【ラブライブ】あの季節(とき)の中で私は【ことり】

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1 : ◆HUg149YDMA :2022/09/24(土) 22:36:05.68 ID:zI56V5m20
書いたのは2020年、渋でしか公開してなかったやつです
何かと賛否のあることりちゃんの話

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1664026565
2 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:38:00.02 ID:zI56V5m20
「南さん、ほんっとうにゴメン!」

そう言って頭を下げる店長さんを前に、何も言うことはできませんでした。

(あぁ・・・私ってどうしてこう、押しに弱いんだろう・・・。)

私の誕生日、9月12日は結局アルバイトで過ごす事になりそうです。




3 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:39:07.73 ID:zI56V5m20
「えーーー!!!ことりちゃん、バイトなのぉ?!」

凄く残念そうな穂乃果ちゃんの叫びが教室にこだまする。

「穂乃果、ことりだって都合のつかない日もあるんですよ?」

海未ちゃんが穂乃果ちゃんを宥めているけども、効果は薄そう・・・。
4 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:39:46.21 ID:zI56V5m20
「だってぇ〜、折角ラブライブで二連覇したんだしぃ、Wお祝いしたかったのにぃ・・・。」

「穂乃果?」

「むぅ・・・。」
5 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:40:17.25 ID:zI56V5m20
こんなやり取りを聞いてたら、本当に申し訳なくなってきちゃう。

「ごめんね、穂乃果ちゃん。店長さんがどうしても人手が足りないってぇ・・・。」

私自身、残念って想いが無い訳じゃないんだけど・・・。
6 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:40:55.97 ID:zI56V5m20
「みんなの都合のつく日に改めてお誕生日会をしたら良いではありませんか。」

海未ちゃんの正論にぐうの音も出ない穂乃果ちゃん。

そうだよ。

何もその日に必ずやらなくたって良いんだから・・・。
7 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:41:25.47 ID:zI56V5m20
---(そう、誕生日を楽しみにするなんて、私には贅沢)---
8 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:41:58.99 ID:zI56V5m20
バタバタと過ごしている内に、私の18回目の誕生日は目前でした。

あの日から約一年、留学先のパリに来ても、やっぱり私はメイドのバイトをしています。

そこは、日本人オーナーが『メイド』カフェを切り盛りしている場所。

お客様の評判は上々。

私も日本にいたときのように、ミナリンスキーとして接客をしている。
9 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:42:32.17 ID:zI56V5m20
服飾の勉強は楽しい。

海外生活も新鮮な事ばかり。

充実した留学生活、なのに今でもあの時の事を考えるときがある。

私の誕生日が来ると言う事は、あの日が再びやってくるって事。

穂乃果ちゃんとの関係を恐れずに向き合っていれば、ちゃんとお話ができていたら・・・。
10 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:43:01.98 ID:zI56V5m20
(これは未練なのかな・・・。)




11 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:43:33.31 ID:zI56V5m20
「コトリ!コレ見てよ!」

学校で突然クラスメイトにスマホを向けられる。

『ラブライブ!夏の全国大会 音ノ木坂学院初優勝!』

それは、μ'sがラブライブ!で優勝したという記事だった。
12 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:44:12.79 ID:zI56V5m20
「ミューズ、ミンナ可愛いよネ。コトリもあのメンバーだったんでショ?!」

「あ、う、うん。ちょっとだけね。」

・・・あまり、その話題は振って欲しくない。
13 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:44:48.57 ID:zI56V5m20
私がスクールアイドルよりも服飾を穂乃果ちゃんより自分を選んだあの日。

μ'sの活躍は嬉しい反面、私もあそこに居たかったのかなっていう無いものねだり。

あの中に私の居場所はもう無いという後悔。

本当に、私の選択はコレでよかったのかな・・・。
14 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:45:30.60 ID:zI56V5m20
---(これもある意味で言えば幸せなのかな)---
15 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:46:12.32 ID:zI56V5m20
お誕生日当日。

秋葉のカフェは何故か大盛況でした。

誰が噂を流したのか、今日が私の誕生日だと知ったミナリンスキーファン?の人たちが、プレゼントを持参し押し寄せたのだった。
16 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:46:46.58 ID:zI56V5m20
「いやぁ、ことりちゃんのお陰で今日は大繁盛だよ〜!」

店長はすこぶる上機嫌。

(え?まさか私の個人情報??)

