げんきいっぱい5年3組 (オリジナル百合)

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1 : ◆/BueNLs5lw [saga sage]:2016/05/29(日) 13:47:21.97 ID:4yJ+Tv6jO
書きかけてるの終わらせてからとかって言ったけどあれは嘘だ

百合
思いつきで進む




痛みと熱の中、目が覚めた。
喉が痛い。ひりひりと、ちくちくと。
部屋の電気がついていた所を見ると、寝落ちしたみたい。
手元に何かあたって、視線を転じる。
写真だ。
たしか、部屋の片づけをしていたんだ。
ついつい夢中になってしまって。
父親が写真好きなこともあり、部屋の中には小さい頃から今までの写真が散在している。
いつ撮ったのか分からず中身が気になって手にとれば、それが最後、時間はいくらでも過ぎていく。

「……」

喉をさする。唾を飲み込むと痛みが走る。
少し重だるい体。意識がぼうっとする。
中学生までの写真とそれ以降のものには、ある線引きができる。
私の二人の幼馴染がいるかいないかだ。

『げんきいっぱい5年3組』

教室の壁に、恐らく担任が書いたであろう横長のポスター。
クラスの個性を表すPOPにしては、個性が無い。
なんて言ったら、悲しむかな。
写真の中央にいる女性――先生の名前は確か、『カズヨ』先生。
どんな人だったっけ。
忘れたな。
なんだか優しそうな顔をしている。
温かい人だったのかもしれない。
2 : ◆/BueNLs5lw [saga sage]:2016/05/29(日) 14:00:48.19 ID:4yJ+Tv6jO
写真の子ども達は男子と女子と別れて座っていた。
男の子はみな、おどけていて、大人しく座っていなかったのがよく分かって面白い。
女の子は割と大人しいけれど、この子は隣の子にちょっかいを出して――隣の子は私か。
ちょっかいを出しているのは、『みや』だ。みやちゃん。
ネコっぽい顔をしている。
確か、ネコが好きだった。
いつも、私に爪を立てていじってきたっけ。
私も私で、いじられて嬉しそうな顔をしている。
小学生の頃から真性のМか。

4列くらいに分かれていて、他にも、最前列のいじられやすそうな顔の女の子が、両隣から脇を責められている。
あー、いたいた。確か、左の子が『じっちゃん』。女の子なのに確かそう呼ばれていた。
顔もじいちゃんみたい。本人に言ったら、確か怒られたっけ。
でも、頼りがいがあった――ような気がする。
右の子は『きょん』。この子は確か当時では最先端の萌え系のオタクだったと思う。

思い出してきた。思い出すと懐かしくて、少し涙が出そうになった。
別にみんな死んでないだろうし、きっと会おうと思ったら会えるんだろうけど。
でも、それをしなくなってしまったから。
だから、会いたい時に、心のままに会えていたこの頃が本当に羨ましい。



3 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 14:29:13.36 ID:4yJ+Tv6jO
よく、子どもの頃の自分が今の自分を見たらなんてこと言われるけど、
きっとこの子は何も考えてはいないんだろうな。
そして何も答えられない。
その時その時で、いつも精一杯だったから。
過去のことや未来のことなんて二の次。
それは、今も変わらない。

思い出せば、思い出すほど、幸せな記憶よりも苦味のあるエピソードばかり浮かんでくる。
子どものように我がままになり切れず、大人のように何かを捨てて最良の選択を選ぶわけでもない。
みやちゃんとだって喧嘩したこともあったし。
あれ、そう言えば、なんで喧嘩したっけ。どうやって解決したっけ。まあいいか。
女子同士のいざこざだってあった。グループがどうとか、なんだかそういうの。
そういう、めんどくさいもの。そんなことに気を取られてしまって。でも、やんわりと逃げてしまったような気がする。
だから、私たちの関係は永遠にはなれなかった。必死に繋ぎ止めようともしなかった。
その結果が、今だ。3人の幼馴染みはばらばらになってしまった。
今は、ほとんど連絡を取っていない。
あの頃、あんなに好きだったのに。
今だって、写真を見返してあの頃の3人に戻りたいと思うのに。

でも、あれ以上深く交わることができなかった。
視線をもう一人の幼馴染――『やすは』に向ける。
写真は背の低い順で並んでいるから、やすはは私とみやちゃんから少し離れた後ろの列にいた。
色白で、少しくせのある髪。小首を傾げて可愛らしく笑っている。
やすはとは、今でも少し連絡をとることがある。
それは、みやちゃんよりも家が近所だったから。
みやちゃんより、少し仲が良かったから。
帰り道は一緒で、クラブ活動も一緒。

そして、私は、この頃から彼女のことが好きだった。
4 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 14:40:37.37 ID:4yJ+Tv6jO
中学の時にやすはに彼氏ができた時、みやちゃんはあまり興味なさそうにしていた。
私も、恋愛にはあまり興味のないふりをしていたけど、内心ではかなりショックだった。
やすはと話すのもあまり気乗りしなくなって。
みやちゃんに彼氏ができた時は、むしろ好奇心の方が強かった。
私の中で、その違いを理解したのは中学2年生くらいだったと思う。

そこまで思い出して、時計を見る。
朝4時。
眠すぎて、気持ち悪い。
小学5年の最後に、クラスで旅行に行った時の写真があったような。
あれを見たい。
無性に。
みやちゃんとは確か班が分かれて、やすはと同じ班になって。
それで、どんな旅行になったんだっけ。
思い出せない。
写真、どこだろう。
ほとんど目を閉じながら、力を振り絞るも、私は睡魔に負けてしまったのだった。
5 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 15:10:06.36 ID:4yJ+Tv6jO
次に目が覚めた時、喉の痛みは悪化していた。
いつも時計のアラームを二個セットしていて、その二個目で起きる習慣があった。
しかし、アラームはならなかった。
部屋の置き時計は1個になっていて、今まで使っていたものと全く違う時計が枕元に置かれていた。
いや、でも見覚えがある。
これは、昔使っていた――。
と、思い出に浸っている場合じゃない。
風邪だろうがなんだろうが、会社を休むわけにはいかない。
昨日徹夜して作った会議の資料を持っていかなくてはいけないのだから。

「あゆむ? 起きてるの? 学校遅れるわよ」

階下から母の声がした。
珍しい、いつもは遅刻しそうになっても、社会人だからと放っておくのに。
それにしても、学校って。
何言ってるんだろ。
歳も歳だし、ボケたかな。
言い返そうと思ったら、上手く声が出ない。
掠れて、ややハスキーボイス。
喋りにくい。


6 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 15:18:22.77 ID:4yJ+Tv6jO
立ち上がって、ふらつく。
バランスが悪い。
背中の節々が痛いし、完全に風邪だ。
最悪。

「はあ……」

キッチンに入ると、部屋の模様替えが行われていた。
あれ、冷蔵庫新しく――いや、よく見ると前に使っていた古いタイプのにそっくりだ。
なんで、また古くしたんだろう。
寝ぼけた頭で、そこを突っ込むのもめんどくさく、半分寝ながら顔を洗いに行く。

「ご飯、机の上だから。もお、お父さん仕事遅れるわよ」

居間で新聞を広げる父。
改めて見ると、育毛剤を変えたのか、ついに諦めてカツラを購入にしたのか、頭頂部が黒い。
ん。
母さんがまた、何かおかしなことを言っている。
父さんはもうとっくに退職して、気楽な余生を送ってるじゃんか。
なに、バイトでも始めたの?
と、そんなことより。
鏡を見る間もなく顔を洗い終えて、朝食の席に着く。
7 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 15:25:13.57 ID:4yJ+Tv6jO
「はい、お茶椀。ご飯とお味噌汁は自分で注ぎなさい」

「あ、うん……」

母の顔がおかしい。

「……母さん」

「なに? あら、声が変。風邪引いたの?」

心配をかけたくないので、

「ううん、ちょっと乾燥。大丈夫」

と言って、疑問を投げる。

「若くない?」

母は慌てた。

「何言ってるのッ……? でも、ありがとう」

お礼を言われた。
化粧品を変えたのか。
いや、でも母も仕事なんてしていないし、
化粧だって家ですることなんて滅多にない。
なんだろう。
違和感。
風邪のせいかな。
差し出された茶碗を見る。
これ、確か去年お母さんがあやまって落として、割れた奴。
同じのを買ってきたのか。
8 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 15:32:55.40 ID:4yJ+Tv6jO
「いってらっしゃい」

母が父を玄関まで見送っていた。
最近はめっきり見られなくなった光景だ。
私はもう一度茶碗をのぞく。
自分の手より、大きく感じる。
座った椅子も、いや、何もかも。
母でさえ、大きく感じる。
食器棚のガラス戸に自分の姿がぼんやりと移っていた。

