艦これ relations

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1 : ◆mZYQsYPte. [sage saga]:2016/06/30(木) 19:00:11.22 ID:GUujIImdo

夜 海洋連合 トラック泊地環礁内


中間棲姫「貴女、一匹見たら五十匹居ると思えというか……もう感心しちゃうわ」

駆逐棲姫「わ、私をゴキブリみたいに言わないで下さい! 攻撃です!」

中間棲姫「はいはい。無駄無駄」クスクス


爆弾、砲撃、雷撃の雨も彼女には届かない。放たれた何もかもが目標到達前に運動エネルギーを失っていく。


駆逐棲姫「……第七位の艤装作った奴は軍事法廷で死刑確定です」

中間棲姫「無敵でごめんなさいね」


空間の重力を操り上下左右から相手に叩きつければ防御の手段は転じて攻撃となった。


駆逐棲姫「あぎぎぎががががががあああああ」


戦闘は終わり再び静かな海が訪れる。

燃え盛る島と月明かりによって海上はいつになく明るかった。



中間棲姫「さすがにちょっと疲れたわね」

中間棲姫「交代しましょうか?」

中間棲姫「まだ良いわよ」

中間棲姫「分かりました。なら偵察機を出して索敵お願いします」

中間棲姫「了解〜」

〜〜〜〜〜〜

中間棲姫「見事に全島燃えてるわ。飛行場も同じくよ。自爆装置を使ったみたい」

中間棲姫「……トラック司令部の方は全員死亡、ですか」

中間棲姫「これで生きてたら氷河期でも生き残れるわよ。あ、倉庫も見たけど、どうも機密保持は完了してたわ。私たちは余計なお世話だったかしら」

中間棲姫「トラックの皆さんは気持ちの良い方々でしたね」

中間棲姫「? そうね。人間にしては珍しく」

中間棲姫「はい。本当に良い人ばかりが死んでいきます」

中間棲姫「……ちょっと貴女、なにこれ。えっ、何考えてるのよ」

中間棲姫「やっと気付いたんですか」クスクス

中間棲姫「あーもう! やられた! ジェットの機密保持なんて最初から嘘だったのね!」

中間棲姫「はい。八位の気持ちを動かすにはこれくらいしないと駄目でしょう」

中間棲姫「いいの?」

中間棲姫「ちょっぴり死ぬ確率が高いだけですよ」

中間棲姫「少しでも後悔するのなら死んでは駄目よ。死ねば後悔もできないんだからね」

中間棲姫「扉から情報が流れ込んでくれば何もかもが曖昧になります」

中間棲姫「……」

中間棲姫「仮に因果律から恣意的に欲しい情報を取り出せたとして、確かに死の悲しみを癒やすことも出来るでしょう。ですがその行為は繰り返す内にこの世界で自分が成してきたささやかな喜びさえも消していきます」

中間棲姫「……忘れてたわ」

中間棲姫「そんなことさせるものですか」
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/06/30(木) 19:05:17.29 ID:GUujIImdo

中間棲姫「貴女ってほんと、保守で懐古で頑固な馬鹿女だったわ。そういえば」

中間棲姫「そんな照れます」テヘ

中間棲姫「1inchも褒めてないから!」

中間棲姫「扉など、絶対に開かせるわけにはいきません」

中間棲姫「私は良いと思うけど? それはそれで素敵な世界になりそうじゃない?」

中間棲姫「私は絶対に嫌です」

中間棲姫「もー、そんなに怒らないでよ。冗談だってば冗談」

中間棲姫「はいはい。じゃあ八位を探しに行きますからね」

中間棲姫「はーい」
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/06/30(木) 19:07:32.66 ID:GUujIImdo

夜 海洋連合 トラック泊地環礁内


空母水鬼「……姫様、来るよ」

空母棲姫「……」


姿を見せた敵は月を背にし、その逆光で表情までは見えないが爛々と輝く真っ赤な目だけは確実にこちらを見つめていた。

自分は大勢の味方を引き連れている筈なのに、自分の計算が正しければこの相手に負ける筈はないのに……

何故これ程に目の前の相手が恐ろしいのか第八位は自分でも分からなかった。


中間棲姫「こんばんは」

空母棲姫「……こんばんは」

中間棲姫「第三位が死んだみたいね」

空母棲姫「貴女が殺したの」

中間棲姫「ちょっと、そんな言いがかりしないで頂戴」

空母棲姫「……そうね。関係無かった。第三位はもう死んだし、艦娘である貴女はお父様から確保命令が出ていない」

中間棲姫「要するに第三位を誰が殺したか今は興味も無いしどのみち私も[ピーーー]ってわけ。自分で聞いておいて随分寂しいこと言うのね〜?」

空母棲姫「投降の意思を最後にもう一度だけ確かめておくわ」

中間棲姫「私は命が惜しいからそれも良いと思ってるんだけどね」

空母棲姫「…………?」

中間棲姫「もう一人の私は大妖精のやろうとしていることが我慢ならないんだって」クスクス


空母棲姫「撃ちなさい」


空母水鬼「攻撃開始!」

中間棲姫「やーね。まるで私が一人で喋って精神分裂症みたいじゃない」


第八位の後ろに控えていた大型艦の砲門が一斉に火を吹いた。

目標に直撃するコースを飛行している筈の砲弾は徐々に失速し最終的に空中で停止する。

地球の物理法則を捻じ曲げる程に強力な反重力デバイスを備えた艤装、それと相対した者が何度となく直面した現象である

要は縮小再生産、焼きまわし、使い回し……我々も既に何度も目にしたことのあるものだ。


中間棲姫「これじゃ私には届かないわよ。知ってると思ってたけど」

空母棲姫「……そうかしら?」

中間棲姫「?」

空母棲姫「続けなさい」


空母水鬼「第二、第三! 連続斉射!」


中間棲姫が性懲りもなく、と判断したのは時期尚早だった。


中間棲姫「またさっきと…………あら」


砲弾の動きがおかしい。運動エネルギーを全て殺した筈なのに止まらない。


中間棲姫「きゃっ!?」


それは何年ぶりかの至近弾だった。

水面が砲弾による爆発でうねり、巨大な水柱によって海水が天高く突き上がる。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/06/30(木) 19:10:47.31 ID:GUujIImdo

中間棲姫(大丈夫ですか!?)

中間棲姫「ちょ、ちょっとびっくりしただけよ。今のは私の対応ミス?」

中間棲姫(いえ、計算は0.001秒前に済んでいました。何も問題は無かった筈です)

中間棲姫「そうよね。ならなんで」

グラーフ「ワフ! ワフ!」

中間棲姫「どうしたのよグラーフ。上に何が……なるほどね」


艤装からの上を見ろとの言葉に仰ぎ見れば、そこには最新鋭の艦載機が並んでいた。


空母棲姫「反重力デバイスは貴女だけの専売特許じゃ無い」

中間棲姫「私がねじ曲げた空間に艦載機のデバイスで干渉して影響を与えてたわけね。そりゃ計算が狂うわけよ」

空母棲姫「貴女の技は見た目は派手だけれど……その中身は細かい計算処理の積み重ねでしかないことは、もう知っている」

中間棲姫「やーね。でしかないって結構大変なのよこれ」ケラケラ

空母棲姫「ここまでは警告よ。貴女がもう無敵じゃないことはよく分かったでしょう。降伏しなさい」

中間棲姫「お・こ・と・わ・り」

空母棲姫「……分からないの? このまま続ければ貴女、死ぬわよ」

中間棲姫「命はいつか滅ぶものよ」

空母棲姫「何を拘っているの! 意地を張っているなら考え直しなさい!」


第七位と呼ばれる者は目を瞑り、一呼吸おいて再び会話を再開した。


中間棲姫「無責任な言い方をすると私の命を貴女に託します」


それは先程とはまるで違う、柔らかい物腰で何もかもを受け入れるかのような優しい声に変わっていた。


空母棲姫「意味が分からないわ」

中間棲姫「貴女は優しい。だからその道を進んでは駄目ですよ」

空母棲姫「意味が分からないと言っている! 貴女は死んでも蘇ることが出来ないのよ!?」


空母水鬼(姫様……)


中間棲姫「……」

空母棲姫「裏切り者となった貴女の魂がこちら側へ呼び戻されることはない! 深海棲艦が死を超越する時代が来ようとしているのに……何故そんな……!?」

中間棲姫「死を超越する時代など、虚無と同じです」

空母棲姫「言葉遊びをしないで目の前の現実を見なさい!」

中間棲姫「見えています。反重力デバイスに艤装の力が無効化され、きっと私は砲弾の雨の中で死ぬのでしょう」

空母棲姫「それが怖くないの」

中間棲姫「フネとして一度死んでいる筈なのに膝が震えるほど怖いですよ」

空母棲姫「なら黙って私についてきなさい。……決して悪いようにはしないから」
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/06/30(木) 19:14:15.78 ID:GUujIImdo

中間棲姫「ごめんなさい。それは出来ません」

空母棲姫「……私への嫌がらせなのよね」

中間棲姫「そんなつもりは微塵も。命を賭したお願いと言って貰いたいですね」


空母棲姫「盲目に、ただお父様の兵器として生きる道を選んだ私を馬鹿にしてるんでしょ!」

空母棲姫「そうよ。貴女は私と違う。貴女は道具でない自分に誇りを持ち、その気持を守りたいから意地を張って死のうとしてるのよ」


中間棲姫「そう見えますか?」

空母棲姫「ええ!! でなければ貴女の行動の意味が通らない!!!」

中間棲姫「実は私、艦娘だった頃に貴女と戦ってるんです」

空母棲姫「…………」

中間棲姫「ガダルカナル基地を必死に奪還しようと人間がもがいていた時、南方の海で」

空母棲姫「……貴女、あそこに居たの」

中間棲姫「神出鬼没の空母遊撃部隊。率いていたのは貴女とそこの副官さんですよね」


空母水鬼「もしかして沈んだお友達も居たりしたの。それで姫様が憎いとか?」


中間棲姫「いいえ。ちっとも憎くはありません。あれは戦いでしたから。……それに私の周りには兵器ばかりで悲しいとも思いませんでした」

空母棲姫「貴女も兵器じゃない」

中間棲姫「私は第四管区の赤城です。自分の心に従い判断だって出来ます。ただの兵器なんかじゃありません」

空母棲姫「その意味不明な精神論が私と貴女の対話を難しくしているのだけど」

中間棲姫「兵器であるという単純明瞭な理に従った結果、ほとんどの艦娘は何も感じない命令に従うだけの鉄くずに変わりました。そうでない可能性もあったのに」

空母棲姫「だから私には貴女が言っていることが分からないの!! 私にそんな意味不明の可能性を押し付けないで!!」

中間棲姫「いいえ。押し付けます。だって貴女は今、自分を殺そうとしている」

空母棲姫「なんでそんな目で私を見るの……もっと怖がりなさいよ、命乞いしなさいよ」

中間棲姫「……」

空母棲姫「そんな優しい目で私を見つめないで……」


中間棲姫「貴女の誇りは兵器という存在に対してでなく自分自身と戦友に向けられたものですよ。それに気付いてるんじゃないですか」

空母棲姫「同じことよ」

中間棲姫「違います。最初はそうだったかもしれませんが、もう違います」

空母棲姫「貴女と話していると胸が……苦しくなってくる」

中間棲姫「今の貴女は誇りを捨てて自分を殺そうとしているから苦しいんです。貴女はまだ戻れます」

空母棲姫「違うのは貴女よ!!! 私の、道は! この先にあるの!!」

中間棲姫「…………」

空母棲姫「私は甘さを捨てて一人前の兵器になるの。生まれた意義を、意味をこの身を持って証明するの!」

中間棲姫「その意義はもうただの呪いですよ」


空母棲姫「そうよ、呪いよ。何が悪いのかしら。肉体を持ちこの世に顕現した瞬間から私たちは呪われているのよ。仕方ないじゃない。そう生きるしか無いんだから!」

空母棲姫「貴女たち艦娘だって同じじゃない。呪われて呪われて、人間からは忌み嫌われて、それでも人間のために戦う運命を義務付けられて二度も三度も沈められて」

空母棲姫「物好きなんてもんじゃ無いわね。それでも戦い続けるなんて頭がイカれてる!」

中間棲姫「貴女が今日殺して回ったのはそんな運命を乗り越えようとした者たちですよ」

空母棲姫「じ、自分の運命に逆らうからそうなるのよ! 弱い者には存在する権利すら無いわ!」

中間棲姫「なるほど。そうかもしれませんね。歴史は強者の作るものですから」
6 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 19:19:50.93 ID:GUujIImdo

空母棲姫「……もう良いでしょう。降伏しなさい」

中間棲姫「八位」

空母棲姫「……何かしら」


中間棲姫「私たちは呪われている、確かにそうです。兵器として産み落とされ兵器として滅ぶことを決められています」

中間棲姫「弱者に生きる権利は無い……これもそうかもしれません。呪いと怨嗟で作り上げてきた世界に私たちは生きています。決して公平でも公正でもないこの世界に」

中間棲姫「それを変えてみたいと、存在への呪いの無い未来を願うことは罪でしょうか」


空母棲姫「願うことは罪ではないわ。弱いことが罪なのよ」

中間棲姫「強さ弱さを価値基準に置く世界で貴女は幸せになれるのですか。羨ましいですね。私はそんな世界を生きたいとも守りたいとも思いません」

空母棲姫「いつまでも戯言を!!! 砲撃準備!」


中間棲姫「貴女はそうやって、第三位までただ弱かったと切り捨てることが出来るのですか」


空母棲姫「……ッ!!」


中間棲姫「私、あいつのこと好きになれなかったのよね。高慢ちきだし性格悪いし、序列を盾に好き放題するし。けど、大妖精への想いは本物だった」

中間棲姫「しかし大妖精は彼女を軽んじていました。きっと彼女は一度沈んだ存在を復元したものなのでしょう」

中間棲姫「でも失敗した」

中間棲姫「そう。だから日向という鍵を使って因果律に手を出そうとしている」

中間棲姫「ほんと、よくやるわよね〜。ま、推測でしか無いんだけど」


空母棲姫(艦娘と深海棲艦の意識が同時に存在しているの……?)


