【R-18】由比ヶ浜結衣はレベルが上がりやすい

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357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:22:46.48 ID:FwRKI0Dw0

しかし疲労するということは考えが散漫になるということで、
これも思考が大きな穴だけに留まらないという運動に於ける鬱予防の効果の一つなのだろう。
体力と引き替えに僅かな心の平穏を得て、このまま何処に行こうかと悩んでいたところで、

「あれ、ヒッキーくん?」

聞き覚えのある声と呼び名が背中を叩いた。

足と相応に心も弱っていたのかヒッキー≠ニいう部分のみに反応し
俺は由比ヶ浜の存在を期待して反射的に振り向いた。
そしてその包容力を示すような柔らかい声と君付けの呼び方が、
由比ヶ浜は由比ヶ浜でも由比ヶ浜結衣でないことを再認したゲシュタルト崩壊in由比ヶ浜。

「やっぱりヒッキー君じゃない……えーと、やっはろー?」

その挨拶は年甲斐ない、とは言えないくらいに若々しく瑞々しい大人の女性。
由比ヶ浜結衣の母親、俺呼んで由比ヶ浜マが立っていた。
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:27:35.45 ID:FwRKI0Dw0



「ごめんね〜付き合わせちゃってぇ」

「い、いえ……俺も、特に用事とか無かったんで」

俺は今、何処とも知れぬ喫茶店で彼女の母親と同席している。
買い物のため遠出をしていたママさんは偶然俺の後ろ姿を見かけて声をかけ、
時間も頃合いだしお昼を一緒にしないか?と誘われ軽食と茶目当てで直ぐ近くにあった店に入ったのだった。
ママさんはサンドイッチ、俺はハンバーガーを頼んだが全て自家製手作りらしいボリューム満点のハンバーガーは
ファストフードの挟み物に慣れきった若者の舌には驚くほどの幸福感を(中略)今は食事を終え一息吐いたところだ。

どうしてこうなったと言うには、まぁ流れは自然だったろう……だが、

「もう結衣ったら、折角の連休なのにヒッキーくん放って置いて友達と遊びに行っちゃうなんて酷い話よねぇ」

「別に、気にして無いです……と、特に約束もしてなかった、ですし」

「ヒッキーくんがそう言うなら良いけど……でもそのお陰でヒッキーくんとこうしてデート出来てるんだから、少しは感謝しなきゃかもね?」

「デッ、デー……!?」

「ふふふ、こんな若い子とデート出来るなんて、結衣には悪いけどおばさん嬉しくなっちゃうわ〜」

終始翻弄されっぱなし、これが大人って奴か……!?
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:29:43.11 ID:FwRKI0Dw0

正直、ママさんのことは苦手だ。
苦手と言っても嫌いだとか会いたくない訳じゃなく寧ろ俺には珍しく好意的に接したい相手なのだ。
が、それ故に落ち着いて対応したいのに彼女の持つ属性・空気は俺を落ち着かさせずにはいられない。
由比ヶ浜の姉と見まごうほどに若々しく似通った容姿と甘い声、
そして由比ヶ浜結衣の持つ包容力のレベルを更に上げて、
吐く息からすら包まれている♀エじを錯覚させる。
ふとした拍子に、彼女はそのまま未来の由比ヶ浜結衣なのでは?
と思ってしまいそうなほど、俺には魅惑的で危険な人だった。

三年時、勉強目的で由比ヶ浜の家に行ったとき遭遇する度その甘い魅力と近すぎる距離感にクラクラして、
必死に引き剥がそうとする由比ヶ浜の存在がなければどうなっていたことやら。
理性のタガが外れて襲いかかる、とまで行かずともこれまでの黒歴史が生易しく思えるほどの醜態を晒した可能性を否定出来ない。

なんというか、今の俺には相対すら早すぎる人なのだ。
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:30:54.80 ID:FwRKI0Dw0

「……でも、良かった。 こうやってヒッキーくんと二人きりで話せる場を持てて」

「二人きり、ですか」

二人きり、という部分にイントネーションが寄っている気がしてドキリとしてしまう。錯覚だろうけどね実際は。

「ウチだとどうしても結衣も一緒になっちゃって、そうすると話せないこともあるし……ね?」

こちらに確認してくるような発音と視線が一緒になって、どうにもイリーガルでアナーキーな妄想が広がってしまう。
由比ヶ浜と一緒だと話せないこと……な、ナニを話すんですかねドキドキ。

だがそんな俺の不埒な予想は(当たり前だけど)外れ、ママさんは俺に向かって頭を下げた。

「ありがとう、ヒッキーくん……サブレと、結衣を助けてくれて」

「へ?」

「サブレを助けてくれたことは結衣から聞いてて、私もお礼にって思ったんだけど、結衣に『あたしが行くから!』て止められちゃってたのよねぇ……だから今更だけど、ありがとう」
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:33:09.62 ID:FwRKI0Dw0

それは俺と由比ヶ浜……だけでなく、総武高校奉仕部に於いて全ての始まりとなった出来事だった。
入学式の日、車に轢かれそうになった由比ヶ浜家の飼い犬・サブレを俺が助けて事故に遭い、
その車に乗っていたのは……という話。
その事実を知った俺の一方的な態度で一度繋がった関係は終わり、
でもある助言で再び繋がることが出来た、痛くて苦くて酸っぱくて少しだけ甘い思い出。

「は、はぁ……別に、俺は、その……偶々、偶然です」

「ふふ、やっぱりそんな謙遜して、結衣の言ってた通りね〜」

「す、すんません、でも本当に……」

「本当に偶々でもサブレを助けて貰ったのは事実で、ヒッキーくんが何を意図したわけでなくても、そのお陰でサブレが助かっていたならそれは胸を張ってもいいことなの……もっと素直にお礼も受け取って、誇らしくしてくれてもいいんだから」

「はぁ……」

責めるわけでなく、嗜めるわけでもなく、有無を言わさぬ逃げ場のない暖かさが俺を包む。
むず痒くてくすぐったくて、でもひねた俺ですら心の底では求めて止まない確かな温もり。
もう少し苛烈というか厳しさもあるが、恩師の言葉や態度もこれに通じるものがあった気がする。
俺の尊敬する大人の女性、その理想の形は彼女らであるのかもしれない。

ところで妙齢の女性が「偶々」ってアクセント変えたらちょっと興奮しますね。
フヒ、フヒヒッ……これ、顔に出てたら終わってたな色々。出てないよね?
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:34:59.16 ID:FwRKI0Dw0

「その、サブレのことは受け取りますけど、由比ヶ浜を助けたって、受験のことですか?」

仮にも進学校である総武に何故由比ヶ浜結衣が入学できたのか、
これは総武高校七不思議の一つとして俺が妄想していることである。
時折見せる大人っぽさと裏腹に由比ヶ浜の学力は本当に色々アレで、それで尚

「ヒッキーと同じ大学に行く!」

と言って聞かなかったので俺は受験に大切な三年の勉強時間に大変なお荷物を背負うことになったわけで。
いやでも一緒に勉強とか実際は嬉し恥ずかし、由比ヶ浜が合格したのも教え子の努力が実ったって以上に
思うところがあったりしましたがね。

「そんなこともあったわね〜、ヒッキーくん結衣の面倒見てくれてありがとう……でもそれじゃなくて、去年結衣が一週間くらい学校休んだでしょう? その時のこと」

どくり

心臓が跳ねた。

去年とは、三年のゴールデンウィークのことではない。それより前の二月の半ばから下旬にかけてのこと。
高校二年、これまで短い人生の中で最も濃密な一年の中で、最後に訪れた最大の事件。
脳裏に一年前の俺達の姿……夢の風景、その続きが走り抜けた。
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:36:50.88 ID:FwRKI0Dw0

「あの時の結衣、本当に熱出して寝込んでたの……でも直ぐに良くなって、それでもまだ調子悪いから学校休むって聞かなくて」

バレンタインを過ぎ、その中で発生した奉仕部最後の依頼を解決……と言えずともその露払いと準備を終え、
恐らくは長くなるだろう戦いに赴く依頼主の背中を押し、その中で決意を固め、
いざ俺自身も戦いを始めようと思ったらその相手である由比ヶ浜は熱を出したとかで学校を休んだ。

格好付けようとすればするほどスカを食らうのは俺の人生の様式美みたいなもんだから、
変に硬くなるならそれもアリだろうと思っていた。
……それよりもっと前に戦端は開かれていたことに俺は気付かなかった。気付けなかった。

「叱ろうと思ったけど、何時もだったら楽しそうに何度も話してくれたヒッキーくんとゆきのんちゃんのことを全く話さなくなってて……バレンタインのクッキー、凄く頑張ってたの見てたから、この子はきっと無くしてしまったんだって考えたら、何も言えなかったの」

バレンタイン、渡されたクッキー。あの時の由比ヶ浜の心はどれほど傷んでいただろう。
この期に及んで俺は想いを形として示されることを怖れ、だのにそれを否定する言葉を認めたくなくて、
その癖自分の理想だけは捨てられなくて、未成熟な学生とてあの時の俺ほど傲慢で愚かな人間は他にいまいと確信している。

そしてこれまで出来るだけ口に出さぬよう、思い出さないように努めてきた名が棘の痛みを誘発する。



ゆきのん



雪ノ下。


364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:39:16.04 ID:FwRKI0Dw0

「あの子、今はあんな見た目だけど鈍くて恋なんてしたことなかったのに、その一番最初でこんなに辛い思いをしているなら、これからどうなってしまうんだろう……十何年も一緒に暮らしてきて、あの子のことは誰より分かって近くにいるのに、何かしてあげたいのに、何も出来ないのが歯痒くて」

そう、近い存在なら救える、何かしてあげられる……それは絶対ではない。
どれだけ長く寄り添い合う存在でも、結局は表層的な反応を印象に焼き付け、深層にあるものは想像するしかない。
近しい人間を赤の他人より多く助けてやれるとしたら、それは経験則で行動や心理のパターンを予測し対応しているに過ぎない。
そしてそれが現実の中で起きていることなら、読み切れない乱数は何処かで必ず発生する。
だから家族だって喧嘩するし、仲睦まじかった筈の恋人達がふとした誤解や思い込みで別れることもあるだろう。
人はどれだけ見識を深めても主観から逃げることは出来ない。俯瞰で他人を見定められる人間なんて存在しない。

それはきっと俺の憧憬する大人達でも例外ではなく、由比ヶ浜親子ですら……これはそういう話なのだ。
今朝俺が感じた比企谷家の距離感と似ているようで、それはもっと深くて重い。

「……だからヒッキーくんがお見舞いに来てくれて部屋から結衣を連れ出してくれたとき、またあの子からヒッキー君のお話を聞けるようになったとき、あの子にとっての王子様が現れてくれたんだって、私は大きな荷物を降ろせたんだって思ったから……だから、ありがとう」

そして、再びママさんは頭を下げた。
十何年分の重み、その最後の負荷が彼女の背を曲げさせたのだ。だがそこに苦しみや疲れは見えない。
俺にはまだ実感しようがないが、きっとそれは充実感と解放、その両方に起因した喜びなのだろう。
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:40:51.26 ID:FwRKI0Dw0

しかし、

「お、王子様って……そんな柄じゃないですよ、俺」

「ふふふ、家でヒッキーくんのこと話す結衣を見てたらそれ以外に言葉が無いもの、ヒッキーくんがどう思ってても由比ヶ浜家にとってヒッキーくんは白馬の王子様なのよぉ?」

えー、何このヨイショ。
宗教勧誘の前段階? それとも美人局?

