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【R-18】由比ヶ浜結衣はレベルが上がりやすい
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113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/05(土) 19:20:08.63 ID:wXxBmjsvo
どうも
>>1
です。
突貫作業だったとはいえ誤字多いし最後の方無理矢理感強いしで反省中。
内容がもうイチャエロじゃねぇって感じですがこういう流れは三話までになると思うので暫しお付き合い下さい。
次回はまた一週間以内、早ければ二、三日って感じで。
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/05(土) 19:47:04.53 ID:+ApNVEyUo
待ってる
頑張って
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/05(土) 21:49:34.35 ID:9dturrG2o
期待してます
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/06(日) 18:34:24.46 ID:ibCNzLDXo
どうも
>>1
です。
二話のプロットと執筆を並行で進めてますが、また果てしなく長くなりそうなので
暫くは二分割三分割って感じではなくキリのいいとこまで書いたらその都度投稿って形になりそうです
いやエロスレなんて皆オカズ目的だって分かってるんだけど、でも本番に至る過程ばかり力入っちゃうんですよね
セックスは挿入より前戯が重要だってばっちゃが言ってたから……
とりあえず今晩22時以降投下出来るかもなので期待せずお待ち下さい
117 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/06(日) 18:39:56.66 ID:sIA4s3Ywo
期待してるー
118 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/06(日) 19:00:44.71 ID:OUVtTg4Mo
期待
119 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/06(日) 20:42:01.77 ID:CyAbWzV8o
俺も過程好きだよ 期待してる
120 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/06(日) 23:24:24.81 ID:ibCNzLDXo
どうも
>>1
です
23時半から投下予定です
今回は
・エロ無し
・オリキャラあり
・ガハマさん出番少なし
の絶望三本立てでお送りしますすみません許して下さいなんでもしますから
オリキャラと言っても精々今回と次回くらいにしか出番のないモブみたいなものなのでご容赦
121 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/06(日) 23:30:44.82 ID:ibCNzLDX0
一年、特に前期の講義は大半が必修科目で、何処に行っても見た顔見た奴ばかりで辟易する。だが実際には顔も名前もハッキリ覚えちゃいないのがぼっちの仕儀。
だだっ広い講義室で誰とも隣合わずぽつぽつ疎らに座る学生達を前に教授か講師が静かに話を進める……そんなものが大学の講義に対するイメージだったのだが、現実には既に作られたグループが広範囲に渡って座席を占拠し、講義の最中もひそひそ雑談を続ける高校までと変わらない教室模様がそこにはあった。寧ろ席を指定されていない分その自由混沌ぶりには磨きがかかっていると言ってもいい。
当人達は後部座席で声を潜めバレないよう振る舞っているつもりだろうが、ぶっちゃけ会話隠れてないからね聞こえてるからね? コーギツマンネーとかキョージュブサイクーとか教壇の教授まで絶対届いてるからね?
しかしそのキョージュ殿はそんな様子も慣れたものと言った感じで無視し、淡々と講義を進めて行く。教育だか教室の崩壊が叫ばれて久しい昨今、教職の人間もああいう鋼の面の皮とかメンタルじゃないとやってられないんだろうなぁ。
面の皮の厚さでは俺も負けてはいなかろうし俺には教職が天職か? でも卒業したらもう二度と学校なんかにゃ関わりたくないしそもそも働きたくないので淡い夢は妄想の内に溶けて消えていった。人の夢と書いて儚いと読む、どこか物悲しいわね……あの世界って使用言語日本語だったのか……。
益体のない思考を走らせながら同時にペンも走らせる(見た目は)真面目学生の俺。というか必修科目落として再履修とか殆ど留年に等しい苦行なので万が一にも落としたくない。理数系科目どうすっかなー、なんで文系なのに(基礎だけとはいえ)理系科目があるんだろうなーしねばいいのに。
そんな自動書記的授業対応も幾十分と進み、教授の話が途切れて教科書を纏め部屋を出て行くのと終了のチャイムが鳴ったのが殆ど同時だった。教授パネェ。ここまで時間を読み切った上での講義だったというのか……!
122 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/06(日) 23:33:58.62 ID:ibCNzLDX0
そんな教授の妙技に心中ウムムと唸っていると、ひそひそ話の規模が一気に広がり騒がしいを通り越し喧しいレベルまで拡大される。うるせぇぇぇぇぇぇぇぇ……人数増えた分だけ高校の時より鼓膜に響く。いやお前らこんな中で本当に会話出来てんの? 相手の声聞こえてる?
人の少ない前部座席に座っていた俺は教科書ノートを纏めながらチラと視線を後部へ向けた。比較的地味で真面目そうな面々の集中した前部と比べれば五月蠅くも明るい後部……髪の色も明色なので物理的に明るかった。二限目が終われば次は昼休み、何を食べよう何処に行こうと盛り上がっている。
その一画、見知った茶髪が騒ぐ学生達の中心で談笑している。ご存じ由比ヶ浜結衣である。
結局必修科目の講義風景が高校の延長線上だったように、大学でも俺達の在り方はそう変わっていない。俺は独りで講義に集中し、彼女は仲間に囲まれてわいのわいのと宜しくやっている。
当初由比ヶ浜は俺の隣に座っていたのだが、誘蛾灯に惹かれてやってくる夏の虫共の如く由比ヶ浜の回りにフラフラと頭の悪そうな学生達が集まってきて、そこで上手く応対する彼女とどもって引きつる俺の明暗分かれ、その空気に耐えられなくなった俺は講義中は離れようと提案したのだ。
勿論由比ヶ浜は悲しそうな顔をして寂しいよ一緒にいたいよと非常に可愛らしくいじらしく男の心臓を破壊するハートブレイクショットをブチ込んできたわけだが、それでも俺と一緒にいることを選ぶならそれは彼女の交友関係を制限することになりかねない。学生の在り方が少なくとも現時点で高校とそう変わらない以上、俺と一緒にいることで彼女の明るい学生生活が阻害されかねないと言うなら、俺の行動指針が高校時と変わらなくなるのは必然だった。
思い出されるのは彼女とクラスメイトだった時分、苛烈な女王様の周囲に侍る野花のようだった由比ヶ浜の姿。当時のキョロ充だった由比ヶ浜にも人目を惹く何かがあり、それ故に三浦に見初められたわけだが、今学生達の中心にいる彼女の醸す空気はその頃とは明確に違う。
123 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/06(日) 23:37:10.80 ID:ibCNzLDX0
華がある。
というよりも由比ヶ浜自身が華だった。
背が低くて視線を下げなきゃ目に留まらない雑花じゃなく、何処の誰の視界にも入ってくる高貴な花弁と漂う芳香……という程の気品は無いが、それでも人を惹き付ける輝きと存在感を確かに感じる。本来の彼女というより、これが由比ヶ浜の成長の形なのだろう。
自己主張出来なかった彼女はその意志を改善し、今では主張するまでもなくその存在が周囲の心を引き留める。
もしこれが何時かの生徒会選挙の時に見られたら、彼女は本当に勝ち抜いて生徒会長になっていたのでは……そんなifを想起させるに充分な光。
眩しくて、目を逸らすしかない。
だが逸らそうとした寸前、彼女の視線が前を向いて目が合ってしまう。
にこり微笑んで手を上げる由比ヶ浜に俺も適当に手を上げ返すと、纏めたノートと筆記用具を鞄に仕舞い、由比ヶ浜の反応を確認しない内に足早に部屋を出た。
また心臓に刺さった棘から痛みが走る。
自分で選んだことなのに、隣に俺達がいなくても輝く彼女を見るのは無性に辛かった。
124 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/06(日) 23:40:17.46 ID:ibCNzLDX0
人と活気に溢れる大学と言えどそこが社会の縮図であるならば陰が出来るのは必然……人間の集団の話ではなく、物理的な場所の話である。
有り難いことにかつてのベストプレイス同様人の寄りつかない一画があり、ここにはベンチだって幾つもある。違うのはそれでも何人か先住民がおり完全独りのぼっち状態にはなれないことだが、志を同じくする者達であることは空気で分かる。ぼっち同士は干渉し合わない、つまりいてもいなくても同じ。なんて素晴らしい意識共有……相互理解や対話にGN粒子なんていらんかったんや!
