シンエヴァ もう一つの終わり ver1.12

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/10/10(月) 23:25:01.52 ID:R3+wBdbD0
エヴァSS

シン・エヴァ劇場版の付け足しです。本編が終わったところから始まります。

前スレ「シン・エヴァ もう一つの終わり」(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1661003207/)の一部修正追記版です。前スレ初期投下分がver1.00、追加修正分との差し替え版がver1.11で、これにさらに加筆したものです。


■免責事項■
・よくあるSSの書式、「人物名+セリフ」に加えて、ト書きのようなもの(場面説明)がはさまります。生理的に合わない方はそっ閉じ推奨。
・エヴァ本編の内容に関する部分があるので、本編未見の方もそっ閉じ推奨。
・前スレで動きがなかった人物の動きの追加がメインで大筋は変わりません。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1665411900
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/10/10(月) 23:26:52.99 ID:R3+wBdbD0
===駅のホーム===

マリ「さあ、行こう。シンジくん」

シンジ「うん、行こう!」

 手をつないで駆けていくスーツ姿のシンジとマリ

 エンドロール

〔終劇〕

  :
  :

***追加シーン ここから***

=== 海辺の街 ===

 髪の長い女性の後ろ姿

 ピンク色のスーツ、赤い眼鏡

 工場群の煙突の向こうにきらきらと光る水面

 眼鏡をかけた斜め後ろからの横顔

 ネックレスについた金属の円盤を手のひらに乗せている

(回想)

  男性の声「マリ」

   優し気な響き

   無邪気に笑う幼女の様々な場面
 
   抱き上げる男性の手
 
   男性の顔を触っている小さな手

  男性の声「マリ」

   男性の目元は見えないが微笑んでいる

  男性の声「マリ」

   ベッドに横たわる男性の姿

   顔に白い布がかけられている

   それを見ている幼女の顔
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/10/10(月) 23:28:13.95 ID:R3+wBdbD0
  幼女「おとうさん?」

   あどけない声

   幼女の肩に黒い袖口の大人の女性の手が乗っている

   周囲で大人たちのすすり泣きや低い話し声が聞こえる

  幼女「おとうさん?」

   白い布がかけられた頭部

   ―― 闇

  幼女「おとうさん! おとうさん!」

   幼女の泣き声

  :
  :

 女性の斜め後ろの横顔

 ペンダントを握り締める

 闇

マリの声「お父さん……」

  :
  :




===ネルフ第二支部 N109棟跡地===

 青空、緑の山々

 小鳥のさえずり

 湖にヴンダーの脱出カプセル群が落着し、ハッチが開いている

 砂浜に続く多数の足跡

 草の上に座り込んでいるヴンダーの乗員たち

 担架に乗せられたけが人もいる

 カプセルから運び出した資機材が草地に並べられている

 人混みから歩み出すリツコ

4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/10/10(月) 23:28:59.45 ID:R3+wBdbD0
リツコ「終わったのね……」

 少し目をすがめ、周囲の山々を見る

 リツコの悲しげな横顔

リツコ(ミサト……)

マヤの声「副長センパイ!」

 振り返るリツコ

リツコ「どうしたの」

 クルーたちでごったがえす草地に人だかりができている

 開かれたミドリのノート型端末に灯りがともり、ヴンダー乗員たちがそれを囲んでいる

マヤ「マギコピーが何か受信してます!」

リツコ「マギコピー……というか、そのコピーね」

 歩み寄るリツコに場所を譲るマヤ

 画面に細かいノコギリの刃のように波打つ横線が表示され、その1か所が鋭く立ち上がっている

 小刻みに上下する頂点に追随して、数値のラベルが表示されている

リツコ「これは――」

 その下のウィンドウに数値や文字の羅列が絶え間なくスクロールしていく

リツコ「――エヴァ初号機?」

 険しい顔でリツコの顔を覗き込むマヤ

マヤ「センパイもそう思いますか?」

 表情をこわばらせるリツコ

リツコ「まだ……終わっていないというの!?」

 顔を見合わせるクルーたち

リツコ「発信源は?」

ヒデキ「第6サーチからです」

リツコ「ニアサー前の遺物か。生き残っていたとはね」

ヒデキ「南極からの信号をリレーしてるようです」

ミドリ「でも、すぐに可視からはずれます!」
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/10/10(月) 23:29:55.70 ID:R3+wBdbD0

リツコ「生きてる衛星を探して、回線を維持して」

ヒデキ「はい」

自分の端末を開きコマンド入力を始めるヒデキ

  :

湖に落着した脱出カプセルの外観

暗いカプセル内部

四角い機器ボックスの一隅に緑色のランプが点り、目まぐるしく明滅を始める

 :