「なに、ぼけっとしてるの。やすはちゃん来るわよ」

「え、あ……え? やすは?」

「そうでしょ? え、登校班変わったの?」

登校班?
なにそれ。

「変わってないでしょ? ボケたこと言ってないで、もお、お母さん仕事あるから……鍵は外の倉庫の前のタンス棚に入れておいて」

と、エプロンのポケットから鍵を取り出して、私に投げる。

「わ……」

この光景。
デジャブ。
そうだ、確か、小さい頃によく。
小学校の頃、母も父も私より先に仕事に出かける人だったから。
今は、エプロンもしてないし、鍵だっていつもあの黒い棚に……棚がない。
9 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 15:52:07.05 ID:4yJ+Tv6jO
今って。今は今だ。
今が今で。
母が玄関から出たのが分かった。

「ま、待って」

追いかけたが、外に出るとすでに誰もいなかった。
スリッパが脱げる。
これ、こんなに大きくなかった。
風邪のせいかな。
とりあえず、ご飯食べようかな。
席に座って、ウインナーを口にほうばった。
喉に物が通るたび、痛い。
風邪のせいで食欲もあまり湧かなかった。
あまり手をつけず、ラップをして全部冷蔵庫に突っ込んだ。

歯を磨くためもう一度洗面所の前に立つ。

「……」

鏡に映っていたのは、自分だった。
鏡をティッシュで拭いた。汚れてはいなかった。
顔を3回洗った。
歯ブラシを掴む。
名前が書いてある。
書いた記憶はない。
これも、昔使っていたやつにそっくり。
鏡に映っていた自分も、昔の自分にそっくり。

「え?」

なんだろう。
目がおかしいのか。
脳がおかしいのか。
ついに、脳梗塞でも起こしたのかな。
いや、でもまだアラサーだよ。
仕事のストレス?
幼児退行?
目だけ?
目だけ幼児退行って、そんなばかな。
意識の問題だよね。
まともに物事を認識できてないんだ。
もしかしたら、周りは今まで通りだけど、自分だけ別のように聞こえてるとか。
あ、風邪のウイルスが脳炎を引き起こしてるとか。
熱っぽいし。
子どもってそういうのよくかかるし。
いや、でも子どもちゃうし。
病院、病院に行かないと。
それより、上司に電話いれないと。
部屋に携帯をとりに戻ったけれど、携帯は無かった。
散らかした写真も無ければ、昨日徹夜して作った資料もない。
ない。
ない、ない。
10 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 15:55:59.08 ID:4yJ+Tv6jO
なにもかもない。
会社に持っていく鞄もない。
代わりに、この間一掃した子供服があったり、玩具があったり。
捨てたはずなのに。
急に怖くなった。
幽霊でもいるんじゃないか。
精神病も幽霊もどちらにしても怖い。
一人、部屋でふらふらと挙動不審でいると、玄関のチャイムが鳴った。

ピン――ポン。
歯切れの悪い、チャイムだった。
誰。
誰って、やすは?
やすはって聞こえたけど、別の人と誤認してる?
私はゆっくりと玄関へ向かった。
11 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 16:05:19.79 ID:4yJ+Tv6jO
玄関の戸口の前に小さい影が映っていた。小学生くらいの女の子。
じっと直立していたけど、しばらくしてから玄関の新聞受けを開いて、こちらを覗き込んだ。

「あゆむ、起きてる?」

心配そうに言った。
細く、透き通る声だった。
聞いた記憶がある。

「やすは……」

名前を呟いてから、私は呆然と立ち尽くした。
新聞受けから、少しだけ覗かせた瞳が細められる。

「……呼び方」

「え」

「やっちゃんじゃないの? いいけど」

「ご、ごめん」

なぜか謝ってしまう。
彼女は少し拗ねたように、新聞受けを閉じて、玄関を開く。

「まだ、パジャマなの? 時間、大丈夫?」
12 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 16:15:08.65 ID:4yJ+Tv6jO
「が、学校、何時までに行かないといけないんだっけ」

「はい?」

やすはは――やっちゃんは、耳を疑うように聞き返した。
私は、もう一度言った。やすはは首を傾げながら、3班の出発はみんなが揃ってからだから、
何時にというのはないけど、7時30分までに学校に行かないといけない。
だから、30分前には出発できるように集合場所には行かないと、と呆れながら教えてくれて、最後に、

「頭、大丈夫?」

と言ってくれた。
大丈夫じゃないと思う。
思いたい。

「やすは、あの」

今じゃ絶対拝めない、やすはの天然くせっ毛をまじまじと見つめながら、

「思いっきり頬をつねって欲しいんだけど」

彼女は、頷くより早く私の頬を両手で引っ張った。

「いたッ、いたい?!」

「当たり前でしょ? というか、またやすはって」

夢じゃないのか。
やすはの小さな肩を掴む。

「私、小学何年生?」

やすは――やっちゃんは、同じように私の両肩を掴んで、

「5年生」

と、頭がおかしい人を見る目で言った。
13 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 16:33:37.53 ID:4yJ+Tv6jO
ふいに、玄関にかけてあったカレンダーが目に入る。
なんだ、あれ。何年前のなの。西暦おかしくない?

「待ってるから、早く。学校行きたくないのは分かったから」

「ご、ごめん今日……風邪ひいてて」

「そんなに元気そうなのに?」

「え、えっと」

「あゆむは嘘つけないね」

笑う。
白い歯が見えた。
つい、見惚れてしまった。
いやいやいや。
相手は、小学5年生。
なんでやねん。
全く、状況を理解できないし納得できないし、
さっさと病院に行って調べてもらいたいのに。

「今日、クラス旅行の話し合いだよ。班分けするから、あゆむ休んじゃダメ」

腕を掴まれて、柔らかくていい匂いのする体を絡ませて、ヘッドロック。

「く、苦しい」

「最近、お父さんが読んでる漫画に出てて」

ヘッドロックは小学生にはまだ危険だよ!
14 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 16:43:13.58 ID:4yJ+Tv6jO
「……声変。声変り?」

だから、風邪だって。

「あゆむ、男っぽいって思ってたけど、ついに」

「ついにッ? ついに、なに?」

「ううん」

なに。
なんか、この掛け合い懐かしい。
よく、このネタでいじられてたっけ。

「よくわからないけど、今日は一人で学校に行ってもらえるとありがたいというか」

「いやよ、なんで」

「うん、私ちょっと今日頭おかしいみたいだから」

「いつもじゃん」

「いつもなの?」

「だいたい、そうでしょ」

「やすはに変なこと言っちゃうと思うし」

「どんなこと」

いや、もう、すでにこれ変な会話になったでしょ。
その後も、なんとかはぐらかそうと思ったけど、やすはは私が学校をサボる口実を作っているだけ、と勘違いしたようで、
押し切られる形で、結局登校することになった。
15 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 16:50:48.25 ID:4yJ+Tv6jO
そうして、30分歩かされた。
小学生の歩幅は小さく、学校までの道のりがとても遠く感じられた。
この距離なら、絶対に車で行くのに。
とは言っても、肉体的に疲労したわけではなく、私の体は案外と元気だった。

「どっち向かってるの」

うろ覚えで教室に向かおうとして、
ランドセルを掴まれた。
後ろに引っ張られる。

「こっちでしょ」

「あ、そうだった」

そうそう。

「おはよー」

横から声。そして、軽く突き飛ばされる。

「うひゃッ」

「おはよう」

やすはが言った。
突き飛ばしてきたのは、みやちゃんだった。

「みやちゃん……」

ハスキーボイスも合わさって、信じられないものを見たような声が出た。
16 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 17:00:49.34 ID:4yJ+Tv6jO
「なに、その声? 声変り?」

同じ事を言われた。

「風邪だって。さっきから、頭おかしいの」

「いつものことじゃん」

やすはとみやちゃんが頷き合う。

「ええッ」

「冗談、冗談。ごめんごめん」

みやちゃんが、頭をわしゃわしゃとかき混ぜる。
わ、懐かしい。
猫と同じように扱われてたっけ。

「下にもついた?」

下?
なんのこと。

「だから、ここだって」

股下を触られる。

「やッ!?」

「みやちゃん、ほんと変態だよね」

「なんでよ」

やすはがみやちゃんの手を掴む。
私を守ってくれたようだ。

「胸もないんじゃないの」

と、やすはは言って後ろから胸を揉みしだいた。

「はうあ!?」

刺激に耐えきれず、どさりと地に伏した。

「やすはもね」

頭上でみやちゃんの声が聞こえた。
17 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 17:12:41.63 ID:4yJ+Tv6jO
小学生のやることは訳が分からない。
と、思いつつも、よく考えれば酔っぱらった女は、だいたいこんな感じだから、
精神年齢は小学生の時からみんな変わっていないに違いない。

教室に半ば強引に引きずられ、案内される。
最初に目に飛び込んできたのは、『げんきいっぱい5年3組』と書かれた横長いポスターだった。
オープン教室になっていたため、廊下やしきりがなかったのを思い出した。
教室の外の壁にポスターは張られていた。
他にも、習字の作品が並べて張ってあった。
この字、何回も直しをくらった気がする。

