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田井中律誕生日記念SS2016(must was the 2014)
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2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/06(土) 21:40:49.54 ID:8onyAH8e0
1章
この順番も彼女、田井中律で最後だった。
秋山澪は興味ない風を装って、
昔日から愛用している白いバラへと目を落としたまま聞いた。
だが、田井中律の明かしたスリーサイズは、彼女の体躯と照らして納得できる値ではない。
澪は手に持ったバラの白い花弁から、律の身体へと視線を移す。
そして上から下へ、続いて下から上へと、切れ長の瞳を往復させた。
改めて見ても、自分の抱いた感覚に自信を深めただけだった。
やはり律の体型は、彼女が自ら申告した値を備えているようには見えない。
夏休みの部室に集う面々も、思いを同じくしているようだった。
澪を含む四人の視線が一点、律の胸部へと注がれる。
「何処見てんだよぉっ。言っとくけど、脱ぐと凄いんだからぁー」
集った視線の意味を悟ったのか、律が喚いた。
スリーサイズを打ち明け合った場では、律の大胆な物言いも自然と溶け込む。
学期内とは異なる雰囲気が、話題にも口走った言葉にも見て取れた。
夏休み前と今で違うのは、唯の席の斜め後ろの窓周辺だけではない。
休暇入りの直後に工事が行われたその窓は、見目に目立って装いを一新していた。
伴って、その周辺の家具の配置も僅かに動いている。
だが、インテリアの変化など些事に思える程、
夏休みが彼女達の精神に与えた影響は大きかった。
夏季休暇に入って十日以上過ぎ、暦は八月に突入している。
多感な年頃にある彼女達の話題を夏休みが毒すには、充分な時間だった。
長期休暇は気分に開放を齎し、人気の少ない学校は部活に閉鎖性を齎す。
その双糸が、彼女達を際どい会話に導いたのだろう
「そんな、ムキにならなくてもいいじゃないですか。
私達だって正直に言ったんだから、律先輩も本当の事を言っていいんですよ?」
澪達が属する軽音部の中で、唯一の後輩である中野梓が苦笑交じりに言った。
部員五人の中で一人だけ色違いの赤いタイが、
律と同じくらいにしか見えない胸元で結ばれている。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/06(土) 21:42:12.48 ID:8onyAH8e0
「嘘なんかじゃないっ。澪やムギ、唯はともかく、梓には負けないんだからな。りっ」
そう言って律が胸を突き出した。
胸に二つ尖る円錐の鋭角は、専ら梓のみへと向いている。
胸に鈍角の膨らみを盛り上がらせた紬や唯とは、張り合おうなどとしていなかった。
律も見目に明らかな分の悪さを理解しているのだろう。
一方で、同程度の胸囲と思しき梓に対しては、対抗意識を剥き出している。
先輩としての矜持も透けて見えるようだった。
彼女に勝りたい気持ちが、律を詐称に走らせたのかもしれない。
「そぉ?ていうか、あずにゃんの方が少しだけ、大きく見えるような気もするけど。
少しだけ、ね」
律や梓を構う好機と見たのか、平沢唯が茶化すような声音で割り込んだ。
唯は普段から、この二人へと頻繁に絡んでいる。
虐めと弄りは違うという思考の透けた、彼女なりの可愛がり方だ。
「もう。少しだけ、ってそんなに強調しなくてもいいじゃないですか」
