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侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」

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803 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:31:13.81 ID:0Ok5BWPG0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【サニータウン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
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  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.39 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.35 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.36 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.32 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.32 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:149匹 捕まえた数:8匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.29 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.22 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.29 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.29 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.29 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:156匹 捕まえた数:9匹

 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.42 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.41 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.38 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.32 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      タマゴ  なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:153匹 捕まえた数:4匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.40 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.37 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.36 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      タマザラシ♀ Lv.30 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラエッテ♀ Lv.20 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:155匹 捕まえた数:16匹


 かすみと しずくと 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



804 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 01:57:03.51 ID:S2FBcmzU0

 ■Intermission👏



──コメコシティ・DiverDiva拠点


果林「……姫乃ったら、とんでもない爆弾を見つけて来たみたいね」


カリンは数日前に姫乃から預かっていたデータを見ながら、そう漏らす。


愛「ホントにね。で、どうすんの?」

果林「利用しない手はないでしょ」

愛「ま、カリンならそう言うと思ってたけどね」


アタシはカリンに向かって、小さなフラッシュメモリを投げ渡す。


果林「……これは?」

愛「直近のマッキーのスケジュール」

果林「よくこんなもの手に入れられたわね……?」

愛「あっちこっちクラッキングして、やっとこさ入手した。セキュリティが厳重で足が付かないようにやるには結構苦労したよ……」

果林「ふふ、さすが愛ね」


果林は不適に笑いながら、メモリ内のデータを閲覧し始める。


愛「ホントギリギリになっちゃうけど、明後日……マッキーはいくつかの会社と、合同でビジネス発表会の会議があるはずだし、もしかしたらワンチャンそこに──菜々って子も現れるかもしんないよ」

果林「なるほど……。ただ……秘書を確実に同席させるなら、先方にスケジュール交渉をするように仕向けた方が……。時間がないわ……今すぐ、策を考えましょう」


カリンは拠点に戻ってきたところだと言うのに、次のミッションのために作戦を練り始める。

相変わらずストイックだ。まあ、カリンのそういうところは嫌いじゃないけど。

私もなんか手伝おうかと考えていると──拠点内をふよふよと漂っていた小さなポケモンが私の傍に近寄ってきた。


 「ベベノー♪」
愛「おおー、急にどうした?」

 「ベベノ、ベベノ♪」
愛「愛さんにかまって欲しいのか〜? 甘えんぼさんめ〜♪」


抱きしめて、撫でてあげると、相棒は嬉しそうに鳴き声をあげる。


果林「……仕事しないなら、外行ってくれる?」

愛「あーはいはい、手伝う手伝う。また後で遊んであげるから、待っててね」
 「ベベノ」


全く、このストイックさに付き合っていたら、パートナーと遊ぶ暇もないんだから。

アタシは肩を竦めながら、カリンとの作戦会議に興じるのだった。


………………
…………
……
👏

805 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:24:08.45 ID:S2FBcmzU0

■Chapter041 『最初で最後のポケモン図鑑』 【SIDE Yu】





──かすみちゃんのジム戦も無事終わり……私たちはその翌日、約束どおりツシマ研究所を訪れていた。


侑「こんにちはー!」
 「ブィ」

かすみ「ヨハ子博士〜! 可愛いかすみんが来ましたよ〜♪」
 「ガゥガゥ♪」


私たちが研究所に入ると──博士はモンスターボールを磨いているところだった。


善子「あら、来たわね、リトルデーモンたち」


大切そうに磨いているボールを見て──


侑「も、もしかして、そのボール……! 千歌さんのルガルガンが入ってるボールですか!?」


思わず目を輝かせて、詰め寄ってしまう。


善子「ん、あー……残念ながら、これは千歌のルガルガンのボールじゃないわ」

侑「あ……そうなんだ……」

しずく「それにしても、随分丁寧に磨かれているんですね」

かすみ「もしかして〜……めっちゃ貴重なポケモンなんじゃないですかぁ〜? それなら、見せてくださいよ〜!」

善子「……まあ、確かに貴重なポケモンだけど……貴方たちには見せられないわ」


そう言いながら、博士はボールを引き出しにしまってしまう。

その際──その引き出しの中にちらっとだけど……赤い板状のものが見えた。

あれって……?


かすみ「えー!! ヨハ子博士のケチー!!」

歩夢「か、かすみちゃん……そんなこと言ったら博士も困っちゃうよ……」

善子「まぁ……普通のポケモンだったら見せてあげてもいいんだけどね。……この子だけはちょっと特別なのよ」

侑「特別……?」

善子「……ま、そんなことはいいの。今ルガルガンを連れてくるから、ここで待ってて」

侑「! はいっ!」

リナ『侑さん、テンション爆上がり』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
 「イブィ…」


──程なくして、博士が奥の部屋から、戻ってくる。

もちろん、ルガルガンと一緒に、だ。


侑「わぁ〜〜〜!!!」


ヨハネ博士の横で、毅然とした態度で歩いてくる黄昏色のルガルガンを見て、私のボルテージは最高潮に達する。


侑「ち、千歌さんのルガルガンだぁ〜!!」

 「ワォン」

侑「はぁ〜〜〜♪ やっぱ何度見ても実物で見ると、迫力が全然違う……! さ、触ってもいいですか!?」

善子「ルガルガン、触りたいって言ってるけど?」
806 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:25:07.54 ID:S2FBcmzU0

ヨハネ博士がそう訊ねると、


 「ワォン」


ルガルガンは私の目の前で、伏せの姿勢を取る。


善子「許可が下りたみたいね」

侑「あ、ありがとうございますっ!!」


膝を折って、ルガルガンを優しく撫でてみると、柔らかい毛並みの感触が手に伝わってくる。


侑「こ、これが、あの伝説のルガルガン……私触っちゃった……! か、感激……!」

歩夢「ふふ、侑ちゃん、よかったね」

侑「うん……!」

善子「感動してるところ悪いけど……これから、この子を連れてくんだってこと忘れてないわよね? そんなテンションじゃローズまでもたないわよ……?」

侑「だ、大丈夫です! 責任持って送り届けます!」

善子「なら、いいんだけど。ルガルガン、戻りなさい」
 「ワォン──」


ヨハネ博士はルガルガンをボールに戻して──


善子「それじゃ、千歌のルガルガン……確かに渡したからね」


ボールが私に手渡される。


侑「……はい!」


ぎゅっとボールを握りしめる。千歌さんの大切なルガルガン……責任を持って送り届けなくちゃ……!


かすみ「それはそうと〜……ヨハ子博士〜」

善子「? 何かしら」

かすみ「かすみん、昨日ジム戦すっごい頑張ったんですよ〜」

善子「そういえば、曜とジム戦をしてたんだったわね」

かすみ「ホントに激闘の末の勝利だったんですよぉ〜」

善子「そう」

かすみ「……」

善子「……えっと、なに?」

かすみ「もう! せっかく、自分のところから旅立ったかすみんが頑張ったのに、労いの言葉もないんですか!」

善子「あのねぇ……私は学校の先生じゃないのよ……」

かすみ「むーー!! ヨハ子博士のケチ!! 減るもんでもないんだし、褒めてくれてもいいじゃないですか!」

善子「かすみ、貴方は応援がないと頑張れないの?」

かすみ「頑張れませんっ! かすみんは人から応援されるのがパワーの源なんですっ!」
 「ガゥガゥ」


ゾロアと同調しながら、ぷりぷりと文句を言うかすみちゃん。

そんなかすみちゃんを見てヨハネ博士が溜め息を吐く。


善子「はぁ……先が思いやられるわ……」

 「──こら、善子ちゃん! そんな風に言っちゃダメでしょ!」
807 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:26:29.88 ID:S2FBcmzU0

急に私たちの背後から、聞き覚えのある声が響く。

振り返ると、そこにいたのは、ちょうど昨日も会った──


侑「曜さん!」

曜「ふふ、みんな、昨日振り!」

かすみ「曜せんぱ〜い……! ヨハ子博士がいじめますぅ〜……! かすみん、いっぱい頑張ったのに、ちっとも褒めてくれなくて〜……!」

曜「うんうん、酷い博士だよね〜……」

善子「曜……何しに来たのよ。あと、ヨハネって呼びなさい」

曜「えっと、昨日のバトルで水上フィールドが壊れちゃって……ちょっと耐久の見直しが必要だと思って、家まで設計資料を取りにセキレイに戻ってきたところだったんだけど……。ちょうど、研究所の前を通りかかったら、みんなの声が聞こえたからさ」

善子「それで、わざわざ寄ったってことね……」

曜「それより、善子ちゃん! 大切な図鑑所有者たちに、そんな冷たくしたらダメでしょ!」

かすみ「そうですそうです!」
 「ガゥガゥ!!」

曜「そんな風に、冷たく接してると……もう嫌だーって辞めちゃうかもしれないよ!」

かすみ「そうですそうで……え、いや、それはかすみんも困るんですけど……」
 「ガゥ?」


曜さんがヨハネ博士を窘める。私はてっきり、いつもみたいに軽くあしらうんだと思っていたんだけど……。


善子「……わ、悪かったわ……ごめんなさい……」


ヨハネ博士は気まずそうに、頭を下げる。


かすみ「あ、あれ……意外と素直に謝ってきましたね……」

曜「もう……善子ちゃん、本当は自分のもとから旅立った子たちが活躍してて嬉しい癖に、なんで素直に褒めてあげられないのかな」

善子「う……/// うっさいわね……余計なお世話よ……」


曜さんの言葉に、ヨハネ博士はプイっと顔を背ける。


曜「ごめんね、みんな……。善子ちゃん、前に失敗してるのもあって、君たちとの距離感を掴み損ねてるみたいでさ……」

しずく「失敗……?」

善子「あ、ちょっと、曜……! 余計なこと……!」

曜「やっぱりまだ言ってなかったんだね……」

善子「…………」

曜「善子ちゃん、そろそろ……この子たちには話してあげてもいいんじゃない?」

侑「……?」


一体、何の話だろう……?


善子「…………」

曜「善子ちゃんが、この子たちにどういう期待をしてて、どんな気持ちで旅に送り出したのか。その願いと想い……伝えてもいいんじゃないかな」

善子「でも、そんなの……私のエゴよ」


ヨハネ博士は困ったような表情をして言うけど、
808 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:27:15.89 ID:S2FBcmzU0

しずく「あ、あの……もし、ヨハネ博士に何か特別な想いがあるのでしたら……私は、聞きたいです」

善子「しずく……」

歩夢「き、期待に応えられるかはわからないですけど……私も、ヨハネ博士が何か考えてるなら……ちゃんと知りたいです」

善子「歩夢……」

かすみ「もう、ヨハ子博士、この期に及んで何を隠すことがあるんですか! 気になることがあるなら、このかすみんに話してくださいよ〜!」

善子「かすみ……あんたはなんか腹立つわね」

かすみ「なんでですかっ!?」


ヨハネ博士が選んだ3人からの言葉。


侑「あの、ヨハネ博士……私は博士に選んでもらったトレーナーじゃないですけど……みんなヨハネ博士のこと尊敬してるし、感謝してます! もし、何か気になることがあるなら、力になりたいです……!」

善子「侑……」


ヨハネ博士は少し悩む素振りを見せる。


善子「……もう、曜が余計なこと言うからよ……」

曜「こうしてあげないと、どこかの誰かさんはいつまでも抱え込むからね」

善子「……はぁ……わかったわよ」


ヨハネ博士は観念したように、溜め息を吐きながら──先ほど磨いていたボールをしまった引き出しを開けて、中から赤い板状の物を取り出した。


侑「あ、それ……」


さっきちらっと見たのと同じ物──


侑「ポケモン……図鑑……」

善子「……そうよ」


それは、真っ赤なポケモン図鑑だった。


かすみ「え、どういうことですか? 実はさらにもう1個ポケモン図鑑があったってこと?」

善子「……ええ。どの図鑑ともペアリングされてない。たった1つだけ……残された図鑑」

かすみ「ええ? なら、なんで侑先輩にはそれじゃなくて、リナ子を渡したんですか? リナ子はたまたま知り合いに頼まれて渡された〜みたいなこと言ってませんでしたっけ?」

善子「この図鑑を渡す相手は……もう決まってるの。ずっと……ずっと前から……」

侑「それって、どういう……」

善子「今から話すのは……2年前の話。私がこの研究所を持つ前のことよ──」


ヨハネ博士はそう切り出して──過去のことを話し始めた。



809 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:27:59.70 ID:S2FBcmzU0

    😈    😈    😈

──────
────
──




──2年前。


善子「やっと……やっと、手に入れた……!!」


私は現在建設中の研究所の前で、小躍りしたくなるくらい嬉しかった。

私の手元に届いたのは──真っ赤な旧式のポケモン図鑑。

旧式と言っても、それはガワだけで、中身は最新のモノだ。

本当は外身も最新型の物が欲しかったんだけど……いかんせん、博士の地位を得たばかりで……しかも、自分の研究所も建設中の私にそんなツテがあるはずはなかった。

どうにかこうにか、方々に頭を下げ、あちこちを自分の足で回り、やっとの思いで手に入れることが出来たのが、この旧式のポケモン図鑑だったというわけだ。

そして、図鑑と同時に──わざわざ遠い地方まで探しに行って手に入れた、最初のポケモン。

これで……これでやっと……!


善子「私も博士として……新人トレーナーを送り出せるのね……!」


私の研究のテーマは人とポケモンとの関わり合いの文化だ。

もちろん、自分の足で、目で、それを調べることは重要だし、自分自身で出来ることはたくさんあるけど……。

それ以上に、ポケモンと共に旅に出て、共に成長していくトレーナーから得られる情報が必要だと考えていた。

それに、何より……過去に古巣の師が私たちを送り出してくれたように、博士として、新しいトレーナーを送り出せる人間になりたかった。

マリーには口が裂けても言えないけど……私にとって、あの人は憧れだ。

ケンカしてばっかりだけど、いつかマリーみたいな研究者になって、追い付くんだって、そう思っていた。

これはその第一歩なんだ……!


善子「早速トレーナーを……! 旅立ちを待ってるトレーナーを探さないと……!!」





    😈    😈    😈





善子「…………」

曜「善子ちゃん、元気出しなよ」


項垂れる私に、カフェの向かいの席から、曜が言葉を掛けてくる。


善子「だって……全然……見つからないし……」

曜「まあ、鞠莉さんも新人トレーナー探しには苦戦してたもんね……」

善子「でも、ここセキレイよ!? ウラノホシとは違うのよ!?」

曜「そんなこと私に言われても……」


セキレイになら、明日にでも旅に出たくてうずうずしている子供がわんさかいると思っていたのに……まさかのマッチする子が誰も見つからない状態だった。
810 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:29:34.81 ID:S2FBcmzU0

善子「やっぱり私……不幸な堕天使なのね……」

曜「うーん……図鑑と最初のポケモンが1組しかないからかなぁ……」

善子「たぶんね……」


図鑑を貰って旅に出るとき、ポケモン図鑑と最初のポケモンは3組あるのが普通だ。

でも、私の手元にあるのは1組のみ……。


善子「やっぱり、最初のポケモンを選べないってのが、よくないのかしら……」

曜「まあ、一番最初の楽しみみたいなところあるもんね……」

善子「そうよね……」


今から、あと2組手に入れる……? いや、それこそ無理よ……。1組揃えるだけで、どれだけ大変だったか……。


曜「鞠莉さんに相談してみたら?」

善子「それは絶対嫌」

曜「はぁ……意地張らずにお願いすればいいのに……」

善子「絶対嫌よ……」


半ば強引に飛び出してきて独立したのに、なんやかんやあって、研究所を建てる際にも……頼んでもいないのにマリーが半ば強引に話を付けて研究所設立のお金を貸してくれたりして……。

そのお陰でどうにか自分の研究所を建てることが出来たようなものだったし……。

結局、私はあの人の世話になってばかりなのだ。

マリーは面倒見がいいし、お願いすれば、最初のポケモンどころか、ポケモン図鑑も工面してくれるかもしれない。

だけど……それじゃ、いつまで経っても私はマリーの腰巾着。あの人の隣になんていつまで経っても立つことが出来ない。


曜「なら……めげずに探し続けるしかないんじゃないかな」

善子「……わかってるわよ……」


机に突っ伏したまま、窓の外をちらりと見ると──まるで今のヨハネの気持ちを表したかのような、曇天に包まれていた……。

これは一雨来そうね……。





    😈    😈    😈





善子「──あーもうっ!! やっぱり降られた……!!」


ずぶ濡れになりながら、マンションの自室に駆け込む。

玄関でびしょ濡れになった靴を脱いでいると、


 「ムマァ〜ジ♪」


ムウマージがタオルを持ってきてくれる。


善子「ありがとう、ムウマージ……」
811 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:30:21.63 ID:S2FBcmzU0

タオルを受け取り、雨で濡れた身体を拭きながら、家に入る。

……お風呂沸かさないとね。

部屋に入ると、既にドンカラスがくちばしで器用にお風呂の給湯器を操作しているところだった。

自分の手持ちでありながら、賢い子が多くて助かる……。


善子「みんな、ただいま」

 「カァ」「ゲコガ」「ヒュラ」「シャンディ」「ゲルル…」


ドンカラス、ゲッコウガ、ユキメノコ、シャンデラ、ブルンゲル……アブソルだけ返事がないけど……。

少し探すと、アブソルは部屋の隅の方で丸くなっていた。少し窮屈そうだ。

研究所が完成すれば、この子たちにも窮屈な思いをさせずに済むかもしれない。

もう少しの辛抱だ。


善子「とにかく今は……トレーナー探し……!」


お風呂が沸くまでの間に、パソコンを立ち上げる。

まだ研究所が建設中とはいえ、研究者の端くれ。

情報収集やメールチェックもしなくてはいけないのだ。

……知り合いがまだ少ないから、ほとんどはマリーから一方的にメールが送られてくるくらいだけど……。

──メーラーを開いて、カリカリとスクロールしながら、目を通す。


善子「スパム……多い……」


嘆息気味に目を滑らせながらスクロールしていくと──


善子「……え?」


一通のメールが目に留まった。

そこには──『新人トレーナー募集のお話について』と銘打ったメール。

開くと、そこには、こんな内容が書いてあった。


『初めまして。突然のご連絡、失礼いたします。この度、ツシマ研究所にて新人トレーナーを探されているとお伺いしました。もしよろしければ、詳しくお話を聞かせてもらえないでしょうか?』


善子「……来た」
 「ムマァ〜ジ?」

善子「来た……!! 来たわ!! 新人トレーナーから連絡!!」


私はびしょ濡れで早くお風呂に入りたかったことなんてすっかり忘れて、メールに即行で返事をする。

メールに対するお礼と、こちらの詳細な連絡先、連絡可能時間、出来ればポケギアでいいので、一度直接話したい旨を送信する。

その際、送り主の名前を再度確認する。


善子「──ナカガワ・菜々……」


この子が、私が図鑑と最初のポケモンを託すことになる……最初のトレーナーなんだ……。


善子「くぅぅ……やった……やったわ……!」


思わず、拳を握りしめてしまう。それくらい嬉しかった。

まだ見ぬ、ナカガワ・菜々という少女と早く連絡が取りたい、そう思っていると──ピコンとメールの受信音。
812 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:31:21.33 ID:S2FBcmzU0

善子「嘘!? もう返事来た!?」


まさにそのナカガワ・菜々さんから返事だった。

今すぐにでも、話したいという旨と彼女の連絡先が書かれていた。

私はポケギアを引っ張り出し、すぐにその番号をプッシュした。

通話先の主は──ワンコールも掛からずに、電話に応じてくれた。


 『……も、もしもし……』


ギアの向こうから、緊張気味な少女の声が聞こえてきた。


善子「ナカガワ・菜々さんね……?」

菜々『は、はい……ツシマ・善子博士ですか……?』


咄嗟に善子じゃなくてヨハネと言いそうになったけど、今はそれよりも大事な用件だから、言葉を呑み込む。


善子「ええ……! そのとおりよ、私がツシマ・善子よ」

菜々『よかった……ちゃんと繋がって……』

善子「それで……新人トレーナー募集の話なんだけど……」

菜々『は、はい……私、ポケモンと旅……ずっとしてみたくて……偶然、博士が新人トレーナーを探してるって話を聞いて……連絡してみたんです……』

善子「そうだったのね……」


ああ、私のやってきたことは無駄じゃなかった。

思わず涙ぐみそうになる。


菜々『あ、あの……もしかして……もう旅立ちの子、決まっちゃってたりとか……』

善子「ええ、決まってるわ」

菜々『え、あ……そんな……』

善子「貴方よ」

菜々『……え?』

善子「菜々。……貴方が、私のもとから旅立つことになる新人トレーナーよ……!」

菜々『……! はい!』


これが、私と菜々のファーストコンタクトだった。



813 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:32:18.16 ID:S2FBcmzU0

    😈    😈    😈





私は菜々と何度かやり取りをして、彼女のプロフィールを教えてもらった。

ナカガワ・菜々。

歳は15歳。

住んでいるのはローズシティ。

そして、驚くことにローズの名門スクールに通っている子だった。

そのスクールは今どき珍しい座学メインで、ポケモンの授業がほとんどない学校。

ほとんどの生徒がそのままローズの大企業に就職すると聞く。

そんな学校に通うだけあって、今までポケモンに触れた経験はなし。

ただ、本人はポケモンにすごく興味があり、どうしても旅に出てみたくて、いろいろ調べているうちに、偶然私が新人トレーナーを探しているということにたどり着いたらしかった。

これから初めてポケモンと関わって、一緒に過ごして、繋がりを作っていこうとしている少女……。まさに私が探している人物像そのものだった。

運命すら感じた。


善子「──菜々は、どんなポケモントレーナーになりたい?」

菜々『すっごく強いポケモントレーナーになりたいです……! 誰にも負けない、ポケモントレーナー! 私……そんなトレーナーになれますか……?』

善子「ええ、きっとなれるわ。そういう風に言ってて、本当に強くなった友達がいるの」

菜々『本当ですか……!』


菜々との打ち合わせは順調に進んでいった。

──そして、彼女の旅立ちまであと1週間と迫ったある日のことだった。

ポケギアが鳴り響き、画面を確認すると、いつものように、菜々の番号からだった。


善子「もしもし、菜々?」

菜々『……ヨハネ……博士……っ……』

善子「……菜々?」


通話越しでも、すぐに理解できた。

菜々の声が、震えていた。


善子「どうしたの、菜々!? 何かあったの!?」

菜々『ご、ごめん……なさい……。あ、あの……お、親に……代わり、ます……』

善子「え……?」


親……?


菜々父『──初めまして、ツシマ博士でしょうか』


ポケギアの向こうから聞こえてきたのは、男性の声だった。

つまり、菜々の父親だろう。

真面目そうで、堅い……威圧感のある声。
814 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:33:14.34 ID:S2FBcmzU0

善子「は、はい……間違いありません」

菜々父『この度は、娘がご迷惑をおかけして申し訳ございません』

善子「はい……? い、いえ、ご迷惑だなんて……」

菜々父『いえ、ギリギリになって、旅立ちのお断りの連絡を入れることになってしまって、申し訳ない……』

善子「……は?」


今、なんて言った……?

旅立ちを断る……?


