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/07/26(水) 21:31:33.21 ID:1kNqHEos0
「戦車後退!」

li イ; ゚ -゚ノl|《り、了解です!》

ギャリギャリとキャタピラーが唸り、下敷きになっていた【暴徒】の残骸が生々しい断裂音を残してそこら中に飛び散る。1、2秒ほどの抵抗感を経て、W号の車体は急速にバックを始めた。

「左、撃て!次いで右、撃て!!」

<(' _'#<人ノ《あいよっと!!》

砲塔が、イヤイヤするように両側へ交互にブレる。“デサント”から振り落とされないようしがみつきつつ女保安官から投げ渡されていた耳栓を突っ込むが、至近距離の轟音は容赦なくそれを透過して鼓膜を揺らす。

『う、うわあああぁっ!!?」

『ギョオッ!!?』

『……ヂッ!!』

直撃弾を受けて、民家2つが立て続けに崩れ落ちる。加速し切る前に距離いを詰めようと突撃を再開しつつあった【暴徒】と【寄生体】が何体か巻き込まれ、その進路上で瓦礫が山を成す。
濛々と立ち込める粉塵に照準を妨害されたのか、遠くから再び舌打ちのようなチ級の声が聞こえてきた。

「『「らぁあぁっ!!!』」』

『『『ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ゛!!!」」」

正面の“主力”は足止めできたが、【暴徒】も【寄生体】も総数は艦内を埋め尽くすほどのものだ。私達が向かっていた方角にも当然多数が残っていて、西住さんたちもソレを虱潰しに殲滅してきたわけじゃない。
両側で家屋の塀を乗り越えて、或いは二階や屋根から飛び降りて、一気に6人の【暴徒】がW号に押し寄せる。

「『ぐぎゃあっ!!?」』

∬#メ´_ゝ`)「よいしょ!!」

「ふっ!!」

「『クキュッ……』」
『「ゴハッ……」』

2人が乗り損ねて落下し、跳ね飛ばされて塀に叩きつけられる。残る四人は乗ってきたが、左側は私がまとめて斬り伏せ、右側は阿音が89式の銃床で殴り付け叩き落とす。

「左へ曲がって!」

そして、目の前で“人の形をしたモノ”が半ダースも無惨な末路を迎えたというのに、西住みほはまるで動揺を見せないまま平然と次の指示を繰り出した。

『「『ヴォアあああああああっ!!!」』」

進路上──でありながら“後方”──に現れた新手の【暴徒】。数はざっと見た限り30をちょっと越えた程度か。
さっきまで対峙していた“主力”とは比べ物にならない寡兵だけど、勢いが凄まじく心なしか体格のいい【暴徒】が多く揃っているように見える。背走故に十分な速度を出し切れていないことを考えれば、押し止められるとまでは行かずとも衝突で排除しきれずにキャタピラーの破損等につながる恐れは大きい。

『「『ヴア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!』」』

それを見越しての進路変更指示なのだろうけど、まぁ向こうも黙っちゃいない。曲がった分速度は更に落ち、うまくすれば追いつける千載一遇のチャンスなんだから当たり前よね。益々声を荒らげ、嵩にかかって押し寄せてくる。

『「『ゴガガガガガg」』」

「────Feuer!!!」

「『「コァッ…………』」』

意気揚々と私達が入り込んだ路地裏に差し掛かる“群れ”。

その真正面から、W号の75mm主砲弾が容赦なく叩き込まれた。
245 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/07/26(水) 21:33:51.19 ID:1kNqHEos0
一つの“兵器”として見た場合、W号戦車は旧式もいいところだ。装甲厚、最高速、最大・有効射程、貫徹力、旋回性能………どれをとっても近現代の最新鋭戦車とは比べるべくもない。
対深海棲艦戦力として見れば尚の事で、カール自走臼砲や列車砲のような規格外でもない限り基本的には足止めすらろくに出来はしないだろう。

