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62 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/09/23(金) 23:30:31.14 ID:8rRfKGN10
リ級ら敵艦隊も、無論ただやられるために棒立ちしていたわけじゃありません。反撃しよう、綾波たちを撃ち倒そうと、懸命に藻掻いている様子は砲火の中からでも十分に伺えました。
『ギィアッ………!?』
『ゴぁ────』
だけど、四方八方から雨霰と降り注ぐ綾波たちの砲火が、それを許しません。結局抵抗らしい抵抗は殆ど出来ないまま、イ級が沈みへ級が力尽き、残るはリ級ただ1隻のみです。
『グゥッ………!?』
「リ級、中破状態に移行!」
「トドメにゃ!魚雷発射!!」
詰めに詰めて、いつの間にか距離は500。海上の艦隊戦においては直接掴み合っているも同然の至近距離。
放たれた六本の魚雷は、当然外れることもなく全てリ級に吸い込まれていきます。
断末魔が、くぐもった爆発音にかき消されます。大樹の幹を思わせる図太い水柱と爆風が収まった後には、艤装の一欠片さえ残ってはいませんでした。
「敵大編隊接近!!対空警戒!繰り返す、対空警戒!!」
迅速極まりない二個艦隊の殲滅、それも損傷艦すら0の完全勝利。しかしそんな大戦果を挙げた直後でも、私達に息をつく暇は与えられません。
水平線の彼方、恐らく例の【棲姫】が居るであろう方角。そこから、巨大な雲のごとく黒いなにかが湧き出してきます。
本来天候の急激な悪化を示す黒雲の出現は、綾波たち艦娘にとって忌むべきものです。しかし今回ばかりは、アレがただの黒雲であったならその方がどんなに気が楽だったでしょうか。
『『『───────!!!』』』
そんな私の都合のいい願いが届くはずもなく、黒いナニカは明らかに明確な意思を、私達艦娘への害意・敵意を感じられる動きで此方へ向かってきました。
それはアレらがただの空に漂う水粒や氷粒の塊などではなく、先程霞さんが叫んだ通り、膨大極まる数故に1個体と見紛うばかりの敵機群であることを証明しています。
「近接航空支援要請!!」
《Roger, Engage》
多摩さんが無線に向かって叫ぶと、幸運にもこの方面で手隙の航空隊がすぐ近くにいたようです。応じる声と共に、頭上を銀影が2つ駆け抜けていきました。
《Target insight. Wendigo-05, FOX-2 FOX-2》
《Wendigo-06, FOX-2!!》
現代米軍の艦上戦闘機、確か【ホーネット】という名が着いていたその2機は、発射符号に合わせて両翼のミサイルを放ちます。周辺の友軍艦隊でも要請したところがあったのでしょう。別方面からもジェットエンジン音が重なり、我々の頭上を含む三方向から計8発の空対空ミサイルが敵機群に迫ります。
63 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/09/23(金) 23:33:39.30 ID:8rRfKGN10
深海艦載機の密集陣形に対する、機関砲やミサイルを用いた人類さん達の航空攻撃。状況さえ整えば時に綾波たち艦娘をも凌ぐ戦果を挙げられると言うことは、青ヶ島やベルリンでの攻防戦を経て既に世界中に知られています。
しかしながらそれを、深海側が何時までも甘んじて受け入れてくれるというのは、あまりに虫のいい話でしょう。
『『『ッッッ!?!?』』』
『『『───!!!』』』
《Damn……!》
半数の4発は群体に直撃し、火の玉が膨れ上がりかなりの数の敵機を焼き払いました。ですが残る半数は、進路上の“群れ”が寸手のところで散開を間に合わせ空を切ります。
人類機の空対空戦はロックオンによる誘導ではなく、あくまで群れを“一個体”として捉えた上での空間攻撃。言ってしまうなら威力が大幅に上がった対空噴進弾のようなもので、回避されてしまえばもう追尾・命中させることはできません。
『『『───────!!!!!』』』
全弾命中したからといって殲滅・撃退できたとは思いませんが、それでももう少し大きく敵の動きを乱すことは出来ていたでしょう。被害の半減に成功させた敵機群体は、直様態勢を立て直し突撃を再開します。
この辺りに展開している他の友軍艦隊も纏めて標的になっているようで、群体は三々五々に散っていき綾波たちに向かってきた分はあくまでごく一部に過ぎません。
ですがその“ごく一部”でも、電探上で表示される赤点を見る限り総数はどう希望的に見積もっても150を優に超える大編隊です。
「て、てやんでぇ!なんだいあの数ぁ!?」
「少なくとも10個以上には分散しているはずなのに、なおこれほど………」
「浜風も涼風も、愚痴ってる暇はないわよ!対空兵装、構え!」
一方で、ダメージが大幅に“軽減された”のは事実ですがそれは与えられたダメージが“軽微である”ことと等号では結ばれません。ミサイルの半数が躱されて尚、敵航空隊は少なくとも目算する限り1/4に達する戦力を削られています。
だからこそ敵機群は、そのまま分散突入するには至らず直前に“再編”の動きを挟む必要がありました。
「畜生ダメだ!対空砲火、効果極めて小なり!!敵編隊、先鋒が爆撃態勢に移行!!」
「輪形陣を解除!各位自由回避に移るにゃ!!」
「よ、避けられるかなぁ〜………」
一分にも満たない、全てのミサイルが当たっていた場合とは比較にならないほど僅かな時間の空費。ですが、その僅かな空費こそが、
「─────Go Go Go!!」
今度は綾波達の、艦娘の側の援軍到着までの命脈を繋いでくれたのです。
64 :
以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします
[sage]:2022/09/24(土) 02:42:28.35 ID:Mlh4hE/Z0
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
65 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2022/09/26(月) 11:45:22.37 ID:Nke/XQbJ0
投下きてたーおつです
学園艦棲姫戦線の撤退戦?ですよね?
まさか八頭身提督まだ当初の目標を諦めてない?
66 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2022/09/29(木) 10:51:07.26 ID:siBAshSZ0
更新乙です!
ドクが嫁さんとイチャイチャしてるけど、それに振り回される部下も大変なのねw
戦況が加速度的に悪化する上で、肝心要の日本艦隊がこの状態だとどん詰まり…望むべくは大洗方面の早期解決だけなのか
67 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/10/11(火) 14:53:34.77 ID:L9FKjrAbo
4年前ぐらいに見たベルリンのやつ面白かったなぁとふと思い出して関係作品大体全部見てたらまだエタってなくて感動しました
ミリタリ全然詳しくないしガルパンわからんけどドイツ軍パートと政治パートが特に面白い
前回の最後意味わからんし理不尽すぎたけど日本も大洗もタイトル通り終わってしまうんか
68 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2022/10/11(火) 23:05:43.47 ID:GA2SequC0
銃声。警察官が使う小口径の拳銃などよりは遥かに重いものでこそあれ、それは明確に通常の歩兵火器が奏でた単発のものです。
戦場という広い括りで見れば聞こえるのは当然かも知れません。ですが、砲弾が飛び交いミサイルが入り乱れ戦闘機が空を駆け巡る“海戦”においては、朗らかな歌声に匹敵するほど──何れかの艦隊の那珂ちゃんさんがいる場合その限りではないかも知れませんが──場違いなものでした。
最終的に三度まで、銃声は鳴り響きました。艦娘としての優れた動体視力が、まさに対空兵装を構えつつ回避運動に移っている綾波たちと降下してくる敵編隊の間を遮るようにして、同じ数の銃弾が飛び込んでくる瞬間を捉えます。
「All squad, Attack!!!」
〈〈〈サー、イエッサー!!〉〉〉
途端、銃弾が“機影”に姿を変えました。
綾波達にとっては“苦い記憶”の一つでもある、アメリカ軍の艦上戦闘機グラマンF6F【ヘルキャット】。計12の青い機体は、零戦の倍にもなる馬力の発動機を存分に唸らせ猛然と空を駆け上がります。
〈エンゲージ!!〉
〈ファイア、ファイア、ファイア!!〉
『『『!!?!??!?』』』
唐突な、横槍ならぬ“横弾”により発生した正面切っての航空戦。数の面ではヘルキャット隊と向こうで比べようもないほど差がついていましたが、何分向こうはここに来ての空対空戦闘など欠片も予想していなかったことでしょう。迸った十数条の12.7mm機銃による火線は、その尽くが敵機にそのまま突き刺さり機体を引き裂きました。
『『……………ッッ!!』』
無論、深海棲艦側も木偶ではありません。数個編隊分がまるごと食いちぎられたことで状況を理解したのでしょうか、慌てて回避運動に移りヘルキャット隊の進路上から離れつつ、すれ違いざまに次々と射撃を加えていきます。
〈ハッハッ、ナンダイ、クスグッタイジャナイカ!!〉
〈マサカソレガキジュウソウシャノツモリダナンテイウナヨ、ディープワンズ!!〉
ですが、その試みは大半が無駄弾を増やすだけに終わりました。
米軍製兵器の特徴である、搭乗者や操縦者の生存性向上を最大限追い求めた凶悪極まる安定性と防弾能力。
F6Fは取り分けその両特徴が色濃く現れた機種でもあります。同機が備える何れの要素も、行き交う間際の“一撫で”如きで揺るがせるものではないことはこの身に刻み込まれています。
地獄より使わされし猫たちは、被撃墜どころかまともに飛行姿勢を崩す機体すら殆ど現れません。彼らは悠然と飛行を続け、時に“深追い”してきた敵機を逆に喰らいさえしながら、至極あっさりと「群れ」を打通しきってみせました。
69 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/10/11(火) 23:08:24.22 ID:GA2SequC0
落とされた機影は恐らく20を超えるでしょうか。この物理的な損害も、向こうにとって決して小さなものではありません。
ですが深海棲艦側から見てそれより遥かに致命的であったのは、ヘルキャット隊に“群れ”の打通を許したという事実そのものでした。
『───! ───ッッ!!』
『……………!!!』
百数十機規模での編隊飛行。当然、統率は困難を極めます。況してやあの“群れ”は、綾波たちへの攻撃態勢に移っていた最中。
人類空軍機によるミサイル攻撃への対策としてある程度機体ごとの間隔は空けていたようですが、それでも大きさに関しては人並みでしかない6つの海上標的に総攻撃を仕掛けるにあたってはどうしても空間的な限度があります。
さながら大坂の陣で真田信繁と毛利勝永に突撃を受けた徳川内府の軍がごとく、中央から真っ二つに切り裂かれた敵航空隊。分断は乱れを、乱れは揺らぎを、揺らぎは崩壊を生み、瞬く間に修復不可能なまでにそれらは拡大していきました。
当然綾波たちへの空襲など実行できるはずもなく、“群れ”は本格的に一度散開し再編成へ向けて動き出します。
同時にそれは、深海棲艦側が自ら“数的有利”を放棄した瞬間でもありました。
「敵は崩したわよ、アカギ!!」
「ええ、お任せください!第一次制空隊、発艦!!」
『『『────!!???』』』
先程の弾丸と同じ方角から、次に飛来したのは三本の矢。それらは燃え盛る焔を思わせる輝きを空中で一瞬放った後、ヘルキャットと同じ数の零式艦上戦闘機に変化し一斉に“群れ”の横腹へ食らいつきます。
『…………ッッ!!』
〈シラナカッタノカ?イッコウセンカラハニゲラレナイ!!〉
『─────…………』
〈ヨシ、ゲキツイスウイチ!!クチクシテヤル……コノヨカラ……イッキノコラズ……!!〉
低空域での巴戦において、同時代相当の性能の戦闘機が零戦に勝てるはずもありません。しかも栄光の【一航戦】なら尚の事です。
下方へと逃れた敵機たちは、次々と捕捉され抵抗する間もなく落とされていきました。
〈ワンモア!!〉
〈〈〈サーイエッサー!!〉〉〉
そして上方からの離脱を目論んだ隊には、再びヘルキャット隊が襲いかかります。発動機の高い馬力故に高高度戦闘においても運動性と速力を維持し得る彼らを、爆弾や魚雷を抱えた状態の【カブトガニ】で振り切れるはずもありません。
F6Fの両翼から火線が迸る度に、飛び回る敵の機影は確実に一つずつ減っていきます。
70 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/10/11(火) 23:10:34.18 ID:GA2SequC0
「全艦、最大船速で離脱するにゃ!!」
「「「了解!!」」」
芸術的と言っても過言ではない、惚れ惚れするような航空戦でしたが、見惚れるわけには行きません。多摩さんの号令が下るまでもなく、我々6人は一斉に旗艦を吹かし、“群れ”の真下から逃れます。
鮮やかに敵機を討ち減らしつつ、零戦とヘルキャット隊が見せていた動き。牧羊犬が羊を柵の中へ追い立てるように、或いは箒で部屋中のゴミを隅から中央へ掃き集めていくように、“群れ”を上下から挟み込んでより密度の高い塊にしていく動き。
その動きが意味するところは、この後に何が始まるかは、艦娘なら誰もが知っています。
「─────対空掃射、開始!!」
ちょうど綾波達が戦闘空域下から離脱しきったところで、その口火を切ったのは2発の三式弾でした。同時に突き刺さったソレらから飛び散った火炎の雨が、一気に周囲の数十機を焼き払います。
『『『!!?!?!??!!!?』』』
最早立て直しようもないほど“群れ”が乱れたところに、嵐のごとく押し寄せる機銃弾と高角砲弾。離脱を図る機体には、周辺でなお飛行する零戦隊とヘルキャット隊が対応しトドメを刺します。
最も理想的な事例として私達艦娘用の戦闘教本に載せたくなるような、完璧な包囲殲滅。
『『『────……………』』』
「Clear!!」
電探上から残りすべての反応が消えるまでに、要した時間は十数秒ほどに過ぎませんでした。
他の艦隊も増援との合流が間に合ったのでしょう。流石に綾波たちのように殲滅まで至ったところは少ないようですが、アレほど巨大だった群れは見る影もありません。現れた当初の1/10にはなろうかというほど数を減らし、青息吐息で来た空路を戻っていきます。
ただし、
「…………Next Enemy incoming.」
かなり少なく見積もっても、最初に現れたモノの3倍には達そうかという“群れ”と、入れ替わる形でではありますけど。
71 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/10/11(火) 23:12:59.67 ID:GA2SequC0
推定150機超。これは、改装前の加賀さんと赤城さんに搭載可能な最大艦載機数の合計値に匹敵します。数字的な面だけで言えば、一航戦が根刮ぎ消滅したような状況です。
普通の空母機動艦隊ならそれだけでも致命傷足り得るものになりますが、深海棲艦側は少なくとも10を越える同じ規模の“群れ”を他の友軍艦隊にも差し向けていました。そしてその全てが──文字通りの“全滅”は綾波たちのところぐらいにしろ──致命的な損害を受けて跳ね返されています。
1000には確実に達する、空母機動艦隊の一つ二つどころか小国の総航空兵力にさえ比肩しかねない数の機体。それを喪いながら、寧ろ更に大規模な戦力を以て即座に“次”の攻撃を敵艦隊は繰り出してきたのです。
「OK, OK────」
そんな、常軌を逸する圧倒的な物量を目の当たりにして。
「────It's getting hot!!」
増援艦隊の皆さんは、一様にその口元を綻ばせていました。
「パーティ、早速盛り上がってきたわね!アカギ、どっちの子たちが多く落とせるか勝負よ!!」
「ええホーネットさん、望むところです!!」
先程の“銃声”の出処───アメリカ軍の空母艦娘にしてヨークタウン級3番艦・ホーネットさんが、大東亜戦争時に使われていた米軍の小銃を模したカタパルトを構えながらやや熱を帯びた声で叫びます。
それに隣で応じるのは、再び矢を構えた赤城さん。
「All unit, Weapon Free!!」
「制空隊第二陣、発艦始め!!」
新たに放たれる、3発の弾丸と3本の矢。即座にトムキャット隊と零戦隊が空を舞い、先行していたそれぞれの第一波と合流すると風を巻いて押し寄せてくる“群れ”へと突っ込んでいきました。
〈〈〈アタック!!〉〉〉
〈〈〈トツレ、トツレ、トツレ!!〉〉〉
『『『!??!?!!?!?』』』
青ヶ島鎮守府にてその名を轟かせる【大腮】こと龍驤さんには及ばないまでも、お二人の航空隊の練度もまた十分過ぎる水準でした。
さながら、小さく獰猛な肉食獣が獲物と定めた大型の草食獣から肉を食い千切るが如き動き。左右に別れた“一航戦”とトムキャット隊それぞれから火線が伸び、“群れ”は先鋒の両翼数十機が会敵とほぼ同時に射落とされます。
そのまま止まらず突入した両隊は巴戦へと移行。之に敵の“群れ”は更に1割近い戦力が足止めされ、陣形も大きく乱れることになりました。
〈オクレヲトルナ、ワレラモツヅケ!!〉
〈キシタチヨ、カカレ! フォイヤ-!!!〉
〈アバンチ、アバンチ!!〉
ホーネットさんと赤城さんのお二人が先駆けとなったことで、周辺の友軍艦隊からも続々と遅ればせながら艦載機隊を送り込んできました。例の国連“海軍”も混じっているようで、飛び交う妖精さんたちの無線にはイタリア語やドイツ語も含まれます。
72 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/10/11(火) 23:14:38.65 ID:GA2SequC0
規模はこれらに赤城さんやホーネットさんの航空隊を併せても尚“群れ”には遠く及びませんが、お二人が出鼻を挫いたことで向こうが抱えていた「数的優勢」は既に霧散していました。
四方八方あらゆる方向から突き入れられる何百条もの火線に削られ、風船から空気が抜けていくかの如き勢いで萎んでいきます。
(,,゚ ゚)《Engage!!》
録に展開・分散すら出来ず着実に追い詰められていた“群れ”に致命傷を与えたのは、意外にも人類軍の戦闘機でした。
(,,#゚ ゚)《Wyvern-01, FOX-2! FOX-2! FOX-2!!》
『『『!!!!!!????』』』
女性の声で叫ばれる、空対空ミサイルの発射を意味する符号。無線から三度聞こえたそれに合わせて、空域に突入してきたF/A-18Dの翼下より同じ数だけ銀槍が放たれます。
三発のミサイルは何れも未だ赤城さんたちの航空隊による攻撃が届いていない“群れ”の中核部分を寸分の狂いなく射抜き、何百という機体を焼き払い吹き飛ばしました。
(,,#゚ ゚)《Gun, gun, gun!!》
人類航空機としての定石に沿えばそこから反転すべきところを、そのF/A-18Dは止まりません。そのまま綾波達の頭上を駆け抜け、機銃を放ちながら“群れ”に肉薄します。
0.8m〜1.2m。【黒鳥】は別格として、深海棲艦の艦載機の大きさは、最大でもF/A-18Dの実に1/14。
ワンショットライタァという、大東亜戦争時米兵から一式陸攻が付けられたものと同じ蔑称とそれに見合った脆さはあれど、中には燃料弾薬が満載されています。激突すればそれが1機2機であっても機体は致命的な損傷を受けるでしょう。
(,,#゚ ゚)《……………ッッ!!!》
人類の戦闘機にとって深海棲艦機は言うなれば、意思を持ち自在に空を飛び回る機銃弾や噴進弾のようなもの。しかしそれが大いに討ち減らされて尚数百発飛び交っている中に、“彼女”はまるで臆することなく斬り込んでいきました。
『『『────……………』』』
「Wow……!」
「……………凄い技ですね」
蝶のように舞い、蜂のように刺す。
奇しくも今まさにこの増援艦隊にも加わっている、故郷の武勲艦と同じ名を冠した銀色の【蜂(ホーネット)】の動きは、この比喩に全く違わぬものでした。
自らの機銃で刺し穿った空白に銀翼をねじ込むと、尚も銃火によって敵機を薙ぎ払い道を切り開きつつ全幅11m、全長17mにも及ぶ巨躯を巧みに操って“群れ”の中で舞い踊ります。
73 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/10/11(火) 23:18:15.26 ID:GA2SequC0
無線上でワイバァンを名乗ったその機体は、下から上へと突き上げる形で一気に“群れ”を貫きます。動きはそれで止まらず、飛び上がったイルカのような姿勢から近現代の航空機には疎い綾波でも舌を巻いてしまう卓越した航空技術であっという間に機首を再度下方───最早完全に総崩れとなった残余の“群れ”へと向けました。
(,,#゚ ゚)《FOX-2!!!》
最後の一発である銀槍が、機銃弾と共に放たれます。鉄火の暴風と爆炎の嵐が、“群れ”に叩きつけられます。
〈トツニュウシロ!!〉
〈イレグイダ、オトシマクレ!!〉
ワイバァンが今度は下側へと突き抜けた後、残された“群れ”の中核は総崩れの上で当初の規模の1/5程度に討ち減らされただの残骸と化していました。
その“群れの残骸”も、再度飛来した新たな友軍航空隊に巴戦で絡め取られ、瞬く間に四分五裂していきます。
最早、綾波たちへの攻撃を継続する余力がないことは明白でした。
《こちら巻雲、敵航空隊主力群は壊滅状態!すごい、すごいです〜〜!!》
「赤城より空母艦隊各位、残党敵群の包囲殲滅を徹底せよ!わいばあん一番機が作ってくれた好機を逃すな!!」
《翼のあの国旗、確かマレーシアのものか……?【回転木馬】ならいざ知らず、単騎駆けでこれほどの戦果を挙げるとは!》
《何者かは解らぬが、まさに一騎当千也!褒めて使わすぞ!!》
(,,*゚ ゚)《─────》
無線上で友軍艦隊の皆さんが口にする称賛の言葉を、【彼女】がどこまで理解できたかはわかりません。ただ、補給のため退がる間際にワイバァン一番機が見せた宙返りは、おそらくそうした声に対する返答だったのでしょう。
〈エネミーフリート,インカミング!!ソウメニー!!〉
〈テキカンタイハサイダイセンソクニテセッキンチュウ!!クウボ、センカンモタスウ!!チュウイサレタシ!!!〉
遮られていた視界が“群れ”の中核壊滅によって開け、航空隊がその向こう側から迫る敵艦隊に気づきました。次々と無線で報告を送ってきます。
報せを受けた綾波達の方では、特に驚きや動揺はありません。
大いに損耗を受けたとはいえ人類航空軍も支援艦隊に搭載されている基地航空隊も未だ相応の戦力が残存しており、綾波達新たな艦娘部隊もここを始め周辺海域に現在進行系で次々と投入されている状況。
【学園艦棲姫】という強大な敵への抵抗は、未だ激しく続いているのです。向こうも、航空戦だけでこれを鎮圧できるとは流石に考えないでしょう。
後続艦隊が存在することは、至極容易く想像できました。
〈オーヴァ300エスティメイト!! オールユニット、ビーケアフル!!〉
尤も、その数まで聞いたところで、艦隊の空気は一層引き締まったものに変わりましたが。
74 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2022/10/12(水) 10:43:18.01 ID:1mB7AO9c0
更新おつです
この状況から投入できる予備戦力があるとは思いませんでした
もしかして人類側も無尽蔵?、などと勘違いしそう
75 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2022/11/03(木) 23:24:52.93 ID:1N4dwLvb0
300隻以上、艦隊数で換算して実に50個超。これが本当なら、ベルリン陥落の折に独波国境にて発生した【オーデル川防衛戦】とほぼ同規模です。
妖精さんの内1人と視界を同期させ綾波自身も敵艦隊を見てみましたが、それが過大評価や誤認という線は残念ながらありませんでした。こちらへ押し寄せる大艦隊の威容は、報告上の数字と比しても全く見劣りするものではありません。
『『『ゴガァアアアアアアアアアアアアッ!!!!』』』
「っ、五月蝿いったら……!」
「Fuck off」
鬨の声の如く空気を震わせる、三百隻の大合唱。それはもう凄まじい有様で、数千機規模の先遣航空隊が(それも二度に渡って)殲滅されているというのに士気旺盛にして意気軒昂のようです。
底なしの物量故にそもそも致命傷から程遠い上で、敵方は300隻という自分たちの艦隊戦力を大いに誇っているのでしょう。実際ざっと見た限り姫級・鬼級の姿はありませんでしたが、ル級やタ級、またこれらのEliteやFlagshipはかなりの数だったように思います。
こちらも、全くの無力ではありません。ここにいる3個艦隊18隻を含み、この海域には最終的に15個艦隊が投下され【学園艦棲姫】以下敵主力艦隊群側面への攻勢を敢行する予定でした。
綾波達の乗っていたチヌークを始め幾つかの輸送機は落とされ不時着水となったようですが、電探上の反応や飛び交う無線から察するにそれによって轟沈艦が発生したり戦力集結が失敗した様子もありません。ならば当初の予定通り、90隻の艦娘が既に展開を終えている筈です。
ただ、それでも尚兵力的な面では迫りくる敵艦隊からすると1/3にも満たない“寡兵”であることは事実。例えばこれらが全て駆逐・軽巡であるならいざ知らず、潤沢な戦艦・空母を擁しているなら火力と指揮系統の面で問題を抱えている可能性も薄いでしょう。
制空権は現状此方が完全に掌握している形ですが、空母艦隊の艦載機で十分に奪還し得る。仮に奪還に至らずとも、私たち側の航空攻撃を抑え込めれば艦砲の火力差・物量差で十分に押し切れる───そんな算用を向こうが弾いていたとしても、不思議ではありません。
「敵艦隊との距離、30000まで接近!!」
「─────主砲、一斉射!!撃て!!!」
それがただの皮算用に過ぎないことを告げたのは、こちら側で上がった砲声でした。
76 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/03(木) 23:27:57.08 ID:1N4dwLvb0
約30km。増援艦隊の1人である朝潮さんが叫んだこの数字は、35.6cm連装砲の最大射程距離でもあります。
最大射程とは、あくまでも「砲弾が辛うじて届く距離」を示すもので、命中率や威力がある程度担保される“有効射程距離”ではありません。
砲撃が行われるとしても威嚇や牽制が主目的であり、基地施設やそれこそ学園艦のように相当巨大な目標でもない限り命中を見込むことは本来できないでしょう。
『グォガッ!!?』
ですが、彼女の───戦艦・扶桑さんの砲撃は、そうした“常識”に当て嵌まりませんでした。
『ウ゛キ゛ッ゛………』『ゴボッ!?』『アギャアッ!?』
弧を描き飛翔した砲弾が、次々と敵艦の鼻先や背、肩口に突き刺さります。
超弩級戦艦による砲撃とあれば、多少の距離減衰を差し引いてもその威力は絶大。軽巡ホ級、駆逐ニ級、イ級2隻、命中した艦は尽く爆炎に身を焦がしながら水底に沈んでいきました。
「撃て!!」
『ゴグッ!?』 『ギャアッ!!?』『イギィッ!!?』
間髪入れず、再び主砲4基の一斉射。ロ級、ハ級、本土で大洗女子学園の甲板上にも出現したという新型・ナ級、何れも直撃弾によって跡形もなく吹き飛ばされていきます。
『ジッ…………』
そして、雷巡チ級。非ヒト型より遥かに小さく小回りも利く、有効射程外からの射撃で仕留めるのは本来絶望的な相手。
しかし扶桑さんは、至極あっさりと直撃させてみせました。船体殻を持つとはいえ、雷巡程度の出力なら戦車砲の集中砲火でも十分に突破を見込めます。
戦艦の大口径砲直撃に耐えられるはずもなく、その一発で電探上からも海上からもチ級の姿は消失しました。
「全弾命中、敵先鋒の水雷戦隊群に大きな損害!流石は扶桑さん!」
「そんな大したことはしていないわ、ただ向かってくる“的”に当てただけだもの」
此方も増援艦隊の阿武隈さんから感嘆の声が上がるも、当の旗艦・扶桑さんの態度には奢りも喜びも見られません。困ったように控えめな微笑みを浮かべるのみ。
寧ろやや燥ぎ気味の阿武隈さんを窘めるように、ついと口元で人差し指を立てました。
「それより、敵艦隊群はまだまだ健在よ。阿武隈さん、油断なさらないように」
「は、はい!了解です!」
77 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/03(木) 23:33:15.15 ID:1N4dwLvb0
『『『ゴギャアアアアアアッ!!!?』』』
『グゥッ…………!?』
三度目の斉射となりましたが、扶桑さんの照準には寸分の狂いも生まれる気配はありません。全弾それぞれが吸い込まれるようにして敵艦を射抜き、電探上から命中弾と同じ数だけ赤点を消し去ります。
一気に二個艦隊分の戦力を短時間で喪い、敵前衛群の動きが大きく鈍りました。
艦隊運動とは二元的なものであり、“前”の状態は当然“後ろ”に影響を及ぼします。前衛の停滞は中衛へ、中衛の動揺は後衛へ………混乱は瞬く間に艦隊全域へ波及し、その動きを完全に縫い止めました。
「艦隊、前進!!」
すかさず、扶桑さんが声を限りに号令をかけます。
「赤城さんとホーネットさんは最後尾にて後続、水雷戦隊は中衛にて陣形整えつつ進軍!
