【艦これ】大鳳「衣食住に娯楽の揃った鎮守府」浦風「深海棲艦も居るんじゃ」

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81 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/03(木) 22:51:37.67 ID:3MoI/3ML0
 夜も少し更け、鎮守府が僅かに静かになった頃、そこはひっそりと営業を開始していた。
 カウンターには常連の那智、姉の夕雲、酒を飲み始めたばかりの大鯨、店の前でドアをにらみ付けていた不知火の四人が座っている。
 それぞれ既に一杯目は注文しており、全員グラスは空に近くなっていた。

「早霜、ここに梅酒はあるのか?」

「えぇ、ホワイトリカーで漬けたモノで良ければあります」

「じゃあ次はそれをもらおう」

「あのぉ、梅酒って飲みやすい方なんでしょうか」

「口に合うかどうかなどを抜きにすれば、ホワイトリカーで漬けたモノなら一番梅酒の中では飲みやすいかもしれないな」

「そんなんですかあ。だったら私も一杯飲んでみようかな」

「早霜、私にも一杯いれてちょうだい」

「夕雲姉さん、度数が低いという訳ではないけれど、大丈夫なの?」

「大丈夫よ、自分がどの程度なら飲めるかぐらい弁えているもの」

「そう、ならいいんですけど」

「では、不知火もいただきます」

「……四人分、ですね」

 一つはストレートで、二つはロック、一つを梅サイダーで早霜は準備する。
 幸いなことに不知火からは死角であり、他の者も彼女が飲めるとは到底思っていないので黙っていた。

「――どうぞ」

 出された梅酒はまだ年季が入っているはずもなく、正に作りたてという色をしていた。
 口に含んだ各々は、それぞれ違った反応を示す。

「ふむ……深みがこれから増していき、来年にはもっと良い味になっていそうだな」

「う〜ん……やっぱりちょっと私にはキツかったかも」

(体が熱くなってきちゃったわね……)

「不知火は気に入りました、梅酒」

「気に入って貰えたなら何よりです。大鯨さんは口に合わなかったご様子ですので、サングリアをお入れしますね」

「ありがとうございまあす」

「梅酒、もう一杯お願いします」

「はい、すぐに」

(私もこっそり梅サイダー頼もうかしら)




「――十五年物、味がまろやかで癖になりそう」

「飲みやすい分、酔いも回りやすいですから飲むときは注意して下さいね」




 サングリアに続き鳳翔の十五年物の梅酒が早霜のお気に入りに加わった模様。
82 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/03(木) 22:55:02.77 ID:3MoI/3ML0
次のリクエスト受付は明日の8時から三つ、20時より三つ受け付けます

朝霜、高波、瑞穂、海風は未着任です
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 23:14:29.63 ID:kToZkAFho
乙 
不知火は梅サイダーで満足しててほっこりする
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/04(金) 01:08:22.01 ID:1Fec3lf20
乙乙
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/04(金) 07:59:30.77 ID:Saw2KmOUO
磯風とかき氷
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/04(金) 08:00:00.81 ID:psglwosvO
加賀と飛鷹
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/04(金) 08:00:03.58 ID:PAij5lm9O
木曾のイケメン逸話
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/04(金) 08:02:54.79 ID:xOctK4YJO
陸奥と蒼龍
化粧艦の集い
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/04(金) 20:00:00.20 ID:4km2wotgO
長月、江風、磯風(氷柱割、かき氷)
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/04(金) 20:00:00.55 ID:0KF8FFoN0
Bep,潮,雪風
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/04(金) 20:00:00.57 ID:1Fec3lf20
武蔵と心霊スポット巡り
92 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/04(金) 20:48:32.33 ID:+kGBGn1o0
・加賀&飛鷹『立ち話』

・木曾『お前等の指揮官は無能だな』

・陸奥&蒼龍『お化粧直し』

・磯風&長月&江風『ここをこうすると』

・Bep&潮&雪風『常識に囚われないこと』

・武蔵『涼しいな』

以上六本でお送りします
93 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/04(金) 23:59:28.58 ID:+kGBGn1o0
・加賀&飛鷹『立ち話』 、投下します

タイプは違えど
94 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/04(金) 23:59:55.60 ID:+kGBGn1o0
「加賀、ちょっといい?」

 普通のトーン、普通の調子で呼び止められた加賀。
 鎮守府内、ましてや仲間を相手に警戒するはずもなく、彼女は足を止めて振り返った。

「何?」

「用っていうか、貴女に前からちょっと聞きたいことがあったのよ」

「今答えられることなら構わないけれど」

 急ぎの案件も無く、休憩しようと思っていた加賀からすれば、多少の立ち話程度なら何の問題もあるはずがない。
 それに、普段はそこまで話さない相手ということもあり、何を聞きたいのか加賀自身気になりもしていた。

「じゃあ聞くけど、加賀って提督の昔の話って聞いたことない? あっ、内容は言わなくていいから」

「昔の話……いえ、ないわ」

「気になったことはないの?」

「あの提督業に関係ない雑学はどこから得たものか、趣味の広さ、髪と足を好む様になった原因程度しか気になっていません」

「地味に多いわね、気になってること」

「自分のことをあまり語ろうとしない人ですから」

「……加賀は、どう思うの?」

「その時が来るのを待つわ」

「踏み込まないのね、やっぱり」

「そう、して頂きましたから」

「……思い出したら何か無性に気恥ずかしくなってきたわ色々、絶対いつかは聞かせてもらわないと不公平じゃない」

「その役目は譲りません」

「いい加減色々私達に譲ってもいいと思うけど?」

「譲りません」

「……今からご飯でも、行かない?」

「和食なら付き合います」

 このまま続けると立ち話だけでは終わりそうも無いと判断し、二人は移動を開始する。
 形は違えど思いを同じくする相手との会話は弾み、赤城行きつけの店で閉店まで話し込むのだった。




――――(俺的にこの組み合わせは意外だな……)

 ――――加賀、次はパスタ付き合ってよ。

――――和風パスタのある店なら構わないけれど。

 ――――パスタなんてどう足掻いても洋風じゃない。

――――醤油を使えば和食です。
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/05(土) 17:10:24.69 ID:MOzDuYLSO
乙です
和風パスタといえばあさりが入ってるのを思い浮かべるな

96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/06(日) 07:53:23.46 ID:R6xS48wnO
松茸の味お吸い物で手軽に和風パスタ!
なかなかイケるよ?
97 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/07(月) 14:21:37.14 ID:8ShIJpVE0
・木曾『お前等の指揮官は無能だな』、投下します

マントは昼寝場所
98 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/07(月) 14:22:02.57 ID:8ShIJpVE0
 たまたま見付けた資料、それをアイツに見せて聞けた話は俺を動かすには十分だった。
 笑いながら協力すると言われたのには多少ムカついたが、そこで止めないからこそ、俺はアイツを気に入っていた。
 必要だったのは通信一本、野暮用への切符はそれで事足りた。




「――こんなものか」

 熱を帯びた砲身とは対称的に、口から溢れたのは酷く冷めた言葉。

「練度も兵装も動きも悪くない。だが、一つだけ足りないものがあるから俺一人に簡単に負けるんだ」

 戦った艦娘達は理解している。ただ一人この場で理解していないのは、状況を呑み込めず馬鹿みたいに口を開けて突っ立ってる奴だけだ。

「俺より強い姉貴を手放した、お前等の指揮官は無能だな」

 野暮用を済ませ、また部屋でだらけているだろう姉貴達が待つ部屋へと戻る支度を始める。
 バレたらまた何をされるか分からないが、それも悪くはないと思った。

「……だが、大井姉にだけは何もされたくねぇな」




(見たクマ)

(聞いたにゃ)
99 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/07(月) 14:22:29.68 ID:8ShIJpVE0
「お前等の指揮官は無能だクマー」

「お前等の指揮官は無能だにゃ」

「やめろそこのアニマルズ」

「お姉ちゃんに向かってその口の利き方はなんだクマー」

「そうにゃそうにゃ」

「いいねぇ、痺れる台詞だねぇ」

「ちょっと馬鹿だとは思ってたけど、予想以上にうちの妹は馬鹿だったみたいね」

「別にいいだろ、姉貴達に迷惑はかけてない」

「そういう問題じゃないのよ、全く」

「まぁまぁ大井っちー、木曾も私達の為にやったことなんだし大目に見てあげようよ」

「まぁ、北上さんがそう言うならいいですけど……」

「俺は俺の為にやっただけだ。姉貴達の為にやったわけじゃ――」

「姉貴を手放したお前等の指揮官は無能だクマー」

「姉貴を手放したお前等の指揮官は無能だにゃ」

「うるさい黙れそこのアニマルズ!」

「お姉ちゃんに向かって黙れとは何だクマー」

「そうにゃそうにゃ」

「まぁ何ていうの、もう完全にあの時のことなんて忘れてたけど――ありがとね」

「……あぁ」

「じゃあ今から勝手なことをしたお仕置きタイム、いってみよー」

「なっ!? さっきと言ってることが――」

「そうね、お仕置きは必要よね」

(いつの間に背後に!?)

