シン・エヴァ もう一つの終わり

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/08/20(土) 22:46:48.27 ID:YgtehLUf0
エヴァSS

シン・エヴァ劇場版の続きです。本編が終わったところから始まります。

さすがにもう需要は無い気もしますが、ようやく形になったので投下します。


■免責事項■
・よくあるSSの書式、「人物名+セリフ」に加えて、
 ト書きのようなもの(場面説明)がはさまります。
 (生理的に合わない方はそっ閉じ推奨)

・エヴァ本編の内容に関する部分があるので、本編未見の方も
 そっ閉じ推奨


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1661003207
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/08/20(土) 22:52:06.56 ID:YgtehLUf0
===駅のホーム===

マリ「さあ、行こう。シンジくん」

シンジ「うん、行こう!」

 手をつないで駆けていくスーツ姿のシンジとマリ

 エンドロール

〔終劇〕

  :
  :

***追加シーン ここから***

=== 海辺の街 ===

 髪の長い女性の後ろ姿

 ピンク色のスーツ、赤い眼鏡

 工場群の煙突の向こうにきらきらと光る水面

 眼鏡をかけた斜め後ろからの横顔

 ネックレスについた金属の円盤を手のひらに乗せている

(回想)

  男性の声「マリ」

   優し気な響き

   無邪気に笑う幼女の様々な場面
 
   抱き上げる男性の手
 
   男性の顔を触っている小さな手

  男性の声「マリ」

   男性の目元は見えないが微笑んでいる

  男性の声「マリ」

   ベッドに横たわる男性の姿

   顔に白い布がかけられている

   それを見ている幼女の顔

  幼女「おとうさん?」

   あどけない声

   幼女の肩に黒い袖口の大人の女性の手が乗っている

   周囲で大人たちのすすり泣きや低い話し声が聞こえる

  幼女「おとうさん?」

   白い布がかけられた頭部
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/08/20(土) 22:53:16.62 ID:YgtehLUf0

   闇

  幼女「おとうさん! おとうさん!」

   幼女の泣き声

  :
  :

 女性の斜め後ろの横顔

 ペンダントを握り締める

 闇

マリの声「お父さん……」

  :
  :



4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/08/20(土) 22:54:14.44 ID:YgtehLUf0
===ネルフ第二支部 N109棟跡地===

 青空、緑の山々

 小鳥のさえずり

 湖にヴンダーの脱出カプセル群が落着し、ハッチが開いている

 砂浜に続く多数の足跡

 草の上に資機材を並べて座り込んでいるヴンダーの乗員たち

 人込みから歩み出すリツコ

リツコ「終わったのね……」

 少し目をすがめ、周囲の山々を見る

 リツコの悲し気な横顔

リツコ(ミサト……)

マヤの声「副長センパイ!」

 振り返るリツコ

リツコ「どうしたの」

 クルーたちでごったがえす草地に人だかりができている

 開かれたミドリのノート型端末に灯りがともり、ヴンダー乗員たちが

 それを囲んでいる

マヤ「マギコピーが何か受信してます!」

リツコ「マギコピー…というか、そのコピーね」

 場所をリツコに譲るマヤ

 画面に細かいノコギリの刃のように振動する水平線が表示され、その1か所が

 鋭く立ち上がっている

 小刻みに上下する頂点に追随して、数値のラベルが表示されている

リツコ「これは――」

 その下のウィンドウに数値や文字の羅列が絶え間なくスクロールしていく

リツコ「――エヴァ初号機?」

 険しい顔でリツコの顔を覗き込むマヤ

マヤ「センパイもそう思いますか?」

 表情をこわばらせるリツコ

リツコ「まだ……終わっていないというの!?」

 顔を見合わせるクルーたち

リツコ「発信源は?」
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/08/20(土) 22:55:24.80 ID:YgtehLUf0
ヒデキ「第6サーチからです」

