岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」その4

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67 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:46:53.68 ID:1LIL8LAQo

倫子「じゃあ、行ってくる」

かがり「ま、待ってっ! 待ってくださいっ!」タッ タッ

かがり「オカリンさん。持って行ってください。お守り」スッ

倫子「これは……緑のうーぱキーホルダー?」

倫子「いいのか? 君の大切な宝物だろう?」

かがり「だからこそです。絶対に返してください。……まゆりママと一緒に」

倫子「……分かった。必ず返すよ――必ずな」
68 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:47:25.01 ID:1LIL8LAQo

真帆「……元気で」

倫子「君もな、クリス。いや……真帆」

真帆「……ねえ? シュタインズ・ゲートは本当に実在すると思う?」

真帆「今まで何度も計算して、仮説を立てて、解を導いてきた。だけどそれらは――」

倫子「やってみなきゃわからない。そうだな」

真帆「……っ」グスッ

倫子「シュタインズ・ゲートはあるさ。絶対に」ダキッ

真帆「岡部さん……ううん、オカリンさんっ」ポロポロ

倫子「泣くなよ、真帆ちゃん」フフッ

真帆「な、泣いてないわよぉ……っ。あと、ちゃん付けぇ……っ」グシグシ

真帆「あなたのことは、絶対に忘れないから……。たとえ世界が塗り替わろうとも、絶対に」ギュッ

真帆「必ず、また会いましょう……私の大切な人……」

倫子「ああ」

真帆「……行ってらっしゃい」
69 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:47:59.73 ID:1LIL8LAQo

フブキ(セジアム)「私のタイムリープの準備もできたわ」スチャ

ダル「干渉量、問題なし。タイミング制御装置、問題なし」カタカタ

真帆「トレーシング完了、局所場指定完了……いつでも行けるわ」

倫子「よし! 全員、下がれ!」

倫子「これよりオペレーションを開始する。なお、作戦名は――」

倫子「彦星作戦<オペレーション・アルタイル>とする!」


ウィィィィィィィン(※ハッチが閉まる音)

ゴウンゴウンゴウン…


ダル「そっち、データは?」カタカタ

真帆「ええ、異常ないわ」カタカタ

真帆「うまく……行くわよね……」カタカタ

フェイリス「大丈夫。凶真は必ずやり遂げるニャ」

るか「その通りです。不可能を可能にする人ですから」

ダル「それでこそ僕たちのオカリンなわけでね」

鈴羽「リンリン……」

かがり「オカリンさん……」


キラキラキラ…
70 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:48:38.68 ID:1LIL8LAQo

ダル「……ああっ、もうっ!!」ガバッ

真帆「橋田さんっ!?」

ダル「オカリーンッ!!! 絶対、絶対にここへ戻ってこいよぉっ!!! 僕は君が居ないと、ダメなんだからぁっ!!!」

真帆「……わ、私だって待ってるからっ!!! 帰ってこなかったら、脳みそに電極を刺しちゃうんだからぁっ!!!」

フェイリス「凶真ぁぁ! 凶真がいなきゃヤダぁぁぁ!」

鈴羽「リ゛ン゛リ゛ィ゛ィ゛ン゛ッ゛!!」ポロポロ

るか「凶真さんっ!!」

かがり「オカリンさんっ!!」



キィィィィィィィィン……

71 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:49:45.54 ID:1LIL8LAQo

―――――――――――――――――――――――――――――――
        1.132090     →     1.130212
    2025年8月21日15時36分  →  1975年8月21日15時36分
―――――――――――――――――――――――――――――――
72 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:50:56.82 ID:1LIL8LAQo

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・

世界線変動率【1.130212】
1975年7月7日(月)15時30分
ラジ館屋上


鈴羽「まさか、このC204型くんの初期設定年に不時着するとはね。日付は1ヶ月ほどずれてるけど……」

まゆり「うわぁー、空気が美味しくないのです……」ウヘェ

鈴羽「まぁ、まゆねえさんだったらそーゆーリアクションになるよね」

鈴羽「うーん……参ったなー。まさか過去方向へ不時着するなんて。バッテリーも完全にイっちゃてるし……」カチャカチャ

まゆり「どうしてまいったなーなの?」

鈴羽「シュタインズ・ゲートへの変動は2010年8月21日だから、あたしたちはここであと35年間過ごさないと世界は再構成されないんだ」

まゆり「そっかー。ちゃんとオカリン、しゅたいんずげーとに到達するんだー」エヘヘ
73 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:51:49.87 ID:1LIL8LAQo

鈴羽「いや、まゆねえさん。まだそうと決まったわけじゃ……」

まゆり「えー、そうなの?」

鈴羽「うん。35年後を観測すれば成功か失敗かどっちかに確定するんだけど」

まゆり「そっかー……」シュン

まゆり「でも、だったらまゆしぃたちはちゃんと2010年まで生き残らなきゃだね!」

鈴羽「ともかく、誰かに見つかる前にここを退散しないと。一旦マシンをカモフラージュして、そのあとで解体かな……」ブツブツ

まゆり「……ねえ、スズさん」



まゆり「この1975年でも、お星様は輝いているのかな……」スッ



鈴羽「(あれは、まゆねえさんの癖……たしか名前は――――)」



キラキラキラ …
74 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:52:30.27 ID:1LIL8LAQo


ドォォォォォォォォォォォォォン!!!



鈴羽「っ!?」ビクッ

まゆり「えっ!? な、なにっ!?」ドキッ

鈴羽「――嘘ッ!? どうして、そんな、なんでここに――――」


プシュー …

ゴウンゴウンゴウン …


まゆり「……もう1台の、タイムマシン?」キョトン

鈴羽「なにこれ!? どういうこと、聞いてない!」


ウィィィィィィィン(※ハッチが開く音)




倫子「――――彦星作戦<オペレーション・アルタイル>第一段階、成功だぁっ!!!」バサッ
75 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:53:19.34 ID:1LIL8LAQo

まゆり「オ、オカリン!?」

鈴羽「リンリン!? って、歳が昔に戻ってる!?」

倫子「鈴羽よ、ややこしいから普通に『歳を取った』と言ってくれ」

鈴羽「そんなことより、どうしてリンリンがここに!?」

倫子「それはこっちの台詞だ。まさかお前たちが1975年に不時着していようとはな」

倫子「出て行ったきり戻って来ないお前たちを、未来へと送り返しに来たのだっ」

鈴羽「未来に……帰れるの!?」

倫子「予備のバッテリーを持ってきた。安心しろ、2025年の最先端テクノロジーだ。互換性はちゃんとある」

倫子「帰ってダルたちに挨拶をしないとな。"ただいま"って」ニコ
76 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:54:39.97 ID:1LIL8LAQo

まゆり「……オカリン」ウルッ

倫子「……まったく、人質のくせに生意気だ。オレの手からは逃れられん。絶対にだ」

まゆり「オカ……リン……っ!」ポロポロ

まゆり「オカリンッ! オカリンッ! オカリンッ!!」ダキッ

倫子「ふふっ。そう何度も"オレの名前"を連呼するな。こそばゆい」ギュッ

まゆり「やっぱり……助けに来てくれた……! いつも、オカリンは、助けに来てくれて……!」

倫子「がんばったな、まゆり。お前は、栄誉あるラボメンナンバー002の、偉大なる初任務を成功させた」ナデナデ

まゆり「やっと、まゆ……しぃは、オカリンの……役に……立てたよ……」グスッ

倫子「(いつかどこかで聞いたセリフ……)」

倫子「…………。……オレだ」スッ

倫子「あぁ、そうだ。椎名まゆりはここにいる。計算通り、オレの"リーディングシュタイナー"は発動していない」ウルッ

倫子「もちろん、オレが守る。それが"彦星作戦<オペレーション・アルタイル>"だ」グスッ

倫子「世界に訪れる混沌。これこそが、運命石の扉<シュタインズ・ゲート>の選択なのだ―――」ポロポロ

倫子「エル・プサイ・コン……グ、ルゥ……っ」ヒグッ
77 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:58:50.49 ID:1LIL8LAQo

鈴羽「リンリン、あのさ……どうしても、聞きたいことがある」

倫子「……シュタインズ・ゲートへ到達するかどうか、だな」

鈴羽「うん……」ゴクリ

倫子「オレが、オレたちが導き出した計算では……」

倫子「シュタインズ・ゲートの観測は、この世界線において確定事項だ」

鈴羽「……え」ドクン

倫子「未来視によれば、この世界線の"俺"は間違いなく2度目の紅莉栖救出を行う」

倫子「2010年7月28日……。そこに分岐点が用意されている」

倫子「そして、そこで必ず選択をすることになる――――シュタインズ・ゲートの選択を」

鈴羽「ということは……」プルプル

倫子「オペレーション・アークライトは成功した。お前の父親が鈴羽に託した任務は、完遂したんだ」

鈴羽「な、な、な……!!!」プルプル



鈴羽「――――成功したアアッ!!!!」
78 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 21:59:36.53 ID:1LIL8LAQo

鈴羽「成功した成功した成功した成功した……ッ!」


鈴羽「成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した……」


鈴羽「成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した……ッ!!!!」



鈴羽「あたしは、成功したアアアアーーーーーーーッ!!!!!!!」



倫子「ぷっ。くははは。うむ、実にいい顔だぞ! ラボメンナンバー008、阿万音鈴羽っ!」

倫子「(……ようやくオレもダルと由季さんに胸を張って感謝ができそうだ)」

倫子「(鈴羽を誕生させてくれて、オレたちを導いてくれて、ありがとう、と……)」
79 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:01:31.57 ID:1LIL8LAQo

・・・

倫子「バッテリーの換装は終わったか?」

鈴羽「……それが、その……」

倫子「……C204型は壊れている、のだな?」

鈴羽「う、うん。バッテリーを繋いでも、うんともすんとも言わなくなっちゃった」

倫子「(やはり、か……)」

倫子「となると、何はともあれC204型の解体が急務だな。この時代にオーパーツを残すわけにはいかない」

鈴羽「わかった、すぐ取り掛かるよ」タッ

まゆり「えっと、まゆしぃたち3人は、C193型ちゃんで帰るのかな?」

倫子「……3人じゃない」

倫子「お前と、鈴羽だけだ」
80 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:02:22.57 ID:1LIL8LAQo

まゆり「え……」ドクン

鈴羽「リ、リンリン! どういうこと!?」タッ タッ

鈴羽「C193型をちょっとのぞいてみたら、アレ、3人以上の人間が乗れないように設計されてる!」

倫子「さすが鈴羽、すぐにわかったか」

まゆり「な、なんで!? オカリンはどうなっちゃうの!?」

倫子「オレはこの時代に残る。35年を生きて、再構成に巻き込まれることになるだろう」

倫子「しばしの別れだ。なに、向こうにはダルもルカ子もフェイリスも真帆も……かがりだって居る」

倫子「なにも寂しいことは――――」




まゆり「――――オカリンのバカッ!!!」ダキッ




倫子「う、うおっ!?」
81 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:07:54.57 ID:1LIL8LAQo