中間棲姫「私たちはきっと変わることが出来ます」

中間棲姫「一人の男はそれを信じて、信じられた艦娘はそれに応えて変わっていったわ」

中間妖精「だから私たちは貴女を信じます」


空母棲姫「……無責任なこと言わないで」


中間棲姫「貴女は自分自身の進むべき道について迷っている」

中間棲姫「きっと第三位のことも引っ掛かってるのね。この子友達居なさそうだし」ケラケラ

中間棲姫「こら」


空母水鬼「……七位様の言う通りだよ。大妖精様が第三位様をいじめて泣かせたんだ。姫様、それチョー気にしてて」

空母棲姫「……」

空母水鬼「姫様、後で私に怒ってもいいけどさ。もし、もし迷ってるならもう一度考えなおして欲しい!」

中間棲姫「その通りです。呪いを生んでいるその妖精に……従った果てに、貴女の望むものはあるの」

空母棲姫「…………私は」



離島棲鬼「勿論ありますわ。一斉射撃開始」



中間棲姫「……あ〜あ索敵失敗し――――」
7 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 19:22:34.14 ID:GUujIImdo

交信で七位の声が聞こえたのはここまでだった。

突如現れたブレインの命令に従い、待機していた深海棲艦が砲撃を再開しその砲音で何もかもが塗り潰される。

水柱と砲弾煙により中間棲姫の安否は不明だったが、爆発が起こるということは効果的な攻撃が与えられている、つまり相手の反重力デバイスによる戦法を相殺していることと同義だった。

斉射が終わると静寂が訪れた。

空母水鬼「な、何して……」

離島棲鬼「敵を攻撃しただけですが? ねぇ第八位様?」

空母棲姫「勝手に!!」


激情に駆られ私は無意識の内に離島棲鬼の胸元を掴んでいた。


離島棲鬼「何ですかこの手は」

空母棲姫「……少し驚いただけよ。私の前で独断専行はやめなさい」パッ

離島棲鬼「敵はなるべく早く叩くことをお勧めしますわ」

空母棲姫「貴女ごときに言われずとも分かっています!」

離島棲鬼「なら良いのですが?」クスクス


深海棲艦の索敵レーダーは感覚に依存する。

そのため物理法則を超えて長距離からの探知が可能となるのだが感覚故の弱点もある。


離島棲鬼「おしゃべりに集中する余り私の接近を見逃すなんて……仮にもミッドウェーを任された者としてどうなのでしょうね」






水柱が収まったとき、中間棲姫は水面に倒れていた。


中間棲姫「……直撃弾は久しぶりですね」

中間棲姫「そうね……貴女がお腹に大穴開けた時以来じゃないかしら」

中間棲姫「そうかも……しれません」


先ほど八位たちと喋っていた時よりも遥かにか細い、弱々しい声。

ふらつきながらもなんとか立ち上がり周囲の状況を確認する。


中間棲姫「生体リンクが切れてますね……まさか」

中間棲姫「ちょっと……グラーフ、返事しなさいよ」


グラーフ「……」


彼女たちの良き下僕は上半分の殆どを失い息絶えていた。


中間棲姫「……私たちより先に逝くなんて親不孝です」ポロポロ

中間棲姫「やめなさいよ。貴女が泣くと……貴女の目は私の目でもあるんだから」ポロポロ

中間棲姫「……自分に対して強がらなくても良いんじゃないですか?」

中間棲姫「ああそうよ、悪かったわね。私だって悲しくて泣くことくらいあるんだから」


中間棲姫「グラーフ………………今までありがとうございました」

中間棲姫「……貴方のことは絶対忘れないわ」


主人たちの別れの言葉聞くと、まるでそれを待っていたかのようなタイミングで艤装は浮力を失い海中へと姿を消した。
8 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 19:24:15.71 ID:GUujIImdo

中間棲姫「命懸けの博打は失敗。……覚悟してたけどやっぱり死ぬのは痛いわね」

中間棲姫「それすら感じなくなった時に何もかも終わります」

中間棲姫「馬鹿女的には、この痛みが次に繋がるのかしら」

中間棲姫「どうなんでしょう。分かりません」

中間棲姫「そこは繋がるって言って励ましてよ。私、死ぬのちょっと怖いんだから」

中間棲姫「自分で自分を励ますのって虚しいの極地だと思うのですが?」

中間棲姫「たしかにね」ケラケラ

中間棲姫「あー……失敗しました」

中間棲姫「今更死にたくないなんて言っても無駄よ。次の斉射で確実に死ぬんだから」

中間棲姫「約束を忘れていました」

中間棲姫「……あ〜その約束? 実は私も今それ思い出したのよね」

中間棲姫「どうしますか?」

中間棲姫「こういうのは代役を立てるに限るわ」

中間棲姫「なるほど。その手がありましたか」




離島棲鬼「さぁ第八位様、斉射の号令を」

空母棲姫「斉射は無しよ。相手は艤装を失い無力化された。確保するわ」

離島棲鬼「大妖精様は敵の裏切り者を許しますが味方の裏切り者は別です。ましてや今度の第七位は元艦娘……確保したところで死んだほうが楽な拷問の上、殺されますよ」

空母棲姫「そんなことは……」

離島棲鬼「させないとでもおっしゃるおつもりですか? 大妖精様の意思に逆らうとでも?」

空母棲姫「…………」

離島棲鬼「さぁ! さぁ! さぁ!」

空母水鬼「こんな奴の言うこと聞く必要無いよ! 七位様を確保しよう!」

離島棲鬼「黙りなさい小娘!! それでも誇り高き大妖精様の眷属か!?」

空母水鬼「ひうっ」ビクッ


空母棲姫「やめなさい。二人共」

離島棲鬼「……私の姫様が蘇るには大妖精様の世界が実現するしか無いのです」

空母水鬼「第三位を、蘇らせる……」

離島棲鬼「もう一度あの方にお仕えするまで私は死ねない! それで今度こそ守ってみせる! 実現するためならどんな敵だって倒してみせる!!」

空母棲姫「……」

離島棲鬼「さぁ八位様! 撃って下さい! ここで撃てなければこの先も反逆者に対して後れをとります。今、眷属の長たる姫のお覚悟を見せて下さい!」

空母棲姫「……」

離島棲鬼「同志として大妖精様の築く新しい時代へ進みましょう。大妖精様への忠誠を見せて、私に貴女を信じさせて下さい。私の姫様のためにも……お願いします……」

空母棲姫「…………っ」


眉間にシワが寄っていると自分でも分かった。


空母棲姫「……撃てっ!」
9 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 19:25:12.99 ID:GUujIImdo

中間棲姫「黒い月出してブイブイ言わせてた時期が懐かしいわね」

中間棲姫「それ、表現が古いですって」クスクス

中間棲姫「もー……別に古くても良いじゃない」

中間棲姫「黒い月はもう出せませんけど、海面にほら」


指差した先の海面には満月がくっきりと映っていた。


中間棲姫「なによー、最後まで微妙なこと言って。ちっともロマンチックじゃ無いんだから!」

中間棲姫「はいはい。思えば貴女にもお世話になりました」

中間棲姫「はい話のすり替え〜」

中間棲姫「来世では友達として会いたいものです」

中間棲姫「次は私が別個体の雄になって孕ませてあげるわね。ふっふっふ。今度こそ全身征服してやるんだから」

中間棲姫「死ぬ直前に本性が出ると言いますが……これは自分でも凹みますね」

中間棲姫「どぅいぅ意味かしら」

中間棲姫「自分で考えて下さい。あーもう。人が月が云々言ってロマンチックに〆ようと努力してるのに貴女ときたら雄になって孕ませるだの征服だの……ああもう、アホくさい。やってられません」

中間棲姫「あ、アホ!? 最後の最後でアホで終わり?!」

中間棲姫「……ま、楽しみに待ってますから征服しに来て下さい」

中間棲姫「そうそう。素直にそう言っときゃ良いのよ」

中間棲姫「さよならは言いませんからね」

中間棲姫「一度死んだくらいで終わる縁じゃ無さそうだもの」

中間棲姫「次はもう少しナウい感じのセンスを磨いといてください」

中間棲姫「……お互いに、磨く必要がありそうね」

中間棲姫「頑張りまし―――――
10 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 19:27:23.91 ID:GUujIImdo

夜 海洋連合 トラック泊地環礁内


空母棲姫「これで私を同志と認めて下さるかしら」

離島棲鬼「先ほどの不相応な物言いは謝罪します。……それと、私の声を聞き届けて下さったことに感謝致します」

空母棲姫「次はラバウルかブインか。どちらにするの」

離島棲鬼「大妖精様からの御連絡を確認されてないのですか?」

空母棲姫「……? ちょっと待って」


確認すれば視界のウインドウに新着二件との表示が見えた。


空母棲姫「来てるわね」

空母棲姫「…………これは」


二通の内の一方、『Fromお父様』と差出人が明記されたメッセージには長々とした第八位の安否を気遣う親愛の言葉、そしてその最後に簡潔で明快に全軍まとめてハワイへ退却すべしとの命令が記載されていた。


空母棲姫「ハワイへ撤退、というのは文字通りよね」

離島棲鬼「ええ。それ以上の意味と解釈はありません」

空母棲姫「最優先目標だった『鍵』が見つかった」

離島棲鬼「もしくは鍵すら不要になった……私の差し出がましい憶測ですが」

空母棲姫「そうね。お父様の真意はどうであれ方針は決まったわ。全軍に撤退命令を」

離島棲鬼「了解ですわ」

空母水鬼「…………」

空母棲姫「どうしたの。早く麾下部隊へ指示を出しなさい」

空母水鬼「ごめんなさい。急いで実行します」

空母棲姫「……そう。よろしく頼むわね」


連合艦隊は完膚無きまでに殲滅されラバウルへ向けて敗走した。

無防備となったトラック泊地の施設は環礁内に入り込んだ深海棲艦と自爆により月の荒野へと変わり果てていた。

往年、人類の戦線を支え続けた中部太平洋の盾としてのトラック泊地の姿は最早無かった。


連合視点では深海棲艦のトラック攻略に際し非常に大きな損害を強いる戦闘を行ったつもりだった。

総司令部の中でも敵はトラック攻略後に一旦戦力再編成に専念するであろうから、その間ラバウルでは羅針盤を増設しより強固な防衛線を構築出来るだろうという楽観論的な見通しがまかり通りつつあった。

だが深海棲艦側にしてみればトラック攻略に出た損害の決算は……大量生産の出来ないブレインでもある上位種と第四位のコピー品、そして突出し沈められた序列第三位の存在に目を瞑れば想定の範囲内に収まる程度のものだった。

戦場から離れた穏やかな海で整然と待機する無傷の予備兵力はトラック攻略に用いたものと同等の規模であと四回は海戦を行うだけの余裕があった(ただし消耗が激しかった艦載機はその限りでない)


つまり深海棲艦側はただ部隊を交代されるだけで再編成が完了するのだ。

11 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 19:31:12.02 ID:GUujIImdo

逆に海洋連合には予備戦力など存在しなかった。

海上護衛に割いていたリソースすら可能な限り連合艦隊へ組み込み、資源物資輸送の護衛船団要員確保に齟齬をきたし始めていた程だ。

無理を押しての戦いだったが結果は予想を覆すことは出来なかった。


事前のシナリオ通り深海棲艦は海洋連合に正面から打ち勝った。


トラックから全面撤退についても、現場最上級指揮官である第八位は全面的に容認していた。

艦娘精鋭部隊の殲滅成功によりトラックでの勝利は単に一つの戦術的な勝利に留まらず、彼らの根底にあった人類根絶実行のための大戦略においても計り知れない貢献を果たすと彼女は明確に理解していた。

今後状況がどう推移しようとこちらによほど大きな失策の無い限り、絡み合った因果は深海棲艦の戦争勝利へと進むであろう。

仮に空になったトラックを海洋連合が奪い返し羅針盤を挟んで二度目の戦いが行われようと、その時は容易に突破できる確信があった。

主要な戦闘部隊を喪失した連合はもはや組織として崩壊していることを見抜いていたからである。

だからこそ確保したトラック泊地を呆気無く放棄したのだ。


総軍の再編成もまばらにハワイへと戻る航路の半ば、第八位は思索にふけっていた。

この戦いの結果、地球上において一匹の妖精を頂点に置く深海棲艦という軍事機構に対し唯一の抑止力となりうる存在が消滅した。


空母棲姫「…………」


だが例え組織が消滅しようが不利な状況に追い込まれようが艦娘は諦めない。

囚われた友を救い出すため、自分たちの掲げる世界の在り方を求め続けるため、ほぼ確実に己を死へと導く戦場へ万が一の奇跡に望みを繋ぎ、ハワイへと攻撃を仕掛けるに違いない。


空母棲姫「……哀れね」


自殺に近いその行為は一種の美徳なのかもしれないが私には理解不能である。

強さが求められる世界において弱いことは本当に惨めだということは分かる。

行動の選択肢すら失ってしまうのだから。

最後の残存がハワイに飛び込んできたところでこちらが迎撃体制を整えてさえいれば赤子の手をひねるようにすり潰すことが出来るだろう。


空母棲姫「ねぇ、ハワイでの防衛線のことだけど」

空母水鬼「はい」

空母棲姫「……戦いが終わったのにどうして不機嫌なのよ」

空母水鬼「別に不機嫌じゃ無いよ」

空母棲姫「どれくらいの付き合いだと思ってるの」

空母水鬼「…………もう艤装も壊れてたんだから撃たなくても良かったじゃん」


空母棲姫「私も最初はそう思ったけど甘かったわ。あの場では鬼の言う通り上に立つ者としてけじめをつける必要があった。理解しなさい」

空母水鬼「元艦娘だからって殺してたら裏切ってこっちに来る子が居なくなるじゃん!」

空母棲姫「こちら側へ来る艦娘なんてショートランド陥落前辺りから希少な存在じゃない」

空母水鬼「それでも元艦娘だった子の士気に関わるよ! チョー扱い違うもん!」

空母棲姫「お父様は艦娘だろうと姫にしたわ。その逆、人間が裏切った深海棲艦を同等に扱うかしら? 艦娘や人間は第七位一人を捨て駒にしてまで撤退の時間を稼ごうとする奴らよ」

空母水鬼「だっ……て」

空母棲姫「それに姫にまで取り立てられながら恩も忘れて仇なす艦娘を生かしておくなんて、それこそ一般の深海棲艦の士気に関わるわ。対応に差をつけて当然よ。ま、下位種の奴らにそんなこと考える知性なんて無いだろうけど念のため」

空母水鬼「…………」
12 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 19:34:04.90 ID:GUujIImdo

空母棲姫「貴女、やけに第七位の肩を持つけど話を聞いて同情でもしているの?」

空母水鬼「うぎぅっ」ビクン

空母棲姫「少し軍務から離れて頭を冷やした方が良さそうね」

空母水鬼「や、やだよ! こんな大事な時期に姫様の側から離れるなんて!」

空母棲姫「しばらく内地の政務担当をして頭を冷やしなさい」

離島棲鬼「それは困りますわ」

空母棲姫「……いたの」

離島棲鬼「内地で裏切られても対応に困りますから、防衛の最前線へ配置するのはいかがでしょう」

空母水鬼「私が姫様を裏切るわけ無いじゃん! 私のことチョー馬鹿にしすぎなんだけど!」


空母棲姫「…………」


空母水鬼「大体、私の姫様がそんなこと許すわけ――――」

空母棲姫「そうね。この子には最前線を守ってもらおうかしら」

空母水鬼「えっ」

離島棲鬼「とても賢明ですわ。ならば代わって私がお仕え致します」クスクス

空母棲姫「……ええ」



空母水鬼(姫様が私の言うこと聞いてくれない)

空母水鬼(喧嘩してもいつも最後には仲直り出来たのに)

空母水鬼(もう私がいらないからなのかな)

空母水鬼(貴女の隣はずっと私の場所だと思ってたのに、こんな簡単に壊れちゃうんだ)

空母水鬼(……寂しいなぁ)



空母棲姫(部外者に聞かれてしまったら仕方ない)

空母棲姫(もし知られたまま終戦を迎えればあの子に対する周囲の風当たりはどうなる)

空母棲姫(裏切り者としての不名誉が一生付き纏う)

空母棲姫(そんなことはさせない)

空母棲姫(残存ごときならあの子一人で対処出来るわ)

空母棲姫(戦果を上げれば不名誉だって晴らせる……はず)

空母棲姫(側近を変えたくなんて無いけれど)



空母棲姫「ハワイの海を任せるわ。貴女の実力を他の奴らにも見せつけてあげなさい」

空母水鬼「親衛隊、借りてもいい?」

空母棲姫「勿論よ。元から貴女の部隊のようなものじゃない」

空母水鬼「あれは姫様の部隊だよ。私のじゃない。……準備するから先行くね」スィー

離島棲鬼「……」ニタニタ

空母棲姫「あ、ちょっと」



空母棲姫(あの子……もしかして泣いてた?)
13 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 19:35:51.15 ID:GUujIImdo