「じゃあ、行くよー」




――――も、もういいだろ。

 ――――お姉ちゃん達からのハグを嫌がる妹にはこうしてやるクマ。

――――っ……くふっ……んっ……。

 ――――(木曾をこそばすのは反応が楽しいクマー)
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/07(月) 16:40:13.12 ID:qLXp0Jgwo

流石イケメン
でもやっぱ球磨型の末っ子か
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/07(月) 17:09:36.79 ID:eOpaplQSO
乙です
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/07(月) 18:00:28.59 ID:Ws5SYjOZo
アニマルズうざかわ
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/07(月) 21:54:06.82 ID:BufpmmhK0
いや木曾って待機組だからね…
姉のためには容赦しないと
104 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/08(火) 13:33:22.18 ID:n12mTGU10
 海での戦いは終わり、彼女達は深海棲艦に対抗する為の存在から無用な争いの抑止力へとその存在理由を変えていた。
 つまりそれは、陸の上で行われる戦いにおいての強さも要求されるということだ。
 ある者は拳で壁を砕き、ある者は銃弾を弾き落とし、そして彼女は――。




「珍しいな、お前が道場に居るなんて」

「そういう提督だって、ここには滅多に来ないんじゃない?」

「普段は一般女性が多いだろ、自然と足も遠退くさ」

「……ひょっとして提督って、艦娘以外に興奮しないから提督になったとか?」

「人聞き悪いこと言うな、至って俺はノーマルだ」

「ふふっ、冗談よ。それで、ここへ何しに来たの?」

「軽く運動しに来た、暇なら付き合え」

「別にいいけど、提督って剣道とかの経験あったっけ?」

「仮にも提督だぞ、一応基礎的な武道は粗方やってる。腕前はともかくとして、だが」

「そこで実は剣の腕前は凄いんだ、とかにならない辺りが提督っぽいなぁ……じゃあ、やりましょうか」

 少し距離を空け、二人は木刀を構えて立つ。
 構えると言っても、伊勢は木刀を片手で持っているだけだ。

「――ふんっ!」

 馬鹿正直な踏み込みからの真正面への振り下ろし、下手な小手先の技など使うことすら出来ない提督からすれば、これが出来うる最良の行動だった。
 それを伊勢は木刀を上に構え直しただけで受け止め、頬を掻く。

「あー……うん、やっぱり本当に弱いんだ」

「だから俺は頭脳労働専門なんだ、よっ!」

「守るこっちとしてはもう少し提督が強いと楽出来るから頑張ってよ」

「その為にこうして悪足掻きしてるんだ、ろっ!」

 とにかく打ち込む提督と、軽々受け流す伊勢。
 提督の息が既に乱れてきているのを見ながら、伊勢は溜め息を溢す。

「まずはもっと体力を付けるところから、かな」

「歳も……はぁ……取ってきたからな……ぜぇ……」

「まだまだ若いじゃん、元帥と比べたら」

「あんな……妖怪と一緒にするな……ふぅ」

 打ち込む手を休め、額から流れる汗を提督は拭う。
 その頭をコツコツと叩いた後、伊勢は木刀を流れるように振るう。

「提督、最低でもこれぐらいは出来るようになってよ?」

「……走るだけじゃなくて、腕立てもやるか」
105 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/08(火) 13:33:50.17 ID:n12mTGU10
 提督の去った後、伊勢は一人になった道場で真剣を抜き放ち、構える。

(提督にはあぁ言ったけど、どんなに提督が強くなったって守ることには変わんないんだけどね)

 戦艦の中でもあまり突出した強さは持たず、どちらかといえば目立たない立ち位置に居た伊勢。
 しかし、それは彼女の真価が別のところにあったというだけの話だ。
 “伊勢の姉御”と天龍が呼ぶのは、その真価に彼女が敬意を表してのことである。

(砲も捨てて、艤装も捨てて、ただの人になっちゃったとしても、やることは一つ)

「――皆と明日を斬り開く、なんちゃって」




(伊勢さん、カッコイイ!)

 超弩級駆逐艦(仮)が次の目標に狙いを定めました。
106 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/10(木) 19:29:53.31 ID:VEazjf0Y0
・陸奥&蒼龍『お化粧直し』、投下します

妖怪化粧いらず
107 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/10(木) 19:30:20.13 ID:VEazjf0Y0
 ――化粧、それは女の武装であり、解除するのは難しいものである。
 弱い部分を守り、相手にその部分を悟られないようにする技術を、彼女達は日々研究しているのだ。
 例え気付かれなかったとしても、彼女達が水面下での努力を怠ることは無い。




「陸奥さんっていつもバッチリメイクしてますよね」

「部屋で長門によく“そんなに時間をかけてまでやることなのか?”って言われるわ」

「長門さん、全く化粧品使わないもんなぁ」

「蒼龍は比較的薄めな化粧って感じよね」

「バッチリすると、子供がした化粧みたいになっちゃうから……」

「あらあら……チークとアイシャドウはどこのを使ってるの?」

「色々試してみたんですけど、今はケイトかブルジョワです」

「少し前までは私もその辺りを使ってたんだけど……歳を取るって残酷ね」

「陸奥さんが言うと多分世間一般の女性に怒られちゃいますよ?」

「だって私が比較するのは艦娘だもの」

「まぁ確かに鈴谷とか熊野を見てると羨ましいなーってなる時はありますけど……」

「逆に秋津洲ちゃんは見てて微笑ましくなるわね、おめかしって感じで」

「分かります分かります。厚化粧っていうのとはちょっと違いますよね」

「そういえば、蒼龍は鳳翔さんの話は知ってるの?」

「鳳翔さん? いえ、知りませんけど……どんな話ですか?」

「――石鹸しか使わないらしいわ」

「えーっと、それは化粧水とかも全く使わないっていう意味ですか?」

「髪は提督があぁいう人だから手入れしているみたいだけど、肌に関してはそうらしいのよ」

「……加賀さんもですけど、私達と違って歳取らないままなんじゃ……」

「最近は少し疲れやすくなったらしいわ」

「全くそんな風には見えないなー。二人ともいつ寝てるのって感じだし」

「まぁお互いこれからもお化粧の力を借りて頑張りましょ」

「はい、頑張りましょう!」




 ――今の人達、どう見てもすっぴんで大丈夫でしょ。

 ――世の中って不公平ね……私も彼氏欲しー!
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/10(木) 20:42:57.15 ID:qitBRjTSO
乙です
他の娘の化粧はどんな感じなんだろうな
109 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/11(金) 23:17:42.75 ID:3Iuuh/gY0
・磯風&長月&江風『ここをこうすると』、投下します

睦月型は当番制、陽炎型は気分次第、白露型は五月雨を見張りながら皆で
110 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/11(金) 23:18:08.79 ID:3Iuuh/gY0
 呼吸をするように、歩くように、拳を突き出し、氷を打つ。
 ただ力に任せるでなく、自然な体捌きの中に組み込まれた一撃は、氷柱を砕かず、割った。

「――どうした二人とも、かき氷にするんじゃないのか?」

「何度見ても目を疑う技だ」

「へー、種も仕掛けもホントにねぇんだな」

「艦娘としては駆逐艦の枠に入るが、駆逐艦の枠にただ収まっている必要もあるまい」

 長月も伊勢同様、ただの艦娘として見ればこの鎮守府に居る者の中で特に秀でた部分があるわけではない。
 しかし、彼女の言う通りその枠での強さだけで全てを語るのは愚かというものだ。

