西城樹里「タケウチ」

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645 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:11:36.34 ID:VfNpJpls0
〜283プロ 社長室〜

美城「同じ事務所にいながら、私が高垣楓の動向を把握していないとでも?」

天井「把握していると思ったさ」

天井「動揺のあまり、あなたがこうして私の元へ駆け込んできた事も、
   私は実に趣深いものだと思っている」

美城「それが悪ふざけに留まらないことを貴方は知るべきだ」


天井「気づいていたか。ウチの白瀬咲耶の思惑に」

美城「つい先日の事です。
   弊社の事業部の者と、あなたは接触していたそうですね」



美城「一体何を考えている、天井努」

美城「パンドラの箱、と貴方は言ったが、
   まさしくそれを開けば、これに携わる誰もがタダでは済まされなくなるのだぞ」
646 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:13:02.05 ID:VfNpJpls0
天井「……フッ。情というのは、厄介なものだな」

美城「何?」


天井「最初は、安い用だと思ったものさ」

天井「だが、知れば知るほど、時が経てば経つほど……無視できないものになっていく」


天井「彼女は十分この業界に尽くし、かけがえのないものを与え続けてきた」

天井「最期の頼みの一つくらい、叶っても良いだろう」

天井「私が考えていることは、それだけだ」
647 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:14:13.31 ID:VfNpJpls0
〜後日、346プロ レッスンスタジオ〜

夏葉「ワン、ツー、スリー、フォー!」タンッ! キュッ タタン!

凛「……! ……ッ!」タタンッ! タッ!

樹里「よっ……っ……!」キュッ! タタッ! タン!


武内P「……十分な仕上がりであると思われます」

シャニP「えぇ。違う事務所同士なのに、ここまで息が合うとは」

シャニP「あなたのご指導と、あなたについていこうという皆の気持ちの表れですよ」

武内P「いえ。ひとえに、皆さんの緻密な練習の成果、それに……
    培われた絆の深さによるところです」

武内P「それと、手前味噌にはなりますが……」チラッ


楓「……いえ、私は何も」

シャニP「ああ、仰る通りですね。
     高垣さんのサポートがあってこそ、皆は頑張ってこれました」

楓「いえ、そんな……ありがとうございます」ペコッ
648 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:15:49.81 ID:VfNpJpls0
智代子「……とぁ!」タン タンッ! ビシッ!

智代子「はぁ、はぁ……えへへ、どう、卯月ちゃん!?」

卯月「どうって……凄すぎて、私なんかじゃケチつけられないです!」

智代子「ほ、本当!?」

未央「うんうん、相当練習してきたんだもん。
   この未央ちゃんも太鼓判、たくさん押しちゃうよ!」

卯月「はいっ! 智代子ちゃん、これまでよく頑張りました!」ギュッ

智代子「や、やった……!」グッ…!


智代子「夏葉ちゃん! 約束の八ツ橋、ご馳走してくれるよね!?」クルッ

夏葉「まったく……あなたって子は、しょうがないわね」

夏葉「今度周子に言っておくわ。たくさん種類があるものをお願い、ってね」ニコッ

智代子「オホォォーー!!(裏声)」ガッツ!

凛「アイドルが出しちゃいけない声出してる……」

卯月「それにしても、周子ちゃんのご実家だったんですね。
   夏葉さんが懇意にしている京都のお店って」

夏葉「あら、言ってなかったかしら?」
649 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:16:56.47 ID:VfNpJpls0
樹里「……みんな悪ぃ。間奏部分がちょっとズレちまった」

樹里「もう一度通しで合わせてぇ。休憩したら、もっかいいいか?」


未央「……ジュリアンってさ、修行僧?」

樹里「しゅ、修行僧!?」

卯月「傍から見てても、すっごくレベルの高いパフォーマンスだなぁって。
   ね、楓さんもそう思いませんか?」

楓「はい。とてもすごかったです」

樹里「つっても、せっかく皆でやるんだし、
   少しでも良いモンにしたいっていうか……」ポリポリ…



咲耶「…………ッ」グッ グッ…



夏葉「……咲耶、どうしたの?」

咲耶「あぁ……」


咲耶「ッ ……いや、何でもないんだ」
650 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:18:24.43 ID:VfNpJpls0
夏葉「足が痛むの? そこに座って、ちょっと見せて」

凛「え……」

咲耶「すまない……ッ」グッ


智代子「さ、咲耶ちゃん……!?」

樹里「おい、大丈夫かよ?」

シャニP「咲耶!?」

武内P「…………」

ザワ…


夏葉「……」グッ グイッ

咲耶「……ッ」ズキッ

夏葉「……ここは痛む?」グッ

咲耶「いっ、いや……ッ」

夏葉「正直に言いなさい。
   隠したって、何もあなたや私達のためにはならないわ」
651 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:19:45.81 ID:VfNpJpls0
咲耶「す、ッ……すまない、ぐ……!」ズキンッ

卯月「咲耶さん……!」

シャニP「咲耶、大丈夫か!?」


夏葉「…………」スクッ


夏葉「プロデューサー。今からメンバーの変更はできる?」

武内P「……!」ピクッ


夏葉「これまでの居残り練習で、無理が祟ったようね」

夏葉「正確な症状は、お医者様に診せないと分からないけれど、
   今の咲耶の反応から考えられるのは、足首の捻挫」

夏葉「外くるぶしの靱帯が断裂しかけている可能性がある……
   もしそうなら、とてもステージに立てるような状態じゃないわ」

咲耶「ッ…………!」


武内P「あ、有栖川さん……」

夏葉「質問に答えてちょうだい。今から『TAKE−UC』のメンバーの変更は?」
652 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:21:05.56 ID:VfNpJpls0
未央「そ、そんな!」

卯月「これまで、あんなに頑張ってきた咲耶さんが……」


武内P「……2日前までであれば、事務局に届けを出せば、変更は可能のはずです」

凛「ちょっとプロデューサー!」

樹里「凛」スッ

凛「じゅ、樹里……!?」

樹里「爆弾抱えてるヤツに、無理をさせるべきじゃねぇよ」


グッ…!

樹里「…………ッ」

智代子「樹里ちゃん……」


咲耶「すまない、みんな……ッ」


シャニP「だが、咲耶の代わりになれる人が、今から探して見つかるとは…」
653 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:22:09.34 ID:VfNpJpls0
咲耶「いるさ……」

シャニP「えっ?」

一同「!?」ザワッ


咲耶「適任が一人……私達のサポートをしてくれた」

咲耶「……お願いだ、楓」



楓「…………」


凛「か、楓さん……!」

夏葉「そうよ。楓なら、ダンスもボーカルも文句の付け所が無いレベルで体得しているわ!」

智代子「こんな豪華な人に、代役を頼めるなんて……!」


樹里「……楓さん」

樹里「お願いします。アタシ達、こんなトコで終われないんです」スッ
654 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:25:06.80 ID:VfNpJpls0
楓「…………衣装」

樹里「えっ?」


楓「身長は同じくらいですけれど……きっと胸のところが、余っちゃいますね」

楓「私は、咲耶ちゃんほど立派なものを持っていませんから。ふふっ♪」ニコッ


樹里「な゛っ!!?」カァー!

武内P「丈はそのままで、バストの部分を調整が可能か、衣装担当に確認をしておきます」スラスラ

樹里「何でアンタは平然としてんだよ!」

武内P「す、すみません」

夏葉「なるほど、そういう所にも気を配らなければならないのね」フ-ム

智代子「咲耶ちゃん並みにおっぱい大きい人もそうそういないし」

樹里「おっぱい言うな!!」クワッ!

未央「ジュリアン、声でかい」
655 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:26:43.24 ID:VfNpJpls0
卯月「楓さんが、凛ちゃんや樹里ちゃん達と……!」


凛「……咲耶の分まで頑張ってくるから、私達」

夏葉「しっかり治しておきなさい。捻挫はクセになりやすいから」

智代子「このユニットだって、フェスで終わりにしたくないもん!
    ね、樹里ちゃん?」

樹里「当たりめーだ。
   一度も咲耶とステージやらねぇまま解散なんてバカバカしい話あるかよ」ニカッ


咲耶「皆……」

咲耶「……楓も、ありがとう」

楓「いいえ。私がお役に立てるなら、お安い御用です」ニコッ


樹里「そうと決まれば、すぐ合わせようぜ。
   楓さん、ご準備お願いできますか?」

楓「はいっ、樹里ちゃん」



樹里「よっし。じゃあ皆、せーの…」
656 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:30:05.53 ID:VfNpJpls0
〜夜、961プロ〜

ダンッ!

黒井「高垣楓が白瀬咲耶の代わりに出るだとぉ!?」ガタン!

『はい、そうです』

黒井「私に何の相談も無しに勝手に決めるなどと、よくも軽々しく…!」

『現場の陣頭指揮を執ることを私に命じたのは、あなたのはずです』

黒井「勝手をしろと命じた覚えは無い!
   貴様というヤツは、つくづく都合の良い解釈を……!」


『なぜ、高垣をそうまで恐れるのでしょうか』

黒井「……私が恐れている、だと?」ピクッ


『弊社としては、このプロジェクトクローネに協力するために、
 申し分の無い実力を持つアイドルをご用意したつもりです』

『相談も無く、事後報告となってしまった事については、お詫びします。
 ですが、彼女にご不満を持つ理由が、あなたにおありでしょうか?』


黒井「それを貴様に教える必要は無い」

『理由が、あるのですね?』
657 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:31:06.80 ID:VfNpJpls0
黒井「余計な詮索はしない方が身のためだぞ」

『分かりました。それでは、失礼致します』

ガチャンッ



黒井「…………」ギシッ

黒井(346プロを強請るための、格好の材料だと思っていた)

黒井(だがアレは……私の想像を超える爆弾だ。
   961や346だけでない、業界全体をも揺るがしかねないほどの……)

黒井(それが、最も起爆してはならない時と場所で……!)