善子「え、ち、ちょっと待ってください、どういうことですか……!?」

菜々父『今回、娘が勝手に博士に連絡を入れて、旅立ちの約束をしてしまったと伺いまして』

善子「……な……」


完全に予想外だった。

菜々は15歳という年齢でありながら受け答えもしっかりしていて、よく出来た子だったから、てっきり保護者とも話がついているんだと思い込んでいた。


菜々父『直前の連絡になってしまったことは、私たちの監督不行き届きに他なりません。本当に申し訳ない』

善子「ち、ちょっと待ってください……!」

菜々父『なんでしょうか』

善子「菜々は……菜々さんはなんと言ってるんですか……!?」


確かに親の了解を取っていなかったのはまずい。とはいえ、話が一方的すぎる。

私はずっと菜々がどれだけ旅を楽しみにしていたのか知っている。期待を、希望を、夢を、全て聞いてきた。

それなのに、二の句を継がせずに、旅に出させないという話になっているのは、あまりに急すぎる。

だけど、菜々の父親は、


菜々父『娘の意見は関係ありません』


その一言で切り捨てた。


善子「な……」

菜々父『我が家の教育方針では、ポケモンとは関わる必要はないと考えています』

善子「ポケモンと関わる必要がないって……」

菜々父『菜々はスクールでも主席。私たちもこの子の未来には期待しています。学校を卒業して、ローズの企業に就職すれば、ポケモンと関わらなくてもそこまで問題はないはずです』

善子「…………それは」


確かにローズシティにはそういう人が少なくない。

人口も多く、他の街に比べると、街中にいるポケモンは少ない方で、このオトノキ地方でも、一生涯ポケモンを持たずに暮らす人間が最も多いと言われている。

安全管理が徹底しているから、野生のポケモンに至ってはほぼゼロと言って差し支えないほどに少ないのがローズシティという街なのだ。

ポケモンを排除しようとしているのではない。人が多いからこそ、ポケモンとの住み分けをしっかりし、お互いの領域を守る。そういう理念で動いている街。


菜々父『それなのに、わざわざポケモンと旅に出るなんて、危険な真似をさせたがる親がいますか?』

善子「…………」


言葉に詰まる。

だけど、ダメだ。ここで何も言い返さなかったら──菜々の夢がここで終わってしまう。


善子「で、ですが……ローズもポケモンの力を全く借りていないわけじゃないはずです」
815 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:34:21.23 ID:S2FBcmzU0

当たり前だが、この世界でポケモンと全く無関係に生きるというのは不可能なはずだ。

程度の問題であって、ゼロではない。


善子「ポケモンのことを実際に自分の目で見て、知ることは教育の上でも重要だと私は考えていて──」

菜々父『それは貴方の考えでしょう』


ぴしゃりと返される。

……怯むな。


善子「ローズシティと言えば、この地方のモンスターボール生産の98%を占めていますよね? モンスターボール事業に関わることになれば、ポケモンの知識が重要に──」

菜々父『逆にお聞きします。この地方でポケモンによって起こる事件・事故の発生件数がどれほどのものか……博士ならご存じですよね?』

善子「それ……は……」

菜々父『並びにローズではそのような事件・事故がどれだけ少ないかも』

善子「…………」


ポケモンが街中にほとんどいないというのは裏を返せば、ポケモンによる事件や事故は格段に少ない。

そりゃそうだ。居ないのだから、起こるはずがない。


菜々父『その上でお訊ねします。娘を危険な目に遭わせたくない。だから、ポケモンと距離を置かせる。そう考える私の考えはおかしいでしょうか?』


──極端だ。そう思った。

だけど、親が子を守るための方便として、これ以上のものはなかった。


善子「……仰る通りだと思います」

菜々父『わかっていただけたなら、幸いです』

善子「いえ……」

菜々父『この度は本当に、申し訳ございませんでした』

善子「いえ……こちらこそ、確認不足でいらぬご心配をお掛けしてしまい、申し訳ございませんでした……」

菜々父『とんでもないです』


思わず、下唇を噛む。

私は、こんなことが言いたいんじゃないのに。


善子「……あの」

菜々父『なんでしょうか』

善子「最後に……菜々さんとお話させてもらえませんか……」

菜々父『わかりました』


菜々のお父さんの了承の言葉のあと、


菜々『ヨハネ……博士……っ……』


菜々の声が聞こえてきた。震える、菜々の声。


善子「菜々……」

菜々『ご迷惑おかけして……申し訳……ございません……。……私には、まだ……ポケモンは……早かった……みたい、です……』

善子「……っ……!!」
816 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:35:07.92 ID:S2FBcmzU0

──頭がカッとなる感覚がした。

もちろん菜々への怒りではない。菜々の親への怒りだ。

こんな──どう考えても言わされているような言葉。

私は菜々の想いを散々聞いてきたからわかる。こんなの菜々の本心じゃない。


菜々『最初のポケモンと図鑑は……他の子にあげてください……。きっと……私が貰うより……幸せだから……』

善子「菜々……っ……私は……っ」

菜々『いっぱいお話聞いてくれて……ありがとう、ございました……』


──ツーツーツー。その言葉を最後に、通話は切れてしまった。


善子「…………何よ、これ……」


私は思わず椅子にもたれかかって、天井を仰いだ。





    😈    😈    😈





その日の深夜のことだった。

どうしても眠る気分になんてなれずに、ボーっと椅子に腰かけていると──prrrrrとポケギアが鳴った。


善子「…………深夜2時よ、何考えて──」


ぼやきながらギアの画面を見て、目を見開いた。

急いで通話に応じる。


善子「菜々……!?」

菜々『……よは、ね……はか……せ……っ……。……わた……し……っ……たびに……でたい、です……っ……』


菜々は通話の向こうで泣いていた。

悲痛な声で、親の前では言うことを許されなかった気持ちを、吐露しながら。


善子「菜々……っ……いいわ、私が許可する……!! 私の所に来たら、旅に送り出してあげるから……!!」

菜々『……たくさん……ポケモンと……っ……なかよく、なって……っ……つよい……とれー、なーに……なり、たい……です……っ……』

善子「なれるわ……っ!! 菜々なら、絶対……っ!!」

菜々『ほん、と……ですか……?』

善子「ええ!! 私が保証する!!」

菜々『でも……お父さんも、お母さんも……ゆるして、くれない……から……っ……』

善子「説得しましょう……!! いえ、ヨハネが説得してあげるわ……!! 旅が危ないって言うなら、ヨハネが貴方の旅に付いていってもいい……!! だから……!!」

菜々『………………ぐすっ……。…………ありがとう、ございます……っ……。……はかせ……っ……わたし……もうちょっとだけ……がんばります……っ……』

善子「菜々……?」

菜々『……当日……待っててください……絶対、ツシマ研究所に……行きます……から……』

善子「……ええ、待ってるわ。……菜々のこと、待ってるから……!」

菜々『……はいっ』
817 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:35:44.29 ID:S2FBcmzU0

──だけど、当日……菜々が姿を現すことはなかった。

そして、この通話が、菜々との最後の会話になった。

これ以降はメールも返事がなくなり、ポケギアも通じなくなってしまった。

そして、その数ヶ月後──


善子「……手紙……?」


研究所のポストに入った一通の手紙。宛先は書いていなかった。

封筒を開けると、中から一枚の便箋が出てくる。


──『ごめんなさい』──


とても綺麗な文字で、たった6つの文字だけが書いてある手紙だった。

その綺麗な文字を見るだけで、育ちの良さが伺える。そんな筆跡だった。

それが逆に、菜々の痛みを体現しているかのようで、私は胸が締め付けられるような気持ちになるのだった──




──
────
──────

    🎹    🎹    🎹





善子「──何度か、菜々の家を直接訪ねようと思ったこともなかったわけじゃないんだけど……。……これ以上、私が口を挟むと、余計に菜々を傷つけるんじゃないかと思って……出来なかったわ」

侑「……じゃあ、その図鑑と、モンスターボールは……」

善子「……ええ。菜々に渡すはずだったものよ」


博士はそう言いながら、ポケモン図鑑を大切そうに引き出しに戻す。


善子「これは……菜々以外が持っちゃいけない……」

侑「……」


それは重さを感じる言葉だった。


善子「そこから2年……ようやく、3組の図鑑と最初のポケモンを揃えることが出来た」

歩夢「それによって、旅立つことになったのが……」

しずく「私たち……なんですね」

善子「……そうよ」


少し、研究所の中が静かになる。


善子「……ごめんなさい。やっぱり、こんな重い話、聞きたくなかったわよね……」


ヨハネ博士は申し訳なさそうに言う。

が──


かすみ「そんなわけないじゃないですかっ!!」


かすみちゃんが、真っ先に声をあげた。
818 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:36:24.22 ID:S2FBcmzU0

善子「か、かすみ……?」

かすみ「むしろ、なんでそんな大事なこと、今の今まで黙ってたんですかっ!!」

善子「え、えっと……」

しずく「そのとおりです、ヨハネ博士」

善子「しずくまで……」

しずく「もちろん私たちは、その菜々さんにはなれません……ですが、意志を受け継ぐことくらい出来ます」

かすみ「菜々先輩の分まで、かすみんたちが立派なトレーナーになってやりますよっ!! 当り前じゃないですかっ!!」

善子「貴方たち……」


力強く、自分たちの意志を示す、かすみちゃんとしずくちゃん。


歩夢「……博士」

善子「歩夢……?」

歩夢「私……実はずっと、どうして自分が選ばれたのかわからなくて、悩んでました。だけど……この旅で、侑ちゃんと一緒にいろんな場所を巡って、いろんな人と会って、戦って、ポケモンたちと友達になって──ちょっとずつだけど、自分が旅で出た意味がわかってきた気がするんです」

善子「……」

歩夢「それに、今の話を聞いて……もっともっと、博士が選んでくれたことを誇りに思おうって、今はそう思ってます。もしどこかで……私たちの先輩──菜々さんに会ったときに恥ずかしくない私になれるように……」

善子「貴方たち……っ……」


ヨハネ博士は目頭を押さえて、顔を背ける。


曜「……ふふ。ちゃんと言ってよかったでしょ?」


曜さんがそう言いながら、博士の背中をポンと叩く。


曜「善子ちゃんが選んだこの子たちは、確実に信用出来る強さを持った、立派なトレーナーに成長していってるよ」

善子「うっさいバカ……当たり前じゃない……っ……。この子たちは、私が選んだリトルデーモンなんだから……っ」

曜「あはは、ホント素直じゃないんだから」


やれやれと言った感じで、曜さんが優しく笑う。


侑「ヨハネ博士」

善子「……侑」

侑「私は歩夢のお陰で偶然図鑑を貰っただけかもしれません……だけど、私も今の話を聞いて、博士の力になりたいって思いました。私も博士から図鑑を貰った人間として、この研究所から旅立ったトレーナーとして、一人の図鑑所有者として恥ずかしくないトレーナーを目指します!」

リナ『私、侑さんと一緒に頑張る! リナちゃんボード「ファイト、おー!」』 || > ◡ < ||

善子「侑もリナも……ありがとう。そう言ってくれて嬉しいわ」


ヨハネ博士は涙を拭いながら、お礼の言葉を返してくれる。


かすみ「そうとなったら、もたもたしてられませんね!! かすみん、菜々先輩の代わりに最強のトレーナーになっちゃいますよ!!」

しずく「目指すはローズシティだね!」

侑「残るジムは、あと3つ……!」

歩夢「セキレイから北の、オトノキ地方の残り半分……どんなポケモンに会えるかな?」

リナ『きっと、みんなとなら、素敵な冒険が待ってる!』 || > ◡ < ||


私たちは、決意を新たに──ローズシティに向かって旅立ちます……!!



819 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:37:09.00 ID:S2FBcmzU0

    😈    😈    😈





善子「……あの子たち、行っちゃったわね」

曜「よかったね、善子ちゃん」

善子「……ヨハネだってば。……それにしても……子供たちの成長は、早いわね」

曜「そうだね。旅立った頃からは比べ物にならないくらい逞しくなってたね。……鞠莉さんも案外こういう気持ちだったのかもね」

善子「そうね。当時のヨハネの成長は目を見張るものがあっただろうし」

曜「ふふ♪ ルビィちゃんも、花丸ちゃんも、梨子ちゃんも、千歌ちゃんも──私も。みんな旅の中でいろんな経験したもんね」

善子「……ええ」


なんだか、自分たちが旅をしていた頃が、遠い昔のように感じる。


善子「……菜々。貴方の意志は貴方の後輩たちが受け継いでくれるって……」


私はそう独り言ちた。

今、彼女がどうしているかはわからない。

でも、きっと……あの子の想いは無駄になんてならない。ちゃんと、繋がったから。

今は少しだけ、そう思えて……心が救われたような気分だった。



820 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:37:48.31 ID:S2FBcmzU0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【セキレイシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.44 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.44 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.41 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.36 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      タマゴ  なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
      ルガルガン♂ Lv.83 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:153匹 捕まえた数:5匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.41 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.38 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.36 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      タマザラシ♀ Lv.31 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラエッテ♀ Lv.24 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:155匹 捕まえた数:16匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.40 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.37 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.37 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.33 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.34 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:149匹 捕まえた数:8匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.30 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.23 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.30 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.30 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.29 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:156匹 捕まえた数:9匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



821 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2022/12/08(木) 18:34:12.95 ID:Vi/9troWO
『続・マジ強パーティー出来たから見てくれ。』
SVレート(シングル)/ハイボ〜マスボ級:Round.4
(19:00〜放送開始)

https://youtube.com/watch?v=vTP4Azqbcww
822 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 03:08:03.99 ID:9oar5n900

 ■Intermission😈



曜「そういえばさ、善子ちゃん」

善子「ヨハネだって言ってんでしょ。ってかあんた、いつまでいるのよ」

曜「千歌ちゃんのルガルガンから、何のデータ取ってたの?」

善子「聞きなさいよ!!」


全く、このヨーソローは本当に昔から私の話を聞かないのよね……。


善子「えっと……千歌のルガルガンって特殊個体でしょ?」

曜「うん。なんかこの地方にはあんまりいないんだっけ……?」

善子「今確認されてるのは進化見込みのイワンコを含めて9匹だけね」

曜「少ないって聞いてたけど、そんなに少ないんだ……」

善子「しかも、3年前に突然生まれたのよね……」


一応原因は──地方の危機を察知したルガルガンたちが、生存本能から特殊な変異個体を生んだんじゃないか……なんて言われてるけど、実際のところはまだ調査中だ。

ルガルガンたちの縄張りで問題が起こってしまったため、特殊なイワンコたちは派遣された調査団によって保護され……グレイブ団事変解決後にはパタリと生まれなくなったらしい。


曜「じゃあ、それの真相究明みたいな?」

善子「それもあるけど……私の研究テーマ、覚えてる?」

曜「えーっと……人とポケモンの関わりの文化……だっけ?」

善子「そう。……ポケモンの中には、いろんな姿を持ってる種類がいるでしょ?」

曜「オドリドリとか、ポワルンとか……それこそ、ルガルガンもだよね」

善子「ええ。オドリドリのように、アイテムによって姿を変えるポケモン。天候によって姿を変えるポワルンやチェリム。ルガルガンのように、進化の際に別の見た目になるものもいる」

曜「確か……カラナクシなんかは、地方によっては違う姿があるんだよね」

善子「水色の個体ね。この地方にはピンク色の個体しかいないからね。ガラルやシンオウで見られる姿らしいわ」

曜「そうなんだ」

善子「あとは♂♀で姿が違うポケモンもいるわ」

曜「ニャオニクスとかイエッサンとか?」

善子「それもそうだけど……もっと明確に違うのは、ニドランやバルビート、イルミーゼね」

曜「え、あれって姿の違いなの?」

善子「ポケモン図鑑だと一応別種って扱いになってるけど、生物学的にはほぼ同じ種類って考えられてるのよ」


実際、イルミーゼのタマゴやニドラン♀のタマゴからは、バルビートやニドラン♂が生まれるしね。
823 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 03:08:42.21 ID:9oar5n900

善子「それと──メガシンカも」

曜「メガシンカもなの?」

善子「当然よ。そして、メガシンカはトレーナーとのキズナの力によって姿を変えるわけだけど……」

曜「うん」

善子「極稀に……メガシンカとは違う方法で、姿を変えるポケモンがいるらしいの」

曜「メガシンカと違う……? “キーストーン”と“メガストーン”を使わないってこと?」

善子「ええ。……“キーストーン”や“メガストーン”を介さずに、ポケモンとの強いキズナで同調して、力を引き出すポケモンがいるらしいのよ」

曜「……なんかずいぶんふわふわしてるね?」

善子「何分資料がほとんどないからね……。数百年に一度確認されることがあるとかないとか……“キズナ現象”って呼ばれてるってことだけはわかってるんだけど」

曜「つまり、善子ちゃんは今……その“キズナ現象”って言うのについて研究してるんだ」

善子「そういうこと。ただ、あまりに情報が少なすぎてね……もしかしたら、特殊な姿をしている個体なら何か関係があるかもって思って、千歌のルガルガンを調べさせてもらってたってわけよ」

曜「なるほどね。それで、何かわかったの?」

善子「……正直収穫としては微妙ね。まあ、これでわかったら最初から苦労してないしね」


研究とは得てして地道なものだ。これくらいのことでへこたれている場合じゃない。


善子「でも……“キズナ現象”は人とポケモンの関わり合いの文化の中では、重要なファクターになってくるはずよ……」


それこそ、人とポケモンが関わり合いの中で、新たな力に目覚めるなんて、まさに私の研究したいことそのものなのだ。

もしその謎の解明が出来れば……人とポケモンはさらに一歩先に進めるんじゃないか。そんな気がする。

真剣な顔をしながら、次のことを思案していると、


曜「ふふ、善子ちゃん、すっかり研究者さんなんだね」


曜は笑いながら言う。


善子「前から研究者よ。あとヨハネだって言ってるでしょ」

曜「ごめんごめん。“キズナ現象”、解明出来るといいね」

善子「任せなさい。ヨハネが絶対解明してみせるんだから……!」


………………
…………
……
😈

824 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:30:29.69 ID:9oar5n900

■Chapter042 『菜々──せつ菜』 【SIDE Setsuna】





──カーテンクリフで修行していた私は、急な仕事が入ったため、一旦ローズシティへと帰ってきていた。

どうやら、直近の会議の中でスケジュールそのものを調整しなくてはいけないらしく、それなら秘書である私も同席せざるを得ない。

会議は明日の朝一からあるため、前日のうちにローズへ戻ってきたというわけだ。


せつ菜「三つ編み……大丈夫。髪留めも……よし。ちゃんと外してる」


手鏡で自分の姿を確認。

あとは……ポケモンたち。


せつ菜「みんな、窮屈かもしれないけど……少しの間、我慢してくださいね」


ボールをベルトごと外して、カバンに入れる。

最後に、上着のポケットから眼鏡を取り出して──

ユウキ・せつ菜は……ナカガワ・菜々になる。


菜々「……ふぅ」


小さく息を整えてから、私は──久しぶりに帰ることになった自宅を目指して、歩き始めた。





    🎙    🎙    🎙





菜々「……ただいま」

菜々母「あら、菜々。おかえり」


帰宅して、自宅のリビングへ赴くと、母親が紅茶を飲みながら映画鑑賞をしているところだった。

ただ、ポケウッドでやっているような溌剌なものではなく、いかにも貴婦人が好みそうな洋画であることが、今ワンシーンをちらりと見ただけでもよくわかった。

なんというか……いつものお母さんの昼下がりだ。


菜々「……お父さんは?」

菜々母「お仕事よ。平日だもの。今日は遅くなるみたいで、帰ってくるのは深夜になるって言ってたわ」

菜々「……そっか」


今日帰ることは予め連絡していたんだけどな……。

久しぶりに娘が帰ってきたというのに、仕事熱心なようで何よりだ。


菜々母「それより菜々こそ、お仕事の方はどう? 順調?」

菜々「うん。真姫さんも優しいし……仕事もやりがいがあって楽しいよ」

菜々母「なら、安心だわ。あの真姫お嬢様の秘書になるって聞いたときは驚いたけど……誰もが出来る仕事じゃないものね。お母さんも誇らしいわ」


そう言いながら、ニコっと笑うお母さん。


菜々母「今日は菜々の好きな物、作ってあげるわ♪」

菜々「うん、ありがとう。楽しみにしてるね」
825 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:31:18.25 ID:9oar5n900

私は簡潔に返事をして、踵を返す。


菜々「ちょっと疲れてるから……部屋で休むね」

菜々母「そう? それじゃあ、夜ごはんになったら、部屋まで呼びに行くわね」

菜々「うん」





    🎙    🎙    🎙





普段は真姫さんの手配してくれた社員寮で寝泊まりしている──ということになっている──ため、家に帰ってくること自体が随分久しぶりだ。

──そんな久しぶりの自室。

一息吐くために、荷物を置いて、使い慣れた机に向かって腰を下ろす。

久しぶりに帰ってきたというに妙にしっくりくるのは、何度もこの机で勉強をしてきたからだろう。

回転椅子の上で振り返り、久しぶりの自室を見回すと──本棚にはたくさんの参考書たち……そして、賞状やトロフィーが飾られている。

読書感想文や、スクールで主席に送られるもの。陸上で表彰されたときのものや……文武問わずいろいろなモノがある。

これも全て、幼い頃から両親の期待に必死に応え続けてきた結果……。

だけど──そこにポケモンに関わるモノは一つものなかった。


菜々「…………」


まるで私──ナカガワ・菜々という人間の歴史全てを物語っているような部屋だと思った。

幼い頃から、ナカガワ・菜々の生活の中には、驚くくらいにポケモンが存在していなかった。

スクールに入るまで、実際にポケモンを目にしたことがなかったし、そういうものがいる、くらいの認識しかしていなかったと言えば、その異常さがわかるかもしれない。

ほぼフィクションの存在。私にとっては全てのポケモンが伝説の存在のようなものだった。

ただ……この世界でそんなことが可能なのか? 今では、そう思う。

この世界では……至る所にポケモンが居る。それはもう、数えきれないくらいに。

そんな重度の箱入り娘を作り上げたのは、他でもない──両親の影響だったというのは言うまでもないだろう。

両親は父母二人揃って、ポケモンが苦手だと聞く。……特に父親は相当なポケモン嫌いらしく、母親が話題に出すことを忌避するくらいだ。

どうやら、父は小さい頃にポケモンに襲われたことがあるらしく……それ以来、ポケモンを毛嫌いしている節があるそうだ。

そんな家で育ったが故に……私は、酷くポケモンと遠ざけられて育ってしまった。

お陰で我が家ではポケモンの話をしたことは、一度もなかった。

そんな私がポケモンに興味を持ったのは──忘れもしない……3年前。

世に言うグレイブ団事変と言われる大事件でのこと。

街中にゴーストポケモンが大量発生し、ポケモンに耐性のない人が多いこのローズシティは大パニックに陥った。

それは私たちも例外ではなく……民家であろうが、お構いなしに壁をすり抜け侵入してくるゴーストポケモンから逃げる母親に手を引かれて、逃げ惑うことになった。

826 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:31:57.22 ID:9oar5n900

──────
────
──



菜々「はぁ……はぁ……」

菜々母「菜々、頑張って走って……!!」


息が切れて、苦しかった。

もう何時間逃げ回っているんだろうか。

もういい加減休みたかった。

ただ──ゴーストポケモンは人の命を奪うらしい。

それが恐ろしくて、怖くて、ただ逃げていた。

ただ、ずっと走り続けていれば、体力に限界は来るもので、


菜々「……あっ!」

菜々母「菜々……!?」


私は足をもつれさせて、転んでしまった。


菜々「……っ……」

菜々母「菜々、大丈夫……!?」

菜々「う、うん……。……っ゛……!」


立ち上がろうとすると、足に痛みが走った。

足をくじいてしまったらしい。

どうにか立ち上がろうとしていた、矢先、


菜々母「きゃぁぁぁっ!!」


お母さんが私の背後を見て、悲鳴をあげた。

恐る恐る振り返ると──


 「サマヨーー…」


一つ目のゴーストポケモンが私の背後に立っていた。


菜々「……ヒッ!」


私は転んだまま、強引に足を引きずって、どうにか距離を取ろうとするけど、


 「サマヨーー」


ゴーストポケモンは一歩一歩にじり寄ってくる。

怖くて怖くて仕方なかった。


 「サマヨーー」


そのゴーストポケモンは、大きな手を私に伸ばしてくる。

もうダメだと思った。

そのとき──
827 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:32:51.83 ID:9oar5n900

 「──“バレットパンチ”!!」
  「ハッサムッ!!!!」

 「サマヨォッ!!!!?」


弾丸のような速度で、真っ赤なポケモンが、ゴーストポケモンを殴り飛ばしていた。

そして、それと同時に、一人の女性が駆け寄ってくる。


女性「大丈夫!?」

菜々「は……はい……っ」

菜々母「あ、ありがとうございます……!!」


気付けば周囲では、その女性以外にも、駆け付けた“ポケモントレーナー”と呼ばれる人たちが、ゴーストポケモンたちと応戦を始めていた。


女性「ポケモンは私たちがどうにかするから、早く行きなさい!」

菜々母「は、はい……! 菜々、立てる?」

菜々「う、うん……」


お母さんに肩を貸してもらって、私は足を引きずりながら歩き出す。


菜々母「お父さんの会社まで行けば、きっと安全だから……! 頑張って……!」

菜々「う、うん……」


ローズの大きな会社は災害時にも機能を失わないために、非常に頑丈なつくりをしている。

父の会社も例外ではなく、しかもゴーストポケモンが侵入出来ないように、特殊な磁場で防ぐ機構もあるそうだ。

そこを目指して、再び進み始める。


菜々母「きっと、大丈夫だからね、菜々……!」

菜々「うん……」


私は逃げながら──ふと、今助けてくれた人の方を振り返る。


女性「“バレットパンチ”!!」
 「ハッサムッ!!!!」

 「ゴスゴスッ!!!?」


女性は今も懸命にゴーストポケモンたちを撃退し続けている。

いや、その人だけじゃない……。


男性トレーナー「キリキザン! “メタルクロー”!!」
 「キザンッ!!!」

女性トレーナー「クチート! “アイアンヘッド”!!」
 「クチッ!!!」


たくさんのトレーナーたちが、街の人を守るために、戦っていた。

私はその姿を見て、心の底から……思った。


菜々「──……かっこいい……!」


──
────

828 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:33:25.80 ID:9oar5n900

今までポケモンをほぼ見たことすらなかった私にとって、その経験は今までの人生全ての価値観をひっくり返してしまうほどに、衝撃的だったのは言うまでもない。

この頃には、両親がポケモン嫌いなことに気付いていたものの……私は湧き上がる好奇心とトレーナーへの強い憧れを抑えることが出来なかった。

両親に隠れて、図書館でポケモンバトルを題材にした作品を読み漁り、スクールの帰りにこっそり街の隅にあるバトル施設を見に行ったりもした。

そこには、私の知らない世界が広がっていた。

トレーナーがポケモンと力を合わせて、ぶつかり合い、競い合い──切磋琢磨し合う……そんな世界。

私は一瞬で、ポケモンとポケモントレーナーという存在の虜になった。

そして、そんな私がその次に考えることは、もちろん──


菜々「──私も……ポケモントレーナーになりたい……!!」


止め処なく溢れる熱い感情に突き動かされ、私はどうすれば自分がポケモントレーナーになれるかを必死に考えた。

調べて調べて調べて……そして、たどり着いたのが、


菜々「ツシマ研究所……新人用ポケモンと……ポケモン図鑑……」


ヨハネ博士だった。

ヨハネ博士は連絡を取ると、私のことを歓迎してくれて、私を旅立ちのトレーナーとして、選んでくれた。

嬉しかった。

ただ、懸念はあった。

もちろん、両親のことだ。

果たしてあの両親が……特に父親が私の旅立ちを認めてくれるのだろうか。

勢いで旅立ちを決めてしまったけど……許してもらえるんだろうか。

怖かったけど……。


菜々「……説得するんだ」


そのときの私は、きっとこの気持ちを真っすぐ伝えればわかってくれるなんて、そんな甘いことを考えていた。


──
────



菜々「お母さん、お父さんいつ帰ってくる……?」

菜々母「お父さん? そうね……今日も遅くなるんじゃないかしら」

菜々「そっか……」

菜々母「何か話があるなら、私が伝えておくけど……」

菜々「うぅん、お父さんがいるときに、直接伝える」

菜々母「そう?」


多忙な父とはなかなかタイミングが合わず……気付けば、旅立ちの日が迫っていた。

そんな中──父が休みの日に、やっと話が出来るタイミングがあって……。


菜々「よし……今日、お父さんに話すんだ……!」


ギリギリになっちゃったから……叱られるかな。こんな急だと、さすがに来週に旅に出る……なんてことを許してもらうのは急すぎて無茶かもしれない。

でも、今はとにかく気持ちをちゃんと伝えなくちゃ……!