まゆり「まゆしぃはね、もう、まゆしぃは……オカリンとお別れするの、イヤだよ……」グスッ

倫子「まゆり……」

まゆり「まゆしぃはね、世界中の誰よりも、オカリンと一緒に居たいんだよ……?」ウルッ

倫子「…………」

鈴羽「……あたしだって、そうだよ。そりゃ、父さんと母さんの居る時代に戻れるなら、戻れるに越したことはない」

鈴羽「でも、そこにはあたしじゃないあたしがちゃんと居る。シュタインズ・ゲートのために、あたしが未来へ戻る必要性は無い」

倫子「……ああ、そうだな」

まゆり「ねえ、オカリン……もう、まゆしぃたちは充分、頑張ったと思うの」

倫子「うん……」ウルッ

まゆり「だからね、ずっと一緒に居たいな……」

倫子「……っ」ポロポロ
82 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:08:58.89 ID:1LIL8LAQo

倫子「で、でも、いいのか? お前たち、こんな時代で、ずっと暮らすなんて……」グシグシ

まゆり「まゆしぃはオカリンと一緒なら、どこでもいいよ。今日は人質をやめるって言ったけど、明日からは人質に戻りたいな」ギュッ

倫子「……随分自分勝手だな」

鈴羽「70年代だって悪くないよ。きっとあたしたちで自由に生きていける」

鈴羽「それにあたしの次の使命は、ふたりを守る戦士になることだ。それはラボメンナンバー008としてのオペレーション……でしょ?」

倫子「お前たち……」グスッ

倫子「(すまない、ダル、かがり。お前たちとの約束を果たすのは、35年後になりそうだ)」

まゆり「ねえ、オカリンが持ってるそれって……」

倫子「……ああ。かがりから渡されたんだ。お守りに、って」スッ

まゆり「森の妖精さんうーぱ……。うん、うーぱが居てくれるなら、寂しくないよ」エヘヘ

まゆり「ありがとう、かがりちゃん……」
83 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:09:56.18 ID:1LIL8LAQo

鈴羽「となると、サバイバル生活のはじまりだね。色々準備しなくちゃ! 忙しくなるぞーっ」

まゆり「スズさん、なんだか楽しそうだねぇ」ニコニコ

鈴羽「そりゃあね。なんだかもう、すごく気分が良いんだ」フフッ

鈴羽「さ、リンリン! まずはこのマシンたちの解体だったね」

倫子「鈴羽……」

鈴羽「ほら、ぼーっとしてないで、リンリンもこっち登って手伝って」スッ

倫子「……ああ、わかった。オレの手を掴んで、引っ張ってくれ」スッ


ガシッ!

84 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:12:52.10 ID:1LIL8LAQo

鈴羽の手を掴んだことが正しかったのか、そうじゃなかったのか、オレにはわからない。

この世界線でもオレの死亡収束があるため、2025年、つまり83歳までオレは死なないだろうか。

なんてな。そんなわけない。その収束があるのは倫太郎であってオレではない。

オレという存在は既に、肉体の連続性という意味でも因果の輪から外れてしまった。

いずれ世界線の収束によって修正されてしまうだろう。

さっきも言ったが、この世界線では2010年にシュタインズ・ゲートへと変動する。

ここは、オペレーション・スクルド等のDメールを送った後の世界線だ。送る世界線ではない。

ゆえに、倫太郎がシュタインズ・ゲートを観測しさえすれば、世界はすべて倫太郎の主観に従属し、再構成される。

シュタインズ・ゲートへの再構成においては、この世界線におけるオレたちの痕跡はすべてなかったことになる。

それが狭間の世界線、すべてのアトラクタフィールドの干渉を受けないとされる所以でもある。

オレたちが買ったものは別の誰かが買ったことになっているだろうし、オレたちの暮らした家だって別の誰かが住んだことになっている。

結果だけを残して、オレたちは消滅するんだ。

たとえそうだとしても、オレは、オレの約束を果たさなければな。

まゆりはオレの人質で、鈴羽は時空の戦士なのだから――――
85 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:16:29.95 ID:1LIL8LAQo

・・・

まゆり「もう夜になっちゃったね」

鈴羽「元々すぐ解体できるように設計されてたとは言え、2台分となるとさすがに時間がかかるね」

倫子「とりあえず、今日はここまでだ」

倫子「機体の構造材はプラチナやチタン、パラジウム、イリジウムなどの希少金属が主だ。この辺はそのまま加工所や金属商に売れる」

倫子「今はベトナム戦争も終結したばかりで、カンボジアやレバノンではいまだ内戦が続いているから、金属の値段は高騰していてな」

倫子「大量に現金が手に入るぞ。当面の生活資金にしよう」

まゆり「いくらくらい?」

鈴羽「この時代のレートで、数億円は確実かな」

まゆり「それって、バナナが何本かな〜?」

倫子「(……あれ、こいつ受験生だよな……?)」
86 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:17:39.82 ID:1LIL8LAQo

倫子「それ以外の廃材は、この時代の"安全な"廃棄物処理を行う。ほとんどヤのつくところに世話になるが」

鈴羽「いざとなったらあたしがふたりを守るから」

まゆり「まゆしぃも体力はあるから、運ぶのをお手伝いするのです!」

倫子「ああ、よろしく頼むぞ。ラボメンナンバー002」ニコ

倫子「金を手に入れた後は、今日中に上野に行く必要がある。犯罪組織のニンベン師と接触して、戸籍を入手する」

鈴羽「地下に潜り続けたり、保護母体があるならともかく、公的機関を使って生活するには必要だもんね」

倫子「35年間3人であなぐら生活はさすがに耐えられんだろう?」

まゆり「できれば毎日お風呂に入りたいな……」

倫子「そのためにも、今汗を流して働くんだ。いいな?」

鈴羽「それじゃ、リンリンはこれ、まゆねえさんはこれ持って」スッ スッ

まゆり「オーキードーキー!」ヒョイッ

倫子「……お、重っ!」ズシッ
87 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:19:26.71 ID:1LIL8LAQo
同日夜
上野 雑居ビル地下


鈴羽「名前?」

ニンベン師「ああ、今ならちょうど良いタイミングでね。他人の戸籍を買うんじゃなくて、好きな名前で戸籍が取れる。どうするね?」

倫子「3人分もか?」

ニンベン師「これだけの金があれば、10人でも、100人でも作れちまうよ」カカッ


倫子「ふむ……。まあ、"岡部倫子"はこの世界線に生まれてこないのだから、オレはそのままでもいいが」

まゆり「うん、そのままがいいよ。だって、名前が変わっちゃったらオカリンじゃなくなっちゃうもん」

鈴羽「確かに。あたしは"橋田鈴"でいいんだよね? それで、まゆねえさんは?」

まゆり「えっとね、まゆしぃは"星屑握手さん"にしようかなー」

倫子「そんな日本人いるかっ! そうだな、ここは……"岡部真百合"、なんてどうだ。"凶真"から一字を取ってだな……」

鈴羽「…………」

まゆり「…………」

倫子「ま、真顔で見つめるなぁっ! オ、オレだって恥ずかしかったんだぞっ!」テレッ
88 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:20:26.19 ID:1LIL8LAQo

まゆり「えへ。えっへへ。えっへへ〜♪」デレデレ

鈴羽「それだと、ふたりで姉妹みたいだね」

まゆり「うんうんっ! オカリンとまゆしぃはね、子どもの頃から姉妹みたいにいつも一緒だったのです!」

倫子「まあ、この年齢差だと親子に間違われそうだけどな」

鈴羽「確かに、まゆねえさんは童顔で、リンリンはアダルトだもんね」

倫子「どうせオレは老け顔だよ……」

鈴羽「そっ、そんなことないっ! 絶対無いっ! フェロモン全開だよっ!」

まゆり「オカリンがまゆしぃのお母さんなの? それだと、かがりちゃんはオカリンの孫娘だねぇ♪」

鈴羽「複雑な家庭だね」

倫子「これ以上ややこしくしないでくれ……」
89 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:21:39.02 ID:1LIL8LAQo
1975年7月8日(火)13時24分
秋葉原 中央通り


倫子「(昨晩は余った金でビジネスホテルに宿泊した)」

倫子「さて、戸籍は明日完成する。だが、ラジ館屋上にはいまだ解体途中のタイムマシンがある」

鈴羽「早めに見積もっても、完全に処分するにはあと1週間はかかりそうだね。そうなると、見つかる危険性が高い」

鈴羽「何より、8月13日までには完全に撤退しないと、重大なパラドックスが起きる危険がある」

まゆり「もうひとりのスズさんと、かがりちゃんが現れちゃうんだよね」

倫子「そこで今度は、ラジ館の管理会社と太いパイプを持っている別の会社の重役を金で買う」

まゆり「オカリン、大人になっちゃったんだね……」

倫子「しかし、いかに金があろうと、この時代において33歳の女と、17歳と19歳の少女の無理が通るわけもない」

鈴羽「どうするの?」

倫子「……柳林神社を利用させてもらう」
90 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:22:53.31 ID:1LIL8LAQo
某会社


栄輔(15歳)「――ラジ館屋上には、亡霊が棲みついている」

重役「っ……」


鈴羽「本当にこんなのでどうにかなるの?」ヒソヒソ

倫子「1970年代後半は都市伝説や怪談がポンポン生まれた時代だ。そうじゃなくても、不動産会社ってのは霊的なものを嫌う傾向がある」

鈴羽「そうなの?」

倫子「それに、地元の神社のお祓いを受けないわけにはいかない。ここで商売を続ける限り、地縁に縛られざるを得ないからな」

まゆり「でも、どうやってるかくんのパパを説得したの?」

倫子「エレキギターを買ってやると言ったらついて来た。ルカパパは昔ロックバンドをしていたらしくてな、見事にハマってくれた」

鈴羽「買収したんだ……」


重役「分かった。……何とか掛け合ってみよう」

重役「あんたらの本当の目的がなんなのか知ったことじゃないが……変な噂は立てないでくれよ」

倫子「ああ。特に、8階の従業員通路に赤い髪の女の幽霊が出る、なんて噂は、絶対に流さないよう努力しよう」
91 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:24:11.80 ID:1LIL8LAQo

・・・
1975年9月27日土曜日 曇り
池袋 雑司ヶ谷 とある一軒家


まゆり「……なんだか、ようやく生活が落ち着いたね」

倫子「タイムマシンも片付いて、身分証も整理し、家まで手に入れたからな」

鈴羽「住処を決める時もさんざん迷ったよね」

倫子「秋葉原という選択肢もあったが、それよりも――」

鈴羽「……うん。まゆねえさんとリンリンの生まれ育った街だもんね、ここは」

まゆり「ねえ、オカリン。まだこっちに来てから"まゆしぃたちの家"、見に行ってなかったよね?」

倫子「え?」

鈴羽「それを言うなら、"まゆねえさんたちが生まれることになる家"じゃない?」

まゆり「あ、そっか。うん、そうそう」

倫子「ああ、なるほど。たしかオレの家、というか、岡部青果店は2011年で築40年だったらしいから、今の時代だと新築だな」

まゆり「オカリンのお父さん、居るかなぁ〜?」

倫子「中坊の親父か……あまり会いたくはないが」

鈴羽「時間もお金もあるからある程度は何してもいいとは思うけど、隠密行動を心がけてよ?」

まゆり「オーキードーキーだよー、スズさん♪」
92 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:26:24.02 ID:1LIL8LAQo
雑司ヶ谷霊園近く 商店街