なんかもう顔が熱い。多分てか絶対に赤くなってる。
言うに事欠いて白馬の王子様って。白(痴で)馬(鹿)の(自称)王子様なら分からんでもないが。
つか由比ヶ浜家って括りだと、まさかファブリーズパパヶ浜さんも俺の話聞いてる?
そっちは寧ろ怖いんですけど……。

まぁそれは良い、俺が二枚目か三枚目かなんて枝葉みたいなもんだ。
それより重要な話の幹は、

「……そもそもあいつを助けたのは俺じゃないんで」

これだ。
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:42:24.17 ID:FwRKI0Dw0

「謙遜することないのに……ヒッキーくんが結衣に告白して全部丸く収まったんじゃないの〜?」

……寧ろ由比ヶ浜が家でどういうこと話してるのかが気になってきた。
俺なんか顎が鋭角な非現実的ハンサムヒーロー扱いになってんじゃないだろうな。

とはいえ、告白という部分にだけ注視するなら、話がそこだけに止まっていることは理解できる。
そこだけ≠オか話せないはずだ。

多分、あいつは。

「あいつ、雪ノ下の話はしてましたか」

沈黙。

ママさんは一瞬呆気に取られ、そこから暫く思案に入った。

そして、

「……そういうことなのかしら?」

なんら具体性の無い問い。だが俺には分かる。
これは“そういうこと”なのだ。

「……助けた、というのは正しくないかもしれません。 でも強いて言うなら助けたのは雪ノ下で、俺はそのお零れに与っただけの……そういうこと、なんです」

そして今俺と由比ヶ浜は二人だ。
どちらの隣にも、間にも、雪ノ下はいない。
スペースが無いんじゃない。
いない≠フだ。
367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:44:38.08 ID:FwRKI0Dw0

「俺は、本当に何もかもの最初から、自分で決めたことなんて何も無かったんです。 誰かに頼まれて、お願いされて、それに対応するだけで、その裡にある気持ちなんて考えもしないで」

ママさんには好意的に思われたいし、悪く思われたくない。
そう強く思っている筈なのに、口は理性の関所をすり抜けて語る必要のないそれ≠垂れ流す。

「それで、欲しい物を自分から口に出来ても、それはただ自分の我侭で、その裏にあるあいつの……あいつらの気持ちや欲しい物を見て見ぬ振りして」

子供らしい浅慮な思い付きでで墓の下まで持っていこうと決めていた筈の本音を、まだ関係の薄い誰かに投げつけしまう。
それこそ由比ヶ浜や小町にすら隠したままでいようと思っていた醜さの塊。
俺の本質。

「それで自分に都合の良い場所へ腰を下ろして、それを支えてたあいつのことを忘れて、その癖あいつのことが欲しくなったら体重預けたまま願望だけ勝手に押し付けて」

優しく理想的な大人である彼女なら受け止めて貰える、そう勝手に信じ思い込んで吐き出し続ける。
汚く。
卑しく。
嫌らしい。
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:46:14.49 ID:FwRKI0Dw0

「結局俺はあいつらに何もしてやれなくて、今だって何かの度自分に嫌気が差すし、そんな自分を見られるのが辛くて距離取って、でも別れる気なんて全くなくて、本当に、自分勝手なままで……」

言いながら、本当に自分自身に嫌気が差す。黒いモノを抱えたままグルグル同じ場所を回っているだけの愚物。
あんな夢を見たから今こうなってるんじゃない、こんな自分だからあんな夢を今更見たのだ。
変わろうと誓った傍から「間違っている」と言われ、それをはね除けることも出来ず誓いが揺らぐ。
その癖自分の欲望優先で独りになることも選べない。
かつてのように虚勢でも独りであることを選び続けた方がまだマシである筈なのに。

間違ってるというなら、こんな俺が誰かと道を共にしていること自体が間違いなのだ。

それ以上は何も口に出来ず俯き、再度場は沈黙する。
連休の昼時だと言うのに人気も疎らで静かな喫茶店は何時もなら有り難いのに、
今は静けさが不可視の針となって俺を突き刺し苛んでいる。
硝子戸の壁に阻まれ小さくなった雑踏だけが時間の経過を示す短針だった。

何秒か何分、数えてもいない時間が経過し、

「……やっぱり、ヒッキーくんは真面目なのねぇ」

呆れるでもなく暖かい響きのまま、ママさんの言葉が沈黙を破った。
しかし、その言葉の意味するところは俺の発言が意図した方向とは真逆だった。
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:47:46.05 ID:FwRKI0Dw0

「真面目って……俺の話聞いてましたか? その真逆ですよ、俺は」

「そんなことないわぁ。 月並みだけど、本当に不真面目な人ならそんな風に自虐はしないと思うし、真面目過ぎるのね、きっと」

下からどうしてもジト目で卑屈に見上げてしまう俺に、ママさんは頬に手を当て変わらぬ笑顔で答えてみせた。
どうしたって曲解しようのない言葉をそれでも曲解しようとしてしまう陰気な俺と裏腹に、
何処までも陽気を振りまく彼女と俺は平行線だった。
それは俺に踏み込み何時の間にか隣に居座った……由比ヶ浜結衣と同じ。
本格的に二人の姿がダブり、心臓がギシリと軋んだ。

「……誤解です、貴女は俺のことを良く知らないからそう言えるんです」

「そうかしらぁ? 結衣からたくさんお話聞いてるし、去年はよくウチに来てくれたし、今だってこうやって話してるでしょう?」

「それだけで判断しているなら、それは早計か、情報源が主観的過ぎます」

「でも、結衣から聞いたお話とそんなに差は無いけど〜……あ、でも確かに時々ヒッキーくんが少女漫画に出てくる男の子みたいに格好良くなってることはあったかな。 ね、聞きたい?」

「い、いえ……」

やっぱそういうことになってるのか、今度あいつから聞き出し……はいいや、怖いし。
妄想と現実の落差で墜落死余裕でした。俺が。

「それはそれで残念……でも、そこ以外も本当に一緒よぉ? 真面目で、気遣い屋で、優しくて」

「や、だからそれは」

「……だから、わざと間違った方に行っちゃうんだって、結衣が悲しそうに話してた」



軋むどころではない。

心臓が止まる。

お前は間違っている

何時かの放課後、もう聞き慣れてしまったバリトンボイスで紡がれた言葉が脳裏で再生された。
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:49:21.03 ID:FwRKI0Dw0

「確かに私が聞いたヒッキーくんはあくまで結衣にとってのヒッキーくんかもしれない……それでも、そのヒッキーくんがぶつかった問題や答えに独りで真摯に向き合ってきたんだってことは分かるつもり。 そのくらいには娘の、結衣のことを信用してるの」

真面目。

真摯。

そんなもの自分とは最も縁遠い言葉だと思っていた。否、今も思っている。

しかし、俺は俺なりの最善で問題課題へ回答をぶつけてきたつもりで、それはきっと正しい。
例えその内実が意趣返しや怨念返しだろうと、そこまで積み上げて来た自分を否定することは出来ない。
それを否定することは俺が何より嫌う欺瞞で、比企谷八幡という積み木の土台を抜き取るに等しい行為。
だから否定しないし、出来ない。

その固執が何よりの間違いであることを知っている癖に。

「……ヒッキーくんは、結衣はどんな子だって思ってる?」
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:51:12.88 ID:FwRKI0Dw0

「へ?」

己の間違いに思いを巡らせていた俺には唐突な問い。
だがこの人の問いかけなら、由比ヶ浜についてのことならきっと意味はある筈。
そうやって縋り付かなければバラバラになってしまいそうなほど、俺の思考はガタガタになっている。

「……なんか、その、イイ奴ですよ。 真面目って言うなら、あいつの方が相応しいって……」

……あれ、これ彼女の母親に「娘のことどう思ってる?」て聞かれてんじゃねぇの?
いや細部は違うのかもしれんけど、でも地雷質問をさり気なく踏まされてんじゃないの流石大人は怖ぇなぁ。
結局怖じ気づいて無難な回答に落ち着く。しかしボカした言い方とはいえ的を外してはいない筈。

「うん、親馬鹿かも知れないけど結衣は真面目な子で……真面目だから、時に自分から間違った方向に行ってしまうって、見てきたから分かるし、ヒッキーくんも結衣を助けてくれた時に見ている筈でしょう?」

そして返ってきた言葉で後頭部を殴りつけられる。

俺と雪ノ下が間違えても、由比ヶ浜結衣だけは間違えない。
彼女だけは正しいのだと、確かにあの時までは思っていた。
誰かが強くて誰かは優しい、それですら勝手な思い込みに過ぎないと分かっていてたのに。

由比ヶ浜の家を訪れる直前に身を斬られ、斬り返さざるを得ない状況に立たされていた筈なのに。
その原因が由比ヶ浜結衣の行動そのものだと、思い及んでいたのに――。
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:53:00.37 ID:FwRKI0Dw0

「きっとね、真面目な子って誰より早く安心したくて、だからどんなことにも真っ直ぐぶつかって行っちゃう。 例えそれが間違いでも、一番良い形なんだって思っちゃったらもう止まらない。 遠慮とか謙遜もそういうことだと思うの」

安心、確かにそれは俺の人生の指標に近い概念だとは思う。
独りであれば揺るがす物はなく、揺るがされることはなし。
ただ佇むだけで済むのならこれ以上楽な生き方もない。
そこがどんな不毛の大地だろうと、落ち着くことさえ出来れば良い。

激しい喜びはいらない、そのかわり深い絶望もない
そんな植物の心のような人生を求めた男は猟奇殺人の犯人だったけれど。

「きっとヒッキーくんにとってはそれが謙遜で、結衣にとっては遠慮なのね。 それが行き過ぎても独りじゃ引き返せないから、笑って間違いへ進んでしまうんじゃないかしら」

「笑って、ですか」

「そう、結衣が酷いこと言ってたのよ〜? ヒッキーは偶に笑い方がキモい!って」

予想はしてたがひっでぇなあいつ!
きっと一字一句違ってないんだろう……キモいって便利な言葉だなー本当になー。

「……で、そんな風に笑っている時は大抵傷付いてる時だって。 結衣もね、間違うときは大抵笑ってたのよ? その後落ち込んだり泣きそうになったり……ヒッキー君も見たことあるんじゃない?」
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:54:38.89 ID:FwRKI0Dw0
「それは、確かに」

