他の閲覧方法【
ガラケー版リーダー
スマホ版リーダー
DAT
】
↓
VIP Service
SS速報R
更新
全部
最新50
田井中律誕生日記念SS2016(must was the 2014)
Tweet
203 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/16(火) 21:28:21.46 ID:hD9KNgabo
*
13章
律は澪に耳打ちした。
「ねぇ、大変だよ。見て見て、左の海の向こう。あいつらったらぁ、約束したのに」
「気付いているよ、唯達が居るんだろ?なら向こうを見る訳にはいかないよ。
顔を見せる事になるからな。だからお前もあまり見るな」
慌てふためく律に、澪は落ち着き払って応じていた。
口振りから察するに、澪は律よりも早く気付いていたらしい。
だからこそ、澪は律と立ち位置を変えたのだと、今になって律も気付いた。
律が夜景に耽溺している間にも、澪は周囲を警戒してくれていたのだろう。
本当に頭の下がる思いだった。
「じゃあ、このまま知らない振りして、通り過ぎちゃう?」
「触角が目立ってる奴と金持ってる奴の二人だけが相手だったら、
それで済みそうだけどな。
やんちゃ盛りなロッカーも一人居るだろ?
何の為に約束破ってまで、私達に近付いてきたと思う?」
澪が誰に付いて警鐘を鳴らしているのか、律は即座に理解した。
間違いなく、唯だ。
「まさか、至近距離でサングの顔を見るつもりじゃあ」
律は一番恐れている事を口にした。
幾ら散髪して変装していても、間近で顔を見られたら露見しかねない。
204 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/16(火) 21:29:34.44 ID:hD9KNgabo
「そこまで具体的な目的はないかもな。
だが、接近を試みようとはするだろう。
だから、私を連れて走れ」
前を見据えて、澪が命じた。
律は澪の顔を覗き込みながら、言い付けられたばかりの指示を反復する。
「私がサングを連れて、走るの?」
「ああ。お前なら走る動機は立つだろ?
約束を違えた唯に気付いて、彼氏を連れて逃げ出した。違和感はないさ。
でも、私はお前が友達にデートを見せてるなんて、知らない設定だからな。
急に脈絡なく逃げ出したら、お前と通じていると勘付かれかねない」
単に走って逃げるだけなら、澪に連れられた方が遥かに速い。
だが唯達の存在など与り知らぬはずのサングには、逃げる理由がないのだ。
「でも私」
「大丈夫。私が付いている。
何処に逃げればいいか、しっかりナビゲートしてやるよ。
距離だってこっちにアドバンテージがある」
不安がる律を、澪の言葉が勇気付ける。
澪は明言こそしていないが、この近辺は下見で何度も訪れた場所に違いない。
逃げる道に付いても、土地勘が働くだろう。
決断を促すように、澪が右手で律の臀部を叩いた。
平手が肌に打ちつけられる音と痛みが、絹の生地を越して響く。
律は応と言葉で返す代わりに、澪の手を掴んだ。
「いいか、このまま汽車道の橋を抜ければ、左手に階段がある。
ここからでも、屋根は見えるだろ?
そこを駆け上がれ」
205 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/16(火) 21:30:37.94 ID:hD9KNgabo
「そんな事しなくても、汽車道を走って戻れば」
続けて指示を出す澪に、律は異論を割り込ませた。
進むよりも戻る方が、唯達との距離は広げられる。
即座に弾き出せる、圧倒的な差だ。
「楽だな、確実だな、でも安直だな。
第一、お前は後戻りしたい訳じゃないだろ?」
澪が見透かしたように言う。
律が安全な道を選ぶのは、単に怯懦からだった。
危険を取ってでも、行きたい場所がある。欲しい居場所がある。
「恐れるな望め私が居る。ほら、私を連れて行け」
澪の言葉が、律を動かす合図となった。
律は澪の手を力強く握り込むと、弾かれたように走り出す。
左方の対岸に目を遣ると、唯も地を蹴って駆け出している。
遅れて追走する紬と梓の姿も見えた。
「一々気にかけるな。前を見ろ」
澪に言われて、律は前方に意識を集中させた。
脇を気に掛けてばかりいれば、当然に速度も落ちる。
この人通りの中では、通行人と衝突する危険性も高まってしまう。
澪の指示は的確だった。