それでも、コレは“戦車”だ。単純比較では陸戦における最強兵器であり、王者。現代戦は対戦車火器も充実しているけれど、未だただの歩兵にとっては十分な脅威足り得る。

況してや、せいぜい角材や出刃包丁程度しか装備していない【暴徒】にとってその砲声は死の宣告に近い。

「ァ………ァ………』
『ゥ………グォ………」

W号がギリギリハマる程度の幅の路地、当然突入を測った“群れ”は密集する。
前衛の10人が飛来した砲弾に引き千切られ、中衛の10人は榴弾の着弾点周辺にいたばかりに肉の破片と化して宙をヒラヒラと舞う。後衛も内5人は爆風と砲弾の破片によって薙ぎ倒され、残る5人も吹き飛んできたかつての同胞の屍体や砕けたコンクリート塊の直撃を受けて虫の息で地面に転がっている。

「Panzer vor!!」

『キュッ」

障害が排除され、西住さんの指揮の下W号は再度動き出す。路地の出口付近で倒れていた生き残りが下半身を踏み潰されて微かに断末魔を上げていたけど、まぁ苦しみを長引かせない「介錯」として大目に見てほしいわね。右脇腹まるごとえぐり取られたような有様でそのまま放置されて生きてられるとは思い難いし。

それにしても。

(……結構、上手な発音だったわね)

Feuerはドイツ語で「発射」を、Panzer vorは同じく「戦車前進」を意味する言葉。

後者については、試合中実際に西住さんが発している様子がカメラで拾われている。その時の舌っ足らずな発音が可愛いったらなくて……コホンッ、ファンの間では言い慣れていない様子が初々しいということで人気の一因にもなった。
……その筈なのに、今口にした時の発音はとても流暢なものであるように感じられる。

前者に至っては、彼女が使ったことはただの一度もない。私が記憶する限り、黒森峰時代も含めて彼女の射撃命令は常に日本語で行われてきた。

そして、私の見間違いでなければ、砲撃を命じた時彼女の眼はほんの少し見開かれていたように思えた。

まるで、“何度も繰り返し練習していた単語を意図しないタイミングでうっかり出してしまった”とでも言いたげに。
246 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/07/26(水) 21:36:19.95 ID:1kNqHEos0
(ドイツ語の授業でも履修していたのかしら……?)

学園艦の最大の設立理由は“海外に通用しうる人材の早期育成”であり、この理念の影響から各学園艦は英語以外にも多数の外来語を選択制の授業に取り入れている。
流石に大洗女子学園の授業内容まで網羅するほどの“フリーク”には私もまだ踏み入れていないけど、独逸語があっても全くおかしくはない。単語の内容にしても、片方は元から知っておりもう片方は「炎」などの極一般的な意味も含まれてる。授業で習うことはあるでしょう。

(だからおかしくはない………けど、ね)

では何故、この2単語を“癖になってうっかり思わぬ場で口走ってしまう”ほど練習する必要があるのか。
大洗女子学園はプラウダのようにチーム内に留学生がいるという事情もない。そこまで急ピッチにドイツ語を覚え習得する必要性というのは薄いはずだ。

ヨーロッパ全体があんな有様だから、例えば留学なんてできるワケもないのに。
そんな中で“現地人が聞いても問題ない”レベルで、よりによって“ドイツ語”を習得する必要がどこにあるというのかしら?

『────ボォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』

「………っ!?」

止め処なく溢れ出て頭の中をグルグルと回る思考は、でも今の私の置かれた状況を考えれば「余計なコト」でしかない。

まるでその事実を突きつけようとでもするかのように、低く、重く、長い咆哮が空気を震わせた。

『ボォオオオオオオオオオオオッ!!!!!』

「敵空母、起動!!」

大洗女子学園本校舎の入口辺りにどっかりと鎮座していた【軽空母ヌ級】。大きさなどから推察するに恐らくFlagshipクラスであるそれが吠えながらパッカリと口を開ける様を目にして、思わず私は僚艦にそうするようにして叫んでしまった。

『『『─────!!!』』』

ヌ級の声の余韻が収まる間もなく、続けて聞こえてくるレシプロエンジン音。空へと舞い上がった【カブトガニ】が、せいぜい10機程度ながら明確に私達の方へ進路を取り猛然と迫ってくる。