俺が傷付いていたかどうかは別に、あいつの笑顔に馬鹿っぽさが無い……らしくなく儚げな時、
あいつはあいつなりの考えで動いていたと思う。
由比ヶ浜は基本馬鹿だから、どんな問題も自分だけで動けば何とかなると思っている節がある。
自分が爆弾を抱えて遠ざかれば皆の命は助かると、後の事なんて考えないで実行してしまう。

自分を省みない人間を馬鹿と言うならあいつは大馬鹿者なんだ。
残された人間がどんな後悔に苛まれるかも知らずに。

「でも、あいつは人望あって、俺とは」

「ううん、人の多い少ないは関係なしに、自分勝手で誰かを心配させてたらそれは同じことなの」

同じ……なのだろうか。

俺のやり方では本当の意味で誰かを救うことは出来ない、そう言われたことはある。
己の価値を知れと言われたこともある。
だが何処まで行って何処まで考えても自分は陰の中の比企谷八幡で、あいつは光の中の由比ヶ浜結衣だ。
それを割切って一緒に居て、それでも尚居場所の違いを今でも痛感しているのに、それが同じとは思えない。
それとも、そう思いたくないだけなのか。

俺の傷は俺だけの勲章で、由比ヶ浜の傷は皆の悲嘆だと、そんな状況を俺だけ都合が良いと望んでいるのか。
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:56:27.95 ID:FwRKI0Dw0

「ヒッキーくんだってこれまで十何年生きてきて、感じたこととか考えたこと、色んな経験があって今のヒッキーくんになってるんだと思う。 だからああしろとかこうなれなんて言わないけど、何かあったら結衣にちゃんと言って、二人で考えて欲しいの……どんなに深い仲でも、言わないと分からないことってあるから」

……その言葉を聞いて、二人の姿がピッタリ重なった。
由比ヶ浜結衣は目の前の女性の分け身なのだと、当たり前の事実をこれ以上なく実感した。

言わなければ分からない、だから話し合って分かりたい。
それが比ヶ浜結衣の在り方。不確かな物を怖がって、だからこそ大切な人を分かりたい。
話し合えば、言葉を尽くせば分かり合える。彼女らしい前向きな信念。

「……でも言葉にすれば必ず分かり合えるってわけじゃないでしょう」

俺は真逆だ。
言葉にしたからって分かり合えるわけじゃない。言葉の裏を読もうと、真実を何時までも疑い続ける。
数式や科学的に解ける事象でなければ正答正着なんて概念はなく、
俺は揺らぎやすい言葉に寄らない関係性を求めた。

だから俺達は対極だった。
互いに不確かな物を怖れて、分かりたいのは同じでも、俺の求める本物はあいつにとって空虚な妄想で、
あいつの求める本物は俺にとっては猜疑の対象でしかない。
それでもお互いに歩み寄って、似合いやしないのに互いの本物を信じようとして空回った。

あいつが悲嘆に暮れたとき、俺の尽くした言葉と行動は、結局何処まで信じて貰えたのだろうか。
もう何度同じ場所、同じ思考をループすればいいのだろうか。

「俺は、もっと確かなものが欲しいって、そう思って……」

怖い。
感情、心、言葉。
全てあやふやで、全てが怖い。
変わっていく自分の心すら、怖かった。
375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:58:24.44 ID:FwRKI0Dw0

「……うん、不確かな物は怖いわよね、おばさんだって未だにそう思うもの。 でもね……」

目の前の女性はそんな俺の怖じ気に一度は同意してみせ、そして、

「きっと誰かとの関係に、ハッキリした答えなんてないと思うの」

キッパリと、その拠り所を否定した。

ドスン

鳩尾に真っ直ぐ拳を受けたような衝撃。
けれど息が止まるようなその感覚は錯覚ではない。

ママさんは、俺のかつての理想……未だに捨てきれない夢の残滓を叩き砕いた。
信頼する人間に自分の論旨、自分の一部を否定された事実は、重かった。

だが、一度はキリッと整えた表情を即座に崩し、

「でもね、そんなおばさんの意見も信じなくていいの、だってハッキリした答えなんてないんだから」

笑顔でトンでもないことを口にした。

ガタン

本気で脱力して額がテーブルに衝突し、痛撃と共にテーブル上の食器をカタリ揺らした。
376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 21:59:51.44 ID:FwRKI0Dw0

「あらあらヒッキーくん、大丈夫〜?」

「だ、大丈夫です……いや、でも、えー……?」

平時と変わらぬぽわぽわ笑顔であらあらまぁまぁと心配を寄越す彼女の様子が……なんというか、もう処置無し。
めぐりん先輩宜しく、ほんわか天然という城砦を前に小市民は常に無力なのだった。

「なんか、色々シリアスに話し合ったの全部台無しになりましたよ、それ」

「ん〜、でもそういうものだし……結局は何を信じたいか、誰を信じたいかって話に落ち着いちゃうもの。 好きって感情は、きっと信じたいって想いと同じだから」

「……想い、ですか」

「そう、信じたいから好きになるのか、好きだから信じたくなるのか……どっちが先かは分からないけど、でもそういうものだと思うの。 おばさんにとっては結衣と、特にパパがそんな感じだし〜」

頬に手を当て過去最大のほんわか具合で笑ってみせるママさん。
これは分かるぞ、惚気の前兆だな! 断固辞退するッ!
しかし娘にファブ(リーズぶっかけ)られるパパさんも奥さんから見ればまた違うもんなのか、それとも思い出補正?




しかし、信じたい想いか。


377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 22:01:40.52 ID:FwRKI0Dw0

「……自分の想いそのものを疑ってしまう人間は、どうすればいいんですかね?」

行き着くのは結局其処だ。

由比ヶ浜を好きで、離れられないと思っている俺の気持ち。
それが隣人愛異性愛からではなく、単なる自己愛の発露から生まれたのではないか。
薄汚い自己保身を他者愛に偽装し、ハリボテを煌びやかに見せて形骸化した関係を持続させる欺瞞。
もしそうであれば、俺の行き着きたい場所は何処なのか。こんな俺が何処に辿り着けるのか。

「自分のことを信じられないのに、誰かと一緒にいるなんて……誰かを信じるなんて、嘘でしょう」

分かっている。ハッキリした答えがないなら、こんな問いにも意味が無いことは。
自分を信用していないなら他者へのそれに意味は無く、そんな人間の心からの信頼なんて狂信者の盲信と同じだ。
だから卑屈を冷静と言い換えている俺にとっては信頼できる人間の言ですら揚げ足取りの対象でしかない。

いっそのことそんな俺の間違いを生温い優しさや同情じゃなく、圧倒的な力で轢殺して欲しかった。
自分を信じられないなら、せめてその間違いを俺が信じたまま砕いて欲しかった。
さっき俺の本物を砕かれたとき、そのまま俺自身まで一気に潰し殺してくれれば楽になれたのに――。
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 22:03:01.85 ID:FwRKI0Dw0

「それってヒッキーくんのこと?」

「……否定はしません」

「う〜ん、でも結局は信じるしかないんじゃないかしら? 誰かより先に、自分のことを」

「それは簡単なことじゃないんです、それが出来ない奴だって」

そう、俺のように。
何処までも粘着質に食い下がる俺にママさんはまた頬に手を当て、

「そうね〜……ヒッキーくんは結衣のことが好き?」

唐突に爆弾を投下してきた。
小柄な少年や太った男もかくやというほどメガトン。
というかこの人は何度奇襲強襲仕掛けてくるんだ……。

「そ、それは、今関係ないんじゃ……」

「それが関係あるのよ〜。 ね、結衣のこと好き? 好きなんでしょ?」

身を乗り出してくるママさんから異性の甘い芳香が。
視界の何割かを埋めん勢いで強調される上半身の膨らみが! こっちもツァーリでボンバ!
また頭クラクラしてきたじゃねぇか、マズいだろこれ……。
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 22:04:34.07 ID:FwRKI0Dw0

「す、すす……好意的には、思ってますけど……」

目を逸らしどもりにどもってなんとかそれだけ捻り出す。
つか目を合わせたままこんなん絶対無理だから。あと多分目線下行く。バレたら唐突な死。

「うんうん、じゃあそんなヒッキーくんの大好きな結衣は良い娘だと思う?」

なんかちょっと追加されてるんですけど……いやそうだけどね、大好きだけどね?

「い、良い娘……というか、良い奴だってさっき言いましたよね?」

「そうね、ヒッキーくんが大好きな結衣はとっても良い娘……じゃあそんな風に思う自分は信じられてるじゃない?」

「へ?」

……何言ってんのこの人。

「い、いや、その判断が信用出来るかって話であって……」

「じゃあ結衣は悪い娘だってこと?」

「そ、それはないですけど、それとは関係なくてですね」

「関係あるわよぉ? 自分のことを信じてないって言ってるのに、結衣が悪い娘だってとこは直ぐに否定しちゃったじゃない」

「それは、客観的な情報の蓄積で……」

380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 22:06:31.32 ID:FwRKI0Dw0

言いながらそれがただの言い訳であることを実感する。
そもそも自分の主観から人や社会の在り方を一方的に断じて唾を吐いていた俺が客観性など口にしていいものではない。
そんな俺の欺瞞をママさんは優しく除けていく。

「その情報の信じてるのはヒッキーくん自身なんだから、それは自分を信じていないと出来ないことだっておばさんは思うな〜」

「それは……」

「それともヒッキーくんは、自分が間違っていることを信じたいのかしらぁ?」

……どうなのだろう。
かつて患った悲観は世界を有り様に捉えたつもりで、結局は自分が間違っていない根拠にしたかっただけなのかもしれない。
その癖正しい連中からそれを疑問視されれば、平気で自分が間違っているとした上で問答し、行動した。
……ここまで露骨なダブルスタンダードもそうあるまい。
多数派の都合の良さを批判しながら、己の見解はその都合の良さを下敷きにしていたのだから。

それでも、そんな歪んだ自分を抱えたまま進んできた俺は結局自分が可愛かったのだろうか。
間違っている自分を、それでも信じたかったのだろうか。
信じたいということが好意とイコールで繋がっているとしたら。
俺は、俺自身を。
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 22:08:20.40 ID:FwRKI0Dw0

「もう一度聞くけど、ヒッキーくんは結衣のこと、好きなのよね?」

「……はい」

ギリギリ搾り出した俺の呻くような返答に、ママさんは満足そうにニッコリと笑った。

「うん、結衣だってヒッキーくんのこと大好きよぉ……だから、好きな人の信じる自分を信じてあげて」

娘と同じ、花開くような暖色の笑顔で。

「あいつの信じる、俺……」

その時、ふといけ好かない男のことを思い出した。
周りから期待される自分を演じて己の望みも本心も押し殺していた、
きっと今もそのままの忌まわしいヒーローの姿を。
ただ周囲の信で縛られ動けなかった八方美人は何故俺を、俺なんかを特別に嫌っていたのだろうか?

