結束バンド vs 放課後ティータイム

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1 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:10:51.70 ID:B6sMWGUH0
ひとり(ぼっち)「バッ……バッ……バンドバトル……ッ!?」


虹夏「そっ。いくつかのライブハウスが合同で開催する企画でね、高校生以下限定のコンテストだよ。STARRYも共催で参加するから、私達も出場しない?」

リョウ「いいね。競い合うのはいい刺激になる。私逹の名前を売るいい機会にもなるし」

喜多「学生バンドが集まるなんて楽しみ!同じ趣味の友達が増えるかも!ねっ、ひとりちゃん」

ぼっち「  ひあ
                       うお
 へえあ
            うにえ
         えあ
                   んげ」

虹夏「ぼっちちゃんがいつものゴチャ顔に!」

リョウ「まあそうなるだろうと思った」

喜多「ひとりちゃん人間福笑いしないでー」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1675077050
2 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:13:29.06 ID:B6sMWGUH0
ぼっち「むむむむむむむりです大会なんてそそそそそそんなの私にはむむむむむむむむりむりむりむりむり!」

虹夏「ガチガチの勝負ってわけじゃないよ。あくまでアマチュア学生バンドが集まるだけだから」

リョウ「若い世代にバンドに興味を持ってもらうのが目的ってところか」

ぼっち「でっ、でもでも、先週ようやく文化祭が終わったばっかりなのにまた大勢の前でやるなんて……」

喜多「ひとりちゃん、挑戦してみようよ!いい経験になるし、もしかしたら優勝しちゃうかもよ!」

ぼっち「い、いや……でも……」

 ぼっち(私以外の高校生バンドなんて文化祭で目立ちたいだけの陽キャばっかりに決まってる!見に来るのだって仲間のパリピばっかり!そんな中で演奏なんて分子レベルで消滅してしまうぅ〜!)
 ※個人のイメージです

虹夏「ちなみに優勝賞金は50万円です」

ぼっち「50っ……!?……ご、50万あればそれを元手に株に投資して億万長者に……そして学校中退!人生逆転ホームランッ……!」ニヘラ〜

リョウ「絶対優勝しよう。私達の命に賭けて」グッ

虹夏「現金な連中め」

喜多「ひとりちゃんのギターならきっと勝てるわよ!ひとりちゃんすっごく上手いから」

虹夏「んー、たしかにぼっちちゃんが実力を発揮できたら優勝も夢じゃないかも」

リョウ「ぼっちのギターテクは超高校級だからね」

ぼっち「でへへへへへ、そっ、そおですかねえ〜、そんな褒められちゃあ悪い気しないなあはははは〜」フニャフニャ

虹夏「いつか詐欺にカモられそうで心配だよ」
3 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:14:21.53 ID:B6sMWGUH0
リョウ「虹夏、大会について詳しく教えて」

虹夏「開催場所は新宿FOLTで、参加資格があるのは高校生以下の学生。お昼に一回戦が行われて、審査員の得点が高い上位三組が夜に行われる決勝戦に上がれるんだよ。ちなみに一回戦も決勝も三曲ずつ演奏します」

リョウ「漫才−1グランプリみたいな形式」

喜多「FOLTってSICK HACKのライブを見に行ったライブハウスですよね。開催日はいつなんですか?」

虹夏「一週間後だよ」

ぼっち「いっ、いいいいいいっしゅうかんご!?あ、あと七日しかないなんて……こ、こここ心の準備が……」

虹夏「私もお姉ちゃんに教えてもらったのつい昨日でさ。でも全国規模の企画じゃないし、そんなに気負わないで大丈夫だよ」

喜多「それでも東京近郊のバンドが集まると考えたら競争率高そうですよね」

リョウ「同年代、あるいは年下なのにめっちゃ上手い人にコテンパンにされて自信喪失するかも」

ぼっち「」

虹夏「リョウ!ぼっちちゃんを脅さないでよ!」

リョウ「大丈夫だよぼっち。“天地本寛而伏竜鳳雛(てんちほんがんにしてふくりょうほうすう)”という言葉がある。世の中は広く、すごい人はいくらでもいるって意味。私らなんかよりすごいバンドはごちゃまんといるんだから、負けても気にすることないよ。負けて当たり前。絶対負ける。負けた」

ぼっち「(。д゚)」

虹夏「戦う前から心をへし折るな!」

喜多「でもリョウ先輩の言う通りですよ。勝ち負けにこだわらず、私逹のベストを尽くしましょう!」

虹夏「うんっ!そうだね!よーし、同年代のロッカー逹に結束バンドの音楽を見せつけてやろー!」

 リョウ「おー」

 喜多「おーっ!」


ぼっち「。( д ) ゚」
4 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:15:06.58 ID:B6sMWGUH0

 〜一週間後〜

 ――新宿 FOLT――


 \ワアアアアアアァァァァ!/ \FOOOOOOOO!/ \YEAAAHHHHHHH!/


虹夏「わー……すごい入りだね」

リョウ「こりゃ運営はウハウハだろうな」

喜多「それよりなんで私達もお客さんと一緒にフロアにいるんですか?参加者なんだから控え室にいるべきじゃあ」

虹夏「詳しくは知らないんだけど誰かさんが酔っ払って暴れたせいで控え室工事中なんだって。舞台の順番が来るまではお客さんと一緒にフロアで待っててってさ」

喜多「あー……まあ色んなバンドの演奏見れると思えばラッキーかもですね」

虹夏「だね。それにしてもこないだの文化祭ほどじゃないにしろ、これだけのお客さんの前でやると思うとさすがに緊張するね」

リョウ「しかもお客は参加バンドのファンやロック好きばかりだから目は肥えてる。いや、耳か」

喜多「じゃ、じゃあ半端な演奏したら暴動が起きるかも……」

リョウ「あり得る。弱小バンドがしゃしゃってんじゃねーって炎上する可能性が」

虹夏「ちょ、ちょっと二人とも!そんなおっかないこと言ったらぼっちちゃんが――」

   「
        ち
 ぼ
          」
  っ

虹夏「ほらー、壊れちゃったじゃん!」

喜多「ご、ごめんなさい!ひとりちゃん復活して!リョウ先輩、ひとりちゃんの崩れたパーツ拾うの手伝ってください」
5 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:15:39.32 ID:B6sMWGUH0
虹夏「これ、タイムテーブルだよ。私逹は中盤辺りだね」

リョウ「うむ、やはり私逹のバンド名が一番面白い。勝ったな」

喜多「目を引くのは確かですね」

虹夏「いつか改名しようと思ってたけど、もう今更変える気なくなっちゃったよ。心なしかちょっとカッコイイって思えるようになった気が――」


 「なあなあ、タイムテーブルに載ってるこのバンド見て見て。『結束バンド』だって。おんもしろい名前だな!」

 「ぷふっ……ってコラ!本番前に笑わすな!」

 「変わった名前よね。コミックバンドなのかしら」

 「私達のバンド名も似たようなもんですけどね……」


虹夏「……やっぱりウチの名前ってカッコ悪いのかな……」

喜多「わ、私は個性的でいいと思います!」

リョウ「他にはないオンリーワンこそロック」
6 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:16:24.54 ID:B6sMWGUH0

 <♪〜

喜多「あ、私逹の番、次の次ですよ。そろそろ舞台袖で準備しないと」

虹夏「よしっ、みんないくよ!」

リョウ「会場をギャフンと言わせようぜ」

喜多「いきましょ!ひとりちゃん!」


ぼっち(どどどどどどどどどどどどどうしよよよよよよよよ)

ぼっち(こここここんな大勢のバンドファンの前で演奏するなんて絶対無理無理無理!)

ぼっち(私みたいなクソザコナメクジがギター弾いてたらトマト投げつけられる!SNSで『ヘタッピのクセにドヤ顔でイキり散らかしてる陰キャ発見』って晒される!一生ネットの海で笑いものにされ続けるうぅぅぅ!)

ぼっち(お腹痛いってことにして棄権するしかない!もしくは5人以上に見つめられると溶けちゃう病ってことで勘弁してもらおう!)