「姉貴達も大概なもんだったけど、他の連中もこんなんばっかなのか」

「普通の範疇にある者も私を含め少なからず居るぞ」

「どの口で言っている磯風、貴様も大概だ」

「何っ!?」

(変な奴も多いけど、皆良い奴ばっかで過ごしやすいってのは有り難いもんだな)

「話を戻すがかき氷だ。削らねばわざわざこうして割った意味も無い」

「そうだ、この磯風ともあろう者が任務を忘れるところだった」

「任務ってか罰ゲームだけどな」

 恒例となりつつある休憩スペースでのトランプ遊びに負けた罰ゲームとして、二人は氷を取りに来ていた。
 長月の氷柱割りは単なるサービスのようなものであり、ここへ来た目的はあくまでかき氷を作ることにある。

「モノはついでだ、私の分も作ってくれ」

「味は?」

「いちご練乳で頼む」

「了解だ、この磯風に任せてもらおうか」

(ンっ、こりゃまた意外なチョイス)

「何だ江風、私がいちご練乳で食べるのに不服でもあるのか」

「ねぇよンなもん。ただ、そういうとこはしっかり女の子やってんだなって思っただけだよ」

「当たり前だ。拳を解けば私とて料理もすれば洗濯もする」

「じゃあ今度何か作ってくれ」

「あぁ、考えておこう」




――――うっ!?

 ――――どうした長月!?

――――こ……これは練乳じゃなくウェイパーだ! どうやったら間違えれる!

 ――――(ある意味磯風もすげぇな、ホントにここに居りゃ退屈はしそうにねぇぜ)
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/13(日) 09:34:16.70 ID:6GQdSTqko
さすが磯風さん…
112 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/15(火) 23:20:07.87 ID:z7zmJKdz0
タイトル変更

・Bep&潮&雪風『昔辿った道、今から辿る道』、投下します
113 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/15(火) 23:20:38.70 ID:z7zmJKdz0
「ハラショー、これはいいクッキーだ」

「あひはほうほはいはふ!」

「ヲーちゃんに作ってあげたら作りすぎちゃって」

 潮の作ったクッキーを食べながら、ヴェールヌイの淹れたロシアンティーを飲む三人。
 一人頬がパンパンになっているが、いつものことなので二人はスルーする。
 この組み合わせになったのは偶然であり、基本的に誰が誰と仲が悪いということの無いここにおいては、廊下で偶々会ってというのは珍しい話ではない。
 クッキーのサクサクという音が暫く三人の間を包み、一息ついたところでヴェールヌイが最初に口を開いた。

「二人は、この先どうするか決めているのかい?」

「雪風はしれぇと大淀さんが作ろうとしてる施設のお手伝いがしたいです!」

「私は、その、ヲーちゃんみたいな子達がまだ他にもいるなら探して保護してあげたいかなって……」

 雪風の言う施設とは、艦娘の為の駆け込み寺のようなものだ。
 自分達の力で明日の生活費を捻出していかねばならない現状で、新たに生まれてきた艦娘を受け入れられない鎮守府も少なくない。
 潮の言っているのは言葉通りの意味であり、非公式に深海棲艦達を保護したいということである。
 ただ優しいだけでなく、その意志を貫く覚悟と強さがあるからこそ、やりたいといえる話だ。
 それに賛同するであろう者もこの鎮守府には少なくとも二名はおり、一人で全くのゼロから始めなくていいのは彼女にとって救いだった。

「二人とも、もう決めていたんだね」

「ヴェールヌイはどうするんですか?」

「そうだな……帽子でも作ってみようかな」

「ヴェールヌイちゃん、ずっと帽子被ってるもんね」

「どれも私の帽子には皆の思いが込められてているから、被っていると落ち着くんだよ」

 一度は失ってしまったが、新たに皆から貰った帽子達はヴェールヌイには宝物になっていた。
 そんな彼女だからこそ、いざ作るとなれば気持ちのこもった帽子が出来上がるのは容易に想像できる。

「――今度は、違う意味でバラバラだね」

「でも、気持ちはひふはっへひっほへふ!」

「言い終わるまで食べるのを待てなかったのかい?」

「慌てなくてもまだあるから大丈夫だよ、雪風ちゃん」




 それぞれの歩む別々の道、然れどそれは幾度も交差し、繋がっている。
114 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/18(金) 19:35:21.04 ID:hC5DXbFR0
・武蔵『涼しいな』 、投下します

妹が苦手なのは夏の暑さ、でも……
115 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/18(金) 19:35:46.65 ID:hC5DXbFR0
 人気のほとんど無い深夜の駅前、コンビニが少し先に行けばあるが、今居る辺りはあまり人が通らず街灯の光しか届かない。
 見渡す限り田んぼという程に田舎ではないものの、遊興施設や宿泊施設などは皆無で民家が視界の大半を占めていた。

「提督よ、こういう場合は廃墟や人里離れた場所に行くものじゃないのかい?」

「そういう場所は別の意味で面倒な場合が少なからずあるからな、今回はこういう場所を狙って選んだんだよ」

 実は私有地、裏の住人が出入りしている場所、安全面に難あり、等という問題がある場所が心霊スポットには多く存在する。
 武蔵が同行している以上提督の身に危険が及ぶことは限りなくゼロに近いものの、問題を避けられるのなら避けておくべきだという判断に基づいて行き先を彼は選択していた。
 最も、最初から行かなければいい話ではあるのだが、そこには大和と武蔵のいつもの他愛ない姉妹喧嘩が絡んでいた。

「本当にお前はこっち系は大丈夫なのか?」

「深海棲艦は大丈夫で幽霊はダメって大和の方が珍しいと思うぜ?」

「まぁ、お前の言いたいことは分からんでもない」

「それで、ここにはどういう話があるんだい?」

「この先の家に住んでた主婦がそこの駐輪場で刺し殺されてな、それ以来その主婦が化けて出るって話だ。――刺し殺した犯人の居る方向を睨みながら」

「察するに、犯人は旦那というところか」

「そう世間では噂されてたんだが、結局未解決のまま旦那も引っ越して幽霊話だけが残ったそうだ」

「ふむ、ではあそこに立っている女の旦那は相棒ってことになるな」

「質の悪い冗談はやめろ、第一俺はその事件の頃はまだ子供だ。ほら、次行くぞ」

(――死者の念は生者の念に劣ると聞くが、アレは相当強いな)
116 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/18(金) 19:36:13.88 ID:hC5DXbFR0
「お前にとっては、こういう場所は過ごしやすいんじゃないか?」

「この時間ともなると幾分暑さも和らいで過ごしやすくはあるが、まぁ、それだけだ」

「そりゃ残念だな」

「寒気を感じたら腕にでも抱き着くとしよう」

「折らないなら好きにしろ」

 川沿いの堤防にあるベンチに座り、二人はのんびりしていた。
 正面の川から背後に目を向けてみると、眼下には公園があり、真の目的地はその公園だった。

「夜な夜な子供が遊んでいる。トイレに自殺者の霊が現れる。話は色々あるみたいだな」

「無邪気に子供が遊んでいるのを怖がる必要もあるまい」

「人ってのは大抵自分の常識の及ばない事柄に対して怯えるものなんだよ」

「常識とは面倒な――相棒」

「どうした武蔵、急に手なんか握って」

「休息は十分だ。次の場所へ移動するぞ」

「別に構わんが、まだ公園に入ってないぞ?」

「わざわざ中まで行く必要もあるまい……それに、忠告は有り難く聞くものだからな」

(忠告? 何の話だ?)