「敵機、来るわ!!6時方向!!」

(;*‘ω‘*)「にゃろ!!」

『───ッ!!!』

彼我の距離の兼ね合いから向こうはわざわざ後ろに回り込んでからの襲撃となったが、向こうの速度が巡航でも200km/hを超えるのに対しW号は最大速でも39km/h。当然振り切れるはずもなく瞬く間に距離を詰められる。
女保安官がニューナンブを一発空に向かってぶっ放すが、先陣を切った一機はあっさりと躱し射撃位置に着いた。
247 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/07/26(水) 21:43:34.19 ID:1kNqHEos0
「右に寄せてください!!」

∬;´_ゝ`)「っととと!!?」
<ヽ;`∀´>「ハニダ!!?」

西住さんの指示に従い、右手側の塀にぶつかるようにしてW号の車体が道路の右側に走行位置を寄せる。襲ってきた衝撃を、男保安官と阿音が必死に車体を掴んで耐える。

└(*・ヮ・*;)┘「おわわっ!!?」
「お馬鹿っ!!」

因みに鈴はデサント体制でH&K PSG1を構えようとするという無謀極まった行為を試み、案の定落ちかけたため私が首根っこを掴む羽目になった。

└(*゚ヮ゚*;;;;)┘「ひゃあ〜……」

そんな彼女の足先スレスレを、機銃掃射が一筋駆け抜けていく。合成皮革の焦げる匂いが一瞬鼻孔を擽り、それは直ぐに鈴の全身から吹き出した膨大な冷や汗の饐えた匂いに上書きされる。

『『『────………!!』』』

W号の位置が変わった為か、後続機体からの追撃はなく敵編隊は一度飛び去っていく。

ただし諦めたわけじゃない。直ぐに旋回し、今度は私達の左手側から一斉に降下してくる。

「小銃を叢雲さんに!」

∬;メ´_ゝ`)「弾倉は入れ替えてあるわよ!」

「…ありがとう!」

投げ渡された89式小銃を受け取りながら、私は内心で戦慄する。

艤装はほぼ装備せず、中破中という今の状態でも、艦娘の膂力は人間を遥かに凌ぐ。小口径のアサルトライフル程度なら、落ちないように体を支えつつ片手で構えるなんて造作もない。
敵機の攻撃は機銃掃射。低速とはいえ移動中の、しかも装甲を持っている相手を目標とするなら自然肉薄が必須になる。連射可能な武器を艦娘である私に与え、即席の対空機銃座として使うという策は理に適っている。

その、“最適解”を。

この修羅場で、土壇場で、実際の“戦場”など一度も経験したことのない、年端も行かない少女が。

何故ほぼノータイムで導き出せるのか。

「堕ちなさい!!」

『『『ッ!!!?!??』』』

『『『………………ッ!!』』』

胸の内を満たす動揺を表に出さぬよう歯を食いしばりつつ、小銃を小脇に抱えて上に向け引き金を引く。
艦娘の動体視力に加えてアイツの訓練の成果もあるのに、多少の損傷ごときでこの程度の的に当たらなくなる道理はない。迸る火線が先鋒3機を貫き、後続も銃火に陣形を切り裂かれ大きく壊乱した状態で離れていく。

「主砲、11時方向指向!!照準、敵空母!!!」

その様子を眼にした瞬間、西住さんが一際声高に叫んだ。

「撃て!!!」

車体が揺れ、砲火が迸り、75mm弾が砲口から飛び出す。

砲弾はそのまま弧を描いて飛翔し、

『……ボォッッ!!?』

ヌ級Flagshipの表面装甲で、小さく爆炎を上げた。
248 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/07/26(水) 21:45:09.02 ID:1kNqHEos0
.









