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田井中律誕生日記念SS2016(must was the 2014)
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185 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/14(日) 20:11:48.64 ID:cjeQh/sKo
*
11章
大さん橋を下りた律と澪は、北西へと道なりに進んでいた。
すぐに見えてきたのは、横浜税関前の交差点である。
そこを右折した先にある新港橋は、赤レンガ倉庫の前へと通じている。
だが、寄り道している時間はない。
曇天も手伝っているのだろうが、既に街は暗くなってきている。
過ぎていく景色を、律は澪の胸の中で揺られながら眺めていた。
大さん橋を降りた直後、澪が抱えてくれたのだ。
首の後ろと膝の下に腕を差し込んで抱える、
所謂『お姫様抱っこ』と呼ばれる抱き方である。
無理な開脚と歩行で脚に負担の掛かっていた律は、抗う事無く澪に身を預けた。
澪にも律の疲労は、文字通り”手に取るように”伝わっていた事だろう。
伝わっていながら黙っているような、気の利かない彼氏ではない。
抱き方一つにもサービス精神を溢れさせる、律自慢の彼氏である。
そう、今この時は、まだ間違いなく。
万国橋も横目に通り過ぎた。
あの橋を渡って真っ直ぐ進めば、ワールドポーターズの東端に着く道に繋がるらしい。
それは赤レンガ倉庫に繋がる新港橋同様、
澪の作成するプランの中で弾かれた道でもあった。
場所の選定は全て澪が行ってくれて、
律は澪から受けた指示通りに唯達へと伝えただけである。
楽をしている感が拭えないと、澪に揺られながら思う。
「もうすぐ歩く事になるけど。足は大丈夫か?」
馬車道駅を通り過ぎた辺りで、澪が律の顔を覗き込んで言った。
律は前方に見えてきたランドマークタワーから、
間近の端整な顔へと目の焦点を切り替える。
「うん。お蔭様で。大分、休める事ができたよ。
もう自分の足で歩けるし」
澪の胸の中で、律は上体を起こしてみせた。
186 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/14(日) 20:12:56.67 ID:cjeQh/sKo
「歩けるなら良かったよ。いと重畳、恙無いな。
でも、ギリギリまでこうしててやる。
私が下ろすまで、あんよは休めておけ」
幼児に用いる言葉で足を形容され、律は頬を膨らませて抗議する。
「あーっ、今、子供扱いしたー」
「アダルトな扱いがお望みかい?My fair Lady」
顔の傍で、澪が妖艶に笑う。
梓に見られたのなら、
間違いなく『バカップル』と呆れられてしまうやり取りだろう。
「サングが望むなら、好きにしていいですよー」
密着した身体に熱が篭る所為か、歩かずとも律の肌に汗が滲んでくる。
それでも澪から離れようとは思わなかった。
足を休ませたい訳ではない。この姿勢から見る景色を、今は満喫していたい。
北仲橋を渡り終えると、直後に汽車道の入口があった。
海を縦断する橋梁の手前から臨む景色に、律は息を呑んで絶句する。
圧巻だった。
摩天楼が、ショッピングモールが、遊園地が、
虹の如く多色の光を放って狂い咲き、囲われた夜の海と空を彩っている
宛ら、乱舞する蛍の大群が水上の楼閣を形成しているかのようだった。
「ようこそ、お姫様。下ろすぞ」
澪は律の爪先を地に着けてから、律の身体をゆっくりと立たせてくれた。
澪の胸から降りた律は、忙しく周囲に視線を巡らせる。
左手にランドマークタワーの高層が聳え、犇き煌く数多の窓が縦に星空を形成していた。
そして海上を貫通して伸びる汽車道の奥には、
唯達の座すワールドポーターズが絢爛たる光を放っている。
187 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/14(日) 20:14:13.41 ID:cjeQh/sKo
「あいつらに、見せ付けてやろうな。おいで」
律の右半身に回った澪が、腰に手を回してくる。
導かれるまま、律は橋梁の上に一歩目を置いた。
伴われて更に二歩、三歩と足を進めてゆく。
橋上の灯かりを頼りに足元を見ると、
本来ならば線路で見るべきレールが橋板に埋め込まれていた。
汽車道の由来を理解させるオブジェは、まっすぐ橋梁の進行方向に沿って伸びている。
「ああ、そのラインからはみ出るなよ?