3月20日

昼 海洋連合 ラバウル基地司令部


夕張D「代表、PQ17輸送船団の北西方向から国籍不明の艦船が警告を無視して接近中です」

長月「国籍を確認……まぁもう関係無いか。我々の敗北はどの国も知るところとなったわけだ」

夕張D「……どうされますか」

長月「深刻に考えるな。護衛はついているだろう」

夕張D「はい。水雷戦隊が護衛に当たっています。第43、旗艦は矢矧です」

長月「あいつなら安心だ。相手が警告を無視するようなら撃沈してしまって構わんと伝えてくれ。致死弾頭を持っている可能性もあるから接近はしないように」

夕張D「了解です」


茶色妖精「人間どもめ、我らの不利を知ると露骨に動き始めおった」

長月「このご時世に死体蹴りは普通だろ。まぁ私は絶対許さないけどな」ケラケラ

嶋田「やれやれ」


港湾棲姫「……そんな笑い合っている場合か」


長月「あれ、お前だけか。姫はどうした?」

港湾棲姫「……私も姫だ」

長月「それもそうか。じゃあそのえー、五位の姫だ」

港湾棲姫「……五位なら自分の家だ」

長月「家へ帰ったか。戦死が伝わるまでは元気だったんだけどな」

港湾棲姫「……七位は本当に強かった。私も未だに死んだのが信じられない」

長月「変わった奴だったが話の分かる良い奴だった」

港湾棲姫「……彼女は元艦娘。お前たちと気が合ってもおかしくない」

嶋田「おいちょっと待て。艦娘が役職持ちになることもあるのか」

港湾棲姫「実力さえあえればお父様は出自に関係なく誰であろうと重用される。それなりの待遇で」

嶋田「七位が艦娘だったなんて聞いてないぞ」

港湾棲姫「……言っていなかったからな。他にも第四位が元艦娘だった筈」

嶋田「四位とはどいつのことだ」

港湾棲姫「……お前たちの符牒で戦艦棲姫と呼ばれていた」

嶋田「ショートランドの……! あいつも艦娘だったのか」

長月「なぁ六位」

港湾棲姫「……なんだ」

長月「その二人の中身を、艦娘だった時の名前を覚えているか」

港湾棲姫「……覚えている。第四位がナガト、第七位がアカギ」

長月「私の感性も腐ったものだな。こんな近くに居た戦友に気づかないなんて」

港湾棲姫「……七位は出自を隠そうとしていた。だから私も言わなかった」

長月「まぁその話はまた後でしよう。お前のところに大妖精から届いたという連絡の話を頼む」

嶋田「そ、そうだな。少し脱線がすぎた」

茶色妖精「賛成でござる」
14 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 19:38:23.03 ID:GUujIImdo

港湾棲姫「……お父様は目標を達成し鍵を手に入れた」

長月「日向か」

港湾棲姫「……」コク

茶色妖精「それで大妖精はお前たちにはなんと」

港湾棲姫「……連合はもうどうでもいいからハワイへ一度帰ってこい。姉たちと会える。要約すればこんなところ」

長月「準備は整ったわけか」

港湾棲姫「……そちらの潜水艦による偵察でも深海棲艦が撤退済みなのは確認したはず」

嶋田「ああ。19からの報告とも一致する」

長月「六位、お前はどうするつもりだ」

港湾棲姫「……私は帰った方が良いと思う。正直に言ってしまえば今の海洋連合は存在意義を持たない集団。身を置く意味も無い」

茶色妖精「ず、随分と見くびってくれたものでござるな」

長月「だが事実だ」

港湾棲姫「……お前たちはもうまともな海上戦闘も出来ない」

茶色妖精「致死弾頭対策をした艦娘を量産できれば状況も変わるでござる!」

港湾棲姫「……そんな時間を我々が、いやお父様が与えると思うのか?」

嶋田「まず無理だな」

茶色妖精「むぎぎぎぎ」

港湾棲姫「……五位も九位も、勿論私も一度ハワイへ戻った方がいい。ここで怠惰な時間を過ごすより余程有意義」

茶色妖精「こやつ言いたい放題!!!」

長月「まぁまぁ。血圧が上がるぞ」

茶色妖精「長月殿はなぜそんなkdakfdakffjkadalkdfja!!!!!!」

長月「あーもううるさいうるさい。ちょっと黙っててくれ」モギュッ 茶色妖精「ムギュゥ」

港湾棲姫「……私たちを逃すのか」

長月「いやいや。逃すもなにもお前たちは元々客人だ。戦闘に巻き込んで申し訳ないくらいだよ」

港湾棲姫「……その余裕は理解出来ない」

長月「あと何ヶ月かここに居れば虚勢の張り方くらい簡単に覚えられるぞ」ケラケラ

港湾棲姫「……馬鹿?」

長月「そうだな」

港湾棲姫「……もういい帰る」スタスタ

長月「六位」

港湾棲姫「……なに」ピタッ

長月「初めての海洋連合はどうだった。楽しかったか」

港湾棲姫「……怠惰な時間を過ごしてしまった。無駄だった。この場所には違う何かがあると思って来たのに期待外れ」

長月「有意義な結果だけ欲しがるのは人間ぽいな」

港湾棲姫「……」

長月「すまん。ちょっとお前を苛めたくなった」

港湾棲姫「……素直に言われても困る。お前たちにはこんな場所が魅力的に感じているのか?」

長月「ああ。ここは最高さ。私たちがもう誰かの操り人形なんかじゃない証明で、もう好きでもない誰かのために戦わなくていい」

港湾棲姫「……皮肉?」

長月「お前の感じ方によっては嫌味にも、皮肉にも、ただの感想にもなる」

港湾棲姫「……」

長月「いらないと思うものこそ愛すべき本質だったりするんだよ。……また会おう六位。出来ればこっちの世界でな」ヒラヒラ
15 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 19:39:55.21 ID:GUujIImdo

夜 海洋連合 飛行場姫の島


ヲ級改「急に呼び出してごめんね。ちょっと私たちじゃどうしようもなくて……」

重装兵「負けたから落ち込んでるのか?」

ヲ級改「仲の良かった艦娘や深海棲艦が結構居なくなっちゃってね」

重装兵「俺に慰めろと」

ヲ級改「うん。多分、今の姫様に届くのは貴方の声だけだから」

重装兵「……やってみる。期待はしないでくれよ」

ヲ級改「ううん。ありがとう。じゃあ私たちは外に居るから困ったらいつでも」

重装兵「ああ」



一人で部屋の中へと歩を進める。彼女は床で力なく横になっていた。

こちらに背を向けて寝ているから表情までは分からない。

長く白い髪がまるで敷き詰められた絨毯のように床で幅を利かせている。

彼女は乱れた髪を気にする余裕も無いほどに憔悴しているのだろうか。


重装兵「君の部下が急いで来てくれって言うから来たけどさ」

飛行場姫「……」


彼女に反応はなかった。少なくともその寂しげな背中を見る限り反応は無いように見えた。


重装兵「き、君のせいで戦いに負けたわけじゃない。あんまり落ち込まず――――」

飛行場姫「あそこで私が迷わなければ配下の深海棲艦が裏切ることは無かった」

重装兵「?」

飛行場姫「裏切りが無ければ七位が単独で戦闘を行うようなことも無かった。死ななかった」

重装兵「……」

飛行場姫「なぁ田中、誰かが死ぬのなんて悲しくないと思ってたのにさ」

重装兵「うん」

飛行場姫「今の私、全然割り切れてないんだ。昔みたいに死んじゃったものは仕方ないって全然思えないんだよ」

重装兵「……分かるよ」

飛行場姫「ブロンディの言う通り私弱くなっちゃってた。迷って悩んで、大事なものを失って初めて気づくなんて」

重装兵「うん」

飛行場姫「もうこれ以上失いたくない。でもきっと失っちゃう。私が弱いから日向や長月たちも側近も……きっとオマエまで」

重装兵「……」

飛行場姫「それが怖くて。体が動かない」

重装兵「怖がること無いさ」


飛行場姫「どうして?」ムクッ



俺の返事が意外だったのか、彼女は今日初めてこちらを向いて返事をしてくれた。

彼女の目はいつも通り赤くて綺麗だった。
16 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 19:41:23.80 ID:GUujIImdo

重装兵「いつか無くなるものだから」

飛行場姫「オマエだって色んなもの失ってきたのにどうしてそう言えるんだ。私はもうこれ以上失いたくなんて無いんだ」

重装兵「発想が違うよね。俺にとって無くなるのはもう前提なんだ。いつか無くなるからこそ今が大事なんじゃないか」

飛行場姫「最初っから諦めてるのか」

重装兵「そうとも言うね。でも危機感を持って動くほうが怖がって寝るよりよっぽど良い」

飛行場姫「……かもな」

重装兵「よし。少しでも同意してくれるならちょっと話がしたいんだけど」

飛行場姫「うん。そだな。寝ててもどうにもならんしな」

重装兵「なら改めまして。おかえり姫様」

飛行場姫「ただいま」

重装兵「ここの寝心地はどうだい」

飛行場姫「やっぱ家は落ち着くな」

重装兵「俺は初めて来たんだけど汚い家だね」

飛行場姫「やかましいわ! 失礼この上ない!」ウガァ

重装兵「あははは」


重装兵「深海棲艦が撤退したって本当かい?」

飛行場姫「うんもう完全にな。ハワイまで帰ったっぽい」

重装兵「何のために攻めて来たのかよく分からないんだけど」

飛行場姫「人間を殺すよりも優先する目標があってそれを達成したんだ」

重装兵「そんなのがあったのか」

飛行場姫「トーちゃんは今死んだネーちゃんたちを蘇らせるために頑張ってる。……私にも一度帰って来いって連絡が来た」

重装兵「うん」

飛行場姫「私もまたネーちゃんたちに会いたい気もするけど、七位の言う通り世界の理を捻じ曲げるのは駄目な気もする」

重装兵「優柔不断」

飛行場姫「否定できねー。自分でも分からんし」

重装兵「否定していいよ。ネガティブな言葉なんて全部跳ねのければ良いんだ」

飛行場姫「私はそんな単純な頭してねーよ。……オマエはまた卯月に会いたいか?」

重装兵「会いたいさ。会ったら謝り倒すことになるんだろうけど」

飛行場姫「だったら蘇らせた方が嬉しいのか?」

重装兵「いいや、そもそも会えるわけがないからその質問はナンセンスだ」

飛行場姫「扉が開けば会えるんだ」

重装兵「同じ存在には二度と会えないよ」

飛行場姫「トーちゃんなら同じに作れる」

重装兵「その同じってのは似てるだけだ。本物とは違うよ」

飛行場姫「ホントに同じだって」

重装兵「死んだものは二度と蘇らない。それが俺の知ってるこの星のルールだ」

飛行場姫「……意固地になってんじゃねーぞ。そのルールを私のトーちゃんは変えれるんだ」

重装兵「あはは……。なんかそんなこと出きっこないって思っちゃうんだよね」
17 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 19:44:37.68 ID:GUujIImdo

飛行場姫「命が蘇るのにそーんなに反対なのか?」

重装兵「別に反対でもないかな。どうせ出来ないから考えたこともなかった」

飛行場姫「もし出来たら」

重装兵「うーん……何度でも生死を繰り返せる、つまりトライアンドエラーで成功するまで無限に人生を繰り返すことが出来る。それってやりたいこと全部できるってことだろ」

飛行場姫「うん。何度でも繰り返せるんだから全部できるようになるだろうな」

重装兵「何もできないことと何が違うんだ?」

飛行場姫「えっ、真逆じゃん」

重装兵「少なくとも人間は出来ないことがあるから努力するし後悔もする。喜んだり悲しんだりっていうのは結果に到達するまで試行錯誤する過程の中にその種がある」

飛行場姫「うん」

重装兵「その種が色んな感情な元なわけだけど、もし結果が決まってるならその種も生まれやしない。ほら、なんていうか、君は最初から結果が分かってることにワクワクするかい?」

飛行場姫「……しねーだろうな〜」

重装兵「だろ。もしそんな状況で卯月に会って謝っても、その行為の意味なんて無くなってしまう気がするんだ。だからもし出来たとしてもしないだろうな」

飛行場姫「謝りたくて仕方なかった奴がよく言うよ」

重装兵「二度と謝れないからこそ早く死にたかったんだろうね。昔の俺は」

飛行場姫「確かに結果が分かったゲームなんて詰まんないけどさ」

重装兵「うん」

飛行場姫「私は何があろうとオマエとずっと一緒に居たいって思うよ」

重装兵「……お、おう」

飛行場姫「どうして困ってんだ」

重装兵「こういうところがなぁ」

飛行場姫「こういうところがなんだよ? ……きっとトーちゃんもさ、ネーちゃんたちとずっと一緒に居たいんだ」

重装兵「一緒に」

飛行場姫「うん。そうだ。理屈じゃない。トーちゃんはもう本当に純粋に、私たちと一緒に居たいだけなんだな」

重装兵「純粋さって奴は強いし眩しいよ。でも打算じゃない分、折れた時に傷も大きくなる」

飛行場姫「そだな、トーちゃんは私たち姫のことになると眼の色が変わっちゃうし冷静じゃなくなるよ……でもさ、そんなところだって可愛いじゃん?」

重装兵「世界中を死の渦へ巻き込んでもそう言える君が羨ましいよ」クス

飛行場姫「だよな〜。家族びいきの私でもさすがに擁護がしんどいわ〜」ケラケラ


飛行場姫「喋ってちょっとスッキリ出来たよ」

重装兵「そのつもりで来たからね。良かったよ」

飛行場姫「今は悲しんでる時じゃなくてこれ以上悲しみの連鎖を生まないために頑張る時だ」

重装兵「そのためには?」


飛行場姫「艦娘を守るより大元のトーちゃんを止める方が先決だ。今のトーちゃんには戦果よりも何よりも私の手だ」

飛行場姫「手で包んでほっぺたに親指当てて、俯いてじゃなくて真っ直ぐ目を見ながらやめるようお願いする」


重装兵「それで解決しそうなのかい」

飛行場姫「分かんない。多分、しないんだろうな。でも今この瞬間この世界で一番私を必要としてるのは間違いなくトーちゃんだ。だから行かなきゃ」

重装兵「うん」
18 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 19:48:12.33 ID:GUujIImdo

飛行場姫「トーちゃんは呪いみたいな感情に縛られて周りに不幸を撒き散らしてる。戦争の元凶って言われる妖精を誰も救おうとはしない。……他のことに頭がいっぱいで今まで忘れちゃってたよ」