(´<_`;)「……………おいおいおいおいおいおい!!!」

日本海上自衛隊一等海曹・流石乙矢(サスガ・オトヤ)は、双眼鏡越しに目にした光景に驚愕を禁じ得なかった。

共に布陣し防御陣地の設営──と言っても瓦礫の排除と塹壕掘りぐらいのものだが──を行っていた艦娘から言われた、「大洗女子学園の甲板上で深海棲艦のものではない“砲撃”が見える」という報告。

そんなことはありえない、どうせ気の所為、良いとこ深海棲艦の砲撃が暴発したのを見間違えでもした……要はただの誤報だと乙矢は考えていた。実際、大洗町並びに大洗女子学園が置かれている現状を鑑みればその判断が真っ当だ。
だがその艦娘が余りにもしつこく確認を求めるものだからメンツを立ててと双眼鏡で覗き込めば──今まさに、小さく弱々しいものではあるが、船尾の軽空母ヌ級Flagshipに間違いなく“砲撃”が突き刺さったのだ。

「ほーれ見たことか!それ見たことか!!あったっしょ!?やっぱあったっしょ弟さん!!?」

(´<_`;)「解った解った、俺も間違いなく見た!!」

艦娘としての優れた視力を以てやはり今の光景を視認していたらしい“報告者”───重巡洋艦・鈴谷に激しく肩を揺さぶられながら、乙矢も首肯する。
鈴谷のはしゃぎぶりは戦場にあるまじき、厳しい鎮守府ならそれだけで懲罰房送りにされかねないものだったが、乙矢としては初動でやや邪険に扱ってしまった負い目がある為不問にすることとした。

(´<_`;)「一先ずCPに至急連絡繋げるぞ!学園艦上で深海棲艦と交戦する存在が確認されたと………」

「なんて?」

(´<_`#)「だから大洗女子学園の甲板上で────」

肩を叩かれ、やや苛立ち気味に振り返ると、そこにあったのは迷彩服に包まれた分厚い胸板だった。
兄共々身長180cmを越え日本人の平均値を大きく突き放した身長を持っているにも関わらず、声が“頭上”から聞こえていた事に乙矢は気づく。

そしてよくよく見れば、左胸には菊の花と船の錨を組み合わせたような──国内において“提督”業に従事するもの全員が着用を義務付けられた胸章が縫い付けられている。

日本国内で用いられているものと違い、その色はまるで夕闇を切り抜いたような漆黒だったが。

「いや、急いでるところすまねえな。ただ、俺としても今し方気になる単語が耳に届いちまったもんでな」

(´<_`;)「………」

先程の慌てぶりはどこへやら、ゆっくり恐る恐る顔をあげると、そこには─────








.
249 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/07/26(水) 21:46:42.11 ID:1kNqHEos0
.








「もう一度聞かせてくれ」

──────身長190cmを超えているであろう、ドウェイン=ジョンソンかアーノルド=シュワルツェネッガーと言わんばかりのすさまじい肉体を持ち、アルファベットの「T」が中央にあしらわれたマスクを被る、

( T)「大洗女子学園が、なんて???????」

筋肉モリモリ、マッチョマンの変態がいた。
250 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/07/26(水) 21:54:11.43 ID:1kNqHEos0
.






先に述べた通り、W号戦車は兵器としては骨董品だ。曲がりなりにもヒト型にだってダメージ自体は与えられる第3・4世代戦車とは違い、駆逐艦の装甲殻すらろくに貫徹できない。

だから今のヌ級Flagshipに対する砲撃だって、向こうは恐らく痛くも痒くもない。実際ヌ級の上げた声も、驚きと困惑によるものでダメージからくる苦悶は響きに全く皆無だった。

『『『─────ッ!!?』』』

だけどその、蟷螂の斧に等しい筈の一撃が敵の警戒心を揺るがした。

何ら打撃にならないとは言え、母艦がそもそも“攻撃された”という事実。
その言ってしまえば無駄な“攻撃”をわざわざ実行してきたのが、短時間でいくつもの攻勢を巧みな戦術により切り抜けている相手という不気味さ。私が仮に指揮を採る立場だったとしても、“次の手”を用心して動きが鈍るだろう。

残る【カブトガニ】も、当然そうなった。さっきの射撃で乱れた隊列を大慌てで組み直し、母艦の元へと舞い戻り、そのまま厳戒態勢で上空を飛び回り始める。

「突入してください!!」

そして、“目的”を達成したW号は身構えるヌ級と直掩機の横を悠々と通り抜け大洗女子学園本校舎──正確にはその残骸──を潜っていく。

『『『……………、ッッッ!!!』』』

1分超の時間が経過しても“次”がないことで、ようやく向こうも西住さんに謀られたと気づいたらしい。やり場のない怒りに襲われた人間が何度も拳を握ったり開いたりするように、上空の編隊が数回に渡り隊形を組み直す。
ただ、都度私が89式小銃を構え牽制すると、既に十分な猶予を以てこちらが迎撃できる状態となったことを悟ってか尚も未練がましく忌々しげに旋回しつつヌ級の中へと戻っていった。