ぼっち(で、でも……この一週間、虹夏ちゃんやリョウさんや喜多さんもすっごく頑張ってた……このバンドバトルで結束バンドの名を広めるんだって……)

ぼっち(……や……やっぱり……出るしかないっ……棄権なんてダメだ……やるしかないっ……!)


ぼっち(……だ、だけどこのまま出るのはやっぱ無理ぃ〜!……な、なにかいい方法は……!)

 <チラ

ぼっち(……!…………これだ……これしかない!)
7 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:17:04.24 ID:B6sMWGUH0
銀二郎(司会進行)「――というわけで、ただいまのバンドは『ペナルティキックオールディーズ』でした〜!次のバンドは下北からの刺客、『結束バンド』よー!Let's Rock!」


 <ザッ!

 \ッ!?……/ \ザワザワ……/ \エ……ナニアレ……/


虹夏「……」

リョウ「ププフ……くっ……」プルプル

喜多「……え、えーっと…………け、結束バンドでーす……」

 \ザワザワ……/ \ドヨドヨ……/ \マジヤバクネ……?/


ぼっち(よし!これならカンペキ!)

 ぼっち(目だし穴を空けた紙袋を被って顔バレ防止!これでネットに動画挙げられても身バレしない!しかも外が見づらいから緊張も抑えられる!)

  ぼっち(背中には『Kick me(私を蹴って)』と書かれた張り紙!最初から低姿勢なら叩かれにくいハズ!)

   ぼっち(そして礼儀正しいお辞儀作法!)ペコリ

ぼっち(これぞ完全犯罪!炎上防止完全武装!後藤ひとり決戦仕様だ!)バーン


 「あっははははは!やっぱおもしろいバンドだったー!」

 「な、なんかちょっと怖い……かも……」

 「なるほど!仮装しながら演奏することで目でも耳でもみんなを楽しませようとしてるのね」

 「絶対違うと思います」
8 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:17:38.93 ID:B6sMWGUH0
虹夏「ぼっちちゃん……完熟マンゴーから進化したと思ったけど……ある意味退化しちゃってるよ……」

リョウ「くふふっ、やっぱりぼっちこそ最高のロッカーだ」プルプル

喜多「み、みなさん色々と思うところはあると思いますが、と、とにかく聴いてください!1曲目、私達のオリジナルで『忘れてやらない』」


 <カッカッカッカッ

 <♪♪♪♪♪♪♪ ♪♪〜♪〜♪♪♪〜


  <おっ、けっこういいじゃん

 <ふざけてるのかと思ったけどギター上手いな

    <油断させて実はスゴイってスタイルなのか

喜多(やっぱりひとりちゃん、すごく上手い。お客さんもみんなビックリしてる)

喜多(そうよ。ひとりちゃんはカッコイイんだから。ちょっと奇抜な言動取ることもあるけど、誰よりもギターが上手いんだから!)

喜多(ひとりちゃんはすごいってことを、この場にいるみんなに見せて――)


ぼっち「ンぼヒィッ!」ゴシュッ

喜多「ひとりちゃん!?」

虹夏(紙袋が口にひっついて呼吸が!)

ぼっち「ボシューボシュー」ガクガク

虹夏(か、辛うじて息できてるけどギリギリだー!)

ぼっち「ンギッ……ヒヒュッ……ヒヒュッ」ガクガク
9 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:18:12.04 ID:B6sMWGUH0
 〜ソレカラドシタノ〜

ぼっち「 _(:3 」∠)_ 」

虹夏「ぼ、ぼっちちゃ〜ん。そんな落ち込むことないってー」

喜多「そ、そうそう。あんなトラブル想定出来なくて当然だし、自分を責めないで」

リョウ「ほら、ぼっち。お菓子あげるから元気出せ」

ぼっち「私は貝になりたい……」

虹夏「こりゃしばらくは凹みモードだね。時間が癒やすのを待つしかないかー」

リョウ「この後どうする?私達はほぼ間違い無く一回戦落ちだし」

ぼっち「ガッ」

虹夏「もーリョウ!死体蹴りはマナー違反だよ!」

ぼっち「…………あの……私……先に帰ります……夜風に当たりながら……己の罪を省みますので……」

虹夏「そ、そう。じゃあ私達も――」

ぼっち「い、いえ……皆さんは他のバンドを見てってください。私なんかに気を遣うことないです……それでは……」フラッ

虹夏「あっ、ぼっちちゃん――……大丈夫かなあ」

喜多「今は一人になりたいみたいですし、そっとしておきましょう」

リョウ「だね」
10 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:18:50.37 ID:B6sMWGUH0
銀二郎「――ただいまの演奏は海外の小学生バンド『スクールオブロック』でしたー!」

 \ワー!/ \パチパチパチ/ \サイコー!/

虹夏「今のバンドもめっちゃ良かったね!ザ・ロックって感じで!」

喜多「ですね!お客さんの反応も上々でしたし、決勝進出しそうです」

リョウ「そろそろタイムテーブルも終盤だね。虹夏、次のバンドはなんて名前?」

虹夏「えーなになに、次のバンドは――」


銀二郎「さぁーーーて次のバンドは!桜が丘高校の軽音部、その名も『放課後ティータイム』のステージよ!Let's Rock!」


律「どうもー!放課後ティータイムでーす!今日は私達のために集まってくれてありがとー!」

澪「いや単独ライブじゃないから!」

律「はい、今ツッコミ入れたのがベースの秋山澪でーす。で、私がドラムスの田井中律っ。天才ドラマーのりっちゃんって呼んでくださーい!」

澪「図々しいこと言うなっ!」ゴチン

 \ハハハハ!/ \イイゾー!/

律「えー、それからキーボード担当の琴吹紬!ウチの楽曲製作に欠かせない縁の下の力持ちでーす!」

紬「むん」フンス

 \カワイイー!/ \カネカシテクレー!/

律「そしてギターを担当するのが中野梓!ちょっとマジメすぎるけど背伸びして頑張ってまーす!シークレットシューズ購入を検討中でーす!」

梓「ちょっ!律先輩ヘンなこと言わないでくださいよ!」

 \ガンバレー!/ \ヤッテヤレデス!/
11 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:19:32.79 ID:B6sMWGUH0
虹夏「なんだかコミカルなバンドだなあ」

喜多「なんとなく親近感湧きますね」

リョウ「放課後ティータイム……私達と同じお笑い路線の強力なライバル出現か」

虹夏「いやお笑い路線じゃないから私達」


律「そんじゃ早速ですけど一曲目聴いてください。『ふでペンボールペン』!」

 <1ッ,2ッ,3ッ

 <♪〜♪〜♪〜♪♪〜♪♪♪♪〜 ♪♪〜 ♪♪♪♪〜


喜多「わあ……いい曲ですね」

虹夏「あれ?……でもこの曲……」

リョウ「うん、わざと違和感残してる」
12 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:20:22.12 ID:B6sMWGUH0
 ♪――……

律「――……『ふでペンボールペン』でしたー。えー、みなさん、なんかヘンだぞって気付いてると思うんで説明しますね」

律「実は私達、ホントはメンバー5人でツインギター体制なんですけど、ギター担当が一人迷子になっちゃいまして〜」

 \エッ……?/ \ドヨドヨ……/ \マイゴ……?/

律「ホントは梓だけで……ギター一人構成もいけるんですけど、ムギがどーしても譲らないって言うんで、いつもの構成で一人欠けた状態で演奏しました。ウチのキーボード頑固なんで」

紬「えへへ〜」ブイ

澪「ムギここ別に勝ち誇るとこじゃない」


喜多「……つまり、いない人の席を空けたまま演奏してたってこと?」

虹夏「友達想いなバンドだね」

リョウ「変わり者とも言える」


律「とまあ、ちょっと聴き苦しいところもあるかもしれませんが、これが私達放課後ティータイムなんで、そこんとこヨロシクー!」

 \ウオオオーーー!/ \イイゾー!/ \ガンバレー!/

律「そいじゃあ次も私逹のオリジナル、『ぴゅあぴゅあハート』いきまーす!」


喜多(……バンドバトルで勝つことよりも、自分達のやり方を貫いたんだ…………なんか……カッコイイな……)
13 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:21:01.84 ID:B6sMWGUH0

 ――……

ぼっち(はあぁ〜〜〜……やってしまった……私みたいなミジンコ以下がいちびって覆面バンドやろうとしたせいだ……)トボトボ

ぼっち(考えてみればこんなカビ菌みたいな女がヘタクソな演奏したところで誰もネットに晒そうとしたりしないよね……自意識過剰だった……)

ぼっち(……当分みんなに合わせる顔がないなあ……いや、当分どころか一生顔向けできないかも……!)

