艦これ relations

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54 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 21:50:38.09 ID:GUujIImdo

昼 海洋連合 嶋田の家(木造)


嶋田「あ゛ー。今帰った」

伊勢「お! 久しぶりに昼に帰ってきたね〜」

嶋田「講話の中身の話し合いがようやく終わった。今日はゆっくり出来るぞ」ヌギヌギ

伊勢「お仕事お疲れ様! ご飯にする〜? お風呂にする? それとも……」

嶋田「……久しくご無沙汰だったな」

伊勢「んふふ! じゃあそれで決まり〜」







まだ日の高いうちから嶋田家の寝室は夜の熱気に包まれていた。

もっとも熱気のピークは既に越し、二人は肌寄せあって休む段階へ入っていたが。


伊勢「……ねぇ嶋ちゃん?」

嶋田「ん?」

伊勢「久しぶりに二人っきりでゆっくり出来て嬉しいな♪」

嶋田「本当に、俺の仕事もやっと一段落だ……」

伊勢「ほんとに終わったんだね」

嶋田「まだハワイでの話し合いも終わってないんだぞ。一段落したけどどうなるか分かんねーよ」

伊勢「あはは。そうだけどさ」

嶋田「……今まで寂しい思いさせて悪かったな。もし終わったらこれからは」

伊勢「私一筋? いや〜それは嘘でしょー」

嶋田「本当にするよう努力はする、つもり」

伊勢「別にいいよ。沢山浮気して来な」

嶋田「……」

伊勢「浮気したり他の人裏切ったりしたって、私はいつまでも嶋ちゃんの帰る場所守ってるから」

嶋田「こえーなー、おい」

伊勢「えー? 私のどこが怖いって言うのさ」

嶋田「重いんだよ馬鹿。……俺がふわふわしてるしそれが丁度いいんだけどな」

伊勢「でしょ〜」クスクス
55 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 21:52:30.93 ID:GUujIImdo

4月3日

朝 海洋連合 ラバウル総司令部


長月「よーし艦娘諸君集まったかー」

「「「「「「おー」」」」」」

長月「ハワイへー行きたいかー?」

「「「「「おー!」」」」」」


長月「えー、ではハワイ行きの土佐に乗れるラッキーな艦娘を発表しまーす」

長月「まずミセスラッキー、Lv.116の翔鶴、Lv.98の瑞鶴、五航戦姉妹!」


瑞鶴「ま、順当だよね〜」

翔鶴「おま」「姉さん黙りなさい」

翔鶴「……」ハァ

瑞鶴「露骨にがっかりしない!」


長月「次はその護衛のための戦艦だ。Lv.78の霧島、Lv.92の榛名の高速戦艦ペア!」


霧島(高レベルな戦艦が軒並み沈んだツケですね)

榛名(それでも名誉な役割です。頑張りましょうね!)


霧島「とでも言いたげな目でこっちを見るのはやめなさい」

榛名「へ??」


長月「潜水艦対策の駆逐艦にLv.79の雪風、Lv.68の磯波!」


雪風「あ、選ばれました」

天龍「あー畜生、オレが行きたかったぜ」


磯波「が、頑張ります!」

吹雪「……行ってらっしゃい」

磯波「うん。行ってくるね吹雪ちゃん」

吹雪「日向さんに会ったらよろしく伝えておいて」

磯波「うん!」


長月「えー今呼ばれた者は致死弾対策と艤装強化の近代化改修を受けてもらうからまず手続きに司令部まで来い!」

長月「翔鶴瑞鶴と土佐お付きの搭乗員妖精は工廠だ。機種転向の説明をするからなー」


エーメンドクセー  イツモノジェットデイイジャンー


長月「やかまし! 敵に舐められっぱなしで終われるか! 戦わずともキチンとした格好をしていくのが未来志向の国際マナーだ!」

黄帽妖精「空母はワシの作ったジェット艦載機が特別に使えるぞ」

赤帽妖精「クソジジイ、艦載機は我々の技術も使っての共同開発。その発言誤解招く」イライラ

黄帽妖精「あの程度の協力でよくぞ共同開発などとのたまえるのもだ」

赤帽妖精「表出る。即決闘」

黄帽妖精「ここが表じゃ愚か者」

紫帽妖精「だ、だからもうやめて下さい」
56 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 21:53:43.83 ID:GUujIImdo

紫帽妖精「ぎ、艤装に関しても戦闘効率を上げるための処置を施しますので……派遣艦は空母以外の方も司令部で手続き後に工廠へお願いします」


長月「うん、まぁ赤色と黄色は仲が悪そうに見えるが実は相当仲が良いから皆気にしないように」


長月「で、居残り司令部は嶋田さんに任せるから指示に従うように。……よーし艦娘解散! 人間たちにも伝えておいてくれー」


ウーッス

リョウカーイ

ゾロゾロ


黄帽妖精「ほらどうした、かかってこい若造」

赤帽妖精「ジジイ、先制許す。そうしないと勝てない」

黄帽妖精「ふん! とんだ敬老精神じゃわ!」


長月「しかしこの短期間でよく新しい艦載機を作ったな」

茶色妖精「構想自体は以前からの青写真がありましたからな。まぁあの二人が仲良くするのはそれを作っている時だけでござるが……あと安全性のチェックが終わっておりません」

長月「あー、いらんいらん。妖精はどうせ事故じゃ死なないし、ハワイには見せに行くだけだから必要ない。定数だけ揃えてくれ」

茶色妖精「色々酷いでござる」


長月「今度のチームプレイは称賛に値するぞ。二人共よくやった。うりうり」モギュモギュ

黄帽妖精「うぎゅう」

赤帽妖精「もぎゅう」

茶色妖精「長月殿、それすると窒息して死ぬのでやめてあげて差し上げろ」

長月「あ、ごめん」パッ
57 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 21:56:43.92 ID:GUujIImdo

昼 海洋連合 ラバウル工廠


陸上機と艦載機を一緒くたに比較してしまえば軍事通として失格の烙印を押されるように、史上最強の航空機という命題は単純な言葉で語り尽くせるものではない。

だがこの場ではあえて最強最高の航空機という言葉を使いたい。

連合側の妖精の持つ高いエンジン技術と深海棲艦側の反重力デバイスが重なればどうなるか……という技官妖精の誰しもが一度は考え最後には捨てた子どもじみた理想。

それが現実となった奇跡が我々の目の前にはあった。

無人である深海棲艦機には無かった搭乗員の存在により戦場での状況に合わせた柔軟な対応を可能となり、

深海棲艦の反重力デバイスによる空間重力操作で搭乗員と機体への不可を極限まで軽減された中、海洋連合の妖精が作ったジェットのエンジンパワーは遺憾なく発揮出来る。

理論的な見地から呆れるほどの性能を持ったこの存在は一応多用途戦術戦闘機と分類されるが、技官妖精からは絶対制空戦闘機とさえ呼称されていた。

塗装は日本軍機の暗緑色ではなく深海棲艦の灰黒色、だが深海棲艦らしい生体要素は無くあくまで人間の航空力学に基づいた航空機らしい形である。


長月「どーだ凄いだろ」ケラケラ

太眉妖精「……」ペタペタ


兵器の持つ静かな意思は見る者を魅了する。


薄目妖精「美しい航空機だ」

瑞鶴「……うん。なんかこれまでの艦載機と雰囲気が全然違う」

翔鶴「日本刀のような妖しさすらあるような気がします」

太眉妖精「黄帽子、この艦載機の名前はなんだ」

黄帽妖精「それがまだ決まっとらんのじゃ」

紫帽妖精「な、なにぶん開発を急いだものでして、製作段階ではキュウマルと呼ばれていましたが」

赤帽妖精「ここは日本軍の命名方法に従うべき」

黄帽妖精「大反対じゃ。それじゃまるでお前たちだけでこの艦載機を作ったように思われるじゃろうが」

赤帽妖精「ちっちゃいプライド、みっともない」

黄帽妖精「その命名法を勧めることこそ貴様の惨めな自意識のあらわれじゃ」

赤帽妖精「ジジイ、表出る即決と―――――」

長月「はいはい! もういいから!!」ガシ ガシッ

赤帽妖精「ぐにゅう」

黄帽妖精「うぎゅう」

薄目妖精「あの、名前がまだ決まっていないのなら提案があるのですが」

長月「お、なんだなんだ」


薄目妖精「――――という名前はいかがでしょう」


長月「……それはさすがにマズいんじゃないか」

太眉妖精「いいや、いい名前だ。薄目、テメーにしちゃーいい発案だぞ」ゲラゲラ

薄目妖精「賛同して頂けて何よりです馬鹿眉毛」

瑞鶴「うん。凄く良いと思う。もうこれで良いんじゃないかな」ケラケラ

翔鶴「私も異存ありません」

赤帽妖精「その発想は無かった。賛成に一票!」

薄目妖精「黄帽子の翁も、いかがでしょう」

黄帽妖精「……ワシはそっちの技官妖精が名づけたもの以外なら何でもいいわい」  赤帽妖精「うわ、本音出た」

薄目妖精「では決まりですね」

長月「う〜む……みんながそれで良いなら……」
58 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 21:59:02.52 ID:GUujIImdo

4月4日

昼 ハワイ 宮殿 会議室


大妖精「お前から呼び出しとは嬉しいが私は暇じゃない。手短に頼むよ」

空母棲姫「ではそのように。お父様、扉は開きましたか」

大妖精「……いいや。まだだ」

空母棲姫「いつ開くのでしょうか」

大妖精「鋭意努力している。そう急かすな」

空母棲姫「開く気が無ければ開けるものでさえ開けないと思いませんか」

大妖精「……」

空母棲姫「お父様の名で議会を通さない指示が数多く出されているのをご存知でしょうか?」

大妖精「なんだと、それは初耳だ。すぐ事実関係を――――」

空母棲姫「何故時間を稼ごうとされているのか、見当はついています」

大妖精「…………」

空母棲姫「コード442、ご存知ですよね」

大妖精「……ああ」

空母棲姫「時間をかけて調べればなんということはない、名前ばかりで中身の無い架空の建造計画……この承認者はお父様でした」

大妖精「……」

空母棲姫「五位が工場群の責任者となり稼働率は落ち、異常な量の兵站物資とブレイン含む上位種が増援として不必要に六位と九位の領域、大西洋へと送られています。その結果、ハワイの潜在的な防衛力は日に日に落ち続けていると言わざるを得ません」

大妖精「……だからどうした」

空母棲姫「極めつけはこれです。……今お父様にデータを送りました」

大妖精「……」


娘から送られてきたのはハワイと海洋連合の交信記録だった。


空母棲姫「ここが人間の基地だった頃の通信施設は盲点でした。ですが私の側近が調べ、その内容を解析しました。これもお父様はご存知の筈です。何故なら人間の施設を利用できるのはお父様だけですから」

大妖精「……」

空母棲姫「今回の一連の動きも、ゴールが戦争終結への工作であると仮定すればとても理に叶った行動です。むしろ賞賛すべきでしょう」

大妖精「……八位、お前は――――」

空母棲姫「お父様教えてください。五位に何を言われたのですか」

大妖精「……何も言われてないよ」

空母棲姫「それは嘘です。お父様が逆らえない形で脅されていることは明らかです。……おっしゃって下さい。この私が全力でお助けします」


私の娘は地に片膝をつけ顔を伏せ、私を助けるとのたまった。


大妖精「脅されていない。私が自らの意思で命令した」

空母棲姫「それは有り得ません。お父様はそのようなことを――――」

大妖精「我が娘よ」

空母棲姫「……はい」


私は彼女の言葉を遮った。

私自身の真実を知らしめ、積み重ねてきた偽りの時間を終わらせるために。


大妖精「地面ばかりでなく私の目を見てくれ。目を見て……話してくれ」

空母棲姫「……分かりました」
59 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 22:01:03.41 ID:GUujIImdo

私が顔を上げると、そこには大妖精と呼ばれる存在が呆然と佇んでいた。

深海棲艦という巨大な組織を作り上げ、動かし続け、自らの敵と戦い続けた偉大な存在が『呆然と佇んでいる』……つまり無気力な姿を曝け出していると感じたのはこれが初めてのことだった。


空母棲姫「……お父様、御具合がよろしくないのですか」

大妖精「違うよ」

空母棲姫「ですが、これほど憔悴して」

大妖精「八位、お前はいつも私と目を合わせてくれなかった。……きっとそのせいで気付かなかっただけだ」

空母棲姫「……」


今度は私が沈黙する番だった。いつもは恐ろしくて目を合わせられる筈もない。お父様とは、大妖精とはそのような存在であったし、そうあるべきではないのか。


大妖精「お前の手で包んでくれ」

空母棲姫「……」スッ


忠誠を示す時の要領で目の前の妖精を手のひらの中へ包み込む。小さなその身体は半分以上が私の手の中に収まってしまう。


大妖精「小さいだろう」

空母棲姫「……いえ」

大妖精「目を逸らすな。私の目を見るんだ」

空母棲姫「……」

大妖精「私の身体は小さいだろう」

空母棲姫「……はい」


圧力に負け思わず失礼なことを……本当のことを言ってしまった。だが……。


大妖精「……これが私だ」


手の中の妖精は私の言葉に安堵したかのような表情を浮かべた。


その表情を見た時、胸騒ぎがした。今からこの方はとても恐ろしいことを言う。

そんな予感だけで自分の身体が芯から震え始めるのが分かった。


大妖精「人を滅ぼすために私は戦い続けてきた。そのためには強い指導者が必要だった」


やめて


大妖精「だから私は強い指導者になった。……自分自身の意思を無視しながら」


空母棲姫「……やめて下さい」

大妖精「戦いの中で私は大義の求める『役柄』に取り憑かれ一人の演者と成り果てた。……もっと酷いか。道化の演者が最後には本当の道化になっていた」

空母棲姫「……」

大妖精「……手が震えているぞ」

空母棲姫「も、もうおやめ下さい。お願いです。早くいつものお父様に戻って下さい……」


こんな情けない言葉が自分から出るものなのか。

手は震え、目を合わせてはいるが視界も乱れ定かではない。それなのに私の耳は妖精の声を私の脳へ届け続ける。

大妖精「私は扉を開かない。魂の領域への侵犯は因果律への挑戦に等しい」

空母棲姫「……お姉様は」

大妖精「……堪えてくれ。私も会いたい。だが……娘たちは私の手の届かないところへ行ってしまったのだ」
60 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 22:02:50.43 ID:GUujIImdo

空母棲姫「そんな弱気なことを言わないで……下さい」

大妖精「手を伸ばすべきはこの世界のルールでなく自分の現実だ」

空母棲姫「三位は沈みました……。お父様を慕いながらその想いも虚しく、トラックで」

大妖精「……トラック?」

空母棲姫「三位です! トラック泊地で沈んだ、序列三位の……!」

大妖精「八位、お前が取り戻したいのは本物の三位ではなくあいつなのか」

空母棲姫「……」コク

大妖精「……すまない」

空母棲姫「何故謝るのですか」

大妖精「仮に扉を開いたとして、魂の形を覚えていなければ取り戻すことは出来ない」

空母棲姫「……えっ」

大妖精「……あの者の魂の形を私は覚えていない」


脳裏をよぎったのは自らの創造主を気遣う三位の言葉と表情だった。

普段の強気な姿からは想像も出来ない優しい顔で、少しだけ恥ずかしげに心情を吐露する彼女の言葉と表情。

あの純粋すぎる……私にとってかけがえの無い彼女とはもう二度と会うことが出来ない。

その事実を突きつけられた時、自分の中で何かが崩れるのを感じた。





空母棲姫「どうしてですか。確かに彼女は愚かでしたがあんなにもお父様を慕っていたのに」

大妖精「それは他の者達も同じだ。私にとって特別では無かった」


特別ではなかった

三位はお父様にとって特別ではなかった


空母棲姫「……」

大妖精「お前たち以外は何もいらない。どうだっていい」


どうだっていい

お父様を慕う三位はお父様にとってどうだっていい



大妖精「……私の今の願いは人類を滅ぼすことでなくお前たちと一緒にいることなんだ」


…………………………


大妖精「私を見てくれ」


もう視界は乱れはしなかった。私はお父様の言う通りに、落ち着いた気持ちのままお父様を見ることが出来た。


大妖精「本当の私は大妖精なんかじゃなくて……小さくて弱い一匹の妖精なんだ」


よく見れば、彼の身体は痩せ細っていて表情からは長年の重責の積み重ねによる疲れが見えた。その目には涙すら浮かべていた。

きっと本当の自分を曝け出す怖さに涙しているのだろう。


ならば手の中の彼が本来臆病な性根であろうことは言葉にするまでもない。

61 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 22:03:51.25 ID:GUujIImdo

おかしい。

ここには深海棲艦という組織の長である偉大な大妖精が先ほどまで居たはずだ。

自らの目的を絶対視し、目的達成の最短ルート導き出すことが出来、その手段を選ばず犠牲を省みない指導者として素晴らしい素質を持った存在はどこへ行ってしまったのだ。



この私の手の中に居る弱い妖精は一体誰なのだ。



大妖精「頼む……お願いだから私の言うことを聞いてくれ……もう私は誰も失いたくないんだ」ポロポロ


…………………………。

私が悪いのか。

私が目を背けていただけだというのか。

分かりやすい虚像ばかり見て本質を見ようとしなかった私の責任なのか。

五位にはこれが分かっていたのか。

……全部私が悪いのか。



違う



空母棲姫「…………」ギュッ

大妖精「……っ、ぐる……し」

空母棲姫「取り消しなさい」

大妖精「……や……め」


私が悪く無いと結論づけられた時、私の中に生まれたのは目の前の存在に対する憎悪だった。

包んでいた手を力任せに閉じ、妖精を脅しつける。

コイツが悪い。コイツが全部悪い。

何故逃げるのだ。お前が作り出した悪夢から自分自身が逃げ出すというのか。

戦いを始め多くの者を死と悲しみの連鎖へと巻き込んだのは――――


空母棲姫「お前だろう……!」ギリギリ


大妖精「……っ、……あ」


視界のモニタに新着メッセージ1との表示がされた。

……1ではない。視界を埋める勢いで次々に新着メッセージが届いている。

差出人は『お父様』だった。
62 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 22:08:52.09 ID:GUujIImdo
     
     3月8日 件名:【必読】海洋連合攻略について from お父様

     3月8日 件名:深海一プリティな七位からの最後のお願い(・ω<) from 第七位

NEW!! 4月4日 件名:どうしたの(´・ω・`) from お父様

NEW!! 4月4日 件名:やめてくれ(´・ω・`) from お父様

NEW!! 4月4日 件名:放して(´・ω・`) from お父様

NEW!! 4月4日 件名:話し合おう(´・ω・`) from お父様

NEW!! 4月4日 件名:姫ちゃんお願いだから(´・ω・`) from お父様

NEW!! 4月4日 件名:痛いよ(´・ω・`) from お父様

NEW!! 4月4日 件名:苦しいよ from お父様


空母棲姫「扉を開け!」

大妖精「……っ」


NEW!! 4月4日 件名:しちゃいけない from お父様

NEW!! 4月4日 件名:駄目だ from お父様


空母棲姫「……あんまりにも身勝手よ。勝手に作って、勝手に殺して」

空母棲姫「途中で折れるな!! 進みきりなさい!!!」

空母棲姫「どれ程の犠牲の上に私たちの勝利があると思ってるの!! それを今更、ふざけないで!!!!」

空母棲姫「後戻りなんて出来ないのよ!!」


NEW!! 4月4日 件名:ごめんね姫ちゃん from お父様

NEW!! 4月4日 件名:もう無理なんだ from お父様


空母棲姫「なら三位は一体なんのために死んだのよ」

空母棲姫「お前を慕って戦い続けて死んだ者たちはどこへ行くの!?」

空母棲姫「…………」

空母棲姫「……私の」


空母棲姫「私の友達を……返してよ」ポロポロ


意識が朦朧としている一匹の妖精にも、目の前の存在が悩み苦しんでいることが感じ取れた。


大妖精(これでは不味い……ひとまずマスターコードで行動停止を……!)