鳥海さん、最上さん、Houstonさん、前衛で私に続いて艦砲射撃を!!」
「了解しました!
目標、前方の敵艦隊。砲戦用意、撃ち方、始め!!」
「そうこなくっちゃ!!
さあいこうか、ボクが相手だよ!!」
「Copy that.
Target insight! Open Fire!!」
『グゴガッ!!?』『ギィアッ………』『『ガギャッア!?!?』』
超弩級戦艦1隻、重巡洋艦3隻による全力射撃。凄まじい砲火線が形成され、敵艦隊に殺到します。
陣形の崩壊が著しい前衛群では反撃もままならず、増えた損害の分だけ更に大きく突き崩されていきます。
《砲撃開始!》
《主砲一斉射!撃ち方始め!!》
《Open Fire!!》
併せて、左右両翼に展開している他の友軍艦隊も続々と砲撃に参列を始めました。
………が、各六個艦隊ずつ、計72隻にも及ぶ戦力が展開を終えているにしては、それらの火線はあまりにも疎らでした。扶桑さん達4隻に勢いどころか量でさえ劣っており、照準も明らかに定まっていません。
電探に目をやれば、友軍艦隊群の反応は確かに両翼で健在です。しかしながら辛うじて各艦隊ごとに寄り集まってはいる節があるのみで、隊列らしい隊列も未だ組まれていないような状態でした。
不時着水に近い形での展開となったことが尾を引いているのか、或いは敵艦隊の圧倒的な物量に気圧され動揺が広がっているのか。
いずれにせよ、こんな有様では組織的な砲撃戦が展開できないのも当然です。
『ギィッ、ギギィッ!!』
『オッ、アアアッ!!!』
敵もまた、これらの異常に目敏く気づきます。旗艦から指示が出たのでしょう、前衛と比して被害・混乱共に軽微な中衛艦隊群が動き出しました。前衛群の間を抜けて、或いは大きく迂回するような形を取って、側面艦隊には最低限の備えのみを残し戦力の大半を綾波達に割り振るつもりのようです。
78 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/03(木) 23:37:07.27 ID:1N4dwLvb0
物量面で圧倒的に上回っているとはいえ、位置関係としては三方から包囲されている状態。加えて先鋒群が此方の初撃で機能停止し“皮算用”が早々に挫かれているとなれば向こうが事態の打破を急ぐのは無理からぬことでしょう。
逆に現時点で唯一組織的な艦隊行動に移れている正面艦隊を殲滅すれば、あとに残った戦力を左右に分断できた形へと変わります。しかる後両翼に部隊を割り振って各個撃破できることを考えれば、戦術的に間違った判断でもありません。
……故にこそ敵艦隊の旗艦たちは、こちらの動きをもう少し注意深く観察するべきでした。
二十倍に迫る敵艦隊に、何故扶桑さんが真っ向から迎え撃つ姿勢を崩さないのか。
二度に渡って大航空隊の空襲を跳ね除けているような中で、何故今更組織的な火線構築すら出来ないほどの混乱が生じるのか。
陣形が大いに乱れているはずなのに、何故“艦隊毎に集結した状態”が作られているのか。
「敵中衛艦隊群、当方への総攻撃態勢に移行!」
これらに違和感を覚えていたなら、彼女たちももう一つの可能性に、
「旗艦、此方の“手はず通り”です!!」
「────ええ、そのようね」
一連の動きが、張り巡らされた罠である可能性に思い至れたことでしょう。
「両翼艦隊、全艦!撃ちぃ方ぁ、始め!!」
朝潮さんが上げた報告の声。それに併せて、扶桑さんが下す号令。
直後、左右双方で一斉に凄まじい数の砲声が轟きます。
『『『『ォガァアアアアアアアアァアアッ!!!?』』』』
一瞬で隊列を組み直す友軍艦隊の反応、整然と並び飛来する砲火。膨大極まる砲弾が雨の如く降り注ぎ、前衛群を迂回中だった敵艦隊に突き刺さりました。
両翼各36隻ずつ、計72隻分の艦砲射撃。駆逐艦や軽巡洋艦も多数混じっているとはいえ、殆ど無防備状態に近い中でそれらを浴びた敵艦隊の損害は極めて深刻でした。
電探上から消滅した赤点の数は、控えめに見積もっても七、八個艦隊分にはなるでしょう。
中衛戦力の内、両翼の艦隊群は突然発生した甚大な損害により一瞬で機能不全に陥りました。
「側面艦隊各位、攻撃を継続しつつ巡航速にて前進開始!敵艦隊への圧力を強めてください!
戦重各艦、砲撃速度上げて!前衛群を更に大きく突き崩します!」
『グギギッ………!』
攻勢に転じた友軍に併せるように、更に激しさを増す扶桑さん達四人の砲撃。
中衛から流入してきた新手の艦隊は、既に前衛群の中ほどまで進出しています。一部の戦艦級ヒト型が指揮系統の回復に着手しつつ、残7割強の水雷戦隊と重巡級がアルデンヌの森を駆け抜けるドイツ機甲師団の如く綾波たちの方へ迫ってきていました。
しかしながら、今やその試みは今や完全な裏目と化しています。正面だけでなく両側面からの圧力も加わったことで前衛群の混乱は最早完全に収拾不可能な域に達しつつあり、数個艦隊の指揮系統を回復させたところで焼け石に水でしかありません。
79 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/03(木) 23:44:32.89 ID:1N4dwLvb0
突貫中だった水雷戦隊への影響はとりわけ甚大です。
もみくちゃになる前衛群に巻き込まれ、ただでさえ困難な艦隊運動の連携が崩壊。散り散りになりながら一、二隻がポロポロと抜け出してくるような状況では、隊列を組み直す余裕もないことは明白でした。
「【特派府】艦隊、前へ!阿武隈さん、朝潮さんも加わってください!初月さんとアトランタさんは後続を!!」
「多摩、了解したにゃ!皆続くにゃ!!」
「朝潮、旗艦命令を受諾いたしました!」
「Roger, Flag. Go ahead」
機を見るに敏。扶桑さんからすかさず指示が飛び、計十個の“艦影”が猛烈な砲撃支援を背に最大船速まで加速します。
多摩さんや綾波ら雷撃隊8名が単縦陣を取りその後方に2名が続くという、なんの捻りもない即席の布陣。
ですが、統率が完全に崩壊し各個撃破されるためだけに前衛群を抜けてきたような有様の敵艦隊を“処理”するにあたり必要なのは、練り上げられた完璧な攻撃陣形ではなく「いかに迅速に一撃を加えるか」に付きます。
その点において綾波たちの動きは、まさに理想形と呼び自負できるものでした。
「射撃位置に到達!敵艦隊群捕捉!」
「どうせ外れてもその向こう側は総崩れの前衛群にゃ!
ありったけ、ぶちかませ!!」
「あいよ!景気よく行くぜ、宵越しの金は持たねえのが江戸っ子でぇ!!」
「やるときはやるんだから!魚雷、全弾投射!!」
「や〜りま〜す、っよぉ!!」
『『『 !!?!?』』』
総数実に50を越える雷跡が、海原を駆けていきます。暫しの静寂を──扶桑さん達による砲撃を除いて、の話ですが──経て炸裂した爆発音の束は直撃を受けた敵艦の断末魔すら塗り潰し、膨大な数の水柱は打ち砕かれ燃え盛る残骸を瞬く間に波間へと押し込み海上から消し去りました。
『『ゴガァアッ!!?』』
何発かの魚雷はそのまま馳走を続けていましたが、それは「外れた」というより「進路上から敵艦影が消滅した」為に起きた事象。そして先ほど多摩さんが仰っていた通り、その向こう側に居るのは結局の所敵の前衛群です。
当然混乱の極みにある中でこれらを避けられるはずもありません。十本近い新たな水柱によって発生した戦力の損失が、益々その立て直しを困難なものへと変えました。
それにしても、即席の連携であるにも関わらず、阿武隈さん、朝潮さんのどちらも綾波たちの動きに寸分の狂いもなく併せてきました。
流石は青ヶ島、硫黄島と共に【海上機動迎撃網】の一角を担う鎮守府の出身といったところでしょうか。
80 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/03(木) 23:49:42.70 ID:1N4dwLvb0
《敵艦、捉えたぁ!!敵右翼攻撃、いっち番槍ぃいい!!!》
《おっそーーい!こっちの魚雷はもう届いてるもんねーーだ!!》
両側面からの追撃に関しても、抜かりはありません。扶桑さんは既に指示を出していたようで、誰が攻撃隊に加わっていたのか少なくとも2名は確実に特定できる叫び声と共に左右で雷撃が立て続けに炸裂します。
電探上では先程の奇襲的な一斉射によってこじ開けられた“大穴”を更に抉る形で敵艦反応が消失し、中衛群の混乱・崩壊ぶりも見る限り明らかに許容し得る域ではなくなりつつありました。
ですが、ここまでに綾波達が敵艦隊へ与えた損害は、甚大ではあれどあくまでも前・中衛群までに限定されています。
『ヲヲッ、ヲォッ!!』
「敵艦隊最後尾にて【黒霧】を確認!!かなりの量です、恐らく数百機規模!!」
健在であった後衛群───敵空母機動艦隊が、一斉に艦載機隊を発艦させました。ブワリと勢いよく空に広がった大量の黒い靄は各個に寄り集まって【カブトガニ】や【オニビ】を形成し、猛烈な勢いで突撃を開始します。
────大半、否。全ての機影が、“正面”へと。
「敵航空隊、ほぼ全戦力を以てこっちに向かってきますぅうううう!!!」
少なく見積もって五百は下らぬだろう大編隊による総攻撃という事態に、阿武隈さんが悲鳴に近い報告の声を上げました。
三方からの猛攻に晒されても尚、正面戦力の殲滅・打通に全力を尽くす。指揮艦の役割を担えるヒト型も相当数が討ち取られている中で誰がその判断を下したのかは解りませんが、それは英断と言って良いでしょう。
一連の卓越した連携、損害を出さないどころか殆ど反撃らしい反撃をさせぬまま“封殺”が成功しているのは、綾波達───分けても、扶桑さんの存在に寄るところが大きい。
彼女を失った上で綾波達正面艦隊が殲滅されれば、一転して艦娘側が指揮系統に致命的な被害を受けた上で今度こそ陣形を分断されます。
綾波達の“急所”は、この圧倒的優勢下にあっても健在なのです。突かれれば一挙に戦況がひっくり返るほどであることも、中衛群の突貫が始まった時から変わっていません。寧ろ綾波達が戦況を掌握しつつある今の方が、その重要性は増した面さえあります。
故に敵艦隊は、あくまで綾波たちへの、扶桑さんへの攻撃に全力を尽くしました。
「アトランタさん、初月さん」
尽くしざるを得ませんでした。
「Alright, Flag.」
「あぁ、心得ている!!」
ここまでの采配を振るえる者なら、この程度の事態への備えは盤石にしていると解っていても。
81 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/03(木) 23:56:36.76 ID:1N4dwLvb0
綾波達の背後で、砲火が撃ち上がります。居るのはあくまで2人、それも艦級だけでいえば軽巡洋艦と駆逐艦。
にも関わらずその膨大極まる砲声と飛び越えていく火線の数は、一個水上打撃艦隊が全力で火網を張り巡らしていると言われても十分に信じられてしまうものでした。
「ハツ、叩き落とすよ。──Fire, Fire!!」
桃色がかった髪を結わえて両脇に垂らした、アメリカ出身艦娘らしいグラマラスな体型の持ち主。しかしながら放つ砲火に不釣り合いな眠たげな眼でもある、アトランタ級軽巡洋艦一番艦・アトランタさん。
「言われずともさ!───敵は多い、行くぞ!!」
対象的に鋭く獰猛な眼光で、整えられつつもやや逆立った髪型と併せて訓練された猟犬を思わせる風貌の、秋月型4番艦・初月さん。
『『『ッッッッッ!!?!?!!!!?』』』
私達艦娘の中でも取り分け対空・防空戦闘に秀でていることで知られるお二人の最大火力投射は、最早弾幕と呼ぶことすら生温い凄まじさでした。銃砲弾の濁流、鉄火の嵐に触れた瞬間、敵艦載機群の突貫はまるで強固で分厚い岩壁に衝突したが如く停止しました。
「多摩たちも加わるにゃ!対空射開始!!」
「主砲、三式弾への切り替え終わる!戦艦・扶桑、対空射開始します!重巡艦隊も続いて!!」
「この鳥海、防空戦においてはお二方にも摩耶にも遅れは取りません!」
「私も行くわよ!Aircraft-Carrier足る者、対空戦闘ぐらいこなせなくちゃあね!!」
『ヲン……』
『ヌグッ………!?』
こちらへの航空攻撃がほぼ完全に食い止められたところに、綾波たちと扶桑さんたちも加わり更に火網が重厚さを増します。
両側面友軍や赤城さん、ホーネットさん両名の艦載機隊は敵機群を追い回しながら三々五々に散り今や敵航空隊の進軍路を作っているような状況でしたが、それは逆説的に言えば巻き添えを全く気にせず火力を投射できるということでもありました。
加えて前衛・中衛群はこちらの猛攻で最早組織的戦闘能力をほぼ失逸し、更に側面から間断なく注ぎ込まれる砲雷撃によってそれを回復させる糸口も掴めるような状況にありません。よって綾波たちも扶桑さんたちも、存分に初月さんとアトランタさんに加勢することができます。
敵の空母艦隊も必死に後続を送ってきますが、広く厚く張り巡らされた大火線に絡め取られてそれ以上前に進むことさえままなりません。それどころか墜落機が下方の敵艦隊に激突して、前・中衛の損害を拡大する有様です。
82 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2022/11/04(金) 09:52:05.50 ID:BxSLOj7g0
更新おつです
83 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2022/11/04(金) 23:08:26.52 ID:g15duR2T0
そしてこちらには、最後の“ダメ押し”をできる札が未だ一つ残っていました。
「山城、フレッチャーさん、トドメを!!」
「任せてください!……本来あの人たちの装備というのが気に食わないけど、姉様のお力になれるなら!!全弾射出、撃て!!」
扶桑さんの妹、扶桑型戦艦二番艦・山城さん。彼女が装備する【12cm30連装噴進砲改二型】から放たれた面制圧という言葉を体現したかのような火炎の塊は、壊乱状態に陥りつつあった敵機群に叩きつけられ、これを引き裂き、焼き払い、貫いていきます。
「近代装備を舐めないで!この程度の数、一網打尽です!!
Enemy insight!! Fire!!」
“実装”からまだ間もないながらアメリカ海軍艦娘の現時点における最高傑作とも言われる、改フレッチャー級駆逐艦DD-455・フレッチャーさん。彼女が装備する【5inch単装砲Mk.30改】は、最新鋭電探との連動によって導き出される凶悪な射撃精度を以て、火線の隙間を果敢に摺り抜けようとする敵機を正確に、確実に、無慈悲に射落としていきます。
『『『─────…………』』』
「Clear!!」
無駄を悟りやめたのか、“出し尽くした”のか。何れにせよ、後衛群から逐次投入されていた艦載機隊は、いつの間にか止んでいました。
焼き尽くされ、薙ぎ払われ、圧し潰され、生き残った最後の1機がフレッチャーさんの砲弾に撃ち抜かれて砕け散ります。
綾波達の頭上は、夕暮れに染まりつつある空と静けさを取り戻しました。
『ヲヲヲヲ、ヲォッ!!』
『ガガァゥ!!』
『ゴダ、ィイッ!!』
主力艦隊群の大崩壊、水雷戦隊の壊滅、三方からの包囲、制空権の喪失。最早勝ち目など全く存在しないことは、深海棲艦たちも十分すぎるほど理解しているのでしょう。
幾箇所かで挙がった退却を指示していると思わしき叫び声に合わせて、眼前の敵残存艦隊は崩壊した陣形を必死に整えつつ唯一空いている「後方」へと下がっていきます。
囲師には必ず闕き、窮寇には迫ることなかれ。敵を包囲するにあたってはあえて逃げ道を開けることで抵抗する気力を削ぎ、却って容易に勝利を得ることができるという孫子兵法の一節。
異形の怪物でありながら感情も意思も持ち合わせている以上、深海棲艦相手にも十分当てはまるものだったようです。
84 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2022/11/04(金) 23:12:26.48 ID:g15duR2T0
この、敢えて開かれた退路に施される“一計”。それがどれほど大きく戦果を拡大してくれるかは、かの黒田官兵衛を始めとした歴史上の名将達が幾度となく証明してきました。
「山城!」
「心得ております!航空隊全機、発艦開始!!」
〈〈〈リョウカイ!!〉〉〉
扶桑さんの号令に従い山城さんが掲げたのは、主砲ではなく飛行甲板。
カタパルトが作動し、やや鋭角的な形状をした緑色の“ゲタ履き”機体───水上偵察機【瑞雲】が次々と飛び立っていきます。
本来“ゲタ履き”は、その機種名が示す通り偵察任務や弾着観測などを役割として設計・開発されたもの。
戦闘能力は皆無でこそないにしろ、あくまでも自衛がこなせる程度で戦力としてカウントされるべきものでは本来ありません。況してや対艦戦闘などは想定外のそのまた外でしょう。
ただし瑞雲に関しては、巡洋艦からの航空爆撃によって敵艦隊を打撃するという大本営の構想の下急降下爆撃をもこなせる速力・運動能力と機体強度を両立しています。
加えて父島鎮守府に配属されている山城さんの瑞雲隊は、乗組員の妖精さん全員がかの“六三四式”の練成を受けた精鋭部隊。受領している機体も、全て最大改修を受けた12型。
水上偵察機隊として、という前置きは必要ありません。機種の枠組みを抜いて考えても、十分に国内“屈指”の航空戦力と呼んで差し支えない陣容でした。
〈モクヒョウチョクジョウニトウタツ!〉
〈バクゲキカイシ!コウカ、コウカ、コウカ!!〉
23機という数は、決して多いとは言えません。機体性能や妖精さんたちの練度を差し引いて考えても、艦載機隊や敵艦隊の指揮系統が健在であったなら為す術なく捕捉されそのまま殲滅されていたでしょう。
しかし、前者は徹底的な対空砲火網によって消滅し後者も最早完全な立て直しは不可能な段階まで陣形が崩れきっています。
申し訳程度にばら撒かれる散発的な対空砲火をスイスイとくぐり抜けて後衛艦隊群の“上”を取った瑞雲隊が、次々と機体を回転させ急降下態勢に移ります。
そうして始まった爆撃は、瑞雲隊が自分たちの兵力と役割をよく理解した完璧なものでした。
85 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/04(金) 23:18:53.27 ID:g15duR2T0
『ヌゴッ!!?』
『ガッ、ガガァアアア………!!』
〈テキカンニメイチュウ、ソンショウダイ!〉
〈モクヒョウノケイクウボチュウハ、ソクリョクオオハバニテイカ!!〉
〈ゴウチンナンザネラワナクテイイゾ!シッカリアテルコト、“フカデ”ヲオワセルコトニシュウチュウシロ!!〉
敵後衛群は確かに艦載戦力を無力化していますが、あくまで艦隊そのものは無傷に近い状態で健在です。飛行中隊2個分にすら届かない“物量”の問題は、練度で解決できるものではありません。
戦果を求めて下手に深追い・長居をすれば、前・中衛群と比して混乱度合いが小さい分立て直しに成功した構成艦隊からの対空砲火によって思わぬ損害を受ける可能性もあります。
〈ゼンキトウダンカンリョウ!!〉
〈ヨシ、トンズラスルゾ!!ボカンドノノモトヘモドレ!!〉
故に、一撃離脱。故に、【軽空母ヌ級】を始めとした非ヒト型への徹底的な目標集約。
ヲ級とヌ級。正規空母と軽空母という艦種の差異から最大搭載機数や耐久力、脅威度などは言うまでもなく前者の方が圧倒的に上です。しかしながらヒト型をしている前者に対し、非ヒト型である後者の大きさは数倍から十数倍にも達します。
損傷を受け、航行能力に致命的な支障が発生した時。或いは、速度が大幅に低下した時。
どちらが“艦隊全体”の運動を阻害するかは、比べるまでもありません。
『ヌゴッ、グゥ………』
『ヲヲッ!!ヲンッ!!』
投下された爆弾は、航空隊の機数と同じ23発。その尽くが、ヌ級や護衛であった非ヒト型の“泣き所”を正確に貫いていました。
喫水線、機関部、甲板………身体的な部位で言えば、眼球や頭頂部。一発轟沈を狙うのではなく、航行にあたって厄介な場所に大きな損傷を与える。
例えるならペリリュー島の帝国陸軍守備隊が、米軍の上陸部隊にあえて“負傷者”を多発させたようなものでしょうか。一気に23隻もの“損傷艦”が、それも艦隊の「動線」が集中している箇所でばかり発生し、ある程度の組織的艦隊運動を維持できていた後衛群は一転して大混乱に陥りました。
「両翼水雷戦隊、突入!後衛空母群を挟撃してください!」
ただでさえ大所帯故の鈍重さに加えて、壊乱の末に敗走している状況下で十分な速力を出せていない敵艦隊群。いかに空母を中心に足の速い艦が揃っていたであろう後衛と言えど、それさえ統率が崩壊したとあれば最早逃げ切ることは不可能でしょう。
《さぁ、今度こそいっち番槍は頂くよ!!》
《ふふん、アタシがいるから無理だもんね!!》
追撃する水雷戦隊がそれぞれ白露さん、島風さんを擁しているなら、尚の事。
86 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/04(金) 23:44:46.26 ID:g15duR2T0
《《魚雷、発射!!!》》
雷撃報告は、無線を通して両者からほぼ同時に発せられました。十数秒の間を経て、綾波達が砲撃を浴びせている敵前衛の向こう側で立ち上る幾本もの水柱と爆煙。
電探上に表示されている敵艦隊群の反応、その最後尾部分で両側面から次々と赤点が消えていきます。最終的に、その数は30前後にはなったでしょうか。
《こちら白露、今度のいっち番槍は私だよ扶桑さん!!あと魚雷はヲ級Eliteに直撃、旗風の魚雷と併せて之を撃沈せり!!》
《嘘だからね扶桑さん!今回もいっっっっち番速かったのは島風なんだから!!轟沈艦はイ級Eliteを単独、ヌ級通常種を巻雲と共同!戦果だって一番なんだから!!》
《駆逐艦うざ………。えーと、こちら北上。とりあえず後衛艦隊群の混乱は更に拡大してるよ〜。
山城さんの瑞雲との視界同期で確認した限り、撃沈艦は一番バカと速度バカの言ってるやつ以外にヌ級が計10隻、ヲ級が4隻ってところかな。後は護衛の駆逐・軽巡・重巡が各少々って感じ〜》
数的戦果のみで見て、実に半数前後が空母・軽空母の撃沈。仮に綾波が第三者としてその数字を聞いたなら、士気高揚のための過大報告であることを先ず疑うような代物です。
《んで、敵さんはまともな反撃も未だに飛ばせないぐらいグロッキーみたいだけど……どーする?もっとやっとく?》
数字面だけで言ってもこの短時間であの大艦隊が会敵当初の2/3程度まで減少し、しかも此方が包囲下に置いて一方的に攻撃を浴びせている状況。一見すると北上さんの問いが“愚問”ではないかと思えてしまう、追撃継続以外の選択肢が存在しないような圧倒的優勢です。
「いえ、攻撃は停止します」
しかし扶桑さんは、無線に向かって静かにそう告げました。
「航空隊は現存する敵機群の殲滅、或いは退却確認後に母艦へ帰還し補給を。両翼水雷戦隊も後退し主力と合流するように。戦艦他主力艦艇群、副砲による牽制は継続も主兵装の弾薬は正面敵艦隊群に反転の兆候が見られた場合を除き温存態勢へ移行。
後続敵艦隊・航空隊の存在にも留意、厳戒態勢を維持してください」
《右翼主攻艦隊長門、了承した。主砲撃を鈍化・停止させる》
《This is Left-Side Freet,
South Dakota. I agree, Flag.
All unit, Weapon down. Keep potion.》
《左翼水雷戦隊・初春、心得た。皆退がるぞ!島風、止まるのじゃ!》
《あいよ〜。ほら、帰るぞ駆逐艦共〜》
敢闘精神旺盛な──そして、取り分け愚かな──指揮官が耳にすれば、即座に面罵して命令取り消しを主張するであろう、ともすれば消極的とさえ取れる指示。
しかし比較的血の気の多い方が集まっている印象の長門さんや、“艦時代”には霧島さんと直接砲火を交えた経験もあるサウス・ダコタさんも、全く異論を挟むことなくあっさりと指示に従って攻め手を止めていきます。
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2022/11/07(月) 09:57:21.81 ID:7Vyc5Dga0
更新おつです
局所的有利は取れていますが戦局的にはいまだ不利ですよね
指揮系統が維持してるので八頭身提督は健在と思われますが
ポジハメ艦長の容体が心配
88 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2022/11/16(水) 22:06:44.07 ID:W1WHWUQU0
その傾向は、今この場で最も旺盛な“戦意”を漲らせているであろう2人についても変わりませんでした。
《…………りょうかーい》
《はぁ〜〜い………》
島風さん、そして白露さんの返答の声には、不満自体は非常にはっきりと表出していました。
しかしそれでもやはり扶桑さんへの反論はなく、電探上で彼女たちの反応を示す──他の水雷戦隊の方々と比して明らかに大きく突出した──青点もまた名残惜しそうな素振りは見せつつも両翼の隊列へ戻ります。
そのまま敵艦隊は、戦艦や重巡の皆さんによる射撃に追い立てられながらまさに“敗残部隊”という他ない様子で海域より離脱していきました。
「旗艦、よろしかったのですか?あのまま攻撃を続けていれば、ほぼ確実に殲滅できたと思いますが」
深海棲艦達の姿がある程度小さくなったところで、朝潮さんが扶桑さんに問いかけます。しかしながらその声色に疑念や苛立ちと言ったものは見られず、冷静でどこか淡々とした、よく出来た生徒が教師に問題の答え合わせを促しているような響きとでも言いましょうか。
この朝潮さんは父島鎮守府設立時の最初期に配属された艦娘の1人と聞きます。同府で総旗艦・筆頭秘書艦を勤め続ける扶桑さんとの付き合いも長く、当然綾波達より遥かに深く的確に彼女の思考を汲み取ることができるでしょう。
或いはこの詰問も、扶桑さんが下した判断の詳細を面識が少ない綾波達に共有するためという目的があるのかも知れません。
「ええ、そうする必要がないもの」
そうした朝潮さんの機微を察したらしく、扶桑さんもまた即答します。
日本語に不安を残すアメリカ艦の皆さんに配慮してか、日頃の喋り方から比べてもややゆったりとした口調でした。
「確かに殲滅は容易かったでしょうね。戦意が欠片でも残っているとは思えなかったし、あそこまで崩壊した指揮系統を私達の攻撃を受けながら敵が立て直せた可能性も極めて低い。
でも、殲滅する際に“労力”がどれだけ抑えられたにしろ、“弾薬と燃料”の消費量は無視できないものになっていたんじゃないかしら?」
総数300隻超、内1/3以上が撃沈できているとしても残余は200隻前後。統率がどれほど崩壊していようが、残存戦力の中で見れば未だ無傷か軽微な損害で留まっている艦の方が遥かに多かったはずです。
それらの全てを一撃必中で沈められたと考えるのは、流石に皮算用が過ぎますね。
戦艦や重巡といった高い火力と装甲を持つ艦種も母数が膨大である分やはりある程度は残っていたでしょうし、“組織的”な抵抗ができていなかっただけで反撃の砲火自体はチラホラと飛んできてもいました。
敵艦隊に反撃の糸口を与えないために回避運動等は交えつつ戦闘を続けるとなれば、確かに弾薬・燃料の何れも予想される消費量は決してバカになりません。
89 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/16(水) 22:10:36.45 ID:W1WHWUQU0
一応、国連“海軍”所属部隊が【学園艦棲姫】へ至る海路の各所に臨時の洋上補給拠点を続々と建築はしています。
が、拠点といいつつ実態は補給物資をありったけ詰め込んだドラム缶が綾波たち艦娘が使う水上航行ユニットを改造したものの上に纏めて置かれただけのもの。
量の面でも安全性の面でも、決して“あること”を前提にして考えて良い代物ではありません。
そう考えると、最低限の継戦能力維持のためにある程度弾薬や燃料の節約を考えなければならないのは扶桑さんの仰る通りでしょう。
「でもFlag、さっきの艦隊が後続と合流して更なる大戦力として戻ってくる可能性は考えられなかったかしら?