――――おおきいおねぇちゃん、あぶないよ。
117 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/18(金) 19:36:59.10 ID:hC5DXbFR0
「提督よ」

「何だ?」

「深海棲艦の泊地なんかは空気が澱んでいるように感じたものだ。ここは、それと同じモノを感じるぜ?」

「知る限り、少なくとも五人は死んでる踏切だ。そう感じるのもおかしくはないかもしれん」

「成る程、確かにコレは少し涼しいな。霊気と冷気、読みは一緒か」

「一人で納得してないで俺にも分かるように説明しろ。お前、最初の場所から全部何か見えてるだろ」

「説明しろと言われると難しいが……そうだな、比叡の玉子焼きが一番近いか」

「アレか、そりゃ見えなくて正解だな」

「――なぁ、相棒」

「どうした?」

 次の言葉を口にはせず、武蔵は提督の腕を取る。
 その顔に浮かぶのは恐怖や怯えではなく、哀れみだった。

「さて、姉同様に妹も怖がったところで、帰るか」

「おい、別に私は怖がってなど……しかしまぁ、帰るのに異論は無い」




 もうすぐ空が白み始めそうな頃、二人は並んで帰路に着く。
 真に怖いのは後悔や無念を残したまま、その瞬間を迎えることだと再認識しながら。
118 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/18(金) 19:51:12.38 ID:hC5DXbFR0
次のリクエストを本日21時より三つ、明日9時より三つ受け付けます

朝霜、高波、瑞穂、海風は未着任です
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/18(金) 21:00:00.47 ID:7WSaQsIfO
春雨
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/18(金) 21:01:02.74 ID:P1+dFR3NO
秋月、照月
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/18(金) 21:02:52.57 ID:mBwSjaPpo
防空棲姫
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/19(土) 06:21:38.22 ID:qmLONUHW0
乙乙
防空棲姫いいの?無効なら
武蔵と元帥卯月
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/19(土) 09:00:00.16 ID:8c7MZqnOO
望月とコンタクトレンズ
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/19(土) 09:00:00.26 ID:lUEpXN0x0
雑誌の表紙を飾ることになった矢矧&霞
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/19(土) 09:00:00.28 ID:3e7T61w2O
五月雨
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/19(土) 09:00:00.80 ID:sjYFe6ZHo
川内型のライブ
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/19(土) 12:39:12.38 ID:F/5NLdfHO

武蔵さんイケメンだなぁ
128 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/19(土) 13:49:04.24 ID:jp+jArkl0
・春雨『約束』

・秋月&照月『対空射撃演習』

・『空と海』

・望月『物は試し』

・矢矧&霞『取材』

・五月雨『夕張さんと遊ぼう』

以上六本でお送りします

後、球磨多摩も
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/19(土) 16:06:48.82 ID:5n8XWkvSO
了解です
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/20(日) 10:55:38.20 ID:nkefxfPuO
お、期間限定グラネタかな?
131 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/23(水) 23:06:22.15 ID:MCtZ0jHz0
・春雨『約束』 、投下します

計画通り
132 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/23(水) 23:06:47.60 ID:MCtZ0jHz0
「司令官、お呼びでしょうか?」

「あぁ、まぁそこに座れ」

「はい」

 帽子の上にクーが居ないのを確認した後、提督は紙を一枚取り出し春雨の前に出す。
 それは艦娘にとって一生に一度の書類であり、一生ここに繋ぎ止める錨でもあった。

「読んで、考えて、分からないところは聞いて、それでもいいなら名前を書け」

「――質問を、させて下さい

「いいぞ、何でも聞け」

「司令官は、春雨にずっと居て欲しいですか?」

「……この前も言われたんだが、どうやら俺は誰が欠けても駄目だそうだ。全員が深海棲艦になって世界が敵になったとしても、俺はお前等の側を離れるつもりはない。その質問にちゃんと答えるなら、“手放す気は微塵もない”、だ」

「また変になりそうになったら、頭を撫でてくれますか?」

「帽子がグシャグシャになるまで撫でてやる」

「春雨、必ず入れても文句言わないですか?」

「不味くない限りは言わん」

「その……村雨姉さんみたいに色気なんて無いけど……いい、ですか?」

「そこについては保留する」

「……」

 春雨の質問はそれで最後であり、視線を書類に下ろして彼女は深呼吸をする。
 そして、ゆっくりと書類に名前を書いた。

「――司令官」

「何だ?」

「ゆ……指……」

(ここで指切りと言ってしこたま殴られたのは確か曙だったな……)

 文字通り痛い記憶を思い出しながら、提督は引き出しから指輪を取り出す。
 それが視界に入ると、春雨は頬を染めながら目を輝かせた。

「書類持ってこっち来い」

 手招きされ、春雨は机にぶつかりそうな勢いで提督の元へと向かう。
 普段は見せないような積極的な態度に、その気持ちの強さがはっきりと彼にも伝わっていた。

「これは、俺とお前を一生繋ぐ。ある意味では結婚指輪より重い指輪だ。それに見合うだけのモノを、春雨、お前にやる」

「……はい」

 そっと、指に填められた絆の証。
 急に恥ずかしさが込み上げて来たのか、春雨は帽子を目深に被り顔を隠そうとする。
 しかし、それは思いもよらぬ相手に妨害されるのだった。




――――サッサトキスデモシタラドウダ?

 ――――お前、帽子の中に居やがったのか……。

――――(いつの間に入ったんだろ……)
133 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/23(水) 23:07:14.75 ID:MCtZ0jHz0
 ――数時間後。

「一番先に、突撃インタビュー! 春雨ケッコンカッコカリおめでとー!」

「おめでとう春雨、お祝いをしないといけないね」

「はいはーい、村雨はいつでもスタンバイOKよ」

「夕立も準備万端っぽい!」

「涼風、私は何したらいいかな?」

「江風と一緒に春雨の話し相手だね」

「ンっ、そのぐらいなら任せときな」

「ん―? 春雨? おーい」

「返事がない、ただの春雨のようだ」

「あらら、心ここに在らずって感じね」

「でも、幸せそうっぽい?」

「やっぱり私も料理を――」

「江風、五月雨確保。激辛と激甘が嫌なら絶対離すんじゃないかんね?」

「激甘は願い下げだけど激辛ならいいかもしんないねぇ」

「春雨ー? おっ、もちもちほっぺだ」

「良い伸び方だね」

「ズルいわよ二人とも、村雨にも触らせて」

「夕立も触るっぽい!」




――――今頃姉妹ニカラカワレテイルダロウナ。

 ――――(勢いってヤツはどうにも恐ろしい……)




 この日、提督は二度唇を奪われた。
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/23(水) 23:24:39.98 ID:O9YgQnK0O
えんだああああああ
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/23(水) 23:54:28.17 ID:qOvBWqzG0
乙です
これ最後のはクーともしたってことですかね
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/24(木) 09:48:35.82 ID:1d+fW+FSO
乙です
137 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/27(日) 19:31:22.34 ID:+5z3CvVFO
艦これの起動が二週間程出来ていないので更新は明日までお待ちください

限定絵は全員書きます
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/28(月) 09:59:41.98 ID:qpi8zLoSO
了解です
139 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/28(月) 19:51:45.82 ID:hKbSvPqe0
・秋月&照月『対空射撃演習』 、投下します

長十センチ砲ちゃんは知っている
140 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/28(月) 19:52:13.21 ID:hKbSvPqe0
 空を見上げる。

 そこには青と白が広がっていて、時折鳥が横切っていく。

 彼女達が守り、他の何色にも染めさせないと決めた場所。

 それは、この平和を勝ち取った世界でも変わりはしない。

 今日も、守りたい人達の為に彼女達は空を見上げる。

 そして――。




「わあっ!? 長十センチ砲ちゃん暴れないでー!?」

(何だか照月の長十センチ砲ちゃん、言うこと聞いてないような……)

 照月を交えての対空射撃演習。しかし、肝心要の彼女の相棒は命令を聞かず勝手に動いていた。
 動けなかった主人の為に秋月を探しに来た義理堅い子と同じとは信じられない自由奔放さだ。

「照月、何か機嫌を損ねるようなことでもしたの?」

「実は昨日、磨いてあげる時にちょっと失敗しちゃってー……」

 言われてよく見てみると、側面に軽く傷があるのが分かった。
 しかし、それだけが理由では無いと秋月は何となく直感で理解する。

「ドシタノ? 遊バナイノ?」

「ごめんねほっぽちゃん、少し待っててもらえる?」

「ウン!」

 トテトテと近付いてきて、またトテトテと去っていくほっぽ。
 その背中を見つめているように見える長十センチ砲ちゃんの顔が、どこか寂しげに秋月には思えた。

「照月が悪かったから機嫌治してよ〜長十センチ砲ちゃ〜ん」

「これは先が思いやられるかな……ねぇ、長十センチ砲ちゃ――あら?」

 横に居るはずの相棒に問いかけるも、そこに姿はない。
 辺りを見回してみると、鳥を追いかけてあらぬ方向に走っていく後ろ姿が彼女の目に飛び込んでくる。

「これじゃ私も照月のこと言えないか、はぁ……長十センチ砲ちゃーん! 戻ってきなさーい!」

 結局妹と同じく長十センチ砲ちゃんと追いかけっこを始める秋月。
 それを見て痺れを切らしたのかほっぽも混ざり、対空射撃演習は鬼ごっこへと形を変えることとなる。
 しかし、これはこれで有意義だなと感じるようになった辺り、秋月もしっかりここに馴染んでいるのだった。