……その解を今ここで得た気がする。
本当は気付いていたことだったかもしれないが、認めることが出来た……かもしれない。

それを自覚すると火が付いた。心に、それを満たす燃料に。
元々燃えやすく(色んな意味で)炎上には定評のある俺である。
火はあっという間に燃え広がって、赤壁宜しく水面を炎で埋め尽くした。

火は人間の行動の最も根源的な原動力で、切っ掛けだ。
良くも悪くも俺はそれを痛い程知っている。

炎の余熱は膝の靱帯を暖め、立ち上がらせる力になった。
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 22:09:48.25 ID:FwRKI0Dw0

「……すんません、用事を思い出したんでもう行きます」

「あら、そうなの? ごめんね〜引き留めちゃって……それに説教臭くて、歳取っちゃったかしら?」

「いえ、寧ろ目が醒めたんで有り難かったです。 それに思い出したというか、出来たって方が正しいと思うんで……えと、会計は」

「大丈夫よ、ここは私が払っておくから」

「え、いや、悪いですよ」

「いいのいいの、こういう時は目上の人を立てて上げるのが若者の仕事なんだから」

「でも……」

「う〜ん……じゃあこれは貸しってことにしておくから、何時か返して頂戴?」

「何時かって」

「何時かは何時か、別にそのままお金じゃなくて別の形でもいいから……ね」

別の形……彼女から期待されている形なんて、考えるまでもない。
そもそも用事の内容だってきっとバレてるだろうから、そこに思考を割く必要もないだろう。
俺自身も今そう≠竄チて返して行けたらと思っているのだから。
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 22:11:19.64 ID:FwRKI0Dw0

「……分かりました、御馳走になります」

「うんうん、若い子はやっぱり素直なのが可愛いわね〜」

それは逆に素直じゃない捻くれた俺は可愛くなかったってことかしら。まぁ事実だけど。
でも素直になったところで可愛いどころかキモいのが俺クオリティ。

「……それじゃあ、今日は有り難う御座いました」

「私の方こそありがとうね、話し相手になってくれて。 また相手してくれるとおばさん嬉しいかなぁ……あ、お返しはデートでもいいかも」

「え、や、その……か、考えておきます」

「や〜んヒッキーくん本当に可愛い〜」

頬に手を当て身体をくねらせ笑う彼女の姿が、その、堪えがたい……最後まで心臓に悪い人だな。
でも絶対に嫌いになれないし、なりたくない。
多分由比ヶ浜や雪ノ下、小町の次くらいには。

「それじゃあ早く行ってあげて。 きっと相手も待ってるから」

最後の暖かい微笑みに礼で返すと、背を向けて出口へ向かった。
ドアを押したときに鳴った鈴の音は、決意と衝動に満ちた俺を祝福しているように聞こえた。
……自意識過剰だな、我ながら。
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 22:13:26.26 ID:FwRKI0Dw0

店を出ると即座にスマホを取り出し、足は駅に向けつつメールを打つ。
メール相手がいない……じゃない、少ない。いないんじゃなくて少ないんだよ。
ともかく同年代と比べてメール経験値が少ないし、伝えたい内容が内容だから打ったり消したり十数分、
駅に着く頃には結局最低限に短く纏まった内容を見返し震える指で送信する。
相手は勿論由比ヶ浜結衣だ。

返信は一分もしない内に返ってきて、幾度のやり取りを経て待ち合わせを約束した。
三浦と海老名さんには悪いことをしたか――少しだけ罪悪感の痛みを感じつつも
その程度で止まれない胸中の熱を意識した。
胸に手を当てると、熱に当てられ早くなった鼓動が伝わってくる。

……今の俺は多分暴走している。湧き出た情動に揺らされ、その衝動のままに動いている。
それはやれるだけの過ちを黒歴史に刻み込んだ俺と同じで、それをこそ俺は封印してきた。

でも過程で俺は間違えたけど、きっとその衝動は間違ってはいなかったのだ。
ただ堪え性が無く、また少しの傷でそれを引っ込めてしまうくらいに臆病だっただけ。

俺は結局、誰かを想う俺自身を信じ切れなかった。
それを揶揄した連中が正しかったとは今でも思わない。
だが俺が俺自身の気持ちを信じ貫くことが出来ていれば、成就こそしないでも状況は違っていたかも知れない。
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/08(日) 22:16:29.79 ID:FwRKI0Dw0

だが、それを後悔もしない。
バタフライエフェクト宜しく俺の心境に差が出来れば、きっと俺は今この場に立っていなかっただろう。
それは由比ヶ浜と俺の縁が繋がらなかった可能性を意味していて、それだけは御免だった。

だから、それを伝えに行こう。

俺が俺自身を信じたいこと、その想いがあってこそ由比ヶ浜結衣が好きなのだと。
本当はもっとずっと前に言わなければならなかったか、或いは伝えるまでもない前提なのかもしれない。
けれど今それを伝えたい。俺自身の気持ちを知って欲しい。
俺はこうでもしないと自発的に想いを口に出来ないだろうから。



『今だよ比企谷』


『今なんだ』



凛々しくも優しい声音で告げられた恩師の言葉が脳裏を過ぎる。
そう、今なんだ。
かつて何処にいて、これから何処へ向かうべきなのか、そんなものどうでもいい。
今この瞬間に沸いてくる己の気持ちを伝えたかった。

そうして初めて、由比ヶ浜結衣と真に向かい合ったと己を誇れるのだろう。
そう信じたい。

ホームで電車を待ちながら、俺は沸き立つ心の熱量を両手の握力に変えた。
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/08(日) 22:20:48.28 ID:FwRKI0Dwo
今日の投下は終了です。お付き合い有り難う御座いました。

今回展開重視で台詞なり心情なりかなり雑になったことをお詫び申し上げます。
同じこと何回考えてんだ迷ってんだと書きながら突っ込んでました。

次回はゆいゆいの出番です。
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/08(日) 22:23:00.19 ID:Y6wk8qwjo
おつ
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/08(日) 22:30:28.29 ID:nbH8QQ3jo
乙です!
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/08(日) 23:38:44.33 ID:T+hrlzPTO
面倒くさいヒッキーと大人の由比ヶ浜マのやりとりうまいわ

こういうヒッキーが成長するの好き
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/09(月) 00:05:19.54 ID:wFnOxeOB0
乙です!
読み応えがありました
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/09(月) 01:35:35.67 ID:9S9xBsi/o
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/09(月) 16:02:32.65 ID:++HHnQvUo
おおう、読解がめんどくさい……
しかし、このめんどくささこそがヒッキーだよなあ
由比ヶ浜マの圧倒的包容力と理解力が素敵でした
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/10(火) 09:34:42.20 ID:+9xmp7VmO
ガハマさんよりこのスレの方がレベルが上がってるよな
乙です
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/16(月) 21:15:03.12 ID:JsqNf1KHo
SSR?ンなもん都市伝説だよ、どうも>>1です
絶賛執筆遅延中ですが、なんとか今週末には投下出来るよう急ぎます
期待せずお待ち下さい
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/16(月) 21:29:36.33 ID:fQAFrKaPo
全裸待機
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/16(月) 21:41:42.33 ID:3sJAJ7nfo
今週末とか言ってまだ月曜じゃねえかもう許せるぞおい
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/20(金) 08:09:49.75 ID:mBTmE8INo
テーブルビートってスーパーには売ってないのね、どうも>>1です
また際限なく長くなりそうな気配がして来たのでキリの良いところまで投下しときます
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:11:10.31 ID:mBTmE8IN0



帰りたい

ああ帰りたい

帰らせて



うん駄文。二点(百点満点)。
気分転換にと電車内の暇つぶしにやってみた川柳大会は不評の内に幕を閉じた。

……というのも燃えさかる情熱に冷や水ぶっかけ隊こと俺の理性と怖じ気が目的地に近づくにつれ勢力を増し、
待ち合わせの駅で降りられるか不安になってきてしまったので気を紛らわす為に脳内でアレコレ考え
リンリランラもじぴったんしてたらなんかこう、うん。

恐怖とはまた別の方向でSAN値をガリガリ削ってくるが、
先の鬱予防宜しく思考が別のドツボを意識するお陰でなんとか踏み止まれてます。
P.S 元気です 八幡。
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:15:13.67 ID:mBTmE8IN0

俺の心境や言葉の内面はどうあれ何度か伝えた筈の言葉を再度伝えようというだけでこうもビビッているのだから
ちょっとした決意や覚悟で劇的に変化するなんてのはフィクションか夢物語だと実感する。
だからこそ積み重ねの重要性が分かるというものだ。

今日これから、俺が積み重ねるその一段目。
今までを否定する為でなく、肯定して行く為にこそ必要な行程だ。
自分の将来なんてハッキリしないが、それでも確かなのは由比ヶ浜と一緒にいたいという欲求だけ。
俺は根暗で逃げ腰の比企谷八幡を抱えたまま先へ進む。
そんな自分を信じて、由比ヶ浜結衣と旅をしたい。

まるでプロポーズでもしに行くような心持ちだが、意味に大差はないのだろう。
惚れっぽくて近視眼的な俺だ、由比ヶ浜と一緒にいると決めたらそれはもう死別までと意識しているから。
形の無い、本当は存在しないかもしれない。
そんな実在の不確かな幸福を求め寒風吹きすさぶ不毛の大地を行くのだ。

多分それこそが俺の夢で、それを元に俺は未来を考えていくのだろう。
出来ればそれが互いの死で結びとなるまで続いて欲しいと思う。
そんな微かな希望の灯火が、冷風に吹かれる心を僅かに暖めてくれた。
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:16:56.21 ID:mBTmE8IN0




電車を降りて改札を潜り、待ち合わせの場所へ歩を進める。
どうやら由比ヶ浜はもう到着しているらしい、そういうメールが来ていた。
まぁ彼女ら若い女性の遊ぶスポットなんて大抵は駅前に固まってるからそんなもんだろうけど。

場所は駅前……というか入り口を出て直ぐだ。
ポジかネガか両方か、高まる鼓動を顔色に出さぬよう深呼吸してから陽射しの下へ踏み出す。
直ぐに目的地と意中の人物が視界に入った。向こうも同様だ。

「あ、ヒッキー! やっはろー!」

満点の快晴にも負けない輝く笑顔で由比ヶ浜結衣は手を振った。
……今更だけどさ、こいつ外でもこの挨拶なんだよな。しかも声デカい。可愛い。恥ずかしい。
ともかく目的の一段階目を済ませることが出来たのでまずは一息。