約200隻、向こうはBattle ShipもHeavy Cruiserもかなり残っていたわ。空母艦隊が甚大な損害を被っていたとはいえ、水上打撃戦力だけ抜け出して自分たちのFreetに加えたとしてもおかしくないんじゃない?」
「向こうに、それを実行するだけの余裕がありませんよ」
ホーネットさんの疑問に対し扶桑さんは柔らかく微笑み、しかしはっきりと、直ぐ様否定の言葉を発しました。
「あそこまで大崩れした、ろくに陣形も組めていない艦隊です。途中で合流したとして、戦力化できる個体や艦隊を選抜して“吸収”するにはかなりの時間を擁します。当然その間、“吸収”を試みている側の艦隊もある程度陣形・統率を乱さざるを得ません」
この場では逃していたとしても、綾波達側の航空戦力は健在。自衛能力を他機より強力に備えた山城さんの瑞雲隊もあります。
捕捉し、直ぐ様追撃に移れば、此方の再編や補給の時間を差し引いても十二分に追いつけます。その際扶桑さんが描く青写真が現実になることは、綾波でも容易く想像がつきました。
「仮に私達が全戦力を挙げて追撃を再開した場合、向こうは増援艦隊も纏めて無防備になっているところに再度攻撃を受けることになります。
後続艦隊群が何隻かは解りませんが、先程の艦隊と纏めて今度こそ壊滅・殲滅となれば【学園艦棲姫】が現在抱えている随伴艦隊の総兵力をかなり多めに見積もっても流石に看過しかねる損失となるでしょうね。それこそ、日本本土への進軍に支障が出るほどの」
寧ろ、“そうしてくれる”ならば喜ばしくすらある。そう言って扶桑さんは上品な声色で笑います。
「まぁ、ホーネットさんも仰ってくださった“幸運”に備えて元々偵察機は飛ばすようにするつもりです。ですが、あまり期待はしない方が良いでしょうね。
なにせ私は、“不幸”なものですから」
90 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/16(水) 22:12:45.64 ID:W1WHWUQU0
これが、“父島鎮守府総旗艦・扶桑”か。そんな、戦慄にも似た感嘆と畏敬の思いが、綾波の胸を満たします。
僅かな所作から、敵艦隊の狙いや次の動きを即座に見抜く洞察力。
不測の事態にも動じず、寧ろ策に盛り込み利用できる応用力。
その場での戦果拡大を徹底的に追い求めた大胆不敵な“拙速”と、大局的観点から鑑みた冷静沈着な“巧遅”を自身の明確な理論に基づいて的確に使い分ける判断力。
数多の艦娘が集う大艦隊にあっても、振るった指揮を全員に納得させ従わせる統率力。
先の戦闘でも見た通り、戦闘艦として、“一兵卒”としての【武勇】も、他の艦娘に決して引けを取るものではありません。
ですが、“父島鎮守府の扶桑”さんは、それさえ霞んで目立たなくなってしまうほど驚異的な“将”の資質に、艦娘としては珍しい【軍略】の才に秀でていました。
綾波自身は「この扶桑さん」とは演習で数えるほどしかご一緒したことがないため、その妙技の程を実際に眼にしたのは初めてです。
そして今日、これまでに幾度となく耳にしてきた数々のお噂が、全く尾鰭の類がついたものではないと確信しました。
『演習も含め、扶桑の采配に“間違い”を見たことは唯の一度もない』
───彼女を招聘し、抜擢し、その名を轟かせるきっかけを作った父島艦隊の提督さんの評価です。
『扶桑が居るいくさ場では、後方や側面を一切気にせず眼前の敵の殲滅だけ考えていられる』
───同期建造で、一時は同じ鎮守府に勤めたことも有り、特に戦争初期には幾度となく戦場を共にした現横須賀司令府総旗艦・【巨砲】日向さんはこう語ったそうです。
『彼女のお陰で拡大できた戦果、得られた勝利は数え切れないほどあるだろう。だが彼女が“大和撫子”の鑑であるがゆえに、我々はそれを正確に把握することができない』
───さる海上自衛隊の尉官様が、王嶋元帥にそんなことをボヤいたと聞きます。
元々扶桑さん本人があまり目立つことを好まない上に、直接の砲火によって敵艦を討ってこそ艦娘の本分という意識があるらしく、自身の軍略・知略について褒められることを複雑に思っているのだとか。
……まぁ、その奥ゆかしく謙虚な性分が扶桑さんの“強み”と合わさり「莫大な戦果を挙げながらその実情が把握できない」という事態を招き、特に海自上層部や在日米軍関係者を中心に【沈黙者(サイレンサー)】なる“忌み名”が広がるきっかけとなってしまった面もありますが。
扶桑さん本人にとってこの件が“不幸”に当たるのかどうかは、綾波では判断が付きかねます。
「凄いにゃ、噂通りにゃ、頭いいにゃ〜!
サマール島第19“特派府”所属艦隊の多摩だにゃ、救援感謝するにゃ!【沈黙者】指揮下の艦隊に入れるなんて心強いにゃ〜!」
「ええ、その、喜んでいただけて何よりです」
……少なくともこの反応を見る限り、忌み名呼びが扶桑さんからして“幸運”ではないことは確かな模様。
一先ず当面の危機から解放された多摩さんが、顔のあらゆる場所から水分を垂れ流しつつ手を取ったことも表情を曇らせた要因の一つでしょうけれど。
91 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/16(水) 22:14:57.95 ID:W1WHWUQU0
「それにしても、【特派府】艦隊………ですか」
「なぁに?なんか文句でもあるわけ?」
「おう、そうだぜ!ナメんじゃねーよチキショウめ!!」
「色んな意味で当然の反応だと思うな〜………」
扶桑さんのすぐ後ろまで進み出てきた赤城さんが、多摩さんの改めての自己紹介に複雑な表情を浮かべました。当府屈指の武闘派である霞さんが速攻で噛みつき涼風さんもそれに続きましたが、文月ちゃんの言う通り私もその反応は正直理解できてしまいます。
特別派遣海難救助国際協力鎮守府───通称【特派府】。様々な法解釈を施せるよう可能な限り回りくどくしたいという日本人的な意図が全面に溢れ出た長ったらしい正式名称ですが、要は日本国による自衛隊や艦娘の海外派兵政策の一貫です。
内容は、1992年に施行済みの【国際平和協力法】を拡大解釈し、深海棲艦関連の被害を“大規模な害獣被害”と強引に定義した上で対応要請を送ってきた国家や地域の沿岸に警備府規模の艦隊を派遣駐屯させるというもの。
日中間の水面下における熾烈極まりない外交戦の結果制定された【艦娘三原則】の“対価”として南首相が国際社会に黙認させたこの制度は、大筋での「大敗」に隠れながら非常に大きな転換点だったと思います。
フィリピン海近郊を中心に東南アジア全域で設置された150箇所を超える【特派府】の存在は私達が活動する上で非常に有用な橋頭堡となり、当時海軍が死滅していたオーストラリア周辺の制海権早期奪回やインドとの連携強化、【第二次マレー沖海戦】での迅速な戦力展開とそれに伴った痛快極まる大勝利へと繋がったのですから。
ただ、その戦力が“潤沢”かといえば残念ながらそうではありません。
例えば【特派府】に駐屯可能な艦娘の数は、国内における【警備府】と同等規模です。ですがあくまでも“目安”であり特に沿岸部では規模・艦種共に臨機応変な編成が行われる後者に対し、前者は“最大6隻”と国連憲章に明記され艦種も軽巡洋艦以上の等級は配備不可能、その軽巡も1隻までと厳格な制限が設けられています。
各【特派府】の統括や本国から輸送・護衛等で派遣される主力級艦隊の補給地として敷設を許可された【泊地】では若干制限が緩みますが、それでも常駐艦隊については軽巡の他に重巡洋艦、軽空母、潜水艦の中から2隻までを加えた三個艦隊分までの駐屯しか許可されていません。
基地航空隊も居るため戦いようがないとまでは行きませんが、やはりElite以上のヒト型や上位種の姫級・鬼級を相手取ろうとすれば力不足と言わざるを得ない面があります。
92 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/16(水) 22:18:42.70 ID:W1WHWUQU0
故に、我々【特派府】艦隊の任務は基本的に近隣の巡回と「はぐれ艦隊」を発見した際の掃海作業、後は偵察程度に留まります。
万一主力級艦隊と接敵した場合、基本的には即座に撤退後遠巻きの監視態勢へ移行。前述した任務の兼ね合いで“偶然にも”泊地に停泊している本土の艦隊か、これも“たまたま”米軍との合同海外演習を行っていた自衛隊所属の艦娘艦隊が対処する形を取ります。
仮に交戦するとしても基地航空隊や現地の空軍と連携しながら進軍を遅滞させるための牽制がせいぜいで、本格的な艦隊決戦が指示されることは滅多にありませんでした。
取り分け艦娘戦力の充実が著しいここ2年ほどは、「偶然主力級の艦隊が泊地に入港して中だった」状態を“安定して”作ることが出来た為、そもそもそれを検討する必要性自体起こり得なかったのです。
逆説的に言えば、ここまでの鉄火場に綾波達【サマール島第19特派府】の艦隊が居るという事実、それ自体が、
「アンタらの実力そのものを疑うわけじゃないけど、要するにScoutを主任務とする艦隊を動員しなきゃいけないぐらい追い詰められてるってことでしょ?
それも、“艦娘覇権国”の日本がサ」
アトランタさんの言うような現状であることを、如実に現していると言えます。
「まぁ、あたしもアンタ達のことエラソーに言える立場じゃないんだけどね」
「………ええそうね、自覚があるなら刺々しい言い方は最初から自重なさい」
ヘッと口元を曲げ肩を竦めるアトランタさんの横で、ホーネットさんが頬に手を当てて深い溜め息をつきました。
彼女は形の良い眉をひそめて眉間に深いシワを刻みつつも、右手を多摩さんの方へ差し出します。
「ホーネットよ。国連特別“海軍”指揮下のセレベス海域防衛艦隊群に所属してるわ。私達四人の他に、チョーカイとハツヅキもそこからの派遣ね」
「………ふんっ」
多摩さんと握手を交わしつつ、空いている左手がアトランタさん達、次いで鳥海さん、初月さんと順に指し示していきます………が、最後に紹介された初月さんは、わざとらしく鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまいました。
「あーーっ、と………ハツ?」
「あ、あの。初月さん、せっかく紹介してくれたのですから」
「別に僕は頼んでない」
困惑した表情を浮かべるホーネットさん。鳥海さんが慌てて執り成しますが、初月さんは益々大きくこれみよがしに明後日の方向へと顔を背けるばかり。
一連の動作には、明確な敵意が剥き出しでした。
「艦娘として改めて生を受けたとしても、僕は皇国海軍の駆逐艦だ。今は友軍になったとはいえ鬼畜米英の輩と馴れ合うつもりはない、作戦時以外は喋りかけないでくれ」
93 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/16(水) 22:21:17.02 ID:W1WHWUQU0
今更言うまでもないことですが、大東亜戦争の折、帝国海軍は太平洋上で幾度となく欧米諸国の艦隊と熾烈な戦闘を繰り広げました。
その時に刻まれた“艦時代”の記憶は、艦娘としてヒトの形を得た今も綾波達の中に残っています。
故に、アイオワさんやサラトガさんのような米国艦娘を筆頭に、この一年ほどで急速に“実装”が進んだ旧連合国の艦娘の皆さんに対して、大なり小なり複雑な思いを抱える子はいるでしょう。
かく言う私だって、在比米軍鎮守府に派遣されてきたジョンストンさん──フレッチャーさんの妹艦にあたります──と初めて言葉を交わした時は正直かなりぎこち無い反応をしてしまいました。
とはいえ流石に、深海棲艦という共通の敵を前にしながらここまではっきり拒絶反応を示す方は非常に珍しい部類に入る気がしますけど……。
「大体、他の艦娘は大和魂が足りないんだ。幾ら時代が変わったからって、祖国を焼け野原にし天皇陛下に心痛を与えた連中に────わぶっ!?
な、なにするんd、いだだだだ!!?」
「Japanese destroyerのイキの良さは“身をもって”知ってるけどサ。アンタはちょっと良すぎね、ハツ」
尚も言葉を続けようとした初月さんの頭を、もとより眠たげな眼を更に眇めたアトランタさんが上から抑えつけ遮ります。即座の反駁が飛ぶも今度は額に親指を押し当ててグリグリと捩じ込むような動きを見せ、初月さんの口から悲鳴が漏れました。
「そ〜いうデカイ口は、あたしより多く敵機を落としてから叩くんだね。見た感じ、こっちの半分も撃墜できてなかったんじゃない?」
「……米国艦のくせにどうやら電探装置に不具合があるみたいだな。どう見ても撃墜数は僕の方が多かっただろう!?なんなら数も三倍差はついていたはずだ!!」
「ハッ、そっちこそレーダー研究疎かにしすぎだっての。本当はもう3倍ぐらい差があったのを、気遣いでわざわざ過小報告してやったんだけど」
「ふ、2人ともやめよーよ………精度が悪すぎて物量でゴリ押さないとろくに撃墜できないのはどっちも変わらないんだしさ」
「何だと!?」
「……Saying again, bitch」
「あ、あの、またいつ敵艦隊が来るかわかりませんから…………」
「Kids」
凄絶ないがみ合いを止めるかと思われたフレッチャーさんがまさかの参戦で三つ巴となり、とても最前線とは思えない(醜悪な)大騒ぎを繰り広げます。その周りで止めるに止められず困り顔の鳥海さん、呆れ顔で冷たい視線を向けるヒューストンさん。
「……………………Ah」
ホーネットさんはと言えば、最早視線をそちらにやる気力もないのか多摩さんと向かい合ったままげんなりとした暗い表情でただ肩を落とします。
長い沈黙の果に喉奥から漏れた、心底からの疲労と諦観に満ちた溜め息が彼女のこの艦隊における立ち位置とそれに伴う苦慮の度合いを何よりも雄弁に語っておりました。
「………輸送中から、ずっとあんな感じよ。私達は私達で、全員が別々の鎮守府から急遽寄せ集められた相性最悪の臨時編成艦隊ってわけ。
まぁ自分で言うのもアレだけど、私含めて戦闘の腕自体は確かだしengage中にやり出す程節操ないわけじゃないから安心して…………ええと、多分」
94 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/16(水) 22:23:41.28 ID:W1WHWUQU0
綾波も軍属の身。このような見た目ですけれど、世の中が美事と正義のみで回っていると思う程純真無垢ではありません。
降って湧いたが如く唐突に現れた、国連特別“海軍”なる組織。それがここまでの事態に対しても明らかな即応性を持っていたことについて、何かしらの“裏”を感じなかった艦娘は殆どいないのではないでしょうか。
寧ろ私としては、この方面に配属されている艦娘達の間で長らく囁かれてきた
『記録上は近隣特派府の軽巡・駆逐艦しか出撃していないはずの方角から何故か超弩級戦艦のものとしか思えない砲声が聞こえる』
という怪談じみた噂話に答えが出たことで幾らかスッキリした思いさえ抱いたぐらいです。
私達に先駆けての【学園艦棲姫】迎撃作戦───“オペレーション・アイアンボトム”に際してはこの組織の艦隊が八頭進提督率いる連合艦隊に加わっていたとのこと。
横須賀司令府や青ヶ島鎮守府の艦隊と肩を並べられるほどの艦娘を容易く捻出できるなら、練度や経験、戦力層も相当なものであると考えてよいでしょう。
(…………そんな組織が、【学園艦棲姫】という尋常ならざる脅威を止めるべく派遣された最精鋭艦隊の一翼を担える組織が、最早艦隊一つの編成すら“寄せ集め”なければならないほど切迫している…と)
6隻一組、所謂「一個艦隊」以下の規模で部隊を編成するにあたっては前線における緊急再編等を除き必ず同一鎮守府所属の艦娘のみで行う────海上自衛隊教本、並びに一般志願提督向けの座学教書ではその最序盤で記される艦隊運用として基礎中の基礎。
対深海凄艦戦闘においては、僅かな連携の乱れが大損害に直結するのだから当然です。
2〜3個艦隊による合同編成、“連隊”ですら鎮守府が跨がれば相当優秀な指揮官(或いは“艦”)が居ない限りは統率に相当な労力を払うもの。構成艦がすべて別鎮守府ともなれば、国連“海軍”の練度を考慮しても歪な編成であることは明白と言えます。
世界“最大”の艦娘保有国が、本来なら近海警備用の予備戦力に過ぎない施設に動員をかけなければならないのと同様に。
世界“最強”と推測される軍事組織もまた、基礎的な艦隊編成すら禄に行えぬほど戦力が摩耗していると言うなら。
この防衛線全体で見れば、その戦況は極めて絶望的なものになりつつあると言えるでしょう。
95 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/16(水) 22:27:51.99 ID:W1WHWUQU0
「にしても冷たいもんだよ提督は、Last Voyageをこんな素敵な連中とさせるんだから。割りと“勝手知ったる”仲だったと思ったんだけどなぁ」
「っ!アトランタ、そんな言い方……」
「いい子ちゃんぶるのはやめてよヒューストン。アンタだって勘づいてるでしょ?この作戦、KAMIKAZE以外の何物でもないって。
ヨコスカ、アオガシマ、そこに“ウチ”から【あの連中】まで加わったAllied Freetを壊滅させるような化け物に、アタシら程度の艦娘を何百隻束にしたって勝ち目はないって」
先に述べた、青ヶ島、横須賀、そして“海軍”鎮守府による連合艦隊は、既に【学園艦棲姫】との交戦で壊滅的な打撃を受け撤退しています。
轟沈した艦こそないものの、かの【巨砲】日向さんや【大腮】龍驤さんを筆頭に、久しぶりに表舞台で姿を露わにした【火ノ嵐】加賀さんや【亡霊】青葉さん等構成する艦娘の顔ぶれは錚々たるモノ。
計4個24隻という数自体は決して潤沢とは言い難いにしても、何れも一騎当千の古強者である事をかんがえれば間違いなく“世界最強”の連合艦隊だったと断言できましょう。
そんな艦隊が。当代屈指の名将と名高い提督が率い、人類戦力による航空・海上支援も潤沢に受けていた“最強の艦隊”が。
ほぼ全隻大破の上で後方にて緊急修理・再編中とあれば、アトランタさんの言動を“軍人としてあるまじきものだ”と咎める権利は、綾波にはありません。
非常に正直に言ってしまえば……綾波も、心の底では同じことを出撃したときからずっと思っていましたから。
「で、今他のフロントラインの味方は何隻沈んだの?50?60?100の大台に乗ったらもしかしたら大本営も退却させてくれるかもって期待しちゃうわね」
「アトランタさん!!」
「アンタにそんな声出せるんだねチョーカイ。でも悪いけど、アタシはJapanの艦娘と違ってテンノーヘーカバンザーイって叫びながら玉砕する趣味はないのよ。なるべくなら生きていたいのに死にに行かされる、こんぐらいの愚痴許されても良くない?」
「軍人として、艦娘としての矜持はないのか!!!」
「軍属や艦娘は生きる権利どころか死にたくないって主張する権利すらないのハツ?ワァオ、全世界の人権活動家連中が泡吹いて倒れる思想ね。メッシホーコーなんて、アタシは真っ平ごめんよ」
第二次フィリピン海防衛線も突破し北上を続ける【学園艦棲姫】と護衛の随伴艦隊に対し、私達東南アジア方面所属の艦娘を中心に実に述べ600を越える前代未聞の大戦力が投入され阻止攻撃作戦が展開されています。
しかし綾波が知る限り、現時点でその内23隻が失われました。
中・大破撤退ではありません。“轟沈”です。その中には、私以外の【綾波】が1隻。
そして……妹の【敷波】も、一人。
96 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/16(水) 22:30:31.58 ID:W1WHWUQU0
(沈んだ【敷波】の所属鎮守府を聞き、“知っている【敷波】”ではなかったことにホッとしてしまった私は、とてもひどい艦娘ですね……)
この4個艦隊相当の損害は、あくまでも“轟沈”を抜き出したもの。大破撤退艦を含めれば1割強、撤退・戦闘継続中を問わず中破艦まで対象を拡げるなら既に損耗は2割近くにまで上ると聞きます。
そしてこの数字さえ、“前線が混乱する中で上がってきた不確実な情報”であり綾波が“一時間ほど前に聞いたもの”でしかありません。正確なところがどうであるか、今はどうなっているのかは解りませんが、これよりもマシである・好転している可能性は限りなく低いでしょう。
(私も正直、死にたくは……ないですねぇ)
理屈では、初月さんの仰ることこそ「正」であると理解できます。艦娘が担う責務は深海棲艦の撃滅と人類の守護、祖国の防衛。それを果たすこと自体に疑問はありませんし、全力で果たしたいとも思います。
しかしそれとは別に死にたくない、生きたいという渇望もまた、明確に綾波の中で渦巻いているのです。
この感情は、アトランタさんが吐露した「本音」に流されただけの気の迷いに過ぎないのでしょうか?
否と断言します。切っ掛けは確かにアトランタさんの言葉でしたが、“火種”は綾波の胸の内で確かに燻っていたのですから。
敷波と、もっとお喋りしたい。
艦娘最強と謳われる日向さんと、一度でいいからお会いしたい。
吹雪とはまだ顔を合わせたことがありません。“艦娘”としての姿を、どんな思いを抱いているのかを直接会って知りたい。
ジョンストンさんは良い方でした、もっと仲良くなりたい。
大東亜戦争より復興・発展した祖国の光景をこの眼に焼き付けたい。
ルソン島泊地の浦風さんが作ってくれたお好み焼きは絶品でした、もう一度……何度でも食べたい。
本土から遠征してきた浦波から聞いたケーキやドーナツの話、美味しそうでした。特にポン・デ・リング、絶対に食べてみたい。
祖国を守護するという任務に、疑問を差し挟むつもりはありません。艦娘として与えられた深海棲艦と戦うという使命を、全うする覚悟はもっています。
しかし其れ等の上でなお「生きたい」と思うのは、艦娘として、“ヒトの形”と共に得た生を「楽しみたい」と思うのは。
綾波のような“兵器”には、過ぎたる望みなのでしょうか。
97 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/16(水) 22:36:19.49 ID:W1WHWUQU0
密かに燻らせていた暗然たる思いがアトランタさんの言によって表出したのは、きっと綾波だけではなかったのでしょう。
この艦隊そのものを押し潰すかのように、重く苦しい空気が辺りを包み込みます。多摩さんも、文月ちゃんも、浜風さんも、私達の艦隊は誰もが暗い影を表情に宿して俯いてしまいました。
「全艦、傾注!!」
それを切り払ったのは、凛として放たれた扶桑さんの声でした。
「各艦隊旗艦は海図を同期、近隣海域で構築されている即席洋上補給拠点の最新情報を取得・共有するように!海図統合完了後、拠点規模に応じて一時艦隊を50km圏内で分散しつつ進軍します。
各空母・航空戦艦、他水偵装備の巡洋艦は偵察機を発艦。海図上の補給拠点が健在であることは事前に必ず確認してください!
拠点確保と補給完了後、指定座標にて再集結を。尚分散に際しては、最低でも一個小隊以上で行動するように。
集結後に後続敵艦隊を捕捉した場合、これを艦隊決戦の末粉砕致します!」
《“海軍”アナンバス鎮守府艦隊、了解!》
《スラバヤ泊地第2艦隊・旗艦高雄、命令を受諾しました!》
《ワイゲオ島泊地第1艦隊祥鳳、了解です!彩雲隊発艦、警戒を厳に!》
《国連“海軍”、マノクワリ鎮守府所属の長門だ。指示を確認、これより艦隊編成を行う》
「け、軽巡洋艦・多摩、命令を受諾したにゃ!」
「Air Craft Career-Hornet, Copy.
………さ、行くわよアトランタ」
「……………ハァ。Alright, Flag」
一連のやり取りを知らない、アトランタさんの言葉を耳にしていない両翼艦隊からは次々と意気軒昂な返答が届きます。また、何の脈絡もなく唐突に「本題」が再開されたことで、綾波達もまた否応なしに戦場へと引き戻されました。
(…………扶桑さんは、怖くはないのでしょうか)
急激で脈絡のない話題の転換は、何かしら長々と励ましや檄を飛ばすより余程迅速に綾波達の空気を切り替えてしまいました。その判断は、相変わらず的確そのものです。
ですが、彼女自身は何故あっさりと切り替えられたのでしょう。これほど聡明ならば、気づいているはずなのに。
私達は時間稼ぎのための“盾”に近い存在だと。この艦隊が、“玉砕”をある程度前提として編成されたものであると。アトランタさんに言われるまでもなく、扶桑さんなら理解できているはず。
にも関わらず、所作にも表情にも、動揺や恐怖は微塵も見られません。
【沈黙者】の忌み名を体現するかのように、彼女は黙して冷静な眼で水平線の彼方を見つめています。
その卓越した知略を以て策を既に練り上げ、“活路”を見出しているが故の冷静さなのか。
或いは知略に長じるからこそ既にこれを“死地”と悟り、その上で自らの使命に殉じる覚悟を定めたが故の諦観からくるものなのか。
(……………どうか。どうか、前者でありますように)
そんな、艦娘にあるまじき他力本願で身勝手な願いを胸の内で呟きつつ、他の皆さんに続いて私も機関を再始動させます。
ミ,,#゚ ゚彡《Spearチーム、全機続け!!》
《Rapter-01 for All unit, Follow me!!!》
夕闇に包まれつつある上空を、F-14JとF-22の編隊が凄まじい速度で飛び去っていきました。
98 :
以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします
[sage]:2022/11/17(木) 02:41:55.12 ID:9tzTYWVS0
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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99 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2022/11/17(木) 14:32:20.74 ID:iCKpNwBe0
投下乙です
ちょっと気を抜くと悲壮感が出てしまう
そんななかフサギコさんが普段通りで安心しますね
100 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2022/11/23(水) 23:16:40.53 ID:Yl0NhHA/0
.