黒井「……」ガチャッ

プルルルルル…!


黒井「私だ」

黒井「当日は全員呼べ」


黒井「……いいから全員だっ!!!」
658 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:33:32.07 ID:VfNpJpls0
〜961プロ寮 武内Pの部屋〜

武内P「……」ピッ

樹里「また黒井のヤツからうるせーこと言われたのか」コトッ

武内P「いつものことです。しかし……」

樹里「しかし?」


武内P「黒井社長は、明確に高垣さんを特別視しています。
    それは、彼女がトップアイドルである事とは、おそらく別の何かが……」

樹里「…………」

武内P「きっと当日は、何かしらの手立てを工作してくるものと思われます。
    どのような者達が介入に現れるか分かりません」

武内P「気がかりなのは、先日渋谷さんからお聞きした話です。
    黒井社長が美城常務に対し、高垣さんの失脚を示唆するような話があったと」

武内P「一体、何を意図しているのか……せめて相手の狙いが分かれば、対処が……」


樹里「今さらそんな難しいこと考えんなよ」

武内P「西城さん……」
659 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:35:33.64 ID:VfNpJpls0
樹里「眉間に皺寄せてばっかいるから、そんな辛気臭いツラになんだよ」

樹里「ほら、布団のシーツ、洗って替えといたぜ。もう寝ろよ」

武内P「……ありがとうございます。しかし私は…」

樹里「寝れねぇってんだろ?」

樹里「でも、横になって目を瞑りゃ、少なくともずっと起きてるよりはマシだ。
   つべこべ言ってないで、ほら」ポフッ

武内P「は、はぁ……」


武内P「……あ、あの、西城さんは…?」

樹里「あ、アタシはアンタが寝たのを見届けてから部屋に戻るよ!
   なんか、その……」モジモジ

樹里「アイツらから、た、頼まれてっからさ……
   プロデューサーをちゃんと休ませろって……同じ寮に住んでんだから、って」

武内P「そ、それは……ご迷惑をお掛けして、申し訳ございません」

イソイソ…


樹里「…………」ゴクリ…
660 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:39:33.31 ID:VfNpJpls0
――――


樹里『はぁ!? そ、添い寝だぁ!?』ドキッ

未央『やっぱりプロデューサーの心身の健康のためには、これしか無いかと』ウーム

凛『樹里にしか頼めないことなんだ』

樹里『自分が何言ってるか分かってんのか!? 出来るワケねぇだろそんなの!!』

夏葉『ベビーヒーリングタッチと言って、
   母親からのスキンシップが子供に心身の健康を与えるという医学的論拠もあるのよ』

樹里『とっくにベビーじゃねぇだろアイツ!!』

智代子『大切な人とそばにいる安心感を与えるって意味では、同じことじゃない?』

卯月『大丈夫です! 危ないことになりそうだったら私に電話してください!』

樹里『電話してどうしろってんだよ! ていうか危ねぇこと想像してんじゃねぇか!!』

咲耶『お願いだ、樹里……』 ←真剣な眼差し

楓『樹里ちゃん……』 ←何とも言えない眼差し


樹里『……〜〜〜〜ッ!!』


――――
661 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:40:53.26 ID:VfNpJpls0
武内P「さ、西城さん……寝ました」

樹里「寝てねぇじゃねーか」

武内P「ね、寝ます。なので……電気を消していただけると……」

樹里「あ、あぁ……」

パチッ フッ…



武内P「…………」


「お、おい……プロデューサー」


武内P「……何でしょう」


「壁の方に、横になった方が……寝やすいらしいぜ」

武内P「え?」

「い、いいからっ。ほら……横向きになって」


「あと……もうちょい、そっちに身体、寄せて……」
662 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:42:21.29 ID:VfNpJpls0
武内P「……?」ゴソゴソ…

武内P「こ、これで、よろしいでしょうか?」


「あぁ……」


武内P「…………」



スッ…


モゾモゾ…


武内P「……!?」

ソッ…


武内P「さ、さぃ……!?」

「こっち向くんじゃねぇぞ……」


武内P「こ、これは一体……?」



「きょ、今日は……これで、寝させてくれ……」
663 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:43:55.61 ID:VfNpJpls0
武内P「西城さん……」


「大変だったよな……」

「ほんと……アタシ達のために、すっげぇ頑張ってくれて……」

「皆……感謝してる」



「今回だけだ」

「今夜だけ……そばで寝させてくれ……」


武内P「……はい」



「寝るぞ……おやすみ」


武内P「はい……おやすみなさい、西城さん」



武内P「…………」
664 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:45:52.38 ID:VfNpJpls0
――――――

――――


「…………」

「……ん…………む……」

  あっ、起きた?
  えへへ、お寝坊さんだね、プロデューサーさんっ♪

「これは……」

「!? あ、あなたは…!」

  あ、ダメダメ。
  まだそのまま寝てて。プロデューサーさん、ずっと働き詰めなんだもん。

  私の膝なら、いくらでも大丈夫だから。気にしないで、ねっ?

「……私は」

  大きなプロジェクトを任されてるんだね。
  色んな事務所の子達を担当するって、大変そう。

  でも、すごく嬉しいよっ。
  私の大好きなプロデューサーさんが、そんな立派なことをしてるなんて。

「私は……」


  私のことなら、気にしないで。
665 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:52:38.92 ID:VfNpJpls0
「…………」

  今のあの子達を、プロデューサーさんは大切にしてあげなきゃダメだよ。

  特に、西城樹里ちゃん。

  私に似て……って言うと失礼だけど、
  きっと自分の気持ちを表現するのが苦手な子だから。

  だから、ちゃんと見て、手を差し伸べて、気持ちを引き出して上げて。
  根は素直な子なんだから、お世話してあげればちゃんと応えてくれるはずだよ。

  お花のようにねっ。

「……はい、その通りです」

  あれ?
  そっか、私がわざわざ言うまでも無かったよね。ごめんなさい。


「いいえ……あなたに教えられたのです」

「それを彼女達は、思い出させてくれました」

「あなたも含め、皆さんには……感謝しても、しきれません」


  うんっ。


――――

――――――
666 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:53:23.17 ID:VfNpJpls0
――――


武内P「…………」

武内P「……ん…………む……?」


樹里「やっと起きたか」

武内P「……? さ、西城さん!?」ガバッ!

樹里「ハハハ、寝ぐせついてるぜ」

武内P「……!?」サッ


チュン チュン…


樹里「おはよう、プロデューサー」クスッ


武内P「……はい」

武内P「おはようございます、西城さん」ニコッ
667 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:56:03.38 ID:VfNpJpls0
――――――

――――


  >咲耶ちゃんOUT 楓さんIN ってマ?
  >最初からそうしとけや、めっちゃ期待するけど
  >咲耶ちゃんだってぬか喜びしなくて済んだしな
  >ええぇ、ワイめちゃくちゃショックなんやが……楓さんなんていつでも見れるやん

  >センターは西城樹里が不動か?
  >楓さん入るんだったらさすがに譲るだろ
  >西城エアプか?
   あの図々しさ考えたらありえんわ
  >ここにも西城叩きいるのかよ、いい加減ウザいぞ
  >でも一歩引いてる奥ゆかしさが楓さんらしい
  >961関係無しに今からリーダー変えんの普通無くね?

  >夏葉ちゃんやチョコちゃんって楓さんと何話すんだろ?
  >楓さんはクッソしょうもない話でもニコニコしながら相槌打つ聞き上手だぞ
  >智代子ちゃん大喜びでカレーの作り方とか熱弁してそう
  >夏葉ネキ「楓さん、一緒にトレーニングするわよ!」ダンベル ドサー
  >楓さん「背筋を鍛えた身体でハイキング、なんて、ふふっ」
  >凛渋谷「普通全裸でやるよね?」
  >唐突な名誉G民のしぶりんで草
668 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:58:03.08 ID:VfNpJpls0
〜『クリスタルウィンター』当日、会場 スターリットドーム〜

ドォォォォォ…!


智代子「お、大きい会場だねぇ……」

卯月「は、はい……目が回りそうです」


武内P「スターリットドーム……」

武内P「スターリットシーズンという、アイドルの頂上決定戦に相当するイベントがあり、
    その最終戦の舞台となった会場です」

武内P「スターリットシーズン以後、イベント中に行われた四季大会は通年イベントとして残り、
    冬のイベント『クリスタルウィンター』の会場は、今もこのスターリットドームとなっています」

凛「その四季大会っていう中で、一番大きいものが、『クリスタルウィンター』ってこと?」

武内P「実質的には」
669 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:59:41.49 ID:VfNpJpls0
未央「へぇぇ、海外のアーティストとかも御用達にするんだって」スイッ スイッ

樹里「超有名な人達もいんじゃねーか、マジかよ……!」

凛「樹里って洋楽も聴くんだったっけ、そう言えば」


夏葉「臆することは無いわ、樹里!」バァーン!