からかわれた梓が、棘のない穏やかな声音で唯に返す。
言葉とは裏腹に、律より上と認められた事で気を良くしているらしかった。
一方の律は不満露わに頬を膨らませ、唯と梓の胸部に険しい視線を送っている。
「駄目よー、身体の事をからかったりしたら。
りっちゃんに謝らないと、ね?」
琴吹紬が唯を窘めた。
元々、律に甘い紬だが、それだけが擁護の動機ではないだろう。
紬自身、心無い人間から肥満だと嘲られる事が少なくない。
紬は虐めと弄りを同一視するらしく、そういった揶揄を許していないのだと推せた。
「えーっ?からかったりなんか、してないよー」
唯が口を尖らせた。まだ、と頭に付ければ、その通りの発言ではある。
体型の事で茶化そうとしている態度を察せられ、紬が機先を制した。
それくらい、澪にも分かる。
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga sage]:2016/08/06(土) 21:43:28.87 ID:8onyAH8e0
「律も意地を張るなよ。大きければ良いって訳じゃないんだから」
公平を期す訳ではないが、澪も律を諭しておいた。
唯は不満気だが、甘い物でも与えれば機嫌は直る。
だが、律は根に持つ性格だった。
紬の擁護を受けた今もまだ、瞋恚に燃えた瞳で唯と梓の胸を睨んでいる。
自分の主張が通らない事で、拗ねているのだ。
「意地なんて張ってないし。本当の事だもん」
律は澪に対しても口を尖らせ反駁してきた。
反抗的な語勢が癇に障った澪は、バラの切っ先で律の口を指しながら睨み付ける。
生意気な態度も躾けてやらなければならない。
「まー、でも、大きければ良いって訳じゃないのは、その通りだけどー」
途端に律は態度を軟化させ、澪の言を援用してきた。
惚れた側の弱みに違いないと、澪は所期の効果に内心で笑んだ。
付き合ってこそいないが、律は自分に惚れているという自信があった。
惚れた相手を前にして、真っ向から反目する度胸など律にはないだろう。
それでも胸囲以外の事で迎合の姿勢を示すあたり、
律は主張の本旨を覆してはいなかった。
「あれー?りっちゃん、負け惜しみー?」
唯は席を立って窓の前へと移動し、挑発的に胸を揺らしながら煽った。
部室の窓枠のほぼ全てには、奥へスライドする方式の小窓が六つ装着されている。
唯の後方の窓も、夏休みの前までは例外ではなかった。
六つの小窓を一つの片開きの窓へと統合したのが、この夏休み初頭の工事である。
工事した窓の周辺は赤いビニールテープで囲まれており、
唯はそのビニールテープの作る四角い空間の中に位置を占めていた。
目立つ場所に立ってまで律を挑発する唯の姿に、澪も呆れざるを得ない。
そこまでして、律に構ってもらいたいのだろうか。
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga sage]:2016/08/06(土) 21:44:24.74 ID:8onyAH8e0
「違うっての。事実じゃん。
大きいからって、唯は見せる相手も揉ませる相手も居ないじゃんかぁ。
サイズじゃないっていう、いい証拠だよ」
律も唯の挑発を捨て置けば良いのに、彼女の掌の上で吠え立てていた。
自分の横槍が唯に付け入る隙を与えてしまっただろうか。
紬に任せておけば良かったかもしれないと、澪は思わないでもなかった。
だが、律の胸は澪の肉欲をそそるに十分な用を為している。
自分に惚れているのなら、自分に対してだけ扇情的であれば良い。
婉曲であっても、その思いを宣せずには居られなかったのだ。
「そうだねぇ。でも、りっちゃんも居ないでしょ?
