その剣士、サキュバス憑きにつき。

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/10/12(月) 01:32:52.08 ID:p0a2tvJnO

それは、夢の世界の事であった。


夢魔「こんばんは」


剣士「何用だ」

美しい少女は笑う。
獲物を見つめる目で笑う。

夢魔「貴方の精を頂きに。私はお腹が空いているの……」

剣士「そうか」



ここは、夢か、幻か。
まだ世界が平和だった頃の夢幻か。
そうあって欲しいと、いつも願っていた。



剣士「もってゆけ。口に合うのならば」

夢魔「……罠かしら。夢魔に精を捧げる事の意味、知らないわけではないでしょう」

夢魔「まあ。抵抗したところで、夢の中では勝ち目はないけれど。どうするかしら」

剣士「好きにしろ。やってみるがいい」

夢魔「言ってしまったわね。私は夢魔、ここは夢……もう逃れる事はできないわ」




夢魔の瞳が輝き、剣士の身体に紋様を作る。

夢魔「……もう。お腹ペコペコよ。手加減できないから」
剣士「そうか。味わってくれ」

そうして剣士から抜き取られる燐光が、夢魔の唇に吸い込まれ……。



夢魔「!!! うっ、ゔぉえっ……! げほっ、うう。貴方……!?」



剣士「……ああ。やはり、ここは現世か」

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2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/10/12(月) 01:39:37.65 ID:p0a2tvJnO

剣士の精力は、ひどく汚れていた。
夢魔が今まで味わった中でも、群を抜く……。

夢魔「何よ、これぇ……濁り、淀み、腐りきっている……どう生きたら、こうなるのよ」



たたらを踏む夢魔に、傍まで歩き寄る。

剣士「俺が死ぬまで吸うのではないのか?」

夢魔「言うわね。クセになりそうだから遠慮するわ」

剣士「そうか。腹は膨れたか?」


言われ、お腹をさする夢魔は驚いた顔をする。


夢魔「空腹が……まだ一口しか飲んでないのに」

剣士「精は濃いのだろう。心当たりがある」
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/10/12(月) 01:53:59.99 ID:p0a2tvJnO

夢魔「貴方。いったい何者?」

剣士「お前は夢魔だろう。人の精神や記憶くらい、覗いてみせろ」

夢魔「簡単そうに言うわね。それは私のような、高位の夢魔でしかできない事よ。かいつまんで話すくらいできないのかしら」



剣士「……いずれ覗き見れるのなら、黙る事もないか。俺は剣士……勇者となるはずだった人間だ」

夢魔「面白い冗談ね。貴方のような、穢れきった精を宿す人間が破邪の化身たる勇者ですって?」

剣士「人の生たるや奇妙でな……そのようなのだよ。夢魔」

夢魔「まあ、いいわ。知りたければこれから貴方を覗かせてもらうだろうし」




剣士「これから?」

夢魔「ええ。興味深いわ、貴方。今から貴方を私の宿主にしてあげる」

剣士「得はしないぞ。やめておけ」

夢魔「そう思うなら、頬をつねって目覚めてしまいなさい。……振られたというなら、ハンカチくらい噛んであげるから」

剣士「しかしそれは目覚めるということだろう。明日は早いんだ、休ませてくれ」



夢魔「なら、気に入られたのが運の尽きね。……ちゅ」



その口づけはそう艶かしくもなく、桜の花弁が触れるような、初々しいものであった。

剣士「……。好きにしろ」

夢魔「ん、ふ。契約、成立ね」
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/10/12(月) 02:06:43.46 ID:p0a2tvJnO

夢魔「しかし、鼻息を荒くされても困るのだけれど……少しは嬉しそうにしたらどうなの?」

剣士「思わない事を伝えるほど、奇術師に堕ちてはいない」

夢魔「夢魔の接吻よ? 欲しがって手に入るものでもないのに。誇りが傷付いたわ」

剣士「生娘でもないだろうに。俺のような生き人形に吐息をかけて喜ぶなら、そうするがいい」

夢魔「つくづく嫌な男ね!」




剣士「そもそも、夢魔とは誘惑と快楽をもって精を奪うとされているが。今いるお前は夢魔でないように見えるぞ」

夢魔「……」

剣士「どうした、黙り込んで」

夢魔「私、嫌なのよ。男に媚ぶのは趣味じゃない……だから、魔術を磨いて強制的に精を奪う力を身に付けたわ」

剣士「それで力を消耗したらキリがないだろう。誇りと胃袋を天秤にかけるのは、高楊枝を持つ武士だけと聞いたが」

夢魔「るっさいわね。何が言いたいのよ!」
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/10/12(月) 02:14:38.51 ID:p0a2tvJnO

剣士「……この通り、俺は卑屈な世捨て人だ。のたれ死んで悔いる事もない、気の済むまで吸うがいい」

夢魔「気を利かせてるつもりなら、そのまま心を洗って頂戴。その後で考えてあげる」


ぐうう。


夢魔「……」

剣士「飢えた悪魔に諭されるとは、またと無い機会だろう。聞いておいてやる」





夢魔「くっ……いいかしら。他に吸える相手が居ないからよ。この渇きも、我慢できるならこんな事には、んぅ」

剣士「ん……舌を出せ」

夢魔「んっ、く……美味しくない……こくっ……」




夢魔「いじわる……んく、んくっ、ごくん……」


……………………
…………
……
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/10/12(月) 08:13:48.33 ID:p0a2tvJnO

娘「おはようございます、剣士さん! 今日は早いんですね」

剣士「……ああ」





夢魔「その子は?」

ああ。頭から話しかけられるのか。

俺は、ある村の小さな宿に住んでいる。
1年ほど前にこの村で行き倒れてから、宿を切り盛りする小さな娘に懐かれ、それ以来世話になっている。

夢魔「そうやって説明してくれると助かるわ」



娘「朝ごはんはどうしますか?」

剣士「買った干し肉がある。行きながら食べるだろう」

娘「そんなんじゃダメです。精をキチンと付けてください」

夢魔「そうよ、精はつけなきゃねえ。宿主様?」

剣士「む……」

娘「やめてくださいよ……咄嗟に力が出なかったせいで、帰ってこないだなんて。お金の事なんて良いから、ご飯くらい包ませてください」

剣士「……昼の弁当を頼んでも良いだろうか。討伐は昼過ぎになるから、朝は軽くていい」

娘「はいっ!」
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/10/12(月) 08:19:53.73 ID:p0a2tvJnO

あの娘は、父が賞金稼ぎだった。
それで早くに亡くしているらしい。俺をその父親に重ねている部分も、多分にあるのだろう。

夢魔「それであれほど怖がるのね。貴方も賞金稼ぎなの?」

俺は竜殺しを専門にする剣士だ。懸賞金のかからない竜も治安の為に狩らせてもらっているが……謝礼を受けている以上、賞金稼ぎと変わるまい。

夢魔「立派じゃない。勇者さん?」

やめておけ。楽しい話はできないぞ。

夢魔「面白い冗談が言えるんだから、ワケないでしょう? それに私が契約を切るか、貴方が死ぬかまでの付き合いなんだから。飽きたくはないじゃない」

変わった悪魔だ。

夢魔「貴方ほどではないわよ。ふふっ」
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