そんな大学の暗部、生ける屍達の住まう現代の墓場は入学から二週間を過ぎる頃には俺の居場所として定着していた。つまり俺も現代のゾンビの一人なのである。ブードゥーでも信仰しようかしら。
そんな草むした墓(土地―沼・森)にも春らしい暖かな陽射しや爽やかな風は入ってくる。自然天候は老若男女金持ち貧乏問わず平等に与えられる資源だ、勿論ぼっちにも優しい。昼飯のお供には良い塩梅じゃないかと少しだけ気分を良くして予め買っておいた惣菜パンとマッ缶で空きっ腹を慰める。
マッ缶の過剰な糖分が脳に行き渡るが、ネガティブ入ってる思考は改善されず気分は晴れない。ぼっちは常にネガティブだがそれでもメッゾネガティブかネガティブかってくらいには判別出来る。決して五十歩百歩ではない。
今頃由比ヶ浜は俺を捜しているだろうか……いや、腹を空かせた取り巻きに引っ張られ強引に学食にでも連れ込まれている気がする。
彼女も流されず人付き合いを選べるようになったろうが、それでも俺のように集団の意とは無縁とばかりに我が道を往く選択は出来ないだろう。友達と恋人とどちらを優先するでなく、きっとどちらも優先したくて積極的な選択は出来ないのではないか。寧ろそれでなんとかなってしまうような天分天運を持っているのが由比ヶ浜結衣という人間だと思う。
125 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/06(日) 23:43:21.27 ID:ibCNzLDX0
疎らに白い雲が散っている晴れの空をボーッと見上げる。
ポケットからは振動も音もない。当たり前だ、ここに来るまでスマホはバイブさえ切ったサイレントモードにしてある。ぼっちのベストパートナー足るスマホを取り出していないのは由比ヶ浜からのメールや着信履歴が山と積もっているのが確実だからだ。
大学の講義が高校までの授業と現時点で大差ない、ということはまだ良い。それでも確実に環境は向上しているからだ。だがそれ以上に人間関係、それも誰より親しくなった人間とのことでこうも悩むとは思わなかった。
俺と由比ヶ浜の住む世界が違う、なんてことは幾度と考え思い知ってきた事実だ。それでも俺達はなんとかやって来れた筈だった。彼女が進学先を俺と同じくし、そしてその道を勝ち取ったことは俺だって嬉しかった。こうして自由と怠惰のユートピアである大学へ、大切な人と肩を並べて進んでいけるのだと。
現実は、俺と彼女が別世界の人間であることをじくじくとした火傷のような痛みで思い知っただけだ。
……俺が今の住居へ引っ越したあの日以来、由比ヶ浜の泊まりを許したことは無い。あの日の続きをと俺自身期待はしていたが、未だ俺の中で彼女と真の意味で向かい合う決意は出来ず、解は出ていない。そんな状態で彼女と密着することは何より待ち遠しく、でも何より怖かった。
由比ヶ浜は確実に変わっている。俺との関係、その変化を前向きに捉え、そうあろうとしている。
だが俺はどうだろうか。何時まで俺は俺で在り続けることを選んでいられるのだろうか――
126 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/06(日) 23:46:43.64 ID:ibCNzLDX0
と、果てしないネガティブスパイラルに陥った思考が途切れる。空気が変わった。
視線を下げれば学生ゾンビ達が何人も消えており、残った数人も今まさにこの場を去ろうとしているところだった。
もう昼休みが終わるのか、そんな時間感覚が消えてしまうくらい思考に没頭していたか――時計を確認するより前に蜘蛛の子が散った原因を目視した。明らかに場違いな二人組の男が墓場に踏み込んできていた。片方はくすんだ金に頭を染めて見た目からバカ・アホ・チャラいの三種の神器を備えた如何にもウザそうな不良学生、もう片方は一目でスポーツマンだと分かるような恵まれた体躯とゴツいながらも整った顔をした如何にも真面目で鬱陶しそうな優等生風だ。
それぞれキョロキョロと何かを探すように首を振っていたところ、頭の悪い方(確定)と異邦人を観察していた俺とで目が合った。
すると頭悪いのが真面目なのに何かを話してから揃って俺を見て指差し……ってちょっと待って、何俺目的? 身体? 身体目当てなの?
話は直ぐに纏まったらしく二人して俺へと踏みだしながら、
「よォー! 『ヒッキー』てお前だべーッ!?」
と、これまた死ぬほど頭の悪い声で頭の悪い言葉をかけてきた。ウゼェー!
やがて俺の目の前に二人揃うと頭悪いのが俺を指差しながら横の真面目なのに向かって、
「ほれゆいゆいの言ってた通り目がアレっぽくて超ネクラって感じじゃん? 間違いねぇべよォ!」
などと失礼極まりない暴言を吐きやがりました。いや否定出来ないんだけどね、だけどもちっと知性を感じさせる言い回しでお願い出来ませんかね類人猿。
127 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/06(日) 23:50:11.90 ID:ibCNzLDX0
「おい猿渡、あんまり失礼なことを言うんじゃない……悪いな色々、確か……ヒキタニ、でいいんだよな?」
真面目そうなのは見た目通りのバリトンボイスでバカを諫めると陳謝もそこそこに俺が探し人かどうか確認してきた。こっちは話も通じそうで好印象……の筈が名前のとこで一気に株暴落だよ。リア充は俺の名前間違えるってジンクスでもあんの? ヒキタニさんが学内にいたらどうすんだよ。あと猿渡ってちょっとイメージと合いすぎませんかね。
もう訂正するのも面倒だし関わり合いになりたくないしとっとと用件済ませて欲しいので一々口は挟まない。何より「ゆいゆい」が指す人物が容易に想像出来るから一刻も早く退散して男子トイレ辺りに引きこもりたい。
「……そうだけど、何?」
「『そうだけど、何?』ってお前こそ何よ! マジ受けるわ! ッベーよこいつマジッベーよ! 牛山、こいつマジだよマジ!」
どの辺がツボに入ったのか、猿渡とかいうお猿さんは腹を抱えて笑い始めた。ちょっとこの人何、何なの。誰か警察呼んでよ。そんで俺を不審人物ってことで連行してもらって物理的にアレとの距離取らせてよ。あと牛山ってのもイメージ通りかもしれない。イケメン牛。
「いい加減にしろ猿渡!……本当にすまんな。 改めて俺は牛山、隣のが猿渡、両方今年の新入生だ……よろしく」
「あ、あぁ、よろしく……まぁそれはいいから、早く用件頼む」
牛山君は礼儀正しく話も通じる感じで好印象ですね、友達になってあげてもいいかも……向こうから願い下げだって分かってるけど。
128 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/07(月) 00:00:17.13 ID:ifgaMc000
「そうそう用あんだよ用! お前さ、明日から昼は学食来いよ!」
「は?」
「だから猿渡、もう少し丁寧に言え……まぁ、でもコイツの言うとおりだよヒキタニ。 明日から昼は学食で俺達と一緒に食べないか?」
「……なんで」
「『なんで』って、お前マジスゲーわ! 本当マジ! マジじゃんお前! パネェって本当! ありえねーわ!」
何この壊れたテープレコーダー……決まり切った単語しか口にしないと思ったらパターンや配列変えてくるとかこの壊れ方は新しいな。全く有り難くない。
しかし俺、入る大学間違えたか? こんなのが入学できる大学ってお前……結構偏差値高いと思ったんだけどなー俺も割と受験勉強頑張ったんだけどなー。でも由比ヶ浜が入学できるくらいだから実はお察しレベルだったの……?