「ヒキタニ君久し振り、はろはろー」

ひ、一息……。

「げ、本当に来た」

一息、吐けるかァーッ!
なんで海老名さんと三浦いんの!
てっきり待ち合わせが確定した時点で由比ヶ浜とは別れてるもんだと思ってたんだけど!?
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:19:20.51 ID:mBTmE8IN0

「ちょ、ウェイウェイ、wait由比ヶ浜!」

「ん? ウェイウェイって、ヒッキーそういうの嫌いー!とか前に言ってなかった? 意味は分かんないけど」

ウェーイwwwとかそういうのか、予想外の展開に草生えるわ。

「そっちじゃねーよ待てって意味だよ、というか天然かそれ」

「まーたそんなバカにするみたいなこと言うし! あたし天然じゃないから!」

「本物は自覚しないもんだからなぁ……いやそうじゃねぇ、なんでまだ二人いんだよ」

「えとね、やっぱり着いてくからヒッキーに会わせろって」

「……三浦が?」

「うん、そだよ……アレ、なんで優美子が言い出したって分かるの?」

そりゃ(相手が俺だという事実を除けば)男女の逢い引きに水を差そうなんて野暮KYを考え、
あまつさえ実行に移そうなんて相当な剛の者にしか許されまい。三浦には正しくその風格と性格がある。
寧ろ自分達の行楽に水を差されたと考えているかもしれない。
まぁ事実なんだけど。
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:22:13.42 ID:mBTmE8IN0

「ちなみに私は付き添いだから気にしないでねー」

それも分かってます腐女神海老名様。
空気を読まずカップルの間に入っていく行為を実行する強者に
空気を読んで付いて行くが自分は水を差さぬよう
空気を読んで空気に徹する様は正しくカーストの
空気を読んでのらりくらり切り抜けていった彼女らしい強かさだ。

どうでもいいが空気がゲシュタルト崩壊気味。
最近良くゲシュタルト崩壊すんな俺。

「……もういい? 話あんだけど」

「アッハイ」

そして腕組んで仏頂面でも律儀に待っていた女帝三浦である。
こいつほど腕組んで仁王立ちが似合うヤツもそういねぇよな。
バスターマシンパイロットの道を強く勧めたい。

「ヒキオさぁ、なに結衣連れてこうとしてんの?」

ギロリ烈火の眼で睨み付けてくる三浦。超怖い。
未成年が放っているとは思えない程の凄まじいプレッシャーは防御力を下げるどころの話ではない。
機体を通して出る力で身動き出来ないまである。俺のようなヤツは生きてちゃいけない人間なんだッ!

「あー、その、あ、アレだ……ちょ、ちょっと、用事が出来てな、用事」

ハハハと渇いた笑いを浮かべながらなんとか返答を捻り出す俺。
説得の一助になればと笑ってみたが絶対キモい。逆効果。
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:24:00.34 ID:mBTmE8IN0

対する三浦は更に眉間の皺を深くして、

「あーしら一緒に遊んでたんだけど、それ邪魔してんの分かってる?」

邪魔、てハッキリ睨まれながら言われました。
しかも目ェ合わせちゃいました。ヤッベェ石になる!石に!
ゴルゴン三浦、なんか語感は良いけど字面はお笑い芸人っぽいな。

「そ、それはだな、悪いことを、し、したなとは、思っているところでして」

「キモい、シャンとしな」

「アッハイ」

……ちょっとコレ、かつてないほど怒っていらっしゃる?
その性分故に彼女の噴火は幾度と見てきたつもりだが、
寧ろ今までのように分かり易く激昂していない分その怒りは深く強いように見える。
どっしりと構えたまま憤りを隠さない様は裏切り者に陰惨悲惨な処罰を下す大親分かゴッドファーザーのようだ。
……でも女だしゴッドマザー? それ何のマイソロジー?

そんなかつてない怒りレベルの三浦の様子を悟ってか、海老名さんは愚か由比ヶ浜も口を挟む余地がないようだった。
空気の軟化には定評のある海老名さんや、今は三浦と対等に付き合えている由比ヶ浜ですら、だ。
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:25:36.84 ID:mBTmE8IN0

「あーしらの間に割って入るくらい大事な用だったん?」

「えーと、あー、あの、だ、大事と言えば、そんなような」

「シャンとしろ」

「アッハイ」

「それはもういいから」

「アッh……だ、大事な用事だ、です」

「ふーん……」

俺の必死の応えを事も無げに受け止めると、三浦は一旦目を瞑り一秒、二秒。
沈黙ですら過重に感じられる空気に唾を飲むと、三浦が目を開く。

怒りを隠さない射貫くような眼差し、しかしその瞳には敵意以外の光も宿っていた。
真摯、誠実。
義憤という名の鏃の輝き。

「ヒキオ、本当に結衣と付き合ってるわけ?」
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:27:12.04 ID:mBTmE8IN0

「それは、そうだが」

「だったらさ、なんで今日こんなことになってんの」

「こんなことって……お前らに水を差しちまったの悪いとは思ってるけど」

「あーしのことはどうでもいい、そうじゃなくて……今日ゴールデンウィークの初日じゃん」

「……?」

「なんで結衣を、彼女を祝日に一人で放って置いてんの? あんた、彼氏じゃないの?」

グサリ

死角から深々突き刺さる。
完全悲観主義者の俺だから、高校入学からこっち大抵の精神的ダメージは心の何処かで想定し備えることが出来ていた。
だが三浦の放った矢は悲観楽観以前に俺のうかつさ、未熟さを正確に射貫いてきた。不意打ちはダメージを加速させる。

去年のような、今までのような言い訳は通用しない状況に俺は身を置いている。それを忘れていた。
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:28:55.48 ID:mBTmE8IN0

「あの優美子、別にあたしは気にしてな――」

「結衣は黙ってな」

あははと笑いながら由比ヶ浜が入れた俺へのフォローを三浦はピシャリはね除けた。
あまりに明瞭な迎撃にさしもの由比ヶ浜も唖然とするしかなかったようだ。
何時かのように反抗されたから、ハッキリしないからと怒気をぶつけたわけじゃない。
歪さのない意志が鋼の如き堅牢さを生み出しているのだ。

「……本当はからかうつもりで結衣に予定聞いて、そしたら何も無いって。 ヒキオの予定なんか興味も無かったから詮索もしなかったけど、今日こうしてるってことはヒキオも予定無かったんでしょ?」

「……ああ」

「あんた彼氏の自覚あんの?」

俺は三浦優美子のことを良く知らない。
全く知らないわけじゃないし彼女に纏わる様々な出来事から彼女の外殻や内面の様々な色は確認してきた。

でも、それだけだ。

俺はただ彼女が醸す色の一部を流し見たに過ぎず、それで三浦の本質を見抜いた気にはなれない。
だから本当の意味で俺が三浦という人間を知るのはこれが最初ということになるのだろう。

「最初あんたと結衣が付き合うって聞いて正直全然釣り合ってないって思ったけど、でも結衣が選んだことなら口出しなんてするつもりなかった」

その意志、感情、苛烈さも、一切に混じり気が無い。
濁り無く透き通った熱湯、そんな透明感。
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:29:59.18 ID:mBTmE8IN0

「去年は受験だったから浮かれてられなかったのは分かったし、結衣はヒキオと一緒に勉強したってだけでも嬉しそうだったから。 でも、今は違うじゃん」

「……仰るとおりで」

「結衣が選んだことならってのは今も変わらないけど、それでもあんたが結衣泣かせてるんなら力尽くでも別れさせる、さっき結衣から話聞いて本気でそう思ったんだけど……ヒキオはどういうつもりで結衣の彼氏やってんの?」

真っ直ぐだ――三浦優美子はひたすら真っ直ぐだった。

学生と言えどこうも複雑に絡み合った現代社会では直進を避けねば事故に遭うばかり。
だが一部には半端な接触など物ともせず突き進める人間が存在する。
それは三浦が(恐らくは)生まれながらに持つ女王の資質と同義だろう。

彼女は自身の感情や欲求に真っ直ぐなのだ。
だからこそ気に入らない人間の態度を苛烈に責めるし、かと思えば迷い無く気遣いが出てくる。
今の三浦の気炎も、友人である由比ヶ浜の為であればこそ燃え盛っているのだ。
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:31:51.27 ID:mBTmE8IN0

綺麗だ。

と、そう思った。
異性としての魅力とかではなく、燃えたぎる彼女の炎に対する率直な感想だ。

誰かの為に燃やす火、それは俺の足をここまで運ばせた心臓の熱と同質のものだろう。
だがそれはその存在を外から分からせるほど強くはない。それほどの火力も煌めきもない。

だからこそ三浦が羨ましく、彼女に対して素直に敬意を抱けた。
だからこそ今、俺は三浦の炎に全力で相対しなければならない。

「俺は、由比ヶ浜のことが大事で、だから今日こうして横入りみたいなことしてる……もう一度言うが、三浦達には悪いと思ってる。 でも引くつもりもない」

俺としてはなけなしの勇気と決意で以て三浦に正面からぶつかっていく。
それは四月の何時かにある男と相対した時と同じ心境だった。

が、

「大事だと思ってる癖に放置みたいな真似してんの?」

その程度で三浦という牙城は崩せない。
そも前回は相手と敵対していたわけではなく、更に俺が一方的に相手の弱点を突けたような状況だった。
今回は寧ろ逆。
三浦は俺の弱点を一方的に突けて、出所はどうあれ明確な敵意で動いている。

俺が自分の罪状を認めていること含め全ての利が三浦の下にあり、勝ち目なんて端から無い。
だからこそ、今は負け方が重要なのだ。
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:33:37.57 ID:mBTmE8IN0

「……それも悪かったって思ってる、全面的に俺が悪い」

負けさせたら千葉どころか関東一。
負け芸で食っていける敗北のプロフェッショナルこと比企谷八幡の本領発揮。
相手の勝利条件・報酬を予測し、こちらの希望も最大限叶える形で相手の勝利を寧ろ助けるのだ。
相手の勝ちに華を添え、俺は負けつつ実を取る。
三浦はただ怒りの矛先を俺に向けているというわけではなく、求めている物があるのだろう。

それは恐らく誠意。
誠実。

……勝手な予想妄想だが、彼女自身どこかの誰かに示して貰いたい物なのだと思う。
彼女の俺を責める言葉や表現は、理想とまで言わずとも模範としたい男女関係の有り様を示している気がするのだ。
友人のことだから心配するし、友人のことだから己と重ねてしまうのだろう。

そうありたいし、そうあって欲しい

なら俺はその理想をこの場で僅かでも形にする他無い。
だがそれは単なる演技じゃない、必要な条件だから明示するのでもない。
俺だってそれを求めているのだから。
410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:35:29.39 ID:mBTmE8IN0