まゆり「そう言えば、この時代って、まだまゆしぃのおばあちゃん生きてるんだよね……」

倫子「……そうだな。だが、接触は厳禁だぞ?」

まゆり「わ、わかってるよ! まゆしぃ、そこまでバカじゃないもん」プイッ

まゆり「…………」

倫子「(婆さん、今はオレと同い年くらいか。……すまないな、まゆり)」

まゆり「あっ! ねえ、オカリン! ここって、オカリンがいつもビニール傘を買ってくれたコンビニがあったところだよね?」

倫子「ああ、たしかに……ほう。昔は時計店だったのか」

まゆり「……ショーケースに並んでる懐中時計、まゆしぃのカイちゅ〜とおんなじやつだ」スッ

倫子「(過去に持ってきてたのか) どれどれ……おお、本当だ」

まゆり「そっか……おばあちゃん、このお店で買ったんだ……」

倫子「……まゆり、それ、買うよ。幸い、金はたくさんあるし」

まゆり「えっ!? で、でも、そんなことしたら、おばあちゃんが買えなくなっちゃうよ!」アセッ

倫子「よく見ろ。これは展示品で、商品はいくつも同じのが用意してあるんだよ」

まゆり「そうなの?」

倫子「だから、その……。まゆりとお揃いの時計を、オレが持っててもいいだろう?」

倫子「お前と同じ時間を、一緒に歩いていきたいから……」

まゆり「オカリン……」
93 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:29:09.31 ID:1LIL8LAQo


時計店店員「ありがとうございました」


まゆり「おそろいだねぇ、えっへへ〜♪」ギュッ

倫子「う、腕を掴むな。歩きにくい」

まゆり「え〜、一緒に歩いてくれるんじゃなかったの〜?」

倫子「そういう意味じゃなくてな……」

まゆり「ほら、着いたよ? オカリンのおうち」

倫子「う、うむ……。紛うことなき岡部青果店だ。オレの記憶と違うのは、小奇麗なのと、犬小屋が無いくらいか」

岡部父(13歳)「いらっしゃい。なんにします?」

倫子「(これが親父か……。まだガキじゃないか……)」

まゆり「ぼく、お店番? えらいねぇ〜」ニコニコ

岡部父「は、はい……」テレッ

倫子「このスケベ坊主が。歳を取ってから椎名の娘にセクハラしないよう肝に銘じておくのだなっ」ケッ

岡部父「はぁ……?」ポカン

まゆり「えっとね〜、バナナを1房ください♪」
94 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:31:22.01 ID:1LIL8LAQo
都電雑司ヶ谷駅付近


ガタンゴトン …


倫子「全く、油断も隙もあったもんじゃない。あいつ、まゆりの胸に目が釘付けだったぞ」プンプン

まゆり「まだ子どもだよ〜?」


??「ド、ドロボー!!」

泥棒「へへっ……」タッタッ


まゆり「えっ!? あ、あそこっ!」

倫子「(あんまり目立ちたくなかったが……)」タッ

倫子「おい、そこの」

泥棒「な、なんだテメェ!? どけっ!!」

倫子「やれやれ。ガキの喧嘩ならいざ知らず、近所で悪事を働くとは」

倫子「天が許しても、この"池袋のトラブルシューター"こと鳳凰院――」

泥棒「うるせェ!」ダッ!

まゆり「きゃぁっ!」

倫子「ひ、ひぃっ!」ビクッ


鈴羽「――だりゃぁっ!」ガッ


泥棒「ぐあッ!」ズテーン!
95 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:32:26.95 ID:1LIL8LAQo

倫子「す、鈴羽……!?」

まゆり「スズさんっ!」パァァ

鈴羽「帰りが遅いから探しに来てみれば、この卑劣漢め……」ガシッ

泥棒「テメェ何しやが……!?」

鈴羽「あたしが押さえ込んでるから、リンリン、やっちゃって」

倫子「あ、ああ。任せろ……ふんっ!!」ドゴォ!!

泥棒「―――――っ!!」

泥棒「あ……あ、あ……っ」バタッ

倫子「情けない奴だ。ダルだったらこの程度の金的で気絶などせんぞ」
96 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:33:35.86 ID:1LIL8LAQo

倫子「大丈夫ですか? バッグを取り返してきましたよ」スッ

??「(て、天使……)」トゥンク

??「あ、ありがとうございます! この中には通帳と印鑑と、大切なものが入ってて……」ペコペコ

倫子「(なんでまたそんなものを持ち歩くかな……)」

??「実は私、すぐ物を失くしてしまうタチでして……このご恩は決して忘れません! 何かお礼を!」

倫子「お礼……いえ、結構ですよ。それでは、私たちはこれで」

??「ま、待ってくださいっ! せめてお名前だけでもっ!」

倫子「…………」


倫子「おい、これ、どうすべきだ?」ヒソヒソ

鈴羽「ありゃリンリンに惚れてるよ」ヒソヒソ

まゆり「オカリン、美人さんだもんねー」ヒソヒソ
97 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:39:10.01 ID:1LIL8LAQo

倫子「本当に申し訳ないですが、その――」

??「こ、これは失礼! ひとの名を聞くときはまず自分から、ですよね!」

椎名「私、椎名と申します。椎名――――」


まゆり「……えぇーっ!?!?」

鈴羽「ど、どうしたの?」

まゆり「……おじいちゃんだ」

鈴羽「えっ……?」

まゆり「この人、まゆしぃのおじいちゃんだ……」プルプル

倫子「まゆりのおじいちゃん!?」


椎名「まゆりのおじいちゃん?」

倫子「(この20代後半の男が、まゆりの祖父だと言うのか!? ……となると、これは非常にマズイ)」ドキドキ

倫子「(早いところこの場から立ち去らねば……!)」
98 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:39:53.96 ID:1LIL8LAQo

倫子「あーっ、もうこんな時間っ! 急がなきゃ」スッ

倫子「(買ったばかりの懐中時計が役に立ったな……!)」

椎名「あ、あのっ! もし、もし覚えていたら――――」

椎名「半年後、またこの駅で会っていただけませんか……」

倫子「(……親父から聞いたことがある。『君の名は』という昭和の映画のセリフだ)」

倫子「(この人にはなんの恨みもないが……)」

倫子「……さようなら、椎名さん」タッ

椎名「あっ……」


鈴羽「……良かったの? すごく、悲しそうな顔してたけど」

倫子「……そのうち忘れてくれるだろう。そうなってくれないと困る」

まゆり「う、うん。まゆしぃのおばあちゃんがオカリンになっちゃうところだったよ」

倫子「そう単純な話でもないんだがな……」
99 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:40:59.65 ID:1LIL8LAQo
1975年9月28日日曜日
池袋 雑司ヶ谷 とある一軒家


倫子「……忘却とは、忘れ去ることなり、か」

鈴羽「何当たり前のこと言ってるの?」

倫子「いや、この詩には続きがあるんだ。忘れ得ずして忘却を誓う心の悲しさよ、ってな」

鈴羽「……まるで昔のリンリンみたいだね。牧瀬紅莉栖のことを、α世界線のことを、ラボのことを忘れようとしてた頃の」

倫子「それこそ忘れてくれ。オレにとっては黒歴史……いや、今となっては大切な思い出か」フッ

倫子「それより、これからどうするか決めたのか?」

鈴羽「うん。あたしはα世界線と同じように、大検取って電機大に入学してみようと思う」

倫子「ほう。まあ、この世界線では相対性理論超越委員会を結成する必要は無いが……鈴羽がそうしたいならそうすればいい」

まゆり「ごはんできたよー!」

鈴羽「おおっ、良い匂い。母さんに鍛えられただけのことはあるね」

倫子「(本当はかがりなんだが、そのことはわざわざ言う必要は無いだろう)」フフッ

倫子「まゆりはすっかり主婦だな。大学はいいのか?」

まゆり「えっ? うん、まゆしぃはできるだけオカリンの側に居たいので」エヘヘ

倫子「……そうか」
100 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:41:51.43 ID:1LIL8LAQo

その後、オレたちは緩慢な時間の中でその時を待ち続けた。

とは言っても、常にSERNを警戒する必要があった。

助教授になった鈴羽には、天王寺裕吾に関わるなとだけ念を押しておいた。

関わったところで、いずれつらい思いをしなければならないからな……。

だか、天王寺が日本へとやってくる3年前に、早くもその時が来てしまった。




――――1994年2月1日、椎名まゆりが死んだ。
101 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:42:38.73 ID:1LIL8LAQo
1994年2月1日火曜日
池袋 とある総合病院の一室 【岡部真百合様】


医者「――原因不明の多臓器不全。36歳の若さとは、本当に残念でなりません」

倫子(52歳)「まゆり……」グッ

医者「真百合さんの私物はこちらに」スッ

倫子「……懐中、時計。おかしいな、昨日までちゃんと動いてたのに、私の時計も動いてるのに」

倫子「まゆりの時計だけ、止まってる……」ギュッ

倫子「なあ、まゆり……。これで、よかったんだよな……?」


まゆり「……………………」
102 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:43:25.28 ID:1LIL8LAQo
・・・
倫子の記憶
1週間前 夜
池袋 とある総合病院の一室 【岡部真百合様】


ガララッ


まゆり「おかえり、オカリン……」

倫子「すまん、起こしちゃったか? 無理に身体を起こさなくていいんだぞ?」

まゆり「ううん……ねえ、オカリン?」

倫子「なんだ?」

まゆり「いつもこうやって、まゆしぃがだめになってしまった時……」

まゆり「オカリンは黙ってずっとずっとまゆしぃの傍にいてくれたよね」

まゆり「まゆしぃはオカリンの人質なのに、迷惑かけっぱなしだよ」

倫子「…………」

倫子「迷惑だと思うのなら、早く元気になってオレのために尽力しろ……いいな?」

倫子「お前は人体実験の生け贄なんだからな。元気でいてもらわないと困るんだ」ボソッ

まゆり「ん? 何か言った?」

倫子「……っ」グッ
103 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:44:18.52 ID:1LIL8LAQo

まゆり「それよりオカリン。まゆしぃ、ちょっと暑いので窓を開けてほしいのです」

倫子「たしかに、この部屋は暖房が効きすぎだな。ん、いいぞ」ガラッ

フワッ

まゆり「風があってきもちいいよ。ありがとうオカリン――」スッ

倫子「(……例の癖。――――まゆりが、連れて行かれてしまうっ!)」

倫子「……まゆりっ!!」ダキッ

まゆり「オカリ……? うー、痛いよオカリン」

倫子「どこにも……どこにも行かせないって言ってるじゃないか」ギュッ

まゆり「…………」ギュッ

まゆり「まゆしぃはずっとオカリンの人質だから、まゆしぃが死ぬまではずーっとオカリンと一緒にいるのです」

まゆり「もしまゆしぃが死んでしまっても、まゆしぃのおばあちゃんみたいにね」

まゆり「あのたくさんのお星様のひとつになって、オカリンを見守っているから……」


・・・
104 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:45:08.77 ID:1LIL8LAQo