私の誕生日を知ってて噂の原因と言えばこの人しかいない。

でもお客様の喜び様を見ていると、やっぱり責める気になれませんでした。
17 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:47:15.78 ID:zI56V5m20
怒涛のお祝いラッシュを終え、お昼休憩を挟んでホールに戻るとき、通路の脇にある姿見の前で一度気合を入れなおす。

「午後もがんばろっと!」
18 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:47:45.60 ID:zI56V5m20
---(私はどうしてここに居るんだろう。)---
19 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:48:22.18 ID:zI56V5m20
ふぅ・・・。

今日のシフトは午後から。

着替えを終えると、ホールへの扉を前にミナリンスキーになりきるための一息をつく。

「今日もがんばろっと!」

自分に言い聞かせるように、気持ちを切り替えてホールの扉を開ける。
20 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:49:02.59 ID:zI56V5m20
・・・と、そこは、普段からは想像もつかない光景が広がっていた。

私の姿を見止めたお客様たちが、ワッと声を上げる。

あれ?

何か凄い違和感を感じる・・・。

んー、人が多い?

ううん、そこじゃない。

忘れるはずが無い。

目の前には、日本にいた頃バイトに通っていたメイド喫茶のホールそのものだった
21 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:49:38.92 ID:zI56V5m20
「え?ええっ?!」

驚く私の眼前には、日本人のお客様がズラリと鎮座している。
22 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:50:12.65 ID:zI56V5m20
(どうしてパリのメイド喫茶に、こんなに日本人のお客様が??)

(じゃなくて!ここって秋葉原のお店じゃ・・・。)

『あれ?ミナリンスキーちゃん、今日は何か違う?』

『そうそう!ちょっと大人な感じになったよね。』

『今日は特別衣装なのか〜さすがミナリンスキーちゃん!』

何か色々言われているけど、そんな事気にならない程、私は混乱していました。
23 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:54:35.95 ID:zI56V5m20
---(こんなのマンガや小説じゃないんだから。)---
24 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:55:17.69 ID:zI56V5m20
扉を開けると、そこはいつもと違うホールでした。

「あれ?」

思わず声に出ちゃう。

見慣れないレイアウト。

飛び交う聞き取れない言葉。

そして、外国人しかいないお客様たち。
25 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:55:53.89 ID:zI56V5m20
「あれ?ことりちゃん、その制服どうしたの?」

私の知らない、見た目マスターと思しき人に声をかけられる。

「あ、あのぉ・・・。ここってどこですかぁ??」

自分でも意味の分からない事を訊ねたような気がします。

「え?ここはメイドカフェAKIBAだよ。ことりちゃん、どうしちゃったの?」
26 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:56:25.23 ID:zI56V5m20
どこ?

今さっきまで、私はバイト先に居たはず。

それが扉を開けたら全く知らない別の場所???

でも、この人は私の事を知っているみたい・・・?
27 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:56:59.42 ID:zI56V5m20
ハッと思い立つと背後の扉を開け放つ。

しかしそこは、私の知る事務室ではなかった。

「ことりちゃん本当に大丈夫?疲れてるなら今日はあがって貰っても良いよ?」

頭の中は完全にハテナで一杯だったけど、ふいに思い立って店外に出てみる。

「ここ・・・どこなの??!!」

秋葉とは全然違う町並みに、唖然とするしかありませんでした。
28 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:57:32.22 ID:zI56V5m20
---(これは私の願望なのか、それとも贖罪なのか)---
29 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 22:59:28.14 ID:zI56V5m20
久しく体験していないカフェの喧騒にドギマギしながら、接客をこなす。

『ミナリンスキーちゃん、お誕生日おめでとう!』

一様にお客様たちが声をかけてくれる。

コレは一体どういうことなんだろう。
30 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 23:00:11.02 ID:zI56V5m20
そんな疑問に耽る暇さえ無い程、店内は騒然としていました。

(あぁ、でもこの感じ、少し懐かしいかも・・・。)

私が以前、秋葉原でメイドのバイトをしていたときも、こんな感じだったから
31 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 23:00:40.42 ID:zI56V5m20
---(私を知ってる、私が知らない世界)---
32 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/24(土) 23:01:11.67 ID:zI56V5m20
外の景色は一目瞭然でした。

「ここって秋葉原じゃないよ!」

どうして私がここに来てしまったのか、考える暇を与えぬようにとお客様がやってくる。
33 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/25(日) 21:05:28.60 ID:eLX6FJ2o0
「Bonjour!(ハーイ!) コトリ! Travaillez-vous correctement?!(シッカリ働いている?!)」

数人の外国人女性グループが親しげに私に話しかけてくる。

(え?!この人たち私のことを知ってるの?!)