私達が飛び立った、【ロナルド・レーガン】。
他のイージス艦と共に艦対空ミサイルを上空に放ちつつ、“基地航空隊”を間断なく発艦させていく【こんごう】。
低空飛行で接近してきていたところに、殺到してきたシースパローミサイルによって焼き払われる深海棲艦の艦載機隊。
どうやら戦闘を終えた直後と思われる、父島鎮守府を主力とした艦娘の大艦隊。
恐らくその戦闘の相手だったであろう、いかにも敗走中ですといった体でぐちゃぐちゃの陣形のまま来た道を戻る深海棲艦の連中。
それと入れ替わる形で、此方に向かってきているより大きな規模の敵艦隊。
下方を流れていった一連の光景は、それぞれ間に相応の距離が横たわっている。数キロ〜十数km、遠いと五十km前後にはなっただろう。
その全てが、一瞬で音と共に後方へ置き去られていく。
時速2485km/h。マッハにして約2.01。
第四世代の艦上戦闘機・F-14J【トムキャット】が出しうる最高速度にかかれば、150kmになるかどうかの空間なんてほんの数分で渡り切ってしまう“短距離”だ。
|w;´‐ ‐ノv(ぬ………ぐぅ…………!)
畜生、全身が悲鳴を上げてやがる。私だけじゃなく、F-14Jの機体も。
超音速飛行の長時間継続────所謂“スーパークルーズ”に本来対応していない機種でやるには、暴挙に等しい開幕からの全速前進。当然、機体への負荷は非常に大きい。最前線の上空で空中分解なんて、助かる見込みはまず皆無だ。
それでも、私は速度を緩めない。エンジンをフル回転させ、速度計器の針を目いっぱいのところに抑えつけ、襲い来るGの苦痛と海原に突然投げ出されるかもしれない恐怖を歯を食いしばって耐えながら前へと進む。
《Enemy contact!!》
何のことはない。
《【Black Bird】 incoming!! Allrange, Allrange!!》
《Damn,Over 60!!!》
ミ,,;゚ ゚彡《Don't stop!! All unit, keep speed and potion!!》
速度を緩めれば、どのみち私“達”は死ぬのだ。
101 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/23(水) 23:18:47.56 ID:Yl0NhHA/0
北欧戦線から深海棲艦が投入し始めた新型の制空戦闘機、【黒鳥】。私ら人類が扱う第4、第5世代戦闘機とほぼ同等の速力を出せる上に、その最高速を維持したまま旋回してくるという化け物じみた性能の持ち主。
こっちの数は、米軍のF-22も併せて8個編隊32機。性能面がボロ負けで数量面でもダブルスコアときたら、ほんの少しでも足を止めれば瞬く間に“食われる”だろう。
《Enemy Lock, Enemy Lock, Zulu-09 FOX-3!!》
£#°ゞ°)《Knight-01 FOX-3!!》
《Glasgow-10, FOX-3》
【回転木馬】を維持している後方の連合空軍主力から、【黒鳥】の跳梁跋扈を阻止すべく次々と空対空ミサイルが飛来する。が、さっきの第二次防衛ライン崩壊に際して膨大な損害を被ったことと前線が広域化して各方面に戦力が分散したことが重なり、投射される火力の量は先程と比べ大幅に減少している。
『『────!!!』』
《No, No!!!?》
《Damn………》
十何機かがミサイルによって撃墜され、残る大半は回避のためにこちらへの突撃を断念した。だけどミサイル群をくぐり抜けた数機が、編隊の横っ腹に食らいつく。
悲鳴と悪態をそれぞれ残し、レーダー上から友軍機の反応が二つ消えた。
それでも───胸糞の悪い勘定だけど、犠牲が二機で「済んだ」なら御の字だ。
《Rapter-10 and 13 down!!》
ミ,,;゚ ゚彡《Keep, Keep!! Don't stop!!》
|w;´‐ ‐ノv「─────っっっ!!!」
速度が“互角”であるなら、一度距離を取れば直線で追いつかれる可能性は低い。向こうの兵装は現状確認されている限り九九式二〇粍機銃に相当する性能の機関砲二門のみ、一度距離さえ離してしまえば向こうの射程はこっちの背中を捉えられなくなる。
故にこそ、Raptorから出た“尊い犠牲”を無駄にしない。撃墜機の破片や爆風を回避するために追撃が鈍った隙を突き、そのまま連中を一気に振り切る。
《Shamrock-01, FOX-3!!》
《Rapier-04, FOX-3!!》
『『『─────ッ!!!』』』
距離が開いたことに加えて【回転木馬】による第二次掃射も始まっては、そりゃあ追撃なんてできやしないだろう。私達を追ってきていた【黒鳥】の反応が、次々と踵を返していく。
102 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/23(水) 23:23:20.55 ID:Yl0NhHA/0
一難去ってまた一難。世界中の制空権を脅かす化け物機体から逃れたはいいが、“危機”自体はこの後にまだ控えている。
そのまま60km………時間にして1分ちょっと程も飛行を続ければ、次なる“難”が───
『『『ォアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』』』
《Enemy AAF incoming!!》
───深海棲艦共の対空砲火がお出迎えだ。
《Fuck, So hard!!》
《How many!? They're fill the ocean!!》
《Break!! Break!! Break!!》
光景を眼にしたRapterチームが、狂乱状態で無線をやり取りしている。そういや連中はまだこの戦線に到達したばかりだったね。
当初報告された“推定1500隻超”の時点で大いにイカれた物量なのに、
『【学園艦棲姫】から新たに排出された分と戦線再構築の間に近隣海域から続々と集結した分で、更にその二倍強まで膨れ上がった極大艦隊』
による未曾有の超火線展開だ。発狂したやつが1人も居なかっただけ大したもんさ。
なんせかれこれ三往復目の私でさえ、未だに喉から朝飯のよく消化されたササニシキがコンニチワしかけるぐらいだぜ?
ミ,,;゚ ゚彡《Dive to Fireworks!!》
それでも、初見の奴らと比較すりゃまだ私達【Spear】隊は肝が座っている。富佐隊長が叫んだ、どこぞの世界線で自機の片翼を赤く塗った妖精が口にしてそうなセリフに合わせて、改めてフットペダルを強く踏み込む。
『『『グォオオオオオオオオンッ!!!!!』』』
射程圏に踏み込んだ途端、ただでさえ分厚く熾烈だった対空弾幕は更にその激しさを増す。実は私は死んでて、ここは今灼熱地獄ですって言われたら信じちまいそうだ。
まぁ、“アイツ”を残して死ぬわけにはいかないので御免被るが。
|w#´‐ ‐ノv「しっかり捕まってろよ!!」
「りょ───う、っかい!!」
後部座席の観測員君に声をかけ、操縦桿を傾ける。
向こうの火線は確かに濃密だが、流石にこのイカれた、そして集まったたばかりの物量を一つの指揮系統で完全に統一できているわけじゃないらしい。弾幕の密度や発射間隔が一定ではなく、“ムラ”や“隙間”は微かだが確実に存在する。
|w#´‐ ‐ノv「鬼さんこちら、っとくらぁ!!」
それらを脳内で一本の線に繋ぎ、そこを通過するべく最高速で只中に飛び込む。
え?巡航速度の方が小回りが利くって?バカ言うでねぇよ、その個別に分狙われる、軌道が読まれる可能性が上がって寧ろマイナスじゃい。
どんな速度であれ被弾のリスクは免れないなら、向こうに“とにかく弾幕を張り巡らせる”以外の対処法を許さない最高速での突撃が結局最適解ってワケだ。
『『『ヴォオオオオオオオオオオッ!!!!!』』』
《No, No No N……》
《Rapter-11 Lost!!》
《Shit, I'm hit!!》
さっき富佐隊長はこの弾幕に飛び込むことを“花火の中”と表現したが、真夏の隅田川や某夢の国の年末だってこれの激しさと比較したら泣いて土下座するに違いない。
新たな犠牲を知らせる無線からの悲鳴や爆発音をBGMに、獲物を狙う蛇のような軌道で予め目星をつけておいた火線の“隙間”をすり抜けていく。
103 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/23(水) 23:26:07.68 ID:Yl0NhHA/0
『ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ン゛……………』
機械の起動音とも、汽笛とも、呻き声・唸り声とも区別がつかない、他の深海棲艦が発するものと比べてやや異質な重低音を【要塞】が発する。聞き方次第ではどこか間抜けなものにすら思えるソレの響きとは裏腹に、こっちに飛んでくる弾幕にはこれっぽっちの容赦も見られない。
量だけで言えば、【学園艦棲姫】が甲板上や両舷に展開している対空艤装からの砲火を含めても尚随伴艦隊のそれには及ばない。
だが、指揮系統が一個体で集約・完結できている為か、密度と統率においてはこちらの方が遥かに上だ。幻想の郷を舞台にした某弾幕ゲーのごとく【要塞】から広がる火線には隙間らしい隙間が殆ど無く、この中に飛び込むことは正直「危険」を通り越して「自殺行為」に等しく思えた。
|w#;´‐ ‐ノv「ッッッドラァクソがぁっっっ!!!」
「うぶぉ…………」
それでも私は、後部座席でくぐもった悲鳴が聞こえるのも構わず強引に弾幕の中へF-14Jを突っ込ませる。火事場の馬鹿力ってのはどうやら実在するらしく、有りもしない隙を血眼で探し当て無理やり繋いだ「路」を通り抜け、なんとか【要塞】の表面を射程圏に捉える。
《Damn………Sorry, I'm seced!!》
《I can't attack!! Retreat, retreat!!》
《This is Spear-08, I'm retreat……》
無論、自分で言うのもアレだがここまで辿り着くのさえ並みのヒコーキ乗りにゃ至難の業だ。
大半は圧倒的な砲火の前に付け入る隙を見い出せず空域からの離脱を余儀なくされ、残余27機の内突入できたのは私の他に富佐隊長とRaptor隊の隊長、各隊からそれぞれあと2機ずつと2個編隊にすら満たない。
《I'm hit………………いや、やだ!いやぁあああああああ─────》
その内1機の反応が、砲火に捕らえられてレーダーから消える。
………聴こえてきた被弾報告は、爆発音に掻き消された断末魔は、酷く聞き覚えのあるものだった。
だが、そのことに気を取られれば、次に“そうなる”のは私だ。意識から強引に締め出し、操縦桿を握る手に全神経を集中する。
|w#;´‐ ‐ノv「In gun range!! Spear-03 FOX-2!!」
ミ,,;゚ ゚彡《Spear-01 FOX-2!!》
《Target insight, Rapter-01 FOX-2 FOX-2》
《Rapter-16 FOX-2!!》
104 :
>>103ミス
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/23(水) 23:31:45.68 ID:Yl0NhHA/0
恋愛から甘酸っぱさを抜いてスリルショックサスペンスの濃度を500倍ぐらいにした十数秒。それが終わり超対空弾幕空域を抜ければ、そこには【学園艦棲姫】の横っ面が………とは、残念ながらならない。
『──────……………』
代わりに眼前に現れるのは、無数の爆光によって照らし出されて夕闇に浮かぶ、バカでかい“球”。
そしてその表面からあらゆる方向に伸ばされる、周辺の随伴艦隊に勝るとも劣らない分厚さの新たな弾幕だ。
《【Fortress】 awaken!!》
ミ,,;゚ ゚彡《Break, Break!! Attak of Allrenge!!》
深海棲艦で現在確認されている個体の一つ、【浮遊要塞】。
姫級や鬼級が周囲に随伴させているケースが非常に多い艦種(?)で、形状は艦載機の【オニビ】から耳と翼を取っ払ったような………まぁ端的に言うと球体だ。“船体殻”こそ身にまとっていないものの、甲殻それ自体の硬度は他の非ヒト型と比較して飛び抜けており、ミサイルや砲弾が一〜二発直撃した程度では大破にすら持ち込めないと聞く。
大きさは対象的に1.5mから最大でも2.5m程度だが、連中はほぼ確実に纏めて4〜5隻は現れる上にロボットアニメで言うところの“ファンネル”のような戦闘スタイルを取る。
その為、周囲を飛び回る【浮遊要塞】に本命への攻撃を遮られて歯噛みする艦娘や鎮守府関係者は後を絶たないのだとか。しかも連中自体も重巡と同程度の火力を持っているというのだから、尚更厄介極まりない。
………そう。実際に相対したことこそなかったが、私が知る限り【浮遊要塞】──或いは上位種である【護衛要塞】──の大きさは、デカくても2.5m。まぁ小さいとは言わないが、従来の非ヒト型と比較した場合通常種から見ても1/2程度にしかならない筈。
じゃあ眼前の“コイツら”は、なんだ。
銀を基調としつつやや錆びついたように薄っすらと赤みがかった体色、丁度中央部にある武装等を格納・展開するための開閉部、“姫級”の周りを漂う球体………何れも、全て以前資料で眼に通した【浮遊要塞】の特徴と一致する。
だが私が覚えている限り、資料上で“直径が実は推定300mである”とはどこにも書かれていなかったし、
『───────ン゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ン゛』
武装は開閉部に格納されている分のみで、体表に全域を覆い尽くすほどびっしりと対空・対艦火器が生えているなんて記述もなかった筈だ。
105 :
>>103ミス
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/23(水) 23:35:02.23 ID:Yl0NhHA/0
『ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ン゛……………』
機械の起動音とも、汽笛とも、呻き声・唸り声とも区別がつかない、他の深海棲艦が発するものと比べてやや異質な重低音を【要塞】が発する。聞き方次第ではどこか間抜けなものにすら思えるソレの響きとは裏腹に、こっちに飛んでくる弾幕にはこれっぽっちの容赦も見られない。
量だけで言えば、【学園艦棲姫】が甲板上や両舷に展開している対空艤装からの砲火を含めても尚随伴艦隊のそれには及ばない。
だが、指揮系統が一個体で集約・完結できている為か、密度と統率においてはこちらの方が遥かに上だ。幻想の郷を舞台にした某弾幕ゲーのごとく【要塞】から広がる火線には隙間らしい隙間が殆ど無く、この中に飛び込むことは正直「危険」を通り越して「自殺行為」に等しく思えた。
|w#;´‐ ‐ノv「ッッッドラァクソがぁっっっ!!!」
「うぶぉ…………」
それでも私は、後部座席でくぐもった悲鳴が聞こえるのも構わず強引に弾幕の中へF-14Jを突っ込ませる。火事場の馬鹿力ってのはどうやら実在するらしく、有りもしない隙を血眼で探し当て無理やり繋いだ「路」を通り抜け、なんとか【要塞】の表面を射程圏に捉える。
《Damn………Sorry, I'm seced!!》
《I can't attack!! Retreat, retreat!!》
《This is Spear-08, I'm retreat……》
無論、自分で言うのもアレだがここまで辿り着くのさえ並みのヒコーキ乗りにゃ至難の業だ。
大半は圧倒的な砲火の前に付け入る隙を見い出せず空域からの離脱を余儀なくされ、残余27機の内突入できたのは私の他に富佐隊長とRaptor隊の隊長、各隊からそれぞれあと2機ずつと2個編隊にすら満たない。
《I'm hit………………いや、やだ!いやぁあああああああ─────》
その内1機の反応が、砲火に捕らえられてレーダーから消える。
………聴こえてきた被弾報告は、爆発音に掻き消された断末魔は、酷く聞き覚えのあるものだった。
だが、そのことに気を取られれば、次に“そうなる”のは私だ。意識から強引に締め出し、操縦桿を握る手に全神経を集中する。
|w#;´‐ ‐ノv「In gun range!! Spear-03 FOX-2!!」
ミ,,;゚ ゚彡《Spear-01 FOX-2!!》
《Target insight, Rapter-01 FOX-2 FOX-2》
《Rapter-16 FOX-2!!》
106 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/23(水) 23:39:23.90 ID:Yl0NhHA/0
ミサイルさえ撃ち落とされるほど圧倒的な密度の弾幕も、“懐”を取ってしまえば流石に射線転換が間に合わない。必死に狙いを合わせてくる高角砲や機銃座の抵抗を置き去りにし、AIM7-スパローが炸裂する。
【浮遊要塞】の表皮硬度がミサイルや砲弾を容易に通さないレベルであるというのは先程紹介した通りだが、照準変更や弾薬装填で多数の可動部を持たなければならない兼ね合いか“超大型”の表層に密集している艤装群についてはその限りではない。着弾箇所周辺で、幾つかの銃口・砲口が爆炎に吹き飛ばされた。
それが一気に6箇所で発生し、火線に空いた“穴”を埋めるためか一瞬【浮遊要塞】からの弾幕が緩む。その隙に改めて加速し、一気に上方へ、そして対空砲火の射程圏外へと離脱していく。
《突入チーム、残余全機の離脱を確認!》
《敵対空砲火此方を指向せず!後方より【黒鳥】による追撃なし!!》
ミ,,;゚ ゚彡《全機再集結、編隊組成を急げ!全周警戒を怠るな、【要塞】からの追撃はなかったが他の海域から呼び寄せて来た【黒鳥】が来る可能性もある!!》
富佐隊長の指示に従って、続々と合流した【Spear】と【Rapter】が素早く陣形を組み直しにかかる。
ミ,,;゚ ゚彡《All unit, report!! How many down!?》
《Rapter-01 for Spear-01, I report.
Rapter team, 03, 06, 10, 11, 13 is Lost. Spear team, 14 Lost.
End report》
嗚呼、嗚呼。やっぱりそうか。
スピアー編隊14番機。あの声は、あの悲鳴は、澄華のヤツだったか。
|w´‐ ‐ノv(ヒト様の想い人にあんな口聞くからだろ、馬鹿野郎め)
107 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/23(水) 23:43:36.62 ID:Yl0NhHA/0
板橋澄華、航空自衛隊3等空尉で私と同い年。本人は「澄んだ華、まさに自分に相応しい名前だ」なんていつもふんぞり返っていたけど、私は聞く度に板橋区に住んでそうだなって感想しか浮かばなかった。
まぁ実際見てくれは中の上〜上の下程度だった一方で、容姿が派手なやつの宿命か異性関係じゃ度々よろしくない噂も立ってたな。
ブーンの写真を見せた時に「えー、意外といい男じゃん!私も狙おうかしら♡」とかカマしてきた辺り、強ちただの理不尽・偏見ってワケでもないだろう。
:: |w´ ノv ::(…………バカ、野郎、が!!)
それでも、悪いやつじゃなかった。
奴さんには中学ぐらいから付き合ってる男が1人いて、実のところソイツにゾッコンであることを知っている。
まぁ上記のセリフを吐いた時は顔面におにぎりを一つくれてやったが、こっちが本気で怒ってると解ると自分がやり返された事は全く顧みず涙目で謝ってくるような奴だったと知っている。
ゾッコンな彼氏くんについて指摘してやると、「そんなんじゃないし!!」と否定しつつ満更でもない笑顔を浮かべるようなあざとかわいい女だと知っている。
色目使って空自に籍をおいているなんて陰口叩かれてもどこ吹く風で、擦り切れるほど使い古した訓練生時代のノートを今でも隙あらば読み返す努力家だったと知っている。
こっちが奴さんより上の階級に昇格しても、「アンタの腕前なら安心して命を預けられるからとっとと佐官になってくれ」と屈託なく笑ってくれる奴だったと知っている。
こっちがブーンの事で悩んだり落ち込んだりしていた時に、「そんな隙見せてたら、他の女に取られるぞ!アタシとか!」なんて軽口叩きながら背中を押してくれる奴だったと知っている。
少なくとも、こんなところで死んでいい女じゃなかった。
骨一つ残らず、幼馴染の恋人の名前を叫ぶ暇もなく、またその顔を見ることも叶わずに殺されるような悪い女じゃあなかったんだ。
108 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/24(木) 00:54:45.73 ID:ppnt4kDF0
ミ,,゚ ゚彡《………Thanks》
やはり、澄華の死に思うところはあったのだろう。Rapter隊から“レポート”を聞き終えた富佐隊長の返答にも、幾分かの間があった。
何時も富佐隊長、富佐隊長っつって滅茶苦茶人懐っこいトイプードルみたいにくっついて回ってたもんな。アレも一部の連中から色目だの枕だの言われてたっけ。
富佐隊長は富佐隊長で「ワイルドな魅力がある」とかでそれなりに競争率が高いせいだろうけど……ソイツらが澄華みたいに“F-14Jの運用法について徹夜で富佐隊長と語り明かせる”ほど勉強してない限り、色目呼ばわりは嫉妬乙としか言えねえな。
ミ,,゚ ゚彡《All unit, Keep position. We'll retreat the Aircraft-Carrier》
《Rapter-01, Roger》
《Rapter-02, Roger》
《Spear-02, Yes Sargent》
|w´‐ ‐ノv《………Spear-03, Roger that》
それでも、実質的に2つの編隊を統率する身である以上、個人的な感傷で「死」に対する反応を変えるワケにはいかない。
Raptor側で落とされた5機のパイロット達だって家族や恋人や親友がいただろう。澄華と同じで、“ここで死んでいい”奴なんて存在しない。そうした面を配慮して、声の一つも震えさせず指示を出せる富佐さんはまさに自衛官の鑑ってやつだろう。
|w;´ ノv「……………………!」
ああ、そうだ。「死」はいつだって私達の隣りにある。人種も、職業も、年齢も、性別も、抱いている思いや決意も、何もかも考慮せず。究極的平等主義者の死神野郎は気紛れで命を刈り取っていく。
澄華は、こんなところで死んでいいやつじゃなかった。Raptorチームの五人だってそれは同じだ。それでも死んだ。ならば「次」が、私じゃない保証はどこにある?
ブーンの為に死にたくない。アイツを助けるため、アイツの「空」を守るために生きたい。誰のどんな想いにも負けないぐらい、私もまたそう強く強く想っている。
それでも、F-14Jの真下で高射砲の弾丸が炸裂すれば、何ら映画的な奇跡が起こるわけでもなく私は死ぬだろう。また突入を仕掛けた時に、そうならないと何故言える。
終わりが見えているならいい。だが実際には、6機もの犠牲を払って4つある【要塞】の内1つの、ほんの一部分の艤装を削っただけに過ぎない。随伴の深海棲艦は寧ろ交戦当初より増え、食い止めようと投入される艦娘艦隊には轟沈者も出始めている。
よしんばこれらを死物狂いで薙ぎ払っても、その向こう側にいる【学園艦棲姫】は世界最強の艦娘艦隊の総攻撃にMOABまで上乗せして尚未だ小破しかさせられていない。
あと何回、アレを繰り返せば私達は勝てる?あと何発、ミサイルを撃てば【学園艦棲姫】は沈む?
あと何回、私たちは生き残り続ければいい?
|w;´ ノv(こいつを、沈める………ブーンを………助ける………)
営倉を出され、【かが】を飛び立った時から、ずっと胸の内で繰り返し続けてきた言葉。絶対にやり遂げてみせると、胸に刻み続けてきた決意。
それが少しずつ、空虚で淀んだ響きになりつつあることを、私は認めざるを得なかった。
109 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2022/11/24(木) 11:55:29.48 ID:FsIwIl8T0
更新おつです
さぁ、盛り下がってまいりました(戦意が)
逆転劇は一度すべてを諦めてからが本番ですよね
110 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2022/11/25(金) 22:37:30.81 ID:6zQ8/6i00
.
「Spear-01より入電、【Fortress】への攻撃を完了も与えたダメージは極めて軽微とのこと!Rapterと併せて損失は6機、着艦・補給要請が届いています!」
「そのまま【チェスター・ニミッツ】へ着艦誘導!ニミッツ側には超特急で整備とミサイル補充を終えるよう指示を!!
クソッタレ、マーシャル方面の戦況確認も急げ!!余裕があるようならクワンジェリンから余りの基地航空隊を根刮ぎこっちに引っ張ってこい!!」
「【セオドア・ルーズベルト】より入電!第9空母打撃群、周辺の深海棲艦掃討を完了!これより当方に合流するとのこと!」
「丁度ベトナム空軍が2個編隊迷子になってるぞ、発艦する部隊と入れ替わりですぐに収容させろ!」
「【学園艦棲姫】並びに随伴艦隊の航行速度、低速状況を継続!各航空隊、遅滞戦術を維持せよ!」
「【ロナルド・レーガン】CICより【Shark Head】, 防空ラインの後退は許可できない。【回転木馬】を死守し【Black Bird】を引き続き食い止めてくれ………おい、ハワイの空軍州兵動員の件はどうなった!?本格的にフロントラインの損耗が看過不可能な段階になりつつあるぞ!!」
「既に州知事は同意しましたがここまでの距離を考えてください、F-16を常時最高速でぶっ飛ばしても単純計算で4時間かかるんですよ!?