どうせ居ないなら獲得に有利な方、つまりは胸の大きい私の勝ちですなーあ」
勝ち誇った笑みを唯が見せる。
対照的に、律の顔には悔しさが滲んでいた。
そろそろ、唯の方を咎めるべきだろうか。
律を諭した所で、唯を調子に乗らせるだけだろう。
「もう。駄目よ、唯ちゃん」
唯を叱ろうとした矢先に、紬が先行していた。
澪は出かけた言葉を、喉の奥へと押し戻す。
こういう役は、自分よりも紬の方が向いているとの判断からだ。
万事淑やかな彼女なら、場を荒立てずに唯も律も収められる。
そう思い、澪は黙って紬の次の言葉を待つ。
「居るもん」
だが、澪の鼓膜を叩いた声は、穏やかな紬の声ではなかった。
激しい感情の籠もった、律の声音だ。
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga sage]:2016/08/06(土) 21:45:35.83 ID:8onyAH8e0
紬と梓と唯の三様に呆けた顔が、一様に律へと向く。
彼女達と同じ表情を浮かべている自分の顔が、澪の脳裡を過ぎった。
律の言った事が理解できない。
それどころか、幻聴との区別さえ曖昧だった。
「彼氏、居るもんっ」
呆けた澪達に突き付けるように、律が叫んだ。
それは空気を震わせて迫り、容赦なく鼓膜に叩き付けられる。
澪の中で現実と幻聴の区別が、別たれた。
「冗談、ですよね?」
未知の物に触れるような口振りで放たれた梓の問いは、
取りも直さずに澪の嘆願を代弁していた。
律が今まで自分に対して取ってきた、行動や言動の一つ一つが脳裏を巡る。
そこから恋情を汲み取っても、不自然ではないと思えるものばかりが。
「あーら、失礼な事言っちゃってぇ。
私にだって彼氏くらい居るし」
だが、眼前の律は、澪の見通しを木端微塵に粉砕する発言ばかり続けている。
律から感じていた好意は、勘違いに過ぎなかったのだろうか。
或いは、勘違いさせられていたのか。
澪の自信が揺らぎ、変わって怒気が腹の底から湧いてくる。
「りっちゃんたら、逸早く抜け駆けしてたのね。いいなぁ」
憧憬を滲ませた声音で紬が言う。
律を見つめる彼女の眼差しも、羨望に満ちていた。
澪には紬同様の態度で、律の発言を遇する事などできない。
落胆と怒りが視線に籠もらないよう、自分を抑えるだけで精一杯だった。
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga sage]:2016/08/06(土) 21:46:48.73 ID:8onyAH8e0
「えーっ?りっちゃんは私より先に彼氏を作ったりしないよねぇ?」
唯が眉根を寄せて、律に問う。
「ふーんだ。胸ばっかり出てて度胸を出さずに、のろのろしてるからだ」
「りっちゃんの癖に」
唯は頬を膨らませて、そっぽを向いてしまった。
拗ねた態度を隠そうともしていない。
唯にせよ紬にせよ、素直な反応だった。
「いや、やっぱりおかしいですって。
何で彼氏が居るって事、隠してたんですか?」
梓も倣うかと思いきや、正面切って疑問を浴びせていた。
言われてみれば、と澪も胸中で同意する。
もし、律が恋人を作っていたのならば、自分が気付いているはずだ。
「隠してた訳じゃないって。別に訊かれてもいないのに、自分から言う事でもないからさ」
梓に対しては、そうかもしれない。自慢のように聞こえて、宣する事は憚られるだろう。
だが、澪に対して一言も相談しないとは考えづらかった。
些細な事でさえ、律は澪の意見を求めてきている。
異性との交際など、澪に頼り切りの律が一人で処理できる事柄ではない。
それ以上に、恋愛の当事者という重要な変化を遂げておきながら、
いつも傍に居る自分に勘付かれなかった事が不自然だ。
一体何時、逢瀬の刻を持ったと言うのだろう。
「隠れてなければ、気付くと思うんですけど。
そうだ、澪先輩。律先輩から彼氏が居るような素振りを感じたりしてました?」
梓もそこに思い至ったらしい。
自分達はまだしも、澪には勘付かれるはずだ、と。
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga sage]:2016/08/06(土) 21:47:44.51 ID:8onyAH8e0
「おいおい、私に聞くなよ。
別に律なんかの一挙手一投足に注意を払ってる訳じゃないんだからさ。
どっかで男を誑してても、気付きやしないよ」
澪は突き放すような語勢で答えた。
不自然な点を見つけたからと言って、澪の怒りは収まっていない。
「ほーら、澪先輩だって気付いていないみたいですよ。
で、何で隠してたんですか?それとも」
梓は意味深に言葉を切ると、細めた目で律を見つめた。