自室でそう意気込んでいると──コンコンとドアがノックされた。


菜々父「菜々」
829 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:34:24.48 ID:9oar5n900

父の声だった。


菜々「は、はい……!」


意気込んでいたところだったから、少し面食らったけど、私は慌ててドアを開く。

開いたドアの向こうに立っていた父は、私の姿を確認すると、


菜々父「私の部屋に来なさい」


それだけ言うと踵を返してしまう。


菜々「……お父さん……?」


私は言われるがままに、父の書斎へ足を運ぶ。

書斎に入ると、父は鋭い視線で私を見つめていた。

なんだか、背筋が凍るような視線だった。

……でも、今しかない。


菜々「…………あのお父さん、実は話が……」

菜々父「最近、誰かとしきりに連絡を取っているようだな、菜々」

菜々「え、あ……うん。……そのことについてなんだけど……」

菜々父「ツシマ研究所だそうだな」

菜々「……!? し、知ってたの……?」

菜々父「最近様子がおかしいと、お母さんから聞いた」


どうやら、お母さんに電話しているところを聞かれていたらしい。

頻繁に連絡を取っていたし……様子がおかしいことに気付いていたなら、不思議なことでもないかもしれない。


菜々父「ポケモンを貰って旅に出る……か」

菜々「う、うん……!」

菜々父「今すぐにでも断りの連絡を入れないといけないな……」

菜々「……え」


一気に血の気が引いた。


菜々父「……今からツシマ研究所に連絡するから、ポケギアを取ってきなさい」

菜々「え、あ……いや……」

菜々父「早くしなさい。わざわざこのために仕事を休んだのだから」

菜々「……ま、待って……わ、私……」

菜々父「早くしなさい」

菜々「……っ!」


静かな口調だった。

静かで……とても、強い口調。

有無を言わせない、そんな、口調。


菜々「……は……はい……っ……」
830 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:35:51.35 ID:9oar5n900

──ああ、私……なんで説得出来るなんて思い上がってしまったんだろう。

取り付く島なんて、どこにもなかった。

私がトレーナーになれる可能性なんて──最初からなかったんだ……。



──
────
──────



菜々「…………」


なんだか、辛いことを思い出してしまった。

ヨハネ博士に断りの連絡を入れたその日の深夜に、私は親が寝静まったあと……ヨハネ博士に一度だけ電話をした。

励ましてくれて、『ヨハネが説得してあげるわ……!!』──そう言ってくれた博士の言葉に勇気を貰って、もう一度だけお父さんに話をしたけど……それが逆鱗に触れてしまったのか、ポケギアを没収され、連絡する手段すらも失ってしまった。

あの後……ヨハネ博士に会った──というか、見かけたのは1回だけ……ポケモンリーグ本選の会場で見かけたとき。

そのときは、思わず声を掛けそうになってしまったけど……。

今更、どの面を下げて話せばいいのかもわからず……結局、話しかけることは出来なかった。

何より……そのときの私は菜々ではなく──せつ菜でしたし。


菜々「……そう考えると……今が信じられないな……」


あのときはもう本当に、一生ポケモントレーナーになれないんだと思っていたから。

あの人が──私に“せつ菜”をくれたから。

──prrrrrr!!!!


菜々「あ、電話……」


仕事を始めてから、再び持たせてもらうようになったポケギアには──今思い浮かべていた人の名前が書かれていた。


菜々「はい、菜々です」

真姫『菜々、明日のことだけど……』

菜々「大丈夫ですよ、もうローズに戻っていますから」

真姫『急だったのに対応してくれてありがとう』

菜々「いえ、これも仕事ですから、気にしないでください。……ですが、本当に急でしたね」

真姫『なんでも先方がちょっと特殊な業種の人らしくて……』

菜々「特殊な業種……ですか?」

真姫『ええ。モデルらしいわ』

菜々「モデルさん……?」

真姫『今度のビジネス発表会に出てくれることが急に決まったらしくて……諸々の擦り合わせをしなくちゃいけなくてね……』

菜々「なるほど……」


確かにそうなると、両者で確認をしながら、直接スケジュールを押さえる必要が出てくることもあるだろう。
831 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:36:49.51 ID:9oar5n900

真姫『今は寮?』

菜々「いえ、実家です」

真姫『実家なの……?』

菜々「はい。たまには顔くらい見せないと……両親に悪いですし……」

真姫『大丈夫……?』

菜々「ふふっ、大丈夫も何も、自分の家ですよ」

真姫『それはそうだけど……』

菜々「心配してくれて、ありがとうございます。……お父さんもお母さんも、厳しいですけど……私のことを想って言ってくれてるだけですから」


そんなお父さんとは会えそうもないですけど……。


真姫『そう……。……でも無理はしちゃダメよ』

菜々「はい、ありがとうございます」


いろいろと事情を知っている真姫さんは、何かと気遣ってくれる。

彼女には本当に頭が上がらない。


真姫『それと今日の午後から天気が崩れそうだから、気を付けてね。それじゃ』

菜々「はい」


通話が切れる。

ふと窓から外を見ると──真姫さんの言うとおり、空は曇天に覆われていた。


菜々「これは……確かに天気が崩れそうですね……」


あまり酷くならないと良いのですが……。





    🍅    🍅    🍅





真姫「…………」


菜々との通話を終えて、私は少し複雑な気分だった。

菜々は……なんというか、危うさがある。

優しすぎると言うか……真面目すぎるというか……無垢というか……一切ズルさがないのだ。

まあ……だからこそ、面倒を見ている節はあるのだけど……。

梨子のことと言い、私はどうやら、ああいう子たちを放っておけない性質らしい。



──────
────
──
832 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:37:42.66 ID:9oar5n900

──菜々と出会ったのは、ローズシティの外周区にあるポケモンバトル施設でのことだった。

私はローズジムのジムリーダーとして、たまに街のバトル施設に視察に赴くことがある。

グレイブ団事変ではっきりしたが……この街は有事の際に戦えるトレーナーが非常に少ない。

ローズシティの人とポケモンの住み分けをしっかり行う考え方にはそこまで反対する気はないが、少し極端な考えを持った人が見られるのは難しいところだ。

ただ……どうしても、ポケモンが苦手な人というのも居て、そういう人たちがローズに集まってくるからこそ、そういう文化が形成されやすいのは仕方のない話なのかもしれない。

ポケモンが苦手な人間に、無理にポケモンと触れ合えというのもまた道理の違った話なので、ポケモンリーグに所属するジムリーダーの一人としては──この街に今いるトレーナーたちを大切にすることが重要だと考えている。

だから、こうして折を見て、視察を行っているわけだ。

セキレイほどではないが、こうしてローズのバトル施設を訪れると、そこそこの数の人が居る。

人口比率で言うとやや物足りないのかもしれないが……それでも、こうしてバトルに興味を持ってくれている人がいるのは良いことだ。

観戦席から、トレーナーたちの戦っている様を観察していると──


 「……違う、私だったら……ここは“シャドーパンチ”……ああ……だから言ったのに……」


何やら、ぶつぶつと言いながら観戦している少女がいることに気付く。

──結論から言うと、この子が菜々だった。

フィールドを見ると、ゴーストの放った“シャドーボール”をソーナンスが“ミラーコート”で反射して、ゴーストがやられてしまっているところだった。

……確かに、彼女の言うとおり相手のソーナンスからしたら、“ミラーコート”をしたいというのはわかりきっている盤面。

“シャドーパンチ”なら、意表を付けるし、仮に“カウンター”をされても、かくとうタイプだからゴーストにはダメージがない。

ただ……。


真姫「あのゴースト……“シャドーパンチ”は覚えてなかったんじゃなかしら」

菜々「え?」

真姫「ごめんなさい、独り言が聞こえちゃって……ゴーストは特殊攻撃が得意だから、物理技を覚えさせていないトレーナーは少なくないわ」

菜々「確かにそうかもしれません……だとしても、今のは悪手です」

真姫「どうして?」

菜々「相手の次の行動は読めている……なら交換すればいい。ゴーストタイプには“かげふみ”が効かないですし……」

真姫「……確かにそうね」


確かにそのとおりだ。“かげふみ”という特性はゴーストタイプ相手には効果がない。第一印象としては、よくバトルの勉強をしている子だと思った。


真姫「貴方、ポケモントレーナー?」

菜々「……いえ、私は……ポケモントレーナーではありません……」

真姫「トレーナーじゃないのに、随分バトルに詳しいのね」

菜々「……ポケモンバトルを……見るのが……好きなので……」


言葉とは裏腹に──彼女は、酷く寂しそうに返事をする。


菜々「あ……もうこんな時間……そろそろ、帰らないと……」


彼女はそう言って立ち上がり、私に会釈をしたあと、駆け足でその場を去ってしまった。


真姫「ポケモンバトルを見るのが好き……ね」


その割に──随分悲しそうな顔で観戦するのね……私はそう思った。



833 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:38:16.47 ID:9oar5n900

    🍅    🍅    🍅





それからというもの、


菜々「ああ……そこは一旦“まもる”で時間を稼いで……」

真姫「あの子……またいる」


彼女をよくこのバトル場で見かけることが多くなった。


真姫「また来てたのね」

菜々「あ……こんにちは……」


彼女は相変わらず、沈んだ声音で独り言を呟きながら、バトルを観戦していた。

何度かこの子を観察していてわかったのは……恐らくこの子は毎日ここにきている。

恐らくというのは、他の仕事で、ここに訪れるのが少しでも遅れるとこの子には会えないからだ。

滞在時間は恐らく10〜15分ほど……1試合見るか見ないかくらいで、帰ってしまう。


真姫「ねぇ、貴方」

菜々「……なんでしょうか」

真姫「いつもここに来てるけど……観戦しかしないのね」

菜々「……私は……ポケモントレーナーではないので……」

真姫「……興味はないの?」

菜々「……あります。……ありますけど……私は、ポケモントレーナーに……なれなかった……。……なっちゃ……いけなかった……」


最初からなんとなく勘付いてはいたけど……どうやら訳アリらしい。


真姫「貴方、名前は?」

菜々「……知らない人には名乗るなと……親からきつく言われています」

真姫「……ごめんなさい。貴方の言うとおりね。自分から名乗りもしない相手に、名前なんて教えられないわよね。私は真姫。ローズジムのジムリーダーよ」


こちらから、名乗ると、


菜々「……え?」


少女はこちらを向いて、目をぱちくりとさせる。


菜々「……ジ、ジムリーダー……?」

真姫「嘘じゃないわよ。ほら、このとおりローズジム公認の証の“クラウンバッジ”も持ってるし」


ポケットから、ジムバッジを取り出して見せる。


菜々「じ、ジムバッジ……! 初めて見ました……!」


彼女はバッジを見ると目を輝かせる。
834 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:39:08.63 ID:9oar5n900

真姫「ふふ、やっと笑った」

菜々「え……?」

真姫「貴方……ずっと、この世の終わりみたいな顔しながら、バトルを見ていたから……」

菜々「……私……そんな顔をしていましたか……?」

真姫「ええ。絶望の底にいるみたいだったわよ」

菜々「そう……ですか……」


私の言葉を聞くと、少女は俯いて、再びしゅんとしてしまう。


真姫「……ポケモントレーナーになっちゃいけないって、どういうことか聞いてもいい?」

菜々「…………」


少女は少し迷ったあと、


菜々「……私……本当は旅に出たかったんです……」


ぽつりぽつりと話し始めた。


菜々「……博士と、最初のポケモンと……ポケモン図鑑を貰う約束までして……。……博士もそれを喜んでくれて……歓迎してくれて……。……でも……結局、親に反対されちゃって……」

真姫「……ダメになっちゃったのね」

菜々「……はい」

真姫「親御さんには貴方の気持ちは伝えたの?」

菜々「……取り付く島もありませんでした。……私の気持ちは……関係ないって……聞いてすらくれませんでした……」

真姫「…………」


どこかで聞いたような話だった。

親が全て判断して、親が全てを決めて、こちらの意思も、言葉も、全て無視されて。

所詮、子供言うことだとあしらわれて。大切に扱ってもらえなくて。


菜々「……私のお父さん……小さい頃にポケモンに襲われて大怪我をしたことがあるそうです……。……そのときに、お父さんのお母さん──私のお祖母さんは、お父さんを庇って……もっと酷い大怪我をして……それが原因で亡くなってしまったそうです……」

真姫「……だから、ローズに住んでいるのね」

菜々「……はい」


この街に住んでいれば、ポケモンに襲われる可能性は格段に減る。

実際、それが目的でここに移住している人は多いし。


菜々「私……もう15歳なのに、最近になるまで、ほとんどポケモンを見たことすらなかったんです……。両親がずっと……私からポケモンを遠ざけていたんだって……最近になってやっと気付いて……」

真姫「なら……どうやってポケモンバトルを好きになったの?」

菜々「……助けてもらったんです。ある日突然、野生のポケモンが街中に現れて……襲われたときに、ポケモントレーナーの方が助けてくれたんです。あまりに急なことだったので……助けてくれたトレーナーの方の顔もよく覚えてないのですが……」


恐らく、グレイブ団事変のときのことだろう。あのときは多くの人が野生のポケモンに襲われたし、私も数えきれない人数を保護した記憶がある。

もしかしたら、この子もそんな人たちの中の一人だったのかもしれない。
835 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:41:05.26 ID:9oar5n900

菜々「ただ……そのとき私を助けてくれたポケモントレーナーの人たちを見て……ああ、なんてかっこいいんだろう。私もあんな風にかっこよくて、強くて……誰かを守れる人になりたい……そう強く思ったことだけは覚えてます」

真姫「それはすごく立派なことよ。私はこの街のジムリーダーとして……貴方みたいな人にトレーナーになって欲しいわ」

菜々「あはは……ありがとうございます。……でも、ダメなんです。……私は、ポケモンを持っちゃいけない人間なので……ポケモンと関わっちゃいけない人間なんです……」

真姫「…………」

菜々「……あ……もう、こんな時間だ……。……帰って勉強しないと……親に怒られちゃいます……」


そう言って彼女はいつものように、立ち上がって、踵を返す。

その折に、


菜々「……菜々です。……ナカガワ・菜々」


彼女はそう名乗った。


真姫「……知らない人には名乗っちゃいけないんじゃないの?」

菜々「えへへ……この街のジムリーダーなら、知ってる人みたいなものです。お話を聞いてくれて、ありがとうございました」


そしていつものように会釈をして──去って行った。


真姫「……ままならないものね」


この世界はポケモンと共存して回っている。だけれど、そんなポケモンの人智を越えたパワーに恐怖する人間は決して少なくない。

ポケモンに命を救われる人がいる中で、ポケモンによって命を落とす人もいる。

だから、ポケモンを忌避し、関わらないように生きる人がいることはわかっているし、否定する気はない。

だけど……ポケモンと関わりたくて、力を合わせたくて、強くなろうとしている子の気持ちが……捻じ曲げられてしまうのを見ているのは……心苦しかった。

ただ、親の言葉というのは……年端もいかない子供にとっては絶対と言っても差し支えないほど、大きな大きな影響力を持って降りかかってくる。

──私もそうだったから。

あのとき、凛と花陽が、私を連れだしてくれなかったら……私は今でも親の敷いたレールの上を走り続けていたのかもしれない。

……菜々は、あのとき誰からも手を取ってもらえなかった……私なんじゃないか。

そう思えて仕方がなかった。


真姫「ナカガワ……菜々……。……ナカガワ……?」


そういえば、ナカガワって名前……どこかで聞いた気が……。





    🍅    🍅    🍅





真姫「……やっぱり」


私は関連企業役員の名簿を見て、一人納得していた。

ナカガワというファミリーネーム、どこかで聞いたことがあると思ったら……ニシキノ家が出資している企業の中の一つにナカガワという名前の社長が居た。

彼は優秀な人物であると共に──ポケモン嫌いなことで有名な人でもあった。

有事の際にポケモンに頼らなくてもいいように、会社の外装や外壁に、“リフレクター”や“ひかりのかべ”と似たような効果を持たせた頑強なビルを建てていて、実際にグレイブ団事変のときも、住民の避難所として重宝した。

その理由は前述したとおり、ポケモン嫌い故にポケモンに頼らなくてもポケモンからその身を守ることが出来るように、そのような設計をしたというのは、グループ内では有名な話だ。

もちろん、ただファミリーネームが同じだけという可能性もなくはないが……。
836 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:41:58.16 ID:9oar5n900

真姫「菜々の話とも辻褄が合う……。十中八九、このナカガワ社長が菜々のお父さんで間違いないわね……」


確か……数回程度だけど、私も父親と一緒に会ったことがあった気がする……。

そういえば、優秀な娘が居るという自慢をしていたような……。


真姫「ゆくゆくは娘も……ニシキノのグループ傘下の会社に……とかも言ってたような」


私は、菜々の言葉を思い出す。

──『ただ……そのとき私を助けてくれたポケモントレーナーの人たちを見て……ああ、なんてかっこいいんだろう。私もあんな風にかっこよくて、強くて……誰かを守れる人になりたい……そう強く思ったことだけは覚えてます」──

──『……でも、ダメなんです。……私は、ポケモンを持っちゃいけない人間なので……ポケモンと関わっちゃいけない人間なんです……』──

15歳そこそこの女の子が、そんな風に自分の夢を諦めていいのだろうか。


真姫「……ダメよ、そんなの」


……正直リスクはある。だけど、今の菜々は昔の自分を見るようで──黙って見ていることが出来なかった。

それに私には、それを可能に出来るカードが揃っている。


真姫「……梨子のときと言い……私ってお節介焼きなのかしら……」


自分ではドライな方であるつもりなのにね。


真姫「……いいわ、私がどうにかしてあげようじゃない」





    🍅    🍅    🍅





──次の日。

バトル施設に赴くと、


真姫「菜々。こんにちは」

菜々「……あ、真姫さん……」


菜々は今日もバトル施設に来ていた。


菜々「あの……昨日はおかしな話を聞かせてしまって……」

真姫「そんなことは良いの、ちょっと一緒に来てくれない?」


私は菜々の手を取って、立ち上がらせる。


菜々「え、えぇ……?」


困惑気味の菜々を強引に引っ張って歩き出した。



837 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:42:43.29 ID:9oar5n900

    🍅    🍅    🍅





私が来たのは──ローズジム。


菜々「こ、ここ……ポケモンジム……」


菜々がポカンと口を開けている。

まあ、急に連れてこられたら驚くわよね。


真姫「菜々。正直に答えて欲しいんだけど」

菜々「……?」

真姫「貴方、トレーナーになりたい?」

菜々「え……」

真姫「貴方の正直な気持ちを教えて」


菜々の目を真っすぐ見つめて、問いかける。


菜々「……えっと…………」


菜々は少し、言葉に迷う素振りを見せたけど……。


菜々「…………なりたい……です……」


迷いながらも、確かにそう口にした。


真姫「……なら、私が貴方をポケモントレーナーにしてあげる」

菜々「……え?」


菜々は私の言葉に目を丸くする。


菜々「いや、あの……む、無理なんです……私は……」

真姫「貴方のお父さんは貴方にちゃんとした企業に就職して欲しいと思っているのよね」

菜々「は、はい……だから……」

真姫「なら、私が貴方を雇うわ。私の専属秘書として」

菜々「……え?」


菜々はまたしても目を丸くする。


真姫「私は貴方のお父さんの会社にも出資している。何度か会ったこともあるわ。そんな私から指名で専属秘書になれば、安定した就職については納得してくれるわよね」

菜々「そ、それはそうかもしれませんが……」

真姫「そして、その仕事をこなしてもらいながら──貴方をその裏でトレーナーとして、育ててあげる」

菜々「へ……」


菜々は目をパチクリとさせる。

無理もない。こんな突拍子もない提案をされたら、誰だって驚く。

だけど、私は──私には、今のこの子を助けるだけの力がある。
838 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:43:20.31 ID:9oar5n900

真姫「決して楽な道じゃない……。普通のトレーナーよりも何倍も、何十倍も大変な道になるかもしれない。……それでも、やりたいなら、やるべきよ。親に何を言われたんだとしても」

菜々「で、でも……」


ただ、菜々は困惑している。


菜々「お、お父さんが……ダメ……って……。……ダメ、だって……」

真姫「菜々。貴方の人生は貴方のモノよ」

菜々「……!」

真姫「貴方が決めなさい」


私は手を差し伸べる。


真姫「この手を掴むか……貴方が決めなさい。今ここで」

菜々「…………私……ポケモントレーナーになって……いいんですか……?」

真姫「それも全部、貴方が決めることよ」

菜々「…………」


菜々は私の言葉を聞いて、自分の手を胸の前にぎゅっと引き寄せる。

その手が、震えているのがわかった。

きっと彼女の中では今、たくさんの葛藤がぶつかり合っているに違いない。

不安、期待、恐怖、憧れ、悲哀、希望、後悔、いろんな感情がぶつかり合っているはずだ。

でも私は……この子はその感情の奔流に負けない子だと信じられた。

会って間もないけど、この子の好きは、ポケモンが、ポケモントレーナーが、ポケモンバトルが好きだという言葉は気持ちは──嘘じゃないと断言出来たから。


菜々「…………」


考えて、考えて、考えた菜々は震える手で──


菜々「……私は……ポケモントレーナーに……なりたい。……なります……!」


確かに、自分の意思で、意志で──私の手を握った。





    🍅    🍅    🍅





菜々「──い、今でも……胸がドキドキしてます……」

真姫「ふふ、頑張ったわね」


本当に勇気を振り絞って、私の手を取ったことは言うまでもない。

そんな彼女の最初の勇気を労って、頭が撫でてあげる。
839 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:44:33.90 ID:9oar5n900

菜々「えへへ……。……それで……あの……私はどうすればいいんでしょうか……」

真姫「そうね……秘書の件は貴方の親御さんたちと話さないといけないとして……」

菜々「さ、最初のポケモン……とか……」

真姫「それは、用意はしてあげられないから、一緒に捕まえるしかないわね。それよりも、必要なことがあるわ」

菜々「必要なこと……?」

真姫「トレーナーとしての名前よ」

菜々「トレーナーとしての……?」

真姫「菜々って名前のままトレーナーになったら、公式戦に出たときにご両親に感付かれる可能性があるでしょう?」

菜々「あ……確かに……」


菜々の父親は、話を聞く限り筋金入りのポケモン嫌いみたいだし……。

そうなると、そのままの名前でトレーナーになるのはあまり得策とは言えない。

トレーナーとしての登録名自体を変えた方が安全だ。

それに……。


真姫「見た目もね……」


三つ編みに眼鏡。いかにも優等生でポケモンバトルをしなさそうなこの子の見た目は、バトルフィールドに立つと却って目立ちそうだ。


真姫「ちょっとじっとしてて」

せつ菜「は、はい……」

真姫「三つ編み、解くわね」


結ばれた三つ編みを解いて、髪を下ろし──


真姫「眼鏡も外した方がいいわね……後でコンタクトを買いに行きましょう」


眼鏡を取る。

あとは……。


真姫「……髪留め持ってる?」

菜々「ゴムしか持ってないです……」

真姫「……じゃあ、これ」


私はポケットから、髪留めを一つ取り出す。

──これは梨子から貰ったものだ。私は髪留めは使わないと言ったんだけど、まさかこんな形で使うことになるとはね。

髪を菜々の右側頭部で結んで、それを髪留めで留めてあげる。


真姫「……いい感じじゃない」


菜々の手を引いて、私の部屋の姿見の前まで連れていく。
840 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:45:17.57 ID:9oar5n900