リツコ「ニアサー前の遺物か。生き残っていたとはね」

ヒデキ「南極からの信号をリレーしてるようです」

ミドリ「でも、すぐに可視からはずれます!」

リツコ「生きてる衛星を探して、回線を維持して」

ヒデキ「はい」

 自分の端末を起動するヒデキ

リツコ「それから、キャリアの干渉パターンからマイナス宇宙での発信源の位置の把握を!」

ミドリ「そんなことできっこないっしょ!」

マコト「いや、できる。こっちに回せ」

リツコ「頼むわ、日向君」

 めいめい、慌ただしく作業にとりかかるクルーたち

 立ち上がるリツコ

 人々の頭上に広がる青空、緑の山並み

 眉をひそめるリツコ

リツコ「……悪い予感がする……」

  :
  :

6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/08/20(土) 22:56:17.41 ID:YgtehLUf0
===駅前===

 笑みを浮かべて走っているシンジ

 前を走るマリの後ろ姿

 次第に差をつけられていく

 先を行くマリを追って、息を弾ませて駆けていくスーツ姿のシンジ

シンジ「マリさん、待っ……」

 ドンッ

シンジ「痛っ……」

 何かに顔からぶつかり、よろめいて尻餅をつくシンジ

 路上に転がるシンジのカバン

シンジ「痛ってー……」

 額をさすりながら立ち上がり、駆け出そうとして、また見えない壁に突き当たる

シンジ「うわっ」

 見えない壁を手のひらで確かめながら、

シンジ「な……なんだこれ……」

 街の風景と見えていたものがシンジを取り巻く書き割りであることに気付く

 あたりを見回すシンジ

 先ほどまでふつうの街だと思っていた場所が、映画のセットのように見えてくる

 道行く人々が静止し、それぞれ切り出しのように平板になっている

シンジ「マリさん! ……えっ?」

 駆けていくマリの後ろ姿の形をした切り出しが倒れている

 かがみこみ、裏返してみるシンジ

 むき出しのベニヤ板に角材の裏打ちがされているだけで、何も描かれていない

シンジ「……どういうこと?」

 立ち上がり、ふと視線をあげ息を呑むシンジ

シンジ「あっ」

 天井は撮影スタジオのようにブームが張り巡らされ、

 照明機材がシンジがいるフロアを照らしている

 書き割りの壁の頂部、裏側の足場と思しき場所に立つピンク色のスーツの女性の後ろ姿が見える

シンジ「マリ……さん?」

 女性が身をこわばらせ、わずかに頭を巡らせる

 マリの横顔
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/08/20(土) 22:57:18.62 ID:YgtehLUf0
マリ「あり?」

 すっと目を細めるマリ

マリ(邪魔が入ったかにゃ?)

シンジの声「マリさん!?」

 振り返り、見下ろすマリ

マリ「よっ! シンジ君」

 おどけた挨拶

シンジ「マリさん! どうなってるの? これ」

マリ「ああ、うん。えーとね……」

シンジ「ここは……なに?」

 シンジの顔を見て少し考えるマリ

マリ「……ゲンドウくんの生まれ故郷」

シンジ「えっ?」

 書き割りの海のほうを見晴るかすマリ

マリ「シンジくんのお父さんが、生まれ育った街だよ」

 振り返り、街並みとその向こうの工場群を改めて眺めるシンジ

シンジ「ここが?」

マリ「そ」

 またマリを見るシンジ

シンジ「で、でも……変だな……」

マリ「え?」

シンジ「だって……こんなに海が近いのに……」

マリ「あー、そっか。君にはわかんないよね」

シンジ「……」

マリ「ここはね、セカンドインパクトが起こらなかった世界なんだよ」

 マリを見上げるシンジ

シンジ「セカンドインパクトが……起こらなかった?」

マリ「もっとも、見ての通り、まだ作りかけだけどね……」

 少し後悔したような表情のマリ

 頭をかく

マリ「ま、いっか」

 眼鏡をなおすマリ

8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/08/20(土) 22:58:15.66 ID:YgtehLUf0
シンジ「!」