補給や休養を考えれば最速でも戦線への合流は10時間後です!」
「【Fortress】への巡航ミサイル群による第三次飽和攻撃、失敗!全基撃墜されました、敵迎撃能力未だ健在!」
「グアム島第43基地航空隊、前線に到達。敵艦載機群と交戦開始」
「ASEAN各国政府より返答あり、海上戦力の投入は南沙諸島における人民解放海軍の動向から拒否された。繰り返す、ASEANは艦隊戦力の動員を拒否」
「ビスマルク海にて深海棲艦の出現を確認、総戦力15個艦隊強!現在カビエン、ラマ両鎮守府が迎撃中、同方面よりの戦力抽出は現時点では不可能です!」
《Wyvern teamが間もなく着艦する。整備士各位、補給と応急修繕の準備を怠るな》
(*^○^*)「アラスカ州が空軍州兵と鎮守府艦隊の投入を拒否した?」
「……………はっ」
怒号じみた報告の声と電子音がひっきりなしに飛び交い、これに定期的に流れる艦内放送も合わさってまさに“喧騒の坩堝”と呼んで差し支えないCIC。
そんな中にあっても、ポージー=ハメルスが発した疑問の声は、直立不動で彼の前に立つ士官の耳朶にしっかりと届いた。
別にポージーは、激高し声を荒らげたワケじゃない。寧ろ陽気であっけらかんとした言動が多い彼にしては、落ち着いた静かな声色での問い質しだ。
だが、細められた眼の奥で、両の瞳に宿る酷く冷たい光。
柔和で朗らかな、一見いつも通りの微笑みの中に紛れる明らかに異質な輝きを前に、士官──アメリカ海軍大尉・ガルシア=ポンセの聴覚は自然と極限まで研ぎ澄まされていた。
111 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/25(金) 22:39:54.30 ID:6zQ8/6i00
(*^○^*)「理由は?」
「…………ギルゼン=コールマン州知事は、ベーリング海に出現した深海棲艦に対応するため、と」
(*^○^*)「例の【防共協定】はベーリング海並びにアラスカ全域を対象としている。既に日露それぞれの鎮守府が艦娘部隊と基地航空隊を派遣して海域全体の掃討・索敵を開始しているはずだけど?」
あくまで平坦な、ただ“疑問を口にしている”に過ぎないポージーの口調。だが、烈火のごとく怒り今にも罵声を吐く寸前の上官に相対している時よりも、遥かに大きな「圧」がポンセの首を締め上げる。
「州知事曰く、“広大な海域故【不測の事態】に対応し得る予備戦力を残存させておきたい”とのことで」
(*^○^*)「ワイオミング州、ノースダコタ州、ネブラスカ州、これらの州軍による増援部隊はもう到着してる筈だよね?何のために【カーヴィル・ドクトリン】があると?」
口調は変わらずも、「圧」は更に増した。少なくとも、笑みの裏に隠された明確で激烈な怒りの影を感じ取れる程度には。
無論その怒りはポンセに向けられたものではないが、彼は自身が叱責されているがごとく生唾を飲み込む。
「お怒りは、至極御尤もです」
辛うじて絞り出した一言は、自分でも情けなくなるほどか細く、そして言い訳じみたものであった。ただポンセ自身の名誉のために添えるなら、これ自体は彼の非常に素直で正直な心情ではある。
ベルリン陥落の直前に結ばれていた、アメリカ・日本・ロシアの3ヶ国による対深海棲艦相互防共協定。
その内容は【オペレーション・オリョール】という“下地”の存在もあって極めて強固かつ具体的な防衛戦略要項となっているが、分けても綿密に練られていたのはベーリング海の防衛計画に関するものだった。
アラスカ州は成立に至る経緯もあってアメリカ本土から切り離されており、ベーリング海で再び大規模な攻勢が行われた際に沿岸防備が難しい。その為“有事”に際しては海上自衛隊が千島列島方面から、ロシア軍がカムチャッカ半島方面からこれを側面支援する形で展開し、ベーリング海全域の掃海・機動防御を行う手筈となっている。
一方でアラスカ州軍……取り分け空軍に関しては、「三軍全体での遊撃的予備戦力」と定義され、「作戦海域外の他方面において“有事”が発生した場合を含めたあらゆる事態に対して出撃する」ことが取り決められた。
要は、日本とロシアが──ベーリング海の制海権が彼らの安全保障にも直結するからこそとはいえ──自国防衛の戦力を割いてまで手厚くアラスカ州の守護を肩代わりする分、同州の航空戦力を両国で起きた“不測の事態”に対する予備戦力として扱うことを協定上で許可しているわけだ。
112 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/25(金) 22:43:59.63 ID:6zQ8/6i00
実際のところ、人類が保有する航空戦力の重要度は対深海棲艦戦闘においても低くはない。青ヶ島、ベルリン、ムルマンスクといった直近の大規模戦闘において上がった数々の戦果から、寧ろ増している面さえある。
だが、別段“替えが効かない”という程ではない。条件が揃った際に「極めて大きく一方的な戦果を得られる」という点は稀有ではあるが、あくまで“殲滅”に拘った場合の話。防衛・撃退に主眼を置いた場合基地航空隊や艦娘の艦載機で十分以上に対応は可能だ。
今回のケースでは、ベーリング海防衛に際し“潤沢”な戦力と言えるかはまだ解らないにしても、千島列島・北方四島には空自・海自に配備された膨大な基地航空隊が存在する。艦娘も練度が十分な分だけでも述べ20個艦隊前後を動員できる。
カムチャッカ半島からもロシア軍保有の基地航空隊に加えて“海軍”鎮守府が投入可能であり、完璧に防ぎきれるかは敵の規模次第にしろ少なくとも瞬時に制海権が奪取され上陸まで漕ぎ着けられることはほぼ有り得ない。
先に述べた【防共協定】の要項においてアラスカ州空軍の運用に対する“距離”の制約は存在しない。そして【学園艦棲姫】は、日露のみならずアメリカにも直接的な脅威となる。
また州知事が主張する“不測の事態”だが、まさしくそれに対応するため【カーヴィル・ドクトリン】────協定締結に際して立案された、新たな米本土防衛政策がある。
内容それ自体は
『深海棲艦関連の“有事”に際してそれが米国本土に脅威をもたらす時、内陸州の州軍や所属艦娘を沿岸州に派遣し防衛を強化する』
という言ってしまえば単純なものに過ぎないが、制定にあたりトソン大統領はドクトリン発動の「追認」を許可している。
これにより各州軍は深海棲艦の近隣海域出現と同時に発動指示を事実上“既に受けている”という体を取り、合衆国連邦軍指揮系統への正式な編入を待たずに各個の判断で即時行動を開始できる。
上げられた3州は何れもベーリング海方面で“要項”が満たされた時にアラスカ州への派兵が定められているため、【ドクトリン】に基づくならポージーの言う通り既に戦力移動が終わっておりアラスカ州空軍は事実上フリーに近い位置づけの筈だ。
つまり、今回のアラスカ州知事の判断はケチや臆病といった次元の話ではなく、純粋な“協定違反”と見做されかねない。
戦力面、戦術面、戦略面の何れから鑑みてもこの空軍州兵温存に正当性がない以上、少なくとも日米両国からすればそうとしか取りようはないだろう。
(*^○^*)「既に正式な“大統領令”も出たんだ。なら州兵の指揮権は【カーヴィル・ドクトリン】関係なしに連邦軍総司令部に帰属するはずだけど」
「州軍司令部は、“空軍の長駆派兵が作戦として適切であるか、またベーリング海における深海棲艦の浮上規模が【協定】発動に適切であるかを現在注視確認している最中だ”と回答を寄越しています」
(*^○^*)「ふぅん」
113 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/25(金) 22:48:34.33 ID:6zQ8/6i00
作戦に重大な支障を来しかねない事態に対する反応としてはあまりにも軽い、いっそ不真面目にさえ聞こえてしまう相槌。
しかしポンセは、ポージーの声が北極海に浮かぶ氷のように冷え切っていることを肌で感じとった。
(*^○^*)「これ」
「は?これは一体………」
(*^○^*)「コールマン州知事のスキャンダルデータ集」
数秒の沈黙の後、ポージーが無造作に投げ渡してきたのはUSBメモリ一つ。すぐに続けられた言葉によって、幸い疑問は殆ど間を置かずに解消された。
尤も混乱の度合いは、寧ろ聞く前より大きくなったが。
(*^○^*)「贈賄、不倫、不倫相手親族への州議会における便宜融通、大手建築会社との癒着、息子の薬物所持のもみ消し………不正・スキャンダルのコンプリート目指してたの?って聞きたくなるぐらい選り取り見取りなんだ。これをすぐに解凍・リストアップしてコールマンに送るんだ、これだけ熱心に“説得”すれば多分次は二つ返事で空軍を送ってくれるんだ。
あ、因みにこの大手建築会社、国外から不自然な資金流入があるんだ。その辺りのデータは別枠でまとめてあるからCIAとFBIの方に送っといて欲しいんだ」
「えっ、はっ、あの………はぁ!?」
(*^○^*)「ハイ、時間ない!すぐにかかる!!駆け足!!!」
「イ、Yes sir!!」
目を白黒させながら強引にCICの外へと送り出されたポンセと、入れ替わる形で男が1人入ってくる。彼──ジェイムズ=ウィーランド中将は走り去るポンセの背中を一瞥すると、何が起きたのか概ね察して帽子を目深く被りながらポージーの方を向き苦笑いを浮かべた。
「どうやら“大損”をされたようですな、閣下」
_, ,_
(*^○^*)「全く持ってその通りさ、“親父”」
問いかけに応じつつ、ポージーは椅子に座り直し深く深くため息をつく。
笑顔をデフォルト設定しているなんて揶揄されるようなこの在日米軍司令官にしては珍しいことに、その眉間には深い皺が刻まれていた。
114 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/11/25(金) 22:52:37.10 ID:6zQ8/6i00
ポージーも決して若い身ではないが、ウィーランドは更にその歳を10近く上回り還暦を目前に控えている。だが、肩を並べて長年対深海棲艦の最前線に経ち続けてきた二人の間には、年齢や階級を超えた確かな友情が存在した。
故にポージーは親しみと敬意、そして彼の年齢を加味しても些か異様な落ち着きぶりへのささやかな誂いを込めて、彼を“親父”と呼ぶ。
そしてウィーランドは、ポージーがオフではなく公務の場で自分を“親父”と呼ぶ時は、彼が周囲に対して取り繕う余裕を失いつつあるのだと長年の経験で知っている。
(*^○^*)「コールマンは合衆国民並びにアラスカ州民にとっては史上最低クラスのクソッタレ野郎だけど、僕にとっちゃあこの上なく“やりやすかった”。
泳がされてるとも知らず寄ってくる利権を暢気に片っ端からつまみ食いし、結果奴は【誘蛾灯】になっていた。調査する度に新しい“スポンサー”がくっついてるもんだから、正直こっちが罠にかかってるんじゃないかと疑ったぐらいだけどね」
「まぁ、C.I.AやF.B.Iならいざ知らずまさか在日米軍がわざわざアラスカの州知事に身辺調査を仕掛けているとは思わなかったのもあるでしょうな」
(*^○^*)「在日米軍は別に日本だけにかかずらわってるワケじゃない。日本列島を【不沈空母】に見立てた上で、アジア全域の対深海棲艦………そして、“対共産主義”防衛線を死守するために存在する。
自然、そのアジアから“不審なお客さん”が母国に向かっているようなら目に付くさ」
だからこそ、ソイツらの雁首が揃ってからまとめて“刈り取り”たかった。そう言ってポージーは拳で軽く机を叩く。
それは彼の精一杯の忍耐であり、実のところ満身の力を込めた握り拳を叩きつけたかったであろうことは、ウィーランドも重々承知している。
(*^○^*)「だけど、もう“釣り”はここまでだ。コールマンは流石にやり過ぎた、ロスとサンディエゴの機体まで引っ張ってくることになりかねない状況で尚州空軍の出撃を渋るのは“釣り餌”として看過できるもんじゃない。
大方、奴さんがつるんでる環境保全団体と平和活動家連中に配慮したんだろうが、ライン超えだ。グルであろう州軍司令部共々叩き潰す」
一気にそこまで言い切ってから、ポージーはふと外を見やる。
視線が向けられているのは、水平線の彼方にいるであろう【学園艦棲姫】─────ではなく、その遥か手前。
この【ロナルド・レーガン】の数百メートル横を並走する、日本海上自衛隊所属のイージス艦・【こんごう】だ。
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2022/11/26(土) 08:35:16.67 ID:t1Hly90C0
更新おつです
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/11/28(月) 09:27:42.64 ID:BSeTTiQ60
おつです
ポジハメ司令官のR.レーガンが健在ならレールガンも稼働できそうなのは希望ですね
次回は八頭身提督の回ですかね絶望的状況に心中いかばかりか
117 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2022/12/29(木) 23:06:48.54 ID:doNy4j2F0
「…………まだ休んでおられないのですか、我々の“Admiral”は」
(*^○^*)「Japaneseの勤勉ぶりには頭が下がるんだ、本当に」
状況を察したウィーランドの言葉に、ポージーが肩を竦めながら答える。
口元に張り付く、わざとらしく片頬が上げられた歪んだ笑み。それはポージーの機嫌が、取り分け悪いときに決まって浮かぶものだ。
尤も、彼が来日以来贔屓にしているNPBのヨコハマを本拠地とした某プロ野球チームの試合があった翌日は多くの場合この表情になるため、ウィーランドを中心に在日米軍の上層部連中は実のところ割と見慣れているのだが。
その入れ込みようと来たら、一時は下士官たちの間で「マゾヒズムの遠回しな発散をしているのではないか」という噂が本気で議論され、真に受けた一部から除隊願いが相次いだほどだ。
ここ数年で相当マシな戦いができるようになるまでは、ウィーランドら上層部はこれらへの対応に余分な労力を割く羽目に陥ることがしばしばあった。
(*^○^*)「ハイ」
その“見慣れた表情”を崩さず突き出された紙束を、言われるままに受け取り目を通す。
第二次防衛線の崩壊から今に至るまでの、【学園艦棲姫】並びに随伴艦隊群・護衛航空戦力群との詳細な戦闘経過が書かれた報告書だ。
書き連ねられた文字列に目を通していくが、その内容は陰惨極まりない。
かなりの数を撃沈しているはずなのに、それを遥かに上回るペースで周辺海域から合流してくる敵増援。
不気味に、少しずつ、だが確実に広がり始めた【回転木馬】による包囲陣の半径。
棲姫の両舷に浮かぶ【要塞】どころか、圧倒的物量差の前に随伴艦隊すらろくに抜けず後退を繰り返す艦娘部隊並びに基地航空隊。
状況を打破するため果敢に防空火線の只中に突入し、被撃墜を重ねる連合空軍とそれに見合わぬ損害状況の【要塞】。
加速度的に激しさを増していく、他海域での深海棲艦による攻勢………いっそ“Hopeless”の一言で済ましてくれた方が、紙を無駄にせず済むのにと思わず嫌味の一つも飛ばしたくなる。
その気持ちを取り分け冗長するのが、最期の5ページ。全て、現時点でのK.I.A───戦死者のリストだ。
(ジェイソン、今度飯に行く約束はどうする気だい?ポーカーの負け分も踏み倒して行くとは………最期まで、君らしい身勝手さだ)
真っ先に目に飛び込んできた名前は、ウィーランドの同期でもあるアメリカ海軍中将・ジェイソン=シピンのもの。その下には彼が艦長を務めていた巡洋艦【Chancellorsville】の乗組員357名、次のページからは撃墜された連合空軍の各国パイロット達と続く。
この時点でも既に500は優に超えるが、加えて第一次防衛作戦においても人類側には相当な被害が出ている。
ニュージランド海軍の保有するフリゲート艦2隻、オーストラリア海軍の潜水艦2隻は全て轟沈。原子力潜水艦【Key West】も消息を絶ち、オーストラリアから投入された空軍機と“海軍”航空隊の戦闘機併せて40機超も全滅した。
全て併せれば、確実に1500人以上の死者となるだろう。現時点でコレならば、終わった時にこの数字がどうなっているかはウィーランドとしてもあまり想像したくない。
そもそも、果たして「終わらせられるのか」さえ怪しくなりつつあるのだから。
118 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/12/29(木) 23:10:10.66 ID:doNy4j2F0
K.I.Aリストの5枚目、最後のページに書かれる名前。オーストラリア海軍の潜水艦【Farncomb】の“元”乗組員達の箇所から数行の空白を経て記されるそれらは全て、横に所属鎮守府と“艦級”が添えられている。
グレートバリアリーフの“海軍”鎮守府から派遣され、護衛についていた【Key West】と共に消息を絶った伊-400以下潜水艦隊5名。
タウイタウイ泊地から棲姫の進路上に投入され、敵の猛烈な艦砲射撃により全滅した加古、川内以下2個水雷戦隊12名。
………そして、今なお続々と東南アジア各地の“海軍”や海上自衛隊所属鎮守府から動員・派遣されてくる、艦娘の“増援”艦隊。
敷波、綾波、Z1、春雨、摩耶……日本の【特派府】や泊地であれ“海軍”鎮守府であれ、艦種も所属も練度も関係ない。吹雪と大淀などはもう2隻ずつ沈んでいる。
締めて、計23隻。前述した第一次防衛線の損害と併せて、実に7個艦隊近くが“轟沈”した。
(……たった一日、たった数時間で艦娘にここまでの損害が出るというのは、正直信じ難い数字だ。それも、“海軍”と日本所属の艦娘から)
例の【異常甲殻類】出現に際しては襲撃を受けた鎮守府関係者と共に艦娘も50人前後が“行方不明”となり、ベルリンの一件では米独仏の3ヶ国で“轟沈”が合計1000を超えると推測される。特に後者と比較すれば、一見その数字は特筆すべきものではないように見えるかもしれない。
だが、上記の2例はどちらも全く予期せぬ形で発生した奇襲攻撃による極めてイレギュラーなものであり、一概に単純比較できるものではない。現にオペレーション・オリョールやイツクシマ作戦、リスボン沖事変等近年で発生した大規模海戦においては、中大破艦こそ相応の数が出ているものの艦娘の轟沈は記録されていない。
鬼・姫級も多数確認された第二次マレー沖海戦でさえ、公式には“消息不明”扱いとなった【幻影】陽炎以外は全ての投入艦隊が生還している。
つまり、深海棲艦と“正面切っての艦隊戦”が行われた際に艦娘側で轟沈者が出ることは、皆無ではないにしろ本来なら極めて稀なケースだ。1つの戦場でここまで多数の轟沈が起きたとなれば、それは決して“軽微な損害”と割り切って良いものではない。
(*^○^*)「何が絶望的ってさ、ここまでの状況でも僕らにとっては“途轍もなくマシ”ってところなんだよね」
119 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/12/29(木) 23:14:35.31 ID:doNy4j2F0
ウィーランドの内心を目敏く察してポージーが口にしたセリフは、全面的に同意せざるを得ないものだった。
対深海棲艦戦闘においても十二分に有力な存在である、最新鋭の巡洋艦や潜水艦。投入機どころか、アジア全域で人類が保有・配備していた総数に対して2割に届こうかという空軍機。それらに搭乗・乗艦していた、歴戦の操縦士達、乗組員達。
そして、小規模な鎮守府が2つ3つまとめて機能不全に陥るほど多数の艦娘達。
何れも、到底軽微な被害とは言い難い。特に連合空軍のパイロット達と艦娘達の喪失は、対【学園艦棲姫】のみならず今後の東南アジア全体での防衛計画に大きく暗い影を落とすだろう。
(いや……より厳密に言えば、防衛計画には既に影響が出始めている)
第三次防衛線構築のために近隣各所から文字通り掻き集められた、600隻超の艦娘戦力。【回転木馬】崩壊を阻止するために、ただでさえ残り僅かだった分を“根刮ぎ”に近い形で動員した人類保有の航空軍。
何れも、各海域・各国沿岸部で同時多発的に行われるであろう深海棲艦の攻勢に対応するため残されていた虎の子の防衛戦力だ。これを動かした結果珊瑚海、セレベス海、ビスマルク海、ソロモン海等周辺海域における人類側の制空・制海能力は著しく低下した。
現在大幅な縮小を余儀なくされた各国防衛圏には深海棲艦の別働隊が殺到しており、入ってくる報告を聞く限り戦況は「極めて劣悪」と判断せざるを得ない。
それでも………確かに、“最悪”は免れていた。本来なら愚策と呼ぶ他ない戦力移動を強いられ、深海棲艦による攻勢の更なる激化・多面化を誘発し、当座を仮に乗り切ってもアジア全体で防衛計画を見直さなければならないほどの犠牲を出し、そうまでしても此方が敵に与えられた損耗は──少なくとも“本命”に対しては──ごく僅かなものに過ぎない。
そしてポージーの言う通り、このような有様でも現在の状況は“途轍もなくマシ”なのだ。
何故なら、K.I.Aのリストに“彼女たち”の名前が乗ることを回避できたのだから。
「天に坐す我らが主の導きと慈悲を願わずにはいられませんな。“彼女たち”を逃がすため尊い犠牲を払った、連合空軍のパイロット達、基地航空隊の妖精達、そして艦娘達と【Chancellorsville】の乗組員達への格別な慈悲を」
命は平等である。自らの性質を善良と信じてやまない人々ほど、そんなお題目を絶対不変の理の一つとして度々口にする。
だがこの理は、最も多数の命が機械的に消耗される戦場でこそ当てはまらない。沈みゆく巡視艇を救うために原子力空母がその身を盾にすることは有り得ず、指揮官の死と司令部の壊滅を避けるために歩兵一個小隊が銃剣でル級に立ち向かい、対深海棲艦戦闘における効率差から十両の戦車より1人の駆逐艦娘の救援が優先される。
戦場とは、そういう世界だ。そもそも軍隊・軍人が戦場に赴く理由からして「銃後の民間人・国家を戦火の被害から守護するため」であり、「国家・国民>兵士・軍隊」という“命の不等号”の現れと極論言えなくもない。
そして、そんな事は長年の経験で重々承知しているウィーランドでも。現状のクソッタレぶりに、自身の不甲斐なさに思わず皮肉を飛ばしてしまう。
八つ当たりに等しい、無意味な皮肉を。
120 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/12/29(木) 23:21:13.96 ID:doNy4j2F0
横須賀、青ヶ島、そして地………あの長ったらしくふざけた名前の“海軍”所属鎮守府。
この3鎮守府からなる“連合艦隊”が、現時点における「世界最強の艦隊」であったことは疑いようもない。個々の戦闘力、各鎮守府ごとの“一個艦隊”としての練度、“あの鎮守府”の那珂に至っては、現場での艦隊指揮においてさえ卓越した手腕を見せつけた。
それらによって挙がった戦果の羅列は、実際に彼女達の戦いぶりを目にしていたウィーランドをして一瞬現実性を疑ってしまうほどの凄まじさだ。【巨砲】と【亡霊】など、この二人だけで優に30個艦隊前後の敵艦を葬っている。
前後の第一次防衛線や今の防衛線と比較すれば、その突出ぶりはより顕著だ。前者は航空支援の量、後者は【浮遊要塞】の存在という大きな差異は確かにある。
だがそれを言うなら、“連合艦隊”の24隻に対して前者は2.5倍、後者は現時点で実に25倍もの艦娘が投入されている。随伴艦隊に関しても、後者が向こうの数こそ増したものの戦力比としては1:5に留まり、前者に至ってはその時点では随伴艦隊自体存在していない。
その上で、【学園艦棲姫】の完全な“足止め”を成し得たのは“連合艦隊”のみだ。それも、随伴艦隊も【浮遊要塞】という“奥の手”も引き出し、小破とはいえMOABの直撃による損害まで与えて。
第一次防衛線は碌な打撃すら与えられず容易く粉砕され、現在の第三次防衛線は遅滞こそなんとか行えているものの決して小さくない犠牲と引き換えとなっている。数的にはより過小な戦力でありながら最も巨大な戦果を挙げていた“連合艦隊”が殲滅されていれば、その悪影響は計り知れないものになっていただろう。
故に、“正しい”。ほぼ全員が大破状態にあり、そのまま放置していれば後数分と保たず殲滅されていたであろう彼女達を救ったことは、彼女達の生存と引き換えに、多くの犠牲、多くの屍を積み重ねたことは、どこまでも残酷で冷静で“正しい”判断と言える。
ただしそれは、あくまでも戦略・戦術・数学的観点に基づき“理性”のみで見た時の話。1人の人間としては、2つの“命”を天秤にかけて片一方に比重を置いた自分たちの決断は、多くのパイロット、艦載機妖精、艦娘たちに「死ね」と命令した事実は、強く重く心に伸し掛かってくる。
(恐らくはハメルス司令も同じ気持ちだろう、だからこそ見たこともないほど苛立っている。
………軍人としてある程度キャリアを積んでいる、私や司令ですら穏やかではいられない。ならば、元々一般人である“彼”は、尚の事強烈な心労を抱えているはずだが)
読み終えた資料のページを戻し、改めて目を通す。ウィーランドが再度開いた箇所は、第三次防衛線構築後の戦闘詳報。
言い換えるならそれは、各地から殆ど逐次投入に近い形で動員された艦娘達と、それらを指揮した“彼”───現時点におけるウィーランド達のAdmiral、ススム=ハットウの奮戦の記録だ。
121 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/12/29(木) 23:27:19.27 ID:doNy4j2F0
ハットウとウィーランドの間に、この作戦が行われる前の時点での面識はない。だが、米軍関係者の間でもしばしば「Japanのアオガシマに凄腕の提督が一人いる」という噂は話題になっていた為、ウィーランドも彼の存在は元より認知している。
その上で、戦闘詳報を読んだ彼は思う。“噂以上”だと。
(オペレーション・イツクシマ一つ取って見ても、彼が尋常ならざる指揮官であることは容易く伺える。しかしそれは、あくまでも戦術レベルでの評価だ。………今となっては“だった”が正しいが)
第二次防衛線において敢行された、オペレーション・アイアンボトム。太平洋全域を作戦場とした挟撃や、【回転木馬】の大胆な応用を立案できる戦略眼。初見であるはずのミサイル型MOABや【ダゴン】を即座に作戦に組み込み、“特殊仕様プレデター”の大元の考案者であり、彼からすれば初対面で得体のしれない場所から突如として派遣されてきた艦娘への現場指揮権移譲すら躊躇なく行える高度な柔軟性。
戦略家としても、戦術家としても、間違いなく一級品の実力。仮に100年後の教科書で彼の名がハンニバル、ナポレオン、マンシュタイン、イソロク=ヤマモトと並んでいたとしても、ウィーランドは驚かないだろう。
今この瞬間も、そうだ。統一性のない艦種、ムラが大き過ぎる練度、広く分散した輸送機の到着箇所、何よりも“同一艦種の同一戦場における運用の禁”………汎ゆる制約により、600隻という戦力自体額面通りのものではない。にも関わらず、ススム=ハットウはその卓越した指揮能力を存分に発揮し寸手のところで戦線の瓦解を防いでいた。
それに対して払われた犠牲は、幾らかの航空戦力と“たった”4個艦隊分の艦娘に過ぎない。
第三次防衛線の構築が始まってからかれこれ4時間は経とうとしているが、彼の手腕が高い水準を維持している事は文字の羅列を眼で追うだけでも十分に解る。
寧ろ増援艦隊の第一波突入時に【列車砲】の一斉乱射によって一挙に8隻の艦娘が“轟沈”して以降損害は減少し続けており、その切れ味は増してさえいる。
(……裏返して言えば、それだけ彼に負担が集中し、今この瞬間も精神を擦り減らし続けているということだ)
他地域からの戦力増員や連合空軍の補給・再出撃などは、ウィーランドたち第7艦隊で処理している。だが、投入或いは再出撃後の実際の戦闘指揮は、ハットウがほぼ一手に担っているのが現状だ。戦場規模での戦術指揮と方面規模での戦線構築を、彼は“リアルタイム”で同時にこなしてしまっている。
一提督が本来指揮する戦力の何十倍もの艦隊の運用と、数十人の士官が脳をフル回転させて練り上げるような作業を、同時に。
122 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2022/12/30(金) 01:03:11.02 ID:1qvzDtlb0
“本職”の軍人であったとしても、明確なオーバーワーク。これを、数年前まで一般人に過ぎなかった男が背負っているという状況で、体力的にも精神的にも軽微な消耗の筈がない。
況してや、彼はあの性格だ。艦娘よりずっと脆い、指揮官である自身を平然と囮に使えるような、艦娘を“使って”戦うのではなく艦娘と“共に”戦うことを躊躇なく選べるような、過ぎた優しさと過ぎた勇気を違和感なく同居させる性格。そんな男が艦娘同士の命を天秤にかけ、片方を捨て駒にするような戦術を本来忌避するだろうことは想像に難くない。
それでも、彼は4時間に渡って逃げること無く采配を振るい続けている。恐らく早晩限界を迎えてもおかしくない、或いは限界を超えて尚指揮を続けている可能性もある。
………だからこそ、ウィーランド達第7艦隊の上層部は【こんごう】のCICに向かって再三再四要請を飛ばしていた。貴艦ニ搭乗中ノ提督ヲ速ヤカニ休養サセルベシ、戦線指揮ハ当方ニテ代理ノ準備アリ、と。なんとしても負担を軽減してやりたいという情もあるし、それ以上にこれほどの指揮官が完全な稼働不能に陥れば“連合艦隊”の喪失に勝るとも劣らない致命傷になりかねなかったからだ。
(幸い、父島艦隊を中核にかなり纏まった艦隊戦力がつい先程前線に投入された。敵随伴艦隊の拡大・流入もやや小康傾向が見られ、ハットウが直接戦線の指揮を取らなければならない意味は僅かに薄れた。しかし、これほど頑なな彼がこの程度の事で納得するだろうか………)
(*^○^*)「ところで、こちらの【要塞】についてはどうなっているんだ?」
「…………はっ」
難解な問題に答えを出せずにいる思考を遮った、ポージーの問いかけ。答えるべく顔を上げるウィーランドだが、その表情には先程までとはまた別種の困惑があった。
流石に、ススム=ハットウに及ぶとまでは言わない。だがポージー=ハメルスもまた卓越した軍才を持っていることは、間近でその手腕を見てきたウィーランド自身がよく知っている。
だが、そんな彼でも今回ばかりは疑いを持たずにはいられなかった。
あんなものが、本当に役に立つのかと。
「グアム島基地より今しがた入電があり、九割方稼働準備が完了していると。………しかし、アレを準備させた意味は一体何ですか?正直、【学園艦棲姫】のような化け物を食い止める力になれる存在だとはとても思えませんが」
(*^○^*)「それは見てのお楽しみさ。……さて、じゃあ概ね下準備も終わったし行ってこようかな。
後を頼んだよ、親父」
「指揮は私の方で引き継ぎますから構いませんが………このような時にどちらへ?」
(*^○^*)「何、ちょっとばかり勤勉過ぎるAdmiralと談笑でもしに行こうと思ってね」
椅子から飛び降りたポージーに尋ねると、何時もの笑みと共に彼は振り向きつつそんな答えを返してきた。
顔のすぐ横で、固めた握り拳をヒラヒラと揺らしながら。
(*^○^*)「アンタから教わったことなんだ。頭に血が上ったやんちゃな若造の暴走を止めるには、結局年長者の拳が一番効果的だってね」
123 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2023/01/04(水) 10:24:25.52 ID:rX8YTfz/0
更新乙です
今年もよろしくお願いします
って、この状況でレーガンからこんごうに移動とかできるんですか?