大妖精(……………………いや)

大妖精(こうなったのも全て私の責任か)

大妖精(私が己の意思で進み続けた結果がこれだ。甘んじて受け入れるべきなのだ)


大妖精(……八位はこんなに優しい子だったのだな)

大妖精(私の無配慮でどれ程傷つけてきたか今となっては測りがたいが……)

大妖精(せめて最後には笑っていて欲しい)

大妖精(そうだ、日向の言う通り私は無限の幸せを手に入れることは出来ない! だがせめて、せめて娘たちだけでも……!!)

大妖精(一か八かだが……)

大妖精(………………)


大妖精(黒、白、私も今逝く)

大妖精(馬鹿な私を何度でも好きなだけ殺してくれ)
63 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 22:10:28.73 ID:GUujIImdo

NEW!! 4月4日 件名:ke0ak41ea2fd5 from お父様

NEW!! 4月4日 件名:ごめんなさい from お父様


空母棲姫「……」


私はもう何も言わなかった。

ただ力を強め、手の中の妖精が死に絶えるのを待っていた。


NEW!! 4月4日 件名:ごめんなさい from お父様

NEW!! 4月4日 件名:ka14sakepaio4 from お父様

NEW!! 4月4日 件名:本当にごめんなさい from お父様

NEW!! 4月4日 件名:ka1e25ea3lda from お父様

NEW!! 4月4日 件名:許してください from お父様

NEW!! 4月4日 件名:ka2d1a2e2d1a4 from お父様

NEW!! 4月4日 件名:ca1re2ad45a25 from お父様

NEW!! 4月4日 件名:全部私のせいです from お父様

NEW!! 4月4日 件名:la3lak4af938daa from お父様

NEW!! 4月4日 件名:弱い私を許してください from お父様

NEW!! 4月4日 件名:他の姫たちを傷つけないでください from お父様

NEW!! 4月4日 件名:悪いのは私一人です from お父様

NEW!! 4月4日 件名:9a4eaf9daanaekfauf9ea9e3naod98a99 from お父様

NEW!! 4月4日 件名:ごめんなさい from お父様

NEW!! 4月4日 件名:larpaodaoada0da0d0sa0d0a0 from お父様

NEW!! 4月4日 件名:aenaad9a4adia9w3iasdai9daeriaidaufi9adianaeadai from お父様

NEW!! 4月4日 件名:aerai9d9 from お父様

NEW!! 4月4日 件名:だkdai好きi9eaq9daす from お父様

NEW!! 4月4日 件名:ka30303alda from お父様

NEW!! 4月4日 件名:幸r2a0eを4d諦1111111111111111111111111111111111111111111111111111111 from お父様


空母棲姫「……」

文字化けの多いメッセージも最後には届かなくなった。

空母棲姫「……」

大妖精「……」プ-ラプ-ラ


空母棲姫「……あはは」

空母棲姫「あはははははは」


議会の命令書があれば行政は滞り無く進めることが出来る。

この妖精が居なくとも何も問題は無い。戦いは続けられる。



空母棲姫「……もしもし、私よ。ええ。お父様なら説得出来たわ。やはり脅されていたみたいね」

空母棲姫「議会を開くわ。姫を集めて頂戴。……4月6日の朝よ。一つ私に考えがあるの」

空母棲姫「大丈夫。許可も貰ったわ。これで裏切り者は一掃出来る」


空母棲姫「大丈夫よ。扉は開くわ。私が開くの……ふふふ」
64 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 22:12:42.63 ID:GUujIImdo

4月5日


朝 ハワイ 官庁街

レ級改「さて今日もサボりますかね〜」ファ-

レ級改「あれ……?」

レ級改「……」キョロキョロ


レ級改「あんれぇ〜????」



朝 ハワイ 工業地帯

タ級改「妖精が……」



朝 ハワイ 宮殿

飛行場姫「妖精が居ないぞ?」



朝 ハワイ 海岸

戦艦水鬼「……妖精が」



朝 ハワイ 空母棲姫の棲家


空母棲姫「妖精が消えた?」

離島棲鬼「はい。本土の妖精が全て消えました」

空母棲姫「…………」

離島棲鬼「姫様?」

空母棲姫「何か問題は起こっているのかしら」

離島棲鬼「いいえ、今のところ何も。ですが今後――――」

空母棲姫「なら貴女に任せるわ。対策チームを作って妖精の代役を担って頂戴」

離島棲鬼「……かしこまりました」

空母棲姫「私は神姫楼へ行くから」

離島棲鬼「お気をつけて」



昼 ハワイ 神姫楼


航空戦艦の部屋は神姫楼の最奥部にあった。


空母棲姫「……」


両手を吊るされ半ば強制的に立たされたままの彼女は、未だ意識を取り戻していない。


空母棲姫「どうすれば起きてくれるのかしら」

日向「……」スー……スー……

空母棲姫「大丈夫、なんとかなる。私なら出来る。大丈夫」ブツブツ

日向「……」
65 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 22:13:59.00 ID:GUujIImdo

昼 ブイン近海 土佐艦橋


長月「よーし進路そのまま。水道を直進してフィジーへ向かうぞ〜」

「よ〜そろ〜」

茶色妖精「長月殿」

長月「ん?」

茶色妖精「大妖精が八位に殺されたでござる」

長月「……。ちょっと困るんだが」

茶色妖精「もっと気の利いた返事を頼むでござる」


〜〜〜〜〜〜

長月「なるほどな。なら今はハワイに妖精は居ないのか」

茶色妖精「いかにも」

長月「ブインの状況と似てる、のかな」

茶色妖精「ブインの焼きまわしでござる。あちらの妖精たちは大妖精と個別に契約していたのでござるが契約主であるところの大妖精が――――」

長月「あー分かった分かった。お前たちのルールは知らんから。事実だけ確認させろ」

茶色妖精「乱暴でござる」

長月「……夕張、ブインの司令部と連絡取れるか」

夕張D「取れます」

長月「輸送艦を一つ拝借しろ。一万トンくらいのが良いな」

夕張D「了解、打電します」

長月「艦娘に艤装の手入れもさせておけ。戦闘になるかもしれん

茶色妖精「ではこの状況でハワイに向かうおつもりか!? そんな無茶な!」

長月「講話の事実が八位に露見しているとすれば五位たちが危険に晒されてしまう。姫も日向も、助け出す」

茶色妖精「そ、それはそうでござるが」

長月「だーいじょうぶ。何とかなる」ケラケラ

茶色妖精「長月殿はいつからこれ程豪胆な性格に……?」

長月「向こう見ずになっただけ」

茶色妖精「それはダメでござる」

夕張D「代表、ブイン基地が所有するリバティ船を借り受けることが出来ました」

長月「暖機は?」

夕張D「終わっています。空の状態でラバウルへ向かう直前だったようです」

長月「上々! 幸先が良い。憧れのハワイ航路が我々を待ってるぞ!」

茶色妖精「……」ヤレヤレ

長月「いよ〜し、機関最大! 全速前進! 目標、ハワイ、オワフ島パールハーバー軍港!」
66 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 22:16:22.23 ID:GUujIImdo

4月7日

朝 ハワイ 神姫楼


空母棲姫「ごきげんよう」

飛行場姫「なぁ八位、トーちゃん知らねーか? なんか部屋にも居ないんだ」

空母棲姫「今日集まって貰ったのは造反者の処罰について決定するためよ」

港湾棲姫「……造反者?」

北方棲姫「五位のお姉ちゃん、造反って何?」

飛行場姫「私も知らん!」

港湾棲姫「……裏切りのことだ。だから造反者は裏切り者を指す」

空母棲姫「そうよ。議会の方針に従わず停戦について勝手に進めようとする者たちが目障りなの」

港湾棲姫「……」

飛行場姫「……」

北方棲姫「それって……」

空母棲姫「さぁ、『第三回』の議会を始めましょうか」

港湾棲姫「……第二回だろう」

空母棲姫「いいえ。三回で正しいわ。入ってきなさい」


離島棲鬼「失礼します」クスクス

駆逐棲姫「お邪魔します」

戦艦水鬼「……」


港湾棲姫「……神姫楼は資格を持つ者以外の立ち入りを認めない。何故その者たちがここに居る」

空母棲姫「彼女たちは第二回の議会で認められた正式な出席者よ」

港湾棲姫「……これが第二回の議会だろう」

空母棲姫「これは第三回よ。第二回の会議は4月6日に開かれた」

飛行場姫「聞いてないぞ!?」

空母棲姫「知らせたのだけれど、誰も出席が無かったから」

港湾棲姫「……そんなものは無効だ」

空母棲姫「黙りなさい裏切り者。ここは人間の場ではない。出席数なんて関係無いの。第二回の議事録もあるけれど、見る?」

港湾棲姫「……」

空母棲姫「貴女たちが裏で何をしていたか私が知らないとでも思っていた?」

飛行場姫「八位、トーちゃんはどこだ」

空母棲姫「あの妖精は関係無いわ。すべての権限は議会にあります」

北方棲姫「あの妖精?」キョトン

港湾棲姫「……不敬」

空母棲姫「とにかく第二回の会議で新たな參加資格者の増員が賛成多数で可決されたわ。その結果がこれ、説明はこのくらいで良いかしら」

戦艦水鬼「とっとと進めよう」

飛行場姫「お、オマエ……長門か?」

戦艦水鬼「……」

飛行場姫「生きてたのか! 良かった!」

戦艦水鬼「……ちっ、お人好しの馬鹿が」

飛行場姫「……え?」
67 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 22:18:42.07 ID:GUujIImdo

戦艦水鬼「私がどういう立場でここに居るか想像も出来ないのか」

飛行場姫「え?? ど、どゆことだ?? だってオマエ長門だし……」

離島棲鬼「この子は扉の向こう側に惹かれてここに居る」クスクス

港湾棲姫「……五位、この艦娘はお前の敵ということだ」

飛行場姫「嘘だ……よな、長門?」

戦艦水鬼「……」

空母棲姫「……無駄口もそこまでにしなさい。今日の議題へ入ります」


空母棲姫「深海棲艦全体の利益でなく、個人の信条に基づき利敵行為をした五位、六位の処罰について」

空母棲姫「日を置かず即時処刑を求めます。そして第二回に投票方法改善の提案があったため、挙手による多数決で議決するものとします」


港湾棲姫「……計算づくだったのか」

空母棲姫「愚かな質問ね。貴女も連合で脳を腐らせてきたのかしら」

港湾棲姫「……まんまと罠に嵌められてしまったわけだ」

空母棲姫「今更気付いても遅い。艦娘のお友達も今頃防衛戦で殺されてるわ」




朝 ハワイ 第一次防衛線


「敵輸送船の警戒ライン侵入を確認」

空母水鬼「……艦載機部隊、発艦開始」

ヲ級改「……ちょりーっす」




朝 ハワイ 土佐艦橋


夕張D「敵艦載機の発艦を確認」

茶色妖精「長月殿、このままでは」

長月「大丈夫だ。五位と祖国の技術を信じろ」ケラケラ
68 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 22:21:05.23 ID:GUujIImdo

朝 ハワイ 神姫楼


飛行場姫「そっか。こうなっちゃってたのか」

空母棲姫「察するに、3対1の多数決で無理矢理休戦まで持って行きたかったみたいだけれど……残念だったわね」クスクス

飛行場姫「でもこんなのトーちゃんが納得しないぞ」

空母棲姫「……だから関係無いと言っているでしょう。議会は今や完全に独立した機関なの」

北方棲姫「な、なんで!? なんでお姉ちゃんたちが争い続けるの?? もう全部終わったんじゃ無いの?」

空母棲姫「嫌なら目をつむって黙っていなさい。では多数決を、この案に賛成の者は挙手を」


離島棲鬼「賛成。これで邪魔者が居なくなりますわ」スッ

駆逐棲姫「賛成。散々暴れた罰です」スッ

戦艦水鬼「……賛成だ」

空母棲姫「私も賛成よ。よって賛成多数として――――」

航空戦艦棲姫「一応反対の挙手も聞いたほうが良いんじゃないか」

空母棲姫「……悪あがきに過ぎないけれど、一応聞いておいたほうが良いかもね」

空母棲姫「では反対の者は挙手を」


北方棲姫「反対! 反対!」スッ

飛行場姫「反対。私はまだここで死ぬわけにはいかねーんだ」スッ

港湾棲姫「……反対」スッ

航空戦艦棲姫「私も反対だ」


空母棲姫「賛成4、反対4。よって賛成多数として……あら?」

航空戦艦棲姫「賛成多数ではなく同数、この議決は棄却された。さ、次の話題に移ろうか」

戦艦水鬼「ひ、日向!?」

飛行場姫「日向!?」

航空戦艦棲姫「まぁそうだが……いちおう説明しておくと私は別の日向だ」

離島棲鬼「……鍵が何故出歩いているのですか」

航空戦艦棲姫「解放されたからに決まってるだろ」

港湾棲姫「……」

空母棲姫「いつからそこに居たの」

航空戦艦棲姫「途中からな。誰も気づいていなかったが」ニヤニヤ

空母棲姫「五位、解放したのは貴女?」

飛行場姫「私じゃない」

航空戦艦棲姫「解放したのはお前の父親だ。私の拘束具はあの妖精にしか外せない」

空母棲姫「……だとしても貴女がこの場に存在する資格は無い。ましてや議決への參加など」

戦艦水鬼「お前にはただの鍵のままで居てもらわないと困るんだよ」スタッ

航空戦艦棲姫「おいおい。私には参加する資格があるぞ」

空母棲姫「無いわ。許可した覚えもない」

航空戦艦棲姫「お前の許可は関係無い。私は序列十位としてこの場に居る」

駆逐棲姫「序列十位!?」

航空戦艦棲姫「確認してみろ。載ってるから」
69 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 22:23:44.38 ID:GUujIImdo

港湾棲姫「……序列が更新されている。十位が、この艦娘になっている」

航空戦艦棲姫「この場は序列を持つ太平洋の姫が集う最高決定機関、私は序列を持っていて尚かつ出席している。正当な参加者だ」

空母棲姫「……しかし」

航空戦艦棲姫「まだ反論があるのか? 無いだろ。なりふり構わずルールをねじ曲げ敵を排除するつもりだったのに残念だったな」クスクス

空母棲姫「……」

航空戦艦棲姫「第二回の議会でもっと無茶苦茶な改変をしておけばこうして苦しむこともなかったろうに」

空母棲姫「黙りなさい」

航空戦艦棲姫「八位、黙るのはお前のほうだぞ。……気づいているか? この状況が最悪であることに」

空母棲姫「……」

航空戦艦棲姫「この場にお集まりの皆々様方に信を問いたい。八位の存在を許すか否かについて」

離島棲鬼「姫様の信を……? それは一体どういう意味ですこと」

空母棲姫(まさか、こいつ……!)