 驚いて傍らを振り返るシンジ

 いつの間にかシンジの横にマリが立っている

 第一中学校で出会った時の制服姿に戻っている

 スカートのほこりを払う仕草

 シンジも14歳の姿、ワイシャツに学生ズボン姿に戻っている

マリ「私は、落とし前をつけなきゃいけないんだよ。私がやったことの」

シンジ「落とし前……って……」

マリ「私のせいなんだよ。全部」

 苦し気な表情をシンジに向けるマリ

マリ「セカンドインパクト」

 眉をひそめるシンジ

マリ「話せば長くなるけどね……まあ、この際だし」

 道路わきのボラードに腰掛けるマリ

マリ「私、天才少女だったんだよ。飛び級で大学入って。言ったっけ?」

 首を振るシンジ

(回想)(セピア色)

   大学の構内の風景

   行きかう学生たち

   とある部屋のドアの上、「形而上…」と読める表示を見上げているマリ

マリ「研究を初めてすぐ、私は気づいた。私たちには先がないって」

   誰もいない広大な書庫で、白い手袋をはめ、机の上に置かれた古い書物の断片を読みふけるマリ

マリ「『死海文書外典』は、今で言う人類の補完を指し示していた。私たちには、もうそれしかないことを」

   書物から呆然と顔を上げるマリ

マリ「その儀式の始まりがセカンドインパクトによる海の浄化」

シンジ「でも、それはミサトさんのお父さんが――」

マリ「そ、葛城調査隊」

   南極の雪原 カルヴァリーベースの黒光りする建造物

マリ「あれをお膳立てしたの、私なんだよ。論文を書いてね。ただし、核心には触れない。その一歩手前まで」

   防寒服を着た人々が巨大な地下空間を動き回っている

マリ「わかる人には『発見』できるようにね。だから、あくまで葛城博士の仕事ってことになってる」

   南極大陸を覆いつくす爆炎
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/08/20(土) 22:59:02.10 ID:YgtehLUf0
シンジ「そんな……」

マリ「そりゃあ、ひどいもんだったよ。それでも、まだ始まりに過ぎなかった」

   世界各地の沿岸に押し寄せる高潮

   飲み込まれる都市、逃げ惑う人々

 遠い目をするマリ

マリ「それから、使徒への備えが始まった。エヴァの開発、パイロットの養成。

   みんな私が提案したんだよ。本当はね」

   ジオフロントの建設風景

マリ「私は……有頂天だった。何もかも、予想した通りだった。このあと何を

すればいいか、私には全部わかってた……つもりだった」

   天井の低い暗い管制室

   制御卓につく研究者たち

   液体に浸かったエヴァの素体が窓外に見える

マリ「でも、そんなにうまくはいかなかった。すぐに計画に遅れが出始めて、

   委員会からも横やりが入るようになってきた」

   何か大きな身振りで議論している研究者たち

マリ「パイロットの調達も問題だらけだった」

   ユーロ支部

   雪の積もった庭で幼い式波タイプたちと鬼ごっこをするマリ

   その一人を捕まえて抱き上げる

   笑い転げている幼い式波タイプ

   闇

   うなだれるマリの前にスポットライトを浴びた小さな棺が横たわっている

   格子状に並んだ多数の式波タイプの顔写真

ひとつ、またひとつと消えていく

シンジ「それじゃあ、アスカは――」

   マリ『姫を――アスカをお願い』

マリ「あの子は……最後の希望だった」

 力なく笑うマリ

マリ「委員会の査定も厳しくなってきてさ。でも私は間違ってないと思ってたから、

   何とか形にしようとした。形にしたかった。しまいには、親の遺産にも手を付けて――」

   部屋の片隅、ノート型端末にひたすら何かを入力しているマリ
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/08/20(土) 23:00:12.06 ID:YgtehLUf0
   眼鏡にモニタの光が反射している