ぼっち(も、もしかしたら……バンドから追放……ギアアあぁあAAAァァaaアぁAAあaアぁ!)



<……♪〜


ぼっち「!」


 <♪♪〜♪ ♪〜♪


ぼっち「?……ギターの音……?」


 <♪〜♪♪〜♪ ♪〜♪〜 ♪〜


ぼっち「あそこの公園からだ……だ、誰かがソロ弾きしてる……?」



唯「キミがいないとなにもできないよ キミのごはんが食べたいよ〜♪」
14 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:21:45.11 ID:B6sMWGUH0
ぼっち(や、やっぱり誰かブランコに座って弾いてる。高校生かな……なんでこんなとこで歌ってるんだろ……)


唯「んぅ?誰?」

ぼっち(ゲッ!見つかってしまった……ど、どうしよう……コミュ障は見知らぬ人ととの突然の会話に対応してないのに!)

唯「あっ!ギター!」バッ

ぼっち「……えっ?」ドキ

唯「それ、背中に背負ってるのギターだよね!ギターやるの?私もなんだ〜」グイィ

ぼっち「……え、えっと……」ヒキッ

唯「私もこのギー太と一緒に軽音部やってるんだー。ねえねえ、どんなギターなの?見せて見せて〜」

ぼっち「あっ……ぁの……ぇと……」

ぼっち(な、なんかすごいグイグイ来るぅ〜!コミュ力オバケだこの人ーっ!)
15 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:22:42.23 ID:B6sMWGUH0

 ――……

律「ふぃー、みんなお疲れ〜」

梓「やっぱり唯先輩がいないと物足りないですね」

澪「仕方ないさ。唯が電車乗り間違えたんだから。現地集合にしようって言いだした律にも責任がある」

律「うっ……だって集団でゾロゾロ行くより一人一人集結する方がカッコイイじゃん。なんてったって新宿だよ新宿!」スンズク

紬「まあまあ。無事にこっちに来てるって唯ちゃんから連絡もあったし、何事もなくてよかったわ」

梓「たぶんその辺でフラフラしてるんでしょうけど」


 ・ ・ ・ ・ ・ ・

銀二郎「さあ、たった今、採点が終了したわ。これから発表する3組が一回戦を突破して、決勝に進出よ。それじゃあ、発表するわね。決勝に進むのは――」


銀二郎「――以上の3組よ!夜の部の決勝戦は午後6時半から行われるわ。それまでの間、食事をするも良し買い物に行くも良し、でもこれだけは忘れないで。決勝を見逃したらきっと後悔するわよ。あ、それと今からサプライズゲストバストのステージがあるから、興味のある人は――」


 \ガヤガヤ/ \ワイワイ/ \ドヤドヤ/

虹夏「いやー、やっぱり一回戦落ちかー。それにしても他のバンドもレベル高かったねー」

リョウ「ぼっちのトラブルがなければ私達だって負けてなかった」

喜多「でもいい刺激になりましたよね!私ももっともっと頑張らなきゃってなりました!」

虹夏「だね。さて、この後どーする?せっかく新宿まで来たしどこか出かける?それとも――」
16 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:23:23.20 ID:B6sMWGUH0
律「ねっ!ねっ!ちょっといいかな」

虹夏「――はい?……あっ、あなたは確か放課後ティータイムの……」

律「おっ、見ててくれたんだ私達の演奏。ありがと!こっちも見てたよ、結束バンド!いやーよかったよーホント」

虹夏「えっ!ホントですか!?実は私達もみなさんの舞台見てスゴイなって言ってたんですよ」

律「おほーっ!嬉しいこと言ってくれるじゃあないの〜!いやー実はさ、私達同世代だしなんか親近感湧いちゃってさ。できれば友達になりたいなーって思って声かけたんだけど……」

澪「お、おい律!いきなりそんなこと言いだしたら迷惑だろ!」

虹夏「いえいえ!迷惑だなんてとんでもない!私達も同じこと思ってたんですよ。ねっ、喜多ちゃん」

喜多「はい!みなさんの音楽とメンバーへの想いに感激しました」キターン

紬「ありがとう。なんだか私達気が合いそうね♪」

喜多「キーボードのサウンドも魅力的でしたし、ギターの方もとっても上手くて尊敬しちゃいます」キタ〜ン

梓「えっ?……え、えへへへへ、そうですかぁ?えへへへへ」

律「ねえねえ、この後ヒマ?せっかくだから放課後ティータイムと結束バンドでどっか行かない?」

澪「りっ、律!」

虹夏「いいですねーそれ!」

喜多「是非みなさんとお話ししたいです!」

紬「私逹仲良くなれそうね」ヤッター

律「よーしそんじゃあみんなでライブ後ティータイムとしゃれこもうぜーっ!」

 虹夏&喜多&紬『おーーーっ!』


澪「あ……ああ……どうしてこんな流れに……私人見知りなのに……」

リョウ「ねえ」

澪「ひゃっ……は、はい……?」

リョウ「ハマグリと金目鯛どっちが好き?」

澪「…………助けて律ぅ……」
17 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:24:11.95 ID:B6sMWGUH0

 ――……

唯「おお〜!カッコいいギターだね」

ぼっち「あっ、ありがとうございます……つい先日買ったばかりなんですけど……」

唯「ウチのギー太も負けてないけどね」フンス

ぼっち(楽器に名前付けるってけっこうハジけてる人なのかな……)

唯「そういえば自己紹介してなかったね。私、桜高三年の平沢唯!」

ぼっち「あっ……秀華高校一年の、ご、後藤……ひとりです……」

唯「ひとりちゃんも軽音部?」

ぼっち「い、いえ、部活は入ってないけどライブハウスとかでバンドやってて……」

唯「へ〜!ライブハウス!本格派でカッコいいね!」

ぼっち「えへっ、そっ、そぉですかぁ〜?」フニャ

 ぼっち(やっぱり部活内でやってる人からすればライブハウスって遠い存在というか、ガチ感あって憧れあるんだろうな。こう見えて経験者ですし色々ご指導しましょうか〜?なんちゃってなんちゃって!えへへへへ)

唯「私達も去年の大晦日にライブハウスで演奏したんだけど、みんないい人で楽しかったよ」

ぼっち「調子乗ってすみませんッ……!」
18 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:25:02.93 ID:B6sMWGUH0
唯「ねえね、ちょっと二人で弾いてみよっか」

ぼっち「えっ」

唯「ひとりちゃんと一緒にギター弾いてみたくなっちゃった」

ぼっち「でっ……でもアンプも無いし……」

唯「そのまんまでいーよー。二人でやるのなんていうんだっけ、デュエル……?デュエリストだっけ?」

ぼっち「あっ……デュエットですか……?」

唯「そうそう!それそれ!コンビ名は平沢唯の『唯』と後藤ひとりちゃんの『ひとり』を合わせて……なんて読むんだっけ、ゆいいつみたいな」

ぼっち「……た……ただひとり……?」

唯「それーっ!私達ふたりのコンビ名は『ただひとり』でーっす!」ジャカジャン

ぼっち「い、いえーい……?」ジャキジャン

唯「それでは聴いてください。私達のオリジナルソングで『ごはんはおかず』!」

ぼっち「えっ、わ、私その曲知らない――」

唯「1、2、3、4、ゴ・ハ・ン!」ジャラジャジャジャラジャ

ぼっち(あっ、この人コミュ力高いとかじゃない。物怖じしないっていうかマイペースっていうか。コミュ力どうこうの次元じゃない……)
19 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:26:20.01 ID:B6sMWGUH0