重装兵「忘れてたんじゃないよ。今だからこそ行けるんだ」

飛行場姫「そうかな?」

重装兵「そうだよ。本当にすべきことは馬鹿らしいくらい簡単なものさ。するまでとした後が難しいんだけどね」

飛行場姫「……あー」


重装兵「俺も間違った選択肢を選び続けてた。建前とか面倒な現実に惑わされて選びとるべきものを非現実的だって決めつけてさ」

重装兵「その点、君がさっき見つけた答えは本当に非常識かつシンプルだ。きっと正しい」


飛行場姫「なんだそれ。非常識でシンプルってイカれてるだろ」ケラケラ

重装兵「そこがこの世界の面白いところだよ」ゲラゲラ

飛行場姫「私たちって似たもの同士なのかもな。ここまで失わないと気づけないなんて」

重装兵「かもな」

飛行場姫「それまでの犠牲が大きすぎて天国には行けそうにないなこりゃ」

重装兵「一緒に地獄へ行こう」ケラケラ

飛行場姫「しょーがねーな〜。でもホント死んだ奴らにはかける言葉もねーよ」

重装兵「仏様は許してくれないだろうけどさ、俺は君のお陰で自分を許すことが出来た」

飛行場姫「お、良かったな! トラウマ克服じゃん!」

重装兵「ああ。自分で出来たというか君に許してもらった、だね。本当に感謝してるよ」

飛行場姫「そりゃなによりだ」ケラケラ

重装兵「今度は俺が君を許すよ。これからすることをどこの誰が咎めようと俺だけは味方だ」

飛行場姫「……もしかしてあの時と逆だぞ〜って言いたいのか?」

重装兵「ま、借りくらいは返しとかないとね」

飛行場姫「バーカ。私のカリをこれくらいで返せるわけ無いだろ。オマエごときだと利子だけで一生ローン組んでも足りねーよ」ケラケラ

重装兵「ならその利子分くらいは生にしがみついてみるさ。君の助言に従ってね」

飛行場姫「口だけは達者になりおってからに……」ムムム

重装兵「嬉しいなら素直に嬉しいって言えよ」

飛行場姫「ムッフッフ。私を許してくれるのは実はオマエだけじゃねーんだよ」

重装兵「へぇ?」

飛行場姫「戦艦と空母と戦艦と空母の混ざりもんがいつも私の側に居てくれんだ。あいつらだって何があっても私の味方でいてくれる」

重装兵「そんな四人が居たのか」

飛行場姫「いや三人だぞ」

重装兵「えっ」

飛行場姫「えっ」

重装兵「『戦艦』と『空母』と『戦艦』と『空母のまざりもん』」

飛行場姫「そう。『戦艦』と『空母』と『戦艦と空母の混ざりもん』」

重装兵「四人じゃん」

飛行場姫「三人だつってんだろーこのタコ助」

重装兵「日本語やり直せこのアンポンタン」

飛行場姫「下っ端の兵士が数も数えられんからオマエの国は戦争に負けるんだよ」

重装兵「殴るぞ」

飛行場姫「ちょっと私も言い過ぎた。落ち着けって。な?」
19 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 19:49:43.05 ID:GUujIImdo

飛行場姫「今度ハワイに行ったら多分もうここへは帰ってこれないと思う」

重装兵「俺とずっと一緒に生きたいとか言ってたくせに。嘘つき極まりないぞこの女」

飛行場姫「あのな、人間? 世の中には理想と現実ってのがあってだな、現実はとっても非情でな?」

重装兵「あー、分かってるって。頑張ってきな」

飛行場姫「私もそうしたいのは山々なんだけどな〜」

重装兵「俺のことは気にしなくていいから。多分この世界で一番孤独な奴を助けてやってくれ」

飛行場姫「……頑張るな! その代わりオマエは私の事想いながら存分にシコっていいから!」

重装兵「シコるの意味を言ってみろ」

飛行場姫「シコるってのは恋人を失った悲しみに枕を涙で濡らすことだ! レ級が言ってた!」

重装兵「うーーーーん」

飛行場姫「だからさ、寂しくても泣くんじゃねーぞ?」

重装兵「いいよ、君なんか居なくたって俺はちっとも寂しくないからな」

飛行場姫「トーちゃんが私が責任を持って止めるよ。絶対お前を死なせたりしないから」

重装兵「はいはい。期待してる期待してる」

飛行場姫「もちっと期待したってバチは当たんねーんだけどな〜〜!! ……ま、いいや」



飛行場姫「レ級、ヲ級、タ級! ワイハー行くぞワイハー!」ギャーギャー


レ級改「おっ? なんだ急に」ヒョコ


タ級改「この時期にハワイへ行くなんて正気じゃありませんね」ヒョイ


ヲ級改「じゃあ腹肉オバサンは行かないの? 私はついて行くけど」ニョッキリ



タ級改「まさか。それでも私は姫様の部下として……オラこの腐れ空母コラ」グシャッ

ヲ級改「あばばっ、ばばっばっ!!! 頭蓋がっ! 頭蓋がぁぁぁ!」ビクンビクン

飛行場姫「お前ら、迷惑かけたな! 別に悪いと思ってないけどな! 一応な!」

レ級改「姫様はそうでなくっちゃ」ケラケラ

タ級改「どこまでも、地獄まで一緒ですよ」

飛行場姫「それはお前一人で勝手に行けよ」

タ級改「ひ、ひどい!?」




ヲ級改「人間くん、ありがとね」ヒソヒソ

重装兵「好きになった方の負けだよな。こういうのってさ」ヒソヒソ

ヲ級改「んふふ。それちょっと可愛いからご褒美あげる」チュッ

重装兵「お、おいっ!」

ヲ級改「君良い奴だね。ま、私は提督の方が好みだけど?」

飛行場姫「ゴラァ!! なにをしとるか貴様らぁ!」ウガァ

ヲ級改「秘密〜♪」
20 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 19:52:02.94 ID:GUujIImdo

3月21日

朝 海洋連合 ラバウル総司令部


重装兵「――――以上が五位の姫からの伝言です」

長月「ご苦労。よく伝えてくれた」

重装兵「あの、長門さんは?」

長月「あいつは別に司令部要員じゃ無いぞ。今は艦隊の任務で哨戒へ出てるよ」

嶋田「……」

重装兵「ご無事なんですね。よかった」

長月「お前が心配すると面白いな」ケラケラ

重装兵「もう今は仲間のつもりですから。失礼します」

長月「ありがとう。じゃあな〜」



嶋田「……長門君のシグナルは」

長月「もう無い。沈んだと考えるのが妥当だろうな」

茶色妖精「日向殿も捕まったまま、人質の姫も帰して最早おらず……長月殿、この後はどうされるのか?」

長月「私が何か考えてると思うか? 駆逐艦だぞ駆逐艦」シレッ

嶋田「……職務放棄するな」

茶色妖精「頼むでござる……」

長月「逆に妖精に何かウルトラCは無いのか。超能力使ったりさ」

茶色妖精「そんなものはござらん。もしあっても使えんでござる」


長月「艦娘作ったんだから最後まで責任取れ〜」


茶色妖精(長月殿の目が据わってござる……)


長月「ていうかお前らは一体いつまで私たちの味方をしてくれるんだ」

茶色妖精「いつまでとは?」

長月「海洋連合の奴らが死んで居なくなったらどうするんだ。また人間に頭下げて場所借りて戦い続けたりとか」

茶色妖精「そうでござるな。まだ確認を取っておらんので今から言うことを妖精全体の決定だとは思って欲しくないでござるが……」

長月「うん」


茶色妖精「おそらく我々は人間を見捨てるでござる」


嶋田「見捨てる……?」

茶色妖精「元々人間の生態系破壊についての議論から始まった分裂ですからな」


茶色妖精「あれは人間の可能性を信じるが故の同盟でござったし、またその上に成り立つものでござった」

長月「それは最早無い」

茶色妖精「うむ。結局艦娘は所詮ただの道具と見なされこき使われ、変わろうとした人間は仲間内から排除されてしまった。その帰結がブインでありこの場所でもある」

長月「……」

茶色妖精「我々のそもそもの目的は地球の生命を守ること。この場所が無くなれば、残った道は一つだけでござる」

嶋田「人間としてはなんとかお助け願いたいもんだがな」

茶色妖精「妖精としてもそうしたいのは山々なのですが。まぁ少なくとも海洋連合が残っている間は妖精は人間の味方でござるよ」

長月「そりゃありがたい」
21 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 19:53:28.01 ID:GUujIImdo

昼 ハワイ 宮殿



会議室には一匹の妖精と一体の深海棲艦のみが居た。



大妖精「大体は文章で読ませてもらった。今日はお喋りしたいが時間も無い。何か伝えたいことがあったら今伝えておいて欲しい」

空母棲姫「配下としてお預かりしていた第三位を失ってしまいました。私の不徳の致すところです。この処分は――――」

大妖精「八位、他の姫たちはどうした」

空母棲姫「……帰ってくるよう再三呼びかけをしたのですが。申し訳ございません」

大妖精「残念だよ。実にね」

空母棲姫「しかし、この勝利によって艦娘は組織的な動きが出来なくなりました」

大妖精「ああ、その点についてはよくやってくれた」

空母棲姫「海洋連合の処分なのですが、いかがいたしましょう」

大妖精「捨て置け。あっちは戦力補強もままならない集団だ。こちらの好きなタイミングで叩けば潰せる」

空母棲姫「はい」

大妖精「お前の妹に当たる存在も間もなく完成するからな。攻撃するのはそれからでも遅くない。今はとにかく儀式と人質になった姫の救出を優先する」

空母棲姫「かしこまりました」



空母棲姫「……扉はいつ開くのでしょうか」

大妖精「早く姉に会いたいのか?」

空母棲姫「……はい」

大妖精「私もだ。だがもう少し待ってくれ。最終調整に意外と手間がかかってな」

空母棲姫「何か問題が」

大妖精「うむ。艦娘の中身の覚醒が未だ成ってない。中の存在は確認しているし、こちら側からの呼びかけも届いている筈なんだが……」

空母棲姫「目を覚まさない、ということは命令を受け付けていないのでは?」

大妖精「いや、深海棲艦としての部分が残っている限りそれは無い。マスターコードを通して行う命令は絶対だ」

空母棲姫「扉が開けない可能性、というのは」

大妖精「ああ、そこは心配するな。私が必ず開いてみせる」

空母棲姫「……とても楽しみです」
22 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 19:54:40.52 ID:GUujIImdo

空母棲姫「お父様、提案がございます」

大妖精「ん?」

空母棲姫「艦娘は恐らくハワイへ来ます。私の一存で防衛線を構築したいのですがよろしいでしょうか」

大妖精「もちろんだ。軍備関係はお前に一任している。今は行動の主導権も議会にあるしな。今後とも我が悲願成就のため尽力して欲しい」

空母棲姫「力一杯お父様の為に尽くします。それこそが私の生まれた意味です」


娘はその大きな両手で小さな父親を包み、頬に親指を添えた。


大妖精「お前には大いに期待している」

空母棲姫「ご期待には必ず応えます。……ですので一つだけわがままを言ってもよろしいでしょうか」

大妖精「おお、珍しいな。言ってみなさい」

空母棲姫「……扉が開いた時に、呼び戻して頂きたい者が」

大妖精「なんだそんなことか。きっとお前が言っているのは姫のことだろう」

空母棲姫「……はい」

大妖精「なら心配するな。その者も必ず連れ戻す」


空母棲姫「ほんとうですか!」モギュッ


大妖精「痛い痛い! 手に力を入れすぎるな!!」

空母棲姫「も、申し訳ございません」

大妖精「いや、そうだな。勇む気持ちは私もよく分かる。その日にはお前を必ず神姫楼へと呼び出すから。それまでしばし待ってくれ」

空母棲姫「ありがとうございます。命ある限り、お父様のためにのみ戦い続けます。どのようなことでもお言いつけ下さい」



恐れ多くも神である妖精と目を合わせることなどせず、ひたすら下を向き感謝の辞を述べる。

私は間違ったことをしていない。むしろ美しいほど見事に指揮官としての役柄をこなしている筈だ。



大妖精「……うん。だが最優先は他の姫の確保だからな。もう下がれ。私は忙しいんだ」

空母棲姫「はっ!」



それなのに何故お父様は不機嫌なのだろう。
23 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 19:55:45.91 ID:GUujIImdo

3月22日 

昼 ハワイ近海


空母棲姫「北緯30度のラインに哨戒機を増やしなさい。あとその位置だと機動部隊が敵に補足されやすくなるから駄目よ」

駆逐棲姫「了解。ではどちらに配置すれば」

空母棲姫「自分では何も考えられないの?」イライラ

駆逐棲姫「す、少し考えて再度作戦書を提出します。失礼しま〜す」スタコラ


空母棲姫(指示を出しても中々通らない。……あの子が居ないだけでこんなにも効率が悪くなるなんて)


離島棲鬼「ああ、姫様。大妖精様からの許可もいただきましたので紹介しますわ」

空母棲姫「……?」

離島棲鬼「私に新たに仕えることとなった艦娘です。以後お見知り置きを」

戦艦水鬼「……」ペコ

空母棲姫「四位……いえ、ちょっと違うわね」

離島棲鬼「同名艦のようです」

空母棲姫「通りで」

離島棲鬼「ですが四位様よりも性能が良いようで……ほら、見てくださいこの艤装。誰も使いこなせず埃を被っていたものですよ」ペチペチ


戦艦水鬼「おい、触るな」

離島棲鬼「あら? 自分のものを触られるのが嫌なのかしら?」ペチペチペチペチ

戦艦水鬼「いや……ハルカは噛み癖があってだな。噛まれるぞ?」

ハルカ「グァオ」ガプッ

離島棲鬼「わ、わ、わたくしの手が!?」

戦艦水鬼「言わんこっちゃない」

ハルカ「グルグル」ギリギリ

離島棲鬼「いだだだだだだだだだだ!!!! 痛い痛い!!!」

戦艦水鬼「ハルカ、あんまり噛むなよ。汚い汁で腹を下すぞ」

離島棲鬼「無礼な! あぁぁぁ駄目よハルカちゃん! 千切れる!! わたくしのオテテが千切れちゃう!!!!」



空母棲姫「ねぇ」

戦艦水鬼「……私ですか?」

空母棲姫「何故今更こちら側についたの」

戦艦水鬼「命が惜しくなったんです」

空母棲姫「舐めてるの」

戦艦水鬼「……」

空母棲姫「嘘つきは嫌いよ」

戦艦水鬼「深海棲艦は夢を見ますか」

空母棲姫「夢?」

戦艦水鬼「艦娘は見るんですよ。夢の中の私は一人の女だった」


空母棲姫(この子、壊れているのかしら)
24 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 19:56:56.85 ID:GUujIImdo

戦艦水鬼「毎晩毎晩、今の私には決して手に届かない幸福を掴まされる」

空母棲姫「……」

戦艦水鬼「起きた時の喪失感ときたら無い、虚しい限りだ」

空母棲姫「それと裏切りにどんな因果関係があるの」

戦艦水鬼「もう一度会いたい男がいる」

空母棲姫「……男」

戦艦水鬼「この世界でまた会えるのなら今まで築いてきた地位なんていらない。戦艦としての誇りだって捨てられる」

空母棲姫「……」

戦艦水鬼「同胞だった艦娘に裏切り者と誹られようと忌み嫌われようと知るものか……私は自分の一番望んだことをするだけだ」

空母棲姫「……」

戦艦水鬼「なぁ、お姫様。自分で聞いておいて目を背けないでくれよ」

空母棲姫「…………」


戦艦水鬼「穢らわしいって顔してるな」クスクス

空母棲姫「もういいわ。ありがとう」

戦艦水鬼「冷たいじゃないか。目くらい合わせてくれよ」

空母棲姫「その必要は無いわ。側近、この子を連れて下がりなさい」



離島棲鬼「いだいいだいいだいぃぃぃ!!」

ハルカ「グラァァ」ゴリゴリ



空母棲姫「……」

戦艦水鬼「怖いのか」

空母棲姫「は?」

戦艦水鬼「そうかそうか。あはは! なるほど、だから目を合わせたくないわけか」

空母棲姫「……いい加減に不愉快な子ね。勝手に納得しないで頂戴」

戦艦水鬼「私の中に自分を見るのが怖いんだな。こんな薄汚い存在と同じ願いを持つ自分がいるかもしれない、それを確かめるのが恐ろしくて仕方ない。あははは……可愛らしいじゃないか」

