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【デレマス】木漏れ日の少女【高森藍子】
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8 :
◆xMUmPABXRw
[sage saga]:2022/11/20(日) 23:31:07.99 ID:9uqUO5PB0
ある時の握手会で思った以上の来客があった。
彼女は握手会でもファンとひとりひとり向き合い、穏やかに話をすることを好む。
だが、今回は会場を借りていられる時間はあまり長くない。
いつもより少し駆け足でファンに応対していたが、予定時間を大幅に超過する結果となった。
主催者からこっぴどく叱られた後、帰りの車中で待っていた彼女は申し訳無さそうに謝ってきた。
そこまでは予想できた。
何とか彼女に、ファンは喜んでくれたから気に病まないでほしいと告げたが、返ってきたのは予想外の答えだった。
9 :
◆xMUmPABXRw
[sage saga]:2022/11/20(日) 23:31:57.04 ID:9uqUO5PB0
「私にもっと人気があれば、もっとアイドルとしての力があれば……」
こういったことはあまり話をしたことがなかった。
歌やダンス、表現力のトレーニングで「できないと諦めたくない」と負けん気を見せるのとは、また少し違った意味での、願い。
「私、どんな小さな芽も取りこぼしたくないんです。
もっともっと、ファンの皆さんに優しい気持ちになって欲しい」
どうなりたい、どうありたいと言うことをあまり口に出すことはなかったと思う。
だけど今、高森藍子は自分がどんなアイドルになりたいかを、語ろうとしていた。
10 :
◆xMUmPABXRw
[sage saga]:2022/11/20(日) 23:33:02.75 ID:9uqUO5PB0
「どんなにたくさんお話をしても、どんなにたくさんの人達を迎えても、どんなに長い時間LIVEをやっても、怒られないようなアイドルに……なりたいです」
「それは、大変なことだよ。今よりもっともっと人気が出ないとね」
思わず一般論を口にしてしまったが、ミラー越しに見える彼女の表情は、今までにないほど穏やかだった。
「分かっているつもりです。でも私、歩くのはゆっくりですが、決めた道は必ず最後まで歩いてきました」
穏やかで優しいだけではない、ゆったりとした暖かさだけではない。一度決めたことは必ずやり通すという強い決意。
それはまるで、一本の大樹のような逞しさを感じさせる。
「いつか、ファンの人達と、終わることのないLIVEをしたいです。プロデューサーさん」
11 :
◆xMUmPABXRw
[sage saga]:2022/11/20(日) 23:33:39.01 ID:9uqUO5PB0
一呼吸。
12 :
◆xMUmPABXRw
[sage saga]:2022/11/20(日) 23:34:10.38 ID:9uqUO5PB0
「一緒に、歩いてくれますよね?」
それは、彼女をアイドルの道に誘った責任であり、同時に新たな光を見つけた希望でもある。
「もちろんだよ」
短い言葉でしか応えることができなかったが、ミラーに映る彼女は、嬉しげに微笑んでいた。
13 :
◆xMUmPABXRw
[sage saga]:2022/11/20(日) 23:34:44.50 ID:9uqUO5PB0
その日から、何かが変わったというわけではない。
彼女は今までと同じようにゆっくりと、今までも同じように着実に、アイドルとして輝き続けてきた。
そして迎えた何度目かのソロLIVE。
今日は奇しくも7月25日。彼女の誕生日LIVEである。
だからということもあり、いつもより大きな会場に、いつもより長い公演時間を確保できた。
14 :
◆xMUmPABXRw
[sage saga]:2022/11/20(日) 23:35:21.22 ID:9uqUO5PB0
「少しずつ、大きな樹になっていくんですね」
彼女は感慨深げに呟く。
「うん。だけど、もっともっと大きな樹にしたいね」
いつの頃からか、彼女は自分とファンたちをひとつの樹に例えるようになった。
彼女にとって、仲間も、友だちも、ファンも、いや、目に映るものもそうでないものも、全ては取り零したくない大切なものだという。
全てを穏やかに包んで、全てに暖かく優しい気持ちを注ぐ。
「行っておいで」
「はい♪」
ステージに向かう彼女を見送りながら、これまでのことを振り返る。
15 :
◆xMUmPABXRw
[sage saga]:2022/11/20(日) 23:35:51.46 ID:9uqUO5PB0
高森藍子は、穏やかで暖かい、木漏れ日のような少女だと思っていた。
今思えば、少し違う。
16 :
◆xMUmPABXRw
[sage saga]:2022/11/20(日) 23:36:24.97 ID:9uqUO5PB0
高森藍子は、穏やかで暖かい、木漏れ日をもたらすアイドルなのだ。
17 :
◆xMUmPABXRw
[sage saga]:2022/11/20(日) 23:36:58.07 ID:9uqUO5PB0
大きく枝を伸ばし、広く大きな葉をつけて、樹の下に憩う人々に優しい陽射しを注ぐアイドル。
幕が上がり、ファンたちの歓声が上がる。その光景を眺めながら、ひとり思う。
(彼女の夢を、もっと大きな世界に届けることが出来ますように……)
それは誓いだった。何よりも優先すべき、二人の約束。
(ただ、今は少しだけ浸っていよう……)
ステージの上で優しく歌う高森藍子の姿に、誰よりも癒やされていく自分自身を感じながら、ただ静かにステージを眺めるのだった。
18 :
◆xMUmPABXRw
[sage saga]:2022/11/20(日) 23:38:59.20 ID:9uqUO5PB0
おしまい。
ずっと前に、高森藍子ちゃんの魅力を教えてほしいとTwitterでお願いした時に
お勧めしてもらったコミュから感じた、自分の中での藍子ちゃんのイメージの変遷を書きました。
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