   手を止め髪をかきむしり、力なくうなだれるマリ

   首から下げたペンダントを握り締める手が震えている

マリ「そこでユイさんの事故……」

 目を見張るシンジ

   透明な隔壁の向こう、液体の中でさかさまに浮かぶユイ

   窓に手をつき、恐怖の表情でユイのほうを見ている白衣のゲンドウ

マリ「プロジェクトはかろうじて踏みとどまったけど……」

   研究室に並ぶ机の一つにうずくまっているゲンドウ

マリ「わかっちゃったんだ。どこまで行っても、これはだめだって。だからあとは――

   あとは元に戻すしかないんだよ。そのための『ネオンジェネシス』」

 息をのむシンジ

マリ「でも、それにはアディショナルインパクトの一歩手前まで行かなければならなかった」

   声をあげて泣くシンジを置いて去るゲンドウ

マリ「私がすることは、もう何もなかった。誰がやっても、そこへ行きつくのはもうわかってた」

   暗い通路に姿を消すマリ

マリ「だから、待つことにしたんだよ」

   何本ものチューブがつながれたプラグスーツのようなものを着て、

   棺桶のような装置に横たわり、自ら蓋を閉じるマリ

   重々しい音とともに闇に包まれる

   地吹雪が吹きすさぶ極夜の大地――

  :
  :

 呆然とマリの横顔を見ているシンジ

マリ「ま、実際は冷や冷やもんだったけどねー」

 自嘲気味に笑うマリ

マリ「びっくりした?」

 申し訳なさそうにシンジを振り返るマリ

マリ「黙ってて悪かったね。でも、それももうすぐ終わりだから」

シンジ「マリさん……」

少女の声「なーるほど、そういうことかあ」

マリ、シンジ「!」

 声のほうを振り向くマリとシンジ
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/08/20(土) 23:01:04.34 ID:YgtehLUf0

 二人から少し離れた路上

 アイボリーのベストに赤いネクタイ、グレーのスカート姿の少女が

 腰に手を当ててこちらをにらんでいる

 青いショートヘア、赤い瞳

 右腕に赤い細い腕時計

シンジ「あ……綾波!?」

少女「はーい、綾波レイでーす!」

 にっこり笑い、快活に挨拶をかえす少女

マリ「ちっ……」

マリ(アドバンスドか……)

(回想)

  エヴァ・オップファータイプを捕食する8号機

  ネオンジェネシスの発動 槍により次々に消えていくエヴァ

  はじけて消えたオップファータイプから青い海に投げ出され、

  目を閉じたまま膝をかかえて水中で回転しているアドバンスド・アヤナミシリーズ(AA)たち

  目を開き、口から少し泡を吐く

  :

 またマリをにらむ少女(AA1)

AA1「ようやく冬月先生の言ってた意味がわかったよ」

 憮然とした表情のマリ

 眼鏡に光が反射し目の表情が見えない

AA1「無責任だよ! あなたは、世界の半分を巻き込んでおいて、結局手に負えなくて……投げ出したんだよ!」

マリ「……君らには関係ないよ」

AA1「関係ある。私たち、みんなセカンドインパクトのあとに生まれたんだから!」

 驚いてAA1を見るシンジ

AA1「セカンドインパクトが起きた世界で、生きてきたんだから!」

マリ「あんたたちには――」

AA1「あなたみたいなおばさんの思い通りになんか、されてたまるもんですか!」

マリ「おば――」

 ひるむマリ

シンジ「マリさん――」

 マリを見るシンジ
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/08/20(土) 23:01:51.48 ID:YgtehLUf0

シンジ「それが本当のネオンジェネシス? 時間も世界も戻さない……そうだ、

    僕はただ、"エヴァがいなくてもいい世界"に書き換えるだけだって……でも――」

(回想)

   駅のホームにたたずむアスカ、カヲル、レイの面影がある人物たち

シンジ「でも、それじゃあ……僕たちは……どうなるの?」

 シンジを見るマリ

シンジ「この世界みたいになったら……僕たちや……もっと後に生まれた

   人たちは……加地リョウジくんは? 第三村の子供たちは?」

(回想)

   第三村に来てから出会った人々

マリ「別に、どうもなりゃしないよ。ちょっと形は変わるかもしれないけど。さっきの君みたいに」

シンジ「みんな、変わっちゃうってこと? あんなふうに? 第三村はどこへ行っちゃうの?」

マリ「シンジくん――」

シンジ「ヴィレのみんなや、僕たちがやってきたことは……それも無かったことになるの?」

   浮かんでは消える、第一中学校での日々、エヴァでの戦いの日々

シンジ「マリさんには……どうでもいいことなの?」

マリ「あのさ、今はあんまり細かいことは心配しなくて――」

シンジ「違う気がする」

 厳しい表情で足元を見ているシンジ

シンジ「よくわかんないけど……ミサトさんと約束したのとは違うよ、それは」

マリを見返すシンジ

(回想)