菜々「……これ、私……?」

真姫「そうよ。これが貴方の新しい姿。名前はどうしましょうか……」

菜々「ゆ、ユウキと、セツナ……!!」

真姫「え?」

菜々「わ、私……図書館でポケモンのお話をたくさん読んで……! その中で、大好きな作品の主人公がユウキくんとセツナちゃんなんです……!」

真姫「……ふふ、いいじゃない。どっちも貰っちゃいましょう」

菜々「……はい!」


菜々は元気よく返事をして、


せつ菜「私は今日から──ユウキ・せつ菜です……!」


ここにユウキ・せつ菜という一人のトレーナーが誕生したのだった。



──
────
──────



真姫「あれからもう2年か……」


あのときはまさか、せつ菜がここまで強くなるとは思ってなかったけど……。

彼女は──本当に強くなった。

それこそ、チャンピオンまであと一歩のところまで来ている。

これも全て、あの子の努力の結果。


真姫「願わくば……このまま、せつ菜が夢を叶えてくれればいいんだけどね……」


気付けば、空は今にも雨が降り出しそうな灰色の雲に覆われていた──



841 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:46:02.61 ID:9oar5n900

    🎹    🎹    🎹





歩夢「空……曇ってきたね……」

侑「ちょっと急いだ方がいいかな……?」
 「ブイ…」


まだセキレイを出て、10番道路に差し掛かったところなんだけど……。


かすみ「行けます行けます!! 今のかすみん、ちょーーー気合い入ってますから!! レッツゴーです!!」
 「ガゥガゥ♪」

リナ『レッツゴー♪』 || > ◡ < ||


元気よく飛び出す、かすみちゃんとリナちゃん。


しずく「大丈夫かな……」

侑「とにかく、雨が降り出す前に出来るだけ急ごう!」

歩夢「うん!」


──私たちは、曇天の空の下、ローズシティを目指して、10番道路を駆け出しました。



842 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:46:56.96 ID:9oar5n900

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【10番道路】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
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 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.45 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.45 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.41 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.36 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      タマゴ  なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
      ルガルガン♂ Lv.83 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:153匹 捕まえた数:5匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.41 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.39 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.36 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      タマザラシ♀ Lv.31 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラエッテ♀ Lv.24 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:155匹 捕まえた数:16匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.40 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.38 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.37 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.33 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.34 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:149匹 捕まえた数:8匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.30 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.24 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.30 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.30 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.29 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:156匹 捕まえた数:9匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



843 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 02:49:46.28 ID:hRdoaDre0

 ■Intermission👠



──DiverDiva拠点。


愛「カリン、調子どう?」


愛は端末をいじりながら、こちらに顔を向け、そう訊ねてくる。


果林「……大体まとまったわ。当日は愛にも手伝ってもらうけど」

愛「ん、りょーかい。それはそうと、報告があるんだけど」

果林「報告?」

愛「“星のガス”が十分に溜まったよ」

果林「……いいタイミングね」


私はそれだけ返すと、席を立つ。


愛「どっか行くの?」

果林「……ええ。今夜はエマと約束しているから」

愛「そっか」


愛はそれだけ答えると、また端末の方へと向き直り、作業を始める。


果林「……いつもみたいに、茶化してこないのね」

愛「ま、今日くらいはね」

果林「……」


今日くらいは──それが何を意味しているのかは、言うまでもない。


果林「行ってくるわ」

愛「ん、行ってら〜」

 「ベベノ〜」


私は今日もきままに漂っている愛の相棒の、のんきな鳴き声を聞きながら、拠点を後にする。



愛「……まあ、今日くらいは監視はやめといてあげようかな。……たぶん、最後の機会だろうしね」


 「ベベノ〜」





    👠    👠    👠





 「チャムー」「ヤンチャー」「チャム」


今日もヤンチャムたちが元気に鳴いている部屋で、私はエマと食卓を囲む。


エマ「──果林ちゃん、おいしい?」

果林「ええ、すごくおいしいわ。ありがとう、エマ」
844 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 02:51:31.93 ID:hRdoaDre0

私はエマの作ってくれたクリームシチューを食べながら、お礼を言う。


エマ「えへへ♪ 今日のはね、搾りたての“モーモーミルク”で作ったんだよ♪」

果林「ふふ♪ この前も同じこと言ってたわよ?」

エマ「でもね、でもね! 今日は特別ミルタンクの元気がよくてね! お乳の出もすっごく調子がよかったから、きっといつもよりもおいしいよ!」


エマは幸せそうに笑いながら、シチューを口に運び、


エマ「ん〜、ボーノ……♪」


一口食べるたびに、もっともっと幸せそうに笑いながら、つぼめた指先を唇に当ててキスをする。

彼女の生まれ育った国における、すごく美味しいということを表す仕草らしい。


果林「ふふ」

エマ「んー? どうかしたの、果林ちゃん?」

果林「エマっていっつも幸せそうに食べるから……見てる私もなんか嬉しくなっちゃっただけ」

エマ「えへへ♪ だって、おいしいものを食べてると幸せになるんだもん♪」


エマが嬉しそうに笑っていると、


 「チャムー!!」「ヤンチャー!!!」「チャムチャム!!!」「チャムチャー!!」「ヤンチャムッ!!」


ヤンチャムたちが、空になったお皿を持って、エマの足元に群がってくる。


果林「こら、貴方たち……まだエマがご飯食べてるんだから……」

エマ「うぅん、大丈夫だよ。ヤンチャムちゃんたちもおかわりが欲しいんだよね? すぐによそってあげるね♪」

 「チャムー!!」「チャムチャー」「ヤンチャ!!」

果林「いつもごめんなさいね……」

エマ「うぅん、わたしも好きでやってるだけだから♪ この子たちを連れて来たのも、わたしだし!」

果林「そういえば、そうだったわね……」


このヤンチャムたちは……ある日突然、エマが私にくれたポケモンだった。

もうずいぶん昔のことのように感じる。


果林「ねぇ、エマ」

エマ「ん〜?」

果林「……いつも、ありがとう」

エマ「ふふ、どうしたの?」

果林「ここに来てから……私はずっとエマのお世話になりっぱなしだっただから……」

エマ「そんなことないよ、果林ちゃんもわたしのこと助けてくれたもん♪」

果林「……そんなことあったかしら」


……心当たりがない。


エマ「あったよ? 私がここに来て1年くらいのとき……ケンタロスが暴れて逃げ出しちゃって……それを果林ちゃんが止めてくれたんだよ!」

果林「ああ……初めて会ったときのことね」

エマ「うん! そのときね、この地方にはこんなに優しい人がいるんだって、すっごく嬉しくなっちゃって!」
845 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 02:52:18.74 ID:hRdoaDre0

もう、耳にタコが出来るくらいこの話は聞いた。あれはただの気まぐれというか……私もここに来たばかりで──計画のために、面倒な騒ぎが起こるのが嫌だったから、手を出しただけ。

でも……それがきっかけでエマにはいたく気に入られ、その後、彼女はなにかと私の世話を焼いてくれるようになった。

ヤンチャムたちも……その中で貰ったポケモンだ。


エマ「それに、御守りの石もくれたし……今も大切にしてるんだよ?」

果林「まだ持ってたのね……」

エマ「当たり前だよ! 果林ちゃんからの贈り物だもん! 一生大切にするに決まってるよ!」


一生の宝物だなんて大袈裟な……。

あれは……ただ私の故郷で拾っただけの石なのに。

エマにとっては……本当にただの石ころのはずなのに……。


果林「そういえば……前から聞きたかったんだけど……」

エマ「?」

果林「どうして、ヤンチャムをくれたの?」


ある日突然ヤンチャムを渡され──次会ったときにも……またその次会ったときにもと、あれよあれよとヤンチャムの数は増えていった。

あまりに毎回ヤンチャムを渡されるから、さすがに6匹目で止めたんだけど……。


エマ「だって果林ちゃん、ヤンチャムが好きみたいだったから」

果林「え……? そんなことがわかる機会……あったかしら……?」

エマ「あったよ〜! 果林ちゃん、いっつもテレビでヤンチャムが出てくると、じーっと見てたもん!」

果林「そ、そうかしら……」


こっちに関しては逆に心当たりがあった。

私は……ここに来るまで、ヤンチャムというポケモンを見たことがなかった。

初めて見たときから、あの白と黒のボディに丸っこいフォルムが妙に私のツボを突いてきて── 一目惚れだったと思う。

エマはそれを見逃さなかったということらしい。

本当にエマは、私のことをよく見ている。……ずっと、ずっと見ていてくれた。


果林「……ねぇ、エマ」

エマ「なにかな?」

果林「もし……もしね、私がここを離れなくちゃいけないって言ったら……どうする……?」

エマ「……」


私の言葉を聞いて、エマはスプーンを持った手を止める。そして、


エマ「……やっぱり、果林ちゃん……いなくなっちゃうんだね」


そう続ける。


エマ「果林ちゃん……ここを出ていこうとしてるんだよね」

果林「……気付いてたの?」

エマ「なんとなく……そうなのかなって」

果林「……そう」
846 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 02:52:48.93 ID:hRdoaDre0

エマは……本当に私をよく見てくれていたようだ。

そして、それは……私も。

最初は、そんなつもりはなかった。……こっちの人と仲良くするつもりなんてなかった。……情が湧いてしまうから。

なのに、エマはどんなにあしらっても、私の傍に居て……笑ってくれた。

いつの間にか、エマは──……私にとって、大切だと思える存在になってしまっていた。

だから、私は……エマは……エマだけは……巻き込みたくなかった。

私はここまで、自分を殺して頑張ってきたつもりだ。……一つくらい、わがままを言ってもいいんじゃないか。

だから、


果林「……エマ」

エマ「……ん」

果林「何も言わずに……私と一緒に……来て……」


気付けばそう、言葉にしていた。


エマ「……」

果林「貴方は私が守るから……だから……」


私の言葉を受けてエマは、


エマ「……ごめんね」


そう言って、首を横に振った。


果林「……」

エマ「わたしね、この町が大好きなの。牧場も、牧場の人たちも、牧場のポケモンたちも、大好きなんだ。だから、今ここから離れることは出来ない……」

果林「エマ……」

エマ「だから……果林ちゃんとは一緒にいけない」

果林「……そっか」

エマ「……ごめんね」

果林「……こっちこそ、ごめんなさい。変なこと聞いて」

エマ「……うぅん」

果林「……」

エマ「……あ、果林ちゃん、おかわりよそうよ? 食べる?」

果林「……ええ、お願い」

エマ「……うん♪」



847 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 02:53:27.89 ID:hRdoaDre0

    👠    👠    👠





エマ「──それじゃ、また来るね!」

果林「ええ、またね」

エマ「あ! ここを出て行くときは、ちゃんと一言言ってね? 勝手にいなくなったら……わたし、怒っちゃうから!」

果林「ええ、わかってる」

エマ「うん! 約束だよ♪」


エマは笑いながら去って行った。


果林「…………」


私はエマが出て行ったドアを──しばらく見つめていた。





    👠    👠    👠





程なくして、DiverDiva拠点に戻る。


愛「あ、カリン、お帰り」

果林「……愛、荷物をまとめて。次の作戦が始まったら──ここにはもう戻らないと思うから」

愛「……カリン、エマっちは?」

果林「……何の話かしら」

愛「……まあ、カリンがいいなら、いいけどさ」


愛は言われたとおり、テキパキと荷物をまとめ始める。


 「ベベノ〜」

愛「お、手伝ってくれんの? お前はいい子だな〜♪ 愛してるぞ〜♪」
 「ベベノ〜♪」

果林「……明朝には発ちましょう」

愛「りょうか〜い」


愛が作業を始める中、拠点内の大モニターに目をやると──先ほどまでエマと一緒に食事をしていた部屋のカメラだけが真っ黒になっていた。

恐らく……愛が気を遣ってくれたのだろう。

当初の予定からは、想像出来ないくらい……ここには長く居ついてしまった。

あまり持たないようにしていたのに……愛着も、少しだけ湧いてしまった。……けど、


果林「……思い出作りは……もう十分、出来たから……。──さようなら。……エマ」


私は最後の踏ん切りをつけるために──小さく別れの言葉を呟いたのだった。


………………
…………
……
👠

848 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:08:59.80 ID:hRdoaDre0

■Chapter043 『マネネ? まねっこ? ものマネネ?』 【SIDE Shizuku】





──ローズシティを目指して10番道路を北上している私たちですが……。


 「ヒヒィーーンッ!!!」

侑「かすみちゃん、ごめん! ギャロップそっちに行った!!」

かすみ「任せてください! ゾロア! “ナイトバースト”!!」
 「ガァゥゥッ!!!!!」

 「ヒヒィンッ!!!?」


突撃してくるギャロップを、かすみさんのゾロアが迎撃する。


歩夢「侑ちゃん! 茂みの奥にマルノームがいるよ!」

侑「え、どこ!?」

 「マァールノォー!!!」


今度は、マルノームが茂みの奥から、“ヘドロばくだん”を侑先輩に向かって放ってきた、


侑「う、うわぁ!?」

しずく「キルリア! “サイコキネシス”!!」
 「キルゥ!!」


その“ヘドロばくだん”をキルリアが念動力で逸らす。


侑「あ、ありがとう、しずくちゃん……! ライボルト!! “10まんボルト”!!」
 「ライボォォォ!!!!!」


反撃する侑先輩、だが──マルノームは近くにあった岩を丸呑みにし始めた。


 「マル、ノー」


すると、不思議なことに、ライボルトの“10まんボルト”を意にも介さなくなる。

ほとんどダメージが通っていない。


侑「くっ……“たくわえる”で耐えてきた……」
 「ライボ…!!」


持久戦が苦手な侑先輩は苦い顔をする。

マルノームは緩慢な動きで、攻撃の姿勢に移ろうとするが、


歩夢「タマザラシ、“アンコール”!」
 「タマァ〜〜♪」


歩夢さんのタマザラシがパチパチで手を叩くと、


 「マル、ノー…」


マルノームは再び、“たくわえる”をし始める。

“アンコール”は相手のポケモンに前使ったのと同じ技を強制させる補助技だ。

それで出来た隙に向かって、
849 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:09:38.42 ID:hRdoaDre0

侑「ライボルト、“オーバーヒート”!! イーブイ、“めらめらバーン”!!」
 「ライボォォォ!!!!」「ブーーイィッ!!!!!」

 「マ、マルノォーーー」


2匹のほのお技で一気に圧倒する。


侑「歩夢、ありがとう!」

歩夢「ふふ、どういたしまして♪」

リナ『二人とも、まだ来るよ! 上空から、オオスバメ!』 || ˋ ᨈ ˊ ||

 「スバァーーー!!!!!」


リナさんの言うとおり、鳴き声をあげながら突撃してくるオオスバメの姿。


かすみ「ああもう次から次へと……!! ヤブクロン!! “ヘドロこうげき”!!」
 「ヤーブッ!!!」


ヤブクロンが向かってくるオオスバメに向かって、ヘドロを吐きつけるけど、


 「スバッ!!!」


攻撃を察知し、オオスバメは上空へと回避する。


歩夢「フラエッテ! “ようせいのかぜ”!!」
 「ラエッテッ!!」


オオスバメが逃げた上空に向かって、歩夢さんのフラエッテが“ようせいのかぜ”を放つが、オオスバメはダメージを受けるどころから、風攻撃の届かない範囲ギリギリを飛んで、おちょくっている。


歩夢「あ、あれ……?」

かすみ「歩夢先輩、全然攻撃が届いてないですよぉ〜!」

侑「相手が速すぎるんだ……!」


ひこうタイプにとって、地上からの攻撃はさぞ回避しやすいのだろう。

だけど、それならこちらにも考えがある。


しずく「ジメレオン」
 「ジメ…」


ジメレオンは手の平に水の玉を作り始める。

ジメレオンというポケモンは自分の体液で膜を作ることによって、水をボール状に丸めることが出来る。

その水のボールを、


 「ジメッ…!!」


空中を旋回しながら様子を伺っているオオスバメに向かって、投擲する。

でも、


かすみ「し、しず子〜!! 投げてる方向が全然違うじゃん!?」

 「スバ…」


ボールは明後日の方向に飛んでいく。

オオスバメもあまりのノーコンっぷりに、空中で鼻を鳴らす。
850 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:10:14.59 ID:hRdoaDre0

しずく「ふふっ、ジメレオンは頭脳戦が得意なんですよ」

かすみ「……はぇ?」


明後日の方向に飛んでいたはずの水のボールは──急に空中で軌道を変えた。


侑「空中で動きが変わった!?」

 「スバッ!?」


急に変化したボールの動きに対応出来ず、水のボールがオオスバメに炸裂し、驚いたオオスバメはバランスを崩す。


しずく「今度こそ、ストレートで決めるよ!」
 「ジーーメッ!!!!」


ジメレオンは用意していた2球目を、オオスバメに向かって、投球し、


 「ス、スバァーーーッ!!!?」


剛速の水球は先ほどよりも強い威力で炸裂する。

オオスバメは弾けた水の塊に吹き飛ばされて、戦闘不能になった。


しずく「やったね、ジメレオン♪」
 「…ジメ」

かすみ「ちょっと、しず子、今何したの!? ボールが空中で変な動きしたけど……!?」

しずく「ふふっ♪ 上空に吹いていた風を利用しただけだよ♪」

歩夢「もしかして……フラエッテの“ようせいのかぜ”?」

しずく「はい♪ 使わせていただきました♪」


すでに空中で吹いていた“ようせいのかぜ”にジメレオンの水球を乗せ、軌道を変えて攻撃を当てたということだ。

ジメレオンは水のボールを使って、相手を追い詰めていくのが得意なポケモン。

うまく意表を突く展開で、ジメレオンの良さが生かすことが出来た。


侑「とりあえず……これで、野生のポケモンは落ち着いたかな」

かすみ「ですねぇ……ちょっと、疲れましたぁ……」

歩夢「一度にたくさん出てきて、びっくりしちゃったね……」

しずく「それに1匹1匹が、今まで戦ったきた野生のポケモンより強かった気がします……」

リナ『オトノキ地方は北側の方が野生のレベルも高いからね』 || ╹ᇫ╹ ||


先ほどから、こんな感じで何度も野生ポケモンの群れと出くわしている。

こちらも4人いるので、負けることはないが……何度も戦いながらのため、いかんせん進みが遅い。


かすみ「“むしよけスプレー”でも買っておけばよかったですぅ……」

歩夢「私は……“むしよけスプレー”はあんまり好きじゃないかも……。ポケモンが可哀想だし……」


かすみさんの言葉に遠慮がちに言う歩夢さん。


侑「私はみんなで戦いながら進むのも楽しいけどな〜。みんなのポケモンが戦う姿も見られるし!」

リナ『それに、強い相手と戦うのは悪いことばっかじゃないからね』 || ╹ ◡ ╹ ||

かすみ「そうなの?」

リナ『経験値がたくさんもらえる。その証拠に、ほら』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
851 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:10:57.23 ID:hRdoaDre0

そう言いながら、リナさんの視線が私の傍らのキルリアに向けられる。


 「キルゥ…」


気付けば、キルリアはぶるぶると震えていて……次の瞬間、カッと眩い光を放つ。


歩夢「これって……!」

侑「進化の光だ……!」


光が晴れると──


 「──…サナ」


キルリアはサーナイトに進化していた。


しずく「サーナイト……」

かすみ「わ、やったじゃん、しず子!」

しずく「…………」

かすみ「……しず子? どうしたの?」

しずく「……え?」

かすみ「なんか反応薄いよ? サーナイト、前から欲しかったって言ってたのに……」

しずく「あ、う、うぅん! 嬉しいよ! 新しい姿にちょっと感動してただけ!」
 「サナ」

しずく「サーナイト、これからもよろしくね!」
 「サナ」


サーナイトは恭しく頭を下げる。


リナ『サーナイト ほうようポケモン 高さ:1.6m 重さ:48.4kg
   未来を 予知する 能力で トレーナーの 危険を 察知したとき
   最大 パワーの サイコエネルギーを 使うと 言われている。
   空間を ねじ曲げ 小さな ブラックホールを 作り出す 力を 持つ。』


リナさんの図鑑解説を聞きながら、


侑「わかるよ、しずくちゃん! 新しいポケモンを見ると、なんか言葉失っちゃうよね!」


侑先輩が目を輝かせながら、私の手を握ってくる。


しずく「は、はい……」

リナ『侑さんはちょっと感動しすぎなところあるけど』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
 「ブイ…」

しずく「あ、あはは……」



呆れ気味なイーブイとリナさんを見て、苦笑してしまう。

そのとき、突然、


かすみ「──つめたっ!」


かすみさんが、声をあげた。

空を見上げると──パラパラと雨の粒が降り始めたところだった。
852 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:11:39.76 ID:hRdoaDre0

かすみ「わー!? 雨、降ってきちゃったぁ!?」
 「ガゥゥ…」

侑「本降りになる前に急ごう……!」
 「イブィッ」


侑先輩たちは大急ぎで手持ちをボールに戻して、10番道路を駆け出す。

私も、サーナイトとジメレオンをボールに戻す。

ボールに戻して──今しがた姿を変えたサーナイトのボールをまじまじと見つめてしまう。


しずく「…………私も……侑先輩みたいに、思えたら……」


──小さく独り言ちる。


歩夢「しずくちゃん……?」


そんな私の呟きが聞こえたのかどうかはわからないが、歩夢さんが足を止めて、こちらに振り返り、


歩夢「大丈夫……?」


ととっと近付いてきて、私の顔を心配そうに覗き込みながら訊ねてくる。


しずく「あ、いえ……すみません! なんでもないんです……!」

歩夢「そう……?」


咄嗟に誤魔化すものの、歩夢さんはやはり心配そうに私の顔を見つめている。


かすみ「しず子〜! 歩夢せんぱ〜い! 何してるんですかぁ〜!? 早く行きますよ〜!!」

しずく「あ、う、うん!! 歩夢さん、行きましょう!」

歩夢「……うん」


歩夢さんの視線から逃げるように、私はかすみさんたちを追って駆け出した。


歩夢「…………」





    💧    💧    💧





──10番道路は長い道路だ。

二つの大きな都市に挟まれている割に、自然豊かで様々な種類のポケモンが生息している。

また東側を上流とする河川も流れていて、道路の中腹辺りには橋が架かっている。

多少勾配はあるものの、基本的には歩きやすく、多種多様なポケモンとの邂逅を求めて、多くのトレーナーが訪れるそうだが……。


かすみ「ほ、本降りですぅぅ〜〜!!!」
 「ガゥ、ガゥガゥッ!!!!」


今日みたいな土砂降りだと、話は変わってくる。

私たちはバッグからレインコートを取り出して、ぬかるむ道を疾走中だが……かすみさんだけは何故か、レインコートを羽織っていない。
853 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:12:37.78 ID:hRdoaDre0

侑「かすみちゃん、雨具持ってないの!?」

かすみ「バッグの奥底にあって取り出せないんですぅ〜!!」

リナ『かすみちゃんは荷物を持ちすぎなんだと思う』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


だから普段から、道具を持ちすぎだって言ってるのに……。


しずく「それにしても……本当に酷い雨ですね……」


レインコートを羽織っていても、靴の中に水は入り放題だし、地面の状態は最悪だ。

あまりにも雨足が強すぎて──前方を走る、かすみさんと侑先輩の姿を追いかけるのがやっとな状態。


歩夢「しずくちゃん、平気?」

しずく「は、はい……! かなり置いていかれちゃってますから、急がないとですね……」


先ほどから歩夢さんは、しきりに私に声を掛けてくれている。

恐らく……先ほどの私の様子が気になっているのだろう。


歩夢「体調が悪かったら言ってね……?」

しずく「は、はい……ありがとうございます」


面倒見が良い歩夢さんらしいなと思った。

だからこそ、先ほどのような態度を見せてしまったのは失敗だったなと反省する。

後輩が急に無口になったら心配もするだろう。

この雨を抜けたら、本当になんでもないことを伝えなくては……。

──バシャバシャと音を立てながら、ぬかるむ道をひた走る。

走り続けていると、道路の中腹を横切る河川が見えてくる。

もちろんこんな大雨の中だ。川の水はかなり増水し、茶色い濁流となっている。

気付けば、かすみさんたちは橋をすでに渡り始めていて、そろそろ向こう岸に着こうとしていた。


しずく「い、急がないと……!」


私がもたもたしていたせいで、随分遅れてしまっている。

焦り気味に、橋へと差し掛かった瞬間──ミシっという嫌な音がした。

直後、視界がガクンと揺れる。


しずく「っ!?」


この大雨によって──橋が、壊れた。

急なことに、なすすべもなく私は濁流に投げ出される。


歩夢「──しずくちゃん……!!」
854 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:13:20.42 ID:hRdoaDre0

視界の端に居た歩夢さんが──濁流に飛び込んでくる姿が見えた。

──歩夢さん、来ちゃ、ダメです……!!