もはやパニックなどと言う領域を遥かに超えてしまって、体だけが反応してしまう。
34 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/25(日) 21:06:26.92 ID:eLX6FJ2o0
「お帰りなさいませ、お嬢様♪こちらへどうぞ♪」

そして当たり前のように、日本語で話しかけてしまう。

「Est-ce qu'aujourd'hui est un jour japonais?(何それ日本語?)」

返された言葉が判らない・・・。
35 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/25(日) 21:07:17.80 ID:eLX6FJ2o0
「コトリ、Tu es si mignon ne pas etre mignonne aujourd'hui?(何か可愛くなった?)」

「Voyons.(ウンウン)、Tu es emotif.(何か気持ち入ってるよね。)」

向こうは私のことを知っている風だけど、私はこの人たちの事も言葉も全然分からない。

「あ、ありがとうございます〜♪」

えーもう、訳が分からないよぅ!
36 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/25(日) 21:07:58.20 ID:eLX6FJ2o0
---(私の望んだ未来とは?)---
37 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/25(日) 21:08:32.16 ID:eLX6FJ2o0
あっという間に時間が過ぎていく。

夕方に差し掛かり、客足も落ち着いてきた。

「あの・・・。マスター?今日って何日でしたっけ?」

何か確信があった訳じゃない。

でも、聞かなきゃいけないことだと思った。
38 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/25(日) 21:09:21.11 ID:eLX6FJ2o0
「え?今日は9月の12日だよ?」

そう、私の誕生日・・・。

「ぇ、えっとぉ、今年って何年でしたっけ?」

「ん?どうしたのことりちゃん。令和元年じゃないか〜。」

「れ、令和??」

平成じゃないの?!
39 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/25(日) 21:09:53.51 ID:eLX6FJ2o0
(ここは日本で、私がずっとバイトしてたメイドカフェ・・・。)

(とても理解できないけど、もしかして扉の向こうは日本に繋がっちゃってたとか?)

何かとてつもない現象が起きていることは間違いなかった。
40 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/25(日) 21:10:48.56 ID:eLX6FJ2o0
あ、そうだ、カレンダー!

ハッと気付いて大急ぎで壁にかかっているカレンダーを確認する・・・。

「2019年・・・。」

そう、それは私の時間と同じ。

あの日に帰った訳じゃないんだ・・・。

(それじゃぁこれって、あの時選ばなかった私の未来なの?!)
41 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/25(日) 21:11:18.18 ID:eLX6FJ2o0
---(もしも、あの時留学していたら?)---
42 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/25(日) 21:12:02.20 ID:eLX6FJ2o0
私の名前以外の単語はサッパリ分からない。

それでも、気持ちよく喋ってるみたいだし、適当に相槌を打っておこう・・・。

そうこうしていると、女性グループの一人が懐から小さな箱を取り出す。
43 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/25(日) 21:13:17.22 ID:eLX6FJ2o0
差し出すその顔はとてもニコニコしている。

思わず後ろのマスターを見ると、何故かニコニコしながら頷いている。

私が受け取っちゃっても良い物なのかな・・・。
44 : ◆HUg149YDMA [sage]:2022/09/25(日) 21:13:54.80 ID:eLX6FJ2o0
小箱を受け取った私に向けて、彼女達が『開けてみて』ってジェスチャーをしているような気がする。

意を決して開けてみた小箱の中身は、デフォルメされた鳥のブローチだった。

(鳥?何の鳥か分からないけれど、やっぱり私をモチーフにした物なんだよね?)

きっとプレゼントなのだと自分に言い聞かせ、その場で付けてみる。
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