   ミサトの声「生き残った命を……子供たちを頼むわ、リツコ」

   ヴンダーを操り最後の突撃を試みるミサト

   シンジの手の中で回転するヴィレの槍

マリ「でもさ、こういうことなんだよ! 君が望んだ『エヴァのいない世界』っていうのは!』

シンジ「えっ……」

 憐れみを含んだ目でシンジを見るマリ

マリ「ぜんぶ、エヴァがあったからこうなったんだ。それをもとに戻すのが……ネオンジェネシス」

シンジ「で……でも!」

 うつむき、また顔を上げるシンジ

シンジ「教えて、マリさん。この世界は――あれっ?」
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/08/20(土) 23:02:51.86 ID:YgtehLUf0

AA1「えっ?」

 辺りを見回すシンジとAA1

 マリがいない

 頭上を振り仰ぐ

 いつの間にか、また書き割りの外壁の上に立っているマリ

 眼鏡に光が反射している

シンジ「マリさん!」

マリ「急に言われたって、そりゃあ無理ってもんだよね。わんこくん」

 指で眼鏡をなおすマリ

マリ「でも、いまにわかるよ。君にもね。――私は仕事に戻るよ」

 踵をかえし、書き割りの向こうへ歩み去るマリ



14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/08/20(土) 23:03:58.71 ID:YgtehLUf0
シンジ「マリさん……マリさん!!」

 マリがいなくなった書き割りの壁

シンジ「大変だ……」

 AA1を振り返るシンジ

シンジ「マリさんを止めないと!」

AA1「えっ?……う、うん。そうだね」

シンジ「でも、どうすれば……」

 困ったように笑うAA1

AA1「それは……え、えーとね――」

レイの声『碇くん、どこ』

シンジ「!」

 身をこわばらせるシンジ

AA1「どしたの?」

 きょとんとするAA1

 視線をさまよわせるシンジ

シンジ「綾波……」

AA1「はい?」

レイの声『碇くん、どこ』

シンジ「綾波だ!」

 走り出すシンジ

AA1「ちょ、ちょっと! 碇くん!?」

 あわてて追うAA1

AA1「待ってよー!」

 駅の方に走っていくシンジ

 通りには通行人の姿の切り出しが立ち並んでいる

 それらを縫って走るシンジ

 連絡橋の階段を駆け下り、ホームに降りるシンジ

 立ち止まって息を切らせているシンジ

 辺りを見回しながら叫ぶシンジ

シンジ「綾波!」

レイの声『碇くん、どこ』

シンジ「綾波!」

15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/08/20(土) 23:04:53.08 ID:YgtehLUf0
 頭上を見回しながら叫ぶシンジ