「おっはー、あゆむ君」

「おはよう……」

じっちゃんだ。
その隣のキョンは何やら怪しげなグッズをたくさん机の上に並べている。
教室を見渡す。
小学生がたくさんいる。
それは、当たり前なのだけど。
腕相撲をする男の子。
鉛筆を転がして遊ぶ男女。
教室の端の洗面台の縁に腰掛けて話す女の子。
この小さな空間はあまりにも見覚えがあった。
18 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 17:21:27.81 ID:4yJ+Tv6jO
しかし、同時にあまりにも鮮明過ぎて頭を抱えた。
いくら病気とかって言っても、こんなに細かくリアルに覚えておけるものなんだろうか。

「ねえねえ、班分けどうやって決めるか聞いた?」

みやちゃんが教科書をしまい終わったのだろう、私の席に腰掛ける。
やすはも隣の席に腰掛けていた。

「いや、知らないけど、自由がいいよね」

やすはの言葉にみやちゃんも頷いていた。
班分けは確か――、

「くじ引きだったと思う。男女に分かれて」

二人が、私を見た。

「え、いつ聞いたの?」

やすはが言った。

「いつって」

もう、十何年も前に。

「こ、の前職員室に行った時に聞こえてきて」

「最悪だー……」

みやちゃんが机に突っ伏した。

「一緒の班になれないかも……ってことだよね」

「班が違っても、部屋とか外出の時に集まろうよ」

みやちゃんを慰めるように、やすはが言った。

「うん、そうしよー」

「ところで、あゆむ」

「うん?」

やすはが横腹をつつく。

「いつまで背負ってるの?」

「あ」
19 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 17:32:53.70 ID:4yJ+Tv6jO
担任の先生は和代という漢字だったのを、黒板の隅に引っ掛けてあった名札で思い出した。
朝の会が終わり、日直が最後に『今日のエピソード』と言って、今日ではなく昨日あった出来事(とにかくなんでもいい)を、
みんなに1分間でスピーチするという催しも終わり、それでも未だに全くと言っていいほど心ここにあらずだった。

後ろの席にいた子が、指先で背中を突いてきた。
そう言えば、こういう風に恐る恐る話しかける子が一人だけいた。

「あの、みんな、名札に何貼ってるの?」

何?
この時の流行?
私は自分の名札を見た。
胸には名札は無かった。
服を着替えることに必死で名札を忘れていた。

「あゆむさん」

年配の声。
先生だ。

「は、はい」

「名札、忘れたら言うように決めたでしょ」

そうだっけ。
いや、そうだったんだ。
ここの郷に従わないと。

「すいませんッ。気をつけます」

私はお得意様に叱られた時の記憶がなぜがふと思い出されて、
椅子から立ち上がって深々と頭を下げてしまった。
顔を上げると、先生はかなり呆気にとられた様子だった。
が、本来の職務を思い出して、

「名札作ってあげるから待っててください」

「すいません。ありがとうございます」

担任用の椅子に戻り、工作を始めた。
20 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 17:39:51.90 ID:4yJ+Tv6jO
つんつん、と今度は腕を突かれた。

「ねえ、シール貼ってるよね? 一枚ちょうだい」

手を出された。
ちょうだい、と言われても。
筆箱とかに入れてるのかな。
私は、さっきしまった筆箱を空ける。
中に、ぷっくりした可愛らしいシールがいくつか入っていた。

「それそれ。私もつけたい」

これ、私が入れたのか。

「いいけど、どれがいいの」

自分の物だと思うけれど、なんだか人様の物を勝手に譲渡しているような後ろめたさ。

「あゆむー! トイレいこ!」

みやちゃんとやすはが呼んでいた。
トイレに連れ立っていってたなあ。

「あ、ごめん。迷ってるなら、これ一枚あげるよ」

私は途中で立ち上がるが少し申し訳なかったので、
そう言って筆箱を机の中に戻した。
その子はお礼は言わなかったけれど、嬉しそうに笑っていた。
21 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 17:52:48.92 ID:4yJ+Tv6jO
お上品そうな顔をしていて、どこかお嬢様気質のある子だった。
あの子は、確か転校生だ。5年の時にこっちに引っ越してきたんだっけ。
トイレの入り口まで来て、みやちゃんが爪を研ぐように私の首を掴んだ。

「みやちゃん、ちょ、痛い痛い」

これ、確かみやちゃんが気に食わない時にやる癖だ。

「あの子、うざくない。嫌い」

みやちゃんは転校生をかなり嫌っていた。

「まあ、めんどくさい所はあるかもね」

やすはが頷くけれど、便乗はしなかった。

「でも、可愛いい所あるよ」

素直にお礼を言えない所とか、
声をかけるのも照れ臭そうな所とか。

「あゆむ君? 可愛い可愛くないでなんでも判断していいと思ってるのかな」

みやちゃんが体に抱き付く。

「とにかく、転校生とあんまり仲良くしないでよね」

みやちゃんはぷりぷりしながら、個室に姿を消す。
私はやすはと顔を見合わせる。やすはは少し呆れた顔をしていた。
やすはは態度が悪い時もあるけど、人に悪意を向けたりはしなかった。
そんなやすはは、私から見れば少し大人のように思えた。
みやちゃんは正反対で、気持ちに素直で言葉や手がすぐ出てしまう所があった。
みやちゃんにいじられるのは好きだったけれど、好き嫌いがはっきりしてしまう所には、対応に困った時もあったけ。
そう、それはこの時期だった。
班分けで、みやちゃんと別れてしまった時。
この後の1時間目でそれが起こってしまう。
その班分けから、私たちの仲は少しづつ様相を変えていったんだ。
22 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 18:04:26.53 ID:4yJ+Tv6jO
そう、そして旅行の日の夜。私は二人に対してどっちつかずの最悪な対応をしてしまったんだ。
それを、もう一度味あわなくちゃいけないなんて。

トイレから戻ると、1時間目はすぐ始まった。
何か打つ手はと考える間もなく、時間は流れていった。
次の休み時間、みやちゃんは席から動かなかった。
やすはと私は目配せして、みやちゃんの席に行った。

「夜とかさ、集まろうよ」

自由外出の時間は残念ながらなかった。
常に班行動ということなので、班で移動すればどこの班とくっつこうがオッケーだった。
みやちゃんはいらついていて、でも仕方がないのも理解していたので、
私の太ももをぱんぱん叩いて憂さ晴らししていた。

「やすは、助けて……いたッ、いたい」

「やすは?」

みやちゃんの手が止まる。

「あ、やっちゃんだ、ごめんね」

やすはは何も言わなかった。
だから、その時は私も特に気にすることはなかった。
23 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 18:13:29.11 ID:4yJ+Tv6jO
それから授業を受けて、給食を食べたりして、私は本当に小学生に戻ったようだった。
その日、やすはもみやちゃんも委員会の活動があるらしく、私は一人で家に帰ることになった。

「あゆむ、ほんとに一人で帰れる?」

やすはが言った。
まるで、低学年の子どもに言うように。

「大丈夫大丈夫」

「一応、風邪ひいてるって設定だったし」

設定って言うな。
ほんとに引いてたんだって。

「下、生えてきたら教えて」

みやちゃんが下品な笑いを浮かべて、
また股下を触ってきた。

「みやちゃん、やめッ、やだッ」

私も半ば笑いながら、今度は抵抗しようとして、
いや、でもどこ触ったらいい?
どこ触っても犯罪クサい。
あ、でも女同士だし、今小学生だし――。

「いくよ、みやちゃん」

「へえへえ」

と、考えている内に、二人とも手を振りながら遠ざかっていた。
24 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 18:19:59.95 ID:4yJ+Tv6jO
下駄箱の前で、靴が出席番号順に並んでいたのを思い出した頃に、つんつんとランドセルを突かれた。

「うん?」

「あの、一緒に帰ろう?」

転校生が、おずおずと言った。
私よりも小さい。
気の強そうな目元、意地っ張りそうな口元。
名前は、ごめん、忘れた。

「……」

苗字は、上林だ。
名札に書いてある。
名札にはさっきあげたシールが一枚貼ってあった。
この日、みやちゃんに釘を刺された私は、
確かこの子の誘いから逃げてしまったんだ。
そして、家に帰って自己嫌悪に苛まれた。
別に、この子からその後何か言われたというわけではないけど。
25 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 18:37:34.07 ID:4yJ+Tv6jO
上林さんと一緒に帰ることで、みやちゃんを怒らせたくは無かったんだ。
みやちゃんが好きだったから。
嫌われたくなかった。
でも、今の私にはあまり関係のないことだった。
なにせ、もう全てが過去のこと。
終わっていて、全部現実になってこの身に降りかかっていて。