鈴羽(38歳)「……ごめんね、リンリン。間に合わなかった」

鈴羽「こうなることは、α世界線の情報から簡単に予測できた。裸の特異点を通過したことによる、体細胞のフラクタル化……」

鈴羽「なんとか阻止できないかと大学でブラックホール研究をして、放射線医療の最先端と共同研究したりしたけど……ダメだった」

鈴羽「この時代の理論と設備じゃ、ブラックホールが肉体に与える影響なんて、計算できなかったんだ」

鈴羽「あたしは、失敗した……」

倫子「……鈴羽」

鈴羽「え……?」

倫子「まゆりの顔を、見てみろ」


まゆり「……………………」
105 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:45:46.96 ID:1LIL8LAQo

倫子「とても、幸せそうだと思わないか?」

鈴羽「……うん。あたしが知ってる2036年のまゆねえさんの顔とは、雲泥の差だ」

鈴羽「とっても、とっても幸せそうな顔をしてる……」

倫子「オレは、まゆりの笑顔を守れたんだよな……」グスッ

鈴羽「……あたしたちにも病魔は迫ってる。あたしはこれからも研究を続けるよ」

鈴羽「リンリンには、長生きしてほしいから……」



総合病院 正面玄関ロビー


鈴羽「もう行くよ。大学に戻って、やらないといけないことがたくさんあるんだ」

倫子「……ああ。オレはこれから葬儀屋と話し合いが――――」


椎名「はぁっ! はぁっ! 孫は、孫はどこだぁぁっ!!」ドタドタ


倫子「えっ――――」
106 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:46:27.87 ID:1LIL8LAQo

看護婦「ど、どうされました!?」

椎名「孫が産まれるんだよ! 俺の可愛い孫が! なあ!」ガシッ

看護婦「お、落ち着いてください! お名前を教えて頂ければ――」

椎名「まゆりだっ! 椎名まゆり、俺の孫娘だよお!」

看護婦「椎名様、ですね! 産科に案内しますので!」タッ



倫子「あ……あぁ……」プルプル

倫子「そ、そうだよな……そうならなきゃ、いけないもんな……」ワナワナ

倫子「どうして忘れてたんだ、だって今日は……」ウルッ


倫子「――まゆりの生まれた日じゃないか……」ポロポロ
107 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:47:10.82 ID:1LIL8LAQo
病室 【椎名様】


椎名「元気な女の子、か……」

椎名父「随分慌ててきたんだな。看護婦さんたち、親父のこと笑ってたぞ」

椎名「そりゃ、なんてったって俺の孫だからな!」

椎名父「俺の娘なんだが……。まあ、親父の提案通りの名前にさせてもらったよ。なかなかいい名前だ」

椎名「だろ? 漢字はわからなかったが、どうしてか、頭から離れなくてな……」

椎名「"あの人"が大事そうに呼んでいた、愛情のこもった名前だ」ボソッ


まゆり「……んぅ」スヤスヤ


椎名「まゆり……。きっと優しい子に育つだろうよ」



倫子「(あれが、まゆり……。この世界線の、まゆりか……)」コソッ

倫子「ふふっ……あははっ……可愛いじゃないか……」ウルッ
108 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:47:51.76 ID:1LIL8LAQo
廊下


倫子「(……そろそろ不審者だな。戻るとするか)」クルッ

椎名「あ、あなたは……もしや!?」

倫子「し、しまった……」ビクッ

椎名「やっぱり……! あれから随分時間は経ってしまいましたが、私には一目でわかりましたよ……!」

倫子「そ、その……。約束を果たせず、すみませんでした」

椎名「いえ、あの時は若気の至りで……そうだ! 今孫が産まれましてね、良かったら挨拶していってくれませんか!」

倫子「えっ……?」

椎名「ささっ、どうぞどうぞ!」

倫子「え、いや、ちょっと!」
109 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:48:28.94 ID:1LIL8LAQo
病室 【椎名様】


倫子「……まゆりー。とぅっとぅるー……」

まゆり「あぅ、あぅ」

倫子「(か、かわいい……)」ドキッ


椎名父「へえ、ああやってあやすのか……。しかし、"あの人"が実在していたとはね。離婚したいがための適当な嘘だと思ってたが」

椎名「め、滅多なことを言うな!」

倫子「(えっ? まゆりの爺さんが、離婚?)」

倫子「……どういうことですか?」
110 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:49:45.74 ID:1LIL8LAQo

椎名父「ああいや、この人これでも今流行りのバツイチなんだ。うちの母親と去年離婚してね」


倫子「(まゆりの婆さんは確か、父方の祖母だったはず――っ!?)」ゾクッ


倫子「(そんな……、オレがあの時、泥棒を引き止めたばっかりに……)」ワナワナ


倫子「(――バタフライ効果)」ゾワワァ


倫子「(あの婆さんが居ないと、まゆりは失語症にならず、鳳凰院凶真は生まれない……)」プルプル


倫子「(――シュタインズ・ゲートへの道は、永遠に閉ざされてしまった)」クラッ


倫子「あっ……」バタッ


椎名「っ!? 大丈夫ですかっ!? 誰か、誰か来てくれ――――」
111 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:50:28.23 ID:1LIL8LAQo
別の病室


倫子「――――ん、ここは……?」

椎名「気が付きましたか!? いやあ、一時はどうなることかと。ここが病院でよかったですよ」ハハ

倫子「(そうだ……思い出した。もう、この世界線に未来は、無いんだった……)」ハァ

椎名「……何か、つらいことがあったんですか? もしかして、今日ここに来た理由に関係が……」

倫子「……最愛の人を、亡くしてしまったんです」

椎名「それは……。無神経なことを聞いてしまい、すいませんでした……」

倫子「いえ、あなたが謝ることでは……」
112 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:51:33.62 ID:1LIL8LAQo

椎名「……もっ、もし、私にできることがあれば、なんなりと言ってください!」

倫子「え……?」

椎名「話をしてくださるだけでも、それだけでも構いません。私は、あなたのおつらそうな顔を、なんとかしたい」

倫子「……椎名さん、お優しいんですね」ニコ

椎名「あ、いや……」ドキッ

倫子「……どうして奥様と離婚を?」

椎名「……恥ずかしながら、あなたのことが忘れられなかったのです」

椎名「来る日も来る日も、あの駅へと出かけていたので、さすがに愛想をつかされました」ハハ

倫子「……そうでしたか」
113 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:52:54.31 ID:1LIL8LAQo

椎名「あの日も、その懐中時計をしてらっしゃいましたね」

倫子「え……?」スッ


倫子「――――っ!!」ドクン


倫子「……その、奥様は懐中時計を持っていたりは?」

椎名「えっ? いえ、持っていなかったと思いますが……」

倫子「(まさか……これは……。いや、そういうことなのか……?)」ドクン

倫子「(いや、でも……この状況で、目的のためには手段を選ばないなんてこと、許されるのか……?)」ドクンドクン

倫子「(違う。これはマキャヴェリズムなんかじゃない、だってこれは――――)」ドクンドクンドクン

倫子「ひとつの運命に、収束する……」ツーッ

椎名「えっ?」

倫子「お孫さん、とても可愛らしかったですね」ニコ

倫子「――私、倫子と申します」

椎名「……ああ、ようやく聞けた。なんと素敵なお名前なんだ……」
114 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:55:40.50 ID:1LIL8LAQo

その日以来、椎名家との付き合いは続いた。

椎名さんはとても優しくて、良い人だった。さすがまゆりの祖父だけはある。

一方、鈴羽の容態は日に日に悪化していった。

教え子の秋葉幸高から海外での治療を勧められたそうだが、鈴羽は断ったと言う。


・・・・・・

鈴羽『あたしは一足先にまゆねえさんに会いに行くよ。充分過ぎる以上に幸せだったから』

鈴羽『リンリンの病気を治してあげられなくてごめんね』

倫子『私は鈴羽から、充分過ぎる以上のものをもらったよ』

鈴羽『そっか。それなら、あたしの人生は、無意味なものじゃなかった――――』

・・・・・・


そうして2000年を迎え、4月3日に幸高さんが飛行機事故で亡くなり、5月18日に鈴羽は息を引き取った。

しかし、これでいい。別れを惜しむ必要などない。

これがオレの、私の、シュタインズ・ゲートの選択なのだから。
115 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 22:56:48.23 ID:1LIL8LAQo
2001年10月22日月曜日
御徒町 葛城家


倫子「ここか……。場所も建物も、α世界線のそれと同じだな」

倫子「(私の体調も次第に悪くなった。あと数年のうちに私も逝くだろう)」

倫子「(だが、その前にどうしても確かめておきたいことがあった)」

倫子「……どうしてこの世界線の綴さんは、SERNに殺される必要があったのか」

倫子「(この世界線では、ミスターブラウンは橋田鈴と接触していない。それなら、綴さんが殺される必要はなかったんじゃないか?)」

倫子「まあ、こうして盗聴してしまえば、それもハッキリすること」

倫子「悪く思うなよ、ミスターブラウン。貴様だって我がラボを盗聴していたのだから、これでオアイコだ」ククッ

倫子「なんてな……。そろそろ鳳凰院凶真は私の年齢的に苦しいか」ハハッ

倫子「……まゆりが逝った以上、もう鳳凰院凶真は必要ないよね」
116 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:00:08.84 ID:1LIL8LAQo

・・・


ラウンダーF「IBN5100を利用したウイルスプログラム送信は、1998年に間違いなく秋葉原で行われた」

ラウンダーF「君が1997年からここで目を光らせていたにもかかわらず、だ」

天王寺「…………」

ラウンダーF「プログラムが発動した2000年1月1日から1年経った今でも、犯人の正体は掴めぬままなのだろう?」

ラウンダーF「この件に関しては君は自身や家族のために故意にIBN5100を入手せずにいると言う者もいてね」

天王寺「そんなことはねぇ!」

ラウンダーF「君が任務を忘れているのではないかと……心配しているわけだよ」

ラウンダーF「貴様がここに居る理由は、一体なんだ? 貴様を拾ってやったのは、一体誰だ?」

天王寺「…………」

ラウンダーF「あまり我々を失望させるな。だが、今ラウンダーが人材不足であることも事実」

ラウンダーF「あと数年でSERNは洗脳によるラウンダー募集を開始するが、それまでは君に頑張ってもらわないと困るんだよ」

ラウンダーF「それに、秋葉原に生活基盤を敷いている君が最も適任者なんだ」

天王寺「そうは言ってもだな、犯人の正体がまるでわからねえとあっちゃあ――――」

ラウンダーF「君は勘違いしている。自分が今どんな状況に立っているか、理解してもらう必要があるようだな」
117 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:00:38.89 ID:1LIL8LAQo

ラウンダーF「妻か娘……どちらかに我々と一緒に来てもらう」


綴「よく分からないけれど、すぐに戻れるようにお願いしてみるから」


バタン


ラウンダーF「心配することはない。またすぐに会える」


ラウンダーH「データが来ました」


天王寺「"DONNA GELATINA"、ゲル状の貴婦人……そんな……っ、綴……っ!!」


ラウンダーF「まず妻の痕跡をすべて消せ。持ち物を1つ残らず廃棄するんだ」


ラウンダーF「そしてなんとしてもIBN5100を使った人間を確保しろ。それで終わりだ」


ラウンダーF「我々は常に、君を……『君たち』を見ているからな」


天王寺「……うっ……くっ……うぅっ……」ポロポロ


・・・
118 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:03:14.10 ID:1LIL8LAQo
2004年7月7日水曜日 夜
雑司ヶ谷 とある一軒家