「猿渡、少し黙ってろ。 なんだ、その……由比ヶ浜が、お前のことを気にしているみたいだったからな……こんな所で一人で食べるより、皆で一緒の方が良いだろう?」
由比ヶ浜。
矢張り、という感想しか湧かない。お猿さんが「ゆいゆい」などと懐かしくレアな呼び名を出した時点で察しはついていた。ヒキタニさんはいるかも知れないが、苗字と名前が頭に「ゆい」が付く学生が由比ヶ浜以外にいるとは考えづらい。
そしてもう一つ合点が行く。どれだけ今の状態に不満を持っていようと、由比ヶ浜も一応は今の大学内での距離感には納得してくれた筈だ。高校の時分もカーストの違いを気にする俺を察して、部室以外での接触は極力避けることには協力してくれていたし。
故に猿が由比ヶ浜の存在を臭わせた時点で、あいつが学内で俺との接点を積極的に増やそうとはすまいと疑問に感じていたのだが、どうやら由比ヶ浜の取り巻きらしいこの二人が独断で俺を由比ヶ浜と引き合わせようとしているらしい。それなら納得はいく……が、大きなお世話だ。本当に。
129 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/07(月) 00:04:10.27 ID:ifgaMc000
「……ほっといてくれ、俺は別に由比ヶ浜とかお前らと一緒に飯を食いたいとは思わない」
俺は他人と仲良くなる方法を上手く実行出来ないだけであって、嫌われる前提でなら幾らでも好きに振る舞える。よってここは突き放すに限る。あと由比ヶ浜にも迂闊にヒッキーって単語出すなと言っておかねば。引きこもりの知り合いがいると思われたらどうするつもりなんだあいつ。半分合ってるけど。
「いやいや一人で食うとか流石にありえねーべ? 友達と一緒に食わねーとかマジでありえねーから」
「その友達がいないし、作るつもりもないんだよ」
「は? 何言ってんの? 友達いねーとかありえねーこと言ってんじゃねーって、面白くねーからそのギャグ」
……ギャグのつもりないんですけど。友達って内蔵とかの重要器官なの? 友達欠損してると五体不満足とかそういうアレなの? これは障害手帳ならぬぼっち手帳待ったなしですわ、ぼっちであれば国の補助で生きていける時代……それはそれで悪くないな。
「猿渡、そこは、その……察してやれ」
「……あ、友達いたのが死んじゃったんだろ! そりゃ友達いないわなつらいわなー、ごめんよヒッキーくんよォー」
「そうじゃなくてだな……」
猿くんの凄まじさに思わず頭を抱える牛山に同情。そのバカっぷりにちょっとだけ猿くんと戸部を重ねていたが、バカでも良い奴であることに疑いの無かった戸部ともまた違う……そも人と猿を比較すること自体が間違いだったか。戸部も猿レベルじゃないかってやかましいわ。
そうなるとこの牛山は葉山ポジションか? こいつもスポーツマンっぽいし、顔立ちも悪くは無いし……だが正に王子様の風格だった葉山と比べるとゴツくて男っぽい牛山は女性受けの点では幾分劣るか。そこはちょっと好感度アップだな。あと999回好感度上がったら学食行ってやろう。
130 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/07(月) 00:07:39.12 ID:puy8J0JL0
ベクターかよ
131 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/07(月) 00:08:28.15 ID:ifgaMc000
「……とにかくだ、あまり由比ヶ浜を心配させるんじゃない。 お前の名前を出す度に少し落ち込んだ感じになっているんだぞ、彼女は」
��ズキン��
棘の痛みがまた走る。
彼女が俺の提案を飲んでも、それを内々に処理しきれないことなど容易に想像が付いたはずだった。何処か迂闊さの抜けない彼女が、約束を守っているつもりでもふと俺との繋がりを口にしてしまうことも。
その原因が俺の逃げ腰と逃げ足にあるということも、俺は痛い程知っていたはずなのに。
「……由比ヶ浜が何言ってたか知らんが、お前らには関係無い」
それでも、俺には突き放すことと逃げる以外に打てる手がない。どうしようもなくそういう人間だから。
言い終えると同時に俺は立ち上がり、中身の残ったマッ缶を持って二人に背を向けた。もう話すことも聞くこともない。
「おい、ヒキタニ……!」
「ちょ、そりゃないでしょヒッキーくんよォー! ゆいゆい可哀相じゃんよ!?」
明確に拒絶の言葉と空気を吐き出した俺に追いすがることはせず、二人はただ俺の背中に批難の色を込めた声をかけるに留めたようだ。
ウザいし鬱陶しいしもう二度と関わりたくないが、それでも由比ヶ浜の周囲にいるのがこういう気を遣える優しい人種であったことに心中でホッとし、感謝の念を二人に抱いて俺は墓場を後にした。
132 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/07(月) 00:12:36.73 ID:ifgaMc000
午後からの講義は二つで、先の一つがまた必修。後者は一年前期では数少ない選択科目で、由比ヶ浜は履修していない。
入学前から口を酸っぱくして俺を履修の理由にするなと言っておいた成果だろう。これは別に今の状況を予想してのことではなく、親しい人間の有無で履修科目を選ぶべきでないという至極真っ当な観点からである。
そして件の由比ヶ浜の今日の講義は午後一発目の三限で終了の筈だ。彼女は俺との帰宅、引いては俺の部屋へ上がりたがるだろうが、あの騒がしさやノリから察するに取り巻きはきっと駅前にでも遊びにいくことを提案するだろうし、由比ヶ浜もそれに乗ってしまうだろう。何事も優先順位通りに事が進んだり選んだりは出来ないとは彼女も知っている筈で、全てはタイミングの問題なのだ。
……今日は半ば意図的に由比ヶ浜との接触を断っている。一緒にいたのは通学時くらいのもので、後は二限終了時のやり取りしか彼女とコミュニケーションを取っていない。墓場を離れた後に確認したスマホには案の定由比ヶ浜からの着信とメールが届いており、彼女らしい顔文字絵文字でデコられた装飾過多の文面で「教室出る前に声くらいかけてよ」だの「無視しないでよー」と可愛らしく俺の態度を糾弾するその内容に少しだけ胸中の黒雲が晴れるのを感じ「すまん、後で埋め合わせはする」とこっちはそのままの文面で返信した。
その「後」は少なくとも今日ではなく、何時になるか俺自身でも分からなかった。俺は無責任に引き延ばされていった何時かのデートの約束を思い出し、薄くなった雲がより一層密度を増して胸を覆っていくのを感じていた……。
133 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/07(月) 00:16:27.83 ID:ifgaMc000
のだが、
「あ、ヒッキー! やっはろー!」
……四限が終了し講義室を出た俺を待っていたのは、件の由比ヶ浜結衣その人であった。
「いやお前、なにしてんの?」
「なにって、ヒッキーのこと待ってたんじゃん」
「……遊びに行ったんじゃないのかよ」
「え? 確かにカラオケいこーって誘われたけど、ヒッキーと一緒に帰りたいから断っちゃった……よく知ってたね、誰かと友達になって連絡貰った?」
「ねーから、単にお前と取り巻きのバカさ加減なら講義終わってからは遊び一択だろって予想しただけだから」
「ま、またそんなバカにすること言うし!」
「まぁ由比ヶ浜がバカなのは事実だから置いとくとして」
「置いとかないでよ! ここにちゃんと受験して合格してるんだし、あたしもうバカじゃないんだからね!?」
「一旦定着したイメージを覆すのって難しいんだよ、もう諦めろよバカ」
「説得するつもりならもっと丁寧にやってよ!」
俺の軽口にぷりぷりと怒る由比ヶ浜。二年前から変わらないやり取りに、俺は冷え切った心が芯から暖まるのを感じていた。
気が付けば雲は散って、俺の胸は平静を取り戻している。本当、自分でも嫌になるほど現金な心臓だ。
134 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/07(月) 00:20:42.98 ID:ifgaMc000
「……いいのかよ、お前」
「え、なにが?」
「何がって、誘われたことに決まってる……お前のグループなんだろ?」
「あたしのって、そんなことないと思うけど」
「あれは誰がどう見てもお前の為のグループだろ、自覚ないのかよ」
「んー、分かんないけど……でもそれより、見ててくれてるんだ、ヒッキー」
「いや見てない、断じて見てないから」
「今更誤魔化したってもう聞いちゃったもん……えへへ、ヒッキーありがとう」
「み、見てもねぇのに感謝なんてしてんじゃねぇよ、やっぱバカだろお前」
「そういうバカならあたしバカでもいいよ……今日ヒッキーの部屋寄って良い?」
「……泊まりは無しだからな」
「むぅ……今日のところはそれでもいいよ」
「今日のところは、か」
「うん。 今日のところは、ね」
想いを受け入れ大切な人と定めた癖に、何かあれば直ぐに突き放して距離感を計り直そうとする。でも離れれば離れるほど思い悩み、彼女の方から近づいてくると心が沸き立ち踊り出しそうになるくらい嬉しくなる。こんな都合の良い醜い感情を愛と呼ぶのか。呼んで良いのだろうか。
そう認めたくない反面、それを認めて肯定出来たらそれはどれだけ素晴らしいことだろうかとも思う。そしてきっと、それこそが俺と彼女を隔てる壁で、その差が俺と彼女のすれ違いなのだろう。
何時か、これを肯定して前へ進める日が来るのだろうか――彼女の温もりを隣で誰よりも感じながら、理性と本能の矛盾は何時までも俺の中で燻っていた。
135 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/07(月) 00:24:31.46 ID:ifgaMc000
というわけで本日投下分終了です
キリのいいとこで〜とは言いましたが、このペースなら三分割くらいで済むかも……済んだらいいなぁ
筆が乗ればまた明日の同じ時間帯に投稿できるかもですが、詳しくはまた明日の報告をお待ち下さい
136 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/07(月) 00:25:48.56 ID:ifgaMc000
あと冒頭に今回のサブタイ入れ忘れてました申し訳ありません
今回のサブタイは「�A由比ヶ浜結衣は触れて欲しい」になります
137 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/07(月) 00:56:32.84 ID:oZh8U7Axo
乙です!