「いいよ、一緒に帰ろう」

私は一つ返事で頷いた。
26 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 18:47:28.24 ID:4yJ+Tv6jO
上林さんと手を繋いで帰った。
この子はよく人と手を繋ぎたがった。
でも、みやちゃんの手前いつもやんわりお断りしていた。
なんだか、保護者の気分。
こちらが家まで連れて行ってあげているような。
いや、でも今頭おかしい私が児童と一緒に帰る方が危険な気もする。

「あなたの友だち、私のこと嫌いなんでしょ」

なんという直球ストレート。

「うん」

私も、ストレートで返す。

「あなたは?」

「私は嫌いとかそう言うのはないよ」

「ふうん」

そもそも、そこまで話たことがなかったし。
一見で生理的に無理って言う方が珍しい。
彼女は値踏みする様に、私の顔を見た。

「男の子みたい」

それ、気にしてるのに。

「悪かったね」

「ううん、そこがいい」

どういうこと。

「それより、上林さんこそみやちゃんと同じ班になったけどやっていけそう?」

確信を突いていいのか分からないけれど、
まあどうせ全てなんかの病気が引き起こした幻覚か妄想なんだからいいか。
27 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 18:59:27.33 ID:4yJ+Tv6jO
「最悪よ。最悪の最悪。もう、行きたくない」

ですよね。
まさに、犬猿の仲。
そんな可愛いものでもないか。

「旅行中は、班で行動しないといけないから、私とやすはもそっちと合流するようには極力するんだけど」

「そうしてちょうだい」

「でも、上林さんも出来る限りみやちゃんと仲良くしてね」

「いやよ」

「……急には難しいよね」

胸がざわつく。
上林さんとみやちゃんが同じ班になってしまったから、あの旅行中の出来事が起こってしまうんだ。
ううん、二人のせいだけじゃない。4人がみんな間違ってしまったんだ。
やすはとみやちゃんに嫌われたくなかったから、でも、それが本当は誰の心にも傷を残す結末にしてしまう。
私は、やすはに何も伝えることができないまま、大人になってしまった。
そのくせ、あの頃に戻りたいと思ってしまった。
だから、私はこんな夢を見てしまっているのかな。
やり直したいと思っているのかもしれない。
わたしは、もう一度やすはに伝えたいことがあるんだ。

「あなた、なんだかいつもと違う」

彼女が言った。
私はどきりとする。
そこで、初めて、私と言う存在を意識されたように感じた。
28 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 19:04:26.47 ID:4yJ+Tv6jO
「そう?」

「なんだか落ち着いてて、変。あなた、いつもおどけてた。ピエロみたいに」

そんな風に見られてたんだ。

「色々な人に媚びを売ってる道化師」

私は思わず噴き出した。
最近の小学生の会話がやばいんだけど。
大人過ぎる。

「確かに、八方美人だった所あったな」

悪いとは思わない。
あの頃は、そんなことも指摘されれば落ち込んだけど。

「今は違うの?」

なんかこの子するどいな。

「あんまり変わらないわよ」

と、ぴしゃりと言われた。
頭が上がらなかった。
29 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 19:16:12.80 ID:4yJ+Tv6jO
家に帰って、帰っていた母親に今起こっている問題を説明した。
もちろん、まともに取り合ってはもらえなかった。
代わりに、体温計と風邪薬を差し出された。
このくらいの子どもはよく意味不明なことを思いついて、
現実とごちゃ混ぜにするのよ、と後から帰ってきた父親にあらましを説明して、ため息をついて言った。

私自身、一晩寝たら戻るだろう、なんて安易に考えていた。
それに、病院に行って診断してもらえれば何かしらの病気にカテゴライズされて、治療薬をもらえるはずだとも考えていた。
しかし、次の日もその次の日も、私は小学5年生だった。


3日目には、精神的に疲れていた。
とりあえず、会話を合わせるように気を配ってみたけれど、
何かと元気が良すぎて疲れる。
お姉さん、そのテンションにはついていけない。
そして、4日目には授業に飽き始めていた。
始めこそ、懐かしさと理解が早かったのもあり楽しんでいたけれど、
小学生の授業はやはり苦痛でしかなかった。
常識として身に着けた内容を延々と言われるのは辛い。
同じ事を何度も言われているような気がして狂いそう。

1週間程経った。
だんだんと私は怖くなっていた。
私は、今、どこにいるのか。
相変わらず、両親はまともに取り合ってはくれない。
やすはやみやちゃんに相談することもできない。
病気の治療が遅れれば遅れる程、私の気は狂っていくのではと、怖かった。

30 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 19:30:04.85 ID:4yJ+Tv6jO
学校が半日で終わった日、保険証を持って一人で病院に行ったが、両親ときてくださいと突っぱねられた。
帰り道、家に帰るのも億劫になり、公園に行って一人絶望的な気分でブランコに座っていた。
この錆びついた鎖も、この公園自体老朽化が進んで危ないからと、今では何もかも新しくなっていた。
今、今はどこにいった。
絶対にあるはずなのに。
どこにもない。
退職して隠居した両親も、連絡もそこそこなやすはも、ちょっと怖い上司のいる会社も。

「会議……どうなったんだろ」

私は資料を渡し損ねてしまった。
色々な人に迷惑をかけたに違いない。
帰ったら、なんて言い訳する?
そもそもどこに帰るんだ。
夢なら、早く覚めて。

「ッ……」

地面に影が差した。
顔を上げる。

「あゆむ、どうしたの」

「やすは……」

「何かあったの?」

塾の帰りだろうか。
鞄を地面に置いて、私の頬を両手で挟む。
こちらの目を覗き込んでくる。
やすははポケットから、ハンカチを取り出して私の顔を拭った。
泣いてたのか。

「だ、大丈夫なんでもない」

やすはを押し返す。
31 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 19:44:19.98 ID:4yJ+Tv6jO
無言で、隣のブランコに座った。

「あゆむ、何か隠してる」

「……」

「何も教えてくれないんだ」

怒ったように言った。
やすはの方を見ることはできなかった。

「……やすは、私」

続く言葉は、諦めに飲み込まれる。
やすはに相談したところで、変人扱いされるだけだ。

「ごめん、自分でもよくわからなくて」

「……旅行、私と同じ班だから。ほんとは、みやちゃんとが良かったんじゃないの?」

「なんでさ、違うよ」

私は、見当違いなやすはに素っ気なく返してしまった。
ほら、わかっちゃいない、と。

「じゃあ、なんで帰る時、全然笑ってくれないの」

やすははそう言って、立ち上がった。
ブランコの錆びた鎖がいやいやするようにひるがえった。
ガチャンガチャンと耳に残る。
彼女は、かばんを掴んで、

「私は……嬉しかった」

そう言って、背中を向けたまま去っていった。
32 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 19:58:05.49 ID:4yJ+Tv6jO
子どもの言うことだ。
いちいち目くじらを立てることじゃない。
けれど、この頃の私はやすはとみやちゃんが私の世界の半分以上を占めていた。
もちろん、今の私はそう言った依存はしていない。
でも、そうだろうか。
本当に。
あの頃の、彼女達に、私はいつまでも縛られていなかったか。
小学生の頃のことがどうしてあんなにも引っかかっていたのか。
戻りたいと、また3人に戻りたいと、そう思ったじゃない。
私は、何かと決別したいのか。
清算したいのか。
分からない。
でも、答えは全部過去にしかない。
私が選択したものの連続の先に立っているだけなのだから。

やすはに伝えたいことがあった。
私の選択できなかった一番の後悔。
みやちゃんに言わなくていけないことがあった。
あの写真の中の子ども達が急にリアルに感じられた。
33 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 20:13:02.45 ID:4yJ+Tv6jO
次の週の中日くらいに体育でドッジボールをした。
この頃、男子にも女子にも力の差はなく、背丈が高いと言ってもあまり関係なかった。
男女対抗戦なんてものもできてしまう。
今思うと、どうして分けたのか疑問は残るけど。

「じっちゃん! 当たる当たる!」

じっちゃんは、動きもじっちゃんだった。
女の子だけどね。
じっちゃんの影に隠れていたきょんと二人によくいじられているすんちゃんは、じっちゃんからさっと離れる。

「裏切り者め」

じっちゃんが恨めしそうに言って、外野に回った。

「あゆむ、前、前」

みやちゃんに押されるように、前線に駆り出される。みやちゃんは運動神経はいいけど、こういうのは苦手だった。
子どもの投げるボールは、想像していたよりだいぶ遅かった。
さっきから投げてるのが自分とゆうか(スポーツが得意。バレー部)しかいない。
投げたい子もいるだろうと、周りを見渡す。
なぜか、いつもこうやって先陣を切らされていて、期待に応えようと頑張っていたっけ。
でも、せっかくだし……。
やすはと目が合う。
睨まれた。
やすは、怖い。
この間の一件を根に持っているようだ。
まあ、私が悪いんだけど。
でもスポーツは多少は気分が紛れる。
34 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 20:20:41.78 ID:4yJ+Tv6jO
逆方向に振り返る。
上林さんと目があった。
なんでかな。
彼女がボールを投げたそうにしているのが直感的にわかった。