律の事など興味がないと澪は言った積もりであったが、梓の受け取り方は異なっている。
自説に有利な部分だけ抽出し、律への詰問に充てていた。
律に恋人ができると、梓にとって不都合な事でもあるのだろうか。
そう思わせる必死さが、彼女の論法に見え隠れしている。
「いいじゃない、きっと恥ずかしかったのよ。
大丈夫よ、りっちゃんの彼氏さんなんですもの。いい人、なのよね?」
浮かれていた調子から一転、紬が声を引き締めて問うた。
同時に、梓の瞳が真剣さを帯びる。
澪も梓の真意を理解した。それは間を置かず、共感へと変わる。
梓は律が悪い男に誑かされていないか、心配なのだ。
箱の外に疎い律が男を選るに当たり、自衛まで見据えられるとは考えづらい。
逆に、甘言に釣られてしまう危うさがあった。
「うん。いい人だよ。ダァったら、恰好良くって、頭も良くって、スポーツも得意なんだ。
優しくて甘やかしてくれるし、お姫様みたいに扱ってくれるんだけど、
でも、恥ずかしい事もやらせてきたりして。
うん、辱めてきたりもする、サディスティックな面も持ってて。
りーっ」
言っているうちに恥じ入ったのか、律は赤く染まった顔を両手で覆って呻く。
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga sage]:2016/08/06(土) 21:48:38.43 ID:8onyAH8e0
「それ、りっちゃんの願望?そんな都合の良い人、居ないよねぇ」
唯にしては珍しく、世間の人間像に拠った意見だった。
だが、当事者の心理状態にまでは寄り添っていない。
痘痕も笑窪。
欠点が多く長所の少ない相手でも、強烈に惚れてしまえば完璧な人間像をそこに見る。
「そうですか?なんか聞いてて、澪先輩みたいな人だなって思いましたけど。
律先輩には、澪先輩みたいな人が似合うかもしれませんね。
実際、似ているんですか?」
邪気のない梓の声に、澪の心臓が跳ねた。
自分だけが律に似合っている。
それは、澪が長らく確信してきた命題だ。
「はぁ?全っ然っ違うし。何を聞いてたんだよぉ」
律は梓の謳ったテーゼに、偽と回答するらしい。
殊に、喚き散らす強い語勢が、澪の癇に障った。
そこまで嫌なのか、と詰め寄りたくなる。
澪の気分をこの上なく害す、生意気で反抗的な態度だ。
「ああ、全く以って似てないな。大体、私がこんなのをお姫様扱いするか。
優しくする気にも、甘やかす気にもなれないな」
澪は怒りの侭に言い放つ
尖る言葉も刺す語調も構わずに突き放してやった。
律の強張る顔を見ても、溜飲は下がらない。
その頬を張ってやったら、少しは怒気も収まるだろうか。
このバラの白い花弁が赤く染まるまで傷付けてやったら、気も晴れるだろうか。
いっそ、押し倒してしまおうか──
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga sage]:2016/08/06(土) 21:49:45.50 ID:8onyAH8e0
「いや、あの。似てるって言っても、完璧な所が、って意味で。
澪先輩、恥ずかしい事とかはやりたがらないし、やらせたりもしませんものね」
律と澪の反論の勢いが予想外だったらしく、梓は慌てたように言い繕っていた。
悪意のない軽口を咎めた形になって、澪も決まりが悪い。
「ああ、分かってるよ、冗談だって事くらい。
第一、私は完璧じゃないからな」
澪は朗らかに笑って、詫びに代えた。
反面、笑顔の裏に隠した心中で呟く。
唯の言うように律の願望であるならば、恥ずかしい振る舞いを強要するに吝かでない、と。
一方の律は発言を繕う事なく、黙ったままだった。
自然、話の流れに間が訪れる。
「ねー、りっちゃん。その彼氏とは、いつデートしてるの?」
話の切れ目に唯が割り込んで、話題を変えてくれた。
尤も、雰囲気の軟化に加勢した訳ではないだろう。
間が空く機を見計らうかのように、唯は律から視線を逸らしていなかったのだから。
「いつって。そりゃ、時々、としか。学校も部活も、唯達との約束もない時にしてるんだよ」
「ははぁ。ヤリ目ですなぁ。遊ばれてたりして?」
唯の言葉に、特徴的な紬の眉根が眉間に寄る。
そして梓と律の反応は、殊に顕著だった。
「唯先輩っ?」
「はぁっ?どういう発想だよぉっ。信っじらんないっ。唯ったら何なのよ、もー」
梓は唯の名を叫んで固まり、律は忙しく言葉を並べて抗議している。
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga sage]:2016/08/06(土) 21:51:14.79 ID:8onyAH8e0
「いやぁ。だって、私達と居ない時って言うと、夜でしょ?