「そう、橋を出たら、左手にある階段だ。そこを上れ」
橋梁部が終わりに近付いた時、澪が先程の指示を繰り返した。
律は名残惜しそうに足元を一瞥する。
このレールを終点まで辿れば幸せになれる、そんな伝説があると澪が言っていた。
ここまで来て外れてしまう事が、残念でならない。
206 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/16(火) 21:31:37.08 ID:hD9KNgabo
このまま進めないだろうか。
律の頭に、その誘惑が過ぎった。
レールの先に凹の字を逆さにしたような建物が構え、
門を思わせる開口部にレールが敷かれている。
唯達に背を向けてレールのままに走り抜け、東の方向に逃げ道を見出してみようか。
一瞬だが、律は頭で誘惑を吟味してみた。
だが、頭を上げた律の目は、階段の方を向いていた。
進路を変えずレールに沿ってしまえば、澪の指示に反する事となる。
律が欲しいのは、レールに沿って手に入る幸福ではない。
レールから外れてでも、飛び込みたい場所があるのだ。
「えいっ」
橋梁部が終わると、律は掛け声と共に進路を左手へと変えた。
レールに閉ざされた内側から、嶮しい階段が聳えるレールの外側へと。
階段に向かって駆ける際、律は脇目に唯を窺ってみた。
丁度、階段の側面に向かって伸びる直線を、
前傾気味の姿勢で駆けてきている。
獲物に向かう肉食動物の如き迫力があった。
ならば受けて立つ自分は、草食動物の如き必死さで逃げなければならない。
律は脚を急がせ、階段の一段目へと足を掛けた。
「大丈夫か?」
階段を上る律の臀部を、澪の手が押し上げてくれた。
澪は律が苦しい時、”頑張れ”とは絶対に言わない。
いつだって手を貸してくれた。
「この歩道橋をまっすぐ行くと、ワールドポーターズの二階への入口がある。
でも、中には入るなよ。左手に下へ降りる階段があるから、そこを下れ。
後は北西へ交差点まで道なりだ」
歩道橋と言うにはあまりにも洒落た道の上で、澪が次の指示を与えてくれた。
後方を見れば、階段を上り終わった唯が向かってきている。
直線上に居る為に行き先を見られてしまうが、仕方がない。
律は指示通り、階段を下り始めた。
207 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/16(火) 21:32:45.43 ID:hD9KNgabo
階段を下り切った頃には、既に律の身体は疲労困憊を訴えていた。
体力のない身と走り辛い格好を負って、
階段の昇降も含めて臨んだ全力疾走が堪えている。
肺の奥から、焼けた息が漏れ出てくるようだった。
加えて、夏の気温と湿度も、律の華奢な身体に容赦のない追い討ちを掛けている。
だが、休んでいる暇はない。
律は悲鳴を上げる身体に鞭打って、西側へ向けて脚を動かし続けた。
辛いのは、唯も同様だろう。
自堕落な生活に淫する彼女が、持久力に長けているとは思えない。
道なりの角を曲がると、大きな交差点が見えた。
「そこの交差点は、左側の遊園地、あの観覧車が見える方に渡るんだ。
そうして遊園地、コスモワールドの中に逃げ込め」
澪の指示を耳朶で受けながら、律は目を信号機に向けていた。
丁度、コスモワールドの側に渡された横断歩道は、青信号となっている。
タイミングとしては歓迎できないかもしれないと、
此処からの距離を測りながら律は思う。
律が辿り着く前に、信号の色が変わるに十分な距離だ。
角を回りきる前に、律は唯に背中を見せてしまっていた事だろう。
唯は標的を見失う事なく、律を追って迫ってきているに違いない。
ここで律が対岸の道に渡り切って、
唯を此方に置いたまま信号が変われば確実に逃げ切れる。
だが、律が横断歩道に辿り着く前に、信号が赤へと変わってしまえば。
再び青になる前に、唯達に追い付かれてしまう事態へと至るは蓋然的とさえ思えた。
焦燥に急く律を煽るように、歩行者用の信号が点滅を始めた。
赤へと変わる兆候が早くも訪れている。
律は瞼に落ちてきた汗を右腕で拭うと、走る足に力を込めた。
息は荒く断続的に口から漏れ、脚は地に引き摺られるように重い。
肌は仮漆でも塗られた如く、吹き出た汗を艶やかに纏っている。
それでも尚、涎が溢れそうな程に息を喘がせ、
地に吸い付く脚を持ち上げ、汗を垂らして走ったのに。
機械は少女が必死の姿勢で見せた嘆願など、無関係にシステム通り動いてしまう。