――――加賀、この対空射撃演習で全員大破って何だ。

 ――――ほっぽが鬼で艦載機を飛ばしたようです。

――――(本物でやったら鬼ごっこにならんだろ……)
141 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/28(月) 19:52:40.07 ID:hKbSvPqe0
「浜風、そりゃちぃと欲張り過ぎじゃ」

「はむ?」

 焼きとうもろこしにイカ焼き、綿あめ、たこ焼きを抱えた妹をジト目で見る浦風。
 普段は生真面目な浜風も最近は気を緩ませる機会が増えたのか、祭を目一杯楽しんでいた。

「まぁうちも祭は好きじゃけぇ、気持ちは分からんでもないよ?」

「その景品の山を見れば分かります」

 口の中に入れた物をきちんと飲み込んだ後、今度は浜風が浦風をジト目で見る。
 サンタの様に袋を肩から担いだ彼女もまた、目一杯祭を楽しんでいた。

「姉さんも来れたら良かったんじゃけど」

「祭の警備の任務がありますから、仕方ありません」

「魂抜けとったけど、大丈夫かねぇ……」

「その程度で手を抜くような方ではないのを、浦風が一番知っていると思いますが」

「うちが心配しとるんはそうと違うんよ、むしろ逆――」

 ――ぎゃあぁぁぁぁぁっ!?

「……予想、的中したみたいですね」

「うち、ちょっと様子見てくるけぇ浜風は祭を楽しんどってえぇよ」

「私も行きます」

 カランコロンと下駄の音を鳴らしながら、二人は悲鳴の聞こえた場所を目指す。
 その手にはフランクフルトと焼きそば、それとデジカメを持っていた。




――――姉さん、やり過ぎはいけんよ?

 ――――コレ、陣中見舞いです。

――――アレ、私の顔を見ただけで悲鳴上げたのよ? 酷いと思わない?
142 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/28(月) 19:53:06.68 ID:hKbSvPqe0
「……おい」

「何だクマー?」

「何にゃ」

「仕舞うな」

「着ない服は当然仕舞うクマ」

「こんな動きにくそうな服一生着ないにゃ」

「だったら何で欲しいって言ったんだ」

「妹だけは不公平だクマ」

「貰えるものは貰っておくにゃ」

「ほー、そうか。祭に誘うつもりだったが着る気がないなら違う奴を――」

「五分で支度するクマ」

「さっさと部屋から出ていくにゃ」

「言われんでも出ていくから安心しろ」

(やれやれ、これで無駄にならずに済んだか……)




「わたがし美味いクマー」

「イカ焼き美味いにゃ」

(色気より食い気……いや、これはこれで良いか)

「クマ? そんなに見つめても球磨のわたがしはやらないクマー」

「多摩もあげないにゃ」

「別に取る気は無いから安心しろ、食いたくなったら俺も買って食う」

「だったら焼きとうもろこしが良いと思うクマ」

「お前が食いたいだけだろ」

「多摩はたこ焼きがいいと思うにゃ」

「どっちも普通に買ってやるから食え」

「全部食べてると浴衣じゃ苦しいクマ」

「半分ぐらいでちょうどいいにゃ」

「全部食うつもりなのがそもそも間違ってると気付け」

「いいから焼きとうもろこし買うクマー」

「たこ焼きもにゃ」

「分かった、分かったから引っ張るな。屋台は逃げん」

 球磨と多摩に両側から引っ張られる提督。
 下駄は歩きにくいからという口実で腕に掴まる二人の浴衣姿を間近で楽しみながら、祭が終わる時間まで続くであろう屋台巡りに付き合うのだった。




――――不覚クマ……。

 ――――気持ち悪いにゃ……。

――――水風船ではしゃぐからだアホ。

 ――――下着まで濡れてるクマ。

――――下着だけ脱ぐにゃ。

 ――――脱ぐな、鎮守府まで我慢しろ。
143 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/28(月) 19:53:33.63 ID:hKbSvPqe0
「姉さん、浴衣で走らないで〜……」

「これってわざと動きにくくしてトレーニングしてるんじゃないの?」

「そんな風に考えるの長良さんだけだと思う、多分」

「着崩れしますから、あまり派手に動かない方がいいですよ」

(那珂と姉さん、どこ行ったんだろ……)

「あっ、あのぬいぐるみ可愛い……」

「名取欲しいの? ここは長良に任せて!」

「朧もやります」

(固定、重し、その他細工は無いみたいですね)

(あのお面は、私と姉さん? 那珂のはどこに……)

「ラムネとこけし」

「蟹ぐるみとキャラメル」

「C敗北ですね」

「――やっぱり、欲しいものは自分で取らないと」

(メール? “ゲリラライブそろそろ決行するよ、神通も至急浴衣のまま指定の場所に集合”……私、何も聞いてません)

「アレ? 何か帯が弛くなってきたかも……大淀さん、ちょっと帯が――うわっ!?」

「きゃっ! そ、そこを引っ張らないで下さい!」

(下手に近付くと巻き込まれるかも、そっとしておこう)

「や、やったー! 姉さん、取れ――ど、どうしたの二人とも!?」

「名取、ちょっと手伝って!」

「うん、今行くから、ってきゃあっ!?」



 この後、ギリギリセフトな格好で近くの物陰に駆け込んだ艦娘三名を再び祭の喧騒の中で見ることは無かった。
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/28(月) 22:31:00.59 ID:+N2RRvAdo

ゲリラライブはまだか
145 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/09/28(月) 23:35:16.51 ID:hKbSvPqe0
「電、次はどれにする?」

「りんご飴かチョコバナナで悩んでいるのです」

「だったら半分こしましょ」

「なのです!」

「雷、電」

「あら、江風も来てたの?」

「こんばんはなのです」

「いやー姉貴達が来ないと損するって言うから来てみたが、祭ってなぁ美味いしいいもンだな」

「(す、凄い量なのです……)」

「(あんなに食べてお腹壊さないのかしら?)」

「おっ、あそこのも良い匂いしてンなぁ。次はアレにすっか」

「ま、まだ食べるのですか?」

「あんまり買うと手に持ちきれないわよ?」

「それもそうか。んぐっんぐっんぐ――よっし、これで手が空いたぜ。じゃあまたなー」

「……あんなに細いのにどこに入るのか不思議なのです」

「浴衣で帯も締めてるのに、苦しくないのかしら」

「赤城さんは苦しくならないコツがあると言っていたのです」

「赤城さんのは多分参考にならないから真似したってダメよ」

「――あっ、ちょ、ちょっと待って欲しいのです!」

「どうしたの?」

「下駄の鼻緒が切れそうなのです」

「ホントだわ、雷に任せなさい」

「このぐらいなら……ううん、やっぱり何でもないのです」

「ここをこうして、っと。はい、出来たわよ」

「ありがとう雷、助かったのです」

「お礼はチョコバナナでいいわ」

「ふふっ、はいなのです」




――――ンっ、ちょうど良かった。時雨の姉貴、屋台回ってたら足りなくなっちまったから金貸してくンねぇ?