その時間なら、やる事は決まってるよねー?
脱いだら凄いんだもんね?」
唯は律と梓の反応を楽しむように、二人を窺いながら言った。
唯は本当に、恋人が居るという律の話を信じていないようだ。
故に、恋人が居るように繕う律と、それに釣られて右往左往する梓が愉快で堪らないらしい。
「何言ってるんだよ。部活だって毎日ある訳じゃないし。
そういう時に毎回、澪と会ってる訳じゃないんだよ。
空いた日にデートしてるのっ」
律も唯から信じられていない事を認識したのか、返す言葉に苛立ちが篭っている。
「夏休みはいいけど。学期中は大変だったよねー。
私達と会わない休日の日中に、誰の目にも付かずにデート、だもんね」
唯が楽しげな笑みを崩さぬまま言った。
唯は虚言を証す材料を、一つ明かした気で居るらしい。
だが、決して白昼に逢瀬を重ねられる日がなかった訳ではない。
第一、唯の推量は、昼の逢瀬の困難さを指摘しただけに終わっている。
唯が冗談交じりに言及した、夜に会って褥を共にしている可能性は残り続けるのだ。
「あーら、仰る通り、大変でしたのよーだ。
でももう、周知の話になっちゃったから、予め言わせてもらうからね。
今月の私の誕生日だけど、部活休む。ダァとデートするんだもん」
皮肉の込もった声音で唯の言葉を肯んじた後、
律は一転させた毅然たる声調で逢瀬を宣していた。
嘘を尤もらしく見せる方便かもしれないし、
本当に恋人と誕生日を共に過ごすのかもしれない。
澪は判断の量りを一方に傾かせる事ができぬままだ。
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga sage]:2016/08/06(土) 21:52:24.25 ID:8onyAH8e0
「あっ、やっぱり誕生日は彼氏とだよねー。いいなー。
そうだ、りっちゃんや、周知になった序に、一つお願ーい」
唯が勿体ぶった声音を靡かせ、律の顔を覗き込んだ。
唯は愉快な事を思い付いたらしく、口元が緩んでいる。
推量を働かせるまでもなく、唯にとって”は”愉快な事に違いない。
「お願いって、どんな?」
唯の口から何を頼まれるのか。律は慎重な口調で問うていた。
眇めた目と引いた顎にも、律の警戒が表れている。
「そのデート、私達も影から見てていい?」
大胆な要求に、澪は呆れる外なかった。
恋人の存在が偽であれ真であれ、律が呑むはずなどない。
偽にベットしている唯は、不可能な要求で律を困らせたいのだ。
そこは澪も理解しているが、唯の戯れは度を越しているとも思う。
「まぁ、素敵ね。私もりっちゃんの彼、見たいなー」
律が言葉を失くしているうちに、紬も便乗の声を上げていた。
唯が律の身体面の特徴を笑いの種にしていた時とは違い、
彼女の過ぎた戯れを叱ろうとはしていない。
それどころか、加勢さえしている。
厳格な道徳心を所作で示す事はあっても、紬も年頃の少女なのだ。
同級生の浮いた話に、無関心で居られるはずもない。
「ええ。私も見に行きたいです。
勿論、ちゃんとした方だとは思っていますけど」
梓までも同調を示した。
紬を向こうに回した痛手の律に、包囲となって襲い掛かる。
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga sage]:2016/08/06(土) 21:53:22.68 ID:8onyAH8e0
尤も、二人とも律の敵ではない。
紬は律の話を信じており、そして梓は律を心配している。
律に対する害意は欠片もなく、好意から出た言動に他ならなかった。
ただ、好意が必ずしも本人の意向に沿うとは限らない。
目下の律を見舞う四面楚歌も、そこに列せられた一例に過ぎないのだ。
「いやいや。普通に考えて、変だって。
普通、デートなんて友達に見せるものじゃないよ」
律は常識を盾として、彼女達の要求に抗っていた。
だが、便乗した二人はともかく、発端の唯は始めから理不尽な強請りだと分かっている。
からかう事が目的なのだから、正論で構えても引き下がらせる効果は期待できない。
「えー?りっちゃん、あんなに自慢してたじゃんかー。
自慢のダァ……プッ、を見せびらかす良いチャンスだよ?