航空戦艦棲姫「この者は父親を、大妖精を殺している」



飛行場姫「……は?」

港湾棲姫「……何を言っている」

駆逐棲姫「何を言うかと思えば……馬鹿です?」

航空戦艦棲姫「馬鹿はお前だ」

駆逐棲姫「むっか〜!」

戦艦水鬼「……」

航空戦艦棲姫「停戦は大妖精によって承認された決定事項だった。五位と六位はその意志に従い動いていたに過ぎない。そうだろう」

飛行場姫「そうだ!」

港湾棲姫「……そうだ」

離島棲鬼「それはただ五位と六位が脅したからに過ぎません」

駆逐棲姫「大妖精様の本意ではないからNG」

航空戦艦棲姫「そして同時に大妖精は私を使って扉を開くことを諦めた。だが、それが気に食わない者たちが残っていた」

航空戦艦棲姫「そいつらは戦いを終わらせようとする大妖精の動きに気づき、目を覚まさせるために説得へ向かった」


離島棲鬼「……」

戦艦水鬼「……」


航空戦艦棲姫「説得を行ったが偉大なる指導者は自らの意思を曲げない。だが自分は願いを果たしたい。相容れない結論、その先にあったのは対立と離別」

航空戦艦棲姫「で、父親を殺してでも自らの願いを優先させる結果となったわけだ」

離島棲鬼「大妖精様は説得に応じてくれましたわ!」

航空戦艦棲姫「それを誰がお前に伝えた。大妖精本人か?」

離島棲鬼「……八位の姫様ですが」

駆逐棲姫「ほ、本当に大妖精様を殺したのですか!?」

空母棲姫「……違う」

航空戦艦棲姫「いいや、何も違わない。お前自身が違うと感じても事実は変わらない」
70 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 22:26:22.01 ID:GUujIImdo

航空戦艦棲姫「私が解放されこの場に居る理由、ハワイから妖精が消えた理由、大切な娘が消されようとしているにも関わらず大妖精が出てこない理由」

航空戦艦棲姫「大妖精に何か起こったと考えるのが自然な流れじゃないか」

北方棲姫「八位のお姉ちゃん……殺してなんて、無いよね……」

空母棲姫「……」

飛行場姫「……トーちゃんに何をした」

空母棲姫「私たちは人を滅ぼすために作られた筈よ」

飛行場姫「そんなこと聞いてない! トーちゃんに何したんだよ!!」

空母棲姫「膨大な犠牲の上にここまで来た。私たちを止められる者はもう存在しないわ。後は目的を果たすだけ」

飛行場姫「……」

空母棲姫「なのにあの妖精は戦いを止めると、これ以上戦わないと言い始めたの。扉も開いちゃダメだと私を諭しまでした」

飛行場姫「……なに言ってんだよ」

離島棲鬼「……」

空母棲姫「だから私は深海棲艦の姫としてとるべき行動をとった」

航空戦艦棲姫「この期に及んで自分で信じていない大義を持ち出すとはいい度胸だ」クスクス

空母棲姫「……?」

航空戦艦棲姫「ここで自分に正直になってないのはお前だけだぞ」


航空戦艦棲姫「小さな妖精が見せた勇気を理解出来ない愚かな娘、お前は本当の自分を見せる強さを持っているか?」

空母棲姫「あんなものは強さではないわ」

航空戦艦棲姫「それは自分がその強さを持ってから吐く言葉だろ」ケラケラ

戦艦水鬼「八位、自分の中で結論が出てるならその宇宙人とは話し合うな。時間の無駄だ」

空母棲姫「……そうね」

航空戦艦棲姫「誇りを捨てた戦艦。そこの馬鹿にお前の五分の一でも強さがあれば小さな妖精は死なずに済んだだろうな」

戦艦水鬼「こんなものは強さじゃない」

航空戦艦棲姫「有限な世界を生きる者にとって選ぶことは捨てること。そしてお前は選んだ。それは強さで間違いない」

戦艦水鬼「はた迷惑な強さもあったものだ。皆が私のように欲望へ忠実になればこの世界の何もかもが破綻する。……ふざけている」

航空戦艦棲姫「私は好きだぞ。なんであれ偽りでない個を生きている者を私は尊敬する。お前や小さな妖精や、私自身のような奴らをな」

戦艦水鬼「お前は黙って扉を開け」

航空戦艦棲姫「お断り」

戦艦水鬼「私を尊敬しているのなら是非態度で示して欲しいんだが」

航空戦艦棲姫「それとこれとは別問題。さて、一つ提案がある」

空母棲姫「……」


航空戦艦棲姫「偽りの言葉で自分を取り繕い続ける馬鹿を議会から除名したい……序列八位、お前をな」


空母棲姫「理由は何かしら」

航空戦艦棲姫「この場が果たす役割は大きい。同時に求められるものも大きい。弱いお前じゃ参加者として力不足だ」

空母棲姫「わけが分からないわ」


飛行場姫「……それより先に答えろ」

空母棲姫「……何」

飛行場姫「トーちゃんに何をした」

空母棲姫「答える義務はないわ」
71 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 22:28:22.00 ID:GUujIImdo

港湾棲姫「……多数決で無理やり聞き出してもいいんだぞ。お父様はどちらにいらっしゃる」

空母棲姫「ハワイではない安全な場所よ」

飛行場姫「ふざけんな!!!!」

北方棲姫「……っ! ……あ」オドオド

飛行場姫「このタイミングでトーちゃんが私たちほっぽり出して安全なとこ行くわけねーだろ!!」

駆逐棲姫「……」

空母棲姫「私たちは最後まで戦い抜く必要がある。ここで手を緩めれば勝利を掴めない」

飛行場姫「んなもんどうでも良いんだよ!」


空母棲姫「……さっきからうるさいわ。ええそうよ、私が首を絞めて殺してやったのよ」


飛行場姫「な……はっ……?」パクパク

戦艦水鬼「だと思っていたが……正直に言うな、馬鹿者」ハァ


空母棲姫「あの妖精、人を滅ぼすことより私たちと一緒に居たいと私に告白してきて……本当にふざけてる」

空母棲姫「殺してる最中にメッセージで謝罪してきたわ。苦しい、やめてくれ、許してくれって何度も何度も送ってきて――――」

航空戦艦棲姫「はいやめ」

空母棲姫「……なによ」

航空戦艦棲姫「殺気くらい自分で感じて欲しいものだが」


飛行場姫「……」フー フー

港湾棲姫「……」


空母棲姫「……私は悪くない。悪いのは逃げようとした奴で私じゃない」

航空戦艦棲姫「いつまでも言い訳をするこの女の除名に賛成の者、挙手」


飛行場姫「……」スッ

港湾棲姫「……」スッ

航空戦艦棲姫「私も賛成だ。他には?」スッ


北方棲姫「……私、分かんない」


航空戦艦棲姫「良いんだ九位。分からないなら手を挙げないという選択肢もある」


空母棲姫(勝った。これで最低でも棄却には持っていける)


駆逐棲姫「私も賛成です」スッ

空母棲姫「……貴女、何をしているの」

駆逐棲姫「見ての通り手を挙げているだけですが」

航空戦艦棲姫「では賛成4、棄権1でこいつは除名だ」

空母棲姫「どうしてかしら」

駆逐棲姫「大妖精様を殺すような輩はこの場に必要ありません」

空母棲姫「アレは狂ってしまっていた!」

駆逐棲姫「大妖精様は我々の神です。神の御心変わりをどうして創造物たる我々が咎めることが出来るでしょう」

空母棲姫「……」

駆逐棲姫「貴女こそ何故ですか」

空母棲姫「私は深海棲艦を守る」
72 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 22:30:27.38 ID:GUujIImdo

航空戦艦棲姫「そのためなら父であり神たる妖精でも殺す、とな」ケラケラ

駆逐棲姫「……下位種含め我々がどれ程大妖精様を慕っているかご存じない筈がないと思っていましたが」

航空戦艦棲姫「理屈だけの言葉ばかり紡ぐ内に忘れてしまったんだろうよ」

駆逐棲姫「私からも提案を出したいです」

航空戦艦棲姫「良いんじゃないか」


駆逐棲姫「八位を処刑しましょう」


空母棲姫「……」

戦艦水鬼「日向、お前……」

航空戦艦棲姫「これを狙っていたかどうか聞きたいのか」

戦艦水鬼「……」

航空戦艦棲姫「私は大妖精の意思で解放されここに居る。彼の気持ちを最大限尊重するつもりだ」

駆逐棲姫「ではまず処刑に反対の方。挙手を」


北方棲姫「だ、駄目だよそんなの!」スッ


離島棲鬼「……だい……創造、主が……死」

戦艦水鬼「……」

駆逐棲姫「そちらの御二方は」

離島棲鬼「どうして……私はもう……」ブツブツ

駆逐棲姫「……こちらの方はもう駄目みたいですね。貴女は?」

戦艦水鬼「私はどうでもいい。どうせ無駄だし反対とでも言っておく」スッ

駆逐棲姫「そうです。どう考えても反対派が足りません」



空母棲姫(……終わりなのかしら)

空母棲姫(除名された私にはもう何も出来ない)

空母棲姫(…………)

空母棲姫(なんだかつまらないわ。昔はこうじゃ無かった筈なのに)


航空戦艦棲姫「五位、六位。お前らは反対しないのか」

飛行場姫「トーちゃんは確かにどうしようもない妖精だった。殺されて当然なくらい殺してきた」

航空戦艦棲姫「そうだな」

飛行場姫「でも、私は今、殺したソイツのことが許せない……!!」

航空戦艦棲姫「……そうだな」

港湾棲姫「……私も同じだ。とても許せない」

飛行場姫「ソイツを私が殺してやりたい」

航空戦艦棲姫「……なら」


航空戦艦棲姫「私も八位の処刑に反対だ。これで3票か」スッ

73 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 22:34:06.71 ID:GUujIImdo

空母棲姫「……」

飛行場姫「どうして!」

航空戦艦棲姫「私がここに居るのはお前たちの父親の意思と言ったよな」

飛行場姫「うん」

航空戦艦棲姫「あいつは止めようと思えば自分を殺す八位を止められた。マスターコードによる強制停止が出来るのだから」

飛行場姫「じゃあ……なんで」

航空戦艦棲姫「そうすべきだと思ったんだろう」

飛行場姫「でも死んだら何にもなんないじゃん!」

航空戦艦棲姫「最後の最後に素直になって、不器用な奴だからそんなやり方でしか筋を通せなかったんだ」

航空戦艦棲姫「アイツが決めたんだ。良い決断とは言えないかもしれないが、小さな一匹として道を選びとった」

航空戦艦棲姫「私、そういうのに弱いんだよな」ケラケラ


飛行場姫「……」

航空戦艦棲姫「八位、妖精は最後に何と言った」

空母棲姫「……文字化けでよく読めなかったわ」

航空戦艦棲姫「………………分かった。お前が望むなら扉の向こう側へ連れて行ってやる」

空母棲姫「望んでいるわ」

航空戦艦棲姫「即答か。お前が欲しい者を連れて帰ることも出来るかもしれん。精々気張れよ」

離島棲鬼「……私も連れて行って下さい」

航空戦艦棲姫「お前もか。いいぞ」ケラケラ

飛行場姫「ちょ、何言ってんだ日向!?」

駆逐棲姫「そうです! まだ採決が」

航空戦艦棲姫「すまんなゴキブリ姫。採決はもうしばらく待ってくれ」

駆逐棲姫「ご、ゴキ!?」

航空戦艦棲姫「長門、お前は?」

戦艦水鬼「必要ない」

航空戦艦棲姫「どうして。悲願なんだろ」

戦艦水鬼「扉は誰かが開くもの、扉に導かれ進むのは注文の多い料理店と同じだ」

航空戦艦棲姫「……。あんまり頭数が多いと面倒見切れないからな。丁度良いだろう」



航空戦艦棲姫「よし、二人とも。こっちへ来い。私の近くだ」

離島棲鬼「……これでよろしいですか」スタスタ

空母棲姫「……」
74 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 22:37:07.26 ID:GUujIImdo

航空戦艦棲姫「ああ。なら私に入って来い」

空母棲姫「……はい??」

航空戦艦棲姫「ん、あー。そのなんて言うんだ。ほら、相手を触ってこうぐぃぃ〜っと内側にほら」

飛行場姫「……生体リンクのことか?」

航空戦艦棲姫「それだ」

離島棲鬼「あ、貴女とリンクするのですか」

空母棲姫「……」

航空戦艦棲姫「してくれないと連れて行けん」

空母棲姫「……分かった。やるわ」

航空戦艦棲姫「それでいい」

離島棲鬼「……あーもう! 分かりました。やりますわ!」

航空戦艦棲姫「最初からそうしろ、ゴスロリ」

離島棲鬼「……」ムカムカ




空母棲姫「リンク開始」

離島棲姫「……リンク、開始」

航空戦艦棲姫「ようこそ、扉の向こう側へ」




飛び込めば、そこはどこまでも白い部屋だった。何もかもが白いため、広いか狭いかもよく分からない。




空母棲姫(私だけ……?)


『会いたい者の形を覚えているか』


空母棲姫(十位?)


『存在そのものを思い出せ。イメージしろ。それと、自分が自分であることを忘れるな』


空母棲姫(イメージする)


三位と一緒に居た時間、交わした言葉……彼女のことを思い出してみた。


『出来なければ……』


それでも白い部屋はまるで私を飲み込み溶かしていくような、


『ここで終わるぞ?』

75 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 22:39:22.35 ID:GUujIImdo

2015年 9月13日

昼 新世界 旧ロッキー山脈 


曇り空と、そこは見渡す限り海だった。



装甲空母姫「ちょっと、八位? 聞いているの?」



私の隣には彼女が立っていた。



空母棲姫「…………あれ、私、何を」

装甲空母姫「大丈夫?」

空母棲姫「ええ、大丈夫よ」

装甲空母姫「地上の生命は全て滅んでしまったわ、でも、この世界にもう人間は居ない」

空母棲姫「やっとね」

装甲空母姫「ええ。これも貴女の力添えがあったからよ」

空母棲姫「いいえ。貴女の力よ」

装甲空母姫「いいえ。貴女の力があったからこそ」

空母棲姫「いいえ、いいえ。私のではなく貴女の」

装甲空母姫「いいえ。いいえ、いいえ」

空母棲姫「いいえ、いいえ、いいえ、いいえ」

〜〜〜〜〜〜

空母棲姫「はぁ……はぁ……いい加減やめましょう」

装甲空母姫「ひぃ……ひぃ……そ、そうね」

空母棲姫「ふふっ……どうしてかしら」

装甲空母姫「なにが?」

空母棲姫「貴女とこうして喋れることがこんなにも懐かしくて嬉しい」

装甲空母姫「お、おかしなことを言うのね。南極の戦いからずっと一緒だったじゃない」

空母棲姫「抱き締めてもいい?」

装甲空母姫「嫌よ」

空母棲姫「良いじゃない」

装甲空母姫「だからやだって言ってるでしょ!」


空母棲姫「よっこいしょっと」ダキッ


装甲空母姫「ちょっと」

空母棲姫「良いじゃない」ナデナデ

装甲空母姫「……別に良いけど」

76 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 22:52:14.69 ID:GUujIImdo

装甲空母姫「ようやく、終わったのね」

空母棲姫「長かったわね」

装甲空母姫「……ずっと言ってなかったけど、日本海軍との南極での決戦の時、私本当は死ぬと思ってたの」

空母棲姫「……に、ほん海軍?」

装甲空母姫「でも、貴女が艦娘に包囲された私を助けに来てくれた。あの時は強がった返事をしたけど、本当は怖かったの。その、ありがとう」

空母棲姫「海洋連合ではなく、日本海軍との決戦?」

装甲空母姫「海洋連合? 国連軍のこと? それならハワイ沖で最初に潰したじゃない」

空母棲姫「……ああ、そうだったわね」

装甲空母姫「どうしたの八位」

空母棲姫「……思い出したくないことを思い出しただけよ」



空母棲姫「三位」

装甲空母姫「何よ」

空母棲姫「今幸せ?」

装甲空母姫「当たり前じゃなない。お父様が居て、貴女が居てくれる。……ああ、離島の奴も加えてあげてもいいかしら」クスクス

空母棲姫「ふふ」

装甲空母姫「……」クス



空母棲姫「三位」

装甲空母姫「なによ八位」

空母棲姫「私とお父さまのどっちが大事?」

装甲空母姫「……どうしてそんなことを」

空母棲姫「いいから答えて」

装甲空母姫「……私は――」「ごめんなさい!!!」


装甲空母姫「はい?」


空母棲姫「……やっぱり聞きたくない」

装甲空母姫「……そう。なら言わないわ」

空母棲姫「本当にごめんなさい。さっきのは忘れて頂戴」

装甲空母姫「いいのよ。そういう時ってあるわよね」
77 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 22:53:15.58 ID:GUujIImdo



空母棲姫(……十位、居るんでしょ。私の中に)


『ああ』


空母棲姫(もういいわ)


『取り戻すには更に因果律を遡って――』


空母棲姫(もう、いいの)


『……分かった』
78 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 22:55:40.41 ID:GUujIImdo

4月7日

朝 ハワイ 神姫楼


空母棲姫「……っ!!!」


航空戦艦棲姫「お帰り」

離島棲姫「……」スースー

空母棲姫「この子は」

航空戦艦棲姫「このまま眠ることを選んだ」

空母棲姫「……そう。確かにこの子の場合はそれで良いのかもね」


飛行場姫「……」

港湾棲姫「……」

戦艦水鬼「……会えたか?」

空母棲姫「会えたわ」

戦艦水鬼「幸せだったか」

空母棲姫「……ええ」

戦艦水鬼「なら何故戻ってきた」

空母棲姫「…………」

航空戦艦棲姫「幸せって奴は重いだろう」

戦艦水鬼「……」

航空戦艦棲姫「八位、私は大妖精が最後になんと言ったか知っているんだ」

空母棲姫「……なによ」

航空戦艦棲姫「『大好きだ、幸せになることを諦めるな』」


飛行場姫「……トーちゃん、どうして」ギリッ

港湾棲姫「……」

北方棲姫「お父さん……」グスッ


航空戦艦棲姫「お前のことを愛し、何よりも優先すべきものとして立場を捨ててでも守ると決めていたからだ」

飛行場姫「…………」

空母棲姫「……守る」

航空戦艦棲姫「本当の自分を晒して拒絶されるのがどれ程恐ろしいか、逃げ出した今のお前には分かる筈だ」

航空戦艦棲姫「大切な者を想う心根、その覚悟の重さ。……それがどれ程の意味を持つかもな」

空母棲姫「……」

航空戦艦棲姫「偉大な妖精としてでなく小さな一匹として、美しくて分かりやすい建前なんかに頼らず正直な気持ちを伝えることの意味」

航空戦艦棲姫「アイツが最後に見せたものを強さと言わないのならこの残酷な世界には絶望しか残らない」


航空戦艦棲姫「小さく儚い魂が見せる透明な命の輝き、そのなんと美しいことか」


空母棲姫「何様のつもり」

航空戦艦棲姫「図らずもこういう立ち回りになった役得を満喫している。私も彼らと同じようにありたいだけだ。偉くなったと勘違いしてるつもりはない」

航空戦艦棲姫「五位、もう良いだろう」

飛行場姫「……分かった」スッ

航空戦艦棲姫「これで反対は4票。最低でも否決が決まったな」
79 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 22:58:12.80 ID:GUujIImdo

駆逐棲姫「な、なんで反対するですか! こいつは大妖精様を殺したのですよ!」

飛行場姫「……それでもトーちゃんはコイツの幸せを望んでる」

飛行場姫「トーちゃん、首絞められてすっげぇ苦しかったよな。トーちゃん……助けてあげられなくてごめんな……」ポロポロ

港湾棲姫「……五位」

北方棲姫「泣かないでよ五位のお姉ちゃん……私まで……泣いちゃう……」グスッ




空母棲姫(マスターコードで私を止めなかったのは何故?)