 ――――いいよ、その代わり何でも言うことを一つ聞いてもらうよ。

――――いいぜ。じゃあ有り難く借りとくな。

 ――――(あららー、見たこと無いような悪い顔を時雨がしてるわね。まっ、江風には良い社会勉強になるかしら〜?)
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/29(火) 00:16:03.62 ID:QzWFloBto

球磨ちゃんのドドアホ毛かわいいクマー
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/29(火) 10:47:29.56 ID:E2XDU/wSO
乙です
148 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/10/01(木) 22:08:13.60 ID:Dd1d6/Cz0
「千歳お姉、このぐらいあれば十分かな?」

「そうね、十分じゃないかしら」

 やっていることは落ち葉の掃除。しかし、その目的は掃除に非ず。
 古今東西九割の女性に愛される甘いもの。その中でも秋から冬にかけて主に食べられ、トラックで売り回る者も居る人気の品。
 そう、何を隠そうそれは――。

「焼き芋楽しみだね」

「えぇ、お酒もあれば最高なんでしょうけど」

「ダメだよ千歳お姉、後片付けもあるんだから」

「はいはい、分かってます――あら?」

 視界の端にチラリと見えた春の色。
 消えた方に視線を向ければ、物陰からこっそり様子を窺おうとしてまた隠れる艦娘の姿があった。

「別に隠れなくても大丈夫だから、こっちで一緒に待たない?」

「……い、いいんですか?」

「何だ、春雨ちゃんだったのね」

「私モ居ルゾ」

「えーっと……リスの着ぐるみ、なの?」

「鳳翔さんが作ってくれたんです。クーちゃんも気に入ったみたいで」

「アァ、悪クナイ」

「こうしてみるとホント、あんなに苦労させられた相手とは思えないよね」

「今は頼りになる……マスコット、かしら?」

「マスコットナラ春雨ニコノ着グルミヲ着セテオケ」

「そういう扱いはされたくないなぁ……」

「――そろそろ焼けそうじゃない?」

「あっ、ホントだ。千歳お姉、新聞紙出して」

「はいはい」

「私も手伝います」

「じゃあ春雨ちゃんも焼き芋を取り出していって」

 落ち葉の中から回収されていくアルミホイルに包まれた芋達。
 それは相当な量であり、とても三人で食べきれる量ではなかった。

「さてと、じゃあ焼いた者の特権で一番は千代田達でいいよね?」

「どうせもう嗅ぎ付けてる人達も居るでしょうし、いいんじゃない?」

「私も、貰ってもいいんですか?」

「いいのいいの、どうせ皆で食べようと思ってたんだもの」

「じゃあ、改めて――」

「「「いただきます」」」




――――はぁ〜……やっぱり秋は焼き芋よね〜。

 ――――芋焼酎、まだあったかしら?

――――ち〜と〜せ〜お〜ね〜え〜?

 ――――ふふっ、冗談です。

――――(甘くて美味しい〜)

 ――――(焼キ春雨……無イカ)
149 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/10/01(木) 22:08:49.58 ID:Dd1d6/Cz0
 片手で水風船をポンポンと弾ませながら特徴的なアホ毛を揺らして歩く浴衣姿の美女と、イカ焼きにかぶり付きながら次の獲物を探すこれまた浴衣姿の美女。
 その二人の間で袋の中を泳ぐ金魚を眺める小さな女の子は、イカ焼きを食べる美女に瓜二つだった。
 浴衣はそれぞれ白に椿、藍に猫の手と猫じゃらし、ピンクに猫という柄で、普段の印象を完全に覆い隠しているのは一人だけである。
 その三人の少し後方で歩く男と少女もまた、浴衣を着ていた。
 紺一色の浴衣を着た男は荷持ち兼財布役、淡い紫にウサギの絵の柄が入っている浴衣を着た少女は電話で誰かと連絡を取り合っている様子だ。

「多摩、どう考えてもこの並びおかしいクマ」

「問題ないにゃ、むしろ球磨と漣で歩かせた方が面倒にゃ」

「漣が子供っぽく振る舞ってくれたら大丈夫だクマ」

「100パー無理な話にゃ」

「? 何の話してるのにゃ?」

「綺麗な女は罪作りって話クマ」

「馬鹿は死んでも治らないって話にゃ」

「姉に向かって馬鹿とは何だクマー」

「その下り飽きたにゃ」

「そりゃ奇遇だクマ」

 半分食べたイカ焼きを娘に渡し、多摩は後ろへ視線を向ける。
 その視線は簡単に目的の人物と交わり、それだけで意志疎通は完了した。
 一瞬で行われた一連の流れを横目に見ていた球磨は、やっぱり二人は夫婦なのだと改めて認識する。

「――はい、わたがし」

「ありがとにゃ」

「子多摩と球磨君も、はい」

「わたがしにゃー」

「金魚は球磨が預かるクマ」

「いいよ、僕が持げふっ!?」

「ご主人様ー? 私のが見当たらないんですがー?」

「さ、漣君電話してたから後の方がいいかと思って……」

「今すぐ、ナウ、ハリー、買って来やがって下さい」

「はい……」

「――さて、球磨と子多摩はあっちで面白い催しやるそうなんで付き合って下さいね」

「成る程、その為の電話してたクマね」

「何やるのにゃ?」

「それは行ってからのお楽しみってことで。じゃあ多摩、行ってきますねー」

「別にそんな気を遣ってくれなくても良かったにゃ。……でも、ありがとにゃ」




――――浴衣姿、いくら見ても飽きないや。

 ――――花火上がってる時ぐらいは花火見るにゃ。

――――何見るかなんて僕の勝手でしょ?

 ――――……バカ。
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/01(木) 22:13:31.81 ID:hRpZRx9+o
子多摩久々だな
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/02(金) 10:01:03.24 ID:KLgEpUUSO
おぉ、多摩鎮守府の連中久しぶりだな

152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/02(金) 13:08:40.93 ID:z7ptq0MCo
真ん中誰かと思ったら向こうの多摩たちかw
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/03(土) 20:01:23.68 ID:tAdWExFq0
乙乙
相変わらず仲が良いようで安心
154 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/10/08(木) 00:43:50.19 ID:Ur0D2c6d0
・『空と海』 、投下します

表と、もうひとつの表
155 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/10/08(木) 00:44:17.13 ID:Ur0D2c6d0
 少し肌寒さを感じるようになった秋の夜に、ゆらり、ゆらりと鎮守府を歩く影。
 その行く手を遮るように、一人の艦娘が現れる。

「照月、部屋へ戻りましょう」

「……」

 ピタリと足を止め身体を前に傾けた後、小刻みに肩を震わせ始めた照月。
 心配して近付こうとした秋月をその場に縫い付けたのは、次の瞬間に聞こえた声だった。

「ヘー、来タンダ」

「……貴女、誰?」

「何言ッテルノ? 照月ニ決マッテルジャナイ」

「っ……そん、な……」

 そう言いながら身体を起こし、にこやかに微笑んでいる彼女の目は、片方が紫に染まっていた。
 この異常事態に一瞬膝から崩れ落ちかけた秋月を支えたのは、いつの間にか背後に立っていた飲み屋帰りの軽空母だった。

「何やよぅ分からんけど、妹の一大事に腰抜けとったら格好悪いで?」
156 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/10/08(木) 00:44:42.86 ID:Ur0D2c6d0
「サッキカラ変ダヨ秋月姉、照月ガドウカシタノ?」

「キミ、ちょっとそれは悪趣味なんとちゃう? いくらなんでもイタズラが過ぎるで」

「今ハ秋月姉ト話シテルノ。邪魔ヲ――スルナ!」

 何処かから現れ砲身を龍驤へと向ける長十センチ砲ちゃん。その目の様に見える部分は、今の照月同様紫色の光を灯している。

(秋月庇いながらこの子黙らせなアカンのか。こりゃほろ酔いではちょっとばかしキッツいなぁ……)

 下手に応援を呼べば刺激しかねず、かといって艦載機も無しに場を収められる状況でもない。
 久々に冷や汗が背中をつたうのを感じた龍驤は、とにかく口を動かした。

「キミ、何で今更こんなことしたん? 他の子等は普通にここで生活しとるよ? 一体何が不満なんや」

「マタ私ヲ暗クテ冷タイ場所ニ一人デ置イテ行クツモリナンデショ? 今度ハ秋月姉モズット、ズーット一緒ニ居マショ。フフッ、ハハハ、アハハハハッ!」

(アカン、こらホンマにマズイで)

 徐々に強くなる感じ慣れた気配、幾度と無く向けられた強い憎悪の念。
 それは紛うことなく、彼女達の敵だった頃の深海棲艦のものだった。
157 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/10/08(木) 00:45:09.24 ID:Ur0D2c6d0
 自分を抱える龍驤の声と、照月ではないと認識した誰かの声。
 その二つが、秋月の耳の中をすり抜けていく。
 彼女は敵としての深海棲艦を知らず、この様な事態が起こることなど微塵も考えてはいなかった。
 それだけに、受けたショックの大きさは相手が妹であることも加えてかなりのものだ。