樹里「いちいち後ろからデケぇ声出すなよ」

夏葉「それだけ私達がこの会場に相応しいアイドルになったということよ。
   日々の努力が実を結んだ事を、まずは誇りに思いましょう」

シャニP「ああ、夏葉の言うことはもっともだ」

卯月「こういう時の夏葉さん、本当に頼もしいですっ」ギュッ
670 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:00:58.51 ID:VfNpJpls0
咲耶「楓は、この会場で歌ったことはあるのかい?」

楓「うーん……2、3回、来たことがある気がします」

智代子「あ、あるんですか……」

楓「と言っても、単独ライブなどではありません。
  いずれも、ご招待いただいて、1曲程度歌っただけのもので」

未央「それでもめちゃくちゃ凄いよぉ、楓さん!」

卯月「はいっ! やっぱり楓さんは、私達の憧れです!」

楓「ふふ……」ニコッ

咲耶「…………」


凛「プロデューサー。
  リハーサルの時間まで、振りを確認したいんだけど」

武内P「事務局に確認し、裏手の搬入スペースをご案内いただきました。
    資材搬入を終えた後であれば、自由に使っても構わないそうです」

夏葉「助かるわ。ありがとう」
671 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:02:55.14 ID:VfNpJpls0
武内P「私は、関係者への挨拶と出場の手続きを行ってまいりますので、
    彼女達の引率をお願いできますでしょうか?」

シャニP「分かりました」

樹里「あ、あのさ、プロデューサー」

武内P「? 西城さん、何か」


樹里「……いや、悪ぃ。やっぱ後でいいや」ポリポリ


武内P「?」

未央「何だよジュリア〜ン、らしくないなぁスパッと言っちゃえよぉ」ウリウリ

樹里「う、うっせぇな! いいんだよ、大した用じゃねぇから!」

凛「ふーーーん?」クスッ

樹里「何笑ってんだよ凛!!」ムキー!
672 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:03:52.31 ID:VfNpJpls0
武内P「……?」ポリポリ

シャニP「ふふ。行きましょうか」

武内P「はい」

スタスタ…



夏葉「ところで……咲耶、今日出れなかった事だけれど」

咲耶「おっと。夏葉、そういうのは言いっこなしだと言っただろう?」

夏葉「えぇ、そうね。でも、聞きたいことがあって」


夏葉「あなたの足、お医者様には診てもらった?」


咲耶「……ああ」

夏葉「お医者様は、何と?」

咲耶「…………」
673 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:05:33.10 ID:VfNpJpls0
夏葉「あなたはつまらない嘘をつく子ではないのを、私は知っているわ。
   “ただの一度”を除いて、ね」

夏葉「だから、あなたは黙っている」


夏葉「本当は何とも無かったんでしょう?」


咲耶「……やはり、気づいていたか」

夏葉「あなたの足を見た時にね。上手く演技をしたつもりでしょうけれど」

夏葉「そして、自分の代役として楓を提案したのもあなただった」


夏葉「一体、何を考えているの?」



咲耶「……謝らなければならない事がある、夏葉」

咲耶「皆に嘘をついたのは、“ただの一度”ではないんだ」
674 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:06:32.64 ID:VfNpJpls0
夏葉「咲耶……」

咲耶「すまない、夏葉。皆には黙っていてほしい」

咲耶「彼女の想いを尊重したいという、私からの願いだ」


夏葉「……彼女?」チラッ


咲耶「あぁ、そうだ」

咲耶「夏葉こそ、何か意図があって私の演技を見逃してくれたのだろう?」


夏葉「あなたは無意味なことをしないと思ったからよ」

夏葉「でも今は……それがネガティブな結末を招かないことを祈るばかりだわ」


咲耶「……そうだね」
675 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:07:56.88 ID:VfNpJpls0
ガヤガヤ…


スタスタ…

武内P「……」キョロキョロ



ちひろ「あっ、プロデューサーさん、お疲れ様です!」スッ


武内P「千川さん……いらしていたのですか」

ちひろ「もちろん。彼女達の晴れ舞台ですから」

ちひろ「あ、今西部長もお越しになられていますよ。
    アイドルの子達の様子を見に行くって仰っていました」

武内P「そうでしたか」

ちひろ「受付会場を探していたんですよね?」

武内P「はい」


ちひろ「大丈夫です。私が既に済ましておきましたから!」エッヘン
676 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:09:19.26 ID:VfNpJpls0
武内P「えっ?」

ちひろ「ほら、これが『TAKE−UC』の受付票です。
    ちゃんと今日のメンバー変更も反映されていますよ」サッ

武内P「……確かに。ありがとうございます、千川さん」ペコリ

ちひろ「いえいえ、これくらい何でもありません。
    その分、プロデューサーさんはアイドルの子達についてあげてください」

ちひろ「ほら、行きましょう」グイッ

武内P「せ、千川さん?」

ちひろ「皆、裏手の方にいるんですよね? 早く合流しましょう、さぁさぁ」グイィッ

武内P「あ、あの……」

スタスタ…



スッ

黒服達「…………」
677 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:10:43.97 ID:VfNpJpls0
〜裏手〜

冬馬「な、何でお前らまでいんだよ!?」

樹里「それはこっちの台詞だぜ! アタシらの場所を横取りすんじゃねぇ!!」

冬馬「俺達の方が先だったじゃねーか!!」

樹里「いーやアタシらが先だ!!」

シャニP「あぁぁこらこら、二人ともケンカは良くないぞ」


凛「……ジュピターの人達と鉢合わせるなんてね」

翔太「ま、一番近い練習場所がココなんだし、そりゃ被っちゃうのもあるよねー」

北斗「その辺にしとけよ、冬馬。みっともないぞ」


冬馬「ふんっ!」ムスッ

樹里「ヘンッ!」プイッ


卯月(何だか似てますね、あの二人)ニコッ

未央(しまむー、それ言ったら絶対怒られるからやめようね?)
678 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:12:35.99 ID:VfNpJpls0
夏葉「でも、本番前の良い刺激になるかも知れないわ。
   お互いにリハを見せ合うというのはどうかしら?」

翔太「えぇー? さすがに手の内を本番前に見せちゃうのはどうかなぁ」

北斗「本来であればな。だが、麗しいレディからの頼みとあれば話は別だ」

冬馬「別なワケねぇだろ! 敵の誘いに応じる理由なんかねぇぜ!」


咲耶「確かに、この場にいる皆はお互いに事務所が違う。
   今日だけでなくこれからも、立場上はしのぎを削り合うライバル同士、という事になるね」

咲耶「だが、同じアイドルだ」

咲耶「志を同じくする仲間同士、お互いを分かち合おうじゃないか」バチコーン☆


樹里「ったく、また咲耶はそうやってキザなこと言って」

冬馬「お、おう……べ、別にお前らなんて仲間なんかじゃ…」ポッ

樹里「効いてんじゃねーよ」

楓「楽しいリハーサルになりそうですね♪」ニコッ


コツ…

今西「やぁ。皆揃っているね」

未央「あっ、部長さーん!」フリフリ
679 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:14:19.88 ID:VfNpJpls0
シャニP「これは、今西部長。どうもお疲れ様です」ペコリ

今西「あぁいや、283プロのプロデューサーさん。
   どうか私に畏まらないでください」

今西「お世話になっているのは、こちらの方ですからね。
   私共のプロデューサーを、よくサポートしてくださった」

シャニP「いえ、俺にできることをしただけですから」


シャニP「それに……彼は本当に素晴らしいプロデューサーだと思います」

シャニP「自分もこうあれたらと……
     真摯に目の前のアイドル達と向き合う姿勢は、俺の目標です」


今西「そうですか……」

今西「それが今日、結実する日になる。
   裏方として携わる私も、心より祈っているよ。

今西「無事にステージを完遂できることを、ね」

一同「はいっ!!」


楓「……はい」

今西「…………」
680 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:16:27.93 ID:VfNpJpls0
〜関係者通路〜

コツコツ…


武内P「……?」

ちひろ「本当に大きな会場ですねー。
    使用料も見たことない金額で驚きましたよ」

ちひろ「主催側で使用するのは、そうそう無いでしょうね。
    あっ、でも共催なら費用負担を多少解消できるかも、なんて♪」

武内P「は、はぁ……」


コツコツ…


武内P「あの、千川さん……皆さんがいるのは、こちらではな…」

ちひろ「ええ、分かっています」

武内P「えっ?」
681 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:17:37.10 ID:VfNpJpls0
ちひろ「本番前にもう一度、プロデューサーさんとお話をしたかったんです。
    二人きりで、ね」

武内P「千川さん……」

ちひろ「プロデューサーさんは、ご存知ですか?」

コツ…

ちひろ「今日、楓さんがステージの上で何をするつもりなのかを」

武内P「高垣さんが?」



ちひろ「楓さんは、全てを暴露するつもりなんです」

ちひろ「346プロや961プロが、これまで行ってきた所業の数々を」

武内P「!!?」


ちひろ「ふふっ。そのご様子だと、知らなかったみたいですね」
682 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:19:39.42 ID:VfNpJpls0
武内P「一体何を……どういう事ですか、千川さん!?」

武内P「なぜ、高垣さんがそのような事をする必要があるのですか!?」

武内P「いえ、そもそもなぜ高垣さんがその事を知って……!?」


ちひろ「私も、今西部長からお聞きした話ですから、詳しいご事情までは把握できていません」

ちひろ「でも、部長が仰ることには……全ての遠因は、楓さんにあると言います」

ちひろ「そして、346プロは楓さんを守りすぎた」

武内P「……守りすぎた?」

ちひろ「そこを961プロにつけ込まれた、という見方もあるそうなのですが……でも」


ちひろ「楓さんは、ずっと一人で罪の意識に苛まれていました」

ちひろ「事実として、プロデューサーさん……
    あなたの命も、その証拠を抹消せんとする常務達の手によって、危ぶまれています」

武内P「…………」


ちひろ「でも、楓さんがその前に明らかにしてしまえば……
    常務達は、プロデューサーさんを手に掛ける理由を失うことになります」
683 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:22:04.42 ID:VfNpJpls0
武内P「馬鹿な……」

ちひろ「分かりますか? プロデューサーさん」

ちひろ「彼女が表舞台でそれを公表することは、あなたを守るためでもあるんです」

武内P「で、ですが!
    それをしたら彼女どころか、346プロが築き上げたブランドイメージが崩壊します!」

武内P「346プロだけではありません。961プロも、283プロも……
    およそアイドル業というものが成り立つ前提たる“信用”が根底から覆ることに……!」

武内P「もしそれが事実なのであれば、今すぐ止めさせ…!」ダッ!