叫ぼうとするが、濁流に呑まれながら声を発することなど出来るはずもなく、私は流されていく。

溺れないように、必死に顔を水面に出そうとするが、激しい濁流の中では自由が全く効かず、私の視界は──気付けば全てが濁った水の中で、回転していた。

上も下も右も左もわからない。

洗濯機の中にでも放り込まれたような気分だった。

もはや水面がどっちかすらわからない。

──私……死んじゃうのかな。

ウルトラビーストに襲われたとかじゃなくて……まさか、川で溺れて死んじゃうなんて……。

情けないな……。

だんだん、抗う気力もなくなってきて……ただ流されていく私の腕を──何かが掴んで引っ張りあげるような感覚がした。


しずく「──ぷはっ……! げほっ! げほっ!」

歩夢「しずくちゃん、平気!?」
 「シャーボ!!!」


私を引っ張りあげたのは──歩夢さんだった。サスケさんが私の腕に頭側を絡みつかせ、尻尾側は歩夢さんの腕に絡みつき、私を引っ張っていた。

そのまま、サスケさんを伝って、歩夢さんが手を伸ばし、私の腕を掴む。

歩夢さんに引き寄せられた状態で、濁流の中辛うじて顔だけを水面から出したような状態のまま、流されている。


しずく「あ、あゆむ……さん……っ……」

歩夢「サスケ……! 絶対、私から離れちゃダメだよ……!」
 「シャーボッ!!!」

歩夢「タマザラシ……! 頑張って、岸まで……!」
 「タマァァ…!!」


歩夢さんがタマザラシに掴まって泳いでいることに気付く。

そうだ私も……!


しずく「ジメレオン、出てきて……!」
 「ジメッ!!」


私もジメレオンに掴まり、歩夢さんのタマザラシと力を合わせて、岸に向かおうとする──が、


歩夢「な、流れが……速すぎて……っ」

しずく「二人とも岸まで行くのは無理です……! ジメレオン、タマザラシと協力して、歩夢さんだけでも……!」
 「ジ、ジメ…」

歩夢「そんなの絶対にダメ……!!」

しずく「ですが……っ」


歩夢さんは私を助けるために、飛び込んできたのだ。

私が落ちたりしなければ、歩夢さんが危険な目に遭うなんてことなかった。


しずく「どちらかしか助からないなら……歩夢さんが──」

歩夢「どっちが助かるかなんて考えないでっ!」

しずく「!」

歩夢「タマザラシ、お願い……!!」
 「タマァァァ…!!」


そのとき──タマザラシの体が眩く光り始めた。
855 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:13:56.90 ID:hRdoaDre0

 「──グラァッ!!!!」

しずく「トドグラーに……進化した!?」

歩夢「! これなら……! トドグラー、お願い!」
 「グラーー!!!」


進化して、パワーアップしたトドグラーは、濁流の中でも私たちをぐんぐん引っ張って──どうにか岸へとたどり着いたのだった。





    💧    💧    💧





歩夢「エースバーン、“ひのこ”」
 「バース」


歩夢さんのエースバーンが集めた枝に火を点けてくれる。


歩夢「これで……ちょっとはあったかくなるかな」

しずく「はい……あったかいです」


水に浸かっていたせいで完全に冷え切ってしまった身体を、焚火が温めてくれる。

私たちは、あの後どうにか岸に上がり、川から少し離れた場所にあった大きな木陰の下で雨宿りをしていた。


歩夢「……結構流されちゃったみたいだね」


歩夢さんは図鑑のタウンマップを確認しながらそう言う。


しずく「すみません……私が不甲斐ないばっかりに」


私はしゅんとしてしまう。


しずく「歩夢さんまで巻き込んでしまって」

歩夢「…………」


歩夢さんは無言で立ち上がって、


しずく「……歩夢さん……?」


私の目の前にしゃがみこみ──そのまま、私のことをぎゅっと抱きしめてきた。


歩夢「……そんな悲しいこと言わないで……私たち、友達でしょ?」

しずく「歩夢……さん……」

歩夢「しずくちゃんが困ってたら……助けるよ。……だから、巻き込んだなんて言わないで欲しいかな……」

しずく「……ごめんなさい……」

歩夢「……もう言っちゃダメだよ、そんなこと」

しずく「……はい」


私が謝ると、歩夢さんは私を離したあと、頭を撫でてニコっと笑う。
856 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:16:35.68 ID:hRdoaDre0

歩夢「……雨、止むまでは動けないね」

しずく「そうですね……かすみさんたち、心配してますよね……」

歩夢「さっき、リナちゃんにメッセージは送っておいたよ。……あ、返事来てる」

しずく「侑先輩たちはなんて……?」

歩夢「『二人とも無事でよかった。天気が落ち着いたら、すぐに迎えに行くからそこで待ってて』って」

しずく「そうですか……。……くしゅんっ」

歩夢「わわ……! 風邪引いたら大変……! 私の上着、ちょっとだけ乾いてきたから、羽織ってて!」

しずく「い、いえ、そんな……! 歩夢さんこそ風邪引いちゃいます……!」

歩夢「私は大丈夫だから、ね?」

しずく「でも……」

歩夢「はい、どうぞ」

しずく「……ありがとう……ございます……」


歩夢さんには独特の押しの強さがあるというか……なんだか、気付くと言うことを聞いてしまっているような、不思議な雰囲気がある。


歩夢「いいんだよ、こんなときは甘えても。私の方がお姉さんなんだから♪」

しずく「は、はい……///」


なんだか、少し気恥ずかしくなってくる。


歩夢「他に困ったことはないかな?」

しずく「大丈夫ですよ。それこそ、そこまで気を遣っていただかなくても……」


そのとき──くぅ〜……とお腹の辺りから音が鳴る。


しずく「あ、あの、これは……///」

歩夢「ふふ♪ 確かにお腹空いちゃったね♪」

しずく「ぅぅ……///」

歩夢「何かあるかな……」


歩夢さんは自分のバッグの中身を確認し始める。

ただ、先ほどまで濁流を流されていたこともあって──


歩夢「……うーん……。……やわらかい“きのみ”はほとんどダメになっちゃってるかも……」


持っている“きのみ”の多くがダメになってしまったようだ。


しずく「あ、あの……歩夢さん、本当に大丈夫ですから……」

歩夢「あ……そうだ!」


歩夢さんは何かを思いついたらしく、ぽんと手を叩いて、バッグの中から何かの箱を取り出した。


歩夢「よかった……ケースの中身は無事みたい」

しずく「それって……“ポフィンケース”ですか?」

歩夢「うん♪ “ポフィン”はポケモンのおやつだけど……少し貰っちゃおうかなって。はい♪」


そう言いながら、ケースから“ポフィン”を取り出し、私に薄黄色の“ポフィン”を手渡してくれる。
857 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:17:21.22 ID:hRdoaDre0

しずく「いただいてしまって、いいんですか……?」

歩夢「もちろん♪」
 「シャーーボッ!!!」「バーースッ!!」

歩夢「ふふ♪ サスケとエースバーンにもあげるから、慌てないで♪ はい♪」
 「シャボッ」「バーース♪」


サスケさんとエースバーンは歩夢さんからそれぞれ、緑色と黄色い“ポフィン”を貰うと、おいしそうに食べ始める。


 「グラァ…」

歩夢「トドグラーもおいで♪」
 「グラ…♪」


トドグラーは歩夢さんに呼ばれると、彼女に身を摺り寄せる。

歩夢さんはトドグラーを優しく撫でながら、口元に赤い“ポフィン”を持っていき、食べさせ始める。


歩夢「ふふ♪ 進化しても、トドグラーは甘えん坊だね♪」
 「グラァ…♪」


歩夢さんはトドグラーに“ポフィン”を与えながら、


歩夢「ジメレオンくんもおいで♪」

 「ジメ…」


桃色の“ポフィン”を取り出して、私のジメレオンのことも呼ぶ。

ジメレオンは少し困惑気味だったけど、


歩夢「手渡しだと緊張しちゃうかな? ここにおいておくね♪」


歩夢さんがそっと“ポフィン”を置くと、


 「ジメ…」


そろそろと近付いて、“ポフィン”を食べ始めた。


しずく「……」

歩夢「私も食べようかな♪」


そう言いながら、歩夢さんも桃色の“ポフィン”を取り出して、口に運ぶ。


歩夢「……えへへ♪ おいしく出来てる♪ しずくちゃんも遠慮せずに食べてね。たくさんあるから!」

しずく「は、はい……」


私も遠慮気味に貰った“ポフィン”を口の運ぶ。一口食べると──甘酸っぱい味が口いっぱいに広がる。

甘さの中にある酸っぱさが、疲労した身体に染み渡っていくようだ。


しずく「おいしい……」

歩夢「よかった♪ しずくちゃん、少し疲れてたそうだったから、“すっぱあまポフィン”を選んだんだけど……他の味もあるから、食べたい味があったら言ってね♪」

しずく「ありがとうございます、歩夢さん」

歩夢「ふふ♪ どういたしまして♪」


歩夢さんが優しく笑う。
858 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:18:15.56 ID:hRdoaDre0

 「グラー…」

歩夢「トドグラー、おかわり欲しいの? 今日は頑張ったもんね。はい♪」
 「グラァ…♪」

しずく「歩夢さんは……すごいですね」

歩夢「え?」

しずく「こんなときでも……ポケモンたちを大切にしていて……。……私は、いつも自分のことで精いっぱいで……ポケモンたちには助けてもらってばかりで……」

歩夢「しずくちゃん……?」


口に出してから、またやってしまったと思った。


しずく「す、すみません……! なんでもないんです……」

歩夢「……」


……でも、こんなことを言って誤魔化しても、歩夢さんがなんでもないなんて思ってくれるはずもなく。


歩夢「トドグラー、ちょっとごめんね」
 「グラァ…」


“ポフィン”を食べているトドグラーの傍から離れて、歩夢さんは私の隣に腰を下ろす。


歩夢「やっぱり……何か、悩んでるんだね」


すぐ隣で私の顔を心配そうに覗き込んでくる歩夢さん。


しずく「……それは…………」


でも、私はなんだか気まずくて、目を逸らしてしまう。


歩夢「……もしかして──……最近マネネをあんまりボールから出してないことと、何か関係あるのかな……?」

しずく「……え?」


私はその言葉に驚いて、せっかく目を逸らしたのに、思わず歩夢さんの方をまじまじと見つめてしまう。


歩夢「えっと……あんまり、聞かれたくなかったかな……?」

しずく「あ、いえ……その……。……歩夢さんには……そう、見えましたか……」

歩夢「……うん。しずくちゃん、いつもマネネと一緒だったのに……セキレイに戻ってきてから、あんまりマネネをボールから出してなかったから、何かあったのかなって……」

しずく「…………歩夢さんには、敵いませんね……」

歩夢「マネネと何かあったの……?」

しずく「何か……というわけではないんですが……」


私はマネネのボールを手に取って、見つめる。

すると、ボールがカタカタと震えるのがわかった。


しずく「前に……ロトムの話をしましたよね」

歩夢「うん。鞠莉さんのロトムのお話だよね」

しずく「……ロトムはイタズラ好きなポケモンで、すごく子供っぽいと言いますか……。その気性が故に、精神的に成長していく鞠莉さんと少しずつ噛み合わなくなっていって……ケンカをしてしまったそうです」

歩夢「でも、しずくちゃんが昔の気持ちを思い出させてあげて……また仲直り出来たんだよね?」

しずく「……はい」


ただ、私はそのとき……いいや、正確にはその後、だけど……思ってしまった。
859 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:19:07.22 ID:hRdoaDre0

しずく「……でも、それは鞠莉さんが子供のときの気持ちを思い出してくれたから、うまく行っただけであって……ポケモン側が変わってしまったら、難しかったんじゃないかって……」

歩夢「……? どういうこと?」

しずく「……マネネってすごく子供っぽいポケモンなんです。主人の“まねっこ”をしたがる……そんなポケモン」

歩夢「うん」

しずく「でも……進化してバリヤードになったら、そういう子供っぽさはなくなるそうなんです……」

歩夢「……。……もしかして、マネネに進化して欲しくないから、あんまりボールから出してなかったの……?」

しずく「……意識してそうしていたつもりはなかったんです。……だけど、今、歩夢さんから言われて……ああ、私、そう思ってたのかもしれないって……」


いつも、私の近くで無邪気に子供っぽく、“まねっこ”をしていたマネネが、違う姿になってしまうことが、うまく想像出来なかった。

想像出来なくて……もし、変わってしまったマネネは、どうなってしまうのか、私を見てどう思うのか……なんだか、そんなことを無意識に考えてしまっていた自分に気付いてしまった。


しずく「本当はこんなこと考えちゃいけないことはわかってるんです……。大切な手持ちが成長するのは、トレーナーとして喜ぶべきことですから……」


ただ、この短い間にあまりにいろんなことがあって……。私の中に少しずつ迷いが生まれ始めて……。


しずく「姿が変わったら……私はどう映るのかなって……。……私は……今の私に……自信が、ないんです……」


だって私は──いつ自分がおかしくなっても、不思議じゃないから。

今でも、私の心のどこかで──ウルトラビーストの毒が私を蝕んでいる気がするのだ。

もし、私が私じゃなくなったら……私のポケモンたちは私をどう思うんだろう。

一番付き合いの長いマネネは、もし私がおかしくなってしまっても……きっと私の傍にいてくれる。そう思えたけど……もし、マネネが進化して、今のマネネじゃなくなったら……。


しずく「私……ダメですね……」

歩夢「……しずくちゃん」

しずく「……進化して欲しくなかったら……かすみさんみたいに、進化キャンセルをすればいいんですよね……でも」


だけど、かすみさんと私では少し事情が違う。

かすみさんは可愛いポケモンに拘りがあって……その上で強い。無理に進化させなくても、ポケモンたちを信じられるし、その強さを引き出せる自信があるのだ。

ポケモンたちも、かすみさんが望むものを理解して、かすみさんを信頼している。

だから、彼女と彼女のポケモンたちにとっては無理に新しい姿を手に入れる必要はないのだろう。

だけど、私は……私が進化して欲しくないのは、私が不安なだけなのだ。


しずく「……私の事情で、ポケモンたちの成長を止めてしまうのは……私のエゴなんじゃないかって……」

歩夢「……そっか」

しずく「……ごめんなさい。……変ですよね、こんなこと悩んでるなんて……」

歩夢「うぅん。そんなことないよ。ずっとお友達だったポケモンの姿が変わっちゃったら、びっくりしちゃうの、わかる気がするよ」


そう言いながら、歩夢さんは肩の上で鎌首をもたげているサスケさんの頭を撫でる。


 「シャボ」
歩夢「私もね、サスケがアーボックに進化したらどうなっちゃうのか、想像出来ないもん」

 「シャボ」

しずく「そういえば……サスケさんのレベルだと、もうアーボックに進化していてもおかしくないですよね」


歩夢さんもかすみさん同様、サスケさんには進化キャンセルをしているんだと思っていたけど、
860 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:19:54.59 ID:hRdoaDre0

歩夢「うん。ただ、サスケ……進化しないんだよね」

しずく「え? 歩夢さんがキャンセルしているんじゃないんですか……?」

歩夢「うん。だから、きっとサスケ自身がずっと私の肩の上にいたいって思ってるから進化しないのかなって……。アーボックになったら、さすがに肩には乗せられないだろうし……」
 「シャーボ」


歩夢さんがサスケさんの頭を撫でると、サスケさんもそれに応えるように、歩夢さんに身を摺り寄せる。


歩夢「でも、私もサスケが進化しちゃったら……びっくりして戸惑っちゃうかもしれないなって……。だから、しずくちゃんがそう思う気持ち、ちょっとわかるんだ」

しずく「歩夢さん……」

歩夢「だから、全然変なことじゃないよ。そんなに自分がおかしいだなんて、自分を追い詰めなくてもいいんだよ」


そう言いながら、歩夢さんはまた私の頭を優しく撫でてくれる。

なんだか、歩夢さんが優しすぎて──ポロリと……涙の雫が零れてしまった。


しずく「……ぐすっ……す、すみません……」

歩夢「大丈夫だよ、しずくちゃん」


かすみさんの前では、ずっと気丈に振舞っていたからだろうか。

何故だか、年上のお姉さんである歩夢さんの前では、普段言えない気持ちも素直に言えてしまう気がした。

──もちろん……それでも、ウルトラビーストのことは歩夢さんには言えないけど……。


歩夢「ねぇ、しずくちゃん」

しずく「……なんでしょうか」

歩夢「しずくちゃんがマネネとどうやって出会ったのか……聞いてもいい? そういえば私、聞いたことなかったなって……」

しずく「マネネとの出会い……ですか」


そういえば、あまり人に話したことはなかったかもしれない。

いい機会だし、歩夢さんに聞いてもらうのも悪くないのかもしれない。


しずく「……私がマネネと出会ったのは、両親に連れられて、ガラル地方に旅行に行ったときのことでした……」



──────
────
──



初めて訪れるガラルの地。

目に映るもの全て、オトノキ地方とは全然違って──はしゃいでいた私は、気付いたら親から離れて迷子になってしまっていました。


しずく「おとうさん……おかあさん……どこですか……っ……」


ブラッシータウンでべそをかきながら、両親を探す私。

異国の地で不安になりながら、とぼとぼと歩いていると、


 「マネ…マネネ…」

しずく「……?」


足元で、私みたいにベソをかいているポケモンがいた。


しずく「……あなたもまいごなんですか……?」
861 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:20:23.27 ID:hRdoaDre0

私が小首を傾げながら訊ねると、


 「マネ?」


そのポケモンは私を見上げて、小首を傾げる。


しずく「……?」


そのポケモンが何を考えているのかよくわからなくて、私が不思議そうに見つめると、


 「…?」


そのポケモンも私を不思議そうに見つめ返してくる。


しずく「もしかして……私のまねしてるんですか……?」
 「マネ、マネネマネ?」

しずく「ま、まねしないでください……」
 「マ、マネマネネ」

しずく「だから……まねしないで……!」
 「マネ、マネネ!!!」


ただでさえ不安で心細いのに、からかわれているようで嫌だった私は、そのポケモンを無視して、歩き出す。


しずく「おとうさん……おかあさん……どこ……」

 「マネー…マネネー…」

しずく「だから、付いてこないでください……!」
 「マネ、マネネマネッ!!」

しずく「うぅ……」
 「マネェ…」


異国の地でただでさえ不安で不安でしょうがないのに、変なポケモンにまで付きまとわれて、もう限界だった。


しずく「ぅ、…ぅぇぇん……っ……おとうさん……おかあさん……どこぉ……っ……ひっく……っ……」
 「マ、マネ…!?」


その場に蹲って、しゃくりをあげながら泣き出してしまう私に、さすがに面食らったのか、マネネが私の周りでおろおろし始めた。


しずく「……ひっく……っ……かえりたい、ですぅ……っ……」
 「マ、マネ…」


泣きじゃくる私、不安だし、寂しいし、お腹も空いてきた。もう帰りたい。


 「マ、マネ…!!」


そんな、私の目の前で、マネネがぴょんぴょんと跳ね始める。


しずく「……こ、こんどは……っ……なん、ですか……っ……」


涙を拭いながら、マネネに文句を言うと、


 「マネ」


マネネは私に向かって──青色をした“きのみ”を差し出していた。


しずく「これ……くれるんですか……?」
 「マネ」
862 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:20:55.16 ID:hRdoaDre0

当時はこれがなんの“きのみ”かはわからなかったが、今考えてみると“カゴのみ”でした。

お腹も空いていたし……せっかくくれたから、食べてみることにする。

思い切って、齧ってみると、


しずく「……か、硬い……」


とてつもなく硬かった。

でも、頑張って、ガリっと噛み砕いて口に含むと、


しずく「…………ちょっと、しぶい……」


よく家で飲む、お茶のような渋みがあった。

くれたのはありがたいけど……このまま食べるのには、向いていないかもしれない。


しずく「ちょっと、しぶくて……これいじょう、たべられないです……」


そう言いながら、マネネに“きのみ”を返すと、


 「マネ」


マネネはまた私の真似をして、“きのみ”に齧りつく。

ガリっと硬い“きのみ”を口に含むと、


 「マ、マネェェェ…」


“きのみ”の渋い味に、顔を顰めた。


しずく「……くすくす♪ わたし、そんなかおしてませんよ♪」
 「マ、マネェ…」


さっきまでひたすら“まねっこ”していたのに、自分で持ってきた“きのみ”の味に険しい顔をするマネネが面白くて、なんだか笑ってしまった。

私がくすくすと笑うと、


 「マネマネ♪」


私を真似して、マネネもくすくすと笑う。


しずく「もう……また、まねしてる……」


よほど、人の“まねっこ”をするのが好きなポケモンらしい。

少し呆れてしまうけど──お陰で、少しだけ元気が出てきた気がする。


しずく「……わたし、しずくっていいます。あなたは?」
 「マネネッ!!」

しずく「マネネ……でいいのかな? いっしょにおとうさんとおかあさん……さがしてくれますか?」
 「マネ♪」



──
────
──────

863 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:21:28.01 ID:hRdoaDre0

その後、マネネと一緒に両親を探して……ブラッシータウンの駅で両親と再会することが出来ました。


しずく「──これが、私とマネネの出会いでした」

歩夢「素敵な出会いだったんだね」

しずく「はい……大切な思い出です。私にとっての……初めての友達……」


だから……だからこそ、マネネとの距離感が変わってしまうことが怖かった。


しずく「……マネネ、出てきて」


私は握ったボールから、マネネを外に出す。


 「──マネ♪」

歩夢「しずくちゃん……いいの?」

しずく「はい……なんだか、マネネとお話ししたくなっちゃって……」
 「マネ♪」


進化してしまうのは、変わってしまうのは、怖いけど……でも、マネネと話したい気持ちもある。


しずく「マネネは……“まねっこ”が大好きなポケモンですが……それが“まねっこ”ではなく、“ものまね”になったとき、バリヤードに進化するそうです」
 「マネ?」

しずく「果たして“まねっこ”と“ものまね”の何が違うのか……よくわかりませんが……」


技としては、“まねっこ”は直前に見たのと同じ技を繰り返す。“ものまね”は直前に見た技を覚えて使えるようになる……という違いだが、何が起こると“まねっこ”が“ものまね”になるのかはよくわからない。

結局人の真似をしているということには何も変わりがないわけだし……。


しずく「でも……私がこんな悪あがきをしていても……マネネは成長して、いつかは進化しちゃうんでしょうけどね……」

歩夢「……私は、大丈夫だと思うな」

しずく「大丈夫……ですか……?」

歩夢「きっと、マネネは進化しても、しずくちゃんのこと、大切にしてくれると思う」

しずく「…………どうして、そう言い切れるんですか」


これだけ話したのに、そんな風に言う歩夢さんの言葉が、少し無責任に聞こえて、むっとした声になる。


しずく「ポケモンは進化して、新しい姿を得たら、気性が変わるのは事実なんです……保証なんてどこにも……」

歩夢「あるよ」


でも、歩夢さんは頑なだった。


歩夢「だって、それはしずくちゃんが今話してくれたよ」

しずく「……え? 私、そんな話……」

歩夢「ガラルで迷子になったとき、見ず知らずのマネネと出会ったしずくちゃんはどうしてマネネと仲良くなれたの?」

しずく「え……?」

歩夢「マネネの優しさをしずくちゃんが受け取ったからだよ」

しずく「…………」

歩夢「マネネから貰った“きのみ”を食べたとき、しずくちゃんはどう思った?」

しずく「どう……」
864 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:22:25.46 ID:hRdoaDre0