138 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/07(月) 01:10:46.56 ID:pJif+Q9Jo
乙ですー
139 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/07(月) 05:34:12.25 ID:LALlV3DE0
最初の投下で見る気なくしたわ
140 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/07(月) 06:46:57.95 ID:oyzVwH+so
乙!
続き待ってる
141 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/07(月) 19:44:46.65 ID:Icy5LoFuO
>>139
つべこべ言わずに出てけばいい
142 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/08(火) 22:53:37.06 ID:197Jugzvo
どうも
>>1
です
あんまり書き溜め進まず今日はちょっと無理っぽいかもです
奇跡的にキリのいいとこまで進むようなら投下アナウンス出しますが、多分明日の昼か夜になるでしょう
いずれにせよ期待せずお待ち下さい
143 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/08(火) 23:31:52.16 ID:de+QGBBvo
はーい
144 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/08(火) 23:40:30.87 ID:DdCvjpzpo
期待はして待ってる
145 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/08(火) 23:48:43.00 ID:/7MlhsZqo
期待
146 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/09(水) 18:36:06.01 ID:drvI9ANeo
どうも
>>1
です
やはり遅々として書き溜めは進まず、今日の投下分はちょい短くなりそうです
悪いのは時間泥棒のデレステであって
>>1
ではありません……ゆ、ゆるして
22時か、23時に投下予定なので時間までお待ち下さい
147 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/09(水) 18:37:32.70 ID:WMOV7HV+o
いいね
148 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/09(水) 22:22:15.38 ID:drvI9ANe0
お待たせしました、今から投下開始です
またも色気の無いエロスレにあるまじき展開ですが暫しお待ちを……!
149 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/09(水) 22:25:26.63 ID:drvI9ANe0
今日も今日とて必修科目の時間は過ぎ、二限が終われば昼飯時。
空きっ腹を抱えて何時ものように墓場へ向かう……ところなのだが、今日は生憎雨模様。
雨の中、傘を差さずに踊る人間がいてもいい。自由とは、そういうことだ……記憶の喪われた町で黒尽くめの交渉人はそう言った。雨の中、屋根の無い場所で食事する人間がいてもいい。自由とはそういうことだが生憎俺にはずぶ濡れになりながら飯を食う趣味はないので別の場所を確保しなければならないのだけど……何処に行ったものやら。
今日の雨は今年度初、つまり俺にとっても入学後初の降雨。これまで天候に恵まれたお陰で雨天時の飯場を探す必要は無かったのだがこれが迂闊もいいところ。これから四年間ずっと昼飯時に雨が降らない保証なんて無かったのだから、こうした時に備えて予め場所の検討はしておくべきだったのだ。
こそこそ由比ヶ浜とその取り巻きに見つからないよう盗賊ギルドも吃驚な隠密スキルで部屋を脱した俺(シャドウハイチュウ)は屋内で丁度良い食事場を探してあちこち流離ったわけだが……考えが甘かった。雨なんだから俺以外に屋外で飯食ってた連中も屋内に逃げ込んでくるのは当たり前で、テーブル付きのスペースは愚か椅子しかないような場所ですら軒並み占拠されていた。
これが中学高校であれば、席を離れてさえいなければ最低限自分の机というパーソナルスペースの確保は出来ていたのだが、ここは自由を冠に頂く弱肉強食の大学世界。時間や人の都合を付けられない弱者は飯(の場所)にすらありつけないのだ。
150 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/09(水) 22:28:35.32 ID:drvI9ANe0
ちなみに学食は端から考慮の外だ。そも屋根付きの食事スペースと言えば学食であり、入学間もない頃由比ヶ浜と一緒に訪れた学食はそりゃもう人人人の波。肉壁。同じ事を考えた新入生諸氏とかまだあどけない彼らをサークル勧誘やらナンパで拐かそうとした先輩方も多く居たのだろうが、今日が雨ということを考えれば先日とそう変わらない混雑が予想された。
ちなみに由比ヶ浜はそんな上級生の卑しい勧誘の嵐にあって辟易していた。俺も彼氏らしく彼女の盾になろうと奮闘したが、最初から俺のことなど視界に入っていないか存在を脳が認識していないくらいの扱いだったので役には立たなかった。比企谷君ふっとばされたー!というメッセージすら出なかった。理不尽。
……学食を忌避する理由は、その由比ヶ浜が理由でもある。
先週墓場に訪れて俺というゾンビ・グール・僵尸を善意か何かで光の下に引っ張り出そうとした牛くん猿くんの言を信じるなら、俺の予想通り由比ヶ浜は学食で昼を済ませているらしい。余計に顔を出せない。どうでもいいけど牛くん猿くんって響きが何処ぞの黒子じみたお笑い芸人っぽい。パ○ット☆マペッ○。
かつてはクラス内のトップカーストグループに属していた由比ヶ浜とグループどころかそのカーストにすら弾かれていた俺に接点はなかった。それは互いが互いを個として認識した後も変わらなかったが、それでも課外活動というクラスの縄張りの外で俺達は交流を持ち、それは俺の彼女に対する独占欲と、彼女との接点を求める有象無象に対する優越感を俺に抱かせた。薄暗く、そして切実な感情だった。
そんな環境から卒業して尚、俺達は接点を探している。違う、俺だけが俺だけに都合の良い接点を探している。
151 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/09(水) 22:31:20.83 ID:drvI9ANe0
周囲の目を気にせず俺との繋がりを手繰り寄せようとする彼女の姿はあの頃と同じだ。手繰り寄せた糸を俺が身勝手に切り離そうとする度悲しみに暮れ、涙を溢れさせた姿と同じ。
先週俺の部屋からの帰り際何かを期待して、しかしそれが叶わぬことを自覚してた彼女の顔。三度目を求めた俺の本能……否、本能とすら呼べないような淡い衝動にすら目を背けた俺の顔は、彼女の目にどう映っただろう――
「こんな所にいたのか」
入学してから何度目も知れない自虐回想に入りかけていた俺を現実に引き戻したのは何処かで聞いたバリトンボイス。
振り返れば奴がいる。見た目からガシリと強いその体格、牛くんこと牛山であった。
「何の……」
用だ、と最後まで口にする前に俺は気付いた。気付かされた。こいつの目的、狙いは先週聞いていたではないか……!