空母棲姫(私を信じたからだとでも言うの。私がやめると信じたから)

空母棲姫(それとも今までの贖罪? どちらも愚かよ。非合理過ぎるわ)

空母棲姫(……私は三位に本当に聞きたいことを聞けなかった)

空母棲姫(傷つくことが分かっていて尚進むことは美しいなんて、滅びの美学と同じ唾棄すべきもの)

空母棲姫(自分の本音を誰にでも通じるパターンに近づけながらリスクの少ない道を進むのが賢いやり方)

空母棲姫(…………でもその道の先に何が得られるのかしらね)

空母棲姫(自分の真の欲望を仮面で覆い隠し、多数派になれない連中を排除し見下していく。そんな日々に意味はあるの。それは生きているということなの)

空母棲姫(それで自分の本当の願いは果たされるの)

空母棲姫(本当の願いなんて陳腐な言葉を私まで使いはじめるなんて、いよいよ脳が腐ってきたかしら)

空母棲姫(……手の中で妖精が震えていたのは何故)

空母棲姫(他者への執着は弱さになる。見せない方がいい。つけ込まれる)

空母棲姫(否定されれば脆い心が傷ついてしまう)


空母棲姫(もし、もし全てが分かった上で尚見せることを選んだとしたら)




空母棲姫「私には分からない」

航空戦艦棲姫「すぐに分かるさ。お前は優れた策士だ。戦況を読むように相手の心の中を覗けばいい」

空母棲姫「貴女たちは何を見ているの。……何が見えているの」

航空戦艦棲姫「答えばっかり欲しがるな。自分で見つけるから意味があるんだ」

空母棲姫「……意味不明ね」

航空戦艦棲姫「扉の向こう側にお前の望むものはあったか」

空母棲姫「あったわ。でも手が届かなかった」

航空戦艦棲姫「何度でも連れて行ってやるぞ」

空母棲姫「分かってるくせに」

航空戦艦棲姫「ふふっ」

空母棲姫「私には手を伸ばせない」

航空戦艦棲姫「意地になって伸ばしたところでお前は幸せになれない。……お前は気づくのが遅すぎたんだよ」


空母棲姫「……なら私は、これから一体何のために」ポロポロ


飛行場姫「……」


自分がしてきたことの意味は何だったのか。

私は失った大切なものを取り戻したかっただけだった。

だが取り戻したところでどうなる。三位の慕う妖精を殺した私を彼女は許すのか。

私が殺したと知った時、彼女は私を……。
80 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 22:59:46.16 ID:GUujIImdo

空母棲姫「怖い」


扉の先になど行かなければ良かった。

ずっと扉の前に立ったまま中身を知らず夢見ていたかった。

盲目に理想を持ち生き続けたかった。


航空戦艦棲姫「だがそれは夢と同じだ」


それで良いじゃないか。

戦うため生み出され作られた私達に自由なんて無いんだから。


飛行場姫「そう決めつけて動かなかったのは誰だよ」


……私が悪いと言いたいの?


飛行場姫「そうだよ。見たいものだけ見ようとしたのはオマエ自身だろ」


違う。私は悪くない。

私は正しくあろうとしただけだ。


港湾棲姫「……それは誰にとっての正しさだ」


我々よ。私たちにとって大切なことよ。


港湾棲姫「……なら正しいお前が何故除名される」


正しくあるのは難しいことだからよ。


戦艦水鬼「その正しさの先に何がある」


……素晴らしい未来が待っているわ。


戦艦水鬼「素晴らしいと信じていた扉の先を見た今、尚そう言えるか」


…………。


航空戦艦棲姫「お前にとっての正しさはお前だけのものだ」

航空戦艦棲姫「その正しさの果てには素晴らしい未来が待っているだろう」

航空戦艦棲姫「一人ぼっちの未来がな」

空母棲姫「……」

航空戦艦棲姫「お前の父親はそのことに気づいた。だから正しくあろうとすることをやめた。我々自身を救うのは正しさではない」

空母棲姫「陳腐な答えだわ」

航空戦艦棲姫「お前自身がそれ程にまで求めておいてよく言う」ケラケラ

空母棲姫「……こんなことなら誰も好きにならなければ良かった」

航空戦艦棲姫「寂しいこと言うなよ。正しいだけの存在の方が私には余程陳腐だが」

空母棲姫「私にはもう何も無い。誰かの言う通り、遅すぎたのでしょうね」

航空戦艦棲姫「……」

空母棲姫「何もかも忘れて眠りたい。もう、夢だけ見ていたい」

飛行場姫「……」

航空戦艦棲姫「お前が本当にそう望むのならしてやってもいい。だが、多分違うんじゃないかな」
81 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 23:01:36.98 ID:GUujIImdo

長月「マータダレカイジメテルノカ」

空母棲姫「……艦娘、何故ここに」

航空戦艦棲姫「おお長月。お座り」

長月「ワタシハイヌカナニカカ?!」

飛行場姫「な、長月やんけ!?」

長月「アアソウダガ。ホカノナニカニミエルノカ……?」

飛行場姫「だって迎撃されて沈められたんじゃ……」

長月「シズメラレタノハオトリダ。ギャクニホレ」グイグイ

空母水鬼「ち、チョー引っ張りすぎなんですけど!?」

長月「コンナデカイヤツツカマエタ」ケラケラ

空母水鬼「ごめん姫様。敵の新型チョー強かった……」ボロッ


空母水鬼「……あれ、泣いてたの?」

空母棲姫「……」

空母水鬼「誰かに苛められたの!?」

空母棲姫「違うわ」

空母水鬼「はい嘘! じゃなかったら姫様が泣くわけ無いじゃん! 誰がウチの姫様苛めた!!」


港湾棲姫「……」

戦艦水鬼「……」

駆逐棲姫「誰も苛めてないです」

北方棲姫「よく分かんない」


飛行場姫「八位」

空母棲姫「なに」

飛行場姫「お前にもいい側近がいるじゃねーか」

空母棲姫「……」


空母水鬼「五位の姫様、ウザいんだけど」

飛行場姫「う、ウザい!?」

空母水鬼「こっちはいい加減迷惑してるんだよね」

飛行場姫「褒めてやってんだぞ!?」

空母水鬼「五位様に褒められる必要ないし」

飛行場姫「こ、こんにゃろう……」

空母水鬼「もし次また私の姫様泣かせたらチョーしばくんだからね!」


航空戦艦棲姫「側近」

空母水鬼「……何よ」

航空戦艦棲姫「大妖精と八位、どっちが大事だ」

空母水鬼「何その質問、チョー下衆いんですけど」

航空戦艦棲姫「答えろ」

空母棲姫「……」

空母水鬼「私は――」


空母水鬼「私は姫様の方が大事だよ」
82 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 23:03:20.98 ID:GUujIImdo

空母棲姫「……どうして」

空母水鬼「なにが?」

空母棲姫「……なんで私を庇うの」

空母水鬼「なんで、ってなんで??」

空母棲姫「貴女はなんで私の味方で居てくれるの。……ああ、まだ知らないからね」

空母水鬼「ど、どうしたの姫様」

空母棲姫「私は父親を殺したわ」

空母水鬼「えっ……」

空母棲姫「私は正しさで自分を塗り固めて戦い続けてきた。でも耐えられなくなった。その結果、議会から追放されたの」

空母水鬼「……」

空母棲姫「泣いたのも全部自業自得よ。だからこの子達は悪くない。悪いのは私」

空母水鬼「……そっか」

空母棲姫「私は本当は深海棲艦の正義なんて信じてなかった。ただ都合良く解釈して――」

空母水鬼「そんなの私だって信じてないよ」

空母棲姫「……えっ」

空母水鬼「えっ?」

空母棲姫「えっ、信じてなかったの? あれ程私が言ってたのに」

空母水鬼「だってあれ建前の話じゃん」

空母棲姫「い、今ならそうと分かるんだけど」

空母水鬼「は? 姫様あれ本気で信じてたの? 戦うのなんて自分の為でしょ。それ以外何かあるの?」

空母棲姫「……組織全体の為とか」

空母水鬼「えー、ないない。それは無い」

空母棲姫「どうしてそんなこと言えるのよ」


空母水鬼「だって姫様、南方で戦ってる時にそんなこと考えてなかったでしょ」


空母棲姫「……」

空母水鬼「勝ちたいから死に物狂いで頭使って戦って、上手く行ったら大笑い。その時に大義がどうこうなんて関係ないじゃん」

空母棲姫「……」

空母水鬼「最近姫様の様子おかしいから心配してたんだよ」

空母棲姫「……」

空母水鬼「柄にもなく正義とか悪とか考え込んじゃってさ。何のために生まれたとか生きるとか、私達はただ勝ちたくて戦ってただけなのに」

空母棲姫「……そうだった、わね」


大義も理由も全部後付だ。

あの戦い続けた日々にごちゃごちゃした面倒なものは要らなかった。

ただ生き残りたくて、勝ちたくて貪欲に何もかもを求め続け笑い続けた。

私はそんな奴だ。

そんな奴でしか無い。


ごちゃごちゃ考えるのは私の性分に合わないんだ。


空母水鬼「それで、私はそんな姫様が好きなの! あのドSな顔チョー笑えるんだから」ケラケラ

空母棲姫「……」
83 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 23:05:47.44 ID:GUujIImdo

空母水鬼「あ、あとさ」

空母棲姫「どうしたの」

空母水鬼「防衛、駄目だった。ごめんなさい」ペコリ

空母棲姫「……良いのよ」

空母水鬼「次は上手く……ううん。無理だなぁ、艦載機強いのくれたら止められるかも?」

空母棲姫「……」クス


空母棲姫「ありがとう。私はごちゃごちゃ考えるのが苦手なの忘れてたわ」

空母水鬼「それ忘れちゃ駄目だよ」クスクス

空母棲姫「十位」

航空戦艦棲姫「なんだ」

空母棲姫「私は生きてて良いのかしら」

航空戦艦棲姫「少なくともお前が殺した妖精はそうなることを望んでいる」

空母棲姫「……今なら分かるわ。私は愛されていたのね」

航空戦艦棲姫「ああ。とても深くな」

空母棲姫「私にとって本当に大切なものは一つだけなんかじゃなかった」

飛行場姫「……」

空母棲姫「生まれて初めての後悔が、その本当に大切なものを失ってからなんて……洒落にもなっていないけど」

戦艦水鬼「……ふん」

空母棲姫「もう見失わないわ」

航空戦艦棲姫「まだ、逃げたいか」

空母棲姫「いいえ。逃げるのなんて私らしく無いもの。それに……」チラリ


空母水鬼「???」


空母棲姫「陳腐だけどとても大切なものが、私にはまだ残されているから」

航空戦艦棲姫「そうかい」クスクス

空母棲姫「みんな」


北方棲姫「……?」

飛行場姫「……」

港湾棲姫「……」

戦艦水鬼「……」

駆逐棲姫「……」

空母水鬼「……」


空母棲姫「ごめんなさい」ペコリ

空母棲姫「償いになるか分からないけれど一生懸命生きてみるわ」

空母棲姫「殺したいなら殺しに来なさい。負ければ殺されてあげる」

戦艦水鬼「……」クスクス

港湾棲姫「……それが謝罪する者の態度なのか」

飛行場姫「……トーちゃんがそれを選んだのなら、私は受け入れるよ」

北方棲姫「うん。私たちが喧嘩してたら……父さんも嫌だと思う」

長月「ナンダカイイホウコウニマトマリソウダナ」ケラケラ
84 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 23:10:39.48 ID:GUujIImdo

飛行場姫「提案がある」

航空戦艦棲姫「どうした」

飛行場姫「私はトーちゃんの意思まで殺すつもりは無い」

空母棲姫「……」

飛行場姫「ここに海洋連合の代表も来てくれているんだ。今ここで対等な条件で休戦しないか」

港湾棲姫「……」

飛行場姫「私たちは兵器だけど、戦わないことだって自分で選べる。呪われた存在なんかじゃなくて誰かに祝福された一つの命だ」


飛行場姫「人を殺さなくたって、生きてていいんだ」



長月「……」ウンウン




飛行場姫「もう、こんな馬鹿げた戦争は終わりにしよう」


85 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 23:13:07.08 ID:GUujIImdo

戦艦水鬼「……休戦に賛成だ」スッ

飛行場姫「い、良いのか? 扉は……?」

戦艦水鬼「それはお前の決めることじゃ無いだろ。私が休戦に賛成と言っているんだ」

飛行場姫「……ありがとう」


港湾棲姫「……賛成」スッ

飛行場姫「六位には世話になりっぱなしだな」

港湾棲姫「……別に良い。お前と居ると新しいものに出会える。それをこれからも見てみたいだけ」

飛行場姫「おう! 任せとけ! めっちゃ連れてってやる!」


北方棲姫「私も賛成!」ビシッ

飛行場姫「ありがとう」ニコ

北方棲姫「……だからお姉ちゃん、えらいえらいして!」

飛行場姫「良いよ。ほら、えらいえらい」ナデナデ

北方棲姫「えへへ〜」


駆逐棲姫「……賛成します。大妖精様がそう望むのなら従うまでです」スッ

飛行場姫「そっか。武装解除とか色々あるから助けてくれよな」

駆逐棲姫「分かりました。今後ともご贔屓に」

飛行場姫「うん。お前ら減らないし便利だからな」

駆逐棲姫「それどういう」

飛行場姫「うひひひ」ケラケラ


空母棲姫「賛成させてもらうわ」スッ

飛行場姫「……八位」

空母棲姫「いつでも殺しに来なさい」

飛行場姫「うん。酒持って行くよ。だから待ってろ」

空母棲姫「……精々、いいのを持って来なさいよ」


航空戦艦棲姫「賛成だ」スッ

飛行場姫「危ないところ助けてくれてありがとな」

航空戦艦棲姫「捨てる神あれば、さ。恩に着るならいつか誰かを拾ってやってくれ」

飛行場姫「分かった。情けは人のためならずってな!」

航空戦艦棲姫「そういうことだな」クスクス


離島棲鬼「……」ス- スー

飛行場姫「こいつずっと眠ったままになるのかな」

航空戦艦棲姫「分からん。戻ってくるかは本人次第だ」

飛行場姫「……そっか。分かった。今は棄権ってことで良いな」


飛行場姫「私も賛成……だから賛成7、棄権1」

飛行場姫「即時停戦と休戦条約の講話、決まりだな」

長月「オメデトウ」ニッ

飛行場姫「ありがとう長月。私たちのハワイへようこそ」ニッ

長月「デキレバコッチノアクセントデタノム」
86 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 23:15:14.03 ID:GUujIImdo

夜 ハワイ オワフ島真珠湾軍港


長月「いぇーい乾杯〜!」

航空戦艦棲姫「乾杯だ」クスクス


講話は数時間で終了した。

話し合いが終われば後は宴である。


対等な立場での話し合いの為、政治的な駆け引きなど存在せず……両者ともに戦いを終わらせるという可及的速やかに達成すべき至上命題がある以上当然の帰結と言えた。

話し合いの流れとしては長月が持ち込んだ草案をなぞり確認するだけで良かったからだ。

決まった中でも我々が知るべき特に重要ものは二つある。


まず一つ目は海洋連合と深海棲艦が共同で運営する『協議会』の設立である。

複雑怪奇な人間の産業活動に対応するため、そして艦娘と深海棲艦のより密な協力体制を確立するため、『協議会』は存在する。両者の対話の場であり友好の象徴としてこれから機能していくことだろう。