 追いついてきて肩で息をしているAA1

AA1「ハァ……ハァ……やっと追いついた……」

レイの声『碇くん、どこ』

シンジ「ここだ! でも、ここがどこなのか、わからないんだ!」

レイの声『見つけた』

シンジ「えっ?……うわっ!!」

AA1「きゃああっ!!」

 駅の北側の空が突然板張りとなってばりばりと砕け散り、巨大な手が突き出される

 飛び散る板切れから頭をかばうシンジとAA1

 おそるおそる見上げるシンジ

シンジ「あっ」

 書き割りに空いた穴の向こうに暗闇が広がり、エヴァ初号機の双眸が光を放っている

シンジ「綾波!? エヴァ初号機!」

 同じように空を見上げるAA1

シンジ「どうして? エヴァは……全部消えたはずなのに」

 穴から陽光の下に乗り出してくる初号機

 周囲で湧き上がる悲鳴

 驚いて見回すシンジとAA1

 切り出しだった人々がいつの間にか生身の人間にもどっている

男性の声「何だあれは!!」

子供の声「お母さーん!」

 突然出現した初号機を見上げて、悲鳴を上げ、駅から逃げ出そうとする人々

 シンジとAA1の周りを駆け抜けていく

AA1「呪縛……」

 初号機を見あげるAA1

 背景の穴はいつのまにか消え、普通の風景に戻っている

シンジ「えっ?」

 AA1を見るシンジ

AA1「エヴァの呪縛もいっしょに消えたから。それにこの世界」

 シンジを見るAA1

AA1「あの人に都合がいい世界だけど――」
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/08/20(土) 23:05:40.44 ID:YgtehLUf0
シンジ「……それだけじゃない?」

 駅舎の上から身を乗り出し、ホームに立つシンジの前に右の手のひらを差し出す初号機

レイ『乗って』

シンジ「う、うん!」

 顔を見合わせるシンジとAA1

 うなずくAA1

 初号機の手のひらにむかって踏み出すシンジ

 と、突如、上空から飛来する二又の槍

 ロンギヌスの槍に似るが金色に輝いている

 その槍が初号機の手のひらを突き破り、地面に突き立てられる

 地面にうつぶせに倒れこむ初号機

 地鳴りがし、線路のバラストが飛び散る

シンジ「うわっ!!」

 また頭をかばうシンジ

 シンジたちの頭上、別の巨大な手が突き立てられた槍の柄をつかむ

 ホームの屋根の上、槍の柄をつかんで立つピンク色のエヴァ8号機

マリの声「またあんたか!」

 声のほうを振り返るシンジとAA1

 線路を挟んだ向かいのホームにマリが立っている

 肩をいからせ、爆発しそうな怒りをかろうじてこらえている風

 心なしか髪が逆立っている

 連絡通路を踏み砕いて初号機のいるほうへ踏み込んでくる8号機

マリ「あんたたちは、どいつもこいつも――」

 初号機の手のひらから槍を引き抜く8号機

マリ「肝心なところで邪魔してくれちゃって!」

 起き上がろうとしていた初号機の顎を蹴り上げる8号機

 のけぞり、駅裏の街並みを壊して転がっていく初号機

 もうもうと上がる土煙

 また悲鳴が沸き起こる

 遠くから聞こえてくる救急車のサイレンの音

シンジ「綾波!」

 マリを振り返り叫ぶシンジ

17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/08/20(土) 23:06:43.83 ID:YgtehLUf0
シンジ「マリさん! やめてよ!」

 駅の向こう、槍を地面に刺し、初号機の首元の装甲を左手でつかんで引き起こす8号機

 歯をむき出し、右のこぶしを握り締めているマリ

 右のこぶしを初号機の顔にたたきこもうと腕を後ろに引きしぼる8号機

マリ「あと少し、そこでおとなしくして……にゃ!」

 こぶしが繰り出される寸前、8号機の腕を背後からがっしりとつかむ別の巨大な手

マリ「なっ!」

 驚いたように振り向く8号機

 エヴァ9号機が8号機の腕をつかみ、こぶしを構えている

 シンジのとなり、8号機をにらんでいるAA1

 スカートの裾が風にはためいている

AA1「やあっ!!」

 こぶしを8号機の顔面に叩き込む9号機

 背中から倒れこみ、街並みを壊しながら転がる8号機

AA1「なーるほどね! こうやるんだ」

 ボクシングのジャブのようなしぐさをして笑みを浮かべるAA1

 足音を響かせて倒れている8号機に歩み寄る9号機

 つかみかかろうとする9号機

AA1「今度は、あんたの好きにはさせないんだから!――きゃあ!」

 9号機の足を払う8号機

 轟音とともに建物を押しつぶしながら横ざまに転がる9号機

 立ち上がる8号機

マリ「調子に――」

 9号機を引き起こす8号機

マリ「――乗るなあ!!」

 その首を両手で締め上げる

AA1「うぐっ!……」

 目をぎゅっと閉じて両手で首から何かを引きはがそうともがくAA1

 その首に指の形のくぼみが浮かび上がる

マリ「こうなったら、あんたから先に――」

 と、8号機の背中に別の巨大なこぶしが叩き込まれる

 倒れこむ8号機と9号機
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/08/20(土) 23:07:32.30 ID:YgtehLUf0
 家屋の屋根材が飛び散る