空母棲姫「へぇ、言うじゃない」ピキピキ

戦艦水鬼「他からいくら見苦しくたって良いだろう。そんなもののために願いを殺すなよ」

空母棲姫「貴女こそ私を同一視しないで頂戴。戦いから逃げた奴と同じ扱いをされるのは癪だわ」

戦艦水鬼「安っぽいプライドだな」ケラケラ

空母棲姫「……下がりなさい。貴女とは気が合わないみたいだし」

戦艦水鬼「そうか。ならそうするさ。……おいハルカ、いつまで噛んでるんだ」



ハルカ「グォ」カポッ

離島棲鬼「や、やっと放してくれた……」フゥ



戦艦水鬼「メッキのお姫様、私は望みのためならなんでも殺す。精々活用してくれ」

空母棲姫「……」イライラ

離島棲鬼「あ、あら? いつの間にか険悪なムードになって……?」

空母棲姫「……さっさと下がりなさい」バチン

離島棲鬼「プベシッ!!」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/06/30(木) 19:57:57.70 ID:rFNpbvXYO
乙
だけどスレタイに2とか付いた方が見つけやすかった
26 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 19:59:06.42 ID:GUujIImdo

夜 ハワイ 神姫楼


駆逐棲姫「大妖精様」

大妖精「……なんだ。調整中だから急用以外は通すなと言っただろう」

駆逐棲姫「その、あの、姫様たちが帰ってきました」

大妖精「なんだと!? 何故もっと早く言わん!!!」

駆逐棲姫「いや、だからこうして――――」

大妖精「全員帰ってきたのか!」

駆逐棲姫「はい。五位様、六位様、それと九位様です」

大妖精「それはめでたい!! 宮殿で出迎える!」

駆逐棲姫「かしこまりました」




夜 ハワイ近海 第一次防衛線


空母水鬼「……大妖精様の許可が下りたから本土までエスコートするよ」

飛行場姫「ならこのイカツイ奴らどけてくれね……? 砲門向けられるの怖い」

空母水鬼「みんな、もういいよ」

飛行場姫「ふぃい。助かったよ」

空母水鬼「……五位様は人間のこと諦めたの?」

飛行場姫「ん? 諦めてねーぞ」

空母水鬼「姫様たちがハワイに帰ってくれば海洋連合も無くなっちゃうじゃん」

飛行場姫「トーちゃんの本当の望みを叶えてやれば万事丸く収まる!」

港湾棲姫「……だ、そうだ」

北方棲姫「です!」


空母水鬼「バッカみたい。そんなの無理なのに」

飛行場姫「無理という言葉は行動しないもの言い訳でうんたらかんたら〜」

空母水鬼「……」

飛行場姫「ていうかオマエ元気なくね?」

空母水鬼「ノーテンキな五位様にはそう見えるかもね」

飛行場姫「んだとコラァ!」プンプン

港湾棲姫「……本当に辛そうだ。大丈夫か?」

空母水鬼「辛いのなんてチョー当たり前じゃん。六位様も艦娘に毒されすぎなんじゃないですか」

港湾棲姫「……」

空母水鬼「っ、ごめんなさい。言い過ぎました」

港湾棲姫「……いや。気にしてない」



港湾棲姫(辛いのが当たり前)

港湾棲姫(否定だ。以前の私に辛いなどという感情は存在しなかった)

港湾棲姫(冷徹と怒り、人間への憎しみ、そして死への恐怖。それのみが私を構築していた)

港湾棲姫(あの怠惰な日々は私にとっても意味があったのか)

港湾棲姫(今の私は木偶人形のままなのだろうか)

港湾棲姫(……少し、考え直す必要があるみたいだ)
27 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 20:00:11.10 ID:GUujIImdo

昼 ハワイ 宮殿 会議室


大妖精「おまえたち!?」ドタドタ


飛行場姫「トーちゃんただいま」

港湾棲姫「……帰りました」

北方棲姫「帰りました!」


大妖精「よく、よく無事戻ってきた!! よく帰ってきたな!」

飛行場姫「大げさだって」ケラケラ

港湾棲姫「……申し訳ございません」

北方棲姫「ございません!」

大妖精「ああ、もう良いのだ。今までのことは水に流そう。お前たちの無事な姿を確認出来ただけで……」


飛行場姫「トーちゃん、折り入って話があるんだ」


大妖精「とにかく帰還を祝ってのダンスパーティをだな――――」


飛行場姫「トーちゃん」


大妖精「……どうしたんだい」

飛行場姫「話があるんだ」

大妖精「……」

港湾棲姫「……お父様、第五位の話を聞いてあげて下さい。お願いします」

北方棲姫「お願いします!」

大妖精「お前たち全員がそう望んでいるのか」

港湾棲姫「……はい」

北方棲姫「うん!」

大妖精「……二人きりになれる場所が良いか?」

飛行場姫「うーん。そうだな〜。出来ればそっちのが良いかも」


大妖精「ついてきなさい。場所を移そう」
28 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 20:01:44.52 ID:GUujIImdo

昼 ハワイ 大妖精の部屋


小さな妖精が移動した先は自室だった。

そこには飛行場姫の読めない文字で書かれた本が壁中に埋まっていた。


大妖精「ここなら邪魔も入らないだろう」

飛行場姫「ありがとトーちゃん」

大妖精「それで、どんな話かな」

飛行場姫「トーちゃんは私のこと好きか?」

大妖精「勿論好きだよ」

飛行場姫「即答とかウレシーぞ」ケラケラ


大妖精「でも人間は滅ぼすよ」


飛行場姫「……誰かから聞いた?」

大妖精「ああ。人間の男と色々あったそうじゃないか」

飛行場姫「うん。そなんだ。好きになっちった」

大妖精「ふざけるな!! そいつは人間だぞ!!!」

飛行場姫「ふざけてないよ」

大妖精「黙れ!!!!」

飛行場姫「……」

大妖精「眷属の長たる姫がなんという!!!」

飛行場姫「トーちゃん」

大妖精「あ?」

飛行場姫「私もトーちゃんのこと大好きだよ」

大妖精「ふあ!?」


飛行場姫「ネーちゃんたちを蘇らせるって話もホントか」

大妖精「……本当だ」

飛行場姫「白ちゃんや黒ちゃんを殺したのも、ホント?」

大妖精「……ああ」

飛行場姫「どうして? あの二人はトーちゃんの仲間だろ」

大妖精「奴らはそういう役柄だったのだ。死ぬべくして死んだ」

飛行場姫「役柄ってなんだよ。そんなんで殺すのは酷すぎるよ」

大妖精「そうすべきだからしたまでだ」

飛行場姫「じゃあ私の役柄はなんなの? その役柄ってどう決まってんだ?」

大妖精「……」

飛行場姫「トーちゃんさ、寂しいんだろ」

大妖精「さび……」

飛行場姫「私、分かってたのに無視しちゃってた。ゴメンな?」

大妖精「そ、そんな寂しいわけ無いだろ。私は全然寂しくなんか無いぞ」

飛行場姫「一位、二位のネーちゃんは本当にトーちゃんのこと好きだったよな」

大妖精「……そうだな。実にいい子たちだった」

飛行場姫「でも、もう居ないんだ。そんで、死んだ奴らは帰ってこないし……来るべきじゃない」
29 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 20:03:08.86 ID:GUujIImdo

大妖精「……」

飛行場姫「私も色々考えたけど、トーちゃんのやろうとしてることは間違ってる」

大妖精「間違っていない」

飛行場姫「妖精のすべきことからズレてるじゃん」

大妖精「姫ちゃんには分かるのか」

飛行場姫「世界の秩序のためだよ。みんなそう信じて戦ってる、はず」

大妖精「……昔はそうだった」

飛行場姫「今もそうであって欲しいんだけどな」

大妖精「戦いが憎しみの連鎖となって渦巻いている。もう何もかも変わってしまったんだ」

飛行場姫「元に戻れるって」

大妖精「無理だよ。もう個人の願いで何とかできるものじゃない」

飛行場姫「うん。なら今日はトーちゃんにそれが出来るって確信して貰うよ」

大妖精「……姉さんたちと会いたくないのか?」

飛行場姫「会いたいよ。けど会っちゃいけないんだ」

大妖精「人間に何と言いくるめられたか知らないけど姫ちゃんの言うことは聞けない」

飛行場姫「このとーり!」ペコリ

大妖精「駄目。駄目ったら駄目」

飛行場姫「……分かった。最終手段だ」

大妖精「……」


飛行場姫「トーちゃん、触っていいか?」


大妖精「? 勿論良いけど」

飛行場姫「じゃあ、触るな〜?」


姫は小さな妖精を両手で包み、頬に親指を添える。


飛行場姫「やっぱこの持ち方だと落ち着くわ〜」ムニムニ


大妖精(手が柔らかくて温かい。……気持ち良い)


飛行場姫「んー。トーちゃん、ちゃんと食ってんのか? 前より痩せてるぞ〜」ムニムニ

大妖精「娘が敵地からなかなか帰ってきてくれなかった心労かな」

飛行場姫「それ言われるとつれーなー」ケラケラ

大妖精「触ってくれるのは嬉しいけど、それくらいで私は心変わりしないよ」

飛行場姫「してくれねーと困るんだな〜これが」

大妖精「……余裕だね」

飛行場姫「まだ奥の手が残ってるからな〜」

大妖精「奥の手?」
30 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 20:04:45.88 ID:GUujIImdo

互いの瞳には互いの顔が映り込んでいた。


飛行場姫「トーちゃん、ちょっとびっくりするかもだから注意してな」

大妖精「今更何を言われたところで驚きもしないけど……」

飛行場姫「じゃあ……」





飛行場姫「リンク、開始」





大妖精「!?」




奥の手は言葉ではなかった。

艤装と使い手が絆を結ぶための儀式である筈の行為だった。

触れた部分から彼女が流れ込んでくる。




大妖精(馬鹿な、生体リンクをこんな)




委ねられた者はその心の中を覗くも傷つけるも自由自在となる。

それがどれ程危険な行為であるか、姫をデザインした大妖精だからこそ理解出来た。

艤装ならまだしも今回の相手は妖精である。


知って尚、彼女は自分の精神を私にまるごと委ねようしているのだ。



大妖精(艤装を適正に使うためのリンクをこのような方法で使うとは……無謀以外の何物でもない)

大妖精(自信があるのか捨て身なのか)



飛行場姫「トーちゃん、これが私の全部だ。全部見てくれ……それで判断してくれ」



そこには日毎に人間と艦娘への憎しみが消えていく彼女の記憶と感情があった。

南の島での記憶は常に笑顔に満たされていた。

信頼できる仲間と友に囲まれた彼女の幸せのかたち。

人間と艦娘と深海棲艦と妖精が暮らす奇跡の時間を、大妖精は彼女の目を通して見た。
31 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 20:06:05.00 ID:GUujIImdo


大妖精(……暖かい世界だ)


長年戦い続けた指導者にとってもその場所は優しさに満ちていた。


大妖精(いや違う!! これは姫の感情で、私のものではない。断じて違う)


記憶の中に日本軍の格好をした男が現れた。


大妖精(こいつか)


男が死を望んでいることが大妖精も分かった。

彼女の心が次第に男へ傾いていく状況も容易に掴めた。


再び戦いが始まるかもしれないとなった時、心の中が乱れ始める。


姫による議会

身内同士での決裂

そして開戦

敗北


心の中の乱れは収束することなく、現実の流れの中でその振れ幅を大きくしながら彼女を揺さぶり続ける。

それでも彼女が思考停止した安易で楽な道へと進むことが出来ない理由。

揺さぶられ続ける理由そのものが大妖精には見えていた。


友である艦娘を守る意思、深海棲艦としての立場、姫として滅ぼすべき敵である筈の人間に恋をする自分、そして……



大妖精(…………これは私か)



彼女の父とも言える妖精。


彼女の心の中は大切に思う全ての存在で入り乱れていた。

心の乱れはそれら全ての幸せを願うが故の迷いであった。



大妖精(愚かな。自分のことすらろくにこなせないくせにこれ程他人を抱え込んで)

大妖精(………………私は)

大妖精(私はこの子にこんなにも愛されていたんだな)
32 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 20:07:40.35 ID:GUujIImdo

大妖精「……妖精相手に生体リンクするなんて自殺行為だよ」

飛行場姫「おかえりトーちゃん」

大妖精「もし私に悪意があれば――――」

飛行場姫「トーちゃんはそんなことしないだろ」

大妖精「しないけどさ」

飛行場姫「トーちゃん、私の言いたいこともう分かるよな」

大妖精「……」

飛行場姫「トーちゃんは寂しいんだろ」

大妖精「……私は指導者だ。そんなことを言える役柄じゃない」

飛行場姫「言っていいんだよ。役柄なんて気にすんな」

大妖精「それは出来ない」

飛行場姫「役柄で縛ったままじゃお喋りも出来ないじゃん。私にだけでいいからホントのこと言ってみなよ」

大妖精「…………」

飛行場姫「だってさ、私だけ全部見せるのなんてフェアじゃねーじゃん?」

大妖精「出来ないよ。今までの自分を裏切ることになる。今までの犠牲に対しても……」

飛行場姫「そうやって自分を守るために他人を殺した男を私は知ってるよ。トーちゃんも知ってる」

大妖精「あんな下劣な人間と私が同じだと言うのか」

飛行場姫「私が好きな人間のこと下劣って言わんでくれよ〜。あと、いい加減自分を騙し続けるのもやめなよ」

大妖精「騙してない」

飛行場姫「ほんとの自分なんてどうしようも無いものなのに、高尚なものであろうとして嘘ついて殺して」

飛行場姫「トーちゃんちっちゃいんだから。身の丈にあった自分のホントの言葉で喋って欲しいって思うんだけどな」



そうだ。私は小さい妖精なんだ。指導者なんていう人間的で前時代的な重荷に耐えられるほど強くはないんだ。



大妖精「……私は死ぬほど寂しい。孤独でどうしようもない」



言うつもりの無かった本音は容易くこぼれた。



飛行場姫「……」

大妖精「ああ、言ってしまった、言ってしまった……」

飛行場姫「言っちゃったね」

大妖精「もう私はおしまいだ。私は自分の役柄を捨ててしまった!」ワナワナ

飛行場姫「んなもん、最初っから捨てれば良かったのに」ケラケラ

大妖精「笑い事じゃない!」

飛行場姫「笑い事だよ。ウリウリ」コチョコチョ

大妖精「うあっ、うひっ、むひひっ!」

飛行場姫「そーれそーれ」コチョコチョ

大妖精「や、やめろ姫むひょひょひょ!」
33 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 20:09:22.78 ID:GUujIImdo