「はい、パス」

彼女に放り投げた。
と、渡してから視線を感じた。
やすはともちろんみやちゃん。
横目で確認して、気が付かないふりをした。

上林さんは嬉しそうに一歩、二歩走り出した。
が、三歩目で何につまづいたのか、恐らく何もなかったはずなんだけど、こけた。
私を下敷きにして。

「きゃあ!?」

「ぶへッ!?」

私は顔面から落ちて、地面とキスする羽目になった。
土の匂い。肌と言う肌に小さな石ころが突き刺さったような痛み。
なにより、おでこが痛い。
そして、重くはないけど、上林さんの肘が私の脇腹にめり込んでいて、泣きそうなくらい非情な激痛。

笛が鳴った。
男子の誰かがレッドカード! と叫んだ。
35 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 20:25:40.66 ID:4yJ+Tv6jO
「退いて、上林さん……」

放心していたのか、上林さんがいつまでも私の上に乗っていたので言った。
彼女は慌てて立ち上がる。
すぐに立ち上がった所、たいした怪我はしていないようだった。
私はほっとした。
が、下敷きになった私の膝はずる剥けた。
血がたらりと靴下に赤い染みを作った。

「ちッ」

小さいが舌打ちが聞こえた。
誰。
やすは?
いや、やすはは離れているし。
疑ってごめんやすは。

「上林さん、謝らないの?」

みやちゃんが言った。

「私、悪くない」

上林さんが火に油を注ぐような言葉を放った。
36 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 20:29:24.72 ID:4yJ+Tv6jO
「保健委員は確か、やすはさん?」

先生が、やすはを手招きする。

「あゆむさんと上林さんを……上林さんは大丈夫なの? そう、じゃあ、あゆむさんを保健室に連れていって」

「はい」

私はひょこひょことやすはの後を追う。
見かねたのか、やすはが肩を貸してくれた。

「何やってるの、もお」

「ごめん……」

やすはが優しくしてくれたのが嬉しくて、
私は痛みが吹っ飛ぶことはなかったけど、多少和らいだ気がした。
37 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 20:43:29.05 ID:4yJ+Tv6jO
保健室に先生はいなかった。
代わりに、

「先に水で洗い流すよ」

やすはが救急箱を取り出しながら言った。やすはのお母さんは確か看護士だったから、それで慣れてるのかもしれない。

「なんであんなことしたの」

ペーパータオルをどこからか持ってきて、脇に置く。

「ボール渡したやつ? あれは、なんか欲しそうにしてたからつい」

「……それもあるけど、上林さんかばって下敷きになったじゃん」

「あれ? それは偶然。私が巻き添え食らう所に立ってたからで……」

「そっか」

膝を水で洗い流そうとしてくれていたので、
私は自分でできると止めたが、

「いいから」

と、細い指で極力傷口に触らないように洗ってくれた。
それでも染みて、私は苦渋の声を漏らす。

「我慢しなよ、男の子でしょ」

「いや、女の子だから」
38 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 20:53:31.33 ID:4yJ+Tv6jO
やすはは傷口に砂が入ってないか確認して、

「終わり、膝以外は傷になってないし、自分で洗ってね」

「ありがとう、やすは。やすは、良いお母さんになれるよ」

「行き過ぎでしょ。まだ、お嫁さんにもなってないのに」

言葉に出されて、やすはが中学になった時に彼氏ができてしまったことを思い出した。
ものすごく嫌だな。

「やすは……に」

大人になってからそんなことに気が付いても遅いんだけどね。

「やすはに彼氏ができるの……嫌だな」

なんて。
止めることはできないけど。

「あ、洗い終わったよ」

タオルを椅子に掛けた。

「ばか……何言ってるの」

「え、まだ洗えてないとこある?」

私は自分の体をチェックする。
顔に砂利がついている。
心なし、おでこもひりひりする。
ここか。

「おでこ忘れた……っへへ」

やすはに背を向け、蛇口を捻る。
顔ごと洗う。タオル、タオルを後ろに置いてきた。
目を瞑ってやすはを呼ぶ。

「やすは、タオル取って」

「ん……」



39 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 21:12:36.54 ID:4yJ+Tv6jO
「これ、タオルちゃうやん。やすはの手やん」

ノリツッコミ。

「うん」

髪から頬へ滴がつたっていく。
タオルは椅子にかけられたままなのだろうか。
びしょ濡れの私の手を、彼女は握っていた。
なに?

「目、開けないで」

もう片方の手で、目元を遮られたのがわかった。

「は、はい」

「私だって、いやなのに」

彼女の方が背が高くて、少し上から声が聞こえた。
手が、顔の下にずるりと落ちる。私は口元を覆われた。
指に鼻息がかかってしまうと思い、私は呼吸を止めた。
苦しい。
おでこがこすれたのか、痛みが遅れてやってきて目を開けてしまった。
彼女のふせられた睫が目の前にあって、あろうことか、自分の手に唇を押し当てていた。
慌てて、後ろに後ずさった。

「あ、あの、やす……」

私は口元を抑えた。
やすはは数秒自分の手の甲を眺めていた。

「別に、口になんてしてない」

「ごもっともです……」

私は、手を外す。


40 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 21:18:52.83 ID:4yJ+Tv6jO
「水で体操服、透けてるよ」

「わ、ほんとッ」

顔をずらす。

「はい」

タオルが今度こそ、私の手に渡る。
それで顔を拭いた。

「ドライヤーでちょっと乾かそう」

やすはがどこからともなくドライヤーを取り出す。
されがままに、私は熱風をくらった。

「やすは、その……ああいうのよくするの?」

どうしても聞いてみたくて、尋ねた。

「できるわけないじゃんか」

こちらを見ずに言った。
41 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 21:30:22.76 ID:4yJ+Tv6jO
「そっか、そうだよね。ははッ」

わからない。
子どもの考えることって不思議。
何かのおまじない?
かもしれない。

「今のって、痛みを消すおまじないみたいなものだよね。ありがとうね」

つい、頭を撫でそうになった。
が、今、やすはと共に小5なのを思い出して、手を引っ込めた。
この年頃の子はませてるなあ。
ちょっと、びっくりした。

「違うから」

「え、違うの」

「もっと不幸になりますようにって呪い」

「……ひどい」

「でも、一つだけ約束を守ってくれたら解いてあげる」

「なんざんしょ……」

「クラス旅行の夜だけ、部屋から出ないで」
42 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 21:39:09.66 ID:4yJ+Tv6jO
「それは、どういうこと……」

「みやちゃんの所に行かないで」

「いやそれは無理だよ」

きっぱりと言うしかなかった。
みやちゃんとの約束は3人の約束でもあったから。

「違うの。みやちゃん達に来てもらうってこと」

「あ、ああそういうこと」

なるほど。
でも、それと約束を解くのと何の関係があるのだろうか。

「それくらいなら、守れるよ」

「よろしい」

やすはは笑った。けれど、それは子どもらしくなくて。
こんな顔をさせた原因は明らかに自分で、私は小学生の彼女に何を選ばせてしまったのかと旅行の日までもやもやと考えることになった。
43 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 21:52:17.99 ID:4yJ+Tv6jO
もやもやと考えていたのは、もちろんやすはのことだけではなかった。
私は家のパソコンで時間を移動した経験のある人間を探し続け、
元に戻る方法はないか血眼になっていた。が、現実にそんなことが起こるはずもなく、
答えはフィクションの中にしかなかった。過去を変えるしかない、という風に。
自分の後悔した過去が因果を結びつけているとかなんとか。
でも、いいのだろうか、そんなラッキーなんて。
時間は元に戻らない。
人生は一度切り。
強くてニューゲームができるのは、なんの後悔もないゲームの主人公だけだ。

そもそも、戻りたいと願いながら、ここにいる訳は、
本当はここにいたいという裏返しなんじゃ。

頭がパンクしそうになって、私はベッドに横になった。
来週はついにクラス旅行。
浮足立つクラスの子ども達。
後ろの席の上林さんも、どうやらその一人で、授業中やたらつんつんしてくるのでいい加減止めて頂きたい。

「なに、浸ってんの……」

そして、ふと我に帰る。
情を移すと現実が遠ざかっていくような気がする。
移すなと言うのも難しい話なんだけど。
44 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 22:01:15.63 ID:4yJ+Tv6jO
その日、とある男子の好きな子は誰かという話題で5年3組は盛り上がっていた。
とある男子は他の男子に詰め寄られていた。
女子は遠巻きにそれをみて、やじを飛ばしていた。