リツコ「それから、キャリアの干渉パターンからマイナス宇宙での発信源の位置の把握を!」

ミドリ「そんなことできっこないっしょ!」

マコト「いや、できる。こっちに回せ」

リツコ「頼むわ、日向君」

 うなずき合って人混みの外へ出て行くマコトとシゲル

 端末から顔を上げるヒデキ

ヒデキ「副長、こちらからのコマンドが通りません」

リツコ「送信機のパワーが足りないんだわ」

 人垣に混ざっていた高 雄がにやりと笑って後ろを振り返る

高 雄「だ、そうだ」

若い技師「2号から5号の補機バッテリーを1号に繋いでやれば――」

リツコ「すぐやってちょうだい」

高 雄「任せてください。――よし、使えそうな資材を集めろ」

技師たち「はい!」

 めいめい、慌ただしく作業にとりかかるクルーたち

 立ち上がるリツコ

 人々の頭上に広がる青空、緑の山並み

 眉をひそめるリツコ

6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/10/10(月) 23:30:29.43 ID:R3+wBdbD0
リツコ「……悪い予感がする……」

  :
  :


===駅前===

 笑みを浮かべて走っているシンジ

 前を走るマリの後ろ姿

 次第に差をつけられていく

 先を行くマリを追って、息を弾ませて駆けていくスーツ姿のシンジ

シンジ「マリさん、待っ……」

 ドンッ

シンジ「痛っ……」

 何かに顔からぶつかり、よろめいて尻餅をつくシンジ

 路上に転がるシンジのカバン

シンジ「痛ってー……」

 額をさすりながら立ち上がり、駆け出そうとして、また見えない壁に突き当たる

シンジ「うわっ」

 見えない壁を手のひらで確かめながら、

シンジ「な……なんだこれ……」

 街の風景と見えていたものがシンジを取り巻く書き割りであることに気付く

 あたりを見回すシンジ

 先ほどまでふつうの街だと思っていた場所が、映画のセットのように見えてくる

 道行く人々が静止し、それぞれ切り出しのように平板になっている

シンジ「マリさん! ……えっ?」

 駆けていくマリの後ろ姿の形をした切り出しが倒れている

 かがみこみ、裏返してみるシンジ

 むき出しのベニヤ板に角材の裏打ちがされているだけで、何も描かれていない

シンジ「……どういうこと?」
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/10/10(月) 23:31:02.22 ID:R3+wBdbD0

 立ち上がり、ふと視線をあげ息を呑むシンジ

シンジ「あっ」

 天井は撮影スタジオのように黒く、ブームが張り巡らされ、照明機材がシンジがいるフロアを照らしている

 書き割りの壁の頂部、裏側の足場と思しき場所に立つピンク色のスーツの女性の後ろ姿が見える

シンジ「マリ……さん?」

 女性が身をこわばらせ、わずかに頭を巡らせる

 マリの横顔

マリ「あり?」

 すっと目を細めるマリ

マリ(邪魔が入ったかにゃ?)

シンジの声「マリさん!?」

 振り返り、見下ろすマリ

マリ「よっ! シンジ君」

 おどけた挨拶

シンジ「マリさん! どうなってるの? これ」

マリ「ああ、うん。えーとね……」

シンジ「ここは……なに?」

 シンジの顔を見て少し考えるマリ

マリ「……ゲンドウくんの生まれ故郷」

シンジ「えっ?」

 書き割りの海のほうを見晴るかすマリ

マリ「シンジくんのお父さんが、生まれ育った街だよ」

 振り返り、街並みとその向こうの工場群を改めて眺めるシンジ

シンジ「ここが?」

マリ「そ」

 またマリを見るシンジ

8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/10/10(月) 23:31:39.55 ID:R3+wBdbD0
シンジ「で、でも……変だな……」

マリ「え?」

シンジ「だって……こんなに海が近いのに……」

マリ「あー、そっか。君にはわかんないよね」

怪訝な顔でマリを見上げるシンジ

マリ「ここはね、セカンドインパクトが起こらなかった世界なんだよ」

シンジ「セカンドインパクトが……起こらなかった?」

マリ「もっとも、見ての通り、まだ作りかけだけどねー」

シンジ「作りかけ?」

 少し後悔したような表情のマリ

 頭をかく

マリ「ま、いっか」

 眼鏡をなおすマリ

シンジ「!」

 驚いて傍らを振り返るシンジ

 いつの間にかシンジの横にマリが立っている

 第一中学校の屋上で遭遇した時の制服姿に戻っている

 スカートのほこりを払う仕草

 シンジも14歳の姿、ワイシャツに学生ズボン姿に戻っている

マリ「私は、落とし前をつけなきゃいけないんだよ。私がやったことの」

シンジ「落とし前……って……」

マリ「私のせいなんだよ。全部」

 苦し気な表情をシンジに向けるマリ

マリ「セカンドインパクト」

 眉をひそめるシンジ

マリ「話せば長くなるけどね……まあ、この際だし」

 道路わきのボラードに腰掛けるマリ
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/10/10(月) 23:32:12.17 ID:R3+wBdbD0

マリ「私、天才少女だったんだよ。飛び級で大学入って。言ったっけ?」

 首を振るシンジ

(回想)(セピア色)