 ――……

 ――とあるファミレス――

律「ということで放課後ティータイム&結束バンド交友会開催〜!」

虹夏「イエーイ!パチパチパチパチ〜」

梓「なんか二人とも既に仲良くなってますね」」

律「ドラム同士ウマが合うのかなー。それに引き換えベース組は……」

 リョウ「平井堅と島根県って似てるよね。でも志村けんの方が島根県に似てると思う」

 澪「うう……もう許して……」

律「ウマが全然合ってないカンジ」

虹夏「ウチのリョウがごめんなさい」

律「いや、ウチの澪も人見知りだから。高校三年間でちょっとはマシになったと思ったんだけどね」

虹夏「えっ!?……も、もしかしてだけど……みなさん何年生なの?」

紬「律ちゃんと澪ちゃんと私が三年生で、梓ちゃんが二年生よ」

虹夏「すっ、すんませんでしたぁーっ!てっきり同学年かと思ってたけど完全に後輩でしたー!ほら!リョウも謝って!ヤキ入れられるよ!」

リョウ「スンマセンっした。ナマ言ってました」ペコリ
20 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:26:56.22 ID:B6sMWGUH0
澪「い、いいから別に……」

律「ふふふ、くるしゅうないぞ」

紬「あの〜、ずっと気になってたんだけど、紙袋被ってたギターの人はどこに行ったの?」

虹夏「あー、ぼっちちゃんは一人の世界に浸りたいみたいだから、今はそっとしておいてあげてください」

梓「紙袋の人、ギターすごく上手かったですよね。途中から生きるのに必死になって演奏どころじゃなくなってましたけど」

喜多「中野さんもすっごく上手でしたよ。どれくらいギターやってるんですか?」

梓「私は親の影響で小学生の頃から」

喜多「小学生!?すごい!私なんかまだ半年経つかどうかってくらいだから、学年もギター歴もずっと先輩ですね」

梓「せ、先輩……私が……?」

喜多「中野先輩、是非ギターのご指導お願いします♪」

梓「え、えへへ……中野センパイ……えへへへへ」

紬「梓ちゃん陥落」

リョウ「演奏見てて思ったけど、レフティベースもかわいいですね」

澪「!……ほ、ほんと?」

リョウ「観賞用として欲しいくらい」

澪「!っそ、そうなんだ!なかなか売ってないけどその分魅力も倍増っていうか、一般的な形と違うところが惹かれるっていうか。あ、弾くのは私なんだけどね。ふふふっ」

リョウ「おおっ、急に饒舌に」

梓「澪先輩けっこう極端なトコあるんで」
21 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:27:42.13 ID:B6sMWGUH0
律「虹夏のドラムかっこよかったよ。二曲目にやった『星座になれたら』って歌、ドラム捌きいいなーって思ってたんだ」

虹夏「あっ、ありがとうございます。律さんもエネルギッシュな感じでした」

律「えっへへぇ、どもー」

梓「しょっちゅう走り気味になりますけどね」

律「中野ァ!」グリグリ

梓「あ”〜」グリグリ

喜多「はっ!……私もリョウ先輩を批判したらああいうスキンシップしてもらえるかも……!」

喜多「りょ、リョウ先輩!先輩のベースって周り見てない時ありますよね!」

リョウ「えっ、なんで急にケンカ売られてるの」

虹夏「リョウに律さんみたいなコミュニケーションテクを求めるのは酷ってもんだよ」

紬「りっちゃんは人の気持ちをくみ取るのが上手だから。男の子だったらきっとモテモテよ」

律「琴吹ァ!」スパーン

紬「あたっ、へへぇ、いったぁ〜」ニコォ〜

虹夏「なぜ嬉しそう」

喜多「!……りょ、リョウ先輩もいつも金欠で借りたお金返さないダメベーシストの典型だからきっと女遊びは上手いはずです!ヒモとして寄生して挙げ句の果てにボロ雑巾のように捨てられるんです!」

リョウ「えっ、なんで急に悪口言われてるの」
22 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:28:51.90 ID:B6sMWGUH0

 ――……

 <――♪〜……

ぼっち「……えと……ゆ、唯さん、お、お上手……ですね」

 ぼっち(言えない!あんまり上手くないですねなんて言えるわけない!)

 ぼっち(人に嫌われたくないが故に面と向かって批判的意見なんて絶対言えない!ただでさえ人からの好感度ゼロなのに嫌われてマイナスになんて絶対にしちゃダメだから!)

唯「ダメだぁ〜お腹が空いて力が出ないよ〜」ベチャア

ぼっち「へ?」

唯「ひとりちゃんお菓子持ってない?……今日は一度もお茶してないから……」ペコグゥ〜

ぼっち「お、お菓子……あっ、リョウさんからもらったのでよければ」ソッ

唯「おお〜〜〜!ありがとー!いっただきまーす!」

唯「おいしぃー!ムギちゃんのお菓子に負けないおいしさ!」モグモグ

ぼっち(そういえばリョウさんの家ってお金持ちって聞いたけど、高級なお菓子だったのかな。そ、そんなものをわざわざ頂いたのに人にあげちゃったなんて……)

 〜リョウ「ぼっちは私からのプレゼントなんていらないんだね……ヨヨヨ」(※イメージ)〜

ぼっち「アアアアアアアアア!ごめんなさいリョウさん!見捨てないでください見捨てないでください!」ギアアア!

唯「おお、なんかひとりちゃん昔のさわちゃんみたいだね」
23 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:29:26.88 ID:B6sMWGUH0
唯「はー、美味しかったぁ〜。よーしっ、一丁やりますか!」フンスッ

 <♪ッ♪♪ッ♪〜 ♪♪〜♪〜♪〜♪〜♪♪♪♪〜

ぼっち「!」


唯「なんでなんだろ 気になる夜 キミへの この想い便箋にね 書いてみるよ♪」

ぼっち(あれ……?……う、上手い……めちゃくちゃ上手い!……さっきまでとまるで別人みたいに……!)

唯「もしかして 気まぐれかも しれない それなのに枚数だけ 増えてゆくよ♪」

ぼっち(それに……なんだろう……私とも喜多さんとも違う感じ……もちろん練習してるんだろうけど、なんとなく感覚で弾いてるような、自然なメロディで……)

唯「ほら、ひとりちゃんも一緒に。これ楽譜だよ」スッ

ぼっち「あっ、はっ、はい」

唯「好きの確立割り出す計算式 あればいいのに♪」

ぼっち(……なんだか心が洗われるような……癒されるような……)

唯「キラキラ光る願い事も グチャグチャへたる悩み事も そうだホッチキスで閉じちゃおう♪」

ぼっち(唯さんって……不思議な魅力がある人だなぁ……)
24 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:30:10.26 ID:B6sMWGUH0
♪〜〜〜――……

唯「ふぃー、楽しかったぁ〜。二人だけで演奏っていうのもいいね」

ぼっち「あっ、ありがとうございます……」

唯「次はひとりちゃんのバンドの曲やってみようよ。楽譜ある?」

ぼっち「うえっ、あっ、は、はい」

唯「おお〜。譜面だけじゃよくわかんないや。とりあえずやってみよ」

ぼっち「え、と、とりあえずって……もっと読み込んだりしなくていいんですか?」

唯「うん。それじゃいくよー」

ぼっち「わ、あ、わっ」

 <♪ッ ♪♪♪♪ッ♪ッ♪ ♪〜

ぼっち(……やっぱり上手い……初めて弾く曲なのにどうしてこんなになめらかに……)

ぼっち(きっと……これが『才能』なんだ……天賦の才……それに何より――)


唯「♪〜」

ぼっち(唯さん……楽しんでギターを弾いてる……)
25 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:30:51.56 ID:B6sMWGUH0
 ――……