倫子(62歳)「これがシュタインズ・ゲートの選択……」ツーッ

倫子「("シュタインズ・ゲートの選択"は、決して諦めの言葉なんかじゃ無かったはずなんだけどな……)」

倫子「(椎名さんはとても良い人だったが、私はまもなく死ぬ。そんな私と一緒に居ても、つらい想いをさせるだけだ)」

倫子「(だから私は、無理を言って別居を申し入れ、昭和50年からまゆりたちと暮らしていたこの家に独り暮らしをすることにした)」

倫子「(……今が正しい時間の流れなんだと受け容れるしかない)」

倫子「……これでよかったんだよね、まゆりちゃん」ナデナデ

まゆり(10歳)「すぅ、すぅ……」

倫子「よく寝ちゃって。お昼に倫太郎君と遊んで疲れちゃったのかな」


――――――――――

TV『我が名は狂気のマッドサイエンティスト――……』

倫太郎「うおおおおっ!!! いけーーーーっ! やっつけちまえーっ!!」

まゆり「おばーちゃーんっ! オカリンったら悪者ばっかり応援するんだよーっ!」

   『おりひめさまになれますように まゆしぃ☆』

――――――――――


まゆり「ふわぁ……おばあちゃんの膝枕が、気持ちよくて……」

カチッ   カチッ   カチッ   カチッ

まゆり「割烹着のポケットに入ってるカイちゅ〜の音を聞くとね、なんだか落ち着くんだ〜」

倫子「……まゆりちゃん、そろそろお父さんのお家に帰りますよ」

まゆり「……うん、おんぶ」

倫子「はいはい」ヨイショ
119 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:04:08.85 ID:1LIL8LAQo
雑司ヶ谷 住宅街


まゆり「お空、お星さまがいっぱい……」

倫子「そうだね」

倫子「(あの星のどこかに、まゆりは居るのかな……)」

まゆり「ねえおばあちゃん、今日は何の日か知ってる?」

倫子「何の日だっけ?」

まゆり「今日はね、年に一度だけ、彦星さまと織姫さまが会える日なんだよ」

倫子「そうかい」

まゆり「ねえおばあちゃん、どれが彦星さまで、どれが織姫さまか、教えてほしいのです」

倫子「あのお星さまが彦星さまで……あのお星さまが織姫さま、だよ」

倫子「織姫さまはね、ベガっていう星のことなんだけど、白くて明るくてとってもキレイなの」

倫子「海外だとね、『空のアークライト』って呼ばれてるんだよ」

まゆり「あれが、織姫さま……、きれい……」スッ

倫子「(……星屑との握手<スターダスト・シェイクハンド>……)」

倫子「……きっと届くよ。まゆりちゃんなら……」
120 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:07:11.78 ID:1LIL8LAQo
・・・6年後・・・
2010年4月5日月曜日
未来ガジェット研究所


ガチャッ


倫太郎「ん……まゆり? どうしてここに居るんだ?」

まゆり「あ、オカリン。えっへへ〜、来ちゃった。待ってたよ〜」

倫太郎「というか、どうやって入った」

まゆり「まゆしぃにはね、オカリンが鍵をどこに置いておくか、だいたい想像がつくのです」

倫太郎「この雪の中、歩いて来たのか?」

まゆり「春先なのに雪なんて、珍しいよね」

倫太郎「あのな……。ここは未来ガジェット研究所と言って、お前みたいな女子高生が遊びに来る場所ではないのだぞ」

まゆり「ねえねえ、オカリン。まだ言ってなかった」

倫太郎「なにをだ?」

まゆり「……おかえりなさい、オカリン」ニコ

倫太郎「…………」

倫太郎「ご苦労、まゆり」
121 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:08:01.77 ID:1LIL8LAQo

倫太郎「ラボの近くに良い店を見つけた?」

まゆり「うん。メイクイーン+ニャン2って言ってね、まゆしぃでもバイトできそうなんだよ」

まゆり「来月の頭くらいから働こうと思ってるんだー」

倫太郎「メイド喫茶か……しかし、あのまゆりが?」

まゆり「まゆしぃだってね、いつまでも小さい頃のままじゃないんだよ?」

倫太郎「そ、そうか。だが、それとまゆりがラボに遊びに来ることとなんの関係がある」

まゆり「えぇ〜、あるよ〜。おおありだよ〜」

倫太郎「……ここではロジカルに説明しろ」

まゆり「だってね、バイト先に近いし、学校から歩いてこれるし、オカリンの研究を応援できるし」

倫太郎「ほう? つまり、このラボのメンバーになりたい、と、そう言うのだな?」

まゆり「がんばれー、がんばれーって、応援してあげるのです!」

倫太郎「……俺の想像した応援とはちょっと違うが。まあいい。そういうことなら、貴様は今日からラボメンナンバー002、だ」

まゆり「らぼめん?」
122 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:08:47.98 ID:1LIL8LAQo

倫太郎「ラボのメンバー、略してラボメンだ」ニヤリ

まゆり「ラボメン……。うんっ、まゆしぃはラボメンなのです!」

倫太郎「……俺だ。ラボを開設して早半月、ついに我がラボに初の研究員が参入した」スッ

倫太郎「なにっ!? "機関"のスパイの可能性があるだと――――」

まゆり「ねえオカリン、知ってた? まゆしぃのおばあちゃんとオカリンって、同じ誕生日なんだよ?」

倫太郎「って、俺の報告の邪魔をするな」ハァ

まゆり「すごい偶然だよね〜♪」

倫太郎「クク、それも機関の陰謀に違いない。情報操作によって因果を書き換えたか、あるいは……」

まゆり「えー、おばあちゃんは悪い人じゃないよう」

倫太郎「悪い人じゃなさそうな人間ほど信用できないものはないからな」

まゆり「……オカリンのバカっ!」

倫太郎「バッ!? バカとはなんだ! 貴様、人質の分際でこの鳳凰院凶真を愚弄するか!?」

まゆり「そのほーそーいいんさんだって、おばあちゃんのお世話になったでしょ!? 忘れちゃったの!?」ウルッ

倫太郎「うっ……やけに突っかかるな。……泣いてるのか?」

まゆり「えっ? あれ、ウソ、どうして……」ポロポロ
123 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:09:28.28 ID:1LIL8LAQo

まゆり「ご、ごめんね? オカリンを困らせるつもりはなかったの……」グシグシ

倫太郎「あー、うむ。なんだ……今日は昼飯をおごってやろう」

まゆり「ホントっ!? わーいっ♪ まゆしぃはねー、カレーがいいなぁ、えっへへ〜♪」ニコニコ

倫太郎「現金なやつだ」ククッ

倫太郎「というか、突然婆さんの話などして、どうしたのだ?」

まゆり「あっ。そうそう、それがね? おばあちゃんの手紙が見つかったの」スッ

倫太郎「……遺言、というやつか?」

まゆり「そうなのかなぁ。オカリンにも読んでほしいって書いてあったから持ってきたんだー」

倫太郎「過去からの手紙というわけか……どれ、見せてみろ」
124 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:10:45.61 ID:1LIL8LAQo

――――――――――
1枚目


まゆりちゃんと りん太郎くんへ



この手紙はりん太郎くんと一緒に読んでください。

きっとこの手紙を読む頃には、おばあちゃんは死んじゃってるかもしれないね。

だからこうして、手紙にして、ふたりにメッセージを残したいと思います。

まゆりちゃん、今でもりん太郎くんと仲良くしてるかな。

りん太郎くんも、まゆりちゃんのそばに居るかな。

ふたりなら大丈夫だと信じています。

いつまでも仲良くね。

――――――――――
125 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:12:46.07 ID:1LIL8LAQo

――――――――――
2枚目


まゆりちゃんは、私の生きる道しるべでした。

暗い海を漂うような、長い船旅の途中で

私の頭の上にかがやく、たったひとつの北極星でした。

まゆりちゃんを背中におんぶしてお散歩することが、私にとってどれだけ幸せなことだったか。

まゆりちゃんは昔、可愛い恰好をしてお仕事をするのが夢だって言ってましたね。

その夢は叶えられましたか?

おばあちゃんの懐中時計、大切にしてくれてありがとうね。

――――――――――
126 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:15:08.64 ID:1LIL8LAQo

――――――――――
3枚目


りん太郎くんは、いつもマッドサイエンティストが出てくる特撮ドラマを熱心に見ていたね。

実はあの番組、おばあちゃんも好きだったの。

私も若い頃は、ああいう悪役に憧れてたりしたんだよ。

若い頃は男勝りでね、幼馴染の女の子を守るためにかっこつけてたものよ。

できることなら、この私の意志をりん太郎くんに引き継いでほしい。

それを繋ぎ止めてくれるのは、きっとまゆりちゃんの役目でしょうね。

そういうわけで、おばあちゃんに引き出しに、世界の支配構造を覆すための覚書を入れておきました。

まゆりちゃん、あとでりん太郎くんと一緒に読んでね。

―――――――――――
127 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:15:44.47 ID:1LIL8LAQo

倫太郎「『世界の支配構造を覆すための覚書』……だと……!?」プルプル

倫太郎「こうしてはおれん! まゆり、今すぐ池袋へ行くぞっ!」タッ

まゆり「あっ! 待ってよ、オカリン! 置いていかないでっ!」


ガシッ


まゆり「あ、手……」

倫太郎「俺がお前を置いていくわけないだろ。お前は俺の人質なのだからな」

まゆり「オカリン……」

倫太郎「……フゥーハハハ!」




ヒラリ  パサッ

128 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:16:35.09 ID:1LIL8LAQo

――――――――――
4枚目


引き出しに入れておくとおじいさんが失くしそうなので、やっぱり同封しました。

まゆりちゃん。毎日お墓参りに来てくれて、ありがとうね。

まゆりちゃんは気付いてなかったかもしれないけど、りん太郎くんも毎日お墓参りに来てくれたよね、ありがとう。

りん太郎くん。あの時、まゆりちゃんを抱きしめてくれて、ありがとう。

鳳凰院凶真になってくれて、ありがとう。

まゆりちゃんを人質にしてくれて、ありがとう。

もしりん太郎くんが他に好きな女の子を選んだとしても、きっとまゆりちゃんは応援してくれます。

その選択をする時は、必ずやってきます。

自分の選択を信じて。自分の意志を信じて。

あなたの周りの人たちの想いを、信じて。

きっとまゆりちゃんが、君を支えてくれるから。

決して諦めることなく、道を切り開いてください。

運命石の扉の向こうへ、辿り着いてください。





エル・プサイ・コングルゥ
                                        椎名倫子

――――――――――
129 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:18:44.98 ID:1LIL8LAQo
秋葉原 裏路地