「……全く毎度何時の間にかスルスルといなくなって、俺の話をちゃんと聞いていたのか?」
やれやれと呆れ顔で言う牛くん、なんか様になってるイケメンってズルい。俺がやっても「中二乙www」ってレスしか付かないんだろうな。やれやれだぜ……。
152 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/09(水) 22:34:43.68 ID:drvI9ANe0
「なら同じ事を言うが、お前には関係無い。 飯食う場所探さなきゃならんからもう行くぞ」
先週と同じ理由を押し付けにくるのなら、俺がやることも先週と同じだ。突き放して背を向ける。こんな奴の好感度稼いだってエンディングの分岐には関係ないから扱い悪くしたって大丈夫、ぼっち通の攻略本だよ。
だが、そんなぼっちの常識で量れないくらいに牛くんは見た目通りの益荒男だった。
「待てヒキタニ」
背を向けた俺の肩をガシリと掴む牛くん、それだけで俺は彼我の戦力差を悟った。え、何このゴツゴツした手と微動だにしない腕。やだ、こんなの俺はじめて……。
「お、おい、離、離せよ」
「ダメだ、今日はこのまま学食に連れて行く。 飯食う場所を探しているなら丁度いいだろう?」
思わずどもった俺の様子など知ったことかと残った方の手で俺の腕をホールドし、そのまま俺をズルズル引き摺っていく牛くん、正しく屈強な農耕牛の如し……!つかこんな猛獣のような男に捕まったら俺じゃなくてもどもるって。怖すぎィ!
一瞬にして抵抗を無意味と悟り、しかし連行される修羅場を思うと素直に付いていこうという気にもなれず、俺は異物か可哀相なものを見る周囲の視線に晒されながらドナドナ状態に耐えざるを得なかった。ドナドナってどっちの立場でもここまで面倒じゃねぇよな……。
153 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/09(水) 22:38:15.31 ID:drvI9ANe0
学食は幸い屋根伝いに向かうことが出来たので俺達は濡れ牛と濡れドナドナにならずに済んだ……屋外を通りさえすればぬかるみで転んだフリして逃亡したりとか、牛くんの拘束が緩む可能性もあったろうがそんなドラマか映画みたいな逃亡劇をこんなしょうもないところでする気にもなれなかった。や、良い経験になった可能性は否定しないが。
入り口に辿り着く頃にはもう逃げる気も逃げられる気配もなく、牛くんに先導される形で俺は久方ぶりに学食へ足を踏み入れた。
案の定溢れかえる人々の川に辟易したが、先行する牛くんの威圧感が人波を切り裂き何の抵抗もあらんとばかりに進めてしまう。牛くんは重戦車だった……?
程なく目的地に着いてしまったのか……否、牛くんが止まるより先に俺の視界は由比ヶ浜の姿を見つけてしまった。二人の友人――見知らぬ女学生と、例の猿くん――に囲まれ楽しそうに談笑する彼女の姿が何時かのトップカーストでの光景と被り、俺の胸は静かに軋んだ。
由比ヶ浜は俺……というか牛くんの姿に気付くと、
「あ、牛くん! 用事って何を……え?」
しかし挨拶を果たせず、俺の姿を確認してその表情を淡く驚きに染めた。どうでもいいけどお前も牛くん呼びなのな……予期せぬシンクロニシティ、ちょっと嬉しい。
「ヒ、ヒッキー!? え、どうして、う、牛くん!? 何がどうなってるの!?」
はわわ!ヒキが来ちゃいました!とでも言わんばかりの由比ヶ浜の様子に周囲の視線が痛い……のもあるが、殊更驚いているのは取り巻きの三人だった。
まぁ分からないでもない。こういう由比ヶ浜のオーバーの反応は極一部でしか見れない……それこそ昔日の三浦グループですら稀だったろう。この顔を知っているのはここじゃ俺だけ……かつてのようなじめじめして情けない優越感が胸を満たしてどうしようもなく嬉しくなる。どうしようもないな俺、本当に。
154 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/09(水) 22:41:41.86 ID:drvI9ANe0
「ちょ、ゆいゆい驚き過ぎじゃね!?」
「結衣ってこーいう反応する人だったんだー」
お前も大概声でけぇけどなという猿くんの驚愕と対照的に、驚きつつも自分を置き忘れない安定感……細く高い、鳥の囀りのような声は由比ヶ浜の正面に座る女学生だ。彼女は俺に向き直ると、
「貴方がヒキタニくん? それともヒッキー?」
そう尋ねてきた……いいけどね、もう。俺の名前は本当に親しい人だけ知ってればいい。真名ってそういうもんだし。
「……ヒキタニで頼む」
「そーそーヒキタニくんよヒキタニくん! でもネクラっぽいからヒッキーって超合ってンよな、ゆいゆいのネーミングセンスパネェわー」
「あ、あはは……」
困ったように笑う由比ヶ浜。うん改めてお前のネーミングセンスパネェわ、マジドン引き。
「そ、それはともかく、なんでヒッキーが学食に?」
「あー、それn」
「俺が連れてきた、この雨で何時も飯を食ってる場所に行けず困っていたようだったからな」
俺の言葉を遮るバリトン牛くん。いやあながち間違っちゃないけどドナドナしてきたお前がドヤっていうことじゃないからね?
155 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/09(水) 22:45:30.14 ID:drvI9ANe0
「そうなんだ……と、ともかく座ろうよヒッキー! 牛くんもさ!」
困惑は残りつつも、嬉しそうに笑う由比ヶ浜。その陽気に暖かい魅力を感じ、同時に俺が逃げ回ることでこの笑顔を損なわせていた事実を再認し俺の思考は何時もより粘度の高いネガティブの沼に沈み込んだ。
それを顔に出すほど長年ぼっちはやっていない、何食わぬ顔で由比ヶ浜が促した席に。
席に……。
「あ、ヒッキーの席ないや」
悪いなヒキオ、このテーブル四人用なんだ!……本当に四人分しか席確保してなかったよ、牛くんが元から確保してた席に座ったら俺の入り込む隙間ないよ。俺の居場所はここじゃない……。
「ちょ、ゆいゆい! マジ! それマジヤバイ! ヒキタニくん超カワイソウじゃん!」
言葉とは裏腹に爆笑する猿野郎。本当に可哀相と思うならそんなにゲラゲラ笑わないで貰えませんかね……人の不幸は蜜の味、過剰な悲劇は喜劇と紙一重とは言うけどさ。あと牛くんも顔逸らしてブフブフ息漏らすの止めてくれ、元はと言えばこの状況に追い込んだのは手前だぞオイ。
「し、しょうがないけど……でも、間が悪いねー」
鳥のような囀りが笑いで更に甲高く耳に響く。不快な感じはしないのが逆に辛い。
かなり目立つ面々で元々周囲の視線を集めていたせいで俺達……というか俺だけ晒し者になっていた。クスクス前後左右から聞こえる。え、何これ。しねばいいのかな俺。
156 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/09(水) 22:49:26.34 ID:drvI9ANe0
「え、えーと……あ! あたしの席に座りなよ!」
とはこの空気に気付いたらしい由比ヶ浜。気遣い屋の彼女らしい提案だ、バカなのも含め。
「バカかよ、そしたら今度はお前が立つことになるんだぞバカ」
「バっ、バカはやめてよ! じゃ、じゃあ半分椅子空けるから!」
「……こんな衆人環視でそんなアホみたいな密着すんの?」
「え!? あ……あたしは、別に……」
赤くなって俯いてぽしょぽしょ言う由比ヶ浜が可愛いんですが何か。いやいやお前、そういう反応をこういう場所でするんじゃないよ色んな意味で。俺も恥ずかしくなってきただろ。
そんな由比ヶ浜の様子を見て猿くんと鳥ちゃん(仮)は、ほーっと何処か感心したような様子だった。牛くんは……何故か呆気に取られており、俺の視線に気付くとハッとなって、
「い、椅子だけなら確か余りがあった筈だ……ここは端のテーブルだし、持ってくれば大丈夫だろう」
そう教えてくれた。確かに食器の回収口近くに背もたれのない椅子が縦に積まれていた。
よし来たと俺がそちらへ向かうより前に由比ヶ浜がガタリと露骨に反応した。
157 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/09(水) 22:53:13.29 ID:drvI9ANe0
「じゃああたしが持ってくるよ! ヒッキーが座れないのあたしのせいだから!」
「いやお前は特に関係無いだろ、俺が持ってくるから座ってろよ」
「で、でもあたしだけ座ってるのも……あ! そしたらあたしが半分持つよ!」
「あんな軽そうな椅子に二人がかりとかそれこそバカじゃねーか、いいから座ってろ」
でもでもと食い下がる由比ヶ浜を強引に押しとどめると、俺は足早に椅子を取りに向かった。
背後からは過剰な反応を問い詰める三人と、それに焦ってしどろもどろになる由比ヶ浜のやり取りが聞こえてくる。
俺にとっては何時も通りの由比ヶ浜に、取り巻きの三人は少なからず戸惑っている様子だった。それは俺の感じる由比ヶ浜結衣と三人にとっての由比ヶ浜結衣が同じ人間であっても別像であるということ。
同じ人間であっても表と裏、本音と建て前がある。そして社会という集団はその使い分けを個人に強いる。どうしようもなく相容れない人間は誰にでもいて、時として本音を抑制しなければ無用な軋轢や争いが集団を崩壊させかねないからだ。調和の為にこそ虚像、嘘は時に本音や真実よりも求められるものだ。
俺という個に対する由比ヶ浜と、三人という集団に対する由比ヶ浜。どちらかが表で裏、本音と建前。
気にしたって仕方のないことだし、これまでの彼女との関わりでほぼ確信を得ているようなものだが……それでも比企谷八幡に対してこそ由比ヶ浜結衣の本音や真はあってほしいと、どうしようもなく俺の心は求め、ざわめくのだった。
158 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/09/09(水) 22:55:44.83 ID:drvI9ANe0