ギュッ

武内P「!? せ、千川さんっ……?」


ちひろ「私にとっては、あなたが助かることの方が大事です」

ちひろ「アイドルが……私達の仕事が、台無しになるとしても……
    ひ、人が死んじゃうよりは、ずっと……!」


武内P「……それはあなたの本心ではないはずです、千川さん」

ちひろ「えっ……?」
684 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:25:08.86 ID:VfNpJpls0
武内P「誰よりもアイドルを愛するあなたが、
    その輝きが奪われることを良しとするはずがありません」

武内P「そして、それを支える仕事を、ご自身ができなくなることも」

武内P「いいえ……たとえそれが本心であったとしても」

武内P「私はプロデューサーとして、彼女達のステージを見届ける義務と責任があります」


ちひろ「プロデューサーさん……」

武内P「まずは、高垣さんと話をしてきます。
    事実確認ののち、必要であれば説得やメンバー交代など、必要な調整を」

武内P「そうするであろう事を、私に期待したからこそ……
    あなたも、高垣さんの事を私に話してくれたのではないでしょうか」


ちひろ「……やっぱり、プロデューサーさんはプロデューサーさん、ですね」クスッ

ちひろ「だとしたら、気をつけてください」

ちひろ「既に……狙われています」


ザッ…


武内P「ええ。知っています」
685 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:26:05.35 ID:VfNpJpls0
武内P「千川さんも、お逃げください」

ちひろ「私のことなら心配いりません。さぁ、早くっ!」

武内P「! ……失礼」ダッ!

タタタッ!


ザッ!

黒服達「追え!」「生かして捕らえろ!」


ちひろ「……!」クルッ

ちひろ「止まってくださいっ!!」バッ!

黒服達「!?」


ちひろ「どうか……どうかあの人の好きにさせてあげてくださいっ!!」ポロポロ
686 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:28:03.24 ID:VfNpJpls0
〜裏手〜

キュッ! タタン タンッ! ザッ!


夏葉「……ふぅ! 良い仕上がりね!」

樹里「はぁ、はぁ……ヘヘッ。あぁ!」

智代子「わ、私も変なところ無かったよね? ね!?」

凛「当たり前でしょ。今までよりすごく良かったよ、智代子」

智代子「や、やったぁ! えへへ!」

楓「ふふっ♪ 皆さん、動きが軽やかですね」


冬馬「ふーん……まぁ、思ったよりやるようだな」

卯月(これは、“大絶賛”ってことでいいんですか?)コソコソ

翔太(ご明察)ニコッ

冬馬「聞こえてんだよっ!!」
687 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:29:39.73 ID:VfNpJpls0
北斗「まいったな……これは相当なプレッシャーだ」

未央「えへへー、ウチのアイドル達の凄さ分かっちゃった〜?」ウリウリ

樹里「何で未央が得意になってんだよ」

咲耶「誇りに思うのも無理はないさ、樹里。
   皆の努力を間近で見てきて、誰よりもそれを分かっているのだから」

咲耶「もちろん、私もね。自慢くらいさせてくれたっていいだろう?」ニコッ

樹里「……ヘッ、まだ早ぇってんだよ」ニヤッ

夏葉「樹里の言う通りよ。そして、その時はすぐそこまで来ているわ」

咲耶「……あぁ」


卯月「ううぅ、ドキドキします……!」ギュッ

凛「心配しなくていいよ、卯月。私達なら大丈夫だから」

卯月「凛ちゃん……はいっ」


智代子「ねぇ、樹里ちゃん」
688 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:32:31.92 ID:VfNpJpls0
樹里「ん?」

智代子「本当にありがとね。
    樹里ちゃんがいたから、今の私があるんだなぁって」

樹里「よせよ、こんな時に」

智代子「こんな時だから、言うんだよ」


智代子「あの時、ひどい言葉をぶつけて……ごめんなさい、樹里ちゃん」

智代子「そして、私をここまで連れてきてくれて、ありがとう」


樹里「……そっくり、アタシも同じ言葉を返すよ、チョコ」

樹里「アタシはずっと、チョコに謝りたかった。
   チョコのためだけにアイドルやってた……そのはずだったのにな」

智代子「樹里ちゃん……」


樹里「チョコだけじゃない。
   夏葉も咲耶も、凛も、未央と卯月、楓さん……プロデューサーも」

樹里「皆との出会いが無かったら、今のアタシは無かったんだ」
689 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:36:28.19 ID:VfNpJpls0
凛「樹里……」

咲耶「フフッ。珍しくセンチメンタルな事を言うんだね、樹里」

夏葉「緊張しているの?
   私と一緒にステージに立つことの何が不安なのかしら」ファサッ

樹里「口の減らねぇヤツらだな、ホントによ」


樹里「特に、楓さん」

楓「……私?」


樹里「あの日の楓さんのステージを……いや、なんつーか……
   楓さんのアイドルやファンに対する立派な姿勢を、見ることができたから」

樹里「それまで正直、嫌な世界だなって思ってたアイドルの事を、初めて好きになれた……
   そのきっかけが、アタシにとっては楓さんで、目標を見つけた瞬間だったんです」


楓「樹里ちゃん……」


樹里「ありがとうございます、楓さん。
   たくさん失礼な事を言っちゃったけど、それはステージで返します」

樹里「だから、改めて今日は、よろしくお願いします」ペコリ
690 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:37:33.88 ID:VfNpJpls0
楓「…………」

樹里「ていうか、アイツおせぇな。まだ来ねぇのかよ」

凛「確かに……とっくに手続きは終わってるはずなのに」

未央「まぁー、これだけ大きい会場だとさ、挨拶しに行く人達もいっぱいいるんじゃない?」

智代子「そろそろ衣装に着替えて準備しとかなきゃだよね? 私達」

シャニP「お、俺何もしなくて大丈夫だったのかな……?」ソワソワ


ヴィー…! ヴィー…!

楓「!」

楓「……すみません、携帯が。ちょっと失礼しますね」スッ

卯月「え? あ、はい」

スタスタ…


咲耶「……?」
691 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:40:44.43 ID:VfNpJpls0
〜来賓ルーム〜

トクトクトク…

天井「そろそろ開演の時間ではあるが……
   舞台裏では、ある意味本番と呼べる事態が既に起こっているようだ」

天井「賑やかな事だな、黒井?」コトッ

黒井「フンッ! 私だって本意ではない。
   我が961プロの貴重な人員を、こんな事に割かなければならんとは……」

黒井「貴様の事務所で高垣楓の出場を止めていれば、こんな事をせずとも済んだのだ、美城」


美城「それを言うなら、あなたも同じことです、黒井社長」

黒井「何?」

美城「プロジェクトクローネ……そして、『TAKE−UC』の監督権は貴方にある」

美城「それほど危険視しているというのなら、
   あなたがユニットの出場を取り止めれば良かったのでは?」

黒井「そんな真似、できるはずがあるか!
   我が961プロの看板を背負わせているのだぞ、あの者達には!」

黒井「出場取り止めなどすれば、我が事務所の末代まで残る汚点だ!」
692 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:43:27.73 ID:VfNpJpls0
天井「なるほど……大したタマだよ、美城常務」

天井「黒井がそう考えることも見越して、
   あなたはプロジェクトクローネを黒井に譲ったという事か」

美城「それは、半分は正しくありません」

天井「? 半分とは?」


美城「正直に申し上げましょう。
   確かに、黒井社長の行動を制限することを狙いとし、私はクローネを明け渡しました」

黒井「……」

美城「ですが、私にとって何より計算外だったのは、高垣楓の暴走です」

美城「そして、あのように衆目を集めてしまっては、もう止めることはできません。
   今から高垣楓を止めれば、その不自然さがあらぬ疑惑を生む」

美城「それに、このフェスの出場を止めたとしても、彼女にとっては別の機会がいくらでもある」

美城「つまり……私には打つ手が無かった、という事です」


天井「それは違うな」

美城「……」ピクッ
693 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:46:28.92 ID:VfNpJpls0
天井「手段さえ選ばなければ、高垣楓を止める術はあったはずだ」

天井「世論から向けられる疑惑なども、メディアを利用して誘導すれば、
   その情報を操作する事だって、あなたの事務所なら苦ではないだろう」

美城「…………」


天井「なぜそうしなかったか…… 
   それは、あなたが純粋に彼女のステージを見たかったからではないのか」

天井「高垣楓を……いいや、西城樹里をはじめとする『TAKE−UC』の晴れ姿を」

天井「お前もきっと同じだろう? 黒井」


黒井「……今、私の者達がヤツの身柄を押さえるために奔走しているが、
   それは美城、貴様に先を取られないようにするためだ」

黒井「だがもし貴様が、我らの過去の行いが衆目に晒される事を諦めているのなら……
   貴様はもう、あの男をどうするつもりも無いという事かね?」


美城「……いいえ、黒井社長」

美城「打つ手が無い、と私が言ったのは、彼女の暴走についてです」

美城「私の目は、既に事が起きた後の処理について向いています」
694 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:47:04.02 ID:VfNpJpls0
〜関係者通路〜

ガッ! ゴキャッ!