「そう言えば、旅行の夜ってけっこう付き合う人多いって」

小5のクラス旅行で?
けしからん。

「あゆむ、告白されるかもよー?」

みやちゃんが私の頬を突きながら言った。

「いやー、ないかな」

むしろ、みやちゃんの方が――。
あ、よく考えたら、この頃みやちゃんは男子に恐れられていたんだっけ。
本人は気づいていなかったけど。
モテ始めたのは、中学校になってちょっとおしとやかになってからだね。

「私より、やすはの方が言われそうだよ」

冗談でそう言った。
やすはがびくりとしたような気がした。
それと同時に、男子の方にどよめき。
問い詰められていた男子が切れたようだ。
軽い喧嘩が始まる。
先生が来るまで喧嘩は続いたのだった。
45 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 22:11:04.04 ID:4yJ+Tv6jO
そして、旅行の日となった――。


見送る人はいない。
家の前には、やすはがいた。
お互いちょっとおしゃれな服。
やすはのワンピースがあんまり似合って可愛かったので、凝視してしまった。

「見過ぎだよ」

顔を背けられた。

「やすは、可愛い」

昔の自分なら絶対に言ってない。
でも、言わないと。
今日くらいは自分の気持ちに正直にならないと。

「約束、絶対守るから」

私はそう宣言して、彼女の手を握った。

「頑張って」

前を向いて、やすはは言った。
手をほどく様子は無かった。

しかし、私には夜を迎える前に、大きなイベントが待っていることも分かっていた。
それを乗り越えて、なお、部屋から出ないようにしなくてはいけない。
どちらの後悔も残さなかった時、大人になる門は開かれるのだろうか。
46 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/29(日) 22:12:08.69 ID:4yJ+Tv6jO
いったんここまでです
続きは、たぶん明日の夜くらい
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/29(日) 23:28:34.03 ID:YSaddARQO
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/30(月) 00:09:57.23 ID:35Gu1eR70
ここからの展開に期待
49 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/30(月) 22:05:21.97 ID:Rtz9/qwYO
旅行、と言うと女の子ってとにかく写真を撮りたがる。え、ここで? なんて所でも。
行きのバスで、後ろの席の子がこちらにカメラのレンズを向けていた。
クラスで一番小さいけど、一番駆け足の早い女の子。確か、ちろるだ。名前でよくからかわれていた。
反射的にピースする。インスタントカメラの軽いシャッター音がした。隣にいたみやちゃんはすすっとカーテンに隠れていた。

「みやちゃん、サービスサービス」

ちろるが少し出っ張った前歯を出して笑う。

「いいから、あゆむとやすはだけでいいから」

「みやちゃん、写真嫌いだよね」

やすはがしょうがないと、私の顔のすぐ横まで近づいてピースサインする。
近い近い。いや、だから、小学生の距離感近いって。
幼さなさの残る声で、

「よ、ご両人」

と、どこで習ってきたのかそれを合図にシャッターを切っていた。
この写真、元の部屋にあったはず。変な感覚だ。


行きのバスで、有志によるレクリエーションが開かれた。
当時流行っていた曲を順番に歌っていく、というものだった。

「……」

みんなが歌う中、自分だけが懐かしさを感じつつ、
この時代の流行の曲を思い出していた。
あまり音楽に興味もなかったから、うろ覚えだった。
先進的なオタク女子きょんが、この時代に流行ったらしいアニソンを熱唱して、場の空気をかっさらって言った。
歌い足りなかったらしく、彼女が尺取虫をしてくれたので私はなんとか歌わずに済んだ。
50 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/30(月) 22:22:21.81 ID:Rtz9/qwYO
乗車時間は長かったが、近隣の女子が持ってきたお菓子を広げてトランプやらオセロやらをしているうちにけっこう時間を潰すことができた。
小学生とやっても楽しいゲームって、もしかしてよくできているのかもしれない。
通路側にいたやすはがいつの間にかゆらゆらと揺れていた。ご丁寧に、両手はきちんと膝の上に乗せている。
私の肩にこつんと頭が当たった。そろりと顔を覗く。寝てしまったみたい。
周りを見渡すと、まだ、旅は始まったばかりだと言うのに似たような子どもが多かった。

「みやちゃん、やすは見てよ、寝ちゃった」

と、みやちゃんの方を見やる。
返事はない。

「みやちゃん?」

「……」

みやちゃんは首の座ってない赤ちゃんみたいに頭を揺らしていた。
おまえもか、ブルータス。

「ちょ」

私一人置いて、二人とも夢の世界にいったみたい。
こてんと反対側の肩に重みが加わった。
軽いけど、さすがに両肩はきついな。
視線を感じた。

「うわー……」

目の前に座っていた上林さんが、座席シートにあごを乗せて覗いていた。

「あなた、なに、にやついてるの」

あなた、と言われてどきりとする。彼女のあなたは、まるで本当の私に語りかけているようだ。

「可愛いでしょ」

まるで我が子を自慢するかのように言った。
上林さんは呆れた目で、また席に座り直した。
51 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/30(月) 22:31:52.97 ID:Rtz9/qwYO
私はふとポケットに手を入れる。
インスタントカメラのネジを回す。

「上林さん、上林さん」

小声で呼んだ。
聞こえたみたいで、今度はぎりぎり目元が見えるくらいには振り返ってくれた。

「ピース」

カメラを構えた。
彼女は少し焦りながら、きょろきょろと回りを見た。
そして怒ったような顔で、こちらに拳を突き出すようにピースした。
背が小さいから、座ったまま顔を出すのは大変そうだった。
その、なんとも言えない幼さと困惑の混じった照れ顔を私はカメラに収めた。

背後から、もう一つシャッター音。

「もーらい」

ちろるが、楽しそうに言った。
上林さんはびくりとして、すぐに座席の影に隠れてしまった。
なんか、意外な一面を見てしまった。上を向くとちろるも同じような気持ちだったのか、にやにやしていたのだった。
52 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/30(月) 22:46:15.75 ID:Rtz9/qwYO
バスの最初の目的地はホテルだった。
荷物を置いて、貴重品だけ持って班ごとに固まってエントランスホールに集合するよう指示を受ける。
みやちゃんと上林さんの部屋は、どうやら私とやすはの部屋のすぐ斜め前のようだった。
荷物を置いて、すぐにみやちゃん達の部屋に向かった。
ドア越しに怒声が聞こえてきた。

「もう、ケンカしてる」

私はやすはと目を合わせる。

「みやちゃんだしね」

やすはは言った。

「止めた方がいいよね」

「うーん」

やすはは小首を可愛らしく傾げた。

「あんまり止めなくてもいいと思う。二人の問題だし」

そして、どこか一歩引いて言った。
でも、怪我とかしたら危なくないかな。
忠言を軽く流して、ドアをノックすることもできる。
けれど、小学生同士の喧嘩はやすはの方がきっとよく分かっているに違いなくて。
私は、しばらく何も言わずにドアの前で突っ立っつことにした。
53 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/30(月) 22:59:23.11 ID:Rtz9/qwYO
待つこと、数分。
ドアがゆっくりと開いた。

「お待たせ……」

みやちゃんが、頬に引っかき傷を作っていた。
後から出て来た上林さんの頬にも猫が引っかいたような傷。

「二人とも、大丈夫?」

思わず尋ねた。
やすはも気遣うように見ていた。
しかし、二人は案外タフだった。

「平気、それより昼ごはんの海鮮丼楽しみでしょうがないんですけど」

「分かる。写真、豪華だったよね」

みやちゃんが早口で言った。
それにはやすはが頷いた。

「夜ご飯の中華料理の方が何倍もそそられるわね」

え、それ私に言ってる?
上林さんがこちらを睨むので、私は、

「そ、そうだね」

と頷かざるおえなかった。
54 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/30(月) 23:00:16.75 ID:Rtz9/qwYO
誤 おえなかった→をえなかった
55 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/05/30(月) 23:00:42.52 ID:Rtz9/qwYO
今日はここまで
ありがとー
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/30(月) 23:08:49.96 ID:2e/KngtdO
こちらこそー
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/05/30(月) 23:55:56.29 ID:TieCceCSo
おつ
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/31(火) 02:01:23.50 ID:f81d2ktV0
おつ
59 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/02(木) 22:48:44.02 ID:0YAhipt3O
エントランスホールで、担任から今日の旅行について指示を受けた。
人に迷惑をかけない、走らない、立ち食いしない、などなど他にも何か言っていたが詳しくは旅のしおりを見ろとのことだった。
今日のクラス旅行は一応授業と同じという位置づけらしい。そのためか、来週には班ごとに旅行の出来事を絵巻物に書いて発表するらしかった。
そう言えば、そんなものを作ったような気がする。けっこう前に捨てたけど。

今日の流れは美術館に行って、史跡を見て、古い町並みを散策して、昼に美味しい海鮮丼を食べて、
遊園地で遊んだ後、夜は中華という小学生にしては、なんとも豪華なラインナップだった。
先ほど乗ってきたバスに全員で乗り込む。
もうすでに脱落者がいるようで、向かいの席に座っていたはずの男子がいなくなっていた。