マリ「うっ!」

 折り重なって倒れた9号機と8号機を、10号機が見下ろしている

マリ「!」

 さっととなりを振り向くマリ

 別のアドバンスド・アヤナミシリーズ(AA2)が立っている

 AA1と同じ制服姿、右腕に青い腕時計

AA2「お待たせー!」

AA1「げほっげほっ……遅ーい!!」

 涙目でまだ喉を抑えているAA1

マリ「あんたは!」ハッ…

 マリをはさんで反対側にも、いつの間にか、もう2人のAAたちが立っている

 同じ制服、それぞれ黄色と緑の腕時計

 立ち上がる9号機

 青空を背景に4体のエヴァ・オップファータイプが8号機を囲んで見下ろしている

AA3「碇くんの――」

AA4「――邪魔はさせないんだから!」

 4体が一斉にとびかかり、8号機を組み伏せる

マリ「うわっ!!」

 ホームの上、もがくように身をよじるマリ

マリ「お前らぁ!!」

 怒りをあらわにするマリ

 もがく8号機

AA1「碇くん! 早く!」

 隣のシンジを見て叫ぶAA1

シンジ「えっ?」

 少し離れた場所で立ち上がろうとしている初号機

 シンジの前に初号機の左手が差し出される

シンジ「でも、君たちは!?」

AA1「心配ご無用! 今のうちに――きゃああ!」

 9号機を押しのけて起き上がる8号機

 仰向けに倒れる9号機

19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/08/20(土) 23:08:34.19 ID:YgtehLUf0
 残る3機に頭から抑え込まれる8号機

 起き上がろうともがき、オップファータイプを押しのけるが、そのたびに

 別のオップファータイプがとびかかって抑え込む

 周囲の街並みで火災の煙が立ち上っている

AA1「行って!」

シンジ「う、うん!」

 手のひらに乗るシンジ

 シンジを左手で包み込み、よろよろと立ち上がる初号機

 初号機の体表に付着していたがれきが剥がれ落ち、土煙が上がる

マリ「放せ! 放せよ!」

AA4「碇くん! これを!」

 振り返り、棒状のものを初号機の方に投げる12号機

 刃先が丸く、刃の幅が一様な長剣

 樋に複雑な紋様が刻まれている

 西洋の処刑人の剣を思わせる形状

 シンジを左手に乗せたまま、飛んできた刀の握りを傷ついた右手でつかむ初号機

 槍に貫通された手のひらからL.C.Lが噴き出して辺りにしたたる

シンジ「綾波!」

 仁王立ちになり必死にそれぞれのエヴァを操っているマリとAAたち

 見えない壁に向かって足を蹴り出す初号機

 風景の一部が書き割りとなって砕け散り、破れた穴の向こうに暗がりが広がっている

 初号機のほうへ起き上がろうとして、また9号機たちに抑え込まれる8号機

 身をかがめて穴をくぐり、暗がりの奥に向かって走り去っていく初号機

マリ「待てよ! わんこくーん!!」

 穴が修復されて元の風景に戻っていく

  :
  :

 街の遠望

 駅の近くで争っている5機のエヴァの巨体

 周囲で悲鳴とサイレンが鳴り響き、あちこちから火の手が上がっている

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20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/08/20(土) 23:09:08.67 ID:YgtehLUf0
=== 暗い通路 ===