黒服達「ぐ、は……!」「うっ!?」

ドサッ



ダダダ…!

黒服達「いたぞ! 逃がすな!!」ジャキ!

武内P「!」

ピシュッ!

武内P「……!」サッ!

チュイン!
695 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:48:10.68 ID:VfNpJpls0
武内P(サイレンサー……実弾を……!)


ピシュッ! ビシュッ!

武内P「むぅ……!」ダッ!

タタタ…! チュイン! キィン!

ビシッ!

武内P「ぐっ!」


タタタ…!


武内P「くっ……はぁ……はぁ……!」

ポタポタ…


武内P「はぁ、はぁ……う、ぐ…!」シュルッ

ギュッ!

武内P「…………」ダッ

タタタ…!
696 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:48:42.97 ID:VfNpJpls0
〜会場 サブエントランス〜

ガヤガヤ…! ザワザワ…!

「おい、あれ……」
「本物?」
「うわー、すっごい綺麗……!」
「誰か待っているのかな……」


楓「…………」





ザッ



楓「……こんな時でも、時間通りなんですね」クスッ
697 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:49:18.79 ID:VfNpJpls0
武内P「はぁ……はぁ……」



「誰だろう、あの人」
「デッカい男だな……」
「SP?」

ヒソヒソ…


武内P「……こちらへ、高垣さん」

楓「はい」

スタスタ…
698 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:50:25.26 ID:VfNpJpls0
〜備品倉庫〜

ガチャッ

バタン

武内P「……」キョロキョロ サッ

武内P「……」ゴソゴソ

楓「…………」


武内P「……ここなら、落ち着いて話せそうです。
    狭苦しくて、恐縮ですが…」

楓「いえ、構いません」


楓「それよりも、お怪我を……」

武内P「…………」グッ

楓「……私のせい、ですね」

武内P「いえ」


武内P「高垣さん……どうか正直に、お答えいただきたい」
699 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:52:51.65 ID:VfNpJpls0
楓「ご用件は、承知しています」

楓「私が、346プロと961プロの内情を、ステージ終了後に公表する……
  もう決めたことです」

武内P「……!」


楓「私は、あのミニライブの会場が好きです」

楓「ずっとあそこに留まって、来てくれる方々に私の歌を聴いてもらう……
  それだけで良かった」

楓「でも、いつの間にか私は……私が望む以上に、大きくなりすぎちゃいました」

楓「膨らみすぎた風船がやがて破裂するように……私は、もう……」


武内P「……高垣さん」

武内P「それがどれだけ346プロ、ひいては業界全体に大きな影響を及ぼすか、
    お考えになられた事はありますか」

楓「…………」
700 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:55:34.68 ID:VfNpJpls0
武内P「あなたが行おうとする行為は、これまで業界が築き上げたものだけでなく、
    アイドル界の未来をも奪いかねないものです」

武内P「将来のアイドルを夢見る人達が、放つ事が出来たかも知れない輝きを!」

武内P「私個人としては、事務所のことなどどうでもいい。ですが……
    その事だけは、どうしても承服できないのです」

武内P「高垣さん、あなたは……
    あなたが行おうとする事の影響の大きさをどうか…」

楓「考えた事が無いと、お思いですか?」

武内P「……っ!?」


楓「自分の存在が他者に与える影響について、私が何も考えの及ばない女だと?」

武内P「た、高垣さん……」

楓「私は……っ」


楓「もう、たくさんなんです……」

楓「夏葉ちゃんだって……私は、そんなつもり……無かったのに……!」
701 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:59:09.21 ID:VfNpJpls0
武内P「あ、有栖川さんが……!?」

武内P「一体、どういう事が……何があったのですか」


楓「……専属契約を結んでいない、練習生と呼ばれる子達のレッスンを見る機会があって」

楓「懸命にレッスンに励む子達の中に……一際、目を引く人がいました」

楓「とても快活で、自信に満ち溢れていて……
  その自信を裏付けるだけの非常な努力を苦としない、分かりやすい強さを持っていました」

楓「立場こそ、私は先輩ですが……その子の姿に、とても憧れたんです」


楓「いつか一緒に、仕事をしてみたい……つい、そう零しました」

楓「その強さを、私にも分け与えてもらえたら、って……一緒にいれば、それが叶うかもって。
  インタビュアーの取材と離れた、記事にもならない雑談を、したのだと思います」

楓「それが……巡り巡って、黒井社長の耳に入ったみたいです」

武内P「! ……」
702 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:02:31.77 ID:VfNpJpls0
楓「軽い気持ちで零した独り言を、彼は引き合いに出し、
  私に……346プロに、取引を持ちかけました」

楓「その子……有栖川夏葉ちゃんに、346プロを応募するよう、それとなく誘導する。
  ツテのある346プロの社員達にも根回しをしてあげましょう、と」


楓「もちろん、私はそれを断りました。
  私のワガママで、皆を巻き込むような事をさせる訳にはいきません、と」

楓「ですが、既に黒井社長は、346プロ内への根回しを行っていました」

楓「高垣楓が目を掛けている、デュオを行いたいと言っている……
  その企画が、既に346プロの社内で進行していたんです」

楓「夏葉ちゃんのオーディション合格を前提として……」

武内P「…………」

楓「全てはあなたの発言に端を発する事なんですよ、と彼は私を脅しました。
  もしこれが明るみに出れば、あなたもその責任を免れることは無い、と」

楓「私は……その影響を考慮し、やむなく受け入れました。
  ですが、一つ条件を提示したのです」


楓「今の図式では、961プロは全くの無関係のまま」

楓「取引を持ちかけるおつもりなら、せめて建前上、
  このオーディションの不正は、961プロ側からの依頼であるとすべきでは、と」
703 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:06:24.57 ID:VfNpJpls0
武内P「……そんな事が」

楓「黒井社長は、笑ってこれを了承しました。
  彼にとっては、何でも無いことであり……事実として、意味の無い事だったのでしょう」


楓「そして……あのオーディションが、行われました」

楓「黒井社長の言った通り、全ては……私の軽い気持ちで言ったことのために……」

武内P「…………」


楓「今、346プロが必死になって不正の事実を隠蔽しようとしているのも、そのせいです」

楓「全ての原因が高垣楓だと知られたら、346プロの信用が大きく揺らぐ……
  皆、私を守るために、必死になって手を回しているんです」

楓「私は、何も望んでいなかった……
  本当にそんなつもり、無かったんです、なのに……!」

武内P「高垣さん……」


楓「ふと、怖くなり……私自身の過去のお仕事についても、調べました。
  それで、知ったんです」

楓「案の定、私を引き立てるために、邪な意志が様々に働いていたことを」

楓「それにより、不条理な目に遭い、一方的に光を奪われた人達が大勢いたことを……」
704 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:09:18.25 ID:VfNpJpls0
武内P「……高垣さん。それはあなたの周囲が勝手にやった事です」

武内P「おそらく私も、961プロとの契約に関わる仕事に携わった中には、
    あなたの実績に繋がるような依頼もあったでしょう」

武内P「ですが、それはあなたが依頼したものではありません。
    あなたが責任を感じるべきものでは無いのです」


楓「では、光を奪われた人達は“事故”にあったとでも思って諦めろと?」

武内P「!!」


楓「そんなはずはありません。
  たとえ私がそれを望んでいなかったとしても、私さえいなければそんな事にはならなかった」

楓「黒井社長や、346プロの上役の幾人かがいなくなったとして、解決する話ではありません。
  “それ”を望む人達がもう、今ではあまりに多すぎるんです」

楓「私を“立派なトップアイドル”だと仕立て上げた方が、何かと都合が良い人達も……
  私に夢を見出し、期待をする人達も」


楓「私の手に負えないほどに、アイドル高垣楓はどんどん大きくなって、
  取り返しのつかない代物になってしまいました」

楓「ちょっと歩いただけで跳ね飛ばす石が、巡り巡って人を傷つける……
  それが、あまりに多くなりすぎるほどに」
705 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:11:27.38 ID:VfNpJpls0
楓「さっき樹里ちゃんに、言われたんです……
  アイドルを好きになれたきっかけが、私だったと」

楓「私のアイドルやファンに対する姿勢が立派で、目標だったって!」ツー…

楓「自分や智代子ちゃんが傷つき苦しんだ元凶が私とも知らずにっ!!」


武内P「た、高垣さ…」

楓「咲耶ちゃんからも言われました!
  高垣楓はモデル時代だった頃から私の目標だ、憧れの存在だと!!」

楓「皆が勝手に大きくした偶像を……全部インチキなのにっ!!」ポロポロ


楓「私のせいで不幸になった人が大勢いる事実を知れば、
  決して言えないはずの事を私はっ! あの子達に言わせてる!!」

楓「それがどんなに悔しくて、申し訳なくて、耐え難い苦痛かあなたに分かりますか!?」

楓「預かり知らぬ所で今この瞬間も誰かを騙し、苦しめ続ける私の気持ちがっ!!」ボロボロ


武内P「…………」

楓「うぁ、ぁ……うっ……ッ……うぅ……!」ボロボロ
706 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:12:18.60 ID:VfNpJpls0
武内P「……だからあなたは、全てを壊すのですか」