(照月……どうして、どうしてこんなことに……)

 解体、処分、嫌な言葉が頭をよぎる。
 そんな結末を黙って認める提督ではないと知っていても、一度思考を支配したものはそう簡単に払拭出来ない。
 軋む心を守る為、目の前の現実から目を逸らそうとした秋月を引き留めたのは、小さい無機質な手だった。

「長十センチ砲、ちゃん……?」

 いつの間にか腰にしがみついていた長十センチ砲ちゃん。
 その手が指し示したのは、今龍驤へ向けて高笑いしながら砲撃している妹の顔。
 恐る恐る向けた視線の先には、逸らしてしまっていたら後悔していたかもしれない真実が待っていた。
158 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/10/08(木) 00:45:35.68 ID:Ur0D2c6d0
「ドウシタノ? 抵抗シナイノ? ソレトモ出来ナイノォ?」

「うちは生憎ここの化け物共と違って至極普通な艦娘なんや。艤装も無しに戦えるわけないやろ」

「ジャアサッサト秋月姉ヲ置イテ消エナサイ」

「残念なことにここやと鳳翔とうちが歳で言うたら一番上なんよ。そんな真似死んでもよう出来んわ」

「アッハハ、ダッタラ――死ニナサイ!」

(こりゃ何か特別手当てでももらわな割に合わんなぁ……)

 照月の長十センチ砲ちゃんから放たれる黒く濁った砲弾。
 全弾回避は難しいと判断した龍驤は、秋月を庇うように背中を向け、気付いた誰かが到着するまで待つことを選択する。




 ――しかし、待つまでもなく対抗する手は最初からそこにあるのだった。

「お願い、長十センチ砲ちゃん!」
159 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/10/08(木) 00:46:09.69 ID:Ur0D2c6d0
「……何デ? 何デ邪魔スルノ、秋月姉」

「妹が悪いことをしたなら、叱ってやめさせるのが姉の勤めだもの」

「フーン、ソウナンダ。ヤッパリ照月ヲ一人ニ――」

「馬鹿なこと言わないで! やっと……やっとまた会えたのに、一人になんてする訳無いじゃない!」

「嘘……ソンナノ嘘……嘘、嘘、ウソダウソダウソダウソダウソダッ! 一人ハ嫌……モウアノ暗イ海ニ一人ハ嫌……嫌ァァァァァッ!」

「アカン、完全に記憶がごっちゃになっとる。どないかして正気取り戻させへんと壊れて――って何してんねや!?」

「あの子は、ただ寂しかっただけなんです。だから、側に行ってあげないと」

 後ろから聞こえる一度止まれの言葉も聞かず、秋月は照月の元へと駆け出す。
 錯乱状態が功を奏して砲撃はあらぬ方向を狙っており、当たる可能性は低いものの、危険なことに変わりはない。
 至近弾の影響で飛来した小石や木片による傷などは気にも留めず、秋月はただ真っ直ぐに妹の居る場所を目指した。

「照月!」

「ア……秋月、姉? ソッカ、来テ、クレたんダ……」

「私はここに居るよ。だから大丈夫、もう泣かないで」

「うン……あぁ、星空ガ、綺麗……」

 照月の目から流れ落ちる雫と共に、紫色の水晶が地面へと落ちる。
 それと同時に辺りに漂っていた悪い気配は消え去り、脅威が去ったことを後ろでひやひやしながら見守っていた龍驤も理解した。
 新たに観測された謎の現象と、破壊してなお何かしらの力を持つ結晶、そして――。
160 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/10/08(木) 00:46:35.87 ID:Ur0D2c6d0
「……増えたのか」

「みたいやね」

「秋月姉ハ私ト居ルノヨ、ネェ?」

「照月とだもん! ねっ、秋月姉?」

「え、えーっと……」

「助け求めてんで、昨日は影でコソコソ眺めるだけやってんから助けたったら?」

「アレは先を見据えてあえてだな……」

「私ト!」

「照月と!」

(長十センチ砲ちゃん、こういう時には何で居ないのかなぁ……)




――――防空棲姫のルキが秋月を照月と取り合うようになりました。
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/08(木) 02:31:03.28 ID:TOhRArLBo
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/08(木) 07:14:30.30 ID:d0H+w6Deo

仲間増えたでww
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/08(木) 10:10:16.27 ID:3tUbjp+SO
乙です
また新しい深海棲艦がやって来たか
164 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/10/08(木) 17:27:32.47 ID:Ur0D2c6d0
 ――第三艦隊。

「バァァァァァニング・ラアァァァァブ!!」

「あらあら、そんなに私と火遊びしたいの?」

「フォイヤー!」

「私達より不幸になりたくなければ退いてちょうだい」

 前方に向けて多数の戦艦により生み出される砲火の豪雨。その勢いは凄まじく、戦艦棲姫十隻を相手に優勢を保っていた。
 一つ問題があるとすれば、相手は一発当てればそれだけで簡単に戦況を一変させられるという点だ。

「今回ばかりは、データも役に立たないわね」

「まだまだ先は長いなんて、不幸だわ……」

「気合いで! まだまだ! いけます!」

「榛名もまだまだ大丈夫です!」

 後ろに控える主力艦隊を是が非でも最深部まで導く為、その戦意は極限まで高揚していた。
 それは戦艦のみに限った話ではなく、他の者も出し惜しむことなく全力で眼前の敵を撃ち倒していく。

「ふふっ、昔に戻ったみたいですね、龍驤」

「アンタに昔の感じに戻られたら何人かチビってまうよ?」

「そんな柔な子はここには居ないはずですよ」

「まぁウチはえぇけど……程々にしぃや」

「はい。では――元・元帥艦隊空母教導艦鳳翔、推して参ります」

 ――犠牲となったのは、レ級の艦載機。
 それまではその圧倒的性能差で翻弄されていたかに見えた鳳翔の艦載機が、まるで最初から全てルートを計算していたかの様に次々と機銃の射線に入った艦載機を撃ち落としていく。
 追う側から追われる側へ変わっていたなど、レ級には全く分からなかった。
 そして、気付いた時には彼女の身体を爆撃が捉えていたのだった。

「ふぅ……やはり現役の頃と比べると、少し動きが悪いでしょうか」

(横の千代田と千歳が目を必死に逸らしとんの、気付いとるんやろなぁコイツ)




 前方の敵艦、大半が沈黙。同時に一部艦娘の鳳翔への畏怖の念が強まった。
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/08(木) 18:10:39.25 ID:51MtPBaqo
鳳翔さんの艦載機は練度表示がオレンジくの字5本くらいあるだろこれ
166 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/10/12(月) 13:31:04.94 ID:4FxnvAgOO
連絡三点

・本日帰宅後更新します

・追加期間限定グラもやります

・Q、それはサンマですか? Aいいえ、それは炭です
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 16:06:56.92 ID:FQVkusoSO
了解です
168 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/10/12(月) 21:33:19.16 ID:///RViPg0
「――揃ったみたいだな」

 普段ならば一人、多くても三人程度しか集まらない執務室に集まった十を越える艦娘達。
 その顔触れは待機艦隊に加え、裏で動いている者達が大半だ。
 いつもならば緩い雰囲気を出している者も、今は真剣な面持ちで提督の言葉に耳を傾けていた。