あのとき、マネネがくれた──あの渋い“きのみ”。

おいしくなかった、あの“きのみ”。

だけど……。


しずく「……心が……あったかく、なりました……」


泣きじゃくる私に、小さなマネネが考えた、精いっぱいの優しさで、胸が温かかった。


歩夢「姿が変わったら、気性が変わっちゃうポケモンがいるのは、しずくちゃんの言うとおりだと思う」

しずく「…………」

歩夢「子供っぽくて、甘えん坊なマネネじゃなくなっちゃうかもしれない。……だけど、しずくちゃんと出会ったときの優しい気持ちは──きっとそんなに簡単に変わらないよ」

しずく「……歩夢さん」

歩夢「変わっていくことで、気持ちがわからなくなっちゃうこともあるかもしれない……。だけど、そのときはまたいっぱいお話しして、仲直りすればいい」

しずく「……はい」

歩夢「だから、変わることを怖がらなくていいんだよ」


そう言いながら、歩夢さんはまた私の頭を優しく撫でてくれた。


しずく「……はい……っ……」


本当はわかっていたんだ。

だって今、歩夢さんが言っていることは、私がロトムと鞠莉さんに伝えたかったことだから。伝えたことだから。

悲しいこと、怖いことがたくさんあって、いつの間にか私も見失っていたんだ。

歩夢さんに話してみて、やっと心のつかえが取れた気がして──安心と一緒に、また涙が零れる。


しずく「す、すみません……っ……私、泣いてばかりで……っ……」

歩夢「うん、大丈夫だよ。しずくちゃん」


ポロポロと涙を零す私。そんな私を優しく撫でる歩夢さん。

そんな私たちを見て、


 「マネ…」


マネネは私の肩までよじ登り。


 「マネ…」


歩夢さんのように、私の頭を優しく撫でてくれる。

……そこで私は、やっと気付いた──……そっか、そういうことだったんだ。

“まねっこ”と“ものまね”の違い。

──“まねっこ”はただ、目の前の人の仕草を真似るだけだけど……。

──“ものまね”は、その行動の意味を、気持ちを、自分で理解して、することなんだ。

今のマネネのように。泣いている私を、慰めたいって、優しい気持ちで──歩夢さんの“ものまね”をしているように。


しずく「……いつの間にか……成長、してたんだね……っ……マネネ……っ……うぅん……っ……」
 「──バリ」

しずく「バリヤード……っ……」
 「バリ♪」


“まねっこ”は“ものまね”に。マネネは──バリヤードに。
865 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:22:59.16 ID:hRdoaDre0

しずく「今まで、構ってあげられてなくて……ごめんね……っ……」
 「バリバリ♪」


私はバリヤードを抱きしめる。

こんなに優しい、私の友達。私の最初の友達。

姿が変わったくらいで、なくなってしまうわけなかったんだ。


しずく「どんなに姿が変わっても……ずっと、一緒だよ……」
 「バリバリッ♪」


私は姿が変わっても、こんなに愛おしいんだと、再確認出来て──やっと心の底から、安堵したのだった。





    💧    💧    💧





歩夢「落ち着いた?」

しずく「……はい。すみません、いろいろご迷惑を……」

歩夢「もう……だから、そういうこと言っちゃダメだよ!」

しずく「す、すみませ……あ、えっと……。…………すみません」

歩夢「……ふふ♪ しずくちゃんらしいけど♪」

 「バリバリ♪」

しずく「むぅ……バリヤードまで……」


少し膨れてしまう。


歩夢「それにしても……私が知ってるバリヤードと少し違うかも……」

しずく「はい。この子はガラルで出会ったマネネが進化したバリヤードなので……」


図鑑を開いて歩夢さんに見せる。

 『バリヤード(ガラルのすがた) ダンスポケモン 高さ:1.4m 重さ:56.8kg
  タップダンスが 得意。 足の 裏から 出す冷気で つくった
  氷の 床を 蹴り上げ バリヤーの ごとく 身を 守る。
  凍らせた 床の 上で 1日 タップダンスに 励んでいる。』


歩夢「ガラルのバリヤードは、こおりタイプもあるんだね」

しずく「はい♪」
 「バリバリ♪」


歩夢さんとバリヤードの新しい姿について話しているうちに──激しい雨の音はすっかり消えており、


歩夢「……雨……あがったね……!」

しずく「……はい!」


気付けば雲の隙間から、夕日の茜が差し込んできて、私たちを照らしていた。

それとほぼ同時に──


侑「おーーい!! 歩夢ーーー!! しずくちゃーーん!!」
かすみ「やっと見つけましたよー!! しず子ーーー!! 歩夢せんぱーい!!!」


川の向こう岸から、かすみさんと侑先輩が、私たちを呼んでいた。
866 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:23:33.83 ID:hRdoaDre0

歩夢「侑ちゃーん! かすみちゃーん! 今そっちに行くねー! トドグラー、もう一度向こう岸まで泳げる?」


雨も落ち着いて、少しずつ大人しくなってきた川を渡ろうとする歩夢さん。


しずく「歩夢さん、もう泳いで渡らなくても大丈夫ですよ」

歩夢「え?」

しずく「ね、バリヤード♪」
 「バリバリ♪」


バリヤードがタップダンスを踏みながら、川へと歩いていくと──彼の足元が凍り付いて、氷の道が出来上がる。


歩夢「わぁ……!」

しずく「行きましょう、歩夢さん♪ 二人が待ってます♪」

歩夢「うん♪」


私はバリヤードと共に──雨の晴れた10番道路を、再び歩き始めたのでした。



867 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:24:05.55 ID:hRdoaDre0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【10番道路】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      ●| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.33 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリヤード♂ Lv.25 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.32 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.33 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.32 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:172匹 捕まえた数:11匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.43 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.41 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.38 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドグラー♀ Lv.33 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラエッテ♀ Lv.28 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:170匹 捕まえた数:17匹

 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.48 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.48 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.45 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.39 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      タマゴ  なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
      ルガルガン♂ Lv.83 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:167匹 捕まえた数:5匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.43 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.40 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.39 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.37 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.38 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:164匹 捕まえた数:8匹



 しずくと 歩夢と 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



868 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2022/12/10(土) 18:54:26.43 ID:3U0IO5Sko
『雑談しながらポケモンSVランクマ考察する2』
(14:51〜開始)

https://www.twitch.tv/kato_junichi0817
869 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 09:57:24.11 ID:6zYh2+nI0
 ■Intermission🎹



──4人の女の子が、砂漠のような世界を歩いているのを足元から見上げていた。


 「……あつ、すぎ……る……」

 「我慢しなさい……暑いのはみんな同じよ……」

 「こんなときのために、発明したものがある」

 「発明?」

 「自立式自動日傘ロボット『パラソル君』」

 「おぉ〜傘が開いた」

 「いや……大きすぎでしょ……どこにしまってたのよ……」

 「布部分は真空圧縮してる。携帯性抜群」

 「でも、快適だよ〜……生き返る〜……」

 「はぁ……じゃあ、進みましょうか」


そう言って、リーダーらしき女の子の一声で一行は歩き出すけど──


 「……いや、遅すぎるんだけど……」

 「風の抵抗をモロに受けるから、このスピードが限界」

 「むしろ、これくらいゆっくりな方が楽でい〜よ〜♪」

 「今すぐ閉じて進むわよ」

 「えぇ〜!? なんで〜!?」

 「ま、日が暮れると砂漠はめちゃくちゃ冷えるからね……それはそれでしんどいし」

 「ちぇ〜……わかったよぉ〜……」


のんびり屋さんっぽい女の子が項垂れると同時に── 一陣の風が吹く。


 「……!? い、今のって〜……!?」

 「……お出ましみたいね」

 「──、下がって……」

 「う、うん……」


女の子に抱き上げられながら、下がっていく。

緊迫する空気の中──


 「──フェロッ」


真っ白な体躯のポケモンが、猛スピードで突っ込んできた──



──
────
──────
870 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 09:58:04.96 ID:6zYh2+nI0

侑「…………」


身を起こす。


侑「…………また…………変な夢……」


もうこの夢を見るのは何度目だろうか。

今回はいつもよりも登場人物が多かったけど……。……しかも、見覚えがあるような、ないような……。

だけど、やっぱり絶妙に思い出せない……。

暗がりの中で、ぼんやりと周囲を見回すと、


歩夢「…………すぅ…………すぅ…………」
 「…zzz」


歩夢がシュラフの中で、サスケと一緒に寝息を立てていた。


リナ『侑さん? どうしたの?』 || ╹ᇫ╹ ||


私が起きたことに気付いたのか、リナちゃんがふわりと私の目の前に現れる。


侑「ちょっと目が覚めちゃっただけだよ」

リナ『雨の音のせいかな?』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんにそう言われて──確かに私たちのテントに雨粒が当たっている音がしていることに気付く。


侑「せっかく止んだのに……また降ってきちゃったんだね」

リナ『10番道路は天候が変わりやすいから仕方ない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


リナちゃんと話していると、


 「ブイ…?」


私のシュラフで一緒に寝ていたイーブイが、寝ぼけまなこで私のことを見上げていた。
871 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 10:00:01.03 ID:6zYh2+nI0

侑「あ、ごめんね。起こしちゃったね……まだ寝てていいよ」


イーブイを撫でながら言うと、


 「ブイ…♪」


気持ちよさそうな声をあげたあと、また丸くなって、眠り始めた。

イーブイや歩夢たちの睡眠の妨げにならないように、私は声のボリュームを1段階落とす。


侑「かすみちゃんたちのテントは平気かな……?」

リナ『川からは離れてるし、雨自体もそんなに強くないから大丈夫だよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「ならいいんだけど……。…………ふぁぁ……」

リナ『まだ朝まで時間があるから、ちゃんと寝ておいた方がいいよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん……そうする……」


もぞもぞとシュラフに潜り込み、もふもふのイーブイを抱きしめる。


侑「イーブイ……あったかい……」
 「……ブィ…zzz」


もふもふでぽかぽかなイーブイを抱きしめていると、私の意識はまたすぐに眠りへと落ちていくのだった。


………………
…………
……
🎹

872 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 18:58:25.43 ID:6zYh2+nI0

■Chapter044 『急転』 【SIDE Setsuna】





菜々「……やはり、雨ですね」


マンションのエントランスから空を見上げると、灰色の空から雨が降り注いでいた。

不幸中の幸いとも言えるのは、昨日の午後のような、記録的な土砂降りではないことくらいだろうか。

昨日は大雨のせいで、公共交通機関にも乱れが生じるほどだったそうだ。

夕方ごろに一度、晴れこそしたものの……また明け方に掛けて天気が崩れ、雨になっている。

ただ、ここは整備の行き届いたローズシティ。

普通の雨くらいなら、舗装された道路を歩くのも、そこまで苦ではない。

私は真っ赤な傘を差して、仕事へと向かう。





    🎙    🎙    🎙





本日の仕事は、数週間後に控えた、ビジネス発表会のための打ち合わせだそうだ。

会議を行うビジネスタワーで入館手続きを済ませ中に入ると、ローズシティ内の様々な企業の人たちの姿が目に入る。

件のビジネス発表会というのは、このローズシティの中でもかなり大きなビジネスショウの一つで、ローズ中の会社が集うイベントとなる。

真姫さんはローズシティにある、かなりの数の企業に影響を持っているニシキノ家のご令嬢ということもあり、顔を出さないわけにはいかない。

そして、そんな真姫さんのスケジュール管理と業務補佐をするのは、秘書である私の役目だ。


菜々「真姫さんは……もう会議室の方に行ってるのかな」


エントランスホール内には姿が見えないので、私は会議室の方へと足を運ぶ。

それにしても、本日の会議は急に決まったものだと言うのに人が多い。

やはり──噂のスーパーモデルの飛び入り参加が大きいのだろう。

一応、昨日のうちに件の人物については調べておいた。

──アサカ・果林。4年ほど前に突如モデル界に現れ、その抜群のプロポーションと人の目を引くカリスマ性で、そちらの界隈ではかなり話題になっていたそうだ。

私は……家庭の方針でそういう浮ついたものには触れさせてもらえなかったので、あまり知らなかったけど……。

今ではファッション業界や化粧品会社などから、多くの仕事を請け、広告塔としても有名のようだ。

そんな彼女とお近づきになっておきたい企業はいくらでもある。

だから、このような急なスケジュールでも、多くの企業から人が出張ってきているのだろう。

エントランスホールから廊下を抜け、エレベーターホールに差し掛かったとき、


菜々「……あ」


ちょうど、エレベーターに乗り込むお父さんの後ろ姿がちらっと見えた。

──お父さんも、今日の会議にいるんだ……。

お父さんもニシキノグループの関連企業の人間だ。いてもおかしくはないけど……。

父の姿を見ると、少しだけ緊張してしまう。


菜々「……落ち着きなさい、菜々。……私はあくまで秘書として、仕事をこなすだけです」
873 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 18:59:39.87 ID:6zYh2+nI0

小さく呟きながら、自分を落ち着かせる。

いつもどおり、真姫さんの傍で真姫さんを補佐することに専念すればいい。

次のエレベーターが来るのを待ちながら、息を整えていると──エレベーターホールの向こう側から、


 「──……もう……会議室はどっちなのぉ……?」


そんな声が聞こえてきた。


菜々「……?」


エレベーターホールの向こう側って……非常階段だよね?

私はエレベーターホールを抜けて、非常階段の方に足を向ける。

すると──深い青みがかった髪をウルフカットにしている、長身の女性がいた。

まさに昨日調べていた人、


菜々「……アサカ・果林さん……?」

果林「……え?」


──アサカ・果林さんその人だった。


菜々「こんなところで、どうかされたんですか?」

果林「え、えぇっと……。……会議室に行きたいんだけど」

菜々「会議室ですか……?」


もしかして……道に迷っている?

いやでも……会議室はエントランスホールからエレベーターホールで上の階に行くだけだし……。

どうやっても、この非常階段に来る間にエレベーターの前は通るはずなんだけど……。

……まあ、いいか。困っているのなら、助けることに理由はいらないでしょう。


菜々「私も会議室に用があるので、よろしければ一緒に行きましょうか」

果林「ホントに……? 助かるわ……」

菜々「こちらです」


私は果林さんと共に会議室へと赴く──





    🎙    🎙    🎙





──エレベーターで上階へ昇りながら、


果林「貴方……もしかして、真姫さんの秘書かしら?」

菜々「え……?」


果林さんから、そう話を振ってきた。
874 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:01:47.81 ID:6zYh2+nI0

菜々「えっと……はい、確かにそうですが……」

果林「やっぱり」

菜々「よくご存じでしたね……」

果林「真姫さんの秘書は若い女の子だって聞いていたから……。このビルで見かけた人の中でも、貴方は飛びぬけて若い子だったから、もしかしてと思って」

菜々「なるほど……」

果林「確か……ナカガワ・菜々さんよね」

菜々「はい」

果林「まだ16歳って本当なの?」

菜々「は、はい……真姫さんに直接秘書にならないかとお声を掛けていただいて……」

果林「若いのに、有能なのね」

菜々「い、いえ、そんな……///」

果林「それに、可愛い顔してる……」

菜々「はいっ!?///」


果林さんの言葉に、思わず声が裏返る。


果林「その容姿なら、きっと人気者になれるわよ?」

菜々「か、か、からかわないでくださいっ!!///」


思わず、果林さんから目を逸らす。

この人は急に何を言い出すんだ。


果林「ふふっ、ごめんなさい。でも、可愛いって思ったのは本当よ?」

菜々「ぅぅ……///」


顔が熱い。ポケモンバトルを褒められることはよくあるけど、こんな風に容姿を褒められるのには慣れていない。

しかも──今の私は菜々モードだ。眼鏡に三つ編みで、比較的地味な見た目にしているはずなのに……。


果林「ふふ……隠してもダメよ? お姉さんには、わかっちゃうんだから」

菜々「だ、だから……か、からかわないでください……///」

果林「ふふ、ごめんなさい♪」


果林さんが、いたずらっぽく笑うのとほぼ同時に──ピンポーン。という音と共に、エレベーターが目的の階に到着する。

エレベーターのドアが開くと果林さんは、


果林「案内してくれてありがとう、それじゃまた後でね」


そう残して、先に行ってしまった。


菜々「……はぁ……///」


一緒にエレベーターに乗っていただけなのに、なんだか気疲れしてしまった。


菜々「……これから、大事な会議なんだから、しっかりしないと」


私は動揺を飛ばすために頭を振り、果林さんの後を追ってエレベーターを降りるのだった。

──余談ですが、何故か果林さんが会議室に姿を現したのは、会議開始時間ギリギリでした。……ちゃんと会議室まで案内してあげた方がよかったのかもしれません。



875 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:02:50.07 ID:6zYh2+nI0

    🎙    🎙    🎙





──さて……。会議は滞りなく終わり、


菜々「真姫さん、お疲れ様です。こちら、本日の内容を簡単にまとめたものです」

真姫「ありがとう、菜々」


他の参加者たちはまばらに退室を始めているところだ。

真姫さんに情報をまとめた端末を渡しながら、周囲を軽く確認すると──果林さんはもう退室していて少しだけ安心する。

それと……お父さんの姿も、すでに会議室内にはなかった。

真姫さんもお父さんの姿がもうないことを確認したのか、


真姫「菜々、大丈夫だった?」


そう訊ねてくる。


菜々「はは……確かに、父と同じ場所で仕事をしていると思うと、少し緊張はしましたが……会話をしたわけでもないですし……問題ありません」

真姫「なら、いいけど」


……始まる前や終わった後に、少しくらい話しかけられるかなと思ったけど……そんなこともなかったし……。


真姫「私たちも、出ましょうか」

菜々「はい」


私は真姫さんと一緒に、会議室を後にする。

二人でエレベーターを降りながら、真姫さんはふと会議中のことを思い出したらしく、


真姫「そういえば、貴方……アサカさんから随分熱い視線を送られてた気がするけど……知り合いだったの?」


そう訊ねてくる。


菜々「え、ええっと……ここに来る前に、会議室の場所がわからずに困っていたので……場所をお教えした際に少しお話ししまして……」

真姫「あら……少し話しただけで随分気に入られたのね」

菜々「き、気に入られたというか……私が分不相応に若いから、気になっただけですよ……」


本当に気に入られたというよりも、からかわれただけですし……。

場が場だけに、私は一際若い……というか、他の人から見たら子供ですし……。


真姫「案外、トップモデルから見ても、光るモノを感じられたのかもしれないわよ?」

菜々「ま、真姫さんまで……やめてください……///」


恥ずかしいから、からかわないで欲しい。

せつ菜モードでなら、褒められてもうまく対応できるのに、菜々モードのときにこういうことを言われるとワタワタしてしまう。


真姫「それにしても……そういうのはマネージャーの仕事だと思うんだけど……」

菜々「言われてみればそうですね……」


会議中、果林さんの背後には、スーツを着た金髪のお姉さんが居ましたが……恐らくあの方がマネージャーなんだと思います。

会議室にギリギリで入ってきたときは一緒にいたので、会議室のある階で合流出来たのかもしれませんが……。
876 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:03:32.69 ID:6zYh2+nI0

真姫「まあ……滞りなく会議も終わったし、別にいいけど」


確かに向こうの事情は向こうにしかわからない。

果林さんはあまりマネージャーに頼らない方針なのかもしれないし……。

せめて、行き先にたどり着けるようにしてあげて欲しいですが……。

二人で話しながら、エントランスホールへと戻ってくる。


菜々「……そういえば、真姫さん。そろそろ、ジムの挑戦者受付時間ですよね?」

真姫「ええ、わかってる。私はジムに戻るから、菜々は……」

菜々「私は今日の会議の内容をちゃんと纏めて、後で持って行きますね」

真姫「ありがとう。お願いね」

菜々「はい。お任せください」


真姫さんはジムに戻るために、一足先にビジネスタワーを後にする。

私は……どうしようかな。タワー内には一般の人も使える、カフェスペースがあるし……そこで資料を纏めようかな。





    👠    👠    👠





愛「カリンさー、どうすれば一本道で迷うわけ?」

果林「い、いいじゃない……ちゃんとたどり着けたんだから……。それに愛こそ、マネージャー役なのに、私を無視して先に行っちゃうのはどうなのかしら?」

愛「気付いたら、いなくなってただけじゃん……せっつーもカリンを見つけたときはさぞ驚いただろうね。“タワー”にカリンおっ“たわー”! って感じで」

果林「はいはい……じゃあ、私が悪かったってことでいいわよ……」

愛「いや、愛さんに悪いところ一つもないと思うんだけどなー……。それより、この後どうすんの? 逃走経路の確保と、ここらの監視カメラのクラッキングはやっておいたけどさ」

果林「大丈夫よ。もう全部──仕掛けてあるから」


──直後、ドンッと何かが壊れるような大きな音がする。


果林「さて……どうなるかしらね」


私は今後の展開を思い、口角を釣り上げた──



877 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:04:21.49 ID:6zYh2+nI0

    🎙    🎙    🎙





菜々「……これでいいかな」


ある程度今日の会議の内容が纏まって来たところで一息。

目の前がガラス張りになっているカウンター席で、エントランスホールを眺めながら、コーヒーを飲む。

程よい苦みと香りが心地いい。

作業もスムーズに進んだし、この後は少し時間が浮く。

真姫さんへ資料を渡したあと、久しぶりにローズの街を散歩するのも悪くないかもしれない。

どうせ、また明日からはせつ菜として、この街を離れるわけだし……。

ぼんやりと今後のことを思案していた──そのときだった。

──ドンッ!! と急に大きな音が、響く。


菜々「!? ……な、なに……?」


爆発……? 周囲のお客さんも突然の大きな音に、ざわついている。

音がしたのは……エレベーターホールの方……?

何が起きたのか考えている間に──エレベーターホールの方から、逃げ惑う人の波がエントランスの方へと押し寄せて来た。

その姿にさらにざわめく店内。

何かがあったのは間違いなかった。

私はバッグをひったくるように手に取り、店の外に駆けだす。

カフェスペースから外に出る頃には──この騒動の正体が、すでにエントランスホールまで姿を現していた。


 「──バーンギッ!!!!!」


エレベーターホールの方から、怪獣のような巨体が、我が物顔で歩いてくるではないか。


菜々「ば、バンギラス……!?」


姿を現したのは、よろいポケモン、バンギラス。当たり前だが、こんなところにいるはずがない。

ここはローズシティの、それも中央地区にあるビジネスタワーだ。

突然のことに動揺を隠せないが──それ以上に、エントランスホール内の混乱は酷かった。

逃げ惑う人たちから、怒号が飛び交い、押し合い圧し合いで、逃げ惑う。

まさに、パニック状態だった。

パニックの最中、


女性「きゃぁ……!!」


逃げ惑う人たちに押されて、転んだ女性が目に入る。


 「バンギィ…!!!!」


バンギラスは声をあげながら、転んだ彼女の方に視線を向ける。


女性「……い、いや……! だ、誰か……たすけ……!」

菜々「……! いけない……!!」
878 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:05:57.06 ID:6zYh2+nI0

私は咄嗟に走り出す。

迷っている暇なんかなかった。

バッグの中から、ボールベルトごと引っ張り出して、


 「バァンギッ!!!!!」

女性「いやぁっ……!!」


女性に向かって襲い掛かるバンギラスに向かってボールを投げた。

──ボムという音と共に、


 「──ドサイッ!!!」

 「バンギッ…?」


現れた巨体が、バンギラスの拳を受け止める。


菜々「ドサイドン!! “ロックブラスト”!!」
 「ドサイッ!!!」


組み合った手とは逆の掌を、バンギラスに突き付け──至近距離で岩石の砲弾を発射する。


 「バンギッ!!?」


──ドンッ、ドンッ! と音を立てながら、岩の砲弾がバンギラスを吹き飛ばす。


菜々「大丈夫ですか……!?」

女性「は、はい……っ……」

菜々「ここは私がどうにかします……! 貴方は逃げてください!」

女性「あ、ありがとうございます……っ……」


よろよろと立ち上がる彼女を手助けしながら、どうにか送り出すと──


 「バァンギッ!!!!」


鳴き声と共に、私たちの方に向かって大岩が飛んでくる。


菜々「……っ! “ドリルライナー”!!」
 「ドサイッ!!!」


頭のドリルを回転させて、飛んできた岩を破壊する。

が、その隙に、


 「バァンギッ!!!!」


バンギラスが突撃してくる、


菜々「くっ……!」


まだ背後には逃げ遅れた人たちがいる。止めなくちゃ……!


せつ菜「ドサイドン! 受け止めなさい!!」
 「ドサイッ!!!」

 「バンギッ!!!!」
879 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:06:40.00 ID:6zYh2+nI0

二つの岩の巨体がぶつかって、がっぷり四つで組み合う形になる。

私のドサイドンはパワーが自慢。組み合いさえしてしまえば並のポケモン程度にはまず力負けしない──


 「バンギィッ!!!」

 「ド、ドサィ…ッ!!!」
菜々「な……!?」


が、私の予想と反して、ドサイドンが押され始める。

さらに、


 「バァンギッ!!!!」


組み合いながら、バンギラスが首を伸ばして、ドサイドンの肩に噛みついてくる。

この状況で“かみくだく”……!?

いや、それだけじゃない。パキパキと音を立てながら、バンギラスの噛み付いた部分が凍り付いていく。


菜々「まさか“こおりのキバ”……!?」


このバンギラス──強い。しかも、恐ろしく戦い慣れている。


 「ド、ドサイッ…!!!」


これは──これ以上、組み合っちゃいけない……!


菜々「“アームハンマー”!!」
 「ドサイッ!!!」


ドサイドンは片手を振り上げ、それをバンギラスの肩の辺りに勢いよく振り下ろす。

──ガンッ! と大きな音を立てながら殴りつけられたバンギラスは、


 「バンギッ…!!!」


さすがに、噛みつき続けていられずに、体勢を崩す。

そこに向かって、


菜々「“アイアンテール”!!」
 「ドサイッ!!!!」


ドサイドンが身を捻りながら、尻尾にある大きな石鎚を叩きつけた。


 「バァンギッ!!!?」


遠心力を利用した尻尾のハンマーの威力に、バンギラスが数メートル吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる。


 「バン、ギッ…」


崩れる瓦礫と砂煙の中──やっとバンギラスは大人しくなる。

と同時に──バンギラスが何かに吸い込まれて小さくなっていく。


菜々「……!?」


一瞬、何かと思ったが──


菜々「まさか、トレーナーがいる……!?」
880 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:07:15.42 ID:6zYh2+nI0

今のは、バンギラスがボールに戻されただけだ……!!