楓「…………」


武内P「あなたにそれをするよう促した人物も、おおよそ見当がついています」

武内P「今西部長、それと……283プロの、天井社長ですね?」


――――


樹里「……なぁ、夏葉」

夏葉「何?」

樹里「今さらだけどよ……本当に公表して大丈夫なのかな、不正の件」
707 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:15:42.74 ID:VfNpJpls0
夏葉「ふふ、本当に今さらね」

夏葉「もちろん、何も問題は無いわ。
   そもそも私から提案した事に、この期に及んで是非も無いでしょう?」

樹里「そうだけど、そうじゃなくて……なんつーか……」

智代子「?」


樹里「大手のアイドル事務所が、普通にそういう事してる、って知られたら……
   業界全体が、なんかヤベー事になっちゃわないかなって、ふと思ってさ」

樹里「あ、いや! アタシ自身がアイドルやるって決めたから、
   その、自己保身とか、打算的なアレで言ってるんじゃなくて!」フリフリ

夏葉「えぇ、分かっているわ」

樹里「……凛達だって、相当しんどい思いをする事になるだろうし、その……」


卯月「私達なら大丈夫です、樹里ちゃん」

未央「そりゃあファンの人達からは、ものすごく白い目で見られたり、
   叩かれたりするだろうけどね……」ポリポリ

凛「見過ごしていい問題じゃないっていう気持ちは、私達も一緒だよ」
708 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:18:04.85 ID:VfNpJpls0
凛「ただ問題は、346プロ側がそれを認めるかどうか……かな」

咲耶「認めてしまったが最後、事務所として築き上げた信用が地に落ちる事になる。
   346プロの上役達が、素直に不正を認めるとは思えないな」

夏葉「えぇ。私も、長く厳しい戦いになるであろう事は承知の上よ」

樹里「夏葉……」

夏葉「せめて346プロの中でも誰か影響力の大きい人が、私の告発に便乗してくれれば、
   風向きは変わるのでしょうけれど」

智代子「そんな都合の良い人が、果たしているかなぁ……?」ウーン

咲耶「…………」


――――


楓「……たとえ、あの人達のお話が無かったとしても」

楓「いずれ私は、同じ事をしたでしょう……
  それを分かってくれたから、咲耶ちゃんも、今日のステージを私に譲ってくれたんです」

武内P「…………」


楓「私の言葉なら……きっと346プロも、抑え込むことはできません」

楓「それが、私にできる唯一の償い……その考えは、間違っているでしょうか」
709 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:19:43.98 ID:VfNpJpls0
武内P「……卑怯な言い方になりますが、高垣さん」

武内P「それが正しいか、間違っているかは、私には分かりません」

武内P「あなたの苦しみは、あなたしか経験した事のないものであり……
    私が何を言ったところで、軽薄で無責任な言葉にしかなり得ないと考えます」

楓「…………」

武内P「ですが、確信を持って言える事が、一つだけあります」

楓「……?」ピクッ


武内P「あなたは、西城さん達と一緒にステージに立った事が無いということです」

武内P「そして、そのステージから得られるものとの出会いも」


楓「樹里ちゃん達と……」


武内P「アイドルを本格的に志してからの西城さんは、
    見違えるように、良い笑顔を見せるようになりました」

武内P「西城さんだけではありません。
    白瀬さんも有栖川さんも、園田さんも……もちろん、本田さんや島村さん、渋谷さんも」
710 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:26:07.12 ID:VfNpJpls0
武内P「幾多の経緯を経て彼女達は出会い、互いに切磋琢磨し……
    非常な輝きを帯びて、大いなる未来への一歩を新たに踏み出そうとしています」

武内P「『TAKE−UC』が今日歌う楽曲は、
    そんな未来に踏み出す彼女達の姿を投影させたものです」

武内P「283プロのプロデューサーは、そう私に語り、その曲を託しました」


楓「……『Ambitious Eve』を」


武内P「白瀬さんがあなたに今日のステージを譲ったのは、
    あなたの意を汲み、それを公表する場を与えるためだったのかも知れません」

武内P「ですが、こうも考えられないでしょうか?」

武内P「“あなたに思い直して欲しかった”のだと」

楓「……!」

武内P「夢への一歩を踏み出す尊さを、アイドルを志した当時のあなたも知っていた。
    それを、思い出して欲しかったのではないでしょうか」

武内P「今まさにそれを踏み出そうとする、西城さん達と一緒のステージに立つことで」


武内P「私は、そう信じたい……
    かつてモデル部門にいたあなたを、アイドル部門へと導いた者として」
711 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:27:40.48 ID:VfNpJpls0
楓「…………」

武内P「……勝手なことを申し上げました」

武内P「繰り返しになりますが……私には、あなたの苦しみを否定することはできません。
    その苦しさ故に、あなたが下す決断も」

武内P「ですが、もし私の願いを聞き入れてくれるのなら……」


武内P「どうか、今日のステージだけは目一杯、楽しんできてください」

武内P「西城さん達と共に、たくさん、笑ってください」


楓「…………」


武内P「……そろそろ時間です。
    戻りましょう。大勢の刺客が潜んでいますが、必ずお守りし…」

ギュッ

武内P「……!? えっ」


楓「まさか、私まで危ない目に遭わせようという人はいないと思います」

楓「だから、こうしていれば、プロデューサーさんも安心ですよね?」ニコッ

武内P「…………」ポリポリ
712 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:29:29.55 ID:VfNpJpls0
〜来賓ルーム〜

黒井「高垣楓と肌身離さず行動を共にしているだと?」ガタッ

美城「…………」

天井「ハッハッハ」


黒井「チッ……了解した」ピッ!

美城「まんまと御社の黒服達から逃げおおせた、ということですか」

黒井「伊達に裏社会で生きてきた訳ではなかったということだ。
   あの男、なかなかどうして悪知恵が働く……」

天井「いや。おそらく、高垣楓の発案によるものではないかな」

天井「彼女は、自分のために誰かが傷つくのを極度に恐れている」

黒井「……フンッ」


美城「あとは……あの男が彼女と接触し、何を話したか」

美城「要らぬお節介が、今回ばかりは望ましい方向に働くのを祈るほかありません」
713 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:30:56.46 ID:VfNpJpls0
〜控え室〜

凛「……どう?」クルッ

卯月「すっごくカッコいいです、凛ちゃん!」ギュッ

未央「うんうん! チョコもなつはしも、ジュリアンも皆よく似合ってるよ!」


夏葉「そう言えば、楓の衣装の手直しは間に合ったのかしら」

智代子「間に合ったって、この間ちひろさん言ってたよ。
    踊っててスポーンと脱げ落ちちゃう事は無いんじゃないかな」

樹里「そういう事言うなっつーの」

咲耶「…………」

樹里「ほら見ろ、咲耶が黙り込んじまったじゃねぇか」

咲耶「えっ? あ……すまない、何の話かな」

樹里「は? あぁいや、聞いてないならいいんだけどよ」


凛「……咲耶」スッ
714 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:32:10.84 ID:VfNpJpls0
咲耶「ん? 何だい、凛」

凛「何か、さっきから様子が変だね」

咲耶「……そう見えるかな」


凛「そんなに楓さんが心配?」

咲耶「!」ピクッ

凛「……案外、分かりやすい反応するよね」クスッ

未央「さくやん……?」


咲耶「……凛には敵わないな」フッ


智代子「咲耶ちゃん、どうかしたの?」

樹里「楓さんがどうしたっつーんだよ?」

夏葉「…………」


咲耶「……実は」
715 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:33:23.99 ID:VfNpJpls0
コンコン

卯月「ひぇっ!?」ビクッ!

樹里「はーい」

ガチャッ


武内P「大変、お待たせしました」

楓「ちょっとお手洗いが混んじゃっていて」


未央「プロデューサー! それに楓さんも!」

咲耶「……!」

樹里「おせぇよ、一体何してたんだ?」

武内P「すみません。少々、厄介な相手方に捕まっておりまして」

楓「私も、油断していました……ちゃんと事前に済ましトイレば、なんて。ふふっ♪」ニコッ

凛「あ、はい」
716 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:34:52.27 ID:VfNpJpls0
夏葉「あまり悠長にしていられる時間は無いわ。
   楓、あなたも衣装に着替えておいてもらえるかしら?」

楓「はいっ」

智代子「……楓さんにもビシッと指示する夏葉ちゃん、本当すごいと思う」

樹里「アンタのその胆力が羨ましいぜ」

夏葉「?」キョトン

楓「……ふふっ♪」スッ

シャーッ


夏葉「それよりも、プロデューサー。
   レディが着替えようという時に、この部屋に留まるつもりなの?」

武内P「……えっ!?」ドキッ!
717 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:36:13.16 ID:VfNpJpls0
凛「そうだよね。ほら、こっちの部屋行ってて」グイッ

武内P「あ、す、すみません……!」ズルズル…

バタンッ


凛「ふぅ……ほら、樹里も」

樹里「は、アタシ? 何で?」

凛「さっきプロデューサーに言いかけてた言葉、あったでしょ?」

樹里「……ッ!」ドキッ

未央「あーそうだった!
   えへへー、ジュリアンいつぶちかますのー? 今でしょー?」ウリウリ

樹里「な、何だよぶちかますって……
   あーもう! そのウリウリすんのやめろ!」
718 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:37:37.14 ID:VfNpJpls0
卯月「えへへ。樹里ちゃん、ファイトですっ!」ギュッ!