〜〜〜〜〜〜

大妖精「ひぃひぃ」ハァハァ


手の中の妖精が笑いすぎて、笑いすぎたせいで自分への怒りすら忘れてしまったタイミングで彼女はまた話を切り出した。


飛行場姫「な? 弱音吐いたところで何も変わんないっしょ」ケラケラ

大妖精「……物事はそう単純じゃないよ」

飛行場姫「複雑にしようとしてたのはトーちゃんだよ」

大妖精「当たり前だ! 弱い私を誰も認めてはくれない!」

飛行場姫「指導者失格ってか」

大妖精「そうだ」


飛行場姫「じゃあ選ぶのだ!」


大妖精「選ぶ?」

飛行場姫「今までみたいに強いフリしたままで孤独か、弱くてもいいから娘に囲まれるか」

大妖精「……強いままで囲まれたい」

飛行場姫「んなん無しだよ。強いフリしてるトーちゃん『役柄役柄』うるさいし、本音で喋ってくんねーんだもん」

大妖精「強いふりのままでは駄目なのか?」

飛行場姫「駄目。フリだけで作り上げたものは必ず壊れちゃう」

大妖精「……」

飛行場姫「今のトーちゃんもそうだろ。お互いフリだけだからこそ寂しい思いしてるんだよな」

大妖精「……そんな弱い私を他の娘たちは受け入れてくれるのだろうか」

飛行場姫「他の奴らが受け入れなくても私だけは受け入れるよ」

大妖精「……」

飛行場姫「三位のネーちゃんも七位もいなくなっちゃったけど姫はまだいっぱい残ってる」

大妖精「だから我慢しろと?」

飛行場姫「うん。居なくなった奴らの分までトーちゃんのこと大事にするから」

大妖精「だが、私はお前の姉たちを本当に……」


飛行場姫「トーちゃん、やっちゃ駄目だ」


大妖精「……」

飛行場姫「私、人間はもう諦めるよ。やっぱあいつよりトーちゃんの方が寂しそうだし、多分トーちゃんの側にいてやんねーと駄目だって思う」


その言葉は、彼女の心の中を覗いた者にしか分からない重みを持っていた。


大妖精「……それでいいのか? 姫ちゃんはまだあの男のことを」

飛行場姫「確かにアイツの事も好きだけど、トーちゃんも同じくらい好きだから。……って見たんなら知ってるだろ?」

大妖精「……」

飛行場姫「あいつは人間のわりによく心得てる奴だからな。大丈夫だ。私はこれからずーっとトーちゃんと一緒にいる」ケラケラ

大妖精「……」

飛行場姫「今まで寂しい思いさせてすまんかった。まぁ今後ともよろしくな!」


黒妖精の言っていたことは本当だった。


この子はこんなにも私の魂を救ってくれている。
34 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 20:11:23.15 ID:GUujIImdo



大妖精「……馬鹿者。そんなこと、当たり前だ」ポロポロ



飛行場姫「うんうん」ムニムニ

大妖精「子供はずっと親の元に居るべきなんだからな! 嫁なんて行くのはオカシイんだよ!」ポロポロ

飛行場姫「自然界的にはトーちゃんの方がおかしいぜ」ゲラゲラ

大妖精「おかしくない! 普通のことだ!」

飛行場姫「わーかったわかった。よしよし」ムニムニ


大妖精「……黒も白も私が殺してしまった」

飛行場姫「そっか。トーちゃんは酷い奴だな」

大妖精「怒らないのか」

飛行場姫「すごく怒ってるよ」

大妖精「……」

飛行場姫「だからもうやめよう。殺して殺されて、虚しいだけだよ」

大妖精「例え私個人が変わっても全体の状況は変えられない」

飛行場姫「ううん。これは最初にトーちゃんの意思で始めたことだ。ケリつけるのもトーちゃんの仕事」

大妖精「……出来るかな」

飛行場姫「私のトーちゃんは世界を守る意思とその為の手段を持った強い奴だ。この世界で出来ないことなんて何も無い」

大妖精「世界を守る、か。懐かしい響きだ」

飛行場姫「ていうか出来なくてもやらなきゃ駄目っしょ」ケラケラ

大妖精「分かった。やってみよう」

飛行場姫「それでこそ私のトーちゃんだ」クス




大妖精「実はな」

飛行場姫「ん?」

大妖精「姫ちゃんは作りも特別なんだ」

飛行場姫「そりゃ私は特別だけどさ」

大妖精「そうじゃない。基本的なハードの構造は他のモデルと変りないがソフトの制作段階で艦娘の艦魂構造をベースにしたため我々が作った兵器としての理論的な行動制約が無い形に――」

飛行場姫「あーもう、トーちゃんその手の話喋り出すと長いからいいよ」

大妖精「酷いぞ姫ちゃん」




飛行場姫「日向をこっちで捕まえてるよな?」

大妖精「うん。アレの中身が鍵だから」

飛行場姫「帰してあげよう。んで艦娘との戦争の時間ももうオシマイだ」

大妖精「人間は……あの愚かな生物はどうする。許すのか」

飛行場姫「許しはしないよ。変わることを信じるんだよ。そんで海洋連合の奴らみたいに私たちから人間を変えるための努力をしよう。武力を背景にな」ケラケラ

大妖精「姫ちゃんは人間が変わると信じてるもんな」

飛行場姫「実際変わったやつ居たし? まぁ好きだし多少贔屓だけど?」

大妖精「好きなら、仕方ないか。姫ちゃんの好きは私の好きでもある」
35 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 20:12:40.37 ID:GUujIImdo

飛行場姫「そうそう。仕方ないんだよ」

大妖精「人間より高位の存在である妖精同士が戦い続けているのは人間を教化する上でも好ましくないもんな」

飛行場姫「だから全部私の言う通りで良いよな」

大妖精「ああ、良いよ」

飛行場姫「父親に二言は無いよな」

大妖精「……無いよ」

飛行場姫「なんで間があったんですかねぇ」

大妖精「他の姫たちが納得するかなって」

飛行場姫「大丈夫。妹たちはトーちゃんの言うことなら渋々でも従うよ」

大妖精「それもそうか」

飛行場姫「うむうむ」




飛行場姫「私たちのせいで沢山死んだな」

大妖精「悲しいことばかりだった」

飛行場姫「そだな。……とりあえず海洋連合の奴らを呼んできてハワイでパーティしようよ」

大妖精「パーティ……というより内外に示すための調印式は必要だな。他の人間に妖精同士の和解を理解させねば」

飛行場姫「あ、そっか。パーティもしたいけどそっちが先か。人間の国とかにも教えないと駄目だもんな」

大妖精「唐突に戦い始めて唐突に和解するんだから解釈に苦労するだろうね」

飛行場姫「そこには語るに語れぬ苦労話が……」ウンウン

大妖精「うひゃひゃひゃひゃ。その顔面白いなぁ」ゲラゲラ




飛行場姫「トーちゃん」

大妖精「ん? なんだい?」

飛行場姫「私の事信じて大切にしてくれて、ありがとな」

大妖精「娘を信じて大切にするなんて当たり前じゃないか。こちらこそ、こんな愚かな父を愛してくれてありがとう」




飛行場姫「これ正面から言われるとちょっち恥ずかしいな」

大妖精「……うん。そうだよね」

飛行場姫「……ふふっ」クスクス

大妖精「うひひひひ」クスクス
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/06/30(木) 21:01:08.56 ID:ogZIi97Ro
おつ
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/06/30(木) 21:02:23.63 ID:q4QiwNgzo
乙
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/06/30(木) 21:03:00.26 ID:rFNpbvXYO
ひとまず乙
39 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 21:18:52.35 ID:GUujIImdo

3月23日

昼 海洋連合 ラバウル総司令部


夕張F「……ソ連籍を名乗る大型輸送船が最外殻域から代表とのコンタクトを求めています。それから『私は諸君らの楽園への導き手である』とのモールス信号を一分おきに発信している模様」

長月「だーかーらー。そちらの提案はとても了承できるものでないと何度も言っているだろうが!」

夕張F「ご、ごめんなさい」

長月「あ、いやすまん。お前にじゃなくてその向こう側に居る連中にだな……」

夕張F「先ほどの旨をそのまま打電しますか?」

長月「いいや。了承できないと強く言っておいてくれ。鬱陶しいモールスもやめろとな。公海法の迷惑防止条例違反だからな」

夕張F「了解」

茶色妖精「公海の迷惑防止条例なるものが存在するのでござるか。いやはや、初耳でござるが」

長月「いや、そんなもの無いぞ。法の条例違反なんて矛盾してるだろ」

茶色妖精「……」


嶋田「ここ数日でソヴィエトもしつこいな」

茶色妖精「長月殿、絶対に提案に乗っては駄目でござるぞ」

長月「わーかってるよー。しかし奴ら艦娘ばっかり欲しがるが、妖精が居なきゃ戦いも出来ないことを知らないのか」

嶋田「致死弾頭にも弱いことも知ってる筈だがな」

茶色妖精「別に戦闘だけが艦娘の使い道ではござらんからな。劣悪な労働下で駒となる存在とも見られますし、致死弾頭があるお陰でむしろ御しやすくて望ましい」

長月「……なるほどな。艦娘のテクノロジーは何にでも活用できると。ソヴィエト式の労働にはぴったりなわけだ」

嶋田「戦闘だけでなく今後も見据えるってか。未来志向なのにどうしてだろう……凄く土臭いな」

長月「そりゃ人民の汗のニオイだ。血まみれのボリシェビキが作った国には未来永劫そのニオイが付き纏う」ケラケラ

嶋田「体制批判も良いが、同志に後ろから刺されても俺は責任持たないぞ」


長月「はぁ……他国を馬鹿にしたって虚しいだけだな」

茶色妖精「長月殿、元気を出すでござる」ポンポン

夕張F「代表……」

長月「またソ連船か? そろそろ水雷戦隊に威嚇攻撃の準備がいるな」

夕張F「いえ、ポートダグラスへ向かったAD28輸送船団からです。現地で受け取るはずの輸入品が全く用意されていないとの報告が」

茶色妖精「なんと!?」

長月「……オーストラリア政府からの事前通告は」

夕張F「全くありませんでした。ダグラス港湾要員は輸送業者の不手際により準備が出来なかっただけ、との説明を繰り返すばかりのようで……」

嶋田「露骨だな」

茶色妖精「人間とはここまで愚かな……次は自分たちであると何故理解出来んのだ」

長月「取引レートを上げるは消極的サボタージュするわ、やりたい放題というかなんというか」

茶色妖精「秘密裏に取り付けていた協定を無視する国ばかりではござらんか!」

嶋田「怒ってもどうにもならんだろ」

茶色妖精「信義にもとるとはこのことでござる!! いい加減制裁を含めた措置をですな――」

長月「人間の不興を買うと理解して、それでも制裁やるメリットってあるのか?」

茶色妖精「こちらが干上がる前に対処が必要でござる」

長月「補える範囲では物質転換装置フル稼働させて対応しよう。力に訴えるのは最終手段だ」
40 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 21:21:24.90 ID:GUujIImdo

夕張F「だ……代表?? 新たな入電が」

長月「どうした? もう何でも来い」

夕張F「ハワイからです」

茶色妖精「あの暗号通信をよく解析出来たでござるな」

夕張F「いえ、それが、その、我々の司令部宛なので」

長月「ハワイから来るなんて初めてだな。読んでくれ」

夕張F「……長いですよ?」

嶋田「何言ってるんだ。長くても読むのが仕事だろ」

夕張F「じゃあ読みますね。 ――――我々の目的は全ての生命に公正な存在の機会を与える立場から人間の野蛮と言わざるをえない行いを否定し、現状を打開することにあった。この戦争は人間という種の傲慢に対する罰であり、また問題の最終解決を人という存在を滅ぼすことによって図るものであった。我々は決して自らの利益を求めず、領土拡張の念も有していない。妖精倫理に反した生命与奪など望むべくもない。しかし不幸な意見の分裂から袂を分かった妖精同胞、及びその眷属たる艦娘との戦闘行為は我々の本義とは反すにも関わらず、相互に不本意な関係を継続し続けてきた。我々はこの不要な対立に終止符を打つため双方の代表による対話の場を設ける意思がある。この場においては双方の関係の改善のためあらゆる手段が用いられるべきであり、相互に議題を持ち寄る中で和解への道を探ってゆき最終的には共同で課題を解消することを目的としたい。よって」

長月「いやちょっと長くないか!?」ビシィ

夕張F「だから長いって言ったじゃないですか!」

長月「すまん。想像以上に長かった」

茶色妖精「しかしこの内容、降伏勧告とは違いますぞ」

嶋田「そうだな。武装放棄や降伏勧告と言うよりも……」

長月「対等な立場での停戦に向けた動きに見える」

夕張F「はい。この後も休戦や停戦を匂わせるワードが散りばめられています」

長月「圧倒的優位な状況で何故だ。あと一歩で我々は滅びるのに」

茶色妖精「今更という感じでござる」ホジホジ

嶋田「今更とかごちゃごちゃ考えるまでもない。これに飛びつかなきゃ死ぬ。話はとてもシンプルだと思うが」

茶色妖精「罠だったら飛びついても死ぬでござる。あ奴の体の良い嘘でござるよ。乗る必要はござらん」

嶋田「だから、どうせ死ぬんだったら少し位信じてみろよ」

茶色妖精「あのような妖精を信じるくらいなら戦って散ったほうが幾分かマシでござる!」

嶋田「やかましい! さっさと他の妖精にも聞け!」

茶色妖精「い〜や〜で〜ご〜ざ〜る〜」

嶋田「こ、こんの腐れ妖精! 死ぬなら一人で死ね! 俺はお断りだ!」

長月「……五位の姫が何か仕掛けたのかもな」

嶋田「そういや、父親に会いに行くとは言っていたっけな」

茶色妖精「いやいや。あの妖精がそんな簡単に変わるなら苦労はしないでござる」

長月「10年変わらなかったものが1日で変わったりするじゃないか」

茶色妖精「……長月殿も嶋田殿と同じ楽観派でござるか」

長月「私はこのクソ男と違って命が惜しいわけじゃない。どうせ死ぬなら姫を信じてみたいんだ」

嶋田「結局俺と変わらねーじゃねーか。命が大事なんだろ」

長月「命は大事だけどさ。その大事な一度っきりの命を自分の希望に賭けてみたい」

茶色妖精「……」

長月「姫を信じるのは私の希望でもあるし、その信じた先には私たちの目指す場所があると思う。だからそうしたい」

嶋田「雅晴の艦娘は筋金入りだ」ヤレヤレ

茶色妖精「……長月殿がそう望むのならそれが海洋連合の総意で良のでは」

嶋田「民意もクソも無いな」

長月「海洋連合は公平公正を求める有志による独裁国家だからな」ケラケラ

長月「夕張、今から言うことをハワイに伝えてくれ」

夕張F「は、はい!」

長月「『こちらには対話を行う意思がある。詳細を求める』」
41 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 21:23:19.08 ID:GUujIImdo

3月24日

夜 ハワイ 離島棲鬼の棲家


離島棲鬼「♪〜」

戦艦水鬼「なぁ……まだやるのか」

離島棲鬼「当たり前ですわ。朝まで続きますよ」

戦艦水鬼「いい加減飽きたんだが」

離島棲鬼「貴女は満足したかもしれませんが私はまだ満ち足りておりませんから?」

戦艦水鬼「また別の日で良いだろう」



離島棲鬼「駄目ですわ! 服の試着会というのはとても大事なイベントなのですから」



戦艦水鬼「……」ハァ

離島棲鬼「とてもよく似会っているのに……感性がいただけませんわね」

戦艦水鬼「最初にくれたドレスが一番気に入っている」ヌギヌギポイ

離島棲鬼「本当によくお似合いですわ」

戦艦水鬼「ならいいだろうが」シュルリ

離島棲鬼「本気服は何着あっても足りないものです」


戦艦水鬼「お前は本気服を何着くらい持ってるんだ」

離島棲鬼「50着程でしょうか」

戦艦水鬼「……あったところで使わないだろ」

離島棲鬼「勿論使いますわ。毎日同じ服など私の美意識に反します」

戦艦水鬼「どこにある」

離島棲鬼「えーっと、そこの棚ですわね。あ、見るのは良いですがベタベタ触るのは許しませんから」



戦艦水鬼「こいつらか」ベタベタ

離島棲鬼「……もしもし? そこの方?」

戦艦水鬼「あ?」

離島棲鬼「触るのは許さないと言いませんでしたか?」

戦艦水鬼「これ、それぞれ刺繍の入り方が違うだけだぞ。ほとんど同じのばかりだ。どこが違っている」ベタベタ

離島棲鬼「で、ですからベタベタ触るのは……シワはきちんと伸ばしてから畳んで……」(#^ω^)ピキピキ

戦艦水鬼「答えろ」

離島棲鬼「……刺繍の入り方が違えばそれは違う服ではありませんか」

戦艦水鬼「……」

離島棲鬼「オシャレとはすなわち! 自らの美意識との対話ですわ。私は日々違う刺繍の服を着て自らを武装しているのです」

戦艦水鬼「……」クス

離島棲鬼「あら? 貴女今笑いました?」

戦艦水鬼「笑っていない」
42 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 21:25:29.98 ID:GUujIImdo