律が辿り着く直前で、信号は色を青の点滅から赤の点灯へと変えていた。
208 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/16(火) 21:33:49.96 ID:hD9KNgabo
渡り切っていない人が居る今なら、行けるだろうか。
そう思った直後には、車が横断歩道へと車体を入れてきている。
律が横断歩道の前に立ったのは、横断歩道が車体に塞がれてからだった。
尤も、車の進入に関係なく赤へと変わった時点で、澪が律に無理をさせはしなかっただろう。
信号の色の変化と時を同じくして、律の手を握り返す澪の握力が増していたのだから。
「どうしよう、追い付かれちゃう」
律は澪の顔を見上げながら、泣き言を零した。
「タイミングが悪かったな。さて、どうするか」
「この中、入っちゃう?それとも、あっちに行く?向こうに渡る?」
律は背中のワールドポーターズの入口を指差し、
次いでその脇を南東へ走る道を指差し、最後に北側にある対岸の道を指差した。
「まぁ落ち着け。
下手に逃げても、外部と隔絶された所に落ち着かない限り、追いかけっこは終わらない。
それにほら、もう見つかってるし」
澪が目顔で示す先を追って、律は表情に走る悲痛を抑えられなかった。
唯はもう角を回って、直線上の律達を視界に収めてしまっている。
目立つ服を纏う律は、さぞ見定め易い標的だろう。
「あっ、ゆぅい」
呻いた律は、救いを求めるように信号を見遣った。
澪が逃げ道として指示していた、コスモワールド側へと渡す歩行者用の信号を。
融通の利かない機械は、無慈悲な赤色を灯して律を見下ろしている。
コスモワールドの対角、即ち律達の居る場所から見て北側の対岸へと渡るべきだろうか。
だが、長い横断歩道の途中に、渡り切れなかった時の為か歩道が設えてある。
信号の変わるタイミング次第では、あの車道に浮かぶ歩道の中に、
唯とともに取り残されてしまいかねない。
そうなれば、確実に”詰み”だ。
209 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/16(火) 21:35:08.60 ID:hD9KNgabo
逆に言えば。上手くタイミングを調整できれば、
あの孤島じみた歩道に唯達を取り残す事も可能な策ではある。
だが、信号が変わる前に、対岸まで走り切れる体力が自分にあるのか怪しかった。
体力勝負では分が悪い以上、律よりも唯に有利な目が予想される賭けである。
ならばどうすれば良いのか。
ワールドポーターズの中に入ろうが、脇の道を駆けようが、
終わらない追いかけっこに勝ち切れる自信はない。
どうすれば、いい。
唯が近付くに連れて、焦燥ばかりが募ってゆく。
横断歩道の前に募る人だかりの向こうに、唯の顔が見えている。
最早、万事休すか──
「大丈夫だから」
パニックになり掛けた律の耳元で、澪が小さく囁いた。
同時に、頬に吐息を感じ、髪の毛が擽られたように揺れる。
澪が律の髪に顔を埋めるようにして話しかけているのだ。
「えっ。でも」
「大丈夫、誤魔化せる。
もし唯が私の正体を判別できそうなくらい近付いてきたら──この場でお前を犯してやるよ」
「えっ?」
律は我が耳を疑った。
「はっ、幾ら唯でも、
こんな所で一発始める淫乱と知り合いだとは思われたくないだろうからな。
私の顔を見る前に、お前とは他人の振りして逃げ出すさ。
それにセックスなら、私の顔も愛撫を装って、お前の肉体で隠せるからな」
今や我が耳を疑いようもない。
耳朶を真っ赤に茹らせる熱い熱い血潮が、澪の言を確と聞き届けたと証している。
210 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/16(火) 21:36:15.68 ID:hD9KNgabo
「ああ、でもそんな事したら、唯達が助けに来ちゃうか?
友達がこんな所で卑猥な扱い受けてるの見たら、あいつらショック受けるだろうからな。
そうなったら困るなぁ。
私の読みが外れて、唯達が他人を装わずに向かってきた時、どうすればいいんだろうな?」
律の絶句を応と受け止めたらしく、澪は話を進めていた。
「もしあいつらが、暴虐なサングに大衆の面前で公開陵辱されているお前を見て、
外聞を捨てて、それどころか自らの危険すらも顧みずに助けに入ってきたら?