それともまさか、嘘って事はないもんねー」
唯が意地悪く煽る。
嘘である可能性に言及した辺り、追い込みの段階に入っているのだと察せられた。
ここが正念場だと、澪は固唾を呑んで見守る。
もし律が唯の要求に従うのなら、自分の負けだ。
「嘘ならまだいいんですが……」
語尾を濁していても、梓の言いたい事は察せられた。
自分達を心配させないが為、不幸な恋愛を隠そうとしている。
そう懸念しているのだろう。
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga sage]:2016/08/06(土) 21:54:33.79 ID:8onyAH8e0
「りっちゃん、嘘なんかじゃないわよね?
本当に居るもんね。見せて、安心させてあげましょうよ。
それに」
紬が律を励ますように言った。その口は、まだ閉じていない。
「見返してあげないとね」
続け様、紬は唯を一瞥して付け加える。
察するに、唯に反発を感じていたらしかった。
恋愛への興味を捨てきれないが、さりとて律をからかう唯も捨て置きたくない。
その二つの思いが胸裏で鬩ぎ合った結果。
律の逢瀬を見物するという結論で止揚したのだろう。
三人が三様の感情を込めて、律へと迫る。
澪は無関心を装いながらも、律の言葉を待っていた。
律が応じれば敗北だ。否んでくれれば、嘘の可能性に縋る事ができる。
嘲笑と心配と激励。源は異なっていても、律に向けられた要求は一つだ。
その単純な問いを受けた律の口が、開いた。
声が、唇の隙間から漏れ出て、澪の鼓膜に、届く。
「いいよ、いいじゃないの。見せてやろうじゃないの。
そんなに見たいなら、後学に供してあげる。
私達のデート、見せ付けてやるんだから」
鼓膜を叩いた振動が増幅されて、澪の回路を伝動する。
脳に収める事のできなかった大きな衝撃は、
胸にまで突き抜けて澪の願いを無残に破壊した。
居ない相手との逢瀬を見せる事はできない。
見せると宣言した以上、律には恋人が居るという事だ。
第一波を取り乱さず凌いだ澪に、その思考が追い討ちを掛ける。
受けた驚愕が大きかっただけに、論理による理解が後を追っていた。
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga sage]:2016/08/06(土) 21:55:48.79 ID:8onyAH8e0
「ええっ?ほんとにほんと?本当に、りっちゃん、彼氏居るの?
で、しかも見せてくれるの?楽しみー」
唯の変わり身は早い。
律に彼氏など居ないと決め付け、からかった事を恥じ入りもせず、
律の逢瀬に期待を膨らませている。
澪は呆れる反面、唯の気持ちの切り替えの早さが羨ましくもあった。
「ほら御覧なさい、私の言った通りでしょう?