カップルがこのレールの中から出る事なく最後まで辿ると、
偕老同穴の関係に結ばれて幸せになれるらしい。
ま、デートスポットにはよくある俗説の類だけどな。
でも、折角だ。お前を幸せにしてくれる奴が表れるよう、縁起を担いでおいてやるよ」
律の視線に気付いたらしく、澪がレールを指差しながら説明した。
「もぉっ。何言ってるの?今は、サングがその恋人でしょ?
思い知らせてやるんだから。ぴったりっちゃん」
律は上目で軽く睨んでから、頭を澪の胸に撓垂れさせた。
「そうそう、そんな感じ」
聞き分けのいい子供を褒めるように、澪が頭を撫でてくれた。
律にしても、澪の申し出を断る理由などない。
密着して歩く口実が提供されたというものだ。
律は遠慮する事なく、思う存分に汗ばんだ肌を押し付け合って歩いた。
肉欲を別にしても、律は澪と離れたくなかった。
このレールの終点まで辿り着いた時、自分達の目的も達成の時を迎える。
今日の目的は、唯達にデートしている姿を見せる事なのだから。
そうして終点まで歩いて恋人を装う必要性がなくなったその時、
魔法が解けるように自分達の関係も友人に戻ってしまうのだ。
188 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/14(日) 20:15:21.05 ID:cjeQh/sKo
澪の恋人として振舞える今を離したくない。澪を離したくない。
だから律は、澪に強く強く身を押し付けた。
「そこが気に入ったのか?でも、俯いているのは勿体無いぞ。
折角のいい天気だ」
澪が顔を上げるように促してきた。
律を安心させる落ち着いた声が耳朶に染み入る。
律の体重が寄り掛かっていても、澪の足取りは一糸たりとも乱れていない。
頼もしくて、強靭だった。
「いい天気?」
夜なのに。曇天だったのに。今も月が隠れているのに。
律は澪の言葉尻を捉えて拗ねてみせた。
「ああ。雨でも晴れでもなく、折角の曇だ。
だからこそ、夏のこの時間でも夜景が映える。
雨まで降っては論外だが、かといってこの季節の今の時間帯だと、
空を雲が覆っていなければ完全には暗くならないからな。
夜景を天候が恵んでいる」
律は弾かれたように顔を上げた。
今日、元町・中華街駅に降り立ったときは、曇天が恨めしかった。
だが、昼はムードに水を差すよう思われた天気も、
今となっては夜景を際立たせるムードの形成に一役も二役も買っている。
塞翁の故事を持ち出すのは大仰に過ぎるだろうか。
だが少なくとも澪は、
今日が曇天だと知った時点で転禍為福のシナリオを描いていたに違いない。
そう信じるに足る用意周到さを、澪は見せ付けてきているのだ。
189 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/14(日) 20:16:43.86 ID:cjeQh/sKo
ならば澪に誘われるままに夜景を愉しもうと、律は視線を周囲に巡らせる。
夜景の光源は主に左手側から降ってきていた。律の視線も、自然と其方に向く。
澪が律の右半身に位置しているのも、絶佳の眺望を遮らない配慮に違いなかった。
ランドマークタワーから建物一つ分ほど離れて北側に、
下り階段のように順に低くなる三棟のビルが連なって見えた。
あれがクイーンズタワーだろうと、今日に備えて予習してきた知識と照らし合わせる。
ランドマークタワーの側からクイーンズタワーA・B・Cと、
背の高い順にアルファベットが振られ区別されているらしい。
C棟の下部ではコスモワールドから遊園地らしい賑やかな光が放たれ、
その熱気ある煌きが入り江の入口たる国際橋を回り込むように伸びていた。
それがワールドポーターズの隣にまで、光を繋げる架け橋の用を為している。
その、ワールドポーターズに北西側で隣接した区画こそが、
律の目を最も惹き付ける場所だった。
高層ビルにも匹敵する巨大な観覧車と、その下に見える建物の壮観さには息を呑む他ない。
巨大な観覧車──コスモクロックは、
環の色合いを忙しくカラフルに転じながら緩やかな動作で回っている。
比して、コスモクロックの下に位置した建物は、横長の山形の構造をしていた。
コスモクロックが多彩な色を淀ませずに変じ続けているのに対して、
こちらの建物を彩る光は一色で統一されている。
尤も、他のオフィスビルや商業施設とは色の魅せ方が違っていた。
窓から照明灯の光が漏れているのではない、
また壁面に取り付けたネオンで装飾しているのでもない。
建物全体が金色に輝いて見える、そういう魅せ方で配された光源が発色している。
宛ら、湖を前にして建つ、小規模な城のような装いだった。
魅入っていた。観覧車と城のような建物の作り上げる海上の景色に。