「明石、大淀、盗聴の類いはどうだ?」

「バッチリ対策済みです」

「念のために周囲の警戒もお願いしてあります。問題ありません」

「そうか、なら本題に入るぞ。お前達には既に通達済みだが、今回の照月の一件でネズミが罠にかかった」

「ネズミか、それにしては大層な面子を集めたものだ」

「窮鼠猫を噛むって言うだろ? ネズミ相手でも手は抜けん」

 自分一人で事足りると言いたげな武蔵をやんわりと制止し、提督は話を続ける。

「今回はあえて丁重にネズミを招き入れる。出迎えは大和、赤城、伊勢」

「承りました」

「了解です」

「試し切り出来るかなー」

「分かってるとは思うが当然生け捕りだぞー伊勢ー。次、武蔵、電、吹雪、木曾、ネズミの護衛を相手しろ」

「隠れて動くというのは苦手なのだが……」

「了解なのです」

「任せて下さい、司令官」

「ネズミ相手か、張り合いねぇなぁ……」

「籠は島風、利根、大鳳、龍驤」

「はーい」

「うむ、吾輩に任せるのじゃ」

「私達、やることあるのかしら……」

「楽でえぇやん」

「そこ空母二人、ヘマしたら六ヶ月減給だぞー。加賀、大淀は指揮を任せる」

「了解」

「最善を尽くします」

「後は……言うまでもないな」

 省かれたのはこの場に居ない面子。
 普段ならば武蔵達の担当する役割はその者達の仕事なのだが、別の仕事が彼女達には任されていた。

「今や絶滅寸前のネズミだが、一片の躊躇無く絶滅させてやれ。この鎮守府はクリーンで安心安全がモットーだ」

「提督ー、雪風のアレは?」

「あー……ペットは可だ。以上! 解散!」




――――ネズミ捕り、準備開始。
169 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/10/12(月) 21:34:46.89 ID:///RViPg0
・望月『物は試し』 、投下します

乙女もっちー
170 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/10/12(月) 21:35:13.65 ID:///RViPg0
 眼鏡は目を守り、目から守り、目によって成り立っている。
 コンタクトは目を守り、目によって成り立つが、目から守りはしない。
 望月にとってそれは今と昔では違う理由から重要な意味を持つものの、必須であることに変わりはなかった。




「――物は試しだ、変えてみてもいいんじゃないか?」

「別に困ってないし」

「コンタクトの何が不満なんだよ」

「寝落ちしたらヤバイし、着けるの面倒だし、何か落ち着かないし……」

「別にずっとコンタクトで居ろとは言ってない。一回着けてみるだけでも嫌か?」

「何でそんなにコンタクト推すのさ」

「最後にお前の眼鏡を外した姿を見たのが何年前か分からんからだ」

「それ、何か問題あんの?」

「特に無い」

「じゃあいいじゃん別に」

 提督の私室で提督を背もたれにして寛ぐ望月。
 やんわりと想い人からの要求を無視し、彼女はスマホの画面を流れていくリズムアイコンを目で追っている。
 両手の塞がっている今なら眼鏡を外すことは可能だが、確実に腹部を抉る肘鉄が待っていた。

「なぁ望月」

「んぁー?」

「コンタクトにしたら旅行に連れてってやる」

「めんどいからパス」

「甘味」

「間宮さんのより美味いやつとかあんの?」

 大抵の艦娘を落とす連撃は虚しく外れ、大きく提督はため息を吐いた。
 幸か不幸か彼の頼みを断る艦娘などほぼ皆無な中で、望月はその例外に入る。

「……相変わらずそういうところだけは譲らんな」

「面倒なことと嫌なことはしなくていいって言ったじゃんか」

「ならせめて俺の前でだけ外すのを頑なに拒み続ける理由を教えろ」

「面倒」

「一言で片付けられて納得するわけないだろ」

「逆に何でそこまで拘んのさ……」

「今のお前の眼鏡を外した顔を見たい、それだけだ」

「別に前と変わってないって」

「そんなもの見なきゃ分からんだろ」

「あーもうその話いいから、夕飯作ってくんない?」

「……パスタかドリア」

「ボロネーゼ」

「また手間のかかるものを……作ってくるから待ってろ」

「あーい」

(……眼鏡無いと、話すの面倒になるじゃん)
171 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/10/12(月) 21:35:58.55 ID:///RViPg0
〜明くる日〜

「明石さん、コンタクト」

「はーい、使い心地はどんな感じですか?」

「まぁ、悪く無いよ」

「それは良かったです。今度また詳しく聞かせて下さいねー」

「んぁーい」




「望月、今日はコンタクトなのね」

「如月姉は伊達眼鏡なんかしてどうしたのさ」

「たまにはこういうのも新鮮で司令官も喜ぶんじゃないかと思ったの」

「あたしは普段通りで良いと思うけど」

「じゃあ望月もそのコンタクト姿で司令官に会ってあげたら?」

「……知ってて言うのやめてくんない?」

「うふふ、そういう貴女の可愛いところ、好きよ。じゃあ行ってくるわね」

「あい、行ってらっしゃい」

(……それが出来たら苦労しないんだっての)




 目は口ほどに物を言い、眼鏡はそれを遮るフィルターである。 
172 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/10/12(月) 21:36:27.99 ID:///RViPg0
――――もっちー? コンタクト持ってるよ?

 ――――コンタクトってアレだぞ? 目に入れるやつ。

――――それぐらい知ってるもん。司令官、今あたしのことバカにしたでしょー。

 ――――してない、してないからつねるな文月、肩車しにくくなる。
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/13(火) 10:28:11.53 ID:Qi59tWnSO
乙です
174 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/10/23(金) 21:41:39.67 ID:Is/A6Tpe0
・矢矧&霞『取材』、投下します

有能(まともとは言っていない)
175 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/10/23(金) 21:42:05.98 ID:Is/A6Tpe0
「――はぁ? 意味分かんない」

「雑誌の取材と撮影、疑問が生まれる部分は無いと思うが」

「霞が言いたいのはそういうことじゃないんじゃない?」

 やや不機嫌な霞と、特に異論は無いが自分達が選ばれた理由は気になっている矢矧。
 二人の視線を受け、提督は明後日の方向を見ながらその点について口を開く。

「読者アンケートの結果、だそうだ」

「私の目を見て言いなさいな」

「……アンケートの結果だ」

「何の、アンケート結果なのかしら?」

「……罵られたい艦娘と、調教されたい艦娘」

「アンケート考えた奴も答えた奴も死ねばいいのに」

「提督、艤装の使用許可を申請するわ」

 前者はより冷ややかな声音で、後者は満面の笑みで、怒気を放つ。
 当然の反応ではあるが、提督も断られる訳にもいかず二人を宥める。

「まぁ落ち着け二人とも。悪ふざけが過ぎるとは俺も確かに思うが、そんなアンケートが取れる程度には司令部内部も平和になったってことだ」

「それとこれとは話が別」

「平和ボケした司令部の気を引き締めてあげないと、ね?」

「内容は至ってまともな取材と撮影だから大目に見てやってくれないか?」

「何でよ」

「それは取材を受ければ分かる」

「――あの盃に誓って、その取材は受けるべきって言える?」

「あぁ、言える」

「そう……だったら私は受けるわ」

 宝物である盃に誓うと言われ、矢矧は先に折れる。
 しかし、霞は以前不機嫌な表情を崩さぬままだ。

「霞、お前にも取材を受ける義務がある。お前のこれまでの行動の結果を見届けてこい」

「……分かったわ」

「よし、じゃあ取材は明日だ。しっかりやってこい」
176 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/10/23(金) 21:42:31.16 ID:Is/A6Tpe0
〜翌々日〜

「ほー、よく撮れてるな」

「普通よ、普通」

「まさか、手袋をはめ直す仕草をお願いされるとは思わなかったわ」

「それで、取材はどうだった?」

「……ふんっ、ちょっとは成長してたんじゃない?」

「うちの阿賀野もあれぐらいしっかりしてくれてたら能代も楽なんだけど」

「はははっ、また機会があれば会ってやれ。こういう繋がりも大事だからな」

「まぁ、気が向いたらね」

「今度はうちの阿賀野も連れていこうかしら」

(ふぅ……取材中は二人とも平常心は保てたか、今頃すごそうだな)




――――あー、やっぱりあの霞さんの目、ゾクゾクするなぁ〜。

 ――――司令部にも矢矧が居れば、阿賀野をダメな子ってお仕置きしてもらうのに……。
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/24(土) 01:34:31.96 ID:C97RHYn8o
うわぁ(うわぁ
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/26(月) 13:06:39.53 ID:C5qpVHfNO
新しい鎮守府だとしたらコレはひどいことになりそうだ(誉め言葉)
179 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/11/03(火) 12:48:44.32 ID:/1GZ8nwnO
木曜に休みが取れるので更新します

最近間隔が開くことが多くなり申し訳ありません
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/03(火) 14:57:08.35 ID:zqI7tvYZo
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