124 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2023/01/06(金) 23:00:44.75 ID:hW0KQOZL0
.
僕に、力が足りなかったから。
MOABで仕留めきれる、大損害を与えられるという見立てが甘かったから。
【回転木馬】の【黒鳥】に対する有効性を過信しすぎていたから。
日向さんと那珂さんに現場指揮を委ね過ぎ、彼女達の負担を十分に軽減できていなかったから。
深海棲艦にとってアレがどれ程重要な存在であるかを、認識しきれていなかったから。
棲姫が“奥の手”を隠していたことを、読めていなかったから。
このまま【列車砲】を等間隔で放ち続けると思い込んでいたから。
僕の軍人としての才が至らなかったから。
だから、第二次防衛線は崩壊した。
多くの連合空軍のパイロットたちが犠牲になった。
熟練の基地航空隊が、艦載機妖精達が失われた。
【チャンセラーズビル】は轟沈した。
だから、龍驤さん達をあんなに傷つけてしまった。
だから、23人もの艦娘を、これだけ多くの人たちを“殺して”しまった。
全ては、僕の責任だ。
125 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/06(金) 23:01:37.23 ID:hW0KQOZL0
視界が歪み、色を失うほど辛く重い現実。
だけどそれらは、既に“起きてしまった”ことだ。
どれほど強く悔い、嘆こうとも、状況は変わらない。僕の力量が突然爆発的に跳ね上がるわけでも、【学園艦棲姫】が消えてなくなるわけでも、死んでいった人達が生き返るわけでもない。
龍驤さん達の回復が早まることも、沈めてしまった艦娘達も戻ってくることもない。
ならば、どうすればいいか。僕に何ができるのか。
幸いなことに、その答えだけははっきり理解できている。
「“海軍”ロスパロス泊地より新たに2個艦隊が戦線に合流!現在戦闘海域から南方120km地点に搭乗の輸送機が到着しています!」
(;´Д`)「更に40km程前進した後の降下を!【学園艦棲姫】進路上の戦力は徹底的に厚く!!」
「父島鎮守府・扶桑指揮下南方艦隊群、補給拠点の確保と再集結を完了したとのこと!」
(;´Д`)「現在位置を固守・厳戒しつつ敵艦隊の動向確認まで待機を!付近の艦娘、或いは基地航空隊から発艦可能な彩雲があれば投入して扶桑さんたちの前面哨戒をさせるように!
扶桑さんたちの出現・前進によって棲姫の北西と南西の防備が薄くなるはずです、航空隊の突入経路を至急策定、【Shark Head】に共有してください!!」
「“海軍”マスバテ島鎮守府、バブヤン島【特派府】混成艦隊より入電!棲姫東方距離65km地点において艦隊群規模の深海棲艦と遭遇!艦種に戦艦水鬼の存在を認む!」
(;´Д`)「その付近にボアク島泊地とラバウル米軍基地の連合艦隊が居たはずです、速やかに位置情報を送信し合流指示を!
さっき展開完了した第9空母打撃群に基地航空隊発艦要請!漸減攻撃にて敵の足を遅滞させる!!」
戦い続けることだ。
126 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/06(金) 23:02:55.72 ID:hW0KQOZL0
現実は変わらない、過去は戻らない、罪は消えない。
ならば結局、前を向くしかない。今できることに全力を尽くすしかない。
今僕にできることは、戦うことだけ。
ここは戦場なのだから。僕は提督で、この戦場の指揮官としてここにいるのだから。
「ネグロス島統合艦隊旗艦・陸奥より入電!右方35km地点より【学園艦棲姫】並びに随伴艦隊の低速状態維持を視認計測するも敵艦隊からの猛攻により損害大!陸奥、リベッチオ、ヴェールヌイ、深雪が大破!」
(;´Д`)「棲姫とすれ違う形で南方に全速力で離脱を!さっき70km地点から追尾を開始させた空母機動艦隊に通達、撤退支援の爆雷撃開始!」
「【こんごう】CICより蒼龍並びにサラトガ、ネグロス島艦隊の離脱支援急げ!艦載機全機発艦されたし!」
「近隣の基地航空隊にも位置並びに敵艦種情報の送信を完了!了承のモールス受信しました!」
(;´Д`)「右方面、リアウ統合艦隊を突出させてネグロス艦隊の撤退支援を!
正面艦隊からも艦載機を発艦、また全艦に前進の“素振り”をさせてください!総攻撃・挟撃を“匂わせる”だけでも向こうの警戒を誘発できるはずです!!」
自分のせいで死んだ人たちが、沈んだ艦娘たちがいるという事実を直視しろ。現実から逃げるな。責任を他人に押し付けるな。
その上で“努め”を果たせ。感情を捨てろ、思考の全てを眼前の戦場に回せ。最善の策を模索し続けろ。
「ベトナム空軍、一個編隊が【要塞】への突入時に全滅しました!」
「右方戦闘域、バブヤン島基地航空隊全妖精との通信が途絶!!」
「同島特派府艦隊より入電!所属駆逐艦の浦風が轟沈!繰り返す、バブヤン島特派府の浦風が轟沈!!」
まただ。
また僕のせいで死んだ、沈んだ。
次だ。
次こそは、誰も死なないような「完璧」な指揮をしなければ。
127 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/07(土) 07:58:58.38 ID:zAM4YSi90
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128 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/07(土) 08:02:28.21 ID:zAM4YSi90
(;´Д`)「浮遊要塞への攻撃は一時射程外からのミサイル攻撃のみに変更、牽制だけ継続!
その分戦力投入を減らして【回転木馬】を増強!【黒鳥】の進出を防いでください!!」
「CICより基地航空隊カタパルト、第2航空群が間もなく帰還する!第1航空群、全妖精速やかに発艦用意に移れ!」
「【カーティス・ウィルバー】基地航空隊より入電、前方50km地点にて当艦隊へ接近中の敵水上打撃艦隊を認む!旗艦に重巡棲姫、また戦艦ル級2隻が何れもFlagshipです!!」
(;´Д`)「予備の99式艦爆隊を出現座標に投入!護衛は対空警戒に出している航空隊から燃料に余裕のある機を捻出するよう各艦CICに要請を!!」
「コロニア特派府艦隊・皐月より入電!敵航空隊の猛攻を受け同艦隊を含む2個連隊が損傷拡大中、至急の航空支援が必要とのこと!」
(;´Д`)「【要塞】への攻撃予定だった連合空軍の戦闘機から一部回すよう【Shark Head】に連絡!それと同方面で空母艦娘から上げられる艦載機を順次発艦させてください、随伴艦隊に肉薄し牽制とします!!」
「ネグロス島艦隊より更なる緊急連、旗艦・陸奥が敵潜水艦隊の一斉雷撃により轟沈!!重雷装巡洋艦・木曽、指揮権を引き継ぎました!!」
水上乱戦での潜水艦隊による強襲・奇襲、確かに効果的な策だ。
故に、読めていなければならなかった。また、犠牲を出してしまった。
コレじゃダメだ。もっと、もっと完璧な指揮を取らないと。
(;´Д )「ハープーン、トマホークによる射撃対象を【浮遊要塞】からネグロス艦隊近辺の敵随伴艦隊群に変更!非ヒト型を優先射撃、進路解放を急げ!航空支援に爆雷装備機を増量投入、周囲海域のみならず退路上における対潜警戒を厳と為せ!」
「【Shark Head】より入電、【黒鳥】による【回転木馬】への突貫・襲撃が急速に増加中!構成している連合空軍機の被害拡大!」
(;´Д )「対空火力に特化した一部の艦娘を特に【回転木馬】で激しい攻撃を受けている箇所の前方に展開、弾幕射撃にて進路塞げ!」
「【そうりゅう】より入電、深海棲艦の対潜部隊に補足された模様!急速潜航開始、暫く当方との連携不可能と見られます!」
「【学園艦棲姫】、甲板上より【列車砲】発射!!弾着地点直下にあったルソン島第17特派府艦隊、酒匂以下全艦の信号が消失しました!!」
まただ。次。
(; Д )「【列車砲】の照準方位を再測定、周囲各艦隊に共有の後射線上からの離脱指示を!」
「了解!射角変更の報告なんてなかったぞクソッタレ、連合空軍の連中何見てやがったんだ!?」
「無茶言うな、奴さん方は【黒鳥】と絶賛交戦中………畜生、当艦隊10時方向に新たな敵艦隊の浮上を確認!水雷2個艦隊、35km地点より急速に接近中!」
「【あたご】から基地航空隊が発艦、迎撃に向かう模様!」
「“海軍”バシラン島鎮守府艦隊より入電、同艦隊の涼月が轟沈!対空砲火により撃墜した【黒鳥】数機の一斉特攻を受けた模様!」
……次だ。次こそ、犠牲をなくさなきゃ。
「第9空母打撃群より緊急電!!同艦隊側面より【黒鳥】による強襲特攻が発生!特攻は【ジョン・フィン】に直撃、同艦が大破炎上中とのこと!!」
次。
「ビアク島“海軍”鎮守府艦隊より入電!前衛からの退却中に【戦艦棲姫】を旗艦とする敵艦隊群と遭遇、これを後退せしめたものの既に損傷甚大だった重巡洋艦・熊野が轟沈したと………!!!」
次。
129 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/07(土) 08:47:18.73 ID:zAM4YSi90
おかしい。
僕は別に眼を瞑ってるわけでもないのに、眠りこけられるはずもないのに、何故か周囲の景色が見えない。
3歳児がパレットの上でぶち撒けられた絵の具を掻き回した後のように、混ざりあった様々な色だけがぐるぐると回り続けている。
まぁでも、大きな問題はない。周辺の海図は頭に叩き込んであるし、耳は正常に機能してる。大丈夫、僕はまだ戦える。
「左方の【回転木馬】にて【黒鳥】による強襲が発生!Shamrock第3編隊、全機が通信途絶!!」
まただ。次こそ、“数字”が増えないようにしないと。……あれ、でもなんで増えちゃダメなんだっけ。
「ヤペン島“海軍”鎮守府艦隊より入電、旗艦・霧島が大破!退却に移るとのこと!!」
轟沈にばかり眼が行きがちだけど、ほぼ完全な離脱を余儀なくされる大破の急速な増加も由々しき事態だ。これ以上“駒”が減れば、本格的に防衛線の維持が難しくなる。……あれ、“駒”って何のことだっけ。
ダメだ、ダメだ、ダメだ。
意識をしっかり持て。余計なことは考えるな。戦い抜け。
僕は、この戦場の指揮官なんだから。日本の国防を担う盾なんだから。深海棲艦と戦う軍人なんだから。
「八頭提督」
(;# Д )「今度はなんですか!!!!」
「青ヶ島鎮守府、指揮官代理の小栗三等海佐より緊急連です」
この艦隊の司令官、提督なんだから。
「同鎮守府を含む【海上機動迎撃網】に対し、近海に出現した深海棲艦による大規模な攻勢が開始されました。
現時点での総兵力は数個艦隊群程度ですが……これは恐らく、総戦力の“ごく一部”と思われます」
しっかり、しなくちゃ。
130 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2023/01/10(火) 11:45:35.52 ID:di2eJj2+0
更新おつです
八頭身提督もう半分寝てるじゃないですか
ポジハメ司令はやく来てくれー
131 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2023/01/26(木) 23:55:35.27 ID:+lVnpH3p0
.
─────同時刻・青ヶ島沖、鎮守府より東南120km地点
「用意、用意、用意……降下、降下、降下!!」
代わり映えしない景色が続く海原において、腕時計は時間を計る装置としてだけではなく道標としての役割も担う。長針がカチンと小さく揺れて目標地点への到着を示すと同時に、私は機内に向かって叫び夜の海へと身を躍らせる。
「お世話になりました!」
律儀な浦波ちゃんのそんな声を背に、着水。即座に艤装を展開・稼働させつつ振り向けば、他の三人………浦波ちゃん、曙ちゃん、三隈さんの降下を知らせる水柱が上がっていた。
《比叡以下全艦娘の投下完了を確認!帰還する!》
私達をここまで乗せてくれたS-76-シコルスキーが、海面ギリギリの位置から一気に高度を上げ反転し鎮守府へと戻っていく。
両翼で残り8人の“投下”を行った他の2機も無傷で離脱しているところを見るに、皆ちゃんと降りることができたみたい。
「旗艦・比叡より【第一連隊】各位、第3警戒航行序列編成急げ!こっちの空母や基地航空隊は数が圧倒的に少ない、私達自身でどれだけ削れるかだよ!!」
《《Engage!!》》
無線越しに指示を飛ばす中、ジェットエンジン音を残して頭上を過ぎ去っていく銀影2つ。
今しがた私も口にした【海上機動迎撃網】の実情を鑑みて、文字通り航空戦力が払底している本土からそれでも横須賀が手配してくれたF-16戦闘機だ。
132 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/26(木) 23:59:44.24 ID:+lVnpH3p0
接敵とほぼ同時に行われる、雲霞の如き航空戦力の大規模投入。
今や“朝の起き抜けに飲むホットコーヒー”と同レベルの、殆どルーティーンと化したそれはこの戦場でもしっかりと実行された。
『『『─────…………』』』
《Target insight. Shield-01 FOX-2!!》
《Shield-02, FOX-2!!》
数十キロ先で水平線の彼方より湧き出すようにして現れた、周囲を覆う闇夜とはまた質が違う“黒色”の塊。
聞き慣れた、聞き飽きたレシプロエンジン音を撒き散らしながら迫るそれを、F-16は真っ向から迎え撃ちミサイルを放つ。
『『『…………ッ!!!』』』
《Hit!! Enemy have damage!!》
《Keep Fire, Keep Fire!! Shield-01, FOX-2!!》
《Roger, Shield-02 FOX-2 FOX-2!!》
彼岸花の如く艶やかに咲き乱れる爆炎。だけど、F-16の攻撃はそこで終わらない。
もう2発ミサイルが叩き込まれ、更に多くの敵機が焼き払われる。抉じ開けられた穴に、敵の攻撃射程ギリギリまで踏み込み機銃掃射を深く深く突き刺す。
立て続けに発生した大きな損害で、“塊”が揺らいだと遠目にも解った。
《よし、崩したぞ!》
《Shieldチーム、帰還する!基地航空隊、後は頼んだ!!》
〈〈〈オマカセアレェエエ!!!〉〉〉
艦娘と“提督の資質”を持つ人間にしか、妖精さん自体の姿は見えず、声は聞こえない。
それでも、高らかに猛々しく打ち鳴らされる無線の「ト」連送は、きっと彼らのもとにも届いただろう。
〈トツレ、トツレ、トツレ!!!〉
〈〈〈アラホラサッサー!!〉〉〉
踵を返し戦場から離脱していくF-16とすれ違う形で、鎮守府から飛来する基地航空隊。零戦の21型と52型を主力とした上で、在日米軍からのレンドリースという形で直前に配備された“グラマン”を数個編隊交えた50機程が猛然と“塊”へ突っ込んでいく。
『『『!!?!!?!???』』』
〈ヨッシャア、イチバンヤリイタダキィ!!〉
〈ナンノ、ゲキツイオウハコンカイモオレダゼ!!〉
近現代の音速戦闘機とレシプロ機、比較的近い距離からの飛来とはいえ速度は雲泥の差だ。だけど今回は、その速度差が却って功を奏す。
深海棲艦の航空群が既に立て直しつつあった故にこそ。散開状態から再集結を終えていたからこそ、今一度攻勢に移らんと“塊”全体が前のめりになっていたからこそ、その出鼻を挫く強襲は強烈な効果を発揮する。
“塊”の表層を抉り、奥深くへと踏み込み、内部より食い破り引き裂く。瞬く間に再度四分五裂した敵機群を、零戦が、グラマンが、次々と喰らい屠っていく。
133 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/27(金) 00:02:39.64 ID:sMuggt4e0
陣形を崩し、大きな出血を強いることに成功した。鮮やかな戦果と言っていいと思う。
でも、この優勢が長続きしないことは私でも解る。向こうの航空隊は確かに総崩れに陥り相当な撃墜数も出しているけど、尚規模は少なく見積もってこっちの10倍強。後続戦力だってきっと無尽蔵に近いだろう。
対する私達の側は、【学園艦棲姫】を止めるために八頭司令と龍驤さん達第一・第二艦隊のほぼ全員、お姉様の名を冠したイージス艦【こんごう】等主戦力の大半が出払っている。航空戦力も、基地航空隊については今し方交戦を開始した50機ちょっとで打ち止めだ。
合流する友軍艦隊の編成の都合から“一軍”の1人である瑞鶴ちゃんが残ってくれているのは不幸中の幸いだけど、向こうの物量を加味すると焼け石に水、だよね。
「三隈より臨時総旗艦・瑞鶴へ!第一防衛線、全艦の着水を完了しましたわ!」
《瑞鶴より三隈、第二防衛線も展開済み!接敵まで現陣形を維持せよ!》
《こちら磯風以下【第三連隊】、防衛線の構築を完了した!臨時旗艦、指示を乞う!》
《【第一連隊】同様“三形”にて待機!対空警戒を厳と成せ、どっから敵が湧いてきてもすぐに対処できるように索敵の徹底を!》
《足柄了解!水偵の発艦を開始させるわ!》
《鬼怒了解!索敵に移ります!》
《こちら【第四連隊】鳳翔、指示を把握いたしました。之より彩雲隊を南西方面の索敵に当てさせていただきます!》
《【第五連隊】より給油艦・速吸、微力ながらお力になります!瑞雲、全機発艦始め!》
『『『─────ッ!!!!』』』
〈ッ、チィ!!サスガニタゼイニブゼイカ!!〉
矢継ぎ早に無線が飛び交う中、前方の“塊”がゾワリと動きを変える。
逸早く隊形の再構築を終えた後方の編隊が、散々に突き崩されていた前衛群と入れ替わる形で前へ。一方的な“狩り”ががっぷり四つの“戦闘”に推移し、反撃を開始した編隊を軸に航空群全体が急速に統率を取り戻す。
敵陣深くへと斬り込んでいた基地航空隊が、膿が絞り出されるようにして“塊”の外へと押し出されていく。
〈テッキグンサイヘン、ヤクナナワリカンリョウ!コノママデハコチラガコンドハクズサレマス!〉
〈シオドキカ!キチコウクウタイゼンキ、コウタイス! 【ダイイチレンタイ】ノブウンヲイノル!!〉
攻勢限界に達した妖精さんたちが、“塊”に最後の一撃を加えた上で隊列を組み直しつつ一斉に反転する。敵もそれを追撃するけど、当然その進路上にいるのは……………私達の艦隊。
134 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/27(金) 00:06:26.20 ID:sMuggt4e0
「──────ふぅっ!」
短く、息を一つ吐く。これから激しく絶望的な戦いが始まろうって言うのに、焦燥や恐怖は意外なほど感じない。
その代わり脳裏に浮かぶのは、ある男の人の…………私達の、司令官の姿。
「能代より比叡、敵航空隊の陣形転換を視認!目標を基地航空隊追撃からこちらへ切り替える様子!」
「比叡より連隊各艦、陣形を維持!三隈、高雄は主砲三式弾装填急げ!」
「高雄、了解!三式弾装填!!」
「三隈、三式弾切り替え終わりましたわ!」
初めは、ただの“上官”でしかなかった。
青ヶ島鎮守府が作られる前、東南アジアにおける制海権奪回作戦の真っ最中に彼の下に配属されたのが司令との顔合わせ。
当時は彼自身も“民間出身ながらかなりのキレ者がいる”と噂になっていた程度で、任されている艦娘は私が加わったことでようやく一個艦隊分。あくまで呉司令府所属の提督の一人という立ち位置に過ぎない。
何なら、私個人の印象だけで言えば“ただの上官”よりもう少し悪かったかもしれない。金剛姉様はいないし、榛名も加入はもう少しあとだった為金剛型としては一人ぼっち、おまけに栄えある大日本帝国海軍の戦艦ともあろう自分が、ナヨナヨとした外面の一般人の指揮下。
ボイコットこそ流石にしなかったけど、穏やかではなかった心中を割と我慢せず司令に対しての態度で出してしまっていた自覚はある(その結果轟沈を覚悟するほど龍驤さんにシメられた)。
「接敵まで120秒!敵機群散開運動に移る!」
「比叡より高雄並びに三隈、射角50度にて照準調整!合図あり次第三式弾一斉射!!
駆逐、軽巡各位は射角30度〜水平にて弾幕射用意、急降下爆撃並びに雷撃への警戒を厳と成せ!」
いつ頃からだろう、司令の下で戦い、司令の力になれることを幸せと思うようになったのは。
いつ頃からだろう、任務や使命のためではなく、ただ“彼のため”に戦うようになったのは。
「接敵まで60秒!!また、航空群の後方に深海棲艦の艦隊も目視!!約10個艦隊、急速に接近中!!」
「【第一連隊】各位、固守態勢崩すな!!不惜身命の覚悟を以て戦線を維持!!」
………いつ頃からだろう、
「青ヶ島を、私達の鎮守府を死守せよ!!!」
司令の隣に居るのが、私だったらと思うようになったのは。
135 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/27(金) 00:08:41.75 ID:sMuggt4e0
無論、バカな私でも解っている。司令官の隣は、今や“あの人”の指定席だって。“あの人”と司令官の間に、私が入れる隙間なんて1ミリもありはしないって。
それでも、私はバカだから、できないんだ。戦いもせず、ただ諦めるなんて。
(………龍驤さんには、恋も、戦いも、負けません!!)
大丈夫、貴方の想いに横槍を入れるような事はしないから。
大丈夫、人一倍艦娘のことを思いやってくれる貴方を、困らせるようなことはしないから。
だから、せめて。
「敵航空群、射程圏到達まであと10秒!!!」
もしも私が頑張り続けていれば、戦い続けていれば、いつか貴方が振り向いてくれるかもしれない。それぐらいの、ありもしない期待を胸に懐き続け、“負け戦”を最後まで戦い抜くことぐらいは、許してほしい。
私、頑張るから。
『『『─────────!!!!!!!』』』
「敵機群、射程圏に到達!!」
「全艦、撃ち方ぁ………始めぇえええ!!!」
貴方のために、きっとここを守り抜いてみせるから。だから、
「青ヶ島鎮守府艦隊・金剛型2番艦、比叡!!
気合!入れて!!行きます!!!」
………見捨てないでよね、司令官。
136 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/27(金) 00:11:19.70 ID:sMuggt4e0
.
「おぉ〜〜〜………本っ当に気合入ってるなぁ」
三式弾に続いて空を埋め尽くさんばかりに撃ち上がる、艶やかにして苛烈な対空弾幕。【第一連隊】に殺到した敵航空群が碌な接近すら叶わず焼き払われていき、その光景に思わず感嘆の声が漏れる。
一航戦のアンチキショウじゃないけれど、まさに“鎧袖一触”だ。
(まっ、比叡さんもこの鎮守府じゃあ古株の1人だからねぇ。素の性能に練度、そこに“キラ”まで乗っかればあれぐらいはできるか)
本来、兵器や乗り物に精神論を唱えることほど無意味なものはない。百戦錬磨の熟練兵が扱った際に弾丸の飛距離が伸びたり連射速度が早まりはしても、それらは経験則と実証が下地に存在するれっきとした「科学・物理学」の話だ。どれほど気合と殺意を込めて天に向かって突き出そうが、遥か上空を飛んでいくB-29を竹槍で落とせはしない。
ただ、私達艦娘について語る際は、しばしばこの“常識”が覆る。
飛距離、貫徹力、装填速度、精度などで、物理法則や本人の練度だけでは到底説明ができないような振れ幅が見られた。爆破範囲、弾速、航行速度、物資・弾薬・燃料の積載可能量、旋回性能、装甲値といった、本来技術ではどうにもならない所謂“カタログスペック”の数値に大幅な変動が計測された。
私達の肌感覚じゃない、戦場から多数の報告を受けた防衛省技研が存在の“実証”を終えている。
これらの現象が、直近の戦績、提督・同僚との関係性、疲労度、艦隊における姉妹艦の有無などに伴った艦娘の「精神状態」とほぼ比例的に連動していることも含めて。
どれだけそれらの数値変動が顕著であったかは、当時既に“実装”されていた間宮さん、伊良湖さんによる甘味処並びに鳳翔さんによる酒処の常設、それができない警備府・特派府・小規模な鎮守府は所属艦娘への積極的な娯楽提供が国会審議を通し各提督の“義務”として法制化されていることから概ね察してほしい。
年寄り臭いことは言いたくないけど、防衛費の一項目に【対艦娘嗜好品提供費】や【ハロウィン・クリスマス他各種イベント開催費】、果ては【お年玉予算】なんてものが大真面目な顔で鎮座しているのはちょっと隔世を感じちゃうわね。
137 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/27(金) 00:15:00.65 ID:sMuggt4e0
精神状態良化・高揚に伴う艤装性能限界突破現象───という正式名称は長ったらし過ぎるので“キラ付け”なんて俗称がつけられたこの状態は、駆逐艦娘が戦艦棲姫を沈めるほどの劇的な効果さえ時としてもたらす。故に各鎮守府、特にここを含めた【海上機動迎撃網】の構成府や最前線である東南アジアの特派府・泊地群はその維持に腐心している。
そして実際、眼前の比叡さんの暴れぶりを見ていれば関連事案を法制化するほどの重要視ぶりも納得だ。あくまで数値的には榛名さんに対空性能で遅れを取り、噴進砲や電探連動型の高角砲等の特殊装備もなし、三式弾だって改装前の通常型。
にも関わらず、比叡さんは殆ど単艦に近い状態であの大編隊を押し返しているのだから。
(使い古されたクッッサイ台詞だけど、“愛は地球を救う”ってのも強ち嘘じゃないかもね)
かつて大日本帝国陸海軍の勇士たちは、日々苦境が深くなっていく中でも闘志を衰えさせなかった。彼らの背を支え続けたのは、祖国日本に対する巨大な「郷土愛」だった。
ナチス・ドイツの親衛隊は、最早敗戦が避け得ぬものとなって尚最後の一兵卒に至るまで戦うことを辞めなかった。彼らを突き動かしたのは、“総統閣下”に対する最早狂信と呼んでも違和感のない「敬愛」だった。
何れも結局【精神論】の域を出ず、米帝の軍事力と露助の物量の前に抗しきれず磨り潰された。だけど、もしこれらが私達の“それ”のように数値的かつ物理的な影響力を持っていたなら、大東亜戦争や欧州大戦の勝敗さえ入れ替わっていたかもしれない。
そう思わせてしまうほど劇的で激烈なのよ、“キラ付け”の効果って。
「対空電探に感あり!南東並びに東方より新たな敵航空隊の接近を確認、接敵まで一二〇秒!」
《鳳翔より臨時総旗艦、南西にても彩雲隊が複数箇所で敵航空隊を確認したとの由。飽和攻撃を受けないよう、迎撃隊を発艦させての遅滞戦法を具申いたします》
〈サイウン5バンキヨリボカンドノ、ワレ、セイホウ200キロチテンニテテキ[クウボキドウカンタイ]ヲホソクス!