「謝罪も含めて、由比ヶ浜と話したいことがあるんだ……大事なことを、話さなきゃいけない。 だから水差したこと、由比ヶ浜のことも、許してほしい」

言って、腰を曲げ頭を下げる。
謝意と罪悪感、それらを混ぜて作り上げた即席の誠意。その形。
これで足りないなら、何時かのテニスコートでやり損ねた土下座だってやってやる。

誠意なんて知らない俺の、それでも出来うる限りの誠実さ。
歪なのだろうが、今は信じるしかない。
俺自身の誠意と、三浦の求める誠意が少しでも重なっていることを。

「ヒッキー……」

三浦の反応より先に由比ヶ浜の声が耳に届く。
その声色は感嘆するような、しかし顔を下げたまま表情を確認出来ない状態では呆れのようにも取れてしまう。
だが今は三浦の反応を聞くまでは頭を上げられない。
由比ヶ浜は俺の誠意に感じ入るものがあって、俺の名を呼んだのだと信じるしかない。

さっきの喫茶店よりも重く鋭い緊張感をひしひしと感じながら、三浦の出方をひたすら待つ。
それこそ一時間でも二時間でも待って不動の体勢に耐えきれなくなった体を前方へ自然に崩し
そのまま土下座入りするまで考えていたが、由比ヶ浜の反応から十秒と待たず、

「……いいなぁ」

ポツリ、三浦の小さく羨む声が鼓膜に届いた。
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:37:28.50 ID:mBTmE8IN0

不覚にもドキッとした。
三浦に対して半ば固定化されたイメージとは対極に位置するような声だったから。

そういえば以前由比ヶ浜が言っていた、三浦も学校の外ではよく泣いているということを思い出した。
三浦優美子もまた少女である――そんな当たり前の事実が、さっきまでとは違う罪悪感でチクリ胸を痛めた。

そんな俺の様子も知らぬだろう三浦は分かり易く大きな溜め息を吐くと、

「あーもー、分かったから顔上げな。 周りから超見られてるから」

今度は取り違えようもなく呆れた声で俺に告げた。

「……許してくれんの?」

「許すも何も、そこまでやられたら野暮なのこっちだし」

今まででも充分野暮でしたがそれは、
と反射的に脳裏に浮かんだがそこで声に出すほど「だっておwww」な性格はしてない。流石に。
それに野暮でも、道理の正しさは三浦にあったのだからそれを責める言葉なんてあるわけがない。

「あの優美子、あたし」

「……そーいう話は今度聞くから、とっとと行けば」

どこか思い詰めたような表情の由比ヶ浜にしっしと手を払ってみせる三浦。
か細い少女であっても、やはり三浦は三浦なのだと、また当たり前のことを再認した。
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 08:39:12.99 ID:mBTmE8IN0

「ごめんね優美子、姫菜も……今度埋め合わせするから」

申し訳なさそうな由比ヶ浜に今度は声もかけず手をヒラヒラさせる三浦である。
海老名さんは三浦の隣で由比ヶ浜に期待してるよーとか言っていたが、不意に俺に近づき肩を叩くと

「……頑張ってね、比企谷くん」

優しい声音を耳元に残していった。

……海老名さんはカースト上位ではあるが、悪い意味で俺に近い人間性だったと思う。
そんな一筋縄では行かない人間だが、全てが捩れて斜に構えているわけではないのだろう。
それは、こんな俺でも誰かの為になれるのかもしれないと微かに希望を抱かせてくれた。

「色々すまん……それじゃ」

「ごめんね二人とも、じゃあまたね」

そして俺達は去っていく二人を見送った。
一つの修羅場を終えて心中で一息吐くと、誰かさんへの文句が沸々と浮かんできた。

――手前もいい加減腹括って三浦と向き合え。

機会があれば直接ぶつけてやろうと密かに決意し、俺もまた改めて腹を括ると隣の由比ヶ浜の存在を強く意識した。
413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/20(金) 08:42:02.61 ID:mBTmE8INo
今日の投下は以上です
あーしさんの口調で存外苦戦しました、何処まで崩していいのやら

続きは一応週末にと考えていますが、間に合わない可能性大なので
期待せずお待ち下さい
414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/20(金) 08:49:37.79 ID:zbFxre8vo
乙です!
415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/20(金) 08:58:20.95 ID:xYRirS74O
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/20(金) 12:12:34.73 ID:tUkI3dZoO
おつ
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/20(金) 22:09:40.60 ID:Mw2TDY4N0
乙!
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/20(金) 22:22:33.89 ID:jqKAFQ5Fo
大学でヒキタニ呼びを本人も由比ヶ浜も指摘しないのは流石に気になる
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 11:55:08.62 ID:xYcbhKqbo
ヒキタニ呼びはもうヒッキーのパーソナリティみたいなもんだから――


ごめんなさい嘘です単にギャグの味付け程度にしか考えてませんどうも>>1です

今日の夕方から夜くらいに投下出来るかもしれません
期待せずお待ち下さい
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 12:02:28.70 ID:kqBxNA+ko
待つ
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 13:38:26.02 ID:8DlMLCk5O
乙です
期待!
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 19:21:49.70 ID:xYcbhKqbo
極道ガンダムの流れに震えを隠せません、どうも>>1です

21〜22時頃投下予定です
期待せずお待ち下さい
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 19:30:33.42 ID:kqBxNA+ko
期待してます!
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 19:43:24.60 ID:gXJgLEBPo
杯あくしろよ
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 21:13:21.11 ID:0okjBsUoO
主って他の人の作品読んでる?
これだけの文書ける人だから
他の人の読んでこれいいなっていうのあったら教えてほしい
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 22:01:55.83 ID:xYcbhKqbo
どうも>>1です、遅れて申し訳ありません
投下開始します
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:03:25.32 ID:xYcbhKqb0



ガシャン

ボタンを押しては数瞬経て、缶が落下し音を立てる。

ガシャン

リピート。

それぞれ外装の違う缶を二つ取り上げると、近くのベンチに座る由比ヶ浜の姿、横顔を目に入れる。
一人の時は何時も携帯をイジっているイメージだったが、今は両手を膝の上で握ったまま不動。
表情もどこか硬く強ばって緊張を隠せていない。

無理もない、あんな連れ出し方をしてしたのだから身構えられて当然。
それに連れ出したのは付き合うまで、付き合ってからもやらかし続けたこの俺だ。
今度はどんな悲劇や痛みが待っているか――そう覚悟されても仕方無い。

傷み続けた果てに痛みを避けて生きていこうと決意した俺が、
結果として誰かを傷め、痛ませ続けたなどなんの皮肉だろう。
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:07:05.32 ID:xYcbhKqb0

虐待された子供は成長し親になって子を虐げる。

苦労して成った人間はその苦労を下に押し付ける。

俺もそれらと同じだ。

何かの被害者がただ被害者で有り続けることなど無い。
傷付いた人間はその傷を復讐の刃へ変えて、
誰彼構わず斬り付け発散する日を待っているのだ。
俺もまた悪意という懐刀を生涯捨てることが出来ないだろう。

だから、それを自覚したままで俺は往く。
己は苦労の果てに成功した偉人などではなく、痛みで拗くれたただの下衆だ。
そして人を傷付ける可能性、悲観を抱いたままだからこそ
誰かに優しくできるのがまた一面であることも俺は知っている。

それを俺に気付かせてくれたのは、きっと視線の先の彼女だから。

深呼吸を一度、丹田に決意という気柱を落としてベンチへと足を向けた。
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:09:16.66 ID:xYcbhKqb0

「……ほれ」

「あ、ありがと……」

自販機で買ったカフェオレの缶を差し出すと、由比ヶ浜は顔を上げてそれを受け取る。
そのやり取りは口にした言葉さえ由比ヶ浜が俺の部屋を訪れた時と酷似して、
妙な緊張感に満ちていたことも含め強い既視感を覚えた。
違うのは差し出したカフェオレが今度は冷たく、俺の持っているのがマッ缶ということだけ。

ただ行動は同じでも、あの日と違って今は昼間の晴天で、場所も開けた公園だ。
それはこれから起こる事態、沸き上がる感情の隠喩であると信じたい。

由比ヶ浜の隣に座り、プルタブを引いて缶を呷る。

お馴染みの過剰な甘さが舌を伝って脳内に栄養の到来を伝達する。
糖分は脳にとって唯一の、孤独とも言って良い栄養素だ。勇気をくれる……気がする。

俺に遅れて缶に口を付ける由比ヶ浜の姿を横目にゆっくりと深呼吸。
吸、吐。
吸、吐。
一度、二度。
不安と緊張で高鳴る鼓動に無理矢理落ちを着けつつ、
由比ヶ浜が缶を口から離し膝元へ下ろすのを見計らうと丹田の気を解放する心持ちで口を開く。
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:11:27.26 ID:xYcbhKqb0

「今日は悪かったな、色々」

「……色々?」

「その、三浦と海老名さんのこととか、そもそも今日俺が誘えてなかったこと」

「別にいいよ、優美子も言ってたけど話の流れでなんとなくお出かけってなっただけだし、お誘い無かったのは……ヒッキーだからってことで納得してたし」

「……さよけ」

……あっさり納得されたのは寧ろこちらが傷付くまである。
いや一方的にこっちが悪いから何も言えんけど。
責められない方がキツいって本当にあるんだなぁ。

「でもその、なんだ……付き合い始めて一年以上経つってのに、何時までも彼氏らしく出来ないでごめんな」

「んー、でもそういうのもヒッキーらしいって思うかな。 ヒッキーが急に気遣い出来るイケメンになったら嬉しいより怪しいって感じじゃん?」

「いや、それもその通りなんだけど」

「でしょ? ヒッキーはカッコイイよりキモイの方が合ってるんだって」

もう少しなんというか、手心というか……。
痛くなければ覚えないならこうして俺は気遣いイケメンになっていけるのか。
恋愛至上主義の完成型は少数のサディスト(女子)と多数のマゾヒスト(男子)によって構成される――。
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:13:24.14 ID:xYcbhKqb0

「お前さ、今日なんか妙に言葉キツくね?」

「そうかなー、いつもどおりだと思うけど……もしかしたらいつもより思ってること言えてるのかも」

「何時もそう思ってんのかよ」

ママさん、貴女の娘の信じる俺は怪しいキモメンだそうです。
本題入る前に心が折れそう。もぅマジ無理。にげたぃ……。

「でもね、しょうがないよ」

「はい、俺は怪しくてキモイ社会不適合者です、そういう人間なんです、しょうがないんです……」

「そうじゃなくて、キモくてダメなヒッキーでも、あたしはそんなヒッキーが好きになっちゃったんだから」

俺の顔をのぞき込みながら、由比ヶ浜が微笑む。

心臓が全身を巻き込んでドクリと跳ねた。

「……お前、その、ズルいよな、やっぱり」

付き合って一年経って、何時までもその関係に馴染むことが出来ない。

それは俺が社会不適合者であるとか深刻なコミュニケーション障害を患っているからだけではなく、
由比ヶ浜結衣の魅力を、一番近くで見て感じるということに何時までもドギマギしているからでもある。
何処から見ても何処を切っても見えてくる魅力に蚤の心臓は弾け飛びそうなくらい跳ね回る。
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:15:49.32 ID:xYcbhKqb0