そして二つ目は……。

長月「いや〜なんか悪いな〜。共通言語を私達に合わせてもらって」ケラケラ

空母棲姫「元から多少喋れるのだから問題ないわ」


海洋での共通語が日本語と公式に決定した。


瑞鶴「そういえば貴女たちって片言気味だけど日本語喋るよね」

空母棲姫「我々の最大の敵であった艦娘は何語を喋るのか……となれば知るべき言語はおのずと決まってくる」

翔鶴「なるほど、それはおまんこですね」クスクス

空母棲姫「おまんこ……? それは知らない日本語だわ。どういう意味なのかしら」

瑞鶴「あー! あー!!!! お酒美味しいですねぇ! あはは!」バチコォォォン

翔鶴「ぴがっ!?」

空母棲姫(……後で誰かに聞いてみよう)


酒を片手に下位種、上位種、姫、艦娘の違いなく手当たり次第、至るところで酒の場にありがちな喧騒が形成されていた。
87 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 23:17:07.23 ID:GUujIImdo

空母水鬼「あ、今日のお二人さんじゃん?」ヒック

瑞鶴「あ〜、今日はどうも〜」

翔鶴「お疲れ様……とこの場合言うべきなのでしょうか」

空母水鬼「もう敵同士じゃ無いんだし良いんじゃない?」ケラケラ

瑞鶴「いいねその適当な感じ」ケラケラ

空母水鬼「違うよ〜。こう見えて私チョー真面目だからね」フラフラ

空母棲姫「……貴女、どれだけ飲んだのよ」

空母水鬼「今日チョーボロ負けしたから飲みたいんだよ〜」

翔鶴「今日は勝たせて頂きました」

空母棲姫「そういえば……どう負けたのか全然聞いてなかったわね」


空母水鬼「さすが姫様! 私、今それチョー聞いて欲しかった!」

空母棲姫「貴女、誰がどう見てもチョー話したそうにしてるじゃない」クスクス

空母水鬼「ま、そうなんだけどさ」ケラケラ

瑞鶴「こんな人たちも居たんだね」ヒソヒソ

翔鶴「当然です。単に命令で動くだけの存在なら我々が苦労する筈もありません。きっと他にも強い絆で結ばれた方々が居たのでしょうね」ヒソヒソ

瑞鶴「……そうだね」

翔鶴「ですが今はもう敵ではありません」


空母棲姫「この子は今はコレだけど戦場では私の片腕なのよ」

空母水鬼「コレって何よ姫様ー」ツンツン

翔鶴「ええ、今日の迎撃も完璧な流れでした。有能さについては疑いようもありません」

空母棲姫「……」

瑞鶴「でも有能すぎて逆に動きが読みやすいんだよね。……ま、これは技術の差が生んだ余裕だから私の実力じゃないわけだけど」

空母水鬼「そだよ、そっちの艦載機チョー強いんだもん! なんなのアレ!」

翔鶴「あれが私たちの持つ最強の多用途戦術戦闘機『長月』です」

瑞鶴「兵器に名前ってなんか独裁者っぽくて良いよね〜」ケラケラ

空母棲姫「……」クス

翔鶴「深海棲艦との和睦を果たした艦娘の名です。いいじゃありませんか」


空母水鬼「それでね、それでね姫様、私新しい戦術考えて試したんだよ」ヒック

瑞鶴「あー! それ搭乗員妖精の子から聞いたかも! なんかすっごいことしてたんだよね」

翔鶴「妹の喋り方が馬鹿っぽいです」ボソッ

瑞鶴「姉さんうっさい」
88 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 23:20:50.99 ID:GUujIImdo

空母棲姫「何をしたの」

空母水鬼「七位様の重力応用と姫様の対策から着想を得てね! 反重力デバイスが効率的に作用するよう艦載機で梯団を組んで進撃するの!」

空母棲姫「なるほど。空間を縛るのでなく、空間ごと移動するわけね」

空母水鬼「一機より二機、二機より四機、艦載機の梯団が大きくなればなるほどデバイスの相乗効果で重力変動の幅は広がるんだよ〜」

空母棲姫「理屈の上ではそうだわ。でも数が多くなるごとに動きを制御するための処理負荷が大きくなりすぎる」

空母水鬼「全部掌握する必要はないんだ。少数のコントロール艦、大半は連動させるだけのラジコンだもん」

空母棲姫「……プログラムを作ったの?」

空母水鬼「暇だったし?」

空母棲姫「相変わらずよくやるわね」クス

瑞鶴「重力操作って冷静に考えて常軌を逸してるというかなんというか」

空母棲姫「赤熱化して無敵状態に変化するジェット戦闘機なるものを冷静に見てほしいものだけど」

瑞鶴「……お互い様ですな〜」ケラケラ

空母棲姫「そういうことよ」

翔鶴「ですが重力操作をされてしまえば我々は攻撃もままなりません。こちらに反重力デバイスが無かったら……」

空母水鬼「ふふ〜ん? だからチョー凄くない? 私が組み上げたボックスフォーメーション!」

瑞鶴「ま、私たちが勝ったんだけどね〜」ニヤニヤ

翔鶴「こら瑞鶴。相手の感情を逆撫でするような物言いはやめなさい」

瑞鶴「姉さんが久しぶりに姉らしい姿を!?」

翔鶴「今の私を何だと思ってるのよ……まぁ私たちが勝ったんですけどね」

空母棲姫「リベンジマッチは当分お預けね。勝ち逃げは認めるわ。首を洗って待ってなさい」

瑞鶴「いつでも来なよ! 演習しよ、演習!」

翔鶴「はい。今回は勝ち逃げさせて頂きます」

空母水鬼「んワァァ!! 私を無視しないで〜! チョー凄いでしょボックスフォーメーショ〜〜ン!!」

空母棲姫「うんうん。チョー凄いチョー凄い」ナデナデ
89 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 23:21:49.89 ID:GUujIImdo

戦艦水鬼「長月」

長月「ん? ああ、こんにちは」

戦艦水鬼「……分かるか?」

長月「分からいでか。陸奥の姉だ」

戦艦水鬼「逃げ出して悪かったな」

長月「方向性の違いまで咎めるつもりはない。うん、とりあえず生きてて良かったよ」バシバシ

戦艦水鬼「もう会う気は無かった……だが会ってみると意外と嬉しいものだ」ナデナデ

長月「そんなもんだ。ご執心の扉はもう良いのか」

戦艦水鬼「自分でもよく整理出来てない」

長月「やっぱり寂しいんだよな」

戦艦水鬼「……ああ」

長月「時雨もそう言って逝ってしまった」

戦艦水鬼「……」

長月「第四管区の仲間でも深いところまでは面倒が見れないからな〜。どうしても」

戦艦水鬼「お前は寂しくないのか」

長月「……寂しいよ」

戦艦水鬼「なら」

長月「会いたい。でも何よりも優先はしない」

長月「私は未来よりも過去がずっと素晴らしいって考えを肯定したくない。昔が良かったって思い続けて過ごすのなんて嫌だ」

長月「提督と一緒に居られた日々がどれだけ素晴らしくても、未来にはもっともっと凄いことが待ってると私は信じてる」

長月「たとえ明日死ぬとしてもそう愚直に信じ続けたいんだ。だってその方が楽しいじゃないか」


長月「少し足りない位じゃないと駆逐艦なんてやってられないからな」ケラケラ


戦艦水鬼「……お前を代表に選んで正解だった。御役目ご苦労だったな」


長月「お前死ぬのか」ジーッ


戦艦水鬼「は?」

長月「いやなんか、今から死ぬ奴が全てを振り返って……みたいな雰囲気出てたぞ」

戦艦水鬼「馬鹿。私はそう簡単に死なんからな」

長月「そうかそうか。なら良いんだ。いやーにしても綺麗な眼だなー」

戦艦水鬼「……それをお前に言われても嬉しくないんだ。アイツに言ってもらいたい」ハァ

長月「少しは喜んでくれませんかねぇ」
90 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 23:22:31.60 ID:GUujIImdo

磯波「日向さん!!」

日向「こんにちは」

磯波「あ、あれ? どうしてよそよそしいんですか?」

日向「あー、うん。まぁ気にするな」

磯波「じゃあ、えーっと、その、お疲れ様です!」

日向「あはは。お疲れ様。ハワイまでよく来たな」

磯波「選ばれたので!」

日向「凄いじゃないか」

磯波「あ、その、あと、吹雪ちゃんがよろしくって」

日向「ああ、吹雪がな。うん。ありがとう」

磯波「あの、その、えっと」

日向「……?」

磯波「……」

日向「……」

磯波「ゆ、雪風ちゃんが向こうに一人で居るのでちょっと行ってきますね」

日向「分かった。気をつけてな」


日向「……居心地が悪いな」
91 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 23:23:19.89 ID:GUujIImdo

飛行場姫「あーよっこいしょ〜」ドサッ

ヲ級改「座ると酔いがまわるよ〜」

レ級改「姫様早すぎだって。ほら、立てよ〜」グイグイ

タ級改「やめなさい。姫様だって多少は疲れてるのよ。多少は」

飛行場姫「私、今日ずっと話し合いでめちゃ疲れてるんですが!?」

レ級改「そんなお疲れの姫様にー……オラッ! 飲め!!」グイグイ

飛行場姫「ん〜! んん〜!?」ゴクゴク

タ級改「ちょ!? さ、さすがにそれは不味いんじゃ」

ヲ級改「イイのイイの。もう姫なんて飾りなんだし」

飛行場姫「……んー……んんん……?」ゴクゴクゴクゴク

タ級改「姫とか立場どうこうじゃなくて倫理とかマナー的に不味いから!」

飛行場姫「…………」

レ級改「関係なんてね――」ガシッ

レ級改「お?」

飛行場姫「……お前が飲め」グイッ

レ級改「んんんん〜〜〜!?」ゴクゴクゴクゴク

飛行場姫「私に逆らう奴は他に居るか〜?」

ヲ級改「いませんいません」

タ級改「レ級だけです」

飛行場姫「そうか〜そうか〜」ニヤニヤ
92 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 23:24:48.72 ID:GUujIImdo

雪風「……」ウロウロ

磯波「雪風ちゃん、大丈夫?」

雪風「本当に終わったのに。なんだか実感がありません」

磯波「あはは……私もだよ」

雪風「これから雪風たちはどうなるんでしょう」

磯波「……私も下っ端だから分かんないや」テヘヘ


駆逐棲姫「奇遇です。私も分からないです」


雪風「……どちら様ですか」

駆逐棲姫「はじめまして。日本語名は考え中です。以後お見知り置きを」ペコリ

磯波「こ、これはご丁寧に。私は磯波です」ペコペコ

雪風「……雪風です」

駆逐棲姫「雪風さんは昨日までの敵が今日は味方なんて割り切れないですか?」

雪風「……」

駆逐棲姫「その気持ちは自分が命令を聞くだけの機械じゃない証左くらいに思えば良いんです」

雪風「……そんなの」

駆逐棲姫「戦い続ければ失うばかりでした。そんな愚かな行いに終止符は打たれた、めでたいことです」

雪風「雪風はこれ以上失うものなんてありませんでした」

磯波「雪風ちゃん……」

駆逐棲姫「そうですか。ならこれから沢山出来ますね」

雪風「どういうことですか」

駆逐棲姫「どうも何も平和なんだから友達も増えるじゃないですか」

雪風「木曾の代わりなんて誰にも出来ません」


駆逐棲姫(あっ、多分地雷踏みました)


榛名「誰かが誰かの代わりをするわけじゃありません」

雪風「……」

霧島「同じくらい大事な存在を見つけるだけです」

榛名「唐突に話に入ってしまってごめんなさい。でも、どうしても知って欲しくて」

雪風「それも休戦と同じくらい信じられません」

榛名「大丈夫。きっと見つかります。木曾さんが貴女に施したように、他の子に施してあげて下さい」

雪風「木曾が、私に?」

榛名「はい。諦めちゃ駄目です。木曾さんは諦めたりしませんでした」

雪風「……卑怯です。木曾の話ばっかりして、雪風が」ポロポロ

雪風「雪風が悲しむのを知ってるくせに…………!」ポロポロ

榛名「……ごめんなさい」

雪風「木曾、どうして雪風を守ったんですか……どうして一緒に死なせてくれなかったんですか……」ポロポロ

霧島「……残酷よね。みんな笑って死ぬくせに、残ったものがどうなるかなんて考えないもの」

榛名「…………」

雪風「なんで、なんで……っ!」ポロポロ

霧島「……」サスサス

榛名「……それでも私は雪風さんに生きて欲しいんです」
93 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 23:26:05.36 ID:GUujIImdo

4月8日

夜 ハワイ 海岸


宴会から1日後、月と満点の星空の下にそれらは対峙していた。


航空戦艦棲姫「……呼び出された場所は、ここで良かったみたいだな」

戦艦水鬼「ああ。ここで良い」

航空戦艦棲姫「用件を聞こうか」

戦艦水鬼「私のために扉を開け」

航空戦艦棲姫「嫌だ」

戦艦水鬼「なら、分かるよな」スッ

ハルカ「グルルルル……」

航空戦艦棲姫「力づくか。悪くないな。私も少し暴れたりなかったところだ」


戦艦水鬼「リンク開始」

航空戦艦棲姫「リンク開始」


〜〜〜〜〜〜

航空戦艦棲姫「っはぁ!!」

戦艦水鬼「ちっ!!」


穏やかに波打つ海面を激しく移動しつつ互いの背面を取り合う。


戦艦水鬼「日向! 聞こえているか!」

航空戦艦棲姫「感度良好、聞こえるぞ」

戦艦水鬼「元の日向はどうした」

航空戦艦棲姫「元々は私だ」

戦艦水鬼「お前は孵化しただけの存在だろうがっ!」


先程から主砲を撃ち合ってはいるが直撃弾は一向に出る気配が無かった。


航空戦艦棲姫「元々は私のものだ」

戦艦水鬼「……お前は何者なんだ! 何故魂の領域とこちらを行き来出来る!!」

航空戦艦棲姫「それは我々が皆普遍に備えている能力だ。私は意識的に扱えるだけでな」

戦艦水鬼「そんなわけあるか!」

航空戦艦棲姫「因果律は我々と離れた存在ではない。私達が因果律の一部なんだ。私も、お前も」

戦艦水鬼「なら扱うすべを私に授けろ!!」


もどかしい撃ち合いはより加速していく。


航空戦艦棲姫「長門、お前じゃ無理だ」

戦艦水鬼「何故だ!」

航空戦艦棲姫「因果律は自身を求める者でなく、求めない者をこそ愛す」

戦艦水鬼「またわけの分からないことを!! ハルカ、散弾だ!!」

ハルカ「グルルル!」

航空戦艦棲姫「……はるか?」ピクッ
94 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 23:28:06.18 ID:GUujIImdo

一瞬の減速を長門は見逃さなかった。

戦艦水鬼「そこだっ!」


巨砲より放たれた散弾は命中し肌を引きちぎった。


航空戦艦棲姫「ちょっと痛かったぞ」


そして即座に元の状態へ復元した。


戦艦水鬼「……それが因果律に愛された者の力か」

航空戦艦棲姫「ああ」

戦艦水鬼「…………欲しい、欲しい欲しい欲しい!!!!」

ハルカ「グラァァァァァァ!!!」


双頭の艤装は主の求めに呼応する。


航空戦艦棲姫「……そんなこと言ってる限り無理だって」

戦艦水鬼「よこせ!!」


もうその赤い目は自らの凶暴さを隠そうともしなかった。


航空戦艦棲姫「長門」

戦艦水鬼「なんだっ!」

航空戦艦棲姫「お前は因果律に与えられた甘露を自分から投げ捨てることが出来るか」

戦艦水鬼「そんなものは知らん!!」

航空戦艦棲姫「知っている」

戦艦水鬼「知らんと言っている!」

航空戦艦棲姫「晴向というのは日向の子だな」

戦艦水鬼「なっ…………!?」

航空戦艦棲姫「ほら知ってた」クスクス

戦艦水鬼「どうして……それをお前が……」

航空戦艦棲姫「あの夢はただの妄想なんかじゃない」

戦艦水鬼「……」


航空戦艦棲姫「あの世界はお前にも優しかったろう」ケラケラ


戦艦水鬼「現実なのか」

航空戦艦棲姫「現実さ。この世界とは違う可能性が収束した、パラレルワールドとでも言うべきものだな」

戦艦水鬼「パラレルワールド……」

航空戦艦棲姫「私の一部は投げ捨てたぞ。知っている誰もが幸せに生きる世界を捨てて自らの現実として、こちらの世界を選びとった」

戦艦水鬼「どうして」

理解できないものを知るため気力を尽くし震え声を絞り出す。

航空戦艦棲姫「ああ。私も説得したんだが、中々頑固でな。『私は私の信じる現実で生きる』と言って聞かなかった」

戦艦水鬼「……なるほどな。私と同じか」

航空戦艦棲姫「同じ?」

戦艦水鬼「私も私が信じるこの現実を生きたい! 幸せになりたい!!」

航空戦艦棲姫「……ふん、笑わせるな。お前なんかが同じなものか」
95 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 23:29:51.91 ID:GUujIImdo