カンサイキジュンジハッカンチュウ、チュウイサレタシ!!〉
……っと、ガラにもないことをツラツラ考えてる場合じゃないわね。
「接敵した彩雲隊については順次離脱・帰還!残りの彩雲隊は引き続き警戒、接敵後は敵所在地と規模を連絡後母艦ではなく青ヶ島鎮守府へ直行されたし!!」
今は、目の前の戦場に集中しないと。
138 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/27(金) 00:17:53.75 ID:sMuggt4e0
かく言う私自身はといえば、無論提督さんのことを憎からずは思っている。とはいえそれは龍驤さんや比叡さんのような恋慕ではないし、妙高さんが抱いている世話焼き的な母性(……或いは野次馬根性)とも違う。
榛名さんや大鳳ちゃんがよく口にするその力量に対しての「敬意」と、“かわうち”の悪友的な「友情」、その中間というのが多分一番近いかな。
では二人と比較して、私のこの戦いに対する覚悟や決意は弱いのか?…………そう問いかけられれば、胸を張り、声を大にして言える。
“否”、と。
「南西の敵航空隊への対処、軽空母鳳翔の具申を採用!スロット1、2の制空隊を全機発艦させ迎撃行動に移れ!
補給艦・速吸、瑞雲隊を一時収容し再集結並びに補給!鳳翔のスロット3航空隊と併せて予備戦力とせよ!」
《了解です!!》
《了解いたしました》
「瑞鶴より【第四連隊】千歳、“彩雲枠”を除く全スロットの航空隊を発艦!先行し東方よりの敵航空群を総力を挙げて迎撃せよ!」
《軽““ 空 母 ””千歳、指示を受諾しました!マリアナのようにはいかないわ、だって完全にク・ウ・ボなんだもの!!!》
「空母であることの主張がすごい」
私にとって、提督さんは良き“友”だ。“友”が困窮しているのに、そこに手を差し伸べないなんてことはあり得ない。
《【第一連隊】浦波より瑞鶴総旗艦、敵第一波航空群は被害甚大につき撤退!当方損耗艦なし!!
されど後続の敵艦隊接近!距離三〇〇〇〇、まもなく最大射程!!》
「交戦に際しては艦隊戦闘に注力、南東よりの敵航空隊は当艦の航空隊にて対処する!仮に当方の誘引に反応せず空襲が始まった場合、漸減戦闘に移行しつつ後退を開始されたし!
彩雲5番機、離脱しつつ確認した敵艦隊並びに航空隊の進路策定急げ!可能であればあえて惹きつけ、【第二連隊】へ誘導を!」
〈カシコマリマシタ!!〉
日本海上自衛隊・一等海佐相当官、八頭進は敬愛に足る“上官”だ。そんな人が自ら最前線で采を振るい強大な敵に立ち向かっているというのに、私が銃後で臆病風に吹かれるなど我慢できない。
「【第二連隊】各位、対空戦闘よぉい!!瑞鶴より比叡以下【第一連隊】、航空隊発艦する!照準に注意されたし!!」
ヒトの姿と、声と、感覚と、感情と、それらに伴う新たな“楽しみ”を得て。
師のために、友のために、祖国のために。ただ「兵器」として使われてではなく、“自分の意志”で戦えるのなら。
《敵艦隊、効力射開始!先鋒のル級、タ級に発砲煙を確認!!》
《弾着箇所は遠い、慌てないで!十分に距離を詰めさせて狙い撃ちます!!》
《南東敵航空群、艦隊群後方より最大速にて接近!接敵まで60秒!!》
例え存分に戦った果てに、武運拙く再び波間に散ることになろうとも。
「─────瑞鶴航空隊、発艦!
これが私の、決戦だから!!」
私にとっては、それで十分に“本懐”だ。
139 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/27(金) 00:20:18.88 ID:sMuggt4e0
.
────青ヶ島鎮守府・司令室
「【第一連隊】比叡より入電!敵第一波艦隊群との交戦開始ス、当方ノ開幕砲撃ニヨリ戦果トシテ戦艦ル級2、タ級1、タ級Flagship1轟沈ヲ確認セリ!!
敵艦隊ニ混乱ノ気アリ、尚戦果拡張中!!」
「各空母艦載機隊、順次空戦に突入!何れの空域においても数的不利大ながら、足止めと敵戦力漸減に成功!
また、瑞鶴指揮下の彩雲は西方敵艦載機群を第二防衛線へ誘引中と報告あり!対深海棲艦迎撃作戦、順調に推移しています!!」
「そうですか」
矢継ぎ早に入ってきた通信士の報告を耳にし、青ヶ島鎮守府提督代理・小栗淳太郎(オグリ・ジュンタロウ)三等海佐は内心でほうっと一先ずの安堵を得る。
無論、まだ気が抜けるような段階では全く無い。寧ろ先の見えない長丁場が始まったばかりだ。
だが長丁場となることを知っているからこそ、その滑り出しが順調か否かは戦場全体にあまりにも大きな影響をもたらす。
少なくとも、開戦と同時に絶望的な消耗戦を強いられる、という考え得る限り最悪の事態は免れた。そのことは素直に喜びたい。
「瑞鶴さんより要請があった彩雲隊の鎮守府における直接収容を。警戒継続中の偵察機に関しては通信優先権を各空母艦娘からこの司令室に移譲、以後情報取得と連隊への共有並びに収容はこちら側で引き受けます。
また、基地航空隊の再発進に向けて整備と補給を急がせてください。フロントラインの戦況推移に併せて迅速に投入できるよう準備を」
「了解!彩雲隊各位、現在位置の打電急げ!また、無線通信の接続優先を鎮守府司令室に指定、以後─────」
「艦隊司令室より基地航空隊カタパルト、状況を報告されたし。発進に備え隊の編成を────」
「八丈島鎮守府、未だ敵艦隊並びに航空隊による襲撃を認めず。当鎮守府との連携体制を継続」
「南鳥島、父島・母島、硫黄島、各鎮守府敵艦隊群と未だ交戦中。戦線の維持、敵艦隊の漸減並びに浸透阻止に成功しているとのことです」
(…………今のところは、“我々”が想定した通りの状況ですね)
140 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/27(金) 00:29:11.45 ID:sMuggt4e0
この鎮守府に留まらず、【海上機動迎撃網】全体へと行われた一大攻勢。経路・艦隊規模・戦況推移、何れも横須賀司令府が事前に立てていた予測内容とほぼ完全に一致する。
当然、とまでは言えないが十分に納得はできる結果だ。何せ八頭や海自屈指の秀才(かつ危険人物)と名高い例の一等海尉を筆頭に、三自衛隊と在日米軍、各司令府所属の提督達が各々の知略をフル回転させ総力を挙げて解析と議論、改訂を重ねているのだから。
仮に“全て”予測通りであったなら、少なくとも日本列島戦線に関しては持ち堪えるどころか十分な余力を以て反転攻勢さえ可能としただろう。
だが、たった一つのイレギュラーが。殆ど唯一の、そしてあまりにも大きな“相違点”が。
「……おい、市ヶ谷からフィリピン海に関する報告は届いてるか?」
「第二次防衛線を突破されて以降は断片的な内容しか降りてきてない、とりあえず八頭提督は無事らしいが………」
「南アフリカの侵攻が早すぎる、もう内陸部に入り込まれてるじゃないか………」
「フランスだってロクなもんじゃない、記者会見見たか?ありゃ亡命前提の声明だぜ間違いなく」
「北欧もいい勝負だぞ、コンクスビルゲンで止められなきゃいよいよノルウェー全土の陥落は秒読みだ。ロシアが今度は何発核をぶち込むつもりか観物だよ」
「大洗学園はどうなってるの?私達にすら情報共有がないなんて、どれだけ酷いことに………」
「各位、今は目先の戦場に集中しろ!高山、父島・母島鎮守府は持ちそうか!?」
「蒲生提督からは死守してみせるとの打電が入ってきていますが………扶桑以下主力艦隊が出払った直後の上に単純な兵力比もあまりにも不利でして正直2時間も耐えられるかどうか………」
「那覇市の方で“市民”の皆様が騒ぎ始めたそうだ、沖縄方面からの増援は以後日米どっちからも絶望的だなクソが!」
「畜生、東南アジアはどこもかしこも最悪だ!国連所属の“海軍”とやらと俺たちで直接コンタクトは取れないのか!?
このままだと八頭提督達と第7艦隊が纏めてフィリピン海で孤立無援に陥るぞ!!」
「…………………ふぅ」
【学園艦棲姫】の存在が、その尽くを歪めてしまっていた。
141 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/27(金) 00:34:29.08 ID:sMuggt4e0
「あ、あの………小栗提督代理、大丈夫ですか?」
「ん………あぁ」
凄まじい勢いで戦況報告と艦娘や館内人員、妖精たちへの指示が飛び交う中で漏れ聞こえてくる暗く陰鬱な“噂話”。否が応でも耳に入ってきてしまうそれらに思わず眼鏡をずらし眉間を抑えていると、手元にスッと湯気を立てたお茶が差し出される。
顔を上げれば、心配そうな表情でこちらを覗き込みながら湯呑を差し出す艦娘───給糧艦・間宮の姿があった。
「え、えと。もしお気持ちが塞いでいるようであれば、一息つかれては?病は気からと申しますし、心労の状態ではそれこそ指揮に悪影響が出るやも………」
「……申し出自体は非常に有り難いのですが、その間戦闘指揮を空白にしてしまいますからね。八頭提督も石田一等陸尉もいない以上、私が離席するわけには」
「私がその間代理の指揮を取りますので!これでも元大日本帝国海軍の艦、従軍経験だってありますし!!」
「………………………………………。それは、お気遣いありがとうございます」
会話の「間」を利用して辛うじて平静を保ちつつ応えることができたものの、内心小栗は吹き出す一歩手前だった。
“艦時代”の彼女は従軍経験が確かにあるし、自衛のための武装も載せていた。艦歴だって決して短くはない。
だが、彼女の主任務はあくまで糧食の補給にあり、本格的な艦隊戦闘を目論んで設計されてはいない。そうした事情を反映してか現在世界各地の鎮守府で運用されている間宮(並びに同じく給糧艦の伊良湖)の中で、戦闘用の艤装に対して実用に足る適性を見せた艦は皆無だ。
眼前の間宮も例外ではない。料理の腕前は最精鋭と言って過言ではないが、戦闘経験は当然0。実は八頭に影から指示を出している隠れ軍師なんて裏の顔があるわけでもない。にも関わらず、彼女は真剣に小栗の代理を買って出ている。
それも自身が顔面蒼白で、語尾を震えさせながら。
それだけ自身が難しい顔をしていたのだろうと、思わず苦笑いが口元に浮かんだ。たまたまお茶を持ってきただけの戦闘は専門外の艦娘に、代理の艦隊指揮を決意させてしまうほどに。
142 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/27(金) 00:37:43.75 ID:sMuggt4e0
突拍子もない申し出ではあったが、その御蔭で落ち着けたこともまた事実。そして辺りを見る余裕が出てくれば、司令室全体が不安と疲労に擦り潰されそうな有様となっていることが直ぐに感じられた。
休養はとても取らせられる状況ではないにしろ、“一息”ぐらいは入れさせなければそれもまたどこかで致命的な決壊を招くだろう。
「いえ、やはり流石にここの指揮は私の職務ですので、戦況が安定するまでは離れられません。
ただ、リラックスはしたいので甘い飲み物と軽食も頂いてよろしいでしょうか?できれば、ここの人数分」
「! 畏まりました、すぐにお持ちします!!」
序でに明確な役割を与えれば間宮の心労も和らぐだろうと提案すると、“本職”を与えられた間宮は一転気合十分といった表情で頷き、飛ぶようにして司令室から出ていった。
(…………………、さて)
冷静さを取り戻した頭で、改めて現状を整理する。先に述べた通り、人類は世界規模で絶望的な戦況を強いられている。その最大にして直接要因は、言うまでもなくフィリピン海に現れ今現在本土に北上中の【学園艦棲姫】だ。
だが、そこを更に突き詰め掘り下げて考えていくと、より根源的な苦戦の要因は………結局、今回もまた敵の圧倒的な“物量”に行き着く。
(【学園艦棲姫】という圧倒的な存在を投入し、周辺や艦内に推定数千隻規模の“随伴艦隊”を集結し、更に大洗にまで長駆艦隊を乗り入れさせ、陸路でも大攻勢に移り……………その上で尚、“こちらが予測していた分の【大攻勢】をかけられる余剰戦力”がまだ尽きていなかったこと。最も大きな誤算は、そこです)
実行されている防衛作戦は、各鎮守府・各海域にこの鎮守府の龍驤、父島の扶桑、横須賀の日向といった超主力級の艦娘・艦隊で迎撃可能であることを前提としている。ではなぜそれら“要”を動かしてまで【学園艦棲姫】の対処に当たったか。
無論、「そうでもしなければ止められる相手ではなかったから」というのもある。
だがそれに加えて、人類側には「深海棲艦が【学園艦棲姫】を中軸に据えた一点突破攻勢に方針を“切り替えた”」という致命的な誤認があった。
日本という“艦娘大国”には、幾重にも張り巡らされた分厚く硬い盾がある。その全てを一撃で貫き得る太く鋭い槍を手に入れたが故に、その周りに本来放つつもりだった無数の矢を束ねたのだと思われていたが、違う。
矢もまた、既に番えられていた。巧妙に隠され、引き絞られていたそれらは、自衛隊が槍を止めるべく盾を動かしたその瞬間を狙い、一斉に放たれたのだ。
(極めて戦略的で、洗練された動きだ。……………とても、“開戦当初”と同一の集団とは思えないほどの)
143 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/01/27(金) 00:50:25.51 ID:sMuggt4e0
2011年8月14日の【ハワイ奇襲】以降、翌年初頭の【艦娘実装】が成るまで人類は世界規模で制海権・制空権を喪失しつつあった。そんな中にあって何故各国が辛うじて致命傷を避け得ていたかと言えば、深海棲艦側の動きがとりわけ最初期は非常に“直情的”だったからに尽きる。
そこに人類がいれば優先順位も何もなくとにかく近場から手当たり次第に殺していき、行軍は前進か後退かのほぼ二択。“ヒト型”が出現してからは戦術規模であれば多少理知的な動きを見せることもあったが、それも広い範囲で見れば基本的に“行き当たりばったり”の域を出ない。
海上ではそれでも圧倒的な力量差ゆえまともに抗うことはできなかったが、特にヨーロッパで【陸上に上げて物量で殴る】という脳筋戦術が多大な戦果を挙げられたのは深海棲艦側に“橋頭堡の構築”の概念がなく孤立させることそれ自体は極めて容易だったからだ。
一体いつからだ。奴らの動きがここまで知性的に、戦略的になったのは。最早【リスボン沖事変】以降は、人類側が裏をかかれ続けほぼ常に後手に回っている。
(奴らが学習したといえばそうかもしれない。しかしそれにしたって変化が激烈すぎる。例えば深海棲艦全体でそうした“学習”を共有し得るシステムがあるのだとすれば、今度は逆に奴らの練度の“ムラ”が不自然だ。
まるで……………)
まるで、極めて優れた“提督”の指示でも受けているかのような、そんな動きだ。
「………………今は、考えるべきことではありませんね」
恐ろしい。極めて恐ろしいが、有り得る話だ。海の底から未知の化け物が現れ、それに対抗するために軍艦の力を擁した可憐な少女たちが現れ、今また学園艦が深海棲艦化して水底から現れている。寧ろ、何が“あり得ない”のか教えてほしい。
実は深海棲艦が外宇宙からの侵略兵器で宇宙人からの指示により動いている、深海棲艦の中で新人類とでも呼ぶべき存在が誕生し指揮を取り始めた、突然異世界から召喚されたチート能力持ちの天才がヒト型のハーレムを作りながら統率し始めた…………どんな事態が起きていたとしても今更驚かない。
そもそも、驚いたところで意味はない。“現状”は既に構成されてしまっている。
“今”はそれがなぜそうなったのかを追求しても何も変わらない。ならば、先ずは“現状”を変えることに全力を尽くすべきだ。
144 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2023/01/27(金) 01:45:17.90 ID:sMuggt4e0
不幸中の、という注釈は間違いなく必要になるが、それでも“幸い”が一つある。
【海上機動迎撃網】自体は、まだ機能を維持できている点だ。
(我々は、【学園艦棲姫】の存在を起点に最も強く警戒していた筈の“物量”について予想を覆され、主力部隊をフィリピン海に引き摺り出された。
だが、逆説的に言えば“それだけ”です。防衛計画そのものは、まだ生きている)
確かに、“忌み名持ち”レベルの実力者達を尽く出払わせてしまった為戦力低下は著しい。しかし、ここを含めて各鎮守府は何れも持ち堪え、敵艦隊を押し留めている。
そしてその敵艦隊の数は、あくまでも人類側の“推定通り”に今のところは収まっているのだ。
(主力艦隊と比較して劣ると言うだけで、【海上機動迎撃網】………よりはっきり言い換えるなら【絶対国防圏】に配属されている以上、どの艦娘も水準以上の実力は備えている。
フィリピン海防衛線の指揮権が八頭提督にほぼ一本化されていた結果、他鎮守府の提督たちは残っていたことも大きい)
深海棲艦側は、主力の誘引に成功したことで「抜ける」と判断したからこそ“矢”を放ってきた。ならば、その“矢”が“盾”を失ったはずの自分たちを抜けなければ、今度はその事象自体が向こうにとっての「計算外」に変わってくる筈。
(ならば我々は、敵の動きが“当初の防衛計画”に則る限りあくまでそれに忠実に動く。それが、恐らくは最善の策ですね)
専守防衛。自衛隊は正にこれを主任務とし、貫くために訓練を重ね、技術を磨いてきた。
「小栗提督代理、レーダーに感あり!!新たな敵艦載機群、こちらの防衛線を迂回し鎮守府へ向かってきます!!」
「そうですか」
ならば、“本来の仕事”ぐらいは自衛官である自分がやり遂げなければならない。
もし、それすらできないのであれば、
「問題ありません。各位、各艦隊、当初の“防衛計画”通りに動いてください」
民間出身でありながら最前線に飛び込んでいった自分たちの提督を、どのツラ下げてこの鎮守府で迎えられるというのだろうか。
145 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2023/01/27(金) 11:22:45.20 ID:2YQXihCe0
更新おつです
まさかの青ヶ島サイドですね
どこにも後方などなく全てが前線という状況がもう…
146 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2023/02/01(水) 23:04:06.10 ID:qlo4HhBq0
.
今でも、はっきりと覚えている。“あの時”の胸の高鳴りを。脳を、心臓を鷲掴みにされたが如き圧倒的な衝撃を。
たった一人の男の演説によって、敗北への諦観が勝利への渇望に、死の絶望が生の希望に塗り替えられる有様を。
たった一人の男の雄叫びによって、火山と岩と砂とほんの少しの草木しかない殺風景な島に、目に見えぬ巨大な炎が燃え盛る瞬間を。
まるでつい数秒前に目にしたが如く、自分はその光景を想起できた。
《敵艦載機群第6波並びに第7波、総数500超なおも鎮守府に接近す!到達まで推定あと400秒!!
対空警戒を厳と成せ!繰り返す、対空警戒を厳と成せ!!》
《指示に変更なし、【第一】〜【第四連隊】各位は現防衛線を維持!当初の“防衛計画”に則り、【第五連隊】並びに鎮守府内の対空火力にて敵航空群の迎撃を行う!!》
《【スカイシューター】、全車展開を完了!各区妖精より艤装による臨時対空陣地完成の報あり!》
「ハッ、ハッ…………」
「おい、力を抜け……!」
現在の状況は、“あの時”とよく似ていた。圧倒的寡兵、勢いに乗る“敵”、孤島での迎撃戦………類似点がこれほどまでに多いからこそ、自分は尚更“あの時”のことを鮮明に思い出したのかもしれない。
(寧ろ、“あの時”の方が自分が置かれていた状況は厳しいかもしれないな)
頑迷な老人がよく口にする「ワシが若い頃は……」という戯言に通ずるものを感じ、我ながら辟易する。ただ弁明させて貰うと、実際“あの時”の自分達には艦娘も鎮守府も潤沢な対空兵装も存在しなかった。
与えられた火器は大半が在庫処分の骨董品で、おまけに“友軍”連中は支援どころかこちらを攻めてくる深海棲艦の群れごと吹き飛ばす腹づもりだったのだ。
この作戦を立案した当時の上層部のお歴々が南首相には
『島嶼防衛部隊は機を見て脱出する手筈だったが通信機の故障により連絡が途絶し、非常の判断でやむを得ず攻撃を敢行した』
という設定を捏ち上げる予定だったと聞いたときには、思わず腹の底から笑ったさ。
147 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/02/01(水) 23:09:53.70 ID:qlo4HhBq0
ただ、自衛官として経験を積み、深海棲艦と長らく戦っていく内に、自分の中で“あの時”の上層部の判断を一概には否定できなくなったのも確かだ。
艦娘の“実装”が未だ行われていなかった当時、事実を直視するなら自衛隊は人民解放軍に対して劣勢だった。
陸軍の単純兵力はトリプルスコア、北朝鮮軍のように兵装性能においてこちらが圧倒的な大差をつけているわけでもない。
空母戦力は既に六個の【防空機動艦隊】を運用していた日本側に数字上だけなら分があるものの、日中間の距離は近現代戦闘機ならものの数十分〜数時間で0にできる。在日米軍を考慮に入れても保有戦闘機それ自体の物量差を埋めるほどのアドバンテージとは到底言えなかった。
何よりも、核兵器とそれに伴う弾道ミサイル技術。如何に防空・海防に優れた戦力を自衛隊が持っていたとしても、都市に甚大な被害を与える弾道ミサイルが雨霰と降り注げばその迎撃は困難を極める。況してや核搭載のそれが着弾すれば、例え一発でも数万人から数十万人の命が一瞬にして国土から消え去るのだ。
まぁ、核兵器についてはそもそも前提が「抑止力」であり、日本もアメリカによる“核の傘”の恩恵を受けていた以上単純な戦力比に加えるべきではないかもしれない。だが核を差し引いても、どのみち当時の日本にとって、自衛隊にとって人民解放軍が「格上」であったことは動かしようのない事実だろう。
その「格上」の軍事組織を手も足も出ず叩き潰した怪生物の大軍団を迎え撃ち押し留めようとするなら、自然何かしらの“犠牲”が必要だったのは間違いない。
(………そうか、成る程。
、、、、、、
こんなところまで、実は“あの時”と同じなのか)
フィリピン海において八頭提督率いる“連合艦隊”は【学園艦棲姫】によって敗退し、轟沈者こそなかったものの龍驤旗艦や妙高副旗艦、榛名戦艦隊長らこの鎮守府の艦娘達もほぼ全てが大破状態に追い込まれた。
その後の東南アジアの艦娘や基地航空隊を総動員した迎撃作戦では“遅滞”が精一杯であり【学園艦棲姫】が着実に北上しつつあるという。
それは正に、6年前の“あの時”────自分達が“あの島”で、深海棲艦を待ち受けている時の状況だった。
148 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/02/01(水) 23:14:52.38 ID:qlo4HhBq0
ASEAN、オーストラリア、そして中国。列強の海空軍を尽く捻じ伏せ薙ぎ払い、欧州やアフリカでは既に沿岸部への浸透を始めていた、弱点どころか正体すら禄に解明されていない得体のしれない化け物の大軍団との戦いを控えていた“あの時”と立場としては同じだ。
確かに、戦力自体は今回の方が恵まれてはいる。艦娘がおり、基地航空隊があり、しっかり最新式の対空砲や装甲車、ミサイルが数こそ少ないが用意され、戦闘員の人数もこの事変が起こる直前に幾度かの増強が間に合い一先ず1500に迫る程度には確保されている。
だが、向かってくる深海棲艦の数は6年前の数倍にもなり、その旗艦は今までに前例がないほど凶悪かつ強力な存在で、ここにいる艦娘たちより遥かに練度が高い艦隊でもまるで歯が立たなかった存在だ。しかも今この瞬間に攻勢をかけてきている分に関しても、その物量の底は不明でそもそも【学園艦棲姫】以前にこれらさえ凌ぎきれるかどうかは解らない。
「…………クソっ、とまれ……止まれよ…………震えるなよ……寒くねえだろっ………」
「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない……お母さん……私死にたくない………!」
自分は、まだ“耐性”がある。だがアレを経験したのはこの場では自分だけ。何なら今この鎮守府内にいる隊員の大半は、石田一等海尉らが前線に出張ってしまったこともあり艦娘実装後の安定的な戦いしか知らない若い連中だ。
であればこの、必要以上の恐怖と緊張、焦燥に押し潰されそうな絶望的な空気が蔓延することを、一概に「情けない」と言えるものではないだろう。
「─────県正久(あがた・まさひさ)一等陸尉より、鎮守府施設内総員に伝達する」
そこまで考えが及んだ時、自分の指は、自然と無線のスイッチを握っていた。
「若き士官たちよ、これは諸君らの先輩の、或いは………無駄に歳を食ったうだつの上がらんおっさん尉官の戯言として、恐怖で震えてチビる序でに聞いていてほしい独り言だ」
149 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/02/01(水) 23:22:44.40 ID:qlo4HhBq0
……口下手な自分なりに考え抜いた渾身のジョークを盛り込んではみたのだが、残念ながら反応は皆無に等しかった。やはり慣れないことはするもんじゃないと、平静を装って話を続けつつほんの僅かに内心で後悔した。
「これから始まる、否、既に始まっているこの戦闘が、楽なものになるとは自分には言えん。必ず生きて帰れるなどという無責任な言葉は吐けん。
きっと激しい戦いになる。長く辛く厳しい戦いになる。この中の何人もが傷つき、或いは死ぬ。艦娘ですら、全員が轟沈せずに済むという保証はない。気の利いた鼓舞ができず済まないが、一陸尉の見解としてはそれが正直なところだ。
だが、思い出してほしい。我々がどこに所属しているかを。
我々が、自衛隊であるということを」
東南アジアにおける反攻作戦に参加した折り、ある上官のもとに着いた時期がある。その男は決して尊敬することができなかったし、寧ろ彼の行動理念や哲学は自分にとって全く相容れなかった。
だが、彼が部隊に訓戒を施す際第一声に使っていたフレーズの、“ガワ”の響きだけは私は僅かに共感していた。
故に、“中身”を自分流に捻じ曲げたものを、私は勝手に座右の銘としている。
「自衛隊の銃先に国民なく、自衛隊の銃後に国家あり。
本土に待つ国民にとって、彼らが住まう日本国にとって、我々は最後の盾であり最後の希望だ。
我々が恐怖に屈しそうになった時、重圧に敗れそうになった時、敵の砲火が次にどこに向けられるかを思い出せ。
同時に、並び立つ戦友たちもまた“国民”であると、共に戦う艦娘達や妖精達も“国民”だと忘れるな!!我々は孤独じゃない、孤軍じゃない!!互いが互いを守り合う限り、互いが互いを支え合う限り、我々はきっと立ち上がれる!!」
「「………」」
少しずつ、周囲の隊員達の息遣いとざわめきが収まっていくのを聞きながら。鎮守府の甲板を覆っていた空気に僅かな変化が生じるのを感じながら。
自分は、更に言葉を紡ぐ。
それは、自分が最も尊敬する偉人の言葉。自衛隊に自ら志を持って入隊した男児なら、誰もがこうありたいと憧れる将官の鑑とも言うべき姿勢を示したもの。
……自分ごときが使うとは恐れ多いが、ここは鉄火場ゆえ恥を忍んでお借りしよう。
「予ハ常ニ諸子ノ先頭ニアリ───【硫黄島の戦い】を前にして、栗林忠道初代防衛庁長官閣下が指揮下に訓示した言葉だ。
無論自分があの方ほど立派であるなどと自負するつもりはない。だが少なくとも、あの方のように先頭で戦う覚悟は持っている!自分もまた諸君らの列の中に加わり、共に支え合い、守り合う覚悟は持っている!