澪「リョウはどんなバンドが好きなんだ?私は藍坊主とか鴨川とかが好きだな。私達と音楽性は違うけど、カラっとしてて爽やかでさ」

リョウ「いいすね。私は女王蜂や銀杏BOYZみたいなハードなのも好き」

律「へー!リョウ銀杏好きなんだ。私も私も。でもゴイステの頃の方がいいって曲もあるよな」

リョウ「うん、『銀河鉄道の夜』は絶対ゴイステ版の方がいい」

律「私は175Rとかイナズマ戦隊とかも好き!元気ーって感じで!」

虹夏「おー!やっぱり私とりっちゃんさん趣味合う!モンパチとかジュンスカもいいですよね!」

律「そこまで遡るのアリならブルーハーツは欠かせなくなるでしょー!」

リョウ「80年代のバンドブームと00年代のロックシーンは作曲において多大なインスピレーションをもらえる。まさに金脈」

紬「リョウちゃん作曲やるんだ〜。私も〜」

喜多「ということは放課後ティータイムの曲って琴吹さんが書いてるんですね。いい曲ばっかりでステキでした」

紬「ありがと〜。でも私、若者に人気のバンドってあんまり詳しくないから、これでいいのかなって不安になることもあるの」

梓「ムギ先輩も若者でしょ」

リョウ「どの曲もめっちゃ良かったです。歌詞はちょっと胸焼けしそうですけど」

澪「えっ」
26 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:31:27.05 ID:B6sMWGUH0
喜多「結束バンドではリョウ先輩が作曲で、ひとりちゃんが作詞なんですよ。あの紙袋被ってたギターの」

律「あーあのヤベー子な。せっかくならあの子とも話してみたかったな〜」

澪「おい律!やべー子なんて言っちゃダメだろ!」

リョウ「こないだ文化祭で客席ダイブして床に激突した」

澪「やべー子だった」

紬「私達の学校ももうすぐ文化祭なの。最後の舞台になるだろうから、その前に少しでも思い出を増やそうってことで今日のバンドバトルに参加したのよ」

喜多「そっか、紬さん逹三年生は文化祭で引退なんですね。みなさんが卒業したら中野先輩一人になっちゃ――」

虹夏「き、喜多ちゃん!」

梓「……」

喜多「――あっ!……す、すみません。私、無神経なことを言っちゃって……」

梓「い、いいのいいの。自分でもわかってるから……」

律「……」

梓「先輩方がいなくなった軽音部なんて想像もできないけど……でも、きっと放課後ティータイムに負けないくらいのバンドを作るよ」

澪「うん、その意気だ梓」

喜多「中野先輩ならきっといいバンドを作れますよ。応援してますね」

梓「うん。律先輩よりちゃんとした部長になれる自信はあるから」

律「ぬゎんだとぉ〜!ナマイキ言うのはこの口か〜!」グニ〜

梓「いはいいはいいはい」グニ〜
27 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:32:04.64 ID:B6sMWGUH0
紬「梓ちゃん、寂しくなったらいつでも電話してね」ナデナデ

梓「そ、そんな寂しがりじゃないですよ私!」

澪「まあ梓が何もしなくても唯がしょっちゅう電話する気がする」

虹夏「そういえばそのギターの人はどうしてるんですか?」

澪「新宿に着いたって連絡はあったけど、ちょっとゆっくりしてから合流するって言ってたよ」

喜多「でもやっぱりカッコイイですよね。一人欠けたら放課後ティータイムじゃないからって、勝負を捨ててでもわざとギター不在の演奏するなんて」

梓「ムギ先輩そういうとこ譲らないから」

紬「えへへへ」

リョウ「優勝賞金の誘惑に打ち勝つとは。すごい」

澪「いや、むしろ賞金なんかもらわなくて良かったよ。50万なんて私達みたいな普通の高校生には大金すぎて脳が破壊される」

梓「そうです。正常な判断ができなくなるし、お金のために嘘を重ねて信頼を失いかねなくなります。50万の魔力をナメちゃダメです」

虹夏「なんか経験談みたいに聞こえる」
28 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:33:06.61 ID:B6sMWGUH0
 <ム"ー ム"ー ム"ー

虹夏「あ、お姉ちゃんから電話」

喜多「伊地知先輩のお姉さんはバンドバトルを共催してるライブハウスの店長さんなんですよ」

梓「へー、身内がライブハウスやってるなんて羨ましいな」

星歌『虹夏、今どこにいる?』

虹夏「新宿のファミレスだけど、どうかしたの?」

星歌『バンドバトルのことだけど――』


虹夏「――…………」

 虹夏「ええぇーーーーーっ!?」

澪「ど、どうしたんだ?水道管の工事でライブハウスが使えなくなったとか?」

虹夏「……バンドバトルの決勝に……私達が出ることになったって」

澪「なっ、なんだって!?」

喜多「ほ、ホントですか!?」

律「職権乱用だ!」

虹夏「ちょ、ちょっと待って、今スピーカーにするから」TAP

喜多「て、店長さん、どうして私達が?一回戦敗退のハズなのに……」

星歌『それが……お前等が出てった後、サプライズゲストってことでSICK HACKが舞台に上がることになってたんだが――』
29 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:33:44.37 ID:B6sMWGUH0
 〜〜〜

廣井「いえーい!盛り上がってるー!?ヤングなティーンロッカーのみんなにパイセンバンドの演奏を見せつけてやりにきたぜー!」

 \イエーイ!/ \ブチカマセー!/ \ノンダクレー!/

廣井「フロアのみんなもブチあげてこ……――!?」ピクッ

廣井「そ、そっ、そこの壁際で腕組んでるメガネのおねーさん!」


さわ子「――へ?」

廣井「あっ、あのっ!もしかしてですけど……あの伝説のメタルバンド、DEATH DEVILのキャサリンさんですよね!?」

 \ザワザワ……/ \デスデビル?/ \ムカシノバンド……?/

さわ子「ゲッ!…………い、いやぁ〜、人違いじゃないかしら」

廣井「いいや、間違いないです!学生の頃にライブ見ました!すっごく感激したんですよ!もうホントサイッコーで!」

さわ子「……そ、そう。ありがとうね。でも今の私は顧問として生徒の活動を見に来ただけで……」

廣井「ぜひ一緒に演奏しましょう!舞台上がってきてください!あの伝説のギグを見せてください!」

さわ子「で、でも――」

廣井「お願いします!是非!」

 \ナンカシランケド ヤレヤレー!/ \ハヤクブタイアガレヨー/ \ビビッテンジャネーゾー/

さわ子「っ……――」


キャサリン「YEEEEAAAHHHHHHHHHHHHH!テメェら全員掻き鳴らしてやるぜえぇぇぇ!」ドリュデドリュデデドリュデデデ

廣井「いぃえーーーーーい!万雷の拍手を送りやがれ会場のヒヨッ子どもーーー!」ウオー!

 〜〜〜
30 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:34:36.97 ID:B6sMWGUH0
星歌『――てな具合で、壮絶なステージに客は盛り上がったが、決勝進出が決まってた連中は自分逹の音楽がまだまだお子ちゃまだったって自信喪失して棄権したんだ。全員』

虹夏「」

澪「ウチの顧問がすみません……」

喜多「そ、それで辞退した人達の代わりに私逹が出るってことなんですね」

星歌『そういうことだ。で、決勝はあの場にいなかったお前らともう一組でやることで決まった』

虹夏「あの場にいなかったもう一組って……まさか」


星歌『放課後ティータイムってバンドだ』

律「!」


梓「私達と……結束バンドで決勝……」

虹夏「……お姉ちゃん、今その放課後ティータイムのみなさんと一緒にいるんだけど」

星歌『なんだ、連絡する手間が省けた。伝えておいてくれ。アホどもが暴れたせいでFOLTが使えなくなったから、決勝戦の会場はSTARRYに移ることになった』

澪「本当ウチの顧問がすみません……」

星歌『開始は6時半だ。遅れるなよ』プツンッ
31 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:36:04.52 ID:B6sMWGUH0
喜多「……」

紬「……」

虹夏「……あ、あはは、なんだか気まずいことになっちゃいましたね」

律「……ぃよーしっ!ここは割り切って、ライバルとしてお互いベストを尽くそう!負けたらジュース奢りで!」

リョウ「それなら負けた方が代わりにライブのチケットノルマ分捌くのも追加でどうすか」

喜多「リョウ先輩!?」

律「いいだろう!できらぁ!」

澪「ちょ、ちょっと律!」

梓「私逹ノルマチケットなんてないじゃないですか!」

虹夏「リョウ!その場のノリでフっかっけちゃダメ!」

リョウ「こうでもしないと対抗心燃やせない。仲良くなったからって手を抜くような演奏したら最低だよ。お互いにね」

虹夏「そ、それは……」

リョウ「律さん、澪さん、紬さん、梓、手加減無しでやりましょう。題して『結束バンドVS放課後ティータイム 〜ライブハウス危機一髪!〜』」

澪「なんだそのわけわかんないタイトル」

リョウ「今度こそ、メンバー全員揃った放課後ティータイムの舞台を見せてください」

律「おうよ!恨みっこなしな!」

紬「……」
32 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:36:45.92 ID:B6sMWGUH0