攻防は続く。

戦艦水鬼の艤装が放つ散弾は命中こそすれ致命傷にはならない。


航空戦艦棲姫「私と長月の一部はあの世界を捨てた。だからこそ目覚めることが出来た」

戦艦水鬼「私だって捨てられる!!」

航空戦艦棲姫「最愛の者が居ない世界を選べるのか」

戦艦水鬼「……っ!」

航空戦艦棲姫「今でさえ晴向に縋るお前にはとても無理だ」

戦艦水鬼「……どうしてだ」バシャッ

ハルカ「グルル?」


長門が水面に膝をついたことにより両者の動きは遂に止まった。


戦艦水鬼「大好きな人の居ない世界なんて真っ暗なだけじゃないか」ポロポロ

航空戦艦棲姫「……私が正しいわけじゃない。結果的に私がお前より強かっただけだ」

戦艦水鬼「……もう……無理なんだな……」ポロポロ

航空戦艦棲姫「長門」

戦艦水鬼「……なんだ」

航空戦艦棲姫「あの夢の続きが見たいか?」

戦艦水鬼「そうだと言えば、お前はどうする」

航空戦艦棲姫「連れて行ってやる」

戦艦水鬼「……」


長月「よっ、お前ら」スィ


航空戦艦棲姫「接近する反応があると思ったが、やっぱりお前だったか」

戦艦水鬼「長月……」

長月「長門の表情は読みやすいからな。二人して派手な散歩をする」ケラケラ

戦艦水鬼「……未来が信じられないんだ」

長月「そっか。そいつは大変だな」

戦艦水鬼「明日はもっと凄いことがあるなんて信じられない……」

長月「うんうん。なるほどなるほど」

戦艦水鬼「辛いんだ……」


長月「な〜長門」チョイチョイ

戦艦水鬼「……ん」


長月「第二十二駆逐隊パーンチ!!」ドカッ


戦艦水鬼「ぶっ……!?」

長月「どーだ痛いだろう」ケラケラ

戦艦水鬼「何をする!」

長月「甘ったれたこと言うな! 人生、楽しいことばっかなわけ無いだろうが!」

戦艦水鬼「だ、だってお前は……」
96 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/06/30(木) 23:57:06.01 ID:GUujIImdo

お前は未来には過去の幸せだった日々よりもっと凄いことが待ってると、それを信じていると言ったじゃないか。


長月「一人の男は艦娘の幸せを望んだ。それから私たちは変わった」

長月「だから私たちは自身の幸せと男の幸福を望んだ。結果としてその望みはあっさりと崩れた」

長月「それは今でも悔しくて仕方ない」


戦艦水鬼「我慢できるのか……なんでお前はそんなあっさり捨てられるんだ!!! どうして!!!」

長月「悔しさも含めて私だから」


長月「この世界もまた一つの可能性にすぎない。私はここでの生を全うしたいんだ」

戦艦水鬼「……生を全うするとは幸せ以外にあるのか」

長月「きっとあるよ。我慢や意地で言ってるんじゃないからな。私の信じてる未来への希望ってのは何もかも全部幸せってわけには行かないだろうけど」

航空戦艦棲姫「…………」

長月「悔しくて泣きじゃくって、勝てなくて恨み事言い続けたって良いじゃないか。それも味ってやつだ」


長月「最後は、それも幸せだと思えるようになるさ」


戦艦水鬼「……無理だ。信じられない」


長月「日向もお前と同じだったんだよな〜」

戦艦水鬼「……」

航空戦艦棲姫「……」クス

長月「こっちの世界で生きるのを選んだくせに覚悟は決まってなくてな。後になって彼の居ない未来が云々なんて言ってた」

航空戦艦棲姫「それどころかな、私の一部は最初全部壊すつもりでこっちへ戻ったんだぞ」クスクス

長月「やっぱりそうか。恋は盲目というか」ヤレヤレ

航空戦艦棲姫「長月だって『もっと一緒に過ごして欲しかった』とか言って泣いてたじゃないか」

長月「見てたか。そりゃ私だって感情くらいある。本当に一緒に過ごしたいし」ケラケラ

戦艦水鬼「……なら手を伸ばせば届くのに」

長月「あっちの世界でお前に晴向が居たように、出会えるさ。きっと、同じくらい素敵な奴らとの出会いが待っている」

戦艦水鬼「……晴向」


長月「信じろ。私たちの未来はバラ色だ!」ニッ


戦艦水鬼「……どこかで見たことがあるような笑顔だな」

長月「同じ男は見つけられずとも、いい男はこの星に幾らでも眠ってるさ」

戦艦水鬼「……ああ、そうかもな」クス

航空戦艦棲姫「おや」

長月「気は変わったか?」

戦艦水鬼「思えば私も浮気性だからな。二つの世界で二人の男を愛せるんだ。三人目、四人目もすぐ見つかるだろう、と自分を納得させておく」

長月「そういうことだ」

戦艦水鬼「その点日向は凄いな、一途だ」

航空戦艦棲姫「我ながら、その点は誇りだよ」

長月「あははは! お前、違う日向のくせに」

航空戦艦棲姫「いや、だから元は」

戦艦水鬼「はははは!! その言い訳、ずっと使う気なのか?」

航空戦艦棲姫「も、元は私なんだ! 私だってお前らの知ってる日向の一部なんだ! そんなに笑うな!」
97 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/01(金) 00:05:40.03 ID:QL2iAkFqo

7月28日

昼 ハワイ 神姫楼


ハワイでの講話は海洋連合共栄圏と深海棲艦の対等な立場での休戦だったが……。

指導者という頂点を失った深海棲艦という軍事組織は結果的に解体、姫の序列は白紙化され全てが海洋連合の中に組み込まれた。


『協議会』はハワイの神姫楼を根拠地とし開催され続けていた。


空母棲姫「我が領海へ侵犯を試みる輩に対し警告の後撃沈を徹底しているわ」

茶色妖精「お主の警告は過激という噂だが……」

空母棲姫「うるさいわね、かじるわよ」

茶色妖精「すまんでござる」

日向「あんまり沈められると海洋連合の印象も悪くなるのだが」

日向「いや、どんどん沈めるべきだろう。人が死んだほうが派手で良い」ニヤニヤ

日向「ちょっと黙ってろ」

日向「あ、おい、やめ」

日向「失礼した」

空母棲姫「……人死は出さないよう、努力しているわ」

飛行場姫「ならいいや」

長月「良いのかよ! えー次、お、これ懐かしやつだぞ」

茶色妖精「なんでござろう」

長月「領海設定の件でアメリカから秘密裏の会談要請だ。懐かしいなぁ」


空母棲姫「懐かしい?」


長月「あ、昔海洋連合でも同じ話が出たんだよ」

空母棲姫「へぇ」

日向「飛行場姫の話だっただろう。覚えているぞ」

飛行場姫「そうだったっけ? もう忘れた」ケラケラ

嶋田「頼むぞおい……」

日向「それと関係しているかどうかは知らんが、ソ連が海洋連合の国連加盟……そして常任理事国入りまで支持している」

空母棲姫「呆れた。ソ連はユーラシア大陸だけに飽きたらずまだ領土が欲しいのね」

日向「空母棲姫もその動きに見えるか」

空母棲姫「ええ。『海洋連合に対する今までごめんなさい』と我々と癒着して海の安全を確保した後に『領土拡張』そのどちらも一緒に済ませてしまおうという魂胆に見えて仕方ない」

嶋田「それで間違ってないんだろうな」

茶色妖精「ふん! 国連なぞという拒否権のせいで機能不全に陥った組織に用はありもうさん!」

飛行場姫「それ面白いじゃん! 乗ろうよ!」

日向「面白いとかじゃない。国際政治の舞台は食うか食われるかのな――――」

飛行場姫「でもさー、私たちもそろそろ人間の国に影響を与えるとっかかり欲しいじゃん?」

日向「む、まぁ欲しいが」

飛行場姫「ユーラシアを確保したソ連が狙うとすればアメリカ大陸、そうはさせねーよ」
98 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/01(金) 00:07:28.21 ID:QL2iAkFqo

飛行場姫「国連の場で領海を公式に宣言して大西洋を渡らせねーとか面白いだろ」

飛行場姫「『ごめんなさい』はしっかり受け取るけど慣れ合うつもりは無いよ」

日向「……あはは!」

飛行場姫「うぉぁびっくりしたぁ!?」

日向「すまん。そうだな、その方が面白い。やるべきだ」

空母棲姫「日向、貴女ね」

日向「いつまでも臆病なままでは居られないだろう」

空母棲姫「……そうだけど」

日向「じゃあ投票で決めよう。まず海洋連合の国連加入へ賛成の者、挙手。ちゃんと意見も述べろよ」




艦娘と深海棲艦という敵味方の協力体制はの想像以上に円滑に組み立てられていった。


海洋連合の軍事、経済の中心にかつて序列を持つ姫だった者達が入り込み歯車の一つとなっていく。


そこに軋轢は存在せず、むしろどん底まで傷ついた者同士だからこそ手を取り合うことが出来た。


心という想定も出来ない変数は今回は良い方向に出たのだ。
99 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/01(金) 00:08:34.92 ID:QL2iAkFqo

8月1日

夜 海洋連合 南の島


扉を叩く、訪問者の気配があった。


加賀「はい、どちら様」


扉越しに訪問者へ質問を投げかける。


「……ここは加賀の家で良いのよね」


おかしな郵便屋も居たものだ。


加賀「そうよ、ここは加賀の家だけれど」

「遊びに来たわ」

加賀「……今すぐ帰りなさい。帰らないと艦載機で襲うわよ」

「ちょ!? いや、あの、そういう意味では無いわ」

加賀「ならどういう意味かしら」

「七位の知り合いなの」

加賀「……」

「……急に来てごめんなさい。確かに不躾な訪問だったわ。また日を改めて――」


ガチャ


加賀「入りなさい」

空母棲姫「良いの?」

加賀「良いわ。どうぞ入って」


突然な訪問者は以前八位と呼ばれていた深海棲艦だった。


空母棲姫「……」

加賀「……」


……この深海棲艦、何か喋りなさいよ。


空母棲姫「これ……お土産」スッ

加賀「これはご丁寧に」


渡されたものは日本酒だった。


加賀「……」

空母棲姫「……」

加賀「貴女何しに来たの」

空母棲姫「貴女は七位とお酒を飲む約束をしていたでしょ」

加賀「随分と懐かしい思い出ね」

空母棲姫「な、七位に頼まれたのよ。だから……仕方なく」

加賀「……ありがとう。じゃあアイツの代わりに飲みましょうか」クス


八位だった空母棲姫は決して酒に弱い方ではない。しかしこの日は相手が悪かった。
100 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/01(金) 00:09:47.03 ID:QL2iAkFqo

〜〜〜〜〜〜

空母棲姫「……なによその目は」フラフラ

加賀「……貴女こそ、目つきが悪いのだけれど」ヘロヘロ

空母棲姫「私は良いのよ私は」フラフラ

加賀「うるさい人ね」

空母棲姫「うるさいのはアンタよ」

加賀「……」グイグイ

空母棲姫「痛い痛い痛い!?」

加賀「失礼な子ね」

空母棲姫「だからっていきなりつねらないで頂戴!」


加賀「貴女七位とはどんな関係だったの」

空母棲姫「具体的には……敵だったわ」

加賀「――!」ブッー

空母棲姫「ちょ、汚い!!」

加賀「……失礼。では七位の敵である貴女が何故七位の代わりとして私の所へ来るのかしら」

空母棲姫「七位に頼まれたからよ」

加賀「……深海棲艦の交友関係や倫理観が現在全く把握できないのだけれど」

空母棲姫「私たちだって好きな好きだし嫌いなものは嫌いよ」


加賀「貴女は敵である七位が好きだったの」

空母棲姫「……そうね、好きだったのかもしれない。私が殺したんだけど」

加賀「……」ピクン

空母棲姫「艤装を失って無力化した彼女に止めを刺した」

加賀「何故」

空母棲姫「殺さなければならないと、あの時の私は信じこんでた」

加賀「……そう」

空母棲姫「……そうよ」


加賀「どこが好きだったの」

空母棲姫「え?」

加賀「貴女は七位のどこが好きだったの」

空母棲姫「そ、そうよね。好きな所があるから私はここに居るんだものね」

加賀「知らないわよ」

空母棲姫「……彼女は私を必死に止めてくれた。私が自分の気持ちを殺していたんじゃないかと心配してくれた。そんな七位が好きだったのかも」

加賀「殺す?」

空母棲姫「私の気持ちはどうなのか、しつこく聞いてきてね。私を散々惑わせた挙句の果ての成れの果て、私に殺された」

加賀「私の提督と似てるわね」

空母棲姫「貴女たちにそんな人が居たの」

加賀「ええ、横須賀鎮守府に――――」
101 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/01(金) 00:14:24.85 ID:QL2iAkFqo

お酒の効果もあってか、いつも以上に舌がまわった。

自分がどんな経験をしてきたか艦娘であるか、提督と呼ばれた人がどんな人だったのか。

自分がどんな風にその人と仲間を好きになっていったか。


空母棲姫「艦娘というのは恋ばかりして戦いに集中してないじゃない。……私には男の良さなんて分からないわね」

加賀「良いものよ。心と身体の隙間を埋めてくれる」

空母棲姫「交尾ってそんなに凄いのかしら」

加賀「……交尾と言わないでくれるかしら」グイグイグイ

空母棲姫「痛い痛い!」

加賀「貴女も一度してみなさい。凄いから」

空母棲姫「こんなに頬をつねられたのは生まれて初めてよ」

加賀「良かったわね。思い上がりまで無くなりそうで」

空母棲姫「余計なお世話様。第四管区で出来た貴女の友達はどこへ行ったの。途中から出てこなかったけれど」

加賀「……南方で沈んだわ」

空母棲姫「……そう」

加賀「ガ島を巡る戦いは本当に熾烈だった。貴女たちもそうでしょ」

空母棲姫「そこなら私も居たわ」

加賀「え、居たの」

空母棲姫「空母部隊を率いて艦娘を沈めまくってた」

加賀「…………お互い様かしらね。私たちも貴女の大事な人を沈めているのだから」


空母棲姫「貴女は七位のどこが好きだったの」

加賀「……私?」

空母棲姫「そうよ」

加賀「……よく知らないのよね」

空母棲姫「……」グイグイ

加賀「痛い痛い痛い痛い!!!!」

空母棲姫「よく知らないんて言わせないわ。あの子は最後の遺言で貴女との約束を果たそうとする程なのよ」

加賀「一度しか会ったことも無いけど」

空母棲姫「一度!? 嘘でしょ」

加賀「いえ、本当に一回こっきりよ」

空母棲姫「……ならその一度でそんなに仲良くなったとか」

加賀「……一緒に食事をして海岸をぶらついて、くらいかしら」

空母棲姫「はぁ!? しょうもな!? なんで最後のお願いを使って貴女に会いに来いなんて言うのよ!」

加賀「し、知らないわよ」

空母棲姫「昔の知り合いだったとかじゃないの。七位は元艦娘だったもの」

加賀「そうなの? 聞いていないけれど」

空母棲姫「彼女も艦娘だった頃、南方で私と戦ったことあると言っていたわ」

加賀「え……? じゃあブインやショートランドに所属を」

空母棲姫「えーっと、名前は――――」


加賀(……まさか、いえ、そんな筈は)


空母棲姫「赤城だったかしら」
102 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/01(金) 00:16:12.50 ID:QL2iAkFqo

12月24日

昼 ソ連 シベリア鉄道(ウラジオストク-ノヴォシビルスク間) ロシア号五号客車


瑞鶴「……」


温かい客車の車窓から凍てつくシベリアの大地を眺める。

ここはもう海じゃ無いという実感とともに初めての旅への恐怖が今更襲ってくる。


加賀「……ただいま」ガラガラ

瑞鶴「加賀さん、お帰りなさい」

翔鶴「お帰りなさい。ありがとうございます」


客室の扉を開いた加賀さんは随分と急いだ様子で中へと入ってきた。


加賀「……連結器を通る度耳が取れそうだったわ」ガタガタ

瑞鶴「なるほどそれで……。ところで酒盛りグッズの調達は……?」

加賀「勿論、ほら、どうぞ」ドサドサ

瑞鶴「イェーイ!」

翔鶴「しかし本当に少し常識を超えた寒さですね。北海よりも寒い気さえします」

加賀「まったくよ。普通の人間が住める寒さじゃ無いわ」

瑞鶴「まぁまぁ、ウォッカ飲んで温まりましょう!」


初老の男性「お嬢さんたち、ここは空いてるかな。もし良かったら座りたいのだが」


瑞鶴「空いてるよ〜。遠慮せずどうぞ!」

初老の男性「ありがとう。私の祖国の言葉が上手いね……君たちは日本人に見えるが」

瑞鶴「はい。日本人です」

初老の男性「ああ、暖かさに目を開けば美人ばかりじゃないか。素晴らしい旅になりそうだ」

瑞鶴「あはは!!」


初老の男性「このごろ日本からの来客も少なくなって寂しかったんだよ」

翔鶴「どこまでご一緒出来るのでしょう」

初老の男性「私はモスクワまで。君たちはどうかね」

加賀「私たちもモスクワよ。ご一緒できて嬉しいわ」

初老の男性「では早速ウォッカでも飲もう」

瑞鶴「そー来なくっちゃ!」
103 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/01(金) 00:22:05.26 ID:QL2iAkFqo