「あの子、どうしたの?」

聞くと、

「車酔いでダウンしたって」

ちろるが教えてくれた。
可愛そうに。
はしゃぎ過ぎたんだ。
楽しみにしていただろうに。

「気になるの? あゆむ?」

ちろるがにやにやと聞いてきたので彼女の頬をつかんだ。

「ちがうってば」

小学生相手に何バカなことを。ほんと、何考えてるんだろう。
私は、左隣をちらりと盗み見た。しおりを見ているようだった。
今の会話があまり耳に入っていなければいいけど。
60 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/02(木) 23:22:52.54 ID:0YAhipt3O
最初に向かった美術館は地域の郷土品が多数展示されていた。
中でも、鎧や兜は男子達に感動を与えていた。
女子はほとんどが興味なさそうにしていて、私も御多分に漏れず。
観覧開始5分で、外にあるミュージアムカフェで一服したくなった。
美術館の中は自由行動だった。みやちゃんと上林さんは、ちろるらのグループに半ば無理矢理連れていかれて今はいなかった。
同じように退屈し始めていたやすはに、私は言った。

「外のカフェ行かない?」

「え」

まあ、普通そういう発想にはならないよね。
非行に走ってる子とかがやりそう。
やすは一瞬、何を言われたのか分からないという顔をした。
郷土品の怪しげな紋様が描かれた壺と、私とを交互に見やる。
それから、遠巻きにいる先生に視線を移す。

「でも、先生にばれたら怒られるかもよ」

「館内は自由って言われたから大丈夫」

「屁理屈」

「行かないならいいけど」

「ううん、行く」

そういうとこ好き。


61 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/02(木) 23:31:36.76 ID:0YAhipt3O
小さな川の上に架かった橋を渡る。いつの間にか、雨がぽつりぽつりと降っていた。
丁寧に刈り込まれた低木に囲まれた庭は、ともすれば絵本の中のようだった。

「……」

二人で来たいと思った。
また来ようと。
大人になった二人で。
それは叶わないことだと分かっていたけれど。
ここで大人になることもできるのではないだろうか。

「あゆむ? また風邪引いても知らないよ?」

やすはがすでにカフェの入り口を開けて待っていた。
その態勢は何というか、すごく場の雰囲気とマッチしていた。

「ごめんごめんッ」

この空間を切り取って、アルバムみたいに留めることができたらいいのに。
62 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/02(木) 23:50:57.80 ID:0YAhipt3O
紅茶とケーキを堪能してから、私たちはひっそりと美術館に舞い戻った。
生徒にも担任にもばれてはいなかった。
やや挙動不審になりつつも、私とやすはは顔を見合わせ、ほっとして笑い合う。
逆に、みやちゃんと上林さんは心底疲れた顔をしていた。
きっとちろるに振りまわされたんだろうけど、今はちろるに感謝。

その後の史跡訪問、街並み散策はクラスまとめてガイドさんが案内してくれた。
そのせいで、やすはと二人きりにはなれなかった。
ただし、お昼になる頃にはそんなことを気にしている余裕はなかった。
その頃には、みやちゃんと上林さんは一切顔を見合わせない状態までになっていた。
どうやら、みやちゃんの買おうとしたおみやげに上林さんがケチをつけてしまって、
その仕返しにみやちゃんが上林さんのお土産を川に放り投げたというのだ。
目も当てられない。
もはや、修復不可能になりつつある二人の関係。
でも、案外お似合いなんじゃないかなと思う私もいた。
口が裂けても言えないけど。

上林さんにしろみやちゃんにしろ、感情が昂ぶるとコントロールできないんだろう。
似ているからこそこんなに反発し合ってしまう。
折れると言うことをしない。
むしろ、清々しい。
63 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/02(木) 23:55:02.10 ID:0YAhipt3O
今日はここまでです
おやすみー
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/03(金) 02:16:50.71 ID:i3kk7rNhO
次の更新待ってる
65 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/03(金) 10:23:58.30 ID:hYHb1m9lO
昼飯を食べるため、こじゃれた海鮮食堂に向かうことになった。
ただし、周りにいる人間からすると迷惑この上ないんだけど。
じっちゃんやちろるのグループはそういうのには鈍感で、二人の喧嘩を茶化しては火に油を注いでいた。
海の幸てんこ盛りの海鮮丼を食べる頃には、もはや二人とも完全に分裂していた。
大部屋の端と端に位置して座した二人に呆れながら、私は苦笑いを浮かべる。
みやちゃんがちらちらこちらを見ていた。
こっちに食べに来い、ということなんだと思う。
ただ、席がもうないので難しかった。

「夜、大丈夫じゃないだろうね。どうにか仲直りさせないと」

やすはに言った。
やすはは大きめのマグロの切り身を口に入れた所だった。
箸を口に含んだまま、顔を横にふる。

「無理かなあ」

「……あゆむ、最近変わったね」

「そう?」

「でも、そっちの方が好きかな」

「あ、ありがとう」

どう変わったんだろう。
内心では焦りながら笑いかける。

「みやちゃんと私に振り回されてばっかりだったのに」

「そうだったんだ……」

「自分のことじゃん」

「うん……」

「みやちゃんは、そうやってなんでも言うことを聞いてくれるあゆむを気に入ってるんだよ」

なかなか辛辣な言葉。
66 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/03(金) 10:35:31.21 ID:hYHb1m9lO
本当のやすはの気持ちを、私はこの頃考えたことはなかった。
人に気持ちに鈍感だった。自分の心を守ることでいっぱいだったんだと思う。

「みやちゃんにとって、良くないことだよね」

「それもあるんだろうけど……ううん、なんでもない」

「やすは?」

「言い忘れたけど、みやちゃんの前であんまりやすはって言わない方がいいよ」

「え、なんで」

「仲間外れにされたって顔してるから」

どういうこと。
私の顔になんで? と書いていたのか、

「自分で考えて」

と言われてしまった。
それに関しては考えてもあまりよく分からなかった。
急に呼び方が変ったから疎外感を感じたのかもしれないけど、そんなことをいちいち気にしても仕方がない。
けれど、この頃の彼女達はそう言ったささいな仲間意識を大切にして過ごしてきたんだろう。
私も、かつてそうだったんだと思う。
今は、大ざっぱになった。人の気持ちに大ざっぱになって、自分の気持ちに鈍感になった。
昔とは逆になってしまったのかもしれない。
67 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/03(金) 10:37:08.04 ID:hYHb1m9lO
>>65
の二行目の文章おかしいですが気にしないで
68 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/03(金) 10:47:52.48 ID:hYHb1m9lO
午後、おそらくほとんどの子どもが待ち遠しかったであろう遊園地に到着した。
大人になっても、遊園地というのはわくわくするものがある。
ただし、訪れたのは地方の賑わってる感がかろうじてある遊園地だったが。

みんなどこから乗りたいんだろう。
蟻のように散り散りに分かれていく子ども達の背を見つめる。
やっぱり、ジェットコースターは人気だった。
先生も手を繋がれて、一緒に向かっている。
顔は少し引きつっていた。ぎっくり腰でも起こさなければいいんだけど。

私は隣のやすはを見て、ついでみやちゃん、そして上林さんの位置を確認した。

「あゆむ、あの子は放っていくから」

みやちゃんが言った。
ええっと。

「上林さんはいいって?」

やすはが聞いてくれた。

「知らない」

「みやちゃん、上林さん一人は危ないよ?」

私もやんわりと言ってみた。

「じゃあ、あゆむ行ってくれば」

みやちゃんはやすはの手を握って、ずんずんと突き進む。

「え、ちょっとみやちゃん」

やすははつんのめりながら、前に歩き出す。
一瞬こちらを振り向いて、上林さんに視線を投げた。
そっちはそっちで何とかしてということか。

69 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/03(金) 10:54:01.39 ID:hYHb1m9lO
上林さんは上林さんで動く気配がない。
しょうがない。

「上林さん、最初どこ行きたい?」

みやちゃんがいなくなって、喋ってくれるものだと思ったが、無視された。
長めの横髪が顔にかかって表情がよくわからない。

「あの」

上林さんに近づこうとしたら、

「来ないで」

と、あろうことか走り出されてしまった。

「なんで!?」

「嫌い、あの女も、あの女の言うことを聞くあなたたちも嫌い」

私も遅れて走り出す。
上林さんの方が背が小さいので、しばらくしたら追いついてしまい彼女の腕を掴んだ。
70 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/03(金) 11:04:45.27 ID:hYHb1m9lO
大声で彼女は叫ぶ。だいたいが、私たちへの不平不満だった。
周りにいた子連れの客が何事かと足を止めていたので、私は彼女を引っ張って人気の少ない所に移動した。
癇癪を起し泣き始めていた。手で目元をこすって、嗚咽をもらす。