タッ タッ …


倫太郎「はぁ、はぁ……。こ、ここからは歩いていくぞ……」ゼェゼェ

まゆり「オカリン、そんなに急がなくても、おばあちゃんは待ってくれるよ」ニコ

まゆり「あっ、そうだ! お墓参りするなら、白い百合のお花をひとつ買っていこうよ!」

倫太郎「墓参りをするとは一言も言ってないのだが……」

まゆり「おばあちゃんね、白い百合の花が大好きだったから。まゆしぃが社会人になったら、初任給でおっきな花束を買ってあげる予定なのです」ニコニコ

倫太郎「……そうか」

まゆり「――あっ! あそこ、雲の隙間が空いてる……」


キラキラ …


倫太郎「……レンブラント光線。通称、天使の梯子<エンジェル・ラダー>」

まゆり「……あの時も、こんな光景だったよね」

倫太郎「……ああ」

倫太郎「(俺はあの日、死んだ婆さんがまゆりを連れ去ってしまうんじゃないかと思ったが)」

倫太郎「(あれは、"鳳凰院凶真"を目覚めさせるための儀式だったのかもしれないな)」
130 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/05(火) 23:20:40.87 ID:1LIL8LAQo

倫太郎「婆さんからの手紙を読んだ日にこの現象とは、本当にあの人は神様にでもなったんだろうか」

まゆり「おばあちゃんはね、いつでもまゆしぃたちを見守ってくれてるんだよ」

倫太郎「そうだな……。鳳凰院凶真の生みの親として、感謝しないでもない」

倫太郎「(もしやあの時、まゆりの婆さんの意志を俺が受信したのか……? いや、さすがに妄想しすぎだな)」


キラキラ …


倫太郎「雪に輝いて神々しいな……」

まゆり「うん……とっても綺麗だね……」スッ


倫太郎「(あれは、まゆりの癖……光の中へと手を伸ばし、何かをつかもうと……)」


ギュッ


倫太郎「む? 手を繋ぎ直して、どうした?」

まゆり「……オカリンと手を繋いでいれば、まゆしぃはずっとそばに居れるよね」ニコ

倫太郎「……ああ。お前をどこへも行かせたりしないさ」ギュッ

倫太郎「婆さんには悪いが、まゆりは俺の人質だからな」ククッ

まゆり「――――うんっ」







ああ、まゆりのことを頼んだぞ。

頑張れよ、この世界線の鳳凰院凶真。






END2 Cloudy Sky END 【引き継がれる意志の元に】
131 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:10:34.34 ID:LFHIxASQo
第28章 観測世界のスカイクラッド(♀)



―――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――
―――――――――――
――――


2025年8月21日(木)14時02分
ワルキューレ基地


倫子「はぁっ……はぁっ……ぐっ!」クラッ

真帆「だ、大丈夫!?」ダキッ

倫子「ああ……2度目ともなれば慣れたものだ……」ズキズキ

ダル「で、今度のテクノビジョンはどうだった?」

倫子「……ああ、成功だ」

ダル「っしゃあああっ!!!」

真帆「ほ、ほんと!?」

倫子「倫太郎は2010年7月28日に未来からやってくる。それは2度目の紅莉栖救出だ」

倫子「メタルうーぱを抜き取り、紅莉栖の死を偽装する……。あとは倫太郎の主観がシュタインズ・ゲートを観測すれば……」

フブキ(セジアム)「――シュタインズ・ゲートに辿り着く」
132 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:11:07.37 ID:LFHIxASQo

ダル「ってことはもう、僕たちシュタインズ・ゲートの目の前に居るってことじゃん!」

真帆「ええ……そうね……!」

倫子「(たしかにそうだ。このまま、オレは未来視の通りに行動すればいいだけ)」

倫子「(……だが、オレは、もっと何かできたはずじゃないのか?)」

倫子「(もっと救えるものがあったんじゃないか?)」

倫子「(この鳳凰院凶真は、その程度なのか……?)」

倫子「(『シュタインズ・ゲートの選択』は、諦めの言葉なんかじゃない……!)」

倫子「……鈴羽。綯お姉ちゃんを呼んできてくれるか?」

鈴羽「うん、わかった!」タッ タッ
133 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:12:04.61 ID:LFHIxASQo

綯「凶真様、ご用命は何でしょうか」

倫子「エスブラウンよ。NX<ノア・ファイブ>だが、ギガロマニアックスとしての能力を覚醒させるために使うことは出来ないだろうか」

綯「もちろん使えます。というより、テクノビジョンも原理的にはギガロマ能力の覚醒です」

綯「ですが、未来視以外の、より強力な能力を、となると……リスクを伴います」

倫子「具体的には?」

綯「脳へのダメージが大きいんです。なので、一度覚醒のために刺激を与えると、数年間は能力がスリープ状態になって、使えなくなるかと」

倫子「つまり、2025年中に未来視はできない、ということか」

倫子「……構わない。もはやオレは未来視をする必要が無いからな」
134 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:13:37.18 ID:LFHIxASQo

倫子「真帆。ダル。もしオレが気絶でもしたら、無理にでもオレを過去へ送ってくれ」

真帆「えっ……で、でも!」

倫子「向こうにつけば、鈴羽が外側のコンソールを生体認証でいじってマシンを開けてくれるだろう。目を覚ますのはその後で良い」

ダル「……オーキードーキー」

綯「それじゃ、行きますよ……」カチッ


倫子「(――――っ!?)」ドクンッ


倫子「ぐ……ぐあああああっ!!!!」ガクッ


真帆「お、岡部さんっ!?」

綯「近づかないでくださいっ!」


倫子「ああああっ、あああ! うわあああっ!!」


綯「さあ、凶真様! 見つけてください、自分だけの現実をっ!」


倫子「うぅぅぅっ!! うぐっ、うがあああっ――――」
135 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:14:16.66 ID:LFHIxASQo

ギガロマニアックスは、特定の電磁パルスと脳の受容体とが近接作用することで発現する。

バイオリズムの上昇によって、中脳辺縁系ニューロンのドーパミンが過剰分泌されたとき、ディソードは現れる。

その状況を、このNX<ノア・ファイブ>を使って、人工的に創り出す。

CODEサンプル――ギガロマニアックスが力を使う過程で放出する特殊な脳波――を発生させることで、力の覚醒を促す。

同時に、被験者は強烈な負の感情を抱くことになる。

だが、それでいい。そうして初めてディソードを獲得できるのだ。
136 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:14:47.61 ID:LFHIxASQo

"剣が見えた"


"はっきりとは見えない"


"なんとなく剣に見えた"


"ここからしか見えない"


"実際にそれは剣じゃない"
137 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:15:26.85 ID:LFHIxASQo

倫子「――――見つけた」


パキ パキパキ パキィン


それは、一振りの剣。

あまりにも、優美。

あまりにも、清楚。

あまりにも、繊細で傷つきやすく。

そして、涙が出るほどに美しい。



倫子「"妖刀・朧雪月花"……っ!」ガシッ



綯「これが、凶真様のディソード……」

るか「綺麗な日本刀です……」
138 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:15:57.60 ID:LFHIxASQo

倫子「――――っ」バタッ シュィィィン

かがり「オカリンさんっ! もう、今日は倒れてばかり!」ダキッ

倫子「ディソードは、消えたか……。たしかに、これからしばらくはディラックの海を開けなさそうだ……」ハァ ハァ

倫子「だがこれで、オレはギガロマニアックスとしての能力を、過去の世界で存分に発揮できる……!」グッ

倫子「後は任せたぞ……おまえ、た……ち……」ガクッ

真帆「岡部さんっ!? しっかりして――――」
139 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:16:38.00 ID:LFHIxASQo

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・

世界線変動率【1.130212】
1975年7月7日(月)15時30分
ラジ館屋上


倫子「――――……ん、ここは……?」

まゆり「オカリンっ!? よかった、気が付いてくれて……」グスッ

鈴羽「だから言ったでしょ、気絶してるだけだって」

倫子「……そうか、1975年に着いたのか」ヨイショ

倫子「おっと」フラッ

まゆり「わわっ、大丈夫?」ダキッ

鈴羽「それにしても驚いたよ。あたしたちを追いかけて来たなんて」

鈴羽「でも、どうして?」

倫子「……出て行ったきり戻って来ないお前たちを、未来へと送り返しに来たんだよ」

鈴羽「未来に……帰れるの!?」
140 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:17:29.48 ID:LFHIxASQo

倫子「いいかよく聞け。お前たちのミッションは終わっていない。成功したと喜ぶにはまだ早いぞ」

まゆり「え……?」

鈴羽「……!」

倫子「みんなに『ただいま』って言うまでが、ミッションだ」

倫子「おそらく、C204型は故障している。この時代で解体する必要があるだろう」

倫子「そしてこのC193型だが、最大積載人数は2人までだ。2025年の技術力では、それが限界だった」

倫子「ゆえに、オレはこの時代に残る」

まゆり「そ、そんな――――」
141 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:19:14.43 ID:LFHIxASQo


   『鈴羽のこと、頼んだぞオカリン』


倫子「オレはダルと約束した。未来に娘を送り返す、とな」

鈴羽「父さん……」


   『だからこそです。絶対に返してください。……まゆりママと一緒に』


倫子「オレはかがりと約束した。未来にママを送り返す、と」

まゆり「かがりちゃん……」

倫子「まゆり。お前は……もはやオレの人質ではない」

まゆり「えっ……で、でもっ!」

倫子「そう言ったのはお前自身だ。それがお前の選択だ。そうだろ」

まゆり「……っ」

倫子「いいか、まゆり。オレがそばに居ないなら幸せになれないなどという生ぬるい考えは棄てろ」

倫子「あの時代には、お前の父親も母親も居る。フブキもカエデも、フェイリスもるか子も、かがりも、お前の大切な人たちが、お前の帰りを14年間待ってるんだ」

倫子「本当は2011年7月7日に送り返せればいいが、あの時点でお前たちふたりが世界線から消滅することは既に確定事項と化してしまった」

倫子「(オレはまゆりを失うことで14年間執念を燃やすことができた。その事実をなかったことにしてはいけない)」

倫子「ゆえに、その有効期限が切れる2025年以降にしか送り返せない。それについては、申し訳なく思う」
142 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:20:00.20 ID:LFHIxASQo

倫子「オレはまゆりを守ると誓った。そして、お前たちを送り返すとも誓った」

倫子「それが、オレの意志だ」

鈴羽「……リンリンの意志は固いんだね。まゆねえさんはどう思う?」

まゆり「……やだ」

鈴羽「まゆねえさん……」

まゆり「やだよ……。こうやってまた会えたのに、また離れ離れにならなきゃいけないなんて……」ポロポロ

倫子「……今日は、七夕だったな」

まゆり「え……?」グスッ

倫子「七夕はさ、彦星様と織姫様が、年に1度会える日、なんだよ」

まゆり「あ……」

倫子「なあ、まゆり……」

まゆり「…………」

まゆり「…………」

まゆり「…………っ」

まゆり「……わかった」
143 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:20:42.72 ID:LFHIxASQo

・・・

ゴウンゴウンゴウン …


鈴羽「ホントにいいんだね? リンリン」

倫子「何度も聞くな。ダルに会ったらよろしく伝えてくれ」

まゆり「オカリン……」

倫子「これ、かがりからの預かり物だ。オレたちをもう一度会わせてくれた、お守り」スッ

まゆり「あっ、森の妖精さんうーぱ……」

倫子「かがりの大切なものだから、返してやってくれ」

まゆり「……うん」

鈴羽「それじゃ、ハッチしめるよ。まゆねえさん、シートベルトして」

倫子「それじゃあな」

まゆり「……オカリン、あのねっ!」

倫子「ん?」

まゆり「……また、会おうね」エヘヘ

倫子「……無論だっ! ふぅーはははぁ!」バサッ


キラキラキラ …

キィィィィィィィィィン!!