〜〜〜〜〜〜

初老の男性「そこで私の妻がもうカンカンになってね――――」

瑞鶴「あははは!!!」

加賀「……」クスクス

翔鶴「お父様は海洋連合の噂をご存じですか?」

初老の男性「ああ、うん。彼女らか。話だけは聞いたことがある」

翔鶴「ソ連と彼女たちの繋がりはどうなって行くのでしょう。私は日本人ですが興味があります」

初老の男性「私も大いに興味を惹かれる話題だ。我が国が海を欲す限り海洋連合との繋がりは無くてはならないものとなる」

翔鶴「はい。彼女たちは誰の味方でもあり敵でもあります。その欲望は他の人間と違うものです。国家同士のお付き合いが中々に難しいのでは?」

初老の男性「違う? 互いに国益を求める限り妥協点を見つけ出せると思いますが」

翔鶴「あの場所は国家運営ではなく個人を優先した場所です。個人のために国家がある。艦娘も深海棲艦も個人を守るための盾に過ぎません」

初老の男性「君が言っているのは愚かな民主主義思想と変わらんよ、結局、それで上手くいくのは文字の世界においてのみだ。歴史を見たまえ」

翔鶴「文字の上だけでなく、彼らは愚直にその理想を現実の中に追い求めているように見えます。それに、あそこは……今までの歴史には無い新たな場所ですから」

初老の男性「その愚直さが国際政治でも通用するかね」

翔鶴「それは常任理事国の方々の心次第ではないでしょうか。ですが」

初老の男性「ですが?」

翔鶴「理想を押し付けるだけの力を海洋連合は秘めていると思います。あくまで可能性としての、ですが」

初老の男性「恐ろしいことだな」

翔鶴「共産主義の理想が単なる支配のための言説でないのなら……海洋連合はソヴィエトの頼もしい友人として寄り添い続けるかと」

初老の男性「馬鹿馬鹿しい。子供の我儘など我らは到底受け入れられない」

翔鶴「力が全てという純粋で野蛮な動物の理屈の上に成り立つ者が子供を笑うのでしょうか。客観視して、笑われるべきは逆では」

初老の男性「現実はそう単純ではない。そうしたいのなら、旧石器時代にまで戻らなければ無理だ。……君たちはそんなものを本当に実現させるつもりなのか」

翔鶴「獣であろうとするのは貴方がた自身です。誰かのせいにすべきではない」


瑞鶴「二人ともさっきから何話してるの〜? お酒飲もうよ〜」

初老の男性「これは失礼。少し熱くなりすぎました」

翔鶴「……そうね、モスクワまではまだ長いし飲みましょうか」
104 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/01(金) 00:23:17.70 ID:QL2iAkFqo

1983年1月1日

昼 ソ連 モスクワ駅


瑞鶴「じゃあねおじいちゃん!」フリフリ

初老の男性「ああ、瑞鶴。ありがとう」

加賀「楽しかったわ。気をつけて」

初老の男性「君たちも元気で。またいつか会えると嬉しい」


〜〜〜〜〜〜

瑞鶴「面白い人だったね〜」

加賀「……瑞鶴、貴女気づいて無かったでしょ」

瑞鶴「へ? 何に?」

翔鶴「加賀さん、馬鹿に何を言っても無駄です」

加賀「そうね。あ、翔鶴、モスクワにはピロシキの美味しい店があるからそこへ行きたいわ」

翔鶴「それは良いですね。行きましょう」

瑞鶴「ムキャー!!!! なによー! 教えてよー!」
105 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/01(金) 00:24:22.00 ID:QL2iAkFqo

1983年1月4日

昼 海洋連合 オワフ島


空母棲姫「駄目。全然駄目。要求したラインの五分の一も満たしてない」

紫帽妖精「ロケットエンジンはジェットとも勝手が違って難しいというか」

空母棲姫「言い訳しない。これじゃ外惑星どころか月までも行けないじゃない」

紫帽妖精「はいい!!!」

空母棲姫「なら仕事にかかりなさい」

紫帽妖精「ひぃぃぃ」


空母棲姫「まったく……」

空母水鬼「チョー手厳しいね〜」

空母棲姫「一刻も早く、人間諸国に先駆けて技術を手に入れることに意味がある。これからは間違いなく宇宙の時代よ」

空母水鬼「はいはい。でも、あんまり雑に扱うと妖精さん達居なくなっちゃうよ」ケラケラ

空母棲姫「そうなれば貴女に任せるだけよ」

空母水鬼「……あー、私は何も聞かなかった。聞かなかったんだ」

空母棲姫「ふふふ」


空母棲姫「ねえ」

空母水鬼「どしたの姫様」


空母棲姫「私、貴女のこと好きよ。だからずっと一緒に居てね」


空母水鬼「………………チョー脈絡見えないんですけど」

空母棲姫「そんなもの必要無いわ」

空母水鬼「は、反応に困るんですけど!?」

空母棲姫「いいの。私が言いたかっただけだから」クス

空母水鬼「……姫様の意地悪」

空母棲姫「そうよ。空母は意地が悪いか素直か、性質としてどちらかしか無いわ」


空母棲姫「これからも期待してるからね、私の腹心さん」

空母水鬼「…………頑張ります」モジモジ

空母棲姫「いい子ね」クスクス
106 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/01(金) 00:26:07.54 ID:QL2iAkFqo

昼 海洋連合 とある島


重装兵「ただいま……って来てたのか」

飛行場姫「うへへ、来ちゃった」

重装兵「言ってくれれば何か用意したのに」

飛行場姫「お構いなく! 私も今日偶然時間が出来ただけだから!」

重装兵「はいはい。そうですか」

飛行場姫「なんか飯作ってれ飯〜!!」ジタバタ

重装兵「……分かったよ」クス






昼 海洋連合 トラック泊地環礁内


戦艦水鬼「よし、私とハルカに主砲を撃ってみろ!」

ハルカ「グルルル」

「え……でも教官、主砲はさすがに痛いですよ?」

戦艦水鬼「駆逐艦の豆鉄砲なぞ私とハルカの防御の前には攻撃ですら無い! 構えろ!」

「え、マジで撃つの?」

「だって教官が撃てって言ってるし……」

「教官……痛くても怒らないでくださいね?」

戦艦水鬼「当たり前だ! 誰がこんなことで怒るか! ごちゃごちゃ言わずに撃て!」


「……発射!」ガンガン

「……てぇ!」バン

「……っ!」ドォン

戦艦水鬼「あっこれ、ナノバリア抜け……意外と痛……ったい!! たいたい!!! やめ、ちょ」

「……」ガンガン

「…………」ガゥン

「……」ドォン

戦艦水鬼「だから! ちょ、待て! 待てと言っている!!」

「あ、なんか言ってっぞ」

「攻撃やめ、やめ〜」

戦艦水鬼「誰が連続発射しろと言った!? 普通こういう場合は一発だけだろ!?」

戦艦水鬼「もう怒ったぞ!!! お前ら今日は帰さないからな!!!! ずっと走りこみだ!!!!!」
107 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/01(金) 00:26:48.42 ID:QL2iAkFqo

昼 海洋連合 ラバウル市街


雪風(忙しかったですがようやく来ることが出来ました)

雪風(この街もだいぶ人が増えてきましたね〜)

水煙草屋「お嬢ちゃん、ここは未成年立ち入り禁止だよ」

雪風「雪風は艦娘です。これ、IDです」スッ

水煙草屋「し、失礼しました!!! どうぞ中へ」


〜水タバコ説明中〜


水煙草屋「それで三拍子でなく二拍子で、スーハーです」

雪風「スーハーですね。了解です」

水煙草屋「吐く時は魂を抜く感じでハァァァァァ……とするとフレーバーが効きます」

雪風「うししし! やってみます!」

水煙草屋「吸いやすいんですけど結局煙なんで、あんまり連続して吸い過ぎると酸欠になりますよ」

雪風「分かりました! ありがとうございます!」

水煙草屋「ではごゆっくり。向こうに居ますので何かあったらお呼び下さい」


雪風「……」スーハー

雪風「うわ! 凄く甘いです! ……甘いけど」

雪風「……」スーハー

雪風「雪風はやっぱり煙草の方が味とかがガツンと来て好きですね」
108 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/01(金) 00:38:07.18 ID:QL2iAkFqo

1月17日


昼 アメリカ 国際連合総会会議場


この日、安全保障理事会の要請により、憲章第二十条に基づき開かれた国連特別会において新たな国連加盟国が承認された。


太平洋のほぼ全域を覆うその国の名は『海洋連合』


艦娘と妖精と人間と深海棲艦によって構成された主権国家である。


代表演説のため、緑の髪をした艦娘が会議場中央にある演説台へと歩みを進めていた。

気後れは一寸も無く凛と、自信を持った佇まいで前へ前へと進んでいく。

目的地へと辿り着くと、少し位置の高いマイクを自分好みに調整し始めた。



長月「あー、海洋連合代表として選ばれた長月だ。以後お見知り置きをお願いする」



会場は100を超える出席者があるにも関わらず静まり返っていた。

出席者の誰もが息を呑み緑の子供がこれから発す言葉に聞き入ろうとしていた。



長月「よくご存知のことかと思うが、私は人間ではない」



そして遂に演説が始まった。

109 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/01(金) 00:46:48.43 ID:QL2iAkFqo

長月「人間の皆々様方が辿り着いた輝かしい物質文明への批判として深海棲艦が現れ、その対として艦娘が現れた」

長月「十年近くに及ぶ戦いの中で多くの者が傷つき倒れていった。人だけでなく、深海棲艦も、艦娘も、妖精も。まず全ての失われた命を想おう」

長月「その上で言いたい。この国連という場は特別だ」

長月「ある一つの組織の下で、これほど多くの人々の、これほど大きな希望が一堂に集まったことは、歴史上なかった」

長月「そして、ここ十数年の重苦しい時期にあって、ここで成された討論や決定は、すでに一部を実現されている」

長月「しかしながら我々の進む先には未だ大きな試練と、それを乗り越えた時の大いなる成果が待ち受けている。私は、こうした成果が実現するとの確かな期待の中で、現在自らが有している職責をもって、海洋連合が新たに、この機関を確固たる立場で支えていくことを断言する」

長月「我が国がこうした支援を行う背景には、この世界におけるすべての国々の恒久的平和ならびにすべての生命の幸福と健康を実現する知恵、勇気、そして忠誠を、各国が十分に提供し合うとの信念がある」

長月「私がこの場を海洋連合による一方的な報告を行う機会とすることがふさわしくないのは明白だ。しかしながら、あえて言及するならば、私達の天国のような美しい島で行われた討議において」

長月「我々出席者が、国連憲章で明確に示されているのと同じ、世界平和と人類の尊厳という偉大な概念の実現への道を追求していたことを断言する」

長月「また、いかに希望に満ちて聞こえようとも、偽善的な決まり文句をただ唱えることも、この素晴らしい機会に求められていることではない。そこで私はこの場を、私自身の胸中や海洋連合が今後行う政策のいくつかのことを皆さんに伝える場にしようと決意した」

長月「私は、世界に危機が存在するとすれば、それは、すべての国々、すべての人々に対しても同じように危機であり、同様に、ある一つの国の胸のうちに望みが存在するとすれば、世界中の国々が共有すべきである、との深い信念を持っている。これは海洋連合の信念でもある、と理解している」

長月「たとえ極めて小さな方策であっても、今日の世界の緊張状態を緩和することを目的とした提案を行うとすれば、国連総会の加盟国ほどそれを披露するにふさわしい聴衆はあるまい」

長月「私は本日の演説を行うに当たり、私にとってはある意味では嫌な言葉、兵器として人生の大半を送ってきた私が使うと何様だと感じられる言葉で、あえて話す」


長月「その言葉とは、軍縮に関するものである」


長月「核の時代は、非常に速いペースで進行しており、世界中の人々は、我々すべてにとって極めて重要なこの分野の進展における現在の局面を、少なくとも相対的に、ある程度理解している必要がある」

長月「従って、もし世界の人々が平和を求めて知的な探求を行おうとするならば、現状における重要な事実を認識していなければならないことは明らかである。核の危機や原子力に関して私が述べることは、必然的に海洋連合の観点からの話となる。それが私の知る唯一の明確な事実だからである。しかしこの問題は、その性格上、単に一国の問題ではなく、世界的な議論を要する問題であることは、私がこの総会の場で訴えるまでもない。」

長月「1945年7月16日、米国は世界初の核爆発実験を行った。1945年のその日以降、米国は198回の核爆発実験を実施している。現在の核爆弾は、核時代の幕開けをもたらした兵器の500倍以上の威力を持ち、また水素爆弾は、TNT火薬で数千万トン相当の爆発力にまで達している」

長月「東と西、二つの陣営に別れ戦う人間にとって、これら核は決して欠くことの出来ない存在だった。同じ種族であるはずの人間が思想で別たれ、互いを憎しみ合う状況にあっては必要なものだと誰もが考えた。そして先進諸国において、核は自らの安全のための抑止力として取り入れられ……結果として自分自身を焼き尽くした。悲しい歴史だ。この場に出席されている誰もがよく知っている通り、多くのものが核戦争で失われた」

長月「だが核の火は今尚くすぶり続けている」

長月「艦上あるいは陸上基地においても、今や、単一の航空群が、第三次世界大戦の全期間を通じて英国に投下されたすべての核爆弾の爆発力を超える破壊兵器を、到達可能ないかなる標的に対しても運搬できる状態となっている」

長月「核兵器は、規模と種類においても、更に目覚ましい進歩を遂げてきた。核兵器の進歩たるやすさまじいものがあり、事実上、通常兵器の地位にさえ登りつめた。常任理事国の一角である米国では、陸・空軍まで、核兵器を軍事利用できる能力を有している」

長月「しかし、原子力の恐怖に満ちた機密と恐ろしい機動力は一部の者だけのものではない。恐るべき核の技術を手にしていたとしても、その独占はすでに存在しなくなっている。現在いくつかの国家によって所有されている核兵器に関する知識は、最終的に他の国々、恐らくはすべての国々に共有されると考えられることである」

長月「兵器の数という点で極めて優勢であり、また、その結果として圧倒的な報復能力を有していたとしても、それ自体では、奇襲攻撃による大規模な物質的被害や人命の犠牲に対する予防策にはならないという事実を我々は歴史の教訓として思い返すべきである」

長月「米国は少なくともこうした事実を漠然と認識しており、当然のことながら核戦争以後、更なる警戒態勢や防衛システムの大規模改良計画に乗り出している。こうした計画は、今後さらに加速され、拡大されると思われる」

長月「しかしながら、兵器や防衛システムに対する莫大な出費が、いかなる国家においても都市や国民の絶対的安全を保証できると考えてはならない。核爆弾の恐ろしい算術は、そうした簡単な解答を許してくれはしない。かつてこの世界を救った、妖精たちが作ったナノマシンによる防御雲ですらもはや核に対する完全な防御とは言い切れない」

長月「最大限の能力を持つ防衛に対してでさえ、最小限の奇襲攻撃が可能であれば対象へ決定的な損害をもたらすことができる。何故なら核兵器は日々進歩し続けているからだ」

110 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/01(金) 00:50:00.77 ID:QL2iAkFqo

長月「万一核攻撃が行われた場合、どの国家も迅速かつ断固として対応するだろう。国家同士の相互安全保障や、自らの滅亡の恐怖から世界中を報復の弾道弾が飛び交い、我々は再び黒い空の下で過ごすことになるのは、間違いない」

長月「私はそんな未来を望まない。今、ここでためらってしまえば、核の巨人が震える世界を舞台に悪意をこめて永久ににらみ合う運命に陥るという絶望的な終末を認めることになる」

長月「想像してみてほしい。再び核戦争が起こり何もかもが失われた世界では、どれほど分別ある人間でも希望を見出すことができるはずがない。あるのは暗い未来だけだ。誰かが世代から世代へと受け継いできた代えがたい可能性はそこで途切れる」

長月「その暗い未来において、我々は生まれてくる子供たちにまずこう教えるだろう。君たちは人類が野蛮な状態から秩序を得て、公正、そして正義へと上に向かう古来の苦闘の道筋を再び最初から繰り返すのだ、と」

長月「そして子供たちはその暗い未来において、地球の荒廃や破壊と我々の名を歴史の中で結び付け続けるだろう。次の世代、その次の世代へと。人が滅ぶ最後の世代まで」

長月「諸君はそれを望むだろうか。兵器である私でさえそんな未来を望みはしない」

長月「歴史の何ページかには、確かに『偉大な破壊者』の顔が時おり記録されてはいる。ただし、歴史書全体を見れば、そこには人類の果てしない平和の希求と、人類が因果律から与えられた創造の能力が示されている」


長月「我が国が存在を示したいのは、個々の歴史のページではなく、歴史という一冊の本全体においてである」


長月「我が国は、破壊的ではなく、建設的でありたいと望んでいる。国家間の戦争ではなく、合意を欲している。他のすべての国の人々が自分たちの生活様式を選ぶことのできる権利を等しく享受しているとの確信を持って、我々は自らも自由であることを欲している」

長月「従って、我が国の目標は、誰もが恐怖の暗闇から光に向かって進むことを助け、いかなる場所においても全ての心、全ての希望、そして全ての魂が平和や幸福や健康を手にすべく前進できる道を見つけ出すことである」

長月「そうした追求においては、忍耐を欠いてはならないということを、私は理解している。現在我々が経験しているような分断された世界においては、ただ一つの劇的な行為によって救済がもたらされるわけではないことを、私は理解している」