樹里「が、頑張ることなんかねぇって!!」

凛「はいはい、いいからほら、早く」グイーッ

樹里「あ、ちょっ! 凛、この……!」ズルズル…

ガチャッ バタン


凛「まったく……どっちも世話が焼けるんだから」

智代子「えへへ。優しいね、凛ちゃん達」

智代子「でも、良かったの?」


凛「……それくらいは、させてあげたいでしょ」

卯月「大一番を間近に控えて、お互いに積もる話の一つや二つ、あると思いますから」
719 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:39:21.44 ID:VfNpJpls0
夏葉「ふふっ。粋な計らいをするのね」

未央「そして聞き耳を立てる未央ちゃんであった」ソッ

夏葉「やめなさい」ギューッ

未央「いだだだだだだ!!? 耳っ、耳がちぎぃだだだだだだ!!」

夏葉「それよりも……」


シャーッ

楓「…………」スッ


夏葉「……よく似合っているわ、楓」

智代子「本当! あ、脚なっがい……」

楓「ありがとうございます」


楓「……夏葉ちゃん」

夏葉「? 何?」
720 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:41:23.71 ID:VfNpJpls0
楓「一緒にステージに立てて、嬉しいです」

夏葉「えぇ。私も、とても光栄よ」

夏葉「でも今日のステージでは、私はあなたの足を引っ張るつもりは無いの。
   それどころか、あなたやセンターの樹里さえも差し置いて私が主導権を握ってみせるわ」

夏葉「せいぜい頑張って私について来てみせることね!
   覚悟しておきなさい、“世紀末歌姫”高垣楓っ!!」ビシッ!


智代子「……夏葉ちゃん、それたぶんカメラの前で言わない方がいいよ」

卯月「身内が言うのも何ですが、ちょっとその……怒られそうかなぁって」

夏葉「? どうして?」

未央「本当にブレないねなつはしは!」


楓「……ふふふ♪」ニコッ

咲耶「アナタが喜ぶ姿を見れて、嬉しいよ」フッ

楓「咲耶ちゃん……」


楓「あ、あの、咲耶ちゃん…」
721 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:43:59.01 ID:VfNpJpls0
スゥ… ピトッ

楓「……っ?」


咲耶「今は何も言葉はいらないよ、楓」

咲耶「私は舞台袖にいる。
   ステージが終わったら、私もアナタに話したかった想いを打ち明けよう」

咲耶「きっと“そうしてくれる”ことを、願いながら、ね」


楓「……はいっ」


卯月「あ、あわわわ……!」プシュー…!

智代子「さ、咲耶ちゃん、いつの間に楓さんとそんな仲に!?」

咲耶「? 何で顔を赤くしているんだい?」

未央「C・ロナ○ドなのかい、さくやん!?」


夏葉「ふふっ。どうやら余計な心配だったみたいね」

凛「余計な混乱は招いているみたいだけどね」ハァ…
722 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:46:08.95 ID:VfNpJpls0
〜別室〜

武内P「さ、西城さん……」ポリポリ

樹里「……アタシまで追い出しやがって、凛のヤツ」


樹里「ていうか……さっきまでそのジャンパー、羽織ってなかったよな」

武内P「……」

樹里「袖、まくってみろよ」

武内P「…………」スッ


樹里「! ……それ、怪我してんじゃねーか」

樹里「そんなヤバイ目に遭ってたのかよ、アンタ……」


武内P「……そう言えば、283プロのプロデューサーさんは、どちらへ?」

樹里「チッ、話題逸らしやがって……」

樹里「今西って人とどっかに行ったよ。
   現場の指揮をアンタに譲って、観客席で見守ったりとかすんじゃねーか?」

武内P「そうであれば、良いですが……」


樹里「…………」モジモジ
723 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:48:47.69 ID:VfNpJpls0
樹里「あ、あのさ、プロデューサー……ええっと、その……」

武内P「……はい」

樹里「この間から、ちょっと……考えてた事があって……」


樹里「アタシ、アイドル辞めようと思う」

武内P「えっ」

樹里「……961プロの、な」ニカッ

武内P「西城さん……?」


樹里「このフェスが終わったら……アタシを346プロに入れてくれねぇか?」

武内P「……!?」ピクッ

樹里「そ、そんなに驚くような事かよ」

武内P「いえ、失礼……ですが、意外だったもので」


樹里「そりゃあ、確かにアタシ自身、346プロには良い印象を持ってねぇ。
   だけど、961プロはもっとだ」

樹里「とにかく961プロだけは出ようって思って、283プロとどっちにしようか、迷ってた」
724 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:50:12.69 ID:VfNpJpls0
武内P「なぜ、283プロではなく、346プロを?」

武内P「元々のご友人である園田さんだけでなく、有栖川さんや白瀬さん……
    あなたを慕い、支えてくれる方も多くおられます」


樹里「友達がいるのは、346プロだって同じだよ」

樹里「だけど……アンタがいるのは、346プロだけだ」

武内P「!」


樹里「これまでの事、振り返って……分かったんだ」

樹里「アタシのアイドル活動のそばには、いつもアンタがいた」

樹里「アンタ無しでアイドルやってくなんて、アタシには考えらんねぇ」

武内P「さ、西城さん……」

樹里「……!? あっいや、ち、ちがっ!!
   い、今のはちげぇから! 勘違いすんなよな!!」ブンブン!

武内P「な、何が、でしょうか?」

樹里「――ッ!!」カァーッ!

樹里「いちいち言わせんじゃねぇよそういうのっ!!」ポカポカ!

武内P「も、申し訳ありません」
725 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:52:17.76 ID:VfNpJpls0
樹里「はぁ……ったく。アンタってほんとブレねぇよな」ワシャワシャ

樹里「ま、そういう所がいいんだけどさ」

武内P「……私は」

樹里「ん?」


武内P「西城さんには、283プロが合っていると考えていました」

武内P「346プロほど大規模でなく、政治的な意図に振り回されるリスクも少ない……
    仲間達と共に、地に足のついた活動が行えるよう、天井社長もよく見てくださる方です」

武内P「そして、あのプロデューサーも、情熱に溢れ、
    理知的かつ親身にアイドル達を導くことができる方だと、この活動を通して分かりました」

武内P「私を判断材料としてくれた事は、とても光栄ではありますが……」ポリポリ


樹里「……ナマイキな事、言うけどさ」

樹里「アタシだけのためじゃねぇ。
   アンタの事も、アタシは支えていきたいんだよ」

武内P「えっ?」
726 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:55:14.36 ID:VfNpJpls0
樹里「アグラオネマって、あの鉢植えさ……ジャングルに生える植物なんだってな」

樹里「直射日光はNGだって、凛から教えてもらったぜ。
   ったく、デタラメな育て方教えやがって」

武内P「は、はぁ……」


樹里「でも、やっぱりあのアグラオネマは、日の当たる所で育てて良い気がしたんだ」

樹里「自分の事、大事にしなさすぎるアンタには、もっと日の当たる所にいてほしい」

樹里「誰かを笑顔にするのがアイドルなら、アタシが一番笑顔にしたい人ってさ……
   やっぱ、アンタになっちまうんだよ」

樹里「だから……その……」ポリポリ

武内P「…………」

樹里「あっ! じゃあ分かった、こうしようぜ」ティン!


樹里「今日のステージで、
   もっとアタシの事をプロデュースしてぇ、ってアンタに思わせてやる」

樹里「アタシにはアタシの輝きがある……アンタが言ってたことだけど」

樹里「西城樹里って一番星が放っておけなくなるくらい、
   アタシに夢中になったんなら、アタシを346プロに引き抜けよ」

樹里「どうだ。誤魔化しあい無しの、アンタとアタシの賭け。
   当然乗るよな?」
727 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:57:34.35 ID:VfNpJpls0
武内P「……西城さん」

武内P「やる前から結果が分かっているものは、賭けとは言いません」ニコッ

樹里「! え、じゃあ……!」


武内P「西城さんの言うとおりです」

武内P「私も……これからは胸を張って生きていきたい。
    裏の世界ではなく、日の当たる場所に根を下ろし、本来の業務に邁進していきたい」

武内P「あなたと一緒なら、それができる……そう思いました」

樹里「……ヘヘッ」ニカッ

武内P「それに……随分と辛い想いも、させてきたかと思います」

樹里「え?」


武内P「私に心配をかけさせないよう、気丈に振る舞っておられましたが……」

武内P「インターネット上をはじめとした誹謗中傷には、心を痛めていたのではないかと」


樹里「……やっぱ、バレてたか」


樹里「怖かったよ……」

樹里「まるでアタシのこと……人とすら思ってねぇようなことまで……ッ」
728 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:01:11.25 ID:VfNpJpls0
武内P「…………」

樹里「でも……本当に怖いのはさ」

樹里「もし、アイドルやってなかったら、
   アタシもそうして、好き勝手に悪態ついていたかも知れなかったんだ」

樹里「チョコをひでぇ目に遭わせた業界……
   そこで頑張ってる凛達や夏葉達のような、アイドル皆に」

武内P「西城さん……」


樹里「アタシを救ってくれて……ありがとう、プロデューサー」

武内P「……私も、あなたに救われました。
    礼を言うのは私の方です、西城さん」

樹里「ヘヘッ……」グスッ

樹里「……ッ」ゴシゴシ

樹里「アタシが346プロに入ったら、そん時はちゃんと下の名前で呼んでくれるか?」

武内P「……分かりました」ニコッ

樹里「よしっ」パシッ


樹里「そろそろ行ってくる。ちゃんと見てろよな」

武内P「もちろんです。私はあなたのプロデューサーですから」
729 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:02:59.24 ID:VfNpJpls0
〜???〜

ちひろ「………………」


黒服「抵抗されたので、その……」

???「言い訳はいい」

黒服「は、ハッ!」


???「結果的に奏功するかも知れん」

???「意識が戻る前に、彼女を例の場所へ運び出せ」

黒服「ハッ!」

スッ



???「……」スチャッ



???「私です」

???「あなたはクイーンズゲートドームに向かってください」

『わ、分かりました』
730 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:04:21.63 ID:VfNpJpls0
〜舞台袖〜

ワアアァァァァァァァ…!!