「『「ヴァアアアアアアアアアアッ!!!!』」』

『『『キィアアアアアアアアアアッ!!!!』』』

ただ、自衛隊や艦娘どころか艦内に取り残された人間の残党ごときに散々かき回されたという現状は、相当向こうのトサカを刺激したらしい。
元々周辺にいた連中の他に、恐らく後方から“主力”の一部も追いついたのだろう。数千は降らない【暴徒】と【寄生体】が、W号の後を追って次々と学園の敷地内に足を踏み入れる。
251 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2023/07/26(水) 21:57:27.91 ID:1kNqHEos0
(;*‘ω‘*)「大層ご立腹だねぇ……穏やかじゃないっぽ!」

「ガァッ!?』

「このまま防護陣地まで撤退を!!」

女保安官が辟易とした表情でぼやきつつ、さっきと同じ要領で【暴徒】の先頭を1人射抜く。ほんの一部が進軍の足を鈍らせるものの、“主力群”の時と違って十分な拡散ペースがあるため効果としては遥かに薄い。
西住さんも当然迎撃という選択肢は取らず、一目散に離脱を図る。

「こっちだこっち、急げ!!」

「CT後方より敵追撃多数!!各位、戦闘配置崩すな!!」

ものの20秒と経たず見えてきた“防護陣地”と思わしきものは、当たり前だけど急ごしらえであることが丸出しの粗末なもの。瓦礫や煉瓦、廃材、鉄屑、トタン板、パンパンのゴミ袋、机や椅子や壊れた戦車のパーツ、とにかくそこら中にあるありとあらゆるモノを片っ端から積み上げたであろう高さ2〜2.5m程のバリケードで囲まれた、目算で凡そ直径400mぐらいと思われる空間。
その一角で鉄パイプや木材の束に有刺鉄線をグルグルと巻き付けた“門”に縄をくくりつけ一部の保安官が持ち上げ、W号に向かって必死に手招きしている。

「反転!!」 

“門”をくぐり陣地に入る直前、殆どドリフトに近い形でW号が停車しながら振り向き【暴徒】と相対する。多分冷泉麻子さんじゃないとは思うけど、それとタメを張れるレベルで操縦士は良い腕前だわ。

「指名、榴弾、水平射!……撃て!!」

「『わぎゃあっ!!?」』
『『グキャッ!!!?』』

突っ込んでくる“群れ”のど真ん中を射抜く砲弾。【暴徒】と【寄生体】がバラバラに打ち砕かれながら宙を舞い、開かれていた“門”に殺到しようと隊列が集約されつつあったことも手伝って連中の足が止まる。
その間に、W号は主砲口から砲煙を燻らせながら悠々と防護陣地の中へ入場する。

「閉門、閉門!“門番”班は総員再武装の後速やかに配置に着け!!」

(#*‘ω‘*)「瓜生、行くっぽ!私らも再度防衛戦闘に合流する!!」

<ヽ#`∀´>「ええい、サビ残上等ニダ!!」

「02、“門”の付近に合流!03、アンタは倉庫の方に!多分あそこに狙撃班が集まってるわ!!」

∬メ#´_ゝ`)「「了解!!」」└(*・ヮ・*メ#)┘

「無線機と一緒に自衛隊の方に何かしら銃火器を、叢雲さんに追加で89式の弾倉をそれぞれ渡してください!狙撃班、そちらに1名合流しますので弾薬の補充か武器の交換を!!」

西住さんの指示に従って保安官の1人が投げ渡してくれたマガジン数個を腰元に挿しつつ、阿音と共にバリケードを駆け上がる。……コッチの残弾数にまで気を配ってくださるなんて、至れり尽くせりで本当に末恐ろしい限りよ。
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