   大学の構内の風景

   行きかう学生たち

   とある部屋のドアの上、「形而上…」と読める表示を見上げているマリ

マリ「研究を初めてすぐ、私は気づいた。私たちには先がないって」

   誰もいない広大な書庫で、白い手袋をはめ、机の上に置かれた古い書物の断片を読みふけるマリ

マリ「『死海文書外典』は、今で言う人類の補完を指し示していた。私たちには、もうそれしかないことを」

   書物から呆然と顔を上げるマリ

マリ「その儀式の始まりがセカンドインパクトによる海の浄化」

シンジ「で、でも、それはミサトさんのお父さんが――」

マリ「そ、葛城調査隊」

   南極の雪原 カルヴァリーベースの黒光りする建造物

マリ「あれをお膳立てしたの、私なんだよ。論文を書いてね。ただし、核心には触れない。その一歩手前まで」

   防寒服を着た人々が巨大な地下空間を動き回っている

マリ「わかる人には『発見』できるようにね。だから、あくまで葛城博士の仕事ってことになってる」

   南極大陸を覆いつくす爆炎

シンジ「そんな……」

マリ「そりゃあ、ひどいもんだったよ。それでも、まだ始まりに過ぎなかった」

   世界各地の沿岸に押し寄せる高潮

   飲み込まれる都市、逃げ惑う人々

 遠い目をするマリ

マリ「それから、使徒への備えが始まった。エヴァの開発、パイロットの養成……みんな私が提案したんだよ。本当はね」

   ジオフロントの建設風景

マリ「私は……有頂天だった。何もかも、予想した通りだった。このあと何をすればいいか、私には全部わかってた……つもりだった」
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/10/10(月) 23:32:41.95 ID:R3+wBdbD0

   天井の低い暗い管制室

   制御卓につく研究者たち

   液体に浸かったエヴァの素体が窓外に見える

マリ「でも、そんなにうまくはいかなかった。すぐに計画に遅れが出始めて、委員会からも横やりが入るようになってきた」

   何か大きな身振りで議論している研究者たち

   同じ部屋の隅で端末のキーボードをたたき続けているマリ

   スクロールしていくモニタの表示がマリの眼鏡に反射している

マリ「パイロットの調達も問題だらけだった」

   ユーロ支部

   雪の積もった庭で幼い式波タイプたちと鬼ごっこをするマリ

   その一人を捕まえて抱き上げる

   笑い転げている幼い式波タイプ

   闇――

   うなだれるマリの前にスポットライトを浴びた小さな棺が横たわっている

   格子状に並んだ多数の式波タイプの顔写真

ひとつ、またひとつと消えていく

シンジ「それじゃあ、アスカは――」

   マリ『姫を――アスカをお願い』

マリ「あの子は……最後の希望だった」

 力なく笑うマリ

マリ「委員会の査定も厳しくなってきてさ。でも私は間違ってないと思ってたから、何とか形にしようとした。形にしたかった。しまいには、親の遺産にも手を付けて――」

   部屋の片隅、ノート型端末にひたすら何かを入力しているマリ

   眼鏡にモニタの光が反射している

   手を止め髪をかきむしり、力なくうなだれるマリ

   首から下げたペンダントを握り締める手が震えている

マリ「そこでユイさんの事故……」
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/10/10(月) 23:33:17.13 ID:R3+wBdbD0

 目を見張るシンジ

   透明な隔壁の向こう、液体の中でさかさまに浮かぶユイ

   窓に手をつき、恐怖の表情でユイのほうを見ている白衣のゲンドウ

マリ「プロジェクトはかろうじて踏みとどまったけど……」

   研究室に並ぶ机の一つにうずくまっているゲンドウ

マリ「わかっちゃったんだ。どこまで行っても、これはだめだって。だからあとは――あとは元に戻すしかないんだよ。そのための『ネオンジェネシス』」

 息をのむシンジ

マリ「でも、それにはアディショナルインパクトの一歩手前まで行かなければならなかった」

   声をあげて泣くシンジを置いて去るゲンドウ

マリ「私がすることは、もう何もなかった。誰がやっても、そこへ行きつくのは、もうわかってた」

   デスクにつくゲンドウのシルエット 眼鏡だけが光っている

   「人類補完計画」の冊子の表紙

   暗い通路に姿を消すマリ

マリ「だから、待つことにしたんだよ」

   何本ものチューブがつながれたプラグスーツのようなものを着ている

棺桶のような装置に横たわり、自ら蓋を閉じるマリ

   重々しい音とともに闇に包まれる

   地吹雪が吹きすさぶ極夜の大地――

  :
  :

 呆然とマリの横顔を見ているシンジ

マリ「ま、実際は冷や冷やもんだったけどねー」

 自嘲気味に笑うマリ

マリ「びっくりした?」

 申し訳なさそうにシンジを振り返るマリ

マリ「黙ってて悪かったね。でも、それももうすぐ終わりだから」

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