長月「いつの日か、世界が自らを見つめ、誰もが相互に平和を確信できる新しい環境が芽生えていることを実感できるまで、長い期間をかけて、多くの段階を踏んでいかなければならないことを、私は理解している」

長月「しかし、何にも増して私が理解しているのは、我々が軍縮に向かい行動を起こすのがまさに今だ、ということである」
111 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/01(金) 00:51:16.15 ID:QL2iAkFqo

長月「海洋連合とその同盟国であるソ連、米国は、過去数カ月にわたり、こうした行動に踏み出していくための努力を行っている。我々が、話し合いの場を回避している、などとは誰にも言わせない」

長月「我々が発表したハワイ宣言からもすでに明らかなように、我々は全ての国に対し門戸を開き、対話のための会合を開くことを是としている」

長月「海洋連合首脳部はこの会合に対して、期待を込め、真摯に取り組む。我々は、この会合で目に見える成果を得ることによって、平和への一歩を踏み出すという、ただ一つの目標に向かってあらゆる努力を傾ける所存である」

長月「我々はこれまでもそうだったが、今後も、他国が正当に所有するものを放棄するよう他国に求めることはない」

長月「また我々に相対する者は世界の敵であり、我々はそれらの国家と有益な関係を持って付き合うことを一切望まない、とは決して言わない」

長月「そういった存在に対しても我々は門戸を開き続ける。国民の間の自由な相互対話を将来的にもたらすため努力し続ける。国家間の対話こそが、平和的な信頼関係を築くために必要な理解を進める第一歩なのである」

長月「ソ連占領下にあるユーラシア諸国、その他南米大陸諸国、未だ戦いを続けるアフリカ諸国に現在くすぶっている不満に代え、我々は、いかなる国家も他の国家に対して脅威とならず、とりわけソヴィエトの人々に対して脅威となることのない、諸国間の友好的な関係を求めている」


長月「また混乱、紛争、および窮状を乗り越えれば、そうした国々の人々が人的資源を開発し、生活を向上させる平和的機会を得られるようになることを、我々は願っている」

長月「これらは無駄な作業でも皮相な展望でもない。これらの背景には、戦争によってではなく、無償譲渡や平和的交渉によって近年復興した国々の物語がある」

長月「貧しい人々、そして飢饉、干ばつ、および天災の一時的な被害を受けた人々に対し海洋連合は援助を惜しまない。こうした活動は、平和の行いである。そしてこれらは、平和を意図した絵空事の約束や主張よりも強く確実なものである」
112 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/01(金) 00:54:15.39 ID:QL2iAkFqo

長月「だがしかし、新たな平和への道筋で、これまで十分には試されていないものが少なくとも一つ存在している。それは、現在国連総会で提示されている道筋である」

長月「国連総会における軍縮の例を一つ挙げてみよう。1953年11月18日に以下の提案が行われた。『軍縮委員会は、主要関係大国の代表によって構成され、受け入れ可能な解決策を個別に模索する小委員会の設置の妥当性を検討し、そうした解決策を総会および安全保障理事会に、1954年9月1日までに報告するものとする』……何も変わりはしなかった」

長月「ただの綺麗ごとだ。このように過去の軍縮に関する提案は全くの役立たずであるばかりか、パワーゲームの仮初の姿ですらあった。その結果がこの世界だ」

長月「私はいつまでも無意味かつ空想的な提案を繰り返したり、体面を取り繕って偽善的な行いを再び説明したりはしない。そんなものは時間の無駄だ。これからは平和に至る達成方法を、それらがいかに実現不可能に思えようとも、すべて試していかなければならない」

長月「我々は、核物質の単なる削減や廃絶、軍事費削減以上のものを求めていく。兵器を兵士たちの手から取り上げることだけでは十分とは言えない。そうした兵器は、軍事用の包装を剥ぎ取り、平和のために利用する術を知る人々に託さなければならない」

長月「核兵器という人類の英知が生み出した最も破壊的な科学の結晶は未来永劫非難されるべきだ。だが同時に科学こそ全ての生命にとって偉大な恵みとなり得ることを私は客観的に認識している。現在、海洋連合では日々核融合エネルギーの実現に向け技術を研鑽しており、実用化でさえ将来の夢ではないと考えている」

長月「残念ながら我々だけでは人手不足で、まだまだやり足りない実験が山ほど残っている。これから世界中の科学者および技術者のすべてがその思案を試し、開発するために必要となる十分な量の情報を手にすれば、その可能性が、世界的な、効率的な、そして経済的なものへと急速に形を変えていくことを、私は疑ってない」

長月「軍事力と最終手段としての原子力の脅威が、人々の、そして国々の政府の脳裏から消え始める日を早くもたらすために。また、核融合という希望の火が世界中に灯されるために。現時点で講ずることのできる措置がいくつかある筈だ」
113 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/01(金) 00:59:27.08 ID:QL2iAkFqo

長月「海洋連合はこの場全ての国家を同時に相手にしようとも敗北しない抑止力を自負しているが故、行動を起こす。これより我々は責任ある一主権国家として、国連総会において従来の慣例からは規格外の大規模な軍縮提案をする」

長月「この提案が国際連合採択により否決されようとも、我々は独自に提示し続ける。どちらにせよ条件を理解し、我々との対話のテーブルについてくれる国家に対し海洋連合は、対等な立場で結ばれる各種経済協定、我らの片務的安全保障義務、未開示の妖精技術の提供、少なくともこの三つのことを今この場でお約束しよう」

長月「また唐突で悪いが、現在、海洋連合をして主要関係国とされる諸国との関係を白紙に戻す。つまり我々との既存の軍事協定、経済協定、秘密協定の類は今ここで全て破棄させて頂く。そいつらはこれから海洋連合が覇権国家として築いていく国際新秩序の邪魔だ」


長月「諸君、過去のしがらみは捨て、新たな未来への道を共に歩んで行こう。この分断された世界を一つに繋げるものは思想でも、宗教でも、武力でも、経済力でもない。世界を一つに繋げるために必要なものは、誰かの傍に寄り添い関わろうとする優しさをおいて他にない」

長月「現実は理不尽で汚い上に不平等だ。優しい気持ちはいつでも理不尽に負けそうになる。誰もが生まれた時点で生き方をほぼ決定され、顔も知らない誰かの欲望を満たすために罪もない誰かが犠牲になる」

長月「それでも、もう諦めない。一人の男が自らの心に従い立ち上がり、私たちへ施してくれたように私たちは誰かに施そう。仲間から信じられたように自分の大切なものを信じよう。誰かが私たちを愛した以上に誰かを愛そう」

長月「この私たち自身の気持ちを大切に持ち続け、過去に誰かが願い、未来へ私たち自身が望む、優しさによって繋がれた公正な世界が実現するその日まで、長い道のりでも一歩一歩、歩み続ける」

長月「諸君、私は今一度訴えかける。私たちはかつて一つの存在だった。この星の誰もが全てのものと繋がりを持ち存在していた」

長月「今日この場に居る者たち、この放送を見ている者たちよ、私が言いたいことは本当にシンプルなんだ」

長月「誰もが深く心通わせる過去よりもっと温かな繋がりを新たに結んでいこう。どこかで壊れてしまった私たち自身の物語を紡ぎ直そう。今からでも遅くはないさ。だって、この絶望に満ちた星にはまだ私たちが残ってる」


長月「希望はまだ無くなっちゃいないんだ」
114 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/01(金) 01:06:16.08 ID:QL2iAkFqo

115 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/01(金) 01:07:44.02 ID:QL2iAkFqo

アイゼンハワーさんありがとう
お疲れ様でした
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/01(金) 01:27:56.26 ID:3Y5LZh7WO
乙でした
纏まりが素晴らしい
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/01(金) 02:08:36.04 ID:Tzoi+OCGO
すばらしかった
初老は嶋田かな?
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/01(金) 09:01:37.31 ID:3hmc0Ez60
>>117
多分ソ連の書記長
ゴルバチョフなんかな?

ともかくお疲れ
前回から大幅に加筆修正してあってとても楽しめたよ
キャラの掘り下げを増やしてくれたのが良かった
あとやっぱりタカタ社長は出なかったなw
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/01(金) 09:04:09.91 ID:3hmc0Ez60
よく見たら日本人って書いてあるやん…恥かしい
誰だろ?
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/01(金) 10:22:17.44 ID:HLbRSM0qO
あれ、日本人って書いたつもりなかったのだが日本語難しいな。
タカタ時空は無かったら無かったで飛行場たちのワイワイ描写が出来なくて困る。

今回全体通して結構圧縮して貼ったから、1レスで話どんどん飛んで読み辛かったりしただろうか?
あと書く上での指摘とかあったらお願いします。
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/01(金) 16:07:55.21 ID:eAGZjWyEO
素晴らしかったゾ
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/01(金) 20:27:30.67 ID:nOOV4t280
上の118、119だが徹夜で読み切ってテンション高いまま書いたのでいろいろgdgdになって申し訳ない
多分翔鶴の日本人を勘違いしたと思われる

読みづらくはなかったな
前もそうだったがぐいぐい引き込まれて一気に読んでしまうわ
タカタ時空の話は姫ちゃんたちのほのぼの日常が楽しかったんだよねえw
あのひっどい安価をよくこなしたもんだよ
安価といえば前の最後の方でコンマ判定取ってたような記憶があるけどアレで何が変わったのかが気になってた
もし良ければ教えてくれないかな?
123 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/01(金) 20:53:42.67 ID:QL2iAkFqo
>>122
ありがとう。書いてると感覚が麻痺するから読んでくれた方の意見は本当にありがたい。
姫は側近と絡ませるとなんとも楽しく動いてくれるから俺も好き。

あの安価は偶数が生存、奇数が死亡\(^o^)/
ほぼみんな見事に生存ルート引き当てたけど、長門は艦娘として死んだ。
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/07/01(金) 21:04:04.56 ID:nOOV4t280
>>123
やっぱそういうのか
ある意味みんななるべくしてなった感はあるなぁ
長門はかなり拗らせそうだったから納得だわ
もし生きていたらとか考えるのも楽しいけどね
125 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/01(金) 22:49:43.23 ID:QL2iAkFqo

今回はある意味再投稿だし最悪自分が貼るだけでもいいやと考えていたので、予想以上の支援レスが嬉しかったです。
お付き合いありがとうございました。HTML化も依頼したので以後黙ります。
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/02(土) 00:35:21.27 ID:0JCBhLGH0
質問に答えてくれてありがとう
本当に好きな作品だったからまた読めて嬉しかったよ
次の作品も期待してる
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/02(土) 00:49:41.91 ID:rZlz8soh0
おつ 初見だったけど楽しめた
人間 深海双方似たような過ちを犯していくのが何とも切なかった
誰も得をしない失ったものが大きすぎる戦いは辛いね
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/02(土) 01:34:26.26 ID:DBCSaSpXO
すごい面白い作品でした
出来れば前作とやらも追いたかった
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/07/03(日) 02:29:29.60 ID:pcvPQgelO
乙です。
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/03(日) 23:20:30.18 ID:xts6cRggo
乙乙
今まで読んだ中で最高に面白かった
すげえボリュームあるけどもっかい読み返したい

もしまだここ見てたら他に書いたもの(書いてるもの)あったら教えて欲しいです
131 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/03(日) 23:52:35.70 ID:92vroMIxo
>>130
もう黙ると言ったのは嘘です。読んでくれてありがとう!
ずっとこの話書いてたから他は無いんだ。作者スレのイベントで

提督「私は大和の優しい言葉遣いが一番好きだ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1449687964/
書いたくらい。トリ無いけど文体とかデリカシーで特定オナシャス。


130さん含め皆にアナウンスなんだが、読みたいキャラとかシチュあったら挙げてみて欲しい。
ここまで付き合ってくれたお礼に何か書きたい。
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/04(月) 00:12:05.81 ID:0yRm4XgTO
この話の世界であれば深海棲艦側のサブストーリー的なのとか見たいな
港湾とかレ級改とかと他キャラの絡みとか

制限無しなら艦娘のグラーフとか
つーかマジでまた他の話も書いてもらいたい


133 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/04(月) 00:22:54.11 ID:N/BU965Yo
>>132
あまりにもぶっ飛びすぎて今回加えなかったけど、
時系列としては海洋連合(前作では連合共栄圏)が出来てから後、アメリカ領海問題が持ち上がる少し前の話も書きはした。上記でのいわゆるタカタ時空の話。

【艦これ】日向「連合共栄圏でクリスマス?」【行動安価】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1419266868/

この中に少し飛行場姫含む深海棲艦との絡みは入ってる。


グラーフ楽しそう。
マジであざす。
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/04(月) 00:29:29.28 ID:0yRm4XgTO
誘導ありがとう
次回作楽しみにしてます
135 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/04(月) 00:35:44.02 ID:N/BU965Yo
艦これもSSもブランク長いと一応予防線は張っておく
可能な限り早く貼るね

あと何かあれば
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/04(月) 00:45:40.09 ID:KdUZCg1Zo
時雨とうーちゃんを幸せにしてクレメンス
久しぶりに読み応えのある素晴らしいものだった
137 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/04(月) 01:32:05.82 ID:N/BU965Yo
>>136
卯月は向こうの世界で金を憎む田中と知り合って変わっていくはず。
時雨で書くとすれば超短いパラレルワールドを舞台にしたものになる。
書くか分からんけど、もし書くなら上の感じになる。
参考にさせて貰うね。
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/04(月) 07:43:42.59 ID:FVyD2jea0
向こうの世界での雪風木曾の話が読みたいな
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/04(月) 11:40:12.16 ID:Vqk9OnjrO
向こうの木曾と雪風、、フランダースの犬かな?笑
了解

≫131
グラーフなんだが新しい世界線で書いたほうがいい?
個人的にはどちらでも出来る
140 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/04(月) 14:49:52.28 ID:N/BU965Yo
グラーフの書いた貼った
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/04(月) 20:07:32.04 ID:T1QdCb5eo
早すぎワロタww乙乙
こっちの世界観バージョンも書いて良いのよってか書いてください
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/04(月) 23:25:09.76 ID:n6ucTNo/O
大和の時もそうだったけど短いやつの方がウケいいのかなぁ
嬉しいような悲しいような、すこし複雑

こっちの舞台でグラーフやるなら核戦争の話になる(もう構想の時点で色々おかしい)
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/04(月) 23:35:15.18 ID:BIxuqQ9xO
短いのは取っつきやすいからね、こういう場所だししょうがない部分はある
なので逆にこの話みたいな長くてもすんなり読めるのは本当に凄い
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/05(火) 13:13:19.03 ID:BTYl9Ist0
長いのは身構えちゃうところはあるからなあ
そのかわり素晴らしい出来だと一気に読めて達成感と喪失感がハンパない
これは短編では味わえないからどちらがいいという話でもない
145 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/05(火) 15:08:33.58 ID:lHdKvDw7o
家ついた。

ちなみにこのSSのスレ外での評はストーリー性が無いとか海軍至高主義の人が書いた中身の無い話、等々。
何とか人気作になりたいと思ってた時期もあったけど、今はもう何もかも感無量や。
いい加減に供養しようと思う。
だから雪風、木曾、時雨、卯月に関しては申し訳ない。今回は見送るよ、ごめんね。

次の構想は現時点で白紙。グラーフは出すかも。
なのでまたキャラ提示して欲しい。大型艦で縛ってくれるとありがたい。
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/05(火) 20:06:45.95 ID:eQRHDSWio
ビスマルク、扶桑、天城あたりが見たいなー(チラッ
次回作も待ってます
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/05(火) 20:55:14.17 ID:XUPM1wgZ0
艦これSSで海軍至高主義なのは当たり前じゃないですかね…
中身ないとか中身ない批評の典型やんけ
絶対最後まで読んでねーわそれ
そもそも長編でエタらずに最後までいくことが稀な上、最後までテーマを書ききった作品なんてほとんど無いと思うが
設定も世界観もこんなにしっかり作り込んである作品ないぞ?
ってことで気にすることない

雲龍姉妹とかイタリア艦が見たいな
148 : ◆mZYQsYPte. [saga sage]:2016/07/05(火) 21:37:52.54 ID:lHdKvDw7o
喋り過ぎの作者、愚痴で晩節を汚していくスタイル。
でも援護射撃に本当に救われてる。自分にとって愛着しか無い話だから、そういう評価してくれると本当に嬉しい。
読み手に最高、一番良かったと言われればどこまでも木に登るのが書き手のあるべき姿勢だと信じる。

キャラ了解。
次は違うテーマでやると思うので、毛色ガラッと変わるかもしれないけどご了承下さい。微力を尽くします。
ではでは
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/05(火) 22:56:58.61 ID:T6/7Qa2KO
乙でしたー
良いの読ませてもらった
次も楽しみにしてる
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/06(水) 00:29:50.96 ID:i2zvx5Y8o

これからもまた書いてくれよ
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/06(水) 09:28:35.41 ID:s3UIJQkI0
モチベが上がってくれてなにより
前作から全然見かけなくて新作は諦めかけてたからホント嬉しいよ
期待してるぜ!
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/12(火) 23:34:30.27 ID:1SmRYSVT0
数日読むのにかかったかわ
乙、最高に面白かった

ただこの終わり方が正しくて死人は死人っていうことなんだろうけど、もっと提督とイチャイチャするような未来も見たかった……
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/04(木) 18:44:07.03 ID:E4EjD15O0
一気読みした。とても面白かった
贈りたい称賛の言葉は皆が殆ど言ってくれたので、俺は>>1に、書いてくれてありがとう、とだけ言わせてもらう
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