由比ヶ浜と向き合い切れてないのは、
由比ヶ浜が魅力的過ぎるのも原因だ――ここに至って俺はそう確信した。
まるで「あんな恰好してるのが悪いんだ!」と逆上する痴漢現行犯のような言い訳だが、
そう思ってしまったんだからしょうがない、しょうがないんだよ。
それでも俺はやってない。

「前に言ったじゃん、あたしはズルい子だって」

「いや、それとは別の話でして」

「ふーん……でさ、大事な話ってなに? さっき謝ったことでいいの?」

「あー、それはついでみたいなもんでな」

脱線した話を元に戻す。戻さなければ。
当たりはキツかったが、正直このノリで会話を続けてしまってはきっと本題に辿り着けない。
閑話休題。その為の力をもう一度。

吸、吐。
吸、吐。
吸、吐。

今度は三度の深呼吸。
さっきから不整脈気味な心臓を無理矢理に抑え付けて、再度決意の肚をこじ開ける。

「……俺、ずっと後悔してたんだよ」

ポツリと落とし、始める。
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:18:07.89 ID:xYcbhKqb0

「ヒッキーっていつも後悔した話ばっかしてない?」

「話の腰折るなよ、いや本当その通りなんだけど」

今日の由比ヶ浜は本当に何なんだ、何時もイジられてる仕返しか。
狼少年の末路とはこういうことか。
自業自得のインガオホー、爆発四散してから転生でリスタートよろしく。

「ともかく、後悔してたんだよ、ここ一年」

「……何を後悔してたの?」

「お前と、付き合い始めたこと」

予想外……だったのだろう、朗らかだった由比ヶ浜の顔が一瞬で固まった。

こんな反応も予想出来た筈なのに、伝えたい内容を纏められず
話始めたせいでまた要らぬ傷をつけてしまう。
でもこんな想いを真っ直ぐに、綺麗にぶつけることは今はまだ俺には出来ない。
手探りでも少しずつ、歪んでいても一歩一歩。
泥や返り血に塗れながらでも進んでいくしかない。
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:20:21.35 ID:xYcbhKqb0

「お前の、由比ヶ浜のことが好きじゃないとかじゃなくて、ちゃんとお前のことが、す、好きで、付き合ってるってのは、本当だから」

「え、そ、そう、なんだ……でもじゃあ、なんで後悔なんて……」

後悔。
思い返せばここまでの俺の人生なんて九割九分後悔に満ちた苦渋苦難の十数年だった。
だがここ一年――正確には二年かもしれないが――の色濃さは特筆すべきものだ。

それは、

「俺は、由比ヶ浜のことが、好きで、でもそれを伝えようって、付き合おうって思ったのは……俺自身で選んだことじゃなかったんだよ」

今までで一番誰かを想って。
それを見て見ぬ振りして。
挙げ句にそれを暴発させてしまったから。

「お前に泣いて欲しくない、笑っていて欲しい……ずっとそう思ってたのに、実際はただ逃げ回って、それでどうしようもなくお前を傷付けて、それで去年、あんなことに、なっちまって」

あんなこと。
バレンタインに端を発する奉仕部解散までの一連の流れだ。
それを経て俺達は今の形に収まり、三人は二人と一人になった。

「本当はもっと前に危ないって気付いてて、もっと綺麗に、円満に終わらせることも、続けていくことだって……でも、ただ蓋を閉じて、そのせいであんなことになっちまって。 全部、俺が悪かったのに」
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:24:32.65 ID:xYcbhKqb0

自分を信じていれば夢は叶うなんて、黒い太陽のようだと称された悪役が言っていた。
悪党ですら自己実現の為の努力や研鑽を忘れていないのだ。
だが俺は俺の望む本物を信じたかっただけで、
それが欲しいと伝えただけで、現実の努力の一切を怠った。
そうして逃げ回っている内に居場所はドンドン狭くなって、
果てに一人が居場所から去っていった。

あいつはきっと、それを心から望んだ訳じゃない。
新たな希望を持って旅立ったのだとしても、後悔の念が無い訳じゃない。
あいつを追い出したのは、消えない傷を残したのは、間違いなく俺だ。

それは同様の傷を由比ヶ浜に残したことも意味している。

俺は誰より大切だと思っていたはずの二人に、己の弱さと悪意で磨かれたナイフを突き刺した。
発端が怒りや憎しみでなくても無意なんかじゃない。
そこには自分可愛さに他人を傷付けることを選んだ俺が確かにいたのだ。

更に救い難いのは、それで尚全てを自分の意志で選んだわけではないということ。

「……お前が好きで、笑って欲しくて、でもお前と一緒に居るのは、ただ流れで仕方無くそうなっただけって、何時までもそう思ってしまう自分が情けなくて、後悔してたんだよ……」

俺は選んだんじゃない、選ばされただけ――それが一年の後悔の本質だった。
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:27:45.25 ID:xYcbhKqb0

本当は幾らでも選択肢があった。
道も方法も、幾らでも選べた筈だ。
なのに俺には下水道しか無いと目も耳も塞いで、汚泥と悪臭の中を這って進むことを選んだ。
そこは選ばされたんじゃなく、俺自身が選んだ。
欲しい物があって、求められてもいた癖に、頑なに地上へ出ることを拒んだのだ。

自由を放棄し誰かの足下でただ五月蠅く鳴き散らすだけならそんなものは人間じゃない。
ただの虫だ。

綺麗に舗装された赤絨毯の上を圧されて進むしかなかったあの男は、
そんな俺の醜態にどれだけ苛立っていただろうか。

言葉に区切りが付き、また次の言葉を探して心中右往左往している俺に、

「……それで」

由比ヶ浜の言葉が降りかかる。

「あたしと付き合ったのを後悔してるヒッキーは、どうしたいの……?」
437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:29:40.79 ID:xYcbhKqb0

濡れてはいない。
だが震えを隠せない声だった。
そんな声を発する彼女の顔を見るのが怖くて、
首の筋肉は横の捻りだけはすまいと硬直する。

痛いのだろう。
悲しいのだろう。
俺の告げた俺の真実は、また由比ヶ浜の心に痛みを走らせたのだろう。

本当に俺はどうしようもなく比企谷八幡だ。
道や方法は選べる筈なのに、軋轢や痛みを残すことしかしない。
視野狭窄でひたすら事故を繰り返しながらでしか前に進めない。

けど、今回だけは違う。
痛みは与えても、傷だけは絶対に残させない。
どれだけ不器用で情けなくても、由比ヶ浜を想う俺を絶対に疑わない。
こんな俺の隣に居てくれる由比ヶ浜の想いを、絶対に否定しない。

意を決する。
ここが、人間としての比企谷八幡の一歩目だ。
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:31:17.79 ID:xYcbhKqb0

「別に、どうもしねぇよ」

「え……?」

「俺はお前のことが好きで、お前は……なんだ、俺のことが好き、なんだろ? だったら付き合ったままで問題ないだろ」

これが、今俺の出せる最善の答えだ。
これ以上抱えている物を手放すことも、条件を付け足すこともない。

「……で、でも、ヒッキーは後悔してるんでしょ? あたしと……」

「後悔……してた、てのが正確だ。 後悔してたけど、でも今のままで良いんだって、そう思えるようになったから」

俺は由比ヶ浜結衣が好きで、一緒にいたい。笑っていて欲しい。
そして由比ヶ浜結衣も俺のことが好きで、一緒に居てくれるなら、
それ以上何が必要だと言うのか。

今≠ナ良い。

今≠ェ良いんだ。
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:34:15.93 ID:xYcbhKqb0

「結局俺はただのロマンチストか理想主義者だったんだよ。 大きな報酬や成果には相応の過程とか綺麗な結末があって然るべきで、そう出来ない俺には手に入らないものだって諦めてた。 理想は美しいから、薄汚れた俺には無理だって」

人は何故何事にも感動の過程、物語性を求めるのだろう。
それは納得したいから、納得は全てに優先するからだ。

良い結果には苦しい過程という条件や儀式が必要で、
自分がそうなれない言い訳を欲しているのだ。
故に降って湧いたような幸運は常に批難の対象になる。
嫉妬という力はそれほど強く、御し難い。

「だから始めから人生イージーモード、強くてニューゲームみたいな連中が妬ましくて嫌いだった。 それどころか俺だけが重荷を背負わされてるんだって思い込んで……奉仕部に入れられて、そこでお前と……雪ノ下と出会っても、勝手な期待や諦観を押し付けるだけだった」

俺は他人より手に入った報酬が少なかったから、嫉妬や諦観を面倒臭く拗らせていただけ。
己の弱さ愚かさを盾に隠れながら世の中を斬ったつもりでいただけだ。

でも。
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:36:40.00 ID:xYcbhKqb0

「でも奉仕部とかお前達を通して色々あって、誰にだって何かあるって思い知った。 誰かに言われる前に、自分は弱くて汚い奴だって看板掲げれば何もかも済む――なんてただの願望で、誰にも過程は問われるし、それと関係無く良い結果も悪い結果もあるんだ」

かつて結果だけ求めて迷走して、やがて因果に拘るようになっては過った俺には皮肉な真実。

それでも。

「俺はずっと間違ってきて、間違えたままで、これからも間違っていくんだろうけど……今手にある物だけは、間違ってない。 結果に良い悪いはあっても正誤はなくて、全てはどう受け取るか次第だって今は思える」

だから。

だからこそ。

「ここまで碌な道のりじゃなかったし、誰が見てもどうしようもない過程だったかもしれないけど、それでもお前と繋がれたことは、これまでの全てと引き換えにできるような幸いなんだって信じたい」

全てが考え方次第、全て受け取り方次第で幸不幸に分かれる……とでまでは言わないし思えない。
けれど、今手にある幸運を、幸福を、信じて受け入れられなければ新たに何を手に入れたって満ち足りることはない。

本物を探し、確かめ、問い続けること。

その根源にはその本物を信じる気持ちが、信じたい想いが確かにある。

だから、俺は。
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:39:15.22 ID:xYcbhKqb0

「由比ヶ浜、俺はお前のことが好きだから、そうやって繋がった今の関係を信じたい。 お前が俺のことを好きで居てくれて、それで繋がることを幸せに感じてくれるって信じたい。 だから、俺は今の関係を、俺とお前が一緒に居るって結果を受け入れて、一緒に進みたいんだよ」

これが今の比企谷八幡の全て。
これ以上は出せない、出しようのない俺の本心。

本当はもっとスマートに、綺麗な形で伝えたかった。
でもそんな感情ですら単なる見栄で、根底にある信心には何ら関係の無い装飾だ。

裸のままの俺を、それでも信じてくれる。そう信じる。
それはとても困難で、そう易々と通ることじゃない。

それでも彼女なら、由比ヶ浜結衣なら、受け入れてくれる。受け入れて欲しい。

まだ首の筋肉は固まったままで横を向けない。
けれど泥と想いの全て吐き出した心は晴れやかで、
卑屈な俺が自然と未来の光を期待することが出来た。
高鳴っていた心臓も落ち着いて、ただ安らかに由比ヶ浜の言葉を待った。

泣いているかもしれない。
また泣かせてしまったかもしれない。
けれどその涙ですら悲嘆の先の嬉し涙であると信じている――。



「――で」

で。

……。

…………『で』?