144 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:21:40.26 ID:LFHIxASQo

鈴羽とまゆりを未来へ送ったことで、世界線はわずかに変動した。

だが、既に因果は成立している。この世界線の岡部倫太郎も、オペレーション・スクルド等のDメールは受信するのだ。

ゆえに、この世界線の7月28日、必ず2度目の紅莉栖救出が実行される。

この時点で、アトラクタフィールドレベルの収束からは脱していると言える。

そこでの倫太郎の"仕込み"によって、8月21日にシュタインズ・ゲート世界線へと変動する。

だが、そこにオレは存在しない。倫太郎という存在に上書きされているからな。

つまり、オレはまゆりと二度と再会することは無い。

――本当にそうだろうか?
145 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:25:07.48 ID:LFHIxASQo

シュタインズ・ゲート世界線は未知の世界線だが、いくつかのことは確定している。

ひとつは、『紅莉栖が2010年7月28日から8月21日まで生存している』ということ。

もうひとつは、『中鉢論文はロシアン航空の火災に巻き込まれて焼失する』ということ。

シュタインズ・ゲート世界線は、このふたつの事象を起点にして再構成されることになる。

それによってタイムマシンを巡る第3次世界大戦も、SERNによるディストピア支配も……

収束も存在しない世界線となる。
146 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:28:39.17 ID:LFHIxASQo

シュタインズ・ゲート世界線にジョン・タイターは現れない。

確かにα世界線ではジョン・タイターが2000年に現れなかったにもかかわらず、章一はあの日あの場所で記者会見を開こうとしていた。

だが、それはジョン・タイターの書き込みの代わりに、橋田鈴の手記を盗み見たからだ。

結局は阿万音鈴羽という人物からタイムトラベル理論を入手することで、あの日あの場所の因果が成立することになる。

無論、歴史の辻褄合わせとして、鈴羽がタイムトラベルしてこなくとも章一はあの場所でなんらかの会見を開く、ということも考えられる。

やつは学生時代からタイムマシン研究をしていたのだ。やはり発表はしたかったはず。

タイターほどの完成度の理論に至らずとも、章一の性格を考えれば記者会見をしそうではあるか。

まあ、そうなったらシュタインズ・ゲート世界線の倫太郎に、『タイターのパクリだ』と糾弾されることはなくなるだろう。

ゆえに、シュタインズ・ゲート世界線においてそのような状況に再構成されるとしても、因果律として矛盾があるようには思えない。

結果が先にあり、原因はあとから付随する。いちいちこんなことで心配するほうがバカらしい。

今居るこの世界線1本内の過去を変えずに結果を変えることで、原因が変わり、アトラクタフィールドβ脱出後の過去が変わるのだ。

なんだか禅問答じみたことを言っているようだが、真実なのだから仕方ない。
147 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:29:49.77 ID:LFHIxASQo

シュタインズ・ゲート世界線にはタイムマシンが存在しないかというと、そういうわけではない。

2010年7月時点で既に我がラボはタイムマシンを開発しているし、SERNだってゼリーマン実験を何度も繰り返している。

だが、ゲルバナ実験等でわかった通り、因果律に大きな影響を与えないタイムトラベルであれば、ダイバージェンスは全くと言っていいほど変化しない。

ゆえに、2036年から鈴羽が倫太郎に会いに来る可能性だって、否定はできない。

いや、うん、そこは橋田家の教育にかかっているところもあるだろうが、きっと大丈夫だろう。

確かにオレが定義したシュタインズゲート世界線の世界線変動率<ダイバージェンス>は【1.048596】だ。

その意味では、そこから少しでもズレてしまってはシュタインズゲートではない、と言える。

だが、そこは定義の問題だ。少しズレた世界線を、X世界線と名付けたとしても、シュタインズゲートに内包するとしても、本質は変わらない。

まあ、300人委員会の陰謀だけはシュタインズ・ゲート世界線においても渦巻いているはずだから、そこはなんとかしなければならないが。

そう。たとえシュタインズ・ゲート世界線に辿り着いたとしても、陰謀との戦いは終わったわけではないのだ。

未来ガジェット研究所は、次の戦いに向けて準備をせねばならん。
148 : ◆/CNkusgt9A [!蒼_res]:2016/07/06(水) 21:34:30.00 ID:LFHIxASQo

・・・25年後・・・
2000年4月4日火曜日
地下鉄旧万世橋駅倉庫


幸高「――……ハッ。こ、ここは……?」

倫子(58歳)「ようやく目覚めたか」

幸高「あ、あなたは?」

倫子「オレが誰かなど、どうでもいいことだ」

倫子「いいかよく聞け。"秋葉幸高"は昨日、航空機事故に遭って死んだ」

幸高「……は?」

倫子「いや、正確には、そういう運命が定められていた、と言うべきか」

幸高「……なら、なぜ私は今生きているんです?」

倫子「簡単な話さ。過去を変えずに、結果だけを変えたのだ」

倫子「『秋葉幸高は死んだ』。残酷な約定であり、β世界線の過去」

倫子「だが、『貴様は生きている』。絶対の真実であり、世界は騙された」

倫子「貴様にはいずれ新たな名を授けてやらねばな」

幸高「いったい、どういう……」
149 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:35:39.46 ID:LFHIxASQo
>>148 誤爆しました。もう一度投稿し直します
150 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:36:35.04 ID:LFHIxASQo

・・・25年後・・・
2000年4月4日火曜日
地下鉄旧万世橋駅倉庫


幸高「――……ハッ。こ、ここは……?」

倫子(58歳)「ようやく目覚めたか」

幸高「あ、あなたは?」

倫子「オレが誰かなど、どうでもいいことだ」

倫子「いいかよく聞け。"秋葉幸高"は昨日、航空機事故に遭って死んだ」

幸高「……は?」

倫子「いや、正確には、そういう運命が定められていた、と言うべきか」

幸高「……なら、なぜ私は今生きているんです?」

倫子「簡単な話さ。過去を変えずに、結果だけを変えたのだ」

倫子「『秋葉幸高は死んだ』。残酷な約定であり、β世界線の過去」

倫子「だが、『貴様は生きている』。絶対の真実であり、世界は騙された」

倫子「貴様にはいずれ新たな名を授けてやらねばな」

幸高「いったい、どういう……」
151 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:38:32.27 ID:LFHIxASQo

倫子「テレビを見ろ」ピッ

TV『――昨日の航空機事故で唯一の死亡者である秋葉幸高氏は……』

幸高「なっ……これは、一体!?」

倫子「貴様はIBN5100を入手したことで、SERNから狙われていたのだ」

幸高「セルン……って、SERN? どうしてです?」

倫子「300人委員会のZプログラムの機密を守るためだ。2000年頃の秋葉原でIBN5100を所有していた貴様は、真っ先に槍玉にあげられた」

幸高「そんな……。いや、というか、どうやって私の死を偽装したんです?」

倫子「昨日貴様が乗る予定だった飛行機には、貴様をここへ拉致監禁した後、代わりにオレが乗った」

倫子「周囲共通認識を操り、周りの乗客乗員にはオレが『秋葉幸高』に見えるようにした」

倫子「その後事故に遭ったが、オレは死なない。というか、傷ひとつ負わなかった。貴様と違って、死ぬ運命にないからな」

倫子「近くの病院へと救急搬送され、ICUへと放り込まれた。そこで医者たちの記憶を偽造した」

倫子「『秋葉幸高は既に救急車の中で死亡していた』、とな」

倫子「そのままでも良かったが、貴様の葬儀を執り行わなければ、牧瀬紅莉栖と秋葉留未穂が幼馴染になれない」

幸高「る、留未穂!?」

倫子「そこで貴様の死体をリアルブートした。むろん、生命を持たない、ただの元素の塊だ」
152 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:39:35.55 ID:LFHIxASQo

倫子「だが、このままではちかねがSERNの特殊部隊ラウンダーによって暗殺されてしまう」

幸高「ちかねまで!?」

倫子「落ち着け。ちかねも、貴様と同じ要領で死を偽装させてもらった。振り返ってみろ」

幸高「えっ」クルッ

ちかね「…………」

幸高「ち、ちかねっ! おい、大丈夫か!?」

ちかね「あ、あなた……? あれ、ここは……」

倫子「ここは貴様らの愛した街、秋葉原の地下だ」

幸高「……つまり貴女は、私たち夫婦を救ってくれたんですか?」

倫子「勘違いするな。オレは決して慈善活動をしたわけではない」

倫子「それに、貴様らは少なくともあと10年間娘と会うことができないのだから、オレを非難こそすれ感謝する必要はない」

幸高「……それは、娘を守るための措置なのでしょう?」

倫子「勝手に解釈するがいい」
153 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:40:30.98 ID:LFHIxASQo

倫子「今から10年後、あるひとりの青年が、柳林神社に奉納されたIBN5100を必要とする」

倫子「SERNのスタンドアロンサーバ内に囚われた、あるメールデータを削除するために使うのだ」

倫子「この未来は、このβ世界線において、既に確定している」

倫子「だが、そこには数々の陰謀の魔の手が忍び寄っている。彼は仲間たちとともに、陰謀と戦い続けなければならない」

幸高「それと私たちと、なんの関係が?」

倫子「その仲間たちの1人、コードネーム、フェイリス・ニャンニャンこそ、秋葉留未穂だ」

幸高「……!」

倫子「オレは、未来からやってきたタイムトラベラー。貴様ならこの話が理解可能であることをオレは知っている」

倫子「未来を変えるため、我が手足となって働いてもらうぞっ! ふぅーはははぁ!」
154 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:42:14.24 ID:LFHIxASQo

まず幸高には、闇医者たちとのネットワークを作ってもらった。

いくらオレがギガロマニアックスと言えども、自分の病気を簡単に治すことはできない。

人体の仕組みを理解し、ブラックホールとフラクタル化の関係を理解し、病状の進行について理解しなければならなかった。

幸高の死体をリアルブートした時は、内臓なんかは適当だったが、自分の身体となるとそうはいかない。

だが、しっかりリアルブートさえできれば寿命は延びる。反粒子のストックによるリスクの蓄積を踏まえても、だ。

確かにオレは未来視によって、自分が2005年に死ぬ世界線を視た。

あの世界線では、まゆりがお祭りに出かけている間に団子を作っていたところ……ポックリ逝ってしまった。

だが、この世界線はまゆりを未来へと返した世界線だ。まゆりの本当の婆さんも存在している。

ゆえに、オレが死ぬ必要は無くなった。収束など無いのだ。

2010年のあの日までは、オレは死ぬつもりなどない。
155 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:42:52.61 ID:LFHIxASQo
2001年10月22日月曜日
御徒町 葛城家


ラウンダーF「妻か娘……どちらかに我々と一緒に来てもらう」

綴「よく分からないけれど、すぐに戻れるようにお願いしてみるから」


バタン


ラウンダーF「心配することはない。またすぐに会える」

ラウンダーH「データが来ました」

天王寺「"DONNA GELATINA"、ゲル状の貴婦人……そんな……っ、綴……っ!!」

ラウンダーF「まず妻の痕跡をすべて消せ。持ち物を1つ残らず廃棄するんだ」

ラウンダーF「そしてなんとしてもIBN5100を使った人間を確保しろ。それで終わりだ」

ラウンダーF「我々は常に、君を……『君たち』を見ているからな」


天王寺「……うっ……くっ……うぅっ……」ポロポロ
156 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:44:08.30 ID:LFHIxASQo
御徒町 屋外


ラウンダーF「……悪く思うなよ、ミスターブラウン」

綴「……あの、これから、どこに?」

ラウンダーF「ん? ああ、もう変身は解除していいんだったか」

綴「へんし……えっ?」


シュィィィィィィィィィィン!!