でも、私も楽しみよ。りっちゃん、勉強させてもらうわね」
「期待ばかりもしていられないですよ。
本当に律先輩に相応しいかどうか、見極めなきゃいけないんですから」
紬の声は緩んでいたが、追う梓の声には気負いが篭っている。
梓の言う通りだ。落胆ばかりもしていられない。
律に値する人間か否か、律の恋人を見定めなければならない。
分かっている、なのに──。
それが自分の最後の役目だと言い聞かせても、気力が湧いてこない。
「あっ。言っとくけど、邪魔は駄目だからな。
見せるって言っても紹介とかしないし、陰に隠れて遠くから見てるんだぞ。
それが条件だもん」
澪が黙っている間に、律は話を進めていた。
提示された条件に、唯が真っ先に胸を反らして開口する。
「勿論だよ、分かってる分かってる。
りっちゃんの邪魔なんて、野暮な事しないよ」
「唯が一番心配なのっ。
不自然っていうか不審なんだから、ダァに見付からないようにしてろよ。
知り合いだと思われたくないし」
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga sage]:2016/08/06(土) 21:57:10.62 ID:8onyAH8e0
「酷いー、りっちゃんが私をお荷物にするー。あんなに仲良かったのにー。
あずにゃんや、りっちゃんは男が出来て変わったねぇ。
友情よりも男なのかねえ」
律に要注意を宣された唯が、芝居掛かった声音で戯けた。
「もうっ、ふざけないで下さい。
でも、同性の交友関係にまで口出しするような人なんですか?」
梓が眉を顰めて問う。
「違うっての。たださ、まだ皆に紹介とかは早いと思うし。
だから、観察されてる所を見付かると、言い訳が利かないんだよねー。
大体皆、見た目は、いいからなー。心移りされたくないし」
律こそ”見た目は”佳い。
だが、過度に我儘で極度に依存症な彼女の内面を、
自分以外に包容できる人間が居るとは思っていなかった。
否、今も思っていない。
──だから別れろ今すぐに。
「見た目は、って何ですか。何でそこ、強調するんですか」
梓は怒ったような顔をしているが、見目をそやされて悪い気はしていないのだろう。
澪とは対照的な垂れ気味の目元が緩んでいる。
「その見た目にしても、りっちゃんより上なんて存し得ないと思うの。
でも、お邪魔はしないから安心してね。
見つからないように、彼とのデートを眺めてるから。
あ、そうだ、まだ伺っていないんだったかしら。その人のお名前は?」
前置きした言葉に遠慮の心を代弁させて、紬が問う。
恋愛の話に最も目を輝かせていた彼女の事だ、
本心では万に渡る質問を向けたいに違いない。
「え?名前?名前はー」
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga sage]:2016/08/06(土) 21:58:33.37 ID:8onyAH8e0
焦らすように、律は間を置いた。
「勿体ぶるな」と怒鳴りたくなるが、澪は堪える。
「さんぅ゛だよ」
苛立っていたせいか、澪には律の返答の一部が不明瞭に聞こえていた。
う段の濁音だと当たりが付いたものの、意味する一語に辿り着けない。
だが、言い直すように求めて、関心があるように思われる事も癪だった。
「サンジュ?」
唯も聞き取り辛かったらしく、図らずも訊き返してくれていた。
聞く側の問題ではなく、律の発音からして不明瞭だったのかもしれない。
「違うよ、サングだよ、サング。
漢数字の三に旧字の玖を書いて、三玖」
今度は聞き取れたが、姓名のどちらかまでは分からない。
「へー。変わった名前だねぇ。
で、そのサング君とのデートなんだけど、私達は何処に何時頃に行ったらいいの?」
唯は呼び名が付いただけで満足したらしく、具体的な計画へと話を進めている。
唯はより興味を惹く対象がある限り、些事には頓着しない。
それは集中力を一方向に傾けられる長所である反面、注意が散漫という短所でもあった。
「まだデートの行き先さえ決めてないよ。香港行けたらなー、とは思うけど。
絶佳の夜景を眼下に、ダァと恥ずかしい事しちゃったりとか。おかしぃし、りーっ」
律は願望を並べた挙句、勝手に恥じ入って顔を真っ赤に染め上げてしまった。