 ――……

唯「は〜楽しかった〜」

ぼっち「はっ、はい。楽しかった……です」

 ぼっち(こんな風にギター弾く人は初めて見た。世の中には色んな“音”があるんだなあ……)

唯「ひとりちゃん逹の曲カッコイイね。私、ろっくってあんまりよくわかってないんだけど、弾いてて楽しかったよー」

ぼっち「あっ、ありがとうございます……唯さんの歌も……ロックだと思いますよ」

唯「そーなの?自分でもよくわかんないや」


 携帯<ウンタン ウンタン

唯「あ、りっちゃんから電話だ」Pi

 唯「もしもしもしもし?どしたのりっちゃん」

 唯「ほぇ?なんで?何かあったの?」

 唯「……わかった。とにかく急いで行くね」Pi

唯「ごめんひとりちゃん、りっちゃんがキンキューショーシューだって言うから行かなきゃ」

ぼっち「あっ、は、はい。あの……ありがとうございました」

唯「こちらこそー。一緒に演奏できて楽しかったよ。また一緒にやりたいね」

ぼっち「はっ、はい。私も……やりたいです」

唯「そうだ。せっかくだからアドレス交換しようよ」

ぼっち「あっ、はい。連絡先のことですよね……そういえば唯さんっていまだにガラケーなんですね。周りに流されない感じでカッコイイですね……」

唯「なんかひとりちゃんのケータイ、画面おっきいね。あれ?ボタンも無くない?どうやってメール打つの?」

ぼっち「えっ」
33 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:37:56.03 ID:B6sMWGUH0
唯「じゃーねーひとりちゃーん!また一緒にギターやろーねー!」ブンブン

ぼっち「あっ……は、はい〜……(声おっきい……私なんかのためにそんなエネルギー使わなくていいのに……)」


ぼっち「……なんだか不思議な人だったな……私とは色々と正反対で……陽キャなんだろうけど、なんかただ者じゃないっていうか……」

 スマホ<ム"ー ム"ー

ぼっち「あ、虹夏ちゃんから電話……」

ぼっち「ウッ……家族以外の人から着信なんて奇跡すぎてどう対応していいのかわからない……!」

ぼっち「スゥー……ハァー…………大丈夫大丈夫……落ち着け後藤ひとり……お前は電話に出れる……落ち着け……お前ならやれるッ!勇気を振り絞れッ!」

 <TAP

ぼっち「………………あっ…………も…………もしもぉしぃ……?」ヘラ

虹夏『ぼっちちゃん?なかなか電話出なかったけど大丈夫?』

ぼっち「あっ、すっ、すみませんっ、全然だいじょぶですっ」アセアセ

虹夏『そう?ならいいんだけど、これからライブだからすぐ来てくれる?』

ぼっち「あっ、はいっ……え?今からライブですか?」

虹夏『うん。私達、バンドバトルの決勝に出れることになったから』

ぼっち「えっ」



ぼっち「え”っ」
34 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:38:38.81 ID:B6sMWGUH0




 ――下北沢 STARRY――

 \ワイワイ/ \ガヤガヤ/ \ドヤドヤ/ \オイオイ/


PA「大盛況ですね。入り口付近まで超満員ですよ」

星歌「すごいぞ!毎月これをやってくれねぇかな」ウハウハ

喜多「……なんか昼間よりもお客さん多い気がしますね……」

虹夏「決勝だけ見に来るって人もいるんだろうね」

星歌「一応前もって言っておくが、採点は私逹、共催してるライブハウスの関係者がやることになってる。身内だからって贔屓しないからな」

PAさん「ホントに贔屓せずにいられますかねぇ〜」

星歌「明日から転職活動しろよお前」

虹夏「でもホントにフェアに採点してねお姉ちゃん。ヘンに肩入れしたら怒るから」

星歌「ウッ……わ……わかった」シュン

PAさん「やっぱり贔屓する気満々だったんですね」
35 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:39:17.10 ID:B6sMWGUH0
喜多「私逹も控え室で準備しなくていいんですか?」

星歌「一組目が終わったら採点するために小休憩が入るから、その間に準備すればいい。相手の演奏は見といた方がタメになるからな」

虹夏「いや〜とはいえこの大観衆の前で演ると思うと昼間よりさらに緊張しちゃうな〜」ドキドキ

喜多「伊地知先輩で緊張するならひとりちゃんは――」

ぼっち「 (∂  ○ d) 」

喜多「ああ、やっぱり。ほらひとりちゃん。口閉じて、両目の位置戻すよ」イジイジ

虹夏「私達二番手でよかったね。トップバッターだったらぼっちちゃん消滅してたよ。それに……放課後ティータイムの実力が見れるし。今度こそ本当の、ね」

リョウ「気合い入れてけぼっち。優勝したら50万だ」

ぼっち「はっ!……そ、そうですね……高校中退の夢がすぐそこに……!」グッ

虹夏「ちょっとちょっと、お金が目的じゃないよ二人とも。ねえ喜多ちゃん」

喜多「50万円持った自撮りSNSに上げたら映えますよね!」

虹夏「これが50万の魔力か……!」
36 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:40:18.69 ID:B6sMWGUH0
唯「わ〜、すっごい熱気だね」

律「この人数の前で演奏するって思うと武者震いしてくるな!澪、緊張してないか?」

み澪お「「「だだだ大丈夫だ、もも問題ななない」」」ガクガク

律「オフロードレースばりの振動数」

梓「澪先輩、先輩達の最初の文化祭を思い出してください!あんな思いを二度としないようにシャキっとしないと!」

澪「大丈夫だ、問題ない」シャキッ

唯「おおっ、澪ちゃん復活」

紬「よっぽど繰り返したくない悲劇なのね」

律「よーし!澪もシャキっとして唯も合流したことだし、今度こそ放課後ティータイムの本領発揮だ!結束バンドに打ち勝ってジュース奢らせるぞー!」オー

紬「りっちゃん、もう無理しなくていいのよ」

律「ウッ」ギクッ
37 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:40:55.03 ID:B6sMWGUH0
澪「分かってるぞ律。賭けなんて言い出した手前、引き下がれなくなってるんだろ」

律「んぐっ……ば、バレてたか……」グヌヌ

澪「後先考えずに動いて引っ込みつかなくなるのは悪い癖だな」ヤレヤレ

律「みんなごめんっ!その場のノリと勢いであんなこと言っちゃって……」

梓「まあ奇跡的に決勝に上がれて、せっかくなら優勝したいって気持ちもわかりますけどね」

紬「私達って勝負事には縁遠いバンドだもの。勝つことにこだわる必要なんてないわ」

唯「そうだよ。放課後ティータイムの持ち味はほわわんとしてるトコなんだから。勝つとか負けるとか気にせず、楽しくやろうよ」

律「……うんっ!その通りだな!よぉーしっ!私たちの音楽でみんなを笑顔にしちゃおうぜー!」

 唯「でもその前にお茶にしよーっ!」

  紬「おーっ!」

澪「やれやれ」

梓「やっぱりこの方が私達らしいですね」
38 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:41:33.60 ID:B6sMWGUH0
虹夏「そろそろだね」ワクワク

リョウ「じっくり観察して攻略の糸口を探るんだぼっち。『聞く』んじゃなくて『聴く』んだぜ」

ぼっち「は、はいっ……!」

リョウ「かつて偉大なロックバンドが歌った……『ロックンロールするなら、頂点への道は長いぜ』と……これはその足がかりだ、ぼっち」

ぼっち「な、なるほど……努力を怠るなってことですね……!」

喜多「リョウ先輩もひとりちゃんもすごい闘争心」

 リョウ「50万でビンテージものの古着買う……!」メラメラ

 ぼっち「高校中退……高校中退っ……!」メラメラ

喜多「でも動機が不純すぎる」

虹夏「あっ、みんな、はじまるよ」


 <ザッ!