離島棲鬼「一つ聞いてもよろしいかしら」

戦艦水鬼「なんだ」

離島棲鬼「貴女には大切な人が居たのよね。だからこちら側へ来ることを選んだ」

戦艦水鬼「……ああ」

離島棲鬼「その人を天秤にかけるならどれ程のものを対価として差し出せるのでしょうか」

戦艦水鬼「下品な質問だな」

離島棲鬼「これから既存の価値観を壊そうと試みる者が今現在の品格に固執するのはどうかと」クスクス

戦艦水鬼「決まっている。この世の全て差し出せる」

離島棲鬼「欲求に正直ですわね。本末転倒な程にですが」

戦艦水鬼「だからここにいる」

離島棲鬼「なるほど」クスクス


離島棲鬼「ではその男性はどこがそれ程に魅力的なのか、とてもお聞きしたいわ」

戦艦水鬼「お前とは関係無い」

離島棲鬼「艦娘の世界では直属の上司をお前呼ばわりして許されるのでしょうか?」

戦艦水鬼「私は誰かの下世話な欲求を満たすために存在しているわけじゃない。第一、それも馬鹿らしい既存の枠組みだぞ」

離島棲鬼「ならば既存の枠組みからの命令です。喋りなさい」

戦艦水鬼「殺すぞ」

離島棲鬼「あら怖い」クスクス


離島棲鬼「ならば先鞭をつける意味で私の下世話な話から聞かせましょう」

戦艦水鬼「……」

離島棲鬼「私が自分の姫様を嫌いだった話です。過激で頑固で、合理性よりも忠誠を優先する愚かな方でしたので?」

戦艦水鬼「……」ベタベタ

離島棲鬼「さっきから私の服ばかり触っていますが、話を聞いていますの?」

戦艦水鬼「聞いている。続けろ」ベタベタ

離島棲鬼「くっ……! 私は重用されることを欲しての仕官でしたから、その程度想定の範囲内でしたわ。むしろ上司は愚かな方が部下である私の活躍の場も増えるというものです」

戦艦水鬼「呆れた権力欲だな」

離島棲鬼「大きな歯車の中で部品ではなく自分でありたいと願うなら当然の帰結ですわ」

戦艦水鬼「……お前たちの世界も厳しいのか」

離島棲鬼「大妖精様はある意味全ての深海棲艦の父であるのに、あの御方のことを『お父様』と呼ぶ者は限られている。お気づきでして?」

戦艦水鬼「……」

離島棲鬼「量産型やその成り上がりのブレインはどうあがこうと下位種と呼ばれ消耗品として扱われる。元艦娘が上り詰め、艤装を調整された姫になろうと……あの御方のことを『お父様』とは呼ばない」

戦艦水鬼「……ああ」

離島棲鬼「『お父様』と呼べるのは生まれながらの姫だけなのです。私の姫様は、数少ない姫、の筈でした」

戦艦水鬼「はず、か」

離島棲鬼「実際には、私の姫様はオリジナルを模倣した量産モデル第一号だったのです」

戦艦水鬼「……」
43 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 21:27:43.40 ID:GUujIImdo

離島棲鬼「あの人が序列三位として在り続けたのも五位を守るため大妖精様の方策だったのですよ。敗北の責任が五位に向かないよう、五位が他の一位や二位、彼女の姉たちと同じように死ぬことが無いよう配慮された存在」

戦艦水鬼「当て馬と同じだな」

離島棲鬼「いいえ、正確にはスケープゴートですわ」

戦艦水鬼「……すまん間違えた」ポリポリ

離島棲鬼「どうしてこういう時は素直なのですか!?」

離島棲鬼「……模造品であるとも知らずに私の姫様ときたら『自分は三位だから』と自尊心の塊ですから。お父様お父様と無邪気な人間の子供のように大妖精様に付き従って」

戦艦水鬼「さぞ空回りしたんだろうな」

離島棲鬼「あら、分かりますか?」

戦艦水鬼「あの戦場での悲壮な表情から想像は出来る。裏切られても尚相手を信じようとする女の顔を見ればな」

離島棲鬼「……ええ。姫様は大妖精様にしてみれば完全な失敗作だったようですわ」

戦艦水鬼「お前も気の毒な奴だ」

離島棲鬼「何故私が?」

戦艦水鬼「他の奴が空回りしてる姿は気持ちの良いものじゃない。目ざとい奴には尚更な」

離島棲鬼「お褒めに預かり……別に、私とは関係の無いことですから」

戦艦水鬼「つまらない嘘だ」

離島棲鬼「……」

戦艦水鬼「関係無い存在のために一生懸命になるわけがない」

離島棲鬼「……自分の執着をつまびらかにするというのは案外恥ずかしい行いですわね」

戦艦水鬼「それがお前が私に強要しようとしたことだ」

離島棲鬼「これは一旦の謝罪を。まぁ半ば分かってはいたことですけれど?」

戦艦水鬼「お前は私が憎くないのか。お前の姫を殺したのは私だぞ」

離島棲鬼「そうですわね」

戦艦水鬼「そんな相手を家に招いて服を着せるだなんて、理解しかねるが」

離島棲鬼「死の意味がなくなる世界でそのような思念は不要ですわ。そう思いませんこと?」

戦艦水鬼「なるほど。一種の開き直りか」

離島棲鬼「癪に障る単純な要約をありがとうございます」(#^ω^)ピキピキ

戦艦水鬼「……私の男の話を聞きたいか」

離島棲鬼「話してくださるのでしたら、是非拝聴したいですわ」

戦艦水鬼「艦娘は程度はどうあれ指揮官である者のことを好意的に捉える。そうしないと組織として成り立たないからな」

離島棲鬼「私たちですと作るのも運用するのも大妖精様でしたが、貴女方の場合だと……」

戦艦水鬼「そうだ。作るのは妖精、動かすのは人間。好意を持つのはその間隙を埋めるための措置だろう」

離島棲鬼「なるほど」

戦艦水鬼「私も例外に漏れず自分の上司のことが機械的に好きだった。ある時までな」

離島棲鬼「ある時??」

戦艦水鬼「秘書艦として仕事をしている時に手が触れたんだ」

離島棲鬼「まぁ、近くで働いていればそんなことも起こりますわよね」

戦艦水鬼「それで変わった」

離島棲鬼「へぇ、どのように」

戦艦水鬼「もっと好きになった」

離島棲鬼「……は?」

戦艦水鬼「もっと好きになった」

離島棲鬼「いえ別に聞き取れなかったわけではございませんが」
44 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 21:28:39.25 ID:GUujIImdo

戦艦水鬼「……なんだ。なら何か言いたいことでもあるのか」

離島棲鬼「呆れてモノが言えないくらいです」

戦艦水鬼「なんだと」

離島棲鬼「きっかけが触った時って……少し単純が過ぎるのでは」

戦艦水鬼「…………うるさい。お前には関係無い」

離島棲鬼「そ、それはそうですけれど」

戦艦水鬼「あー、くそっ、話すんじゃなかった。恥ずかしいな」ポリポリ

離島棲鬼「……つまらない話でしたが、話してくれたことには感謝しますわ」クスクス


戦艦水鬼「これを見ろ」スッ


離島棲鬼「? それは私の服で貴女が試着するにはサイズが」


戦艦水鬼「……」ビリビリ


離島棲鬼「な、なにをされっ!? はぁぁぁぁぁ!?!?」

戦艦水鬼「八つ当たり」

離島棲鬼「いや、それは私の服を引きちぎる理由になっておりませんが!?」

戦艦水鬼「うるさい。もう帰る」

離島棲鬼「そんな子供のような!!」

戦艦水鬼「なんだ。やるのか。いいぞ、ステゴロでかかってこい」クイクイ

離島棲鬼「ムッキャァァァ!!!!」
45 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 21:29:55.87 ID:GUujIImdo

夜 海洋連合 ラバウル総司令部


瑞鶴「艦娘に招集命令って何かあったのかな」

翔鶴「深海棲艦は撤退したとの噂ですから、ハワイへ攻める算段がついたのでしょう」

瑞鶴「攻めるって言うより突っ込むって感じだけどね」


船団護衛のスケジュールは全て白紙とされ、警戒も含め全ての艦娘が司令部前に集められていた。

この場で何か重大な発表がされることは想像がついたが、それがどのような内容であるか司令部要員以外は何も知らされていなかった。


長月「あー、みんないるよな」


瑞鶴「あ、長月さんだ」

翔鶴「……」


お立ち台の上に立った駆逐艦は全体に向けしゃべり始める。


長月「いや実は深海棲艦から司令部宛に休戦の申し込みが来た」


冗談を言っていいタイミングと悪いタイミングがある。代表を務める艦娘の言葉は冷水と同じ働きを場に与えた。


瑞鶴「この状況でその冗談は全然面白くないんだけど……」

翔鶴「いえまだ何か言うべきことがあるのでしょう」


長月「いや本気だからな」


長良「な、なんでこの状況で深海棲艦が休戦申し込んでくるわけ」

球磨「さっぱり分からんクマ」

矢矧「致死弾が有効である限り絶対優位は崩れない筈だけれど」

伊勢「向こうは向こうで限界だったとか……?」

初霜「……さすがに無理があるわ」

吹雪「……だよねぇ?」

隼鷹「ま〜細かいことは良いんじゃねぇの? これで戦いが終わるならそれにこしたことは無いっしょ〜」

飛鷹「アンタね……こんなのどう考えても罠でしょ。休戦するにしてもこちらがとても受け入れられない条件山ほど出されてここを隷属化させるに決まってるわ」


長月「……それが対等な立場での休戦になりそうなんだ」


「「「「「「「「「……はぁぁぁ〜!?」」」」」」」」」


加古「な、なにがどうなってんだ!? あたし、まったく理解出来てねぇ!」

古鷹「……私も理解出来てない」

磯波「……」

鳳翔「私も疑ったのだけど……」

加古「……確実に負けてたよな。なのになんで休戦なんて」

鳳翔「推測でしかないけど、滞在していた姫の方々が一枚噛んでいる可能性が……現時点では一番高いと思うわ」
46 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 21:33:21.88 ID:GUujIImdo

雪風「……」

天龍「おい雪風。聞いたか今の」

雪風「……聞きました。全然信じられません」

天龍「……オレも」

長月「深海棲艦がトラックを放棄して撤退した事実は既に周知のものだと思う」

長月「ここで私がいくら休戦について喋ろうと説得力が無いのは理解している。だから妖精に喋って貰う」

長月「黄色、紫、頼む」


黄帽妖精「あー、あーIt is fine today. ……良いようじゃな」


長月の肩の上に二匹の妖精が姿を見せる。堂々とした老妖精、おどおどした若妖精のアンバランスなコンビだった。


黄帽妖精「ワシはお前たちの敵である深海棲艦の航空機を専門に作っていた妖精だ」

紫帽妖精「ぼ、僕は深海棲艦の艤装を専門としていた妖精です」

黄帽妖精「先ほど、ワシらのところへも大妖精様からの連絡が届いた。休戦の話は本当じゃ」

紫帽妖精「そ、その第一歩として僕らの持ってた設計図や技術ノウハウをそちらの技官妖精へ全て開示しました。その中には貴女方が致死弾頭と呼ぶものへの対策も新たに含まれています。これは大妖精様直々の命令です」



赤帽妖精「……全て事実。今なら致死弾頭脅威ではなし」

海洋連合側の技官妖精は悔しそうに脚注を入れた。



黄帽妖精「このタイミングでの開示に対し逆に不信感を抱くのであれば、兵装に関する技術提携と新兵器の共同開発まで行う許可も出ている。これも大妖精様の提案だ」

紫帽妖精「こ、これは我々技官妖精にとっては死に等しい条件です。積み上げてきた技術的優位を全て失いました。こちらとしては最大限の譲歩と誠意を示しているつもりです」

黄帽妖精「これでまだ大妖精様の誠意が理解出来ないようならワシが教えてやる。技術提携など無くとも貴様らの貧弱な艤装は最早必要が無くなるということ小一時間かかろうと懇切丁寧に実証主義に基づいた説明をだな」


赤帽妖精「ジジイ表出る。即決闘」


黄帽妖精「クソ雑魚艦載機しか作れない貴様らにやられるワシでは無いわ」

紫帽妖精「や、やめて下さい。そんな言い争いももう本当に不毛なんですから……」



茶色妖精「あー、話があちこちしてしまうでござるが、大妖精と名乗る深海棲艦首魁は自らの軍事組織保全を条件に、我々側の妖精コミュニティへの復帰を願い出てござる」

茶色妖精「これはすなわち、この戦争が起きた元凶である妖精同士の対立の解消を意味するでござる」

茶色妖精「……すなわちのつまりですな、今回のは一時的な停戦や休戦でなく深海棲艦との戦争の完全な終わりになるかもということでござる!」
47 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 21:34:41.73 ID:GUujIImdo


戦いの終わりは妖精の証言により信憑性を増し、艦娘たちは各々の受け止め方でそれを受け止めた。


矢矧「終わり……? 私達の戦争が……。……っ。あぁ、良か……った」


泣き崩れ地面にへたり込む者。




雪風「……」

天龍「……」


未だその終幕が信じられない者。




霧島「ふざけないで! そんなあっさり終われるわけ無いでしょう!!」

球磨「戦い続けていなくなるのはクマたちの方クマよ?」

霧島「でも、それでも……。私は納得出来ません!!」

榛名「……」


終幕を受け入れつつも否定する者。

それは戦争での犠牲が大きすぎる故の意見だったが、現状を踏まえれば強硬に戦闘継続を唱えることは感情論以上の説得力を持たなかった。

滅びの一歩手前に居るのは深海棲艦ではなく海洋連合の妖精と艦娘の方なのだから。




隼鷹「終わったんだな。……終わったんだぜ? あはは! やったー! 終わったー!」

飛鷹「馬鹿! そんな大声でやめなさいよ!」ヒソヒソ

吹雪「……」

隼鷹「なんだ〜お前ら。戦いが終わって嬉しくないのか? なぁ初霜、お前はどうなんだよ」

初霜「わ!? 私は、その、勿論嬉しいけど……」

隼鷹「なら喜べば良いじゃんかよ。不謹慎なツラすんのは死んだ仲間にも申し訳立たないぜ〜?」

飛鷹「……その態度が受け入れられない子だって居るのよ」


戦いが終わったことを素直に喜ぶ者。




磯波「まだ終わってません。日向さんはハワイです」

瑞鶴「そだね〜。迎えに行かないと不味いかな」

翔鶴「日向なら勝手に帰ってくると思いますけど、まぁ迎えに行ってあげても悪くなというか……そうですね」

瑞鶴「姉さん、素直に迎えに行ってあげたいって言いなよ」クスクス

翔鶴「おまんこ」

瑞鶴「……」ゴツン

翔鶴「いたっ!」


以前の自分を完全に見失った者。
48 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 21:36:24.01 ID:GUujIImdo