そう気付いて、


菜々「待ちなさい……!!」


私は駆け出した。

だけど、砂煙と瓦礫に視界を遮られているせいで──犯人の姿を見つけるのは、とてもじゃないが困難だった。


菜々「く……」


先ほどバンギラスが倒れた瓦礫の向こう側に辿り着いた時には──すでに人影のようなものは見当たらず……。


菜々「逃げられましたね……」


私は苦々しい顔で、肩を落とす。

それにしても……どうしてこんなことが……。

これが人為的なものであるなら……ポケモンによるテロ行為と言って差し支えない。

到底許されるものではない……。

私が怒りに肩を震わせながら、振り返ると──


菜々「……え」


そこには──お父さんがいた。

お父さんが、信じられないものを見るような目で──私を見つめていた。


菜々「お、とう……さん……」

菜々父「……菜々、どういうことだ」


──どういうことだ。

その言葉が、この事態に対する説明要求──でないことは、すぐに理解出来た。

父の表情を見て──理解、してしまった。

ポケモンと、共に戦う私に対しての──『どういうことだ』。


 「ド、ドサイ…」
菜々「こ、れは……そ、の……」


何か誤魔化さなきゃ。そう思ったけど、考えれば考えるほど、頭の中は真っ白になっていく。

言い訳なんて、出来るはずがない。

自分の気が──どんどん遠くなっていくのを感じた。





    🎹    🎹    🎹





かすみ「到着しましたー!! ローズシティ!!」
 「ガゥガゥ♪」

侑「うん!」
 「イブィ♪」
881 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:08:08.53 ID:6zYh2+nI0

──雨模様の10番道路の長い道のりを越え……私たちはようやく、ローズシティにたどり着いた。

さて、ローズシティに着いたならまずは……。


侑「ローズジムだよね!」

かすみ「侑先輩、さすがわかってますねぇ〜!」


かすみちゃんと二人で黒と黄色の傘を並べながら意気揚々と、歩き出す。


歩夢「あ、侑ちゃん……ローズを歩くなら、イーブイをボールに入れないと……」

侑「え? どういうこと?」


歩夢の言葉に首を傾げる。


リナ『ローズシティでは、あんまりポケモンの連れ歩きが推奨されてない。基本的にボールに入れてた方がいい』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「え、そうなの?」

しずく「本当に厳しいのは中央区だけなんだけど……基本的にはポケモンはボールに入れておいた方がいいかもね」

リナ『無用なトラブルは避けたいしね。郷に入っては郷に従え』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

かすみ「ポケモンを出しちゃいけないなんて、珍しい街ですね〜?」
 「ガゥ?」

侑「うーん……でも、そういうルールなら従わないわけにもいかないよね……」

かすみ「まあ、それもそうですね……戻って、ゾロア」
 「ガゥ──」


かすみちゃんがゾロアをボールに戻す。

歩夢も同様に、


歩夢「ちょっと窮屈だけど……ボールの中で大人しくしててね」
 「シャボ──」


サスケをボールに戻していた。

私も、イーブイを戻さないと……。


侑「イーブイ、しばらくボールの中に──」


私がボールを近づけると、


 「ブイッ」


イーブイは前足でボール弾き飛ばした。


侑「…………」
 「ブィィ…ッ!!!」

かすみ「なんかめっちゃ怒ってますよ、イーブイ……」

歩夢「侑ちゃんのイーブイ……ボールに入るのが嫌いなんだよね」

侑「そうなんだよね……」


実はイーブイをボールに入れたことは一度しかなくて……自分の手持ちとして登録する際に一瞬ボールに入れたときだけだ。

何度かボールに戻そうとしたことはあるにはあったんだけど……ものすごく嫌がられるし、私の頭の上か、肩の上にいるのが好きみたいだから、ずっとボールには入れてなかったんだよね。
882 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:09:00.01 ID:6zYh2+nI0

侑「どうしよう……」

しずく「ボールに入れられないなら……抱きかかえて歩くのがいいかもしれませんね。……抱きしめていれば、突然飛び出したりしないとわかってもらえるでしょうし……」

リナ『しずくちゃんの言うとおり、たぶん抱っこしてれば大丈夫だと思う。中央区にはあんまり行かない方がいいだろうけど、ジムがあるのは街の外側だし』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「うん……そうするしかないね……」
 「ブイ…?」

侑「歩夢、ちょっと傘持っててもらっていい?」

歩夢「うん」


歩夢に傘を持ってもらい、頭の上のイーブイを両手で掴んで、そのまま胸に抱きかかえる。


侑「これならいい?」
 「ブイ♪」


どうやら、これなら許してもらえたようだ。歩夢から傘を受け取りながら、空いた方の手でイーブイをしっかり胸に抱き寄せる。


侑「それじゃ、ジムに行こっか!」

かすみ「はい! 腕が鳴りますね〜!!」


私たちはローズジムを目指して、ローズシティの地に足を踏み入れます!





    🎹    🎹    🎹





しずく「──ローズシティは外側部は低い建物が多くて、中央区に近付くほど、高いビルが増えていくんですよ」

侑「じゃあ……あっちの方向が中央区なんだね」


私は一際背の高いビルの方に目を向ける。


リナ『一番高いのはセントラルタワーって言うんだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

しずく「一番背の高いセントラルタワーを中心に、同心円状にビルの高さが変わって行くんです。なので、夜のローズシティを上空から見ると、夜景が光の山のように見えるそうですよ」

かすみ「なにそれなにそれ〜! 絶対きれいなやつじゃん!」

リナ『ただ、中央区の中でもセントラルタワーの上空付近は飛行許可を取らないと、“そらをとぶ”も使えないから、一般人が見るのはなかなか大変みたい』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「噂には聞いてたけど……ローズシティって本当に厳重なんだね……」

しずく「この地方の商業、工業の要ですからね……。この街の中央区が止まると、同時にいろんな物流が止まってしまうそうなので……」

リナ『モンスターボールなんかも、このローズシティから出回ってるしね。ボールの出荷が停止すると、どこも困っちゃう』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ポケモンは少ないけど、トレーナーにとっても重要な街なんだね」
 「イブィ?」


オトノキ地方の大きな街の中でも、いろんなポケモンの姿が見られるセキレイシティとは真逆だけど……この街はこの街で、重要な役割を担っているみたいだ。


しずく「中央区とは逆に外周区には、ポケモン用の施設が多くあります。ポケモンセンターやバトル施設……それこそ、ポケモンジムも外周区にありますね」

リナ『多いって言っても、街の規模に対して考えると少ないけどね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

かすみ「まあ、そのお陰でこーんなおっきな街でも、すぐにジムにたどり着けるけどね!」


そう言いながら、私たちはまさにローズジムの前に到着したところだった。


侑「ここがローズジム……! なんだか、今からジム戦するって考えただけで、ときめいてきちゃう!」
 「イブィ♪」
883 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:09:37.71 ID:6zYh2+nI0

ローズジムの真姫さんとはどんなバトルになるんだろう……! 楽しみで、今からときめきが止まらない……! ついでにサインも貰わないと……!


リナ『侑さん、ときめくのはいいけど、もう一個目的があるの忘れないでね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「もちろん! 千歌さんのルガルガンを渡すことだよね!」


このために研究所から、真っすぐローズシティまできたわけだしね!


侑「それじゃ、入ろうか」


私は早速ローズジムの中に入ると、


真姫「──あら、いらっしゃい。チャレンジャーかしら?」


ジムの中には、早速ジムリーダー──真姫さんの姿。


侑「わ……! 本物の真姫さん……! とりあえず、サイン色紙……」

リナ『侑さん、目的……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「あはは……」


歩夢が苦笑している。

一方で真姫さんは、


真姫「あら……? そのロトム図鑑……もしかして、貴方が侑?」


何故か私の名前を言い当ててくる。


侑「え!? な、なんで知ってるんですか……!?」

真姫「善子から聞いてるわ。ジムに挑戦するついでに、千歌のルガルガンを持ってきてくれたのよね」

侑「あ、は、はい!」


私は小走りで真姫さんのもとに駆け寄り、


侑「このモンスターボールの中に、千歌さんのルガルガンが入ってます……!」


真姫さんに手渡す。


真姫「ありがとう。確かに受け取ったわ」

侑「は、はい! あ、あの……それと……」

真姫「何かしら?」

侑「もしよかったら……サインください!」

真姫「ふふ、いいわよ」

侑「やったー! ありがとうございます!」


私がバッグから、サイン色紙を取り出そうとすると、


かすみ「ちょーーーっと待ってください!!」


かすみちゃんが大きな声をあげる。


かすみ「侑先輩! サインは後ですよ! かすみんたちはジム戦をしに来たんですから!!」


そう言いながら、かすみちゃんが前に出てくる。
884 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:10:17.77 ID:6zYh2+nI0

真姫「あら……ということは貴方もチャレンジャーかしら?」

かすみ「はい! かすみんは、セキレイシティから来たかすみんです!」

真姫「かすみん……? 変わった名前ね?」

しずく「す、すみません……この子の名前はかすみさんって言います……。……もう、初対面の人に変な自己紹介したら、めっ! って何度も言ってるでしょ!」

真姫「ああ……にこちゃんのにこにー的なアレね……」

かすみ「ちょっとぉ!! あんなのと同じにしないでくださいよ!」

真姫「まあ、それはいいんだけど……侑とかすみ、どっちと先にジム戦すればいいのかしら?」


真姫さんは私とかすみちゃんを交互に見ながら、そう訊ねてくる。


しずく「そういえば、どっちが先にジム戦をするかの話、してなかったね……」

かすみ「……侑せんぱ〜い……? かすみんが先にジム戦しちゃダメですかぁ〜……?」


かすみちゃんが可愛くおねだりしてくる。


侑「ふふ、いいよ♪ 私はかすみちゃんの後で大丈夫だから!」


そう答えて、私は一旦見学スペースの方へと歩いていく。


かすみ「あ〜ん♡ 侑先輩優しいですぅ〜♪ 好き好き〜♡」

しずく「侑先輩……いいんですか?」

侑「うん。むしろ後の方が、かすみちゃんとの試合を見て、対策も立てられるし」

かすみ「任せてください! かすみんがしっかり勝ち方を見せてあげちゃいますから!」


かすみちゃんは私と入れ替わるように歩み出て、チャレンジャー用のスペースに着く。


真姫「話は付いたみたいね。それじゃ、さっさと始めましょうか」

かすみ「よろしくお願いします!」


真姫さんがジム戦用のポケモンのボールを携え、フィールドに立った──そのときだった。


使用人「──お嬢様、お電話が入っております」


ジムの奥から、いかにもな使用人さんが電話を持って現れる。


真姫「電話……? ちょっと待ってもらっていいかしら」

かすみ「あ、はい。わかりました」

真姫「ありがとう」


真姫さんはお礼を言いながら、使用人さんの持ってきた受話器を受け取る。


真姫「誰から?」

使用人「それが……警察の方からです……」

真姫「……警察?」


真姫さんは電話の主を聞いて、眉を顰める。


真姫「もしもし……真姫だけど」
885 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:10:50.00 ID:6zYh2+nI0

かすみ「今、警察って言いませんでした……?」

リナ『ジムリーダーは街の治安維持も仕事だから、警察から連絡が来ることもあるとは思う』 || ╹ᇫ╹ ||

しずく「うん……何か、あったのかな?」

かすみ「なーんか、嫌な予感がしますぅ……」


ひそひそと話しながら、通話の行く末を見守っていると、


真姫「………なんですって?」


真姫さんの眉間にシワが寄るのがわかった。──そのまま目を細めて通話先の話を聴き、


真姫「……わかった。すぐ行くわ」


そう返して、通話を切った。

そして、かすみちゃんに向かって、


真姫「ごめんなさい……ちょっと、急用が出来て、どうしても出なくちゃいけなくなったわ」


申し訳なさそうに、そう伝えて来る。


かすみ「や、やっぱり……」

真姫「本当にごめんなさい……」

かすみ「あ、あのぉ……それじゃ、ジム戦……いつなら出来ますか……?」

真姫「……ちょっと、本当に緊急事態だから、しばらくジムを閉めるかもしれないわ」

かすみ「ええ!? そ、そんなぁ……!」

真姫「本当に急ぐから申し訳ないけど、ジムは他の場所から巡って頂戴」


それだけ残すと、真姫さんは私たちの横を通り過ぎ、駆け足でジムから立ち去ってしまった。


かすみ「ま、またこのパターン……」

リナ『かすみちゃん……ドンマイ』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

しずく「ここまで来ると、なんて声を掛ければいいやら……」

かすみ「……もう、いいです。慣れました……」


がっくりと肩を落とす、かすみちゃん。


しずく「と、とりあえず、ポケモンセンターのカフェスペースにでも行こ! ね?」

かすみ「……うん」


とぼとぼとジムから出ていくかすみちゃんと、そんなかすみちゃんを慰めるしずくちゃん。


歩夢「侑ちゃん、私たちも行こっか」

侑「う、うん」


とりあえず、ジムリーダーがいなくなってしまったし、この場にいても仕方ないので、私たちは一旦ポケモンセンターへと移動することに……。



886 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:11:27.75 ID:6zYh2+nI0

    🎹    🎹    🎹





私たちがポケモンセンターに到着すると、どうして真姫さんが飛び出して行ったのかがわかった。

カフェスペースに備え付けてあるテレビモニターからは──警察車両に囲まれた建物の映像。


しずく「中央区のビル内で人がポケモンに襲われたって……」

かすみ「だ、大事件じゃないですかぁ!?」

歩夢「怪我人も出てるって……大丈夫かな……心配……」


3人の言うとおり、ビジネスタワーのビル内で、ポケモンが大暴れする事件が発生したらしい。

偶然居合わせたポケモントレーナーによって、どうにかそのポケモンを無力化することは出来たらしいけど……怪我人も出ているらしい。

不幸中の幸いというべきなのは、怪我人は転んで軽傷を負った程度のもので、襲われたことが原因で大怪我をした人はいないとのこと。


侑「これじゃ……ジムを飛び出して行ってもおかしくないよね……」
 「ブィ…」

リナ『うん。ジムリーダーは街を守るのも仕事だからね』 || ╹ᇫ╹ ||


それこそ、ジム戦をしている場合じゃない状況だ。


しずく「こうなってくると……当分の間はジム戦は難しそうですね……」

かすみ「うぅ……さすがにこれは仕方ないよねぇ……」

リナ『中央区は安全確認が出来るまで、立ち入りも出来ないみたいだね』 || ╹ᇫ╹ ||


となると……この街で出来ることはかなり限られてくる。

それに、どのタイミングでジム戦受付が再開されるかもわからないし……。


侑「……真姫さんの言ってたとおり、他のジムを先に巡っちゃう方がいいかもしれないね」

しずく「そうですね……ここで待っていても、本当にいつジム戦の受付を再開するかもわからないですし……」

リナ『そうなると……東のクリスタルレイクを越えた先のクロユリシティに行くか、街を北に抜けて11番道路沿いに西のヒナギクシティを目指すかになると思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「クロユリかヒナギクかぁ……」

歩夢「クロユリとヒナギクは、ローズシティを経由するから……どちらにしろ、どっちかの町に行ったら、ローズに戻ってくることになるね」

侑「考えようによっては、むしろ都合がいい気もするけど……」


どちらにしろ、ローズにジム戦をしに戻ってくる必要はあるわけだしね。

ただ、問題はどっちに進むかだ。


侑「私は……クロユリに行きたいかな」

リナ『何か理由があるの?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「私、クロユリのジムリーダーの英玲奈さんに会ってみたいんだ」


──彼女はこのオトノキ地方の中で最強のジムリーダーと呼ばれている。

ジムリーダー序列というジムリーダー内での総当たり試合の勝率でも頭一つ抜けているし、その実力は四天王と同等……もしくはそれ以上なんて噂もあるくらいの人だ。

ストイックで鍛錬に余念がなく、むしポケモンによる畳みかけるようなバトルスタイルから、付いた通り名は『壮烈たるキラーホーネット』。

まさにポケモンバトルのスペシャリストみたいな人だ。

もちろん、全てのジムを回る以上、いつかは会えるとは思うんだけど……クロユリかヒナギクかと言われたら、私はポケモンバトルのスペシャリストである英玲奈さんに会ってみたかった。


かすみ「じゃあ、次はクロユリシティですかね?」
887 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:12:05.06 ID:6zYh2+nI0

行き先が決定しかける中、


しずく「あ、あのぉ〜……」


しずくちゃんが遠慮がちに手を上げる。


歩夢「どうしたの? しずくちゃん?」

しずく「私は……その……。……ヒナギク側に行きたいなって……」


ここで予想外なことに、しずくちゃんから反対方向へ行きたいとの意見が出てきた。


かすみ「なになに? ヒナギクシティに何かあるの?」

しずく「うん……。私、クマシュンってポケモンと会ってみたくって……」

かすみ「クマシュン?」

歩夢「クマシュンって確か……寒い場所にいるシロクマポケモンだよね?」

しずく「はい……! ポケウッドスターのハチクさんの相棒──ツンベアーの進化前で……すっごく可愛いんです! 旅をするなら、実際に一度見てみたいとずっと思っていて……」

リナ『確かにクマシュンはグレイブマウンテンにしかいないから、会うならヒナギク方面に行かないといけないね』 || ╹ᇫ╹ ||


確かに旅をするならジム巡り以外にも、そこにしかいないポケモンに会うのも楽しみの一つだよね。


侑「そういうことなら……ヒナギク方面に行く?」

しずく「えっと……でも、侑先輩はクロユリ方面が良いんですよね……?」

侑「それはそうなんだけど……後から行っても英玲奈さんには会えるし……」

しずく「その理屈で言うなら、私もクロユリに行った後でも大丈夫です……! すみません、後から余計なことを言ってしまって……」

侑「うぅん、ここはしずくちゃんの意見を優先しよう」

しずく「い、いえ、侑先輩の行きたい場所を優先に……」

かすみ「もう! なんで二人して譲り合ってるんですか!」


譲り合い合戦が始まってしまった私たちの間に、かすみちゃんが割って入る。


かすみ「なら侑先輩! 競争しませんか!」

侑「競争……?」

かすみ「はい! かすみんとしず子はヒナギク方面に、侑先輩と歩夢先輩はクロユリ方面に進んで──どっちが先にジム攻略出来るか、競争しましょう!」

侑「なるほど……」


確かに言われてみれば、4人で行動しなくちゃいけないわけじゃないし……行き先が割れちゃうなら、前みたいに、かすみちゃんはしずくちゃんと、私は歩夢と二人で旅をすればいい話だ。


侑「歩夢はそれでいい?」

歩夢「うん♪ 侑ちゃんと一緒なら、私はどっち方向でも♪」

リナ『それじゃ、決まりだね』 || ╹ ◡ ╹ ||

かすみ「かすみんたちは、ヒナギク方面へ!」

侑「私たちは、クロユリ目指して! 負けないよ、かすみちゃん!」

かすみ「かすみんも負けるつもりはないですよ! そうと決まったら、スタートダッシュです!」
888 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:12:37.44 ID:6zYh2+nI0

かすみちゃんはいそいそと荷物を纏めて、


かすみ「しず子、行くよ!」

しずく「え、ええ!? 今すぐ行くの!?」

かすみ「だって、そうじゃないと侑先輩に負けちゃうじゃん! 早くして!」

しずく「わ、わかったから、引っ張らないで〜……! ゆ、侑先輩、歩夢先輩、またローズで合流しましょう……!」

かすみ「レッツゴー!」


半ば強引にしずくちゃんの手を引きながら、かすみちゃんたちは慌ただしく旅立って行った。


侑「それじゃ、私たちも行こうか、歩夢、リナちゃん」
「イブィ♪」

歩夢「うん♪」

リナ『クロユリシティ目指して、リナちゃんボード「レッツゴー♪」』 ||,,> 𝅎 <,,||


私たちもクロユリシティを目指して、ローズシティを後にするのでした。



889 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:13:13.24 ID:6zYh2+nI0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ローズシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       ● __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.50 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.50 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.48 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.42 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      タマゴ  なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:176匹 捕まえた数:5匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.44 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.42 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.39 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドグラー♀ Lv.35 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラエッテ♀ Lv.30 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:179匹 捕まえた数:17匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.45 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.42 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.40 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.38 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.39 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:171匹 捕まえた数:8匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.33 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリヤード♂ Lv.28 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.33 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.33 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.33 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:179匹 捕まえた数:11匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



890 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 01:29:17.05 ID:ropYqdR40

 ■Intermission🍅



真姫「……これは予想以上に酷いわね」


──現場に到着した私は、『KEEP OUT』のテープを潜りながら、眉を顰める。


先ほど会議をしたビジネスタワーは外から見ても、中の惨状がよくわかる状況だった。

あちこちガラスは割れているし、中にはあちこちに瓦礫があって、砂煙が立ち込めている。

ここで戦闘があったというのは本当らしい。

私が、タワー内に立ち入ると、


ジュンサー「真姫さん……! お待ちしておりました!」


ジュンサーが私に気付いて、駆け寄ってくる。


真姫「これはまた……派手にやられたみたいね」

ジュンサー「はい……。ですが、お陰で助かりました……」

真姫「お陰で……? なんの話?」

ジュンサー「もしかして、まだご存じないんですか……? ポケモンを撃退したトレーナー──真姫さんの秘書の方と伺ったんですが……」

真姫「菜々が……?」


確かに菜々なら、並大抵のポケモンには負けることはないと思う。

ただ、そうなってくると、逆に気になることがある。


真姫「……それで、菜々──私の秘書は事件後、どこにいったのかしら……?」


これだけのことがあったのに、何故、菜々本人から連絡がないのかが不可解だ。


ジュンサー「警察の方から軽く事情を伺ったあと、彼女のお父様と一緒に帰られましたよ」

真姫「……え?」

ジュンサー「どうかされましたか……? 顔色が悪いですが……」

真姫「……いえ、大丈夫よ」

ジュンサー「それなら、いいんですが……。詳しい事件の詳細をお話ししますので、こちらに」

真姫「……ええ」


──まさか……菜々が戦っている場面に、菜々の父親もいたのでは……?