というわけで本日の投下は終了です
首尾良く行けば次回ようやっとえっちぃのが……首尾良く分割されなければ、ですが
いずれにせよ明日の投下はちょい難しそうなので、続き明後日以降と見てお待ち下さい
159 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/09(水) 23:00:52.61 ID:OkS7NTG9o
乙ですー
160 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/09(水) 23:01:53.26 ID:WMOV7HV+o
乙です
161 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/09(水) 23:38:59.94 ID:7fa32L+rO
モブどもとガハマが何したいのかさっぱりだわ
162 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/10(木) 00:07:30.30 ID:+XaMEodAo
絵に描いたような誰得シリアスだな
163 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/10(木) 01:50:03.58 ID:0gs5Qr+9O
たぶんヒッキーが面倒くさいだけだと思うんですけど
164 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/12(土) 21:32:05.84 ID:9S3NzYhDo
どうも
>>1
です
執筆遅れて土下座状態です申し訳ありません……
キリの良いところまで進めば今夜0時以降に投下できるかもしれないので、本当に期待せずお待ち下さい
165 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/12(土) 21:48:26.02 ID:lT8bOr6+o
投下時間には期待せず中身には期待して待ってます
166 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/12(土) 22:02:46.84 ID:WbUMV7RxO
遅れても全く問題なし
がんばれ
167 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/12(土) 23:44:30.91 ID:9S3NzYhDo
ドーモ、
>>1
です
今のペースだと投下可能になるのが26時以降になりそうなので
明日の昼頃に分割せず投下出来るよう調整しますです
ご迷惑をおかけしますがお付き合い頂けると幸いです
168 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/13(日) 00:12:02.20 ID:GvJZYh0bo
期待
169 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/16(水) 00:43:50.25 ID:Cwb64VW4o
待ってるぞ
170 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/16(水) 07:16:16.24 ID:sft4h9v8o
どうも
>>1
です
諸々予定ブッチして申し訳ありません、現在絶賛産みの苦しみ中です……
とりあえずは二話が完成し次第投下する予定です
遅くとも土曜には投下出来るよう調整しますので期待せずお待ち下さい
171 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/16(水) 17:26:39.91 ID:9hCkiaJGo
時間かけても待っとるぞ
172 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/16(水) 21:50:44.91 ID:4YvESmMi0
待ってる
173 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/23(水) 07:38:53.39 ID:ddMNRV2fo
どうも
>>1
です
またも予定ぶっちして申し訳無く……そもそもかなり無茶なプロットだったと根底から見直しておりました
しかし全部ひっくり返すわけにも行かず現在急ピッチの突貫工事で進めており連休最終日の今日中にはある程度形にと思ってます
本当に期待せずお待ち下さい
174 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/23(水) 07:41:05.70 ID:6eqfF/oJo
待ってる
175 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/23(水) 08:00:30.65 ID:x8N7nszKo
酉つけた方がいいんでね?
176 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/25(金) 23:57:23.54 ID:bsE3EfCAO
エタったな(確信)
177 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/25(金) 23:58:54.35 ID:wkEr7B6Bo
1の報告は来てるんだから気長に待とう
178 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/26(土) 07:23:06.52 ID:1zz89u3io
どうも
>>1
です。
エタらせるつもりは……気持ちだけは誰にも負けません、気持ちだけ
二話は書き終えてから投下するつもりでしたが、場合によっては現在の書き溜め分を分割して投げる可能性はあります
その場合は予告するのでご注意を
あと酉ですが、ここのように読者も少ないだろう零細スレではあまり必要性は感じないのが現在の正直なところ
もし荒し・なりすましが発生するようなら導入考えます
179 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/26(土) 08:47:51.63 ID:+gyDRbbAO
>>178
うるせえお前いつもそればっかりじゃねーか
180 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/26(土) 09:22:33.08 ID:MRZ9B4FFo
頑張って
181 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/26(土) 09:43:12.07 ID:W5FvY+hKo
文句言うなら読むなよ
モチベ下がることしか言わないとか書き手だけじゃなく読み手に対する嫌がらせだろ
そんなにエタらせたいの?
182 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/26(土) 10:31:01.20 ID:+gyDRbbAO
散々ブッチしてる奴に何を期待してるんだかな
むしろエタる機会をわざわざ作ってやってるんだから
感謝して欲しいくらいだわ
183 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/26(土) 11:35:42.25 ID:v4B+1P0xO
なんなのこの勘違い野郎……
184 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/26(土) 12:00:52.55 ID:W5FvY+hKo
勘違いというか「読んでやってるんだから早く書け」という自分勝手なお子様だから
185 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/26(土) 21:12:33.19 ID:ozeuR71Co
外野がうるさいスレはエタる
186 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/28(月) 23:33:38.77 ID:GOjfkLRAO
結局エタっちゃうのか
期待してた俺ガ馬鹿だった
187 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/29(火) 00:39:28.52 ID:7TDG3ZPGo
待ってるから
188 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/02(金) 01:54:17.85 ID:SNjX+zg10
まってるよ
189 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/07(水) 07:00:12.32 ID:T1FCS0ZUo
どうも
>>1
です、お待たせしてしまって申し訳ありません
書けども書けども終わらず、そもそも一話中に全部詰め込める話でなかったかと見通しの甘さを反省しております
しかし一先ずの目処は立ったので最低限分割の前半部、出来れば前後両方完成させて今週末に投下する予定です
期待せずお待ち下さい
190 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/07(水) 07:29:49.74 ID:aum53mOAO
よっし!