ど、ど、どうしたら。
泣いてる子どもの扱い方が分からない。

「ど、どうどう」

馬じゃないし。
ハンカチを取り出して、彼女に手渡す。
それを受け取ってはくれたけど、握りしめたままだ。

「上林さん……」

私は恐る恐る背中に手伸ばしてさすってやった。
ぎこちないことこの上ない。
上林さんは今度は逃げなかった。
何度もさすって、しっかりとさすって、頭ごと引き寄せて、

「よしよし」

と、頭をぽんぽん撫でた。
日差しがきつかったので、彼女の頭も温かかった。
小さな頭が、幼さを強調する。
彼女は、ようやくハンカチで目元を拭いて、ご丁寧に鼻まで噛んだ。

71 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/03(金) 11:13:26.03 ID:hYHb1m9lO
もうティッシュだと勘違いしているんだろう。
そういうことにしよう。

「あなた……」

「うん」

「あの子の奴隷でしょ、行かなくていいの」

「奴隷って」

だから、どこでそういうの習ってくるのかな。

「ほんとに奴隷なら、今、こうやって上林さんと話してないよ」

「だって……私だけ、名前で呼んでくれない」

「え」

名前って、そんな大事なファクターだっけ。

「それを言うなら、上林さんだって」

「……」

黙ってしまった。
図星を突かれるのが苦手なんだ。
私は慌てて、

「な、名前……なんて言うのかなあ?」

と聞いてしまった。

「は?」

「ご、ごめんッ、苗字で呼んでたから覚えてなくて…」

「しおりに書いてたけど」

だいたいの流れと禁止事項くらいしか読んでませんでした。
上林さんが溜息を吐いた。
72 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/03(金) 11:19:43.29 ID:hYHb1m9lO
「……もも」

ぼそりと呟く。

「もも?」

彼女は頷いた。
可愛い名前。

「ももちゃんか」

「二回も言わないで」

頬をビンタされた。
なぜ。

「ももちゃ」

反対側をビンタされる。
頬をさすりながら、私も名前を口にしようとして、

「私は……」

「あゆむでしょ、知ってるから。普通は」

「は、はあ。ごもっともです」

ももちゃんは、にたりと笑った。

「私は、この学校に来て最初に覚えたもん」

後ろの席だもんね。
なんとなく、前の席の人って親近感わくよね。
無防備な背中を見続けているからかもしれない。
73 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/03(金) 11:25:15.66 ID:hYHb1m9lO
「あなたが、あゆむが振り向いてくれるの、嬉しかったから……」

もにょもにょと赤くなって言った。

「そっか……」

「……いつも、3人で楽しそうだったから……羨ましかった」

「うん……」

「だから、つい、あの女にもあゆむは奴隷でしょって、言ってやったの」

ついって、すごいなあ。

「そうなんだ。みやちゃんはなんて?」

「あんたなんて、友達いないくせにって。だから、私、あの女にこうも言ってやったわ。あんたなんて、本当の友達いないくせにって」

「ほ、ほお」

えげつない戦いだな。
74 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/03(金) 11:41:56.41 ID:hYHb1m9lO
「私、あの女とは一生分かり合えないと思うの」

「じゃあ、仲直りする予定は全くないということ?」

「そうよ」

困った。

「今日の夜、あの女には仕返ししてやるんだから。協力してよ」

「いやいや、しないから」

「してくれないと、あゆむにいじめられたって言うけど」

「無茶苦茶ですね……」

「あの女の方が100倍は無茶苦茶よ」

二人で咀嚼するような音を発しながら、顔を突き合わす。

「私は二人に仲良くなって欲しい」

「人に頼みごとをする時は、まず自分からでしょう」

勝手なんだか理にかなっているのかよく分からないことを言いながら、
彼女は私に抱き着く。

「じゃあ、そういうことで」

なんのオーケーサインも出していないのに、
彼女はゴーサインを出した。
75 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/03(金) 11:42:51.74 ID:hYHb1m9lO
いったんここまで
76 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/03(金) 13:37:16.18 ID:jMyFTMMdO
「仕返しって何するの」

「内緒」

と、彼女は言ってその後は何も教えてくれなかった。
顔を見ると、涙はすでに止まっていた。
復讐の手伝いをするつもりはさらさらなかったので、詳しくは聞かなかった。
彼女はけろりとした様子で、

「あれ乗ろうよ」

と、指を指した。
観覧車か。

「乗ってもいいけど、仕返しはしないから」

彼女は薄く笑って、歩き出した。
何を考えているんだろう。
みやちゃんの方がまだ分かりやすいのかもしれない。
77 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/03(金) 13:47:55.66 ID:jMyFTMMdO
数分後、観覧車に乗ったことを後悔することになった。
どうしてそういう状況になったのか分からない。
あまりにも唐突だった。

「……は?」

ももはポケットからカッターを取り出して、振り上げていた。

「ま、待って話せばわかる」

キリキリと刃を出す。
彼女が立ち上がると地面が揺れた。
殺される、と思ったので両手を掲げて目を瞑った。

ビリリ――。
痛みはなく、布が破れるような音。
彼女は自分の服に刃を突き立てて、スカートを引き裂いていた。
はらはらと布切れが床に落ちた。

「何してるのさ!?」

私は叫んだ。
彼女はもう用は無くなったと言わんばかりに、カッターを小窓から外に放り出す。

「ちょ!?」

なんてことを。
78 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/03(金) 14:01:46.50 ID:jMyFTMMdO
ぎざぎざになったスカートの下には真新しい痣が見えた。

「私に協力してくれないなら、いじめられたって言うけど?」

やられた。
私がやってないと言えば済む話だけれど。
じゃあ、なぜこうなったかと永遠と問答が続くだけだ。

「じ、自分でつけたの?」

「痣? そうよ。私は、気に入らない人に気に入られたいなんて思わないから。徹底的に嫌いになるだけよ」

呆れて、私は破れたスカートを見るばかり。

「先生にはね、前からあの子に酷いことを言われてるって言ってたから、信じてくれると思う。それに、クラスの子もだいたい私が悪口言われてたの知ってるでしょうし」

ももは言った。
私は冷静になろうと過去の記憶と経験を引っ張り出していた。
確かに二人は喧嘩していたけど、ももはここまで引きずったりはしなかった。
今日の夜だって、確か当時、二人が喧嘩して、仲裁に入ろうとはしたけど、結局びびって入れなかった。それで、二人の仲は修復できなかった。
だから、今度は懸け橋になれればなんてそんなことを思っていたのに。

「あなたもばかね。私なんて放っておけば良かったのに。私、気に入った人はとことん自分のものにしたいの」

原因は、私か。
小学生の私が彼女にできなかったことをしてしまったから。
79 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/03(金) 15:06:35.25 ID:oH4qIxGEO
「確かに、みやちゃんがももちゃんにしてることは私も賛成できなかったから、今、ももちゃんサイドにいるわけだけど」

「一度面倒見てくれたなら、最後まで付き合ってよ」

なんというお姫様理論。

「いやいやいや」

彼女の暴論はヒートアップする。
観覧車の眺めも絶好だった。

「あなたが断る権利とかない。私の傷は深いのよ。あなたたち3人のせい。クラスのみんなのせい。なんの助け舟も出さなかった、あの先生のせい。私の傷は誰が治してくれるの? 誰が、謝ってくれるの? あの女? あの女は絶対しないもん」

こめかみが痛くなった。
現実逃避気味に、外を眺めた。

「聞いてるの!?」

叱られた。
鼻息を荒くしていた。
恨みがましく見ている。

「仕返ししたい気持ちがよおおおく、分かったよ。ほんとに、ごめん……私のせいでもあるよ」

「わかってくれただけでは、私の気は収まらないから」

観覧車を降りた時に周囲になんて言い訳をしようか考えながら、

「これからはみやちゃんにそういう悪口とか言わせないし、言ったら私からも止めるように言うよ」

「あなた、さっきまでの私の話聞いてなかったようね。それじゃあ許せないの。何か、罰を与えないと許せないのよ」

身ぶり手ぶり、感情をぶちまける。
この小さな体に、どうやってこんな負のエネルギーを蓄えているんだろうか。
半ば感心して聞いていた。
80 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/03(金) 15:13:31.97 ID:oH4qIxGEO
「提案があります」

私は彼女に言った。

「なによ」

「するなら私に仕返しして、それなら喜んで手伝うから。荷物持ちでも、話し相手でも、できることはするから」

「ふうん?」

一生とかって言われたらどうしようか。彼女はあごに手を置いた。
一件悩んでいるように見えるが、私を困らせるために一計案じようとしている風にもとれた。

「あなた、今だけだしとかって思ってるでしょ」

なかなか鋭い。

「気が済むまでは」

「じゃ、キスしてよ」

「なんで……?」

「できないの?」

できるけど。

「そういうのは好きな人としないと」

ましてや小学生。
これから色々な出会いが待っているのに。
初っ端から変な思い出を作らなくてもいいじゃない。
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