そんな疑惑が頭を過ぎる。


真姫「菜々……」



891 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 01:29:52.20 ID:ropYqdR40

    🎙    🎙    🎙





菜々父「……この5つで持っているポケモンのボールは全てか?」

菜々「……はい」


──私は今、父の会社の社長室にいる。

そして、父の座る社長室の机の上には……5つのモンスターボールが並べられていた。

もちろん、私のポケモンたちだ。


菜々父「私の知らないところで、こんなものを……」

菜々「そ、その子たちを……どうするつもり……?」

菜々父「業者に引き渡して、逃がしてもらう」

菜々「!? だ、ダメ……!!」


私は、机の上に並べられたボールに覆いかぶさるようにして、自分の胸に抱き寄せる。


菜々父「……菜々、言うことを聞きなさい」

菜々「この子たちは、私の大切な仲間なの……! そんなこと出来ないよ……!」

菜々父「ポケモンは危険な生き物なんだ。これもお前のためを思って──」

菜々「どうしてお父さんは、そんなにポケモンを嫌うの!?」


大切な仲間たちを渡すまいと、私は5つのモンスターボールを抱きかかえたまま、後退る。


菜々「ポケモンは怖い生き物なんかじゃないよ!! お父さんはポケモンのことを知らないまま怖がってるだけだよ……!!」

菜々父「知らないまま、怖がっているだけか……」


お父さんは椅子から立ち上がり、私から背を向ける。


菜々「それなのに、知ろうともしないで危険だ、近寄るななんて言われても、納得できないよ……!!」

菜々父「……菜々……エレキッドというポケモンを知っているか」

菜々「え?」


まさか父の口からポケモンの名前を聞くことがあるなんて、思ってもいなかったから、面食らってしまう。


菜々「し……知ってるけど……」

菜々父「私は小さな山村に生まれてな。ある日、山の中で弱っているエレキッドを見つけたんだ」

菜々「……」

菜々父「私は放っておけず、そのエレキッドを家に連れ帰り、両親を説得した。元気になるまで、家で世話をさせてくれと」


……正直、私は驚いていた。あの父が、そんな風にポケモンに優しくしていた時期があったなんて、まるで想像が出来なかったから。


菜々父「保護したエレキッドは、みるみる回復していった。特にケチャップが好きなやつでな。あげると喜んで食べていたよ。次第にエレキッドは私たち家族に溶け込んでいき……我が家の一員となった」

菜々「……な、なら、どうして……」


この話のどこにポケモンを嫌う要素があるのだろうか。
892 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 01:30:34.96 ID:ropYqdR40

菜々父「ある日……エレキッドが進化したんだ」

菜々「……エレブーに……?」

菜々父「そうだ。ただ姿が変わっただけだと思っていた私が、いつものようにエレブーにケチャップを持って行ったら──あいつは暴れ出した」

菜々「え……」

菜々父「これは後で知ったことだが……エレブーは赤いものを見ると、興奮して暴れ出す習性があるそうだ。……暴れるエレブーは、どんなに声を掛けても聞く耳を持たず、周囲に無差別に“ほうでん”を繰り返し、家は瞬く間に炎に包まれた」

菜々「……そんな」

菜々父「燃える家から命からがら逃げだす中、私の母親は、私を庇って“ほうでん”を受けた。……あのときの母さんの叫び声は、今も覚えている」

菜々「…………」

菜々父「その後、私も気を失ったらしい。父さんがどうにか、私と母さんを近くの病院まで運んで……次に目が覚めたのは病院のベッドの上だった。母さんは……酷い火傷と感電によって、包帯でぐるぐる巻きのままベッドに寝かされ──数日後に帰らぬ人になったよ」


お父さんは、私の方に振り返る。


菜々父「……何度自分を呪ったか。あのとき、もっと知識があれば。あのとき、エレキッドを助けなければ。あのとき……ポケモンと、関わらなければ、と」


お父さんは深く息を吐きながら、


菜々父「人とポケモンは……根本から違う生き物なんだと……」


そう、言葉にした。


菜々「おとう……さん……」


お父さんがそんな風にポケモンと触れ合っていたなんて、知らなかった。

ただ襲われて、ポケモンを嫌いになってしまっただけだと思っていた。


菜々父「……私は、ポケモンを知らないまま怖がっているかい。菜々」

菜々「それは……」


私は思わず言葉に詰まる。お父さんの苦しみは……ポケモンから受けた痛みは……きっと計り知れないものだったのだろう。

それも助けたポケモンに、家族を奪われるなんて……。


菜々「でも……そういうポケモンばかりじゃない……ポケモンと触れ合って、わかり合っていけば、どうやって接すればいいかもわかるはずだよ……!」

菜々父「今日のバンギラスのように、人を傷つけるポケモンもいる」

菜々「そうだけど……! でも、人を守るポケモンたちだっているよ……!」


私は今日みんなを守って見せたドサイドンのボールを手に持ち、前に突き出す。

この子が多くの人の命を守ったんだ。それはお父さんだって見ていたはず。

でも、お父さんはそんなことを意にも介していないかのように、質問を投げかけてきた。


菜々父「なら、聞こう。菜々。そのポケモンたちと一緒に過ごす間に、菜々は掠り傷一つ負わなかったか?」

菜々「……え?」

菜々父「菜々の大切な仲間たちは──私の大切な娘に掠り傷一つ負わせなかったか?」

菜々「え……と……」
893 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 01:31:19.32 ID:ropYqdR40

私は思わず言葉に詰まる。

──捕まえたばかりのヒトデマンが何を考えているかわからなくて、無理やり言うことを聞かせようとして、顔に“みずでっぽう”を噴きかけられたことがある。

──いたずら好きのゴースに何度驚かされて、転んで擦り傷を作ったか。

──エアームドの抜け落ちた鋭い羽根で、ザックリ手を切ってしまったときは、血がたくさん出て、すごく焦った。

──サイホーンがなかなか懐かなくて、何度も追い回されたし、あの角でお尻を小突かれて痛い思いをした。

──最初の友達のガーディにだって……最初の頃は、何度も手を噛まれた。


菜々父「ポケモンは、人とは違う常識と、人とは違う力を持っている。思い当たる節があるんじゃないか」

菜々「……だから、ポケモンは危ないって言うの?」

菜々父「そうだ」

菜々「だから、ポケモンと関わるなって言うの?」

菜々父「そうだ」

菜々「そんなの、おかしいよ!!」


私は思わず声を張り上げる。


菜々「お父さんの言いたいこともわかるよ……でも、だからって、一生関わらないのが正解だなんて、おかしいよっ!!」

菜々父「……」

菜々「確かに最初はわかんなくって怪我したこともあったけど……それでも、今はちゃんと信頼し合えてる!! 人とポケモンはわかり合えるよ!!」


私はそうやってポケモンと手を取り合って強くなってきた。それは胸を張って言える。


菜々父「その保証がどこにある」

菜々「なんでわかってくれないのっ!?」

菜々父「お前に危ないことをして欲しくないだけだ」

菜々「っ……」


お父さんの言い分はわかる。

私を想って言ってくれていることもわかる。

だけど……だから、もうポケモンと関わるのは諦めろなんて言われても、納得なんて出来ない。


菜々父「どうやってポケモンとわかり合えることを証明する?」


どうすれば父を説得できるか。それが頭の中をぐるぐるする。

勉強してポケモンドクターの資格を取るとか……? ……そんなの一朝一夕でなれるようなものじゃない。

ポケモン研究者として、ポケモンの生態を研究し尽くして……。……いや、それだって、ポケモンと実際に触れ合わないと無理だ。

それに、なると言ってなれるものではない。

ポケモンの専門家たちは、途方もない時間を掛けて、やっとその地位や資格を手に入れるのだ。

私に出来ることなんて……バトルしか──


菜々「……!」


そうだ。私には……ポケモンバトルがある。


菜々「……チャンピオン」

菜々父「……なに?」

菜々「もし……私が、この地方で一番ポケモンを上手に扱える人だったら……証明になるはずだよ」
894 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 01:31:57.71 ID:ropYqdR40

チャンピオン──それは、誰よりもポケモンたちと信頼し合って、誰よりも強くなったトレーナーに贈られる称号。


菜々父「菜々、いい加減に──」

菜々「すぐにでも、私がチャンピオンになって……証明するからっ!!」


私はそれだけ言うと、踵を返して、部屋から飛び出したのだった。





    🎙    🎙    🎙





──お父さんの会社から駆け足で飛び出すと、


真姫「菜々っ!?」


真姫さんとすれ違う。


菜々「真姫さん……」

真姫「菜々、お父さんと話したの……?」

菜々「……真姫さん、これ」


ポケットから、今日の会議内容を纏めたデータの入ったメモリを手渡す。


真姫「今はこんなのはどうでもいいの……!」

菜々「真姫さん」

真姫「……何?」

菜々「少し、お休みをください」

真姫「え……?」

菜々「私──」


三つ編みを解いて、眼鏡を外す。


せつ菜「──チャンピオンになってくるので……!」


決意を伝えて、走り出す。


真姫「ち、ちょっと待ちなさい……! 菜々……!!」


雨の降る、ローズシティを駆け──中央区を抜けて、


せつ菜「エアームド!! ウテナシティへ!!」
 「──ムドーー!!!!」


エアームドの背に飛び乗り──チャンピオンになるため、雨雲を切り裂くように、空へと飛び立ったのだった。


………………
…………
……
🎙

895 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:07:51.89 ID:ropYqdR40

■Chapter045 『水晶洞窟でうらめしや〜?』 【SIDE Yu】





──ローズシティから一旦10番道路に戻り、そこから東に歩くこと数時間ほど。

私たちは、雨でぬかるむ丘を登っているところだった。


侑「歩夢、足滑らせないようにね」

歩夢「うん」


丘といっても、比較的なだらかで、ある程度道も舗装されているため、すごく大変というほどではないんだけど……。

やっぱり、雨のせいで足元の状態は悪いし、傘を差しながら勾配を進むのはなかなかに骨が折れる。


 「ブイ」


こんな雨模様の丘登りだと、イーブイを歩かせるのも忍びなくて、いつものように頭の上に乗せている。

今歩かせたら、絶対泥まみれになっちゃうだろうしね……。


リナ『二人とも、もう少しで頂上だから、頑張って』 || >ᆷ< ||


近くをふよふよ漂っているリナちゃんからの応援を受けながら登っていくと──急に視界が開ける。頂上だ。


侑「……わぁ!」
 「ブイ〜♪」


丘を登りきると──そこは大きな湖が広がっていた。


侑「ここが、クリスタルレイク……!」

歩夢「テレビで何度も見たことあったけど……実際に見るとすっごく大きいね……!」

侑「うん、そうだね……!」


ここクリスタルレイクは、オトノキ地方の絶景スポットとして、とても有名な湖で、地理にあまり詳しくない私でも、何度も見聞きしたことがあるくらいの場所。

ただ、惜しむらくは……。


歩夢「晴れてると、湖に太陽の光が反射して、すごく綺麗って聞いてたけど……」

侑「この雨じゃ、それはちょっと見れそうにないね……」


大分、雨足が弱まってきているものの、陽光を反射する湖面を見ることは出来なさそうだ。


リナ『でも、雨雲レーダーを見る限り、夜になれば天気もよくなってくると思うよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「あ、それなら……夜まで待ちたいな」

侑「じゃあ、今日はこの辺りでキャンプにしよっか」

歩夢「うん♪」


私がそう言うと、歩夢は嬉しそうに頷く。

このクリスタルレイク……ただ、陽光が反射して綺麗な大きな湖というだけで、オトノキ屈指の名所だなんて言われているわけではない。

この湖の本当の絶景は、夜にこそ見れる。


歩夢「湖面の夜空……楽しみ♪」
896 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:08:37.13 ID:ropYqdR40

歩夢は本当に楽しみな様子で、目を瞑ってその光景を思い浮かべうっとりしている。

──湖面の夜空。クリスタルレイクは非常に特殊な生態系をしていて、湖中に生息しているポケモンはたった1種類しかいない。

その1種類はケイコウオというポケモンだ。


歩夢「あ、見て侑ちゃん! ケイコウオが跳ねてるよ!」

侑「ホントだ!」


まさに今も目の前の湖でケイコウオが跳ね、その姿を見せてくれる。

ケイコウオというポケモンは、日中に太陽の光を溜め、夜になるとそれを鮮やかに光らせることで知られるポケモン。

そんなケイコウオしか生息していない、このクリスタルレイクでは、夜になると湖の中でたくさんのケイコウオたちが一斉に光り輝き、湖面をまるで星空のように輝かせる。

その光景を通称『湖面の夜空』と呼んでいるというわけだ。そんなことを頭の中でおさらいしながら……ふと思う。


侑「そういえば……ケイコウオって海にいるポケモンだよね……?」


海水と淡水だと、生息するポケモンが変わってくると思うんだけど……。

ただ、私のそんな疑問に、歩夢が答えてくれる。


歩夢「クリスタルレイクは塩湖だから、海と似たような環境なんだよ」

侑「え? こんな丘の上なのに……?」

リナ『クリスタルレイクは大昔、地殻変動で海がそのまま持ち上がって出来たって言われてる。だから、ここの地層は多くの海水由来のミネラルを含んでいて、湖の塩分濃度もほぼ海水と同じらしいよ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「そうなんだ……ここが昔、海だったって言われても、ピンと来ないね……」

歩夢「何百年、何千年、何万年って時間を掛けて、この不思議な湖が出来たって思うと……ちょっとドキドキしちゃうね」

侑「うん……」


それも人の手を借りず、自然の力だけで形作られたというのは本当に、大自然の神秘と言うしかない。


リナ『夜には晴れるし、きっと明日の朝には朝日に照らされる、クリスタルレイクも見られると思う』 ||,,> ◡ <,,||

侑「なんか、今から楽しみになってきちゃった……!」
 「イブィ♪」

リナ『そのためにも、早く野営の準備をしちゃおう〜!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「うん、そうだね!」

歩夢「おー♪」


私たちは夜に備えて、野営の準備を始めるのだった。



897 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:09:24.82 ID:ropYqdR40

    🎹    🎹    🎹





──テントを張り、野営の準備が出来る頃には、


侑「雨、止んだね」

歩夢「うん♪」


雨はすっかり止んでいた。

時刻的には、もうそろそろ夕方くらいかな。

西の空の雲の切れ間から──夕日が差し込んできて、湖面を赤く染めている。

そんな幻想的な風景を横目に、歩夢が食事を作ってくれている真っ最中だ。


歩夢「よし……! 後は、しばらく煮込めばシチューの完成だよ♪」

侑「歩夢のシチュー、おいしいから好きなんだよね♪ もう待ちきれない〜♪ ちょっと、味見しちゃダメ?」

歩夢「ダメだよ? シチューはちゃんと煮込んであげた方がおいしくなるんだから」

 「シャーボ」
侑「ほら、サスケも待ちきれないって!」

歩夢「もう……侑ちゃんもサスケも食いしん坊なんだから……。でも、完成するまで待っててね? せっかく食べてもらうなら、おいしく出来たものを食べて欲しいもん」

侑「うぅ……わかった……」
 「シャボ…」


空腹でお腹がぐーぐー鳴っているけど、完成するまで我慢我慢……。

私とサスケがシチューの完成を今か今かと待ち構えている中、


 「イブイ♪」


イーブイは夕日を反射して光るクリスタルレイクを、キラキラとした目で眺めていた。


侑「イーブイ、湖もっと近くで見る?」
 「イブィ♪」


訊ねるとイーブイは嬉しそうに鳴きながら、湖に向かって駆けだしていく。

ご飯が出来るのを眺めていたら、余計にお腹が空きそうだし、私もイーブイと一緒に近くに行ってみようかな。


侑「ちょっと行ってくるね」

リナ『私も付いてく』 || > ◡ < ||

歩夢「うん、行ってらっしゃい」


歩夢に見送られながら、私ははしゃぐイーブイを追いかけて、湖畔へ向かう。


 「イブイ、ブイ♪」
侑「ふふっ♪」


嬉しそうにはしゃぐイーブイを見ていると、なんだか私も嬉しくなってくる。

さっきまで湖からは少し離れた場所で、テントの設営をしていたけど……こうして近くに寄ってみると、クリスタルレイクの湖畔は思ったよりも凸凹としていた。
898 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:10:06.41 ID:ropYqdR40

侑「思ったよりも歩きづらい……」

リナ『この辺りは野生のイワークが地中を掘り進んでるから、イワークの通った後の地面が盛り上がって凸凹になることがあるらしいよ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「へー、イワークがいるんだ」

リナ『クリスタルレイクの地下にはイワークが掘って出来た洞窟があるんだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「あ、もしかして……クリスタルケイヴ?」

リナ『正解! リナちゃんボード「ぴんぽーん!」』 ||,,> ◡ <,,||


クリスタルレイクの地下には、大きな洞窟があるというのは有名な話だけど……イワークが掘ったものだったんだ。


リナ『だから、たまに丘の上まで顔を出すイワークを見られるらしいよ。基本は地下を掘り進んでるから、丘の上で会えるのは稀だけど』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「せっかくだから、出て来てくれないかな……!」

リナ『イワークにとっては地中を掘り進むのは食事みたいなものだからね。狙って会うのはなかなか難しいかも』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


イワークは土や岩石を食べるポケモンだから、食べ進んでいる間に、地上に出て来てしまうということらしい。

──そこでふと思う。


侑「イワークが顔を出した場所って、穴になってるのかな?」


あの太い、いわヘビポケモンが顔を出したら、そこはきっと大きな穴っぽこになるよね……?


リナ『うん。その穴がクリスタルケイヴへの入り口になるんだよ。丘の上から入る人は滅多にいないけどね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「確かに、地下からここまで上ってきた穴だと、すごい勾配になってるだろうしね……」


もはや縦穴みたいになってるかもしれない……。


リナ『……あ、侑さん。歩夢さんからメッセージ。シチュー出来たって』 || > ◡ < ||

侑「やった♪ すぐ戻らないとね! イーブイ! 戻るよー!」

 「イブイ」


私が呼び掛けると、水辺で遊んでいたイーブイが私のもとへと駆け出してくる。

私もイーブイを迎えに歩き出す。

──さて、ここは非常に凸凹した地形になっているためか、起伏に隠れて見えづらくなっているものがある。

それは──穴だ。イワークが顔を出したために出来た……大きな縦穴。

角度的に、私にも今の今まで全く気付けなかった位置に、大きな穴が空いていた。そして──それは、今まさにこちらに向かって駆けてくる、イーブイの進路上にあった。


侑「……!? イーブイ、ストップ!?」

 「ブイ?」


イーブイが私の声に気付いて、ブレーキを掛け──ギリギリ、穴の手前で止まってくれた。


侑「せ、セーフ……」


あのままだと絶対に落っこちていたに違いない。早く迎えに行ってあげないと……。

私は穴を迂回するように、駆け出す。

そんな私の姿を見て、自分の行き先に何かがあることに気付いたイーブイは、自分の足元を覗き込むようにして、身を乗り出す。


 「ブ、ブィィ!!?」
899 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:10:46.56 ID:ropYqdR40

そこでやっと、自分の目の前に縦穴があることに気付いたらしい。

ただイーブイは、急に視界に入ってきた奈落に驚いてしまったのか、逃げるように踵を返す。

だけど、それが却ってよくなかった。

雨が降った直後の湿った岩で──イーブイが足を滑らせた。


 「ブイッ!!!?」

侑「!? イーブイ!?」


イーブイはずるりと足を滑らせて──その身が投げ出される。

もちろん──縦穴の真上に。


 「ブ、ブィィィィ!!!!?」


イーブイが重力に従い、縦穴に吸い込まれていく。


侑「イーブイッ!!!」


そこからは、身体が勝手に動いていた。


リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||


私はイーブイの落ちた縦穴に、自ら飛び込んでいた。

──風を切る音と共に、私は猛スピードで穴を真っすぐ落ちていく。


 「ブ、ブイィィィ!!!!」
侑「イーブイッ!!!」


真っすぐ自由落下しながら──私は、イーブイに手を伸ばす。

空中でどうにか掴んで手繰り寄せ──そして、抱きしめる。


 「ブイ、ブイィッ!!!!」
侑「っ……!!」


もちろん、イーブイを抱き寄せても、落下は終わらない。

猛スピードで、縦穴を真っすぐ落ちながら、私はイーブイをぎゅっと抱きしめる。


侑「イーブイ……! 私がいるから……!」
 「ブ、ブィィッ…」


不安げに鳴くイーブイを抱きかかえたまま──私たちは奈落へと落ちていった。





    🎹    🎹    🎹




 「ブイィ…」
侑「……生きてる」


とんでもない高さを真っ逆さまに落ちたのに、何故か私たちは無事だった。

薄暗い空間の中で仰向けになっている私の視界のずーっと先には、小さな穴の先に夕焼け空が見える。

私たちが今しがた落ちてきた縦穴だろう。

私はゆっくりと身を起こす。
900 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:11:24.72 ID:ropYqdR40

 「ブイィ…」
侑「よしよし、怖かったね……もう、大丈夫だよ」


ぶるぶると震えるイーブイを優しく撫でながら、声を掛ける。

相当びっくりしたに違いない。

しばらく抱きしめていたら、イーブイは次第に落ち着いてくる。


 「ブイ…」
侑「怪我してない?」

 「…ブイ」


訊ねると、イーブイは首を小さく縦に振る。


侑「よかった……」


もう一度ぎゅっと抱きしめる。

本当にイーブイが怪我しなくてよかった……。


侑「それにしても……これだけの高さから落ちて、よく無事だったね、私たち……」
 「ブイ…」


座ったまま、周囲を確認する。

縦穴を落ちてきただけあって、完全に洞窟内だけど……かなり狭い通路のような場所──恐らくここもイワークの通った道なんだろう──で、周囲には何やらキラキラとした粉のようなものが舞っている。

そして、私のお尻の下には──何やら白くてぶよぶよしたものがあった。


侑「これが、クッションになって助かったみたいだね……。でも、なんだろ、これ……」
 「ブイ…?」


手で押してみると、強い弾力性があって押し返してくる。


侑「うーん……?」


全く見当も付かず、頭を捻っていると──


リナ『──侑さーん……!』


真上からリナちゃんの声が聞こえてきた。


侑「リナちゃん!」

リナ『よかった、侑さん無事だった……』 || > _ <𝅝||

侑「うん、これのお陰で助かったみたい」


私は自分たちの真下にある、白いぶよぶよを指差す。


侑「これ、なんだろ?」

リナ『これは……キノコの一種みたい』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「キノコ……? じゃあ、周りに漂ってる粉みたいなのは……」

リナ『たぶん胞子』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「どうしてこんなところにキノコが……?」

リナ『クリスタルケイヴは、ネマシュの生息地だからだと思う。たぶんここは、ネマシュたちの巣だよ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「なるほどね……お陰で助かったよ……」
 「ブイ…」
901 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:12:28.18 ID:ropYqdR40

私たちはどうやらネマシュたちに救われたようだ。


リナ『でも、このままここにいると、眠らされて養分にされる』 ||;◐ ◡ ◐ ||

侑「それは困るね……」


とりあえず、早く移動した方がよさそうだ。

そう思って、腰を上げたちょうどそのとき、


 「──侑ちゃーん!! 大丈夫ー!?」


遥か上の方から、歩夢の声が聞こえてきた。


リナ『あ、そうだ……歩夢さんに侑さんとイーブイが穴に落ちちゃったってメッセージ送ったんだった』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「それで様子を見に来てくれたんだ……。──歩夢ー!! 私たちは無事だよー!!」


上に向かって、叫び返す。


歩夢「──よかったー!! 私たちも、他の入り口から、クリスタルケイヴに入るねー!!」


侑「わかったー!! 図鑑のナビを使って、どうにか合流しようー!!」


歩夢「うーん!!」


とりあえず、歩夢に無事を伝えることは出来たから、今は移動だ。

ぶよぶよのキノコの上を、イーブイを抱えたまま歩き出す。


リナ『とりあえず、奥に行けば開けた場所がある。夜の虹の場所辺りで合流するのがいいと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「夜の虹って……確か、クリスタルケイヴの名所だよね」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「わかった、そこを目指そう」

リナ『了解! ナビするね!』 ||,,> ◡ <,,||


リナちゃんが先導する形で前を飛ぶ。


侑「……それにしても、ネマシュたちの巣って言う割に、姿が見えないね」

リナ『ネマシュやマシェードは夜行性だから、日中は暗い洞窟内で過ごして、日が沈み始めると16番道路の方に出ていくみたい。全くいないわけじゃないと思うけどね』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ってことは、もうそろそろ夜ってことだね……」


私たちが落ちたときに夕方だったから、考えてみれば当たり前だけど……洞窟内だと外からの光がないから、時間の感覚がなくなってくる。


リナ『そろそろ、夜の虹がある場所に出るよ』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんの案内通り、細い通路を抜けて、開けた空間に出る。

そして、その空間の天井には──


侑「わぁ……!」


大きな水晶で出来た天然の水槽があった。

これが夜の虹の一つ──クリスタルケイヴの大水槽だ。

まだ、ケイコウオたちが光り出す時間になっていないのか、水晶の天井の向こうで何かが泳いでいる影が見える程度だけど……。

迫り出すような形で圧倒的な存在感を示している、巨大な水晶の水槽だけでも、十二分に迫力があった。
902 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:13:39.26 ID:ropYqdR40

侑「確かに、これはすごいかも……」
 「ブイィ♪」


さらにこれが七色に光るんだと想像するだけで──なんだか、ときめいてきた。


リナ『ここで歩夢さんと合流しよう。歩夢さんにここの座標を送っておくね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん、お願い」


ここで歩夢を待つわけだけど……もうかなり日も暮れているだろうし、そろそろ夜の虹の時間になっちゃうかな……?

私たちのせいで、湖畔の夜空は見られるか怪しいけど……せめて、夜の虹は歩夢と一緒に見たいな……。

歩夢が来るまで、夜の虹が視界に入らない場所で待っていようかな……などと考えていた、そのとき──トントンと肩を叩かれた。


侑「? リナちゃん、どうかしたの?」


私が振り返ると、


 「メシヤァ〜〜〜〜〜♪」

侑「わぁーーーーっ!!?」
 「ブイッ!!?」


目の前に急にポケモンが現れて、思わず声をあげながら尻餅をつく。


侑「え、な、なに……!?」
 「ブイ…?」

 「メシヤ〜〜〜♪」


そのポケモンは私が驚いている姿を見ると、満足げに笑い、飛び去ってしまう。


侑「い、いつの間に私の背後に……?」


気配とかも何もしなかったし……ホントに急に現れた気がするんだけど……。


リナ『今のは、ドラメシヤだね』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ど、ドラメシヤ……?」


先ほど見たポケモンの名前は、ドラメシヤと言うらしい。

緑色のボディに、特徴的な角と、ニョロッとした尻尾を生やして、空を飛んでいた。

いや、飛んでいた……というか──


 「メシヤ〜〜」「ドラメシ〜」「メシヤ〜〜〜」


気付けば、この空間内がドラメシヤだらけだった。


侑「わ、わぁ!? な、なにこれ!?」
 「ブ、ブイ」

リナ『確かにここはドラメシヤの生息地だけど……これだけ大量発生してるのは珍しい』 || ╹ᇫ╹ ||

リナ『ドラメシヤ うらめしポケモン 高さ:0.5m 重さ:2.0kg
   古代の 海で 暮らしていた。 ゴーストポケモンとして
   よみがえり かつての すみかを さまよっている。 1匹では
   非力だが 仲間の 協力で 鍛えられ 進化して 強くなる。』


そういえば、さっきもここは、大昔に海だったって言ってたっけ……。
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