お前は、どうする?」
一句一句を刻み込むように言われて、
律は自分が唯達を騙しているのだと改めて意識させられた。
自分を助けようとする行動にさえ、嘘で返してこの場を切り抜けようとするのだろうか。
「まぁ、ここで細かく打ち合わせている時間はない、か。
律、もし私の読みが外れたのなら。
その時はアドリブ対応で切り抜けてくれ」
澪は無茶を言っているようだが、
時間的な猶予がない以上は現実に即した要求と評価せざるを得ない。
内緒話を控える必要がある距離にまで、唯は近付いて来ている。
「っ」
肌に澪の手の感触が走り、律の口から意図せず喘ぐような吐息が漏れ出る。
太腿を澪の右手がゆっくりと擦り上げてゆく。
同時に、澪は律の首筋を唇で挟んで、吸い上げた肉を舌先で舐め回している。
生暖かい風に嬲られたかのように身体が擽ったい。
伴って、痙攣のような感覚が、背筋から項へと這い上がってゆく。
心地良くて気持ち悪い。
立ったまま、意識を保ったまま、失禁してしまいそうだった。
211 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/16(火) 21:37:19.71 ID:hD9KNgabo
振り払うべきだと良識が告げても、本能が抗っている。
理性もまた、現実に即した判断を促している。
律は横目で唯の位置を確認した。
もうこの距離では、澪の言うように犯されて唯を退かせる他ない。
もしそれでも唯が退かないのなら──どころか、
律を助けようとしたのなら。
その時は、律も真摯に──
その時は、その時だ。
律は眼前の危機を避ける事に傾注するべく、思考を振り払う。
身を仰け反らせ、澪の胸に頭を預けた。
同時に、澪の左手を手に取り、律の胸に宛がわせる。
澪の大きな手が、律の小振りな乳房を覆った。
律は大きな吐息で甘く喘ぎ、澪を誘う。
だが、律がこうして受け入れる意思を示したのに。
澪の手は止まり、律を犯す暴虐な意思が感じられなくなっていた。
不思議に思い澪を見上げ、
次いで彼女の意味ありげな一瞥が示した先へと自身の瞳も向かわせる。
一見で理解した。
澪が律を犯す理由は、もう無くなっている。
唯が横断歩道の人だかりの前で歩みを止めていたのだ。
両隣には梓と紬が、厳しい顔で唯に睨みを利かせている。
この構図を見るだけで、事情も察せようというものだ。
唯は律並びサングとの接触へ至る前に、
追い付いた梓と紬に止められてしまったのだろう。
紬も梓も唯とは違い、約束を破る事に後ろめたさがあったに違いない。
見物する場所を勝手に変える程度の違約はできても、
紬と梓に全てを反故にする程の度胸はなかった。
恐らく、背信の度合いや影響の大小を斟酌して、行動の指針としている。
直接的な干渉に動いた唯を止めたのは、その比較衡量の結果だと推せた。
少なくとも律は、そのように考えていた。
212 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/16(火) 21:39:22.17 ID:hD9KNgabo
唯だけではなく、制御する役を担う紬と梓も居て良かった。
漸く青になった信号を渡りながら、律は胸を撫で下ろして思う。
尤も、紬達にしても、
ここで律達への追跡を唯に断念させる事まではしないらしい。
或いは、そこまでは唯を抑えられない、と言うべきか。
何れにせよ、律達とは距離を取っているものの、
唯達三人も横断歩道を渡る一団に列していた。
「入園フリーだ。入るぞ」
渡った直後にあるコスモワールドの敷居を跨ぎながら、
澪が律にだけ聞こえる小さな声で言った。
喩え偽装に過ぎずとも、澪と遊園地でデートする事は喜ばしい。
一方で、付いて回る不安もあった。
入園から十数メートル進んだ辺りで後方を一瞥して、抱いた不安の的中を悟る。
追跡を躱せる訳もなかった。
分かり切っていた事なのに、迫り上げて来る嘆息は抑え切れるものではない。
律の瞥見した視界には、コスモワールドへと入場してくる唯達の姿が映っていた。
*
463.16 KB
Speed:0
[ Aramaki★
クオリティの高いサービスを貴方に
VIPService!]
↑
VIP Service
SS速報R
更新
専用ブラウザ
検索
全部
前100
次100
最新50
続きを読む
名前:
E-mail
(省略可)
:
書き込み後にスレをトップに移動しません
特殊変換を無効
本文を赤くします
本文を蒼くします
本文をピンクにします
本文を緑にします
本文を紫にします
256ビットSSL暗号化送信っぽいです
最大6000バイト 最大85行
スポンサードリンク
Tweet
荒巻@中の人 ★
VIP(Powered By VIP Service)
read.cgi ver 2026/05/10 (Base By
http://www.toshinari.net/
@Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)