漣「長月、土佐でハワイの軍港へ直接乗り込んで調印式とかどう?」

長月「びっくりするくらい自己満足な行為だな……しかもどこかで聞き覚えがあるような……」

漣「あの頃には長月はとっくに沈んでたから。知らなくて当然よ」

長月「そっかー私は沈んで……ってお前も終戦時には沈んでただろうが!」

漣「えへへ、メシウマ!」

長月「……終わるのかな」


お立ち台の上から艦娘たちの反応を見て長月はようやく終戦の実感を抱き始めていた。

代表としての公務が忙し過ぎたのだ。


文月「長月ちゃん!」

皐月「長月!」

長月「おー、お前らもいたか。小さくて見えなかったぞ」ケラケラ


文月「第二十二駆逐隊……」

皐月「ボンバー!」ゴッスゥゥゥ

長月「ぐぇぇぇ」


誤解を招かぬよう解説を行いたい。

『第二十二駆逐隊ボンバー』とは皐月、文月による長月への愛のサンドイッチ・ラリアットである。


水無月「あははは! 長月ちゃんの轢き潰した蛙の真似、とっても面白いよ!」

長月「げほげほっ! 何するんだバカども!」

皐月「こうやってボクたちが水雷魂を『教育』しないと長月はすぐダメになっちゃうからね」

水無月「なっちゃうからね〜」ケラケラ

文月「なっちゃうんです〜」

長月「……アホども」


水無月ともブインからの付き合いだが随分と長く感じるものだ。

皐月、文月は言わずもがな第四管区の頃からの戦友で馴染み深い。

この面子で終戦を迎えられたのは本当に嬉しいことだ。


皐月「……ん?」

文月「あれ?」

水無月「ちょ、ちょっと長月さん?」

長月「どうした?」

皐月「ごめんよ、ラリアット強くやりすぎた……かな?」

文月「長月ちゃん、鼻血と涙が出てるよ?」

長月「え゛」


顔の七つの穴の内四つまでから液体が溢れだしていた。


水無月「少し休んだほうが良いんじゃない? 代表のストレスとかその他もろもろでほら」

長月「お前らな……」

文月「どうしたの?」

皐月「なんだよ〜?」
49 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 21:39:33.52 ID:GUujIImdo

長月「心配するくらいなら最初っから攻撃するなよ!?」

皐月「それとこれとは話が別っていうか」エヘヘ  文月「ねー?」  水無月「ね〜?」キャッキャ

長月「このアホどもーーー!!!!」

加賀「長月。あら、だ、大丈夫……?」


長月「ああ、加賀。鼻血と涙は気にしないでくれ。水雷魂が溢れ出したみたいなものだからな」

加賀「そ、そう? ……ところで、これからハワイへ行くの?」

長月「二週間後にハワイで話し合いだ」

加賀「もう少し急げないの」

長月「まぁ待て。向こうの構図が意外とややこしいんだ」

加賀「独裁体制で動いてるんだから単純なんじゃないの」

長月「昔はそうだったし、今回の終戦の動きは大妖精から出たものではあるんだが、現時点で大妖精は深海棲艦の組織の中で何の権限も持っていない」

加賀「そうなの」

長月「そうなのだ」

加賀「確か姫の子が議会に参加するため一度ハワイへ戻ったわよね。それと関係がある?」

長月「ある。結局は大妖精の傀儡なんだが、今は議会こそが深海棲艦の意思決定組織となってる。その場での終戦へ向けた動きを調停する必要がある」

加賀「……全然終わってないじゃない」

長月「正確には妖精の戦争が終わったと言うべきだったか」

加賀「言葉選びには注意して頂戴。多分みんな勘違いしてるわよ」

長月「でもさっきも言った通り議会は所詮大妖精の傀儡だ。ワントップでトップダウンという以前からのやり方は実際には全く変わってない。後は本当に手続きを済ませるだけなのさ」

加賀「……そう」

長月「仮に大妖精の意思に反して継戦しようとする者が居たとしても何が出来る。妖精はもう戦わない。妖精という後方要員の居ない状況は長続きするものじゃない。……私たちがブインで身をもって体験したようにな」

加賀「駆逐艦風情が随分と筋道だった話をするじゃない」ナデナデ

長月「頭を撫でるなコラァ! そこは予約席なんだからな!」

加賀「じゃあ今度から私も加えて頂戴。手が置きやすくて良いわ」ナデナデ

長月「そんな理由で手を置かないでくれ……」


長月「あ、そうだ加賀」

加賀「何かしら」

長月「七位の姫なんだが、知ってるか?」

加賀「聞いてるわ。トラックで沈んでしまったそうね」

長月「…………うん。そうだ。知ってるなら良いよ」

加賀「そう。彼女ともまた一緒に食事をしようと約束していたのだけれど……叶わなかったわね」

長月「……」

加賀「代表としての仕事も大詰めね」

長月「次期代表は順次募集中だからな。いつでも言ってくれ」

加賀「冗談じゃないわ」

長月「もう少し優しく否定してくれ」

加賀「ふふっ。みんな貴女のことを信頼しているのよ」

長月「私はもうぜーーーったいにやらない。この仕事凄く大変なんだからな!?」

加賀「分かってるわよ。貴女は偉いわ」ナデナデ

長月「……でへへ」
50 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 21:45:15.57 ID:GUujIImdo

3月31日

深海棲艦側では連合との講話に向け大妖精派の水面下での動きが大詰めを迎えつつあった。
いよいよ一週間後、ハワイで開催される講話会議において予定されている大まかな議題は以下の通りである。

・戦闘停止および休戦の具体的取り決め
・軍事境界線及び非武装地帯の設定
・太平洋人間諸国との利害関係についての調整

不安材料としては継戦を望む深海棲艦の存在があった。形式だけだが大妖精に既に実権は無く、議会こそが組織運営の中心であったからだ。
だが残った姫の数は四人。その内五位、六位、九位が非戦派であり多数派を占めるため順当に進めば押し切れる予定である。




昼 ハワイ 飛行場姫の棲家


ネ級改「……そう、私の姫様はもう」

飛行場姫「ミッドウェーは繰り上がりでオマエに任せることになる。……頼めるか?」

ネ級改「分かった。任せて」

飛行場姫「頼む。ありがとな」

ネ級改「五位様、あまり気に病まないで。きっと姫様は幸せに逝けた」

飛行場姫「……」

ネ級改「貴女にはあの人の分まで頑張って欲しい」

飛行場姫「……おう。頑張るな」




昼 ハワイ近海 第四次防衛線


レ級改「チョリ〜ッス」ゲラゲラ

空母水鬼「……何コイツ、チョーうざいんですけど」

レ級改「本日付でみんなと一緒に防衛線守ることになった仲なんで、そこんとこよろしくっつーか? あ、これ辞令です」ペラッ

空母水鬼「……これ大妖精様のサインじゃん。今は議会のじゃないとダメなの知らないの」

レ級改「そんなお硬いのは徹甲弾の先っちょだけで十分スwwwww。頼みますよ〜防衛力強化に向けた『大妖精様の』人事なんで断られるとこっちも困るっつーか?」


空母水鬼(あまり大袈裟に騒ぐと姫様のところまで迷惑が掛かっちゃうかな)


空母水鬼「分かった。認めるよ。でも来たからには働いて貰うからね」

レ級改「チョリ〜ッス!」

空母水鬼「……君、どっかで会ったっけ? なーんか顔に見覚えあるんだよね」

?級改「やだなぁ、オリャアただのどこにでも居る航空戦艦すよ〜」

空母水鬼「でもブレインだし新造艦じゃないよね。以前はどこに所属してたの?」

?級改「……な、七位様のところで働いてました」タジタジ

空母水鬼「……」

?級改「な、なんか〜? よく分かんねーんすけど七位様が艦娘に殺されたみたいで? ミッドウェーにも人事刷新の波が来たっつーか? あ、つーかオネーさん八位様の側近さんすよね?」

空母水鬼「……そだよ」

?級改「七位の姫様が戦ってるとことか見てますよね。なんで沈んだか教えてくれませんか」

空母水鬼「……知らない」

?級改「いや〜でも同じ戦場に居たんでしょ〜? 頼みますよ〜。下っ端なんで全然情報が入ってこないすよ〜」

空母水鬼「だから知らないったら!」

?級改「……おーこわ。じゃあ別の奴に聞いときますわ〜」ケラケラ

空母水鬼「……」
51 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 21:47:12.13 ID:GUujIImdo

昼 ハワイ 工業地帯


離島棲鬼「現場の要求する生産量が達成できていないのですが、これについて何か説明が欲しいところですわね」

技官妖精A「艦娘撃滅によって兵站の優先順位が下がっているんです」

離島棲鬼「勝ったと言ってもまだ艦娘は残っているのですよ? それは誰の判断ですの?」

技官妖精A「大妖精様です」

離島棲鬼「くっ……、そう、大妖精様が。ふーん」



離島棲鬼(生産量が露骨に落ちているという報告から視察に来たけど……議会の命令書一枚で解決できるような案件じゃ無さそうね)



技官妖精A「現在我々はコード442に対して物資リソースを消費しております。弾薬に関しては二の次というのが現状なんです」

離島棲鬼「コード442……なっ!? このアクセスレベルは何ですか!? 鬼である私にすら開示権限が無いじゃない!」

技官妖精A「……」コクリ

離島棲鬼「……もういいです。出直しますわ」

技官妖精A「申し訳ございません。末端である自分にはどうしようもないことでして」

離島棲鬼「私も末端ですわ。末端同士次は仲良く出来ることを願います。では御機嫌よう」




離島棲鬼「……」ツカツカ

離島棲鬼(……元々がトップダウンの組織として作られているからか横の風通しが悪すぎます)

離島棲鬼「あら……? あちらの方は」




タ級改「――――」ヒソヒソ

技官妖精B「――」ヒソヒソ




離島棲鬼「ごきげん……ようっ!」ズイッ


タ級改「きゃあぁぁ!?」ビクッ

技官妖精B「うぉい!?」


離島棲鬼「貴女、確か五位様の所の子でしたわよね。妖精と何か秘密の会合ですか」

タ級改「この度、我らが姫様がめでたく生産部門の管理者に任命されましたので……側近の私が現場監督役を拝命致しました」

離島棲鬼「それはおめ……いや、待ちなさい。そのような人事は聞いておりません。議会は通してあるのですか」

タ級改「大妖精様直々のご命令でしたので、聞き及んでないのは仕方のない事です」

離島棲鬼「……そう。なら失礼しますわ。ごゆっくり」

タ級改「はい」ニッコリ



離島棲鬼「……」ツカツカツカツカ

離島棲鬼(大妖精様は一体どうされたのでしょうか)

離島棲鬼「……これでは議会の存在する意義が疑われますわね」
52 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 21:48:29.55 ID:GUujIImdo

昼 ハワイ 浜辺


戦艦水鬼「……」

ヲ級改「やっほー。いい天気だね。こんな陽気で艤装と一緒にお散歩かな?」

戦艦水鬼「……五位の側近か」

ヲ級改「そうだけど、貴女なら特別に飛龍で良いよ……長門さん?」

戦艦水鬼「ま、分かるだろうな」

ヲ級改「分かるな〜」

戦艦水鬼「何の用だ」

ヲ級改「別に用ってほどのことは無いけど」

戦艦水鬼「ならもう行く。元艦娘同士で馴れ合う気も無い」

ヲ級改「冷たいな〜」

戦艦水鬼「話すことも無いしな」

ヲ級改「いくらでもあると思うけどなぁ」

戦艦水鬼「私には無い」



ヲ級改「例えば囚われの航空戦艦の話とか」



戦艦水鬼「……」

ヲ級改「興味あるでしょ?」

戦艦水鬼「無いな」

ヲ級改「もし扉を開くために彼女が犠牲になるとして、長門さんはその事実を許容できるのかな?」

戦艦水鬼「致し方ない犠牲だ」

ヲ級改「あの日向だよ」

戦艦水鬼「日向だろうが誰だろうが関係無い。私はかけがえの無い一つの命だろうと踏み躙る」

ヲ級改「……」

戦艦水鬼「私から優しい言葉が出ることでも期待してたか」

ヲ級改「そうじゃなきゃ話しかけたりしないよ」

戦艦水鬼「今度からはするな。無駄だ。……行くぞハルカ」

ハルカ「……グルル」


ヲ級改「どうしてハルカって言うの」

戦艦水鬼「……お前も懲りない奴だな」

ヲ級改「いや〜どうしても気になって」テヘヘ

戦艦水鬼「私の幸せの残り火さ」

ヲ級改「……???」

戦艦水鬼「質問には答えたぞ。もう二度と長門とは呼ぶなよ。じゃあな」ヒラヒラ
53 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 21:49:26.54 ID:GUujIImdo

4月1日

朝 ハワイ 空母棲姫の棲家


離島棲鬼「――――以上が問題点とその結論です」

空母棲姫「ありがとう。……物資が異常な動きをしているとは思っていたけれど。現場レベルでも裏付けが取れて良かったわ」

離島棲鬼「軍事は姫様に一任されているというのに何故報告が来ないのでしょうか」

空母棲姫「私の調べたところによると最前線の戦力補強を名目にウナラスカとフィジーへの大規模な増援と兵站物資の移動も行われていたわ。勿論、私にも議会にも一言の断りも無かった」

離島棲鬼「守るべきはハワイであるのに、何故あんな僻地へ」

空母棲姫「唐突な動きが多すぎるわね。議会を通せばお父様の意思はいくらでも反映できるのに」

離島棲鬼「この異常な動き、囚われの姫たちが帰ってきてからだと思いませんこと?」

空母棲姫「……」

離島棲鬼「そうですわ、おかしな動きをしているのはいつも五位や六位の配下の者達でした」

空母棲姫「あの子たちがおかしな動きをするのは今に始まったことじゃない。けれど」

離島棲鬼「……大妖精様の名前でおかしな動きを進めているところが謎です。容認されているということなのでしょうか」

空母棲姫「……」

離島棲鬼「姫様、恐れながら一度大妖精様と現状を確認する為の話し合いの場を持たれるべきなのでは」

空母棲姫「そうね。でもその前に事実確認をもう少し進めて材料を揃えたいから手伝って頂戴。調べたい場所があるの」

離島棲鬼「かしこまりました」
54 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 21:50:38.09 ID:GUujIImdo

昼 海洋連合 嶋田の家(木造)


嶋田「あ゛ー。今帰った」

伊勢「お! 久しぶりに昼に帰ってきたね〜」

嶋田「講話の中身の話し合いがようやく終わった。今日はゆっくり出来るぞ」ヌギヌギ

伊勢「お仕事お疲れ様! ご飯にする〜? お風呂にする? それとも……」

嶋田「……久しくご無沙汰だったな」

伊勢「んふふ! じゃあそれで決まり〜」







まだ日の高いうちから嶋田家の寝室は夜の熱気に包まれていた。

もっとも熱気のピークは既に越し、二人は肌寄せあって休む段階へ入っていたが。


伊勢「……ねぇ嶋ちゃん?」

嶋田「ん?」

伊勢「久しぶりに二人っきりでゆっくり出来て嬉しいな♪」

嶋田「本当に、俺の仕事もやっと一段落だ……」

伊勢「ほんとに終わったんだね」

嶋田「まだハワイでの話し合いも終わってないんだぞ。一段落したけどどうなるか分かんねーよ」

伊勢「あはは。そうだけどさ」

嶋田「……今まで寂しい思いさせて悪かったな。もし終わったらこれからは」

伊勢「私一筋? いや〜それは嘘でしょー」

嶋田「本当にするよう努力はする、つもり」

伊勢「別にいいよ。沢山浮気して来な」

嶋田「……」

伊勢「浮気したり他の人裏切ったりしたって、私はいつまでも嶋ちゃんの帰る場所守ってるから」

嶋田「こえーなー、おい」

伊勢「えー? 私のどこが怖いって言うのさ」

嶋田「重いんだよ馬鹿。……俺がふわふわしてるしそれが丁度いいんだけどな」

伊勢「でしょ〜」クスクス
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