着いてこいなどと出過ぎたことは言わん、だが今は!我々の故郷を、国民を守るために!!勇気を振り絞り、恐怖に打ち勝ち、“共に”戦って欲しい!!」
150 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/02/02(木) 00:13:29.58 ID:J8FT46aQ0
〈〈………………!!〉〉
艦娘艤装・艦載機操作補助思念体───通称【妖精】。1m前後の艦載機に乗り込むだけあって彼ら(彼女ら?)の背丈は文字通り掌サイズであり、顔立ちもアニメキャラクターを更にデフォルメしたようなどこかポップな印象で、これが深海棲艦という凶悪な存在を轟沈し得る兵器の操舵者だ等と俄には信じがたい。
どうやら自分には提督の“素質”があるらしくこの【妖精】達が見えるのだが………今足元で、恐らく余りの艤装を用いて対空陣地の構築に奔走していたであろう数人がこちらを見上げて敬礼しているのが視界の端に移る。
艦内移動用の車両──妖精たちの体躯からすれば学園艦の面積で徒歩移動などサハラ砂漠の横断も同然だろう──が近くにある辺り、わざわざ代表して何人かが駆けつけてきたのだろうか。
至って真面目であろう本人たちには失礼ながら、童話の一場面じみた光景には微笑ましさすら感じてしまう。だがそのメルヘンチックさによって、幸い自分自身も肩の力は抜けたが。
「八頭進一等海佐相当官は言った、“日本を守るため、共に僕等に出来るベストを尽くそう”と。
今彼は、フィリピン海の洋上で艦娘達や【こんごう】の乗組員達と共に死力を尽くして戦っている!ならば我々もまた、彼と共にベストを尽くそう!この鎮守府を率いる“提督”の姿に、恥じぬように!!」
全く、あれのどこが“一般人”なんだか。我々が命令に伏し、命を賭し、“共に”戦うに足る、最高の上官ではないか。
つくづく、自分は果報者だ。人生で二度も、そんな上官に巡り会えたのだから。
「「「〈〈─────……………!!〉〉」」」
別に、島を震わすほどの雄叫びも、ハリウッド映画のヒーロー登場シーンかと見紛うばかりの歓声も上がらない。寧ろ、静けさという意味なら前よりも深いものとなった。
だが、肌で解る。隊員たちが、妖精たちが、海上の【第五連隊】の艦娘達が、恐怖や焦りを捻じ伏せていくさまを。勇気を取り戻し、闘気を漲らせている様子を。
押し寄せる敵機を、待ち構えるとまでは言わない。ただ少なくとも、距離を着実に詰めてくるレシプロエンジン音に、真っ向から立ち向かう準備を彼ら彼女らは完全に終えた。
(6年前の…………あの人のお陰だな)
命を賭け、命を捨てるに値した、一人目の上官。彼が明確に自分の上官であった時間は、ほんの数時間に過ぎない。その間言葉を直接交わすことはなかったし、向こうはきっと自分のことを知りもせず逝ってしまったに違いない。
《敵艦載機群、到達まであと100秒!!》
《【第五連隊】旗艦・水無月より連隊各艦、対空射開始!撃ち方ぁ、はっじめぇ!!》
《対空射隊指揮艦・荒潮より艦内艦娘各位、先行射撃開始!!いーい?爆弾落とさせちゃダメよ、お掃除大変なんだから》
〈ワレラモツヅクゾ!!コウカクホウタイ、カクジウチカタハジメ!!!〉
それでも、自分は覚えている。山を鳴動させ、海を震わせ、敗残兵を死兵へと変えたあの人の言葉を。
《………っ!ダメだ、やっぱり水無月たちの火力じゃ十分に防ぎきれない……!!》
《荒潮より司令室、敵機40機強を撃墜し陣形大いに崩すも進軍尚止まらず!!先鋒航空群、突入態勢に移行!!》
《甲板全区画、全隊員に伝達!対空戦闘用意、対空戦等用意!!第一種戦闘配置を継続せよ!!》
硫黄島の空に高らかに響き渡った、平賀文平一等海佐のあの雄叫びを!!
『『『『───────────────ッ!!!!!!』』』』
「敵機直上、急降下ァーーーーーーーーッ!!」
「県一等陸尉より艦内全人員に伝達ッ!!」
151 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/02/02(木) 00:14:32.46 ID:J8FT46aQ0
.
「暁の水平線に、勝利を刻め!!!!」
自然と喉から迸ったその叫びと共に、89式小銃を“ジェリコのラッパ”が迫りくる方角に向け引き金を引く。
『…………ッ!!!?』
先陣を切ってきていた【カブトガニ】が一機、弾丸に貫かれて爆散した。
152 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2023/02/02(木) 01:15:57.60 ID:79O4T+CB0
.
《そもそもね、今回の事態を招いたのは南政権の外交政策にあるわけですよ。軍拡を推し進め【平和維持法】や【艦娘三原則】を勝手に改悪し、周辺諸国の不安を煽りました。
日本が“戦犯国”であるという認識があまりにも欠如しすぎですよ》
《そもそも“武装勢力”が北朝鮮や中国と本当に関与しているという証拠もありませんし………それこそ、自衛隊の中で自作自演をさせている可能性もあるわけでしょ?南首相ならやりかねないわ》
《私は劉首席の言い分にも一理あると思いますよ。対話を求めていた中華人民共和国に対して握り拳で応えたのは南政権です。宝木議員を含め一部の良心的な市民はそのことの危険性と不義理を訴えていましたが、南政権の巧みな扇動によって握りつぶされていたのです》
《仮にこのテロが他の国の仕業だとしてもぉ、それってマジラブアンドピースしなかったニッポンのジゴウジトクっつーかぁ?マジオワコンだよねニッポン》
《これは当局のある情報筋から入ってきたものですが、既にフィリピン海防衛線は敵の“新型艦”に突破されているという噂もあり────》
《南政権は放送法の改正を強く推し進めていましたが、これは恐らくこうした事態が起きた際に情報統制と国民扇動をしやすくするための下準備だったのではないかと専門家からは指摘が────》
《これは沖縄の米軍基地前の様子ですが見てください!!もう南政権には騙されないというプラカードとともに多数の一般市民が殺到しています!この光景は那覇鎮守府や自衛隊基地でも同様に────》
《南さんもね、意地にならずに中国の支援を受ければいいんですよ。彼らだって本当に日本を占領しようとするわけないじゃないですか、話せば解りますよ。チベットやウイグルだって、あんなもんアメリカやイギリスが一方的に主張してるだけで────》
《徐々に各地へと拡大しつつある反南政権デモに対して、県警や自衛隊、鎮守府組織による強制排除の動きが見られます。政府はこれを“暴動”と関連付けていますが、これは明らかな詭弁であり言論弾圧だと一部国から批難声明が────》
153 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/02/02(木) 01:18:56.70 ID:79O4T+CB0
《フォックス=カーペンター国務長官はCNNの取材に解答、ヨシヒデ=ミナミの武装勢力に対する断固抵抗の姿勢は早期解決に繋がり全面的に支持されるべきだと────》
《アメリカのフォックス=カーペンター国務長官は“早期解決のためにはあらゆる手段を模索するべきだ”と、日本単独での武力鎮圧のみが道ではないと暗に示唆を────》
《ダイオード=リーンウッド首相は日本で起きている事態への直接的な言及は避けたものの、ヨシヒデ=ミナミの強力なリーダーシップによって世界は最悪の状態を免れていると謝意を述べ────》
《南政権との蜜月を築いてきたとされるダイオード首相ですが、現状については“日本は自分達の影響力を考えなければならない”と懸念を表明し────》
《フランス政府は、中華人民共和国の声明に対し人類への反逆と言っても過言ではない最悪の火事場泥棒だと強烈な批判を浴びせ────》
《フランスからも日中間で発生したこの衝突に対し強い懸念が表明され─────》
《…………このように、世界各国からも日本の強硬な対応に対して不快感や不安を指摘する声が多く、世界全体での戦況へ悪影響を与えるのではないかと強い不安を呼んでいます。
南政権には今一度、このような状態だからこそ“人類同士の協和”に向けて動いてほしいと切に願います。
テレビ日ノ出は引き続き、深海棲艦関連のニュース並びに国内で起きた“暴動”の情報を速報で伝えてまいります》
154 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2023/02/02(木) 07:30:52.95 ID:XwtivAAo0
投下おつです
ジワジワとタイトル回収へ近づいているのを感じる
155 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2023/02/25(土) 23:30:10.07 ID:0Lt92TP40
.
元より、マス・メディアという集団に期待などしてはいない。彼らの自衛隊に対する「敵対的」な姿勢も、自国民の命や自国の国防より周辺国の“お気持ち”へ配慮することを遥かに重視する性分も、彼女が現役の頃から一貫している。
深海棲艦という未知の脅威が出現した後ですらその姿勢を揺るがさなかった時には、最早一周回って感心と敬意さえ抱いた。
……向こうは疾うの昔に地中に埋まっていたハードルをこの期に及んで掘り起こし、その下をわざわざ潜ってきたが。
@# _、_@
( ノ`)「本当に、腐った連中だよ」
彼女────流石挙母(サスガ・コロモ)の吐き捨てた言葉は、これでも自制心を最大限に振り絞り感情を限界まで抑え込んでいる。仮に彼女が心の赴くまま活動を開始すれば、肩口からぶら下がるM249軽機関銃は各報道機関を“黙らせる”為に使われることだろう。
耳元で尚も不快な言葉を羅列し続けるイヤホンを、眉を顰めつつ取り外す。その先につながる持ち運び式のラジオはビルの中で拾った物で、元の持ち主と思われる人物が既に“使える状態ではなかった”ため拝借した。
別角度からの情報収集になればと考えてのことであったが、受けた不快指数が代償として割に合ったものかは議論の余地がありそうだ。
ただ、“有益な情報”を十分に得られたのは間違いない。
@# _、_@
( ノ`)(中国の“国盗り”、ブラフじゃあないね。人民解放軍の日本進駐実行は秒読みって証拠だ)
各報道機関による、余りにも露骨に偏った南政権への批判的論調。いつも通りの光景と言ってしまえばそれはそう。
だが、ここまで“一斉に”、“整然と”、“足並みを揃えて”動いてくるとなれば、各個の自由意志ではなく何かしらの「指揮系統」が存在することを疑わなければならない。
156 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/02/25(土) 23:31:59.88 ID:0Lt92TP40
言ってしまえば、そもそもマス・メディアが機能を維持していることそれ自体解せない面がある。
本来この手の組織・集団は、自身の正当性や思想の主張、或いは単純な恫喝などを目的として放送施設はかなり高い優先順位で押さえにかかる。昨今は動画サイトやSNSもあるため一概には言えないとしても、日本のような治安が高いレベルで保たれている国においてライフラインの一つを掌握できれば与えられる衝撃は決して小さくはない。
にも関わらず、銃弾の一発も撃ち込まれないどころか暢気に“有識者”を招いての政権批判放送を垂れ流す余裕すら保たれているというのは流石に不自然だろう。
武装蜂起が始まった直後に彼らが神妙な面持ちで「各放送局も被害を受けている可能性が高い」等と宣っていたことを考えれば、乾いた笑いの一つも湧いてくるというものだ。
そしてこれらの“不自然”は、「マス・メディアが“武装勢力”と敵対していない」ケースを仮定した場合途端に“自然”なものとして説明がついてしまう。
@# _、_@
( ノ`)(そりゃあ自分達の要望と主義主張を自主的に“代弁”してくれるなら、いちいちリソース割いて制圧する必要なんざないだろうさ)
寧ろ「報道機関が“自主的に”人民解放軍の日本進駐に肯定的な意見を述べている」となれば、中国側にとっては先の宝木蕗也(たからぎ・ふかや)による南政権への“糾弾声明”と併せて立派な大義名分となり得る。実情がどうあれ曲りなりなりにも「言質」さえ存在すれば、アメリカやロシアに対する“戦後”の牽制材料としても十分だ。
@# _、_@
( ノ`)(ただしこれらは、“実効支配”の確立が前提条件だ。となると、共産党の上層部が“拙速”を重視して各軍閥をまとめ切る前に動かせる分だけで強引に乗り込んでくる可能性も否定できなくなってきた………もう、時間は殆ど残されちゃいないだろうね)
そこまで考察を終えたところで、挙母は用済みとなったラジオからイヤホンを抜き取り………無造作に頭上へ放り投げた。
《都内で“武装勢力”に対して自衛隊並びに艦娘の出動が行われている件についても、各界“有識者”からは対話を放棄した暴力的な対応であるt
考えた人間の脳に何らかの欠陥が存在するであろうことが容易く想像できる文章を無遠慮にがなり立てていたラジオが、伸びてきた何本かの火線に貫かれる。
世界で最も製造され、世界で最も多くの人を殺し続ける自動小銃───AK-47から放たれたそれらは、そのまま挙母が身を隠している路上で横転した乗用車の屋根に突き刺さり火花を散らした。
157 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/02/25(土) 23:33:24.59 ID:0Lt92TP40
県庁所在地と言えど、水戸市はあくまで地方都市の一つ。駅周辺の商業エリアや繁華街の一部区画を除いて、東京都中心ほど建造物同士の“密度”は高くない。道路の幅も広く、比較的視界が拓けている場所がそれなりに多くなる。
故に、同地における戦闘は“市街戦”であると同時に“攻城野戦”の側面も併せ持つ。
遮蔽物の少ない路上を行軍する際攻勢側はどうしても身を晒す機会が多くなり、防衛側は予め沿道の建造物を掌握すれば敵の位置を容易に確認しつつ上方、側面から安全に火力を投射し得る。
準備砲撃や潤沢な航空支援によってそうした脅威を事前に排除できるならまだいい。だが歩兵戦力のみでこれを制圧しようとした場合、戦況の天秤は最初から大きく防衛側に傾くことになる。
挙母たちが今いる場所などは、その典型的な例だろう。
水戸駅から南に800m程南下した大通り、道は広くしっかりと塗装され、沿道にはマンションと都内より遥かに階数の少ないビジネスビルが閑散と立ち並ぶ。
既に日は暮れ、また路上には運転手の逃亡や“沈黙”によって放置された民間車両が幾らか転がっているため身を隠す術は用意されているが、それでも限度はある。全くの無策で進軍すれば、たちまち十字砲火の餌食だ。
故に挙母達は、あえて敵に“先手”を取らせにいく。
从' '从《先ぱぁい、火線により敵位置把握できました〜。交差点挟んだ向こう側、左手の学習塾が入ったマンションと右手ガソリンスタンド後ろのマンション、それぞれの屋上に狙撃手〜。左手沿道の消防署内にも動きがありますね〜、多分中から敵が出てくると思われます〜。
それとぉ、駅南公園通りを東700mほど先から新手が接近中〜。数は目算20人ぐらいかな〜》
背後の高校校舎を押さえ、その屋上に別働隊を率いて陣取る“後輩”────渡辺優香(ワタナベ・ユウカ)からの無線通信。口調こそ場違いに間延びしともすれば闘争心が削がれるレベルだが、内容は迅速で的確だ。
陸自の最精鋭が集う中即連において尚【天の眼】と称された空間把握能力は、一線から退いて5年経った今も衰えていないらしい。
@# _、_@
( ノ`)「西進中の新手、牽制で止められるかい?」
从' '从《はいはーい。このためのぉ、L96A1とぉ、ラプアマグナム弾〜》
やはり間延びした、しかしどこか嬉々とした響きの返答。闇夜を銃声が駆け抜け、観測手と思われる男がくぐもった声で《One Down》の一言を告げる。
「xxxxxッ!!!」
从' '从《From fire-department almost never reach me anyway, so I left it up to my allies. Keep an eye out for snipers only. Don't have to hit it, so don't let them take aim with Suppression fire》
即座に校舎屋上へ向けて弾幕が殺到するが、渡辺は冷静さを崩さない。一瞬で状況を整理し、的確な指示を味方に下す。
@# _、_@
( ノ`)「………さて、行くかね」
同時に、挙母もまた動く。
158 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/02/25(土) 23:35:40.84 ID:0Lt92TP40
交戦開始とほぼ同時に行われるスムーズな戦力展開に、即時の増援派遣。既に市内各所で新たに発生した“戦闘”を向こうの指揮官達も把握し、その上で対処に動き始めているのだろう。
水戸警察署を始め警官や自衛隊による抵抗が完全に排除されたワケではない中でこうして更なる人員を捻出できるとすれば、同市における“武装勢力”の規模は自分達や横須賀の予想以上に大きい可能性を考慮しなければならない。
ならば、此方もド派手に動いて兵力の“過大評価”を誘発させる。
@# _、_@
(# ノ°)「主砲撃、右正面ガソリンスタンド!!」
「了解!!」
飛ばした号令に、挙母のすぐ横で小柄な人影が───神風型駆逐艦四番艦・松風が勢いよく車の影から路上へと躍り出る。その右手で起動した12cm単装砲が、何ら躊躇することなく砲弾を指定された“目標”に向かって撃ち放った。
从' '从《ワァオ》
気化性も引火性も高い液体燃料を扱い、ただでさえ【火気厳禁】は絶対不可侵な場所。そこに艦砲射撃を食らわせれば、どうなるか。
誰でも容易く辿り着ける単純明快な問だが、あえてそれを比喩的に表現するならば、
「ムグォッ」
「「「ッッ!!?」」」
マイケル=ベイ監督作品のハリウッド映画の一場面、といったところか。
「XXxxxxx!!??」
「xx,xXxxx!!」
地下の貯蔵タンクが炸裂する。空間が揺れる。暴風が吹き付ける。巨大な火柱が生贄を求める竜神のごとく逆巻き荒れ狂う。
消防署から現れた一団、その最外殻にいた数人が灼熱の渦に飲み込まれる。一人の身体が浮き上がり消防署の壁に叩きつけられる。凄まじい速度で吹き飛んできたコンクリ塊に、更に一人の頭蓋が粉砕される。
路上を、火の粉混じりの土煙が濛々と覆い尽くす。
「xxxxxxx!!」
「xxx、xxXx!」
「xxXXxxxX, xxxxxx!!」
至近で起きた大爆発、一瞬で失われた1/4の兵力、膨大な土煙による視界の封鎖。これだけ悪条件が伴ってなお、敵の指揮官は冷静だった。残った人数で即座に陣形を再編し、弾幕を周囲に張りながら部隊を後退させていく。
ただの盲撃ちなら何ら恐れることはないが、統率が取られ火線間が密な“制圧射撃”は例え的が捕捉できない状況下でも牽制としては十分な効果を発揮する。
マズルフラッシュによる位置の特定を避けるべく各員が連携を崩さない範囲で細かく動きながら銃撃を行っている点もソツがない。並の練度の部隊・兵員が相手であったなら、消防署までの撤退は十分に間に合っただろう。
「知ってるかい?」
問題は、
@# _、_@
( ノ`)「日本じゃあ、ゴミのポイ捨ては犯罪だよ」
「………っ!!!?」
相対した側が、とびきりの手練であった点にある。
159 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/02/25(土) 23:38:01.25 ID:0Lt92TP40
放置車両を飛び越え、弾ける銃火をくぐり抜け、爆煙の只中に突っ込む。肉食獣から逃げるカモシカの如く靭やかに、獲物を追うヒグマの如く獰猛に駆け、一息で距離を詰める。
あっという間に敵兵の懐を取った挙母が次に取った行動は、殴打。原始的で単純、故に出が早く実行するだけなら特別な技量を要さない、最も基礎的な攻撃行動。
殺傷能力は使われるモノによってくるが、フル装弾されたMINIMI軽機関銃の銃床を利用したならそれは当然十分に確保される。
況してや挙母の全力を以て振るわれたなら、最早殴打というよりは“砲撃”に近い。
@# _、_@
(# ノ゚)「噴ッ!!!!」
「ギュペッ」
「xXxっ!!?」
真っ向から食らった敵兵の頭蓋が、コンクリ塊での“それ”よりも遥かに凄まじい勢いで砕け散る。首から上を骨片と脳髄と千切れた毛細血管がぐちゃぐちゃに混ぜ合わさったナニカへ変貌させ屍が崩れ落ちようとするが、しかし挙母は胸ぐらを掴みそれを許さず持ち上げる。
「xッ!?」
「XXxxっ!!!」
@# _、_@
( ノ`)「っ……!」
挙母の乱入に気づいた他の敵兵達が、ある者は悪態を、ある者は驚愕を口にしながら銃口を向けてくる。
迸る火線を遮るは、盾の如く掲げた屍体。まぁ一応防弾装備をしてはいるが、カラシニコフ小銃十数丁の斉射となればさしたる役には立たない。加えて斃した男の体躯は拳母のそれよりも小柄で、隠れきれるものでもない。保って、せいぜい数秒。
そして、その数秒で挙母にとっては“十分”だ。
「グォバッ!!?」
「xx……xッ!!?」
火線の出処の内一つに“肉と骨と断裂した血管で構成された元人間の塊”を、別の一つに腰から抜き放ったナイフを投げつけ、射撃が止まり開いた火線の穴へ飛び込む。
ナイフを投擲された方は銃身で弾き防いでいたが、構え直そうとしたAK-47を横から伸びてきた腕が押さえつける。
渾身の力でそれを跳ね除けようとするが、まるで溶接でもされたのかと疑うほどにビクともしない。
@# _、_@
( ノ`)「鈍いね」
「ヒッ………」
挙母の腕だった。
160 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/02/25(土) 23:39:31.72 ID:0Lt92TP40
「ゴフッ、ギッ、グガッ………」
膝打ちを腹に入れ、掌底で地面に叩き伏せ、頚椎を踏みつけ圧し折る。流れるような殺戮動作の延長で前転し、振り向きざまにMINIMIを膝立ちで構える。
「「ガァッ!!?」」
「「ぅグッ………」」
フルバースト射撃で、銃口を横一線。背後に回り込まれての弾幕に為す術などなく、軌道に沿って立て続けに四人が撃ち抜かれる。
「xxXX!!」
「「「xX!!!」」」
尤も、流石に百発百中の精密射撃とはいかない。指揮官と思われる男を筆頭に、被弾を免れた残余の兵士たちが一斉に反転し射撃体勢に入り、
「…………ゴッ!!?」
内一人の喉笛に、背後から伸びてきたナイフが突き立てられた。
(´ `)「Иди спать, испорченная собака.」
「ヒコッ!?」
「ヌァッ………」
指揮官の喉を引き裂いた襲撃者は、ロシア語で何事か呟きながらその屍が倒れ伏す前に次の動作を開始している。
左右の敵兵に、眼にも止まらぬ連続射撃。右側の敵兵は側頭部を、左側は胸部を射抜かれ、小さく呻いて事切れる。
右手で煙を燻らすのは、サブマシンガンやアサルトライフルではなく………リボルバー式の拳銃だった。
@# _、_@
( ノ`)(………こりゃ驚いた、コルトなんざ使う物好きがいるたぁね)
コルト・シングルアクション・アーミー。アメリカ合衆国で実に150年前、西部開拓時代に生まれた軍用拳銃だ。安全装置を持たないという機構的特色故に【早撃ち】に対して極めて高い適正を持つ銃であり、所謂「保安官」の代名詞的存在であるテキサス・レンジャーにおいては一部局員が未だに愛用しているという。
無論、性能として特化しているのはあくまで「早撃ち」の部分に対してのみ。威力については一般的な銃火器と大差なく、“本来なら”連射力は近現代のオートマチック拳銃やサブマシンガン、アサルトライフルに大きく劣る。
だが、挙母は見逃していない。左側の敵兵に対して、あの“ガンマン”が一度の射撃で「3発」の弾丸を叩き込んでいたことを。
某盗賊一味のガンマンも使う、リボルバーを“手動”で回転させることによって“連射”を実現させる超技法。
@# _、_@
( ノ`)(ファニング・ショット…………本当に西部開拓時代からタイムスリップしてきたなんてオチじゃあるまいね)
しかも“ガンマン”による3連射は、全てが寸分の狂いもなく同位置に突き刺さった。“重ね撃ち”だったからこそ防弾チョッキも肉も貫き、一息に心臓まで届いたのだ。
161 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2023/02/25(土) 23:43:03.59 ID:0Lt92TP40
そして、更に驚くべき事実が一つ。
華奢な身体つき、挙母のせいぜい胸辺りという──挙母側が異様であることを差し引いても──決して高いとは言えない背、爆風に靡く長いブロンドの髪、透き通るような白い肌、悪態と思わしき言葉を発した声の高さ。
この“ガンマン”は、女だ。
@# _、_@
( ノ`)(………まぁ、だからどうしたって話ではあるがね)
挙母自身は、急遽渡辺からお呼びが掛かった事で自身の子供達を助けるにあたって「渡りに船」と参加した身であり、この部隊がどういった存在かは皆目検討もつかない。
ただ日本という国の在り方と照らし合わせれば、何かしら後ろ暗いモノを抱えているのは容易に想像がつく。そして渡辺に指揮を託しているということは、十中八九構成員それ自体もまともではないのだろう。
だが、そんなものは今の挙母にとってはどうでもいい。
組織の設立経緯が胡散臭かろうが、所属員達の出自が後ろ暗かろうが、それを率いている“後輩”が超絶ド級の変態で戦闘能力と引き換えに人間性を母の胎内に置いてきたレベルの人格破綻者で仕事上の付き合いでなければ1秒以上同一空間の酸素を共有していたくないほどのゴミカス野郎であろうが、全て政治屋連中が対処すべき問題で挙母には関係ない。
まぁあの色んな意味で化け物じみた首相なら、この問題についても恐らく“上手いこと”やるだろう。
挙母にとって重要なのは、ただ一点。部隊がこの“想定外の有事”に対して、自分の子供達を直接的にも間接的にも危機に陥らせているこのクソッタレな状況に対して、即応性を持っているかどうか。それだけだ。
そこさえ満たされているなら、他の全てについて意に介するつもりはない。後は目的を───国を護るという誇り高き職務に懸命に従事する、バカ娘とバカ息子の“手助け”を果たすのみ。
@# _、_@
(# ノ°)「Both sides!!」
それに、“現状”そもそもそんな事に気をやっていられるような暇もない。
@# _、_@
(# ノ°)「Fire, Fire, Fire!!」
(#´ `)「Садись!」
「ガフゥ」
「xxXxxX!!」
“ガンマン”と他の後続兵によって残党も殲滅され制圧下に置かれた路上、だがそこに息をつく間もなく弾幕が降り注ぐ。消防署とガソリンスタンド裏のマンションそれぞれの入口から新手が出現し、2階、3階からも計数十丁ほどの銃口が突き出される。
消防署側は即座に挙母が応射して押し留め、マンション側も“ガンマン”が先鋒二人を立て続けに撃ち倒したことで足並みが乱れその間に他の兵士の合流が間に合い路上への展開を防ぐことに成功した。
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