 暗がりを走る初号機

 周囲は、古い石造りの神殿のような内装の、天井の高い通路

 初号機の手のひらから身を起こすシンジ

 髪が風になびき、シャツの裾がはためいている

 初号機の顔を見上げる

シンジ「綾波!」

 走る初号機が速度を緩める

 最後はふらつきながら立ち止まり、ひざまずく

 慎重にシンジを地面におろし、そのまま倒れこむ初号機

 舞い上がる土埃

 思わず顔をかばうシンジ

 横たわる初号機の顔を見るシンジ

シンジ「綾波!」

 初号機の首元に駆け寄る

 非常スイッチを操作するシンジ

 頸椎のカバーが跳ね上がり、半ばせり出して止まるエントリープラグ

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 暗闇

 シンジがL.C.Lに飛び込む水音

シンジ「綾波!」

 プラグ内、青い非常灯がほのかにともっている

 かすかに聞こえるレイのうめき声

 インテリアシートにもたれ、右の前腕を左手でおさえ、目を閉じて痛みをこらえているレイ

 長く伸びた青い髪、一中の制服姿

 駆け寄り、シートの左わきにひざまずくシンジ

シンジ「綾波、だじょうぶ!? 綾波!」

 うっすらと目をあけるレイ

レイ「碇くん……よかった」

シンジ「ごめん、綾波。痛いの?」

レイ「へいき。シンクロが切れたから、すぐよくなると、思う……」

シンジ「綾波……」

21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/08/20(土) 23:10:09.05 ID:YgtehLUf0
 右腕を押さえていた左手を放し、シンジのほうに差し伸べるレイ

 それを見ているシンジ

 身を乗り出し、レイの上体をそっと抱きしめる

 しばらくして、レイの左手がシンジの背中にまわる

シンジ「ごめん、綾波。僕は、何もわかってなかった」

 絞り出すように言うシンジ

レイ「いいの、もう」

 顎をシンジの肩に預けて目を閉じるレイ

レイ「これでいいの」

 シンジの後ろ髪をなでるレイの手

シンジ「ずっと……こうしていたような気がする」

レイ「うん」

(回想)

   第10の使途のコアからレイを引き上げるシンジ

   光の中、レイを抱きしめたまま漂うシンジ

   時が移ろうに従い、二人の姿勢はそのまま、

   レイの髪が少し、また少しと伸びていく

シンジ「長いような、あっという間だったような……」

レイ「そうね」

 レイの肩でつぶやくシンジ

シンジ「綾波は……みんなと一緒に行っちゃったと思ってた」

(回想)

   シンジ「それに、あとでマリさんが迎えに来る。だから、安心して」

   レイ「そう、わかった。ありがとう、碇くん」

 シンジの肩でつぶやくレイ

レイ「待ってた。心配だったから」

 体を離し、身を起こすシンジ

 レイの両肩をそっとつかみ、レイの顔を見る

 シンジを見ているレイ

シンジ「やっぱり、髪、伸びたね」

レイ「変?」

 笑うシンジ

22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/08/20(土) 23:10:53.02 ID:YgtehLUf0
シンジ「ううん」

 真顔に戻るシンジ

シンジ「止めなきゃ。マリさんがやろうとしていることを」

レイ「うん」

 レイの肩から手を離し、プラグ内を見回すシンジ

シンジ「とにかく、方法を考えないと。マリさんが行こうとしていた場所がどこなのか――」

レイ「碇くん」

シンジ「ん?」

 背後を振り返るシンジ

 プラグの内面スクリーンの一隅、音声通話の要求画面が表示されている

 目を見張るシンジ

シンジ「ヴンダーの脱出カプセルからだ!」

 コンソールで何か操作するレイ

 「SOUND ONLY SELECTED」のウィンドウが開く

 バリっというノイズがプラグ内に響く

ミドリの声『つながりました!』

ヒデキの声『信じられない……』

リツコの声『時間がないわ。もしもし!? そこに誰かいるの!?』

シンジ「リツコさん!」

リツコ『シンジ君!? 無事なのね!?』

シンジ「はい! あの、綾波もいます」

リツコ『レイが? いえ、その話はあとね。あなたたちは今どこにいるの?』

シンジ「初号機の中です」

レイ「ゴルゴダ・オブジェクトの内部だと思われます。正確な位置はわかりません」

リツコ『やはりね……』

シンジ「リツコさん! あの――」

リツコ『いい? シンジくん、よく聞いて。これから、測位プログラムを初号機に

インストールします。それであなたたちが行くべき場所がわかるはずよ」

シンジ「あ、はい」

 ふたたび何か操作するレイ

レイ「準備完了」

リツコ『オーケー。送るわよ』

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