191 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/07(水) 08:02:18.38 ID:FIh+e8W4o
期待します
192 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2015/10/08(木) 13:54:15.17 ID:mkPiRsKj0
これ面白いな。
由比ヶ浜好きだし、これは期待せざるおえない。
ところでちょくちょくMTGネタが入るってことは、作者さんもMTGやってるのかな。
どこかであったらお手合わせを……
193 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/08(木) 14:00:50.86 ID:V3xN1K7zo
スタン落ち直後の忙しい時期だし書くのが遅くなってもしゃーない
194 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/08(木) 19:12:53.62 ID:XjroydwsO
期待
195 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/11(日) 08:49:15.74 ID:8fpHBoT9o
どうも、2マナのT氏ぐらいにはやる気も実力もないPWの
>>1
です。
現在推敲中で、やはり随分な量になったので昼頃に前半部投下予定です。
推敲、修正の進行具合では後半部の投下は明日以降になるかもしれませんのでご注意を。
期待せずお待ち下さい。
196 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/11(日) 09:29:21.31 ID:uDHf4HW9o
待ってる
197 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/11(日) 21:43:44.01 ID:8fpHBoT9o
鉄血のオルフェンズ面白すぎ、どうも
>>1
です。
昼と認識できる時間は全部寝てました申し訳ありません。
飯食って諸々の雑事を終えたら投下します。
198 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/11(日) 22:18:51.59 ID:hstsJkY5o
オルフェンズの面白さには同意
だからはよしろ
199 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/11(日) 23:04:26.29 ID:8fpHBoT9o
投下開始します。
200 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/11(日) 23:06:04.78 ID:8fpHBoT9o
ワイワイガヤガヤ。
喧々諤々。
混雑を極める学食内にあって俺が(物理的な意味で)末席に身を置くテーブルの賑やかさ……もとい、騒がしさは際立っていた。
「にしてもさっきのゆいゆい、いつもと違ってちょい子供っぽいっつかチョー明るくってー……ポジティブ? ポジってる感じ! シンセンでイイと思うンだよねー」
「それポジティブとは違うよ猿渡クン、でも気持ちは分かるかも……童顔の面目躍如みたいな、私的にはこっちの方が寧ろしっくり来る気がするなぁ」
「ど、童顔って……気にしてるんだからあんまり言わないでよー」
「いやでも、いいんじゃないか? 俺としては少し違和感あるが、それも由比ヶ浜らしいと言えなくはない……と思う」
とまぁ先程の椅子を巡る俺と由比ヶ浜の何時ものノリが取り巻き's達には大層珍しかったらしく、テンションageで由比ヶ浜をageる流れ……というか何というか。
かつて三浦という分かり易い女王様が持ち上げられる光景を「それ」のイメージとして擦り込まれていた俺としては、ヨイショと弄りが混じった「これ」をストレートに受け取ることも出来ず、しかしそれも由比ヶ浜らしいのかとなんとなく納得しておく。
201 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/11(日) 23:08:58.39 ID:8fpHBoT9o
それに俺にとってはバカで可愛くて知恵足らずでガキっぽくて可愛い由比ヶ浜であるが、そうした面が主に俺とその周辺の関わりでしか表れていないことを知っているし、寧ろ人との距離感を測る能力に長けた彼女は時折吃驚するほど大人っぽく見えることもあった。子供だ童顔だと生意気な年下に接するように対応していると、ふとした瞬間見せる��女�≠フ色気に心臓が跳ね上がり……は、関係無いな。うん。
入学してからの彼女がこういう取り巻き達とどういう関わり方をしているか俺は知らない。知らないが、彼女を求める側の心はかつて葉山の周囲に集まっていた連中と同じなのではないか。目の前の光景を見ながらなんとなく思う。
誰かや何処かに重きを置くでなく、誰もが惹かれ担ぎ上げたくなるヒーローの幻像を作り出す。葉山はそれを半ば狙って行っていたし由比ヶ浜にそうした意図はないだろう。だが同年代、同じステージに立つ人間からすれば視界を遮らない暖かな光は良かれ悪かれ人を惹き付ける。由比ヶ浜結衣の持つ光は、その領域に足る輝きを持っているのだと嫌でも実感する。俺自身ですらその光に寄ってきた羽虫ではないかと考えてしまうほどに。
202 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/11(日) 23:11:05.15 ID:8fpHBoT9o
もそもそと惣菜パンを囓る。
幸いここの学食は外から食べ物を持ち込んでも席を使えるタイプで、授業前に買っておいたパンは本来使えるスペースのないテーブル端でも問題無く食べられる。
だが目前の四人が皿に盛られた温かな料理を飾りに談笑する中、一人黙々と冷たいパンを囓ることに疎外感を覚えた。それ自体は何時ものことなのに、その中に由比ヶ浜結衣がいるというだけで棘が深くまで刺さる感覚が生まれる。
何時ものように思考は暗い方へと沈下していく。
ここは俺の居場所じゃない――さっきは冗談めかして脳内を走った言葉が鎖となり、実感は重さとなって心臓を責める。
……とっととパンを食べきって、トイレへ行く体で逃げ出してしまおう。これ以上この空気を吸うこと――この空気に由比ヶ浜結衣が適応している事実に、これ以上はきっと耐えきれない。耐えきれなくなった俺がどんな醜態を晒すかなんて想像したくも無い。
が、そんな俺の内心と裏腹に、
「――でさヒキタニクン、高校の時はどうだったの?」
美声で囀る女学生……椅子を確保した際、駒鳥と名乗った彼女は俺に話を振ってきたのだった。
203 :
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[sage]:2015/10/11(日) 23:13:12.55 ID:8fpHBoT9o
「え、何が」
「何がって話聞いてなかったの? 高校の時って結衣はどんな感じだったのかなって」
「あ、あたしさっき言ったじゃん! なんでわざわざヒッキーに聞くの!?」
「自己申告は情報として信用が低いからに決まってるじゃないの……で、どうなのどうだったのよヒキタニクーン」
焦りに焦る由比ヶ浜を無視してニヤニヤ笑いながら俺に問いかける彼女は、お伽噺か童話に出てくるようなゴシップ好きのお喋りな鳥そのものだった。うーんウザい、そして可愛い。繋げてウザ可愛いがこの場合あんまり有り難くない。
「どうって……」
「お、それ俺も気になんよー、ヒキタニくんぶっちゃけてみ!」
「まぁ��友達�≠フ言うことの方が信憑性はあるかも、な」
ここぞとばかりに猿と牛も乗ってくるし、あんまり期待されても俺すべらない話し方なんて知らないよ?寧ろ全スリップ。比企谷八幡のすべる話でDVD発売まである。
204 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/11(日) 23:15:21.58 ID:8fpHBoT9o
「ヒッキー、変なこと言わないでよ!?……へ、変なとこなんてないけど!」
「いやお前、そういう態度を突っ込まれてるんだから自覚しような? 俺の前だからって――」
安心してんのか、とまで口から出そうになるのを止める。
��俺の前だから安心している��
危ない言葉だ。少なくとも今この場では……そう判断しての急ブレーキだったが、
「俺の前だからって……なに?」
上空から地上を俯瞰する鳥の目敏さから逃げることは叶わず、ニヤニヤとブレーキ痕を指さし俺を問い詰める駒鳥さんである。いや急ブレーキの擦過音って滅茶苦茶響くから見えて無くても関係無かったかもだけどね?
「と、特に意味はねぇけど」
「ふーん、でもその��俺の前�≠ナ結衣の態度が違うのが気になってるわけだからさー」
ああ、これはあかんタイプだ。
ゴシップへの関心、その源である興味と悪意を自覚しながら隠そうとしない。それでいて醜悪にならず悪意を善意に見せかける技術に長けている……そういうタイプの女性とかち合うのはおよそ一年振りで、それに伴う記憶のフラッシュバックは思考回路に予期せぬ負荷をかけた。
205 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/11(日) 23:17:15.86 ID:8fpHBoT9o
「……その、アレだ、誰に対しても同じ顔で接せられる人間もそういないだろ。 この中では一応、一応由比ヶ浜とは俺が一番つ……見知った時間は長いわけだし」
正論だが苦しい言い訳だと自分でも分かる。
誰に対しても同じ顔で接する、それが完全でなくても高次元で行える希有な例を俺は幾つか知っているし、正直由比ヶ浜はそこに近いタイプであると思う。だからこそ由比ヶ浜を中心に目前の人間はグループを形成しているのだ。
そんな彼女が人付き合いの外面を崩して相対する人間がどんな存在であるか。
「そうかも知れないけど、私が気になるのはその��見知った時間�≠ネわけでして」
元より穴だらけの防壁、会話の風に乗って軽やかに滑空する鳥は穴をすり抜け核心へと迫ろうとしている。
「ぶっちゃけて聞くけど……二人って付き合ってるんでしょ?」
206 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/11(日) 23:19:42.69 ID:8fpHBoT9o
時間が停まった……そんな錯覚は起こらなかった。まぁ普通に考えりゃ由比ヶ浜の態度とか行動とか露骨だもんね?