442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:41:01.67 ID:xYcbhKqb0

「そんなこと言うためにわざわざあんな大袈裟なことしたの?」

え、なんか予想してた反応と方向性が大分……アレ?

ギギギ、と関節から筋繊維まで軋ませながら無理矢理横を向く。

視界に入った由比ヶ浜の顔は、瞳は……確かに濡れていた。

というか湿ってた。

ジトーって視線を俺に向けていた。

アルェー?

「あの、由比ヶ浜さん?」

「なに」

「俺、割と一世一代ってノリで頑張ったんですけど」

「だって今更過ぎるし」

今更、今更かァー。

……ヤッベェ何も言い返せない。反論の余地ねぇ。
大事なことって言うタイミング逃せば逃すほど拗れるって分かってた筈だったのになぁ!
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:42:48.16 ID:xYcbhKqb0

「ヒッキーさ、信じて欲しいみたいなこと言ったけど、そもそもあたしのこと信じてなかったの?」

「あー、いや、そんなことはなくてだな」

「じゃあなんでそんなこと言ったの、今更」

「……すみません嘘吐きました、この期に及んで信じ切れてませんでした」

「ふーん、彼女のこと信じてなかったんだ」

「いや、信じ切れてなかったってニュアンスを察して貰えると――」

「信じてなかったんだ」

「……ハイ」

「信じてないのに告白しちゃったんだ」

「……ハイ」

「信じてないのに手を繋いだりキスしたりしたんだ」

「……ハイ」

「信じてない癖に……あの、さ、触らせたり、おくちで、さ、させたり、したんだ」

「いやアレは寧ろお前から」

「させたんだ」

「……すみません」

あとエロい話題になった途端顔赤くしてどもったの可愛かったです。
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:44:46.75 ID:xYcbhKqb0

「ヒッキーはあたしのこと信じてなかったのに、一年も付き合ってたんだ」

「……ごめんなさい」

のっけから口の悪かった本日の攻めガハマさんは、
俺のウィークポイントを見定めると責めガハマさんに進化した!

今まで自分のことM気味と思ってたけど、これ全く気持ち良くない。
罪悪感で一杯。
胃に穴が開く。
ファイアーインザホール、は穴じゃねぇ。

……やっぱ俺って格好付けようとするとスカを喰らうんだなぁ。
寧ろそれ以前に周囲の地雷とかトラップの確認を怠った只の馬鹿野郎じゃねぇか。
これは理不尽上官とか面白黒人枠だわ俺。戦争映画とかだと絶対死んじゃう枠。

なんだろう、土下座とかした方が良いのかな。
真の女帝は三浦ではなく由比ヶ浜の方だった……?
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:47:03.10 ID:xYcbhKqb0

「悪いと思ってる?」

「ハイ」

「本当に?」

「ハイ」

「……別れても仕方無いって思う?」

「ハ……え? い、いやいやいやそれだけはご勘弁を!」

「ふーん……」

え、まさか別れ話に発展する流れ?
いや確かに改めて自分の愚劣さを思い知ったとこだけど。
まさか前向きな決意がこんな展開に……。

やっぱ罪って消えないわ。
マジかよヒッキー最低だな、これは極刑不可避。

そんな風に己の愚かさ、迂闊さ、屑っぷりに改めて打ちのめされ、
トドメの一撃を震えながら待つしかった俺に、

「分かった、じゃ許したげる」

あっけらかんと、由比ヶ浜はそう告げた。
446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:49:03.68 ID:xYcbhKqb0

「……へ?」

「許すよ。 正直に言ってくれたし、あたし彼女だし」

「いいの?」

「よくないよ?」

良くないんじゃないか!
また落とし穴に引っ掛かったわ……今日は何度落ちれば気が済むんだ俺。

「よくないけど、でもヒッキーのこと好きなのは本当だし……あたしも、同じだったから」

「同じ?」

「うん……この前言ったじゃん、あたしじゃヒッキーには似合わないって」

……予想外と言うほどではないが、それでもその後の展開のショックで
印象が霞んでいたから衝撃は強かった。
あの時の言葉、確かに由比ヶ浜の根底に疑念がなければあり得ないものだ。

しかし、

「いやでも、それは俺の態度とかが原因だろ、やっぱ俺のせいだ」

「違うよ、あたしだってヒッキーのこと信じられなかったんだもん……きっとあたしも、あんな形でヒッキーと付き合い始めたの、後悔してたんだと思う」
447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:50:45.92 ID:xYcbhKqb0

俯き話す由比ヶ浜の姿に、再び心臓の棘が肥大するのを感じる。

背中を押された、というよりもくっつかなければ身の置き場が無かった。
原因はどうあれあの時の俺達の状況ではそうなるのが道理で、
互いに想い合っていてもそこに悔恨の念が生まれるのは必然だったのかもしれない。

「でもそれからヒッキーに抱き締められて、キスして貰って……それで信じちゃってたんだから、やっぱりあたしってバカなんだよ。 そんなことだけで……ゆきのんのこと、忘れて」

「由比ヶ浜」

でもそんなことはどうでもいいと、さっき言った。
それは嘘じゃない。

「ああなっちまったもんは仕方無いし、俺があいつじゃなくてお前を選んだのは確かなんだ……だからあの時からの気持ちと関係を信じるって、そう言ったろ」

「……いいの?」

「良いも悪いもねぇよ、そもそもさっきまで俺が糾弾されてたんじゃねぇか……悪いのは全部俺で、お前でも雪ノ下でもない。 それでもお前が本当に許してくれるってんなら、それで全部解決だ」
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:54:02.69 ID:xYcbhKqb0

「……うん、分かった」

顔を上げた由比ヶ浜の表情はまだ硬く、眉は内側に寄っていた。
それでもその顔は笑っていて、由比ヶ浜の根っこの真面目さとか、
優しさを何より現している気がした。

やっぱり、俺は由比ヶ浜のことが好きだ。
こんな不器用で、見ててハラハラするくらい優しい女の子。
そんな娘を放っておくことなんてできやしない。

視野狭窄、近視眼、衝動的と言われても構わない。
俺にはこの娘しかいない。
ずっと、ずっと一緒に居たい。
居られれば、きっと――。

「うし、んじゃ暗い話お終いってことで、どっか遊びに行くか」

「え、どうしたのヒッキー……熱でもあるの?」

「いやお前いきなりその反応はどうなんだ」

「だってヒッキーだし。 病院には連れて行ってくれても普段のお世話はしてくれないダメ飼い主って感じじゃん」

攻めガハマモードは継続中ですかそうですか。
あと割と上手いこと言うねコイツ……。

だがその程度で引き下がれるか、気分は初デートのお誘いで気合い入れる男子中学生だ!

つかここで由比ヶ浜を逃がしてしまうと家から逃げる口実の大部分を無くしかねんッ!
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:56:05.19 ID:xYcbhKqb0

「まぁその通りかもだが、今は時間潰したいんだよ……そういうお題目でも、何なら罪滅ぼしってんでもいいから、どっか行こうぜ。 どこでも好きなとこ連れてくから」

「どこでも、いいの?」

ん? 今どこでもって言ったよね?――何時からか脳内に巣食った獣がねっとり瞳を光らせる。

おう、と反射的に返す前に我に帰った。
安請け合いで破滅パターン入るかこれ!?

「あ、いや、どこでも連れて行きたい気持ちではあるが、その、財布的には手加減して貰えるとだな」

あわあわと甲斐性無しな言い訳を口にする俺である。実際財布は薄かった。
本当に締まらないよなぁ……。

対する由比ヶ浜は、

「えーと、その、多分、そこまでお金かからないと、思う、けど……」

またも俯いて、ぼしょぼしょと語尾を濁らせている。

何、照れてらっしゃる? 可愛いじゃねぇか……。
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:58:01.59 ID:xYcbhKqb0

しかしお出かけとあらば騒がしいくらいにノリノリな彼女にしては珍しい反応である。
改めて彼氏彼女という関係、或いはデートという現実を意識してしまっているのだろうか?
それとも出費如何は関係無くどこか遠慮するような場所。
……まさか俺ン家に行きたいとか言うんじゃねぇだろうな。

でも、それはそれでいいかもしれないと今は思ってしまっている。
小町の策略に乗ってしまったようで癪ではあるが、
そういう順序を無視した近づき方も俺達らしいかもしれない。

きっと仰天して美人局を疑う両親であるとか、
何時も以上にはしゃぎ回る小町、
そして真っ赤になって縮こまる由比ヶ浜の姿なんかが見られるだろう。

それはきっと悪くないことだ。

――さっきから実に俺らしくなく前向きな考えだ。
今日は朝から緊張と緩和の連続で心臓や神経が麻痺してしまったのかもしれない。

でも、やっぱり過程なんて気にせず結果的にそうなったなら、そんな気持ちを信じても良いんだろう。
そこまで含めて、これが比企谷八幡と由比ヶ浜結衣の一歩目なんだ。
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 22:59:29.73 ID:xYcbhKqb0



そんな暖かくも清涼な風を心に感じる俺に由比ヶ浜は、



「……ヒッキー!」



俺の腕に抱きつき、



「あのね、あたし……」



顔を真っ赤にしながら、


452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/22(日) 23:00:38.90 ID:xYcbhKqb0





「ホテル、行きたい……行こ?」





――ママさん以上の、反物質もかくやという爆弾を炸裂させた。
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 23:03:01.14 ID:xYcbhKqbo
以上で本日の投下は終了です、お付き合いありがとうございました。

そして次回、ようやくエロいシーン突入です。
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 23:04:10.41 ID:gXJgLEBPo

455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 23:05:28.51 ID:IPnEjKqoo
乙です!
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 23:13:38.75 ID:Q3czJj/Qo

結局ガハマさんの方から誘うのかーヒッキーに男をみせて欲しかったな
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