夏葉「公表するのを止めろですって?」

智代子「……ッ!?」

武内P「そうです」

卯月「プロデューサーさん……」

凛「…………」


夏葉「会場には、既に父が有事のために手配したSP達が何人も手配されているわ。
   それに、交友のあるジャーナリストの方達も」

夏葉「皆、有栖川家のためにリスキーな依頼を引き受け、今日のために来てくれた人達なのよ」

夏葉「父の顔に泥を塗れと?」


武内P「…………」
731 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:07:35.48 ID:VfNpJpls0
夏葉「……ふふ、なんてね」ニコッ

未央「えっ?」


夏葉「実は私も、内心少し気が引けていたの」

夏葉「危険な目に晒される事が、じゃないわ。
   せっかく皆と一緒に立つステージに、私自身の手で水を差すことをね」

智代子「夏葉ちゃん……!」パァッ


夏葉「卯月、私のスマホを」

卯月「え? は、はい」スッ

夏葉「父に連絡しなくちゃ。予定していた計画は全てキャンセル」スチャッ

夏葉「今日来てくれた人達には、純粋に私達のステージを楽しんでいただきたい、と」

武内P「……ありがとうございます、有栖川さん」ペコリ

夏葉「こちらこそ。これで心置きなくステージに集中できるわ」フンスッ

夏葉「……もしもし、お父様?」

樹里「ヘッ、切り替えの早ぇこった」



武内P「……お聞きいただいた通りです、高垣さん」
732 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:09:07.88 ID:VfNpJpls0
楓「…………」

未央「え、楓さん? ……プロデューサー?」キョロキョロ


武内P「あなたにご判断を委ねます」

武内P「そして、いかなる決断であろうと、私はそれを尊重することをお約束します」


楓「……この身が、意志を持たないただの人形であれたら」

武内P「…………」

楓「そう思わなかった日は、ありません」

樹里「か、楓さん……?」


楓「ですが……一つだけ分かることは、
  それを考えるのは、今ではないということ」
733 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:12:09.19 ID:VfNpJpls0
楓「今の私は、『TAKE−UC』……
  振り返らず、ただ目の前のお客さん達だけを見て、精一杯歌いたいと思います」

楓「咲耶ちゃんの分まで」


咲耶「……アナタに会いたかった人達が、会場に来ている」

咲耶「このステージをずっと待っていたんだ、って……
   アナタに伝えたい人達が、たくさんいるんだ、楓」

咲耶「答えてあげてくれないか。私の分まで」

楓「はい」コクッ


ワアアアァァァァァァァァ…!!!


卯月「ジュピターさん達、すごい歓声です……」

智代子「そろそろ出番だね……!」ドキドキ


凛「ねぇ。そのさ……皆で何かしない?」

夏葉「ふふ。何かってなぁに、凛?」クスッ

凛「もうっ、分かるでしょ。その……エイエイオーみたいなヤツ」

未央「しぶりん、意外と語彙が行方不明になる時あるよね」
734 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:14:06.26 ID:VfNpJpls0
楓「それなら、私にちょこっと良い考えがあります」

智代子「考え?」

樹里(嫌な予感……)

楓「おすすめの験担ぎがあるんです。皆さん、手を」スッ

凛・夏葉「手?」「験担ぎ?」キョトン


楓「皆で円陣を組むんです」

楓「本番前にエンジンを掛けるために、円陣を。ふふふっ♪」ニコッ


樹里「そんなこったろうと思ったぜ」スッ

楓「樹里ちゃん……」

咲耶「フフッ。さぁ皆、勝利の女神にあやかろうじゃないか」スッ
735 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:15:09.09 ID:VfNpJpls0
卯月「ほら、プロデューサーさんもっ!」スッ

武内P「は、はい」スッ


楓「では樹里ちゃん、音頭をお願いします」

樹里「吹っ掛けといてアタシですか!?」

凛「まぁ、センターだもんね」

樹里「そ、そう言われても……えっと、ど、どうすりゃいいんだこれ」

智代子「樹里ちゃんの好きな掛け声でいいんだよ」

武内P「……」ニコッ



樹里「……あー、っと」ポリポリ
736 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:16:25.99 ID:VfNpJpls0
ワアアアアアァァァァァァァァァァ!!!! パチパチパチ…!!

翔太「みんな、ありがとうー!!」

北斗「これからも、俺達ジュピターをよろしくっ!」


冬馬「と、言いてぇ所だが……」

冬馬「俺達の後に続いて、どうにも可愛げのねぇヤツらが、
   間もなくこのステージに上がってくるらしいぜ」

冬馬「だから、そんなナマイキがステージ上でビビっちまうくらい、
   俺達と同じだけの熱量をヤツらにぶつけてやれっ!!」

ワアアアアアァァァァァァァァァァ!!!! パチパチパチ…!!


翔太「冬馬君、あの子達のこと好きすぎでしょ」

冬馬「うるせぇ。西城がへっぴり腰になるのを見てぇだけだ」

北斗「ま、そういう事にしておこうか」ポンッ
737 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:17:13.74 ID:VfNpJpls0
ワアアアァァァァァァァァァ…!!


フッ


オオォッ!? ザワザワ…!


冬馬「来たか」

北斗「…………」



パッ


ワアアアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!



樹里「…………」
738 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:19:40.22 ID:VfNpJpls0
――――


樹里『……いや』ワシャワシャ

樹里『咲耶や未央と違ってさ…
   やっぱアタシ、こういう時に気の利いたこと、言えねぇよ』


樹里『ただ……ありがとう』

樹里『辛いこと、嫌なこともたくさんあったけど……でも、楽しかったよ』

樹里『皆がいてくれたから、本当にアイドルって、楽しくて……
   やってなかったら何をしてたのか、今じゃ考えらんねぇくらい……』

樹里『かけがえのないモンばっかで……』

樹里『…………』


樹里『悪ぃ、やっぱりまとまんねぇわ、ハハ、ハ……』

樹里『こういうの、アタシ、ガラじゃねぇって……ごめん皆、上手く、いかなくって……』


凛『何言ってるの、樹里』

樹里『凛……』

未央『ちゃんと出来てるよ、ジュリアン』

卯月『私達は皆、そんな樹里ちゃんが大好きなんです』
739 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:21:53.30 ID:VfNpJpls0
樹里『……ヘヘッ』

樹里『ッ……悪ぃ、夏葉。バトンタッチ』スッ

夏葉『あら、もういいの?』パシッ


夏葉『それでは、ウォッホン!! エェーー、オッホン!!
   さぁ皆! 始めていくわよ、私達『TAKE−UC』の伝説を!!』

夏葉『まさかこのフェスでの優勝が最終目標であると考えている人はいないでしょうね!?
   無論、ここで終わらせるつもりなんてさらさら無いわ!! この先もずっと私達は…!!』ウンタラカンタラ!

樹里『急に演説始めてんじゃねぇよ!!』

智代子『あ、そろそろお時間の方が……スタッフさん、こっち見てるような……』

咲耶『フフッ。直前まで賑やかなことだね』

楓『ふふふっ♪』ニコニコ


武内P『会場の方々も、すっかりお待ちです』

武内P『期待に応えるためにも、精一杯楽しませてあげてください。そして』

武内P『どうか皆さん自身も、思う存分、楽しんできてください』

一同『はいっ!!』


――――
740 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:22:46.16 ID:VfNpJpls0
――――


ワアアァァァァァァ…!!



凛「今、ここから始まる」

夏葉「私達の夢……!」


樹里「見ていてください。
   アタシ達のそれが……燃え上がる瞬間をっ」
741 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:23:26.46 ID:VfNpJpls0

 TAKE−UC 【 Ambitious Eve 】


742 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:25:23.86 ID:VfNpJpls0
ワアアアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!


 タンッ タンタタン キュッ!
 タタンッ タッ! タン!


樹里(行くぜ……皆!)

智代子(うん!)コクッ


  どこまで行けるの 眺めてた
  空に飛び込んだ あの日から

夏葉「高鳴ってる!」

凛「ざわめいてる……!」

  心の光は

智代子「消えてない!」


咲耶(ほら、消えない……)


咲耶(そうだろう、楓?)
743 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:27:14.57 ID:VfNpJpls0
楓「……ッ」キュッ タタンッ! タン!

  俯いてたら

咲耶(寄り添っているよ)

  声と思いが

咲耶(アナタを大事に想っている人は、いつも)


楓(隣に……?)


咲耶「……」コクッ


  せいいっぱい ぐっと羽ばたけ

樹里「夢まで!!」

 タンッ!


 ――アイドルが何なのかを教わったっつーか……

 ――ファンと一緒に楽しむ事の大切さ、みたいなモンを、今日のステージで感じました。
744 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:31:31.35 ID:VfNpJpls0
楓(樹里ちゃん……)


 ――それを、思い出して欲しかったのではないでしょうか。


楓(ごめんなさい……)


 ――今まさにそれを踏み出そうとする、西城さん達と一緒のステージに立つことで。



楓(いいえ……ありがとう)

  この翼で (次の空へ) 少しずつ
  近づいてきた (そうでしょ?)


楓「だから言えるよ〜〜!♪」

 オオォォォォ…!! ワアァァァァァ!!


武内P「…………」グッ


  今 Ambitious Eve だって!
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