「ちょ、コマちゃーん!? 相手ヒキタニくんだしそれはないっしょ! ないない!」
「す、すまんがその……俺もそれだけは無いと思うんだが」
更に男二人の反応が喧噪に拍車をかけた。内容は否定なんだが。
思わず熱々の丼ラーメンを「そぉい!」と脳天にブチ込んでやりたい衝動に駆られるが、天秤の釣り合いを考えればそれも一つの推理として正しい形ではあるだろう。それを常に言い訳に使ってきた俺が言うんだから間違いない。
それにこの二人が由比ヶ浜に近づいてきた理由も凡そ察しは付くから、こういう反応も予想出来る範囲ではあった。
計画通り……ではなく想定通り。
自覚無自覚関係無く薄暗い根暗男をオトす流れは俺の良く知るところであり、慣れた空気は俺の思考を僅かでも正常化させる一助になった。
なったが、
「……」
話題の中心である由比ヶ浜は、この致命的なゴシップに戸惑うこともなく静かだった。
207 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/11(日) 23:21:31.70 ID:8fpHBoT9o
何時もなら、また俺の前ということを加味すれば一番過剰に反応しそうなものだが、今の彼女は気持ち俯きその顔に僅かな陰を作っている。
空気を読んだのだ。
自分でなく、俺の望む状況を考えて自分の感情を押し殺している……何度も見てきた青と黒。
��ズキリ��
またも棘が大きく、杭に変化していくのを感じる。
いつまでも癒えぬ傷口が無理矢理に押し広げられていく幻痛。しかし痛覚の電流を介さない痛みは、それが単なる逃げの言い訳であると理性に認識させ、肉体的な苦痛より寧ろ俺の心を責め立てた。
本当に、なんて都合が良い心臓だろう。
罰が欲しければ痛みを与えて罪悪感を誤魔化し、耐えられなくならないよう物理的な痛みにはならず……きっと白木の杭を打ち立てても灰になどなるまい。
「……俺と、由比ヶ浜が?」
笑う。
「二人の言うとおり、ありえねぇよ」
208 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/11(日) 23:23:25.40 ID:8fpHBoT9o
自嘲。
顔面ハンデの名は高く笑顔がキモいと評判の俺でも負の笑いなら様になる。本心からであれば尚更だ。
言った瞬間どこかホッとした顔になる男二人の様子が無性に腹立たしく、しかし狙い通りの反応であることに安心もする。
しかし、杭からの痛みは爆発的に増大した。
俺の言葉と笑いに、由比ヶ浜がビクリと反応したのが見えたから。見えてしまったから。
彼女が傷付くと、痛がると分かっていて、尚それを。
「えー、でも結衣の反応は如何せんオーバーというか」
それでも食い下がるお喋りな鳥に小さくない怒りを抱くが、それを顔に出すこともしない。ただこれ以上付き合ってやる気もない。
もうパンは残っておらず手元には包装のビニールだけ。それを握り潰すとそのまま席を立つ。
209 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/11(日) 23:25:15.41 ID:8fpHBoT9o
「……トイレ行ってくるわ」
「あ、ヒッキー……」
「三限の準備もあるしここには戻らんからな」
結局俺は別の意味で耐えられなくなった。俺が自分の情けなさ故に由比ヶ浜をまた傷付けた事実と、未知の傷より既知の痛みを選んだ臆病さに。
きっと縋るような目をしていただろう由比ヶ浜の方は極力見ず、他三人の声を意識の外へ追い出しながら足早に学食を後にした。
だが学食を出てすら開放感はなく、曇って薄暗い灰空も、落ちてくる水の粒と雨音も全てが気に障ってどうしようもなく神経が削られていく。誰かや何かが傍にいることが、堪らない。
そのまま人の中に飛び込む勇気なんて有る筈もなく、俺は三限に出席することなく大学を後にした。
それもまた由比ヶ浜と彼女の傷から逃げ出すための口実であったこと、それを自分の中で誤魔化す余裕すら残っておらず、俺は自宅へ……薄暗い己の巣穴へと逃げ去るしかなかった。
210 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/11(日) 23:27:25.31 ID:8fpHBoT9o
家に着いてから、俺は何をする気にもなれず布団の上に転がっていた。
パソコンに向かうこともなく、携帯ゲーム機に集中も出来ず、本を読んでは頭に入ってこない。閉め切った窓の外から途切れず聞こえてくるくぐもった雨音の干渉だけ受け入れて、それ以外に力も意識も割くことは無かった。
スマホは例の如く振動すらないサイレントモードで、手に取ろうという気にすらなれない。手に取った先、痛みが待っているのが分かっているからだ。
石橋を叩いて渡り、水溜まりは長靴に履き替えてから踏み越え、平野を歩くのに金属探知機は欠かさない。それだけやって尚神経を太く太く保っていなければ痛みに折れず生きていくことは出来ない。それが高校の三年間で得た一つの結論だ。
誰だって痛いのは嫌だ。怪我なんてしたくないし、病気なんて以ての外。それでも人生は寒風熱気まきびしに地雷だらけ、空調完備の飛行機で人生のトラップなど関係無しと悠々生きていけるのはほんの一部の貴族だけ。その貴族だって飛行機内の人間模様次第で安寧の部屋は苦痛の匣へと変わってしまう。
なればこそ痛みに耐えることを美とする風潮は、避けざる痛みを徳と定めて心に麻酔を打つ欺瞞に他ならない。それは一片の真実だ。
だが一片は一片、少年探偵には悪いが真実は一つじゃない。
211 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/11(日) 23:29:55.36 ID:8fpHBoT9o
俺は由比ヶ浜結衣が好きだ。
彼女の幼くも可愛らしい顔立ちが好きだ。
その幼さに反するような色香を詰め込んだ豊満な肢体が好きだ。
くるくる変わる多彩な表情が好きだ。
中でも底抜けに明るい輝く笑顔が一番好きだ。
自分を置いても誰かの傍に寄り添う優しさが好きだ。
俺だけに見せてくれる涙と感情が、溜まらなく愛おしくて大好きなんだ。
だが好きであればあるほど、俺と彼女の在り方が理想とズレていることにこれ以上ない痛みを感じてしまう。
ベストな結果はほぼあり得ず、その中で苦しみながらベターを探していくしかないという現実が更に苦痛を伴う。
212 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/11(日) 23:32:25.63 ID:8fpHBoT9o
それでも、その痛みの先でしか彼女と共にいられないのなら俺は喜んでそれを請け負おう。確実な幸福の為の痛みなら、いっそマゾヒストを演じても良い。個々の性癖や痛覚への耐性・質などは関係無く、道が見えていればこそ経過の一つとして望まれる痛みもある。
ならばこそ避けたくない、そんな痛みなら欲しい。是非その痛みを請け負いたい。
……請け負いたかったのに、そんな痛みへの願望すら俺個人のものであるとしたら……そんな想像が俺と俺の望む道、未来を蝕んでいる。彼女が痛むことを何より怖れ、それでもその為に彼女を傷付けなければならない矛盾。
何故男女の関係というものがただ二人だけの間で完結しないのだろう。
何故不特定多数の有象無象との関わりすら配慮して関係を築かなければならないのだろう。
今の由比ヶ浜を取り巻き人間達は俺にとっては誰もが有象無象の障害でしかないが、由比ヶ浜本人にとってはそうではない。端から光の中に居ることを諦めた俺と、そもそも光源である彼女とで社会との関わり方を合わせてはどちらかが立ち行かなくなる。
ロミオとジュリエットとまで気取るつもりはないが、心と立ち位置で何故すれ違いが起こってしまうのだろう。
今の俺を取り巻く世界に在るのが俺と彼女だけなら良かった。
痛むのは俺だけで良かった。
何をしたって俺だけが痛いなら、それだけで良かったのに――。
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