いつもなら愛でられる律の仕草も、今となっては癇に障る。
律を茹でている者が、自分ではないからかもしれない。
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga sage]:2016/08/06(土) 21:59:40.80 ID:8onyAH8e0
「りっちゃん、乙女ねー」
上気した頬に手を添えて、紬が呟く。
「で、現実は?」
対して、梓は容赦がない。
ロマンチシズムには目も呉れず、プラグマティックに有用な情報だけを求めていた。
「ん、国内のそんなに遠くない所だと思うよ。ダァに決めてもらうんだ。
でも、映画みたいなデートにはしたいな。誕生日なんだし」
現実的な答えを返しつつも、恍惚の念が抜け切った訳ではないらしい。
映画を模したいという望みに、理想への未練が透けていた。
「じゃあ、りっちゃん。こうしよう。プランが決まったら、私達に連絡頂戴ね。
私達も二十一日は空けておくから。それでいいよね?」
惚気るばかりの律に痺れを切らしたのか、唯が音頭を取って提案した。
唯は遊ぶ段になると手際がいい。
マイクパフォーマンスにも活かして欲しいと、澪は度々思ってきている。
「うん、それがいいと思う。詳細が決まり次第、改めて連絡するね」
律は素直に頷いた。
紬と梓も唯々諾々と頭を縦に降っている。
提案への応否を確認する唯の視線が、その三人の頭上を当然のように通過して──
一人、追従の動作を取らなかった澪の前で止まる。
「澪ちゃんも来るよね?」
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga sage]:2016/08/06(土) 22:00:48.13 ID:8onyAH8e0
「澪は来ないよ」
澪が口を開くよりも早く、律が唯に答えた。
「澪、私なんかに関心ないもん」
無関心な澪に拗ねているような口振りで、律が付け足した。
澪は律のこういった態度に、今まで幾度も遭遇してきている。
そしてその度、自分に気がある素振りだと解してきた。
だが、他に彼氏が居る以上、単なる我儘でしかなかったらしい。
律は興味のない相手からでさえ、常に注目されていないと気が済まないのだ。
度を越した主我の強さに、腸が溶鉱炉の如く煮え滾る。
「ああ。律のデートなんかに関心はないな。
その日は、家でロメロゾンビでも観賞しているよ。
よっぽど有意義だ」
澪は誰とも目を合わさずに吐き捨てる。
逢瀬への同行に気乗りしなかった事は確かだが、
律への怒りが澪の態度をより硬化させていた。
裸に剥いた律を磔刑に処し、遍く衆人に公開してやりたい。
「澪先輩?何かあったんですか?」
梓が不審そうに訊ねてきた。
目敏い彼女は、澪の放った棘のある言葉を見逃してはくれない。
「別に、何もないよ」
努めて穏やかに澪は返す。笑みも添えてやった。梓に罪はないのだから。
「そうですか」
納得した訳ではないだろうが、梓は引いてくれた。
澪が律を突き放す事など、茶飯事ではないが初めてでもない。
不審は買っても追及まではされない、その程度には些事でもあった。
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga sage]:2016/08/06(土) 22:02:02.75 ID:8onyAH8e0
「じゃあ、話も付いた事だし。そろそろ練習しようか」
気持ちを切り替えようと、澪は立ち上がった。
先程、澪が同行に同調しなかった仕返しではないだろうが、誰も倣おうとはしない。
「えー。今日はもう、帰ろうよー。
いっぱいお話して、衝撃的な事実を聞いちゃったから、疲れちゃったよ」
「インパクト、大きかったですものね」
怠惰な唯が口を尖らせただけではなく、勤勉な梓までも帰宅に与する声を上げていた。
確かに、澪も気疲れしている。
加えて。律へと棘のある声音を向けた直後だけに、周囲と態度を違える事は憚られた。
立て続けば、不審は追及に至る。
「しょうがないな」
澪も周囲に合わせ、ティーカップを手にシンクへと向かった。
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