城の如き建物が陸に近い海面を金色に染める。
屹然と立つ観覧車は陸から遠い海面に光を届かせ、海の色に間断なく変化を付けていた。
陸上と空中から夜を彩る明晰な照明と、反射して海上に映る揺蕩った灯影。
この幻想的なコントラストも、律を忘我の境地に誘う一因となっていた。
あの、城のような建物は何なのだろう。
オフィスでない事くらい、一目で分かる。
かといって、ショッピングセンターでも無さそうだった。
何をする施設なのだろうか。
この光景を作るにあたって多大な貢献をしている建物に、
律が疑問と強い好奇心を向けた時。
身体が急に持ち上がり、視界も平衡器官も揺れた。
190 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/14(日) 20:17:55.72 ID:cjeQh/sKo
「わっ」
澪に抱え込まれて回ったのだと、律は声を出した後で気付いた。
その目の前を、同伴者とのお喋りに夢中な男性が通り過ぎてゆく。
「驚かせたか?次からは間に合うようなら、声を掛けるよ」
律を隣に降ろして澪が言う。
この汽車道も人通りが多い。
景色に見入っていた律が気付かないうちに、
正面から歩いてくる人が衝突しかねない位置まで接近してきていたのだろう。
今は澪が律を持ち上げて回避させた、という事だと推せた。
当たり前だが、都市伝説に沿って行動するカップルの都合など、
周りには関係のない話である。
誰も彼もが道を譲ってくれる訳ではない。
「んーん、私が気を付けるよ。前も見て歩かないと」
「いや。彼氏が気を付けてやるべき事だ。
それに、下手に動くとレールから出ちゃうぞ。
私が抱き抱えてやるから、律は夜景に集中してな。お前の為の光景だ」
そうなのだ。
先程の男性を回避した時も、レールの外に足は着いていない。
身体は外に出ても、足はレールの内にだけ着くように澪が持ち上げてくれていた。
レールを辿り終えるまで、同じように守ってくれるのだろう。
「そういう事なら、甘えちゃうね。私の為の景色だもんね」
律は申し出られるままに、前方への注意と回避を澪に委ねた。
今ならもう分かっている。澪の言うように、これが自分の為の景色なのだと。
この光景を律に見せるが為に、澪はこのデートコースを選び出してくれたのだから。
唯達のウォッチスポットの件も含め、
何度も下見に足を運んだに違いない澪の骨折りが心に沁みた。
それでも気付かぬ振りをして厚意を受け取るのが淑女の嗜みである事くらい、
律もとうに心得ている。
だから律は澪の望むまま、忘我に夜景を愉しんだ。
191 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/14(日) 20:19:06.16 ID:cjeQh/sKo
その後も、律は二度ほど澪に持ち上げられた。
持ち上げる際に律の細い身体を澪の腕が締め付けるが、
痛みや苦しさよりも頼もしさを律は覚えている。
肉体が締められる痛みに軋む度、守られているのだと感じられた。
二度目に持ち上げられた時は、澪の左手側から右手側へと身体を移されている。
レールの中で左右が入れ替わった格好だが、
それさえも律を飽きさせまいとする澪の配慮に思えた。
そうする内にも、海の終わりに近付いてきていた。
橋梁部分を終えて陸地に移ってもレールはまだ続くが、
唯達に見せるシーンは橋梁にいるうちだけだ。
陸地に移ってしまえば、ワールドポーターズの屋上からでは覗けまい。
律はすっかり近付いたワールドポーターズの、屋上部分を見上げた。
唯達は今もあの場所から自分達を観察している。
律は夜景を見ていたが、唯達は律を見ているのだ。
彼女達に美しく見せられただろうか、と。
律は彼氏の証拠を提出できた安堵の念よりも、
晴れ姿に下される評価の方が気になった。
距離を縮めたのは、ワールドポーターズだけではない。
一目見た時から気になっている、城のような建物も近付いている。
後少しで、建物の前に突き出た角と、海を挟んで最も接近する部分に差し掛かる。
そうなったら、あの建物に付いて澪に聞いてみようと、律がその角に目を留めた時。
──何で?
律は大きく目を見開いていた。足も止まりかける。
そこに在るべきではないものが、目に入ってしまったから。
澪に異常を知らせるべく、律は急いで澪の耳元に唇を近付けた。
彼女の顔も、隠さなければならない。
海を挟んで汽車道と最も近くなるその角。
そこに、ワールドポーターズの屋上に居るべきはずの、
唯と梓と紬が立ってこちらを凝視していた。
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