倫子「――……他人になるというのも、奇妙な感覚だな」

綴「え、えっ!? い、いまの、どうやって……!?」

倫子「落ち着け、今宮綴。腹の子にさわる」

倫子「いいか、オレはラウンダーじゃない。さっきのは全部芝居、写真データもオレが念写したものだ」

倫子「だが、『今宮綴』は死んだ。もうこの世に存在しない」

倫子「これからは、ラウンダーとSERN、そして300人委員会への復讐のために生きろ」
157 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:45:40.66 ID:LFHIxASQo
地下鉄旧万世橋駅倉庫


幸高「――というわけなんだ」

綴「……お話はわかりました。けど、なにがなんだか……」

倫子「綯の成長を見届けさせることができない。それについては、本当に申し訳なく思う」

綴「い、いえ……。あのままだと、私も、お腹の中の子どもも殺されてたということなら、助けていただたいたわけですから……」

倫子「……貴様もタイムトラベルを簡単に信じてしまうのだな」

幸高「まさか、僕の後輩くんだったとはね」

倫子「ちなみに、オレも貴様の後輩だぞ」

幸高「そうは思えないほどの貫禄ですよ」

綴「みなさん、ずっとここで生活を?」

ちかね「ええ。でもこの人、この間なんかこっそりヘリに乗って秋葉原の空を飛んだんですよ」

幸高「ちゃんと変装はしたからね。まあ、留未穂の姿は見えなかったが」

倫子「定期的に街を眺めてみるがいい。ビル壁面の宣伝広告が、貴様の娘の手によって、徐々に萌え絵へと変貌していくサマをな」クク
158 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:47:55.95 ID:LFHIxASQo

倫子「貴様らには、300人委員会と闘うための組織づくりを手伝ってもらう」

倫子「オレには経営手腕なるものが無いからな。天は二物を与えずとはよく言ったものだ」

倫子「闇の資金繰り、人脈作り、兵器武装、情報操作……犯罪組織でも国家組織でも、使えるものはすべて使え」

幸高「それで、あなたはこれからどうするんです?」

倫子「オレか? オレはこれから、魔窟へと単身乗り込んでくる」

綴「魔窟?」

倫子「アメリカ、ヴィクトル・コンドリア大学、脳科学研究所だ」

綴「えっ? 教授さんだったんですか?」

倫子「違う。オレは狂気のマッドサイエンティストであって、教授などではない」

綴「ということは、受験を?」

幸高「いやあ、それが常識的な発想だよ」ハハッ

倫子「我が能力の前には、正規ルートなどというものは存在しないのだっ! ふぅーはははぁ!」
159 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:49:25.21 ID:LFHIxASQo

オレは3人の……いや、4人の死ぬべき運命にある人間の命を救った。

これによって4人は収束から外れた特異点となり、再構成に巻き込まれることはない。

シュタインズ・ゲート世界線への変動における歴史の辻褄合わせの中で、どう変化するか。

世界は、因果だけを残して事象が改変される。

しかし通常、事象はシンプルな形に落ち着く。

なんらかの偶然により、4人とも社会的に死亡することになるなど、普通は考えられない。

が、可能性が無いわけではない。

オレは4人を救ったことにより、0という状況から、少なくとも0ではない状況へと変化させたのだ。

そこに可能性がわずかでもあるならば、試さずにはいられない。

たとえ無限回の試行という、狂気に満ちた道であっても。

――それがマッドサイエンティストというものだろう?
160 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:49:58.95 ID:LFHIxASQo

・・・9年後・・・
2010年3月28日(日)14時22分
ヴィクトルコンドリア大学 脳科学研究所


レスキネン「"それじゃ、よろしく頼むよ。私は次の会議に出席せねば"」ガチャ バタン

紅莉栖「"はい、レスキネン教授。いってらっしゃい"」


紅莉栖「……高校、か」

??「不安なのか?」

紅莉栖「ひゃああっ!? きゅ、急に出てきておどかさないでください、教授っ!」

教授「クク、これは失敬。お詫びにドクペをあげよう」スッ

紅莉栖「はぁ……いただきます」キュポッ ゴクゴク …
161 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:51:04.21 ID:LFHIxASQo

うちの研究所には日本語を話す人間が、私と真帆先輩以外にもう1人だけ居る。

その人は、『妖しい』という言葉がしっくりくる、不思議な女性。

何故か一人称は『オレ』。日本の東北地方の方言だろうか。

名前は日本人のそれに似ているが、自称ネイティブアメリカン出身とのこと。真偽は定かではない。

ルーズなシャツに白衣を羽織っているだけの出で立ちなのに、なぜか気品さと同時にスピリチュアリティを感じる。

女性研究者としてここまでの地位を築いていることに関しては、私は素直に尊敬している。

けど、それ以上のことを何も知らない。彼女は、多くを語らない神秘的な存在だった。
162 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:51:52.27 ID:LFHIxASQo

教授「留学先が決まったらしいじゃないか。おめでとう」

紅莉栖「ありがとうございます。と言っても、複雑な気分です」ハァ

教授「高校も悪くないぞ。この夏、研究の第一線から少し離れて、日本の文化を勉強してくるといい」

紅莉栖「教授は、夏のご予定は?」

教授「のんびりできそうな土地でバカンスだ。アカプルコか、沖縄がいいな」

教授「時間の止まった南国リゾートなら、脳内の記憶が突然変化してしまう、なんていうことを回避できるかもしれないだろう?」

紅莉栖「確かに認知症予防にはいいかもしれませんね」

教授「ククッ、オレじゃなかったら怒ってるところだ。紅莉栖」

紅莉栖「私は純粋に教授のウェル・ビーイングを心配しただけですよ。リンコ教授」

倫子(68歳)「ズバズバ言う性格は、嫌いじゃないぞ」クク
163 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:52:48.08 ID:LFHIxASQo

倫子「(まあ、本当は紅莉栖に隠れて日本へ行く予定だが)」

倫子「真帆のほうは順調かい? もう何年も難しい顔をしているが」

真帆「ええ、まあ。ただ、『Amadeus』の言語と精神機能の関連が判然としなくて……」

真帆「一応、年内に大量の会話サンプルを取ろうと計画してはいるんですが」

紅莉栖「それなら、『ひとりごと』の分析をしてみるっていうのはどうです?」

真帆「……紅莉栖。これは私のプロジェクトよ? あなたは人間の記憶の完全データ化についての講演の練習をすべきだわ」

倫子「真帆はかなりナーバスになっているようだが、そんなに相棒を邪険にするものではないよ」

紅莉栖「そうですよ、真帆先輩。私、しばらく日本に行っちゃうんですよ?」

真帆「別に今生の別れでもあるまいし、この情報化社会において地球のどこにいてもすぐ連絡は取れるのだから――」

倫子「……真帆。今すぐ紅莉栖にハグをしなさい」

真帆「は……はいっ?」

紅莉栖「ちょ、えぇっ!?」

倫子「いいから。これはオレの命令だ。もし拒否したら、どうなってもしらないよ」

真帆「訴訟モノのハラスメントですよ、教授……。まあ、別に私は構いませんが」ダキッ

紅莉栖「は、はうっ……」ドキドキ

真帆「日本でも頑張りなさい、紅莉栖」ギュッ

紅莉栖「……はい、真帆先輩」ギュッ
164 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:53:39.20 ID:LFHIxASQo

倫子「随分イライラしていたようだが、『ゴーレム』はそんなに厄介かな?」

真帆「その呼び方はやめてください。『ゴーレム』じゃなくて、『オリジナルAmadeus』です」

真帆「どうしてか上手くいかないんです。だから、その原因を突き止めるためにも、"私"と"紅莉栖"の『Amadeus』研究を進めないと」

倫子「ふぅん……なるほど。これが『ゴーレム』の擬似脳サーキット……」

真帆「だから、『ゴーレム』じゃないですってば」

倫子「この『ゴーレム』にも"秘密の日記"はあるのかい?」

真帆「だからぁ……ハァ。もう『ゴーレム』でいいです」

真帆「ええ、ありますよ。私たちの『Amadeus』と同じ仕組みのものです」

倫子「ということは、それを開ける鍵も?」

真帆「ええ、一緒です……なんですか教授? "秘密の日記"は教授にも見せませんよ?」

倫子「いや、そうじゃなくてね。そんな鍵、真帆が本当に用意しているのかなと思って」

真帆「…………」
165 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:54:39.01 ID:LFHIxASQo

真帆「……さすがですね。もしかして、本当に教授は霊能力か何かを持っているんじゃないですか?」

倫子「クク。オレは沖縄人<ウチナーンチュ>が言うところのサーダカー<素質在る者>ではないよ」

倫子「このことは、アレクシスには秘密にしておこう」

真帆「助かります。まあ、『オリジナルAmadeus』に関してはまだまともに稼働すらしていません」

真帆「ですから、デリートプログラムと言っても、私の用意した偽造記憶が全てデリートされるだけで、システムそのものは削除されませんよ」

倫子「なるほどな……。ときに真帆は、AIには命があると思うかい?」

真帆「えっ? ……まあ、今のところ、無い、と答えるのが無難でしょうね」

倫子「そういう政治的な話じゃないんだ。もっとエモーショナルな話さ」

真帆「……私は、アラン・チューリングと違って、大切な人を失った経験がありませんから」

倫子「……そうか」
166 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2016/07/06(水) 21:56:19.81 ID:LFHIxASQo

オレはヴィクトル・コンドリア大学に侵入し、量子脳理論の権威として振る舞うことにした。

波動関数の収縮、意識、自由意志、記憶、新型脳炎と可能性世界……そういった内容の論文を世間に発表し続けた。

まあ、こういった行動のすべてが、シュタインズ・ゲートへの変動とともになかったことになる。

シュタインズ・ゲートへの因果に、オレは関係がない。

関係があるのはオレではなく、倫太郎のほうだ。

オレという存在は、アトラクタフィールドの定義とは無関係のところに位置している。

いわば、神の視点。1次元上の存在。

物語に対しての読者であり、ゲームに対してのプレイヤーだ。

そんなオレだからこそ、可能性が残されている。
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