唯「はじめましてー!放課後ティータイムでーす!」


 \\\ワーーー!///


ぼっち「……えっ……ゆっ……唯さん……?」
39 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:42:12.55 ID:B6sMWGUH0
律「えー、皆さん『誰だ?』って聞きたそうな顔してるんでご紹介させてもらいますね。彼女こそ、昼間の一回戦で欠席していたギターの平沢唯でーっす!」

唯「電車乗り間違えて遅刻しちゃいましたー」エヘヘ

 \ハハハハハ/ \ナンダソリャー/ \ウッカリサンー/

唯「でもよくわかんないけどまだステージに出れるって言われたんで急いで来ましたー。がんばって演奏するんでみんな楽しんでいってくださーい!」

 \オオーーー!/ \イイゾー!/ \ガンバレー!/


ぼっち「唯さんが……決勝の相手……?」


唯「――あっ!ひとりちゃん!見に来てくれたんだー。楽しんでいってねー」

ぼっち「!」

虹夏「えっ、ぼっちちゃんあの人と知り合いなの?」

ぼっち「あっ、えっ、えと、あ、ま、まあ……」

 \ザワザワ/ \ナニナニ?トモダチ?/ \ジロジロ/

ぼっち(んぶっ……ステージの上から名指しされたからめちゃくちゃ注目されてるッ……し、視線が激痛……!)

唯「ひとりちゃ〜ん、応援してね〜」テ フリフリ

ぼっち「っ……」プイッ

唯「なんでっ!」ガーン
40 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:42:49.36 ID:B6sMWGUH0
梓「唯先輩、早くしないと」

唯「あっ、そうだね。それじゃあ一曲目、聴いてください。『ふわふわ時間(タイム)』!」

 唯「……」チラ

  澪「……」コク

   紬「……」フンス

    梓「……」スッ

     律「……っ」グッ


律「――1,2,3,4,1,2ッ!」

 <ッッ ♪♪♪♪♪ッ ♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪ッ


ぼっち「っ……!」
41 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:43:27.28 ID:B6sMWGUH0
虹夏「……やっぱりすごい」

リョウ「当然だけど一回戦の時よりずっと良い。これが放課後ティータイムの本領……」

喜多「それに……なんだか不思議な魅力があるっていうか……心が和むような……」

虹夏「あのギターの人、かなり上手い。でもぼっちちゃんとはまた違う感じ……」

リョウ「ぼっちが努力の音なら、あのギターは才能の音だね。多分、持って生まれた感覚がズバ抜けてるんだ。でもそれにかまけてるわけでもない。努力なしでここまでやれるほどギターは甘くない」

リョウ「それに、すごいのはギターだけじゃない。パワフルでエネルギーに満ちたドラムと、それを暴走しないように手綱を握るベース。全体を優しく包むようなキーボード、確かな技術で確実に支えるリズムギター。5人が一つになって音楽を奏でてる」

喜多「カッコイイですね、みなさん」


ぼっち(これが……唯さんのバンド……)

ぼっち(これが……放課後ティータイム……)

ぼっち(……これが……唯さん逹のロック……!)
42 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:44:09.28 ID:B6sMWGUH0




 ♪――……


唯「――……三曲目、『U&I』でしたー!」

 \ウオオオオオーーー!/ \サイコーーー!/ \シャカイゲンショウーー!/

澪「ふうっ……よし、完璧だった」グッ

梓「楽しくやれたし、お客さんも盛り上がってくれてる。良かった……」ホッ

唯「みんなありがとー!私逹も楽しかったよー!」

 星歌『はーい、放課後ティータイムに拍手ー。これより採点に入りますので小休止としまーす』

梓「唯先輩、そろそろ捌けないと」

唯「バンドサイコー!みんなサイコー!軽音大好きー!」イエーイ

律「イエーイ!ロックンロール!アンコールいっちゃうかー!?」FOOOO!

梓「律先輩まで!」

澪「ほら行くぞ、もうっ」ヒョイ

 律「あーおやめになってー」

澪「ムギは唯を頼む――」

紬「いえーい♪ぴーすぴーす」キャッキャ

澪「」ガクッ

梓「せっかくカッコよくキメれたのに結局グダグダに……」ヨヨヨ
43 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:44:45.44 ID:B6sMWGUH0

 ――控え室

ぼっち「……」

喜多「……」

虹夏「……」

リョウ「……楽しかったね。放課後ティータイムのライブ」

虹夏「うん……なんか、ライバルのハズなのに全然そんな感じしないっていうか……」

喜多「私、普通に楽しんじゃってました」

ぼっち「……っ……あっ、あのっ!……」

虹夏「うおっ、どしたのぼっちちゃん」

ぼっち「あの…………私逹も……楽しんでやりましょう。勝たなきゃって思いながらステージに立つんじゃなくて、ライブを……私逹自身が楽しむつもりで」

喜多「ひとりちゃん……」

虹夏「そうだよぼっちちゃん!それが一番大事なんだよ!私が最初から言ってたのはそういうことなんだよ!」

リョウ「ようやく気付いたかぼっち。お前なら自力でわかると思ってたよ」

虹夏「どのくちが」

喜多「行きましょうひとりちゃん。会場の人達と放課後ティータイムのみなさんに見せてあげましょ。私たちの演奏!」

ぼっち「!……はいっ!」
44 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:45:35.25 ID:B6sMWGUH0

 \ザワザワ/ \ガヤガヤ/ \ドヤドヤ/ \オイオイ/

梓「いよいよはじまりますね。結束バンドのステージ」

律「まーた紙袋被って出てこないだろうな」アハハ

唯「ねえねえ、これから何が始まるの?」

律「わかってなかったんかいっ」ガクッ

紬「決勝戦の対戦相手の、結束バンド演奏よ。私逹、一回戦が終わった後に仲良くなったの」

唯「私がいない間にそんなことが!ずるいー私も仲良くなりたかったー」

澪「ずるいもなにもいなかったのは唯だろ」ヤレヤレ

梓「あっ、出てきましたよ」


 <ザッ!



ぼっち「……」


唯「……っ!…………ひとりちゃん……?」
45 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:46:23.67 ID:B6sMWGUH0
喜多「みなさんお待たせしました!結束バンドでーーーす!」

 \ワアアアーーーーー!/ \イエーーーイ!/ \マッテタゾーーー!/

喜多「一回戦ではハプニングもありましたが、今度は大丈夫なので安心してくださーい!」


律「おー、あれが紙袋マンの素顔か。意外とかわいいじゃん」

澪「あんな奇行をするなんて信じられないな」

唯「……ひとりちゃん」


ぼっち(もう誘惑に負けたりしない……お金なんかどうでもいい……このステージは、私逹がここに居るってメッセージなんだ……!)


喜多「それでは聴いてください。一曲目、私達のオリジナルで、『ギターと孤独と蒼い星』!」


 虹夏<ッ! ッ! ッ! ッ!

 <♪♪ッ♪♪ッ♪ー♪ッ♪ー♪♪♪ ♪♪ッ♪♪ッ♪ー♪ッ♪ー♪♪♪ ♪♪ッ♪♪ッ♪ー♪ッ♪ー♪♪♪
46 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:47:10.23 ID:B6sMWGUH0
ぼっち(唯さん……私のギターは唯さんとは全然違うかもしれない。私逹の歌は放課後ティータイムの歌とは別物かもしれない)

ぼっち(私逹は、まだまだ未熟かもしれない……)

ぼっち(でも、どっちが上だとか、どっちがすごいとか、そんなことはどうでもいいんだ)

ぼっち(唯さん逹には唯さん達の……私逹には私逹の音楽がある)

ぼっち(唯さん逹の……放課後ティータイムのロック……しっかり受け止めました)


ぼっち(だから……聴いててください……私の……)

 ぼっち(私逹のロック!)


唯「……」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
47 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:47:58.45 ID:B6sMWGUH0

・・
・・・
・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 \ガヤガヤ……/ \ゾロゾロ……/

 「いやー、どっちのバンドも最高だったな」

   「まさかあの子逹が優勝するなんて、一回戦を見た時には思いもしなかったわ」

「あれはきっと将来ビッグネームになるな!」

     「ねーねー物販見てこーよ」

  「今日寝れるわー」

PA「お気を付けてお帰りくださ〜い」フリフリ


大槻「……」

廣井「いいライブだったね〜。先輩に入店拒否されそうになったけど泣き土下座して入れてもらって正解だったわ〜」

大槻「……まあ、そこそこでしたね」

廣井「そういえば大槻ちゃんはなんで出場しなかったの?」

大槻「素人の学生バンドだけの大会なんて一番になっても意味ないですから」

廣井「エントリーするのド忘れしたからって聞いたけど」

大槻「んぐっ……!」

廣井「ところで結束バンドどうだった?イイ子達でしょ〜。相手のバンドもめっちゃ良かったよね〜。いや〜あの子達は伸びるわ〜」

大槻「……じゃ、私は帰るんで。姐さんは一人で帰ってください」ソソクサッ

廣井「あれ!?待ってよ大槻ちゃん!帰りの電車賃貸してくれないと帰れないんだよ〜!ちょっとー何怒ってんのさー!帰る前にお金貸して〜!」
48 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:49:00.91 ID:B6sMWGUH0
虹夏「いやー!放課後ティータイムの演奏サイッコーでした!」

律「それを言うなら結束バンドも最高だったよ!めちゃくちゃカッコよかった!」

喜多「桜高の文化祭も絶対見に行きます!がんばってください!」

紬「ありがとう。ますますがんばらなくっちゃね」フンス

律「思い出作りのつもりでバンドバトルに参加したけど、いいバンド友達が出来てよかったよ」

 リョウ「やはりスティーブ・ミラー・バンドの『JOKER』こそ最高のベースサウンドだと思う」

 澪「いや、定番とは言えQUEENの『地獄に道連れ』のベースだって最高だから」

律「この二人もすっかり打ち解けちゃったもんな」

喜多「中野先輩、今度是非ギター教えてくださいね」

梓「任せて!私が手とり足とり教えてあげるから!」フンス

紬「随分かわいらしい先輩ね」フフ

喜多「あ、じゃあみなさんで連絡先交換しませんか?また一緒にライブやったり、お話ししたりしたいので」

律「うむ!よかろう!じゃ赤外線でアドレス交換しよ〜」スライド シャキッ

虹夏「え?赤外線?QRコードじゃなくて?」

律「え?なにそれ?」

虹夏「えっ」

律「えっ」
49 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:49:37.88 ID:B6sMWGUH0
唯「いや〜、ひとりちゃんが決勝の相手だなんてビックリしたよ〜」

ぼっち「すっ、すみません……騙したわけじゃなくて……私も知らなくて……」

唯「ううん、ビックリしたけど、嬉しかったよ」

ぼっち「……あっ、あの……すごく良かったです……唯さん逹の演奏……」

唯「ありがと〜。ひとりちゃん逹も良かったよー。ロックー!って感じでカッコよくて、でもみんなで演奏するのをすっごく楽しんでて」

ぼっち「あっ、それは放課後ティータイムのみなさんのおかげというか……」

唯「歌詞はちょっとよくわかんなかったけど」

ぼっち(グァッ!……陽の者の悪意無き批評が心に突き刺さる……!)

唯「でもね、ひとりちゃん逹が……結束バンドがどんなバンドなのかってものすごく伝わってきたよ」

ぼっち「……!」


唯「ちゃんと届いたよ、ひとりちゃんと、みんなのロック!」

ぼっち「……っ……あっ、ありがとう……ございます」
50 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:50:50.08 ID:B6sMWGUH0
 律「おーい唯ー、帰るぞー」

 澪「また迷子になっちゃうぞー」

唯「はーい。それじゃひとりちゃん、私逹帰るね」

ぼっち「あっ……あのっ……本当に色々とありがとうございました」

唯「こっちこそありがとうだよ〜。これからもバンドがんばってね。私逹もがんばるから」フンス

ぼっち「あっ、はい……そ、それじゃ……さようなら……」

唯「ひとりちゃん、さよならじゃないよ」

ぼっち「……?」



唯「またね」


ぼっち「っ!…………はいっ!」





51 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:51:24.03 ID:B6sMWGUH0

 ――……

後藤母「あら、ひとりちゃんお帰りー」

ぼっち「ただいま」

後藤母「ご飯まだでしょう。すぐ温めるからね」

ぼっち「……お母さんごめん、ご飯もうちょっと後にする」

後藤母「え?」

ふたり「ねえねえお姉ちゃん、たいかいどうだったの?ゆうしょうしたのー?」

ぼっち「……ふたり、世の中には勝つとか負けるとか、そんなことよりもっと大切なこともあるんだよ。私も今日、なんとなく分かっただけだけどね」

ふたり「ふーん?」

ぼっち「それじゃ、私ちょっとギターの練習してくる」ドタドタ

後藤母「どうしたのかしらひとりちゃん……あんなに目をキラキラさせて……いつもはもっとどんよりしてるのに」

後藤父「うんうん、今すぐにでもギターが弾きたくて仕方ないんだな。きっと心震わせられるようなライブを見たんだろう。お父さんにはわかるよひとり」ウンウン

ふたり「えーいみわかんなくてつまんないー」
52 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:52:06.85 ID:B6sMWGUH0

 ――……

憂「あっ、お姉ちゃんお帰りなさい」

唯「ただいまー憂ー」

憂「ご飯まだでしょ?すぐに温めるね」

唯「あ、ちょっと待って。その前にギター弾きたいんだ」

憂「え?帰ったばっかりなのに?」

唯「なんか弾きたくて弾きたくて仕方ないんだ」フンス

憂「よくわからないけど、いい刺激もらったみたいだね。それで、バンドバトルどうだったの?お姉ちゃん達優勝した?」

唯「ふっ……憂、世の中にはね、勝ち負けなんかどうでもいいこともあるんだよ」

憂「お、お姉ちゃんがちょっと大人になってる……!」
53 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:52:43.03 ID:B6sMWGUH0

 ・ ・ ・ ・ ・ ・

 扉<バタン

 ソファ<ボフッ

唯「……」

唯「……」スッ


 <♪♪ッ♪♪ッ♪ー♪ッ♪ー♪♪♪


唯「突然降る夕立 ああ、傘もないや嫌 空のご機嫌なんか知らない♪」
54 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:53:19.69 ID:B6sMWGUH0

 ・ ・ ・ ・ ・ ・

 押し入れ<スッ ピシャン

 ヘッドホン<カチャ……


ぼっち「……」

ぼっち「……」スッ


 <♪♪♪♪♪ッ ♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪ッ


ぼっち「君を見てるといつもハートどきどき☆揺れる想いはマシュマロみたいにふわふわ♪」



ぼっち「アアアアアアアアアアアアアア!無理無理無理無理!私みたいなカビ女がこんな甘々でキラキラでほわわんとした歌詞歌うなんて身の丈に合わなすぎて聴く人の脳が破壊されてしまううう〜〜〜!」


 ――おわり――
55 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:54:00.72 ID:B6sMWGUH0
 〜おまけ〜

紬「ゲル状〜」デロォ〜

律「大変だ!ムギの眉毛(たくあん)を食べちゃったから身体が溶け始めた!」

唯「な、なにか代わりになるものは……」キョロキョロ

虹夏「待ってください律さん!唯さん!」バッ

律「虹夏!」

虹夏「これを使ってください!私とお姉ちゃんのアホ毛(ドリトス)!」シャキーン

 <ペタリ ペタリ

紬「治ったわ」テッテレー

律「ふぅ〜、一時はどうなるかと思ったぜ」

虹夏「これにて一件落着ですね。よかったよかった」

 ・ ・ ・ ・ ・ ・

星歌「♪〜」

ぼっち「あっ……て、店長さん……なんで頭の上にたくあん付けてるんですか……?」

 〜おしまい〜
56 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2023/01/30(月) 20:54:51.90 ID:B6sMWGUH0
これにて完結です
ここまで読んでくれた方、ありがとうございました
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/30(月) 21:39:23.39 ID:wMEsxY5rO
おつー
懐かしさを感じた
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/02/04(土) 21:33:00.19 ID:brq9Xzs+0
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